- 1 - 主文 1 被告は、原告甲に対し、3151万0936円及びこれに対する平成30年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告乙に対し、6985万2395円及びこれに対する平成30年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、原告甲に生じた費用及び被告に生じた費用のうち3分の1との合計の25分の3を原告甲の、25分の22を被告の負担とし、原告乙に生じた費用及び被告らに生じた費用の3分の2との合計の50分の1を原告乙の、50分の49を被告の負担とする。 5 この判決は、本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が、原告甲に対しては300万円、原告乙に対しては700万円の担保を供するときは、その各仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告甲に対し、3617万6176円及びこれに対する平成30年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告乙に対し、7177万7634円及びこれに対する平成30年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (仮執行宣言)第2 事案の概要 1 事案の骨子丙は、静岡県警察に在籍する警察官であったが、平成24年3月10日、自殺した(以下「本件自殺」という。)。 本件は、丙の妻子である原告らが、本件自殺は、丙が過重な業務に従事し、- 2 - 強度の精神的及び肉体的負荷を受けた結果、うつ病等の精神疾患を発症し、その精神疾患の影響によって行われたも 本件は、丙の妻子である原告らが、本件自殺は、丙が過重な業務に従事し、- 2 - 強度の精神的及び肉体的負荷を受けた結果、うつ病等の精神疾患を発症し、その精神疾患の影響によって行われたものであるところ、本件自殺につき、同警察を設置する被告には、丙が過重な業務に従事してその心身の健康を損なうことがないよう配慮すべき安全配慮義務に違反した債務不履行があると主張して、被告に対し、上記債務不履行による損害賠償請求権に基づき、丙の死亡による 損害として、それぞれ第1記載の各損害金及び原告らが被告に対し上記各損害の賠償を請求した日の翌日から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 本件の主要な争点は、①本件自殺の業務起因性(業務と死亡との因果関係)、②被告の安全配慮義務違反の有無、③損害の範囲及びその数額等である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲書証[枝番のあるものは、当該証拠に付された全ての枝番を含む。以下同じ。]及び弁論の全趣旨により容易に認定することのできる事実)⑴ 当事者等ア丙(昭和55年7月3日生、死亡当時31歳)は、平成15年4月、静 岡県警察に入職し、その後、平成24年3月10日に本件自殺により死亡するまでの間、警察官として勤務していた者であり、その略歴は、別紙1「丙の経歴」記載のとおりである。 イ原告甲は、平成17年7月14日に婚姻した丙の妻であり、原告乙(平成19年9月28日生)は、その子であって、丙の死亡による原告らの 相続分はそれぞれ2分の1である。 ウ被告は、静岡県警察を設置する地方公共団体である。 エ丁は、平成22年3月から本件自殺のあった平成24年 であって、丙の死亡による原告らの 相続分はそれぞれ2分の1である。 ウ被告は、静岡県警察を設置する地方公共団体である。 エ丁は、平成22年3月から本件自殺のあった平成24年3月まで、静岡県警察下田警察署(以下「下田警察署」という。)の地域課長の職務に従事しており、丙の上司であった者である(乙33)。 ⑵ 己交番における原則的勤務形態及び丙の職務上の立場- 3 - ア丙は、平成22年4月以降、本件自殺に至るまで、静岡県警察下田警察署己交番(以下「己交番」という。)において交番長として勤務していたところ、同交番においては、交番長を含む各勤務員が、3班に分かれ、班ごとに、当直、非番及び週休(又は日勤)の各勤務を繰り返すという三交替制の勤務が行われていた。各班は、それぞれ、交番長又は交番班 長1名、及び相勤務員1~3名の2~4名で構成されている。己交番における各勤務員の所定の勤務時間及びその勤務の具体的内容は次のとおりである(甲17、18、乙1、5、6、9、16、32、33、弁論の全趣旨)。 (ア) 当直 午前9時までに、下田警察署に出勤し、制服の着用、拳銃の装備等を行い、同時刻より、他の交番等の当直勤務員らとともに、地域課長又は当直主任による点検配置を受けた上、己交番に出勤する。その後、翌日午前9時まで、管内犯罪の予防検挙を目的とした警ら、立番、巡回連絡に加え、発生した事件事故の処理、交通取締り、市民からの各種届出や 要望相談の受理等の職務に従事する。 この間、所定休憩時間として、午前11時から午後2時までの間に1時間、午後4時から翌日午前8時までの間に7時間30分(このうち、午後9時から翌日午前2時まで又は翌日午前2時から同午前7時までが この間、所定休憩時間として、午前11時から午後2時までの間に1時間、午後4時から翌日午前8時までの間に7時間30分(このうち、午後9時から翌日午前2時まで又は翌日午前2時から同午前7時までが仮眠時間とされており、それ以外の2時間30分が食事等の休憩時間と されている。)の合計8時間30分とされているが、急訴事件及び各種届出等については、休憩中であっても直ちに受理し、必要な措置を講じるものとされている。このように、所定の休憩時間ないし仮眠時間等において、休憩等を取らずに職務に従事する場合や、勤務時間を休憩時間等に振り替えて休憩等を取得する場合には、同署地域課長(丙の己交番 在職当時は丁)ないし当直主任に対し、勤務変更の申し出を行うことと- 4 - されている。 (イ) 非番午前9時までの当直勤務を終えた後、同日の当直勤務を行う班が己交番に到着するまで待機し、同班到着後、各班を構成する交番長又は交番班長により、所定の様式の書類等を用いて、引継ぎが行われ、その後、 下田警察署に赴き、拳銃等の返還、各種報告等を行い、勤務終了となる。 (ウ) 週休(又は日勤)非番の翌日は、基本的には、週休となっているが、所定労働時間を確保するため、1月に一、二回程度は、日勤とされており、その勤務時間は、午前9時から午後5時45分まで(昼休憩として午前11時から午 後2時までの間に1時間)とされている。 イ上記のとおり、丙は、己交番において交番を務めていたところ、静岡県警察の定める「静岡県地域警察の運営に関する訓令」(乙6)によれば、交番長の行う職務内容は、別紙2「交番長の職務」のとおりとされている。 ⑶ 己交番における勤務状況及び時間外勤務状況に関して 定める「静岡県地域警察の運営に関する訓令」(乙6)によれば、交番長の行う職務内容は、別紙2「交番長の職務」のとおりとされている。 ⑶ 己交番における勤務状況及び時間外勤務状況に関して作成される資料ア静岡県警察が設置する各交番、駐在所において、各勤務員が当直勤務等を実施する際には、各日ごとに、勤務日誌を作成することとされており、この勤務日誌には、交番長を含む各勤務員の該当日の勤務種別、点検配置時における指示事項を記載するほか、「勤務時間」欄において、「指 示教養」、「在所」、「立番」、「警ら」、「巡回連絡」、「その他」及び「休憩」の項目ごとに、勤務員が従事した時間を30分間隔で押印して表示し、「記事」欄において、就務や終務・退所の時刻、警ら、立番、事件処理等の各活動を行った場合には、開始・終了(帰所)の時刻や具体的な活動内容、及び勤務変更を行った場合にはその具体的な内容 等を記載することとされている。この勤務日誌は、所轄警察署の地域課- 5 - 長、副署長及び署長等に回覧されている。(乙1)イ静岡県警察に所属する警察官は、毎月21日午前中までに、前月21日から当月20日までの間において、所定の勤務時間以外に業務に従事した時間があるときは、その状況等につき、当該日における勤務形態、勤務時間、時間外勤務の時間及び従事した業務内容を記載した「時間外勤 務実績報告書」を作成して所属課長に提出することとされており、上記報告書は、所属課長の承認を受けることとされている(乙2)。 ⑷ 午前8時30分開始の朝会下田警察署においては、同署内において勤務する警察官(以下、このような警察官のことを「内勤者」という。)の勤務日とされている平日において、 その出勤時間とされる午前8 0分開始の朝会下田警察署においては、同署内において勤務する警察官(以下、このような警察官のことを「内勤者」という。)の勤務日とされている平日において、 その出勤時間とされる午前8時30分から、朝会(以下「全体朝会」という。)が実施されていた(乙28)。 ⑸ 術科訓練静岡県警察では、適正な職務遂行能力の習得を主たる目的として、柔道・剣道訓練及び逮捕術訓練からなる術科訓練が実施されている。このうち、柔 道・剣道訓練は、非番・週休日を中心に、1回1時間から1時間半程度の訓練が実施されているほか、逮捕術訓練については、主に当直日の勤務開始直後に行われる点検配置(朝礼)において短時間(1回につき15分程度)の訓練が実施されている。(弁論の全趣旨)⑹ 職場実習指導員への指名 ア静岡県警察では、警察学校における初任科課程(大卒者6か月、高卒者10か月)を修了した実習生を対象に、概ね3か月半程度(地域課[交番]における実習2か月、刑事課等の内勤実習1か月半)の間、職場実習を実施している(弁論の全趣旨)。 イ丙は、平成24年2月5日から、同年3月10日までの間、静岡県警察 より、職場実習指導員への指名を受け、実習生1名を受け持つこととな- 6 - った(乙16、20)。 ⑺ 丙のGSEメンバーへの選出ア研究グループ交換(GSE)とは、ロータリークラブが主催する海外研修であり、事業や専門職務経験の浅い25歳から40歳までの者を対象に、海外派遣先の国(地域)におけるホームステイを通じて、生活様式 や文化を体験し、対象者の職業が滞在国においてどのように営まれているかについて、見学や意見交換をすることを内容としている。 イ丙は、平成24年4月8日 るホームステイを通じて、生活様式 や文化を体験し、対象者の職業が滞在国においてどのように営まれているかについて、見学や意見交換をすることを内容としている。 イ丙は、平成24年4月8日出発、同年5月3日帰国予定とされていたGSEのメンバーとして、静岡県警察の推薦を受けることとなり、平成23年11月1日、メンバー選考に合格し、その後、本件自殺に至るまで、 複数回、ロータリークラブ主催の事前研修に参加することがあった。 ⑻ 丙の己交番在職時の住居丙は、己交番在職当時、家族である原告らとともに、同交番に隣接する警察官待機宿舎(以下「本件宿舎」という。)1階に居住していた。 ⑼ 本件自殺 丙は、平成24年3月12日、静岡県賀茂郡α町内の路上に停車中の普通乗用自動車(自己所有車)内において、死亡しているのが発見された。同自動車内からは、七輪及び灰化した練炭が発見されており、死体検案書によれば、同人の死亡日時は、同月10日午後であり、死因は、自殺による一酸化炭素中毒であるとされている。(甲41) ⑽ 本件自殺の公務災害認定と遺族補償給付等の受給ア原告甲は、平成26年3月3日、地方公務員災害補償基金静岡県支部(以下「基金」という。)の支部長に対し、本件自殺による丙の死亡について、公務災害認定請求を行った。これに対し、同支部長は、平成28年3月29日、上記死亡について、公務外の災害と認定する旨の処分 をした(以下「本件認定処分」という。)。(甲17、41)- 7 - イ上記処分を受け、原告甲は、同年4月8日、地方公務員災害補償基金静岡県支部審査会に対し、審査請求をしたところ、同審査会は、平成29年8月8日、本件自殺は、公務上の疾病と相当因果関係を持っ イ上記処分を受け、原告甲は、同年4月8日、地方公務員災害補償基金静岡県支部審査会に対し、審査請求をしたところ、同審査会は、平成29年8月8日、本件自殺は、公務上の疾病と相当因果関係を持って発生したものであるなどとして、本件認定処分を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(甲18)。 