平成23(行ケ)10060 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年9月27日 知的財産高等裁判所 2部 判決 請求棄却
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判決文本文13,946 文字)

- 1 -平成23年9月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(行ケ)第10060号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年9月13日判決原告株式会社ニッキ訴訟代理人弁理士橋本克彦被告特許庁長官指定代理人金澤俊郎小谷一郎新海 岳岡崎克彦田村正明 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 原告の求めた判決特許庁が不服2009-20639号事件について平成23年1月4日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。主たる争点は,容易推考性の存否である。 1 特許庁における手続の経緯- 2 -原告は,平成15年7月14日,名称を「エンジンの気化ガス燃料供給装置」とする発明について特許出願(特願2003-273866号)をしたが,平成21年6月26日付けで拒絶査定を受けたので,平成21年10月7日,拒絶査定に対する不服審判請求をした。 特許庁は,上記審判請求を不服2009-20639号事件として審理し,平成23年1月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。そして,審決謄本は平成23年1月24日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨平成20年12月8日付けの手続補正書(甲5-3 23年1月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。そして,審決謄本は平成23年1月24日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨平成20年12月8日付けの手続補正書(甲5-3)により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る本願発明は,次のとおりである。 【請求項1】エンジンの吸気管路に設置した絞り弁がアクセルペダル踏み込み量に応じて電子式制御装置が出力する駆動信号により駆動される電動モータによって開かれるものであり,前記吸気管路に送出する気化ガスが液体LPGを加熱気化したものであって,この気化ガス調整手段がエンジン冷却水を熱源とした主熱交換器および電気ヒータを熱源としエンジン冷却水温度が前記主熱交換器でエンジン要求最大燃料流量の気化ガスを生成できる温度よりも低い温度域で作動して液体LPGを加熱気化する副熱交換器と,これら二つの熱交換器のいずれかまたは両方で作られた気化ガスを所定圧力に調整する圧力調整機構とを具え,前記電子式制御装置はエンジンの吸入空気量を,前記二つの熱交換器でそれぞれ生成可能な最大気化ガス量の合計量に対応する吸入空気量以下とするように前記絞り弁の開きを制御するものとされているエンジンの気化ガス燃料供給装置。 3 審決の理由の要点(1) 引用文献1(特開2002-188519号公報,甲1)には次のとおりの引用発明が記載されていると認められる。 【引用発明】- 3 -エンジン3の吸気管路に設置したスロットル弁3aがアクセルペダル踏み込み量に応じてECU35が出力する駆動信号により駆動される電動モータによって開かれるものであり,前記吸気管路に送出する気体燃料が液体燃料であるLPG燃料を加熱気化したものであって,ベーパライザ11がエンジン冷却液Aを熱源とした加熱部12と,加熱部12で作られ ータによって開かれるものであり,前記吸気管路に送出する気体燃料が液体燃料であるLPG燃料を加熱気化したものであって,ベーパライザ11がエンジン冷却液Aを熱源とした加熱部12と,加熱部12で作られた気体燃料を所定圧力に調整する圧力設定器14とを具え,前記ECU35は加熱部12で生成される気体燃料量に応じて前記スロットル弁3aの最大開度を規制する内燃機関のガス燃料供給装置。 (2) 本願発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点,相違点がある。 【一致点】エンジンの吸気管路に設置した絞り弁がアクセルペダル踏み込み量に応じて電子式制御装置が出力する駆動信号により駆動される電動モータによって開かれるものであり,前記吸気管路に送出する気化ガスが液体LPGを加熱気化したものであって,この気化ガス調整手段がエンジン冷却水を熱源とした熱交換器と,熱交換器で作られた気化ガスを所定圧力に調整する圧力調整機構とを具え,前記電子式制御装置は,前記熱交換器で生成される気化ガス量に応じて前記絞り弁の開きを制御するエンジンの気化ガス燃料供給装置。 【相違点1】「液体LPGを加熱気化」するに当たり,本願発明においては,「エンジン冷却水を熱源とした主熱交換器」とともに「電気ヒータを熱源としエンジン冷却水温度が前記主熱交換器でエンジン要求最大燃料流量の気化ガスを生成できる温度よりも低い温度域で作動して液体LPGを加熱気化する副熱交換器」を具え,「圧力調整機構」は「主熱交換器」と「副熱交換器」という「これら二つの熱交換器のいずれかまたは両方」で作られた気化ガスを所定圧力に調整するものであるのに対し,引用発明においては,「エンジン冷却液Aを熱源とした加熱部12」は具えるものの,本願発明における「副熱交換器」に対応する熱交換器を具えておらず,「圧力設定器14」は 力に調整するものであるのに対し,引用発明においては,「エンジン冷却液Aを熱源とした加熱部12」は具えるものの,本願発明における「副熱交換器」に対応する熱交換器を具えておらず,「圧力設定器14」は「加熱部12」で作られた気体燃料を所定圧力に調整するものである点。 - 4 -【相違点2】「絞り弁の開きを制御する」に当たり,本願発明においては,「エンジンの吸入空気量を,二つの熱交換器でそれぞれ生成可能な最大気化ガス量の合計量に対応する吸入空気量以下とするように」制御するのに対し,引用発明においては,「加熱部で生成される気体燃料量に応じて」制御するものの,上記相違点1のとおり「二つの熱交換器でそれぞれ生成可能な最大気化ガス量の合計量」に基づくものではなく,また,「エンジンの吸入空気量」に対応させて制御を行うものではない点。 (3) 相違点に関する審決の判断ア相違点1について「液体LPGを加熱気化」するに当たり,「エンジン冷却水を熱源とした主熱交換器」と「電気ヒータを熱源とした副熱交換器」とを共に設けたエンジンの気化ガス燃料供給装置は,例えば,特開平6-129313号公報(引用文献2,甲2)及び特開平7-253051号公報(引用文献3,甲3)に記載されているように,周知技術である。 また,引用文献2には,「エンジン冷却水温度を熱源とした主熱交換器及び電気ヒータを熱源としエンジン冷却水温度が前記主熱交換器でエンジン要求最大燃料流量の気化ガスを生成できる温度よりも低い温度域で作動して液体LPGを加熱気化する副熱交換器を具えた」技術(以下「引用文献2記載技術」という。)が開示されている。 引用発明と上記周知技術とは共に,エンジンの気化ガス燃料供給装置であって,引用発明には「低温時における液体燃料の気化を促進する」という課題が内在する 用文献2記載技術」という。)が開示されている。 引用発明と上記周知技術とは共に,エンジンの気化ガス燃料供給装置であって,引用発明には「低温時における液体燃料の気化を促進する」という課題が内在する(段落【0060】参照)ことから,当該課題を解決する手段であるといえる上記周知技術を引用発明に適用して,「エンジン冷却液Aを熱源とした加熱部12」に加えて「電気ヒータを熱源とした副熱交換器」を具えるようにすることは,当業者であれば普通になし得たことである。