平成11(ワ)1395等 千葉セクシュアル・ハラスメント

裁判年月日・裁判所
平成13年7月30日 千葉地方裁判所
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判決文本文13,501 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,金330万円及びこれに対する平成11年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを8分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金880万円及びこれに対する平成11年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,大学院で被告の指導を受けていた原告が,被告からセクシュアル・ハラスメント行為を受けたために,人格的尊厳・性的自由などの人格的権利,良好な環境の中で研究し,教育を受ける利益等を侵害されたとして不法行為に基づく損害の賠償を請求した事案である。 1 当事者間に争いのない事実等(1) 当事者原告は,昭和40年8月19日生まれであり(甲34),平成3年3月α大学医学部を卒業し,同年4月同大学神経内科に入局し,平成9年4月,同大学大学院研究科博士課程に入学した。被告は,昭和28年9月21日生まれであり(弁論の全趣旨),昭和54年3月α大学医学部を卒業し,昭和55年4月に同大学神経内科に入局した。被告は,昭和58年から放射線医学総合研究所(以下「放医研」という。)でポジトロン断層撮影法(以下「PET」という。)を利用した研究を開始し,同大学医学部助手及び神経内科医局長となり,平成8年1月に,同内科講師となった。被告には,妻と3人の子がいる。 原告は,PETを利用した脳高次機能の研究を行っており,被告は,その指導教官であった。 (2) 平成10年5月20日から同22日まで,国立京都国際会館において日本神経学会総会が開催され,被告はそこで行われたシンポジウムのシンポジストの一人 行っており,被告は,その指導教官であった。 (2) 平成10年5月20日から同22日まで,国立京都国際会館において日本神経学会総会が開催され,被告はそこで行われたシンポジウムのシンポジストの一人として,原告はPETの研究に関する発表者として,それぞれ同総会に参加した。原告は、同月21日午後11時ころまで,被告から翌日の発表について指導を受けた後,宿泊していたホテルの部屋を見ていくよう誘われ,被告の部屋で約15分から20分くらい会話をした際,被告から3回ほど抱きつかれるなどのセクシュアル・ハラスメント行為(被告の行為の態様については争いがある。)を受けた。 (3) 原告は,同年7月28日,研究テーマをPETとは全く関係のない新しいものに変更し,指導教官も変更された。 (4)被告は,平成11年2月28日,α大学医学部講師を辞職した。 2 争点被告の行為の態様及び不法行為の成否 3 争点に対する当事者の主張(原告)(1) 被告は,ホテルの被告の部屋で,上着を脱いで原告に抱きつき,「だめですよ,先生,酔っているでしょう。」と原告が言ったにもかかわらず,原告の首筋に顔を押し付け,「いやなの?」と言った。原告が「だめですよ」と押しのけたが,被告は,「燃えてきちゃった。一緒に寝て」などと言い,べッドに原告を押し倒した。原告は,被告のまったく予想外の突然の行為に驚き,不快感とともに強姦されるのではないかとの恐怖をも抱いたが,あまりのことにすくんでしまい、とっさに大声で叫んだりはできなかった。また,被告は,大学院においても,医師としても優位に立つ指導官であり,いきなり殴ったり強く突き飛ばしたりする勇気は持てなかった。原告は,平静を装って相手をやり過ごすしかないと考え,「私が初めてだといったらどうするんですか?」と言い,被告を押しのけたが,被告はさら り,いきなり殴ったり強く突き飛ばしたりする勇気は持てなかった。