主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告A1に対し,1900万9139円及びこれに対する平成28年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告A2に対し,440万円及びこれに対する平成28年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,原告A1(以下「原告A1」という。)及びその夫である原告A2(以下「原告A2」という。)が,原告A1は被告の開設する医院において,妊娠した5胎の胎児の一部の減胎手術を受けたところ,執刀した医師が,注意義務に反し,手術時に多数回の穿刺を行い,感染症対策を怠り,減胎対象外の胎児を 穿刺するなどしたため,胎児を1胎も救えなかったと主張して,原告らがそれぞれ,被告に対し,不法行為(使用者責任)又は診療契約上の債務不履行に基づき,損害賠償金(原告A1につき1900万9139円,原告A2につき440万円)及びこれに対する訴状送達の日の後である平成28年7月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案で ある。 2 前提事実(争いがない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア原告A1は,昭和55年生まれの女性(後記の減胎手術当時34歳)で あり,原告A2は,その夫である。 イ被告は,B産婦人科医院(以下「被告医院」という。)を開設する医療法人である。 ウ C医師(以下「被告医師」という。)は,被告医院に勤務していた医師であり,後記の原告A1に対する減胎手術を執刀した。 ,B産婦人科医院(以下「被告医院」という。)を開設する医療法人である。 ウ C医師(以下「被告医師」という。)は,被告医院に勤務していた医師であり,後記の原告A1に対する減胎手術を執刀した。 エ原告A1と被告は,平成27年6月8日頃までに,妊娠した胎児の管理 及び減胎手術等に関する診療契約を締結した。 オ原告らは,被告医師に対する不法行為に基づく損害賠償請求訴訟も提起していたが,被告医師は本件訴訟係属中である令和元年▲月▲▲日に死亡し,原告らは,被告医師(その承継人)に対する訴えを取り下げた。 (2) 被告医院での診療経過 ア原告A1は,平成24年に男児を出産し,平成26年11月13日から被告医院で女児の妊娠を希望して,排卵誘発剤等の投与による不妊治療を受けていた。 イ平成27年6月8日(以下,平成27年の出来事については年の記載を省略する。)(妊娠7週1日。以下,単に「○週○日」と記載する。),被告 医師は,原告A1から5胎の心拍を確認した(乙A1p46)。 ウ 6月19日(8週5日),被告医師は,原告A1につき,経腟で生理食塩水を胎児に注射する方法(以下「経腟生食法」という。)による減胎手術を行った(以下「手術Ⅰ」という。)(乙A1p53,86)。これにより2胎のみを残す予定であったが,4胎が残った。 エ 6月22日(9週1日),被告医師は,再入院した原告A1につき,経腹で塩化カリウム(KCL)を胎児に注射する方法(以下「経腹KCL法」という。)による減胎手術を行った(以下「手術Ⅱ」という。)。これにより予定どおり2胎が残った。 オ 6月30日(10週2日),7月2日(10週4日),7月9日(11週 4日)及び7月17日(12週5日),原告A1は,被告医院に通院し,超 音波 これにより予定どおり2胎が残った。 オ 6月30日(10週2日),7月2日(10週4日),7月9日(11週 4日)及び7月17日(12週5日),原告A1は,被告医院に通院し,超 音波検査を受けた(乙A1p54,62~74)。 カ 7月17日(12週5日)の診察時,被告医師は,8月11日にマクドナルド術(早産防止のための子宮管縫縮術)を行う予定としたが(乙A1p67,68),原告A1は,7月17日を最後に,以後,被告医院を受診しなかった。 (3) Dマタニティクリニック(以下「DMC」という。)での診療経過7月22日(13週3日),原告A1は,胎児の超音波検査を専門とするDMCで,E医師(以下「E医師」という。)による初期胎児ドックを受けた。 その結果,2胎のうち1胎(以下「Ⅰ児」という。)には,軽度~中度の三 尖弁逆流がみられ,ダウン症のリスクが1/65であるが,染色体異常の可能性は低いと思われる旨の診断がされ,もう1胎(以下「Ⅱ児」という。)には,頭蓋骨一部欠損と脳の脱出がある旨診断された。 また,Ⅰ児とⅡ児は,2絨毛膜2羊膜双胎(以下「DD双胎」という。)であると診断された。DD双胎とは,胎児ごとに羊膜及び絨毛膜が個別にある ものをいい,胎盤については,完全に分離している場合のほか,癒着・融合して1つになっている場合もある。(乙A2p4,14,18~22,乙B10)(4) Fマタニティクリニック(以下「FMC」という。)での診療経過ア 8月4日(15週2日),原告A1は,DMCでの初期ドックの結果を受けて,1胎を減胎するためにDMCの紹介によりFMCを受診した(乙A 3p2,3)。FMCのG医師(以下「G医師」という。)は,Ⅰ児とⅡ児につき,疑問を残しながらもDD双胎と診 ックの結果を受けて,1胎を減胎するためにDMCの紹介によりFMCを受診した(乙A 3p2,3)。FMCのG医師(以下「G医師」という。)は,Ⅰ児とⅡ児につき,疑問を残しながらもDD双胎と診断した(乙A3p23)。 イ 8月14日(16週5日),原告A1に羊水の減少がみられた(乙A3p32)。 ウ 9月4日(19週5日),Ⅰ児及びⅡ児とも羊水の減少によって妊娠の継 続が困難であったため,原告A1は,2胎につき人工妊娠中絶手術を受け た(以下「本件人工流産」という。)(甲B3,乙A3p1,68,69)。 3 争点(1) 手術Ⅱにおいて太い穿刺針を用いて過剰な回数の穿刺をした過失(2) 手術Ⅱの術中及び術後において感染症対策を懈怠した過失(3) 手術ⅡにおいてⅡ児の頭部を穿刺した過失 (4) 手術Ⅰの手法選択及び手術Ⅱの実施時期の選択に関する過失(5) 手術Ⅱの前の転医義務違反(6) 救胎する胎児数及び胎児の選択に関する説明義務違反(7) 因果関係(8) 損害額 4 争点に関する当事者の主張(1) 手術Ⅱにおいて太い穿刺針を用いて過剰な回数の穿刺をした過失について(原告らの主張)手術Ⅱにおいて被告医師は約20回の穿刺を16ゲージの太い針を用いて 経腹的に実施したとしているが,原告A1の腹部には約30箇所の穿刺痕が確認された(甲A7)。その穿刺態様や穿刺回数は何ら医学的な文献に基づかない態様である。 穿刺回数を少なくするのは,羊水漏出,感染症,腟炎及び性器不正出血等を防止するためであり,多胎妊娠の母胎ではこれらの症状に罹患しやすいと ころ,穿刺回数増加によりその可能性がより高まる。 そのため,これらの症状に陥りやすい状態にあったことに配慮した穿刺針 を防止するためであり,多胎妊娠の母胎ではこれらの症状に罹患しやすいと ころ,穿刺回数増加によりその可能性がより高まる。 そのため,これらの症状に陥りやすい状態にあったことに配慮した穿刺針の太さや穿刺回数でなければならない。すなわち,被告医師には,手術Ⅱの際,複数回の穿刺による羊水漏出,感染症,腟炎及び性器不正出血等を防止するため,胎児への穿刺を,細い針を用いて1胎につき原則1回,多くとも 3回以内の穿刺回数に止める義務があった。また,多胎妊娠では厳格な母体 及び胎児の管理が求められることや,経腟的減胎手術後で感染徴候に陥りやすい状態にあったことに配慮した穿刺回数に止めるべき義務があった。 しかるに,被告医師は,約30回もの穿刺を行った点で過失がある。 (被告の主張)ア減胎手術の際の穿刺を3回以内で成功させることは,日常的に減胎手術 を行っているごく一部の習熟した医師のみが1回目に減胎を試みた胎児とそうでない胎児を識別する必要のない場合にのみできることである。