平成8(ワ)2406 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年9月24日 神戸地方裁判所
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判決文本文36,257 文字)

判決平成14年9月24日神戸地方裁判所平成8年(ワ)第2406号損害賠償請求事件 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告らに対し、それぞれ金2362万8212円及びこれに対する平成5年11月12日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告らは,原告らの被相続人である亡A(以下「A」という。)が,被告が経営する病院での治療が違法であったため,転院後の病院で死亡したと主張して,被告に対し,不法行為(使用者責任)ないし債務不履行に基づく損害賠償並びにそれに対する不法行為の開始した日である治療開始日から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案 1 前提事実(証拠に基づく事実は証拠摘示する。)(1) Aは,昭和7年9月30日生まれの男子で,後記(2)の事故当時,土木作業員であった(生年月日について甲1)。 原告BはAの妻であり,原告CはAの子であって(甲2),後記(13)のAの死亡によって,その権利を2分の1ずつ相続した。 被告は,近畿中央病院(以下「被告病院」という。)を経営していた。 (2) Aは,平成5年11月12日午前9時20分頃,建物建築工事に従事していた際,型枠付金物で左眼を突いた。 Aは,同日,D眼科で受診したが,被告病院を紹介され,被告病院に外来受診し,即日,入院した。 (乙2,15頁参照)(3) 被告病院眼科医師は,同日,Aについて,左眼硝子体出血と診断した。 (4) したが,被告病院を紹介され,被告病院に外来受診し,即日,入院した。 (乙2,15頁参照)(3) 被告病院眼科医師は,同日,Aについて,左眼硝子体出血と診断した。 (4) 被告病院眼科医師は,同年12月15日までに,Aの左眼網膜剥離を確認し,同日,左眼強膜内嵌術,硝子体切除術及び硝子体内ガス注入手術を行った(乙1,43頁)。 (5) 被告病院眼科医師は,平成6年1月12日までに,Aの左眼網膜再剥離が疑われたので,同日,硝子体手術を実施した(乙1,69頁)。 (6) 再手術後も,Aの左眼下方に網膜剥離が認められ,再手術が予定された。 (7) Aは,同月15日頃から発熱傾向となったので,再手術は延期された。 (8) Aは,同月18日,被告病院内科に受診したが,そこでは,発熱の原因は特定されなかった(乙2,7頁,11頁)。 (9) Aは,同月21日,被告病院耳鼻科に受診したが,そこでは,発熱の原因は特定されなかった(乙2,8頁)。 (10) Aの発熱傾向は続いたが,被告病院としては原因が特定できないので,同月20日以降,抗生剤の点滴投与等をし,一旦は解熱したが,その後もAはしばしば発熱をした(乙1,75頁ないし104頁)。 (11) Aは,遅くとも同年2月1日,末梢血検査で,白血球,血小板の形態異常が認められ,血液疾患の可能性が疑われたが(乙1,89頁),被告病院では骨髄穿刺は行われなかった。 (12) Aは,その希望で,同月3日,高知医科大学医学部附属病院(以下「高知医大病院」という。)に転院することが決まり,同月10日,転院した。 (13) Aは,同年3月5日,高知医大病院で死亡した。高知医大病院の医師は,死亡診断書に,死亡原因を敗血症と記載した(甲1参照 院」という。)に転院することが決まり,同月10日,転院した。 (13) Aは,同年3月5日,高知医大病院で死亡した。高知医大病院の医師は,死亡診断書に,死亡原因を敗血症と記載した(甲1参照)。 2 争点(1) Aの死因ア原告らの主張(ア) Aの死因は,被告病院での感染に由来する重症敗血症である。 (イ) そのことは,(2)ア(イ)記載の病状の経過から明らかである。 (ウ) また,そのことは,以下の高知医大病院眼科長E医師,同病院第三内科F医師の症状経過説明(甲5)によれば,明らかである。 「以上のとおり,上記患者さんは,眼外傷で入院中高熱を生じ,急性骨髄性白血病の合併により症状の悪化をきたし,重症敗血症,ショック状態となって高知医科大学附属病院で死亡された。診療経過のうえからは,死亡原因となったこれら病態は,眼外傷後に生じている。」(エ) また,甲4の6,87頁では,「敗血症~敗血症性ショック~播種性血管内凝固~多臓器不全」という記載となっており,「骨髄異形成(骨髄性白血病)については検索が充分でない」と記載されている。 (オ) Aに,骨髄異形成症候群(MDS)が発症していたかは疑わしく,急性白血病は発症していない。 平成6年2月2日の医師記録によれば,「昨日より,末血に異型血小板少数(+)MDSの疑い。」となっている。しかし,被告病院では,骨髄穿刺がされていないので,最終判断はできないが,末血上は,異常な顆粒球の検査結果はない。また,高知医大病院の検査によっても,甲4の17,153頁ではblasticcellが増殖していることは認められないとしている。また,染色体異常もない(甲4の9 上は,異常な顆粒球の検査結果はない。また,高知医大病院の検査によっても,甲4の17,153頁ではblasticcellが増殖していることは認められないとしている。また,染色体異常もない(甲4の9ないし13,93頁ないし130頁)。血液検査からしても,Seg(成熟),Band(若い)の顆粒球の値は出ているが,白血病特有のAbnormal,その他の異常の芽球の数値は全く検出されておらず(甲4の17,156頁),白血病の検査結果はない。 更に,高知医大病院は,調査嘱託の結果において,急性骨髄性白血病としての病像の分類であるFAB分類の,M1,M2,M4,M5を否定している上,残るM3についても,それを肯定するファゴット細胞やアウエル小体は認められていないから否定されるべきである。 (カ) 仮に,被告病院において,MDSが発症していたとしても,高知医大病院の骨髄穿刺の結果からして,白血球の芽球が少なく,被告病院においては,軽症であったと考えられる。 イ被告の主張(ア) Aは,急性白血病を発症したか否かを別として,MDSを発症しており,それによる骨髄不全死となったものである。 (イ) 原告らが指摘する甲5の記載は,症状の経過を指摘したもので,因果関係について何の証明もするものではない。 (ウ) 被告病院での,Aの感染症を裏付けると原告が主張する症状である,発熱,咽頭痛,血沈の亢進,CRP高値,右肩を中心とする発疹等は,いずれも,MDSないしその合併症であるスイート病の症状でもあるから,感染症罹患の根拠とはならない。 (エ) なお,高知医大病院では,Aについて,当初から敗血症との認識をもっていた(甲4の6,53頁)ようであるが,血液培養検 イート病の症状でもあるから,感染症罹患の根拠とはならない。 (エ) なお,高知医大病院では,Aについて,当初から敗血症との認識をもっていた(甲4の6,53頁)ようであるが,血液培養検査の結果は全て陰性(甲4の17,188頁ないし201頁)であり,平成6年2月23日から投与したステロイドにより解熱した(甲4の6,75頁)ことを考えると,実際にこの時点で敗血症であったか否かは疑わしい。 また,被告病院においても,持続する熱発に対して,抗生剤が効かず,ショック状態となったことからやむを得ず使用したステロイドにより解熱した(甲4の6,52頁)というように,全く同じ現象が見られているが,抗炎症作用があるとは言え,免疫を抑制するステロイド投与によって症状が寛解したことは,感染症以外の原因を示唆する。 (オ) Aの最終的な病像である多臓器不全にしても,肝機能障害は白血病の肝臓浸潤と考えるべきであり(甲4の6,77頁及び閉塞性黄疸を否定している81頁の記載),白血病でも全身の臓器の障害が起きる可能性があることを考えると,白血病死であったとしても何ら矛盾しない病像である。実際,甲4の6,80頁には,「黄疸悪化,CRP増加,白血病の悪化と思われる。全身状態が悪くなっている。出血傾向が強くなっている。」と記載されている。 (カ) 原告らは,Aの病状がFAB分類のいずれの特徴も備えていないことを理由として,急性白血病を発症していたことに疑義を呈するが,FAB分類は,全ての白血病を系統的に網羅した分類法ではない(乙16)。高知医大病院の追加調査嘱託の結果のとおり,高知医大病院では,骨髄に多数の未熟な骨髄系細胞が見られたことを根拠に急性白血病と考えたものである。 但し,通常の急性白 い(乙16)。高知医大病院の追加調査嘱託の結果のとおり,高知医大病院では,骨髄に多数の未熟な骨髄系細胞が見られたことを根拠に急性白血病と考えたものである。 但し,通常の急性白血病であれば,ATRAを投与して9日程度で,白血球数が増大するのが通常であるのに,Aに対しては,ATRA投与後9日後にも効果が見られなかったものであるところ,MDSから白血病に転換した症例であって,通常の急性白血病とは異なる病態であるとの指摘もあり(甲4の6,77頁),病型分類が困難な事例であったことは確かである。また,ATRAの反応よりAPL(M3)は考えにくい(甲4の6,84頁)とあるように,高知医大病院でも,最終的には急性白血病を否定しているようである。 (キ) AがMDSを発症していたことについては,平成6年2月18日に採取された骨髄についての,高知医大病院での病理組織検査によっても裏付けられている(甲4の17)。 (2) 被告病院の過失ア原告らの主張(ア) 感染症の診断及び治療の過失被告病院は,感染症を疑うべきであるのに,眼科から内科への紹介遅れ,内科の感染症対策遅れにより感染症が全身に進行し,抗生剤でも対応できない重症敗血症を惹起した。 被告病院の眼科医,内科医は,平成6年1月12日の手術の後の感染予防の抗生剤を3日間処方したのみで,同月20日までの間,感染症対策の治療がなされず,放置されている。 (イ) 被告病院としては,Aの次の諸症状から感染症を疑うべきであるのに,安易にこれを否定している。 a 平成6年1月14日から20日まで次のとおり,間欠性,弛緩性の高熱が続いている。 諸症状から感染症を疑うべきであるのに,安易にこれを否定している。 a 平成6年1月14日から20日まで次のとおり,間欠性,弛緩性の高熱が続いている。 最高体温は,15日38.4度,16日37.8度,17日39度,18日38.6度,19日39.8度,20日39度。 