平成20(行ヒ)419 所得税更正処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年3月30日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 仙台高等裁判所 平成20(行コ)2
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判決文本文8,136 文字)

- 1 -主文原判決を破棄する。 本件を仙台高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人長岡壽一の上告受理申立て理由1~6について 本件は,山形県が施行する土地収用法3条1号所定の道路事業の用地としてその所有地を同県に売却し,同県から地上建物の移転補償金の支払を受けた上告人が,当該移転補償金につきこれを租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下「措置法」という。)33条3項2号所定の補償金として同条1項の適用を受けることを選択し,所得税の申告をしたところ,山形税務署長から,上記移転補償金には上記規定の適用がなく,その金額を当該年分の一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであることを前提として,その旨の更正(以下「本件処分」という。)を受けたことから,上告人において,本件処分には措置法の上記規定及び所得税法44条の解釈適用を誤った違法があるなどと主張して,本件処分のうちその申告に係る税額等を超える部分の取消しを求めている事案である。 2(1)措置法33条1項は,資産が土地収用法等の規定に基づいて収用され,補償金を取得する場合(1号),資産について買取りの申出を拒むときは同法等の規定に基づいて収用されることとなる場合において,当該資産が買い取られ,対価を取得するとき(2号)など,個人の有する資産で同項各号に規定するものが当該各号に掲げる場合に該当することとなった場合において,その者が当該各号に規定する補償金等の額の全部又は一部に相当する金額をもって当該各号に規定する収用- 2 -等により譲渡した資産に代わるべき資産の取得をしたときは,その者については,その選択により,当該収用等により取得した補償金等の額が当該代替資産の取得価額以下である場合にあっては,当該譲渡資産の譲渡がなかったものとし,当該補償金等の 産の取得をしたときは,その者については,その選択により,当該収用等により取得した補償金等の額が当該代替資産の取得価額以下である場合にあっては,当該譲渡資産の譲渡がなかったものとし,当該補償金等の額が当該取得価額を超える場合にあっては,当該譲渡資産のうちその超える金額に相当する部分について譲渡があったものとして,措置法及び所得税法における譲渡所得に関する規定を適用することができる旨を定めている。 措置法33条3項2号は,土地等が同条1項1号,2号等の規定に該当することとなったことに伴い,その土地の上にある資産につき取壊し又は除去をしなければならなくなった場合において,その資産の損失に対する補償金で政令で定めるものを取得するときは,同条1項の規定の適用については,その資産について収用等による譲渡があったものとみなし,その補償金の額をもって同項に規定する補償金等の額とみなす旨を定めている。租税特別措置法施行令(平成16年政令第105号による改正前のもの)22条16項2号は,上記の政令で定める補償金として,当該資産の損失につき土地収用法88条等の規定により受けた補償金その他これに相当する補償金を定めている。 (2)所得税法44条は,その本文において,居住者が,土地収用法の規定による収用その他政令で定めるやむを得ない事由の発生に伴いその者の資産の移転等の費用に充てるための金額の交付を受けた場合において,その交付を受けた金額をその交付の目的に従って上記の費用に充てたときは,その費用に充てた金額は,その者の各種所得の金額の計算上,総収入金額に算入しない旨を定め,ただし書において,その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額については,この限りでない- 3 -旨を定めている 定め,ただし書において,その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額については,この限りでない- 3 -旨を定めている。所得税法施行令(平成16年政令第100号による改正前のもの)93条は,上記の政令で定めるやむを得ない事由として,措置法33条3項2号に規定する事由に基づく同号に規定する資産の取壊し又は除去を定めている。 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1)上告人は,昭和58年,山形県東村山郡中山町内の土地909.81㎡(以下「上告人所有地」という。)を取得し,その後,同土地上に居宅(以下「本件居宅」という。)