平成17年9月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(行ウ)第46号難民不認定処分取消請求事件口頭弁論終結日平成17年7月14日判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求被告が,原告に対し,平成16年7月5日付けでした難民不認定処分を取り消す。 第2 事案の概要(以下,年号については,本邦において生じた事実は元号を先に,本邦外において生じた事実は西暦を先に表記する。)本件は,イラン・イスラム共和国(以下「イラン」という。)国籍のクルド人である原告が,イラン国内でのクルド人の民族運動を支援する活動に従事したことを理由に,本国において逮捕され,拷問を受けたことがあり,今後も本国において迫害を受ける危険性が高いなどと主張して,出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前のもの。以下,条文を示すときは「法」といい,法律名を示すときは「入管難民法」という。)61条の2第1項に基づいて難民認定申請をしたところ,被告から難民不認定処分を受けたため,同処分の取消しを求めた抗告訴訟である。 1 前提となる事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実等)(1) 当事者等ア原告は,1963年(昭和38年)4月12日,イランのクルディスタン州ゴルベにおいて出生したイラン国籍を有するクルド人である。 イ被告は,法61条の2に規定する難民の認定をすることができる権限を有する者である。 (2) 本邦への入国の経緯及び不法残留等の状況ア原告による最初の不法残留原告は,平成3年(1991年)12月18日,成田空港から「短期滞在(90日)」の在留資格で本邦入国後,在留期限である平成4年(1992年)3月25日を超えて本邦に不法残留した。その後,原告は,東京入 告は,平成3年(1991年)12月18日,成田空港から「短期滞在(90日)」の在留資格で本邦入国後,在留期限である平成4年(1992年)3月25日を超えて本邦に不法残留した。その後,原告は,東京入国管理局に出頭し,平成5年(1993年)12月11日,成田空港からイランに向けて自費出国した(乙2,7)。 イ原告による今回の不法残留原告は,平成12年(2000年)3月9日,イラン人妻子3人とともに関西国際空港において上陸許可期限を上陸許可後72時間とする寄港地上陸許可(法14条1項)を受けて2回目の本邦上陸をしたものの,同月12日午後4時16分までの上記期限を超えて本邦に不法残留した(乙2)。 (3) 入管難民法に基づく手続ア強制退去手続関係(ア) 原告は,平成15年(2003年)11月18日,法23条1項違反(旅券不携帯)容疑で愛知県千種警察署により現行犯逮捕された(乙2)。 (イ) 原告は,平成16年(2004年)1月30日(以下,特に表記しない限り,年次については「平成16年(2004年)」を指す。),名古屋地方裁判所において,法70条1項7号違反の罪で禁錮1年2月,執行猶予3年の判決を受け,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国警備官は,同日,法24条6号違反容疑で名古屋入管主任審査官から発付された1月28日付けの収容令書を執行して,原告を名古屋入管収容場に収容した(甲C19,乙3)。 (ウ) 名古屋入管入国警備官は,1月30日,原告について法27条に基づく違反調査を実施し,原告を法24条6号該当容疑者として,名古屋入管入国審査官に引き渡した(乙5)。 (エ) 名古屋入管入国審査官は,1月30日及び2月13日,原告に対して法45条1項に基づく違反調査を実施し,その結果,同日,原告が法24条6号に該当する旨認定し,原告 査官に引き渡した(乙5)。 (エ) 名古屋入管入国審査官は,1月30日及び2月13日,原告に対して法45条1項に基づく違反調査を実施し,その結果,同日,原告が法24条6号に該当する旨認定し,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,認定に服し,法48条1項に規定される口頭審理の請求を放棄し,口頭審理の請求をしない旨記載された文書に署名した(乙6ないし10)。 (オ) 名古屋入管主任審査官は,同月16日,原告について退去強制令書を発付した(乙11)。 (カ) 原告は,同月2日,帰国準備等を理由として仮放免許可申請を行ったところ,名古屋入管主任審査官は,同月19日,法54条2項に基づき,原告に対して,仮放免を許可した(乙12,13)。 (キ) 原告は,自費出国予定であったものの,3月24日の自費出国予定日に出国せず,同月26日,仮放免期間満了となったため,同月30日,名古屋入管収容場に再収容されたが,10月8日,再度の仮放免を許可された(甲C25,乙11,14,15)。 イ難民認定申請手続(ア) 原告は,仮放免期間中の3月22日,被告に対し,難民認定申請をした(以下「本件申請」という。乙17ないし19)。 (イ) 名古屋入管難民調査官は,4月8日,同月9日及び6月10日,法61条の2の3第2項に基づき,原告から事情を聴取するなどの事実の調査を行った(乙20ないし22)。 (ウ) 被告は,7月5日,本件難民申請に対し,不認定処分(以下「本件不認定処分」という。)をし,同月13日,これを原告に告知した(甲C34,乙23)。 (エ) 原告は,同月15日,本件不認定処分を不服として,法61条の2の4に基づき,被告に対し,異議の申出をした。 2 本件の争点(1) 法61条の2第2項本文の申請期間(いわゆる60日ルール。以下「60日ルール」という。)が, 不認定処分を不服として,法61条の2の4に基づき,被告に対し,異議の申出をした。 2 本件の争点(1) 法61条の2第2項本文の申請期間(いわゆる60日ルール。以下「60日ルール」という。)が,難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)及び憲法98条2項に違反し無効か否か。 (2) 原告に,法61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」があるか否か。 (3) 原告が難民条約上の難民であると認められるか否か。 (4) 本件不認定処分において理由付記義務違反があるか否か。 (5) 本件不認定処分において調査義務懈怠があるか否か。 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(60日ルールが難民条約及び憲法98条2項に違反し無効か否か。)について(原告の主張)ア 60日ルールが難民条約等に違反するものであることについて60日ルールは,「難民」の実体要件の一つと解される以上,難民条約に反して無効である。すなわち,我が国の入管実務においては,60日ルールは,難民であっても申請期間を経過した者は,原則として難民と取り扱わないとするものであるから,実体上の難民性について,難民条約には存在しない要件を独自に加重するものであり,難民概念の変更を一切禁止する難民条約42条,条約の遵守を定める憲法98条2項に反し,無効である。 イ 60日ルールの不合理性について(ア) 60日ルールが難民条約の目的に反すること60日ルールを手続要件と解し,手続要件をどのように定めるかについては,難民条約上,各批准国に一定の裁量が認められるとしても,国際法の一般原則上,上記裁量は無制約なものではなく,難民条約の目的に照らし,合理的なものでなければならない。 そして,難民を保護すること及び難民に可能な限り権利と自由を保障することという難民条約の目的からみて,背理となる 裁量は無制約なものではなく,難民条約の目的に照らし,合理的なものでなければならない。 そして,難民を保護すること及び難民に可能な限り権利と自由を保障することという難民条約の目的からみて,背理となるような手続要件は,それだけで合理的ではないとの推定が働く。この点,60日ルールは,難民条約上の難民を難民と認めず,国籍国への送還を許容するものであるから,難民条約の目的からみて背理であって,合理的なものとはいえない。 (イ) 60日ルールの合理性を支える根拠がないことこの点について,被告は,60日ルールの趣旨として,①難民となる事実が生じてから長期間経過後に難民認定申請がされるとその当時の事実関係を把握することが著しく困難になり,適正かつ公正な難民認定ができなくなること,②迫害を受けるおそれがあるとして我が国に庇護を求める者は,速やかにその旨を申し出るべきであること,③我が国の国土面積,交通・通信機関,地方入国管理官署の所在地等の地理的,社会的実情からすれば,60日という期間は申請に十分な期間と考えられることなどを主張する。 しかし,以下のとおり,これらの事情は,60日ルールの合理性を支える理由とはならない。 a まず,①については,時の経過とともに過去の事実についての調査等が困難になるとの一般論は肯定するとしても,難民は一朝一夕に難民となるわけではなく,国籍国における政治活動の積み重ねや,歴史的経緯と治安悪化の結合などにより難民となるのが通常であって,我が国に入国後,数年内に申請がされている限り,申請の遅れにより,当時の事実関係を把握することが著しく困難になるという事態が生じることは想定できない。したがって,申請に60日という極めて短期間の期限を設ける理由はない。 また,難民性の認定は,過去の事実を評価する作業ではなく,申請者が国籍国あるいは常 難になるという事態が生じることは想定できない。したがって,申請に60日という極めて短期間の期限を設ける理由はない。 また,難民性の認定は,過去の事実を評価する作業ではなく,申請者が国籍国あるいは常居所国に戻った場合に迫害を受けるおそれがどの程度あるかを予測する作業である。したがって,過去の事実の調査が困難になることは,60日ルールを支える合理的根拠とならない。 b また,②については,難民は,速やかに難民認定申請すべき義務を負うものではない。すなわち,申請者は,我が国の言語,文化及び難民認定制度の実情に通じておらず,難民認定申請の準備も不十分なまま逃亡してきたのであり,仮に我が国が申請者の生活保障に配慮し,その身柄を拘束することを一切せず,そのような運用が周知徹底されればともかく,そうでない限り,身柄拘束や強制送還の危険を冒してまで,入国後速やかに難民認定申請することを期待することはできない。 c さらに,③については,我が国の国土面積や交通,通信機関などの条件にかんがみれば,60日以内に申請すること自体は可能であろうが,申請者の準備不足や心情,我が国の難民認定申請者に対する過酷な対応,難民認定申請に通じた専門家が限られていることなどの諸条件に照らせば,60日という期間制限は短期にすぎ,非現実的である。 d なお,入管難民法は,今般の改正(平成16年法律第73号による改正)によって60日ルールを廃止することになったが,これが合理的なものであると主張するならば,何故に廃止されるに至ったかを考えるべきである。 (ウ) 以上から,60日ルールは,難民条約の目的達成のため合理的な制度であるとはいえず,難民条約上,我が国に認められた手続要件の制定に関する裁量権を逸脱するものであり,無効である。 (被告の主張)原告の主張は争う。 60日ルールは,以下 の目的達成のため合理的な制度であるとはいえず,難民条約上,我が国に認められた手続要件の制定に関する裁量権を逸脱するものであり,無効である。 (被告の主張)原告の主張は争う。 60日ルールは,以下のとおり,難民条約,憲法98条2項(以下「難民条約等」という。)に違反するものではない。 ア 60日ルールが難民条約等に違反しないことについて(ア) 難民認定手続をどのように定めるかは締約国の裁量事項であること難民条約及び難民の地位に関する議定書(以下「難民議定書」という。)は,難民の定義及び締約国が採るべき保護措置の概要についての規定を置くものの,難民認定手続を定めるか否か,また,定めるとした場合にどのように定めるかについては,各締約国の裁量に委ねている。そして,国家はその国の事情に応じた法律を制定し得るのと同様,難民認定手続をどのように定めるかについても,難民条約締約国の立法政策上の問題であり,そもそも条約違反の問題が生じる余地はない。 