令和3(わ)205 廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反、非現住建造物等放火、現住 建造物等放火

裁判年月日・裁判所
令和5年3月3日 福岡地方裁判所 小倉支部
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判決文本文19,137 文字)

1 事件番号 令和3年(わ)第205号、第233号、第433号、第692号事件名 廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反、非現住建造物等放火、現住建造物等放火被告事件宣告日 令和5年3月3日 主 文被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 理 由【罪となるべき事実】被告人は、第1[令和3年8月5日付け起訴状記載の公訴事実。以下「第1事件」という。]A1が所有し、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない北九州市a区(住所省略)所在の、倉庫と同倉庫併設のごみ置き場とが一体となった建造物(軽量鉄骨平屋建、床面積合計約31㎡)に放火しようと考え、令和3年2月12日午後2時16分頃、同ごみ置き場付近において、同ごみ置き場内に置いてあったごみ袋に何らかの方法で火を放ち、その火を同ごみ置き場の屋根等に燃え移らせ、よって、上記建造物を焼損(焼損面積約9㎡)し、第2[令和3年12月22日付け起訴状記載の公訴事実。以下「第2事件」という。]同年3月5日午後3時45分頃、A2ら2名が現に住居として使用し、かつ、同人ら3名が現にいる同市b区(住所省略)所在の木造トタン葺2階建店舗兼居宅(延べ床面積約215㎡)西側歩道付近において、同建造物に燃え移るであろうことを認識しながら、同建造物西側の壁に近接して置かれていたごみ箱内の廃棄物に何らかの方法で火を放って放火し、その火を同建造物西側の壁等に燃え移らせ、よって、同建造物を全焼させて焼損し、2 第3[令和3年4月22日付け起訴状記載の公訴事実。以下「第3事件」という。]同年3月7日午後0時47分頃、同市b区(住所省略)所在の株式会社B1から南東約23m先歩道上において、一般廃棄物であるたばこの吸い殻、ろう 日付け起訴状記載の公訴事実。以下「第3事件」という。]同年3月7日午後0時47分頃、同市b区(住所省略)所在の株式会社B1から南東約23m先歩道上において、一般廃棄物であるたばこの吸い殻、ろうそく等在中のビニール袋1袋(重量約0.27㎏)をみだりに捨て、第4[令和3年5月10日付け起訴状記載の公訴事実。以下「第4事件」という。]同年3月13日午前11時6分頃、同市b区(住所省略)所在のC公園北側歩道上において、一般廃棄物である靴在中のビニール袋1袋(重量約0.399㎏)をみだりに捨てた。 【証拠の標目】省略【事実認定の補足説明】第1 争点本件の主たる争点は、犯人性(第1~第4事件)、放火の故意すなわち各建造物が焼損する可能性の認識・認容(第1及び第2事件)及び当時統合失調症に罹患していた被告人の責任能力の有無ないしその程度(第1~第4事件)である(以下、第1及び第2事件を併せて「放火事件」、第3及び第4事件を併せて「投棄事件」という。)。 検察官は、①放火事件では被告人と犯人の着衣の共通性等、投棄事件では犯行を現認した警察官の証言等からそれぞれ犯人性が認められる、②放火事件の各現場の状況、態様等からすれば放火の故意も認められる、③各犯行態様、本件前後における被告人の生活状況等からすれば、統合失調症の影響があったとしても大きなものではなく、完全責任能力が認められる、と主張する。 これに対し、弁護人は、①着衣の共通性、警察官の証言等はいずれも犯人と被告人の同一性を認めさせるには足りず、②仮に犯人性が認められるとしても、放火事件の際、被告人には建造物が焼損する可能性の認識はなかったから故意がなく、③本件前後の時期における統合失調症の症状等からすれば、被告人が心神喪失であっ3 た疑いが残る、と主張する(な 、放火事件の際、被告人には建造物が焼損する可能性の認識はなかったから故意がなく、③本件前後の時期における統合失調症の症状等からすれば、被告人が心神喪失であっ3 た疑いが残る、と主張する(なお、被告人はいずれの点についても黙秘している。)。 当裁判所は、全ての事件につき被告人の犯人性が、放火事件につき放火の故意がそれぞれ認められ、全ての事件につき各犯行当時被告人が完全責任能力を有していたことも認定できると判断した。以下、これらの理由につき説明する。 第2 放火事件1 第1事件の犯人性⑴ 犯人と現場に立ち寄った人物との同一性ア 関係証拠(省略)によれば、第1事件の火災原因が放火であると認められ、弁護人も争っていない。そのほか、以下のことがいえる。 第1事件の現場(以下「現場1」という。)が面する車道沿いに設置された5つの防犯カメラ映像には、令和3年2月12日(以下、断りのない限り、時刻は同日のものを指す。)午後2時15分49秒~午後2時16分56秒頃(補正時刻。以下、防犯カメラ映像の撮影時刻につき同様。)、北方向から徒歩で現場1に近づき、同所に立ち寄った後、小走りで車道を横断し、南方向に立ち去る人物が映っている(各映像は撮影時刻・画角が重なり合いながら概ね連続し、一部映像のない箇所もカメラの死角を通り抜けられないことから、同一人物と確認されている。以下、この人物を「現場1の人物」という。)。