原告は,平静を装って相手をやり過ごすしかないと考え,「私が初めてだといったらどうするんですか?」と言い,被告を押しのけたが,被告はさらに原告に抱きつき,もう一度原告をベッドに押し倒した。原告が再度被告を押しのけて立ち上がると,被告は,「じゃあもう一回」と言って抱きついた。原告は,被告に対する嫌悪感と学会発表を控えた女子大学院生に対してこのような行動をする被告の非常識さに対する憤りでいっぱいだったが,早く無事に部屋を出たかったので,大声を出したりせずに,「先生,酔っているでしょう。早く休んでください。」と言って被告を振りほどき,荷物をつかんで「失礼します」と言って部屋を出た。 (2) 被告は,原告の研究テーマを指導し,研究の進め方,学会発表,論文の作成及び評価の全てにわたり強い権限を有し,原告の研究者としての将来や学位の取得を左右できる立場にあり,原告と被告との間には,教育上の支配従属関係があった。被告は,このような支配従属関係を利用して前記のとおりの行為に及んだものである。 被告において,原告が被告の性的勧誘に応じたと考えたとしても,それは被告の身勝手な思いこみに過ぎない。 (3) 前記被告の行為により原告の人格的尊厳・性的自由などの人格権,働く権利,良好な環境の中で研究し教育を受ける利益が侵害された。被告は,前記行為後も,原告の苦情に真摯に対応せず,原告の研究テーマの変更を先送りさせて新たな研究の開始を遅らせるのみならず,その行為について謝罪せず,逆に被害者たる原告に落ち度がある旨の発言等をして,原告の人格を傷つけ,その業務に悪影響を及ぼし,精神的苦痛を増大させた。 (4) 原告は,前記被告の行為の直後から,不眠,覚醒障害,体調不良(全身倦怠・無気力・悪心・めまい感・ る旨の発言等をして,原告の人格を傷つけ,その業務に悪影響を及ぼし,精神的苦痛を増大させた。 (4) 原告は,前記被告の行為の直後から,不眠,覚醒障害,体調不良(全身倦怠・無気力・悪心・めまい感・緊張性頭痛など)などの症状が現れ,さらに神経性胃炎,原因不明の全身性じんま疹などの症状も出現し,平成11年3月27日から国立千葉病院神経料を受診し,投薬を受けている。 (5) 原告は,被告の指導の下で研究を続けることができず,研究テーマの変更を余儀なくされた。そのため,PETによる研究に費やした1年3か月間が無駄になったのみならず,新たな学位研究テーマに費やす時間が短くなってしまったため,大学院留年のおそれもあり,精神的なプレッシャーを強く感じている。 (6) 原告は,前記被告の行為をめぐる指導教授や医局関係者からの恫喝的発言,無神経なうわさ話等により精神的苦痛を受け,今後の神経内科医局内での将来や,医師としての将来についても不安を覚えている。 (被告)(1) 被告は,平成10年5月21日,被告の部屋で原告に対してした行為が,原告が許容していない性的意識を有する行為であり,人事院規則10-10第2条1号に定義されたセクシュアル・ハラスメント行為に該当する行為であることは認めるが,これは不法行為に該当するような行為とは質的に異なるものであり,金銭賠償には適さないというべきである。 (2) 被告は,原告に対する学会発表の指導を終え,引き続き会話を続けるうち,原告と親密な関係に入りたいと考えるに至り,これに対する原告の意向を聞く目的で「部屋を見て行かない」と原告に尋ねたところ,原告は,「はい」と答えて被告に同行した。被告は部屋に入って原告と文学や音楽の話をするうち,原告と親密な関係になりたいという被告の望みを原告が受け入れてくれるものと確信するように 告に尋ねたところ,原告は,「はい」と答えて被告に同行した。被告は部屋に入って原告と文学や音楽の話をするうち,原告と親密な関係になりたいという被告の望みを原告が受け入れてくれるものと確信するようになり,原告を抱擁した。原告から拒絶の意思や態度が示されなかったので,被告は,原告と一緒にベッドの縁に腰掛け,原告を静かに仰向けに寝かせるとともにその横に仰向けに寝た。