主文 1 被告株式会社Aは,原告らに対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成13年2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らの被告株式会社Aに対するその余の請求及び被告小樽市に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告らに生じた費用の4分の1と被告株式会社Aに生じた費用の2分の1を被告株式会社Aの負担とし,原告ら及び被告株式会社Aに生じたその余の費用と被告小樽市に生じた費用を原告らの負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告ら(1) 被告らは,原告らに対し,連帯して,それぞれ200万円及びこれに対する平成13年2月16日(不法行為の後)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告株式会社A(以下「被告A」という。)は,北海道新聞朝刊全道版に別紙記載の謝罪広告(2cm×2段)を掲載せよ。 (3) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (4) 仮執行宣言 2 被告A(1) 原告らの被告Aに対する請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。 3 被告小樽市(1) 原告らの被告小樽市に対する請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,原告らが,被告Aが経営する小樽市所在の公衆浴場に入浴しようとしたところ,外国人であることを理由に入浴を拒否されたことについて(以下「本件入浴拒否」という。),本件入浴拒否は,憲法14条1項,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権B規約」という。)及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)等に反する違法な人種差別であり,これに ,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権B規約」という。)及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)等に反する違法な人種差別であり,これにより人格権や名誉を侵害されたとして,被告Aに対し,不法行為に基づき,損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めるとともに,本件入浴拒否という人種差別が行われたのは,被告小樽市が人種差別撤廃のための実効性のある措置をとらなかったことが原因であり,このような被告小樽市の不作為は,人種差別撤廃条約に反し違法であるとして,被告小樽市に対し,不法行為(国家賠償法)に基づき,人格権の侵害による損害賠償を求めた事案である。 2 前提となる事実(争いのない事実以外は証拠を併記)(1) 当事者ア原告Bは,ドイツ国籍を有する者で,平成元年6月8日,Cと婚姻し,Cとの間に長男D(平成2年4月10日生,平成12年8月17日死亡),長女E(平成4年9月27日生)及び二女F(平成6年3月16日生)をもうけている。同原告は,G大学の助教授を務めている(甲23号証,弁論の全趣旨)。 イ原告Hは,アメリカ国籍を有する者で,平成5年5月6日,Iと婚姻し,コンピュータープログラマーとして札幌市内の会社に勤めている(弁論の全趣旨)。 ウ原告Jは,アメリカ国籍を有していたが,平成12年9月21日,日本に帰化した者で,平成元年6月28日,Kと婚姻し,Kとの間に長女L(平成5年10月16日生),二女M(平成7年7月30日生)をもうけている。同原告は,N大学講師を務めている(弁論の全趣旨)。 エ被告Aは,肩書本店所在地において,公衆浴場であるOを経営している株式会社であり,Oは,平成10年7月12日に開業した(乙イ6号証)。 (2) 本件入浴拒否の経過ア原告B及び同Jは,平成11年9月 告Aは,肩書本店所在地において,公衆浴場であるOを経営している株式会社であり,Oは,平成10年7月12日に開業した(乙イ6号証)。 (2) 本件入浴拒否の経過ア原告B及び同Jは,平成11年9月19日,同原告らの家族等とともに,Oを訪ねた。Oの入口には「外国人の方の入場をお断りします。JAPANESEONLY」という張り紙が掲示されていたが,原告B及び同JらがOに入場して入浴しようとしたところ,被告Aの従業員から,外国人であることを理由として入浴を拒否された(乙ロ7号証,原告B本人,同J本人)(以下「第1入浴拒否」という。)。 イ原告Jは,平成12年10月31日,Oを訪ね,同原告が日本国籍を取得した旨を被告Aの従業員に伝えて入浴を希望したが,同従業員から,外見上は外国人であることに変わりないとして入浴を拒否された(以下「第2入浴拒否」という。)。 ウ原告Hは,同年12月23日,Oを訪ね,入浴しようとしたが,被告Aの従業員から,外国人であることを理由として入浴を拒否された(原告H本人)(以下「第3入浴拒否」という。)。 3 争点(1) 被告Aの法的責任の有無(原告ら)ア憲法14条1項違反憲法3章の諸規定による基本的人権の保障は,権利の性質上日本国民をその対象としていると解されるものを除き,わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものであり,法の下の平等を定めた憲法14条1項も,特段の事情が認められない限り,外国人に対しても類推されるものと解すべきである。そして,同条項で禁止される差別は,「合理性のない差別」であるから,本件入浴拒否が合理的な差別といえるかどうかが問題となる。被告Aは,ロシア人船員の入浴マナーの悪さを嫌って日本人の顧客が減少したことから,公衆浴場の経営維持のために一律に外国人の入浴を拒否せざるを得なかっ 拒否が合理的な差別といえるかどうかが問題となる。被告Aは,ロシア人船員の入浴マナーの悪さを嫌って日本人の顧客が減少したことから,公衆浴場の経営維持のために一律に外国人の入浴を拒否せざるを得なかったというのであるが,本件入浴拒否は,そもそも原告らの人格権という重大な利益を侵害するものであるから,上記のような経営上の理由から差別の合理性を根拠づけることはできない。したがって,本件入浴拒否は,「合理性のない差別」に該当し,同条項に違反するものである。 イ国際人権B規約違反国際人権B規約は,我が国において昭和54年6月21日に批准され,同年9月21日に発効した。