令和1(ネ)664 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和3年1月13日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 平成28(ワ)3483
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判決文本文14,550 文字)

- 1 - 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 ⑴ 被控訴人は,控訴人に対し,44万円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを15分し,その2を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,更に321万2000円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略語は,別に定めない限り原判決の例による。以下,本判決において同じ。) 1 スリランカ民主社会主義共和国の国籍を有する控訴人は,平成17年,他人名義の偽造旅券を使用して本邦に不法に入国し,平成22年6月,入管法24条4号ロ(不法残留)に該当することを理由とする退去強制令書発付処分を受け,その後に行った難民認定申請(本件難民認定申請)に対し,平成23年6月,法務大臣から難民不認定処分(本件不認定処分)を受け,平成26年11月7日,法務大臣により同処分に対する異議申立棄却決定(本件異議棄却決定)がされたが,同年12月17日に同決定の告知が行われ,その翌日の同月18日に集団送還の方法によりスリランカに強制送還(本件送還)された。 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,入国管理局(以下「入管」という。)の職員が,本件不認定処分に対する取消訴訟等の意向を示していた控訴人を集団送還の対象者に選定した上,本件異議棄却決定の後,上記訴訟等の提起を妨害するために,上記決定の告知をその40日後まであえて遅らせ,同告知後に- 2 -弁護士との連絡ができないようにした 訴人を集団送還の対象者に選定した上,本件異議棄却決定の後,上記訴訟等の提起を妨害するために,上記決定の告知をその40日後まであえて遅らせ,同告知後に- 2 -弁護士との連絡ができないようにしたほか,スリランカへの帰国後に訴訟ができるとの虚偽の説明をするなどして,本件送還をしたことにより,控訴人の裁判を受ける権利を侵害したなどと主張して,国賠法1条1項に基づき,損害賠償として合計330万円(慰謝料300万円,弁護士費用相当額30万円)及びこれに対する平成26年12月18日(本件送還がされた日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は,入管法上,在留資格未取得外国人について難民不認定処分に対する異議申立てについての決定があるまで送還を停止する旨の規定(61条の2の6第3項)以外に送還を停止すべき旨の規定がなく,被退去強制者については裁判所による執行停止決定がない限り送還が法令上停止されるものでなく,これらに当たる場合でなければ入管職員に送還を停止すべき義務が生ずるものではないから,本件異議棄却決定がされ執行停止決定を得ていない控訴人を送還対象者に選定し,強制送還を中止しなかったことにつき,国賠法1条1項の適用上違法があるとはいえないとしつつ,本件異議棄却決定の告知に際して,控訴人が送還された後も難民不認定処分に対する取消訴訟が可能であるかのような誤った教示をしたことは,同項の適用上違法であるとして,控訴人の請求につき合計8万8000円(慰謝料8万円,弁護士費用相当額8000円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したところ,控訴人がその敗訴部分を不服として控訴した。 2 前提事実,争点及びこれに関する当事者の 弁護士費用相当額8000円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したところ,控訴人がその敗訴部分を不服として控訴した。 2 前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」第2の2~4に記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決3頁23行目,25行目及び同4頁7行目の「本件退令」をいずれも「本件退去強制令書」と改め,同3頁25行目の「名古屋入管入国警備官」の後に「(以下,単に「入国警備官」ともいう。)」を加え,同4頁5,6- 3 -行目の「原告は仮放免期間の延長が許可されていたものの,平成26年12月15日,」を「控訴人は,平成26年11月7日にされた本件異議棄却決定の後の同月17日にも,名古屋入管に出頭し,名古屋入管主任審査官から仮放免期間の延長が許可された。 もっとも,控訴人は,平成26年12月15日,名古屋入管に出頭し,裁判をすることを理由として仮放免期間延長許可申請をしたが,」と改める。 ⑵ 原判決4頁13行目の末尾に「なお,控訴人は,本件難民認定申請の前に難民認定申請をしたことはなかった。」を加え,同6頁7行目の「原告に通知し,」を「同月15日に本件退去強制令書の執行により名古屋入管に収容されていた控訴人に通知し,」と改める。 ⑶ 原判決7頁16行目から24行目までを次のとおり改める。 「 名古屋入管入国警備官は,平成26年12月17日午後3時頃,名古屋入管に収容されていた控訴人に対し,本件異議棄却決定の告知をし,同決定に対する取消訴訟について教示書2を交付して説明した。さらに,名古屋入管入国警備官は,同日午後3時37分頃,控訴人に対し,調査第一部門大取調室において,本件退去強制令書の執行によりスリランカに送還する旨を 取消訴訟について教示書2を交付して説明した。さらに,名古屋入管入国警備官は,同日午後3時37分頃,控訴人に対し,調査第一部門大取調室において,本件退去強制令書の執行によりスリランカに送還する旨を告知した。これに対し,控訴人は,送還に反対する意思を示し,「6か月の間これ裁判できる。」,「おれ,おれ裁判やるの。」などと述べたが,名古屋入管入国警備官は,「あなた難民と認めないって,もらっただろ。」,「スリランカに帰ってやりなさい。」などと発言した。その後,控訴人は,調査第一部門調室1号に連行されたが,名古屋入管入国警備官らに対し,30分以上にわたって,教示書2を手にしながら,「6か月すれば裁判できるで。」,「帰った後は死んでしまうで。」,「入管が責任を持つ書類を出せ。」などと述べたが,名古屋入管入国警備官は,「その難民の話は終わったんです。」,「帰ってからやればいいんだ。」,「あなたがいなくても裁判はできるんです。」などと発言した。(甲1,2,- 4 -3の11・12,甲5,6,乙31)」⑷ 原判決8頁7行目の末尾に改行の上,「エなお,控訴人は,本件送還後の平成27年3月23日,スリランカにおいて,スリランカの方式により,日本国籍を有するAと婚姻した。(乙32,33)」を加える。 ⑸ 原判決8頁15行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。 「イ 53条 1項退去強制を受ける者は,その者の国籍又は市民権の属する国に送還されるものとする。 3項前2項の国には,次に掲げる国を含まないものとする。 ① 1号難民条約第33条第1項に規定する領域の属する国(法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を除く。)② 2号拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約第3 3条第1項に規定する領域の属する国(法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を除く。)② 2号拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約第3条第1項に規定する国(以下省略)」⑹ 原判決8~9頁の見出し記号「イ」~「カ」を順次繰り下げて「ウ」~「キ」と,同9頁2行目の「61条の2の4第1項」を「61条の2の4第1項柱書」とそれぞれ改め,24行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。 「 ク 61条の2の9第1項次に掲げる処分に不服がある外国人は,法務省令で定める事項を記載した書面を提出して、法務大臣に対し異議申立てをすることができる。 1号- 5 -難民の認定をしない処分(以下省略)⑷ 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)の規定ア 2条3項この規約の各締約国は,次のことを約束する。 この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が,公的資格で行動する者によりその侵害が行われた場合にも,効果的な救済措置を受けることを確保すること。 ⒝救済措置を求める者の権利が権限のある司法上,行政上若しくは立法上の機関又は国の法制で定める他の権限のある機関によって決定されることを確保すること及び司法上の救済措置の可能性を発展させること。 (以下省略)イ 14条1項すべての者は,裁判所の前に平等とする。すべての者は,その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため,法律で設置された,権限のある,独立の,かつ,公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。(以下省略)⑸ 難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)の規定ア 16条 1項難民は,すべての ,独立の,かつ,公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。(以下省略)⑸ 難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)の規定ア 16条 1項難民は,すべての締約国の領域において,自由に裁判を受ける権利を有する。 - 6 - 2項難民は,常居所を有する締約国において,裁判を受ける権利に関連する事項(法律扶助及び訴訟費用の担保の免除を含む。)につき,当該締約国の国民に与えられる待遇と同一の待遇を与えられる。 (以下省略)イ 33条1項締約国は,難民を,いかなる方法によっても,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならない。 ⑹ 拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下「拷問等禁止条約」という。)の規定ア 3条1項締約国は,いずれの者をも,その者に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国へ追放し,送還し又は引き渡してはならない。 イ 3条2項権限のある当局は,1項の根拠の有無を決定するに当たり,すべての関連する事情(該当する場合には,関係する国における一貫した形態の重大な,明らかな又は大規模な人権侵害の存在を含む。)を考慮する。」⑺ 原判決9頁26行目及び同10頁3行目の「本件送還が国賠法上違法となるか」をいずれも「本件送還は国賠法1条1項の適用上違法であるか」と,5,6行目の「(以下「自由権規約」という。)」を「(自由権規約)」と,15,16行目の「(以下「難民条約」という。)」を「(難民条約)」と,17行目の「(以下「拷問条約」という。)」を「(拷問等禁 5,6行目の「(以下「自由権規約」という。)」を「(自由権規約)」と,15,16行目の「(以下「難民条約」という。)」を「(難民条約)」と,17行目の「(以下「拷問条約」という。)」を「(拷問等禁止条約)」と,- 7 -23行目の「入国警備官ら」を「入国警備官を含む入管職員」とそれぞれ改め,同11頁10行目の「31条違反」の後に「等」を加え,20行目の「大阪入国管理局」を「大阪入管」と,21行目の「提出するなどしていた」から23行目の「被告は十分に把握し得た。」までを「提出し,平成26年12月15日に提出した仮放免期間延長許可申請書の理由欄には「裁判やりたい」と記載していたから,異議申立てが棄却された場合には取消訴訟等を提起する意向を示していたのであり,入国警備官も,上記の申請に対する決裁書面において申請理由を「訴訟準備(難民不認定異議申立中)」と記載しているとおり,控訴人の上記意向を把握していた。」と,23行目,同12頁3行目及び5行目の「被告」をいずれも「入国警備官を含む入管職員」と,同11頁26行目の「異議棄却告知後」を「本件異議棄却決定の告知後」とそれぞれ改め,同12頁18行目の「憲法31条)」の後に「等」を加える。 ⑻ 原判決13頁3行目の「執ることが容認されている」を「執ることを容認している」と,24行目,同14頁7,8行目及び10行目の「退令発付処分」をいずれも「退去強制令書発付処分」と,同15頁5行目の「異議棄却決定」を「異議申立棄却決定」と,8行目の「実務上も異議棄却決定日から異議申立人の通知まで」を「実務上も,難民認定申請者のプライバシーへの配慮や通訳人の確保が求められるため,異議申立棄却決定の日から異議申立人への通知まで」とそれぞれ改める。 ⑼ 原判決15頁9行目の末尾に「なお,集団送還に当たっては,国費に 申請者のプライバシーへの配慮や通訳人の確保が求められるため,異議申立棄却決定の日から異議申立人への通知まで」とそれぞれ改める。 ⑼ 原判決15頁9行目の末尾に「なお,集団送還に当たっては,国費によりチャーター機を用いて多数の送還忌避者を一度に送還するため,その対象者に対し事前に異議申立棄却決定の告知を行うことはなく,同告知後は第三者と連絡を取ることを認めない運用を行っているが,これは,同告知後に対象者やその関係者から送還を妨害されることを防止し,集団送還の対象者を安全かつ確実に本国に送還するという行政目的を達成するために必要かつ合理的な措置である。」を加え,19,20行目の「入国警備官ら」を「入国警- 8 -備官を含む入管職員」と改める。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,入管職員の本件送還に至る一連の行為につき,本件不認定処分に対する取消訴訟等の意向を示していた控訴人の司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものとして,国賠法1条1項の適用上違法があり,控訴人の請求について,44万円及びこれに対する平成26年12月18日(本件送還がされた日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は,次のとおりである。 2 争点⑴(本件送還は国賠法1条1項の適用上違法であるか)について⑴ 争点⑴のうち国賠法1条1項の違法性の判断基準,自由権規約14条1項違反及びノン・ルフールマン原則違反についての判断は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」第3の1⑴~⑶に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決16頁12行目の「入国警備官」を「入国警備官を含む入管職員」と,25行目の「退去強制を受ける立場にあった原告」を「本件退去強制令書の執行を受ける立場にあ であるから,これを引用する。 