令和2(わ)1012 器物損壊

裁判年月日・裁判所
令和3年10月25日 名古屋地方裁判所
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判決文本文20,419 文字)

- 1 - 主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実及び争点について 1 本件公訴事実被告人は,令和2年3月5日午後9時50分頃,名古屋市(住所省略)株式会社A店車庫内において,持っていた広報紙にライターで点火し,同所に保管されていたコルクボード及びイーゼルにその火を燃え移らせ,同社(代表取締役B)所有の前記コルクボード及びイーゼルを焼損させ(損害額合計約200円相当),もって他人の物を損壊したものである。 2 争点被告人は,当公判廷で,自分は本件公訴事実の事件を行っていない旨供述する。本件の争点は,被告人と犯人との同一性(被告人の犯人性)である。 第2 当裁判所の判断 1 本件事件の発生状況等⑴ 令和2年3月5日(以下,令和2年のことを指す場合には,単に月日のみを記載することがある。)午後9時50分頃,本件公訴事実記載の店舗(厨房機器等の買取販売店であり,以下「被害店舗」ともいう。)の車庫(以下「本件車庫」ともいう。)内の冷蔵庫上に置かれていたコルクボード及びイーゼルが燃やされ,この火は,同日午後10時1分21秒頃,被害店舗従業員により消し止められた(甲7・写真11ないし13,甲8・写真30,甲16,甲55,Cの証人尋問調書2,5頁等)。 前記被害店舗従業員から110番通報を受け現場臨場した愛知県警察官は,同日午後11時22分頃から翌6日午前0時15分頃まで現場の見分を行った。その際,前記冷蔵庫上に畳んで置かれていた段ボールの間に,一部分が燃え焦げた広報紙2枚が挟まっているのが発見され,本件車庫の床上に,一 - 2 - 部が溶けた惣菜パックの蓋及び空のペットボトル(以下「本件ペットボトル」ともいう。)が落ちているのが発見された。また,本件車庫からは, っているのが発見され,本件車庫の床上に,一 - 2 - 部が溶けた惣菜パックの蓋及び空のペットボトル(以下「本件ペットボトル」ともいう。)が落ちているのが発見された。また,本件車庫からは,一部が破れたビニール製の白色レジ袋1枚や一部が変形したお菓子のパックも押収された(甲7,甲10,Cの証人尋問調書10,34頁,Dの証人尋問調書3ないし5,16,17頁,Eの証人尋問調書1ないし9頁等。なお,弁護人はこれらの物品が事件直後本件車庫内に現に存在していたことを争うようであるが,上記で挙示した証拠によれば,以上の事実が認められる。)。 ⑵ 本件の犯人性に関し,被告人は,捜査段階では,本件公訴事実記載の焼損行為を行ったことを認めるかの供述(以下「自認供述」ともいう。)をしているが,この自認供述には後記3のとおり種々の問題がある。 そこで,被告人の自認供述についてはひとまず措き,以下では,検察官が論告でも強調している他の証拠(甲号証)を先に検討する。 2 自認供述以外の証拠(甲号証)の検討⑴ 被害店舗付近の防犯カメラの映像についてア被害店舗付近の防犯カメラの映像内容等は,別紙1に記載したとおりである。 これらの映像には,主に灰色系スウェット様長袖・長ズボンを着用していると思料される人物(なお,黒色様サンダルを履いていると思われる映像もある。)が,本件事件当時ないしその前後に被害店舗付近を歩いている状況が記録されているところ,これらの映像は必ずしも鮮明なものではなく,この人物の動静が全て録画されているというわけでもない。ただ,この人物はいずれも服装や体格が似ているとの見方が可能であるし,また,各防犯カメラ映像を適宜繋げた場合,(最後の場面では頭に巻いたタオルやマスクがなくなっているなどの相違はあるものの,)1人の だ,この人物はいずれも服装や体格が似ているとの見方が可能であるし,また,各防犯カメラ映像を適宜繋げた場合,(最後の場面では頭に巻いたタオルやマスクがなくなっているなどの相違はあるものの,)1人の人物が一連の行動を取っているものと見ることが自然である。当時は夜間で周囲は人通りが少ないとうかがわれることも併せると,この人物は一応同一人物と - 3 - 考えて良いものと思われる(以下,この人物を指して「本件人物」と呼称する。)。 次に,本件人物が本件の犯人といえるかについて見ると,被害店舗を映した防犯カメラにはモザイク処理が施されており,具体的な犯行態様のみならず,犯人の体格や着衣等も判然としないため,本件人物と犯人が間違いなく同一人であるということについては慎重であるべきである。もっとも,本件人物が被害店舗付近に到着してから約24秒後(3月5日午後9時48分52秒頃)に本件車庫で炎が発生し,一旦収まってから再び立ち上がった炎が上方へ移動した約27秒後(同日午後9時50分35秒頃)に本件人物が立ち去り始めたと見受けられることや,少なくとも防犯カメラの映像からは,他に本件車庫に立ち入った人物も見当たらないことからすると,本件人物が本件の犯人であるという前提にひとまず立って検討することが相当と考えられる。 イそこで,被告人と本件人物の同一性について検討を進める。 被告人が居住するFアパートとその東方にある公道(Fアパート東側公道)を行き来するためにはFアパートの東側通路を通行する必要があるところ,本件人物は,夜間(3月5日午後9時44分25秒頃から午後9時44分33秒頃)に,上記東側通路からFアパート東側公道に出て行き,その約17分後(同日午後10時1分10秒頃)に同通路を通ってFアパートの方に戻ってきていることからする 44分25秒頃から午後9時44分33秒頃)に,上記東側通路からFアパート東側公道に出て行き,その約17分後(同日午後10時1分10秒頃)に同通路を通ってFアパートの方に戻ってきていることからすると,本件人物はFアパートの住人等関係者である可能性が高いと考えられる。