主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,A及びBと共謀の上,C(当時44歳)をけん銃で射殺しようと企て,昭和60年12月14日ころ,和歌山県東牟婁郡a町b番地先所在のc漁港東方沖合の船上において,殺意をもって,けん銃の弾丸を同人に向け数発発射し,同人の身体に命中させ,そのころ,同所において,同人を銃創により死亡させて殺害したものである。 (証拠の標目)省略(累犯前科)被告人は,(1)昭和52年12月9日名古屋地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役4月(3年間執行猶予,昭和55年10月27日その猶予取消し)に処せられ,(2)その執行猶予中に犯した同法違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反,火薬類取締法違反の各罪により,昭和55年9月22日大阪地方裁判所で懲役3年に処せられ,昭和58年5月5日(2)の刑の執行を受け終わり,引き続き(1)の刑の執行を受けて同年9月5日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書及び各前科に係る判決書謄本によって認める。 (確定裁判)被告人は,昭和62年7月20日和歌山地方裁判所で脅迫罪により懲役10月に処せられ,その裁判は同年8月4日確定したものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。 (法令の適用)被告人の判示所為は,平成7年法律第91号による改正前の刑法60条,199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,前記の各前科があるので同法56条1項,57条により同法14条の制限内で再犯の加重をし,これは前記確定裁判があった脅迫罪と同法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示殺人罪について更に処断すること 1項,57条により同法14条の制限内で再犯の加重をし,これは前記確定裁判があった脅迫罪と同法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示殺人罪について更に処断することとし,上記加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役12年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中300日をその刑に算入し,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項本文により被告人に負担させることとする。 (量刑の事情等)第1 本件の概要本件は,和歌山県新宮市を本拠とする暴力団D組副長であった被告人が,配下組員のA及び暴力団E組組長のBと共謀の上,D組若頭であったCをけん銃で射殺したという殺人の事案である。 第2 犯行に至る経緯前掲関係各証拠及び[ ]内に摘示した証拠(省略)を総合すれば,犯行に至る経緯について以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,理容師として稼働していたが,昭和39年ころ,客として来ていた暴力団F組舎弟頭Gの配下となり,昭和45年ころ,理容師をやめ,Gの金融業などの手伝いを始めた。被告人は,昭和55年9月覚せい剤取締法違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反等の罪により懲役3年の実刑判決を受け,執行猶予が取り消された前刑と併せて服役した。 (2) 同年10月,F組組長Hが死亡し,GがD組を結成した際,F組組員らはD組に吸収され,うちCはD組若頭の地位についた。被告人は,昭和58年9月に上記服役を終えて出所し,同組に若頭補佐として迎え入れられた。 (3) Cは,被告人が出所する前から被告人を次期組長候補としてライバル視し,被告人配下の組員に暴行を加えたり,被告人に言いがかかりをつけ現金を要求したりすることがあったが,昭和59年1月Gが被告人を副長に据えたこともあって,被告人をますます敵視し,昭和60年7月に被告人が新宮 配下の組員に暴行を加えたり,被告人に言いがかかりをつけ現金を要求したりすることがあったが,昭和59年1月Gが被告人を副長に据えたこともあって,被告人をますます敵視し,昭和60年7月に被告人が新宮市内のマンション工事に関し多額の利益を手にしたのを知ると,他のD組組員の前でも,利益を独り占めしているなどと公然と被告人を非難するようになった。 (4) 一方,暴力団I組副長の地位にあったBは,同年9月ころ,I組から破門されたが,その直後から暴力団E組の結成に向けた活動を始めた。Bは,I組及びその上部団体であるJ組と抗争状態にあったことなどから,かねてから親密な関係にあった被告人にD組を継がせ,同組に後ろ盾となってもらうことを望んでいた。 (5) 被告人は,同年11月ころ,Cからけん銃を調達するように言われたが,Cにけん銃を渡せば自分の命が狙われると考え,Cの要求に応じないでいたところ,Cが,Bに対しても,「チャカ1丁もよう入れん奴にあんた肩入れしたらあかん」などと被告人を侮蔑する発言をした上,同月下旬ころ,直接被告人に対し,「一体,いつチャカ入れて来るんや。