平成29(ワ)42 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年12月12日 長崎地方裁判所
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判決文本文68,948 文字)

- 1 - 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告は、別紙1「当事者目録」記載1⑴及び⑶の各原告に対し、各10万円及びこれに対する①事件原告につき平成29年3月27日から、②事件原告につき同年6月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告b に対し、5万円及びこれに対する平成29年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告c 及び同d に対し、各2万5000円及びこれに対する平成29年3月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、長崎市に投下された原子爆弾(以下「原爆」という。)による「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」(以下「被爆者援護法」という。) 1条所定の「被爆者」の子(以下「被爆二世」という。)又はその訴訟承継人である原告らが、原爆の放射線による遺伝的(継世代)影響を否定できず、これにより被爆二世が抱く健康不安について、被爆者援護法による援護を受ける被爆者等と同等の国の援護を受ける権利が憲法13条によって保障され、また、被爆者等との差別的取扱いが憲法14条1項に違反するから、被告には、被爆 二世を被爆者援護法1条所定の「被爆者」に加えて援護の対象とするなどの立法措置を講ずべき義務があるにもかかわらず、これを怠ったなどと主張して、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、慰謝料各10万円(訴訟承継人につき同額の各法定相続分に応じた金額)及びこれに対する訴状送達の日から各支 れを怠ったなどと主張して、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、慰謝料各10万円(訴訟承継人につき同額の各法定相続分に応じた金額)及びこれに対する訴状送達の日から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号によ る改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を - 2 -求める事案である。 1 関係法令の定め等別紙2「関係法令の定め等」記載のとおり 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠〔枝番があるものは特記しない限り枝番を含む。以下同じ。〕等及び弁論の全趣旨により認定した事実) ⑴ 原告らア亡a 及び同訴訟承継人を除く原告ら(以下「原告等」という。)は、いずれも、長崎市に投下された原爆による被爆者援護法1条所定の「被爆者」を父母双方又は父若しくは母として、昭和21年6月4日以降に出生した者(被爆二世)である(甲D1~26)。 イ亡a は、令和●年●月●日死亡し、妻b、長女c 及び二女d が相続し、訴訟承継した。 ⑵ 原爆の投下アメリカ合衆国軍は、昭和20年8月6日、広島市に原爆を投下し、同月9日、長崎市に原爆を投下し、多数の者が死傷した。なお、長崎市に投下さ れた原爆の爆心地は、別紙3「被爆地域等」の爆心地と表示された地点である。 ⑶ 被爆者援護法制定の経緯の概要昭和32年3月31日に原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(以下「原爆医療法」という。)が成立し、同年4月1日に施行され、昭和43年5月 20日に原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(以下「原爆特別措置法」という。)が成立し、同年9月1日に施行された。上記各法律(以下「原爆二法」という。)を統合して引き継ぐ 43年5月 20日に原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(以下「原爆特別措置法」という。)が成立し、同年9月1日に施行された。上記各法律(以下「原爆二法」という。)を統合して引き継ぐとともに援護内容を更に充実発展させるものとして、平成6年12月9日に被爆者援護法が成立し、平成7年7月1日に施行された。なお、被爆者の定義については、原爆医療法以降 変更されていない。 - 3 -⑷ 被告による被爆二世に対する援護措置ア被告は、原爆二法及び被爆者援護法において、被爆二世を援護の対象として定めていない。 イ被告は、昭和54年度から、被爆二世を対象とした健康診断を実施し、平成28年には多発性骨髄腫の検査を追加したが、当該健康診断において は、がん検診は実施されていない。 ⑸ 放射線の種類及び単位、被曝の態様並びに原爆放射線の種類等放射線の種類及び単位、被曝の態様並びに原爆放射線の種類等は、別紙4「放射線の種類及び単位、被曝の態様並びに原爆放射線の種類等」のとおりである(甲B52、59、乙25、53、54、56)。 3 争点⑴ 被爆二世に対する立法不作為の違憲性(憲法13条、14条1項違反)⑵ 国賠法1条1項の違法性⑶ 損害 4 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点⑴(被爆二世に対する立法不作為の違憲性)(原告らの主張)ア立法上の作為義務を基礎付ける事情 被爆者援護法との関係被爆者援護法は、社会保障法としての性質を有するとともに、国家補 償的配慮を制度の根底とする法律であり(最高裁判所昭和53年3月30日第一小法廷判決・民集32巻2号435頁〔以下「昭和53年判決」という。〕、 会保障法としての性質を有するとともに、国家補 償的配慮を制度の根底とする法律であり(最高裁判所昭和53年3月30日第一小法廷判決・民集32巻2号435頁〔以下「昭和53年判決」という。〕、最高裁判所平成29年12月18日第一小法廷判決・民集71巻10号2364頁参照)、被爆者の意義について、同法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」 とは、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することがで - 4 -きない事情の下に置かれていた者」をいうと解するのが相当である(広島高裁令和3年7月14日判決参照)。 国家補償的側面を有する上記被爆者援護法の趣旨に鑑みれば、後記のとおり被爆二世への放射線の遺伝的(継世代)影響を否定することができない以上は、被爆二世についても援護の対象とすべきであり、上記 遺伝的(継世代)影響を否定することができないことは、被爆二世に対する援護についての被告の立法義務を基礎付けるものといえる。 放射線被害の遺伝的(継世代)影響a 原爆の放射線が被爆二世の身体に影響を及ぼす機序原爆の放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線といっ た電離放射線)が物質に対する電離(原子や分子から電子が分かれ出ること)や励起(原子をエネルギーの高い状態に変化させること)という作用を通じて被爆者の細胞のうち生殖細胞(精原細胞及び精子、卵原細胞及び卵子)のDNAを損傷又は変異させ、DNAの修復機構等によっても修復又は除去しきれないものが残る。そして、被爆者で ある母親又は父親のそのような変異等を有する生殖細胞のDNAから複製されたDNAを有する被爆二世の身体の機能等に影響が出る。 b 動物実験 去しきれないものが残る。そして、被爆者で ある母親又は父親のそのような変異等を有する生殖細胞のDNAから複製されたDNAを有する被爆二世の身体の機能等に影響が出る。 b 動物実験による遺伝的影響マラーによるショウジョウバエの実験によって放射線による生物への遺伝的(継世代)影響が明らかになった。また、ヒトと同じ哺乳動 物であるマウスを用いた実験(ラッセルらによるメガ・マウス実験、野村大成によるマウス実験等)において、(突然)変異の誘発や出生後の腫瘍発症等の多因子疾患の誘発(腫瘍になり易い変異の誘発)といった放射線被曝による遺伝的(継世代)影響が証明された。マウスの遺伝子は、ヒトの遺伝子とほぼ同じ数で、配列も非常によく似てい るから、マウスで証明されたものはヒトにも生じることを推測させる。 - 5 -そのことは、人の放射線防護における基準(国際放射線防護委員会〔ICRP〕や原子放射線の影響に関する国連科学委員会〔UNSCEAR〕の基準)において、マウス実験の結果から推定される数値が用いられていることにも表れている。 c ヒトに対する遺伝的影響の可能性 日本遺伝学会及び日本人類遺伝学会の見解日本遺伝学会及び日本人類遺伝学会は、「人類におよぼす放射線の遺伝的影響についての見解」(昭和32年4月1日公表)において、「放射線が生物に遺伝的な変化、すなわち突然変異を誘発することは、多くの研究によって明らかである。もちろん人類もその例 外とは考えられない。」と指摘している。 ⒝ UNSCEARの見解UNSCEARは、2001年(平成13年)、「電離放射線に被ばくしたヒト集団では、放射線誘発遺伝的(遺伝性)疾 られない。」と指摘している。 ⒝ UNSCEARの見解UNSCEARは、2001年(平成13年)、「電離放射線に被ばくしたヒト集団では、放射線誘発遺伝的(遺伝性)疾患はこれまでのところ証明されていない。しかしながら、電離放射線は普遍 的な突然変異誘発原であり、植物や動物を用いた実験的研究では、放射線は遺伝的影響を誘発できることが明確に証明されている。従って、ヒトはこの点に関して例外ではないであろう。」と報告している。 ⒞ セラフィールド(英国)の核施設の男性従業員の子の調査 ガードナーらは、英国のセラフィールドの核施設の男性従業員の子を対象として、白血病及び非ホジキンリンパ腫の発症に関する調査を行い、1990年(平成2年)にその結果を公表し、ディキンソンらは、対象を拡大して、同様の調査を行い、2002年(平成14年)にその結果を公表した。上記各調査の結果、父親の被曝量 とともにリスクが有意に上昇していることが判明した。なお、被告 - 6 -が指摘するUNSCEARや英国の「環境における放射線の医学的側面に関する委員会」(COMARE)の報告においても、父親の被曝量とその子の白血病等のリスクの上昇等の関連性自体は否定されていない。 ⒟ 広島県内の被爆二世の白血病発症に関する研究 鎌田七男ら広島大学の研究チームは、広島県内の被爆二世の白血病発症について、継続的に研究し、2012年(平成24年)には、1946年(昭和21年)から1973年(昭和48年)までに生まれた11万9331名の上記被爆二世集団において、1955年(昭和30年)までに94例の白血病が発症し、そのうち49例の 解析では、両親共に被爆してい )から1973年(昭和48年)までに生まれた11万9331名の上記被爆二世集団において、1955年(昭和30年)までに94例の白血病が発症し、そのうち49例の 解析では、両親共に被爆している場合、片親のみが被爆している場合に比して、白血病発症の頻度が有意に高い旨の報告をしている。 公益財団法人放射線影響研究所(以下「放影研」という。)の調査結果放影研の調査については、指標の適否、調査集団の大きさ、調査 期間の限界等の調査研究方法に関する問題点や限界が指摘されていたが、放影研の研究結果においても、放射線による遺伝的影響を示唆する報告がされている。すなわち、放影研所属の山田美智子らは、令和3年、「原爆被爆者の子ども達の先天性形成異常と周産期死亡:再評価」において、過去の報告の再解析を行ったところ、①出生 時に確認された先天性形成異常、②死産と出生から7日以内の新生児の死亡(7日以内の周産期死亡)、③死産と出生から14日以内の新生児の死亡(14日以内の周産期死亡)のいずれについても、親の被曝線量(母親線量、父親線量又は両親の合計線量)の増加に伴ってリスクが増加する傾向が示され、特に上記③については、両 親の合計線量の増加に伴って統計的に有意な増加が認められたとの - 7 -報告をした。 被爆二世に対する援護措置に関連する経緯a 昭和24年7月に設置されたアメリカ原爆災害調査委員会において、既に遺伝的特徴は第二世代に伝えられる可能性がある旨が指摘されていた。昭和32年に原爆医療法が制定された際には、国会において、 被爆二世に対する援護措置の必要性が議論されていた。 b 昭和41年7月には、広島で「胎内被曝者・被爆二世を守る会」が結 た。昭和32年に原爆医療法が制定された際には、国会において、 被爆二世に対する援護措置の必要性が議論されていた。 b 昭和41年7月には、広島で「胎内被曝者・被爆二世を守る会」が結成され、被爆二世に対する医療援護措置に関する請願がされ、昭和42年8月には、広島県、広島市、長崎県及び長崎市において、被爆二世の健康診断の実施等を含む法制化の要請が決定されるなど、自治 体や被爆者団体による被爆二世の援護措置を求める要請等が繰り返された。 c 昭和47年6月には「被爆二世問題対策連絡会」が結成され、同年7月には、広島市議会において、被爆二世・三世に関し、早急な実態調査、被爆者健康手帳の交付、健康診断、健康管理、疾病治療上の措 置等を求める意見書が採択され、昭和48年にかけて、地方自治体による被爆二世健診が実施されていく中、昭和54年7月、厚労省が被爆二世健診を発表したが、以降、単年度の予算措置による実施を繰り返すにとどまった。 d 昭和57年3月には、被爆二世問題に取り組む団体により、統一要 求書が提出され、昭和63年12月には、「全国被爆二世団体連絡協議会」(以下「全国被爆二世協議会」という。)が結成され、被爆二世・三世に関し、実態調査、健康診断の実施、原爆二法による施策の適用等の要請がされた。 e 平成元年11月には、被爆二世に対する健康診断を実施し、その結 果、原爆の傷害作用に起因する疾病の認定を受けたものを被爆者とみ - 8 -なす旨の規定を含む「原爆被爆者等援護法案」(以下「平成元年法案」という。)が参議院に提出され、同年12月、同法案が可決されたが、衆議院閉会により廃案となった。平成4年4月には、再度、同内容の法案(以下、「平成4年法案」といい、平 護法案」(以下「平成元年法案」という。)が参議院に提出され、同年12月、同法案が可決されたが、衆議院閉会により廃案となった。平成4年4月には、再度、同内容の法案(以下、「平成4年法案」といい、平成元年法案と併せて「平成元年法案等」という。)が参議院で可決されたが、衆議院において審 議未了により廃案となった。 f 平成6年12月、被爆者援護法が制定されたが、被爆二世を援護の対象とはせず、衆議院において、「被爆者とその子及び孫に対する影響についての調査、研究及びその対策について十分配慮し、二世の健康診断については、継続して行うとともに、その置かれている立場を 理解して一層充実を図ること」との附帯決議がされるにとどまった。 イ憲法13条違反上記アのとおり、原爆の放射線による遺伝的(継世代)影響により被爆二世に健康被害が生ずることを否定することはできず、被爆二世は、国の戦争遂行の結果である原爆投下によって健康不安を抱いてきた。上記遺 伝的(継世代)影響を否定できないことは科学的根拠に裏付けられたものであり、被爆二世の抱く健康不安は、一般的な健康不安とは質的に異なる。 そして、上記健康不安に対して国の援護を求めることは、個人の人格的生存に不可欠な基本的人権に基づくものといえるから、被爆二世が国の援護を受ける権利は、憲法13条によって保障される。 したがって、被告が、被爆者援護法の被爆者に被爆二世を含めず、援護の対象としていないことは、被爆二世の生命・健康を脅かすものであり、上記権利を保障した憲法13条に違反する。 ウ憲法14条1項違反 被爆者援護法は、同法1条各号所定の被爆者に対し、健康診断の実施、 医療の給付、一般疾病医療費の支給、各種手当の支 を保障した憲法13条に違反する。 ウ憲法14条1項違反 被爆者援護法は、同法1条各号所定の被爆者に対し、健康診断の実施、 医療の給付、一般疾病医療費の支給、各種手当の支給をすることとし、 - 9 -同条3号は「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」を被爆者として援護の対象としている。その趣旨は、原爆の放射能の影響を受けている可能性がある者に対しては特段の制限を設けることなく被爆者に含めて、まずは健康診断を受けさせるというものであるところ、前記のとお り、被爆二世についても、放射線の遺伝的(継世代)影響を否定できず、同様に「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」といえるから、被爆二世を同法の被爆者に含めず、援護の対象としていないことに、合理的根拠はなく、同法の趣旨に反する差別的取扱いとして憲法14条1項に違反する。 この点、被告は、被爆者援護法における被爆者の範囲について、科学的合理的な根拠が認められる範囲に限るとの考え方に基づいて制定されたもので、同法1条3号についても同様である旨主張するが、そのような制限的な文言が加えられず、同号に原爆医療法2条3号の文言が引き継がれたことからすると、同主張は、恣意的な独自の見解に過ぎないと いえる。 被爆者援護法附則17条により被爆者とみなされる者(以下「みなし被爆者」という。)については、被爆者援護法7条を適用して、健康診断が実施され、その結果、第一種特例区域の対象者のうち、同法27条1項、同法施行規則51条所定の健康管理手当対象障害があると診断さ れた者に対しては、402号通達等により同法1条3号に該当する者として、被 その結果、第一種特例区域の対象者のうち、同法27条1項、同法施行規則51条所定の健康管理手当対象障害があると診断さ れた者に対しては、402号通達等により同法1条3号に該当する者として、被爆者健康手帳が交付されている。このような措置が講じられたのは、みなし被爆者について放射線による健康被害が科学的に根拠付けられたからではなく、行政区画に基づく被爆地域の指定に対して、拡充を求める隣接地域の地元住民の要請に応えざるを得なかったためであり、 原爆の放射線による影響の可能性を考慮して、健康診断特例区域を指定 - 10 -したものである。 被爆二世に対しては上記のような措置が講じられていないが、前記のとおり、原爆の放射線による人体への影響の可能性という点において何ら変わるところはないから、被爆二世に対して同様の措置を講じていないことは、憲法14条1項に違反する。 エ立法上の作為義務の内容上記イ、ウのとおり、被告が被爆二世に対する援護の措置を講じてこなかったことは、憲法13条及び14条1項に違反するから、被告は、被爆二世に対して、次の立法義務を負う。 主位的主張 被爆者援護法1条の「被爆者」に被爆二世を加え、同法の援護の対象とする立法義務 予備的主張a みなし被爆者と同様、被爆二世を同法7条所定の健康診断の対象者とし、健康診断の結果、同法27条1項、被爆者援護法施行規則51 条所定の健康管理手当支給対象疾病に該当すると診断された場合は、申請により同法2条に定める被爆者健康手帳を交付し、同法に基づく援護措置をとるという立法義務b 平成元年度法案等と同様、被爆二世に対して、同法7条所定の健康診断を実施し、その 場合は、申請により同法2条に定める被爆者健康手帳を交付し、同法に基づく援護措置をとるという立法義務b 平成元年度法案等と同様、被爆二世に対して、同法7条所定の健康診断を実施し、その結果、原爆の傷害作用に起因する疾病として定め られた疾病に罹患しているとの認定を受けた者は、同法の「被爆者」として同法2条に定める被爆者健康手帳を交付し、同法に基づく援護措置をとるという立法義務(被告の主張)ア立法上の作為義務を基礎付ける事情について 被爆者援護法との関係について - 11 -被爆者援護法は、被爆者の範囲を、特定の被爆態様ないし放射線被曝の程度で原爆の放射能に被曝したことにより健康被害が生じることについての科学的知見を前提とした具体的根拠が認められる場合に限定しており、同法1条1号及び2号で包摂されない特殊な被爆態様による被爆者を対象とした同条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受け るような事情の下にあった」とは、当該被爆態様が、実質的に上記科学的知見の基礎となった被爆状況ないし放射線被爆の程度と同様の状況にあったと認められる場合をいうものと解される。 