主文 原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理由 第1 平成10年(行ツ)第70号上告代理人田辺照雄の上告理由について 1 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) 平成10年(行ツ)第69号上告人・同第70号被上告人ら(以下「第1審原告ら」という。)は京都市(以下「市」という。)の住民である。 平成10年(行ツ)第69号被上告人・同第70号上告人(以下「第1審被告」という。)Bは,昭和63年5月ないし同年12月当時,市民生局同和対策室長の職にあった。Dは,その当時,市長の職にあったが,平成8年12月7日,死亡し,その余の第1審被告らが相続した。 (2) 次のアないしウの各報償費合計340万円(以下「本件各支出金」という。)について,市民生局長はアないしウ①のとおり第1審Bに対して支出する旨の支出決定を専決処理し,同局社会部庶務課長は同②のとおり支出命令を専決処理し,同③のとおり支出された(以下,アないしウの支出決定,支出命令及び支出を総称して「本件各財務会計行為」という。)。 上記各支出決定及び支出命令によると,本件各支出金は,種別「同和対策費」,科目「民生費(款),民生総務費(項),民生事業費(目),報償費(節)」,支出理由「同和対策事業を実施する上で特に必要な経費」とされていた。 ア昭和63年4月ないし同年7月分120万円(以下「支出金ア」という。)① 支出決定日同年5月10日② 支出命令日同月11日③ 支出日同月23日- 1 -イ同年8月ないし同年11月分100万円(以下「支出金イ」という。)① 支出決定日同年7月25日② 支出命令日同年8月9日③ 支出日同月10日ウ同年12月 日- 1 -イ同年8月ないし同年11月分100万円(以下「支出金イ」という。)① 支出決定日同年7月25日② 支出命令日同年8月9日③ 支出日同月10日ウ同年12月ないし平成元年3月分120万円(以下「支出金ウ」という。)① 支出決定日昭和63年12月6日② 支出命令日同月8日③ 支出日同月14日(3) 第1審Bは,支出金アについては昭和63年7月30日までに,支出金イについては同年11月30日までに,支出金ウについては平成元年3月31日までに,それぞれ受領した金員を第三者に支払った。また,その支払についての使途は,領収書と第1審Bが京都市会計規則に準じて作成した金銭出納帳によりおおむね明らかにされていた。 (4) E新聞は,平成元年12月13日,本件各財務会計行為について報道した。 (5) 第1審原告らは,平成2年3月7日,市監査委員に対し,Dが使途不明の本件各支出金を支出させ,市に損害を被らせたと主張して,Dに本件各支出金の返還を求める趣旨の監査請求(以下「本件監査請求」という。)をしたが,同監査委員は,同月30日,これを却下した。 2 本件は,第1審原告らが,本件各財務会計行為が違法であると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,同号にいう当該行為に係る相手方である第1審B及び当該職員のDの相続人であるその余の第1審被告らに対して,それぞれ損害賠償を求める事案である。 3 原審は,支出金ウに関する損害賠償請求の訴えにつき,前記事実関係の下に- 2 -おいて,次のとおり判断して,これを適法とし,第1審判決中同訴えを却下した部分を取り消し,同部分を京都地方裁判所に差し戻した。 (1) 本 る損害賠償請求の訴えにつき,前記事実関係の下に- 2 -おいて,次のとおり判断して,これを適法とし,第1審判決中同訴えを却下した部分を取り消し,同部分を京都地方裁判所に差し戻した。 (1) 本件監査請求は,第1審Bに対する本件各支出金の支出を対象とするが,本件各支出金は第三者に対する支払が予定されたものであり,これらの支出が違法,不当であるかは本件各支出金の具体的使途にかかり,第三者への支払によって外部の認識が可能となるのであるから,このような場合には,法242条2項本文所定の監査請求期間の起算日は,第三者に対する本件各支出金の支払を終了した日を基準とするのが相当である。 (2) 第三者に対する支出金ウの支払を終了したのは,平成元年3月31日であるから,支出金ウについての監査請求が同2年3月7日にされたとしても,法242条2項本文所定の監査請求期間内にされたことになる。したがって,第1審原告らは,支出金ウに関する損害賠償請求の訴えについて,適法な監査請求を経たものである。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 法242条2項本文は,財務会計上の行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができない旨を定めるところ,上記行為のあった日とは一時的行為のあった日を,上記行為の終わった日とは継続的行為についてその行為が終わった日を,それぞれ意味するものと解するのが相当であり,当該行為が外部に対して認識可能となるか否かは,同項本文所定の監査請求期間の起算日の決定に何ら影響を及ぼさないというべきである。 