- 1 -平成24年2月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ワ)第11930号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年11月15日判決長野県諏訪郡<以下略>原告日本電産サンキョー株式会社訴訟代理人弁護士新保克芳同高崎仁同洞 敬同井上 彰同酒匂禎裕北九州市<以下略>被告株式会社安川電機訴訟代理人弁護士松尾和子同相良由里子同佐竹勝一同小林正和訴訟代理人弁理士大塚文昭同倉澤伊知郎主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,別紙目録1及び2記載の各製品を製造,販売してはならない。 2 被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。 - 2 - 3 被告は,原告に対し,4億円及びこれに対する平成22年4月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,発明の名称を「ダブルアーム型ロボット」とする特許第3973048号(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である原告が,被告による別紙目録1及び2記載の各製品(以下,別紙目録1記載の製品を「被告製品1」,同目録2記載の製品を「被告製品2」といい,これらを総称して「被告各製品」という いう。)の特許権者である原告が,被告による別紙目録1及び2記載の各製品(以下,別紙目録1記載の製品を「被告製品1」,同目録2記載の製品を「被告製品2」といい,これらを総称して「被告各製品」という。)の製造及び販売が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告各製品の製造及び販売の差止め並びに廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。 2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。) 当事者ア原告は,精密機器,産業用機器の製造販売等を目的とする株式会社である。 イ被告は,電気機械器具・装置及びシステム,産業用機械器具の製造及び販売等を目的とする株式会社である。 特許庁における手続の経過等ア原告は,平成12年3月23日にした特許出願(特願2000-82983号。以下「本件原出願」という。)の一部を分割して,平成18年4月12日,発明の名称を「ダブルアーム型ロボット」とする発明について特許出願(特願2006-109567号。以下「本件出願」という。)をし,平成19年6月22日,本件特許権の設定登録(請求項の数10)を受けた。 - 3 -イ被告は,平成21年5月15日,本件特許について無効審判請求(無効2009-800096号事件)をした。 原告は,同年11月30日,本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした。 特許庁は,同年12月21日,上記無効審判事件について,本件訂正を認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「別件審決」という。)をした(甲2)。 これに対し被告は,平成22年1月29日,別 2月21日,上記無効審判事件について,本件訂正を認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「別件審決」という。)をした(甲2)。 これに対し被告は,平成22年1月29日,別件審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第10034事件)を提起したところ,知的財産高等裁判所は,平成23年1月25日,別件審決を取り消す旨の判決(以下「別件知財高裁判決」という。)を言い渡した(乙18)。 そこで,原告は,別件知財高裁判決を不服として上告受理の申立て(平成23年(行ヒ)第149号事件)をした。 発明の内容ア設定登録時のもの 本件特許の設定登録時の特許請求の範囲は,請求項1ないし10から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。 「【請求項1】 関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで前記コラムに配置された第1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材と,前記移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部とを備え,前記 - 4 -ハンド部は前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であって,前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節 を折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置されるとともに,前記アームの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に,前記二組のアームを挟んで配置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させるものであることを特徴とするダブルアーム型ロボット。」 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。 A 関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて,B 前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで前記コラムに配置された第1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材と,前記移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部とを備え,C 前記ハンド部は前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であって,前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを折り畳み前記 - 5 -ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,D 前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端 - 5 -ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,D 前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置されるとともに,E 前記アームの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に,前記二組のアームを挟んで配置され,F 前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させるものであるG ことを特徴とするダブルアーム型ロボット。 イ本件訂正後のもの本件訂正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし9から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。下線部は訂正箇所である。)。 「【請求項1】 関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで前記コラムに配置された第1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材と,前記移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部とを備え,前記二組のアームは複数の関節部を有し,水平多関節型ロボットであり,前記ハンド部は前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であって,前記アームを伸ばしきっ - 6 -た伸長位置と前記アームを折り畳み前 前記ハンド部は前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であって,前記アームを伸ばしきっ - 6 -た伸長位置と前記アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置されるとともに,前記アームの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に,前記二組のアームを挟んで配置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させるものであることを特徴とするダブルアーム型ロボット。」 被告の行為等ア被告は,被告各製品を製造及び販売している。 イ被告各製品(被告製品1及び被告製品2)の構成は,別紙被告物件説明書(添付の各図面を含む。)記載のとおりである(なお,同説明書にいう「図面1」は,被告製品1及び被告製品2の各「図面1」の総称であり,「図面2」以下もこれと同様である。)