平成25年3月7日宣告 裁判所書記官平成24年わ第69号,第120号死体遺棄,殺人被告事件判決主文 被告人を懲役18年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。訴訟費用は被告人の負担とする。理由【犯罪事実】被告人は,第1 平成24年1月2日,神戸市北区a町b丁目c番d号の自宅において,妻であるA(当時37歳)に対し,殺意をもって,その頸部を圧迫し,よって,その頃,同所において,同人を窒息死させて殺害した。第2 同日,前記の被告人の自宅において,前記Aの死体を自動車に積み込んだ上,同車を運転して,同市北区e町fg番地のh付近路上まで運搬し,同所道路脇の草むらに同死体を放置し,もって死体を遺棄した。【証拠の標目】 省略【争点に対する判断】A(以下「A」という。)が何者かにより殺害され,その死体が犯罪事実第2記載の草むら(以下「本件死体遺棄現場」という。)に遺棄されたことは争いがない。争点は,被告人が各犯行の犯人であるか否かである。 検察官は,被告人が犯人であることを直接証明する証拠はないが,本件を巡る間接事実を総合すれば,被告人が犯人であることが認定できると主張する。これに対して,弁護人は,検察官が間接事実として主張する個々の事実が存在することは概ね争わないが,それらを総合しても,第三者が犯人である可能性を排除できないから,被告人が犯人であると認定することはできない旨主張する。 そこで,本件では,検察官の挙げる間接事実により,被告人が犯人であると推認できるか否か(被告人が犯人でないとしたら合理的 いから,被告人が犯人であると認定することはできない旨主張する。 そこで,本件では,検察官の挙げる間接事実により,被告人が犯人であると推認できるか否か(被告人が犯人でないとしたら合理的に説明することができない,あるいは説明が極めて困難である事実関係が含まれているか否か)が焦点となるが,当裁判所は,以下の理由により,被告人が犯人であることは常識に照らして間違いないと判断した。 1 前提事実以下の事実は,証拠上容易に認定することができ,かつ当事者間にも争いがない。 被告人は,平成21年頃から,犯罪事実第1記載の被告人の自宅(以下「被告人宅」という。)で,A及びその娘であるB(以下「B」という。)と同居し始め,平成23年2月,Aと婚姻した。そして,平成23年11月頃,Bが結婚して家を出て以降は,被告人宅でAと2人で暮らしていた。 平成24年(以下に挙げる日時は全て平成24年のものである。)1月1日の午前中から夕方にかけて,被告人宅では,Bら親族十数名が集まり,新年会が行われた。その後,Aは,被告人宅を出て,神戸市内の居酒屋で友人のCと会って飲食するなどし,1月2日午前零時12分頃,タクシーで被告人宅に帰宅した。 1月3日午前11時24分頃,本件死体遺棄現場で,Aの死体が付近を通りかかった者により発見された。解剖の結果等から,Aの死因は,頸部圧迫による窒息死であると認められる。 2 Aが殺害された場所について以上の事実から,Aは,1月2日未明から1月3日午前11時過ぎまでの間に,何者かにより頸部を圧迫されて殺害されたと認められるが,Aが殺害された場所については,以下の検討から,被告人宅であると認められる。 Aの死体は,肛門が緩んだ状態で,尻,股,手足のほか着用していたセーターやパンツに糞便よ されたと認められるが,Aが殺害された場所については,以下の検討から,被告人宅であると認められる。 Aの死体は,肛門が緩んだ状態で,尻,股,手足のほか着用していたセーターやパンツに糞便ようのものが付着していた。窒息死の際,肛門付近の筋肉が緩み,脱糞することはよく見られる現象である(他方,死亡後にそのような現象が起こることは,著しく死体の腐敗が進行した場合以外にはない。)ことからすると,Aの身体や着衣に付着した糞便ようのものは,殺害時に脱糞した便であると認められる。 他方,1月4日に実施された被告人宅の検証の際,被告人宅敷地内の駐車場に駐車中の自動車の下に,白色夏布団が置かれていたのが発見されているところ,それには人間の便が付着しており,そのDNA型検査の結果,判明したSTR型座位のいずれについてもAのDNA型が含まれていた。このことに加え,当時,被告人宅に住んでいたのは被告人とAのみであること,後述のように,被告人も白色夏布団に付着している便がAのものである旨述べていることを考慮すると,白色夏布団に付着している便はAのものであると認められる。また,被告人宅内に置かれていたソファベッドの表面の複数箇所に茶色の汚斑及び黄土色の糞ようのものが付着していた。ソファベッドの付着物がAの便であることを客観的に裏付ける証拠はないが,Aの便が付着した白色夏布団と同時に被告人宅で発見されていることや,後述のように,被告人もソファベッドの付着物がAの便であることを認めていることなどからして,Aの便であると考えられる。 