及びその附属建物である物置・車庫(以下「本件物置・車庫」という。)を新築して,同所に居住していた。 (2)山形県は,その施行する土地収用法3条1号所定の事業である一般県道整備事業の用に供するため上告人所有地のうち171.93㎡(以下「本件土地」という。)を必要としたことから,平成13年11月30日,上告人に対し,本件土地の買取りと地上物件の移転の申出をした。 上告人は,これに応じ,同年12月7日,同県との間で,上告人が本件土地を代金481万4040円で同県に売却するとともにその上に存する物件を移転し,同県がその移転及び損失の補償として上告人に対し建物移転補償金6624万1000円(以下「本件建物移転補償金」という。)等合計8324万3600円を支払う旨の契約を締結し,同14年9月26日までに同県からその支払を受けた。 (3)上告人は,本件土地等の代替資産として,平成13年12月7日,中山町内の別の土地を取得し,同14年3月5日,その代金として3615万3682円を支払い,また,その土地上に居宅を新築し,その対価として同15年1 本件土地等の代替資産として,平成13年12月7日,中山町内の別の土地を取得し,同14年3月5日,その代金として3615万3682円を支払い,また,その土地上に居宅を新築し,その対価として同15年11月30日までに4267万7315円を支払った。 他方で,上告人は,同14年5月22日,A及びB(以下「Aら」という。)に- 4 -対し,上告人所有地から本件土地を除いた残地の一部330.58㎡(以下「本件残地」という。)を本件居宅と共に代金1200万円で売却し,同年7月30日までにその代金の支払を受けた。Aらは,本件土地と本件残地にまたがって存在していた本件居宅を,同年8月5日,本件残地の上に曳行移転した。本件居宅は,現在まで取り壊されずに本件残地の上に存在し,本件居宅から分割登記された本件物置・車庫も,上告人の所有物として,現在まで取り壊されずに存在している。 (4)上告人は,平成14年分の所得税の申告において,本件土地の売却代金,本件建物移転補償金等合計8188万3940円について措置法33条1項2号,3項2号の適用を受けることを選択し,平成16年3月26日,総所得金額255万6850円,分離長期譲渡所得の金額0円,納付すべき税額6万3200円とする修正申告書を提出した。 これに対し,山形税務署長は,本件建物移転補償金には措置法33条3項2号の適用がなく,その全額6624万1000円を一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであることを前提として,同17年3月4日,総所得金額3562万4425円,分離長期譲渡所得の金額0円,納付すべき税額978万7000円とする本件処分をした。 (5)山形県においては,「山形県土木部に属する公共事業に必要な用地の取得または事業の施行に伴う損失補償基準及び同細則」と題する訓令(昭和39年2月28日 78万7000円とする本件処分をした。 (5)山形県においては,「山形県土木部に属する公共事業に必要な用地の取得または事業の施行に伴う損失補償基準及び同細則」と題する訓令(昭和39年2月28日訓第2477号。以下「山形県補償基準」という。)を制定し,任意買収における損失補償についてもこれに基づいて補償額を算出している。 山形県補償基準は,取得する土地に取得しない建物等があるときは,当該建物等の通常妥当と認められる移転先に,通常妥当と認められる移転方法によって移転す- 5 -るのに要する費用を補償する旨を定めている。 (6)ア上告人は,山形県補償基準によれば,建物の通常妥当と認められる移転工法として,再築工法,曳家工法,改造工法,復元工法及び除却工法があり,本件建物移転補償金は,再築工法により建物を移転するものとしてその金額が算出されているところ,再築工法による補償においては,建物の現在価額,運用益損失額及び取壊し工事費の合計額から発生廃材の価額を差し引いた金額をもって補償金の額とすべきものとされている旨を主張している。 イまた,上告人は,Aらとの売買契約では,当初は土地100坪のみが売買の対象であり,1坪当たり12万円として代金を定め,本件居宅は上告人が取り壊すことを予定していたが,土地購入資金の借入先が当該土地上にAらの居住建物が存在することを融資の条件としたことから,Aらに協力するために,土地の代金を1000万円,本件居宅の代金を200万円とする売買契約を形式上結んだだけであり,本件居宅の対価はAらから収受していない旨を主張している。 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件処分は適法であるとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。 土地を収用され又は収用権を背景とした土地の買収に応じて起業者から地上 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件処分は適法であるとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。 