。 被告製品1と被告製品2は,最大搬送ガラスサイズの点で相違するのみで,その余の構成に相違はない。 ウ被告各製品は,本件発明の構成要件A,B,F及びGを充足する。 3 争点本件の争点は,被告各製品が本件発明の技術的範囲にそれぞれ属するか否か(争点1),本件発明に係る本件特許に特許無効審判により無効にされるべき無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項に基づいて制限されるかどうか(争点2),被告が賠償すべ か否か(争点1),本件発明に係る本件特許に特許無効審判により無効にされるべき無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項に基づいて制限されるかどうか(争点2),被告が賠償すべき原告の損害額(争点3)である。 - 7 -第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告各製品についての本件発明の技術的範囲の属否)について 原告の主張ア構成要件Cについて本件発明の構成要件Cは,ダブルアームの先端にあるハンド部の動きを説明したものであり,支持部材の移動方向に対して直交する方向であり,かつ支持部材がコラムから延びる方向に対しても直交する方向にハンド部が動くこと,アームの伸長位置と畳み位置との間をハンド部が移動することを意味する。 被告各製品のハンド部8は,別紙被告物件説明書添付の各「図面3」記載のとおり動くものであり,これは,同添付の各「図面2」に示す支持部材10の移動方向に対して直交する方向であり,かつ,同添付の各「図面3」や各「図面1(B)」に記載のとおり支持部材10がコラム12から伸びる方向に対しても直交する方向である。そして,ハンド部8はアームの伸長位置と折り畳み位置の間を動くように構成されている。 したがって,被告各製品は,構成要件Cを充足する。 イ構成要件Dについて本件発明の構成要件Dは,ロボットの旋回半径に関して,コラムの旋回領域の内側にアーム基端の関節部の回転中心軸を置くことを意味するものである。 別紙被告物件説明書添付の各「図面4」に台座13の旋回中心13b及びアームの基端の関節部3a,3bが示されているが,被告各製品がこの旋回中心13bを中心に旋回する際に,コラム12は,アームの基端の関節部3a,3bの回転中心軸よりも外側を旋回する。 したがって,被告各製 基端の関節部3a,3bが示されているが,被告各製品がこの旋回中心13bを中心に旋回する際に,コラム12は,アームの基端の関節部3a,3bの回転中心軸よりも外側を旋回する。 したがって,被告各製品は,構成要件Dを充足する。 ウ構成要件Eについて - 8 -本件発明の構成要件Eは,アームの基端の関節部が,支持部材のコラムとの取り付け部分とは逆側に取り付けられていること,そして,ダブルアームを挟んで配置されていることを示すものである。 別紙被告物件説明書添付の各「図面1」からも明らかなように,被告各製品のアームの基端の関節部3a,3bは,支持部材10a,10bに取り付けられているが,それは支持部材10a,10bがコラム12に取り付けられているのとは反対側であり,また,アームの基端の関節部3a,3bは,上下で2つのアーム2a,2bを挟んでいる。 したがって,被告各製品は,構成要件Eを充足する。 エ小括以上のとおり,被告各製品はいずれも構成要件CないしEを充足し,かつ,被告各製品が構成要件A,B,F及びGを充足することは争いがない(前記第2の2ウ)から,被告各製品は,本件発明の構成要件をすべて充足し,その技術的範囲に属する。 したがって,被告による被告各製品の製造及び販売は,本件発明に係る本件特許権の侵害に当たるというべきである。 被告の主張ア構成要件Cについて本件発明の構成要件Cは,ハンド部が,「前記第1及び第2の支持部材の移動方向」及び「前記支持部材が前記コラムから延びる方向」に関して「直交する方向」に伸び縮みを行うことを規定するものであるところ,支持部材が延びる方向に関し,「前記コラムから延びる方向」と規定しているから,支持部材が延びる方向の起点となる一方の端部は,該支持部材がコラムの 向」に伸び縮みを行うことを規定するものであるところ,支持部材が延びる方向に関し,「前記コラムから延びる方向」と規定しているから,支持部材が延びる方向の起点となる一方の端部は,該支持部材がコラムの取り付けられる部分である。 この点,被告各製品における支持部材は,この部分から斜め前方にほぼ45°の角度で延びており,被告各製品において,ハンド部が伸び縮みを - 9 -行う方向は,前後方向であって,支持部材がコラムから延びる方向に対して「直交」する方向ではない。 したがって,被告各製品は,構成要件Cを充足しない。 イ構成要件Dについて本件出願の出願経過(乙5,6)等によれば,本件発明の構成要件Dは,単にコラムが「前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置される」場合をすべて含むのではなく,アーム基端の肩関節の回転中心が,ロボットの旋回中心とコラム側面の点と同軸上で,かつそれらの間に位置する場合を意味するものと解釈すべきである。 この点,被告各製品においては,上アーム2aの基端の関節部3aの回転中心軸及び下アーム2bの基端の関節部3bの回転中心軸が,台座13の旋回中心13bよりも上ハンド8及び下ハンド8’が伸びる方向に変位して位置しており,台座13の旋回中心13bとコラム12とを結ぶ線上には存在せず,当然のことながら,台座13の旋回中心13bとコラム12との間には位置していない(別紙被告物件説明書添付の各「図面1(B)」及び各「図面4」参照)。 したがって,被告各製品は,構成要件Dを充足しない。 ウ構成要件Eについて本件発明の構成要件Eは,「アームの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラムに取 」及び各「図面4」参照)。 したがって,被告各製品は,構成要件Dを充足しない。 ウ構成要件Eについて本件発明の構成要件Eは,「アームの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に,前記二組のアームを挟んで配置され」と規定している。 この点に関し,被告各製品においては,別紙被告物件説明書添付の各「図面1(B)」及び各「図面2(A)ないし(C)」から明らかなとおり,上アーム2a及び下アーム2bのハンド部8が伸び縮みする方向に互い - 10 -に変位して配置されており,基端の関節部3a,3bは,二組のアーム2a,2bを「挟んで配置」される関係にはない。 したがって,被告各製品は,構成要件Eを充足しない。 エ小括以上のとおり,被告各製品はいずれも構成要件CないしEを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属さない。 したがって,被告による被告各製品の製造及び販売が本件特許権の侵害に当たるとの原告の主張は理由がない。 2 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について 被告の主張本件発明に係る本件特許には,以下のとおりの無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。 ア無効理由1(分割要件違反に基づく新規性の欠如)以下のとおり,本件発明には本件原出願の出願当初明細書(以下,図面を含めて「原出願明細書」という。)に開示されていない事項が含まれており,本件出願は分割要件(平成18年法律第55号による改正前の特許法44条。以下同じ。)に違反するものであるから,出願日の遡及が認められない。そして,本件発明は,本件出願の出願前に頒 項が含まれており,本件出願は分割要件(平成18年法律第55号による改正前の特許法44条。以下同じ。)に違反するものであるから,出願日の遡及が認められない。そして,本件発明は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であり,本件原出願の公開特許公報である特開2001-274218号公報(乙7)に記載された発明と同一のものであり,新規性が欠如しているから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 本件発明の構成要件Dの「前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように - 11 -配置される」との文言によれば,構成要件Dには,台座の旋回中心と,アーム基端関節部(肩関節部)の回転中心と,コラムとが,この順で略一直線上に配置される構成のみならず,それ以外の構成(例えば,肩関節部の回転中心が,台座の旋回中心からアームの伸縮方向と直交する方向でない方向に偏心している場合や,基端以外の関節部が突出する方向と同一方向に偏心している場合)も含まれることになる。 一方,原出願明細書(乙7)には,台座の旋回中心と,アーム基端関節部(肩関節部)の回転中心と,コラムとが,この順で略一直線上に配置される構成(例えば,図2)のみが開示されており,それ以外の構成は開示されていない。 そうすると,本件発明は,原出願明細書に開示されていない内容を含むものであって,本件出願は,分割要件に違反してされたものといえるから,出願日の遡及が認められず,その出願日は現実に出願がされた平成18年4月12日となる。 本件出願の出願前に頒布された本件原出願の公開特許公報である乙7には,上記のと されたものといえるから,出願日の遡及が認められず,その出願日は現実に出願がされた平成18年4月12日となる。 