平成23(行ケ)10269 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年3月28日 知的財産高等裁判所 2部 判決 審決取消
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判決文本文14,597 文字)

- 1 -平成24年3月28日判決言渡平成23年(行ケ)第10269号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年3月14日判決 原告サイエンスパーク株式会社 訴訟代理人弁理士富崎元成富崎 曜 被告特許庁長官指定代理人稲葉和生安久司郎水野恵雄樋口信宏田村正明 主文 特許庁が不服2010-4625号事件について平成23年7月12日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 原告の求めた判決主文同旨 - 2 -第2 事案の概要本件は,特許出願拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 争点は,容易推考性の存否である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成13年5月7日,名称を「電子計算機のインターフェースドライバプログラム及びその記録媒体」とする発明について特許出願(特願2001-136135号,請求項の数14)をし,平成21年9月14日付けの補正(甲5の3,請求項の数12)をしたが,平成21年11月30日付けで拒絶査定を受けた。そこで,原告は,平成22年3月2日,拒絶査定に対する不服審判請求(不服2010-4625号)をするとともに,同日付けの本件補正(甲5の4,請求項の数12)をしたが,特許庁は,平成23年7月12日,「本件審判の請求は, 22年3月2日,拒絶査定に対する不服審判請求(不服2010-4625号)をするとともに,同日付けの本件補正(甲5の4,請求項の数12)をしたが,特許庁は,平成23年7月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成23年7月22日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨本件補正(甲5の4)による特許請求の範囲の請求項1に係る本願発明は,次のとおりである。 【請求項1】複数のデバイスが接続され,OSによって制御されている電子計算機の前記複数のデバイスの間にデータを送受信するとき,前記送受信を制御する手段として前記電子計算機を機能させる電子計算機用インターフェースドライバプログラムにおいて,前記デバイスには前記デバイスを制御するためのデバイスドライバが存在し,前記デバイスは,第1デバイスと第2デバイスからなり,前記第1デバイスを制御する第1デバイスドライバが存在し,前記第2デバイスを制御する第2デバイスドライバが存在し,前記OSには,前記OSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及び前記全命令の一部しか実行できないユーザモードの動作モードがあり,- 3 -前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記電子計算機で動作するアプリケーションプログラムから出される命令によって前記デバイス間にデータの送受信を行うとき,前記アプリケーションプログラムから前記デバイスドライバへのデータ又は命令の送受信を行うための共通のインターフェース手段として前記電子計算機を機能させるプログラムであり,更に,前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記カーネルモードで動作し,かつ,前記アプリケーションプログラムからの命令を受信し命令実行結果を前記アプリケーションプログラム ,更に,前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記カーネルモードで動作し,かつ,前記アプリケーションプログラムからの命令を受信し命令実行結果を前記アプリケーションプログラムに通知するためのアプリケーションインターフェース手段,前記第1デバイスドライバから受信データを取り込むための第1インターフェース手段,前記第2デバイスドライバへ送信データの送信を行うための第2インターフェース手段,及び,前記受信データを処理して前記送信データを作成し,前記送信データを前記第2インターフェース手段に渡すためのデータ処理手段として前記電子計算機を機能させるプログラムであることを特徴とする電子計算機のインターフェースドライバプログラム。 3 審決の理由の要点(1) 特開平10-283195号公報(引用例,甲1,出願人・マイクロソフトコーポレイション)には次のとおりの引用発明が記載されていると認められる。 