- 1 -令和6年12月20日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和5年(ネ)第2014号商標移転登録抹消登録等請求控訴事件(原審大阪地方裁判所令和2年(ワ)第9135号)口頭弁論終結日令和6年10月23日判決 控訴人(一審原告) 千鳥屋総本家株式会社 同訴訟代理人弁護士柴野高之(以下「一審原告」という。) 被控訴人(一審被告) P1同訴訟代理人弁護士鈴木信作(以下「一審被告P1」という。) 被控訴人(一審被告) P2同訴訟代理人弁護士高田 明同平野豪介(以下「一審被告P2」という。) 被控訴人(一審被告) 株式会社千鳥饅頭総本舗 同訴訟代理人弁護士田中雅敏同堀田明希同山腰健一 (以下「一審被告総本舗」という。) - 2 -主文 1 一審原告の一審被告らに対する当審において追加した主位的請求をいずれも棄却する。 2 原判決中、一審原告の一審被告P1に対する原審における主位的請求を棄却した部分に対する控訴並びに一審被告P2及び一審 被告総本舗に対する控訴をいずれも棄却する。 3 一審原告の控訴に基づき、原判決中、一審被告P1に対する原審における予備的請求を棄却した部分を、 部分に対する控訴並びに一審被告P2及び一審 被告総本舗に対する控訴をいずれも棄却する。 3 一審原告の控訴に基づき、原判決中、一審被告P1に対する原審における予備的請求を棄却した部分を、以下のとおり変更する。 (1) 一審被告P1は、一審原告に対し、100万円及びこれに対する令和3年1月29日から支払済みまで年6分の割合による 金員を支払え。 (2) 一審原告の一審被告P1に対するその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は、第1、2審を通じて、一審原告の負担とする。 事実及び理由 第1 一審原告の求めた裁判 【一審被告P1に対する控訴の趣旨(当審追加請求を含む。)】 1 原判決を取り消す。 2 一審被告P1は、別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」という。)に関する特許庁平成29年1月4日受付第000044号の移転登録(以下「本件移転登録」という。)の抹消登録手続をせよ(当審追加請求)。 3 第一次予備的請求一審被告P1は、一審原告に対し、本件商標権に関する専用使用権の設定登録手続をせよ。 4 第二次予備的請求一審被告P1は、一審原告に対し、7000万円及びこれに対する令和3年 1月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 - 3 -(一審原告は、当審において追加した請求を主位的請求とし、原審における主位的請求を第一次予備的請求とし、原審における予備的請求を第二次予備的請求とした。)【一審被告P2及び一審被告総本舗に対する控訴の趣旨(当審追加請求を含む。)】 1 原判決を取り消す。 2 一審被告P2及び一審被告総本舗は、本件商標権に関する特許庁平成29年4月19日受付第006151号の一部移転登録(以下「 る控訴の趣旨(当審追加請求を含む。)】 1 原判決を取り消す。 2 一審被告P2及び一審被告総本舗は、本件商標権に関する特許庁平成29年4月19日受付第006151号の一部移転登録(以下「本件一部移転登録」という。)の抹消登録手続をせよ(当審追加請求)。 3 予備的請求一審被告P2及び一審被告総本舗は、本件商標権に関する本件一部移転登録 の抹消登録手続をせよ(一審被告P1に代位して行使する一審被告P1の一審被告P2及び一審被告総本舗に対する本件一部移転登録の抹消登録手続請求)。 (一審原告は、当審において追加した請求を主位的請求とし、原審における請求を予備的請求とした。)。 第2 事案の概要 1 事案の要旨(1) 一審原告と一審被告P1との間において、本件商標権を含む商標権5件を一審原告から一審被告P1に対して譲渡する契約(以下「本件商標権譲渡契約」という。)に係る契約書(以下「本件商標権譲渡契約書」という。)と、一審被告P1が一審原告に対して本件商標権を含む商標権11件につき無償 で専用使用権を設定する旨の契約(以下「本件専用使用権設定契約」という。)に係る契約書(以下「本件専用使用権設定契約書」という。)とが、同日付けで作成され取り交わされ、一審原告から一審被告P1へ本件商標権譲渡契約書に沿った本件商標権の移転登録(本件移転登録)がなされたが、一審被告P1から一審原告に対する本件専用使用権設定契約に基づく一審原 告を専用使用権者とする設定登録はなされず、かえって、一審被告P1から - 4 -一審被告P2及び一審被告総本舗に対し、本件商標権の一部の移転登録(本件一部移転登録)がなされた。 本件は、一審原告が、一審被告P1に対し、本件専用使用権設定契約に基づき、本件商 - 4 -一審被告P2及び一審被告総本舗に対し、本件商標権の一部の移転登録(本件一部移転登録)がなされた。 本件は、一審原告が、一審被告P1に対し、本件専用使用権設定契約に基づき、本件商標権の専用使用権の設定登録手続を求め、予備的に、本件専用使用権設定契約の債務不履行に基づく損害賠償として、7000万円及びこ れに対する訴状送達の日の翌日である令和3年1月29日から支払済みまで平成29年法律第45号による改正前の商法(以下「改正前商法」という。)所定の年6分の割合による遅延損害金の支払を求め、一審被告P2及び一審被告総本舗に対し、一審被告P1に対する本件専用使用権設定契約に基づく専用使用権設定登録請求権を被保全債権として、一審被告P1に代位して、 一審被告P1の一審被告P2及び一審被告総本舗に対する本件一部移転登録の抹消登録請求権に基づき本件一部移転登録の抹消登録手続を求めた事案である。 (2) 原審は、一審原告の一審被告P1に対する請求のうち、専用使用権の設定登録手続を求める主位的請求については、本件専用使用権設定契約の成立を 認めたものの、本件一部移転登録が一審被告P1と一審被告P2及び一審被告総本舗との間の本件商標権一部移転の合意に基づく有効なものであるから、本件専用使用権設定契約は社会通念上履行不能になったとして、これを棄却し、予備的請求については、一審被告P1の債務不履行を認めたものの、これにより一審原告に損害が発生したと認めるに足りないとして、これを棄却 し、一審被告P1に代位して行使する一審被告P1の一審被告P2及び一審被告総本舗に対する本件一部移転登録の抹消登録手続請求については、本件一部移転登録が一審被告P1と一審被告P2及び一審被告総本舗との間の本件商標権一部移転の合意に基づ 被告P1の一審被告P2及び一審被告総本舗に対する本件一部移転登録の抹消登録手続請求については、本件一部移転登録が一審被告P1と一審被告P2及び一審被告総本舗との間の本件商標権一部移転の合意に基づく有効なものであるとして棄却した。 一審原告は、これを不服として控訴するとともに、当審において、本件商 標権譲渡契約が無効であり一審原告が商標権者であることを前提として、一 - 5 -審被告P1に対する請求として、本件移転登録の抹消登録手続請求を主位的請求として追加し、また、一審被告P2及び一審被告総本舗に対する請求として、本件一部移転登録の抹消登録手続請求を主位的請求として追加した。 2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実) (1) 当事者等ア一審原告一審原告は、平成28年5月19日に再生手続開始決定(東京地方裁判所平成28年(再)第18号)がなされた千鳥屋総本家株式会社(以下「旧総本家」という。)の洋和菓子製造販売事業(以下「本件事業」とい う。)の譲渡先として上記民事再生手続においてスポンサーとなったジーライオングループによって同年6月17日に設立された洋和菓子の製造販売等を目的とする株式会社である(甲1、5、8、乙5の2、8の1ないし3、14)。 イ一審被告ら (ア) 一審被告P1は、民事再生手続が開始された当時の旧総本家の代表者であったP8の子であり、旧総本家の元代表者であるP5及びP7夫婦の孫である。なお、一審被告P1は、本件商標権譲渡契約締結当時、大学生であった(以上につき、乙5の1、証人P7・11頁)。 (イ) 一審被告P2は、福岡県飯塚市や福岡市周辺を中心に洋和菓子の製造 販売事業を行っている株式会社千鳥屋 譲渡契約締結当時、大学生であった(以上につき、乙5の1、証人P7・11頁)。 (イ) 一審被告P2は、福岡県飯塚市や福岡市周辺を中心に洋和菓子の製造 販売事業を行っている株式会社千鳥屋本家(以下「千鳥屋本家」という。)の代表者である。 (ウ) 一審被告総本舗は、福岡県を中心に洋和菓子の製造販売事業を行っている株式会社である。 (2) 千鳥屋の創業とその後の事業展開について P3及び妻のP4(以下「創業者夫婦」という。)は、昭和初期、千鳥屋の - 6 -屋号で洋和菓子の製造販売事業を始め、その事業は拡大していき、両名の長男であるP5は、千鳥屋総本家株式会社(旧総本家)の商号で東京都を中心に事業(本件事業)を展開し、二男であるP9(以下「二男」という。)は、一審被告総本舗の商号で福岡県を中心に事業を展開し、三男であるP10(以下「三男」という。)は、株式会社千鳥屋宗家(以下「宗家」という。)の商 号で兵庫県及び大阪府を中心に事業を展開し、五男であるP11(以下「五男」という。なお、一審被告P2は、その子である。)は、千鳥屋本家その他の商号で福岡県飯塚市や福岡市周辺を中心に事業を展開していた。創業者夫婦の子である長男のP5、二男、三男及び五男がそれぞれ会社を経営して営む上記各事業は、いずれも「千鳥屋」を含む営業表示ないし商品名を用いた 洋和菓子の製造販売事業であったが、商標権の管理に関して明示的な合意はなかった。そのため一社が他社に知らせることなく「千鳥屋」を含む商標の登録出願をし、これに対して他社が争うなどの事態が生じるなど、上記4社は、同じ「千鳥屋」を含む商標を共通して営業等に用いながら、商標権の管理等についての協調関係がない状態にあった(以上につき、乙1の1ないし 3、14)。 うなどの事態が生じるなど、上記4社は、同じ「千鳥屋」を含む商標を共通して営業等に用いながら、商標権の管理等についての協調関係がない状態にあった(以上につき、乙1の1ないし 3、14)。 (3) 本件事業譲渡及び本件商標権の移転登録等について旧総本家は、平成28年5月19日に民事再生手続の開始決定がなされ、スポンサーとなったジーライオングループが設立する会社に本件事業を譲渡することとなり、同年6月17日、旧総本家は、ジーライオングループが設 立した一審原告との間で、一審原告に対して本件事業を6億7000万円で譲渡する事業譲渡契約(以下「本件事業譲渡契約」といい、同事業譲渡を「本件事業譲渡」という。効力発生日は同年7月15日である。)を締結した。 なお、同契約には、ジーライオングループに所属する株式会社クインオート(以下「クインオート」という。)が「本件スポンサー」という名称で加わり、 一審原告の同契約上の債務を連帯保証した(以上につき、甲1、5、乙8の - 7 -1、14)。 旧総本家の元代表者であるP5は、その当時、本件商標権を含む複数の本件事業に関する商標権を有していたが、本件事業譲渡契約締結の日と同日である同年6月17日、本件商標権を含む合計50件の商標権を1円で一審原告に譲渡する旨の契約書を取り交わし、同年7月15日、その移転登録手続 がなされた(甲2、5)。 また、一審原告は、上記移転登録と同日、P5の孫である一審被告P1との間で、本件商標権を含む合計5件の商標権(縦書きの「千鳥屋」が2件、横書きの「千鳥屋」が2件と横書きの「CHIDORIYA」)を1円で譲渡する旨の本件商標権譲渡契約書(甲3)を取り交わすとともに、前記5件を 含む合計11件の商標権について一審原告に無償で 、横書きの「千鳥屋」が2件と横書きの「CHIDORIYA」)を1円で譲渡する旨の本件商標権譲渡契約書(甲3)を取り交わすとともに、前記5件を 含む合計11件の商標権について一審原告に無償で専用使用権を設定する旨の本件専用使用権設定契約書(甲4)を取り交わした(甲3、4)。 (4) 本件商標権に関する登録本件商標権については、平成29年1月4日付けで本件商標権譲渡契約に沿った内容である一審原告から一審被告P1への移転登録(本件移転登録)が なされたが、本件専用使用権設定契約に沿った一審原告を専用使用権者とする設定登録の手続がなされないまま推移した。その一方、一審被告P1は、本件商標権につき、同年4月19日付けで一審被告P1から一審被告P2及び一審被告総本舗への一部移転登録(本件一部移転登録)手続をした(以上につき、甲5)。 (5) 宗家への本件事業の再譲渡一審原告は、旧総本家から譲り受けた本件事業を継続して営んでいたが、平成30年12月23日、宗家との間で事業譲渡契約書(甲7。以下「対宗家事業譲渡契約書」という。)を取り交わし、本件事業を1億8000万円で譲渡した(以下、この事業譲渡を「対宗家事業譲渡」という。)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張 - 8 -(1) 一審原告の本件商標権譲渡契約の錯誤無効(当審追加の一審被告らに対する主位的請求関係)ア一審原告の主張本件商標権譲渡契約と本件専用使用権設定契約とは密接不可分な一体的関係にあり、本件専用使用権設定契約の内容が実現されることが本件商標 権譲渡契約を締結する一審原告と一審被告P1との当然の共通前提となっていたのであるから、一審原告が本件商標権譲渡契約を締結する動機は表示されていたといえる。 約の内容が実現されることが本件商標 権譲渡契約を締結する一審原告と一審被告P1との当然の共通前提となっていたのであるから、一審原告が本件商標権譲渡契約を締結する動機は表示されていたといえる。しかし、本件移転登録を受けた一審被告P1は、一審原告に本件商標権の専用使用権を設定するつもりは全くなかったとして、一審被告P2及び一審被告総本舗との間で本件商標権の一部譲渡契約 (以下「本件商標権一部譲渡契約」という。)を締結し、本件一部移転登録をしたというのであるから、本件商標権譲渡契約の締結は錯誤により無効であって、一審被告P1に対する本件移転登録は無効である。また、そうである以上、無権利者である一審被告P1から一審被告P2及び一審被告総本舗に対してされた本件一部移転登録も無効である。 したがって、一審原告は、一審被告P1に対して本件移転登録の、一審被告P2及び一審被告総本舗に対して本件一部移転登録の、各抹消登録手続を求める。 イ一審被告らの主張(ア) 一審原告の本件商標権譲渡契約の錯誤無効をいう主張は、時機に後れ た攻撃防御方法であり、却下を求める。 (イ) 一審原告の錯誤の主張は争う。 P5は、創業家以外の第三者への商標権が譲渡されることを防ぐ趣旨で、屋号に「千鳥屋」ないし「千鳥」を含む事業を営む各グループで本件商標権を含む「千鳥屋」に関連する商標権を共有化することを計画し ていたものであって(以下、この計画を「共有化計画」という。)、一 - 9 -審原告は、本件商標権譲渡契約が共有化計画を前提としていたものであることを認識しており、本件商標権を独占的に使用できるとは認識していなかったから、本件商標権譲渡契約を締結した一審原告に何ら錯誤はない。 ( 商標権譲渡契約が共有化計画を前提としていたものであることを認識しており、本件商標権を独占的に使用できるとは認識していなかったから、本件商標権譲渡契約を締結した一審原告に何ら錯誤はない。 (2) 本件専用使用権設定契約の成否及び同契約についての共通錯誤(予備的請 求における請求原因及び一審被告らの抗弁)ア一審原告の主張本件専用使用権設定契約は、本件専用使用権設定契約書どおり成立した。 これについて錯誤をいう一審被告らの主張は争う。 イ一審被告らの主張 (ア) 一審原告は、本件商標権譲渡契約が共有化計画を前提としていたものであることを認識しており、本件商標権を独占的に使用できるとは認識していなかったのであるから、一審原告と一審被告P1との間で、本件商標権の専用使用権の設定を目的とする本件専用使用権設定契約は成立していない。 (イ) 仮に、本件専用使用権設定契約が成立していたとしても、一審原告と一審被告P1の双方とも、一審原告が本件商標権を独占的に使用できるとは認識しておらず、当該意思表示に対応する内心的効果意思が欠如していて共通錯誤の状態にあったといえるから、本件専用使用権設定契約は錯誤により無効である。 (3) 本件一部移転登録についての一審原告の承諾(一審被告らに対する予備的請求における抗弁)ア一審被告らの主張仮に、本件専用使用権設定契約の意思表示に瑕疵がなかったとしても、一審原告は、共有化計画が前提となっていた本件商標権の譲渡後、本件商 標権が一審被告P2及び一審被告総本舗に一部譲渡されて創業家の兄弟グ - 10 -ループの共有となることを事後的に承諾しており、本件商標権の専用使用権の設定を受ける意思はなかったのであるから 権が一審被告P2及び一審被告総本舗に一部譲渡されて創業家の兄弟グ - 10 -ループの共有となることを事後的に承諾しており、本件商標権の専用使用権の設定を受ける意思はなかったのであるから、一審被告P1は、本件専用使用権設定契約に基づく専用使用権の設定登録義務を負わない。 イ一審原告の主張争う。 (4) 本件譲渡禁止特約違反による本件一部移転登録の無効(一審被告らに対する予備的請求における再抗弁)ア一審原告の主張本件商標権一部譲渡契約が一審被告P1の意思に基づくものであるとしても、本件商標権の一部譲渡は、本件専用使用権設定契約書5条に定めら れた本件商標権を含む11件の商標権を第三者に譲渡することを禁止する特約(以下「本件譲渡禁止特約」という。)に違反しているので、本件一部移転登録は無効である。したがって、一審原告は、一審被告P1に対し、本件専用使用権設定契約に基づき専用使用権の設定登録手続を求めるとともに、これを保全するため、一審被告P1に代位して、一審被告P2及び 一審被告総本舗に対し、本件一部移転登録の抹消登録手続を求める。 