各締約国において定められた難民認定手続が,難民条約及び難民議定書の規定や趣旨及び各締約国の実情を勘案して定められた合理的な制度である限りは,仮に当該締約国の難民認定制度によって,難民として認定されない難民条約上の難民が生じ得るとしても,そのこと自体から,直ちに当該締約国の難民認定制度が難民条約及び難民議定書に違反するものではない。 (イ) 被迫害者の庇護権また,国家の権利としての庇護権,すなわち,本国から迫害を受け,又は受ける明白な危険があるために外国に逃れ,又は外国政府の庇護を求める者がいる場合に,かかる被迫害者を受け入れて保護することを内容とする国の権利は,国際慣習法上確立しているといわれているものの,被迫害者の庇護権,すなわち,被迫害者が,国家に対して庇護を求める権利は,いまだ国際慣習法上確立した概念 を受け入れて保護することを内容とする国の権利は,国際慣習法上確立しているといわれているものの,被迫害者の庇護権,すなわち,被迫害者が,国家に対して庇護を求める権利は,いまだ国際慣習法上確立した概念とはなっておらず,これについての一般条約も存在しない。難民条約及び難民議定書も被迫害者の庇護権に関する規定を置いておらず,難民に庇護を求める権利までは保障していない。 (ウ) 難民の滞在の合法性さらに,難民条約は,難民が一定の保護措置を享受する前提条件として,難民の滞在が合法的であることを求めており(難民条約第3章参照),締約国に対し,不法に在留する難民の滞在を認めることを義務づける条文もない。 このことは,難民条約も,外国人の入国及び在留については,国の主権的権限に基づいて決せられるべきであるという国際法上確立した考えに何ら変更を加えていないことの表れである。すなわち,国際慣習法上,外国人の入国及び滞在の許否は,当該国家が自由に決し得るものであり,条約等の特別の取り決めがない限り,国家は外国人の入国又は在留を許可する義務を負うものではないのであり(最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁),難民条約もかかる国際慣習法を何ら変更していないのである。 したがって,難民であっても,自分の希望する国に入国することが当然に認められるわけではなく,また,在留することが当然に認められるものではないから,難民を受け入れ,難民条約上の保護を与えるかどうかは,結局,各締約国が主権的判断に基づいて決定すべき事項であり,難民条約も,結果として,締約国に入国できず,難民認定申請もできないという事態が発生することを認めているのである。 (エ) 小括以上から,難民条約は,難民認定申請に期間制限を設けることを絶対的に禁止しているとはおよそ考えられず に入国できず,難民認定申請もできないという事態が発生することを認めているのである。 (エ) 小括以上から,難民条約は,難民認定申請に期間制限を設けることを絶対的に禁止しているとはおよそ考えられず,したがって,我が国が難民認定申請に申請期間の制限を設けたとしても,それ自体が,難民条約等に違反するものとはいえない。 なお,難民条約42条及び難民議定書7条は,締約国が,条約上の難民の定義(難民条約1条,難民議定書1条)に対して留保を付することを認めていないところ,「留保」とは,条約法に関するウィーン条約2条1項(d)において,「国が,条約の特定の規定の自国への適用上その法的効果を排除し又は変更することを意図して,条約への署名,条約の批准,受諾若しくは承認又は条約への加入の際に単独に行う声明(用いられる文言及び名称の如何を問わない。)をいう。」と定義されているものであって,我が国は,難民条約及び難民議定書を締結するに当たり,難民の定義について,かかる留保をしていないのであるから,難民条約及び難民議定書に違反すると解する余地はない。 イ 60日ルールの合理性について法61条の2第2項本文が,60日以内に難民認定申請をしなければならないと定めているのは,①難民となる事実が生じてから長期間経過後に難民認定申請がされると,その当時の事実関係を把握するのが著しく困難となり,適正かつ公正な難民認定ができなくなること,②迫害を受けるおそれがあるとして我が国に庇護を求める者は,速やかにその旨を申し出るべきであること,③我が国の国土面積,交通・通信機関,地方入国管理官署の所在地等の地理的,社会的実情からすれば,60日という期間は申請に十分な期間と考えられることなどを理由とする。しかも,同条項ただし書は,申請期間の例外として,申請期間の経過に「やむを得ない事情」が の所在地等の地理的,社会的実情からすれば,60日という期間は申請に十分な期間と考えられることなどを理由とする。しかも,同条項ただし書は,申請期間の例外として,申請期間の経過に「やむを得ない事情」があるときは,60日の申請期間経過後の申請を認めており,法務大臣は,申請期間経過後の申請に対しては,「やむを得ない事情」の有無について判断することとなっている。 ところで,難民は,難民条約上,「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」者とされ,ここにいう「迫害」とは,「通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧」を意味し,また,「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,「当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要である。」と解されている。 したがって,難民に該当する者は,その恐怖から早期に逃れるため,速やかに他国の庇護を求めるのが通常であり,我が国の地理的,社会的実情に照らせば,このような者が,難民認定申請をすべきか否かについての意思を決定し,入国管理官署に出向いて手続を行うには,60日という申請期間は十分であると考えられる。そうすると,速やかに難民認定申請をしなかったという事実自体,その者の難民非該当性を物語っているというべきであり,実際上は,難民条約に該当する難民でありながら,申請期間内に難民認定申請をしないというケースはほとんど考えられない。 ウ小括以上から,法61条の2第2項の規定は,難民条約及び難民議定書の規定や趣旨に照らして合理的な制度であり,同項の規定の適用によって法務大臣による難民認定を受け ケースはほとんど考えられない。 ウ小括以上から,法61条の2第2項の規定は,難民条約及び難民議定書の規定や趣旨に照らして合理的な制度であり,同項の規定の適用によって法務大臣による難民認定を受けられない条約上の難民が理論上生じ得ることは,難民条約等に違反するものではない。 (2) 争点(2)(原告に,法61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」があるか否か。)について(原告の主張)仮に,60日ルールが難民条約等に違反する無効なものではないとしても,原告には,以下のとおり,法61条の2第2項ただし書にいう「やむを得ない事情」が認められるから,原告のした本件申請は適法である。 アやむを得ない事情の判断基準について難民認定申請をすることは,日本語を解さず,また,通常,難民認定申請のための支援を受けられない者にとって,知識面及び情報面において困難を伴う上,難民認定申請をすることが,国籍国との決別を意味すること,難民不認定処分を受けた場合には,本邦から強制送還される事態を招くことといった事情から,難民にとって容易には決断し難いものである。それどころか,難民であれば,まず異国における平穏な生活を確保することに精一杯となり,強制送還などの副作用をもたらしかねない難民認定申請を速やかに行うことは通常期待し難い。 法61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」は,このような現状を基に合理的に緩やかに解釈すべきであり,病気,交通の途絶等の客観的な事情により物理的に入国管理官署に出向くことができなかった場合に限らず,本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決定することが,出国の経緯,我が国の難民認定制度に対する情報面や心理面における障害の内容と程度,証明書類等の所持の有無及び内容,外国人の解する言語,申請までの期間等を総合的に検討し,期間を の意思を決定することが,出国の経緯,我が国の難民認定制度に対する情報面や心理面における障害の内容と程度,証明書類等の所持の有無及び内容,外国人の解する言語,申請までの期間等を総合的に検討し,期間を経過したことに合理的理由があり,入国後速やかに難民としての庇護を求めなかったことが必ずしも難民でないことを事実上推認させるものではない場合をいうと解すべきである(東京高等裁判所平成15年2月18日判決・判時1833号41頁)。 イやむを得ない事情の存在について(ア) 原告は,身に危険が迫り,急遽家族と共にイランを出国したものであり,日本での難民認定申請を準備することなどできようはずもなかった。また,原告は,かつて日本に2年間滞在しただけで,日本語をほとんど解さず,今回の入国以降,難民認定申請をするための適切な情報提供や支援は一切受けられなかった。そして,原告は,入国後約1年が経過した時点で,通訳業を営む知人のAから60日ルールについて教えられ,来日後60日を経過しての難民申請が困難であることを知った。このように,原告が60日ルールを知りながらこれを無視したという事情は存在しておらず,言語面,情報面において,60日以内に難民認定申請することは不可能であった。 (イ) 原告は,難民認定申請することによって強制送還が誘発されることをおそれるとともに,障害者の妻と未成年子2名から成る家族の養育を先決と考え,生活費や子供の教育費を捻出するため働くことを余儀なくされた。原告にとって,入国後の数年間は,家族に平穏で安定的な生活を確保するために必要な期間であり,ある程度生活が安定すると今度は,どうしても難民認定申請を急ぐ必要はなくなっていたのである。 したがって,原告が入国後60日以内に難民認定申請をすることは,原告の心理状態からしても期待し難いものであった。 度生活が安定すると今度は,どうしても難民認定申請を急ぐ必要はなくなっていたのである。 したがって,原告が入国後60日以内に難民認定申請をすることは,原告の心理状態からしても期待し難いものであった。 (ウ) 原告が,初めて真剣に難民認定申請を検討したのは,逮捕された平成15年(2003年)11月以降である。原告は,その前年の冬,B行政書士を紹介され,オーバーステイが長期に及んで不安定な地位を憂えたことから,在留特別許可について相談したが,難民認定申請については,相談すらしていない。 原告は,家族のため長期の身柄拘束は避けなければならなかったところ,原告代理人から,難民認定申請をした場合,10か月以上の身柄拘束につながる場合があることを説明されたため,同申請には消極的となった。また,原告には,仮に日本に残れなくともドバイへのビザを取得すれば,イランへの強制送還を免れることができるとの考えもあって,長期の身柄拘束の危険を冒してまで難民認定申請することはできなかった。 原告は,刑事事件の裁判の後,入国管理局に収容されたが,帰国準備のためであることを理由に仮放免を得た。このとき,原告は,これ以上の長期間の収容を回避し,名古屋空港発ドバイ経由テヘラン空港行きの航空機を利用することで,事前に入手していたドバイへの入国ビザを利用してドバイに入国し,イランへの強制送還を回避しようと考えていたからである。 しかし,入国管理局が,ドバイ経由の航空機の予約では仮放免は認められないとして,原告の家族に対し,シンガポール経由の航空機を予約し直すよう指示したため,これに従って航空券の予約が変更された。原告は,平成16年(2004年)2月19日に仮放免された後になって,上記経緯からドバイへの入国が不可能になっていたことを知り,イランへの強制送還を免れるためには,長期の収容 空券の予約が変更された。原告は,平成16年(2004年)2月19日に仮放免された後になって,上記経緯からドバイへの入国が不可能になっていたことを知り,イランへの強制送還を免れるためには,長期の収容の危険を冒してでも難民認定申請をするしかないと決意するに至った。 (エ) 以上から,原告が,本邦に入国後難民認定申請をするまで約4年を要したことには合理的な理由があり,入国後速やかに難民としての庇護を求めなかったことは,難民ではないことを推認させるものではない。 したがって,原告の難民認定申請は,「やむを得ない事情」が存するものとして適法である。 (被告の主張)原告の主張は争う。 ア 「やむを得ない事情」の意義について法61条の2第2項が,60日以内に難民認定申請を行わなければならないとする理由は前述したとおりであるところ,同条項ただし書にいう「やむを得ない事情」とは,我が国に上陸した日又は我が国にある間に難民となる事由が生じた場合にあってはその事実を知った日から60日以内に難民認定申請をする意思を有していた者が,病気,交通の途絶等の客観的事情により物理的に入国管理官署に出向くことができなかった場合のほか,本邦において難民認定の申請をするか否かを意思決定するのが客観的にも困難と認められる特段の事情がある場合をいうと解すべきである。 したがって,「やむを得ない事情」に,手続の不知や恐怖,申請の準備といった申請者の主観的・客観的事情を含めるような緩やかな解釈は,法が難民認定申請について期間制限を設けた趣旨を没却するというべきである。 イやむを得ない事情の不存在について(ア) 60日ルールについて知らなかったとの主張について原告の主張する「やむを得ない事情」とは,①原告が,日本に来た時点では60日以内に申請する必要があることを知らなかったこと,②迫 存在について(ア) 60日ルールについて知らなかったとの主張について原告の主張する「やむを得ない事情」とは,①原告が,日本に来た時点では60日以内に申請する必要があることを知らなかったこと,②迫害を逃れて安定した生活が確保できたので,それでよいと思っていたこと,③60日ルールがあると知っていれば直ちに申請していたことなどであるが,これらは要するに,原告が難民認定申請制度の詳細を知らなかったというものであり,このような法律の不知という主観的事情をもって,申請期間内に難民認定申請することが客観的に困難と認められる特段の事情があるとはいえないことは明らかである。また,生活が安定するまでは難民認定申請をしないとの考えは,難民認定申請をすることが客観的に困難と認められる特段の事情ということはできない。 (イ) 日本語を解さなかったとの主張について原告は,過去に2年間日本に滞在し,自ら入国管理官署に出頭し,退去強制手続を受けていること,今回,日本に上陸する前に日本の社会や文化についていろいろと勉強していたと供述し,上陸した後逮捕されるまでの間,日本社会で何ら支障なく生活していたことなどに照らせば,本件申請当時,原告が日本語を全く解さなかったとは認め難いところであるが,仮に,原告に日本語で会話する能力がなかったとしても,入国後速やかに何らかの手段で日本政府当局に庇護を求めようとするのが通常であるし,また,何らかの意思疎通の手段により,それを行うことが十分に可能であると認められるから,原告が主張する言語面の問題も,申請期間内に申請することが客観的に困難であると認められる特段の事情とは認められない。 (ウ) 原告の判断能力について原告は,自らの刑事手続において,イランでの秘密警察による追及により判断能力が低下していたと供述しているが,仮に秘密警察によ と認められる特段の事情とは認められない。 (ウ) 原告の判断能力について原告は,自らの刑事手続において,イランでの秘密警察による追及により判断能力が低下していたと供述しているが,仮に秘密警察によって追及された経験があるとしても,それは日本上陸の半年前のことであり,これによって我が国において難民認定申請ができなかったとは認められない。 (エ) 小括以上のとおり,原告には「やむを得ない事情」が存在するとは認められない。 (3) 争点(3)(原告が難民であると認められるか否か。)についてア難民の意義(「迫害」の解釈について)(原告の主張)難民とは,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するため,その国籍国の保護を受けることを望まないもの及び常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないものをいう。 そして,ここにいう「迫害」とは,単に生命・身体への危害のみならず,精神的危害をも含むと理解すべきであるし,教育的差別等の差別であっても含まれ得ると解すべきである。このことは,国際連合難民高等弁務官事務所(以下「UNHCR」という。)の難民認定基準ハンドブックに記載されているほか,実質的にも,難民条約が「世界人権宣言が,人間は基本的な権利及び自由を差別を受けることなく享有するとの原則を確認していることを考慮し」(前文)て協定されたものであり,迫害概念から精神的危害を除去する理由はないこと,心理的支配の手段である恐怖感や威圧感にさらされながらの生活を強いられる者に対し,国際的庇 確認していることを考慮し」(前文)て協定されたものであり,迫害概念から精神的危害を除去する理由はないこと,心理的支配の手段である恐怖感や威圧感にさらされながらの生活を強いられる者に対し,国際的庇護を与えることは「難民問題の…人道的性格」(前文)に適することからも根拠づけられる。 また,「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」とは,迫害を受けるおそれがあると考えることについて相当の客観的な根拠があることをいうところ,難民条約が,難民性を「迫害を受けるおそれ」によって定義づけせず,「迫害を受けるおそれがあるという……恐怖」によって定義づけしていることに照らすと,その判断は,申請者の主観的事情を中心に吟味すべきである。確かに,迫害のおそれが全くなければ,「十分に理由のある恐怖」が認定されることもないであろうが,それはあくまで主観的事情において要件を満たさないというだけであって,客観的事情の不存在故に不認定とされるのではない。通常人が,申請人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情については,独立に検討すべき必要性はあるとしても,それは,「十分に理由のある恐怖」という主観的事情が,申請者の内心領域にあり直接認定することが困難であるからにすぎず,最終的には主観的事情に収れんしていくべき要件である。 (被告の主張)原告の主張は争う。 入管難民法の定める難民とは,難民条約1条又は難民議定書1条により難民条約の適用を受ける者をいう(2条3号の2)ところ,これらの規定によれば,難民とは,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有す 員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するため,その国籍国の保護を受けることを望まないもの及び常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないものをいうとされている。 そして,ここにいう「迫害」とは,「通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体ないしその自由の侵害又は抑圧」を意味し,「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,申請人が「迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が申請人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要」と解すべきである(東京地方裁判所平成元年7月5日判決・行裁集40巻7号913頁,東京高等裁判所平成2年3月26日判決・行裁集41巻3号757頁)。 イ難民であることの立証責任について(原告の主張)難民性の立証責任の所在については,申請者である原告が一定の主張責任を尽くすことを条件に,難民非該当性の立証責任が被告に転嫁されると解すべきである。 (ア) 判断の誤りによる重大な結果迫害を受け,あるいは受けるおそれがあることによって,母国を出国した者については,経験則上,十分な客観的証明資料を所持していることを期待できず,出国してからも,これらの資料を収集するための協力を得ることが困難であることが多いと考えられる。そうすると,難民性が真偽不明の場合が想定されるところ,かかる場合にその不利益を申請者に課して国籍国へ強制送還することは,仮に不認定処分・強制送還が 協力を得ることが困難であることが多いと考えられる。そうすると,難民性が真偽不明の場合が想定されるところ,かかる場合にその不利益を申請者に課して国籍国へ強制送還することは,仮に不認定処分・強制送還が誤っていた場合,重大な人権侵害を引き起こすことが容易に予想できるから,上記のような考えを正当化することができない。 (イ) 証拠との距離難民性の認定に必要な証拠資料の一部については,被告が収集することに困難を伴うことがあるのは否定しないが,申請者にとっても客観的資料の収集が困難であることは同様である。申請者の体験に係る具体的事実や心情などの主観的資料については,申請者の供述が基本的かつ唯一の資料となろうが,これは被告が容易に入手し得る。その他,申請者の国籍国の一般的人権状況や海外の同種事案に関する難民認定の実情に関する資料については,被告の収集能力が申請者のそれをはるかに上回る。 このように,難民性の認定に必要な資料は,複数の類型に分けられ,そのうち,申請者の証拠収集能力が,被告である法務大臣のそれを上回っているものは存在しないといってよい。したがって,被告にとって,資料の収集が困難であることを必要以上に強調するのは誤った見方である。 (ウ) 灰色の利益の法理と受益者負担原則一般論として,利益を受ける者がその要件を立証すべきものであることは否定しないが,刑事被告人が無罪という利益を受けるためにその立証責任を負うということがあり得ないのと同様,難民認定制度の性質に応じた立証責任の負担を考慮すべきである。 しかるところ,難民を誤って難民と認定しないことは,難民を迫害国へ強制送還することを意味し,取り返しのつかない結果をもたらすことになるから,誤った不認定とすることのないよう万全を期すべきである。また,申請者は,根拠資料を収集する能力が乏しいなど,難 民を迫害国へ強制送還することを意味し,取り返しのつかない結果をもたらすことになるから,誤った不認定とすることのないよう万全を期すべきである。また,申請者は,根拠資料を収集する能力が乏しいなど,難民性を立証することが困難な状況に置かれている。さらに,日本は,難民条約を批准し,難民庇護義務を負っており,難民性を適切に認定することは,日本の国際的な義務でもある。 以上によると,誤った難民不認定を回避するため,「疑わしきは申請者の利益に」という原則を導入し,難民性が真偽不明の場合は申請者に有利に難民と判断すべきであり,難民非該当性の立証責任は被告にあると解すべきである。 (エ) 難民認定ハンドブックの解釈UNHCRの難民認定基準ハンドブックによれば,難民性の立証責任について,①原則として申請人の側にあるが,②関連するすべての事実を確認して評価する義務は,申請人と審査官との間で分かち合うことになるとされていることからも,申請者が一定の主張責任を尽くすことによって,難民非該当性の立証責任が被告に転嫁されると解すべきである。 (オ) 難民条約31条1項ただし書被告は,難民条約31条1項ただし書が,難民性の立証責任が申請者にあることの根拠となる旨主張する。 しかし,同項ただし書は,「不法に入国し又は不法にいることの相当な理由を示すことを条件とする。」としているにとどまるから,主張責任について定めたものと解すのが相当であり,そうでないとしても「相当な理由」とある以上,これが難民性の立証責任の所在まで定めたものとは解されない。 (カ) 小括以上のとおり,申請者が一定の主張責任を尽くすことを条件として,難民非該当性の立証責任は被告に転嫁されると解すべきである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 ある者が難民に該当するか否かを確認する難民の認定は,難民条約上 一定の主張責任を尽くすことを条件として,難民非該当性の立証責任は被告に転嫁されると解すべきである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 ある者が難民に該当するか否かを確認する難民の認定は,難民条約上の「難民」の定義に照らし,申請人各人について,その申請内容の信ぴょう性を吟味し,各人の抱える個別の事情に基づいてなされるべきものであるところ,いかなる手続を経て難民の認定がなされるべきかという点については,難民条約又は難民議定書には規定がないから,難民条約又は難民議定書を締結した各国の立法政策にゆだねられており,我が国においては,入管難民法がこれを規定している。 そして,法61条の2第1項は,申請者の提出した資料に基づいて法務大臣がその者を認定することができる旨規定し,法61条の2の3第1項は,申請者の提出した資料のみでは適正な難民の認定ができないおそれがある場合その他必要がある場合に,法務大臣が,難民調査官に事実の調査をさせることができる旨規定している。これらの規定からすると,我が国においては,難民認定申請者が,まず,自ら宗教等を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること,すなわち宗教等を理由に申請者が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いている主観的事情があり,かつ,通常人が申請者の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情も存在していることを認めるに足りるだけの資料を提出することが必要であるとするのが,入管難民法の趣旨であるというべきである。 このように,入管難民法は,申請者に対し,難民であることを立証する責任を負わせているということができるが,そもそも,難民認定申請は,申請者が,自己の便益を受けようとする行為なのであるから,申請者において,かかる有利な結果を得るために,難民該当性を積極的に立証しな 任を負わせているということができるが,そもそも,難民認定申請は,申請者が,自己の便益を受けようとする行為なのであるから,申請者において,かかる有利な結果を得るために,難民該当性を積極的に立証しなければならない立場に置かれるのは当然のことであり,難民条約31条1項ただし書もかかる法理を明らかにしているところである。 また,実質的に考えても,およそ難民該当性の判断に必要な出来事は,外国において,しかも秘密裏になされたものであることが多いから,これらの事実の有無及びその内容については,それを直接体験した申請人がもっともよく主張し得る立場にあるのに対し,被告である法務大臣は,それらの事実について資料を収集することがそもそも困難である。 したがって,法61条の2第1項が,申請人自身において,迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有することを証明すべきものとしたのは,合理的な方法というべきである(東京高等裁判所平成14年10月30日判決・公刊物未搭載。乙24)。 ウ原告の難民性について(原告の主張)(ア) イランにおけるクルド人の状況についてa クルド人は,中東地域の3大先住民族の一つであり,その祖先と考えられているメディア人がアッシリア帝国の首都を陥落させた紀元前612年は,クルド暦元年とされている。その後,クルド人の居住するクルディスタン地域は,他民族によって相次いで征服されたが,やがてトルコ人王朝であるオスマン帝国と,ペルシャ帝国によって分断支配を受けるようになった。19世紀に入ると,オスマン帝国の中央集権強化に反発するクルド人は反乱を起こすようになり,ペルシャ帝国内でもクルド人国家樹立を目指す民族運動が活発化した。第一次世界大戦後の1920年(大正9年),戦勝国と敗戦国オスマン帝国との間で締結されたセーブル条約では,クルド 乱を起こすようになり,ペルシャ帝国内でもクルド人国家樹立を目指す民族運動が活発化した。第一次世界大戦後の1920年(大正9年),戦勝国と敗戦国オスマン帝国との間で締結されたセーブル条約では,クルド人の自治が規定されたが,ケマル・パシャの率いる青年トルコ党がオスマン帝国を倒したことを受けて新たに締結されたローザンヌ条約では,セーブル条約が無効とされ,その結果,北クルディスタンはトルコ共和国に,西クルディスタンはフランス統治下のシリアに,東クルディスタンはペルシャ帝国に,南クルディスタンはイギリス統治下のイラクに,それぞれ併合あるいは残置され,現在に引き継がれている。 b 東クルディスタン,すなわち現在のイラン北西部においては,1920年(大正9年)から1925年(大正14年)にかけて,イスマイル・アー・スィムコが反乱を起こしたが,1930年(昭和5年),パーレビ王朝によって,暗殺された。その後も,クルド人らの抗議行動は継続したが,1942年(昭和17年),イランクルド人はクルド復興委員会を結成して民族運動を展開し,1945年(昭和20年)には,イランクルディスタン民主党(KDP-I)を結成した。同党は,1946年(昭和21年),ソ連軍の進駐を利用してマハバド共和国(クルディスタン人民共和国)を樹立したが,イラン軍の侵攻によって崩壊し,大統領と閣僚らは処刑された。 c パーレビ王朝は,1979年(昭和54年),アヤトラ・ホメイニによって打倒され,イランイスラム共和国が樹立されたが,その際,クルド人は,ホメイニの行動に協力し,自治権の確立を目指したところ,ホメイニは,このような動きを「イスラム革命に対する反革命」とするファトワを出し,KDP-Iを非合法化するとともに,イラン軍を使ってクルディスタンへの総攻撃を開始した。 このような情勢を見て,イ ろ,ホメイニは,このような動きを「イスラム革命に対する反革命」とするファトワを出し,KDP-Iを非合法化するとともに,イラン軍を使ってクルディスタンへの総攻撃を開始した。 このような情勢を見て,イラクのフセイン大統領は,1980年(昭和55年),イランへの侵攻を開始し,イラン・イラク戦争が始まった。この戦争中,クルド人らは,複雑な情勢に置かれたが,イランのクルド人たちは,イラン政府との戦闘を継続した。1988年(昭和63年)に同戦争が終結した後も,イラン政府によってKDP-Iの指導者らが暗殺されている。 d 現在,クルド人は,イランにおける宗教的少数者(スンニ派)であるとともに,民族全体の悲願として固有の自立した国家を樹立したいという志向が強く,イランにおいては,クルド人であることだけで罪とされる傾向があり,さらに反政府活動に従事する者は,法的な手続を経ないまま長期間の身柄拘束や拷問,刑罰を科されることもある。 (イ) KOMALA(以下「コマラ」という。)についてコマラは,正式名称をイランクルディスタン革命的労働者機構といい,1967年(昭和42年)ころに設立された後,イラン政府に対する軍事活動を展開した。コマラは,1981年(昭和56年)に他の政治組織と統合してイラン共産党を結成し,クルディスタン支部を形成したが,やがて,元のコマラを復活させた派,イラン共産党にとどまった派,イラン労働者共産党を結成した派などに分裂した。 コマラは,サナンダジュを中心に活動するゲリラ部隊を擁する政治組織であり,①自由,②国家的迫害の根絶,③中央政府による抑圧的官僚的支配の根絶,④クルド人による固有の独立国家の設立,⑤クルディスタンにおける政治的権利と社会正義の拡大,⑥イラン国民の意思によって統治し,イランクルド人労働者の利益を反映・保障する民主的政府の 僚的支配の根絶,④クルド人による固有の独立国家の設立,⑤クルディスタンにおける政治的権利と社会正義の拡大,⑥イラン国民の意思によって統治し,イランクルド人労働者の利益を反映・保障する民主的政府の創設を最終目標としているが,他の反政府組織よりはるかに過激であり,KDP-Iの革命委員会が妥協に転じた後も,イラン政府との戦闘継続を主張した。また,コマラは,その思想に親和的なマルクス主義が無神論を唱えているため,イスラムの一体化の理念を掲げる12イマーム派のシーア派を基盤とするイラン政府に敵視されたことから,特に迫害の対象となった。コマラの活動家については,多くの逮捕・死刑の報告があるし,コマラの支援者についても一斉摘発され,場合によっては死刑に処せられ,そうでなくとも相当数の不当逮捕,拷問,投獄が報告されている。 以上のように,コマラ支援者は,イラン国内にあっては,一度政府に疑いをかけられるや,不当な逮捕や拷問さらには恣意的な裁判手続による刑事罰を受けるおそれがあるのであり,これらはいずれも迫害というに十分である。 (ウ) 原告とコマラの関わりについて原告は,1回目の日本滞在からイランに帰国した1993年(平成5年)12月,イラン政府がシーア派を仕事や地位の面で優遇したり,コマラ党員がイラン政府に拘束された後に消息不明になったことなどに憤りを覚え,コマラを支援することを決意し,ゴルベにおいて,山岳地帯でゲリラ戦を展開していたコマラのために,2年間にわたって毎月1回程度,食料を調達し,ゲリラ部隊の輸送役に渡していた。 このように原告は,コマラの一支援者にすぎないが,イランにあっては,クルド人の独立運動に関連して,コマラの一般党員や支援者はもとより,学生やマスメディアまでが身柄を拘束されて尋問や拷問にさらされていたことは明らかであるし,同国では司法 すぎないが,イランにあっては,クルド人の独立運動に関連して,コマラの一般党員や支援者はもとより,学生やマスメディアまでが身柄を拘束されて尋問や拷問にさらされていたことは明らかであるし,同国では司法と行政が一体化しており,司法が独立して有効に機能する状況にないから,コマラの支援者である原告の難民性を論じるに当たって,イラン政府によって原告がコマラ支援者として個別に把握されていることまでをも必要とするものではない。 (エ) 原告の迫害歴について原告は,仕事の関係でイランと韓国との間を行き来していたが,1999年(平成11年)秋ころ,韓国からテヘラン空港に戻った際,イランの情報機関に逮捕され,情報機関の施設内において,クルド人の反政府活動との関わりについて厳しく追及された。この逮捕は7日間程度のものであったが,手錠をかけられて逆さ吊りにされたり,殴られたり,強い光を目に照射されるなどといった拷問を受けた。 原告は,イラン人の知人が自宅を担保にして保証金を支払ってくれたために釈放され,裁判を待つ身となったが,裁判をおそれ,所在不明とするために引っ越しをした。しかし,その後,原告と活動が近接していたコマラ支援者が逮捕され,コマラとの関係や構成員の情報を自白したとの情報を受け,さらに長女の通学先に原告の住所を調べようとする不審人物が現れるに至ったため,原告は,逮捕が迫っていることを知り,出国を決意した。原告は,テヘラン空港からトルコとの国境にあるレザイヤという町に行き,陸路トルコ入りして航空券を入手し,韓国を経て日本に入国した。 なお,原告は,難民認定手続における事実の調査の過程等で,自己の迫害歴として,情報機関による家宅捜索の後,エヴィン刑務所に9か月間拘束されたと供述し,本件においてもその旨主張していたが,これは,自己の難民性を強調するための虚偽 おける事実の調査の過程等で,自己の迫害歴として,情報機関による家宅捜索の後,エヴィン刑務所に9か月間拘束されたと供述し,本件においてもその旨主張していたが,これは,自己の難民性を強調するための虚偽のものである。しかし,これも難民特有の心理状態等から出たものであり,その余の原告の供述の信用性を低下させるものではない。 (オ) 旅券の所持と難民性とは無関係であることについて難民認定申請者が,真正な旅券を所持していようとも,かかる事実は難民性とは何ら関係のないことである。このことは,難民法理及び国際難民裁判例,さらに国内の難民認定実務及び裁判例に照らして明らかである。 (カ) 小括以上のとおり,コマラ支援者は,イランにおいて反政府活動を行っており,その関係者は,クルド人という人種,特定の社会的集団であること,クルド人の独立国家の樹立を目指して政府と対決するという政治的意見を有していることを理由に,身柄拘束や死刑などの人権侵害を受ける常況にある。 そして,原告は,現にコマラの支援活動を行っていたところ,イラン政府の情報機関によりそれが原因と見られる逮捕を受け,拷問も加えられていること,再度逮捕される可能性があることから,原告がコマラ支援者であることは,イラン政府の把握するところとなっている可能性が高い。