平成22(わ)204 殺人未遂

裁判年月日・裁判所
平成24年7月20日 神戸地方裁判所
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判決文本文3,399 文字)

平成24年7月20日宣告平成22年第204号 主文 被告人を懲役7年に処する。 未決勾留日数中270日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成18年頃,道路拡張のための土地区画整理に伴う新築住宅への転居方法等に関し,隣人のA(昭和7年8月24日生)との間で意見が対立し,平成18年10月末頃には,Aから被告人の母に対し民事訴訟が提起された。同訴訟は,平成20年頃,高裁で和解が成立して終了したものの,その後も被告人とAやその家族との確執は続き,平成21年5月には,被告人とAの長男との取っ組み合いの喧嘩による傷害事件が発生したことなどから,被告人は,Aらに対する憤まんを募らせていた。 被告人は,平成22年2月3日午前7時20分頃,当時の被告人方近くの兵庫県伊丹市ab丁目c番地d付近路上を自動車を運転して出勤する途中,両手にゴミ袋等を持って前方を歩いていたA(当時77歳)に進路を妨げられ,その横を通過する際には上記自動車にゴミ袋をぶつけられたなどと思って憤激し,上記路上で,Aに対し,殺意をもって,同車内から持ち出した木槌(全長約36㎝,重量約300g,槌部分の長さ約9㎝・直径約6㎝)で,その頭部を3回殴って転倒させ,その場から逃げ去ったが,Aが通行人に発見されて救急搬送されたため,Aに入院加療約1か月間を要する頭蓋骨陥没骨折,右急性硬膜下血腫,頭頂部挫創及び左大腿骨転子部骨折等の傷害を負わせたにとどまり,Aを殺害するに至らなかった。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断) 1 本件の主要な争点は,①殺意の有無,②過剰防衛の成否,の2点である。 2 本件の犯行状況について,被害者は,本件から20日後の平成22年2月23日,入院中の病院で,検察官に対し,次のように ) 1 本件の主要な争点は,①殺意の有無,②過剰防衛の成否,の2点である。 2 本件の犯行状況について,被害者は,本件から20日後の平成22年2月23日,入院中の病院で,検察官に対し,次のように供述している。被告人が前方に停めた車から降り,右手に木槌を持って近付いてきたが,そのまま被告人とすれ違おうとした際,右側の被告人がその木槌を振り上げる様子が目に入り,次の瞬間に右側の頭頂部か後頭部辺りに物すごい衝撃を感じたため,被告人から木槌で頭を殴られたことが分かり,その後,間を置かず続けざまに右側の頭頂部から後頭部辺りに同じような衝撃が2回あり,膝の力が抜けて崩れるようにその場に倒れた。被害者の上記供述は,反対尋問による吟味を受けていないものであるから,その信用性の判断は慎重にしなければならないが,その内容は,被害者の頭部の傷害の状況(前方から順に,右頭頂部,頭頂部及び後頭部の3か所に,それぞれ4針から8針の縫合を要する挫創が生じていること,その3か所の挫創付近の頭蓋骨右側に広範囲にわたる複雑な線状骨折が生じていること,後頭部の挫創付近の頭蓋骨には,その縁の後方部分が半円形をした陥没骨折が生じており,その形状は本件木槌の槌部分の丸い作用面の縁の形状と符合していること)や,被害者の上半身には上記の各挫創及び各骨折以外に外傷は見当たらないこと,及び本件直後に被害者が通行人に説明した被害状況(後ろから来た車が止まって,その車から降りてきた隣の息子に木槌で頭を殴られたこと,殴られて倒れたときに腰を打って痛いこと)と極めて整合している。なお,被害者の頭部にある上記の各挫創及び各骨折が,被害者が転倒した際に路面等に頭部を打ち付けて生じたものとは考えにくいことは,法医学の専門医の証言等からも明らかである。 3 一方,被告人は,公 なお,被害者の頭部にある上記の各挫創及び各骨折が,被害者が転倒した際に路面等に頭部を打ち付けて生じたものとは考えにくいことは,法医学の専門医の証言等からも明らかである。 