イ一審被告らの主張前記のとおり、一審原告は本件商標権が創業家の兄弟グループの共有となることを事後的に承諾していたのであるから、本件一部譲渡契約は本件譲渡禁止特約に違反するものではない。 また、仮に、本件譲渡禁止特約に違反するとしても、登録を伴わない契約当事者間の合意は相対的効力を有するにすぎず、本件商標権一部譲渡契約に基づきなされた本件一部移転登録は無効とならない。 (5) 一審被告P1の債務不履行(一審被告P1に対する第二次予備的請求関係)ア一審原告の主張 本件商標権譲渡契約と本件専 づきなされた本件一部移転登録は無効とならない。 (5) 一審被告P1の債務不履行(一審被告P1に対する第二次予備的請求関係)ア一審原告の主張 本件商標権譲渡契約と本件専用使用権設定契約とは密接不可分な一体的 - 11 -関係にあったところ、一審被告P1による本件商標権一部譲渡契約及び本件一部移転登録により、本件専用使用権設定契約に基づく専用使用権設定登録手続債務は履行不能となったから、一審被告P1は、一審原告に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。 イ一審被告P1の主張 前記のとおり、一審原告は本件商標権が創業家の兄弟グループの共有となることを事後的に承諾しており、本件商標権の専用使用権の設定を受ける意思はなかったのであるから、一審被告P1に債務の不履行はない。 (6) 一審原告の損害(一審被告P1に対する第二次予備的請求関係)ア一審原告の主張 (ア) 一審原告が本件専用使用権の設定を受けることで、本件商標権を障害なく使用して「千鳥屋」を経営できていれば、その場合の一審原告の事業価値は少なく見積もっても2億5000万円であった。しかし、本件商標権の専用使用権の設定を受けられないため、一審原告は、対宗家事業譲渡において、本件事業を、本来の事業価値より7000万円も下回 る1億8000万円で譲渡せざるを得なかったのであるから、差額の7000万円が一審被告P1の本件専用権設定契約の債務不履行により一審原告が被った損害である。 (イ) 仮に、上記の損害が認められないとしても、一審原告は、日本国内で著名な本件商標権その他の商標権を取得できることに最大限の価値を見 出したからこそ、旧総本家から本件事業の譲渡を受けるため6億700 、上記の損害が認められないとしても、一審原告は、日本国内で著名な本件商標権その他の商標権を取得できることに最大限の価値を見 出したからこそ、旧総本家から本件事業の譲渡を受けるため6億7000万円もの対価を支払ったものであるが、本件商標権の継続利用に疑義が生じたことにより、上記(ア)のとおり、低額で本件事業を再譲渡することになったのである。したがって、一審原告に相当な損害が認定されるべきである。 イ一審被告P1の主張 - 12 -一審被告P1に債務不履行はなく、一審原告に損害が発生していない以上、民事訴訟法248条の適用もない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件商標権 を巡る一審原告と一審被告らとの間の本件訴訟に関連する事実として、以下の事実が認められる。 (1) 旧総本家の民事再生手続開始創業者夫婦によって事業拡大されていた千鳥屋を屋号とする洋和菓子の製造販売事業は、その長男であるP5が旧総本家の商号で東京都を中心に本件 事業を展開し、二男が一審被告総本舗の商号で福岡県を中心に事業を展開し、三男が宗家の商号で兵庫県及び大阪府を中心に事業を展開し、五男が千鳥屋本家その他の商号で福岡県飯塚市や福岡市周辺を中心に事業を展開していたが、経営状態が悪化していた旧総本家は、東京地方裁判所に対し、民事再生手続開始の申立てをし、平成28年5月19日、東京地方裁判所において民 事再生手続開始決定がなされた(乙5の2)。 (2) 本件商標権譲渡契約締結の経緯ア創業者夫婦の長男であるP5は、旧総本家が民事再生会社となる以前から、千鳥屋の商標権が創業家とは関係がない第三者へ譲渡されることを防ぐため、兄弟4人がそれぞ 2) 本件商標権譲渡契約締結の経緯ア創業者夫婦の長男であるP5は、旧総本家が民事再生会社となる以前から、千鳥屋の商標権が創業家とは関係がない第三者へ譲渡されることを防ぐため、兄弟4人がそれぞれ展開する洋和菓子の製造販売事業グループ (長男が旧総本家、二男が一審被告総本舗、三男が宗家、五男が千鳥屋本家)で本件商標権を含む「千鳥屋」に関連する商標権を共有すること(共有化計画)を考えていた(乙14、証人P7・4頁)が、上記のとおり旧総本家について民事再生手続が開始された。そして、旧総本家の本件事業は、民事再生手続のスポンサーであるジーライオングループによって設立 される会社に譲渡することが予定されていたが、その頃、P5が依頼して - 13 -いた弁理士は、平成28年6月6日、旧総本家及びP7に対し、共有化計画の具体的な方法として、本件商標権等を直接一審被告P1に譲渡する案のほか、設立される会社にいったん譲渡してその後一審被告P1に再譲渡する案などを提案した。この内容を記載したメールは同月14日に旧総本家の民事再生手続申立代理人事務所に転送されていたことから、ジーライ オングループも共有化計画の存在自体は認識することができる状態となっていた(以上につき、乙2、14、16、証人P7・6頁以下)。 イ平成28年6月17日、旧総本家の本件事業の事業譲渡先として、一審原告が「株式会社千鳥屋総本家」の商号で設立され(なお、同年7月15日に旧総本家と同じ現商号に変更された。)、ジーライオングループ所属 のクインオートの代表者であるP12が、一審原告の代表取締役に就任した(甲1、乙8の1)。 一審原告の設立日である同年6月17日、民事再生会社である旧総本家は、一審原告に対し、本件事業を6億7000万円 の代表者であるP12が、一審原告の代表取締役に就任した(甲1、乙8の1)。 