平成13(ワ)15544 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年9月3日 東京地方裁判所
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判決文本文22,212 文字)

平成14年9月3日判決言渡平成13年(ワ)第15544号損害賠償請求事件 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して金472万6830円及びこれに対する平成12年2月23日から支払済みに至るまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,電車内において痴漢行為をしたとして逮捕,勾留,起訴された原告が,刑事手続で無罪判決が確定した後,原告を痴漢として現行犯逮捕した少女とその両親に対し,不法行為に基づく損害賠償を請求している事案である。 1 争いのない事実等以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠によって容易に認定できる事実である。 (1) 原告は,平成12年2月23日当時(以下「本件当日」という。),27歳の独身男性で,茨城県a市内の酒販店でアルバイトとして働いていたが,当日は仕事が休みであった。 原告は,同日午前6時15分ころ,黒とモスグリーンのジャンパーとジーンズを着用し,肩からカバンをたすき掛けにして両手には何も持たないで,JR常磐線赤塚駅(以下の駅はすべて同線の駅である。)から,高萩駅午前5時23分発・上野行きの通勤快速電車(以下「本件電車」という。)に乗り込んだ。本件電車は,原告が乗った時点ではそれほど混んでおらず,原告は,座席に座ることができたが,本件電車が土浦駅に到着して同駅を出発するまで(午前6時57分ころから午前7時4分ころまで)の間に,いったん本件電車を降り,位置を移動して中央付近の車両に乗り,入口ドア付近に立った。本件電車は,通勤快速電車であったため,土浦駅を出発した後,牛久,取手,柏の各駅に停車し,午前7時42分ころ,松戸駅に到着した。 (2) 被告A(以下「被告A」という。)は り,入口ドア付近に立った。本件電車は,通勤快速電車であったため,土浦駅を出発した後,牛久,取手,柏の各駅に停車し,午前7時42分ころ,松戸駅に到着した。 (2) 被告A(以下「被告A」という。)は,被告B(以下「被告B」という。)と被告C(以下「被告C」という。)の長女であり,本件当時,千葉県b市に住む高校1年生(16歳)で,JR常磐線の電車を利用して東京都荒川区日暮里の高校に通学していた。 被告Aは,本件当日の午前7時42分ころ,制服のブレザーとスカート姿で,右肩に長い取手の手提げカバンを掛け,左肩にコートを入れたビニール袋を下げて,松戸駅から本件電車の中央付近の車両に乗車し,進行方向左側中央ドア付近に外側を向いて立った。本件電車は,松戸駅で被告Aが乗り込んだときには,途中駅から乗ってきた通勤・通学客のため肩が触れ合う程度にまで込み合い,自由に身動きができる状態ではなく,被告Aの左横やや後に原告が立っていて,原告の胸付近と被告Aの左肩とが接するような体勢になっていた。 (3) 本件電車は,午前8時0分ころ,次の停車駅である日暮里駅に到着した。同駅のホームに降りた被告Aは,同じく本件電車から降りた原告の袖口をつかみ,「この人,痴漢です。」と言って駅員の到着を待った。これに対して,原告は,「おれ,知らないよ。」と言いながら,特に抵抗することもなく,被告Aに袖をつかまれたままホームに立っていた。原告は,ほどなく駆けつけた同駅の駅員によって,被告Aとともに同駅の駅長事務室に連れて行かれ,午前8時9分,同事務室内において,通報を受けた警視庁荒川警察署司法警察員D巡査部長に痴漢行為の現行犯人として引き渡され,午前8時45分,荒川警察署に引致された。 (4) その後,原告は,平成12年3月14日,いわゆる痴漢として,公衆に著しく迷惑をかける暴力 署司法警察員D巡査部長に痴漢行為の現行犯人として引き渡され,午前8時45分,荒川警察署に引致された。 (4) その後,原告は,平成12年3月14日,いわゆる痴漢として,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為などの防止に関する条例違反で東京簡易裁判所に起訴され,同月17日に保釈されるまでの23日間,身柄を拘束された。原告は,その刑事公判手続(以下「本件刑事裁判」という。)で痴漢行為を否認して争い,東京簡易裁判所は,平成13年5月21日,原告に対して無罪判決を言い渡し,同判決は,平成13年6月4日の経過により確定した。 2 争点及び当事者の主張(1) 争点1(被告Aは痴漢の被害を受けたか)(被告Aの主張)ア原告は,本件当日,本件電車の中央付近の車両において,進行方向左側中央ドア付近に外側を向いて立っていた被告Aの左横やや後に,被告Aの左肩が原告の胸あたりに接する姿勢で立ち,本件電車が松戸駅を発車してまもなく,右手で,被告Aのスカートの上から左の尻をさわり,さらにスカートをまくり上げてストッキングの上から股の間に指を差し込み陰部付近をさわるなどの痴漢行為を行った。 イ原告は,本件電車が日暮里駅に到着するまでの間に,被告Aの左腰あたりの制服をつかんで被告Aを逆時計回りに回転させ,被告Aが原告に向き合うような姿勢にしたうえ,左手で被告Aの右太腿上部や右の尻をさわったりして,痴漢行為を続けた。 ウ原告は,被告Aの供述を不自然だとして攻撃しているが,原告の本件当日の行動こそ不自然であるほか,原告は,当初認めていた様々な点について,後になればなるほど供述を曖昧にしており,そのような態度こそ不自然であり,自らの痴漢行為を隠蔽しようとするものに他ならない。 (原告の主張)ア原告は,本件当日は仕事が休みであったため,秋葉原でパソコンをみよう ほど供述を曖昧にしており,そのような態度こそ不自然であり,自らの痴漢行為を隠蔽しようとするものに他ならない。 (原告の主張)ア原告は,本件当日は仕事が休みであったため,秋葉原でパソコンをみようと思い,本件電車に乗車していたもので,被告Aに対して痴漢行為をしたことはない。 イ被告Aは,原告が,被告Aのスカートをまくり上げてストッキングの上から股の間に指を差し込み陰部付近をさわったと述べているが,身長約170センチメートルの原告が,身長約150センチメートルの被告Aに対してこのような行為を行うには相当不自然な体勢にならざるを得ず,肩が触れ合う程度に混んでいる電車の中でそのような行為をすれば,周囲に気付かれないはずはない。