主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は控訴人に対し、1010万円及びこれに対する平成5年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は第1,2審を通じて、これを5分し、その4を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 5 この判決は2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は控訴人に対し、5222万4810円及びこれに対する平成5年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は第1,2審とも、被控訴人の負担とする。 (4) 仮執行の宣言 2 被控訴人 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事実関係次のとおり補正するほか、原判決の事実欄の第二記載のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決6頁1行目と2行目の間に次のとおり付加する。 「そして、第一訴訟事件につき、名古屋地方裁判所は、平成3年12月24日、控訴人の請求を全部認容する判決を言い渡し、これを不服とする被控訴人の控訴(名古屋高等裁判所平成3年(ネ)第960号)については、平成4年6月10日控訴棄却の判決が言い渡され、これに対する被控訴人の上告(最高裁判所平成4年(オ)第1494号)についても、同年11月6日上告棄却の判決が言い渡されたため、同事件は控訴人の勝訴で確定した。」 2 同9頁6行目の「別紙物件目録」を「本判決別紙物件目録」と訂正する。 3 同9頁9行目の「所在地」を「所有地」と訂正する。 4 同9 決が言い渡されたため,同事件は控訴人の勝訴で確定した。」 2 同9頁6行目の「別紙物件目録」を「本判決別紙物件目録」と訂正する。 3 同9頁9行目の「所在地」を「所有地」と訂正する。 4 同9頁11行目の「売買契約」の次に「(以下「本件株等売買契約」という。)」を,10頁1行目の「手付金1億円」の次に「(以下「本件手付金」という。)」を,3行目の「金5000万円」の次に「の債権」を各付加する。 5 同10頁4行目の「右被告主張の売買契約」を「本件株等売買契約」と,5行目の「手付金1億円」を「本件手付金」と各訂正する。 6 同10頁10行目の「2億円」を「2億円及びこれに対する平成元年12月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金」と訂正する。 7 同11頁1行目の「ゴルフ会員権」の次に「(以下「本件会員権」という。)」を,2行目の「売買契約」の次に「(以下「本件会員権売買契約」という。)」を各付加する。 8 同15頁8行目から9行目にかけての「少なくとも4319万円」を「4319万円(本件仮差押登記がなされた平成2年4月の属する控訴人の30期事業年度より前の28期及び29期の各事業年度の税引き前当期利益を平均すると5868万6063円であったが,これに比べて控訴人の31期,32期及び33期の各事業年度の税引き前当期利益がそれぞれ1440万円,2277万円,4921万円減少していて,その減少額合計は8638万円となるので,少なくとも,同合計額の2分の1にあたる4319万円が本件仮差押による信用毀損と相当因果関係にある損害額である。)」を付加する。 9 同16頁8行目の「右4の損害」の次に「合計5935万4690円」を付加する。 10 同18頁7行目から8行目にかけての,8行目,19頁1行目,7行目,9行目及び20頁1行目 」を付加する。 9 同16頁8行目の「右4の損害」の次に「合計5935万4690円」を付加する。 10 同18頁7行目から8行目にかけての,8行目,19頁1行目,7行目,9行目及び20頁1行目から2行目にかけての各「本件被告」をそれぞれ「被控訴人」と,19頁2行目及び20頁4行目の各「本件原告」をそれぞれ「控訴人」と各訂正する。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因1の事実は,被控訴人が控訴人の社長代理をしていた時期に控訴人の経理を含む業務全般を統括していたとの点を除いて,当事者間に争いがない。 証拠(甲14,38の1及び2,甲77の1及び2,甲90,111,123,124)によれば,被控訴人は,Aから依頼されて,平成元年11月から同年12月下旬まで,控訴人の平取締役のまま,控訴人の社長代理として控訴人の経営にあたり,経理を含む業務全般を統括していたことが認められる。 2 第一訴訟事件における被控訴人の応訴の違法性について(1) 被控訴人による控訴人財産の持出し及び控訴人の第一訴訟事件の提起証拠(甲1ないし3,13,77の1,甲90,111,123,124)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,控訴人の取締役に在任中の平成元年12月中旬,控訴人の経理を担当していたBに命じて,控訴人が取引先会社から工事代金等の支払のための受け取った別紙手形目録記載の約束手形5通(額面合計3411万円。 以下,一括して「本件手形」という。)及び現金89万円(以下「本件現金」という。)を持ち出し,本件手形については手形割引を受けてその割引金を取得したが,これを控訴人に入金せず,また,本件現金についてもこれを控訴人に返金しなかったこと,そのため,控訴人は,弁護士に依頼して,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人から持ち出した本件手形及び現金分として が,これを控訴人に入金せず,また,本件現金についてもこれを控訴人に返金しなかったこと,そのため,控訴人は,弁護士に依頼して,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人から持ち出した本件手形及び現金分として3500万円の返還を請求する書面を送付したが,被控訴人がこれに応じなかったこと,そこで,控訴人は,被控訴人が本件手形及び現金を着服横領したものであるとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,又は,取締役としての忠実義務あるいは善管注意義務に違反する債務不履行による損害賠償請求権に基づき,被控訴人に対し本件手形の額面額と本件現金を合計した3500万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成2年4月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める第一訴訟事件を名古屋地方裁判所に提起したことが認められる。 (2) 第一訴訟事件の経過等ア第一訴訟事件の請求内容及び同訴訟の結果並びに同訴訟における被控訴人の主張内容に関する請求原因2(二)及び(三)の事実は当事者間に争いがない。 イそして,上記アの争いのない事実及び証拠(甲1ないし3,77の1及び2,甲78の1及び2,甲5の存在)及び弁論の全趣旨によれば,第一訴訟事件の審理の経過等として,次の事実が認められる。 (ア) 控訴人は,第一訴訟事件において,上記(1)のとおり,被控訴人が本件手形及び本件現金を持ち出した行為は,着服横領の不法行為にあたり,又は,取締役としての忠実義務あるいは善管注意義務に違反する債務不履行である旨主張した。 (イ) これに対し,被控訴人は,被控訴人が平成元年12月27日頃本件手形を持ち出して割引により現金化し,かつ,控訴人の経理担当者から本件現金を支出させたことを認めた上,これらの金員を別紙事故目録記載の交通事故 対し,被控訴人は,被控訴人が平成元年12月27日頃本件手形を持ち出して割引により現金化し,かつ,控訴人の経理担当者から本件現金を支出させたことを認めた上,これらの金員を別紙事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)の示談金3500万円の支払に充てたが,本件手形及び本件現金の持出し及びこれによって同示談金を支払った行為は,次の①ないし③の事由により,控訴人に対する不法行為及び取締役としての忠実義務あるいは善管注意義務に違反する債務不履行にあたらない旨主張した。 ① 本件事故は,被控訴人が被控訴人車を控訴人の業務として運転中に起こした交通事故であるところ,本件手形及び本件現金は,本件事故の示談金3500万円を支払うために持ち出し,同示談金の支払資金に充てたこと(以下「被控訴人主張①」という。)② 被控訴人は,本件事故の解決のために本件手形及び本件現金を持ち出すことについて,控訴人代表者であるAの了解を得たこと(以下「被控訴人主張②」という。)③ 被控訴人は,本件事故当時既に,控訴人の過半数を超える株式を2億円で買い受けて,その株券の引渡しを受け,代金のうち1億円は支払済みであり,オーナー社長として控訴人を経営していたから,本件手形及び本件現金を持ち出して本件事故の示談金の支払に充てることが控訴人の財産を横領するという認識はなかったこと(以下「被控訴人主張③」という。)(ウ) 被控訴人は,第一訴訟事件において,被控訴人主張①ないし③を立証するための証拠として,自動車代金として3500万円を領収した旨の平成元年12月23日付け,C(以下「C」という。)作成名義の領収証(以下「本件事故領収証」という。甲5)を提出し,その申請により被控訴人本人尋問が実施され,その供述は,要旨次のとおりであった 旨の平成元年12月23日付け,C(以下「C」という。)作成名義の領収証(以下「本件事故領収証」という。甲5)を提出し,その申請により被控訴人本人尋問が実施され,その供述は,要旨次のとおりであった(なお,被控訴人の本人調書は証拠として提出されていないので,その供述内容は,第一訴訟事件の一審判決(甲1),控訴審判決(甲2)及び上告審判決(甲3)の記載により認める。)。 ① 被控訴人主張①について同主張に関する被控訴人の供述の要旨は,「被控訴人は,平成元年12月8日か9日頃の午後4時30分頃,控訴人の仕事の関係で名古屋市中区の福徳銀行東新町支店に向って清洲インターチェンジ入口で被控訴人車(ベンツ300E)を運転中,逆方向からUターンして右前方に来た相手方車(ベンツの大型リムジン車)の左側後部フェンダー部分付近に被控訴人車の右前部バンパーを接触させる本件事故を起こした。本件事故後,名古屋西インターチェンジ付近で相手方車に乗っていた一見して暴力団風の数名の者たちに蹴られたり,殴られたりした。被控訴人は,控訴人の顧問弁護士であるD(以下「D弁護士」という。)に対して事故後相談したが,一日も早く解決した方がいいと言われた(被控訴人は,D弁護士には,本件事故の詳しい内容や相手方の要求を伝えていないし,同弁護士からも,概括的に早急解決の示唆があったのみであり,その後のCらとの示談交渉について一度も同弁護士に相談しなかった。)。そして,その後,Cなる人物から被控訴人の自宅に電話で連絡があり,被控訴人は,近鉄益生駅前の喫茶店で,数名の者から,相手方車は5,6千万円はする車だから新車で弁償してくれと言われ,一週間後には,名阪高速道路の上野パーキングエリアの喫茶店で,車の弁償代として5000万円を要求されたが,交渉して3500万 者から,相手方車は5,6千万円はする車だから新車で弁償してくれと言われ,一週間後には,名阪高速道路の上野パーキングエリアの喫茶店で,車の弁償代として5000万円を要求されたが,交渉して3500万円にしてもらった。そこで,被控訴人は,控訴人の経理担当者に話をして控訴人から持ち出した本件手形の割引金と現金89万円をもって示談金に充てることにし,同月23日,四日市都ホテルの2階の喫茶店で,Cに対し,一切の解決金として3500万円を支払った。なお,被控訴人は,本件事故について一切警察に通報したことはなく,被控訴人車について加入していた自動車保険(車両保険も含む。)の保険会社にも連絡しなかった。本件事故の示談金3500万円は,事故の内容に照らせば,暴力団関係者の要求に屈した不当に高額な金額であると思う。」というものであった。 なお,被控訴人の供述には,被控訴人が福徳銀行東新町支店に出向くことが控訴人の業務にあたることについての具体的な事実の供述はなく,また,本件事故領収証の作成者とされるCについて,その人物を特定すべき具体的事実を供述しなかった。 ② 被控訴人主張②について同主張に関する被控訴人の供述内容は,証拠上不明である。 ③ 被控訴人主張③について同主張に関する被控訴人の供述内容は,証拠上不明である。 (エ) 第一訴訟事件の第1審及び控訴審とも,本件事故の発生及び示談金3500万円の支払に関する被控訴人の供述の信用性を否定し,また,本件事故領収証についてはその成立を認めず,本件事故の発生の事実及び示談金3500万円の支払の事実を認めることができないと判断し,被控訴人主張①ないし③を排斥し,控訴人の損害賠償請求を認容する判決をした。 (3) ところで,民事訴訟を提起さ 事故の発生の事実及び示談金3500万円の支払の事実を認めることができないと判断し,被控訴人主張①ないし③を排斥し,控訴人の損害賠償請求を認容する判決をした。 (3) ところで,民事訴訟を提起された者が敗訴の確定判決を受けた場合において,その者の応訴,その後の控訴及び上告が提訴者に対する違法行為となるのは,応訴者において,提訴者の主張する権利又は法律関係が事実的及び法律的根拠を有するものであるため,自己の敗訴が確実であることを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得た場合であるのに,敢えて,提訴者の主張する権利又は法律関係を争って,事実的もしくは法律的根拠を欠く主張(虚偽事実を内容とする積極否認や抗弁の主張)をしたり,偽造の証拠を提出するなど,当該応訴が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものというべきである(最高裁判所昭和63年1月26日民集43巻1号1頁参照)。 アそこで,上記観点にたって,被控訴人主張①ないし③について検討するが,被控訴人は,本件において,被控訴人主張①ないし③に事実的根拠があったことを立証するための証拠提出をしないのみならず,第一訴訟事件においてそのような主張をしたことにつき相当な理由があったことについての証拠提出もしない。 (ア) 被控訴人主張①についてa 本件事故の発生及び示談金3500万円の支払の事実に関して,被控訴人は上記(2)(ウ)①のとおり供述するのであるが,その裏付けとなる証拠は本件事故領収証がほとんど唯一の証拠である(第一訴訟事件の一審判決及び控訴審判決はそのように説示しているし,本件における証拠にも,他に本件事故の発生及び示談金3500万円の支払の事実の裏付けとなる証拠はない。)。 しかし,被控訴人は, 件の一審判決及び控訴審判決はそのように説示しているし,本件における証拠にも,他に本件事故の発生及び示談金3500万円の支払の事実の裏付けとなる証拠はない。)。 しかし,被控訴人は,第一訴訟事件において,本件事故領収証の成立の真正を証明することはできなかったし,本件においても,本件事故領収証である甲5の成立の真正を証明する証拠はないのみならず,証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故領収証の作成者で,3500万円の受領者とされるCの住所として本件事故領収証に記載されている「鈴鹿市上丘町」は,実在しない町名であることが認められるから,本件事故領収証の成立の真正には重大な疑いがある。 b そして,第一訴訟事件の一審判決及び控訴審判決が指摘するとおり,被控訴人の供述は,その内容において,被控訴人が本件事故の示談金として支払ったと供述する3500万円が,被控訴人の供述する本件事故の内容に照らして,明らかに不当に高額であること,本件事故後一度相談したとされるD弁護士の助言の内容の不自然さ,被控訴人において,相手方から暴力を振るわれ,脅された等供述しながら,同弁護士にその点を説明して相談したり,警察に通報したこともないことなどの点で不自然,不合理なものであって,到底信用できないものである。 