14日14時にも,38.6度。 b 同月17日には,炎症反応を示すCRP値が16.4という異常値(基準値は0.5㎎/dl以下。臨床的には0から1がほぼ正常値で,10以上は極めて高値で重症といわれる。)を検出し,体内に炎症があると速くなる赤沈(血沈)ESR値は103㎜/1h,125㎜/2hという異常値を検出している(正常値は20㎜/1h以下。100㎜/1h以上は重度の炎症といわれる。)。 c 同月17日から倦怠感があり,同月18日から悪寒,同月19日から悪寒著明。 d 白血球を見ると,顆粒球のうち若い顆粒球ST(Band.桿状核好中球)の数は,同月17日には0であり,同月24日には200(2%)となっており,このように成熟した顆粒球に比較して,若い顆粒球の数が増えるのは細菌感染の結果とみることができる。 (ウ) 被告病院の対応a 平成6年1月17日,被告病院眼科医は,第三内科に,CRP,血沈,その他異常値を呈していることを告げて紹介している(乙2,7頁)が,第三内科は,ようやく,同月21日になって,回答があり,耳,鼻,咽喉頭には炎症所見見られませんでしたと感染症を簡単に否定してしまっている(乙2,8頁)。これでは,感染症対策がとられたとは到底言えない。 b 抗生剤であるブロアクトの使用は,同月20日からとな 所見見られませんでしたと感染症を簡単に否定してしまっている(乙2,8頁)。これでは,感染症対策がとられたとは到底言えない。 b 抗生剤であるブロアクトの使用は,同月20日からとなっている(乙1,114頁)が,これは,15日から感染症の症状を呈している患者に処方する時期としては遅い。 c 同月25日,医師は感染症の印象は低いと判断しており,高知医大に対する引継書でも,「白血球増多や左方移動もなく細菌感染は否定的」と感染症の多くの症状を認めた上でこの時点でも感染症を否定している(乙1,99頁)。 d 同年2月1日から同月6日まで抗生剤の投与がない。 e 感染症対策として不可欠な細菌培養検査についても,早急に何度も実施すべきであるのに,同年1月20日(乙1,152頁。これも,検体名前記入なしと記載されていて不自然である。)しかされていない。 このように,被告病院の内科医は,感染症でないとの誤った判断をして,適切な感染症についての治療をしていない。 (エ) Aの感染症の悪化被告病院が,感染症に対する適切な治療をしなかったので,感染症は全身に広がった。 平成6年1月21日に,耳鼻科で,耳鼻咽喉頭に炎症所見が見られなかったものであるが,同年2月1日からは,咽頭痛を訴え,嗄声ありとなっており,このような咽頭炎は感染症対策の遅れにより感染症が拡散したと考えられる。また,胆嚢炎などの症状も現れている。看護記録によると,同年1月25日,26日には四肢冷感の症状が現れている。これは既に末期重症敗血症の症状である。同月25日には,すでに患者本人が,四肢冷感のあと,「僕はもうなおらへんのや」,また同年2月7日には ると,同年1月25日,26日には四肢冷感の症状が現れている。これは既に末期重症敗血症の症状である。同月25日には,すでに患者本人が,四肢冷感のあと,「僕はもうなおらへんのや」,また同年2月7日には「熱で命をおとすかもしれない」と言い,患者本人が末期的であることを直感していた。被告病院の感染症の診断の誤り,遅れが感染症対策の不履行,遅延につながり,結果的に重症敗血症を引き起こすことになった。 (オ) 感染源についてa 平成6年1月12日の増殖性硝子体網膜症手術の2,3日後から高熱や感染症を疑わせる数値があらわれていることから,この手術時に感染した可能性が考えられる。 b 同日の手術の際,麻酔注射が患者の右肩にされており,本人の肩痛の訴え,蜂巣炎がそこから発生していることから,一つの可能性としては,麻酔注射時の感染が疑われる。 (カ) MDS,骨髄性白血病の主張について百歩譲って,被告病院において既にMDSが認められたとしても極めて軽微であったと考えられる。 そして,本件の場合には,被告病院において高熱の繰り返し,悪寒,戦慄の繰り返しがあり,被告病院におけるボルタレンの多用による胃からの大量出血(平成6年1月24日2Lの輸血をした。),症状に対する強い不安によって本人が強いストレスを受け,それが引き金となって骨髄性白血病に進行したと考えられる。 イ被告の主張(ア) 原告らの主張は争う。 (イ)aAが,被告病院で罹患した感染症が原因となった敗血症によって,死亡したというためには,①Aが被告病院で感染症に罹患していたこと,②高知医大病院でも同じ感染症が持続していたことを立証しなければなら aAが,被告病院で罹患した感染症が原因となった敗血症によって,死亡したというためには,①Aが被告病院で感染症に罹患していたこと,②高知医大病院でも同じ感染症が持続していたことを立証しなければならず,そのための最も直接的な証拠は,③被告病院と高知医大病院で同じ起炎菌が検出されることである。また,そのような直接証拠がないならば,状況証拠として,少なくとも,④Aの臨床症状が,被告病院在院中と高知医大病院へ転院後で同一であることが示されなければならない。 b うち,③については,高知医大病院では,喀痰からブドウ球菌とカンジダが検出されているものの,被告病院での血液検査では菌が検出されていないことから,否定される。 c そうすると,④の臨床症状が問題となるが,被告病院で感染症に罹患していた証拠として,原告らが主張する症状は,発熱,CRP高値,赤沈亢進,倦怠感,悪寒,咽頭痛であるところ,倦怠感や悪寒は発熱に伴う症状である。 これらの症状に対して,被告病院では,感染症を疑い,同月17日から被告病院内科,同月21日から被告病院耳鼻咽喉科での診察を受け,被告病院は,後記(a)ないし(g)のとおり,感染源を探ったが,検索不能であって,更に,原告らが感染の根拠とする咽頭痛や感染源とする右肩(右肩については(g)で詳述。)の腫脹は高知医大病院で確定診断を受けた,MDSの合併症であるスイート病の症状であるから,原告らが,感染症の根拠とする症状は,すべてMDSないしスイート病によるものである。よって,④の前提を欠く。 (a) 左眼自体の局所の化膿性炎症所見は認めず,発熱の際には,咽頭痛,咽頭発赤を認めるのみであったが,血液検査によって,原告らが指摘の赤沈亢進やCRP高値を認めたの 欠く。 (a) 左眼自体の局所の化膿性炎症所見は認めず,発熱の際には,咽頭痛,咽頭発赤を認めるのみであったが,血液検査によって,原告らが指摘の赤沈亢進やCRP高値を認めたので抗生物質を投与し,経過を見た。この時点で,軽度の貧血を認めたが,同月17日の時点で,白血球数,白血球分類は正常で尿,血液の細菌学的検査も陰性であり,胸部X線像も正常で敗血症,肺炎などの重篤な感染症の存在は指摘できなかった。 なお,眼科手術後の眼球内感染については,もし,眼球炎が生じていれば,前房内にいわゆる蓄膿という状態が生じるので,細隙灯顕微鏡検査にて診断は簡単であるところ,術後,毎日のように同検査は行われていたが,前述の所見はなかった。 また,同月24日には,白血球数が1万と増加していたが,感染症によるものではなく,貧血による全身状態悪化に伴う反応性の増加と考える。 更に,CRP高値は,炎症所見を表すのみで,その炎症が,感染症によるものとは限らないものである。 (b) 被告病院は,不明熱の原因として,①感染症,②悪性腫瘍,③膠原病などを念頭に置き,鑑別診断を行ったが,甲状腺疾患や膠原病は否定され,CEA,AFP,CA19-9といった腫瘍マーカーも正常であり,確定診断は困難であった。しかし,全身の感染症の存在は常に考慮して抗生物質の投与は継続していた。同月24日には,急激な貧血の進行が見られ,上部消化管内視鏡検査で,胃潰瘍と胃粘膜充血が認められたが,輸血と抗潰瘍剤の投与により貧血は回復した。 (c) この間なお発熱は持続し,腹痛など臨床症状は乏しかったが,腹部超音波検査で胆嚢炎を疑わせる所見がみられたので,抗生物質 が,輸血と抗潰瘍剤の投与により貧血は回復した。 (c) この間なお発熱は持続し,腹痛など臨床症状は乏しかったが,腹部超音波検査で胆嚢炎を疑わせる所見がみられたので,抗生物質を変更したところ,CRPは低下し超音波所見は改善した。しかし,発熱はなお軽快しなかったため,不明熱の原因として胆嚢炎以外の疾患の存在が疑われた。 (d) 同月27日から血圧低下が見られ,全身状態を改善させるため抗生物質,抗潰瘍剤とともにステロイド剤を併用したところ,解熱すると共に全身症状も安定した。 同月28日,細菌感染によって敗血症にまで病態が悪化した場合に随伴することの多いDICを窺わせる血液中の凝固因子であるフィブリノーゲンや血小板の減少,フィブリノーゲン分解産物(「FDP」)の増加の検査所見はなかった。 (e) 同年2月1日の末梢血検査で白血球,血小板の異常形態がわずかに出現するようになり,MDSや白血病などの血液疾患の存在が疑われたので,確定診断のための骨髄穿刺検査の必要性を説明し,同意を求めたが了解が得られず,また,血圧も低下したので実施できなかった。 (f) 同月3日,高知医大病院への転院が決まり,原因となる基礎疾患の検索が十分行い得ないまま,同月10日の転院となったが,転院先への紹介状には,上記血液疾患の可能性が大で他の疾患よりも優先して精査加療を行って貰うように記載して依頼した(甲4の3,6,7,23頁,52頁,89頁)。 (g) 被告病院入院中には,右肩の筋肉注射部位には,化膿,感染を示唆する局所の明らかな変化は,自覚的にも,他覚的にも確認されておらず,同月7日になって筋肉痛との訴えがあったが,後にMDSの (g) 被告病院入院中には,右肩の筋肉注射部位には,化膿,感染を示唆する局所の明らかな変化は,自覚的にも,他覚的にも確認されておらず,同月7日になって筋肉痛との訴えがあったが,後にMDSの合併症であるスイート病と確定診断された膨疹が首から肩に掛けて広がっていたという高知医大病院での観察(甲4の5)からすると,右肩の腫脹も同様にスイート病によるものと考えるべきであり,同月7日の訴えもスイート病の前駆症状と思われる。 実際,右肩の炎症が,感染による蜂巣炎であれば,高知医大病院でのステロイド治療によって治癒していること(甲4の6,75頁ないし78頁)が説明できない。 (ウ) 原告の主張(カ)は争う。 回顧的に見れば,発熱はMDSの原因ではなく,むしろMDSないしスイート病を発症したことによるものである。 そうすると,胃からの出血は発熱後の出来事であるから,それによるストレスが発症の原因となることは時間的関係からもあり得ず,全く誤った主張である。 