すると,原告が「私が初めてだといったらどうするんですか」と言ったので,被告は,原告が被告を必ずしも許容していないことに気づいて行為を中止し,「嫌なら帰っていいよ」言ったところ,原告は起き上がった。被告は,原告への好意をもう一度示したいと考え,原告を抱擁すると,原告はこれを避けることなく,笑顔を見せながら被告の背後に手を回し,平手で被告の背中を,ふんふんと鼻で調子を取りながら赤ん坊をあやすように軽く叩いた。その後,原告は,取り乱すこともなく部屋を出た。 以上のとおり,被告は原告を押し倒す等実力を行使したたことはなく,原告が女性として恥ずかしいと感じる部分または嫌悪感を感じる部分に触れる等ということはなかった。 (3) いわゆるセクシュアル・ハラスメント行為といっても,その程度は様々であり,このうち不法行為を構成するのは,行為者がその地位を利用して行ったもので,行為の態様その他具体的状況を総合的に検討した結果,当該行為が社会通念上許容される限度を超えると評価される場合に限られる。 被告は,原告の指導教官ではあったが,これは正式ないし公的な地位ではなく,大学院生等の研究につき評価等は一切行わず,権限らしきものも全く有していないこと,指導教官の役割は,研究のヒントやアイデア等を示すなどの助言,研究手技の伝授,研究に必要な施設への紹介及び論文のまとめ方の指導などに止まること,α大学の医 ず,権限らしきものも全く有していないこと,指導教官の役割は,研究のヒントやアイデア等を示すなどの助言,研究手技の伝授,研究に必要な施設への紹介及び論文のまとめ方の指導などに止まること,α大学の医局においては封建的な上下関係は存在しないこと,被告が学会発表の指導を前日の夜に行ったのは,原告の都合によるものであること,本件は,学会発表の指導が終わり,指導教官と大学院生としての関係がなくなってからの出来事であることなどに照らすと,被告が原告に対する地位を具体的に利用したという事実はない。 また,被告の行為には,反復継続性がなく,被告が原告を3回ほど抱擁したことに尽き,原告を不快にする性的言動に該当するとしてもその程度はかなり低いものであること,原告は,深夜,異性である被告から誘われて被告が一人で宿泊しているホテルの客室に赴いたのであるから,被告の性的勧誘に応じたものとみられても無理からぬ根拠があること,被告は自分の誤解に気づくと行為を直ちに断念したことなどの事情がある。かかる諸事情に照らせば,本件被告の行為は,不法行為を構成しないというべきである。 (4) 原告は,深夜,特段の用件もないのに,被告の誘いに応じ,異性が一人で宿泊している部屋に入室し,それまでにはない打ち解けた雰囲気で会話を交わすなどする対応をしたから,これをもって被告が性的勧誘を受諾したと考え,前記の行為に及んだことには過失が認められない。 (5) 原告は,①翌日の平成10年5月22日,学会発表を落ち着いて行い,昼休みには医局員との談笑の輪に加わっている。②同月28日,先輩医師であるAと話した際,被告に対する怒り,強い不快感のようなものを表明していない,③同月29日,被告と被告の行為について会談した際,被告を恐れるような態度はなかった,④同年6月,慣れない着物を着用し,3 るAと話した際,被告に対する怒り,強い不快感のようなものを表明していない,③同月29日,被告と被告の行為について会談した際,被告を恐れるような態度はなかった,④同年6月,慣れない着物を着用し,3,4時間も自分で車を運転して医局旅行に参加している,⑤同年7月17日,原告の研究分野と無関係の学会発表を行っているなどの行動をしており,精神的苦痛,睡眠障害,体調不良に悩んでいた形跡はない。 また,被告の行為から4か月経過後に原告の状態が悪化している点については,原告自身,医学部や医局等との接触が心身の不調の原因であることを認めているのであるから,前記被告の行為との相当因果関係は存しない。 (6) 原告は,現在学位を取得し,平成13年3月に大学院を修了することが確定している。