- 1 -平成24年4月9日判決言渡平成23年(行ケ)第10265号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年3月19日判決 原告カヤバ工業株式会社 訴訟代理人弁護士松本 司 井上裕史 被告株式会社データ・テック 訴訟代理人弁護士伊藤 真 平井佑希弁理士鈴木正剛 栗下清治 藤掛宗則 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告が求めた判決特許庁が無効2011-800013号事件について平成23年7月11日にした審決を取り消す。 - 2 -第2 事案の概要本件は,被告の特許につき原告の無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,新規性,進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯被告は,平成11年10月12日,名称を「移動体の操作傾向解析方法,運行管理システム及びその構成装置,記録媒体」とする発明につき,優先日を平成10年10月12日,優先権主張国を日本国として,特許出願をし(特願平11-290354号),平成13年9月7日,本件特許登録を受けた(特許第3229297号,請求項の数は20)。 ところが,平成14年5月20日,本件特許につき特許異議の申立てがされたので,同年10月25日,被告は請求項の数を16に減らす等の訂正請求をし,特許庁は平成15年1月21日に本件特許を維持する旨の決定をした。 原告は,平成23年1月28日,上記訂正後の請求項9,15につき無効審判を請求したが(無効2011-800013号),特許庁は同年7月11日,「本件審判の請求は 本件特許を維持する旨の決定をした。 原告は,平成23年1月28日,上記訂正後の請求項9,15につき無効審判を請求したが(無効2011-800013号),特許庁は同年7月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月20日に原告に送達された。 なお,原告は,平成23年8月4日,本件特許につき上記とは別途に無効審判を請求し(無効2011-800136号),被告はこの無効審判請求事件においては特許請求の範囲の記載の一部等を改める訂正請求をした。しかし,本件の無効審判請求事件(無効2011-800013号)については訂正請求も訂正審判請求もされていない。 2 本件発明の要旨本件発明は,運行データの管理システム等に関する発明で,請求項の数は前記のとおり16であるが,そのうち請求項9,15の特許請求の範囲は以下のとおりである。 【請求項9(本件発明1)】 - 3 -「移動体の挙動を検出するセンサ部と,前記挙動を特定挙動と判定するための挙動条件に従って前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し,前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように,前記特定挙動の発生に応じて当該移動体の特定挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録する記録手段とを有し,前記記録媒体は,前記移動体の識別情報,前記移動体の操作者の識別情報,前記移動体の挙動環境の少なくとも1つに従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり,このカード状記録媒体に少なくとも前記挙動条件が記録されている,データレコーダ。」【請求項15(本件発明2)】「移動体の特定挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する処理,前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された レコーダ。」【請求項15(本件発明2)】「移動体の特定挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する処理,前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理,読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された,コンピュータ読取可能な記録媒体。」 3 審判で主張された無効理由(1) 無効理由1本件発明1,2は,本件優先日前に日本国内で頒布された刊行物である下記甲第1号証に記載された発明(甲第1号証発明)と同一であるから,新規性を欠く。 【甲第1号証】特開平10-177663号公報(2) 無効理由2本件発明1,2は,甲第1号証発明に下記甲第2,第3号証に記載された発明を適用することで,本件優先日当時,当業者において容易に発明することができたも - 4 -のであるから,進歩性を欠く。 【甲第2号証】実開平4-123472号公報(実願平3-26831号)【甲第3号証】特開平6-223249号公報 4 審決の理由の要点(1) 無効理由1について【本件発明1と対比する観点から認定した,甲第1号証記載の発明(甲第1号証発明1)】「ブレーキ動作などの移動体の拳動を検出するセンサ部が備えられており,センサ部で検出された当該移動体のブレーキ信号等を『所定の閾値』と比較した結果を『事故(信号)』と判定し,事故発生時には,前記移動体の稼働状況および運行状況を示す制動信号を含む『運行状態データ』をメモリカード3に転送して記録する記録手段を有し,事故発生前後における詳細な運行状態データを記録し,前記メモリカード3は,前記移動体の『車両識別コード』『運転者識別コード』に従って分類さ データ』をメモリカード3に転送して記録する記録手段を有し,事故発生前後における詳細な運行状態データを記録し,前記メモリカード3は,前記移動体の『車両識別コード』『運転者識別コード』に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり,このメモリカード3には,予め固定局において,車両識別のデータや『データ収集時における指示』が記録されている事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能と通常時のタコグラフ機能とを複合したことにより,当該移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効なデータ収集装置。」【甲第1号証発明1と本件発明1の一致点】「移動体の挙動を検出するセンサ部と,前記挙動を異常な挙動と判定するための挙動条件に従って前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記異常な挙動の発生の有無を判定し,前記移動体の異常な挙動の発生に応じて当該異常な挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録する記録手段とを有し, - 5 -前記記録媒体は,前記移動体の識別情報,前記移動体の操作者の識別情報,前記移動体の挙動環境の少なくとも1 つに従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり,このカード状記録媒体に少なくとも前記挙動条件が記録されている,データレコーダ。」である点【甲第1号証発明1と本件発明1の相違点】・相違点1「異常な挙動」及び「異常な挙動に関わる情報」として,本件発明1では「特定挙動」及び「特定挙動に関わる情報」であるのに対して,甲第1号証発明1では「事故」及び「事故発生時には,前記移動体の稼働状況および運行状況を示す制動信号を含 関わる情報」として,本件発明1では「特定挙動」及び「特定挙動に関わる情報」であるのに対して,甲第1号証発明1では「事故」及び「事故発生時には,前記移動体の稼働状況および運行状況を示す制動信号を含む『運行状態データ』」である点。 ・相違点2本件発明1は「移動体の操作傾向の解析が可能となるように記録する」のに対して,甲第1号証発明1では「事故発生前後における詳細な運行状態データを記録し,事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能と通常時のタコグラフ機能とを複合したことにより,移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効」なものである点。 【甲第1号証発明1と本件発明1の実質的同一性に係る判断(11~13頁)】「相違点1について本件発明1における『特定挙動』は,急停止,急旋回のときの動態,すなわち危険挙動であり,『特定挙動に関わる情報』とは急発進のときは急なアクセル操作,急停止のときは急なブレーキ操作,急旋回のときは急なハンドル操作のような特徴的な操作,すなわち操作傾向(運転者の癖等)に関わる,運転者が確認できるようにした情報を意味している。 