現場1の人物は、午後2時16分26秒頃、現場1のごみ置き場部分開口部で約4秒間前かがみで手を伸ばすような動作をしているところ、その後午後2時17分58秒頃には同開口部に火が確認でき、午後2時18分44秒頃にはその火が燃え広がっている。これは第1事件に係る燃焼実験での着火や燃え上がりまでの時間とも整合する上、D1設置の防犯カメラ 午後2時17分58秒頃には同開口部に火が確認でき、午後2時18分44秒頃にはその火が燃え広がっている。これは第1事件に係る燃焼実験での着火や燃え上がりまでの時間とも整合する上、D1設置の防犯カメラ(以下、防犯カメラの設置場所を[D1]のように示すことがある。)によれば、午後1時45分頃から火災発生までの約30分間、現場1の前(本件ごみ置き場の開口部がある面)を通過した者は現場1の人物以外にいなかったのであるから、第1事件の犯人は現場1の人物であると推認できる。 イ 弁護人は、防犯カメラ映像は遠目でよく見えず、他の人物が介入する余地も4 あると主張する。確かに、映像上現場1の人物の動作を鮮明に把握できるわけではないし、防犯カメラ[D1]では倉庫部分出入口前の通路等が死角となっている。 しかし、映像で把握できるごみ置き場部分が倉庫部分に比して激しく焼損しており、倉庫部分で出火しごみ置き場部分に燃え広がったとも窺われないこと(午後2時16分18~42秒頃には、現場1を3方向[D1、D2、D3]から見ても、倉庫部分を含め煙や炎が確認できない。)からすれば、出火場所がごみ置き場部分であることは揺るがず、他の人物が上記死角において放火した可能性は否定できる。 ウ よって、第1事件の犯人は現場1の人物であると認められる。 ⑵ 現場1の人物と被告人との同一性ア 当裁判所の判断の概要事件発生の約3時間10分後からD4小倉店で確認された帽子、オレンジ色様長ズボン等を着用した人物(以下「D4の人物」という。)は、帽子を始めとする衣服の特徴等が被告人方から押収された衣服の特徴等と合致することから被告人であり、D4の人物の服装等が被告人の当日午後5時25分頃における服装等であると推認できる。他方、事件発生前に、当時の被告人方(北九州市b区所在の 方から押収された衣服の特徴等と合致することから被告人であり、D4の人物の服装等が被告人の当日午後5時25分頃における服装等であると推認できる。他方、事件発生前に、当時の被告人方(北九州市b区所在のグループホーム。以下「本件施設」という。)付近から現場1に至るまでの複数の地点で確認された帽子、オレンジ色様長ズボン等を着用した人物は、服装の類似性、映像の連続性等からいずれも同一人物、すなわち現場1の人物であると推認できる。そして、D4小倉店で確認された被告人と現場1の人物とは、現場1に至る途中にあるE1駅・E2駅及び現場1付近で確認できる帽子の模様を含む服装等の合致を始め、それらが記録された時間や場所の近接性等から、同一人物であると認められる。以下詳述する。 イ 本件キャップ(本件施設内の被告人の居室から押収された帽子)の特徴本件キャップは、白黒のタイダイ(絞り染め)風の総柄で、白い「VISION」のフロント刺繍がある。加えて、右前頭部及び左後頭部に渦巻き模様、頭頂部から左側~後頭部に向け突き出た白い部分があり、右側頭部は白地が、左側頭部は黒地5 が多い。 本件キャップは、株式会社B2がVISIONとの間で交わしたライセンス契約(帽子に関しては国内唯一のものである。)に基づいて平成29年に企画・販売したもので、30㎝四方のタイダイ風デザインを繰り返し印刷した幅150㎝長さ50mの布地からパーツ(形はつば用・本体用の2種類)を多数切り抜き、つば用表裏2枚、本体用6枚を順次縫い合わせるという工程で作られた300個のうちの1つである。模様の不規則性を売りにした商品のため、パーツを切り抜く段階及び縫製担当者がパーツを手に取る段階のいずれにおいても縫製後のデザインの統一性が考慮されない結果、同じ布地をベースとした同種の帽子でも、それ 様の不規則性を売りにした商品のため、パーツを切り抜く段階及び縫製担当者がパーツを手に取る段階のいずれにおいても縫製後のデザインの統一性が考慮されない結果、同じ布地をベースとした同種の帽子でも、それぞれ異なる模様で出来上がる(この点に関するA3証人の供述は信用でき、弁護人も争っていない。)。 上記のとおり、タイダイ風デザインを基調として本体に限っても6パーツの組み合わせからなる模様の偶然性の高さ(再現性の低さ)や製造数が300個に限られることからすれば、同種品でも本件キャップと同一の模様のものが他に出回っているとは考え難い。本件キャップの模様は固有のものと認められる。 ウ 午後5時25分頃における被告人の服装D4の人物は、午後5時25分~午後5時36分頃、白黒の柄付き帽子、黒色様上衣、オレンジ色様長ズボン、紺色様リュックサックという服装で「ステンレス箸3コ」を購入している。 同人の帽子が比較的鮮明に映る防犯カメラ映像によれば、同分3秒頃には「V」や「O」を含む白色フロント刺繍と右前頭部の渦巻き模様が、同分10~53秒頃には左後頭部の渦巻き模様や頭頂部から突き出た白い部分のほか、右側頭部に白地、左側頭部に黒地が多いことが一見して確認でき、これらの特徴は本件キャップ固有の模様と合致している(同分3秒頃の画像を元にD4の人物の帽子と本件キャップとのスーパーインポーズ方式による解析を行ったA4証人も、矛盾点は見当たらない旨述べている。)。本件キャップにつき、被告人が貸し借りしたり事件後に拾ったりしたとは窺われないことも踏まえると、D4の人物が被告人であると推認でき6 る。