平成22(ワ)977

裁判年月日・裁判所
平成26年10月23日 奈良地方裁判所 棄却
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判決文本文22,778 文字)

平成26年10月23日判決言渡し平成22年(ワ)第977号損害賠償請求事件判決 原告ほか2名被告 主文 1 原告3名の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告3名の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨被告は,原告に対し,660万円及びこれに対する平成22年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告に対し,660万円及びこれに対する平成22年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告に対し,2200万円及びこれに対する平成22年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁主文同旨第2 事案の概要 1 原告らは,いずれも,被告の工場において勤務した経験を有する者であり,その勤務中に石綿(アスベスト)粉じんにばく露したため,原告は軽度の石綿肺及び胸膜プラークに,原告は初期の石綿肺,びまん性胸膜肥厚及び胸膜プラークに,原告は良性石綿胸水,石綿肺及びび まん性胸膜肥厚に罹患したなどと主張して,被告に対し,債務不履行(労働契約上の安全配慮義務違反)ないし不法行為責任に基づく損害賠償請求として,原告に対し660万円,原告に対し660万円及び原告に対し2200万円並びに上記各金員に対する訴状送達の日の翌日から民法所定の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実又は証拠若しくは弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。 よる遅延損害金の各支払を求める事案である。 2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実又は証拠若しくは弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。 被告の事業等被告は,明治○年○月○日に設立された,珪藻土その他鉱物岩石の採掘,精製,加工並びにこれら原料,材料若しくは製品の製造及び販売等を目的とする株式会社である。昭和○年に現在の商号に変更する前は株式会社の商号を用いていた。被告は,昭和○町に工場を開設し,同工場において輸入した石綿原料から石綿製品を製造するなどの事業を行っていた。 (争いのない事実,甲A69,弁論の全趣旨)原告3名の勤務各原告は,ぞれぞれ,以下の期間,被告に雇用されて,工場において作業員などとして勤務していた。 ア原告昭和31年9月から昭和31年12月又は昭和32年7月まで(終期について争いがある。)イ原告昭和44年4月から昭和55年2月までウ原告昭和32年3月又は同年6月から昭和33年8月まで(始期について争いがある)(争いのない事実,弁論の全趣旨)石綿に関連する疾患等 ア石綿肺石綿肺とは,石綿粉じんを吸引することによって呼吸細気管支や肺胞に繊維化が生じ,更に進行すると,気腔の不規則な拡張を伴う蜂窩肺の所見を示す疾患である。 イ良性石綿胸水(石綿胸膜炎)良性石綿胸水とは,通常は片肺に少量の胸水が,肺の同じ側や反対側に繰り返し生じる疾患であり,自覚症状として胸痛,発熱,咳,呼吸困難等を生じさせることがある。 ウびまん性胸膜肥厚びまん性胸膜肥厚とは,臓側胸膜の病変であるが,壁側胸膜にも病変が存在し,両者は癒着していることが多い。 エ原発性肺がん原発性肺がんとは,石 じさせることがある。 ウびまん性胸膜肥厚びまん性胸膜肥厚とは,臓側胸膜の病変であるが,壁側胸膜にも病変が存在し,両者は癒着していることが多い。 エ原発性肺がん原発性肺がんとは,石綿粉じんを吸入して肺に沈着した石綿繊維が原因となって発生した肺がんである。 オ中皮腫中皮腫は,中皮細胞の存在する胸膜,腹膜,心膜及び精巣鞘膜に発生する腫瘍である。 カ胸膜プラーク(胸膜肥厚斑,限局性胸膜肥厚)胸膜プラークとは,壁側胸膜に生じる局所的な肥厚である。 (甲A2,弁論の全趣旨) 3 争点各原告の工場における石綿粉じんのばく露の有無被告の債務不履行又は過失の有無各原告に生じた損害の有無及びその金額第3 争点に対する当事者の主張 1 各原告の工場における石綿粉じんのばく露の有無について (原告の主張)原告は,昭和31年9月から昭和32年7月まで,被告に雇用されて,工場においてアルバイトとして勤務していた。 原告は,工場に勤務している間,「テックス」と呼ばれていた場所において,円筒を縦に半分に切ったような形の石綿保温剤を製造する作業に従事し,具体的には,蒸気を当てることによってセメントを練ったような状態にした石綿を,プレス機で押さえつけ,水分を取り除いて圧縮・成型し,これを乾燥室に運んで乾燥させるという作業を行った。その作業のうち,乾燥室では,ボイラーの熱で室内の空気が熱せられていたため,原告が乾燥室の扉を開けると,熱風と蒸気と石綿を含む粉じんが外に吹き出し,一面が真っ白になるという状況であった。原告は,1日に10回程度,乾燥室の奥まで台車を押して入っていた。 このように,原告は,上記作業において,多量の石綿粉じんにばく露していた。 原告は,○に加入して う状況であった。原告は,1日に10回程度,乾燥室の奥まで台車を押して入っていた。 このように,原告は,上記作業において,多量の石綿粉じんにばく露していた。 原告は,○に加入していたことはなく,原告が工場以外で石綿粉じんにばく露したことはない。 (原告の主張)原告は,昭和44年4月から昭和55年2月まで,被告に雇用されて,工場において勤務していた。 ⑵ 原告は,前記⑴の期間のうち昭和45年6月頃から昭和55年2月まで,工場の鉄工工作室に配属され,各種機械のカバーの作製,機械の部品や金型等の修理などの作業に従事し,具体的には,石綿製品の製造現場に赴き,石綿製品の生産に使用する機械の採寸等を行った上で,これら機械に取り付けるカバー等を鉄工工作室において作製し,再び製造現場に赴いて作製したカバー等を取り付けるなどの作業を行っていたほか,アスベスト製品の生産に使用する機械や石綿の材料・製品を運搬する台車等の修理を行っていた。 原告は,これらの作業において,石綿製品の製造現場に飛散している石綿や上記機械や台車等に付着した石綿の粉じんにばく露したものである。 (原告の主張) 原告は,昭和32年3月から昭和33年8月までの間,被告に雇用されて,工場において勤務していた。 原告は,工場の石綿製品の製造工場に配属され,具体的には,①ほぐれた状態で運ばれてきた石綿を袋から取り出し,「ビーター」と呼ばれていた機械に入れ,液体で洗浄した上で乾燥室に運び入れて乾燥させる,②乾燥室に入れた石綿は固い板状になるので,これらの板の端部を規格に合わせて電動のこぎりで切断する,という作業に従事した。 原告は,上記作業において,①の作業の際にほぐれた状態の石綿から飛散する粉じんに,② は固い板状になるので,これらの板の端部を規格に合わせて電動のこぎりで切断する,という作業に従事した。 原告は,上記作業において,①の作業の際にほぐれた状態の石綿から飛散する粉じんに,②の作業の際に板状の石綿を切断する際に飛散する粉じんにばく露したほか,乾燥室に入った際にも飛散していた多量の石綿粉じんにばく露した。 なお,原告は,その勤務時期の就業場所における石綿粉じんの飛散状況について立証するために文書提出命令の申立てを行い,本件文書提出命令が確定したにもかかわらず,被告は本件各文書を提出していないところ,原告が本件各文書の内容について具体的な主張をすること,及び他の証拠により石綿粉じんの飛散状況を立証することは著しく困難であるから,民事訴訟法224条3項に基づき,原告が工場における勤務において石綿粉じんにばく露したことが真実であると認められるべきである。 (被告の主張)原告についてア原告は,昭和31年9月1日に被告に入社し,同年12月末まで勤務していたものである。 イ原告が工場において従事していた作業は石綿含有保温材の製造であ り,その量はともかくとして,原告が石綿粉じんにばく露していたこと自体は争わない。 ウしかし,原告は,昭和32年から昭和34年まで○に加入していた。 そして,昭和30年代においては,○が建設や港湾荷役に関する業務に従事することが多く見られたところ,これらの業務は建材や積荷に含まれる石綿粉じんへのばく露を受けやすいということができるから,原告の○加入歴は石綿粉じんへのばく露を示唆する経歴であるということができる。 なお,原告は,本人尋問において,○加入歴を否定する虚偽の供述をしているが,これは,原告が○に加入していた当時に石綿粉じんにばく露したこ んへのばく露を示唆する経歴であるということができる。 なお,原告は,本人尋問において,○加入歴を否定する虚偽の供述をしているが,これは,原告が○に加入していた当時に石綿粉じんにばく露したことを認識していたから,そのような虚偽の供述を行ったものと考えられ,この点からも○加入時に石綿粉じんへのばく露があったことが推認される。 したがって,仮に原告が石綿関連疾病を発症していたとしても,それが工場における勤務において石綿粉じんにばく露したことによるものとはいえない。 原告について原告が工場において鉄工工作室に勤務していたこと,同勤務における作業内容及び同勤務においてその量はともかくとして石綿粉じんにばく露したことは概ね争わない。 原告についてア原告は,昭和32年6月1日に被告に入社し,昭和33年8月1日に退職したものである。 イ原告は,工場において,「テックス」と呼ばれていた部署でインサルブロックという岩綿製品の製造に従事していたものであり,石綿粉じんにばく露したことはない。 したがって,仮に原告が石綿関連疾病を発症していたとしても,それは工場における勤務において石綿粉じんにばく露したことによるものではない。 2 被告の債務不履行又は過失の有無について(原告3名の主張)海外においては,石綿が有する人の生命及び健康に対する危険性に関し,昭和15年以前から石綿によって石綿肺が発生することが広く知られていた上,第二次世界大戦後も,昭和30年のドールの研究によって石綿と肺がんの発症との関係について,昭和35年のワグナーの研究によって石綿と中皮腫の発症との関係について知見が確立されていた。 日本においても,石綿肺について第二次世界大戦の前から十分な知見が得られており,かつ,第二次 について,昭和35年のワグナーの研究によって石綿と中皮腫の発症との関係について知見が確立されていた。 日本においても,石綿肺について第二次世界大戦の前から十分な知見が得られており,かつ,第二次世界大戦後も石綿肺の研究が進められ,石綿が肺がんや中皮腫の原因になるという知見が紹介されていた。特に,工場においては,第二次世界大戦前において,内務省社会保険局による石綿肺研究の調査対象とされ,多数の労働者が石綿肺に罹患していることが判明していた。 第二次世界大戦後においても,被告の労使からの要望に基づき,昭和27年から工場で健康診断が実施され,工場内で石綿肺が多発していることが明らかになっていた。 これらの事実を考慮すれば,遅くとも昭和31年頃までには,被告において,原告3名が石綿粉じんにばく露することで,各原告3名の健康に重大な影響が生じ得ることを予見できたことは明らかである。 このように,被告は,工場の労働者が石綿粉じんにばく露されることで健康被害が生じる可能性を認識していたところ,日本においても,第二次世界大戦以前から石綿を扱う工場等における除じん,防じん及び換気の必要性が指摘され,第二次世界大戦後には,吸湿(いわゆる湿潤化)や局所排気装置,防じんマスク等の有用性が指摘されていたのであるから,局所排気装置 の設置や清掃等によって石綿粉じんの除去及び飛散の防止を行うこと,防塵マスク等の呼吸用保護具を適正に使用させること,粉じん濃度を測定してその結果に従って適切な改善措置を講じること並びに従業員に対して安全教育及び安全指導を行うことを実施する義務を負っていた。 しかし,被告は,原告3名が勤務している期間において,これらの義務を果たさず,これによって原告3名が大量の石綿粉じんを吸引する結果を招いたのであるから,被告には ことを実施する義務を負っていた。 しかし,被告は,原告3名が勤務している期間において,これらの義務を果たさず,これによって原告3名が大量の石綿粉じんを吸引する結果を招いたのであるから,被告には安全配慮義務違反の債務不履行又は過失がある。 (被告の主張)日本においては,昭和27年に石綿工場における石綿肺の発生状況に関する調査が開始されてから石綿肺に関する医学的な知見が徐々に集積されるようになった。しかし,第二次世界大戦後においては,じん肺対策の中心は遊離けい酸を含有する粉じんの吸入によって発生するけい肺だったのであり,けい肺については,昭和23年1月から調査が行われ,昭和30年にけい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法が制定されたのに比べ,石綿肺に関する知見の集積はこれよりも遅れており,昭和31年から昭和34年に当時の労働省による研究が実施され,ようやく石綿肺に関する医学的知見が概ね集積されたものである。 