主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が平成11年7月2日付でした,平成9年10月1日から平成10年9月30日までを欠損事業年度とし平成9年3月1日から同年9月30日までを還付所得事業年度とする欠損金の繰戻しによる還付請求に理由がない旨の通知処分の全部を取り消す。 第2 事案の概要本件は,合併存続法人の破産管財人である原告が,被告に対し,法人税法(以下「法」という。)81条4項,1項の規定に基づき,同法人の合併後の事業年度の欠損金を被合併法人の合併前の事業年度の所得に繰り戻して還付請求をしたところ,被告が同還付請求には理由がない旨の通知処分をしたので,原告が同処分の取消しを求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1) 中塚印刷株式会社(以下「本件合併法人」という。)は,昭和38年11月7日,三英印刷株式会社として設立され,平成9年1月29日,商号を中塚印刷株式会社に変更した。本件合併法人は,同年2月1日,従前行っていた印刷事業等の営業を三英印刷有限会社に譲渡した。 (2) サンスイ株式会社(以下「本件被合併法人」という。)は,平成6年4月14日,設立された。本件被合併法人は,平成9年7月22日,商号を株式会社リーデックに変更した。 (3) 本件合併法人は,平成9年7月22日,本件被合併法人との間で,本件合併法人を存続法人とする合併契約を締結した(以下「本件合併」という。)。合併期日である同年10月1日,本件合併法人は,商号を株式会社リーデックに変更し,本件被合併法人は,本件合併により解散し,消滅した。 (4) 本件合併法人は,平成9年11月28日,平成9年7月1日から同年9月30日までの事業年度に係る法人税について,欠 式会社リーデックに変更し,本件被合併法人は,本件合併により解散し,消滅した。 (4) 本件合併法人は,平成9年11月28日,平成9年7月1日から同年9月30日までの事業年度に係る法人税について,欠損金額を15万7752円,納付すべき税額を0円として,青色の確定申告書によって申告した。 本件被合併法人は,平成9年11月28日,平成9年3月1日から同年9月30日までの事業年度(以下「本件還付所得事業年度」という。)に係る法人税について,所得金額を2億561万356円,納付すべき税額を7109万4600円として,青色の確定申告書によって申告した。 (5)本件合併法人は,平成10年10月21日,破産宣告を受け,原告が破産管財人となった。 原告は,平成10年12月28日,平成9年10月1日から平成10年9月30日までの事業年度(以下「本件欠損事業年度」という。)に係る法人税について,欠損金額を4億1746万2434円,納付すべき税額を0円として,青色の確定申告書によって申告した。 (6) 原告は被告に対し,平成11年1月4日,本件合併法人の本件欠損事業年度の欠損金4億1746万2434円を,本件被合併法人の本件還付所得事業年度の所得に繰り戻し,法人税額7109万5844円の還付請求(以下「本件還付簿求」という。)をした。 (7) 被告は原告に対し,平成11年7月2日,本件還付請求に理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。 (8) 原告は,平成11年9月1日,本件通知処分に不服があるとして大阪国税局長に対して異義申立てをしたが,同年11月29日に異義を棄却する旨の決定がされたため,同年12月28日に国税不服審判所長に対する審査請求をした。しかし,平成12年6月21日,審査請求を棄却する旨の裁決がされた。 2 争点欠損を生 11月29日に異義を棄却する旨の決定がされたため,同年12月28日に国税不服審判所長に対する審査請求をした。しかし,平成12年6月21日,審査請求を棄却する旨の裁決がされた。 2 争点欠損を生じた合併法人は,法81条1項に基づいて当該欠損金を被合併法人の事業年度の所得に繰り戻して法人税の還付を請求することができるか。 3 当事者の主張(被告の主張)(1) 法14条2号は,法人が合併した場合,被合併法人は合併の日をもって消滅することから,被合併法人の事業年度を「その事業年度開始の日から合併の日までの期間」とする旨定めている。また,法は,合併があった場合,被合併法人の各種数額の合併法人への承継については個々的に規定する形を取っていることからすると,規定のない事項については,合併後存続する会社には一切影響を及ぼさないこととしているものと解すべきである。 ところで,欠損金の繰戻しは,シャウプ勧告書において初めて導入が勧告された企業に対する特典的性質の強い制度であって,法律上特典として明文で規定された範囲内のみにおいてのみ,その利益を享受し得るものにすぎない。 したがって,欠損繰戻還付請求の対象となる事業年度に被合併法人の合併前の事業年度を含むというためには,法81条1項にいう「還付所得事業年度」の範囲として,明文の規定によってその旨定めていることが必要であると解されるところ,そのような定めはない以上,被合併法人の事業年度は含まれない。 (2) 法11条の実質所得者課税の原則は,法律上の名義と実質所得者とが乖離する場合に,実質的に直接帰属したと考えられる所得者をもって課税の目的と定める,所得の帰属に関する通則であって,法81条による欠損金の繰戻しを合併法人と被合併法人との間に認めるか否かについては,適用場面を異にするものといわざるを得ない られる所得者をもって課税の目的と定める,所得の帰属に関する通則であって,法81条による欠損金の繰戻しを合併法人と被合併法人との間に認めるか否かについては,適用場面を異にするものといわざるを得ない。したがって,本件合併法人と本件被合併法人との実質的な同一性を根拠とする原告の主張は理由がない。 (原告の主張)(1) 合併による存続法人が,被合併法人の確定した納税義務はもちろんのこと,未だ具体化されていない抽象的な納税義務をも承継すべきとされることの反対解釈として,合併法人は,欠損金の繰戻しによる還付請求権が合併時点では未だ具体化していない抽象的なものではあっても,当然にその承継を受けるというべきである。 また,法71条2項において,合併存続法人の合併後最初の事業年度の中間申告の際の法人税額には,合併存続法人のもののみならず,被合併法人のものを含める旨を規定していることからも,法81条1項の「当該欠損金額に係る事業年度開始の日前一年以内に開始したいずれかの事業年度」には,合併法人のもののみならず,被合併法人のものをも含むと解すべきである。 (2) 仮に上記のような繰戻しが当然には認められないとしても,本件のように合併法人と被合併法人との間に実質的な同一性が認められる場合には,法11条等に現れた実質課税の原則により,合併法人の欠損金を被合併法人の所得に繰り戻すことを認めるべきである。 すなわち,本件合併は,株式の公開に備えて株式の額面金額を5万円から500円に切り替えるという技術的な目的のために行われた形式的なものであり,実質的には,被合併法人である株式会社リーデックが休業中の会社であった合併法人中塚印刷株式会社を吸収合併したと評価できるものであり,形式上の被合併法人である株式会社リーデックと合併存続法人である株式会社リーデックとは実質的 ある株式会社リーデックが休業中の会社であった合併法人中塚印刷株式会社を吸収合併したと評価できるものであり,形式上の被合併法人である株式会社リーデックと合併存続法人である株式会社リーデックとは実質的には全く同一であり,継続性が保たれている。中塚印刷株式会社は,本件合併前に従前行っていた営業を三英印刷有限会社に全部譲渡し,実質的な資産はなかった。そして,本件合併後,商号及び本店所在地を合併前の被合併法人と同じに変更し,被合併法人の営業形態,営業内容を何ら変更することなく事業を継続したのである。 我が国の税法においては,収益の帰属主体の名義いかんにかかわらず,実質課税の原則がとられているところ(法11条,所得税法12条等),実質課税の原則における実質主義は,課税の場面のみならず租税還付の場面でも適用されるべきである。 第3 争点に対する判断 1 合併法人の欠損金の被合併法人の所得への繰戻しの可否について(1) 法81条は,青色申告書を提出する法人が,各事業年度において欠損が生じた場合において,その欠損金をその欠損の生じた事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)の所得に繰り戻し,その事業年度の所得に対する法人税の全部又は一部の還付を請求することができることを定めている。 法は,各事業年度毎に課税することを建前としているが,この原則を貫くと数年にわたり各事業年度を通じて所得計算をする場合に比して税負担が過剰となる場合が生ずるので,課税負担を合理化するために一定の条件の下に繰越欠損金の損金算入を認めている(法57条)。しかし,繰越欠損金の損金算入は,欠損が生じた事業年度が先の場合を想定しているところ,逆に欠損が生じた事業年度が後の場合には課税負担の合理化が図れないことから,シャウプ勧告に基づいて創設されたのが 。しかし,繰越欠損金の損金算入は,欠損が生じた事業年度が先の場合を想定しているところ,逆に欠損が生じた事業年度が後の場合には課税負担の合理化が図れないことから,シャウプ勧告に基づいて創設されたのが法81条の繰戻還付請求制度である。このような欠損金の繰戻還付請求制度の趣旨及び法81条の文理からすると,同条1項にいう「当該欠損金額に係る事業年度開始の日前一年以内に開始したいずれかの事業年度」(還付所得事業年度)は,欠損を生じた当該法人の事業年度を意味すると解される。 (2) 商法103条は,会社の吸収合併の場合,存続会社が被合併会社の権利義務を承継することを定めている。しかし,合併により存続会社に移転される権利義務とは被合併法人の積極的,消極的財産を指し,計算上の数額である資本や準備金,あるいは単なる経理計算関係などはこれに該当するものではない。 