原告らは、被爆者援護法の国家補償法的側面を強調して、放射能の影響を否定できない者まで被爆者の範囲に含めようとするが、同法は社会 保障法的側面も有するのであり、その法的性格から、被爆者の範囲を導き出すことはできず、原告らの主張は前提を欠き失当である。 放射線被害の遺伝的(継世代)影響について次のとおり、親の放射線被曝による次世代への遺伝的影響は確認されていない。 a 遺伝的影響の機序についてDNAの塩基配列中、タンパク質 影響について次のとおり、親の放射線被曝による次世代への遺伝的影響は確認されていない。 a 遺伝的影響の機序についてDNAの塩基配列中、タンパク質情報の遺伝子として使用されるのは約5%(情報として使用される重要部分であるエクソン約1.5%、その他の機能領域約3.5%)であり、放射線がDNAに当たったとしても、重要な遺伝子が壊れる確率は低く、DNAに損傷が生じた場 合でも、延期除去修復、ヌクレオチド除去修復等多様な修復機構により、塩基配列の偶発的変化はほとんどが修復され、修復できない場合でも、変異した細胞が死滅し排除する仕組み(アポトーシス)があり、突然変異の中には次世代に何ら影響しないサイレント突然変異もある。 また、ヒトの場合、先天的な異常を持つ子は自然流産等により生ま れにくくなっている。 - 12 -したがって、親の放射線被曝が次世代へ遺伝的影響を与える確率は極めて低い。 b 親の放射線被曝の次世代への遺伝的影響が確認されていないこと UNSCEARの見解UNSCEARは、2013年(平成25年)報告書において、 放射線被曝による人間における遺伝的影響として明白に確認されたものはないというのが一般的な結論であるとの見解を示している。 ⒝ 放影研による原爆被爆者の遺伝的影響調査放影研は、原爆の放射線による遺伝的影響について、長年に渡り、種々の調査研究(広島市及び長崎市の新生児6万5431人の出生 時調査等)を実施してきたが、親が被爆した放射線の影響によりその子に異常(生まれたときの体の異常、染色体の異常、血液たんぱく質の異常、がんと死亡、生活習 び長崎市の新生児6万5431人の出生 時調査等)を実施してきたが、親が被爆した放射線の影響によりその子に異常(生まれたときの体の異常、染色体の異常、血液たんぱく質の異常、がんと死亡、生活習慣病)が増加するといった有意な結果は得られていない。 ⒞ 被爆二世のDNA調査 原爆被爆者や被爆二世の試料を使用した放影研によるDNA調査(高い自然変異率を示すミニサテライト遺伝子座、マイクロサテライト遺伝子座等の検査等)や、長崎大学による全ゲノム解析等が実施されたが、親の放射線被曝による被爆二世への遺伝的影響は確認されなかった。また、放射線に被曝した親の子130人とその両親 の全ゲノム解析等の多国間共同研究が実施され、その結果が2021年(令和3年)4月に発表されたが、同様の結論であった。 c 原告ら主張の根拠について 動物実験による遺伝的影響についてマラーによるショウジョウバエの実験で照射された放射線量は極 めて高く、ヒトの生存、生殖自体が成立せず、その実験結果はヒト - 13 -には妥当せず、ラッセルらによるメガ・マウス実験についても同様である。また、マウスとヒトは異なる分類群(哺乳綱齧歯目と哺乳綱霊長目)に属し、DNA配列の約40%しか共有していない、寿命、細胞分裂の回数、1度に生まれる子の数、妊娠期間等様々な違いがあり、マウスによる実験結果をそのままヒトに適用することは できない。 ⒝ ヒトに対する遺伝的影響の可能性について英国セラフィールドの核施設労働者の子に関する調査研究については、英国の独立機関COMAREにより、小児白血病多発の原因が父親の放射線被曝や核施設周辺での居住にはないとの結論 いて英国セラフィールドの核施設労働者の子に関する調査研究については、英国の独立機関COMAREにより、小児白血病多発の原因が父親の放射線被曝や核施設周辺での居住にはないとの結論が下さ れている。 広島県内の被爆二世の白血病発症に関する研究については、被爆二世と被爆二世ではない集団とを比較したものではなく、親の被曝線量を検討していないこと等から、親の放射線被曝により被爆二世の健康に影響が生じることの科学的根拠とはならない。 放影研の「原爆被爆者の子ども達の先天性形成異常と周産期死亡:再評価」について、同研究は、①出生時に確認された先天性形成異常、②7日以内の周産期死亡、③14日以内の周産期死亡の3つの指標につき、親の被曝線量(母親線量、父親線量、両親の合計線量)の関係性について再解析を行ったものであるところ、合計9パ ターンのうち8パターンについては有意な結果はなく、有意な結果が出たのは両親の合計線量と③についての解析であるが、母親又は父親の線量単独での解析結果と異なり、両親の線量を合計する生物学的な根拠も認められていない。また、原爆による放射線以外の要因による影響について調整されておらず、上記再解析による推定値 は放射線が直接影響を及ぼしたと考えるには不正確等と結論付けら - 14 -れており、親の放射線被曝により被爆二世の健康に影響が生じる科学的根拠とはならない。 イ立法不作為の違憲性について被爆二世を援護の対象とする立法を積極的に命ずる憲法の明文は存在しない。戦争被害は国民が等しく受忍しなければならなかった性質のもので あり、憲法は、戦争犠牲ないし戦争損害に対する措置を要求する権利を保障するものではない。これらに対 に命ずる憲法の明文は存在しない。戦争被害は国民が等しく受忍しなければならなかった性質のもので あり、憲法は、戦争犠牲ないし戦争損害に対する措置を要求する権利を保障するものではない。これらに対する立法措置を講じるか否かは、国会の裁量的権限に委ねられていると解すべきであり(最高裁判所昭和43年11月27日大法廷判決・民集22巻12号2808頁、最高裁判所昭和62年6月26日第二小法廷判決・集民151号147頁等参照)、原爆投 下の結果として生じた放射能に起因する健康被害は、他の戦争被害とは異なる特殊の被害であるものの、その対策については、国の財政事情を無視することができず、他の戦争被害者に対する対策と著しい不均衡が生じないようにしながら、公正妥当な範囲による措置を講ずべきものであるから、立法措置を講ずべきか否かについての判断が国会の裁量的権限に委ねられ ることに変わりはない。 そして、後記ウ、エのとおり、憲法13条及び14条1項を根拠として、立法措置を求める権利は保障されていないから、被爆二世が被爆者援護法による援護と同等の援護を受ける権利は、憲法上保障されていない。 ウ憲法13条違反について 憲法13条は、個人主義を基調とする自由権的基本権ないし基本的人権を一般的、抽象的、包括的に宣言しているものであり、同条から国民が国に対して何らかの実体法上の請求権を取得することは考えられないから、被爆二世が被爆者援護法による援護と同等の援護を受けることを内容とする立法措置を求める権利は保障されていない。 エ憲法14条1項違反について - 15 - 憲法14条は、平等主義の原則を一般的に宣言したものであり、裁判規範としては、差別を内容とする行為を違法無効とす い。 エ憲法14条1項違反について - 15 - 憲法14条は、平等主義の原則を一般的に宣言したものであり、裁判規範としては、差別を内容とする行為を違法無効とするにとどまるものであり、国に対して実質的平等を実現するよう要求する権利を含むものではないから、被爆二世が被爆者援護法による援護と同等の援護を受けることを内容とする立法措置を求める権利は保障されていない。 上記イのとおり、被爆者援護法の援護施策として、具体的にどのような立法措置を講じるか否かは国会の裁量に委ねられている。上記アのとおり、被爆者援護法は、被爆者の範囲について、科学的合理的な根拠が認められる範囲に限るとの考え方に基づいて制定され、同法1条3号の被爆者についても、これを前提として、原爆投下時に実在し又は胎児 であった者について、当該被爆態様や被爆が健康に影響を及ぼし得る機序等が個別具体的に検討される。これに対して、被爆二世については、原爆投下時に実在せず直接被爆した可能性がなく、親の原爆放射線被曝により子の健康に影響が生ずるか否かが問題となるところ、同影響が生ずることについて科学的合理的根拠が確認されていないのであるから、 被爆二世について異なる取扱いをすることは何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるとはいえず、憲法14条1項に違反するとはいえない。 また、みなし被爆者については、原爆投下時に被爆地域に隣接する区域に実在し又はその胎児であった者であり、直接被爆した可能性を否定 できないが、当該区域を被爆地域とする程の原爆放射線による健康被害を生ずる可能性を肯定できなかったため、被爆者とすることはできなかったが、被爆地域との隣接性や地理関係、地方公共団体等からの拡大要望や地 ないが、当該区域を被爆地域とする程の原爆放射線による健康被害を生ずる可能性を肯定できなかったため、被爆者とすることはできなかったが、被爆地域との隣接性や地理関係、地方公共団体等からの拡大要望や地域住民の健康状況の訴え、又は、被爆地域との爆心地からの距離関係等の諸事情を踏まえ、被爆者援護法7条の健康診断に限って対象と したものである。これに対して、被爆二世については、上記のとおり、 - 16 -直接被爆した可能性がなく、親の被爆により子の健康に影響が生ずることについて科学的合理的根拠が確認されていないのであるから、被爆二世について異なる取扱いをすることが、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるとはいえず、憲法14条1項に違反するとはいえない。 ⑵ 争点⑵(国賠法1条1項の違法性) (原告らの主張)ア前記⑴(原告らの主張)イ、ウのとおり、被告が、被爆者援護法の被爆者に被爆二世を含めず、援護の対象とせず、被爆者及びみなし被爆者と同等の援護措置を講じていないことは、憲法13条及び14条1項に違反し、被告は、同エのとおり、立法上の作為義務を負う。 そして、同アのとおり、原爆放射線被害の影響については、昭和24年から指摘され、昭和32年の原爆医療法の制定過程でも議論され、その後も、被爆二世の援護措置を求める要請等が繰り返されてきたことに加え、昭和53年判決において、原爆医療法の国家補償的側面が指摘され、被告の被爆者援護政策が厳しく批判されたことも踏まえると、被告は、昭和5 4年度の健康診断の予算措置の段階で、上記被爆二世に対する援護措置を内容とする立法義務を負っていたというべきであり、平成元年法案等の参議院での可決等のその後の経過にも照らすと、遅くとも、平成6年12月の の健康診断の予算措置の段階で、上記被爆二世に対する援護措置を内容とする立法義務を負っていたというべきであり、平成元年法案等の参議院での可決等のその後の経過にも照らすと、遅くとも、平成6年12月の被爆者援護法制定の段階では、上記立法義務を負っていたことは明らかであり、かつ、立法措置を講ずることができたというべきである。 イ以上によれば、被告の上記立法不作為は、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」又は「国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合」 (最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号1512 - 17 -頁、以下「平成17年判決」という。)に該当するから、国賠法1条1項の違法性を有し、遅くとも被爆者援護法制定時には、上記立法義務を認識して立法措置を講ずることができたにもかかわらず、その後も、これを放置してきたのであるから、過失があることは明らかである。 (被告の主張) 国会議員の立法行為が国賠法1条1項の適用上違法となるのは、①立法の内容又は立法不作為が憲法上保障されている国民の権利を違法に侵害することが明白である場合や、②国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合 に限られる(平成17年判決参照)。 原告らは、被爆二世を被爆者援護法の適用対象とする立法措置をとらなかったという立法の欠缺に対する立法不作為を主張してい 期にわたってこれを怠る場合 に限られる(平成17年判決参照)。 原告らは、被爆二世を被爆者援護法の適用対象とする立法措置をとらなかったという立法の欠缺に対する立法不作為を主張しているから、②の場合に該当するかが問題となるところ、前記⑴(被告の主張)イないしエのとおり、被爆二世が被爆者援護法による援護と同等の援護を受ける権利が憲法上保障 されているとはいえないから、上記立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法となる余地はない。 ⑶ 争点⑶(損害)(原告らの主張)原告等は、疾病をいつか発症するかもしれない危険性を抱え、発症すれば どうやって生きていくのか、治療を受けられるのか不安に感じ続けてきた。 原告等が被った長期間にわたる多大な精神的苦痛を金銭的に評価することは困難であるが、あえてすれば、その慰謝料額は原告等各自につき10万円を下らない。 (被告の主張) 否認又は争う。 - 18 -第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 ⑴ 原爆医療法等の制定に至る経緯ア原爆医療法制定に至る経緯及び同法の定め等 原爆医療法制定に至る経緯a 請願等(乙1、2)広島・長崎の両市長及び両市議会議長は、昭和28年7月頃、原爆による障害者の治療費が相当多額となり、市費のみによる入院加療が著しく困難であり、国費による援助救済を求める旨の「原子爆弾によ る障害者に対する治療援助に関する請願」を行った。 また、両市長及び両市議会議長は、昭和31年11月5日、「被爆者とは、昭和20年8月広島市又は長崎市に原子爆弾が投下された よ る障害者に対する治療援助に関する請願」を行った。 また、両市長及び両市議会議長は、昭和31年11月5日、「被爆者とは、昭和20年8月広島市又は長崎市に原子爆弾が投下された時又はそれに引続く政令で定める期間内に、政令で定める区域内にあった者及びその者の胎児であった者をいう。」などの「原爆障害者援護 法案要綱(試案)」を盛り込んだ「原爆障害者援護法制定に関する陳情書」を作成し、陳情した。 b 政府部内における検討等 原爆医療法制定に当たって参考にされた科学的知見原爆医療法の制定に当たっては、日本学術会議の発行した原子爆 弾災害調査報告書(昭和26年発行)やその他の専門家の意見が参考とされた。 原子爆弾災害調査報告書では、放射能の威力とその障害作用について、爆心直下から半径1kmの地域内では想像に絶する多量の放射能が到達し、殊に、戸外で作業中であった人々には全ての放射能 威力が障害を与えたこと、コンクリート建物内の遮蔽された場所又 - 19 -は堅固な防空壕内等にあった人々はある程度ガンマ線と中性子との作用を受けたが、十分に遮蔽された人々は障害の程度が比較的軽かったようであること、放射能威力の作用は、大体半径4kmまでの地域に及んでおり、戸外にいたものの方が障害を受けた程度が強かったこと、放射能威力の人体に与え得る障害について、大体爆心直 下から半径1kmの地域圏内にいたものは高度の障害(数日ないし2週間までの間に死亡)、1ないし2kmの地域内にあった者は中度の障害(2ないし6週間位の間に重篤な症状を発生して多くの死亡者を出す。)、2ないし4kmの地域内のものが軽度の障害(死を免れるが、数か月にわたって色々な故障が起こ し2kmの地域内にあった者は中度の障害(2ないし6週間位の間に重篤な症状を発生して多くの死亡者を出す。)、2ないし4kmの地域内のものが軽度の障害(死を免れるが、数か月にわたって色々な故障が起こり易い。)を受け たものと思われることが指摘されている(乙51)。 ⒝ 原子爆弾被爆者の医療等に関する法律案厚生省が昭和32年2月7日付けで作成した上記法律案2条は、被爆者について、次のとおりとしていた(乙3)。 「この法律において「被爆者」とは、次の各号の一に該当する者で あって、被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう。 一原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内にあった者二原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内にあった者 三前二号に掲げる者のほか、これらに準ずる状態にあった者であって、原子爆弾の傷害作用の影響を受けたおそれがあると考えられる状態にあったもの四前各号に掲げる者が当該各号に該当した当時その者の胎児であった者」 ⒞ 法律案の提出 - 20 -上記法律案2条3号は、内閣法制局による予備審査における指摘を踏まえて、「前二号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」という文言に修正され、上記法律案は、昭和32年2月21日、政府により国会に提出された(乙3)。 c 原爆医療法に関する国会審議の状況 昭和32年2月22日開催の 」という文言に修正され、上記法律案は、昭和32年2月21日、政府により国会に提出された(乙3)。 c 原爆医療法に関する国会審議の状況 昭和32年2月22日開催の社会労働委員会(乙4)上記社会労働委員会(第26回国会衆議院)において、厚生大臣は、原爆医療法の提案理由として、「昭和20年8月、戦争末期に投ぜられました原子爆弾による被爆者は、十年余を経過した今日、 なお多数の要医療者を数えるほか、一見健康と見える人におきましても突然発病し死亡する等、これら被爆者の健康状態は、今日においてもなお医師の綿密な観察指導を必要とする現状であります。しかも、これが、当時予測もできなかった原子爆弾に基くものであることを考えますとき、国としてもこれらの被爆者に対し適切な健康 診断及び指導を行い、また、不幸発病されました方々に対しましては、国において医療を行い、その健康の保持向上を図ることが、緊急必要事であると考えるのであります。…被爆者の現状にかんがみますれば、今後全国的にこれが必要な健康管理と医療とを行い、もってその福祉に資することといたしたいと考え、ここに原子爆弾被 爆者の医療等に関する法律案を提出した次第であります。」との説明をした。 その上で、同大臣は、法律案の要点の一つとして、「第一は、原子爆弾が投下された当時広島市長崎市に居住していた者その他原子爆弾の放射能の影響を受けていると考えられる人に対しまして、そ の申請に基き都道府県知事において被爆者健康手帳を交付し、毎年 - 21 -健康診断及び必要な健康上の指導等の健康管理を行うことにより、疾病の早期発見その他被爆者の健康の保持を図ることとしたのであります。」との説明をした。 を交付し、毎年 - 21 -健康診断及び必要な健康上の指導等の健康管理を行うことにより、疾病の早期発見その他被爆者の健康の保持を図ることとしたのであります。」との説明をした。 ⒝ 昭和32年3月25日開催の社会労働委員会(乙5)上記社会労働委員会(第26回国会衆議院)において、原爆医療 法が規定する被爆者の範囲について審議され、その際、政府委員は、次のとおり答弁した。 「この法律を適用されます被爆者と申しますのが、一、二、三、四に該当するものでございまして、第一は、投下されたそのときに、広島市、長崎市または政令で定める区域―これは爆心地から大体五 キロくらいの区域を考えておるわけでございます。 それから第二は、その爆弾が投下されたときには、この広島市、長崎市にはおりませんでしたけれども、…二週間の期間の間に入ってきて、そうして遺骨を掘り出したとか、あるいは見舞にあっちこっち探して回ったとかいうような人を考えております。