- 1 - 令和元年8月2日判決言渡同日原本領収裁判所書記官同同第5238号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成31年3月12日判決主文 1 被告東電は,別紙認容額等一覧表「原告番号」欄記載の各原告(原告番号1-4,原告番号3-1,原告番号3-2,原告番号3-3,原告番号3-4,原告番号8-7,原告番号13-4,原告番号18-2,原告番号19,原告番号20-1,原告番号20-3,原告番号21-1,原告番号24-1,原告番号24-2,原告番号30-1,原告番号30-2,原告番号30-3,原告番号30-4及び原告番号41-2を除く。)に対し,各原告に係る同表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 前項の原告らの被告東電に対するその余の請求並びに原告番号1-4,原告番号3-1,原告番号3-2,原告番号3-3,原告番号3-4,原告番号8-7,原告番号13-4,原告番号18-2,原告番号19,原告番号20-1,原告番号20-3,原告番号21-1,原告番号24-1,原告番号24-2,原告番号30-1,原告番号30-2,原告番号30-3,原告番号30-4及び原告番号41-2の被告東電に対する請求をいずれも棄却する。 3 原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,被告東電に生じた費用の10分の9及び被告国に生じた費用を原告らの負担とし,別紙認容額等一覧表「原告番号」欄記載の各原告に生じた費用の各原告に係る同表「訴訟費用負担割合」欄記載の割合の費用を当該各原告の負担とし,被告東電及び第1項の原告らに生じたその余の費用を被告東電の負担とする。 - 2 - 5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 主文 欄記載の割合の費用を当該各原告の負担とし,被告東電及び第1項の原告らに生じたその余の費用を被告東電の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告東電が同項の原告らに対し,各原告に係る別紙認容額等一覧表「担保額」欄記載の各金員の担保を供するときは,その執行を免れることができる。 事実 及び理由 【目次】 第1部請求及び事案の概要 第1章請求 第2章事案の概要 第2部前提事実 第1 福島第一原発の施設の概要等 1 福島第一原発の概要 2 福島第一原発の設置許可処分又は変更許可処分,運転開始 第2 本件事故の概要 1 本件地震とそれに伴う津波の発生 2 本件事故の発生状況 3 放射性物質の拡散 4 避難指示,避難区域の設定等 5 警戒区域の設定等 6 警戒区域及び計画的避難区域の見直し等 7 避難指示区域等の解除 8 SPEEDIについて 第3 関連法令等の要旨 1 総論 2 原子力基本法(平成24年法律第47号による改正前のもの。) 3 炉基法(平成24年法律第47号による改正前のもの。以下「旧炉基法」という。) 4 安全設計審査指針等 5 電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの。) 6 省令62号 7 原賠法 8 原災法 第4 安全審査に関する各種指針等 1 発電用軽水型原子炉施設などに関する各種の指針 2 昭和39年原子炉立地審査指針 3 昭和45年安全設計審査指針 4 平成13年安全設計審査指針 5 平成13年耐震設計審査指針 6 平成18年耐震設計審査指針 7 本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針 第5 規制機関等 1 原子力 査指針 平成13年安全設計審査指針 平成13年耐震設計審査指針 平成18年耐震設計審査指針 本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針 規制機関等 原子力委員会・原子力安全委員会 原子力安全・保安院(保安院) 知見及びその発展 過去の原子力発電所事故に関する知見 地震に関する知見等 津波に関する知見 放射線に関する基本的な知見 我が国のシビアアクシデント対策 シビアアクシデント対策の意義等 シビアアクシデントに関する知見の進展 我が国におけるシビアアクシデント対策の導入 定期安全レビュー(PSR)の創設 被告東電によるシビアアクシデント対策及び保安院の対応 本件事故後の関連法令等の変更 炉基法(平成24年法律第47号による改正後のもの。以下「新炉基法」という。) 省令62号の改正 技術基準規則の制定 争点及び当事者の主張 被告国の責任 本件設置等許可処分の違法性 規制権限不行使の違法性の判断枠組み 省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性 原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限の有無 予見可能性 結果回避可能性 省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性 シビアアクシデント対策についての規制権限不行使の違法性 本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性 本件事故後の避難指示の違法性 本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性 相互保証 の違法性 6 本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性 7 本件事故後の避難指示の違法性 8 本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性 9 相互保証第2 被告東電の責任 1 民法709条及び民法717条1項に基づく請求の可否- 5 - 2 被告東電の過失第3 損害論(総論) 1 精神的損害 2 弁済の抗弁 3 被告東電及び被告国の共同不法行為の成否及び賠償額の差第4 損害論(各論)第4部責任論に関する当裁判所の判断第1章認定事実第1 我が国における原子炉設置許可に係る法体制 1 本件設置等許可処分当時の炉規法(以下「処分時炉規法」という。)の定め 2 本件設置等許可処分当時の体制第2 設置許可・変更許可処分 1 1号機⑴ 設置許可申請⑵ 設置許可審査及び認可 2 2号機ないし4号機⑴ 変更許可申請⑵ 変更許可申請審査及び認可第3 原子力発電所における安全対策及び電源喪失の危険性についての知見 1 原子力発電所における安全対策の考え方 2 原発施設における冷却の必要性及び非常用電源設備の重要性 3 原子力発電所における電源喪失に係る事故及び同事故を踏まえた対策⑴ 被告東電における平成3年の海水漏えい事故⑵ フランスのルブレイエ原子力発電所事故⑶ 台湾の馬鞍山原子力発電所事故⑷ インドのマドラス原子力発電所の津波による電源喪失事故- 6 - 4 国内の溢水による電源喪失についての知見⑴ 平成5年の全電源喪失事象の研究⑵ 溢水勉強会第4 地震・津波に関する知見 1 本件設置等許可処分時の地震・津波に関する知見及びその後の進展等 2 4省庁報 についての知見⑴ 平成5年の全電源喪失事象の研究⑵ 溢水勉強会第4 地震・津波に関する知見 1 本件設置等許可処分時の地震・津波に関する知見及びその後の進展等 2 4省庁報告書⑴ 策定経緯等⑵ 概要 3 7省庁手引及び津波災害予測マニュアル⑴ 策定経緯等⑵ 概要 4 津波浸水予測図⑴ 策定経緯等⑵ 概要 5 津波評価技術⑴ 策定経緯等⑵ 概要 被告東電の対応 6 長期評価⑴ 策定経緯等⑵ 概要⑶ 長期評価の性質⑷ 長期評価の信頼度について⑸ 中央防災会議に採用されなかったこと⑹ 長期評価の見解に対する専門家の評価 7 平成18年耐震設計審査指針- 7 - ⑴ 策定経緯等⑵ バックチェックルール 8 貞観津波に関する知見 9 被告東電の対応⑴ 平成6年における被告東電による津波想定⑵ 「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査」への対応について⑶ 7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針⑷ 津波評価技術に関わる検討(2002年推計)⑸ 長期評価の見解についての平成14年当時の検討⑹ 2008年推計⑺ 長期評価についての検討委託第5 本件事故後のSPEEEDI情報の活用及び公表に関する状況 1 本件事故発生直後の状況 2 3月15日以前のSPEEDIの活用・公表の状況第2章本件設置等許可処分の違法性第1 国賠法1条1項の「違法」第2 原子炉設置許可処分及び変更許可処分に係る違法性の判断基準第3 本件設置等許可処分の違法性 1 具体的審査基準 2 調査審議及び判断の過程について 3 原告ら 1条1項の「違法」第2 原子炉設置許可処分及び変更許可処分に係る違法性の判断基準第3 本件設置等許可処分の違法性 1 具体的審査基準 2 調査審議及び判断の過程について 3 原告らの主張について第4 結論第3章経済産業大臣が規制権限を行使しなかったことの違法性第1 規制権限不行使の違法性の判断枠組み第2 省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性- 8 - 1 原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限の有無 2 規制権限を定めた法令の趣旨,目的 3 被害法益の性質,重大性 4 予見可能性 5 結果回避可能性 6 規制権限行使における専門性,裁量性 7 まとめ第3 省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性第4 シビアアクシデント対策についての規制権限不行使の違法性第5 本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性第6 結論第4章被告国の本件事故後の対応の違法性第1 本件事故後の避難指示の違法性第2 本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性第5章被告国の責任に関するまとめ第6章被告東電の責任(民法709条及び民法717条1項に基づく請求の可否)第5部損害論に関する当裁判所の判断第1章認定事実第1 本件事故前の原告らの居住地等第2 本件事故後の状況 1 環境放射能状況 2 本件事故による避難者数の推移 3 本件事故後の新聞報道等の状況 4 除染状況- 9 - 5 事業所や学校等の再開状況等第3 賠償に関する各種基準の概要 1 中間指針 2 中間指針第一次追補 移 3 本件事故後の新聞報道等の状況 4 除染状況 5 事業所や学校等の再開状況等 第3 賠償に関する各種基準の概要 1 中間指針 2 中間指針第一次追補 3 中間指針第二次追補 4 中間指針第四次追補 5 避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方 6 被告東電の賠償基準 第4 放射線に関する知見等 1 ICRPの勧告の概要 2 本件事故に関するICRPの勧告 3 本件事故後の我が国の放射線防護体制等 4 IAEA国際フォローアップミッション最終報告書 5 文部科学省通知 6 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書(平成23年12月22日) 7 UNSCEAR2013年報告書 8 帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置具体化のために) 9 被ばく状況に関する調査の結果 10 本件事故による避難の合理性及び被害の分析 第2章 損害の総論に関する争点について 第1 基本的な考え方 1 はじめに 2 財産的損害 3 精神的損害 4 弁済の抗弁等について 5 中間指針等について 第2 避難の相当性について 1 帰還困難区域 2 旧居住制限区域 3 旧避難指示解除準備区域 4 旧緊急時避難準備区域 5 自主的避難等対象区域 6 区域外 7 避難の合理性に関する原告の主張について 第3 財産的損害について 1 避難費用 ⑴ 交通費 ⑵ 宿泊費・謝礼 ⑶ 引越費用 ⑷ 敷金・礼金 ⑸ 一時立入・帰省費用 ⑹ 面会交通費 2 生活費増加費用 ⑴ 家財道具購入費 ⑵ 生活費増加分 ア 光熱費 礼⑶ 引越費用⑷ 敷金・礼金⑸ 一時立入・帰省費用⑹ 面会交通費 2 生活費増加費用⑴ 家財道具購入費⑵ 生活費増加分ア光熱費イ交通費ウ通信費エ被服費オ食費- 11 - ⑶ 家賃増加分⑷ 教育費 3 就労不能損害 4 財物損害 5 生命・身体的損害 6 その他(被ばく検査費用,線量計購入費用,除染費用等)第4 精神的損害について 1 被侵害利益 2 避難に伴う慰謝料⑴ 帰還困難区域⑵ 旧居住制限区域⑶ 旧避難指示解除準備区域⑷ 旧緊急時避難準備区域⑸ 自主的避難等対象区域⑹ 区域外 3 慰謝料増額事由の有無第3章各原告の損害額第6部結論第1部請求及び事案の概要(以下使用する略語・用語については,別紙「略語・用語一覧」の例による。)第1章請求被告らは,別紙認容額等一覧表「原告番号」欄記載の各原告に対し,連帯して各原告に係る同表「請求額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成23年3月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2章事案の概要- 12 - 本件は,平成23年3月11日に発生した本件地震及びこれに伴う津波の影響で,被告東電が設置し運営する福島第一原発から放射性物質が放出されるという本件事故が発生したことにより,福島県内から愛知県,岐阜県及び静岡県へ避難を余儀なくされたと主張する者又はその相続人である原告らが,被告東電に対しては,福島第一原発の敷地高さを超える津波の発生等を予見しながら,福島第一原発の安全対策を怠ったと主張して,原賠法3条1項,民法709条又は民法717条1項に基づき 人である原告らが,被告東電に対しては,福島第一原発の敷地高さを超える津波の発生等を予見しながら,福島第一原発の安全対策を怠ったと主張して,原賠法3条1項,民法709条又は民法717条1項に基づき,被告国に対しては,経済産業大臣が被告東電に対して電気事業法に基づく規制権限を行使しなかったこと等が違法であると主張して,国賠法1条1項に基づき,各原告番号に対応する別紙認容額等一覧表「請求額」欄記載の各損害賠償金及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求めた事案である。 第2部前提事実第1 福島第一原発の施設の概要等被告東電は,福島県双葉郡大熊町及び同郡双葉町に福島第一原発を設置し,運転してきた東京電力株式会社が会社分割及び商号変更を経た株式会社であり,本件事故に関し,原賠法2条3項の「原子力事業者」である。 1 福島第一原発の概要⑴ 施設の概要,規模,性能,設置経緯等(甲A1の1・本文編9頁)福島第一原発は,福島県双葉郡大熊町及び同郡双葉町に位置し,東は太平洋に面している。敷地は海岸線に長軸を持つ半長円状の形状となっており,敷地全体の広さは約350万㎡である。福島第一原発は,被告東電が初めて建設・運転した原子力発電所であり,昭和42年4月に1号機の建設に着工して以来,順次増設を重ね,平成23年3月時点で6基の沸騰水型原子炉(BWR)を有していた。各号機の発電設備の規模,性能等については別紙1(甲A1の1・資料編Ⅱ-1)のとおりである。なお,BWRを使用した発電の仕組みは- 13 - 別紙2(甲A1の1・資料編Ⅱ-2)のとおりであり,原子炉で水を沸騰させ,発生した蒸気で直接タービンを回す構造となっている(なお,発電の仕組みの。 を使用した発電の仕組みは- 13 - 別紙2(甲A1の1・資料編Ⅱ-2)のとおりであり,原子炉で水を沸騰させ,発生した蒸気で直接タービンを回す構造となっている(なお,発電の仕組みの。 ⑵ 施設の配置,構造,高さ等(甲A1の1・本文編9,19,25,28頁,資料編Ⅱ-20)ア 1号機から4号機までは福島県双葉郡大熊町に,5号機及び6号機は同郡双葉町に設置されている。各号機の配置は,別紙3(甲A1の1・資料編Ⅱ-3)のとおりである。各号機は,原子炉建屋(R/B),タービン建屋(T/B),コントロール建屋,サービス建屋,放射性廃棄物処理建屋等から構成されている。これら建屋のうち一部については,隣接プラントと共用となっているものがある。各建屋の配置は,別紙4(甲A1の1・資料編Ⅱ-4)のとおりである。 イ 1号機ないし4号機側主要建屋設置エリアの敷地高さは,O.P.+10mであり,5号機及び6号機側主要建屋設置エリアの敷地高さは,O.P.+13mである。 福島第一原発各号機の非常用海水系ポンプ及び非常用ディーゼル発電設備冷却系ポンプが設置されている海側部分の敷地高さは,いずれもO.P.+4mである。 ⑶ 施設運営の体制等(甲A1の1・本文編9,10頁)ア通常運転時の体制平成23年3月11日現在の被告東電の組織については,別紙5(甲A1の1・資料編Ⅱ-5)のとおりである。福島第一原発には,発電所長の下に,ユニット所長2人,副所長3人が置かれており,その下に総務部,防災安全部,広報部,品質・安全部,技術総括部,第一運転管理部,第二運転管理部,第一保全部及び第二保全部が置かれている(甲A1の1・資料編Ⅱ-6参照)。また,原子炉施設の運転は,被告東電の従業員から成る当直が担当し ,品質・安全部,技術総括部,第一運転管理部,第二運転管理部,第一保全部及び第二保全部が置かれている(甲A1の1・資料編Ⅱ-6参照)。また,原子炉施設の運転は,被告東電の従業員から成る当直が担当し- 14 - ている。当直は,第一及び第二運転管理部長の下で,それぞれ1号機及び2号機,3号機及び4号機,5号機及び6号機の各担当に分かれる。各担当は,原則として,当直長1人,当直副長1人,当直主任2人,当直副主任1人,主機操作員2人及び補機操作員4人の合計11人で一つの班を構成し,更に5個班による交代制勤務をとることにより24時間体制で原子炉施設の運転に従事している(甲A1の1・資料編Ⅱ-7参照)。 次に,福島第一原発に所属する被告東電の従業員は約1100人であり,このほかに,プラントメーカーや防火,警備等を担当する協力企業の従業員が常駐しており,その数は約2000人である。なお,本件地震発生当時は,被告東電の従業員約750人が構内に勤務していたほか,4号機から6号機までの定期検査等により,常駐する協力企業の従業員数を含めて,約5600人の協力企業の従業員が構内に勤務していた。 イ緊急時の体制福島第一原発では,原災法7条1項に基づき,「福島第一原子力発電所原子力事業者防災業務計画」が定められており,原災法10条の特定事象の通報を行った場合には第1次緊急時態勢,原災法15条の特定事象の報告を行った場合又は同条の特定事象に基づく原子力災害の情勢に応じて,事故原因の除去,原子力災害の拡大の阻止その他必要な活動を迅速かつ円滑に行うとされている。 第1次緊急時態勢が発令された場合には,福島第一原発では緊急時対策本部が設置される。緊急時対策本部は,情報班,通報班,広報班,技術班,保安班,復旧班,発電班 つ円滑に行うとされている。 第1次緊急時態勢が発令された場合には,福島第一原発では緊急時対策本部が設置される。緊急時対策本部は,情報班,通報班,広報班,技術班,保安班,復旧班,発電班,資材班,厚生班,医療班,総務班及び警備誘導班により構成され,それぞれの役割に応じて原子力災害に対応する防災体制を確立することとしている(甲A1の1・資料編Ⅱ-6参照)。この体制は,第2次緊急時態勢が発令された場合においても同一である。 また,原子力施設の運転は発電班に組み込まれた当直が担い,その体制は- 15 - 通常運転時と同様である。 ⑷ 原子力発電の仕組みアウラン235などの原子核(核分裂性原子核)は,中性子を吸収するなどして不安定な状態になると,分裂して二つ以上の別の原子核(核分裂生成物)に変わるとともに,数個の中性子を放出する(核分裂反応)ことがあるが,このとき分裂前の原子核が質量として持っていた結合エネルギーの一部が新しく発生した原子核等の運動エネルギーに変わる。こうして発生した中性子は光速に近い速度を持つが,これを別の物質(減速材)に衝突させて十分に減速すれば(このように減速された中性子を熱中性子という。),別の核分裂性原子核に吸収され易くなり,核分裂反応を継続させることができる。 また,核分裂反応により発生した原子核等が周囲の物質に衝突すると,周囲の物質の熱運動を増大させる(温度を上昇させる)から,核分裂性物質の周囲を別の物質(冷却材)で満たしておけば,核分裂性物質が冷却材を暖める燃料として働き,熱エネルギーを取り出すことができる(丙A1・19ないし23頁)。 イ原子力発電においては,原子炉内で核分裂反応を発生させ,取り出した熱エネルギーを用いて水蒸気を発生させ,これを発電機のタービンに吹き付け ーを取り出すことができる(丙A1・19ないし23頁)。 イ原子力発電においては,原子炉内で核分裂反応を発生させ,取り出した熱エネルギーを用いて水蒸気を発生させ,これを発電機のタービンに吹き付けて回転させるという方法で発電している。自然界に存在するウランは,大部分(約99.3パーセント)が核分裂反応を起こし難いウラン238であり,核分裂性物質であるウラン235は約0.7パーセントにすぎない。我が国の原子力発電所では,一般に,燃料としてウラン235の濃度を数パーセントに高めた二酸化ウランを円柱状に焼き固めてペレットにして用いている(丙A1・20ないし22頁)。 ウ原子力発電所は,原子炉の出力を一定にするため,核分裂反応の量が一定に維持されるよう(臨界状態)に制御しながら運転する。BWRは,中性子を吸収するための制御棒の出し入れと,炉心を流れる冷却水の流量(再循環- 16 - 流量)の調節により,炉心の出力(核分裂反応の量)が一定になるように制御し運転する。すなわち,制御棒は,原子炉の反応度を制御するための中性子吸収材と構造材から構成されており,制御棒を燃料集合体の間に入れると中性子が吸収され,核分裂反応が抑制され,原子炉の出力が低下する。また,BWRでは冷却水中に沸騰による気泡が存在するので,再循環流量が変化すると単位体積当たりの減速材(冷却水)の量が変化する。このため,再循環流量を変化させることにより,熱中性子の量,つまり核分裂反応の量を調節することができる。そこで,運転を継続することにより燃料中のウラン235の濃度が低くなると,制御棒を若干引き抜いてこれに吸収される中性子の量を減らすとともに再循環流量を減らして中性子の量を調節し,運転時間に応じて再循環流量を増加していく(丙A1・25頁)。 原子炉施設の安全を ,制御棒を若干引き抜いてこれに吸収される中性子の量を減らすとともに再循環流量を減らして中性子の量を調節し,運転時間に応じて再循環流量を増加していく(丙A1・25頁)。 原子炉施設の安全を確保するための仕組み(甲A1の1・本文編11ないし14頁,25頁)原子炉施設には,ウランの核分裂により生じた強い放射能を持つ放射性物質が原子炉内に存在する。そこで,何らかの異常・故障等により放射性物質が施設外へ漏出することを防止するために,原子炉施設には多重防護の考え方に基づいて複数の安全機能が備え付けられている。具体的には,「異常の発生の防止」,「異常の拡大及び事故への進展の防止」及び「周辺環境への放射性物質の異常放出防止」を図ることにより周辺住民の放射線被ばくを防止することであり,「異常の拡大及び事故への進展の防止」の観点からは,異常を検出して原子炉を速やかに停止する機能(止める機能)が,「周辺環境への放射性物質の異常放出防止」の観点からは,原子炉停止後も放射性物質の崩壊により発熱を続ける燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける機能(冷やす機能)及び燃料から放出された放射性物質の施設外への過大な漏出を抑制する機能(閉じ込める機能)がそれぞれ備え付けられている。 ア止める機能(原子炉停止機能)- 17 - 原子炉を止める機能を担う設備は,原子炉停止系と呼ばれ,原子炉停止系は,原子炉に異常が発生した際に炉心における核分裂反応を停止させて出力を急速に低下させるため,炉心に大きな負の反応度を与える設備である。制御棒は,原子炉停止系の代表的な設備であり,原子炉の異常時には燃料の損傷を防ぐため急速に制御棒を炉心に挿入して,原子炉を緊急停止(スクラム)させる。また,原子炉停止系の設備であるほう酸水注入系は,ほ 御棒は,原子炉停止系の代表的な設備であり,原子炉の異常時には燃料の損傷を防ぐため急速に制御棒を炉心に挿入して,原子炉を緊急停止(スクラム)させる。また,原子炉停止系の設備であるほう酸水注入系は,ほう酸貯蔵タンク,ポンプ,テストタンク,配管,弁等から構成され,制御棒が挿入不能の場合に,原子炉に中性子吸収材であるほう酸水を注入して負の反応度を与えて原子炉を停止する機能を有する。 イ冷やす機能(原子炉冷却機能)炉心に制御棒を挿入して原子炉を停止させた場合においても,燃料棒内に残存する多量の放射性物質の崩壊により発熱が続くことから,燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける必要がある。そこで,原子炉施設には通常の給水系の他に様々な注水系が備えられている。かかる注水系は,原子炉で発生する蒸気を駆動源とするタービン駆動ポンプ又は電動ポンプにより,原子炉へ注水する。また,注水系には,原子炉が高圧の状態の場合でも注水が可能な高圧のものと,原子炉の減圧をすることによって初めて注水が可能となる低圧のものがある。 福島第一原発の各号機に設置されている原子炉冷却機能を有する主な設備は,以下のとおりである。 1号機1号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,炉心スプレイ系(CS)2系統,非常用復水器(IC)2系統,高圧注水系(HPCI)1系統,原子炉停止時冷却系(SHC)1系統及び格納容器冷却系(CCS)2系統が設置されている(甲A1の1・資料編Ⅱ-8参照)。 炉心スプレイ系(CS)とは,何らかの原因により冷却材喪失事故によ- 18 - って炉心が露出した場合に,燃料の過熱による燃料及び被覆管の破損を防ぐために,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,炉心上に取り付けら は,何らかの原因により冷却材喪失事故によ- 18 - って炉心が露出した場合に,燃料の過熱による燃料及び被覆管の破損を防ぐために,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,炉心上に取り付けられたノズルから燃料にスプレイすることによって,炉心を冷却する設備である。 非常用復水器(IC)とは,主蒸気管が破断するなどして主復水器が利用できない場合に,圧力容器内の蒸気を非常用の復水器タンクにより水へ凝縮させ,その水を炉内に戻すことによって,ポンプを用いずに炉心を冷却する設備であり,最終的な熱の逃し先は大気である。 高圧注水系(HPCI)とは,配管破断等を原因として冷却材喪失事故が発生したような場合に,圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるタービン駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク又は圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,圧力容器内へ注水することによって炉心を冷却する設備である。 原子炉停止時冷却系(SHC)とは,原子炉停止後,炉心の崩壊熱並びに圧力容器及び冷却材中の保有熱を除去して,原子炉を冷却する設備である。 格納容器冷却系(CCS)とは,冷却喪失事故が発生した際に,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,格納容器内にスプレイすることによって,格納容器を冷却する設備である。 2号機から5号機2号機から5号機までには,原子炉冷却機能を有する主な設備として,前記炉心スプレイ系(CS)2系統及び高圧注水系(HPCI)1系統のほか,原子炉隔離時冷却系(RCIC)1系統及び残留熱除去系(RHR)2系統が設置されている(甲A1の1・資料編Ⅱ-8参照)。 原子炉隔離時冷却系(RCIC)とは,原子炉停止後に何らかの原因で給水系が停止した場合等に,圧力容器から発生する蒸気の一部を RHR)2系統が設置されている(甲A1の1・資料編Ⅱ-8参照)。 原子炉隔離時冷却系(RCIC)とは,原子炉停止後に何らかの原因で給水系が停止した場合等に,圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるタ- 19 - ービン駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク又は圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,蒸気として失われた冷却材を原子炉に補給し,炉心を冷却する設備である。 残留熱除去系(RHR)とは,原子炉停止時の残留熱の除去を目的とするもので,弁の切替操作により使用モードを変え,原子炉停止時冷却系(SHC),低圧注水系(LPCI)及び格納容器冷却系(CCS)として利用できるようになっている。 6号機6号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,前記原子炉隔離時冷却系(RCIC)1系統及び残留熱除去系(RHR)3系統のほか,高圧炉心スプレイ系(HPCS)1系統及び低圧炉心スプレイ系(LPCS)1系統が設置されている(甲A1の1・資料編Ⅱ-8参照)。 高圧炉心スプレイ系(HPCS)とは,配管破断等を原因として冷却材喪失事故が発生したような場合に,復水貯蔵タンク又は圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,燃料にスプレイすることによって,炉心を冷却する。 低圧炉心スプレイ系(LPCS)とは,配管破断等を理由として冷却材喪失事故が発生したような場合に,圧力抑制室(S/C)内の水を水源として,炉心上に取り付けられたノズルから燃料にスプレイすることによって,炉心を冷却する。 非常用海水系ポンプCCS(1号機)及びRHR(2号機ないし6号機)の熱交換器を除熱するために冷却水となる海水を供給する冷却用海水ポンプを非常用海水系ポンプという。いずれの非常用海水系ポンプも作動する CCS(1号機)及びRHR(2号機ないし6号機)の熱交換器を除熱するために冷却水となる海水を供給する冷却用海水ポンプを非常用海水系ポンプという。いずれの非常用海水系ポンプも作動するためには6900Vの交流電源を必要とする。 ウ閉じ込める機能(格納機能)- 20 - 原子炉施設の潜在的な危険性は,原子炉内に蓄積される放射性物質の放射能が極めて強いことにある。したがって,放射性物質の施設外への過大な放出を防止するための機能が原子炉施設には備えられている。 格納機能を有するものの第一はペレットであるが,これは,原子炉の燃料そのものであり,化学的に安定した物質である二酸化ウランの粉末を陶器のように焼き固めたもので,放射性物質の大部分をこの中に留めることができる。 第二は,燃料棒の周りを覆う被覆管である。ペレットは,被覆管の中に納められて燃料棒を構成している。この被覆管は気密に作られており,ペレットの外に出てくる放射性物質を被覆管の中に留めることができる。 第三は,燃料棒が格納されている圧力容器である。何らかの原因により,被覆管が破損すると放射性物質が冷却材中に漏出することとなるが,圧力容器は高い圧力にも耐えられる構造となっており,また気密性も高いことから,その中に漏出した放射性物質を留めることができる。 第四は,圧力容器を包み込む格納容器である。格納容器は,鋼鉄製の容器であり,圧力容器を含む主要な原子炉施設を覆っている。 第五は,格納容器が納められている原子炉建屋(R/B)である。 ⑸ 電源設備ア外部電源設備(甲A1の1・本文編31,32頁,甲A1の2・本文編111頁,資料編Ⅱ-4-1,2)発電所の運転に必要な電気は,通常,発電所で発電された電力の一部が利用される。しかし,定期検 ア外部電源設備(甲A1の1・本文編31,32頁,甲A1の2・本文編111頁,資料編Ⅱ-4-1,2)発電所の運転に必要な電気は,通常,発電所で発電された電力の一部が利用される。しかし,定期検査中及び何らかの原因で原子炉が緊急停止(スクラム)した際など発電が停止している間については,発電所で消費される電気は,外部から供給される。 福島第一原発が受電する外部電源は,主に福島第一原発の南西約9㎞の場所に位置する東京電力猪苗代電力所新福島変電所(以下「新福島変電所」と- 21 - いう。)から供給を受けていた。 具体的には,1号機及び2号機には,新福島変電所から,大熊線1号線及び同2号線を通じて27万5000Vの電気が供給され,この電気は,1号機の原子炉建屋(R/B)の西側に設置された1・2号機超高圧開閉所(以下「1/2号開閉所」という。)を経由して,1号機及び2号機の各タービン建屋(T/B)西側に設置された起動変圧器(STr1S及びSTr2S)で6900Vに降圧され,1号機及び2号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C)(常用M/Cの一つであり,常用M/Cを介して,非常用M/Cに供給するもの。1号機の共通M/Cは1号機タービン建屋(T/B)1階に,2号機の共通M/Cの一つは2号機原子炉建屋(R/B)南側に設置された専用建屋1階に,もう一つは2号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていた。)に供給されていた。 また,1号機には,予備線として,東北電力株式会社富岡変電所から東北電力原子力線を通じて,6万6000Vの電気が供給されており,それは,福島第一原発構内の予備変電所に設置された変圧器で6900Vに降圧され,1号機の共通金属閉鎖配電盤(M/C)に供給されていた。 3号機及び4号機には,新福島変電所から大熊線3号線及び同4号 それは,福島第一原発構内の予備変電所に設置された変圧器で6900Vに降圧され,1号機の共通金属閉鎖配電盤(M/C)に供給されていた。 3号機及び4号機には,新福島変電所から大熊線3号線及び同4号線を通じて27万5000Vの電気が供給され,この電気は,3号機の原子炉建屋(R/B)の西側に設置された3・4号機超高圧開閉所を経由して,3号機のタービン建屋(T/B)西側に設置された起動変圧器(STr3SA及びSTr3SB)で6900Vに降圧され,3号機及び4号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C,3号機及び4号機のコントロール建屋(C/B)地下1階に設置されていた。)に供給されていた。 1号機用の共通金属閉鎖配電盤(M/C)と2号機用との間,2号機用と3,4号機用との間は,相互に接続され,電力融通が可能であった(甲A1の2・資料編Ⅱ-4-1,丙A5の1・Ⅳ-30頁)。 - 22 - 5号機及び6号機には,新福島変電所から夜の森線1号線及び同2号線を通じて6万6000Vの電気が供給され,この電気は,6号機原子炉建屋(R/B)の西側に設置された5・6号機66kV開閉所(以下「66kV開閉所」という。)を経由して,5号機及び6号機のコントロール建屋(C/B)西側に設置された起動変圧器(STr5SA及びSTr5SB)で6900Vに降圧され,5号機及び6号機の各共通金属閉鎖配電盤(M/C,5号機及び6号機のコントロール建屋(C/B)地下1階に設置されていた。)に供給されていた。 イ非常用ディーゼル発電機(DG)(甲A1の1・本文編27,28頁,434頁)非常用ディーゼル発電機(DG)は,外部電源が喪失したときに原子炉施設に交流電源(6900V)を供給するための非常用予備電源設備であり,ディーゼルエンジンで駆動する発電機である。非常用ディ 4頁)非常用ディーゼル発電機(DG)は,外部電源が喪失したときに原子炉施設に交流電源(6900V)を供給するための非常用予備電源設備であり,ディーゼルエンジンで駆動する発電機である。非常用ディーゼル発電機(DG)は,非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)に電源を供給し,外部電源が喪失した場合でも,原子炉を安全に停止するために必要な電力を供給する。 本件事故の発生時点の福島第一原発には,非常用ディーゼル発電機(DG)が各号機2台ずつ各号機専用として設置されていた。 非常用ディーゼル発電機(DG)には,海水冷却式(水冷式)のものと空気冷却式(空冷式)のものがあり,水冷式のものには,これを冷却するための海水ポンプが付属している。2号機B系,4号機B系及び6号機B系は空冷式であり,これら以外は全て水冷式であった(6号機にはさらに高圧炉心スプレイ系(HPCS)用1台が設置されていた。)。 1号機,3号機及び5号機については,空冷式非常用ディーゼル発電機(DG)が設置されていなかったが,1号機については2号機の空冷式非常用ディーゼル発電機(DG)による電源の融通を,3号機については4号機の空冷式非常用ディーゼル発電機(DG)による電源の融通を,5号機について- 23 - は6号機の空冷式非常用ディーゼル発電機(DG)による電源の融通をそれぞれが受けることができる仕組みになっていた。 各号機に設置されている非常用ディーゼル発電機(DG)の設置場所は,別紙6(甲A1の1・資料編Ⅱ-21)の表1のとおりであり,水冷式の非常用ディーゼル発電機(DG)に付属する冷却用海水ポンプの設置場所は,別紙7(甲A1の1・資料編Ⅱ-20)のDGSWポンプ記載のとおりである。 ウ金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)(甲A1の1・本文編30頁 属する冷却用海水ポンプの設置場所は,別紙7(甲A1の1・資料編Ⅱ-20)のDGSWポンプ記載のとおりである。 ウ金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)(甲A1の1・本文編30頁)金属閉鎖配電盤(M/C)とは,6900Vの所内高電圧回路に使用される動力用電源盤で,遮断器,保護継電器,付属計器等を収納したものであり,常用,共通及び非常用の3系統に分かれて設備されている。 パワーセンター(P/C)とは,金属閉鎖配電盤(M/C)から変圧器を経て降圧された480Vの所内低電圧回路に使用される動力用電源盤で,遮断器,保護継電器,付属計器を収納したものであり,常用,共通及び非常用の3系統から成る。 常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,通常運転時に使用される設備に接続されているものであり,そのうち,隣接号機等への給電にも用いられている系統を共通系という。 非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,外部電源が喪失した際に非常用ディーゼル発電機(DG)から電気が供給され,非常時に使用する設備及び通常運転時に使用する設備のうち非常時にも使用するものに接続されている。 各号機に設置されている非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)の設置場所及び設置高さは,別紙6(甲A1の1・資料編Ⅱ-21)の表2のとおりである。 - 24 - 2 福島第一原発の設置許可処分又は変更許可処分,運転開始⑴ 設置許可処分又は変更許可処分(争いのない事実)福島第一原発1号機ないし4号機の設置許可処分又は変更許可処分(以下「本件設置等許可処分」という。)は,以下のとおりされた。 ① 1号機昭和41年12月1日設置許可処分② 2号機昭和43年3月29日変更許可処分 分又は変更許可処分(以下「本件設置等許可処分」という。)は,以下のとおりされた。 ① 1号機昭和41年12月1日設置許可処分② 2号機昭和43年3月29日変更許可処分③ 3号機昭和45年1月23日変更許可処分④ 4号機昭和47年1月13日変更許可処分⑵ 運転開始及びその後の運転状況被告東電は,前記のとおり,福島県双葉郡双葉町及び大熊町に福島第一原発を建設し,昭和46年3月に1号機,昭和49年7月に2号機,昭和51年3月に3号機,昭和53年4月に5号機,同年10月に4号機,昭和54年10月に6号機の運転をそれぞれ開始し,平成23年3月時点で,1号機から6号機までの合計6機の沸騰水原子炉(BWR)が完成していた(甲A1の1・資料編Ⅱ-1)。 本件事故発生前までに,福島第一原発について,法令・通達に基づいて被告国に対して報告されたトラブルは,1号機54件,2号機51件,3号機31件,4号機20件,5号機21件,6号機29件の合計206件であった(丙A16)。また,福島第一原発において,運転開始から平成23年2月末までに,1号機については26回,2号機については25回,3号機ないし5号機についてはいずれも24回,6号機については22回の定期検査が実施されている(丙A17)。 第2 本件事故の概要 1 本件地震とそれに伴う本件津波の発生⑴ 本件地震の概要(甲A1の1・本文編15,16頁)平成23年3月11日午後2時46分,三陸沖を震源とするマグニチュード- 25 - (以下「M」という。)9.0の本件地震が発生した。震源は,牡鹿半島の東南東約130㎞付近(北緯38°06.2’,東経142°51.6’),深さ約24㎞である。本件地震は,国内観測史上 - (以下「M」という。)9.0の本件地震が発生した。震源は,牡鹿半島の東南東約130㎞付近(北緯38°06.2’,東経142°51.6’),深さ約24㎞である。本件地震は,国内観測史上最大規模であり,宮城県栗原市で震度7,宮城県,福島県,茨城県及び栃木県の4県37市町村で震度6強を観測したほか,東日本を中心に,北海道から九州地方にかけての広い範囲で震度6弱から震度1を観測した。 気象庁は,本件地震を「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」と命名した。また,政府は,本件地震による災害について「東日本大震災」と呼称することを閣議了解した。 本件地震は,西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で,太平洋プレートと陸のプレートの境界の広い範囲で破壊が起きたことにより発生した。 地震活動は,本震-余震型で推移しており,M7.0以上の余震が5回,M6.0以上の余震が82回,M5.0以上の余震が506回発生するなど余震活動は非常に活発であった。 余震は,岩手県沖から茨城県沖にかけての北北東-南南西方向に延びる長さ約500㎞,幅約200㎞の範囲に密集して発生しているほか,震源域に近い海溝軸の東側,福島県及び茨城県の陸域の浅い場所も含めた広い範囲で発生している。観測された最大余震は,平成23年3月11日午後3時15分に茨城県沖で発生したM7.7の地震である。 ⑵ 本件津波の概要(甲A1の1・本文編16頁)本件地震により,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に,北海道から沖縄県にかけての広い範囲で津波を観測した。 各地の津波観測施設では,福島県相馬で高さ9.3m,宮城県石巻市鮎川で高さ8.6mなど,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に非常に高い津波が観測されたほか 広い範囲で津波を観測した。 各地の津波観測施設では,福島県相馬で高さ9.3m,宮城県石巻市鮎川で高さ8.6mなど,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に非常に高い津波が観測されたほか,北海道から鹿児島にかけての太平洋沿岸や小笠原諸島で1m以上の津波を観測した。 - 26 - 気象庁が,津波観測施設及びその周辺地域において,各地の津波による被害や津波の到達状況等について現地調査を実施したところ,岩手県沿岸では10mを超える津波が到達していたことが判明したほか,北海道から四国に至る太平洋沿岸各地で数mの津波の痕跡を観測した。 本件地震に伴う津波は,カナダ,アメリカ合衆国(以下「米国」という。),中南米等の太平洋沿岸においても観測され,米国,チリ等では最大高さ2mを超える津波が観測されている。 ⑶ 本件地震とそれに伴う本件津波による被害の概観(甲A1の1・本文編16,17頁)国土地理院の調査によれば,本件津波による浸水範囲面積は,宮城県が327㎢と最も大きく,次いで福島県が112㎢,岩手県が58㎢となっており,青森県,岩手県,宮城県,福島県,茨城県及び千葉県の6県62市町村の浸水範囲面積の合計は561㎢である。本件地震及びそれに伴う本件津波により,1都1道10県で死者1万5840人,6県で行方不明者3547人,1都1道18県で負傷者5951人の人的被害が発生している(平成23年12月1日現在)。 ⑷ 福島第一原発の被災状況の概要(甲A1の1・本文編17ないし19頁)ア本件地震発生直前の福島第一原発の運転状況1号機は,定格電気出力一定運転を行っており,地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は25℃であった。 2号機及び3号 直前の福島第一原発の運転状況1号機は,定格電気出力一定運転を行っており,地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は25℃であった。 2号機及び3号機は,定格熱出力一定運転を行っており,地震発生前の当直による確認では,使用済燃料プールの水位はいずれも満水,2号機のプール水温は26℃,3号機のプール水温は25℃であった。 4号機は,平成22年11月30日から定期検査中であり,シュラウド取替え等の圧力容器内の工事が予定されていたことから全燃料が圧力容器から使用済燃料プールに取り出されていた。また,地震発生前の当直による確- 27 - 認では,使用済燃料プールの水位は満水,水温は27℃であった。 5号機は,平成23年1月3日から定期検査中であり,原子炉では燃料が装荷され,かつ,制御棒が全挿入された状態で圧力容器内に窒素を封入する耐圧漏えい試験を実施しており,原子炉圧力が7.2MPa まで昇圧されていた。また,地震発生前の当直による確認で使用済燃料プールの水位は満水,水温は24℃であった。 6号機は,平成22年8月14日から定期検査中であり,原子炉は燃料が装荷され,かつ,制御棒が全挿入された冷温停止状態であった。また,地震発生前の当直による確認で使用済燃料プールの水位は満水,水温は25℃であった。 イ福島第一原発で観測された地震動及び津波 地震動本件地震に際し,福島第一原発が位置する福島県双葉郡大熊町及び双葉町において観測された最高震度は6強であり,震度5弱以下の余震が多数回観測された。なお,地震情報の詳細は別紙8(甲A1の1・資料編Ⅱ-10)のとおりである。福島第一原発では,敷地地盤,各号機の原子炉建屋(R/B)及び 最高震度は6強であり,震度5弱以下の余震が多数回観測された。なお,地震情報の詳細は別紙8(甲A1の1・資料編Ⅱ-10)のとおりである。福島第一原発では,敷地地盤,各号機の原子炉建屋(R/B)及びタービン建屋(T/B)並びに地震観測室に地震計を設置し,計53か所で地震動の観測を行っている。これらの地震計により得られた観測記録のうち,各号機の原子炉建屋(R/B)基礎版上で得られた最大加速度は別紙9(甲A1の1・18頁表Ⅱ-1)のとおりである。 観測記録によると,2号機,3号機及び5号機において,東西方向の最大加速度が基準地震動(Ss)に対する最大応答加速度値を上回っている。 津波本件津波の第1波は,平成23年3月11日午後3時27分頃,福島第一原発に到達している。また,第2波は,同日午後3時35分頃に到達しており,その後も断続的に福島第一原発に津波が到達している。これらの- 28 - 津波により,福島第一原発の海側エリア及び主要建屋設置エリアはほぼ全域が浸水した。浸水域,浸水高及び浸水深の詳細は別紙10(甲A1の1・資料編Ⅱ-11)のとおりである。 1号機から4号機側主要建屋設置エリアの浸水高(小名浜港工事基準面(O.P.)からの浸水の高さ)は,O.P.+約11.5mないし+約15.5mであった。同エリアの敷地高はO.P.+10mであることから,浸水深(地表面からの浸水の高さ)は約1.5mないし約5.5mであった。同エリアの南西部では,局所的に,O.P.+約16mないし+約17mの浸水高が確認されており,浸水深は約6mないし約7mであった。また,5号機及び6号機側主要建屋設置エリアの浸水高は,O.P. +約13mないし+約14.5mであった。同エリアの敷地高はO.P. +13mであることから, おり,浸水深は約6mないし約7mであった。また,5号機及び6号機側主要建屋設置エリアの浸水高は,O.P. +約13mないし+約14.5mであった。同エリアの敷地高はO.P. +13mであることから,浸水深は約1.5m以下であった。 2 本件事故の発生状況⑴ 地震発生から津波到達前までの各号機の稼働状況等(甲A1の1・本文編17,28,30,32ないし34,215,236頁,丙A5の1・Ⅳ-76)平成23年3月11日午後2時46分頃,本件地震が発生し,地震発生後1分以内に,1号機,2号機及び3号機の原子炉は自動停止した。4号機は,本件地震発生当時施設定期検査中であり,使用済み燃料プールには比較的崩壊熱の高い燃料が1炉心分貯蔵されていた。 また,1号機及び2号機については,大熊線1号線系統の1/2号開閉所内の遮断器の損傷,大熊線2号線系統の1/2号開閉所内遮断機及び断路器の損傷及び東北電力原子力線系統のケーブル不具合により,3号機及び4号機については,大熊線3号線系統及び大熊線4号系統の新福島変電所の遮断器の作動停止により,いずれの号機においても外部電源が喪失した。 このため,同日午後2時47分頃から同日午後2時49分頃までの間に,定期検査中であった4号機A系を除いて,全ての非常用ディーゼル発電機(DG)- 29 - が起動し,各号機へ非常用電源が供給された。 なお,非常用ディーゼル発電機(DG)が給電している非常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,地震による損傷を受けなかった。他方で,共通系を含む常用の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,地震発生とほぼ同時に外部電源の供給が停止されたことから,その機能を喪失するに至った。 ⑵ 津波到達後の各号機のディーゼル発電機(DG)の機能( 閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)は,地震発生とほぼ同時に外部電源の供給が停止されたことから,その機能を喪失するに至った。 ⑵ 津波到達後の各号機のディーゼル発電機(DG)の機能(甲A1の1・本文編28,29頁)津波到達後,1号機から6号機までに設置された13台の非常用ディーゼル発電機(DG)のうち,2号機B系,4号機B系及び6号機B系を除いた全ての非常用ディーゼル発電機(DG)が機能を喪失した。各非常用ディーゼル発電機(DG)の被害状況は以下のとおりである。 ア 1号機1号機A系及びB系は,1号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていたことから,津波により非常用ディーゼル発電機(DG)そのものが被水し,機能を喪失した。 イ 2号機2号機A系は,2号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていたところ,津波により非常用ディーゼル発電機(DG)が被水し,機能を喪失した。また,2号機B系については,運用補助共用施設(以下「共用プール」という。)1階に設置されていたことから,非常用ディーゼル発電機(DG)の被水は免れた。ただし,その給電する金属閉鎖配電盤(M/C)の損傷・機能の状態については,後記⑶アのとおり。 ウ 3号機3号機A系及びB系については,3号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていたことから,津波により非常用ディーゼル発電機(DG)が- 30 - 被水し,機能を喪失した。 エ 4号機4号機A系については,定期検査中であったことから,機能していない状況であった。4号機B系については,共用プール1階に設置されていたことから,非常用ディーゼル発電機(DG)の被水は免れた。ただし,その給電する金属閉鎖配電盤(M/C)の損傷・機能の状態については,後記⑶ あった。4号機B系については,共用プール1階に設置されていたことから,非常用ディーゼル発電機(DG)の被水は免れた。ただし,その給電する金属閉鎖配電盤(M/C)の損傷・機能の状態については,後記⑶アのとおり。 オ 5号機5号機A系及びB系については,5号機タービン建屋(T/B)地下1階に設置されており,非常用ディーゼル発電機(DG)は被水しなかったものの,冷却用海水ポンプ又は電源盤の被水により機能を喪失した。 カ 6号機6号機A系及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)用については,6号機原子炉建屋(R/B)地下1階に設置されており,非常用ディーゼル発電機(DG)の被水は免れた。しかし,非常用ディーゼル発電機(DG)の冷却に必要な冷却用海水ポンプが被水したことから機能を喪失した。B系については,ディーゼル発電機6B建屋1階に設置されており,津波による被害を受けず,機能を維持していた。 ⑶ 津波到達後の各号機の金属閉鎖配電盤(M/C)及びパワーセンター(P/C)の機能(甲A1の1・本文編30,31頁)ア金属閉鎖配電盤(M/C)1号機から6号機までに設置された15台の非常用金属閉鎖配電盤(M/C)のうち,6号機原子炉建屋(R/B)に設置されていた6号機C系,D系及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)用を除く全ての金属閉鎖配電盤(M/C)が津波により被水し,機能を喪失した。 イパワーセンター(P/C)- 31 - 1号機から6号機までに設置された15台の非常用のパワーセンター(P/C)のうち,2号機タービン建屋(T/B)1階に設置されていた2号機C系及びD系,4号機タービン建屋(T/B)1階に設置されていた4号機D系,6号機原子炉建屋(R/B)地下2階に設置されていた6号機C系,原子炉建屋(R/B)地下1 /B)1階に設置されていた2号機C系及びD系,4号機タービン建屋(T/B)1階に設置されていた4号機D系,6号機原子炉建屋(R/B)地下2階に設置されていた6号機C系,原子炉建屋(R/B)地下1階に設置されていた6号機D系及び6号機ディーゼル発電機専用建屋地下1階に設置されていた6号機E系を除く全てのパワーセンター(P/C)が,津波により被水し,機能を喪失した。 ⑷ 津波到達後の各号機の稼働状況等上記⑵及び⑶のとおり,津波到達後間もなく,非常用ディーゼル発電機(DG)や電源盤の多くが津波により被水し,それらの機能を喪失するに至った結果,1号機から5号機は全交流電源を喪失するに至った。加えて,1号機及び2号機では直流電源も喪失する全電源喪失の状態となった。(甲A1の1・本文編34頁)ア 1号機1号機は,全電源喪失の状態となったことにより,制御盤上の操作による非常用復水器(IC)の隔離弁の操作ができない状態となり,高圧注水系(HPCI)も起動不能となった。また,この時期に原子炉格納容器冷却系,機器の冷却に必要な非常用海水系も機能喪失し,炉心の冷却が不可能となった。(甲A1の1・本文編92ないし94頁)平成23年3月11日午後5時30分頃までには,炉心上部が露出し,更にその1時間後には炉心損傷が始まり,水素の発生も起こり始めていた(甲A2・146頁,丙A5の1・Ⅳ-40頁)。さらに,同日午後9時50分頃には,放射性物質が,充満した原子炉格納容器から原子炉建屋(R/B)への流出を既に開始していた(甲A2・145,146頁)。 同月12日午後3時36分頃,水素ガスによる爆発が原子炉建屋(R/B)内で起き,原子炉建屋(R/B)の屋根及び5階部分の外壁が吹き飛び,原- 32 - 子炉建屋(R/B)内に充満していた放射性物質も 2日午後3時36分頃,水素ガスによる爆発が原子炉建屋(R/B)内で起き,原子炉建屋(R/B)の屋根及び5階部分の外壁が吹き飛び,原- 32 - 子炉建屋(R/B)内に充満していた放射性物質も拡散した(甲A1の1・本文編165頁,甲A1の2・本文編47頁)。 イ 2号機2号機は,平成23年3月11日午後3時36分頃から,津波の影響を受けて,残留熱除去系(RHR)ポンプが運転を順次停止したことにより,残留熱除去系の機能が喪失,崩壊熱を最終ヒートシンクである海に移行させることができない状態となった。さらに,同月14日午後1時25分頃,原子炉隔離時冷却系(RCIC)が停止した。同日午後6時22分には,炉心が完全に露出したが,その後,消防車による海水の注入が開始され,原子炉圧力の上昇と降下が反復され,同日午後9時20分に2台の逃し安全弁(SR弁)を開くことで原子炉の減圧を加速し,これが効を奏して原子炉圧力容器への注水が進むようになった。このような中,同月15日午前6時頃,圧力抑制室(S/C)付近において水素爆発によるものと思われる衝撃音が確認された。原子炉建屋(R/B)には外観上損傷はないが,隣接する廃棄物処理建屋の屋根が破損していることが確認された。これらの過程で放射性物質が放出された。(甲A2・149,150頁,丙A5の1・Ⅳ-51,52頁)ウ 3号機3号機は,平成23年3月11日午後3時38分頃には,津波の影響を受けて,残留熱除去系(RHR)ポンプが運転を順次停止したことにより,残留熱除去系の機能が喪失,崩壊熱を最終ヒートシンクである海に移行させることができない状態となった。もっとも,3号機は,バックアップ用の蓄電池により,他号機と比較して長時間,直流電源を要する負荷(原子炉隔離時冷却系(RCIC)弁や記 終ヒートシンクである海に移行させることができない状態となった。もっとも,3号機は,バックアップ用の蓄電池により,他号機と比較して長時間,直流電源を要する負荷(原子炉隔離時冷却系(RCIC)弁や記録計等)に電流を供給した。 しかし,原子炉隔離時冷却系(RCIC)が,同月12日午前11時36分に停止し,同日午後零時35分に高圧注水系(HPCI)が自動起動した- 33 - が,それも同月13日午前2時42分に停止した。そのため,原子炉への注水手段がなくなり,原子炉圧力が急上昇し,同日午前4時15分頃には炉心の露出が始まった。同日午前9時25分頃から消防車による注水が開始されたものの,同月14日午前11時1分,原子炉建屋(R/B)上部での水素爆発と思われる爆発が発生し,オペレーションフロアから上部全体とオペレーションフロア1階下の南北の外壁及び廃棄物処理建屋が損壊した。これらの過程で放射性物質が放出された。(甲A2・148頁,丙A5の1・Ⅳ-63ないし65頁)エ 4号機4号機は,定期検査中であり,原子炉内から全燃料を使用済燃料プールに取り出した状態であった。4号機は,津波の影響により,平成23年3月11日午後3時38分頃には全交流電源喪失の状態となり,使用済燃料プールの冷却機能及び補給水機能が喪失した。これにより,同月14日午前4時8分には水温が84℃に上昇し,同月15日午前6時頃,原子炉建屋(R/B)において水素爆発と思われる爆発が発生し,オペレーションフロア1階下から上部全体と西側と階段沿いの壁面が損壊した。(丙A5の1・Ⅳ-76,77頁) 3 放射性物質の拡散本件事故により拡散した放射性物質の状況は以下のとおりであった。 ⑴ 保安院は,平成23年4月12日,事故の重大さを0から7の8段階にレベル分け -76,77頁) 3 放射性物質の拡散本件事故により拡散した放射性物質の状況は以下のとおりであった。 ⑴ 保安院は,平成23年4月12日,事故の重大さを0から7の8段階にレベル分けした国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)に基づき,本件事故を「レベル7(深刻な事故)」と評価したことを公表した(甲A1の1・本文編348,349頁)。 ⑵ 保安院は,福島第一原発1号機ないし3号機から大気中に放出された放射性物質の総量を推計し,平成23年4月12日と6月6日の2回にわたり,その結果を公表した。6月6日に公表された総量は,ヨウ素131が約16万テラ- 34 - ベクレル,セシウム137が約1.5万テラベクレルであり,これらのヨウ素換算値は約77万テラベクレルとなる。また,原子力安全委員会も,大気中に放出された放射性物質の総量を推計し,同年4月12日と8月24日の2回にわたり,その結果を公表した。8月24日に公表された総量は,ヨウ素131が約13万テラベクレル,セシウム137が約1.1万テラベクレルであり,これらのヨウ素換算値は約57万テラベクレルとなる。(甲A1の1・本文編37,38,345,346頁) 4 避難指示,避難区域の設定等⑴ 被告東電は,平成23年3月11日午後4時36分頃,原災法(平成24年法律第47号による改正前のもの。以下同じ。)15条1項の特定事象(同法施行規則21条1号ロ参照)が発生したと判断し,同日午後4時45分頃,保安院に対し,その旨報告した(甲A1の2・本文編192,193頁,丙A113・3ないし6頁,丙A114・2,3頁)。 ⑵ 保安院は,本件事故が原災法15条1項に規定する原子力緊急事態に該当すると判断し,平成23年3月11日午後5時35分頃,保安院次長らは,原災法15条2項 3ないし6頁,丙A114・2,3頁)。 ⑵ 保安院は,本件事故が原災法15条1項に規定する原子力緊急事態に該当すると判断し,平成23年3月11日午後5時35分頃,保安院次長らは,原災法15条2項に基づく原子力緊急事態宣言を発出することにつき,経済産業大臣の了承を得た(甲A1の2・本文編193頁,丙A113・3ないし6頁,丙A114・2,3頁)。 ⑶ 経済産業大臣は,平成23年3月11日午後5時42分頃,保安院長らとともに,内閣総理大臣に対し,原災法15条1項に規定する原子力緊急事態の発生について報告するとともに,原子力緊急事態宣言の発出について了承を求めた(甲A1の2・本文編193頁,丙A113・3ないし6頁,丙A114・3,4頁)。 ⑷ 内閣総理大臣は,平成23年3月11日午後7時3分,原災法15条2項に基づき,福島第一原発について,原子力緊急事態宣言を発出し,同法16条1項に基づき,内閣総理大臣を本部長とする原災本部及び原子力災害現地対策本- 35 - 部を設置した(甲A1の2・本文編193,194,229頁)。 ⑸ 福島県災害対策本部は,原子力緊急事態宣言を受け,通常の原子力防災訓練で行うこととなっている原子力発電所から半径2㎞圏内に避難指示を発出することを検討し,福島県知事は,平成23年3月11日午後8時50分,双葉町及び大熊町に対し,福島第一原発から半径2㎞圏内の居住者等に対する避難指示を要請した。ただし,この要請は,法令に基づくものではなく,事実上の措置として行われたものである。(甲A1の2・本文編229頁)⑹ 原災本部は,平成23年3月11日午後9時23分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径3㎞圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び福島第一原 本部は,平成23年3月11日午後9時23分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径3㎞圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び福島第一原発から半径10㎞圏内の居住者等に対して屋内退避を指示した(甲A1の2・本文編230頁,乙B15)。 ⑺ 原災本部は,平成23年3月12日午前5時44分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径10㎞圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示した(甲A1の2・本文編230頁)。 ⑻ 内閣総理大臣は,平成23年3月12日午前7時45分,原災法15条2項に基づき,福島第二原発について,原子力緊急事態宣言を発出し,同条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発から半径3㎞圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び半径10㎞圏内の住民の屋内退避を指示した(甲A1の2・本文編232頁)。 ⑼ 原災本部は,平成23年3月12日午後5時39分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発から半径10㎞圏内の住民の避難を指示した(甲A1の2・本文編233頁,乙B16)。 ⑽ 原災本部は,平成23年3月12日午後6時25分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径20㎞圏- 36 - 内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示した(甲A1の1・本文編265頁,甲A1の2・本文編231頁,乙B17)。 ⑾ 原災本部は,平成23年3月15日午前11時,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内の居住者等に対しての屋内退避 ,乙B17)。 ⑾ 原災本部は,平成23年3月15日午前11時,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内の居住者等に対しての屋内退避を指示した(甲A1の1・本文編266頁,甲A1の2・本文編232頁,乙B18)。 ⑿ 南相馬市は,平成23年3月16日,市民の生活の安全確保等を理由として,その独自の判断に基づき,南相馬市の住民に対し,一時避難を要請した(乙B1の1・8頁)。 ⒀ 原災本部は,平成23年4月21日,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第二原発に係る避難指示の対象区域を,福島第二原発から半径10㎞圏内から半径8㎞圏内に変更(縮小)することを指示した。これにより,福島第二原発についての避難区域は,全て福島第一原発についての避難区域に含まれることとなった。(甲A1の1・本文編266,267頁,甲A1の2・本文編233頁,乙B19) 5 警戒区域の設定等⑴ 原災本部は,平成23年4月21日午前11時,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,福島第一原発から半径20㎞圏内を警戒区域(原災法28条2項により読み替えて適用される災対法63条1項の規定による警戒区域)に設定し,緊急事態応急対策に従事する者以外の者に対して,市町村長が一時的な立入りを認める場合を除き,当該区域への立入りを禁止するとともに,当該区域からの退去を命ずることを指示し,同月22日午前零時,福島第一原発から半径20㎞圏内は,警戒区域に設定された(別紙11参照)。なお,警戒区域への立入制限に違反する場合には,10万円以下の罰金又は拘留の刑罰が科されることになる。(甲A1の1・本文編276頁,乙B20)- 37 - ⑵ 原災本部は,平成2 参照)。なお,警戒区域への立入制限に違反する場合には,10万円以下の罰金又は拘留の刑罰が科されることになる。(甲A1の1・本文編276頁,乙B20)- 37 - ⑵ 原災本部は,平成23年4月22日午前9時44分,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,以下のとおりの指示をした(甲A1の1・本文編273頁,乙B21)。 ア福島第一原発から半径20㎞から30㎞圏内の地域について,屋内退避指示を解除することイ葛尾村,浪江町,飯舘村,川俣町の一部及び南相馬市の一部であって,福島第一原発から半径20㎞圏内の区域を除く区域を計画的避難区域に設定したので,当該区域内の居住者等は,原則として概ね1か月程度の間に順次当該区域外へ避難のための立ち退きを行うことウ広野町,楢葉町,川内村,田村市の一部及び南相馬市の一部であって,福島第一原発から半径20㎞圏内の区域を除く区域を緊急時避難準備区域に設定したので,当該区域内の居住者等は,常に緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこと,なお,当該区域においては,引き続き自主的避難をし,特に子供,妊婦,要介護者,入院患者等は当該区域内に入らないようにすること,また,当該区域においては,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,その場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくこと⑶ 原災本部は,本件事故発生以降1年間の積算線量が20mSv に達するおそれのある地点を特定避難勧奨地点とする方針を決め,対象となる市町村と協議した上,平成23年6月30日,同年7月21日,同年8月3日及び同年11月25日,原災 年間の積算線量が20mSv に達するおそれのある地点を特定避難勧奨地点とする方針を決め,対象となる市町村と協議した上,平成23年6月30日,同年7月21日,同年8月3日及び同年11月25日,原災法20条3項に基づき,伊達市霊山町,月舘町及び保原町における117地点128世帯,川内村1地点1世帯並びに南相馬市原町区及び鹿島区における142地点153世帯を,特定避難勧奨地点に設定し,関係地方公共団体に通知した(甲A1の1・本文編275頁,乙B23,24の1・2・- 38 - 4・6ないし8)。 6 警戒区域及び計画的避難区域の見直し等⑴ 原災本部は,平成23年8月9日,「避難区域等の見直しに関する考え方」を公表した。ここでは,緊急時避難準備区域については,ステップ1(安定的な冷却)の達成により原子力発電所の状況が著しく改善し,安全性の確認ができたことから,それぞれの市町村において復旧計画の策定が完了した段階で,政府として緊急時避難準備区域を一括して解除する方針が示された。また,警戒区域及び計画的避難区域については,ステップ2(冷温停止状態)を達成し,放射性物質の放出が一層厳格に管理された時点で,警戒区域の縮小の可否及び計画的避難区域の見直しについて検討することとされた。(乙B265)⑵ 原災本部は,平成23年9月30日,緊急時避難準備区域を解除した(乙B22)。 ⑶ 原災本部は,平成23年12月16日,福島第一原発の1号機ないし3号機について,冷温停止状態(圧力容器底部及び格納容器内の温度がおおむね100℃以下になっており,格納容器からの放射性物質の放出を管理し,追加的放出による公衆被ばく線量を大幅に抑制し,環境注水冷却システムの中期的安全が確保されている状態)の達成,使用済燃料プールのより安定的な冷却の確保,滞留水全 容器からの放射性物質の放出を管理し,追加的放出による公衆被ばく線量を大幅に抑制し,環境注水冷却システムの中期的安全が確保されている状態)の達成,使用済燃料プールのより安定的な冷却の確保,滞留水全体量の減少,放射性物質の飛散抑制などの目標が達成されていることから,「放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を公表した(乙B25,26)。 ⑷ 原災本部は,平成23年12月26日,「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を公表し,①警戒区域を基本的に解除する手続に入る方針を明らかにし,また,②年間積算線量が20mSv 以下となることが確実であることが確認された地域を避難指示解除準備区域に,年間積算線量が20mSv を超えるおそれがあり,住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続すること- 39 - を求める地域を居住制限区域に,5年間を経過してもなお,年間積算線量が20mSv を下回らないおそれのある,現時点で年間積算線量が50mSv 超の地域を帰還困難区域に,それぞれ設定する方針を明らかにした。また,除染,インフラ復旧,雇用対策,損害賠償等についても国が積極的に関与していくこととした。(乙B26)⑸ 「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」原災本部は,平成25年12月20日,「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を公表した(乙B266)。 同指針において,①国が率先して行う個人線量水準の情報提供,測定の結果等の丁寧な説明なども含めた個人線量の把握・管理,②個人の行動による被ばく低減に資する線量マップの策定や復興の動きと連携した除染の推進などの被ばく低減対策の展開,③保健師等による身近な ,測定の結果等の丁寧な説明なども含めた個人線量の把握・管理,②個人の行動による被ばく低減に資する線量マップの策定や復興の動きと連携した除染の推進などの被ばく低減対策の展開,③保健師等による身近な健康相談等の保健活動の充実や健康診断等の着実な実施などの健康不安対策の推進,④住民にとって分かりやすく正確なリスクコミュニケーションの実施,⑤帰還する住民の被ばく低減に向けた努力等を身近で支える相談員制度の創設,その支援拠点の整備などの対策を通じ,住民が帰還し,生活する中で,個人が受ける追加被ばく線量を,長期目標として,年間1mSv 以下になることを目指していくとした。 ⑹ 「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂原災本部は,平成27年6月12日,「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂を公表した(乙B46)。 ア同指針において,避難指示解除の要件は次のとおりとされていた。 空間線量率で推定された年間積算線量が20mSv 以下になることが確実であること電気,ガス,上下水道,主要交通網,通信等日常生活に必須のインフラや医療・介護・郵便等の生活関連サービスが概ね復旧すること,子供の生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること- 40 - 県,市町村,住民との十分な協議イまた,同指針において詳述しない内容については,「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」に基づいた対応を継続するとされ,除染,モニタリング,健康問題への対応,情報公開等の対策を行い,避難している住民が帰還し,生活する中で,個人が受ける追加被ばく線量を,長期目標として,年間1mSv 以下になることを引き続き目指していくとされていた(乙B46,266)。 7 避難指示区域等の解除⑴ 平成24年4月1日午前零時,田村市における平 被ばく線量を,長期目標として,年間1mSv 以下になることを引き続き目指していくとされていた(乙B46,266)。 7 避難指示区域等の解除⑴ 平成24年4月1日午前零時,田村市における平成23年3月12日に設定された避難指示区域が避難指示解除準備区域に見直され,平成23年4月21日に設定された警戒区域が解除された(乙B112の1)。 ⑵ 平成24年8月10日,楢葉町において設定されていた福島第一原発から20㎞圏内の避難指示区域が避難指示解除準備区域に見直され,福島第一原発から20㎞圏内の警戒区域は解除された(乙B113)。 ⑶ 平成24年12月14日,川内村及び伊達市において設定されていた特定避難勧奨地点が解除された(乙B24の3・5)。 ⑷ 平成26年4月1日午前零時,田村市において平成23年3月12日に設定された避難指示解除準備区域が解除された(乙B112の2)。 ⑸ 平成26年10月1日午前零時,川内村において設定されていた避難指示解除準備区域が解除され,居住制限区域が避難指示解除準備区域に再編された(乙B111の3)。 ⑹ 平成26年12月28日,南相馬市において設定されていた特定避難勧奨地点が解除された(乙B24の9)。 ⑺ 平成27年9月5日午前零時,楢葉町において設定されていた避難指示解除準備区域が解除された(乙B108)。 ⑻ 平成28年6月12日午前零時,葛尾村において設定されていた居住制限区- 41 - 域及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B107)。 ⑼ 平成28年6月14日午前零時,川内村において設定されていた避難指示解除準備区域が解除された(乙B107)。 ⑽ 平成28年7月12日午前零時,南相馬市において設定されていた居住制限区域及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B107 おいて設定されていた避難指示解除準備区域が解除された(乙B107)。 ⑽ 平成28年7月12日午前零時,南相馬市において設定されていた居住制限区域及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B107)。 ⑾ 平成29年3月31日午前零時,川俣町,飯舘村及び浪江町において設定されていた居住制限区域及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B109,110,300ないし302)。 ⑿ 平成29年4月1日午前零時,富岡町において設定されていた居住制限区域及び避難指示解除準備区域が解除された(乙B302)。 8 SPEEDIについて⑴ SPEEDIとは(甲A1の1・本文編257,258頁)SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)とは,原子力発電所等の周辺環境における放射性物質の大気中濃度,被ばく線量等を,放出源情報,気象条件及び地形データを基に迅速に予測するシステムであり,SPEEDI計算の前提となる放出源情報は,緊急時対策支援システム(以下「ERSS」という。)が提供することとされている。 ERSSとは,原子力事業者から送られてくる原子炉内の状況等に関する情報に基づき,事故の状態,その後の事故進展等をコンピュータにより解析・予測するシステムであり,その際,予測される放射性物質の放出量がSPEEDIに受け渡される。 「防災基本計画」では,文部科学省が,SPEEDIを平常時から適切に整備,維持するとともに,オフサイトセンターへの接続等必要な機能の充実を図ることとしており,特定事象(原災法10条1項前段の規程により通報を行うべき事象)発生の通報を受けた場合,文部科学省は,直ちにSPEEDIを緊急時モードとし,放射能影響予測等を実施し,予測結果を関係省庁等に共有す- 42 - ることとし 段の規程により通報を行うべき事象)発生の通報を受けた場合,文部科学省は,直ちにSPEEDIを緊急時モードとし,放射能影響予測等を実施し,予測結果を関係省庁等に共有す- 42 - ることとしている。 政府の「原子力災害対策マニュアル」(丙A115)(以下「原災マニュアル」という。)は,実用炉において事故が発生した場合,保安院は,ERSSを起動して放出源情報を把握し,文部科学省等に連絡することとしており,文部科学省は,この放出源情報を基に,財団法人原子力安全技術センター(以下「原子力安全技術センター」という。)に設置されたSPEEDIの計算機により放射能影響予測を実施し,その結果を保安院,原子力安全委員会,関係都道府県,オフサイトセンター等に提供することとされている。 ⑵ 本件事故当時のSPEEDIに関する規定ア災対法及び原災法にはSPEEDIに関する直接の規定はなく,その取扱いは防災基本計画(丙A117)及び防災指針(丙A118)に規定され,具体的な運用については,「原災マニュアル」(丙A115)及び「環境放射線モニタリング指針」(以下「モニタリング指針」という。丙A120)に定められていた(丙A115,117,118,120)。 イ本件事故当時の防災基本計画(丙A117)では,SPEEDIに関し,「災害応急体制の整備」の一環として,安全規制担当省庁において,庁舎内に電話回線,ファクシミリ,テレビ会議システム,SPEEDI,ERSS等必要な資機材を備えた十分な広さを有するオペレーションセンターを整備・維持するものとされ(丙A117・255頁),文部科学省において,SPEEDIを平常時から適切に整備,維持するとともに,対策拠点施設への接続等必要な機能の拡充を図り(丙A117・256頁),特定事象発 持するものとされ(丙A117・255頁),文部科学省において,SPEEDIを平常時から適切に整備,維持するとともに,対策拠点施設への接続等必要な機能の拡充を図り(丙A117・256頁),特定事象発生の通報を受けた場合,直ちにSPEEDIを緊急時モードとして,放射能影響予測等を実施し,安全規制担当省庁,関係都道府県の端末に転送するとともに,関係省庁の迅速な応急対策の実施に資するため,予測結果を関係省庁に伝達するものとされていた(丙A117・270頁)。 防災指針(丙A118)においては,「緊急時予測支援システムの整備・- 43 - 維持」として,SPEEDI,ERSS等の整備を進めることが重要であり,あらかじめ国,地方公共団体,原子力事業者等の間で十分に協議し,平常時から各種システムのネットワーク化や緊急時の際の協力体制を整えておくことが必要であるとされ(丙A118・10頁),防護対策を執るための一つの指標となる予測線量は,異常事態の態様,放射性物質又は放射線の放出状況,緊急時モニタリング情報,気象情報,SPEEDI等から推定することとされていた(丙A118・21,22頁)。 ウ SPEEDIの具体的な運用について,原災マニュアル(丙A115)では,文部科学省は,原災法10条に基づく通報を受けた場合,原子力安全技術センターに対し,直ちにSPEEDIを緊急時モードとして,原子力事業者又は安全規制担当省庁からの放出源情報が得られ次第,放射能影響予測を実施するよう指示し,その結果を安全規制担当省庁,関係道府県,原子力安全委員会及びオフサイトセンターの端末に転送するとともに,関係省庁の迅速な応急対策の実施のため,予測結果を関係省庁に連絡することとされた(丙A115・15頁)。また,原子力安全委員会作成のモニタリング指針 会及びオフサイトセンターの端末に転送するとともに,関係省庁の迅速な応急対策の実施のため,予測結果を関係省庁に連絡することとされた(丙A115・15頁)。また,原子力安全委員会作成のモニタリング指針(丙A120)では,以下のとおりの詳細な運用方法が示されていた(丙A120・51,52頁)。 事故発生直後一般に,事故発生後の初期段階において,放出源情報を定量的に把握することは困難であるため,単位放出量又は予め設定した値による計算を行う。SPEEDIの予測図形を基に,監視を強化する方位や場所及びモニタリングの項目等の緊急時モニタリング計画を策定する。 放出源情報が得られた場合緊急時の初期において,防護対策を検討するために早期入手が望まれる計算結果は,特に風速場図形,空気吸収線量率図形(又は空気カーマ率図形)及び外部被ばくによる実効線量分布図形であり,これらの図形の作成・- 44 - 配信を優先して行う必要がある。また,放射性ヨウ素,ウラン若しくはプルトニウムの放出あるいはそのおそれのある場合には吸入による等価線量分布図形も重要である。 これらの計算に必要な放出源情報は,①原子力緊急事態発生日時,サイト名,発生施設,発生した特定事象の種類,②放出開始時刻又は放出開始予想時刻,③実効放出高さ,④放出核種及び放出量,⑤放出(予想)継続時間,放出時間変化,⑥原子炉施設にあっては,原子炉停止時刻及びその時の平均燃焼度である。中央情報処理機関は,これらの放出源情報が得られたら,オンラインで収集している気象情報を用い,SPEEDIによる予測計算を行い,計算により得られた予測図形を配信する。配信された予測図形は,避難,屋内退避等の防護対策の検討に用いる。 緊急時モニ インで収集している気象情報を用い,SPEEDIによる予測計算を行い,計算により得られた予測図形を配信する。配信された予測図形は,避難,屋内退避等の防護対策の検討に用いる。 緊急時モニタリング情報が得られた場合緊急時モニタリングの結果が得られた場合には,当該結果と予測図形を用いて,防護対策の検討,実施に用いる各種図形を作成する。 放出終息後放出源情報及び気象状況等から,SPEEDIによる予測計算を行い,緊急時モニタリング結果とあわせて空気吸収線量率分布図等を作成し,周辺住民の被ばく線量評価に資する。 ⑶ 本件事故発生直後のSPEEDIに関する事実経過(甲A1の1・本文編253,258ないし263頁,甲A1の2・本文編191頁)ア本件地震が発生した後の平成23年3月11日午後3時42分頃,福島第一原発の全交流電源が喪失の状態となったことから,被告東電から保安院等に対し,原災法10条に基づく通報が行われた。 イ文部科学省は,平成23年3月11日午後4時40分,SPEEDIを管理する原子力安全技術センターに対し,SPEEDIシステムの緊急時モードへの切替えを指示した。これを受けて,原子力安全技術センターは,同日- 45 - 午後4時49分,SPEEDIを緊急時モードへ切り替えるとともに,原子力安全委員会作成の「モニタリング指針」(丙A120)に基づき,福島第一原発から1Bq/h の放射性物質の放出があったと仮定し,同日午後4時以降の気象データ等を用いて1時間ごとの放射性物質の拡散予測を行う計算を開始した。原子力安全技術センターは,文部科学省の指示により,単位量放出を仮定した定時計算の予測結果を,同省,ERC,原子力安全委員会,オフサイトセンター,福島県庁及びJAEAに送付 測を行う計算を開始した。原子力安全技術センターは,文部科学省の指示により,単位量放出を仮定した定時計算の予測結果を,同省,ERC,原子力安全委員会,オフサイトセンター,福島県庁及びJAEAに送付し,オフサイトセンターに隣接する原子力センターからの送付依頼があったため,同日午後11時頃,当時断続的に使用できた電子メールを用いて,同センターに対して一度だけ定時計算結果を送付した。 