ウ本件裁決を受け、基金は、平成30年2月26日までに、原告甲に対し、遺族補償年金、遺族特別支給金、遺族特別援護金、遺族特別給付金及び葬祭補償の各給付を行う旨の決定をした。これに基づき、原告甲は、本件口頭弁論終結までの間に、基金より、上記各給付として、以下のとおりの金員を受給した。(甲28、69、70) ① 遺族補償年金 3485万1460円② 遺族特別支給金 313万2916円③ 遺族特別援護金 1860万0000円④ 遺族特別給付金 683万7346円⑤ 葬祭補償 117万8460円 ⑾ 被告に対する損害賠償の請求原告らは、平成30年9月21日、被告に対し、丙の死亡に関する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求として、死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬祭料及び弁護士費用の合計額1億4355万5270円から、原告甲の受給した遺族補償年金及び葬祭補償の各既払額を控除した額を請求する旨の同日付 書面を送付し、同書面は、同月25日被告に到達した(甲19)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点は、①丙の自殺と業務との因果関係(本件自殺の業務起因性)(争点1)、②被告の安全配慮義務違反の有無(争点2)、③損害の発生及びその数額(争点3)及び④損益相殺(争点4)の4点である。 争点に関する当事者の主 果関係(本件自殺の業務起因性)(争点1)、②被告の安全配慮義務違反の有無(争点2)、③損害の発生及びその数額(争点3)及び④損益相殺(争点4)の4点である。 争点に関する当事者の主張は、別紙3「主張整理表」(以下単に「主張整理- 8 - 表」という。)のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記第2の2摘示の事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 ⑴ 己交番の刑法犯認知件数及び所管範囲、交番長としての具体的職務等ア下田警察署の刑法犯認知件数は、平成23年が435件、平成24年が415件であり、いずれも、当該年において、静岡県警察の設置している27警察署のうち、上から25番目の認知件数であった。他方、己交番管内における刑法犯認知件数は、平成23年が160件であり、平成 24年が143件であって、平成23年は、同警察が当時設置していた202交番のうちの上から87番目、平成24年は、当時設置していた205交番のうち上から88番目であった。(証人丁、弁論の全趣旨)イ他方、丙が己交番に在職していた当時、下田警察署管内に交番は4つしかなく、他は駐在所であり、同交番勤務員は、管内の駐在所が不在とな る場合には、同駐在所の受持ち区域においても業務を行う必要があったほか、夜間は、静岡県下田市及び同県γ町の全域において業務を行う必要があったため、同交番は、管内が広く、警らや事案発生時の移動時間等が長いことなどから、同交番勤務員の中には、同署管内で最も繁忙な交番との認識を持つ者もいた(甲30、乙18)。 ⑵ 交番長として特に行うべき業務丙は、本件自殺までの間、己交番交番長の地位にあったが、その職務の内容は 同署管内で最も繁忙な交番との認識を持つ者もいた(甲30、乙18)。 ⑵ 交番長として特に行うべき業務丙は、本件自殺までの間、己交番交番長の地位にあったが、その職務の内容は、別紙2「交番長の職務」のとおりであり、交番長は、月ごとに、交番等勤務員として提出が求められる自己の活動状況等の報告書を作成する必要があることに加えて、同交番管内の責任者として、同交番及び同交番管内の 駐在所を含めた活動計画や幹部の巡視結果、広報活動状況等を取りまとめた- 9 - り、同交番管内における犯罪発生状況、月間の活動計画及び活動実績等をまとめた報告書を作成したりして、下田警察署の地域課等の関係部署に提出する必要があった。また、丙は、交番長として、管内の捜査協力者に対する折衝や、対外的な打ち合わせ、同署で行われる会合、係長会議等への出席、同交番管内の災害危険マップの作成等の業務も行っていた。(甲30、乙18、 20、証人戊)⑶ 午前8時30分から実施されていた全体朝会の出席状況等前記前提事実⑷のとおり、下田警察署においては、平日午前8時30分から、内勤者を対象とした全体朝会が実施されており、これについては、交番等勤務員も、多くが参加していたものの、一部、参加していない交番等勤務 員もいた。そして、基金による調査の結果、上記朝会に参加していた交番等勤務員の認識としては、「他の勤務員が参加していたのでそれが当たり前と考えて参加していた」とか、「出ていない人もいたが、8時30分には出勤していたので当たり前と思って参加していた」といった程度のものであり、同署において、交番等勤務員に対し、その参加が指示されるなどしたことは なかった。(乙28、30)⑷ 己交番において時間外勤務をしなければな って参加していた」といった程度のものであり、同署において、交番等勤務員に対し、その参加が指示されるなどしたことは なかった。(乙28、30)⑷ 己交番において時間外勤務をしなければならない場合等ア前記前提事実⑵アのとおり、己交番においては、当直日において、午前9時に下田警察署に出勤し、点検配置を終えた後、己交番に出勤して前日の当直勤務を行っていた班との引継ぎを行う必要があるところ、この ため、前日の当直班は、当日の当直班が同交番に到着し、引継ぎを終えるまでの間、当直勤務終了後も引き続き己交番に在勤しておく必要があり、時間外勤務を要することとなる。また、ある班の当直勤務中に、急訴事案(事件や事故等)が複数発生した場合や、当直勤務の終了直前に、事案が発生した場合において、その事案の処理のために当直勤務終了後 も引き続き業務を行わなければならないときであっても、翌日の当直班- 10 - にその事案処理を引き継ぐことはできず、また、翌日の当直班が己交番に到着するまでの在所時間中に急訴事案が発生した場合についても、翌日の当直班の到着を待つことなくその処理を行う必要があるとされていることから、これらの場合も、当直勤務終了後の時間外勤務を要することとなる。(乙16、証人戊、同丁) イまた、己交番勤務員は、当直勤務の際に、職務質問を実施した場合には職務質問カード、交通取締りをした場合には違反切符、当直勤務中に市民を保護した場合には保護簿等の書類、被害届等の各種届出を受理した場合や、事案が発生した場合には、実況見分調書等の捜査書類などをそれぞれ作成する必要があるところ、これらは、通常、当直勤務中の休憩 時間以外の在所時間において作成すべきものとされているものの、上記在所時間に作成するこ には、実況見分調書等の捜査書類などをそれぞれ作成する必要があるところ、これらは、通常、当直勤務中の休憩 時間以外の在所時間において作成すべきものとされているものの、上記在所時間に作成することができない場合でも、翌日の当直班等にその作成を引き継ぐことはできないとされており、上記各書類は、それぞれ定められた提出期限(例えば、実況見分調書については、簡易的書式であれば、当該勤務員が実況見分を行った当直日の次の当直日の勤務終了時 まで、基本書式によるものであれば、当該実況見分を行った当直日を基準に3回目の当直勤務終了時までとされている。)までに下田警察署に提出する必要があるとされていたことから、上記のような場合も、非番日や週休日等の勤務時間外に書類作成のために勤務をすることが必要となる(乙16、31、証人戊、同丁)。 ウさらに、静岡県警察が設置している各交番においては、交番ごとに、その管内で発生している事案や要望等の解決のための問題解決活動として、目標や推進計画を策定しており、これらの活動内容に応じ、必要な場合には、上記問題解決活動に取り組むための時間外勤務を要する場合があった。例えば、己交番においては、平成23年11月において、「しも つき作戦」と称し、非番捜査として、駐輪場における張り込みや不審者- 11 - に対する職務質問、店舗における万引きに関する職務質問及び検挙等の活動を実施することとされていた。(甲23、68、乙6、16)エその他、静岡県警察に勤務する警察官においては、年間一定時間、術科訓練への参加を義務付けられており、これらの計画時間に応じて訓練に参加する必要があるほか、各種行事(例えば、110番の日広報、教養 への参加、各種会合等)に参加する必要があり、これらのため 術科訓練への参加を義務付けられており、これらの計画時間に応じて訓練に参加する必要があるほか、各種行事(例えば、110番の日広報、教養 への参加、各種会合等)に参加する必要があり、これらのために、時間外勤務を要する場合もある(乙16)。 ⑸ 時間外勤務実績報告書の提出及びその修正、勤務日誌との相違ア前記⑷のとおり、己交番勤務員は、職務に従事するに当たり、一定の時間外勤務を要する場合があったところ、これを行った場合には、これに 従事した時間及びその際の活動状況等について、時間外勤務実績報告書に記載し、下田警察署管内における各交番に関する事務を総括する同署地域課の丁に提出することとされていた(乙2)。 イ下田警察署においては、交番等勤務員から提出された上記報告書につき、丁が、時間外労働時間等につき必要な修正を施した上で承認し、その承 認がされた内容に基づいて、署長が時間外勤務命令を行うという運用がされていた。この際、丁には、どの程度修正を行うかについて、一定の裁量が与えられており、丁は、勤務日誌等の内容を確認するほか、丁のこれまでの勤務経験上、実況見分調書等の書類の作成のために通常必要となる時間がどの程度であるかといった点や、他の署員との公平の観点 等も加味した上で、署長が時間外勤務命令を行う必要があるのはどの程度であるかを判断し、同報告書の勤務時間の修正を行っていた。(乙2、証人丁)丙は、同報告書につき、鉛筆等で記入して丁に提出し、丁は、丙から提出を受けた同報告書につき、赤色ペンを用いて、時間外勤務として承認 しない勤務時間を抹消したり、報告を受けた勤務時間のうち時間外勤務- 12 - として認める勤務時間をより短時間に修正したりした上で、これを承認することを行 いて、時間外勤務として承認 しない勤務時間を抹消したり、報告を受けた勤務時間のうち時間外勤務- 12 - として認める勤務時間をより短時間に修正したりした上で、これを承認することを行っていた(乙2、証人丁)。 ウ一方で、本件自殺後に行われた基金による調査の結果、丙の時間外勤務実績報告書において時間外勤務としての申告がされていないにも関わらず、勤務日誌(乙1)上、丙が時間外勤務として一定の業務に従事して いる時間が存在することが判明した。その具体的内容は、別紙6「回答と題する書面」中の表のとおりである。(甲29)⑹ 己交番所管内における連続窃盗事件の発生とこれに関する捜査等ア己交番管内において、丙が在職中の平成23年4月頃から、「居空き」(家人等が在宅し、昼寝や食事等をしている隙に住宅内に侵入し、金品 を窃取するものをいう。)と呼ばれる一般住宅に対する窃盗事件が発生するようになり、同年6月にも2件発生したほか、同年8月から平成24年2月にかけては、平成23年11月に発生がなかったほか、各月において1ないし3件程度の発生がみられ、このうち、同年10月以降に発生したものについては、下田警察署において、同一犯人によるもので あるとの疑いがもたれるようになった(甲30、乙18、33、証人戊、弁論の全趣旨。以下、上記同一犯人によると思われる各窃盗事件を総称して「連続窃盗事件」という。)。 