c もっとも,証拠(甲38の1及び2,77の1及び2)によれば,A及び当時の控訴人の営業課長E(以下「E」という。)は,被控訴人から,昨日清洲インター付近で交通事故をしたとの話をされたことが認められるが,これら証拠によれば,Aは,被控訴人からその話を聞いた日の夕方,被控訴人車を見たが,被控訴人車に損傷を認めず,また,Eも,その頃被控訴人車を見たが,被控訴人車に交通事故によるような損傷を認めなかったことも認められるから, ,被控訴人からその話を聞いた日の夕方,被控訴人車を見たが,被控訴人車に損傷を認めず,また,Eも,その頃被控訴人車を見たが,被控訴人車に交通事故によるような損傷を認めなかったことも認められるから,被控訴人がA及びEに本件事故に関連する話をしていたとの事実も,本件事故の発生を裏付けるとまではいえない。 d なお,上記(2)(ウ)①によれば,第一訴訟事件において,被控訴人が,被控訴人が福徳銀行東新町支店に出向くことが控訴人の業務にあたる事実についての主張立証に努めた形跡はなく,本件においても,同事実についての証拠はない。 e 以上によれば,第一訴訟事件の一審判決及び控訴審判決が,本件事故領収証の成立を認めず,被控訴人の供述の信用性を否定して,本件事故の発生の事実及び示談金3500万円の支払の事実を認めることができないと判断したこと(甲1,2)は当然のことであるところ,被控訴人は,本件において,本件事故発生の事実及び本件事故領収証の成立の立証を含む示談金3500万円支払の事実を証明するための証拠提出を一切しないから,このような被控訴人の訴訟活動の状況をも考慮すると,本件事故は,真実には存在せず,被控訴人が示談金3500万円の支払をした事実もなかったのであり,被控訴人は,第一訴訟事件において虚偽の供述をしたものと推認することができる。 仮に,被控訴人主張のとおり,本件事故は真実に存在し,かつ,それが控訴人の業務遂行中に発生したものであり,被控訴人が示談金3500万円の支払をした事実があったとしても,被控訴人が本件事故の示談金として支払ったとする3500万円は,被控訴人の供述する本件事故の内容に照らしても明らかに不当に高額であるところ,被控訴人においても,同示談金3500万円は,本件事故の内容に照らせば,暴力団 示談金として支払ったとする3500万円は,被控訴人の供述する本件事故の内容に照らしても明らかに不当に高額であるところ,被控訴人においても,同示談金3500万円は,本件事故の内容に照らせば,暴力団関係者の不当な要求に屈した不当に高額な金額であることを認識していたというのであるから,被控訴人が,警察に通報するなどの適切な対応を怠りながら,暴力団関係者の不当な要求に屈して,本件事故の内容に照らして明らかに不当に高額な示談金を支払ったからといって,その負担を控訴人に求めることができないことは当然のことであり,そのことは被控訴人にも極めて容易に理解できることである。 f そうすると,被控訴人は,被控訴人主張①が事実的もしくは法的根拠を欠くため,採用される見込みがないことを知っていたか,少なくとも容易にそのことを知ることができたものと認めることができる。 (イ) 被控訴人主張②についてa 被控訴人が,第一訴訟事件において,同主張を立証するためにどのような証拠を提出したのか不明であり(上記(2)(ウ)②),かつ,本件の証拠中にも同主張を認めるべき証拠はない。 b そして,上記(ア)のとおり,本件事故は,真実には存在せず,被控訴人が示談金3500万円の支払をした事実もなかったのであるから,被控訴人の上記主張は事実的根拠を欠いていたこと,被控訴人はそのことを認識していたことを容易に推認することができる。仮に,被控訴人主張のとおり,本件事故が真実存在し,かつ,それが控訴人の業務遂行中に発生したものであり,被控訴人が示談金3500万円の支払をした事実があったとしても,被控訴人が,警察に通報するなどの適切な対応を怠りながら,暴力団関係者の不当な要求に屈して,本件事故の内容に照らして明らかに不当に高額な示談金を支払った 500万円の支払をした事実があったとしても,被控訴人が,警察に通報するなどの適切な対応を怠りながら,暴力団関係者の不当な要求に屈して,本件事故の内容に照らして明らかに不当に高額な示談金を支払ったからといって,その負担を控訴人に求めることができないことは当然のことであり,たとえ控訴人代表者であるAが被控訴人主張②の承諾をしたとしてもその理は変らないのであって(Aの承諾は,被控訴人の上記示談金の支払を正当化するものではない。),そのことは被控訴人にも容易に理解できることである。 c そうすると,被控訴人は,被控訴人主張②が事実的もしくは法的根拠を欠くため,採用される見込みがないことを知っていたか,少なくとも容易にそのことを知ることができたものと認めることができる。 (ウ) 被控訴人主張③について上記(ア)のとおり,本件事故は,真実には存在せず,被控訴人が示談金3500万円の支払をした事実もなかったのであり,仮に,被控訴人主張のとおり,本件事故が真実存在し,かつ,それが控訴人の業務遂行中に発生したものであり,被控訴人が示談金3500万円の支払をした事実があったとしても,そもそも,その負担を控訴人に求めることができないものであったから,被控訴人主張③の事実があったとしても,被控訴人が同示談金の支払に充てるため本件手形及び本件現金を持ち出すことを正当化する事由となるものではないことは,第一訴訟事件の一審判決及び控訴審判決の説示するとおり明らかである。そのことは,被控訴人にも極めて容易に理解できることであり,被控訴人は,被控訴人主張③が事実的もしくは法的根拠を欠くため,採用される見込みがないことを知っていたか,少なくとも容易にそのことを知ることができたものと認めることができる。 イ以上によれば,被控訴人は,被 控訴人主張③が事実的もしくは法的根拠を欠くため,採用される見込みがないことを知っていたか,少なくとも容易にそのことを知ることができたものと認めることができる。 イ以上によれば,被控訴人は,被控訴人主張①ないし③について,本件事故が存在しないため主張の事実的根拠を欠き,又は控訴人との関係において,被控訴人が本件手形及び本件現金を持ち出すことを正当化する法的根拠とならないこと,したがって,第一訴訟事件における控訴人の請求が正当なものであることを知りながら,少なくとも容易にそのことを知り得たにもかかわらず,これを争って第一訴訟事件に応訴し,控訴人の請求を認容した一審判決に対して控訴し,さらには上告したものであり,このような被控訴人の応訴及び上訴は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとして,控訴人に対する不法行為にあたるものである。 3 被控訴人による仮差押え及び第二訴訟事件提訴の違法性について(1) 本件仮差押事件及び第二訴訟事件の経過等ア請求原因3(一),(三)及び(五)の事実は当事者間に争いがない。 上記事実によれば,本件仮差押命令の被保全債権は,控訴人が本件株等売買契約を解約したことによる被控訴人の控訴人に対する手付金倍戻しによる2億円のうち5000万円の返還請求権であり,第二訴訟事件の訴訟物は,被控訴人が控訴人に対し,上記2億円及びこれに対する平成元年12月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求権(本件仮差押命令の本案訴訟部分。以下,第二訴訟事件のうち,この訴訟物に関する部分を「第二1訴訟事件」という。)及び本件会員権売買契約に基づき本件会員権の名義変更手続請求権(以下,第二訴訟事件のうち,この訴訟物に関する部分を「第二2訴訟事件」という。)であるが,第二訴訟事件に を「第二1訴訟事件」という。)及び本件会員権売買契約に基づき本件会員権の名義変更手続請求権(以下,第二訴訟事件のうち,この訴訟物に関する部分を「第二2訴訟事件」という。)であるが,第二訴訟事件において,被控訴人の請求を棄却する旨の一審判決がされ,同判決は,被控訴人の控訴及び上告を経て,被控訴人の敗訴が確定し,そのことにより本件仮差押命令の被保全債権が存在しないことも確定したことが明らかである。 