また,学会発表,共著論文などは原告の実績として残るものであるから,研究テーマ変更による具体的損害や不利益は存しない。 そもそも原告は,①放医研の研究班から被告が抜け,原告のみが残る,②PETを利用した研究の実績,経験のある他の医師を指導教官にする,③神経内科主任教授であるB教授の直接指導を受ける,などの方法で,研究を継続することが可能であったから,研究テーマの変更は原告が任意に行ったものというべきである。 (7) 原告の主張する医局関係者からの恫喝的発言,無責任なうわさ話等については,その存在が明らかでなく,仮にあったとしても,第三者によってなされたものである。 (8) 被告は,原告に対し,口頭及び文書でその行為につき謝罪ないしその申し入れを行ってきた。また,被告は,平成11年2月26日,α大学から厳重注意処分に処せられ,同月28日,諭旨免職となったほか,本件につきマスコミ等で報道もされ,社会的制裁を受けている。したがって,仮に不法行為が成立し,原告に損害が生じたとしても 26日,α大学から厳重注意処分に処せられ,同月28日,諭旨免職となったほか,本件につきマスコミ等で報道もされ,社会的制裁を受けている。したがって,仮に不法行為が成立し,原告に損害が生じたとしても,すでに慰謝されているというべきである。 (9) 仮に,被告の行為が不法行為に該当し,原告主張の各損害との間に相当因果関係が認められるとしても,前記のような,被告に誤解を生ぜしめた原告の行為について過失相殺されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 前記争いのない事実及び証拠(甲1,4,5,8の1,2,13,14,26,30,32ないし34,45ないし49,乙1,6,証人A,原告本人,被告本人)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 (1) 原告は,昭和40年8月19日生まれであり,平成3年3月α大学医学部を卒業し,同年4月α大学神経内科に入局し,その後関連病院で勤務していた。被告は,昭和28年9月21日生まれであり,昭和54年3月α大学医学部を卒業し,昭和55年4月に同大学神経内科に入局した。被告は,昭和58年から放医研でPETを利用した研究を開始し,同大学医学部助手及び神経内科医局長となり,平成8年1月に,同内科講師となった。被告には,妻と3人の子がいる。 (2) 原告は,平成8年7月ころ,被告に対し,学位取得のための論文のテーマを「PETを利用した脳高次機能の研究」としたいと申し出,同年9月から,被告の指導を受けるために放医研に毎月1回通っていたところ,同年11月ころ,原告は,被告から大学院進学を勧められ,大学院入学試験を受験し,合格した。 (3) 原告は,平成9年4月1日,α大学大学院医学研究科博士課程に入学し,B教授が指導教授に,被告が指導教官になった。原告は,入学後,付属病院の病棟患者の受け持ちや,外来患者の診療をし 合格した。 (3) 原告は,平成9年4月1日,α大学大学院医学研究科博士課程に入学し,B教授が指導教授に,被告が指導教官になった。原告は,入学後,付属病院の病棟患者の受け持ちや,外来患者の診療をしながら,放医研で毎週水曜日の午後,研究に専念していた。 PETを利用した研究においては,放射性同位元素の作成,薬剤の静脈内投与,動脈採血,放射能測定,画像処理,データ解析等,高度で専門的かつ多岐に渡る知識・技術が必要とされることから,数人の研究者がグループを組んで共同研究を行わなければならず,原告は,被告のグループに加えてもらう形で研究を行っていた。 (4) 原告は,平成10年4月25日から同年5月2日まで,被告のアメリカ合衆国ミネアポリスにおける神経学会での研究発表に同行した。当初,被告は,単独で渡米するつもりだったが,原告が参加を希望したため,もう1名の医師を加えた3名で同学会に参加した。 (5) 平成10年5月20日から22日まで,国立京都国際会館において日本神経学会総会が開催され,被告は,同月21日午後2時からのシンポジウム「脳機能画像の臨床応用」にシンポジストとして参加し,原告は,同月22日午前9時から「PETによるパーキンン病とアルツハイマー病の脳内コリン作動性神経系機能の測定」の演題で発表する予定であった。 原告は,事前に行われた医局での学会予行で,原告の発表内容についてB教授から修正の指示があったことから,発表前に指導教官である被告と発表内容についての打ち合せが必要であったため,同月21日午後1時40分ころ,学会会場で,被告に発表内容の最終チェックを依頼したところ,被告は,シンポジウムの開始直前であり,その場で発表内容の点検することができなかったことから,後に連絡をすることとして,原告の宿泊先のホテルの電話番号を聞いた。被 容の最終チェックを依頼したところ,被告は,シンポジウムの開始直前であり,その場で発表内容の点検することができなかったことから,後に連絡をすることとして,原告の宿泊先のホテルの電話番号を聞いた。被告は,シンポジウム終了後,シンポジストを招待する懇親会に出席し,同日午後9時30分ころ,原告の宿泊していたホテルに電話連絡をした。原告は,シンポジウム等を聴講後,ホテルに戻り,一人で発表内容の手直しをしていたところへ被告から電話があったので,発表内容を点検して欲しい旨伝えた。被告は,「じゃあ,君が泊まっているホテルのラウンジででも。」と言ったので,原告は,発表原稿と発表に使用するためのスライドを用意してホテルのロビーで被告を待った。 被告は,午後9時45分ころ,原告の宿泊していたホテルに到着したが,打ち合わせに適当な場所がないと判断し,同ホテルを出て,タクシーで被告の宿泊するホテルに向かった。 被告は,宿泊していたホテルの地下1階のバーにおいて,午後10時ころから約1時間,原告に対し,発表に関する指導をしたり,雑談をするなどしたが,原告と会話をするうち,原告に対してそれまで抱いていた,取り澄まして人を寄せ付けないような態度がないように感じ始め,原告が,周囲の反対があったにもかかわらず,ミネアポリスの神経学会に被告と一緒に参加したことなどを思い起こし,原告が被告に好意を持っているのではないかとの思いを強くした。 原告と被告は,午後11時ころバーを出た。被告は,原告の異性としての自分に対する好意を確かめたい,男女の関係として親密になりたいとの思いから,自分の部屋を見ていかないかと原告を誘った。原告は,遅い時間であるし,翌日朝には発表が控えていたことから,早く自分のホテルに帰りたいとの思いもあったが,わざわざ指導してもらった被告の誘いを断るのは 自分の部屋を見ていかないかと原告を誘った。原告は,遅い時間であるし,翌日朝には発表が控えていたことから,早く自分のホテルに帰りたいとの思いもあったが,わざわざ指導してもらった被告の誘いを断るのは角が立つと思い,被告の部屋に行くことに同意した。被告は,原告が,男女の関係として親密になることを許容する趣旨で同意したものと考えた。 (6) 部屋に入った後,原告は,部屋にあったティーバッグでお茶を入れ,被告とテーブルを挟んでいすに座り,15分から20分程度,海外留学や語学修得,オペラやイギリス文学などの話をした。 被告は,原告と親密な関係を持ちたいとの思いをますます強くし,「Cさんは近寄りがたく見えていたけれど,こうして話をするとあなたも普通の女の子だなと思いました。」と言って,立ち上がった。原告は,被告の行動を不審に思い,立ち上がったところ,被告は,原告に抱きついた。原告は,「先生,だめです。酔っているでしょう。」と言って離れようとしたが,被告は離れず,なお,原告が「だめですよ。」と言うと,被告は「一緒に寝ようよ。」などと言い,原告の体を押したので原告は,ベッドサイドに腰をついてバランスを崩してしまった。被告は,その状態で原告に体重をかけてきたので,原告は,ベッドの上に仰向けに倒れ,その上に,被告がうつぶせにのしかかった状態になった。