他方,石綿ばく露と肺がんの発症との関連性については,昭和40年代半ばにおいても,日本における一般的な知見としては未だ不明であるとされていたところであり,昭和46年1月に旧労働省に設置された労働環境技術基準委員会が行った報告によれば,石綿はがん原性物質とは評価されておらず,「常時この濃度以下に保つように勧告されているもの」との評価もされておらず,許容濃度として,石綿肺の発症を予防することを念頭に日本産業衛生協会が勧告している1立方メートル当たり2ミリグラムという数値を採用していたのであり,がん原性物質とは位置づけられていなかった。 また,中皮腫についても,石綿の職業性ばく露によって中皮腫を発症する か否かについて,日本においては,昭和40年代半ば時点でも未だ専門家による検討途上の段階にあったのであり,医学的な知 た。 また,中皮腫についても,石綿の職業性ばく露によって中皮腫を発症する か否かについて,日本においては,昭和40年代半ば時点でも未だ専門家による検討途上の段階にあったのであり,医学的な知見は定まっていなかったものである。 このように,日本においては,昭和31年から昭和34年にかけて労働省労働衛生試験研究が実施された結果,ようやく石綿肺に関する医学的知見が概ね集積されていったのであり,石綿肺に関する医学的知見の確立時期は昭和35年というべきであるから,原告及び原告の就労期間において,被告には予見可能性が認められず,安全配慮義務違反の債務不履行及び過失がないというべきである。また,胸膜プラークに関して言えば,それ自体を重大な疾患ということはできず,予防すべき対象とすら認識されていないのであるから,そもそも予見可能性や安全配慮義務の対象にはならないというべきであって,被告の原告に対する安全配慮義務違反の債務不履行及び過失はない。 3 各原告に生じた損害の有無及びその金額について(原告の主張)原告は,工場における勤務で石綿粉じんにばく露したことにより,軽度の石綿肺及び胸膜プラークを発症した。 これにより,原告には閉塞性換気障害を含む換気不全が生じており,同年齢の人と比較しても坂や階段を上がる際に頻繁に息切れすることを感じているほか,冬には咳や痰の症状がある。 また,胸膜プラークを有する者は,将来,肺がんや中皮腫に罹患する危険性が高いとされているほか,原告は石綿粉じんにばく露したことによって,今後,これ以外にも重篤な石綿関連疾患を発症するのではないかとの不安感を抱いて生活している。 原告のこれらの肉体及び精神的な損害は,金銭的に評価すれば600万円を下らない。また,本件における弁護士費用とし 外にも重篤な石綿関連疾患を発症するのではないかとの不安感を抱いて生活している。 原告のこれらの肉体及び精神的な損害は,金銭的に評価すれば600万円を下らない。また,本件における弁護士費用としては60万円が相当であ る。 (原告の主張)原告は,工場における勤務で石綿粉じんにばく露したことにより,初期の石綿肺,びまん性胸膜肥厚及び石灰化した胸膜プラークを発症した。 これにより,原告には閉塞性換気障害を含む換気不全が生じており,自覚症状として息切れを感じている。 また,原告は,工場における石綿粉じんへのばく露によって,今後,肺がんや中皮腫などの重篤な石綿関連疾患を発症するのではないかとの不安感を抱いて生活している。 原告のこれらの肉体及び精神的な損害は,金銭的に評価すれば600万円を下らない。また,本件における弁護士費用としては60万円が相当である。 (原告の主張)原告は,工場における勤務で石綿粉じんにばく露したことにより,石綿肺,びまん性胸膜肥厚,良性石綿胸水及び胸膜プラークを発症した。 これにより,原告には著しい呼吸機能障害を含む換気不全が生じており,咳や痰が止まらず,呼吸が困難になるとともに息切れが生じることもあるため,日常生活にも支障が出る状態となっている。 原告に対しては,良性石綿胸水を理由とする労災決定がなされており,これは原告が著しい肺機能障害等を負っているからであり,原告は肺機能障害を理由として身体障害等級4級の身体障害者手帳の交付を受けている。 また,原告は,工場における石綿粉じんへのばく露によって,今後,肺がんや中皮腫などの重篤な石綿関連疾患を発症するのではないかとの不安感を抱いて生活している。 原告のこれらの肉体及び精神的な損害は,金銭的に 工場における石綿粉じんへのばく露によって,今後,肺がんや中皮腫などの重篤な石綿関連疾患を発症するのではないかとの不安感を抱いて生活している。 原告のこれらの肉体及び精神的な損害は,金銭的に評価すれば2000 万円を下らない。また,本件における弁護士費用としては200万円が相当である。 (被告の主張)原告についてア原告が石綿肺にり患してるとの主張は否認する。 イ原告に胸膜プラークが発生しているとしても,胸膜プラークは,それによる肺機能の低下は存在しないか,存在するとしても軽微とされており,それ自体が疾患ではない。その症状を有する者の肺がん発症率が上昇するということもない。 石灰化プラークがある場合には肺機能に拘束性換気障害が進行することはあるとされているものの,閉塞性換気障害が生じることがあるとはされていないから,仮に原告に軽度の肺機能障害が生じているとしても,これが胸膜プラークに起因するものということはできない。 したがって,原告に胸膜プラークの発生による損害が生じているとはいえない。 ウまた,原告が石綿粉じんにばく露したことについて,今後,重篤な石綿関連疾患を発症するのではないかという不安感を抱いているとしても,これをもって賠償を求め得る損害ということはできない。 原告についてア原告が石綿肺及びびまん性胸膜肥厚にり患しているとの主張は否認する。 イ原告に胸膜プラークが発症しているとしても,上記のとおりそれ自体が疾患ではない。その症状を有する者の肺がん発症率が上昇するということもない。 原告イのとおり,胸膜プラークは閉塞性換気障害を引き起こすものではないから,仮に原告 に肺の換気機能の低下が存在するとしても,これが胸膜プラークに起因するものというこ うこともない。 原告イのとおり,胸膜プラークは閉塞性換気障害を引き起こすものではないから,仮に原告 に肺の換気機能の低下が存在するとしても,これが胸膜プラークに起因するものということはできない。 原告は,平成21年1月に○歳になるまで,1日60本ほどの喫煙をしていたのであり,仮に原告に肺機能の閉塞性換気障害が生じていたとしても,喫煙によって生じたものと考えるのが妥当である。 したがって,原告に胸膜プラークの発生による損害が生じているとはいえない。 