本件出願の出願前に頒布された本件原出願の公開特許公報である乙7には,上記のとおり本件発明の構成要件Dの構成が開示されているほか,その余の本件発明の構成も開示されている。 したがって,本件発明は,乙7に記載された発明と同一のものであるから,新規性が欠如している。 イ無効理由2(進歩性の欠如)本件発明は,以下のとおり,当業者が,本件原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-87785号公報(乙11)に記載された発明(以下「乙11記載発明」という。)及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如し,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 - 12 -なお,別件知財高裁判決(乙18)は,本件発明の構成要件Cを一部訂正した本件訂正発明(前記第2の2イ)について,上記無効理由と同様の理由により,進歩性が欠如するとの判断を示している。 本件発明と乙11記載発明との対比a 乙11の記載事項(2頁右下欄6行,4頁左上欄2行~7行,5頁右下欄11行~6頁左上欄18行,6頁右下欄1行~2行,4行~5行,8頁左下欄10行~15行,第1図,第2図)によれば,乙11には,次のとおりの相違点①ないし④に係る本件発明の各構成を除き,本件発明のその余の構成が開示されている。 (相違点①)本件発明では,「二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられる第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラム,及び当該コラムと二組の支持部材が取り付けられる旋回可能な台座部」を備えている(構成要件B)のに対し,乙11記 節部を介して取り付けられる第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラム,及び当該コラムと二組の支持部材が取り付けられる旋回可能な台座部」を備えている(構成要件B)のに対し,乙11記載発明では,これが明らかでない点。 (相違点②)本件発明では,「ハンド部」が「第1及び第2の支持部材の移動方向及び支持部材がコラムから延びる方向に関して直交する方向」に移動する(構成要件C)のに対し,乙11記載発明では,これが明らかでない点。 (相違点③)本件発明では,「台座部が旋回するときの台座部の旋回中心に関して,第1及び第2の支持部材にアームの基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置され」ている(構成要件D)のに対し,乙11記載発明では,これが明らかでない点。 (相違点④) - 13 -本件発明では,「アームの基端の関節部が,支持部材のコラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に配置され」ている(構成要件E)のに対し,乙11記載発明では,これが明らかでない点。 b なお,別件知財高裁判決は,別件審決が認定した,本件訂正発明と乙11記載発明(別件審決・別件知財高裁判決にいう「引用発明」)には,次のとおりの相違点1及び2があることを確認した上で,当業者が引用発明に上記各相違点に係る本件訂正発明の構成を採用することは容易である旨判断し,当業者が本件訂正発明を容易に想到し得るものではないとした別件審決の判断に誤りがあると結論づけた。 しかるところ,被告主張の相違点①ないし④(前記a)と別件知財高裁判決が認定した相違点1及び2との関係をみると,相違点①及び②は相違点1に,相違点③及び④は相違点2の一部にそれぞれ相当するものであるといえる。 (相違点1)本件訂正発明は,二組のアー 高裁判決が認定した相違点1及び2との関係をみると,相違点①及び②は相違点1に,相違点③及び④は相違点2の一部にそれぞれ相当するものであるといえる。 (相違点1)本件訂正発明は,二組のアームは「コラムに配置された第1及び第2の支持部材」に取り付けられ,「該第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材」を有し,「移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部」とを備え,ハンド部は「第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから伸びる方向に関して直交する方向」に伸縮するが,「引用発明」(乙11記載発明)は,二組のアームは,「搬送チャンバの上板及び下板」に取り付けられ,ハンド部の伸縮方向は明らかでない点。 (相違点2)本件訂正発明は,「コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アーム - 14 -の前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置され」,前記アームの前記基端の関節部は,「前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部」に配置され,前記ハンド部は「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」ものであるが,引用発明(乙11記載発明)は,明らかではない点。 相違点①ないし④に係る本件発明の構成が周知技術であることa 相違点①及び②についてアーム部が昇降する構成を備えたロボット装置において,「アーム部の基端が取り付けられる支持部材とこの支持部材を上下に移動可能に取り付けるコラムとを有する移動部材を設けること,及び移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部を設けること」は,本件原出願の出願当時,周知であったから(例えば,乙 材とこの支持部材を上下に移動可能に取り付けるコラムとを有する移動部材を設けること,及び移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部を設けること」は,本件原出願の出願当時,周知であったから(例えば,乙12ないし15),相違点①に係る本件発明の構成は,周知技術である。 そして,このような周知技術を採用したロボット装置において,「ハンド部の移動方向を,支持部材の移動方向及び支持部材がコラムから延びる方向に関して直交する方向にすること」(相違点②に係る本件発明の構成)も,周知技術又は設計事項にすぎない。 b 相違点③及び④について前記aのとおり,アーム部が昇降する構成を備えたロボット装置において,アーム部の基端が取り付けられる支持部材とこの支持部材を上下に移動可能に取り付けるコラムとを有する移動部材を設けること,及び移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部を設けることは周知技術であるところ,このようなコラムが設けられているコラムタイプのロボット装置において,「台座部が旋回するときの台座部の旋回中心に関して,第1及び第2の支持部材にアームの基端の関節部の - 15 -回転中心軸よりも外側を旋回するような配置」(相違点③に係る本件発明の構成)を採用することは極めて普通のことであり(例えば,乙12ないし15),コラムタイプのロボット装置では,上記配置を備えない例を見出すことが困難である。 また,上記のようなコラムが設けられているコラムタイプのロボット装置において,「アームの基端の関節部を,支持部材のコラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端に配置すること」(相違点④に係る本件発明の構成)は,周知の構成であって(例えば,乙12ないし15),設計事項にすぎない。 相違点の容易想到性a 乙11は,生産性の向上のため 由端である先端に配置すること」(相違点④に係る本件発明の構成)は,周知の構成であって(例えば,乙12ないし15),設計事項にすぎない。 相違点の容易想到性a 乙11は,生産性の向上のためにロボットを2台設ける構造として,第7図に二つのロボットが横方向に並列配置されたものを示しており,この二つのロボットを横方向に並列配置した構成が,乙11記載発明の想定する従来技術である。 乙11は,この横方向並列配置の問題点として,「基板処理装置が横方向に大型になり高価なクリーンルーム内において占める面積が増大する」ことを挙げ(2頁右上欄13行~14行),上記の問題点に鑑み,「設置スペースが小さくしかも基板処理装置における基板の搬送が短時間で行える基板搬送装置を提供すること」(2頁右下欄6行~8行)を目的とし,その目的を達成するために,「駆動部と該駆動部の一側面に沿って動作するアーム部とよりなるロボットを備え,前記アーム部の先端に設けられたハンドに基板を載せて移動させる基板搬送装置」(2頁右下欄10行~13行)に改良を加えることを提案したものであり,その提案する具体的構成は,「前記一側面が相対向するようにして上下に前記ロボットが配設されている」構成(1頁左欄の「特許請求の範囲」及び2頁右下欄10行~16行),すな - 16 -わち,駆動部の一側面に沿って動作するアーム部と該アーム部の先端に設けられたハンドとからなり,該ハンドに基板を載せて移動させるようにしたロボットを二つ,上下に配置することからなる構成である。 