原告は,被告から強姦されるかもしれないとの恐怖感を感じたが,医師であり,指導教官として信頼していた被告との間で起きている事態を直ちに理解し難い思いもあり,とっさに被告を押しのけることはできなかったものの,被告の行為を中止させるために,「私がもし初めてだと言ったらどうするんですか。」と言った。しかし,被告が離れなかったので,原告は,被告を押しのけて起き上がった。原告は,ショックで動けなかったところ,被告は, を中止させるために,「私がもし初めてだと言ったらどうするんですか。」と言った。しかし,被告が離れなかったので,原告は,被告を押しのけて起き上がった。原告は,ショックで動けなかったところ,被告は,再び原告に抱きつき,のしかかってきたので,原告は,被告を押しのけて立ち上がり帰ろうとした。すると,被告は,「じや,帰りますか。」と言い,「もう一回。」と言って原告に抱きついた。原告は,被告に対する強い嫌悪感を抱いたが,被告が指導教官であり,男性でもあることから,怒らせてはいけないと思い,被告の肩をたたいて「先生,酔っているでしょう。早く休んでください。」と言ってこれを振りほどき,部屋を出た(以下,被告の部屋で被告の一連の行為を「本件行為」という)。 原告は,自分のホテルに戻ったが,これまで大学院生として研究に専念し,医師として仕事もきちんとしてきたのに,なぜ学会発表のために来た京都で指導教官からこのようなことをされるのかと思い,情けない気持ちで一杯だったが,既に夜中であり,誰にも相談できず,眠れないまま朝となった。 (7) 翌22日午前9時,原告は,予定されていた発表を行った。被告も学会場に来たが,前夜の行為について全く触れず,原告は,発表終了後,被告と別行動をとった。 (8) 原告は,同月28日,Aに対し,被告に抱きつかれたことを話し,学位論文のテーマの変更について相談した。 (9) 原告は,同月29日午後1時ころ,被告に面談を申し入れ,本件行為により被告との研究を続けることはできないので,学位論文のテーマを変えたいと伝えた。被告は,「君の気持ちを混乱させるようなことをして申し訳なかった。二度とあのようことはしない。ぜひ仕事は一緒にして欲しい。」と言い,さらに「テーマを変えるなどと言い出せば理由を詮索されて僕も困るけどあなたも落ち着かなくな 乱させるようなことをして申し訳なかった。二度とあのようことはしない。ぜひ仕事は一緒にして欲しい。」と言い,さらに「テーマを変えるなどと言い出せば理由を詮索されて僕も困るけどあなたも落ち着かなくなる。」「認定医試験が終わったらまた話そう。」などと言って,研究テーマの変更を思いとどまるよう説得した。原告は,被告の謝罪が十分なものでないと思い,同日以降,放医研での研究を止めた。 (10) 原告は,認定医試験が終了した後の同年7月20日,被告と話合いの機会を持った。その際,被告は,原告の方に誤解を生じさせた原因があるという趣旨の発言をし,原告は,被告に対する不快感をいっそう募らせた。 (11) 被告は,同月21日B教授に本件行為について概略を報告し,同月22日午前10時ころ,B教授から原告に対し,被告との関係を修復できないものかと尋ねる趣旨の電話があった。 (12) 原告は,同月28日,研究テーマを従前の研究とは関係のない「多系統萎縮症における声帯外転麻痺」に変更し,指導教官も変更された。 (13) 原告は,同年9月28日午前11時ころ,B教授に対して,不眠,早朝覚醒,体調不良などの症状が出現したため,医局の業務の一部をしばらく免除して欲しいと要請した。 (14) 同年10月8日午前11時ころ,原告が外来診療の最中に,被告が原告のところに来て,「もう一度話し合いたい。」「謝っておきます。」などと述べたが,原告は,被告のこのような態度を非常に不愉快なものに感じた。 同日午後6時ごろ,B教授は,原告を呼び出し,被告に対して厳しいペナルティーを課さないで欲しいと要望して,原告がα大医学部神経内科の関連病院に移ることを提案した。原告は,B教授が,原告に対し親身に対応しているのではなく,医局のスキャンダルになりかねない本件を何とか揉み消そうとしており,その と要望して,原告がα大医学部神経内科の関連病院に移ることを提案した。