被告Aもそのような痴漢行為から容易に逃げることができたはずである。また,被告Aは,途中で腰のあたりを原告に回されて,原告と向き合う姿勢にさせられたとも述べているが,そのような状況は物理的に理解しがたいばかりでなく,原告と向き合った後の痴漢被害の態様などに関する被告Aの供述は,警察官に対するものと検察官に対するものが矛盾しており,不自然である。 ウさらに,被告Aは,恐ろしくて何の抵抗もできなかったと述べているが,そのような被告Aが日暮里駅のホームで原告を現行犯逮捕するというのは整合しないし,原告に押されて向かい合うような姿勢になった際,左肩にかけていたビニール袋を原告との間に持ってこようとしたり,両肘で原告を押すなどしたと述べていて,何の抵抗もできなかったとする当初の供述と内容的に矛盾する結果になっている。 エ被告Aは,本件以前に何回も痴漢犯人を逮捕し,それらの事件について高額の示談金を受領していたにもかかわらず,本件刑事事件の取調べの際にはそのことについて何も述べなかった。本件痴漢事件も,示談金目当てのた Aは,本件以前に何回も痴漢犯人を逮捕し,それらの事件について高額の示談金を受領していたにもかかわらず,本件刑事事件の取調べの際にはそのことについて何も述べなかった。本件痴漢事件も,示談金目当てのために被告Aによって仕立て上げられた悪質な犯罪であり,原告こそ被害者である。 オ以上の事実によれば,本件当日,本件電車内において痴漢の被害を受けたとする被告Aの供述を信用することはできず,被告Aは本件電車内で痴漢の被害を受けなかったと考えるのが常識的かつ合理的である。被告Aの痴漢被害の申告は虚偽のものといわざるをえない。 (2) 争点2(被告Aが原告を痴漢犯人としたことは相当か)(被告Aの主張)ア被告Aは,本件電車が松戸駅を発車してすぐに痴漢行為にあい,左の尻をさわられたりしたが,その際,原告が体を被告Aに近づけて右肩をやや沈めるようにして右腕を被告Aの尻の方に伸ばしていたのが見えたので,尻をさわっていると思われる腕の肘あたりから上の方へたどっていくと,間違いなく原告であった。 イまた,被告Aは,その後,原告と向かい合うような姿勢にされた際,被告Aの右太腿をさわっている原告の左手を見た。 ウこのようなことから,被告Aは,原告が痴漢の犯人であると判断したのであり,疑うに足りる相当な理由があるから,被告に過失はない。 (原告の主張)ア仮に,被告Aが本件電車内で本当に痴漢の被害にあっていたとしても,原告は被告Aに対して痴漢行為をしていないし,被告Aは原告が犯人でないことは容易に分かったはずであるから,原告を痴漢の犯人として現行犯逮捕したことには過失がある。 イ被告Aは,被告Aの左側に立って左の尻をさわっている痴漢犯人の肘あたりから上の方へたどって原告の顔と服装を確認したと述べているが,そのような確認は両者の距離が相当程度離れてい は過失がある。 イ被告Aは,被告Aの左側に立って左の尻をさわっている痴漢犯人の肘あたりから上の方へたどって原告の顔と服装を確認したと述べているが,そのような確認は両者の距離が相当程度離れていなければできないはずであるし,また,痴漢の被害者は恐怖と羞恥で犯人の顔を見ることができないのが普通であることなどからすると,そのような被告Aの供述を信用することはできない。 (3) 争点3(被告B及び被告Cは監督責任を負うか)(原告の主張)被告Aの父である被告Bと母である被告C(以下「被告Bら」という。)は,高校1年生の被告Aがそれまでにも痴漢の被害にあい,何回も示談金をもらって金銭解決していたことを熟知していたのであるから,被告Aに対して,誤って犯人を捕まえたり,事実無根の被害届を出したりしないよう,指導・監督すべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったため,被告Aは無実の原告を痴漢の犯人として現行犯逮捕した。したがって,被告Bらは,原告に対して,民法709条,714条による損害賠償責任を負うべきである。 (被告Bらの主張)ア被告Aは,前記のように,本件電車内で本当に痴漢の被害を受けているから,被告Aについて不法行為は成立しない。したがって,被告Bらについても不法行為は成立しない。 イなお,被告Aが本件以前にも痴漢の被害を受け,加害者からの申し出を受け入れて示談金を取得した事実はあるが,それらの加害者は被告Aに対する痴漢行為を認めているのであって,虚偽のものは1件もない。原告の上記主張は,被告Aの痴漢被害が虚偽であることを前提とするのであろうが,どの事件も虚偽の被害ではないのであるから,原告の上記主張はその前提を欠くものである。 (4) 争点4(原告の損害額)(原告の主張)原告は,被告らの不法行為により,以下の損害を被 であろうが,どの事件も虚偽の被害ではないのであるから,原告の上記主張はその前提を欠くものである。 (4) 争点4(原告の損害額)(原告の主張)原告は,被告らの不法行為により,以下の損害を被った。 ア原告は,本件当時,酒販店のアルバイトとして日給8500円の賃金を得ていたが,平成12年2月23日に逮捕されてから同年3月17日に保釈されるまでの間,17日間働くことができず,賃金を得ることができなかった。また,本件刑事裁判に出頭するためにも9日間働くことができなかったので,原告は,これらの合計26日分の賃金相当額22万1000円の損害を被った(逸失利益)。 イ原告は,別紙に記載のとおり,本件刑事裁判に出頭するための交通費や,原告を心配した母親ほかの親族等(大分県と大阪府に在住)が,原告と面会したり,本件刑事裁判を傍聴するために要した交通費や日当の支払を余儀なくされ,合計110万5830円の損害を被った。 ウ痴漢の犯人として逮捕・勾留され,長期間刑事被告人の立場に立たされた原告の精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料は,少なくとも300万円が相当である。 エ上記ア,イ,ウの合計額は432万6830円であり,本件における弁護士報酬額は40万円が相当であるから,これらの全損害額は472万6830円である。 (被告らの主張)損害の根拠事実については不知ないし否認し,損害額については争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件の主要な争点について(1) 本件の審理では,当事者双方から,被告Aは痴漢の被害を受けたか,被告Aが原告を痴漢犯人としたことは相当か,被告Aの両親に監督責任はあるか,原告の損害額はいくらかなどの点が主張されたが,その中心的な争点は,前記(本判決3頁以下)のとおり,被告Aが本件電車内で原告から痴漢行為をされた否か(争点1)であり, 告Aの両親に監督責任はあるか,原告の損害額はいくらかなどの点が主張されたが,その中心的な争点は,前記(本判決3頁以下)のとおり,被告Aが本件電車内で原告から痴漢行為をされた否か(争点1)であり,これを主張する被告Aの主張と,これを全面的に否定する原告の主張とが対立し,それぞれの主張に沿う供述証拠が提出されている。したがって,本件の帰趨は,被告Aの供述と原告の供述のどちらの供述が信用できるかということに帰着する。 (2) そこで,まず,原告から本件電車内で痴漢行為をされたとする被告Aの供述の信用性について検討することとするが,被告Aの供述の信用性については,①被告Aの供述内容そのものが矛盾しているのではないか,②原告と被告Aの身長差などから原告が被告Aに対して痴漢行為をしたというのは不自然ではないか,③怖くて何も抵抗できなかったといいながら駅のホームで原告を現行犯逮捕したのは不自然ではないか,④被告Aは本件以外にも何回も痴漢の被害にあったとして示談金を得ており,本件は示談金目当ての狂言ではないか,などの点が問題とされているので,これらの点を順次検討するほか,既に本件刑事裁判の判決で被告Aの供述の信用性には疑問があるとされているので,⑤この本件刑事裁判の判決で疑問とされた点についても検討を加えておくこととする。 2 被告Aの供述内容の矛盾についてまず,被告Aの供述内容そのものが矛盾しているのではないかという点について,検討する。 (1) 甲4,甲5号証,甲8号証ないし甲13号証,乙9号証,乙17号証,被告A本人尋問の結果によれば,被告Aの供述は,おおむね次のようなものであることが認められる。 ア本件当日,松戸駅から本件電車の中央付近の車両に乗車した被告Aは,進行方向左側中央ドア付近に外側を向いて立っていたが,その左横やや後に,被 述は,おおむね次のようなものであることが認められる。 ア本件当日,松戸駅から本件電車の中央付近の車両に乗車した被告Aは,進行方向左側中央ドア付近に外側を向いて立っていたが,その左横やや後に,被告Aの左肩がその胸のあたりに接する姿勢で立っている男性がいて,その男性が,本件電車が松戸駅を発車してまもなく,被告Aの左足にその右足をこすりつけてきたので,被告Aは後ろに下がろうとしたが,その男性の右足が邪魔で下がれずにそのままいたところ,被告Aのスカートの上から左の尻をさわり,さらに,スカートをまくり上げてストッキングの上から股の間に指を差し込み陰部付近をさわる者がいるので,振り向くようにその男性の方を見ると,その男性が体を被告Aに近づけて右肩をやや沈めるようにして右腕を被告Aの尻の方に伸ばしていたのが見えたので,その男性が痴漢の犯人であると確信したが,怖くて何も抵抗できないでいた。 イそうすると,その男性は,今度は被告Aの左腰あたりの制服をつかんで被告Aをその男性に向き合うようにして,左手で被告Aの右太腿上部や右の尻をさわったりした。被告Aは,被告Aの右太腿をさわっているのがその男性の左手であることをしっかり確認した。 ウその男性は,日暮里駅が近づくと痴漢行為を止め,本件電車が日暮里駅に停車すると何くわぬ顔でホームに降りていったので,その袖口をつかんで「この人,痴漢です。」と言ったら,近くにいた駅員がすぐにその男性をつかまえてくれた。その痴漢行為をした男性は間違いなく本件の原告である。 (2) ところで,被告Aのいう上記の痴漢被害は,大きく2つの部分に分けることができる。一つは,本件電車が松戸駅を発車してから,痴漢犯人が被告Aの左腰あたりをつかんで被告Aを痴漢犯人の方に向けて,被告Aと痴漢犯人とが対面する姿勢になるまで(以下「前半部分 の部分に分けることができる。一つは,本件電車が松戸駅を発車してから,痴漢犯人が被告Aの左腰あたりをつかんで被告Aを痴漢犯人の方に向けて,被告Aと痴漢犯人とが対面する姿勢になるまで(以下「前半部分」という。)であり,もう一つは,被告Aと痴漢犯人とが対面する姿勢になってから,本件電車が日暮里駅に到着するまで(以下「後半部分」という。)である。 (3) そして,前記証拠によれば,被告Aは,本件に関し,本件当日(平成12年2月23日)に司法警察員の,同月26日に検察官の,それぞれ取調べを受けた後,翌27日に実況見分に立ち会い,さらに同年3月8日には再び検察官の取調べを受けたほか,同月15日には犯行再現の写真撮影に立ち会ったうえ司法警察員の取調べを受けていることが認められるが,前半部分については,被告Aは,いずれの取調べにおいても上記の内容を詳細かつ具体的に一貫して供述しており,矛盾もない。 (4) 原告が,被告Aの供述内容に変遷があり信用性がないとしているのは後半部分であるから,この後半部分について,被告Aがどのような供述をしたかを時間順に検討しておく。 アまず,本件当日の司法警察員の取調べに対しては,犯人は「右手で私の左腰の部分をつかみ,手の力で私を左正面に向かせて来ました。それで私は,そのチカンの犯人と向かい合う形になってしまいました。その状態にされながら,チカンの男の人は,ずうーと右手で私の左のもものつけね部分をさわっていて,今度は正面を向いた私の右側の前側のもものつけね部分をスカートの上から左手の手のひらでさわってきて,なで回して来たのです」と供述し,「両手でずうーと左側のお尻や陰部付近,右側の前のももの付け根付近をさわって来ました」などと供述した(甲8号証)。 イ次に,平成12年2月26日の検察官の取調べに対しては,「犯人は私の 」と供述し,「両手でずうーと左側のお尻や陰部付近,右側の前のももの付け根付近をさわって来ました」などと供述した(甲8号証)。 イ次に,平成12年2月26日の検察官の取調べに対しては,「犯人は私の左のお尻上あたりの衣服をつかみ,それをじわじわと引っ張り,私を左回転させてきて,私と犯人は正面から向き合う格好になりました。」「私は左肩にコートを入れたビニール袋をさげており,それを正面に持ってきて,少しでも犯人から遠ざかろうとしたのですが,コートを入れた袋は私の左太股の上あたりにきてしまいました」「犯人は今度は左手を伸ばし,私の右腰を抱くようにしてその手をさげ,右のお尻あたりをたぶんスカートの上から撫でてきました」と供述していた(甲9号証)。 