被告人方等に対する捜索差押において、オレンジ色長ズボン、黒色と灰色のボーダー柄上衣、紺色リュックサックのほか、ステンレス箸3膳(うち2膳は未開封)が発見されているこ であると推認でき6 る。被告人方等に対する捜索差押において、オレンジ色長ズボン、黒色と灰色のボーダー柄上衣、紺色リュックサックのほか、ステンレス箸3膳(うち2膳は未開封)が発見されていることもまた、これを裏付けている。 そうすると、被告人は、第1事件当日の午後5時25分頃、本件キャップのほか、黒色様上衣、オレンジ色様長ズボン、紺色様リュックサックを身に着けていたと推認できる。 エ 一連の防犯カメラに映る人物と現場1の人物との同一性午前11時5分~午後2時16分頃、本件施設付近のマンションを含む4地点[D5、D6、D7、D8]からE1駅・E2駅を経て現場1に至るまでの複数の地点に設置された防犯カメラ映像には、帽子、黒色系の上衣、オレンジ色様長ズボン等を着用してやや早足で歩く人物が映っている。証拠上確認できる20か所の映像の中には、帽子の白黒の模様、上衣の黒色と灰色のボーダー柄、紺色様リュックサック等が比較的鮮明に映っているものもあり、そうでない映像においても、撮影されている人物の服装等が上記のとおりであるとして不自然な点はない。映像同士の時間的な間隔は概ね10分以内に収まっており、各撮影は一連の移動過程を捉えたものと見て合理的である(映像がない午前11時16分~午後0時1分頃についても、その間午前11時35分頃にE3駅、同56分頃にE4駅で、それぞれ柄付きキャップ帽、オレンジ色様長ズボン等の人物が確認されたという。)。 上記のとおり証拠上確認できる範囲において、ありふれたものとはいえない服装等がその組み合わせまで含めて共通しているほか、背格好、歩き方等が類似し、各映像の撮影時刻・地点の連続性も比較的高いことからすれば、上記20か所の映像は全て同一人物を映したものと推認できる。このうち、午後2時15分~午後2時16分頃 いるほか、背格好、歩き方等が類似し、各映像の撮影時刻・地点の連続性も比較的高いことからすれば、上記20か所の映像は全て同一人物を映したものと推認できる。このうち、午後2時15分~午後2時16分頃、現場1付近の5つの防犯カメラに映っている人物が、すなわち現場1の人物であるから、本件施設付近のD5から現場1に至るまでの一連の防犯カメラ映像に映るのは、いずれも現場1の人物であると認められる。 オ 現場1の人物と被告人との同一性7 現場1の人物については、上記のとおり移動経路上の防犯カメラ映像により、白黒の模様の入った帽子、黒色と灰色のボーダー柄上衣、オレンジ色様長ズボン、紺色様リュックサックという服装であったと確認できる。帽子については更に、白黒の総柄で[E2駅]、白い「VISION」のフロント刺繍と右前頭部に弧を描く模様があり[E1駅]、左側頭部に黒地が多いこと[D9]が分かる。 ありふれているとはいえないこうした服装等の組み合わせが、当日夕方における被告人のそれ(本件キャップ、黒色様上衣、オレンジ色様長ズボン、紺色様リュックサック)と整合するのはもとより、帽子については、画質に由来する解析の限界を踏まえても、右前頭部の弧を描く模様とフロント刺繍の位置関係、本体を上方から及び左側面から見た際の白色・黒色の分布位置まで、本件キャップ固有の模様と合致していることが一見して確認できる(3か所の防犯カメラ映像[E1駅、E2駅、D9]を元に、現場1の人物の帽子と本件キャップとのスーパーインポーズ方式による解析を行ったA4証人も、矛盾点は見当たらない旨述べている。)。現場1の人物が最後に確認されたD9と被告人が確認されたD4小倉店とは、時間的・場所的に相応に近接してもいる。 以上によれば、現場1の人物が被告人であることも推認できるという ない旨述べている。)。現場1の人物が最後に確認されたD9と被告人が確認されたD4小倉店とは、時間的・場所的に相応に近接してもいる。 以上によれば、現場1の人物が被告人であることも推認できるというべきである。 現場1の人物が証拠上最初に確認されたのは午前11時5分頃、本件施設から約30mの地点[D5]であるところ、午前11時2分(被告人が外出に際して関係書類に記入した時刻)頃に本件施設から外出した被告人の行動と合致することや、その先のD7、D8周辺も被告人の生活圏内であったこともまた、上記推認を裏付けている。 カ 弁護人の主張に対する検討これに対し、弁護人は、①単一のデザインを繰り返し用いる製造工程に照らし、本件キャップと別の同種帽子につき、渦巻き模様のずれがあったとしても小さく、防犯カメラ映像を元としたスーパーインポーズ解析では差異を判別できない可能性がある、②現場1の人物につき、現場1付近では防犯カメラ[D9]の画像が粗く8 本件キャップとの同一性は判別できないし、他のより鮮明な防犯カメラ[E2駅等]から連続して同一人物が撮影されているとも限らないなどとして、現場1の人物が被告人であるとはいえない、と主張する。 しかし、①について、上述のとおりのパーツの組み合わせや300個の製造数からして、同種品でも本件キャップと同一の模様のものがあるとは考え難い上、スーパーインポーズ解析の結果は、渦巻き模様のみならず、パーツ間の境界の縫い目部分も含め、画像上確認できる模様全体を同手法によって対照しても矛盾がないとするものであり、類似の模様の同種品があったとしても、目視に加えてスーパーインポーズ解析によっても差異を判別できないものが存在する現実的可能性は極めて低いと見るべきである。また、そもそも現場1の人物と被告人との同一性は、目視 の同種品があったとしても、目視に加えてスーパーインポーズ解析によっても差異を判別できないものが存在する現実的可能性は極めて低いと見るべきである。