3 一方,被告人は,公判で,被害者が両手に持っていた計4個のゴミ袋や金属製の網(ストーブガード,約70㎝×約40㎝)を振り回して被告人の体にぶつけてきたので,防御のために無我夢中で本件木槌を左右や斜めの方向に振ってゴミ袋等を払いのけた,その際に本件木槌が被害者の頭部に当たったかもしれない,などと供述する。しかし,被告人の供述するような犯行状況では,被害者の右頭頂部から後頭部にかけての比較的狭い範囲にだけ集中して本件木槌が衝突し,前記のような程度の各挫創及び各骨折が生じるとは考えられない。また,前記のとおり,被害者の上半身には,上記の各挫創及び各骨折以外に外傷は見当たらないばかりか,被害者が当時両手に持っていた各ゴミ袋や金属製の網のいずれにも,木槌が当たったことによって生じるはずの痕跡や乱れが全く見られない。そして,被告人は,公判前整理手続の段階では,本件木槌を振り下ろしたと主張していたと認められるのであって,本件木槌の振り方について,明らかにその主張等を変遷させている。 4 以上によれば,本件の犯行状況について,被害者の前記供述が十分に信用できるのに対し,被告人の公判供述は到底信用できない。そこで,被害者の上記供述によって認定できる本件の犯行状況に基づいて,①殺意の有無について検討すると,本件木槌の形状,犯行態様,傷害の部位・程度,被告人が転倒した被害者を放置して逃走していることなどを総合すれば,被告人が,人が死ぬ危険性のある行為を,そのような行為であると分かって本件犯行に及んだことは明らかであるから,被告人に殺意があったことは十分に認めら 被害者を放置して逃走していることなどを総合すれば,被告人が,人が死ぬ危険性のある行為を,そのような行為であると分かって本件犯行に及んだことは明らかであるから,被告人に殺意があったことは十分に認められる。また,②過剰防衛の成否についても,本件犯行の際,被害者から被告人に対する差し迫った不正な攻撃はなかったと認められるから,過剰防衛が成立しないことは明白である。(法令の適用)省略(量刑の理由)被告人は,小柄で当時77歳という高齢の被害者に対し,いきなり判示の木槌でその頭部を3回強打したもので,被害者が一命を取り留めたのは,本件の直後に通行人に発見され救急搬送されたからであって,被告人の行為は卑劣かつ危険極まりない。被害者の受けた傷害は重篤であり,その肉体的苦痛や恐怖感は著しく大きい。被告人が本件犯行に及んだ背景として,被告人と被害者やその家族との間の数年来の確執があったことは明らかであり,また,被告人は,本件の直前に被害者が被告人の車の進路を妨げたりゴミ袋をわざと車にぶつけたりしたというのであるが,そのような事実が仮にあったとしても,被告人が本件のような常軌を逸した行為に及んだのは余りに短絡的であり,その殺意の強固さには戦りつさえも禁じ得ない。そして,被告人は,被害者とその家族に宛てた謝罪の手紙を書き,公判で被害者に対するおわびの言葉を口にしてはいるが,一方で,被害者が先に攻撃してきたので防御したなどと述べ,本件の原因が被害者にあるかのような弁解に終始しているのであるから,結局本件を心から反省しているとは到底認められない。被害者やその家族の処罰感情が厳しいのは当然である。以上によれば,被告人の刑事責任は重大というべきであり,被害者に300万円の被害弁償をしているほか,被告人の不動産持分に対する仮差押解放金 れない。被害者やその家族の処罰感情が厳しいのは当然である。以上によれば,被告人の刑事責任は重大というべきであり,被害者に300万円の被害弁償をしているほか,被告人の不動産持分に対する仮差押解放金として500万円が供託されており,今後これが本件による損害の賠償に充てられることが見込まれること,被告人には高齢の母親や2人の未成年の子がいること等の被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の本件犯行に対しては,主文のとおりの刑をもって臨むのが相当であると判断した。(求刑懲役8年,被害者参加人委託弁護士の量刑意見懲役10年)平成24年7月20日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官細井正弘 裁判官西森英司 裁判官内藤智子

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