平成30(行ウ)15 厚生年金保険年金決定処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年9月27日 札幌地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-90026.txt

判決文本文12,214 文字)

- 1 -令和元年9月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(行ウ)第15号厚生年金保険年金決定処分取消等請求事件口頭弁論終結日令和元年8月9日判決 主文 1 本件訴えのうち,厚生労働大臣に対して被保険者期間300月を計算の基礎とする遺族厚生年金を支給する旨の決定を求める訴えを却下する。 2 原告のその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 厚生労働大臣が原告に対し平成28年10月13日付けでした厚生年金保険年金支給決定を取り消す。 2 厚生労働大臣は,原告に対し,被保険者期間300月を計算の基礎とする遺 族厚生年金を支給する旨の決定をせよ。 3 被告は,原告に対し,701万8697円及びこれに対する平成30年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は,夫のA(以下「亡A」という。)が死亡したとして,厚生労働大臣に 対して遺族厚生年金の裁定請求をしたところ,厚生労働大臣は,亡Aが平成26年3月分の国民年金保険料を納付していなかったことから,厚生年金保険法(平成24年法律第63号による改正前のもの。以下「厚年法」という。)58条1項1号に係る支給要件を満たしていないと判断し,同項4号に基づき,被保険者期間184月を計算の基礎として遺族厚生年金を支給する旨の決定処分(以下 「本件処分」という。)をした。 - 2 -本件は,原告が,亡Aは被保険者記録照会における不合理・不正確な表示を信頼したために国民年金保険料を納付しなかったものであるとし,①本件処分はこの点で信義則に反し違法である旨主張して,行政事件訴訟法3条2項の処分の取消しの 険者記録照会における不合理・不正確な表示を信頼したために国民年金保険料を納付しなかったものであるとし,①本件処分はこの点で信義則に反し違法である旨主張して,行政事件訴訟法3条2項の処分の取消しの訴えとして,本件処分の取消しを求め(請求の趣旨第1項),②厚生労働大臣は厚年法58条1項1号に基づく支給決定をすべきである旨主張して,行政 事件訴訟法3条6項2号の義務付けの訴えとして,厚生労働大臣に対して被保険者期間300月を計算の基礎とする遺族厚生年金を支給する旨の決定の義務付けを求める(請求の趣旨第2項。以下「本件義務付けの訴え」という。)とともに,③上記の表示が違法な公権力の行使である旨主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金701万8697円及びこれに対する不法行為の 日の後(訴状送達の日の翌日)である平成30年6月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨第3項)事案である。 1 関係法令の定め(1) 厚年法58条1項1号関係 厚年法58条1項1号は,厚生年金保険の被保険者が死亡したときには,その遺族に遺族厚生年金が支給される旨定める。 ただし,被保険者の死亡が令和8年4月1日より前であり,かつ死亡日において65歳未満であった場合には,①死亡日の前日において,死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり,かつ,当該被保険者 期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であること(以下「3分の2要件」という。),又は,②死亡日の前日において,当該死亡日の属する月の前々月までの1年間のうちに国民年金保険料の未納期間がないこと(以下「直近1年要件」という。)のいずれかを満たすとき 「3分の2要件」という。),又は,②死亡日の前日において,当該死亡日の属する月の前々月までの1年間のうちに国民年金保険料の未納期間がないこと(以下「直近1年要件」という。)のいずれかを満たすときに限り,遺族厚生年金が支給される(厚年法58条 1項ただし書,国民年金法等の一部を改正する法律〔昭和60年法律第34- 3 -号〕附則64条2項)。 他方,遺族厚生年金の額は,死亡した被保険者又は被保険者であった者(以下「被保険者等」という。)の厚生年金の被保険者期間と平均標準報酬月額を基礎として,死亡した被保険者等が受けるであろう老齢厚生年金の額の4分の3に相当する額とされているところ(厚年法60条1項1号),厚 年法58条1項1号の支給要件を満たす場合には,計算の基礎となる被保険者期間の月数が300月を満たさないときであっても,これを300月として計算することとされている(同法60条1項1号ただし書)。 (2) 厚年法58条1項4号関係厚年法58条1項4号は,老齢厚生年金の受給権者又は厚年法42条2号 に該当する者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者)が死亡したときにも,その遺族に対し,遺族厚生年金が支給される旨定める(厚年法58条1項4号)。 ただし,厚年法58条1項4号の場合においては,支給要件として同項1号のような「3分の2要件」や「直近1年要件」は設けられていない反面, 遺族厚生年金の額につき,計算の基礎となる被保険者期間の月数が300月を満たさないときであってもこれを300月として計算する旨の規定も設けられていない。 2 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 原告 原告は,亡A(昭和▲年▲月▲日生まれ) てもこれを300月として計算する旨の規定も設けられていない。 2 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 原告 原告は,亡A(昭和▲年▲月▲日生まれ)の妻である。 (2) 亡Aの死亡亡Aは,平成△年△月△日,死亡した。 亡Aは,死亡当時,厚生年金保険の被保険者であり,かつ死亡日において65歳未満であった。 (3) 亡Aの保険料納付状況- 4 -亡Aは,死亡日の前日において,死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があったところ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間は当該被保険者期間の3分の2に満たなかった。 また,亡Aは,死亡日(平成△年△月△日)の属する月の前々月までの1 年間(平成26年3月から平成27年2月)のうち,平成26年3月分の国民年金保険料を納付していなかった。 (4) 本件処分原告は,平成28年9月30日,厚生年金保険の被保険者である亡Aが平成△年△月△日に死亡したとして,厚生労働大臣に対し,遺族厚生年金の裁 定請求をした(乙2)。 これに対し,厚生労働大臣は,平成28年10月13日,上記(3)の保険料納付状況に照らすと厚年法58条1項1号に係る「3分の2要件」及び「直近1年要件」をいずれも満たしていないと判断し,同項4号に基づき,被保険者期間184月を計算の基礎とする遺族厚生年金を支給決定する旨の 決定処分(本件処分)をした(甲1,弁論の全趣旨)。 (5) 不服申立てア原告は,平成29年1月12日,北海道厚生局社会保険審査官に対し,本件処分を不服として審査請求をしたところ(乙3),同審査官は,同年2月24日,原告の審査請求を棄却する旨の決定をした(甲2 てア原告は,平成29年1月12日,北海道厚生局社会保険審査官に対し,本件処分を不服として審査請求をしたところ(乙3),同審査官は,同年2月24日,原告の審査請求を棄却する旨の決定をした(甲2)。 イ原告は,平成29年4月24日,社会保険審査会に対し,上記アの決定を不服として再審査請求をしたところ(乙4),同審査会は,平成30年2月28日,原告の再審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲3)。 (6) 本件訴えの提起原告は,平成30年5月12日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な 事実)。 - 5 - 3 争点(1) 請求の趣旨第1項について本件処分の違法性(2) 請求の趣旨第2項について本件義務付けの訴えの適法性(本案前の争点) (3) 請求の趣旨第3項についてア被保険者記録照会における表示の違法性イ損害発生の有無及びその額 4 当事者の主張(1) 争点(1)(本件処分の違法性)について (原告の主張)ア亡Aは,平成26年2月6日,日本年金機構のB年金事務所において年金記録の照会を行い,「被保険者記録照会」と題する書面(甲4。以下「本件照会書面」という。)の交付を受けたところ,その同年3月の部分には,国民年金の納付記録として「無資格」(厚生年金の被保険者である ことなどの理由により国民年金保険料を納付する必要がない状態をいう。 以下同じ。)であることを示す「/」との表示がされていた。 しかし,亡Aは平成26年3月に厚生年金被保険者資格を喪失し,これにより同月分の国民年金保険料を納付する必要が生じたものである。それゆえ,上記表示は誤表示というべきであるし,少なくとも被保険者の誤解 を誘発するおそれの高い不合 金被保険者資格を喪失し,これにより同月分の国民年金保険料を納付する必要が生じたものである。それゆえ,上記表示は誤表示というべきであるし,少なくとも被保険者の誤解 を誘発するおそれの高い不合理・不正確なものというべきである。 