それに対して,甲第1号証発明1は『事故』及び『事故発生時には,前記移動体の稼働状況および運行状況を示す制動信号を含む『運行状態データ』』であり,本件発明1の『特定挙動』及び『特定挙動に関わる情報』とは異なるものである。」 - 6 -「相違点2について本件発明1において,挙動の特徴が発生し易いのは,発進時,停止時,旋回特に交差点旋回時であることから,挙動の特徴を認識するための一つの閾値または複数の閾値の組み合わせ(条件パ 「相違点2について本件発明1において,挙動の特徴が発生し易いのは,発進時,停止時,旋回特に交差点旋回時であることから,挙動の特徴を認識するための一つの閾値または複数の閾値の組み合わせ(条件パターン)とし,特定したい挙動の発生を検出して当該挙動に関わる情報を収集し,この情報をもとにして,例えば運転者毎の操作傾向の解析を可能にしている(【0023】,【0030】,図6等)。 そして,メモリカードヘは『特定挙動』が発生する都度,このような測定データが記録されるため,運転者は,これらの測定データを繰り返し確認することにより,操作傾向(癖等)を把握して『事故等の発生を未然に防止する情報』として活用することができる。 それに対して,甲第1号証発明1では,『事故発生前後における詳細な運行状態データを記録し,事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能と通常時のタコグラフ機能とを複合』するものであり,その運行状態データを『移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効』に活用するもので,本件発明1の『移動体の操作傾向の解析が可能となるように記録する』とは異なるものである。」「したがって,本件発明1は,甲第1号証発明1・・・を検討したが,いずれにおいても上記相違点1及び2に相当する構成は見いだすことができないから,甲第1号証に記載された発明とはいえない」。 【本件発明2と対比する観点から認定した,甲第1号証記載の発明(甲第1号証発明2)】「固定局において,車両識別のデータや『データ収集時における指示』をメモリカード3に設定する処理,事故発生時には,制動信号を含む『運行状態データ た,甲第1号証記載の発明(甲第1号証発明2)】「固定局において,車両識別のデータや『データ収集時における指示』をメモリカード3に設定する処理,事故発生時には,制動信号を含む『運行状態データ』をメモリカード3に転送して記録し,固定局のデータ処理部11により,メモリカード3から前記記録情報を読み出す処理,読み出した情報から当該移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果などを解析する処理,以上を固定局サブシステムのコンピュータ装置に実行させるためのプログラム(ディジタル情報)及び当該プログラムが記録されたコンピュータに読取可能な記 - 7 -録媒体。」【甲第1号証発明2と本件発明2の一致点(14頁)】本件発明2も甲第1号証発明2もともに「コンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録されたコンピュータに読取可能な記録媒体」である点【甲第1号証発明2と本件発明2の相違点(14頁。番号付加は本判決による。)】・相違点3甲第1号証発明2においては,「車両識別のデータや『データ収集時における指示』をメモリカード3に設定する処理」がされるのに対し,本件発明2においては,「移動体の特定挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する処理」がされる点・相違点4甲第1号証発明2においては,「事故発生時には,制動信号を含む『運行状態データ』をメモリカード3に転送して記録し,固定局のデータ処理部11により,メモリカード3から前記記録情報を読み出す処理」がされるのに対し,本件発明2においては,「設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体から 固定局のデータ処理部11により,メモリカード3から前記記録情報を読み出す処理」がされるのに対し,本件発明2においては,「設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理」がされる点・相違点5甲第1号証発明2においては,「読み出した情報から当該移動体の稼働状況管理,効率的配送ルートの管理,労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果などを解析する処理」がされるのに対し,本件発明2においては,「読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理」がされる点 【甲第1号証発明2と本件発明2の実質的同一性に係る判断(14頁)】「上記(2-1)(イ)(判決注:甲第1号証発明1と本件発明2の実質的同一性に係る判断)で検討したのと同様に,本件発明2の『移動体の特定挙動に関わる情報』,『操作傾向を解析する処理』は甲第1号証発明2・・・を検討しても,見いだすことができない。」 - 8 -(2) 無効理由2について【甲第1号証発明1と本件発明1の相違点に係る構成の容易想到性等に係る判断(11~13頁)】「相違点1の本件発明1の『特定挙動』及び『特定挙動に関わる情報』については甲第2,3号証のいずれにも記載も示唆もされていないから,甲第1号証発明1の『データ収集装置』に適用することができず,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。」「上記相違点2の本件発明1の『移動体の操作傾向の解析が可能となるように記録する』は甲第2,3号証のいずれにも記載も示唆もされていないから,甲第1号証発明1の『データ収集装置』に適用することがでず,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。」「そして,本件発明1は, 録する』は甲第2,3号証のいずれにも記載も示唆もされていないから,甲第1号証発明1の『データ収集装置』に適用することがでず,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。」「そして,本件発明1は,本件明細書段落【0046】に記載の『このように,本実施形態の運行管理システム1では,初期情報や条件パターンを運転者毎にメモリカード20に設定しておき,条件パターンに適合するイベントが発生したときに,そのイベントに関わる情報のみをそのメモリカード20に記録するようにしたので,資源の有効活用を図りつつ,運転者毎の運転評価や操作傾向を解析することが可能になる。そのため,従来のように事故等が発生した場合のみならず,事故等の発生の有無に関わらない利用形態,例えば安全運転のための技術向上過程を確認したり,特徴的な挙動を確認して事故等の未然防止を図ったりすることが可能になる。』という作用・効果を奏するものである。 したがって,本件発明1は,甲第1号証発明1及び甲第2,3号証に記載の各事項を検討したが,・・・甲第1号証~甲第3号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。」【甲第1号証発明2と本件発明2の相違点に係る構成の容易想到性等に係る判断(14,15頁)】「本件発明2の『移動体の特定挙動に関わる情報』,『操作傾向を解析する処理』は甲第1号証発明2及び甲第2号証,甲第3号証に記載の各事項を検討しても,見いだすことができない。 そして,本件発明2により,本件明細書段落【0046】に記載の『このように,本実施形態の運行管理システム1では,初期情報や条件パターンを運転者毎にメモリカード20に設定しておき,条件パターンに適合するイベントが発生したときに,そのイベントに関わる情報のみをそのメモリカード20に記録す 運行管理システム1では,初期情報や条件パターンを運転者毎にメモリカード20に設定しておき,条件パターンに適合するイベントが発生したときに,そのイベントに関わる情報のみをそのメモリカード20に記録するようにしたので,資源の有効活用を図りつつ,運転者毎の運転評価や操作傾向を解析することが可能になる。そのため,従来のように事故等が発生した場合のみならず,事故等の発生の有無に関わらない利用形態,例えば安全運転のための技術向上過程を確認したり,特徴的な挙動を確認して事故等の未然防止を図ったりすることが可能になる。』という顕著な作用効果を有するものである。 したがって,・・・甲第1号証発明2及び甲第2,3号証に記載された事項に基づいて,当業 - 9 -者が容易に発明をすることができたものとすることができない。」 