平成5(オ)789 貸金

裁判年月日・裁判所
平成10年4月30日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 宮崎支部 平成4(ネ)113
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判決文本文3,973 文字)

主文 原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。 理由 上告代理人辰巳孝雄の上告理由第一点について一本件は、承継前被上告人Dが上告人に対し、貸金及び準消費貸借金を請求した訴訟である。原審の適法に確定した事実関係の概要と訴訟の経過は、次のとおりである。 1 上告人は、Dから、第一審判決別紙計算書1(以下「計算書1」という。)、同計算書5(以下「計算書5」という。)及び同計算書4(以下「計算書4」という。)記載のとおり金員を借り受け、それぞれ月六分の割合による利息を天引きされた金額を受領した。 2 上告人が計算書1「22」の貸金債権(以下「貸金債権(一)」という。)の担保として交付した約束手形(以下「手形(一)」という。)、計算書5「22」の貸金債権(以下「貸金債権(二)」という。)の担保として交付した約束手形(以下「手形(二)」という。)及び計算書4「22」の貸金債権(以下「貸金債権(三)」という。)の担保として交付した約束手形(以下「手形(三)」という。)がいずれも不渡りとなり、上告人とDは、手形(一)の債権を目的とする準消費貸借契約(以下、同契約に基づく債権を「準消費貸借金債権(一)」という。)及び手形(二)の債権を目的とする準消費貸借契約(以下、同契約に基づく債権を「準消費貸借金債権(二)」という。)を締結した。Dが貸金債権(一)(二)(三)について天引きした利息のうち利息制限法所定の制限利率による利息を超過した額を各貸金元本に充当した残額は、貸金債権(一)が一四二万四四八九円、貸金債権- 1 -(二)が九四万七一六七円、貸金債権(三)が九五万〇三〇九円となる。したがって の制限利率による利息を超過した額を各貸金元本に充当した残額は、貸金債権(一)が一四二万四四八九円、貸金債権- 1 -(二)が九四万七一六七円、貸金債権(三)が九五万〇三〇九円となる。したがって、準消費貸借金債権(一)(二)は、貸金債権(一)(二)の右金額の限度で効力を有することになる。 3 各計算書「1」ないし「21」の各貸金債権(計算書5「10」を除く。)について天引きされた利息は、利息制限法所定の制限利率による利息を超過しており、上告人は、Dに対し、右超過利息額と同額の不当利得返還請求債権を取得した。 その額は、計算書1に係るもの(以下「不当利得返還請求債権(一)」という。)が一六二万六九五三円、計算書5に係るもの(以下「不当利得返還請求債権(二)」という。)が九七万七四二六円、計算書4に係るもの(以下「不当利得返還請求債権(三)」という。)が一〇六万一一七三円である。 4 Dは、右準消費貸借金債権(一)(二)及び原判決の引用する第一審判決請求原因1の貸金債権を請求し、これに対し、上告人は、右債権の成立を争うとともに、平成四年四月一三日の第一審第一七回口頭弁論期日において、不当利得返還請求債権(一)を自働債権として準消費貸借金債権(一)と、不当利得返還請求債権(二)を自働債権として準消費貸借金債権(二)と、いずれも対当額で相殺する旨の訴訟上の相殺の意思表示をした(抗弁)。Dは、右期日において、手形(三)の債権を自働債権として不当利得返還請求債権(一)(二)のうち発生時期の早いものから順次対当額で相殺する旨の訴訟上の相殺の意思表示をした(再抗弁)。上告人は、平成五年二月一日の原審第四回口頭弁論期日において、不当利得返還請求債権(三)を自働債権として手形(三)の債権と対当額で相殺する旨の訴訟上の相殺の意思表示をした(再々抗弁)。 再抗弁)。上告人は、平成五年二月一日の原審第四回口頭弁論期日において、不当利得返還請求債権(三)を自働債権として手形(三)の債権と対当額で相殺する旨の訴訟上の相殺の意思表示をした(再々抗弁)。 二原審は、次のように判示して、Dの請求を一部認容した。 1 原判決の引用する第一審判決請求原因1の貸金の事実は認められない。 2 上告人による不当利得返還請求債権(一)(二)を自働債権とする相殺の意- 2 -思表示(抗弁)と、Dによる手形(三)の債権を自働債権とする相殺の意思表示(再抗弁)とは、同一の口頭弁論期日における各準備書面の陳述によってされているが、Dの準備書面の陳述が時間的に早くされたから、Dによる右相殺の意思表示が先に効力を生じたと解すべきである。 3 手形(三)の債権を自働債権として不当利得返還請求債権(一)(二)の発生時期の早いものと順次対当額で相殺すると、不当利得返還請求債権(一)については計算書1「1」ないし「9」の各超過支払額欄記載の金額(ただし、「9」については、四九〇九円の限度)の合計六一万八二四五円の限度で、不当利得返還請求債権(二)については計算書5「1」ないし「8」の各超過支払額欄記載の金額の合計三八万一七五五円の限度で、それぞれ相殺の効力が生ずる。