条約の効力については,特別の国内法を制定する必要はなく,条約が公布されることによって国内法的効力を持つに至るといわれている。そして,国際人権B規約は,その内容に鑑みると,原則として自動執行的性格を有し,国内での直接適用が可能であると解せられる。 国際人権B規約26条は,「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と定め,何らの制限を付さず,包括的に法律の前の平等を規定している。もっとも,例外を全く許さないものではなく,基準が客観的かつ合理的であり,合法的な目的を達成するために行われた処遇の差異は差別にはあたらないと解せられているが,これを本件入浴拒否についてみると,前記のような被告Aの経営維持という目的は,私的利益の擁護にとどまり,およそ合法的目的には該当しないから,他の要件を検討するまでもなく たらないと解せられているが,これを本件入浴拒否についてみると,前記のような被告Aの経営維持という目的は,私的利益の擁護にとどまり,およそ合法的目的には該当しないから,他の要件を検討するまでもなく,差別取扱禁止の例外とはなりえない。したがって,本件入浴拒否は,国際人権B規約26条に違反する。 ウ人種差別撤廃条約違反我が国は,平成7年12月20日,人種差別撤廃条約に加入し,締結国としての義務を負うことになった。人種差別撤廃条約は,国内法としての効力を有するというのが通説判例である。 人種差別撤廃条約は,個人・集団又は団体の人種差別行為を禁止・終了させるために,立法その他すべての適当な方法による措置をとるよう,締結国に義務づけている(2条1項(d))。また,人種差別撤廃条約によれば,同条約の実体規定に該当する差別行為があるのに,国又は団体が実効性のある適当な措置(立法を含む)をとらなかった場合には,これらの国又は団体に対してその不作為を理由として損害賠償その他の救済措置を求めることができるとされている(6条)。 そして,国際人権法が国家だけでなく私人をも義務の名宛人に取り込んでいるとする主張は,近年国際社会において急速に深化しており,人種差別撤廃条約は,国際社会の「公序」として私人間の行為をも対象としていると解することが国際法の潮流に合致する。人種差別撤廃条約は,保障されるべき権利の一つとして「輸送機関,ホテル,飲食店,喫茶店,劇場,公園等一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利」(5条(f))を掲げているが,本件入浴拒否は,まさに人種差別撤廃条約5条(f)に違反する。 エ公衆浴場法違反公衆浴場とは,「温湯・潮湯又は温泉その他を使用して,公衆を入浴させる施設」(公衆浴場法1条1項)をいい,「公衆」とは,日本国 否は,まさに人種差別撤廃条約5条(f)に違反する。 エ公衆浴場法違反公衆浴場とは,「温湯・潮湯又は温泉その他を使用して,公衆を入浴させる施設」(公衆浴場法1条1項)をいい,「公衆」とは,日本国民に限らず,広く入浴を希望する一般人を指すと解されている。なお,公衆浴場は,都道府県知事の許可を受け,かつ,その配置基準は都道府県条例の規制を受けたうえで,「業」として経営するところから,単なる私企業とは異なった一種の公共性を有するものである。 同法4条は,「営業者は伝染性の疾病にかかっている者と認められる者に対しては,その入浴を拒まなければならない。」と規定しているが,その反対解釈として,上記以外の者の入浴拒否は許されないことになる。本件入浴拒否は,一部の外国人の入浴マナーが悪いことが発端となって一律に外国人の入浴を拒否したものであるが,入浴マナーが悪くて「浴そう内を著しく不潔にし,その他公衆衛生に害を及ぼす虞のある行為」をした者については,公衆浴場法5条に基づき,その特定の行為者に対して行為を制止すればよいのであって,外国人に対して一律に入浴拒否をすることは,同法上許容されない。 したがって,本件入浴拒否は,公衆浴場法4条に違反する。 オ被告Aの責任本件入浴拒否は,国内法関係では,憲法14条1項,公衆浴場法4条に違反して,不法行為を構成し,被告Aは,原告らに対し,民法709条,同法710条に基づく損害賠償責任を負う。 また,本件入浴拒否は,国際法上,国際人権B規約,人種差別撤廃条約に違反しており,不法行為の違法性の要件を充足するから,被告Aは,原告らに対し,国際人権B規約26条,人種差別撤廃条約5条(f),民法709条,同法710条に基づき損害賠償責任を負う。仮に,上記各条約が,私人間の関係には直接適用が認められないとしても,上記各条 原告らに対し,国際人権B規約26条,人種差別撤廃条約5条(f),民法709条,同法710条に基づき損害賠償責任を負う。仮に,上記各条約が,私人間の関係には直接適用が認められないとしても,上記各条約に定められている内容は,我が国の「公序」となり,これに反する行為は違法といえるから,被告Aは,原告らに対し,民法709条,同法710条に基づき,損害賠償責任を負う。 (被告A)ア Oは,開業当初は外国人の利用を全く制限しておらず,開業直後,主として小樽港から入国するロシア人船員らが来店していたが,彼らは,土足で入場する,浴室に酒を持ち込み,飲酒しながら大声で騒ぐ,身体に石鹸を付けたまま浴槽に入る,浴槽に飛び込むなどの迷惑行為をすることが多く,他の利用者からの苦情が相次いだ。苦情を受けた場合,Oの従業員は,当該迷惑行為者に注意をするが,言葉が通じないため十分な意思伝達ができないことが多かった。また,日本人の利用者からOに対し,外国人が入ってくると脱衣場や浴室のサウナ内に強烈な体臭が立ちこめるので我慢ならない,外国人の中には皮膚病の患者らしき者が目立つなどの苦情も寄せられていた。 被告Aのグループ企業が経営していたサウナ風呂では,ロシア人と思われるグループが来店し,上記のOで行われていたような迷惑行為を行うことが多かったため,利用者が日に日に減少し,経営が成り立たなくなり,結局廃業を余儀なくされた。 これらの経緯を踏まえて,被告Aは,外国人利用者を受け入れることによってOが経営難に陥る危険性が極めて高いと判断し,当分の間,外国人の利用を拒否するとの方針を決め,平成10年8月18日からこれを実施するようになった。そのころ,正面玄関に「JAPANESEONLY」と記載した看板を掲げ,平成11年12月ころからは「諸事情により外国人の方のご入場 方針を決め,平成10年8月18日からこれを実施するようになった。そのころ,正面玄関に「JAPANESEONLY」と記載した看板を掲げ,平成11年12月ころからは「諸事情により外国人の方のご入場はご遠慮いただいております。今後の対応については検討中でございます。」旨の看板を掲げるようになった。 イ原告らは,本件入浴拒否は人種差別であって違法である旨主張する。