平成30年6月29日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成28年(ワ)第526号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日平成30年4月27日判決 主文 1 被告は原告に対し,59万3952円及びこれに対する平成28年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負 担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は原告に対し,180万円及びこれに対する平成28年2月26日から 支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,その飼育していた犬(以下「 A 号」という。)の診療に関し,獣医である被告に債務不履行又は不法行為(主位的に,除外診断義務違反,予備的に,療養指導義務違反(経過観察義務違反))があったとして, 慰謝料等の損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実。以下,特記のない限り,日付は平成26年のものである。)(1) 被告は,獣医である。 (2) 原告は,平成18年10月から,その飼育する秋田犬( A 号。平成1 8年生)を被告が営む動物病院(以下「本件病院」という。)に通院させ,診療を受けさせてきた。 (3) A 号は,4月5日に生理があったが,その後も出血が認められ,5月14日,6月27日及び7月18日に,その都度本件病院を受診した(以下,各日の 。)に通院させ,診療を受けさせてきた。 (3) A 号は,4月5日に生理があったが,その後も出血が認められ,5月14日,6月27日及び7月18日に,その都度本件病院を受診した(以下,各日の受診をそれぞれ「5月の受診」,「6月の受診」及び「7月の受診」 といい,併せて「本件各受診」という。)。 A 号に係る診療録には,7月18日,原告が被告に対し,7月に入って再び生理が始まった旨を述べ,被告が原告に対し,エコー検査の結果,膀胱壁がまだ少し肥厚しており,内服薬を出すが,すぐ繰り返すようであれば,手術も検討する旨を述べたとの記載がある。また,同記載においては「子宮 卵巣わからず」との記載もある(乙A3)。 (4) A 号は,7月29日午前0時37分頃, B 動物病院(以下「救急病院」という。)を受診したところ,子宮蓄膿症,細菌性腹膜炎との診断で,卵巣・子宮摘出術を受け,救命措置を受けたが,同日,死亡した(乙A5)。 (5) 原告の夫は,平成28年6月20日, A 号の死亡に係る損害賠償請求 権一切を原告に譲渡し,その旨を被告に通知した(甲C8)。 2 争点(1) 被告の除外診断義務違反の有無(2) 被告の療養指導義務違反(経過観察義務違反)の有無(3) 原告の損害の有無及び額 3 争点⑴(被告の除外診断義務違反の有無)に関する当事者の主張(1) 原告ア以下のとおり,被告は,本件各受診時に,子宮蓄膿症を除外診断する義務があったにもかかわらず,これを怠った。 イ犬の子宮蓄膿症は,生理後二,三か月で起こりやすく,中年期以降では 頻繁に見られ,日常診療で比較的よく遭遇する疾患である。子宮蓄膿症は, 膿が子宮内にたまる閉鎖型の時期と,子宮から体外に排出される開放型の 後二,三か月で起こりやすく,中年期以降では 頻繁に見られ,日常診療で比較的よく遭遇する疾患である。子宮蓄膿症は, 膿が子宮内にたまる閉鎖型の時期と,子宮から体外に排出される開放型の時期が繰り返されるものがある。膿が子宮内に貯まる閉鎖型の時期には,短期間で子宮破裂や腹膜炎,敗血症,エンドトキシンショック,多臓器不全,DIC等の重篤な合併症を併発し,致命的転帰を取る可能性があるので,その疑いがある場合には,これを除外するために十分な検査を施行す べき義務がある。そして,子宮蓄膿症が鑑別できれば直ちに子宮摘出術が必要である。 子宮蓄膿症は,生理休止期又はその直後における臨床症状の発現,腐敗性の陰門排出物の存在及び子宮の腫大により,強く疑診される。そして,腹部エコー検査等により,液体の充満した子宮を確定し,妊娠を排除する。 また,一般血液検査において,左方移動した好中球が見られる場合には,子宮蓄膿症を子宮粘液症から区別される。なお,子宮蓄膿症の場合,総白血球数が10万ないし20万/μlに達することがあり,また,膣細胞診では腐敗性の滲出物が見られ,時に子宮内膜細胞が含まれている。 ウ A 号は,以下のとおり,7月の受診時,子宮蓄膿症を発症していた。 A 号は,平成26年当時,未経産で8歳であり,子宮蓄膿症発症の危険因子があった。平成23年3月12日の診療録には,既に,子宮蓄膿症を警戒すべきである旨の記載があり,被告は,その頃から, A 号に対し,子宮蓄膿症を警戒すべきであるとの認識を有していた。 そして,5月の受診時に実施されたエコー検査では,子宮内液体貯留 が描出されていた。これは,子宮蓄膿症を疑わせる所見であり,5月の受診時における出血所見と併せて考えれば,被告は,子宮蓄膿症の鑑別又は除外の 受診時に実施されたエコー検査では,子宮内液体貯留 が描出されていた。これは,子宮蓄膿症を疑わせる所見であり,5月の受診時における出血所見と併せて考えれば,被告は,子宮蓄膿症の鑑別又は除外のために,血液検査,おりものをスライドで顕微鏡下に観察する検査,レントゲン検査等が行われるべきであった。 エ 6月の受診時においても,血液検査,出血した血液の採取,腹部への触 診のいずれも行われなかった。また,再診の指示もなかった。 オ 7月の受診時, A 号は,出血で本件病院を受診した。 その際,原告及びその夫は被告に対し,子宮・卵巣が本当に大丈夫なのか質問し,これに対し,被告は,本当に子宮が悪ければ15歳のダックスフンドでも摘出手術する旨回答した。そして,原告及びその夫が念のため看護師に手術の費用額を聞いたところ,看護師が被告と相談した上で1 0万円未満である旨回答した。このとき,子宮蓄膿症という病名は一度も出て来ず,予防目的の手術という説明も一切受けなかった。このことは,被告自身が子宮蓄膿症発症の可能性及び治療の必要性を検討せざるを得ないことを十分に認識していたことを示すものである。 それにもかかわらず,被告はエコー検査しか実施しなかった。しかも, その結果も「子宮卵巣わからず。」という不十分なものであった(原告は,被告から,中型犬だから映らないという読影できなかった旨の説明を受けた(原告準備書面2(3頁))。)。そして,5月及び6月の各受診時には,子宮に異常がない旨の記載があったことと対比すると,7月の受診時において,被告は,子宮が描出されている可能性があることを認識してお り,又は,少なくとも子宮が明白に異常所見なしとは評価できなかったことが推認される。 カこのように本件各受診時に,血液生化学検 て,被告は,子宮が描出されている可能性があることを認識してお り,又は,少なくとも子宮が明白に異常所見なしとは評価できなかったことが推認される。 カこのように本件各受診時に,血液生化学検査その他の検査を実施し,致命的転帰を取り得る子宮蓄膿症を除外診断すべきであり,これがされていれば,滲出液から好中球,桿菌,血液中から左方移動した好中球,白血球 数の異常等の所見が確認され, A 号は卵巣子宮摘出術という根治術を受けることができた。 それにもかかわらず被告が適切に子宮蓄膿症の除外診断をしなかったため, A 号の症状は,7月28日増悪し,同月29日, A 号は子宮蓄膿症による細菌性腹膜炎で死亡した。 (2) 被告 ア子宮蓄膿症の診断等について子宮蓄膿症の兆候として,病歴所見としては閉鎖した頚管があり,身体検査所見として触診可能な子宮の大きさ(いわゆる子宮肥大),血様から粘液膿瘍様の膣排出物,沈鬱と元気消沈,食欲不振,多尿と多渇(多飲多尿),嘔吐,腹部膨満が挙げられるが,その診断に関しては,腹部X線又はエコ ー検査における液体貯留像の有無を重視することが多い。