第3 原告主張の審決取消事由 1 甲第1号証発明1と本件発明1の実質的同一性の判断の誤り(取消事由1)(1) 本件発明1にいう「特定挙動」には,本件明細書(甲4)の図6にいう「特徴的な挙動」や段落【0030】にいう「危険挙動」が包含され,また段落【0046】の記載にかんがみれば,事故等が発生した場合の車両の挙動が包含される。 また,技術的に見ると,本件発明1にいう「特定挙動」は,一つの閾値又は複数の閾値の組合せを超える値が測定される場合の車両の挙動を意味する(段落【0030】,【0034】参照)。 事故そのものを検出することはできないし,また必ず事故が発生するような閾値を設定することも不可能であって,例えば一定の閾値を超える加速度が検出された場合であっても,事故が発生することもあれば,事故が発生しないこともあり,単に急発進,急停止を検出できるにすぎない。本件発明1においても,事故の発生自体を検出しているのではなく,本件発明1にい れた場合であっても,事故が発生することもあれば,事故が発生しないこともあり,単に急発進,急停止を検出できるにすぎない。本件発明1においても,事故の発生自体を検出しているのではなく,本件発明1にいう「危険挙動」を検出しているのにすぎないのであって,事故が発生した場合の車両の挙動と本件発明1にいう「特定挙動」とを区別することはできない。 また,本件発明1にいう「操作傾向の解析」も,「特定挙動」として認識・検出された情報から,運転者の運転操作の傾向を把握するために,挙動解析装置30により所要の処理を行うことを意味するところ,上記のとおり,事故の発生自体ではなく,「危険挙動」を検出して,「操作傾向」を解析しているにすぎない。 他方,甲第1号証発明1においても,事故の発生自体を検出することは不可能であって,本件発明1と同様に「危険挙動」を検出して,所要の動作を行っているにすぎない。 そうすると,相違点1は実質的なものではなく,これと異なる審決の判断は誤りである。 - 10 -(2) 前記(1)のとおり,事故が発生した場合の車両の挙動と本件発明1にいう「特定挙動」とを技術的に区別することはできないし,条件パターンに適合するイベントが発生したときに,当該イベントに関する情報のみをメモリーカードに記録するようにして,資源の有効活用を図るという作用効果は,本件発明1の作用効果ではない。 甲第1号証のデータ収集装置は,長い周期で記録するタコグラフとしての機能のみを,自動車教習所での運転結果の解析等に役立てているのではなく,短い周期で記録するドライブレコーダとしての機能も運転結果の解析等に役立てている。また,本件発明1にいう「解析」には,運行状態のデータを時系列に従って表示し,これを分析することが含まれているから,本件発明1にいう「操作傾向の レコーダとしての機能も運転結果の解析等に役立てている。また,本件発明1にいう「解析」には,運行状態のデータを時系列に従って表示し,これを分析することが含まれているから,本件発明1にいう「操作傾向の解析が可能となるように記録する」ことも,後日時系列に従って表示し得るような形式で情報を記録することを含むものであるところ,甲第1号証発明1においても,後日時系列に従って表示し得るような形式で情報を記録するものであるから,両発明はその記録方法が共通である。 そうすると,相違点2も実質的なものではなく,これと異なる審決の判断は誤りである。 (3) 結局,甲第1号証発明1と本件発明1は実質的に同一であり,新規性を欠くから,これに反する審決の判断は誤りである。 2 甲第1号証発明1と本件発明1の相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)甲第2号証においては,急加速,急減速という「危険挙動」等の履歴情報から操作傾向の把握をしているし,甲第3号証においても,速度,加速度等の閾値を設定して,操作傾向に関わる情報を検出しているのであって,甲第2,第3号証の技術分野は本件発明1のそれと同一であり,解決すべき技術的課題及び発明の目的も共通する。そうすると,甲第2,第3号証中には相違点1,2に係る示唆があるといえ,本件優先日当時,当業者において,甲第2,第3号証に記載された発明を適用 - 11 -することにより,相違点1,2に係る構成に容易に想到することができたものである。また,本件発明1の作用効果は顕著なものではない。 したがって,上記結論に反する審決の進歩性判断には誤りがある。 3 甲第1号証発明2と本件発明2の相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)前記1と同様に,事故が発生した場合の車両の挙動(甲第1号証発明2)と る審決の進歩性判断には誤りがある。 3 甲第1号証発明2と本件発明2の相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)前記1と同様に,事故が発生した場合の車両の挙動(甲第1号証発明2)と本件発明2にいう「特定挙動」とを区別することはできないし,甲第1号証発明2でも,短い周期で記録するドライブレコーダとしての機能も運転結果の解析等に役立てており,甲第1号証発明2と本件発明2は記録方法が共通である。 また,本件発明2にいう「収集条件」は,本件発明1にいう「挙動条件」すなわち車両の挙動の特徴を認識するための一つの閾値又は複数の閾値の組合せと同一の意義を有するものであって,上記「挙動条件」に収集したい情報の範囲(時間,回数等)に係る条件が付加されたものではない。 したがって,本件優先日当時,当業者において,甲第2,第3号証に記載された発明を適用することにより,本件発明2との相違点に係る構成に容易に想到することができたものであり,本件発明2の作用効果も顕著なものではない。 第4 取消事由に対する被告の反論 1 取消事由1に対し(1) 甲第1号証のデータ収集装置は,センサと接続されてはいるが,その構成に含まないので,審決の一致点の認定のうち,冒頭の「移動体の挙動を検出するセンサ部と,」との部分は誤りであるが,かかる誤りは本件発明1,2の新規性,進歩性判断の結論に影響しない。 (2) 甲第1号証発明1にいう「事故」は,外部から車両に強い衝撃が加わったという客観的な事象であり,例えばエアバッグ作動信号によって検出される。データ収集装置側では「事故」の発生を検出することができず,運転者の個性とは関係 - 12 -がなく,運転者が「事故」を検出する閾値を任意に設定することができない。他方,本件発明1にいう「特定挙動」は,運転者の では「事故」の発生を検出することができず,運転者の個性とは関係 - 12 -がなく,運転者が「事故」を検出する閾値を任意に設定することができない。他方,本件発明1にいう「特定挙動」は,運転者の運転操作に応じて発生する主観的,個別的な事象であって,運転者の個性と関連するし,運転者が「特定挙動」を検出する閾値を任意,個別に設定することができる。そうすると,甲第1号証発明1にいう「事故」と本件発明1にいう「特定挙動」とは技術的に区別することができ,両者は必ずしも一致するものではない。加えて,甲第1号証発明1の事故発生時の「移動体の稼働状況および運行状況を示す制御信号」は,メモリカード3に1回だけ記録される情報にすぎず,本件発明1のように繰り返し記録し,複数の情報を用いて操作傾向を把握するためのものとは性格が異なる。 甲第1号証のデータ収集装置は,事故信号の入力後のデータをRAM7,補助記憶部8に記録しており,メモリカード3に記録していない。したがって,事故発生前後の車両の挙動に関わる情報を収集していない。 甲第1号証の段落【0022】中には,「また,エンジンの回転数やブレーキ信号等を所定の閾値と比較した結果等を事故信号として用いることもできる。」との記載があるが,この記載は,エアバッグ非搭載車両の場合に,例えば横転事故時にエンジン回転数が異常に上昇したり,衝突事故時に速度が急に零になったにもかかわらずブレーキ信号が閾値を下回ったりすること等にかんがみて,エアバッグ作動信号以外の信号を用いて「事故」を検出することができることを意味するものに止まる。 また,甲第1号証のデータ収集装置のドライブレコーダの機能は,事故発生時の各種情報を1回限り収集する機能であって,運転結果の解析機能も,かかる各種情報に基づいてなされるものであるから,本件発明 。 また,甲第1号証のデータ収集装置のドライブレコーダの機能は,事故発生時の各種情報を1回限り収集する機能であって,運転結果の解析機能も,かかる各種情報に基づいてなされるものであるから,本件発明1のように,繰り返して情報を収集し,かかる繰り返しによって得られる情報に基づいて運転操作の傾向の解析を行うものとは性格が異なる。そうすると,甲第1号証中では,事故の発生を伴わない急制動,急発進などの際のエンジン回転数,ブレーキ信号を「事故信号」として運転操作の傾向の解析を行うことは,記載も示唆もされていない。 結局,前記(1)の点を除いて,審決がした甲第1号証発明1の認定,甲第1号証発 - 13 -明1と本件発明1の一致点及び相違点の認定,発明の実質的同一性の判断に誤りがあるとはいえない。 