- 1 - 主文 1 被告は、原告甲に対し、110万円及びこれに対する平成24年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告乙に対し、110万円及びこれに対する平成24年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、これを5分し、その2を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。 5 この判決は、本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が、原告ら に対しそれぞれ10万円の担保を供するときは、その各仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告甲に対し、275万円及びこれに対する平成24年3月10日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告乙に対し、275万円及びこれに対する平成24年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (仮執行宣言)第2 事案の概要 1 事案の骨子丙は、静岡県警察に在籍する警察官であったが、平成24年3月10日、自殺した(以下「本件自殺」という。)。 本件は、丙の父母である原告らが、本件自殺は、丙が過重な業務に従事し、強度の精神的及び肉体的負荷を受けた結果、うつ病等の精神疾患を発症し、そ の精神疾患の影響によって行われたものであるところ、これについて、丙の職- 2 - 務を管理監督すべき同県警の公務員は、丙が過重な業務に従事してその心身の健康を損なうことがないよう配慮すべき安全配慮義務に違反したものであると主張して、同公務員の所属する同県警の設置者である被 務を管理監督すべき同県警の公務員は、丙が過重な業務に従事してその心身の健康を損なうことがないよう配慮すべき安全配慮義務に違反したものであると主張して、同公務員の所属する同県警の設置者である被告に対し、国家賠償法1条1項による損害賠償請求権に基づき、丙の死亡による慰謝料等として、原告ら各人につきそれぞれ第1記載の各損害金及びこれらに対する丙死亡日から 各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 本件の争点は、①本件自殺の業務起因性(業務と死亡との因果関係)、②被告の安全配慮義務違反の有無、③損害の範囲及び額である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲書証[枝番のあるものは、当該証 拠に付された全ての枝番を含む。以下同じ。]及び弁論の全趣旨により容易に認定することのできる事実)⑴ 当事者等ア丙(昭和55年7月3日生、死亡当時31歳)は、平成15年4月、静岡県警察に入職し、その後、平成24年3月10日に本件自殺により死 亡するまでの間、警察官として勤務していた者であり、その略歴は、別紙1「丙の経歴」記載のとおりである(乙17)。 イ原告甲は、丙の父であり、原告乙は、その母である。 ウ丁は、平成17年7月14日に婚姻した丙の妻であり、戊(平成19年9月28日生)は、その子である。 エ被告は、静岡県警察を設置管理する地方公共団体である。 オ己は、平成22年3月から本件自殺のあった平成24年3月まで、静岡県警察下田警察署(以下「下田警察署」という。)の地域課長の職務に従事しており、丙の上司であった者である(乙37)。 ⑵ 庚交番における原則的勤務形態及び丙の置かれていた地 24年3月まで、静岡県警察下田警察署(以下「下田警察署」という。)の地域課長の職務に従事しており、丙の上司であった者である(乙37)。 ⑵ 庚交番における原則的勤務形態及び丙の置かれていた地位 ア丙は、平成22年4月以降、本件自殺に至るまで、下田警察署庚交番- 3 - (以下「庚交番」という。)において交番長として勤務していたところ、同交番においては、交番長を含む各勤務員が、3班に分かれ、班ごとに、当直、非番及び週休(又は日勤)の各勤務を繰り返すという三交替制の勤務が行われていた。各班は、それぞれ、交番長又は交番班長1名、及び相勤務員1~3名の2~4名で構成されている。庚交番における各勤 務員の所定の勤務時間及びその勤務の具体的内容は次のとおりである。 (甲3、乙1~3、6、17、25、36、37) (ア) 当直午前9時までに、下田警察署に出勤し、制服の着用、拳銃の装備等を行い、同時刻より、他の交番等の当直勤務員らとともに、地域課長又は 当直主任による点検配置を受けた上、庚交番に出勤する。その後、翌日午前9時まで、管内犯罪の予防検挙を目的とした警ら、立番、巡回連絡に加え、発生した事件事故の処理、交通取締り、市民からの各種届出や要望相談の受理等の職務に従事する。 この間、所定休憩時間として、午前11時から午後2時までの間に1 時間、午後4時から翌日午前8時までの間に7時間30分(このうち、午後9時から翌日午前2時まで又は翌日午前2時から同午前7時までが仮眠時間とされており、それ以外の2時間30分が食事等の休憩時間とされている。)の合計8時間30分とされているが、急訴事件及び各種届出等については、休憩中であっても直ちに受理し、必要な措置を講じ るものとされてい それ以外の2時間30分が食事等の休憩時間とされている。)の合計8時間30分とされているが、急訴事件及び各種届出等については、休憩中であっても直ちに受理し、必要な措置を講じ るものとされている。このように、所定の休憩時間ないし仮眠時間等において、休憩等を取らずに職務に従事する場合や、勤務時間を休憩時間等に振り替えて休憩等を取得する場合には、同署地域課長(丙の庚交番在職当時は己)ないし当直主任に対し、勤務変更の申し出を行うこととされている。 (イ) 非番- 4 - 午前9時までの当直勤務を終えた後、同日の当直勤務を行う班が庚交番に到着するまで待機し、同班到着後、各班を構成する交番長又は交番班長により、所定の様式の書類等を用いて、引継ぎが行われ、その後、下田警察署に赴き、拳銃等の返還、各種報告等を行い、勤務終了となる。 (ウ) 週休(又は日勤) 非番の翌日は、基本的には、週休となっているが、所定労働時間を確保するため、1月に1、2回程度は、日勤とされており、その勤務時間は、午前9時から午後5時45分まで(昼休憩として午前11時から午後2時までの間に1時間)とされている。 イ上記のとおり、丙は、庚交番において交番長を務めていたところ、静岡 県警察の定める「静岡県地域警察の運営に関する訓令」(乙2)によれば、交番長の行う職務内容は、別紙2「交番長の職務」のとおりとされている。 ⑶ 庚交番における勤務状況及び時間外勤務状況に関して作成される資料ア静岡県警察が設置する各交番、駐在所において、各勤務員が当直勤務等 を実施する際には、各日ごとに、勤務日誌を作成することとされており、この勤務日誌には、交番長を含む各勤務員の該当日の勤務種別、 静岡県警察が設置する各交番、駐在所において、各勤務員が当直勤務等 を実施する際には、各日ごとに、勤務日誌を作成することとされており、この勤務日誌には、交番長を含む各勤務員の該当日の勤務種別、点検配置時における指示事項を記載するほか、「勤務時間」欄において、「指示教養」、「在所」、「立番」、「警ら」、「巡回連絡」、「その他」及び「休憩」の項目ごとに、勤務員が従事した時間を30分間隔で押印 して表示し、「記事」欄において、就務や終務・退所の時刻、警ら、立番、事件処理等の各活動を行った場合には、開始・終了(帰所)の時刻や具体的な活動内容、及び勤務変更を行った場合にはその具体的な内容等を記載することとされている。この勤務日誌は、所轄警察署の地域課長、副署長及び署長等に回覧されている。(乙3) イ静岡県警察に所属する警察官は、毎月21日午前中までに、前月21日- 5 - から当月20日までの間において、所定の勤務時間以外に業務に従事した時間があるときは、その状況等につき、当該日における勤務形態、勤務時間、時間外勤務の時間及び従事した業務内容を記載した「時間外勤務実績報告書」を作成して所属課長に提出することとされており、上記報告書は、所属課長の承認を受けることとされている(乙4)。 ⑷ 職場実習指導員への指名ア静岡県警察では、警察学校における初任科課程(大卒者6か月、高卒者10か月)を修了した実習生を対象に、概ね3か月半程度(地域課[交番]における実習2か月、刑事課等の内勤実習1か月半)の間、職場実習を実施している(乙24、弁論の全趣旨)。 イ丙は、平成24年2月5日から、同年3月10日までの間、静岡県警察より、職場実習指導員への指名を受け、実習生1名を受け持つこととな 実習を実施している(乙24、弁論の全趣旨)。 イ丙は、平成24年2月5日から、同年3月10日までの間、静岡県警察より、職場実習指導員への指名を受け、実習生1名を受け持つこととなった(乙24、27)。 ⑸ 丙のGSEメンバーへの選出ア研究グループ交換(GSE)とは、ロータリークラブが主催する海外研 修であり、事業や専門職務経験の浅い25歳から40歳までの者を対象に、海外派遣先の国(地域)におけるホームステイを通じて、生活様式や文化を体験し、対象者の職業が滞在国においてどのように営まれているかについて、見学や意見交換をすることを内容としている。(乙24、弁論の全趣旨) イ丙は、平成24年4月8日出発、同年5月3日帰国予定とされていたGSEのメンバーとして、静岡県警察の推薦を受けることとなり、平成23年11月1日、メンバー選考に合格し、その後、本件自殺に至るまで、複数回、ロータリークラブ主催の事前研修に参加することがあった。 (乙24) ⑹ 丙の庚交番在職時の住居- 6 - 丙は、庚交番在職当時、丁及び戊とともに、同交番に隣接する警察官待機宿舎(以下「本件宿舎」という。)の1階に居住していた。 ⑺ 本件自殺丙は、平成24年3月12日、静岡県賀茂郡α町内の路上に停車中の普通乗用自動車(自己所有車)内において、死亡しているのが発見された。同自 動車内からは、七輪及び灰化した練炭が発見されており、死体検案書によれば、同人の死亡日時は、同月10日午後であり、死因は、自殺による一酸化炭素中毒であるとされている。(乙20)⑻ 基金による裁定及び審査会による裁決ア丁は、平成26年3月3日、地方公務員災害補償基金静岡県支部(以下 であり、死因は、自殺による一酸化炭素中毒であるとされている。(乙20)⑻ 基金による裁定及び審査会による裁決ア丁は、平成26年3月3日、地方公務員災害補償基金静岡県支部(以下 「基金」という。)