また,子宮蓄膿症という疾患は,子宮内で膿が形成される疾患であるから,ほとんどの場合,膣排出物は粘液膿様であり,血様物であっても膿臭い刺激臭がし,単に血液だけが排出されることはほとんどない。なお,閉鎖型の子宮蓄膿症の場合は子宮頚管が閉じているため,排出物が見られることはない。 イ平成23年3月12日から平成25年9月26日までの検査等平成23年頃, A 号に膀胱炎の症状が見られるようになり,そのことより年齢も考慮し,被告は,子宮蓄膿症の発症に対し警戒する必要があると考えていた。しかしながら,平成23年3月12日の段階では,子宮 平成23年頃, A 号に膀胱炎の症状が見られるようになり,そのことより年齢も考慮し,被告は,子宮蓄膿症の発症に対し警戒する必要があると考えていた。しかしながら,平成23年3月12日の段階では,子宮蓄膿症の一般的な臨床症状がみられなかったことから,子宮蓄膿症を除外 診断した。 その後,同年3月31日に尿に血が混じっていた旨の訴えがあったため,被告がエコー検査を行ったところ,膀胱壁肥厚が認められ,慢性膀胱炎を診断した。 その後,経過観察を行っていたところ,平成24年6月11日に生理出 血が少し長めであり,臭いがあるとのことであったため,エコー検査を行ったが,特に何も映らなかったため,子宮蓄膿症は除外診断した。 その後も経過観察を行ったが,子宮蓄膿症の発症がうかがわれる所見がなかったことから,被告は, A 号が当時発症していた皮膚炎に対する治療を行った。 平成25年9月26日のエコー検査でも,子宮蓄膿症であることを示す ものはなかった。 同日以降,平成26年4月25日までも,子宮蓄膿症を疑わせる臨床症状が存在しなかったため,膀胱炎との診断は行ったが,子宮蓄膿症の発症については除外診断した。 ウ 5月の受診時に注意義務違反はない。 5月の受診時,原告は,4月5日, A 号に生理があったのに,2日前の5月14日から出血がある旨述べた。被告は,この出血は生理によるものではないと考え,泌尿,生殖器系の病気や子宮蓄膿症の発症もあり得ると考え,エコー検査を行ったが,異常は確認されなかった(当日のエコー画像に,膀胱以外に何かが描出されたとしても,当該造影物は腸管であ っても矛盾しないものであり,子宮が描出されているということはできない。)。 問診に対しても,嘔吐,食欲不振,多飲はなく,出血にくさい臭い 外に何かが描出されたとしても,当該造影物は腸管であ っても矛盾しないものであり,子宮が描出されているということはできない。)。 問診に対しても,嘔吐,食欲不振,多飲はなく,出血にくさい臭いがないという旨の回答を受けた。 また,被告は,触診を行ったが,子宮蓄膿症の身体検査所見は存在しな かった。そのため,被告は子宮蓄膿症の発症について除外診断し,出血は不正出血と判断した。ただし, A 号が未経産の高齢の雌犬であることから,今後子宮蓄膿症になる可能性があると考え,経過観察をすべきことを原告に伝え,処方した薬が切れる10日後に再診に来るよう伝えた。 仮にこの時点で A 号が子宮蓄膿症であったとした場合,原告の主張 によれば,それは閉鎖型の子宮蓄膿症であったのであるから,膿瘍物が A号の子宮内に貯留され,2か月も経たずに腹膜炎等に罹患して死亡することは明らかであり,子宮が6月,7月の各受診時のエコー画像に描出されていないことと整合しない。したがって,5月の受診時において, A 号が子宮蓄膿症を罹患していたということはできない。 血様物の存在があることのみから,子宮蓄膿症を疑って検査を尽くすべ き義務があるということもできない。 エ 6月の受診時に注意義務違反はない。 6月の受診時,原告は,6月24日頃から陰部付近から出血があった旨述べた。被告は,前記生理の時期からして今回の出血も生理が原因でないと考え,子宮蓄膿症の発症もあり得たため,エコー検査を行った。その結 果,膀胱壁肥厚が認められたものの,子宮は描出されず,子宮内液体貯留像は認められなかった。そして,出血以外の身体検査所見も存在しなかった。そのため,被告は,出血は不正出血と判断し,子宮蓄膿症は除外診断した。 したがって,6月の受診時にお 出されず,子宮内液体貯留像は認められなかった。そして,出血以外の身体検査所見も存在しなかった。そのため,被告は,出血は不正出血と判断し,子宮蓄膿症は除外診断した。 したがって,6月の受診時において, A 号が子宮蓄膿症を罹患して いたということはできない。 オ 7月の受診時に注意義務違反はない。 (ア) 7月の受診時,原告は,再び生理が始まった旨述べたが,被告は,生理が4月に生じていることから, A 号の出血は生理出血ではないと考え,子宮蓄膿症の発症もあり得たため,エコー検査を行ったが,膀胱 肥厚が残存していたものの,子宮卵巣に異常があるとは認められなかった。そして,被告は,問診等を行ったが,子宮蓄膿症の臨床所見がみられなかった。また, A 号から出血が残存している状態で来院したため,出血の臭いを確認する等したが,子宮蓄膿症の場合に存在する強烈な悪臭等は認められず,通常の発情出血(いわゆる生理)としても矛盾 がないものと考えられた(被告準備書面2(4頁))。さらに,沈鬱と元気消沈,食欲不振,多飲多尿,嘔吐,腹部膨満等の症状も見られなかった。このように,7月の受診時に A 号が子宮蓄膿症に罹患しているとは認められなかったことから,被告は,出血は不正出血であると判断し(被告準備書面4(3頁)),子宮蓄膿症は除外診断した。 しかしながら,短期間で不正出血が繰り返されていることから,今後 子宮蓄膿症が発症するリスクを考え,子宮蓄膿症の予防となる子宮摘出術について説明を行い,費用として10万円未満程度かかることを説明した。もっとも,大型犬の平均寿命は一般的に10歳程度といわれているところ, A 号は当時8歳であったことや,犬の場合,麻酔によるショック症状等により死亡するリスクが避けられないことを考慮す を説明した。もっとも,大型犬の平均寿命は一般的に10歳程度といわれているところ, A 号は当時8歳であったことや,犬の場合,麻酔によるショック症状等により死亡するリスクが避けられないことを考慮すれ ば,必ず手術をすべきとまで勧めることはできないと考え,あくまでも手術の案内をするにとどまった(被告準備書面2(4頁))。 (イ) 仮に,7月29日の時点で A 号が子宮蓄膿症に罹患していたとしても,7月の受診時に子宮蓄膿症に罹患していたということはできない。 原告が立証しようとしている A 号の子宮蓄膿症は閉鎖型子宮蓄膿症 であり,死亡10日前の時点で子宮腫大による膨満が見られるはずであるが,このような症状はない(なお,一般に,開放型と閉鎖型が交互に繰り返されることもあるが,原告は,これらの各時期を特定していない。)。 (ウ) このように,7月の受診時において, A 号に子宮蓄膿症の罹患を疑わせる事情はなく,子宮蓄膿症を除外診断することができたので(被 告準備書面6(5頁)),他の検査を尽くすべき注意義務もなかった。 カ仮に原告の主張する注意義務違反があったとしても,7月の受診時に,他の検査によって A 号が子宮蓄膿症に罹患していることを確定的に診断できたということはできず,仮に診断ができたとしても,その時点で治療していれば救命できたということもできない。 4 争点⑵(被告の療養指導義務違反(経過観察義務違反)の有無)に関する当事者の主張(1) 原告仮に,被告が,7月の受診時, A 号が子宮蓄膿症を発症していなかったと診断していたとしても,被告は, A 号が致命的転帰をたどらないよ う,その後の経過観察を密に行うべき義務があった。