また,仮に,被告病院がボルタレンを処方しなければ,高熱,痛みという強いストレスがAにかかったものであるから,ボルタレンを使用した場合が使用しなかった場合に比べて,よりストレスを受けたとは到底いえない。 (3) 原告らの損害ア原告らの主張(ア) 入院雑費 14万8200円1300円×114日(平成5年11月12日から平成6年3月5日)(イ) 葬儀費用 150万円(ウ) 休業損害 107万 (平成5年11月12日から平成6年3月5日)(イ) 葬儀費用 150万円(ウ) 休業損害 107万9238円9467円(平成5年8月から10月までの1日当たりの平均賃金)×114日((ア)と同じ)(エ) 逸失利益 1968万8986円426万8800円(賃金センサスによる産業計企業規模計男子労働者の平均給与)×0.7(生活費控除30パーセント)×6.589(61歳,新ホフマン)(オ) 入通院慰謝料 184万円(カ) 死亡慰謝料 2500万円(キ) 弁護士費用 500万円(ク) 損害の填補 700万円原告らは,平成8年5月31日に成立した和解に基づき,Aの雇い主から,本件に関する損害の填補として,700万円の支払を受けた。したがって,(ア)ないし(キ)の損害から,これを填補する。 イ被告の主張争う。 第3 当裁判所の判断 1 Aの症状及び治療経過(1) 受傷から平成6年1月12日の硝子体手術までの経緯前記前提事実及び甲6,乙1,2によると,Aの症状,それに対する被告病院の診断及び実施した治療の経過について,次の事実が認められる。 ア平成5年11月12日午前9時20分頃,建物建築工事に従事していた際,型枠付金物で左眼を突いた。 被告病院の診断及び実施した治療の経過について,次の事実が認められる。 ア平成5年11月12日午前9時20分頃,建物建築工事に従事していた際,型枠付金物で左眼を突いた。 同日,D眼科で受診したが,被告病院を紹介され,被告病院に外来受診し,即日,入院した。 (乙2,15頁参照)イ被告病院眼科医師は,同日,左眼硝子体出血と診断したが,網膜剥離については,硝子体出血によって眼底透視不能で,その有無の確認はできなかったので,その点については,経過観察することとした。 この時の視力は,健眼である右が裸眼0.7(矯正1.2)(以下,ほぼ同様なので,健眼側は省略する。),左が裸眼で0.02であったが,視野狭窄はなかった。 被告病院医師は,止血及び再出血予防を目的としてアドナ,炎症を鎮め硝子体出血の吸収促進のためにプレドニン及びリンデロン点眼液,感染予防のためにタリビッド等を投薬した。 (乙1,14頁)ウ同月20日過ぎからある程度眼底透視可能となったが,被告医師は,網膜剥離を認めなかった。 同月25日,左眼は見易くなっていた。 エ同月30日,左眼の視力は裸眼0.4(矯正0.7)あった。同日,左眼底の視神経乳頭と黄斑部は正常であったが,耳側眼底周辺部に硝子体混濁を通して網膜病変が疑われる所見が認められた。硝子体混濁は,眼底周辺部に著明であった。 オ同年12月2日には網膜剥離は認められなかったが,網膜裂孔が認められたので,同月3日に網膜裂孔閉鎖のため光凝固法が施行された。その頃から,左眼がまったく見えないと訴えた。 同月4日に網膜裂孔が,同月9日に網膜剥離が確認され,同月10日には 認められたので,同月3日に網膜裂孔閉鎖のため光凝固法が施行された。その頃から,左眼がまったく見えないと訴えた。 同月4日に網膜裂孔が,同月9日に網膜剥離が確認され,同月10日には網膜剥離が4分の3程度に拡大し,13日には全剥離となった。そこで,同月15日に,全身麻酔下で,強膜内嵌術と硝子体切除及び硝子体内ガス注入手術が実施された。 (乙1,43頁)カ硝子体内ガス注入手術の術後は,気体が注入されていたため,眼底の詳細は不明であったが,気体の減少とともに硝子体混濁が増強したので,同月28日には再度気体注入術が施行された。 キ平成6年1月7日から9日にかけて,最高38.8度の発熱があった。 クしかし,前記気体注入術後,気体が減少するとともに超音波検査により網膜の再剥離が疑われる状況になったので,平成6年1月12日,硝子体手術が施行された。 (乙1,69頁)ケ硝子体手術に先立ち,同日,右肩に麻酔薬が筋肉注射された。 (甲4の2,11頁,乙1,72頁)。 (2) 平成6年1月12日の手術後から転院までの経緯前記前提事実及び甲4の3,甲6,乙1によると,Aの症状,それに対する被告病院の診断及び実施した治療の経過について,次の事実が認められる。 ア平成6年1月14日から20日まで,間欠性,弛緩性の高熱が続いた。最高体温は,14日が38.6度,15日38.4度,16日37.9度,17日39度,18日38.6度,19日39.8度,20日39.1度であった。 同月17日には,炎症反応を示すCRP値が16.4,赤沈ESR値は103㎜/1h,125㎜/2hという異常値を検出したが,白血球数,白血球 日39.8度,20日39.1度であった。 同月17日には,炎症反応を示すCRP値が16.4,赤沈ESR値は103㎜/1h,125㎜/2hという異常値を検出したが,白血球数,白血球分類は正常で,細菌感染を示す核の左方移動は認められず,ヘモグロビン9.9と軽度の貧血が認められた。 被告病院眼科は,同月17日,被告病院第三内科にAを紹介したところ,第三内科は,同月18日に診断し,咽頭発赤は認めたが,甲状腺腫,リンパ節腫脹,心雑音,ラ音,振戦を認めず,胸部X線像も正常(乙2,6頁,11頁)で敗血症,肺炎などの重篤な感染症の存在は指摘できなかった。また,被告病院眼科は,同月21日,被告病院耳鼻咽喉科に,Aを紹介したところ,耳鼻咽喉科は,耳,鼻,咽喉頭に炎症を認めなかった。 臨床症状としては,咽頭痛,咽頭発赤の他,同月17日から倦怠感があり,同月18日から悪寒,同月19日から悪寒著明となった。左眼痛については,同月12日の手術直後からほぼ自制内であり,同月17日辺りからは治まって来ている。 左眼自体の局所について,眼球炎を窺わせる前房内の蓄膿は認められなかった。 同月20日実施された,尿,血液の細菌学的検査も陰性であった。 被告病院医師は,炎症所見があり,感染症の可能性も否定できなかったので,同月20日から,抗生剤であるブロアクトを投与した。 イ同月24日,白血球数は1万でやや増多していて,桿状核好中球の数は,同月17日には0であり,同月24日には200(2%)となっていた。また,同日,CRP37.2という異常高値を示し,ヘモグロビンが3.8と低下し,急激な貧血の進行が見られたので,上部消化管内視鏡検査を実施したところ,胃潰瘍と胃粘膜充血が 200(2%)となっていた。また,同日,CRP37.2という異常高値を示し,ヘモグロビンが3.8と低下し,急激な貧血の進行が見られたので,上部消化管内視鏡検査を実施したところ,胃潰瘍と胃粘膜充血が認められ,輸血と抗潰瘍剤の投与がされ,貧血はやや回復した。 ウそのころ,被告病院は,不明熱の原因として,①感染症,②悪性腫瘍,③膠原病などを念頭に置き,鑑別診断を行ったが,甲状腺疾患や膠原病は否定され,CEA,AFP,CA19-9といった腫瘍マーカーは正常であったが,フェリチンのみ1150と高値であった。しかし,全身の感染症の存在は常に考慮して抗生物質の投与は継続していた。同月25日,担当医は,発熱の原因としては,白血球増多がなく,感染の印象は薄いと判断していた。 エ発熱は,この間なお持続し,腹痛などの臨床症状には乏しかったが,同月26日に,腹部超音波検査をしたところ,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓は正常で,胆嚢に胆石や胆嚢ポリープはないが,胆嚢壁が肥厚しているので,胆管炎を疑い,抗生物質をロセフィンに変更した。すると,CRP低下と同年2月2日超音波所見の改善を見た。しかし,発熱は軽快しなかった。 同年1月26日の血液検査で,白血球数は3000で減少しており,白血球分類については特に所見はなく,ヘモグロビンは8.2で,やや貧血傾向であった。 同日,担当医は,不明熱の原因を検討し,感染症については否定的であること,癌,膠原病等の他疾患は否定的であることと判断し,白血病,MDS,リンパ腫については,骨髄穿刺の必要性を検討した。 オ同月25日,四肢冷感,同年2月1日悪寒戦慄などの症状を訴え,同月27日から血圧低下(72/40など)が見られ,全身状態を改善させるため抗生物質,抗潰瘍剤とともに の必要性を検討した。 オ同月25日,四肢冷感,同年2月1日悪寒戦慄などの症状を訴え,同月27日から血圧低下(72/40など)が見られ,全身状態を改善させるため抗生物質,抗潰瘍剤とともに,同月28日からステロイド剤であるソルコーテフ300㎎/日を併用したところ,一旦解熱し,食欲も増し,全身症状も安定した。 同月28日の検査では,DICに伴う,フィブリノーゲンや血小板の減少,フィブリノーゲン分解産物(FDP)の増加という検査所見は見られなかった。同日の末梢血検査で,前骨髄球1%と赤芽球5/100が認められた(乙1,148頁)。 カ同月末頃,亡Aの従兄弟に当たるGが面会に行ったところ,Aは高熱が続き,重篤と考え,Gは,被告病院に転院を申し出て,同月3日,同月10日に,高知医大病院に転院することが決まった。 キ同年2月1日頃から,また発熱が持続し,咽頭痛,嗄声,悪寒戦慄,倦怠感が再発し,同月3日は発熱はなかったが,同月4日以降,発熱,嗄声,寒気,咽頭痛,倦怠感等を訴え,同月5日には40.5度,同月7日には39.4度まで発熱したが,同月8日から10日までは,発熱はなかった。 同月1日の末梢血検査で,白血球数は5300であったが,ヘモグロビンは8.4で貧血傾向は続き,好中球の過分葉,巨大血小板,ペルオキシターゼ(POX)陰性好中球がわずかに出現し,同月7日の末梢血検査で,白血球数は1万2600と増多し,ヘモグロビンは7.5で貧血傾向は続き,中毒性顆粒,赤芽球2/100,過分葉好中球が認められ,白血球分類としてはSeg.(分葉核好中球)が93%と著しく増加し,赤沈も143と亢進した(乙1,9頁,146頁)。そこで,被告病院は,MDSや白血病などの血液疾患を強く疑った。被告病院は, られ,白血球分類としてはSeg.(分葉核好中球)が93%と著しく増加し,赤沈も143と亢進した(乙1,9頁,146頁)。そこで,被告病院は,MDSや白血病などの血液疾患を強く疑った。