の支部長に対し、本件自殺による丙の死亡について、公務災害認定請求を行った。これに対し、同支部長は、平成28年3月29日、上記死亡について、公務外の災害と認定する旨の処分をした。 (乙17)イ上記処分を受け、丁は、同年4月8日、地方公務員災害補償基金静岡県 支部審査会に対し、審査請求をしたところ、同審査会は、平成29年8月8日、本件自殺は、公務上の疾病と相当因果関係を持って発生したものであるなどとして、上記基金の認定処分を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(甲3)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張 本件の争点は、①丙の自殺と業務との因果関係(本件自殺の業務起因性)(争点1)、②被告の安全配慮義務違反の有無(争点2)及び③損害の発生及びその数額(争点3)の3点である。 争点に関する当事者の主張は、別紙3「主張整理表」(以下単に「主張整理表」という。)のとおりである。 第3 当裁判所の判断- 7 - 1 認定事実前記第2の2摘示の事実に加え、後掲証拠(後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 ⑴ 庚交番の刑法犯認知件数及び所管範囲、交番長としての具体的職務等ア下田警察署の刑法犯認知件数は、平成23年が435件、平成24年が 415件であり、いずれも、当該年において、静岡県警察の設置している27警察署のうち、上から25番目の認知件数であった。他方、庚交番管内における刑法犯認知 、平成23年が435件、平成24年が 415件であり、いずれも、当該年において、静岡県警察の設置している27警察署のうち、上から25番目の認知件数であった。他方、庚交番管内における刑法犯認知件数は、平成23年が160件であり、平成24年が143件であって、平成23年は、同警察が当時設置していた202交番のうちの上から87番目、平成24年は、当時設置していた 205交番のうち上から88番目であった。(甲40、弁論の全趣旨)イ他方、丙が庚交番に在職していた当時、下田警察署管内に交番は4つしかなく、他は駐在所であり、同交番勤務員は、管内の駐在所が不在となる場合には、同駐在所の受持ち区域においても業務を行う必要があったほか、夜間は、静岡県下田市及び同県γ町の全域において業務を行う必 要があったため、同交番は、管内が広く、警らや事案発生時の移動時間等が長いことなどから、同交番勤務員の中には、同署管内で最も繁忙な交番との認識を持つ者もいた(甲7、乙9)。 ⑵ 交番長として特に行うべき業務丙は、本件自殺までの間、庚交番交番長の地位にあったが、その職務の内 容は、別紙2「交番長の職務」のとおりであり、交番長は、各月ごとに、交番等勤務員として提出が求められる自己の活動状況等の報告書を作成する必要があることに加えて、同交番管内の責任者として、同交番及び同交番管内の駐在所を含めた活動計画や幹部の巡視結果、広報活動状況等を取りまとめたり、同交番管内における犯罪発生状況、月間の活動計画及び活動実績等を まとめた報告書を作成したりして、下田警察署の地域課等の関係部署に提出- 8 - する必要があった。また、丙は、交番長として、管内の捜査協力者に対する折衝や、対外的な打ち合わせ、同署で行われる会合、係 報告書を作成したりして、下田警察署の地域課等の関係部署に提出- 8 - する必要があった。また、丙は、交番長として、管内の捜査協力者に対する折衝や、対外的な打ち合わせ、同署で行われる会合、係長会議等への出席、同交番管内の災害危険マップの作成等の業務も行っていた。(甲7、39、乙9、28)⑶ 庚交番において時間外勤務をしなければならない場合等 ア前記前提事実⑵アのとおり、庚交番においては、当直日において、午前9時に下田警察署に出勤し、点検配置を終えた後、庚交番に出勤して前日の当直勤務を行っていた班との引継ぎを行う必要があるところ、このため、前日の当直班は、当日の当直班が同交番に到着し、引継ぎを終えるまでの間、当直勤務終了後も引き続き庚交番に在勤しておく必要があ り、時間外勤務を要することとなる。また、ある班の当直勤務中に、急訴事案(事件や事故等)が複数発生した場合や、当直勤務の終了直前に、事案が発生した場合において、その事案の処理のために当直勤務終了後も引き続き業務を行わなければならないときであっても、翌日の当直班にその事案処理を引き継ぐことはできず、また、翌日の当直班が庚交番 に到着するまでの在所時間中に急訴事案が発生した場合についても、翌日の当直班の到着を待つことなくその処理を行う必要があるとされていることから、これらの場合も、当直勤務終了後の時間外勤務を要することとなる。(甲39、40、乙25)イまた、庚交番勤務員は、当直勤務の際に、職務質問を実施した場合には 職務質問カード、交通取締りをした場合には違反切符、当直勤務中に市民を保護した場合には保護簿等の書類、被害届等の各種届出を受理した場合や、事案が発生した場合には、実況見分調書等の捜査書類などをそれぞれ作成する必要が 通取締りをした場合には違反切符、当直勤務中に市民を保護した場合には保護簿等の書類、被害届等の各種届出を受理した場合や、事案が発生した場合には、実況見分調書等の捜査書類などをそれぞれ作成する必要があるところ、これらは、通常、当直勤務中の休憩時間以外の在所時間において作成すべきものとされているものの、上記 在所時間に作成することができない場合でも、翌日の当直班等にその作- 9 - 成を引き継ぐことはできないとされており、上記各書類は、それぞれ定められた提出期限(例えば、実況見分調書については、簡易的書式であれば、当該勤務員が実況見分を行った当直日の次の当直日の勤務終了時まで、基本書式によるものであれば、当該実況見分を行った当直日を基準に3回目の当直勤務終了時までとされている。)までに下田警察署に 提出する必要があるとされていたことから、上記のような場合も、非番日や週休日等の勤務時間外に書類作成のために勤務をすることが必要となる(甲39、40、乙7、25)。 ウさらに、静岡県警察が設置している各交番においては、交番ごとに、その管内で発生している事案や要望等の解決のための問題解決活動として、 目標や推進計画を策定しており、これらの活動内容に応じ、必要な場合には、上記問題解決活動に取り組むための時間外勤務を要する場合があった。例えば、庚交番では、平成23年11月において、「しもつき作戦」と称し、非番捜査として、駐輪場における張り込みや不審者に対する職務質問、店舗における万引きに関する職務質問及び検挙等の活動を 実施することとされていた。(甲36、乙2、25、32~34)エその他、静岡県警察に勤務する警察官においては、年間一定時間、柔道・剣道訓練及び逮捕術訓練からなる術科訓練への参加を義務付けら 実施することとされていた。(甲36、乙2、25、32~34)エその他、静岡県警察に勤務する警察官においては、年間一定時間、柔道・剣道訓練及び逮捕術訓練からなる術科訓練への参加を義務付けられており、これらの計画時間に応じて訓練に参加する必要があるほか、各種行事(例えば、110番の日広報、教養への参加、各種会合等)に参 加する必要があり、これらのために、時間外勤務を要する場合もある(乙25)。 ⑷ 時間外勤務実績報告書の提出及びその修正、勤務日誌との相違ア前記⑶のとおり、庚交番勤務員は、職務に従事するに当たり、一定の時間外勤務を要する場合があったところ、これを行った場合には、これに 従事した時間及びその際の活動状況等について、時間外勤務実績報告書- 10 - に記載し、下田警察署管内における各交番に関する事務を総括する同署地域課の己に提出することとされていた(乙4)。 イ下田警察署においては、交番等勤務員から提出された上記報告書につき、己が、時間外労働時間等につき必要な修正を施した上で承認し、その承認がされた内容に基づいて、署長が時間外勤務命令を行うという運用が されていた。この際、己には、どの程度修正を行うかについて、一定の裁量が与えられており、己は、勤務日誌等の内容を確認するほか、己のこれまでの勤務経験上、実況見分調書等の書類の作成のために通常必要となる時間がどの程度であるかといった点や、他の署員との公平の観点等も加味した上で、署長が時間外勤務命令を行う必要があるのはどの程 度であるかを判断し、上記報告書の勤務時間の修正を行っていた。(甲40、乙4)丙は、時間外勤務実績報告書につき、鉛筆等で記入して己に提出し、己は、丙から提出を受けた報告書につき、赤色ペン であるかを判断し、上記報告書の勤務時間の修正を行っていた。(甲40、乙4)丙は、時間外勤務実績報告書につき、鉛筆等で記入して己に提出し、己は、丙から提出を受けた報告書につき、赤色ペンを用いて、時間外勤務として承認しない勤務時間を抹消したり、報告を受けた勤務時間のうち 時間外勤務として認める勤務時間をより短時間に修正したりした上で、これを承認することを行っていた(甲40、乙4)。 ウ一方で、本件自殺後に行われた基金による調査の結果、丙の時間外勤務実績報告書において時間外勤務としての申告がされていないにも関わらず、勤務日誌(乙3)上、丙が時間外勤務として一定の業務に従事して いる時間が存在することが判明した。その具体的内容は、別紙6「回答と題する書面」中の表のとおりである。(甲4)⑸ 庚交番所管内における連続窃盗事件の発生とこれに関する捜査等ア庚交番管内において、丙が在職中の平成23年4月頃から、「居空き」(家人等が在宅し、昼寝や食事等をしている隙に住宅内に侵入し、金品 を窃取するものをいう。)と呼ばれる一般住宅に対する窃盗事件が発生- 11 - するようになり、同年6月にも2件発生したほか、同年8月から平成24年2月にかけては、平成23年11月に発生がなかったほか、各月において1ないし3件程度の発生がみられ、このうち、同年10月以降に発生したものについては、下田警察署において、同一犯人によるものであるとの疑いがもたれるようになった(甲7、39、乙9、37、弁論 の全趣旨。以下、上記同一犯人によると思われる各窃盗事件を総称して「連続窃盗事件」という。)。 イ下田警察署では、連続窃盗事件の発生以後、平成24年2月までの間、同署刑事課と同署地域課が協力の上で捜査に 、上記同一犯人によると思われる各窃盗事件を総称して「連続窃盗事件」という。)。 イ下田警察署では、連続窃盗事件の発生以後、平成24年2月までの間、同署刑事課と同署地域課が協力の上で捜査に当たることとなり、具体的には、事件の発生時間帯とされる毎日午後6時頃から午後10時ころま での間、同署刑事課の捜査員と、同署地域課の非番の勤務員(庚交番の勤務員及び同署のパトカー勤務員)の2名によるペアを2組、車両を利用して定点に配置し、定期的に移動をしつつ、通過車両の確認や不審者の監視等を実施するという捜査が行われていた(甲7、乙37)。 