- 1 -令和4年9月14日東京地方裁判所刑事第15部宣告令和元年合第366号、令和2年合第92号、同第136号各銃砲刀剣類所持等取締法違反、 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、建造物損壊(変更後の訴因銃砲刀剣類所持等取締法違反、 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反)被告事件 主文 被告人らはいずれも無罪。 理由 第1 公訴事実本件の公訴事実は、下記のとおりである。 「被告人A1は指定暴力団C1会C2一家(以下「C2一家」という。)総長、同A2はC2一家総長代行、同A3はC2一家若頭、同A4はC2一家行動隊長、同A5はC2一家構成員であったものであるが、被告人らは、組織により、対立する暴力団組織の関係場所に向けてけん銃を発砲しようと考え、C2一家構成員であったB1、B2、B3及びB4らと共謀の上、C2一家の活動として、被告人A1の指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って、いずれも法定の除外事由がないのに 1 平成28年12月20日午前5時38分頃、不特定又は多数の者の用に供される場所である東京都新宿区ab丁目c番d号D前路上において、けん銃を使用して、株式会社E(代表取締役F)が所有する前記D101号室G株式会社Hのシャッター及びガラス壁等に向けて弾丸3発を発射して貫通させるなどし(損害額約88万5600円相当)、もって団体の活動として組織により不特定又は多数の者の用に供される場所においてけん銃を発射するとともに、他人の建造物を損壊し 2 前記日時場所において、団体の活動として、組織により、前記けん銃1丁を、これに適合するけん銃実包3発とともに携帯して所持した。」 - 2 -第2 争点関係各証拠によれば、 損壊し 2 前記日時場所において、団体の活動として、組織により、前記けん銃1丁を、これに適合するけん銃実包3発とともに携帯して所持した。」 - 2 -第2 争点関係各証拠によれば、B1、B2及びB4がI1一家I2会I3組(以下「I3組」という。)事務所に自動車で向かい、公訴事実1記載の日時、場所において、上記3名のうちいずれかが、I3組の事務所が4階に入居するビル(以下「本件ビル」という。)の1階シャッター等に拳銃を発砲したこと(以下「本件犯行」という。)が認められる。本件の主たる争点は、①被告人5名、B1、B2、B3及びB4(以下、まとめて「被告人ら9名」という。)が、本件犯行について、意思を通じあって実行したといえるか、②本件犯行が、C2一家の意思決定により、あらかじめ定められた役割分担に従い、一体として行動することの一環として行われたといえるか、である。 この点、検察官は、要するに、本件犯行は、I3組関係者による違法薬物の売買でC2一家の縄張りが荒らされたというもめ事があり、解決の方向へ向かっていたのに、突如としてI3組組員と思われる者がC2一家所属の組長らを襲撃、拉致したこと(以下「本件襲撃」という。)に対する仕返しとして、①上記9名が、本件犯行について、意思を通じあって、②本件犯行が、C2一家の意思決定により、あらかじめ定められた役割分担に従い、一体として行動することの一環として行われたと主張している。具体的には、争点①及び②が認められる事情は共通しており、それらは、㋐C2一家本部事務所(以下「本部事務所」という。)において、C2一家の幹部による「I3組への仕返しの実行」という決定事項が被告人A4を介して組員らに伝達されたのであり、「仕返し」の典型的な方法としては拳銃による発砲が想定されること、㋑B1、B2 において、C2一家の幹部による「I3組への仕返しの実行」という決定事項が被告人A4を介して組員らに伝達されたのであり、「仕返し」の典型的な方法としては拳銃による発砲が想定されること、㋑B1、B2、B4(以下「実行犯3名」という。)が、C2一家幹部の決定に従い、拳銃発砲のために本部事務所を出発してI3組事務所に向かったこと、㋒JをはじめとするC2一家組員3名(以下「第二部隊」という。)が、I1一家への拳銃発砲のために、その事務所へ向かったこと、㋓被告人A5及び被告人A3が拳銃の準備を行ったこと、㋔実行犯3名が今回の犯行の報酬を得たことなどの事実であるというのである。 - 3 -他方で、弁護人は、被告人5名は拉致されたC2一家C3組組長であるKを救出することしか考えておらず、渡世上の親に当たるC2一家C4組組長であるLが襲撃されたことに激怒したB4が、I3組組員に暴行しようなどと考えて実行犯3名でI3組事務所に向かったが、本件ビルに組員らしき人物が見当たらなかったことから、突発的に単独で本件犯行に及んだものであるとして、①被告人5名が、本件犯行について、意思を通じあっていたとは認められず、②仮に争点①が肯定されたとしても、本件犯行はC2一家の意思決定により、あらかじめ定められた役割分担に従い、一体として行動することの一環として行われたとはいえないから、無罪であるなどと主張する。 当裁判所は、争点②について判断するまでもなく、争点①について、実行犯3名のうちのいずれかが、C2一家幹部の指示に基づかずに発砲した疑いが残り、被告人らに意思連絡があったとは常識に照らし間違いないとまではいえず、被告人らは無罪であると判断したので、以下、説明する。 第3 当裁判所の判断 1 証人Mの証言から認められる事実とそこから推認できる事実について 絡があったとは常識に照らし間違いないとまではいえず、被告人らは無罪であると判断したので、以下、説明する。 第3 当裁判所の判断 1 証人Mの証言から認められる事実とそこから推認できる事実について⑴ 本件では、当時C2一家C5組員であったMの証言がどこまで信用できるのか、また、その証言からどのような事実が認められるのかが最も重要であると考えられるので、まずこの点から検討する。 証人Mは、本件襲撃後に本部事務所に組員が集まった際、被告人A4が、幹部がいた2階から降りてきて、被告人A5やB1らに対して「誰が返しに行く」と言ったなどと証言する。検察官は、このようなMの証言は信用できるとした上で、ここでいう「返し」とは、I3組への仕返しを示しており、その内容としては拳銃による発砲が想定されると主張している。 確かに、Mは、既に暴力団組織を脱退したとはいえ、報復を恐れて証言するのを躊躇しながらも、自らの当時の記憶にあると考えていることをそのまま証言する姿勢が見られるなど、その証言態度は真摯なものがうかがわれる。また、 - 4 -当時、本件襲撃を受けて本部事務所にめいめい組員が集まっていたことや、2階にC2一家総長である被告人A1、総長代行である被告人A2、被告人A4、C2一家C6組組長であるN、同C7組組長であるOらがおり、途中で被告人A4が1階に降りて行ったこと、被告人A4が何らかの発言をした後に実行犯3名が本部事務所を出発したことは他の証人や被告人も口をそろえて証言ないし供述しており、このような証拠上動かし難い事実と矛盾しているところもない。 加えて、検察官は、証人Mが妻にLINEで「絶対仕返しなんかいきたくないから」などとメッセージを送っていることも指摘し、「返し」という言葉がそれ以前に出ていたことの裏付けと主張もしている。 い。 加えて、検察官は、証人Mが妻にLINEで「絶対仕返しなんかいきたくないから」などとメッセージを送っていることも指摘し、「返し」という言葉がそれ以前に出ていたことの裏付けと主張もしている。 そうすると、M証言に基づいて組み立てられた検察官の主張も、それなりに首肯できるところがある。 ⑵ もっとも、Mの証言の内容は、次のような点で疑問が残る。 ア暴力団組織に加入して比較的日が浅いMは、突然の襲撃やKの拉致によってC2一家内部の緊張感や切迫感が極めて高まっていた状況と認識しており、被告人A4の発言の後、妻に対して本部事務所に警察を呼ぶよう頼むなど、当初から非常に怯えていたことが認められ、そのような怯えもあって、より悪い選択肢としてI3組への仕返し、I3組への拳銃の発砲に自分が行かされることを自ら心配していた状況にあった。そうすると、2階から降りてきた被告人A4の発言について、I3組への「返し」に行く者を募った趣旨であると思い込んでしまった可能性がないとはいえない。また、実際に本件犯行が発生したことで結果的に返しのような形となったため、それを事後的に知ったMが、当時被告人A4が「返し」と明確に発言をしたと記憶が変容してしまった可能性が全くないともいい切れない。 さらに、本件犯行に及べば、C2一家が組織的に行ったとの疑いを捜査機関から抱かれ、摘発される可能性が極めて高いのであるから、仮に被告人A - 5 -1ら幹部が拳銃の発砲を決定し、それを組織として実行に移すのであれば、捜査機関からC2一家が摘発されるのを避けるためにも、慎重に事を進める方が自然であると思われる。