令和2年7月10日判決言渡令和元年(行コ)第267号課徴金納付命令取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第163号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は,処分行政庁から,金融商品取引法159条2項1号に違反したとして同法174条の2第1項,185条の7第1項に基づいて課徴金の納付を命ずる決定を受けた被控訴人が,上記決定は違法であると主張して,その取消しを求めた事案である。 原判決が被控訴人の請求を認容したところ,控訴人が控訴した。 2 事案の概要は,原判決を後記3のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 原判決の補正 原判決6頁6行目末尾の次に「加えて,トレーダーの雇用には被控訴人の 確認等が必要であり,Aのみの判断で雇用することはできなかったし,そもそも,トレーダーを被控訴人ではなくAの所属にしていたのは,被控訴人の種々の責任回避が目的であった。」を加える。 原判決7頁10行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「カ仮に,被控訴人を違反者として認定するためには,本件各トレーダー について,被控訴人による指揮監督,雇用管理等の具体的な事情により, 被控訴人の役員又は従業員と同視し得ることを要するとしても,上記の各事情に照らせば,被控訴人による指揮監督,雇用管理 ついて,被控訴人による指揮監督,雇用管理等の具体的な事情により, 被控訴人の役員又は従業員と同視し得ることを要するとしても,上記の各事情に照らせば,被控訴人による指揮監督,雇用管理等が本件各トレーダーに及んでいたと認められるから,本件各トレーダーは被控訴人の役員又は従業員と同視し得る。 また,被控訴人はAに被控訴人名義の証券口座を使用した株取引につ いて代理権を授与していたと評価でき,代理人であるAの行為は,その効果帰属主体である被控訴人の行為と同視することができるから,Aは被控訴人の役員又は従業員と同視することができるところ,本件各トレーダーはAに雇用されるAの手足というべきものであるから,本件各トレーダーの行った取引は被控訴人の行為というべきである。 したがって,いずれにしても,被控訴人を違反者として認定することができる。」 原判決9頁11行目の「トレーダーIDを付与されている。」の次に「もっとも,この確認は,Aが,自らのトレーダー雇用権限を行使する際に,被控訴人に対し,過去に不正行為をしたことのある者のリストに掲載されてい ないかを確認しているに過ぎず,トレーダーの採否を判断するのはあくまでAであって,被控訴人ではない。」を加える。 原判決9頁17行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「オなお,被控訴人が自ら本件各トレーダーを雇用せず,Aが本件各トレーダーを雇用し,被控訴人とAとの間で本件トレーダー業務契約を締結 するという形式を用いているのは,第1に,Bが,それぞれ有限責任の法人から形成される企業グループであるところ,その中で,法人格が別個であり,そのそれぞれが有限責任であることを利用して,訴訟リスクを含む様々なリスク分散の観点から,役割,権限及び資 れぞれ有限責任の法人から形成される企業グループであるところ,その中で,法人格が別個であり,そのそれぞれが有限責任であることを利用して,訴訟リスクを含む様々なリスク分散の観点から,役割,権限及び資本を分配しているに過ぎず,第2に,個々のトレーダーの取引行為により生じた損失を 各拠点のオーナー兼マネージャーが負担する利益の計算手法(いわゆる ネッティング)を用いることで財務監査が困難になるとして,上記のような形式を採るように証券会社から要請されたためであって,控訴人が主張するような不公正な責任回避を目的としたものではない。」 原判決9頁18行目の「オ」を「カ」に改める。 原判決9頁20行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「キまた,上記のとおり,本件各トレーダーに対し,被控訴人による指揮監督,雇用監督等が及んでいたものではないから,本件各トレーダーは被控訴人の役員又は従業員と同視し得ない。 被控訴人は,本件各トレーダー又はAに自己の資金運用を委ねており,その関係は,代理方式による投資一任業務の委託関係に類似しているか ら,その意味において,本件各トレーダー又はAは,被控訴人の代理人に類似する役割を担っているともいえる。