また、そもそも現場1の人物と被告人との同一性は、目視やスーパーインポーズ解析により認められる帽子の特徴のみを根拠とするわけではなく、上述のとおり、他の服装等やその組み合わせ、撮影された時刻・場所等を総合して推認されるものである。②については、D9設置の防犯カメラからも、帽子本体の左側面3パーツほどにわたる白色・黒色の分布位置が本件キャップと合致することは確認可能である。各防犯カメラ映像の連続性についても、E2駅(上方から見た6パーツにわたる帽子本体の白色・黒色の分布位置が合致することが確認できる。)から現場1まではとりわけ高く(間隔は最大でも約7分間、約550m)、映像上人通りも多くないことからすれば、この間に、上記のとおりありふれているとはいえない服装等がその組み合わせを含めて合致し、背格好、歩き方までも類似する別人が入り込んでいるとは考え難い。弁護人の主張はいずれも抽象的な可能性を指摘するものにとどまり、いずれも当たらない。 キ 小括よって、現場1の人物すなわち第1事件の犯人は被告人である、と認められる。 これに反する弁護人の主張は採用できない。 2 第2事件の犯人性⑴ 犯人と現場に立ち寄った人物との同一性9 ア 関係証拠(省略)によれば、第2事件の火災原因が放火であると認められ、弁護人も争っていない。そのほか、以下の事実がいえる。 第2事件の現場(以下「現場2」という。)及び同所南側の道を撮影した各防犯カメラ映像には、令和3年3月5日(以下、断りのない限り、時刻は同日のものを指す。)午後3時45分22秒~午後3時46分9秒頃、判示ごみ箱(以下「本件ごみ箱」とい )及び同所南側の道を撮影した各防犯カメラ映像には、令和3年3月5日(以下、断りのない限り、時刻は同日のものを指す。)午後3時45分22秒~午後3時46分9秒頃、判示ごみ箱(以下「本件ごみ箱」という。)付近に立ち寄った後、現場2南側の道を東方向に入り[D10]、午後3時46分12秒以降直進して去る[D11]人物が映っている(各映像の間で人物が確認できないのは約3秒間にとどまり、現場2に隣接するD11の防犯カメラの設置位置に加え、服装や進行方向の整合性も考慮すれば、同一人物と認められる。以下、この人物を「現場2の人物」という。)。現場2の人物は、午後3時45分22~56秒頃、本件ごみ箱付近に近づいたり離れたりしながら留まっているところ、その後午後3時48分0秒頃には煙が、午後3時53分27秒頃には火が、本件ごみ箱付近に確認されている。加えて、第2事件では出火点が本件ごみ箱と特定されているところ、防犯カメラ[D10]によれば、午後3時15分頃から煙が確認されるまでの30分余りの間には、同所に滞留した者は現場2の人物以外にいなかったのであるから、第2事件の犯人は現場2の人物であると推認できる。 イ 弁護人は、現場2の人物が犯人であるとすれば、同人物が立ち去ってから約8分後に炎が上がっていることは、着火後1、2分で炎が上がった燃焼実験の結果に照らし不自然で、防犯カメラ映像が遠目で障害物に遮られて見えない部分もある以上、現場2の人物の犯行とするには疑問が残ると主張する。確かに、現場2の人物は、本件ごみ箱付近では上半身が不鮮明に映っているにすぎないが、上記のとおり他に同所に滞留して放火の機会があった者はいない。また、実験時の経過によっても、着火の約5分後ではごみ箱内部の燃焼にとどまっており、約7分30秒後にごみ箱が崩れ、約8分30秒後に火炎が大き のとおり他に同所に滞留して放火の機会があった者はいない。また、実験時の経過によっても、着火の約5分後ではごみ箱内部の燃焼にとどまっており、約7分30秒後にごみ箱が崩れ、約8分30秒後に火炎が大きくなっている。現場2の人物が点けた火が、防犯カメラ映像上も確認できる程度に大きくなるまでに約8分を要したとしても不自然ではない。 10 ウ よって、第2事件の犯人は現場2の人物であると認められる。 ⑵ 現場2の人物と被告人との同一性ア 当裁判所の判断の概要現場2の人物は、服装等の類似性、防犯カメラ映像の連続性等から、事件発生前にD12前路上で確認された帽子、オレンジ色様長ズボン等を着用した人物(以下「D12の人物」という。)であり、同人は、帽子の特徴等から被告人であると推認できる。そして、現場2の人物自身の帽子の特徴や行動状況が被告人のそれと合致することにもよれば、現場2の人物は被告人であると認められる。以下詳述する。 イ D12の人物と被告人・現場2の人物との同一性 まず、D12の人物と被告人との同一性を見るに、被告人方から押収された衣服の特徴は第2の1⑵ウのとおりであるところ、D12の人物は、午前11時36分頃、白黒の柄付き帽子、黒色と灰色のボーダー柄上衣、オレンジ色様長ズボン、紺色様リュックサックという服装で同店前を通過している。同人の帽子が比較的鮮明に映る防犯カメラ映像によれば、その頃には、「ON」の白色フロント刺繍、頭頂部から左側~後頭部に突き出た白い部分、右側頭部に白地、左側頭部に黒地が多いことが確認でき、一部ぼやけているものの左後頭部には渦巻き様の模様もある。 これらの特徴は本件キャップ固有の模様と合致している(同画像を元にD12の人物の帽子と本件キャップとのスーパーインポーズ方式による解析を行ったA4証 やけているものの左後頭部には渦巻き様の模様もある。 これらの特徴は本件キャップ固有の模様と合致している(同画像を元にD12の人物の帽子と本件キャップとのスーパーインポーズ方式による解析を行ったA4証人は、両帽子に共通して左右後頭部の境界の縫い目に黒い平行線が数本確認できる比較画像も示した上で、矛盾点は見当たらない旨述べている。)