一方、同署では、同月以降、犯人確保に向けた捜査体制の強化及び地域 課職員の負担軽減の趣旨で、連続窃盗事件の捜査に関し、同署刑事課長のもとに専従捜査班が編成され、同月7日以降、同事件の捜査は、基本的に専従捜査班により実施されることとなった。庚交番においても、勤務員2名が同班の専従捜査員に選任され、同交番の勤務を離れることとなり、同人らに代わり、警察学校初任科課程終了後の実習生2名が配置 されることとなったため、同交番における班編成の変更がされ、丙の属する班は、警察学校を修了した巡査1名との2名編成の班から、上記実習生である巡査1名との2名編成の班に変更された。(甲7、39、40、乙9、11、27、37)ウもっとも、庚交番においては、平成23年度の春期において、連続窃盗 事件の犯人検挙等のために、勤務員が自主的な見回りや、パトロールを- 12 - 実施することがあった。実際、上記専従捜査班による捜査体制への移行後も、丙は、「夜間捜査」又は「非番捜査」等の従事内容により一定の時間外勤務を行った旨時間外勤務実績報告書による申告をしていたが、これらは己により時 った。実際、上記専従捜査班による捜査体制への移行後も、丙は、「夜間捜査」又は「非番捜査」等の従事内容により一定の時間外勤務を行った旨時間外勤務実績報告書による申告をしていたが、これらは己により時間外勤務として承認されている。(甲7、乙4)⑹ 実習生指導担当者のなすべき業務 前記前提事実⑷のとおり、丙は、平成24年2月5日から、同年3月10日までの間、静岡県警察より、職場実習指導員への指名を受け、前記⑸イのとおり、専従捜査班編成以後、庚交番に配属された実習生1名との2名の班構成により業務を行っていた。上記実習生は、警察官として、その職権を行使することができるものの、同警察の取扱いとしては、現行犯人の逮捕や、 人の生命、身体、財産等に危害が及ぶおそれのある目前急迫の事案発生の場合を除き、単独で職務の執行をすることができないとされていたため、実習生が交番等において何らかの業務に従事する場合には、基本的に職場実習指導員による同行指導を受けることが必要とされていた。また、実習生は、業務において車両を運転することが禁止されていたことから、交番等勤務にお いて、当直日における警察署から交番への移動ないし当直勤務終了後における交番から警察署への移動等については、職場実習指導員が送り迎え等を行う必要があった。(甲39、乙24)⑺ 丙の異動希望の有無及び異動のための作業等ア静岡県警察においては、平成24年3月期における警察官の異動に関し、 その内示日を同年3月16日に設定していたところ、丙が、本件自殺の直近に静岡県警察に対して提出した異動希望は、「下田警察署からは転勤してもよい」というものであった。なお、同警察において、警察官の異動に際しては、当該異動対象者の勤務していた警察署又は交番等におけ 直近に静岡県警察に対して提出した異動希望は、「下田警察署からは転勤してもよい」というものであった。なお、同警察において、警察官の異動に際しては、当該異動対象者の勤務していた警察署又は交番等における管内情勢、事件事故の発生状況、捜査継続中の事件事故等を取りま とめた数枚程度の引継書を作成し、所属の警察署長に提出するものとさ- 13 - れている。(乙5、24)イ丙は、少なくとも、本件自殺当日までの間は、上記アのとおり異動希望を提出していたことや、GSEへの参加が決定したことから、平成24年3月期において、下田警察署から異動になるとの認識を有しており、丙は、特に、平成24年2月から3月頃にかけて、週休日等に同交番に 出勤し、引継ぎのための作業等を実施していた。(甲7、41)⑻ GSEに参加することとなった経緯及びその事前準備の状況ア静岡県警察は、GSEにつき、少なくとも、平成20年から平成25年までの間に実施されるものについて、ロータリークラブから所属職員を参加させるよう要請を受けており、平成20年実施分から平成24年実 施分までについては、同警察本部において適任と思料される職員を選定し、当該職員の所属する警察署等を通じて参加希望の確認を行った上、候補者1名を推薦する取扱いを行っていた(甲47)。 イ平成24年実施分のGSEに関し、静岡県警察本部は、丙を推薦候補者として選定し、下田警察署副署長に対し、丙の参加希望の有無を聴取す るよう要請した。これを受けて、同副署長の依頼に基づき、己は、平成23年9月28日頃、丙に対し、参加希望の有無を確認したところ、丙は、参加希望を表明した。そこで、同警察本部は、ロータリークラブに対し、丙を上記GSEの参加候補者として推薦し、丙は、同年 己は、平成23年9月28日頃、丙に対し、参加希望の有無を確認したところ、丙は、参加希望を表明した。そこで、同警察本部は、ロータリークラブに対し、丙を上記GSEの参加候補者として推薦し、丙は、同年10月15日までに、メンバー募集に応募し、同月30日に実施された面接を経 て、派遣メンバーに選出された。(甲11、40、41、乙24、37)ウ GSEの派遣メンバーは、海外研修に出発するまでの間、1月に1回程度、事前会合に参加することとされていたところ、丙は、平成23年12月18日、平成24年1月15日及び同年2月26日に実施された上記事前会合に参加した。上記事前会合は、静岡県沼津市内の会場におい て、各回四、五時間程度実施されており、その内容は、事前準備事項の- 14 - 確認、海外研修の際に実施されるプレゼンテーションの準備及びオランダ語の練習等であった。加えて、丙は、GSEの派遣メンバーとして、平成23年11月20日、同市内の会場で実施されたロータリークラブ地区大会(同大会では、GSEの派遣メンバーの紹介がされているほか、GSEに関する小委員会が開催されている。)に参加したほか、平成2 4年1月23日には、ロータリークラブの例会にゲストとして参加し、GSEの派遣メンバーとして紹介され、登壇して発言することもあった(以下、これらを総称して、「本件事前会合等」という。)。(甲11、30~32、乙17、24)また、上記のとおり、海外研修においては、英語で、メンバーの自己紹 介等を内容とするプレゼンテーションを行う必要があり、各メンバーは、出発までに、このための原稿のほか、職場・家族・余暇の写真等を取りまとめてパワーポイントを作成する必要があったところ、丙は、自宅において、上記発表用原稿を作 ーションを行う必要があり、各メンバーは、出発までに、このための原稿のほか、職場・家族・余暇の写真等を取りまとめてパワーポイントを作成する必要があったところ、丙は、自宅において、上記発表用原稿を作成していたほか、上記パワーポイント作成の取りまとめ役となっており、このための作業も行っていた(甲30~ 32、41、乙17)。 エ静岡県警察においては、GSEの海外研修それ自体については、次世代のリーダーの育成等を目的としていることや、メンバーの職業が派遣先でどのように営まれているかの見学等を内容としていることなどから、対外的に公務性が高いとして、これを公務とする取扱いを行う一方、そ の出発前の各種会合への参加やその他の事前準備については、自主学習や事前準備の範囲内であり、公務扱いとはしないとの取扱いを行っていたところ、このような取扱いは、前記イのとおり参加希望の聴取が行われる際、下田警察署副署長や己から、丙に説明がされ、丙も、これを了承していた。(甲40、乙24) そのため、本件事前会合等が、丙の出勤日(当直日や日勤日)と重なっ- 15 - ている場合には、丙に休暇を取得させ、あるいは、出勤日を週休日に変更する(この場合、他の週休日を出勤日に充てる。)などしており、丙は、非番日や週休日において、本件事前会合等に参加していた。下田警察署は、上記各対応をとる場合は、代替勤務員として、駐在所勤務員に応援を要請していた。(甲40、乙4、24) ⑼ 丙のストレス診断とこれに関する静岡県警察の対応ア静岡県警察においては、平成18年度から、節目の年齢(30歳、40歳及び50歳)を迎えた職員を対象に、対象職員のメンタルヘルスに対する意識向上、及び各自のストレス状況を周知することにより自己 ア静岡県警察においては、平成18年度から、節目の年齢(30歳、40歳及び50歳)を迎えた職員を対象に、対象職員のメンタルヘルスに対する意識向上、及び各自のストレス状況を周知することにより自己の健康づくりに役立てることを目的として、「心の元気力チェッカー」と呼 ばれるストレス診断を実施している。この診断は、対象職員が、所定の質問に対し、当該質問につきあらかじめ準備された複数の回答の選択肢の中から自己に当てはまるものを選択して回答する方式で行われているところ、その実施に際し、回答用紙及び分析結果通知は密閉された上で回収ないし配布され、心情把握や職務能力把握等を目的とするものでは ないことについて事前周知もされており、その回答内容及び分析結果については、同警察本部や対象職員の所属警察署等に通知されることはなかった。また、診断結果の通知に掲載されたアドバイスをもとに受検者自らの対応を促すことを想定していたことから、実施に際して産業医が関与することはなく、分析結果に基づいて同産業医が対象職員に対して 直接何らかの働きかけをすることも予定されていないものであった。 (甲47、乙24、31)イ丙は、平成23年11月30日から同年12月22日までのいずれかの時点で、上記診断を受検したところ、元気度ランクは最低評価である「E(かなり悪い)」との分析結果であった。項目ごとの評価をみても、 ①「あなたのストレスの要因」については、「D(悪い)」と評価され- 16 - ており、そのうちの大項目「職場内のストレス」につき、「E」と評価され、その小項目である「人間関係」、「仕事の質」、「仕事の量」、「仕事遂行力」及び「個人適性」につきいずれも「E」、「仕事満足度」につき「B(良好)」などと評価された一方、大項目「 、「E」と評価され、その小項目である「人間関係」、「仕事の質」、「仕事の量」、「仕事遂行力」及び「個人適性」につきいずれも「E」、「仕事満足度」につき「B(良好)」などと評価された一方、大項目「職場外のストレス」につき、「C(境界域[注意が必要])」と評価され、その小項目 「家族、友人・隣人関係」につき「E」、「生活要因」につき「A(非常に良好)」と評価された。②「ストレス緩和要因」については、「E」と評価されており、そのうちの大項目「個人要因」については、「E」と評価され、その小項目「ストレスの受止め方」につき「E」、「コミュニケーション力」及び「ストレスとの向き合い方」につきいずれも 「D」と評価されたところ、大項目「周囲のサポート」についても、「E」と評価され、その小項目「職場内」「家族」及び「友人」のいずれについても「E」と評価された。