被告病院は,同年1月26日頃から,血液疾患を疑い,確定診断のための骨髄穿刺検査を検討していたこともあって,同年2月1日,Aないしその親族にその必要性を説明し,同意を求めたが了解が得られなかったこと,骨髄穿刺は侵襲度の高い検査であるところ,ヘモグロビン値の低下や胆嚢炎などのトラブルがあり,強いストレスがかかった状態であったこと,その日の午後血圧が下がったこと,治療費は労災扱いで,Aは健康保険に加入しておらず,骨髄穿刺は労災保険からは治療費が支払われないものであったこと,その後転院することとなったことなどを考慮して,同日及びその後も骨髄穿刺を実施しなかった。 ク同月10日,高知医大病院に転院したが,被告病院医師は,その紹介状に,詳細な症状,検査結果及び治療経過,MDS等の可能性並びに骨髄穿刺の必要性を記載し,不明な点があれば,いつでも連絡するように書き添えた。 ケ被告病院入院中には,右肩の筋肉注射部位には,化膿,感染を示唆する局所の明らかな変化は,自覚的にも,他覚的にも確認されておらず,同月7日になって右肩痛の訴えがあったのみであった。 (3) 転院後の経緯前記前提事実に,調査嘱託の各結果,甲3,4(それぞれ枝番を含む。),5によると,Aの症状について,次の事実が認められる。 ア平成6年2月10日,高知医大病院眼科に入院した。眼科入院後の眼底検査では,3つの大きな網膜裂孔が認められ,重症の増殖性硝子体網膜症の所見を呈し,網膜全剥離の状態であった(甲4の6,46頁)。直ちに手術が計画されたが,Aの後記の発 眼科に入院した。眼科入院後の眼底検査では,3つの大きな網膜裂孔が認められ,重症の増殖性硝子体網膜症の所見を呈し,網膜全剥離の状態であった(甲4の6,46頁)。直ちに手術が計画されたが,Aの後記の発熱等の全身状態から,手術の予定は立てられない状況となり,以降,投薬と経過観察がされた。 (甲4の6,46頁,47頁)イ入院時既に右頬部皮膚に膨疹があったが,同月11日から38度ないし39度程度の発熱がみられ,同月13日少量下血した。眼科は,同月15日,第三内科に相談し,同日,共診となった。同日より内服薬を中止し,同日夕食より絶食し,敗血症,MDSの疑い,DICとの判断で,同日,濃原赤血球輸血をし,セフメタゾン4グラムを点滴注射した。なお,担当医のF西医師が,敗血症と診断した根拠は,高熱の持続,CRP高値等であった。同日夕方から41.5度の発熱をし,膨診が首から肩に拡がっており,両耳の下部及び右肩が腫脹していた。また,発熱時には,ボルタレンの坐薬を投与し,同月16日からは,ジフルカンを開始している。 (平成12年12月25日付調査嘱託の結果,甲3の2,8頁,9頁,甲4の2,11頁,甲4の6,48頁ないし50頁,甲4の17)。 ウ同月14日の血液検査で,CRP値は26.9で炎症所見を示し,ヘモグロビンは6.4で貧血傾向があり,白血球数7400,桿状核好中球18%,分葉核好中球47%,Lympho.(リンパ球)12%,Mono.(単球)23%であって,同月15日の血液検査で,CRP値は31.4で炎症所見を示し,ヘモグロビンは6.1で貧血傾向があり,貧血傾向は死亡まで続き,白血球数7700,Metamyelo.(後骨髄球)3%,桿状核好中球14%,分葉核好中球50%,リンパ球9%,単球24%,Ba を示し,ヘモグロビンは6.1で貧血傾向があり,貧血傾向は死亡まで続き,白血球数7700,Metamyelo.(後骨髄球)3%,桿状核好中球14%,分葉核好中球50%,リンパ球9%,単球24%,Baso.(好塩基球)1%であって,DICであれば高値となるD-ダイマーは500と高値(基準値200未満)であった。 同日採取された左眼脂の細菌培養の結果は,陰性であった。 同月16日に採取された喀痰の細菌検査によって,カンジダ菌,グラム陽性球菌が検出された。なお,同月15日,16日,18日,同年3月2日,同月4日に採取された血液,同年2月18日に採取された骨髄からは,細菌が検出されなかった。 (甲4の2,13頁,15頁,19頁,21頁,甲4の17,164頁,188頁,196頁等)エ前記認定の皮疹の症状に,前医で右肩筋肉注射後,腫脹があると訴えたこと,両耳周辺部にここ数日圧痛を伴う腫脹があることから,眼科は,同月16日,皮膚科に診療を依頼した。皮膚科医師は,同日左頬の生検をし,同月17日の受付,同月21日の報告で,真皮で好中球が広い範囲でさかんに浸潤しており,核衰弱も多数みられ,一部の毛孔内には毛嚢虫の侵襲や真菌の繁殖が認められるとのもので,皮膚科医師は,その後,臨床所見と併せ,スイート病の疑いと判断した。 (甲3の7,51頁,甲4の5,33頁)オ同月17日午前6時血圧が40まで低下し,冷感ショック状態と判断され,担当医は,午前6時30分から昇圧剤であるカタボンを投与し,酸素マスクを装着し,バルーンを挿入した。同日,尿量は問題なく,意識は清明で,腹部の異常はなく,浮腫もなかった。担当医は,原因不明の敗血症で,貧血と血小板減少症が認められ,DICが疑われると判断し ,酸素マスクを装着し,バルーンを挿入した。同日,尿量は問題なく,意識は清明で,腹部の異常はなく,浮腫もなかった。担当医は,原因不明の敗血症で,貧血と血小板減少症が認められ,DICが疑われると判断した。 脈は速く軽く,貧血,眼球黄疸,皮膚の蒼白の症状があったが,耳下腺の腫れと痛みは改善し,右上腕の腫脹,痛み,腫れも改善した。担当医は,重症貧血は上部消化管出血を疑い,輸血で対応することとした。同日,第三内科担当医は,被告病院に電話で問い合わせ,そこでの症状や治療の経過の情報を得た。 同日の血液検査においては,白血球数は7700で,桿状核好中球22%,分葉核好中球48%,リンパ球13%,単球17%で,CRPは34.7で上昇していた。同日午後6時頃は,カタボンにより,血圧はある程度安定したが,ショックからの離脱はないので,酸素吸入は続けることとされた。 担当医は,問題として,①汎血球減少,②高熱と皮膚発疹,③敗血症ショックと考え,①の原因としては,MDSを疑い,除外診断の対象として敗血症に伴う骨髄抑制と急性腫瘍による骨転移を挙げ,②については,スイート病を疑い,除外診断の対象として丹毒を挙げた。また,③に対しては,輸液,カタボンを使用中で,抗生剤の効果を待つこととした。 なお,皮疹は,ステロイドの処方がされた同月23日以降まで,癒合,発赤,増大等しながら継続していた。 (甲4の6,51頁ないし57頁等)カ同年2月18日もほぼ同様の症状であった。血小板減少が続いており,担当医は,MDSによる骨髄での産生抑制を最も疑っていた。同日の白血球数は4500であった。D-ダイマーは1000と高値であった。 同日,骨髄穿刺が実施された。 その検体に MDSによる骨髄での産生抑制を最も疑っていた。同日の白血球数は4500であった。D-ダイマーは1000と高値であった。 同日,骨髄穿刺が実施された。 その検体についての第三内科の検査では,有核細胞数が43万/立方㎜と著しく増加し,骨髄系細胞が74%から76%と過形成で,前骨髄系から骨髄(Mo)の増加が目立ち,未熟な骨髄系細胞(骨髄芽球+前骨髄球)が48-64%と増加していたので,担当医は,急性骨髄性白血病と判断した。そして,末梢血染色は,POX(+)とPOX(-)が混在していたことから,FAB分類のM4を疑い,M3の除外診断が必要と考えたが,他方,エステラーゼ染色も陽性細胞は少数で,NaF阻害率も低いので,M4よりM3ではないかとも考えた。 そこで,M3に有効なATRAを投与する一方,抗生剤の処方を一部変えた。 また,Aの家族に,血液の癌である急性白血病であること,原因は不明であること,予後は非常に悪いこと,白血病の中でも予後が悪いものであることを伝えた。 なお,同一検体について中央検査部がした検査報告では骨髄芽球3%,前骨髄球18%,骨髄球24%,後骨髄球17%であった。また,病理組織検査の診断医であるH医師は,過細胞骨髄で,顆粒球系赤芽球比は5以上と顆系細胞の過形成が見られ,幼若型前骨髄顆粒球が多く見られ,多少とも核型不整,大型核のものをみ,異形性を示している,巨赤芽球細胞は見られない,巨核球もやや数を増し,幼若型のものもやや多くみられ,やや不整型だが,形態異常はさほどではなく,結局,MDSと考えても良いと判断した。 (平成12年12月28日付け調査嘱託の結果(追加分),甲4の6,56頁ないし63頁,甲4の17,153頁,164頁,17 異常はさほどではなく,結局,MDSと考えても良いと判断した。 (平成12年12月28日付け調査嘱託の結果(追加分),甲4の6,56頁ないし63頁,甲4の17,153頁,164頁,170頁)キ同月19日,血圧は保持されており,意識レベルはほぼ清明で,黄疸はわずかに増大しているが,腹部エコー所見は,胆嚢壁の肥厚が軽度で,左胸に水が認められたが,他臓器には所見がなかった。熱は続いており,脈は軽く,頻脈で,眼球の黄疸はなかった。以降,肺のラ音,心雑音はなかった。 血小板は2.8万とさらに減少し,白血球数は4600(桿状核好中球(ST)28%,分葉核好中球48%,リンパ球15%,単球9%)で,末梢血においては,空胞を持つ好中球が目立ち,明らかなMoは減ってきていた。また,顆粒が多く,前骨髄系(Pro)と思われる細胞でもPOX陰性のものもあり,エステラーゼ陽性細胞は少なかった。 担当医は,FAB分類M3ないしM4と判断し,I医師はM3ないし変形M3と判断し,全身状態が良くないので,抗癌剤は用いず,ATRAを使うべきであると判断した。また,教授は,M3と判断した。 (甲4の6,63頁から66頁)ク同月20日の症状は,前日とほぼ同じであった。結膜はわずかに黄疸していた。担当医は,白血病細胞が分化し,正常細胞が立ち上がるまでは感染のコントロールは困難で,DICの顕著化に対症する必要があると判断していた。 (甲4の6,67頁)ケ同月20日の夜は微熱のみであった。同月21日,経口食をとるようになった。血圧は保たれており,頻脈は続き,結膜はわずかに黄疸していた。皮膚科J医師は,臨床症状からスイート病を疑い,共診することとなった。 熱のみであった。同月21日,経口食をとるようになった。血圧は保たれており,頻脈は続き,結膜はわずかに黄疸していた。皮膚科J医師は,臨床症状からスイート病を疑い,共診することとなった。 尿量が減少し,尿に糖,蛋白が出るようになり,腎障害が出現しつつあるが,ある程度の腎機能は保たれている状態となった。血小板は2.1万で更に減少し,白血球数は9000(桿状核好中球26%,分葉核好中球61%,リンパ球4%,単球9%)で,CRPは29.4とやや減少し,D-ダイマーが2000を超えた。 スミア染色では,毒性顆を多数含む,異常好中球(分裂過多等)が増加している。白血病細胞(前骨髄球,芽球)は認められなかった。 