欠損金の繰戻還付請求制度の趣旨は前記のとおりであり,同制度が青色申告者にのみ認められていること,過去において財政難を理由としてその適用が停止された時期もあることからすると,同制度は特典的性格の強いものであり,どの範囲まで繰戻しを認めるかは立法政策の問題というべきである。したがって,被合併法人の事業年度において所得が発生したからといって,将来の事業年度において欠損を生じた場合に繰戻しを行うことができる権利が発生したと解することはできない。また,所得金額自体は企業会計上の数額にすぎず,権利義務として承継の対象となるものではない。 したがって,本件合併法人が本件被合併法人の権利義務を承継するからといって,直ちに本件被合併法人の事業年度への欠損金の繰戻還付請求が認められるものではない。 (3) 法人税は,各事業年度の所得に対して課税されるものであるところ(法5条),法人が事業年度の中途において合併によ ちに本件被合併法人の事業年度への欠損金の繰戻還付請求が認められるものではない。 (3) 法人税は,各事業年度の所得に対して課税されるものであるところ(法5条),法人が事業年度の中途において合併により消滅した場合には,その事業年度開始の日から合併の日までの期間を事業年度とみなすこととされている(法14条2号)。もっとも,合併存続法人の合併後最初の事業年度の中間申告の際の法人税額には,被合併法人の納付すべき法人税額を含めることとされている(法71条2項)。また,合併があった場合の引当金の引継ぎについては,各引当金ごとに個々に規定されている(法52条5項,53条5項,54条6項)。したがって,法は,被合併法人については,合併によって消滅するため,合併の時点までで所得の計算を打ち切ることを原則とし,各種数額のうち合併法人に引き継がせるべきものについては,個別に規定していると解される。欠損金の繰戻しについては,法81条の規定は前記のとおりであり,合併後の合併法人の事業年度の欠損金を被合併法人の事業年度の所得に繰り戻すことができる旨の明文の規定はない。 (4) 以上によれば,法81条1項にいう還付所得事業年度には,被合併法人の事業年度は含まれず,合併後の合併法人の事業年度の欠損金を被合併法人の事業年度の所得に繰り戻すことはできないと解するのが相当である。 (5) 原告は,本件合併法人と本件被合併法人との間には実質的な同一性が維持されているから,このような場合には,法11条に現れた実質所得者課税の原則により,欠損金の繰戻しを認めるべきであると主張する。 前提事実,証拠(甲1,10,11)及び弁論の全趣旨によれば,①本件合併法人は,本件合併直前にその営業を第三者に譲渡しており,本件合併時点において実質的な資産はなかったこと,②本件合併法人は,本件合併以 事実,証拠(甲1,10,11)及び弁論の全趣旨によれば,①本件合併法人は,本件合併直前にその営業を第三者に譲渡しており,本件合併時点において実質的な資産はなかったこと,②本件合併法人は,本件合併以後に商号,会社の目的及び本店所在地を変更しており,これらは合併前の被合併法人の商号等と同一であること,③本件被合併法人の取締役4名及び監査役が本件合併前に本件合併法人の取締役及び監査役に就任していること,④本件合併は,株式の上場に備えて本件被合併法人の株式の額面金額を引き下げるために行われたものであること,以上の事実が認められる。 しかし,どのような場合に欠損金の繰戻しを認めるかは立法政策の問題であり,合併法人と被合併法人との間に実質的な同一性や継続性が認められる場合に当然に欠損金の繰戻しを認めるべきであるとはいえない。法81条が実質的な企業の同一性,継続性を基準として欠損金の繰戻しを認める立場をとっていないことは,先に見たとおりである。 原告は,法11条の定める実質課税主義により,合併法人の欠損金の被合併法人の所得への繰戻しを認めるべきであると主張する。しかし,法11条は,収益の法律上の帰属者と実質上の帰属者とが異なる場合に実質上の帰属者に対して課税すべきであるとの所得の帰属に関する原則を定めたものであって,同条から直ちに原告主張のような解釈が導かれるものではない。 法人の合併において,いずれの法人を存続法人とするかは,合併の目的やその法的効果等の様々な要素を考慮した上で合併契約において定められるものであり,選択した法形式に応じて法人の消滅や権利義務の承継等の効力を生じるのは当然であって,本件合併法人を存続法人とする合併を選択したために本件被合併法人の所得への繰戻しができなくなったとしても,不合理とはいえない。 したがって,本件合併法 利義務の承継等の効力を生じるのは当然であって,本件合併法人を存続法人とする合併を選択したために本件被合併法人の所得への繰戻しができなくなったとしても,不合理とはいえない。 したがって,本件合併法人と本件被合併法人との実質的な同一性を理由とする原告の主張は,採用することができない。 2 結論以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部裁判長裁判官山下郁夫裁判官青木亮裁判官畑佳秀
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