主文 原判決を破棄する。 被上告人の控訴を棄却する。控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。理由上告代理人丹羽雅雄,同浦田功,同復代理人大東恭治の上告受理申立て理由(排除されたものを除く。)について 1 本件は,韓国人である母が日本人である夫と離婚した翌日に,法律上の婚姻関係のない日本人を父として上告人が出生し,出生の8か月余り後に母の元夫と上告人との間の親子関係の不存在確認を求める訴えが提起され,親子関係不存在を確認する判決確定の4日後に父が上告人を認知したという事案において,上告人が被上告人に対し日本国籍を有することの確認を求める事件である。 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 韓国人である乙は,平成2年12月3日,日本人である丙と婚姻し,同3年2月4日,両人の間に長女が出生した。 乙は,平成7年1月ころ,丙と別居し,丙から署名押印のある離婚届の交付を受けたが,長女の親権及び養育問題について合意することができなかったため,離婚届を提出することができなかった。 乙は,平成9年8月ころ,丙との間で上記問題について合意が成立したのを受けて,離婚届の提出につき丙の最終意思を確認しようとした。しかし,そのころには,丙が一方的に連絡してくるだけで,乙の方は丙の所在を把握することができなくなっており,結局,丙に連絡を取ることができなかったため,乙は,丙の意思を確認することができないまま,同年9月25日,離婚届を提出した。 乙は,平成7年5月ころ,日本人であるDと知り合い,交際を続けていたところ,Dとの間に上告人を懐胎し,同9年9月26日,帝王切開により上告人を出産し ,同年9月25日,離婚届を提出した。 乙は,平成7年5月ころ,日本人であるDと知り合い,交際を続けていたところ,Dとの間に上告人を懐胎し,同9年9月26日,帝王切開により上告人を出産した。 乙は,出産後,母体保護のため約2週間入院し,退院後も長女の通学の送迎等をしながら自宅療養を続けていたが,平成10年3月ころ,弁護士に相談し,丙と上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続を執るために丙の所在を調査した。しかし,結局,丙の所在が判明しないので,乙は,同年6月15日,上告人の親権者として,上告人の丙に対する親子関係不存在確認の訴えを提起し,丙に対しては公示送達がされた上,同年10月20日,上記親子関係が存在しないことを確認する判決が言い渡され,同年11月5日,同判決が確定した。 Dは,平成10年11月9日,上告人を認知する旨の届出をした。なお,Dは,知人である弁護士に種々相談したものの,丙と上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続を執っていない。 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を認容した第1審判決を取り消し,上告人の請求を棄却した。 外国人の母の非嫡出子が戸籍の記載上母の夫の嫡出子と推定されるため,日本人である父による胎児認知の届出が不適法なものとして受理されない場合に,上記推定がされなければ父により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情があるときは,上記胎児認知がされた場合に準じて,国籍法2条1号の適用を認め,子は生来的に日本国籍を取得すると解するのが相当である。そして,上記特段の事情があるとして同号の適用が認められるためには,① 戸籍の記載上嫡出推定がされ,胎児認知届が不適法なものとして受理されない場合に,② 母 日本国籍を取得すると解するのが相当である。そして,上記特段の事情があるとして同号の適用が認められるためには,① 戸籍の記載上嫡出推定がされ,胎児認知届が不適法なものとして受理されない場合に,② 母の夫と子との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続が子の出生後遅滞なく執られた上,③ 上記不存在が確定されて認知の届出を適法にすることができるようになった後速やかに認知の届出がされることを要するものと解すべきである(最高裁平成8年(行ツ)第60号同9年10月17日第二小法廷判決・民集51巻9号3925頁参照)。 母の離婚後に子が出生した場合には,母の婚姻中に子が出生した場合とは異なり,戸籍実務上,胎児認知が適法なものとされる余地があるとしても,本件のように母の離婚と子の出生が時期的に極めて近接しているときは,胎児認知の届出をすることを要請することは時間的に無理を強いるものであるから,胎児認知をすることに障害があったものとして,前記①の要件を満たすものと解するのが相当である。 前記②の要件については,前記2のような事実は認められるものの,他方において,乙は,自宅療養をしていたとはいえ長女の通学の送迎等をすることが可能な状況にあったこと,既に平成9年8月ころには丙の所在を把握することができなくなっていたこと,Dは知人の弁護士に種々相談したものの丙と上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続を執っていないこと,丙の所在調査に長期間を要したと認めるに足りる証拠はないことを併せ考えると,乙及びDが上記手続を執ることについてしゅん巡したことに起因して上告人の出生から上記手続が執られるまでに8か月余が経過したものと推認される。