そして,乙11には,この構成により,「アーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板が互いに干渉することはなく,しかも,上下のロボットのハンドを互いに重ねるようにして同時に処理室へ挿入することができる」ようになること(2 の構成により,「アーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板が互いに干渉することはなく,しかも,上下のロボットのハンドを互いに重ねるようにして同時に処理室へ挿入することができる」ようになること(2頁右下欄下から2行~3頁左上欄3行),「ロボットは上下に配設するので,設置スペースは少なくとも従来と同様に小さく維持できる」こと(3頁左上欄8行~10行)が記載されている。さらに,乙11には,「本発明のロボットはハンドが二次元的にしか動作できないものに限られず,例えば,・・・アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有する構成とされ,」との記載があるところ(8頁左下欄10行~14行),この「本発明のロボット」は,乙11の特許請求の範囲に記載され,かつ,「課題を解決するための手段」として記載された構成を有する基板搬送装置(2頁右下欄10行~16行)であり,この基板搬送装置は,実施形態として示された「搬送チャンバ」を有する構造に限定されるものではない。 b 以上のとおり,乙11記載発明は,多段アーム型ロボットを二つ,上下に配置することによって二つのロボットを並列配置した従来技術の搬送装置の問題点を解消するというものであるから,この記載を正確に理解しさえすれば,乙11中の「アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有する構成」という記載に接した当業者であれば,アームのための上下移動機構として従来周知の構造を採用しようと考えるのは当然のことである。 そこで考えられる上下移動機構は,コラムの側方に支持部材を上下 - 17 -移動可能に設け,この支持部材にロボットのアームを取り付ける,いわゆるコラム型を採用することと,テレスコピック機構の上部にロボットのアームを取り付ける,いわゆるテレスコピック型を採用することのいずれかである。 そして,コラム ボットのアームを取り付ける,いわゆるコラム型を採用することと,テレスコピック機構の上部にロボットのアームを取り付ける,いわゆるテレスコピック型を採用することのいずれかである。 そして,コラム型の上下移動機構が本件原出願の出願前に周知であったことは,上述したとおりであり,このコラム型上下移動機構によれば,テレスコピック型の機構よりも上下移動ストロークを大きくできることもまた,自明である。 そうすると,乙11に接した当業者であれば,設置スペースを小さくするためにアーム部及びハンド部を上下に配設した乙11記載発明において,アーム部のための上下移動機構として従来周知の構造であったコラム型の上下移動機構を採用して,旋回半径を小さくするために上下に二組のアームを配設する構成(相違点①ないし④に係る本件発明の構成)とすることは容易に想到することができたものである。 c 仮に乙11には「縮み位置においてワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる」との構成(構成要件F)が開示されておらず,この点が本件発明と乙11記載発明との相違点(別件審決認定の相違点2の一部に相当)となるとしても,別件知財高裁判決が判断するように,上記相違点に係る本件発明の構成は周知技術であり,当業者が,乙11記載発明において,アーム部とハンド部とを支持部材を介してコラム式の上下昇降機構に組み合わせる際,アームを折り畳んだ縮み位置の状態において,省スペース化の観点から,周知技術である上記構成を採用することは容易であるというべきである。また,そもそも,当業者が,コラム式の上下昇降機構を採用するに当たり,アーム部及びハンド部を縮み位置に移動した際にハンド部やハンド部 - 18 -に載置したワークとコラムとが交差しないような上記構成を適宜採用することは当然であ の上下昇降機構を採用するに当たり,アーム部及びハンド部を縮み位置に移動した際にハンド部やハンド部 - 18 -に載置したワークとコラムとが交差しないような上記構成を適宜採用することは当然であり,かかる点は設計事項にすぎない。 小括以上のとおり,本件発明は,当業者が,乙11記載発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如している。 原告の主張ア無効理由1に対し原出願明細書(乙7)は,台座の旋回中心と,アーム基端関節部(肩関節部)の回転中心と,コラムとが,この順で略一直線上に配置される構成のものを一実施例(図2)として示しているにすぎず,そのような配置がされていない構成のものも開示している(段落【0041】,【0042】等)。 したがって,被告主張の本件出願の分割要件違反には理由がなく,本件出願は分割要件を満たすものといえるから,本件発明の新規性の欠如をいう被告主張の無効理由1は,その前提を欠くものであり,失当である。 イ無効理由2に対し 本件発明と乙11記載発明との対比について乙11の第2図に記載された,アーム50の長さ,アーム51の長さ及び基板載置部70を除くアーム部34の長さ並びに第1図の待機姿勢Rの作図を見れば,基板載置部70が,基端の連結中心Aの間に位置しないことは明らかであり,乙11には,構成要件Fの「縮み位置においてワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる」との構成の開示がない。 したがって,本件発明と乙11記載発明とは,別件審決認定の相違点2のとおり,乙11記載発明に上記構成の開示がない点においても相違 - 19 -する。 相違点の容易想到性についてa 相違点①について乙11の記載(1頁左下欄下から7行 定の相違点2のとおり,乙11記載発明に上記構成の開示がない点においても相違 - 19 -する。 相違点の容易想到性についてa 相違点①について乙11の記載(1頁左下欄下から7行~4行,2頁左上欄下4行~右上欄15行等)によれば,乙11記載発明は,化学薬品などの腐食作用を応用した表面加工法であるエッチング等の処理が行われるチャンバを前提とした発明であって,「搬送チャンバの天井と床」を必須の構成とし,その上で,「スループットを向上させること」,「ロボットを横方向に2台並べると,ロボット双方が干渉してスループットを向上させることが出来ず,それどころか基板処理装置が横方向に大型になり高価なクリーンルーム内において占める面積が増大する」という問題を解決するために,ロボットのアームを搬送チャンバの天井と床にそれぞれ対向するように設けたものといえる。 このように乙11記載発明では,本件発明の支持部材に該当する部分が,チャンバの天井と床である以上,内部環境維持の目的から内部容量の極小化が望まれるチャンバ内で作業を完結させるものにすぎないのであって,これを越えて,支持部材を上下に移動させてチャンバ以外に使用することを,乙11から想起することはできない。 また,被告が周知例として引用する乙12(特開平10-278789号公報),乙13(特開平10-278790号公報),乙14(特開昭58-109284号公報)及び乙15(特開平10-297714号公報)には,限られたスペースの中で最も有効にスペースを活用するために本件発明が示した解決手段(相違点①に係る本件発明の構成)は,開示されておらず,仮に個々の構成要素が知られていたとしても,乙11記載発明にそれらの構成要素を組み合わせることは,当業者といえども容易には行えないことであ 手段(相違点①に係る本件発明の構成)は,開示されておらず,仮に個々の構成要素が知られていたとしても,乙11記載発明にそれらの構成要素を組み合わせることは,当業者といえども容易には行えないことである。 - 20 -b 相違点②について被告は,上下移動機構にコラムを用いる場合に「ハンド部の移動方向を,支持部材の移動方向及び支持部材がコラムから延びる方向に関して直交する方向にすること」(相違点②に係る本件発明の構成)は,周知技術又は設計事項にすぎない旨主張するが,本件発明は,省スペース化を徹底しようとする課題を認識して各構成を採用したものであって,一つ一つの構成のみを切り離して設計事項と主張するのは失当である。 c 相違点③について乙12ないし15には,「前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置される」との構成(相違点③に係る本件発明の構成)について,何ら開示も示唆もないから,上記構成が周知技術であるとする被告の主張は根拠がない。 また,被告は,コラムタイプのロボット装置では,上記配置を備えない例を見出すことが困難であると主張するが,かかる配置を備えない例のロボットの例はいくつも存在し(例えば,甲5,7,乙12ないし15),被告の上記主張は事実に反する。 d 相違点④について被告は,上下移動機構にコラムを用いる場合に「アームの基端の関節部を,支持部材のコラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端に配置すること」(相違点④に係る本件発明の構成)は,周知の構成であって(例えば,乙12ないし15),設計事項にすぎない旨主張する。 しかし,乙12及び13は,本件発明と目的効 自由端である先端に配置すること」(相違点④に係る本件発明の構成)は,周知の構成であって(例えば,乙12ないし15),設計事項にすぎない旨主張する。 しかし,乙12及び13は,本件発明と目的効果を異にし,その構 - 21 -造も実質的にテレスコピック型であって,本件発明のようなコラム型ではなく,また,シングルアーム型であって,本件発明のようなダブルアーム型でもない。