ウまた,原告がアスベスト粉じんにばく露したことについて,今後,重篤な石綿関連疾患を発症するのではないかという不安感を抱いているとしても,これをもって賠償を求め得る損害ということはできない。 原告についてア原告が石綿肺にり患しているとの主張は否認する。 イ原告が主張するびまん性胸膜肥厚については,胸膜肥厚の凹凸不整や腫瘤形成がみられず,縦隔側の胸膜肥厚も認められないこと,原告は片側(右肺)にのみ肥厚があり,胸水の貯留がないスライスで見ると側胸壁の1/2に満たないことからして,びまん性胸膜肥厚ではなく,良性石綿胸水というべきである。 また,びまん性胸膜肥厚の労災認定基準においては石綿ばく露作業への従事期間が3年以上あることが要件とされているところ,そもそも原告は,被告における3年以上の石綿ばく露歴を主張していない。以上によれば,原告が,工場での勤務において石綿粉じんにばく露したとしても,これによってびまん性胸膜肥厚に罹患し,かつ,それが損害として認められる程度のものであるとはいえない。 原告について,肺の換気機能について障害が生じているとはいえないし,仮に何らかの障害が生じているとしても,良性石綿胸水に起因するものとはいえない。原告 られる程度のものであるとはいえない。 原告について,肺の換気機能について障害が生じているとはいえないし,仮に何らかの障害が生じているとしても,良性石綿胸水に起因するものとはいえない。原告の良性石綿胸水は療養を要する程度に至っている ものではない。 ウ原告に胸膜プラークが発症しているとしても,上記のとおりそれ自体が疾患ではない。その症状を有する者の肺がん発症率が上昇するということもできない。 エまた,原告が石綿粉じんにばく露したことについて,今後,重篤な石綿関連疾患を発症するのではないかという不安感を抱いているとしても,これをもって賠償を求め得る損害ということはできない。 第4 当裁判所の判断 1 各原告の工場における石綿粉じんのばく露の有無について以下の事実は,当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実又は証拠若しくは弁論の全趣旨により認められることができる事実である。 ア被告の石綿関係事業被告は,昭和○年に現在の商号に変更する前は株式会社の商号を用いていた。被告は,昭和○町に工場を開設し,同工場において輸入した石綿原料から石綿製品を製造するなどの事業を行っていた。 (争いのない事実,弁論の全趣旨,甲A69)イ各原告の被告での勤務原告は,昭和○年○月生まれの男性である。 原告は,昭和31年9月から同年12月まで,アルバイトとして被告の工場に勤務した。 (争いのない事実,乙Bイ1) 原告は,昭和○年○月生まれの男性である。 原告は,昭和44年4月から昭和55年2月まで,被告の工場に勤務した。 (争いのない事実) 原告は,昭和○年○月生まれの男性である。 原 原告は,昭和44年4月から昭和55年2月まで,被告の工場に勤務した。 (争いのない事実) 原告は,昭和○年○月生まれの男性である。 原告は,昭和32年6月から昭和33年8月まで,被告の工場に勤務した。 (争いのない事実,甲Bオ1,乙Bオ1)各原告の工場における勤務及び石綿粉じんへのばく露の状況についてア原告について 工場におけるばく露について原告が,被告の工場における勤務において石綿粉じんにばく露したことは,その量や程度はともかくとして,被告もこれを認めている。 工場以外でのばく露の可能性について被告は,原告は昭和32年から昭和34年まで○に加入していたところ,昭和30年代においては,○が石綿粉じんにばく露を受けやすい建設や港湾荷役に関する業務に従事することが多く見られたから,原告の○加入歴は石綿の粉じんへのばく露を示唆するものであると主張する。 しかしながら,仮に原告が昭和32年頃から昭和34年頃まで○に加入していたことがあるとしても,それをもって直ちに原告がこれらの時期に石綿の粉じんにばく露したと推認することはできない。 なお,被告は,原告が,本人尋問において,○加入歴を否定する虚偽の供述をしており,これは,原告が○に加入していた当時に石綿の粉じんにばく露したことを認識していたからこそそのような虚偽の供述を行ったものと考えられるとも主張する。確かに,原告は,過去に○に加入していた旨の記述がある陳述書(乙Bイ6)を作成し,別件訴訟の本人尋問において,昭和34年に○と供述する(乙Bイ9)など,○加入歴があることを窺わせる事情がある。しかしながら,仮に,原告に○加入歴があり,原告が○加入歴を本訴の本人尋 )を作成し,別件訴訟の本人尋問において,昭和34年に○と供述する(乙Bイ9)など,○加入歴があることを窺わせる事情がある。しかしながら,仮に,原告に○加入歴があり,原告が○加入歴を本訴の本人尋問で否定したこと が虚偽の供述であったとしても,石綿粉じんにばく露したか否かにかかわらず,○への加入歴があることを明るみにしたくないと考えるのは通常あることであるから,これをもって,原告が○に加入していた当時に石綿の粉じんにばく露したことを認識しているからこそ虚偽の供述をしたなどとは推認することができない。 以上によれば,仮に,原告が○に加入していた事実が存在するとしても,これをもって原告が○としての活動の中で石綿の粉じんにばく露したとはいうことができない。 イ原告について原告が,工場における勤務において石綿粉じんにばく露したことは,その量や程度はともかくとして,被告もこれを認めている。 ウ原告について 工場におけるばく露についてa 原告の主張原告は,工場において製造に従事した製品は石綿製品であり,これによって石綿粉じんにばく露したと主張する。 b 被告の文書提出命令の拒絶以下の事実は,当裁判所に顕著である。 原告3名は,工場においてどの作業場所でどの時期に粉じんが飛散していたかを明らかにするため,被告に対し,工場において就労していた従業員に関する文書のうち,①じん肺管理区分の決定を受けた者に関するじん肺管理区分決定通知書及び職歴票並びにじん肺健康診断に関する記録,②労災認定を受けた者に関する労働者災害補償保険請求書の写し及び同請求書に添付された職歴証明書の写し,及び,③石綿健康手帳の交付を受けた者に関する石綿健康管理手帳交付申請書の写し及び同申請所に添付された職歴証明書の写 に関する労働者災害補償保険請求書の写し及び同請求書に添付された職歴証明書の写し,及び,③石綿健康手帳の交付を受けた者に関する石綿健康管理手帳交付申請書の写し及び同申請所に添付された職歴証明書の写し(以下,まとめ て「本件各文書」という。)等の提出を求める文書提出命令を申し立てた(当庁平成24年(モ)第55号)。当裁判所は,被告に対し,本件各文書の提出を命じる旨の決定(以下「本件文書提出命令」という。)をした。