しかし,被告Aは,国又は地方公共団体とは異なり,営業の自由を享有する一私人であるから,本件入浴拒否の違法性の有無を考えるにあたっては,原告らが主張するところの侵害された利益と被告Aが享有する営業の自由とを具体的に比較衡量し,被告Aの行為が社会的に許容される限界を超えていると認められる場合にはじめて違法であると判断されなければならない。 すなわち,被告Aが一定期間にわたって外国人の施設利用を拒否したとしても,それは,前記のとおり,自己の営業を自ら防衛するという目的に基づいた必要性の高いやむを得ない措置であったのであり,そこに当不当の問題は伴うものの,社会的に許容される限界を超えた違法性までは認められない。他方,本件入浴拒否は,原告Jが,Oにおいて外国人の入浴が拒否されていることをインターネットで知り,被告Aに抗議するため,Vのメンバーであった原告Bとともに,平成11年9月19日,それぞれの家族を連れてOを訪れ,原告B及び同Jが予期したとおり,入浴拒否されたものであった。また,同原告らは,入浴拒否の事実をマスコミを通じて世間にアピールする目的であらかじめ新聞記者を同行させていた。原告Hは,平成12年12月23日,Oを訪れ入浴を拒否されたというが,同原告も,原告J及び同Bとともに,被告Aに抗議をしたいという目的,さらに具体的に述べれば,本件訴訟の原告として名を連ねたいとの目的から, ,平成12年12月23日,Oを訪れ入浴を拒否されたというが,同原告も,原告J及び同Bとともに,被告Aに抗議をしたいという目的,さらに具体的に述べれば,本件訴訟の原告として名を連ねたいとの目的から,Oにおいて入浴拒否されるであろうことをあらかじめ予期してOを訪れ,入浴拒否の事実を作出した。そして,札幌市内又は北海道空知郡a町内に居住する原告らにとって,小樽市内のOで入浴する必要性は全くなかった。以上のような原告らが侵害されたという利益の実体に照らして比較衡量をすれば,被告Aの本件入浴拒否が社会的に許容される限界を超えていたとまでは認め難い。 (2) 被告小樽市の法的責任の有無(原告ら)ア小樽市内においては,平成5年秋ころから,公衆浴場における外国人一律入浴拒否が続いており,Oにおいても,平成10年7月から一律に外国人の入浴が拒否されてきた。しかし,被告小樽市は,次のような人種差別撤廃条約に基づく人種差別を禁止し終了させる措置をとる義務を尽くさなかったため,被告Aによる外国人一律入浴拒否が継続され,本件入浴拒否がなされたものである。 イすなわち,人種差別撤廃条約2条1項(d)は,国又は地方公共団体に対し,いかなる個人・集団又は団体による人種差別も終了させるために,立法を含むすべての適当な方法による措置をとるよう義務づけている。そして,同条約6条は,国又は地方公共団体が実効性のある措置をとらなかった場合,その不作為を理由として,損害賠償その他の救済措置をとりうると規定している。国又は地方公共団体が,たとえ措置をとったとしても,それが結果的に人種差別を放置したことになっている場合には,同条により,被差別者は,国や地方公共団体に対して,「差別の結果として被ったあらゆる損害」を請求することができる。 本件入浴拒否は,前記のとおり人種差別 に人種差別を放置したことになっている場合には,同条により,被差別者は,国や地方公共団体に対して,「差別の結果として被ったあらゆる損害」を請求することができる。 本件入浴拒否は,前記のとおり人種差別撤廃条約5条(f)に該当するものであり,被告小樽市は,同条約2条1項(d)に基づき,例えば罰則のある差別撤廃条例を制定するなどの外国人一律入浴拒否を終了させるためのあらゆる有効な措置をとるべきであったのに,これを怠ったため,原告らは,本件入浴拒否によって人格権の侵害を受けた。 したがって,被告小樽市は,人種差別撤廃条約2条1項(d),6条,民法709条,国家賠償法1条,民法710条により,原告らに対して損害賠償の責任を負うものである。 ウ被告小樽市は,差別撤廃条約による義務の主体は締約国であり,地方公共団体は,同条約により何らの措置も義務づけられているものではない旨主張するが,中央の統治権の一部を分割されている地方公共団体の行為は,国際法上国家の行為とみなされ,人権保障の分野においても独自の条例制定権や様々な行政活動を通じて条約の国内的実施の主体として,国と同様の責務を負うものと解すべきである。したがって,被告小樽市は,同条約に基づき不作為による責任を負う。 また,被告小樽市は,同条約に基づき締約国がとる具体的な措置の内容は,締約国の裁量に委ねられている旨主張する。たしかに,同条約は,締約国に対し,特定の措置・方策をとることを義務づけてはいないが,同条約は,「いかなる個人・集団又は団体による人種差別を禁止し,終了させる」という結果回避を義務づけているのであるから,被告小樽市は,同条約により結果回避義務(結果責任)を負うものというべきである。 (被告小樽市)ア人種差別撤廃条約のような国際条約の規定が国内の裁判において直接適用されるためには るのであるから,被告小樽市は,同条約により結果回避義務(結果責任)を負うものというべきである。 (被告小樽市)ア人種差別撤廃条約のような国際条約の規定が国内の裁判において直接適用されるためには,その条約が国内的に法的拘束力を有し裁判規範と認められることが必要である。条約条項が国内裁判において裁判規範として直接適用されるか否かは,当該規定の目的,内容等に照らし個別具体的に判断されなければならず,条約条項が抽象的・一般的な原則あるいは政治的な義務等の宣言にとどまり,権利義務関係を明確かつ具体的に特定していないときには,個別事件において裁判規範としての国内的効力は有しないものと解される。特に本件のごとく不作為(作為義務違反)が問題となる場合には,その条約において作為義務の内容等が明確にされていなければならない。 原告らが主張する人種差別撤廃条約2条1項前文は,締約国が人種差別を非難するとともに人種差別撤廃に向けて有効な政策を行うべきことを国の基本的責務として宣言したものにすぎず,特定の具体的な義務を定めたものではない。また,同条1項(d)も,私人間における人種差別を終了させるため,締約国が立法も含めたすべての適当な方法によりこれを行うものとして,締約国の一般的・基本的責務を謳っているものにすぎず,その具体的方策は立法措置も含めて締約国の選択に委ねられているのである。また,同条約6条は,「締約国は,自国の管轄の下にあるすべての者に対し,権限のある自国の裁判所及び他の国家機関を通じて,この条約に反して人権及び基本的自由を侵害するあらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し,並びにその差別として被ったあらゆる損害に対し,公正かつ適正な賠償又は救済を当該裁判所に求める権利を確保する。」