原告は,B教授が,原告に対し親身に対応しているのではなく,医局のスキャンダルになりかねない本件を何とか揉み消そうとしており,そのためには原告に対し理不尽な処置をすることも辞さないという対応であると感じた。 (15) 原告は,その後,本件行為に関するうわさが医局内に広まっていることを知ってショックを受け,原告の受けた被害の深刻さや精神状態を分かってもらえないことに失望し,孤立感を深めた。 (16) 原告は,その後も原告の両親を交えるなどして,被告やB教授と話し合いを重ねたが,平行線であるとして,同年11月27日,α大学等に対して,本件行為に関して事実関係の調査を望むこと,原告がセクシュアル・ハラスメント行為の被害をα大学に訴えたこと等を理由として,原告に身分上あるいは今後の研究生活において不利益を与えないこと,事実調査が終了し,人事上の処分が決定されるまで,被告の転勤等を保留するよう要請すること等が記載された書面を送った。 (17) 原告は,同年12月11日,B教授から大学内にセクハラ調査委員会ができたこと及び同月14日に原告に対する調査が予定されていることを告げられた。そして,同日,医学部学部長応接室で同調査委員会の原告に対する調査が行われ,原告は,その席で,被告に対し,正式な文書による謝罪,研究テーマ変更に対する補償等の希望を出した。 (18) 原告は,平成11年1月4日午後4時,学部長室において被告,D医学部長及びB教授らと面談した際,D学部長から,被告の謝罪文を示され,これを受け取るように言われたが,謝罪文の内容に納得できず,また,学部長が,大学の体面を保つために謝罪を急いでいるように感じ,大学当局に対しても不信感を抱くようになった。 (19) α大学は,平成11 を受け取るように言われたが,謝罪文の内容に納得できず,また,学部長が,大学の体面を保つために謝罪を急いでいるように感じ,大学当局に対しても不信感を抱くようになった。 (19) α大学は,平成11年1月20日付け書面により,原告に対し,医学部調査委員会から,被告が原告に対していわゆるセクシュアル・ハラスメント行為を行ったものと認めることが相当と考えるとの結論に至ったと報告を受けたこと,被告に対する処分については,本人も事実を認めており,大学としてそれ相応の処分を検討していることを回答した。 (20) 被告は同年2月25日,α大学学長から厳重注意処分を受け,同月28日付けで,α大学医学部講師を辞職した。 (21) 原告は,同年4月27日,原告は,国立千葉病院精神科を受診し,不眠,抑欝状態,感情の不安定を訴え,同年9月7日及び平成12年6月20日,心因反応との診断がなされた。 2 被告は,本件行為について以上の認定と異なる主張をし,前掲の証拠の中にはこれに沿う部分もあるが,被告が原告を押したり,体重をかけたりしたかという点を除き,両者の主張に大きな違いは見られず,被告が原告を部屋に誘った動機や,懇親会に続きバーで飲酒をしていたことなどの状況からすると,被告に全く有形力の行使がなかったとは考えられないから,前記認定に反する被告の主張及び証拠は採用しない。 3 また,被告は,原告が異性である被告から誘われて,被告が一人で宿泊しているホテルの部屋へ赴いたことをもって,被告の性的勧誘に応じたものとみられても無理はないと主張するが,本件行為以前,原告と被告は研究以外に特別の親交がなかったこと(原告本人,被告本人),原告と被告の年齢差,被告に妻子のあること,原告は,被告を指導教官として学問的に尊敬していたこと(原告本人)及び翌日の原告の研究発表に関する 究以外に特別の親交がなかったこと(原告本人,被告本人),原告と被告の年齢差,被告に妻子のあること,原告は,被告を指導教官として学問的に尊敬していたこと(原告本人)及び翌日の原告の研究発表に関する指導に引き続いてのことであったことを考慮すると,原告が,被告を異性として意識することなく信頼して誘われるままに被告の部屋へ行ったことは,やや無防備であったとはいえ,責められることではなく,むしろ,被告は,原告を非常に堅い家庭に育った真面目な人柄だと考えていた(乙6,被告本人)のであるから,シンポジウムが終了した解放感や飲酒の影響があったとしても,原告が被告の部屋へ行くことを承諾したことをもって,男女関係を持つことに同意したと即断することは,軽はずみであったというべきであり,この点についての被告の主張は採用できない。 