被告は,同決定に対し抗告したものの,抗告が認められず,同決定は確定した(大阪高等裁判所平成25年(ラ)第220号)。しかしながら,被告は,本件各文書を提出しなかった。 c 小括本件においては,原告の就業場所及び作業内容並びに当該作業場所及び作業内容における石綿製品の取扱い状況及び石綿粉じんの飛散状況を認定しうる的確な客観証拠は提出されていない上,既に原告が工場において勤務していた時期から50年が経過しており,原告及びその他関係者の記憶も明確でなくなってきているところがあることが認められる。 ところで,本件各文書は,その記載内容次第では,工場の労働者が就労していた作業場所,作業内容及び工程ごとの石綿関連疾患の発症状況等を比較することにより,工場における石綿の製品の取扱い状況及び石綿粉じんの飛散状況を認定する証拠資料となり得るということができる。 ところが,被告は,本件文書提出命令により本件各文書の提出を命じられたにもかかわらず,本件各文書を提出しなかったものである。 そして,原告は本件各文書が開示されない限りは,その内容について具体的な主張を行うことは困難であるというべきであるし,上記のとおり,他の証拠によっても原告の工場における石綿製品の取扱い状況や原告の就業場所における石綿粉じんの飛散状況を ,その内容について具体的な主張を行うことは困難であるというべきであるし,上記のとおり,他の証拠によっても原告の工場における石綿製品の取扱い状況や原告の就業場所における石綿粉じんの飛散状況を的確に認定することは著しく困難であるということができるから,民事訴訟法224条3項により,原告の工場における就業場所において石 綿粉じんが飛散していたことに係る原告の主張が真実であると認めるのが相当である。 被告の主張について被告は,原告が製造に従事していた製品は岩綿製品であって石綿製品ではないから,原告が工場において石綿粉じんにばく露したことはないと主張する。 a 被告は,原告がその本人尋問において工場で製造に従事していた旨供述する製品(繊維状の原材料を液体で撹拌した後に乾燥させ,固い板状にしたもの。)は,その色,大きさ,形状,性質及び製造方法等が岩綿製品であるインサルブロックと合致しており,色,性質,形状等において石綿製品であることと整合しない部分があるから,原告が製造に従事していた製品は岩綿製品であって石綿製品ではないと主張する。 b まず,原告は,その本人尋問において,製造に従事していた製品の色について,薄茶色であった旨を供述し,陳述書(甲Bオ8)においてその旨を記載しているが,被告は,工場では茶色の石綿製品を製造していたことはなかったと主張する。 しかしながら,前記1で判示したとおり原告が工場で勤務していたのは上記供述から50年以上以前であるから,その間の記憶の減退や混濁は避けがたいところであって,原告が製造に従事していた製品の色が薄茶色であったとの供述の信用性が高いとは言い難い。また,色の見方や表現には個人差があるのであって,原告はその本人尋問において 濁は避けがたいところであって,原告が製造に従事していた製品の色が薄茶色であったとの供述の信用性が高いとは言い難い。また,色の見方や表現には個人差があるのであって,原告はその本人尋問において株式会社100年史(乙Bオ第22号証)の⑩の写真に写っている製品の色よりも,同⑰の写真に写っている円筒形の製品の外側の色に近かったと述べており,この色はむしろ白色ともいい得るものである。これに加えて,そもそも工場において薄茶色といい 得る石綿製品の製造が行われていなかったことを認めるに足りる証拠が提出されていないことも併せ考えれば,原告の本人尋問中の上記供述及び陳述書の記載は,上記認定を覆すに足りるものではない。 c 被告は,原告がその本人尋問において石綿材料がコモ(藁)袋に入れられてほぐれた状態で運び入れられていた旨供述するが,石綿材料は大半が海外から輸入されていたために麻袋に入れられていた上,輸入の過程で圧縮されるため,ほぐれた状態で工場に運び入れられることなどはないから,原告が取り扱っていた製品は岩綿製品であると主張する。 しかし,石綿の状態に関する被告の上記主張を前提とするとしても,輸入後,工場外又は工場内の原告の勤務場所とは別の場所ですぐに加工ができるようにほぐす作業(開綿)を行った後に搬入されていた可能性も存在するから,この点は上記認定を妨げるものではない。 d 被告は,原告がその本人尋問において製造に従事していた製品の繊維が皮膚に刺さって激しい痒みを感じていた旨供述するが,岩綿は一過性ではあるが皮膚刺激があるとされているのに対し,石綿は皮膚への刺激はほとんどないとされているから,原告が製造に従事していた製品は石綿製品ではなく岩綿製品であると主張する。確かに,ロック は一過性ではあるが皮膚刺激があるとされているのに対し,石綿は皮膚への刺激はほとんどないとされているから,原告が製造に従事していた製品は石綿製品ではなく岩綿製品であると主張する。確かに,ロックウール工業会のホームページ(乙A第59号証)には,岩綿は一過性ではあるが皮膚刺激があるのに対し,石綿はほとんど皮膚刺激がないと記載されているから,原告が製造に従事していた製品から出た粉じんによって皮膚に痒みを感じていたとすれば,当該製品が岩綿製品あるいは岩綿を含む製品であったことを推認させることは事実である。 しかしながら,原告の取扱い製品が常に同じであったとは限らず,岩綿製品と石綿製品の両方を取り扱っていた可能性も存在することに 加え,仮に,原告自身は専ら岩綿製品の製造に従事していたとしても,工場において石綿製品が製造されていたことは被告も自認するところであるから,原告の作業場所の近くで石綿製品の製造等が行われていたために,原告がその石綿製品に由来する粉じんにばく露した可能性も存在し,皮膚の刺激に関する上記事情は,上記の認定を妨げるものとまではいうことができない。 e 被告は,このほかにも種々の主張をするが,いずれも上記の認定を妨げるものとはいうことができない。 以上のとおりであるから,原告について,工場における就業場所において石綿粉じんが飛散していたことが真実と認められ,原告は工場において石綿粉じんにばく露したものと認められる。 2 被告の債務不履行又は過失の有無について石綿の危険性に関する知見及び規制状況について以下の事実は,証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。 ア諸外国における知見等石綿粉じんのばく露を原因とする肺疾 石綿の危険性に関する知見及び規制状況について以下の事実は,証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。 