平成24(わ)1250 金融商品取引法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成25年9月30日 横浜地方裁判所
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判決文本文38,995 文字)

【主文】被告人を懲役2年6か月及び罰金150万円に処する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。 【理由】(罪となるべき事実)被告人は,A証券株式会社の執行役員投資銀行本部副本部長であった者であり,Bはその知人であるが,被告人は,平成22年12月13日頃から平成23年4月27日頃までの間に,別表記載のとおり,A証券が株式会社Cほか2社との間で締結したアドバイザリー業務委託契約等の締結の交渉又は履行に関し,C社ほか2社の業務執行を決定する機関が,それぞれ東京都中央区日本橋兜町2番1号所在の株式会社東京証券取引所が開設する有価証券市場に株式を上場していた株式会社Dほか2社の株券の公開買付けを行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実を知り,同年2月22日頃から同年4月28日頃までの間に,別表記載のとおり,Bに「D株がTOBになる。」などと電話で言って,前記各事実を伝え,その公表前にD社ほか2社の株券を買い付けるように促すなどして唆し,よって,同人にその旨の決意をさせた上,上記各事実の伝達を受けた同人をして,法定の除外事由がないのに,上記各事実の公表前である同年2月22日から同年9月2日までの間,E証券株式会社を介し,東京証券取引所において,F名義で,D社ほか2社の株券合計6万7167株を代金合計6426万7400円で買い付ける犯罪を実行させ,もって,Bを教唆して金融商品取引法違反の罪を実行させた。 (事実認定の補足説明)第1 争点 1 検察官は,主位的訴因として,被告人は,Bに,判示の3銘柄(以下「本件3銘柄」という。)に係る公開買付けの実施に関する事実(以下「重要事実」とい 。 (事実認定の補足説明)第1 争点 1 検察官は,主位的訴因として,被告人は,Bに,判示の3銘柄(以下「本件3銘柄」という。)に係る公開買付けの実施に関する事実(以下「重要事実」とい う。)を伝達し,同人と共謀の上,被告人は金融商品取引法(以下「金商法」という。)167条1項4号に,Bは同条3項に,それぞれ違反して,重要事実の公表前に本件3銘柄の株券を買い付けたと主張し,さらに,予備的訴因として,仮に共謀の成立が認められないとしても,被告人は,上記のとおり,Bに重要事実を伝達して,本件3銘柄の株券を買い付けるよう唆し,同人にその旨決意させた上,重要事実の公表前に,各銘柄の株券を買い付けさせたのであるから,金商法167条3項の教唆犯ないし幇助犯が成立すると主張する。 2 これに対し,弁護人は,被告人がBに重要事実を伝達したことはなく,また,仮に重要事実の伝達があったとしても,被告人とBの間に共謀は存在しないばかりか,検察官が主張する上記の主位的訴因は,法論理的に成立し得ない上,金商法167条1項4号の主体となる者について,同条3項の教唆犯ないし幇助犯は,法律上不可罰であると解すべきであるから,被告人は無罪であるなどと主張する。 3 本件において,BがF名義で判示の各取引を行ったことは,検察官及び弁護人の間で争いはない。そこで,以下,⑴被告人からBに対する本件3銘柄の重要事実の伝達があったか否か,⑵重要事実の伝達が認められる場合に,被告人とBとの共同正犯の成立が認められるか,⑶共同正犯が認められない場合に,被告人に金商法167条3項の教唆犯又は幇助犯が成立するかについて,順次検討する。 第2 重要事実の伝達について 1 前提となる事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められ,被告人及び弁護人も争っていない。 3項の教唆犯又は幇助犯が成立するかについて,順次検討する。 第2 重要事実の伝達について 1 前提となる事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められ,被告人及び弁護人も争っていない。 ⑴ 昭和59年3月,被告人は,当時の株式会社G銀行に入行し,平成13年4月,人事部グループ長に,平成15年10月,法人企業統括部副本部長に就任した。 この間の同年4月頃,被告人は,知人のHを通じて,横浜市内で金融業を営むBと知り合った。 ⑵ 平成21年10月,被告人は,A証券に執行役員投資銀行本部副本部長として出向した。投資銀行本部は,関連各部署と協働して,企業買収案件の取りまとめ をする部署であり,同部の副本部長であった被告人は,本部長とともに,同部が所管する第一投資銀行部から第八投資銀行部までの各部等の部長を指揮監督し,各部の業務全般を総括する立場にあった。 ⑶ A証券の各投資銀行部では,1か月に約1回の頻度で,各個別案件の内容の報告と必要な指示を行うためのフランチャイズミーティングが開催されており,被告人も,原則としてこれに出席し,各投資銀行部が担当する個別案件の内容,進捗状況等の報告を受け,必要な指示を出していたほか,同会議を欠席したときは,被告人の秘書が,同会議の配布資料を,被告人に直接手渡すか,被告人の机上に置くなどしていた。 ⑷ 投資銀行本部の第五投資銀行部内には,ファンドを顧客とするフィナンシャル・スポンサー・グループ(FSG)が置かれており,被告人は,同グループを指揮していた。同グループでは,企業買収の個別案件ごとにプロジェクトチーム(フィナンシャル・アントレプレナー・グループ(FEG)。以下「フェグ」という。)を編成しており,1週間に1回の頻度で会議(以下「フェグミーティング」という。)を開いていた。被告人は,そこで, ーム(フィナンシャル・アントレプレナー・グループ(FEG)。以下「フェグ」という。)を編成しており,1週間に1回の頻度で会議(以下「フェグミーティング」という。)を開いていた。被告人は,そこで,FSGの担当案件の概要や進捗状況について報告を受けていた。 2 D株について⑴ 前提となる事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められ,被告人及び弁護人も争っていない。 ア C社は,平成22年11月25日,D株のTOB(株式公開買付け)を行うことを決定した。A証券は,同年12月9日,C社との間で,同社が行うD株のTOBの価格算定等を内容とするアドバイザリー業務委託契約を締結した。 イ被告人は,同月13日に開かれたA証券の第三投資銀行部のフランチャイズミーティングにおいて,D株のTOBに関する株式買付価格の算定の案件を担当していたIから,C社が同月27日にJ社が保有するファンドから,TOBによりD株を取得するとの報告を受けた。その際,被告人は,配布された同日付けのバック ログ(各担当者が担当する案件の一覧表)に,「D社 J社40% C社 NCSはセカンドオピニオン 12/27 TOBローンチ」などと赤ペンで記入した。 ウ Bは,平成23年1月6日頃,Fに対し,パソコンを使ってBのために,F名義で株取引をしてほしいと持ち掛け,Fは,これを了承した。同月中旬頃,Bは,Fに対し,同人に取引をしてもらう株は,TOBやMBO(会社経営陣による株式の買取り)があるものなので,他人には言わないように伝え,Fもこれを了承した。 エ同月25日に開かれた第三投資銀行部のフランチャイズミーティングにおいて,Iは,C社によるD株のTOBが延期になったこと,TOBがいつ行われるかは未確定であるが,同年3月までには行われるはずであることなどを報告した。 オ 投資銀行部のフランチャイズミーティングにおいて,Iは,C社によるD株のTOBが延期になったこと,TOBがいつ行われるかは未確定であるが,同年3月までには行われるはずであることなどを報告した。 オ被告人は,同年2月22日午前9時から午前9時30分の間に開かれた第三投資銀行部のフランチャイズミーティングにおいて,Iから,D株のTOBが同年3月9日に発表されることに決まったなどと報告を受けた。その際,被告人は,同日付けのバックログの「ProjectGardenia」の「時期」欄の「2011年3月」に赤丸を付け,「プロダクト詳細」欄に,赤ペンで「D社 TOB」と記入し,「収益の確度」欄の「A」にチェックを付けた。 カ Bは,同日午前11時7分から午前11時28分にかけて3回にわたり,被告人に携帯電話のショートメールを送信し,同日午前11時30分,被告人は,Bに,携帯電話のショートメールを送信した。同日午後0時3分,被告人は,Bに電話をかけ,9分5秒間通話した。 キ Fは,同日午後1時19分と同年2月23日午前9時4分,D株を10株ずつ買い付けた。 ク Bは,同月下旬ないし同年3月上旬頃,Fに対し,「D社を買った理由を聞かれたら,物流業界は伸びるからって言えばいい。」などと指示した。 ケ同年3月9日,日本経済新聞(以下「日経新聞」という。)の朝刊に,C社によるD株のTOBの実施についてのスクープ記事が掲載され,同日午前8時13分頃,C社は,この報道を否定するプレスリリースを発表した。 コ Bは,同日午前9時8分と午前9時10分の2回,Fに電話を架けた。Fは,同日午前9時28分,D株100株を指値で買い付ける注文をした。Bは,同日午前9時46分から午前9時59分にかけて3回にわたり,Fに電話を架けた。Fは,同日午前9時59分,同株 電話を架けた。Fは,同日午前9時28分,D株100株を指値で買い付ける注文をした。Bは,同日午前9時46分から午前9時59分にかけて3回にわたり,Fに電話を架けた。Fは,同日午前9時59分,同株100株の売り注文をし,午前10時,この注文を取り消した。同日午前10時3分と午前10時4分,Bは,Fに電話を架けた。同日午後1時3分,Fは,前記午前9時28分の100株の買い注文を取り消した。 サ同日,D社は,D株のTOBの実施を公表した。同年3月14日,Fは,同株20株を全て売却し,これにより,225万9000円の利益を得た。 ⑵ B証言の内容本件において,被告人からBに対するD株の重要事実の伝達の事実に関する直接証拠となるのは,Bの証言であるところ,Bは,同株の買付けに関して,公判廷において,概ね次のとおり証言する。 ア私は,平成23年2月22日に,F名義で,初めてD株を買い付けたが,その二,三日前か買う直前に,被告人から同株のTOB情報を聞いた。 イ私は,被告人に紹介してもらった融資案件の進捗状況を確認するため,同日午前11時7分から午前11時28分の間に,携帯電話で被告人にショートメールを3回送り,電話をしてほしい旨伝えた。 ウ同日午後0時3分に,被告人から電話をもらい,9分5秒間通話しているが,この電話では,焦げ付いている融資案件について話をしたほか,被告人からD株の話をされたと思う。被告人は,自分から焦げ付き案件の言い訳をするようにして,同株のTOBが実施されると言ってきた。私は,この電話で,被告人から同株のTOBの公表時期を聞いた。私は,被告人と電話した直後に,Fに対し同株を買うように指示したと思う。 エ私は,D株を買った後に,証券会社からのヒアリングに備えて,それがインサイダー取引ではないとごまかす 公表時期を聞いた。私は,被告人と電話した直後に,Fに対し同株を買うように指示したと思う。 