本件人物と被告人の体格や背後から見た髪形は似ているとの見方もできるし,本件事件発生から約2か月後の5月11日に,被告人方から灰色スウェット長袖・長ズボン及び黒色サンダルが押収されたこと(甲19)も指摘することはできる。とはいえ,防犯カメラに撮影された本件人物の人相は全く不明であるし,体格や髪形の点を含め,本件人物が特段特徴的な外観 - 4 - を有しているわけでもなく,また,前記のスウェット上下やサンダルもそれ自体ありふれたものにすぎない。 この点,愛知県警察官は,3月18日から20日間,Fアパートの東側通路付近を映した防犯カメラ画像の解析及び内偵捜査を実施し,Fアパートの入居契約者台帳と対照するなどして,Fアパートに出入りする者(居住者)の容姿等を明らかにした結果を記載したという捜査報告書(甲35)を作成している。そして,検察官は,この捜査報告書を踏まえ,Fアパートの住人のうち犯人に最も酷似した人物は被告人である旨主張する。しかし,(この捜査報告書上,上記の対照や人物特定の過程がどこまで厳密に行われたかは必ずしも定かでないことはさておくとしても,)防犯カメラの見分は事件の約2週間後になってようやく開始されたものであって,この間,入居契約者台帳に記載されていない者がFアパートに出入りしていた可能性は排斥できないし(現に,被告人は,Fアパートで内妻が契約した部屋に居住していたが,同台帳には記載されていなかったのであり,本件事件当時,他にこうした人物がいたとして アパートに出入りしていた可能性は排斥できないし(現に,被告人は,Fアパートで内妻が契約した部屋に居住していたが,同台帳には記載されていなかったのであり,本件事件当時,他にこうした人物がいたとしてもおかしくはない。),また,この捜査報告書中でFアパートの居住者とされている人物複数名の写真を見る限り,居住者らの中に,夜間,防犯カメラに本件人物のように映っても矛盾しない者が被告人以外に存在しないとも断定はできない。 以上によれば,この捜査報告書中に挙げられた人物の中では,被告人が最も防犯カメラに映った本件人物に近いのではないかとはいえるとしても,そうであるからといって,被告人が本件人物と同一人であること(ひいては,被告人が本件の犯人であること)が必ずしも強く推認されるものではない。 ⑵ 本件ペットボトルについてア関係証拠によれば,事件直後本件車庫の床上に落ちていた本件ペットボ - 5 - トルの飲み口から採取された付着物には唾液が混在しており,この付着物から検出されたDNA型には被告人と同居の内妻のDNA型が過不足なく含まれていたことが認められる(甲22,24,28,30)。 イ被害店舗従業員(C)は,被害店舗では従業員らが本件車庫で飲食をすることはない旨証言していることや,本件車庫が外から特段の物理的な支障なく出入りできる場所であるとはいえ,本件ペットボトルが一部溶けた惣菜パック(の蓋)付近に落ちていたことも併せると,本件ペットボトルは,一応,本件事件に関連する遺留物と考えることが可能ではある。 もっとも,本件ペットボトルの前記付着物から検出されたDNA型はいわゆる混合DNA型であり,その中に被告人と内妻のDNA型が過不足なく含まれていたからといって,それが現に被告人や内妻に由来するものであるかにつ 件ペットボトルの前記付着物から検出されたDNA型はいわゆる混合DNA型であり,その中に被告人と内妻のDNA型が過不足なく含まれていたからといって,それが現に被告人や内妻に由来するものであるかについては,あくまで数多くのDNA型の組合せの中での一解釈・一可能性に過ぎない。なお,本件の混合DNA型に関しては,それ自体からDNA型に関係した者の数が相応に推定できる場合に当たり,かつ,混合前のDNAのうち少なくとも一部については誰に由来するものであるかがほぼ判明しており,そこから残りの者(犯人等)のDNA型を一応推測できるような場合に当たるともうかがえない。 ウこのように,本件ペットボトルの付着物から検出された混合DNA型は,あくまで被告人と内妻のDNAが混合したものと考えて矛盾しないといえるにとどまり,それだけで被告人が本件の犯人であることを有意に推認するような証拠価値を持つものではない。 ⑶ 小括検察官は,前記の混合DNA型と防犯カメラ映像等を総合すると,被告人が本件の犯人であると認められると主張するが,この検察官の主張は,いずれも前述したような証明力に限界のあるこれらの証拠の価値を過大視したも - 6 - のであって,採用できないことは明らかというべきである。 3 自認供述の信用性の検討⑴ 自認供述の概要等ア被告人は,本件(なお,起訴前の被疑罪名は非現住建造物等放火未遂。)で逮捕勾留された当初は,本件の焼損行為を行ったことについて記憶がない旨を述べていたが,その後の勾留中に,本件を認めるかの供述(自認供述)をするに至った。捜査段階で作成された被告人の警察官調書(主として,5月22日付けの乙5,同日付けの乙6)には,概ね次のとおりの自認供述が記載されている。 すなわち,「被告人は,事件当日の午後9時 をするに至った。捜査段階で作成された被告人の警察官調書(主として,5月22日付けの乙5,同日付けの乙6)には,概ね次のとおりの自認供述が記載されている。 すなわち,「被告人は,事件当日の午後9時頃,自室のベランダでたばこを吸った後,翌日のごみ出しの準備をしている際,酒を飲んで酔っていたこともあり,もっと気持ちを高めたいなどと思った。そして,放火をしようと思い,その火種としてペットボトルや総菜パック等が入ったレジ袋と赤色簡易ライターを持ち,顔を見られないよう白色タオルとマスクをし,灰色のスウェット上下,黒色サンダルといった格好でFアパート3階にある自室を出た。Fアパートの1階に降りたところ,大きめの白色レジ袋が落ちていたので,これにペットボトルや総菜パック等が入ったレジ袋を入れ,また,集合ポストの下に置かれていた共用のごみ箱から広報紙を拾って,これも大きめの白色レジ袋の中に入れた。