平成19(あ)1951 道路交通法違反,労働基準法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成21年7月16日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 大阪高等裁判所 平成19(う)171
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判決文本文6,190 文字)

- 1 -主文原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理由 検察官の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反の主張であり,弁護人水野武夫,同元氏成保,同藤内健吉の上告趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。 しかしながら,検察官の所論にかんがみ,職権をもって調査すると,原判決は,刑訴法411条1号により破棄を免れない。 本件公訴事実のうち,労働基準法32条1項違反の事実の要旨は,「被告人は,石油製品の保管及び運送等を営むA社の代表取締役としてその業務全搬を統括していたものであるが,同社の統括運行管理者と共謀の上,同社の業務に関し,同社が,同社の労働者の過半数を代表する者との間で,書面により,平成17年4月16日から平成18年4月15日までの時間外労働及び休日労働に関する協定を締結し,自動車運転者に対して,法定労働時間を超えて延長することができる時間は,1日につき7時間,1か月につき130時間などと定め,平成17年4月15日,大津労働基準監督署長に届け出ていたのであるから,上記各協定時間の範囲を超えて労働させてはならないのに,労働者Bをして,同社の事務所等において,1か月130時間を超えて,同年11月16日から同年12月15日までの間に15時間30分,同月16日から平成18年1月15日までの間に38時間15分の合- 2 -計53時間45分の時間外労働をさせた」というものである。 第1審判決は,上記公訴事実とおおむね同旨の事実を認定し(第1審判示第1の2),被告人を有罪とした。これに対し,被告人が控訴を申し立てた。原判決は,第1審判決の上記判示部分は,違 というものである。 第1審判決は,上記公訴事実とおおむね同旨の事実を認定し(第1審判示第1の2),被告人を有罪とした。これに対し,被告人が控訴を申し立てた。原判決は,第1審判決の上記判示部分は,違反に係る週が全く特定されておらず月単位の時間外労働協定違反の事実を認定したものであるが,適用された法令である労働基準法32条1項は週単位の時間外労働を規制するものであって,月単位の時間外労働には直接の規制は設けられておらず,また,いわゆる36協定違反については罰則が設けられていないから,月単位の時間外労働協定違反の事実は犯罪を構成しない事実であるとした。さらに,原審は,その手続において検察官の請求した週単位の時間外労働の事実(当該月の中で違反となる週を特定したもの)を明示する予備的訴因変更を不許可としたが,原判決は,その理由につき,時間外労働というのは,法定労働時間や時間外労働協定といった一定の規範に照らさなければ観念できないものであるから,時間外労働を構成する労働日ないし労働時間が基本的に同一であるとしても,違反している規範を異にしている場合には,それらの時間外労働は社会通念上別個の事実であり両立し得るものであって,基本的事実関係を異にすると解すべきであり,旧訴因の月単位の時間外労働協定違反の事実と新訴因の週単位の時間外労働の事実とでは基本的事実関係を異にし,公訴事実の同一性が認められないとした。そして,原判決は,第1審判決を破棄して自判し,上記公訴事実については被告人を無罪とした。 しかしながら,原審の予備的訴因変更を不許可とした措置及び原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 ⑴労働基準法32条1項違反に係る上記公訴事実は,その記載だけからみる- 3 -と,月単位の時間外労働を示す内容となっており, の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 ⑴労働基準法32条1項違反に係る上記公訴事実は,その記載だけからみる- 3 -と,月単位の時間外労働を示す内容となっており,当該月の特定はされているものの,週の特定はもとより週という言葉さえ出てきておらず,これを直ちに週単位の時間外労働の規制違反を記載したとみることはできない。しかし,労働基準法に月単位の時間外労働の規制違反の規定はないこと,起訴状には罰条として週単位の時間外労働を規制している労働基準法32条1項が記載されていることを合理的に解釈すると,週単位の時間外労働の規制違反の事実を摘示しその処罰を求めようとした趣旨ではあったが,結果として,違反に係る週の特定に欠けるという不備が生じてしまったと解するのが相当である。