そして,「副熱交換器」の具体的な作動条件として引用文献2記載技術を適用し,「副熱交換器」を「エンジン冷却水温度が主- 5 -熱交換器でエンジン要求最大燃料流量の気化ガスを生成できる温度よりも低い温度域で作動」させることで,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得たことである。 イ相違点2について上記アのとおり,引用発明に周知技術を適用し,「加熱部12」に加え「副熱交換器」を具えることは当業者であれば普通になし得たことであるところ,引用発明に「副熱交換器」を追加するのであれば,「ガス燃料の噴射圧を一定に保持」し「燃料噴射制御を安定して行」うという引用発明が解決しようとする課題からみて,「スロットル弁3a」の開きを制御する際に,「加熱部12」及び「副熱交換器」の「二つの熱交換器でそれぞれ生成可能な最大気化ガス量の合計量」に応じて制御することは,当然の帰着であるといえる。 また,引用文献2(段落【0040】)には,「熱交換器での燃料の気化量に対する吸入空気量を算出する」技術的思想が開示されているといえる。そして,引用発明は「始動時の空燃比制御を安定して行う」ことを目的の1つとするものであること,及び一般的にスロットル弁は吸入空気量を調整する手段であることに鑑み 」技術的思想が開示されているといえる。そして,引用発明は「始動時の空燃比制御を安定して行う」ことを目的の1つとするものであること,及び一般的にスロットル弁は吸入空気量を調整する手段であることに鑑みると,「二つの熱交換器でそれぞれ生成可能な最大気化ガス量の合計量」に応じて「スロットル弁3aの開きを制御する」に当たり,燃焼に適した空燃比が得られるように吸入空気量をパラメータとしてスロットル弁3aを制御することは,当業者であれば容易に想到し得たことであり,最適な吸入空気量を算出するに当たり,引用文献2記載の上記技術的思想を適用することで,相違点2に係る本願発明の構成とすることも,当業者であれば容易になし得たことである。 (4) 作用効果本願発明を全体としてみても,その作用効果は,引用発明,引用文献2記載技術,引用文献2に記載された技術的思想,周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 (5) 結論- 6 -以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用文献2記載技術,引用文献2に記載された技術的思想,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(引用発明の認定誤り)審決は,引用発明を認定するに当たり,「引用文献1に記載された内燃機関のガス燃料供給装置は,「ECU35」により「圧力設定器14内の気体燃料圧力に応じてスロットル弁3aの最大開度を規制する」ものであることがわかり,また,…の記載からみて,「気体燃料圧力」と,「液体燃料の蒸発量」,言い換えれば,「気体燃料量」との間には相関があることは明らかであり,さらに,圧力設定器14内の気体燃料圧力は,加熱部12で生成される気体燃料量に相関があるとい 体燃料圧力」と,「液体燃料の蒸発量」,言い換えれば,「気体燃料量」との間には相関があることは明らかであり,さらに,圧力設定器14内の気体燃料圧力は,加熱部12で生成される気体燃料量に相関があるといえる。よって,引用文献1に記載された内燃機関のガス燃料供給装置のECU35は,加熱部12で生成される気体燃料量に応じて前記スロットル弁3aの最大開度を規制するものであることがわかる。」(7頁19行~28行)として,引用発明は,「気体燃料量に応じて」スロットル弁3aの最大開度を規制する発明であると認定している。 しかしながら,引用文献1に開示されているのは,「気体燃料圧力に応じて」スロットル弁3aの最大開度を規制する発明であって,「気体燃料量に応じて」スロットル弁3aの最大開度を規制するものでないことは明白である。「液体燃料の蒸発量」と「気体燃料量」とが,「圧力設定器14内の気体燃料圧力」と「加熱部12で生成される気体燃料量」とがそれぞれ相関関係にあるという理由により,上記のような認定を行うことは,飛躍しすぎである。 