【引用発明】オペレーティングシステムは,ユーザモード及びユーザモードの動作モードよりも制約が非常に少ないカーネルモードをもち,制御エージェントは,ユーザモードで動作し,ディスク・ドライバ,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ・ドライバ,効果フィルタ及びサウンド・レンダリング・ドライバは,カーネルモードで動作し,- 4 -制御エージェントは,ディスク・ドライバ,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ・ドライバ,効果フィルタ及びサウンド・レンダリング・ドライバの相互接続を行い,ストリーム読取りと書込みを出し,レンダリングを完全にカーネルモードで行うようにし,制御エージェントは,処理の終了,データ・スターベーション事態などを含む重要なイベントの通知を受けるので,必要に応じて制御を行うことができ,サウンド・デー 完全にカーネルモードで行うようにし,制御エージェントは,処理の終了,データ・スターベーション事態などを含む重要なイベントの通知を受けるので,必要に応じて制御を行うことができ,サウンド・データは,ディスク・ドライバによってディスク・ドライブから読み取られ,リーダ・ドライバは,ディスク・ドライバを制御し,リーダ・ドライバは,デコンプレッサ・ドライバと相互接続され,制御エージェントによって管理され,デコンプレッサは,伸張をカーネルモードで行ってから,データとコントロールを効果フィルタに引き渡し,効果フィルタは,効果プロセッサを利用して特殊効果を適用してからデータとコントロールをサウンド・レンダリング・ドライバに引き渡し,サウンド・レンダリング・ドライバは,サウンド・カードを制御し,データをスピーカからのサウンドとしてレンダリングするコンピュータ・プログラム・プロダクト。 (2) 本願発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点,相違点がある。 【一致点】OSによって制御されている電子計算機の複数のデバイスの間にデータを送受信するものにおいて,前記デバイスには前記デバイスを制御するためのデバイスドライバが存在し,前記デバイスは,第1デバイスと第2デバイスからなり,前記第1デバイスを制御する第1デバイスドライバが存在し前記第2デバイスを制御する第2デバイスドライバが存在し,- 5 -OSには,カーネルモード及びユーザモードの動作モードがあるもの。 【相違点1】本願発明では,複数のデバイスが接続され,OSによって制御されている電子計算機の前記複数のデバイスの間にデータを送受信するとき,前記送受信を制御する手段として前記電子計算機を機能させる電子計算機用インターフェースドライバプログラムにおいて, によって制御されている電子計算機の前記複数のデバイスの間にデータを送受信するとき,前記送受信を制御する手段として前記電子計算機を機能させる電子計算機用インターフェースドライバプログラムにおいて,前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記電子計算機で動作するアプリケーションプログラムから出される命令によって前記デバイス間にデータの送受信を行うとき,前記アプリケーションプログラムから前記デバイスドライバへのデータ又は命令の送受信を行うための共通のインターフェース手段として前記電子計算機を機能させるプログラムであり,さらに,前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記カーネルモードで動作し,かつ,前記アプリケーションプログラムからの命令を受信し命令実行結果を前記アプリケーションプログラムに通知するためのアプリケーションインターフェース手段,前記第1デバイスドライバから受信データを取り込むための第1インターフェース手段,前記第2デバイスドライバへ送信データの送信を行うための第2インターフェース手段,及び,前記受信データを処理して前記送信データを作成し,前記送信データを前記第2インターフェース手段に渡すためのデータ処理手段として前記電子計算機を機能させるプログラムであることを特徴とする電子計算機のインターフェースドライバプログラムであるのに対し,引用発明では,OSによって制御されている電子計算機の複数のデバイスの間にデータを送受信するとき,制御エージェントは,第1のデバイスドライバ,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ・ドライバ,効果フィルタ及び第2のデバイスドライバの相互接続を行い,ストリーム読取りと書込みを出し,第1のデバイスドライバからのデータの送信から第2のデバイスドライバでのデータの受信までをカーネルモード イバ,効果フィルタ及び第2のデバイスドライバの相互接続を行い,ストリーム読取りと書込みを出し,第1のデバイスドライバからのデータの送信から第2のデバイスドライバでのデータの受信までをカーネルモードで実行し,処理の終了の通知を受けることについては記載があるが,上記本願発明の構成について明確な記載がない点。 - 6 -【相違点2】本願発明では,OSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及び前記全命令の一部しか実行できないユーザモードであるのに対し,引用発明では,ユーザモード及びユーザモードの動作モードよりも制約が非常に少ないカーネルモードについては記載があるが,カーネルモードがOSを操作するための全命令が実行できること及びユーザモードが全命令の一部しか実行できないことについて明確な記載がない点。 (3) 相違点等に関する審決の判断ア相違点1についてオペレーティングシステムにおいて,アプリケーションプログラムなどのクライアントプロセスとのインターフェース手段(本願発明の「アプリケーションインターフェース手段」に相当。),第1のドライバとのインターフェース手段(本願発明の「第1インターフェース手段」に相当。)及び第2のドライバとのインターフェース手段(本願発明の「第2インターフェース手段」に相当。)を有し,クライアントプロセスからの入出力要求を受け取ると,ドライバにその入出力要求を渡し,ドライバが処理した結果を受け取り,その結果をクライアントプロセスへ戻すという制御を行い,また,ドライバ間の通信制御を行う,カーネルモードで動作するI/Oマネージャは,例えば,国際公開98/47074号(甲2,出願人マイクロソフトコーポレイション。我が国への出願に係る翻訳文は,特表2001-520774号公報(甲3)のとおり。)の 作するI/Oマネージャは,例えば,国際公開98/47074号(甲2,出願人マイクロソフトコーポレイション。我が国への出願に係る翻訳文は,特表2001-520774号公報(甲3)のとおり。)の7頁28行~10頁4行及びFig.1,滝口政光「超初心者のためのWindowsNT デバイスドライバ入門」Interface1999年6月号(甲4)の95頁~102頁に記載されているように周知である。そして,上記周知技術の「I/Oマネージャ」は,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」に相当する。 なお,引用発明においては,第1のデバイスドライバ及び第2のデバイスドライバの間に,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ・ドライバ及び効果フィルタなどの- 7 -他のデバイスドライバが接続されている。しかし,第1のデバイスドライバ及び第2のデバイスドライバの間に他のデバイスドライバを接続するか否かは,処理されるデータの性質により決定される設計的事項にすぎない。よって,第1のデバイスドライバ及び第2のデバイスドライバの間に他のデバイスドライバを接続しないように構成することは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。 したがって,第1のデバイスドライバからのデータの送信から第2のデバイスドライバでのデータの受信までをカーネルモードで実行する引用発明において,上記周知技術を適用し,第1のデバイスドライバ及び第2のデバイスドライバを相互接続する構成に代えて,電子計算機用インターフェースドライバプログラムを介して接続する構成とすることにより,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 イ相違点2についてOSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及び前記全命令の一部しか実行できないユーザモ 1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 イ相違点2についてOSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及び前記全命令の一部しか実行できないユーザモードは,文献を示すまでもなく周知である。したがって,引用発明において,上記周知技術を適用し,OSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及び前記全命令の一部しか実行できないユーザモードのように構成することは,当業者が適宜なし得ることである。 ウ作用効果についてそして,本願発明の効果も引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲のものである。 エまとめしたがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 原告主張の審決取消事由- 8 - 1 取消事由1(一致点認定の誤り)審決は,本願発明と引用発明の一致点として,複数のデバイスの間にデータを「送受信」する点を認定した。 本願発明は,本願明細書に,「…アプリケーションプログラム4からの命令によって,デバイス6間のデータの送受信も制御することができる。…」(段落【0036】),「…アプリケーションプログラム4は,画像データの送受信の命令を出力し,データ転送が始まる(S100)。」(段落【0050】),「…アプリケーションプログラム4は,送受信の命令を出力する(S150)。」(段落【0067】),「【発明の効果】本発明によると,次の効果が奏される。