ア諸外国における知見等石綿粉じんのばく露を原因とする肺疾患が原因となって死亡した事例は,明治39年(1906年)頃,英国議会において初めて報告され,その後,欧米各国でも石綿労働者にみられる進行の早い肺疾患が報告された。 これらの肺疾患は,大正13年(1924年),英国のW.E.クックによって石綿肺と名付けられ,その後,昭和15年(1940年)頃までには,石綿ばく露により石綿肺を引き起こす危険性があるとの知見が確立された。 1930年(昭和5年)代からは,石綿肺に伴う肺がんに関する事例が報告され始め,石綿が発がん性を有することが徐々に明らかにされていった。イギリスのリチャード・ドールは,昭和30年(1955年),疫学 的手法によって石綿ばく露労働者に肺がんの罹患率が高いことを明らかにし,この頃には,石綿の発がん性に関する知見が確立された。 昭和34年(1959年)には,南アフリカ共和国のJ.C.ワグナーとC.A.スレグスが,国際じん肺会議において,南アフリカ共和国の石綿鉱山周辺において4年間に発生した33例の胸膜中皮腫のうち32例が石綿鉱山の従事者及びその家族,鉱山付近の居住者並びに石綿運搬従事者等であったとの報告をした。ワグナーは昭和35年(1960年),中皮腫に関する調査結果を発表し,短期間の石綿ばく露でも中皮腫に罹患する可能性があることを指摘した。その後も,多くの研究者によって石綿と中皮腫との関係に関する研究がされ,1960年(昭和35年)代には石綿ばく露によって中皮腫に罹患する危険性があるとの知見が確立された。 (甲A1,2,51,弁論の全趣旨)イ日本にお って石綿と中皮腫との関係に関する研究がされ,1960年(昭和35年)代には石綿ばく露によって中皮腫に罹患する危険性があるとの知見が確立された。 (甲A1,2,51,弁論の全趣旨)イ日本における知見等日本においても,昭和2年には石綿肺の最初の報告が行われ,その後,昭和13年には石館らが大阪府下及び奈良県下の石綿工場を対象とする健診を実施し,多数の石綿紡織従事者が石綿肺の危険にさらされていることを報告した。 (甲A1,弁論の全趣旨) 石綿の健康被害に関する研究は,第二次世界大戦によって一時停滞したものの,戦後,昭和27年から工場や大阪の石綿加工工場における石綿肺の発生状況の調査が行われたほか,昭和30年頃から労働省衛生試験研究「石綿肺の診断基準に関する研究」の一環として,各地の石綿工場を対象とした調査が宝来善次らによって実施され,石綿肺の症例が明らかにされてきた。 労働省は,昭和31年に「特殊健康診断指導指針について」(同年5月18日付基発第308号)との通達を出し,「けい肺を除くじん肺を 起こし又はそのおそれのある粉じんを発散する場所における業務」として石綿に関連する作業を示し,これらの作業に従事した労働者に対してエックス線直接撮影による「胸部の変化」の検査を行うことが望ましいとした。 労働省は,昭和33年,「職業病予防のための労働環境の改善等の促進について」と題する通達を発し,石綿粉じん作業を含む諸作業について,労働環境の改善等予防対策のあるべき一般的措置の種類を「労働環境における職業病予防に関する技術指針」と定めた。同指針には,石綿の加工等を行う場所において,粉じん濃度の測定,局所排出装置の設置,労働者を局所排出の吸引気流外で作業させること及び国家検定に合格した防じ ける職業病予防に関する技術指針」と定めた。同指針には,石綿の加工等を行う場所において,粉じん濃度の測定,局所排出装置の設置,労働者を局所排出の吸引気流外で作業させること及び国家検定に合格した防じんマスクを着用させること等を推進するよう事業者に求める旨が記載されている。 昭和35年には,じん肺法が施行され,石綿に関する作業を「粉じん作業」に含めて使用者に対策を求めた。 (甲A14,18の1・2,弁論の全趣旨) 石綿による肺がんの発症については,1950年(昭和25年)代の前半から石綿と肺がんの関係についての諸外国の知見に触れた報告が見られるようになり,この頃から石綿と肺がんの関係について,否定的な見解を含めて論じられるようになった。また,昭和35年には,の調査の際の受診者が,その後,肺がんで死亡したことが報告され,日本における石綿による最初の肺がん症例とされたほか,石綿による肺がんが国により初めて労災として認定され,その後,昭和45年までの間に石綿により肺がんを発症したとして8件が労災認定された。 中皮腫については,昭和48年に石綿肺に合併した腹膜中皮腫,昭和49年には胸膜中皮腫が大阪において報告された。 (甲A1,51,弁論の全趣旨) 昭和45年頃には,石綿の発がん性が専門家や関係者のみならず広く社会において注目されるようになり,一般紙においても石綿の発がん性を論じる記事が掲載されるなどした。 昭和46年には,労働省が,「石綿取扱い事業場の環境改善等について」と題する通達を発し,「石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺をおこすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた る通達を発し,「石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺をおこすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた」として,広く石綿取扱作業についてなるべく局所排気装置を設置するとともに,じん肺健康診断を完全に実施することを求めた。 (甲A51,59)ウ日本における規制等昭和22年に制定された労働安全衛生規則は,使用者が,①粉じんを発散する作業場における作業又は施設の改善努力義務(172条),②粉じんを発散する屋内作業場における吸引排出又は換気等の措置を講ずる義務(173条),③著しく粉じんを飛散する作業場における粉じん防止措置を講ずる義務(175条),④粉じんを発散し衛生上有害な場所に関係者以外の立入りを禁止し,その旨を掲示する義務(179条),⑤粉じんを発散する業務に従事する労働者に対する防護衣,保護眼鏡及び呼吸用保護具等適当な保護具の支給義務(181条)を負うことを規定した。 昭和35年3月31日に制定,公布され,同年4月1日に施行されたじん肺法は,同法が適用される「粉じん作業」について,「石綿をときほぐし,合剤し,ふきつけし,りゆう綿し,紡糸し,紡織し,積み込み,若しくは積みおろし,又は石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」を含むとし(じん肺法施行規則別表第1の23号),使用者に対し,粉じんの発散の抑制及び保護具の使用等について適切な措置を講ずるよう努めること(5条),粉じん 作業に従事する労働者に対しじん肺の予防及び健康管理のために必要な教育を行うこと(6条)並びに常時粉じん作業に従事する労働者に対しじん肺健康診断を行うこと(7条,8条)などを義務付けた。 