その義務の内容は,① 子宮蓄膿症の発症の可能性,その場合の かったと診断していたとしても,被告は, A 号が致命的転帰をたどらないよ う,その後の経過観察を密に行うべき義務があった。その義務の内容は,① 子宮蓄膿症の発症の可能性,その場合の予後が悪く致命的転帰を取り得ることを十分に理解できるよう原告に対し説明を行うこと,②受診日以後も出血が継続するようであれば,すぐに来院するよう促すこと,③高リスクであることを踏まえ,試験開腹を兼ねた子宮摘出術を検討する必要性もあることを説明することである。しかしながら,被告は,1か月後に出血するようであ れば再度来院するようにというニュアンスでの説明しか実施しておらず,原告に対し,上記説明をしなかった。 そして,7月の受診時後,子宮破裂を来す7月28日までの間, A 号の出血はずっと続いていた。したがって,被告としては,的確な指示さえしていれば原告が A 号を間もなく再受診させ,被告の試験開腹によって子 宮蓄膿症の鑑別及び治療がされた蓋然性は高いのであるから,被告の上記義務違反と A 号の死亡との間に相当因果関係がある。 なお,被告は説明義務違反に関する訴訟進行が違法である旨主張する。しかしながら,被告の主張は,裁判所の和解案を提示した書面の記載内容を誤解したものであり,また,そもそも医療過誤訴訟においては,訴訟の最終盤 に至って,被告本人尋問の結果等を踏まえ,当事者の主張が大きく変動することはままみられることであるので,失当である。 (2) 被告ア検査結果等に基づき特定の治療を行う場合に比して,特定の疾患の発症の可能性があるにすぎない場合(そして経過観察中である場合)における 説明義務の程度は緩やかで足りる。殊に,獣医療においては,人のような保険診療制度が確立しているわけではないことから,一般的に高額になり あるにすぎない場合(そして経過観察中である場合)における 説明義務の程度は緩やかで足りる。殊に,獣医療においては,人のような保険診療制度が確立しているわけではないことから,一般的に高額になりやすい治療費を負担してでも玩畜に対し当該治療を選択するかという自己決定の兼ね合いで説明義務が生じる。殊に,本件においては, A 号の年齢を考慮すると,試験開腹を兼ねた子宮摘出術が選択されなかった可能 性がある。 イ被告は,平成23年以降,原告に対し,子宮蓄膿症の病態及び危険性について説明をしており,原告としても,子宮蓄膿症が死亡の可能性がある致命的な疾患であること及び A 号は子宮蓄膿症ではないと診断されたが,経過観察になっていることを認識していたということができる。 また,経過観察の状況において,被告が原告に対し,出血があれば来院 を促すべき根拠はない。そもそも原告は出血のたびに, A 号に被告の病院を受診させていた。 したがって,被告が原告に対し,改めて,子宮蓄膿症が死亡の可能性がある致命的な疾患であることを説明する義務はない。 ウ試験開腹を検討する必要性があることを説明することについては,諸事 情に鑑みて試験開腹を実際に検討する際に詳細な説明をすることで試験開腹を行うか否かの自己決定は可能であり,原告が主張する時点で殊更説明すべき義務はない。 エ原告が主張する療養指導義務違反と損害との間に相当因果関係があることは争う。 (ア) 仮に,被告において,子宮蓄膿症が致命的転帰を取り得る病態であることを原告に伝える義務があったとしても,原告が A 号に異変が生じていることに気付いたのは,7月28日の午後10時近くになってからのことであり,当該時点で速やかに獣医療機関にかかっていれば A号を を原告に伝える義務があったとしても,原告が A 号に異変が生じていることに気付いたのは,7月28日の午後10時近くになってからのことであり,当該時点で速やかに獣医療機関にかかっていれば A号を救命できたということはできない。むしろ,同時点における A 号 の症状からは, A 号は同時点で既に腹膜炎を発症し,相当程度進行していたことが明らかであり,同時点で速やかに獣医療機関にかかったとしても救命できたということはできず,救命できた相当程度の可能性もない。 (イ) 出血が継続する場合に再来院することについても, A 号は,7月 18日から同月28日まで出血していなかったので,上記説明をしたと しても,同日以前に A 号が受診していたということはできず, A号を救命できたということはできない。 (ウ) 試験開腹を検討する必要性に関する説明についても,原告が当時,試験開腹の説明を受けていればそれを希望していたと断定できない(自由診療しかない獣医療において,試験開腹の費用がどの程度になるか説明 をされない限り,試験開腹を希望する意思を真摯に有していたということはできない。)ので,当該説明を行うことで A 号が救命できたということはできない。 オなお,本件訴訟において,説明義務違反の観点を明記した最初の資料は,裁判所が作成した平成30年2月1日付けの事務連絡と題する書面である が,本件訴訟は,訴訟提起時点から双方において訴訟代理人弁護士がついた上で2年以上にわたり裁判手続が行われたが,この間,説明義務の観点からの攻防は当事者間で一切提出されていなかった。それにもかかわらず,裁判所が尋問後,唐突に説明義務違反の観点を持ち出す行為は不意打ちであり,充実した審理の観点からも不当である。そもそも,説明義務の存 らの攻防は当事者間で一切提出されていなかった。それにもかかわらず,裁判所が尋問後,唐突に説明義務違反の観点を持ち出す行為は不意打ちであり,充実した審理の観点からも不当である。そもそも,説明義務の存在 及び懈怠はともに主要事実であり,弁論主義に違反する。したがって,当審における説明義務違反に関する裁判所の訴訟指揮は過度な積極的釈明であり,民事訴訟において許容される範囲を優に超える違法なものであって,このような主張を取り上げることは許されない。 5 争点⑶(原告の損害の有無及び額)に関する当事者の主張 (1) 原告ア財産的損害 20万円原告は,子犬の時, A 号を20万円で購入した。 A 号は,血統書付きの秋田犬であり,,秋田犬保存会主催の九州総支部展で,に入賞し,,社団法人ジャパン ケネルクラブ主催の秋田犬クラブ展で,に入賞して おり,購入価額が,財産的損害となる。 被告は, A 号について減価償却すべき旨主張するが,原告は,子犬の時, A 号を購入してから8年間にわたり,愛情をかけて A 号を育ててきた。今日において,ペットはかけがえのない家族として大事にされているのであり,単純な物損と同視できないのであるから,購入時の額 が損害として考慮されるべきである。 イ休業損害 60万6866円A 号の死亡後,原告は,気力が全くなくなり,約2か月間,外に出ない生活を続けた。この間,食事を作ることもできず,夫にも負担をかけた。このように,原告は,主婦の労働能力を2か月分喪失した。平成26 年の女性全年齢の平均賃金364万1200円の2か月分は60万6866円となる。 被告は,この主張を時機に遅れた攻撃防御方法として却下すべきである旨主張する。しかしながら,この主張によっ 年の女性全年齢の平均賃金364万1200円の2か月分は60万6866円となる。 被告は,この主張を時機に遅れた攻撃防御方法として却下すべきである旨主張する。しかしながら,この主張によっても,訴訟の完結は遅延させることにならないので,失当である。また,被告は,休業損害を交通事故 において肉体的な損傷を伴う場合に限定される旨主張するが,そのように解すべき根拠はない。 ウ慰謝料 120万円原告は, A 号を居間のケージで飼育し,旅行に際しても同行し,生活のすべてをともにしてきた。このように家族同然であった A 号の生 命を失った精神的苦痛は,家族を失った場合に比肩すべきものがある。 A号の死亡後,被告は,いったん原告に対し60万円を支払うことを了承したものの,その後,翻意し,一切の責任を否定した。これらの事情による原告の精神的損害を慰謝するには120万円をくだらない。 