そして,亡Aは,上記表示を信頼し,平成26年3月分について国民年金保険料を納付する必要がないものと誤信した結果,同月分の保険料を納付しなかったのであって,これに伴う不利益を原告に甘受させるというのは,信義則に反する。 したがって,本件処分は違法であり,取り消されるべきものである。 - 6 -イこの点につき被告は,亡Aがこのような誤信をする状況にはなかった旨主張する。 しかし,亡Aは,平成26年4月分及び5月分の国民年金保険料を納付しておきながら,同年3月分については納付していないのであって,このような不自然な行為は,亡Aが同月分の国民年金保険料につき納付の必要 がないものと誤信していたことの証左である。 また,本件照会書面には,B年金事務所の係員により,手書きで「25ヶ月」と記載されているが,これは,今後の国民年金保険料の納付期間が平成26年4月から平成28年4月(亡Aが満60歳に達する前月)までの「25ヶ月」であることを指すものと推測される。しかるに,実際には 平成26年3月にも国民年金保険料を納付する必要があったのだから,正確には同月から平成28年4月までの「26ヶ月」となるはずであって,「25ヶ月」との記載は,本件照会書面の表示が亡Aのみならず係員の認識も誤らせるようなものであったことの証左である。 (被告の主張) 亡Aは,B年金事務所を訪れた平成26年2月6日当時は厚生年金被保険者であって,その直後の時期である同年3月分についても,事情の せるようなものであったことの証左である。 (被告の主張) 亡Aは,B年金事務所を訪れた平成26年2月6日当時は厚生年金被保険者であって,その直後の時期である同年3月分についても,事情の変更がない限り,厚生年金被保険者であることが合理的に見込まれた。亡Aに対し交付された本件照会書面は,こうした合理的な見込みが正確に表示されたものであり,誤表示ではない。 そして,亡Aは,本件照会書面の交付を受けた後,平成26年3月分ないし5月分に係る納付書を受け取っており,同年3月分につき国民年金保険料を納付しなければならないことを認識していたのであって,亡Aにおいて,その納付の必要がない旨誤信する状況にはなかった。 したがって,本件処分を違法として亡Aの信頼を保護すべき事情は何ら存 在しないから,本件処分は信義則に違反せず,適法である。 - 7 -(2) 争点(2)(本件義務付けの訴えの適法性(本案前の争点))について(原告の主張)原告の裁定請求が「直近1年要件」の具備を前提とするものであるのに対し,本件処分は「直近1年要件」の具備を前提としない内容であるから,実質的に原告の請求を拒否する処分といえるのであって,「申請又は審査請求 を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた」(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)ものである。 また,上記(1)において主張したとおり,本件処分は違法であるから,「取り消されるべきもの」(同号)である。 したがって,本件義務付けの訴えが訴訟要件を欠くことはなく,適法であ る。 (被告の主張)厚年法上の保険給付を受ける権利は,厚生労働大臣の決定によって初めて具体的に発生するところ,原告が厚生労働大臣に対して行った裁定請求は,具体的な金額の支給を請求する行為 る。 (被告の主張)厚年法上の保険給付を受ける権利は,厚生労働大臣の決定によって初めて具体的に発生するところ,原告が厚生労働大臣に対して行った裁定請求は,具体的な金額の支給を請求する行為とは評価できず,これに対する本件処分 は,原告の何らかの請求を拒否する処分と解することはできないから,「申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた」(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)とはいえない。 また,上記(1)において主張したとおり,本件処分は適法であるから,「取り消されるべきもの」(同号)ともいえない。 したがって,本件義務付けの訴えは訴訟要件を欠き,不適法である。 (3) 争点(3)ア(被保険者記録照会における表示の違法性)について(原告の主張)上記(1)において主張したとおり,本件照会書面の表示は誤表示というべきであるし,少なくとも被保険者の誤解を誘発するおそれの高い不合理・不 正確なものというべきであって,これは国家賠償法上違法と評価されるもの- 8 -である。 (被告の主張)上記(1)において主張したとおり,本件照会書面の表示は当時の合理的な見込みを正確に記載したものであり,誤表示とはいえないから,何ら職務上の法的義務に違反したものではなく,国家賠償法上,違法の評価を受けるも のではない。 (4) 争点(3)イ(損害発生の有無及びその額)について(原告の主張)亡Aは,本件照会書面の表示を信頼して平成26年3月分の保険料を納付せず,その結果,「直近1年要件」を満たさないこととなった。