しかし、Mの証言を前提とすると、被告人A4が、実行犯としたい者に内々に幹部からの指示を伝えるのではなく、本部事務所入口にいたMにも聞こえる程度の声量で、実行犯 事を進める方が自然であると思われる。しかし、Mの証言を前提とすると、被告人A4が、実行犯としたい者に内々に幹部からの指示を伝えるのではなく、本部事務所入口にいたMにも聞こえる程度の声量で、実行犯を募ったということになるが、脱会するかもしれない末端組員もいる中で隠語等も使わずに実行犯を募るというのは、若干不自然である。 イこのようなMの証言内容に対する疑問は、次に述べるような、当時の状況を見てみると、なおさら否定し難いように思われる。 すなわち、当時の状況としては、C2一家の縄張りで違法薬物の密売をしたI3組関係者がいたことからもめ事が生じたが、I3組組長とLが話し合って、後日改めて話合いの場を設けるとすることで決着をつけたにもかかわらず、Lらは突如本件襲撃を受けたものである。そして、拉致されたKが病院の敷地内に放置されたのは午前3時頃、死亡が確認されたのは午前3時24分頃であるが、Nや被告人A3の供述によれば、C2一家側がKの死亡を確認できたのは、早くとも実行犯3名が本部事務所を出発した午前3時26分頃よりも後であると認めるのが相当であり、これを否定する証拠はない。 そうすると、被告人A4が被告人A5らに発言した時点では、幹部であるKがI3組に拉致されて生死が定かでない状況にあったというべきである。KがI3組の支配下にある可能性の高い中、I3組事務所に拳銃を発砲するというまさにI3組に対する挑発行為といえる行動に及べば、激高したI3組がKを殺すなどの報復を行うことは想定でき、I3組への警戒感が高まっている中、一層その想定は容易であったと考えられる。したがって、拳銃を発砲するという判断は、要するに、Kを見捨てるという意味を持つ決断ということができ、C2一家渉外委員長でありC2一家C3組組長でもある、つまりは幹部といえる立場のKを 考えられる。したがって、拳銃を発砲するという判断は、要するに、Kを見捨てるという意味を持つ決断ということができ、C2一家渉外委員長でありC2一家C3組組長でもある、つまりは幹部といえる立場のKを見捨てるというのは、相応に重大な決断であっ - 6 -たということができる。 また、被告人A1が本部事務所付近に到着した時間は午前2時9分頃であり、被告人A4は午前2時25分頃であることや、Mが被告人A4の発言を聞いた後に、本部事務所付近の道路を車で塞ぎに行き、妻に警察への通報を依頼した時間が午前3時11分頃であることを踏まえると、被告人A4の発言があったのは、午前2時25分頃から午前3時11分頃までの間であると認められる。そうすると、2階における謀議及び被告人A4の発言があったとされるのは、長くとも、午前1時50分頃に本件襲撃が発生してから約1時間半以内、被告人A1が本部事務所付近に到着してから約1時間以内ということになる。このように、検察官の主張を前提とすれば、本件襲撃から相応に短い時間で、幹部のKを見捨てることを被告人A1らが判断して、拳銃の発砲が指示されたということになるが、そのような重大な決断をするにしては性急すぎる感が否めない。C2一家とI3組とが以前より相当の緊張関係にあり、本件襲撃によって全面戦争に発展したと評価してもおかしくなかったという状況であるならばまだしも、そういった事情はなく、むしろLとI3組組長は従前友好的な関係を築いていたというのであるから、I3組関係者による違法薬物の売買などのもめ事が直前にあったことを踏まえても、果たして、当時C2一家が暴力団としての権威をI3組に示さねば組織としての体面が保てないような状況にあったかはいささか疑問である。その中で、体面のために、幹部であるKを見捨てて拳銃を発砲すると も、果たして、当時C2一家が暴力団としての権威をI3組に示さねば組織としての体面が保てないような状況にあったかはいささか疑問である。その中で、体面のために、幹部であるKを見捨てて拳銃を発砲するという決断を即時に行ったとするには、不自然さが残るといわざるを得ない。 ウ加えて、本件では、次に述べるような、通話履歴も残されていて、上記のような不自然さは、なお一層拭い去れない。 