エ治療費 15万5952円 原告は,救急病院での治療費として,15万5952円を支払った。救 急病院での手術は,致命的な合併症としての腹膜炎発症後のものであるから,その対処は困難であり,時間もかかっており,予後も悪い。仮に,試験開腹という被告の検討した手術であれば,手術自体は容易であり,短時間で終わり,予後も悪くない。したがって,救急病院での治療費は,本件病院での治療費と医療コストとして異なっている。 オ葬儀費用 3万8000円カ原告は,これらの合計額のうち,180万円を請求する。 (2) 被告ア財産的損害の主張について不法行為に基づく損害賠償において相当因果関係がある損害は,再調達 価格ではなく,事故時の時価額であり,債務不履行に基づく損害賠償においても,損害額の基準時は不履行時とすべ 害の主張について不法行為に基づく損害賠償において相当因果関係がある損害は,再調達 価格ではなく,事故時の時価額であり,債務不履行に基づく損害賠償においても,損害額の基準時は不履行時とすべきである。したがって,本件における財産的損害は,事故当時の A 号の時価である。犬は動産であるため,減価償却も観念し得るので,事故時において購入当時の時価額があったということはできない。 イ休業損害の主張について(ア) 休業損害は,一般的には交通事故における用語であり,被害者が交通事故により受けた傷害による症状が固定するまでの療養の期間中に傷害及びその療養のために休業をし,又は十分に稼働することができなかったことから生ずる収入の喪失と定義されている。したがって,休業損害 を生ずるのは肉体的損傷を伴う場合であり,単に精神的苦痛を生じていることをもって休業損害は観念できない。また,債務不履行と相当因果関係のある休業損害は観念できない。 (イ) 原告が主婦であることは争う。 (ウ) 原告は,平成30年3月8日付けの原告準備書面6において,主婦労 働の休業損害を追加的に主張したが,本件訴訟提起に当たり,このよう な主張をすることに特段の支障はなかった。そして,原告が主婦であるかどうか,専業主婦であるかどうかについて,原告が主張立証していないことからすると,この主張を認めた場合,訴訟遅延が生じる。したがって,休業損害に関する原告の主張は,時機に遅れたものとして却下すべきである。 ウ原告が主張する療養指導義務違反と損害との間に相当因果関係があることは争う。 (ア) 原告が主張する療養指導義務違反と相当因果関係がある損害とは,当該説明を行っていれば回避することができた損害であるが,致命的転帰を取り得る病 と損害との間に相当因果関係があることは争う。 (ア) 原告が主張する療養指導義務違反と相当因果関係がある損害とは,当該説明を行っていれば回避することができた損害であるが,致命的転帰を取り得る病態であることを原告に伝えることで A 号が救命できた とはいえない。 (イ) 出血が継続する場合に再来院することについても, A 号は,7月18日から同月28日まで出血していなかったので,上記説明をしたとしても,同日以前に A 号が受診していたということはできず, A号を救命できたということはできない。 (ウ) 試験開腹を検討する必要性に関する説明についても,原告が当時,試験開腹の説明を受けていればそれを希望していたと断定できない(自由診療しかない獣医療において,試験開腹の費用がどの程度になるか説明をされない限り,試験開腹を希望する意思を真摯に有していたということはできない。)ので,当該説明を行うことで A 号が救命できたと いうことはできない。 (エ) したがって,仮に原告の主張する療養指導義務違反が認められたとしても,説明義務違反それ自体による損害として1万円ないし3万円の慰謝料が認められるにすぎない。 第3 当裁判所の判断 1 証拠(各項に掲記したもののほか,甲B1ないし3,5ないし7,乙B7な いし10,被告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,犬の子宮蓄膿症について,以下の知見が認められる。 (1) 病態ア子宮蓄膿症とは,異常な子宮内膜へ細菌が浸潤し,膿様滲出物が子宮内腔に貯留する疾患である。子宮蓄膿症の病態生理は,以下のとおりである。 ①正常な発情周期にある雌犬が,2か月間の発情休止期,毎発情期の後に卵巣からプロゲステロンの分泌を伴う。②高エストロゲンに曝された子宮 疾患である。子宮蓄膿症の病態生理は,以下のとおりである。 ①正常な発情周期にある雌犬が,2か月間の発情休止期,毎発情期の後に卵巣からプロゲステロンの分泌を伴う。②高エストロゲンに曝された子宮内膜が,その後妊娠していないのに高プロゲステロンに曝されることが繰り返され,嚢胞性子宮内膜過形成を誘発する。③子宮分泌液が細菌の培地となり,細菌が発情前期と発情期に部分的に開いた頚管を通して膣から上 行する。正常な膣細菌叢,大腸菌が最も多く分離される。(甲B1)イ子宮蓄膿症は,通常,発情終了後1ないし12週で診断される(甲B1,5)。典型的な病歴では,その雌が4ないし8週間前に発情期である(甲B2(995頁))。 ウ子宮蓄膿症の危険因子としては,高齢の未経産雌であることが挙げられ (甲B1,2),発症の平均年齢は,6.5歳ないし8.5歳とされる(甲B1,2,乙B8)。 エ子宮蓄膿症は, 敗血症とエンドトキシン血症が非常に速く(数時間にも)常時発生することから,生命にかかわる重度の疾患とされる(甲B2)。 (2) 臨床症状等 ア子宮蓄膿症の症状に子宮腫大があるが,その程度は様々であり(甲B2),触診可能な大きさとするものがある一方で(甲B1),開放性の頚管では触知されるほど大きくならないとするものもある(甲B1)。 イ子宮蓄膿症の症状として,食欲不振,多飲,多尿,沈鬱,膣からの排膿,嘔吐,下痢,腹部膨満が挙げられ(甲B1,2,5,乙B8,9),これ らの症状が認められた犬に対しては,子宮蓄膿症を第一に疑うべきである (乙B8(22頁))。 ウ子宮蓄膿症において膣からの排出物は,腐敗性とされるが(甲B2(996頁)),血様から粘液膿様等一様ではない(甲B1)。 膣からの排膿は,子宮頚管の である (乙B8(22頁))。 ウ子宮蓄膿症において膣からの排出物は,腐敗性とされるが(甲B2(996頁)),血様から粘液膿様等一様ではない(甲B1)。 膣からの排膿は,子宮頚管の開放程度及び貯留膿汁量により異なり(乙B8,9。甲B1同旨),陰部より膿が全く出ない場合もある(甲B5, 乙B8)。一般的に膣からの排膿量の多い動物の方が,頚管が閉鎖し排膿しない動物よりも症状が軽い(甲B5,乙B8,9)。 エエンドトキシンを産生しない細菌(一定のグラム陽性菌)の感染による場合は,子宮内に膿様物が貯留しているにもかかわらず,臨床徴候が軽度のこともある(乙B9)。 (3) 診断ア禀告及び臨床徴候から予測し,エコー検査及びX線検査で子宮内に液体が貯留し,子宮が腫大していることを確認して診断を下す(乙B9)ほか,血液検査で状態を把握する(甲B1,2(996頁),5,乙B8)。 血液検査では,白血球の増加等が見られる(甲B5)が,退行性の左方 移動を伴う白血球減少症になることもある(甲B2(996頁))。 イエコー検査について(ア) 子宮蓄膿症の場合,エコー検査により,液体を貯留した子宮を容易に認めることができ,子宮壁の肥厚が同時に認められることが多い(甲B1,乙B10)。これに対し,正常な子宮壁は,明瞭な構造としては識 別されず,生理期を除き超音波画像で正常子宮を明確に視認できることは少ない(乙B1,8,10)。 (イ) エコー検査は,初めに膀胱を確認した後,探触子を頭側に移動させることにより,貯留液で満たされ膨大した子宮が認められる。子宮蓄膿症の場合における特徴的な断層所見としては,横断像でほぼ円形の著しく 膨大した子宮腔内にエコーフリーの像が観察される(乙B8)。貯留液 留液で満たされ膨大した子宮が認められる。