しかし,代理人の行為の効果が本人に帰属するからといって,代理人の行為が本人の行為と同視されるものではないし,金商法上も,金融商品取引業者が代理方式による投資一任業務を行った場合の課徴金納付命令における「違反者」はその金 融商品取引業者であってその委託者ではないと明確にしていることに照らしても,上記事情があるからといって,被控訴人が違反者とはなり得ない。」第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被控訴人の請求は理由がないと判断する。 委託者ではないと明確にしていることに照らしても,上記事情があるからといって,被控訴人が違反者とはなり得ない。」第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被控訴人の請求は理由がないと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 争点に対する判断の前提となる認定事実は,原判決を後記のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の「1 認定事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決の補正 ア原判決15頁23行目の「(乙12~16)」を「(乙12~16,2 3の1・2,原審被控訴人代表者)」に改める。 イ原判決15頁26行目の「Cの全株式を」を「C及びDの各全株式を」に,16頁1行目の「これら及びこれらの関係会社は」を「これらは」にそれぞれ改める。 ウ原判決16頁3行目末尾の次に「Aは,被控訴人の資金運用業務を行っ ているが,B外の者のための業務は行っていない。」を加える。 エ原判決18頁5行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「トレーダーの取引態様(乙14)トレーダーは,被控訴人のための取引を行うに際しては,被控訴人が保有する証券口座を直接用いて取引する。 したがって,その取引の結果生じた損益は,被控訴人に直接帰属する。」オ原判決18頁6行目の「」を「」に改める。 3 争点(被控訴人は本件各対象取引をした者であるか)について 金商法159条2項が,相場操縦違反行為等の行為をすることを何人に対 しても禁止しており,法人であっても同法174条の2第1項の「違反者」たり得ると解される。 そして,ある法人の役員又は従業員が 条2項が,相場操縦違反行為等の行為をすることを何人に対 しても禁止しており,法人であっても同法174条の2第1項の「違反者」たり得ると解される。 そして,ある法人の役員又は従業員が当該法人のためにした行為は,同項との関係では当該法人の「違反行為」となり,当該法人が同項の「違反者」となるというべきであるが,これにとどまらず,当該法人の役員もしくは従 業員と実質的に同視し得る者又は形式的には別個の法人ではあるが実質的には当該法人と実質的に同一体というべき法人の役員もしくは従業員が,当該法人のためにした行為も,同項との関係では当該法人の「違反行為」となり,当該法人が同項の「違反者」となるというべきである。 なぜならば,このように解さなければ,当該法人が形式的に自らの役員も しくは従業員ではない者に自らの取引行為を委ねさえすれば,又は当該法人 が形式的に別個の法人に自らの取引行為を委ねさえすれば,取引行為を委ねられた者又は委ねられた法人の役員もしくは従業員が同法174条の2第1項所定の違反行為をしても,当該法人は同項による課徴金の制裁を免れることとなり,同項の目的は達せられなくなる一方で,このように解しても,当該法人の正当な利益を害することはないからである。 上記と異なる被控訴人の主張は採用しない。 本件各対象取引は被控訴人名義の証券口座を利用したものであるが,実際に売買等を行っていたのは被控訴人とは別法人であるAである。そこで,上記述べたところを前提として,被控訴人とAとの関係について検討する。 前記のとおり,被控訴人とAは,いずれもその全株式をEが保有する姉妹 会社である。そして,被控訴人代表者は,Aの唯一の取締役であり,かつ,Eの唯一の受益者であ 関係について検討する。 前記のとおり,被控訴人とAは,いずれもその全株式をEが保有する姉妹 会社である。そして,被控訴人代表者は,Aの唯一の取締役であり,かつ,Eの唯一の受益者である。また,被控訴人はC及びDの全株式を保有しており,被控訴人代表者は,Cの唯一の取締役である。E,被控訴人,A,C及びDは,Bを形成している。 