このような現状では,原告が,イランに戻るや,イラン政府に逮捕され,その身柄拘束が長期に及び,再度拷問を受け,革命裁判所による無法な裁判により刑務所に収容されることも容易に想定されるところである。 したがって,原告が,「人種,宗教,特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」者であることは明らかである。 (被告の主張)原告の主張のうち,イランクルド人の多くがスンニ派のイスラム教 あること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」者であることは明らかである。 (被告の主張)原告の主張のうち,イランクルド人の多くがスンニ派のイスラム教徒であること,イランクルド人の中にはイランからの独立を求めて反政府活動を行う者がいること,イラン政府がイスラムの一体化の理念を掲げる12イマーム派のシーア派を基盤としていること,コマラが軍事能力を持つ組織として現在もイラン国内で反政府活動を継続していること,コマラの指導的メンバーの中には,身柄を拘束されたり死刑に処せられた者がいること,以上の事実は認めるが,その余は争う。 原告は,以下で主張するとおり,「難民」には該当しない。 (ア) クルド人及びイスラム教スンニ派であることを理由とする迫害を受けるおそれがないことa イラン憲法の規定についてイラン憲法19条によれば,イランでは民族,種族,人種,言語等による差別は禁止されている。また,同憲法12条によれば,宗教についても,イランの国教は,イスラム教・12イマーム派のジャアファル学派であるが,イスラム教の他の学派であるハナフィー学派,シャーフィイー学派,マーリク学派,ハンバル学派,ザイド派は完全に尊重され,これらの宗派の信徒が行う宗教活動は有効とされており,特にスンニ派については国教でこそないものの,同じイスラム教の学派として完全に尊重され,信教の自由が保障されている。 b イランにおけるスンニ派ムスリムへの迫害がないこと米国国務省レポート(2004年(平成16年)2月25日)によれば,国民は,ほぼ99パーセントがイスラム教徒で,その89パーセントがシーア派,10パーセントがスンニ派(その大部分がトルコマン人,アラブ人,バルーチー人,クルド人)であるとされており,イランにおいてスンニ派ムスリムは ーセントがイスラム教徒で,その89パーセントがシーア派,10パーセントがスンニ派(その大部分がトルコマン人,アラブ人,バルーチー人,クルド人)であるとされており,イランにおいてスンニ派ムスリムはシーア派ムスリムより少数ではあるが,国民の10人に1人はスンニ派ムスリムであるといえ,その宗教人口はイランにおいて2番目である。 また,上記レポートによれば,スンニ派の中には,政府からの差別を主張するものもあるが,少なくともイランにおいて,スンニ派ムスリムが,そのことを理由として迫害を受ける状況にあるとは認められない。 c イランにおけるクルド人の迫害はないこと確かに,クルド人の自治を求める反政府組織の指導者や,これを支持する武装勢力のメンバーであれば,政府当局から逮捕・勾留され,場合によっては死刑になる等の危険性があることは否定できないと思われる。しかし,イランにおいて単にクルド人であることを理由として迫害を受けるおそれはない。 すなわち,イランにおいては,クルド人は,ペルシャ人,トルコ系イラン人に次ぐ人口を有し,全国民の9パーセントを占めているところ,英国内務省移民局の報告(2003年(平成15年)10月)によれば,イスラム政権は,自治を求めるクルド人反体制派指導者(特にイランのクルド人民主派であるKDP-Ⅰとマルクス主義のコマラ),並びにこれを支持する武装勢力に対しては極めて強硬な態度で臨んでおり,イラン軍はクルド人居住地域に常駐し,地域のイラク・クルド民主党メンバーの活動を監視しているものの,クルド人はイランの民間及び公共の経済分野や,軍及び民間施設など,国民生活のあらゆる場で見かけられるとされている。 また,上記報告書によれば,イランにおいて,クルド語による公教育はまだ行われていないものの,政府は,クルドの文化表現を奨励しており,クルド語 設など,国民生活のあらゆる場で見かけられるとされている。 また,上記報告書によれば,イランにおいて,クルド語による公教育はまだ行われていないものの,政府は,クルドの文化表現を奨励しており,クルド語による授業に助成金を提供しているとの国連特別報告者からの報告もあるとのことであり,クルド語による出版物の数は増加し,クルド語によるテレビ放送制限の見直しについても話合いが始まっている。さらに,親クルド政党を結成することはできないものの,独立候補として議席を保有するクルド人国会議員も何人かいる。 米国国務省レポート(2004年(平成16年)2月25日)によっても,クルド人は中央政府に対して自治権の拡大を求め,相変わらず政府の差別を受けているとはされているものの,近年では,クルド文化の表現の拡大が認められ,いまなお公立学校ではクルド語での教育は行われていないものの,クルド語の出版物や放送が拡大されてきたと報告されている。 さらにデンマーク移民局の派遣した(2000年(平成12年)9月9日から同月17日)調査団の報告書によっても,イランにおいては,たとえば,学校においてクルド語が使用されていないといった政府当局による差別は存在するものの,イランのクルド人が政府当局によって迫害される状況にはないとされている。 d 以上のとおり,イランにおいて,イスラム教スンニ派であること,クルド人であることを理由として迫害を受けるおそれを認めることはできない。 (イ) 原告がイランにおいて迫害を受けるおそれがないことa 原告のイランにおける生活状況について原告の供述によれば,クルド人は,公職への登用,仕事での採用,大学への入学等について差別を受けるものの,運転免許の取得,高校までの教育などでは差別はなく,迫害も受けないなど,イランにおいて平穏に,むしろかなり裕福な生活を ルド人は,公職への登用,仕事での採用,大学への入学等について差別を受けるものの,運転免許の取得,高校までの教育などでは差別はなく,迫害も受けないなど,イランにおいて平穏に,むしろかなり裕福な生活を送っていたことがうかがわれる。 さらに,原告の両親や兄弟などの家族についても,イランにおいて何ら差別を受けることなく,平穏に生活していると認められる。 b 原告によるコマラ支援活動について原告は,今回の本邦入国後,一般のイラン人に対しクルド人であることや自己の有する政治的な見解を明かしたことはなく,クルド人としての政治活動を行ったこともないのであり,原告が本国出国後の出来事を理由に,本国政府から反政府活動者として個別具体的に把握されているとは認められない。 また,原告は,今回の本邦入国以前のコマラに対する支援活動についてるる供述するが,支援活動についての供述内容が非常に漠然としており,コマラのメンバーであったのか,韓国からの送金を何回行っていたのかなどといった重要な部分において齟齬が生じており,これについての合理的な理由はなく,そもそも原告が,コマラに対して支援を行っていたかについてもはなはだ疑わしい。 仮に,原告の供述に一部真実が含まれていたとしても,原告の行ったとされるコマラへの支援活動は,山岳地帯にいたゲリラに対する食料の差し入れや韓国からコマラに対して送金したという程度のものであり,原告のような,コマラに対する一支援者にすぎない者に対してまで迫害を行っているとの国際的な報告も見当たらないのであって,原告が,イラン政府からコマラに対する支援活動を理由に個別に把握され,イラン当局から迫害を受けるおそれがあるということはできない。 c 原告のイラン本国において受けた迫害について原告は,当初,イランにおいて,政府の情報機関により家宅捜索を受けた上 由に個別に把握され,イラン当局から迫害を受けるおそれがあるということはできない。 c 原告のイラン本国において受けた迫害について原告は,当初,イランにおいて,政府の情報機関により家宅捜索を受けた上,約9か月間,エヴィン刑務所に収容され,原告の行動やコマラとの関係を問い質された旨供述し,本件においてもその旨主張していたが,後にこれを虚偽であったとして撤回している。 この点について,たとえ難民申請者特有の心理的要因があったとしても,原告が主張する迫害事実の核心部分について明らかに意図的な虚偽の供述を行うことについて合理的な理由は見い出せない。結局,原告が本国において受けたとする迫害に関する供述は全体として信用できない。 また,原告は,今回本邦へ入国する以前に本国政府から受けた迫害についてるる供述するが,その供述内容は,そもそも刑務所において1年近くもの間拘束されたことにあるのか,空港で逮捕され,その後6日間にわたって拷問を受けたことにあるのかなど,非常に重要な部分において,その時々で齟齬があり,また,一方で原告は刑務所に約11か月間拘束され,その後1年間出国禁止になったと述べているにもかかわらず,他方で,1998年(平成10年)に入りしばらくして釈放されたが,尾行されていると感じたため,イランを出る計画を立て,そのための資金を韓国で稼ぐべく,韓国との往復をしばらく続けていたと述べるなど,相互に矛盾する供述を繰り返しているのであり,このような供述の変遷や供述相互間の矛盾については何ら合理的な説明がつかず,そもそも原告が本国において迫害を受けたとの供述には信ぴょう性が認められない。 d 本件難民認定申請に至る経緯等について原告は,本邦への入国以前に韓国やトルコへの渡航歴を有しながら,これらの国においては,何ら難民認定申請を行っていないばかりか, には信ぴょう性が認められない。 d 本件難民認定申請に至る経緯等について原告は,本邦への入国以前に韓国やトルコへの渡航歴を有しながら,これらの国においては,何ら難民認定申請を行っていないばかりか,今回の本邦入国後も不法就労を続け,原告名義の自動車が事故を起こしたことがきっかけで退去強制手続を受けることとなったところ,ここにおいても,当初,本国に帰国する意思を表明していたのであり,原告が主張するような過酷な迫害体験を有する者が,退去強制手続において帰国意思を表明することは経験則上信じ難く,原告が,真に本国での迫害体験を有していたとは思われない。 e 原告がイラン本国において,何度も旅券の発給を受けていること原告は,本国において,迫害を受けたと称する時期以降も含め,今回本邦に入国するまでに10冊もの旅券の発給を受け,観光旅行も含め,約70回も外国との出入国を繰り返し,今回の本邦入国後には,在日イラン大使館において旅券の更新まで受けている。 ところで,米国国務省レポート(2004年(平成16年)2月25日)によれば,イラン政府は,徴兵年齢の男性と,政治的に疑わしい市民に対しては,外国旅行に出国許可を要求し,海外から帰国する市民は,時に海外での反政府活動の証拠を見つけようとする政府当局の検査や尋問の対象とされ,デンマーク移民局の派遣した調査団の報告書によれば,イランにおいて政府当局との間に何らかの問題を有する者が旅券の発給や更新を受けたり,合法的に出入国することは非常に困難であることが明らかである。 したがって,多数回の出入国を繰り返していた原告が,イラン政府との間に何らかの問題を抱えていたとは到底思われず,原告が難民でないことが明らかである。 (ウ) 小括以上のとおり,原告が本国において迫害を受けるおそれがあるとは認められず,原告が難民に該当し 政府との間に何らかの問題を抱えていたとは到底思われず,原告が難民でないことが明らかである。 (ウ) 小括以上のとおり,原告が本国において迫害を受けるおそれがあるとは認められず,原告が難民に該当しないことは明らかである。 (4) 争点(4)(本件不認定処分における理由付記義務違反の有無)について(被告の主張)ア本件不認定処分の理由について本件不認定処分は,原告の申請に対し,「1 あなたは,本国において反政府活動を行ったとされる日以降,あなた自身名義の旅券で合法的に本国を出国し,また,本邦において旅券の有効期間の延長を受けていること」,「2 あなたの提出した資料及び供述からは,帰国した場合迫害を受けるおそれがあるとは認められないこと」等からすれば,原告の申立てを裏付けるに足りる十分な証拠があるとは認め難く,原告が難民であるとは認められないこと,及び,原告の難民認定申請は,法61条の2第2項所定の期間を経過してなされたものであり,かつ,同項ただし書の規定を適用すべき事情も認められないことを理由としてなされたものであることが明確である。 