4 以上の事実によれば,原告は,平成8年9月から本件行為まで約1年8か月間に渡って継続的に被告の指導を受けてきたこと,被告の勧誘によりα大学医学部大学院に入学したこと,被告は,原告の選択した研究テーマについての指導教官としては適任であったことが認められ,さらに,被告は,α大学医学部神経内科において教授に次ぐ地位にあることが認められる(甲31)。 そうすると,被告の主観的な意図はさておき,客観的にみれば,原告と被告との間に,教育上の支配従属関係が存していたと認めるのが相当であり,原告が,夜間,被告との間で研究と無関係な会話をし,被告の宿泊する部屋に入室することに同意したとしても,それが翌日の原告の研究発表の指導に引き続いて行われたことからすれば,教育上の支配従属関係の影響を離れたものではないというべきである。 このような影響下において,前記認定のとおり,被告が性的意図を持ち,原告が拒絶の意思を明らかにした後もなお原告に抱きつき,の れば,教育上の支配従属関係の影響を離れたものではないというべきである。 このような影響下において,前記認定のとおり,被告が性的意図を持ち,原告が拒絶の意思を明らかにした後もなお原告に抱きつき,のしかかるなどの全身的な接触に及んだことは,社会通念上許容される限度を超えた相手方の望まない身体的接触であり,原告の性的自由または人格権を侵害するものとして,不法行為を構成する。 そして,原告は,指導教官として学問的に尊敬していた被告から,その指導の下に進めてきた研究報告の直前に,本件行為を受けたものであるから,それまで抱いていた被告に対する心象が根底から覆されたことはもちろん,研究者として自らの立場を頭から否定されたことへ強い嫌悪と不快の念を抱いたことは明らかであって,その精神的苦痛は原告にとって耐え難いものであったと推認される。 5 本件行為に至る経緯,本件行為の具体的態様,本件行為後の被告の対応,被告の社会的地位及びその喪失その他本件に現れた全ての事情を総合的に勘案すれば,原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては,300万円が相当であり,原告の損害はすでに慰謝されているとの被告の主張は採用しない。 なお,原告の心因反応が,原告の性格的,心因的な要因が寄与して発症したとしても,これをもって,本件行為との相当因果関係が全くないとまでいうことはできないというべきである。 また,原告が被告に誘われるままに被告の部屋へ赴いたことについては,何ら責められることではないことは前記のとおりであり,本件行為に至る経緯についても総合考慮して慰謝料を算定しているから,過失相殺はしない。 そして,本件事案の内容,審理経過,前記慰謝料額等を考慮すると,被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては,30万円が相当である。 6 結論以上の次 しているから,過失相殺はしない。 そして,本件事案の内容,審理経過,前記慰謝料額等を考慮すると,被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては,30万円が相当である。 6 結論以上の次第であるから,原告の本訴請求は,金330万円及びこれに対する平成11年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第2部裁判長裁判官一宮なほみ裁判官伊藤敏孝裁判官多田裕一

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