したがって,本件は,訴因の特定が不十分でその記載に瑕疵がある場合に当たり,その瑕疵の内容にかんがみると,訴因変更と同様の手続を採って訴因を補正すべき場合である。 ⑵ところで,いわゆる36協定で1か月につき延長することができる時間外労働時間が定められている場合における労働基準法32条1項違反の罪に関して検討すると,同条項の文理,36協定の趣旨等に照らすと,原則的な労働時間制の場合であれば,始期から順次1週間について40時間の法定労働時間を超えて労働させた時間を計算し,これを最初の週から順次積算し,上記延長することができる時間に至るまでは36協定の効力によって時間外労働の違法性が阻却されるものの,これを超えた時点以後は,36協定の効力は及ばず,週40時間の法定労働時間を超える時間外労働として違法となり,その週以降の週につき,上記時間外労働があれば,それぞれ同条項違反の罪が成立し,各違反の罪は併合罪の関係に立つものと解すべきである。そして,36協定に 定労働時間を超える時間外労働として違法となり,その週以降の週につき,上記時間外労働があれば,それぞれ同条項違反の罪が成立し,各違反の罪は併合罪の関係に立つものと解すべきである。そして,36協定における次の新たな1か月が始まれば,その日以降は再び延長することができる時間に至るまで,時間外労働が許容されるが,これによると,1週間が,単位となる月をまたぎ,週の途中の日までは週40時間の法- 4 -定労働時間を超える違法な時間外労働であり,その翌日からは新たな1か月が始まり,時間外労働が許容される場合も生じる(端数日は生じない)。この場合も,その週について上記違法な時間外労働に係る同条項違反の罪が成立することとなる。 そして,1週間の始期に関しては,問題となる事業場において就業規則等に別段の定めがあればこれによるが,これがない場合には,労働基準法32条1項が「1週間について40時間」とのみ規定するものであることなどにかんがみると,その始期を36協定における特定の月の起算日に合わせて訴因を構成することも許されると解される。 ⑶本件につき,検察官のした予備的訴因変更請求についてみると,「平成17年12月7日から同月13日までの週及び同月9日から同月15日までの週を通じた週」などとし,15日から逆算して1週間を構成している点及び本件につき時間外労働の罪が1罪として成立するとして「通じた週」としている点については,⑵で述べたところから明らかなとおり,適正を欠くものであり,上記関係についていえば,「平成17年12月7日から同月13日までの週につき15分の,同月14日から同月20日までの週につき15時間15分のそれぞれ時間外労働をさせた」とすべきである。しかし,検察官の上記予備的訴因変更請求は,週を特定し,週単位の時間外労働の規制違反の罪を明示して瑕 月14日から同月20日までの週につき15時間15分のそれぞれ時間外労働をさせた」とすべきである。しかし,検察官の上記予備的訴因変更請求は,週を特定し,週単位の時間外労働の規制違反の罪を明示して瑕疵を補正しようとしたものと理解できるから,原審は,上記適正な訴因となるように措置した上,予備的訴因変更を許可すべきであったと解される。 以上によれば,予備的訴因変更を許さず,第1審判決を破棄して,前記公訴事実(労働基準法32条1項違反に係る部分)について被告人を無罪とした原判決には,刑訴法256条3項,312条1項の解釈適用を誤った違法があり,これが- 5 -判決に影響を及ぼし,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。なお,本件では,前記公訴事実と原判決が有罪としたその余の公訴事実とは併合罪の関係にあるとして起訴されたものと解されるから,上記違法は,原判決の全部に影響を及ぼすものである。 よって,刑訴法411条1号により原判決を破棄し,同法413条本文に従い,更に審理を尽くさせるため,本件を原審である大阪高等裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官金築誠志の意見がある。 裁判官金築誠志の意見は,次のとおりである。 私は,原判決を破棄して本件を原審に差し戻すことには賛成であるが,本件労働基準法32条1項違反の罪については,多数意見とは異なり,予備的訴因変更を許可するまでもなく,旧訴因(本位的訴因)のままで(ただし,後記のような補正をした上で)有罪判決をすることができるものと考える。 労働基準法32条1項は,「使用者は,労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間を超えて,労働させてはならない。」と規定し,その違反に対し同法119条1号が罰則を定めている。この労働時間の制限は, 働基準法32条1項は,「使用者は,労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間を超えて,労働させてはならない。」と規定し,その違反に対し同法119条1号が罰則を定めている。