当初は被害店舗ではなく,その東側にあるリサイクル工場で放火しようと考えていたが,G公園を通過してH小学校の周辺を歩いているとき,酒を飲んで酔っていたのでリサイクル工場に行くのは無理だと思い,目にした被害店舗で放火することに決めた。本件車庫付近で,赤色簡易ライターで広報紙に点火してレジ袋に入れたところ,炎が激しくなりレジ袋を足元に落としてしまったため,足で踏みつけて一旦消火した。次に,はっきりとは覚えていないが,再度広報紙に同ライターを使って点火した - 7 - か,燃え残りの火が点いたプラスチックごみを,本件車庫東側に置かれた商品のビニールシートがかかった上方へ投げ込んだ。すると,すぐ辺りが明るくなったので,火が点いたと思い,被害店舗から一旦南側へ歩いて逃げたが,火が消えてしまうかもしれないと思って現場近くに戻り,10秒から20秒程度被害店舗の た上方へ投げ込んだ。すると,すぐ辺りが明るくなったので,火が点いたと思い,被害店舗から一旦南側へ歩いて逃げたが,火が消えてしまうかもしれないと思って現場近くに戻り,10秒から20秒程度被害店舗の様子を見ていた。しかし,炎が一向に燃え広がらないので,消えたかなと思い,現場に長くいると怪しまれるので急いで歩いて自宅に帰った。」などというのである。 イ被告人のこの自認供述は,一見すると相応に具体的で,前記1で見た本件車庫の遺留物等とも整合しているように思えないでもない。しかし,実際は,この自認供述には以下のように種々の問題がある。 ⑵ 自認供述に至った経緯についてア被告人の捜査段階での供述経過の概要(録音録画記録媒体を視聴したところによるもの)は,別紙2に記載したとおりである。 被告人は,5月11日に本件で通常逮捕された以降しばらくの間は,取調担当警察官(I警察官)から事件について繰り返し尋ねられても,放火をした記憶がない,本件人物が自分であるかどうか分からない旨の供述に終始していたが,5月20日の警察官取調べの中で,防犯カメラに映った本件人物が自分であることや,被害店舗で火を点けたことを認めるかの供述をするに至っている。 イ被告人がこの自認供述に至った過程には,取調担当警察官から,防犯カメラ映像や,被告人が見覚えのあるという総菜パックの蓋,本件ペットボトルなどの種々の証拠を示されて,被告人が事件に関係しているかのように繰り返し示唆されただけでなく,5月15日と5月20日の2回の警察官取調べに際しては,本件ペットボトルの付着物から「被告人のDNAが出てきた」との不正確な評価(前記2⑵を参照。)を重ねて伝えられたという事情も介在している。 - 8 - そもそも,犯行現場の遺留物からDNAが出てきたと告げるこ 物から「被告人のDNAが出てきた」との不正確な評価(前記2⑵を参照。)を重ねて伝えられたという事情も介在している。 - 8 - そもそも,犯行現場の遺留物からDNAが出てきたと告げること自体,取調べの相手方(被疑者)に対し,自分が犯罪に関係しているのではないかという印象を強く与えかねないものであるが,そればかりか前記のように不正確な評価を伝えるということは,たとえ取調担当警察官においてその旨意図していなかったとしても,虚偽の自白を誘発させる危険性の高いものであったといわざるを得ない(なお,5月20日の警察官取調べでは,取調担当警察官は,「被告人のものと矛盾しないDNA型」というかの一応正確な言い回しも用いているが,その意味を被告人が適切に理解できるとも思われず,また,もともとそれ自体としては前記2⑵のような証拠価値しかない混合DNA型に,取調べ中で言及することの当否も問われるべきである。)。 なお,被告人は,勾留後に体調不良等を理由に拘置所への移送を繰り返し求めていたところ,これに対し,5月15日の警察官取調べでは,取調担当警察官が,拘置所への移送のためには被告人に事件のことを語ってもらうのが一番早い,などと発言している。こうした経過等も併せると,被告人が虚偽の自白に向けて誘引される危険性はなおさら高い状況にあったといえる。 ウそして,被告人が取調べ時に示されたその余の証拠を見ても,防犯カメラ映像は夜間のもので必ずしも鮮明ではなく(前記2⑴),また,前記の総菜パックの蓋も特段珍しいものではないことからすれば,例えば,被告人がこれらを目にしたことで事件の記憶を適切に喚起し,自認供述に至ったなどと考えることも困難である(なお,被告人は,捜査段階で,防犯カメラ映像中の本件人物は自分と歩き方や目の辺りが似ているなどと述 人がこれらを目にしたことで事件の記憶を適切に喚起し,自認供述に至ったなどと考えることも困難である(なお,被告人は,捜査段階で,防犯カメラ映像中の本件人物は自分と歩き方や目の辺りが似ているなどと述べてもいるが,具体的にどこがどのように似ているというのかは全く判然としない。)。 エところで,被告人は,5月20日の警察官取調べの際,あたかも,事件 - 9 - 当時,たばこを吸うため赤色簡易ライターを使っていたと思い出したことをきっかけに,このライターを用いて本件犯行を行ったことも思い出したというかの供述もしており,検察官は,この被告人の供述に係る記憶喚起等の過程が信用できるというようである。 しかし,本件捜査の過程で赤色簡易ライターは押収されておらず,また,被告人に対する同種ライターの現物確認もされていない。5月20日の警察官取調べでは,被告人が赤色簡易ライターを用いたことを思い出した旨述べるに先立って,取調担当警察官は,被告人方から押収したライター3本の中には(実際にはなかった)赤色のものもあったかの不正確な情報を口にしており,これが被告人の記憶に誤って影響した可能性も否定はできない。さらに,事件当時に存在したライターを,押収された3本のセットで購入したのか,それとも押収されなかった赤色のものを含む4本のセットで購入したのかについての被告人の記憶も明確ではなく(5月21日の警察官取調べ等),5月27日の検察官取調べ時に至っては,どのライターで点火をしたかについての供述自体曖昧なものになっている。