前記事実関係によれば,本件監査請求において,支出金ウに関しては,前記1(2)ウの支出決定,支出命令及び支出(以下「ウの各財務会計行為」という。)が監査請求の対 影響を及ぼさないというべきである。 前記事実関係によれば,本件監査請求において,支出金ウに関しては,前記1(2)ウの支出決定,支出命令及び支出(以下「ウの各財務会計行為」という。)が監査請求の対象となる財務会計上の行為とされていたところ,これらはいずれも一時- 3 -的行為である。したがって,ウの各財務会計行為を対象とする監査請求においては各行為のあった日を基準として同項本文の規定を適用すべきである。 そうすると,これらを対象とする監査請求は,本件監査請求のあった平成2年3月7日に初めてされたとしても,あるいは第1審原告らが主張するように同年2月17日にされたとしても,ウの各財務会計行為のあった日から同項本文所定の1年の監査請求期間を経過した後にされたものというべきである。 5 以上によれば,原審の前記判断には法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,ウの各財務会計行為を対象とする監査請求に法242条2項ただし書にいう正当な理由があるか否かにつき更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。 第2 平成10年(行ツ)第69号上告代理人村井豊明,同川中宏,同安保嘉博,同加藤英範,同高田良爾,同高山利夫,同田中伸,同中尾誠,同中島晃,同藤田正樹,同吉田隆行の上告理由について 1 原審は,支出金ア及び支出金イに関する損害賠償請求の訴えにつき,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,これを不適法として却下すべきものとした。 (1) 支出金ア及び支出金イの各支出についての監査請求も,法242条2項本文所定の監査請求期間の起算日は,第三者に対する支払を終了した日を基準とするのが相当であるところ, 下すべきものとした。 (1) 支出金ア及び支出金イの各支出についての監査請求も,法242条2項本文所定の監査請求期間の起算日は,第三者に対する支払を終了した日を基準とするのが相当であるところ,上記監査請求が平成2年2月17日にされたとしても,監査請求期間を徒過したことになる。 (2) 法242条2項ただし書にいう正当な理由を肯認するためには,まず,財務会計上の行為が秘密裡にされたことが必要である。一般に地方公共団体の財務会計上の行為はその存否,内容及び支出理由を公表しないのが通常であることに照ら- 4 -すと,上記秘密裡とは特に財務会計上の行為の存在及びその違法,不当性を秘匿する場合を指し,住民が財務会計上の行為の存在を法律上も事実上も知り得なかったすべての場合を指すものではない。 支出金ア及び支出金イの各支出は,市議会の議決を経た上昭和63年度市一般会計予算から種別,科目及び支出理由を明らかにしてされていること,上記各支出に係る支出決定書及び支出命令書が虚偽文書であるということはできないこと,本件各支出金の使途は領収書及び第1審Bが京都市会計規則に準じて作成した金銭出納帳によりおおむね明らかにされていることからすると,上記各支出が秘密裡にされたということはできない。 したがって,上記各支出を対象とする監査請求については,法242条2項ただし書にいう正当な理由を欠き,不適法であるから,支出金ア及び支出金イに関する損害賠償請求の訴えは,適法な監査請求を経たものではない。 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 前記事実関係によれば,本件監査請求において,支出金ア及び支出金イに関しては,前記第1の1(2)ア及びイの支出決定,支出命令及び支出が監査請求の対象となる財務会計 は,次のとおりである。 (1) 前記事実関係によれば,本件監査請求において,支出金ア及び支出金イに関しては,前記第1の1(2)ア及びイの支出決定,支出命令及び支出が監査請求の対象となる財務会計上の行為とされていたところ,上記各行為を対象とする監査請求は上記各行為のあった日を基準として法242条2項本文の規定を適用すべきである。そして,これらを対象とする監査請求は,平成2年3月7日に初めてされたとしても,あるいは同年2月17日にされたとしても,上記各行為のあった日から1年を経過した後にされたものであるから,同項ただし書にいう正当な理由の有無を検討すべきこととなる。 (2) 法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為は,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求- 5 -ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして,監査請求の期間を定めている。