イ下田警察署では、連続窃盗事件の発生以後、平成24年2月までの間、同署刑事課と同署地域課が協力の上で捜査に当たることとなり、具体的 には、事件の発生時間帯とされる毎日午後6時頃から午後10時ころまでの間、同署刑事課の捜査員と、同署地域課の非番の勤務員(己交番の勤務員及び同署のパトカー勤務員 査に当たることとなり、具体的 には、事件の発生時間帯とされる毎日午後6時頃から午後10時ころまでの間、同署刑事課の捜査員と、同署地域課の非番の勤務員(己交番の勤務員及び同署のパトカー勤務員)の2名によるペアを2組、車両を利用して定点に配置し、定期的に移動をしつつ、通過車両の確認や不審者の監視等を実施するという捜査が行われていた(甲30、乙24、3 3)。 - 13 - 一方、同署では、同月以降、犯人確保に向けた捜査体制の強化及び地域課職員の負担軽減の趣旨で、連続窃盗事件の捜査に関し、同署刑事課長のもとに専従捜査班が編成され、同月7日以降、同事件の捜査は、基本的に専従捜査班により実施されることとなった。己交番においても、勤務員2名が同班の専従捜査員に選任され、同交番の勤務を離れることと なり、同人らに代わり、警察学校初任科課程終了後の実習生2名が配置されることとなったため、同交番における班編成の変更がされ、丙の属する班は、警察学校を修了した巡査1名との2名編成の班から、上記実習生である巡査1名との2名編成の班に変更された。(甲30、乙18、20、24、33、証人戊、同丁) ウもっとも、己交番においては、平成23年度の春期において、連続窃盗事件の犯人検挙等のために、勤務員が自主的な見回りや、パトロールを実施することがあった。実際、上記専従捜査班による捜査体制への移行後も丙は、「夜間捜査」又は「非番捜査」等の従事内容により一定の時間外勤務を行った旨時間外勤務実績報告書による申告をしていたが、こ れらは丁により時間外勤務として承認されている。(甲30、乙2、証人丁)⑺ 実習生指導担当者のなすべき業務前記前提事実⑹のとおり、丙は、平成24年2月5日から、同年3月10 れらは丁により時間外勤務として承認されている。(甲30、乙2、証人丁)⑺ 実習生指導担当者のなすべき業務前記前提事実⑹のとおり、丙は、平成24年2月5日から、同年3月10日までの間、静岡県警察より、職場実習指導員への指名を受け、前記⑹イの とおり、専従捜査班編成以後、己交番に配属された実習生1名との2名の班構成により業務を行っていた。上記実習生は、警察官として、その職権を行使することができるものの、同県警の取扱いとしては、現行犯人の逮捕や、人の生命、身体、財産等に危害が及ぶおそれのある目前急迫の事案発生の場合を除き、単独で職務の執行をすることができないとされていたため、実習 生が交番等において何らかの業務に従事する場合には、基本的に職場実習指- 14 - 導員による同行指導を受けることが必要とされていた。また、実習生は、業務において車両を運転することが禁止されていたことから、交番等勤務において、当直日における警察署から交番への移動ないし当直勤務終了後における交番から警察署への移動等については、職場実習指導員が送り迎え等を行う必要があった。(乙16、証人戊) ⑻ 丙の異動希望及び異動のための作業等ア静岡県警察においては、平成24年3月期における警察官の異動に関し、その内示日を同年3月16日に設定していたところ、丙が、本件自殺の直近に静岡県警察に対して提出した異動希望は、「下田警察署からは転勤してもよい」というものであった。なお、同警察において、警察官の 異動に際しては、当該異動対象者の勤務していた警察署又は交番等における管内情勢、事件事故の発生状況、捜査継続中の事件事故等を取りまとめた数枚程度の引継書を作成し、所属の警察署長に提出するものとされている。(乙7、1 該異動対象者の勤務していた警察署又は交番等における管内情勢、事件事故の発生状況、捜査継続中の事件事故等を取りまとめた数枚程度の引継書を作成し、所属の警察署長に提出するものとされている。(乙7、16)イ丙は、少なくとも、本件自殺当日までの間は、上記アのとおり異動希望 を提出していたことや、GSEへの参加が決定したことから、平成24年3月期において、下田警察署から異動になるとの認識を有しており、丙は、特に、平成24年2月から3月頃にかけて、週休日等に同交番に出勤し、引継ぎのための作業等を実施していた。(甲30、原告甲本人)⑼ GSEに参加することとなった経緯及びその事前準備の状況 ア静岡県警察は、GSEにつき、少なくとも、平成20年から平成25年までの間に実施されるものについて、ロータリークラブから所属職員を参加させるよう要請を受けており、平成20年実施分から平成24年実施分までについては、同県警本部において適任と思料される職員を選定し、当該職員の所属する警察署等を通じて参加希望の確認を行った上、 候補者1名を推薦する取扱いを行っていた(乙30)。 - 15 - イ平成24年実施分のGSEに関し、静岡県警察本部は、丙を推薦候補者として選定し、下田警察署副署長に対し、丙の参加希望の有無を聴取するよう要請した。これを受けて、同副署長の依頼に基づき、丁は、平成23年9月28日頃、丙に対し、参加希望の有無を確認したところ、丙は、参加希望を表明した。そこで、同警察本部は、ロータリークラブに 対し、丙を上記GSEの参加候補者として推薦し、丙は、同年10月15日までに、メンバー募集に応募し、同月30日に実施された面接を経て、派遣メンバーに選出された。(甲8、11、乙16、33、証人丁、 対し、丙を上記GSEの参加候補者として推薦し、丙は、同年10月15日までに、メンバー募集に応募し、同月30日に実施された面接を経て、派遣メンバーに選出された。(甲8、11、乙16、33、証人丁、原告甲本人)ウ GSEの派遣メンバーは、海外研修に出発するまでの間、1月に1回程 度、事前会合に参加することとされていたところ、丙は、平成23年12月18日、平成24年1月15日及び同年2月26日に実施された上記事前会合に参加した。上記事前会合は、静岡県沼津市内の会場において、各回四、五時間程度実施されており、その内容は、事前準備事項の確認、海外研修の際に実施されるプレゼンテーションの準備及びオラン ダ語の練習等であった。加えて、丙は、GSEの派遣メンバーとして、平成23年11月20日、同市内の会場で実施されたロータリークラブ地区大会(同大会では、GSEの派遣メンバーの紹介がされているほか、GSEに関する小委員会が開催されている。)に参加したほか、平成24年1月23日には、ロータリークラブの例会にゲストとして参加し、 GSEの派遣メンバーとして紹介され、登壇して発言することもあった(以下、これらを総称して、「本件事前会合等」という。)。(甲9、10、17、61~63、乙16)また、上記のとおり、海外研修においては、英語で、メンバーの自己紹介等を内容とするプレゼンテーションを行う必要があり、各メンバーは、 出発までに、このための原稿のほか、職場・家族・余暇の写真等を取り- 16 - まとめてパワーポイントを作成する必要があったところ、丙は、自宅において、上記発表用原稿を作成していたほか、上記パワーポイント作成の取りまとめ役となっており、このための作業も行っていた(甲17、61~63、原告 ポイントを作成する必要があったところ、丙は、自宅において、上記発表用原稿を作成していたほか、上記パワーポイント作成の取りまとめ役となっており、このための作業も行っていた(甲17、61~63、原告甲本人)。 エ静岡県警察においては、GSEの海外研修それ自体については、次世代 のリーダーの育成等を目的としていることや、メンバーの職業が派遣先でどのように営まれているかの見学等を内容としていることなどから、対外的に公務性が高いとして、これを公務とする取扱いを行う一方、その出発前の各種会合への参加やその他の事前準備については、自主学習や事前準備の範囲内であり、公務扱いとはしないとの取扱いを行ってい たところ、このような取扱いは、前記イのとおり参加希望の聴取が行われる際、下田警察署副署長や丁から、丙に説明がされ、丙も、これを了承していた。(乙16、証人丁)そのため、本件事前会合等が、丙の出勤日(当直日や日勤日)と重なっている場合には、丙に休暇を取得させ、あるいは、出勤日を週休日に変 更する(この場合、他の週休日を出勤日に充てる。)などしており、丙は、非番日や週休日において、本件事前会合等に参加していた。下田警察署は、上記各対応をとる場合は、代替勤務員として、駐在所勤務員に応援を要請していた。(乙2、16、証人丁)。 ⑽ 丙のストレス診断とこれに関する静岡県警察の対応 ア静岡県警察においては、平成18年度から、節目の年齢(30歳、40歳及び50歳)を迎えた職員を対象に、対象職員のメンタルヘルスに対する意識向上、及び各自のストレス状況を周知することにより自己の健康づくりに役立てることを目的として、「心の元気力チェッカー」と呼ばれるストレス診断を実施している。この診断は、対象職員が、所定の 対する意識向上、及び各自のストレス状況を周知することにより自己の健康づくりに役立てることを目的として、「心の元気力チェッカー」と呼ばれるストレス診断を実施している。この診断は、対象職員が、所定の 質問に対し、当該質問につきあらかじめ準備された複数の回答の選択肢- 17 - の中から自己に当てはまるものを選択して回答する方式で行われているところ、その実施に際し、回答用紙及び分析結果通知は密閉された上で回収ないし配布され、心情把握や職務能力把握等を目的とするものではないことについて事前周知もされており、その回答内容及び分析結果については、同警察本部や対象職員の所属警察署等に通知されることはな かった。また、診断結果の通知に掲載されたアドバイスをもとに受検者自らの対応を促すことを想定していたことから、実施に際して産業医が関与することはなく、分析結果に基づいて同産業医が対象職員に対して直接何らかの働きかけをすることも予定されていないものであった。 (乙16、26、30) イ丙は、平成23年11月30日から同年12月22日までのいずれかの時点で、上記診断を受検したところ、元気度ランクは最低評価である「E(かなり悪い)」との分析結果であった。項目ごとの評価をみても、①「あなたのストレスの要因」については、「D(悪い)」と評価されており、そのうちの大項目「職場内のストレス」につき、「E」と評価 され、その小項目である「人間関係」、「仕事の質」、「仕事の量」、「仕事遂行力」及び「個人適性」につきいずれも「E」、「仕事満足度」につき「B(良好)」などと評価された一方、大項目「職場外のストレス」につき、「C(境界域[注意が必要])」と評価され、その小項目「家族、友人・隣人関係」につき「E」、「生活要因」につき「 満足度」につき「B(良好)」などと評価された一方、大項目「職場外のストレス」につき、「C(境界域[注意が必要])」と評価され、その小項目「家族、友人・隣人関係」につき「E」、「生活要因」につき「A(非 常に良好)」と評価された。②「ストレス緩和要因」については、「E」と評価されており、そのうちの大項目「個人要因」については、「E」と評価され、その小項目「ストレスの受止め方」につき「E」、「コミュニケーション力」及び「ストレスとの向き合い方」につきいずれも「D」と評価されたところ、大項目「周囲のサポート」についても、 「E」と評価され、その小項目「職場内」「家族」及び「友人」のいず- 18 - れについても「E」と評価された。③「現在のあなたの症状(ストレス反応)」については、「E」と評価され、このうちの大項目「心理面のストレス反応」については、「E」と評価され、その小項目「意欲」、「抑うつ感」、「燃え尽き度」及び「イライラ感」につきいずれも「かなり悪い状態」とされた一方、大項目「身体面のストレス反応」につい ては、「D」と評価され、その小項目「疲労感」及び「凝り・痛み」につきいずれも「かなり悪い状態」、「循環器」につき「非常に良好」、「胃腸障害」につき「注意が必要」とされ、大項目「行動面のストレス反応」についても、「D」と評価され、その小項目「睡眠」につき「かなり悪い状態」、「食欲」につき「良好」、「活動量」につき「悪い状 態」、「思考力」につき「注意が必要」とされた。