このようにそもそも課題の異なる発明を組み合わせること自体に無理があり,仮に組み合わせたとしても,具体的なコラムとアームの位置関係は,乙12ないし15には何らの記載も示唆もないから,当業者が相違点④に係る本件発明の構成を容易に想到できるものではない。 別件知財高裁判決について被告が指摘する本件訂正発明の進歩性を否定した別件知財高裁判決の判断には,誤りがある。 すなわち,進歩性の判断については,「無意識的に,事後分析的な判断,証拠や論理に基づかない判断等が入り込む危険性が有り得るため,そのような判断を回避することが必要となる」(知財高裁平成21年4月27日判決(平成20年(行ケ)第10120号)参照)のであって,事後分析的な判断にならないように,慎重な態度に基づき進歩性が検討されなければならない。 しかるところ,乙11には,チャンバ内での作業が完結する「引用発明」(乙11記載発明)について,アーム部及びハンド全体が昇降する機構が示されているだけで,チャンバ外に「支持部材を上下方向に移動可能に保持するコラムを含む移動機構」を設けてチャンバ外で上下方向に可動範囲を確保するような動機や示唆の記載はない。 この点に関し,別件知財高裁判決は,省スペース化や可動範囲の拡大等のおよそすべての機械・装置に共通の課題を有していれば,動機が共通であるとして,その課 囲を確保するような動機や示唆の記載はない。 この点に関し,別件知財高裁判決は,省スペース化や可動範囲の拡大等のおよそすべての機械・装置に共通の課題を有していれば,動機が共通であるとして,その課題解決のための新規な構成が行われても,設計事項とするに等しいものであって,その進歩性の判断は誤っている。 - 22 - 小括以上によれば,本件発明は当業者が乙11記載発明及び被告主張の周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではないから,被告主張の無効理由2は理由がない。 3 争点3(原告の損害額) 原告の主張ア被告が被告各製品を製造及び販売した行為は,原告の本件特許権を侵害する不法行為に当たるから,被告は,原告に対し,原告が受けた損害を賠償する義務を負う。 イ特許法102条1項は,侵害行為を組成した物の譲渡数量に,「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」を乗じて得た額を,特許権者又は専用実施権者の実施能力を超えない限度において,特許権者又は専用実施権者が受けた損害額とすることができると規定している。 しかるところ,①被告各製品の売上台数は,本件特許の設定登録日である平成19年6月22日以降,200台を下回らないこと,②被告各製品の売上台数の全部について原告が本件発明の実施品を供給する能力(実施能力)を有していたこと,③本件発明の実施品を製造販売することによって得る原告の利益(限界利益)は1台当たり200万円を下回らないことからすると,特許法102条1項によって算定される原告の損害額は,4億円を下回らない。 ウ以上によれば,原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として4億円及びこれに対する平成22年4月10日(訴状送達の日の翌日)から支払 告の損害額は,4億円を下回らない。 ウ以上によれば,原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として4億円及びこれに対する平成22年4月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 被告の主張 - 23 -原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断本件においては,被告が本件特許について無効審判請求(無効2009-800096号事件)をし,特許庁は,上記無効審判事件について,本件発明の構成要件Cを一部訂正した本件訂正発明の新規性及び進歩性をいずれも認め,請求不成立の審決(別件審決)をしたが,その取消しを求める審決取消訴訟において,知的財産高等裁判所は,別件審決における本件訂正発明についての進歩性の判断に誤りがあるとして,別件審決を取り消す旨の判決(別件知財高裁判決)を言い渡した経緯がある。 そこで,このような経緯に鑑み,まず,争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)の被告主張の無効理由2(進歩性の欠如)から判断することとする。 1 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)被告は,本件発明は,本件原出願の出願前に頒布された刊行物である乙11に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る本件特許には特許法29条2項に違反する進歩性欠如の無効理由(無効理由2)があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,同法104条の3第1項の規定により,原告は,本件特許権を行使することができない旨主張する。 本件発明本件発明の内容は,本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1記載のとおりである(前記第2の2ア)。 本件出願の願書に添付された 本件特許権を行使することができない旨主張する。 本件発明本件発明の内容は,本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1記載のとおりである(前記第2の2ア)。 本件出願の願書に添付された明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)(甲1の2)には,本件発明が解決しようとする課題,本件発明の目的,解決手段及び作用効果等に関し,次のような記載がある(なお,下記オの記載中に引用する図面のうち,「図1」ないし「図3」については, - 24 -別紙本件明細書図面参照)。 ア 「【技術分野】 本発明はロボットに関する。さらに詳述すると,本発明は,ワークの取り出し及び供給を行なうダブルアーム型ロボットに関するものである。」(段落【0001】)イ 「【背景技術】 従来,液晶用のガラス基板や半導体ウェハ等の薄板状のワークをストッカから取り出す,またワークをストッカに供給するために,例えば図5から図7に示すダブルアーム型ロボットが利用されている。」(段落【0002】)ウ 「【発明が解決しようとする課題】・・・従来のダブルアーム型ロボット100では,両アーム101が縮んだ際に両肘関節部115が左右対称に突出して,ダブルアーム型ロボット100の旋回半径,即ち円106で示す旋回に要する領域が大きくなってしまうという問題がある。さらに,2つのハンド部113が接触することがないようにコの字型コラム117aが基台上部103の旋回中心の外側に向かって突出しており,ダブルアーム型ロボット100の旋回半径が更に大きなものとなってしまう。」(段落【0010】),「これらに対し,他の装置にぶつかることがないようにダブルアーム型ロボット100の周囲に十分なスペースを設ける必要が生じ,その分だけ大型のクリーンルームとそれに付帯する浄化設備等の大型 010】),「これらに対し,他の装置にぶつかることがないようにダブルアーム型ロボット100の周囲に十分なスペースを設ける必要が生じ,その分だけ大型のクリーンルームとそれに付帯する浄化設備等の大型化が必要となりコスト高となる。また,クリーンルーム内におけるダブルアーム型ロボットの占有するスペースが大きくなると,レイアウトの自由度を低下させてしまう。」(段落【0011】),「近年の液晶用ガラス基板の大型化により,ガラス板の撓みも大きくなることから,ストッカの各段の間隔(ピッチ)を大きくする必要が生じている。それに伴って,ダブルアーム型ロボット100においても上下方向のストロークを大きくする必要がある。ここで,従来のダブルアーム型ロボット100では,アーム101の縮み動作に伴い両肘関節部115が左右対称に突出する - 25 -ため,設置スペースを考慮すると,アーム101の上下移動のための機構はアーム101の下側に配置する必要がある。しかし,上下移動機構として,従来採用されている多段テレスピック構造では,上下方向のストロークを大きくするほど,複雑大型化してしまう。」(段落【0012】)エ 「本発明は,旋回半径が小さく,また,装置の大型化・複雑化を伴わない上下移動機構により構成可能なダブルアーム型ロボットを提供することを目的とする。」(段落【0013】)オ 「【課題を解決するための手段】 かかる目的を達成するため,請求項1記載の発明は,関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで前記コラムに配置された第1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支持部材を たダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで前記コラムに配置された第1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材と,前記移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部とを備え,前記ハンド部は前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であって,前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置されるとともに,前記アームの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に,前記二組のアームを挟んで配置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させるようにしてい - 26 -る。」