すなわち、関係証拠によれば、被告人A1は、午前2時15分頃から午前2時40分頃までの間、5回にわたり、C2一家の上位団体であるC1会の渉外委員長及びC8組の総長であるPに電話をかけ、午前3時11分にはC - 7 -1会C9一家総長であるQと約10分間通話している。被告人A1は、これについて、I3組に対してKを解放するよう交渉してもらうために渉外委員長であるPに電話をかけたが繋がらず、I3組の上位団体であるI2会の組長と親交があるQにも電話をかけて交渉を依頼したと説明している。また、被告人A2も、午前2時9分頃から午前2時18分頃までの間、C1会C10一家C11組本部長のRと3回にわたり通話をしており、これについて、C11組はI3組と話のできる関係にあったことから、K解放の交渉を依頼したと説明する。これらの説明は、通話時間の長さや通話のタイミングと矛盾せず、実際にRが被告人A2との通話後にI3組組長と通話をしていることとも整合している。また、被告人A1及び被告人A2がC2一家外の団体の幹部にわざわざ深夜に電話をかける内容として不自然なものともいい難い。 そうすると、被告人A1及び被告人A2は、C2一家内にとどまらず、外部団体に依頼してまでKの救出を試みており、これはKを見捨てる決断をしたとすると、どちらかといえば整合しない事実といえる。また、QやRがI 、被告人A1及び被告人A2は、C2一家内にとどまらず、外部団体に依頼してまでKの救出を試みており、これはKを見捨てる決断をしたとすると、どちらかといえば整合しない事実といえる。また、QやRがI3組と交渉している中、C2一家が拳銃の発砲という挑発行為に及べば、彼らの面目がつぶれることにもなるのであって、上位団体であるC1会から叱責されかねないとも考えられ、その意味でも、被告人A1及び被告人A2の行動は、I3組への仕返しを決定したとすると、そぐわない事実といえる。 エなお、検察官は、I3組への仕返しとKの捜索とは両立する関係にあるとも主張するので、念のためこの点についても検討しておく。 確かに、Kの捜索をしつつI3組への仕返しを検討することは十分あり得ることであると思われる。しかし、拳銃の発砲に及べばKが殺される可能性が高かったことは前記のとおりであるから、I3組への仕返しを並行して検討していたとしても、Kの死亡が確認されるまでは確実な指示を出すとは考え難い。そして、C2一家側がKの死亡を確認できたのは早くとも実行犯3名の出発後であるから、出発前にそのような指示をするのが困難であること - 8 -は前記のとおりである。更に考えられるとすると、出発前にはKの死亡が判明したら本件犯行に及べなどといった条件付きの指示を出し、Kの死亡が確認された時点で改めて発砲を命じるという指示態様が考えられなくはない。 しかし、すでに出発している実行犯3名は、身元が警察やI3組に知られないように携帯電話機を置いて行くとか、電源を落とすなどしたというのであり、証拠上も、他人名義の携帯電話機を用いるなどして本件犯行に及ぶまでの間に本部事務所と連絡を取っていたと認めるに足りる証拠はなく、幹部が実行犯3名に対してKの死亡を伝え、拳銃の発砲を命じられる状況にあ 証拠上も、他人名義の携帯電話機を用いるなどして本件犯行に及ぶまでの間に本部事務所と連絡を取っていたと認めるに足りる証拠はなく、幹部が実行犯3名に対してKの死亡を伝え、拳銃の発砲を命じられる状況にあったとは認められない。したがって、本件の証拠関係のもとでは、検察官の主張するようにI3組への仕返しとKの捜索とが両立の関係にあったとはいえない。 オ以上のとおり、当時の状況や関係証拠を踏まえると、Mの証言のとおりの事実を認定するには躊躇を覚える。 結局、検察官が妻へのLINEメッセージという客観証拠に裏付けられていると主張している点は、思い込みのもと妻に対して「絶対仕返しなんかいきたくないから」などと送信することもあり得るのであって、これは思い込みの可能性と両立する事情であるといわざるを得ない。よって、これを以てMの証言を直ちに信用できると断じることまではできない。 カ更にいえば、仮に被告人A4が「返し」やそれに類する言葉を発言していたとしても、以上の状況や証拠関係からすれば、それが拳銃の発砲を指すものとは必ずしもいえない。すなわち、M自身が証言しているように、Kを拉致しているI3組組員を見つけて暴行したり、Kの解放の手段としていわゆる人質交換のためにI3組組員を拉致したりと、KがI3組に殺されないような「仕返し」の方法も複数想定されるのであり、それを意味した発言であった可能性等も否定はできないからである。 