昭和23(れ)934 昭和二二年勅令第一号違反

裁判年月日・裁判所
昭和23年9月8日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 札幌高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破毀する。      被告人は無罪。      検察官の上告を棄却する。          理    由  弁護人板井一治の上告趣意第二点、同谷村唯一郎の上告趣意第一点

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判決文本文3,669 文字)

主文 原判決を破毀する。 被告人は無罪。 検察官の上告を棄却する。 理由 弁護人板井一治の上告趣意第二点、同谷村唯一郎の上告趣意第一点、同岩沢誠の上告趣意第一点、同大塚守穂、同田中泰岩の上告趣意第一点及び同大塚重親の上告趣意第一点、第二点は末尾添附の各別紙記載のとおりである。 公職に関する就職禁止、退職等に関する昭和二十二年勅令第一号第十六条第一項第一号に「第七条第一項の調査表の重要な事項について虚偽の記載をし、又は事実をかくした記載をした者」と規定し、これに対し三年以下の懲役若しくは禁錮又は一万五千円以下の罰金に処することになつて居るのである。そこで調査表の記載事項には重要な事項と然らざる事項とが区別せられ、重要な事項に関するものは処罰の対象となり、重要ならざる事項に関するものは処罰の対象とならないことは明かである。本件において原審は被告人の勾留及び前科は調査表の重要事項でないとする弁護人の主張に対し、被告人の勾留及び前科は、調査表の重要な事項に該当するものと解釈して、弁護人の主張を排斥しておるのである。ところで、被調査者から調査表を徴する根本の目的は、謂うまでもなくポツダム宣言に淵源しておるのである。即ちポツダム宣言第六項には、日本国民を欺瞞し之をして世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめた者の権力及び勢力は永久に除去せらるべきことを規定しておるのである。そして連合国最高司令官は、右ポツダム宣言の条項を実施する為めに、昭和二十一年一月四日附日本国政府に対し覚書(公務従事に適せざる者の公職よりの除去に関する件)を発し、追放の範囲その他調査表に関することも既にこの覚書の中に指令されておるのであり、又その第一七項によつて、調査表の虚偽記載又は- 1 -充分且完全な発表の懈怠 者の公職よりの除去に関する件)を発し、追放の範囲その他調査表に関することも既にこの覚書の中に指令されておるのであり、又その第一七項によつて、調査表の虚偽記載又は- 1 -充分且完全な発表の懈怠に対し、処罰規定を設けることを指令しておるのである。 而して昭和二十二年勅令第一号は右の覚書を実施する為めに制定施行せられたものであり、昭和二十二年閣令内務省令第一号は、右勅令の施行細則を定めておるのである。以上の関係法令の内容によつて調査表を徴する目的は、軍国主義者及び極端な国家主義者の追放にあるのであつて、その手段として覚書該当者であるか否やを審査する資料を本人自身をして提供せしめるにあることは明白である。従つて調査表に重要な事項について虚偽の記載をし、又は事実をかくした記載をした者を処罰するのも、覚書該当者であるか否やの審査をするに必要な資料を正確に調査表に記載せしめ以つて覚書該当者をして追放を免かれしめることのない様にする為めに外ならないのである。それであるから調査表の各項目にあたる事項であつても、その記載事項が覚書該当者であるか否やを審査するにつき実質的牽連のある事項でないならば、それは重要な事項ではないのであつて、その事実記載は処罰の対象とならないのである。そしてその実質的牽連の有無は調査表の項目そのものについて、或る項目は重要である或る項目は重要でないと云うように判断すべきではなく、その記載事項の内容から具体的に判断を下すべきである。 そこで以上の観点から原判示の被告人の勾留及び前科が果して重要な事項に該当するのであろうか、原判決の確定したところによると、被告人は昭和九年六月二十二日以降同年八月十八日迄の間贈賄被疑及び同被告事件につき、旭川刑務支所に収容せられ、同十年四月二日札幌控訴院で贈賄罪により罰金二百八十円に処せられた 事実 たところによると、被告人は昭和九年六月二十二日以降同年八月十八日迄の間贈賄被疑及び同被告事件につき、旭川刑務支所に収容せられ、同十年四月二日札幌控訴院で贈賄罪により罰金二百八十円に処せられた事実を、昭和二十二年二月十九日北海道長官に対して旭川市長選挙に立候補のため調査表を提出するに当つて、調査表に記載しなかつたと云うのである。