令和3(ワ)228 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年6月16日 さいたま地方裁判所
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判決文本文13,062 文字)

1 令和5年6月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官令和3年(ワ)第228号 損害賠償請求事件口頭弁論終結日 令和5年3月3日判 決主 文51 被告は、原告に対し、55万円及びこれに対する令和3年3月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを20分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。 104 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由第1 請求の趣旨被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和3年3月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 15第2 事案の概要本件は、被告に設置されている埼玉県警察の警察署に勾留されていた原告が、「被告の義務違反により、上記勾留時にビタミンB1が不足している食事を提供されたため、脚気に罹患し、精神的苦痛を被った」旨主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金1000万円及びこれに対する違法行為20行為後である訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 被告25被告は、普通地方公共団体として警察事務を処理するものであり、埼玉県警2 察(以下「県警」という。)が設置されている。 ⑵ 原告の勾留等原告は、昭和51年生まれの男性であるところ、平成29年11月28日、●●容疑により逮捕され、同年11月30日、埼玉県川口警察署(以下「本件警察署」という。)に勾留され、同年 ⑵ 原告の勾留等原告は、昭和51年生まれの男性であるところ、平成29年11月28日、●●容疑により逮捕され、同年11月30日、埼玉県川口警察署(以下「本件警察署」という。)に勾留され、同年12月19日、別の●●容疑により逮捕さ5れ、同年12月22日、本件警察署に勾留され、平成30年1月10日、当庁に起訴され、勾留期間更新を経て、同年8月24日、当庁において■■の有罪判決を受け(同年9月15日に控訴取下げにより確定)、同年9月6日、さいたま拘置支所に移送された(甲1~8)。 ⑶ 原告の入院等10原告は、平成30年8月15日、埼玉医科大学総合医療センターに入院し、脚気心、ビタミンB1欠乏症との診断を受け(甲9、16)、同年9月13日、同センターを退院した。 ⑷ 本件警察署に係る食事について平成30年3月28日、被告は、有限会社A(以下「訴外会社」という。)と15の間で、本件警察署に留置されている被留置者に提供する食事の製造・配送業務を委託する契約を締結し(乙1)(以下「本件契約」という。)、訴外会社は、同日朝から当該業務を行った(以下、訴外会社の製造に係る本件警察署に留置されている被留置者に提供する食事を「本件食事」という。)。 ⑸ 本件食事のビタミンB1不足の発覚20ア 令和元年7月23日、本件警察署の定期健康診断において、2名の被留置者が手足のしびれを訴え、同年9月24日、うち1名を受診させたところ、ビタミンB1欠乏症と診断された。その後、さらに2名の被留置者が手足のしびれを訴えた。 イ 同年11月7日、県警本部は、「被留置者4名について、提供する弁当に25ビタミンB1が不足していたことを原因として、ビタミンB1欠乏症と診断3 された」旨を発表した(甲10)。 イ 同年11月7日、県警本部は、「被留置者4名について、提供する弁当に25ビタミンB1が不足していたことを原因として、ビタミンB1欠乏症と診断3 された」旨を発表した(甲10)。 ウ 被告は、同年11月22日付けで訴外会社との間の本件契約を解除した。 