その際には、 爆心地から2キロくらいというふうに考えております。これも専門家の意見を聞いて、大体そういうふうに考えておるわけでございます。 第三は、その一にも二にも入りませんが、たとえば、投下されたときに、爆心地から五キロ以上離れた海上でやはり照射を受けたと いうような人も、あとでいわゆる原子病を起してきております。そういう人を救わなければならないということ、それからずっと離れたところで死体の処理に当った看護婦あるいは作業員が、その後においていろいろ仕事をして、つまり二の方は2キロ以内でございますが、それよりもっと離れたところで死体の処理をして、原子病を 起してきたというような人がありますので、それ いは作業員が、その後においていろいろ仕事をして、つまり二の方は2キロ以内でございますが、それよりもっと離れたところで死体の処理をして、原子病を 起してきたというような人がありますので、それを救うという意味 - 22 -で三を入れたわけでございます。 それから第四は胎児でございます。」(八木一男委員の指摘を受けて)「この第二条の第四号では、被爆した当時すでに受胎したもののみを含むということになっておりまして、その後に受胎したものは一応考えていないわけでございま す。これは遺伝の問題ともからんで参りますので、遺伝学的に放射能の影響がどうあるかということについては、現在の学会でもいろいろ問題になっておりまして、国際遺伝学会も近く開かれてその問題が講ぜられるということを聞いているわけでございますが、今までのところは、むしろ第二代目については消極的な意見が割合よけ いに出ておりましたために、私どもはただいま…御指摘の被爆後に受胎したものについては、考えていないわけでございます。しかしこれは遺伝学的にいろいろ今後検討されまして、そういうものも当然考えなければならないということになって参りますれば、当然対象の中に入れていかなければならない。これは今後の学会、特に遺 伝の専門家の方々の御意見の推移を見守っていきたいと考えております。」これに対し、八木一男委員は、「現にその後に受胎した胎児で、白血病になって非常に苦しんで死亡した実例を私どもは知っております。学説というものは、ほんとうに定説になるまでに時間がかか りますけれども、病気で苦しみ死んでいく人たちはそういう時間の余裕がございません。政治というものは社会生活の中に生きているものでございます。ある学説 は、ほんとうに定説になるまでに時間がかか りますけれども、病気で苦しみ死んでいく人たちはそういう時間の余裕がございません。政治というものは社会生活の中に生きているものでございます。ある学説がほんとうに完全な定説になるまでの間に、どんどん死亡する被爆後に受胎した胎児がいるわけでございますから、その点は学説のみの根拠じゃなしに、政治を担当し、行 政を担当しておられる省で、そういう態度で、それが含まれるよう - 23 -にしていただかなければいけないと思うのです。」と指摘している。 原爆医療法の制定及び同法の定め原爆医療法は、昭和32年3月31日に成立し、交付され、同年4月 1 日、施行された。その概要は次のとおりである。(乙6)a 目的 原爆医療法は、「広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者が今なお置かれている健康上の特別の状態にかんがみ、国が被爆者に対し健康診断及び医療を行うことにより、その健康の保持及び向上をはかることを目的とする」ものである(同法1条)。 なお、昭和32年5月14日発衛第267号厚生事務次官通達は、 同法制定の趣旨について、「原子爆弾による被爆者には今日においてなお多数の要医療者を数え、また、一方、健康と思われる被爆者の中からも突然発病し、死亡する者が生ずる等被爆者の置かれている健康上の特別の状態にかんがみ、国においてこれら被爆者の健康診断及び医療等を行うべく制定されたものである」としている(第1の1、乙 7)。 b 被爆者の定義同法において、「被爆者」とは、次の各号の一に該当する者であって、被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(同法2条)。 「一原子爆弾が投 b 被爆者の定義同法において、「被爆者」とは、次の各号の一に該当する者であって、被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(同法2条)。 「一原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内 又は政令で定めるこれらに隣接する区域内にあった者二原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内にあった者三前二号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の 下にあった者 - 24 -四前三号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であった者」c 政令で定める当時の長崎市に隣接する区域原爆医療法2条1号にいう、政令で定める当時の長崎市に隣接する区域は、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律施行令(昭和32年4 月25日政令第75号)で「西彼杵郡福田村のうち、大浦郷、小浦郷、本村郷、小江郷及び小江原郷」並びに「西彼杵郡長与村のうち、高田郷及び吉無田郷」と定められた(同施行令1条1項別表第一。上記区域は、被爆者援護法施行令1条1項別表第一で定める「隣接する区域」と同一である。)。 d 被爆者健康手帳等原爆医療法は、被爆者健康手帳の交付(同法3条)、健康診断(同法4条)及び医療の給付(同法7条、8条)につき定めている。 原爆医療法の関連通達昭和33年8月13日付け衛発第727号厚生省公衆衛生局長通達 「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により行う健康診断の実施要領について」は、原爆医療法により行 医療法の関連通達昭和33年8月13日付け衛発第727号厚生省公衆衛生局長通達 「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により行う健康診断の実施要領について」は、原爆医療法により行う被爆者の健康診断の実施要領であり、その総論として、次のとおり定めている(乙8)。 「昭和20年広島及び長崎の両市に投下された原子爆弾は、もとより、世界最初の例であり、従って核爆発の結果生じた放射能の人体に及ぼす 影響に関しても基礎的研究に乏しく明らかでない点がきわめて多い。 しかしながら被爆者のうちには、原子爆弾による熱線又は爆風により熱傷又は外傷を受けた者及び放射能の影響により急性又は悪急性の造血機能障害等を出現した者の外に、被爆後10年以上を経過した今日、いまだに原子爆弾後障害症というべき症状を呈する者がある状態である。 特に、この種の疾病には被爆時の影響が慢性化して引き続き身体に異 - 25 -常を認めるものと、一見良好な健康状態にあるかに見えながら、被爆による影響が潜在し、突然造血機能障害等の疾病を出現するものとがあり、被爆者の一部には絶えず疾病発生の不安におびえるものもみられる。 従って、被爆者について適正な健康診断を行うことによりその不安を一掃する一方、障害を有するものについてはすみやかに適当な治療を行 い、その健康回復につとめることが極めて必要であることは論をまたない。 しかしながら、いうまでもなく放射能による障害の有無を決定することは、はなはだ困難であるため、ただ単に医学的検査の結果のみならず被爆距離、被爆当時の状況、被爆後の行動等をできるだけ精細には握し て、当時受けた放射能の多寡を推定するとともに、被爆後における急性症状の有無 難であるため、ただ単に医学的検査の結果のみならず被爆距離、被爆当時の状況、被爆後の行動等をできるだけ精細には握し て、当時受けた放射能の多寡を推定するとともに、被爆後における急性症状の有無及びその程度等から間接的に当該疾病又は症状が原子爆弾に基くか否かを決定せざるを得ない場合が少なくない。 従って、健康診断に際してはこの基準を参考として影響の有無を多面的に検討し、慎重に診断を下すことが望ましい。」 イ原爆医療法の改正等原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の一部を改正する法律(昭和35年法律第136号)が同年8月1日に施行され、原爆医療法が改正された。 上記改正により新設された原爆医療法14条の2は、「被爆者」のうち「原子爆弾の放射線を多量に浴びた被爆者で政令で定めるもの」を「特別 被爆者」とし、特別被爆者につき一定の場合に原爆症以外の一般疾病医療費を支給することができる旨を定めている。(乙1、乙9)ウ原爆特別措置法の制定に至る経緯等 「胎内被曝者・被爆二世を守る会」の結成「胎内被曝者・被爆二世を守る会」が、昭和41年7月10日、広島 県において結成され、その頃、被告に対し、被爆二世に対して被爆者と - 26 -同様の援護を求める「胎内被曝者に対する完全終身補償並に被爆二世に対する医療援護措置に関する請願書」が提出された(甲A19)。 原爆特別措置法制定の陳情広島・長崎の両県、県議会、市及び市議会の八者(以下「八者協」という。)は、昭和42年9月頃、被告に対し、医療制度の充実強化、被 爆者に対する強力な援護対策の実施等を含む「原子爆弾被爆者特別措置法制定に関する陳情書」を提出した(乙1)。 という。)は、昭和42年9月頃、被告に対し、医療制度の充実強化、被 爆者に対する強力な援護対策の実施等を含む「原子爆弾被爆者特別措置法制定に関する陳情書」を提出した(乙1)。 原爆特別措置法の制定及び同法の定め原爆特別措置法は、昭和43年5月17日に成立し、同月20日、公布され、同年9月1日、施行された。その概要は次のとおりである。 (乙12の1)a 目的原爆特別措置法は、「広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者であって、原子爆弾の傷害作用の影響を受け、今なお特別の状態にあるものに対し、特別手当の支給等の措置を講ずることにより、そ の福祉を図ることを目的とする」ものである(同法1条)。 b 特別手当の支給同法2条は、都道府県知事等は、原爆医療法8条1項の認定(原爆症認定)を受けた者であって、同項の認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し、特別手当を支給する旨定めている。特別手当の支 給には、所得制限規定が設けられた(原爆特別措置法3条)。 c 健康管理手当の支給同法5条は、都道府県知事等は、原爆医療法14条の2第1項に規定する特別被爆者であって、一定の要件に該当するものに対し、健康管理手当を支給する旨定めている。健康管理手当の支給には、所得制 限規定が設けられた(原爆特別措置法6条)。 - 27 -d 医療手当の支給同法7条は、都道府県知事等は、原爆医療法2条に規定する被爆者であって、同法7条1項の規定による医療の給付を受けているものに対し、その給付を受けている期間について、医療手当を支給する旨定めている。医療手当の支給には、所得制限規定が設けら 2条に規定する被爆者であって、同法7条1項の規定による医療の給付を受けているものに対し、その給付を受けている期間について、医療手当を支給する旨定めている。医療手当の支給には、所得制限規定が設けられた(原爆特 別措置法8条)。 エ被爆二世に対する援護の要請及び被爆者援護法制定に至る経緯等 八者協による原子爆弾被爆者特別措置に関する陳情書の提出八者協は、被告に対し、昭和44年10月1日、被爆者健康管理及び医療制度の充実強化、被爆者援護措置の拡充等に関する23項目にわた る要望事項を記載した陳情書を提出し、その中には、被爆二世及び三世に対する被爆影響の調査研究の促進という項目が含まれていた。なお、八者協は、以降毎年、要望項目を補強するなどして陳情書を提出している。(乙1) 原爆特別措置法の一部改正(昭和44年) 原爆特別措置法の一部を改正する法律(昭和44年法律第65号)が同年7月25日に施行され、原爆特別措置法が改正され、葬祭料の支給が新設された(乙14)。 昭和44年7月8日開催の社会労働委員会における審議状況上記社会労働委員会(第61回国会参議院)において、原爆特別措置 法の一部改正について審議が行われ、その際、政府委員は、次のとおり答弁した(乙15)。 「放射能による遺伝的な突然変異が動物実験では証明されたという例があるようでございます。ただ、これが人体にどういう形で影響するかということは、相当長期にわたって研究が必要であることとからみまし て、先般、問題になりました白血病が二世に遺伝的に影響があるのかな - 28 -いのかという点の論争も、学者の研究の成果で、いま、わかっている段階では、白 が必要であることとからみまし て、先般、問題になりました白血病が二世に遺伝的に影響があるのかな - 28 -いのかという点の論争も、学者の研究の成果で、いま、わかっている段階では、白血病の遺伝的な要素はきわめて消極的である、全く否定はできないけれども、きわめて消極的である、こういうのが大方の遺伝学者と申しますか、研究者のほぼ一致した意見のようでございます。ただし、これは二十年の経過の中での研究成果でございまして、今後の研究が積 み重なっていった段階では、あるいはまた新しい意見が、あるいは結論が出るかもわかりません。」 昭和46年3月11日開催の社会労働委員会における審議状況上記社会労働委員会(第65回国会衆議院)において、原爆特別措置法の一部改正について審議が行われ、その際、政府委員は、次のとおり 答弁した(乙16)。 「二世、三世というか、従来、当時の被爆者の子どもに対する影響という問題について、各方面で実は研究がございまして、ABCCとわが国立予防衛生研究所との共同におきまして、原爆被爆者の二世における白血病に関する研究について、…研究がなされております。結論といた しましては、いまのところ直接的な因果関係を見出すことはできません。 …以上申し上げたような研究の段階から申しまして、現在被爆二世に放射線の影響が明らかに及んでおるという研究成果は、いまのところ出ておりませんので、この問題につきましては、もちろん新たな研究の見解等が出ますれば、それにそれぞれ対処してまいりたいというふうに考え ておりますけれども、現段階におきましては、そういうような根拠に基づきまして具体的な対策というものについては検討いたしておりません。」 「被爆二世問題対策連絡 というふうに考え ておりますけれども、現段階におきましては、そういうような根拠に基づきまして具体的な対策というものについては検討いたしておりません。」 「被爆二世問題対策連絡会」の結成「被爆二世問題対策連絡会」が、昭和47年6月2日に結成され、そ の頃、被告及び地方公共団体に対し、被爆二世対策を要望した(甲A1 - 29 -9)。 広島市議会における被爆二世等に対する援護に関する意見書の採択広島市議会は、昭和47年7月26日、被爆二世・三世に関して、早急に実態調査を行うこと、原爆医療法3条による被爆者健康手帳の交付を行うこと等を内容とする「原爆被爆者の子、及び孫などの援護措置に 関する意見書」を採択した(甲A19)。 被爆二世組織の結成労働組合を母体とする初めての被爆二世組織である「全電通広島被爆二世協議会」が、昭和48年7月10日、広島県において結成され、被爆二世の援護に関する活動を開始した。なお、昭和49年以降、長崎県 等においても、同様の被爆二世組織が結成された。(乙A19、20) 長﨑県等による被曝地域拡大の要望長崎県、西彼杵郡長与町及び同郡時津町は、昭和46年に引き続き、昭和48年頃、被告に対し、原爆投下当時の長与村及び時津村の全域を被曝地域として指定することを求め、その根拠として、原爆投下当時の 長与村及び時津村の地理状況(長崎市に最も近く爆心地からは平坦である。)、風向き(南西の風3.7m)、住民の健康診断結果(既指定地域よりも有病率が高い。)、被爆者看護及び死体処理の状況(国民学校等に多数の被爆者を収容し、その介護及び死者の埋葬等を行った。)等を挙げ、関係資料を添付した要 .7m)、住民の健康診断結果(既指定地域よりも有病率が高い。)、被爆者看護及び死体処理の状況(国民学校等に多数の被爆者を収容し、その介護及び死者の埋葬等を行った。)等を挙げ、関係資料を添付した要望書を提出した(乙37)。 原爆二法の改正(健康診断特例措置の新設等)原爆医療法及び原爆特別措置法の一部を改正する法律(昭和49年法律第86号)が同年10月1日に施行(同年6月17日公布)され、原爆二法が改正された。上記改正により、特別被爆者が廃止され、すべての被爆者が健康診断と一般疾病医療費の支給を受けられるようになった。 その際、原爆医療法附則3項として、次のとおり健康診断の特例措置が - 30 -設けられた。 「3 原子爆弾が投下された際第2条第1号に規定する地域に隣接する政令で定める区域内にあった者又はその当時その者の胎児であった者は、当分の間、第4条の規定の適用については、被爆者とみなす。」上記「政令で定める区域」は、長崎市に原爆が投下された当時の長崎 県西彼杵郡時津村及び同郡長与村(高田郷及び吉無田郷を除く。)区域と定められた(原爆医療法施行令附則2項)。なお、昭和51年9月18日、原爆医療法施行令が改正され、上記健康診断特例区域は、同施行令別表第三で定める区域(現在の第一種健康診断特例区域〔被爆者援護法施行令附則別表第三において定める区域〕と同じ。)へと拡大された。 (乙17、38、41) 原爆二法改正法案に関する想定問答厚生省公衆衛生局が上記改正法案を審議した昭和49年第72回国会に際して作成した原爆医療法及び原爆特別措置法の一部を改正する法律案想定問答には、次の記載がある(甲A22)。 厚生省公衆衛生局が上記改正法案を審議した昭和49年第72回国会に際して作成した原爆医療法及び原爆特別措置法の一部を改正する法律案想定問答には、次の記載がある(甲A22)。 「原子爆弾投下の際、旧長与村及び旧時津村にあった者は被爆者とされなかったのはなぜか。また、将来の取扱い如何。」「原子爆弾が投下された際、長崎県の旧長与村及び旧時津村にあった者については、地元及び県の要請に基づき地元提出の資料等により調査したところ、従来の一般被爆者とほぼ同様に原子爆弾の放射能による影 響があるものと認められたが、これらの者は従来、定期健康診断の対象ではなく、健康の状況も必ずしもは握されておらず、一般被爆者が特別被爆者と同等になるという今回の改正措置を直ちに適用する必要があると断定するには若干の疑問が残ったので、当面、従来の一般被爆者と同様の措置を行うこととしたものである。 将来の取扱いについては、今後の健康診断の結果をまって、措置して - 31 -まいりたい。」 原爆二法改正に伴う関連通達(402号通達)昭和49年7月22日、同日付け衛発第402号各都道府県知事、広島・長崎市長宛て厚生省公衆衛生局長通達「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を 改正する法律等の施行について」が発出された。同通達には、健康診断の事後措置として、次の内容が含まれており、これにより、健康診断特例措置の対象者が、健康診断の結果、所定の障害と診断された場合、行政実務上、原爆医療法2条3号に該当する者として、被爆者健康手帳の交付を受けることができるようになった。(乙40) 「健康診断の結果、次に掲げる 、所定の障害と診断された場合、行政実務上、原爆医療法2条3号に該当する者として、被爆者健康手帳の交付を受けることができるようになった。(乙40) 「健康診断の結果、次に掲げる障害があると診断された者については、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律…第2条第3号に該当する者として、被爆者健康手帳の交付を受けることができるものであるので、その旨教示されたいこと。 