その結果、不当利得返還請求債権(一)の残額は一〇〇万八七〇八円、不当利得返還請求債権(二)の残額は五九万五六七一円となる。 4 不当利得返還請求債権(三)を自働債権として手形(三)の債権を受働債権とする上告人の相殺の意思表示(再々抗弁)は、手形(三)の債権を自働債権とし不当利得返還請求債権(一)(二)を受働債権とするDの相殺の意思表示(再抗弁)により手形(三)の債権が既に消滅したため、その効果が発生しない。 5 不当利得返還請求債権(一)の残額一〇〇万八七〇 し不当利得返還請求債権(一)(二)を受働債権とするDの相殺の意思表示(再抗弁)により手形(三)の債権が既に消滅したため、その効果が発生しない。 5 不当利得返還請求債権(一)の残額一〇〇万八七〇八円を自働債権として準消費貸借金債権(一)と対当額で相殺すると、同債権は元本四三万六七九七円及びこれに対する遅延損害金の範囲で残存し、不当利得返還請求債権(二)の残額五九万五六七一円を自働債権として準消費貸借金債権(二)と対当額で相殺すると、同債権は元本三六万五四六九円及びこれに対する遅延損害金の範囲で残存するから、これら残存する債権の範囲において本件請求は理由がある。 三しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 - 3 - 1 被告による訴訟上の相殺の抗弁に対し原告が訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは、不適法として許されないものと解するのが相当である。けだし、(一)訴訟外において相殺の意思表示がされた場合には、相殺の要件を満たしている限り、これにより確定的に相殺の効果が発生するから、これを再抗弁として主張することは妨げないが、訴訟上の相殺の意思表示は、相殺の意思表示がされたことにより確定的にその効果を生ずるものではなく、当該訴訟において裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の相殺の効果が生ずるものであるから、相殺の抗弁に対して更に相殺の再抗弁を主張することが許されるものとすると、仮定の上に仮定が積み重ねられて当事者間の法律関係を不安定にし、いたずらに審理の錯雑を招くことになって相当でなく、(二)原告が訴訟物である債権以外の債権を被告に対して有するのであれば、訴えの追加的変更により右債権を当該訴訟において請求するか、又は別訴を提起することにより右債権を行使することが可能であ でなく、(二)原告が訴訟物である債権以外の債権を被告に対して有するのであれば、訴えの追加的変更により右債権を当該訴訟において請求するか、又は別訴を提起することにより右債権を行使することが可能であり、仮に、右債権について消滅時効が完成しているような場合であっても、訴訟外において右債権を自働債権として相殺の意思表示をした上で、これを訴訟において主張することができるから、右債権による訴訟上の相殺の再抗弁を許さないこととしても格別不都合はなく、(三)また、民訴法一一四条二項(旧民訴法一九九条二項)の規定は判決の理由中の判断に既判力を生じさせる唯一の例外を定めたものであることにかんがみると、同条項の適用範囲を無制限に拡大することは相当でないと解されるからである。 2 これを本件についてみると、手形(三)の債権を自働債権として不当利得返還請求債権(一)(二)と相殺する再抗弁の主張は不適法であるから、不当利得返還請求債権(一)(二)全額を自働債権として相殺の効果が生じ、これにより準消費貸借金債権(一)(二)の全額が消滅すると解すべきであって、本件請求は理由がないというべきである。 - 4 -四したがって、これと異なる判断の下に、本件請求を一部認容すべきものとした原判決には、訴訟上の相殺に関する法令の解釈を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。 そして、以上に述べたところからすれば、本件請求は理由がなく、これを棄却した第一審判決は結論において正当であるから、被上告人らの控訴はこれを棄却すべきものである。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第一小法廷 第一審判決は結論において正当であるから、被上告人らの控訴はこれを棄却すべきものである。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官藤井正雄裁判官小野幹雄裁判官遠藤光男裁判官井嶋一友裁判官大出峻郎- 5 -

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