と定めているのであって,原告らの主張す 行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し,並びにその差別として被ったあらゆる損害に対し,公正かつ適正な賠償又は救済を当該裁判所に求める権利を確保する。」と定めているのであって,原告らの主張するように地方公共団体の不作為を理由として損害賠償しうることを定めているものではない。 さらに,これらの条項は,締約国の責務を定めているものであり,個々人に対し,人種差別問題について国等に対し特定の施策を求めうる具体的権利までも付与したものではなく,それらの具体的権利は立法措置等によって定められるものである。そして,これらの責務の主体は締約国であって,地方公共団体がこの条約の条項により直接何らかの措置を義務づけられるものではない。 イ仮に,人種差別撤廃条約2条が直接適用され,国等の機関に対し人種差別撤廃に向けた施策をとるべき作為義務を課しているとしても,その実施すべき施策の内容は締約国における国内状況,社会制度,法制度等を勘案して選択され,実施されるものであって,締約国の裁量に委ねられているものといわなければならない。 同様に,地方公共団体においても,国の立法措置等により国内法上の義務あるいは制度が明確に定められていない状況下においては,各地方において人種差別撤廃のためにどのような施策を行うかは,差別の状況,地域の実情,国の制度,法令の定め,財政状況等を考慮して当該地方公共団体が自ら判断し,選択すべきものであり,その裁量に委ねられているところである。 ウ被告小樽市は,本件入浴拒否について人権侵害の問題としてとらえ,その解消を図るべく,Oに対して度重なる協議,口頭による指導・要請又は文書による要望等様々な働きかけをなし,また,市民広報,ホームページに本件入浴拒否を含む外国人一律入浴拒否問題を掲載して市民に対する啓蒙活動をしたほか,入浴マナー なる協議,口頭による指導・要請又は文書による要望等様々な働きかけをなし,また,市民広報,ホームページに本件入浴拒否を含む外国人一律入浴拒否問題を掲載して市民に対する啓蒙活動をしたほか,入浴マナー等を記載したチラシの配布による外国人利用者に対する啓蒙活動,浴場のトラブルに対応するための援助体制作り,広範な国際関連団体の参加による本件解決に向けての協議会の開催等,様々な活動をした。本件入浴拒否のように私人間における外国人差別問題については,行政として強制力を用いて直接その中止を求めることは困難であり,そのような状況下において,被告小樽市は,苦慮しつつ解消に向けて懸命の努力を行ってきたのである。被告小樽市が本件入浴拒否に関してとった以上の施策は,実際にも小樽市内で外国人の入浴を拒否していた他の二施設が外国人の受入れを始めるなど実効性を持ち,人種差別撤廃条約2条が求めている施策として十分その裁量の範囲に含まれるものであって,何らその不作為を理由として法的責任を問われることはない。人種差別撤廃条例の制定については,国の立法措置がなされていない現状において罰則を含むような条例を設けることが妥当か否かについても議論のあるところであり,いずれにせよ,被告小樽市がこのような措置を講じなかったからといって,その不作為の責任を負うものではない。 (3) 損害論(原告ら)原告らは,被告Aの本件入浴拒否及び被告小樽市が本件入浴拒否に関して人種差別撤廃のための実効性ある措置をとらなかったことにより,入浴の利益を奪われたのみならず,人間としての尊厳を著しく傷つけられ,人格権及び名誉を侵害されたものである。したがって,被告A及び被告小樽市は,原告らの精神的損害に対する慰謝料として,連帯してそれぞれ200万円を支払う義務がある。また,被告Aは,原告らの名誉毀損 ,人格権及び名誉を侵害されたものである。したがって,被告A及び被告小樽市は,原告らの精神的損害に対する慰謝料として,連帯してそれぞれ200万円を支払う義務がある。また,被告Aは,原告らの名誉毀損に対して謝罪広告をする義務がある。 (被告A)本件入浴拒否は,原告らが世間にアピールする目的で,あらかじめ入浴が拒否されることを知りながらOを訪れ,入浴を拒否されたという事実を作出したものであって,原告らにとってOで入浴する必要性は全くなかった。したがって,原告らが,本件入浴拒否によって何ら精神的損害を受けたとは考えられないから,原告らの損害を認定することができず,その慰謝料請求は理由がない。原告らの名誉毀損の事実も争う。 (被告小樽市)損害については争う。 第3 当裁判所の判断 1 証拠(甲3号証の2,4ないし9号証,11号証,22ないし24号証,乙イ3ないし6号証,乙ロ1ないし15号証,17ないし25号証(枝番を含む。),証人P,原告J本人,原告B本人,原告H本人,被告A代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件入浴拒否についてア被告Aのグループ企業が経営していたサウナ風呂Qでは,ロシア人船員のグループが来店し,身体に石鹸を付けたまま浴槽に入る,浴室内で飲食して大声で騒ぐ,浴室や休憩室で写真撮影をするなどの迷惑行為を行うことが多かった。Qでは,入浴マナーを記載したパンフレットを作って,外国人利用者に配布したが,事態は改善されなかった。Qは,利用者が減少し,経営が成り立たなくなり,平成10年8月末ころ廃業した。 Oでは,平成10年7月の開業当初は外国人の利用を制限していなかったところ,主として小樽港から入国するロシア人船員らが来店し,土足で店内に入場する,浴室に酒を持ち込み,飲酒しながら大声で騒ぐ,身体に では,平成10年7月の開業当初は外国人の利用を制限していなかったところ,主として小樽港から入国するロシア人船員らが来店し,土足で店内に入場する,浴室に酒を持ち込み,飲酒しながら大声で騒ぐ,身体に石鹸を付けたまま浴槽に入る,浴槽に飛び込むなどの迷惑行為をすることが多く,他の利用者からの苦情が寄せられた。 これらの経緯を踏まえて,被告Aは,外国人利用者を受け入れることによって他の利用者が減少し,Oが経営難に陥る危険性が極めて高いと判断し,平成10年8月18日以降,「外国人の方の入場をお断りいたします。JAPANESEONLY」の看板を掲げ,一律に外国人の利用を拒否することにした。 なお,小樽市内においては,公衆浴場「R」が平成5年7月ころから,同「S」が平成6年4月ころから,一律に外国人の入浴を拒否していた。 イ原告Jは平成元年ころから,同Bは平成4年5月から日本に在住し,いずれも日本における外国人の人権擁護等を目的とする非営利団体Vに属していたが,同原告らは,平成11年の夏ころ,インターネットを通じて,Oで一律に外国人の入浴を拒否していることを知った。