1造血機能障害、2肝臓機能障害、3細胞増殖機能障害、4内分泌腺 機能障害、5脳血管障害、6循環器機能障害、7腎臓機能障害、8水晶体混濁による視機能障害、9呼吸器機能障害、10運動機能障害」 昭和50年4月23日開催の社会労働委員会における審議状況上記社会労働委員会(第75回国会衆議院)において、原爆特別措置法の一部改正について審議が行われた。 その際、森井忠良委員の「放射能と遺伝との関係というのは厚生省の考え方としてはあるのですか、ないのですか。」との質問に対し、政府委員は、「あると思います。ただ、それがどのような形で、どれくらいの数が出てくるかがまだはっきりしないわけであります。」と答弁した。 また、森井忠良委員の「遺伝的な影響というのはいろんな形であらわ れますよね。すぐあらわれる場合もありますけれども、この次の孫にあ - 32 -らわれたり、いわゆる隔世遺伝というふうなものもありますし、数代ぐらい後のときもある、そのことはお認めになるでしょう。」との質問に対し、政府委員は、「そのことは認めます。放射線の遺伝的影響は主として劣性遺伝の形で出てまいりますので、二代目、三代目というふうにぽつぽつと出てまいります。それだけその結果の判定が非常に難しいと 考えておりま 、「そのことは認めます。放射線の遺伝的影響は主として劣性遺伝の形で出てまいりますので、二代目、三代目というふうにぽつぽつと出てまいります。それだけその結果の判定が非常に難しいと 考えております。」と答弁した。 さらに、政府委員は、「二世の方々の問題には、そういった医学的なまだ解明されていない面もございますし、また一面においては、…就職とか結婚などの面でそういったことは余り言ってもらいたくないというお気持ちの方も多いわけでございますので、非常に慎重にこの問題は取 り扱わなければならないと思います。」と答弁した。 (甲A20、C1) 昭和52年4月27日開催の社会労働委員会における審議状況上記社会労働委員会(第80回国会衆議院)において、原爆特別措置法の一部改正について審議が行われ、その際、政府委員は、次のとおり 答弁した(甲A20)。 「従来の調査研究によりますと、被爆二世、三世について原爆放射線の障害が遺伝するということは証明されておりません。…そこで問題は、被爆二世、三世の希望者に対する健康診断ということでございます。確かに被爆二世、三世の方の中でとかく身体の弱いという方はやはり心配 をなさって、原爆医療法による健康診断を受けたいというような御希望が強いかと思うのでございますが、健康な方も非常に多いわけでございまして、そういう方々については、かねてから言われております、こういった遺伝問題が世間に誤解を与えますと、就職とか結婚とか、こういったものに代々ついてまわるというような非常に悪い面がございますの で、健康な方々は非常に慎重なわけでございます。そういう関係から私 - 33 -どもは、たとえ希望者であろうとも、二世、三世の方の健康診 いてまわるというような非常に悪い面がございますの で、健康な方々は非常に慎重なわけでございます。そういう関係から私 - 33 -どもは、たとえ希望者であろうとも、二世、三世の方の健康診断をするということが一般の方々に誤解を与えるのじゃなかろうかという非常に大きな不安を持っているのでございまして、しかも、先ほど申し上げましたように、これまでは医学的に、たとえば二世、三世につきましてその死産の状況とか未熟児の状況だとか奇形の状況とか、あるいはお生ま れになった後の健康の状況というものを従来の医療技術で調べておりますが、すべて一般の方と変わりはございません。要するに、いまのところ二世、三世への影響は否定されているわけでございますから、この二世、三世に対する健康診断の問題はもともと慎重に取り扱わなければなりませんし、またこういったものを制度化するというのは非常に問題が ある、時期も尚早であると考えております。」 昭和53年判決最高裁判所は、昭和53年3月30日、外国人被爆者(不法入国者)の被爆者健康手帳交付申請を却下した処分の取消しを求める事案において、次のとおり判示し、原爆医療法が不法入国した被爆者についても適 用されるとして、福岡県知事による上告を棄却した。 「原爆医療法は、被爆者の健康面に着目して公費により必要な医療の給付をすることを中心とするものであつて、その点からみると、いわゆる社会保障法としての他の公的医療給付立法と同様の性格をもつものであるということができる。しかしながら、被爆者のみを対象として特に右 立法がされた所以を理解するについては、原子爆弾の被爆による健康上の障害がかつて例をみない特異かつ深刻なものであることと並んで、かかる障害が遡れば戦争とい がら、被爆者のみを対象として特に右 立法がされた所以を理解するについては、原子爆弾の被爆による健康上の障害がかつて例をみない特異かつ深刻なものであることと並んで、かかる障害が遡れば戦争という国の行為によつてもたらされたものであり、しかも、被爆者の多くが今なお生活上一般の戦争被害者よりも不安定な状態に置かれているという事実を見逃すことはできない。原爆医療法は、 このような特殊の戦争被害について戦争遂行主体であつた国が自らの責 - 34 -任によりその救済をはかるという一面をも有するものであり、その点では実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあることは、これを否定することができないのである。」 昭和53年6月6日開催の社会労働委員会における審議状況上記社会労働委員会(第84回国会参議院)において、原爆特別措置 法の一部改正について審議が行われ、その際、政府委員は、次のとおり答弁した。 「少なくとも現在まで、特に放射線影響研究所において行いました研究におきましては、三十数年たっておるわけでございますが、いままでの研究の中では、やはり被爆二世に関しまして、何ら普通の人と特に変 わった死亡の状況にない。あるいは死産とか、そういうことを含めまして、いままでのところ何にも証明されておりません。私どもとしては、さらにこういった二世に対する影響ということの研究に力を入れて進めていくということは当然のことで、今後も推進してまいりたいと思っておるわけでございますが、なかなか見つけるのも大変なことだと思いま す。しかし、実際に何らかの変化があり、そしてそれが、その方が通常の生活をなされる上に何か問題を生ずるというような結果を生ずるということになれば、そのときは私どももそれに対して十 だと思いま す。しかし、実際に何らかの変化があり、そしてそれが、その方が通常の生活をなされる上に何か問題を生ずるというような結果を生ずるということになれば、そのときは私どももそれに対して十分な措置を講ずるということを考えております。」「現在、国の段階におきましては、被爆二世の方の健診という措置は 何もいたしておりません。その理由は、先ほど申し上げたようなわけでございます。…二世の方はほっておいてほしいと、健診するから来なさいなどということは言ってほしくないと、あるいは二世の健康調査をやるからひとつ調べさせてほしいと、こう言っても、いやだと、こうおっしゃるような方もいらっしゃいますし、一面…どうも心配だから診てほ しいと、こういうふうな声も私ども聞いております。そういう意味で、 - 35 -大変微妙な心理状態の問題がこの中に含まれておりまして、私どももそういう意味で、なんと申しますか、この問題を扱う場合に、やはり十分そういった方々の心持ちを生かしたり何かやっていくというのが一番いいんだろうと思います。そういう意味合いで、たとえばいわゆる調査研究の一環として、いわゆる希望者については健診をやると、そういった ようなことが何らか方法がないだろうかということで、私ども具体的にいま考えて、何らかの方策ができないだろうかというふうに考えておりますのが、私どもの現在の状況でございます。」また、厚生大臣は、「被爆二世の健康面の不安についてはよく理解できますので、予算上のその取り扱いについては、私ども調査研究の一環 として取り扱うことを申し上げておりますが、実態的には、自分の不安を解消したいから、ぜひ健康診断をいろいろやってほしいという御希望のある方については、必ず実施したいと思いま も調査研究の一環 として取り扱うことを申し上げておりますが、実態的には、自分の不安を解消したいから、ぜひ健康診断をいろいろやってほしいという御希望のある方については、必ず実施したいと思います。で、何らかの措置を来年度の予算編成のときにはとっていきたいと思っております。」と答弁した。 (乙18) 八者協による原爆二法の一本化・援護対策拡充の要望社会労働委員会は、昭和53年6月6日、上記原爆特別措置法一部改正法案を審議し、可決した際、被爆者に対する援護体制の拡充、被爆二世等に対する放射能の影響についての調査研究及び対策への配慮等の実 現を政府に求める旨の附帯決議をし、八者協は、同年、これに呼応して、原爆二法の一本化を打ち出し、被爆者に対する援護対策充実強化の要望の実現を求めた(乙1、18)。 被爆二世に対する健康診断の実施厚生省は、昭和54年7月頃、同年度から被爆二世に対する健康診断 を実施する旨発表し、同年度から被爆二世に対する健康診断が実施され - 36 -た。その後も毎年度、予算措置を講じて被爆二世に対する健康診断が実施されている。なお、上記健康診断には、被爆者に対する健康診断と異なり、胃がん、肺がん、乳がん、子宮がん及び大腸がん検診が含まれていない。(甲A1、甲A20、甲C8~10) 原爆被爆者対策基本問題懇親会(以下「基本問題懇談会」という。) 厚生大臣は、昭和54年6月、原爆被爆者対策の基本理念及び基本的在り方等について検討させるため、私的諮問機関として原爆被爆者対策基本問題懇親会(以下「基本問題懇談会」という。)を設置した。基本問題懇談会は、以降、調査・審議を重ね、昭和55年12月、厚生大臣 在り方等について検討させるため、私的諮問機関として原爆被爆者対策基本問題懇親会(以下「基本問題懇談会」という。)を設置した。基本問題懇談会は、以降、調査・審議を重ね、昭和55年12月、厚生大臣に対し、「原爆被爆者対策の基本理念及び基本的在り方について」と題 する報告書(以下「懇談会報告書」という。)を提出した。同報告書で取りまとめられた上記事項に関する意見の概要は、次のとおりである。 (乙20)a 原爆被爆者対策の基本理念今次の戦争による国民の犠牲は極めて広範多岐にわたり、全ての国 民がその生命・身体・財産等について多かれ少なかれ、何らかの犠牲を余儀なくされたといっても言い過ぎではない。およそ戦争という国の存亡をかけての非常事態のもとにおいては、国民がその生命・身体・財産等について、その戦争によって何らかの犠牲を余儀なくされたとしても、それは、国を挙げての戦争による「一般の犠牲」として、 全ての国民がひとしく受忍しなければならないものである。 しかし、今次の戦争による国民の犠牲の中で、広島及び長崎における原爆投下による被爆者の犠牲が極めて特殊性の強いものであることは、否定しがたい。広島及び長崎における原爆投下による被害は悲惨極まりないものであって、熱線、爆風及び放射線が瞬時にして、広範 な地域にわたり多数の人間の生命を奪い、この惨禍で危うく死を免れ - 37 -た者の中にも原爆に起因する放射線の作用により、35年を経た今日なお、晩発障害に悩まされている者が少なくない。原爆放射線による健康上の障害には、被爆直後の急性原爆症に加えて、白血病、甲状腺がん等の晩発障害があり、これらは、被爆後数年ないし10年以上経過してから発生するという特異性をもつもの が少なくない。原爆放射線による健康上の障害には、被爆直後の急性原爆症に加えて、白血病、甲状腺がん等の晩発障害があり、これらは、被爆後数年ないし10年以上経過してから発生するという特異性をもつものであり、この点が一般の 戦災による被害と比べ、際立った特殊性をもった被害である。 原爆医療法の法的性格については、昭和53年判決が指摘しており、同判決が述べているように、従来国がとってきた原爆被爆者対策は、原爆被害という特殊性の強い戦争損害に着目した一種の戦争損害救済制度と解すべきであり、これを単なる社会保障制度と考えるのは適当 でない。また、原爆被爆者の犠牲が、その本質及び程度において他の一般の戦争損害とは一線を画すべき特殊性を有する「特別の犠牲」であることを考えれば、国は原爆被爆者に対し、広い意味における国家補償の見地に立って被害の実態に即応する適切妥当な措置対策を講ずべきものと考える。 原爆被爆者に対する対策は、結局は国民の租税負担によって賄われることになるが、ほとんど全ての国民が何らかの戦争被害を受け戦争の惨禍に苦しめられてきたという実情の下においては、原爆被爆者の受けた放射線による健康障害が特異のものであり、「特別の犠牲」というべきものであるからといって、他の戦争被害者に対する対策に比 し著しい不均衡が生ずるようであってならず、国民的合意を得ることができる公正妥当な範囲に止まらなければならない。 b 原爆被爆者対策の基本的在り方ひとしく原爆被爆者と称される者は、全て「特別の犠牲」を余儀なくされた者と理解すべきものとしても、放射線被曝の程度には人によ って差があり、多量の線量を被曝した者から被曝の可能性があったに - 38 -すぎない者ま は、全て「特別の犠牲」を余儀なくされた者と理解すべきものとしても、放射線被曝の程度には人によ って差があり、多量の線量を被曝した者から被曝の可能性があったに - 38 -すぎない者まで含まれている。また、被曝による放射線障害の程度についても、原爆による放射線障害であると明らかに認められる者から放射線障害の生ずる可能性のある者に至るまで、まちまちであり、これに対する対策の必要性は、人によって著しく異なる。したがって、今後の対策は、画一に流れることを避け、その必要性を確かめ、障害 の実態に即した適切妥当な対策を重点的に実施するよう努めるべきである。いいかえれば、「公平の原則」は絶えず考慮しながらも、「必要の原則」を重視し、現実の必要に応じ手厚い行き届いた対策を講ずべきである。 被爆者対策に関し、被爆地域拡大の要求が関係者の間に強い。とこ ろで、被爆地域の指定は、本来原爆投下による直接放射線量、残留放射能の調査結果など、十分な科学的根拠に基づいて行われるべきものである。これまでの被爆地域の指定は、従来の行政区画を基礎として行われたために、爆心地からの距離が比較的遠い場合でも被爆地域の指定を受けている地域があることは事実であるが、上述のような科学 的・合理的な根拠に基づくことなく、これまでの被爆地域との均衡を保つためという理由で被爆地域を拡大することは、新たに不公平感を生み出す原因となり、徒らに拡大を招来するおそれがあるから、被爆地域の指定は、科学的・合理的な根拠のある場合に限定して行うべきである。 全国被爆二世協の結成及び要望書の提出全国被爆二世協が、昭和63年12月21日に結成され、全国被爆二世協等は、同月22日、厚生大臣に対し、原爆二法による施策を被爆 全国被爆二世協の結成及び要望書の提出全国被爆二世協が、昭和63年12月21日に結成され、全国被爆二世協等は、同月22日、厚生大臣に対し、原爆二法による施策を被爆二世、三世に適用すること等の内容を含む要求書を提出した(甲A20)。 平成元年法案等の参議院における可決 a 平成元年法案 - 39 -平成元年12月15日に開催された参議院(第116回国会)において、以下の条項を含む「原子爆弾被爆者等援護法案」(平成元年法案)が可決された。なお、同法案は、衆議院において可決されなかったため、法律として成立していない。(甲C2)「第40条(子又は孫に対する適用等) 1 都道府県知事は、次の各号に掲げる者から申出があった場合には、当該各号に掲げる者に対して、第5条から第7条までの規定の例により、健康診断を行うものとする。 一第2条各号に掲げる者の子(同条第1号から第3号までに掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した時以前に生まれた子、 養子及び同条第4号に掲げる者を除く。)二全号に掲げる者の子(養子を除く。) 2 前項各号に掲げる者で、原子爆弾の傷害作用に起因する疾病として政令で定めるものにかかっている旨の都道府県知事の認定を受けたものは、第2条各号に掲げる者とみなしてこの法律の規定(被爆 者年金、特別給付金及び葬祭料に係る規定を除く。)を適用する。」b 平成4年の法案平成4年4月24日に開催された参議院(第123回国会)において、上記aと同じ条項を含む「原子爆弾被爆者等援護法案」(平成4年法案)が修正議決された。なお、同法案は、衆 成4年の法案平成4年4月24日に開催された参議院(第123回国会)において、上記aと同じ条項を含む「原子爆弾被爆者等援護法案」(平成4年法案)が修正議決された。なお、同法案は、衆議院において可決さ れなかったため、法律として成立していない。(甲C3) 平成6年11月25日開催の厚生委員会における審議状況上記厚生委員会(第131回国会衆議院)において、被爆者援護法案等の審議がされた際、被爆二世等に対する援護措置の必要性に関する質問に対して、政府委員は、「被爆者の方の二世の方につきましては、過 去、長年にわたって主として放射線影響研究所を中心としまして研究調 - 40 -査をやってきております。ただ現在までのところ、原爆によります放射線の遺伝的な影響というものは医学的、科学的に認められていないということでございまして、具体的には、例えば成長の問題、あるいは発達の問題、あるいは死亡率の問題等々の調査をやってきております。また現在では遺伝子についての研究も1985年から実施をいたしてきてお るところでございます。そういう意味で、被爆二世の方に対して新法を適用するということは私どもは考えていないわけでございますが、ただ被爆二世の方に対しまして、従来から希望者の方については健康診断を実施をしてきておりまして、この施策については今後とも引き続いて実施をしていく予定でございます。」と答弁した(乙24)。 平成6年12月1日開催の厚生委員会における審議状況上記厚生委員会(第131回国会衆議院)において、被爆者援護法案等の審議がされた際、被爆地域拡大に関する質問に対して、政府委員は、「被爆地域の指定の問題、あるいは拡大をするかしないかという問題は、… 記厚生委員会(第131回国会衆議院)において、被爆者援護法案等の審議がされた際、被爆地域拡大に関する質問に対して、政府委員は、「被爆地域の指定の問題、あるいは拡大をするかしないかという問題は、…基本懇の報告にもございます、科学的、合理的な根拠のある場合に行 うべきであるというのが私どもが従来からとってきた立場でございます。 …長崎につきましては、具体的なデータについて厚生省に設けました研究班において今議論をしております。近く結論がまとめられるのではないかと思いますが、いずれにいたしましても、科学的あるいは合理的ということを念頭に置きつつ、この問題については私どもは対応していき たいと思っております。」と答弁した(乙34)。 オ被爆者援護法の制定 平成6年12月9日、被爆者援護法が成立した。被爆者援護法は、原爆二法を統合して引き継ぐとともに、その援護内容を更に充実発展させるものとして制定されたものであり、その概要は、別紙2「関係法令の 定め」のとおりである。なお、被爆者援護法の制定に際し、健康管理手 - 41 -当等に係る所得制限規定は撤廃された。 また、被爆者援護法の制定に伴い、健康診断特例区域については、従前の原爆医療法附則3条が被爆者援護法施行令附則17条に、原爆医療法附則2項及び別表第三が被爆者援護法施行令附則2条及び別表第三に引き継がれ、健康診断特例区域の範囲はそのまま維持された。 平成6年12月2日に開催された衆議院(第131回国会)において、被爆者援護法案が可決された際、次の内容を含む附帯決議がされた(甲C5)。 「政府は、保険、医療及び福祉にわたる総合的な被爆者援護対策を講じるとの本法案の趣旨を踏まえ、次の諸点について特にその実現 案が可決された際、次の内容を含む附帯決議がされた(甲C5)。 「政府は、保険、医療及び福祉にわたる総合的な被爆者援護対策を講じるとの本法案の趣旨を踏まえ、次の諸点について特にその実現に努め るべきである。」「五被爆者とその子及び孫に対する影響についての調査、研究及びその対策について十分配慮し、二世の健康診断については、継続して行うとともに、その置かれている立場を理解して一層充実を図ること」カ被爆者援護法制定後の経緯等 全国被爆二世協による要求書の提出全国被爆二世協は、厚生大臣に対し、平成8年7月22日、被爆者援護法に被爆二世・三世に対する援護措置を行う条項を追加すること、被爆二世健康診断の改善等を求める内容の要求書を提出した。