イそして,上記アの事実並びに証拠(甲4,78の1ないし4,甲79の1及び2,80,81,86,甲7ないし10の存在)及び弁論の全趣旨によれば,本件仮差押命令申立事件及び第二訴訟事件の審理の経過等として,次の事実が認められる。 (ア) 本件仮差押命令申立事件及び第二1訴訟事件につきa 被控訴人は,第二1訴訟事件において,控訴人代表者Aとの間で,平成元年12月5日,被控訴人が控訴人から,控訴人の工場を除く控訴人所有地4筆及び同土地上の建物工作物全部,控訴人の株式8万4900円,控訴人の関連会社である宝産業株式会社の株式700株等を一括して2億円で買い受ける旨の本件株等売買契約を締結し,Aに対しその手付金として1億円を交付した旨主張し,同主張を立証するための証拠として,控訴人名義で作成された1億円を受領した旨の同日付け領収証(以下「本件手付金領収証」という。本件において,控訴人が偽造文書として提出する甲7である。),賃貸人をA,賃借人を被控訴人とするAら所有の土地建物に関する賃貸借契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。本件において,控訴人が偽造文書として提出する甲9である。)等を提出した。なお,被控訴人本人尋問が実施されているが,被控訴人の本人尋問調書が証拠として提出されていないので,被控訴人の上記主張に関する供述内 いて,控訴人が偽造文書として提出する甲9である。)等を提出した。なお,被控訴人本人尋問が実施されているが,被控訴人の本人尋問調書が証拠として提出されていないので,被控訴人の上記主張に関する供述内容は,第二訴訟事件の一審判決(甲4),控訴審判決(甲80)及び上告審判決(甲86)の記載により認める。 b しかし,第二1訴訟事件の一審判決及び控訴審判決とも,要旨,次の(a)ないし(f)のとおり判示して,被控訴人の主張を排斥し,被控訴人の請求を棄却した。 (a) 本件手付金領収証等の成立について① 本件手付金領収証には,「控訴人の株式8万4900株,宝産業株式会社の株式700株,本社工場敷地1筆を除くその余の不動産一切合計2億円の手付金として」(以下,この記載部分を「受領趣旨文言」という。),受領した旨の記載があり,その用紙は,控訴人が用いている領収証用紙であり,控訴人の会社印,記名ゴム判,控訴人名下の代表取締役印並びにA名下の印はいずれも正規のものであることが認められ,また,本件賃貸借契約書は,そのA名下の印影がAの印鑑により顕出されたことは争いがなく,その特約事項欄には,「控訴人の株,会社を2億円で譲る変りに土地事務所リース料50万円,給料50万円,Fの分として20万円,私Aが死んだ後私の分Fに譲る。」等の加筆(以下,この加筆部分を「特約条項加筆記載」という。)があることが認められる。 ② しかし,本件手付金領収証は,上記受領趣旨文言が,本件手付金領収証の不動文字である「但」と「上記金額正に受領いたしました」との間の狭い空欄に,「上記」の不動文字に一部重なるようにして記載された不体裁なものであること,本件賃貸借契約書は,特約条項加筆記載が土地建物賃貸借契約には直接関連がない本件株等売買 いたしました」との間の狭い空欄に,「上記」の不動文字に一部重なるようにして記載された不体裁なものであること,本件賃貸借契約書は,特約条項加筆記載が土地建物賃貸借契約には直接関連がない本件株等売買契約に関する事柄であるため,その特約条項として記載する必要性の疑わしいものであること,他方,被控訴人は,平成元年11月当時,控訴人の取締役として,Aから控訴人の業務を任されていたため,控訴人が用いる領収証用紙を入手すること及び本件手付金領収証に押捺されている控訴人の会社印,記名ゴム判,控訴人名下の代表取締役印を使用することが可能であり,また,当時A及びFの信頼を得ていたため,その財産会計事務処理のためにA及びFの実印を預ったことがあったこと,本件手付金領収証の宛名欄に押捺されている「G」のゴム印は,その製作をした業者が同ゴム印の納品書を平成元年12月7日付けで作成している事実によれば,同ゴム印が控訴人に納品されたのは本件手付金の作成日の同月5日より後の日である同月7日である可能性があること等が認められるから,本件手付金領収証及び本件賃貸借契約書の控訴人又はA名下の印影が,それぞれ,控訴人又はAの印鑑によって顕出されたとの事実のみにより,直ちに控訴人又はAの意思に基づくものと推定することはできない。 (b) 本件株等売買契約の内容上の疑問被控訴人が本件株等売買契約締結の日とする平成元年12月5日当時において,控訴人の発行済株式総数は12万株で,その約8割(亡H名義のものを含む。)をA及びその娘(長女I及び次女F)が保有し,その他を20名の個人ないし会社が200株から400株ずつ保有していたため,控訴人は自己株式を保有していなかったから,本件株等売買契約は,控訴人の株式の大部分を保有していたAと売買の交渉をしな し,その他を20名の個人ないし会社が200株から400株ずつ保有していたため,控訴人は自己株式を保有していなかったから,本件株等売買契約は,控訴人の株式の大部分を保有していたAと売買の交渉をしながら,Aを売主とすることなく,自己株式を全く保有していない控訴人を売主としている点等において,不可解である。 (c) 本件手付金の調達方法について① 被控訴人は,控訴人代表者であるAに本件手付金として1億円を交付した旨供述するが,被控訴人の同1億円の捻出方法についての供述は著しく変遷して一貫性がない。すなわち,被控訴人は,一審において,本件手付金1億円の捻出方法に関する供述(陳述書による陳述記載を含む。以下同じ)を再三にわたり変更した後,日本興業銀行でワリコー1000万円券8枚と500万円券1枚を現金化したほか,百五銀行の控訴人の預金から引き出した1500万円を加えて1億円をつくったと供述していたが,控訴審においては,同供述を変更し,ワリコーの券面額及び枚数,現金の引出し先等の重要な点で変更したに止まらず,手付金交付の態様については,一審において一貫していた全額現金で支払ったとの点でも,現金で7000万円を支払い,残り3000万円は日本興業銀行発行額面1000万円の第578号割引興業債(ワリコー。以下「本件①債券」という。)及び日本長期信用銀行発行額面2000万円の第436回割引長期信用債(ワリチョー。以下「本件②債券」という。)を交付することで代えた旨供述するに至ったものであり,被控訴人は,本件手付金1億円の捻出方法に関して,一審及び控訴審を通じて著しく変遷し,かつ,その間に一貫性を欠く供述をしているのである。 ② そして,被控訴人が現金で支払ったと供述する7000万円についても,被控訴人の複数 に関して,一審及び控訴審を通じて著しく変遷し,かつ,その間に一貫性を欠く供述をしているのである。 ② そして,被控訴人が現金で支払ったと供述する7000万円についても,被控訴人の複数の口座から時期を異にして引き出された現金であるというのであるが,その引き出された金額及び引き出された時期に照らして,被控訴人がその引き出し金を本件手付金のうち現金交付分7000万円に充てたことの証明はない。 ③ また,被控訴人は,Aは,自らの意思で新日本証券株式会社四日市支店にA名義の取引口座を開設して同社と取引を行い,控訴人が本件手付金の一部として交付した本件①債券を同取引口座に預け入れるなど,被控訴人が控訴人に支払った本件手付金1億円及び裏金として支払った5000万円を原資として同取引を行った旨主張するが,同取引口座は,Aが,被控訴人の勧めに従って,被控訴人に依頼して開設したものの,その後の管理は一貫して被控訴人において行い,本件①債券及び本件②債券を含む預入れ証券類はすべて被控訴人が持ち込み,持ち出したことが証拠から窺われるので,同口座の存在及び同口座における証券等の移動は本件手付金支払の裏付けにならない。 (d) なお,Aは,被控訴人から,控訴人株式の譲渡を持ち掛けられ,Fがそれに同意していると聞かされたため,亡H死亡後間もない時期であったこともあって,控訴人株式の売却を考えて被控訴人へ上記株券を交付したことがあった旨供述し,Aが,平成元年12月頃,被控訴人に対し,亡H,A及びF名義の控訴人の株式8万4900株の株券を交付した事実があるから,この事実は,A(控訴人ではない。)と被控訴人との間の同株式についての売買の存在を窺わせる。 