2 取消事由2に対し本件発明1にいう「特定挙動」は,急発進等の危険挙動を意味し,「特定挙動の操作傾向」も,急発進の際の急なアクセル操作等のような,通常の操作時とは異なる特徴的な操作を意味するものであって,かかる特徴的な操作が運転者の癖等になっていることを運転者が確認できるようにした情報が「特定挙動に関わる情報」であり,本件発明1のデータレコーダは,かかる運転者の癖等である「操作傾向」を解析できるようにするための機器である。 甲第2号証の段落【0001】ないし【0003】,【0017】,【0031】,【0034】,【0038】,【0039】,【0049】で開示されているのは,1サイクルにおける加減速の履歴情報,具体的には最大ランクの加減速の発生回数を収集することであって,減速ランク7,8の急減速が発生した後は,同一サイクル内では,減速の履歴も加速の履歴も記録されない(加速時から次のサイクルが始まってしまう。)。したがって,甲第2号証における加減速の ることであって,減速ランク7,8の急減速が発生した後は,同一サイクル内では,減速の履歴も加速の履歴も記録されない(加速時から次のサイクルが始まってしまう。)。したがって,甲第2号証における加減速の履歴情報は本件発明1の「特定挙動」の発生前後の測定データということはできず,甲第2号証中では,急減速の発生前後の操作履歴を記録するという技術的思想,操作傾向の解析が可能となるように,「特定挙動」に関わる情報を記録するという技術的思想が記載も示唆もされていない。なお,甲第2号証の装置は加速度センサを備えておらず,車速の差を,変換テーブルを参照して加速度ランクに変換するものであって,加速度ランクデータは上記テーブルの1種にすぎないから,これが本件発明1にいう「所定の閾値」に相当するとしても,かかる加速度ランクデータは,本件発明1にいう「検出された挙動を特定挙動と判定するための挙動条件」に相当するものではない。また,甲第2号証の装置では,複数の運転者が共通の条件で運転した結果,収集されたデータでないと,このデータを有効に利用できないのであって,運転者ごとに記録の条件を個別に変更することが予定されていないが,本件発明1では,運転者に固有の癖等 - 14 -を把握するため,運転者の能力等に応じて記録の条件を個別に設定することが望ましい。 甲第3号証の機器では,RAMカードに,事故を示し得るような異常状態を契機(トリガ)とする情報,例えば突然の加速等の情報を含む情報が記録され(甲3の段落【0035】),異常操作が生じた場合には記録速度が増すが(段落【0036】),ここでいう突然の加速等は,運転者に危害が及ぶような衝突が起きるほどの程度のものを意味し,かつ事故の復元をするために1回だけ記録を行う。このとおり,甲第3号証の機器は,操作傾向の解析が可能と 】),ここでいう突然の加速等は,運転者に危害が及ぶような衝突が起きるほどの程度のものを意味し,かつ事故の復元をするために1回だけ記録を行う。このとおり,甲第3号証の機器は,操作傾向の解析が可能となるように,「特定挙動」に関わる情報を記録するものではないから,甲第3号証中には,かかる記録を行うことにつき,記載も示唆もされていない。 そうすると,甲第1号証発明1に甲第2,第3号証に記載された発明を適用しても,当業者が本件発明1との相違点の構成に想到することは容易でないのであって,この旨をいう審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3に対し本件明細書の段落【0031】,【0043】及び図5には,データを収集したい時間や回数に係る記載があるから,本件発明2にいう「収集条件」が,収集したいデータの範囲(時間,回数等)の条件を付加したものを含むことは明らかである。 そうすると,本件発明2にいう「収集条件」は,本件発明1にいう「挙動条件」すなわち「特定挙動」と判定するための条件と必ずしも同義ではない。 甲第1号証発明2に甲第2,第3号証に記載された発明を適用しても,当業者が本件発明2との相違点の構成に想到することは容易でないのであって,この旨をいう審決の判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(甲第1号証発明1と本件発明1の実質的同一性の判断の誤り)について - 15 -(1)ア甲第1号証発明1と本件発明1の相違点1は「特定挙動」,「特定挙動に関わる情報」と「事故」,「運行状態データ」との相違に関するものであるところ,本件明細書中には,「特定挙動」に関し,次のとおりの記載がある。 ・段落【0006】「従来のこの種の運行管理システムでは,運転者による操作傾向を把握して事故等の発生を未然に防止するための情報を生成 件明細書中には,「特定挙動」に関し,次のとおりの記載がある。 ・段落【0006】「従来のこの種の運行管理システムでは,運転者による操作傾向を把握して事故等の発生を未然に防止するための情報を生成するという観点は存在しなかった。 例えば自動車においては,交通事故発生の約7割は交差点等,運転者に複合操作が要求される箇所で発生している。すなわち,運転動作としては,アクセルまたはブレーキの操作を行うとともに,ハンドルの操作も行う必要がある箇所である。従来では,このような交通事故発生率の高い箇所での運転操作に対して,危険を認識する工夫が十分ではなかった。」・段落【0007】「そこで本発明は,車両等の移動体の操作傾向を適切に把握することができる,移動体の操作傾向解析技術を提供することを主たる課題とする。」・段落【0008】「上記課題を解決するため,本発明は,移動体の操作傾向解析方法,この方法の実施に適した移動体の運行管理システム,データレコーダ,挙動解析装置,及び操作傾向解析のための処理をコンピュータ上で実行する上で好適となる記録媒体を提供する。」・段落【0016】「本発明のデータレコーダは,移動体の挙動を検出するセンサ部と,前記挙動を特定挙動と判定するための挙動条件に従って前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し,前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように,前記特定挙動の発生に応じて当該移動体の特定挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録する記録手段とを有する。前記特定挙動が危険挙動である場合,前記記録手段は,当該危険挙動の条件を定めた条件パターンと前記セン - 16 -サ部で検出された挙動パターンとの適合性に基づいて前記危険挙動の発生の有無を判定し,危険挙動が発生したときは当該 合,前記記録手段は,当該危険挙動の条件を定めた条件パターンと前記セン - 16 -サ部で検出された挙動パターンとの適合性に基づいて前記危険挙動の発生の有無を判定し,危険挙動が発生したときは当該危険挙動に関わる情報を記録するように構成される。また,記録手段は,前記特定挙動が発生していないと判定されている場合に当該移動体の挙動に関わる情報を前記特定挙動に関わる情報と区別して間欠的に前記記録媒体に記録するようにする。この記録媒体は,好ましくは,移動体の識別情報,移動体の操作者の識別情報,移動体の挙動環境の少なくとも1つに従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体とし,このカード状記録媒体に少なくとも前記挙動条件が記録されるようにする。」 上記各記載によれば,本件発明1の特許請求の範囲にいう「特定挙動」とは,交通事故発生率の高い箇所での車両の挙動を意味し,本件発明1のデータレコーダの記録手段は,「危険挙動の発生の有無を判定し,危険挙動が発生したときは当該危険挙動に関わる情報を記録するように構成される」(段落【0016】)ものである。 ここで,段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等によれば,交通事故発生率の高い箇所か否かの判定は,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えるか否かによってなされ,急ハンドルを切った場合等のその箇所が,かかる交通事故発生率の高い箇所に当たる。 そして,本件発明1にいう「特定挙動に関わる情報」も,交通事故発生率の高い箇所での車両の挙動に関わる情報を意味するところ,実施例に係る段落【0031】には,「イベント抽出部132は,・・・イベント毎の条件パターンに適合する測定データ(角速度データ,加速度データ,GPSデータ,車速パルス等・・・)を抽出し,そのイベントデータ・・ 段落【0031】には,「イベント抽出部132は,・・・イベント毎の条件パターンに適合する測定データ(角速度データ,加速度データ,GPSデータ,車速パルス等・・・)を抽出し,そのイベントデータ・・・等をデータ記録部134に送出する。」と記載され,段落【0033】には「データ記録部134は,これらのデータをファイル化してメモリカード20に記録する。」