キなお、検察官は、実際に多くの組員がKの捜索に出ていないこと、本部事 - 9 -務所から被告人A5やNらがXにKを捜しに行ったのは早くとも午前3時30分頃であることなどを指摘して、これらはKの捜索という決断をしたという被告人らの弁解とは整合せず、Mの証言と整合する旨主張する。 しかし、被告人A4や被告人A1は、C2 のは早くとも午前3時30分頃であることなどを指摘して、これらはKの捜索という決断をしたという被告人らの弁解とは整合せず、Mの証言と整合する旨主張する。 しかし、被告人A4や被告人A1は、C2一家全体に対して組織的にKの捜索を指示したなどと述べているわけではなく、被告人A4はあくまで声がけをした程度に過ぎないのだとすれば、各組員が各々対応を考えて、Kの捜索に向かわない者が複数いたとしてもおかしいとまではいえない。また、被告人A5やNらがXにKを捜しに行った時間も時間的に遅すぎるともいえない。 ⑶ 以上によれば、被告人A4が「返し」と発言していないのであれば当然、あるいは「返し」と発言したとしても、拳銃の発砲以外を目的とした発言である可能性は否定できないのであるから、この事実が被告人5名の関与を推認させる力は限定的といえる。 2 拳銃の準備状況から認められる事実とそこから推認できる事実について⑴ 本件では実行犯3名のうちの誰かが拳銃を発砲したことは間違いないところ、その拳銃の準備状況から、共謀が推認できる場合や、被告人A4の発言の趣旨を理解しなおすことも考えられるため、この点についても検討する。 まず、当時C4組の組員であったSの証言及び供述調書によれば、実行犯3名が出発する前の時間帯に、本部事務所の出入り口前で、C2一家C12組組長であるTが被告人A5に対してアタッシュケースを渡したこと、その後朝方になって、当時C12組組員であったUがアタッシュケースを持って本部事務所から出てきて、自宅に帰ると言って去っていったことが認められる。また、当時C2一家C13組の組員であったVの証言によれば、本件犯行から一週間以内に、Uの部屋にアタッシュケースが存在し、その中には真正の拳銃様のものや弾丸様もの5発等が入っていたこと、それに関して た、当時C2一家C13組の組員であったVの証言によれば、本件犯行から一週間以内に、Uの部屋にアタッシュケースが存在し、その中には真正の拳銃様のものや弾丸様もの5発等が入っていたこと、それに関してUが「これが使われた物だよ」というような感じでVに話してきたことが認められる。 - 10 -この点、弁護人は、S及びVの証言は、あいまいな点や事実と異なる点があり、記憶も正確なものではなく信用できないと主張するが、両者が虚偽を述べる動機は特段なく、特にVについては証言することで関係者から報復されることを恐れて一度宣誓拒絶をしたものの、裁判所から過料の制裁を受け、また、検察官から説得された後、翻意して証言に至っているという経緯があり、証言する際には遮蔽板の内側でなおも報復を恐れていたのであって、検察官からの再三の促しを経てやっと証言するなどしていた状況も踏まえると、被告人らに不利益な事実が殊更に述べられた虚偽であったとは考え難い。また、弁護人が主張するように捜査段階で警察官から誘導を受けたような事情は見受けられず、いずれも記憶のない部分についてはそう証言するなどしているから、採用した供述調書の作成時や公判廷での証言時に記憶していた上記の点については十分信用してよい。 以上を前提に、S及びVがそれぞれ見たものの同一性について更に検討する。 Sが本件襲撃後及び朝方にそれぞれ見たアタッシュケースはいずれも銀色であり、大きさも同一であり、見た時間が間近いこと、類似のアタッシュケースが複数個同時期に存在するということも通常は考え難いことからしても、これらは同一のものと認められる。また、SとVがそれぞれ見たというアタッシュケースも、その大きさや色は一致しており、一週間という長くはない期間に類似のアタッシュケースが複数Uの手元に集まるという偶然も考 は同一のものと認められる。また、SとVがそれぞれ見たというアタッシュケースも、その大きさや色は一致しており、一週間という長くはない期間に類似のアタッシュケースが複数Uの手元に集まるという偶然も考え難いことから、これらも同一のものと認められる。そして、アタッシュケースの中には少なくとも真正の拳銃様のものが入っていたのである。