しかし,上記株券は,その後すぐに被控訴人がAに対して何らの対 券を交付した事実があるから,この事実は,A(控訴人ではない。)と被控訴人との間の同株式についての売買の存在を窺わせる。 しかし,上記株券は,その後すぐに被控訴人がAに対して何らの対価なくして全部返還しているから,Aと被控訴人間において上記株式売買について確定的な合意があったとするには疑いがある。 (e) 本件領収証及び本件賃貸借契約書の真正な成立,本件株等売買契約の成立及び本件手付金の支払をいう,被控訴人の供述は,内容に不自然な点等があり,反対証拠と対比して,信用できない。 (f) 以上(a)ないし(e)のとおりであるから,本件株等売買契約の成立及び本件手付金1億円の交付の事実は認められず,手付倍戻しによる2億円の支払請求は理由がない。 c また,被控訴人は,本件仮差押事件においても,ほぼ第二1訴訟事件と同一の主張をし,同主張を疎明するための証拠として,本件手付金領収書及び本件賃貸契約書等を提出したが,事情変更による本件仮差押命令取消申立事件において,簡潔ながら,bにおけると同趣旨の判断が示されて(なお,被控訴人は,同取消申立事件において,手付倍戻しによる2億円の支払請求権がないとしても,本件手付金1億円を支払っているとして,1億円の不当利得返還請求権があるとも主張したが,同主張も採用されなかった。),本件仮差押命令が取り消された。 (イ) 第二2訴訟事件につきa 被控訴人は,第二2訴訟事件において,被控訴人が,平成元年5月20日,控訴人の当時の代表者亡Hから,本件会員権を代金1500万円で譲り受け,同代金の支払と引き換えに,亡Hから控訴人作成名義の同日付け1500万円の領収証(以下「本件代金領収証」という。本件において,控訴人が偽造文書として提出する甲8である。), 1500万円で譲り受け,同代金の支払と引き換えに,亡Hから控訴人作成名義の同日付け1500万円の領収証(以下「本件代金領収証」という。本件において,控訴人が偽造文書として提出する甲8である。),控訴人宛の松名カントリークラブの入会保証金預かり証,控訴人名義松名カントリークラブ会員証及び入会申込証(これらについては,本件において証拠として提出されていない。)の交付を受けて,所持している旨主張し,これら書面を証拠として提出した。なお,被控訴人本人尋問が実施されているが,被控訴人の本人尋問調書が証拠として提出されていないので,被控訴人の上記主張に関する供述内容は,第二訴訟事件の一審判決(甲4),控訴審判決(甲80)及び上告審判決(甲86)の記載により認める。 b しかし,第二訴訟事件の一審判決及び控訴審判決とも,要旨,次の(a)ないし(f)のとおり判示して,被控訴人の主張を排斥し,第二2訴訟事件の被控訴人の請求を棄却した。 (a) 本件代金領収証の成立について本件代金領収証は,控訴人の領収証用紙であり,押捺されている控訴人の記名判及び代表者印はいずれも控訴人の記名判及び代表者印によって顕出されたものである。 しかし,本件代金領収証は,領収証の外枠(飾り枠)に沿ってその周囲が切り取られている不自然なものである上,控訴人が使用している領収証用紙にはその上部に一連番号の欄が存在するが,本件代金領収証では,同番号欄部分が不自然に切り取られて,番号が分からないように細工されていること(このような細工は,本件代金領収証の真の作成時期を隠す必要のある者によって故意に作為された事実を疑わせる。),また,被控訴人は,平成元年11月以降,控訴人の経営を任されていたため,本件代金領収証に押捺されている控訴 本件代金領収証の真の作成時期を隠す必要のある者によって故意に作為された事実を疑わせる。),また,被控訴人は,平成元年11月以降,控訴人の経営を任されていたため,本件代金領収証に押捺されている控訴人の記名判及び代表者印を使用する機会があったことが認められるから,本件代金領収証に控訴人の記名判及び代表者印が押捺されているとの事実のみから,その成立の真正を推定することはできない。 なお,本件賃貸借契約書の特約条項欄には,前記(1)イ(ア)bの特約条項加筆記載のほか,「松名ゴルフ会員券平成3年10月に書替えいたします。」との記載があるが,土地建物の賃貸借契約書の記載としては異例な記載であり,このような異例な記載が本件賃貸借契約書にされた理由が全く明らかでない上,本件賃貸借契約書については,前記(1)イ(ア)b(a)のとおり,その真正な成立について疑いがあるから,かえって,本件会員権の売買契約の成立を疑わせる。 (b) 代金1500万円の原資について被控訴人は,控訴審になって,本件会員権の代金1500万円の原資について具体的に主張する至り,その提出の証拠によれば,被控訴人の口座から平成元年5月10日に500万円,昭和63年4月4日に770万円,同年5月9日に700万円が預金から引き出された事実が認められるものの,同事実のみでは,これら金員が本件会員権の代金支払の事実に充てられたことを認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 (c) そして,被控訴人は,亡Hから,その生前に本件会員権の購入を依頼されて,同年5月にこれを現金で購入した旨供述するのであるが,控訴人は,本件会員権のほか,緑ヶ丘,浜松及びひるがの高原の各カントリークラブの会員権を持っていて,亡Hの死後にいずれも売 権の購入を依頼されて,同年5月にこれを現金で購入した旨供述するのであるが,控訴人は,本件会員権のほか,緑ヶ丘,浜松及びひるがの高原の各カントリークラブの会員権を持っていて,亡Hの死後にいずれも売却されているから,被控訴人の同供述は,亡Hが名義書換えのできない本件会員権のみを事前に被控訴人に売却したというもので,不自然であり,かえって,亡H死亡後,控訴人が持っていた本件会員権を含むゴルフ会員権の処分を被控訴人に委ね,これに必要な書類を被控訴人に交付したが,本件会員権のみが名義書換えができないために被控訴人の手元に残っていた旨のAの供述の方が合理性がある。 (d) 以上(a)ないし(c)のとおりであって,本件会員権売買契約の成立は認められないから,本件会員権についての名義変更手続請求は理由がない。 (2) 本件仮差押え及び第二訴訟事件提訴の違法性アところで,仮差押命令が,その被保全債権が存在しないために当初から不当であるとして異議等により取り消され,あるいは本案訴訟において債権者である原告敗訴の判決が確定した場合には,他に特段の事情がないかぎり,被保全権利が存在するとして仮差押命令を得てこれを執行した債権者に過失があったものと推定される(最高裁判所昭和43年21月2日民集22巻13号3428頁参照)。 他方,民事訴訟等を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,その者の訴え等の提起が相手方に対する違法行為となるのは,訴え等を提起した者において,その主張する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を有するものでないことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得た場合であるのに,敢えて訴え等を提起したなど,訴え等の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる でないことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得た場合であるのに,敢えて訴え等を提起したなど,訴え等の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものというべきである(最高裁判所昭和63年1月26日民集43巻1号1頁参照)。 そこで,上記観点に立って,本件仮差押え及び第二訴訟事件提訴の違法性について,順次検討を加える。 イ本件仮差押えの違法性について(ア) 第二1訴訟が被控訴人の敗訴で確定したことは前記(1)アのとおりであるから,同訴訟を本案訴訟とする本件仮差押えについては,被控訴人において,本件仮差押えをしたことを相当とするだけの特段の事情がない限りは,被控訴人の過失が推定されるものである。 (イ) そして,本件株等売買契約の成否及び本件手付金交付の事実の有無についての第二訴訟事件の一審判決及び控訴審判決の判断は,前記(1)イ(ア)のとおりであって,その判断は,被控訴人が本件株等売買契約の成立及び本件手付金交付の事実の証拠であるとして提出した本件手付金領収証及び本件賃貸借契約書がいずれも真正に成立したものと認めることができず,また,被控訴人の供述等も信用できない等により,本件株等売買契約の成立及び本件手付金交付の事実を認めることはできないとするもので,被控訴人の手付金倍戻しの支払請求を棄却した一審判決が確定したものであるところ,一審判決及び控訴審判決の判断内容及び証拠(甲14,38の1及び2,甲40,41,48,50,54の1及び2,58ないし61,65ないし76,甲78の1ないし4,甲79の1及び2,90,111,証人F)を総合すれば,本件手付金領収証及び本件賃貸借契約書は,いずれも,被控訴人が,控訴人及びAの承諾を得ることなく,無権限で作成した し76,甲78の1ないし4,甲79の1及び2,90,111,証人F)を総合すれば,本件手付金領収証及び本件賃貸借契約書は,いずれも,被控訴人が,控訴人及びAの承諾を得ることなく,無権限で作成した書面であり,控訴人が本件手付金1億円を受領した事実がないにもかかわらず,被控訴人は当然そのことを知りながら,本件仮差押えをしたものと推認するほかない。 これに反するBの陳述書(乙1,3の2,乙4)及び証明書(乙5)並びに被控訴人の陳述書(乙6)の陳述記載は,上記証拠に照らし,また,Eの証明書(乙2)の陳述記載は,同人の陳述書(甲51,53の1及び2,甲65)の陳述記載及び証人尋問調書の記載(甲77の1及び2)に照らして,いずれも措信し難く,他に上記推認を左右するに足りる証拠はない。 (ウ) したがって,被控訴人が本件仮差押命令の被保全債権として主張した本件株等売買契約の成立及び本件手付金交付による手付金倍戻し請求権については,その事実的根拠を欠くものであったのであり,被控訴人は,そのことを知っていたものである。 そうすると,被控訴人が本件仮差押えをしたことにつき,これを相当とするだけの特段の事情があるということはできないから,本件仮差押えは,違法な仮差押えであったものである。 ウ第二1訴訟提起の違法性について(ア) 第二1訴訟は,前記(1)アのとおり,被控訴人が,本件仮差押えの債務者とされた控訴人からの起訴命令申立てを受けて,本件仮差押命令を維持するために提起した,本件仮差押えの本案訴訟である。 (イ) そして,被控訴人の控訴人に対する本件株等売買契約の成立及び本件手付金交付による手付金倍戻し請求権は,上記イ(イ)及び(ウ)の認定説示のとおり,控訴人が本件手付金1億円を受領したことがないな (イ) そして,被控訴人の控訴人に対する本件株等売買契約の成立及び本件手付金交付による手付金倍戻し請求権は,上記イ(イ)及び(ウ)の認定説示のとおり,控訴人が本件手付金1億円を受領したことがないなどその事実的根拠を欠くものであり,被控訴人は,そのことを知りながら,本件仮差押命令を維持するために第二1訴訟を提起したものと推認するほかない。 (ウ) そうすると,被控訴人のした第二1訴訟の提起,その一審判決に対する控訴,さらには上告は,いずれも違法であったものである。 エ第二2訴訟提起の違法性について(ア) 本件会員権売買契約の成否についての第二訴訟事件の一審判決及び控訴審判決の判断は,前記(1)イ(イ)のとおりであって,その判断は,被控訴人が本件会員権売買契約の成立の証拠であるとして提出した本件代金領収証が真正に成立したものと認めることはできず,また,被控訴人の供述等も信用できない等により,本件会員権売買契約の成立を認めることはできないとするもので,被控訴人の本件会員権売買契約に基づく本件会員権の名義変更手続請求を棄却した一審判決が確定したものであるところ,一審判決及び控訴審判決の判断内容及び証拠(甲14,48,甲78の1ないし4,甲79の1及び2,90)を総合すれば,本件代金領収証は,被控訴人が,控訴人の代表者であるAの承諾を得ることなく,無権限で作成した書面であり,控訴人が本件会員権の代金1500万円を受領したことがないにもかかわらず,被控訴人は当然そのことを知りながら,第二2訴訟を提起したものと推認するほかない。 したがって,被控訴人主張の本件会員権売買契約に基づく本件会員権の名義変更請求権については,その事実的根拠を欠くものであったのであり,被控訴人は,そのことを知っていたものである。 したがって,被控訴人主張の本件会員権売買契約に基づく本件会員権の名義変更請求権については,その事実的根拠を欠くものであったのであり,被控訴人は,そのことを知っていたものである。 (ウ) そうすると,被控訴人のした第二2訴訟の提起,その一審判決に対する控訴,さらには上告は,いずれも違法であったものである。 4 被控訴人の第一訴訟事件への違法な応訴及び違法な第二訴訟事件提起による損害(1) 前記3のとおり,被控訴人が,控訴人の提起した第一訴訟事件に応訴したことは違法であり(控訴人が,同訴訟提起に先立って,書面で,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人から持ち出した本件手形及び現金分として3500万円の返還を請求したが,被控訴人がこれに応じなかったことは,前記(1)で認定したとおりである。),また,控訴人に対し第二訴訟事件を提起したことは違法であったから,被控訴人は,民法709条により,第一訴訟事件への違法な応訴及び違法な第二訴訟事件提起によって控訴人が被った損害について賠償する責任がある。 (2) 証拠(甲1ないし4,80,86,92の1ないし4,甲93の1及び2,甲94の1及び2,甲95の1ないし4,甲96の1及び2,甲97の1及び2,甲98,99の1及び2,111,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,第一訴訟事件の提起及び追行並びに第二訴訟事件の応訴を弁護士に委任し,弁護士費用として次のとおりの支払をした事実が認められる。 ア平成2年2月21日 122万4810円控訴人は,第一訴訟事件の提起を弁護士Jに委任して,平成2年2月21日に着手金及び費用として150万円を支払ったが,第一訴訟事件提起後,同弁護士が辞任したため,そのうち未使用費用分27万5190円の返金を受けたから, 件の提起を弁護士Jに委任して,平成2年2月21日に着手金及び費用として150万円を支払ったが,第一訴訟事件提起後,同弁護士が辞任したため,そのうち未使用費用分27万5190円の返金を受けたから,同弁護士に対する実質支払額は122万4810円となる。 イ平成2年7月20日 206万円控訴人は,第一訴訟事件の追行及び第二訴訟事件の提起を弁護士K,同Lら(以下「K弁護士ら」という。)に委任し,着手金及び費用として206万円を支払った。 ウ平成4年4月1日 81万0800円控訴人は,K弁護士らに対し,第一訴訟事件の一審判決(控訴人勝訴)の中間報酬及び控訴着手金として合計81万0800円を支払った。 エ平成4年8月25日 244万6080円控訴人は,K弁護士らに対し,第一訴訟事件の報酬として244万6080円を支払った(控訴人は,同日,K弁護士らに285万8080円を支払ったが,そのうち41万2000円(消費税分1万2000円を含む。)は,K弁護士らに対して第一訴訟事件の勝訴判決による執行として被控訴人所有不動産に対する競売申立てを委任したことによる弁護士費用分であり,これを上記285万8080円から控除した残額が244万6080円である。 オ平成5年7月5日 390万円控訴人は,K弁護士らに対し,第二訴訟事件の費用及び報酬として390万円を支払った。 カ平成7年1月20日 401万7000円控訴人は,K弁護士らに対し,第二訴訟事件の報酬として401万7000円を支払った。 (3) ところで,証拠(甲1ないし3,95の1ないし4,甲96の1及び2,甲97の1及び2,甲111,証人F)及び弁 ,K弁護士らに対し,第二訴訟事件の報酬として401万7000円を支払った。 (3) ところで,証拠(甲1ないし3,95の1ないし4,甲96の1及び2,甲97の1及び2,甲111,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,第一訴訟事件で勝訴しため,K弁護士らに委任して,津地方裁判所四日市支部に対し,同勝訴判決に基づく被控訴人所有不動産に対する競売を申し立てたこと(同支部平成4年(ヌ)第22号不動産競売事件),ところが,その後,被控訴人が,第一訴訟事件で支払を命じられた金員を任意に控訴人に支払ったため,控訴人は,同不動産競売申立事件を取り下げこと,控訴人は,同不動産競売申立事件をK弁護士らに委任した際,その費用として80万円を支払ったが,その取下により20万6000円の返還を受けたため,差引き59万4000円を同不動産競売申立事件の申立費用及び弁護士費用として支払ったことになるほか,上記(2)エのとおり,控訴人が平成4年8月25日にK弁護士らに対して第一訴訟事件の報酬等として支払った285万8080円のうち41万2000円(消費税分1万2000円を含む。)は,同不動産競売申立事件をK弁護士らに委任したことによる弁護士費用であることが認められる。 控訴人は,上記不動産競売申立事件のために要した費用59万4000円及び弁護士費用41万2000円も,被控訴人が控訴人の提起した第一訴訟事件に違法に応訴したことによって控訴人が被った損害である旨主張するが,被控訴人が控訴人の提起した第一訴訟事件に違法に応訴したことと,被控訴人が第一訴訟事件の控訴人勝訴判決に従って金員を支払わないこととは法的場面を異にする別の事柄である上,被控訴人が控訴人の提起した第一訴訟事件に応訴したことが控訴人に対する不法行為となるからといって,被控訴人が第一訴訟事 訴人勝訴判決に従って金員を支払わないこととは法的場面を異にする別の事柄である上,被控訴人が控訴人の提起した第一訴訟事件に応訴したことが控訴人に対する不法行為となるからといって,被控訴人が第一訴訟事件の控訴人勝訴判決に従って金員を支払わないことが直ちに控訴人に対する不法行為となるものでもないから(このことは,判決で金員の支払を命じられた債務者が,当該金員の支払を任意に履行しないからといって,それが直ちに債権者に対する不法行為となるものでないことから明らかである。),控訴人が上記不動産競売申立事件のために要した費用及び弁護士費用は,被控訴人が控訴人の提起した第一訴訟事件に違法に応訴したことによって控訴人に生じた損害ということはできない。 (4) 控訴人は,第一訴訟事件の訴訟準備及び遂行の諸費用として60万円を負担した旨主張する。 証人Fの証言及び同人の陳述書(甲111)には同主張に沿う部分があるが,控訴人が,前記(2)に認定した弁護士費用支払のほかに,上記60万円を同訴訟準備費用等として支払った事実については,領収証等その支払を裏付けの客観的な証拠はないから,証人Fの証言等をもって控訴人の同主張を認めるには十分でなく,他に同主張を認めるに足りる証拠はない。 (5) 以上によれば,控訴人は,被控訴人の第一訴訟事件への違法な応訴及び違法な第二訴訟事件提起に対処するために弁護士費用として,前記(2)アないしカの合計1445万8690円を支払い,そのうち第一訴訟事件分が448万1690円,第二訴訟事件分が791万7000円,第一訴訟事件及び第二訴訟事件分が206万円であったことが認められるところ,第一訴訟事件及び第二訴訟事件の各事案の内容,性質,証拠の共通性,審理の経過,第一訴訟事件については受任した弁護士の辞任があって,着手金支 第二訴訟事件分が206万円であったことが認められるところ,第一訴訟事件及び第二訴訟事件の各事案の内容,性質,証拠の共通性,審理の経過,第一訴訟事件については受任した弁護士の辞任があって,着手金支払の重複があること等の諸般の事情を考慮すると,控訴人が第一訴訟事件,第二訴訟事件のために支払った上記弁護士費用のうち,第一訴訟事件については300万円の範囲で被控訴人の第一訴訟事件への違法な応訴により控訴人が被った損害と認め,第二訴訟事件については700万円の範囲で被控訴人の違法な第二訴訟事件提起により控訴人が被った損害と認めるのが相当である。 5 違法な本件仮差押えによる損害(1) 本件仮差押えによる信用毀損による損害についてア証拠(甲15,16,100ないし104,111,114ないし120,乙8の1ないし5,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人の事業年度は,4月1日から翌年3月31までを1事業年度とするが,本件仮差押えにより控訴人所有の別紙物件目録記載の不動産につき本件仮差押登記が経由されたのは平成2年4月25日であって,控訴人の30期事業年度であったこと,控訴人の28期事業年度から34期事業年度までの各売上高,営業利益及び税引き前当期利益は,いずれも別紙「決算書(M興業)」記載のとおりであり,本件仮差押登記後の控訴人の31期,32期及び33期の各事業年度の税引き前当期利益は,本件仮差押登記があった平成2年4月の属する控訴人の30期事業年度より前の28期及び29期の各事業年度の税引き前当期利益の平均額5868万6063円に比べて,それぞれ1440万円,2277万円,4921万円減少していて,その減少額合計が8638万円となることが認められる。 イ控訴人は,被控訴人が控訴人所有の上記不動産に対してして本件仮差押え べて,それぞれ1440万円,2277万円,4921万円減少していて,その減少額合計が8638万円となることが認められる。 イ控訴人は,被控訴人が控訴人所有の上記不動産に対してして本件仮差押えにより,控訴人の取引先に対する営業上の信用が著しく毀損された結果,大口取引先である三井物産株式会社(以下「三井物産」という。)や日鐡商事株式会社(以下「日鐡商事」という。)から,不動産及び預金等を担保に提供することを求められ,しかも,取引額を担保の範囲内に制限されて取引額が大幅に減少し,また,金融機関から十分な与信が得られなくなったため,控訴人の売上げが低下して営業利益の大幅減少を来す等によって本件仮差押登記後の3事業年度で少なくとも上記8638万円の2分の1に相当する4319万円の損害を被った旨主張し,証人Fは同主張に沿う証言をし,同人作成の陳述書にも同趣旨の陳述記載がある。また,証拠(甲105,106ないし108の各1及び2,甲109,甲110の1及び2)によれば,控訴人は,昭和2年10月以降,三井物産のために控訴人所有不動産について根抵当権を設定したり,有価証券について譲渡担保権を設定するなどし,また,日鐡商事のために控訴人の定期預金に質権を設定したことが認められる。 ウしかし,控訴人の28期事業年度(昭和63年4月1日から平成元年3月31日まで)以降の売上げの推移は,別紙「決算書(M興業)」記載のとおりであって,28期事業年度及び29期事業年度(平成元年4月1日から平成2年3月31日まで)が15億円を超える売上があったが,その後は減少を続け,それでも,30期事業年度(平成2年4月1日から平成3年3月31日まで)及び31期事業年度(平成3年4月1日から平成4年3月31日まで)には10億円あるいは11億円の売上げを計上していたが を続け,それでも,30期事業年度(平成2年4月1日から平成3年3月31日まで)及び31期事業年度(平成3年4月1日から平成4年3月31日まで)には10億円あるいは11億円の売上げを計上していたが,32期事業年度(平成4年4月1日から平成5年3月31日まで)及び33期事業年度(平成5年4月1日から平成6年3月31日まで)には8億円台の売上げとなって,平成4年頃以降は平成元年及び平成2年当時の2分の1以下に激減したことが認められるから,控訴人の売上げは,平成元年又は平成2年をピークとして減少を続けていたものであって,本件仮差押えを契機として控訴人の売上げが特に激減したとの事実はない上,証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,平成2年以降は,いわゆるバブル経済崩壊後の経済不況にあって,建設業及び不動産業を営む企業の中には,年々売上げを減少させている企業があることが認められるのであって,控訴人の売上げについての上記のような減少傾向には,一般的な経済的不況による売上げ減少の場合との類似性が窺われるのである。 