これにより 原告は,以下の損害を被った。 ア逸失利益 671万8697円(ア) 本件処分による厚生年金支給額の年額は22万090 結果,「直近1年要件」を満たさないこととなった。これにより 原告は,以下の損害を被った。 ア逸失利益 671万8697円(ア) 本件処分による厚生年金支給額の年額は22万0900円であるのに対し,「直近1年要件」を満たした場合の厚生年金支給額の年額は36万0163円であるから,原告は,その差額である年額13万9263 円を平均余命(32.52年)に至るまで得られるはずであり,32年のライプニッツ係数を15.8027として中間利息を控除すると,以下の計算式のとおり,220万0731円の逸失利益が生じている。 (計算式)139,263×15.8027≒2,200,731(イ) また,原告は,「直近1年要件」を満たした場合には65歳までの1 0年間につき中高齢寡婦加算相当額(年額58万5100円)の支給を受けることができたのであり,10年のライプニッツ係数を7.7217として中間利息を控除すると,以下の計算式のとおり,451万7966円の逸失利益が生じている。 (計算式)585,100×7.7217≒4,517,966 イ慰謝料 30万円- 9 -原告は,違法な公権力の行使により精神的苦痛を被ったものであり,その慰謝料としては30万円を下らない。 (被告の主張)否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,関係各証拠によると,以下の事実が認められる。 (1) 国民年金に係る被保険者記録国民年金に係る被保険者記録はオンラインシステムで管理されているところ,当該システムにおいては,被保険者の資格を空欄にすることはできず, 年度当初(4月)の資格に基づき,当該年度内,すなわち翌年3月までの表記が 者記録はオンラインシステムで管理されているところ,当該システムにおいては,被保険者の資格を空欄にすることはできず, 年度当初(4月)の資格に基づき,当該年度内,すなわち翌年3月までの表記がされており,後に種別変更や納付・免除等の事情変更があった場合にはその都度その記録が修正されるというものであった(乙16)。 そのため,上記システムにおいて年度途中に被保険者記録の照会をした場合,照会時点から年度末の3月までの将来部分については,当時の資格に基 づく見込みが表示されるものとなっていた。 (2) 亡Aの厚生年金被保険者としての加入履歴亡Aの厚生年金被保険者としての加入履歴は,次のとおりであった(乙7)。 ア昭和54年4月1日厚生年金被保険者資格を取得 イ平成2年10月1日資格喪失ウ平成9年12月8日厚生年金被保険者資格を再取得エ平成10年7月1日資格喪失オ平成23年8月1日厚生年金被保険者資格を再取得カ平成25年7月1日資格喪失 キ同年9月1日厚生年金被保険者資格を再取得- 10 -ク平成26年3月1日資格喪失ケ同年6月4日厚生年金被保険者資格を再取得コ平成●年●月●日死亡により資格喪失(3) 事実経過ア亡Aは,平成25年9月1日,厚生年金被保険者資格を再取得した(上 記(2)キ)。 イ亡Aは,平成26年2月6日,日本年金機構のB年金事務所を訪問し,国民年金保険料の納付について相談するとともに,同日時点における自らの被保険者記録を照会し,本件照会書面の交付を受けた。 本件照会書面には,亡A 6日,日本年金機構のB年金事務所を訪問し,国民年金保険料の納付について相談するとともに,同日時点における自らの被保険者記録を照会し,本件照会書面の交付を受けた。 本件照会書面には,亡Aが厚生年金被保険者資格を再取得した月である 平成25年9月の部分から,当該年度の最終月である平成26年3月の部分まで,国民年金の納付記録として「無資格」であることを示す「/」との表示がされていた(甲4)。 ウ亡Aは,当時勤務していた会社(株式会社保険物語)を平成26年2月28日付けで退職し,これにより,同年3月1日,厚生年金被保険者資格 を喪失した(乙22,上記(2)ク)。 エ亡Aは,上記ウのとおり厚生年金被保険者資格を喪失したにもかかわらず,所定の期間内に国民年金第1号被保険者への変更手続を行わなかった。 そこで,日本年金機構は,平成26年5月27日付けで,亡Aに対し,国民年金被保険者資格取得・種別変更・種別確認届書を送付した。亡Aは, これに基づき,同年6月13日,国民年金第1号被保険者への種別変更手続を行った(乙19)。 オ亡Aは,平成26年6月4日,厚生年金被保険者資格を再取得した(上記(2)ケ)。 カ亡Aは,平成26年6月16日,平成26年3月から5月までの期間に 係る国民年金保険料の免除申請手続を行い,日本年金機構理事長は,同年- 11 -7月22日,上記期間に係る国民年金保険料のうち4分の3を免除する旨承認した(乙10,15)。 