この労働時間の制限は,いわゆる36協定によって延長することが可能であり,しかもその限度を1週間とは異なる単位で定めることが認められている(労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年労働省告示第154号)2条,3条参照)。 本件においても,1か月単位で延長時間の限度が定められている。 このように36協定によって労働時間の延長限度を定めた場合,その限度を超えて労働をさせた違反行為については,別に罰則の定めがないので,この場合も32- 6 -条1項によって処罰することを予定しているものと解されるが,この場合の擬律がここでの問題である。 多数意見は,協定期間である1か月(以下,「月」は36協定期間である1か月を指す)の始期から順次1週間ごとに算出した法定労働時間を超えた時間を積算して,延長限度を超えた日の属する週以降,1週間ごとに週単位の時間外労働罪が成立するとする。これは,1週間40時間を超えて労働させれば,それだけで1週間単位の時間外労働罪の構成要件は充足され,36協定による延長は同罪の違法性を阻却するにとどまるという考え方を前提としている。36協定で定める限度を超えない限り,およそ同罪の成立が問題となる余地はないのであるから,はたして違法性阻却の限度にとどまると考えてよいか疑問がなくはない。その点は措くとしても,1か月に含まれる各週の時間外労働の状況いかんにかかわらず,常に月の初めの時間外労働から順次延長許容時間に繰り入れて,月の終わりの方の週において違反週を特定するという方法は,特定の週ごとに時間外労働罪の成否を検討する 週の時間外労働の状況いかんにかかわらず,常に月の初めの時間外労働から順次延長許容時間に繰り入れて,月の終わりの方の週において違反週を特定するという方法は,特定の週ごとに時間外労働罪の成否を検討するという実質を既に失っており,1か月間全体で犯罪の成否を判断していることにほかならないように,私には思われる。 また,多数意見は,月末に7日に満たない日数が残る場合には,次の月にまたがって1週間を構成し,次の月に属する日の法定時間を超える労働時間は,次の月の36協定の違法性阻却の効果を受ける関係上,その週の時間外労働には算入しないという取扱いをしている(月末残日数の時間外労働を処罰するために,これとともに1週間を構成する次の月の日数の法定時間内の労働時間は,その週の労働時間に算入する取扱いになるものと解される。)。構成要件的評価の対象となる期間と36協定の期間とが一致しないことになるが,この結果,具体的には,次の月に属す- 7 -る日数の労働時間を合算しても法定時間を超えない場合や,退職等の理由で1週間を構成すべき労働日がない場合について,妥当な結論が得られるのかといった問題が生じるように思われる。 労働基準法が36協定によって1週間と異なる単位で労働時間を延長することを認めている以上,その協定期間単位で延長限度を超える違反労働時間数を認定するのは自然なことであって,協定期間は7日で割り切れない場合が多いのであるから,この超過労働時間を特定の1週間ごとに振り分けようとすることには,もともと無理があるように思う。したがって,同法32条1項の罪を認定するには,協定期間において延長限度を超える労働時間数を算出した上で,同条項の規制単位期間(1週間)に合わせ,その超過労働時間数の1週間当たりの換算値を摘示すれば足りると考える。つまり,同条項による るには,協定期間において延長限度を超える労働時間数を算出した上で,同条項の規制単位期間(1週間)に合わせ,その超過労働時間数の1週間当たりの換算値を摘示すれば足りると考える。つまり,同条項による労働時間の規制は,単位期間当たりの割合的なものと見るわけである。 この認定方法によれば,協定期間全体を通じて違反時間数を算定するのであり,その期間内にいくつの週が含まれていようとも包括一罪と解すべきであるから,週の特定は要しないし,また,7日で割り切れない期間の場合も,1週間当たりの換算値を摘示することは可能であるから,問題は生じない。こうした認定の仕方は,32条1項が「1週間について」と規定しているのを,「1週間当たり」と読むだけのことであるから,文理上も無理はなく,変形労働時間制等を含む現在の労働基準法上の労働時間規制の在り方にも矛盾しないものと思う。 本件労働基準法32条1項違反に係る本位的訴因は,1週間当たりの違反時間数の記載を欠くが,罰条の記載及び1か月単位の違反罪は法令上存在しないことからすれば,同条項違反の罪を包括一罪である1か月単位で特定して起訴したこと- 8 -が明らかであるから,訴因を上記の趣旨を明確にするよう補正の上(具体的には,平成17年11月16日から同年12月15日までの間に合計15時間30分の時間外労働をさせたとの事実については,「1週間当たり3時間37分の」という文言を付加して),有罪判決をすることが相当であると考える。 (裁判長裁判官涌井紀夫裁判官甲斐中辰夫裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志) 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