ん 作業に従事する労働者に対しじん肺の予防及び健康管理のために必要な教育を行うこと(6条)並びに常時粉じん作業に従事する労働者に対しじん肺健康診断を行うこと(7条,8条)などを義務付けた。 被告の債務不履行又は過失の存在及び時期について前記⑴で判示したとおり,諸外国においては,石綿による健康被害の可能性について,石綿肺の危険性が昭和15年(1940年)頃,発がん性が昭和30年(1955年)頃,中皮腫との関連性が1960年(昭和35年)代までには確立されており,日本においても,戦前から石綿の危険性は指摘されており,昭和33年頃には,石綿製品の製造等を行う工場又は作業場の労働者の石綿肺り患の実情が相当深刻なものであることが明らかになっており,昭和35年にじん肺法が制定された頃には,石綿粉じんが石綿肺などの危険性を有するとの知見が確立し,さらに昭和35年以降,石綿粉じんが石綿肺以外の疾患の原因となることについて研究及び報告がされ,昭和45年頃には一般紙においても石綿粉じんの発がん性及び中皮腫との関連性等の石綿の危険性が報じられるようになり,一般に広く知られるようになったということができる。このような国内外の知見及び法令の整備状況等に照らせば,少なくとも我が国の研究者や関係行政庁においては,昭和35年には石綿粉じんの吸入が石綿肺の原因となり得ることが,昭和40年頃には,石綿が発がん性を有し,中皮腫とも強い関連性を有しているとの認識が相当程度深まっていたということができる。 被告は,この当時においては主として石綿製品を製造及び販売する大規模な企業であったことからすれば,石綿製品の製造等を行う工場等の労働者の石綿肺り患の実情が相当深刻なものであることが明らかになっていた昭和33年頃には,遅くとも,石綿によって生じ 造及び販売する大規模な企業であったことからすれば,石綿製品の製造等を行う工場等の労働者の石綿肺り患の実情が相当深刻なものであることが明らかになっていた昭和33年頃には,遅くとも,石綿によって生じる被害を予見することができ,また予見すべきであったというべきであり,同年以降においては,従業員に対する石綿粉じんへのばく露を防止する注意義務を負っていたと認めるのが相 当である。 しかしながら,石綿肺に関する知見は比較的早期に集積されていた一方で,石綿による肺がんや中皮腫の発症については,知見の集積がこれよりも遅れており,石綿肺が肺がんや中皮腫に進行する危険性についても,昭和35年以降に知見が集積されていったと考えるのが相当であることや,当時の社会及び経済の状況を総合的に考慮すれば,被告が昭和33年頃よりも前において,従業員に対する石綿粉じんへのばく露を防止する義務を負っていたとまで認定することはできないといわざるを得ない。 原告は,第二次世界大戦以前から,日本においても石綿粉じんの吸入が石綿肺を引き起こすことが広く知られていたと主張する。確かに,前記で判示したとおり,日本においても,第二次世界大戦以前から石綿粉じんのばく露によってじん肺の一種である石綿肺が発生する危険性を指摘する研究や論文が存在したが,昭和30年にけい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法が制定されたものの,同法はケイ酸を高濃度に含む粉じんの吸入によって生じるけい肺を対象としていたことからも明らかであるように,けい肺以外のじん肺(石綿肺を含む。)についての知見の集積はこれよりも遅れており,石綿肺については,前記⑵で判示したとおり昭和30年以降に行われた調査等によってその実態が解明されていったものである。そうすると,石綿によって石綿肺が生じること及び石綿肺の はこれよりも遅れており,石綿肺については,前記⑵で判示したとおり昭和30年以降に行われた調査等によってその実態が解明されていったものである。そうすると,石綿によって石綿肺が生じること及び石綿肺の危険性についての一定の社会的な認識が成立したということができるのは,早くとも昭和33年頃以降であるというべきであり,被告が主として石綿製品を製造及び販売する大企業であったことを考慮しても,同年頃よりも前に石綿による被害についての予見可能性及びこれを前提とする注意義務があったとまで認めることはできないといわざるを得ない。 ⑶ 小括以上によれば,被告は,昭和33年頃以降は,使用している労働者が石綿 粉じんにばく露することがないよう,工場において換気,粉じんの湿潤化,粉じんの除去及びマスクの装着等の対策を行う義務を負っていたというべきである。 ア原告について前記1で判示したとおり原告が工場において勤務していたのは昭和31年12月までであって,昭和33年頃以前であるから,原告に対し,被告の注意義務違反があったと認めることはできない。 イ原告について前記1で判示したとおり原告が工場において勤務していたのは昭和44年4月から昭和55年2月までであって,昭和33年頃以降であるから,被告は,原告に対し石綿粉じんへのばく露を防止する義務を負っていたものである。 ところが,原告が被告の工場において勤務する際に石綿粉じんにばく露することがないような対策を取っていたことについての主張及び立証がない。 したがって,被告は,原告に対し,原告が石綿粉じんにばく露したことについて債務不履行及び過失があるというべきである。 ウ原告について前記1で判示したとおり原告が工場において勤務していた て,被告は,原告に対し,原告が石綿粉じんにばく露したことについて債務不履行及び過失があるというべきである。 ウ原告について前記1で判示したとおり原告が工場において勤務していたのは昭和32年6月から昭和33年8月までである。 ところで,前記⑵で判示したとおり,被告は,遅くとも昭和33年頃以降,従業員に対する石綿粉じんへのばく露を防止する注意義務を負っていたものであるが,前記⑵で判示した事情を勘案しても,その注意義務が生じた時期を昭和33年頃までということから,同年12月には生じていたということはできても,それ以前である原告が勤務していた昭和33年8月までに生じていたとまで断定することは困難である。 したがって,原告に対し,被告の注意義務違反があったと認めることはできない。 3 原告に生じた損害の有無及びその金額について 原告は,工場における石綿粉じんへのばく露によって,初期の石綿肺,びまん性胸膜肥厚及び胸膜プラークを発症したものであり,これによって換気障害が発生し,日常生活において息切れなどの症状が生じていると主張する。 石綿肺及びびまん性胸膜肥厚についてア石綿肺による呼吸機能障害は,基本的に,びまん性の間質の繊維化に伴う拘束性換気障害であり,びまん性胸膜肥厚による呼吸機能障害も同様に拘束性換気障害であって,いずれもパーセント肺活量(肺活量の正常予測値に対する実測値の割合。