これらの証拠から,Aは,被告人宅内のトイレではない場所で脱糞し,その便が白色夏布団やソファベッドに付着したことが推認されるが,Aが死亡当時37歳で,格別重篤な病気を患っていた形跡はなく,BもAが脱糞したという話を聞いた ,被告人宅内のトイレではない場所で脱糞し,その便が白色夏布団やソファベッドに付着したことが推認されるが,Aが死亡当時37歳で,格別重篤な病気を患っていた形跡はなく,BもAが脱糞したという話を聞いたことがない旨述べていることからすると,Aの脱糞は極めて特異な事態であると考えられ,Aの死体に便が付着していたことと全く無関係の機会に生じたとは考えにくい。そうすると,特段の事情がない限り,白色夏布団やソファベッドに付着した便は,Aが殺害された際に排出されたものであることが推認できる。 この点について,被告人は,白色夏布団やソファベッドに付着しているものがAの便と認めつつ,便が付着した経緯については,1月1日の朝,Aが,おならをしようとして脱糞した旨供述した。しかし,その供述はかなり特異な内容でにわかに信じられない上,全体として具体性・迫真性に乏しく,不自然ないし不合理と思われる点も少なくない(例えば,白色夏布団等に付着している便はある程度広範な染みを生じさせており,相応の量の脱糞があったとみられるから,被告人の述べるような経緯で排出されたとは考えにくい。被告人の供述によれば,便のついた白色夏布団を駐車場に駐車中の自動車の下に放置したというのであるが,そのような対処はかなり不自然である。)。そうすると,この点に関する被告人の供述は信用することができず,前記の推認は覆らない。 以上に加え,Aの死体の着衣の状況(上半身はセーター,下半身はパンツのみを身につけており,ズボン,靴下,靴などは着用していなかったこと)や便の付着状況(素足のかかとや,着用していたセーターに便が付着していたのに対し,死体と共に放置されていた靴,ジーパン,ダウンジャケット等に付着が認められないこと)からして,Aが屋内で殺害されたと考えて矛盾がないこと,Aの死体の胃の 用していたセーターに便が付着していたのに対し,死体と共に放置されていた靴,ジーパン,ダウンジャケット等に付着が認められないこと)からして,Aが屋内で殺害されたと考えて矛盾がないこと,Aの死体の胃の内容物の消化具合から,Aは,うどんやソーセージ等を食べた後一,二時間程度で死亡した可能性が高いところ,被告人宅内から,焼きうどんの空容器やソーセージの包装材が発見されており,殺害に比較的近接した時間に被告人方にいたと考えられることなども併せて考慮すると,Aが殺害されたのは被告人宅内であると認められる。 3 Aの死体を遺棄した犯人について前記のとおり,Aが殺害されたのが被告人宅であると認められることに加え,以下の事情からすると,Aの死体を本件死体遺棄現場に運んで放置したのは,被告人であると認定することができる。 1月10日に実施された被告人の使用する自動車(以下「本件自動車」という。)に搭載されていたカーナビゲーションシステム(以下「本件カーナビ」という。)の検証の結果,1月4日に本件自動車が警察に差し押さえられる直近の記録として,本件自動車は,別紙走行経路図①及び②の経路を走行したことが判明した(走行順は各図の矢印に付した番号のとおり。なお,各図中,「被告人方」とあるのは被告人宅を,「死体遺棄現場」とあるのは本件死体遺棄現場を指す。)。 また,被告人は,1月2日に,自身が本件自動車を運転してこれらの経路を走行した旨述べている(なお,本件カーナビの記録から,走行経路図②の矢印番号からの経路を走行した際,D店でエンジンを切ったことが判明しているが,同店内の防犯カメラの映像には,1月2日午後7時43分頃被告人が同店を訪れ,駐車場に本件自動車が駐車している状況が映っており,被告人の供述を裏付けている。)。 そ たことが判明しているが,同店内の防犯カメラの映像には,1月2日午後7時43分頃被告人が同店を訪れ,駐車場に本件自動車が駐車している状況が映っており,被告人の供述を裏付けている。)。 そうすると,被告人は,Aが殺害されたと考えられる時間帯に含まれる1月2日に,本件死体遺棄現場付近を合計4回通りかかっていることになるが,本件死体遺棄現場付近から各走行経路図上「Uターン地点」として示されている地点に至る道路は,その沿道に目的地となるような場所が見当たらない山道である上,既に検討したとおり,Aが殺害されたのが被告人宅であると認定できることに照らすと,被告人が,Aの死亡と一切無関係に,Aが殺害された現場である被告人宅とその死体が遺棄された現場付近を複数回にわたって偶然行き来するということは到底考えられない。被告人は,走行経路図①または②に示された走行の機会において,Aの死体を遺棄する場所を探すなどした上,実際に本件死体遺棄現場に運搬し遺棄したことが強く推認できる(なお,本件カーナビの記録上,本件死体遺棄現場の至近距離に本件自動車を進入させて停車させた形跡は記録されていないが,本件カーナビに記録されているのは50メートル間隔の位置情報であり,かつその間の速度は記録されないことから,本件車両が本件死体遺棄現場の至近距離に進入して停車したことと矛盾するものではない。)。 被告人は,これらの走行は,気晴らしにドライブをしたり,たばこを買うために出掛けてそのままドライブをする気になって走行したものであり,Aの死体を運んだものではない旨述べる。