2 取消事由2(一致点認定の誤り・相違点の看過)審決は,本願発明と引用発明の一致点として,「前記電子式制御装置は,前記熱交換器で生成される気化ガス量に応じて前記絞り弁の開きを制御する」点を認定す- 7 -るが,取消事由1で主張したとおり,引用発明は,「気体燃料圧力に応じて」スロットル弁3aの最大開度を規制する発明であって,「気体燃料量に応じて」スロットル弁3aの最大開度を規制するものでないから,審決の上記一致点認定は誤りである。 3 取消事由3(相違点1に関する判断の誤り)審決は,引用文献2には,引用文献2記載技術として,「エンジン冷却水温度が前記主熱交換器でエンジン要求最大燃料流量の気化ガスを生成できる温度よりも低 3 取消事由3(相違点1に関する判断の誤り)審決は,引用文献2には,引用文献2記載技術として,「エンジン冷却水温度が前記主熱交換器でエンジン要求最大燃料流量の気化ガスを生成できる温度よりも低い温度域で作動」する副熱交換器を備えた技術が開示されていると認定する。 しかしながら,引用文献2記載のECU33は,水温と一次減圧室13内の圧力とに基づいて計算した値と予め定めた値とを比較してPTCヒータ29を制御するものであり,圧力の測定が不可欠である。したがって,審決の上記認定は誤りであり,これに伴い,引用発明に引用文献2記載技術を適用して相違点1に係る本願発明の構成とすることが容易であるとした審決の判断も誤りである。 4 取消事由4(相違点2に関する判断の誤り)(1) 審決は,引用文献2には,「熱交換器での燃料の気化量に対する吸入空気量を算出する」技術的思想が開示されていると認定する。 しかしながら,引用文献2に記載されている技術的思想は,単に,液体燃料の貯留によるオーバーリッチ現象を防止するためになされたものであり,温度の変化を前提とする本願発明と全く観点が異なる。 (2) 審決は,「引用発明は「始動時の空燃比制御を安定して行う」ことを目的の1つとするものであること,及び一般的にスロットル弁は吸入空気量を調整する手段であることに鑑みると,「二つの熱交換器でそれぞれ生成可能な最大気化ガス量の合計量」に応じて「スロットル弁3aの開きを制御する」に当たり,燃焼に適した空燃比が得られるように吸入空気量をパラメータとしてスロットル弁3aを制御することは,当業者であれば容易に想到し得たことであり,最適な吸入空気量を算出するに当たり,引用文献2記載の技術的思想を適用することで,相違点2に係- 8 -る本願発明の構成とすることも,当業者であれ ことは,当業者であれば容易に想到し得たことであり,最適な吸入空気量を算出するに当たり,引用文献2記載の技術的思想を適用することで,相違点2に係- 8 -る本願発明の構成とすることも,当業者であれば容易になし得たことである。」(12頁35行~13頁6行)と判断するが,このような漠然とした理由に基づき,当業者であれば誰でも容易に想到できると判断することは,不当である。 5 取消事由5(作用効果に関する判断の誤り)本願発明は,引用発明のように圧力検出器や流量計,複数の温度センサなどを必要とせず,1つの温度センサだけで実施することができるなど極めて有効な作用・効果を有するものである。審決は,本願発明と引用発明とは作用・効果が異なることを看過,誤認したものであり,違法である。 第4 被告の反論 1 取消事由1に対し引用文献1には,「本実施形態のガス燃料供給装置1によれば,圧力設定器14内の気体燃料圧力に応じてスロットル弁3aの最大開度を規制するようにしたので,液体燃料の蒸発量,蒸気圧が低い場合にはスロットル弁3aの最大開度が小さい開度に規制され,燃料噴射圧を確保するとともに,液状燃料の流出を防止することが可能となり,燃料噴射制御を安定して行なうことができる。」(段落【0053】)と記載されており,圧力設定器14内の気体燃料圧力に応じてスロットル弁3aの最大開度を規制することにより,結果として液体燃料の蒸発量,蒸気圧に応じてスロットル弁3aの最大開度が規制される旨が記載されている。 「液体燃料の蒸発量」とは,蒸発して気体になった燃料の量のことであるから,「気体燃料量」と呼ぶこともできる。そして,容積一定の容器内では,気体燃料量(例えば,モル数又は質量)が大きくなればなるほど,気体燃料圧力は大きくなるものである。