2 原告の主張⑴ 原告の罹患平成30年3月に弁当の供給業者が訴外会社に変更になって以降、弁当は野5菜が極端に不足しており、同年5月ないし6月にかけて、原告は手足のしびれ、筋力低下、腹部の異常を感じるようになり、次第に歩行が困難になった。同年5月、原告は川口市内の医院を受診したが、ギランバレー症候群の疑いとの診断で、その後も原告の症状は悪化し握力は10.5kgまで低下した。同年8月15日、原告は、埼玉医科大学総合医療センターにギランバレー症候群の疑10いで入院し、危篤状態に陥ったが、ビタミンB1投与により重篤な状態を脱し、ビタミンB1欠乏症にともなう末梢神経障害及び脚気心と診断された。 ⑵ 被告の義務違反被告には、訴外会社との本件契約時点以降、遅くとも平成30年6月頃までにおける、①栄養検査義務違反、及び②ビタミンB1が不足しない食事提供義15務違反がある。 すなわち、被告に設置されている県警、県警本部、県警本部長にとって、被留置者に提供する食事に必要な栄養素が足りているか、ビタミンB1の不足はないかを確認することは容易であり、当然の義務である。ビタミンB1の不足により末梢神経障害、手足のしびれ、脚気等の症状が引き起こされることは広20く知られており、ビタミンB1が不足しない食事を提供することは困難ではない。ところが、県警、県警本部、県警本部長は、同年3月に業者が訴外会社に変更となった後、食事の栄養素確認を怠り、本件警察署長は、同 知られており、ビタミンB1が不足しない食事を提供することは困難ではない。ところが、県警、県警本部、県警本部長は、同年3月に業者が訴外会社に変更となった後、食事の栄養素確認を怠り、本件警察署長は、同月からビタミンB1の欠乏した食事を提供し続け、その結果、原告は上記⑴のとおり罹患した。したがって、被告に設置されている県警、県警本部、県警本部長、本件警25察署長の上記行為は違法である。 4 ⑶ 原告の損害原告は、上記⑴のとおり、脚気を発症して苦しみ、埼玉医科大学総合医療センターに1 か月近く入院し、一時は危篤状態に陥り、その後リハビリを重ねてきたが、未だ手足のしびれの症状が残っている 。このような精神的苦痛に対する慰謝料は900万円が相当である。また、本件訴訟の弁護士費用としては、5100万円が相当である。 3 被告の主張⑴ 上記2⑴(原告の罹患)のうち、平成30年3月に業者が訴外会社に変更になったこと、同年8月15日に原告が埼玉医科大学総合医療センターにギランバレー症候群の疑いで入院したことは認め、その余は不知ないし否認。 10原告は、同年7月13日の定期健康診断の際に、初めて手足のしびれの症状を訴え、同月20日、寿康会病院を受診したものの、手足のしびれの原因は不明であり、同月26日、埼玉県済生会川口総合病院を受診したところ、ギランバレー症候群の疑いと診断された。 ⑵ 上記2⑵(被告の義務違反)は争う。 15ア 検査義務について刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)、被留置者の留置に関する規則、埼玉県警察被留置者の留置に関する細則等をみても、留置施設において被留置者に提供する食事に、ビタミンB1の含有量を検査すべき義務を定めた 下「刑事収容施設法」という。)、被留置者の留置に関する規則、埼玉県警察被留置者の留置に関する細則等をみても、留置施設において被留置者に提供する食事に、ビタミンB1の含有量を検査すべき義務を定めた規定はない。それは、20日々必要とされるビタミン等の必要量が定められておらず、食事を提供する業者に指示すべき法令が存在しないことによる。 また、被告は、訴外会社との間で本件契約を締結し(乙1)、被留置者に提供する食事の製造・配送業務を委託しており、食事の品質については、仕様書のとおりとされ、仕様書では、主菜は動物性食品に偏らないように25し、副菜の野菜、イモ類等と組み合わせ、同じ材料やメニューが続かない5 ようにすること等が定められていた。被告は、訴外会社から、食事見本のカラー写真と1 週間分の試作メニューの提出を受け、品質について仕様書の内容が遵守されていると判断し、本件契約を締結した。なお、被告と訴外会社は、本件契約の締結以前から、本件警察署以外の留置施設の食事の製造・配送業務委託契約を締結しており、何ら問題はなかった。また、訴5外会社は、被告に対し、元栄養士が身近にいる旨を告げていた。 