而して記録に添附してある札幌控訴院の右事件に関する判決謄本によつてみると、その前科は単に旭川市長Aに投票当選せしめた謝礼金として、昭和八年七月二十九日金八百円を被告人から市会議員B等五名に贈賄した事実に関するものであつて十数年前の古- 2 -い前科であり、その刑も罰金二百八十円に過ぎないものであつて、何等被告人が覚書該当者であるか否やを審査するにつき、実質的牽連を有する事項と云うことはできないのである。果して然らば、原審がこれをもつて重要な事項であると判断したのは、法令の解釈を誤つた違法あるもので、此の点において論旨は理由あり、原判決は破毀を免れないから、他の論旨に対する説明を省略する。而して以上の理由により、この点につき無罪の判決をなすべきである。 札幌高等検察庁検事伊東勝の上告趣意は末尾添附の別紙記載のとおりである。 原判決は本件起訴事実中被告人が昭和十九年三月頃勤労奉忠隊結成趣意書を印刷し約六十部を旭川市内有力者等に頒布した事実を調査表に記載しなかつた事実につき、論旨摘録の如く判示して、右趣意書の如きは著述した刊行物に該当しないから、その不記載は罪とならずとしておるのである。ところで、調査表に所謂著述した刊行物とは、一定の思想を発表するため文書に作成刊行せられたものを謂うのであつて、たとえ一片の紙片であつて単行本冊子の体を具えないでも、苟くも一定の思想を発表する目的で印刷し多数人に頒布せられたものである とは、一定の思想を発表するため文書に作成刊行せられたものを謂うのであつて、たとえ一片の紙片であつて単行本冊子の体を具えないでも、苟くも一定の思想を発表する目的で印刷し多数人に頒布せられたものである以上、右に所謂著述した刊行物であると解するのが相当である。従つて本件勤労奉忠隊結成趣意書は、まさに調査表に所謂著述した刊行物に該当するに拘わらず原判決がこれを著述した刊行物にあらずとしたのは、法律の解釈を誤つた違法があるのである。然しながら若しこの刊行物が調査表の記載事項として重要でない事項であるならば、罪とならないのであるから、その点につき更に審究する必要がある。被告人が昭和十九年三月「憂国の士に愬ふ」と題し勤労奉忠隊の結成を提唱した刊行物約六十部を旭川市内有力者等に頒布したことは、原審の確定しておるところであるが、右刊行物(証第一号)の内容を仔細に検討してみると、その趣旨とするところは、被告人は昭和十九年三月頃戦局ようやく我れに不利の情勢にあるに鑑み、銃後国民総蹶起して生産増強の実を挙ぐる為め、勤労奉忠隊の結成を提唱したものに過ぎないのである。被告- 3 -人が右趣意書を刊行頒布した昭和十九年三月当時は、すでに戦局も急迫し戦争は次第に我れに不別な形勢に陥つておる時代であつて、その頃は一般に国民皆働体制の樹立が要望せられておつたのであるから、被告人が右のような趣意書を刊行頒布したからと云つて、その事自体は被告人が軍国主義者又は極端な国家主義者であるとか或はこれらの主義を鼓吹し又はその傾向に迎合した者であると認むべき資料には全然ならないものである。調査表の重要事項と云うのは、前に説明したとおり覚書該当者であるか否やを審査するにつき、実質的牽連のある事項を云うのであるが、本件趣意書はその内容趣旨からみて、何等実質的牽連のあるものと云うことはで 調査表の重要事項と云うのは、前に説明したとおり覚書該当者であるか否やを審査するにつき、実質的牽連のある事項を云うのであるが、本件趣意書はその内容趣旨からみて、何等実質的牽連のあるものと云うことはできないのである。尤も右趣意書の文詞の中には、聖戦とか、一億族滅とか多少激越な文字が用いられておるけれども、これ等の言葉は当時の常套語であつて、これ等の断片的の用語を採り上げて論ずる必要はない。本件趣意書の刊行頒布が調査表の重要な事項であるか否やの判断は趣意書の全趣旨竝びに当時の情勢に重点を措いて解釈すべきであつて、趣意書の中に用いられた片言隻語の末に捉えらるベきではない。 然らば被告人が本件趣意書を調査表に記載しなかつたことは、罪とならないのであるから、無罪とすべく此の点に関する原判決は結局正当に帰し、従つて検察官の上告は刑事訴訟法第四四六条により棄却すべきである。 仍つて被告人の上告は理由あるをもつて、原判決を破棄し、更らに被告人に対し無罪の言渡を為すべきであるから、同法第四四七条、第四四八条により主文の如く判決する。 この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。 検察官十蔵寺宗雄関与。 昭和二三年九月八日最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官塚崎直義- 4 -裁判官霜山精一裁判官栗山茂裁判官小谷勝重裁判官藤田八郎- 5 - 藤田八郎

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