。 以上によれば、D12の人物は被告人であると推認できる。 次に、D12の人物と現場2の人物との同一性を検討する。D12の人物が確認されてから現場2の人物が確認されるまで、その間の複数の地点に設置された防犯カメラ映像には、帽子、黒色系の上衣、オレンジ色様長ズボン等を着用してやや早足で歩く人物が映っている。証拠上確認できる映像の中には、帽子の白黒の模様、上衣の黒色と灰色のボーダー柄、紺色様リュックサック等が比較的鮮明に映る11 ものもあり、そうでない地点[D13等]においても撮影されている人物の服装等が上記のとおりであるとして不自然な点はない。また、午前11時36分~午後0時38分頃[D12~D14]については映像がないものの、D14がパチンコ店であり、午後0時38分頃のD14における防犯カメラ映像が遊技場に隣接する店内トイレ入口を撮影したものであることからすれば、同一人物が撮影されているとして不自然ではないし、午後3時32分頃[D14]以降の映像は、午後3時45分、現場2のすぐ近く[D15]、事件発生まで数分間隔で連続しており、各撮影はD12から現場2までの一連の移動を捉えたものと見て合理的である。ありふれたものとはいえない服装等の組み合わせまで含めた共通性、背格好、歩き方等の類似性、各映像の撮影時刻・地点の連続性からすれば、D12から現場2まで全て同一人物が撮影されている、すなわちD12の人物が現 たものとはいえない服装等の組み合わせまで含めた共通性、背格好、歩き方等の類似性、各映像の撮影時刻・地点の連続性からすれば、D12から現場2まで全て同一人物が撮影されている、すなわちD12の人物が現場2の人物であると推認できる。 上記によれば、D12の人物との同一性を介して、現場2の人物が被告人であると推認できる。 加えて、午後3時46分12秒頃の防犯カメラ映像[D11]によれば、現場2の人物の帽子につき、左後頭部に弧を描く模様、頭頂部から左側~後頭部に突き出た白い部分、左側頭部に黒地が多いことが分かる。これらは、画質に由来する解析の限界を踏まえても、本件キャップ固有の模様と合致しており、上記の推認を支えるものである(同映像を元に、現場2の人物の帽子と本件キャップとのスーパーインポーズ方式による解析を行ったA4証人も、矛盾点は見当たらない旨述べている。)。 さらに、上記推認は、現場2の人物が被告人であるとした場合に当日の行動状況が整合的に説明できることによって裏付けられてもいる。すなわち、前提として、午前11時18分~35分頃に、本件施設付近のマンションを含む4地点[D5、D6、D7、D8]を経てD12に至るまでの防犯カメラ映像に映る帽子、黒色系の上衣、オレンジ色様長ズボン等を着用してやや早足で歩く人物は、ありふれたも12 のとはいえない服装等の組み合わせまで含めた共通性、背格好、歩き方等の類似性、各映像の撮影時刻・地点の連続性から、全て同一人物(D12の人物)、ひいては現場2の人物であると見るのが自然である。そして、これが被告人であるとした場合、現場2の人物の行動状況は、当日午前10時46分(被告人が外出に際して関係書類に記入した時刻)頃に本件施設から外出した被告人が、第1事件の際と同様、生活圏内にある上記4地点 被告人であるとした場合、現場2の人物の行動状況は、当日午前10時46分(被告人が外出に際して関係書類に記入した時刻)頃に本件施設から外出した被告人が、第1事件の際と同様、生活圏内にある上記4地点を結んだ経路を移動してD12に向かったものとして自然に説明できる。 ウ 弁護人の主張に対する検討これに対し、弁護人は、第1事件同様に、スーパーインポーズ解析による同一性の証明は限定的で、現場2の人物が被告人であるとはいえないと主張する。 しかし、2地点[D12、D11]の防犯カメラ映像から目視で確認できる帽子の特徴自体、本件キャップとの同一性を推認させるところ(D12では上方から見た6パーツにわたる帽子本体とつば(表面)の模様の形状が、D11でも左側面3パーツほどにわたる帽子本体の白色・黒色の分布位置が、それぞれ合致する。)、スーパーインポーズ解析の結果は、更に渦巻き模様のみならず画像上確認できる模様全体を同手法によって対照しても矛盾がないとするものであり、パーツの組み合わせからなる本件キャップに固有の模様の判別やそれによる上記推認の裏付けにも資するものと位置づけられる。また、そもそも現場2の人物と被告人との同一性が、帽子の特徴のみに限らず、他の服装等やその組み合わせ、撮影された時刻・場所等を総合して推認されることも、第1事件と同様である。現場2の人物の行動は、上記のとおりD12から現場2まではもちろん、本件施設からD12までにおいても一連の防犯カメラ映像によって連続的に確認されており、映像上人通りも多くないことからすれば、この間に、上述のとおりありふれているとはいえない服装等がその組み合わせを含めて合致し、背格好、歩き方までも類似する別人が入り込んでいるとは考え難い。弁護人の主張は当たらない。 エ 小括13 よって とおりありふれているとはいえない服装等がその組み合わせを含めて合致し、背格好、歩き方までも類似する別人が入り込んでいるとは考え難い。弁護人の主張は当たらない。 エ 小括13 よって、現場2の人物すなわち第2事件の放火犯人は被告人である、と認められる。これに反する弁護人の主張は採用できない。 3 故意⑴ 各現場の状況、放火の態様等ア 第1事件につき、現場1は、建造物に当たる倉庫部分とごみ置き場部分が壁一面で接して一体の建造物となっている。