イ理由付記として十分であること一般に,法律が行政処分に理由付記を要求している趣旨は,「処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たもの」であり,理由付記に当たりどの程度の記載をすべきかは,「処分の性質と理由付記を命じた各法律の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべき」であるとされている(最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁)。 本件不認定処分は,原告の申立てを裏付けるに足りる十分な証拠があるとは認め難く,原告には難民該当性が認められないこと,及び,原告の難民認定申請が法61条の2第2項所定の期間 巻4号617頁)。 本件不認定処分は,原告の申立てを裏付けるに足りる十分な証拠があるとは認め難く,原告には難民該当性が認められないこと,及び,原告の難民認定申請が法61条の2第2項所定の期間を経過してされたものであり,かつ,同項ただし書の規定を適用すべき事情も認められなかったことを理由としてされたものであるところ,上記のとおり,原告に交付した通知書の理由欄にはそのとおり記載されているのであるから,処分の理由は明白である。したがって,処分庁の恣意が抑制され,原告に対して不服申立てについての便宜が図られていると認められるので,理由付記の程度としては十分であり,何ら違法はない。 (原告の主張)被告の主張は争う。 ア法律上要求される理由付記の程度について行政処分に付すべき理由の程度については,処分の性質と理由付記を命じた各法律の趣旨・目的に照らしてこれを決すべきであるところ,難民不認定処分において誤りがある場合には,申請者が,強制送還後,迫害を受け重大な人権侵害に直面することとなり,取り返しのつかないこととなるため,単に財産的損害をもたらす違法な行政処分の場合とは比べものにならないほど,処分庁の判断の慎重・合理性を担保し,その恣意を抑制する必要性が高い。 したがって,処分庁には,より具体的な判断過程を明らかにする義務があるというべきであり,最低限,難民認定申請者が難民性を基礎づけるものとして主張する具体的事由に対応して,その結論に到達した過程を明らかにすることが求められているというべきである。 イ本件における理由付記の在り方について(ア) 本件申請が,難民性及び法61条の2第2項ただし書のやむを得ない事情があることにつき,相当具体的かつ詳細な内容を有していたこと原告は,難民認定申請において,申立書のほか,陳述書等の複数の資料を提出し 本件申請が,難民性及び法61条の2第2項ただし書のやむを得ない事情があることにつき,相当具体的かつ詳細な内容を有していたこと原告は,難民認定申請において,申立書のほか,陳述書等の複数の資料を提出しており,これらによれば,反政府活動や迫害体験のほか,迫害を受けるおそれが存することにつき合理的根拠が記載されており,難民性を推認させるだけの基本的事実が示されていた。 また,60日ルールの不知や安定した生活の確保など,法61条の2第2項ただし書にいうやむを得ない事情をうかがわせる事情についても示されていた。 (イ) 処分庁が付すべき理由a 被告としては,上記のように,反政府組織であるコマラを支援したことで逮捕等の迫害を受けたと主張している原告につき,難民ではないと結論づけるためには,①コマラ支援者には迫害がないとするか,②原告がコマラ支援者であるとは信用できないとすることが必要である。しかし,本件不認定処分においては,コマラについて何ら言及されておらず,これでは,コマラがイランにおいて迫害されている実態を無視して難民不認定処分をすることができる結果ともなり,処分庁の恣意を抑制することはできなくなる。 したがって,本件では,本件不認定処分の理由として,コマラのイランにおける立場とコマラへの支援を主張する原告への迫害のおそれについて,具体的にどのように判断したのかを明示することが必要であり,入管難民法が要求する理由付記の水準であるというべきである。 b また,被告は,本件不認定処分の理由として,原告が,旅券を取得し合法的に出国していることを挙げているが,前述のとおり,真正な旅券を所持すること自体は,難民性を否定する理由にはならないと解すべきである。本件不認定処分の理由としては,抽象的な旅券の所持等ではなく,具体的な難民性に関する判断過程を示さなければ のとおり,真正な旅券を所持すること自体は,難民性を否定する理由にはならないと解すべきである。本件不認定処分の理由としては,抽象的な旅券の所持等ではなく,具体的な難民性に関する判断過程を示さなければならない。 ウ小括以上から,本件不認定処分には理由が付記されておらず,取り消すべき違法事由が存在するというべきである。 (5) 争点(5)(本件不認定処分における調査義務懈怠の有無)について(被告の主張)ア難民性の主張立証責任の所在について前述のとおり,法61条の2第1項及び法施行規則55条1項の文理解釈,難民認定処分は,本質的には事実の確認の性質を有するが,難民認定を受けることが他の利益的取扱いを受けるための法律上の要件となっていること(法61条の2の5,同条の2の6,同条の2の8),さらに,難民認定のための資料との距離という観点からみても,これを直接体験した申請者がもっともよく知る立場にあることなどの事情によれば,申請者に,自らが難民であることの資料の提出義務と立証責任が課されていることは明らかである。 このように難民不認定処分は,申請者が自ら難民であることを立証できなかったため行われる処分であることから,その提出した資料等から難民ではないと確認される場合と難民であるとも難民でないとも確定的には確認できない(真偽不明)場合との双方を含む概念である。 イ法61条の2の3第1項の事実の調査について法61条の2の3第1項は,当該外国人から「提出された資料のみでは適正な難民の認定ができないおそれがある場合その他難民の認定又はその取消に関する処分を行うため必要がある場合には,難民調査官に事実の調査をさせることができる」と規定し,難民認定処分を適正に行うための事実の調査権限を被告に付与している。 同項の趣旨は,申請者が迫害のおそれから逃れて庇護 うため必要がある場合には,難民調査官に事実の調査をさせることができる」と規定し,難民認定処分を適正に行うための事実の調査権限を被告に付与している。 同項の趣旨は,申請者が迫害のおそれから逃れて庇護を求めるについて客観的資料を十分に所持していないことが少なくないことにかんがみ,難民であるか否かの認定に供される資料の不足を補うために,申請者から提出された資料のみによって認定するのではなく,「事実の調査」をすることができるものとし,これを被告自らが行うのではなく,難民についての専門的知識を有する難民調査官に調査させることができることとして,被告によるより適正な認定を可能にしようとしたものであって,個々の申請者の利益保護を目的として設けられているものではない。このように,同項は,難民認定の調査権限を被告に付与したもので,被告に難民認定の調査義務を課したものではないことは,同項が「調査をさせることができる」と規定していることからも明らかである。 仮に,法61条の2の3第1項を根拠として,被告である法務大臣に難民認定に関する事実の調査義務があることを肯定し,その結果,被告が調査していない事項について,調査義務を果たしておらず,調査が不十分であるとして法務大臣の職務上の法的義務違反を肯定するとすれば,立証責任を,事実上,被告に転嫁するに等しい結果となり,同項の解釈を誤るものといわざるを得ない。 以上のとおり,被告には難民性に関し一定の調査義務が課せられているものではないから,被告がこれを懈怠したとの原告の主張は,その前提を欠くというべきである。 (原告の主張)被告の主張は争う。 ア難民性の立証責任の所在について前述のとおり,誤った難民不認定処分が重大な人権侵害をもたらすことに照らすと,難民性の主張立証責任に関しては,申請者が一定の主張責任を尽くすこ 被告の主張は争う。 ア難民性の立証責任の所在について前述のとおり,誤った難民不認定処分が重大な人権侵害をもたらすことに照らすと,難民性の主張立証責任に関しては,申請者が一定の主張責任を尽くすことで被告に転嫁されると解すべきである。 イ被告の調査義務とその懈怠についてこのような理解を前提とすると,被告において,申請者自身の供述やその提出資料に照らし,必要な範囲での調査を行う義務があると解すべきである。 被告としては,まず,申請者の供述や提出資料の内容を評価し,その信用性についての検討をするとともに,補充調査の必要性やその範囲を判断すべきこととなるが,その際,調査の対象となっているものが,日本人とは異なる言語的,社会的,政治的,文化的背景を有する外国人であることや国籍国における迫害から逃れ,見ず知らずの国において難民認定申請をする者の特殊な心理状態に照らし,通常の人間と同様の合理的行動を行うとは限らないことに十分留意すべきである。すなわち,申請者の供述等を評価し,吟味するに当たっては,表面的,形式的な検討の結果生じた矛盾点や疑問点を基に供述等の信用性を排斥するのではなく,これら矛盾点等が通訳の過程,言語感覚や常識の相違,難民特有の記憶の混乱などによって生じた可能性にも配慮し,慎重に検討しなければならないというべきである。したがって,被告としては,申請者のおかれた特殊な状況に正当な配慮をした上で,その供述や提出資料について公正かつ慎重な評価,吟味を加え必要があれば補充的な調査を遂げた上で,難民該当性についての判断を行うべき義務がある。 この点,被告は,法務大臣に難民認定のための資料を収集する義務を負わせると,難民認定手続上,法務大臣に過重な負担を課すこととなるなどと主張する。しかし,わが国の難民認定申請数は諸外国と比較しても圧倒的に少な 被告は,法務大臣に難民認定のための資料を収集する義務を負わせると,難民認定手続上,法務大臣に過重な負担を課すこととなるなどと主張する。しかし,わが国の難民認定申請数は諸外国と比較しても圧倒的に少なく,被告が憂慮するような事態は生じ得ない。仮に法務大臣の負担が重くなったとしても,それは,難民条約批准国の合理的負担である。 しかるところ,被告は,原告からの事情聴取により判明した原告に有利と思われる事項について何ら裏付け調査を行わないまま,本件不認定処分を行ったものであって,上記調査義務を懈怠した違法が存するというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(60日ルールが難民条約及び憲法98条2項に違反し無効か否か)について前記前提事実によれば,本件申請は,原告が本邦に入国してから約4年経過した後にされたものであり,これが,法61条の2第2項本文の定める60日の難民認定申請期間を経過してされたものであることは明らかであるところ,原告は,この60日ルールが難民条約等に違反する無効なものであると主張するので,この点について判断する。 (1) 難民の概念について難民条約及び難民議定書によれば,難民とは,難民条約1条A(1)に規定する者のほか,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」及び同様の立場にある無国籍者をいうとされている(難民条約1条A(2),難民議定書1条2項)ところ,わが国の入管難民法は,難民につき,難民条約1条の規定又は難民議定書1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいうと定 無国籍者をいうとされている(難民条約1条A(2),難民議定書1条2項)ところ,わが国の入管難民法は,難民につき,難民条約1条の規定又は難民議定書1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいうと定義し(法2条3号の2),難民条約及び難民議定書と難民概念の一致を図っている。 (2) 難民認定手続の設定に関する締約国の裁量についてところで,難民条約等の締約国が,ある者を難民として扱うためには,その論理的前提として,その者が実体的に上記の難民に当たるとの判断が先行するはずであり,したがって,その認定のために何らかの手続を設ける必要があることはいうまでもない。