ア原判決16頁12行目の「入国警備官」を「入国警備官を含む入管職員」と,25行目の「退去強制を受ける立場にあった原告」を「本件退去強制令書の執行を受ける立場にあり,後記のとおり本件不認定処分に対し異議申立てとは別に取消訴訟等を提起することが可能であった控訴人」とそれぞれ改める。 イ原判決17頁9行目の「同原則自体が」及び10行目の「法の支配の原理によって」の後にいずれも「直ちに」を,13行目の「したがって,」の後に「ノン・ルフールマン原則が,政治的迫害のおそれのある国への送還を禁止するものであり,我が国の司法審査においても難民条約33条1項を引用する入管法53条3項の規定に基づいて送還の可否を判断することが求められるものの,それを超えて」をそれぞれ加え,15行目の「また,原告は,」から21行目の「いい難い。」までを削除し,21,22行目の「したがって,」を「よって,」と改める。 - 9 -⑵ 憲法32条,13条,31条違反等についてア控訴人は,入管職員の本件送還に至る一連の行為について,チャーター機を用いた集団送還の対象者として異議申立てについての決定後に難民不認定処分に対する取消訴訟等の意向を示していた被退去強制者を選定すること等と,控訴人に対する本件異議棄却決定の告知の時期及び方法とに分け,それぞれの行為が,控訴人の裁判を受ける権利(憲法32条,13条)や適正手続の保障(憲法31条)等を侵害し,国賠法1条1項の適用上違法であると主張する。しかし,被控訴人は,集団送還に当たっては,送還忌避者の安全かつ確実な送還を実現するために,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定がされた集団送還の対象者に対し,事前に同決定の告知を行うことはなく,同告知後は第三者と連絡を取ることを認めない運 忌避者の安全かつ確実な送還を実現するために,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定がされた集団送還の対象者に対し,事前に同決定の告知を行うことはなく,同告知後は第三者と連絡を取ることを認めない運用を行っていることを認めており,上記の異議申立棄却決定がされた被退去強制者については,集団送還の対象者の選定と同決定の告知が一連のものとして一体的に行われているといえるから,入管職員の本件送還に至る一連の行為について国賠法1条1項の違法性の有無を検討するのが相当である。 イまず,入管職員の本件送還に至る一連の行為が,控訴人の裁判を受ける権利(憲法32条)又は適正手続の保障(憲法31条)等を侵害したか否かを検討する。 難民認定申請をした在留資格未取得外国人については,法務大臣による異議申立てを却下し又は棄却する旨の決定がされるまで送還を停止する旨の規定(61条の2の6第3項)があるが,この規定以外に送還を停止する旨の法令上の規定は存在しない。もっとも,入管法等は,難民不認定処分に対する不服申立てとして,異議申立て,取消訴訟等又はその両方の手段を採り得るいわゆる自由選択主義を採用しており(入管法61条の2の9,行政事件訴訟法8条),難民認定申請者は,難民不認定処分に対す- 10 -る異議申立てと同時に又はこれとは別に取消訴訟等を提起することが可能であり,訴訟が提起された場合には,当該訴訟が終結するまでの間,当該申請者の送還を見合わせる運用がされている(甲7)。また,被退去強制者については,入管法52条3項により速やかに国外に送還すべきことが規定されているが,同法49条1項に基づく異議の申出に係る裁決及び退去強制令書発付処分に対する取消訴訟等を提起することが可能であり,被退去強制者は,取消訴訟等の提起と併せた申立てに基づく裁判所の執 が規定されているが,同法49条1項に基づく異議の申出に係る裁決及び退去強制令書発付処分に対する取消訴訟等を提起することが可能であり,被退去強制者は,取消訴訟等の提起と併せた申立てに基づく裁判所の執行停止の決定(行政事件訴訟法25条2項)により,退去強制令書の執行を停止させることが可能である。 このように,難民認定申請をした被退去強制者は,難民不認定処分に対する異議申立てについての決定前においても,別途,同処分に対する取消訴訟等を提起することや,退去強制令書発付処分等に対する取消訴訟等の提起と併せた申立てに基づく裁判所の執行停止の決定を得ることにより,難民不認定処分に対する裁判を受ける機会を確保する手段が与えられているのであり,我が国の法令等は,在留外国人につき,憲法が保障する裁判を受ける権利にも配意しつつ,退去強制事由についての行政処分の規律力や同事由の存在という在留に係る状況,難民認定申請に係る本国との関係を踏まえ,裁判を受ける機会の確保と我が国の在留制度との調和を図っているものと評価することができる。 そうすると,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定がされた被退去強制者が事前に同処分に対する取消訴訟等の意向を示していた場合であっても,憲法上,入管職員において,上記の被退去強制者について,集団送還の対象者に選定することが許容されないとはいえず,また,異議申立棄却決定後に出訴期間が満了するまで送還を停止し,又は別途裁判を受ける機会を確保しなければ,著しく不合理であって実質上裁判の拒否に当たると認められるものとはいえない。