そうしてみると,「 ことであるから,「気体燃料量」と呼ぶこともできる。そして,容積一定の容器内では,気体燃料量(例えば,モル数又は質量)が大きくなればなるほど,気体燃料圧力は大きくなるものである。そうしてみると,「圧力設定器14内の気体燃料圧力に応じて」スロットル弁3aの最大開度を規制することは,「加熱部12で生成される気体燃料量に応じて」前記スロットル弁3aの最大開度を規制することを意味する。 したがって,審決が,引用発明について,「気体燃料量に応じて」スロットル弁- 9 -3aの最大開度を規制する発明であると認定したことに誤りはない。 2 取消事由2に対し上記1のとおり,引用発明において,「気体燃料圧力に応じてスロットル弁3aの最大開度を規制する」ことは,「気体燃料量に応じてスロットル弁3aの最大開度を規制する」ことと同じであるから,審決の一致点認定に誤りはない。 3 取消事由3に対し引用文献2記載のECU33は,水温センサ36により冷却水温THWを検出するとともに,圧力センサ38により一次減圧室13内の圧力Pを検出しているが,圧力Pの検出は,「一次減圧室13内で過剰の貯溜液体燃料が過剰に気化されて」いるかどうかをみるためのものであって,基本的には,貯留液体燃料の気化についての判断は,冷却水温の測定に基づいて行われるものである。また,引用文献2に記載された発明については,一次減圧室13内の圧力Pが予め定められた所定圧力cよりも高いか否かという判断と,冷却水温THWが予め定められた所定温度dよりも低いか否かという判断とを独立して行っている。 したがって,審決が,引用文献2から,冷却水温THWが予め定められた所定温度dよりも低いか否かを判定する機能のみを独立した技術として取り出し,引用文献2記載技術として認定したことに誤りはない。 4 取消 って,審決が,引用文献2から,冷却水温THWが予め定められた所定温度dよりも低いか否かを判定する機能のみを独立した技術として取り出し,引用文献2記載技術として認定したことに誤りはない。 4 取消事由4に対し(1) 本願明細書(段落【0004】,【0006】)によれば,本願発明も,LPGが液体のまま吸気管路に送出されるため混合気過濃(すなわち,オーバーリッチ)によるエンジントラブルを生じさせやすいという問題点を解決しようとするものであるから,引用文献2に係る発明と本願発明とは同様の課題に対するものである。 また,引用文献2の「…機関冷却水の熱のみで気化される気化燃料がLPG内燃機関M1での燃焼に必要な気化燃料量よりも少ない場合には,ヒータM7を発熱させて貯留液体燃料の気化を促進させる。…」(段落【0014】)の記載からも明- 10 -らかなように,引用文献2に係る発明も温度の変化を前提としているものである。 (2) 審決は,具体的な引用文献の記載に基づいて拒絶の理由を指摘しているのであって,原告のいうような「漠然とした理由」を拒絶の理由としたものではない。 5 取消事由5に対し本願発明と引用発明は,いずれも,エンジン冷間時に液状燃料がエンジン側に流出することを防止し,安定したエンジン運転を行うことができるというものであり,作用効果上,軌を一にしているものである。 原告は,本願発明について,「1つの温度センサだけで実施することができるなどきわめて有効な作用・効果を有する」などと主張する。しかしながら,ここで原告が作用・効果とよんでいるものは,そもそも本願明細書(甲4)に記載されているものではなく,また,本願発明の構成に対応するものでもない。 本願発明の実施例は,冷却水温度を検知する温度センサ32のみならず,ボンベ1に配設され ものは,そもそも本願明細書(甲4)に記載されているものではなく,また,本願発明の構成に対応するものでもない。 本願発明の実施例は,冷却水温度を検知する温度センサ32のみならず,ボンベ1に配設された温度センサ33,圧力センサ34,外気温度を検知する温度センサ36,流量センサ35を用いて構成されている。これは,「1つの温度センサ」だけでは,気化条件として必要と考えられる液体LNGの温度,外気温度,冷却水温度等のうちの1つの温度しか知ることができず,さらに,当然のことながら,生成した気化ガス量を知ることなどできないからである。