平成14年4月12日判決言渡平成12年(ワ)第5713号損害賠償請求事件 主文 1 被告国は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成12年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告国に対するその余の請求及び被告Aに対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告に生じた費用の14分の1と被告国に生じた費用の7分の1を被告国の負担とし,原告及び被告国に生じたその余の費用と被告Aに生じた費用を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して770万円及びこれに対する被告Aについては平成12年6月10日から,被告国については平成12年6月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,B大学(以下「B大」という。)大学院生であった原告が,指導教授であった被告A及び大学を設置している被告国に対し,次のとおりの損害賠償請求権に基づき,連帯して770万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(2と3①の各請求は,選択的併合である。)。 1 被告Aは,原告に対し,性的言動や誹謗中傷,原告についての虚偽の性的風評の流布,原告の他大学大学院の受験妨害等をして,原告の名誉,信用及び学問・研究の自由や教育を受ける権利を含む人格権を侵害したとして,被告Aについて不法行為による損害賠償請求権 2 被告国について,前記1の被告Aの行為に関し,国家賠償法1条1項による損害賠償請求権 3 被告国は,原告に対し,在学契約ないし信義則に基づき,良好な教育研究環境を整える義務があるにもかかわらず,①履行補助者である被告Aは,前記1のとおり,同 国家賠償法1条1項による損害賠償請求権 3 被告国は,原告に対し,在学契約ないし信義則に基づき,良好な教育研究環境を整える義務があるにもかかわらず,①履行補助者である被告Aは,前記1のとおり,同義務を怠り,②履行補助者であるB大のC学長及びDB大セクシュアルハラスメント調査委員会委員長(以下「D委員長」という。)は,前記1の被告Aの行為に関する原告の苦情及び救済の申立てに対し,十分な対応を採らず,同義務を怠ったとして,在学契約ないし信義則上の義務の債務不履行に基づく損害賠償請求権第3 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)1(1) 原告は,昭和45年9月25日生まれである。 原告は,平成6年3月,E大学外国語学部F語学科を卒業し,平成9年3月,G大学大学院文学研究科F文学専攻を終了し,同年4月,B大大学院博士後期課程言語社会専攻に,同大学院の1期生として入学した。 (2) 被告Aは,B大外国語学部(略)学科(略)講座教授である。 被告Aは,平成9年4月から,後記6(3) のとおり,平成11年6月1日付けで主指導教官が変更されるまで,原告の主指導教官であった。 (3) 被告国は,B大大学院を設置している。同大学院は,言語社会研究科を置き,同研究科は,博士前期課程(2年)と博士後期課程(3年)に区分される。 博士後期課程は,平成9年4月に設置された。 2(1) 博士後期課程の教育は,開講している授業科目の授業及び博士論文の作成等に関する研究指導によって行われる(B大大学院学則〔以下「本件学則」という。〕26条)。 授業科目の履修指導及び学位論文の作成等に対する指導を行うため,博士後期課程の院生1人につき,3人の指導教官を定める。このうち,1人を主指導教官とし,その余の指導教官を副指導教官とする(B大大学院言語社会研究科履修 導及び学位論文の作成等に対する指導を行うため,博士後期課程の院生1人につき,3人の指導教官を定める。このうち,1人を主指導教官とし,その余の指導教官を副指導教官とする(B大大学院言語社会研究科履修規程〔以下「本件履修規程」という。〕2条1項,3項)。 (2) 博士後期課程を修了するためには,「所定の単位を修得し,かつ,必要な研究指導を受けた上,博士論文の審査及び最終試験に合格する(本件学則36条1項)」ことが必要である。 院生は,履修する授業科目の選定に当たって,主指導教官の指導を受けることとされている(本件学則29条2項)。 博士論文の作成に当たっては,論文の題目や提出について,主指導教官の承認を得ることが必要であり,指導教官による必要な研究指導を修了した者でなければ,博士論文を提出できない(本件履修規程10条,11条)。 博士論文の審査に当たる審査委員会は,「主指導教官を主査とし,副指導教官2人を含めた副査4人とする5人で構成する(B大学位規程10条2項,B大大学院学位審査等取扱要領20条2項)」こととなっている。 (3) 主指導教官は,前記(2) の外,院生が奨学金を申請する際,所見を述べたり,留学生試験の受験の際,推薦文を作成したりすることが多い。 3(1) 被告Aは,原告が受験を予定していたH大学大学院の教授であるIからの原告の受験について被告Aの意向を問う手紙に対し,平成11年1月15日付けで,別紙1の手紙を送付した(甲12,13)。 (2) 被告Aは,平成11年1月28日付けで,E大学での原告の指導教官であったJに対し,別紙2の手紙を送付した(甲14)。 4(1) 原告は,平成11年1月22日ころ,H大学大学院に対し,受験願書を提出し,同年2月10日,受験したが,不合格となった。 (2) 原告は,平成11年2月26日,原告の副指導 付した(甲14)。 4(1) 原告は,平成11年1月22日ころ,H大学大学院に対し,受験願書を提出し,同年2月10日,受験したが,不合格となった。 (2) 原告は,平成11年2月26日,原告の副指導教官であったK教授の押印を得て,B大に対し,退学届を提出した。 C学長は,同年3月2日付けで,同月31日をもって原告が退学することを許可した。 (3) 本件学則には,以下の規定がある(甲1)。 23条1項学生が他の大学の大学院に転学しようとするときは,学長の許可を受けなければならない。 24条1項病気その他の理由により退学しようとする者は,学長の許可を受けなければならない。 同条2項前項により退学した者が,再入学を申し出たときは,選考の上許可することがある。 (4) B大において,学部の学則には,本件学則23条1項と同様の規定があり,学部生が他大学を受験しようとするときは,「受験許可願・退学願」を提出して,学長の許可を受けなければならないこととなっている。 しかし,受験先の他大学が受験許可書の提出を求めない場合には,B大の学部生が「受験許可願・退学願」を提出せずに受験し,合格してから「退学願」を提出する場合がある。このような場合には,合格した学部生の利益を考慮して,B大学長は「退学願」を許可するのが実情である(証人L,被告A,弁論の全趣旨)。 5(1) 原告は,平成11年3月18日付け「申立て書」を作成し,F語学科の教授であるMに交付した。同書面は,被告Aが,性差別的発言を繰り返したり,原告の研究に関する指導を行わなかったり,原告を中傷したり,H大学大学院の受験を妨害したりしたことによりB大を退学することとなった経緯について納得していないため,事実関係を確認し,善処することを求める内容のものである(甲17,103)。 F語学科の被告Aを除いた 学院の受験を妨害したりしたことによりB大を退学することとなった経緯について納得していないため,事実関係を確認し,善処することを求める内容のものである(甲17,103)。 F語学科の被告Aを除いた教官は,教室会議を開き,原告をサポートすること等を確認した(甲20)。 また,Mは,原告が①被告Aの原告に対する謝罪と今後研究に対する妨害をしないとの約束,②指導教官の交代が可能である場合にはB大へ復学したいとの希望を有しているので善処を求める内容の同月20日付け書面を作成し,前記「申立て書」とともに,C学長に交付した。なお,同書面には,上記②に関し,以前から原告はNから指導を受けていた旨の記載がある(甲21)。 (2) 原告は,同月23日付けで,B大に対し,「退学願取り下げについて」と題する書面を提出した(甲18)。 (3) 原告は,同月27日付けで,「指導教官変更について」と題する書面を,B大の学生部長であったLに宛てて提出し,原告の主指導教官を被告A以外の教官に変更するよう求めた(甲19)。 6(1) B大大学院言語社会研究科博士後期課程委員会(以下「後期課程委員会」という。)は,平成11年4月15日,原告の退学願取下げを了承した(証人L,弁論の全趣旨)。 (2) C学長は,原告の平成11年3月18日付け「申立て書」に関し,4人の教授を構成員とする私的な諮問委員会を設置することとし,平成11年6月3日,第1回委員会を開催した(丙7,証人L,弁論の全趣旨)。 (3) 平成11年7月15日,B大大学院の後期課程委員会において,原告の主指導教官を,同年6月1日にさかのぼって,被告AからNに変更することが決定された(丙10,証人L,弁論の全趣旨)。 7(1) ア文部省は,平成11年3月30日付けで,「文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等 1日にさかのぼって,被告AからNに変更することが決定された(丙10,証人L,弁論の全趣旨)。 7(1) ア文部省は,平成11年3月30日付けで,「文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規程」(以下「文部省規程」という。)を制定し,「セクシュアル・ハラスメントに関する苦情相談に対応するに当たり留意すべき事項についての指針」(以下「文部省指針」という。)を定め,同年4月1日実施された(甲23)。 イ文部省規程には,以下の規定がある(甲23)。 3条職員は,(略)セクシュアル・ハラスメントをしないように注意しなければならない。 4条職員を監督する地位にある者は(略)セクシュアル・ハラスメントの防止及び排除に努めるとともに,セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合には迅速かつ適切に対処しなければならない。 5条国立学校等の長は,当該国立学校等の職員に対し,この規程の周知徹底を図らなければならない。 6条3項各国立学校等においては,それぞれの長の定めるところにより相談員等を置き,相談を受ける日時及び場所を職員に対して明示しなければならない。 ウ文部省指針には次の規定がある(甲23)。 2 相談者から事実関係等を聴取するに当たり留意すべき事項(1) 相談者の求めるものを把握すること。 (3) 相談者の主張に真摯に耳を傾け丁寧に話を聞くこと。 (5) 聴取した事実関係等を相談者に確認すること。 聞き間違えの修正並びに聞き漏らした事項及び言い忘れた事項の補充ができるので,聴取事項を書面で示したり,復唱するなどして相談者に確認する。 5 相談者に対する説明苦情相談に関し,具体的にとられた対応については,相談者に誠実に説明する。 (2) C学長は,平成11年6月23日,その裁定により,「B大学セクシュアル・ハラスメントに関 る。 5 相談者に対する説明苦情相談に関し,具体的にとられた対応については,相談者に誠実に説明する。 (2) C学長は,平成11年6月23日,その裁定により,「B大学セクシュアル・ハラスメントに関する調査委員会設置要項」を制定し,原告の申立てに関する事実関係の調査を行うため,調査委員会(以下「本件調査委員会」という。)を設置した(丙14)。 (3) B大は,平成11年7月23日付けで,「B大学セクシュアル・ハラスメントの防止に関する大綱」及び「B大学セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する検討委員会要項」を制定した(丙12,13)。 (4) B大は,平成11年10月28日付けで,「B大学セクシュアル・ハラスメントの防止および対策に関するガイドライン」(以下「本件ガイドライン」という。)及び「B大学セクシュアル・ハラスメントの防止及び対策に関する規程」(以下「本件規程」という。)を制定・施行した。 同ガイドラインには,以下の規定がある(甲24)。 8-Ⅱ)苦情申立て(2) 防止・対策委員会は,苦情申立ての手続を開始した場合には,すみやかに,事実関係を調査するために,当該事案のみに関する「セクシュアル・ハラスメント調査委員会」(以下「調査委員会」といいます。)を設置します。 (3) 調査員会は,客観性・中立性・公平性を確保するために,学外の法律専門家1名を含み,男女比に配慮し,防止・対策委員会の委員および相談員を委員とせず,また,当事者の所属以外のところから選出するなど,委員構成に配慮して設置されます。 (4) 調査委員会は必要に応じて当事者及び関係者から事情を聴取し,事実関係を明らかにします(以下略)。 (7) 調査委員会は,原則として2ヶ月以内に調査を終了し,調査の経過および結果をすみやかに防止・対策委員会に報告します。 (8) 防止・対 者から事情を聴取し,事実関係を明らかにします(以下略)。 (7) 調査委員会は,原則として2ヶ月以内に調査を終了し,調査の経過および結果をすみやかに防止・対策委員会に報告します。 (8) 防止・対策委員会は,調査委員会の報告にもとづいて,すみやかに結論を下します。なお,必要な場合には,当事者および関係者の意見を聴取することがあります。 9 学長のとるべき措置(2) 関係委員会等での審議に際しては,当事者に意見を表明する機会を保障しなければなりません。 (4) 学長は,大学の対応措置を被害者に知らせるとともに,本人の利益を最優先させ,当事者のプライバシーに配慮しながら,経過と結果を大学全体に公表します。 セクシュアル・ハラスメントに対してとられる措置(1) 大学は,調査委員会等を通じて,調査の経過や結果を逐次被害者に説明するとともに,被害者にはカウンセリングなど精神的なケアを含む可能な限り最善の救済が与えられるよう努力します。 (5) 本件調査委員会は,平成12年3月21日,C学長宛に調査結果を報告した(丙16)。 原告は,調査結果の開示を求めたが,開示されなかった(甲83)。 第4 争点 1 被告Aのセクシャル・ハラスメントないしアカデミック・ハラスメント(教育や研究機関において権力関係を背景に,強者が弱者に対し,研究,教育上,様々な嫌がらせを行ったり,不利益を課すこと。)等の行為の有無。同行為がある場合,被告国は,国家賠償法1条1項ないし被告Aを履行補助者とする債務不履行に基づく損害賠償責任を負うか。 2 被告国が,国家賠償法1条1項の責任を負う場合,被告Aは,不法行為に基づく損害賠償責任を負うか。 3 被告国は,原告の平成11年3月18日付け「申立て書」に対するB大の対応に関し,C学長ないしD委員長を履行補助者とする債務不履行に基 を負う場合,被告Aは,不法行為に基づく損害賠償責任を負うか。 3 被告国は,原告の平成11年3月18日付け「申立て書」に対するB大の対応に関し,C学長ないしD委員長を履行補助者とする債務不履行に基づく損害賠償責任を負うか。 4 原告の損害額第5 争点に対する当事者の主張 1 争点1(被告Aの行為の有無及び同行為に基づく被告国の責任の有無)について(原告の主張)(1) 原告と被告Aとの間には,原告は主指導教官である被告Aの指導に従わなければ同大学院での研究を全うできないという絶対的な力関係があるところ,被告Aは,後記(2) ないし(6) のとおり,セクシュアル・ハラスメントないしアカデミック・ハラスメントに当たる行為を行った。すなわち,被告Aの差別的発言や性的言動のため,原告は,他大学大学院への転入という進路変更を考えざるを得なくなったにもかかわらず,被告Aは,原告の受験を妨害し,B大からの退学を強要して原告の研究場所を奪おうとしたり,原告について虚偽の性的悪評を流布したりして,原告の適切な環境で教育を受ける権利,名誉・信用などの人格権を侵害した。 被告Aの以上の行為は,国立大学の教授である被告Aが,公権力の行使としてその職務の執行を行うについてなしたものであるから,被告国は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。 また,後記3の原告の主張のとおり,被告国は,原告に対し,在学契約に基づく付随的義務ないし信義則上の義務として,教育研究環境を整える義務を負うところ,同被告の履行補助者である被告Aの前記行為は,同義務に違反するものであるから,被告国は,原告に対し,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。 (2) 被告Aは,主指導教官の地位を利用して,原告に対し,次のような性差別的発言や性的言動をなし,原告に性的な不快感をもた であるから,被告国は,原告に対し,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。 (2) 被告Aは,主指導教官の地位を利用して,原告に対し,次のような性差別的発言や性的言動をなし,原告に性的な不快感をもたらした。 ア被告Aは,平成9年6月7日,O大学で行われたF文学会の後の食事会で,原告や10人程度の研究者の前で,原告は独身なので結婚相手を募集中であり,彼氏若しくは結婚相手となる人がいれば紹介してやってほしい旨を発言し,その場にいた独身男性を指して「彼などはどうだ。」と聞き,同男性に対しても「彼女と交際してみたら。」などと発言した。 イ被告Aは,原告に対し,P教授について,「彼は若く見えるが,40を過ぎて妻子持ちだ。君の恋愛相手にはならない。同教授は原告の連絡先を聞くなどしてナンパ行為を研究室でした。気をつけなさい。」と発言した。 ウ被告Aは,平成9年5月ころから平成10年6月ころまでの間,通勤のための自動車に原告を同乗させ,車内において,原告に対し,「車に女子院生を乗せていることが妻にばれるとやばい。君を乗せているときに事故を起こすと妻にばれるから慎重に運転しないといけない。」「結婚をどのように考えているのか。君くらいの年だと結婚のことが気になるだろう。」「君にふさわしい男性は一流の学者である。相手にする男性は仕事をきちんと持った大学の先生にするべきで院生なんかは駄目だ。」などと発言し,結婚のことを執拗に聞いたり,私生活への干渉を繰り返したり,「学生が先生に逆らうと将来がないんだぞ。」などの発言をした。 エ被告Aは,平成9年夏ころ,原告に対し,「夕方から時間がある。君とはいろんなことについて話をしておきたい。大学まで出かけるとお互いに遠いから,京都で夕方くらいに待ち合わせて食事でもしながら話しましょう。」と言って食事に誘ったり,「君はリ 夕方から時間がある。君とはいろんなことについて話をしておきたい。大学まで出かけるとお互いに遠いから,京都で夕方くらいに待ち合わせて食事でもしながら話しましょう。」と言って食事に誘ったり,「君はリサーチ・アシスタントになったから,お金をもらっているんだ。 だから,自分のために働いてもらおう。H大でのテストの採点をしなさい。」と言って,被告Aが非常勤講師をしているH大学のテストの採点を命じた。 オ被告Aは,平成10年2月ころ,原告に対し,「一緒にスキーに行こう。君が心配だったら息子も連れてくるから。」と言ってスキーに誘った。 カ被告Aは,平成10年4月ころ,原告に対し,「食事をしながらいろいろ話そう。大学に出ていくのは遠いし,ざっくばらんに話すには,大学の外がいいだろう。」「H大会館前で待ち合わそう。車で行く予定だ。夕方からはお酒でも飲みに行こう。夕方からその時間まではドライブでもしたらいい。」と言ってドライブに誘ったが,被告Aの急用のため,中止となったところ,「デートをしようと思っていたのに残念だ。」「ドライブデートができなくて残念だ。一緒にお酒を飲もうと思っていたのに。」と発言した。 キ被告Aは,平成10年春ころ,原告を研究室に呼び,「君は飲み歩いてばかりで研究はそっちのけになっているんではないかと僕は疑っている。」と発言し,原告の私生活に干渉した。 ク被告Aは,平成10年9月ころ,原告が被告Aの自動車への同乗を断ったり,同人の発言に対して拒絶的な態度をとるようになったことに対し,「女性はかわいらしくしておくべきだ。」「結婚のことで悩んでいるんだろう。」などとの発言を繰り返した。 ケ原告は,被告Aが,原告のために講義の時間をとることを嫌い,電子メールで指導を行うことを提案したり,教授会が開かれる時間帯に授業を行うこととされていた るんだろう。」などとの発言を繰り返した。 ケ原告は,被告Aが,原告のために講義の時間をとることを嫌い,電子メールで指導を行うことを提案したり,教授会が開かれる時間帯に授業を行うこととされていたため授業が中止となったり,「自分は院生には指導しないことにしている。」と発言したり,原告のために被告Aの研究に関係のない文献を読むことは負担である旨発言したりしていたことに不安を感じたため,被告Aとの間で,平成10年9月下旬から同年10月下旬にかけて,数回話し合った際,被告Aは,「君は自分の研究や指導のされ方に悩んでいると言っているが,それは実際のところ女性特有の悩み,つまり結婚等に対する心配を研究と指導の悩みに置き換えているだけだ。自分の悩みに気付いていない学生とは付き合いきれないので,精神科のカウンセリングを受けて,自分の状態に気付き,そして心の整理をしなさい。」