- 1 -主文平成年月日岡山県倉敷市長に対する届出によってなされた原 告と被告との間の養子縁組は無効であることを確認する。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第請求 主文同旨第事案の概要 請求の原因 ( )平成年月日,岡山県倉敷市長に対し,原告と被告との間の養子 縁組(以下「本件養子縁組」という。)の届出がなされた。 ( )しかし,本件養子縁組の届出は,被告において,原告が,その当時,老 人性痴呆で,養子縁組がどのような意味をもつのかについて全く理解しておらず,意思能力が著しく不十分な状態であるのを利用して,原告の財産を取得する目的でなされたものである。このことは,本件養子縁組の届出の前後を通じ,原告と被告との間に親子関係を継続させる事情がないことからもうかがわれる。 したがって,本件養子縁組は,原告に縁組意思を欠き,無効である。 ( )よって,原告は,被告に対し,民法条号に基づき,上記届出によ ってなされた本件養子縁組が無効であることの確認を求める。 請求の原因に対する認否 ( )請求の原因( )の事実は認める。 ( )同( )の事実は否認する。 原告は,本件養子縁組の届出当時,正常な意思能力と判断能力を有していた。また,本件養子縁組は,約年以上にわたる原告と被告間の事実上の 親子関係を戸籍上確定し,原告の要請により被告が祭祀承継者となるために- 2 -なされたものである。 したがって,本件養子縁組は,原告に縁組意思が認められ,有効である。 第当裁判所の判断 証拠(甲ないし,ないし,,,乙,,〈書証については枝番を 含む。以下同じ。〉,証人D,同 意思が認められ,有効である。 第当裁判所の判断 証拠(甲ないし,ないし,,,乙,,〈書証については枝番を 含む。以下同じ。〉,証人D,同E,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 ( )原告及び被告の身分関係は,別紙「関係者一覧」のとおりである。 被告は,昭和年月日,父Fと母Gとの間の長男として出生したが, Fが昭和年月日に戦死したため,Fの弟である原告が昭和年月日にGと婚姻届出をし,以後,原告とGのもとで監護養育されてきた ところ,昭和年月日,妻Hと婚姻届出をし,Hとの間で男女 をもうけている。 原告とGは,昭和年月日,長女Eをもうけ,Eは,昭和年月日,夫Iと婚姻届出をし,Iとの間で女をもうけている。 ( )原告は,農業に従事するかたわら,Gとともに暮らしていたが,多発性 脳梗塞に罹り,平成年当時,詳細な程度は不明であるが,痴呆の存在がう かがわれていた。 また,原告は,平成年ころ,小脳梗塞を患い,平成年月ころ,E方 において,自宅に置いてきた金員の額や置き場所が分からなくなったりするなど,物忘れの頻度が増え,理解力も低下するようになり,平成年ころ に,Gから,Eに対し,原告の行動に異常がみられるとの相談が何度もあるようになり,平成年ころには,物や書類の置き場所を自分で移動させて おきながら,その所在が不明になり他人のせいにすることが多々みられ,平成年月日から同年月日までの間,医療法人以心会難波医院に 入院したが,その際,自分の病室が分からな きながら,その所在が不明になり他人のせいにすることが多々みられ,平成年月日から同年月日までの間,医療法人以心会難波医院に 入院したが,その際,自分の病室が分からなくなることなどもあった。 そして,原告は,平成年月日当時,脳CTの所見で大脳皮質の萎 - 3 -縮や脳室の拡大が認められた上,妄想・記憶障害等が確認されるとともに,長谷川式簡易知能評価スケールは点で,中等症の老人性痴呆と診断され, 同年月日当時に,長谷川式簡易知能評価スケールは点で,やや高度 のアルツハイマー型痴呆と診断され,平成年月日当時には,中程度 の脳血管性痴呆で,知的能力に障害があり,自己の財産を管理処分することはできず,回復の可能性は極めて低いものと判定されている(平成年月 日,後見開始の審判が確定し,成年後見人としてE及び弁護士Bが選任 された。)。 ( )被告が昭和年月日にHと婚姻した後,GとHとの仲がうまくい かず,次第に対立するようになり,これに伴い,原告及びG夫婦と被告及びH夫婦との間で接触がほとんどなくなり,逆に,Eが昭和年月日に Iと婚姻してからは,むしろ原告及びG夫婦とE及びI夫婦との間で親戚付き合いがみられるようになった。 その後,Gが平成年月日に死亡したため,原告は,しばらくの間, いわゆる放心状態になり,原告に対する日常の世話は,主にE及びI夫婦がこれを行い,原告の金銭管理や納税申告事務は,IがGの生前から担当していたのをそのまま引き継いだ。 なお,被告も,Gの死後,同年月ころまでの間,原告方に泊まりに行っ たり,また,その後,原告も,週に数回の割合で,被告方を訪れ 税申告事務は,IがGの生前から担当していたのをそのまま引き継いだ。 なお,被告も,Gの死後,同年月ころまでの間,原告方に泊まりに行っ たり,また,その後,原告も,週に数回の割合で,被告方を訪れたりすることがあった。 ( )こうした中,被告は,平成年月末ころ,原告に対し,本件養子縁組 の話を持ち掛け,養子縁組届の用紙の「養子になる人」欄に自己の氏名,住所及び本籍等を記入し,同年月上旬ころ,原告の弟Jに「証人」欄への署 名押印を依頼した上,原告にこれを預けた。 被告は,同月日,原告に対し,養子縁組届の用紙に署名押印するよう 一方的に話し掛け,これに対し,原告は,ほとんど黙った状態で,積極的な- 4 -意思表示をすることなく,養子縁組届の用紙の「養親になる人」欄に自己の氏名,住所及び本籍等を記入し,被告にこれを渡した。 被告は,友人のKに「証人」欄への署名押印を依頼した上,同月日, 岡山県倉敷市長に対し,本件養子縁組の届出をしたが,その際,戸籍事務担当者から,配偶者であるHとともに縁組をするよう指摘され,その場で,「養子になる人」欄にHの氏名を代署し,上記届出をした。 ( )Eは,同年月ころ,亡Gを契約者とする火災保険の名義変更の目的で 原告の戸籍謄本を取り寄せたところ,原告と被告及びH夫婦との間の養子縁組の届出がなされていることを知った。 Eは,原告に事情を尋ねても要領を得なかったため,同年月ころ,弁護 士のもとへ相談に行き,弁護士から,原告が被告に暴行脅迫を受けたことがない限り原告と被告との間の養子縁組の解消は困難であるが,原告にとって他人であるHについては養子縁組の解消は可能かもしれないとの助言を受け,これに基づき,原告が申立人になり,とりあえずHを相手方として,原告とHとの間の養子 養子縁組の解消は困難であるが,原告にとって他人であるHについては養子縁組の解消は可能かもしれないとの助言を受け,これに基づき,原告が申立人になり,とりあえずHを相手方として,原告とHとの間の養子縁組無効の調停を申し立てた。 上記調停の期日呼出状が同年月日にHのもとに送達されたことから, 被告は,Eに連絡をして話し合いの機会をもつこととし,同月日,原告, 被告及びH並びにE及びIの人が集まったが,結局,話し合いはまとまら なかった。 その後,Hは,同年月日,原告とHとの間の協議離縁届を提出した ため,上記調停の申立ては取り下げられた。 ( )原告は,岡山県倉敷市内に多数の土地建物を所有し,これらの不動産だ けでも平成年度固定資産税評価額で約億円の価値があるほか,多額の 預貯金を有している。 ところで,本件養子縁組につき,原告は,原告に縁組意思を欠き,無効であ ると主張するのに対し,被告は,原告に縁組意思が認められ,有効であると主- 5 -張する。 そこで,検討するに,縁組意思は,縁組当事者間において,社会習俗観念からみて,真に親子と認められるような身分関係の創設を求める効果意思であるとされているから,基本的には,親子という親族関係を人為的に設定することを常識的に理解し得る能力で足りると解するのが相当である。しかし,本件のように,養親となるべき者の縁組意思の有無に疑義があり,また,養子縁組の結果によっては養親となるべき者の推定相続人に財産上重大な影響を及ぼす場合もあるから,これらのこともある程度理解し得るだけの認識がなければならないというべきである。 上記認定の事実によれば,①原告は,本件養子縁組の届出当時,歳と 高齢であった上,平成年当時に痴呆の存在がうかがわれ,平成年ころ 理解し得るだけの認識がなければならないというべきである。 