(段落【0014】),「図1から図4に,本発明のダブルアーム型ロボットの一実施形態を示す。このダブルアーム型ロボット1は,関節部3,4,5により回転可能に連結されて回転駆動源による回転力を伝達し所望の動作をさせるアーム2を二組備えてなるもので,二組のアーム2に設けられる基端の関節部3の回転中心軸を上下(または軸方向)に配置するように構成されている。」(段落【0041】)カ 「【発明の効果】・・・請求項1記載のダブルアーム型ロボットによると,コラムに沿って昇降可能な一体 部3の回転中心軸を上下(または軸方向)に配置するように構成されている。」(段落【0041】)カ 「【発明の効果】・・・請求項1記載のダブルアーム型ロボットによると,コラムに沿って昇降可能な一体若しくは別体の第1及び第2の支持部材を介して二組のアームを互いに上下に異なる高さで支持し,旋回台の旋回によりアームの向きを変更できるので,ワーク搬送の上下方向,特に下側の領域を拡大でき,ワークの収納領域を下側に拡充できる。即ち,アームの最下位置を下げることが可能になり,ダブルアーム型ロボットのハンドリングできる高さが下がり,アームの作業可能範囲を広げることができる。このように構成されたダブルアーム型ロボットは,多段テレスピック構造等で上下移動機構を構成する場合に比して,機構を複雑化・大型化することなく上下移動方向のストロークを大きくできる。」(段落【0026】),「さらに,ロボットの旋回半径に関してコラムの旋回領域の内側にアーム基端の関節部を位置させるようにオフセットさせているので,アームの基端の肩関節の回転中心からコラムまでの支持部材の長さにコラムの厚み寸法分を加えた長さにほぼ対応する分のロボットの旋回作動領域を小さくすることができる。つまり,ロボットが旋回する際に,コラム旋回領域の内側に折り畳んだ状態のアームが旋回する領域を確保できますので,ロボット作動領域の省スペース化ができます。」(段落【0027】),「これら本発明特有の効果である「ワーク収納領域の拡充」と「ロボット作動領域の減容化」によって,高価なクリーンルームや工場スペースの利用効率を大幅に高める,換言すればクリーンルーム並びにそれに付 - 27 -帯する浄化設備等の小型化を可能とし,レイアウトの自由度を高めることができる。」(段落【0028】),「さらに,本発明によると を大幅に高める,換言すればクリーンルーム並びにそれに付 - 27 -帯する浄化設備等の小型化を可能とし,レイアウトの自由度を高めることができる。」(段落【0028】),「さらに,本発明によると,コラムから離れた位置(支持部材のコラム側とは反対の端部,つまり自由端である先端部)にアームの基端の関節部を設けたので,上下の基端関節部の間に基板(ワーク)を引き込む動作(縮み動作)において,旋回半径に関してコラムよりも内側にワークの縁の移動軌跡が配置されることによりワークとコラムが干渉してワークが壊れることない。また,移動部材(移動機構)がアームの伸縮方向の側部に位置する構成であってもロボット作動領域を省スペース化することができる。」(段落【0029】),「請求項1記載の発明によると,ハンド部の高さを互いに変えるためのコの字型コラムを設ける必要がなくなるので,その分だけ旋回半径の径方向外側への突出物が減少し,さらに旋回半径を小さくできる。しかも,支持部材がコラムに対し異なる高さで設置されているために,アームを縮め位置に引き込んだ際にアームの基端の関節部即ち肩関節部の間にハンド部を収容させて旋回中心近傍にハンド部ひいてはワークを配置することができるので,旋回半径の最小化を可能とする。」(段落【0030】) 乙11の記載事項ア乙11(特開平4-87785号公報)には,次のような記載がある(なお,後記の記載中に引用する図面のうち,「第1図」及び「第2図」については,別紙乙11図面参照)。 「特許請求の範囲」として,「駆動部と該駆動部の一側面に沿って動作するアーム部とよりなるロボットを備え,前記アーム部の先端に設けられたハンドに基板を載せて移動させる基板搬送装置であって,前記一側面が相対向するようにして上下に前記ロボットが配設 一側面に沿って動作するアーム部とよりなるロボットを備え,前記アーム部の先端に設けられたハンドに基板を載せて移動させる基板搬送装置であって,前記一側面が相対向するようにして上下に前記ロボットが配設されていることを特徴とする基板搬送装置。」(1頁左欄3行~10行) 「「産業上の利用分野」 本発明は,半導体基板等の基板に対してエ - 28 -ッチング等の処理を施す処理装置における基板の搬送装置に関する。」(1頁左欄12行~15行) 「「従来の技術」 …このように半導体基板や液晶基板(以下,基板という。)が大型化すると,これら基板に対して例えばプラズマアッシングやプラズマエッチング等の処理を施す基板処理装置には,処理速度が均一でかつ高速であることが要求される。…そして,この種のプラズマ処理装置は…基板を一枚づつ受け渡すための搬送装置を必要とするものであるが,従来,この搬送装置としては,周回するベルトよりなりこのベルト上に基板を載せて搬送する構造のものが一般的であった。ところで,このベルトによる基板の搬送装置であると,ベルトの運動によってベルトから多量にダストが発生し…製品の品質が確保し難く,歩留まりが悪くなるという問題があった。また,基板はベルトの摩擦力(粘着力)によって搬送するため位置決めが不正確になり易く,しばしば基板破損等の事故が発生するという問題点があった。そこで,基板を載せるハンドが先端に設けられたアーム部を有するマニピュレータ(いわゆるロボット)より構成された搬送装置が,上記問題点を解消したものとして使用されつつある。」(1頁左欄16行~2頁左上欄16行) 「「発明が解決しようとする課題」 ところが,このロボットより構成された搬送装置は,従来,ロボットを一台しか搭載しておらず,…処理済み基板と未処理の基板 」(1頁左欄16行~2頁左上欄16行) 「「発明が解決しようとする課題」 ところが,このロボットより構成された搬送装置は,従来,ロボットを一台しか搭載しておらず,…処理済み基板と未処理の基板の搬送を順次行わなければならない。これ故,基板の搬送に要する時間が長く,処理装置のスループット(単位時間当たりの基板処理枚数)が低下するという問題があった。」,「ところで,ロボットを2台並べて配設して搬送装置を構成するということが考えられるが,この場合でもロボット相互の干渉のためにやはりスループットを向上させることはできず,それどころか基板処理装置が横方向に大型になり高価なクリーンルーム内において占める面積が増大する - 29 -という問題が生じる。」(以上,2頁左上欄17行~右上欄15行) 「本発明は上記従来の事情に鑑みなされたものであって,設置スペースが小さくしかも基板処理装置における基板の搬送が短時間で行える基板搬送装置を提供することを目的としている。」(2頁右下欄5行~8行) 「「課題を解決するための手段」 本発明の基板搬送装置は,駆動部と該駆動部の一側面に沿って動作するアーム部とよりなるロボットを備え,前記アーム部の先端に設けられたハンドに基板を載せて移動させる基板搬送装置であって,前記一側面が相対向するようにして上下に前記ロボットが配設されていることを特徴としている。」(2頁右下欄9行~16行) 「「作用」 本発明の基板搬送装置であると,各ロボットのそれぞれのアーム部がどの方向に動作してもアーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板が互いに干渉することはなく,しかも,上下のロボットのハンドを互いに重ねるようにして同時に処理室へ挿入することができる。 …しかも,ロボットは上下に配設するので,設置スペースは少なくと ドに載せた基板が互いに干渉することはなく,しかも,上下のロボットのハンドを互いに重ねるようにして同時に処理室へ挿入することができる。 …しかも,ロボットは上下に配設するので,設置スペースは少なくとも従来と同様に小さく維持できる。」(2頁右下欄17行~3頁左上欄10行) 「「実施例」 以下,本発明の一実施例を第1図~第5図により説明する。」(3頁左上欄11行~13行),「搬送装置13は,第1図,第2図に示すように,駆動部30とこの駆動部30の一側面30aに沿って動作するアーム部31とを備えたロボット32,33より構成されるもので,これらロボット32,33は前記一側面30aを相対向させるように上下に配置されている。そして,各アーム部31の旋回中心すなわち駆動部30の軸中心は搬送チャンバ10の中心に一致させられ,アーム部31が搬送チャンバ10内に位置し,駆動部30が搬送チャン - 30 -バ10から上下に張り出すように搬送チャンバ10に取り付けられて,各アーム部31の先端に設けられたハンド34に基板を載せて移動させるものである。」(4頁左上欄2行~14行),「以下,この搬送装置13(すなわち,ロボット32,33)の各部の構成を説明する。