③「現在のあなたの症状(ストレス反応)」については、「E」と評価され、このうちの大項目「心理面のストレス反応」については、「E」と評価され、その小項目「意欲」、 「抑うつ感」、「燃え尽き度」及び「イライラ感」につきいずれも「かなり悪い状態」とされた一方、大項目「身体面のストレス反応」については、「D」と評価され、その小項目「疲労感」及び「凝り・痛み」につきいずれも「かなり悪い状態」、「循環器」につき「非常に良好」、「胃腸障害」につき「注意が必要」とされ、大項目「行動面のストレス 反応」についても、「D」と評価され、その小項目「睡眠」につき「かなり悪い状態」、「食欲」につき「良好」、「活動量」につき「悪い状態」、「思考力」につき「注意が必要」とされた。(乙29)ウ丙は、上記分析結果を職場で受け取った際、己に対し、総合評価が最低評価の「E」であることを伝え、こ 好」、「活動量」につき「悪い状態」、「思考力」につき「注意が必要」とされた。(乙29)ウ丙は、上記分析結果を職場で受け取った際、己に対し、総合評価が最低評価の「E」であることを伝え、これに対し、己が、「しょうがない職 場だな」となかば冗談のように答えるやり取りがされることがあったが、- 17 - 前記アのとおり、その分析結果が下田警察署に通知されることはなかったため、己は、上記以上に詳細を知ることはなく、上記分析結果に基づき、何らかの対応がされることはなかった。(甲40、乙11)⑽ 丙の平成24年1月以降における心身の状況等ア本件自殺を受け、基金の実施したアンケート調査の結果によれば、丙の 平成24年1月頃から本件自殺までの間の肉体的・精神的不調和の状況につき、当時の庚交番の勤務員らにより、「元気がない、ぼんやりしている」、「顔色がよくない」、「やる気が出ない時に靴を磨くくせがあるが、それが増えた。」などと回答がされている(乙15)。 イ一方、丙は、平成24年に入ってから、本件自殺当日に至るまでに、食 事量が減少し、丁が購入してきた菓子類を食べなくなるといった状況となっていた上、自宅において、「制服を着て歩きたくない」、「自分はいい格好をしているだけだ、いい人ぶっているだけだ」などとの発言をするようになった。更に、丙は、前記⑹のとおり、職場実習指導員に指名された後は、当直日の朝に、実習生との当直が一番仕事が進まないから行きたく ないなどと漏らすようになり、丁が、2回ほど、休暇を取得するために電話をかけようとしたのに対しては、GSEの事前研修等のために休暇を取得した際には、駐在所勤務員に応援を要請しており、実習生の指導も併せて行ってもらっていることから、負担のある当直をこれ以 るために電話をかけようとしたのに対しては、GSEの事前研修等のために休暇を取得した際には、駐在所勤務員に応援を要請しており、実習生の指導も併せて行ってもらっていることから、負担のある当直をこれ以上同勤務員に代わってもらうことはできないなどというやり取りをすることがあった。 (甲38、41)。 ウ他方で、下田警察署においては、交番等勤務員が当直又は日勤等の勤務日において、同警察署に出勤した際、「健康状態等チェック表」に、自己の健康状態を記入するよう指示がされていたところ、丙は、平成24年3月3日、同月6日、同月8日、同月9日の各勤務日において、上記 チェック表の「自己申告の内容」欄の「業務上の問題点」及び「投薬の- 18 - 有無」につき、いずれも「無」と記入していた(乙14)。 ⑾ 本件自殺当日における具体的な事実経過ア本件自殺当日である平成24年3月10日、丙は、非番日であったところ、午後0時頃まで勤務した後、本件宿舎に帰宅した。帰宅後、丁は、丙が、GSEの海外研修の際に持参する手土産を何にすればいいか悩ん でいたことや、同人らの認識によれば、平成24年3月期に異動し、その後すぐにGSEに出発することとなり、その間のスケジュールがどのようなものかを知っておいたほうがよいなどと考えたことなどから、丙に対し、上記各点を確認するため、前年度に静岡県警察に推薦されGSEに参加した者に電話するように促した。これを受け、丙は、上記参加 者に架電したところ、その際、同参加者から、春にすぐGSEに出発する職員を3月期に異動させないのではないかとか、自分は異動してすぐGSEに出発したわけではないなどと言われた。このやり取りを聞いた丁は、丙に対し、「下田から出られないなんて、丙が異動するって言っ する職員を3月期に異動させないのではないかとか、自分は異動してすぐGSEに出発したわけではないなどと言われた。このやり取りを聞いた丁は、丙に対し、「下田から出られないなんて、丙が異動するって言ってたから引っ越しの準備をしてたのに」などと言い、隣室に敷かれてい た布団に入って数分間そこから出てこなかったところ、丙は、その間に、本件宿舎から出て、自動車で外出した。(甲41。以下、本件自殺当日における上記一連の出来事を、「本件出来事」という。)イ丙は、本件自殺当日の午後1時39分頃から同日午後3時29分頃までの間に、静岡県下田市内、同県賀茂郡β町内及び同郡α町内において、 ロープ、カッター、練炭、練炭コンロ、ビール、ライター等を購入し、その後、同日のうちに、同郡α町内の路上に停車中の普通乗用自動車内において練炭をたき、自殺した(本件自殺。前提事実⑺、乙16)。 ⑿ 丙の心身の状況等に関するその他の資料ア丙の性格についてのアンケート結果 基金の実施したアンケートの結果によれば、丙の性格等について、「明- 19 - るく誠実で、職責の自覚と勤務意欲が旺盛」、「明るく真面目で、仕事熱心」、「真面目で責任感も強いが、その反面頑固で何でも自分一人で背負い込む傾向がある」、「温厚、責任感有り、積極性あり、几帳面、愚痴や人の悪口は言わない」等の回答がされている(乙15)。 イ丙の既往歴及び飲酒の習慣 丙は、本件自殺までの間に、精神疾患に関する既往歴はなく、本件自殺の時点において治療中の精神疾患以外の疾患としては、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患のみであった。また、丙は、飲酒の習慣はあったものの、高頻度ではなく、月に0~1回程度であった。(乙17)ウ基金専門医によ 治療中の精神疾患以外の疾患としては、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患のみであった。また、丙は、飲酒の習慣はあったものの、高頻度ではなく、月に0~1回程度であった。(乙17)ウ基金専門医による医学的意見 基金において平成28年3月8日に開催された精神会議で示された丙の精神障害の発症の有無等に関する医学的意見(乙18、以下「本件医学的意見」という。)は、精神障害の発症の有無に関し、提出資料、丁及び職場関係者等の証言等から、平成24年3月上旬には、精神疾患の症状が顕在化し、何らかの精神疾患を発症していたと考えられるものの、 心の元気力チェッカーにおいて、抑うつ感がかなり悪い状態を示しており、Eの評価を受けていることなどから、平成23年11月から12月頃に既に精神疾患を発症していた可能性は否定できないと判断する一方、公務による負荷の有無に関しては、精神疾患を発症するような業務による過重性は認められず、公務による強度の精神的・肉体的負荷があった とは認められないと判断している。 2 争点1(丙の自殺と業務との因果関係[業務起因性])について⑴ 業務起因性についての基本的な判断枠組み労働者が、精神障害にり患し、自殺をした場合に、その自殺が使用者との雇用関係に基づく業務と因果関係があるといえるためには、当該精神疾患が、 当該業務に起因してり患したものと認められること、及び当該自殺が、当該- 20 - 精神疾患の症状に起因して行われたものであることの双方が認められることが必要であるところ、当該労働者のおかれた具体的状況を踏まえ、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させる程度に過重であるときは、特段の事情がない限り、精神障害の発症及びこれを原因とする死亡(自 労働者のおかれた具体的状況を踏まえ、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させる程度に過重であるときは、特段の事情がない限り、精神障害の発症及びこれを原因とする死亡(自殺)は、当該業務に内在する危険が現実化したものであると いえるから、上記因果関係が認められるものと解される。そして、このような検討に当たっては、業務による心理的負荷の有無、程度に加え、業務以外の要因による心理的負荷の有無、程度、労働者側の要因(負荷への反応性、脆弱性等)の有無、程度等の諸事情を総合的に考慮するのが相当である。 そして、本件裁決でも本件自殺の業務起因性の有無の判断に用いられた 「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年3月16日付地基補第61号理事長通達。甲19、以下「認定基準」という。)は、上記見地及び精神障害に関する医学的知見等に照らし一定の合理性を有すると認められるから、本件自殺の業務起因性の判断においても、基本的には、その内容を斟酌して検討するのが相当である。 ⑵ 丙の客観的な時間外労働時間(争点1-1)についてア業務起因性判断における労働時間該当性に関する基本的な考え方労働基準法32条における労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうものと解される。もっとも、前記⑴のとおり、労働者の自殺の業務起因性を判断するに当たっては、当該労働者の従事 する業務による心理的負荷が、精神障害を発症させる程度に過重であるか否かを検討する必要があり、労働時間も、上記心理的負荷の程度を判断するために斟酌されるものであるから、業務起因性判断の前提となる労働時間とは、上記労働基準法上の労働時間に限られるものではなく、労働者が、業務のために必要な活動(業務そ 、上記心理的負荷の程度を判断するために斟酌されるものであるから、業務起因性判断の前提となる労働時間とは、上記労働基準法上の労働時間に限られるものではなく、労働者が、業務のために必要な活動(業務そのものに留まらず、これに 密接に関連する活動等を含む。)に従事していることが客観的に明らか- 21 - であるといえるときは、使用者による明示的な時間外勤務命令に基づいているか否かや、使用者の指揮命令下に置かれているか否かといった点を問わず、これを業務起因性判断の前提となる労働時間として考慮することができる場合があると解すべきである。 