その後も全国被爆二世協は、厚生大臣に対して同旨の要求書を提出するなど被爆二 世に対する援護措置を求める要望を繰り返している。(甲A20) 第二種健康診断特例区域の新設被爆者援護法施行令の一部を改正する政令(平成14年政令第148号)が同年6月1日に施行(同年4月1日公布)され、被爆者援護法施行令が改正された。上記改正により、別紙2「関係法令の定め」2のと おり、同施行令附則2条及び別表第4で定める第二種健康診断特例区域 - 42 -が新設され、従前の同附則2条及び別表第三で定める健康診断特例区域は第一種健康診断特例区域とされ、402号通達については、第一種健康診断特例区域の対象者にのみ適用するものとされた。(乙49、50) 被爆二世健康診断調査事業の実施平成15年7月25日、同日付け健発第0725002号各都道府県 知事・広島市長・長崎市長あて厚生労働省 ものとされた。(乙49、50) 被爆二世健康診断調査事業の実施平成15年7月25日、同日付け健発第0725002号各都道府県 知事・広島市長・長崎市長あて厚生労働省健康局長通知「被爆二世健康診断調査事業の実施について」が発出された。同通知は、被爆二世健康診断調査事業を「被爆二世健康診断調査事業実施要綱」により各都道府県知事、広島市及び長崎市に委託して実施することとしたものであり、同要綱には、その目的として、被爆二世の中には、「健康面での不安を 訴え、健康診断を希望する者が多い現状に鑑み、健康診断を実施して、二世の健康状況の実態を把握するとともに健康管理に資することを目的とする。」と記載されている。なお、従前は、日本公衆衛生協会に委託して被爆二世健康診断を行っていたのを、上記のとおり直接、都道府県及び市に委託することによって早期実施を図ったものである。(甲A2 0、甲C8) 全国被爆二世協による被爆二世健康診断改善に関する要望等全国被爆二世協は、上記のとおり、被爆二世に対する援護措置を求める要望を継続的に働きかけ、被爆二世健康診断については、厚生労働省に対し、がん検診の追加等の改善を求めてきたが、厚生労働省は、が ん検診の追加については消極的であり、全国被爆二世協が、平成27年2月23日、同旨の要請をした際には、同省担当者は、健康増進法に基づくがん検診を受診してほしい旨回答した。なお、各市町村では、健康増進法に基づくがん検診を実施し、ほとんどの市町村ではがん検診の費用の多くを公費で負担しているため、一部の自己負担によってがん検診 を受診することができる。(甲A20) - 43 -また、東京都、静岡県のように被爆二世に対するがん検 費用の多くを公費で負担しているため、一部の自己負担によってがん検診 を受診することができる。(甲A20) - 43 -また、東京都、静岡県のように被爆二世に対するがん検診、医療費の助成等を実施している地方公共団体もある(甲C7、11~20)。 被爆二世健康診断の項目の追加平成28年4月頃から被爆二世に対する健康診断に多発性骨髄腫の検査が追加された(甲A1、20、甲C10)。 ⑵ 放射線の遺伝的(継世代)影響に関する知見等ア動物実験による遺伝的(継世代)影響に関する知見等 マラーによるショウジョウバエの実験ハーラン・マラーは、ショウジョウバエに対して放射線の一つであるエックス線を照射する実験を行い、その結果について、1927年(昭 和2年)、次のとおり発表した(甲B4)。 「比較的高線量のエックス線で精子を処理すると、照射された生殖細胞に高率の遺伝子突然変異の発生を誘発することが、きわめて決定的に判明した。この方法で、短期間に数百の突然変異体が得られ、百をかなり上回る数の突然変異遺伝子が3世代、4世代あるいはそれ以上続いてい る。」「数千匹の非照射の親のハエが、対照群として、エックス線照射したハエと同じように飼育された。条件の異なる2つの集団の突然変異頻度を比較することによって、高線量照射が、非照射の生殖細胞に対して約1万5000パーセントの突然変異頻度の上昇を引き起こしたことが明ら かになった。」 ラッセルらによるメガ・マウス実験a ウィリアム・ラッセルらは、マウスの7つの特定遺伝子座(毛並み、斑点、眼の色、耳の長さ等特定の外観的特徴に関係することが判明している ラッセルらによるメガ・マウス実験a ウィリアム・ラッセルらは、マウスの7つの特定遺伝子座(毛並み、斑点、眼の色、耳の長さ等特定の外観的特徴に関係することが判明している遺伝子の位置)を指標として、放射線による突然変異を誘発す る実験(野生型〔特定遺伝子座のいずれも変異がない。〕の雄マウス - 44 -にエックス線を単回照射し、実験用の雌マウス〔上記7つの特定遺伝子座の対立遺伝子のいずれについても潜性変異を持つ特殊なマウスを作成した。〕と交配させ、照射しない対照群の雄マウスも同様に実験用の雌マウスと交配させ、子どもマウスを観察〔通常は雄マウスと同じ野生型に見えるはずであるが、突然変異があれば雌マウスと同じ潜 性変異の形質が検出される。〕した。)を行い(甲B29、甲B44)、1951年(昭和26年)、その結果を次のとおり発表した(甲B5)。 「被照射群では特定遺伝子座に約61の突然変異が観察されたのに対し、対照群に見られた突然変異は2つのみであった。」 (変位誘発率について)「ショウジョウバエの同様のデータと比較すると、マウスではより多く突然変異が誘発されていることがわかる。 これは、ショウジョウバエの突然変異率に基づくヒトへの危険性の推定が、過小評価である可能性を示している。」b なお、「原爆放射線の人体影響」(改訂第2版・放射線被曝者医療 国際協力推進協議会編・2012年〔平成24年〕発行)には、ラッセルらは「すでに1959年に、照射された精原細胞に由来する子孫は、寿命短縮もなく、がんも増えていないという実験結果を得ていた。 しかしその論文が発表されるのは30年後の1993年になってからである」旨の記載がある(乙28)。 に由来する子孫は、寿命短縮もなく、がんも増えていないという実験結果を得ていた。 しかしその論文が発表されるのは30年後の1993年になってからである」旨の記載がある(乙28)。 野村大成によるマウス実験a 野村大成は、ICR(実験用マウスの系統の1 つ)の親マウスにエックス線とウレタン(発がん性を有する化学物質)を与える実験を行い、その結果について、1982年(昭和57年)、「私はここで、ICRの親マウスをエックス線とウレタンで処理後に、そのような腫 瘍と奇形が有意に大きく増加したことを報告する。誘発された腫瘍の - 45 -約90%が肺にあり、約40%の浸透率を有する顕性突然変異であるかのように遺伝した。」旨発表した(甲B6)。 b 野村大成は、1983年(昭和58年)、「216ラドのエックス線を照射した両親のF1(子ども)にウレタンを投与したところ、多くの子ども(18.0%)が肺に多数の腫瘍結節を生じるクラスター を形成したのに対し、非照射対照群では2.8%にとどまり、このことは生殖細胞系列の変異を示唆するものであった。腫瘍クラスターを発症した子どもマウスの割合は、ウレタン処理をせずに腫瘍を発症した子どもマウスの2倍以上(2.4倍)であり、浸透性が増幅していることが示唆された。ウレタン処理後の浸透性の増加(2.41倍に なるとして)を前報の線量反応データと考慮すると、倍加線量は精子細胞で約25ラド、精原細胞で約50ラドと推定された。」、「おそらく親のエックス線被曝によって子孫に誘発される変異の発現は、加齢、食餌中の自然界に存在する発ガン性物質や発ガン促進物質、環境などの影響を受けると考えられる」旨発表した(甲B38)。 c 野村大成は、200 て子孫に誘発される変異の発現は、加齢、食餌中の自然界に存在する発ガン性物質や発ガン促進物質、環境などの影響を受けると考えられる」旨発表した(甲B38)。 c 野村大成は、2006年(平成18年)、「親マウスの放射線および化学物質への曝露は、子孫における様々な有害作用(例えば腫瘍、先天性形態異常および胚死)を引き起こし、腫瘍を発症しやすいという表現型は、放射線被曝した後の最初の世代を超えて受け渡される。 腫瘍の誘発率は、マウス特定遺伝子座変異について知られている誘発 率よりも100倍高かった。」、「もう一つの重要な発見は、生殖系列の被曝による腫瘍発症反応の誘導はごく弱いが、出生後の環境によって、子孫に持続して高率な発ガンが引き起こされたことであった。」旨発表した(甲B37)。 d 野村大成によるマウス実験について、前掲「原爆放射線の人体影響」 には、「その後、英国でCattanachらによりNomuraと - 46 -同様の実験が行われ、影響が出やすいはずの精子と精細胞を調査したが、親の放射線被曝の影響は観察されなかったという結果が報告された。用いたマウスの系統が互いに異なっている(NomuraはICR、LT、N5系統、CattanachらはBALB/cとC3H系統、上記のKohnはCAF1系統)ので、結果の直接的な対比は できないが、用いた系統によって異なるということであれば、普遍的な生命現象ではないということになる。」旨の記載がある(乙28)。 また、中性子線(252カリホルニウム核分裂中性子)をB6C3F₁系統のマウスに照射し、「照射によって活性化される癌になりやすい遺伝形質が第一世代の子孫、特に雄に受け継がれることを明らか にした」旨のTakahashi ルニウム核分裂中性子)をB6C3F₁系統のマウスに照射し、「照射によって活性化される癌になりやすい遺伝形質が第一世代の子孫、特に雄に受け継がれることを明らか にした」旨のTakahashiらによる発表(1992年〔平成4年〕)(乙79)、CBA/J系統のマウスの精子細胞をエックス線照射又はウレタンに曝露する実験を行ったが、「肺、肝臓及び造血組織の腫瘍発症率をまとめると、雌雄の子孫グループに一様な傾向は見られなかった。」旨のMohrによる発表(1999年〔平成11 年〕)(乙83)等も存する。 動物実験の結果に基づくヒトの倍加線量の推定UNSCEARの2001年(平成13年)報告書には、「1970年中頃からリスク推定に用いた倍加線量の大きさは1Gy(低LET、低線量/緩照射)であり、自然および誘発突然変異率のデータはマウス (主として7つの特定材劣性可視突然変異)に基づいていた。」、「ヒトとマウスの自然突然変異率は類似しないと思われるので、本委員会はヒト倍加線量計算では、マウスデータに基づいた倍加線量の利用は正しくなく、ヒト遺伝子の自然突然変異発生率とマウス遺伝子の誘発突然変異発生率の併用が、より進んでいて注意深い方法であるという見解を支 持する。」、「自然突然変異率と誘発突然変異率(緩照射)の当面の推 - 47 -定値による倍加線量は0.82±0.29Gyとなる。当委員会はリスク推定におおよそ1Gyを用いることにする。」旨記載されている(甲B15、31)。 マウスと人の異同a マウスは、哺乳綱齧歯目であり、ヒトは、哺乳綱霊長目である。 b 分子細胞生物学(第7版・2016年(平成28年)発行)には「他のモデル生物に比べて、マウスに の異同a マウスは、哺乳綱齧歯目であり、ヒトは、哺乳綱霊長目である。 b 分子細胞生物学(第7版・2016年(平成28年)発行)には「他のモデル生物に比べて、マウスには、強力な遺伝学的手法が適用できる生物のうちでヒトに一番近いという大きな利点がある。マウスとヒトは生活圏を数千年にわたって共有しており、似た免疫系をもち、多くの同じ病原菌に感染する。マウスとヒトはほぼ同じ数の遺伝子を もつ。マウスのタンパク質コード遺伝子の99%はヒトホモログがあり、その逆も成り立つ。マウスとヒトゲノムの90%以上には、保存されたシンテニー領域がある。つまり両者で、染色体に沿って特別なDNA配列や遺伝子が同じ順序で並んでいる。このことは、マウスとヒトの直近の先祖における染色体上の遺伝子の並び順は、進化の過程 で保存されてきたことを意味している。」、「もちろんマウスはヒトとは違い、ヒトに比べて、免疫、生殖、嗅覚にかかわる遺伝子群をいっそう拡大させてきた。」旨記載されている(甲B2)。 cDennisによる2006年(平成18年)の報告(「僅かな差で」)の中で、「マウスがヒトと違うポイント」として、「マウスの がんは異なる種類の組織に由来する傾向がある」、「腫瘍の染色体異常が少ない」、「染色体の末端(テロメア)が長い」、「細胞内のテロメア修復酵素(テロメラーゼ)の活性化」、「寿命が短い」、「生涯における細胞分裂の回数(1011回)はヒト(1016回)より少ない」、「代謝率はヒトの7倍」、「実験用マウスは高度に近親交配 され、遺伝的にも類似している」旨記載されている(乙67)。 - 48 -dBuckleyらが2018年(平成30年)に発表した「ヒトとマウスの間で生じた部 度に近親交配 され、遺伝的にも類似している」旨記載されている(乙67)。 - 48 -dBuckleyらが2018年(平成30年)に発表した「ヒトとマウスの間で生じた部分的なDNAの獲得と喪失の多様性によりゲノムは分岐し進化する」には、「約1億年前に2つの種に分岐したヒトとマウスは、DNA配列の約40%しか共有していない。」、「マウスとヒトは約9000年前に分岐した。この間に、両者のゲノムの約 60%が変化している。」などと記載されている(乙66)。 e マウスは、ヒトと異なり、多胎動物であり、妊娠期間が約20日と短い。 イヒトに対する放射線の遺伝的影響に関する知見等 日本遺伝学会及び日本人類遺伝学会の見解 日本遺伝学会及び日本人類遺伝学会が昭和32年(1957年)4月1日に発表した「人類に及ぼす放射線の遺伝的影響についての見解」の中には、「放射線が生物に遺伝的な変化、すなわち突然変異を誘発することは、多くの研究によって明らかである。もちろん人類もその例外とは考えられない。このような突然変異は自然にも起こっているが、放射 線はその出現頻度を高める。」と記載されている(甲B1)。 UNSCEARの見解a 2001年(平成13年)報告書の記載(甲B15)「電離放射線に被ばくしたヒト集団では、放射線誘発遺伝的(遺伝性)疾患はこれまでのところ証明されていない。しかしながら、電離 放射線は普遍的な突然変異誘発原であり、植物や動物を用いた実験的研究では、放射線は遺伝的影響を誘発できることが明確に証明されている。従って、ヒトはこの点に関して例外ではないであろう。」b 2013年(平成25年)報告書 り、植物や動物を用いた実験的研究では、放射線は遺伝的影響を誘発できることが明確に証明されている。従って、ヒトはこの点に関して例外ではないであろう。」b 2013年(平成25年)報告書の記載(乙26)「放射線被曝後の遺伝的影響の可能性に関しては多くの研究がなさ れており、委員会では2001年にそうした研究を検討した。放射線 - 49 -被曝による人間における遺伝的影響として明白に確認されたものは(原爆被害の生存者の子孫の研究においては特に)ない、というのが一般的な結論である。この10年間に、幼年期または青年期に癌を患い放射線療法を受けた生存者に焦点をあてた新たな研究が複数行われたが、生殖腺における線量がしばしば非常に高かった。放射線に被曝 した親の子孫において、染色体不安定性の増大、ミニサテライト変異の増加、世代間ゲノムの不安定性の増大、子孫における性比の変化、先天性異常あるいは癌の危険性の増大、といったエビデンスは基本的にはない。その理由の一つは、これらの影響の自然発生率が大きく変動するためである。」 英国のセラフィールドの核施設の労働者の子どもに関する調査a ガードナーらによる症例対照研究マーチン・ガードナーらは、英国のセラフィールドの核施設がある西部カンブリア地方で出生し、1950年(昭和25年)から1985年(昭和60年)までの間に診断された25歳以下の者の症例(白 血病52例、非ホジキンリンパ腫22例、ホジキンリンパ腫23例)と、これらと同じ出生登録から得られた性別及び生年月日が対等となるような1001例の対照群とで症例対照研究を行い、1990年(平成2年)、その調査結果を次のとおり発表した(甲B9)。 「 これらと同じ出生登録から得られた性別及び生年月日が対等となるような1001例の対照群とで症例対照研究を行い、1990年(平成2年)、その調査結果を次のとおり発表した(甲B9)。 「白血病と非ホジキンリンパ腫の相対リスクは、セラフィールドの 近隣で出生した子や、父親が核施設で働いていた子、特にその子の受胎前に高い放射線量を浴びた記録のある父親の子について高かった。 例えば、対照群と比較した相対リスクは、セラフィールドから5キロメートル以上離れた場所で出生した子で0.17(95%信頼区間0. 05-0.53)、受胎時に父親がセラフィールドの核施設で勤務し ていた子で2.44(1.04-5.71)、受胎前の父親の総被曝 - 50 -量が100mSv以上の子で6.42(1.57-26.3)であった。他の要因(X線被曝、母の年齢、核施設以外での仕事、海産物の摂取、砂浜で遊ぶことを含む)では、これらの関係を説明できなかった。」「セラフィールド近隣の子どもたちの白血病、特に非ホジキンリン パ腫の罹患の増加は、父親の(核施設での)雇用、及び受胎前の核施設での仕事の際の全身への放射線被曝による外部線量と関連している。 この関連性は、地理的な過剰(発症)を統計学的に説明することができる。この結果は、父親への電離放射線の影響が、その子どもたちに白血病を誘発する可能性を示唆している。これ以外の説明も可能性は 低いが可能ではある。これらは、放射線生物学や放射線作業従事者とその子どもたちの防護のために、重要な影響を及ぼす可能性がある。」なお、上記調査について、UNSCEARの1993年(平成5年)報告書では、「セラフィールドで働いていた父親から生まれた子どもにおける白血病リスクの統計的に を及ぼす可能性がある。」なお、上記調査について、UNSCEARの1993年(平成5年)報告書では、「セラフィールドで働いていた父親から生まれた子どもにおける白血病リスクの統計的に有意な増加(相対リスク)は、その ほとんどがわずか4例に起因している。」などと指摘されている(乙29)。 b ディキンソンらによるコホート調査ヘザー・ディキンソンらは、1950年(昭和25年)から1991年(平成3年)の間にイギリスのカンブリア地方で生まれた全ての 子ども27万4170人(父親がセラフィールドの労働者1万7319人〔うち放射線作業従事者9859人〕、その他25万6851人)を対象に白血病と非ホジキンリンパ腫のリスクを比較するコホート調査(ある特定の人々の集団を一定期間にわたって追跡し、環境要因・遺伝的要因等と疾病発症の関係を解明するための調査)を行い、20 02年(平成14年)、その結果を次のとおり発表した(甲B10)。 - 51 -「放射線作業従事者の子どもたちは、他の子どもたちより高い白血病と非ホジキンリンパ腫のリスクがあった【発症率割合(RR)=1. 9(倍)、95%信頼区間(CL)1.0-3.1、p=0.05】。 人口流入を調整すると、セラフィールドに隣接するシースケール村での過剰リスクは大きく減少したが、他の地域ではそのような影響は少 なかった。」「我々は、症例対照研究よりも時間的にも地理的にも広がりのあるコホート調査を用いて、ガードナーらが報告した、父親の授精前の被曝と子どもたちの白血病と非ホジキンリンパ腫のリスクの統計的関連性を確認した。父親の授精前の被曝が白血病と非ホジキンリンパ腫の 危険因子である可能性があり、この らが報告した、父親の授精前の被曝と子どもたちの白血病と非ホジキンリンパ腫のリスクの統計的関連性を確認した。父親の授精前の被曝が白血病と非ホジキンリンパ腫の 危険因子である可能性があり、この影響はシースケールに限らないであろう。」cCOMAREのレポート COMAREは、2002年(平成14年)のレポートにおいて、上記bの研究について、「これらの分析は、非常に少ないケースに 依拠しているものであり、いずれのモデルも特にデータに適していない。」、「ディキンソンとパーカーの研究及びHSEの研究は、ガードナーらが報告した関連性を概して支持するもので、その関連性が偶然の結果であるという可能性をある程度まで低くした。」旨記載している(甲B17、乙30)。 ⒝ COMAREは、2011年(平成23年)のレポートにおいて、セラフィールドの「核施設の付近において放射線の影響により小児白血病及びその他のがんのリスクが増加するという見解を支持する証拠はない旨を助言したが、この以前の助言を変更する理由がない」、「しかしながら、疫学的証拠だけによってこの問題の最終的 な結論に達することはほとんど不可能であり、危険性に関する状況 - 52 -が変化することを、委員会は認めます。」旨記載している(甲B18、乙31)。 ⒞ COMAREは、2015年(平成27年)のレポート「セラフィールドとドーンレイの原子力施設周辺におけるがんの発生率のさらなる検討」において、「シースケールとドーンレイ周辺に住む子 供(0-14歳)と若年成人(15-24歳)の白血病とNHL(非ホジキンリンパ腫)の発生率が1963年から1990年の間に増加したという既報は確認されたが、より最近の年( ーンレイ周辺に住む子 供(0-14歳)と若年成人(15-24歳)の白血病とNHL(非ホジキンリンパ腫)の発生率が1963年から1990年の間に増加したという既報は確認されたが、より最近の年(1991-2006)ではいずれの地域でもいずれの年齢層にも有意ながん発生率の増加は認められなかった。」、「評価された放射線量に基づ いて予測された白血病と非ホジキンリンパ腫の発生率と、3つの異なる核施設において観察された発生率の間に相関がないことは、放射線がこれらの地域における主要な原因因子となり得ないという結論をさらに裏付けるものである。」、「高線量のPPI(受胎前照射)が次世代に観察可能な影響を与えるという細胞及び動物実験に よる証拠があるが、ヒトにおける健康影響は決定的なものとして検出されていない。特に、ヒトにおけるPPIの影響に関する疫学的証拠は、健康に対する検出可能なリスクを裏付けるものではない。」、ガードナーが「報告したシースケールの若年層における白血病とNHLのリスクとPPIとの最初の関連は、偶然の発見だっ た可能性が最も高いと思われる。」、「COMAREは、農村部の人口混合が小児白血病のリスクを高め、この病気は感染性の病因である可能性が高いという仮説は、より信頼され、より大きな研究努力の対象となるべきであると考えている。」旨記載している(乙84)。 鎌田七男らによる広島原爆被爆者の子どもに関する研究 - 53 -鎌田七男らは、広島の原爆被爆二世に発生した白血病について、2012年(平成24年)、次のとおり報告した(甲B11)。 「1946年から1973年までに生まれた119,331名の原爆2世集団において1995年までに94例の白血病が発生してい 、2012年(平成24年)、次のとおり報告した(甲B11)。 「1946年から1973年までに生まれた119,331名の原爆2世集団において1995年までに94例の白血病が発生していたことが判明した。また、被爆後間もなくの1946-1955に生まれ て35年間の観察を終えた49例の解析では、両親が共に被爆している場合は片親のみが被曝している場合に比して、白血病発症の頻度が有意に超過していた。」なお、上記報告の考察において、「今後は線量を含めた解析と共に、一般人口との比較を加えた疫学的検討を行い、さらには、両親被爆群 において片親被爆群に比して白血病発生頻度に大きな超過があることのメカニズム解明が求められている。」旨記載されている。 Xiaoらによる上海における小児白血病の症例対照研究aXiaoらは、上海において309人の小児白血病の症例と628人の健康な子どもの市民を対象とした症例対照研究を行い、1988 年(昭和63年)、次のとおり報告した(甲B19、乙61)。 結果として、「父親の授精前X線被曝はリスクと有意に関係しており、10回以上のX線被曝でALL(急性リンパ性白血病)(OR=2.6;95%信頼区間=1.5-4.6)とANLL(急性非リンパ性白血病)(OR=3.7;95%信頼区間=2.0-7.0)の 両者でリスクが増加した。」旨記載されている。 なお、白血病全体では、父親の6から10回までのX線被曝で(OR=2.4;95%信頼区間=1.5-5.0)、11回以上のX線被曝で(OR=3.9;95%信頼区間=1.7-8.6)と記載されている。 また、考察の中で、「我々の研究では、主に受胎前の父親の放 頼区間=1.5-5.0)、11回以上のX線被曝で(OR=3.9;95%信頼区間=1.7-8.6)と記載されている。 また、考察の中で、「我々の研究では、主に受胎前の父親の放射線 - 54 -被曝に関連が認められ、有意な線量反応関係が見られた。しかし、これらのX線撮影は、生殖腺への被曝だけではなく、(生殖腺以外を含む)全ての部位への被曝を含んでいるが、診断用放射線被曝の報告書を検証することができなかった。したがって、偶然性、想起バイアス、交絡変数の可能性を排除することができない。」、「結果には2種類 の想起バイアスがかかっている。第一に、症例、特に前期の症例では、親は自分や子供が何年も前に経験したかもしれない曝露を思い出すように求められている。(対照群の潜在的な曝露年数を症例と同じように切り詰めることで、この点を調整しようとしたが、これでは思い出す特定の出来事の暦の違いを考慮することができなかった。)第二に、 記憶のレベルが異なる可能性があり、症例の親の記憶の方が大きかったり、特に親の罪悪感が関与している場合には、記憶が歪んでいる可能性がある。」、「この研究では複数の比較が行われており、親のX線被曝、薬物被曝、職業被曝についての検証が行われていないことから、解釈には慎重を期す必要がある。さらに、特定の化学物質に関す る質問のほとんどが、白血病の原因と疑われる物質に関するものであった。白血病とは関係のない被曝が含まれていなかったため、発見された関係が実際にあったものなのか、それとも偏りによるものなのかを判断することは困難であった。」旨記載されている。 b さらに、Xiaoらは、15歳未満で診断されたALL症例184 2人の親と、1986人の個別にマッチさせた対照群とのイン のかを判断することは困難であった。」旨記載されている。 b さらに、Xiaoらは、15歳未満で診断されたALL症例184 2人の親と、1986人の個別にマッチさせた対照群とのインタビューを含む症例対照研究を行い、2002年、次のとおり報告した(乙64)。 「受胎前の母親及び父親の下腹部への診断用X線被曝は、小児ALLの全種類、又は特定のサブタイプのリスクと関連しなかった。また、 下腹部への診断用X線照射回数の増加に関連して、小児ALLの全タ - 55 -イプ又はサブタイプのリスクが増加するという証拠は全くなかった。」、「今回の研究では、6歳未満で診断された小児のALLのリスクが、受胎前の父親の診断用X線被曝に関連して、わずかに上昇したが、統計的に有意であった。しかし、より関連性の高い(生殖腺など)下腹部のX線被曝に限定した場合には、関連性は全く認められな かった。このことは、今回の研究や過去の研究で見られた、受胎前の父親のX線被曝歴と幼児の白血病リスクとの間のわずかな正の関連性は、X線被曝以外の要因によるものであることを示唆している。」 放影研による原爆被爆者における遺伝的影響に関する調査a 放影研(昭和22年に設立されたアメリカ合衆国の原爆傷害調査委 員会〔ABCC〕を前身として、昭和50年4月1日に設立された。)は、原爆被爆者の子どもを対象として、次の①ないし⑤の調査を行ったが、いずれの調査においても、親が受けた放射線によって異常が増えるという結果は見られていない旨、発表している。なお、次の④及び⑤については2013年(平成25年)11月時点でも継続中とな っている。(乙25)調査内容対象者数調査期 ていない旨、発表している。なお、次の④及び⑤については2013年(平成25年)11月時点でも継続中とな っている。(乙25)調査内容対象者数調査期間①生まれたときの体の異常 7万7000人 1948~1954年②染色体の異常 1万6000人 1967~1985年③血液蛋白質の異常 2万4000人 1975~1985年 ④がんと死亡 7万7000人 1946~⑤生活習慣病 1万2000人 2002~このうち、①の調査は、両親の近親婚や梅毒感染の有無等異常出産に影響を与え得る要因を考慮し、広島市と長崎市を併せた新生児約7万7000人のうち、正確な検定ができる条件を満たした6万543 1人の新生児の奇形症例をまとめたものであるところ、その異常の頻 - 56 -度は0.91%(6万5431人中594例)であった。他方、1922年から1940年にかけて東京都内の赤十字病院で行われた奇形調査による異常の頻度は0.92%(4万9654人中456例)であった。(乙57)なお、放影研による調査については、野村大成から、「染色体異常 をみても、調査したのは4千数百例であり新生のものはわずか1例である。頻度が低すぎてこの調査数では比較できるものではない。」、「放射線による突然変異を調査するために用いられた血清蛋白質の電気泳動易動度、酵素活性の変化に関しては、電気泳動法による変化、即ち、塩基置換突然変異は、放射線では誘発されにくいものであるこ とは科学的にわかっていた。」などの指摘がされている(甲B12)。 b 放影研の山田美 しては、電気泳動法による変化、即ち、塩基置換突然変異は、放射線では誘発されにくいものであるこ とは科学的にわかっていた。」などの指摘がされている(甲B12)。 b 放影研の山田美智子らは、ABCCによって1948年(昭和23年)から1954年(昭和29年)までの間に行われた原爆被爆者の子どもの出生時調査の再解析(出生時の重い障害を①出生時確認された先天性形成異常、②死産と出生から7日以内の新生児死亡、③死産 と出生から14日以内の新生児の死亡の3つの指標として定義し、親の被曝線量〔母親線量、父親線量、又は両親の合計線量〕との関連性を解析〔計9パターン〕したもの)を行い、2021年(令和3年)、次のとおり発表した(甲B57、58、乙85)。 「解析結果は、親の被曝線量は、主要な先天性形成異常(奇形)、及 び周産期死亡のリスク増加と関連性が見られたが、推定値は放射線の直接効果として考えるには不正確であり、ほとんどの推定値は統計学的には有意ではなかった。しかし父親被曝、母親被曝どちらの場合も、妊娠終結異常の推定値が総じて正の値を示したことは、リスク推定に役立つであろう。」、「再解析の結果は、母親線量、父親線量、およ び両親の合計線量が増加すると、3つの指標それぞれのリスクが増加 - 57 -する傾向を示しましたが、1パターン(両親の合計線量と14日以内の周産期死亡)を除いて統計的に有意ではありませんでした。先天性形成異常や周産期死亡は、戦後の貧困等の社会・経済的要因の影響を受けることが知られていますが、原爆による社会・経済的影響、すなわち放射線以外の要因が及ぼした重大な影響(例えば線量の高い方は、 低い方に比べて爆心地に近い場所にいたため、放射線だけでなく、熱線・爆風にさらされ ていますが、原爆による社会・経済的影響、すなわち放射線以外の要因が及ぼした重大な影響(例えば線量の高い方は、 低い方に比べて爆心地に近い場所にいたため、放射線だけでなく、熱線・爆風にさらされ、熱傷・外傷などにより、その後の回復に時間を要したり、回復しても職に就きづらいなどのより多くの困難があったと想定されます)は今回調整できていません。被ばく線量が大きい方はそれ以外の要因の影響も大きいと考えられるため、解析手法上、放 射線以外の影響も放射線の影響として捉えられる(放射線の関与が過大に推定された)可能性があります。そのため、今回観察された増加傾向をそのまま放射線の直接的影響(遺伝的影響)によるものであると解釈することは困難です。」 被爆二世等のDNA調査 a 放影研は、要覧(2017年〔平成29年〕改訂)において、1985年(昭和60年)以降行ったDNA調査について、次のとおり紹介している(乙36)。 ヒトで特に多型の出現率が高い8か所のミニサテライト遺伝子座について、被曝群(平均被曝線量1.47Gy)の子ども61人、 対照群の子ども58人とその両親を検査した結果、突然変異率は被曝群では2.6%、対照群で2.8%であり、高線量急性被曝による有意な遺伝的影響は認められなかった。 ⒝ マイクロサテライト遺伝子座も高い自然突然変異率を示すが、40か所のマイクロサテライト遺伝子座について被曝群家族(平均被 曝線量1.56Gy)の子ども66人、対照群の子ども63人とそ - 58 -の両親を検査した結果、突然変異率は被曝群では0.39%、対照群では0.35%であり、親の放射線被曝による遺伝的影響は示唆されなかった。 ⒞ 欠失型変異をゲノム全 - 58 -の両親を検査した結果、突然変異率は被曝群では0.39%、対照群では0.35%であり、親の放射線被曝による遺伝的影響は示唆されなかった。 ⒞ 欠失型変異をゲノム全域について調べるためにDNA二次元電気泳動法を改良したスクリーニングを行ったところ、対照群50家族 の子ども62人、被曝群50家族(平均被曝線量1.7Gy)の子ども66人とその両親の解析を行ったが、対照群で調べた5万6176遺伝子座に1例の欠失型突然変異を検出したのみで、被曝群で検査した5万9942遺伝子座では突然変異は検出されなかった。 ⒟ 2000年(平成12年)初期には、マイクロアレイを用いた比 較ゲノムハイブリダイゼーション法によるゲノム中の遺伝子コピー数の変化の検索を行ったところ、被曝群の子ども40人と対照群の子ども40人の解析の結果、合計251個のコピー数変異が検出されたが、全てどちらかの親に存在したものであることが確認され、新規突然変異ではなかった。 b 証人e は、チェルノブイリ原発事故の事故処理作業者の子どもにおけるマイクロサテライト遺伝子座の突然変異について国際調査を行い、2005年(平成17年)、被曝群と対照群との間に有意差が見られなかった旨発表した(甲B41、乙57)。 被爆二世等の全ゲノム解析 a 被爆二世の全ゲノム解析蓬莱真喜子らは、原爆被爆者3名(爆心地から1、2km、1.0km、1.0kmでそれぞれ被曝)、その妻及びその子の組み合わせの3家族と対照群(非被曝者)の1家族について、父母及び子からDNAを抽出して全ゲノム解析を行い、2018年(平成30年)、次 のとおり発表した(甲B43、乙57)。 - 59 合わせの3家族と対照群(非被曝者)の1家族について、父母及び子からDNAを抽出して全ゲノム解析を行い、2018年(平成30年)、次 のとおり発表した(甲B43、乙57)。 - 59 -「原爆被爆者の子供たちには62、81、42の新生多様体があったのに対し、対照群では48であった。どのトリオにも大きな構造的多様体はみられなかった。これらの結果は、被爆二世に原爆放射線による有意な遺伝的影響を認めなかったという、これまでに発表されている結果と一致している。」 b チェルノブイリ原発事故の除染作業者等の子どもの全ゲノム解析チェルノブイリ原発事故の除染作業者、事故後に職業上又は環境上の理由から放射線に被曝した親から生まれた子ども130人とその両親について全ゲノム解析が行われ、2021年(令和3年)5月14日掲載の「Science」において、次のとおり発表された(乙5 7、59、60)。 「130人の子供(1987年~2002年生まれ)とその両親の全ゲノム配列を調べたところ、過去の研究結果と比較して、DNM(新規の突然変異)の発生率、そのクラス、塩基対置換タイプの増加は見られなかった。また、妊娠前の父の累積被曝線量(平均365ミリグ レイ、範囲0~4,080ミリグレイ)や母の被曝線量(平均19ミリグレイ、範囲0~550ミリグレイ)にかかわらず、DNMの総数は増加していなかった。したがって、この被曝範囲では、ヒトの生殖細胞突然変異が実質的に生じるというエビデンスはないという結論に至り、次世代への影響は極めて小さいと示唆される。」 ウ証人e の意見(甲B44、52、59、証人e) 放射線物理学に加え、ヒトの生殖、発生、遺伝の基本的 という結論に至り、次世代への影響は極めて小さいと示唆される。」 ウ証人e の意見(甲B44、52、59、証人e) 放射線物理学に加え、ヒトの生殖、発生、遺伝の基本的知見から、ヒトにおいて親の生殖細胞の被曝を通じて、次世代以降に放射線被曝の影響が及ぶ可能性がある。 動物実験においては、1927年(昭和2年)のショウジョウバエの エックス線照射による(突然)変異誘発から始まり、マウスの特定遺伝 - 60 -子座の(突然)変異、ガンや先天的形態異常、DNAレベルの遺伝的不安定性の増大に至るまで、親の被曝線量に依存して、次世代で変異誘発頻度が有意に上昇することが既に確認されている。特に、マウスの実験では、ヒトにおいても自然発症頻度の高いガン等の多因子疾患が、親の放射線被曝で誘発される生殖細胞の変異に加えて、生後、環境変異原 (発ガン性物質等)に曝露されることによって増幅されるという実験結果は、日常的に様々な環境変異原に曝されているヒトでも同様のことが起こり得るため、重要である。 ヒトでは、1990年(平成2年)以降、チェルノブイリ事故や他の被曝集団の次世代の調査研究において、放射線被曝の遺伝的(継世代) 影響を示唆するいくつかの疫学調査研究報告や、親の被曝で誘発された可能性のある次世代でのDNA反復配列マーカーの変異の増大の報告(ベラルーシの汚染地域住民等に対するDubrovaらによる調査)が行われている。親の被曝線量の推定、調査集団の大きさの限界、放射線被爆以外の他の交絡諸因子の存在、疾病登録の信頼性、倫理的問題等 調査に困難性と限界がある中で、親の被曝で誘発された可能性のある次世代の健康影響を示唆するこれらの報告は重要である。一方、親の放射線被曝に の交絡諸因子の存在、疾病登録の信頼性、倫理的問題等 調査に困難性と限界がある中で、親の被曝で誘発された可能性のある次世代の健康影響を示唆するこれらの報告は重要である。一方、親の放射線被曝に関連した被爆二世の健康リスクの増加を示す証拠は得られていないとのこれまでの放影研の遺伝的影響調査については、研究に携わった研究者からも、遺伝的(継世代)影響の検出の限界や課題があること が指摘されている。 近年、様々な分野で進められている新たな分子遺伝学的アプローチによる研究の進展によって、ヒトにおいても動物実験と同じく放射線被曝の遺伝的(継世代)影響がDNAレベルで直接的に有意に検出できるようになる可能性もある。 マウス実験の結果をヒトの遺伝的リスク評価に活用することは、UN - 61 -SCEAR等による科学的評価でも行われてきたし、放射線被曝を伴う作業者の被曝防護等において、現在も行われている。 したがって、被爆二世についても、親である被爆者の生殖細胞を介して原爆放射線の影響を身体に受けている可能性は否定できない。 エ証人f の意見(乙57、68、証人f) 遺伝子変異が次世代へ伝えられるためには、まず、放射線がDNAにヒットする必要がある上、放射線がDNAにヒットしたとしても、DNAのうち、最も重要なエクソン(情報として使われる部分)に放射線がヒットする確率は非常に低く、ヒットした場合でも、塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復等多様なDNA修復機構によってほとんど修復され、 修復できないほど損傷が大きい場合は細胞死(アボトーシス)する。また、次世代に何ら影響がない突然変異も存在する。さらに、1つの遺伝子変異が起こったとしても、その変異を持った受精 ど修復され、 修復できないほど損傷が大きい場合は細胞死(アボトーシス)する。また、次世代に何ら影響がない突然変異も存在する。さらに、1つの遺伝子変異が起こったとしても、その変異を持った受精卵が成立するだけでも途方もなく低い確率である上、その異常受精卵が育ち、その異常を発現するためには多くの関門(父母遺伝子の不調和、遺伝子発現のタイミ ング等)が存在する。したがって、遺伝子変異が次世代に伝えられる可能性は極めて低い。 ショウジョウバエの実験で照射された放射線量は極めて高く、その実験結果をヒトに当てはめて評価することは適切ではない。 ヒトには、マウスと異なり、胎児奇形は流産しやすいなど異常のある 子どもができにくくなる仕組みが備わっている。ヒトは細胞数が多い分、マウスより発ガンしにくい機構を持っているなど様々な違いがあり、マウス実験の結果をそのままヒトには適用できない。また、異なる系統のマウスで同様の結果が出なかったことからすれば、マウス実験の結果はマウスにおいても一般化できない現象である。 