(甲7)ウ丙は、上記分析結果を職場で受け取った際、丁に対し、総合評価が最低評価の「E」であることを伝え、これに対し、丁が、「しょうがない職場だな」となかば冗談のように答えるやり取りがされることがあったが、前記アのとおり、その 職場で受け取った際、丁に対し、総合評価が最低評価の「E」であることを伝え、これに対し、丁が、「しょうがない職場だな」となかば冗談のように答えるやり取りがされることがあったが、前記アのとおり、その分析結果が下田警察署に通知されることはなかっ たため、丁は、上記以上に詳細を知ることはなく、上記分析結果に基づき、何らかの対応がされることはなかった。(乙24、証人丁)⑾ 丙の平成24年1月から本件自殺までの心身の状況等ア本件自殺を受け、基金の実施したアンケート調査の結果によれば、丙の平成24年1月頃から本件自殺までの間の肉体的・精神的不調和の状況 につき、当時の己交番の勤務員らにより、「元気がない、ぼんやりしている」、「顔色がよくない」、「やる気が出ない時に靴を磨くくせがあるが、それが増えた。」などと回答がされている。(乙11)イ一方、丙は、平成24年に入ってから、本件自殺当日に至るまでに、食事量が減少し、原告甲が購入してきた菓子類を食べなくなるといった状況 となっていた上、自宅において、「制服を着て歩きたくない」、「自分は- 19 - いい格好をしているだけだ、いい人ぶっているだけだ」などとの発言をするようになった。更に、丙は、前記⑺のとおり、職場実習指導員に指名された後は、当直日の朝に、実習生との当直が一番仕事が進まないから行きたくないなどと漏らすようになり、原告甲が、2回ほど、休暇を取得するために電話をかけようとしたのに対しては、GSEの事前研修等のために 休暇を取得した際には、駐在所勤務員に応援を要請しており、実習生の指導も併せて行ってもらっていることから、負担のある当直をこれ以上同勤務員に代わってもらうことはできないなどというやり取りをすることがあった。(甲44、原告甲本人)。 応援を要請しており、実習生の指導も併せて行ってもらっていることから、負担のある当直をこれ以上同勤務員に代わってもらうことはできないなどというやり取りをすることがあった。(甲44、原告甲本人)。 ウ他方で、下田警察署においては、交番等勤務員が当直又は日勤等の勤務 日において、同警察署に出勤した際、「健康状態等チェック表」に、自己の健康状態を記入するよう指示がされていたところ、丙は、平成24年3月3日、同月6日、同月8日、同月9日の各勤務日において、上記チェック表の「自己申告の内容」欄の「業務上の問題点」及び「投薬の有無」につき、いずれも「無」と記入していた(乙10)。 ⑿ 本件自殺当日における具体的な事実経過ア本件自殺当日である平成24年3月10日、丙は、非番日であったところ、午後0時頃まで勤務した後、本件宿舎に帰宅した。帰宅後、原告甲は、丙が、GSEの海外研修の際に持参する手土産を何にすればいいか悩んでいたことや、同人らの認識によれば、平成24年3月期に異動し、 その後すぐにGSEに出発することとなり、その間のスケジュールがどのようなものかを知っておいたほうがよいなどと考えたことなどから、丙に対し、上記各点を確認するため、前年度に静岡県警察に推薦されGSEに参加した者に電話するように促した。これを受け、丙は、上記参加者に架電したところ、その際、同参加者から、春にすぐGSEに出発 する職員を3月期に異動させないのではないかとか、自分は異動してす- 20 - ぐGSEに出発したわけではないなどと言われた。このやり取りを聞いた原告甲は、丙に対し、「下田から出られないなんて、丙が異動するって言ってたから引っ越しの準備をしてたのに」などと言い、隣室に敷かれていた布団に入って数分間そこ いなどと言われた。このやり取りを聞いた原告甲は、丙に対し、「下田から出られないなんて、丙が異動するって言ってたから引っ越しの準備をしてたのに」などと言い、隣室に敷かれていた布団に入って数分間そこから出てこなかったところ、丙は、その間に、本件宿舎から出て、自動車で外出した。(甲44、原告甲本人。 以下、本件自殺当日における上記一連の出来事を、「本件出来事」という。)イ丙は、本件自殺当日の午後1時39分頃から同日午後3時29分頃までの間に、静岡県下田市内、同県賀茂郡β町内及び同郡α町内において、ロープ、カッター、練炭、練炭コンロ、ビール、ライター等を購入し、 その後、同日のうちに、同郡α町内の路上に停車中の普通乗用自動車内において練炭をたき、自殺した(本件自殺。前提事実⑼、乙12)。 ⒀ 丙の心身の状況等に関するその他の資料ア丙の性格についてのアンケート結果基金の実施したアンケートの結果によれば、丙の性格等について、「明 るく誠実で、職責の自覚と勤務意欲が旺盛」、「明るく真面目で、仕事熱心」、「真面目で責任感も強いが、その反面頑固で何でも自分一人で背負い込む傾向がある」、「温厚、責任感有り、積極性あり、几帳面、愚痴や人の悪口は言わない」等の回答がされている(乙11)。 イ丙の既往歴及び飲酒の習慣 丙は、本件自殺までの間に、精神疾患に関する既往歴はなく、本件自殺の時点において治療中の精神疾患以外の疾患としては、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患のみであった。また、丙は、飲酒の習慣はあったものの、高頻度ではなく、月に0~1回程度であった。(甲17、38、40、42) ウ基金専門医による医学的意見- 21 - 基金において平成2 飲酒の習慣はあったものの、高頻度ではなく、月に0~1回程度であった。(甲17、38、40、42) ウ基金専門医による医学的意見- 21 - 基金において平成28年3月8日に開催された精神会議で示された丙の精神障害の発症の有無等に関する医学的意見(甲36、以下「本件医学的意見」という。)は、精神障害の発症の有無に関し、提出資料、原告甲及び職場関係者等の証言等から、平成24年3月上旬には、精神疾患の症状が顕在化し、何らかの精神疾患を発症していたと考えられるもの の、心の元気力チェッカーにおいて、抑うつ感がかなり悪い状態を示しており、Eの評価を受けていることなどから、平成23年11月から12月頃に既に精神疾患を発症していた可能性は否定できないと判断する一方、公務による負荷の有無に関しては、精神疾患を発症するような業務による過重性は認められず、公務による強度の精神的・肉体的負荷が あったとは認められないと判断している。 2 争点1(丙の自殺と業務との因果関係[業務起因性])について⑴ 業務起因性についての基本的な判断枠組み労働者が、精神障害にり患し、自殺をした場合に、その自殺が使用者との雇用関係に基づく業務と因果関係があるといえるためには、当該精神疾患が、 当該業務に起因してり患したものと認められること、及び当該自殺が、当該精神疾患の症状に起因して行われたものであることの双方が認められることが必要であるところ、当該労働者のおかれた具体的状況を踏まえ、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させる程度に過重であるときは、特段の事情がない限り、精神障害の発症及びこれを原因 とする死亡(自殺)は、当該業務に内在する危険が現実化したものであるといえる 上、客観的にみて、精神障害を発病させる程度に過重であるときは、特段の事情がない限り、精神障害の発症及びこれを原因 とする死亡(自殺)は、当該業務に内在する危険が現実化したものであるといえるから、上記因果関係が認められるものと解される。そして、このような検討に当たっては、業務による心理的負荷の有無、程度に加え、業務以外の要因による心理的負荷の有無、程度、労働者側の要因(負荷への反応性、脆弱性等)の有無、程度等の諸事情を総合的に考慮するのが相当である。 そして、本件裁決でも本件自殺の業務起因性の有無の判断に用いられた- 22 - 「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年3月16日付地基補第61号理事長通達。甲52、以下「認定基準」という。)は、上記見地及び精神障害に関する医学的知見等に照らし一定の合理性を有すると認められるから、本件自殺の業務起因性の判断においても、基本的には、その内容を斟酌して検討するのが相当である。 ⑵ 丙の客観的な時間外労働時間(争点1-1)についてア業務起因性判断における労働時間該当性に関する基本的な考え方労働基準法32条における労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうものと解される。もっとも、前記⑴のとおり、労働者の自殺の業務起因性を判断するに当たっては、当該労働者の従事 する業務による心理的負荷が、精神障害を発症させる程度に過重であるか否かを検討する必要があり、労働時間も、上記心理的負荷の程度を判断するために斟酌されるものであるから、業務起因性判断の前提となる労働時間とは、上記労働基準法上の労働時間に限られるものではなく、労働者が、業務のために必要な活動(業務そのものに留まらず、これに 密接に関連する活 ものであるから、業務起因性判断の前提となる労働時間とは、上記労働基準法上の労働時間に限られるものではなく、労働者が、業務のために必要な活動(業務そのものに留まらず、これに 密接に関連する活動等を含む。)に従事していることが客観的に明らかであるといえるときは、使用者による明示的な時間外勤務命令に基づいているか否かや、使用者の指揮命令下に置かれているか否かといった点を問わず、これを業務起因性判断の前提となる労働時間として考慮することができる場合があると解すべきである。 イ時間外労働時間の認定に係る各争点についての検討そこで、前記アで述べた基本的枠組みに基づいて、主張整理表1⑴アないしオの各点に関し、個別に検討する。 (ア) 労働時間認定の客観的資料(主張整理表1⑴ア)についてa 前記第2の2の前提事実によれば、静岡県警察に所属する警察官は、 所定の勤務時間以外に業務に従事した時間がある場合には、その時間- 23 - 外勤務時間及び従事した業務の内容等を記載した時間外勤務実績報告書を作成して提出することとされている(同⑶イ)ところ、前記1の認定事実によれば、丙も、己交番において勤務する際、上記報告書を作成し、これを丁に提出していたものである(同⑸ア及びイ)。そして、本件全証拠によっても、丙が作成した上記報告書につき、実際に は時間外勤務を行っていないにもかかわらず、これを行った旨の虚偽の報告を行っていたことをうかがわせる具体的な事情もないから、丙が作成した上記報告書に記載された、丁による修正前の時間外勤務の時間は、そのいずれについても、本件の業務起因性の判断の前提となる労働時間として考慮すべきである。 一方で、丁は、丙が提出した上記報告書に された、丁による修正前の時間外勤務の時間は、そのいずれについても、本件の業務起因性の判断の前提となる労働時間として考慮すべきである。 一方で、丁は、丙が提出した上記報告書について、下田警察署署長が時間外勤務命令を行う前提として、その報告された時間外勤務の時間の一部を抹消したり、より短時間に修正したりしていること(認定事実⑸イ)に加え、上記報告書において時間外勤務として申告されていないにもかかわらず、己交番における業務に関して作成される業務 日誌上、丙が所定の勤務時間外に業務に従事している時間が存在していること(同ウ)にも照らすと、丙が、所定の勤務時間外に己交番において業務に関する活動を行っていた時間すべてを上記報告書に記載していたものではないことが推認される。この点に関し、原告らは、丙と原告甲との間でやり取りされていたメール(甲3、4)を提出す るところ、これらのメールについても、上記報告書や業務日誌等の証拠関係及び当該メールの記載内容等からみて、丙が業務に従事していた際にやり取りされたことが推認されるものである場合には、当該メールは、少なくともその送受信前の丙の労働時間を認定する客観的な資料といえるから、上記場合には、当該メールによっても、丙の時間 外勤務の開始時間や終了時間等を認定することができるというべきで- 24 - ある。 他方、原告らは、原告甲の記憶やメール等の証憑から判明する平均的な終業時刻等も、労働時間の認定のための資料とすべきであると主張するが、それらの内容からして、必ずしも平均的な終業時刻を推認させるものとは認められず、上記主張は採用できない。 