土地を収用され又は収用権を背景とした土地の買収に応じて起業者から地上建物の移転に要する費用の補償を受けた者が,当該建物を取り壊して代替資産を取得した場合には,当該補償金について,措置法33条3項2号所定の「資産の損失に対する補償金」に当たるものとして,同条1項の適用を認めるべきであるが,本件では,本件居宅及び本件物置・車庫が取り壊されずに現存しているから,本件建物移転補償金について同項の適用を認めることはできない。また,前記事実関係等によれば,上告人は,本件居宅及び本件物置・車庫について本件建物移転補償金の交付- 6 -を受けたものの,その交付の目的に従った費用に充てていないから,所得税法44条の適用の前提を欠く。したがって,本件建物移転補償金は,その全額を一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)土地が土地収用法等の規定に基づいて収用され又は収用権を背景として買い取られることとなったことに伴い,その土地の上にある個人所有の建物について移転,移築,取壊し,除去等をしなければならなくなった場合において,その所有者がその費用に充てるための補償金の交付を受けたときは,当該補償金の金額は,本来その者の一時所得の収入金額と見るべきものである。 しかし,その者が上記の金額を交付の目的に従って上記の移転等の費用に充てたときは,所得税法44条の規定により,その費用に充てた金額は,各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額を除き,一時所得の金額の計算上総収入金額に算入さ は,所得税法44条の規定により,その費用に充てた金額は,各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額を除き,一時所得の金額の計算上総収入金額に算入されないことになる。 また,上記の補償金のうち,当該建物の取壊し又は除去による損失に対する補償金については,措置法33条3項2号の規定により,当該建物について同条1項所定の収用等による譲渡があったものとみなし,その金額を当該譲渡に係る譲渡所得の収入金額である同項所定の補償金等の額とみなした上で,同項を適用し,その金額がその者の取得した代替資産の取得価額以下である場合には上記の譲渡がなかったものとし,その金額が当該取得価額を超える場合には上記建物のうちその超える金額に相当する部分について譲渡があったものとして,その年分の譲渡所得の金額の計算をすることを選択することも許されるものである。ただし,同条5項は,同- 7 -条1項1号等に規定する補償金の額は,名義がいずれであるかを問わず,資産の収用等の対価たる金額をいうものとし,収用等に際して交付を受ける移転料その他当該資産の収用等の対価たる金額以外の金額を含まないものとすると定めており,同項の補償金等の額とみなされる同条3項2号所定の「資産の損失に対する補償金」の額も,これと同様に,土地の収用等に伴い取壊し又は除去により失った資産の対価に相当する金額をいうものと解するのが相当であるから,土地の収用等に伴いその土地の上にある建物の移転等に要する費用の補償を受けた者が,当該建物を取り壊して代替資産を取得した場合,当該補償を受けた金額のうち同号所定の補償金に当たるのは,当該建物の対価に相当する部分に限られるものというべきである。 (2)ところで,「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年6月 当該補償を受けた金額のうち同号所定の補償金に当たるのは,当該建物の対価に相当する部分に限られるものというべきである。 (2)ところで,「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年6月29日閣議決定)24条1項及び「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(同年10月12日用地対策連絡会決定)28条1項は,取得し又は使用する土地等に取得せず又は使用しない建物等があるときは,当該建物等を通常妥当と認められる移転先に,通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償する旨を定め,これを受けた「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則」(同38年3月7日用地対策連絡会決定。以下「本件細則」という。)第15は,①建物を移転させるときは,通常妥当と認められる移転先を残地又は残地以外の土地のいずれとするかについて認定を行った上で,当該認定に係る移転先に建物を移転するのに通常妥当と認められる移転工法の認定を行い,当該移転先に当該移転工法により移転するのに要する費用を補償するものとし,②通常妥当と認められる移転工法は,再築工法,曳家工法,改造工法,復元工法及び除却工法とし,③再築工法(残地以外の土地に従前の建物と同種同等の建物を建築し,又は残地に従前の建物- 8 -と同種同等の建物若しくは従前の建物に照応する建物を建築する工法)を妥当と認定した場合の建物の移転料は,建物の現在価額,運用益損失額(従前の建物の推定再建築費と従前の建物の現在価額との差額に係る従前の建物の耐用年数満了時までの運用益に相当する額)及び取壊し工事費の合計額から発生材価額を差し引いて算定した額とする旨を定めている。 