OSに含まれている各種のデバイスドライバを一つの共通のデバイスドライバで制御できる共通インターフェースドライバをデバイスドライバの中間に設けることで,デバイス間のデータの送受信を高速,安全に転送できるよ まれている各種のデバイスドライバを一つの共通のデバイスドライバで制御できる共通インターフェースドライバをデバイスドライバの中間に設けることで,デバイス間のデータの送受信を高速,安全に転送できるようになった。」(段落【0075】)と記載されるように,デバイス間でデータを「送受信」できるものである。 これに対し,引用例には,データを一方的に送信する記載はあるが,送受信する機能の記載や示唆はない。引用発明のシステムは,ディスク・ドライブからサウンド・データを読み取り,これをサウンド・カードに送信するものであり,一方向にデータが流れるだけで,サウンド・カードからデータを送信することはできない。 したがって,審決が「送受信」する点を一致点と認定したのは誤りである。 2 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」,すなわち,本願明細書の実施例における共通インターフェースドライバ7は,【図1】に記載されるように,デバイスA(6)とデバイスB(6)間でデータ又は命令を受信したり,送信したりする機能,いわゆる双方向で送受信機能を有し,また,カーネルモードで動作する。単純化していえば,本願発明は,Windows のカーネルモードに,第2のOSともいえるデバイスドライバレベルの新規なプラットフォームを設けたものであり,このプラットフォームがカーネルモードで動作する本願発明の「電子- 9 -計算機のインターフェースドライバプログラム」である。 これに対し,引用発明の制御エージェントは,ユーザモードで動作するものであって,本願発明の「電子計算機のインターフェースドライバプログラム」に相当しない。 この点に関連して,審決は,「ドライバ間の通信制御を行う,カーネルモードで動作するI/Oマネージャは するものであって,本願発明の「電子計算機のインターフェースドライバプログラム」に相当しない。 この点に関連して,審決は,「ドライバ間の通信制御を行う,カーネルモードで動作するI/Oマネージャは…周知である。そして,上記周知技術の「I/Oマネージャ」は,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」に相当する。」(16頁20行~33行)と認定した。しかしながら,WindowsNT のカーネルモードにおいては,ファイルシステムドライバ,中間ドライバ,デバイスドライバなどのドライバが縦方向の階層を形成しているところ,上記の「I/Oマネージャ」は,複数のドライバ間を縦方向にアクセスすることはあっても,本願発明のように横方向にデータを送受信する機能はなく,本願明細書に従来技術として記載されたものにすぎない。WindowsNT を開発したマイクロソフトコーポレイションは,引用発明に係る特許出願人でもあるが,上記のとおり「I/Oマネージャ」では横方向のデータの送受信ができないので,引用発明を提案したのである。 したがって,審決が周知技術であると認定した「I/Oマネージャ」は,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」とは全く別のものであるから,これを引用発明に適用し,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得る旨の審決の判断は誤りである。 第4 被告の反論 1 取消事由1に対し(1) 請求項1には,「送受信」という記載はあるが,これに続く後半部分には,第1デバイスドライバからデータを「受信」して,第2デバイスドライバへデータを「送信」するという,「一方向」のデータの「送受信」のみが記載され,「第2デバイスから第1デバイスへ」データを伝送することについて具体的な記載はない ータを「受信」して,第2デバイスドライバへデータを「送信」するという,「一方向」のデータの「送受信」のみが記載され,「第2デバイスから第1デバイスへ」データを伝送することについて具体的な記載はない。 - 10 -本願明細書の記載も同様である。そうすると,請求項1の記載を全体として解釈すれば,本願発明におけるデータの「送受信」は,少なくとも,一方のデバイスからデータを「受信」して,他方のデバイスへデータを「送信」する,「一方向」の「送受信」を含むといえる。 したがって,引用発明が一方向の送受信を行うものであるとしても,本願発明も同じであるから,審決の一致点認定に誤りはない。 (2) 引用発明は,制御エージェントの制御により,「ディスク・ドライバ」や「サウンド・レンダリング・ドライバ」等のドライバ間で,「相互接続を行い,ストリーム読取りと書込みを出し,レンダリングを完全にカーネルモードで行う」ものである。 引用例の【図2】には,ディスクから「ストリーム読取り」を行うことが具体的に図示されているが,引用発明において,「ディスク・ドライバ」や「サウンド・レンダリング・ドライバ」等のドライバ間を相互接続して,ディスクからの「ストリーム読取り」と,ディスクへの「ストリーム書込み」の両方を行う場合,結果として,「OSによって制御されている電子計算機の複数のデバイスの間にデータを送受信する」ものといえる。 