- 1 -主文本件上告を棄却する。 当審における未決勾留日数中140日を本刑に算入する。 理由 弁護人近藤広明の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。 所論にかんがみ,本件各詐欺罪の成否について検討する。 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は次のとおりである。 (1)被告人は,第三者に譲渡する預金通帳及びキャッシュカードを入手するため,友人のAと意思を通じ,平成15年12月9日から平成16年1月7日までの間,前後5回にわたり,いずれも,Aにおいて,五つの銀行支店の行員らに対し,真実は,自己名義の預金口座開設後,同口座に係る自己名義の預金通帳及びキャッシュカードを第三者に譲渡する意図であるのにこれを秘し,自己名義の普通預金口座の開設並びに同口座開設に伴う自己名義の預金通帳及びキャッシュカードの交付方を申し込み,上記行員らをして,Aが,各銀行の総合口座取引規定ないし普通預金規定等に従い,上記預金通帳等を第三者に譲渡することなく利用するものと誤信させ,各銀行の行員らから,それぞれ,A名義の預金口座開設に伴う同人名義の普通預金通帳1通及びキャッシュカード1枚の交付を受けた。 (2)被告人は,A及びBと意思を通じ,平成17年2月17日,Bにおいて,- 2 -上記(1)と同様に,銀行支店の行員に対し,自己名義の普通預金口座の開設等を申し込み,B名義の預金口座開設に伴う同人名義の普通預金通帳1通及びキャッシュカード1枚の交付を受けた。 (3)上記各銀行においては,いずれもA又はBによる各預金口座開設等の申込み当時, 開設等を申し込み,B名義の預金口座開設に伴う同人名義の普通預金通帳1通及びキャッシュカード1枚の交付を受けた。 (3)上記各銀行においては,いずれもA又はBによる各預金口座開設等の申込み当時,契約者に対して,総合口座取引規定ないし普通預金規定,キャッシュカード規定等により,預金契約に関する一切の権利,通帳,キャッシュカードを名義人以外の第三者に譲渡,質入れ又は利用させるなどすることを禁止していた。また,A又はBに応対した各行員は,第三者に譲渡する目的で預金口座の開設や預金通帳,キャッシュカードの交付を申し込んでいることが分かれば,預金口座の開設や,預金通帳及びキャッシュカードの交付に応じることはなかった。 以上のような事実関係の下においては,銀行支店の行員に対し預金口座の開設等を申し込むこと自体,申し込んだ本人がこれを自分自身で利用する意思であることを表しているというべきであるから,預金通帳及びキャッシュカードを第三者に譲渡する意図であるのにこれを秘して上記申込みを行う行為は,詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず,これにより預金通帳及びキャッシュカードの交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである。被告人の本件各行為が詐欺罪の共謀共同正犯に当たるとした第1審判決を是認した原判断に誤りはない。 よって,刑訴法414条,386条1項3号,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴)
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