しかるところ,難民条約等は,難民の定義,法的地位,締約国による好意的待遇等について規定するものの,各締約国において,いかなる手続によって難民を認定するかについては,何ら規定していない。 その趣旨は,主権国家は,国際慣習法上,外国人の自由な入国,滞在を許容すべき一般的義務を負うものとはされておらず,むしろ,難民条約が,前文において宣言しているとおり,「難民に対する庇護の付与が特定の国にとって不当に重い負担となる可能性のあること」を考慮し,締約国がその主権の行使として,当該締約国の国情に応じた難民認定手続を定めることを許容したものと解される。そして,難民条約上も,同じ難民であっても,その滞在,居留が合法であるか否か等によって,その保護の程度に差が設けられているのも,国際社会において,外国に不法に入国,在留することは一般的に許容されていないとの共通認識に基づいて,難民に対しても,この規範の遵守を要求することは,決して不当ではない(難民条約2条参照)との考慮に基づくと考えられるのであって,以上のことからすれば,実体的には難民である者からの難民認定申請について,締約国により,手続要件の不遵守を理由に とは,決して不当ではない(難民条約2条参照)との考慮に基づくと考えられるのであって,以上のことからすれば,実体的には難民である者からの難民認定申請について,締約国により,手続要件の不遵守を理由に,その滞在等が合法的なものではないと判断される可能性は,難民条約等上も当然に予定されていると考えられる。したがって,どのような難民認定手続を設けるかは,基本的には当該締約国の立法裁量の問題であると解される。 もっとも,手続はあくまで実体的要件の存否の的確な判断に資するためのものであるから,難民該当性を認定するための手続要件が実質的に不可能を強いるものであり,手続要件にかこつけて実体要件を備える難民の認定を不当に排除するようなものであった場合は,難民の実体要件を定義した上でこれに該当する者に対して適切な保護を与えようとする難民条約等の趣旨を没却する結果を招くことになるから,かかる立法が裁量権を逸脱,濫用するものとして許されないことも明らかである。 (3) 60日ルールの趣旨及び合理性についてそこで,60日ルールが,難民条約等の趣旨を没却する不合理なものであるか否かについて判断する。 まず,入管難民法による難民認定の意義については,同法の規定(18条の2,61条の2の5,同条の2の6,同条の2の8,70条の2)と難民条約のそれ(28条,31条1項)とを対照すると,難民条約及び難民議定書上の難民が合法的に日本に滞在するための手続にほかならず,これ以上でもこれ以下でもないから,難民認定申請が認められなかったからといって,合法的に日本に滞在すること以外の保護が受けられないというものではなく,その意味で,当該外国人が実体的に「難民」でないことまで確定するものとは解されない(それ故に,実体上の難民は,難民認定手続と別個の手続とされている退去強制手続の一段階で られないというものではなく,その意味で,当該外国人が実体的に「難民」でないことまで確定するものとは解されない(それ故に,実体上の難民は,難民認定手続と別個の手続とされている退去強制手続の一段階である法務大臣に対する異議の申出(法49条)において,自己が難民に該当する旨を主張することができ,法務大臣は,その主張を判断した上で,申請者が難民に該当するとの判断に至った場合には,在留特別許可の付与(法50条1項3号)を検討しなければならないと解される。)。 次に,法61条の2第2項本文は,申請者が,我が国に合法的に入国したか否かにかかわらず,本邦に上陸した日又は難民となる事由が生じたことを知った日のうち,いずれか遅い時期から60日以内に難民認定を申請すべきとしているところ,入管難民法がこのような申請期間を設けた趣旨は,迫害から逃れてきた者は速やかに庇護を求めるのが多いと考えられるし,我が国における適切な出入国管理の確保という観点からは,特に不法に上陸,滞在している難民について,その不法状態を速やかに解消すべく,一定期間内に難民であることの申告を要求することは酷ではないというべきである。また,我が国の地理的状況,交通手段の発達状況等からすれば,かかる申告を行うために一般的に必要と考えられる準備期間を考慮しても,60日という期間が不当に短期間にすぎるとはいえず,さらには,難民となる事情が生じてから長期間が経過すると事実の把握が困難となり,適正な難民認定ができなくなるおそれも否定できない。 加えて,同項ただし書によって,申請期間を遵守できなかったことにつき,「やむを得ない事情」が認められる場合には,申請期間を経過した後でも難民認定申請を行い,実体的な難民性の判断を受けることが認められている。 以上を総合すれば,60日ルールは,難民認定手続の手続要件とし やむを得ない事情」が認められる場合には,申請期間を経過した後でも難民認定申請を行い,実体的な難民性の判断を受けることが認められている。 以上を総合すれば,60日ルールは,難民認定手続の手続要件としても,相応の合理性を有し,難民認定申請者に対して実質的に不可能を強いるなど,難民条約等の趣旨を没却する違法なものであると判断することはできない。 (4) 原告の主張についてこの点について,原告は,①難民認定手続における60日ルールの運用実態に照らすと,同ルールは,入管難民法上,難民条約上の難民の定義にさらに実体要件を付加するものと解するほかなく,難民条約1条につき締約国の留保権を排除した難民条約42条,条約の遵守を定めた憲法98条2項に違反する,②難民は,国籍国における政治活動や歴史的経緯などにより難民となるのであって,難民認定申請の遅れにより,国籍国での事実関係を把握することが著しく困難になるという事態が生じることは想定できない,③難民性の認定は,過去の事実を評価する作業ではなく,申請者が国籍国に戻った場合に迫害を受けるおそれがどの程度あるかを予測する作業であり,過去の事実の調査が困難になることとは無関係である,④申請者は,我が国における身柄拘束や強制送還の危険を冒してまで,入国後速やかに申請すべき義務などない,⑤申請者の準備不足や心情,我が国の難民申請者に対する過酷な対応,難民申請に通じた専門家が限られていることなどの諸条件によれば,60日という期間制限は非現実的である,⑥入管難民法の改正の趣旨からみても,60日ルールの不当性は明らかであるなどと主張する。 なるほど,①については,証拠(甲A10,11,14)によれば,被告は,難民認定申請が60日ルールに反することのみを理由として,難民不認定処分をした事案があることが認められる。しかしなが 張する。 なるほど,①については,証拠(甲A10,11,14)によれば,被告は,難民認定申請が60日ルールに反することのみを理由として,難民不認定処分をした事案があることが認められる。しかしながら,前記のとおり,入管難民法上の難民の定義は,難民条約及び難民議定書における定義と同一のものであり,60日ルールが,かかる定義とは無関係に難民認定申請をすることができる期間を定めたもの,すなわち,難民認定手続における手続要件として設けられていることは自明である。また,そもそも難民条約42条は,「いずれの国も,署名,批准又は加入の際に,第1条……の規定を除くほか,この条約の規定について留保を付することができる。」と規定し,難民条約1条に対する締約国の留保を禁止しているところ,ここにいう「留保」とは,国が,条約の特定の規定の自国への適用上その法的効果を排除し,又は変更することを意図して,条約への署名,条約の批准,受諾若しくは承認又は条約への加入の際に単独で行う声明(略)をいうものと解され(条約法に関するウィーン条約2条1項(d)参照。なお,我が国は,難民条約の締結に際して,この意味での留保を何ら付していない。),難民認定手続上の要件がこれに含まれないことは明らかである。 また,②ないし⑤についても,難民認定手続が,申請者の提出した資料を基本として,難民条約上の難民の定義に該当するか否かを認定するものであり,申請者の境遇,あるいは迫害という行為自体の性質から,認定に資する客観的な資料に乏しく,時の経過とともに希薄化し,風化しやすい申請者自身の記憶や,迫害によって負った傷などをも,その認定の資料として重視せざるを得ないなどの特質を有すること,難民とはいえ,我が国への自由な入国,滞在が許容されない以上,入国,滞在に関して生じている違法状態を解消すべき義務 て負った傷などをも,その認定の資料として重視せざるを得ないなどの特質を有すること,難民とはいえ,我が国への自由な入国,滞在が許容されない以上,入国,滞在に関して生じている違法状態を解消すべき義務を有していると考えられることなどを考慮すると,60日ルールが相応の合理性を有しているとの前記判断を覆すものとはいえない。 さらに,⑥については,確かに,平成16年法律第73号により,難民認定申請期限等について大幅な改正が加えられており,また,証拠(乙33)によれば,締約国の中には難民認定申請に期限を設けていない例が少なからず存在することが認められる。しかし,前記のとおり,難民条約等は,その基本的な趣旨を損なわない限り,認定手続の仕組みを各締約国にゆだねていると解されるところ,60日という期限設定は,我が国の諸条件に照らすと,不当に短期間であるとはいえず,現に,上記証拠によれば,我が国と同程度の期限を設定し(韓国),あるいは不法入国の場合は,我が国よりも短期間の期限を設定している例(ベルギー,スペイン)が存在することが認められるから,改正がなされたからといって,60日ルールが締約国の立法裁量を逸脱,濫用するものとはいえない。 よって,原告の上記主張は採用できない。 2 争点(2)(原告に,法61条の2第2項ただし書の「やむを得ない事情」があるか否か)について(1) やむを得ない事情の意義についてまず,同項ただし書にいうやむを得ない事情の意義につき検討するに,前述した60日ルールの趣旨や法律用語としての通常の意味等からすれば,この期間内に難民認定申請をすることが期待できない客観的な事情が存すること,具体的には,病気や災害による交通途絶等の理由により,そもそも難民認定を申請することが物理的に不可能であったと認められる場合のほか,我が国において合法的に ことが期待できない客観的な事情が存すること,具体的には,病気や災害による交通途絶等の理由により,そもそも難民認定を申請することが物理的に不可能であったと認められる場合のほか,我が国において合法的に在留する資格を有し,難民認定を申請すべき何らの動機付けも存しない場合,さらには難民認定を申請することにより,その者の家族等に対して危難が及ぶことが予想される場合など,難民認定の申請をするか否かの意思決定を行うことが客観的に困難であると認められる事情を指すと解するのが相当であり,かかる場合には,これらの障害が解消した後相当な期間内に難民認定申請をすることにより,同項ただし書の「やむを得ない事情」が存したと評価されるべきである。 (2) 本件におけるやむを得ない事情の有無について前記前提事実に証拠(甲C8,37,乙7,30,32,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告は,第一回目の不法滞在中,我が国が難民条約を批准し,難民認定制度を設けていることを知ったこと,原告は,平成12年(2000年)3月9日,当初から上陸許可期限を遵守する意思もないのに,妻及び子2人と共に,関西国際空港において上陸許可期限を上陸許可後72時間とする寄港地上陸許可を受けて本邦に入国し,その翌日,名古屋市在住の知人を頼って同市に行き,以来同市において,アルバイトをしたり,外国人相手の弁当販売業を営むなどして生計を立てていたこと,今回の本邦入国後約1年を経過したころ,知人から,入国後60日を経過していることから,原告が難民認定を受けることは困難であると言われたこと,平成14年(2002年)の冬ころ,知人から紹介を受けたB行政書士に対し,在留特別許可の取得について相談したが,難民認定申請については話を切り出さなかったこと,原告名義の自動車を運転していた者が交通事故を起こした 02年)の冬ころ,知人から紹介を受けたB行政書士に対し,在留特別許可の取得について相談したが,難民認定申請については話を切り出さなかったこと,原告名義の自動車を運転していた者が交通事故を起こしたことをきっかけとして,原告の不法残留が発覚し,平成15年(2003年)11月18日,逮捕されたこと,刑事裁判を受けている間も,弁護人(原告代理人)から,身柄拘束期間が長期にわたる可能性のあることを示唆されて,難民認定申請をする意思のないことを表明していたこと,この間,原告が難民認定申請をすることが困難となるような病気をしたり,交通機関が途絶したなどの事情はなかったこと,以上の各事実が認められ,他方,本件全証拠によっても,原告が難民認定申請をすることにより,イラン国内に居住する母親や兄弟に対する迫害等を誘発するなどの危険があると認めることはできない。 