エ加えて,証拠(甲14,38の1及び2,甲77の1及び2,甲78の1ないし4,甲79の1及び2,90,111,123,124,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,亡Hが昭和29年に創業した鉄骨加工業を法人化するために昭和36年に設立された株式会社であって,亡Hが設立以来その代表取締役として経営し,その株式も,その大部分が亡H及びその家族の名義となっていたこと,そのため,控訴人の経営は,亡Hが存命中は,亡Hがワンマン的に行っていたものであり,他の取締役は名目的な存在であったこと,亡Hは,平成元年9月16日に死亡したため,同月27日,控訴人の代表取締役に亡Hの長女の夫のN(以下「N」という。)及びAが就任し(なお,被控訴人が同時 であり,他の取締役は名目的な存在であったこと,亡Hは,平成元年9月16日に死亡したため,同月27日,控訴人の代表取締役に亡Hの長女の夫のN(以下「N」という。)及びAが就任し(なお,被控訴人が同時に控訴人の取締役に就任した。),Nが亡Hの後継者として控訴人を経営することとなったこと,しかし,Nは,大阪で塗装業を営んでいた者で,控訴人の営業である鉄鋼業の経営に不慣れであった上,控訴人が契約者となっていた亡Hを被保険者とする生命保険金の処理をめぐってAと意見が対立したこともあって,同年10月末には,大阪に戻って,事実上控訴人の経営に関与しなくなったこと,そのため,被控訴人が,Aから依頼されて,同年11月から,控訴人の平取締役のまま,控訴人の社長代理として控訴人の経営にあたることとなったこと,ところが,被控訴人は,経験ない者が鉄鋼業を経営していくのは困難であるとして,鉄鋼業から倉庫業及びゴルフ練習場への経営方針の転換を計画し,従業員に命じて控訴人所有地の隣接地につき賃貸借契約締結の交渉をさせる一方,鉄鋼業についての控訴人の主要取引先である三井物産や新日本製鉄株式会社からの新規の受注を全く取らず,また,取引銀行である福徳銀行東新町支店に対し,Aに内密に1億円を貸してほしい旨申し入れるなどのことがあり,Aに対し,三井物産等からその旨の苦情や問い合せがあったこと,そのため,Aは,同年12月下旬,被控訴人に対し,控訴人の経営への関与を禁じて,取締役の辞任を求めたこと,その後,Nが,再度,代表取締役として控訴人の経営にあたり,従前どおり鉄鋼業を継続することとなったが,平成7年3月末をもって鉄鋼業から撤退したことが認められる。 上記のような控訴人のワンマン経営者であった亡Hの死亡とその後の控訴人における実質的な経営者の相次ぐ交代及び経営方針 となったが,平成7年3月末をもって鉄鋼業から撤退したことが認められる。 上記のような控訴人のワンマン経営者であった亡Hの死亡とその後の控訴人における実質的な経営者の相次ぐ交代及び経営方針の動揺は,その主要な取引先である三井物産や日鐡商事等に対し,また,取引先銀行である福徳銀行に対し,控訴人の経営の安定度及び将来の経営の見通しについて不安を抱かせたであろうことは容易に推認できるところ,控訴人が三井物産等にその所有不動産等を担保として提供するようになったのは平成2年10月以降であって,本件仮差押登記の直後ではないことも併せ考慮すると,控訴人が三井物産等に不動産等を担保として提供することになったのは,本件仮差押えにより控訴人の信用が毀損されたためというには疑問が残り,むしろ,亡Hの死亡とその後の控訴人における実質的な経営者の交代及び経営方針の動揺が,取引先企業及び取引先銀行に対し控訴人の経営の安定度及び将来の経営の見通しについて不安を与え,そのために取引先企業からの担保の要求等となり,また,取引銀行の与信の制限となったものと窺われるのである。 エそうすると,ウ及びエの事実及び証拠を考慮すると,イの事実及び証拠から,控訴人の売上高が減少し,営業利益,税引き前利益が減少したのが本件仮差押えにより控訴人の信用が毀損されたためであるとの事実を認めることはできず,他に同事実,すなわち,本件仮差押えと控訴人の信用毀損による営業損害との間の相当因果関係の存在を認めるに足りる証拠はない。 したがって,控訴人の上記イの主張を採用することはできない。 (2) 控訴人は,本件仮差押命令の取消申立事件の費用等として10万円を負担した旨主張する。 前記4(2)冒頭掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,同費用等は,控訴人が第二訴訟事 きない。 (2) 控訴人は,本件仮差押命令の取消申立事件の費用等として10万円を負担した旨主張する。 前記4(2)冒頭掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,同費用等は,控訴人が第二訴訟事件の応訴を委任したK弁護士らに対して支払った前記弁護士費用に含めて支払われたものと認められるところ,本件仮差押えが違法である以上,本件仮差押命令の取消しに要した訴訟費用及び弁護士費用の相当額は本件仮差押えによる損害として被控訴人において賠償責任を負うべきものである。 したがって,被控訴人の違法な本件仮差押えのため,控訴人が,上記10万円の損害を被ったことが認められる。 第4 結論 1 以上のとおりであるから,控訴人の請求は,前記第3,4及び5の弁護士費用等1010万円及びこれに対する不法行為の後である平成5年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余の部分は失当として棄却すべきである。 2 よって,原判決を上記1の趣旨に変更し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条,61条,64条を,仮執行の宣言につき同法310条を各適用して,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部裁判長裁判官大内捷司裁判官加藤美枝子裁判官長門栄吉は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官大内捷司別紙物件目録 1 愛知県小牧市大字a字bc番d宅地 130.88平方メートル 2 愛知県小牧市大字a字be番f宅地 131.07平方メートル 3 愛知県小牧市大字a字gh番i 愛知県小牧市大字a字bc番d宅地 130.88平方メートル 2 愛知県小牧市大字a字be番f宅地 131.07平方メートル 3 愛知県小牧市大字a字gh番i宅地 248.31平方メートル 4 愛知県小牧市j町k番l宅地 2534.32平方メートル 5 愛知県小牧市j町m番n宅地 6401.31平方メートル別紙約束手形目録 1 金額 207万円満期平成2年3月20日支払地名古屋市支払場所東京銀行名古屋支店振出日平成元年11月30日振出人兼松江商株式会社 2 金額 1000万円満期平成2年4月9日支払地東京都千代田区支払場所東海銀行東京営業部振出日平成元年12月11日振出人産業振興株式会社 3 金額 260万円満期平成2年4月9日支払地東京都千代田区支払場所東海銀行東京営業部振出日平成元年12月11日振出人産業振興株式会社 4 金額 1000万円満期平成2年4月10日支払地長野市支払場所八十二銀行本店営業部振出日平成元年12月11日振出人株式会社角藤 5 金額 944万円満期平成2年4月10日支払地長野市支払場所八十二銀行本店営業部振出日平成元年12月11日振出人株式会社角藤別紙 平成2年4月10日支払地長野市支払場所八十二銀行本店営業部振出日平成元年12月11日振出人株式会社角藤別紙事故目録被控訴人は,平成元年12月,福徳銀行名古屋支店に向って被控訴人保有の自家用乗用自動車(ベンツ。以下「被控訴人車」という。)を運転中,愛知県西春日井郡o町の清洲インターチェンジ入口付近において,被控訴人車の右前部バンパーを暴力団関係者の乗用車(ベンツリムジン。以下「相手方車」という。)の左側前部側面フェンダー部分から後部フェンダー部分にかけて接触させる交通事故を起こした。
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