平成12(ワ)326等 関西医科大学賃金請求

裁判年月日・裁判所
平成13年8月29日 大阪地方裁判所 堺支部
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判決文本文10,677 文字)

主文 1 被告は,原告らに対し,それぞれ21万2133円及びこれに対する平成10年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを4分し,その3を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告らに対し,それぞれ29万7775円及びこれに対する平成10年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被告設置に係る病院の臨床研修医(以下,単に「研修医」という。)であった亡Aが,被告から労務の対価として最低賃金法所定の最低賃金額を下回る給与額しか支払を受けなかったとして,Aの両親である原告らが,被告に対し,最低賃金額とAが受給した金額の差額及びこれに対する遅延損害金の支払いを請求した事案である。 2 前提となる事実(当事者間に争いがない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1) 当事者① 被告は関西医科大学を設置,運営する学校法人である。 ② Aは,平成10年3月に関西医科大学を卒業し,同年4月16日に医師国家試験に合格し,同年5月20日に厚生省(現厚生労働省)に医師として登録した者である。 ③ 原告BはAの実父,原告Cは,Aの実母であり,Aの相続人である。 (2) 事実経過① Aは,平成10年4月16日,第92回医師国家試験に合格し,同年5月6日から同月31日までの間,関西医科大学附属病院(以下「被告病院」という。)の耳鼻咽喉科において見学生として研修を受けた(甲8)。 ② Aは,平成10年6月1日から,被告病院において,研修医として,耳鼻咽喉科に所属していた。 ③ Aは,平成10年8月16日午前零時ころ,死亡 耳鼻咽喉科において見学生として研修を受けた(甲8)。 ② Aは,平成10年6月1日から,被告病院において,研修医として,耳鼻咽喉科に所属していた。 ③ Aは,平成10年8月16日午前零時ころ,死亡した。 (3) 大阪府における最低賃金額最低賃金法に基づく平成10年当時の大阪府における最低賃金額は日額5368円であり,これを法定の1日8時間勤務に基づき1時間当たりの金額を算出すれば,671円である。 (4) Aないし原告らが被告から支給を受けた金額Aないし原告らは,被告から,18万7500円から源泉徴収額を差し引いた17万8770円を受領した(甲7)。 (5) 被告病院における奨学金の支給基準及び支給金額被告は,平成10年当時,被告病院において,6か月以上継続し,かつ,常在して研修を行う研修医に対し,奨学金として,月額6万円を支給し,日直又は宿直勤務を命ぜられた研修医に対しては,その勤務1回につき,1万円を日直又は宿直手当として支給していた。 また,上記の金員は,毎月末に支給されていた(乙6)。 第3 争点 1 Aの「労働者」性について 2 Aに支払われるべき給料について(1) Aの勤務時間について(2) Aの受け取ることができる給与額第4 争点に対する当事者の主張 1 Aの「労働者」性について(原告ら)「労働者」の基本的概念は,労働基準法によって定められるところ,その中心的要素は使用従属関係に求められるが,被告との関係で,Aは使用従属関係にあるので,Aは「労働者」に該当する。 なお,北大阪労働基準監督署は,平成11年10月5日付けで,被告に対し,研修医の労働条件につき是正勧告をしており,その前提として,研修医が「労働者」に該当することについての行政的な有権判断をしている。 なお,研修医は,新任早々から,採血や点滴等の医療 で,被告に対し,研修医の労働条件につき是正勧告をしており,その前提として,研修医が「労働者」に該当することについての行政的な有権判断をしている。 なお,研修医は,新任早々から,採血や点滴等の医療行為を単独で行い,その後,順次,主治医として個々の患者を担当するのであり,司法修習生等とは異なる。 (被告)以下のとおり,Aは,従属労働に従事している者とはいえないので,最低賃金法2条1号の要件(労働基準法9条)に該当せず,同法5条2項の支払義務は存しない。 (1) 現行臨床研修制度と旧インターン制について昭和43年5月までのインターン制度下では,6年の学部教育を経た学生が,医師国家試験受験資格を得るために1年以上の実地修練が必要であったが,この制度下における実地修練と現行の臨床研修制度の研修とは,その実態において何ら変わりはない。 被告病院で研修する者は,一定期間(約1か月間)の見学を経て,研修医となる願を病院に提出し,病院長の許可を得ることになっている。ガイダンスの段階で,厚生省(現厚生労働省)の通達による教育研修スケジュールや奨学金等(同給付金月額6万円のみが病院から支払われるものであること,社会保険には加入しないこと,当直勤務には手当が出ること)について知らされた上で,自発的意思に基づき研修願を被告病院へ提出して臨床研修に入る。 また,研修医は,各研修について,決して病院や指導医の指揮命令により各研修に従事するのではなく,患者の診察・治療という未体験の領域に入って,これを見聞し,これらを自分の医師としての将来のための知識・経験として蓄えることを専らの目的として作成された教育研修スケジュールを実践している者であるから,診察を担っている先輩医師や指導医の指揮・命令を受けて患者のための医療業務に従事しているとはいえない。 なお 蓄えることを専らの目的として作成された教育研修スケジュールを実践している者であるから,診察を担っている先輩医師や指導医の指揮・命令を受けて患者のための医療業務に従事しているとはいえない。 なお,被告病院では,2年目の研修医は,そのほとんどの者が,一定の修練を積んで,患者の診察・治療に当たれる技量を有するに至るので,関係研修機関に出向して,出向先で一定の給与を得ることになるが,1年目の研修医は,自分のための研修以外のことは何もしない。時間に余裕があるからといって,病院の雑用を手伝わせたり,研修の名を借りて別の用務に従事させることもない。 (2) 他の制度との比較① 司法修習生研修医の地位については,裁判所法により国家公務員に準じる身分を取得する司法修習生と異なり,立法・行政上,また,我が国の財政事情等を勘案して決せられるべき問題であり,一私学,一病院の責任として論じれば足りるという問題ではない。 ② 商船大学等の実習生商船大学や商船高等専門学校(以下「大学等」という。)が,船舶職員法の機関士等の海技従事者の受験資格に必要な乗船履歴を得させるため,民間の事業場に委託して行わせる工場実習について,その目的が明確であること,教育実習委託費が事業場に支払われていること,大学等が工場実習規程等により,実習スケジュールを定め,これに従って実習が行われていること,大学等が委託した委託先事業場の指導技師の指導を受けること,現場では,一般労働者と区別され,直接生産活動に従事しないこと等から,労働基準法9条の労働者ではないものとして取り扱うとの行政実例があり(昭和57年2月19日基発121号),同実例は,一般の大学の工学部等の学生についても概ね同様としている。 ③ 看護婦ないし看護人養成所の生徒看護婦ないし看護人養成所の生徒についても,将来,看 あり(昭和57年2月19日基発121号),同実例は,一般の大学の工学部等の学生についても概ね同様としている。 ③ 看護婦ないし看護人養成所の生徒看護婦ないし看護人養成所の生徒についても,将来,看護婦となるべき素養を取得するために教育を受けているもので,教習課程中の実習も教育目的でのみなされ,決められた実習時間外はもとより,実習中も,教育に関係のない作業・実務・雑用に使用されないこと,一般看護婦・看護人と生徒の実習とが明確に区別され,実習につき,管理責任者がいること等を要件に,教習中の生徒は労働基準法9条の労働者として取り扱わないとの行政実例もある(昭和24年6月24日基発648号,同25年11月1日婦発291号)。 ④ 研修医研修医は,上記の大学等の実習生と異なり,医師免許を取得している点ではこの行政実例とは異なるが,従属労働者性は,その労働実態について判断すべきものとされるから,上記行政実例の考え方は,研修医についても十分あてはまる。 