被告人は北側から現場1に近づいているところ、当時は日中で、現場1は北側が倉庫部分出入口前の通路となっており視界が妨げられないこと、当時ごみ置き場部分のブロック塀から上はごみがたまっておらず、奥にある倉庫部分の壁が視認可能であったと認められることからすれば、ごみ置き場部分に至るまでには建造物の上記構造が認識できていたと考えられる。その上で、現場1で立ち止まり、ごみ置き場部分開口部に向き直ってかがみ、その内部に置かれているごみ(紙、段ボール等が含まれる。)に有炎着火するという意図的な態様で放火に及んでいる以上、建造物が焼損する危険すなわちその可能性があることを認識、認容していたと推認できる。 イ 第2事件について、現場2は市街地にある古い木造の2階建居宅兼店舗であり、西側の壁は建物内部に向かってくぼみ、自動販売機をはめ込むように設置するためのスペースとなっている。本件ごみ箱は、同スペースの木製ベニヤ板の壁及び仕切り板に囲われ、外に張り出した木製天井の下方、壁からは50㎝程度の位置に、複数の自動販売機と並んで置かれていた。当時は日中で、現場2は一見して木造の2階建居宅兼店舗であると分かる外観である上(上記の自動販売機の設置状況のほか、「A5立呑所」との看板も出ている。)、交差点 複数の自動販売機と並んで置かれていた。当時は日中で、現場2は一見して木造の2階建居宅兼店舗であると分かる外観である上(上記の自動販売機の設置状況のほか、「A5立呑所」との看板も出ている。)、交差点角に位置するため、どの方向からであれ近づいていく限り外観がよく目に入る。その上で、30秒以上にわたり近づいたり離れたりしながら本件ごみ箱付近に留まり、本件ごみ箱内の廃棄物(新聞紙、冊子等が含まれる。)に有炎着火するという意図的な態様で放火に及んでいる以上、その火が上記居宅兼店舗の西側の壁等に燃え移る危険、すなわち、人が現在する建造物が焼損する可能性を認識、認容していたと推認できる。 14 ⑵ 弁護人の主張に対する検討これに対し、弁護人は、①被告人の各現場での滞在時間は短いから、その間に建造物に燃え移ることまで想像するのは困難である、②放火事件の動機としてパチンコで負けたなどの不満を晴らすことが考えられるが、これは建造物にまで燃え広がるという重大な結果とは不釣り合いである、③被告人はごみへの放火をごみの投棄と同列に認識していた可能性がある、④被告人は統合失調症の影響で問題処理能力等の知的能力が低下しており、建造物の構造等から燃え移る危険性を想像することは困難であった、と主張する。 しかし、①について、建造物が焼損する可能性の認識を基礎付ける各現場の状況は、上述のとおり各現場に歩いて近づいていく段階から把握できる。その上で敢えて各現場に立ち寄り、少なくとも数秒間留まって放火に及んだ以上、建造物が焼損する危険性の認識に欠けるところはない。②については、直接的な着火の対象は建造物ではなくごみであり、被告人が建造物の焼損を積極的に意欲していたとは認められないから、燃え移る危険性を認識しつつもそれが現実化する可能性や結果の重大性の程度を については、直接的な着火の対象は建造物ではなくごみであり、被告人が建造物の焼損を積極的に意欲していたとは認められないから、燃え移る危険性を認識しつつもそれが現実化する可能性や結果の重大性の程度を軽視し、安易な動機で犯行に及んだとして不自然ではない。③についても、被告人が、建造物の焼損が現実化する可能性や結果の重大性の程度を軽視していたからといって、建造物を焼損させる危険性の認識は否定されない。④については、後述のとおり実施された被告人の精神鑑定によれば、統合失調症の影響で問題処理能力等が低下しているとはいえ、知的能力障害の診断基準(IQ70)を上回る知能指数(IQ73)が保たれている上、たばこやろうそくの所持状況から被告人は日常的に火気を使用しその性質を理解していたと認められるのであり、放火までの間に建造物の構造等を視野に入れ、敢えて火を放っていながら、燃え移る危険性は認識できなかったなどと疑うに足りる事情はない。弁護人の主張はいずれも当たらない。 ⑶ 小括よって、被告人は、放火事件につきいずれも建造物が焼損する可能性を認識、認15 容していた、すなわち故意があったと認められる。これに反する弁護人の主張は採用できない。 4 責任能力⑴ 被告人の精神障害と本件への影響ア 裁判員法50条に基づき被告人の精神鑑定を行った本件鑑定人の鑑定意見の概要は、次のとおりである。 本件当時を含め、被告人は統合失調症に罹患していて、その影響により、一見知的能力障害のような問題処理能力等の低下や「尾行されている」等の妄想が生じている。統合失調症の精神症状が本件に影響した可能性は払拭できないものの、これは被告人が各犯行につき明確に供述していないからに尽きる。被告人には、追跡等の被害妄想、幻聴との会話、ごみの投棄に関する道徳感情の 統合失調症の精神症状が本件に影響した可能性は払拭できないものの、これは被告人が各犯行につき明確に供述していないからに尽きる。被告人には、追跡等の被害妄想、幻聴との会話、ごみの投棄に関する道徳感情の鈍麻等が見られるとはいえ、これらの症状が日常生活に影響を及ぼしていたとは窺われず、各犯行の主たる要因となったとも考え難い。各犯行の動機、態様等は、精神症状を持ち出さずとも、正常心理によるものとして説明できる。 イ 本件鑑定人は、精神医学に関する豊富な知識と経験を有する医師であり、一件記録のほか、鑑定留置中の被告人との連日の面接、本件施設及び勤務先でもある鑑定留置先の病院での生活状況等の適切な資料を用いて結論を導いており、上記鑑定意見に異論を差し挟むべき事情は見当たらない(犯行に関する被告人の供述、成育歴等の資料は得られていないが、本件鑑定人自身、鑑定結果に問題はないと述べている。)