ウ文部科学省は,平成23年3月12日から同月16日にかけて,様々な放出源情報を仮定した38件のSPEEDI計算を行い,計算結果をEOC内部で共有するとともに,一部の計算結果をERC及び原子力安全委員会に送付した。 エ原子力安全委員会は,平成23年3月12日夜,原子力安全技術センターに計算を依頼し,同センターから受け取った計算結果を,同委員会内部にいた同委員会委員,緊急技術助言組織のメンバー及び同委員会事務局職員で共有した。ただし,原子力安全委員会は,当該計算結果を外部には共有しなかった。 オ保安院は,平成23年3月11日から同月15日にかけて,本件事故による放射性物質の拡散傾向の把握等を目的として,様々な仮定の放出源情報を入力して45件のSPEEDI予測計算を行った。得られた予測結果は,ERC内の各機能班で共有するとともに,最初の数例については,官邸及びオフサイトセンターに送付した。保安院は,福島第一原発1号機からの放射性物質の流出による影響を予測するため,原子力安全技術センターに対してSPEEDI予測を依頼し,同月12日午前1時半過ぎ,当該計算結果を官邸- 46 - 地下に詰めていた保安院職員に送付し,これを受け取った保安院職員は,この計算結果を内閣官房職員に渡し,内閣官房職員は,官邸地下にいた各省職員に共有を図った。ただし,保安院は, 邸- 46 - 地下に詰めていた保安院職員に送付し,これを受け取った保安院職員は,この計算結果を内閣官房職員に渡し,内閣官房職員は,官邸地下にいた各省職員に共有を図った。ただし,保安院は,それ以前に同院が行ったSPEEDI計算結果について,あくまで仮定の放出源情報に基づく計算結果であることから信頼性が低い旨を記載した補足資料を作成し,官邸に送付していた。 同月12日未明に前記計算結果を保安院職員から受け取った内閣官房職員は,この計算結果を単なる参考情報にすぎないものとして扱い,内閣総理大臣等への報告は行わなかった。また,保安院も,独自にこれを内閣総理大臣等に報告することはしなかった。 カ文部科学省は,平成23年3月15日,同省政務三役に対してSPEEDI計算に関する説明を行うため,全量一回放出(炉内に存在する全ての放射性物質が一度に放出されること)等を仮定したSPEEDI及びより広範囲をカバーする世界版SPEEDI(WSPEEDI)の計算結果を,政務三役が出席した省内協議に提出したが,SPEEDIの計算結果等の公表の要否について具体的な決定はされなかった。 キ平成23年3月16日午前,官邸において,内閣官房長官の下で協議が行われ,福島第一原発から20㎞以遠の陸域において各機関がモニタリングカーを用いて実施しているモニタリングデータの取りまとめ及び公表は文部科学省が,これらのモニタリングデータの評価は安全委員会が,同委員会が行った評価に基づく対応は原災本部が,それぞれ行うとの役割分担が決められた。この役割分担の取決めを受け,同日以降,福島県庁に所在する国の現地対策本部は,現地対策本部が取りまとめたモニタリングデータを,ERC及びEOCの両方に送付することとし,文部科学省は,これらのデータを集約の上,評価を行う安全委員会に 降,福島県庁に所在する国の現地対策本部は,現地対策本部が取りまとめたモニタリングデータを,ERC及びEOCの両方に送付することとし,文部科学省は,これらのデータを集約の上,評価を行う安全委員会に送付するとともに,同日から,取りまとめたデータの公表を開始した。また,安全委員会は,同委員会が行ったモニタリングデータの評価結果をERC,EOC及び官邸に送付するなどして関係- 47 - 省庁と共有した。 ク平成23年3月16日,文部科学省政務三役会議において,上記キの官邸における各省庁のモニタリングの役割分担に関する協議結果によれば,文部科学省はモニタリングの評価を行わないことになったのであるから,今後はSPEEDIの運用・公表はモニタリングデータの評価を行うことになった原子力安全委員会において行うべきであると決定された。この文部科学省の決定に関する連絡を受け,原子力安全委員会は,SPEEDIが原子力安全委員会に移管されたわけではないが,今後は,文部科学省に計算依頼を行わなくとも,同委員会がSPEEDIを用いた計算を行うことができるようになったと理解し,SPEEDIの運用を開始した。 ケ放出源情報が得られない状況下でのSPEEDIを用いた放出源情報の推定とは,SPEEDIの単位量放出計算によって得られる特定地点の放射線量の予測値と,実際のモニタリングによって同地点で得られた実測値を比較し,その比率を単位放出量に掛け合わせて,実際に放出量を算出推定するというものである。原子力安全委員会は,平成23年3月15日以前に収集されたモニタリングデータや文部科学省等に依頼して新たに得られたデータを分析し,計算に使用できるデータを選別し,その結果,同月23日午前9時頃,同月11日から同月24日までの福島第一原発周辺の積算線量等に関する予測 データや文部科学省等に依頼して新たに得られたデータを分析し,計算に使用できるデータを選別し,その結果,同月23日午前9時頃,同月11日から同月24日までの福島第一原発周辺の積算線量等に関する予測計算結果を得た。そして,原子力安全委員会は,当該結果を官邸に報告し,同月23日午後9時頃,記者会見を開催し,当該計算結果を公表した(丙A122)。原子力安全委員会は,その後も,同年4月10日,同月25日及び同月27日の3回にわたり,3月23日以降に得られたモニタリングデータを用いて精度を上げた逆推定によるSPEEDI計算結果等を公表した。 コ文部科学省,保安院,原子力安全委員会等が様々な仮定をおいて行った計算については,混乱を招くおそれがあるため非公開とされていたが,報道等- 48 - において,これらの公表に関する関心が集まっていたことなどから,被告国は,同年4月25日に全てのSPEEDIの予測計算結果を公表することを決定し,同年5月3日までに各機関のホームページにおいてこれらが公表された。 第3 関連法令等の要旨 1 総論我が国の原子力安全に関する法体系は,最も上位にあって,我が国の原子力利用に関する基本的理念を定義する原子力基本法の下,原子力安全規制に関する法律として,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法),電気事業法,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律等が整備されている。また,原子力防災体制に関する法律として,原子力災害対策特別措置法(原災法)等の原子力の安全を確保するために必要な法律が整備されている。 法律以外にも,原子力委員会又は原子力安全委員会が安全審査を行う際に用いるために策定された各種指針類があり,それは規制行政庁の安全審査においても用いられていた。 2 原子力基 整備されている。 法律以外にも,原子力委員会又は原子力安全委員会が安全審査を行う際に用いるために策定された各種指針類があり,それは規制行政庁の安全審査においても用いられていた。 2 原子力基本法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)⑴ 目的(1条)原子力の研究,開発及び利用を推進することによって,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。 ⑵ 基本方針(2条)原子力の研究,開発及び利用は,平和の目的に限り,安全の確保を旨として,民主的な運営の下に,自主的にこれを行うものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする。 3 旧炉規法⑴ 目的(1条)- 49 - 原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制等を行うことを目的とする。 なお,平成24年改正(同年法律第47号による。)後は,原子炉施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設の外へ放出されること等の災害を防止すること及び大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行うことを明記している。 ⑵ 原子炉設置の許可(23条1項)原子炉を設置 ること等の災害を防止すること及び大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行うことを明記している。 ⑵ 原子炉設置の許可(23条1項)原子炉を設置しようとする者は,原子炉の区分に応じて,主務大臣の許可を受けなければならないとしており,福島第一原発に設置されている原子炉のような,発電の用に供する原子炉(実用発電用原子炉)については,経済産業大臣の許可を必要としていた(1号)。 ⑶ 設置許可の基準(24条)主務大臣(実用発電用原子炉の場合,経済産業大臣)は,原子炉の設置の許可の申請が,①原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと,②許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと,③事業者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること,④原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること,に適合していると認めるときでなければ,許可をしてはならないとされて- 50 - いた(1項)。 また,主務大臣は,設置の許可をする場合においては,あらかじめ,上記①,②及び③(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会に,上記③(技術的能力に係る部分に限る。)及び④に規定する基準の適用については原子力安全委員会の意見を聴かなければならないものとしていた(2項)。 ⑷ 炉規法の一部適用除外(73条)電気事業法の適用による検査等を受ける実用発電用原子炉については,炉規法の定める設計及び工事の方法の認可,使用前検査,溶接の方法及び検査並び 項)。 ⑷ 炉規法の一部適用除外(73条)電気事業法の適用による検査等を受ける実用発電用原子炉については,炉規法の定める設計及び工事の方法の認可,使用前検査,溶接の方法及び検査並びに施設定期検査の規定(27ないし29条)適用を除外していた。 4 安全設計審査指針等(甲A1の1・本文編367頁,丙A9,14)⑴ 発電用軽水型原子炉の設置許可申請に係る安全審査において,自然現象等の外的事象に対して用いられる設計規定として,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(以下「安全設計審査指針」という。)が存在する。 これは,最初は原子力委員会(当時)が昭和45年4月に定めたものであり,その後昭和52年6月に,原子力委員会(当時)が,これを全面的に見直して改訂を行った。昭和52年の安全設計審査指針の改定以降,軽水炉の技術の改良及び進歩には著しいものがあり,米国で発生したスリーマイルアイランド原子力発電所の事故等の様々な事象から得られた教訓や,軽水炉に関する経験の蓄積を踏まえ,平成2年8月30日付け原子力安全委員会決定により全面改訂がされた。なお,平成2年に改訂された上記安全設計審査指針は,平成13年3月29日に一部改訂がされた(以下,同改訂後の安全設計審査指針を「平成13年安全設計審査指針」という。)。その詳細は,後記第4の4のとおりである。 ⑵ 耐震については,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として,「発電用原子炉施設に関する耐- 51 - 震設計審査指針」(以下「耐震設計審査指針」という。)が存在する。その詳細は,後記第4の5及び6のとおりである。 5 電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)⑴ 目的(1条)電気事 以下「耐震設計審査指針」という。)が存在する。その詳細は,後記第4の5及び6のとおりである。 5 電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)⑴ 目的(1条)電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによって,電気の使用者の利益を保護し,及び電気事業の健全な発達を図るとともに,電気工作物の工事,維持及び運用を規制することによって,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ることを目的とする。 ⑵ 事業用電気工作物の維持(39条)事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない(1項)(技術基準維持義務)。 また,この経済産業省令は,次に掲げるところによらなければならないとし(2項),①事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること(同項1号),②事業用電気工作物は,他の電気的設備その他の物件の機能に電気的又は磁気的な障害を与えないようにすること(同項2号),③事業用電気工作物の損壊により一般電気事業者の電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすること(同項3号),④事業用電気工作物が一般電気事業の用に供される場合にあっては,その事業用電気工作物の損壊によりその一般電気事業に係る電気の供給に著しい支障を生じないようにすること(同項4号)と定められていた。 福島第一原発に設置されている原子炉は,事業用電気工作物に当たるところ,経済産業省令において,技術基準が定められており,同原子炉の場合,省令62号がこれに当たる。 ⑶ 技術基準適合命令(40条)経済産業大臣は,事業用電気工作物が同法39条1項の経済産業省令で定め- 52 - る技術基準に適合していないと 合,省令62号がこれに当たる。 ⑶ 技術基準適合命令(40条)経済産業大臣は,事業用電気工作物が同法39条1項の経済産業省令で定め- 52 - る技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。 ⑷ 工事計画(47条)事業用電気工作物の設置又は変更の工事であって,公共の安全の確保上特に重要なものとして経済産業省令で定めるものをしようとする者は,その工事の計画について経済産業大臣の認可を受けなければならない(1項本文)。 経済産業大臣は,認可の申請に係る工事の計画が,①その事業用電気工作物が39条1項の経済産業省令で定める技術基準に適合しないものでないこと,②事業用電気工作物が一般電気事業の用に供される場合にあっては,その事業用電気工作物が電気の円滑な供給を確保するため技術上適切なものであること,③特定対象事業に係るものにあっては,その特定対象事業に係る46条の17第2項の規定による通知に係る評価書に従っているものであること,④環境影響評価法2条3項に規定する第二種事業(特定対象事業を除く。)に係るものにあっては,同法4条3項2号(中略)の措置がとられたものであること,のいずれにも適合していると認めるときは,認可をしなければならない(3項)。 ⑸ 使用前検査(49条)47条1項の認可を受けて設置の工事をする事業用電気工作物であって,公共の安全の確保上特に重要なものとして経済産業省令で定めるものは,その工事について経済産業省令で定めるところにより経済産業大臣の検査を受け,これに合格した後でなければ る事業用電気工作物であって,公共の安全の確保上特に重要なものとして経済産業省令で定めるものは,その工事について経済産業省令で定めるところにより経済産業大臣の検査を受け,これに合格した後でなければ,これを使用してはならない(1項本文)。 1項の検査においては,その事業用電気工作物が,①その工事が47条1項の認可を受けた工事の計画に従って行われたものであり,②39条1項の経済産業省令で定める技術基準に適合しないものでないときは,合格とする(2- 53 - 項)。 6 省令62号⑴ 電気事業法による委任電気事業法39条1項による委任に基づき,省令第62号が定められている(甲B116,丙A89)。なお,福島第一原発は,発電用原子炉のうち実用発電用原子炉に当たり,同原子炉については,平成25年6月,「実用発電用原子炉及び附属施設の技術水準に関する規則」(原子力規制委員会規則第6号。 以下「技術基準規則」という。)が制定されており,実用発電用原子炉に関しては,省令62号の内容は,上記規則に引き継がれている。 ⑵ 4条1項(防護施設の設置等,防護措置等)ア平成17年経済産業省令第68号による改正前(平成18年1月1日施行前)原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が地すべり,断層,なだれ,洪水,津波又は高潮,基礎地盤の不同沈下等により損傷を受けるおそれがある場合は,防護施設の設置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。 イ平成23年経済産業省令第53号による改正前(平成23年10月7日施行前)原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地す 平成23年経済産業省令第53号による改正前(平成23年10月7日施行前)原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震を除く。)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。 ウ平成23年経済産業省令第53号による改正後(平成23年10月7日施行後)原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気ター- 54 - ビン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震及び津波を除く。)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。 なお,津波については,5条の2に規定が新設された。その内容は,後記第8の2のとおりである。 ⑶ 5条(耐震性)原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備は,これらに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない(1項)。 ⑷ 33条(保安電源設備)非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性,及び独立性を有し,その系統を構成する機械器具の単一故障が発生した場合であっても,運転時の異常な過渡変化時又は一次冷却材喪失等の事故時において工学的安全施設等の設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならない(4項)。 ⑸ 8条(原子炉施設)原子炉施設に属する設備 は一次冷却材喪失等の事故時において工学的安全施設等の設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならない(4項)。 ⑸ 8条(原子炉施設)原子炉施設に属する設備であって,蒸気タービン,ポンプ等の損壊に伴う飛散物により損傷を受け,原子炉施設の安全性を損なうことが想定されるものには,防護施設の設置その他の損傷防止措置を講じなければならない(4項)。 7 原賠法⑴ 目的(1条)原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。 ⑵ 定義(2条)- 55 - 原子力損害とは,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう(2項本文)。 原子力事業者には,炉規法23条1項の許可を受けた者を含む(3項1号)。 ⑶ 無過失責任,責任の集中等(3,4条)原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる(3条1項本文)。 前条の場合においては,同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は,その損害を賠償する責めに任じない(4条1項)。 8 原災法原子力災害の特殊性にかんがみ,原子力災害の予防に関する原子力事業者の義務等,原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実施その他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより,炉規法,災 の予防に関する原子力事業者の義務等,原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実施その他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより,炉規法,災対法(昭和36年法律223号)その他原子力災害の防止に関する法律と相まって,原子力災害に対する対策の強化を図り,もって原子力災害から国民の生命,身体及び財産を保護することを目的とする(1条)。 この法律では,原子力災害の予防に関する原子力事業者の義務,原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置,緊急事態応急対策の実施,原子力災害事後対策など原子力災害への対応に特化した規定が置かれており,その他一般的な災害対策は災対法において規定されている。 第4 安全審査に関する各種指針 1 発電用軽水型原子炉施設などに関する各種の指針炉規法に基づく原子炉の安全規制に関しては,直接の規制権限は主務大臣(実用発電用原子炉については経済産業大臣)に属するが,実際の規制は,原子力委- 56 - 員会又は原子力安全委員会の策定する各種の指針類が,経済産業大臣等による規制権限行使の基準としての役割を果たすべきものとして予定されている(旧炉規法24条2項)。これらの指針類のうち,発電用軽水型原子炉施設などに関する主なものは,以下のとおりである(甲A1の1・本文編365頁)。 立地に関する指針原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやす 設計に関する指針発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針 安全評価に関する指針発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関 発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針 安全評価に関する指針発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針 線量目標値に関する指針発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針 2 昭和39年原子炉立地審査指針(丙A8)同指針は,万一の事故に関連してその立地条件の適否を判断するための原子炉立地審査指針を定めるとともに,当該指針を適用する際に必要な放射線量等に関する暫定的な判断のめやすを定めるものである。基本的な考え方として,原子炉は,どこに設置されるにしても,事故を起こさないように設計,建設,運転及び保守を行わなければならないことは当然のことであるが,なお万一の事故に備えて,公衆の安全を確保するためには,原則的立地条件として,①大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないこと,また,災害を拡大するような事象も少ないこと,②原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること,③原子炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じ得る環境にあることを挙げる。 - 57 - また,基本的目標として,a敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,技術的見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故(以下「重大事故」という。)の発生を仮定しても,周辺の公衆に放射線障害を与えないこと,bさらに,重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない事故(以下「仮想事故」という。)(例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動 与えないこと,bさらに,重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない事故(以下「仮想事故」という。)(例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し,それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと,cなお,仮想事故の場合にも,国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいことを挙げている。 3 昭和45年安全設計審査指針(丙A9)同指針は,敷地の自然条件に対する設計上の考慮及び耐震設計についての指針を定めた上で,炉心設計,計測制御設備,原子炉冷却材圧力バウンダリ(起動停止を含む原子炉の通常運転時に原子炉冷却材の存在する範囲のもののうち,苛酷な事故条件下で弁等により隔離されて圧力障壁を形成する範囲をいう。),工学的安全施設,非常用電源設備,核燃料貯蔵施設,放射性廃棄物処理施設及び放射線監視施設についての設計に係る審査基準を定めている。 「敷地の自然条件に対する設計上の考慮」(指針2.2)同指針は,「敷地の自然条件に対する設計上の考慮」として,①「当該設備の故障が,安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系および機器は,その敷地および周辺地域において過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力に耐え得るような設計であること。」,②「安全上重大な事故が発生したとした場合,あるいは確実に原子炉を停止しなければならない場合のごとく,事故による結果を軽減もしくは抑制するために安全上重要かつ必須の系及び機器は,その敷地および周辺地域において,過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計である かつ必須の系及び機器は,その敷地および周辺地域において,過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計であるこ- 58 - と。」を求めている。 その解説(動力炉安全設計審査指針解説)においては,「予測される自然条件」とは,「敷地の自然環境をもとに,地震,洪水,津浪,風(または台風)凍結,積雪等から適用されるもの」をいい,「自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力」とは,「対象となる自然条件に対応して,過去の記録の信頼性を考慮のうえ,少なくともこれを下まわらない苛酷なものを選定して設計基礎とすること」をいうとされている。 「耐震設計」(指針2.3)同指針は,「耐震設計」として,「原子炉施設は,その系および機器が地震により機能の喪失や破損を起こした場合の安全上の影響を考慮して重要度により適切に耐震設計上の区分がなされ,それぞれ重要度に応じた適切な設計であること。」を求めている。 その解説では,耐震設計について,「重要度により適切に耐震設計上の区分がなされ」とは,すなわち,①その機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのあるもの及び原子炉事故の際に放射線障害から公衆を守るために必要なもの(Aクラス),②高放射性物質に関連するものでAクラスに属する以外のもの(Bクラス)並びに③Aクラス及びBクラスに属する以外のもの(Cクラス)により,建物,機器設備が分類されることを指し,Aクラスのうち原子炉格納容器,原子炉停止装置は,Aクラスに適用される地震力を上回る地震力について機能の維持が出来ることを検討することを求めている。 「非常用電源設備」(指針7)同指針は,「非常用電源設備」については,単一動的機 クラスに適用される地震力を上回る地震力について機能の維持が出来ることを検討することを求めている。 「非常用電源設備」(指針7)同指針は,「非常用電源設備」については,単一動的機器の故障を仮定しても,工学的安全施設や安全保護系等の安全上重要かつ必須の設備が,所定の機能を果たすに十分な能力を有するもので,独立性及び重複性を備えた設計であることを求めている。 その解説では,①「単一動的機器の故障」の対象には,非常用内部電源設備- 59 - では,これを構成する遮断器,制御回路の操作スイッチ,リレー,非常用発電機等のうちいずれか一つのものの不作動や故障をとるものとされ,②「所定の機能を果たすに十分な能力を有するもの」とは,原子炉緊急停止系,工学的安全施設等の事故時の安全確保に必要な設備を,それぞれが必要な時期に要求される機能が発揮できるように作動させ得るような容量を具備することをいい,③「独立性および重複性」とは,単一動的機器の故障を仮定した場合にも,要求される安全確保のための機能が害されることのないよう,非常用発電機を2台とするなどにより,十分な能力を有する系を2つ以上とし,かつ,一方が不作動となるような不利な状況下においても,他方に影響を及ぼさないように回路の分離,配置上の隔離などによる独立性の確保が設計基礎とされることをいうとされている。 4 平成13年安全設計審査指針(丙A14,弁論の全趣旨) 指針の改定経緯昭和45年安全設計審査指針は,その後の技術的知見の進展を踏まえ,昭和52年6月にその全面改訂が行われた。その後,軽水炉の技術の改良及び進歩には著しいものがあり,米国で発生したスリーマイルアイランド原子力発電所の事故等の様々な事象から得られた教訓や,軽水炉に関する経験の蓄積 月にその全面改訂が行われた。その後,軽水炉の技術の改良及び進歩には著しいものがあり,米国で発生したスリーマイルアイランド原子力発電所の事故等の様々な事象から得られた教訓や,軽水炉に関する経験の蓄積を踏まえ,平成2年8月30日付け原子力安全委員会決定により全面改訂がされた。 この改訂に当たっては,昭和54年から平成2年までの間に66回にわたり,原子力工学の専門家等から成る原子炉安全基準専門部会設計小委員会において,最新の科学的知見を踏まえた議論がされた。なお,平成13年3月29日に国際放射線防護委員会による1990年勧告を受けて一部改訂がされたが(平成13年安全設計審査指針),その内容に大きな変更はない。 指針の内容平成13年安全設計審査指針は,発電用軽水型原子炉に関する経験と最新の技術的知見に基づき,発電用軽水型原子炉に係る安全審査に当たって確認すべ- 60 - き安全設計の基本方針を定めたものである。 同指針は,原子炉施設全般(指針1ないし10),原子炉及び原子炉停止系(指針11ないし18),原子炉冷却系(指針19ないし27),原子炉格納容器(指針28ないし33),安全保護系(指針34ないし40),制御室及び緊急時施設(指針41ないし46),計測制御系及び電気系統(指針47及び48),燃料取扱系(指針49ないし51),放射性廃棄物処理施設(指針52ないし55),放射線管理(指針56ないし59)から構成されている。 同指針2において,「自然現象に対する設計上の考慮」として,①安全機能を有する構築物,系統及び機器は,その安全機器の重要度及び地震によって機能の喪失を起こした場合の安全上の影響を考慮して,耐震設計上の区分がなされるとともに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられる設計であること 統及び機器は,その安全機器の重要度及び地震によって機能の喪失を起こした場合の安全上の影響を考慮して,耐震設計上の区分がなされるとともに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられる設計であること,②安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること,重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であることを求めていた。同指針の解説においては,「予想される自然現象」とは,敷地の自然環境を基に,洪水,津波,風,凍結,積雪,地滑り等から適用されるものをいうとされ,「自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件」とは,対象となる自然現象に対応して,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下回らない苛酷なものであって,かつ,統計的に妥当とみなされるものをいい,過去の記録,現地調査の結果等を参考にして,必要のある場合には,異種の自然現象を重畳させるものとされ,「自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合」とは,最も苛酷と考えられる自然力と事故時の最大荷重を単純に加算することを必ずしも要求するものではなく,それぞれの因果関係や時間的変化を考慮して適切に組み合わせた場合をいうとされている。 - 61 - 同指針27において,「電源喪失に対する設計上の考慮」として,原子炉施設は,短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であることを求めていた。同指針の解説においては,「長期間にわたる全交流動力電源喪失は,送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない。非常用交流電源設備の信 できる設計であることを求めていた。同指針の解説においては,「長期間にわたる全交流動力電源喪失は,送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない。非常用交流電源設備の信頼度が,系統構成又は運用(常に稼働状態にしておくことなど)により,十分高い場合においては,設計上全交流動力電源喪失を想定しなくてもよい。」とされている。 同指針48.3において,非常用所内電源系は,多重性又は多様性及び独立性を有し,その系統を構成する機器の単一故障を仮定しても,①運転時の異常な過渡変化時において,燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えることなく原子炉を停止し,冷却すること,②原子炉冷却材喪失等の事故時の炉心冷却を行い,かつ,原子炉格納容器の健全性並びにその他の所要の系統及び機器の安全機能を確保することを確実に行うのに十分な容量及び機能を有する設計であることを求めていた。そして,「独立性」とは,「二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないこと」と定義され,解説において,「共通要因」とは,「二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因であって,例えば環境の温度,湿度,圧力,放射線等による影響因子,及び系統又は機器に供給される電力,電気,油,冷却水等による影響因子をいう」と定義されていた。 5 平成13年耐震設計審査指針(丙A15の1・2,弁論の全趣旨)発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針は,発電用軽水型原子炉施設の設置許可申請に係る安全審査のうち,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として昭和53年9月29日に原子力委員会が定めたものである。その後,昭和56 置許可申請に係る安全審査のうち,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として昭和53年9月29日に原子力委員会が定めたものである。その後,昭和56年7月20日の改訂に- 62 - おいて静的地震力の算定法等について見直しを行い,さらに,平成13年3月29日に国際放射線防護委員会による1990年勧告を受けて一部改訂がされたが,その内容に大きな変更はない(平成13年耐震設計審査指針)。同指針には,地震随伴現象に対する規定は存在しなかった。 6 平成18年耐震設計審査指針(丙A15の2,弁論の全趣旨) 策定経緯原子力安全委員会は,昭和56年以降の地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積等を踏まえ,平成13年6月,原子力安全基準専門部会に対し,耐震安全性に係る安全審査指針類について必要な調査審議を行い,結果を報告するよう指示した。これを受けて,同年7月,同部会に耐震指針検討分科会が設置され,耐震設計審査指針の改定作業に着手し,平成18年9月19日,原子力安全委員会において,新たな耐震設計審査指針が決定された(平成18年耐震設計審査指針)。 指針の内容等平成18年耐震設計審査指針は,平成13年耐震設計審査指針から,基準地震動についての策定方法が高度化され,耐震安全に係る重要度分類の見直し等が行われたものである。 「3 基本方針」として,「耐震設計上重要な施設は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに,施設は,地震に 生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに,施設は,地震により発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点からなされる耐震設計上の区分ごとに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられるように設計されなければならない。また,建物・構築物は,十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない。」とされていた。同基本方針の解- 63 - 説には,「残余のリスク」(策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより,施設に重大な損傷事象が発生すること,施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること,あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク)について言及され,施設の設計に当たっては,策定された地震動を上回る地震動が生起する可能性に対して適切な考慮を払い,基本設計の段階のみならず,それ以降の段階も含めて,この「残余のリスク」の存在を十分認識しつつ,それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきであるとされている。 「8 地震随伴現象に対する考慮」として,①施設の周辺斜面で地震時に想定し得る崩壊等によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと,②施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことを十分考慮した上で設計されなければならないとされている。 7 本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針は,前記1ないし6記載のとおりであり,福島第一原発1号機から同 ればならないとされている。 7 本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針本件設置等許可処分時及び平成18年当時の各種指針は,前記1ないし6記載のとおりであり,福島第一原発1号機から同3号機までの設置変更許可における安全審査の前提となった指針は,昭和39年原子炉立地審査指針(丙A8)であり,同4号機の設置変更許可における安全審査の前提となった指針は,昭和39年原子炉立地審査指針及び昭和45年安全設計審査指針(丙A9)であった。 第5 規制機関等 1 原子力委員会・原子力安全委員会原子力基本法に基づき,平成14年から平成24年の同法改正前まで,内閣府に原子力委員会及び原子力安全委員会が設置されていた(4条(平成24年法律第47号による改正前のもの。)。原子力の研究,開発及び利用に関する事項のうち,原子力安全委員会は安全の確保のための規制の実施に関する事項につい- 64 - て,原子力委員会は安全確保に係る事項以外の事項について,それぞれについて企画,審議,及び決定することとされていた(5条(上記改正前のもの。))。 原子力委員会は,原子力利用に関する政策に関すること,関係行政機関の原子力利用に関する事務の調整に関すること,関係行政機関の原子力利用に関する経費の見積り及び配分計画に関すること,核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること,原子力利用に関する試験及び研究の助成に関すること,原子力利用に関する研究者及び技術者の養成及び訓練に関すること,原子力利用に関する資料の収集,統計の作成及び調査に関すること,その他原子力利用に関する重要な事項に関することについて企画し,審議し,決定することを所掌している(原子力委員会及び原子力安全委員会設置法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)2条)。 原子力安 子力利用に関する重要な事項に関することについて企画し,審議し,決定することを所掌している(原子力委員会及び原子力安全委員会設置法(平成24年法律第47号による改正前のもの。)2条)。 原子力安全委員会は,原子力利用に関する政策のうち,安全の確保のための規制に関する政策に関すること,核燃料物質及び原子炉に関する規制のうち,安全の確保のための規制に関すること,原子力利用に伴う障害防止の基本に関すること,放射性降下物による障害の防止に関する対策の基本に関すること,その他原子力利用に関する重要事項のうち,安全の確保のための規制に係るものに関することについて企画し,審議し,及び決定することを所掌している(同法13条1項)。 なお,原子力基本法の平成24年改正によって,原子力規制委員会が新たに設置され,原子力安全委員会は廃止された。 2 原子力安全・保安院(保安院)我が国の発電用原子炉施設は経済産業大臣が所管しているが,経済産業省資源エネルギー庁の特別の機関として原子力エネルギーに係る安全の確保等のために設置されたのが,保安院である。