b 上記aの判断に関して、被告は、主張整理表1⑴アの【被告の主張】のとおり主張する。し からして、必ずしも平均的な終業時刻を推認させるものとは認められず、上記主張は採用できない。 b 上記aの判断に関して、被告は、主張整理表1⑴アの【被告の主張】のとおり主張する。しかしながら、前記⑴のとおり、業務起因性判断においては、当該業務により生じる心理的負荷の有無・程度を検討するために、労働時間が斟酌されるものであるところ、丁は、あくまで、下田警察署署長による時間外勤務命令を行う前提として、丙から提出 された時間外勤務実績報告書を修正していたものであり、その修正も、自身の経験や、他の署員との公平等の観点を踏まえた極めて裁量性の強い判断のもとに行われていたものであって(認定事実⑸イ)、丙が心理的負荷を受けた時間外勤務時間について、丁が上記修正を行った後の時間外勤務時間に限定する理由はないというべきである。したが って、上記主張は採用することができない。 (イ) 全体朝会の参加は労働時間といえるか(主張整理表1⑴イ)について原告らは、丙の当直日の始業時間に関し、主張整理表1⑴イの【原告らの主張】のとおり主張する。 しかしながら、前記認定事実によれば、当時、下田警察署において平 日に実施されていた全体朝会は、あくまで内勤者を対象として実施されていたものであり、交番等勤務員に対してその参加が指示されることはなく、参加していた同勤務員の認識としても、他の勤務員が参加していたので参加していたといった程度にとどまっている(同⑶)。これに加え、上記全体朝会の終了後には、別途交番等勤務員に対する点検配置が 実施されており(前提事実⑵ア(ア))、この際にも、業務上必要な指示等- 25 - が行われていたと考えられることも併せ踏まえれば、交番等勤務員に対し、上記全体朝会の参加 る点検配置が 実施されており(前提事実⑵ア(ア))、この際にも、業務上必要な指示等- 25 - が行われていたと考えられることも併せ踏まえれば、交番等勤務員に対し、上記全体朝会の参加が事実上義務付けられていたとはいえず、同勤務員として、これに参加することは、業務の円滑な遂行のために有益であるといえるとしても、業務上必要な活動であったとまではいえない。 そうすると、丙が上記全体朝会に参加していたとしても、これを業務起 因性判断の前提としての労働時間として考慮することまではできず、上記全体朝会に参加していることを根拠に、当直日の始業時間を午前8時30分とすることはできず、当直日の始業時間は、原則として、所定の始業時間である午前9時からとすべきである(なお、勤務日誌[乙1]上、異なる始業時間が記載されているときは、それによる。)。 したがって、原告らの上記主張は、採用することができない。 (ウ) 当直日の休憩時間中に業務を行っている場合に時間外労働として評価すべきか(主張整理表1⑴ウ)についてa 被告は、当直日の休憩時間中に業務を行っている場合でも、これを時間外労働として考慮すべきではないとして、主張整理表1⑴ウの 【被告の主張】のとおり主張する。 しかしながら、己交番勤務員らは、当直勤務中に休憩時間や仮眠時間を取得した場合には、勤務日誌(乙1)の「勤務時間」欄のうちの「休憩」欄に30分ごとに押印する必要があったほか、勤務時間を休憩時間に変更する等の勤務変更を行った場合には、「記事」欄にその 具体的内容を記載することとされている(前提事実⑶ア)。そして、前記1の認定事実によれば、己交番勤務員らは、当直日の業務中、事件や事故等の事案を処理したり、職務質問、交通取締り、市民の保護 具体的内容を記載することとされている(前提事実⑶ア)。そして、前記1の認定事実によれば、己交番勤務員らは、当直日の業務中、事件や事故等の事案を処理したり、職務質問、交通取締り、市民の保護等を実施した場合には、その活動等の内容に応じて、一定の書類を作成する必要があり、これらについては、基本的に、他の当直班等に引 き継ぐことはできず、所定の提出期限までに作成し、提出する必要が- 26 - あるとされている(同⑷イ)上、丙は、さらに、交番長として、同交番管内の業務状況等に関する月報等を取りまとめたり、これらを作成したりすることも必要であるとされており(同⑵)、以上の各書類は、基本的に、当直日において、上記事案の処理等や、警ら及び立番等の活動を行っていない在所時間において作成することとなることに加え、 己交番勤務員は、当直日の夜間においては、静岡県下田市及び同県γ町の全域において業務を行う必要があるとされていること(同⑴イ)や、証拠(乙28)によれば、基金による調査の結果、当直中の休憩時間について、複数の当時の己交番勤務員らが、休憩時間や仮眠時間に事案等が発生した場合には、所定の上記休憩時間等を取得すること が困難であった旨回答していることをも踏まえれば、丙が、休憩時間等において業務を行った場合に、常に勤務変更等をして別途休憩を取得することができるような余裕のある状況であったなどとはいえない。 そうすると、当直日の休憩時間等は、上記勤務日誌の「勤務時間」欄の記載に基づいて認定するのが相当であり、同日誌上、休憩時間内に 勤務を行っていると認められる場合には、これを勤務時間として考慮するのが相当である。 一方、平成23年9月から同年12月までの勤務日誌は証拠として提出されておらず、この期間内における丙の当 勤務を行っていると認められる場合には、これを勤務時間として考慮するのが相当である。 一方、平成23年9月から同年12月までの勤務日誌は証拠として提出されておらず、この期間内における丙の当直日における実際の休憩等の時間を直接認定する証拠はないが、基金による調査の過程にお いて、上記期間内において丙と同じ当直班に勤務していた警察官が、上記期間内の休暇取得状況につき、昼休憩については、ほぼ毎回所定の1時間の休憩を取得できていた一方で、夜休憩(所定休憩時間2時間半)及び仮眠時間(所定休憩時間5時間)については、仮眠時間はほぼ毎回4時間程度であり、1か月に1回程度、事案等で起こされる などして仮眠時間が取れないことがあり、夜休憩についても、3回に- 27 - 1回程度は、2時間程度の取得にとどまっていたとの回答を行っていること(乙20、28)に加えて、平成24年1月から同年3月までの丙の休憩取得状況等に照らせば、上記期間内において、丙は、当直日において所定の休憩時間をすべて取得することができていたとはいえず、各当直日において、平均して、少なくとも所定の休憩時間等の うちの1時間30分程度は勤務を行っていたと推認するのが合理的であるから、これを前提に、各日における労働時間を認定判断するのが相当である。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 b 他方、原告らは、主張整理表1⑴ウの【原告らの主張】のとおり主 張し、休憩時間に関し、メール等の記載から休憩時間を取っていないことが判明する場合には0とし、それ以外の場合にも、昼休憩及び夜休憩は各15分ずつとすべきであるとする。しかし、休憩時間を取得していないとの推認をすることができるメールは見当たらず、昼休憩及び夜休憩を各15分ずつとすべきとの主 それ以外の場合にも、昼休憩及び夜休憩は各15分ずつとすべきであるとする。しかし、休憩時間を取得していないとの推認をすることができるメールは見当たらず、昼休憩及び夜休憩を各15分ずつとすべきとの主張も、丙が原告甲に対して した発言等を根拠にするもので、これらは、客観的な資料とはいい難い。これに加え、原告らの指摘する勤務日誌の「勤務時間」欄と「記事」欄の記載内容の相違も、せいぜい10分前後のものに過ぎないことからしても、同日誌の「勤務時間」欄に基づいて休憩時間を認定することが不相当であるとはいえない。したがって、原告らの上記主張 は採用できない。 なお、原告らは、当直日の休憩時間は手待時間に過ぎず、勤務時間と評価すべきであるとも主張するが、その内容に加えて原告らも、当直日の休憩時間等を含めたすべての拘束時間を労働時間として、時間外労働時間を算定しているものではない(主張整理表1⑴カの【原告 らの主張】欄参照)ことに鑑みれば上記休憩時間等のすべてを勤務時- 28 - 間として考慮しないことが相当である。 (エ) 術科訓練への参加頻度(主張整理表1⑴エ)について原告らは、術科訓練への参加頻度につき、主張整理表1⑴エの【原告らの主張】欄のとおり主張する。 しかし、前記1の認定事実によれば、術科訓練については、年間一定 時間の参加が義務付けられており(同⑷エ)、証拠(乙8)によれば、静岡県警察は、丙の術科訓練への参加状況について、その参加回数及び参加時間を記録していることが認められるところ、上記のほかに、術科訓練について月5回参加のノルマがあり、これに違反した場合にはペナルティが課される運用になっていたとは認めるに足りる証拠はなく、証 拠上、丙が、上記の記録されてい るところ、上記のほかに、術科訓練について月5回参加のノルマがあり、これに違反した場合にはペナルティが課される運用になっていたとは認めるに足りる証拠はなく、証 拠上、丙が、上記の記録されているもの以外に、術科訓練に参加していたことをうかがわせる具体的な事情もない。よって、丙の術科訓練への参加回数及び参加時間は、上記の記録(乙8)をもとに認定すべきである。 したがって、原告らの上記主張は採用できない。 (オ) GSEの事前研修への参加時間及び移動時間についての労働時間該当性(主張整理表1⑴オ)についてa 前記1の認定事実によれば、丙は、平成24年に実施されるGSEの派遣メンバーに選出されていた(同⑼イ)ところ、これは、次世代のリーダー等の育成を目的としていることや、その内容についても、 派遣先国における職業見学等を含むものであること(同エ)に加え、ロータリークラブが、静岡県警察に対して参加要請を行い、これに応じ、同警察が丙を候補者に選定して、ロータリークラブに推薦したという経緯(同ア及び同イ)に照らしても、GSEの海外研修は、これを業務(公務)として取り扱うのが相当であり、実際、同警察も上記 海外研修それ自体については、公務として取り扱っていたものである- 29 - (同エ)。そして、丙が参加していた本件事前会合等は、その実施主体については、静岡県警察とは異なるものの、どの具体的な活動の内容(同ウ)をみても、丙が、上記業務としてのGSEの海外研修に出発するために必要な準備等の活動を行うものであるか、あるいは、丙がGSEの派遣メンバーに選出されたことにより、実施主体であるロ ータリークラブから、丙に対して参加を要請されていたものと認められ、丙としては、これに参加しないとの選 ものであるか、あるいは、丙がGSEの派遣メンバーに選出されたことにより、実施主体であるロ ータリークラブから、丙に対して参加を要請されていたものと認められ、丙としては、これに参加しないとの選択肢を採り得るものではなかったと認められる。そうであれば、丙が参加した本件事前会合等は、業務外の私的な活動にとどまるとは到底いえず、被告の業務としての性質を有するか、あるいは少なくとも、業務であるGSEの海外研修 に密接に関連する活動であるということができ、これらに参加することによって生じる精神的及び肉体的な負荷は、業務による負荷として考慮するのが相当であるといえ、これらに参加した時間は、本件の業務起因性の判断の前提となる労働時間として考慮することが相当である。そして、丙が、本件事前会合等を公務として取り扱わない旨を承 認していた(同エ)としても、これにより上記業務上の負荷が生じなくなるものではないから、上記判断は左右されないというべきである。 加えて、本件事前会合等に参加するための移動時間についても、これ自体は、使用者の指揮命令下に置かれたものとは認められないとしても、丙としては、上記会合等に参加しないとの選択肢を採り得ない 以上、これに参加するために、当該交通機関等に乗車する以外の行動を選択する余地はなく、その移動時間中、一定の不自由を強いられ、精神的及び肉体的な負荷を生じるものということができるから、上記移動時間は、少なくとも、本件の業務起因性判断の前提となる労働時間(ないしこれに準じる時間)として、考慮するのが相当である。 