原告J及び同Bは,Oで入浴することを希望するとともに,Oで一律に外国人の入浴が拒否されていることを調査確認するために,平成11年9月19日,同原告らの家族,他の外国人の2家族らとともに,Oを訪ね,入浴券を購入して入場しようとしたが,Oの従業員から入浴を拒否された(第1入浴拒否)。同原告らは,同従業員から,ロシア人の船員らが入浴のマナーを守らず,他の日本人客に迷惑をかけ,日本人の客が敬遠するようになるため,外国人の入浴拒否の方針を採用している旨説明を受けたことから,同従業員に対し,自分達はロシア人の船員ではなく,日本人女性と結婚し,長年日本で生活を続けている旨を述べて,入浴を認めるよう になるため,外国人の入浴拒否の方針を採用している旨説明を受けたことから,同従業員に対し,自分達はロシア人の船員ではなく,日本人女性と結婚し,長年日本で生活を続けている旨を述べて,入浴を認めるよう説得したが,受けいれられなかった。同原告らは,その帰途,小樽市内の「T」という公衆浴場で入浴した。 なお,同原告らに北海道新聞の記者が同行し,同月21日の北海道新聞に「小樽市内の公衆浴場で一律の外国人の入浴拒否が行われている」旨の記事が掲載された。 ウ原告J及び同Bは,平成12年1月3日,Oを訪ね,Oの支配人U(被告Aの現代表者。以下「U支配人」という。)に対し,外国人一律入浴拒否を改めるよう申し入れたが,受けいれられなかった。なお,Oにおいては,平成11年12月ころから,前記「JAPANESEONLY」の看板に代えて「諸事情により外国人の方のご入場はご遠慮いただいております。今後の対応については検討中でございます。」との看板が掲げられるようになった。 原告Jは,平成12年9月21日ころ,帰化の許可を受け,日本の国籍を取得した。そして,同年10月31日,友人らとともにOを訪ね,従業員に対し,運転免許証を示し,日本人であることを説明して入浴を認めるように述べたが,従業員から,「あなたは白人であり,外見上は日本人であることが分からないから,入らないで下さい。」といわれ,入浴を拒否された(第2入浴拒否)。 エ原告Hは,平成元年ころから日本に在住しており,平成7年ころから月に一度,小樽市内の老人ホームに入寮している友人を訪問していた。同原告は,平成11年7月ころ,登山の帰り,Oに入ろうと思ったが,Oに外国人入浴禁止を知らせる前記看板が掲示されていたため,入浴をあきらめた。同原告は,その後,原告Jや同Bらによる外国人差別撤廃に向けた運動に賛同 1年7月ころ,登山の帰り,Oに入ろうと思ったが,Oに外国人入浴禁止を知らせる前記看板が掲示されていたため,入浴をあきらめた。同原告は,その後,原告Jや同Bらによる外国人差別撤廃に向けた運動に賛同し,同原告らから入浴拒否に関して訴訟提起を検討していることを聞き,これに自らも参加することを考えるようになった。そして,平成12年12月23日,入浴を希望しながらも,入浴を拒否されたら裁判の証拠にするつもりで,再びOを訪ね,入浴券を購入して入場しようとしたが,従業員から,外国人は入浴できない決まりとなっている旨いわれ,入浴を拒否された(第3入浴拒否)。 (2) 本件入浴拒否についての被告小樽市の対応ア平成10年10月5日,「カトリック札幌教区国際協力委員会」及び「在日外国人の人権を守る会・北海道」という団体の代表者らが被告小樽市を訪ね,両団体の連名による「スーパー銭湯「O」における「外国人入浴拒否」の張り紙について善処のお願い」と題する書面を提出し,被告小樽市に対し,Oの玄関に張り出された「外国人の方の入場をお断りいたします」という張り紙は,人種的偏見と差別につながるので,これを取り除き,外国人の入浴も認めるようOに対する指導をすることを要請した。外国人の一律入浴拒否問題については,被告小樽市の総務部国際交流担当及び保健所環境衛生課等が担当することになり,同担当職員らは,同月6,9日,Oを訪れ,張り紙の掲示を確認するとともに,OのU支配人から外国人一律入浴拒否についての事情聴取をしたうえ,外国人に対する理解と協力を求める指導を行った。 イ同月26日及び平成11年2月1日,Oで入浴拒否されたという外国人から,被告小樽市の善処を求め,見解を質す手紙が寄せられ,同年6月末には日本人と結婚しているブラジル人の妻が入浴を拒否されたことについて, 6日及び平成11年2月1日,Oで入浴拒否されたという外国人から,被告小樽市の善処を求め,見解を質す手紙が寄せられ,同年6月末には日本人と結婚しているブラジル人の妻が入浴を拒否されたことについて,その関係者から被告小樽市に苦情が寄せられた。被告小樽市の担当職員は,同年7月13日,Oを訪ね,U支配人から外国人一律入浴拒否をしている理由を聴いたうえ,同支配人に対し,「観光地でもあり,色々な人が来るので,できるだけ拒否をしないようにしてほしい。どうしても拒否する場合には,相手に十分説明して了承を得るよう対応してもらいたい。」旨要請したが,U支配人から「外国人一律入浴拒否の現状を続けるほかないが,入浴拒否の理由については相手に十分説明し,了承を得るよう努める。」などといわれ,外国人一律入浴拒否の中止を拒まれた。 ウ第1入浴拒否の後,原告Bの妻Cは,小樽市長に対して,平成11年9月27日付けの手紙を差し出し,第1入浴拒否を含む小樽市の公衆浴場で行われている外国人一律入浴拒否の概要を報告し,本件入浴拒否等に関して小樽市長の考えや被告小樽市としての姿勢を知らせるよう要請した。 小樽市長は,Cに対して,同年10月12日付け書簡を送付し,本件入浴拒否等を事実として認め,Cらが不愉快な目に遭ったことを残念に思い,本件入浴拒否等の解消に向けて関係業界の理解が得られるよう,今後とも話合いをしていく考えである旨回答した。 エ前記V(代表W)は,小樽市長に対して,同月14日付け要望書を送付し,本件入浴拒否等は人種差別撤廃条約に違反すること等を理由として,被告小樽市が人種差別撤廃条例の制定に取り組むこと,公衆浴場が外国人全般に対する入場禁止措置を止めるよう指導し,公衆浴場がそれを止めるまで必要な対策をとること,被告小樽市主催で,被告小樽市,V,公衆浴場関係者ら 種差別撤廃条例の制定に取り組むこと,公衆浴場が外国人全般に対する入場禁止措置を止めるよう指導し,公衆浴場がそれを止めるまで必要な対策をとること,被告小樽市主催で,被告小樽市,V,公衆浴場関係者らからなる円卓会議を開催すること等を要請した。 被告小樽市は,V代表に対し,同年11月1日付け書面を送付し,本件入浴拒否等の問題は,相互理解による解決が必要であり,現在のところ人種差別撤廃条例を制定することは考えていないこと,公衆浴場側も参加した国際交流関連団体との会議の中で改善策を見出していきたいと考えている旨回答した。 オ同年10月26日,被告小樽市の主催により,小樽市内の公衆浴場等における外国人受入れについて,国際交流事業打合会が開催され,被告小樽市職員及び小樽商工会議所,小樽青年会議所,小樽商科大学国際交流センター,国際交流団体の各代表者らが参加して,討議がなされた。