保安院は,炉規法に基づく設置許可や電気事業法に基づく工事計画の認可や使用前検査など経済産業大臣の規制活動を,同大臣の付託を受けて,独立して意思決定を行うか,又は同大臣に対して意思決定の- 65 - 案を諮ることができることになっていた。保安院の技術支援機関として,独立行政法人原子力安全基盤機構(以下「原子力安全基盤機構」又は「JNES」という。平成15年10月設立)があり,法律に基づく原子力施設の検査を保安院と分担して行うほか,原子力施設の安全審査や安全規制基準の整備に関する技術支援を行っている。 なお,原子力規制委員会の発足により,保安院は廃止された。JNESも,平成26年3月 検査を保安院と分担して行うほか,原子力施設の安全審査や安全規制基準の整備に関する技術支援を行っている。 なお,原子力規制委員会の発足により,保安院は廃止された。JNESも,平成26年3月1日,解散して,その業務を原子力規制委員会に引き継いだ。 (甲A1の1・本文編368頁,丙A5の1・Ⅱ-3頁,弁論の全趣旨)第6 知見及びその発展 1 過去の原子力発電所事故に関する知見⑴ スリーマイルアイランド原子力発電所事故(甲B9,10)昭和54年(1979年)3月28日,米国ペンシルバニア州スリーマイル島上の原子力発電所2号炉(加圧水型原子炉(PWR))が,給水喪失という事象から炉心損傷にまで至った。事故の重大さを0から7の8段階にレベル分けした国際原子力事象評価尺度(INES)のレベルは5(広範囲な影響を伴う事故)とされた。この事故における核燃料の損傷により,大量の放射性物質が一次冷却水中に漏出され,環境へ放出された。 ⑵ チェルノブイリ原子力発電所事故(甲B9,11ないし13)昭和61年(1986年)4月26日,当時のソビエト連邦ウクライナ共和国のチェルノブイリ発電所4号炉において,原子炉出力が異常に上昇し,燃料の過熱,激しい蒸気の発生,圧力管の破壊,原子炉と建屋の構造物の一部破損,燃料及び黒鉛ブロックの一部飛散,火災に進み放射性物質がウクライナ,ベラルーシ,ロシア等へ飛散し,半径30㎞圏内の住民約13万5000人が避難した。INESのレベルは7(深刻な事故)とされた。 ⑶ フランスのルブレイエ原子力発電所事故(甲A20・13頁,94,166の1・2)- 66 - 平成11年(1999年)12月27日,フランスのルブレイエ原子力発電所において,暴風雨の影響で外部電源が失われ,非常用電源が起動したが, 20・13頁,94,166の1・2)- 66 - 平成11年(1999年)12月27日,フランスのルブレイエ原子力発電所において,暴風雨の影響で外部電源が失われ,非常用電源が起動したが,高潮と満潮が重なりジロンド河口に波が押し寄せた結果,河川が増水し,川の水が洪水防水壁を越えて浸入し,電源が喪失したが,過酷事故には至らなかった。 INESのレベルは2(異常事象)とされた。 ⑷ 台湾の馬鞍山原子力発電所事故(甲A20・14頁)台湾の馬鞍山原子力発電所において,平成13年3月,送電線事故により外部電源喪失事故が発生し,更に非常用ディーゼル発電機の起動失敗が重なったことにより,全電源喪失事故となった。 ⑸ インドのマドラス原子力発電所の津波による電源喪失事故(甲A20・14頁)インド南部にあるマドラス原子力発電所において,平成16年12月に発生したスマトラ島沖地震に伴う津波により,津波でポンプ室が浸水し,非常用海水ポンプが運転不能になる事故が発生した。 2 地震に関する知見等⑴ 地震に関する一般的知見(甲A56,100ないし102,丙A26,27,99,弁論の全趣旨)ア地震の定義等地震とは,地下の岩盤に力が加わり,その力に岩盤が耐えきれなくなったときに起こる破壊現象のことをいう。 震源とは,上記の破壊が最初に発生した地点をいい,震央とは,地下の震源を真上の地表へ投影した位置のことをいう。 震源で発生した破壊は周囲へと伝わり,ある範囲で破壊は止まるが,破壊が及んだ範囲のことを震源断層といい,震源断層を含む破壊が広がった領域のことを震源域という。 マグニチュードとは,震源域で生じた断層運動そのものの大きさを表す- 67 - 尺度をいう。 また,震源断層の形状や といい,震源断層を含む破壊が広がった領域のことを震源域という。 マグニチュードとは,震源域で生じた断層運動そのものの大きさを表す- 67 - 尺度をいう。 また,震源断層の形状や生成過程についてのモデルのことを断層モデルという。断層モデルは,断層面の向きや傾き,大きさ,断層面上でのずれの量,破壊の進行速度などの断層パラメーター(媒介変数)で表現される。 イ日本列島やその周辺で発生する地震日本列島やその周辺で発生する地震には,大きく分けて,プレート境界付近で発生する地震(「プレート間地震」,「沈み込むプレート内の地震」),と陸のプレートの浅い部分で起こる地震とに分けられる。 プレート境界付近で発生する地震地球の表面は十数枚の巨大な板状の岩盤(プレート)で覆われており,それぞれが別の方向に年間数cm の速度で移動している(プレート運動)。 日本列島の太平洋側の日本海溝では,海のプレートが陸のプレートの下に沈み込み,陸のプレートの先端部も常に内陸側に引きずり込まれる。陸のプレートと海のプレートとが接する部分がひずみに耐えきれなくなると,そこを巨大な断層面として陸のプレートの先端が跳ね上がるような断層運動が起き,地震が発生する。これをプレート間地震という。 また,海のプレート内部に蓄積されたひずみにより,プレート内部で大規模な断層運動が生じて地震が発生することもある。これを沈み込むプレート内の地震という。 なお,海溝付近のプレート境界やその付近で発生する地震のことを海溝型地震と総称している。 陸のプレートの浅い部分で起こる地震日本列島が位置する陸のプレートでは,プレート運動による間接的なひずみが岩盤に蓄積され,地下数㎞から20㎞程度までの浅い部分で断層運動が起こり,地震が発生する。これを陸 の浅い部分で起こる地震日本列島が位置する陸のプレートでは,プレート運動による間接的なひずみが岩盤に蓄積され,地下数㎞から20㎞程度までの浅い部分で断層運動が起こり,地震が発生する。これを陸のプレートの浅い部分で起こる地震という。 - 68 - ⑵ 昭和41年頃の地震に関する知見(甲A2・63頁)福島第一原発1号機を新設するために,昭和41年7月1日に被告東電から内閣総理大臣に「福島原子力発電所の原子炉設置許可申請書」が提出された。 その添付書類には,敷地付近の地震について「福島県周辺は,会津付近をのぞいては,ほとんど顕著な地震被害を生じておらず,全国的に見ても地震活動性(サイスミシティ)の低い地域の一つであると云えよう」,「福島原子力発電所敷地付近は,福島県内においても地震活動性(サイスミシティ)の低い地域であると考えることができる」,「福島発電所敷地付近では,かつて震害を経験したことがないようである」と記載されている。 ⑶ 昭和43年頃の地震に関する知見(甲A2・64頁)地球表層の地震・火山活動や地質・地形変動の原因を説明する「プレートテクトニクス」という理論が,昭和43年に欧米で一挙に成立し,数年以内に日本列島にも広く適用されるようになった。それによって,北海道ないし東北地方の東方沖の千島海溝ないし日本海溝から東北日本の下へ太平洋プレートが沈み込んでいて,北海道沖ないし三陸沖ないし茨城県沖でM7ないし8の大地震が繰り返し発生するという地震発生論が確立した。 ⑷ 昭和56年頃の地震に関する知見(甲A2・66,67頁)原子力委員会は,昭和53年9月,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(丙A81)を制定し,同年10月に発足した原子力安全委員会が,昭和56年7月,建築基 (甲A2・66,67頁)原子力委員会は,昭和53年9月,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(丙A81)を制定し,同年10月に発足した原子力安全委員会が,昭和56年7月,建築基準法の改正を取り入れて,改めて同指針を決定した(以下「旧指針」という。)。もっとも,それぞれの決定前に設置許可された原発に対して遡って適用するバックフィットといわれる法的仕組みはなかったが,一応は,既設原発が新たな指針に照らしても安全かどうかを確認する耐震バックチェックが原子力事業者に求められた。 ⑸ 平成4ないし6年頃の地震に関する知見(甲A2・67頁)資源エネルギー庁公益事業部(当時)は,平成4年5月頃,電事連を通じて- 69 - 原発事業者に対し,耐震バックチェックを実施して結果を報告するように求めた。これに対し,被告東電は,平成6年3月頃,1ないし6号機のそれぞれについて「耐震性評価結果報告書」を提出した一方で,同月に許可された別件の設置変更許可申請の中で,旧指針に従って基準地震動を策定した。それらは,S₁-Dが最大加速度180Gal,S₂-Dが最大加速度270Gal,S₂-Nが最大加速度370Gal になっていた。 ⑹ 平成7年ないし平成13年頃の地震に関する知見(甲A1の1・本文編382頁,甲A2・465頁)耐震設計審査指針は,昭和56年に改訂されてから長期にわたって見直しがされていない状況にあったが,原子力安全委員会は,平成7年1月17日の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)発生の2日後(1月19日)に,「平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会(以下「耐震安全検討会」という。)」を設置し,耐震設計審査指針の妥当性について検討を行い,同年9月に報告書を取りまとめた。そこでは,「 ,「平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会(以下「耐震安全検討会」という。)」を設置し,耐震設計審査指針の妥当性について検討を行い,同年9月に報告書を取りまとめた。そこでは,「原子力施設の耐震設計を規定する関連指針類について,兵庫県南部地震を踏まえても,その妥当性が損なわれるものではないことを確認した」との結論に至りながら,「原子力関係者は,これに安住することなく,耐震設計において常に最新の知見を反映するなど,原子力施設の耐震安全性に対する信頼性を一層向上させるため引き続き努力していくことが必要である」とされ,原子力関係者が取り組むべき調査,研究課題も列挙されていた。 その後,原子力安全委員会は,平成8年から平成12年度までの5年間,財団法人原子力発電技術機構への委託調査等により原子力施設の耐震安全性に関する海外の基準類や文献の収集整理等を行ってきた。これらを踏まえ,原子力安全委員会は,平成13年6月に原子力安全基準専門部会に,耐震関係の指針類への最新の知見の反映についての調査審議を行うよう指示を出すに至り,平成13年7月に耐震指針検討分科会における審議が開始された。 - 70 - ⑺ 「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(平成14年7月)(以下「長期評価」という。丙A33)平成7年に発生した阪神・淡路大震災を踏まえ,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,地震防災対策特別措置法が制定され,行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにし,これを政府として一元的に推進するため,同法に基づき総理府(当時)に政府の特別の機関として地震調査研究推進本部(以下「推進本部」という。)が設置された(甲A1の1・本文編392頁)。 推進本部は,平成14年7月31 元的に推進するため,同法に基づき総理府(当時)に政府の特別の機関として地震調査研究推進本部(以下「推進本部」という。)が設置された(甲A1の1・本文編392頁)。 推進本部は,平成14年7月31日,長期評価を発表した。その内容は,後記3のとおりである。 ⑻ 「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」(平成18年1月)(以下「日本海溝・千島海溝報告書」という。甲1の1・本文編393頁,丙A37)中央防災会議は,平成15年10月,特に東北・北海道地方において発生する大規模海溝型地震対策を検討するため,「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」(以下「日本海溝・千島海溝調査会」という。)を設置した。 日本海溝・千島海溝調査会は,平成18年1月25日,特に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に着目し,防災対策の対象とすべき地震を選定した上で対象地震による揺れの強さや津波の高さを評価し,この評価結果を基に予防的な地震対策及び緊急的な応急対策などについて検討した上で,地震対策の基本的な事項についての日本海溝・千島海溝報告書を取りまとめた。 同報告書では,防災対策の検討対象として,大きな地震が繰り返し発生しているものについては,近い将来発生する可能性が高いと考え対象とするが,大きな地震が発生しているが繰り返しが確認されていないものについては,発生間隔が長いものと考え近い将来に発生する可能性が低いものとして対象から- 71 - 除外することとしている。その結果として,海洋プレート内地震及び福島県沖・茨城県沖のプレート間地震については,防災対策の検討対象から除外されている。また,869年に発生した貞観地震,1611年に発生した慶長三陸地震,1677年に発生した延宝房総沖地震及び193 島県沖・茨城県沖のプレート間地震については,防災対策の検討対象から除外されている。また,869年に発生した貞観地震,1611年に発生した慶長三陸地震,1677年に発生した延宝房総沖地震及び1933年に発生した昭和三陸地震については,留意が必要であるとはしているもの防災対策の検討対象とはしないこととしている。 ⑼ 耐震設計審査指針の改訂(甲A1の1・本文編384頁,甲A2・70頁)原子力安全委員会は,平成18年9月19日,新たな「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下,同日改訂された耐震設計審査指針を「平成18年耐震設計審査指針」という。丙A96)を正式決定した。平成18年耐震設計審査指針では,基準地震動(S₁とS₂をSsに一本化,検討用地震,地震動評価手法など),活断層の評価期間(過去5万年間から12万ないし13万年間へ),鉛直方向の地震動(上下動)の個別評価,耐震重要度分類(AクラスをAsクラスに統合してSクラスとする),地震随伴事象(周辺斜面崩壊等,津波)の明記などが旧指針から改編された。 ⑽ 保安院による平成18年耐震バックチェックの指示,中間報告書の提出等(甲A2・71頁)保安院は,平成18年9月20日,原子力事業者に対し,稼働中又は建設中の発電用原子炉施設等についての平成18年耐震設計審査指針に照らした耐震安全性評価(以下「平成18年耐震バックチェック」という。)の実施と,そのための実施計画の作成を求めた。さらに,保安院は,平成19年7月16日に発生した新潟県中越沖地震(M6.8)を受けて,可能な限り早期かつ確実に評価を完了できるよう,原子力事業者に実施計画の見直しを指示し,同年12月27日,中越沖地震の知見を平成18年耐震バックチェックに反映するよう求めた。 これらに ,可能な限り早期かつ確実に評価を完了できるよう,原子力事業者に実施計画の見直しを指示し,同年12月27日,中越沖地震の知見を平成18年耐震バックチェックに反映するよう求めた。 これらに対し,被告東電は,平成19年8月20日に平成18年耐震バック- 72 - チェックの実施計画の見直し結果を報告し,平成20年3月31日に福島第一原発5号機及び福島第二原発4号機に係る平成18年耐震バックチェック中間報告書を提出した。さらに,被告東電は,平成21年4月3日に福島第二原発1ないし3号機に係る中間報告書を,同年6月19日に福島第一原発1ないし4号機及び6号機に係る中間報告書を提出した。 保安院は,「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会」の下に設置されている「地震・津波ワーキンググループ」及び「地震・地盤ワーキンググループ」による「合同ワーキンググループ」並びに「構造ワーキンググループ」に複数のサブグループを設置し,福島第一原発5号機及び福島第二原発4号機については「合同Aサブグループ」及び「構造Aサブグループ」において平成18年バックチェック中間報告書の妥当性について検討を行った。その結果,平成21年7月21日,保安院としての福島第一原発5号機に係わる評価結果が取りまとめられた。 ⑾ 被告東電の社内会議(甲A2・73頁)被告東電は,平成21年の社内会議において,「福島第一原発及び第二原発については平成18年耐震バックチェック最終報告書が2012年7月(福島第一原発2号機),耐震強化工事の終了はそれ以降という工程である。この状況は平成18年耐震設計審査指針への対応を速やかに行う観点において,国及び地元の許容範囲を超えている」という問題点が指摘され,耐震補強工事減少のための合 工事の終了はそれ以降という工程である。この状況は平成18年耐震設計審査指針への対応を速やかに行う観点において,国及び地元の許容範囲を超えている」という問題点が指摘され,耐震補強工事減少のための合理化や最終報告書提出時期の前倒しを検討していたが,十分な耐震バックチェックはできなかった。 ⑿ 平成23年頃の地震に関する知見(甲A2・74,75頁)被告東電は,平成23年2月28日時点で,福島第一原発各号機において耐震補強工事を必要とし,あるいは耐震補強工事を必要とする可能性を有する設備等は多岐にわたっていることを認識していた。 3 津波に関する知見- 73 - ⑴ 津波に関する一般的知見(甲A56,100ないし102,丙A26,27,33,99,弁論の全趣旨)津波津波は,海域で発生するプレート間地震などによる海底の変動により発生する。すなわち,地震が発生すると,地震の震源域では,断層面を境にして地盤がずれることにより,海底が急激に隆起又は沈降すると,その上にある海水も同じだけ上下に移動するが,この海水を海水の重力により復元しようとする動きが津波となって周囲へも伝わる。 イ津波の大きさこのように津波は,海底の隆起又は沈降により,その海域の海水が持ち上げられたり沈み込んだりすることによって発生するため,津波の高さは,海底の隆起・沈降の大きさによって決まる。そして,地震は,岩盤がずれ動くことで起こるが,このずれ動く長さ,すなわち「すべり量」が大きいほど,海底の隆起・沈降も大きくなりやすい。 したがって,この「すべり量」が大きければ津波も大きくなるという関係に立つ。 なお,津波が陸地の沿岸部に到達したときの波高は,地震の規模だけではなく,海底地形や海岸線の形に大きく影響を受ける。 ウ って,この「すべり量」が大きければ津波も大きくなるという関係に立つ。 なお,津波が陸地の沿岸部に到達したときの波高は,地震の規模だけではなく,海底地形や海岸線の形に大きく影響を受ける。 ウ津波の高さ,浸水高及び遡上高津波の高さ(津波高)とは,平均潮位(津波がない場合の潮位)から津波によって海面が上昇した高さの差のことをいう。 浸水高(痕跡高)とは,浸水の高さ,すなわち建物や設備に残された変色部や漂着物等の痕跡の基準面からの高さのことをいう。 遡上高とは,津波が内陸へ駆け上がった結果,斜面や路面上に残された変色部や漂着物等の痕跡の基準面からの高さのことをいう。 エ津波地震- 74 - 津波地震とは,断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模の大きくなるような地震のことをいう。なお,平成14年に推進本部が公表した長期評価では,津波マグニチュードがマグニチュードと比べて0.5以上大きいか,津波による顕著な災害が記録されているにもかかわらず,顕著な震害が記録されていないものを津波地震として扱っている。 ⑵ 福島第一原発設置許可時の津波想定(甲A1の1・本文編373,374頁)昭和41年から同47年にかけて,被告東電の福島第一原発1号機から6号機まで順次設置許可申請がされた際,津波対策が必要な波高につき,昭和35年チリ津波のときに小名浜港で観測された最高潮位である小名浜港工事基準面(O.P.)+3.122m及び最低潮位O.P.-1.918mとして設置許可がされ,敷地の最も海側の部分についてはO.P.+4mの高さに整地されて,非常用海水ポンプはこの場所に設置された(福島第二原発1号機についても同様の考え方に基づきO.P.+3.122m,2号機における防波堤 敷地の最も海側の部分についてはO.P.+4mの高さに整地されて,非常用海水ポンプはこの場所に設置された(福島第二原発1号機についても同様の考え方に基づきO.P.+3.122m,2号機における防波堤の設計波高はO.P.+3.690m,3号機及び4号機における防波堤の設計波高はO.P.+3.705mとされていた。)。なお,これらの発電所の設置許可申請のされた昭和40年代には,まだ津波波高を計算するシミュレーション技術は一般化していなかった。 ⑶ その後の津波の研究成果及び津波対策の進展(甲A1の1・本文編374,375頁)明治以来の津波対策は,主に津波から遠ざかる高地移転によって行われたが,1960(昭和35)年のチリ津波は,前年の伊勢湾台風に続く海岸の大災害であったことから,急速な対策が求められ,各地で防潮構造物等の防災施設の建設が開始された。その結果,中規模津波であれば,防災構造物でほぼ完全に浸水を防止することができるようになり,昭和43年に発生した十勝沖地震津波では,できたばかりの施設が功を奏し,被害は極めて少なかった。 - 75 - しかしながら,昭和50年代に入ると,東海地震の危険が叫ばれるようになり,津波常襲地帯とみなされる場所(三陸地方)での津波対策の在り方を,発災前に前もって検討しようという動きが現れた。検討の中では,チリ津波以降に建設された防潮堤高さが本当に十分なものなのか,どのような津波を計画の対象とすべきなのかについても議論が行われ,建設省(当時)と水産庁が共同で調査研究を実施し,昭和58年に「津波常襲地域総合防災対策指針(案)」が取りまとめられた。この指針(案)では,対象津波として,過去200年程度の間の確実な資料が数多く得られる津波のうちの最大のものを選ぶとされた。また,防災施設 「津波常襲地域総合防災対策指針(案)」が取りまとめられた。この指針(案)では,対象津波として,過去200年程度の間の確実な資料が数多く得られる津波のうちの最大のものを選ぶとされた。また,防災施設の整備水準は対象津波のレベルに達しないこともあり得るため,防災構造物,防災地域計画,防災体制の3分野における対策を組み合わせ,対象津波に対処することとされた。 なお,電子計算機による津波数値計算(シミュレーション)は,1970年代以降,徐々に利用可能となっていった。 ⑷ 「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(以下「4省庁報告書」という。甲A16,17,丙A30の1・2)被告国の4省庁(当時の農林水産省構造改善局,同省水産庁,運輸省港湾局,建設省河川局)は,平成9年3月,4省庁報告書を策定した。この報告書は,平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を踏まえ,防災計画見直しの一環として改めて「総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として」策定されたものである。そこでは,「太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定しうる最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行っ」ているが,「既往津波や想定津波を対象として津波防災施設の整備を行う場合でも,想定を上回る津波が発生する可能性があることは否定できず,津波防災施設の整備に大きく依存した防災対策には限界がある」旨- 76 - の記載がある(甲A16及び丙A30の1・「はじめに」)。 また,既往津波について,「1600年以降を対象として沿岸別の最大津波高を整理した結果,三陸沿岸では,過去395年間に高 - 76 - の記載がある(甲A16及び丙A30の1・「はじめに」)。 また,既往津波について,「1600年以降を対象として沿岸別の最大津波高を整理した結果,三陸沿岸では,過去395年間に高さ10m以上の大津波が3回来襲している他に,高さ5m程度の津波は6回来襲しており,被害津波の来襲頻度が高い」とされている(甲A16及び丙A30の1・8頁)。 ⑸ 「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(以下「7省庁手引」という。甲A15)ア概要平成5年7月に北海道南西沖地震が発生し,その際の地震津波によって奥尻島に壊滅的な被害がもたらされたことを契機に,被告国の関係省庁間(当時の国土庁,農林水産省構造改善局,同省水産庁,運輸省,気象庁,建設省,消防庁)で津波対策の再検討が行われるに至り,その成果として,平成9年,7省庁手引が作成され,これが公開された(甲A1の1・本文編374,375頁,甲A15)。 そこでは,津波防災計画の基本目標の中で,対象津波の選定方法につき,「既往最大の津波を選定し,それを対象とすることを基本とするが,近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から対象津波を設定することが望ましい。この時,必ずしも最大規模の地震から最大規模の津波が引き起こされるとは限らないことから,地震の発生位置や規模,震源の深さ,指向性,断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波の設定を行う必要がある。」としている(甲A1の1・本文編375頁,甲A15・9頁)。 この7省庁手引は,同手引の別冊とされた「津波災害予測マニュアル」(甲A113)とともに地方公共団体に提示され, 定を行う必要がある。」としている(甲A1の1・本文編375頁,甲A15・9頁)。 この7省庁手引は,同手引の別冊とされた「津波災害予測マニュアル」(甲A113)とともに地方公共団体に提示され,各地での津波対策に活用され- 77 - るようになっていた。 イ津波災害予測マニュアル(甲A113)「津波災害予測マニュアル」は,津波災害マニュアルに関する調査委員会(委員長東北大学工学部教授首藤伸夫(以下「首藤」という。))により作成されたものであるが,このマニュアルの中でも,「津波の数値計算には至る所で誤差が入り込み得るから,計算結果を利用するに当たっては,その利用目的毎に判断することが重要となってくる。」,「防潮堤などの構造物の設計であれば,必ず余裕高をつけ加えることで,大きな間違いの確率を下げることが出来る。ただし,余裕高をつけたとしても,完全に津波を防げるとは限らない。」,「人命を守る目的ならば,一応安全な津波高という結果を得ても,万一の事があり得るとして,現地の現象を良く見ながら対応する事を勧めるべきである。」と指摘されている(甲A113・85,86頁)。 ⑹ 「原子力発電所の津波評価技術」(以下「津波評価技術」という。甲A1の1・本文編375ないし377頁,丙A31の1ないし3)及びこれに基づく被告東電の試算(丙A32)ア津波評価部会平成11年に原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化について検討を行うことを目的として,社団法人土木学会(以下「土木学会」という。)原子力土木委員会に津波評価部会(主査岩手県立大学総合政策学部教授首藤)が設置された(甲A1の1・本文編375,376頁)。 イ津波評価技術の概要土木学会原子力土木委員会は,平成14年2月,津波評価技術を刊行した。 そこで (主査岩手県立大学総合政策学部教授首藤)が設置された(甲A1の1・本文編375,376頁)。 イ津波評価技術の概要土木学会原子力土木委員会は,平成14年2月,津波評価技術を刊行した。 そこで示された設計津波水位の評価方法の骨子は,次のとおりである(甲A1の1・本文編376,377頁)。 既往津波の再現文献調査等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられ- 78 - る既往津波を評価対象として選定し,痕跡高の吟味を行うとともに,沿岸における痕跡高をよく説明できるように断層パラメータを設定し,既往津波の断層モデルを設定する。 想定津波による設計津波水位の検討既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルを基に,津波をもたらす地震の発生位置や発生様式を踏まえたスケーリング則に基づき,想定するモーメントマグニュチュード(Mw)に応じた基準断層モデルを設定する(日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿いを含むプレート境界型地震の場合)。その上で,想定津波の波源の不確実性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。このようにして得られた想定津波を設計想定津波として選定し,それに適切な潮位条件を足し合わせて設計津波水位を求める。 この津波水位の評価手法については,日本沿岸の代表的な痕跡高との比較・検討に基づき,全ての対象痕跡高を上回ることを確認することで,その妥当性を確認している。また,近地津波より遠地津波の方が影響が大きくなることが予想される場合には,遠地津波についても検討することとしていた。 津波評価技術に基づく被告東電の試算(2002年推計)被 を確認している。また,近地津波より遠地津波の方が影響が大きくなることが予想される場合には,遠地津波についても検討することとしていた。 津波評価技術に基づく被告東電の試算(2002年推計)被告東電は,平成14年3月,津波評価技術に従って「津波の検討-土木学会「原子力発電所の津波評価技術」に関わる検討-」を策定し,保安院に対し,福島第一原発の設計津波最高水位は,近地津波でO.P.+5. 4ないし+5.7m,遠地津波でO.P.+5.4ないし+5.5mであると報告した(以下「2002年推計」という。)(丙A32)。 ⑺ 長期評価(丙A33)- 79 - 推進本部は,平成14年7月31日,長期評価を公表した。これは,日本海溝沿いのうち三陸沖から房総沖までの領域(別紙12参照)を対象として,長期的な観点で地震発生の可能性,震源域の形態等について評価してとりまとめたものであり,この中で,「次の地震」として,以下のような予測を行っていた(甲A1の1・本文編392頁)。 ア三陸沖北部から房総沖の海溝寄り(以下「日本海溝付近」という。)のプレート間大地震(津波地震)について(丙A33・5頁)M8クラスのプレート間大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定される。 今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定される。 1896年(明治29年)の明治三陸地震についてのモデルを参考にし,断層の長さが日本海溝に沿って200㎞程度,幅が約50㎞程度の地震が日本海溝付近の領域内のどこでも発生する可能性がある(丙A33・10頁)。 イ三陸沖南部海溝寄りについて(丙A33・6頁)1793年(寛政5年)及び18 200㎞程度,幅が約50㎞程度の地震が日本海溝付近の領域内のどこでも発生する可能性がある(丙A33・10頁)。 イ三陸沖南部海溝寄りについて(丙A33・6頁)1793年(寛政5年)及び1897年(明治30年)に発生した地震の震源地と考えられており,これに従えばこの地域における地震の発生間隔は105年程度となる。 今後30年以内の発生確率は70ないし80%程度,今後50年以内の発生確率は90%程度以上と推定される。 この領域の地震は,既に「宮城県沖地震の長期評価」で評価されているように,宮城県沖の地震と連動する可能性が指摘されている。 ウ福島県沖について(丙A33・7頁)1938年(昭和13年)の福島県東方沖地震のように,ほぼ同時期に複数回のM7.4程度の規模の地震発生が過去400年に1回あったことか- 80 - ら,この地域における同様の地震発生の間隔は400年以上とされる。 今後30年以内の発生確率は7%程度以下,今後50年以内の発生確率は10%以下と推定される。 次に発生する地震の規模は,過去の事例からM7.4前後と推定され,複数の地震が続発することが想定される。 エ長期評価に基づく被告東電の試算(2008年推計)被告東電は,平成20年4月,長期評価に基づいて,1896年明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りに設定して試算を行った。その設定された波源モデルに基づいて福島第一原発の各号機,敷地内においてどの程度の津波高さになるかという具体的な計算段階では,平成14年2月の津波評価技術による計算手法(パラメータスタディ等)を用いて,津波高さを算出したところ,最大で,敷地南側O.P.+10m地点においてO.P. +15.7m,4号機原子炉建屋(R/B)中央付近でO.P.+12. 技術による計算手法(パラメータスタディ等)を用いて,津波高さを算出したところ,最大で,敷地南側O.P.+10m地点においてO.P. +15.7m,4号機原子炉建屋(R/B)中央付近でO.P.+12.604m,4号機タービン建屋(T/B)中央付近でO.P.+12.026mの津波高さ(解析値)という結果が出た(以下「2008年推計」という。)。 (甲A141)⑻ 溢水勉強会(丙A42ないし52の3)保安院と原子力安全基盤機構は,原子力発電所の安全規制に関する情報等を収集,評価し,必要な安全規制上の対応を行う目的で安全情報検討会を定期的に開催していたが,外部溢水及び内部溢水を問わず溢水問題を検討するため,平成18年1月,溢水勉強会を立ち上げ,調査検討を開始した。 この溢水勉強会は,保安院と原子力安全基盤機構で構成し,電気事業者,原子力技術協会及びメーカーは,オブザーバーで参加するというものであった。 溢水勉強会は,平成19年4月,「溢水勉強会の調査結果について」と題する報告書(甲A42)をまとめた。 溢水勉強会は,津波対策に係る勉強を進めていたが,検討の過程で,原子力- 81 - 安全委員会が示している耐震設計審査指針が改訂され(平成18年耐震設計審査指針),同指針において,地震随伴事象として津波評価を行うものとされたことから,外部溢水に係る津波の対応は耐震バックチェックに委ねることとし,以後,内部溢水に関する調査,検討を行うこととなった。ただし,溢水勉強会では,引き続き津波PSAについて,適宜,検討を進めていくこととなった。 4 放射線に関する基本的な知見(甲B1,丙A1,丙B1,弁論の全趣旨)⑴ 放射線の種類と性質ア原子核の崩壊や核分裂反応のときに放出される粒子や電磁波のことを放射線という。放射線を発 。 4 放射線に関する基本的な知見(甲B1,丙A1,丙B1,弁論の全趣旨)⑴ 放射線の種類と性質ア原子核の崩壊や核分裂反応のときに放出される粒子や電磁波のことを放射線という。放射線を発生する能力のことを放射能といい,放射能を有する物質のことを放射性物質という。放射線には,以下のとおり,アルファ線,ベータ線,ガンマ線,中性子線等がある。 アルファ線は,陽子2個と中性子2個とが結びついた「アルファ粒子」の流れであり,プラスの電気を帯びている。 ベータ線は,原子核から高速で飛び出す電子の流れであり,マイナスの電気を帯びている。 ガンマ線は,原子核からアルファ粒子やベータ粒子が飛び出した直後などに,余ったエネルギーが電磁波(光子)の形で放出されるもので,光子の流れである。ガンマ線は電気を帯びていないため,強い透過力(物質を通り抜ける力)がある。 エックス線は,原子核外で発生する電磁波である。エックス線は電気を帯びていないため,強い透過力がある。 中性子線は,核分裂等に伴い放出される中性子の流れであって,電気的に中性である。 イ上記のとおり,放射線には複数の種類があるところ,透過力に差がある。 アルファ線は,物質の中を通る際の電離作用(原子が持つ軌道電子をはじ- 82 - き出すこと)によって周囲にエネルギーを与えるなどして急速にエネルギーを失うため,透過力は極めて小さく,紙によって遮ることができる。 ベータ線は,アルファ線より透過力が大きく,空気中でも数十cm ないし数cm 程度進むことができ,数mm ないし1cm 程度の厚さのアルミニウムやプラスチックの板で遮ることができる。 ガンマ線及びエックス線は,物質の中を通る際に,物質の電磁と作用して吸収されたり拡散された むことができ,数mm ないし1cm 程度の厚さのアルミニウムやプラスチックの板で遮ることができる。 ガンマ線及びエックス線は,物質の中を通る際に,物質の電磁と作用して吸収されたり拡散されたりするものの,アルファ線やベータ線と異なり電気を帯びていないため,強い透過力があるが,鉛や厚い鉄の板によって遮ることができる。 中性子線は,電荷を持たないため,物質の軌道電子と相互作用することなく,透過力が強いが,物質の中の原子核と衝突を繰り返してエネルギーを失っていくため,水やコンクリートによって遮ることができる。 ⑵ 放射線の量を表す単位放射線に関する単位としては,以下のとおり,ベクレル(Bq),グレイ(Gy),シーベルト(Sv)等がある。 ベクレル(Bq)は,放射能の強さを表す単位であり,1秒間に1個の原子核が崩壊することを1Bq と数える。 グレイ(Gy)は,放射線のエネルギーがどれだけ物質(人体を含む全ての物質)に吸収されたかを表す単位(吸収線量の単位)であり,1Kg 当たり1ジュール(J)のエネルギー吸収があったときの線量を1Gy とする。 シーベルト(Sv)は,放射線の生物学的影響を示す単位(等価線量や実行線量の単位)であり,1Gy のガンマ線によって人体の組織に生じるのと同じ生物学的影響を組織に与える放射線の量を1Sv(=1000mSv)とする。等価線量とは,放射線の種類ごとに影響の大きさに応じた重み付けをした線量のことをいい,実効線量とは,放射線防護における被ばく管理のために考案されたものであり,等価線量に対して,臓器や組織ごとの感受性の違いによる重み付- 83 - けをして,それらを合計することで全身への影響を表す。具体的には,各組織の臓器の吸収線量に,放射線の種類を考慮するための放射線加重係数を乗じ 器や組織ごとの感受性の違いによる重み付- 83 - けをして,それらを合計することで全身への影響を表す。具体的には,各組織の臓器の吸収線量に,放射線の種類を考慮するための放射線加重係数を乗じて,等価線量を導き出し,等価線量に組織や臓器ごとの放射線感受性により重み付けするための組織加重係数を乗じて足し合わせたものが実効線量であり,組織加重係数の合計は1になるように決められており,実効線量は全身の臓器や組織の等価線量について,重み付け平均をとったものと評価することができる。 ⑶ 外部被ばくと内部被ばく外部被ばくとは,体外にある放射性物質や放射線発生装置から発生した放射線による被ばくや体表面に付着した放射性物質による被ばくのことをいう。体外にある放射性核種や放射線発生装置から発生した放射線によって被ばくする外部被ばくの場合,体表に当たった放射線は体内に進んでいくに従ってエネルギーを減らしていくため,一般に,体表の被ばく線量の方が体の中心部の被ばく線量よりも大きくなる。この被ばく線量の差は放射線の種類により大きく異なり,透過力の高いエックス線やガンマ線ではその差は小さいが,透過力の低いベータ線やアルファ線ではその差は大きくなる。 内部被ばくとは,体内に取り込んだ放射性物質から放出される放射線による被ばくのことをいう。内部被ばくの経路には,吸入,経口,皮膚からの3種類の経路がある。吸入摂取とは,ラドンやヨウ素のような気体状の放射性物質や放射性の微粒子を呼吸によって吸い込む場合であり,経口摂取とは,放射性物質を含有又は付着した食物を飲食することによる場合であり,皮膚からの取込みは,脂溶性で皮膚からの吸収が大きい放射性化合物に限られ,実際上で最も注意すべきは,創傷部位からの取込みとされている。 ⑷ 日常生活と放射線放射線や放射 ることによる場合であり,皮膚からの取込みは,脂溶性で皮膚からの吸収が大きい放射性化合物に限られ,実際上で最も注意すべきは,創傷部位からの取込みとされている。 ⑷ 日常生活と放射線放射線や放射性物質は,人間が原子力の利用を開始したことによって生まれたものではなく,人間は自然界に存在する放射線を受けながら生活している。 - 84 - 地殻を構成している岩石や土砂等の中には,ウラン系列,トリウム系列,カリウム等の放射性物質が含まれており,これらは放射線を出している。また,ウラン系列,トリウム系列から生じたラドンは気体状の放射性物質であり,空気中に混じっており,呼吸することによって体内に取り込まれ,体の内部で放射線を出す。さらに,宇宙線と呼ばれる宇宙からの放射線も存在している。 世界全体でみると,1人当たり平均して年間約2.4mSv の放射線を自然界から受けており,そのうち,宇宙線として飛来してくるものが0.39mSv,土壌から放出されるものが0.48mSv,日常摂取する食物を通じて体内で照射されるものが0.29mSv,空気中のラドン等の吸入によるものが1.26mSv である。また,地質等によりその場所ごとの自然放射性核種濃度が異なるため,自然界からの放射線量は場所によりその大きさが異なる。 第7 我が国のシビアアクシデント対策 1 シビアアクシデント対策の意義等(甲A1の1・本文編407ないし410頁)⑴ シビアアクシデント(過酷事故,SA)原子炉施設には,起こり得ると思われる異常や事故に対して,設計上何段階もの対策が講じられている。この設計上の妥当性を評価するために,いくつかの「設計基準事象」という事象の発生を想定して安全評価を行う。 この設計基準事象は,実際に起こり得る様々な異常や事故について,放射性物質の潜在的危険性 。この設計上の妥当性を評価するために,いくつかの「設計基準事象」という事象の発生を想定して安全評価を行う。 この設計基準事象は,実際に起こり得る様々な異常や事故について,放射性物質の潜在的危険性や発生頻度などを考慮し,大きな影響が発生するような代表的事象であり,さらに,評価上はこの設計基準事象に対処する機器につき敢えて故障を想定するなどの厳しい評価を行っている(このような評価手法は,評価に当たって想定した事象の起こりやすさにかかわらず,その事象の発生を想定して安全評価を行うことから,決定論的安全評価といわれる。)。 シビアアクシデントとは,このような安全評価において想定している設計基準事象を大幅に超える事象であって,炉心が重大な損傷を受ける事象のことをいう。 - 85 - ⑵ シビアアクシデント対策(アクシデントマネジメント)シビアアクシデント対策(アクシデントマネジメント)とは,シビアアクシデントに至るおそれのある事態が万一発生したとしても,①現在の設計に含まれる安全余裕や本来の機能以外にも期待し得る機能,若しくはその事態に備えて新規に設置した機器を有効に活用することによって,その事態がシビアアクシデントに拡大するのを防止するため(フェーズⅠ),又は②シビアアクシデントに拡大した場合にその影響を緩和するため(フェーズⅡ)に採られる措置(手順書の整備並びに実施体制や教育,訓練等の整備を含む。)