「何度も言っているように,やはり君は女性特有の悩みで悩んでいる。精神科にかかれ。」などと発言した。 (3) 被告Aは,平成10年1月ころ,原告がH大学大学院を受験しようとしていることを知ると,原告に対し,原告が参加していたF文研究会(以下「乙」)を退会するよう命じて,被告A自ら退会手続をとった。 被告Aは,原告に対し,同大学院受験前には,所定の手続をとらないままでの受験は,不正受験になる等の虚偽の事実を伝え,受験前の退学を強要したり,その後,原告が「受験許可願・退学願」を提出するため,被告Aに署名・押印を求めてもこれを拒否して引き延ばし,願書の記載内容や研究計画を報告するように指示するメールを送信して,被告Aの指示に従わなければ指導教官として受験許可を与えないとの姿勢を示したり,受験後には,原告がB大に残る道を閉ざすために退学を強要する等の嫌がらせを行った。 また,被告Aは,原告に ルを送信して,被告Aの指示に従わなければ指導教官として受験許可を与えないとの姿勢を示したり,受験後には,原告がB大に残る道を閉ざすために退学を強要する等の嫌がらせを行った。 また,被告Aは,原告に対し,奨学金は退学と同時に返納する必要がある旨のメールを送信し,原告に経済的な不安を与えた。 (4) 被告Aは,前項と同時期に,B大のF語教官であるPやQに対し,原告がスキャンダルを起こしている旨話し,性的悪評を流した。 (5) 原告は,平成9年8月ころ,被告Aに対し,原告とJとの間での次のような出来事があったことを話した。すなわち,原告は,同年7月ころ,Jの自宅において,研究計画書を作成し,夕食を終えた後,テラスで雑談をしていたところ,Jが,原告の肩に片手を置き,抱き寄せたため,原告は,あわてて身体を引いてやめるよう言ったところ,Jは直ぐに原告に謝罪し,原告は,直後にJの自宅を辞したというものである。 にもかかわらず,被告Aは,前記第3・3(1) のとおり,原告の受験先であるH大学のI及び前記第3・3(2) のとおり,原告がE大学で指導を受けていたJに対し,あたかも原告がスキャンダルを起こした主体であるかのごとく記載した手紙を送付して,原告には精神的な問題があったり,性的に不名誉な事件を起こしたことがあった等という虚偽の事実を伝えた。 (6) 原告とJとの間での出来事は前項の事実のとおりであり,原告は,被告Aに対し,同事実を伝えたにもかかわらず,被告Aは,平成11年6月18日付けで,Lに対し,「スキャンダルとも言うべき『事件』(I教授宛私信中の文言)に関する説明」と題する書面を提出し,前記事実と異なり,原告がJと不倫関係にあると思わせるような虚偽の性的悪評を伝えた。 (被告Aの主張)(1) 次項以下のとおり,被告Aの行為は,正当であって不法行為 する説明」と題する書面を提出し,前記事実と異なり,原告がJと不倫関係にあると思わせるような虚偽の性的悪評を伝えた。 (被告Aの主張)(1) 次項以下のとおり,被告Aの行為は,正当であって不法行為を構成しない。 本件訴訟の背景には,平成9年ないし10年ころ,B大F語全教官の中で,博士論文指導資格・担当を認められたのは,被告Aのみであったことや,平成11年1月ころ行われたF語教官採用人事において,被告Aが,その審査委員の1人としてその人選に関与したところ,その結果が,P,R,S及びMらの期待に反していたというB大F語教官の遺恨があるものと思われる。 また,原告の主張は,被告Aが旅行していた日に同人がセクハラ行為を行ったとされていたり,被告Aは,原告に推薦書を交付する際,厳封し,コピーは交付しなかったにもかかわらず,原告は,コピーを受け取っていたとして本件訴訟に書証として提出したり,原告の現在の身分に関する主張には虚偽があったりすることからすると,本件訴訟及びこれに先立つ大学における諸手続を行うために,事後的に考え出した架空のものであると推測せざるを得ない。 (2) 被告Aは,平成9年5月ころから平成10年10月ころまで,原告に対し,指導教授として,現実に学問的指導をし,その結果,原告は,被告Aの指導内容と関連する博士論文の中間発表や論文3編を発表する等し,被告Aと原告との間には学問的な信頼感にあふれた関係があったのであって,被告Aが,原告に対し,差別的発言や性的言動をしたことはない。 被告Aが初めて原告に違和感を抱いたのは,原告が,被告Aに対し,Jが原告に性的関係を強要したと告白した平成9年8月20日である。また,原告は,平成10年10月15日,突然,被告Aに対し,それまで続けてきた研究テーマに全く興味を失い,被告Aとは無関係な研究を行いた 原告に性的関係を強要したと告白した平成9年8月20日である。また,原告は,平成10年10月15日,突然,被告Aに対し,それまで続けてきた研究テーマに全く興味を失い,被告Aとは無関係な研究を行いたいため,被告Aの講義への出席を中止したいと申し出たのである。 (3) 乙は,被告Aと同種手法の研究をしている学者の研究会であって,原告がH大学大学院で採る予定であった研究手法とは全く異なるものであり,原告にとって不要な研究会となることから,被告Aは,原告に対し,退会の意思を確認したにすぎない。これに対し,原告が回答しなかったため,被告Aが,紹介者としての責任上,原告に代わって退会手続を行っただけである。 被告Aが,原告に退学届の提出を求めたのは,本件学則上,B大に在籍している院生が他大学を受験するためには,願書提出の前に学長の許可を得る必要があるため,原告に対し,必要な手続を履践するよう求めたからにすぎず,不当に退学を強要したことはない。原告主張のような経緯となったのは,原告が,被告Aに対し,願書提出を報告せず,また,学則上の正しい手続を確認しなかったことが,原因である。 (4) 被告Aは,PやQに対し,原告のスキャンダルについて言及したことはない。 被告Aは,恩人であるJに関することであるから,内容を外部に漏洩すべきでないと考えていた。 原告のスキャンダルに関する噂が広まったのは,むしろ,スキャンダルの当事者である原告や,Jの責任によるものである。 (5) 被告Aは,Iの長女に対し,指導したり,研究・就職に協力する一方,Iは,被告AがH大学の非常勤講師となるために尽力する等,被告AとIは親しい間柄にあったため,被告Aは,Iに対し,私信として手紙を送ったのである。また,その記載内容は,すべて真実であって,何ら虚偽の事実による名誉・信用・人格の毀損 なるために尽力する等,被告AとIは親しい間柄にあったため,被告Aは,Iに対し,私信として手紙を送ったのである。また,その記載内容は,すべて真実であって,何ら虚偽の事実による名誉・信用・人格の毀損には当たらない。 (6) 被告AがJに送った手紙の記載内容は,すべて真実であって,何ら虚偽の事実による名誉・信用・人格の毀損には当たらない。 (7) 原告は,B大に対し,被告Aを相手方として,その不当性を訴える申立てをしたのであるから,被告Aが被申立人として自己の立場を弁明するのは当然の権利である。また,被告Aは,Lに対し,「スキャンダルとも言うべき『事件』(I教授宛私信中の文言)に関する説明」と題する書面について,厳重に秘密を保持するよう要請し,実際にB大関係者は,秘密を保持するよう取り扱ったのであって,同書面の記載内容が流布されたことはない。 (被告国の主張)被告Aの行為の有無については,被告Aの主張を援用する。 被告Aの行為は,不法行為を構成しないから,被告国は,国家賠償法上の責任を負わない。 また,後記3の被告国の主張(1)のとおり,被告国は,原告に対し,債務不履行責任を負わない。 2 争点2(被告Aの不法行為責任)について(原告の主張)被告Aの前項の行為は,不法行為に当たるから,被告Aは,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 なお,被告国に国家賠償法1条1項の責任が認められた場合に,公務員個人が不法行為責任を負うか否かが問題となるが,公務員に故意又は重大な過失があった場合には公務員個人の責任を認めるべきであるから,本件において,被告国が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合であっても,被告Aは,自らの不法行為責任を免れることはできないというべきである。 (被告Aの主張)仮に被告Aに不法行為があったとしても,本件 告国が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合であっても,被告Aは,自らの不法行為責任を免れることはできないというべきである。 (被告Aの主張)仮に被告Aに不法行為があったとしても,本件は,被告国に対し,国家賠償責任を問うものであるので,被告Aに対しては,法律上損害賠償を請求し得ない。 3 争点3(C学長ないしD委員長を履行補助者とする被告国の債務不履行責任)について(原告の主張)(1) 現行教育法制における国立学校在学関係は,私学の在学関係と同じく在学契約関係であると解すべきである。 かかる在学契約に基づき,原告は,被告国に対し,良好な環境の中で教育を受け,研究をする権利を取得し,被告国は,同権利を保障し,履行すべき義務があるというべきである。そして,前記第3・7(1) 及び(4) のとおり,文部省規程,文部省指針,本件ガイドライン及び本件規程は,学生を始めとする学校関係者に対し,セクシュアル・ハラスメント防止のための措置として必要かつ適切とされる組織・手続等を具体的に示したものであるから,文部省規程の施行後は,本件ガイドライン及び本件規程が文部省規程の具体化として,B大における在学契約の内容をなすというべきであり,B大の設置者である被告国は,本件ガイドライン及び本件規程に従って,学生がセクシュアル・ハラスメントやアカデミック・ハラスメント等の不利益を受けずに教育を受け,研究する権利を保障するとともに,そのような権利が侵害されているとの救済の申立てがあったときには,直ちに適切に対処し,学生が安心して教育を受け,研究できる環境を回復する具体的な措置をとる義務があるというべきである。 また,被告国は,原告に対し,信義則に基づき同様の義務を負う。 (2) 被告国の履行補助者であるC学長とD委員長は,次のとおり,原告の救済の申立て 復する具体的な措置をとる義務があるというべきである。 また,被告国は,原告に対し,信義則に基づき同様の義務を負う。 (2) 被告国の履行補助者であるC学長とD委員長は,次のとおり,原告の救済の申立てに対し,不十分な対応しかせず,前記義務を怠ったのであるから,被告国は,原告に対し,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。 