また,前記のとおり,被控訴人は自ら有価証券の売買等を行うトレーダー を雇用せず,有価証券市場での取引による資金運用についてはAとの間で本件トレーダー業務契約を締結してAが雇用するトレーダーらに全面的に委ねているところ,Aを設立してこのような形態を採用した理由について,被控訴人代表者は,原審における被控訴人代表者本人尋問において,①被控訴人自らが,その取引に必要な市場データの入手に関する金融商品取引所との契 約当事者となった場合,その取引所との間で紛争が生じると,被控訴人の資金が紛争の解決金等に引き当てられるリスクがあるため,これを回避しようとした,②トレーダーを管理するオーナー兼マネージャーに支払われる月額手数料の計算方法にネッティング(損失控除)を採用する際に,被控訴人自らがその支払を行った場合,財務諸表に関する外部監査が困難となるとして 証券会社の承認が得られず,被控訴人が証券会社との間で各種サービスの提 供に関するプライムブローカー契約を締結することができなくなるリスクがあるため,これを回避しようとした,③トレーダーを被控訴人自らが雇用した場合,その雇用契約に関して紛争が生じると,上記①と同様のリスクがあるため,これを回避しようとした,旨供述する。 そして,前記のとおり,B内で,Aのみが,有価証券の売買等を行うトレ ーダーを雇用しており, 関して紛争が生じると,上記①と同様のリスクがあるため,これを回避しようとした,旨供述する。 そして,前記のとおり,B内で,Aのみが,有価証券の売買等を行うトレ ーダーを雇用しており,かつ,Aは,B外の者のための業務を行っていない。 被控訴人の資金運用の態様についてみると,前記のとおり,被控訴人は,自らトレーダーを雇用して有価証券市場における資金運用に当たらせることをせず,また,トレーダーを直接統括するオーナー兼マネージャーを雇用することもせず,Aとの間で本件トレーダー業務契約を締結し,これに基づき, Aが雇用するトレーダーに被控訴人が保有する証券口座を用いて直接取引をさせて,その損益を直接自らに帰属させる。そして,被控訴人は,この損益に応じて算出される手数料をAに支払い,Aがトレーダー及びオーナー兼マネージャーに報酬を支払う。Aが雇用するトレーダーによる取引は,BのCの役職員によって監視され,監督される。 上記のとおり,確かに,形式的には,被控訴人とAは別個の法人格を有し,両者間の契約によって,Aから被控訴人への業務の提供とこれに対する被控訴人からAへの報酬の支払がされている。 しかしながら,上記のとおりの被控訴人及びAを含めたB各法人の関係並びにAの業務活動の態様に照らせば,Aは,Bに属する被控訴人の有価証 券取引による資金運用にかかる業務のうち一部を担うものとして設立され,もっぱらBに属する被控訴人の資金を有価証券取引により運用することのみを業とする法人というべきであって,そのトレーダーによる取引もBに属するCの役職員の監視,監督下にあるというのであるから,Aの運営はそれ自体独立しているものではなく,B全体で一体として行われていると認めるの が相当である。 のトレーダーによる取引もBに属するCの役職員の監視,監督下にあるというのであるから,Aの運営はそれ自体独立しているものではなく,B全体で一体として行われていると認めるの が相当である。 そうすると,金商法174条の2第1項の関係においては,被控訴人の証券口座に関する本件各対象取引について,被控訴人とAとは実質的に同一体であるというべきであり,したがって,Aが雇用したトレーダーが行った被控訴人の証券口座に関する取引行為が同項に違反する場合には,被控訴人がその違反者となるというべきである。 なお,被控訴人は,本件各トレーダー又はその所属するAに自己の資金運用を委ねており,その関係は,代理方式による投資一任業務の委託関係に類似しているところ,金融商品取引業者が代理方式による投資一任業務を行った場合の「違反者」はその金融商品取引業者であってその委託者ではないから,被控訴人は違反者とはなり得ないと主張する。 しかし,上記のとおり,Aは被控訴人から独立した存在とはいえないから,被控訴人とAとの関係は,代理方式による投資一任業務の委託関係に類似しているとはいえない。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。 以上のとおり,この点について,本件決定に被控訴人が主張する違法はな い。 4 争点(本件各対象取引は原判決別表の各No.ごとに一連のものであるか)について原判決別表のとおり,本件各対象取引は,若干の例外はあるものの,原判決別表の各No.ごとに,概ね以下のとおりの取引経過をたどっている。 ① 本件各トレーダーのうちのある者が,東証の前場(午前9時から午前11時30分まで)において,対象株式を買い付ける。 ② 上記①のトレーダーと同一支 とおりの取引経過をたどっている。 ① 本件各トレーダーのうちのある者が,東証の前場(午前9時から午前11時30分まで)において,対象株式を買い付ける。 ② 上記①のトレーダーと同一支店に属する他の本件各トレーダーが,東証の場間(午前11時30分から午後0時30分までであり,この間は東証の市場において取引は成立しない。)において,当該対象株式について, 直前の寄前気配値段より高い値段で,あるいは成り行きで,大量の買い注 文を発注する。 