平成17(ワ)21988 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年1月29日 東京地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-34513.txt

判決文本文15,295 文字)

- 1 -平成19年1月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(ワ)第21988号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年11月16日判決栃木県小山市原告A同訴訟代理人弁護士伊藤芳朗田代奈美東京都文京区被告B同訴訟代理人弁護士飯田修主文 被告は,原告に対し,金160万円及び内金140万円に対する平成15年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,金398万5165円及び内金306万6230円に対する平成15年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要- 2 -本件は,医師である被告の開設する医院において豊胸手術(腋下切開,大胸筋下法)を受けた原告が,腋下に傷あとが残り,乳房の形が不自然となり,ま,,,,た胸等に断続的な痛みを感じたことに関し当該結果は担当医師において①腋下の切開によりどのような傷あとが残るかについて十分説明すべき義務,②本件で採用された術式ではバッグの位置が高くなりうるリスクがあること及び他の術式もあることについて十分説明すべき義務,③同手術に際し,大胸筋を十分剥離した上で,バッグを挿入すべき義務,④マッサージの開始時期や方法について適切に指導すべき義務があったにもかかわらず,これらの義務を怠ったために生じたものであると主張して,被告に対し,不法行為ないし債務不履行に基づいて,慰謝料等の損害金及びそのうち弁護士費用を除いた部分に対する不法行為後の日から にもかかわらず,これらの義務を怠ったために生じたものであると主張して,被告に対し,不法行為ないし債務不履行に基づいて,慰謝料等の損害金及びそのうち弁護士費用を除いた部分に対する不法行為後の日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者等ア原告は,昭和27年生の女性である。 イ被告は,本件当時,水戸市内において「石倉クリニック水戸院」とい,う名称の美容外科医院(以下「被告医院」という)を開設していた(な。 お,同医院は,平成16年9月7日から現在まで,被告が理事長である医療法人新美会が経営している(乙C3。 )。)Cは,遅くとも平成15年5月から同年12月まで,医師として被告医院に勤務していた(甲B8,弁論の全趣旨。 )(2)豊胸手術に関する医学的知見ア豊胸手術の術式(甲B3ないし7)(ア)切開部位①腋窩の腋毛部の体側を切開する方法(以下「腋下切開」という,。)②乳頭,乳輪の中央を水平に横断して切開する方法,③乳輪外周縁の下- 3 -方を切開する方法(以下「乳輪下切開」という,④乳房下縁を切開。)する方法(以下「乳房下縁切開」という)がある。 。 ,,腋下切開の場合切開の長さは約2cmないし約5cmとされており利点としては,乳房に傷あとが残らないことがあるが,欠点として,切開部位に醜状を伴う瘢痕拘縮を生じ,そのために上肢の挙上制限が起きることなどがある。 乳房下縁切開は,最も一般的で,立位では分からない傷あととなる。 (イ)バッグの挿入部位乳腺下に挿入する方法(以下「乳腺下法」という)と大胸筋下に挿。 入する方法(以下「大胸筋下法」という)がある。 。 大胸筋下法では,手術当日に非常に強い疼痛を訴え となる。 (イ)バッグの挿入部位乳腺下に挿入する方法(以下「乳腺下法」という)と大胸筋下に挿。 入する方法(以下「大胸筋下法」という)がある。 。 大胸筋下法では,手術当日に非常に強い疼痛を訴える者がいるが,その後,3日ないし5日間は上肢の挙上時のみとなり,疼痛は次第に軽くなる。 腋下切開で大胸筋下にバッグを挿入する場合,大胸筋下縁は腹直筋も外斜筋も重なっているので,いたって剥離はしにくく,出血も起こる。 イ被膜拘縮(甲B3,7,乙B1)(ア)被膜拘縮による後遺症,,バッグは異物であるので必ずその周囲に線維性の被膜を形成するがこの被膜が拘縮してバッグの表面積より小さくなると,硬く感ずるようになる。 (イ)被膜拘縮の予防法術後早期にマッサージを開始すべきとされている。マッサージは,皮膚上よりバッグを強く搾るようにする。床上に臥して胸部を圧迫する方法もある。 また,一般的に,乳腺下法より大胸筋下法の方が,被膜拘縮は起こりにくいと考えられている。 - 4 -(ウ)被膜拘縮の治療法①クローズドカプセロトミー(closedcapsulotomy)被膜に均等な裂け目を作ることにより被膜拘縮を解除する治療法である。30%ないし50%の再発と約10%の合併症(血腫,バッグ破裂など)を認めたという報告がある。 ②オープンカプセロトミー(openedcapsulotomy)直視下に被膜の天蓋及びその基部周辺に切開を加え,胸壁に沿って,,大きく剥離することにより新たなポケットを作成する治療法であり①の方法よりは確実性がある。20%ないし30%の再発があるという見解がある。 ウ乳房の位置異常(甲B3,7)剥離範囲が狭かったり,左右非対称であった場合は当然に起こる。一般に多いのは乳房下縁より上にバッグが移動してしまうケースで いし30%の再発があるという見解がある。 ウ乳房の位置異常(甲B3,7)剥離範囲が狭かったり,左右非対称であった場合は当然に起こる。一般に多いのは乳房下縁より上にバッグが移動してしまうケースであるが,これは下方の剥離が足りないために起こると考えられている。しかし,術直後の固定が悪かったり,積極的にマッサージを行わなかったりした場合にもよくみられる。大胸筋下法の場合,術後バッグが上方に移動しやすい。 ,。 一度起こってしまった位置異常を直すためには再手術を行うしかない(,,,,)(3)原告の診療経過等の概要甲A1 C4原告本人弁論の全趣旨原告は,昭和62年ころ,新宿南クリニックにおいて,乳輪下切開をして(,「」乳腺下にバッグを挿入する豊胸手術を受けた以下この手術を前回手術という)が,その後,被膜拘縮が進み,お椀を伏せたような形で硬くなっ。 てしまっていた。 原告は,平成15年8月22日,被告医院を初めて受診し,ホクロやシミについての相談をした。 原告は,同年11月4日,被告医院を受診し,上記のような乳房の状態について相談した結果バッグを入れ替える豊胸手術を受けることに決まり被,(- 5 -告との間で,豊胸手術に係る診療契約を締結した,同月12日,被告(原。)告の主張)又はC(被告の主張)いずれかの執刀により,腋下切開をし,従来のバッグを取り出した上で大胸筋下にバッグを挿入する豊胸手術を受けた(,「」,「」以下この手術を本件手術といい本件手術の執刀医を本件執刀医という。本件手術における腋下切開の長さは5cm程度であった(原告。)の主張では5cmないし6cm)であった。本件手術後も被告医院に通院していたが,平成16年1月23日を最後に通院しなくなった。 原告は, 本件手術における腋下切開の長さは5cm程度であった(原告。)の主張では5cmないし6cm)であった。本件手術後も被告医院に通院していたが,平成16年1月23日を最後に通院しなくなった。 原告は,本件手術後の乳房の状態に満足せず,同年4月10日,リッツ美容外科において,本件手術で挿入したバッグを取り出した上で乳腺下にバッグを挿入する豊胸手術を受けた(以下,この手術を「再手術」という。 。)(本件で問題となる時期は平成15年8月から平成16年7月までであり,以下の月日のうち,特に年の記載のないものは,8月から12月までは平成15年の,1月から7月までは平成16年の月日である)。 原告の主張(1)本件手術によって生じた結果ア本件手術において左腋下が5cmないし6cmの長さで切開されたため,原告の左腋には,腋を閉じた状態でさえも視認できるほど大きな傷あとが残った。 イ本件手術により,原告の乳房は,バッグの位置が異常に高すぎて,上部ばかりが大きく膨らみ,乳頭部が膨らみの頂点から下方にずれ,皮が伸びたようにしぼんで垂れ下がるといった,明らかに不自然な形となった。しかも,左側のバッグの位置が右側に比べて高すぎ,一見して左右アンバランスな形状になった。 そのため,原告は,前記のような再手術を受けざるを得なかった。 ウ本件手術においてバッグの挿入位置が異常であったため,原告は,神経が圧迫されて,胸,肩,腋や腕の付け根等に断続的な痛みを感じた(この- 6 -痛みは,再手術まで続いた)。 (2)説明義務違反①(本件手術による傷あとの説明)アバッグを取り出す操作をする際は,切開幅を予想できず,また,皮膚の伸びが悪い場合は傷が広がりやすいのであるから,被告は,原告に対し,その旨を正確に説明すべき義務があった。