と記載されているから,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータによって,交通事故発生率の高い箇所(急ハンドルを切った箇所)に当たると判定された場合の上記角速度等のデータが「特定挙動に関わる情報」 - 17 -に当たるものである。 イ他方,甲第1号証(特開平10-177663号公報)中には,「事故」,「運行状態データ」(運航状態データ)に関し,次のとおりの記載がある。 ・段落【0001】「本発明は,移動体である業務用トラック,タクシー等に使用され,走行距離や車速の大きさ等の運航状態データを収集して記録するデータ収集装置に関し,特にタコグラフの機能と,事故発生時の各種情報を収集するドライブレコーダの機能とを複合したデータ収集装置に関するものである。」・段落【0005】「車両の衝突事故等の発生前後における高サンプリングレートな詳細データを収集できないという問題点もあった。本発明はこのような課題を解決するためのものであり,通常時には低サンプリングレートで運航状態データを記録する従来のタコグラフとして機能し,異常時には高サンプリングレートで運航状態データを記録するドライブレコーダとして機能するデータ収集装置を提供することを目的とする。」・段落【0006】「本発明に係るデータ収集装置は,移動体の所望の運航状態データを第1の周期でサンプリングして出力する手段と,この運航状態データを るデータ収集装置を提供することを目的とする。」・段落【0006】「本発明に係るデータ収集装置は,移動体の所望の運航状態データを第1の周期でサンプリングして出力する手段と,この運航状態データを一時的に記憶保持するバッファメモリ手段と,取り外し可能な外部メモリ手段と,事故信号を検出しないときはデータロギング手段によってサンプリングされた運航状態データのうち第1の周期よりも遅い第2の周期でサンプリングされたデータを,外部メモリ手段に記憶させ,事故信号を検出したときはバッファメモリ手段に記憶保持されているデータを外部メモリ手段に記憶させる制御手段とを備えている。このように構成することにより本発明に係るデータ収集装置は,通常時には第2の周期で収集した運航状態データを外部メモリ等に記録し,事故発生時には第2の周期よりも速い第1の周期で収集した運航状態データを記録することができる。」・段落【0010】 - 18 -「運航状態データとは,移動体の稼働状況(例えば,タクシーにおける待機,回送,賃送や,トラックにおける荷役状況等)および運航状況(例えば,速度,変速段,制動信号,操舵信号,エンジン回転数,加速度信号,ヨーレート,温度,車載重量等)を示すデータ信号のことであり,詳細は表1のとおりである。また,事故信号とは車両の事故の発生を検出するための信号である。」・段落【0022】「MPU6は,データロギング部5によって解析された信号中の事故信号の有無を監視する・・・。なお,本実施の形態においては表1に示すようにエアバッグの作動信号を事故信号とするが,車両に設置された衝撃検出手段(図示しない)によって出力される加速度信号を用いてもよい。また,エンジンの回転数やブレーキ信号等を所定の閾値と比較した結果等を事故信号として用いることもできる とするが,車両に設置された衝撃検出手段(図示しない)によって出力される加速度信号を用いてもよい。また,エンジンの回転数やブレーキ信号等を所定の閾値と比較した結果等を事故信号として用いることもできる。」 そうすると,甲第1号証発明1にいう「事故」は文字どおり車両の交通事故を意味するが,甲第1号証のデータ収集装置においては,実際には,事故の発生を示す信号である「事故信号」を検出することによって,交通事故の発生の有無の判定をするものである。そして,甲第1号証の表1(段落【0011】)では,上記「事故信号」の例として,エアバッグ作動信号が挙げられている。 また,甲第1号証発明1にいう「運行状態データ」は,上記のとおり車両(移動体)の稼働状況及び運航状況を示すデータであって(段落【0010】),これには,例えば車両の速度,エンジン回転数,ブレーキ信号,ハンドル角度等が含まれる。 ウ前記ア,イのとおり,本件発明1にいう「特定挙動」は交通事故が生じる場合の車両の挙動に限られないから,甲第1号証発明1にいう「事故」の場合の車両の挙動とは形式的には異なるものであり,甲第1号証発明1では「事故」発生の有無を判定する手掛りとして,主としてエアバッグ作動信号が予定され,本件明細書中には「特定挙動」に当たる場合としてエアバッグが作動した場合が記載されていない点が異なる。しかしながら,甲第1号証の段落【0022】に,エンジン - 19 -回転数やブレーキ信号等を「事故信号」として利用することができる旨記載されていることからすれば,甲第1号証発明1のデータ収集装置においても,交通事故の発生を想起させるデータであればこれを「事故信号」として利用し得ることが予定されているといえ,車両の角速度や加速度等が一定の値(閾値)を超えた場合に「事故信号」ありとして所 置においても,交通事故の発生を想起させるデータであればこれを「事故信号」として利用し得ることが予定されているといえ,車両の角速度や加速度等が一定の値(閾値)を超えた場合に「事故信号」ありとして所要の動作をすることが排除されていない。そうすると,本件発明1において「特定挙動」を手掛りにして所要の動作を行うことと,甲第1号証発明1において「事故」の発生を手掛りにして所要の動作を行うこととは,装置ないし機器の構成上,実質的に相違するものではないということができる。 そして,前記のとおり,本件発明1にいう「特定挙動に関わる情報」も甲第1号証発明1にいう「運航状態データ」も,例えば角速度のような車両の挙動ないし客観的状況を示すデータを主として指すものである。 したがって,相違点1は実質的なものではなく,これが実質的なものであるとした審決の判断は誤りである。 (2)ア甲第1号証発明1と本件発明1の相違点2は,データを記録する目的ないしデータを利用して発揮される機能に関するものであるところ,本件明細書の段落【0004】には,「従来のデータレコーダは,例えば車両に一つ固定的に取り付けられ,しかも記録される測定データは,運転者が誰かにかかわらない。これは,従来のデータレコーダが,事故等が発生した場合に,その車両の挙動を事後的に解析して事故等の発生原因を究明するためのものであったことによる。そのため,利用範囲が著しく制限されてしまい,一般の運転者向けに普及させることが困難であった。」との記載がある。本件明細書の前記段落【0006】ないし【0008】,【0016】の記載にも照らせば,本件発明1にいう「移動体の操作傾向の解析」とは,交通事故発生率の高い箇所での車両の操作(運転)の傾向を把握するべく,「特定挙動」に係る車両のデータ(情報)を分析(解析)す 16】の記載にも照らせば,本件発明1にいう「移動体の操作傾向の解析」とは,交通事故発生率の高い箇所での車両の操作(運転)の傾向を把握するべく,「特定挙動」に係る車両のデータ(情報)を分析(解析)することを意味し,「移動体の操作傾向の解析が可能となるように記録する」とは,上記の分析が可能となるようにデータを記録することを意味するものと解される。具体的には,例えば,車 - 20 -両の角速度等のデータが所定の閾値を超えるか否かで,交通事故発生率の高い箇所であるか否か,かかる箇所での車両の挙動すなわち「特定挙動」であるか否かを判定し,さらに角速度等のデータが1つの閾値を超えるか,又は複数の閾値の組合せを超えるときに,「危険挙動」すなわち交通事故の危険性のある車両の挙動があると判定し(段落【0030】参照),このときの角速度等のデータを記録媒体に記録するものである。したがって,本件発明1においては交通事故の発生が必ずしも前提とされていない。 イ他方,甲第1号証中には,データを記録する目的等に関し,前記段落【0001】,【0005】,【0006】のほかに,次のとおりの記載がある。 ・段落【0002】「従来,業務用トラック,タクシー等においては,乗務員の乗務管理にあたって一日の運航状態(例えば,走行距離や車速の大きさ等)をタコグラフを用いて円盤状の記録用紙に記録していた。すなわち,管理者はこの記録データを参照することによってトラック等の稼働状況の把握および管理を行っていた。」・段落【0003】「ところが,記録用紙に記録されたデータを管理する際,計算機システムへの入力を人手によって行わなければならないなどの不便がある。そのため,特開平7-239888号公報には,運航履歴をICカードに記録する装置を備えた営業車用総合管理システムが開 る際,計算機システムへの入力を人手によって行わなければならないなどの不便がある。そのため,特開平7-239888号公報には,運航履歴をICカードに記録する装置を備えた営業車用総合管理システムが開示されている。」