エ私は,D株を買った後に,証券会社からのヒアリングに備えて,それがインサイダー取引ではないとごまかすためのもっともらしい購入理由(以下「模範回答」という。)を被告人から教えてもらった。 オ被告人は,TOBに関する情報として,D社の企業情報が記載された会社四季報のコピーを持ってきた。被告人は,融資の焦げ付きにより私がいらいらしていたので,私の気持ちを和らげようとして,このような資料を持ってきたと思う。 カ私は,Hと共に取り扱っている不動産取引の関係で,D社という会社の名前を聞いたことはあるが,不動産取引の関係で同社の会社四季報を見たことはない。 ⑶ B証言の信用性BのD株の取得が,TOBが実施されるとの内部情報を入手したことに基づくものであったことは,同人にとって不利益な事実を認める供述であることなどから疑いの余地はなく,弁護人も,これを争っていない。しかし,弁護人は,後述のとおり,被告人から同株のTOB情報を聞いたというBの証言は,信用できないと主張するので,以下,検討する。 ア D株のTOB情報の伝達者が被告人であるというBの証言は,客観的な証拠によって裏付けられている。すなわち,Bの上記証言は,被告人が,平成23年2月22日午前9時からのフランチャイズミーティングにおいて,Iから,D株のTOB実施の公表が同年3月9日に決定した旨の報告を受け,被告人が同株のTOBが実施されることを確定的に認識した後,同年2月22日午後0時3分にBと約9分間の通話をし,同日午後1時19分にFが同株の買付けを行ったという,争いのない事実の経過と符合している。また,同年9月28日,横浜市内のBが経営する株式会社Kにおいて,同年10月27日 にBと約9分間の通話をし,同日午後1時19分にFが同株の買付けを行ったという,争いのない事実の経過と符合している。また,同年9月28日,横浜市内のBが経営する株式会社Kにおいて,同年10月27日にA証券内の被告人の執務机から発見された会社四季報のD社の頁をコピーしたと認められるものが発見されており,このことも,Bの上記証言を裏付けており,その信用性を高めている。 イまた,Bの上記証言は,Fの証言とも合致している。  すなわち,Fは,公判廷において,概ね以下のとおり証言する。 Bからの買付けの指示は,電話のほか,Bが私の事務所を訪れて,私に直接口頭ですることもあった。Bから買付けの指示があれば,言われたとおり,すぐに買付けをしていた。D株の買付けの指示があったのは,平成23年2月に入ってからだ と思うが,買付けの当日かその前日か,はっきり覚えていない。同年2月22日にBと電話をした記録がなければ,直接指示を受けたと思う。私が独断で買付けを行うことはない。  上記のF証言は,捜査段階から一貫した供述である上,同人は,被告人と面識がなく,あえて被告人に不利益な虚偽供述をするような関係がないから,その証言は,十分信用できる。 よって,F証言と符合するBの前記証言は,この点においても,裏付けられており,信用性が高い。 ウ前記の前提となる事実に加え,B及びFの各証言によれば,被告人は,同年2月22日午後0時3分からBと通話をした際,D株の重要事実をBに伝達し,同日午後0時頃から午後1時頃までの間,Bは,被告人からの情報に基づいて,Fに対し,直接口頭で同株の買付けを指示したことが認められる。 ⑷ 弁護人の主張についてアこれに対し,弁護人は,上記の約9分間の通話について,インサイダー情報を伝達するだけであれば,数秒間の通話 対し,直接口頭で同株の買付けを指示したことが認められる。 ⑷ 弁護人の主張についてアこれに対し,弁護人は,上記の約9分間の通話について,インサイダー情報を伝達するだけであれば,数秒間の通話で済むはずであるから,この通話によってインサイダー情報が伝達されたということはあり得ないと主張する。 しかしながら,被告人に依頼されてBが行った後記の融資の焦げ付き案件に関する話をしたという事実と,インサイダー情報の伝達があったという事実は,両立し得るものであるから,約9分間の通話でその双方について話し合ったとのBの証言は,何ら不自然・不合理ではなく,弁護人の上記主張は当たらない。 イまた,弁護人は,同日午後0時3分から同日午後1時19分までの間に,BとFとの間で通話記録が残っていないから,FによるD株の買付けは,被告人とは無関係であると主張する。 しかしながら,BからFに対するD株の買付け指示については,前記のとおり,電話に限られるものではなく,Bは,同年2月22日に直接口頭で,Fに対して指示を行ったと認められるから,弁護人の上記主張も理由がない。 ウ さらに,弁護人は,同年3月9日,D株のTOBの実施が公表される直前に,BがF名義で行った同株の取引内容に照らせば,BがTOBの実施時期及び価格を事前に知っていたとはおよそ考え難い上,仮に被告人からTOB情報を得ていたとすれば,日経新聞がD株のTOBをスクープし,C社がこれを否定する発表をするなど,相反する報道に接した時点で,Bは,これらについて被告人に問い合わせるはずであるのに,これをしていないのは,Bが被告人からTOB情報の伝達を受けていなかったからであって,Bの証言は,信用できないと主張する。  この点について,Bは,公判廷において,概ね次のとおり証言する。 私は,被告人 ていないのは,Bが被告人からTOB情報の伝達を受けていなかったからであって,Bの証言は,信用できないと主張する。  この点について,Bは,公判廷において,概ね次のとおり証言する。 私は,被告人から,D株がTOBになるとは聞いたが,同株のTOB価格までは聞いていなかった。同年3月9日に,日経新聞が朝刊で同株のTOBをスクープしたことは覚えていない。同日,F名義で,100株の買い注文と売り注文を出し,いずれも取り消したことは覚えていないが,午前9時28分に100株の買い注文を出したのは,新聞でスクープ記事が出た以上,大量に買い付けてもインサイダー取引を疑われないと思ったからである。午前9時59分の100株の売り注文は,Fが買い注文と売り注文を間違えて出したもので,その直後の午前10時に取り消したのだと思う。  この証言について検討すると,同日午前9時59分と午前10時に行われた100株の売り注文及びその取消しについて,Bが証言するように,Fが単に買い注文と売り注文を取り違えたのであれば,売り注文を取り消した直後に,本来行うべき買い注文を出すはずであるのに,Fはそのような買い注文を出していないから,100株の売り注文が,Fがパソコンの操作を誤ったことによるものとは考え難い。 また,同日午前9時頃から午前10時頃にかけて,BとFは,頻繁に電話でやり取りをしており,前記の売り注文と同時刻の同日午前9時59分にも,BはFと通話していることに加え,前記のとおり,FがBの指示によらずに独自の判断で取引をしたことはないと認められることに照らすと,上記の100株の売り注文とその取消しは,いずれも,Bの指示に基づいてFが取引したものと考えるのが合理的であ る。 そうすると,上記の取引経過については,Bが,被告人からD株がTOBになると聞いていたと 0株の売り注文とその取消しは,いずれも,Bの指示に基づいてFが取引したものと考えるのが合理的であ る。 そうすると,上記の取引経過については,Bが,被告人からD株がTOBになると聞いていたところ,日経新聞によるスクープ記事が出たので,同株がTOBになると確信し,100株を13万3400円の指値で買い増そうとしたが,C社がTOBを否定するプレスリリースを発出したために,株価が下落するものと考え,いったん,100株を14万4400円の指値で空売りの注文を出したものの,結局TOBが実施されれば,株価が値上がりすることから,考えを改め,売り注文を取り消したものとも考えられる。また,このような取引の間,Bは,被告人に対して同株のTOB実施の有無を確認する問合せをしていないが,短期的な値動きによる利益を狙ったとすれば,被告人にTOB実施の有無を確認する必要はなく,また,それまでにも,Bは,自らの判断で株取引を行っていたことからすれば,上記事実は,被告人からBにTOB情報が伝達されたことと矛盾するものではない。  弁護人は,同日の取引が全て指値で行われたことから,Bが行った取引の経過によれば,TOBの公表時期及び価格を知っていたとは考えられないと主張する。 しかし,前記のとおり,Bは,D株のTOB価格までは聞いていなかった旨証言している上,Bが行った取引の巧拙は,被告人からTOBの情報伝達を受けていたか否かとは別個の問題であって,Bの取引が,TOBの公表時期を知っていた者の取引として,あり得ないものとはいえない。  以上によれば,弁護人の前記主張は,いずれも採用できない。 エ弁護人は,B方で発見されたD社に関する会社四季報のコピーは,D社のインサイダー情報の伝達に関連して,被告人が交付したものではなく,Lの不動産案件に関して渡したもの は,いずれも採用できない。 エ弁護人は,B方で発見されたD社に関する会社四季報のコピーは,D社のインサイダー情報の伝達に関連して,被告人が交付したものではなく,Lの不動産案件に関して渡したものであると主張する。 しかしながら,会社四季報は,株式投資のための会社の基礎情報を取得するために参照するのが通常である。また,Hも,公判廷において,D社かどうかは記憶にないが,会社四季報を被告人から受け取り,Bが株取引を行っていたので,同人に渡した旨証言する。さらに,Hは,D社は,Lの不動産売買の案件の売却先の候補 の一つとして名前が挙がったが,この案件は,10年以上前から手掛けていたものであるが,六,七年前にいったん頓挫したと証言する。Hの上記証言は,内容に不自然な点がなく,同人と被告人との関係に照らしても信用できるものであるところ,これによれば,時期的にみても,前記の会社四季報のコピーが,Lの案件に関連して被告人からBに渡ったものとみることはできない。 よって,弁護人の上記主張も,理由がない。 3 M株について⑴ 前提となる事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められ,被告人及び弁護人も争っていない。 ア A証券投資銀行本部第五投資銀行部のNは,同本部第六投資銀行部で株式会社Mを担当していたOから,M社の社長がMBOを行う意向がある旨の報告を受け,平成23年3月28日午前9時から午前9時30分の間に開かれたフェグミーティングにおいて,被告人に対し,その旨報告した。被告人は,同会議の席上配布された同月25日付けの「1.案件概要」などと記載された資料に「M社 MBO」と赤ペンで記入した。 イ Bは,同日午前9時27分と午前11時37分の2回,被告人に携帯電話のショートメールを送信した。被告人は,同日午後0時52分,Bに電話を架け 載された資料に「M社 MBO」と赤ペンで記入した。 イ Bは,同日午前9時27分と午前11時37分の2回,被告人に携帯電話のショートメールを送信した。被告人は,同日午後0時52分,Bに電話を架け,同日午後1時13分から午後4時56分にかけて4回にわたり,Fに電話を架けた。 同日,Fは,インターネットで「Yahoo!ファイナンス」のウェブサイトにアクセスし,M株のウェブページを印刷した。 ウ Bは,同日又は同月29日,FにM株の購入を指示した。Fは,同月29日,M株の買付けを開始し,同月30日から同年4月1日にかけて,連日同株の買付けを行った。 