穿刺回数について医療水準はない。 手術Ⅱにおいては,手術Ⅰにおいて減胎を試みた胎児を見極めて施行する必要があり,通常の減胎手術に比べて相当に難度が増す。 イ被告医師は,最少の穿刺回数にすべく努力をした結果,3回を超える穿刺を行ったものの,30回には及んでいない。 (2) 手術Ⅱの術中及び術後において感染症対策を懈怠した過失について(原告らの主張)ア原告A1は多胎妊娠であることから,単胎に比べて,早産と低出生体重 児,流産や死産といった種々の合併症罹患の危険性が高く,ハイリスク妊婦となるため,母体及び胎児の管理が重要である(甲B6)。 イ 6月22日の手術Ⅱを受けた日を境に,CRP値が通常値の約10倍になり,その後, った種々の合併症罹患の危険性が高く,ハイリスク妊婦となるため,母体及び胎児の管理が重要である(甲B6)。 イ 6月22日の手術Ⅱを受けた日を境に,CRP値が通常値の約10倍になり,その後,約4~8倍で推移し,被告医院で入院中も低下せず,炎症反応が継続し,不正性器出血や37度以上の高熱も続いた(甲A4,乙A 3p109~112)。 医学的知見としては,減胎手術で抗生剤の使用を必要としない(甲B22p5)。これは,穿刺回数を抑えて胎児及び母体への影響を少なくしているからである。 本件では穿刺回数が多いことから胎児及び母体への影響が懸念されるた め,被告医師には,①一般的手術と同様,手術Ⅱにおいても,感染症対策 として,術中及び術後に抗生物質の投与を行う義務があった。また,②WBC(白血球数)及びCRPのモニタリング結果を踏まえ,その後の投与日数を決定する必要があるところ,原告A1の6月26日のCRP値は3. 8mg/dl(以下,CRPの単位につき同じ。)と高値であり,不正性器出血が続いていたにもかかわらず,原告A1を退院させた。医学的知見として は,6月27日の時点では治癒しておらず,小康状態になっただけであった(甲B22p3,甲B23p5)。そのため,その後も抗生物質の投与を継続し,CRPやWBCが正常になってから抗生物質投与を打ち切るべきところ(甲B22p5,甲B23p7,8),被告医師は,その後も抗生物質の投与を継続して投与量を見直して増量する義務を怠った。 さらに,③7月17日までの通院時に,原告A1からは不正性器出血がみられたのであるから,感染症に配慮してCRPやWBCを計測すべきであった。 医学的知見としては,通院時においても定期的にCRPやWBC 17日までの通院時に,原告A1からは不正性器出血がみられたのであるから,感染症に配慮してCRPやWBCを計測すべきであった。 医学的知見としては,通院時においても定期的にCRPやWBCを測定し,基準値となったかどうかを確認してから抗生物質投与を打ち切るべき であるところ(甲B22p6,7,甲B23p8,9),本件では,CRPやWBCの計測をしておらず,抗生物質を投与せず,感染が再燃したため,原告A1は治癒しなかった。そのため,被告医師は,感染症に配慮してCRPやWBCを計測すべき義務を怠った。 (被告の主張) ア被告医師は,感染症の予防のため,抗生剤パンスポリンキットを6月19日から6月20日まで及び6月22日から6月26日まで1日2回点滴で投与し(乙A1p81,83),抗生剤クラリス(乙B26)を6月20日から9日間投与した(乙A1p84)。 また,手術Ⅱの後,絨毛膜下血腫溶解による出血があり,院内で安静に してもらうため,6月27日まで入院を継続させ,体調の回復も確認して いる。 CRPは炎症が治まると一定程度のタイムラグを経て急激に下がるのであり,漫然と継続的に抗生剤投与が行われることはない。被告医師の感染症対策として不適切な点はない。 イそもそも原告A1は,被告医院通院中に感染症に罹患したことはないし, DMC受診時(7月22日,7月29日)において,子宮内感染,絨毛膜羊膜炎,羊水漏出は,いずれも確認されていない。 原告A1が,細菌性腟炎(ありふれた病態)が原因となって上行性に感染が広がり,絨毛膜羊膜炎になったのは,全身状態,CRPの推移等から判断して,7月22日頃以降のことである。 (3) 手術ⅡにおいてⅡ児の頭部を穿刺した過失について(原告らの主 行性に感染が広がり,絨毛膜羊膜炎になったのは,全身状態,CRPの推移等から判断して,7月22日頃以降のことである。 (3) 手術ⅡにおいてⅡ児の頭部を穿刺した過失について(原告らの主張)被告医師には,手術Ⅱを行う際に,23ゲージ程度の細さの針を用いて,減胎対象でない胎児の身体を損傷しないようにする義務があった。 しかるに,被告医師は,手術Ⅱの際,16ゲージもの太い針を用いて,Ⅱ 児の頭部を穿刺したから,過失がある。 (被告の主張)16ゲージの針を用いたことは認めるが,被告医師が手術Ⅱの際,Ⅱ児の頭部を穿刺したことは否認する。 (4) 手術Ⅰの手法選択及び手術Ⅱの実施時期の選択に関する過失について (原告らの主張)ア次の医学的知見等からみて,被告医師には,手術Ⅰをガイドプローブを使用して経腹KCL法で行う義務があった。 (ア) ガイドプローブを用いなければ,穿刺針が超音波下でほとんど見えず,針が胎児の心臓に当たらず,失敗するおそれが高い。 (イ) 経腟では超音波画像を読み取りづらいため,原則として経腹による べきである。 (ウ) 生食法では,高ナトリウム血症での心停止は生じない(甲B9参照)。 (エ) 減胎手術の主流は,平成9年時点で,既にKCL法であった(甲B7p6,甲B8p3,乙B11p25,乙B12p119,120)。 (オ) 経腟は経腹よりも流産率が高い(甲B10)。 イまた,手術Ⅰを経腟生食法で行うとしても,生理食塩水の注入により胎児が1.5倍に膨らむとは認められず,時間が経つほど施術をした胎児の区別が困難となるため,手術Ⅰの後,直ちに手術Ⅱを実施すべきであった。 ウしかるに,被告医師は,手術Ⅰをガイドプローブを使用せずに経腟生食法で行った点で 認められず,時間が経つほど施術をした胎児の区別が困難となるため,手術Ⅰの後,直ちに手術Ⅱを実施すべきであった。 ウしかるに,被告医師は,手術Ⅰをガイドプローブを使用せずに経腟生食法で行った点で過失があり,そうでないとしても,手術Ⅰの後に直ちに手 術Ⅱを実施しなかった点で過失がある。 (被告の主張)以下のとおり,被告医師には,手術Ⅰを経腹KCL法で行う義務はなかった。 ア減胎手術について確立した医療水準はない。平成9年時点で経腟又は経 腹でのKCL法が主流であるとしても,確立された方法とまではいえない(乙B12p121)。KCL法には,KCLを誤って母体に投与するリスクもある(甲B8p3)。 イ次のとおり,経腟生食法も許容される1つの方法である。 (ア) 妊娠8週頃は,経腹より経腟の方が,胎児の位置関係や心臓の動きを 識別しやすい。また,生食法によると生食注入により胎児が膨れるため,妊娠8週頃でも見分けやすく,子宮底部に近い胎児はより見分けやすい。 (イ) 妊娠8週頃は,生食を胎児の心臓に注入すれば,高ナトリウム血症の状態を引き起こし,減胎が可能である。 ウ被告医師は,これまで経腟生食法による減胎手術の経験があり,全て1 回の穿刺で成功しているし,5胎からの減胎手術の経験もある。 (5) 手術Ⅱの前の転医義務違反について(原告らの主張)被告医師は,手術Ⅰにおいて1胎しか減胎できなかった時点で,減胎手術を適切に履行する技量を有しないことが判明したから,原告A1をFMCなどの専門医院に転医させる義務があった。 しかるに,被告医師は,原告A1を転医させず,自ら手術Ⅱを行った点で,過失がある。 (被告の主張)被告医師は,手術Ⅱで残り2胎の減胎に成功しており,転医 転医させる義務があった。 しかるに,被告医師は,原告A1を転医させず,自ら手術Ⅱを行った点で,過失がある。 (被告の主張)被告医師は,手術Ⅱで残り2胎の減胎に成功しており,転医の必要性はなく,その義務もなかった。 (6) 救胎する胎児数及び胎児の選択に関する説明義務違反について(原告らの主張)多胎妊娠をした原告A1及びその夫である原告A2には,救胎する胎児数及び胎児を選択する自己決定権がある。したがって,被告医師には,膜性診断を正確に実施し,単胎と双胎2組(2胎×2組,うち1組は一絨毛膜二羊 膜双胎〈胎盤,絨毛膜が一つだが,羊膜が個別。以下「MD双胎」という。〉)が含まれることを確認した上で,救胎する胎児数及び胎児についての選択肢とそれが母体及び胎児に与える影響について説明する義務があった。 しかるに,被告医師は,膜性診断を懈怠し又はこれを誤り,単胎のみを残すという選択肢があることを説明しなかった。 (被告の主張)被告医師は,慎重に膜性診断を実施した上で単胎5胎と診断し,それに基づいて2胎を残すことを勧めたものであって,説明義務違反はない。 結果的に単胎と双胎2組であったとしても,それは超音波検査の限界によるものであって過失はなく,説明義務違反もない。 (7) 因果関係について (原告らの主張)ア本件人工流産の原因・機序本件人工流産の原因は,Ⅰ児及びⅡ児とも羊水の減少によるものである。 また,Ⅱ児については(羊水の減少がなくとも)脳脱出の致命的障害があり,人工流産せざるを得なかった。 羊水減少の原因は,第1に,多数回の経腹による子宮穿刺から生じた羊膜損傷に起因する羊水漏出にあり,第2に,炎症反応の継続による子宮内感染症,腟 障害があり,人工流産せざるを得なかった。 羊水減少の原因は,第1に,多数回の経腹による子宮穿刺から生じた羊膜損傷に起因する羊水漏出にあり,第2に,炎症反応の継続による子宮内感染症,腟炎及び不正性器出血にある。 (ア) 羊水漏出について① 妊娠経過中に羊水が経腟的に漏出することはなく,漏出するとすれ ば物理的な外圧が加わり羊膜が損傷するなど非常に稀な場合である。 本件では,16ゲージもの太い針を用いて多数回の経腹による子宮穿刺をしたため,羊膜が損傷した(甲B22,23)。羊膜を貫通して針の先端が流産した1胎に到達していたからこそ,流産した胎児の1胎には穿刺痕が残っている(甲B3)。羊膜は修復力があるが,本件で は修復力が追いつかないほどの損傷であった。 ② 被告は,胎児の染色体異常や先天性奇形によって羊水が漏出したと主張するが,Ⅰ児は,E医師による初期ドックの結果からも,ダウン症を含めた染色体異常の可能性が低いと診断されているし(乙A2p18),Ⅱ児の脳脱出は,被告医師の手技ミスによるものであるから, これを理由とする羊水減少はない。 (イ) 炎症反応の継続について① 多数回の穿刺は炎症反応を過大に継続させ,流産につながる(甲B10p1493)。 本件では,手術Ⅱを受けた6月22日を境に,原告A1のCRP値 が通常値の約10倍になり,その後,約4~8倍で推移した(甲A4)。 被告医院で入院している間も低下せず,炎症反応が継続した(乙A3p109~112)。原告A1は,被告医院を退院するまでに不正性器出血や37度以上の高熱も継続した(乙A3p109~112)。一般に,手術後にCRPが上昇するとしても,減胎手術は,帝王切開等の手術に比べて侵襲の程度が小さいので,本件のような上昇 るまでに不正性器出血や37度以上の高熱も継続した(乙A3p109~112)。一般に,手術後にCRPが上昇するとしても,減胎手術は,帝王切開等の手術に比べて侵襲の程度が小さいので,本件のような上昇は考えにくい。 原告A1のCRP値やWBCは正常値に戻っておらず,また不正性器出血も継続しているにもかかわらず,被告医師は抗生物質の投与を終了した(乙A1p197)。 医学的知見としては,これらが正常に戻った時点で抗生物質の投与を終了する(甲B23p7)。退院後,CRPやWBC等の血液検査をし て基準値になったことを確認してから抗生剤の投与を中止する(甲B22p6,甲B23p8)。今後も出血が続くことが予想されるため,6月27日で抗生剤投与を打ち切るべきではない(甲B22p6,甲B23p8)。その後の通院で,被告医師は,原告A1の帯下の細菌培養をせず,原告A1の白血球WBCは正常値に戻らず(甲B22p4,甲B23p8), さらにCRPが正常値に戻ったか否かの検査を実施していない。被告医院への通院時,不正性器出血も継続していた(乙A1p55,59,甲B26)。 このように,被告医院での入院や通院において,被告医師が原告A1のCRPやWBCといった炎症発生を意味する数値が正常値に戻っ たことを確認していないほか,不正性器出血が止まったことを確認しておらず,細菌感染の状態を脱していたとは到底いえない。 ② 原告A1は,7月22日と7月29日にDMCを受診するものの,抗生剤等の処置を受けていない。これは,原告A1がDMCを受診した目的は減胎手術の回数や手法が適切でないことにより胎児に障害が 生じていないかを確認するためであり,DMCの医師においても抗生 剤等の処置を行うことを目的としていないから MCを受診した目的は減胎手術の回数や手法が適切でないことにより胎児に障害が 生じていないかを確認するためであり,DMCの医師においても抗生 剤等の処置を行うことを目的としていないからである(甲A3p3,乙A2)。 医学的知見としては,細菌感染が十分治癒せず小康状態を保って再燃することは頻繁にあり(甲B22p3,甲B23p5),本件では不正性器出血やCRPを上昇させるその他のイベントもないことから,炎症 反応の継続は新たな感染が原因ではなく,減胎手術時の感染に起因する。 ③ 8月4日には原告A1には赤色膿性の多量の帯下が確認され,切迫流産の危険性があり,子宮内感染症及び腟炎と診断され(乙A3p1),絨毛膜羊膜炎も発症していた(乙A3p77)。8月4日までにこれらを 発生させる要因となるイベントは減胎手術以外にない。炎症反応の継続による子宮内感染症,腟炎及び不正性器出血が生じて羊水が減少した。 ④ 正常妊娠経過に伴う羊水量は妊娠32週までは指数対数的に増加傾向にある(乙B21p49)。妊娠初期の羊水の浸透圧は母体血漿浸透圧 に近似しており,妊娠初期の羊水産生は母体血漿から卵膜を介した漏出が主経路と考えられ(乙B21p48),胎児由来で産生される羊水の寄与は低いと考えられる。したがって,本件での羊水減少も胎児の先天的異常などが原因ではなく,炎症反応の持続によるものである。 (ウ) Ⅱ児の脳脱出の原因について Ⅱ児の脳脱出の原因は,被告医師がⅡ児の頭部を穿刺したことにある。 脳瘤ではなく,先天性のものでもない。 ① Ⅱ児の頭蓋骨が一部欠損していること,頭部及び太腿の付け根に瘢痕化した穿刺痕が残っていることは,脳脱出が先天的でないことを強く推認させる。穿刺針が頭に当たっても,KCLを注入し ものでもない。 ① Ⅱ児の頭蓋骨が一部欠損していること,頭部及び太腿の付け根に瘢痕化した穿刺痕が残っていることは,脳脱出が先天的でないことを強く推認させる。穿刺針が頭に当たっても,KCLを注入しなければ直 ちに死亡するわけではない。 ② 脳瘤は,胎児の脳組織が形成される際の神経管の閉鎖不全によって生じる(甲B13p247,乙B13p21)ところ,Ⅱ児の脳脱出は,正中からやや右に脳が脱出している(甲B3の写真からもそれがみてとれる。)から,脳瘤ではない。 ③ 脳瘤の発生頻度は1 万人分娩中0.8~3人と非常に少なく(甲B 13p248),また,発生部位は前頭部や前頭蓋底部は少なく,後頭部が多いとの傾向にある(甲B13p249)ところ,Ⅱ児の脳脱出は前頭部に発生している。 ④ 脳脱出を生じたⅡ児につき,被告医師,E医師及びG医師のいずれもが,染色体異常とは診断していない。 ⑤ 先天性異常だとすれば,被告医院での超音波検査の時点で見つかったはずである。 イ各過失と本件人工流産との因果関係(ア) 争点(1)の過失(手術Ⅱにおいて太い穿刺針を用いて過剰な回数の穿刺をした過失)及び争点(2)の過失(手術Ⅱの術中及び術後において感染 症対策を懈怠した過失)によって,羊水漏出,子宮内感染症,腟炎及び性器不正出血が生じ,本件人工流産を余儀なくされた。 (イ) 争点(3)の過失(手術ⅡにおいてⅡ児の頭部を穿刺した過失)によって,Ⅱ児の脳脱出が生じ,本件人工流産のうちⅡ児の人工流産を余儀なくされた。 (ウ) 争点(4)の過失(手術Ⅰの手法選択及び手術Ⅱの実施時期の選択に関する過失)によって,5胎中3胎減胎の目的を達することができず,手術Ⅱが必要となった。そして,手術Ⅱを実施したことによって本件人工 争点(4)の過失(手術Ⅰの手法選択及び手術Ⅱの実施時期の選択に関する過失)によって,5胎中3胎減胎の目的を達することができず,手術Ⅱが必要となった。そして,手術Ⅱを実施したことによって本件人工流産に至った。 (エ) 争点(5)の過失(手術Ⅱの前の転医義務違反)によって,被告医師が 手術Ⅱを行った結果,本件人工流産を余儀なくされた。 (被告の主張)ア本件人工流産の原因・機序(ア) 本件人工流産の原因が,Ⅰ児,Ⅱ児ともに羊水の減少によるものであること及びⅡ児には脳脱出もあったことは認める。 (イ) 羊水減少の原因は,羊膜の損傷ではなく,胎児の先天奇形及び染色体 異常による胎児の発育不全又は7月22日頃以降に発症した絨毛膜羊膜炎の悪化である。 ① 原告らは,羊水の漏出は物理的な外圧が加わらない限り極めて稀であると主張する。 しかし,羊水は胎盤完成期以後急速に増加し,妊娠28週末以後次 第に減少して妊娠末期に至る。羊水は常に産生・吸収が行われ,末期には1時間に40~50%が入れ替わる(乙B24p312,313)のであり,一定量ではない。また,妊娠初期の羊水産生は,母体血漿から卵膜を介した漏出が主経路と考えられ,妊娠20週未満では胎児血管から蛋白を除いた胎児血漿成分及び水分が羊膜腔に漏出する(乙B21 p48)。このように羊水の産生及び吸収には多くの因子が作用するのであり,母子の健康状態の悪化など物理的な外力以外の理由で羊水が漏出することは大いに考えられる。羊水量は胎児の健康状態の指標とされている(乙B24p313)。 また,一般的な検査である染色体異常の確定診断のための羊水や絨 毛の採取の際,羊膜を穿刺する方法をとるが,これらの検査の際に羊水の漏出という合併症を招くことは極めて 乙B24p313)。 また,一般的な検査である染色体異常の確定診断のための羊水や絨 毛の採取の際,羊膜を穿刺する方法をとるが,これらの検査の際に羊水の漏出という合併症を招くことは極めて稀である。 Ⅰ・Ⅱ児ともに羊水が減り始めたことが記録上確認できるのは,8月14日である(乙A3p32)。羊水の減少が減胎手術における物理的な外力による羊膜の損傷によるものであれば,減胎手術の直後から減 少があってしかるべきところ,53日後に羊水が減少していることか ら,羊水の減少は物理的な外力以外の理由によるものと考えられる。 また,仮に羊水の減少が羊膜の損傷によるものだとすると,自然に修復されることはなく,羊水の漏水は続き,子宮内感染を引き起こすことは必至であるから,妊娠を継続させることはできない。FMCにおいて,8月14日に羊水の減少が確認されたにもかかわらず,9月 4日まで妊娠を継続させたのは,羊水の減少が羊膜の損傷によるものではないと診断したからである。 ② 原告A1のCRPの値は,手術Ⅱの日以降,6月23日に4.3,6月26日に3.8と順調に減少を続けている。CRPは多少の炎症でも基準値を超えて大幅に数値が増加するもので,手術により10程 度まで上昇することも珍しくない。被告医院入院中はバイタルが比較的安定しており,6月20日~28日まで抗生物質を投与し,体調が十分に回復した後に退院している。原告A1は,6月30日,7月2日,7月9日,7月17日に元気に外来受診している。原告A1が7月17日までに感染症に罹患したことはない。 DMCを受診した7月22日のCRPは1.73,WBCは7400μL(以下,WBCの単位につき同じ。)(乙A2p9),7月29日のCRPは1.99,WBCは990 罹患したことはない。 DMCを受診した7月22日のCRPは1.73,WBCは7400μL(以下,WBCの単位につき同じ。)(乙A2p9),7月29日のCRPは1.99,WBCは9900である(乙A2p10)。DMCにおいて,子宮内膜感染症や腟炎,絨毛膜羊膜炎,羊水漏出の診断はされていないし,抗生剤の投与・処方も行われていない。 FMCを受診した8月4日のCRPは2.5,WBCは9700で,その後,更なるCRPの高値が続いている。FMCを受診してから絨毛膜羊膜炎が重篤化(CRP,高体温が持続的に悪化)し,8月14日に羊水減少が始まったこと,絨毛膜羊膜炎は,細菌性腟炎(ありふれた病態)が原因となって上行性に感染が広がること,絨毛膜羊膜炎 になれば羊水は減少すること(乙B37,38)から,羊水減少は, 減胎手術とは関係がなく,7月22日頃に罹患した感染症が上行性に広がった絨毛膜羊膜炎によるものと考えられる。 羊水の減少が羊膜の損傷によるものではないことは,Ⅱ児のみならずⅠ児も同じように羊水が減少していることからも推認される。 (ウ) Ⅱ児の脳脱出の原因は,先天的な脳瘤又は外脳症による。 ① 脳の脱出箇所は正中である(甲B3下の拡大写真)。 ② 後頭部以外の脳瘤の発生率は,11~34%とされている(甲B13)。 ③ 一般に多胎妊娠には,奇形,染色体異常の可能性が高く(乙B11p54),一卵性双胎の場合には,先天性異常の頻度が高い(乙B11p52)。 本件でも,Ⅰ児は,軽度から中等度の三尖弁の逆流が認められ,ダウン症の確率が高いとの検査結果がある(乙A2p14~22)。また,Ⅰ・Ⅱ児の羊水がともに徐々に減少していることは,物理的な外力によるものではなく,先天性異常によるものであ 尖弁の逆流が認められ,ダウン症の確率が高いとの検査結果がある(乙A2p14~22)。また,Ⅰ・Ⅱ児の羊水がともに徐々に減少していることは,物理的な外力によるものではなく,先天性異常によるものであることを強く推認させる。 ④ DMCにおいて異常が発見されたのは,DMCが胎児診断のエキス パートであり,胎児診断用の最新鋭の4Dエコー等を駆使して検査したからであり,被告医院では,かかる特別の胎児診断を行っていない。 被告医院に通院していた7月17日まで異常がなかったとはいえない。 ⑤ 毒性が強いKCLの針が胎児に当たれば即死するはずで,19週目まで生存するとは考えにくい。 ⑥ 減胎をする際には,エコーで胎児の側面を見る状態にして心臓を狙い穿刺頭頂部に垂直に針が刺さることはあり得ない。 イ手術Ⅱ及び手術Ⅰと人工流産との因果関係について本件人工流産の原因は,上記アのとおりであるから,本件人工流産の結 果と手術Ⅱ及び手術Ⅰとの間に因果関係はない。 そもそも多胎妊娠は流産率が高く,5胎で1人も出産できないことは珍しいことではない。手術Ⅰ,手術Ⅱとの因果関係について論ずるまでもなく,5胎のうち1胎でも生存できた高度の蓋然性は認められない。 (8) 損害額について(原告らの主張) ア治療費(ア) 通院費及び入院費 106万8539円(甲C3)(イ) 減胎費用 18万0000円(甲C4)(ウ) 交通費 16万0600円(甲C5)(エ) 小計 140万9139円 イ原告ら固有の慰謝料胎児は母体とは別個の生命体であり,出生の前後で生命の連続性があることを踏まえ,胎児が生きて生まれた場合の賠償額を考慮して父母の 140万9139円 イ原告ら固有の慰謝料胎児は母体とは別個の生命体であり,出生の前後で生命の連続性があることを踏まえ,胎児が生きて生まれた場合の賠償額を考慮して父母の慰謝料額を算定すべきである。 加えて,本件における慰謝料額の算定において,以下の事情を考慮すべ きである。 (ア) 被告医師の杜撰な診療がなければ,少なくとも1胎は正常に出産していた。 (イ) 流産した胎児は,原告らが不妊治療の末にようやく授かった命であった。 (ウ) 原告A1は,手術Ⅱによる多数回の穿刺,その後の感染症等への罹患,本件人工流産によって耐え難い肉体的苦痛を感じた。 (エ) 被告医師は,自らの過失を隠蔽すべく本件の減胎手術について故意に診療録に記載せず,原告らが求めた説明の場を設けることも拒否した。 (オ) 被告医師は,原告A1に対し,減胎手術の失敗を口止めすべく,背中 の刺青を見せて畏怖させるという医師の倫理・道徳に反する行為をした。 ウ死亡した胎児の損害賠償請求権の相続(ア) 次の理由から,民法721条は,胎児の段階で損害賠償請求権を取得し,出生前に死亡した場合は相続人に承継される旨を定めたものと解すべきである。 ① 民法721条は胎児の損害賠償請求権についての特別規定であるた め,同法3条の規定に優先する。また,同法721条には胎児のまま死亡した場合について,同法886条2項のような例外規定が置かれていない。相続制度が相続開始後に血族として実在に至る胎児のために出生を擬制するものであるから,死亡の場合には保護の必要がないとしたのに対し,損害賠償制度は不法行為の抑止の目的も有するため, 死亡の有無にかかわらず胎児に損害賠償請求権を認めたものといえる。 ② 実務では のであるから,死亡の場合には保護の必要がないとしたのに対し,損害賠償制度は不法行為の抑止の目的も有するため, 死亡の有無にかかわらず胎児に損害賠償請求権を認めたものといえる。 ② 実務では,胎児に侵害を加えたがその程度が弱く出生に至った場合には,加害者に対する損害賠償請求が認められるのに対し,胎児への侵害の程度がより強く胎児が死亡に至った場合には損害賠償請求が認められず,両親の慰謝料のみしか認められないとされているが,これ は衡平に反する。また,不法行為の抑止効の観点からも,より強い侵害がなされた場合についての侵害損害賠償責任を認めるべきである。 ③ 医療の発展により,妊娠37週以前に未熟児で出生しても体外で生存することが可能となった現在においては,母体内にある胎児も同じ人として扱われるべきであり,民法制定時と比較して少子化や不妊治 療の普及に伴い胎児の価値は出生児と同様に高まっているため,胎児の損害賠償請求権が認められるべきである。 ④ 米国においては,8割近くの州で,胎児が死亡した場合にも近親者に損害賠償請求を認める扱いをしている上,近年,胎児にも権利主体 きである。 (イ) 被告医師の過失(争点(1)~(5))により,原告らが残す予定であった胎児らは,平成27年9月4日に本件人工流産により死亡し,胎児らの両親である原告らは,胎児らの損害賠償請求権を相続した。 エ原告ら固有の慰謝料額及び原告らが相続した胎児ら固有の損害額は極めて多額であるが,本件訴訟ではイ,ウを合わせて原告A1につきその一部 である1600万円を,原告A2につきその一部である400万円を請求する。 オ弁護士費用原告A1につき160万円,原告A2につき40万円が相当である。 カ損害額合計 である1600万円を,原告A2につきその一部である400万円を請求する。 オ弁護士費用原告A1につき160万円,原告A2につき40万円が相当である。 カ損害額合計 原告A1 1900万9139円原告A2 440万円(被告の主張)否認又は争う。いずれの主張額も過大である。 民法721条についての原告の主張は,立法論としてはともかく,現行民 法の解釈上は明文規定に反する独自の主張である。 すなわち,民法は,3条1項を厳密に貫くと胎児に不利益が生じる場合があるため,721条により例外的に出生擬制することによって不都合を回避しているが,胎児が死産の場合に出生擬制が働かないことは,886条2項の規定するとおりである。また,出生擬制は,胎児が権利能力を有していた かのような取扱いをするものであるが,権利能力を取得させるものではない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実争いのない事実並びに証拠(甲A1~7,甲B1~19,21,24,甲C4,15,乙A1~9,乙B6~17,19~24,26~39,証人G,原 告A1,訴えの取下げ前の被告C)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認 められる。 (1) 被告医院での診療経過等ア原告A1は,女児の妊娠を希望して,平成26年11月13日,被告医院を受診した。 原告A1は,被告医院において,排卵誘発剤の投与及び男女産み分けの ための精液調整後の配偶者間人工授精による生殖補助医療を受けることとなった。その際,原告らは,被告医師から,遺伝子疾患児の分娩の回避はできないこと,希望とは異なる性別の双胎以上の受胎が生じることがあることなどの説明を受け,同意書にそれぞれ署名押印した。(乙A1p1,18,乙A4p2) ,被告医師から,遺伝子疾患児の分娩の回避はできないこと,希望とは異なる性別の双胎以上の受胎が生じることがあることなどの説明を受け,同意書にそれぞれ署名押印した。(乙A1p1,18,乙A4p2) イ原告A1は,1月に妊娠したが,胎児の死亡が確認され,被告医院において,稽留流産の手術を受けた(乙A1p23,乙A4p2)。 ウその後も,原告A1は,被告医院において,生殖補助医療を受けていたところ,5月19日,妊娠が確認された(乙A1p60,乙A4p4)。 エ 6月8日(7週1日),被告医師は,5胎の心拍を確認した。その際,被 告医師は,5胎を,5卵性5絨毛膜5羊膜と認識した。 被告医師は,原告A1に対し,5胎の妊娠継続は母体にも胎児にも悪影響が大きいこと,減胎するという選択肢があることを説明し,1週間後に原告A2と共に来院するように告げた。(甲A3p1,乙A1p46,乙A4p4,Cp2,原告A1) オ減胎手術(減数手術ともいう。)は,多胎妊娠に際して,一部の胎児を子宮内において死滅させる手術であり,多胎による妊娠・出産のリスクを回避するためや,多胎児を育てることに対する負担の回避等を目的として始められたものである。多胎妊娠は,生殖補助医療技術の普及によることが大きいとされる。減胎手術の手技としては,経腟や経腹で薬物等を胎児に 注入する方法等がある。 減胎手術は,母体保護法の定める術式に合致しない手術であるとの指摘や,減胎される胎児の選び方(障害の有無や男女の別)について倫理面の問題も指摘されている。日本において,減胎手術が相当数行われているようであるものの,減胎手術を実施していることを公表している医療機関としては,G医師のFMCが見当たる程度であり,減胎手術に関する症例報 告 れている。日本において,減胎手術が相当数行われているようであるものの,減胎手術を実施していることを公表している医療機関としては,G医師のFMCが見当たる程度であり,減胎手術に関する症例報 告やその手技等について述べた教科書・文献は少ない。(甲B8,18,乙A4p12,乙B11p250)被告医師は,被告医院より前に勤務していた複数の医療機関において,先輩医師等から減胎手術の手技を習得した(乙A4p20,Cp5)。 カ 6月15日(8週1日),原告A1は,原告A2と共に,被告医院を受診 した。 被告医師は,超音波検査により,胎児を5卵性5絨毛膜5羊膜と認識した上で,原告らに対し,5胎の妊娠継続が困難であることを説明し,2胎を残す減胎手術を勧めた。原告らは,6月19日に減胎手術を受けることとし,「減胎手術の同意書」(乙A1p56)を持ち帰った。 上記同意書には,減胎手術に関しては国の法的な位置付けはまだ明確ではないこと,被告医院では患者・家族の了解のもとで実施すること,残す胎児は2胎とすること,合併症として出血,破水,流産,感染症があることなどが記載されていた。(甲A3p2,乙A1p47,乙A4p5,Cp3)キ 6月19日(8週5日),原告らは,上記の同意書に署名押印して被告医 院に持参し,原告A1は,被告医院に入院した。 同日,被告医師は,原告A1に対し,ラボナールによる全身麻酔下で,経腟生食法による減胎手術(手術Ⅰ)を行った。