イ時間外労働時間の認定に係る各争点についての検討 そこで、前記アで述べた基本的枠組みに基づいて、主張整理表1⑴アないしウの各点に関し、個別に検討する。 (ア) 労働時間認定の客観的資料(主張整理表1⑴ア)についてa 前記第2の2の前提事実によれば、静岡県警察に所属する警察官は、所定の勤務時間以外に業務に従事した時間がある場合には、その時間 外勤務時間及び従事した業務の内容等を記載した時間外勤務実績報告書を作成して提出することとされている(同⑶イ)ところ、前記1の認定事実によれば、丙も、庚交番において勤務する際、上記報告書を作成し、これを己に提出していたものである(同⑷ア及びイ)。そして、本件全証拠によっても、丙が作成した上記報告書につき、実際に は時間外勤務を行っていないにもかかわらず、これを行った旨の虚偽の報告を行っていたことをうかがわせる具体的な事情もないから、丙が作成した上記報告書に記載された、己による修正前の時間外勤務の時間は、そのいずれについても、本件の業務起因性の判断の前提となる労働時間として考慮すべきである。 的な事情もないから、丙が作成した上記報告書に記載された、己による修正前の時間外勤務の時間は、そのいずれについても、本件の業務起因性の判断の前提となる労働時間として考慮すべきである。 一方で、己は、丙が提出した上記報告書について、下田警察署署長が時間外勤務命令を行う前提として、その報告された時間外勤務の時間の一部を抹消したり、より短時間に修正したりしていること(認定事実⑷イ)に加え、上記報告書において時間外勤務として申告されていないにもかかわらず、庚交番における業務に関して作成される業務 日誌上、丙が所定の勤務時間外に業務に従事している時間が存在して- 22 - いること(同ウ)にも照らすと、丙が、所定の勤務時間外に庚交番において業務に関する活動を行っていた時間すべてを上記報告書に記載していたものではないことが推認される。この点に関し、原告らは、丙と丁との間でやり取りされていたメール等(甲6、35)を提出するところ、これらのメールについても、上記報告書や業務日誌等の証 拠関係及び当該メールの記載内容等からみて、丙が業務に従事していた際にやり取りされたことが推認されるものである場合には、当該メールは、少なくともその送受信前の丙の労働時間を認定する客観的な資料といえるから、上記場合には、当該メールによっても、丙の時間外勤務の開始時間や終了時間等を認定することができるというべきで ある。 b 上記aの判断に関して、被告は、主張整理表1⑴アの【被告の主張】のとおり主張する。しかしながら、前記⑴のとおり、業務起因性判断においては、当該業務により生じる心理的負荷の有無・程度を検討するために、労働時間が斟酌されるものであるところ、己は、あくまで、 下田警察署署長による時間外勤務命令 ⑴のとおり、業務起因性判断においては、当該業務により生じる心理的負荷の有無・程度を検討するために、労働時間が斟酌されるものであるところ、己は、あくまで、 下田警察署署長による時間外勤務命令を行う前提として、丙から提出された時間外勤務実績報告書を修正していたものであり、その修正も、自身の経験や、他の署員との公平等の観点を踏まえた極めて裁量性の強い判断のもとに行われていたものであって(認定事実⑷イ)、丙が心理的負荷を受けた時間外勤務時間について、己が上記修正を行った 後の時間外勤務時間に限定する理由はないというべきである。したがって、上記主張は採用することができない。 (イ) 当直日の休憩時間中に業務を行っている場合に時間外労働として評価すべきか(主張整理表1⑴イ)についてa 被告は、当直日の休憩時間中に業務を行っている場合でも、これを 時間外労働として考慮すべきではないとして、主張整理表1⑴イの- 23 - 【被告の主張】のとおり主張する。 しかしながら、庚交番勤務員らは、当直勤務中に休憩時間や仮眠時間を取得した場合には、勤務日誌(乙3)の「勤務時間」欄のうちの「休憩」欄に30分ごとに押印する必要があったほか、勤務時間を休憩時間に変更する等の勤務変更を行った場合には、「記事」欄にその 具体的内容を記載することとされている(前提事実⑶ア)。そして、前記1の認定事実によれば、庚交番勤務員らは、当直日の業務中、事件や事故等の事案を処理したり、職務質問、交通取締り、市民の保護等を実施した場合には、その活動等の内容に応じて、一定の書類を作成する必要があり、これらについては、基本的に、他の当直班等に引 き継ぐことはできず、所定の提出期限までに作成し、提出する必要があるとされている(同 、その活動等の内容に応じて、一定の書類を作成する必要があり、これらについては、基本的に、他の当直班等に引 き継ぐことはできず、所定の提出期限までに作成し、提出する必要があるとされている(同⑶イ)上、丙は、さらに、交番長として、同交番管内の業務状況等に関する月報等を取りまとめたり、これらを作成したりすることも必要であるとされており(同⑵)、以上の各書類は、基本的に、当直日において、上記事案の処理等や、警ら及び立番等の 活動を行っていない在所時間において作成することとなることに加え、庚交番勤務員は、当直日の夜間においては、静岡県下田市及び同県γ町の全域において業務を行う必要があるとされていること(同⑴イ)や、証拠(乙13)によれば、基金による調査の結果、当直中の休憩時間について、複数の当時の庚交番勤務員らが、休憩時間や仮眠時間 に事案等が発生した場合には、所定の上記休憩時間等を取得することが困難であった旨回答していることをも踏まえれば、丙が、休憩時間等において業務を行った場合に、常に勤務変更等をして別途休憩を取得することができるような余裕のある状況であったなどとはいえない。 そうすると、当直日の休憩時間等は、上記勤務日誌の「勤務時間」欄 の記載に基づいて認定するのが相当であり、同日誌上、休憩時間内に- 24 - 勤務を行っていると認められる場合には、これを勤務時間として考慮するのが相当である。 一方、平成23年9月から同年12月までの勤務日誌は証拠として提出されておらず、この期間内における丙の当直日における実際の休憩等の時間を直接認定する証拠はないが、基金による調査の過程にお いて、上記期間内において丙と同じ当直班に勤務していた警察官が、上記期間内の休暇取得状況につき、昼休憩については、ほぼ毎回所定 休憩等の時間を直接認定する証拠はないが、基金による調査の過程にお いて、上記期間内において丙と同じ当直班に勤務していた警察官が、上記期間内の休暇取得状況につき、昼休憩については、ほぼ毎回所定の1時間の休憩を取得できていた一方で、夜休憩(所定休憩時間2時間半)及び仮眠時間(所定休憩時間5時間)については、仮眠時間はほぼ毎回4時間程度であり、1か月に1回程度、事案等で起こされる などして仮眠時間が取れないことがあり、夜休憩についても、3回に1回程度は、2時間程度の取得にとどまっていたとの回答を行っていること(乙13、27)に加えて、平成24年1月から同年3月までの丙の休憩取得状況等に照らせば、上記期間内において、丙は、当直日において所定の休憩時間をすべて取得することができていたとはい えず、各当直日において、平均して、少なくとも所定の休憩時間等のうちの1時間30分程度は勤務を行っていたと推認するのが合理的であるから、これを前提に、各日における労働時間を認定判断するのが相当である。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 b 一方で、原告らは、主張整理表1⑴イの【原告らの主張】のとおり主張し、丙が勤務日誌の記載のとおりに休憩時間を取得することができていなかったと考えられる旨主張する。しかし、原告らが指摘する証言や、勤務日誌の記載によっても、勤務日誌における休憩時間等の表示が事実に反するとまでは直ちにはいえないし、丙の実際の休憩時 間等がどの程度であったのかを具体的に特定することも困難であると- 25 - いわざるを得ないから、前記aで認定説示したとおり、当直日における休憩時間等は、勤務日誌等に即して認定するほかはなく、上記主張は採用することができない。 (ウ) GSE 25 - いわざるを得ないから、前記aで認定説示したとおり、当直日における休憩時間等は、勤務日誌等に即して認定するほかはなく、上記主張は採用することができない。 (ウ) GSEの事前研修への参加時間及び移動時間についての労働時間該当性(主張整理表1⑴ウ)について a 前記1の認定事実によれば、丙は、平成24年に実施されるGSEの派遣メンバーに選出されていた(同⑻イ)ところ、これは、次世代のリーダー等の育成を目的としていることや、その内容についても、派遣先国における職業見学等を含むものであること(同エ)に加え、ロータリークラブが、静岡県警察に対して参加要請を行い、これに応 じ、同警察が丙を候補者に選定して、ロータリークラブに推薦したという経緯(同ア及び同イ)に照らしても、GSEの海外研修は、これを業務(公務)として取り扱うのが相当であり、実際、同警察も上記海外研修それ自体については、公務として取り扱っていたものである(同エ)。そして、丙が参加していた本件事前会合等は、その実施主 体については、静岡県警察とは異なるものの、その具体的な活動の内容(同ウ)をみても、丙が、上記業務としてのGSEの海外研修に出発するために必要な準備等の活動を行うものであるか、あるいは、丙がGSEの派遣メンバーに選出されたことにより、実施主体であるロータリークラブから、丙に対して参加を要請されていたものと認めら れ、丙としては、これに参加しないとの選択肢を採り得るものではなかったと認められる。そうであれば、丙が参加した本件事前会合等は、業務外の私的な活動にとどまるとは到底いえず、被告の業務としての性質を有するか、あるいは少なくとも、業務であるGSEの海外研修に密接に関連する活動であるということができ、これ した本件事前会合等は、業務外の私的な活動にとどまるとは到底いえず、被告の業務としての性質を有するか、あるいは少なくとも、業務であるGSEの海外研修に密接に関連する活動であるということができ、これらに参加するこ とによって生じる精神的及び肉体的な負荷は、業務による負荷として- 26 - 考慮するのが相当であるといえ、これらに参加した時間は、本件の業務起因性の判断の前提となる労働時間として考慮することが相当である。そして、丙が、本件事前会合等を公務として取り扱わない旨を承認していた(同エ)としても、これにより上記業務上の負荷が生じなくなるものではないから、上記判断は左右されないというべきである。 