したがって,審決が「送受信」を一致点として認定したことに誤りはない。 2 取消事由2に対し引用発明は,ドライバ間で,「相互接続を行い,ストリーム読取りと書込みを出し,レンダリングを完全にカーネルモードで行う」ものであるところ,引用例には,ピン接続されたドライバ間におけるデータの伝送の具体例として,IRP(I/ORequestPacke 取りと書込みを出し,レンダリングを完全にカーネルモードで行う」ものであるところ,引用例には,ピン接続されたドライバ間におけるデータの伝送の具体例として,IRP(I/ORequestPacket)をI/Oマネージャ等で伝送することが記載されているから,引用発明におけるドライバ間の「データ」の伝送についても,具体的な伝送の方法として,I/Oマネージャを用いる周知技術を適用する起因の記載があるといえる。 国際公開98/47074号(甲2,翻訳文は甲3)の記載によれば,この文献には,オペレーティングシステムにおいて,アプリケーションプログラムなどのク- 11 -ライアントプロセスとのインターフェース手段,第1のドライバとのインターフェース手段及び第2のドライバとのインターフェース手段を有し,クライアントプロセスからの入出力要求を受け取ると,ドライバにその入出力要求を渡し,ドライバが処理した結果を受け取り,その結果をクライアントプロセスへ戻すという制御を行い,また,ドライバ間の通信制御を行う,カーネルモードで動作するI/Oマネージャが開示されている。また,この文献に,「MicrosoftWindowsNT(登録商標)では,入出力マネージャはドライバ間でIRPを転送することを担当している。他のシステムでは,他のメカニズムが使用可能になっている。これらをどのように実装するかの詳細は設計上の問題であり,本発明にとっては重要でない選択事項である。」(甲2の10頁14行~17行(甲3の23頁7行~11行))と記載されるように,「I/Oマネージャ」を経由してドライバ間でIRPをやりとりする手段が,ドライバ間で情報を伝送するための手段のうちの一つであることも開示されている。 一般に,「ドライバ」は,「コンピュータに接続されている周辺装置を管理する してドライバ間でIRPをやりとりする手段が,ドライバ間で情報を伝送するための手段のうちの一つであることも開示されている。 一般に,「ドライバ」は,「コンピュータに接続されている周辺装置を管理するプログラム」のような意味であるから,電子計算機の「プログラム」の一つであるといえる。そして,電子計算機の複数のプログラム間で各種のデータをやりとりする方法として,本願発明のように,既存のプログラム間を接続する別個のプログラムを外部に設けることも,引用発明のように,既存のプログラム自体に接続機能を備えることも,プログラムの実装における「設計上の問題」といえる。 また,滝口政光「超初心者のためのWindowsNT デバイスドライバ入門」Interface1999年6月号(甲4)にも同様の開示がある。 したがって,審決における「I/Oマネージャ」に関する周知技術の認定に誤りはない。そして,相違点1に係る本願発明の構成は,引用発明に上記周知技術を適用することによって容易に想到し得るのであって,相違点1に関する審決の判断に誤りはない。 なお,引用発明の「制御エージェント」は,引用発明において,各ドライバを相- 12 -互に接続するための手段であるから,引用発明のドライバ間の接続手段に,周知技術を採用すれば,不要となる構成である。したがって,引用発明の「制御エージェント」を,本願発明のいずれかの要素に対応付ける必要はない。 第5 当裁判所の判断 1 本願発明について本願明細書(甲5の2~4)によれば,本願発明について次のとおり認められる。 本願発明は,電子計算機のデバイスドライバ間を制御するための電子計算機のインターフェースドライバプログラムに関するものである(段落【0001】)。WindowsNT/2000 のようなOS(オペレーティ 明は,電子計算機のデバイスドライバ間を制御するための電子計算機のインターフェースドライバプログラムに関するものである(段落【0001】)。WindowsNT/2000 のようなOS(オペレーティングシステム)を用いた電子計算機の動作には,カーネルモードとユーザモードの2種類があり,デバイス(ハードウェア)を管理するためのソフトウェアであるデバイスドライバはカーネルモードで動作し,アプリケーションプログラムはユーザモードで動作することから,アプリケーションプログラムがデバイスドライバを経由してデバイスにアクセスするためには,ユーザモードからカーネルモードへの切替えや,逆にカーネルモードからユーザモードへの切替えが必要となり,切替え処理に時間を要した(段落【0003】,【0007】,【0008】,【0010】~【0015】)。