エ被告人は,同月4日から同月27日にかけて4回にわたりA証券で開催されたフェグミーティングにおいて,NからM株のMBO案件の進捗状況について報告を受けた。 オ Fは,同月4日から同月27日にかけて,M株を買増しした。 カ Bは,同月頃,Fに対し,「もしM株を買った理由を聞かれたら,M社は香港や上海に上場するつもりなので,将来的にMBOになるかと思ったと言ってくれ。」と伝えた。 キ被告人は,同年5月9日に開催されたフェグミーティングで,Nから,M社の社長がファンドを使わない意向である旨の報告を受け,同日付けの配布資料に,「DebtMBO」と記入した。その後,ファンド対応担当のNは,M社のMBO案件に関わらなくなり,フェグミーティングでも,M株に関する報告はしばらくなかった。 ク Fは,同月27日,M株を買増ししたが,その後同年7月20日までの間は,同株の買付けをしなかった。 ケ Oは,同月14日に開催されたフランチャイズミーティングにおいて,同年9月2日に,M株のローンチ(MBO実施の公表)の実現可能性が高まったなどと報告した。被告人は,同会議に出席していなかったが,同日中に ,同月14日に開催されたフランチャイズミーティングにおいて,同年9月2日に,M株のローンチ(MBO実施の公表)の実現可能性が高まったなどと報告した。被告人は,同会議に出席していなかったが,同日中に,秘書を介して,席上配布された同日付けのバックログを含む資料を受け取った。上記バックログには,M株のMBO案件の収益の確度欄に「A」と記載され,被告人が赤ペンでチェックを入れたほか,別の資料には,同株の案件について「9/2発表に向けて準備中」などと記載されていた。 コ同年7月19日午前9時30分から午前10時にかけて,フェグミーティングが開かれ,同日午後1時,被告人は,A証券投資銀行本部補佐のPと会った。被告人は,いずれかの会合で,Pから,M株の件でG銀行がローン契約を受任できることになったとの報告を受け,同日付けの配布資料に,「M社 FATOB ローン」と記入した。 サ Bは,同日午前10時23分から午後2時1分にかけて3回にわたり,被告人に携帯電話のショートメールを送信した。同日午後2時4分,被告人は,Bに対し,証券取引等監視委員会を出たら電話を架ける旨のメールを送信した。同日午後 4時18分,被告人は,Bに電話を架け,同日午後4時54分,Bは,Fに電話を架けた。 シ Fは,同月20日,M株の買付けを再開した。同年3月29日から同年9月2日にかけてFが買い付けた同株は,合計247株に上った。 ス同年7月25日,M株の公開買付けの主体として設立された株式会社QとA証券との間で,同株のMBOに関するアドバイザリー業務委託契約が締結された。 セ Bは,同年9月2日午前9時11分及び午後0時42分,被告人に携帯電話のショートメールを送信し,被告人は,同日午後1時31分,Bにメールを送信した。この中で,被告人は,「例の発表もあります 。 セ Bは,同年9月2日午前9時11分及び午後0時42分,被告人に携帯電話のショートメールを送信し,被告人は,同日午後1時31分,Bにメールを送信した。この中で,被告人は,「例の発表もありますので」と記載した。 ソ同日,M社は,MBOの実施を公表した。Fは,同月7日までにM株を全て売却し,これにより592万0400円の利益を得た。 ⑵ B証言の内容M株に関して,Bは,公判廷において,概ね次のとおり証言する。 ア私は,被告人から,M株のMBOが実施されると聞いて,同株を買い付けた。 私は,被告人から同株のMBO情報を聞くまでは,M社という会社を知らなかった。 イ私は,平成23年3月28日午前9時27分と午前11時37分に,被告人の携帯電話に,電話をしてもらいたいという趣旨で,ショートメールを送った。同日午後0時52分に,被告人から電話をもらい,融資の焦げ付き案件の話をした。 その際,被告人は,M株がMBOになり,株価が約3割上がると言ってきたと思う。 私から被告人に対し,同株のインサイダー情報を教えてくれと頼んだことはなく,被告人からこの話を切り出してきた。焦げ付き案件の進捗状況が私を納得させるものではなかったので,被告人は,私にインサイダー情報を教えたのだと思う。 私は,被告人と通話した後,同日午後1時13分から午後4時56分までの間に,Fに4回電話を架け,M株を買うように指示したと思うが,もしかすると,電話ではなく,Fの事務所に行って,直接買付けを指示したかもしれない。 ウ私は,同月29日から同年4月27日まで,F名義でM株を買い続けた。私 は,R株を空売りしていたが,その株価が上がったため,信用保証金の余力がなくなったことから,M株の買付けをいったん中断した。 エその後,同年7月19日午後4時18分に,私は,被告 続けた。私 は,R株を空売りしていたが,その株価が上がったため,信用保証金の余力がなくなったことから,M株の買付けをいったん中断した。 エその後,同年7月19日午後4時18分に,私は,被告人から電話をもらい,焦げ付き案件の話をしたが,被告人は,M株のMBOはそのまま実行されると言ってきた。私は,その頃には信用保証金の余力が回復していたので,同日午後4時54分にFに電話を架け,同株を買うように指示し,同月20日から買付けを再開した。 オ M株のMBOの公表日については,いつ聞いたかはっきり記憶していないが,公表の前には間違いなく被告人から聞いていた。私は,インサイダー情報に関しては,一切メールをしないように被告人に言っていたが,被告人は,同年9月2日,私の携帯電話に,今日の午後に例の発表があるなどと,M株のMBOの発表を意味するメールを送ってきた。 カ被告人は,証券会社からヒアリングを受けた場合に備えて,M株を買った理由について模範回答を教えてくれた。その内容は,M社が日本で上場を廃止して,中国や香港で再上場すると聞いたので,MBOになると予想したなどというもので,被告人は,このもっともらしい理由を書面に書いて,私にくれた。私が模範回答をもらったのは,同年8月か同年9月2日のMBOの公表の後か,はっきりしない。 私は,被告人から聞いた上記の模範回答をFに伝えた。 ⑶ B証言の信用性ア前記の前提となる事実によれば,被告人がA証券のフェグミーティングにおいてM株のMBO案件についての報告を受けた時期と,Fが同株を買い付けた時期が,極めて近接していることが認められる。すなわち,被告人は,同年3月28日のフェグミーティングにおいて,NからM社がMBOを企画中である旨の報告を受けると,同日,Fがインターネットの「Yahoo!ファ 極めて近接していることが認められる。すなわち,被告人は,同年3月28日のフェグミーティングにおいて,NからM社がMBOを企画中である旨の報告を受けると,同日,Fがインターネットの「Yahoo!ファイナンス」のウェブサイトでM株について調べ,そのページを印刷し,翌29日に,同株の買付けを行っている。また,同年4月4日から同月27日にかけて,Nが被告人に同株のMBOの 進捗状況を報告したのと並行して,同じ期間に,Fは,同株を買い付けている。他方,同年5月9日のフェグミーティング以降,Nから被告人への同株のMBO案件の報告が途絶えると,Fも,同月28日以降,同株の買付けを中断している。そして,同年7月14日及び同月19日のフェグミーティングにおいて,被告人が同株のMBO案件が進展しているとの報告を受けると,同月20日に,Fが同株の買付けを再開している。 そして,Bは,同年3月29日からのM株の買付けの開始及び同年7月20日からの同株の買付け再開について,いずれも被告人からの情報提供を契機とするものである旨証言しているのであって,被告人が同株のMBO情報に接した時期とFによる同株の買付けの時期が近接している理由を,合理的に説明している。また,Bの供述する被告人からB,BからFへの同株のMBO情報の伝達は,いずれも携帯電話の通話履歴によって裏付けられており,この点においても,Bの前記証言の信用性は高い。 イ加えて,被告人がBに「例の発表もありますので」などというメールを送信した同年9月2日に,M社は,MBOの実施を公表している。上記のとおり,被告人がM株のMBO情報を取得するのと並行して,BがF名義での同株の取引を行っている経過と併せると,「例の発表」がM社のMBOの実施の公表を意味することは明らかであって,これによっても,Bの証言は 告人がM株のMBO情報を取得するのと並行して,BがF名義での同株の取引を行っている経過と併せると,「例の発表」がM社のMBOの実施の公表を意味することは明らかであって,これによっても,Bの証言は裏付けられている。 ウさらに,M株の購入理由について証券会社からヒアリングを受けた場合に備えて,被告人が模範回答を教えてくれた旨のBの証言についても,同月28日に,実際にB方から模範回答を記した書面が発見されたことと整合している。 エ加えて,Bは,M株については,D株のインサイダー取引の被疑事実で勾留されている間に,検察官に対して,自ら進んで,銘柄名は思い出せないが,家具屋もインサイダー取引であるなどと供述して,余罪であるにもかかわらず,M株のインサイダー取引について自白したと証言する。Bは,このように余罪を自ら認めた理由について,検察官から,捜査資料の一部として,当時の被告人のメールなどを 見せられ,被告人から聞いていた事情とは異なる多くの事実が出てきたため,このまま被告人に付き合って否認するよりも,全部認めたほうがよいと思った旨証言している。このように,M株については,Bがインサイダー取引である旨,自発的に供述したものであり,その自白に至った理由に不自然な点はなく,このような供述経過に照らしても,Bの上記証言の信用性は高いといえる。 オ以上によれば,Bの上記証言は,十分信用することができるから,同年3月28日,被告人がBに対しM株の重要事実を伝達したことが認められる。 ⑷ 弁護人の主張についてア弁護人は,MBOの公表日よりも余り早く株を購入すると,MBOの公表までの間に株価が下がり,期待した利益を得られないおそれがあるから,MBOの公表が約6か月も先であるのに,被告人がBに対しM株の買付けを勧めたなどというBの証言は,そ く株を購入すると,MBOの公表までの間に株価が下がり,期待した利益を得られないおそれがあるから,MBOの公表が約6か月も先であるのに,被告人がBに対しM株の買付けを勧めたなどというBの証言は,それ自体不自然・不合理であると主張する。 しかしながら,この点について,Bは,MBOの公表の直前になってその事実を知ったとしても,短期間で大量の株を購入すれば,株価がストップ高となってしまう可能性がある上,証券会社からヒアリングを受ける危険性も高まってしまい,多くの株を買い付けることができないので,むしろ,前もって重要事実を伝達してもらってよかった旨証言しており,この説明自体,合理性を有している。また,後記のとおり,被告人からBへのインサイダー情報の提供が,Bの利得を十分検討した上で行われたものとはいい難いことからしても,弁護人の上記主張は,当を得たものではない。 イ加えて,弁護人は,被告人からM株のインサイダー情報の伝達を受けたというBの証言によれば,確実にもうかるMBO案件である同株について,平成23年5月28日から同年7月19日まで,Bが買付けをしていないのは不自然であると主張する。 しかしながら,Bは,この点について,上記の期間中は,R株の空売りにより,信用保証金の余力がなくなっていたため,取引ができなかった旨,その理由を合理 的に説明している。