担当医は,①ATRA経口服用中で,末梢血では軽度白血球(桿状核好中球,分葉核好中球)の増加を認めるので,全血球算定で,経過を観察する,②敗血症ショックについては,カタボンによって血圧は保たれており,腎障害はショック時によるものである,③黄疸は,白血病細胞浸潤を疑い,薬物起因性肝障害を除外診断する必要がある,④高熱,皮膚発疹については,CRPは低下するが,高値で皮膚発疹は拡大傾向にあるので,投薬によって経過をみる,⑤DICについては,D-ダイマーが増加するが,出血傾向はないので,投薬によって経過を見るとの判断をした。 (甲4の6,68頁ないし72頁,甲4の17,166頁)コ同月22日,回診をした教授は,熱と皮疹は関係があると判断し,スイート病ならプレドニン投与を考えようと助言した上,同月21日の末梢血のスミア染色による血液像を検討し,異形好中球を認め,白血病細胞が分化したものと判断し,M3と判断した。 高熱が続き,不快感が強く,経口摂食がほとんどできず, た上,同月21日の末梢血のスミア染色による血液像を検討し,異形好中球を認め,白血病細胞が分化したものと判断し,M3と判断した。 高熱が続き,不快感が強く,経口摂食がほとんどできず,同月21日から黄色痰が出現していると訴えた。肺ラ音,心雑音なく,四肢の浮腫はなく,皮膚は乾いているが,肝臓,脾臓について,触れることはできず,両肺の上部に浸潤があるが,明らかな肺炎の所見はなかった。 (甲4の6,72頁,73頁)サ同月23日,白血球数が1400(桿状核好中球27%,分葉核好中球52%,リンパ球11%,単球8%,好酸球1%)と急低下し,ヘモグロビンは7.1と貧血状態が続き,血小板は,同月22日に輸血をした関係で,3.3万と上昇した。 高熱は持続したが,ATRAは飲めていた。口腔の点状出血と粘膜の病変は認められなかった。 皮膚生検の結果によって,担当医,教授とも,スイート病と判断し,同日昼からプレドニンを投与した。 同日採取の喀痰から,細菌検査の結果カンジダ菌が検出された。 (甲4の6,74頁,甲4の17,194頁)シ同月24日,一旦は,熱が少し下がり,皮膚の膨隆も少しとれてきて,プレドニンの効果が窺われた。 黄疸が進行傾向にあるので,ミノサイクリンの投与を中止した。酸素濃度が4l/minであったものを,日中は経鼻で2l/minとした。 I医師が回診し,M3とすれば,ATRAの反応が悪く,末梢血血液検査の所見からすると,MDSから移行したM2の可能性が強いのではないか,2,3日様子を見て,白血球増加がないなら,ATRAを中止してはどうかと提案した。 血圧等全身状態は安定してお 査の所見からすると,MDSから移行したM2の可能性が強いのではないか,2,3日様子を見て,白血球増加がないなら,ATRAを中止してはどうかと提案した。 血圧等全身状態は安定しており,夕食はおかゆを10匙程度食べることができた。 (甲4の6,75頁,76頁)ス同月25日,ヘモグロビンは7.5で貧血傾向で,血小板は2.7万,白血球数は2500で,ビリルビンが8.2と上昇した。D-ダイマーは2000以上であった。 食欲も出てきて,不快もやや改善したが,同月24日の夜半から39度の高熱があった。肝臓,脾臓には触れなかったが,下肢の浮腫が強く,血圧が上昇したので,酸素吸入は中止した。 皮疹は,改善していた。 担当医は,スイート病に対してはステロイド効果が認められたが,高い発熱があり,ビリルビンが上昇しているので,これ以上悪化すると,腎障害を来すおそれがあると判断した。 (甲4の7,76頁,77頁)セ同月26日,やや著しい高熱があり,黄疸が増強し,少しずつ体力的に弱っていると判断された。血圧は安定しているので,カタボン中止の方向が検討された。食欲不振であった。 担当医の判断は,①皮疹の原因であるスイート病についてはプレドニンが効果的である,②黄疸については徐々にビリルビンが上昇傾向にあり,皮膚の病変が改善していることからは,スイート病の肝浸潤は考えにくく,白血病細胞の肝浸潤の可能性が高い,③急性白血病については,骨髄像からは,M3が疑われたが,POX陰性の顆粒を持つ,前骨髄様細胞も多数あり,異形性であること,ATRAを9日間投与し,通常のM3なら,細胞分化により白血球増多を来しても良い頃であるから,MDSか 髄像からは,M3が疑われたが,POX陰性の顆粒を持つ,前骨髄様細胞も多数あり,異形性であること,ATRAを9日間投与し,通常のM3なら,細胞分化により白血球増多を来しても良い頃であるから,MDSから白血病へ変換した症例も疑われた。 (甲4の6,77頁,78頁)ソ同月27日,高熱が持続し,かなり粘調で茶褐色の喀痰が多量であって,MRSAを除外するため,翌日に喀痰の細菌学検査を依頼することになった。皮疹は,改善しており,黄疸は著明で,血圧は投薬によって安定しており,翌日胸部レントゲンを撮ることになった。 咳は少なく,出血傾向はなかった。 (甲4の6,78頁,79頁)タ同月28日,高熱が続き,血圧は安定し,咳はややあり,喀痰もあった。肺ラ音,心雑音はなく,頻脈はあった。口腔内に出血と痛みがあり,下肢の浮腫は強く,黄疸も強かった。 グルコース,血中尿素窒素,ナトリウムが高値で,CRPは32.6と上昇しており,血小板数も1.4と減少しており,白血球数も2700と低いままであった。 教授は,ATRAの投与によっても,白血球数の上昇がないので,骨髄再検査,染色体の検査が必要であると判断し,脱水に伴う高ナトリウム血症と判断した。CRPが再上昇したのに対しては,抗生物質を変更した。 担当医は,CRP再上昇に黄疸の悪化を考慮して,白血病の悪化によって,全身状態が悪くなっていると判断した。また,出血傾向も強くなっていると判断した。 レントゲン検査によって,著明な肺炎の影は認められなかった。 腹部エコーによって,胆嚢はやや肥大しているが,壁の肥厚は中等程度で,閉塞性黄疸は否定的であった。 (甲4の6,79頁か によって,著明な肺炎の影は認められなかった。 腹部エコーによって,胆嚢はやや肥大しているが,壁の肥厚は中等程度で,閉塞性黄疸は否定的であった。 (甲4の6,79頁から81頁)チ同年3月1日,骨髄穿刺を実施した。 第三内科での骨髄所見は,有核細胞数は3.2万で,核異形を伴う前骨髄芽球が認められたが,芽球,前骨髄球は併せて約10%に減少し,正常ないし成熟好中球は増加傾向にあったが,赤血球は減少していたとのものであった。 中央検査部での,同一検体での骨髄所見は,骨髄芽球が0.2%,前骨髄球が1.3%で正常範囲で,分葉核好中球が51.8%と高値を示していた。 (甲4の6,81頁,82頁,甲4の17,170頁)ツ同年3月2日,高熱が持続し,黄色の喀痰が多量に認められ,口の渇きが認められた。肺ラ音,心雑音はなく,口腔内の新たな出血はなく,血圧は安定しており,下肢の浮腫は強く,陰嚢の腫脹があり,明らかな出血傾向はなかった。 同年2月28日の喀痰から,カンジダ菌の他,MRSAが検出されたため,MRSAの除外診断はできなかった。 (甲4の6,82頁,甲4の17,198頁)テ同年3月3日,高熱が持続し,喀痰が粘調で,白血球数は3700で,下肢の浮腫は著しく強かった。同日までも,肝臓の所見を現す,血液所見(ALP,γ-GTP,GOTの上昇)はなかった。 K医師から,前骨髄芽球は減少傾向にあるので,ATRAは減量し,皮膚病変はよくなっているので,プレドニンは減量するようにとのアドバイスがあった。 I医師は,回診で,ATRAの反応から,M3は考えにくい,黄疸が続いているが,血液 TRAは減量し,皮膚病変はよくなっているので,プレドニンは減量するようにとのアドバイスがあった。 I医師は,回診で,ATRAの反応から,M3は考えにくい,黄疸が続いているが,血液所見がないことからすると,薬剤の関与が疑われると判断した。 (甲4の6,83頁,84頁)ト同月4日,血圧が低下し,意識がなくなり,健側である右眼の対光反射はなく,昏睡状態で,呼吸困難を示す下顎呼吸となり,黄疸は重症となり,尿量は減り,肺には粗い音が聞こえる状況にあった。担当医は,敗血症ショックによる多臓器不全を疑ったが,その基本にはMDS(急性白血病)がある,骨髄の推移を見ると明確とはいえないが,それは,ATRAの効果かもしれないと判断した。なお,皮疹は完治していた。 担当医は,数日前から意識が徐々に薄れており,DIC,血小板減少症が続いていたこともあって,脳内出血の可能性もある,終末期である,不明な点も多いが,全身状態が入院時より悪く,これ以上の検索は無理で,従前の治療を続行することとした。 同月5日も同様な症状で,午後9時53分,死亡した。 (甲4の6,84頁ないし87頁)ナ染色体異常は認められなかった。 (甲4の10ないし13,113頁ないし131頁) 2 本件に関連する医学的知見(1) 敗血症(甲7)感染巣から,細菌がリンパ流から血中に入り,全身に播種されて,新たに転移性の感染巣をつくる重篤な細菌感染症である。悪寒戦慄などを伴って,間欠性あるいは弛張性の高熱が出る。その他の罹患臓器の症状を伴う。敗血症では,細菌が産出するエンドトキシンの作用によって,血行動態に異常をきたし,ショック状態となることがしばしば見ら 慄などを伴って,間欠性あるいは弛張性の高熱が出る。その他の罹患臓器の症状を伴う。敗血症では,細菌が産出するエンドトキシンの作用によって,血行動態に異常をきたし,ショック状態となることがしばしば見られる。この時には,早期に発見して,大量の副腎皮質ステロイドの投与,補液などの全身管理を行わないと,予後が極めて不良となる。また,敗血症では,播種性血管内凝固(DIC)が起こる。 凝固機序が進行するために,フィブリノーゲン,血小板などの凝固因子が消費されて減少してくる。産出された血栓が,プラスミノーゲンの作用によって分解され,血中にフィブリン分解産物が増加してくる。臨床的には,出血傾向が出て,皮下出血,歯根出血,顕微鏡的血尿などがみられる。この時には,ヘパリンなどを投与して,血管内の凝固機転を押さえる。敗血症の診断には,血液培養にて起炎菌を検出する必要がある。検出された起炎菌に有効な抗生物質を投与するのが治療の基本である。一剤では不十分な場合には,ペニシリン系抗生物質,あるいはセフェム系抗生物質に加えて,アミノグリコシド系抗生物質などをそれに併用したりする。しかし,多剤に耐性の細菌が起炎菌の場合には,予後は不良である。 (2) 真菌症(甲7,乙7)真菌の感染によって引き起こされる疾患である。感染部位の組織解剖学的深さによって,①深在性真菌症(内臓真菌症),②深部皮膚真菌症(皮下真菌症),③表在性真菌症(浅在性真菌症)に分類される。 (3) 日和見感染症(乙7)免疫力が低下した状態になれば,特定の感染源がなくとも種々の感染症に罹患することをいう。