このため,従来技術では,アプリケーションプログラムの命令に基づきデバイスAからデバイスBへとデータを転送する場合,アプリケーションプログラムから命令が出されると,ユーザモードからカーネルモードへの切替えが行われ,デバイスドライバAを経由して命令が伝達されてデバイスAからデータが送信され,次に,ユーザモードへの切替えが行われて,アプリケーションプログラムがそのデータを受信して処理し,再度カーネルモードへの切替えが行われ,デバイスドライバBを経由してデバイスBへデータが送信されると,デバイスBからデータ受取済みの情報が送られ,再度ユーザモードへの切替えが行われて,アプリケーションプログラムがこれを受け取り,データ転送が終了するという一連の処理が行われることから,動作モードの切替え処- 13 -理の数が増え,処理が遅くなるという問題があった(段落【0018】~【0023】)。そこで,本願発明は,複数のデバイスの間でデー という一連の処理が行われることから,動作モードの切替え処- 13 -理の数が増え,処理が遅くなるという問題があった(段落【0018】~【0023】)。そこで,本願発明は,複数のデバイスの間でデータを送受信するに当たり,送受信を制御する手段として,カーネルモードで動作する電子計算機用インターフェースドライバプログラム(下記【図1】の共通インターフェースドライバ7)を設け,このプログラムが,アプリケーションプログラムとの間における命令の受信と結果の送信を行い,かつ,その間の処理として,第1デバイスを管理する第1デバイスドライバからデータを取り込み,これを処理して,第2デバイスを管理する第2デバイスドライバに処理したデータを送信する機能を有することにより(段落【0027】~【0029】,【図1】),デバイス間でデータを転送する際の動作モードの切替えが少なくなり,データ転送が高速になるなどの効果が奏される(段落【0075】,【0076】)というものである。 【図1】実施の形態を示す概念図 2 引用発明について引用例(特開平10-283195号公報,甲1)によれば,引用発明について次のとおり認められる。 - 14 -引用発明は,コンピュータ・ソフトウェア・ドライバの開発に属するものである(段落【0001】)。従来技術においては,下記【図1】のように,制御エージェント26の管理の下で,ディスク・ドライブ20からサウンド・データを読み取り,スピーカ42に送るまでの間に,ユーザモードで動作するリーダ・プログラム・コンポーネント24やサウンド・レンダリング・コンポーネント36等を経由することなどから,ユーザモードとカーネルモードとの切替えが繰り返し行われ,システム・パフォーマンスが低下するなどの問題があった(段落【0009】,【0 ンド・レンダリング・コンポーネント36等を経由することなどから,ユーザモードとカーネルモードとの切替えが繰り返し行われ,システム・パフォーマンスが低下するなどの問題があった(段落【0009】,【0040】~【0044】,【図1】)。そこで,引用発明では,一般にハードウェアを制御するソフトウェア・ドライバをカーネルモードで相互接続するために,各ソフトウェア・ドライバに,ドライバを接続するための「接続ピン・インスタンス」を形成し,これによりソフトウェア・ドライバを相互接続することで,動作モードを切り替えることなく,カーネルモードでデータの受渡し等が行われるので,システム・パフォーマンスが向上するなどの効果を奏するものであり(特許請求の範囲【請求項1】,発明の詳細な説明段落【0002】,【0012】,【0017】,【0032】),実施の形態としては,下記【図2】のように,ディスク・ドライブ46からサウンド・データを読み取り,スピーカ62に送るまでの間に存在するリーダ・ドライバ50,デコンプレッサ52,効果フィルタ54,サウンド・レンダリング・ドライバ58を制御エージェント44が相互接続し,管理することによって,動作モードの遷移(切替え)がなくなるというものである(段落【0046】~【0048】,【図2】)。 - 15 -【図1】従来技術のデータ・フロー図 【図2】引用発明のシステムを示す図 3 取消事由1(一致点認定の当否)について原告は,本願発明は複数のデバイスが双方向で送受信するものであり,一方向にデータを流す引用発明とは異なるので,審決が本願発明と引用発明の一致点として「送受信」する点を認定したのは誤りである旨主張する。 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,「複数のデバイスの間にデ データを流す引用発明とは異なるので,審決が本願発明と引用発明の一致点として「送受信」する点を認定したのは誤りである旨主張する。 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,「複数のデバイスの間にデータを送受信する」,「デバイス間にデータの送受信を行う」という記載があるところ,これに加えて,「第1デバイスドライバから受信データを取り込む」,「第2デバイスドライバへ送信データの送信を行う」という記載がある一方で,これとは逆に,第2デバイスドライバから受信データを取り込み,これを第1デバイスドライバへ送信する旨の記載は認められず,その他に双方向の送受信に限定することを示す記載も認められない。また,本願明細書にも,一方向のデータの送受信がされる実施例(段落【0043】~【0057】,【図3】~【図5】)が記載されており,双方向の送受信のみに限定する旨の記載は認められない。