一審原告の設立日である同年6月17日、民事再生会社である旧総本家は、一審原告に対し、本件事業を6億7000万円で譲渡し(本件事業譲渡)、P5は、一審原告に対し、本件商標権を含む商標権50件を1円で 譲渡した(甲1、2)。 ウ旧総本家の民事再生手続申立代理人は、平成28年7月6日、ジーライオングループの法務担当であるP13及び取締役のP14らへメールを送信したが、同メールには、本件商標権につき、①P5から一審原告に譲渡し、②一審原告から一審被告P1に譲渡した上で、③一審被告P1が一審 原告に対し専用使用権を設定するというスキームが記載された図解付きの一覧表及び契約書等のドラフトが添付されており、また、同一覧表には、①につき6月17日、②及び③につき7月15日との日付けが記載されていた(甲8、証人P7・7頁)。なお、このように、P5から直接一審被告P1に本件商標権を譲渡することなく、中間に一審原告を介在させるこ とが提案されたのは、後日、予定されていたP5個人の破産手続において - 14 -否認されるリスクを避けるためであった(乙14)。 エ P5は、平成28年7月15日、同日に商号を現商号に変更した一審原告に対し、本件商標権の移転登録手続をした(甲5、乙8の1)。 同日、一審原告は、一審被告P1に対し、本件商標権を含む商標権5件を1円で譲渡する契約(本件商標権譲渡契約)を締結し(甲3)、一審被 告P1は、一審原告に対し、本件商標権を含む商標権11件につき、専用使用権を設定する内容の契約(本件専用使用権設定契約)を締結した(甲4)。上記各契約の締結は、P5の意向に基づくものであったことから、当時、ま 審原告に対し、本件商標権を含む商標権11件につき、専用使用権を設定する内容の契約(本件専用使用権設定契約)を締結した(甲4)。上記各契約の締結は、P5の意向に基づくものであったことから、当時、まだ大学生であった孫である一審被告P1は、祖母のP7及び母のP8に依頼されて、上記各契約の契約書にそれぞれ押印した(乙14、証 人P7・8頁、11頁)。なお、本件専用使用権設定契約書の5条には、一審原告の事前の承諾なく、一審被告P1が本件商標権を含む前記11件の商標権を第三者に譲渡してはならない旨の本件譲渡禁止特約が定められていた(甲4)。 (3) 本件商標権譲渡契約締結以降の経緯 ア平成29年1月4日、本件商標権譲渡契約に基づき、一審原告から一審被告P1への本件商標権の移転登録(本件移転登録)がなされた(甲5)。 イ本件専用使用権設定契約の対象である商標権11件のうち、本件商標権譲渡契約の対象である商標権5件を除くその余の6件については、専用使用権の設定登録がなされたが(乙9の1ないし6)、本件商標権を含む5 件については、その後も専用使用権の設定登録はなされていない(弁論の全趣旨)。 ウ一審被告P1は、平成29年4月10日、一審被告P2及び一審被告総本舗との間で、本件商標権を含む商標権の一部をそれぞれ無償で譲渡すること等を合意する内容の契約書を取り交わし(丙1。本件商標権一部譲渡 契約)、同月19日、同契約に基づき、本件商標権の一部についての移転 - 15 -登録(本件一部移転登録)がなされた。しかし、創業者夫婦の三男が経営する宗家ないしその関係者は、本件商標権を一部譲渡されることはなく、そのため宗家は、本件商標権の共有関係から除外されることになった(乙1の1)。 エ一審 れた。しかし、創業者夫婦の三男が経営する宗家ないしその関係者は、本件商標権を一部譲渡されることはなく、そのため宗家は、本件商標権の共有関係から除外されることになった(乙1の1)。 エ一審原告は、平成30年4月頃、本件一部移転登録の事実を把握したと ころ、同年8月頃、ジーライオングループの顧問税理士であり、現在の一審原告代表者であるP15は、P5及びP7に面会するため福岡県まで赴き、本件一部移転登録がされていることにつき両名に抗議したが、もともと決まっていたことであると反論された(証人P15・1頁、4頁、5頁、19頁)。 オ一審原告は、平成30年12月23日、創業者夫婦の三男が経営する宗家との間で対宗家事業譲渡契約書(甲7)を取り交わし、一審原告が旧総本家から承継していた本件事業を1億8000万円で譲渡した(対宗家事業譲渡)。なお、対宗家事業譲渡契約書には、本件商標権に関連して、一審被告P1が一審被告P2と一審被告総本舗に対して本件商標権を一部譲渡 して共有としたことが「不法」であるとの評価を前提に、一審原告の責任で共有化の解消に努め、対宗家事業譲渡後も一審原告の責任でその裁判を行うべき旨を定めた規定(11条)が置かれているが、対宗家事業譲渡の際に、本件商標権の専用使用権が宗家に移転されないことで本件事業の譲渡価額が減額されたことを明示した記載はなく、また、その反面、上記共 有の解消が実現し、宗家が本件商標権の専用使用権を取得することができるようになったとしても、そのことで追加の対価が支払われる旨を示唆する記載もない。 2 争点(1)〔一審原告の本件商標権譲渡契約の錯誤無効(当審追加の一審被告らに対する主位的請求関係)〕について (1) 一審原告は、本件商標権譲渡契約と本件専用 する記載もない。 2 争点(1)〔一審原告の本件商標権譲渡契約の錯誤無効(当審追加の一審被告らに対する主位的請求関係)〕について (1) 一審原告は、本件商標権譲渡契約と本件専用使用権設定契約とが密接不可 - 16 -分な一体的関係であることを前提として、一審被告P1には一審原告に対して本件商標権の専用使用権を設定するつもりは全くなかったから、一審原告には、本件商標権譲渡契約につき錯誤があり無効である旨を主張するところ、確かに、一審被告P1は、本件専用使用権設定契約に基づく債務を履行することなく、一審被告P2及び一審被告総本舗に対して本件一部移転登録をし て、後記7で説示するとおり、本件専用使用権設定契約に基づく債務を履行不能にしたものである。 