子宮蓄膿症の場合における特徴的な断層所見としては,横断像でほぼ円形の著しく 膨大した子宮腔内にエコーフリーの像が観察される(乙B8)。貯留液 が少ない場合は,腸管と子宮の大きさが同程度であり,鑑別し難いが,腸管では蠕動運動が認められることにより確認できる(乙B8)。 ウ発見が遅れ,腎不全又は腹膜炎を併発すれば,予後不良となる確率が高い(乙B8)。 (4) 治療 ア頚管が閉鎖していれば,生命に危険の及ぶ状態であることから,入院が必要とされる(甲B1)。 通常は,手術が早い段階で行われればほとんど助かるので,発見後速やかに手術するべきである (甲B5)。敗血症,エンドトキシン血症は発症していなくても,常に発症のおそれがあり(甲B2),症状が出てからでは 手術が1日遅れるだけでかなり悪化し,見た目に食欲や元気があることから,手術を先送りにしていると命取りになることがある(甲B5)。 イ非外科的治療では,抗生物質投与と膿の排出を行う方法があるが,延命効果があるものの,根治に至らない可能性があり,例外的にしか行われない(甲B5。乙B9同旨。なお,甲B1には,頚管閉鎖型子宮蓄膿症の内 科的治療は,子宮破裂と腹膜炎に関係していることを飼い主に警告するべきである旨の記載がある。)。 ウ経過観察については,子宮の大きさがほぼ正常に戻り,臨床症状が消失又は軽快した時に退院させる。抗生物質の投与は,三,四週間継続する。 膣排出物は,4週間まで持続することがある(甲B1)。 エなお, A 号には,本件各受診時において,膀胱炎の治療のため(被告本人尋問の結果(調書35頁)),ビクタスSS錠が投与されたところ,同薬剤は,犬猫用ニューキノロン抗菌剤であり,細菌性尿 エなお, A 号には,本件各受診時において,膀胱炎の治療のため(被告本人尋問の結果(調書35頁)),ビクタスSS錠が投与されたところ,同薬剤は,犬猫用ニューキノロン抗菌剤であり,細菌性尿路感染症等に適応があり,有効菌腫は,ブドウ球菌属,大腸菌属等スペクトルは広い(乙B3)。 また, A 号には,平成26年1月ないし3月,5月(5月の受診時), 7月(7月の受診時)に,皮膚炎の治療等のため,プレドニゾロンが投与されたところ(被告本人尋問の結果(調書37頁)),同薬剤は,合成副腎皮質ホルモン製剤であり,感染症の患者に対しては,免疫機能抑制作用により,感染症が増悪するおそれがあるため,慎重投与とされている(乙B5)。 2 前記前提事実,掲記の証拠,乙A3及び弁論の全趣旨によれば, A 号の診療経過等について,以下の事実が認められる。 (1) 平成23年3月12日, A 号は,右内股等にかゆみがあることで本件病院を受診した。このとき,原告から,尿ににおいがあるとの訴えがあったことから,投与する抗生剤を変えてみる方針が採られ,また,診療録に,子 宮蓄膿症を警戒する必要がある旨記載された。 (2) 平成24年6月11日,原告から,生理出血が少し長めであり,かつ,血尿はないが,においがするとの訴えがあったことから,エコー検査が行われたが,子宮及び膀胱には異常がないとされた。 (3) 平成25年9月26日,原告から,同年7月下旬から8月まで生理中で, 今もまた少量の出血あるとの訴えがあったことから,エコー検査が行われたが,異常はないとされた。ただし,診療録には,「卵巣が腫れているのか? よくわからなかった。」との記載がされた。 (4) 平成25年11月2日, A 号は本件病院を再受診した。こ コー検査が行われたが,異常はないとされた。ただし,診療録には,「卵巣が腫れているのか? よくわからなかった。」との記載がされた。 (4) 平成25年11月2日, A 号は本件病院を再受診した。このとき,原告から,同年10月26日の前後4日間ぐらい出血があったが,今はないと の訴えがあった。 (5) 1月11日,原告から,前々日から軟便があり,前日血便があったが,嘔吐はなかったとの訴えがあり,急性の腸炎と思われるとされ,3日後に再受診するよう指示がされた。 (6) 1月14日,原告が, A 号の便が正常であり,かゆみもない旨述べた ことから,内服薬の処方を減らし,調子を見ながら調整してもらうこととさ れた。 (7) 1月24日,原告から, A 号について,再び下痢が見られたとの訴えがあったため,前回と同様の処方がされた。 (8) 3月13日,原告から, A 号について,内股の皮膚のかゆみがあるとの訴えがあったため,被告は,抗生剤を5日分出し,原告に対し,その後調 子よければ処方を調整するが,治りが悪ければ必ず再受診するよう指示した。 (9) 4月25日,原告から, A 号が4月5日から生理した旨及び頻尿が見られた旨の訴えがあったことから, A 号は膀胱炎とされ,内服薬が処方され,再受診するよう指示された。 (10) 5月16日(5月の受診時),原告から, A 号が前々日からまた出 血している旨の訴えがあったため,エコー検査が行われた。その結果,子宮には異常がないが,膀胱はまだ腫れているとされ,原告は頻尿がなくなったと述べていたが,内服薬が継続された。 (11) 6月27日(6月の受診時),原告から, A 号について,2,3日前から陰部から出血あった旨の訴えがあり,エコー検査が行われ 原告は頻尿がなくなったと述べていたが,内服薬が継続された。 (11) 6月27日(6月の受診時),原告から, A 号について,2,3日前から陰部から出血あった旨の訴えがあり,エコー検査が行われた。その結 果,膀胱壁は肥厚しているが,子宮には異常がないとされ,膀胱炎の治療がされた。 (12) 7月18日(7月の受診時),原告から, A 号について,7月に入ってまた生理始まったとの訴えがあったことから,エコー検査がされ,膀胱壁がまだ少し肥厚しており,子宮卵巣はわからないとされ,内服薬が処方さ れ,併せて,出血がすぐ繰り返すようなら手術も検討する旨及び手術に要する費用は10万円未満である旨の説明がされた。 (13) 7月28日午後7時頃,散歩から帰宅して,具合が悪くなり,嘔吐し,食欲がない様子が見られ,同日午後10時頃,腹痛があるような様子が見られたため,原告は被告に電話をしたが,つながらなかった(原告本人尋問の 結果(10頁))。 (14) 7月29日午前0時37分頃, A 号は,救急物病院を受診した(乙A5)。原告は,夕方散歩の後より呼吸が荒く,吐いたこと及び14日より生理がある旨述べた。 A 号は,同病院来院時,腹部の筋緊張が強いとされ,エコー検査の結果,子宮に液体貯留が認められ,腹水から好中球桿菌が検出された。血液検査の結果,白血球は減少しているとされ,仮診断名が子 宮蓄膿症,細菌性腹膜炎とされた。その後, A 号は,卵巣,子宮摘出等の措置を受けたが,同日午前6時35分呼吸が停止し,6時55分蘇生措置に反応がないとされた。 3 争点⑴(被告の除外診断義務違反の有無)について検討する。 (1) 原告は,被告は,本件各受診時に血液生化学検査その他の検査を実施し, 子宮蓄膿症を除 蘇生措置に反応がないとされた。 3 争点⑴(被告の除外診断義務違反の有無)について検討する。 (1) 原告は,被告は,本件各受診時に血液生化学検査その他の検査を実施し, 子宮蓄膿症を除外診断すべき義務があったにもかかわらず,これを怠った旨主張する。これに対し,被告は, A 号が上記各受診時において子宮蓄膿症を発症していたことを争うとともに,子宮蓄膿症を除外診断していた旨主張する。 (2) そこで, A 号が本件各受診時において,子宮蓄膿症を発症していたか どうかを検討する。 ア前記のとおり, A 号は,4月に生理があったが,その後も出血の訴えで本件病院を受診しており,被告本人尋問の結果(11頁)によれば,7月の受診時には,被告も出血を確認したことが認められる。 犬の生理の周期(甲B2(994頁))から考えるとこれらの出血は, 正常な生理によるものとは考え難い。