加えて,この点については,前記のとおり,上記の期間中,被告人がA証券社内においてM株の進捗状況について報告を受けていなかったため,Bも被告人から同株についての追加的な情報を得られなかったことも,影響していたと考えられる。 よって,弁護人の上記主張も理由がない。 ウさらに,弁護人は,例の発表がある旨の前記メールについて,被告人は,BがM株を購入したかどうかを知らされていないのであるか 影響していたと考えられる。 よって,弁護人の上記主張も理由がない。 ウさらに,弁護人は,例の発表がある旨の前記メールについて,被告人は,BがM株を購入したかどうかを知らされていないのであるから,M社のことを「例の」というはずがない上,被告人は,MBOの公表を「ローンチ」又は「公表」というから,「発表」という言葉を使うはずがなく,前記メールは,Sの案件に関する何らかの発表であった旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,被告人は,M株のMBO情報を一度ならず提供しており,被告人において,Bが同株を実際に購入したことを直接確認していなくとも,おそらく購入しているであろうという見込みの下に,同株のMBOの公表を「例の発表」と表現したとしても,不自然とはいえない。 他方,被告人の弁解は,Sの会社関係の何らかの発表であるが「例の発表」の内容を特定し得ないものであって,当時「例の」として理解できたような事柄を,公判に至って特定できないというのは,誠に不合理である。また,A証券社内で使用された資料にも,M株のMBOの公表のことを「発表」と表現したものがあることに鑑みると,公表を「発表」と言わないなどと断定することはできず,被告人の弁解は信用できない。 エ弁護人は,前記の模範回答には,MBOを念頭に置いて株を購入した旨が記載されており,MBO以外の情報源に基づいて株を購入したもっともらしい理由が記載されていないから,模範回答になり得ないばかりか,被告人は,BによるM株の取引時期や投資額を知らないのであるから,模範回答を作成できるはずがないと主張する。 しかしながら,前記の模範回答には,M社の自己資本比率が高く,有利子負債が 少ないことや,香港上場の可能性があるとのうわさがあったことなどを理由に,MBOを予想した旨記載されており,MB る。 しかしながら,前記の模範回答には,M社の自己資本比率が高く,有利子負債が 少ないことや,香港上場の可能性があるとのうわさがあったことなどを理由に,MBOを予想した旨記載されており,MBOが実施されるというインサイダー情報以外の情報に基づいて,MBOが実施されることを予想したとの説明がされているのであるから,模範回答として不合理な内容ではない。また,前記の模範回答の内容は,M株がMBOになることを予想した理由を書いているにすぎず,同株をいつ何株買い付けたかといった情報を得ていなくても作成できるものである。 よって,弁護人の上記主張にも理由がない。 4 T株について⑴ 前提となる事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められ,被告人及び弁護人も争っていない。 ア Bは,平成23年4月27日午前9時37分から同日午前11時55分にかけて3回にわたり,被告人に携帯電話のショートメールを送信した。被告人は,同日午前11時20分と同日午後0時8分の2回,Bに電話を架けた。 イ被告人は,同日午後1時30分からA証券で開かれたフェグミーティングにおいて,Nから,G銀行からT株式会社にMBOを提案しているなどと報告を受けた。被告人は,同会議の席上で配布された資料に記載された「T社(6749)」という文字に,赤ペンで下線を引いた。 ウ被告人は,同日午後1時58分,インターネットのヤフーファイナンスのウェブサイトで,T社について検索した上,そのページを印刷し,赤字で「提案中(野村,NIKKO)」「FA内定」と記入した。 エ Bは,同月28日午前9時7分と午前9時55分,被告人に携帯電話のショートメールを送信した。被告人は,同日午後0時50分と午後0時57分,Bに電話を架けた。同日午後2時41分,Bは,Fに電話を架けた。 ,同月28日午前9時7分と午前9時55分,被告人に携帯電話のショートメールを送信した。被告人は,同日午後0時50分と午後0時57分,Bに電話を架けた。同日午後2時41分,Bは,Fに電話を架けた。 オ被告人は,同年5月2日午後0時45分,Bに電話を架けた。同日午後1時1分,Bは,Fに電話を架けた。 カ Fは,同月4日,インターネットのヤフーファイナンスのウェブサイトで, T社について検索した上,これを印刷したほか,同社の会社案内及び投資家情報についても検索し,それぞれのウェブページを印刷した。 キ Bは,同月上旬頃,Fの事務所を訪れ,同人に対し,「もし電話でT社を買った理由を聞かれたら,地デジ化で今アンテナを買い替えるから,アンテナメーカーではトップだから,まだまだ伸びる,株価も四,五倍,2000円くらいまで上がると思ったと言え。」と指示をした。 ク Nは,同月16日午前9時からA証券で開かれたフェグミーティングにおいて,被告人に対し,T社のオーナーからFA(フィナンシャルアドバイザー)の内諾が取れたなどと報告した。 ケ Bは,同日午前9時32分と午前11時5分,被告人に対し,携帯電話のショートメールを送信した。被告人は,同日午前11時13分,Bに電話を架けた。 コ Bは,同日又は同年6月1日,Fに対し,T株の買付けを指示した。Fは,同年6月1日,T株の買付けを開始し,同日に5100株,同月2日に2000株を,それぞれ買い付けたが,同日以降同月27日までは,買付けをしなかった。 サ同月20日,T株の公開買付けの主体として設立された株式会社UとA証券との間で,同株のMBOに関するアドバイザリー業務委託契約が締結された。 シ被告人は,同月27日午前9時から午前9時30分までの間,A証券において開催されたフェグミー 設立された株式会社UとA証券との間で,同株のMBOに関するアドバイザリー業務委託契約が締結された。 シ被告人は,同月27日午前9時から午前9時30分までの間,A証券において開催されたフェグミーティングに出席した。 ス Bは,同日午前9時5分,被告人に携帯電話のショートメールを送信した。 被告人は,同日午前11時50分,Bに電話を架けた。Bは,同日午後0時5分,Fに電話を架けた。 セ Fは,同日午後0時18分から,T株を1700株買い付け,さらに,同日から同年7月22日にかけて,同株を買い増しした。 ソ Bは,同月25日午前8時51分,被告人に携帯電話のショートメールを送信した。Bは,同日午前8時58分,Fに電話を架けた。被告人は,同日午前9時4分,Bに電話を架けた。 タ被告人は,同日午前9時頃から開かれたフェグミーティングにおいて,Nから,T株のMBOの実施は同月29日に発表される予定であるなどと報告を受けた。 被告人は,同会議の席上で配布された資料のうち,T社のMBOの実施時期として記載された「7/29」の部分に,赤丸を付けた。 チ被告人は,同日午前10時7分,Bに電話を架けた。Bは,同日午後1時17分,Fに電話を架けた。 ツ Fは,同月26日午前8時59分,T株の買付けを再開した。同年6月1日から同年7月29日までにFが買い付けた同株は,合計6万6900株に上った。 テ同日,T社は,MBOの実施を公表した。Fは,同年8月4日,前記6万6900株を全て売却し,これにより2799万1600円の利益を得た。 ト同年8月18日,E証券がFに対し,T株の購入理由を尋ねたところ,Fは,地デジ化対応の期限を迎えるため,関連企業としては有望であると考えていたが,公開買付けの対象になるとは思わなかった,TOB情報を知った 月18日,E証券がFに対し,T株の購入理由を尋ねたところ,Fは,地デジ化対応の期限を迎えるため,関連企業としては有望であると考えていたが,公開買付けの対象になるとは思わなかった,TOB情報を知ったのは,日経新聞の記事だったので,公表日の翌日の同年7月30日であったと思う旨説明した。 ⑵ B証言の内容T株に関し,Bは,公判廷において,概ね次のとおり証言する。 ア私は,被告人からT株のMBOが実施されると聞いて,同株を買い付けた。 被告人から同株のインサイダー情報を聞くまで,私は,T社という会社を知らなかった。 イ私は,平成23年4月28日午後0時50分と午後0時57分に,被告人と携帯電話で2回通話し,同日午後2時41分に,Fに電話をしているが,これは,被告人と融資の焦げ付き案件の話をして,その際,被告人の方から,T株がMBOになるという情報を教えてくれたので,FにT社について調べるよう指示したものである。同年5月2日午後0時45分に,私と被告人が携帯電話で通話し,その直後の午後1時1分に,私がFに電話を架けているが,これも同様の内容である。 ウ私は,同年5月のゴールデンウイーク前後に,T株のMBO情報を聞いてい たが,その当時,R株の空売りにより信用保証金の余力がなかったため,すぐにT株を買い付けることができず,同年6月1日になってようやく,同株をF名義で買い付けた。 エ私は,同月27日午前11時50分に被告人と携帯電話で通話した際,焦げ付き案件の話のほか,被告人からT株のMBOの計画が順調に進んでいると聞いた。 その頃には,私の信用保証金の余力が回復していたので,私は,被告人と電話をした直後にFに電話を架け,同株をどんどん買い付けるように指示し,同日から同株を本格的に買い付けた。 オ私は,T株の買付けをしている途中 の信用保証金の余力が回復していたので,私は,被告人と電話をした直後にFに電話を架け,同株をどんどん買い付けるように指示し,同日から同株を本格的に買い付けた。 オ私は,T株の買付けをしている途中に,証券会社からヒアリングを受けた場合に備えて,被告人から模範回答を教えてもらった。その内容は,アナログから地デジに替わることにより,地デジ関係の製品を取り扱っている同社の株価が上がると予想したなどというものであった。私は,被告人から聞いた模範回答をFに教えた。 ⑶ B証言の信用性ア前記の前提となる事実によれば,被告人がA証券内のフェグミーティングにおいてNからT株のMBO案件の報告を受けた時期と,FがT社の会社情報を調査して同株を買い付けた時期が,近接していることが認められる。すなわち,FによるT株の調査が行われたのは,被告人が初めて同株のMBO案件の報告を受けた同年4月27日の5日後である同年5月2日である上,Fによる同株の買付けも,被告人がフェグミーティングにおいて同株のMBO案件の報告を受けたのと並行して,同月16日の会議の約2週間後である同年6月1日,同月27日の会議の約3時間後,及び同年7月25日の会議の翌日に,それぞれ行われている。 Bの証言によれば,T株の買付けが同年6月1日になったのは,ゴールデンウイーク前後にMBO情報を聞いていたので,すぐにでも買い付けたかったが,R株の空売りにより信用保証金の余力がなかったため,買い付けられなかったというのであり,本格的な買付けを行うのが同月27日になったのは,同日,被告人から同株 のMBO案件の進捗状況を聞き,その頃には,信用保証金の余力が回復していたからであるというのである。このように,Bの証言は,被告人がT株のMBO案件の情報を得た時期と,Fが同株を調査及び買付け のMBO案件の進捗状況を聞き,その頃には,信用保証金の余力が回復していたからであるというのである。