上記認定事実によれば,本件においては,難民認定を申請することが物理的に(のみならず知識の上でも)不可能であったと認められないことはもちろんのこと,原告は我が国において不法残留していたものであるから,難民認定を申請するにつき何らの動機付けも存しないとはいえず,さらには難民認定を申請することにより,その者の家族等に対して危難が及ぶことが予想されるなど,難民認定の申請をするか否かの意思決定を行うことが客観的に困難であると認められる事情も認められないから,原告につき,やむを得ない事情があったとは判断できない。 (3) 原告の主張についてこれに対し,原告は,やむを得ない事情とは,上記認定に係る客観的に困難な事情に限ることなく,申請者の出国の経緯,我が国の難民認定制度に対する情報面や心情面における障害の程度,証明書類の所持の有無,言語の理解度,申請までの期間等を総合的に検討し,本邦において難民認定申請をするか否 ことなく,申請者の出国の経緯,我が国の難民認定制度に対する情報面や心情面における障害の程度,証明書類の所持の有無,言語の理解度,申請までの期間等を総合的に検討し,本邦において難民認定申請をするか否かの意思決定をすることが困難であって,期間を経過したことに合理的な理由がある場合をも含むべきであり,原告については,この意味でのやむを得ない事情が認められるべきであると主張する。 なるほど,我が国への入国,滞在が合法的になされた外国人については,適法に在留し得る期間,迫害等から逃れた安堵感などから,難民認定申請期間を徒過してしまうこともあり得るところであり,原告が上記のとおり主張する事情を考慮すべき場合がないとはいえない。しかし,適正な出入国管理を確保するとの観点からは,我が国への入国,滞在が違法となっている外国人については,かかる違法状態を解消することが先決であるし,また,迫害等から逃れてきた難民にとっても,早期の難民認定を望むのが通常であると考えられることからすると,原告の主張する各事情は,同項ただし書のやむを得ない事情を根拠づけるものであるということはできない。 したがって,原告の上記主張は採用できない。 3 争点4(本件不認定処分において理由付記義務違反があるか否か)について(1) 理由付記の趣旨と程度について法61条の2第3項は,法務大臣が,難民である旨の「認定をしないときは,当該外国人に対し,理由を付した書面をもって,その旨を通知する。」と規定しているところ,一般に,法律が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであると解され,どの程度の記載をなすべきかは,処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の 性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであると解され,どの程度の記載をなすべきかは,処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきものである(最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁,同昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁,同昭和60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁等参照)。 これを難民認定手続についてみるに,難民不認定処分をする場合に理由を付した書面による通知を必要としたのは,難民である外国人について難民の認定をしないものとすれば,難民の地位を保障する難民条約に反する結果となるため,被告の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,不認定の理由を当該申請者に知らせることによって,その不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解される。 この趣旨にかんがみれば,難民不認定処分に付記すべき理由としては,法61条の2第1項又は第2項のいずれかの要件を欠くと判断したのかを明らかにしなければならないというべきであるが,これを超えてどの程度の詳細な理由を示さなければならないかについては,難民認定申請者が難民性を基礎づけるものとして主張する具体的事由,資料に対応して,その結論に到達した過程を明らかにすることが求められるというべきである。しかるところ,前記のとおり,難民認定手続においては,難民性についての立証責任は基本的に申請者が負担するものであり,実際にも,その審査は,まず申請者が自己の難民性を基礎づける理由と資料を提出することによって始まり,その資料の信ぴょう性に疑問があるとき,あるいは提出された資料によっても難民性の有無を決し難いときには,難民調査官による事実の調査(後記 己の難民性を基礎づける理由と資料を提出することによって始まり,その資料の信ぴょう性に疑問があるとき,あるいは提出された資料によっても難民性の有無を決し難いときには,難民調査官による事実の調査(後記のとおり,どのような場合にこれを行うか,どのような調査をどの程度行うかについては,基本的に被告の手続裁量に属すると解される。)の結果をも併せ考慮して,申請者が難民性を具備するか否かを認定するものであり,このような審査の構造に照らすと,難民認定申請者が提出した資料が,通常は難民性を基礎づけるのに十分と考えられる客観性を有するにもかかわらず,これを排斥する場合には,その根拠を示すことが必要と考えられるが,そうでない場合には,司法機関による最終的判断に先立つ行政処分の段階で,判決に要求される程度あるいはそれ以上の具体的心証形成過程の付記を必要とするものではないと解するのが相当である。 (2) 本件不認定処分の理由付記について証拠(乙18,20ないし22)によれば,本件申請は,原告が,イランにおける民族的,宗教的少数派として差別の対象とされてきたクルド系イラン人であること,原告は,反政府組織としてイラン政府による弾圧を受けてきたコマラの活動を支援してきたこと,現に,原告は,治安組織による逮捕・拷問を受けた経験を有することなどを理由としてなされたが,資料としては,専ら原告の供述のみであったこと,以上の事実が認められ,また,前記認定のとおり,本件申請は,法61条の2第2項本文の申請期間を経過してされたものであり,同項ただし書のやむを得ない事情も認められないものであるところ,本件不認定処分(乙23)には,まず,「あなたは,『人種』『宗教』『特定の社会的集団の構成員であること』及び『政治的意見』を理由とした迫害を受けるおそれがあると申し立てています。」と原告 るところ,本件不認定処分(乙23)には,まず,「あなたは,『人種』『宗教』『特定の社会的集団の構成員であること』及び『政治的意見』を理由とした迫害を受けるおそれがあると申し立てています。」と原告の申請理由を要約した上,難民不認定の理由として,「しかしながら,1あなたは,本国において反政府活動を行ったとされる日以降,あなた自身名義の旅券で合法的に本国を出国し,また,本邦において旅券の有効期間の延長を受けていること, 2 あなたの提出した資料及び供述からは,帰国した場合迫害を受けるおそれがあるとは認められないこと等からすると,申立てを裏付けるに足りる十分な証拠があるとは認め難く,難民の地位に関する条約1条A(2)及び難民の地位に関する議定書1条2に規定する難民とは認められません。」と,旅券の交付・延長の事実と原告の提出した資料等に信ぴょう性がないことを指摘して,法61条の2第1項の要件を欠くことを明らかにし,さらに,「また,あなたの難民認定申請は,出入国管理及び難民認定法61条の2第2項所定の期間を経過してなされたものであり,かつ,同項ただし書の規定を適用すべき事情も認められません。」として,同条の2第2項の要件を欠くことを明らかにしている。 そうすると,被告が原告を難民として認定しなかった理由の概略が明確にされ,原告としては,その後の手続においてこの処分を争うためには,どのような活動が求められるかについて判断することが可能というべきであるから,本件不認定処分の理由付記が不十分であるとはいえないと判断するのが相当である。 (3) 原告の主張についてこの点につき,原告は,本件不認定処分には,①コマラ支援者には迫害がないこと又は②原告がコマラ支援者であるとは信用できないとすることのいずれかを記載すべきであったことなど,具体的な難民性の判断過程 この点につき,原告は,本件不認定処分には,①コマラ支援者には迫害がないこと又は②原告がコマラ支援者であるとは信用できないとすることのいずれかを記載すべきであったことなど,具体的な難民性の判断過程を示さなければならないと主張し,かかる記載のない本件不認定処分は,理由付記義務の違反があると主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件不認定処分には,原告主張に係る個々の事実に関する具体的な心証形成過程までも示さなければならないものではなく,さらに,本件申請における理由と,本件不認定処分で付された理由とを対照すれば,原告の供述する原告自身によるコマラの支援や迫害の事実が信用できないと判断されたことは明らかというべきであるから,いずれの観点からも,原告の主張は採用できない。 4 争点(5)(本件不認定処分において調査義務懈怠があるか否か)について原告は,難民性に関する立証責任は,難民認定申請者が一定の主張責任を果たすことによって被告に転嫁されるとの見解を前提とした上で,被告には,申請者の置かれた特殊な状況を配慮し,申請者の供述等に表面的な矛盾点,疑問点があるからといって直ちにこれらを排斥することなく,補充的な事実の調査を命ずる義務がある旨主張する。 もっとも,原告の上記主張は,本件において,被告がどのような事実の調査を命ずるべきであったか,どのような事実の調査を懈怠したのかについて具体的に指摘するものではない上,そもそも,法61条の2の3第1項の文言に照らせば,同項は被告に事実の調査を命ずる権限を与えたものであって,それを命ずる義務を負わせたものとは解されない上,難民性の立証責任が難民認定申請者にあると解される以上,被告が難民認定申請者の提出した資料だけでは難民性を認定するのに十分ではないとの心証を抱いた場合に,これを補充すべく後見的に調査を命じな い上,難民性の立証責任が難民認定申請者にあると解される以上,被告が難民認定申請者の提出した資料だけでは難民性を認定するのに十分ではないとの心証を抱いた場合に,これを補充すべく後見的に調査を命じなければならないとまではいえない。 結局,事実の調査を命ずるか否か,命ずるとしてどのような調査をどの程度まで遂げるかは,当該事案に照らして被告が判断すべきものであり,その意味で,被告の手続裁量にゆだねられているというほかない。 しかるところ,証拠(乙20ないし22)からうかがうことのできる平成16年4月8日,同月9日及び6月10日の3回にわたって行われた難民調査官による調査の内容に照らすと,被告の命じた事実の調査が,その裁量権を逸脱,濫用するものであったとは認められず,原告の上記主張は採用できない。 5 結論以上の次第で,その余について判断するまでもなく,本件不認定処分は適法であり,原告の本訴請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官舟橋恭子裁判官片山博仁
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