ア原告は,前記第3・5のとおり,被告Aの行為に関する事実関係の確認や同行為に対する善処,主指導教官の変更及び被告Aの原告に対する謝罪等が行われるよう求めたのに対し,C学長は,被害者に対する抑圧や被害のもみ消しに該当するような言動に終始した。 また,C学長は,被告Aが作成した「謝罪文」(丙5)は,同人が事実を認めたものではなく,ごまかしに終始したものであって,原告にとっては謝罪と認められるものではなかったにもかかわらず,平成11年5月27日,これを原告に交付して事態を収めようとした。その際,原告は,C学長に対し,事実関係の確認を重ねて求めたにもかかわらず,C学長は,本件調査委員会が設置されるまで,何らの事実調査を行わず,適切かつ迅速な対応を怠った。 なお,被告Aは,平成11年2月18日付けで,後期課程委員会に対し,「申立書」(丙8)を提出し,以後,原告には一切関与しないことを誓約したが,同書面は原告宛の誓約書ではなく,また,一切の研究妨害行為をしないことを誓約したものではないから,原告の危惧が解消されるものではない。 イ原告は,前記第3・5(3) のとおり,B大に対し,指導教官の変更を求め,平成11年3月27日ころには,Lに対し,指導教官をNへ変更するよう求めたのであるから,B大は,遅くとも平成11年度の開講までには,主指導教官を変更すべきであったのに,主指導教官の変更の措置が遅れた。すなわち,B大は,同年7月1日,原告に対 教官をNへ変更するよう求めたのであるから,B大は,遅くとも平成11年度の開講までには,主指導教官を変更すべきであったのに,主指導教官の変更の措置が遅れた。すなわち,B大は,同年7月1日,原告に対し,主指導教官を被告Aから教授であるTに変更することを告げたが,それまでに原告は指導教官をNに変更するよう求めていたにもかかわらず,それが無視されたことにより,最終的にNへの変更が後記課程委員会で承認された同月15日まで,時間を要したのである。その結果,原告は,同年4月15日に,B大への在籍が承認されて以後も,3か月に渡り,主指導教官がいない状態が継続し,学習・研究する環境が害された。 ウ前記のとおり,本件ガイドラインは,原告と被告国との在学契約の一内容をなすものであるところ,本件ガイドラインはセクシュアル・ハラスメントがあった場合に適切な対策をとることを目的とし,B大の責任と構成員の義務として,セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合には,迅速かつ適切に対処すべきとされており,このような本件ガイドラインの趣旨に照らせば,本件のように,本件ガイドライン制定前に救済が申し立てられた場合であっても,本件ガイドラインを適用して対処することが当然のことというべきであるにもかかわらず,これを怠った本件調査委員会には,義務違反がある。 エ文部省規程及び文部省指針は,第3・7(1) のとおりの規定を定め,相談者からの面談による事情聴取を当然の前提としており,本件ガイドラインも当事者に対し意見を表明する機会を保障しなければならないと規定している上,原告が再三に渡り,直接の事情聴取を行うよう求めたにもかかわらず,本件調査委員会は,原告に対し,面談による事情聴取を行わなかったのであって,手続の公平・適正を欠くというべきである。 原告は,F国に留学 が再三に渡り,直接の事情聴取を行うよう求めたにもかかわらず,本件調査委員会は,原告に対し,面談による事情聴取を行わなかったのであって,手続の公平・適正を欠くというべきである。 原告は,F国に留学中であったが,D委員長に対し,帰国の予定を事前に伝えたり,面談による事情聴取のためなら一時帰国するとも伝えていたのであるから,原告の留学は面談による事情聴取ができなかった理由となり得ない。 もし,本件調査委員会において,書面による事情聴取だけでなく,面談による事情聴取を行っていれば,主張の具体性,一貫性,証言態度などにより,自ずから浮かび上がる真実を知り得たはずである。 また,原告は,本件調査委員会に対し,前記第3・3(1) の被告Aの私信に記載された「スキャンダルとも言うべき事件」についての事実調査を強く求めていたにもかかわらず,同調査を行わなかった。同記載が真実か虚偽であるかは,被告Aの行為の悪質性や同人の悪意を推認させるものであって,かかる事実についての調査を怠った調査委員会は任務を懈怠したというべきである。 オ被告Aは,原告に対し,明らかに虚偽の事実を伝えたり,前記のとおり,「受験許可願・退学願」への署名・押印を拒否したことは,明白な事実であるにもかかわらず,本件調査委員会は同事実についての判断を回避したり,前記第3・3(1)の被告Aの私信は,アカデミック・ハラスメントであることが明白であるにもかかわらず,アカデミック・ハラスメントであると明確に認定しておらず,調査結果の内容は不当である。 これは,本件調査委員会の委員の同僚である被告Aに対する遠慮があったことや,本件調査員会委員には,被告Aと親しいUが含まれており,Uは,本件調査委員会の席上,原告の人柄について「依頼心が強い」「精神的に不安定」などと発言し,原告に対する予断や偏見を有 遠慮があったことや,本件調査員会委員には,被告Aと親しいUが含まれており,Uは,本件調査委員会の席上,原告の人柄について「依頼心が強い」「精神的に不安定」などと発言し,原告に対する予断や偏見を有していたことが疑われる上,同発言を問題視する調査委員もいなかったこと等によるものであって,本件調査委員会の構成自体,客観性・中立性・公平性を欠いている。 カ本件調査委員会は,原告の再三の求めにもかかわらず,原告に対し,調査の経緯について一切説明せず,調査委員会が入手した資料の一部を開示せず,その目録さえ明らかにしなかったため,原告は反論の機会を十分に与えられなかった。 また,本件調査委員会は,原告からの「要望」(甲68),「質問と要望」(甲70)及び「抗議と要望」(甲72)に対し,具体的に回答せず,平成11年12月16日になって初めて同委員会には本件ガイドラインの適用がないことを告知するなど,不誠実な対応に終始した。 キ本件ガイドラインには,前記第3・7(4) のとおり,具体的に採られた対応については相談者に誠実に説明することとし,学長は,大学の対応措置を被害者に知らせるとともに本人の利益を最優先させ,経過と結果を大学全体に公表することを定めている。にもかかわらず,C学長は,原告に対し,本件調査結果の結論のみを伝えただけで,結論に至った理由を説明せず,また,原告が出席することができない教授会において報告された本件調査結果の内容や被告Aに対する厳重注意の内容も説明しなかった。 ク前記オの本件調査委員会の不当な調査結果のため,被告Aに対する処分は,厳重注意にとどまり,原告が被った被害に比して,不当に軽いものであった。 また,B大では,被害を訴えている当事者の環境改善のため,被告Aの謝罪及び報復行為をしないとの誓約,原告の名誉回復措置が必要であった 注意にとどまり,原告が被った被害に比して,不当に軽いものであった。 また,B大では,被害を訴えている当事者の環境改善のため,被告Aの謝罪及び報復行為をしないとの誓約,原告の名誉回復措置が必要であったにもかかわらず,いずれもなされていない。 (被告国の主張)(1) 国立大学と院生との在学関係は,私立大学の場合における契約関係とは異なり,学長の入学許可という行政処分によって発生する法律関係であり,純然たる私法上の契約関係ではない。したがって,被告国が,在学契約に基づく債務不履行責任を負うことはない。 また,被告国が,原告に対し,信義則上の安全配慮義務一般を負うとしても,安全配慮義務は,信義則上の付随義務であって,具体的な実定法上の根拠を欠くため,その法的な性質や適用領域等があいまいである。したがって,雇用契約,公務員関係及び学校事故の領域における安全配慮義務の対象は,労働者,公務員ないし学生の生命,身体,健康等の安全であると解すべきであって,原告主張のような付随義務は認められるべきでない。 仮に,被告国が,原告に対し,研究教育環境を整える義務を負うとしても,被告国には,同義務違反はない。すなわち,原告の主張は,その義務内容が抽象的でいかなる具体的義務違反があったのか不明確である部分があったり,債務不履行責任として損害賠償責任が認められるためには,義務違反行為の態様と被侵害利益を相関的に判断して,当該行為が違法性を有することが必要であると解されるところ,原告主張の各行為は,後記(2) アないしクのとおり,いずれも原告に対する直接的な行為ではないか,不作為である上,原告の大学院生たる地位を剥奪したり,性的自由や人格権を侵害したりする性質のものではないからである。 (2) また,次のとおり,原告が主張するようなC学長やD委員長の対応は,正当な 理由 作為である上,原告の大学院生たる地位を剥奪したり,性的自由や人格権を侵害したりする性質のものではないからである。 (2) また,次のとおり,原告が主張するようなC学長やD委員長の対応は,正当な理由に基づくものであって,被告国は,債務不履行責任を負わない。 ア C学長は,原告の平成11年3月18日付け「申立て書」に対し,当初,Lを窓口として応対に当たり,原告の謝罪文の要求に応じて,被告Aから謝罪文の提出を受け,原告に示したり,第3・6のとおりの対応をしたりしたのであって,事案の解決を図るため,誠実に対応した。 また,原告主張のようなC学長の発言は,存しなかった。 イ主指導教官の選任・変更は,原告の研究計画や諸手続に照らし,慎重に行うべきであるから,一定の時間を要するところ,原告が,指導教官の変更を申し立てたのは,年度末であったため,Lは,新入生の主指導教官選任等のために多忙であったことや,原告の主指導教官をTとする案を作成したものの,原告の意向を受けて,N教官に変更する等したこと等の経緯があるのであり,原告の指導教官の変更が平成11年7月15日に決定されたことが特に遅れたものであるとはいえず,かつ,故意に遅延させたわけでもない。 また,原告は,平成11年3月27日ころに,Lに対し,主指導教官をNに変更するよう求めたと主張するが,Lが原告からNの名を聞いたのは,同年7月1日が初めてであって,原告の主張は失当である。 ウ本件ガイドライン及び本件規程が制定・施行されたのは,平成11年10月28日であって,それ以前である同年3月18日付けの原告の平成11年3月18日付け「申立て書」に基づき同年7月15日に設置された本件調査委員会等にこれを適用することは不可能であって,被告国には,これを遡及して適用する義務もない。 なお,原告の平成11年3月18日 3月18日付け「申立て書」に基づき同年7月15日に設置された本件調査委員会等にこれを適用することは不可能であって,被告国には,これを遡及して適用する義務もない。 