したがって,原告主張の作用効果は,本願発明の作用効果ではない。 第5 当裁判所の判断 1 本願発明について本願明細書(甲4)によれば,本願発明について次のとおり認められる。 本願発明は,液体LPGを気化させて得た気化ガスをエンジンに供給する装置に関するものである(段落【0001】)。従来技術の液体LPGを加熱気化させる手段として,エンジン冷却水の熱を利用する方法に加えて電気ヒータを配置する方法があるが,冷機時に冷却水が低温であるため液体LPGの気化が充分に行われず,- 11 -電気ヒータの加熱気化能力も低いため,運転者が気化能力を超えた燃料流量を要求する運転を行うと,LPGが液体のまま吸気管路に送出され,混合気過濃となってエンジンが不調となり,停止し,更には再始動が困難になるという問題があった(段落【0002】~【0004】)。そこで,本願発明は,液体LPGを加熱気化する手段として,エンジン冷却水を熱源とした主熱交換器及び電気ヒータを熱源とした副熱交換器を用い,かつエンジンの吸気管路に設置した絞り弁を電子式制御方式としたものについて,電子式制御装置がエンジンの吸入空気量を二つの熱交換器でそれぞれ生成可能な 換器及び電気ヒータを熱源とした副熱交換器を用い,かつエンジンの吸気管路に設置した絞り弁を電子式制御方式としたものについて,電子式制御装置がエンジンの吸入空気量を二つの熱交換器でそれぞれ生成可能な最大気化ガス量の合計量に対応する吸入空気量以下とするように絞り弁の開きを制限することにより,低温始動後の暖機不充分な状態のときに,運転者が過剰にアクセルペダルを踏み込んでも,絞り弁は吸入空気量を最大気化ガス量の合計量に対応する吸入空気量以下に制限して適正空燃比の混合気をエンジンに供給するため,液体LPGがそのまま供給されてエンジン不調等の不都合を生じる心配を伴うことなく安定した暖機運転を行わせることができるという効果を奏するものである(段落【0006】~【0008】)。また,本願発明は,副熱交換器について,エンジン冷却水温度が設定温度よりも低い温度域で作動し液体LPGを加熱気化するものとし,その設定温度を主熱交換器でエンジン要求最大燃料流量の気化ガスを生成できる温度とすることにより,主熱交換器が本来の気化ガス生成能力をもつときに副熱交換器を不作動とし,無駄な電力消費をなくすことができるという効果も奏する(段落【0009】)。 2 引用発明について引用文献1(特開2002-188519号公報,甲1)によれば,引用発明について次のとおり認められる。 引用発明は,混合燃料(LPG)を内燃機関に供給するようにしたガス燃料供給装置に関するものである(段落【0001】)。LPG燃料を電子制御式燃料供給装置に用いた場合,例えば,燃料タンク周辺の雰囲気温度によっては,必要とする蒸発量,気体燃料圧(燃料噴射圧)が得られない場合があり,そのような蒸発量,- 12 -蒸気圧が低い状態でエンジン側での消費量を多くすると,液状燃料がエンジン側に流出し,場合によ ては,必要とする蒸発量,気体燃料圧(燃料噴射圧)が得られない場合があり,そのような蒸発量,- 12 -蒸気圧が低い状態でエンジン側での消費量を多くすると,液状燃料がエンジン側に流出し,場合によっては制御不能に陥るおそれがあるという問題点があったことから(段落【0005】,【0006】),引用発明においては,エンジンの冷間時から暖機完了後に渡ってガス燃料の噴射圧を一定に保持すること等を目的とし(段落【0007】),燃料タンク内の液体燃料を気体燃料に気化させて燃料噴射弁4に供給するようにした内燃機関のガス燃料供給装置において,燃料供給通路の途中に介設され,エンジン冷却水Aを熱源とした加熱部12により上記液体燃料を気化させるベーパライザ11と,ベーパライザの下流側にて気体燃料圧力を検出する燃料圧力検出手段(気体燃料が設定圧力となるよう調整する圧力設定器14の出口側に配設された気体燃料圧力センサ37)と,燃料圧力検出手段からの気体燃料圧力に応じてスロットル弁3aの最大開度を規制するスロットル開度制御手段ECU35とを備えるという構成を採ることによって(特許請求の範囲【請求項1】,段落【0008】,【0035】,【0040】,【0043】,【0047】,【0048】),液体燃料の蒸発量,蒸気圧が低い場合には,スロットル弁の最大開度が小さい開度に規制されることから,燃料噴射圧を確保し,かつ液状燃料の流出を防止することが可能となるという効果を奏するものである(段落【0018】)。 