まず,駆動部30は,第3図に示すように,フランジ部40aを有するケース40と,このケース40内のフランジ部40aの中心線上に配設された第2モータ42と,ケース40内に第2モータ42と並んで配設された第1モータ41と,フランジ部40aの中心線上に基端が第2モータの上方に位置し先端がフランジ部40aから突出した状態に配設された第1駆動軸43と,基端が第2モータ42の出力軸に固定され先端が第1駆動軸43内を貫通して伸びるように設けられた第2駆動軸44と,第1駆動軸43とフランジ部40aとの間に設けら した状態に配設された第1駆動軸43と,基端が第2モータ42の出力軸に固定され先端が第1駆動軸43内を貫通して伸びるように設けられた第2駆動軸44と,第1駆動軸43とフランジ部40aとの間に設けられた磁気シール45とより主構成をなすものである。そして,ケース40内の第2モータ42の上方位置には,軸受46aによって回転自在に支持され第1駆動軸43の基端外周に固定されたプーリ47が設けられ,このプーリ47と第1モータ41の出力軸に固定されたプーリ48とに巻回された歯付きベルト49を介して,第1駆動軸43は第1モータ41によって駆動されるようになっている。」(4頁左上欄15行~右上欄17行),「アーム部31は,前記第1駆動軸43の先端に固定されて前記一側面30aに沿って伸びる箱状の第1アーム50と,この第1アーム50の先端部上面に回転自在に連結されて第1アーム50と同方向に伸びる箱状の第2アーム51とを備えるものである。 第1アーム50にはその基端部下面に位置してボス部50aが形成されており,このボス部50aが第1駆動軸43の先端部外周に嵌合固定させられることによって,第1アーム50は第1駆動軸に固定されて第1駆動軸の回転によって前記一側面30aに沿って回転するようになっている。また,第2ア - 31 -ーム51にもその基端部下面から伸びるボス部51aが形成されており,このボス部51aが第1アーム50の先端部内に伸びてこの先端部底面に立設固定された軸52の外周に軸受53,54を介して取り付けられることによって,第2アーム51は第1アーム50に連結されてやはり前記一側面30aに沿って回転できるようになっている。」(4頁右下欄4行~5頁左上欄3行),「ハンド34は,第4図に示すように,先端に基板載置部(この場合半導体ウエハ用)70が 0に連結されてやはり前記一側面30aに沿って回転できるようになっている。」(4頁右下欄4行~5頁左上欄3行),「ハンド34は,第4図に示すように,先端に基板載置部(この場合半導体ウエハ用)70が形成されたもので,その基端が前記軸部61aの上面に固定されることによって,やはり前記一側面30aに沿って回転するようになっている。このハンド34の基板載置部70は,周囲にガイド71a,71b,71cが形成されたコ字状の載置面70aを有するものであり,これらガイド部間に基板が載せられると,基板はその中央部下面がこのハンド34の裏側に望んだ状態で支持されるようになっている。なお,このハンド34は,上側のロボット32においては前記載置面70aが駆動部30側に向くような向きで取り付けられ,また下側のロボット33においては前記載置面70aが駆動部30と反対側に向くような向きで取り付けられており,どちらも載置面70aが上方に向くようになっている。」(5頁右上欄17行~左下欄14行) 「本発明のロボットはハンドが二次元的にしか動作できないものに限られず,例えば,ハンドがアーム部に対して昇降する機能を有していたり,アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有する構成とされ,さらに多自由度なハンドの動きが可能なロボットでもよい。」(8頁左下欄10行~15行) 「「発明の効果」 本発明の基板搬送装置によれば,基板処理装置における基板の搬送時間は従来よりも大幅に低減され,基板処理装置のスループットを格段に向上できるという効果が奏される。しかも,ロボッ - 32 -トは上下に配設するので横方向の大きさは少なくとも従来と同じであり,基板処理装置のクリーンルーム内に占める面積は従来よりも大きくならないという効果がある。」(8頁左下欄19行~右下欄7行) 2 -トは上下に配設するので横方向の大きさは少なくとも従来と同じであり,基板処理装置のクリーンルーム内に占める面積は従来よりも大きくならないという効果がある。」(8頁左下欄19行~右下欄7行)イ前記アの記載と図面(乙11)を総合すると,乙11には,「第1駆動軸,ボス部,軸部により回転可能に連結されて,第1,第2モータによる回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームが第1駆動軸を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで搬送チャンバに配置された搬送チャンバの上板及び下板とを備え,前記ハンド部は,前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,前記アームの前記第1駆動軸は前記二組のアームを挟んで配置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置との間を移動するものであるダブルアーム型ロボット」が記載されていることが認められる。 本件発明と乙11記載発明との対比ア前記及びの認定を前提に,本件発明と乙11記載のダブルアーム型ロボット(乙11記載発明)とを対比すると,別件審決が本件訂正発明及び乙11記載発明についての一致点,相違点1及び2として認定(甲2の28頁12行~末行)したのと同様に,次のような一致点と相違点があることが認められる。 (一致点)「関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで保持部分に配置された第1及び第2の支持部分とを備え,前記ハンド部は,前記アームを伸ば ム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで保持部分に配置された第1及び第2の支持部分とを備え,前記ハンド部は,前記アームを伸ばしきった伸長 - 33 -位置と前記アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,前記アームの前記基端の関節部は,前記二組のアームを挟んで配置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであるダブルアーム型ロボット」である点。 (相違点a)本件発明は,二組のアームは「コラムに配置された第1及び第2の支持部材」に取り付けられ,「該第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材」を有し,「移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部」とを備え(構成要件B),ハンド部は「第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから伸びる方向に関して直交する方向」に伸縮するが(構成要件C),乙11記載発明では,二組のアームは,「搬送チャンバの上板及び下板」に取り付けられ,ハンド部の伸縮方向は明らかでない点。 (相違点b)本件発明は,「コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置され」(構成要件D),前記アームの前記基端の関節部は,「前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部」に配置され(構成要件E),前記ハンド部は「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」ものであるが(構成要件F),乙11記載発明は,明らかではない点。 イこの点に関し 件E),前記ハンド部は「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」ものであるが(構成要件F),乙11記載発明は,明らかではない点。 イこの点に関し,被告は,相違点bのうち,前記ハンド部は「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」との構成は,乙11に開示されているから,本件発明と乙 - 34 -11記載発明との一致点であると主張するが,原告が主張するように,上記構成が乙11に開示されているものとは認められない。 乙12ないし15の記載事項ア乙12(特開平10-278789号公報)乙12は,発明の名称を「移載装置」とする発明の公開特許公報であるところ,乙12には,図2に,「一つのアーム」の被取付部材がコラムに移動可能に保持され,コラムが取り付けられる旋回可能な台座部が開示されている。 イ乙13(特開平10-278790号公報)乙13は,発明の名称を「移載装置」とする発明の公開特許公報であるところ,乙13には,図3に,「一つのアーム」の被取付部材がコラムに移動可能に保持され,コラムが取り付けられる旋回可能な台座部が開示されている。 また,乙13の段落【0012】には,「昇降テーブル14には例えば一対のアーム16,18を設け,アーム18の自由端にハンド20を取り付ける。…そしてアーム16,18の長さを短くして干渉エリアを狭くするため,好ましくはアーム16の基端側の回動軸22をターンテーブル12の中心から偏心した位置に設ける。」との記載があり,図1及び図3には,ターンテーブル12の旋回軸13(旋回中心)に関して,アーム16の基端側の回動軸22(回転中心軸)よりも移動機構が外側を旋回するように配置された構成が開示され 。」との記載があり,図1及び図3には,ターンテーブル12の旋回軸13(旋回中心)に関して,アーム16の基端側の回動軸22(回転中心軸)よりも移動機構が外側を旋回するように配置された構成が開示されている。 