また、ブラジル出身で、本件のような拳銃ではないものの、真正の銃を見たことのあるVは、それが真正の拳銃だと思ったというのであり、これを否定するまでの事情も見当たらないから、真正の拳銃であった可能性は相当に高いものと考えられる。 これに対して、被告人A5は、アタッシュケースの中身はボーガンであったなどというが、アタッシュケースの大きさも他の証人とは整合しないし、唐突 - 11 -に出てきた弁解であることや、内容的にもあまりに不自然不合理であって信用できない。 以上のことからすると、本件襲撃後、Tが被告人A5に対して真正の拳銃様のもの(以下「本件拳銃①」という。)を渡し、朝方、経緯は不明だがTの手元に戻ってきたそれがUの手に渡り、本件犯行から長くとも一週間はUの部屋に置いてあったということになる。 ⑵ そうすると、更に進んで、本件拳銃①が本件犯行に用いられたことまで推認できれば、そこから被告人らの共謀を推認するか、少なくとも被告人A4の発言などと相俟って、被告人らの共謀を推認することもできそうである。そこで、更に検討するが、当裁判所としては、Uの言葉を前提としても、本件拳銃①が本件犯行に用いられたものとまではいえないと判断したので、以下、説明する。 この点、UとVの会話が本件犯行からそう経っていない時期になされたことを考えると、Uの発言が「本件犯行に使われた」という意味である可能性も相当程度ある。しかし、仮に 判断したので、以下、説明する。 この点、UとVの会話が本件犯行からそう経っていない時期になされたことを考えると、Uの発言が「本件犯行に使われた」という意味である可能性も相当程度ある。しかし、仮にそういう趣旨だとしても、Uの証人尋問が行われていないことなどから、U自身がどういう根拠に基づきそのように発言したのかは判然とせず、また、真実を述べたのかも定かではない。また、Uの発言の意図も必ずしも明確ではない。加えて言えば、実際にTがどういう経緯や意図でこれを被告人A5に渡したかは明らかではない上、C2一家組員の間ではI3組から更なる襲撃を受ける可能性がある状況であるという共通認識が形成されていたのであるから、襲撃に備えて組員が各々自発的に迎撃用あるいは護身用として拳銃を準備するということも考えられないではないのであって、Vの証言に含まれるUの発言から本件拳銃①が本件犯行に用いられたと認定することまではできない。 ⑶ また、関係各証拠によれば、被告人A3が関与して、C5組元組員であるWに預けていた真正の拳銃様のもの(以下「本件拳銃②」という。)が存在し、それを被告人A5に渡させたことが認められる。なお、被告人A3及び被告人 - 12 -A5は、これは拳銃型のスタンガンであると供述するが、突発的な襲撃に対応するための武器としては効果的とまではいえないスタンガンを、被告人A3がわざわざ組員に指示をしてWの元から回収する手間をかけ、被告人A5もそれを待っていたというのは、当時の切迫した状況において、あまりに不自然であり、信用できない。 しかし、本件拳銃②が被告人A5の手に渡ったのは実行犯3名が出発した後であるから、本件拳銃②もまた、本件犯行に用いられたものではない。 ⑷ そこで、本件拳銃①及び②の準備が持つ意味について検討しておくと、本 本件拳銃②が被告人A5の手に渡ったのは実行犯3名が出発した後であるから、本件拳銃②もまた、本件犯行に用いられたものではない。 ⑷ そこで、本件拳銃①及び②の準備が持つ意味について検討しておくと、本件拳銃①及び②は上記のとおり、いずれも本件犯行に用いられたものではないから、拳銃の準備状況から遡って当初から発砲の共謀があったことを推認することはできない。 仮に拳銃の準備状況とは別個独立に被告人A1らが本部事務所2階で本件犯行について決定し、これを指示したことが認定できるのであれば、拳銃を準備した被告人A5及び被告人A3が、本件犯行について意思を通じあっていたことを基礎付け、複数の組員が関与して組織的に本件犯行に向けた準備がされていたという意味で被告人らの共謀を推認させる事実となり得る。 しかし、既に述べたとおり、拳銃の準備状況と別個独立に共謀が推認できるともいえないから、結局被告人らの意思連絡を推認することは困難というべきである。 3 上記のとおり、1、2の各事実自体が持つ共謀を推認する力はかなり限定的といわざるを得ないが、更に本件では、実際には実行犯3名が自動車で現場に行って、発砲しているのであるから、これらの事実を総合すると、共謀があったと認められないのかについても、検討しておく。 