これにより,東証の寄前気配値段が上昇する。 ③ 上記①の本件各トレーダーが,東証の場間の時間中に,本件PTSにおいて,①で買い付けた値段よりも高く,上記②の上昇した寄前気配値段よりも低い値段で上記①で買い付けた株式の売り注文を出し,他の投資家の 買い注文と約定させ,あるいは,同一支店に属する他の本件各トレーダーが売り注文の一部に対当する買い注文をした上で,売り注文の残部を他の投資家の買い注文と約定させる。 ④ 上記②の本件各トレーダーが,上記③の後,東証の後場(午後0時30分から午後3時まで)の開始前に,上記②の買い注文を取り消す。 なお,買い注文の発注から取消しまでの時間は,いずれも20分に満たない。 上記のとおり,本件各対象取引は,東証の前場で買い付けた対象株式について,東証の場間で大量の買い注文を出し,上昇した寄前気配値段に連れて上昇した本件PTSにおける値段で既に取得した対象株式を売却し,東証 の後場が開始する前に場間での買い注文を取り消すというもので,これによって利益が生じていると認められる。 このような,前場で買い付けた株式と同一銘柄について,場間に大量の買い注文を発注しながら後場の開始前に買い注文を取り 注文を取り消すというもので,これによって利益が生じていると認められる。 このような,前場で買い付けた株式と同一銘柄について,場間に大量の買い注文を発注しながら後場の開始前に買い注文を取り消し,この買い注文の発注と取消しの間に,前場で買い付けた株式をPTSで売却するという取引 態様は,通常の取引としては不自然であってあり得ないというべきところ,これに,前場に株式を買い付けてこれを場間に本件PTSで売却したトレーダーと,場間に買い注文を発注して後にこれを取り消したトレーダーが,Aの同一支店に所属していることを合わせ考慮すれば,本件各対象取引は,原判決別表の各No.ごとに,同一支店に属する本件各トレーダー間で,買い 付けた株式について相場を高値に誘導した上で売り抜けて利益を得るという 目的をもって,その意思を通じて行った一連の取引であると優に推認することができる。 すなわち,本件各対象取引は,原判決別表の各No.ごとに一連のものと認めるのが相当である。 被控訴人は,本件各対象取引は,複数の本件各トレーダーが意思を通じず, 各人の判断で行ったものと主張し,これらが本件各トレーダーによって意思を通じて行われたものとすれば矛盾するものとして,本件各対象取引のうちに,前記のとおり引用する原判決12頁1行目冒頭から同頁11行目末尾までに記載の2パターンの取引が存在すると主張する。 確かに,原判決別表によれば,被控訴人が主張する2パターンの取引が存 在することが認められ,上記2パターンの取引は,その回数自体は142回の本件各対象取引中61回を占めるものの,その金額を見ると,パターンAにおいては,上記②の買い注文前の総買い金額が約1億1500万円であるのに対し,上記③の売却 の取引は,その回数自体は142回の本件各対象取引中61回を占めるものの,その金額を見ると,パターンAにおいては,上記②の買い注文前の総買い金額が約1億1500万円であるのに対し,上記③の売却後の総買い金額は約1200万円であり,また,上記④の買い注文取消し前の総売り金額が約1億1800万円であるのに 対し,買い注文取消し後の総売り金額は約900万円であって,いずれも取引全体の金額から見るとごく一部に過ぎない。また,パターンBにおいては,上記④の買い注文取消し前の総売り金額が1900万円であるのに対し,買い注文取消し後の総売り金額は約400万円であって,これも取引全体から見るとその占める金額の割合は小さいというべきである。 そうすると,確かに被控訴人が主張する2パターンの取引は存在し,その意図するところが相場操縦を隠蔽するためのものとまで認定することはできず,その意図は必ずしも明らかではないものの,そのような取引はむしろ例外的な存在であって,全体として本件各対象取引が原判決別表の各No.ごとに一連のものであることの推認を妨げるものではないというべきである。 したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。 そして,他に,上記の推認を妨げる事情は見出すことができない。 以上のとおり,この点について,本件決定に被控訴人が主張する違法はない。 5 争点(本件各対象取引は相場を変動させるべき行為であるか)について金商法159条2項1号は,取引所金融商品市場における上場金融商品の 相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその委託等をすることを禁止しているところ,これにあたるというためには,一連の有価証券売買等又はその委託等が,取引所金 品市場における上場金融商品の 相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその委託等をすることを禁止しているところ,これにあたるというためには,一連の有価証券売買等又はその委託等が,取引所金融商品市場における相場を変動させる可能性があることを要し,かつ,それで足りるというべきである。 