原告Jは,被告小樽市に対して,同月23日,電話で上記会議に出席したい旨を伝えたが,参加者が既に確定していたことを理由に出席を断られた。 カ同年11月5日,被告小樽市の主催により,小樽市内公衆浴場等の外国人受入れについて,国際交流関連団体連絡会議が開催され,上記オの会議の出席者に加えて,被告Aを含めた公衆浴場の経営者等も参加して,討議がなされ,被告小樽市と公衆浴場が対応策を早急に探るべきであるとの意見が出されたりした。原告Jは,同月2日,Vのメンバーを代表する立場で,国際交流関連団体連絡会議への参加を求めたが,被告小樽市から出席を断られた。 キ原告Jは,同月9日,被告小樽市総務部国際交流担当主幹P(以下「P主幹」という。)らと面会し,小樽市内の公衆浴場経営者,小樽市住民及び外国人が参加して討議するための本件入浴拒否等についてのフォーラム開催並びに本件入浴拒否等の問題につ 国際交流担当主幹P(以下「P主幹」という。)らと面会し,小樽市内の公衆浴場経営者,小樽市住民及び外国人が参加して討議するための本件入浴拒否等についてのフォーラム開催並びに本件入浴拒否等の問題についての差別撤廃条例制定を申し入れたが,P主幹は,いずれも実行の予定はない旨回答した。 ク前記Sは,同年11月中に外国人一律入浴拒否を中止した。被告小樽市は,上記カの国際交流関連団体連絡会議の後,入浴マナーを記載したチラシを作成して配布するとともに,公衆浴場でトラブルが発生すれば被告小樽市の職員が協力する体制をとることとし,O及びRに対し,その旨提案して,外国人の受入れを要請したところ,Oは,提案に同調せず,独自のやり方で対応すると回答し,Rは,アンケートを実施するなどして検討中である旨回答した。同年12月7日に被告小樽市の主催により開催された国際交流関連団体連絡会議において,以上の経過が報告された。 そのころ,被告小樽市は,外国人向けの入浴マナーを記載したチラシを作成し,同市内の船舶代理店及び免税店に4000枚配布した。このチラシに記載された事項を守らずに公衆浴場側との紛争が生じた場合には,被告小樽市の担当職員が連絡を受け,公衆浴場側と協力して対応にあたることとした。 ケドイツ連邦共和国大使館は,小樽市長に対して,同年11月29日付け書簡を送付し,伝統的に友好的な日独関係に鑑み,外見又は国籍のみを理由としたドイツ国民に対する差別を深刻な問題ととらえており,外国人の公衆浴場使用に関する問題は,外国人の排除によって解決されてはならず,外国人と公衆浴場の双方による啓蒙及び理解促進に努めるのが正しい道である旨の意見を述べた。 コ原告B及び同Jは,平成12年1月13日,前記Vの代表らとともに,被告小樽市及び小樽市議会に対して,人種差別を行う者に対 の双方による啓蒙及び理解促進に努めるのが正しい道である旨の意見を述べた。 コ原告B及び同Jは,平成12年1月13日,前記Vの代表らとともに,被告小樽市及び小樽市議会に対して,人種差別を行う者に対し被告小樽市が中止命令を発する義務を定める規定,この中止命令に違反した者に罰金刑の刑罰を科するための規定,人種差別行為により人権を侵害された者が,侵害した者に対し,侵害の停止を請求する権利(差止請求権)や,侵害によって生じた物的,精神的損害の賠償を請求する権利を認める規定等を盛り込んだ人種差別撤廃のための条例の制定を求める陳情をした。被告小樽市は,これについて検討したが,人種差別問題については,国の法律もまだ整備されていない状況であり,また,差止請求権を認めたり罰則規定を制定したりするには,それに該当する具体的な差別行為を特定しなければならないが,それが非常に困難であることなどから,上記のような条例の制定は時期尚早であると判断した。また,小樽市議会においても,同様の検討がなされ,陳情は継続審議となった。 サ同年3月1日,被告小樽市の主催により外国人入浴拒否問題検討会議が開催され,前記国際交流事業打合会の出席者に加えて,原告B及び同Jらも参加して,討議がなされた。なお,被告小樽市から原告B及び同Jに対する上記会議への招待は,会議開催の24時間前であった。 シ被告小樽市は,平成11年11月26日以降,被告小樽市のホームページに「外国人と入浴施設について」の項目を設定し,本件入浴拒否を含む外国人一律入浴拒否問題について,上記のような事実の経過及び被告小樽市の対応を述べて,市民の理解と協力を求めた。 また,被告小樽市は,平成11年12月15日発行の広報誌及び平成12年4月15日発行の広報誌にも同旨の記事を掲載し,市民の理解と協力を求めた。 ス 樽市の対応を述べて,市民の理解と協力を求めた。 また,被告小樽市は,平成11年12月15日発行の広報誌及び平成12年4月15日発行の広報誌にも同旨の記事を掲載し,市民の理解と協力を求めた。 ス前記Rは,平成12年3月から外国人の入浴を認めるようになり,外国人一律入浴拒否を続けているのはOのみとなった。 被告小樽市は,同年4月17日,被告A宛に小樽市長名の要望書を送付し,Oが外国人一律入浴拒否をせざるを得なかった経過については認識しているが,外国人に対する偏見を払拭し,Oが外国人と日本人とのよき交流の場となるよう,外国人一律入浴拒否の掲示を撤去し,外国人を受け入れるよう求めた。 セ被告Aは,Oにおいて,平成13年1月17日から,日本に継続して1年間以上滞在していること,日本の習慣,入浴方法,マナーを十分理解していること,日本語を理解できること,以上の3条件を満たす外国人の入浴を認めるようになった。その後,被告Aの営業努力があるものの,Oの売上げは減少していない。 2 前記前提事実と上記認定事実を踏まえて,まず争点(1)(被告Aの法的責任の有無)について検討する。 (1) 原告らは,被告Aによる本件入浴拒否は,憲法14条1項,国際人権B規約26条,人種差別撤廃条約5条(f),6条及び公衆浴場法に反して違法である旨主張する。しかし,憲法14条1項は,公権力と個人との間の関係を規律するものであって,原告らと被告Aとの間のような私人相互の間の関係を直接規律するものではないというべきであり,実質的に考えても,同条項を私人間に直接適用すれば,私的自治の原則から本来自由な決定が許容される私的な生活領域を不当に狭めてしまう結果となる。また,国際人権B規約及び人種差別撤廃条約は,国内法としての効力を有するとしても,その規定内容からして,憲法と同様に 原則から本来自由な決定が許容される私的な生活領域を不当に狭めてしまう結果となる。また,国際人権B規約及び人種差別撤廃条約は,国内法としての効力を有するとしても,その規定内容からして,憲法と同様に,公権力と個人との間の関係を規律し,又は,国家の国際責任を規定するものであって,私人相互の間の関係を直接規律するものではない。