・段落【0004】「このシステムは,乗務員がICカードを営業車に備えられたICカードリーダライタに予め装着することによって乗務中の各種情報,例えば利用者情報,乗車地,乗務時間,料金等を記録させるものである。そして,1日の乗務が終了すると各乗務員は,このICカードを取り外し,営業所のICカードリードライタに装着することによって記録データを読み出し,1日の詳細な乗務状態を管理者に報告する。 このように,記録用紙に記録する代わりにICカードを用いることによってデータ - 21 -管理の簡便化を図っていた。」・段落【0038】「以上説明したように,本発明は通常時には第2の周期で収集した運航状態データを外部メモリ等に記録し,事故発生時には第2の周期よりも速い第1の周期で収集した運航状態データを記録する。その結果,通常時には低サンプリングレートでデータ収集を行うため記憶容量を節約でき,種々の運航状態データを記録し従来のタコグラフとして機能する。また,衝突事故等の発生時には高サンプリングレートで運航状態データを記録することができ,事故発生前後における詳細な運航状態データを記録することができドライブレコーダとしての機能を得ることができる。このような効果を有することから本発明は,タクシーの稼働状況管理,宅配便等の効率的配送ルートの管理,長距離トラックの労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効であるといえる。」 そう 距離トラックの労務管理,アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用,レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理,自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効であるといえる。」 そうすると,甲第1号証発明1は,タクシーやトラック等の運航状況を記録した記録用紙に代えて電子記録媒体を採用した従来技術の短所を克服するべく,交通事故が発生していない通常時においては相対的に長い周期(低い頻度)で車両の稼働状況を示すデータ(例えば,待機中であるか等)及び車両の運航状況を示すデータ,すなわち速度等のデータを収集(サンプリング)して記録媒体に記録し,交通事故が発生したときには相対的に短い周期(高い頻度)で車両の稼働状況を示すデータ及び運航状況を示すデータを収集して記録するものである。具体的には,例えば,長短の2つの周期で車両の速度等のデータを収集していったんRAM(揮発メモリ)に蓄え,通常時には長い周期による車両の速度等のデータをRAMから読み出してメモリカードに記録するが,エアバッグ作動信号の検出を契機として,短い周期による車両の速度等のデータもRAMから読み出してメモリカードに記録するというものである(段落【0029】ないし【0035】,図3参照)。そして,かかる構 - 22 -成を具備することにより,甲第1号証発明1は,車両の稼働状況や通常時の運航状況を把握して車両の効率的利用や労務管理等に役立てることができるとともに(タコグラフとしての機能),交通事故(衝突事故)が発生した場合には,事故当時の車両の速度等のデータを高頻度で記録して,事故の状況の再現に役立てることができる(ドライブレコーダとしての機能)という機能を有する。したがって,甲第1号証発明1のドライブレコーダとしての機能は,交通事故の発生を前提としており,交通事故の発 故の状況の再現に役立てることができる(ドライブレコーダとしての機能)という機能を有する。したがって,甲第1号証発明1のドライブレコーダとしての機能は,交通事故の発生を前提としており,交通事故の発生に至らない単なる危険な運転や,乱暴な運転は,エンジン回転数が所定の閾値を超えた結果,短い周期(高い頻度)で収集された車両のデータが記録媒体に記憶されることがあるとしても,このデータを交通事故状況の再現のために利用することは必ずしも予定されておらず,また,かかる場合のデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)の傾向を把握するために利用することは,甲第1号証中に記載されていないというべきである。 なお,甲第1号証の段落【0033】には,「このとき,事故信号を検出してからもさらにサンプリングを継続することにより事故後のデータを記録することもできる。」との記載があるが,かかる「事故後のデータ」に,交通事故が発生した後再度運転を再開した後の車両の挙動に係るデータまで含まれるとみることは困難であって,交通事故発生直後のものに限られると解するのが自然であるから,上記記載の存在は甲第1号証の発明の趣旨に係る上記結論を左右するものではない。 ウ前記ア,イのとおり,本件発明1においては交通事故の発生が必ずしも前提とされていないが,甲第1号証発明1のドライブレコーダとしての機能は,交通事故の発生を前提としており,記録媒体のデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)の傾向を把握するために利用することは,甲第1号証中で記載されていないから,相違点2は実質的なものであって,これと同趣旨の審決の判断に誤りがあるとはいえない。 エ原告は,甲第1号証のデータ収集装置は,長い周期で記録するタコグラフとしての機能のみを自動車教習所での運転結果の解析等に役立てて のであって,これと同趣旨の審決の判断に誤りがあるとはいえない。 エ原告は,甲第1号証のデータ収集装置は,長い周期で記録するタコグラフとしての機能のみを自動車教習所での運転結果の解析等に役立てているのではな - 23 -く,短い周期で記録するドライブレコーダとしての機能も運転結果の解析等に役立てており,相違点2は実質的なものではないと主張する。確かに,甲第1号証の段落【0038】には,「このような効果を有することから本発明は,・・・自動車教習所での運転結果の解析等に対して非常に有効であるといえる。」との記載があるが,同段落では,甲第1号証の発明が有効な用途として,「自動車教習所での運転結果の解析等」のほかに,「タクシーの稼働状況管理」,「宅配便等の効率的配送ルートの管理」,「長距離トラックの労務管理」,「アクシデント発生時のフライトレコーダ的使用」,「レンタカーの使われ方(速度,走行位置等)の管理」が掲げられているから,上記の「自動車教習所での運転結果の解析等」も,車両の効率的利用や使用方法一般の分析の観点からされるにすぎないというべきであって,事故信号の発生を契機として記録されたデータを参照し,運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)の傾向を把握することがその内容となっているとまではいい難い。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (3) 以上のとおり,相違点1は実質的なものではないが,相違点2は実質的な相違点であるから,本件発明1と甲第1号証発明1の実質的同一性の判断の誤りをいう原告の取消事由1は理由がない。なお,原告はセンサ部の有無についての一致点及び相違点の認定の誤りを主張しておらず,被告が自認するとおり,この点についての認定の当否は本件発明1の新規性,進歩性の判断に影響しないから,かかる点に関する認定・ はセンサ部の有無についての一致点及び相違点の認定の誤りを主張しておらず,被告が自認するとおり,この点についての認定の当否は本件発明1の新規性,進歩性の判断に影響しないから,かかる点に関する認定・判断の当否については判断しない。 2 取消事由2(甲第1号証発明1と本件発明1の相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り)について(1) 前記1のとおり,甲第1号証発明1と本件発明1の相違点1は実質的なものではないから,相違点2に係る構成の容易想到性について判断する。 (2) 車両運行データ収集装置に関する発明に係る甲第2号証(実開平4-123472号公報)には,次のとおりの記載がある。 ・段落【0001】 - 24 -「本考案は車両に搭載して使用される車両運行データ収集装置にかかり,特に,運転者の運転状況を把握するのに有効な車両の加速及び減速の履歴情報を有する車両運行データ収集装置に関するものである。」・段落【0002】「車両の加速及び減速の履歴情報は,運転者の運転状況を把握し,燃費や安全運転などを管理する上で有効な車両運行データである。このような車両運行データを収集するための装置例として,従来,・・・この求めた加速度がその大きさによって予め区分けして定めた複数のランクの何処に入るかを判断し,この判断結果により各ランクに対応して設けたカウンタをインクリメントすることによって,加速度の頻度情報を収集するようにしたものが考えられている。」・段落【0006】「よって本考案は,・・・道路状況に左右されないで,運転者の運転状況を把握するのに有効な,加減速の履歴情報を含む車両運行データを収集することのできる車両運行データ収集装置を提供することを課題としている。」