令和7年1月29日宣告主文被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中460日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 窃盗の目的で、令和5年4月5日、新潟県上越市(住所省略①)A方に、その南側掃き出し窓の施錠を外して侵入し、その頃、同所において、同人所有の現金約26万円を窃取し、第2 前記A(当時62歳)を殺害して金品を強奪しようと考え、令和5年6月1日午後7時43分頃から同日午後7時46分頃までの間、前記同人方敷地内において、同人に対し、殺意をもって、所携のハンマーでその頭部などを多数回殴る暴行を加えてその反抗を抑圧し、同人方敷地内に駐車中の同人が使用する自動車内から、同人管理の黒色ショルダーバッグ及び現金約120万円在中の財布1個を強取し、その際、前記暴行により、同人に頭部打撲による外傷性くも膜下出血の傷害を負わせ、よって、同日午後8時56分頃、同市(住所省略②)B病院において、同傷害により同人を死亡させて殺害した。 (事実認定の補足説明)弁護人は、判示第2の強盗殺人被告事件について、被告人が被害者に対して暴行を加えた際、財物奪取の意思を有していなかったとして、殺人罪と窃盗罪が成立するにすぎない旨主張し、被告人も犯行時のことはよく覚えていない旨供述するため、以下、判示事実を認定した理由を補足して説明する。 1 まず、関係証拠によると、以下の事実が認められる(これらの事実については弁護人及び被告人も争っていない。)。 ⑴ 被告人は、いわゆる偽ブランド品やアダルトDVDなどを販売して生計を立 てていたものであり、被害者と15年以上前に知り合い、度々商品を買ってもらったり、被告人が被害者から車を購入するなどしていた。被告人と被害者との取引は常に被害者が経営 販売して生計を立 てていたものであり、被害者と15年以上前に知り合い、度々商品を買ってもらったり、被告人が被害者から車を購入するなどしていた。被告人と被害者との取引は常に被害者が経営する工場で行われていた。被告人と被害者が最後に会ったのは、令和5年3月頃、被告人が被害者の工場でタイヤ交換をした際であった。 ⑵ 被告人は、令和5年4月5日、判示第1のとおり被害者方に侵入して現金約26万円を窃取した後、同月6日から同月7日にかけて、家賃、クレジットカード利用代金等の引落し用である被告人名義の口座及び毎月6万から10万円程度の養育費等の支払先である被告人の娘名義の口座に合計26万1303円を入金した。 被告人は、令和5年6月1日時点で、預貯金残高として合計2186円を有していた一方で、残債務としてクレジットカード利用代金分が合計75万5937円、C機構からの借入金分が合計516万9586円あった。また、被告人は、同日時点で、当時居住していた借家の家賃(1か月当たり4万円)を2か月分以上滞納しており、家賃保証会社から複数回電話で督促を受けていた。 ⑶ 被告人は、本件当日である令和5年6月1日午後6時45分頃、被害者方から約917メートル離れた食料品店の駐車場に駐車し徒歩で被害者方へ向かい、同日午後7時前頃、被害者方に到着し玄関脇の砂利付近で被害者の帰宅を待っていた。 被告人は、同日午後7時42分に車で帰宅した被害者に対し、その頭部等に暴行を加えて車内から判示の黒色ショルダーバッグ(以下「本件バッグ」という。)を持ち去った。 ⑷ 被害者は、令和5年6月1日、頭部打撲による外傷性くも膜下出血により死亡した。頭部や顔面には多数の挫創や挫裂創があり、頭部に合計3か所の陥没骨折が認められたほか、両肩や両手両腕にも多数の皮下出血 ⑷ 被害者は、令和5年6月1日、頭部打撲による外傷性くも膜下出血により死亡した。頭部や顔面には多数の挫創や挫裂創があり、頭部に合計3か所の陥没骨折が認められたほか、両肩や両手両腕にも多数の皮下出血が認められた。最低でも11回は鈍体で殴られていた。 ⑸ 被告人は、令和5年6月1日から同月2日にかけて、被告人使用の元妻名義の口座に合計100万1000円を入金した。また、被告人は、同日、被告人の娘名義の上記口座に30万円を入金するとともに、クレジットカード会社1社に対し、 滞納していた同年5月7日支払予定分及び手数料として、6万0330円を現金で支払った。