のことをいう。 具体的には,①に該当するものとしては,炉心冷却等の安全機能を回復させる操作から構成され,例えば,非常用炉心冷却系(ECCS)の手動起動や原子炉スクラム失敗事象に対するホウ酸水注入系の起動などであり,②に該当するものとしては,フィルター付き格納容器ベント設備や格納容器内注水設備等である。 シビアアクシデント対策の対象 の手動起動や原子炉スクラム失敗事象に対するホウ酸水注入系の起動などであり,②に該当するものとしては,フィルター付き格納容器ベント設備や格納容器内注水設備等である。 シビアアクシデント対策の対象として取り上げられるものの一つに全交流電源喪失事象(SBO)がある。全交流電源喪失事象(SBO)とは,全ての外部交流電源及び所内非常用交流電源からの電力の供給が喪失した状態をいう。 ⑶ 確率論的安全評価(PSA)確率論的安全評価とは,原子炉施設の異常や事故の発端となる事象(起因事象)の発生頻度,発生した事象の及ぼす影響を緩和する安全機能の喪失確率及び発生した事象の進展・影響の度合いを定量的に分析することにより,原子炉施設の安全性を総合的,定量的に評価する手法である。 シビアアクシデントのように,発生確率が極めて小さく,事象の進展の可能性が広範・多岐にわたるような事象に関する検討を行う上で,確率論的安全評価は有用とされる。 ⑷ 起因事象- 86 - 原子力発電所での事故による影響が発生する可能性のある原因事象としては,機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミス等の内部事象,地震,津波,洪水,火災,火山や航空機落下等の外部事象,産業破壊活動等の意図的な人為事象がある。 2 シビアアクシデントに関する知見の進展⑴ 我が国における検討状況(甲A1の1・本文編416,417頁)原子力安全委員会は,昭和61年4月のチェルノブイリ原子力発電所事故を受けて,ソ連原子力発電所事故調査特別委員会を設置し,シビアアクシデント対策の検討を開始し,昭和62年7月に原子炉安全基準部会に共通問題懇談会を設置してSA対策について検討し,平成2年2月に中間報告書を取りまとめ,平成4年3月に報告書を取りまとめた。 ⑵ 諸外国の状況(甲A1の1・本文 昭和62年7月に原子炉安全基準部会に共通問題懇談会を設置してSA対策について検討し,平成2年2月に中間報告書を取りまとめ,平成4年3月に報告書を取りまとめた。 ⑵ 諸外国の状況(甲A1の1・本文編414ないし416頁)米国,フランス,ドイツなどの海外では,昭和54年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故を受けるなどして,確率論的安全評価やシビアアクシデント対策が早期に進められており,1980年代から1990年代にかけて,外部事象をも考慮した必要な改善が規制当局より求められており,フィルター付きベントの整備や全交流電源喪失規制が設けられるなどの対策が順次進んでいた。 ⑶ 国際原子力機関の検討状況及び深層防護(多重防護)(甲A1の2・本文編297ないし302頁,丙A224)国際原子力機関(IAEA)は,平成8年,報告書を公表し,シビアアクシデント対策強化のため,5層までの深層防護を行う必要性を示し,その後の平成12年の原子力安全基準(NS-R-1)でも同様の考え方を示している。 深層防護(多重防護)とは,原子炉は異なる防護層を重層的に用意することで安全を確保しており,これらの防護層は,互いに独立し,ある層が突破されても次の層で事故を防ぐことができるように意図されるべきであるという考- 87 - え方のことをいう。 国際原子力機関が策定した原子力安全基準(NS-R-1)は,多重防護の各層を以下のとおりとしている。 第1層異常運転及び故障の防止第2層異常運転の制御及び故障の検出第3層設計基準内への事故の制御第4層事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和第5層放射性物質の放出による放射線影響の緩和我が国においては,第1層から第3層まで及び第5層を規制しており,第4層のシビアアクシデント対策につ 事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和第5層放射性物質の放出による放射線影響の緩和我が国においては,第1層から第3層まで及び第5層を規制しており,第4層のシビアアクシデント対策については,飽くまでも事業者の自主対応による「知識ベース」の対策とされた。 3 我が国におけるシビアアクシデント対策の導入⑴ 「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(決定)」(丙A58)原子力安全委員会は,平成4年5月28日,「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(決定)」を決定した(甲A1の1・本文編417頁,丙A58)。 同決定において,シビアアクシデント対策は,原子炉設置者がその知見を駆使して臨機にかつ柔軟に行うことが望まれるものであるとされ,関係機関及び原子炉設置者等はシビアアクシデントに関する研究を今後とも継続的に進めることが必要とし,事業者の自主的なシビアアクシデント対策を強く奨励するとともに,具体的方策及び施策について行政庁から報告を受けることとされた。 また,同決定は,行政庁に対しても,アクシデントマネジメントの推進,整備等に関する行政庁の役割を明確にするとともに,その具体的な検討を継続して進めることが必要であるとした。 - 88 - ⑵ 「アクシデントマネジメントの今後の進め方について」(丙A60)通商産業省資源エネルギー庁(当時)は,上記⑴の決定を踏まえ,平成4年7月,「アクシデントマネジメントの今後の進め方について」を取りまとめ,同月28日付けの「原子力発電所内におけるアクシデントマネジメントの整備について」と題する資源エネルギー庁公益事業部長名の行政指導文書を発出し,事業者に対し,原子 後の進め方について」を取りまとめ,同月28日付けの「原子力発電所内におけるアクシデントマネジメントの整備について」と題する資源エネルギー庁公益事業部長名の行政指導文書を発出し,事業者に対し,原子炉施設ごとに確率論的安全評価を実施し,アクシデントマネジメントの整備について,検討,報告を求めた(丙A1の1・417頁,丙A60,61)。 「アクシデントマネジメントの今後の進め方について」においては,原子炉の設置又は運転などを制約するような規制的措置を要求するものではないとしつつも,実施されるアクシデントマネジメントの技術的有効性については,設計基準事象への対応に与える影響を含めて通商産業省による確認,評価等を行うこととされた。なお,安全規制上の位置付けは,現状の知見に基づくものであり,今後のシビアアクシデント研究の成果により適宜適切に対応していくものとされた。(丙A60)⑶ 「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備について検討報告書」(丙A62)通商産業省(当時)は,平成6年10月,電気事業者から提出されたアクシデントマネジメント検討報告書の技術的妥当性を検討し,検討結果を「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備について検討報告書」に取りまとめ,原子力安全委員会に報告した。 通商産業省資源エネルギー庁(当時)は,同報告書の中で,被告東電を含む電気事業者に対し,概ね平成12年を目途にアクシデントマネジメントの整備を促し,また,原子力安全委員会は,通商産業省(当時)からの同報告書を受け,同委員会が設置した原子炉安全総合検討会及びアクシデントマネジメント検討小委員会において順次検討を行い,これを踏まえて平成7年12月,同報- 89 - 告書の内容を了承した。 (甲A1の1・本文編421, した原子炉安全総合検討会及びアクシデントマネジメント検討小委員会において順次検討を行い,これを踏まえて平成7年12月,同報- 89 - 告書の内容を了承した。 (甲A1の1・本文編421,422頁,丙A62)なお,平成4年当時,我が国において確率論的安全評価の手法が確立されつつあったのは運転時の内的事象PSAのみであったことから,電力事業者が行った確率論的安全評価は,内的事象を対象としたものであった(甲A1の1・本文編419,420頁)。 ⑷ 「アクシデントマネジメント整備上の基本要件について」(丙A64)保安院は,アクシデントマネジメント整備上の基本要件について検討を行い,平成14年4月,①アクシデントマネジメントの実施体制,②アクシデントマネジメント整備に係る施設,設備類,③アクシデントマネジメントに係る知識ベース,④アクシデントマネジメントに係る通報連絡,⑤アクシデントマネジメントに係る要員の教育等の基本要件を「アクシデントマネジメント整備上の基本要件について」に取りまとめた(甲A1の1・本文編424頁,丙A64)。 4 定期安全レビュー(PSR)の創設(甲A1の1・本文編423頁)通商産業省(当時)は,平成4年6月22日,定期安全レビューの実施を事業者に対して,行政指導として要請した。 定期安全レビューは,年1回の原子炉の定期検査に加え,原子力発電所の安全性・信頼性のより一層の向上を目的に,10年を超えない期間ごとに,①運転経験の包括的評価,②最新の技術的知見の反映,③確率論的安全評価(PSA)の実施とアクシデントマネジメントの評価を事業者が実施するものである。 5 被告東電によるシビアアクシデント対策及び保安院の対応⑴ 被告東電によるシビアアクシデント対策被告東電は,平成6年から平成14年にかけて福島 ネジメントの評価を事業者が実施するものである。 5 被告東電によるシビアアクシデント対策及び保安院の対応⑴ 被告東電によるシビアアクシデント対策被告東電は,平成6年から平成14年にかけて福島第一原発についてアクシデントマネジメントの整備を行い,その整備状況と代表炉についての確率論的安全評価(PSA)の結果を取りまとめ,平成14年5月29日,原子力発電所における「アクシデントマネジメント整備報告書」及び「アクシデントマネ- 90 - ジメント整備有効性評価報告書」を保安院に提出した(甲A1の1・本文編431頁,丙A65)。 ⑵ ⑴を受けた保安院の対応保安院は,被告東電から提出された上記の両報告書や他の電力事業者の報告書を受け,総合的見地から評価し,平成14年10月,「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書」を取りまとめ(丙A66),原子力安全委員会へ報告した。 同報告書においては,事業者が整備したアクシデントマネジメント策について,既存の安全機能への影響の有無,アクシデントマネジメント整備の基本要件の充足の有無,アクシデントマネジメント整備有効性評価の確認についてそれぞれ評価を行い,今回整備されたアクシデントマネジメントは,原子炉施設の安全性を更に向上させるという観点から有効であることを定量的に確認した(丙A66・7ないし14頁)。 ⑶ ⑵以降の被告東電及び保安院の対応被告東電は,平成14年5月の保安院による「アクシデントマネジメント整備有効性評価報告書」で評価した代表炉以外の確率論的安全評価の実施の指示を受けて,代表炉以外の確率論的安全評価を実施し,平成16年3月26日,「アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書」を保安院に提出した(丙A67)。 保安院は 論的安全評価の実施の指示を受けて,代表炉以外の確率論的安全評価を実施し,平成16年3月26日,「アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書」を保安院に提出した(丙A67)。 保安院は,同報告書の提出を受け,財団法人原子力発電技術機構原子力安全解析所(当時,後の原子力安全基盤機構解析評価部)に委託するなどして,事業者とは独立してアクシデントマネジメントの有効性を確認し,平成16年10月,「軽水型原子力発電所における『アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価』に関する評価報告書」を取りまとめ,これを公表した(丙A68)。 第8 本件事故後の関連法令等の変更- 91 - 1 新炉規法⑴ 目的目的(1条)につき,旧炉規法の「これらによる災害を防止し」を,新炉規法では「原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止し」とした。 ⑵ 規制組織規制組織としては,保安院と原子力安全委員会が廃止され,安全規制行政を一元的に担う新たな組織として,平成24年9月19日に原子力規制委員会が発足した。そこで,新炉規法では,規制行政の責任機関が原子力規制委員会に一元化された(3条,4条,10条,13条等,原子力規制委員会設置法1条,2条,4条,附則1条)。 ⑶ シビアアクシデント対策の追加発電用原子炉設置許可の申請に際して,「発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項」を記載しなければならないことが追加された(43条の3の5第2項10号)。 ⑷ 設置許可の基準発電用原子炉設置許可の基準として,申請 該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項」を記載しなければならないことが追加された(43条の3の5第2項10号)。 ⑷ 設置許可の基準発電用原子炉設置許可の基準として,申請者に「重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう。 中略)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。」及び「発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること。」が追加された(43条の3の6第1項3号及び4号)。 - 92 - 2 省令62号の改正経済産業大臣は,平成23年10月7日,省令62号を改正し,5条の2(津波による損傷の防止)を追加した。5条の2第1項において「原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が,想定される津波により原子炉の安全性を損なわないよう,防護措置その他の適切な措置を講じなければならない」と規定し,5条の2第2項において「津波によって交流電源を供給する全ての設備,海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能が喪失した場合においても直ちにその機能を復旧できるよう,その機能を代替する設備の確保その他の適切な措置を講じなければならない。」と規定した(甲B116,丙A89)。 3 技術基準規則の制定原子力規制委員会は,新炉規法43条の3の14第1項に基づき,技術基準規則(平成25年原子力規制委員会規則第6号)を制定し,同規則は平成25年7 甲B116,丙A89)。 3 技術基準規則の制定原子力規制委員会は,新炉規法43条の3の14第1項に基づき,技術基準規則(平成25年原子力規制委員会規則第6号)を制定し,同規則は平成25年7月8日に施行された。技術基準規則は,従前の省令62号において定められていた規制内容を基にし,引き継いでいるものの,これに加えて,本件事故を踏まえ,地震・津波対策についての見直しを行い,また,シビアアクシデント対策に関し,炉心損傷防止対策,格納容器損傷防止対策等を定めている。 ⑴ 規則制定による全交流電源喪失に対する対策強化技術基準規則16条は,全交流動力電源喪失対策設備に関して,「発電用原子炉施設には,全交流動力電源喪失時から重大事故等に対処するために必要な電力の供給が交流動力電源設備から開始されるまでの間,発電用原子炉を安全に停止し,かつ,発電用原子炉の停止後に炉心を冷却するための設備が動作するとともに,原子炉格納容器の健全性を確保するための設備が動作することができるよう,これらの設備の動作に必要な容量を有する蓄電池その他の設計基準事故に対処するための電源設備を施設しなければならない。」と定める。 また,「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に- 93 - 関する規則」(平成25年原子力規制委員会規則5号。以下「設置許可基準規則」という。丙A98)57条及び技術基準規則72条は,本件事故前には事業者の自主対応に委ねられていた全交流電源喪失に対するシビアアクシデント対策を法規制化した。 ⑵ 津波による損傷の防止の規定技術基準規則6条は「設置基準対象施設が,基準津波(設置許可基準規則5条に規定する基準津波をいう。以下同じ。)によりその安全性を損なわれるおそれがないよう,防護措置その他の適切な措置を講じなければ 技術基準規則6条は「設置基準対象施設が,基準津波(設置許可基準規則5条に規定する基準津波をいう。以下同じ。)によりその安全性を損なわれるおそれがないよう,防護措置その他の適切な措置を講じなければならない」と規定している。 ここで引用されている設置許可基準規則5条においては,設計基準対象施設は,その供用中に当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれのある津波に対してその安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない旨規定した上で,同条の「解釈」においては,基準津波について,最新の科学的・技術的知見を踏まえて地震学的見地から想定することが適切なものを策定することとし,設計基準津波の策定方法,策定の際に考慮されるべき事項,基準津波に対する設計基準対象施設(発電用原子炉)の設計方法について詳細に解説されている。 - 94 -第3部争点及び当事者の主張第1 被告国の責任 1 本件設置等許可処分の違法性(原告らの主張の要旨)⑴ 内閣総理大臣は,福島第一原発1号機については昭和41年12月に,2号機については昭和43年3月に,3号機については昭和45年1月に,4号機については昭和47年1月に,当時の炉規法(昭和40年法律78号による改正後,昭和53年法律第86号による改正前のもの)に基づいて,本件設置等許可処分を行った。そして,炉規法24条1項4号によれば,内閣総理大臣は,「原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。以下同じ。),核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。以下同じ。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。」という要件に適合していなければ設置許可処分をしてはならないとされていた。 ⑵ 本件設置等許可処分の「安全審査の対象」は「安全性に関わる事 。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。」という要件に適合していなければ設置許可処分をしてはならないとされていた。 ⑵ 本件設置等許可処分の「安全審査の対象」は「安全性に関わる事項」であるから,自然現象や全電源喪失事象なども考慮すべきであったことア原子炉施設で万一事故が発生した場合には,人の生命・身体や環境に与える影響は他の施設とは質,量ともに異なっており,人類全体に対する大きな脅威とさえなり得る。このため原子炉施設では安全確保が第一とされ,原子炉施設以外の施設では,事業者が設計・建設・運転の各段階で安全確保の責任を負う。我が国の安全規制では,①原子炉の設置許可にかかる安全審査の段階(前段規制),②設置許可後の後続処分(設計工事方法認可・使用前検査・定期検査)段階(後段規制)に大別され,①においてのみ,炉規法に従って,行政庁である内閣総理大臣(当時)が通商産業省(当時)の安全審査結果を受けて原子力委員会(当時)に諮問し,原子力委員会(当時)はそれを受けて審査し答申することになっており,②以下については,電気事業法に従って,通商産業省が審査し認可することとされていた。このように,原- 95 -子炉設置許可処分の段階(前段規制)と,許可後の後続処分(後段規制)とでは,処分の重みが大きく異なっている。「安全に関わる事項」を審査する,極めて重要な原子炉設置許可処分の段階(前段規制)で,「設計工事方法認可・使用前検査という後続処分の段階(後段規制)で事故防止対策が適切に完全に施される」ことを仮定し,かつ,事故シークエンスを解析(シミュレーション)する時点において,「起因事象を原子炉施設内にある『内部事象』に限定して自然現象などの『外部事象』を排除し,かつ故障を機器の単一故障指針に基づくもののみに限定し,かつ外部電源 析(シミュレーション)する時点において,「起因事象を原子炉施設内にある『内部事象』に限定して自然現象などの『外部事象』を排除し,かつ故障を機器の単一故障指針に基づくもののみに限定し,かつ外部電源喪失は短時間のみ考慮すれば足りるとした安全審査は,安全性に関わる事項を審査したことにはならず,原子力委員会(当時)の判断に依拠した内閣総理大臣(当時)の本件設置等許可処分は違法である。 イ安全審査で考慮されたのは単一故障のみであり,共通原因故障ではないこと原子力安全委員会・軽水炉安全性調査専門委員会が調査検討したところによれば,「共通原因故障」とは,単一の要因によって,複数の機器又はシステムが同時に故障することをいうとされている。「単一の要因」には,設計,製作・工事,運転・保守の各段階で機器の故障原因となるエラーばかりではなく,そのエラーを露呈させる又は結果的に「機能喪失」という故障状態とさせる外部事象(火災,浸水,地震,外部電源喪失など)をも含んでいる。 そして,原子炉停止系や冷却系はいずれも工学的安全設備であり,安全設計指針においては,冗長性を確保するという理念のもとに,「多重性」,「多様性」及び「独立性」を要求している。しかし,本件においては,地震や津波などの要因によって同時に故障することを考慮していなかった。 ウ安全審査では共通原因故障をもたらす外的要因(自然現象)を考慮していないこと我が国の「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」(昭和- 96 -45年安全設計審査指針)(丙A9)においても,敷地の自然条件に対する設計上の考慮において安全上重要かつ必須の系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録を参照して予測される自然条件のうち最も過酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設 に対する設計上の考慮において安全上重要かつ必須の系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録を参照して予測される自然条件のうち最も過酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計であることとされている。しかし,単一故障指針を設けることによって,「事故条件と自然現象との適切な組み合わせ」を考えることをやめてしまった。被告国は,安全審査において,外部電源からの引き込み回線を2回線としたり,非常用ディーゼル発電機を複数設置したりする「多重性・多様性・独立性を図る」ことを仮定又は前提として事故解析を行って安全だという結論を得た。ところが,その後の設計・建設段階において,全電源をハブとして中継している配電盤や複数の非常用ディーゼル発電機を地下に設置するという,多重性,多様性及び独立性の考え方に反する設計・建設を行った。以上より,設置許可段階において,明確に自然現象の影響を審査し,その後の設計・建設に当たって設備などを具体的に指示していれば,安全性を確保することができた。国会事故調においても,「安全設計審査指針類は,その内容が不適正であり,今まで十分に原子炉の安全が確保されてこなかったことが明らかになった」と結論付けており,「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する安全審査では,安全性を検討するために想定する『事故』を,原因が原子炉施設内にある,いわゆる内部事象,かつ,機器の単一故障によるものと仮定している。本事故のような複合災害による多重故障が想定されていない。」と指摘されている。これは,設置許可の安全審査段階において,単一故障のみならず,共通原因故障を考慮しておかなかった安全設計審査指針が誤っていたことを示すものである。 エ全電源喪失事故の検討が欠落していること我が国では,外部電 審査段階において,単一故障のみならず,共通原因故障を考慮しておかなかった安全設計審査指針が誤っていたことを示すものである。 エ全電源喪失事故の検討が欠落していること我が国では,外部電源系の安全機能重要度と耐震設計重要度は低くてよいとされ,電源喪失時でも非常冷却系は適切に作動するとされていた。また,- 97 -原子炉安全専門審査会報告には「安全上重要な機器の操作に必要な電力は,ディーゼル発電機及び所内バッテリー系からも供給される」と記載されており,バッテリー系機器の継続可能時間は短く,ディーゼル発電機は複数のうち,どれかが作動すると仮定され,かつ,外部電源の復旧が短時間で行われるという,非常に甘い前提で事故シークエンスが考えられていた。また,国会事故調には,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針においては,長時間にわたる全交流動力電源喪失を考慮する必要がないものとされ,非常用交流電源設備の信頼度が十分に高ければ,設計上全交流動力電源喪失は想定しなくて良いものとされた」と指摘されており,安全設計審査指針自体の欠陥を指摘した。 オ原子力発電所敷地及び周辺環境は「原発立地」としては不適格であること福島第一原発が建設される前の地形は,標高約35mのほぼ平坦な丘陵地帯で東が急峻な断崖となって太平洋に面していた。原子炉建屋等の主要建物は直接堅固な岩盤に設置されるべきものとされているが,福島第一原発の敷地内の泥岩層は,標高4m付近にある。そして,岩盤の性質は比較的脆弱であるにもかかわらず,十分な耐力を有するとされているのであり,判断の妥当性に疑義がある。また,福島第一原発は,渓流や沼沢がある標高約35mの土地を標高10mまで切り下げて整地し,原子炉建屋などが建設される場所については,標高-4mの岩盤が露出する のであり,判断の妥当性に疑義がある。また,福島第一原発は,渓流や沼沢がある標高約35mの土地を標高10mまで切り下げて整地し,原子炉建屋などが建設される場所については,標高-4mの岩盤が露出するレベルまで掘り下げ,ベタ基礎のような形状の人工岩盤のコンクリートを打設し,原子炉建屋の底部を半ば岩盤に埋め込んで一体化させて建設された。さらに,軟弱地盤で地下水量の多い土地に原子力施設を建てるということ自体に大きな問題があったといえる。このことは,地震などによって原子炉建屋等に生じた亀裂から地下水が原子炉建屋等に毎日約400トンの地下水が入り込んで,溶融燃料を冷却した水と混ざって高濃度汚染水が増え続けるという事態を招いていることからも明らかである。以上より,福島第一原発の敷地は,原子炉設置の敷地- 98 -として不適格であった。 カ耐震設計審査は不十分であること国会事故調は「1ないし3号機の設置許可申請がなされた昭和40年代前半は地震科学が未熟であり,敷地周辺の地震活動性は低いと考えられた」としたものの,「クラスAsおよびAの設計は,基盤における最大加速度0. 18g(gは重力加速度で980Gal)の地震動に対して安全であるように設計される」,「クラスAsの施設については,上記の0.18gの1.5倍の加速度の地震動に対して,機能がそこなわれないことを確かめるとして,265Gal を決めたが,敦賀原子力発電所が昭和23年の福井地震(マグニチュード7.1)を考慮して最大加速度368Gal の機能保持検討用地震動としたことに比べると,相当低い」,「当時としてはやむをえない面があったとはいえ,これらの想定は著しく甘いもので,当初の耐震設計は明らかに不十分だった」と強く批判している。このことから,耐震設計審査も不十分であったといえる。 い」,「当時としてはやむをえない面があったとはいえ,これらの想定は著しく甘いもので,当初の耐震設計は明らかに不十分だった」と強く批判している。このことから,耐震設計審査も不十分であったといえる。 キ昭和39年原子炉立地審査指針に基づく審査の誤り昭和39年原子炉立地審査指針によれば,立地条件の適否を判断する際には,基本目標を達成するため,少なくとも,①原子炉の周辺は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること,②原子炉からある距離の範囲内であって,非居住区域の外側の地帯は,低人口地帯であること,③原子炉施設は人口密集地帯からある距離だけ離れていること,という3条件を充足していることを確認しなければならないとされた。また,重大事故と仮想事故については,いくつかの事故を想定し,その解析の結果,非居住区域及び低人口地帯に放出されるそれらの事故時の放射線量が,以下の目安線量を超えないならば,立地条件を満たすと判断されることになっていた。 重大事故甲状腺(小児)に対して 1.5Sv全身に対して 0.25Sv- 99 -仮想事故甲状腺(成人)に対して 3Sv全身に対して 0.25Sv本件の安全審査では,仮想事故においても「炉心の100%溶融」とされているにもかかわらず,格納容器(ドライウェル)に放出されるのは「炉心に内蔵されている核分裂生成物中のヨウ素の50%,希ガスの100%」のみを仮定し,セシウムやストロンチウム,プルトニウムなどについては全く考慮されておらず,格納容器からは許容される漏洩率で隙間から漏れるだけであって格納容器が破壊されることは仮定していない。このように,放出量を少なくする仮定をおいた結果,敷地外 ウムなどについては全く考慮されておらず,格納容器からは許容される漏洩率で隙間から漏れるだけであって格納容器が破壊されることは仮定していない。このように,放出量を少なくする仮定をおいた結果,敷地外において線量が最大となる原子炉から約1km における線量は,目安線量よりも十分に小さいとされた。 国会事故調では,「立地審査指針では,重大事故の発生を想定して原子炉周辺のある範囲を非居住区域とするとともに,仮想事故を想定した上で,非居住区域を越えたある範囲を低人口地帯とすることが要求されている。しかし,非居住区域や低人口地帯の設定の前提となる放射性物質の放出量は,これらの区域・地帯が原子炉施設の敷地内に収まるように逆算されていた疑いがある」と指摘し,安全審査自体を強く批判している。また,立地審査指針で想定した事故は,格納容器の封じ込め機能は維持されていることを前提に設計上許容される漏洩率で隙間から漏れるという相当軽いものを想定した計算をしていた。以上より,立地審査指針の規定及び適用には誤りがあったといえる。 ⑶ 公衆損害額に関する試算が行われたこと科学技術庁(当時)は,原子力災害評価についての基礎調査を行い,原子力災害補償確立のための参考資料とするために原子力産業会議に調査を委託し,原子力産業会議は,アメリカ原子力委員会の解析方法を参考にして試算を行った。放出される放射性物質の種類・量・気象条件などを変えて試算した結果,最大となる人的損害は数百名の死者,数千人の障害,100万人程度の要観察- 100 -者であり,最大となる物質損害は,農業制限地域が幅20ないし30km,長さ1000km にも及ぶものであり,損害額は1兆円以上と試算された。このように原子力災害による損害は莫大であり,許可権者である内閣総理大臣は,この試算を認識し 業制限地域が幅20ないし30km,長さ1000km にも及ぶものであり,損害額は1兆円以上と試算された。このように原子力災害による損害は莫大であり,許可権者である内閣総理大臣は,この試算を認識し得る立場にあり,原発事故が起きることの予見可能性は十分にあった。 ⑷ 我が国の原子力損害賠償制度の成立我が国では,昭和36年,原賠法が定められ,同時に,政府と事業者との間の補償契約を定めた原子力損害賠償補償契約に関する法律が制定された。ここでは,原子力事業者の責任集中,無限責任が定められた。もっとも,原子力事業者が賠償すべき額が事業者の講じる賠償措置額を超えたときは,国は,事業者保護と被害者保護のために必要があると認める場合,事業者に対し,事業者が損害賠償を行うために必要な援助を行うものとされた。 ⑸ 以上より,原子力災害が甚大かつ永続的であることは,本件設置等許可処分当時においても,核開発の歴史から明らかであり,原子力発電所を設置,稼働させれば,原子力事故が起こる可能性があることは,原子力の研究開発に携わっていた者であれば分かっており,このことから,公衆損害の試算が行われ,原賠法が制定されたのである。そして,内閣総理大臣は,科学技術庁に公衆損害の試算を行わせ,原賠法を成立させ,原子炉設置許可処分をするに当たっては,原子力研究開発に携わっていた者の意見を聞いて,原子炉設置許可の是非を決定するのであるから,原子力事故が発生し,甚大な被害が発生する可能性があることについては,知っていたか,少なくとも知り得る立場にあったといえる。したがって,内閣総理大臣(当時)には,本件設置等許可処分の時点において,事故発生と甚大な被害発生について,予見可能性があったというべきであり,内閣総理大臣(当時)が本件設置等許可処分をしたことは,違法であり,過 総理大臣(当時)には,本件設置等許可処分の時点において,事故発生と甚大な被害発生について,予見可能性があったというべきであり,内閣総理大臣(当時)が本件設置等許可処分をしたことは,違法であり,過失と評価できる。 (被告国の主張の要旨)- 101 -⑴ 原子炉設置許可処分に係る国賠法上の違法性判断枠組み国賠法1条1項にいう「違法」とは,公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいい,行為規範違背を内容とするから,その法的義務違反の有無については,当該職務行為をした時点を基準として判断される。その職務上の法的義務の具体的内容は,対象となる行政行為の内容及び性質に応じて検討されるべきところ,本件設置等許可処分当時の炉規法は,原子炉設置許可処分について,①具体的な安全審査の基準あるいは判断基準の策定と,②炉規法24条1項各号所定の要件該当性の認定判断について,原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねるものと解される。このことに照らせば,本件設置等許可処分が国賠法上違法と評価されるのは,処分当時の科学的,専門技術的知見に照らし,原子力委員会等における調査審議に用いられた具体的審査基準に看過し難い不合理な点があり,あるいは,原子力委員会等の行った調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落があり,内閣総理大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合に限られる。このような過誤,欠落等は,請求原因事実である違法を基礎付ける根拠事実であるから,その主張立証責任は,本件設置等許可処分が違法であるとして損害賠償を求める原告らが負担する。 ⑵ 本件事故後の専門機関の見解等に基づく原告らの主張が失当であること国賠法1条1項にいう「違法 ら,その主張立証責任は,本件設置等許可処分が違法であるとして損害賠償を求める原告らが負担する。 ⑵ 本件事故後の専門機関の見解等に基づく原告らの主張が失当であること国賠法1条1項にいう「違法」は,国民の権利利益を侵害する行為をすることが法の許容するところであるかどうかという見地からする行為規範違背であるから,「違法」の有無は,当該職務行為の時点を基準として,当時の科学的,専門技術的知見に照らして判断されるべきものであり,当該職務行為がされた後の事情により得られた新たな科学的,専門技術的知見に基づき,遡って当該職務行為を行った公務員におよそ遵守することを期待できない行為規範(職務上の義務)を課し,その義務違背を問うて国に賠償責任を負わせること- 102 -は法の予定するところでない。それにもかかわらず,原告らが引用する見解等は,いずれも日本国内で観測された過去最大規模の本件地震及びこれに伴う津波が発生し,本件事故が発生したという本件設置等許可処分後の事情を踏まえた調査,研究等により得られた見解であり,本件設置等許可処分後の新たな科学的知識,専門的知見というべきものである。したがって,本件事故後の専門機関の見解等に基づき本件設置等許可処分が国賠法上違法であるとする原告らの主張は失当である。 ⑶ 調査審議に用いられていない審査基準の瑕疵を指摘する原告らの主張が失当であること福島第一原発1ないし3号機について設置(変更)許可処分がされたのは昭和41年12月1日から昭和45年1月23日であり,同4号機について設置(変更)許可処分がされたのは昭和47年1月13日であるのに対し,昭和45年安全設計審査指針が原子力委員会において了承されたのは3号機の設置(変更)許可処分後の昭和45年4月23日,原子力安全委員会が発電用軽水型原子炉施 のは昭和47年1月13日であるのに対し,昭和45年安全設計審査指針が原子力委員会において了承されたのは3号機の設置(変更)許可処分後の昭和45年4月23日,原子力安全委員会が発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針(安全機能重要度分類指針)を決定したのは平成2年8月30日,昭和53年耐震設計審査指針を決定したのは昭和53年9月29日である。すなわち,昭和45年安全設計審査指針は,1ないし3号機の設置許可処分後に策定され,これらの処分における安全審査には用いられておらず,また,上記安全機能重要度分類指針や昭和53年耐震設計審査指針は,本件設置等許可処分後に策定され,いずれの安全審査にも用いられていないといえる。したがって,本件設置等許可処分の調査審議に用いられていない審査基準の内容をもって,本件設置等許可処分の国賠法上の違法が基礎付けられるものではなく,調査審議に用いられていない審査基準の誤り,瑕疵を指摘する原告らの主張は,失当である。 ⑷ 本件事故における事故原因と関わりのない事由によって,本件設置等許可処分が国賠法上違法であるとする原告らの主張が失当であること- 103 -当該職務上の法的義務違反によって原告らの主張に係る損害が生じたということができない場合には,当該職務上の法的義務違反は被告国の国賠法上の責任を導くことはなく,当該設置等許可処分の国賠法上の違法を基礎付ける事情とはなり得ない。したがって,本件設置等許可処分の国賠法上の違法性の有無の判断に当たっては,本件事故により損害を被ったと主張する原告らとの関係において,内閣総理大臣が本件設置等許可処分を行うに当たりいかなる職務上の法的義務を負担していたかを検討すべきであり,原告らの主張に係る損害は当該職務上の法的義務違反によって生じたものであるか否 係において,内閣総理大臣が本件設置等許可処分を行うに当たりいかなる職務上の法的義務を負担していたかを検討すべきであり,原告らの主張に係る損害は当該職務上の法的義務違反によって生じたものであるか否かを問う必要がある。本件においては,原告らは,内閣総理大臣による本件設置等許可処分その他の違法な公権力の行使又は不行使により,本件地震に伴う津波による全交流電源喪失を原因として本件事故が発生したことによって損害を受けたとして,被告国に対し国賠法1条1項に基づく賠償を請求しているのである。したがって,およそ津波に対する安全対策と関わりのない事項に係る安全審査の内容については,それが本件事故の発生に直接影響を与えるものでないから,このような事故原因と関わりのない事項に対する安全対策に係る事由によって本件設置等許可処分が国賠法上違法であるとの原告らの主張は失当である。 ⑸ 本件設置等許可処分当時の科学的,専門技術的知見に照らし,原告らが主張するような過誤,欠落があるとは認められず,本件設置等許可処分における安全審査に不合理な点はないことア炉規法における安全規制においては,分野別安全規制,段階的安全規制が採用されており,原子炉設置許可の段階における安全審査では,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が審査されるものである。そして,本件設置等許可処分当時の炉規法の規定の下における基本設計ないし基本的設計方針に係る安全確保対策の体系は以下のとおりであり,これらの考え方は基本的に今日においても変わっておらず,一般的に妥当性を有するものである。 炉規法24条1項4号の規定する原子炉施設の安全の確保とは,その文言- 104 -上,核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることを意味するのは明らかである。 項4号の規定する原子炉施設の安全の確保とは,その文言- 104 -上,核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることを意味するのは明らかである。したがって,そこで想定されている原子炉施設の潜在的危険性とは放射性物質に関わる危険である。すなわち,原子炉施設の位置,構造及び設備について,「災害の防止上支障がない」ものとして,放射性物質の有する潜在的危険性を顕在化させないための対策が適切に講じられていることが安全審査の対象である。このため,安全審査において,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針について確認すべき事項は,①原子炉施設の平常運転によって放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,平常運転時における被ばく低減対策を適切に講じていること及び②原子炉施設において事故が発生することにより放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,自然的立地条件との関係も含めた事故防止対策を適切に講じていることである。この事故防止対策とは,原子炉施設を取り巻く自然的立地条件に万全の配慮をした上,いわゆる多重防護の考え方に基づき,原子炉の運転の際に異常状態が発生することを可及的に防止することはもちろんのこと,仮に異常状態が発生したとしても,それが拡大したり,更には放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態にまで発展することを極力防止するとともに,仮にそのようなおそれのある事態が発生した場合においてもなお,放射性物質の環境への異常放出という結果が防止され公共の安全が確保されるように,その基本設計ないし基本的設計方針において,所要の事故防止対策を講じることである。これら2点が確認されることにより,設置等許可処分の申請があった原子炉施設の位置,構造及び設備がその基本設計ないし基本 の基本設計ないし基本的設計方針において,所要の事故防止対策を講じることである。