その中には,通常の免疫力を有している場合には,特段の害悪を及ぼさない常在菌や真菌による感染症もあり,そのような場合,感染源が判明しないことも多々ある。例えば,真菌の の感染症に罹患することをいう。その中には,通常の免疫力を有している場合には,特段の害悪を及ぼさない常在菌や真菌による感染症もあり,そのような場合,感染源が判明しないことも多々ある。例えば,真菌の中でも感染を起こすことの多いカンジダ菌は,健常人の20%から40%程度について,消化管から分離されているという意味では,正常細菌叢の一種とも考えられ,通常は菌レベルが低いため何の障害も起こさないが,広域抗生物質の投与や宿主の免疫力低下といった状態となるとカンジダが過剰発育し,腸管壁粘膜を障害して血流中に入り,全身に播種される結果,様々な臓器での深在性カンジダ症が成立する。 (4) 骨髄異形成症候群(MDS)(甲7,乙3ないし5)ア貧血を主体に汎血球減少と無効造血を示唆する多彩な血球形態異常を特徴とする慢性進行性の造血障害である。造血幹細胞(自己増殖する能力を備え,ここから血液中の白血球,赤血球,血小板といった全ての細胞が分化,生成してくる,骨髄中の前駆的細胞をいう。)の質的異常が起こるために,骨髄中の分化途上の血球が異常な形になったり(異形成),正常の機能を持つ成熟血球に分化する前の段階で壊れてしまうこと(無効造血),即ち,骨髄及び末梢血における血球の数量的並びに質的異常を特徴とする病態である。異常は,単一の血球系統にとどまらず,赤血球,顆粒球及び血小板の3系統すべて,あるいは2系統が種々の組み合わせで異常を呈する。顆粒球系では過分葉好中球その他の核異常,二核の未熟顆粒球,巨大後骨髄球,異常芽球,異常前骨髄球などの核異常,顆粒の分布異常や減少ないし消失といった顆粒異常,赤芽球系では巨赤芽球,環状鉄芽球などの異常,巨核球・血小板系では,円形多核巨核球,巨大血小板といった血球形態の異常が見られる。 一般に,骨髄 異常や減少ないし消失といった顆粒異常,赤芽球系では巨赤芽球,環状鉄芽球などの異常,巨核球・血小板系では,円形多核巨核球,巨大血小板といった血球形態の異常が見られる。 一般に,骨髄が正形成または過形成であるにもかかわらず,末梢血では,貧血,血球2系統の減少,もしくは汎血球減少がある。 一般に緩徐に発症し,進行も遅いので,無症状のまま経過して,血液検査で偶然見つかる場合が多い。しかし,病態が進行すると全ての血球が減少することから,貧血,出血傾向,易感染状態などの症状が出てくる。 診断のスクリーニング基準としては,末梢血球減少,正ないし過形成髄,慢性かつ不応性であること,血球減少を呈する他疾患が除外されることで,確定診断のためには,無効造血,血球異形成像が認められる必要がある。うち,無効造血は,末梢血球減少と細胞髄であることから推定するのが現実的である。 合併症に,後記のスイート病や感染症がある。 血球減少改善を目的とした治療や,分化誘導方法,化学療法,造血幹細胞移植などさまざまな治療が試みられているが,この中で確実に予後を改善できる治療は造血幹細胞移植であって,治療法は確立していない。即ち,造血系という全身的な広がりをもつ系統的病変であり,診断時には既に生物的な意味での異常クローンが全身の血液や骨髄に存在していて,その異常クローンだけを撲滅させることは,骨髄移植ないしは強力な抗白血病剤の投与による例外的な成功例を除けば不可能といわれるほど,治療が困難な疾患である。 白血病に移行することが多い。 FAB分類では,骨髄及び末梢血の芽球百分率,環状鉄芽球百分率,末梢単球数及びアウエル小体の有無を基準として,①不応性貧血(RA),② 白血病に移行することが多い。 FAB分類では,骨髄及び末梢血の芽球百分率,環状鉄芽球百分率,末梢単球数及びアウエル小体の有無を基準として,①不応性貧血(RA),②環状鉄芽球陽性不応性貧血(RARS),③芽球過剰性不応性貧血(RAEB),④慢性骨髄単球性白血病(CMML),⑤移行期芽球過剰性不応性貧血(RAEB-t)の5病型に分ける。 FAB分類のMDSは,骨髄の骨髄芽球百分率が30%未満と定義されており,したがってここには,従来の前白血病から亜急性骨髄性白血病,くすぶり型白血病,非定型白血病などの一部までが含まれる。 イ MDSの合併症(乙5,6)MDSは,急性白血病に転化することが多く,また,免疫不全による感染死と出血傾向による死亡が急性白血病化と並んで,最も多い合併症である(感染死,出血等による死亡を骨髄不全死という。)。免疫不全状態に陥った患者について生じる,いわゆる日和見感染の中でも真菌感染症は特に頻度の高い疾患であると言われている。更に,白血球の一種であり最も数の多い好中球が真皮に浸潤して起きる皮膚病変であり,多発発赤や疼痛を伴う紅斑ないし丘疹や皮下結節を特徴とするスイート病もしばしば見られる合併症である。 なお,スイート病は,上気道炎が先行する場合もある。 (5) 急性白血病(甲7,乙3)ア意義造血組織の腫瘍性疾患であり,悪性化した血球前駆細胞由来の細胞(白血病細胞)が,正常血球への分化の方向に向かわず,未熟な段階で,自立的に増殖して,末梢血,骨髄をはじめとする全身の臓器に浸潤する病気である。末梢血では,しばしば白血病細胞の増加の他に貧血,顆粒球減少,血小板減少がみられる。しばしば正常の造血も抑制する。治療 ,自立的に増殖して,末梢血,骨髄をはじめとする全身の臓器に浸潤する病気である。末梢血では,しばしば白血病細胞の増加の他に貧血,顆粒球減少,血小板減少がみられる。しばしば正常の造血も抑制する。治療をしないと,急速に進行する。 増殖する細胞の分化の方向(細胞系統)により急性骨髄性白血病(AML)と急性リンパ性白血病(ALL)の2つに大別される。 イ症状初発時には,全身倦怠感,発熱,軽度の体重減少などの非特異的な症状が多いが,主な症状は骨髄不全(造血の障害)と白血病細胞の臓器浸潤によって形成される。 (ア) 貧血症状:造血の障害や出血による赤血球の減少で起こる。 (イ) 出血:主に血小板の減少による。ときに,血液凝固障害が加わることがあり,この場合は,出血症状が高度となる。DICの危険もある。 (ウ) 感染症:主に好中球の減少による。 (エ) 臓器浸潤による症候:肝臓,脾臓,リンパ節,中枢神経,睾丸,皮膚,口腔/歯肉,骨,心臓,肺などに浸潤することがある。特に,中枢神経は重要で,髄膜や脳脊髄実質へ浸潤すると重篤になる。 ウ分類芽球の特徴によって,分類する。分類によっては,遺伝子に特徴のあるものもある。 (ア) 急性骨髄性白血病FAB分類では,POX陰性であるが骨髄性抗原を有する微少分化型骨髄性白血病(M0),POX陽性未分化型骨髄性白血病(M1),分化型骨髄性白血病(M2),前骨髄球性白血病(M3),骨髄単球性白血病(M4),単球性白血病(M5の1,2),赤白血病(M6),巨核芽球性白血病(M7)の8種類に分類されている。DICは,特にM3に併発する。 ( 髄球性白血病(M3),骨髄単球性白血病(M4),単球性白血病(M5の1,2),赤白血病(M6),巨核芽球性白血病(M7)の8種類に分類されている。DICは,特にM3に併発する。 (イ) 急性リンパ性白血病小型リンパ芽球(L1),大型リンパ芽球(L2),パーキットリンパ腫(L3)に分類される。 エ診断末梢血,骨髄液検査による。 白血病細胞の分裂指数は,正常細胞のそれよりも低く,G0期細胞が多く存在するといわれている。末梢血において,半数以上の患者については,白血球数が増大するが,正常な場合や,かえって低い場合もある。末梢血は,典型的には,異常増殖している白血病芽球と少数の成熟白血球からなり,中間の成熟段階の細胞を欠く。通常は,その中に,白血病細胞(芽球)が認められ,貧血と血小板減少が,ほとんどの場合認められる。 診断で重要なのは,骨髄穿刺による骨髄検査である。顕微鏡検査をすると,白血病細胞が骨髄細胞の30%以上を占めていることから診断ができる。 オ治療骨髄中には白血病細胞(単クローン性)と共に,正常造血細胞(多クローン性)が残存している。 正常な造血を取り戻すには,骨髄中の白血病細胞を十分に抑制する必要がある。 治療は,この2つの原理に基づいて行われ,基本的に①寛解導入療法,②寛解後療法の2段階からなる。 ①寛解導入療法:できるだけ急速に白血病細胞を減少させ,完全寛解(形態学的に白血病細胞が消失し,正常の造血が回復すること)に導入する治療。その方法としては,急性骨髄性白血病,急性リンパ性白血病の,各分類ごとの白血病に対して効果の証明された,代表的な治療スケ 解(形態学的に白血病細胞が消失し,正常の造血が回復すること)に導入する治療。その方法としては,急性骨髄性白血病,急性リンパ性白血病の,各分類ごとの白血病に対して効果の証明された,代表的な治療スケジュールに即して,作用の異なる抗がん剤を複数組み合わせて投与する殺細胞性化学療法の他,急性骨髄性白血病のうちM3に有効な,ビタミンA活性代謝物であるトレチノイン(ATRA,飲み薬)の投与をし,白血病細胞の分化成熟を誘導し,正常な細胞を生産させる分化誘導療法がある。 ②寛解後療法:完全寛解になっても,体内に残存している白血病細胞を消滅させる,殺細胞性化学療法,造血幹細胞移植がある。 組織適合抗原であるHLAの一致する骨髄提供者がいる場合には,骨髄移植が行われ,優れた成績が得られている。化学療法により完全寛解に導入された小児例や移植骨髄の生着した患者では予後は比較的良好であるが,白血病細胞が抗白血病薬に抵抗性の患者や高齢者では予後は不良である。 カ合併症である感染症,敗血症(乙12ないし15)白血病では,感染防御機構自身に欠陥があるので,通常では見られない弱毒菌や真菌やウイルスによる致命的な感染症を起こしやすく,その経過も急激である。また,炎症反応が現れにくく,感染の診断も困難で重症化し易い。 (6) 発熱(甲7,乙8)体温が平常以上に上昇することをいうが,通常37度以上の上昇を発熱とすることが多い。熱型により,弛張熱,稽留熱などと分ける。弛張熱は,38度以上で発熱が日1度以上で上下するが,最低体温が平熱まで下降することがほとんどないものをいい,この型の発熱が最も多く,特に,敗血症などでしばしばみられる。発熱をきたしやすい病態は,感染症のほか,自己免疫疾患,食物, 以上で上下するが,最低体温が平熱まで下降することがほとんどないものをいい,この型の発熱が最も多く,特に,敗血症などでしばしばみられる。発熱をきたしやすい病態は,感染症のほか,自己免疫疾患,食物,薬物などのアレルギー,悪性腫瘍,サイトカイン投与などの場合があり,とくに顆粒球減少をきたした悪性腫瘍患者などでは細菌感染であっても,細菌培養などによる病原体の検出率も高くないので,多くの所見を総合して原因を推定することが必要である。