。 ⑵ 検討ア 放火事件の犯行態様は、いずれも街なかに出された可燃物のごみに火を点けて去るという、うっぷん晴らし等の一般的な動機で説明可能なものであり、その態様に異常性や衝動性は窺われない。犯行前後の挙動を見ても、第1事件において徒歩で現場1に近づき、立ち止まって、ごみ置き場部分開口部に向き直り、かがんで火を点けた後、速やかにその場を離れたり、その直後に車道を横断する際、自動車16 を避けるため小走りになったりする様子は、周囲の状況を適切に判断し、これに基づき行動していることを窺わせる。第2事件においても、犯行後、足早に現場2を離れ、マスクをずらした状態でたばこを吸いながら歩いて行く様子に不自然な点はない。各犯行の動機は不明であるものの、被告人は各犯行前にパチンコ店で遊戯したが換金には至らなかった上、以前パチンコ店から出た後バス停に置かれた看板を たばこを吸いながら歩いて行く様子に不自然な点はない。各犯行の動機は不明であるものの、被告人は各犯行前にパチンコ店で遊戯したが換金には至らなかった上、以前パチンコ店から出た後バス停に置かれた看板を蹴ったこともあるのだから、パチンコで負けたうっぷんを晴らすという理解可能な動機により、平素の人格の延長として本件に及んだと見て矛盾はない。 また、本件前後の時期にわたり、本件施設でも、規則を守ってトラブルなく生活し、門限やごみ出しにつき注意を受けると、行動を改善したり、もうしないからというふうに応じたりしていたほか、電車を乗り換えての外出、パチンコ、買い物等も支障なく行えていたことも踏まえると、被告人の善悪を判断したり自らの行動を制御したりする能力について、喪失はもとより著しい減退もなかったといえる。 イ 弁護人は、①妄想や幻覚が存在し、知能指数も知的能力障害の基準に近くなっているのだから、被告人の統合失調症は相当重度である、②鑑定意見によっても、統合失調症が本件に影響した可能性は払拭できず、道徳感情の鈍麻も認められているなどとして、善悪を判断したり行動を制御したりする能力を失っていた疑いが残ると主張する。 しかし、①につき、「尾行されている」といった被告人の妄想と放火の犯行とは内容的に隔たっており、妄想等の影響を示す具体的な事情は窺われない(本件施設での「歯が溶ける」「手の肉が取られる」といった発言も放火とは内容的に遠く、パチンコの遊興費を出金する際の「戦争に行く」、暑い日の「頭が燃えそう」「靴下が燃える」等は単なる冗談交じりの発言とも理解でき、妄想とは言い切れない。 また、これらが妄想であったとしても、その妄想が異常な行動、ひいては放火に結び付いていたことを窺わせる事情もない。)。知能指数もIQ73が保たれており、上述の犯行態様、犯行 、妄想とは言い切れない。 また、これらが妄想であったとしても、その妄想が異常な行動、ひいては放火に結び付いていたことを窺わせる事情もない。)。知能指数もIQ73が保たれており、上述の犯行態様、犯行前後の挙動、生活状況等に照らし、知的能力の低さによる具体的な影響も窺われない。②につき、確かに被告人は本件施設でも居室にごみ箱を17 置かないなど、ごみに対する強いこだわりが窺えるところであり、これが統合失調症の精神症状に由来し、ごみだから燃やしても良いなどと、ごみの処理に関する規範意識を一定程度下げ、放火行為の抵抗感を弱めて各犯行に影響していた可能性は否定できない。しかし、被告人は、街なかのいかなるごみにも放火してしまうような状態にあるわけではなく、上記の各犯行時やその前後にわたる生活状況等に照らしても、善悪を判断したり行動を制御したりする能力が失われたり著しく低下したりしていたことを窺わせる事情はない。 ウ そうすると、被告人の精神障害が放火事件の各犯行に与えた影響はあったとしても限定的なものに過ぎず、放火事件の当時、被告人は完全責任能力を有していたものと認められる。これに反する弁護人の主張は採用できない。 第3 投棄事件1 犯人性⑴ 警察官の各目撃供述及び信用性第3事件についてはA6警察官が、第4事件についてはA7警察官が、いずれも公判廷において、要旨「被告人を対象とする警察官複数名による行動確認捜査に従事して尾行中、被告人が各現場に黄色いビニール袋を投げ捨てるのを見た」と供述している。 いずれの警察官も、事前に写真を通じて被告人の人相風体を確認している上、各事件当日以前にも被告人の行動確認捜査に従事している。各事件当日も、A6警察官は、対象者が本件施設から出て来るのを直接目撃して尾行中のA8警察官に加わる を通じて被告人の人相風体を確認している上、各事件当日以前にも被告人の行動確認捜査に従事している。各事件当日も、A6警察官は、対象者が本件施設から出て来るのを直接目撃して尾行中のA8警察官に加わる形で尾行を開始したと認められ、その後対象者を見失ったことはないというのである。A7警察官も、対象者が本件施設内の被告人の居室から出て来るのを直接目撃したA9警察官からの服装や所持品の情報に加え、万が一の人違いを防ぐため自ら至近距離で確認した顔貌等にも基づき、対象者が被告人に間違いないと確かめたというのである。加えて、投棄されたビニール袋に、被告人と完全に合致するDNA型の付着したたばこの吸い殻(第3事件)や、被告人の居室から発見された靴と18 同種の靴(「メッシュ建さん」名で販売されているもの。第4事件)が入っていたことも上記各供述を裏付けており、その信用性は高い。 ⑵ 弁護人の主張に対する検討弁護人は、警察官らは被告人と直接の面識が少なく、対象者は帽子やマスクを着けていたから、当初から又は途中から被告人とは別人を対象に尾行がされていた可能性がある旨主張する。