これらを踏まえると,本件事件当時に真実被告人が赤色簡易ライターを持っていたかすら相当に疑義があるといわざるを得ず,同ライターが被告人の適切な記憶喚起等に繋がったと見ることはできない。 オ以上のように,被告人が自認供述に至った 真実被告人が赤色簡易ライターを持っていたかすら相当に疑義があるといわざるを得ず,同ライターが被告人の適切な記憶喚起等に繋がったと見ることはできない。 オ以上のように,被告人が自認供述に至った過程には,首肯し得る合理的な事情は見い出せず,かえって,(検察官は異なる趣旨をいい,また,この点に関する被告人の公判供述時点での記憶は曖昧なものになっているが,)取調担当警察官から,虚偽の自白を誘発する危険性の高いものを含め不適切な誘導がなされたことが相当程度影響した可能性は否定できないというべきである。 ⑶ 客観的状況との整合性についてア被告人の自認供述中には,本件車庫において,持っていたライターで広 - 10 - 報紙に火を点け,総菜パックやペットボトルが在中している白色レジ袋に入れ,炎が大きくなったので一旦消した後,再度火の点いたこれらを火種としてコルクボードとイーゼルを燃やしたと言うかの部分がある(前記⑴)。 しかし,現場で発見された広報紙が燃え焦げていたのはごく一部分であり,総菜パックの蓋も一部が溶けたにとどまっているし,本件ペットボトルや押収されたビニール製の白色レジ袋については,溶けた部分も見当たらないか少なくともはっきりしない。なお,他に現場から押収されたお菓子のパックも一部が変形しているのみである。こうした遺留物の燃えの状況等からうかがわれる程度の火で,特に燃料を用いることもなく,防犯カメラ映像からうかがわれるように地面付近に炎が広がり,また,広報紙に点けたという火がイーゼルやコルクボードに燃え移るにまで至るのかについては,疑問を差し挟まざるを得ない。 イそして,事件後,一部分が燃え焦げた広報紙2通が,冷蔵庫上に畳んで置かれた段ボールの間に挟まった状態で発見されているが(前記1⑴),被告人の で至るのかについては,疑問を差し挟まざるを得ない。 イそして,事件後,一部分が燃え焦げた広報紙2通が,冷蔵庫上に畳んで置かれた段ボールの間に挟まった状態で発見されているが(前記1⑴),被告人の自認供述は,こうした広報紙の発見状況を何ら合理的に説明するものではない。 補足すると,検察官は,論告で,被告人が広報紙にライターで火を点けてこれをビニール袋に入れ投げ入れた旨一貫して供述していると指摘し,被告人の警察官調書中には,「火が点いたプラスチックゴミを被害店舗の敷地東側の,商品が置かれビニールシートがかかった部分の上方へ投げ込んだ」との供述記載もある(乙6)。しかし,この警察官調書中の供述記載によっても,なぜ広報紙が冷蔵庫上に畳んで置かれた段ボールの間に挟まった状態になったのかは不明である。そればかりか,この点に関する被告人の供述状況を子細に見ると,まず,5月20日の警察官取調べでは,被告人は,レジ袋を「目の前」に投げた旨述べるにとどま - 11 - っているし,また,5月22日の警察官取調べでは,被告人は,レジ袋は放り投げられなかった旨や,持ち上げようとしたらできなかったのでこれを手放した旨を述べた後,取調担当警察官の「それで投げ込んだ」旨の誘導を受けても,「なぜだか知らないが上に行ってしまった」旨述べるにとどまる。その上,被告人は,5月25日の犯行再現の際には,レジ袋を持った手を上げている状況の再現をしたが(甲36・写真17),同日の警察官取調べでも,自分の「目の前」にレジ袋を投げつける感じであると述べ,5月27日の検察官取調べでは,火の点いたレジ袋を手に持って上げたこと自体を否定する供述を繰り返ししている。このように見ていくと,被告人の警察官調書(乙6)中に,火の点いたごみを上方に投げ込んだとの記載があるからといっ べでは,火の点いたレジ袋を手に持って上げたこと自体を否定する供述を繰り返ししている。このように見ていくと,被告人の警察官調書(乙6)中に,火の点いたごみを上方に投げ込んだとの記載があるからといって,被告人がこうした行動をしたことについて自ら供述していたと評価することはできず,検察官の前記指摘自体がそもそも採用し得ない。 ウさらに,事件前後の行動状況について,被告人は,自認供述の中で,「本件当夜,自宅を出た後に一旦被害店舗前を通り過ぎ,H小学校南側の正門付近まで南進してから,来た道を引き返して被害店舗まで北進し,火を点けた」旨ほぼ一貫して供述し,また,「火を点けた後は,H小学校南側の正門付近まで南進してから,再びH小学校の西門付近に戻り,本件車庫で火が消えているのを確認した後に帰宅した」旨供述している。 しかし,これらの被告人の自認供述中の行動は,防犯カメラ映像では,本件人物が,Fアパート東側通路から出てきて,G公園を通り,被害店舗前まで至った「直後」に(すなわち,被害店舗前を一旦通り過ぎて戻ってくるということなく)炎が発生していると認められること,また,本件車庫に炎が広がるとそのまま南進してその場を離れて行き,その後は,H小学校の西門付近に戻ることなく,炎が上がり続けている間に,H小学校の周囲(南側や東側)を回るようにしてFアパートに帰り着い - 12 - ていることと整合していない。 エこのように,被告人の自認供述は,被害現場の残焼物ないし遺留物の状況や,犯行前後における本件人物の実際の行動といった重要な客観的状況と相容れない関係にある。 ⑷ 自認供述自体の変遷等について被告人の自認供述は,①最初に点火したものは広報紙だったのか(5月21日の警察官取調べ以降),それ以外だったのか(5月20日の 状況と相容れない関係にある。 ⑷ 自認供述自体の変遷等について被告人の自認供述は,①最初に点火したものは広報紙だったのか(5月21日の警察官取調べ以降),それ以外だったのか(5月20日の警察官取調べ)という点のほか,②これを入れたレジ袋を投げたのか(5月20日,5月25日の各警察官取調べ),足元に落としたのかあるいは持ち上げようとして放したのか(5月22日の警察官取調べ)という点,③レジ袋を足元に落とした後に火が自然に消えたのか(5月20日の警察官取調べ),足で踏んで消したのか(5月22日の警察官取調べ)という点や,④レジ袋を一旦落とした後広報紙に再度点火したのか否かという点(5月21日,5月22日の各警察官取調べ)など,犯行の核心的な部分に関して少なからず変遷している。 