さらに、被告人は、同年6月5日、被告人名義の上記口座に16万1000円を入金した。 ⑹ 令和5年6月3日、被害者方の北西約48メートル地点にある近隣民家敷地内の集水桝の中から、頭部分が金属製であるハンマー(甲108。以下「本件ハンマー」という。)が発見された。本件ハンマーは、全長約30センチメートル、重さ約1.28キログラムであり、その下部からは被害者のDNA型が検出された。 2 被告人は本件犯行の際パニックになっており詳細はあまり覚えていない旨供述し、財物奪取の意思を否定し、殺意についても明確には認めていない。 そこで、まず、被告人が本件犯行時殺意を有していたかについて検討する。 本件ハンマーから被害者のDNA型が検出された上、被害者の頭部や顔面の挫創等の一部が円弧状であることから成傷器は本件ハンマーと矛盾しないことに照らせば、本件ハンマーが凶器であったと認められる。その上で、後述のとおり、防犯カメラによれば、被告人が被害者に対し多数回にわたり本件ハンマーを振り下ろして殴打する暴行を加えている上、殴打した箇所を見ても、その身体の枢要部である頭部に目掛けて、複数 の上で、後述のとおり、防犯カメラによれば、被告人が被害者に対し多数回にわたり本件ハンマーを振り下ろして殴打する暴行を加えている上、殴打した箇所を見ても、その身体の枢要部である頭部に目掛けて、複数回にわたり殴打していること、約1.28キログラムの本件ハンマーを、陥没骨折を生じさせるほどの強さで殴打したものであり、相当強い力で殴打したことも認められる。 これらによれば、被告人は、本件犯行時、被害者の死の結果が発生する危険性の高い行為を繰り返し行ったものであることが明らかであり、死の結果を認識し、認容したものといえ、殺意が優に認められる。 3 次いで、本件暴行時、被告人が財物奪取の意思を有していたか否かについて検討する。 ⑴ 上記のとおり、被告人は、令和5年6月1日午後7時前頃、被害者方敷地内で被害者の帰宅を待っていた上、帰宅した被害者に暴行を加え、本件バッグを持ち去ったものであるところ、防犯カメラ等によれば、その経過は以下のとおり認めら れる。 すなわち、被害者は、同日午後7時42分30秒(以下、分秒で特定する時刻は、いずれも同日午後7時台のものである。)頃、帰宅のため運転していた車両(以下「本件車両」という。)をカーポート内に駐車し、43分00秒頃、降車して玄関方向へ歩いて向かった。被害者は、43分18秒頃から、「あー、いてえ、あー」「いってえ、いてえ」「うわーうわー」「助けてくれ」などの声を発したほか、これらの間に、「パン」「パン」という音が生じている。被害者は、43分49秒頃、カーポート内の本件車両左脇に倒れ込み、その上から、被告人は、44分8秒頃から22秒頃にかけて、被害者に対し、本件ハンマーを複数回振り下ろした。被告人は、その後間もなく同所を離れ、45分13秒頃、再び本件車両左脇に現れたところ、これとほ その上から、被告人は、44分8秒頃から22秒頃にかけて、被害者に対し、本件ハンマーを複数回振り下ろした。被告人は、その後間もなく同所を離れ、45分13秒頃、再び本件車両左脇に現れたところ、これとほぼ同時刻に、本件車両の助手席側ドアが解錠されるとともに、車内灯が点いた。被告人は、45分14秒頃、同ドアを開けて、45分15秒頃、助手席(その座面には、ブランド柄のポーチが置かれていた。)側から車内に侵入し始め、45分16秒頃、助手席座面に膝立ちするような形でほぼ全身を車内に収めるや、後部座席側に上半身を入れるようにしながら手を伸ばし、45分19秒頃には、後部座席付近から、中身を確認することなく、現金約120万円在中の財布が入った本件バッグを手に取って、車内の他の場所を物色することもないまま、45分22秒頃、車外に出た。被告人は、45分24秒頃、同ドアを閉める前に、本件車両左脇の被害者が倒れ込んでいた地点付近で、本件ハンマーを再度振り下ろし、さらに46分30秒頃にも本件ハンマーを振り下ろした。 ⑵ 上記事実によれば、被告人は、被害者が帰宅して玄関に向かったところ、直ちに暴行を開始し、被害者が悲鳴を上げて助けを求めるにもかかわらず暴行を加え続け、被害者が倒れた上でもさらに暴行を加えている。