ウところが,翌27日に行われた実況見分の際の指示説明では,「被疑者と被害者が対面した後,被疑者が右手で被害者の臀部を撫で回し左手で右大腿部の付け根を撫で回している状況を再現したもの」とされていて(乙17号証),対面後に左手で右の尻を撫でられたという検察官に対する供述と矛盾するものとなった。 エその後,同年3月8日の検察官の再度の取調べに対しては,対面後の行為について,「警察では右手で左のお尻をスカートの上から撫でられたと説明し,また,左手でおなかから右大腿部付け根あたりをなで回されたと言いましたがそれが違います。」とし,「私と犯人の間にビニール袋があったことを忘れ,また,右と左の手の動きを逆に言ってしまったのです。」と述べて,対面後,痴漢犯人は左手で被告Aの右の尻をなでたことを再確認した(甲10号証)。そして,同年3月15日には,司法警察員によって,この内容に沿う写真撮影報告書(甲12号証)及び供述調書(甲11号証)が作成された。 (5) これらの点につき,原告代理人は,「検察官の取調は2月26日で て,同年3月15日には,司法警察員によって,この内容に沿う写真撮影報告書(甲12号証)及び供述調書(甲11号証)が作成された。 (5) これらの点につき,原告代理人は,「検察官の取調は2月26日であり,その時点で既に犯人と向かい合った場面での被害状況が警察官調書と食い違う供述になっていることが調書上明らかであるが,その検察官取調後になされた実況見分調書添付の写真が,警察の誤りのままの供述状況で撮影されているのである。このような事態は捜査の常道からはずれている。」(本件第4準備書面5頁)とか,「検察官に訂正を申し入れたという翌日に行われた実況見分(乙第17号証)において,その訂正が生かされていないのは,即ち,実体験による供述ではないからであろう。」(同6頁)として,被告Aの供述は信用できないとしている。 (6) 確かに,上記の供述経過によれば,原告と対面する形になった後の被害状況の一部について,すなわち,司法警察員の取調べの際には対面後も右手で左の尻をさわられたと述べていた点が,検察官の取調べの際には触れられておらず,違いがあるが,被告Aは,本件民事訴訟で平成14年4月26日に実施された本人尋問において,「向き合う前のほうがすごい自分の中で印象的で,向き合った後のことはそれほど印象的でもなかったので,頭が混乱したというか,そういうこともあって,ちょっと違うことを言ってしまったのですけれども。後日,検察庁のほうに行って,検事さんとゆっくり落ち着いて話しているうちに,そういえば,袋の上に手があったなあと思って,それで,なぜその手でさわれるのだとか思ったら,違いますということに気づきました。」と説明し,また,次の日の実況見分でも間違った調書ができたことについては,「警察の方が,調書を見て段取りを紙に書いてきてくれたんですよ。それで,なんてい たら,違いますということに気づきました。」と説明し,また,次の日の実況見分でも間違った調書ができたことについては,「警察の方が,調書を見て段取りを紙に書いてきてくれたんですよ。それで,なんていうのですか,次はこれでこうみたいな感じで実況見分が進んでいったのですけど,自分もそのときに言いだせばよかったのですけども,周りの空気とかもあって,その違うことが言い出せなくて,それで違う調書がというか,実況見分のその写真が出来ちゃったのです。」と説明している。 (7) そこで,このような説明が信頼できるか否かが問題となるが,被告Aは,その当時,高校1年生の女子であり,痴漢被害の状況を説明することに恥ずかしさを感じる年頃であることや,また,その中学及び高校の指導要録には,被告Aが「過緊張傾向の心理特性を有しており自己主張を明確に行う点に課題を残す」「消極的,受身的で口数が少なく,声も小さく,意思表示を明確にできにくい」との記載がなされており(甲2号証の刑事事件の判決理由の一部),同年代の女子と比較してもなかなか自分の言いたいことを言えない性格であることなどからすれば,実況見分の状況に気後れして訂正を言い出せなかったというのも,あながち不自然なこととは言い切れない。また,当裁判所に顕著な事実として,前記の当裁判所における本人尋問の際にも,被告Aは,既に高校を卒業しているものの,代理人からの質問に対してテキパキ答えるというのではなく,質問されてから答えるまでにかなりの時間を要することが度々で,周囲がもう答えないのかと思うころにようやく答え始めるという具合で,答えをせかされたり,質問をたたみかけられると,すぐに立ち往生してしまうため,裁判所のフォローが必要な状況であったことが認められた。したがって,高校1年生の当時であれば,なおのこと気後れして訂正を 答えをせかされたり,質問をたたみかけられると,すぐに立ち往生してしまうため,裁判所のフォローが必要な状況であったことが認められた。したがって,高校1年生の当時であれば,なおのこと気後れして訂正を言い出せなかったというのも,もっともだと考えられるから,これらの事実を総合すれば,被告Aの上記説明を信頼することができるというべきである。なお,原告代理人は検察官取調べ後の実況見分の際の矛盾を問題視するが,前記の事実関係によれば,口数の少ない高校1年生の落ち度というよりも,むしろ警察と検察の連繋の悪さや実況見分の準備の方法に問題があったというべきであり,必ずしも被告Aが責められるべき事情ではないと考えられる。 (8) また,原告は,被告Aが原告に回転させられて対面する形になった点をとらえて,被告Aの左腰あたりを引っ張られたのか,押されたのか供述が曖昧だとか,物理的に不可能だなどとしている。しかし,前記のとおり,本件電車内は,混雑していたとはいえ,全く身動きができないほどの状態ではなかったのであるから,腰のあたりを押されるか,腰のあたりの服を引っ張られて,回転させられことが物理的に不可能とは言い難い。 さらに言えば,被告Aは,同人は本件電車が松戸駅を出発して日暮里駅に到着するまでほぼ痴漢の被害を受け続け,精神的にも動揺し続けていたということになるから,その被害の内容の最初から最後まで全部を正確に記憶していなかったとしても,その被害状況の中で特徴的な核心部分が正確であることが確認できれば,その被害供述は,仮に,部分的に事実と違う部分があることが判明したとしても,それ以外の被害供述部分が信頼性を失うことはないというべきである。 (9) そして,そのような観点から本件痴漢被害をみてみると,被告Aの被害供述の核心部分は,スカートの中に手を入れられて陰 としても,それ以外の被害供述部分が信頼性を失うことはないというべきである。 (9) そして,そのような観点から本件痴漢被害をみてみると,被告Aの被害供述の核心部分は,スカートの中に手を入れられて陰部付近をなで回されたことと,途中で痴漢犯人によって対面されられたことということができる。