このように,Bの証言は,被告人がT株のMBO案件の情報を得た時期と,Fが同株を調査及び買付けを始めた時期が近接している事実と整合している上,被告人からMBO情報を聞いてから本格的な買付けを行うまでの間に日にちがある理由を合理的に説明している。加えて,被告人からBへ,BからFへのT株のMBO情報の伝達に関するBの証言は,携帯電話の通話履歴やFが記録したノートによっても裏付けられており,その信用性は高い。 イまた,Bは,前記のとおり,T株を購入したことに関する模範回答として,被告人から,アナログから地デジに替わることにより,地デジ関係の製品を取り扱っているT社の株価が上がると予想したなどいう理由付けを教えてもらい,Fにその模範回答を教えた旨証言しているところ,前記のとおり,Fも,同年8月18日のE証券によるヒアリングに対して,同趣旨の回答をしている。これによれば,被告人からBへ,BからFへと模範回答が伝達されたと考えられ,被告人から模範回答についても教えてもらったとのBの証言は,十分信用できる。 ウさらに,Bは,T株についても,M株と同様,検察官に対して,自ら銘柄名を挙げて,インサイダー取引であることを自白したものであると証言しているのであり,供述経過からしても,その信用性は高い。 エ以上によれば,Bの上記証言は十分信用することができるから,同年4月28日,被告人がBに対し,T株がMBOになるとの重要事実を伝達したことが認められる。 ⑷ 弁護人の主張についてアこれに対し,弁護人は,M株と同様,T株についても,MBOの公表の3か月も前に同株を買うよう勧めたなどというB証言は,それ自体不自然であるなどと主張する。 しか ⑷ 弁護人の主張についてアこれに対し,弁護人は,M株と同様,T株についても,MBOの公表の3か月も前に同株を買うよう勧めたなどというB証言は,それ自体不自然であるなどと主張する。 しかし,この点についても,Bは,T株がMBOになると直前に教えてもらっても,大量に株を購入できないので,事前に教えてもらってよかった旨証言しており, 株価の急騰を避けつつ,大量に対象株を取得するために一定の期間が必要となるのは,何ら不自然・不合理ではない。 イまた,弁護人は,Bが同年4月27日に,投資すれば確実にもうかるはずのインサイダー情報を得ながら,同年5月30日までの1か月間,T株を買い付けていない点を挙げて,Bの証言は,不自然であると主張する。 しかしながら,この点についても,M株の場合と同様,Bは,R株の空売りによって信用保証金の余力がなくなっていたために,買い控えたと証言しているのであって,その説明自体,合理的な内容である。実際,Bは,M株及びT株とも,信用保証金の余力が回復したとされる同年6月下旬ないし7月中旬頃に,買付けを再開しているのであって,上記の一時的な買控えがあったからといって,何らB証言の信用性は損われない。 5 その他の弁護人の主張について弁護人は,以上のほかにも,次のような点を指摘して,本件3銘柄以外の銘柄を含め,被告人がインサイダー取引の重要事実を伝達するはずがないと主張するので,以下検討する。 ⑴ 弁護人は,被告人がBに対してインサイダー情報を教えるとすれば,V1社やV2社といった,取引高が大きく,大量に購入しても目立つことが少なく,かつ,利益が大きい銘柄を教えたはずであり,これらと比べて条件の悪い本件3銘柄を教えるのは,不合理であると主張する。 しかしながら,後記のとおり,被告人は,Bから被 購入しても目立つことが少なく,かつ,利益が大きい銘柄を教えたはずであり,これらと比べて条件の悪い本件3銘柄を教えるのは,不合理であると主張する。 しかしながら,後記のとおり,被告人は,Bから被告人が依頼して行われた融資が焦げ付いていることを追及されたことを契機として重要事実を伝達している上,Bによるインサイダー取引によって,何ら利益の分配を受けておらず,また,そのような合意もなく,被告人がBがインサイダー取引によって利益を上げていたか否かに関心を払っていた様子すらうかがえないことに鑑みれば,被告人は,主として,融資の焦げ付きに関するBからの追及をかわすために情報提供をしたにすぎず,Bがインサイダー取引によって巨額の利益を確実に得られるかどうかを検討した上で, 銘柄を選んで情報を伝達していなかったとしても,必ずしも不合理とはいえない。 それゆえ,本件3銘柄よりもうかる銘柄があったからといって,何ら前記認定に影響を及ぼすものではない。 ⑵ また,弁護人は,Bが被告人からのインサイダー情報に基づいて購入したとされる銘柄の中には,V3社,V4社及びV5社といった,確実に損をする銘柄が含まれていることを指摘し,被告人がこのような銘柄をインサイダー情報としてBに教えるはずがないから,被告人からの情報伝達はなかったと主張する。 確かに,Bが被告人からインサイダー情報の提供を受けたと証言する銘柄の中には,弁護人が指摘するように,確実に損をするものが含まれている。しかしながら,前記のとおり,被告人がBにインサイダー情報を提供した主たる目的が,融資案件の焦げ付きに関するBからの追及をかわすことにあり,Bのインサイダー取引の結果に関心を払っていなかったことに照らせば,上記のように,損をする銘柄を含む情報を伝達することが,必ずしも不合理とはいえ 件の焦げ付きに関するBからの追及をかわすことにあり,Bのインサイダー取引の結果に関心を払っていなかったことに照らせば,上記のように,損をする銘柄を含む情報を伝達することが,必ずしも不合理とはいえず,被告人による情報伝達の存在を疑わせるものとはいえない。 ⑶ さらに,弁護人は,B方からV6社,V7社,M社及びV8社の各模範回答らしきものが記載された書類(Bの証人尋問調書(第2回公判)末尾添付の資料⑪)が発見されたことについて,V6社は,Bが株を購入していない銘柄であるから,被告人が模範回答を教える必要がないにもかかわらず,この銘柄の模範回答が記載されているということは,BがF以外の第三者の名義で株取引をしていたことの証左であって,Bには被告人以外の情報伝達者がいる疑いがある旨主張する。 確かに,BがV6社の株を購入した事実は認められない。しかしながら,上記書類に記載された模範回答の内容は,当該銘柄をどういった理由で購入したかを説明するものにすぎず,各銘柄を買ったかどうかを確認しなくても,作成できる性質のものである。もともと,被告人は,Bにインサイダー情報を教えた各銘柄について,Bが実際に購入したか否かを何ら確認していないのであり,模範回答を作成するに当たって,この点を確認したという事情も一切うかがえない。被告人は,自分がB にインサイダー情報を教えた銘柄について,Bからいずれ模範回答についての問合せを受けることが予想できたので,Bが購入したか否かを確認せずに回答を作成したと考えることができる。 それゆえ,上記書類にBが購入していない銘柄の模範回答が記載されているのは,何ら不自然ではなく,このことから,BがF以外の名義で株取引をしていたとか,被告人以外の情報伝達者の存在が推認されるといった弁護人の指摘は,論理に飛躍があると い銘柄の模範回答が記載されているのは,何ら不自然ではなく,このことから,BがF以外の名義で株取引をしていたとか,被告人以外の情報伝達者の存在が推認されるといった弁護人の指摘は,論理に飛躍があるといわざるを得ない。 ⑷ 加えて,弁護人は,本件において,被告人とBは,共犯関係にあるとされている以上,B証言には,いわゆる引っ張り込み供述の危険性があり,その証言の信用性は,慎重に検討すべきであると主張する。 弁護人の主張によれば,Bは,被告人以外の第三者から情報の伝達を受けていたが,その者の名前を出さずにかばった上,あえて被告人の名前を出して,本件の一連のインサイダー取引に被告人を引き込もうとしたことになる。しかし,本件において,被告人以外に,同様に証券会社等に勤めていて,インサイダー情報を職務上知り得る立場にある者で,インサイダー情報をBに伝達した者の存在を疑わせる事情はまったく存在しない。加えて,Bの証言によれば,被告人とは,約10年間にわたって,地上げ等の不動産案件を紹介してくれるなどの経済的に深い関係があり,かつ,将来のG銀行というメガバンクの役員候補と目される人物であって,今後関係を維持していけば,Bが利益を上げることができる不動産案件等を紹介してくれるなどして,大きな利益をもたらすことも期待できたというのであるから,Bがそのような利用価値のある被告人を,かばうことこそあっても,無実の罪を着せるとは到底考え難い。 それゆえ,Bと被告人に関する限り,弁護人が指摘するような,いわゆる引っ張り込み供述の危険性は,考慮する必要がないというべきである。 ⑸ 他方,関係各証拠によれば,被告人は,平成23年9月28日に,証券取引等監視委員会が強制調査を開始してから,平成24年6月25日に逮捕されるまで の間,Hらを交えてBと合計 べきである。 ⑸ 他方,関係各証拠によれば,被告人は,平成23年9月28日に,証券取引等監視委員会が強制調査を開始してから,平成24年6月25日に逮捕されるまで の間,Hらを交えてBと合計5回の会合を持っていること,その最初の会合で,被告人とBは,それぞれ同委員会の調査にどのような態度で臨んでいるかについて話したほか,インサイダー取引において,重要事実の第一次情報受領者は処罰されるが,第二次情報受領者は処罰されないことなどについて話し合ったことが認められ,弁護人も,このことを争っていない。弁護人が主張するように,被告人が本件インサイダー取引と無関係であるとすれば,いかにBから要請されたとしても,5回も同委員会の調査に対する対策を話し合う会合に出席する必要性は全くない。加えて,被告人は,上記の会合において,誰からインサイダー情報を聞いたのかと,Bに問い質すことすらしていないというのである。被告人は,本件のインサイダー取引に関与していたからこそ,上記の会合に出席し,Bに問い質すこともなかったと考えるのが合理的であり,この事実は,本件インサイダー取引への被告人の関与を推認させる事情というべきである。 ⑹ したがって,弁護人の前記主張は,いずれも採用できない。 第3 共謀の有無 1 一般に,2名以上の者について犯罪の共同正犯が成立するためには,犯罪を共同して遂行する意思を通じ合うこと(意思の連絡)に加えて,自己の犯罪を犯したといえる程度に,その遂行に重要な役割を果たすこと(正犯性)が必要である。 これを本件についてみると,Bが本件3銘柄の買付行為を実行していることは明らかであるところ,被告人について,インサイダー取引の共同正犯が成立するためには,①Bとの間で,インサイダー取引を行うことについての意思の連絡があること,②被告人が自 買付行為を実行していることは明らかであるところ,被告人について,インサイダー取引の共同正犯が成立するためには,①Bとの間で,インサイダー取引を行うことについての意思の連絡があること,②被告人が自己の犯罪としてこれらの取引を行ったといえるだけの重要な行為を行ったことが必要である。 2 意思の連絡について⑴ 検察官の主張検察官は,①平成21年10月に,被告人がA証券に出向する直前に,被告人とBとの間において,Bがインサイダー取引を行うことについての包括的な意思の連 絡が成立したと主張し,②さらに,被告人とBの間で,本件3銘柄についての重要事実の伝達が行われた時点で,それぞれBが各銘柄のインサイダー取引を行うことについての個別の意思の連絡が成立したと主張する。 ⑵ 包括的意思の連絡について検察官は,A証券に出向する被告人に対し,「もうかる株を教えてくれ。」と言ったところ,被告人が「わかった。」と言って応じたとのBの証言を基に,被告人とBとの間には包括的意思の連絡が成立したと主張する。 確かに,被告人は,G銀行に在籍していた当時から,行内で知り得た上場企業に関するTOB又はMBOの情報をBに提供しており,A証券に出向した後も,ちゅうちょすることなくBにインサイダー情報を提供しているのであって,検察官の指摘も,あながち理由がないとはいえない。 しかしながら,Bの証言は,上記の程度の簡単なものであって,「もうかる株を紹介する」ことが,インサイダー取引の重要事実の伝達を意味するとは限らない上,およそTOBやMBOの行われる銘柄一般について,インサイダー取引の重要事実を伝達する趣旨で,被告人が上記のように簡単に応じたとは,にわかに考え難いところである。 よって,包括的意思の連絡に関する検察官の主張は,採用できない。 ⑶ いて,インサイダー取引の重要事実を伝達する趣旨で,被告人が上記のように簡単に応じたとは,にわかに考え難いところである。 よって,包括的意思の連絡に関する検察官の主張は,採用できない。 ⑶ 個別的意思の連絡についてア被告人がBに対して,本件3銘柄に係る重要事実を伝達したと認められることは,先に認定したとおりであって,被告人は,自らが提供する各銘柄についての重要事実を基に,Bが各銘柄の買付けをして,インサイダー取引に及ぶであろうことを認識した上,それを伝達したと考えられるから,本件3銘柄について,両名の間でインサイダー取引を行うことについての意思の連絡があったことは明らかである。 イこの点について,弁護人は,被告人には,BのV9社及びV10社等の株取引による損失を埋め合わせなければならない理由はなく,動機がないのに,インサ イダー情報の伝達ないし意思の連絡だけが認められるということは,あり得ないと主張する。 前記のとおり,被告人からBに対するインサイダー取引の重要事実の伝達と両者の意思の連絡が認められる以上,被告人の動機がいかなるものであれ,この種の犯罪の成否に直接関わるものではないから,弁護人の主張は失当というべきである。 もっとも,被告人の動機がいかなるものであったかは,後に検討するように,正犯性の要件の存否にも関わってくるので,以下,伝達行為に至る経緯を含め,検討する。 ⑷ 被告人の動機についてアこの点について,Bは,公判廷において,概ね次のとおり証言する。  私は,平成17年頃,Hらと共に被告人と会った際,被告人に「何かもうかるものはないか。」と聞いたところ,被告人から「V9社」と耳打ちされた。その頃,私が被告人に,V9社の株価が上がるかどうか聞いたところ,被告人は,1株6万円ないし7万円の株価が 被告人に「何かもうかるものはないか。」と聞いたところ,被告人から「V9社」と耳打ちされた。その頃,私が被告人に,V9社の株価が上がるかどうか聞いたところ,被告人は,1株6万円ないし7万円の株価が10万円くらいまで上がると言った。私は,平成17年7月13日から同年8月4日にかけて,1株6万円ないし7万円のV9株を,2億8000万円かけて買い付けたが,株価は,1万円ないし2万円下がってしまった。私は,被告人に対し,V9株を売却すべきか意見を求めたところ,被告人が「必ず株価が上がるから,売却しないでくれ。」と言ったので,同株を持ち続けることにした。  同年12月末頃から平成18年1月初め頃にかけて,V9株が連日ストップ安になったため,私は,被告人に対し,なぜ上がると言った株価がこれほど下がるのかと,説明を求めた。被告人は,同年4月25日に,Hを通じて私にG銀行の内部資料をファックスで送ってきたほか,同年9月頃,G銀行のV9社への融資案件に関する内部資料を私に見せて,V9社の株価が上がる根拠を説明してきた。  私は,平成22年3月19日までにV9株を売却したが,その結果,4億円以上の損失を被った。私は,被告人が同株を売らないように助言したために,損失 が拡大したので,被告人に対して,その責任を取ってほしいと伝えた。  被告人は,平成18年11月頃,V10社,V11社,V12社,V13社の各株について,インターネット上の「Yahoo!ファイナンス」のウェブサイトを印刷した資料を持参した上,私に各株のTOBの進捗状況等を説明しながら,各銘柄の株価が上昇すると言った。このため,私は,その資料に被告人から聞いたことを書き込み,同年11月に,4銘柄の株を買い付けた。しかし,平成20年10月ないし11月頃,V10社は上場廃止となり,私は,こ の株価が上昇すると言った。このため,私は,その資料に被告人から聞いたことを書き込み,同年11月に,4銘柄の株を買い付けた。しかし,平成20年10月ないし11月頃,V10社は上場廃止となり,私は,この株取引で4500万円の損失を被った。私は,このことについても,被告人に対し,どう責任を取ってくれるのかと問い質した。 イ Bの上記証言は,証拠上明らかなBの投資行動と整合している上,B方で発見されたG銀行の内部資料の写し等によっても裏付けられており,信用性が高いというべきである。 ウこれに対し,被告人は,公判廷において,概ね次のように供述する。  平成17年6月から7月頃,私は,Bから「元気のいい会社はあるか。」と尋ねられて,V9社の名前を挙げたが,V9社は,MSCB(転換価格修正条項付転換社債)を発行しており,むしろ株価が下がる可能性があったので,私は,買わないようにと言った。MSCBのことは,Bが理解できる内容ではないので,Bには伝えていない。  私は,平成17年9月頃,Bらと会った際,Bから,V9株を買ってしまったが,どうしたらよいかと相談されたが,しばらく様子を見てはどうかと答えた。 私は,V9株を買ってはいけないと,Bに言ってあったので,その株価が下がっても,責任を取る筋合いではないと考えていたが,当時Hと親しくしていたので,Hを助けたいと思い,G銀行の文書をファックスでHに送った。  V10社については,当時いつ破綻してもおかしくないという格付けであったので,私は,V10社の株価が上がるという認識は持っておらず,V9株でBに損失を被らせたことの穴埋めとして,V10株をBに紹介したことはない。V10 社等4銘柄に関する「Yahoo!ファイナンス」のウェブサイトを印刷した資料にある「近々決定年内か」などという書 に損失を被らせたことの穴埋めとして,V10株をBに紹介したことはない。V10 社等4銘柄に関する「Yahoo!ファイナンス」のウェブサイトを印刷した資料にある「近々決定年内か」などという書き込みは,私の字であるが,自分で書いた記憶はない。 エ被告人の上記供述を前提にすれば,Bは,被告人からV9株を買ってはいけないと言われたにもかかわらず,わずか半月ほどの間に2億円を超える大金を投じて,同株を大量に買い付けたことになるが,このような投資の仕方は,常識に照らして著しく不合理である。また,被告人がV9社の業績等に関するG銀行の内部資料をHにファクシミリで送信したことについても,単にHの立場を思いやる気持ちから送ったというのは,G銀行の規律に反してまで行った理由としては,甚だ薄弱であり,到底信用することができない。さらに,V10社が経営破綻する可能性があったとの点についても,前記のとおり,被告人がBにインサイダー取引で確実に利益を得させようと思っていたとは認められないことに照らすと,V10株に関する情報を伝達することがあり得ないとはいえない。そもそも,V10社等4銘柄に関する資料にある書き込みについて,被告人は,自分の字であることを認めながら,自分で書いた記憶はないなどと甚だあいまいな供述をしている。 このように,V9株及びV10株等の取引に関する被告人の公判供述は,いずれも信用できない。 オさらに,Bの証言等の関係各証拠によれば,Bは,平成19年から平成22年にかけて,被告人から依頼されて,W,Xの経営する株式会社Y,Sらにそれぞれ1億円を超える融資をしたが,これらは,いずれも焦げ付いて,期限までに返済されず,Bは,これらの融資先と並んで,被告人に対しても,責任を追及していたこと,特に,平成23年1月頃から,Bは,Sに対する 1億円を超える融資をしたが,これらは,いずれも焦げ付いて,期限までに返済されず,Bは,これらの融資先と並んで,被告人に対しても,責任を追及していたこと,特に,平成23年1月頃から,Bは,Sに対する融資の焦げ付きに関して,何度も被告人を叱責し,見返りを要求していたことが認められる。 カ以上によれば,本件に至る経緯として,被告人は,Bに対して,もうかる株としてV9株を紹介した上,株価が上がるから持ち続けるように勧めたほか,V10社等の4銘柄のTOB又はMBO情報を伝達したこと,Bは,被告人から得た情 報を信用して,これらの株取引を行った結果,V9株及びV10株で多額の損失を被り,被告人の責任を追及していたこと,Bは,被告人から紹介された融資先に対する融資が焦げ付いたことから,被告人に対しても,再三にわたり責任を追及していたことが認められる。そして,被告人は,これらの点に関して,Bからの追及の矛先をかわしたいという思惑から,インサイダー取引の重要事実を含むTOB又はMBO情報を提供していたと考えられる。したがって,被告人には,情報提供をする動機が十分にあったというべきである。 したがって,この点に関する弁護人の前記主張は,理由がない。 3 正犯性について次に,被告人が本件3銘柄のインサイダー取引について,自己の犯罪としてこれらの取引を行ったといえるだけの重要な行為を行ったかどうかを検討する。 ⑴ア前記のとおり,被告人が上記インサイダー取引に関して行った行為は,「M社がMBOになる。」とか,「T社がMBOになる。」といった程度の情報をBに伝えたというものであり,本件3銘柄について,TOB又はMBOが行われるということ,及びその公表の時期等の情報の伝達に限られている。このため,各銘柄の具体的な買付け及び売付けの時期,その株数等の判 に伝えたというものであり,本件3銘柄について,TOB又はMBOが行われるということ,及びその公表の時期等の情報の伝達に限られている。このため,各銘柄の具体的な買付け及び売付けの時期,その株数等の判断は,全てBが自ら行っている。また,Bの証言によれば,本件3銘柄以外に被告人からインサイダー情報の提供を受けた銘柄の中には,自ら株の出来高が少ないなどと判断して,買付けに至らなかった株も相当数あるというのである。このように,Bは,被告人から提供されたインサイダー取引に関する情報を取捨選択した上で取引を行っており,決してこれを鵜呑みにしていた訳ではない。また,Bは,被告人からもたらされた情報に基づいて個々の銘柄の取引の買付けを行ったかどうかやその内容について,事後に被告人に報告したこともなく,被告人も,Bに対してその報告を一切求めていないのである。 さらに,被告人がBに重要事実を伝達した時期は,M株についてはMBOの公表の約6か月前,T株についてはMBOの公表の約3か月前であって,この間の株の 騰落によって,損失が生じたり,MBO自体が中止に至ったりする可能性もあったことを考慮すれば,必ずしも,確度の高い情報が提供されたとはいえない。また,D株については,前記のとおり,BがD社のTOBの公表日である平成23年3月9日当日に行った取引の内容をみても,事前に重要事実の伝達を受けていた者の取引にしては,余りにも拙劣であるところ,これは,Bが証言するように,TOB価格を知らなかったことによるものと考えられる。 