(乙A1p53,86)被告医師は,手術Ⅰにおいて,子宮底部の3胎を減胎することとし,ガイドプローブを付けて16ゲージの採卵針を入れて,生理食塩水を満たし, 腟の上から経腟プロープ,16ゲージの採卵針を入れ,胎児の心臓に生理 食塩水を入れる方法を3 を減胎することとし,ガイドプローブを付けて16ゲージの採卵針を入れて,生理食塩水を満たし, 腟の上から経腟プロープ,16ゲージの採卵針を入れ,胎児の心臓に生理 食塩水を入れる方法を3回繰り返した。(乙A1p53,86,Cp5,26)手術Ⅰの後,被告医師は,子宮内感染及び腟炎の予防のため,抗生剤パンスポリンキットを点滴で投与した(乙A1p85,乙A4p22)。 原告A1のCRP,WBCの各数値,投薬状況等は,別表記載のとおりである。 ク 6月20日,被告医師が原告A1の超音波検査を行ったところ,4胎の心拍が確認された。被告医師は,原告A1に対し,4胎残っており,今度は経腹で2胎減胎することを説明し,6月22日にその手術を行うこととなった。原告A1は,一旦退院した。退院に際し,被告医師は,抗生剤クラリス(1日2錠)を7日分処方した。(甲A3p2,乙A1p69,84,乙A4 p5)ケ 6月22日(9週1日),被告医師は,再入院した原告A1に対し,経腹KCL法による減胎手術(手術Ⅱ)を行った。その際,被告医師は,原告A1の腹部を16ゲージの針で20~30回程度穿刺した。(甲A2,6,乙A2p3,Cp40,原告A1p7) 手術Ⅱの後,被告医師は,6月24日まで止血剤トランサミン及びアドナを投与し,6月26日まで抗生剤パンスポリンキットを1日2回投与した(乙A1p81,乙A4p22,乙B6,乙B7)。 手術Ⅱの結果,2胎が残った。 コ手術Ⅱの後,原告A1に,6月23日(9週2日)には絨毛膜下血腫が (乙A1p95),6月24日(9週3日)には淡赤色の出血が(乙A1p96),6月25日(9週4日)にはゼリー状の出血が少量(乙A1p97),6月26日(9週5日)には茶色や薄い朱色の 腫が (乙A1p95),6月24日(9週3日)には淡赤色の出血が(乙A1p96),6月25日(9週4日)にはゼリー状の出血が少量(乙A1p97),6月26日(9週5日)には茶色や薄い朱色の出血(乙A1p97,p99)が,それぞれ見られた。 被告医師は,6月26日,原告A1に対し,抗生剤クラリス(1日2錠) を2日分処方した(乙A1p84)。 手術Ⅱの後の発熱は,37度台前半であり,6月27日には平熱に下がった(乙A1p75~77,乙A4p22)。 原告A1は,6月27日,被告医院を退院した(乙A1p53,99,乙A4p6)。 サ 6月30日(10週2日),原告A1は,被告医院を受診した。茶褐色の 性器出血がみられたため,被告医師は,手術による絨毛膜炎により生じた血の塊が流出したものと考えて,止血剤トランサミン及びアドナを処方した。(乙A1p54,乙B6,乙B7,Cp12)シ 6月30日(10週2日),7月2日(10週4日),7月9日(11週4日)及び7月17日(12週5日),原告A1は,被告医院を受診し,超 音波検査を受けた(乙A1p54,62~74)。 被告医師は,上記の超音波検査の結果,2胎は順調に生育しているものと認識し,その旨を原告A1に説明した(乙A1p54,乙A4p6,甲A3p3)。 7月17日(12週5日)の診察時,被告医師は,8月11日にマクドナルド術(早産防止のための子宮管縫縮術)を行う予定としたが(乙A1 p67,68),原告A1は,7月17日を最後に,以後,被告医院を受診しなかった。 (2) DMCでの診療経過ア 7月22日(13週3日),原告A1は,減胎後に残った2胎に障害があるかどうかを確認するため,DMCを受診し,初期胎児ドックを受けた。 受診しなかった。 (2) DMCでの診療経過ア 7月22日(13週3日),原告A1は,減胎後に残った2胎に障害があるかどうかを確認するため,DMCを受診し,初期胎児ドックを受けた。 (甲A3p3,乙A2)DMCの初期胎児ドックは,最先端の超音波機器(2D,3D,4D)を用い,胎児超音波診断の専門家であるE医師により行われ,ダウン症等の染色体数異常の遺伝学的スクリーニング,頭蓋骨,顔面,心臓,脊椎等の形態学的スクリーニング及び形態学的診断が行われる。 イ DMCにおける上記初期胎児ドックの結果,2胎のうち1胎(Ⅰ児)に ついては,軽度~中度の三尖弁逆流がみられ,ダウン症のリスクが65分の1であるが,染色体異常の可能性は低いと思われる旨の診断がされた。 もう1胎(Ⅱ児)については,正中からやや右の頭蓋骨が一部欠損し,そこから脳が外方に脱出していると認められたが,その他の異常は認められなかった。また,Ⅰ児とⅡ児はDD双胎と診断された。 (乙A2p18~22) 原告A1は,ダウン症のリスクが65分の1と診断されたⅠ児について,染色体異常がないことを確かめるための絨毛検査を希望したが,CRP値が1.73であったため,実施されなかった(乙A2p4)。 また,原告A1は,E医師に対し,2胎を1胎にする手術が可能であるかを尋ね,E医師は,そういうことになった場合はFMCに声をかけるこ とはできる旨を答えた(乙A2p4)。 ウ 7月29日(14週3日),原告A1は,絨毛検査を希望して再度DMCを受診したが,CRP値が1.99であった上,少量の性器出血がみられたため,検査は見送られた。E医師は,FMCに対する紹介状を原告A1に交付した。(乙A2p5,10,18) (3) FMCで 受診したが,CRP値が1.99であった上,少量の性器出血がみられたため,検査は見送られた。E医師は,FMCに対する紹介状を原告A1に交付した。(乙A2p5,10,18) (3) FMCでの診療経過等ア 8月4日(15週2日),原告A1は,1胎を減胎するために,FMCを受診した。G医師は,Ⅰ児とⅡ児につき,疑問を残しながらもDD双胎と診断した。同日のCRP値は2.5であり,出血も見られた。同日より,原告A1は,FMCに入院した。(乙A3p2,3,23,125) イ 8月12日(16週3日),FMCにおいて,2児ともに羊水量が少ないことが確認され,8月14日(16週5日)には羊水の漏出もみられた(乙A3p31,32)。 ウ 8月17日(17週1日),FMCにおいて,原告らは,減胎の危険性,治療方針について説明を受け,9月1日又は2日に減胎手術を受ける予定 とされた(乙A3p33)。 8月24日(18週1日),羊水は増加していた(同p45)。 エ 8月31日(19週1日),FMCにおいて,Ⅰ児について羊水は少しあり,Ⅱ児について羊水は減少していることが認められた。 原告らに対し,このまま経過観察をしてもⅠ児の羊水の漏出は続き,増えることは望めないこと,Ⅱ児は子宮内胎児発育遅延になるかもしれない こと,方法としては,①今,人工妊娠中絶をするか,②今,問題児(Ⅱ児)の減胎をして,1週間後,Ⅰ児の羊水の状態をみて,増える傾向があれば経過をみる,増えなければその時点で人工流産をすることなどが説明され,原告らの意向に沿うこととされた。 9月2日,「結局,今回の妊娠は諦めることとするか」とされた。(乙A 3p54,55)オ 9月4日(19週5日),原告A1は,2胎につき人工妊娠中絶手術(本 意向に沿うこととされた。 9月2日,「結局,今回の妊娠は諦めることとするか」とされた。(乙A 3p54,55)オ 9月4日(19週5日),原告A1は,2胎につき人工妊娠中絶手術(本件人工流産)を受けた。 同日,G医師は,被告医師に電話をし,原告A1が2胎を流産したことを告げ,裁判を考えているので,9月6日正午にFMCに来て,原告らに 謝罪するよう述べた(証人Gp12,Cp14,19)。 カ 9月6日,被告代表者及び被告医師が,FMCを訪れたところ,G医師から,同人の著作原稿を交付され,被告医師の減胎手術の方法が誤っている旨及び原告らが裁判を考えている旨を言われ,原告らに謝罪し,金銭賠償をするよう求められた。同日,被告医師は,原告A1に謝罪した。