上記認定の事実によれば,①原告は,本件養子縁組の届出当時,歳と 高齢であった上,平成年当時に痴呆の存在がうかがわれ,平成年ころから 痴呆の症状が少しずつみられるようになり,次第にその程度を増しつつ,平成年月ころに中等度の痴呆との診断を受け,平成年月に自己の財産を 管理処分することはできないと判定され,同年月には後見開始の審判がなさ れており,本件養子縁組届出の前後の経緯に照らし,弁識力,判断力及び決断力等の意思能力に相当程度の低下がみられたと推認できること,②Gの死亡前には,GとHとの不仲から,原告及びG夫婦と被告及びH夫婦との間で接触がほとんどなく,むしろ原告及びG夫婦とE及びI夫婦との間で親戚付き合いがみられたところ,Gの死亡後も,原告に対する日常の世話は,主にE及びI夫婦がこれを行っていたこと,③本件養子縁組は,当初,被告及びH夫婦を原告の養子としようとするものであったが,この届出当時,原告と被告及びH夫婦との間には,法律上の親子関係を殊更に形成しなければならない特段の必要性はないこと,かえって,④Eと被告との間で原告の財産管理をめぐる紛争が潜在していることがうかがわれる中で,本件養子縁組の届出は,原告の遺産に対する被告の相続分を獲得し,逆に,Eの相続分を減少させる結果をもたらすものであること,したがって,⑤このような事情の下で本件養子縁組を- 6 -しなければならないのであれば,後日,その効力をめぐる紛争の発生を回避するため,例えば養子縁組届の用紙の作成ないし提出に際し,原告の意思を確認できる公正な第三者を立ち会わせるなどの配慮をすべきであるにもかかわらず,本件では,そのような配慮がなされた形跡はないこと,しかも ため,例えば養子縁組届の用紙の作成ないし提出に際し,原告の意思を確認できる公正な第三者を立ち会わせるなどの配慮をすべきであるにもかかわらず,本件では,そのような配慮がなされた形跡はないこと,しかも,⑥仮に本件養子縁組の届出が原告の真意に基づくものであれば,その届出の前後を通じ,原告の唯一の実子であり,かつ重大な利害関係を有するEに対し,本件養子縁組の事実を相談ないし報告して公表してしかるべきであるところ,被告は,本件養子縁組の届出前はもちろん,届出後に至っても,上記事実を秘匿していたことなどの事実が認められる。 これらの事実にかんがみると,本件養子縁組の届出当時,原告が身分上及び財産上重大な結果を及ぼす本件養子縁組の趣旨をある程度理解し得るだけの認識を有していたかは疑わしく,しかも,本件養子縁組の届出に至る経緯に不自 然不合理な点が多々認められる。そうすると,本件養子縁組は,被告が約年以上にわたる原告と被告間の事実上の親子関係を戸籍上確定し,自ら祭祀承継者となるためになされたものであることや,原告が養子縁組届の用紙に氏名,住所及び本籍等を自署したことをもって,原告に縁組意思があることを認めるのは相当でない。かえって原告の縁組意思に対する疑いを否定するに足りる客観的事情の存在が明らかにされない限り,原告が正常な判断能力のもとに本件養子縁組をすることを理解し,真意に基づいてその届出を行ったものではないと推認すべきである。 なお,被告は,本人尋問の結果及び陳述書(乙)において,原告は,本件養 子縁組を次第に納得したとか,本件養子縁組の後,被告に対し,葬礼関係の積立証書を託し,原告所有の不動産に関する固定資産税通知書を渡したとか供述するが,これらの供述等は,いずれも被告の言い分のみに基づくものであり,原告の縁組意思に対する疑いを否 被告に対し,葬礼関係の積立証書を託し,原告所有の不動産に関する固定資産税通知書を渡したとか供述するが,これらの供述等は,いずれも被告の言い分のみに基づくものであり,原告の縁組意思に対する疑いを否定するに足りる客観的な事情とはいい難い。 したがって,被告の上記主張はいずれも採用できない。 - 7 -以上によれば,本件養子縁組は,原告に縁組意思を欠き,無効であるといわ ざるを得ない。 結論 よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。 岡山地方裁判所倉敷支部裁判官中川博文(別紙添付省略)
▼ クリックして全文を表示