なお,原告の平成11年3月18日付け「申立て書」に本件ガイドラインの適用がないとしても,後記エないしクのとおり,C学長やD委員長は,本件ガイドラインの趣旨を尊重した運用を行ったのであって,義務違反はない。 エそもそも,本件ガイドライン等には,事情聴取が予定されているものの,その方法について面談調査をすべきとする規定は存在せず,口頭で事情聴取するか,書面等により事情聴取をするかどうかは,調査委員の裁量に属する。そして,本件調査委員会は,原告がF国に滞在していることや,原告及び被告Aから多数の文書や資料が提出されたため,それ以上に口頭による事情聴取を行う必要がないと判断したのであって,著しく不相当な点はない。 オ本件調査委員会は,中立の第三者機関であって,当事者の主張等から事実の有無を判断するとはいえ,その主張が正しいか否か等の判断は自由になされるべきであって,調査結果が原告の主張と異なるとしても,直ちに義務違反となるものではなく,義務違反が認められるのは,証拠から容易に事実が認定できるのに,不当な目的等をもって明らかに別の事実を認定するかのような場合に限られると解されるべきである。 そして,本件調査員会は,被告Aの原告に対するセクシュアル・ハラスメント等の事実については,原告と被告Aの相互の主張が対立しており,そのほとんどが第三者のいない場所における言葉のやり取りに関する争いであったため,事実関係を確認することができなかったものの,被告Aの私信にある「スキャンダルとも言うべき事件」という記載は,大学院受験に関わる問い合わせへの回答においてなされるべき記述ではないと認定し,ま ため,事実関係を確認することができなかったものの,被告Aの私信にある「スキャンダルとも言うべき事件」という記載は,大学院受験に関わる問い合わせへの回答においてなされるべき記述ではないと認定し,また,本件調査委員会の委員は,いずれも「スキャンダルとも言うべき事件」の内容等を知らなかったのであるから,本件調査委員会は,証拠から容易に事実が認定できるのに,不当な目的等をもって明らかに別の事実を認定するようなことをしたものではなく,義務違反はない。 カ本件調査委員会やC学長は,次のとおり,正当な理由に基づき,原告資料の一部を開示しなかった。 原告に開示されなかった資料とは,本件調査委員会の調査報告書や被告AがLに対し「厳封・極秘扱い」として持参した文書(丙21の1)等である。前者について,C学長は,①本件調査委員会の報告書には第三者からの書簡の内容も記載され,第三者のプライバシーに関する情報を開示する結果となるため慎重に取り扱うよう要望したこと,②報告書が開示されることが前例になると,今後,同様の事案が発生した場合の調査に支障を来すおそれがあること,③原告に対し,調査報告書等を開示することが直接に事件の解決につながるものではなく,調査報告書の要旨・概要を伝えることで足りること等の理由により開示しなかった。後者については,原告とJについての私的事実関係があからさまに記述されていたことから,Lは,同文書を「極秘扱い」とし,そのまま学生部長である同人の手元に保管することとし,本件調査委員会にも提出されたことはない。 この外,本件調査委員会において収集した資料のうち,調査委員会宛に提出された資料ではなく,大学宛に提出された資料は,本件調査委員会には開示・非開示の決定権限がないものとして,原告はもちろん,被告Aにも開示していない。 また,本件調査委員 資料のうち,調査委員会宛に提出された資料ではなく,大学宛に提出された資料は,本件調査委員会には開示・非開示の決定権限がないものとして,原告はもちろん,被告Aにも開示していない。 また,本件調査委員会は,原告に対し,随時,文書で連絡を取り合いながら調査を進めたのであって,D委員長が原告に対する報告を怠ったものではない。 キそもそも前記ウのとおり,原告の平成11年3月18日付け「申立て書」に対しては,本件ガイドラインを適用すべき義務はないが,C学長は,平成12年4月3日,原告に対し,本件調査委員会を設置して調査を行ったことや調査報告書の要点について説明するとともに,被告Aに厳重注意をしたことを伝えたのであり,説明義務を果たしていないとはいえない。 C学長は,同年4月14日の学部教授会及び同月20日の大学院前期・後期課程委員会において,本件調査委員会の調査結果について報告するとともに,個人名は明らかにしないままある教官に厳重注意を行ったことを報告したが,これを原告に対して説明しなかったのは,前記のとおり,原告には既により詳しい説明を済ませていたことによる。また,教授会での報告自体は,教職員を対象とした学内規律の保持・改善の一環として行われたものであって,そのような対応の一環としての教授会での処分の報告を学生である原告に伝える必要はない。 ク C学長は,平成12年4月3日,本件調査委員会からの報告を受けて,被告Aに対し,厳重注意を行うとともに,セクシュアル・ハラスメントに対する意識の低さがみられる旨,補足して指摘しており,C学長に義務違反はない。 さらに,厳重注意は,大学内部の規律保持のために服務監督者であり職務上の上司である学長が,部下職員である教官の行動を戒め,その注意を喚起しようとする指導監督上の措置であって,国家公務員法に基づく法律的な効 ,厳重注意は,大学内部の規律保持のために服務監督者であり職務上の上司である学長が,部下職員である教官の行動を戒め,その注意を喚起しようとする指導監督上の措置であって,国家公務員法に基づく法律的な効果を有する懲戒処分ではないため,取消訴訟等の対象にはならず,厳重注意を受けた被告Aもその軽重や当否を争うことはできないことや,大学のような「一般社会の中にあってこれとは別個の自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の紛争の如きは,それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的問題にとどまる限り,その自主的,自律的な解決に委ねるのを適当とし,裁判所の司法審査の対象とならないものと解するのが,相当である」(最高裁昭和52年3月15日第3小法廷判決・民集31巻2号234頁)から,厳重注意の軽重や当否を裁判所において審査し判断しうるところではなく,C学長が被告Aを厳重注意としたことが原告に対する義務違反行為とはなり得ない。 また,B大は,前記キの教授会での報告や,前記の被告Aに対する厳重注意やセクシュアルハラスメントに対する意識の低さの指摘以外にも,全学に向けた環境改善の措置を行った。これは,本件ガイドラインの趣旨に則った適切な取組である。 4 争点4(損害額)について(原告の主張)原告は,前記被告Aの行為により,多大な精神的苦痛を受け,また,C学長ないしD委員長が,被告Aの行為について,適切に対処して,原告に対し,良好な教育環境を整えるべき義務を怠ったことによっても多大な精神的苦痛を被った。以上の原告の苦痛は,金銭に見積もれば,700万円を下らない。 また,原告は,被告Aの行為に対し,代理人らに依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなった。よって,弁護士費用として,上記額の1割に相当する70万円が,加害行為と相当因果関係のある損害で を下らない。 また,原告は,被告Aの行為に対し,代理人らに依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなった。よって,弁護士費用として,上記額の1割に相当する70万円が,加害行為と相当因果関係のある損害である。 第6 当裁判所の判断 1 争点1(被告Aの行為の有無及び同行為に基づく被告国の責任の有無)について(1) 証拠(甲1ないし21,28,29,31,35ないし38,41ないし45,49,53ないし57,60,63,84,88,90の1ないし97の11,100の1ないし104の3,乙1,3ないし8の2,12の3ないし14,18,丙1,3,5,16,21の1・2,証人L,証人D,原告,被告A)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 ア(ア) 被告Aは,昭和49年春ころ,Jの推薦により,B大助手となり,平成9年3月,B大大学院後期課程担当教官資格を得た。その際,同課程において,博士論文指導を行うことができる教官は,B大F語教官の中では,被告Aだけであり,同人は,そのことに強い自負を持っていた。 (イ) 原告は,平成9年5月,Jの推薦により,同年4月に設置されたB大大学院博士後期課程言語社会専攻に1期生として入学し,被告Aが,原告の主指導教官となった。 被告Aは,原告に対し,F語学科の中で被告Aしか博士課程後期の主指導教官をできる教官はいない旨を述べた。 (ウ) 原告は,B大に在籍したまま,平成11年7月,渡Fし,現在,F国のV大学に在籍している。 イ原告と被告Aの専門分野は,共にF言語学であるが,原告の研究テーマであるF語の慣用句に関する研究は,被告Aの専門である生成文法に関する研究とは,その研究手法において,異なるものであった。 なお,原告は,B大入学以後,現在に至るまで,一貫して,F語の慣用句に関する研究を研究テーマとしている。 究は,被告Aの専門である生成文法に関する研究とは,その研究手法において,異なるものであった。 なお,原告は,B大入学以後,現在に至るまで,一貫して,F語の慣用句に関する研究を研究テーマとしている。 被告Aは,上記のような研究手法の相違や,自宅が大学から遠方であることを理由として,平成9年度に開講された3コマの授業を除く外は,後期課程用の授業を開講せず,原告に対し,前記課程用の授業に出席するよう指示したり,大学での授業は通勤が大変であるため,電子メールで指導をしたいと申し出たりした。 また,被告Aが,原告の論文に目を通し,意見を述べたのは,G大学F文学研究会に提出された「認知慣用句論のための一考察」と題する論文のみである。原告は,外に2本の論文を執筆し,それには,原告が,平成10年前期の始めころ,被告Aに対して行った口頭レポートをまとめた論文を含むものの,被告Aは,論文そのものには目を通していない。 ウ被告Aは,主指導教官として,後記エの推薦状の外,奨学金貸与のための推薦状を書いたり,B大におけるティーチングアシスタントやリサーチアシスタントに原告を推薦した。 一方,被告Aは,原告に対し,被告Aが非常勤講師を務めるH大学やW大学で行われた試験の採点を指示したり,F語学科の受験者の呼出の仕事をするよう指示したりしたが,原告は,被告Aの指示に従わなければ,今後の研究活動に支障が出ると考え,指示に従っていた。 エ(ア) 原告は,平成9年7月ころ,F国留学のため,丙(F学術交流会)奨学金に応募することにした。