確かに、被告人A4が二階から降りてきて何らかの発言をしたことは間違いなく、少なくとも「自分が行きます」などと発言したB1は現場に向かっている上、それが誰であるのか明確に特定はできないまでも発砲していることは認められる - 13 -のであるから、そもそも当初の指示自体発砲の指示であったのではないかと強く疑われる。そして、当初から発砲の指示であったとすれば、これと整合的な事情も認められる。 しかしながら、繰り返しにはなるが、当初の指示の内容自体、 当初の指示自体発砲の指示であったのではないかと強く疑われる。そして、当初から発砲の指示であったとすれば、これと整合的な事情も認められる。 しかしながら、繰り返しにはなるが、当初の指示の内容自体、上記1のとおり発砲の趣旨とは言い切れないばかりか、上記2のとおり準備された拳銃と実行犯が使用した拳銃が同一であるとまではいえないのであり、本件では発砲した者も特定できていないことも踏まえると、実行犯が発砲するに至った経緯については様々な可能性が考えられるのであって、被告人A4の発言を受けて発砲現場までB1が行っているとしても、なお、それが被告人A1らの指示に基づくものとまでいえるかについては疑問が残る。 特に、実行犯が発砲するに至った経緯の可能性の中でも、一番高いと考えられるのが、B4の証言から認められるそれである。B4は、渡世上の親にあたるLが、従前良好な関係にあったはずのI3組から突如襲撃され、B4自身裏切られたとの思いや強い怒りなどを抱いていたことはそれなりに理解できなくもないのであって、仮にB4が発砲したのだとすると、被告人A4の発言やその背後にあった可能性のある被告人A1らの指示とは関係なく、発砲に至った可能性も否定しきれない。なお、B4の証言のうち、特に拳銃の入手方法については、従前の説明から変遷していたり裏付けの乏しいものであることからすると、にわかに信じ難いのであるが、そうとはいえ、上記の可能性が否定できることにはならない。 以上のとおりであるから、上記1及び2の事実を総合して考えてみても、共謀を認めるには足りない。 4 以上述べたことからすると、証人Mの証言と拳銃の準備状況という2つの重要な事実から検討しても、被告人らの共謀を認定することができないから、他の事実を検討してみても、それよりも重要でない事実のいくつかが認めら たことからすると、証人Mの証言と拳銃の準備状況という2つの重要な事実から検討しても、被告人らの共謀を認定することができないから、他の事実を検討してみても、それよりも重要でない事実のいくつかが認められても共謀が認められることはないと考えられるが、念のため検討する。 ⑴ 当公判廷で取り調べた本件犯行の現場となったビルの前を撮影した防犯カメ - 14 -ラ映像によれば、実行犯3名が乗車した自動車が減速しながら本件ビルの路側帯に近づき、停車するかしないかの瞬間に発砲音が聞こえ、その後すぐに自動車は路側帯から離れながら走行速度を上げて走り去っていったことが認められる。このような発砲の際の状況は、発砲が周到に準備されたものであることをうかがわせ、当初から拳銃の発砲について関係者の間で意思連絡がされていたからこそ、自動車の動きがこれほどスムーズだったとみることもできるように思われる。 しかし、このことは、少なくとも発砲者と運転者、あるいはこれに加えてせいぜい同乗者が意思を通じあって本件犯行に及んだことを推認させる事情ではあるものの、更に進んで本部事務所にいた者たちと事前に意思連絡をしていたことまで推認させる事情とはいい難い。 被告人らの共謀を認めるには足りない。 ⑵ さらに、実行犯3名が、本件犯行後、それぞれ100万円を受け取っていることにつき関係証人がそれぞれ証言しているところ、この点についても検討する。 検察官は、これが本件犯行の報酬であると主張し、特に本件犯行後に実行犯3名が受け取った金額に不満を述べていたことを挙げ、組織からの報酬でなければこのような発言はされない旨指摘する。 確かに、検察官の主張は一理あり、このような犯行後の事情から、犯行時の共謀の存在をある程度推認させることも十分考えられよう。ところが、実行犯3名やLは ければこのような発言はされない旨指摘する。 確かに、検察官の主張は一理あり、このような犯行後の事情から、犯行時の共謀の存在をある程度推認させることも十分考えられよう。ところが、実行犯3名やLは、100万円はLが個人的に謝礼として渡したものであると主張しており、これが組織から支払われたものかは他の証拠によっても判然としない。 