しかし、一審被告P1において、本件商標権譲渡契約締結の平成28年7月15日の時点で、一審原告に対し本件専用使用権設定契約に基づく専用使用権の設定登録手続を行わないことを決めていたことを認めるに足りる証拠 はないし、仮に一審被告P1にそのように債務履行の意思が当初からなかったとしても、一審被告P1は本件商標権譲渡契約締結により一審原告に対して本件専用使用権を設定する債務を負ったものであって、その履行が不能であったわけではないから、一審原告に錯誤があったとはいえず、一審原告の上記主張は採用できない。 (2) したがって、一審原告には本件商標権譲渡契約締結の意思表示に錯誤があったとは認められない以上、一審原告の一審被告P1に対する本件移転登録の抹消登録手続を求める主位的請求も、これを前提とする一審原告の一審被告P2及び一審被告総本舗に対する本件一部移転登録の抹消登録手続を求める主位的請求も、いずれも理由がない。 (3) なお、一審被告ら 続を求める主位的請求も、これを前提とする一審原告の一審被告P2及び一審被告総本舗に対する本件一部移転登録の抹消登録手続を求める主位的請求も、いずれも理由がない。 (3) なお、一審被告らは、一審原告の上記当審追加請求につき、時機に後れた攻撃防御方法であるとして民事訴訟法157条1項に基づき却下を求めているが、本件は、請求の追加であるから、同法143条1項ただし書の適用の可否を問題とすべきところ、一審被告らの主張の基礎となる事実は訴え提起当時から訴訟手続に顕れているし、当審口頭弁論終結時までの審理経過に照 らすと、一審原告の錯誤を前提とする当審追加請求は、著しく訴訟手続を遅 - 17 -滞させるとまではいえない。 3 争点(2)〔本件専用使用権設定契約の成立及び同契約についての共通錯誤(一審被告らに対する予備的請求における請求原因及び抗弁)〕について(1) 前記認定事実によれば、一審被告P1は、創業家の長男であるP5の孫という立場から本件商標権譲渡契約及び本件専用使用権設定契約の締結に関わ ったにすぎない様子がうかがえるが、少なくとも一審被告P1が、自らの意思で上記各契約の契約書にそれぞれ押印した事実は優に認められ、その成立を疑わせる事実はなんら主張立証されておらず、かえって、その作成に係る陳述書(乙13)によれば、一審被告P1は、各契約の内容に興味がないだけであって、その内容自体は理解していたと認められるから、一審原告と一 審被告P1との間で本件専用使用権設定契約が成立していることが認められる。 (2) 一審被告らの共通錯誤による無効の主張につき検討する。 前記認定事実によれば、一審原告は、本件事業譲渡に伴い本件商標権の譲渡を受けたわずか1か月後である同年7月15日に、その頃大学生に (2) 一審被告らの共通錯誤による無効の主張につき検討する。 前記認定事実によれば、一審原告は、本件事業譲渡に伴い本件商標権の譲渡を受けたわずか1か月後である同年7月15日に、その頃大学生にすぎな かったP5の孫である一審被告P1との間で、一審被告P1に対して本件商標権を譲渡した上で専用使用権の設定を受けることになる本件商標権譲渡契約と本件専用使用権設定契約を同日に締結したというのであるから、一審原告においても、上記各契約を同日に締結する目的が、創業家以外の第三者に本件商標権を含む商標権が譲渡されることを防ぐという共有化計画の一環で あることを認識していた可能性は否定できない。しかし、創業家とは関係がない一審原告は、旧総本家から本件事業を譲り受けるという投資をして一審原告としての利益を追求しようとしていたことが明らかであるから、一審原告の利益には関係しないのに、創業家以外に本件商標権を含む商標権が譲渡されないようするための共有化計画に協力する必要があったとは認められず、 本件商標権を含む商標権を譲渡した上、明示的な契約書の文言にかかわらず - 18 -本件商標権の専用使用権を設定されないことを認識し了解していたとは認められない。 したがって、一審被告らが主張する共通錯誤があるとは認められず、そのことを理由とする本件専用使用権設定契約が無効である旨の主張は採用できない。 4 争点(3)〔本件専用使用権設定契約成立後の一審原告の承諾(一審被告らに対する予備的請求における抗弁)〕について前記3の説示のとおり、一審原告は、本件商標権譲渡契約と同日に本件専用使用権設定契約を締結する目的が、共有化計画の一環であることを認識していた可能性は否定できないものの、上記説示のとおり、創業家とは関係が の説示のとおり、一審原告は、本件商標権譲渡契約と同日に本件専用使用権設定契約を締結する目的が、共有化計画の一環であることを認識していた可能性は否定できないものの、上記説示のとおり、創業家とは関係がない一審原 告は、一審原告の立場で自らの利益を追求しようとしていたのであるから、本件専用使用権設定契約締結当時、明示的な契約をしたにもかかわらず、本件商標権の専用使用権の設定を受ける意思がなかったとは認められない。 また、その点は、前記認定事実のとおり、一審原告が、平成30年4月頃、本件一部移転登録の事実を把握し、同年8月頃、後に一審原告代表者となるP1 5が福岡県に赴いて、P5及びP7に対して、本件一部移転登録がされていることにつき抗議している事実からも裏付けられている。 したがって、一審被告らの上記主張は採用できない。 5 争点(4)〔本件譲渡禁止特約違反による本件一部移転登録の無効(一審被告らに対する予備的請求における再抗弁)〕について 一審原告主張に係る本件譲渡禁止特約は、債権的効力を有するにすぎないことが明らかであるから、一審被告P1がこれに違反して本件商標権を第三者に譲渡したとしても、それが一審原告に対する関係で本件専用使用権設定契約上の債務の不履行になり得るだけであって、上記譲渡が無効となると解する余地はない。 したがって、本件専用使用権設定契約に定められた本件譲渡禁止特約に違 - 19 -反したことにより、本件商標権一部譲渡契約に基づきされた本件一部移転登録が無効であることを前提とする一審原告の主張は採用できない。 6 小括以上によれば、一審原告の一審被告P1に対する本件商標権の専用使用権の設定登録手続を求める第一次予備的請求も、一審被告P1に対する専用使用 提とする一審原告の主張は採用できない。 