しかし、仮に尾行の対象者が別人であったとすれば、被告人の行動確認を目的として組織的な捜査が行われているのに(第3事件当日は8名、第4事件当日は13名体勢。)、各事件当日、捜査官の誰からもその旨の指摘がなかった点は不自然というほかない。なお、第3事件につき、対象者のズボンがオレンジ色だったというA6警察官の供述は、A8警察官の供述(黒っぽい色)とは異なるが、A6警察官自身不確実な記憶として述べたものである上、当日からの時間経過、別日の被告人の服装等に照らし、この点の記憶が曖昧でも不合理とはいえない。上記たばこの吸い殻の在中によって強力に裏付けられた供述の信用性は揺るがない。 て述べたものである上、当日からの時間経過、別日の被告人の服装等に照らし、この点の記憶が曖昧でも不合理とはいえない。上記たばこの吸い殻の在中によって強力に裏付けられた供述の信用性は揺るがない。 ⑶ 小括以上によれば、A6警察官及びA7警察官の各供述はいずれも信用でき、第3事件及び第4事件の犯人は被告人であると認められる(なお、弁護人は、ごみ袋が対象者の投棄以外の原因により各現場に置かれた可能性があるとも主張するが、対象者の動向を注視していた警察官らの視認状況に問題は見当たらず、上記各供述は、投棄態様を具体的に述べる部分を含めて信用できるから、上記主張は当たらない。)。 2 責任能力被告人の精神障害と本件に与えた影響に関する鑑定意見は放火事件の検討において述べたとおりである。これを踏まえて検討するに、投棄事件の犯行態様は、いずれも本件施設から持ち出した自身のごみを路上で投げ捨てるというもので、その後すぐに現場を立ち去ったことを含め、ごみを投棄する者の行動として不自然、不合理な点は窺われない。居室にごみ箱を置かず、ごみを日頃から本件施設内の共用ご19 み箱又は施設外に捨てることのあった被告人が、平素の人格の発現として投棄事件に及んだと見て矛盾はない。 また、上述のとおり、ごみ処理に関する規範意識が一定程度低下していた可能性は否定できないにしても、被告人は、いずれも草むらや植え込みという捨てたごみが目立ちにくい場所に差し掛かったところで、更に第3事件ではリュックサックから取り出すなどした上で、ごみを投棄している。ごみを所構わず投棄するような状態にはなかったことが明らかで、上述の本件前後における生活状況からしても、統合失調症の精神症状により被告人の善悪を判断したり自らの行動を制御したりする能力が失われたり著しく減退したりし するような状態にはなかったことが明らかで、上述の本件前後における生活状況からしても、統合失調症の精神症状により被告人の善悪を判断したり自らの行動を制御したりする能力が失われたり著しく減退したりし、その影響で投棄事件に及んだなどとは窺われない。 そうすると、被告人の精神障害が投棄事件の各犯行に与えた影響はあったとしても限定的なものにすぎず、投棄事件の当時、被告人は完全責任能力を有していたものと認められる。これに反する弁護人の主張は採用できない。 【累犯前科】省略【法令の適用】省略【量刑の理由】本件は、ごみ置き場と倉庫が一体となった建物(判示第1)及び店舗兼居宅(判示第2)への各放火、路上での家庭ごみの投棄2件(判示第3及び第4)からなる事案である。 量刑の中心となる判示第2を見ると、住人・店舗関係者ら3名が現在する古い木造建物のごく近くで可燃物に放火して立ち去っており、危険性を顧みない犯行である。現に、同建物(延べ床面積約215㎡)が全焼したにとどまらず、建物内にいた1名が死亡し、もう1名も顔面等にⅡ度の熱傷を負うという甚大な結果が生じている。謝罪も弁償も得られない中、遺族や被害者が厳罰を求めるのも当然である。 20 近隣建物等にも合計470万円以上の被害が出ており、周囲に与えた影響も大きい。 判示第1からわずか3週間という短期間に放火を繰り返した点も軽視できない。 もっとも、日中、建物前に置かれた自動販売機横のごみ箱内のごみに、燃料を使わず火を点けるという放火態様からは、上記の甚大な結果を伴うのが必然とまではいい難く、計画性や建物自体を燃やす意欲は認められない。詳細な動機は不明であるが、本件全体を通じて窺われる被告人のごみへのこだわりが影響した可能性があり、これが統合失調症によるものであった疑いも念頭に い難く、計画性や建物自体を燃やす意欲は認められない。詳細な動機は不明であるが、本件全体を通じて窺われる被告人のごみへのこだわりが影響した可能性があり、これが統合失調症によるものであった疑いも念頭に置くべきである。 加えて、判示第1については、同様の態様によりごみ置き場内のごみに放火しており、延焼の危険性は相応に高い一方で焼損面積は約9㎡にとどまり、判示第3及び第4については、投棄されたごみが少量であり、特に犯情を重くするような事案ではない、という事情もある。 以上の犯情を踏まえると、本件は、現住建造物等放火事案(処断罪と同一又は同種の罪が2~4件)の量刑傾向の中では重い部類に属する事案と位置づけられるが、検察官の主張するような最も重い部類に属する事案とまではいい難い。 その上で、被告人には同種前科がない一方、累犯前科があったのに刑の執行終了後約2年1か月で本件に及んだことなども考慮し、主文の刑に処することとした。 (検察官の求刑 懲役16年)令和5年3月3日福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部 裁判長裁判官 井 野 憲 司 裁判官 佐 藤 洋 介 21 裁判官 佐 藤 み な と

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