また,被告人の実際の供述(録音録画記録媒体の視聴により確認されるもの)には,捜査段階の供述調書には必ずしも正確に反映されていないが,犯行の重要部分について推測や憶測で述べているかの曖昧な部分も多岐にわたって存在している(別紙2も参照。なお,一見具体的な供述部分も,被告人のそれまでのあるいは日常的な生活体験等を敷衍して述べることが可能であり,本件の犯人でなければ語り得ないような性質のものとは思われない。)。 ⑸ 小括以上で見たように,被告人が捜査段階で本件を認めるかの供述をするまでには,虚偽の自白を誘発する危険性の高いものを含め,取調担当警察官からの不適切な誘導が相当程度影響した可能性は否定できないところ(前記⑵),そのような過程も経て獲得された被告人の自認供述は,本件の重要な客観的 - 13 - 状況と整合しておらず(前記⑶),また,核心的ないし重要な部分に関して少なからず変遷し,あるいは曖昧な部分も多岐にわたること(前記⑷)なども併 自認供述は,本件の重要な客観的 - 13 - 状況と整合しておらず(前記⑶),また,核心的ないし重要な部分に関して少なからず変遷し,あるいは曖昧な部分も多岐にわたること(前記⑷)なども併せれば,被告人の自認供述を,被告人が真実自己の記憶に従ってしたものと認めることはできない。 なお,5月27日の検察官取調べに関して補足すると,その取調べにおける供述内容は,警察官取調べにおける自認供述からかなりの程度後退している一方で,被告人は,Fアパートに近い場所で広報紙に火を点けたことがあるという限度では供述を一貫しているかのようにも見える(乙16検察官調書,乙18録音録画記録媒体)。しかし,この検察官取調べでも,それまでの警察官取調べの影響が相応に及んでいることは容易に推察されるだけでなく,取調担当検察官においてすら,「本件ペットボトルからは被告人と内妻のDNAしか出ていない」旨,誤解を招くおそれの高い証拠の告げ方をしている。その上,被告人がこの取調べ中で述べる,火を点けたという態様等自体極めて曖昧であり,また,被告人の述べる状況が,本件事件のように,事後に事件性のあるものとして捜査機関に必ず把握されるようなものとも思われない。結局,5月27日の検察官取調べにおける被告人の上記供述も,それ自体で被告人が本件の犯人であることを格別指し示すような証拠価値を有するものではない。 4 以上の検討結果によれば,本件全証拠によっても,被告人が本件の犯人であると認めるには合理的な疑いが残るというべきである。 第3 結論よって,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 (求刑-懲役1年6月)令和3年10月27日名古屋地方裁判所刑事第4部 - 14 - 犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 (求刑-懲役1年6月)令和3年10月27日名古屋地方裁判所刑事第4部 - 14 - 裁判長裁判官辛島明 裁判官井上敦子 裁判官後藤沙彩 - 15 - (別紙1・被害店舗付近の防犯カメラの映像内容等) ⑴ 被害店舗付近の状況等被害店舗は,H小学校の公道を挟んだ西側にあり,同小学校西門の西南西に位置している。同小学校西側には,西門のほか,その北側に西通用口が設置され,南側には,正門が設置されている。同小学校北側にはG公園があり,同公園北西側から南北に延びる公道を約300メートル北進すると,そこから約40メートル西方にFアパートが位置している(以下,上記南北に延びる公道を「Fアパート東側公道」ともいう。)。FアパートとFアパート東側公道を行き来するためには,同公道から東西に延びる通路(以下「Fアパート東側通路」ともいう。)を通行する必要がある。 被害店舗付近には,H小学校の周囲をはじめとして,複数の防犯カメラが設置されている。なお,H小学校西門付近に設置され被害店舗に向けられた防犯カメラにはモザイク処理が施されており,これを取り除くことができないため,同カメラ映像の上方の部分についてはモザイクを通してしか映像を確認することができない。 ⑵ 防犯カメラ映像の内容(以下の時刻はいずれも3月5日のものである。)ア頭に白色様タオルを巻き,白色様マスク及び灰色系スウェット様長袖・長ズボンを着用し,黒色様サンダルを履き,左手に白色様ビニール袋を持っていると思料される人物が, ずれも3月5日のものである。)ア頭に白色様タオルを巻き,白色様マスク及び灰色系スウェット様長袖・長ズボンを着用し,黒色様サンダルを履き,左手に白色様ビニール袋を持っていると思料される人物が,午後9時44分25秒頃から午後9時44分33秒頃にかけ,Fアパート東側通路からFアパート東側公道に出てきて(甲12・写真1ないし16),午後9時44分34秒頃から午後9時45分58秒頃にかけて,上記公道を南進した(甲12・写真17ないし78まで)。同様の特徴を有する人物(ただし,履物については黒色様のものであることが確認できるに過ぎない。)は,午後9時46分01秒頃,G公園内に入り,午後9時47分 - 16 - 32秒頃,同公園西側出入口から歩道上に出て(甲14・写真1ないし22),午後9時47分45秒頃から午後9時47分56秒頃にかけて,H小学校の西通用口付近を南進した(甲15・写真1ないし3)。 イ頭に白色様タオルを巻き,灰色系スウェット様長袖上衣を着用し,手に白色様ビニール袋を持っていると思料される人物が,午後9時48分15秒頃,H小学校西門付近に北方から現れ,公道を西方に横断し,午後9時48分28秒頃,被害店舗付近に到着した(甲16・写真3ないし9)。