その上で、被告人は、解錠した本件車両の助手席側ドアを開けるや、直ちに車内に侵入し、即座に後部座席側に手を伸ばして、本件バッグをその中身を確認することもなく直ちに手に取って車外に出た上、さらに被害者に暴行を加えたことが認められる。 このような一連の暴行と財物の奪取は、被害者が悲鳴を上げてから、僅か2分6秒の間に行われたものである。本件車両のドアはドアノブに手を差し入れることで解錠される仕組みであり、被告人が意図して解錠したことは明らかであると 行と財物の奪取は、被害者が悲鳴を上げてから、僅か2分6秒の間に行われたものである。本件車両のドアはドアノブに手を差し入れることで解錠される仕組みであり、被告人が意図して解錠したことは明らかであるところ、被告人は、本件車両の助手席側ドアを開けるや否や、後部座席から現金約120万円在中の本件バッグをその中身を確認することもなく手に取り、コンソールボックスの中等車内の他の場所を物色することも、助手席座面上に置かれたブランド柄のポーチを手に取ることもなく、本件バッグを手にしてから約3秒後には車外に出ている。被告人が本件バッグを奪取するために本件車両のドアを開けたことは明らかである。そして、被告人が本件暴行後僅か約50秒後には車内を物色しており、その間被告人が車内の財物のうち、特に本件バッグの奪取の決意をするような契機はなかった以上、被告人は本件暴行時から既に車内の本件バッグを奪取する目的を有していたことが強く推認される。 加えて、被告人と被害者の関係をみても、両者には商売上の付き合いしかなく、被告人に被害者の殺害を決意するほどの強い恨みを抱いていた事情は見当たらない上、両者が最後に会ったのは事件の3か月程前であり、本件犯行に近接した時点で被告人が突如殺害を決意するに至る契機となるべき具体的な事情は見当たらない。 実際、被告人は本件暴行後も被害者方やその敷地内にとどまって車内から本件バッグを持ち出すなどしており、被害者の殺害目的のみで本件暴行に及んだとすれば不自然である。 むしろ、被告人が、犯行当時、多額の残債務等を抱え、滞納家賃の督促を受けるほど困窮し、2か月前には判示第1 のとおり窃盗に及んだ経過も認められる。現に判示第2の犯行後、強取した現金を同日又は近日中に上記残債務の引落し用口座に入金したり、その現金払に充てたものと認められる。 ど困窮し、2か月前には判示第1 のとおり窃盗に及んだ経過も認められる。現に判示第2の犯行後、強取した現金を同日又は近日中に上記残債務の引落し用口座に入金したり、その現金払に充てたものと認められる。このような経過に照らせば、被告人は、被害者から現金等の金目のものを強取する意思の下、本件暴行に及んだものと考えるのが自然である。 ⑶ 以上のとおり、犯行態様それ自体により、被告人が本件暴行時既に財物奪取 の意思を有していたことが強く推認できる上、被告人と被害者の関係性や被告人の状況等に照らせば、財物奪取以外の目的で本件暴行に及んだとは考え難く、むしろ、被告人には、本件バッグ及びその内容物であろう現金等を奪取する目的があったことが推認できるのであり、被告人は、本件暴行時、財物奪取の意思を有していたものと認められる。 4 ⑴ これに対し、被告人は、財物奪取の意思はなかったとして、以下のとおり供述をする。すなわち、私は、本件当日の夕方頃、被害者に商品を売るために被害者方に行くことを思い立ち、車で被害者方に向かった。午後7時前頃に被害者方に着くと被害者が留守だったので玄関脇で待つこととした。その際、先行きの不安を感じたり、従前の被害者との関係を振り返り同人への不満や嫉妬が高まるなどして自身の境遇を悲観し気持ちが不安定になり自暴自棄になっていたところ、被害者が帰宅したことでパニックとなってしまったため、その後のことはよく覚えていない。本件車両から本件バッグを取ったが、取ろうと思って同車のドアを開けたわけではなく、本件バッグを取ったのは無意識だった。 ⑵ 被告人の供述の信用性を検討する。 まず、過去一度も被害者方で被害者に商品を売ったことはない被告人が、本件当日になって急に被害者方に商品を売りに行くことを着想したが、被害者に連絡す った。 ⑵ 被告人の供述の信用性を検討する。 