しかし,当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してから初めて明らかになった場合等にもその趣旨を貫くのが相当でないことから,同項ただし書は,「正当な理由」があるときは,例外として,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後であっても,普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるようにしているのである。したがって,上記のように当該行為が秘密裡にされた場合には,同項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁昭和62年(行ツ) たときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁参照)。そして,このことは,当該行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合にも同様であると解すべきである。したがって,【要旨】そのような場合には,上記正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。 (3) 前記事実関係によれば,支出金ア及び支出金イに係る各支出は,支出決定書及び支出命令書において種別,科目及び支出理由を明らかにしてされたものではあるが,その具体的な使途については,第1審Bが持っていた領収書と京都市会計規則に準じて作成した金銭出納帳に記載されていたというのである。 - 6 -そして,記録によれば,① 平成元年12月12日,F新聞及びG新聞は,同月11日開催の市議会普通決算特別委員会において,昭和63年度中に報償費名目で市民生局同和対策室長あてに3回に分けてされた計340万円の各支出は領収書等がなく使途を明らかにしないまま行われた不明朗な支出である旨が指摘された事実を報道したこと,② 同月13日,E新聞は,同月12日開催の市議会厚生委員会において,市の昭和63年度決算の中に報償費名目で同局同和対策室長あてにされた計340万円の各支 出である旨が指摘された事実を報道したこと,② 同月13日,E新聞は,同月12日開催の市議会厚生委員会において,市の昭和63年度決算の中に報償費名目で同局同和対策室長あてにされた計340万円の各支出は領収書等がないまま行われた不明朗な支出である旨が指摘された事実を報道したことが明らかである。 そうすると,遅くとも平成元年12月13日ころには,市の一般住民において相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件各財務会計行為の存在及び内容を知ることができたというべきであり,第1審原告らが同日ころから相当な期間内に監査請求をしなかった場合には,法242条2項ただし書にいう正当な理由がないものというべきである。 【要旨】本件各財務会計行為についての上記各新聞報道に基づき,監査請求の対象を特定してその違法事由を監査請求書に摘示することは,十分可能であったところ,記録によれば,本件監査請求に関し,第1審Aについては平成2年1月20日付けで,その余の第1審原告らについては同年2月17日付けで,それぞれ自己名義の監査請求書が作成され,同日付けで第1審原告ら代理人名義の事実調査報告書が作成されていることが明らかであるから,第1審原告らがこれらの文書を作成していたにもかかわらず,本件監査請求のあった同年3月7日に初めて監査請求をしたものであるとすれば,上記の相当な期間内に監査請求をしたものということはできない。 しかし,第1審原告らの主張するところによると,第1審原告らは,同年2月17日に上記各監査請求書及び事実調査報告書を提出しようとしたが,受理されなか- 7 -ったために,同年3月7日に配達証明付き書留郵便でこれらの書類を送付して本件監査請求をしたというのである。仮にそのような事実があるとすれば,同元年12月13日を うとしたが,受理されなか- 7 -ったために,同年3月7日に配達証明付き書留郵便でこれらの書類を送付して本件監査請求をしたというのである。仮にそのような事実があるとすれば,同元年12月13日を基準とする限り,相当な期間内に監査請求がされたものということができる。 【要旨】ところが,原審は,この点について審理判断しないまま,前記の結論を導いているものである。 【要旨】3 以上によれば,原審の前記判断には法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,原判決中上記判断に係る部分は,破棄を免れない。そして,上記の点につき更に審理を尽くした上,支出金ア及び支出金イに係る本件各財務会計行為を対象とする監査請求に法242条2項ただし書にいう正当な理由があるか否かにつき判断させるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官町田顯裁判官井嶋一友裁判官藤井正雄裁判官深澤武久裁判官横尾和子)- 8 -
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