また,救急病院の診療録(乙A5)に膀胱炎に関する記載はないことに加え,被告本人尋問の結果(36頁)及び弁論の全趣旨によれば,これらの出血が,膀胱炎に起因するものとも考え難い。他方,これらの出血は,子宮蓄膿症の前記一般的な発症時期と整合する。 そして,前記のとおり,7月28日, A 号に嘔吐等の症状が見られ たことに加え,乙A5及び弁論の全趣旨によれば, A 号は,同日には子宮蓄膿症に起因する腹膜炎を発症していたと考えられる。 イこれに対し,被告は,7月の受診時に見られたのは不正出血による出血であり,子宮蓄膿症に見られる子宮排出物は認められなかった旨主張する。 (ア) 同主張によれば, A 号は,7月の受診時において,子宮蓄膿症を 発症しておらず,その後,これを発症したことになる。そして,前記のとおり,一般に,子宮蓄膿症は られなかった旨主張する。 (ア) 同主張によれば, A 号は,7月の受診時において,子宮蓄膿症を 発症しておらず,その後,これを発症したことになる。そして,前記のとおり,一般に,子宮蓄膿症は,敗血症を非常に早く発症し,それが数時間ないにすぎない場合もあることは,被告の主張に沿う。 (イ) しかしながら,原告本人尋問の結果(20頁)には, A 号は,7月の受診時から7月28日まで,出血していたとする部分があり,これ を覆すに足りる証拠はないところ,前記のとおり,陰部からの排出物は,出血様のものもあることが認められること及び当時 A 号に対し抗生剤(ビクタス)が投与されており,これにより,子宮蓄膿症による症状が抑えられていた可能性が否定できないことからすると, A 号の排出物が濃様でなく,においが感じられなかったとしても,そのことから 直ちに,それが子宮蓄膿症による子宮排出物でなかったと認めることはできない(甲B3,6参照)。 (ウ) また,乙A3によれば,7月の受診時に, A 号に対し抗生剤(ビクタス)が10日分処方されたことが認められ,7月28日の時点では,A 号は同抗生剤の投与を受けていたことになる。そして,前記事実, 乙B3及び弁論の全趣旨によれば,子宮蓄膿症の非外科的治療法としても,同抗生剤が投与されることが認められる。このように, A 号が7月の受診時から7月28日までの間,子宮蓄膿症の非外科的治療法にも当たり得る措置を受けていたことからすると,甲B1に頚管閉鎖型子宮蓄膿症の内科的治療は,子宮破裂と腹膜炎に関係していることを飼い 主に警告するべきである旨の記載があることや, A 号が7月の受診 時に,免疫機能抑制作用のあるプレドニゾロンが処方されていたことを考慮してもなお,7月の に関係していることを飼い 主に警告するべきである旨の記載があることや, A 号が7月の受診 時に,免疫機能抑制作用のあるプレドニゾロンが処方されていたことを考慮してもなお,7月の受診時から7月28日までの間に, A 号が新たに子宮蓄膿症を発症したとは直ちに考え難い。 (エ) したがって,被告の上記主張は,前記認定判断を覆すに足りない。 ウ被告は,本件各受診時において,エコー検査画像に子宮が描出されなか ったことから,本件各受診時において A 号が子宮蓄膿症に罹患していたとはいえない旨主張する。 (ア) そして,乙A3及び被告本人尋問の結果にはこれに沿う部分があるほか,前記のとおり,正常な子宮は,エコー検査では明確に視認されにくいとされている。 (イ) 他方,5月の受診時のエコー検査画像には,膀胱の他,円形のものが描出されている。そして,前記1(3)イ及び乙B7に照らすと,これは,消化管であるか子宮であるか明らかでないことが認められる。これに対し,被告本人尋問の結果(7頁。24頁同旨)には,同画像を連続的に観察すると蠕動運動が見られたとする部分があるが,診療録(乙A 3)にはこれを裏付ける記載がないので,直ちに採用することはできない。 また,前記のとおり,仮に A 号が子宮蓄膿症を発症していたとしても,その症状が抗生剤(ビクタス)の投与により抑えられていたため, A 号の子宮がエコー検査によっても視認できない状況にあった 可能性も否定できない。 したがって,上記(ア)の証拠部分及び事実から直ちに,前記認定を覆すことはできない。 エ被告は,本件各受診時において, A 号は膀胱炎を罹患していた旨主張する。しかしながら,前記事実,乙A3,被告本人尋問の結果(29頁, 36頁)及び に,前記認定を覆すことはできない。 エ被告は,本件各受診時において, A 号は膀胱炎を罹患していた旨主張する。しかしながら,前記事実,乙A3,被告本人尋問の結果(29頁, 36頁)及び弁論の全趣旨によれば, A 号は,本件各受診時において, 10日分の抗生剤を処方されていたが,約1か月後には再び出血が訴えられ,7月の受診時においては,被告も出血を確認していた。このように,A 号が膀胱炎を発症していたことを前提とした治療が十分な効果を上げていなかったことからすると,本件各受診時において, A 号は,膀胱炎以外の疾患を発症していた可能性が否定できない(被告本人尋問の結果 (11頁,24頁,29頁)にはこれに沿う部分がある。)。したがって,被告の主張は採用できない。 オさらに,被告は,本件各受診時において, A 号に,子宮蓄膿症の他の臨床症状が見られなかった旨主張する。しかしながら,被告が,本件各受診時において, A 号に対し,触診等を行ったことを裏付ける的確な 証拠(診療録の記載等を含む。)がないので,直ちに採用することはできない。 カ被告は, A 号が,本件各受診時に原告が主張する閉鎖型の子宮蓄膿症を発症していたならば,7月28日よりも早い段階で,子宮破裂や腹膜炎を罹患していたはずである旨主張する。しかしながら,原告は,その具 体的な時期は明らかでないものの, A 号は,閉鎖型子宮蓄膿症と開放型子宮蓄膿症を繰り返していたこと及び A 号は抗生剤の投与を受けていた旨主張しており,前記事実及び弁論の全趣旨によれば, A 号は,本件各受診時の頃,このような状態であったことが認められる。したがって,被告の主張は採用できない。 キ以上によれば, A 号は遅くとも7月の受診時までに子宮蓄膿 趣旨によれば, A 号は,本件各受診時の頃,このような状態であったことが認められる。したがって,被告の主張は採用できない。 キ以上によれば, A 号は遅くとも7月の受診時までに子宮蓄膿症を発症していたと認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 (3) このことを前提に,獣医師の注意義務を検討するに,前記のとおり,子宮蓄膿症は敗血症等が非常に早く発生する生命に関わる重度の疾患であり,手術が早い段階で行われればほとんど助かるが,発見及び子宮摘出術が遅れれ ばかなり悪化するおそれがあることからすると,一般に,獣医師は,子宮蓄 膿症が疑われた場合,速やかにこれを鑑別ないし除外診断するべき注意義務があるというべきである。 これを本件について見ると,被告本人尋問の結果(11頁,24頁,25頁,29頁等)に,被告は,本件各受診時以前から, A 号が子宮蓄膿症を罹患する一般的な危険性を認識しており,かつ,7月の受診時においては, 子宮蓄膿症を疑っていたとする部分があることからすると,被告は,遅くとも7月の受診時において,子宮蓄膿症を除外診断する義務があったというべきである。 (4) そこで,被告に同義務の違反があったと認められるかどうかを検討する。 前記のとおり,子宮蓄膿症の診断に当たっては,臨床症状等からこれを予 測し,エコー検査や血液検査を行うものとされている。 