3 取消事由1(引用発明の認定の当否)について引用文献1によれば,引用発明は,液体燃料がべーパライザ11の加熱部12においてエンジン冷却液Aにより気化され,その後,圧力設定器14により設定圧力に調整された気体燃料が燃料噴射弁4に供給されるという系であると認められる。 発明は,液体燃料がべーパライザ11の加熱部12においてエンジン冷却液Aにより気化され,その後,圧力設定器14により設定圧力に調整された気体燃料が燃料噴射弁4に供給されるという系であると認められる。 このような系においては,物理学上の原理として,気体について,圧力,容積,気体量,温度等が一定の関係にあることが知られており,また,液体から気体に変化する過程については,それらに加えて,飽和蒸気圧(液体と気体との相平衡状態での気体の圧力)も関与することが知られており,さらに,温度は比熱や収受される熱量と一定の関係にあることも知られているから,ある状態の時の,圧力,容積,温度等の物理諸量の関係は一定の相関関係にあることが普通であり,かかる状態を- 13 -認識するために,どの物理量を徴表あるいは指標として採用するかは,任意に選択し得る事項といい得るものである。 したがって,引用発明において,スロットル弁3aの最大開度を規制するための指標として,相関関係のある気体燃料圧力と気体燃料量のいずれを採用したとしても実質的な差異はないから,審決が,引用発明に関して,そのような相関関係があることを前提に,「加熱部12で生成される気体燃料量に応じて前記スロットル弁3aの最大開度を規制するもの」と認定した点に誤りはない。 なお,形式的に,引用発明は気体燃料圧力を指標として最大開度を規制する発明であると認定し,この点が気体燃料量を指標とする本願発明との相違点であると認定したとしても,上記のとおり,気体燃料圧力と気体燃料量のいずれを指標として採用するかは,当業者が任意に選択し得る事項であって,実質的な相違点ではないというべきである。 以上のとおり,取消事由1は理由がない。 4 取消事由2(一致点認定の当否)について取消事由1について説示したとおり,審決が, 選択し得る事項であって,実質的な相違点ではないというべきである。 以上のとおり,取消事由1は理由がない。 4 取消事由2(一致点認定の当否)について取消事由1について説示したとおり,審決が,引用発明について「気体燃料量に応じて前記スロットル弁3aの最大開度を規制するもの」と認定した点に誤りはないから,この点を一致点として認定したことにも誤りはなく,また,仮に,原告主張の点を相違点として認定したとしても,審決の結論に影響を及ぼすものではない。 したがって,取消事由2は理由がない。 5 取消事由3(相違点1に関する判断の当否)について原告は,引用文献2に開示された技術は,エンジン冷却水温度のほかに圧力の測定が不可欠であるから,エンジン冷却水温度に基づいて副熱交換器を作動させる技術が引用文献2に開示されているとした審決の認定は誤りであると主張する。 しかしながら,引用文献2には,機関冷却水の熱のみでは気化燃料量が必要量より少ない場合には,ヒータM7を発熱させて気化を促進させ,逆に冷却水の熱による気化燃料量が必要量より多い場合には,過剰な気化燃料が内燃機関に導入されて- 14 -しまうので,ヒータM7の発熱を停止させるという2つの技術的事項が含まれており(段落【0014】),それぞれの技術的事項の実施例として,前者の技術的事項については,水温センサ36により冷却水温を検知して,その冷却水温が所定温度よりも低い場合には,冷却水の熱だけでは液体燃料を十分に気化できない場合であると判断して,ヒータ(PTCヒータ29)を用いて加熱させることとし,後者の技術的事項については,圧力センサ38により検知した一次減圧室13内の圧力Pと水温センサ36が検知した冷却水温を用い,圧力Pが所定圧力cよりも高い場合又は冷却水温が所定温度以上である場合には, 者の技術的事項については,圧力センサ38により検知した一次減圧室13内の圧力Pと水温センサ36が検知した冷却水温を用い,圧力Pが所定圧力cよりも高い場合又は冷却水温が所定温度以上である場合には,液体燃料が過剰に気化されて,混合気の空燃比がオーバーリッチになるおそれがあると判断し,ヒータの発熱を停止させる(段落【0056】,【0057】)という技術を開示するものである。