その供述内容は,それ自体が明らかに不合理であるとまではいえないが,不自然さやあいまいさがあることは否めない上,何といっても,Aが被告人宅で殺害されたとの事実を前提とすれば,その供述内容はおよそそれ その供述内容は,それ自体が明らかに不合理であるとまではいえないが,不自然さやあいまいさがあることは否めない上,何といっても,Aが被告人宅で殺害されたとの事実を前提とすれば,その供述内容はおよそそれとはそぐわない不合理なものというほかないのであり,信用する余地はない。 以上からすると,被告人は,走行経路図①または②に示されたいずれかの走行の機会において,Aの死体を本件死体遺棄現場に運搬し遺棄したと認められる。 4 Aを殺害した犯人について以上の検討からすると,Aが殺害されたのは被告人宅であり,殺害されたAの死体を運んで本件死体遺棄現場に遺棄したのは被告人であると認められる。そして,前提事実で認定したとおり,1月当時,被告人宅で生活していたのは被告人とAの2人のみであり,1月2日以降,被告人宅に他人が来訪した形跡は認められない(被告人もそのような事情は一切述べていない。)。そうすると,Aを殺害した犯人は被告人であることが極めて強く推認されるとともに,被告人がA殺害の犯人でないとすれば,Aが被告人宅内で殺害されたことや,その死体を被告人が遺棄した経緯などについて合理的に説明することは不可能である。加えて,Aの死体の右手の指の爪に被告人の皮膚片が付着していたところ,1月3日の時点で被告人の顔面にひっかき傷が確認されていること,被告人が1月3日以降実施された警察官による事情聴取や取調べにおいて,被告人が犯人であることと関連する事項についていくつかの嘘をついた(ソファベッドに付着した糞便を猫のものである,Aは1月1日に出掛けたきり帰ってこない,被告人は1月2日以降本件自動車で外出したことはない等)ことも,被告人が本件各犯行の犯人であることと整合する。なお,弁護人は,Aが1月1日夜にCと別れる際に,未だ終電の時間には至ってい てこない,被告人は1月2日以降本件自動車で外出したことはない等)ことも,被告人が本件各犯行の犯人であることと整合する。なお,弁護人は,Aが1月1日夜にCと別れる際に,未だ終電の時間には至っていないのに「終電がなくなるから帰る。」などと言ったこと,1月2日未明に帰宅後,別の友人に携帯電話で連絡したり,うどん等を食べたこと,Aの死体から泥酔状態であったことをうかがわせる高濃度のアルコールが検出されたこと,Aの死体とともにショルダーバッグが発見され,服装も外出用のものであったことなどを根拠に,第三者による犯行の可能性があると主張する。しかし,これらの事情は,被告人が犯人であることと明らかに矛盾するものでないばかりか,特段第三者による犯行の可能性を強く指し示すものともいえないから,被告人が犯人であるとの推認を覆すものではない。 5 結 論以上の次第で,被告人が本件各犯行の犯人であることは間違いないものと認めた。【法令の適用】罰条 犯罪事実第1の行為 刑法199条犯罪事実第2の行為 刑法190条刑種の選択 犯罪事実第1の罪 有期懲役刑を選択 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条 (重い犯罪事実第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重) 未決勾留日数の算入 刑法21条訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文【量刑の理由】もがき抵抗する被害者の首を強い力で絞め続けて殺害しており,冷酷で残忍な犯行というべきであり,殺害を遂げようとする強い意思があったことも明らかである(なお,検察官は,犯行の際,被告人が被害者の顔面を殴 がき抵抗する被害者の首を強い力で絞め続けて殺害しており,冷酷で残忍な犯行というべきであり,殺害を遂げようとする強い意思があったことも明らかである(なお,検察官は,犯行の際,被告人が被害者の顔面を殴打するなどの暴行を加えている旨主張するが,証拠上は首絞め以外の暴行があったとは認められない。)。被告人が一貫して犯行を否認しているため殺害の動機は確定できないが,少なくとも被告人のために有利に考慮すべき事情は認められない。もっとも,犯情全体を見れば,同種事案の中で際立って悪質性が高いものとまではいえない。被害者の遺族の処罰感情は厳しく,その心情は十分理解できるが,有期懲役刑の上限をもって処罰すべき事案とはいえない。 証拠隠滅のために死体を遺棄した上,被告人が嘘の弁解に腐心して罪を認めない姿勢をとり続けていることも併せて考慮し,主文程度の刑を科すのが相当であると判断した。(求刑懲役20年)平成25年3月13日神戸地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官丸田顕裁判官片田真志裁判官倉方ユリ
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