・段落【0007】「上記課題を解決するため本考案により成された るのに有効な,加減速の履歴情報を含む車両運行データを収集することのできる車両運行データ収集装置を提供することを課題としている。」・段落【0007】「上記課題を解決するため本考案により成された車両運行データ収集装置は,第1図の基本構成図に示すように,車両の加速及び減速の履歴情報を有する車両運行データを記憶媒体4に記録して収集する車両運行データ収集装置において,予め定めた加減速ランクの各々に対応した複数の回数記録エリア44a,44bを有する記録媒体4と,車両の加減速を予め定めた複数の加減速ランクデータの一つに変換する変換手段2aと,車両の停車を検出する停車検出手段2bと,最大ランク又はこれに近いランクの急減速を検出する急減速検出手段2cと,減速の開始から車速が連続して所定値低下したことを検出する車速低下検出手段2dと,車両の走行開始又は前回サイクルの終了から前記停車検出手段2b,前記急減速検出手段2c又は前記車速低下検出手段2dによる検出までを1サイクルとし,該1サイクルの間に前記変換手段2aによって変換した加減速ランクデータの内の最大の加減速ラン - 25 -クを検出する最大加減速ランク検出手段2eと,該最大加減速ランク検出手段2eにより検出した最大加減速ランクに対応する前記記録媒体4の回数記録エリア44a,44bのデータをインクリメントする書込手段2fとを備えることを特徴としている。」・段落【0009】「以上のように,一定時間毎にでなく,停車毎の他,最大ランク又はこれに近いランクの急減速の検出や,減速の開始から車速の連続した所定値の低下の検出毎に,それまでの1サイクルの最大加減速ランクをインクリメントして車両の加速及び減速の履歴情報を有する車両運行データを収集しているので,停車の場合を除いては,運転がよくないときに一 定値の低下の検出毎に,それまでの1サイクルの最大加減速ランクをインクリメントして車両の加速及び減速の履歴情報を有する車両運行データを収集しているので,停車の場合を除いては,運転がよくないときに一般道路と高速道路において区別なく起こり得,あまり道路状況に左右されない加減速の履歴情報が収集できる。」・段落【0049】「以上説明したように本考案によれば,停車毎の他,最大ランク又はこれに近いランクの急減速の検出や,減速の開始から車速の連続した所定値の低下の検出毎に,それまでの1サイクルの最大加減速ランクをインクリメントしているので,道路状況に左右されないで,運転者の運転状況を把握するのに有効な,加減速の履歴情報を含む車両運行データを収集することのできる。」 そうすると,甲第2号証には,加速及び減速の程度を分類するランクを設け,対象となる車両の加速及び減速を各ランクに分類し,各ランクに当たる回数を勘定するとともに,最大の加減速ランクを検出する手段を設けるなどして,車両の加減速の履歴情報(運行車両データ)を収集・記録し,車両の運転状況を把握できるようにしたデータ収集装置の発明が記載されており,うち段落【0002】には,従来の技術に関してではあるが,収集・記録したデータを安全運転を管理するために利用することが記載されているということができる。したがって,甲第2号証には,運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)傾向を把握するために車両の加速度の - 26 -データ履歴を利用することが開示されているといえる。また,甲第1号証発明1と甲第2号証に記載された発明は,いずれも車両の挙動等に係るデータを収集・記録するデータ収集装置に関するものであって,技術分野が共通である。 しかしながら,甲第2号証に記載された発明は,道路の状況に左右されないで 記載された発明は,いずれも車両の挙動等に係るデータを収集・記録するデータ収集装置に関するものであって,技術分野が共通である。 しかしながら,甲第2号証に記載された発明は,道路の状況に左右されないで,運転者の運転状況を把握するのに有効な,車両の運航(運行)データを収集できる装置の提供を技術的課題とするにとどまり(甲2の段落【0006】),運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)傾向一般を把握することを技術的課題とするものではない。また,甲第1号証発明1は従来のタコグラフでは記録(記載)されない車両の運航状態のデータを収集・記録し,交通事故発生時には事故状況を再現するための高頻度(短い周期)での車両の運航状態のデータを収集・記録することを技術的課題とし(甲1の段落【0005】),前記のとおり,高頻度の車両の運航状態のデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)の傾向を把握するために利用することは甲第1号証中に記載されておらず,また甲第1号証にかかる目的での利用を示唆する記載も見当たらない。 そうすると,本件優先日当時,技術分野が共通であっても,解決すべき技術的課題の相違にかんがみれば,当業者において甲第1号証発明1に甲第2号証に記載された発明を適用することは困難であるというべきである。 (3) 自動車操作イベント記録装置に関する発明に係る甲第3号証(特開平6-223249号公報)には,次のとおりの記載がある。 ・段落【0003】「このような記録装置の失点は,磁気テープやペーパーストリップが自動車環境に起こりがちな熱や振動の影響を被りやすいことである。また,従来の自動車記録装置は,車両レーダシステムと結びつけて,自動車とその自動車のレーダシステムで位置確認されるターゲットとの間の接近速度(CR),自動車とターゲットとの間の距離( いことである。また,従来の自動車記録装置は,車両レーダシステムと結びつけて,自動車とその自動車のレーダシステムで位置確認されるターゲットとの間の接近速度(CR),自動車とターゲットとの間の距離(D),自動車速度(VS)などの情報や,自動車機能および環境情報(ブレーキ圧,自動車の加速/減速,右左折速度,操舵角,レーダシステムプロセッサで - 27 -検出される危険度,ターゲット方向,走行制御状態など)を記録するために使用されなかったし,事故復元に使用されるべく情報を記録することもなかった。」・段落【0004】「民間飛行機や一部の自家用エアクラフトには,『ブラックボックス』と呼ばれる事故記録装置が備えられている。この装置は,飛行機操縦中に飛行機の主要サブシステムから関連データを記録し,事故が起きた場合は,飛行機からブラックボックスが回収されて記録された情報が再生され,事故直前のサブシステムの状態が検出される。このような情報はその事故にいたるまでの事象を再現するために使用され,事故原因を決定する補助となる。ブラックボックス記録装置は飛行機事故の再現において非常に重要な証拠を提供してきたが,この種の方法は極めて高額であり,用途も飛行機などの費用のかかる輸送手段に限られていた。さらにこのような記録装置はすべて,データの記録に大掛かりな磁気テープを使用して作動すると考えられており,自動車用途としての許容範囲以上に装置が大型化して重量も増え,消費動力も増える。」・段落【0005】「自動車事故復元の分野では,事故分析者は,横滑り形跡の長さや車両の大きさ,周囲の物体の損傷度,事故発生時の道路状況などを測定することによって最も可能性の高い事故発生状態を決定する。この事故再現方法は時として非常に費用がかかったり不正確であった。それゆえ,自 両の大きさ,周囲の物体の損傷度,事故発生時の道路状況などを測定することによって最も可能性の高い事故発生状態を決定する。この事故再現方法は時として非常に費用がかかったり不正確であった。それゆえ,自動車にも事故記録ブラックボックスとして機能するシステムを備えることが望まれている。そのようなシステムは,車両および事故発生以前の周囲環境に関する情報を記録しているのが好ましく,記録された情報は,事故につながる事象を再現するために使用するために事故後の読み出しが可能であるべきである。事故後の測定データとは異なり,このシステムは実際の経過通りのデータを使用することによってより正確に事故の復元を行うことができる。」・段落【0006】「また,事故復元に有用なデータの記録以外にも,自動車機能,操作状態,環境 - 28 -データなどの標準的なデータも記録できることが望ましく,ドライバーの好みに合わせた装置配置や,許可されない者の運転を防止する認可機能,あるいは自動車電子制御システムやレーダシステム用の全システムソフトウェアをグレードアップするための適宜な手段を備えることも望まれる。」・段落【0007】「本発明は,上記の目的を満たし,かつ先行技術を越える利点を有するシステムを提供するものである。」・段落【0035】「第2操作モードの別の変形では,最新ページ以外のページの記録は,自動車の操作値あるいは性能値が所定のしきい値を越えたり,事故発生などの異常事態によってトリガされる。