Lは、合計300万円を実行犯3名に渡した理由として、被告人A1の意に反した行為に及ぶほどにLのために真剣に怒ったB4の気持ちが嬉しかったのでB4にはその謝礼として渡した、他の2名にはB4が本件犯行に巻き込む形になってしまったことの詫びの意味として渡した、などと証言している。Lと - 15 -B4の関係性や当時のLの受けた襲撃の内容等を考えれば、そのようなLの感情は理解できなくはない。検察官は、被告人A1の意に反した実行犯3名に謝礼金を渡してその犯行を称賛するというLの行動は不自然と主張するが、C4組組長として、組員のB4が勝手に本件犯行に及んだのを被告人A1に謝罪する一方、渡世上の親として、B4の気持ちを嬉しく思って謝礼金を渡したとするLの証言は理解できないものではなく、検察官のいうように不自然なものとまではいえない。 また、B1は、結果的にKが死亡していたことからすれば、事後的に見れば、本件犯行は仕返しの形となっていたのであるから、C2一家から報酬が出てもいいのではないかといった趣旨の発言であったとも証言しており、その説明も不合理であり得ないとまではいえない。 そうすると、実行犯3名に渡された300万円は、Lからの個人的謝礼として渡されたものである可能性が否定できず、本件犯行についてC2一家から報酬として出されたものとまでは認められない。 被告人らの共謀を認めるには足りない。 ⑶ なお、検察 は、Lからの個人的謝礼として渡されたものである可能性が否定できず、本件犯行についてC2一家から報酬として出されたものとまでは認められない。 被告人らの共謀を認めるには足りない。 ⑶ なお、検察官は、実行犯3名とは別のC2一家関係者3名がI3組の上位団体であるI1一家に向かっており、これは第2部隊であって、拳銃の発砲を目的として出発したものと主張しているので、この点も検討しておく。 確かに、この第2部隊の一員となった当時C5組の組員で、一旦は組織から脱退を表明したものの現在も組員である証人Jは、事情を詳しく知らされないまま自分に関係のある車両を第2部隊の車両として拠出させられ、自分も同乗させられるに至ったこと、発砲に使用されるということも最悪の事態として想定しながら、同乗者を必死に説得し、結局現地に警察官が既に配置されていたことなどから、何もせずに本部事務所に戻ってきた様子を証言している。しかし、それ以上に、そもそも第2部隊が拳銃を所持していたと認めるに足りる証拠は、実行犯3名の場合よりも少ないといわざるを得ず、第2部隊の目的が拳 - 16 -銃の発砲であったとまでは認め難い。 この事実から被告人らの共謀を認めることはできない。 5 まとめその他、検察官が争点①を立証するために主張している事実はあるが、個々的にみて、いずれも被告人5名の意思連絡を推認させるに足りるものではない。さらに、これらを総合し、検察官が主張するその余の点を踏まえても、被告人5名や実行犯3名及びB3の語る経緯に関しては細部に疑わしい点も多々あるものの、結局、実行犯3名のうち誰かが、被告人らC2一家幹部らの意思とは関係なく、何らかの事情で発砲に至った可能性も否定しきれない。本件ではそもそも解明されていない点も多く、立証責任は検察官にあることや、「疑わし 実行犯3名のうち誰かが、被告人らC2一家幹部らの意思とは関係なく、何らかの事情で発砲に至った可能性も否定しきれない。本件ではそもそも解明されていない点も多く、立証責任は検察官にあることや、「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の原則を踏まえ検討した結果、被告人ら9名が本件犯行について意思を通じあって実行したことが常識に照らし間違いないとまではいえない。 そうすると、その余の点について検討するまでもなく、被告人らはいずれも無罪とするほかない。 よって、本件各公訴事実については犯罪の証明がないから、刑事訴訟法336条により、被告人5名に対し、無罪の言渡しをする。 (求刑―被告人A1について懲役15年及び罰金1000万円、被告人A2及び被告人A3について懲役13年、被告人A4及び被告人A5について懲役12年)令和4年9月21日東京地方裁判所刑事第15部 裁判長裁判官香川徹也 裁判官賀嶋敦 - 17 - 裁判官竹田美波
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