そして,前半部分は特に矛盾はないから,被告Aの供述が全体として信頼できるか否かは,痴漢犯人によって対面させられたことが正確であることを確認できるか否かによるところ,被告Aが途中で原告の方に向いて,被告Aが原告と対面する形になったこと自体は,原告自身が検察官に対する弁解録取のとき(平成12年2月24日)から認めているところであり(乙10号証),その後の「全部話しました。」とされている平成12年3月6日の司法警察員の取調べの際にもこれを認めている(乙12号証)。 したがって,被告Aの被害供述の核心部分については原告もぼぼ認めていたと考えるのが相当である(ただし,原告は,本件民事訴訟の本人尋問の際には,「ただ,向き合ったというのは覚えているんですよね。」という裁判官の質問に対して,「だからそれが自分の記憶なのか,言われた記憶なのか,ちょっとどっちか分かんなくなっちゃったんですけど。」と答え,「じゃあどういうふうに向き合うかたちになったとか,そういうのは覚えてないんですか。」との質問には,「そうです。分かんないですね。」と答えて,曖昧な返答に終始している。)。 (10) これらの点を総合的に勘案すれば,被告Aの被害供述は,その前半部分が特に問題がないものであることはもとより,その後半部分についても,核心部分について供述の変遷はないばかりでなく,これを裏付ける重要な外形的事実については,原告もこれを認めていたということができるから,対面後の痴漢被害の態様について一部 ,その後半部分についても,核心部分について供述の変遷はないばかりでなく,これを裏付ける重要な外形的事実については,原告もこれを認めていたということができるから,対面後の痴漢被害の態様について一部供述が変遷したとしても,原告より痴漢の被害を受けたとする供述全体の信用性を損なうものではないというべきである。 3 原告と被告Aの身長差による痴漢行為の不自然性について次に,原告と被告Aには大きな身長差があるから原告が被告Aに対して痴漢行為をしたというのは不自然であるとの点などについて検討する。 (1) 前記のとおり,被告Aの身長は約150センチメートルであるのに対して,原告の身長は約170センチメートルであり,両者に約20センチメートルの身長差があることが認められる。 (2) しかしながら,警察で作成された実況見分調書(乙17号証)の写真番号3ないし7の写真をみると,被告Aと相当程度身長差のある係員が痴漢犯人役として痴漢の状況を再現しているが,特に不自然な点は見いだせない。また,当裁判所が,本件被告A本人尋問の際,原告と被告Aとを並ばせて,両者の身長差や原告の手の位置と被告Aとの位置関係等を確認したところ,原告と被告Aの身長差は,原告が直立した姿勢のままで被告Aの主張するような痴漢行為全部を行うことは難しいであろうが,肩をやや傾けたり,少し姿勢を変えたりすれば,被告Aが主張しているような痴漢行為を行うこともできる程度であると認められた。ちなみに,このような結果は,「原告が右肩を下げた不自然な格好をしていた」という被告Aの供述と一致するものであり,被告Aの供述を客観的に裏付けるものといえる。 (3) なお,原告代理人は,肩が触れ合う程度に混んでいる電車の中で被告Aが主張しているような痴漢行為をすれば,周囲に気づかれないはずはな のであり,被告Aの供述を客観的に裏付けるものといえる。 (3) なお,原告代理人は,肩が触れ合う程度に混んでいる電車の中で被告Aが主張しているような痴漢行為をすれば,周囲に気づかれないはずはないと主張しているが,通勤・通学の時間帯の本件電車内は,前記認定のとおり,自由に身動きすることはできない程度に混雑していたのであり,しかも,2月23日のことで,ほとんどの乗客がコートやオーバーなどを着ているため,ほとんどの乗客にとって腰から下の状況を見るのはほとんど困難な状態になっていたと考えられることなどを考慮すると,男性が軽く肩を傾けている程度では,周囲の乗客から特に不審がられることはないと思われる。仮に,原告代理人の主張するとおりであれば,混雑した電車内で簡単に痴漢行為を発見することができるということになるが,事実がその反対であることは,言うまでもないであろう。 (4) したがって,原告のこの主張も理由がないこととなり,被告Aの供述の信用性を否定するに足りるものではない。 4 無抵抗の被告Aが現行犯逮捕したことの不自然性について(1) また,被告Aが怖くて何も抵抗できなかったと供述している点をとらえて,原告代理人は,それくらい怯えていたなら駅のホームで原告を現行犯逮捕するのは不自然ではないかと主張している。 (2) しかし,甲4,甲5号証,甲11号証,被告A本人尋問の結果によれば,被告Aは,同人が本件電車内ではさして抵抗をせず日暮里駅のホームで原告を捕まえたのは,電車内で痴漢行為を指摘したりすると相手方から何らかの危害を加えられたりしたときに逃げられないので怖いが,駅のホームであれば,逃げることができるし,駅員もいて対応してくれたり,他の乗客の協力を得ることもできるだろうと考えたからである,一度,痴漢にあったときに相手の足を踏んだら に逃げられないので怖いが,駅のホームであれば,逃げることができるし,駅員もいて対応してくれたり,他の乗客の協力を得ることもできるだろうと考えたからである,一度,痴漢にあったときに相手の足を踏んだら,思い切り踏み返されたことがあり,怖い思いをしたなどと説明していることが認められる。 (3) 上記の説明は,被告Aが当時高校1年生であったことや,小柄な口数の少ない少女であったことなどを考慮すると,本件電車内では抵抗せずに,駅のホームに降りてから現行犯逮捕した理由として合理的なものと認めることができる。したがって,この点の原告の主張も理由がなく,被告Aの供述の信用性を否定するものではない。 5 本件以外の痴漢被害と示談についてさらに,原告は,被告Aは本件以外にも何回も痴漢の被害にあったとして示談金を得ており,本件は示談金目当ての狂言ではないかと主張しているので,この点について検討する。 (1) まず,甲5号証,乙1号証ないし乙9号証,被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,被告Aは,以下のように,本件以外の痴漢被害を受け,これについて示談をしている。 ア平成11年9月27日に痴漢被害にあい,同年12月11日に示談がなされ,慰藉料20万円を受領した。この示談については,相手方の加害者に弁護士が代理人としてつき,被告A宛の謝罪文が差し入れられている。 