しかるに,被告は,前回手術 バッグを取り出す操作をする際は,切開幅を予想できず,また,皮膚の伸びが悪い場合は傷が広がりやすいのであるから,被告は,原告に対し,その旨を正確に説明すべき義務があった。しかるに,被告は,前回手術において使用されたバッグがシリコンジェルであったにもかかわらず,これが生理食塩水バッグであると見立て違いをしたため,原告に対し,3cmないし3.5cmの切開でできるという誤った説明をし,上記義務を怠った。 イ義務違反と結果との間の因果関係被告が上記義務を尽くしていれば,原告は,本件手術を受けることはなかったのであり,左腋下に上記(1)アのような傷あとが残ることもなかった。 (3)説明義務違反②(術式の選択に関する説明)ア大胸筋下法を採った場合,下方向を十分剥離することができず,バッグの位置が高くなりうるのであり,しかも,乳腺下法を採った上でオープンカプセロトミーを行う方法もあったのであるから,被告は,原告に対し,その旨を説明すべき義務があった。しかるに,被告は,大胸筋下法を採った場合の手術についての一般的な説明を行ったのみで,上記説明義務を尽くさなかった。 イ義務違反と結果との間の因果関係被告が上記義務を尽くしていれば,原告は,本件手術を受けることはなかったのであり,上記(1)イのようになることもなかった。 なお,原告はマッサージを熱心に励行していたのであるから,乳房の形が不自然となった原因がマッサージ不足にあるとはいえない。 (4)本件手術の手技上の義務違反- 7 -ア本件執刀医(第1次的には被告,第2次的にはCを主張する)は,本。 件手術に際し,大胸筋を十分剥離した上でバッグを挿入すべき義務があった。しかるに,本件執刀医は,上記義務を怠り,大胸筋を十分剥離せずにバッグを本来挿入すべき位置よりも上の位置に挿入した。被告及び 。 件手術に際し,大胸筋を十分剥離した上でバッグを挿入すべき義務があった。しかるに,本件執刀医は,上記義務を怠り,大胸筋を十分剥離せずにバッグを本来挿入すべき位置よりも上の位置に挿入した。被告及び被告医院にとって,本件手術は初めての豊胸手術であったため,経験不足によりこのような失敗が生じてもおかしくない状況にあった。 イ義務違反と結果との間の因果関係本件執刀医が上記義務を尽くしていれば,バッグを十分に動かすことができ,癒着と拘縮が進んで上記(1)イのように乳房の形が不自然となることはなかった。 なお,原告はマッサージを熱心に励行していたのであるから,乳房の形が不自然な形となった原因がマッサージ不足にあるとはいえない。 (5)マッサージの指導に関する義務違反仮に乳房の形が不自然となった原因がマッサージ不足にある場合,以下の義務違反が認められる。 ア被告は,マッサージを原告にゆだねるだけでは足りず,医師によるマッサージをできるだけ早く開始できるよう配慮し,また,なるべく頻回に来院させて,マッサージの効果を確認した上でマッサージの方法について指導をすべき義務があった。 しかるに,被告は,11月18日に原告が電話をした際にも,事務員を介してマッサージの指導をしたのみで,初回のマッサージを漫然と原告にゆだねた上,早期来院を指示せずに同月25日まで医師によるマッサージをせず,その後も12月3日と同月27日しか来院させず,また,マッサージ不足を指摘することさえしなかったのであるから,マッサージの方法について十分な指導をしていたとはいえないのであり,上記義務に違反した。 - 8 -イ義務違反と結果との間の因果関係被告が上記義務を尽くしていれば,原告は,できるだけ早期に被告医院を受診して,医師によるマッサージを受けていたはずであり,また,適 記義務に違反した。 - 8 -イ義務違反と結果との間の因果関係被告が上記義務を尽くしていれば,原告は,できるだけ早期に被告医院を受診して,医師によるマッサージを受けていたはずであり,また,適切な方法でマッサージを行っていたはずであるから,マッサージ不足により乳房の形が不自然となることはなかった。 (6)被告の責任及び原告の損害上記(1)ないし(4)の義務違反は債務不履行及び不法行為(Cの不法行為についての使用者責任(民法715条1項)を含む)を構成するから,被告。 は,それによって生じた下記の損害を賠償すべき責任を負う。 