6 小括以上によれば、一審原告の一審被告P1に対する本件商標権の専用使用権の設定登録手続を求める第一次予備的請求も、一審被告P1に対する専用使用権設 定登録請求権を被保全債権として、一審被告P1に代位して行使する一審被告P1の一審被告P2及び一審被告総本舗に対する本件一部移転登録の抹消登録手続請求の予備的請求も、いずれも理由がない。 7 争点(5)〔一審被告P1の債務不履行(一審被告P1に対する第二次予備的請求関係)〕について 前記認定事実によれば、一審被告P1は、一審原告との本件専用使用権設定契約に基づき、一審原告に対して、本件商標権の専用使用権を設定登録すべき債務を負っていたにもかかわらず、一審被告P2及び一審被告総本舗と本件商標権一部譲渡契約を締結して、本件一部移転登録手続を行っている。そして、一審被告P1は、本件一部移転登録後も、なお本件商標権の持分権者であるか ら、その持分に一審原告のため専用使用権を設定することが考えられるが、商標権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その商標権について専用使用権を設定できない(商標法35条、特許法73条3項)ところ、本件商標権の共有者である一審被告P2及び一審被告総本舗は、本件において、一審原告が専用使用権者となることを争っているのであるから、上 記同意を見込めないことは明らかである。 そうすると、一審被告P1の一審原告に対する本件専用使用権設定契約に基づく専用使用権設定登録手続債務は、一審被告P1が一審被告P2及び一審被告総本舗に対して本件一部移転登録をしたことにより、社会通念上履行不能になったというべきである。 これに対し、一審被告らは、一審原告における共有化計画 一審被告P1が一審被告P2及び一審被告総本舗に対して本件一部移転登録をしたことにより、社会通念上履行不能になったというべきである。 これに対し、一審被告らは、一審原告における共有化計画の存在及び認識を - 20 -根拠として、一審被告P1の債務の不履行にはあたらない旨を主張するが、これが採用できないことは、前記説示のとおりである。 したがって、一審被告P1は、一審原告に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うものと認められる。 8 争点(6)〔一審原告の損害(一審被告P1に対する第二次予備的請求関係)〕 について(1) 一審原告は、一審原告に専用使用権設定登録がされ一審原告と一審被告P1以外の第三者が本件商標権を使用することができない状況となっていれば宗家に譲渡した当時の一審原告の本件事業の価値が2億5000万円を下らなかったことを前提として、宗家への本件事業の譲渡価格1億8000万円 との差額7000万円が、一審被告P1の本件専用使用権設定契約の債務不履行により一審原告が被った損害の額である旨を主張し、一審原告の本件事業の本来の価値が2億5000万円であったことを裏付ける証拠として「千鳥屋総本家の事業価値に関する報告書」(甲6)を提出する。 (2) そこで検討するに、一審原告代表者である税理士P15作成に係る上記報 告書(甲6)によっても、上記2億5000万円の根拠については、工場固定費、販売拠点の営業経費、物流、包材コスト等の改善という将来の不確定要素を前提として、営業利益年額5000万円が得られるはずとの仮定に基づき営業利益5年分が2億5000万円であるというにすぎず、それ自体、本件商標権の専用使用権が得られていることが事業価値にどのように反映さ れているか明らかでないもの 得られるはずとの仮定に基づき営業利益5年分が2億5000万円であるというにすぎず、それ自体、本件商標権の専用使用権が得られていることが事業価値にどのように反映さ れているか明らかでないものであるから、実際の事業譲渡の対価が1億8000万円であるからといって、一審原告が想定するところの2億5000万円との差額7000万円が一審被告P1の本件専用使用権設定契約の債務不履行による損害であるとの評価を導くことはできず、結局、同報告書は、一審被告P1の上記債務不履行が本件事業の価値を7000万円毀損させたと の結論の記載のみがなされているに等しく、詳細を検討するまでもなく採用 - 21 -の余地はない。 さらに、上記報告書を離れて、本件専用権設定契約の債務不履行により、一審原告が本件商標権の専用使用権を得られなかったことにより本件事業にいかなる影響が及ぼされたかについて検討すると、前記認定事実並びに証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、P4及びP5ら兄弟は、昭和25年頃 から、指定商品や標章を共通にする「千鳥屋」を含む多数の商標権を共有し、同人らや一審被告総本舗を含む各関連法人等において、継続的に洋和菓子の製造、小売り等の事業に使用していたことが認められ、また、一審原告は、上記のような使用実態を踏まえ、一審被告らが本件商標権に係る先使用権を有していることを積極的に争っていないのであるから、仮に、一審原告が専 用使用権を取得していたとしても、少なくとも、一審被告総本舗、宗家及び千鳥屋本家が、本件商標権を事業において使用することは容認しなければならず、一審原告が本件商標権の専用使用権者となったからといって、本件商標権を独占的に使用できる利益を享受することはなかったものと認められる。 また、その反面、証拠(丙 て使用することは容認しなければならず、一審原告が本件商標権の専用使用権者となったからといって、本件商標権を独占的に使用できる利益を享受することはなかったものと認められる。 また、その反面、証拠(丙1)及び弁論の全趣旨によれば、一審被告P2及 び一審被告総本舗は、一審被告P1との本件商標権一部譲渡契約において、一審被告P1が一審原告に対し本件商標権等の通常使用権を許諾することに同意していたことが認められるから、一審原告は、本件商標権の専用使用権の設定を受けなかったからといって、その事業において本件商標権を使用することについて特段の支障はなかったはずであり、現にその点の主張立証は 一切されていない。 