このような記載に照らすと,本願発明の上記「送受信」との記載は,第1デバイスドライバからの「受」信と第2デバイスドライバへの「送」信を併せて「送受」信としたもの,すなわち,少なくとも複数のデバイス間で一方向のデータ送受信が行われる場合を対象とするものと解される。 そして,引用発明も,少なくとも複数のデバイス間で一方向のデータ送受信が行- 16 -われるものである(この点については,原告も争っていない。)。 したがって,審決が,本願発明と引用発明の双方において,複数のデバイス(ドライバ)間における一方向のデータ送受信が行われることを捉えて,「送受信」する点を一致点として認定したことに誤りはない。 4 取消事由2(相違点1に関する判断の当否)について本願発明は,複数のデバイスの間におけるデータの送受信を制御する手段として「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」の構 誤りはない。 4 取消事由2(相違点1に関する判断の当否)について本願発明は,複数のデバイスの間におけるデータの送受信を制御する手段として「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」の構成を採用したものであり,第1デバイスと第2デバイス,これらに対応する第1デバイスドライバと第2デバイスドライバを構成に含むものである。 これに対し,国際公開98/47074号(甲2,翻訳文は甲3)及び滝口政光「超初心者のためのWindowsNT デバイスドライバ入門」Interface1999年6月号(甲4)によれば,これらの文献には,カーネルモードで動作するファイルシステムドライバ,中間ドライバ,デバイスドライバが階層を形成し,I/Oマネージャが,それら階層化されたドライバ間のデータの受渡しを仲介する技術が開示されているものの,そこで示されるドライバは,電子計算機に接続された同じデバイスに対する入出力要求を処理するために階層化されているものであり,このような階層化されたドライバが一体となって対応する各別のデバイス相互の関係に相当するものではないし,さらにその複数のデバイスを制御するそれぞれのデバイスドライバ相互の関係を示すものではない。これらの文献には,複数のデバイスの間におけるデータの送受信を制御するに際し,I/Oマネージャにアプリケーションプログラムからデバイスドライバへのデータの送受信を行うための共通のインターフェース手段として電子計算機を機能させる技術は開示されていない。 そうすると,甲2文献及び甲4文献に開示されたI/Oマネージャは,複数のデバイスの間におけるデータの受渡し(送受信)を仲介(制御)するものではないから,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」には相当せず,このようなI/Oマネージャを引用発明 数のデバイスの間におけるデータの受渡し(送受信)を仲介(制御)するものではないから,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」には相当せず,このようなI/Oマネージャを引用発明に適用したとしても,相違点1に係る- 17 -本願発明の構成には至らない。 また,引用発明は,上記2で認定したとおり,ユーザモードで動作する制御エージェントが複数のソフトウェア・ドライバ(デバイスドライバに相当する。)を相互接続するものであり,かつ,各ソフトウェア・ドライバ自体に,ドライバを接続するための「接続ピン・インスタンス」を形成し,これによりソフトウェア・ドライバを相互接続するという方式を採用するものである。被告は,引用例において,ソフトウェア・ドライバを相互接続する際にI/OマネージャやIRPを用いてデータを伝送する具体例が記載されている旨主張するが,その具体例においても,ユーザモードで動作する制御エージェントにより相互接続が行われるのであって,I/Oマネージャが制御エージェントに代替し得る関係にはない。そうすると,このようなユーザモードで動作する制御エージェントや「接続ピン・インスタンス」の形成による相互接続に代えて,カーネルモードで動作する本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」に相当する構成を採用することが,当業者にとって容易に想到し得るとはいい難い。 したがって,当業者にとって,相違点1に係る本願発明の構成が容易に想到し得るものということはできず,これを容易とした審決の判断は誤りであって,取消事由2は理由がある。 第6 結論以上のとおりで,引用発明と甲2文献及び甲4文献に開示された周知技術から本願発明の容易推考性を肯定した審決は誤りであって,取り消されるべきものである。 よって,主文のとおり 第6 結論以上のとおりで,引用発明と甲2文献及び甲4文献に開示された周知技術から本願発明の容易推考性を肯定した審決は誤りであって,取り消されるべきものである。 よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官真辺朋子 裁判官古谷健二郎

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