(乙A 5~8,証人Gp12,Cp14,原告A1p10)キ 9月7日頃,G医師は,本件人工流産をした2胎の胎盤と付属物について,H病院病理科に病理診断を依頼し,臨床所見欄に「19W5Dにて娩出,双胎,感染の有無,一卵性か二卵性かのD.Dが可能でしたらその面でも宜しくお願いします」と記載した。 9月10日頃,病理診断の結果報告があり,一絨毛膜二羊膜性胎盤であ り,「絨毛の発育には異常ありませんが,絨毛膜板を中心に軽度~中等度の好中球浸潤を認めます。臍帯の血管異常は無く,臍帯炎は見られません。 *一卵性と思われます。」との所見であった(甲B2,乙A3p77)。 2 争点(1)(手術Ⅱにおいて太い穿刺針を用いて過剰な回数の穿刺をした過失)について (1) 原告らは,胎児への穿刺を,細い針を用いて1胎につき原則1回,多くとも3回以内の穿刺回数に止める義務があったと主張するが,そのような医学的知見が一般的に確立していたと認めるに足りる証拠はない (1) 原告らは,胎児への穿刺を,細い針を用いて1胎につき原則1回,多くとも3回以内の穿刺回数に止める義務があったと主張するが,そのような医学的知見が一般的に確立していたと認めるに足りる証拠はない。そして,被告医師が用いた針の太さ(16ゲージ)が,その裁量の範囲を逸脱するものであったと認めるに足りる証拠もない。 (2) また,原告は,多胎妊娠では厳格な母体及び胎児の管理が求められることや,経腟的減胎手術後で感染徴候に陥りやすい状態にあったことに配慮した穿刺回数に止めるべき義務があったとも主張する。 穿刺回数は少ない方が望ましいとはいえても,他方で,本件では,手術Ⅱは,手術Ⅰにおいて減胎を試みて残った胎児を見極めて施行する必要があり, 通常の場合よりも難度が上がっていたこと(乙A4p5,Cp9)に照らすと,穿刺の回数(20~30回程度)をもって直ちに,被告医師に過失があったということはできない。 なお,原告らは,多数回の経腹による子宮穿刺から生じた羊膜損傷により羊水漏出を生じ,羊水が減少した旨を主張している。しかし,同じく経腹で 子宮を穿刺する羊水検査において,一般に羊水漏出のリスクがあるものとは認められていないこと(乙B39p73),原告A1の羊水が少ないことが認められたのは,FMC入院中の8月12日が最初であり,羊水の漏出が認められたのは8月14日が最初であって,いずれも手術Ⅱから50日以上が経過していることからすると,手術Ⅱの羊膜損傷により羊水漏出を生じたものと は考え難い。そして,羊水減少の原因としては,前期破水,過期妊娠,胎児 発育不全,胎児異常,胎児腎尿路異常等様々な要因があるとされるところ(乙B22p106,乙B39p144,弁論の全趣旨),後記のとおり,本件で,Ⅱ児には脳脱出 ては,前期破水,過期妊娠,胎児 発育不全,胎児異常,胎児腎尿路異常等様々な要因があるとされるところ(乙B22p106,乙B39p144,弁論の全趣旨),後記のとおり,本件で,Ⅱ児には脳脱出が認められ,これが手術Ⅱにおける穿刺を原因とするものとは認め難く,先天性のものである可能性が高いといえること,Ⅰ児についても軽度~中度の三尖弁逆流が見られたことからすると,胎児の先天性の要因が羊水 減少に関係している可能性があるといえる(乙A4)。 (3) 以上によれば,手術Ⅱの穿刺に関する原告ら主張の過失は認められない。 3 争点(2)(手術Ⅱの術中及び術後において感染症対策を懈怠した過失)について(1) 原告らは,手術Ⅱにおいて,一般的手術と同様に,感染症対策として,術 中及び術後に抗生物質の投与を行う義務があったにもかかわらず,被告医師はこれを怠った旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,被告医師は,原告A1に対し,手術Ⅰの当日である6月19日及び翌6月20日に抗生剤パンスポリンキットを点滴で投与し,6月20日から6月28日まで抗生剤クラリスを投与し,手術Ⅱの 当日である6月22日から6月26日まで抗生剤パンスポリンキットを投与している。 (2) また,原告らは,原告A1の6月26日のCRPは3.8と高値であった上,出血が続いていたから,その後も抗生物質の投与を継続し,投与量を見直して増量すべき義務があったにもかかわらず,被告医師はこれを怠った旨 主張する。 しかし,CRP値は,細菌感染による炎症の場合だけでなく,手術等によっても上昇すること(証人Gp7,弁論の全趣旨),CRP値は,かなりの感染を起こした場合10~20にまで至るものであり,3前後の値は,炎症は起こしているがひどくならないでいる だけでなく,手術等によっても上昇すること(証人Gp7,弁論の全趣旨),CRP値は,かなりの感染を起こした場合10~20にまで至るものであり,3前後の値は,炎症は起こしているがひどくならないでいるレベルであるといえること(証人G p39),6月23日のCRP値は4.3であったところ,6月26日には3. 8に減少していたこと,手術Ⅱの後の発熱は37度台前半であり,退院した6月27日には平熱に下がっていたこと,その後の通院時において,感染症を疑うべき症状は認められていないこと及び性器出血は,減胎手術後の損傷や血腫から通常生じ得るものであること(甲B23p7,乙B29の1p8)からすると,被告医師において,原告A1に対し,抗生物質の投与を継続し, 投与量を見直して増量すべきであったとはいえない。 (3) さらに,原告らは,手術Ⅱの後の被告医院への通院時に,原告A1には不正性器出血がみられたから,被告医師は,感染症に配慮してCRPやWBCを計測すべきであったとも主張するが,前記のとおり,性器出血は,減胎手術後に通常生じ得るものであることからすると,原告らの上記主張は採用で きない。 なお,原告A1は,7月17日を最後に被告医院を受診せず,7月22日からはDMCを受診しているところ,DMCにおける7月22日におけるCRP値は1.73,7月29日におけるCRP値は1.99であり,被告医院での6月26日におけるCRP値(3.8)から低下している。そして, DMCにおいては,上記の各CRP値に関し,抗生剤による治療を要するものと診断されたことはうかがわれない。このようなことからも,手術Ⅱの後の被告医院への通院時に,被告医師が,CRPやWBCを計測すべきであったとは認められないというべきである。 (4) 以上によれ のと診断されたことはうかがわれない。このようなことからも,手術Ⅱの後の被告医院への通院時に,被告医師が,CRPやWBCを計測すべきであったとは認められないというべきである。 (4) 以上によれば,被告医師に,手術Ⅱの術中及び術後において感染症対策 を懈怠した過失は認められない。 4 争点(3)(手術ⅡにおいてⅡ児の頭部を穿刺した過失)について(1) 原告らは,被告医師には,手術Ⅱを行う際に,23ゲージ程度の細さの針を用いて,減胎対象でない胎児の身体を損傷しないようにする義務があったにもかかわらず,被告医師は,手術Ⅱの際,16ゲージもの太い針を用いて, Ⅱ児の頭部を穿刺したと主張する。 しかし,減胎手術において使用する針の太さを23ゲージとすべき一般的な医学的知見が存すると認めるに足りる証拠はなく,手術Ⅱにおいて,被告医師が減胎対象ではない胎児(Ⅱ児)の頭部を穿刺したことを認めるに足りる的確な証拠もない。 (2)アこの点,G医師は,Ⅱ児の右耳介上方に頭蓋陥没を伴う瘢痕が広範囲に わたって見られた旨を証言する(証人Gp10)が,当該瘢痕が存在すること及びそれが手術Ⅱの際の穿刺によるものであることを裏付ける他の的確な証拠は見当たらない(甲B3の写真によっては判然としない。なお,Ⅰ児及びⅡ児は現存しない〈弁論の全趣旨〉。)。