b 以上に対し、被告は、主張整理表1⑴オの【被告の主張】欄のとお- 30 - り主張するが、上記a で説示したところに照らして、いずれも採用できない。 のが相当である。 b 以上に対し、被告は、主張整理表1⑴オの【被告の主張】欄のとお- 30 - り主張するが、上記a で説示したところに照らして、いずれも採用できない。 ウ具体的な時間外労働時間の認定(主張整理表1⑴カ)について以上を踏まえ、丙の本件自殺前6か月間(平成23年9月10日から平成24年3月10日まで)の労働時間を認定判断すると、別紙7「丙の 労働時間(裁判所認定)」(以下「労働時間表」という。)の「労働時間」欄のとおりであり、その認定根拠は、同別紙の「認定根拠」欄記載のとおりである(なお、原告が提出したメール[甲3、4]の中には、丙が、時間外勤務実績報告書[乙2]において時間外勤務が報告されていない日においても、己交番に出勤して業務を行っていることを推認させる ものがあるが、かかるメールのみでは、終業時間は特定し得るものの、始業時間を特定することはできないから、当該日における具体的な勤務時間を認定することはできない。)。 ⑶ 質的過重性において考慮すべき諸事情の有無(争点1-2)について原告らは、主張整理表1⑵アないしエに掲げられている諸事情について、 丙の肉体的・精神的負荷を増大させたものであり、業務の質的過重性において考慮すべきであると主張するので、以下個別に検討する。 ア連続窃盗事件の捜査による負荷(主張整理表1⑵ア)について前記1の認定事実によれば、己交番管内において、平成23年8月頃から、同一犯人によるものと思料される連続窃盗事件が発生しており、こ れについて、下田警察署においては、当初、刑事課捜査員と非番の己交番勤務員らが共同して捜査を実施していたこと(同⑹ア及び同イ)、一方、平成24年2月、専従捜査班 続窃盗事件が発生しており、こ れについて、下田警察署においては、当初、刑事課捜査員と非番の己交番勤務員らが共同して捜査を実施していたこと(同⑹ア及び同イ)、一方、平成24年2月、専従捜査班が編成され、同事件の捜査は基本的に同班において実施されることとなったものの、同班編成後においても、時間外勤務として、己交番勤務員による自主的な見回りやパトロールを 行われていたこと(同イ及び同ウ)が認められる。これらによれば、同- 31 - 事件の捜査は、丙のみに業務上の負担が集中していたとは認められないとしても、丙が一定の時間外勤務を強いられる要因となっていたという意味で、丙の業務量を増大させたといえる上、自らが交番長を務める己交番管内で連続発生していたことや、基金による聞き取り調査の結果をみても、己交番勤務員等により、丙が同事件の捜査によってプレッシャ ーを受けていたと思うとの証言(甲30)、同事件が解決しないことにつき、丙が「本当に参りましたよ。」と発言していたとの証言(乙18)等が得られていることに照らしても、丙に一定の心理的負荷を与えるものということができる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵アの【被告の主張】欄のとおり主 張する。しかし、丙が同事件の捜査により一定の心理的負荷を受けていたと考えられることは上記のとおりである。また、丙は、専従捜査班編成後も、「夜間捜査」、「非番捜査」などとの内容で時間外勤務の報告を行い、これが承認されていること(認定事実⑹ウ)によれば、丙が同班編成後も同事件の捜査に従事したことは明らかであるし、静岡県警察 が設置している各交番においては、交番ごとに、管内で発生している事案等の解決のための問題解決活動の策定及びこれに応じた業務の実施が求められており、己交番 したことは明らかであるし、静岡県警察 が設置している各交番においては、交番ごとに、管内で発生している事案等の解決のための問題解決活動の策定及びこれに応じた業務の実施が求められており、己交番においても、その一環として非番捜査等の活動を行ったことがあったこと(同⑷ウ)をも併せ踏まえれば、同班編制後に行われた上記捜査について、丙が同署の承認を得ていないのにこれを 実施したとはいえず、業務外の自主的な活動に留まるとはいえないから、業務による負荷として考慮すべきでないとはいえない(なお、丁は、専従捜査班編成以後、丙に対し、夜間捜査は今後必要ないから当直勤務をしっかり行って欲しいとの指示をした旨供述している[証人丁]が、上記指摘した諸事情に照らせば、上記指示があったしても、同交番の勤務員 等が問題解決活動等の取組みの一環として自主的な捜査を行うことを制- 32 - 限する趣旨のものであるとはいえない。)。したがって、被告の上記主張は採用できない。 イ実習生の指導による負担の有無(主張整理表1⑵イ)について前記1の認定事実によれば、丙は、平成24年2月5日以降、職場実習指導員への指名を受け、実習生1名との2名の班構成により業務を行っ ていたところ、同実習生は、一定の場合を除いて、単独で職務の執行を行うことができず、業務に従事する際は、丙による同行指導が必要であったほか、車両の運転も禁止されており、己交番と下田警察署の間の移動等についても、丙が同行することが必要となっていたこと(同⑺)が認められる。そうすると、上記職場実習指導員への指名は、丙のみがそ の対象となっていたとは認められないとしても、丙にとり、上記実習生との2名での職務執行を行わざるを得なくなり、それまで分担することができていた ると、上記職場実習指導員への指名は、丙のみがそ の対象となっていたとは認められないとしても、丙にとり、上記実習生との2名での職務執行を行わざるを得なくなり、それまで分担することができていた職務を分担することが困難となること等により、業務量を増大させる要因となったといえる上、基金による聞き取り調査の結果によれば、丙から実習生とペアを組むことがつらい旨の発言があったとの 証言(甲31)や、専従捜査班に2名の己交番勤務員が呼び上げられたことにつき、2名の呼び上げはきついと思うとの証言(甲30)が得られていること、家族に対しても、実習生との勤務が一番仕事が進まないなどと漏らしていたこと(同⑾イ)に照らしても、丙に少なからぬ心理的負荷を与えるものであったと評価することができる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵イの【被告の主張】のとおり主張するが、上記で説示したところに照らし、採用することができない。 ウ異動のための引継ぎによる負荷(主張整理表1⑵ウ)について前記1の認定事実によれば、丙は、平成24年3月期の異動に関し、下田警察署から異動してもよいとの希望を提出していたところ、本件自殺 当日までの間は、同期において異動するとの認識を有しており、週休日- 33 - 等に己交番に出勤し、引継ぎのための作業を実施していた(同⑻ア及び同イ)というのであって、これらによれば、上記引継ぎ作業は、丙の業務量を増大させる要因となったといえる上、異動時期までに作業を完了させることが必要であるということに照らしても、丙に一定の心理的負荷を与えるものといえる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵ウの【被告の主張】のとおり主張する。しかし、丙が、週休日等に異動のための引継ぎ作業に従事 照らしても、丙に一定の心理的負荷を与えるものといえる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵ウの【被告の主張】のとおり主張する。しかし、丙が、週休日等に異動のための引継ぎ作業に従事していたことは、基金による聞き取り調査において複数の己交番勤務員が証言している(甲30)上、上司である丁も、同月9日、丙との間で、丙が検挙した事案について、丙の異動時期であることを前提に、上記事案に ついて作成すべき書類を他の勤務員に分担させるかどうかを協議したことがあり(乙16、証人丁)、これによれば、丁も、丙が平成24年3月期に異動するとの認識を有していたと推認されることに照らしても、丙が異動のための引継ぎ作業に従事していたことに疑いは生じない。そして、異動のための引継ぎ作業には、被告の主張する後任者への引継書 の作成及びこれに基づく引継ぎのみならず、異動することを前提とした未処理事案等の処理や、書類の整理等の作業をも含むと考えられるから、通常の業務に比して業務量を増加させる要因となったことは否定できない。よって、被告の上記主張は採用できない。 エ GSEの参加のための研修参加や事前準備による負荷(主張整理表1⑵ エ)について前記1の認定事実によれば、丙は、平成24年実施分のGSEの派遣メンバーに選出され、本件自殺までの間に、その事前準備として本件事前会合等に出席したり、自宅において、プレゼンテーションの発表用資料の作成や、パワーポイントのとりまとめ作業等を行ったりしていること が認められる(同⑼イ及び同ウ)ところ、前記⑵イ(オ)で検討したところに- 34 - 照らせば、上記各活動は、丙の業務の一環として、業務起因性の判断に当たってその負荷を考慮することが相当である。そして、上記各活動 及び同ウ)ところ、前記⑵イ(オ)で検討したところに- 34 - 照らせば、上記各活動は、丙の業務の一環として、業務起因性の判断に当たってその負荷を考慮することが相当である。そして、上記各活動は、被告により、業務として取り扱われなかったこと(認定事実⑼エ)により、丙にとって一定の時間外勤務を強いられたという意味で、丙の業務量を増加させる要因となったほか、プレゼンテーションの準備等におい ては、慣れない外国語でこれを準備する必要があり、基金による聞き取り調査において、己交番勤務員が、GSEの研修に参加するに当たり、外国語がしゃべれないことについて、悩みがあることを話していた旨の証言を行っていること(乙24)にも照らせば、丙にとり、一定の心理的負荷を与えるものといえる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵エの【被告の主張】のとおり主張するが、上記説示したところに照らし、いずれも採用できない。 ⑷ 精神障害の発症の有無(争点1-3)についてア精神障害発症の有無に関する判断前記1の認定事実によれば、丙は、平成23年11月30日から同年1 2月22日までの間に、「心の元気力チェッカー」を受検しているところ、その分析結果によれば、「心理面のストレス反応」につき「意欲」、「抑うつ感」、「燃え尽き度」及び「イライラ感」に関して「かなり悪い状態」とされた上で、最低評価の「E」と評価されており、「身体面のストレス反応」についても、「疲労感」及び「凝り・痛み」につき 「かなり悪い状態」とされるなどした上で、「D」と評価されていること(同⑽ア及び同イ)、平成24年に入って以降も、複数の己交番勤務員らが、丙の様子につき、「元気がない、ぼんやりしている」、「顔色がよくない」といった回答を行っ どした上で、「D」と評価されていること(同⑽ア及び同イ)、平成24年に入って以降も、複数の己交番勤務員らが、丙の様子につき、「元気がない、ぼんやりしている」、「顔色がよくない」といった回答を行っているほか、家庭においても、食事量が減少し、原告甲が用意した菓子類を食べないなど食欲が減退している 状態がみられ、「制服を着て歩きたくない」とか、「自分はいい格好を- 35 - しているだけだ、いい人ぶっているだけだ」などといった発言をすることがあったこと(同⑾ア及び同イ)が認められる。 これらを踏まえれば、丙には、少なくとも、抑うつ気分、易疲労性、集中力と注意力の減退、自己評価と自信の低下及び食欲不振と評価し得る症状が生じていたと認めることができ、これらの症状は、ICD―10 の診断ガイドライン上の「F32 うつ病エピソード」の診断基準(抑うつ気分、興味と喜びの喪失及び易疲労性のうちから少なくとも2つ、集中力と注意力の減退、自己評価と自信の低下、罪責感と無価値観、将来に対する希望のない悲観的な見方、自傷あるいは自殺の観念や行為、睡眠障害及び食欲不振のうちから少なくとも2つ。甲27)に適合する ものと評価することができる。 