同応募に際しては,原告は,Jから,留学の受け入れ先となるF国側の研究者の紹介を受け,必要書類である2名の教官からの推薦状は,被告AとJが作成することとなった。 また,同応募に当たっては,研究計画書が必要であったが,被告Aは,原告の研究分野の専 先となるF国側の研究者の紹介を受け,必要書類である2名の教官からの推薦状は,被告AとJが作成することとなった。 また,同応募に当たっては,研究計画書が必要であったが,被告Aは,原告の研究分野の専門家ではないことを理由に,同計画書作成についての指導を行わなかった。 そのため,原告は,Jに相談し,同人から,研究計画書作成の指導を受けることとなった。 (イ) 原告は,同月下旬,研究計画書の作成のため,Jの自宅を訪ねた。原告とJは,研究計画書の下書きをほぼ終え,夕食後,テラスで雑談をしていた際,Jが原告の肩に手を置き,抱き寄せたため,驚いた原告が,Jに対し,「やめてください。」と言ったところ,Jは,すぐに手を離し,原告に謝罪した。 原告は,その直後,帰宅した。 (ウ) 被告Aは,同年8月ころ,原告に対し,和文と英文の推薦状を作成の上,交付した。その際,被告Aは,原告に対し,推薦状の必要部数と,原告の控え用1部をコピーするよう指示し,原告がコピーを終えた後,被告Aは提出する推薦状を厳封した。 同推薦状の内容は,原告に対し,非常に好意的なものであったので,原告はうれしく感じた。 (エ) 同年9月初旬ころ,丙奨学金応募に必要な書類はほぼそろったものの,Jの推薦状だけが欠けていたため,被告Aは,原告に対し,Jから推薦状が届かない理由について詰問した。 そのため,原告は,被告Aに対し,前記(イ)の出来事を話さざるを得なくなった。 オ(ア) 被告Aは,平成9年6月7日,O大学で行われた日本F文学会の後の食事会で,原告や10人程度の研究者の前で,原告は独身なので結婚相手を募集中であり,彼氏若しくは結婚相手となる人がいれば紹介してやってほしい旨発言し,その場にいた独身男性を指して「彼などはどうだ。」と聞き,同男性に対しても「彼女と交際してみたら。」などと発言した を募集中であり,彼氏若しくは結婚相手となる人がいれば紹介してやってほしい旨発言し,その場にいた独身男性を指して「彼などはどうだ。」と聞き,同男性に対しても「彼女と交際してみたら。」などと発言した。 (イ) 被告Aは,同年6月ころ,原告に対し,Pについて,「彼は若く見えるが,40を過ぎて妻子持ちだ。君の恋愛相手にはならない。同教授は原告の連絡先を聞くなどしてナンパ行為を研究室でした。気をつけなさい。」と発言し,原告は不快感を感じた。 (ウ) 被告Aは,原告がB大に入学してまもなくのころ,原告に対し,通勤のための自動車に同乗するよう勧めた。原告は,親切な申し出であると感じ,同乗することにした。 しかし,被告Aは,平成9年5月ころから平成10年6月ころまでの間,車内において,原告に対し,「結婚について,どう考えているのか。」「今付き合っている男性はいるのか。」「一流の学者を結婚相手として考えなさい。付き合う相手も,この先どうなるかわからないような学生なんかではなく,学者にしなさい。」などと発言した。 (エ) 被告Aは,平成9年10月ころから,原告を研究室に呼び,「君は頻繁に飲み歩いて遊んでいるのではないか。」等,原告が研究をおろそかにしているのではないかと疑う旨の発言をした。 (オ) 被告Aは,平成10年2月ころ,原告に対し,「一緒にスキーに行こう。僕とふたりっきりで行くことが心配だったら息子も連れて行くから。」と言ってスキーに誘った。 (カ) 被告Aは,平成10年4月ころ,原告に対し,「4月10日は京都に出てきているので,君が出ているゲーテ・インスティトゥートの授業が終了した後,H大会館前で11時30分に会い,いろいろ話をしておきたい。」と誘ったところ,原告はこれに応じ,会う約束をした。しかし,被告Aの急用のため,約束は中止となった。後日 ティトゥートの授業が終了した後,H大会館前で11時30分に会い,いろいろ話をしておきたい。」と誘ったところ,原告はこれに応じ,会う約束をした。しかし,被告Aの急用のため,約束は中止となった。後日,被告Aは,原告に「デートができなくて残念だった。」「ドライブした後,食事をしてお酒でも飲みに行こうと思っていたのに。」と発言した。 (キ) 原告は,被告Aの自動車に同乗することが苦痛となったため,平成10年9月ころ,同人に対し,同乗を断る旨申し出て,以後,電車で通学するようになった。 カ原告は,前記イないしオのような被告Aの発言や態度に嫌悪感を感じ,また,被告Aの充分な指導がない状態で,今後,博士論文の執筆をどのように進めればよいのか困難を感じ,被告Aと話し合う必要があると考えた。 そこで,原告は,平成10年9月下旬から10月中旬にかけて,被告Aとの間で,数回にわたり,原告に対する指導や研究の進め方について話し合ったところ,被告Aは,最後の話合いの際,原告に対し,「指導はしない。指導が必要なら,他に先生を探しなさい。その代わり,博士論文を書いたら,それは自分の下で書いたことにすること」「そもそも,君は女性特有の悩み,結婚のことで苦しんでいる。そのことに気付かず,自分(被告A)が指導しないことが苦しみの原因だと錯覚している。そんな学生には付き合いきれないから,精神科にかかって本当の自分を理解してきなさい。」などと発言した。 そのため,原告は,被告Aとの間でこれ以上話合いを続けることはできないと感じ,被告Aに対し,2か月ほど,授業を休むと申し出,被告Aはこれを了承した。 その後,原告は,主指導教官の変更はできないと思いこんでいたため,これ以上,被告Aの下で研究を続けることができないのであれば,研究を続けるためにB大を退学せざるを得ないと考えるとともに を了承した。 その後,原告は,主指導教官の変更はできないと思いこんでいたため,これ以上,被告Aの下で研究を続けることができないのであれば,研究を続けるためにB大を退学せざるを得ないと考えるとともに,自らの研究に適した環境があるのはH大学であると考えるに至り,H大学の大学院を受験することを決意した。 原告は,平成10年12月11日,被告Aに対し,同決意を伝えるため,面談を求める電子メールを送信した。 これに対し,被告Aは,同月12日,面談する時間がとれないことや,今後のことは原告が信頼できると思う人に相談して,すべて自由に判断するよう,電子メールで回答した。 キ原告は,平成11年1月8日,H大学のIと面談し,同人の所属する講座(略)を受験したい旨申し出たところ,Iは原告の受験を了解した。 原告は,同月10日,被告Aに対し,電子メールを送信し,原告は認知言語学等を基礎から学べるのはH大学であると考え,H大学を受験すること,Iが原告の受験を了解したこと,H大学の合否にかかわらず,B大を退学する決意であることを伝えるとともに,被告Aとの面談を希望した。 これに対し,被告Aは,同日,原告に対し,原告の人生であるから原告の自由な判断に任せること,退学の承認印はいつでも押すこと,B大を退学するに当たり,被告Aに対する面談や挨拶等は一切不要であることを電子メールで伝えた。 被告Aは,同メールを送信直後,原告に対し,さらに電子メールを送信し,原告が入会していた乙の方針は,原告の今後の研究方向とは相容れないことを理由に退会を勧め,被告Aが退会手続をとることを伝えた。 ク Iは,原告と面談した翌日である同月9日付けで,被告Aに対し,大学院を変わることは様々な問題をはらんでおり,Iにとっても経験のないことであるため,被告Aが原告のH大学受験について,どのような見解 ク Iは,原告と面談した翌日である同月9日付けで,被告Aに対し,大学院を変わることは様々な問題をはらんでおり,Iにとっても経験のないことであるため,被告Aが原告のH大学受験について,どのような見解を持っているのか問い合わせる手紙を郵送した。 被告Aは,同月12日ころ,Iの手紙を受け取り,同月15日付けで,Iに対し,別紙1のとおりの手紙を郵送した。 被告Aは,同手紙に,「小生にとりましてもあまりに突然なことでしたので,困惑を覚える」「進路変更につきましては当人との間では話し合いはなかった旨お伝え致します。」と記載し,その外「当然のことながら,在籍のままの受験は許可しかねます。」と明記し,H大学受験の前提として,原告がB大を退学すべきであるという見解を明らかにした。 さらに,被告Aは,同手紙1頁下において,「微妙な内容を含みますので,次葉はお目通しなさらず,そのまま廃棄していただいて結構です。」と記載し,同2頁以下には,「当時,当人はかなり不安定な精神状態にあったようで,自分の考えを整然と説明することにも困難をきたしている様子でした。」「彼女が一昨年の夏,スキャンダルともいうべき『事件』を起こした」と記載した外,被告Aは,前記のとおり,原告から,前記イのとおりの原告の研究テーマを全うするための話し合いを求められていたにもかかわらず,「当人より『慣用句』の研究は止めることとした(略)と聞かされました。」と記載した。 原告は,同月23日,H大学での読書会の後の夕食会に参加したところ,原告の前の席に座ろうとしたIが「原告の前に座ると,原告に変な噂を立てられるかもしれないから,この席はよくないかもしれない。」と発言したり,原告を避けているような態度を示した。 ケ被告Aは,平成5年ころから平成8年ころまでの4年間にわたり,B大の教務委員を務めた。そ るかもしれないから,この席はよくないかもしれない。」と発言したり,原告を避けているような態度を示した。 ケ被告Aは,平成5年ころから平成8年ころまでの4年間にわたり,B大の教務委員を務めた。そのため,学生が他大学を受験する際の手続や実際の運用について熟知する立場にあった。 被告Aは,当時,H大学非常勤講師であったため,H大学を訪れた際,ポスター等を見て,原告が受験する予定である試験の願書締切日が平成11年1月27日であることを知った。 被告Aは,同月22日,原告に退学手続の必要性を伝えないまま,H大学でIと同じ教室の助教授であるXに対し,原告がB大に在籍したままでのH大学受験には問題がある旨を連絡した。これを受け,Xは,同月24日,原告に電話して,被告Aの前記連絡内容を伝えた。 そこで,原告は,同月25日,B大教務課に対し,H大学を受験するに当たって必要な手続について尋ねたところ,同課員のYは,原告に対し,本件学則上,他大学を受験する前に,退学することが必要であるが,受験先の大学が,受験時に退学証明書を求めていない場合には,3月末日付けの退学届を提出すればよいという,前記第3・4(4) の取扱と同様の取扱を説明した。 コ被告Aは,H大学の受験願書の締切日である平成11年1月27日,Pに対し,原告がH大学を受験するに当たり,退学手続をとっていないことを伝えたため,Pは,原告に対し,退学手続について確認することにした。 