そして,公衆浴場法は,公衆衛生を保持するために公衆浴場の配置基準を定め,公衆浴場業の営業を許可制とするものであって,本件入浴拒否のような,公衆浴場の公衆衛生の保持とは直接関係のない行為についての適法性を判断する根拠とはなりえない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (2) 私人相互の関係については,上記のとおり,憲法14条1項,国際人権B規約,人種差別撤廃条約等が直接適用されることはないけれども,私人の行為によって他の私人の基本的な自由や平等が具体的に侵害され又はそのおそれがあり,かつ,それが社会的に許容しうる限度を超えていると評価されるときは,私的自治に対する一般的制限規定である民法1条,90条や不法行為に関する諸規定等により,私人による個人の基本的な自由や平等に対する侵害を無効ないし違法として私人の利益を保護すべきである。そして,憲法14条1項,国際人権B規約及び人種差別撤廃条約は,前記のような私法の諸規定の解釈にあたっての基準の一つとなりうる。 これを本件入浴拒否についてみると,本件入浴拒否は,Oの入口には外国人の入浴を拒否する旨の張り紙が掲示されていたことからして,国籍による区別のようにもみえるが,外見上国籍の区別ができない場合もあることや,第2入浴拒否においては,日本国籍を取得した原告Jが拒否されていることからすれば,実質的には,日本国籍の有無という国籍による区別ではなく,外見が外国人に 外見上国籍の区別ができない場合もあることや,第2入浴拒否においては,日本国籍を取得した原告Jが拒否されていることからすれば,実質的には,日本国籍の有無という国籍による区別ではなく,外見が外国人にみえるという,人種,皮膚の色,世系又は民族的若しくは種族的出身に基づく区別,制限であると認められ,憲法14条1項,国際人権B規約26条,人種差別撤廃条約の趣旨に照らし,私人間においても撤廃されるべき人種差別にあたるというべきである。 ところで,被告Aには,Oに関して,財産権の保障に基づく営業の自由が認められている。しかし,Oは,公衆浴場法による北海道知事の許可を受けて経営されている公衆浴場であり,公衆衛生の維持向上に資するものであって,公共性を有するものといえる。そして,その利用者は,相応の料金の負担により,家庭の浴室にはない快適さを伴った入浴をし,清潔さを維持することができるのであり,公衆浴場である限り,希望する者は,国籍,人種を問わず,その利用が認められるべきである。もっとも,公衆浴場といえども,他の利用者に迷惑をかける利用者に対しては,利用を拒否し,退場を求めることが許されるのは当然である。したがって,被告Aは,入浴マナーに従わない者に対しては,入浴マナーを指導し,それでも入浴マナーを守らない場合は,被告小樽市や警察等の協力を要請するなどして,マナー違反者を退場させるべきであり,また,入場前から酒に酔っている者の入場や酒類を携帯しての入場を断るべきであった。たしかに,これらの方法の実行が容易でない場合があることは否定できないが,公衆浴場の公共性に照らすと,被告Aは,可能な限りの努力をもって上記方法を実行すべきであったといえる。そして,その実行が容易でない場合があるからといって,安易にすべての外国人の利用を一律に拒否するのは明らかに合理 に照らすと,被告Aは,可能な限りの努力をもって上記方法を実行すべきであったといえる。そして,その実行が容易でない場合があるからといって,安易にすべての外国人の利用を一律に拒否するのは明らかに合理性を欠くものというべきである。しかも,入浴を希望した原告らについては,他の利用者に迷惑をかけるおそれは全く窺えなかったものである。 したがって,外国人一律入浴拒否の方法によってなされた本件入浴拒否は,不合理な差別であって,社会的に許容しうる限度を超えているものといえるから,違法であって不法行為にあたる。 被告Aは,原告らがOを訪れたのは,入浴拒否の事実をマスコミを通じて世間にアピールし,又は,被告Aに抗議するためであったから,原告らが本件入浴拒否により侵害された利益の実体に照らして被告Aの経済的自由と比較衡量すれば,本件入浴拒否が社会的に許容される限界を超えていたとまではいえない旨主張するが,原告らは,被告Aの入浴拒否に抗議し,その事実を社会に認知してもらうという目的をもっていたとしても,拒否されずに入浴することを望んでいたことに変わりはなく,本件入浴拒否によって不合理な差別を受けたことは否定できないから,原告らが上記のような目的をもっていたことによって本件入浴拒否の違法性がなくなるわけではない。 3 次に,争点(2)(被告小樽市の法的責任の有無)について検討する。 (1) 我が国においては,本件のように私人経営の公衆浴場において人種差別による入浴拒否がなされたときに,国又は地方公共団体が強制力をもってその中止を命じたり,その人種差別に対し罰則を科したりすることができる法律又は条例はいまだ存在しない。このような法制下において,被告小樽市は,Oにおける外国人一律入浴拒否について,地方公共団体の事務の一環として,前記のような諸活動をしたものである。 することができる法律又は条例はいまだ存在しない。このような法制下において,被告小樽市は,Oにおける外国人一律入浴拒否について,地方公共団体の事務の一環として,前記のような諸活動をしたものである。 (2) 原告らは,被告小樽市は,人種差別撤廃条約2条,6条に基づき,外国人一律入浴拒否を終了させるような強制力や罰則を伴った差別撤廃条例を制定する義務があったのに,これを怠ったため,本件入浴拒否を発生させたものであり,被告小樽市による上記差別撤廃条例制定の不作為は違法である旨主張する。 しかしながら,地方公共団体である被告小樽市は,差別撤廃条例等の条例の制定については,憲法,条約及び法律によって一定内容の条例を制定すべきことが一義的に明確に義務づけられているような例外的な場合を除いて,国会による立法と同様に,市民全体に対する関係で政治的責務を負うにとどまり,個別の市民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではない。 人種差別撤廃条約2条1項の前文及び(d)は,「締結国は,人種差別を非難し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため,各締結国は,すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む。)により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる。」