アこのうち,画像診断については,本件各受診時において,いずれもエコー検査が行われ,5月の受診時には,膀胱の他円形のものが描出され,それ以外の受診時には,膀胱以外のものは特に描出されなかったことが認められる しかしながら,前記のとおり,5月の受診時のエコー検査の結果に描出されたものが,消化管であるか子宮であるか明らかでない(被告本 時には,膀胱以外のものは特に描出されなかったことが認められる しかしながら,前記のとおり,5月の受診時のエコー検査の結果に描出されたものが,消化管であるか子宮であるか明らかでない(被告本人尋問の結果(7頁)には,連続的に観察すると蠕動運動で貯留している液体が移動するかどうかによって,描出されたものが腸管か子宮か判断できるとする部分があるが,本件各受診時のエコー検査に関し,被告の判断を根拠 付ける診療録の記載がない。)。また,本件各受診時において,抗生剤の影響により,子宮が描出されなかった可能性が否定できず,かえって,前記のとおり, A 号が膀胱炎を発症していたことを前提とした治療が十分な効果を上げていなかったことからすると,本件各受診時のエコー検査において,子宮が描出されていなかったとしても,そのことから, A 号 が膀胱炎を罹患していたと確定診断し,子宮蓄膿症が除外診断できたとま で認めることはできない。 イ子宮排出物について検討する。 (ア) 前記のとおり, A 号は,遅くとも5月の受診時以降,診察の1か月後頃,再び出血の訴えがされたことからすると, A 号が,当時,被告の想定していた膀胱炎以外の疾患に罹患していた可能性が否定でき ない。被告本人尋問の結果(29頁,36頁以下)に,被告が,7月の受診時,出血を見て,試験開腹を検討したとする部分があることは,これに沿うものということができる。 (イ) これに対し,被告は, A 号の排出物は,膿様のものではなく,生理による出血としても矛盾するものではなかった旨主張する。しかしな がら,前記のとおり,子宮蓄膿症による排出物は,血様のものから粘性膿様のものがあること(甲B6参照)及び A 号の子宮蓄膿症の症状は,抗生剤が投与されていたこと なかった旨主張する。しかしな がら,前記のとおり,子宮蓄膿症による排出物は,血様のものから粘性膿様のものがあること(甲B6参照)及び A 号の子宮蓄膿症の症状は,抗生剤が投与されていたことに影響されていた可能性があることからすると, A 号の排出物の状態から直ちに子宮蓄膿症を除外診断し又は他の疾患を確定診断できるとまで認めるに足りる証拠はない。 ウ前記のとおり,被告が,本件各受診時において, A 号に対し,触診等を行ったことを裏付ける的確な証拠(診療録の記載等を含む。)がないことからすると,本件各受診時において, A 号に他の臨床症状があったかどうかは明らかでない。 エ以上によれば,7月の受診時のエコー検査及び A 号の排出物の状態 から,子宮蓄膿症を除外できる根拠があったとまで認めることはできない。 そして,前記のとおり,被告が,平成23年3月12日に A 号を診察した際,子宮蓄膿症を疑い,血液検査を行っていたこと(被告本人尋問の結果(23頁))を併せ考慮すると,被告は,遅くとも7月の受診時においては, A 号について,血液検査等を行い,子宮蓄膿症を除外診断す べきであったということができる。それにもかかわらず,被告が, A 号 について,このような検査を行わず,出血が繰り返されるようであれば子宮摘出術も検討するとし,経過観察にとどめたことは,子宮蓄膿症の除外診断義務に違反したというべきである。 (5) そして,甲B3,6及び弁論の全趣旨によれば,遅くとも7月の受診時に血液検査(完全血球検査),膣細胞診検査,レントゲン検査等が行われ,そ の結果, A 号が子宮蓄膿症に罹患していることが判明すれば, A 号は,子宮摘出術等を受け,腹膜炎の発症及びこれにより死亡を避けることができたと考 膣細胞診検査,レントゲン検査等が行われ,そ の結果, A 号が子宮蓄膿症に罹患していることが判明すれば, A 号は,子宮摘出術等を受け,腹膜炎の発症及びこれにより死亡を避けることができたと考えられる。そうすると,争点(1)(被告の除外診断義務違反の有無)に関する原告の主張(原告の主位的主張)は理由がある。 4 事案の性質上,争点(2)(被告の療養指導義務違反(経過観察義務違反) の有無)について検討する。 (1) 前記のとおり,被告は,7月の受診時,原告に対し, A 号が再び出血するようであれば,子宮摘出術も検討するとしたところ,原告は,このよう場合,被告は, A 号が致命的転帰を取らないよう,①子宮蓄膿症の発症の可能性及び予後を説明し,②受診日以後も出血が継続するようであれば, すぐに来院するよう促すこと,③子宮蓄膿症が高リスクであることを踏まえ,試験開腹を兼ねた子宮摘出術を検討する必要性もあることを説明し,その後の経過観察を密に行うべき義務があった旨主張する。 (2) 前記のとおり,子宮蓄膿症は敗血症等が非常に早く発生する生命に関わる重度の疾患であり,手術が早い段階で行われればほとんど助かるが,発見及 び子宮摘出術が遅れればかなり悪化するおそれがある。このことからすると,患畜が子宮蓄膿症を発症している疑いがある場合で,当該患畜を入院させるのではなく,飼い主の下で経過観察をするときは,獣医師が自ら当該患畜の容態を確認できるわけではないので,飼い主に対し,当該患畜の容態の変化した場合に速やかに必要な治療行為を受けさせられるように,疑われる疾患 の発症の可能性,その症状,飼い主として求められる具体的対応等について 指示説明する義務があるというべきである。 (3) この点に関し,被告は,出 させられるように,疑われる疾患 の発症の可能性,その症状,飼い主として求められる具体的対応等について 指示説明する義務があるというべきである。 (3) この点に関し,被告は,出血があれば,再び受診するよう指示し,また,試験開腹について説明した旨主張する。そして,被告本人尋問の結果(29頁)には,7月の受診時では,子宮蓄膿症ではないと判断していたが,1か月単位での出血の繰り返しは,子宮に異常が発生している可能性があり,そのま ま子宮蓄膿症になった場合,臨床症状が出てからでは遅い可能性があるので,試験開腹を勧めることを考えていたとする部分がある。 しかしながら,原告本人尋問の結果(22頁以下)には,被告からは子宮に特に問題がない旨の説明があり,また,手術の適応となる病名の説明もなかったとする部分がある。そして,他に,被告が原告に対し,子宮蓄膿症の 具体的な病態やそれに対する対応について具体的に説明したと認めるに足りる証拠はない。 (4) また,被告は,平成23年3月12日の診察の際,原告に対し,子宮蓄膿症について説明した旨主張する。そして,原告本人尋問の結果(22頁,23頁)には,上記説明を受けた旨及び原告は出血に関する措置であるので, 子宮に対する手術であると思ったとする部分がある。 しかしながら,仮にそのような説明があったとしても,そのような説明は,A 号の当時の状況を前提とした一般的な説明にすぎないといわざるを得ず,本件各受診時における A 号の状況を具体的に説明したものということはできないので,これによって,被告が原告に対し,子宮蓄膿症の発症の可能 性,その症状,飼い主として求められる具体的対応等措置について適切に指示説明したということはできない。そうすると,被告の上記主張事実は, これによって,被告が原告に対し,子宮蓄膿症の発症の可能 性,その症状,飼い主として求められる具体的対応等措置について適切に指示説明したということはできない。そうすると,被告の上記主張事実は,前記認定判断を左右するに足りない。 (5) そして,前記のとおり,原告本人尋問の結果(20頁)には, A 号は,7月の受診時から7月28日まで,出血していたとする部分があり,これを 覆すに足りる証拠はないことからすると,被告が上記説明をしていれば,原 告は,7月28日午後7時頃, A 号に嘔吐があった段階以前に,速やかに, A 号の治療を求めることができたと考えられる。それにもかかわらず,前記のとおり,被告がこのような具体的な説明をしたと認めることはできないので,被告は,前記(1)①及び②の点に係る説明義務に違反したというべきである。 