イ平成11年11月1日に痴漢被害にあい,同年12月13日に示談がなされ,謝罪金20万円を受領した。この示談についても,相手方の加害者に弁護士が代理人としてつき(アの代理人とは別人),電車内で被告Aに対して強制わいせつ行為に及んだことを認めている。 ウ平成12年2月22日(本件の前日)及び同月24日(本件の翌日)に痴漢被害にあい,同年3月に示談がなされ,示談金50万円を受領した。この 被告Aに対して強制わいせつ行為に及んだことを認めている。 ウ平成12年2月22日(本件の前日)及び同月24日(本件の翌日)に痴漢被害にあい,同年3月に示談がなされ,示談金50万円を受領した。この示談についても,相手方の加害者に弁護士が代理人としてつき(ア,イの代理人とは別人),加害者の両親が被告Aに謝罪した。 エ平成12年6月30日に痴漢被害にあい,同年7月6日に示談がなされ,損害賠償金70万円を受領した。この示談についても,相手方の加害者に弁護士が代理人としてつき(ア,イ,ウの代理人とは別人),被告Aに謝罪している。 オ平成13年5月18日に痴漢被害にあい,同年6月ころに示談がなされ,謝罪金30万円を受領した。この示談についても,相手方の加害者に弁護士が代理人としてつき(ア,イ,ウ,エの代理人とは別人),わいせつ行為を認めて被告Aに謝罪している。 カこれらの他にも痴漢被害にあったことがあるが,犯人に逃げられたり,犯人が高校生で処分の結果を知らされていないため,特に示談はしていない。 (2) このように,被告Aは,確かに本件以外にも痴漢の被害にあい,加害者と示談をしているが,被告Aの本件民事訴訟における本人尋問の結果によれば,これらの示談は,全ての加害者に代理人として弁護士がついていて,示談をしてほしいという申入れがあってそれに応じたもので,被告Aや両親がもちかけたわけではなく,しかも,その金額は相手方から申出のあった金額をそのまま受け入れており,被告側から金銭を要求したことは一度もないことや,その全てについて,加害者側は痴漢行為を認めて謝罪していることが認められる。 (3) また,甲15号証によれば,被告Aの高等学校生徒指導要録の高校1学年次欄には,「痴漢が原因で通学に苦痛を感じ,遅刻・欠席が多くなってしまった。」と記載されてい 謝罪していることが認められる。 (3) また,甲15号証によれば,被告Aの高等学校生徒指導要録の高校1学年次欄には,「痴漢が原因で通学に苦痛を感じ,遅刻・欠席が多くなってしまった。」と記載されていることが認められる。 (4) これらの事実によれば,本件以外に被告Aが痴漢の被害にあったというのは,すべて事実であったと認めざるをえないところ,本件だけが虚偽だという特段の理由は見いだせないから,これらの事実は,痴漢の被害を受けたという被告Aの供述を,否定するものとしてではなく,むしろその信用性を高めるものとして理解することができる。 6 刑事裁判で信用性が否定されたことについて(1) なお,本件刑事裁判の判決書(甲2号証)においては,被告Aが本件刑事裁判の公判廷での最初の証人尋問の際にはほとんど答えられなかったのに,後の期日外尋問ではそれなりに答えた点をとらえて,「事件からより年月の経過している期日外の尋問のほうが,はじめの公判での尋問のときよりなぜ明確に証言しえたのかにつき,合理的な理由が見出せない」などとして被告Aの被害供述の信用性を否定しているので,この点についても検討しておく。 (2) なるほど,本件刑事裁判においては,検察官からの質問に対しても被告Aが無言のままとされている部分が多々みられるところであり,見方によっては,被告Aの供述の信用性を疑わせると考えられなくはないであろうが,そもそも検察側の証人は,検察官からの主尋問については予め打ち合せをしているので,反対尋問の場合とは異なり,通常それなりに答えられるはずである。それなのに,ほとんど答えられなかったというのは,被告Aが公判廷で本当に混乱していたかをうかがわせるものであり,被告Aがどれほど緊張していたかを推認させる。したがって,そのような緊張を緩和してやればそれなりの答え んど答えられなかったというのは,被告Aが公判廷で本当に混乱していたかをうかがわせるものであり,被告Aがどれほど緊張していたかを推認させる。したがって,そのような緊張を緩和してやればそれなりの答えができるはずであり,被告Aが再度の期日外の尋問では前回よりも明確に答えられたというのは,むしろ当然のことであり,それほど問題にするほどではないと考えられる。 (3) そして,被告Aは,本件民事訴訟における本人尋問において,最初の公判期日での尋問の際にほとんど答えられなかったことについて,初めての証人尋問で緊張していたうえ,宣誓をしたら,自分の記憶どおりだとしても客観的に間違ったことを言ってはならないとなどと誤解して,混乱してしまったことや,質問に対してすぐに答えなければいけないと思うあまり,かえって普通なら答えられることまで答えられなくなってしまったことなどの理由を説明している。なお,今回の民事訴訟では,本件刑事事件における期日外尋問のときよりもさらに明確に証言しているが,この点については,被告Aの代理人から事前に十分な説明を受けたため,より落ち着いて証言することができたと述べている。 (4) そして,これらの事実に加えて,被告Aが証言当時高校生で,同年代の女子と比較してもなかなか自分の言いたいことを言えない性格であることや,当裁判所での本人尋問の際にも,質問されてから答えるまでにかなりの時間を要し,答えをせかされたり,質問をたたみかけられると,すぐに立ち往生してしまう状況であったことなど前記の事情をも考慮すると,上記の被告Aの説明は当裁判所にとって理解できないものではない。 (5) したがって,刑事裁判の認定において合理的な説明がなされていないとされていても,本件民事裁判においてそれと異なる認定をすることを何ら妨げるものではないというべきで 解できないものではない。 (5) したがって,刑事裁判の認定において合理的な説明がなされていないとされていても,本件民事裁判においてそれと異なる認定をすることを何ら妨げるものではないというべきである。当裁判所は,これまでに認定,説示してきたとおり,被告Aの被害供述の信用性を否定する特段の事情を見いだすことはできないといわざるをえない。 