そうすると,再築工法による移転を前提に本件細則の定めに準ずる方法で算定された建物の移転料の交付を受けた者が,その交付の目的に従って,従前の建物を取 価額を差し引いて算定した額とする旨を定めている。 そうすると,再築工法による移転を前提に本件細則の定めに準ずる方法で算定された建物の移転料の交付を受けた者が,その交付の目的に従って,従前の建物を取り壊し,代替建物を建築して取得した場合には,当該移転料のうち,①従前の建物の現在価額から発生材価額を差し引いた金額に相当する部分は,その全額について,②運用益損失額に相当する部分は,代替建物の建築に実際に要した費用の額が従前の建物の現在価額を超える場合において,その超える金額に係る従前の建物の耐用年数満了時までの運用益に相当する部分について,③取壊し工事費に相当する部分は,実際に従前の建物の取壊し工事の費用に充てられた部分について,それぞれその交付の目的に従って移転等の費用に充てられたものとして,所得税法44条の適用を受けると解するのが相当である。また,これらのうち上記①の部分については,更に,従前の建物の対価に相当するものとして,措置法33条3項2号所定の補償金に該当し,同条1項の適用を受けると解するのが相当である。 (3)以上を前提として本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,山形県が施行する土地収用法3条1号所定の道路事業の用地としてその所有する本件土地を買い取られ,これに伴い,同県に対して本件土地上に存する物件を移転することを約し,その移転及び損失の補償として同県から本件建物移転補償金等の支払を受けたものであるところ,少なくとも本件居宅については,これをAらに- 9 -譲渡して本件残地上に曳行移転させることによって,上記の移転義務を果たしたものということができるから,本件建物移転補償金のうちに上記曳行移転の費用に充てた金額がある場合には,当該金額については,所得税法44条の適用を受けるものというべきである。 ま の移転義務を果たしたものということができるから,本件建物移転補償金のうちに上記曳行移転の費用に充てた金額がある場合には,当該金額については,所得税法44条の適用を受けるものというべきである。 また,前記事実関係等の下において,上告人が主張する前記3(6)アの事実が認められれば,本件建物移転補償金は,山形県補償基準中の本件細則と同旨の定めに基づいて,本件細則所定の再築工法によった場合の建物の移転料の算定方法に準ずる方法で算定されたものであるがい然性が高いものということができる。そして,前記事実関係等に加えて,上告人が主張する前記3(6)イの事実が認められれば,本件居宅は,取り壊されてはいないものの,個人であるAらに対して無償で譲渡され,本件土地上から移転されたことになるから,これにより上告人には本件居宅の取壊しに準ずる損失が生じたものということができ,上告人は,本件建物移転補償金の交付の目的に従い,これをもって上記の損失を補てんするとともに,移転先として本件居宅に代わる建物を建築して取得したものということができる。そうであるとすれば,本件建物移転補償金のうち,少なくとも本件居宅に係る部分については,①取壊し工事費に相当する部分等のうちに上記曳行移転の費用に充てられた部分があるときは,当該部分は,実質的に交付の目的に従って支出されたものとして,所得税法44条の適用を受け,また,②それ以外の部分についても,前記5(2)のとおり,同条又は措置法33条1項の適用を受ける部分があり得るものというべきである。 したがって,上告人が主張する上記の各事実が存在するかどうか,本件建物移転補償金のうちに上記各規定の適用を受ける部分があるかどうかなどの点について十- 10 -分に審理することなく,本件居宅等が取り壊されずに現存していることなどから直ち 存在するかどうか,本件建物移転補償金のうちに上記各規定の適用を受ける部分があるかどうかなどの点について十- 10 -分に審理することなく,本件居宅等が取り壊されずに現存していることなどから直ちに,本件建物移転補償金には上記各規定のいずれの適用もなく,その全額を一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。 論旨は以上の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。 そして,上記の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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