そして,前記のとおり,腹膜炎等が併発した場合には,数時間内でも容態が悪化することがあることに鑑みると,原告が A 号の状況について適切な説明を受け, A 号が7月28日午後7時頃の時点以前に受診していれば, A 号は,適時に子宮摘出術を受ける等することができ,死亡に至らなかったと考えられ,これを覆すに足りる証拠はない。 (6) また,試験開腹を兼ねた子宮摘出術(前記(1)③の点)については,その術式自体が侵襲性のあるものであると考えられるものの,子宮蓄膿症の場合,内科的治療だけでは子宮破裂や腹膜炎が発症するおそれがあるとされていること(甲B1)などに鑑みると,遅くとも,子宮蓄膿症の疑いがあった7月の受診時においては,子宮蓄膿症のリスクを踏まえた上で,同術式を検討す る必要性もあることを説明する義務があったというべきである。 これに対し,被告は,特定の疾患の発症の可能 疑いがあった7月の受診時においては,子宮蓄膿症のリスクを踏まえた上で,同術式を検討す る必要性もあることを説明する義務があったというべきである。 これに対し,被告は,特定の疾患の発症の可能性があるにすぎない場合(そして経過観察中である場合)における説明義務の程度は緩やかで足りる旨主張する。しかしながら,前記のとおり,子宮蓄膿症が敗血症を非常に速く発症することがあり,手術が遅れるとかなり悪化することや非外科的治療は根 治に至らない可能性があり,子宮破裂と腹膜炎に関係するものであることに鑑みると,子宮蓄膿症が疑われる場合にまで,被告の主張が妥当するとは考え難い。また,被告は,獣医療では保険医療制度が確立しているわけではないこと,開腹手術を実際に検討する際に詳細な説明をすることで自己決定が可能なこと, A 号の年齢等の点を挙げる。しかしながら,子宮蓄膿症の 前記病態に鑑みると,原告が,子宮蓄膿症が高リスクであること,非外科的 療法では根治に至らない可能性があること等の説明を受けていれば,7月の受診時において,試験開腹を兼ねた子宮摘出術が選択されたことも想定できるので,被告が挙げる点は前記認定判断を左右するに足りない。 そして,前記のとおり,被告は,7月の受診時,原告に対し,出血が繰り返すようであれば手術を検討する旨述べていたにとどまり,子宮蓄膿症の具 体的なリスクを前提とした説明がされていたということはできない。したがって,この点についても,被告に説明義務違反があったというべきである。 (7) なお,被告は,争点(2)に関する原告の主張は,裁判所の訴訟指揮は過度な積極的釈明による結果であり,弁論主義に反し,違法なものである旨主張する。しかしながら,被告の主張するような釈明があったと仮定しても, 点(2)に関する原告の主張は,裁判所の訴訟指揮は過度な積極的釈明による結果であり,弁論主義に反し,違法なものである旨主張する。しかしながら,被告の主張するような釈明があったと仮定しても, その時点で既に,同争点に関する原告の主張を根拠付ける事実は全て訴訟資料に現れていたのであるから,それが弁論主義に反するということはできず,また,被告は,原告が争点(2)に係る主張をする前後2回にわたり,同争点について被告の主張を述べ(被告準備書面6,同8),原告の上記主張に先立って行われた原告本人尋問における反対尋問(23頁)の中でも,被告 の原告に対する説明内容について質問しているのであるから,争点(2)に関する原告の主張に違法な点はないというべきである。 (8) 以上によれば,争点(2)(被告の療養指導義務違反(経過観察義務違反)の有無)に関する原告の主張も理由がある。 5 争点(3)(原告の損害)について検討する。 (1) 原告は,被告の注意義務違反により, A 号の購入価額相当額20万円の財産的損害を被った旨主張する。しかしながら,仮に, A 号のペットとしての主観的な価値とは別に,商品又は動産としての客観的な市場価値を考えるとするならば,一般に,子犬と違い,成犬は需要が乏しく,その市場価値は大きくないと考えられる。このことに加え, A 号の死亡時の年齢 に鑑みると, A 号に原告が主張するような客観的な財産的な価値があっ たといえず,原告にそれに相当する財産的損害が発生したと認めることもできない。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。 (2) 原告は,被告の注意義務違反により,原告は,気力が全くなくなり,主婦の労働能力を2か月分喪失した休業損害を被った旨主張し,甲C11及び原告本 て,この点に関する原告の主張は採用できない。 (2) 原告は,被告の注意義務違反により,原告は,気力が全くなくなり,主婦の労働能力を2か月分喪失した休業損害を被った旨主張し,甲C11及び原告本人尋問の結果には,これに沿う部分がある。 しかしながら,原告が主張する損害は,被告の注意義務違反により原告が直接負った傷害によるものではなく,仮に,原告が A 号の死亡により気力がなくなったとしても,そのことと,原告が家事をすることができなくなったこととの間に相当因果関係があると認めるに足りる的確な証拠はないので,採用できない(この点に関する原告の主張は,結局,被告の注意義務違 反による原告の精神的損害を主張するものと解されるので,慰謝料額の算定において考慮することとする。)。 (3) 被告の注意義務違反と相当因果関係のある慰謝料について検討する。 甲C9ないし11,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,原告は, A 号を居間のケージで飼育し,旅行に際しても同行する等しており, A 号の死亡により原告はショックで昼間外に出ることもできないような状態になる等,小さくない精神的損害を被ったと認められる。また,甲C1ないし6及び弁論の全趣旨によれば, A 号は,血統書付きの秋田犬であり,,秋田犬保存会主催の九州総支部展でに入賞し,,社団法人ジャパンケネルクラブ主催の秋田犬クラ ブ展で,に入賞したことが認められる。このような事情に加え,本件は獣医療過誤による死亡事案であること,今日におけるペットの家族生活における一般的な位置付け,原告が A 号を飼育していた期間,本件訴訟に至るまでの原被告間の交渉経緯その他本件に現れた一切の事情に鑑みると,被告の注意義務違反により原告が被った精神的損害を慰謝す るに 般的な位置付け,原告が A 号を飼育していた期間,本件訴訟に至るまでの原被告間の交渉経緯その他本件に現れた一切の事情に鑑みると,被告の注意義務違反により原告が被った精神的損害を慰謝す るには,40万円が相当である。 (4) 甲C7によれば, A 号の救急病院における治療費として,原告は,15万5952円を支払ったことが認められる。これは,被告の注意義務違反と相当因果関係のある損害ということができ,これを覆すに足りる証拠はない。 (5) 原告は,被告の注意義務違反により, A 号の葬儀費用として3万80 00円の損害を被った旨主張し,弁論の全趣旨によれば,原告が A 号の葬儀のため,同金員を支出したことが認められる。そして,ペットが死亡した場合,業者に依頼してこれを弔うことは,社会一般に相当程度普及していると考えられることからすると,それは,被告の注意義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。 (6) 以上の合計は,59万3952円となる。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,主文1項の限度で理由があり,その余については理由がない。無担保の仮執行免脱宣言は相当でない。 福岡地方裁判所第1民事部 裁判官倉澤守春
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