午後9時48分52秒頃,この人物が入って行った周辺が明るくなったが,午後9時48分57秒頃,明かりが一旦消え,午後9時49分28秒頃,再び同所が明るくなって明かりの範囲が広がり,午後9時49分38秒頃には地面付近に炎が広がる様子が確認できたが,炎の範囲が狭くなり,午後9時49分55秒頃には炎が消えた(甲16・写真10ないし22)。その後,午後9時50分06秒頃には同所が再度明るくなり,午後9時50分08秒頃には明かりが上方へ移り,午後9時50分25秒頃には明かりの範囲が広がり には炎が消えた(甲16・写真10ないし22)。その後,午後9時50分06秒頃には同所が再度明るくなり,午後9時50分08秒頃には明かりが上方へ移り,午後9時50分25秒頃には明かりの範囲が広がり,午後9時50分35秒頃には,頭に白色様タオルを巻き,灰色系スウェット様長袖・長ズボンを着用していると思料される人物が被害店舗を離れて南進して行った(甲16・写真23ないし35)。 ウ頭に白色様タオルを巻き,白色様マスク及び灰色系スウェット様長袖・長ズボンを着用していると思料される人物が,午後9時54分57秒頃から午後9時55分04秒頃にかけて,H小学校南側正門前を東進し(甲15・写真4ないし8),午後9時56分11秒頃から午後9時57分17秒頃にかけて,同小学校東側を北進し(甲15・写真9ないし25),午後9時57分17秒頃から午後9時57分31秒頃にかけて,G公園東側歩道上から同公園内に入って北進した(甲13・写真1ないし6)。 エ灰色系スウェット様長袖・長ズボンを着用していると思料される人物(ただし,頭にタオルを巻いておらず,マスクも着用していない。)が,午後9時5 - 17 - 9分42秒頃から午後10時1分10秒頃にかけて,G公園北側からFアパート東側公道を北進した上,Fアパート東側通路を西進した(甲12・写真79ないし144。なお,Fアパート東側通路手前では,この人物が黒色様サンダルと思料されるものを履いている様子が映っている。)。 以上 - 18 - (別紙2・被告人の捜査段階での供述経過) ⑴ 5月11日(弁11),5月12日(弁13),5月13日(弁14),5月14日(弁15)被告人は,5月11日の通常逮捕後の警察官弁解録取時から,本件の事件については思い出せない,記憶にない ⑴ 5月11日(弁11),5月12日(弁13),5月13日(弁14),5月14日(弁15)被告人は,5月11日の通常逮捕後の警察官弁解録取時から,本件の事件については思い出せない,記憶にないと述べており,5月12日(検察官弁解録取),5月13日(警察官取調べ)の時点でも,基本的に同旨であった。 5月14日の警察官取調べの際,取調担当警察官が,防犯カメラに映った本件人物の写真を示したところ,被告人は,本件人物と被告人の髪の毛の長さが違うなどとして,本件人物が自分であるかは分からないと述べた。また,取調担当警察官が,被害現場で発見された広報紙,惣菜パックの蓋,ビニール袋等の写真を示したところ,被告人は,惣菜パックの蓋に関してはその惣菜が美味しくなかったから覚えていると述べたものの,事件についてはやはり全く思い出せない旨述べた。 なお,5月14日の警察官取調べで,被告人は,留置施設における食事や体調の問題を訴え,拘置所に移送してもらうことが一番の願いであるとも述べている。 ⑵ 5月15日(弁16)5月15日の警察官取調べに際し,取調担当警察官は,DNAにより本件ペットボトルは被告人のものである旨告げた。さらに,取調担当警察官は,防犯カメラには,犯人がFアパートから出てきて犯行現場まで歩いて行き,火を点けてからH小学校を回ってFアパートに戻ってくる様子が映っていること,本件ペットボトルから被告人のDNAが出てきており,被告人が惣菜パックの惣菜名に覚えがあるということは,現場に残されていたごみは被告人のものであること,ごみはFアパートから犯人が持ってきていることからすると,犯行が可能な人は被告人しかいないということで,今逮捕しているなどと述べた。これを受けて,被告 - 19 - 人は,令和2年の年明けから逮捕されるまでの ら犯人が持ってきていることからすると,犯行が可能な人は被告人しかいないということで,今逮捕しているなどと述べた。これを受けて,被告 - 19 - 人は,令和2年の年明けから逮捕されるまでの間の行動を一度整理したいという趣旨などを述べた。 取調担当警察官が,犯行状況を撮影した防犯カメラ映像に付されたモザイクは,現時点では除去することができない旨説明すると,被告人は,モザイクを取り除いてくれた方が納得できてありがたい,モザイクを取り除くことができれば,記憶がなくても自分がやったものだと理解できる旨述べた。その上で,取調担当警察官が,防犯カメラに写っている本件人物は被告人ということでよいかと尋ねると,被告人は,身長,体型は自分ではないように思うためはっきりとは言えないが,一部の画像については自分だと思う旨述べた。 なお,被告人は,取調べ終了時に,今は拘置所への移送のことしか頭にない旨も述べた。これに対し,取調担当警察官は,拘置所への移送を最も早くスムーズに行うためには,事件の内容を解明するのが一番であり,被告人が覚えている範囲でいいので,今回の事件のことを語ってもらうのが一番早いなどと述べている。 ⑶ 5月20日(甲56)5月20日の警察官取調べに際し,被告人は,本件人物が映った一連の防犯カメラ映像(動画)を見せられても,分からない,犯行の手口が大胆で自分らしくないと思う旨述べた。取調担当警察官が,本件ペットボトルから被告人のDNAに矛盾しない型のDNAが検出されたこと,防犯カメラ映像にFアパートに入っていく様子が映っていることを告げたが,被告人は,全然自分には分からない,自分ならば自宅には戻らないはずであるなどと述べた。さらに,取調担当警察官は,Fアパートの敷地内から出てきた犯人が,ごみ袋を持って犯行場所まで歩いて とを告げたが,被告人は,全然自分には分からない,自分ならば自宅には戻らないはずであるなどと述べた。