研修医は,その研修先の選定から,研修スケジュールの消化まで,自発的意思でこれをこなしていくのであり,指導医はあくまで研修医の研修の指導,助言をするにすぎず,従属労働を課す側の指揮命令権者ではない。 午後7時以降の在院は,研修医の自発的意思に基づくものであり,同期医師との意見交換や,実技練習,指導医の指導を受けるため等が専らであり,従属労働に従事するために残業を命じられていたなどということは全くなかったし,また,残業とは異質のものである。 また,週2回の手術日の手術が夜間遅くまで続き,これを研修医も見学するということはあったが,これも,自らの勉強のために自発的に在院したのであり,被告病院からなんらかの強制があったためではないし,被告病院のためにする従属労働ではない。 2 Aに支払われるべき給料 するということはあったが,これも,自らの勉強のために自発的に在院したのであり,被告病院からなんらかの強制があったためではないし,被告病院のためにする従属労働ではない。 2 Aに支払われるべき給料について(原告ら)(1) Aの勤務時間について平成10年6月1日から同年8月15日までは,11週間であり,右期間中におけるAの総労働時間は,別紙「労働時間」と題する書面のとおり,997時間16分である。 (2) Aに支払われるべき給与額1週間の法定労働時間は週40時間であるから,その範囲内においては1時間当たり金671円で計算される。 上記の法定労働時間週40時間を超えるもののうち,午後10時までが計454時間24分,午前5時以降午前7時30分までが計20時間であり,これらは時間外勤務として,25%が加算されなければならない。 また,午後10時から午前5時までの労働時間は計83時間52分であり,これらは深夜勤務として,50%が加算されなければならない。 上記の時間外勤務のうち,計82時間は日曜,休日出勤が含まれており,これには更に10%が加算されなければならない。 (被告)いずれも争う。 第5 争点に対する当裁判所の判断 1 認定事実前提となる事実,証拠(甲1,3,4,6,7,18,19,乙5の1ないし3,7ないし16)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実を認定することができる。 (1) 被告の耳鼻咽喉科の研修医に対する臨床研修プログラムの教育内容① 第1期(1年間)被告病院耳鼻咽喉科の外来及び病棟において下記の耳鼻咽喉科診療の基本的な知識と技術を学ぶとともに,医師としての必要な態度を修得する。1年間の後半期には経験した各症例についての深い考察に努め,興味ある症例に関して学会で報告し,論文を作成する。 ア外来診療にお 基本的な知識と技術を学ぶとともに,医師としての必要な態度を修得する。1年間の後半期には経験した各症例についての深い考察に努め,興味ある症例に関して学会で報告し,論文を作成する。 ア外来診療における病歴聴取を行い,耳鼻咽喉科領域の基本的な外国語(英語,ドイツ語)によるカルテの記載力,読解力を獲得する。 イ外来診療で各種器具を用いて耳鼻咽喉科領域の局所所見の観察を行う。 ウ各種聴覚検査,前庭平衡検査,顔面神経機能検査,鼻アレルギー検査,唾液腺機能検査の技術習得及び解析能力の修得を行う。 エ耳鼻咽喉科領域におけるX線診断,RI診断,MRI診断の読解及び解析能力の修得を行う。 オ外来診療における耳処置,鼻処置,咽喉頭処置の診療技術や鼻出血の止血処置,上顎洞穿刺,鼓膜切開等の小手術の修得を行う。 カ指導医の下で扁桃腺摘出術,鼻副鼻腔手術,気管切開術,頸部手術の技術の習得をする。 キ病棟において20から30名の各種疾患患者の主治医を受け持ち,疾患の理解及び患者の問題点を理解する能力を養成する。 ② 第2期(1年間)関連病院において,さらに高いレベルの臨床研修を行う。希望者には,第1ないし第3内科,麻酔科,救急救命センター等において医師として必要な基本的知識,技術及び態度を研修する。 (2) 平成10年6月1日から同年8月15日までのAの研修内容について① Aは,D及びEとともに,被告病院の耳鼻咽喉科において,平成10年6月1日から臨床研修を受けていた(以下,A,D及びEをまとめて「Aら」という。)。 ② Aらが受けた臨床研修の内容は,平日(月曜日から金曜日)においては,概ね,以下のとおりであった。 ア午前7時30分ころから,朝食前の入院患者の採血をする。 患者らが朝食を摂取した後,午前8時30分ころから午前9時ころにかけて,点滴を実 日から金曜日)においては,概ね,以下のとおりであった。 ア午前7時30分ころから,朝食前の入院患者の採血をする。 患者らが朝食を摂取した後,午前8時30分ころから午前9時ころにかけて,点滴を実施した。 イ午前9時から,一般外来の診察が始まるので,Aらは,指導医からの指示に基づき,検査申込書に記入して検査の予約をしたり,採血の指示を出したりして診察を補助した。 また,Aらは,初診の患者を問診したり,点滴をしたり,請薬だけの患者に処方箋を書いたり,エコーの検査等があれば見学しながら検査方法について説明を受けたりした。 一般外来の診察は,通常,午後1時30分ないし午後2時に終了した。 ウ被告病院では,午後は専門外来があるので,Aらは,診察に立ち会って見学するとともに,一般外来の場合と同様に,検査申込書に記入する等して,指導医の診察を補助した。 専門外来の診察は,通常,遅くとも午後4時に終了した。 エ火曜日及び水曜日は手術があるので,Aらは,手術を見学した。 また,午後の空いた時間に,指導医が主治医を務める患者の処置をする場合には,その時間に合わせて病棟に赴き,指導医に付き添って見学するとともに,診察を補助した。 オ午後4時30分ころから,午後6時ころまでは,研修医の自己研修時間とされており,Aらは,患者のカルテを見たり,文献を読んだりした。 カ Aらは,入院患者の夕食後である午後6時30分ころから,点滴を必要とする者に対し,点滴を実施した。 点滴は,通常,午後7時ころには終了していた。 キ午後7時以降は,病棟において,指導医が入院患者の処置をする場合には,Aらも補助した。 また,指導医がアルバイト等のために不在の場合や,指導医から診察をしてもよいとの許可を得ている場合には,Aらが一人で処置を行うこともあった。 その他には, の処置をする場合には,Aらも補助した。 また,指導医がアルバイト等のために不在の場合や,指導医から診察をしてもよいとの許可を得ている場合には,Aらが一人で処置を行うこともあった。 その他には,病棟のカルテを閲覧して,治療方針を検討したり,手術がある日には,手術を見学したりした。 ク Aは,通常,午後10時ころには,Dとともに,被告病院を退出し,帰宅した。 ③ Aらの土曜日及び日曜日における研修内容は,概ね,以下のとおりであった。 ア平日と同様に,午前7時30分ころから,朝食前の入院患者から採血し,患者らが朝食を摂取した後,午前8時30分ころから午前9時ころにかけて,点滴を実施した。 イ第1,第3,第5の各土曜日においては,診察日であることから,Aらは,午前9時から午後2時までの間,主治医が外来患者の診察をするのに立ち会った。 ウその他の時間についても,指導医が出勤している場合には,Aらも出勤して,入院患者の診察の補助をした。 ④ Aらは,指導医が当直をしている際には,主治医とともに被告病院内で待機していた(以下「副直」という。)。 Aは,平成10年6月14日,同年7月4日,同月13日,同月16日,同月26日,同月29日,8月13日にそれぞれ副直をした(なお,被告は,6月14日,7月13日,同月16日,同月26日,8月13日につき,いずれも,Aが副直をしていなかった旨主張するが,これを裏付けるに足りる証拠は窺えず,上記主張については,採用できない。また,原告らは,Aが平成10年7月8日に副直をした旨主張するが,同日午後11時42分,午後11時48分,同月9日午前0時28分にそれぞれAの自宅から電話がかけられており,原告らの上記主張についても採用できない。)。 ⑤ Aは,8月3日から同月8日まで,夏期休暇を取得していたが,8月5日及び 1時48分,同月9日午前0時28分にそれぞれAの自宅から電話がかけられており,原告らの上記主張についても採用できない。)。 ⑤ Aは,8月3日から同月8日まで,夏期休暇を取得していたが,8月5日及び同月7日については,被告病院に赴き,指導医の治療の補助等をした。 ⑥ Aは,8月9日午後0時30分ころまで,被告病院で入院患者の処置等をした後,午後3時ころから,京都市内に在住の教授宅を訪問した。 ⑦ Aは,8月10日午後7時から同日午後8時ころまで,手術予定者の麻酔申込手続をした。 2 Aの「労働者」性についてそもそも,最低賃金法における「労働者」とは,労働基準法9条にいう「労働者」と同義であるところ(最低賃金法2条1号),労働基準法9条において,「労働者」とは,「職業の種類を問わず,事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で,賃金を支払われる者」である旨規定されている。 そして,「使用される者」とは,他人の指揮命令ないし具体的指示のもとに労務を供給する関係にある者をいうと解されるが,具体的に「使用される者」に該当するか否かは,(イ)仕事の依頼,業務従事への指示等に関する諾否の自由の有無,(ロ)業務遂行上の指揮監督の有無,(ハ)場所的・時間的拘束性の有無,(ニ)労務提供の代替性の有無,(ホ)業務用器具の負担関係,(ヘ)報酬が労働自体の対償的性格を有するか否か,(ト)専属性の程度-他の業務への従事が制度上若しくは事実上制約されているか,(チ)報酬につき給与所得として源泉徴収を行っているか等を総合的に考慮して判断されるべきである。 前記認定によれば,Aら研修医は,本来的には,臨床研修において,医学的知識と技術,医師のあるべき姿勢,態度等を学ぶことを目的としており,その意味においては,いかに研鑚を深めるか等につき,自らの自発性に委ね 定によれば,Aら研修医は,本来的には,臨床研修において,医学的知識と技術,医師のあるべき姿勢,態度等を学ぶことを目的としており,その意味においては,いかに研鑚を深めるか等につき,自らの自発性に委ねられるところがあることは否定できないところであるが,Aらは,指導医が診察する際に,その診察を補助するとともに,指導医からの指示に基づいて,検査の予約等をしており,指導医と研修医との間に業務遂行上の指揮監督関係が認められること,平日(月曜日から金曜日)の午前7時30分から午後7時までの研修時間中においては,Aらに指導医からの指示に対する諾否の自由が与えられていなかったこと,月曜日から金曜日は午前7時30分までに被告病院に赴き,入院患者の採血を開始し,午後7時ころに入院患者への点滴が終了するまでは被告病院におり,土曜日及び日曜日についても,午前7時30分までには被告病院に赴き,入院患者の採血や点滴をしており,場所的・時間的拘束性が認められること,業務用器具についてはいずれの作業も被告病院の器具を用いること,被告は研修医に対して月額6万円及び副直手当相当額の金員を支給していること,被告病院における研修内容及び拘束時間に照らせば,Aら研修医は,事実上,他の業務への従事が制約されていること,Aが被告から支給を受けた金員は,給与所得として源泉徴収がなされていることが認められ,これらの事情を総合して検討すれば,Aら研修医は,研修目的からくる自発的な発意の許容される部分を有し,その意味において特殊な地位を有することは否定できないが,全体としてみた場合,他人の指揮命令下に医療に関する各種業務に従事しているということができるので,Aは「労働者」(労働基準法9条,最低賃金法2条1号)に該当すると認められる。 なお,被告は,「奨学金」として金員を支給していたのであ 下に医療に関する各種業務に従事しているということができるので,Aは「労働者」(労働基準法9条,最低賃金法2条1号)に該当すると認められる。 なお,被告は,「奨学金」として金員を支給していたのであり,Aにおいても,そのことを承知した上で,自発的意思に基づき,被告病院において研修することを志望したのであるから,従属労働に従事している者とはいえない旨主張する。 しかしながら,金員の名目及び支給金額のみにより,労働に対する対償的性格を有するか否かを判断すべきでなく,業務内容等も加味しつつ,実質的に,労働に対する対価として金員が支払われていたのかという観点から検討すべきであるところ,上記金員は,実質的には,研修医の業務に対する対価として支払われていたと認めるのが相当であるから,被告の上記主張は採用できない。 