同日,原告は,Pから,原告が退学手続をとらないことを被告Aが問題視していることを聞いたため,再度,Yに対し,他大学受験に必要な手続を確認したところ,Yは,前記ケと同様の説明をしたが,その後,Yは,原告に対し,一旦,「受験許可願・退学願」を提出してもらいたいこと,H大学不合格の際は,同書類を破棄することを伝えたため,原告は 続を確認したところ,Yは,前記ケと同様の説明をしたが,その後,Yは,原告に対し,一旦,「受験許可願・退学願」を提出してもらいたいこと,H大学不合格の際は,同書類を破棄することを伝えたため,原告は,これに従い,「受験許可願・退学願」を仮に提出することにした。 原告は,同日付の電子メールで,被告Aに対し,「受験許可願・退学願」を仮に提出することにした経緯を説明するとともに,「今すぐ退学することはしないでおこうと思います。」と伝えた。 その後,原告は,被告Aからの電子メールを確認した。同メールは,原告に対し,原告が既にH大学に受験願書を提出したのか問い合わせるとともに,B大に在籍しながら,H大学を受験することは,B大だけでなく,H大学との間でも問題を引き起こす可能性があると示唆し,被告Aに対し,早急に報告するよう求めるものであった。 原告は,被告Aに対し,電子メールを送信し,「受験許可願・退学願」を郵送するので,同書面への押印をするよう求め,翌28日,同書面を郵送した。 サ被告Aは,平成11年1月28日付けで,Jに対し,別紙2のとおりの手紙を郵送した。被告Aは,同手紙において,「彼女には特異な性癖もあるようで,以前にも口にするのも憚られるようなことを漏らすことがありました。」と記載した。 シ被告Aは,平成11年2月1日,B大教務課係長であるZに対し,電子メールで,原告の退学手続について問い合わせた。 同メールには,原告が,指導教官である被告Aに無断で,いわば「網の目を潜った」かたちでの受験である等,原告が退学手続をとらずに受験したことが殊更に強調されている。 B大教務課課長である甲は,同メールを受けて,同月2日,被告Aに電話した。 被告Aは,同電話の後,甲に対し,電子メールを送り,自らの判断で,原告に対し,「退学願」を提出させることとする旨を れている。 B大教務課課長である甲は,同メールを受けて,同月2日,被告Aに電話した。 被告Aは,同電話の後,甲に対し,電子メールを送り,自らの判断で,原告に対し,「退学願」を提出させることとする旨を報告した。 被告Aは,同日,原告に対し,電子メールを送り,原告が被告Aに対して送付した「受験許可願・退学願」の用紙を受け取ったが,関係部局及び委員会で審議されることとなったため,その結論が出るまでは押印できないことを伝えた。しかし,関係部局及び委員会で,原告のH大学受験の手続等について,審議されたことはなかったし,審議されると決まったこともなかった。 また,同メールにおいて,被告Aは,受験願書に記載したであろう最終学歴の内容を被告Aに対し,知らせるように求めるとともに,H大学に編入し,認知文法を専門とはしない教授の下で原告の研究テーマの指導を受けたいという希望又は研究計画を「文書」の形で速やかに郵送するよう求め,さらに,奨学金は退学と同時に返納する必要があると伝えた。 原告は,同日,被告Aの電子メールに対し,退学願は郵送すれば押印するとのことであったのに,被告Aが押印し,返送しないことに抗議のメールを送信した。 被告Aは,翌3日,同メールに対し,B大の教官として正当な手続の履践を求めているだけである旨を回答した。 ス被告Aは,平成11年2月9日付けで,原告に対し,前記「受験許可願・退学願」とは異なった様式の「退学願」を郵送し,必要事項を記入の上,被告Aに対し,返送するよう求めた。その際,同封したメモに,退学期日は,同年3月31日でなければ,事務手続上間に合わない旨書き添えた。なお,同「退学願」は,原告が受験した翌日の同年2月11日,原告の元に届いた。 セ原告は,平成11年2月10日,H大学を受験した。 被告Aは,同月15日,原告に対し,電子メール 合わない旨書き添えた。なお,同「退学願」は,原告が受験した翌日の同年2月11日,原告の元に届いた。 セ原告は,平成11年2月10日,H大学を受験した。 被告Aは,同月15日,原告に対し,電子メールを送信し,同月16日午後2時前後に教務課前ロビーに記入済みの「退学願」を持参すれば,確認の上押印する旨連絡したが,原告は,被告Aの意図を図りかね,返事をしなかった。 原告は,同月19日,同受験が不合格であった旨の連絡を受けたため,副指導教官であったKに対し,B大への在籍を続けることができるかどうかについて相談したところ,Kは,B大に在籍を続ければ,Aの嫌がらせが続くことが予想されるため,B大を退学し,H大学大学院の研究生になるよう勧めた。 原告は,同月26日,「退学願」にKの押印を得た上,教務課に提出し,同願は,同年3月2日付けで,許可された。 原告は,その後,H大学大学院の研究生に申し込んだが,その際の研究テーマは,「慣用句の使用から見た共通理解の成立」であった。 ソ被告Aは,平成11年6月18日付けで,Lに対し,「スキャンダルとも言うべき『事件』(I教授宛私信中の文言)に関する説明」と題する書面を提出した。 その際,被告Aは,Lに対し,同書面を他人には見せないように希望したため,Lは,同書面を極秘扱いとし,本件調査委員会にも提出しなかった。 同書面には,原告が,被告Aに対し,Jが,原告に抱きつき,キスをしようとして原告を押し倒したため,原告は驚いてJの自宅を飛び出したという内容の話をしたこと,その際,被告Aは,原告に対し,今後,Jとはコンタクトをとらないようにするよう忠告したものの,その後も原告とJの関係は切れることがなかったこと等が記載されている。 タ被告Aは,平成11年8月20日付けで,本件調査委員会へ提出した「申立書Ⅰ」と題する書面にお ようにするよう忠告したものの,その後も原告とJの関係は切れることがなかったこと等が記載されている。 タ被告Aは,平成11年8月20日付けで,本件調査委員会へ提出した「申立書Ⅰ」と題する書面において,平成10年10月15日,原告から,突然,今までの研究テーマには関心を失ったこと,場合によっては研究の世界を離れてもよいという気持ちを持っていること等を言われた旨を記載した。 また,同書面には,原告が,被告Aに対し,原告がG大学大学院に在籍中,指導教官から「神経科で診てもらったらどうか。」と言われたことがあると告白した旨や,原告がB大を受験する際に提出した受験願書の記載事項である同大学院指導教官の学習所見は,原告に対し,厳しい評価であったため,原告と指導教官との間で指導上のある種の不和を引き起こしていたことが想像できることや,原告は,平成9年10月ころ,交際していた男子学生との関係に悩み,研究が進捗せず,不眠症や食欲不振があり,通院していたこと等が記載され,本件調査委員会に提出された原告の主張は,すべて事実に反する旨の記載がある。 (2) 以上に対し,被告Aは,原告が,慣用句についての研究に対する意欲を失ったため,被告Aの授業を休むと言ったと供述する。しかし,原告が,H大学大学院の研究生に申し込んだ際の研究テーマもB大大学院に在籍していたときと同じ慣用句についてのものとしたことに照らすと,同供述は採用できない。 また,被告Aは,原告に「退学願」を郵送したのは,平成11年2月10日の午前9時から同10時までの間に,教務課から電話があり,課長の甲の意向として,被告Aにおいて,原告に対し,「退学願」を提出するよう手配してほしいとの依頼があったためであると明確に供述するが,被告Aが原告に対し郵送した「退学願」とともに同封されたメモは2月9日付けである て,被告Aにおいて,原告に対し,「退学願」を提出するよう手配してほしいとの依頼があったためであると明確に供述するが,被告Aが原告に対し郵送した「退学願」とともに同封されたメモは2月9日付けであること,被告Aの甲に対する同月2日付けのメールにおいて,被告Aが原告に提出させると報告した「退学願」は,当法廷における被告Aの供述によると,「受験許可願・退学願」のことであったのだから,同日までに原告から同書面を受け取っていた被告Aは,同書面に押印すれば足りたにもかかわらず,原告に対し,関係部局及び委員会で審議されることとなったため,その結論が出るまでは押印できない旨の電子メールを送っていることに照らすと,その供述内容は不合理といわざるを得ない。さらに,被告Aの同供述は,被告国が,その準備書面において,原告の退学手続に関し,学務委員会等が,開かれることになったことも,開かれたこともないと主張していることとも符合しない。 被告Aの供述は,以上のとおり,原告がB大を退学する決意をしたことや,被告Aが原告に対し,「退学願」の提出を求めることとなった経緯という,本件訴訟における主要な部分について,合理的な説明が全くできておらず,採用できない。 一方,原告の供述は,平成11年3月18日付けで,C学長に対し,提出した「申立て書」,同年7月21日付け及び平成12年1月27日付けで,本件調査委員会に対し,それぞれ提出した「申立書(その二)」,「申立書(その三)」と,ほぼ一致しており,原告の供述は,初めて,被告Aの行為に対する救済を申し立てたときから,一貫していると認められる上,その供述内容は具体的かつ詳細であり,関係者の陳述書の記載内容とも符合する等の点に鑑みると,高い信用性を有するというべきである。 (3) 以上の事実と前記第3の事実を総合すると,当時,被告A れる上,その供述内容は具体的かつ詳細であり,関係者の陳述書の記載内容とも符合する等の点に鑑みると,高い信用性を有するというべきである。 (3) 以上の事実と前記第3の事実を総合すると,当時,被告Aは,B大における唯一の博士課程主指導教官として,原告に対し,学位を授与するか否かという重要な判断を行う権限を持っていた上,主指導教官は,奨学金の申込みや留学試験,就職等の際に推薦状を書くこと等から,院生の研究や生活に対し,事実上,大きな影響力を持つ立場にあったところ,原告は,被告Aが不十分な指導しか行わないため,自らの研究が全うできないことに悩み,被告Aに対し,指導を行うよう求めたのに対し,被告Aは,自らの指導不熱心を棚に上げ,原告の悩みは女性特有の悩みであるから精神科へ行くようにという差別的発言をしたため,原告は,被告Aの下で研究を続けることはできないと考えるに至り,不利益は大きいにもかかわらず,B大を退学し,他大学へ研究の場を移す決意をせざるを得なかったことが認められる。 