さらに,取調担当警察官は,Fアパートの敷地内から出てきた犯人が,ごみ袋を持って犯行場所まで歩いて行き,犯行場所でものを燃やすような画像があり,Fアパートに歩いて帰ってきたこと,現場にあった本件ペットボトルからは被告人のDNAが出てきたこと,被告人が惣菜パックの惣菜名に覚えがあることからすると,どう思うかと尋ねた。 これに対し,被告人は,あれだけ火が出たのに自分のサンダルは溶けておらず無 - 20 - 傷であるなどと,自分が犯人ではないと思っている理由を述べたほか,留置施設に対する不満を訴え,自分の気持ちとしても認めて早く終わらせたいなどと述べた。また,被告人は,自分の犯行ではないかと思っている点として,Fアパートから出入りしているところと,本件ペットボトル,惣菜パックなどを挙げた。 その後,被告人は,差し押さえたライターの色は覚えているかと取調担当警察官に尋ね,取調担当警察官が,赤,緑,青があったかなと3本を挙げたところ,「たぶん赤いライターでどこかに火を点けてるよね」「A店だったかどうか…」「広報紙にね」などと述べた。 それから,被告人は,犯行状況に関して,概ね次のとおり供述した。すなわち,「Fアパートの1階に降りる前に,赤いライターを使ってたばこを吸った。そのままたぶん,ごみを捨てようとしたのではないか,それでたまたまポケットに手を入れたらライターがあった。好奇心がわいてきたと思う。その時点で火を点けようと思っていたのかは分からないが,どこかを行き来し,被害店舗の前を通って一旦南側に行った。H小学校南側の門付近の公衆電話のところで引き返した覚えがあり,タクシーが行き去った後に,たしか火を点けたのではないか。レジ袋を手に持ち, ,どこかを行き来し,被害店舗の前を通って一旦南側に行った。H小学校南側の門付近の公衆電話のところで引き返した覚えがあり,タクシーが行き去った後に,たしか火を点けたのではないか。レジ袋を手に持ち,最初は広報紙ではない別の何かに点火し,レジ袋の中に入れ,目の前に投げたような気がしたが,たぶん,目の前に投げたのが上に行ってしまったのだと思う。落ちてきて燃えている物が足に当たり,熱いから逃げたのかな。そのときに火が消えたかなと思う。その後,被害現場に戻り,H小学校の広い大きい門の北端の方で見たら,火が点いていなかったので,不発に終わったと思い,自宅に戻ったんじゃないかなと思う。」と述べた。 ⑷ 5月21日(甲57)5月21日の警察官取調べに際し,被告人は,自ら,事件当日と思われる日(防犯カメラ映像の日付けによる3月5日)の朝起床してからの行動状況について述べ,概ね次の内容の上申書を作成した。すなわち,「被告人が,H小学校の - 21 - 周囲をうろついていると,前方にタクシーがハザードランプを点灯させ停まっており,これを素通りすると,タクシーが走り去ったため,被害店舗に戻った。レジ袋から広報紙を取り出してライターで点火し,火の点いた広報紙をレジ袋に戻したところ,炎が激しくなり,手元が熱くなって足元に落とした。惣菜パックについて,炎がたしか小さかったので,前方に投げて落とそうという気持ちだったのが,手元が狂って頭の上に落ちてるのではないかと思う。その後,被害店舗から南へ向かったが,火が消えてしまったと思い再び被害店舗の方に戻った。H小学校西門付近で,10秒か20秒くらいだったと思うが,火を点けた現場を見ていたが,火は消えたと思い,帰宅した。帰宅に際しては,現場から北へと向かい,十字路を西へ進み,北へと曲がり,南に戻って,十字路 学校西門付近で,10秒か20秒くらいだったと思うが,火を点けた現場を見ていたが,火は消えたと思い,帰宅した。帰宅に際しては,現場から北へと向かい,十字路を西へ進み,北へと曲がり,南に戻って,十字路をまた東に戻って,T字路を北側に向かい,アパートに戻った。」というものである。 この上申書中,被告人の帰宅経路について,取調担当警察官は,後から違っているといけないからとして記載を削除する形で訂正させた。 その後,被告人は,ライターは3本セットで購入したものであると述べたが,取調官担当警察官から,被告人方で押収したライター3本の中には赤色のものはない旨告げられると,「じゃあ,4本セットか」と述べた。また,被告人は,なぜ被害店舗で火を点けようとしたのか,…被害店舗の東にある紙のリサイクル工場に行こうとしたが,たぶん被害店舗までしか行けなかったのではないか,などとも述べた。 ⑸ 5月22日(甲58)5月22日の警察官取調べは,取調担当警察官が,それまでの取調べを踏まえて予め作成していた供述調書の下書きを読み聞かせながら,その内容を被告人に確認していくという仕方で実施された。 この取調べの際,被告人は,当初放火しようと考えていたリサイクル工場に行くのは難しいのでやめようと思ったのは,H小学校南側の公衆電話を過ぎた辺り - 22 - かなと述べ,また,取調担当警察官から,火を点けた広報紙を中に入れた後,予想以上に炎が激しくなったことで足元に落としたレジ袋の火は誰が消したのか,足で踏んだり水を掛けたりしたのかと尋ねられると,被告人は,足で踏みつけて消した,その後はたぶんそのままにしていたのではないか,消したつもりが消えていなかったのではないかと述べた。さらに,取調担当警察官から,前日の取調べでは,惣菜パックが燃えていたものの炎が小さ つけて消した,その後はたぶんそのままにしていたのではないか,消したつもりが消えていなかったのではないかと述べた。さらに,取調担当警察官から,前日の取調べでは,惣菜パックが燃えていたものの炎が小さかったので,前方に投げ入れたという話をしていたがと問われると,被告人は,(逡巡しながら,)火を消したつもりだったがそのままにしておいたのではないかとか,そうではなく,火を一旦消してまた点け直したのかもしれないなどと述べた。取調担当警察官が,何を使って火を点けたのかと尋ねると,被告人は,たぶん広報紙だと思う,放り投げようとしたら放り投げることができなかったから,惣菜パックだけ上に行ったかもしれない旨述べた。 