そして、被告は、平成30年7月13日以降、原告からの体調不良の愁訴に基づき複数の病院を受診させたが、埼玉医科大学総合医療センターを除き、原因不明やギランバレー症候群の疑いなどと診断するだけであり、被告において、原告の体調不良の原因がビタミンB1欠乏症によるものと10判断することは不可能であった。 したがって、令和元年7月24日以後、本件警察署に留置されている被留置者複数名が足のしびれを訴え、その後、ビタミンB1欠乏症と診断されるまで、県警本部において被留置者に提供する食事にビタミンB1が不足していることはおよそ 24日以後、本件警察署に留置されている被留置者複数名が足のしびれを訴え、その後、ビタミンB1欠乏症と診断されるまで、県警本部において被留置者に提供する食事にビタミンB1が不足していることはおよそ認識し得なかった。 15さらに、訴外会社は、県内の複数の留置施設に提供する食事を製造していたが、足のしびれを訴えたのは、本件警察署に留置されていた被留置者4名と原告のみであった。そうであれば、食事にビタミンB1が不足したとしても、直ちに脚気を引き起こすのではないと考えられる。留置施設は、本来は刑事施設に収容して処遇される者を代替収容する場所であり、20長期間の収容を予定していないため、仮に食事にビタミンB1が不足していたとしても、脚気を引き起こすことなど到底予見できなかった。 しかも、ビタミンB1の不足が体調に影響を与えるのは、ビタミンB1を全く摂取させずに2週間以上放置した場合において、脚気に似た症状が発現することがあるとされているだけであり(乙13)、これを確認するた25めには毎日の食事の検査が必要となる。また、ビタミンB1が微量含有さ6 れていた場合には、どのような指示をすべきかが明らかでない。 イ 食事提供義務についてそもそもビタミンB1の摂取量を定めた規定もないから、原告の主張する「ビタミンB1を十分含有する食事」を具体的に定義できない。 また、留置施設の被留置者に対する食事と刑事施設の受刑者に対する食5事とは、質的に異なる。受刑者は、一定期間刑事施設に拘置されて禁錮ないし懲役に服するものであるから、日常生活に必要とされる栄養を補わなければならないが、被留置者は、逮捕・勾留の要件がなくなれば直ちに釈放されるべきものであるから、日常生活に必要とされる栄養の厳格な確保までが求められるものではなく 日常生活に必要とされる栄養を補わなければならないが、被留置者は、逮捕・勾留の要件がなくなれば直ちに釈放されるべきものであるから、日常生活に必要とされる栄養の厳格な確保までが求められるものではなく、カロリーの確保が要求されるため、埼玉10県被留置者の留置に関する細則ではカロリーについてのみ提供すべき内容が規定されている。 ビタミンB1を十分に含んだ食事を被告が被留置者に提供しなければならないとすれば、被告において体調異変と食事との関係を把握しなければならず、被留置者には食事の摂取義務が生じなければならないことにな15る。 確かに、本件においては、ビタミンB1の不足により原告の体調異変が生じたが、「ビタミンB1を十分含有する食事」の具体的内容が明らかにされない限り、被告にその提供を義務付けることはできない。 ⑶ 上記2⑶(原告の損害)は争う。 20第3 当裁判所の判断1 認定事実当事者間に争いのない事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 被告25前記前提事実⑴のとおり7 ⑵ 原告の勾留等前記前提事実⑵のとおり⑶ 本件食事の製造等委託平成30年3月28日から、本件警察署に留置されている被留置者に提供する食事の製造業務の受託者が変更された。すなわち、被告は、同月27日、従5来の受託者である株式会社Bの経営不振により同社との契約を解除し、翌28日、訴外会社との間で、本件警察署に留置されている被留置者に提供する食事の製造・配送業務を委託する本件契約を締結し(乙1)、訴外会社は、同日朝から当該業務を行った。 なお、後記のとおり、被告は、令和元年11月22日付けで、訴外会社との10間の本件契約を解除した。 ⑷ 本件食事のカロ 本件契約を締結し(乙1)、訴外会社は、同日朝から当該業務を行った。 なお、後記のとおり、被告は、令和元年11月22日付けで、訴外会社との10間の本件契約を解除した。 ⑷ 本件食事のカロリー検査等ア 被告は、被留置者の食事のカロリー検査を3か月ごとに行っている。被告が本件食事について初めてカロリー検査を行ったのは、平成30年6月である。