そして,前者の「機関冷却水の熱のみでは気化燃料量が必要量より少ない場合には,ヒータを発熱させて気化を促進させる。」という技術的事項と,その実施例である,水温の検知によりヒータを加熱させるという構成が,相違点1に係る本願発明の構成に関係する技術であり,この構成については,圧力の検知は必要とされていないのであるから,審決が,引用文献2に「エンジン冷却水温度が前記主熱交換器でエンジン要求最大燃料流量の気化ガスを生成できる温度よりも低い温度域で作動」する副熱交換器が記載されていると認定したことに誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。 したがって,上記認定誤りを前提とする取消事由3は理由がない。 6 取消事由4(相違点2に関する判断の当否)について(1) 原告は,引用文献2に記載されている技術的思想は,単に,液体燃料の貯留によるオーバーリッチ現象を防止するためになされたものであり,温度の変化を前提とする本願発明と全く観点が異なるから,審決が,引用文献2について,「熱交換器での燃料の気化量に対する吸入空気量を算出する」技術的思想が開示されていると認定したのは誤りであると主張する。 しかしながら,引用文献2の段落【0040】には,燃料の消費量に応じて燃焼- 15 -用空気量を算出するという技術的思想が記載されていると認められるから,審決が,引用文献2について,「 張する。 しかしながら,引用文献2の段落【0040】には,燃料の消費量に応じて燃焼- 15 -用空気量を算出するという技術的思想が記載されていると認められるから,審決が,引用文献2について,「熱交換器での燃料の気化量に対する吸入空気量を算出する」技術的思想が開示されているとした認定に誤りはない。原告の主張は,引用文献2に記載された発明全体の技術的思想と本願発明の技術的思想に異なる点があるというものであって,引用文献2の特定の部分に記載された技術的思想を認定した審決を正解しないものである。 (2) また,原告は,審決が漠然とした理由により相違点2に係る本願発明の構成とすることは容易である旨判断したことは違法であると主張する。 しかしながら,審決は,相違点2に関し,引用発明の課題,周知技術,引用文献2に開示された技術的思想等に基づいて判断していることは明らかであって,原告の主張は前提を欠く。 したがって,取消事由4は理由がない。 7 取消事由5(作用効果に関する判断の当否)について原告は,本願発明は,1つの温度センサだけで実施することができるなど極めて有効な作用・効果を有するものであると主張する。 しかしながら,請求項1にはセンサの数などを限定する構成はなく,本願明細書においても,センサの数などを限定する記載は認められず,かえって,副熱交換器を作動させるかどうかを判断するために,冷却水温度を検知する温度センサ32のほか,外気温度を検知する温度センサ36,液体LPGの温度及び圧力を検知する温度センサ33及び圧力センサ34を用いる実施例が示されており,原告の上記主張は,本願発明の構成に基づかないものであって,採用することができない。 したがって,取消事由5は理由がない。 第6 結論以上のとおりであるから,原告主張の取消 示されており,原告の上記主張は,本願発明の構成に基づかないものであって,採用することができない。したがって,取消事由5は理由がない。 第6 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 清水 裁判官 古谷健二郎

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