ア本件手術代金90万0000円イ一般病院での療養費8150円ウ再手術費用の一部(バッグ取り出し費用)31万5000円エ再手術のために要した宿泊交通費2万3080円オ休業損害32万0000円原告は,コンパニオンの仕事により毎月8万円程度の収入を得ていたところ,上記(1)ウの症状により,上記仕事を平成16年1月から4月までの4か月間休まざるを得なかった。 カ慰謝料150万0000円キ弁護士費用91万8935円 被告の主張(1)上記2(1)(本件手術によって生じた結果)について争う。 (2)上記2(2)(説明義務違反①(本件手術による傷あとの説明)について)ア被告は,原告に対し,腋下を切開しても傷がしわと同化するから目立ちにくいという説明をしたのであり,腋下の傷の長さが何cmというような説明はしてはいないし,前回手術において使用されたバッグを生理食塩水- 9 -バッグであると考えたという事実もない。したがって,腋下切開による傷あとの説明に関し,被告に義務違反があったとはいえない。 イ義務違反と結果との間の因果関係について争う。 (3)上記2(3)(説明義務違反②( 考えたという事実もない。したがって,腋下切開による傷あとの説明に関し,被告に義務違反があったとはいえない。 イ義務違反と結果との間の因果関係について争う。 (3)上記2(3)(説明義務違反②(術式の選択に関する説明)について)ア被告が大胸筋下法を採ったのは,①乳房の上部から自然な膨らみを持たせることができる大胸筋下法が,丸く前に突き出すような不自然な状態を矯正したいという原告の希望に沿うものであると考えられたことと,②大胸筋下法の方が乳腺下法より再拘縮のリスクが低いことによる。そして,乳腺下法を採った上でオープンカプセロトミーを行うというような大きな手術は,原告に負担をかけ,出血のリスクも高いことから,選択肢とはならなかった。したがって,被告が大胸筋下法を採ったことに問題はなく,乳腺下法を採った上でオープンカプセロトミーを行うという選択肢はなかったのであるから,手術方法の説明に関し,被告に義務違反があったとはいえない。 イ義務違反と結果との間の因果関係について争う。 原告の乳房が不自然な形となったのは,本件手術後,原告がマッサージを十分励行していなかった(下記(5)ア参照)ため,バッグが挿入位置よりも上方にある状態で被膜拘縮を起こしたことにより生じたものである。 (4)上記2(4)(本件手術の手技上の義務違反)についてア本件執刀医(Cである)がバッグを挿入するに際して剥離した大胸筋。 の範囲は,適正であった。 なお,大胸筋の下方は肋骨と付着しているため,この部分を下方に剥離しすぎることは,大量の出血が起こる危険もあるのであり,本件以上に下方に切開することは危険であった。 - 10 -イ義務違反と結果との間の因果関係について上記(3)イに同じ。 (5)上記2(5)(マッサージの指導に関する義務違反)についてア被告 件以上に下方に切開することは危険であった。 - 10 -イ義務違反と結果との間の因果関係について上記(3)イに同じ。 (5)上記2(5)(マッサージの指導に関する義務違反)についてア被告は,マッサージの開始を11月19日と予定したが,原告の都合によりキャンセルになったため,同月18日の電話において,マッサージの方法を指導するとともに,予定どおりすぐ始めるよう指導した。また,同月25日のマッサージ開始後の被告の対応も適切であった。しかるに,原,,,告は同月20日を除き同月25日の抜糸時までマッサージを実施せず同日以降もマッサージを十分励行しなかった。 したがって,マッサージの指導に関し,被告に義務違反があるとはいえない。 イ義務違反と結果との間の因果関係について争う。 (6)上記2(6)(被告の責任及び原告の損害)について争う。 第3当裁判所の判断 前記前提事実に証拠(甲A1,5,乙A1,原告本人,被告本人のほか,各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 (1)被告医院における受診経過等ア原告は,11月4日,被告医院を受診し,乳房についてのカウンセリングを受け,お椀を伏せたような形で硬くなってしまった乳房の状態が嫌であるから改善したいと訴えた。そこで,腋下切開により従来のバッグを取り出した上で大胸筋下法によりCMCジェルバッグ200mℓを入れるという手術を同月12日に受けることとなった。 被告医院における豊胸手術は,本件手術が初めてであった。また,被告は,本件手術を執刀し,又は本件手術に立ち会ったが,当時,豊胸手術の- 11 -執刀経験はなかった。 