また,FMCのカルテにおいて,Ⅱ児につき穿刺を原因とする瘢痕が存在するなどの記載はなく,Ⅱ児 の写真には「脳瘤」と表示されていること(甲B3,乙A3p69),FMCから病理診断を依頼する際に,Ⅱ児の脳脱出が先天性ではなく穿刺によるものであるかやその他の部位の穿刺痕の有無についての診断は依頼していないこと,G医師は,本件人工流産後に被告医師らをFMCに呼んで話をした際に,胎 頼する際に,Ⅱ児の脳脱出が先天性ではなく穿刺によるものであるかやその他の部位の穿刺痕の有無についての診断は依頼していないこと,G医師は,本件人工流産後に被告医師らをFMCに呼んで話をした際に,胎児が穿刺されていたなどとの指摘をしていないこと(乙A 5~8)及び前記認定のとおり,G医師は,本件人工流産直後から,原告らの被告及び被告医師に対する責任追及に積極的に協力してきたところ,原告らは,本件訴訟において当初は,被告医師がⅡ児を誤って穿刺した旨の主張はしていなかったことからすると,Ⅱ児に穿刺による瘢痕があった旨のG医師の証言を直ちに採用することはできないというべきである。 イまた,DMCで胎児ドックを実施したE医師は,FMCへの診療情報提供書において,「脳瘤にしては通常よく見られる頭頂部からやや正中後方ではなく,前方であり瘤状になっておらず,違和感を感じるように思われました」と指摘していることが認められるが(乙A2p18),先天性の脳瘤による脳脱出である可能性を否定しているとまではいえない。 そして,脳瘤は,神経管の閉鎖不全によるものは正中後頭部に生ずるこ とが最も多いとされるが,頭頂部や前頭部に生ずることもあり(乙B13p21),また,双胎は先天異常のリスクが高いとされる(乙B11p52)。加えて,9週1日の胎児の頭部に16ゲージの針が穿刺され(あるいはさらに当該針から塩化カリウムが注入され)たとして,19週5日(本件人工流産)まで生育するのか疑問があり,被告医師において,手術Ⅱの後,超 音波検査により2胎が順調に生育しているものと認識したのは,Ⅱ児の頭部の障害は先天性のものであったためと推認することが可能である(なお,被告医院の超音波検査機器は,DMCの超音波機器のような最先端の 音波検査により2胎が順調に生育しているものと認識したのは,Ⅱ児の頭部の障害は先天性のものであったためと推認することが可能である(なお,被告医院の超音波検査機器は,DMCの超音波機器のような最先端のものではなく,また,被告医師は,E医師のように胎児ドックの専門家でもないため,脳瘤を発見できなかったものと考えられる。)。 (3) 以上によれば,被告医師が手術ⅡにおいてⅡ児の頭部を穿刺したとは認められない。 5 争点(4)(手術Ⅰの手法選択及び手術Ⅱの実施時期の選択に関する過失)について(1) 原告らは,被告医師は,手術Ⅰについてガイドプローブを使用して経腹K CL法で行う義務があったと主張する。 しかし,前記認定のとおり,手術Ⅰにおいてはガイドプローブが用いられているから,被告医師がガイドプローブを使用すべき義務に違反したという原告らの主張は採用できない。 また,減胎手術において経腹KCL法を採るべきとする医学的知見が一般 的に確立していたと認めるに足りる証拠はなく,また,経腟生食法が不適切であるとする医学的知見が一般的に確立していたと認めるに足りる証拠もない。 (2) 原告らは,手術Ⅰを経腟生食法で行ったことについて被告医師に過失がないとしても,手術Ⅰの後直ちに手術Ⅱを実施すべきであったと主張する。 手術Ⅱ(6月22日)は,手術Ⅰ(6月19日)の3日後に行われている ところ,原告らは,手術Ⅱを手術Ⅰの翌日又は翌々日に行うべきであったと主張するものと解される。 しかし,2度目の減胎手術をそのように近接して行わなければならないとする医学的知見が存することを認めるに足りる証拠はない。この点,被告医師は,手術Ⅱをそのように近接して行わなかった理由について,連日麻酔を かけること をそのように近接して行わなければならないとする医学的知見が存することを認めるに足りる証拠はない。この点,被告医師は,手術Ⅱをそのように近接して行わなかった理由について,連日麻酔を かけることによる母体への負担等に配慮した旨を供述しているところ(Cp29),その判断が不合理であるとはいえない。 (3) 以上によると,原告らの上記主張はいずれも採用できない。 6 争点(5)(手術Ⅱの前の転医義務違反)について(1) 原告らは,被告医師は,手術Ⅰにおいて1胎しか減胎できなかった時点で, 減胎手術を適切に履行する技量を有しないことが判明したから,原告A1をFMCなどの専門医院に転医させる義務があったと主張する。 (2) しかし,手術Ⅰにおいて1胎しか減胎できなかったことから直ちに,他の医療機関に転医させる義務が生ずるものとはいい難い。また,減胎手術を専門に行うことを標榜する医療機関はほとんどないことからすると,適切な転 医先医療機関を見つけることは困難であるといえる。原告らは,FMCを転医先として挙げるが,FMCは長野県に所在し,原告ら住所地及び被告医院所在地(いずれも大阪市)からは遠方であることからすると,手術Ⅰ後直ちにそのような遠方の医療機関へ転医させることは,母体への負担の観点からすると,適切であるのか疑問である。 (3) したがって,被告医師に転医義務違反は認められない。 7 争点(6)(救胎する胎児数及び胎児の選択に関する説明義務違反)について(1) 原告らは,多胎妊娠をした原告A1及びその夫である原告A2には,救胎する胎児数及び胎児を選択する自己決定権があるとし,被告医師は,膜性診断を正確に実施し,単胎と双胎2組(2胎×2組,うち1組はMD双胎)が 含まれることを確認した上で,単胎のみを 2には,救胎する胎児数及び胎児を選択する自己決定権があるとし,被告医師は,膜性診断を正確に実施し,単胎と双胎2組(2胎×2組,うち1組はMD双胎)が 含まれることを確認した上で,単胎のみを残すという選択肢があることを原 告らに説明する義務があったのにこれを怠ったと主張する。 (2) 前記認定のとおり,被告医師は,5胎を5卵性5絨毛膜5羊膜と認識し,そのうち2胎を残すことを原告らに勧めたものであり,2胎を残す方法しか選択肢がないかのような説明をしたものとは認められない。本件人工流産後の病理診断によれば,Ⅰ児とⅡ児はMD双胎と診断されているが,DMCで はI・Ⅱ児についてDD双胎と診断されており,FMCにおいても,疑問を残しながらもDD双胎と診断されていることからすると,多胎の態様について正確に把握することは容易ではないことがうかがえる。 原告らは,本件の5胎が単胎と双胎2組(2胎×2組,うち1組はMD双胎)であることを前提に,原告らには,単胎のみを残しその余の4胎を減胎 することを選択する権利があった旨を主張するものであるが,被告医師において本件の5胎が上記のような態様であることは認識しておらず,また認識し得たともいえない(上記のとおり,多胎の態様について正確に把握することは必ずしも容易ではなく,本件で被告医師が原告ら主張のように認識し得たことを認めるに足りる証拠もない。)ことからすると,原告らの上記主張は その前提を欠く。 また,仮に,原告らの主張が,多胎の態様いかんにかかわらず,5胎のうち1胎のみを残すことを希望していたことを前提とするものであるとすれば,原告らは,被告医師から2胎を残す方法を勧められた際に,1胎のみとすることが可能かどうかを尋ねることはできたと考えられるところ,原告らがそ 残すことを希望していたことを前提とするものであるとすれば,原告らは,被告医師から2胎を残す方法を勧められた際に,1胎のみとすることが可能かどうかを尋ねることはできたと考えられるところ,原告らがそ のような質問をした事実や,被告医師においてそのような質問に適切に対応しなかった事実は見当たらない。 (3) 以上によれば,被告医師に説明義務違反があったとする原告らの上記主張は採用できない。 8 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はい ずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第20民事部 裁判長裁判官冨上智子 裁判官並河智子 裁判官大畑勇馬
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