このような不明熱を示す患者では原因診断が不明のまま急速に症状が悪化することも多い。 (7) スイート病(乙6,9ないし11)ア 1964年に提唱された比較的新しい疾患であり,①発熱,②末梢血好中球増多,③顔面,頸部,四肢に好発する有痛性隆起性紅斑ないし結節,④皮疹は病理組織学的に真皮に好中球浸潤が認められるという特徴をもつ,原因不明の急性の炎症性疾患である。 潰瘍性大腸炎,シェーグレン症候群,慢性関節リュウマチ,壊疽性膿皮症などの膠原病類似疾患が,本疾患の合併症として報告されている。癌よりも血液の悪性腫瘍である白血病,骨髄増殖疾患(MPD),MDSなどに合併することが多いとされている。 イ本疾患の典型的な皮疹は,境界鮮明で周囲の健常皮膚より隆起した浮腫性の紅斑であり,浮腫が強ければ水疱形成をみるし,好中球が表皮下に多数浸潤すれば膿疱の形成を見る。水疱や膿疱が破れて潰瘍を形成することもある。多くの場合圧痛があり,好発部位は顔面,頸部,上背,上肢などの上半身である。約半数に咽頭痛などの上気道感染様の前駆症状をみる。発疹に先立ち発熱を生じる症例も多く,発熱は39度前後の高熱で,報告例の73パーセントにみられる。個々の皮疹は1から4週間で消退するが,未治療のまま放置すると新生を繰り返し,発熱とと 前駆症状をみる。発疹に先立ち発熱を生じる症例も多く,発熱は39度前後の高熱で,報告例の73パーセントにみられる。個々の皮疹は1から4週間で消退するが,未治療のまま放置すると新生を繰り返し,発熱とともに,2,3か月続くことがある。 スイート病の皮膚病変について特筆すべきは,病変が静脈注射部位やその他の外傷部位に出現するという点でベーチェット症候群その他の疾患に類似しているとの指摘である。 検査所見としては,本症に特異的なものはなく,末梢血白血球増加(但し,MDSを合併しているような場合には白血球が減少している場合が多い。),CRP高値,血沈の亢進といった炎症性疾患に共通してみられるものである。特に,CRP高値,血沈の亢進は,本症の60ないし70%に認められる。高熱を伴い,皮疹にも好中球が浸潤しているが,咽頭,血液,皮疹部からの細菌培養では,病原菌は検出されないと言われている。 ウスイート病の診断基準は,以下のとおりである。 (ア) 必須項目a 有痛性紅斑性皮疹あるいは結節(典型疹)b 壊死性血管炎を伴わない好中球優位細胞浸潤(イ) 主要項目a 臨床症状(a) 発熱(b) 先行する上気道感染症または基礎疾患の存在b 検査成績(a) 好中球を主体とする白血球の増多(b) CRP陽性または赤沈亢進(ウ) 診断(ア)の2項目を満たし,さらに(イ)の4項目のうちの2項目以上を満足する場合エ抗生物質には反応せず,ステロイド,ヨード剤,コルヒ (ウ) 診断(ア)の2項目を満たし,さらに(イ)の4項目のうちの2項目以上を満足する場合エ抗生物質には反応せず,ステロイド,ヨード剤,コルヒチンなどに反応し,速やかに消退すると言われている。 (8) 類白血病反応(甲8)類白血病反応とは,ある特定の基礎疾患に対する反応としての血液所見が白血病に酷似した状態を意味する。 類白血病反応と診断する具体的条件としては,①白血球数の著明な増加:5万/μl以上のもの,②骨髄球異常の幼若白血球の末梢出現:とくに骨髄芽球の出現,③以上の2者の合併である。 類白血病反応においては,白血病裂孔を伴わない慢性骨髄性白血病類似の血液像を呈する。まれに,急性白血病に似た血液像を呈する場合があり,特にこれを白血病反応と呼んで区別することもある。類白血病反応の基礎疾患としては,感染症がある。 慢性骨髄性白血病との鑑別のためには,好中球アルカリホスファターゼ活性の有無,フィラデルフィア染色体の有無,骨髄所見の有無,血清中のG-CSFの著増の有無で判断する。 (9) ボルタレン等の非ステロイド抗炎症薬の投与によって,胃潰瘍が発症する場合がある(甲9(枝番を含む。))。 (10) 赤血球沈降速度(血沈)(甲10の1)検査目的は,炎症,組織破壊等の有無,程度を測るもので,異常値を示す主な疾患には,感染症,炎症性疾患,悪性腫瘍等がある。男子の正常値は,2~10mm/hrである。 (11) C反応性蛋白(CRP)(甲10の1)各種感染症,癌などによる組織破壊等の有無,程度を測るもので,異常値を示す主な疾患には,細菌感染症,ウイルス感染症,悪性腫瘍等がある。正常値は, ) C反応性蛋白(CRP)(甲10の1)各種感染症,癌などによる組織破壊等の有無,程度を測るもので,異常値を示す主な疾患には,細菌感染症,ウイルス感染症,悪性腫瘍等がある。正常値は,TIA法で0.6mg/hr以下,LA法で0.5mg/hr以下である。 (12) 白血球数(WBC),白血球像(bloodpicture)(甲10の2)ア検査の目的白血球は好中球,好酸球,好塩基球,リンパ球,単球からなる。これらは,異物貪食,殺菌,免疫応答,アレルギー反応などの役割を担っており,感染,外傷,組織崩壊,腫瘍などの際において,炎症反応の主体をなす。このため,白血球数の増減により,感染症などの診断や経過観察を行うのに有用な指標となる。また,白血病など血液・造血器疾患の診断や経過観察にも重要である。 イ基準値白血球数:4000~9000/μl白血球百分率桿状核好中球: 2.0~13.0%分葉核好中球:38.0~58.0%好酸球 : 0.2~ 6.8%好塩基球  : 0.0~ 1.0%リンパ球  :26.2~46.6%単球 : 2.3~ 7.7%ウ異常値の解釈(ア) 白血球数が減少する病態・疾患白血球の半数以上は好中球が占めるので,白血球減少のほとんどは好中球減少に由来する。好中球の減少は,①骨髄での産生低下,②末梢血液での破壊もしくは消費の亢進,③血管外への体内分布の変化などがある場合である。 ①の例として白血病,②の例として敗血症などが 来する。好中球の減少は,①骨髄での産生低下,②末梢血液での破壊もしくは消費の亢進,③血管外への体内分布の変化などがある場合である。 ①の例として白血病,②の例として敗血症などがある。 (イ) 白血球数が増加する病態・疾患一般に白血球増加とは,白血球数が10,000/μl以上に増加した場合をいう。 白血球数が増加する病態には,白血病と白血病以外の疾患で,反応性に白血球数が増加している場合とに大きく分けることができる。 白血病では,骨髄で無制限に増殖する白血病細胞が末梢血液中に出現し,白血球数の増加として捉えられる。しかし,正常の好中球などはむしろ減少している。また,白血病でも,白血球数が減少していたり,基準値を示すこともある。 反応性に白血球が増えるのは,①骨髄で産生が増加,②骨髄プールから末梢血液への放出の増加,③辺縁プールから循環プールへの白血球の移動などが考えられる。 増える白血球の成分により,好中球増加症(好中球の絶対数が7000/μl以上),好酸球増加症(好酸球が300/μl以上),好塩基球増加症(好塩基球が150/μl以上),リンパ球増加症(リンパ球が4000/μl以上),単球増加症(単球が950/μl以上)に分けられる。 (ウ) 白血球像に異常のある病態,疾患白血球数に異常がある場合はもちろん,白血球数には異常がなくても貧血や血小板異常があって血液・造血器疾患の疑われる場合には必ず白血球像も観察しておかなければならない。白血球数の異常の有無にかかわらず,血球の形態に異常のあることはまれではない。 白血球像の観察では,まず白血球の分画を調べる。白血球分画を評価するときには,百 ければならない。白血球数の異常の有無にかかわらず,血球の形態に異常のあることはまれではない。 白血球像の観察では,まず白血球の分画を調べる。白血球分画を評価するときには,百分率は相対的なもので,必ず白血球数から絶対数に換算して判断する。 核の左方移動がある場合は,主な病態としては,重症感染症等が,好中球の核低分葉がある場合には,主な病態としては,MDS等が挙げられる。 さらに,白血病では,芽球が末梢血液に出現する。 3 争点に対する判断(1) 原告らの主張は,Aは,被告病院における平成6年1月12日の手術ないしそのための同日右肩筋肉注射によって細菌に感染し,感染症となったところ,被告病院は,感染症の早期発見,適切な治療を怠ったため,その感染症が重篤化し,重症敗血症で死亡したというものである。 しかし,前記認定の事実経過からすると,後記で詳述するとおり,① Aの被告病院での平成6年1月14日以降の発熱などの症状は,MDSないし急性骨髄性白血病及びスイート病による疑いが強く,同月12日の手術ないし右肩筋肉注射によって,感染症に罹患し,敗血症に至っていたことによって,その症状が生じていたとの立証はないこと,② Aの死因は,被告病院で同月12日の手術ないし右肩筋肉注射によって生じた感染症による重症敗血症であるとの立証はなく,かえって,MDSないし急性白血病による骨髄不全死の疑いあることからすると,原告らの主張は,その立証が十分ではないから,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 (2) Aの被告病院での症状の機序(①)ア(ア) 平成6年2月1日,7日の被告病院での末梢血所見,即ち,過分葉の はないから,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 (2) Aの被告病院での症状の機序(①)ア(ア) 平成6年2月1日,7日の被告病院での末梢血所見,即ち,過分葉の好中球,巨大血小板,ペルオキシターゼ陰性の好中球という形態異常を示す血球が認められたこと等及び同月18日の高知医大病院での骨髄液所見,即ち,細胞数が著しく増大しており,未熟骨髄球である芽球と前骨髄球の割合が高値であったこと等並びにそれらついての被告病院医師及び高知医大病院医師の判断からすると,Aは,以前から少なくともMDS(場合によっては,急性骨髄性白血病)に罹患していたと認められる。 (イ) なお,原告らは,これに対し,上記末梢血所見ないし骨髄所見は,重症敗血症による症状であると主張するところ,その主張の趣旨は,上記各所見は,類白血病反応によるものであるとの主張と解され,Aが,MDSないし急性骨髄性白血病に罹患していたことを否定するかの如くである。 しかし,前記認定のとおり,類白血病が問題となるのは,白血球数が5万以上と著しく増大した場合であるのに,本件では,最も多い時期でも1万台であることからして,類白血病反応によるとの判断は困難であること,感染症による類白血病反応においては,当初,感染がみられるべきところ,後記イ,ウの他,エの第2段記載の点からすると,感染は窺えないこと,(ア)記載の血液像が類白血病反応においても見ることができるとは窺えないことからして,原告らのこの主張は採用しない。 (ウ) 更に,原告らは,Aの症状が,急性骨髄性白血病のFAB分類に該当しないから,急性骨髄性白血病ではない旨主張するかの如くである。 しかし,FAB分類のいずれに該当するかが,急性骨髄性白 ,原告らは,Aの症状が,急性骨髄性白血病のFAB分類に該当しないから,急性骨髄性白血病ではない旨主張するかの如くである。 しかし,FAB分類のいずれに該当するかが,急性骨髄性白血病の確定診断に必要であることまでの立証がないことからすると,原告らのこの主張が,急性骨髄性白血病の可能性を否定するものとまではいえない。 更に,骨髄や末梢血の白血球像から,最も疑われたM3について,高知医大病院で否定的に捉えられた最大の理由は,ATRAの効果がなかったとの判断からであるが,平成6年3月1日の骨髄所見によると,前骨髄球は減少しているものであるから,一定のATRAの効果があったとも考えられるので,M3の可能性も,完全に否定されたものではない。 イ原告らが感染部位と主張するもののうち,同年1月12日硝子体手術がされた左眼球は,その後,被告病院においても,高知医大病院においても,蓄膿が認められなかったこと,高知医大病院の同年2月14日の細菌検査で菌は認められなかったことからして,感染部位であったとは窺われない。 ウ原告らが,感染部位として主張するもののうち,同年1月12日筋肉注射された右肩についても,被告病院において,注射直後右肩に炎症が生じていたとは窺えないこと,高知医大病院において,皮膚科医師も,第三内科医師らも,最終的に,Aの皮疹の原因は,スイート病によるものと判断したこと,その判断の根拠は,Aの臨床の経緯,組織学検査,かつ,皮疹が,スイート病の治療薬とされるステロイドの投与で,直ちに消退に向かい,ほぼ完治したことを根拠とするもので,裏付けのある適切な判断であることからするとAはスイート病に罹患していたと認められること,右肩の症状も他の皮疹とともに完治したと認められること,スイート病 かい,ほぼ完治したことを根拠とするもので,裏付けのある適切な判断であることからするとAはスイート病に罹患していたと認められること,右肩の症状も他の皮疹とともに完治したと認められること,スイート病においては,皮疹が他部位に先行して注射痕等に生じやすいこと等を総合すると,高知医大病院でのAの右肩の所見やAの訴えは,右肩蜂巣炎ではなく,スイート病が他部位に先行して生じたものであった可能性が高いので,右肩も感染部位であったとは窺えない。 エ Aの,被告病院での発熱,白血球の増多,赤沈の亢進,CRP高値の炎症所見は,いずれも,Aが罹患していたと認められるMDSないし急性骨髄性白血病及びスイート病の症状でもあることからすると,Aのそれらの症状から,Aが平成6年1月14日,発熱した時点から,感染症に罹患していたと認めることはできない。 かえって,Aは,同月12日の手術前にも高熱を発したこと,発熱後である同月17日に核が左方移動しておらず,白血球数は正常値であったこと,同月20日の血液細菌検査で細菌感染が認められなかったこと,被告病院で同日頃以降処方した抗生物質が無効であったこと等からすると,原告らの指摘する症状は,Aの同月12日の感染症による可能性は低い。 (3) Aの高知医大病院での症状の機序及び死因(②)ア Aの転院時のMDSないし急性骨髄性白血病及びスイート病の罹患前記のとおり,Aは,高知医大病院に転院する際,既にMDSないし急性骨髄性白血病及びスイート病に罹患していたと認められる。 イ Aの死因について前記認定のとおり,Aは,既に,発熱,血小板減少,貧血が続いていて,低血圧については,昇圧剤の投与によって,コントロールされており,平成6年2月20日 イ Aの死因について前記認定のとおり,Aは,既に,発熱,血小板減少,貧血が続いていて,低血圧については,昇圧剤の投与によって,コントロールされており,平成6年2月20日頃から,腎臓障害が生じたが,同月23日頃から,スイート病については,ステロイドの投与によって改善傾向に向かったところ,同月24日夜半から高熱を発し,肝臓の症状が増強し,同月27日頃から,喀痰が出て,体力も弱まり,その後意識障害等の中枢症状が発し,同年3月4日に血圧が低下し,昏睡状態となり,同月5日に死亡したことからすると,死亡時には,多臓器不全の状態となっており,直接的には中枢症状によって死亡した可能性が高い。 そして,多臓器不全は敗血症のみならず急性骨髄性白血病等による白血病細胞の浸潤によっても起こりえ,特に,肝臓の障害は薬剤性の可能性も否定し難いこと,仮に,Aが敗血症であって,多臓器不全にその影響があったとしても,それは,(2)エ記載のとおり,平成6年1月12日の手術ないし右肩筋肉注射で感染した菌を原因菌とする敗血症によるとの立証はなく,かえって,MDSないし急性骨髄性白血病等における免疫低下による,日和見感染による可能性が高いことが認められ,中枢症状の直接の原因も,敗血症によると認めるに足りる証拠はない。したがって,Aは,MDSないし急性骨髄性白血病による骨髄不全死の可能性が高い。 そうすると,Aの死因が,平成6年1月12日の手術ないし右肩筋肉注射で感染した菌を原因菌とする敗血症によるとは認められない。 (4) なお,原告らは,Aが,被告病院において既にMDSが認められたとしても極めて軽微であったのに,被告病院における高熱の繰り返し,悪寒,戦慄の繰り返しがあり,被告病院におけるボルタレンの多用による 4) なお,原告らは,Aが,被告病院において既にMDSが認められたとしても極めて軽微であったのに,被告病院における高熱の繰り返し,悪寒,戦慄の繰り返しがあり,被告病院におけるボルタレンの多用による胃からの大量出血,症状に対する強い不安によって本人が強いストレスを受け,それが引き金となって骨髄性白血病に進行した旨主張する。 アこの主張が,AのMDSが悪化し,急性骨髄性白血病に転化したのは,被告病院における平成6年1月12日の細菌感染による同月14日以降の症状(胃からの大量出血は除く。)によるものであって,被告病院に,感染症管理に過失があるので,MDS悪化によるAの死亡の責任も負うとの趣旨であるならば,上記で認定のとおり,Aの同月14日以降の症状が,すべて同月12日の細菌感染による感染症によるものとの立証があるとは言えないから,原告らの主張は理由がない。 また,原告らが,被告病院におけるボルタレンの多用による大量出血を問題とする点については,確かに,一般的には,ボルタレンによって胃潰瘍が発症し,大量出血を引き起こすことがあると認められるが,それによって,被告病院の責任を認めるためには,少なくとも,Aの胃潰瘍の原因がボルタレンの大量投与であること,被告病院のボルタレンの投与が適応ないし要約を欠いた,被告病院の過失に基づく,違法なものであることの主張,立証が必要であるところ,それらはないので,その主張は認められない。 イなお,原告らの主張には,「MDSにおいては,免疫力が低下するから,日和見感染する可能性がある。そうであるのに,被告病院が,AのMDSの早期発見,適切な管理を怠ったことによって,被告病院在院のいずれかの時点で,Aが,日和見感染し,そのことによって,MDSを急性骨髄性白血病に転化させるなどして そうであるのに,被告病院が,AのMDSの早期発見,適切な管理を怠ったことによって,被告病院在院のいずれかの時点で,Aが,日和見感染し,そのことによって,MDSを急性骨髄性白血病に転化させるなどして,悪化させた。被告病院が,MDSの早期発見,適切な管理をしていれば,Aが平成6年3月5日の時点で死亡せしめることはなかったのに,それを怠ったため,Aはその時期に死亡した。」との趣旨が含まれるかは問題であるが,原告らは,その最終準備書面で,Aの死因を被告病院における感染症による重症敗血症と主張するものであるから,その主張は含まれないと解する。 なお,仮に,その主張があったとしても,被告病院において,MDSを発見すべき時期及び契機,それに対する適切な管理並びにそれらが実施されればAが同日死亡しなかったことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記認定のAの症状の経過,特に,同年1月14日ないし15日からの継続的な発熱が認められた同月17日以降,被告病院においては,感染症や悪性腫瘍等一般的に不明熱で問題とされるべき原因疾患を特定すべく各種検査を実施していたこと,同月20日頃から,Aに多彩な症状が認められたので,被告病院は,その対症療法を中心に治療していたこと,同月26日までの検査所見で他原因が否定され,血液疾患が疑われ,同月28日,同年2月1日に血液検査で,血液疾患が強く疑われる結果が出たものの,既に,Aには多彩な症状が認められた後でストレスがかかっていたことなどのため,同日,確定診断のための骨髄穿刺は見送られたこと,既に同月3日に同月10日の転院が決まっていたので,それ以降,被告病院においては,有効な治療方法が確立しているとまではいえないMDSや長期に亘る治療計画が必要と解される急性骨髄性白血病の確定診断のために,外科的侵襲を伴う骨 の転院が決まっていたので,それ以降,被告病院においては,有効な治療方法が確立しているとまではいえないMDSや長期に亘る治療計画が必要と解される急性骨髄性白血病の確定診断のために,外科的侵襲を伴う骨髄穿刺の施行をすることは困難であったこと,被告病院担当医は,転院時に,MDS等の可能性や骨髄穿刺の必要性を記載した紹介状を添付し,更に,不明な点があればいつでも連絡するように書き添え,高知医大病院にAの病状を十分伝える努力をしていること,高知医大病院眼科が,Aを第三内科に受診させたのは,転院の5日後で,同月18日に骨髄穿刺を実施したものの,Aの病名の同定には苦慮していたこと,MDSには確立した治療方法はなく,急性骨髄性白血病についても,FAB分類を特定しなければ,治癒率の高い治療方法の実施は困難で,現に,高知医大病院で,その分類を確定し,有効な治療を施すことができず,Aについて不幸な転帰となったことなどに照らすと,この点に過失があるとも窺えない。 4 結語そうすると,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第6民事部裁判長裁判官松村雅司裁判官水野有子裁判官増田純平

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