そうすると、一審被告P1による本件専用使用権設定契約の債務不履行により一審原告が本件専用使用権を取得することができなかったからといって、本件事業遂行に影響が及ぶことはなく、この点で一審原告に損害が生じたものといえるかについては疑問が残るところである。 (3) しかし、前記認定事実によれば、本件商標権である「千鳥屋」を含む営業 - 22 -表示ないし商品名は、旧総本家、一審被告総本舗、千鳥屋本家及び宗家の事業展開により全国的に周知性を獲得していたと認められるから、「千鳥屋」のみからなる本件商標権は、それ自体、一般的に経済的価値があるといって差し支えない上、対宗家事業譲渡契約書では、設定登録が未了で未発生の本件商標権の専用使用権につき、同契約書の別紙1及び別紙2-2のとおり、 「裁判中」との付記はあるものの対宗家事業譲渡における譲渡対象財産に掲げており、さらに11条において、一審原告の責任で本件商標権の共有化の解消に努め、対宗家事業譲渡後も一審原告の責任でその裁判を行うべき旨を特に定めて、一審原告に対し、対宗 渡における譲渡対象財産に掲げており、さらに11条において、一審原告の責任で本件商標権の共有化の解消に努め、対宗家事業譲渡後も一審原告の責任でその裁判を行うべき旨を特に定めて、一審原告に対し、対宗家事業譲渡契約に基づき、一審被告P1から本件商標権の専用使用権の設定を受け、これを宗家に譲渡する債務を負 わせていると解されるから、本件事業を譲り受ける宗家は、本件商標権の専用使用権が譲渡対象財産に含まれることを重視していたことも認められる。 そうすると、対宗家事業譲渡契約書中に、本件事業に含まれる財産権のうちに本件商標権の専用使用権が含まれていないことで本件事業の譲渡価額が減じられたことを明示する記載がなく、また、その反面、本件商標権の専用 使用権が宗家に将来、移転されることになった場合に追加の対価が支払われる旨を示唆する記載がないとしても、本件商標権の専用使用権が対宗家事業譲渡時の譲渡対象財産には含まれず、将来、取得できるか否かも不確定となったことは、対宗家事業譲渡契約における本件事業の譲渡価額を決定する上で消極的な要素になって、その譲渡価額を減じたものと認めるのが相当であ る。 (4) したがって、本件専用使用権設定契約の債務が履行されないことで本件商標権の専用使用権を取得できず、そのため本件事業の譲渡価額が減じられたという点において一審原告に損害が発生したことは明らかというべきである。 しかし、対宗家事業譲渡においては、本件商標権とは別類の「千鳥屋」から なる商標権1件を含み83件の商標権及び本件商標権以外の専用使用権4件 - 23 -が他の財産と一体となって譲渡価額が決定されて譲渡されているため(甲7)、これを手掛かりに本件商標権の専用使用権が取得できないことによって減じられた額を推認することは 権4件 - 23 -が他の財産と一体となって譲渡価額が決定されて譲渡されているため(甲7)、これを手掛かりに本件商標権の専用使用権が取得できないことによって減じられた額を推認することは極めて困難であるし、またそれ自体に経済的価値があるからといって、周知である「千鳥屋」からなる本件商標権の専用使用権それ自体の評価額を鑑定するためには、事案に比して過大な費用を 要することが見込まれることから、本件は、その損害額の立証が極めて困難である場合に当たるといわなければならない。 そこで、民事訴訟法248条の趣旨を踏まえ、上記説示及び本件に顕れた諸事情に加えて口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を総合して考慮すると、一審被告P1の債務不履行により一審原告が被った損害の額は、100万円 と認定するのが相当である。 (5) 以上によれば、一審原告の一審被告P1に対する第二次予備的請求は、100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年1月29日から支払済みまで旧商法所定の年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。 9 結論以上によれば、一審原告が当審で追加した一審被告らに対する主位的請求はいずれも理由がないから棄却することとし、一審原告の一審被告P1に対する第一次予備的請求並びに一審被告P2及び一審被告総本舗に対する予備的請求(以上、いずれも原審主位的請求)はいずれも理由がないから棄却すべきとこ ろ、これと同旨の原判決は相当であって、原審主位的請求棄却部分に係る控訴は理由がないから棄却することとし、一審原告の一審被告P1に対する第二次予備的請求(原審予備的請求)は、100万円及びこれに対する令和3年1月29日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払 は理由がないから棄却することとし、一審原告の一審被告P1に対する第二次予備的請求(原審予備的請求)は、100万円及びこれに対する令和3年1月29日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと一 部異なる原判決は相当でないから、一審原告の控訴に基づき、原判決主文1項 - 24 -の予備的請求棄却部分を本判決主文3項(1)及び(2)のとおり変更することとする。 なお、一審原告の一審被告P1に対する第二次予備的請求の認容額に照らし、訴訟費用は、一審被告総本舗及び一審被告P2との関係だけでなく、一審被告P1との関係においても、民事訴訟法67条2項本文、64条ただし書に基づ き、第1、2審を通じ一審原告の負担とする。 よって、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第8民事部 裁判長裁判官 森崎英二 裁判官 久末裕子 裁判官 山口敦士
▼ クリックして全文を表示