例えば,エンジン温度などひとつあるいは複数の値がしきい値を越えた場合にのみ運転整備センサ値が記録される。別の例として,最新ページ以外の記録は,突然の加速,減速,突然のブレーキ操作,エアバッグの作動など,事故を示し得るような異常状態によってトリガされる。・・・メモリ にのみ運転整備センサ値が記録される。別の例として,最新ページ以外の記録は,突然の加速,減速,突然のブレーキ操作,エアバッグの作動など,事故を示し得るような異常状態によってトリガされる。・・・メモリの個別のページにそのような情報が記録され,特別の事態にのみトリガされることによって,後の分析のための自動車/ドライバー機能のデータ捕獲が可能となる。」・段落【0036】「第3操作モードでは,突然の加速,減速,突然のブレーキ操作,エアバッグの作動など異常操作が発生した場合には,事後分析のためにその事態をとりまくより多くのデータ値を記憶すべく,記録速度が増す。」・段落【0043】「このように,本発明のイベント記録装置は,特定のドライバーによる平均運転速度,ブレーキ/アクセル傾向,前方間隔・・・等の指標を含む操作をモニタするのに用いられる。」・段落【0052】「以上のように,本発明のイベント記録装置は,偶発事故などが記録を停止する - 29 -までデータの記録を行い,事故後にRAMカード20を取り外して,その事故に至るまでの事象をマッチインターフェイスつきの標準パーソナルコンピュータを使用して再生することが可能となる。このように本発明は,様々な標準自動車機能,操作状態,環境データと同様に,事故復元においても非常に有効である。」 そうすると,甲第3号証には,交通事故等の異常事態の発生を検出するべくエンジン温度等につき閾値を設定し,閾値を超えたときにエンジン温度や加減速等の車両の挙動に関するデータを記録する発明が記載されているということができるが,収集・記録したデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)傾向を把握するために利用することは記載されていない。したがって,甲第1号証発明1に甲第3号証に記載された発明を適用して とができるが,収集・記録したデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)傾向を把握するために利用することは記載されていない。したがって,甲第1号証発明1に甲第3号証に記載された発明を適用しても,当業者において相違点2に係る構成に想到することは容易ではない。 (4) 以上のとおり,甲第1号証発明1に甲第2号証に記載された発明を適用することは困難であり,甲第3号証に記載された発明を適用しても,相違点2に係る構成に想到することは当業者にとって容易でないのであって,本件発明1の容易想到性を否定した審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(甲第1号証発明2と本件発明2の相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り)について(1) 本件明細書の段落【0020】には,本件発明2にいうデータの収集条件につき,「本発明の記録媒体は,移動体の特定挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する処理,前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理,読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された,コンピュータ読取可能な記録媒体である。」との記載がある。また,実施例(第1実施形態)に係る段落【0043】には,「新規の運転者の場合は,挙動解析装置30でその運転者用のメモリカード20を作成 - 30 -する。・・・表示装置32に,図5に例示する初期情報設定画面を表示させ,所要のデータを入力する。これらの設定データをメモリカード20に記録させる。新規の運転者でない場合も,閾値や詳細条件を変える場合は,挙動解析装置30でその内容を新たに設定する。」との記載があり,段落【0044】には,「レコーダ部13は,上述のように ード20に記録させる。新規の運転者でない場合も,閾値や詳細条件を変える場合は,挙動解析装置30でその内容を新たに設定する。」との記載があり,段落【0044】には,「レコーダ部13は,上述のようにして設定された条件パターンに適合するイベントデータ及びそれに関わる情報のみを抽出し,これをメモリカード20に記録する。」との記載があり,段落【0046】には,「このように,本実施形態の運行管理システム1では,初期情報や条件パターンを運転者毎にメモリカード20に設定しておき,条件パターンに適合するイベントが発生したときに,そのイベントに関わる情報のみをそのメモリカード20に記録するようにしたので,資源の有効活用を図りつつ,運転者毎の運転評価や操作傾向を解析することが可能になる。」との記載があり,他の実施形態についても同趣旨の記載がある。そうすると,本件発明2にいう「収集条件」とは,単に車両の「特定挙動」に関わるいかなる情報(データ)を収集・記録するかについての条件を意味するというべきであり,データレコーダの利用者(運転者)においてこの条件を任意に変更することができ,条件に係る数値(閾値)が記録媒体に記録される。 他方,甲第1号証中の段落【0018】には,「表3はメモリカード3に記憶されるデータを示す表である。・・・また,データ収集時における指示を予め設定しておくことによってサンプリング周期等を所望の値に容易に変更することができる。」と記載されており,表3では,入力できるデータ項目として,「サンプリング周期」のほかに「データ選択指示」(サンプリングデータの要否選択データ)が掲げられている。そうすると,甲第1号証発明2にいう「データ収集時における指示」とは,車両の挙動に関わるデータ(交通事故発生時のデータを含む。)を収集・記録するのに先立って,デ の要否選択データ)が掲げられている。そうすると,甲第1号証発明2にいう「データ収集時における指示」とは,車両の挙動に関わるデータ(交通事故発生時のデータを含む。)を収集・記録するのに先立って,データ収集装置の利用者が,データ収集・記録の周期(頻度)やいかなるデータを収集・記録するかにつき,設定・変更すること(指示)を意味するというべきである。 - 31 -そして,前記のとおり,本件発明1にいう「特定挙動に関わる情報」も甲第1号証発明1にいう「運行状態データ」も,例えば角速度のような車両の挙動ないし客観的状況を示すデータを主として指すもので,相違点1は実質的なものではないから,本件発明2にいう「収集条件」も甲第1号証発明2にいう「データ収集時における指示」も,車両の挙動ないし客観的状況を示すデータ(情報)を収集・記録するかについての条件である点において異なるものではない。そうすると,相違点3は実質的なものでないか,甲第1号証において,乗務員の車両運航を管理する固定局において「データ収集時における指示」を入力することが予定されており(甲1の段落【0017】),複数ないし多数の車両につき同一の条件で一括して「指示」をすることに繋がりやすいことを考慮しても,当業者において甲第1号証発明2に基づいて容易に解消できる程度のものにすぎない。 (2) 前記のとおり,本件発明1においては交通事故の発生が必ずしも前提とされていないが,甲第1号証発明1のドライブレコーダとしての機能は,交通事故の発生を前提としており,記録媒体のデータを運転者の交通事故に繋がり得る操作(運転)の傾向を把握するために利用することは,甲第1号証中で記載されていないところ,かかる事情は本件発明2においても異なるものではない。そうすると,相違点4,5は実質的なものであり,ま り得る操作(運転)の傾向を把握するために利用することは,甲第1号証中で記載されていないところ,かかる事情は本件発明2においても異なるものではない。そうすると,相違点4,5は実質的なものであり,また本件優先日当時,当業者において,甲第1号証発明2に甲第2号証に記載された発明を適用することは困難で,甲第3号証に記載された発明を適用しても,相違点4,5に係る構成に想到することは容易でなかったというべきである。 したがって,相違点3に係る構成は容易想到であるが,相違点4,5に係る構成は容易想到でないから,本件発明2の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。 第6 結論以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。 - 32 - 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官古 谷 健二郎 裁判官田邉 実
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