取調担当警察官は,以上のやりとりなどを踏まえ,被告人が火種を上方に投げ込んだこと等を記載した供述調書の読み聞かせをした。さらに,取調担当警察官が,火種を投げ込んだ後に火が点いたのは分かったか,小さい炎があって,投げた先はどうなっていたかと尋ねると,被告人は,点火して足元に落としたものを持ち上げようとしたらできなかったから,それをぱっと放したと答えた。取調担当警察官が,「放した,で投げ込みました,はい。」と誘導したところ,被告人は,「それがなんでか知らんけど上に行っちゃった。」と述べた。その上で,被告人は,上の方は一応一瞬明るくなったと述べたものの,取調担当警察官から,どこが明るくなったかと再度尋ねられると,下の方,下の方しか見てないと供述を転じた。 それから,被告人は,「火が点いたものを放ったまま南に逃げたが,その後被害店舗に戻り,G公園を横切り,西,北,南,東,北の順に進んだ」旨供述した。 また,取調担当警察官が,放火したのは間違いないかと尋ねたのに対し,被告人は,記憶は曖昧だが,まあそれでいいんじゃないかなと思っている,と述べた。 り,西,北,南,東,北の順に進んだ」旨供述した。 また,取調担当警察官が,放火したのは間違いないかと尋ねたのに対し,被告人は,記憶は曖昧だが,まあそれでいいんじゃないかなと思っている,と述べた。 - 23 - ⑹ 5月25日(甲59)被告人は,5月25日に実施された犯行再現後の同日の警察官取調べで,被告人がレジ袋を手に持った再現写真(甲36・写真16と思われる。)について,レジ袋に点いた火を消して,そのまま置いた状況である旨説明した。取調担当警察官が,レジ袋を拾い上げていたのではないか,拾ったときはレジ袋の中の火はどうなっていたかと尋ねると,被告人は,覚えがないと述べた。また,被告人は,レジ袋を持った手を上げている再現写真(甲36・写真17と思われる。)について,自分の目の前にレジ袋を投げつける感じであると述べた。取調担当警察官が,投げ込んだのは冷蔵庫に掛かっていたブルーシートの「上方」であるか尋ねると,被告人は,「目の前」であると答えた。 その後,取調担当警察官は,防犯カメラに映った本件人物の移動経路と被告人の述べる移動経路に食い違いがあるため,どうするかを決めたい,防犯カメラの方が正しいと思うので,防犯カメラに合わせる旨告げた。その結果,「私(被告人)は,犯行前後の行動についてこれまで間違って話をしたことがあるかもしれないが,被害店舗で放火したことは間違いない,防犯カメラに写っていることが真実だと思う」旨の記載のある供述調書(乙7)が作成された。 なお,取調べの最後に,被告人は,早く拘置所に移送してほしいと述べた。 ⑺ 5月27日(乙18)5月27日の検察官取調べで,検察官が,被告人がやったということで間違いないかと尋ねたのに対し,被告人は,間違いないというよりは,はっきりしたことは言えないなどと述べ,ま ⑺ 5月27日(乙18)5月27日の検察官取調べで,検察官が,被告人がやったということで間違いないかと尋ねたのに対し,被告人は,間違いないというよりは,はっきりしたことは言えないなどと述べ,また,警察官取調べ中に作成した上申書について,思い出してというよりは,防犯カメラの映像を見て,こういう感じかなあと思った旨述べた。また,被告人は,学校の前を歩いていたという記憶はあるが,火を点けた記憶というのがちょっと分からない旨述べた。 - 24 - もっとも,被告人は,被害店舗とは別のところに火を点けようと思って自宅を出たのは間違いない,リサイクル工場を燃やしたとだけしか思っていなかった,この近辺で火を点けたのは1回しかない旨も述べたが,その一方で,「先日の犯行再現等の際に,警察官からは火が上に移っているのは投げ上げたからではないかと問われたが,燃えているものをそのようにできるわけはないと言った。レジ袋を手に持って上げたというのは違う。」旨も述べた。 検察官が,本件ペットボトルからは被告人と同居人のDNAしか出ていないし,防犯カメラにも似た人物が映っていると被告人自身も認めているが,火の点いたものを上にやった記憶はないということかと尋ねると,被告人は,そうした記憶はなく,火の点いたものを上に持っていくのは不可能であるなどと述べた。被告人は,「火を点けた広報紙をレジ袋に入れた記憶はあるが,自分の手元かどこかに火がついて,落としたような気がして,足で踏んづけて消したような覚えである。その後は全然覚えていない,というか分からない。もう1回火を点けたかなっていう覚えがある。燃えるものは広報紙しかなかったという話なので,たぶん広報紙に火を点けたんだと思う。その広報紙は,そのまま置いたというか,投げ捨てた感じ。上に投げるとかはしてないと思う けたかなっていう覚えがある。燃えるものは広報紙しかなかったという話なので,たぶん広報紙に火を点けたんだと思う。その広報紙は,そのまま置いたというか,投げ捨てた感じ。上に投げるとかはしてないと思う。投げるほどの勇気はないし。」などとも述べた。 さらに,被告人は,点火したライターについて,ライターを4本セットで購入している記憶であり,警察で押収した3本の中に赤色ライターがなかったので,赤色ライターを使ったと思う旨述べた。検察官が,警察で押収したライターで火を点けたということはないのかと尋ねると,被告人は,それは何とも言えない,そこまでは覚えていない旨述べた。検察官が,火を足で踏んで消してから再度点火した理由を尋ねると,被告人は,もう1回火を点けたんじゃないかと思っているだけである,もう1回燃えたという話だったので,それならもう1回火を点けたんじゃないかと思っている旨述べた。 なお,取調べの最後に,被告人は,留置施設では職員の足音などがやかましく - 25 - 全然寝かせてくれない,拘置所に早く移送してくれないのかなどとも述べている。 以上

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