そして,当初から取り消すことを予定した買い見せ玉取引は,他の投資家 をして,取引が活発であると誤信させ,当該銘柄の価格を上昇させる可能性があると認められる。 また,本件PTSは,金商法上の取引所ではないものの,乙第10号証によれば,理論上,同一銘柄の株式が複数の市場で取引される場合,投資家の投資行動によって,両市場での価格は同一価格に収斂しようとすることから, 本件PTSの市場における各銘柄の価格の変動に連動して取引所である東証の市場における同銘柄の価格が変動すること,現実にも,本件PTSの市場における価格変動と東証の市場における価格変動は相関関係にあることが認められるから,本件PTSの市場における相場を変動させることを目的とした一連の有価証券売買等又はその委託等は,その結果として,取引所である 東証の市場における相場を変動させる可能性があるものである。 これを本件についてみるに,本件各対象取引は,東証の市場において,当初から取り消すことを予定して大量の買い見せ玉発注を行い,その後にこれを取り消している。 また,本件各対象取引は,本件PTSの市場における対象銘柄の価格を上 昇させることを目的として,東証の市場において,大量の買い見せ玉発注を 行ったものである。 そして,現に,本件各対象取引の結果として,東証の寄前気配値段は上昇している。 以上によれば,本件各対象取引は いて,大量の買い見せ玉発注を 行ったものである。 そして,現に,本件各対象取引の結果として,東証の寄前気配値段は上昇している。 以上によれば,本件各対象取引は,取引所である東証の市場における相場を変動させる可能性があるものであり,金商法159条2項1号の「相場を 変動させるべき」行為であるということができる。 したがって,この点について,本件決定に被控訴人が主張する違法はない。 6 争点(本件各対象取引は取引を誘引する目的をもって行われたか)について 金商法159条2項は,取引を誘引する目的をもって同項1号所定の相場 を変動させるべき行為をすることを禁止しているところ,この取引を誘引する目的とは,実際には人為的操作によって相場を変動させるにもかかわらず,人為的操作がないと誤信させて,投資者を有価証券市場における有価証券売買取引に誘い込む目的をいう。 そして,投資者に上記のとおりの誤信を生じさせ,これに基づいて投資者 が取引に参加する可能性があることを認識しながら,同号所定の相場を変動させるべき行為をしたならば,その行為者には同項所定の取引を誘引する目的をもってその行為をしたものというべきである。 これを本件についてみるに,前記4で認定判示したとおり,本件各トレーダーは,互いに意思を通じて,本件各株式の本件PTSの市場における価格 を上昇させた上でこれを売却して利益を得る目的をもって本件各対象取引に及んだものであるところ,前記5で認定判示したとおり,これによって本件PTSの市場のみならず東証の市場においても本件各株式の価格は上昇し得るものであり,この価格変動を知った投資家としては,これが人為的操作の結果とは考えず,取引が繁盛であると誤信して,本 によって本件PTSの市場のみならず東証の市場においても本件各株式の価格は上昇し得るものであり,この価格変動を知った投資家としては,これが人為的操作の結果とは考えず,取引が繁盛であると誤信して,本件各株式の取引に参加す る可能性があることは明らかである。 そして,職業的トレーダーである本件各トレーダーにおいては,本件対象取引の結果として,上記の各可能性が存在することを知っていることもまた,自ずから明らかである。 以上によれば,本件各対象取引は,金商法159条2項にいう,取引を誘引する目的をもって行われたものと認めるのが相当である。 したがって,この点について,本件決定に被控訴人が主張する違法はない。 7 以上のとおり,本件決定に,被控訴人が主張する違法はいずれも認められず,他に取消事由となるべき違法も認められない。 したがって,本件決定に取消事由は認められず,被控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきところ,これと異なる原判決は失当であり,控訴は理 由がある。 よって,原判決を取り消した上で被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官近藤昌昭 裁判官中久保朱美 裁判官守山修生
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