7 原告の否認供述の信用性について(1) 本判決理由の冒頭部分でも触れたとおり,本件では,本件電車内で原告から痴漢行為をされたとする被告Aの供述と,これを全面的に否定する原告の供述とが対立しているところ,この両者は一つの事実の裏と表の関係に立っており,被告Aの供述の信用性と原告の供述の信用性とは,ほぼ反比例する関係にあるから,被告Aの供述の信用性を最終的に肯定することができるか否かは,これを否定している原告の供述の信用性に合理的な疑いがあるか否かにかかることになる。そこで,以下では,本件痴漢行為を否定している原告の供述の信用性について検討する。 (2) まず,甲7号証,乙12号証,乙14号証及び原告本人尋問の結果によれば,原告の供述の概要は,以下のようなものである。 ア原告は,本件当日(平成12年2月23日)は仕事が非番であったため,秋葉原でパソコンをみようと思い,ジャンパーとジーンズ姿でJR常磐線赤塚駅午前6時15分発の上野行きの本件電車に乗り,土浦駅までは座席に座っていたが,空気が悪くなったので,午前6時57分に土浦駅に到着したところでいったん本件電車から駅のホームに降りた。 イ原告は,土浦駅でいったんホームに降りたものの,車両を移動して再び本件電車の中央付近の車両に乗り込み,今度は入口ドア付近に立った。本件電車は,午前7時4分に土浦駅を出た後,午前7時42分ころ松戸駅に到着し,午前8時 いったんホームに降りたものの,車両を移動して再び本件電車の中央付近の車両に乗り込み,今度は入口ドア付近に立った。本件電車は,午前7時4分に土浦駅を出た後,午前7時42分ころ松戸駅に到着し,午前8時0分ころには日暮里駅に到着したので,乗り換えのために本件電車を降りたところ,被告Aに「この人,痴漢です。」と言われて,ジャンパーの袖をつかまれた。 ウ原告は,松戸駅から日暮里駅の間の本件電車の中で,自分が立っていたすぐ前に,背の低い髪の黒い女性がいて,途中で自分と向かい合うような姿勢になったことは覚えているが,その女性が女子高校生であることは分からなかったし,自分がその女性に痴漢行為をしたなどということは全く身に覚えがない。 エ原告は,日暮里駅のホームで被告Aに逮捕され,午前8時9分,同駅の駅長事務室内において荒川警察署の司法警察員に痴漢行為の現行犯人として引き渡され,午前8時45分,荒川警察署に引致された。警察では,自分はやっていないと何回も言ったが,信じてくれないので黙秘することにした。翌24日には検察庁で検察官から弁解録取のための取り調べを受けたが,ほとんど黙秘した。その後,勾留質問を経て勾留され,当番弁護士であった平賀弁護士(本件民事訴訟の代理人でもある)に依頼して接見し,同年3月3日と3月6日に司法警察員の取り調べを受け,ある程度詳しい話をした。そして,3月10日に検察官の取り調べを受けた後,同月14日にいわゆる痴漢犯人として東京簡易裁判所に起訴され,同月17日に保釈されるまで23日間,身柄を拘束された。 オ原告は,aの大学を卒業した後,いわゆる定職には就いておらず,アルバイトなどをしており,本件当日は酒販店で働いていた。原告は,大学生のころから月に1回程度はaから東京に出てきていたので,東京のことはある程度は分かってい した後,いわゆる定職には就いておらず,アルバイトなどをしており,本件当日は酒販店で働いていた。原告は,大学生のころから月に1回程度はaから東京に出てきていたので,東京のことはある程度は分かっている。 (3) ところで,このような原告の供述については,被告Aの代理人から次のような疑問が提起されている。 ア原告は,非番だったので秋葉原でパソコンをみようと思ったというが,本件電車は,早朝の6時15分に赤塚駅を出発し,午前8時には日暮里駅に到着したので,乗り換えても午前8時半前には秋葉原に到着してしまう。この時間では,秋葉原の電気店はまだ開いていない。原告は,非番で時間があったはずなのに,何故,こんなに早い時間の通勤快速電車に乗る必要があったのか。ちょうど柏駅や松戸駅で通勤時間帯に重なり,電車の中が混雑するのを狙ってわざわざ乗車したのではないか。 イ原告は,途中駅の土浦駅まで座席に座っていたのに,何故,2月の早朝の寒気の中をわざわざいったん電車を降りて,車両位置を移動して再び乗り込み,入口ドア付近に立つ必要があるのか(原告は,いったん降りた駅が土浦駅であることさえなかなか認めたがらない。)。仮に,いったん立ったとしても,土浦駅ではまだ混雑していないのであるから,これから混雑する入口付近を避けて,乗客の出入りにあまり影響されない車内の奥のほうに立つのが普通ではないか。 ウ原告は,本件電車内で,自分の前に背の低い髪の黒い女性がいて,途中で自分と向かい合うような姿勢になったことは覚えているが,その女性が女子高校生であることは分からなかったという。しかし,被告Aは,制服のブレザートとスカートをはいており,対面までしていて分からないはずがない。分からないというのは,ことさらに被告Aとの関係を避けようとすることの表れであり,かえって不自然である。 ,被告Aは,制服のブレザートとスカートをはいており,対面までしていて分からないはずがない。分からないというのは,ことさらに被告Aとの関係を避けようとすることの表れであり,かえって不自然である。 エ原告は,被告Aの乗車駅については刑事事件も経て十分に承知しているはずであるのに,本件民事訴訟での本人尋問においても,被告Aはどこから乗車してきたかとの質問に対し,「多分柏と言ってたと思います。それは,自分が入ってくるのを見たとか聞いたんじゃなくて,取調べのときとか,後の裁判のとかの話で,聞いた話だから,自分の記憶では分からないです」と答えたものの,次の質問を受けて,「じゃあ,そうです。間違えました」と訂正したりして,ことさらに被告Aのことは意識になかったことをアピールしようとしており,不自然である。 (4) そこで,これらの点について検討する。 アまず,電車の時間が早い点であるが,これについて原告は,当初は何も説明していなかったが,本件刑事裁判や本件民事裁判の尋問では,秋葉原には「9時か10時ぐらい」に着く予定だったとか,「早ければ,ちょっと朝飯を食ったりとかしようと思ってたんですよ」などと答えている。 しかし,このような供述は,ほとんどその場しのぎとしか思えないものであるうえ,原告は,日頃は午前7時半ころに家を出てアルバイトに向かうと述べていることなどに照らすと,特にパソコンの趣味があるわけでもない原告が非番の日に普段よりもかなり早起きして秋葉原に向かわなければならない合理的な理由とは考えにくいといわざるをえない。 