そして、上記の経過によれば、丙の上記の各症状は、遅くとも本件自殺の直前である平成24年3月上旬頃に至るまで、2週間以上にわたって継続してみられていたと推認されることに加え、本件医学的意見においても、平成24年3月上旬には、精神疾患の症状が顕在化し、何らかの 精神疾患を発症していたと考えられるとの意見が述べられていること(認定事実⒀ウ)に照らしても、丙には、遅くとも同月上旬の時点において、ICD―10の診断ガイドラインにおけるうつ病エピソード等の精神疾患を発症していたと認 と考えられるとの意見が述べられていること(認定事実⒀ウ)に照らしても、丙には、遅くとも同月上旬の時点において、ICD―10の診断ガイドラインにおけるうつ病エピソード等の精神疾患を発症していたと認めるのが相当である。 イ被告の主張について これに対し、被告は、主張整理表1⑶の【被告の主張】欄のとおり主張する。 確かに、前記1の認定事実によれば、丙は、本件自殺当日の直前である平成24年3月3日、同月6日、同月8日及び同月9日の各勤務日において、「健康状態等チェック表」の「自己申告の内容」欄の「業務上の 問題点」及び「投薬の有無」につき、いずれも「無」と記入していたこ- 36 - と(同⑾ウ)が認められ、労働時間表においても、各日において、所定の当直ないし日勤の勤務を行っていることが認められる。しかしながら、ICD-10において、うつ病エピソードの患者は、通常、症状に悩まされて日常の仕事や社会的活動を続けるのに困難を感じる一方で、完全に機能できなくなるまでのことはないとされていること(甲27)に加 え、文献においても、うつ病の病態として不安・焦燥がみられることがあり、このような症状が優位となっている病態の場合には、何とか仕事に赴こうとしたり、家族や周囲の人が異常に気付きにくかったりすることがあるなどとの指摘がされていること(甲49)をも踏まえれば、上記諸事情は、丙がうつ病エピソードを発症していることと整合しない事 情であるとはいえない。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 ⑸ 本件自殺の業務起因性(争点1―4)についてア業務を要因とする負荷の有無ないし程度前記⑷認定の事情によれば、丙は、遅くとも本件自殺当日の直前である ることができない。 ⑸ 本件自殺の業務起因性(争点1―4)についてア業務を要因とする負荷の有無ないし程度前記⑷認定の事情によれば、丙は、遅くとも本件自殺当日の直前である 平成24年3月上旬には、うつ病エピソード等の精神疾患を発症していたと認められるところ、労働時間表によれば、丙の時間外労働時間は、発症6か月前の時点では、休暇の取得等が続いたため32時間01分にとどまっているものの、発症5か月前以降は、いずれの月も70時間を超えるに至っており、そのうち3月(発症1か月前、同4か月前及び同 5か月前)では、100時間を超える時間外勤務を行っていることが認められるのであって、丙の長時間労働が常態化していたものといえる(なお、前記⑵ウで説示したとおり、丙と原告甲とのメールのやり取りの内容等に照らせば、始業時間が特定できなかったに過ぎず、何らかの勤務を行っていると推認できる時間が存在しており、丙の実際の時間外 労働時間は、労働時間表で認定したものよりも多い可能性があることに- 37 - も留意すべきである。)。とりわけ、発症1か月前の期間においては、その時間外労働時間は140時間を超えるに至っており、その具体的な労働状況をみても、1日の週休日(平成24年2月25日)を挟んで、14日間にも及ぶ連続勤務が2回繰り返されている(同月11日から同月24日まで、及び同月26日から同年3月10日まで)上、この間、 休憩時間等(ただし、この間にも急訴事案が発生した場合には業務に従事する必要があるとされている。)も含めれば拘束時間が24時間に及ぶ当直勤務を行ったのに引き続き、非番日において夜間から深夜帯に至るまでの時間外勤務を行っていることが多数回確認できることに照らしても、特に発症1か月前の時間外 。)も含めれば拘束時間が24時間に及ぶ当直勤務を行ったのに引き続き、非番日において夜間から深夜帯に至るまでの時間外勤務を行っていることが多数回確認できることに照らしても、特に発症1か月前の時間外勤務状況は、丙にとり、著しく心身の 疲労を蓄積させる程度のものであったといえる。これらによれば、上記丙の時間外勤務の具体的状況は、直ちに、認定基準上の強度による精神的又は肉体的負荷を与える事象とされる出来事(発症直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又は発症直前の3週間におおむね120時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合、あるいは、発症 直前の連続した2か月間に1月当たりおおむね120時間以上の、又は発症直前の連続した3か月間に1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合)には該当しないとしても、丙に相当程度の心理的負荷を与えるものであったと評価することができる。 また、そもそも、己交番勤務員は、当直勤務中に処理した事案等に関し て作成すべき書類等につき、所定の提出期限までに提出することが義務づけられており、これらの作成等のために一定の時間外勤務を余儀なくされる(認定事実⑷ウ)上、丙は、己交番の交番長の職務に従事しており、交番長は、交番勤務員としての通常の業務に加えて、各種月報の作成や、捜査協力者に対する折衝、下田警察署において行われる各種会合、 会議等への出席といった業務を行わなければならず、他の己交番勤務員- 38 - に比してその業務負担が重いと認められる(同⑵)。これらに加え、前記⑶で個別に検討したとおり、丙には、連続窃盗事件の捜査、実習生の教育、異動のための引継ぎ及びGSE参加のための事前準備等、その業務量を増加させ、丙に心理的負荷を生じさせる複数 )。これらに加え、前記⑶で個別に検討したとおり、丙には、連続窃盗事件の捜査、実習生の教育、異動のための引継ぎ及びGSE参加のための事前準備等、その業務量を増加させ、丙に心理的負荷を生じさせる複数の要因が存在しており、これらの要因は、それ単体でみれば、丙の業務の難易度を著しく高 めたり、業務量を著しく増大させたりする要因となったとまでは認め難いとしても、特に発症1か月前の期間には、上記各要因が重なって生じており、労働時間表によれば、上記期間内における時間外労働時間数は、同2か月前から約60時間増え、140時間を超える程度に達しているというのであって、丙の業務量を大きく増加させ、丙に大きな心理的負 荷を与える要因となったものと評価することができる。 以上指摘した諸事情に照らせば、丙の時間外労働の状況は、認定基準上、強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象とされる「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場 合」に該当するか、又はこれに準じて評価すべき出来事があったと認めることができ、この出来事は、丙に対し、精神障害を発症するに足りる程度の心理的負荷を与えたものと評価するのが相当である。 イ業務外の要因による負荷の有無ないし程度本件全証拠においても、本件自殺当日の6か月前までの間に、丙やその 家族等について、離婚等の身分関係の変動や、事故・事件に巻き込まれたとか、死亡・けが・病気等があったといった事情は認められないし、その他、財産の損失や収入の減少等の事情も特段認められないから、丙が、業務外の要因により、精神障害を発症する程度の心理的負荷を受けていたと認めるに足りる事情はない。 った事情は認められないし、その他、財産の損失や収入の減少等の事情も特段認められないから、丙が、業務外の要因により、精神障害を発症する程度の心理的負荷を受けていたと認めるに足りる事情はない。 ウ個体側の要因- 39 - 前記1⒀アのアンケート結果によれば、丙の性格傾向は、何でも一人で背負い込む傾向があるとされているほかは、基本的には明るく、積極性のある性格であることがうかがわれ、丙の社会適応に問題があるとか、性格傾向に極端な偏りがある状況は認められない。また、丙に精神疾患の既往歴はなく、飲酒の習慣はほとんどなかったこと(同イ)も考慮す れば、丙に、精神疾患発症の要因となるような個体側要因の存在を認めることはできない。 エ総合的評価・結論以上を総合すれば、丙は、業務上の心理的負荷により、うつ病エピソード等の精神疾患を発症したものと認められ、ICD-10の診断ガイド ライン上、うつ病エピソードの症状として、自傷及び自殺の観念や行為が挙げられていること(甲27)に加え、上記精神障害の存在以外に、丙が自殺をする原因となるような事情も証拠上見当たらないから、本件自殺は、丙の発症したうつ病エピソード等の精神疾患の影響により生じたものと認めるのが相当である。 したがって、本件自殺による丙の死亡と、丙の従事していた静岡県警察における業務との間には、相当因果関係があると認めるのが相当である。 オ被告の主張等について (ア) 以上に対し、被告は、主張整理表1⑷アの【被告の主張】のとおり主張する。 しかしながら、丙の業務による心理的負荷の程度が、精神障害を発症する程度に過重なものであったといえることは、前記アで説示したとおりで 1⑷アの【被告の主張】のとおり主張する。 しかしながら、丙の業務による心理的負荷の程度が、精神障害を発症する程度に過重なものであったといえることは、前記アで説示したとおりであるから、被告の上記主張は採用することができない。 (イ) また、被告は、主張整理表1⑷イの【被告の主張】のとおり、公務外の要因として妻である原告甲との関係を主張する。 そこで検討するに、まず、丙と原告甲との夫婦仲に関して指摘する点- 40 - についてみると、丙の同僚等の証言としては、丙が原告甲と喧嘩し、家を出されて車で一晩明かしたことがあったとか、いつも夕飯を原告乙が丙に本件宿舎のベランダで渡していたが、一度、丙が原告乙の呼びかけに応じることができなかったことがあり、その際、原告甲が「早く出てこいよ」と怒鳴ったことがあったなどというものである。そもそも前者 については、単なる噂に過ぎず、そのような事実を認めるに足りる証拠はないが、仮に上記各証言のような出来事があったとしても、これらの出来事が、直ちに丙において精神障害を発症させるような程度の強い心理的負荷を負わせるものとは認められない。また、認定事実⑽からして、ストレス診断上は、丙において、家族関係に悩みがあったことを示して いると見る余地があるとしても、そのことから直ちに、丙が原告甲の感情の起伏の激しさや気の強さに困惑しており、このことが精神障害を発生させるような程度の強い心理的負荷を生み出したとまで推認することはできない。 次に本件自殺当日の丙と原告甲とのやり取りについてみると、前記1 の認定事実によれば、同当日、本件宿舎において、同人らの間で本件出来事が生じ、その後、丙が、同宿舎を出て、練炭、練炭コンロ、ライター等 自殺当日の丙と原告甲とのやり取りについてみると、前記1 の認定事実によれば、同当日、本件宿舎において、同人らの間で本件出来事が生じ、その後、丙が、同宿舎を出て、練炭、練炭コンロ、ライター等の道具を購入し、本件自殺に及んだことが認められる(同⑿)。かかる経過からして本件出来事が本件自殺の契機の1つであったとは言い得るものの、その具体的な内容を見れば、平成24年3月期に異動する との丙の認識が誤りであったことが発覚して、原告甲が拒否的な反応を示したというもので、一時的かつ深刻とまではいえない家庭内のいさかいであるから、丙が本件自殺に及んだのは、主因たる業務により丙が精神疾患を発症していなければ説明がつかないものというほかない。そうすると、本件出来事があったことは、丙が業務上の負荷により発症した 精神疾患の影響により本件自殺に及んだとの前記エの認定判断を左右し- 41 - ない。 したがって、被告の主張はいずれも採用することができない。 