このように,被告人からBへの本件3銘柄のインサイダー取引の情報提供は,重要事実の伝達としては,方法においても,内容においても,甚だ不十分なものであったといえる。このことは,本件3銘柄以外に被告人がBにインサイダー情報を提供した銘柄の中に, サイダー取引の情報提供は,重要事実の伝達としては,方法においても,内容においても,甚だ不十分なものであったといえる。このことは,本件3銘柄以外に被告人がBにインサイダー情報を提供した銘柄の中に,取引をすれば確実に損をするものが含まれていたことに照らしても,明らかである。その理由としては,被告人において,前記のとおり,Bに確実に利益を得させようという動機からではなく,主として,融資の焦げ付きの責任追及を逃れるための方便として,情報提供を行っていたという事情があると考えられ,他方,Bにおいても,被告人に前記の程度以上の深い関与を求めると,証券会社の役員である被告人があからさまにインサイダー取引に手を染めることになるので,ためらわれたという事情があるのではないかと推測される。 イ TOB又はMBOといった重要事実は,その公表前には,証券会社の社員等の一部の者にしか知り得ない,極めて保秘性の高い情報であって,これらがインサイダー取引を行うに当たって必要不可欠な情報であり,これらを提供することが同罪を共同で遂行する上で極めて重要であることは,明らかである。しかしながら,一口にインサイダー情報の提供行為といっても,その情報の精度や提供行為の態様には様々なものがあり得るのであって,これを一律に論じることは相当でない。 さらに,金商法が,公開買付者等関係者による当該公開買付け等に係る株券等の買付け等(167条1項)及び公開買付者等関係者からの第一次情報受領者によるその買付け等(同条3項)等を禁止しながら,公開買付者等関係者による重要事実の伝達行為そのものを処罰する規定を置いていないことに鑑みれば,公開買付者等 関係者が第三者に対して重要事実を伝達した場合に,一律に,公開買付者等関係者を第一次情報受領者とのインサイダー取引の共同正犯として処罰する 処罰する規定を置いていないことに鑑みれば,公開買付者等 関係者が第三者に対して重要事実を伝達した場合に,一律に,公開買付者等関係者を第一次情報受領者とのインサイダー取引の共同正犯として処罰することは,法の予定しないところであるといわざるを得ない。結局,公開買付者等関係者についてインサイダー取引の罪の共同正犯が成立するためには,単に重要事実を提供するにとどまらず,実質的に第一次情報受領者と共同して買付けを行ったといえるほどに,重要な役割を果たすことが必要であると解すべきである。 ウこの点に関し,検察官は,被告人が,重要事実の伝達に加えて,Bに対し,D株については,会社四季報の頁をコピーして提供しており,M株及びT株については,いずれもMBOの実施の進捗状況を報告していたことなどを挙げて,被告人がインサイダー取引に積極的に関与していたと主張する。 しかしながら,会社四季報は,公刊物であって,何ら機密性のある資料ではないから,これを提供したことが重要な役割を果たしたことにならないのは明らかである。また,M株やT株のMBOの進捗状況を報告していたことは,それなりに重要な行為といえるが,これらの銘柄については,前記のとおり,当初の情報提供の時期とMBOの公表の時期が離れており,インサイダー情報の精度が低いものであったから,これらの情報をある程度フォローする必要があったのであり,被告人がMBOの進捗状況を報告したことを過大に評価することは相当でない。 したがって,検察官が指摘する点を考慮に入れても,被告人がBに対して行った重要事実の伝達行為が,インサイダー取引を行う上で,必要不可欠なものであったことは否定し得ないものの,これを超えて,被告人が重要な役割を果たしたとはいい難い。 ⑵ア本件3銘柄については,前記のとおり,F名義による取引は ンサイダー取引を行う上で,必要不可欠なものであったことは否定し得ないものの,これを超えて,被告人が重要な役割を果たしたとはいい難い。 ⑵ア本件3銘柄については,前記のとおり,F名義による取引は,全てBの計算で行われ,その損益は,全てBに帰属している。また,Bと被告人との間で,インサイダー取引による利益の分配に関する事前の約束はなく,実際にBが本件3銘柄の取引によって得た利益が1円も被告人に分配されていないことは,証拠上明らかである。そればかりか,被告人は,Bに利益の一部を分配するよう要求したこと もなく,そもそも利益が生じたかどうかにすら関心を示していないのである。このことは,前記のとおり,被告人がBに対し,損をすることが確実な銘柄のインサイダー情報を提供していたことからもうかがえる。 確かに,検察官が指摘するように,インサイダー取引の罪は,金商法所定の買付け行為があれば成立するものであり,これにより利益が発生することを要件とするものではないから,インサイダー取引の罪の共同正犯が成立するには,必ずしも,実際に発生した利益の分配を受けたことを要するものではない。 しかしながら,インサイダー取引が経済的利益の取得を目的として行われるものであることは,金商法が必要的没収・追徴の規定(同法198条の2)を置いていることからも明らかである。それゆえ,被告人がBから本件3銘柄の取引による利益の分配を受けておらず,その利益の帰属に何ら関心を示していないといったことは,被告人にインサイダー取引の罪を自己の犯罪として遂行する上での直接的動機が欠けていたことを推認させる事実であり,被告人の正犯性を否定する方向に大きく働くものというべきである。 イ検察官は,被告人とBが,本件各犯行の前から,経済的に共存共栄を図る関係を築いていたこと,被告人が たことを推認させる事実であり,被告人の正犯性を否定する方向に大きく働くものというべきである。 イ検察官は,被告人とBが,本件各犯行の前から,経済的に共存共栄を図る関係を築いていたこと,被告人が自己の社会的地位を維持し,保身を図る必要があったため,被告人には,Bと共にインサイダー取引を行うことについての固有の動機があったことから,正犯意思が認められると主張する。 確かに,前記のとおり,被告人は,G銀行在職当時から職務上知り得た不動産取引及び株式投資等に関する情報をBに提供し,Bは,資金力を背景に,被告人に紹介されたWらに融資を行ってきたものであり,これらの融資案件の返済が滞ると,被告人は,Bから厳しく責任を追及されてその回収に当たっていたほか,V9株やV10株の株取引でBが損害を被ったことについても責任を追及されていたのである。 このように,両名の関係は,単なる大手銀行の幹部職員と街の金融業者としては異例なほど,経済的に親密な関係であったといえる。被告人は,このようなBとの 関係を背景に,本件3銘柄についてのインサイダー情報の提供に及んだものであるが,これが,Bの株取引や融資の焦げ付きによって生じた損失の穴埋めとしての性質を帯びていたことは否定できないとしても,その主たる動機が融資の焦げ付き案件等に関するBの責任追及から逃れることにあったことは,既に認定したとおりである。このことは,Bが融資案件の焦げ付きや株取引によって被った損失の額が,本件3銘柄を含む一連のインサイダー情報の提供によりBが得た利益の額をはるかに上回り,両者が対価関係にあったと認められないことからも明らかである。したがって,被告人が上記のような動機を有していたことから,正犯性を認めるのは,困難であるといわなければならない。 ウなお,検察官は,被告人が,本件 にあったと認められないことからも明らかである。したがって,被告人が上記のような動機を有していたことから,正犯性を認めるのは,困難であるといわなければならない。 ウなお,検察官は,被告人が,本件3銘柄のインサイダー取引について,いわゆる模範回答を作成してBに提供したり,証券取引等監視委員会による強制調査が実施された後に,Bらと口裏合わせをしたりしたことも,被告人の正犯性を裏付ける事情であると主張する。 しかしながら,これらは,前記のとおり,被告人とBとの間にインサイダー取引を行うことについての意思の連絡があったことを推認させる事情ではあるが,被告人の正犯性を裏付けるものとはいえない。 ⑶ 以上によれば,被告人は,本件3銘柄のインサイダー取引について,Bに重要事実を伝達したものの,自己の犯罪を犯したといえる程度に,重要な役割を果たしたとはいえない。よって,被告人とBとの間で,共同正犯の成立は認められない。 第4 教唆犯の成否 1 被告人の行為の教唆への該当性について⑴ 前記のとおり,Bは,被告人がG銀行に在籍していた当時から,上場企業のTOB又はMBOに関する情報を提供されては,これらの銘柄の株式を買い付けていたものであり,被告人がA証券に出向して,公開買付者等関係者の地位を取得した後も,引き続き被告人から当該企業の上記情報の提供を受けて,一般的にインサイダー取引を行う意思を有していたと認められる。しかしながら,前記のとおり, Bは,被告人から本件3銘柄に関するTOB又はMBOの情報の提供を受けて初めて,これらのTOB又はMBOが行われることを知り,株取引を開始したものであって,Bは,本件3銘柄について,被告人から重要事実を伝達されなければ,およそインサイダー取引を行うことは不可能であったと認められる。 一般に,教唆とは 行われることを知り,株取引を開始したものであって,Bは,本件3銘柄について,被告人から重要事実を伝達されなければ,およそインサイダー取引を行うことは不可能であったと認められる。 一般に,教唆とは,正犯者に特定の犯罪を実行する決意を生じさせることをいうが,インサイダーの罪については,特定の公開買付等事実ごとに犯罪が成立すると解され,インサイダー取引の罪について教唆犯が成立するためには,特定の銘柄の公開買付等事実に基づく取引について,具体的に決意を発生させることが必要である。 これを本件についてみると,Bは,本件3銘柄について被告人から重要事実を伝達される前は,せいぜいインサイダー取引を行う一般的傾向を有していたにすぎず,具体的な犯行を決意し得なかったものであり,被告人から重要事実の伝達を受けて初めて,当該銘柄のインサイダー取引を実行する具体的な決意を固めたものと認められる。 したがって,被告人による本件3銘柄の重要事実の伝達は,金商法167条3項の罪の教唆に該当するというべきである。 ⑵ なお,検察官は,予備的訴因において,M株及びT株については,これらの銘柄のMBOが実施される旨の当初の情報伝達行為に加え,これらの銘柄のMBOの進捗状況に関する情報提供を含む一連の行為が,Bのインサイダー取引の教唆に当たると主張する。 しかしながら,Bは,前記のとおり,被告人からの当初の情報提供によって,各銘柄についてのインサイダー取引の実行を決意したものであって,その後のMBOの進捗状況に関する被告人からの情報提供は,具体的な買付けの契機となるものを含んでいたとしても,既に生じていた包括的なインサイダー取引の犯意をより強固にしたものにすぎないというべきである。 したがって,当裁判所は,これらの当初の情報提供行為のみが,それぞれのイン サ 含んでいたとしても,既に生じていた包括的なインサイダー取引の犯意をより強固にしたものにすぎないというべきである。 したがって,当裁判所は,これらの当初の情報提供行為のみが,それぞれのイン サイダー取引の罪の教唆に当たると判断した。 