また,被告は,研修医が,被告病院や指導医の指揮命令により研修に従事するのでもなければ,診察を担っている先輩医師や指導医の指揮・命令を受けて患者のための医療業務に従事するものでもない旨主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,被告の耳鼻咽喉科の研修医に対する臨床研修プログラムの教育内容として,指導医の下で扁桃腺摘出術,鼻副鼻腔手術,気管切開術,頸部手術の技術の習得をすることや,外来診療における耳処置,鼻処置,咽喉頭処置の診療技術や鼻出血の止血処置,上顎洞穿刺,鼓膜切開等の小手術の修得を行うことが掲げられており,指導医による,指揮・命令が予定されているのみでなく,実際の研修においても,指導医が患者に対して処置する際に,その補助をしたり,指導医の指示に基づき,検査申込書に記入して検査の予約をしたり,採血の指示を出したりしていたのであるから,上記主張についても採用できない。 なお,被告は,司法修習生,商船大学等の実習生,看護婦ないし看護人養 指示に基づき,検査申込書に記入して検査の予約をしたり,採血の指示を出したりしていたのであるから,上記主張についても採用できない。 なお,被告は,司法修習生,商船大学等の実習生,看護婦ないし看護人養成所の生徒との対比において,研修医が労働者に該当しない旨主張するが,以上の説示のとおりであって,これらとの対比において詳細に検討するまでもなく,研修医が労働者に該当することは明らかである。 3 Aに支払われるべき給料について(1)Aの勤務時間についてAの勤務時間については,前記第5の1(2)で認定した各事実に加え,証拠(甲1,乙7ないし16)を併せ検討すれば,別紙「勤務時間一覧表」記載のとおり認められる。 なお,休診日については,Aが点滴や採血のみで帰宅したとは認め難く,指導医が出勤している際には,その補助をしたことが認められることに鑑みると,午後0時まで勤務していたと認めるのが相当である。 また,7月20日については,海の日で休診日であり,午前9時16分及び午前10時13分にそれぞれAの自宅から電話がかけられていることからすると,Aは,同日,付属病院に出勤しなかったと認めるのが相当である。 (2) Aに受け取ることができる最低賃金額Aの勤務時間からAが受け取るべき最低賃金額は以下のとおりである。 ① 法定時間内勤務分8(時間)×50(日)=400(時間)400(時間)×671(円)=26万8400円② 時間外勤務分208.5(時間)×(671(円)×1.25)=17万4879円(小数点以下切捨て)③ 深夜勤務分54(時間)×(671(円)×1.5)=5万4351円④ 日曜・休日出勤分126(時間)×(671(円)×1.35)=11万4137円(小数点以下切捨て)⑤ ①から④の合計額26万8400円+17万4879円+5万 円)×1.5)=5万4351円④ 日曜・休日出勤分126(時間)×(671(円)×1.35)=11万4137円(小数点以下切捨て)⑤ ①から④の合計額26万8400円+17万4879円+5万4351円+11万4137円=61万1767円(3) Aが受け取るべき金額被告がAに対して現実に支払った給料額は,18万7500円であるから,以下のとおり,Aが受け取るべき金額は,42万4267円である。 61万1767円-18万7500円=42万4267円 4 原告らによる相続Aの死亡の事実及び原告らがAの相続人であることは前記第2の2のとおりであり,原告らは,上記未払賃金42万4267円につき,2分の1の割合により,各21万2133円(小数点以下切捨て)を相続した。 第6 結論以上のとおり,原告らの請求は,被告に対し,それぞれ21万2133円及びこれに対する未払賃金の支払期日の後である平成10年9月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから,同限度においてこれを認容し,その余は理由がないから棄却することし,訴訟費用につき,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所堺支部第一民事部裁判長裁判官中路義彦裁判官宮本初美裁判官品川英基

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