と定めているが,この規定により,地方公共団体である被告小樽市が,公権力の一翼を担う機関として,国と同様に,人種差別を禁止し終了させる義務を負うとしても,それは政治的責務にとどまり,個々の市民との間で,条例を制定することによって具体的な人種差別を禁止し終了させることが一義的に明確に義務づけられるものではないと解される。また,同条約6条は,「締約国は,自国の管轄の下にあ まり,個々の市民との間で,条例を制定することによって具体的な人種差別を禁止し終了させることが一義的に明確に義務づけられるものではないと解される。また,同条約6条は,「締約国は,自国の管轄の下にあるすべての者に対し,権限のある自国の裁判所及び他の国家機関を通じて,この条約に反して人権及び基本的自由を侵害するあらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し,並びに差別の結果として被ったあらゆる損害に対し,公正かつ適正な賠償又は救済を当該裁判所(権限のある自国の裁判所)に求める権利を確保する。」と定めているが,これは,主には裁判手続等による救済方法を確保するという手続的保障に関する規定であり,賠償又は救済を求めうる実体要件について具体的に言及するものではないから,これによって被告小樽市が上記差別撤廃条例の制定を義務づけられることはないというべきである。そのほか,被告小樽市に対し原告ら主張のような差別撤廃条例の制定を一義的に明確に義務づけるような憲法,条約及び法律の規定は見出し難いから,被告小樽市が上記差別撤廃条例を制定しなかった不作為を違法ということはできない。 (3) 原告らは,被告小樽市は,差別撤廃条例の制定以外にも,被告Aによる外国人一律入浴拒否を禁止し終了させる有効な措置をとるべきであったのに,これを怠ったものであって,その不作為は違法である旨主張する。 しかしながら,差別撤廃条例の制定以外に,本件入浴拒否のような人種差別を禁止し終了させるために地方公共団体である被告小樽市がとりうる施策は限られており,また,これらの施策が必ずしも有効であるとは限らない。 そして,どのような施策をとり,これをどのように実行するかは被告小樽市の裁量に委ねられているものというべきである。したがって,被告小樽市が上記のような施策をとらなかっ ずしも有効であるとは限らない。 そして,どのような施策をとり,これをどのように実行するかは被告小樽市の裁量に委ねられているものというべきである。したがって,被告小樽市が上記のような施策をとらなかったとしても,その不作為は,原則として違法ではなく,例外的に,被告小樽市において外国人一律入浴拒否に対し有効な施策を容易にとることができ,市民からみても被告小樽市がその施策をとることを期待するのが相当であるのに,これを怠った場合等に限って,違法となるものと解するのが相当である。 これを本件についてみると,被告小樽市は,第1入浴拒否以後,同被告主催の国際交流関連団体連絡会議,外国人入浴拒否問題検討会議等を開催して本件入浴拒否等の問題を検討し,外国人向けの入浴マナーを記載したチラシを市内の船舶代理店及び免税店に配布し,外国人一律入浴拒否をしていた被告A等の公衆浴場経営者に対してこれを取り止めるよう指導・要請するなど,本件入浴拒否等の問題解決に向けてさまざまな施策を行ったものであり,その結果,外国人一律入浴拒否問題がマスコミで取り上げられ,世論の関心が高まったことが大きく寄与しているとはいえ,平成11年11月ないし平成12年3月には他の二公衆浴場が外国人一律入浴拒否を中止するに至ったものであるから,被告小樽市は,可能な諸施策を行い,それによる相応の効果もあったというべきである。そして,現法制下において,市民からみても被告小樽市がとることを期待するような上記の施策以外の有効な施策は想定しがたい(外国人に入浴マナーを学んでもらうための施設は,結果的に外国人専用の入浴施設を作ることになり,人種差別を助長することにもなりかねない。)。したがって,違法というべき被告小樽市の不作為は認められない。 (4) 以上のとおりであるから,被告小樽市の法的責任はない。 の入浴施設を作ることになり,人種差別を助長することにもなりかねない。)。したがって,違法というべき被告小樽市の不作為は認められない。 (4) 以上のとおりであるから,被告小樽市の法的責任はない。 4 争点(3)(損害論)について原告らは,本件入浴拒否によって,公衆浴場であるOに入浴できないという不利益を受けたにとどまらず,外国人にみえることを理由に人種差別されることによって人格権を侵害され,精神的苦痛を受けたものといえるから,前記のような諸事情をあわせ考慮すると,これを慰謝するにはそれぞれ100万円が相当である。 被告Aは,本件入浴拒否は,原告らが世間にアピールする目的で,あらかじめ入浴が拒否されることを知りながらOを訪れ,入浴を拒否されたという事実を作出したものであって,原告らにとってOで入浴する必要性はそもそもなく,原告らは何ら精神的打撃を受けたとはいえず,損害は発生していない旨主張するけれども,原告らが,入浴拒否の事実を社会に認知してもらいたいという目的をもっていたとしても,本件入浴拒否によって,現実に入浴ができず,人種差別を受けて精神的苦痛を受けた以上,損害が発生していないということはできないから,被告Aの上記主張は採用することができない。 したがって,被告Aは,原告らに対し,それぞれ100万円の損害を賠償すべき義務があるというべきである。しかし,本件入浴拒否によって原告らの社会的名誉が毀損されたとまで認めることはできないので,原告らの謝罪広告の掲載の請求は理由がない。 第4 結論よって,原告らの請求は,被告Aに対し各100万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後である平成13年2月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるので,これを認容し,同被告に対するその余の請求及び被告小樽市に対す 害賠償及びこれに対する不法行為の後である平成13年2月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるので,これを認容し,同被告に対するその余の請求及び被告小樽市に対する請求はいずれも理由がないので,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部裁判長裁判官坂井満裁判官山田真紀裁判官佐々木清一別紙謝罪広告当社の経営する「O」は,一律に外国人の入場をお断りしてきたことがありましたが,それが結果的に人種差別となり,関係者の皆様の誇りと名誉を傷つけてまいりましたこと,ここに深くお詫び申し上げます。 株式会社 A 代表者代表取締役 U
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