同日,本件執刀医は,午前11時02分に麻酔を開始し,右乳房について,午前11時33分に乳腺下の剥離を開始し,同38分に従来のバッグ 立ち会ったが,当時,豊胸手術の- 11 -執刀経験はなかった。 同日,本件執刀医は,午前11時02分に麻酔を開始し,右乳房について,午前11時33分に乳腺下の剥離を開始し,同38分に従来のバッグを取り出して,同43分には大胸筋下を剥離した上でスムーズにCMCジェルバッグを挿入したが,左乳房については,同44分にバッグの取り出しを開始したが,乳腺下を剥離する際に大胸筋とバッグがくっついていてなかなか取れず,同57分に従来のバッグをようやく取り出し,同58分に大胸筋下の剥離を開始し,午後0時00分にCMCジェルバッグの挿入を開始して,同07分にようやく挿入し,同35分に手術を終了した。 イ11月13日,原告は,被告の診察を受けた。被告は,ドレーンを抜去し,左右いずれも1針ずつ縫合した。左右の乳房いずれも,出血が多く,内出血もあった。被告は,左乳房のバッグが外側に位置ずれをしていると判断し,そのずれを防止するため,左乳房にガーゼを当ててテープで固定した。 同月15日,原告は,被告医院の医師の診察を受け,痛みは体動時にある,出血はない,内出血は多々ある(胸の谷間,右腋,右側腹など)と訴えた。被告医院の医師は,左乳房のバッグのずれはガーゼによる固定で良好であると判断し,傷のガーゼは少な目にして,左乳房は引き続きガーゼによる固定をした。 同月16日,原告の娘が被告医院に電話したところ,Cが,これに対応し,2回目の豊胸手術であるから1回目よりは出血が多いことなどの説明をした。 同月17日,原告は,被告の診察を受け,右乳房について,内出血がだんだん下がってきて背中や臀部の方も青くなっているのが気になること,座位だと楽であるが,横になると息苦しく,痛みも強い,腕が上がらないなどと訴え,左乳房については,バッグのずれは外側にはないが少し上に- ってきて背中や臀部の方も青くなっているのが気になること,座位だと楽であるが,横になると息苦しく,痛みも強い,腕が上がらないなどと訴え,左乳房については,バッグのずれは外側にはないが少し上に- 12 -入っている感じで,下垂もあるので変であると訴えた。 ウ11月17日の次は同月19日に抜糸とマッサージ開始の予定で予約が入っていたが,原告は,父が死亡したために京都へ行かなければならず,同月19日は受診ができなくなり,同月18日,被告医院にその旨を電話で連絡した。その電話で,被告医院の職員は,原告に対し,水戸に戻ったらすぐ被告医院に電話をするよう伝えた上,マッサージを3時間おきに5分ないし10分間行い,下から上にかけてと横から中央にかけてバッグを動かすという方法で行うよう指導した。 ,,,原告は同月20日にマッサージを開始したところ左乳房のバッグがバスッという音とともに上方に移動したまま元の位置に戻らなくなった。 なお,右乳房のバッグにはそのようなことは起きなかった。原告は,同日以後も,概ね上記指導のとおりにマッサージを実施していた。 同月23日,原告は,Cの診察を受け,マッサージをするとバリバリとはがれるように痛い,左は変な音がする,水がたまったような感じ,右はまだ内出血が消えないと訴えた。Cは,左右いずれも内出血あり,傷が少し弱い感じと判断し,マッサージ及び抜糸はせずに,消毒及びガーゼによる保護のみをした。 エ11月25日,原告は,被告の診察を受けた。被告は,抜糸をした上,左右の乳房ともにマッサージを15分くらい施行したところ,左乳房の中からポコポコという音がしたが,乳房の状態としては硬くなくちょうどよいと判断した。 12月3日,原告は,被告の診察を受け,痛みで目が覚めてしまう,両乳房ともマッサージすると内出血が生じ,内出血が 中からポコポコという音がしたが,乳房の状態としては硬くなくちょうどよいと判断した。 12月3日,原告は,被告の診察を受け,痛みで目が覚めてしまう,両乳房ともマッサージすると内出血が生じ,内出血が薄くなってもまた出血することの繰り返しである,右の傷が気になるなどと訴えた。被告は,3か月ないし半年くらい様子を見た方がよいと説明した。 同月13日,原告は,小関外科胃腸科医院を受診し,左乳房のしこりに- 13 -ついて相談したところ,病気ではないから,被告医院に相談するようにとの説明を受けた。 同月27日,原告は,被告の診察を受け,マッサージは頻回にしているが,乳房は硬めで,特に,左側はバッグの入り方が上方部に集中している感じで,両脇の傷と左乳房が痛むことなどを訴えた。