これら2点が確認されることにより,設置等許可処分の申請があった原子炉施設の位置,構造及び設備がその基本設計ないし基本的設計方針において,原子炉等による災害の防止上支障がないものであり,炉規法24条1項4号の要件に適合することが確認される。また,安全審査においては,上記①及び②の対策が講じられていることを確認するだけではなく,申請者の実施した①の平常時における被ばく低減対策に係る被ばく線- 105 -量評価及び②の事故防止対策に係る解析評価(以下「事故解析評価」という。)の妥当性をも併せて確認する。この事故解析評価は,申請者において,通常運転状態を超えるような異常な事態をあえて想定し,そのような事態においても,当該原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針において事故防止対策のために考慮された機器系統などの設計が妥当であることを念のため確認するものである。安全審査において,このような事故解析評価の妥当性についても審査するのは,原子炉施設が放射性物質を有しているという点を考慮し,念には念を入れるという考え方に基づくものである。さらに,安全審査においては,このようにして平常時における被ばく低減対策及び事故防止対策による安全性確保を確認し,事故解析評価の結果,安全防護設備等の基本設計ないし基本的設計方針の総合的な妥当性が確認されていることを前提に,さらに念には念を入れて安全性の確認をするべく,放射性物質から放出される放射線は,たとえ放射線を減衰させるための物的障壁が存しなくても,離隔によって十分減衰し得るものであることに鑑み,災害評価として,当該原子炉がその安全防護設備との関連において十分に公衆から離れているとの立地条件を満たすものであるかについても審査される なくても,離隔によって十分減衰し得るものであることに鑑み,災害評価として,当該原子炉がその安全防護設備との関連において十分に公衆から離れているとの立地条件を満たすものであるかについても審査される。この原子炉の公衆との離隔に係る立地条件の適否については,環境に放射性物質が放出されるような事故をあえて想定した上,その事故による公衆の被ばく線量を計算,評価し,これを基礎に判断する方法が採用されており,昭和39年原子炉立地審査指針への適合性の評価は,この災害評価を審査するものである。 イ安全審査の対象である基本設計ないし基本的設計方針の意義そもそも基本設計ないし基本的設計方針という概念は,炉規法の法文上定義されたものではなく,工学的分野における設計において一般的に認められた概念である。ここでいう基本設計ないし基本的設計方針とは,原子炉施設の安全性に係る設計の基本的考え方をいい,これは,本件設置等許可処分当時における炉規法23条2項,原子炉の設置,運転等に関する規則(昭和3- 106 -2年総理府令第83号)1条(昭和35年総理府令第54号による改正後の1条の2)の定める原子炉設置許可申請書に記載すべき事項などから客観的に把握し得るものである。基本設計ないし基本的設計方針は,後続の詳細設計等に対して指針を示し枠組みを与えるものであるが,具体的な個々の原子炉の安全審査において,上記の基本設計ないし基本的設計方針として,いかなる事項をいかなる程度まで審査すべきかは,対象となる設備等の災害防止上の位置付け,安全審査時点における技術的知見,当該設備等の他の産業における利用実績等の事情によって異なり得る。そして,具体的な安全審査の基準あるいは判断基準の策定について処分行政庁に専門技術的裁量が認められることに照らせば,基本設計ないし基本的設計 等の他の産業における利用実績等の事情によって異なり得る。そして,具体的な安全審査の基準あるいは判断基準の策定について処分行政庁に専門技術的裁量が認められることに照らせば,基本設計ないし基本的設計方針としていかなる事項をいかなる程度まで審査すべきかの具体的な判別についても,処分行政庁の専門技術的な見地からの合理的な判断に委ねられているというべきである。 ウ本件設置等許可処分は,同処分当時における科学的,専門技術的知見の下で,適正に行われており,原告らが主張するような過誤,欠落は認められず,不合理な点はないこと本件設置等許可処分における安全審査に当たっては,原子力委員会に置かれた原子炉安全専門審査会において,原子力及び関連分野における科学的,専門技術的知見に精通した学識経験者等の審査委員により,幅広くかつ詳細な調査審議がされた。内閣総理大臣による本件設置等許可処分は,この調査審議の結果を踏まえた原子力委員会の答申を尊重して行われたものであり,当時の科学的,専門技術的知見に照らし,原子力委員会等における調査審議に用いられた具体的審査基準に看過し難い不合理な点があるとはいえず,原子力委員会等の行った調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落があるともいえない。そのため,原子力委員会等の科学的,専門技術的な意見を基にしてされた内閣総理大臣の判断に不合理な点はなく,本件設置等許可処分が国賠法1条1項の適用上違法と評価されることはない。 - 107 -そして,原告らが本件設置等許可処分の過誤,欠落として主張する事由は,いずれも前提事実や評価等を誤り,本件設置等許可処分当時における科学的,専門技術的知見に照らし,安全審査の過誤,欠落等として本件設置等許可処分の国賠法上の違法を基礎付けるような事情と認めることはできないから,これらの事 等を誤り,本件設置等許可処分当時における科学的,専門技術的知見に照らし,安全審査の過誤,欠落等として本件設置等許可処分の国賠法上の違法を基礎付けるような事情と認めることはできないから,これらの事由に基づく原告らの主張は失当である。 2 規制権限不行使の違法性の判断枠組み(原告らの主張の要旨)⑴ 一般的判断枠組み規制権限不行使が,国賠法上違法となるのは,その権限を定めた法令の趣旨・目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合である。そして,判断の考慮要素としては,規制権限を定めた法令の趣旨・目的,権限の性質,被侵害法益の重要性,予見可能性の存在及び結果回避可能性の存在が挙げられる。 ⑵ 最高裁判例についての検討ア宅建業者最高裁判決やクロロキン最高裁判決,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決についてみると,具体的な規制権限の行使の在り方について異なる判断を示している。すなわち,宅建業者最高裁判決及びクロロキン最高裁判決は,行政庁の裁量の存在を問題としているのに対し,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,行政庁の裁量の存在を問題とせず,規制権限は適時に適切に行使すべきであることを明確にしている。 イ各最判の検討宅建業者最高裁判決の事案は,被害法益が財産権であり,「取引関係者が…自助努力により損害を防止することもある程度は可能であるから,違法免許から生ずるすべての取引関係者の具体的な損害まで国又は地方公共団体が当然カバーするとはいえない」ことから,処分をするか否かの判断,どの- 108 -ような処分をするかの判断,いつ行うかの判断についての行政庁の「裁量」が強調されたといえる。また,クロロキン最高裁判決の事案 するとはいえない」ことから,処分をするか否かの判断,どの- 108 -ような処分をするかの判断,いつ行うかの判断についての行政庁の「裁量」が強調されたといえる。また,クロロキン最高裁判決の事案は,被害法益が生命・健康であるものの,医薬品の有用性と副作用の比較考慮(生命対生命の比較考慮)が必要であること,また,その当否は別として,「当該医薬品を使用する医師の適切な配慮により副作用による被害の防止が図られる」ことから,処分をするか否かの判断,どのような処分をするかの判断,いつ行うかの判断は,「専門的かつ裁量的な判断によらざるを得ない」として,行政庁の「裁量」が強調されたといえる。 これに対し,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決の事案は,いずれも,一方の被害者側の法益が生命・健康という不可侵の権利であり,他方で規制される側の不利益は,事業者の物的・経済的負担であること,規制権限を付与した根拠法規の趣旨・目的が被害法益を直接保護することを主要な目的の一つとしていることから,処分をするか否かの判断,どのような処分をするかの判断,いつ行うかの判断についての行政庁の「裁量」の存在を問題とせず,生命・健康被害の発生・拡大を防止するために「適時にかつ適切に」規制権限を行使することが求められることを明確にしたものといえる。 上記のとおり,宅建業者最高裁判決及びクロロキン最高裁判決は,行政庁の「裁量」の存在を問題とすることから,規制権限の行使の在り方について,「処分の選択,その権限行使の時期等は,知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられている」(宅建業者最高裁判決),「問題となった副作用の種類や程度,発現率及び予防方法等を考慮した上,随時,相当と認められる措置を講ずべきものであり,その態様,時期等については,性質上,厚生大臣のそ いる」(宅建業者最高裁判決),「問題となった副作用の種類や程度,発現率及び予防方法等を考慮した上,随時,相当と認められる措置を講ずべきものであり,その態様,時期等については,性質上,厚生大臣のその時点の医学的,薬学的知見の下における専門的かつ裁量的な判断によらざるを得ない」(クロロキン最高裁判決)との判断につながっているのである。これに対し,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,- 109 -規制権限を付与した根拠法規が被害法益を直接保護することを主要な目的の一つとしていることから,行政庁の「裁量」の存在を問題とせず,規制権限の行使の在り方について,「その健康を確保することをその主要な目的として,できる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく,適時にかつ適切に行使されるべきものである」(筑豊じん肺最高裁判決),「(規制)権限は…周辺住民の生命,健康の保護をその主要な目的の一つとして,適時にかつ適切に行使されるべきものである」(関西水俣病最高裁判決)との判断につながっているのである。 このように,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,規制権限を付与した根拠法規が,生命・健康という不可侵の法益を直接保護することを主要な目的の一つとしている場合には,規制権限を有する行政庁の「裁量」の幅は極めて狭いことを明らかにしているということができる。 ウ上記のとおり,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,規制権限不行使の違法性判断の考慮要素として取り上げるのは,被害法益の重大性,予見可能性の存在及び結果回避可能性の存在だけであり,それ以外の事情は基本的には考慮要素としておらず,規制権限を有する行政機関の裁量の存在を問題としていない。そして,それぞれの考慮要素は総合的に判断すべきであ 存在及び結果回避可能性の存在だけであり,それ以外の事情は基本的には考慮要素としておらず,規制権限を有する行政機関の裁量の存在を問題としていない。そして,それぞれの考慮要素は総合的に判断すべきであるが,被侵害利益を基本として総合的な判断を行うべきである。筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決が,被侵害利益の重大性,予見可能性の存在及び結果回避可能性の存在だけを違法性判断の考慮要素として取り上げ,特に行政機関の裁量を問題としていないのは,上記最判の事案の被害法益が生命・健康という不可侵の重大な法益であり,これに対する規制される側の不利益が事業主や産業界の物的・経済的負担であるからであり,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決は,国民の生命・健康を保護する行政の在り方は,行政機関が裁量を理由に介入に消極的になることは許されず,適時にかつ適切に介入することが求められる分野であること- 110 -を明らかにしている。 ⑶ 以上より,原告らが主張する規制権限不行使の違法性の判断基準は,筑豊じん肺最高裁判決及び関西水俣病最高裁判決を踏まえたものであり,規制権限の根拠法規の趣旨・目的が当該被害者の被っている当該被侵害利益を直接的に保護しようとしている場合は,行政庁の有する裁量の存在を問題とせず,行政庁は,適時にかつ適切に規制権限を行使することが求められる。したがって,規制権限を行使するかどうかについて裁量が認められている事項,規制権限行使の要件が具体的に定められていない事項については,第一次的には行政機関の判断が尊重されるべきであるとする被告国の主張は誤りである。 (被告国の主張の要旨)⑴ 規制権限不行使の違法性が問題となった主要最高裁判例ア国賠法1条1項は,公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,違法に他 被告国の主張は誤りである。 (被告国の主張の要旨)⑴ 規制権限不行使の違法性が問題となった主要最高裁判例ア国賠法1条1項は,公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,違法に他人に損害を加えたことを国家賠償請求権の成立要件としているが,ここでいう「違法」とは,公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいう。 イ規制権限不行使の違法性が問われた最高裁判例としては,宅建業者最高裁判決,クロロキン最高裁判決,筑豊じん肺最高裁判決,関西水俣病最高裁判決及び大阪泉南アスベスト最高裁判決などがあるが,上記国賠法1条1項にいう「違法」の考え方は,クロロキン最高裁判決において,「規制権限の不行使という不作為が国賠法上違法であるというためには,当該公務員が規制権限を有し,規制権限の行使によって受ける国民の利益が国賠法上法的に保護されるべき利益である(反射的利益ではない。)ことに加えて,右権限不行使によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において,当該公務員が規制権限を行使すべき義務(作為義務)が認められ,右作為義務に違反することが必要である」とされているとおり,規制権限不行使の違法性を問う局面においても同様に考えられている。そして,「規制権限行使の要件が法- 111 -定され,右要件を満たす場合に権限を行使しなければならないとされているときは,右要件を満たす場合に作為義務が認められることになる」が,「規制権限の要件は定められているものの,権限を行使するか否かにつき裁量が認められている場合や,権限行使の要件が具体的に定められていない場合には,規制権限の存在から直ちに作為義務が認められることにはならない。」とされており,最高裁判所の判例は,このような場合,原則として作為義務は る場合や,権限行使の要件が具体的に定められていない場合には,規制権限の存在から直ちに作為義務が認められることにはならない。」とされており,最高裁判所の判例は,このような場合,原則として作為義務は生じないが,具体的事案の下で,規制権限を行使しないことが著しく合理性を欠く場合には,規制権限行使の作為義務が認められ,権限不行使は違法となるとしている。 ウこのように規制権限を行使するかどうかについて裁量が認められている事項や,権限行使の要件が具体的に定められていない事項については,第一次的には行政機関の判断が尊重されるべきであって,その規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるのは,その権限を定めた法令の趣旨・目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限られるところ,本訴訟で問題となっている電気事業法についても,行政庁に専門技術的な裁量がある。すなわち,平成24年法律第47号による改正前の電気事業法39条1項は,「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と規定し,同条2項は経済産業省令が「次に掲げるところによらなければならない」とし,その1号で「事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。」と規定している。 また,同法40条は,経済産業大臣は,事業用電気工作物が「経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるとき」は,事業者に対して技術基準に適合するように事業用電気工作物を「修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限す- 112 -ることができる」旨規定している。これ 技術基準に適合するように事業用電気工作物を「修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限す- 112 -ることができる」旨規定している。これらの規定の文言からも明らかなとおり,技術基準適合命令に関する電気事業法の規定は,その内容が一義的に明確に定められているものではなく,しかも,事業用電気工作物(本件では,その中でも現代の科学技術を結集した原子力発電施設)という性質上,「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与える」か否かの判断は,高度の専門技術的判断を要するから,同規定は行政庁の専門技術的裁量を許容しているというべきである。さらに,省令の制定・改正については,一般の行政処分と同様の意味での要件規定はなく,行政庁は,諸般の事情を考慮しつつ,その合理的な裁量に基づき,その要否,具体的な内容等について判断すれば足りることや,その内容が公益的,専門的及び技術的な事項にわたることからすれば,行政庁の裁量は裁量的行政処分の場合よりも更に広いというべきである。したがって,本訴訟においても,規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるのは,炉規法や電気事業法の趣旨・目的や,その権限の性質等に照らし,権限を行使すべきであったとされる当時の具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くときに限られる。 ⑵ 最高裁判例では,規制権限不行使の違法性は当該職務行為をした時点を基準として判断されていること国賠法1条1項の違法は,国民の権利利益を侵害する行為をすることが法の許容するところであるかどうかという見地からする行為規範違反であるから,公務員が個別の国民との関係で負担する職務上の法的義務に違背したかどうかは,当該職務行為をした時点を基準時として判断される。ま 許容するところであるかどうかという見地からする行為規範違反であるから,公務員が個別の国民との関係で負担する職務上の法的義務に違背したかどうかは,当該職務行為をした時点を基準時として判断される。また,予見可能性や結果回避可能性は,国賠法1条1項の違法の有無を判断する前提としての考慮要素であるところ,これらは法が当該公務員に対して,結果発生の危険性との関係でどのような職務上の法的義務を課しているかを検討する前提としての考慮要素となるものであることから,その判断も,権限の行使・不行使が問- 113 -題とされる当時の科学技術水準や確立した科学的知見を離れては論じ得ない。 特に,高度の科学知識と科学技術を結集して設計,維持,管理がされる原子炉施設においては核物理学のほか,地震学,地質学,津波学などの理学分野,原子力工学,機械工学,土木工学,津波工学などの工学分野,放射線医学などの医学分野等多方面にわたる専門分野の知識経験を踏まえた将来の事象に係る予測判断が問題とされている。このような予測判断の場面において,これら専門分野における通説的見解においても想定することができなかった事象を予見し,かつ,当時の工学的知見によって導かれる対策とは全く異なった対策が義務付けられるとすれば,経済産業大臣に不可能を強いる結果となることが明らかである。したがって,本件では,学識経験者の間でどのような知見が形成,確立され,通説的見解とされていたのか,取り分け地震予測や津波予測といった,いまだに未解明の事項が多く残り,なお発展過程にある学術分野において,過去のデータの解析,予測条件や予測手法の評価等について,どのような研究成果が通用性を有するものとして専門家において広く受容され,どのような事項が今後の研究の継続により解明されるべき課題として認識されていたかを慎 析,予測条件や予測手法の評価等について,どのような研究成果が通用性を有するものとして専門家において広く受容され,どのような事項が今後の研究の継続により解明されるべき課題として認識されていたかを慎重かつ謙虚に吟味する必要があるところ,これらの判断は,本件事故前の科学的知見に照らして評価する必要があり,これを離れ,現時点から回顧的に予見可能性の有無を判断するかのような検討手法は許されない。 ⑶ 最高裁判例において,規制権限の不行使の違法性は,事業者の一次的かつ最終的責任の存在を前提とした判断がされていること規制権限不行使に基づく国の損害賠償責任は,国が直接の加害者(事業者)ではないものの,直接の加害者(事業者)に対して規制権限を適切に行使していれば国民に損害が発生することを防止できたにもかかわらず,その行使を怠ったことによる責任であるから,加害者(事業者)の一次的かつ最終的な責任を前提とした国の二次的かつ補完的な責任が問題とされる構造を本質的に有するものであり,このことは最高裁判例でも前提とされている。 - 114 -⑷ 最高裁判例では,規制権限を行使しないことが「著しく合理性を欠く」場合について,①規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質,②被害の重大性及び切迫性,③予見可能性,④結果回避可能性,⑤現実に実施された措置の合理性,⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性),⑦規制権限行使における専門性,裁量性などの諸事情を総合的に検討して,違法性を判断していること規制権限の不行使が「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」か否かの判断に当たって考慮されるべき事情としては,被害結果の重大性やその予見可能性,回避可能性のほか,権限不行使が問題となる当時の一切の事情が評価対象となり,その判 を逸脱して著しく合理性を欠く」か否かの判断に当たって考慮されるべき事情としては,被害結果の重大性やその予見可能性,回避可能性のほか,権限不行使が問題となる当時の一切の事情が評価対象となり,その判断を行うに当たっては,行政権限の行使を行政庁の裁量に委ねた根拠法規及び権限根拠規定の各趣旨・目的,裁量の幅の大小,規制ないし監督の相手方及び方法についての当該法規の定め方を前提として,権限行使を義務化する上で積極的に作用する事情のみならず,消極に作用する事情も含めた諸般の事情が総合考慮される。そして,規制権限の不行使の違法性の判断は,規制権限の行使が問題となる当時の具体的事情の一切が斟酌されるため,本訴訟においても,本件事故前において講じられるべきであったと考えられる措置とは別に,行政庁において実際に講じた措置がある場合には,規制権限の不行使が「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」と認められるか否かは,行政庁が当該措置に代えて,あるいは当該措置に加えて,別の規制権限を行使しなかったことの不合理性が問われなければならない。また,その判断に際しては,前記⑶で述べたとおり,被告国が負っている責任が二次的かつ補完的責任であることを踏まえても,なお,規制権限を行使しなかったことが不合理であると評価されるか否かが検討されるべきである。 ⑸ 不十分な科学的知見によって原告らの主張する規制権限を行使した場合,その規制権限の行使は違法と評価されかねなかったこと本件のように被告国に規制権限を行使することについて裁量が認められる- 115 -場合には,被告国に,当該規制権限を行使する法的義務が常に生じるものではない。すなわち,被告国には,規制権限の行使についての裁量が認められている以上,被告国が規制権限を行使する法的義務を負うのは,規制権限を行使 告国に,当該規制権限を行使する法的義務が常に生じるものではない。すなわち,被告国には,規制権限の行使についての裁量が認められている以上,被告国が規制権限を行使する法的義務を負うのは,規制権限を行使しないことが著しく合理性を欠くと評価される非常に限られた場合だけであって,それ以外の多くの場合は,規制権限を行使することが望ましいか望ましくないかといった当否の問題は生じても,規制権限を行使することが法的義務にまで高まることはない。また,当該規制権限行使の相手とされた者の権利を制約することになる関係で,被告国が十分な根拠を持たずに規制権限を行使すれば,規制権限を行使したことが裁量権を逸脱・濫用したものとして,行政法上違法と評価される余地がある(行政事件訴訟法30条参照)。すなわち,行政庁に規制権限を行使することについての裁量が認められている場合であっても,行政庁が,その規制権限を行使する前提となる事実が存在しない場合又はその事実についての評価に誤りがある場合には,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものとして違法との評価がされることがあり,行政庁が十分な根拠を持たずに規制権限を行使した場合には,規制権限を行使する根拠となる事実が存在しないと扱われる又はその事実の評価を誤ったものとして,その規制権限を行使したことが違法と評価され得るのである。 本件において,原告らは,被告国が電気事業法40条の技術基準適合命令を発令しなかったことなどの違法を主張するが,技術基準適合命令(修理,改造等の命令)又は処分(一時停止)に違反した者は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられ,又はこれを併科される(同法116条2号。なお,両罰規定が適用されると法人に対しては3億円以下の罰金刑が科せられる。同法121条1号)。このように技術基準適合命令は刑事 0万円以下の罰金に処せられ,又はこれを併科される(同法116条2号。なお,両罰規定が適用されると法人に対しては3億円以下の罰金刑が科せられる。同法121条1号)。このように技術基準適合命令は刑事罰をもって強制されるなど,被規制者の大きな負担となるのであるから,同命令を発令するためには,客観的かつ,合理的な根拠をもって発令を正当化できるだけの具体的な危険性が存在し,かつそれを認識していることが必要であり,更にかかる規- 116 -制権限の行使が作為義務にまで高まるのは,この客観的かつ合理的な根拠としての科学的知見が確立している場合に限られると解すべきである。仮に予見可能性の対象について,規制権限行使が客観的かつ合理的な根拠をもって正当化できるだけの具体的な法益侵害の危険性が認められるに至っていないにもかかわらず,薄弱なエビデンスに基づいて被告国が技術基準適合命令を発した場合,かかる行政処分に対しては,被告東電などの事業者側から行政処分の取消訴訟が提訴されかねない上,その行政処分が裁量権を逸脱したものであり,かかる行政処分によって事業者側に営業損害等が生じた場合には,事業者側からの国家賠償請求訴訟が提訴されることにもなりかねない。さらに,事業者に一定の措置を講じることを強制した場合,その原資は電気料金値上げ等により消費者である国民の負担に帰することもあり,当該措置を講じるための一時停止,減産により電力の安定供給が損なわれれば,国民生活,産業・経済活動にも影響を及ぼし,混乱を招きかねないことからしても,薄弱なエビデンスに基づく規制権限の行使は許されるものではない。 3 省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性 原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限 は許されるものではない。 3 省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性 原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限の有無(原告らの主張の要旨)ア敷地高さを超える津波防護措置を規制することは経済産業大臣の権限の範囲内であること規制法の体系実用発電用原子炉の安全規制に関しては経済産業大臣が所管し,炉規法が適用されるが,これと並んで,実用発電用原子炉が発電用設備でもあることにより電気事業法の適用を受けることとなる。具体的には,炉規法73条により同法27条から29条までの設計及び工事方法の認可,使用前- 117 -検査,溶接検査及び施設定期検査の4つの規制項目が適用除外され,これに相当する電気事業法の規制が適用されることとなる。これは二重の規制を回避するための適用除外であり,炉規法が適用除外され,電気事業法が適用される場合でも原子力基本法,炉規法等の趣旨・目的が妥当する。そして,炉規法及び電気事業法ともいずれも経済産業大臣が規制行政庁である。 規制の目的・趣旨は「災害の防止」であること炉規法24条及び37条の「原子炉による災害の防止」における「災害」とは,放射線障害等の被害に着目した概念であり,「原子炉による災害の防止」とは,原子炉から放射線障害等の被害が発生することを防止することである。そして,原子炉から放射線障害等の被害をもたらす原因には,工学的あるいは人的な内部事象,外部事象等様々なものがあるが,そのいずれを原因とするものであっても,災害の防止上支障があるかどうか,災害の防止上十分であるかどうかは,「災害が万が一にも起こらないようにするため」に最新の科学技術水準に即応した規制基準によって判断されるべきである。したがって, も,災害の防止上支障があるかどうか,災害の防止上十分であるかどうかは,「災害が万が一にも起こらないようにするため」に最新の科学技術水準に即応した規制基準によって判断されるべきである。したがって,規制法の趣旨が,災害の発生の防止にある以上,特定の事故や事象に限定をしてその対策を立てれば足りるというものではない。 電気事業法の委任の趣旨上記の炉規法の趣旨・目的は,電気事業法が適用される運転中の原子力発電所の安全規制に対しても当然妥当するものである。電気事業法39条1項は,「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」とし,同条2項は,「前項の経済産業省令は,次に掲げるところによらなければならない。」とした上,その要件の1つとして,事業用電気工作物の安全性に関して「事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に- 118 -損傷を与えないようにすること。」と定めており,この「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。」というのは,原子力発電所においては,炉規法24条1項の「原子炉による災害の防止上支障がないものであること」を含むものである。 このように,電気事業法39条が経済産業大臣に規制権限(技術基準省令制定権限)を委任した趣旨は,原子力発電所から万が一にも災害が発生しないようにするために,最新の科学技術基準に即応して安全規制の基準を作るところにある。 運転中の原子炉の安全確保を規制する法の趣旨a 炉規法35条,36条,37条,電気事業法39条,40条,46条等の規定が主務大臣である経済産業大臣に権限を委任した趣旨は,原子炉の設置許可段階と同じく,万が一にも原子炉による災害を起こさないようにするためである。そして,電気 電気事業法39条,40条,46条等の規定が主務大臣である経済産業大臣に権限を委任した趣旨は,原子炉の設置許可段階と同じく,万が一にも原子炉による災害を起こさないようにするためである。そして,電気事業法39条,40条には,被告国が主張するような経済産業大臣の権限の範囲を限定する要件はない。 同法39条2項1号は原子力発電所の施設が「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。」としており,原子炉による災害を起こす危険性をもたらすものであれば,その原因が基本設計に関わる事項であっても,法が求める技術基準を満たさないこととなる。技術基準に適合していない場合に発せられる適合命令の内容も,原子力発電所の施設の「修理,改造,移転,一時使用停止,使用制限」というものであり,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項を除外するような内容ではない。むしろ「改造,移転,使用制限」という規制内容は基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項を包含していると解される。 b 原子炉設置許可の手続は,①まず経済産業大臣が,原子力事業者からの申請を,原子力安全委員会の定める各種指針類を参照して審査する,②その後ダブルチェックとして,原子力安全委員会が安全性についての- 119 -審査を行い,許可の可否について経済産業大臣に意見を述べる,③これを受けて,経済産業大臣が許可・不許可の判断をするというものである。 この手続においては,経済産業大臣が審査・許可の権限を有し,「災害の防止」という趣旨から策定した審査・許可基準(指針類が参照基準)に基づいて判断をする。原子力発電所の設置許可後は,経済産業大臣は,省令62号に基づいて,原子炉工事認可の判断をする。そして,運転開始後の原子力発電所の安全規制を担当する主務行政庁も経済産業大臣である。原子炉の設置許可 原子力発電所の設置許可後は,経済産業大臣は,省令62号に基づいて,原子炉工事認可の判断をする。そして,運転開始後の原子力発電所の安全規制を担当する主務行政庁も経済産業大臣である。原子炉の設置許可の基準は,その時点における最新の科学技術的知見に基づく水準である必要はあるが,その後,工事認可段階,運転開始段階では,設置段階よりも,知見が発展していることが当然予定されている。被告国は,設置許可段階の安全規制と運転段階の安全規制とを峻別しようとする解釈を主張するが,「災害防止」という法規制の趣旨・目的は,設置段階,工事認可段階,完成後の運転段階全てにおいて妥当し,徹底されなければならないのであり,経済産業大臣の申請・許可の際の安全基準と経済産業大臣の工事認可・運転段階の技術基準は行政基準として統一的・整合的に策定されるべきである。したがって,経済産業大臣には,仮に指針類(審査基準)と技術基準との間に矛盾があるときには,この矛盾を解消する義務があるというべきである。 炉規法が経済産業大臣に規制権限を委任した趣旨,電気事業法が経済産業大臣に規制権限を委任した趣旨は,万が一の災害を防止するために,最新の科学技術的知見に速やかに適合させるためであり,法律が経済産業大臣に付与した裁量も同一の趣旨である。設置段階で不足していた科学技術的知見が,工事認可段階,運転段階で取得できた場合には,当然,経済産業大臣は,審査基準・認可基準に反映させるべきであるし,技術基準にも反映させるべきであり,現に経済産業省保安院は,「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈について」を策定し- 120 -て,審査基準・許可基準と技術基準との整合性を取る権限行使をしてきている。また,経済産業大臣が本件事故後である2011(平成23)年3月30日付けで原子力発 解釈について」を策定し- 120 -て,審査基準・許可基準と技術基準との整合性を取る権限行使をしてきている。また,経済産業大臣が本件事故後である2011(平成23)年3月30日付けで原子力発電所設置者に対し行った指示文書(甲A80)の添付資料「福島第一原発事故を踏まえた対策」の「抜本対策中長期」には,完了見込み時期として「事故調査委員会等の議論に応じて決定」とした上で,「具体的対策の例」を挙げており,そこには,「設備の確保」として「防潮堤の設置,水密扉の設置,その他必要な設備面での対応」との記載がある。これらは被告国の主張によると基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であるが,経済産業大臣がこれらの対策をとらせる権限を有していることを前提とした文書といえる。 バックフィットの権限数十年にわたって稼働する原子力発電所に対し,万が一にも原子炉による災害が起こらないようにするために最新の科学技術的知見に即応した安全確保をすることが必要な場合に,経済産業大臣が新しい規制基準を制定してそれを既設原子力発電所にも適用することは,それが被告国のいうところの基本設計ないし基本的設計方針に関係する事項であろうと,電気事業法が経済産業大臣に委任した権限の範囲に含まれると解するのがあるべき法の解釈である。規制がどこまで許されるかは,法が経済産業大臣に委任した趣旨に照らして,規制する必要性と規制を受ける電気事業者の法的安定性の調整によって決まるものである。被規制者である電気事業者からみても,もともと国の包括的関与なしには原子力発電所の事業が成り立たないことを承認して,受容不能なリスクを抱える原子力発電所の事業を引き受けているのであるから,最新の科学技術的知見に基づくと炉心損傷に至る可能性に対応した安全規制を受けるという法的不安定性がある たないことを承認して,受容不能なリスクを抱える原子力発電所の事業を引き受けているのであるから,最新の科学技術的知見に基づくと炉心損傷に至る可能性に対応した安全規制を受けるという法的不安定性があることを予め受忍をしているといえる。この電気事業者の法的安定性をどこまで考慮すべきかは個別の規制措置の程度によって決まることであり,こ- 121 -のことは炉規法の改正前後で変わりはない。したがって,炉規法の改正により原子炉設置許可基準を既設原子炉にバックフィットする権限が創設されたとの被告国の主張は誤りであり,改正炉規法は経済産業大臣に権限があることを確認するために明文化したものである。 必要であった津波防護対策は受忍限度の範囲内原告らが主張する津波から原子炉施設を防護する対策を採ることを命ずる措置は,いずれも既設原子炉の存亡に影響を与えるようなものではなく,最新の津波知見に即応して,津波を原因として万が一の災害が起きないようにするために,既設の原子炉施設の管理使用の強化をするというレベルの問題であり,電気事業者に与える不利益は受忍限度の範囲内であるし,工事のための一定の猶予期間を設けた措置を採ることにより電気事業者も十分に対応可能である。 まとめ仮に被告国の主張のとおり,経済産業大臣が,原子炉施設の安全規制について,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項に対する規制と詳細設計に関わる事項に対する規制との段階的な規制システムを採っていたとしても,それは権限行使の運用上そのようなシステムを作っていたにすぎず,運転中の原子炉の安全規制に関し,炉規法及び電気事業法が経済産業大臣の権限の範囲を被告国の主張のように定めたものではない。炉規法及び電気事業法が経済産業大臣に運転中の原子力発電所の安全規制の権限を委任した趣旨は,万が 規制に関し,炉規法及び電気事業法が経済産業大臣の権限の範囲を被告国の主張のように定めたものではない。炉規法及び電気事業法が経済産業大臣に運転中の原子力発電所の安全規制の権限を委任した趣旨は,万が一にも原子炉による災害が起きないようにするために,最新の科学技術知見の到達に即応しながら,原子力発電所の安全規制をするところにある。したがって,経済産業大臣は,電気事業法40条に基づき,事業者に対し,運転中の原子力発電所の基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項についての権限も当然行使することができる。また,運転中の原子力発電所について,基本設計ないし基本的設計方針に関- 122 -わる事項について疑義が生じた場合には,経済産業大臣は,「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈について」を活用することによって,電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を出すことができ,既存の技術基準省令に規定が存在しない場合には,規定を追加する省令改正を行った上で,技術基準適合命令によって是正する権限があり,その義務があるといえる。 イ省令62号4条1項に基づく技術基準適合命令を出すべきであったこと後記(予見可能性)(原告らの主張の要旨)のとおり,被告国は,遅くとも平成18年の時点で,非常用ディーゼルエンジンや配電盤等が機能喪失し,全電源喪失に至る規模の津波の到来を予見することが可能であったから,経済産業大臣は,被告東電に対し,電気事業法40条,省令62号4条1項に基づき,津波という「想定される自然現象」により,「原子炉施設」の安全性が損なわれるおそれがあるとして,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を採るように命じるべきであった。具体的には,①タービン建屋等の人の出入口,大物(機器)搬入口などに強度強化扉の二重扉等を設置 なわれるおそれがあるとして,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を採るように命じるべきであった。具体的には,①タービン建屋等の人の出入口,大物(機器)搬入口などに強度強化扉の二重扉等を設置すること,タービン建屋等の換気空調系ルーバーなどの外壁開口部の水密化等の対策を採ること,タービン建屋等の貫通部からの浸水防止等の対策を採ることにより,タービン建屋等自体の防護措置を取ること,②非常用ディーゼル発電機及び配電盤等の重要機器が設置されている機械室への浸水防止等の対策を採ることによりタービン建屋等内の重要な安全機能を有する設備の部屋の防護措置を採ること,③既設の非常用ディーゼル発電機(水冷式)を冷却するための海水系ポンプを津波から防護するための防水構造の建屋を設置し,電気系統の配線の貫通口を水密化する対策(以下,それぞれ「①の措置」,「②の措置」,「③の措置」といい,これらを併せて「①ないし③の措置」という。)を採ることにより,平成18年当時予見し得た津波の到来によっても福島第一原発が長期間の全電源喪失に至らないような対策- 123 -を採るよう,被告東電に対し,技術基準適合命令を出すべきであった。 ウ電気事業法39条に基づき省令改正を行うべきであったこと仮に被告国に上記の技術基準適合命令を出す権限がなかったとしても,電気事業法及び原子力関連法令の趣旨・目的・規制権限の性質からすれば,経済産業大臣は,遅くとも平成18年までには,上記のような技術基準適合命令を行使できるよう,電気事業法39条に基づき,省令改正を行うべきであった。具体的には,津波という自然現象により,原子炉の安全性が損なわれないよう,防護措置,基礎地盤の改良について,より具体的な措置を求める技術基準適合命令を出せるよう省令62号4条1項を改正すべきであっ 。