表現型を見る疫学的調査研究(原爆被爆者の子どもに対する放影研の - 62 -複数調査等)、分子レベルでの研究(近距離の原爆被爆者とその子ども、チェルノブイリ原発事故の被曝者とその子どもについての全ゲノム解析等)のいずれの結果も、調べられた被曝条件においては、(疾病が増加するなど)遺伝性影響が現実的に実害として認知されることはもとより、ゲノムレベルですら有意な影響が認められていないということが示され ている。いずれのアプローチでも、自然発生率を超えるような影響は検出できておらず、ヒトでは放射線の遺伝性影響の可能性は認められていない。 2 争点⑴、⑵(被爆二世に対する立法 ことが示され ている。いずれのアプローチでも、自然発生率を超えるような影響は検出できておらず、ヒトでは放射線の遺伝性影響の可能性は認められていない。 2 争点⑴、⑵(被爆二世に対する立法不作為の違憲性・国賠法1条1項の違法性)について ⑴ 立法不作為の違法性の判断枠組み国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから、立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであっ たとしても、国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないが、①立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、②国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわ らず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国賠法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである(平成17年判決参照)。 ⑵ 憲法13条違反について原告らは、前記第2の4⑴(原告らの主張)イのとおり、被爆二世が、原 爆の放射線の遺伝的(継世代)影響により抱く健康不安に対して、国の援護 - 63 -を求め、これを受ける権利が、人格的生存に不可欠な基本的人権に基づくものとして、憲法13条によって保障される旨主張する。 しかし、原告らが主張する権利は、原爆の放射線被曝による健康上の障害が特殊な戦争被害であること 、人格的生存に不可欠な基本的人権に基づくものとして、憲法13条によって保障される旨主張する。 しかし、原告らが主張する権利は、原爆の放射線被曝による健康上の障害が特殊な戦争被害であることを考慮しても、その遺伝的(継世代)影響が否定できないことにより抱く健康不安に対して国の援護を求めることは、憲法 13条が保障する基本的人格権に包摂される具体的権利としては、その内容が未だ抽象的であり、また、同条の文言に照らすと、これを保障するために国に何らかの立法措置を執るべきことを求める権利を同条から導き出すこともできないから、憲法13条により保障されているということはできず、被爆二世に対する援護を行わないことが同条に違反するとは認められない。 ⑶ 憲法14条1項違反についてア憲法14条1項の意義憲法14条1項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由のない差別を禁止する趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱いをすることは、同条項の否定 するところではない(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁等参照)。 イ被爆者援護法の趣旨及び同法の「被爆者」の意義原告らは、被爆者援護法の趣旨に即して、被爆二世についても、被爆者援護法1条3号の「被爆者」と同様に「身体に原子爆弾の放射能の影響を 受けるような事情の下にあった」といえることを根拠として、被爆二世を被爆者に含めないことが、合理的根拠のない差別的取扱いであり、憲法14条1項に違反する旨主張する。そこで、まず、被爆者援護法の趣旨や同号の「被爆者」の意義について検討する。 原爆の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び いであり、憲法14条1項に違反する旨主張する。そこで、まず、被爆者援護法の趣旨や同号の「被爆者」の意義について検討する。 原爆の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増 進並びに福祉を図るため、昭和32年に原爆医療法が、昭和43年に原 - 64 -爆特別措置法が制定され、医療の給付、医療特別手当等の支給を初めとする施策が講じられてきたところ、上記原爆二法を統合して引き継ぐとともにその援護内容を更に充実発展させるものとして、平成6年に被爆者援護法が制定された。 原爆医療法は、被爆者の健康面に着目して公費により必要な医療の給 付をすることを中心とするという点からみると、社会保障法としての性格を持つものであるが、戦争という国の行為によってもたらされた原爆の被爆による健康上の障害が特異かつ深刻なものであり、被爆者の多くが一般の戦争被害者よりも不安定な状態に置かれているという特殊な戦争被害について、戦争遂行主体であった国の責任によりその救済を図る という点で、実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあるという複合的性格を有する法律である(昭和53年判決参照)ところ、同法を引き継いで、原爆の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることに鑑み、被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じることを目的として制定 された被爆者援護法についても、同様の複合的性格を有する法律であるというべきである(最高裁判所平成29年12月18日第一小法廷判決・民集71巻10号2364頁参照)。 上記のとおり、被爆者援護法は原爆医療法を引き継いで制定されたものであり、被爆者の定義は同一であるから、同法2条3号及び被爆者援 一小法廷判決・民集71巻10号2364頁参照)。 上記のとおり、被爆者援護法は原爆医療法を引き継いで制定されたものであり、被爆者の定義は同一であるから、同法2条3号及び被爆者援 護法1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義は、同一であると解される。上記原爆医療法2条3号の規定が定められた趣旨は、原爆医療法の目的(認定事実⑴ア)、同号の文言、同法の制定経緯や国会の審議状況 (同⑴ア)に照らせば、同条1号及び2号に該当しない場合であって - 65 -も、同審議の際の説明のように原爆の放射線の作用によると考えられる健康被害が生じた事例があることから、そのような原爆の放射線による健康被害という特殊な戦争被害を幅広く救済することにあったということができる。 また、原爆医療法は、被爆者が置かれている特別な健康状態に鑑みて、 健康診断を行うことを目的としているところ、その趣旨は、同目的や、同法の制定経緯、国会の審議状況、同趣旨を踏まえて発出されたと考えられる関連通達の内容(認定事実⑴ア)に照らせば、原爆の放射線による身体に対する影響が未解明である中において、国の負担により健康診断を実施して障害の有無を判別することにより、健康上特別な状態に 置かれている被爆者の不安を解消し、障害が有る者については、速やかに適切な治療を行い、その健康回復を図ることにあったといえ、原爆医療法を引き継ぎ援護の拡充を図るために制定された被爆者援護法も、同様の趣旨から、被爆者に対する健康診断、健康管理を行うことを目的としているということができる。 以上のとおり、原爆医療法及び被爆者援護法は、 るために制定された被爆者援護法も、同様の趣旨から、被爆者に対する健康診断、健康管理を行うことを目的としているということができる。 以上のとおり、原爆医療法及び被爆者援護法は、社会保障法的性格と国家補償法的配慮という複合的な性格を有する法律であり、原爆の放射線による健康被害という特殊な戦争被害を幅広く救済するために原爆医療法2条3号及び被爆者援護法1条3号の規定が設けられ、原爆の放射線による身体に対する影響が未解明な中で、被爆者の健康に対する不安 を解消し、障害が有る者については、適切な治療を行い健康回復を図るため、被爆者に対する健康診断、健康管理を行うことを目的としている。 このような法の趣旨、目的等に照らすと、上記各号が「身体に原子爆弾の放射能の影響を受け」た者ではなく、「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」を「被爆者」として定義した のは、そのような事情の下にある場合には、原爆の放射能の影響により - 66 -健康被害を生ずる可能性があるため、これを援護の対象として救済を図ることにあると考えられるから、上記「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」とは「原爆の放射能により健康被害が生ずる可能性がある事情の下に置かれていた者」をいうと解するのが相当である。 ウ違憲審査基準について 戦争損害の補償の要否及び在り方は、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわたった総合的政策判断を待って初めて決し得るものであり、国家財政、社会経済、戦争によって国民が被った被害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断に委ねられる ものと解される(最高裁判所平成9年3月13日第一小法廷判決・民集 あり、国家財政、社会経済、戦争によって国民が被った被害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断に委ねられる ものと解される(最高裁判所平成9年3月13日第一小法廷判決・民集51巻3号1233頁等参照)。 上記のとおり、被爆者援護法は、原爆の放射線被曝による健康上の障害という戦争被害の特殊性に鑑み、実質的な国家補償的配慮を根底として、制定されたものであり、その意味で、一般の戦争損害にとどまらな い被害の救済を目的とするものであるものの、他方で、社会保障法的性格を有し、保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じることを目的としているものであり、これらを実現するためには、上記の諸点も踏まえつつ、これにとどまらない上記の複合的な趣旨目的に即して、総合的専門的見地から援護対策を講じることを要するというべきである。 また、上記のとおり、被爆者援護法は、原爆の放射能の影響により健康被害を生ずる可能性がある者についても、これを援護の対象とする趣旨であると解されるところ、可能性があるにとどまる者について援護の対象とすることは、純然たる国家補償の見地から導き出すことは困難であり、広い意味での国家補償ないし社会保障法的見地に由来するものと 解される。そして、原爆の放射線による影響が未解明な中で、その援護 - 67 -の対象の範囲を定め、外延を画することは、この点に関する高度に専門的技術的な知見を基礎としつつ、上記被爆者援護法の趣旨を踏まえた総合的政策的判断を要するというべきである。 以上の諸点に照らすと、被爆者援護法における援護の対象となる者の範囲等については、上記のような同法の趣旨目的に即した立法府の合理 的な裁量的判断に委ねられているというべきであり、 以上の諸点に照らすと、被爆者援護法における援護の対象となる者の範囲等については、上記のような同法の趣旨目的に即した立法府の合理 的な裁量的判断に委ねられているというべきであり、被爆二世に対する立法不作為が憲法14条1項に違反するか否かについては、このような見地から、同立法不作為が被爆者援護法の被爆者等との関係で合理的理由のない差別的取扱いといえるか否かを判断することが相当である。 エ被爆者援護法の「被爆者」との関係について 原告らは、前記第2の4⑴(原告らの主張)ウのとおり、被爆二世についても、放射線の遺伝的(継世代)影響を否定できず、被爆者援護法1条3号の「被爆者」と同様に、「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」といえるから、同条の「被爆者」との間で差異を設けることは、合理的理由のない差別的取扱いに当たる旨主 張し、被告には同エの立法義務がある旨主張する。 この点、被爆者援護法所定の「被爆者」は、同法1条4号において、胎児をその対象としていることから、同条1号ないし3号については、各所定の際に既に出生していた者を対象とするものであり、同条3号についても、その身体に直接(内部被曝を除外する趣旨ではない。)被爆 した原爆の放射能により健康被害が生ずる可能性がある事情の下に置かれていた者をいうと解される。 これに対し、原爆放射線の遺伝的(継世代)影響に関する専門的知見は認定事実⑵のとおりである。 原告らは、前記第2の4⑴(原告らの主張)アのとおり、放射線被 害の遺伝的(継世代)影響について主張するが、その根拠とする各種文 - 68 -献や証人e の意見(認定事実⑵ウ)を前提としても、原爆放射線によ ⑴(原告らの主張)アのとおり、放射線被 害の遺伝的(継世代)影響について主張するが、その根拠とする各種文 - 68 -献や証人e の意見(認定事実⑵ウ)を前提としても、原爆放射線による遺伝的(継世代)影響については、次のとおり(摘示した認定事実の認定の際に挙示した関係証拠を含む。)、未だ知見が確立しておらず、その可能性を否定できないというにとどまる。 a 動物実験による遺伝的影響について マラーによるショウジョウバエの実験については、放射線照射による生殖細胞遺伝子の突然変異誘発等を示すものである(認定事実⑵ア)が、放射線量が高いためヒトには適用できないことが指摘されている(同⑵エ)。 ⒝ マウスによる実験については、放射線照射による突然変異の誘発 や腫瘍発症の誘発等を示すものである(同⑵アa、a~c)が、その実験結果に疑義を示す指摘(同⑵アb、d)や、マウスとヒトとの差異等からヒトへの適用について疑義を示す見解(同⑵ア、、エ)がある。 ⒞ 動物実験による遺伝的影響については、これを基にヒトについて も同様の影響があることを示唆する見解もあるが、抽象的な指摘にとどまる(同⑵イ、a、ウ、、)。 b ヒトに対する放射線の遺伝的影響について セラフィールドの核施設の労働者の子に関する調査研究では、父親の被爆量と子の白血病等の疾病との関係が示されたが(認定事実 ⑵イa、b)、両者の関係について否定的見解もある(同イc)。 ⒝ 広島の原爆被爆二世の白血病調査では、両親被爆群の片親被爆群に対する有意差が示されたが、一般人口との比較を加えた疫学的検討は今後の課題とされている(同⑵イ)。 ある(同イc)。 ⒝ 広島の原爆被爆二世の白血病調査では、両親被爆群の片親被爆群に対する有意差が示されたが、一般人口との比較を加えた疫学的検討は今後の課題とされている(同⑵イ)。 上海の小児白血病の症例対照研究では、父親の放射線被爆と子の - 69 -白血病との有意な線量反応関係が見られたが、他の要因による可能性が排除されていない(同⑵イ)。 ⒞ 放影研による原爆被爆者の遺伝的影響の調査結果では、放射線被爆による被爆二世への遺伝的影響は確認されていなかった(同⑵イa)。近時の再解析の結果、9パターン中1パターンに統計上有 意な関係性が見られたが、他の要因は調整できていなかった(同⑵イb)。 ⒟ 被爆二世やチェルノブイリ原発事故の除染作業者の子のDNA調査、全ゲノム解析の結果、放射線被爆による有意な遺伝的影響は見られなかった(同⑵イ、)。 上記のとおり、被爆者援護法1条3号の「被爆者」は、その身体に直接被爆した原爆の放射能により健康被害が生ずる可能性がある事情の下に置かれていた者をいうと解されるのに対し、被爆二世については、その身体に直接原爆の放射能を被曝したという事情は認められず、原爆の放射線による遺伝的(継世代)影響については、その可能性を否定でき ないというにとどまる。 このような両者の差異に照らすと、上記のような被爆者援護法の趣旨を拡充して、被爆二世を援護の対象に加えるか否かや、その場合の援護の在り方等については、上記ウで説示したような立法府の総合的政策的判断を要する合理的な裁量的判断に委ねられているというべきであり、 被爆二世を被爆者援護法の被爆者に含めず、同法による援護の対象としないこと ては、上記ウで説示したような立法府の総合的政策的判断を要する合理的な裁量的判断に委ねられているというべきであり、 被爆二世を被爆者援護法の被爆者に含めず、同法による援護の対象としないことが、合理的理由のない差別的取扱いに当たるとは認められない。 オ 「みなし被爆者」との関係について 原告らは、前記第2の4⑴(原告らの主張)ウのとおり、被爆二世について、原爆の放射線による影響の可能性を考慮して、被爆者援護法 7条を適用することとされた同法附則17条所定の「みなし被爆者」と - 70 -同様の措置を講じないことが、合理的理由のない差別的取扱いに当たる旨主張し、被告には同エa又はbの立法義務がある旨主張する。 前記のとおり、原爆医療法2条1号及び2号は、当時の知見に即して、原爆投下時に一定の区域に在った者(1号)及びその後一定期間内に一定の区域に入り同区域内に在った者(2号)を対象として被爆者と定め たものであり、これに該当しない場合であっても、身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情にあった者については、原爆の放射能の影響により健康被害を生ずる可能性があるため、同号3号を設けて被爆者と定めたものと解される。 被爆者援護法附則17条は原爆医療法附則3条が引き継がれたもので あるところ、同条及び同法施行令附則2項が定められ、健康診断特例区域が設けられた経緯は、同制定の経緯及び国会審議の状況(認定事実⑴エないし)によれば、当該区域及び県等の被爆地域拡大の要望に基づき、調査した結果、原爆医療法2条1号及び2号の被爆地域の被爆者とほぼ同様に原爆の放射能による影響があるものと認められたが、健康 状況が必ずしも把握されておらず、同等に扱うには疑義が残ったことに 、調査した結果、原爆医療法2条1号及び2号の被爆地域の被爆者とほぼ同様に原爆の放射能による影響があるものと認められたが、健康 状況が必ずしも把握されておらず、同等に扱うには疑義が残ったことによるものである。そして、これに合わせて、402号通達が発出され、健康診断特例措置の対象者が、健康診断の結果、造血機能障害等の所定の障害と診断された場合、行政実務上、原爆医療法2条3号に該当する者として扱うこととしたものである(同)。 このような経緯により定められた原爆医療法附則3条が引き継がれ、被爆者援護法附則17条が定められたことからすれば、同条の「みなし被爆者」を設けた趣旨は、被爆者援護法1条1号及び2号の被爆地域に該当せず、被爆者に当たるとはいえない者について、同法による健康診断の適用上、被爆者とみなして、同法の趣旨を拡充しようとしたことに あるといえる。そして、その仕組みに照らすと、被告としては、原爆の - 71 -放射能の影響を受けたとはいえない者について、一定の範囲で援護の対象を拡充したものであり、原爆の放射能の影響の可能性を考慮したものということができるが、他方で、被爆地域には該当しないものとして、上記のような措置を講じていることから、立法政策上の裁量的判断として、「みなし被爆者」を設け、これが引き継がれたものといえる。 もっとも、被爆者援護法附則17条の「みなし被爆者」についても、被爆者援護法上の「被爆者」と同様に、原爆が投下された際に出生していた者又は胎児であった者を対象としているから、被爆二世とは差異があり、前記のとおり、被爆二世については、その身体に直接原爆の放射能を被曝したという事情は認められず、原爆の放射線による遺伝的(継 世代)影響については、その可能 いるから、被爆二世とは差異があり、前記のとおり、被爆二世については、その身体に直接原爆の放射能を被曝したという事情は認められず、原爆の放射線による遺伝的(継 世代)影響については、その可能性を否定できないというにとどまる。 