2 金商法167条3項の罪の教唆犯の可罰性についてこの点について,弁護人は,金商法上,公開買付者等関係者による情報伝達行為は不可罰であるから,被告人に同法167条3項の教唆犯が成立することはないと主張するので,以下,検討する。 ⑴ 弁護人は,要するに,判例(最判昭和43年12月24日刑集22巻13号1625頁及び最判昭和51年3月18日刑集30巻2号212頁)によれば,法が必要的共犯の一方のみを処罰し,他方を処罰する規定を置いていない場合には,他方については不可罰と解すべきであって,この論理は,純粋な対向犯以外の場合であっても妥当するところ,金商法167条3項の取引については,構成要件上,公開買付者等関係者による情報伝達行為が当然に予想されるばかりか,むしろ必要不可欠な関与行為であるにもかかわらず,同法は,これを処罰する規定を置いていないのであるから,これを不可罰とする趣旨であると解すべきであって,同項の教唆犯ないし幇助犯として処罰することは許されないというのである。 ⑵ しかしながら,弁護人が指摘する判例のうち,前者は,弁護士法違反の事案について,ある者が弁護士でない者に対して法律事件を依頼し,弁護士法に違反して,いわゆる非弁活動を行わせた場合について,弁護士法が弁護士でない者に対して報酬を与えるなどの行為をした依頼者を処罰する規定を置いていないことから,その依頼者を弁護士法違反の罪の教唆犯として処罰することはできない旨を判示したものであり,後者は,いわゆる導入預金の事案について,預金等に関する 行為をした依頼者を処罰する規定を置いていないことから,その依頼者を弁護士法違反の罪の教唆犯として処罰することはできない旨を判示したものであり,後者は,いわゆる導入預金の事案について,預金等に関する不当契約に関する法律には,預金者又は媒介者と通じた特定の第三者については,その者自身が媒介者となる場合を除いて,これを処罰する規定がないことから,特定の第三者が預金者又は媒介者と通じたことの内容が,一般的には,これらの者との共謀,教唆,又は幇助に当たる場合であっても,特定の第三者を預金者又は媒介者の共犯者としては処罰しない趣旨である旨判示したものである。これらの判例は,弁護士法あるいは預金等に関する不当契約に関する法律という個々の法律の立法趣旨に即 して,特定の行為の相手方を教唆犯あるいは共同正犯,幇助犯として不可罰である旨判示したにとどまり,およそ一般的に,法が特定の行為の一方を処罰する規定を設けている場合に,その相手方が共犯者として不可罰である旨判示したものでないことは明らかである。 ⑶ そもそも金商法がTOB等に関するインサイダー取引を規制した趣旨は,公開買付者等関係者は,一般投資家が知り得ない会社内部の特別な情報に接することができることから,このような立場にある者が,職務上知り得た情報を利用して株取引を行った場合には,一般投資家に比べて著しく有利になり,そのような取引は極めて不公平であることに加え,このような不公正な取引を放置すると,証券市場の公正性と健全性が損なわれ,ひいては,証券市場に対する一般投資家の信頼が失われることから,このような不公正な取引を防止することにあると考えられる。このようなインサイダー取引の典型が,公開買付者等関係者が公開買付け等に関する重要事実を知って,自ら取引を行う場合であって,金商法は,167条1項各 うな不公正な取引を防止することにあると考えられる。このようなインサイダー取引の典型が,公開買付者等関係者が公開買付け等に関する重要事実を知って,自ら取引を行う場合であって,金商法は,167条1項各号においてこれを規制しているが,公開買付者等関係者が自ら取引をしない場合であっても,第三者に情報を提供して,脱法的に第三者に取引を行わせる場合があり得るほか,公開買付者等関係者から重要事実の伝達を受ける者は,公開買付者等関係者と何らかの特別な関係があると考えられ,そのような重要事実の伝達を受けた者が取引を行った場合にも,公開買付者等関係者が自ら取引を行った場合と同様,証券市場の公正性が害されるから,証券市場に対する一般投資家の信頼を保護する見地から,同条3項において,公開買付者等関係者からインサイダー情報の伝達を受けた第一次情報受領者による取引も禁止の対象としている。このように,同条3項の規制は,同条1項各号の規制を補完し,上記のインサイダー規制の趣旨を徹底することを目的としたものと理解することができる。 ⑷ 次に,インサイダー取引の罪の共犯の処罰の在り方を検討すると,金商法上,公開買付者等関係者が重要事実を伝達するなどの方法により,同法167条3項の身分を持つ者の取引に関し,自己の犯罪を犯したといえる程度に重要な役割を果た した場合には,同条1項各号の共同正犯として処罰されることは明らかであって,弁護人もこの点を争っていない(その場合に,検察官の当初の訴因のように,同条1項各号の共同正犯が成立し,第一次情報受領者については刑法65条1項が適用されるのか,検察官の変更後の訴因のように,公開買付者等関係者には金商法167条1項各号が,第一次情報受領者には同条3項がそれぞれ適用されるのかが問題となるが,当裁判所の認定しない事実を前提とする議 されるのか,検察官の変更後の訴因のように,公開買付者等関係者には金商法167条1項各号が,第一次情報受領者には同条3項がそれぞれ適用されるのかが問題となるが,当裁判所の認定しない事実を前提とする議論であるので,立ち入らないことにする。)。 上記のような一般投資家の信頼保護の見地からインサイダー取引の規制の徹底を図ったという同条3項の趣旨からすれば,公開買付者等関係者が自己の犯罪を犯したといえる程度に,第一次情報受領者によるインサイダー取引に重要な役割を果たした場合に至らなくても,公開買付者等関係者が第一次情報受領者によるインサイダー取引の犯行を決意させたり,あるいはその犯行を容易にした場合には,証券市場の公正性と健全性を損なうことになり得るという意味においては,同条3項の教唆犯又は幇助犯として処罰する実質的な理由があり,その教唆又は幇助の手段が,重要事実の伝達の方法によるか,それ以外の方法によるかによって,区別すべき理由はないというべきである。 さらに,弁護人が引用する2つの判例は,いずれも,特定の行為の相手方について,教唆,幇助はもとより,共同正犯を含むあらゆる共犯形式による処罰を否定したものと解されるから,共同正犯の可罰性に争いのない金商法167条3項の罪について教唆犯の可罰性を論じるには,適切でないというべきである。 ⑸ 弁護人は,金商法が公開買付者等関係者から第一次情報受領者に対する情報伝達行為そのものを処罰する規定を置いていないことをとらえて,同法は,これを不可罰とする趣旨であると主張する。しかしながら,同法が情報伝達行為を処罰する規定を置いていないのは,公開買付者等関係者が第一次情報受領者に対して重要事実を伝達した全ての場合において,第一次情報受領者が実際に買付け行為を行うとは限らず,買付け行為が行われなかった場合には る規定を置いていないのは,公開買付者等関係者が第一次情報受領者に対して重要事実を伝達した全ての場合において,第一次情報受領者が実際に買付け行為を行うとは限らず,買付け行為が行われなかった場合には,必ずしも証券市場の公正性が 害されるとはいえないことを考慮して,重要事実の伝達行為を一律に処罰するまでの必要性はないと判断したことによるものであって,およそ重要事実の伝達行為に可罰性がないということを意味するものではない。それゆえ,本件のように,公開買付者等関係者が第一次情報受領者に対して重要事実を伝達し,これを受けて第一次情報受領者が実際の買付けを行った場合に,公開買付者等関係者の行為を処罰すべきか否かは,解釈に委ねられているというべきである。 ⑹ 結局,弁護人の前記主張には理由がない。 3 結論以上によれば,被告人は,Bに対し,本件3銘柄の重要事実を伝達して,第一次情報受領者であるBに本件3銘柄の株を買い付けさせたのであるから,被告人には,金商法167条3項の教唆犯が成立する。よって,検察官の予備的訴因に基づいて,判示のとおり認定した。 (法令の適用)罰条別表番号1ないし3の各行為ごとに,いずれも金融商品取引法197条の2第13号,167条3項,刑法61条1項,65条1項刑種の選択いずれも懲役刑及び罰金刑を選択併合罪の処理刑法45条前段懲役刑について刑法47条本文,10条(犯情の最も重い別表番号3の罪の刑に法定の加重)罰金刑について刑法48条2項(別表番号1ないし3の各罪所定の罰金の多額を合計)労役場留置刑法18条(金1万円を1日に換算)刑の執行猶予懲役刑について刑法25条1項(量刑の理由)被告人は,本件犯行当時,証券会社の執 所定の罰金の多額を合計)労役場留置刑法18条(金1万円を1日に換算)刑の執行猶予懲役刑について刑法25条1項(量刑の理由)被告人は,本件犯行当時,証券会社の執行役員という,職務上,保秘性が極めて 高いインサイダー情報を取り扱う立場にありながら,その特別な地位を利用し,その立場上知り得た本件3銘柄のインサイダー情報を伝達するなどして,証券市場の公正性と健全性を大きく損なわせたものであって,その犯行態様は誠に悪質である。 もっとも,被告人は,本件各犯行において,インサイダー情報を提供しているものの,個別の取引に関する指示はしておらず,Bから利益の分配も一切受けていないといった事情もある。しかしながら,こうした事情は,既にみたインサイダー情報の重要性等に鑑みれば,被告人の刑事責任を大きく減じる事情とはいえない。また,被告人は,インサイダー情報を提供しただけではなく,Bが証券会社からインサイダー取引を疑う問合せを受けた場合に備えて,いわゆる模範回答を作成し,さらに,証券取引等監視委員会の強制調査の開始後も,度々Bと会って,口裏合わせに応じるなどしており,犯行後の情状も悪い。 加えて,被告人は,捜査段階から一貫して,不合理な弁解に終始し,反省の態度はうかがえない。また,被告人は,本件各犯行の以前から,職務上知り得たTOB又はMBO情報をBに提供してきたことがうかがえ,大手金融機関の幹部職員としての倫理観が鈍麻していたといわざるを得ない。その他,本件は,証券会社の元執行役員らによるインサイダー事件として大きく報道され,証券市場に対する一般投資家の信頼を大きく揺るがしたものであり,その社会的影響も軽視できない。 以上によれば,被告人の刑事責任は重大であり,その関与の形態が教唆犯にとどまるとはいえ,正犯者 され,証券市場に対する一般投資家の信頼を大きく揺るがしたものであり,その社会的影響も軽視できない。 以上によれば,被告人の刑事責任は重大であり,その関与の形態が教唆犯にとどまるとはいえ,正犯者であるBの刑事責任を下回るものとはいえない。 もっとも,被告人が長年にわたって勤め,幹部職員として嘱望されていた大手銀行から解雇され,既に社会的制裁を受けていることは,被告人のために酌むべき事情である。 その他,正犯者であるBに対する科刑や被告人の利得状況等,諸般の事情も併せ考慮すると,被告人に対しては,主文の刑に処した上,その懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 (求刑懲役3年及び罰金300万円) 平成25年9月30日横浜地方裁判所第3刑事部 裁判長裁判官朝山芳史 裁判官多田裕一 裁判官小 林 真由美

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