被告は,痛みは細い神経の圧迫であろう,あるいは時間の経過で良くなるからと説明し,うつぶせでゴリゴリとする方法でもよいからマッサージを頻回に行うよう指導した。 (甲C1の1・2),,。 ,,オ1月23日原告は被告のカウンセリングを受けたその際原告は被告に対し,乳房の上の方が張りすぎていて,下の方に何も入っていないから,しぼんで段差ができて見え,おかしい旨を訴えた。これに対し,被告は,原告の乳房の状態は下垂であること,原告のような症状は珍しいこと,一番いいのは待つことであること,下垂を取るために脂肪注入が考られることなどを説明した。また,マッサージ不足もあるため少し硬めであると判断した。 原告は,その後もマッサージを継続していたが,2月18日,被告医院に電話し,筋肉痛のような痛みが強く,そのせいで肩こり,吐き気がひどい,マッサージをやればやるほど硬くなってゆくと訴え,もう何回行っても意味がない,他院へ行くなどと話して被告医院に対する不信感を示し,以後,通院 痛のような痛みが強く,そのせいで肩こり,吐き気がひどい,マッサージをやればやるほど硬くなってゆくと訴え,もう何回行っても意味がない,他院へ行くなどと話して被告医院に対する不信感を示し,以後,通院や電話での問い合わせをすることはなくなった。 ,,。 カ原告は再手術の際本件手術によって生じた傷あとの修復術も受けた(2)写真から見て取れる各時点での乳房の状態は,以下のとおりである(甲A2,4。 )ア12月27日左乳房の乳輪の下の部分がしわのようになっている。 - 14 -イ3月12日左乳房は,膨らみの中心が乳輪よりも完全に上方にあり,バッグの入っている範囲がくっきりと浮き出ており,バッグの下縁は乳頭部付近にあって,それより下方の部分がしぼんでしわのような段差ができている。これに比べれば,右乳房は,バッグが,腋下くらいの高さから乳輪のやや下方の高さまで比較的なだらかに入っている。 左腋下の傷あとは,腋の中心部付近まで残っており,右腋下の傷あとの約2倍の長さがある。 ウ4月10日左乳房に,上記イと同様の状態が見て取れる。 エ7月21日両乳房とも,乳房の膨らみの中心が乳輪の高さにあり,しわのような段差もない。 原告の乳房の状態についてみるに,遅くとも3月12日の時点では,左乳房については,膨らみの中心が乳輪よりも完全に上方にあり,バッグの入っている範囲がくっきりと浮き出ており(バッグの周囲に生じた被膜に拘縮が生じたために,このような状態が観察されると考えられる,バッグの下縁は乳頭。)部付近にあって,それより下方の部分がしぼんでしわのような段差ができている状態になっていた(以下,この結果を「本件結果」という。これに比べ。)れば,右乳房については,バッグが,腋下くらいの高さから乳輪のやや下方の高さまで比較的なだらか でしわのような段差ができている状態になっていた(以下,この結果を「本件結果」という。これに比べ。)れば,右乳房については,バッグが,腋下くらいの高さから乳輪のやや下方の高さまで比較的なだらかに入っている。 このような状態は,左乳房自体の形状が著しく不自然であるばかりでなく,そのために左右の乳房の対称性がないという点においても不自然であるといえる。 そして,前記前提事実(2)(医学的知見)ウ及び弁論の全趣旨によれば,このような不自然さをなくすためには,右乳房の状態の是非はともかくとして,- 15 -両乳房についてバッグを入れ替える手術を受けざるを得ないことが認められる(この点については,被告も特に争っていない。 。) 左乳房に本件結果が生じた原因について(1)本件結果は,上記のとおりバッグの下縁が乳頭部付近にあるというものであって,前記前提事実(2)(医学的知見)ウにいう「乳房下縁より上にバッグが移動してしまうケース」に当たるところ,その原因としては,①下方の剥離が足りないこと,②術直後の固定が悪いこと,③積極的にマッサージを行わなかったことが挙げられている(本件結果の原因について,原告は①であると主張し,被告は③であると主張している。 。)(2)上記(1)のとおりであるところ,下記①ないし③の点を総合すると,本件結果がマッサージ不足により生じたものとは考えにくく(なお,原告が,11月20日以降,概ね被告に指導されたとおりのマッサージを実施していたことは,前記のとおりである,本件結果は左乳房にバッグを挿入する際。)に大胸筋下の下方の剥離の範囲が狭かったことによって生じたものと推認するのが相当である。 ①マッサージ不足が原因であれば両乳房にほぼ同様の結果が生ずるはずであると考えられるのに,原告の右乳房のバッグは, 筋下の下方の剥離の範囲が狭かったことによって生じたものと推認するのが相当である。 ①マッサージ不足が原因であれば両乳房にほぼ同様の結果が生ずるはずであると考えられるのに,原告の右乳房のバッグは,左乳房のバッグとは明らかに異なって,乳輪のやや下方まで入っていた。このような左右の結果の違いは,左乳房の下方の剥離が足りないことが原因であることに沿うものである。 ②本件手術からわずか5日後の11月17日には既に,原告が,被告に対し,左乳房について,バッグが少し上に入っている感じで下垂もあるので変であると訴えていたところ,このことは,マッサージ不足により拘縮が生じて完成するまでには約1か月ないし約3か月はかかると認められる(被告本人及び弁論の全趣旨)ことに照らして,マッサージ不足が原因であることには沿わないのに対し,下方の剥離が足りないことが原因である- 16 -ことに沿うものである。 ③同月20日には,原告がマッサージを開始した際に,左乳房のバッグのみがバスッという音とともに上方に移動したまま元の位置に戻らなくなったところ,このことは,マッサージ不足が原因であるとみては説明がつかないのに対し,下方の剥離が足りなかったことが原因であるとみれば,下方にあったバッグが,マッサージの刺激によって容易に上方に移動し,かつ,下方のスペースが狭いために戻らなくなったという可能性が十分考えられるから,説明がつく。 (3)上記(2)の推認についてア被告本人は,原告の体質によって拘縮が生じた可能性もあると供述している。確かに,前回手術後にも拘縮が生じたことからすると,原告は拘縮を生じやすい体質である可能性はあるが,他方,本件手術後も右乳房には明らかな拘縮は生じていないこと,再手術後には両乳房とも拘縮を生じていない(再手術から約3か月後の7月21日 からすると,原告は拘縮を生じやすい体質である可能性はあるが,他方,本件手術後も右乳房には明らかな拘縮は生じていないこと,再手術後には両乳房とも拘縮を生じていない(再手術から約3か月後の7月21日の写真(甲A4)について,被告も拘縮の可能性を特に指摘していない)ことからすると,本件手術。 後に左乳房に拘縮を生じたのが体質のみの影響であるとは考えにくい。 イなお,被告本人は,本件手術はCが執刀したところ,その剥離範囲は正しかった旨の供述をしている。 しかし,仮に被告が言うようにCが執刀医であったとしても,Cは本件手術の剥離範囲に問題がある旨の意見を述べている(甲B8)し,執刀医でなく豊胸手術の執刀経験もなかった被告が,腋下切開による豊胸手術において,Cがどこまで剥離したかを正確に視認し,記憶することは容易ではないと考えられ,現に,本件手術においてどの程度剥離がされたかについて具体的な供述をしているわけではないし,手術記録にもその記載をしていないことからすれば,上記の剥離範囲は正しかったと言う被告本人の供述は採用することができない。 - 17 -ウ他に,上記(2)の推認を覆すに足りる証拠はない。 (4)以上のとおりであるから,本件結果は,左乳房にバッグを挿入する際の大胸筋下の下方の剥離範囲が狭かったことが原因で生じたものと認められる。 そこで,左乳房のバッグを挿入する際の大胸筋下の下方の剥離範囲が狭かったことにつき,本件執刀医に義務違反があるか否かを検討する。 この点,被告は,下方に剥離しすぎると大量の出血が起こるリスクがあるから,本件の剥離範囲が適当であり,義務違反はない旨を主張する。 しかし,下方に剥離しすぎると大量の出血が起こるリスクがあるとしても,そのリスクにつき,原告の左乳房と右乳房とで有意な差があることを窺わせるような 剥離範囲が適当であり,義務違反はない旨を主張する。 しかし,下方に剥離しすぎると大量の出血が起こるリスクがあるとしても,そのリスクにつき,原告の左乳房と右乳房とで有意な差があることを窺わせるような事情は見当たらないから,左乳房について,少なくとも右乳房と同程度の剥離範囲を確保することができたというべきであり,他にこれを覆すに足りる証拠はない。 このこと及び前記前提事実(2)(医学的知見)ウによれば,本件執刀医は,左乳房にバッグを挿入するに際し,少なくとも右乳房と同程度の剥離範囲を確保すべき義務があったというべきであり,本件執刀医がこれに違反したことは明らかである。 