具体的には,津波という自然現象により,原子炉の安全性が損なわれないよう,防護措置,基礎地盤の改良について,より具体的な措置を求める技術基準適合命令を出せるよう省令62号4条1項を改正すべきであったといえる。 (被告国の主張の要旨)ア段階的安全規制における技術基準適合命令炉基法における安全規制は,原子炉施設の設計から運転に至るまでの過程を段階的に区分し,それぞれの段階に対応して,一連の許認可等の規制手続を介在させ,これらを通じて原子炉の利用に係る完全の確保を図るという,段階的安全規制の体系が採られている。すなわち,原子炉の設置許可に係る安全審査(前段規制)は,段階的安全規制の冒頭に位置付けられ,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を審査,判断される。そして,これを前提として,原子炉施設の具体的な工事方法の妥当性等が審査(後段規制)される。 実用発電用原子炉について,電気事業者は,電気事業法39条1項に基づき,実用発電用原子炉施設に係る事業用電気工作物につき技術基準維持義務を負い,経済産業大臣は,電気事業法40条に基づき,事業用電気工作物が経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,実用発電用原子炉施設の一時使用停止命令を含む技術基準適合命令を発令することができる。上記の技術基準は,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が原子炉設置許可の段階で確認されていることを前提に,これを踏まえた詳細設- 124 -計に基づき,工事がされ,使用に供される事業用電気工作物の具体の部材,設備等の技術基準として省令62号により定められているものであり,工事計画認可(電気事業法47条3項1号),使用前検査(同法49条1項,2項)等の規制の基準とされるものである。また,原子炉施設に利用された部材,設備等の経年劣化や磨耗等により れているものであり,工事計画認可(電気事業法47条3項1号),使用前検査(同法49条1項,2項)等の規制の基準とされるものである。また,原子炉施設に利用された部材,設備等の経年劣化や磨耗等により当該原子炉施設の機能や安全性が損なわれない状態を維持するため,電気事業法39条は,電気事業者に対し,技術基準維持義務を課しており,定期検査及び立入検査において,それらの部材,設備等の技術基準適合性の有無が確認されることになる。このように,後段規制の段階では,技術基準が,事業用電気工作物としての原子炉施設の工事計画認可から運転開始後に至るまでの全段階にわたり,当該原子炉施設の具体の部材,設備等の安全性を確保するための基準として位置付けられ,機能しているのである。電気事業法40条は,同法39条1項が「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と規定していることを受け,「主務大臣は,事業用電気工作物が前条第1項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。」と規定している。この文理に照らせば,電気事業法40条が事業用電気工作物が技術基準に適合していないと認められる場合に,これを技術基準に適合させるための措置を命ずることを規定した趣旨であることは明らかである。電気事業法40条はもとよりその他の電気事業法の規定を見ても,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針が炉規法24条1項4号の設置許可の基準に適合しないことが明らかになった場合に,技術基準適合命令を発して当該基本設計な よりその他の電気事業法の規定を見ても,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針が炉規法24条1項4号の設置許可の基準に適合しないことが明らかになった場合に,技術基準適合命令を発して当該基本設計ないし基本的設計方針の是正を命ずることができると解し得るような規定は存在しない。このように,本件事故当- 125 -時の法令上,技術基準は,飽くまで後段規制において,事業用電気工作物の具体の部材,機器等の機能や安全性等を維持するための基準として位置付けられているものであり,技術基準適合命令は,後段規制により原子炉施設の安全確保を図る方策として,この技術基準の不適合を是正するものとしてのみ規定されていた。 イ経済産業大臣は,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる問題を,技術基準適合命令により是正する規制権限を有していなかったこと以上の検討によれば,炉規法及び電気事業法は,設置許可処分の際の安全審査において基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が確認されていることを前提に,後段規制においては,電気事業者に対し,事業用電気工作物としての具体の部材,機材等の性能,機能等の技術基準維持義務を課すとともに,技術基準適合性が維持されていない場合には,必要に応じて技術基準適合命令を発することによってこれを是正する仕組みを採用しているものである。基本設計ないし基本的設計方針の安全性は,後段規制の前提であって,これに関わる問題については後段規制の対象となり得ず,事後的に問題が生じた場合であっても,それについて後段規制としての技術基準適合命令によって是正する仕組みは採られていない。したがって,仮に既存の原子炉施設において基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項に問題が生じたとしても,この問題を省令62号の改正や技術基準適合命令 よって是正する仕組みは採られていない。したがって,仮に既存の原子炉施設において基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項に問題が生じたとしても,この問題を省令62号の改正や技術基準適合命令により是正する余地はない。 ウ原告らが主張する各措置はいずれも基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であること原告らの主張する非常用電源設備を収納している建屋全体及び各部屋の扉等の水密化,配電盤・非常用ディーゼル発電機等の重要機器の水密化,配電盤・非常用ディーゼル発電機の設置場所の変更(津波により機能喪失する- 126 -ことのない高位への変更,分散配置等),十分な電源車の配備,これらとは別途津波の到達する可能性のない高さに代替注水冷却に関する設備を配置することについてみると,福島第一原発については,いずれも福島第一原発の建屋の敷地高さを超えて津波が到来することを前提とした措置であり,自然的立地条件との関係も含めた事故防止対策を根本的に変更することになる。そのため,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であるから,設置許可処分において安全性が確認された基本設計ないし基本的設計方針を前提として,その詳細設計について規制すべき省令62号を改正することにより,あるいは,省令62号を改正した上で電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発令することにより,上記の防護措置を被告東電にとらせることはできなかった。したがって,原告らの主張は,基本設計における安全審査の対象事項と後段規制における対象事項とを混同したものであり,失当である。 エ改正後の炉規法においては,技術基準適合命令を発することによって原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能となったこと平成24年改正後の炉規法43条の3の23により,基本設計 正後の炉規法においては,技術基準適合命令を発することによって原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能となったこと平成24年改正後の炉規法43条の3の23により,基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能となったこと平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止等処分を行い得る場合として,平成24年改正前の電気事業法40条と同様の「発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき」に加え,「発電用原子炉施設の位置,構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき」を規定した。つまり,炉規法43条の3の23は,発電用原子炉施設が技術基準に適合しない場合に加え,最新の科学技術的知見を反映した設置許可要件として原子力規制委員会規則で定める基準である「発電用原子炉施設の位- 127 -置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準」を使用停止等処分の基準としても位置付け,これに適合しないと認められる場合には,使用停止等処分ができることを明文で規定したものである。したがって,上記改正により,基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能となった。 平成24年改正前の電気事業法40条に基づいて,設置許可処分の要件充足性につき技術基準適合命令を発することができなかったとの解釈は,平成24年改正後の炉規法43条の3の23との比較という文言解釈や趣旨解釈からも相当であること前記のとおり,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止等処分の要件として,技術基準に適合しない場合に加え,新たに設置許可処分の基準に適合しない場 解釈や趣旨解釈からも相当であること前記のとおり,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止等処分の要件として,技術基準に適合しない場合に加え,新たに設置許可処分の基準に適合しない場合を明記した。このことに照らせば,前者の場合のみを技術基準適合命令の要件と定める平成24年改正前の電気事業法40条に基づいて,設置許可処分の要件充足性につき,技術基準適合命令を発することができなかったとの解釈は,文言解釈としても,趣旨解釈としても相当である。したがって,平成24年改正前の電気事業法40条について,設置許可処分の要件を充足しないことが判明した場合についても同条に基づいて技術基準適合命令を発してそれを是正することができるという解釈をすることは,相当とはいえない。 以上より,平成24年の炉規法改正前は,法令上,経済産業大臣は,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する事項について,省令62号を改正し,これを改正した上で技術基準適合命令を発令することにより是正する規制権限を有していなかったから,上記事項について技術基準適合命令等の規制権限を行使しなかったことは違法とはいえない。 予見可能性- 128 -(原告らの主張の要旨)ア予見可能性の対象被告国の規制権限不行使の違法を主張するに当たり問題としている予見可能性の対象は,福島第一原発の非常用電源設備等の安全設備を浸水させる規模の津波,すなわち,福島第一原発の1号機ないし4号機側主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来であり,実際に発生した本件津波ではない。 地上に遡上する津波の挙動を精緻に予測することは困難であること津波の遡上態様は不確実であるというのが一般的な知見であること,津波評価技術自体も であり,実際に発生した本件津波ではない。 地上に遡上する津波の挙動を精緻に予測することは困難であること津波の遡上態様は不確実であるというのが一般的な知見であること,津波評価技術自体も極めて概括的な把握にとどまること,津波評価技術の作成に関与した首藤も遡上態様の不確定性を認めていること,本件津波の遡上態様によってもその複雑性が確認されることなどから,実際に遡上する津波の複雑な挙動を精緻に予測することは極めて困難である。したがって,福島第一原発の1号機ないし4号機側主要建屋敷地高さであるO.P. +10mに近い規模の津波高さの津波が到来する可能性があるのであれば,津波が浸水高(痕跡高)O.P.+10mとなる現実的危険性があり,ひいては建屋への浸水,さらには地下に設置されている非常用電源設備等などの重要機器が機能喪失する現実的危険性があった。 陸上に遡上した津波は本来の津波高さを超える浸水高(痕跡高)をもたらす可能性が高いこと陸上に遡上した津波が採る一般的な挙動,波長及び周期が長いという特徴によりもたらされる遡上態様,福島第一原発の地形は津波高さより高い浸水高(痕跡高)をもたらし得るものであることなどからすれば,福島第一原発の立地場所においては,陸上に遡上した津波が本来の津波高さを超える浸水高(痕跡高)をもたらす可能性が高かったといえる。 以上より,1号機ないし4号機側主要建屋敷地高さであるO.P.+1- 129 -0mを超える浸水高(痕跡高)の津波が到来すれば,施設への浸水により非常用電源設備等が機能を喪失する現実的な危険性があるといえるから,上記のとおり,予見可能性の対象は,福島第一原発の非常用電源設備等の安全設備を浸水させる規模の津波,すなわち,福島第一原発の1号機ないし4号機側主要建屋 を喪失する現実的な危険性があるといえるから,上記のとおり,予見可能性の対象は,福島第一原発の非常用電源設備等の安全設備を浸水させる規模の津波,すなわち,福島第一原発の1号機ないし4号機側主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来である。 一般に,結果発生の現実的危険性がある事象を予見することが可能であれば,当該行為者は当該事象から被害(損害)が発生する現実的危険性を認識できるから,行為者に結果回避義務を課す前提として要求される予見可能性については,結果発生をもたらす現実的危険性のある事象の予見で足りる。したがって,現実に生じた事象そのものの予見可能性が必要とされるものではない。本件事故においては,因果関係のプロセスとしては,地震と津波の到来(A),外部電源の喪失と内部電源の喪失(全交流電源喪失)(B),炉心の損傷に基づく放射性物質の放出(C),放射性物質が特定の原告の居住域に到達することによる損害(結果)の発生(D)という因果関係のプロセスをたどっている。そして,原告らは,地震と津波の到来(A),全交流電源喪失(B),シビアアクシデントに基づく放射性物質の放出(C),人格権侵害という損害の発生(D)という因果関係のプロセスのうち,いったん全交流電源喪失(B)に至った場合には,人格権侵害という損害の発生(D)に至ることが想定されるという点においては,被告国と同一の立場に立つものである。ただし,原告らは,全交流電源喪失(B)をもたらす現実的危険性を持つ地震・津波については,被告国の主張するように,「本件と同規模の地震・津波」であることは必要ではないのであり,主要建屋敷地高さである「O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来」さえあれば,全交流電源喪失(B)をもたらす現実的危険性があること 規模の地震・津波」であることは必要ではないのであり,主要建屋敷地高さである「O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来」さえあれば,全交流電源喪失(B)をもたらす現実的危険性があることから,この程度の津波の到来が予見可能で- 130 -あれば,その津波の到来によって,全交流電源喪失(B),シビアアクシデント(C),人格権侵害(D)に至ることが予見できるのであり,結果として,放射性物質放出による人格権侵害という本件被害の発生についても予見可能性が認められる。原告らが,結果回避義務の前提となる予見可能性の対象として主張している「O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来」という事象は,実際に本件事故において観察された津波ではなく,被告らが原子力発電所事故の発生を回避するための措置を取るという点に視点を置いて,将来において発生する可能性があるとして予見可能であった事象であり,実際の津波とは異なる。そして,この結果回避義務を基礎付ける予見可能性との関係で問題とされる「因果関係」とは,予見が可能であった「O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来」から,全交流電源喪失,更には放射性物質の放出というシビアアクシデントが引き起こされる現実的な危険性があるか否かという問題である。以上より,予見の対象は,O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来である。 イ予見義務について 平成13年までに集積した予見義務を基礎付ける知見と事象a 平成10年から平成14年の間に,敷地高さを超える津波襲来の可能性を示す知見が時間的に近接し連続的に公表されたこと原告らは,「4省庁報告書」が示す津波の想定や平成13年「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」などの知見をもって直ちに福島第一原発 示す知見が時間的に近接し連続的に公表されたこと原告らは,「4省庁報告書」が示す津波の想定や平成13年「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」などの知見をもって直ちに福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来する具体的な危険性を認識できる程度の予見可能性を基礎付ける知見である旨主張するわけではないが,これらは,経済産業大臣が,福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来する可能性について,十分に注視し,情報収集・調査研究の対象とすることを基礎付けるには十分な知見である。 - 131 -b 4省庁報告書の結果は敷地高さを超える津波の襲来の可能性を示すこと被告国は,平成9年3月に「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(4省庁報告書)を作成している。この報告書の目的は,「総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,推進を図るため,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定し得る最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行った」ものである。この報告書において広域的な地域を対象として津波数値解析を行った目的は,今後,上記「手引」に従って,各地方公共団体において,津波浸水予測手法による津波高さの推計結果をそれぞれの地域における地域防災計画に的確に取り入れることに向けて,まずは,広域的な地域を対象として「概略的な精度による把握」を行ったというものである。こうした目的による推計であることから,同報告書による津波推計に際しては,沿岸部まで一律に600m格子の計算方法が採用され,かつ,陸上への遡上計算はされておらず,飽くまで沿岸部に到 いうものである。こうした目的による推計であることから,同報告書による津波推計に際しては,沿岸部まで一律に600m格子の計算方法が採用され,かつ,陸上への遡上計算はされておらず,飽くまで沿岸部に到達する津波高さの推計がされているものである。 4省庁報告書においては,想定地震の地域区分については,地震地体構造論の知見に基づく地域区分を行うこととし,福島県沖を含む「G3」領域においては,既往最大の地震を1677年の延宝房総沖地震であると特定している。その上で,「想定地震の発生位置は既往地震を含め太平洋沿岸を網羅する」という方針に従って,G3領域内で発生した1677年の延宝房総沖地震の断層モデルを,同領域内の全域を対象として南北にずらして波源の設定を行っている。こうした推計の結果として,福島第一原発の立地点である福島県双葉町及び大熊町の沿岸- 132 -部に到達する津波高さの推計値としては,1677年の延宝房総沖地震が福島県沖で発生したことを想定する推計(「G3-2」)により,双葉町における津波水位の平均値としてO.P.+6.8m,大熊町においては平均値としてO.P.+6.4mの津波の襲来があり得るとの結果が与えられている。また,この推計に基づく津波高さの最大値については,「想定津波で生じた沿岸最大津波水位の市町村内最大値」が整理されており,それによれば,最大値はO.P.+7.2(双葉町)ないしO.P.+7.0m(大熊町)である。そして,4省庁報告書の推計値は,平均潮位を前提としていることから,潮位変動を考慮して,朔望平均満潮位(O.P.+1.359m)を前提とすると,福島第一原発での最大津波高さは,O.P.+8.6ないしO.P.+8.4mに達することとなる。 一般に,津波は海岸部に到達するまでは,海水が標準潮 O.P.+1.359m)を前提とすると,福島第一原発での最大津波高さは,O.P.+8.6ないしO.P.+8.4mに達することとなる。 一般に,津波は海岸部に到達するまでは,海水が標準潮位を超えて盛り上がっているという位置エネルギーと津波の進行方向に流れる(進行する)という運動エネルギーを持っている。また,一般に津波の高さは水深の4乗に反比例するものであり,沖合から海岸部に到達する過程で水深が浅くなることから津波高さは当然に増幅されることとなる。さらに,海岸部に到達して陸上に遡上する過程においては,護岸への衝突や,陸上にあって津波の流れを阻止する地盤や頑丈な建物などにぶつかることによって,津波の高さは高くなる。また,陸上の複雑な地形や障害物の影響を受けること,津波の流れの方向が変えられること,遡上した波同士がぶつかり合うことなどによっても,海水の遡上は,本来の津波高さ以上に高くなる。そうすると,沖合における平均値でO.P.+6.8ないし6.4m,最大値でO.P.+8.6ないし8.4mの津波高さの推計結果は,福島第一原発の主要建屋の所在するO.P.+10m盤に遡上する津波の襲来があり得ることを示すものと- 133 -いえる。 4省庁報告書は,被告国が批判するところである,広域を対象にした津波高さ予測であること,津波高さの推計計算が誤差を含む概略であることに限界はあるものの,一定の範囲における海岸線に到達し得る平均的な津波の高さ(及び最大値)を推定し,敷地高さを超える津波に対する対策の必要性の有無を確認することは十分可能である。そして,双葉町と大熊町の海岸の沖合に到達する平均的な津波高さ(6.8ないし6.4m)という計算結果は,福島第一原発の海岸部(約1.8km)という幅のある地点においても,O.P.+6m 可能である。そして,双葉町と大熊町の海岸の沖合に到達する平均的な津波高さ(6.8ないし6.4m)という計算結果は,福島第一原発の海岸部(約1.8km)という幅のある地点においても,O.P.+6mを超える津波が襲来する可能性が相当程度あることを示すものである。そして,沖合でこの程度の高さの津波の襲来があった場合には,遡上による津波高さの増幅効果を考慮すれば建屋敷地高さを超える可能性があることは前述のとおりであり,結果として,福島第一原発の所在地においても,敷地高さを超える津波に対する防護対策の必要性について調査研究する必要性を基礎付ける知見である。 c 「津波浸水予測図」は敷地高さを超える津波の襲来の可能性を示すこと国土庁は,平成11年3月に,日本全国の海岸部を対象として「津波浸水予測図」を作成し公表した。これは,「気象庁の津波予報の,予測津波高さに対応させて,沿岸領域での浸水高さ分布をあらかじめそれぞれ数値計算し,その結果を1/25,000地図上に表示したものである。」とされる。「津波浸水予測図」作成の目的は,沿岸付近の細かな地形による影響をも考慮に入れて,津波の浸水状況を具体的に予測し,その結果を地域防災計画に反映させることにある。すなわち,津波予報区単位の「量的津波予報」は,飽くまで「県単位程度の広がりを対象としていることから,各市町村における個々の湾や海岸の津波の状- 134 -況との関係を把握しておく必要がある」とされており,こうした必要を踏まえ,「津波浸水予測図」が作成されるものである。「津波浸水予測図」の作成手法は,当時の津波浸水計算の最新の知見を集約した7省庁手引の別冊とされた「津波災害予測マニュアル」によっているものである。「津波浸水予測図」は,津波シミュレーションの初期条件として極めて重 の作成手法は,当時の津波浸水計算の最新の知見を集約した7省庁手引の別冊とされた「津波災害予測マニュアル」によっているものである。「津波浸水予測図」は,津波シミュレーションの初期条件として極めて重要な意味を持つ地震断層モデル(波源モデル)の設定についても,気象庁が一般防災を前提として設定した「日本近海に想定した地震断層群」の想定を前提として,津波の伝播計算等についても,(防波堤等を考慮しない点を除けば)「津波災害予測マニュアル」が整理した最新の津波シミュレーションの方法に依拠したものであり,その推計結果には十分な信用性が認められるものである。 福島第一原発の主要建屋が立地する領域の「津波浸水予測図」の最大の「設定津波高」は8mとされており,想定される地震断層モデルによって,福島県全域を対象とする津波予報区においては,その沿岸部(水深1m地点)において,最大で8mを超える津波の襲来が予測されている。そして,想定される最大の8mの津波高の津波が襲来した場合には,「津波浸水予測図」によれば,福島第一原発所在地においては,主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを大きく超えて,同敷地上において2ないし5mの浸水深をもたらす津波の襲来があり得るとされている。また,より控えめな6mの津波高さを前提とする「津波浸水予測図」によっても,主要建屋敷地高さを大きく超えて,2ないし3mの浸水深をもたらす津波の襲来があり得ることが示されている。 「津波浸水予測図」は,被告国が批判するように,作成目的が住民に対する避難勧告・指示の伝達等にあり,福島第一原発の沿岸部に「設定津波高」の津波が到来することを具体的に予測したものでないこと,地震学的根拠に基づく断層モデルを設定した上での数値計算をしていな- 135 -いこと,津波計算に不十分性が 一原発の沿岸部に「設定津波高」の津波が到来することを具体的に予測したものでないこと,地震学的根拠に基づく断層モデルを設定した上での数値計算をしていな- 135 -いこと,津波計算に不十分性があるという限界はあるものの,現実に発生する可能性の高い地震の断層モデルを想定していること,海底地形等を踏まえて詳細な津波伝播計算を行い,想定し得る最大津波高さを検討の結果として設定していることなどから合理性がある。そして,福島第一原発の立地する福島予報区においては,最大8mの津波高さが想定され,その想定津波によれば,同原発の主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを大きく超えて,同敷地上において2ないし5mの浸水深をもたらす津波の襲来があり得るとされている。この「津波浸水予測図」の示す津波の予測結果は,福島第一原発の所在地においても,敷地高さを超える津波に対する防護対策の必要性について調査研究する必要性を基礎付ける知見である。 d 以上より,4省庁報告書も「津波浸水予測図」もそれぞれの目的があり,波源の設定と津波計算の方法に科学的知見及び技術としての不十分さがあるとしても,いずれの知見によっても,福島第一原発のある地域において,敷地高さを超える津波が襲来する可能性があることが示されたといえる。この知見は,津波対策は既往最大津波の高さよりも敷地を高くしておけば万全であるとの考えに基づいて津波が敷地高さを超える事象を設計基準事象として設定し続けていることについて問題を提起する知見であることは明らかである。そして,この知見の進展過程で,適切な波源の設定と津波シミュレーションの計算方法が重要な課題であることも共通認識となった。このように,経済産業大臣は,省令62号4条1項の「想定される津波」について,不断の情報収集・調査研究を行い,原子炉施 設定と津波シミュレーションの計算方法が重要な課題であることも共通認識となった。このように,経済産業大臣は,省令62号4条1項の「想定される津波」について,不断の情報収集・調査研究を行い,原子炉施設の安全性に脅威となり得る津波の可能性が明らかになったときには,適時に,発生可能性のある津波について予見する義務,そして,その結果を踏まえて原子炉施設の安全性を確保するための基本である設計基準事象として取り入れる義務があるというべ- 136 -きである。また,この2つの知見の波源の設定や津波計算の不十分なところは,さらに,適時に,科学的知見と技術の進展に関する情報収集を行い,調査研究をする責務があるというべきである。 e 溢水事故が全交流電源喪失をもたらす現実的可能性があることに関する知見の集積平成3年の福島第一原発1号機における内部溢水事故により,配管破断による溢水という共通原因に対し,非常用電源設備及びその附属設備が「独立性」を有していなかったことが明らかとなり,このことも教訓として,省令62号33条4項が制定され,非常用電源設備及びその附属設備の「独立性」が設計基準として明記されることとなった。また,平成11年のルブレイエ原子力発電所の外部溢水事故は,設計基準を超える外部事象が発生して原子炉の重要な安全設備を機能喪失させることがあり得ること,電気系統が被水で機能喪失になることを示したものであり,経済産業大臣は,この外部溢水事故の情報からは,想定を超える外部溢水が発生したときには,全交流電源喪失事態が発生する現実的可能性があることの教訓とすべき事象であったといえる。 平成14年に集積した,予見義務を基礎付ける知見と事象a 詳細な津波浸水予測計算をする専門的技術の開発平成14年2月, ことの教訓とすべき事象であったといえる。 平成14年に集積した,予見義務を基礎付ける知見と事象a 詳細な津波浸水予測計算をする専門的技術の開発平成14年2月,土木学会原子力土木委員会津波評価部会により津波評価技術が策定され公表された。陸地に到着する津波高さを正確に予測するためには,適切な波源モデルの設定(対象とする津波の考慮)と計算誤差・断層パラメーターのばらつきの考慮をすることが課題であった。津波評価技術は,津波浸水予測計算の推計手法についての最新の知見を集約し,推計計算の誤差をより少なくし,断層パラメーターのばらつきの考慮をするという計算方法を開発したものであった。 b 被告東電が津波評価技術を活用して,波源モデルを複数設定して津波- 137 -計算をした上で福島第一原発の津波対策を見直したこと被告東電は,津波評価技術公表の直後である平成14年3月には,津波評価技術に基づいて,福島第一原発への津波浸水の水位を計算した。 この推計に際しては,被告東電は,1938年の塩屋崎沖地震(福島県東方沖地震),1896年の明治三陸地震,及び1677年の延宝房総沖地震の各波源モデルを,それぞれの地震が現に発生した場所で発生するという想定に基づいて計算している。その結果として,塩屋崎沖地震の波源モデルによるO.P.+5.4ないし5.7mの津波水位が最大の推計結果として導かれた(2002年推計)。この津波水位は,被告東電が平成6年3月に推計したO.P.+3.5mという水位を超えるものであり,被告東電は,O.P.+4mの地盤に設置されていた海水取水用ポンプ用モータのかさ上げや建屋貫通部等の浸水防止策などの対策を実施した。これは,福島第一原発の敷地高さが,立地地域への歴史記録に残る既 ,被告東電は,O.P.+4mの地盤に設置されていた海水取水用ポンプ用モータのかさ上げや建屋貫通部等の浸水防止策などの対策を実施した。これは,福島第一原発の敷地高さが,立地地域への歴史記録に残る既往最大のチリ地震によって発生した津波高さ(O.P. +3.122m)を上回ることが省令62号4条1項の「想定される津波」とされていたところ,新しく開発された津波評価技術で詳細な計算を行うと従前の「想定」津波の高さに変動が生じ,新たな津波対策を行う必要が発生したことを示すものである。そして,津波に対する安全設計の基礎とされてきた「津波が敷地高さを超えることは想定する必要はない」という従前の設計基準津波の考え方について見直しの必要性の有無についての検討が必要となったことを意味する。もっとも,2002年推計に当たっては,被告東電は,上記3つの地震の波源モデルを過去においてそれぞれの地震が現に発生した領域に設定したが,これは,同推計の基礎とされた津波評価技術が,いわゆる「既往最大」の考え方に基づく波源モデルの設定を基本としていることを前提としていたという点で限界があった。 - 138 -c 長期評価が,福島県沖を含む日本海溝寄りにおいてどこでも1896年の明治三陸地震と同規模の津波地震が起こり得るとの新たな科学的知見を明らかにしたこと長期評価では,福島県沖を含む太平洋岸の日本海溝寄りにおいて,M8クラスの大地震が三陸沖北部海溝寄りから房総沖海溝寄りにかけてどこでも発生する可能性があるとし,具体的には,M8クラスのプレート間大地震(津波地震)が過去400年間に3回(1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震)発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこれらと同様の津波地震が発生すると推 00年間に3回(1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震)発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこれらと同様の津波地震が発生すると推定した。平成14年から30年以内の発生確率は20%程度としている。震源域,地震の規模などについては,1896年の明治三陸地震の波源モデルに基づいて算出している。 波源モデルとして想定された1896年の明治三陸地震は,津波高さの最大値が38.2m,区間平均高の最大値が16m,津波マグニチュード8.2と推定され,津波の波源域を断層モデルから推定すると日本海溝沿いに長さ200ないし220km,幅50ないし70km となる。明治三陸地震による被害は甚大であり,2万2000人の犠牲者をもたらし,日本における津波災害史上最大の被害であった。 長期評価は,個々の研究者の個人としての研究成果の知見と異なり,法令に基づいて設置された行政機関が,地震・津波の専門家による集団的な討議と検討を経て,その結果に基づいて行政機関の判断として提起したものである。 また,長期評価の提起した津波知見の意義としては,以下の3点が挙げられる。第1に,発生頻度については,長期評価における三陸沖北部から房総沖にかけての海溝寄りの津波地震は,400年間に3回発生していることから,133年に1回の割合で起きている。また,海溝寄り- 139 -の地域は,津波地震の断層がほぼ4個収まる大きさであることから特定海域では,上記頻度の1/4,すなわち530年に1回の頻度で発生すると想定される。この頻度は規制の対象としては十分に高い頻度ということができる。第2に,発生域については,長期評価では,日本海溝寄りに細長く領域が設定されている。福島県沖の日本海溝寄りで津波地震が発生するか否かにつ の頻度は規制の対象としては十分に高い頻度ということができる。第2に,発生域については,長期評価では,日本海溝寄りに細長く領域が設定されている。福島県沖の日本海溝寄りで津波地震が発生するか否かについては,1677年の延宝房総沖の津波地震が海溝寄り南部で発生していることは明らかであり,北部では,1611年の慶長三陸地震と前記明治三陸地震の津波地震が発生していることからして,この中間にあたる福島県沖においても津波地震の発生の可能性があると評価される。第3に,規模については,海溝寄りでどこでも我が国で津波災害史上最大の被害を出したとされる明治三陸地震と同様の規模の津波地震が起こるとの判断がされた。 福島第一原発の津波対策は,立地地域への歴史記録に残る既往最大のチリ地震によって発生した津波高さ(O.P.+3.122m)を上回ることが省令62号4条1項の設計基準事象とされており,被告東電が行った2002年推計においても,福島県沖の日本海溝寄りに波源モデルを設定した津波計算をしていなかったところ,長期評価は,「福島県沖の日本海溝寄りの津波地震」が起こり得ることを示し,その発生確率は,「今後30年以内の発生確率は6%程度,今後50年以内の発生確率は9%程度」という無視しえない数字を示すものであった。 d 経済産業大臣は,長期評価に基づく波源の設定と詳細な津波推計計算によって津波を予見する具体的義務を負ったこと仮に福島県沖で,明治三陸地震規模の津波地震が発生した場合には明治三陸地震の現実に発生した被害の事実を踏まえれば,福島第一原発の敷地高を超える津波が襲来する現実的な可能性があることを容易に認識できた。平成14年までの技術的知見として津波高さを算出する- 140 -ための簡易な計算式である阿部勝征(以下「阿部」という。)の簡 高を超える津波が襲来する現実的な可能性があることを容易に認識できた。平成14年までの技術的知見として津波高さを算出する- 140 -ための簡易な計算式である阿部勝征(以下「阿部」という。)の簡易式によれば,おおよその目安として福島第一原発の敷地における津波の遡上高を推定できる。その採用する明治三陸地震の津波マグニチュード(Mt8.2ないし9.0)によって値は変わるが,遡上高の平均値で2.8ないし16m,遡上高の最高値で5.6ないし32mとなる。 また,平成14年3月には詳細な津波推計を高い精度で行うことができる津波評価技術の開発がされていた。以上のように,平成14年までに集積された津波に関する知見と事象に加えて,平成14年には,精度高く津波を推計することのできる津波評価技術が実用化され,同時に,福島県沖に明治三陸地震規模の津波地震が発生する現実的な可能性があることを示した長期評価が発表された。経済産業大臣がこの集積された知見と事象を適切に考慮すれば,長期評価の判断どおり,福島県沖に明治三陸地震規模の津波地震が発生した場合には,福島第一原発の主要な施設が設置されている敷地高さO.P.+10mを大きく超える津波が襲来する現実的な可能性があったこと,そのような津波が襲来すれば,1ないし4号機の非常用電源設備及びその附属設備が同時に被水して機能喪失し,全交流電源喪失という事態に至ってしまう現実的な可能性があったことを容易に認識できた。経済産業大臣は,上記の知見と事象を考慮して,被告東電が,速やかに長期評価の判断に基づき,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りに設定し,津波評価技術の計算式を用いて津波浸水予測の計算を行い,津波予見をすることが必要であること,さらにその予見の結果に基づいて,福島第一原発の1ないし4号機の非常用 ルを福島県沖の日本海溝寄りに設定し,津波評価技術の計算式を用いて津波浸水予測の計算を行い,津波予見をすることが必要であること,さらにその予見の結果に基づいて,福島第一原発の1ないし4号機の非常用電源設備及びその附属設備を津波から防護するための対策を採ることが必要であったことを認識すべきであったといえる。 ウ予見可能性について- 141 - 長期評価の信頼性a 推進本部と長期評価の意義⒜ 長期評価と個々の専門家の見解を同列に論じる被告らの主張の誤り被告らは,平成14年に推進本部が策定した長期評価について,「長期評価の前提に異を唱える見解が存在した」,「長期評価には相当の問題があり,専門家の間でコンセンサスを得た見解ではなかった」と主張する。しかし,そもそも推進本部は防災のために設置された被告国の組織であり,その推進本部が策定・公表した長期評価は,防災を目的とした被告国の公的な判断であって,個々の専門家が発表した地震や津波についての「論文」や学会での「報告」類とは,目的,性質及びその重要性が根本的に異なるものである。 ⒝ 推進本部は行政施策に直結すべき地震に関する調査研究を一元的に推進する政府機関であること平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災を契機として,同年7月,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進すること,及び地震に関する調査研究の推進を図るための体制の整備を目的として(地震防災対策特別措置法1条),地震防災対策特別措置法が制定され,同法13条は,「国は,地震に関する観測,測量,調査及び研究のための体制の整備に努めるとともに,地震防災に関する科学技術の振興を図るため必要な研究開発を推進し,その成果の普及に努めなければならない」として,地震に関する調査研究の推進に ,測量,調査及び研究のための体制の整備に努めるとともに,地震防災に関する科学技術の振興を図るため必要な研究開発を推進し,その成果の普及に努めなければならない」として,地震に関する調査研究の推進についての被告国の責務を定めている。そして,推進本部は,地震に関する調査研究の成果が国民や防災を担当する機関に十分に伝達され活用される体制になっていなかったという認識の下に,行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにし,これを政府として一元的に推進する- 142 -ため,同法に基づき総理府に設置された政府の特別の機関である。 推進本部には地震調査委員会が設置され,同委員会は,「地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うこと」(同法7条2項4号)を目的とし,地震調査委員会の下には,より専門的な検討を行うための機関として,研究調査テーマに沿って,「長期評価部会」,「強震動評価部会」,「地震活動の予測的な評価手法検討小委員会」,「津波評価部会」及び「高感度地震観測データの処理方法の改善に関する小委員会」が設置されている。 このうち,長期評価部会は,「長期的な観点から,地域ごとの地震活動に関する地殻変動,活断層,過去の地震等の資料に基づく地震活動の特徴を把握し明らかにするとともに,長期的な観点からの地震発生可能性の評価手法の検討と評価を実施し,地震発生の可能性の評価」を行っている。そして,同部会の下には,さらに専門的な調査研究を目的として,「活断層分科会」,「活断層評価手法等検討分科会」及び「海溝型分科会」が設置されており,それぞれ専門的な調査研究の推進を行っている。このように,推進本部は,地震防災対策特別措置法に を目的として,「活断層分科会」,「活断層評価手法等検討分科会」及び「海溝型分科会」が設置されており,それぞれ専門的な調査研究の推進を行っている。