これを受けて,亡Aは,同年9月18日,上記期間のうち同年4月分及び5月分の保険料(4分の1相当分)を納付したが,同年3月分の保険料については納付しなかった(乙14)。 キ亡Aは,平成26年10月,体調を崩し,病院 8日,上記期間のうち同年4月分及び5月分の保険料(4分の1相当分)を納付したが,同年3月分の保険料については納付しなかった(乙14)。 キ亡Aは,平成26年10月,体調を崩し,病院で癌と診断された(弁論の全趣旨)。 ク亡Aは,平成△年△月△日,死亡した。 2 争点(1)(本件処分の違法性)について(1) 原告は,本件照会書面に国民年金の納付記録として「無資格」を示す「/」 との表示がされていたことにつき,①当該表示は誤表示というべきであるし,少なくとも被保険者の誤解を誘発するおそれの高い不合理・不正確なものというべきである,②現に,亡Aは,当該表示を信頼し,平成26年3月分について国民年金保険料を納付する必要がないものと誤信していた,などと主張する。 (2)アしかし,そもそも国民年金に係る被保険者記録のオンラインシステムでは,年度途中に被保険者記録の照会をした場合,照会時点から年度末までの将来部分については当時の資格に基づく見込みが表示されるものとなっていたものである(上記1(1))。 そして,亡Aは平成26年2月6日時点では厚生年金被保険者であった から(上記1(3)ア),同日に交付された本件照会書面では,将来部分に当たる同年2月及び3月についても厚生年金被保険者のままであり,国民年金保険料を納付する必要がない(「無資格」)との見込みが表示されていたものにすぎない。なお,実際には亡Aは同月から国民年金保険料を納付する必要が生じることとなったが,これは,本件照会書面を受けた後の同年 2月28日に勤務先を退職し,もって厚生年金被保険者の資格を喪失した- 12 -という,専ら亡A側の事後的な事情によるものである(上記1(3)ウ)。 したがって,本件照会書面の上記 同年 2月28日に勤務先を退職し,もって厚生年金被保険者の資格を喪失した- 12 -という,専ら亡A側の事後的な事情によるものである(上記1(3)ウ)。 したがって,本件照会書面の上記表示は単に平成26年2月6日時点における見込みを表示したものにすぎないのであるから,これを「誤表示」ということはできない。 イまた,原告は上記表示が被保険者の誤解を誘発するおそれの高い不合 理・不正確なものであるとも主張するが,単に誤解を誘発するおそれがあるという抽象的な可能性のみで,本件照会書面における表示,ひいては本件処分が違法になると断ずるのは,困難であるものというべきである。 ウしたがって,原告の上記①の主張は,理由がないものといわざるを得ない。 (3) もっとも,原告は,上記②のとおり,現に亡Aが平成26年3月分の国民年金保険料を納付する必要がない旨誤信をしていたとも主張している。 しかし,亡Aが誤信をしていたとの事実については,本件証拠上,これを直接証明する亡Aの証言,陳述書,メモ,日記その他の直接証拠は何ら見当たらない。 かえって,亡Aは,本件照会書面の交付を受けた後,退職によって厚生年金被保険者資格を喪失し,平成26年6月13日,国民年金第1号被保険者への種別変更手続を行うとともに(上記1(3)エ),国民年金保険料の免除申請をしているところ(同カ),その免除対象期間を同年3月から5月までとして,同年3月を含めているところである。 また,日本年金機構理事長は,同年7月22日,上記期間に係る国民年金保険料のうち4分の3を免除する旨承認しているのであって(同カ),亡Aは,当時,4分の3の免除承認期間が同年3月から5月までである旨明記された「国民年金保険料免除・納付 2日,上記期間に係る国民年金保険料のうち4分の3を免除する旨承認しているのであって(同カ),亡Aは,当時,4分の3の免除承認期間が同年3月から5月までである旨明記された「国民年金保険料免除・納付猶予申請承認通知書」(乙24参照)を受領しているはずである。 さらに,証拠(乙17〔12,13,27頁〕)及び弁論の全趣旨によれ- 13 -ば,日本年金機構では,国民年金保険料の一部免除が承認された者に対し,改めて,納付すべき対象期間及び納付すべき額を記載した納付書を送付していることが認められるのであって,亡Aにおいても,同年8月頃,同年3月分から5月分までの国民年金保険料の納付書(乙17〔12頁〕参照)を受領しているものと推認される。しかるに,仮に亡Aにおいて,同年3月分に ついての納付の必要がないものと認識していたのであれば,上記納付書の内容と自らの認識が異なることになるから,この点を年金事務所に確認するなどの行動に出るのが通常と思われるのに,そうした行動に出たことをうかがわせる証拠はない。 したがって,これらの各事情に照らせば,亡Aにおいて,平成26年3月 分の国民年金保険料の納付が必要である旨認識していたことが十分にうかがわれるのであって,原告の上記②の主張はこの点からも理由がない。 (4) これに対し,原告は種々の主張をするが,いずれも採用することができない。 