そうすると,本件においては,丙と上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手 とについてしゅん巡したことに起因して上告人の出生から上記手続が執られるまでに8か月余が経過したものと推認される。そうすると,本件においては,丙と上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続が上告人の出生後遅滞なく執られたものということはできない。 4 原審の上記判断のうち,及びは是認することができるが,は是認することができない。その理由は,次のとおりである。一般的には,子の出生後8か月余を経過して親子関係の不存在を確定するための法的手続が執られたとしても,これが遅滞なくなされたものということは困難である。しかしながら,【要旨】上記事実関係によれば,乙は,帝王切開により上告人を出産し,退院後も長女と上告人を養育しながら,自宅療養を続けていたというのであり,また,出産を間近に控えた平成9年8月ころには,丙からの連絡を待つだけで,乙の側から丙に連絡を取ることはできない状態になっていたところ,乙は,同10年3月ころ,弁護士に相談し,丙と上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続を執ることとし,そのために約3か月間丙の所在を調査したが,結局,丙の所在が判明しないので,同年6月15日に至り,上告人の親権者として,上告人の丙に対する親子関係不存在確認の訴えを提起し,丙に対しては公示送達がされたというのである。これらの事情に照らせば,上告人の出生から上記訴えの提起までに8か月余を要したのもやむを得ないというべきであり,本件においては,丙と上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続が上告人の出生後遅滞なく執られたものと解するのが相当である。そして,上記事実関係によれば,Dは,丙と上告人との間の親子関係の不存在を確認する判決が確定した4日後に上告人を認知する旨の届出をし 上告人の出生後遅滞なく執られたものと解するのが相当である。そして,上記事実関係によれば,Dは,丙と上告人との間の親子関係の不存在を確認する判決が確定した4日後に上告人を認知する旨の届出をしたというのであるから,上記認知の届出が速やかにされたことは明らかである。そうすると,本件においては,客観的にみて,戸籍の記載上嫡出の推定がされなければDにより胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情があるということができ,このように認めることの妨げとなる事情はうかがわれない。したがって,上告人は,日本人であるDの子として,国籍法2条1号により日本国籍を取得したものと認めるのが相当である。 5 以上によれば,原審の上記3の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,上告理由につき判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,以上によれば,上告人の請求を認容すべきものとした第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。よって,裁判官横尾和子の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。裁判官横尾和子の反対意見は,次のとおりである。多数意見引用の最高裁平成9年10月17日第二小法廷判決は,出生から3か月強が経過した後に外国人である母の夫と母の非嫡出子との間の親子関係不存在確認の調停が申し立てられた事案において,戸籍の記載上嫡出の推定がされなければ日本人である父により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情があるとしたものであり,私も,この判断は,生来的な日本国籍の取得はできる限り子の出生時に決定されることが望ましいとする考え方とも相いれるものとして賛成するものである。しかしながら,上記判決が子の出生後遅滞なく親子関係の不存在 は,生来的な日本国籍の取得はできる限り子の出生時に決定されることが望ましいとする考え方とも相いれるものとして賛成するものである。しかしながら,上記判決が子の出生後遅滞なく親子関係の不存在を確定するための法的手続が執られることを要するとした趣旨からすれば,手続を執ることの支障となる事情があったとしても,そうした事情がある限り,いつまでも生来的な国籍取得の主張をすることができると解することは適当ではなく,出生後一定の期間経過後は,事情のいかんを問わず,法的手続が遅滞なく執られたとはいえないと解すべきである。本件においては,上記判決が遅滞なく法的手続が執られたとした3か月強を大幅に超える8か月21日が経過した後に,親子関係不存在確認の訴えが提起されたものであり,母の出産後の健康状態が優れなかったなどの事情があったとしても,上告人の出生後遅滞なく法的手続が執られたものということはできない。したがって,原審の判断は,結論において正当であり,上告は棄却すべきものである。裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官深澤武久裁判官横尾和子裁判官 泉徳治裁判官島田仁郎
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