3 争点2(被告の安全配慮義務違反の有無)について⑴ 安全配慮義務違反の有無に関する判断ア労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどし て、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険があることから、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、職務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当である(最高裁平成12年3月24日 第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 イこれを本件についてみるに、丙の時間外勤務の状況等を含めた労働状況が、丙に精神疾患を発症させる程度の心理的負 平成12年3月24日 第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 イこれを本件についてみるに、丙の時間外勤務の状況等を含めた労働状況が、丙に精神疾患を発症させる程度の心理的負荷を与えるものであったことは、前記2⑸ア認定のとおりであるところ、丙の上司であった丁らは、丙から勤務日誌や時間外勤務実績報告書の提出等を受けていたほか、 丙がGSEの準備としての事前研修等に参加していたことも認識していたことに加え、丙が、非番日や週休日に己交番に頻繁に出勤し、時には夜間や深夜に至るまで業務を行っていたことは、基金による調査の過程でも複数の己交番勤務員が証言していること(甲30)に照らしても、丁らは、丙の上記労働状況等を認識していたか、あるいは少なくとも、 これらを容易に認識し得たということができる。 しかるに、丁らは、丙が休暇等を取得することができるよう、丙の業務量を調整する等の措置を講じた形跡は見当たらない。そればかりか、丁らは、そもそも、己交番勤務員が一定の時間外勤務を余儀なくされる場合があることや、己交番の交番長であった丙は、他の勤務員に比して重 い業務負担を負っていたことを承知していながら、連続窃盗事件の発生- 42 - 以後、丙を含む己交番勤務員らに対し、一定の非番捜査に従事するよう指示するとともに、丙がGSEの事前準備として参加すべき本件事前会合等について、これを業務として取り扱わないとの方針を採用したこと等により、特に発症5か月前以降、丙の長時間の時間外勤務を常態化させたうえに、平成24年2月、連続窃盗事件の捜査のための専従捜査班 を編成するため、己交番勤務員2名を呼び上げ、これに伴い、己交番における当直班の構成を変更し、丙に、単独での職務執行を行うことができない実習生 24年2月、連続窃盗事件の捜査のための専従捜査班 を編成するため、己交番勤務員2名を呼び上げ、これに伴い、己交番における当直班の構成を変更し、丙に、単独での職務執行を行うことができない実習生との勤務をさせることにより、丙の労働時間を更に増大させ、特に発症1か月前において、丙に、140時間を超える時間外勤務を余儀なくさせたことが認められる。 これらによれば、被告は、丙の業務の過重性を軽減し、丙の心身の健康を損なうことがないようにするための必要な措置を講じたものとは到底認められず、上記注意義務に違反したものというべきである。そうすると、被告は、本件自殺による丙の死亡について、雇用関係の債務不履行に基づく責任を負うというべきである。 ⑵ 被告の主張等に関する検討アこれに対し、被告は、予見可能性に関し、主張整理表2⑴の【被告の主張】のとおり主張する。 しかしながら、前記⑴アで説示したとおり、長時間労働の継続などにより疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損な うおそれがあることは周知のところであり、労働者が精神疾患にり患し、その影響により自殺に及ぶことは、上記おそれの具体的発現の一態様といえるから、使用者は、上記のようなおそれを生じさせる原因となる危険な状態の発生そのものを回避すべき注意義務を負うもの解すべきである。そうすると、使用者が上記注意義務を負う前提としての予見可能性 は、労働者が過重な業務に従事しており、その結果、当該労働者の心身- 43 - の健康を損なうおそれがあることについて認識し、あるいは認識し得たと認められれば足りるものと解され、当該労働者の具体的な健康状態の悪化を認識することが困難であったとしても、そのことのみで上記注意 の健康を損なうおそれがあることについて認識し、あるいは認識し得たと認められれば足りるものと解され、当該労働者の具体的な健康状態の悪化を認識することが困難であったとしても、そのことのみで上記注意義務を負う前提としての予見可能性が否定されることにはならないというべきである。 丙が過重な業務に従事していたことや、そのことを丙の上司らが認識し、あるいは容易に認識し得たことは、前記⑴イで摘示したとおりであるから、被告に上記の意味での予見可能性がなかったということはできない。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 イまた、被告は、主張整理表2⑵の【被告の主張】欄のとおり主張する。 しかし、前記⑴イで説示したとおり、被告は、専従捜査班の編成のために己交番勤務員2名を招集し、これに伴い、同交番の当直班の構成を変更して丙に実習生との勤務を余儀なくさせることにより、結果的に丙の業務負担を増大させていることに加え、前記2⑶アで説示したとおり、被告は、同班編成後も、己交番勤務員が一定の捜査に従事することを何 ら制限せず、むしろこれによる時間外勤務を承認していることに照らしても、被告の主張する事情により、被告が丙の心身の健康に配慮すべき安全配慮義務を尽くしたとは到底評価することができない。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 4 争点3(損害の発生及びその数額)及び争点4(損益相殺)について ⑴ 死亡慰謝料 2800万円丙は、本件自殺に至るまで、一家の支柱として稼働していた(当時は、妻である原告甲は専業主婦であり、娘の原告乙は4歳の幼児であった。)こと、同人の死亡時の年齢、本件自殺に至る経緯、被告の債務不履行の具体的態様、その他本件に顕れた一切の として稼働していた(当時は、妻である原告甲は専業主婦であり、娘の原告乙は4歳の幼児であった。)こと、同人の死亡時の年齢、本件自殺に至る経緯、被告の債務不履行の具体的態様、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件自殺に至る慰謝料として は、2800万を認めるのが相当である(うち原告らの相続額は各人につき- 44 - それぞれ1400万円。)。 ⑵ 逸失利益 9900万4791円ア証拠(甲15)によれば、丙の本件自殺までの直近の3か月間(平成23年12月1日から平成24年2月29日まで)の給与支給総額(178万7293円)をその期間の日数91日で除した額は、1万9640 円(1円未満切捨て)となり、これに365日を乗ずると、年間716万8600円となる。 そして、証拠(甲16)によれば、丙の平成23年度(平成23年6月及び同年12月)の賞与の合計額は、137万8896円である。 よって、丙の基礎収入は、854万7496円となるところ、丙の就労 可能期間は、本件自殺時の年齢である31歳から67歳までの36年間とすべきであり、一家の支柱として原告らを扶養していたことに鑑み、生活費控除率は0.3とするのが相当であるから、丙の逸失利益は、次のとおり、9900万4791円(1円未満切捨て)となる。 (計算式) 854万7496円(基礎収入)×16.547(就労可能期間36年に対応するライプニッツ係数)×(1-0.3[生活費控除率])イそして、上記逸失利益について、原告甲が4950万2396円、原告乙が4950万2395円をそれぞれ相続したと認められるところ、前記前提事実⑽ウのとおり、原告甲は、本件口頭弁論終結時までに遺族補 償年金として 益について、原告甲が4950万2396円、原告乙が4950万2395円をそれぞれ相続したと認められるところ、前記前提事実⑽ウのとおり、原告甲は、本件口頭弁論終結時までに遺族補 償年金として3485万1460円の支給を受けたものであり、原告甲の相続した逸失利益相当損害金から上記受給額分につき填補を受けたと認められるから、その限度で控除を認める。したがって、原告甲が相続した逸失利益相当損害金の残額は、1465万0936円(4950万2396円-3485万1460円)となる。 ⑶ 葬祭料 117万8460円- 45 - ア前記前提事実⑽ウのとおり、原告甲は、葬祭補償として117万8460円の支給を受けているところ、本件自殺と相当因果関係のある葬祭料として、上記受給額を上回るとの証拠はないから、同額を、本件と相当因果関係のある損害と認める。 イそして、原告甲は、上記アのとおり、葬祭補償の支給を受けているので あり、これにより、原告らは、葬祭料相当損害金の填補を受けたと認められるから、その限度で控除を認める。なお、原告らは、原告甲が相続した葬祭料相当損害金の部分についてのみ、損益相殺をすべきであると主張する(主張整理表4の【原告らの主張】参照)が、実際に丙の葬儀を行い、葬祭料を拠出したのは原告甲であると認められるから、便宜上、 葬祭料を丙の損害として請求したことで、支給を受けた葬祭費用のうち一部控除を免れると解するのは不合理であり、実態とも整合しないものであって、採用できない。 よって、原告らは、上記控除により、丙から相続した葬祭料相当損害金の全額の填補を受けたと認められるから、原告らに残存する葬祭料相当 損害金は存在しない。 ⑷ 前記⑴ないし⑶の合計額 て、原告らは、上記控除により、丙から相続した葬祭料相当損害金の全額の填補を受けたと認められるから、原告らに残存する葬祭料相当 損害金は存在しない。 ⑷ 前記⑴ないし⑶の合計額原告甲につき 2865万0936円原告乙につき 6350万2395円⑸ 弁護士費用相当損害金 弁論の全趣旨によれば、原告らは、訴訟代理人弁護士に委任して本件訴訟を提起せざるを得なくなったと認められ、本件訴訟の経緯及び認容額等に鑑みれば、その費用のうち、被告の債務不履行と相当因果関係の範囲内にある弁護士費用として、原告らにつきそれぞれ以下の額を認めるのが相当である。 原告甲につき 286万円 原告乙につき 635万円- 46 - ⑹ 前記⑷及び⑸の合計額原告甲につき 3151万0936円原告乙につき 6985万2395円第4 結論よって、原告甲の請求は、3151万0936円(及び附帯請求)の限度で理 由があり、原告乙の請求は、6985万2395円(及び附帯請求)の限度で理由があるから、その限度で認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却し、併せて仮執行宣言及び同免脱宣言を付することとして、主文のとおり判決する。 広島地方裁判所福山支部 裁判官清水俊貴 裁判官牛濵裕輝 裁判長裁判官曳野久男は、退官のため署名押印することができない。 裁判官清水俊貴 - 47 - 判長裁判官曳野久男は、退官のため署名押印することができない。 裁判官清水俊貴 - 47 - 別紙2交番長の職務 ・署地域(指導)係長の補佐・所管区活動計画の策定、一所管区一事案解決運動等の重点の選定及び推進要領 の調整・交替制勤務を異にする交番班長等勤務員相互間の意思の疎通及び融和・協調の促進・所管区内のコミュニティーリーダー、関係機関、団体等との連絡調整・交番班長間の引継ぎの方法等についての調整 ・交番班長の職務 (交番班長の職務)・所管区内における事件事故の処理等実践的な地域警察活動の推進・勤務場所を同じくする勤務員(以下「相勤者」という。)に対する実践的な指 揮監督及び指導教養(巡査長又は巡査の班長においては、助言指導)・勤務員相互間の意思の疎通及び融和・協調の促進・相勤者の勤務及び事務処理の調整・当該交番の施設、装備資器材、書類等の保守及び管理・勤務交番における勤務員交替時の引継ぎ
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