さらに,上記の機会等が確保されない- 11 -ことをもって,上記の被退去強制者の手続保障に欠けるものとはいえず,憲法13条の規定に反するともいえない。 したがって,入管職員の本件送還に至る一連の行為が,控訴 機会等が確保されない- 11 -ことをもって,上記の被退去強制者の手続保障に欠けるものとはいえず,憲法13条の規定に反するともいえない。 したがって,入管職員の本件送還に至る一連の行為が,控訴人の憲法上の裁判を受ける権利及び適正手続の保障等を侵害したものとはいえない。 ウ以上のとおり,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定がされた被退去強制者について,集団送還の対象者とし,出訴期間が満了するまで送還を停止するなどしなかったことをもって,その憲法上の裁判を受ける権利及び適正手続の保障を侵害するものとはいえないものの,集団送還の対象者に選定された場合には,事前に異議申立棄却決定の告知が行われず,同告知後は第三者と連絡を取ることを認めない運用により,同告知後に難民不認定処分に対する取消訴訟等を提起することが事実上不可能となるため,この点に関する入管職員の一連の行為が,同処分に対する不服申立てについて自由選択主義を採用している入管法等や行政処分に対し司法審査を受ける機会を保障しようとしている行政事件訴訟法等との関係で国賠法1条1項の適用上違法であるかが問題となる。 入管法は,難民認定申請者を本邦にある外国人に限定しており(61条の2第1項),当該外国人が退去強制令書の執行により本邦から出国した場合,難民不認定処分の取消しを求める訴えの利益は失われると解される(最高裁平成5年(行ツ)第159号同8年7月12日第二小法廷判決・集民第179号563頁)から,同処分に対する異議申立棄却決定がされた被退去強制者が集団送還の対象者に選定された場合,入管当局の前記の運用を前提とすると,異議申立てとは別に事前に難民不認定処分に対する取消訴訟等を提起するなどしていなければ,難民該当性に関する司法審査の機会を失うことになる。 しかし,入 合,入管当局の前記の運用を前提とすると,異議申立てとは別に事前に難民不認定処分に対する取消訴訟等を提起するなどしていなければ,難民該当性に関する司法審査の機会を失うことになる。 しかし,入管法等は,前記イのとおり,難民不認定処分に対する不服申立てについて,異議申立て,取消訴訟等又はその両方の手段を採り得- 12 -るいわゆる自由選択主義を採用し,同処分を受けた者に異議申立てによる行政不服審査によるか取消訴訟等による司法審査によるかの選択を委ねており,もって同処分に対する是正の機会を保障する仕組みを採用している。そして,行政事件訴訟法46条1項は,行政庁の教示義務を定めて処分の相手方に対し権利利益の救済の観点から司法審査を受ける機会を保障しようとしているところ,これは難民不認定処分に対する異議申立棄却決定においても等しく妥当するものであり,現に本件不認定処分及び本件異議棄却決定の各通知に当たっても取消訴訟の出訴期間の教示が行われている(本件異議棄却決定の通知の際に交付された教示書2は直接には本件異議棄却決定に対する取消訴訟の出訴期間を教示するものであるが,これに先立つ本件不認定処分の通知の際に交付された教示書1で本件不認定処分に対する取消訴訟の出訴期間が教示されており,その出訴期間は同一である。)。また,同法14条3項は,行政不服審査請求をした場合にはこれに対する裁決が出るまで取消訴訟の出訴期間が開始しないとする旨を定めており,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後において取消訴訟を提起することを可能なものとしている。 このような入管法等による難民不認定処分に対する不服申立ての仕組み(自由選択主義)や実効的な権利救済の観点から司法審査を受ける機会を実質的に保障しようとする行政事件訴訟法の上記規定からすれば,難民不認定処 な入管法等による難民不認定処分に対する不服申立ての仕組み(自由選択主義)や実効的な権利救済の観点から司法審査を受ける機会を実質的に保障しようとする行政事件訴訟法の上記規定からすれば,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後においても,同処分に対する取消訴訟等の提起を可能とし,もって司法審査を受ける機会を保障しようとしているものと解される(もとより,異議申立てによる行政不服審査は処分行政庁である法務大臣による簡易かつ迅速な違法不当な処分に対する是正の機会を保障するのに対し,司法審査は処分行政庁から独立した裁判所による違法な処分に対する是正の機会を保障するものであり,行政不服審査を司法審査と同一視することはできない。)。