まず、過去一度も被害者方で被害者に商品を売ったことはない被告人が、本件当日になって急に被害者方に商品を売りに行くことを着想したが、被害者に連絡することもなく、被害者方に向かったというのは、あまりに唐突で不自然である。被告人が、被害者方から約917メートルもの離れた場所に被告人の運転してきた車両を駐車し、手袋等を用意して被害者方に向かったことも、単なる取引を前提としたものとは考え難い。また、被告人には何らの精神障害があるものでもなく、犯行時の記憶が全くないというのも不自然というほかない上、公判供述においてさえ、犯行時の記憶について変遷がある。被告人の供述は信用し難い。 5 弁護人は、本件車両のドアが偶然開き車内に明かりがついたため、その時点で初めて本件バッグが目に入り、とっさに持ち去ろうとした可能性が否定できない旨主張する。 しかしながら、上述のとおり、その犯行態様等からすれば、被告人は本件バッグを強取するために本件車両の助手席側ドアを開けたことは明らかであり、本件バッグが目に入り初めて強取を決意したとは認められない上、そもそも本件車両のドアはドアノブに手を差し入れることで解錠される仕組みであり、財物奪取の意思を有していなかった被告人が、ドアノブに偶然手を差し入れるとは考え難く、かかる弁護人の主張は採用できない。 このほか弁護人が主張するところを踏まえても、前記判断は左右されない。 6 以上によれば、被告人の公判供述及び弁護人の主張を踏まえても、前記推認は妨げられず、被告人は殺意及び財物奪取の意思を有していたことが認められ、判示のとおり、被告人には強盗殺人罪が成立する。 (量刑の理由)本件は、被告人が、被害者方へ侵入し現金約26万円を窃取した住居侵入・窃盗 被告人は殺意及び財物奪取の意思を有していたことが認められ、判示のとおり、被告人には強盗殺人罪が成立する。 (量刑の理由)本件は、被告人が、被害者方へ侵入し現金約26万円を窃取した住居侵入・窃盗1件及び被害者を殺害し現金約120万円在中のバッグを強取した強盗殺人1件の事案である。 被告人は、被害者に対し重さ約1.3キログラムもあるハンマーを用いて、複数の陥没骨折を生じさせるほどの強度でその頭部を複数回殴打した。凶器を用いて人体の枢要部を繰り返し狙ったものであり、態様は極めて危険である。被害者が痛がり、助けを求めるのも構わず滅多打ちにするなどその手口は残虐である。かかる被害者を意に介さず車内の財物を持ち出した上、さらに暴行を加えるなど、強固な殺意及び財物奪取の意思に基づく犯行であった。何らの落ち度もないにもかかわらず突然その命を奪われた被害者の無念さは察するに余りある。被害額も約120万円と多額であり、本件犯行により生じた結果は誠に重いというほかない。 被告人は、自身の経済的な困窮から逃れるため、被害者方から現金を窃取したり、被害者から財物を強取等することを企て、犯行に用いる手袋やフード付き上衣などを用意するなど被告人なりに計画的に犯行に及んだもので、その動機や経緯に酌むべき点は一切見当たらない。 以上の犯情に加え、被告人は公判廷で不合理な弁解に終始し反省の態度もうかがわれないことからすれば、被告人には厳しい非難が値する。 その上で、同種事案(処断罪は強盗殺人、単独犯、強盗の点は既遂、処断罪と同一又は同種の件数1件)の量刑傾向に照らすと、本件はまさに無期懲役刑を選択すべき部類に属するものといえる。被告人に直近10年余の間前科がないこと、被害者に宛てた謝罪文を作成していること、被告人には前記の弁解はあるものの結果的に 向に照らすと、本件はまさに無期懲役刑を選択すべき部類に属するものといえる。被告人に直近10年余の間前科がないこと、被害者に宛てた謝罪文を作成していること、被告人には前記の弁解はあるものの結果的に被害者を殺害をしたことや住居侵入、窃盗事件については事実を認め、反省の弁を述べていることなど被告人に有利な事情を考慮しても、酌量減軽することが相当な事案とは到底いえない。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑無期懲役)令和7年2月10日新潟地方裁判所刑事部裁判長裁判官小林謙介裁判官塚本友樹裁判官池田弘毅
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