カロリー検査に伴い、栄養素ごとの含有量の検査結果が栄養士会から寄15せられており、その様式は「別表」(乙11)のとおりであった。具体的には、被告が「別表」(乙11)を添付した「被留置者食事カロリー分析依頼書」(乙14)に基づき栄養士会にカロリー検査を依頼したところ、栄養士会からは上記「別表」の様式に従って、カロリーだけでなくビタミンB1の数値も含まれた結果が寄せられた。つまり、栄養士会から寄せられた検査結20果には、ビタミンB1の具体的な数値も含まれていたが、本件当時のものは、保存期間が経過しているため破棄されており、本件当時のビタミンB1の具体的な数値は不明である。 イ 埼玉県警察被留置者の留置に関する細則46条は、「留置業務管理者は、食事のカロリー検査を3か月ごとに被留置者食事カロリー分析依頼書によ25り、保健所等に依頼し、その結果を翌月5日までに本部長に報告しなければ8 ならない。」と定める。(乙2)ウ なお、関東圏内の他都県の警察(茨城県警察、警視庁、神奈川県警察、栃木県警察、千葉県警察、群馬県警察)では、いずれも、カロリー分析の検査項目として報告されるのはカロリー(熱量)のみである。(乙15)⑸ 原告の入院等5ア 原告は、平成30年7月13日、定期健康診断で手足のしびれを訴え、同月20日、寿康会病院で受診し、神経内科の受 れるのはカロリー(熱量)のみである。(乙15)⑸ 原告の入院等5ア 原告は、平成30年7月13日、定期健康診断で手足のしびれを訴え、同月20日、寿康会病院で受診し、神経内科の受診を勧められ、同月26日、川口総合病院で受診し、ギランバレー症候群の疑いとの診断を受け、同年8月10日、武蔵野総合病院で受診し、ギランバレー症候群の疑いとの診断を受けた。 10イ 原告は、同年8月15日、埼玉医科大学総合医療センターに入院した。同月16日には、肝機能障害、腎機能障害が悪化して、急激な全身状態の悪化がみられ、全身状態の管理を行う必要があった。全身状態の管理中にビタミンB1低下が見られたので、その補充を開始したところ、同月17日には全身状態は速やかに改善し、同月18日には一般病棟に転室となった。以上か15ら、脚気心、ビタミンB1欠乏症との診断を受け、同年9月13日、同センターを退院した。(甲9、16、乙9)なお、同年8月28日、本件警察署の警察官が、医師から、原告の疾患がビタミンB1不足による脚気であることを知らされた。(乙9)⑹ 本件食事のビタミンB1不足の発覚20ア 令和元年7月23日、本件警察署の定期健康診断において、2名の被留置者が手足のしびれを訴え、同年9月24日、うち1 名を受診させたところ、ビタミンB1欠乏症と診断された。その後、さらに2名の被留置者が手足のしびれを訴えた。 イ 同年10月8日、本件警察署は、県警本部に報告し、県警本部は、訴外会25社に架電してビタミンB1不足について速やかに対策するよう指導した。同9 月11日、県警本部は、訴外会社の責任者を招致し、ビタミンB1不足について速やかに対策するよう指導した。同月18日、県警本部は、訴外会社の責任者を招致し、同 やかに対策するよう指導した。同9 月11日、県警本部は、訴外会社の責任者を招致し、ビタミンB1不足について速やかに対策するよう指導した。同月18日、県警本部は、訴外会社の責任者を招致し、同人から、同月28日から改善する旨の改善報告書を受領した。 ウ 同年11月7日、県警本部は、「被留置者4名について、提供する弁当に5ビタミンB1が不足していたことを原因として、ビタミンB1欠乏症と診断された」旨を発表した。 エ 同月11日及び14日、県警本部は、訴外会社の責任者を招致したが、その後も食事内容に改善が見られなかったため、同月22日付けで訴外会社との間の本件契約を解除した。 10⑺ 脚気についてア 脚気は、ビタミンB1が欠乏して起こる病気であり、全身の倦怠感、食欲不振、手足のしびれ・むくみ等の症状が現れる。脚気は、明治時代や大正時代にかけて結核と並ぶ2大国民病といわれるほど、多くの人が罹患した。その原因は、白米が大部分で副食が乏しい食事にあることが明らかになった。 15(甲11、13、公知の事実(農林水産省HP「脚気の発生」等))イ 刑事施設の被収容者に給与される主食については、米と麦の混合比が米70パーセント、麦30パーセントと定められている。 