令和7年10月6日東京地方裁判所刑事第10部宣告令和7年刑(わ)第192号、同第406号、同第861号、同第1454号窃盗被告事件 主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中170日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、別表記載のとおり、令和5年3月20日から令和6年10月25日までの間に、前後9回にわたり(行為が複数回からなるものもここでは便宜上1回と数える。)、株式会社A銀行B支店ほか1か所において、各所に設置された各貸金庫内から、各貸金庫使用者が所有する現金合計6145万6000円、金のインゴット合計29個(時価合計約3億3330万7000円相当)及び旅行券50枚(額面合計25万円)をそれぞれ窃取した。 【証拠の標目】(省略)なお、被告人の供述調書(乙10)の添付資料と、被告人の供述調書(乙15)は、起訴されていない余罪に関する具体的かつ詳細に過ぎる証拠であることが判明したため、関連性が乏しく必要性を有しないものと認め、職権により証拠排除する。 【法令の適用】(省略)【量刑の理由】(求刑:懲役12年、弁護人科刑意見:懲役5年)本件においてまず指摘すべきは、3億9000万円を超える巨額の被害であり、これこそが量刑要素の中核である。この巨額被害は、銀行の支店 長代理等の職にあった被告人が、貸金庫の予備鍵を使用するなどして、貸金庫内の現金や金のインゴット等を盗むことを繰り返した結果生み出されたものである。銀行の貸金庫は、盗難や災害のリスクが小さく、高度なセキュリティが確保されるとみられていたからこそ、被害者らはここに重要な金品を保管したと考えられる。安全と信じて貸金庫を利用した被害者らに何らの落ち度もない 庫は、盗難や災害のリスクが小さく、高度なセキュリティが確保されるとみられていたからこそ、被害者らはここに重要な金品を保管したと考えられる。安全と信じて貸金庫を利用した被害者らに何らの落ち度もないし、被告人がこの侵すべからざる占有を常習的に侵害した点に本件特有の悪質性の一端を見出すことができる。もとより、事後的に観察すれば、銀行側の予備鍵の保管体制等に更なる工夫があり得たのではないかとの指摘も成り立つが、銀行から信頼され、責任ある立場を与えられた被告人が、予備鍵や種々の情報を悪用するという限られたにしかできない犯行手口でセキュリティを無力化し、犯行発覚を免れながら、銀行と別主体である被害者らの占有を侵害する行為を繰り返したことこそが強く非難されるべきである。被告人は、個人再生手続を経て止めていたはずのFX取引や競馬を、平成30年ころに小遣い稼ぎ目的で再開し、その穴埋めのために貸金庫内の金品に手を付け、さらに、その発覚を免れるため、来店頻度が低い別の貸金庫利用者の金品を移し替えたり、これを元手に高レバレッジのFX取引で増やそうとしたりする中で、被害を拡大させた。悪化していく状況の下、立ち止まって家族や上司等に相談することなく、短絡的に犯行を繰り返した経緯に酌むところはなく、厳しい非難を免れない。以上のとおり、犯情は稀にみる悪いもので、刑もそれに見合ったものにならざるを得ない。 そこで、一般情状に目を移すと、まず、被害回復の状況については、銀行は順次補償をし、また、金のインゴットもいくつか回収され、被害届を取り下げるに至った被害者もいる。貸金庫の性質上、被害特定の困難も想定される中、被告人が返還のため作成していたという資料を基に、銀行の調査や警察の捜査に対し、余罪も含めて包み隠さず説明したことが、これ らの被害回復につな 貸金庫の性質上、被害特定の困難も想定される中、被告人が返還のため作成していたという資料を基に、銀行の調査や警察の捜査に対し、余罪も含めて包み隠さず説明したことが、これ らの被害回復につながったことは正当に考慮すべきであるが、銀行が被告人側から回収できた金額は一部にとどまっており、被害回復等の状況を過大に評価することはできない。そのほか、被告人が反省の態度を示した上、専門家の知見や自助グループも活用するなどしてギャンブル行動症の治療に向き合い、正業に就いて更生する旨を誓約していること、被告人の実母と元夫が助力を誓約していること、被告人に犯罪歴が見当たらないことなど、弁護人の指摘を踏まえて被告人に有利な情状を十分に併せ考慮しても、被告人は主文の実刑を免れない。 令和7年10月6日東京地方裁判所刑事第10部 裁判官小野裕信
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