加えて、本件事前会合等に参加するための移動時間についても、これ自体は、使用者の指揮命令下に置かれたものとは認められないとしても、丙としては、上記会合等に参加しないとの選択肢を採り得ない以上、これに参加するために、当該交通機関等に乗車する以外の行動を選択する余地はなく、その移動時間中、一定の不自由を強いられ、 精神的及び肉体的な負荷を生じるものということができるから、上記移動時間は、少なくとも、本件の業務起因性判断の前提となる労働時間(ないしこれに準じる時間)として、考慮するのが相当である。 一方で、原告らは、丙が自宅等において行ったプレゼンテーションの準備や、英語の勉強等の準備時間についても、業務の過重性評価の 対象とすべきである旨主張するが、丙がこれらに従事した時間は証拠上明らかではなく、上記準備時間についても具体的な時間外勤務時間を特定してこれを算入することは困難であるといわざるを得ない(ただし、丙が、GSEに参加するために自宅等においても一定の準備を余儀なくされたことは、後述 上記準備時間についても具体的な時間外勤務時間を特定してこれを算入することは困難であるといわざるを得ない(ただし、丙が、GSEに参加するために自宅等においても一定の準備を余儀なくされたことは、後述するとおり、業務の質的過重性において 考慮することとする。)。 b 以上に対し、被告は、主張整理表1⑴ウの【被告の主張】のとおり主張するが、上記aで説示したところに照らして、いずれも採用できない。 ウ具体的な時間外勤務時間の認定(主張整理表1⑴エ)について 以上を踏まえ、丙の本件自殺前6か月間(平成23年9月13日から平- 27 - 成24年3月10日まで)の労働時間を認定判断すると、別紙7「丙の労働時間(裁判所認定)」(以下「労働時間表」という。)の「労働時間」欄のとおりであり、その認定根拠は、同別紙の「認定根拠」欄記載のとおりである(なお、原告が提出したメール[甲6、35]の中には、丙が、時間外勤務実績報告書[乙4]において時間外勤務が報告されてい ない日においても、庚交番に出勤して業務を行っていることを推認させるものがあるが、かかるメールのみでは、終業時間は特定し得るものの、始業時間を特定することはできないから、当該日における具体的な勤務時間を認定することはできない。)。 ⑶ 質的過重性において考慮すべき諸事情の有無(争点1-2)について 原告らは、主張整理表1⑵アないしエに掲げられている諸事情について、丙の肉体的・精神的負荷を増大させたものであり、業務の質的過重性において考慮すべきであると主張するので、以下個別に検討する。 ア連続窃盗事件の捜査による負荷(主張整理表1⑵ア)について前記1の認定事実によれば、庚交番管内において、平成23年8 いて考慮すべきであると主張するので、以下個別に検討する。 ア連続窃盗事件の捜査による負荷(主張整理表1⑵ア)について前記1の認定事実によれば、庚交番管内において、平成23年8月頃か ら、同一犯人によるものと思料される連続窃盗事件が発生しており、これについて、下田警察署においては、当初、刑事課捜査員と非番の庚交番勤務員らが共同して捜査を実施していたこと(同⑸ア及び同イ)、一方、平成24年2月、専従捜査班が編成され、同事件の捜査は基本的に同班において実施されることとなったものの、同班編成後においても、 時間外勤務として、庚交番勤務員による自主的な見回りやパトロールを行われていたこと(同イ及び同ウ)が認められる。これらによれば、同事件の捜査は、丙のみに業務上の負担が集中していたとは認められないとしても、丙が一定の時間外勤務を強いられる要因となっていたという意味で、丙の業務量を増大させたといえる上、自らが交番長を務める庚 交番管内で連続発生していたことや、基金による聞き取り調査の結果を- 28 - みても、庚交番勤務員等により、丙が同事件の捜査によってプレッシャーを受けていたと思うとの証言(甲7)、同事件が解決しないことにつき、丙が「本当に参りましたよ。」と発言していたとの証言(乙9)等が得られていることに照らしても、丙に一定の心理的負荷を与えるものということができる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵アの【被告の主張】のとおり主張する。しかし、丙が同事件の捜査により一定の心理的負荷を受けていたと考えられることは上記のとおりである。また、丙は、専従捜査班編成後も、「夜間捜査」、「非番捜査」などとの内容で時間外勤務の報告を行い、これが承認されていること(認定事実⑸ウ)によれば を受けていたと考えられることは上記のとおりである。また、丙は、専従捜査班編成後も、「夜間捜査」、「非番捜査」などとの内容で時間外勤務の報告を行い、これが承認されていること(認定事実⑸ウ)によれば、丙が同班 編成後も同事件の捜査に従事したことは明らかであるし、静岡県警察が設置している各交番においては、交番ごとに、管内で発生している事案等の解決のための問題解決活動の策定及びこれに応じた業務の実施が求められており、庚交番においても、その一環として非番捜査等の活動を行ったことがあったこと(同⑶ウ)をも併せ踏まえれば、同班編制後に 行われた上記捜査について、丙が同署の承認を得ていないのにこれを実施したとはいえず、業務外の自主的な活動に留まるとはいえないから、業務による負荷として考慮すべきでないとはいえない(なお、己は、専従捜査班編成以後、丙に対し、夜間捜査は今後必要ないから当直勤務をしっかり行って欲しいとの指示をした旨を供述している[甲40]が、上 記指摘した諸事情に照らせば、上記指示があったとしても、同交番の勤務員等が問題解決活動等の取組みの一環として自主的な捜査を行うことを制限する趣旨のものであるとはいえない。)。したがって、被告の上記主張は採用できない。 イ実習生の指導による負荷(主張整理表1⑵イ)について 前記1の認定事実によれば、丙は、平成24年2月5日以降、職場実習- 29 - 指導員への指名を受け、実習生1名との2名の班構成により業務を行っていたところ、同実習生は、一定の場合を除いて、単独で職務の執行を行うことができず、業務に従事する際は、丙による同行指導が必要であったほか、車両の運転も禁止されており、庚交番と下田警察署の間の移動等についても、丙が同行することが必要となって 、単独で職務の執行を行うことができず、業務に従事する際は、丙による同行指導が必要であったほか、車両の運転も禁止されており、庚交番と下田警察署の間の移動等についても、丙が同行することが必要となっていたこと(同⑹)が 認められる。そうすると、上記職場実習指導員への指名は、丙のみがその対象となっていたとは認められないとしても、丙にとり、上記実習生との2名での職務執行を行わざるを得なくなり、それまで分担することができていた職務を分担することが困難となること等により、業務量を増大させる要因となったといえる上、基金による聞き取り調査の結果に よれば、丙から実習生とペアを組むことがつらい旨の発言があったとの証言(甲8)や、専従捜査班に2名の庚交番勤務員が呼び上げられたことにつき、2名の呼び上げはきついと思うとの証言(甲7)が得られていること、家族に対しても、実習生との勤務が一番仕事が進まないなどと漏らしていたこと(同⑽イ)に照らしても、丙に少なからぬ心理的負 荷を与えるものであったと評価することができる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵イの【被告の主張】のとおり主張するが、上記説示したところに照らし、採用することができない。 ウ異動のための引継ぎによる負荷(主張整理表1⑵ウ)について前記1の認定事実によれば、丙は、平成24年3月期の異動に関し、下 田警察署から異動してもよいとの希望を提出していたところ、本件自殺当日までの間は、同期において異動するとの認識を有しており、週休日等に庚交番に出勤し、引継ぎのための作業を実施していた(同⑺ア及び同イ)というのであって、これらによれば、上記引継ぎ作業は、丙の業務量を増大させる要因となったといえる上、異動時期までに作業を完了 させることが必要 継ぎのための作業を実施していた(同⑺ア及び同イ)というのであって、これらによれば、上記引継ぎ作業は、丙の業務量を増大させる要因となったといえる上、異動時期までに作業を完了 させることが必要であるということに照らしても、丙に一定の心理的負- 30 - 荷を与えるものといえる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵ウの【被告の主張】のとおり主張する。しかし、丙が、週休日等に異動のための引継ぎ作業に従事していたことは、基金による聞き取り調査において複数の庚交番勤務員が証言している(甲7)上、上司である己も、同月9日、丙との間で、丙が検 挙した事案について、丙の異動時期であることを前提に、上記事案について作成すべき書類を他の勤務員に分担させるかどうかを協議したことがあり(甲40、乙25)、これによれば、己も、丙が平成24年3月期に異動するとの認識を有していたと推認されることに照らしても、丙が異動のための引継ぎ作業に従事していたことに疑いは生じない。そし て、異動のための引継ぎ作業には、被告の主張する後任者への引継書の作成及びこれに基づく引継ぎのみならず、異動することを前提とした未処理事案等の処理や、書類の整理等の作業をも含むと考えられるから、通常の業務に比して業務量を増加させる要因となったことは否定できない。よって、被告の上記主張は採用できない。 エ GSEの参加のための研修参加や事前準備による負荷(主張整理表1⑵エ)について前記1の認定事実によれば、丙は、平成24年実施分のGSEの派遣メンバーに選出され、本件自殺までの間に、その事前準備として本件事前会合等に出席したり、自宅において、プレゼンテーションの発表用資料 の作成や、パワーポイントのとりまとめ作業等を行ったりしてい ンバーに選出され、本件自殺までの間に、その事前準備として本件事前会合等に出席したり、自宅において、プレゼンテーションの発表用資料 の作成や、パワーポイントのとりまとめ作業等を行ったりしていることが認められる(同⑻イ及び同ウ)ところ、前記⑵イ(ウ)で検討したところに照らせば、上記各活動は、丙の業務の一環として、業務起因性の判断に当たってその負荷を考慮することが相当である。そして、上記各活動は、被告により、業務として取り扱われなかったこと(認定事実⑻エ)によ り、丙にとって一定の時間外勤務を強いられたという意味で、丙の業務- 31 - 量を増加させる要因となったほか、プレゼンテーションの準備等においては、慣れない外国語でこれを準備する必要があり、基金による聞き取り調査において、庚交番勤務員が、GSEの研修に参加するに当たり、外国語がしゃべれないことについて、悩みがあることを話していた旨の証言を行っていること(乙11)にも照らせば、丙にとり、一定の心理 的負荷を与えるものといえる。 