%VCともいう。)の低下を指標として判定すべきものとされている(甲A64,乙A42)。 イ原告の平成23年11月に測定したパーセント肺活量は100.20パーセントと正常であって(甲Cエ2),拘束性換気障害が生じているとは認めることができない。 ウ原告は,石綿肺やびまん性胸膜肥厚による呼吸機 23年11月に測定したパーセント肺活量は100.20パーセントと正常であって(甲Cエ2),拘束性換気障害が生じているとは認めることができない。 ウ原告は,石綿肺やびまん性胸膜肥厚による呼吸機能障害の判定においては,パーセント肺活量だけでなく,閉塞性換気障害の有無を評価する基準である1秒率(努力肺活量に対する1秒間の呼出量の割合)やパーセント1秒量(1秒量の正常予測値に対する実測値の割合)を参照して行うこととされていることを指摘して,石綿肺やびまん性胸膜肥厚によって閉塞性換気障害が生じることもあり得ると主張する。 確かに,石綿肺やびまん性胸膜肥厚によって閉塞性換気障害が生じる余地があるとされていることは認められる(甲A64,乙A42)。しかしながら,これらは,いずれも,パーセント肺活量が一定程度低下していることが認められものの,それのみでは著しい呼吸機能障害が認められない 場合において,閉塞性換気障害の状況を参照して著しい呼吸機能障害の有無を判定することとされているものであり,その趣旨は,現段階では,びまん性胸膜肥厚による呼吸機能障害について,拘束性換気障害に閉塞性換気障害が合併することが否定できないために閉塞性換気障害に関する指標を併せて用いるとされているものである(甲A64)。そして,原告については,前記イで判示したとおり,パーセント肺活量の低下は見られず,拘束性換気障害が生じているとは認められないし,1秒率の値も74.32パーセントであって(甲Cエ2),拘束性換気障害の基準とされている70パーセント(石綿肺やびまん性胸膜肥厚による著しい呼吸障害の判定においては,パーセント肺活量が60パーセント以上80パーセント未満の場合,1秒率が70パーセント未満であり,かつ,パーセント1秒量が50パーセント未満であ まん性胸膜肥厚による著しい呼吸障害の判定においては,パーセント肺活量が60パーセント以上80パーセント未満の場合,1秒率が70パーセント未満であり,かつ,パーセント1秒量が50パーセント未満である場合に著しい呼吸機能障害を認めることとされている。(甲A64,乙A42))を上回っている。 他方,原告は,20歳から60歳の時まで,少なくとも1日に20本以上の喫煙をしていたことが認められる(乙Cエ2の21,乙Cエ4の2,原告本人)。 以上によれば,原告については,閉塞性換気障害による一定の呼吸機能の低下が生じていることは認められるものの,これが石綿肺ないしびまん性胸膜肥厚によって生じたとは認めることができず,むしろ原告の喫煙によって生じた可能性も十分に存在するということができる。 なお,原告は,このほかにも,運動後の血液ガス検査の値が正常範囲を外れていることや,閉塞性換気障害が生じている場合に低い値が出るV25/HTの値が低下していること,日常生活において息切れ等が生じていることなどを指摘するが,仮に,原告に何らかの呼吸機能障害が生じていることが認められるとしても,それが石綿肺やびまん性胸膜肥厚によって生じたものとは認めることができないことは上記のとおりである。 エ仮に原告に石綿肺やびまん性胸膜肥厚と評価すべき状態が生じているとしても,前記イ及びウで判示したとおりこれらによる呼吸機能の障害が発生しているとは認められず,このほかに何らかの身体機能の制約が生じていることも認められないから,石綿肺やびまん性胸膜肥厚と評価すべき状態が存在するか否かについて判断する必要はない。 胸膜プラークについてア原告について平成23年10月17日に撮影された胸部CT写真によ ,石綿肺やびまん性胸膜肥厚と評価すべき状態が存在するか否かについて判断する必要はない。 胸膜プラークについてア原告について平成23年10月17日に撮影された胸部CT写真によれば,原告には石灰化した胸膜プラークが認められ(甲Cエ4),また,医師の平成24年10月9日付け意見書においても,原告に両側の横隔膜,傍脊柱部,前胸壁及び背胸壁などに石灰化した胸膜プラークを認めると判断されている(乙Cエ1)。 イしかしながら,胸膜プラークは,通常はそれ自体が肺機能の低下をもたらすものではなく,石灰化の進展の程度によっては肺機能が低下するおそれもあるものの,前記⑵で判示したとおり,原告に現時点で胸膜プラークの石灰化の進展によって生じたものと認められる肺機能の低下を認めることはできない。 ウ原告は,石綿粉じんにばく露したという事実,あるいはばく露の事実を示す胸膜プラークが存在すること自体によって,いつ肺がんや中皮腫などの重篤な石綿関連疾患が発症するかもしれないという不安感を感じているとして,かかる精神的苦痛は損害に該当すると主張する。 しかしながら,原告がその主張するような不安感を感じているとしても,これをもって法律上の請求権を発生させるべき損害が生じているとはいうことができない。 以上によれば,原告について,工場における石綿粉じんのばく露によって,損害が生じているとはいうことができない。 4 以上によれば,原告3名はいずれも被告の工場において石綿粉じんにばく 露したものであるものの,原告及び原告については,それぞれの石綿粉じんのばく露について被告に債務不履行及び過失があったと認めることができず,原告については,その石綿粉じんのばく露について被告の債務不履行及び過失 の,原告及び原告については,それぞれの石綿粉じんのばく露について被告に債務不履行及び過失があったと認めることができず,原告については,その石綿粉じんのばく露について被告の債務不履行及び過失があったことを認めることはできるが,これによって損害が生じているとは認めることができない。 第5 結論そうすると,各原告が,被告に対し,債務不履行(労働契約上の安全配慮義務違反)ないし不法行為責任に基づく損害賠償請求として原告に対し660万円,原告に対し660万円及び原告に対し2200万円,並びに上記各金員に対する訴状送達の日の翌日である平成22年11月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める原告3名の各請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所民事部裁判長裁判官牧賢二裁判官池上尚子裁判官瀬戸信吉

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