上記差異による区別の合理性について、上記のとおり、「みなし被爆者」については、原爆の放射能の影響の可能性を考慮して定められたものといえ、同法の健康診断の適用上、被爆者とみなし、健康診断の結果、一定の障害があると診断された場合に、同法2条3号に該当する者 と扱うとされていることからすると、その可能性の程度は、同号よりも広く想定されているとみる余地もあり、遺伝的(継世代)影響の可能性について、前記の放影研の再解析(認定事実⑵イb)のように、これを示唆するとみる余地のある見解もある。しかしながら、「みなし被爆者」が立法政策上の裁量的判断として設けられたことからすると、その ような見解もあることや、そのほか原告らが求める立法義務と同じ平成元年法案等が参議院では可決されたこと等の諸事情についても、これらを考慮して、被爆二世に「みなし被爆者」と同様の措置を講じるか否かは、上記ウで説示したような立法府の総合的政策的判断を要する合理的な裁量的判断に委ねられているというべきであるから、被爆二世につ いて、「みなし被爆者」と同様の措置を講じないことが、合理的理由の - 72 -ない差別的取扱いに当たるとは認められない。 カ小括以上によれば、被爆二世に対する立法不作為が憲法14条1項に違反するとは認められない。 ⑷ 国賠法上の違法性について 以上のとおり、被爆二世に対する立法不作為は、違憲であるということはできず、上記⑴①又は②の場合に当たる 法14条1項に違反するとは認められない。 ⑷ 国賠法上の違法性について 以上のとおり、被爆二世に対する立法不作為は、違憲であるということはできず、上記⑴①又は②の場合に当たるとは認められないから、国賠法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものではない。 3 結論以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却する こととして、主文のとおり判決する。 長崎地方裁判所民事部 裁判長裁判官天川博義 裁判官松本武人 裁判官笠松咲穂 ※別紙1「当事者目録」は、掲載省略 - 73 -(別紙2)関係法令の定め等 1 被爆者援護法⑴ 目的被爆者援護法の目的に関し、前文において、「昭和二十年八月、広島市及び 長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は、幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず、たとい一命をとりとめた被爆者にも、生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し、不安の中での生活をもたらした。このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆 弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し、医療の給付、医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。……国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、……るため、この として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、……るため、この 法律を制定する」と定められている。 ⑵ 被爆者の定義被爆者援護法において、被爆者とは、次の各号のいずれかに該当する者であって、被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(同法1条)。 ア 1号 「原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者」上記政令で定める隣接する区域は、被爆者援護法施行令(平成7年2月17日政令第26号。以下「被爆者援護法施行令」という。)1条1項により、「広島市又は長崎市に原子爆弾が投下された当時の別表第一に掲げる区域と する」と定められ、同別表第一において、長崎県については「西彼杵郡福田 - 74 -村のうち、大浦郷、小浦郷、本村郷、小江郷及び小江原郷」(五号)、「西彼杵郡長与村のうち、高田郷及び吉無田郷」(六号)と定められている。 イ 2号「原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内に在った者」 上記政令で定める期間は、被爆者援護法施行令1条2項により、長崎市に投下された原子爆弾については昭和20年8月23日までとすると定められている。また、上記政令で定める区域は、被爆者援護法施行令1条3項及び同施行令別表第二において、長崎市については、そのうち「西北郷、東北郷、家野郷、西郷、家野町、大橋町、岡町、橋口町、山里町、坂本町、本尾町、 上野町、江平町、高尾町、本原町、松山町、駒場町、城山町、浜口町、竹ノ久保町、稲佐町二丁目、稲佐町三丁目、 北郷、東北郷、家野郷、西郷、家野町、大橋町、岡町、橋口町、山里町、坂本町、本尾町、 上野町、江平町、高尾町、本原町、松山町、駒場町、城山町、浜口町、竹ノ久保町、稲佐町二丁目、稲佐町三丁目、旭町一丁目、岩川町、目覚町、浦上町、茂里町、銭座町、井樋ノ口町、船蔵町、宝町、寿町、幸町、福富町、玉浪町、梁瀬町、高砂町、御船蔵町、御船町、八千代町、瀬崎町及び浜平町」と定められている。 ウ 3号「前二号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」エ 4号「前三号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎 児であった者」⑶ 被爆者健康手帳の交付被爆者援護法2条1項は、被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は、その居住地(居住地を有しないときは、その現在地とする。)の都道府県知事(広島市又は長崎市については当該市の長(同法49条。以下同じ。)。以下、 上記市長を含め「都道府県知事等」という。)に申請しなければならないと定 - 75 -めており、同条3項は、都道府県知事等は、上記申請に基づいて審査し、申請者が同法1条各号のいずれかに該当すると認めるときは、その者に被爆者健康手帳を交付するものとする旨定めている。 ⑷ 被爆者に対する援護被爆者援護法上の被爆者は、同法に基づき、所定の援護を受けることができ る。主な援護は、次のとおりであり、同法により、被爆者であれば誰でも受けることのできる援護として定められているものと、被爆者のうち一定の要件を充たす者が受けることのできる援護として定められているものとがある。 ア健康管理(ア)健康診断 都道府県知事等は、被爆者に対し、毎年、厚生労働省令 いるものと、被爆者のうち一定の要件を充たす者が受けることのできる援護として定められているものとがある。 ア健康管理(ア)健康診断 都道府県知事等は、被爆者に対し、毎年、厚生労働省令で定めるところにより、健康診断を行うものとする(同法7条)。 (イ)指導都道府県知事等は、上記健康診断の結果必要があると認めるときは、当該健康診断を受けた者に対し、必要な指導を行うものとする(同法9 条)。 イ医療の給付同法10条1項は、「厚生労働大臣は、原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある被爆者に対し、必要な医療の給付を行う。ただし、当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因 するものでないときは、その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。」と定めている。 同法11条1項は、上記の医療の給付を受けようとする者は、あらかじめ、当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(以下「原爆症認定」という。)を受けなければならない旨定めている。 ウ一般疾病医療費の支給 - 76 -同法18条1項本文は、被爆者が、負傷又は疾病(同法10条1項所定の医療の給付の対象のほか遺伝性疾病、先天性疾病等の一定の負傷又は疾病等を除く。)について、被爆者一般疾病医療機関から一定の医療を受けたときなどに、厚生労働大臣は、一般疾病医療費を支給することができる旨定めている。 エ医療特別手当の支給同法24条1項は、都道府県知事等は、原爆症認定を受けた者であって、当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し、医療特別手当を支給する旨定めている。 オ特別手当の支給 同法25条1項は 4条1項は、都道府県知事等は、原爆症認定を受けた者であって、当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し、医療特別手当を支給する旨定めている。 オ特別手当の支給 同法25条1項は、都道府県知事等は、原爆症認定を受けた者に対し、特別手当を支給する(ただし、その者が医療特別手当の支給を受けている場合は、この限りでない。)旨定めている。 カ健康管理手当の支給同法27条1項及び4項は、都道府県知事等は、被爆者であって、造血機 能障害、肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。以下「健康管理手当対象障害」又は「健康管理手当対象疾病」という。)にかかっているもの(ただし、医療特別手当、特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている者を除く。)に対し、毎月定額の健康管理手当を支給する 旨定め、被爆者援護法施行規則51条は上記障害を定めている。 同法27条2項は、同条1項に規定する者が、健康管理手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件(支給要件)に該当することについて、都道府県知事等の認定(支給認定)を受けなければならない旨定めている。 キ原子爆弾小頭症手当、保健手当及び介護手当の支給 - 77 -都道府県知事等は、被爆者のうち、一定の要件を充たすものに対し、原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26条)、保健手当(被爆者援護法28条)、介護手当(被爆者援護法31条)を支給する旨定められている。 2 被爆者援護法附則(健康診断の特例)被爆者援護法附則17条は、「原子爆弾が投下された際第一条第一号に規定す る区域に隣接する政令で定める区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者は、当分の間 護法附則(健康診断の特例)被爆者援護法附則17条は、「原子爆弾が投下された際第一条第一号に規定す る区域に隣接する政令で定める区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者は、当分の間、第七条の規定の適用については、被爆者とみなす。」旨定めている。 上記隣接する政令で定める区域は、長崎県については、被爆者援護法施行令附則2条及び別表第三第11号ないし第18号において、西彼杵郡福田村のうち、 柿泊郷、中浦郷、手熊郷及び上浦郷、同郡式見村のうち、向郷、木場郷及び牧野郷、同郡三重村のうち、詰ノ内、白髪及び遠木場、同郡時津村、同郡長与村(高田郷及び吉無田郷を除く。)、同郡矢上村のうち、現川名、田川内、薩摩城、中尾及び矢筈、同郡日見村のうち、河内名、同郡茂木町のうち、田手原名、木場名及び田上名と定められ、また、同附則2条及び別表第四(原子爆弾が投下された 際の爆心地から12キロメートルの区域内に限る。)において、同郡深堀村、同郡香焼村、同郡伊王島村、同郡式見村(向郷、木場郷及び牧野郷を除く。)、同郡三重村(詰ノ内、白髪及び遠木場を除く。)、同郡村松村、同郡伊木力村、同郡大草村、同郡喜々津村、同郡矢上村(現川名、田川内、薩摩城、中尾及び矢筈を除く。)、同郡日見村(河内名を除く。)、同郡茂木町(田手原名、木場名及 び田上名を除く。)、北高来郡古賀村、同郡戸石村、同郡田結村と定められている。 被爆者援護法施行規則附則2条に基づき、上記別表第三で定める区域(以下「第一種特例区域」という。)の対象者に第一種健康診断受診者証が、別表第四で定める区域(以下、「第二種特例区域」といい、第一種特例区域と併せて「健康 診断特例区域」という。)の対象者に第二種健康診断受診者証が交付され、同附 - 78 -則1条の2の区 第四で定める区域(以下、「第二種特例区域」といい、第一種特例区域と併せて「健康 診断特例区域」という。)の対象者に第二種健康診断受診者証が交付され、同附 - 78 -則1条の2の区分に従い、年2回又は1回、所定の健康診断を受けることができる。そして、第一種健康診断受診者証の交付を受けた者が上記健康診断の結果、一定の障害(造血機能障害、肝臓機能障害、細胞増殖機能障害、内分泌腺機能障害、脳血管障害、循環器機能障害、腎臓機能障害、水晶体混濁による視機能障害、呼吸器機能障害、運動器機能障害)があると診断された場合、被爆者援護法1条 3号に該当する者として、被爆者健康手帳の交付を受けることができるとされている(昭和49年7月22日衛発第402号各都道府県知事、広島・長崎市市長宛て厚生省公衆衛生局長通達〔乙40、以下「402号通達」という。〕、平成14年4月1日健発第0401006号各都道府県知事・広島市長・長崎市長宛て厚生労働省健康局長通知〔乙50、以下「平成14年通達」といい、402号 通達と併せて「402号通達等」という。)〕)。 上記各地域の位置関係は、別紙3「被爆地域等」記載のとおりである。 以上 - 80 -(別紙4)放射線の種類及び単位、被曝の態様並びに原爆放射線の種類等 1 放射線放射線には、光と同じような性質をもつ電磁波(エックス線、ガンマ線等)と粒子の運動によって生じる粒子線(アルファ線、ベータ線、中性子線等)があり、 これらを総称して放射線という。また、物質が放射線を出す性質を放射能といい、そのような性質を持つ物質を放射性物質という。放射線のうち、物質に照射されたときに、その物質を構成している分子や原子に電離(原子の軌道電子を外へ弾き飛ばす現象)を引き起こす能力を持ったもの といい、そのような性質を持つ物質を放射性物質という。放射線のうち、物質に照射されたときに、その物質を構成している分子や原子に電離(原子の軌道電子を外へ弾き飛ばす現象)を引き起こす能力を持ったものを電離放射線という。 放射線の性質の1つは物質を通り抜けることであり、その力は、放射線の種類 とそのエネルギーの大きさによって異なる。アルファ線は紙1枚を通り抜けることができず、ベータ線は1cmのプラスチック等の板を通り抜けることができず、ガンマ線、エックス線は、鉛の板やコンクリートを通り抜けることができない。 中性子線はこれらを通り抜けるため、原子炉では水を用いて止められている。 2 放射線の単位等 放射線の量(以下「放射線量」又は「線量」という。)は、現在では、放射線が物質や人体に及ぼす作用や影響の大きさにより評価され、どのような作用や影響に注目するかによっていくつかの線量とその単位が定義されて用いられている。 ⑴ 吸収線量吸収線量とは、放射線が物質と相互作用を行った結果、その物質の単位質量 当たりに吸収されたエネルギーをいう。吸収線量の単位としては、グレイ(Gy)が用いられる。1グレイは、物質1kg中に1ジュールのエネルギー吸収があるときの吸収線量である。 また、吸収線量の単位としては、ラド(rad)が用いられることがある。 1rad=0.01Gy である。 - 81 -⑵ 等価線量人体に放射線が当たった場合、同一の吸収線量であっても放射線の種類やエネルギーによって与えられる影響の程度は異なる。条件の異なった放射線照射により人体に与えられるリスク(危険度)を、同一尺度で計算し、放射線防護の目的で比較したり、加え合わせたりするために、等価線量という量が考案さ れた。等価線量は、組 る。条件の異なった放射線照射により人体に与えられるリスク(危険度)を、同一尺度で計算し、放射線防護の目的で比較したり、加え合わせたりするために、等価線量という量が考案さ れた。等価線量は、組織、臓器一般の吸収線量に放射線荷重係数を乗じて算出される。放射線荷重係数は、放射線の種類とエネルギーにより影響の程度が異なることを考慮するために掛ける係数である。例えば、ベータ線、ガンマ線については1、アルファ線については20、中性子線はエネルギーにより5から20までとされている。吸収線量の単位にグレイを用いたときの等価線量の単 位はシーベルト(Sv)である。放射線荷重係数が1のベータ線、ガンマ線の場合、1Gy=1Sv(等価線量)となる。 ⑶ 実効線量人体が放射線を受けた場合、等価線量が同じであっても、その影響の現れ方は、人体の組織・臓器によって異なることから、人体の主な臓器の確率的影響 (がん、白血病及び遺伝的影響)については、均等被爆の場合の各臓器の放射線感受性(放射線の影響の受けやすさ)をリスク全体(人体〔個体〕のリスク)に対する相対的な割合の係数で表すようにされている(組織荷重係数。以上の定義から、人体の主な臓器の組織荷重係数を合計すると1になる。)。そして、放射線を受けたとき、人体の各組織への影響を合計して評価するために、 実効線量と呼ばれる量が定義されている。これは、人体の一部に放射線を受けた場合、その放射線の等価線量に放射線を受けた各組織の放射線感受性を表す組織荷重係数を掛けたものを、放射線を受けた組織について加え合わせたものである。実効線量(人体〔個体〕の放射線の影響度)は、人体の主な臓器の受けた等価線量にその臓器の組織荷重係数を掛けた値の総和とされていて、ある 個人が放射線被曝によって受けるリス 合わせたものである。実効線量(人体〔個体〕の放射線の影響度)は、人体の主な臓器の受けた等価線量にその臓器の組織荷重係数を掛けた値の総和とされていて、ある 個人が放射線被曝によって受けるリスクの大きさを評価するのに使われる。単 - 82 -位はシーベルト(Sv)である。 3 被曝⑴ 被曝の態様等被曝とは、放射線に曝されることを指す。放射線に人が被曝する態様には、大きく分けて、外部被曝と内部被曝の二つがある。 ⑵ 外部被曝外部被曝とは、身体の外に存在する線源からの被曝をいう。外部被曝に寄与する放射線は、主にガンマ線及び中性子線である。 ⑶ 内部被曝内部被曝とは、呼吸、飲食等を通じて体内に取り込まれた放射性物質が放出 する放射線による被曝をいう。 内部被曝の態様としては、吸入摂取、経口摂取からの侵入といった経路が考えられる。内部被曝の際には、放射性物質から放出されるベータ線やアルファ線も被曝に寄与する。 4 原爆放射線(初期放射線及び残留放射線) 空中核爆発による原爆放射線は、爆発後1分以内に空中から放射される初期放射線と、それ以後の長時間にわたって地上で放射される残留放射線の二種類に分けられる。 ⑴ 初期放射線初期放射線の主要成分はガンマ線と中性子線である。 ⑵ 残留放射線(誘導放射線及び放射性降下物による放射線)残留放射線には、誘導放射線と放射性降下物による放射線の二種類がある。 ア誘導放射線プルトニウムの核分裂反応の際、原爆から放出された中性子線が物質に照射されるとその物質が放射化され(放射性同位元素となる。)、種々の放射 性物質が生じる。放射化された物質は、ベータ線、ガンマ線を一定の期間放 - 83 -射し続ける。このように原爆から 射されるとその物質が放射化され(放射性同位元素となる。)、種々の放射 性物質が生じる。放射化された物質は、ベータ線、ガンマ線を一定の期間放 - 83 -射し続ける。このように原爆から放出された中性子線が地上に降り注ぎ土地や建築物資材等の物質の原子核に衝突することで、その物質が、放射能を帯び(誘導放射化)、放射線を一定期間放射し続ける場合に、出される放射線のことを誘導放射線という。 イ放射性降下物による放射線 放射性降下物は、原爆の爆発によって生成された放射性物質である。 以上

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