これに対し、被告は、主張整理表1⑵エの【被告の主張】のとおり主張するが、上記説示したところに照らし、いずれも採用できない。 ⑷ 精神障害の発症の有無(争点1-3)についてア精神障害発症の有無に関する判断 前記1の認定事実によれば、丙は、平成23年11月30日から同年12月22日までの間に、「心の元気力チェッカー」を受検しているところ、その分析結果によれば、「心理面のストレス反応」につき「意欲」、「抑うつ感」、「燃え尽き度」及び「イライラ感」に関して「かなり悪い状態」とされた上で、最低評価の「E」と評価されており、「身体面 のストレス反応」についても、「疲労感」及び「凝り・痛み」につき うつ感」、「燃え尽き度」及び「イライラ感」に関して「かなり悪い状態」とされた上で、最低評価の「E」と評価されており、「身体面 のストレス反応」についても、「疲労感」及び「凝り・痛み」につき「かなり悪い状態」とされるなどした上で、「D」と評価されていること(同⑼ア及び同イ)、平成24年に入って以降も、複数の庚交番勤務員らが、丙の様子につき、「元気がない、ぼんやりしている」、「顔色がよくない」といった回答を行っているほか、家庭においても、食事量 が減少し、丁が用意した菓子類を食べないなど食欲が減退している状態がみられ、「制服を着て歩きたくない」とか、「自分はいい格好をしているだけだ、いい人ぶっているだけだ」などといった発言をすることがあったこと(同⑽ア及び同イ)が認められる。 これらを踏まえれば、丙には、少なくとも、抑うつ気分、易疲労性、集 中力と注意力の減退、自己評価と自信の低下及び食欲不振と評価し得る- 32 - 症状が生じていたと認めることができる。 そして、上記の経過によれば、丙の上記の各症状は、遅くとも本件自殺の直前である平成24年3月上旬頃に至るまで、2週間以上にわたって継続してみられていたと推認されることに加え、本件医学的意見においても、平成24年3月上旬には、精神疾患の症状が顕在化し、何らかの 精神疾患を発症していたと考えられるとの意見が述べられていること(認定事実⑿ウ)に照らしても、丙には、遅くとも同月上旬の時点において、うつ病エピソード等の精神疾患を発症していたと認めるのが相当である。 イ被告の主張について これに対し、被告は、主張整理表1⑶の【被告の主張】のとおり主張する。 確かに、前記1の認定事実によれば、丙は、本件自殺当 当である。 イ被告の主張について これに対し、被告は、主張整理表1⑶の【被告の主張】のとおり主張する。 確かに、前記1の認定事実によれば、丙は、本件自殺当日の直前である平成24年3月3日、同月6日、同月8日及び同月9日の各勤務日において、「健康状態等チェック表」の「自己申告の内容」欄の「業務上の 問題点」及び「投薬の有無」につき、いずれも「無」と記入していたこと(同⑽ウ)が認められ、労働時間表においても、各日において、所定の当直ないし日勤の勤務を行っていることが認められる。しかしながら、文献(甲16)によれば、うつ病の病態として不安・焦燥がみられることがあり、このような症状が優位となっている病態の場合には、何とか 仕事に赴こうとしたり、家族や周囲の人が異常に気付きにくかったりすることがあるなどとの指摘がされていることに照らせば、上記諸事情は、丙がうつ病エピソードを発症していることと整合しない事情であるとはいえない。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 ⑸ 本件自殺の業務起因性(争点1―4)について- 33 - ア業務を要因とする負荷の有無ないし程度前記⑷認定の事情によれば、丙は、遅くとも本件自殺当日の直前である平成24年3月上旬には、うつ病エピソード等の精神疾患を発症していたと認められるところ、労働時間表によれば、丙の時間外労働時間は、発症6か月前の時点では、休暇の取得等が続いたため32時間01分に とどまっているものの、発症5か月前以降は、いずれの月も70時間を超えるに至っており、そのうち3月(発症1か月前、同4か月前及び同5か月前)では、100時間を超える時間外勤務を行っていることが認められるので いるものの、発症5か月前以降は、いずれの月も70時間を超えるに至っており、そのうち3月(発症1か月前、同4か月前及び同5か月前)では、100時間を超える時間外勤務を行っていることが認められるのであって、丙の長時間労働が常態化していたものといえる(なお、前記⑵ウで説示したとおり、丙と丁とのメールのやり取りの内 容等に照らせば、始業時間が特定できなかったに過ぎず、何らかの勤務を行っていると推認できる時間が存在しており、丙の実際の時間外労働時間は、労働時間表で認定したものよりも多い可能性があることにも留意すべきである。)。とりわけ、発症1か月前の期間においては、その時間外労働時間は140時間を超えるに至っており、その具体的な労働 状況をみても、1日の週休日(平成24年2月25日)を挟んで、14日間にも及ぶ連続勤務が2回繰り返されている(同月11日から同月24日まで、及び同月26日から同年3月10日まで)上、この間、休憩時間等(ただし、この間にも急訴事案が発生した場合には業務に従事する必要があるとされている。)も含めれば拘束時間が24時間に及ぶ当 直勤務を行ったのに引き続き、非番日において夜間や深夜帯に至るまでの時間外勤務を行っていることが多数回確認できることに照らしても、特に発症1か月前の時間外勤務状況は、丙にとり、著しく心身の疲労を蓄積させる程度のものであったといえる。これらによれば、上記丙の時間外勤務の具体的状況は、直ちに、認定基準上の強度による精神的又は 肉体的負荷を与える事象とされる出来事(発症直前の1か月におおむね- 34 - 160時間を超えるような、又は発症直前の3週間におおむね120時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合、あるいは、発症直前の連続した2か月間に1月当たりおおむね120 むね- 34 - 160時間を超えるような、又は発症直前の3週間におおむね120時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合、あるいは、発症直前の連続した2か月間に1月当たりおおむね120時間以上の、又は発症直前の連続した3か月間に1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合)には該当しないとしても、丙に相当程度 の心理的負荷を与えるものであったと評価することができる。 また、そもそも、庚交番勤務員は、当直勤務中に処理した事案等に関して作成すべき書類等につき、所定の提出期限までに提出することが義務づけられており、これらの作成等のために一定の時間外勤務を余儀なくされる(認定事実⑶イ)上、丙は、庚交番の交番長の職務に従事してお り、交番長は、交番勤務員としての通常の業務に加えて、各種月報の作成や、捜査協力者に対する折衝、下田警察署において行われる各種会合、会議等への出席といった業務を行わなければならず、他の庚交番勤務員に比してその業務負担が重いと認められる(同⑵)。これらに加え、前記⑶で個別に検討したとおり、丙には、連続窃盗事件の捜査、実習生の 教育、異動のための引継ぎ及びGSE参加のための事前準備等、その業務量を増加させ、丙に心理的負荷を生じさせる複数の要因が存在しており、これらの要因は、それ単体でみれば、丙の業務の難易度を著しく高めたり、業務量を著しく増大させたりする要因となったとまでは認め難いとしても、特に発症1か月前の期間には、上記各要因が重なって生じ ており、労働時間表によれば、上記期間内における時間外労働時間数は、同2か月前から約60時間増え、140時間を超える程度に達しているというのであって、丙の業務量を大きく増加させ、丙に大きな心理的負荷を与える要因とな によれば、上記期間内における時間外労働時間数は、同2か月前から約60時間増え、140時間を超える程度に達しているというのであって、丙の業務量を大きく増加させ、丙に大きな心理的負荷を与える要因となったものと評価することができる。 以上指摘した諸事情に照らせば、丙の時間外労働の状況は、認定基準上、 強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象とされる「発症直前の1か月- 35 - 以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」に該当するか、又はこれに準じて評価すべき出来事があったと認めることができ、この出来事は、丙に対し、精神障害を発症するに足りる程度の心理的負荷を与えたものと評価するのが相当である。 イ業務外の要因による負荷の有無ないし程度本件全証拠においても、本件自殺当日の6か月前までの間に、丙やその家族等について、離婚等の身分関係の変動や、事故・事件に巻き込まれたとか、死亡・けが・病気等があったといった事情は認められないし、その他、財産の損失や収入の減少等の事情も特段認められないから、丙 が、業務外の要因により、精神障害を発症する程度の心理的負荷を受けていたと認めるに足りる事情はない。 ウ個体側の要因前記1⑿アのアンケート結果によれば、丙の性格傾向は、何でも一人で背負い込む傾向があるとされているほかは、基本的には明るく、積極性 のある性格であることがうかがわれ、丙の社会適応に問題があるとか、性格傾向に極端な偏りがある状況は認められない。また、丙に精神疾患の既往歴はなく、飲酒の習慣はほとんどなかったこと(同イ)も考慮すれば、丙に、精神疾患発症の要因となるような個体側要因 題があるとか、性格傾向に極端な偏りがある状況は認められない。また、丙に精神疾患の既往歴はなく、飲酒の習慣はほとんどなかったこと(同イ)も考慮すれば、丙に、精神疾患発症の要因となるような個体側要因の存在を認めることはできない。 エ総合的評価・結論以上を総合すれば、丙は、業務上の心理的負荷により、うつ病エピソード等の精神疾患を発症したものと認められ、この精神障害の存在以外に、丙が自殺をする原因となるような事情も証拠上見当たらないから、本件自殺は、丙の発症したうつ病エピソード等の精神疾患の影響により生じ たものと認めるのが相当である。 - 36 - したがって、本件自殺による丙の死亡と、丙の従事していた静岡県警察における業務との間には、相当因果関係があると認めるのが相当である。 オ被告の主張等について (ア) 以上に対し、被告は、主張整理表1⑷アの【被告の主張】のとおり主張する。 しかしながら、丙の業務による心理的負荷の程度が、精神障害を発症する程度に過重なものであったといえることは、前記アで説示したとおりであるから、被告の上記主張は採用することができない。 (イ) また、被告は、主張整理表1⑷イの【被告の主張】のとおり、公務外の要因として妻である丁との関係を主張する。 そこで検討するに、まず、丙と丁との夫婦仲に関して指摘する点についてみると、丙の同僚等の証言としては、丙が丁と喧嘩し、家を出されて車で一晩明かしたことがあったとか、いつも夕飯を戊が丙に本件宿舎のベランダで渡していたが、一度、丙が戊の呼びかけに応じることができなかったことがあり、その際、丁が「早く出てこいよ」と怒鳴ったこ とがあったなどというもの とか、いつも夕飯を戊が丙に本件宿舎のベランダで渡していたが、一度、丙が戊の呼びかけに応じることができなかったことがあり、その際、丁が「早く出てこいよ」と怒鳴ったこ とがあったなどというものである。そもそも前者については、単なる噂に過ぎず、そのような事実を認めるに足りる証拠はないが、仮に上記各証言のような出来事があったとしても、これらの出来事が、直ちに丙において精神障害を発症させるような程度の強い心理的負荷を負わせるものとは認められない。また、認定事実⑼からして、ストレス診断上は、 丙において、家族関係に悩みがあったことを示しているとみる余地があるとしても、そのことから直ちに、丙が丁の感情の起伏の激しさや気の強さに困惑しており、このことが精神障害を発症させるような程度の強い心理的負荷を生み出したとまで推認することはできない。 次に本件自殺当日の丙と丁とのやり取りについてみると、前記1の認 定事実によれば、同当日、本件宿舎において、同人らの間で本件出来事- 37 - が生じ、その後、丙が、同宿舎を出て、練炭、練炭コンロ、ライター等の道具を購入し、本件自殺に及んだことが認められる(同⑾)。かかる経過からして本件出来事が本件自殺の契機の1つであったとは言い得るものの、その具体的な内容をみれば、平成24年3月期に異動するとの丙の認識が誤りであったことが発覚して、丁が拒否的な反応を示したと いうもので、一時的かつ深刻とまではいえない家庭内のいさかいであるから、丙が本件自殺に及んだのは、主因たる業務により丙が精神疾患を発症していなければ説明がつかないものというほかない。そうすると、本件出来事があったことは、丙が業務上の負荷により発症した精神疾患の影響により本件自殺に及んだとの前記エの認定判断を左右しない 疾患を発症していなければ説明がつかないものというほかない。そうすると、本件出来事があったことは、丙が業務上の負荷により発症した精神疾患の影響により本件自殺に及んだとの前記エの認定判断を左右しない。 したがって、被告の主張はいずれも採用することができない。 3 争点2(被告の安全配慮義務違反の有無)について⑴ 安全配慮義務違反の有無に関する判断ア労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損 なう危険があることから、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、職務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当である(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 イこれを本件についてみるに、丙の時間外勤務の状況等を含めた労働状況が、丙に精神疾患を発症させる程度の心理的負荷を与えるものであったことは、前記2⑸ア認定のとおりであるところ、丙の上司であった己らは、丙から勤務日誌や時間外勤務実績報告書の提出等を受けていたほか、丙がGSEの準備としての事前研修等に参加していたことも認識してい たことに加え、丙が、非番日や週休日に庚交番に頻繁に出勤し、時には- 38 - 夜間や深夜に至るまで業務を行っていたことは、基金による調査の過程でも複数の庚交番勤務員が証言していること(甲7)に照らしても、己らは、丙の上記労働状況等を認識していたか、あるいは少なくとも、これらを容易に認識し得たということができる。 しかるに、己らは、丙が休暇等を取得することができ こと(甲7)に照らしても、己らは、丙の上記労働状況等を認識していたか、あるいは少なくとも、これらを容易に認識し得たということができる。 しかるに、己らは、丙が休暇等を取得することができるよう、丙の業務 量を調整する等の措置を講じた形跡は見当たらない。そればかりか、己らは、そもそも、庚交番勤務員が一定の時間外勤務を余儀なくされる場合があることや、庚交番の交番長であった丙は、他の勤務員に比して重い業務負担を負っていたことを承知していながら、連続窃盗事件の発生以後、丙を含む庚交番勤務員らに対し、一定の非番捜査に従事するよう 指示するとともに、丙がGSEの事前準備として参加すべき本件事前会合等について、これを業務として取り扱わないとの方針を採用したこと等により、特に発症5か月前以降、丙の長時間の時間外勤務を常態化させたうえに、平成24年2月、連続窃盗事件の捜査のための専従捜査班を編成するため、庚交番勤務員2名を呼び上げ、これに伴い、庚交番に おける当直班の構成を変更し、丙に、単独での職務執行を行うことができない実習生との勤務をさせることにより、丙の労働時間を更に増大させ、特に発症1か月前において、丙に、140時間を超える時間外勤務を余儀なくさせたことが認められる。 これらによれば、被告は、丙の業務の過重性を軽減し、丙の心身の健康 を損なうことがないようにするための必要な措置を講じたものとは到底認められず、上記注意義務に違反したものというべきである。そうすると、被告は、本件自殺による丙の死亡について、丙の父母である原告らに対し、国家賠償法1条1項による責任を負うと認めるのが相当である。 ⑵ 被告の主張等に関する検討 アこれに対し、被告は、予見可能性に関し、主張整理表2⑴の【被 父母である原告らに対し、国家賠償法1条1項による責任を負うと認めるのが相当である。 ⑵ 被告の主張等に関する検討 アこれに対し、被告は、予見可能性に関し、主張整理表2⑴の【被告の主- 39 - 張】のとおり主張する。 しかしながら、前記⑴アで説示したとおり、長時間労働の継続などにより疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なうおそれがあることは周知のところであり、労働者が精神疾患に罹患し、その影響により自殺に及ぶことは、上記おそれの具体的発現の一態様と いえるから、使用者は、上記のようなおそれを生じさせる原因となる危険な状態の発生そのものを回避すべき注意義務を負うものと解すべきである。そうすると、使用者が上記注意義務を負う前提としての予見可能性は、労働者が過重な業務に従事しており、その結果、当該労働者の心身の健康を損なうおそれがあることについて認識し、あるいは認識し得 たと認められれば足りるものと解され、当該労働者の具体的な健康状態の悪化を認識することが困難であったとしても、そのことのみで上記注意義務を負う前提としての予見可能性が否定されることにはならないというべきである。 丙が過重な業務に従事していたことや、そのことを丙の上司らが認識し、 あるいは容易に認識し得たことは、前記⑴イで摘示したとおりであるから、被告に上記の意味での予見可能性がなかったということはできない。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 イまた、被告は、主張整理表2⑵の【被告の主張】のとおり主張する。 しかし、前記⑴イで説示したとおり、被告は、専従捜査班の編成のため に庚交番勤務員2名を招集し、これに伴い、同交番の当直班の構成を変更し 理表2⑵の【被告の主張】のとおり主張する。 しかし、前記⑴イで説示したとおり、被告は、専従捜査班の編成のため に庚交番勤務員2名を招集し、これに伴い、同交番の当直班の構成を変更して丙に実習生との勤務を余儀なくさせることにより、結果的に丙の業務負担を増大させていることに加え、前記2⑶アで説示したとおり、被告は、同班編成後も、庚交番勤務員が一定の捜査に従事することを何ら制限せず、むしろこれによる時間外勤務を承認していることに照らし ても、被告の主張する事情により、被告が丙の心身の健康に配慮すべき- 40 - 安全配慮義務を尽くしたとは到底評価することができない。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 4 争点3(損害の発生及びその数額)について⑴ 慰謝料原告ら各人につきそれぞれ100万円本件自殺により、原告らは、息子である丙を亡くしたものであること、丙 の本件自殺当時の年齢、被告の過失の内容その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告らに生じた精神的苦痛に対する慰謝料としては、原告ら各人につきそれぞれ100万円を認めるのが相当である。 ⑵ 弁護士費用原告ら各人につきそれぞれ10万円本件訴訟の経緯、前記⑴の認容慰謝料額を考慮すると、被告の過失と相当 因果関係のある弁護士費用としては、原告ら各人につきそれぞれ10万円を認める。 第4 結論よって、本件各請求は、原告ら各人につきそれぞれ110万円(及び附帯請求)の限度で理由があるからその限度で認容し、その余の請求はいずれも理由がない から棄却し、併せて仮執行宣言及び同免脱宣言を付することとして、主文のとおり判決する。 広島地方裁判所福山支部 裁 、その余の請求はいずれも理由がない から棄却し、併せて仮執行宣言及び同免脱宣言を付することとして、主文のとおり判決する。 広島地方裁判所福山支部 裁判官清水俊貴 裁判官牛濵裕輝 裁判長裁判官曳野久男は、退官のため署名押印することができない。 - 41 - 裁判官清水俊貴- 42 - 別紙2交番長の職務 ・署地域(指導)係長の補佐・所管区活動計画の策定、一所管区一事案解決運動等の重点の選定及び推進要領 の調整・交替制勤務を異にする交番班長等勤務員相互間の意思の疎通及び融和・協調の促進・所管区内のコミュニティーリーダー、関係機関、団体等との連絡調整・交番班長間の引継ぎの方法等についての調整 ・交番班長の職務 (交番班長の職務)・所管区内における事件事故の処理等実践的な地域警察活動の推進・勤務場所を同じくする勤務員(以下「相勤者」という。)に対する実践的な指 揮監督及び指導教養(巡査長又は巡査の班長においては、助言指導)・勤務員相互間の意思の疎通及び融和・協調の促進・相勤者の勤務及び事務処理の調整・当該交番の施設、装備資器材、書類等の保守及び管理・勤務交番における勤務員交替時の引継ぎ
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