そして,被告Aは,原告がH大学大学院を受験することが分かるや,受験先の同大学大学院の教授であるIや恩師であるJに対し,合理的な理由もないのに殊更原告がスキャンダルを起こしたという虚偽の性的悪評を知らせたこと,さらに,被告Aは,4年間に渡り教務委員を務め,また,原告に関する手続のために,何度も教務課と連絡を取り合っていたのだから,B大の学部生が他大学を受験する際には,厳格には手続の履践を求めていないことを聞く機会があったであろうと思われるのに,原告に対し,学則上の手続を履践するよう求める一方,前示のとおり,原告から郵送された「受験許可願・退学願」に押印し,提出すれば良い機会があったにもかかわらず,これを行わず,原告に対し,学務委員会の決定があるまでは押印できないという虚 う求める一方,前示のとおり,原告から郵送された「受験許可願・退学願」に押印し,提出すれば良い機会があったにもかかわらず,これを行わず,原告に対し,学務委員会の決定があるまでは押印できないという虚偽の事実を伝えたりしたこと等を総合すれば,被告Aには,原告のH大学大学院受験を妨害する意図があったことが推認される。 その上,被告Aは,Lに対しても,原告とJが不倫関係にあるかのような内容の書面を交付する等して,原告に関する虚偽の性的悪評を伝えている。 被告Aの以上の行為は,原告が有する良好な環境で研究を行う法的利益や,原告の名誉・信用等を侵害するものであって,不法行為に該当し,国立大学大学院における院生に対する研究指導という公権力の行使に当たる同人が職務を行うについてなしたものというべきである。 したがって,被告国は,国家賠償法1条1項により,被告Aの上記行為により,原告が被った損害について賠償すべき責任がある。 なお,原告は,前記第6・1(1) オ認定の平成10年9月以前の被告Aの言動についても,セクシュアル・ハラスメントとして不法行為を構成すると主張する。確かに,被告Aの上記一連の言動は,相手の立場や状況等をわきまえない,大学教員としての思慮分別を欠いた行為であるとのそしりは免れず,これにより原告に不快感を与えたことは否定できないが,しかし,他方,同言動は,原告に対する悪意から出たものとは認め難いのみならず,言動の内容,態様,原告に与えた不快感の程度等をも総合して勘案すると,未だ社会通念上損害賠償を認めなければならないほどの違法性があるとは認められず,不法行為を構成するとはいえない。 2 争点2(被告Aの不法行為責任)について公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国が ず,不法行為を構成するとはいえない。 2 争点2(被告Aの不法行為責任)について公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負わないと解される(最高裁昭和30年4月19日第3小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁昭和47年3月21日第3小法廷判決・裁判集民事105号309頁,最高裁昭和53年10月20日第2小法廷判決・民集32巻7号1367頁)。 したがって,前示のとおり,被告国は,国家賠償法1条1項により,被告Aの上記行為により,原告が被った損害について賠償すべき責任を負い,被告Aはその責を負わない。 3 争点3(C学長ないしD委員長を履行補助者とする被告国の債務不履行責任)について(1) 原告は,国立大学と院生との在学関係は,私法上の契約関係であると主張する。しかし,国立大学における在学関係は,学長の入学許可という行政処分によって発生する法律関係であって,一般私法上の契約関係ではないと解されるから,かかる原告の主張は失当である。 (2) 次に,原告は,被告国は,原告に対し,信義則上,本件ガイドライン及び本件規程に従って,学生からセクシュアル・ハラスメントやアカデミック・ハラスメントにより良好な環境で教育を受ける権利が侵害されているとの救済の申立てがあったときには,直ちに適切に対処し,学生が安心して教育を受け,研究できる環境を回復する具体的な措置をとる義務があると主張する。 確かに,国は,私人に対し,一般不法行為法上,当該私人の生命・身体・財産等の法益を保護すべき義務を負担する外,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方 不法行為法上,当該私人の生命・身体・財産等の法益を保護すべき義務を負担する外,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対し,信義則上の安全配慮義務を負う場合があると解される(最高裁昭和50年2月25日第3小法廷判決・民集29巻2号143頁参照)。 これを本件についてみるに,国立大学と院生との在学関係は,前記学長の入学許可という行政処分により発生する法律関係であるところ,被告国は,同法律関係に基づき,信義則上,教育ないし研究に当たって支配管理する人的及び物的環境から生じうべき危険から,学生ないし院生の生命及び健康等を保護するよう配慮すべき義務を負うものと解される。 しかしながら,原告の主張を前提としても,被告国に,原告の主張する注意義務違反があったからといって,それにより原告の生命及び健康等が害されたというものではないから,同注意義務違反をもって直ちに被告国の安全配慮義務違反があったものとすることはできないというべきである。 (3) 仮に,そうでないとしても,被告国は,以下に述べるとおりの理由により債務不履行責任を負うものではない。 前記第3の事実及び第6・1(1) の事実に証拠(甲1,9,15ないし19,23,24,32,33,39,40,48,59ないし97の11,103,乙1,18,24の1・2,丙1ないし27,証人L,証人D,原告,被告A)及び弁論の全趣旨を総合すると,B大は,平成11年3月18日付けの原告の「申立て書」を受け,Lを中心に対応した結果,同月末日までには,原告の在籍と奨学金の継続受給は可能となったこと,同月27日付けで提出された原告の主指導教官の変更を希望する旨の書面に対し,B大は,最終的には原告の希望を入れて同年7月15日に,主指 末日までには,原告の在籍と奨学金の継続受給は可能となったこと,同月27日付けで提出された原告の主指導教官の変更を希望する旨の書面に対し,B大は,最終的には原告の希望を入れて同年7月15日に,主指導教官を被告AからNに変更する決定をしたが,同時期に,前期課程の院生についても主指導教官の変更が決定されたことが認められる。同事実に照らすと,原告の主指導教官変更は特に遅れてはいなかったことが認められ,原告が受けた不利益は,比較的早期に回復されたものというべきである。 また,C学長は,第3・6のとおり,原告の初めての申立てがあった平成11年3月18日以降,3か月弱の間に,私的な諮問委員会を設置したり,本件調査委員会を設置したりして,原告の申立てに対応していたことが認められるが,同期間が長きにすぎるとも認められない。 そして,本件調査委員会は,本件ガイドラインが制定されるよりも以前に発足したことが認められるから,当然には,本件調査委員会に,本件ガイドラインが適用されるものではなく,また,本件ガイドラインは,セクシュアル・ハラスメントへの対応に関する一定の基準を示したものにすぎないから,これに反したことが直ちに義務違反を構成するとはいえない。 加えて,前掲各証拠によれば,本件調査委員会は,原告及び被告A双方に対し,文書による事情聴取を行い,同様の資料を開示して,両当事者間の公平を図っていること,その調査結果は,原告が主張する被告Aの言動や原告に対する受験妨害を認めてはいないが,被告Aのセクシュアル・ハラスメントに対する意識の低さを指摘し,同人がIに郵送した手紙にある「スキャンダルとも言うべき事件」という記載は不適切なものであることを認めた内容となっていることが認められ,内容が不当なものということはできないし,それに基づきC学長が被告Aを厳重注意した 手紙にある「スキャンダルとも言うべき事件」という記載は不適切なものであることを認めた内容となっていることが認められ,内容が不当なものということはできないし,それに基づきC学長が被告Aを厳重注意したこと(乙1)が不当に軽いとはいえない。 また,前掲各証拠によれば,C学長の指示を受けていたLやD委員長は,原告の求めに応じ,再三の面談や文書による経緯の説明を行っていたことが認められ,説明が不十分であったとはいえない。 本件全証拠に照らし,原告の主張するその他の事由を検討しても,C学長やD委員長の行為が義務違反に当たるとはいえない。 以上からすると,C学長やD委員長の行為は,義務違反に当たらないというべきであり,被告国は,原告に対し,C学長やD委員長を履行補助者とする債務不履行責任を負わない。 4 争点4(損害額)について前記第3の事実に第6・1(1) の事実を総合すると,原告は,被告Aが充分な研究指導をせず,また,原告が女性であることに基づく侮辱的発言により,被告Aの下での研究を断念せざるを得なくなった上,新たな研究活動の場を求めて他大学の大学院を受験しようとしたにもかかわらず,被告Aから受験妨害の意図で合理的な理由もなく,退学手続を強要されたり,受験先の教官や原告の恩師に対し,虚偽の性的悪評を流布されたりし,さらに,上記のような被告Aの行為について救済を求めたところ,自己の立場を弁護しようとした被告Aにより,さらに性的悪評を広められたのであって,これら一連の被告Aの行為は悪質というべきである。 以上の諸事情に鑑みると,原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料は100万円及び弁護士費用として同額の1割である10万円と認めるのが相当である。したがって,被告国は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,110万円を支払うべき義務がある。 第7 結語 謝料は100万円及び弁護士費用として同額の1割である10万円と認めるのが相当である。したがって,被告国は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,110万円を支払うべき義務がある。 第7 結語以上のとおり,原告の請求は,被告国に対し,110万円及びこれに対する不法行為後で訴状送達の日の翌日である平成12年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,同被告に対するその余の請求及び被告Aに対する請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,仮執行宣言につき同法259条1項を各適用し,被告国の仮執行免脱宣言の申立ては相当でないからこれを却下することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第19民事部裁判長裁判官角隆博裁判官三島琢裁判官進藤千絵(別紙省略)
▼ クリックして全文を表示