そして,- 13 -上記の規定等からすれば,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後に送還を停止すべき旨を定めた規定が存在しないことや,難民認定申請者が被退去強制者に該当する場合に被退去強制者について速やかに国外に送還すべき旨を定めた入管法52条3項が存在することをもって,その者の難民該当性に関する司法審査の機会が実質的に奪われることを正当化することは困難である。 さらに,入管当局は,前記イのとおり,難民不認定処分に対する訴訟が提起されている場合には,これを提起した者の裁判を受ける権利に配慮し,当該訴訟が終結するまでの間,その送還を見合わせる運用を行っており,国際連合の条約審査(自由権規約,拷問等禁止条約)においても,行政事件訴訟法の定める教示義務等を踏まえ,難民認定申請者の司法審査の機会を確保すべく措置していることや,被退去強制者が難民不認定処分に対する訴訟を行う意思を有しているか否かを確認するなど裁判を受ける権利に配慮し,相当の期間その手続の経過を踏まえた上で送還の実施を判断していること等を表明している(甲1 退去強制者が難民不認定処分に対する訴訟を行う意思を有しているか否かを確認するなど裁判を受ける権利に配慮し,相当の期間その手続の経過を踏まえた上で送還の実施を判断していること等を表明している(甲13,14)。そうすると,難民不認定処分に対する取消訴訟等が提起されている場合における上記の運用が,入管当局に対し法的義務を課すものでないとしてもその自由裁量に属する事実上の取扱いにすぎないものと位置付けるのは相当ではなく,上記の運用との権衡に照らせば,難民不認定処分に対する異議申立てをした被退去強制者が,異議申立棄却決定後に取消訴訟等を提起する意向を示していたにもかかわらず,集団送還の対象とされたことをもって,異議申立棄却決定について適切な時期に告知を受けられず,難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われるものとすることは許容し難く,上記の対外的な表明とも整合しない。 以上からすれば,難民不認定処分に対する異議申立てをした被退去強制者は,異議申立てを濫用的に行っている場合は格別,異議申立棄却決- 14 -定後に取消訴訟等を提起することにより,難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われないことについて法律上保護された利益を有すると解するのが相当であり,このように解することが,憲法の定める裁判を受ける権利及び適正手続の保障や各種人権条約の規定(自由権規約2条3項,14条1項,難民条約16条)に適合するものというべきである。実質的にも,このように解さなければ,集団送還の対象者を選定するのは入管当局であるところ,被退去強制者が別途難民不認定処分に対する取消訴訟等を提起するなどしていない限り,入管当局の判断によって異議申立棄却決定後に取消訴訟等の意向を有する被退去強制者の難民該当性に関する司法審査の機会の有無が決定されることとな 認定処分に対する取消訴訟等を提起するなどしていない限り,入管当局の判断によって異議申立棄却決定後に取消訴訟等の意向を有する被退去強制者の難民該当性に関する司法審査の機会の有無が決定されることとなるが,このような扱いは,入管法等が難民不認定処分に対する不服申立てについて自由選択主義を採用していることや,全ての者につき民事上の権利義務に関する争いについて独立した公平な裁判所による公開審理を受ける権利を保障した自由権規約14条1項,行政処分に対し司法審査を受ける機会を保障しようとしている行政事件訴訟法の上記規定とも整合しない。 以上によれば,入管職員が,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後に取消訴訟等を提起する意思を示していた被退去強制者について,集団送還の対象として異議申立棄却決定の告知を送還の直前まで遅らせ,同告知後は第三者と連絡を取ることを認めずに本国に強制送還した場合,これらの一連の公権力の行使に係る行為は,異議申立てが濫用的に行われたといえる特段の事情のない限り,上記の被退去強制者の難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪ったものとして,国賠法1条1項の適用上違法となるというべきである。 これに対し,被控訴人は,難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後は送還を停止すべき旨を定めた規定がなく,集団送還の対象者に対し- 15 -事前に同決定の告知を行わず,同告知後は第三者と連絡を取ることを認めないとする運用は,国費によりチャーター機を用いて多数の送還忌避者を一度に送還するという行政目的を安全かつ確実に達成するために必要かつ合理的な措置であるから,国賠法1条1項の適用上違法な行為ではないと主張する。しかし,集団送還やその確実かつ円滑な実施のために外部との連絡を遮断する措置につき行政目的に照らし一定の合理性が認めら つ合理的な措置であるから,国賠法1条1項の適用上違法な行為ではないと主張する。