原告は,被告において,腋下の切開によりどのような傷あとが残るかについて十分説明すべき義務があったが,これを怠った旨主張し,この義務違反がなければ,本件手術を受けることはなく,左腋下に傷あとが残ることもなかったと主張する。 しかし,腋下切開の方法は,傷あとという観点からは,乳房に傷あとを残さないという利点があること,原告の主張する左腋下の傷あとは,その主張によっても5cmないし6cmであって,腋下切開の切開の長さとして著しく長いともいえないし,その修復術も可能である(現に,原告は,リッツ美容外科において修復術を受けた)ことからすると,原告が被告から傷あとについて十。 - 18 -分説明を受けていれば本件手術を受けなかった蓋然性が高いとまではいえず,他に,その蓋然性を肯定すべき事情を認めるに足りる証拠もないから,原告主張の義務違反と結果との間の因果関係は認められない。 原告は,本件手術においてバッグの挿入位置が異常であったため,神経が圧迫されて,胸,肩,腋や腕の付け根等に断続的な痛みを感じた旨を主張する。 原告においては,上記1(1)の認定事実のとおり,体動時に痛みがある 本件手術においてバッグの挿入位置が異常であったため,神経が圧迫されて,胸,肩,腋や腕の付け根等に断続的な痛みを感じた旨を主張する。 原告においては,上記1(1)の認定事実のとおり,体動時に痛みがあること(11月15日,座位だと楽であるが,横になると息苦しく,痛みも強く,)腕が上がらないこと(11月17日,痛みで目が覚めてしまうこと(12月)3日,両脇の傷と左乳房が痛むこと(12月27日)を訴え,少なくとも1)2月3日ころまでは内出血が起きていたのであるから,胸,腋,腕の付け根等に痛みを生じていたことが窺われる。 ,,,しかし大胸筋下法による手術においてバッグを正常位置に入れた場合に上記のような疼痛が生じなかった蓋然性が高いことを認めるに足りる証拠はなく,上記4の義務違反との因果関係は認められない。 本件執刀医の上記4の義務違反は民法709条の不法行為を構成するもので,,,あるところ被告は本件執刀医が被告である場合には同法709条に基づき本件執刀医がCである場合には,それが被告の事業の執行について行われたも,,,のであることは明らかであるから同法715条1項に基づきいずれにせよ本件結果により生じた次項の損害を賠償すべき責任を負う。 損害(1)治療費90万円本件結果が生じたことにより,本件手術は無駄に帰し,再手術が必要になったのであるから,本件手術の代金90万円に相当する額の損害を受けたといえる。 なお,再手術においては157万5000円の費用を要した(甲C4)ところ,原告は,そのうちバッグ取り出し費用31万5000円も損害として- 19 -主張するのであるが,仮に本件手術を受けずに直ちにリッツ美容外科での手術を受けていたとしても,前回手術によって挿入されたバッグを取り出す必要があったのであるから,上 00円も損害として- 19 -主張するのであるが,仮に本件手術を受けずに直ちにリッツ美容外科での手術を受けていたとしても,前回手術によって挿入されたバッグを取り出す必要があったのであるから,上記費用は,本件手術が無駄に帰したことによって新たに生じたものであるとはいえない。 (2)慰謝料50万円本件に顕れた諸般の事情を総合すると,本件結果により原告の被った精神的苦痛に対する慰謝料は50万円と認めるのが相当である。 (3)弁護士費用20万円本件不法行為と相当因果関係ある弁護士費用損害金は,本件訴訟の難易,請求認容額等に鑑みて20万円と認めるのが相当である。 (4)原告は,①被告医院以外の病院で診療を受けたことによる治療費8150円,②再手術にかかる宿泊交通費2万3080円,③疼痛による休業損害32万円をも主張しているが,①及び②については,本件結果との相当因果関係を認めるに足りる証拠はなく,③については,上記6のとおり,上記4の義務違反と疼痛との間の因果関係が認められない。 (5)以上の損害の合計は160万円である(債務不履行と捉えても,これを超える損害は認められない。 。) 以上の次第で,原告の請求は,被告に対し,160万円及びそのうち弁護士費用20万円を除く140万円に対する平成15年11月13日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部- 20 -貝阿彌誠裁判長裁判官水野有子裁判官井出正弘裁判官 貝阿彌誠裁判長 裁判官水野有子 裁判官井出正弘

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る