わしが言うとること分からんのか。 ぶち殺すど」などと怒鳴りつけてきたことから,C殺害を決意し,そのころ,Bとの間でC殺害の謀議をした。 第3 犯行の動機 1 被告人は,C殺害の事実自体は認めるものの,その動機については,「D組次期組長の地位を取得しようと思ったからではない」旨供述する。 しかしながら,上記犯行に至る経緯に加え,昭和60年当時,D組組員の間ではCが次期組長となるとの見方が強く,G自身も次期組長はCであると公言していたことを総合すれば,被告人は,かねてからCに対し憤懣を募らせていたところ,Cが次期組長となれば同人からさらに嫌がらせや危害を加えられかねないとの危機感を抱き, G自身も次期組長はCであると公言していたことを総合すれば,被告人は,かねてからCに対し憤懣を募らせていたところ,Cが次期組長となれば同人からさらに嫌がらせや危害を加えられかねないとの危機感を抱き,Cに対する憤懣を晴らすとともにD組における自己の立場を強固なものにするため次期組長候補であるC殺害を決意したものと認めることができる。 2 弁護人は,「被告人が本件犯行を計画するに至った動機は,現実に被告人がCに殺されかねない状況下にあり,自らの生命を守るためであった」旨主張し,被告人も同旨の供述をする。 確かに,前記のとおり,被告人はCから種々の嫌がらせを受けていたことが認められ,被告人がいずれCに命を狙われるのではないかとの危機感を抱いたとする点まで否定することはできない。 しかしながら,被告人は本件に至るまで憤懣を抱きながらもCを立てる形で下手に出て対応してきたのであり,仮に被告人が,Cが次期組長となることを容認し,Cに対し従前どおりの対応を継続しさえすれば,Cから命を狙われる現実的危険性は乏しかったということができるのであって,このことは,けん銃の試射に行こうとの誘いに何の不審も抱かず被告人らとともに漁船に乗船するなどしたCの行動から窺われる両者の関係とも符合している。 したがって,本件犯行動機については,前記のとおり,Cに対して憤懣を抱きながらもCの下風に立つことに甘んじてきた被告人が,自己の生命を守るというよりも,むしろ,積極的に,Cに対する憤懣を晴らし,かつ,D組における自己の立場を強固なものとすることを主な理由として犯行に及んだと認めるのが相当である。 なお,弁護人は,本件犯行後,Kが次期組長に内定していた時期もあったこと等を指摘して,「被告人は2代目襲名のため,Cを殺害したものではない」旨主張するが,当時,Cがいなけれ めるのが相当である。 なお,弁護人は,本件犯行後,Kが次期組長に内定していた時期もあったこと等を指摘して,「被告人は2代目襲名のため,Cを殺害したものではない」旨主張するが,当時,Cがいなければ被告人が2代目組長に就任できる状況にあった上,現実にCの死亡後被告人が同組組長に就いたこと,被告人がAに「わしが跡目取っちゃるさけのお」などと述べていたことなどを総合すれば,弁護人の指摘する事情は上記認定に影響を及ぼすものではない。 第4 量刑上考慮した事情 1 被告人は,Cから種々の嫌がらせや不当な要求を受けるうち,かかるCが次期組長となることに危機感を抱き,Cに対する憤懣を晴らし,かつ暴力団組織における自己の立場を強固なものにするため,Cの殺害を決意したものであって,その犯行動機は,自己中心的かつ悪質であり,酌量の余地はない。 その態様は,Cをけん銃の試射名目で誘い出した上,漁船で沖合に連れ出し,同船上で,けん銃を数発発射して殺害したものであり,極めて凶悪であるとともに巧妙である。また,被告人らは,Cを殺害後,Cの死体が浮上して本件犯行が発覚するのを免れるため,遺体の腹部をナイフで裂いた上,予め用意した重石を遺体に結びつけてこれを海中に投棄するなど,計画的かつ残忍な罪証湮滅工作を行っている。 本件犯行において,被告人は,Bに協力を持ちかけ,また,Aに加担を指示した上,自ら漁船を操縦して現場まで赴くなど,殺害の計画から実行に至るまで主導的役割を果たしている。 本件犯行によってCの尊い生命が失われたものであり,その結果は誠に重大である。遺族らは,約15年間にわたりCの葬儀を執り行うことさえできずにいたのであり,その処罰感情は厳しい。 被告人は,本件犯行の1年余り後に2代目D組組長となり,長期間にわたり遺族らの住む新宮市内を 族らは,約15年間にわたりCの葬儀を執り行うことさえできずにいたのであり,その処罰感情は厳しい。 被告人は,本件犯行の1年余り後に2代目D組組長となり,長期間にわたり遺族らの住む新宮市内を本拠に暴力団組長として活動を続け,その後,自己の身辺に捜査が及んだのを察知すると,逮捕を免れるため名古屋市内の知人宅や茨城県つくば市内のホテルに潜伏するなどしており,犯行後の情状もよくない。 以上に加え,本件犯行時までに累犯前科2犯を含む前科6犯があり,本件犯行時は恐喝未遂事件での保釈中であったことをも考慮すれば,被告人の刑事責任は極めて重い。 2 したがって,被告人が,Cの冥福を祈るとともに,遺族に対し葬儀費用として100万円を支出しているほか,今後自宅を処分し被害弁償に充てる意思を有していることなど,被告人のために酌むべき事情が認められるが,それらを十分考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。 平成14年2月22日和歌山地方裁判所刑事部裁判長裁判官小川育央裁判官山下英久裁判官安田大二郎
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