しかし,集団送還やその確実かつ円滑な実施のために外部との連絡を遮断する措置につき行政目的に照らし一定の合理性が認められるとしても,上記のとおり,入管法等により難民不認定処分に対する不服申立てについて自由選択主義が採られ,自由権規約14条1項や行政事件訴訟法の前記規定が存在するなどの中で,異議申立棄却決定後に取消訴訟等を提起する意向を示していた被退去強制者が,集団送還の対象とされたために難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われることを許容することはできない。したがって,被控訴人の上記主張を採用することはできない。 これを本件についてみると,前提事実⑵イ及びウのとおり,控訴人は,本件難民認定申請の前に難民認定申請をしたことはなく,平成26年11月7日,法務大臣により本件不認定処分に対する本件異議棄却決定がされたが,その40日後の同年12月17日に同決定の告知を受け,その翌日の同月18日に集団送還の方法によりスリランカに本件送還されたところ,同告知に先立つ同月15日に名古屋入管に出頭した際に,本件不認定処分に対する取消訴訟等の意向を示していたものの,本件退去強制令書が執行されて名古屋入管に収容され,さらに,集団送還の方法によりスリランカに送還する対象者に選定されていたため,本件送還の前日まで本件異議棄却決定の告知が行われず,同告知後は,本件不認定処分に対する取消訴訟等の意思を繰り返し表明したものの,本件送還がされるまで第三者と連絡を取ることが認められなかったことがうかがわれる。そうすると,控訴人は,本件不認定処分に対する異議申立てを濫- 16 -用的に行ったものとはいえず,本件異議棄却決定について適切な時期に告知を受けられなかったこと等により, たことがうかがわれる。そうすると,控訴人は,本件不認定処分に対する異議申立てを濫- 16 -用的に行ったものとはいえず,本件異議棄却決定について適切な時期に告知を受けられなかったこと等により,同決定後に取消訴訟等を提起する機会が与えられなかったものであり,これらの入管職員の一連の行為は,控訴人の難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪ったものといわざるを得ない。 なお,被控訴人は,異議申立棄却決定の告知においては,難民認定申請者のプライバシーへの配慮や通訳人の確保が求められるため,1か月程度の時間を要することは通常であり,本件異議棄却決定においても告知を遅らせたことはないと主張するが,上記の告知に相応の時間を要するとしても,本件異議棄却決定から1か月余りが経過し,控訴人が名古屋入管に収容された平成28年12月15日の時点で同決定の告知ができなかった合理的理由は見いだし難く,むしろ同告知が本件送還の前日である同月17日となったのは集団送還の確実かつ円滑な実施のためであったと認められるから,被控訴人の上記主張は上記の判断を左右するものではない。 エ以上からすれば,控訴人は,入管職員の本件送還に至る一連の行為により,集団送還の対象者として本件異議棄却決定について適切な時期に告知を受けること等ができず,難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われたものであり,入管法52条3項の規定を前提としても,同法等による難民不認定処分に対する不服申立ての仕組みや行政事件訴訟法の規定等に照らし,入管職員は,上記行為に当たって職務上尽くすべき注意義務に違反したものといわざるを得ないから,入管職員の上記行為は国賠法1条1項の適用上違法というべきである。 3 争点⑵(損害額)について前記2のとおり,控訴人は,入管職員の本件送還に き注意義務に違反したものといわざるを得ないから,入管職員の上記行為は国賠法1条1項の適用上違法というべきである。 3 争点⑵(損害額)について前記2のとおり,控訴人は,入管職員の本件送還に至る一連の行為により,難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われたものであり,これによ- 17 -り控訴人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は40万円とするのが相当であり,同損害と相当因果関係を有する弁護士費用はその1割である4万円とするのが相当である。 なお,スリランカに送還する旨の告知の際における名古屋入管入国警備官と控訴人とのやり取りからすれば,入国警備官は控訴人に対する本件異議棄却決定の告知の際にスリランカへの送還後においても訴訟ができるとの虚偽の説明をしたものと認めるのが相当であるが,これは上記一連の行為により難民該当性に関する司法審査の機会を控訴人から実質的に奪ったとの評価に包含されるものといえるから,それとは別に慰謝料を認める違法行為と捉える必要はないというべきである。 4 よって,控訴人の請求は,44万円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部不当であり,本件控訴は一部理由があるから,原判決を変更することとし,なお,仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部 裁判長裁判官萩本修 裁判官末吉幹和 裁判官日置朋弘 萩本修 裁判官 末吉幹和 裁判官 日置朋弘

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