アまず,原告は,亡Aは平成26年4月分及び5月分の国民年金保険料を 納付しておきながら,同年3月分については納付していないのであって(上記1(3)カ参照),このような不自然な行為は,亡Aが同月分の国民年金保険料につき納付の必要がないものと誤信していたことの証左である旨主張する。 しかし,上記(3)において認定したとおり 記1(3)カ参照),このような不自然な行為は,亡Aが同月分の国民年金保険料につき納付の必要がないものと誤信していたことの証左である旨主張する。 しかし,上記(3)において認定したとおり,亡Aは,同月分の国民年金 保険料についても免除申請をし,その結果,同月分の保険料のうち4分の3を免除する旨の通知を受領し,さらに,同月分の保険料の納付書を受領しているものと推認されるのであって,上記主張はこれらの各事実とにわかに整合せず,亡Aは,同月分の保険料について,何らかの理由により納付をしない旨自ら決断したものといわざるを得ない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 - 14 -イ次に,原告は,①本件照会書面には,B年金事務所の係員により,手書きで「25ヶ月」と記載されているが(甲4),これは,今後の国民年金保険料の納付期間が平成26年4月から平成28年4月(亡Aが満60歳に達する前月)までの「25ヶ月」であることを指すものと推測される,②しかるに,実際には平成26年3月にも国民年金保険料を納付する必要 があったのだから,正確には同月から平成28年4月までの「26ヶ月」となるはずである,③したがって,本件照会書面の記載は,亡Aのみならず係員の認識も誤らせるようなものというべきである,などと主張する。 しかし,亡AがB年金事務所を訪問して本件照会書面の交付を受けたのは平成26年2月6日であり,当時はまだ勤務先(株式会社保険物語)に 在職中であったのである。そうすると,B年金事務所の係員は,当時の合理的な見込み,すなわち,亡Aが年度末である同年3月末までは上記勤務先に在職し続けるであろうとの見込みに基づき,国民年金保険料の納付期間を同年4月からと仮定して,上記「 年金事務所の係員は,当時の合理的な見込み,すなわち,亡Aが年度末である同年3月末までは上記勤務先に在職し続けるであろうとの見込みに基づき,国民年金保険料の納付期間を同年4月からと仮定して,上記「25ヶ月」との書き込みを行ったものにすぎないとも推測される。そして,実際には亡Aの国民年金保険料の 納付期間は平成26年3月からとなったが,これは,これまでも述べてきたとおり,亡Aが,本件照会書面の交付を受けた後の同年2月28日,勤務先を年度途中で退職したという,専ら亡A側の事後的な事情によるものである。 なお,本件照会書面の「25ヶ月」の記載については,「5」の部分に 縦棒を書き加えて「26ヶ月」と修正しているようにもうかがえるのであって(甲4),仮にこのような修正がされたのであれば,むしろ原告のいう「正確」な記載がされていたものというべきである。 したがって,いずれにせよ,原告の上記主張は採用することができない。 (5) 以上によれば,争点(1)における原告の主張は,理由がない。 3 争点(2)(本件義務付けの訴えの適法性(本案前の争点))について- 15 -上記2によれば,本件処分は適法であって,「取り消されるべきもの」(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)であるとはいえないから,本件義務付けの訴えは不適法である。 したがって,争点(2)における原告の主張は,理由がない。 4 争点(3)ア(被保険者記録照会における表示の違法性)について 上記2において認定説示したとおり,本件照会書面の表示は誤表示というべきものではないし,また,単に誤解を誘発するおそれがあるというだけで,当該表示が違法になると断ずるのは困難であるものといわざるを得ない。そもそも,亡Aが平成26年3月分の国民年 表示は誤表示というべきものではないし,また,単に誤解を誘発するおそれがあるというだけで,当該表示が違法になると断ずるのは困難であるものといわざるを得ない。そもそも,亡Aが平成26年3月分の国民年金保険料を納付する必要がない旨誤信していた事実はこれを認めるに足りないのであって,原告の主張は,この点でそ の前提を欠くものでもある。 したがって,本件照会書面の表示が国家賠償法上違法であるとの原告の主張は採用することができず,争点(3)アにおける原告の主張は理由がない。 第4 結論よって,本件訴えのうち,本件義務付けの訴えは不適法であるからこれを却下 し,その余の訴えに係る請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官 孝 裁判官萩原孝基 裁判官佐藤克郎

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る