ウ 矯正施設被収容者食料給与規程(乙4)は、矯正施設の被収容者について、適正な食料を給与するために必要な基本的事項を定めることを目的とする20ところ(1条)、成人男性の被収容者については、ビタミンB1の1日当たりの標準栄養量は、1.40mgとされている(4条)。 エ 健康増進法30条の2(平成25年6月28日法律第70号による改正前のもの、以下同じ)に基づき厚生労働大臣が定める「日本人の食事摂取基準」では、30~49歳の男性について、ビタミンB1の食事摂取 エ 健康増進法30条の2(平成25年6月28日法律第70号による改正前のもの、以下同じ)に基づき厚生労働大臣が定める「日本人の食事摂取基準」では、30~49歳の男性について、ビタミンB1の食事摂取基準は、1日25推定平均必要量が1.2mg、1日推奨量が1.4mgとされている。(甲10 15、乙13)2 原告の罹患の原因について⑴ 上記認定によれば、原告は、平成30年7月13日、健康診断で手足のしびれを訴え、同年8月15日、埼玉医科大学総合医療センターに入院し、その後に急激な全身状態の悪化がみられ、全身状態の管理を行う必要がある状態に至5ったが、ビタミンB1の補充を開始したところ、全身状態は速やかに改善していったことから、脚気心、ビタミンB1欠乏症との診断を受けたものである。 ⑵ そして、①原告は、平成29年11月から本件警察署に勾留され身柄拘束を受けており、本件警察署で支給された食事以外にビタミンB1欠乏に至った理由は見当たらないこと、②平成30年3月28日から、本件警察署に留置され10ている被留置者に提供する食事の製造業務の受託者は、訴外会社となり、原告も訴外会社の製造した本件食事を摂取していたものであること、③その後、令和元年7月23日以降、本件警察署の被留置者4名が手足のしびれを訴えてビタミンB1欠乏症と診断され、同年11月7日、県警本部は、「被留置者4名について、提供する弁当にビタミンB1が不足していたことを原因として、ビ15タミンB1欠乏症と診断された」旨を発表すると共に、訴外会社の食事内容に改善が見られなかったため、同月22日付けで訴外会社との間の業務委託契約を解除したこと、以上の事実が認められる。 これらの事実によれば、原告がビタミンB1欠乏症・脚気に罹患したのは、平成30年3月 改善が見られなかったため、同月22日付けで訴外会社との間の業務委託契約を解除したこと、以上の事実が認められる。 これらの事実によれば、原告がビタミンB1欠乏症・脚気に罹患したのは、平成30年3月28日以降に訴外会社の製造した本件食事に健康上必要な量20のビタミンB1が含まれていなかったことが原因であると認められる。 3 被告の義務違反について⑴ 法令の定め刑事収容施設法186条1項は、「被留置者には、次に掲げる物品(中略)であって、留置施設における日常生活に必要なもの(中略)を貸与し、又は支25給する。」と定め、「二 食事及び湯茶」が掲げられている。そして、同法111 89条は、「第百八十六条又は前条第二項の規定により貸与し、又は支給する物品は、被留置者の健康を保持するに足り、かつ、国民生活の実情等を勘案し、被留置者としての地位に照らして、適正と認められるものでなければならない。」と定める。 そして、被留置者の留置に関する規則(平成19年国家公安委員会規則第151号)17条1項は、「留置主任官は、被留置者に対する食事の支給に当たっては、栄養及び衛生について検査しなければならない。」と、同条2項は、「疾病者その他特別の理由のある者については、必要に応じ、かゆ食その他適当な食事を支給するものとする。」と定める。 上記法令の定めによれば、被留置者に対して支給される食事については、被10留置者の健康を保持するに足りるものでなければならず、留置主任官は、被留置者に対する食事の支給に当たっては、栄養及び衛生について検査しなければならないことが明らかである。 ⑵ 脚気の原因(ビタミンB1の欠乏)が広く知られていること上記認定によれば、かつて明治時代や大正時代にかけて国民病といわれるほ15ど多くの ければならないことが明らかである。 ⑵ 脚気の原因(ビタミンB1の欠乏)が広く知られていること上記認定によれば、かつて明治時代や大正時代にかけて国民病といわれるほ15ど多くの人が脚気に罹患したこと等により、脚気がビタミンB1の欠乏による病気であることは、広く一般に認識されていると認められる。それ故に、刑事施設の被収容者に給与される主食については、米と麦の混合比が米70パーセント、麦30パーセントと定められているものと理解できる。 ⑶ 被告は本件食事におけるビタミンB1含有量を通知されていたこと20上記認定によれば、被告は、被留置者の食事のカロリー検査を3か月ごとに行っており、被告が本件食事について初めてカロリー検査を行ったのは、平成30年6月であるところ、カロリー検査に伴い、栄養素ごとの含有量の検査結果が栄養士会から寄せられており、栄養士会からはカロリーだけでなくビタミンB1の具体的数値も含まれた結果が寄せられていたものである。 25そして、前記認定のとおり、矯正施設の被収容者について適正な食料を給与12 するために必要な基本的事項を定めることを目的とする「矯正施設被収容者食料給与規程」では、成人男性の被収容者について、ビタミンB1の1日当たりの標準栄養量は1.40mgと定められており、また、健康増進法30条の2に基づき厚生労働大臣が定める「日本人の食事摂取基準」では、30~49歳の男性について、ビタミンB1の食事摂取基準は、1日推定平均必要量が1. 52mg、1日推奨量が1.4mgとされている。 この点、本件食事に含まれていたビタミンB1の具体的な量は、当時の記録が残っていないから不明であるが、上記⑴のとおり、原告が同年3月28日から訴外会社製造に係る本件食事を摂取し されている。 この点、本件食事に含まれていたビタミンB1の具体的な量は、当時の記録が残っていないから不明であるが、上記⑴のとおり、原告が同年3月28日から訴外会社製造に係る本件食事を摂取して同年8月15日までに重篤なビタミンB1欠乏症に罹患したことによれば、上記標準栄養量等を満たしているか10どうかはともかくとして、本件食事には健康上必要な量のビタミンB1がかなりの程度不足していたと容易に推認することができる。そうであれば、被告の食事提供担当者は、上記のような基準値も参考にして、栄養士会から寄せられたビタミンB1の具体的数値結果を検討すれば、訴外会社の製造した本件食事に健康上必要な量のビタミンB1が含まれていなかったことを容易に認識す15ることができたものと認められる。 ⑷ 小括上記⑴ないし⑶によれば、被告の食事提供担当者は、被留置者たる原告に対して、その健康を保持するに足りる食事を提供すべき義務を負っているところ、脚気は過去に国民病といわれていたこともあり、その原因(ビタミンB1の欠20乏)は一般に広く知られているから、被告は被留置者に対する食事の提供に際してビタミンB1が欠乏することのないよう注意すべき義務も負っているというべきである。とりわけ、本件では、被告は本件食事につき平成30年6月に行われた検査の結果としてビタミンB1含有量を通知されており、それを検討すれば本件食事に健康上必要な量のビタミンB1が含まれていなかったこ25とを容易に認識することができたものである。そして、原告が埼玉医科大学総13 合医療センターに入院した際に、原告に対してビタミンB1の補充を開始したところ、全身状態の管理が必要な状態から速やかに改善し、入院から1か月以内に退院に至ったことからすれば、遅くとも上記通知のこ 合医療センターに入院した際に、原告に対してビタミンB1の補充を開始したところ、全身状態の管理が必要な状態から速やかに改善し、入院から1か月以内に退院に至ったことからすれば、遅くとも上記通知のころまでに被告が適切な対策を講じれば速やかに原告の健康状態の悪化を阻止できたものと認められる。以上によれば、同年7月13日に原告が健康診断で手足のしびれを訴え5ていたことも考慮すれば、被告の食事提供担当者は、遅くとも同日頃までには、本件食事に健康上必要な量のビタミンB1が含まれていなかったことを容易に認識することができたにもかかわらず、被留置者たる原告に対して、健康上必要な量のビタミンB1が欠乏することのないよう注意すべき義務を怠り、ビタミンB1の欠乏した本件食事を継続的に提供した結果、原告が脚気に罹患し10て全身状態の管理が必要な状態にまで至ったものと認められる。 ⑸ 被告の主張の検討これに対し、被告は、①そもそもビタミンB1の摂取量を定めた規定はない、②被告は訴外会社と業務委託契約を締結し、食事の品質について定めており、見本のカラー写真等の提出も受けており、訴外会社の本件警察署以外における15食事の業務委託には何ら問題はなかった、③令和元年7月24日以後に本件警察署の他の被留置者がビタミンB1欠乏症と診断されるまで、被告が本件食事にビタミンB1が不足していることはおよそ認識できなかった、④留置施設は、本来は刑事施設に収容して処遇される者を代替収容する場所であり、長期間の収容を予定していないため、仮に食事にビタミンB1が不足していたとしても、20脚気を引き起こすことなど到底予見できなかった、などと主張する。 