イ次に,最初は座っていたのに土浦駅でわざわざ降りて,違う車両に乗り込んで入口ドア付近に立ったのであるが,原告は,その理由について,空気が悪くなったからだとか,気分が悪くなったからと説明しているが,それならいったん駅のホー に土浦駅でわざわざ降りて,違う車両に乗り込んで入口ドア付近に立ったのであるが,原告は,その理由について,空気が悪くなったからだとか,気分が悪くなったからと説明しているが,それならいったん駅のホームに出るにしても,まださほど混雑していたわけではないのであるから,席に何か置いて再び座れるようにすることもできたはずであるのに,わざわざ車両を移動して入口ドア付近に立つのは,何とも不可解な行動である。しかも,まだあまり混雑していない電車に座っていて気分が悪くなったというのに,それ以降,混雑する電車の入口ドア付近に立っていて気分が悪くなった様子がないのも,不自然といえば不自然である。仮に,席を立つとしても,土浦駅では車内はそれほど混雑していないので,客の乗り降りにあまり影響されない車内の奥のほうに立つことも可能であったのに,わざわざ入口ドア付近に立つというのは,理解しにくい行動である。 ウなお,原告は,いったん本件電車を降りて車両を移動した駅について,時刻表などによっても土浦駅であることは確実であるのに,なかなかこれを認めたがらないが,原告は,大学当時から月に1回程度は東京に出ているというのであって,27歳の本件当時までには相当回数常磐線の電車を利用しているはずであるから,途中駅について知らないということは不自然である。しかも,停車駅や停車時間を知らないまま,いったん電車を降りて外の空気を吸うなどということは,乗り遅れる不安から普通はできないことである。それにもかかわらず,原告はこれをしているのであるから,土浦駅で停車していることを知らないはずはないと考えられるのに,なかなかこれを認めない原告の態度は,理解しがたいことである。 エまた,原告は,本件電車内で自分の前に立っていた者が女子高校生であったことは分からなかったと言っているが,自分の前に 考えられるのに,なかなかこれを認めない原告の態度は,理解しがたいことである。 エまた,原告は,本件電車内で自分の前に立っていた者が女子高校生であったことは分からなかったと言っているが,自分の前にいたのが背の低い髪の黒い女性であり,女性の肩と原告の胸が接していたことを認識するなどそれなりに意識的な観察をしていたばかりか,原告が向き合わせたか否かはともかく,途中でその女性と向き合ったことまで認識していたのに(乙10,乙11,乙12号証,乙14号証など),それでも,ブレザーとスカートを着用していた被告Aが女子高校生であることに気づかなかったというのは,考えがたいことである。 そして,原告は,本件刑事事件において検察官から当然に女子高校生だと分かったのではないかと質問されると,これを否定し,再度尋ねられると,同じ質問だといって答えなかった(乙14号証)ほか,本件民事訴訟の本人尋問においては,被告らの代理人から「目の前に女性がいたということはどうなんですか」と尋ねられたのに対して,「はっきり覚えてないです」と答えて,それまで争いがない被告Aの存在すら否定しかねない供述をしており,供述に一貫性もなく不自然なものとなっている。 オ同様に,被告Aの乗車駅についても,前記(3)エに主張されているとおり,ことさらに曖昧な供述をしているとしか思えない態度であって,被告の供述は信頼性に欠けるものであることが著しい。 カさらに言えば,原告は,最初の警察の取調べでは,自分はやっていないと何回も言ったが信じてくれないので黙秘することにし,翌24日の検事による弁解録取の際も,何度言っても信じてくれないので黙秘したなどと述べているが,本件民事訴訟の本人尋問では,警察では調書の最初に記載する身上関係の部分の質問のときに既に黙秘したと述べており,やっていないと何度 の際も,何度言っても信じてくれないので黙秘したなどと述べているが,本件民事訴訟の本人尋問では,警察では調書の最初に記載する身上関係の部分の質問のときに既に黙秘したと述べており,やっていないと何度言っても信じてくれないので黙秘したという供述と矛盾しているし,検事による弁解録取についても,「最初が確か黙秘するって言ったのかな,どっちだったかな。黙秘しますって,最初言ったような気がするんですけど,でも,さっきのやつがいつだっけ。でも,何か検事が,警察と検事は違うからとかって言って,で,何かさっき書いたぐらいは,確か何か書いたのかな,何かよく分からないけど。」と述べていて,ことさらに答を曖昧にしようとする態度がうかがえるのである(通常は,やっていないというのであれば,捜査の初期段階で黙秘をするのではなく,否認するのが経験則にかなうであろう。)。 キこのほか,原告は,前記14頁,24頁にも認定し説示したとおり,松戸駅から日暮里駅までの本件電車内で被告Aと向かい合う姿勢になったこと自体は,捜査段階からおおむね認めていたのに,本件民事訴訟ではこれを否定するかのような供述をするに至っており,不自然で一貫性を欠くものになっている。 (5) 以上の事実によれば,前記の原告の一連の供述は,いくつもの点で不自然さを含むだけではなく,被告Aに関係する事柄をことさらに否定しているとしか思えないものであったり,被告Aとの関係をなんとか曖昧にしようとしているのではないかと疑われてもやむを得ないものとなっており,ほとんど信用性のないものになっているといわざるをえない。 8 まとめ(1) これまでのところを総合的に勘案して判断すると,本件電車内で原告から痴漢の被害を受けたとする被告Aの供述は,全体としてみれば信用性の高いものであり,供述内容の主要な部分が真実である まとめ(1) これまでのところを総合的に勘案して判断すると,本件電車内で原告から痴漢の被害を受けたとする被告Aの供述は,全体としてみれば信用性の高いものであり,供述内容の主要な部分が真実であることをうかがわせるものであるのに対して,これを全面的に否定している原告の一連の供述は,いずれも場当たりで一貫性がなく,かなり不自然なものであるといわざるをえず,これを信頼することはできない。したがって,本件電車内で原告から痴漢行為を受けたとする被告Aの供述内容が真実であると認められる。 (2) そうすると,原告は,本件電車内で被告Aに対して痴漢行為をしていたものと認められるから,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。 第4 結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第48部裁判長裁判官須藤典明裁判官鳥居俊一裁判官高橋純子

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