ウ乙14(特開昭58-109284号公報)乙14は,発明の名称を「ロボット装置」とする発明の公開特許公報であるところ,乙14には,別件知財高裁判決が認定するように,従来のロボットにおいては,設置専有空間を広く確保する必要があり,特に,ロボットの後部空間では全く作業ができないという課題が指摘され,また,第 - 35 -7図に,シングルアーム型ロボットにおいて,コラム型の昇降機構と台座の旋回機構を有する構成が開示されている。 エ乙15(特開平10-297714号公報)乙15は,発明の名称を「自動荷格納用のロボット装置」とする公開特許公報であるところ,乙15には,別件知財高裁判決が認定するように,図1に,シングルアーム型ロボットにおいて,コラム型の昇降機構と台座の旋回機構を有する構成が開示されている。 また,乙15の段落【0012】には,「上記第2及び第3垂直軸の位置制御により,アーム,ハンド支持体及び荷ハンドを上方から見て旋回台の範囲内に収納するように構成する。こうすれば,上記アームやハンド支持体等が旋回台から突出しないので,旋回台の旋回動作のとき等にアーム等がロボット周囲の部分と接触することはなく,ロボットの旋回動作等を容易に行うことができる。」との記載があり,図4には,アーム19,ハンド支持体及び荷ハンド24を上方から見て旋回台8の範囲内に収納するようにした構成が示されており,これは「縮み位置においてワークを基端の関節部に位置させる」構成を開示するものといえる。 相違点の容易想到性ア相違点aについ ら見て旋回台8の範囲内に収納するようにした構成が示されており,これは「縮み位置においてワークを基端の関節部に位置させる」構成を開示するものといえる。 相違点の容易想到性ア相違点aについて 乙14及び乙15において,シングルアーム型ロボットではあるものの,コラム型の昇降機構と台座の旋回機構を有する構成が開示されていること(前記ウ,エ)に照らすならば,かかる構成は,本件原出願の出願当時,周知技術であったものと認められる。 乙11においては,その実施例として,一対のロボットを搬送チャンバ内に配置する構成について開示しており(前記ア),かかる実施例においては,チャンバ内の床と天井が,アームが取り付けられる支持部材に相当するものといえる。 - 36 -そして,乙11の「特許請求の範囲」(前記ア)は,アーム部やハンド全体が上下移動する構成を排除するものではなく,また,乙11には,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能(前記ア)が明示されている。 そうすると,別件知財高裁判決が認定判断するように,当業者が,乙11の記載から,その実施例において開示された搬送チャンバ内に上下一対に配設されたロボットにつき,「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する構成として,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを,支持部材を介して上記の周知技術であるコラム型の昇降機構とし,台座の旋回機構を有する構成に組み合わせることは,容易であるということができる。 乙11記載発明においては,各ロボットのそれぞれのアーム部がどの方向に動作しても,アーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板が互いに干渉することはないとされていることから,ハン ことができる。 乙11記載発明においては,各ロボットのそれぞれのアーム部がどの方向に動作しても,アーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板が互いに干渉することはないとされていることから,ハンドの伸縮方向に制限はない。 また,本件明細書(甲1の2)には,本件発明において,ハンド部の伸縮方向を「第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向」とする構成の有する技術的意義が明示的には記載されていない。 そして,支持部材はコラムにより保持されているのであるから,ハンド部がコラムと干渉するおそれがあるコラム方向に伸縮することは想定できないし,乙11では,二組のアームの突出方向に干渉が生じることを防止することが従来技術における解決すべき課題とされていること(前記ア)に照らすならば,別件知財高裁判決が認定判断するように,乙11記載発明において,二組のアーム同士及びコラムなどとの干渉を回避するために,ハンド部の伸縮方向を「第1及び第2の支持部 - 37 -材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向」とする構成を採用することは,設計事項にすぎないものということができる。 以上によれば,当業者であれば,乙11記載発明及び上記周知技術に基づいて,相違点aに係る本件発明の構成を容易に想到することができたものというべきである。 イ相違点bについて 乙15の記載(前記エ)によれば,本件原出願の出願当時,シングルアーム型ロボットにおいて,「縮み位置においてワークを基端の関節部に位置させる」構成は,周知技術であったものと認められる。 そうすると,当業者が,乙11記載発明において,アーム部とハンド部とを支持部材を介してコラム式の上下昇降機構に組み てワークを基端の関節部に位置させる」構成は,周知技術であったものと認められる。 そうすると,当業者が,乙11記載発明において,アーム部とハンド部とを支持部材を介してコラム式の上下昇降機構に組み合わせる際,アームを折り畳んだ縮み位置の状態において,省スペース化の観点から,上記周知技術である「縮み位置においてワークを二組のアームの基端の関節部に位置させる」構成を採用することは容易であるというべきである。 また,別件知財高裁判決が認定判断するように,二組のアームを支持部材に配置する際,支持部材がコラムに取り付けられている付近に配置すると,アームとコラムとが干渉するおそれがあることは明らかであるから,乙11記載発明において,アームの基端の関節部を,「前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部」に配置することは,設計事項にすぎないものということができる。 次に,乙13の記載事項(前記イ)によれば,本件原出願の出願当時,「コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置され」る構成は,周知技 - 38 -術であったものと認められる。 そうすると,当業者が,乙11記載発明に上記周知技術を組み合わせることは容易であるということができる。 以上によれば,当業者であれば,乙11記載発明及び上記周知技術に基づいて,相違点bに係る本件発明の構成を容易に想到することができたものというべきである。 ウ原告の主張について原告は,乙11には,チャンバ内での作業が完結する乙11記載発明について,アーム部及びハンド全体が昇降する機構が示されているだけで,チャンバの外で「支持部材を上下方 。 ウ原告の主張について原告は,乙11には,チャンバ内での作業が完結する乙11記載発明について,アーム部及びハンド全体が昇降する機構が示されているだけで,チャンバの外で「支持部材を上下方向に移動可能に保持するコラムを含む移動機構」を設けてチャンバ外で上下方向に可動範囲を確保するような動機や示唆の記載はないから,当業者といえども各相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たものといえないのであり,これが容易であるとした別件知財高裁判決は,省スペース化や可動範囲の拡大等のおよそすべての機械・装置に共通の課題を有していれば,動機が共通であるとして,その課題解決のための新規な構成が行われても,設計事項とするに等しいものであって,その進歩性の判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,乙11の「特許請求の範囲」においてはアーム部やハンド全体が上下移動する構成を排除するものではないこと,乙11には,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能が明示されていることなどに照らすならば,原告の上記主張は,採用することができない。 まとめ以上のとおり,本件発明は,当業者が乙11記載発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明は進歩性を欠 - 39 -くものであり,本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。 したがって,原告は,特許法104条の3第1項の規定により,被告に対し,本件発明に係る本件特許権を行使することができない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主 定により,被告に対し,本件発明に係る本件特許権を行使することができない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 大西勝滋 裁判官 上田真史 別紙 目録 1 製品番号「MOTOMAN-ECH2401D」のダブルアーム型ロボット 2 製品番号「MOTOMAN-ECH2501D」のダブルアーム型ロボット 別紙 被告物件説明書 ※別添被告製品1の図面及び被告製品2の図面を含めて省略※ 別紙 本件明細書図面【図1】 【図2】 【図3】 別紙 乙11図面
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