しかし、上記①については、刑事収容施設法186条及び189条によれば、被留置者に支給される食事は 足していたとしても、20脚気を引き起こすことなど到底予見できなかった、などと主張する。 しかし、上記①については、刑事収容施設法186条及び189条によれば、被留置者に支給される食事は、被留置者の健康を保持するに足りるものでなければならない旨定められているから、具体的にビタミンB1の摂取量を定めた規定がないからといって、ビタミンB1の摂取量について配慮しなくてよいな25どということにはならない。また、②及び③については、上記判示のとおり、14 本件では、被告は本件食事につき平成30年6月行われた検査の結果としてビタミンB1含有量を通知されており、それを検討すれば本件食事に健康上必要な量のビタミンB1が含まれていなかったことを容易に認識することができたものであるから、被告が本件食事のビタミンB1不足につき注意義務を果たしていたとか、これをおよそ認識できなかったとかなどということはできない。 5さらに、④については、現に、留置施設である本件警察署において、原告は、平成29年11月から平成30年9月まで本件警察署に勾留され身柄拘束を受けているし、原告以外にも平成30年4月~8月において本件警察署に100日以上の期間にわたる被収容者がいたことも認められる(乙21)から、本件警察署がおよそ長期間の収容を予定していない施設であるなどということ10はできない。以上のとおり、被告の主張は、その他るる主張する点も含めて、上記判断を左右するものとはいえない。 4 原告の損害について⑴ 上記認定によれば、被告の食事提供担当者は、被留置者たる原告に対して、健康上必要な量のビタミンB1が欠乏することのないよう注意すべき義務を15怠り、ビタミンB1の欠乏した本件食事を継続的に提供した結果、原告は、平成30年7月13日、健 被留置者たる原告に対して、健康上必要な量のビタミンB1が欠乏することのないよう注意すべき義務を15怠り、ビタミンB1の欠乏した本件食事を継続的に提供した結果、原告は、平成30年7月13日、健康診断で手足のしびれを訴え、同年8月15日、埼玉医科大学総合医療センターに入院し、同月16日には急激な全身状態の悪化がみられ、全身状態の管理を行う必要があり、経過中にビタミンB1低下が見られ補充を開始したところ、同月17日には全身状態は速やかに改善し、同月1208日には一般病棟に転室となったことから、脚気心、ビタミンB1欠乏症との診断を受けたものである。 このように、原告は、ビタミンB1の欠乏により、脚気、ビタミンB1欠乏症に罹患し、同年8月15日に入院し、翌16日には全身状態の管理を行う必要がある状態に至ったものであるが、一方、原告は、ビタミンB1の補充を開25始したところ、翌17日には全身状態は速やかに改善し、翌18日には一般病15 棟に転室となったため、上記重篤な状態はごく短期間で終了したものであり、その他本件に現われた全ての事情を考慮すれば、原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円をもって相当と認める。 なお、原告は、脚気の罹患により未だ手足のしびれの症状が残っている旨主張するが、それを認めるに足りる証拠はない。 5⑵ また、本件訴訟の性質・内容等によれば、弁護士費用としては上記慰謝料額の1割である5万円が相当である。 ⑶ したがって、原告の損害額は合計55万円となる。 5 結論よって、原告の請求は、損害賠償金55万円及びこれに対する遅延損害金の支10払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相 、損害賠償金55万円及びこれに対する遅延損害金の支10払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さない。 さいたま地方裁判所第6民事部 15裁判長裁判官 沖 中 康 人 裁判官 田 邉 実20 裁判官 髙 橋 粒 25

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