このように,推進本部は,地震防災対策特別措置法に基づき,地震に関する専門的な調査研究を推進するための十分な組織を備えており,推進本部は,私的諮問機関ではなく,政府の公的機関であるから,地震についての被告国としての評価を行うことを任務としている。 また,地震調査委員会は,地震・津波等に関する公的機関及び私的な研究機関等からの情報を一元的に集約することも重要な目的としているから,地震調査委員会が収集する地震・津波に関する基礎的な情報は,個々の研究者や個別の研究機関が保有するものよりも豊富である。さらに,推進本部は,私的な研究者の団体である個々の学会な- 143 -どとは異なり,被告国が設置した公的機関として,地震・津波に関する我が国を代表する専門家の参加が確保されている。 このように,推進本部は,行政施策に直結すべき地震に関する調査研究を一元的に推進する政府機関といえる。 ⒞ 長期評価は過去の地震の知見を集約し専門家の議論を経て将来の地震の長期的な予測が取りまとめられたこと長期評価は地震調査委員会・長期評価部会に招集された地震・津波の専門家の充実した議論を踏まえ,過去の地震の評価と将来の地震の予測についての被告国の判断を示したものであり,地震の専門家の個人的な見解とは比べられない公的性格と重要性を持つものである。そして,推進本部の策定する長期評価等の知見は,それが部分的にでも明らかになれば,可能な範囲で地域防災対策に活用してゆくべきことが当然に予定されていた。 また,過去の一つの地震の評価を巡っても地震学者の間では見解はし の知見は,それが部分的にでも明らかになれば,可能な範囲で地域防災対策に活用してゆくべきことが当然に予定されていた。 また,過去の一つの地震の評価を巡っても地震学者の間では見解はしばしば分かれ得るのであって,「統一的見解」,つまり,全ての専門家が賛同する見解には容易に到達しないのが通常であり,地震・津波の防災に活かすべき知見の条件として,「地震学者の間での統一的見解であること」を求めるとすれば,それは一人でも専門家の異論があればその知見は防災上無視して良いというに等しく,かかる主張は誤りである。 b 長期評価の示した日本海溝沿いにおける地震予測とその高度の信頼性⒜ 長期評価に先立つ「津波地震」の知見の進展長期評価策定に先立って,第1に近代的観測に基づく「津波地震」についての知見の進展,第2に歴史資料に基づく歴史地震の研究の進展と歴史地震における「津波地震」の抽出,第3に津波数値計算の飛- 144 -躍的進展があったのであり,これらの知見は相互に関連し支え合うことにより長期評価の土台となっている。 ⒝ 長期評価は,専門家の集団的な議論を経て領域分けをし,海溝寄りの津波地震の長期評価を取りまとめて作成されたこと長期評価では,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震が「津波地震」であると結論付けている。また,長期評価は,微小地震等の分布状況を踏まえ,そのデータに基づきプレート境界を推定し,沈み込みの角度等の構造・形状についても確認し,低周波地震についての知見も背景として,海溝型分科会における充実した議論により日本海溝寄りで過去約400年の間に3つの津波地震が発生したとの結論に達し,プレート境界の日本海溝寄りを陸寄りと区別される一つの領域として定めた。上記考え ,海溝型分科会における充実した議論により日本海溝寄りで過去約400年の間に3つの津波地震が発生したとの結論に達し,プレート境界の日本海溝寄りを陸寄りと区別される一つの領域として定めた。上記考え方をもとに,長期評価は,日本海溝寄りの領域における過去の地震について,「日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震は17世紀以降では,1611年の三陸沖,1677年11月の房総沖,明治三陸地震と称される1896年の三陸沖(中部海溝寄り)が知られており,津波等により大きな被害をもたらした。よって,三陸沖北部~房総沖全体では同様の地震が約400年に3回発生しているとすると,133年に1回程度,M8クラスの地震が起こったと考えられる。これらの地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとは言い難いため,固有地震としては扱わなかった。」,「過去の同様の地震の発生例は少なく,このタイプの地震が特定の三陸沖にのみ発生する固有地震であるとは断定できない。そこで,同じ構造をもつプレート境界の海溝付近に,同様に発生する可能性があるとし,場所は特定できないとした」と結論付けている。また,長期評価は,日本海溝寄りの領域における将来の地震の評価について,三陸沖北部から房総沖の海- 145 -溝寄りのプレート間大地震(津波地震)につき,「M8クラスのプレート間の大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定される。ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定される。」と結論付けている。 これらの結論は,海溝型分科会に集まった第一線の地震・津波の専門家による充実した議論を経て,最終的な結論として示されたものである。そして,上 生確率は30%程度と推定される。」と結論付けている。 これらの結論は,海溝型分科会に集まった第一線の地震・津波の専門家による充実した議論を経て,最終的な結論として示されたものである。そして,上記3つのそれぞれの地震について「一個一個相当な議論をして」津波地震であると結論付け,3つの津波地震に加えプレート境界の地形や形状についても議論をした上で日本海溝寄りを一つの領域としてまとめたものである。 c 被告らの主張に対する反論⒜ 被告国は,過去の資料が少ないこと,福島県沖の日本海溝寄りに津波地震が発生した記録がないことを根拠に,長期評価に基づき福島県沖の日本海溝寄りに津波地震を想定しなかったことを正当化しようとする。しかし,そもそも,地震・津波の長い歴史に比して,現在我々が把握している地震・津波は,近代的観測に基づくものは100年余りの期間のものにすぎない。また,歴史記録に基づくものに広げても,869年の貞観地震・津波についての「日本三大実録」などの例外を除けば,東北地方を含む東日本においては,せいぜい江戸時代以降の400年余りの限られた期間のものにすぎない。したがって,福島県沖で過去に津波地震の記録がないからといって,福島県沖で過去に津波地震が起こったことはないと断言することはできない。そして,長期評価は,その時点で把握できている過去の地震には制約があるという正しい前提に立って,空間軸を広く取って統計的な検討を加えた上- 146 -で,将来の地震を予測するものである。既往最大の地震に限定せずに将来の地震・津波を予測するという考え方は,長期評価以前にも示されていたが,被告東電は,各原子力発電所において抜本的な津波対策を迫られることを嫌い,現在把握されている既往最大の地震・津波によって将来起こり得る最大規模の地震津波の上限を は,長期評価以前にも示されていたが,被告東電は,各原子力発電所において抜本的な津波対策を迫られることを嫌い,現在把握されている既往最大の地震・津波によって将来起こり得る最大規模の地震津波の上限を画することができるという旧来の考え方に拘泥していた。このような考え方は,被告東電ら電気事業者が主導して作成した津波評価技術にも反映されていたが,上記のような考え方は,何ら根拠がなく重大な誤りである。 ⒝ 被告国は,長期評価の見解において,福島県沖海溝沿いという特定の領域でM8クラスの地震が発生する積極的・具体的な根拠が述べられていない旨主張する。しかし,長期評価の結論のとおり,過去に北では明治三陸地震と慶長三陸地震の2つの津波地震が発生し,南では延宝房総沖という津波地震が発生しているところ,日本海溝の南北を通じ,太平洋プレートが陸寄りのプレート境界の下に同様の速度で沈み込み続け,かつ,プレート境界の形状も共通するという同じ構造を持つことからすれば,日本海溝寄りの南部と北部で津波地震が現に起きている以上,その中間にある福島県沖海溝寄りの領域を含めて津波地震はどこでも発生し得ると考えられた。したがって,福島県沖海溝沿いでM8クラスの地震が発生する積極的・具体的根拠がなかったということはできない。 ⒞ 被告国は,日本海溝寄りの北部と南部では地形・地質の違い,地震活動の違いがあることを強調する。しかし,日本海溝寄りの領域は,その南北を通じて,プレート境界の形状が同様であること,微小地震や低周波地震の起こり方についても陸寄りの領域とは異なる共通性があることは明白であること,堆積物の沈み込み方の南北での差異についての仮説は1677年に発生した延宝房総沖津波地震を説明で- 147 -きず採り得ないことなどから,被告国の上記主張は根拠がない。 ことは明白であること,堆積物の沈み込み方の南北での差異についての仮説は1677年に発生した延宝房総沖津波地震を説明で- 147 -きず採り得ないことなどから,被告国の上記主張は根拠がない。 ⒟ 被告国は,津波地震のメカニズムが未解明であることを理由に,3つの津波地震について整理し日本海溝寄りのどこでも津波地震が起こり得るとした長期評価の信頼性を否定しようとする。しかし,長期評価策定の時点で,津波地震は海溝寄りのプレート境界において起こるということ自体は既に確立した知見であり,津波被害についての歴史記録に照らせば,1611年の慶長三陸地震は1896年の明治三陸地震よりさらに南北に広く被害を及ぼした津波地震であったことや1677年の延宝房総沖地震は陸寄りではなく海溝寄りの津波地震であったことが明らかとなっていた。したがって,メカニズムが未解明であるとはいえず,メカニズムの未解明を理由に津波地震に対する防護対策に着手する必要がないということにはならない。 ⒠ 被告国は,「長期評価の見解」については,安全規制としての決定論的安全評価には取り入れず,確率論によって評価することに合理性があったと主張する。しかし,長期評価の公表直後である平成14年はもちろん,それから8年以上が経過した本件事故に至るまで津波の確率論的安全評価は手法の研究段階にとどまっていた。したがって,津波に対して確率論的安全評価の手法に基づいて実際の防護措置や法規制が実施される目途は全く立っていなかったのであり,確率論によって評価するという対応は,およそ実効性のある安全対策を行ったといえるものではない。 長期評価の信頼度についてa 発生領域の評価の信頼度が「C(やや低い)」の意味について「信頼度について」の「発生領域の信頼度」が「C(やや低い)」と ったといえるものではない。 長期評価の信頼度についてa 発生領域の評価の信頼度が「C(やや低い)」の意味について「信頼度について」の「発生領域の信頼度」が「C(やや低い)」とされていることの意味は,その領域内のどこかで地震が起こることは確実に分かっているが,その領域内のどこで地震が起きるかが分からない- 148 -ということであって,その領域内で起こらないということを意味するものではない。 b 発生確率の評価の信頼度が「C(やや低い)」の意味について発生確率の信頼度が「C(やや低い)」とされているのは,明治三陸地震の震源域の位置は南北については厳密に定まらないことによるものである。仮に同地震の位置が厳密に確定されているなら,それより南側は,400年間地震が起きていないのであるから,津波地震の発生確率はより高くなるのであって,津波地震が起きない,あるいは起きるかどうか曖昧であるということを意味するものではない。 c 発生規模の評価の信頼度が「A(高い)」であることについて発生規模の評価の信頼度が「A(高い)」とされているのは,想定地震と同様な地震が3回以上発生し,過去の地震から想定規模を推定でき,地震データの数が比較的多く,規模の信頼度は高いということである。 長期評価公表以降にもその信頼性が確認されたこと長期評価がその後の知見の進展を踏まえて検討・改訂された過程においても,日本海溝寄りの津波地震の発生可能性に関する長期評価の見解が再確認され,維持された。また,土木学会原子力土木委員会津波評価部会におけるその後の検討においても日本海溝寄りに津波地震を想定すべきであるとの見解が支持されるに至った。これらの事情から,長期評価が示した「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでもM8ク 部会におけるその後の検討においても日本海溝寄りに津波地震を想定すべきであるとの見解が支持されるに至った。これらの事情から,長期評価が示した「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでもM8クラスのプレート間の大地震(津波地震)が発生する可能性がある」との地震・津波想定の信頼性が,その後の経過によっても,さらに確認されたといえる。 長期評価の高度の信頼性についての総括以上のとおり,長期評価は,阪神淡路大震災の反省を踏まえて設置された被告国の推進本部において,地震調査委員会・海溝型分科会に招集され- 149 -た第一線の地震・津波の研究者が議論を尽くし,最終的な結論として示された,日本海溝沿いにおける過去の地震の評価及び将来の地震の予測についての,被告国自身による法令に基礎を置く公的な判断であった。また,長期評価の内容及び結論(日本海溝寄りと陸寄りを領域分けした上で,海溝寄りにおいて過去に3つの津波地震が発生したこと,将来においてこの海溝寄りのどこでも同様の津波地震が発生し得ると評価したこと)は,当時の地震・津波学の最新の知見を踏まえたものであり,高度の信頼性を有するものであった。さらに,長期評価の高度の信頼性は,その公表後にも維持・再確認され,土木学会原子力土木委員会津波評価部会においても,日本海溝寄りにおいては,福島県沖を含む南部の領域を含めて,津波地震を想定すべきとの見解が支持されるに至った。長期評価の日本海溝寄りの津波地震の評価と予測は,平成14年7月の発表と同時に報道機関を通じて広く社会的にも周知され,通常の市民生活・経済活動一般を対象とした防災対策(一般防災)に活かされることが期待されていた。したがって,万が一にも重大事故を起こしてはならない原子炉施設の地震・津波に対する防護対策(原子力防災)にお 市民生活・経済活動一般を対象とした防災対策(一般防災)に活かされることが期待されていた。したがって,万が一にも重大事故を起こしてはならない原子炉施設の地震・津波に対する防護対策(原子力防災)においては,一般防災にも増して長期評価の知見を重視し,速やかに原子炉施設の地震・津波に対する防護対策に反映させるべきであった。 長期評価による推計で2m程度の浸水深となることが示されたことa 平成20年4月,被告東電が長期評価の考え方に基づいて明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りに設定し,津波評価技術の手法を用いて津波浸水予測計算を行った結果,福島第一原発の敷地南側で,O.P.+15.7mの津波高が推計された(2008年推計)。 この2008年推計においては,福島第一原発に襲来する津波高さを予測するに当たって,どのような波源モデルをどこに設定するかという段階においては,平成14年7月の長期評価の考え方を採用した上で,1- 150 -896年の明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りに設定し,そして具体的なシミュレーションに当たっては,平成14年2月の津波評価技術による計算手法(パラメータスタディ等)を用いて,各号機における津波高さを算出している。これに先立って,被告東電は,津波評価技術が公表された平成14年の3月の段階で,既に津波評価技術に基づいて福島第一原発の各号機における津波水位を計算している(2002年推計)。この2002年推計においては,1896年の明治三陸地震の波源モデルの具体的な諸元(Mw,断層の長さ,幅,すべり量等)も示されている。また,1ないし6号の各号機における直近に位置する海岸地点での計算水位を時系列変化によって示しており,既に精度の高い計算が行われていることが分かる。したがって,長期 幅,すべり量等)も示されている。また,1ないし6号の各号機における直近に位置する海岸地点での計算水位を時系列変化によって示しており,既に精度の高い計算が行われていることが分かる。したがって,長期評価の地震想定も,津波評価技術の計算手法も,いずれも平成14年当時から公に周知されており,実際に被告東電は同年3月に津波評価技術の計算手法を用いて明治三陸地震の波源モデルを使って具体的な計算もしているのであるから,この2つを組み合わせて,福島県沖の日本海溝寄りに明治三陸地震の波源モデルを想定して福島第一原発における具体的な津波高さを計算すること自体は,平成14年7月に長期評価が公表されて以降,直ちに可能であったものである。 b 被告東電は,電事連の中核をなす企業であり,土木学会に対して津波浸水予測計算の手法をまとめる津波評価技術の作成を依頼した主体として,津波評価技術の内容を熟知していた。また,津波評価技術自体が7省庁手引の示す地震・津波想定に対する対応について電事連を挙げて対応した所産であることに示されるように,被告東電が,被告国の示す地震・津波想定については極めて重大な関心を払っていたことは明らかであり,長期評価の公表の直後からその内容を十分に検討していた。そして,被告東電の津波想定の担当者は,長期評価の公表の1週間後には,- 151 -長期評価の取りまとめに当たった推進本部・海溝型分科会の委員に対し,推進本部が長期評価を公表した理由を照会しており,長期評価の示す地震・津波想定の持つ意味の重大性を十分に認識していた。 c 被告国(推進本部)は,長期評価を公表した主体であり,長期評価の内容を詳細に把握していた。また,被告国の機関として,原子力発電所の安全規制を所管する保安院においても,津波評価技術の内容については熟知していた。 本部)は,長期評価を公表した主体であり,長期評価の内容を詳細に把握していた。また,被告国の機関として,原子力発電所の安全規制を所管する保安院においても,津波評価技術の内容については熟知していた。さらに,被告国は,既に津波評価技術公表の直後には,被告東電より,塩屋崎沖地震を想定した2002年推計によって設置許可段階では浸水が想定されていないO.P.+4m盤への津波の遡上があり得るとの報告を受け,その「確認」をしている 。この「確認」の約4ヶ月後には,福島県沖の日本海溝寄りにおいても津波地震が起こり得るとして,塩屋崎沖地震の想定では不十分であることを示す長期評価が被告国の機関によって公表された。したがって,こうした状況を踏まえれば,保安院としては,自ら長期評価の知見を踏まえた津波浸水予測計算を実施するか,又は,被告東電に対して長期評価の地震想定を前提に津波浸水予測計算の再検討を指示するのは極めて容易だったといえる。 そして,こうした津波浸水予測計算が実施されていれば,平成14年の時点において,福島第一原発において,2008年推計が示すとおり,主要建屋敷地高さを大きく超える津波の襲来の可能性があることは容易に把握することができた。 d 2008年推計によって示される津波遡上計算は,被告東電としては平成14年には既に可能となっていたところであり,被告国としても,長期評価の公表の直後には,長期評価の示す地震想定を前提とし津波評価技術に基づく津波浸水予測計算を自ら実施し,又は,その実施を被告東電に指示することによって,同様の津波の予測は可能だったといえる。そして,2008年推計の示す津波の遡上態様は福島第一原発敷地- 152 -南側でO.P.+15.7mに及び,1ないし4号機立地点においても浸水深1ないし2.6m程度に達している。したが える。そして,2008年推計の示す津波の遡上態様は福島第一原発敷地- 152 -南側でO.P.+15.7mに及び,1ないし4号機立地点においても浸水深1ないし2.6m程度に達している。したがって,被告東電及び被告国のいずれもが,平成14年時点において,福島第一原発の主要建屋敷地高さ(O.P.+10m)を大きく超え,1ないし4号機の立地点においても,約2m程度の浸水深をもたらす津波の襲来があり得ることは容易に予見することが可能だったといえる。 敷地を超える津波の予見可能性を否定する被告らの主張に対する反論平成10年には,従来の「既往最大」の想定にとどまらず「想定し得る最大規模の地震・津波」の想定が可能となったこと,そして7省庁手引が「想定し得る最大規模の地震・津波」の想定を一般防災を前提とした防災行政に取り入れる方向を示したこと,これを受けて電事連が原子力防災においても「想定し得る最大規模の地震・津波」を考慮するものとし,その方針を受けて通商産業省としても電気事業者において自主的な対応にとどまるもののこれに対する対応を求めるに至ったこと,原子力防災においては一般防災に比して高度の安全性が求められること,歴史地震の記録は過去約400年程度にとどまり既往最大の考慮のみでは原子炉施設の安全性の確保の観点からは不十分であること,津波浸水予測計算の本来の考え方からすれば基準断層モデルの設定は既往最大に限定されるものではなく,現に2016年の津波評価技術の改訂に際して従前の「既往最大」の限定が「既往最大に限定しない」と是正されたこと,精緻な推計を理由として既往最大に限定する被告国の主張に合理性がないことなどからすれば,被告国が津波評価技術による津波浸水予測計算に際して,原子炉施設の防護のための地震・津波の想定にお されたこと,精緻な推計を理由として既往最大に限定する被告国の主張に合理性がないことなどからすれば,被告国が津波評価技術による津波浸水予測計算に際して,原子炉施設の防護のための地震・津波の想定において既往最大の考え方にとどまる想定で足りるとしたことに合理性がないことは明らかである。 原子炉施設の安全規制は決定論に基づいて行われており,規制による安全上の要求は無条件に確保されるべきものであること- 153 -炉規法及び電気事業法等に基づく原子炉施設の安全性確保に関する法規制は,原子炉施設が巨大な危険性を抱えていることに鑑み,決定論に基づいて設計基準となる事象を想定して,これに対する安全性を無条件に確保することを設置及び運転の最低限の条件として安全性を確保しようとするものであり,そのための安全性の最低の基準を定めているのが省令62号である。したがって,省令62号4条1項に反する状態であれば,経済産業大臣としては,当然に行政指導や技術基準適合命令を発して安全性を確保して,「深刻な災害が万が一にも起こらないようにする」という法の趣旨,目的を達することが求められる。そして,「長期評価」の津波地震の想定が決定論として前提とされれば,その地震によって福島第一原発の主要建屋敷地へ浸水することが予見可能である以上,省令62号4条1項に反する状態であることは明らかであり,非常用電源設備等の安全設備が機能喪失を起こさないために必要な防護措置が講じられることが原子炉施設の稼働の前提条件となるものである。したがって,被告東電が必要な防護措置を講じないままの原子炉施設の稼働を行うことは電気事業法上許されず,経済産業大臣としては,必要な防護措置を講じるように被告東電に対して行政指導を行い,これに従わない場合には電気事業法40条に 護措置を講じないままの原子炉施設の稼働を行うことは電気事業法上許されず,経済産業大臣としては,必要な防護措置を講じるように被告東電に対して行政指導を行い,これに従わない場合には電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発することが要求される。 また,決定論において想定する設計基準事象に対する安全性は無条件に確保することが求められるものであり,規制行政庁や原子力事業者が投資できる資金や人材等が有限であることや当該事象以外に想定し得るリスクが多数存在することをもって設計基準事象に対する防護措置を不要とし,他の防護措置を優先して当該設計基準事象に対する防護措置を劣後させることは許されない。地震と津波はいずれも断層運動に基づいて発生するという点では共通し,津波は地震に随伴して発生するものであるから,原子力規制において地震と津波を区別することには合理性がなく,主要建- 154 -屋敷地高さを超える津波の襲来があった場合には,直ちに非常用電源設備等の機能喪失,すなわち,重大事故の発生の危険に直結することが認識されていたのであるから,安全裕度の有無と程度を対比しても,地震に対する対策を優先するために津波対策を先送りすることに合理性はない。 (被告国の主張の要旨)ア予見可能性の対象規制権限不行使の国賠法上の違法は,結果発生の原因となる事象に対する防止策に係る法的義務違背を問うものであるから,その前提となる予見可能性は,結果発生の原因となる事象について判断されるべきであること規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨・目的や,権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して,著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法とな 性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して,著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となる。仮にある特定の事象について規制をしたとしても,規制の対象である事象と結果発生との間に因果関係が認められなければ,そもそも結果を回避することができず,結果回避可能性がないし,被害を受けた者に対する関係で規制が法的に義務付けられるということもできない。そうすると,規制権限は,結果発生の原因となる事象について行使されるものであり,規制権限不行使の国賠法上の違法は,結果発生の原因となる事象に対する防止策に係る法的義務違背を問うものということになるから,その前提となる予見可能性も,結果発生の原因となる事象について判断されるべきである。 本件では,本件地震及びこれに伴う津波による全交流電源喪失が原因となって発生した本件事故により損害を被ったと主張する原告らとの関係において,被告国が電気事業法に基づく規制権限を行使しなかったことが職務上の法的義務に違背するものであったか否かが問われているから,本件で問題とされるべきは,飽くまでも現実に生じた事実経過を前提に,被害- 155 -を受けたとされる原告らとの関係で,原告らの主張に係る損害発生の原因となった本件地震及びこれに伴う津波による全交流電源喪失を未然に防止するために,被告国が電気事業法に基づく規制権限を行使する職務上の法的義務を負担していたか否かである。したがって,およそ本件事故の原因と関連しない事象や経過に対する防止策を講じなかったことが,原告らに対する被告国の法的義務違背の有無を判断するに当たって問題とはならない。 本件における予見可能性の対象は,本件地震に伴う津波と同規模の津波が福 過に対する防止策を講じなかったことが,原告らに対する被告国の法的義務違背の有無を判断するに当たって問題とはならない。 本件における予見可能性の対象は,本件地震に伴う津波と同規模の津波が福島第一原発に発生,到来することであること本件事故は,本件地震及びこれに伴う津波により,福島第一原発が全交流電源喪失に陥り,直流電源も喪失又は枯渇するなどして炉心冷却機能を失い,外部環境に放射性物質を放出するに至ったものであるから,本件において被告国による規制権限の不行使が違法とされる前提としての予見可能性は,原告らに対して損害を与えた原因とされる本件地震及びこれに伴う本件津波と同規模の地震,津波の発生又は到来についての予見可能性であることが必要である。 地震及びこれに伴う津波により全交流電源喪失に陥るか否か,炉心冷却機能を失い,放射性物質を放出する事故に至るか否かについては,地震及び津波による被災の範囲や程度,津波の遡上経路,各種設備・機器への影響の有無や程度(地震による損傷の有無・程度,津波による浸水の有無・程度・時間等),復旧に要する作業内容や時間等といった様々な要因によって定まるものであり,これらの要因は襲来する地震及び津波の規模(地震の大きさ,津波の水量,水流,水圧等)に大きく左右されると考えられるから,単に敷地高さを超える津波が発生,到来したというだけでは,実際に本件事故が発生したと認める証拠はない。したがって,実際に福島第一原発に発生,到来した本件地震及びこれに伴う津波と同規模の事象では- 156 -なく,このような規模に至らない,単に敷地高さを超える津波が発生,到来したというだけで,本件事故が発生したと認めるに足る証拠はないから,「O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来」の発生が本件の予見可能性の 至らない,単に敷地高さを超える津波が発生,到来したというだけで,本件事故が発生したと認めるに足る証拠はないから,「O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波の到来」の発生が本件の予見可能性の対象となるものではない。 そもそも,予見可能性は,被告国において具体的な防止策に係る規制権限を行使することが可能な程度に一定規模の範囲の具体的な事象として予見可能であることが必要であるところ,「O.P.+10mを超える浸水高(痕跡高)の津波」というだけでは,いったいどの程度の規模を想定して対策を講じることを要するのか判断することができない。したがって,本件においては,実際に福島第一原発に発生,到来した本件地震及びこれに伴う本件津波(O.P.+約15.5m)と同程度の地震及び津波の発生,到来について予見可能性があったといえなければならない。 原子炉施設には,他の一般産業施設に比して高度な安全性が求められるものであるが,原子力基本法及び炉基法は,飽くまでも原子力技術という科学技術を受け入れて利用することを前提として,これを規制するものである以上,これらの法令が想定する安全性は,科学技術を利用した施設に求められる安全性,すなわち,「相対的安全性」を意味すると考えられる。 そして,原子力発電所に求められる安全性が「相対的安全性」であることに照らすと,本件において規制権限を行使する義務を基礎付ける予見可能性が認められるか否かは,被告国が,津波との関係で,福島第一原発が「相対的安全性」を欠いていたことを認識する義務があったかどうかによって決まることになる。 イ予見可能性の有無 本件事故に至るまでの間,被告国の本件事故に関する予見可能性を基礎付ける知見が存在しなかったことa 福島第一原発1ないし4号機の各設置(変更)許可処分 なる。 イ予見可能性の有無 本件事故に至るまでの間,被告国の本件事故に関する予見可能性を基礎付ける知見が存在しなかったことa 福島第一原発1ないし4号機の各設置(変更)許可処分当時の考え方- 157 -について本件事故前の時点では,津波に対する事故防止対策について,基本設計ないし基本的設計方針として,敷地高さを想定される津波の高さ以上のものとして津波の侵入を防ぐことを基本とし(ドライサイト),津波に対する他の事故防止対策も考慮して,津波による浸水等によって施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないものとすることを求めていた。 本件設置等許可処分が行われた昭和41ないし47年当時,到来が予測される津波の波高を,コンピューターを用いて計算するシミュレーション技術は一般化していなかったため,被告東電は,過去に観測された最大の津波による潮位を基に原子炉の設計を行った。具体的には,福島第一原発1号機の原子炉設置許可処分に係る安全審査においては,立地条件として「海象」について調査審議され,波高の記録として,水深約10mにおいて最高約8mという記録(昭和40年台風28号)があり,潮位の記録として,小名浜港(敷地南方約50km)における観測記録によれば,チリ地震津波(昭和35年)の最高O.P.+3.122mがあることが指摘されている。なお,同審査においては,「地震」についても調査審議され,福島県近辺は,会津付近を除いて全国的に見ても地震活動性の低い地域の一つであり,特に原子炉敷地付近は地震による被害を受けたことがないことがそれぞれ指摘されている。その上で,審査の結果,「本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める」と結論付けられている。また,福島第一原発2号機及び3号機の原子炉設置(変更)許可 ないことがそれぞれ指摘されている。その上で,審査の結果,「本原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るものと認める」と結論付けられている。また,福島第一原発2号機及び3号機の原子炉設置(変更)許可処分に係る安全審査においても,1号機と同様に地震,津波について調査審議がされた上で安全性が十分確保し得るものと認められている。さらに,福島第一原発4号機の原子炉設置(変更)許可処分における安全審査においては,昭和45年安全設計- 158 -審査指針が用いられているところ,同指針においては,「2.2 敷地の自然条件に対する設計上の考慮」として,「(1)当該設備の故障が,安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系および機器は,その敷地および周辺地域において過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力に耐え得るような設計であること。(2)安全上重大な事故が発生したとした場合,あるいは確実に原子炉を停止しなければならない場合のごとく,事故による結果を軽減もしくは抑制するために安全上重要かつ必須の系および機器は,その敷地および周辺地域において,過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計であること。」を定めている。そして,4号機の原子炉設置(変更)許可処分に係る安全審査においても,昭和45年安全設計審査指針を踏まえ,地震,津波について調査審議がされた上で安全性が十分確保し得るものと認められている。 このように,本件事故前の時点では,津波に対する事故防止対策について,基本設計ないし基本的設計方針において,敷地高さを想定される津波の高さ以上のものとして津波の侵入を防ぐことを基本とし(ドライサイト),津波に対する他の事故防止対策も考 に対する事故防止対策について,基本設計ないし基本的設計方針において,敷地高さを想定される津波の高さ以上のものとして津波の侵入を防ぐことを基本とし(ドライサイト),津波に対する他の事故防止対策も考慮して,津波による浸水等によって施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないものとすることを求めていた。そして,福島第一原発1ないし4号機については,主要建屋の敷地高さがO.P.+10mであるのに対し,各設置(変更)許可処分当時の想定津波はチリ地震津波によるO.P.+3.1mであり,津波の性質上,波高等に不確定な要素があることを考慮しても,敷地高さと想定津波との間に十分な高低差があることをもって,津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針が妥当なものであると評価されていた。 - 159 -b 「4省庁報告書」と「7省庁手引」について規制権限の行使において,仮にある特定の事象について規制をしたとしても,規制の対象である事象と結果発生との間に因果関係が認められなければ,結果回避可能性がなく,被害を受けた者に対する関係で規制が法的に義務付けられるということもできない。そうすると,規制権限は,結果発生の原因となる事象について行使されるものであり,規制権限不行使の国賠法上の違法は,結果発生の原因となる事象に対する防止策に係る法的義務違背を問うものということになるから,その前提となる予見可能性も,結果発生の原因となる事象について判断されなければならない。しかし,本件事故は,本件地震及び本件津波により,福島第一原発が全交流電源喪失に陥り,直流電源も喪失又は枯渇するなどして炉心冷却機能を失い,外部環境に放射性物質を放出するに至ったものであるから,本訴訟において予見可能性の対象とされるべきは,上記のような経過で本件事故を惹起するに足り 流電源も喪失又は枯渇するなどして炉心冷却機能を失い,外部環境に放射性物質を放出するに至ったものであるから,本訴訟において予見可能性の対象とされるべきは,上記のような経過で本件事故を惹起するに足りる地震及び津波の予見可能性ということになる。そして,どのような規模の地震及び津波であれば本件事故を惹起するに足りる地震・津波であるかについては,地震及び津波による被災の範囲や程度,津波の遡上経路,各種設備・機器への影響の有無や程度(地震による損傷の有無・程度,津波による浸水の有無・程度・時間等),復旧に要する作業内容や時間等といった様々な要因によって定まるものであり,これらの要因は襲来する地震及び津波の規模(地震の大きさ,津波の水量,水流,水圧等)に大きく左右されるものと解されるため,単に福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波が到来したというだけでは足りないところ,本訴訟において,原告らは,この点の主張立証責任を果たしていない。また,本件事故を惹起するに足りる地震・津波がどのようなものであったとしても,少なくとも,津波が主要建屋の敷地高さを超- 160 -えない限り,炉心冷却機能が完全に失われることはあり得ないため,特定の知見に基づいて導き出される津波高さが福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超えるものでない限り,当該知見が本件事故の予見可能性を基礎付ける知見となる余地はない。しかし,4省庁報告書においては,津波高に関する情報等を市町村単位で整理した結果として,福島第一原発1ないし4号機が所在する福島県双葉郡大熊町について想定津波が記載されているところ,これによって計算される想定津波の計算値は平均6.4mと算出されているのであって,福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超え 島県双葉郡大熊町について想定津波が記載されているところ,これによって計算される想定津波の計算値は平均6.4mと算出されているのであって,福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波高さは導き出されない。したがって,そもそも,4省庁報告書によって導き出される津波高さでは,津波が主要建屋の敷地高さを超え,炉心冷却機能が完全に失われる可能性すらないのであるから,当該知見が本件事故の予見可能性を基礎付ける知見となる余地はない。また,4省庁報告書は,津波高さの点を別としても,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見と呼べるまでの精度を有しているものではなく,同報告書自身が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」とするには精度が足りず,「合理的な予測」を行うに当たっては,4省庁報告書の考え方をベースに,精緻なモデルの設定や計算を行うべきことを求めている。 7省庁手引は,「現在の技術水準では,津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり,また,津波が発生した場合においても,地域の特性によって津波高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,津波防災対策の検討が極めて難しいものとなっている。さらに,これまでの津波災害は,必ずしも人口稠密な大都市域で発生したものではないため,今後,臨海大都市で発生する危険性がある都市津波災害に対する対策も新たに講ずる必要がある。そのため,津波という災害の特- 161 -殊性を十分踏まえ,総合的な観点から津波防災対策を検討し,津波防災対策のより一層の充実を図ることが必要不可欠になっている」との認識から「防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防 り一層の充実を図ることが必要不可欠になっている」との認識から「防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についてとりまとめた」ものであるとされている。この7省庁手引は,既往最大津波だけでなく,理学的根拠に基づいて想定される最大規模の地震津波を考慮した対策を求める方向性を打ち出すものであったが,その具体的な評価方法までは定められておらず,その結果,それ自体が特定地点において想定すべき津波高さを導き出すものではないから,本件事故の予見可能性を基礎付ける知見といえるものではなかった。そのため,4省庁報告書と同様に,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって津波対策を行うべき津波高さを導き出すためには,別途,7省庁手引の考え方をベースに,理学的根拠に基づいた対象津波の設定を行う必要があった。 以上のとおり,4省庁報告書から導き出される津波高さは,そもそも福島第一原発の主要建屋の敷地高さを超えないものであった上,同報告書自体が,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」とするには精度が足りず,「合理的な予測」を行うに当たっては,4省庁報告書の考え方をベースに,精緻なモデルの設定や計算を行うべきことを求めているのであるから,4省庁報告書は,本件事故の予見可能性を基礎付ける知見とはならない。また,7省庁手引も,具体的な津波評価方法までは定めておらず,4省庁報告書と同様に,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって津波対策を行うべき津波高さを導き出すためには,別途,7省庁手引の考え方をベースに,理学的根拠に基づいた対象津波の設定を行う必要があった。したがって,- 162 -これ た合理的な予測」によって津波対策を行うべき津波高さを導き出すためには,別途,7省庁手引の考え方をベースに,理学的根拠に基づいた対象津波の設定を行う必要があった。したがって,- 162 -これらの報告書は,本件事故の予見可能性を基礎付ける知見とはなり得ない。 c 津波評価技術について⒜ 津波評価技術の波源の設定の合理性津波評価技術は,個々の原子力施設における具体的な設計津波水位を求めるための評価手法を取りまとめたものであり,津波評価技術によって求められる設計津波水位は,具体的な津波対策を講じるためのものであり,津波評価技術では,精緻な計算手法が採られているが,精緻な計算を行うためにはその前提として,過去の記録から客観的に明らかになっている情報に基づき,基準断層モデルを設定する必要がある。そこで,津波評価技術の波源の設定においては,波源モデルの構築が可能なものであることを前提に,既往津波からの選定が行われている。その結果,津波評価技術の波源の設定を前提とした福島第一原発における想定津波は,福島県東方沖地震を踏まえたものであり,本件事故前の最終的な最大想定津波は高さ6.1mになるものと評価されている。上記のような波源の設定は地震学,津波学及び津波工学の見地からも合理性を有するものであったし,原子力発電所に高い安全性が求められることを踏まえた安全寄りの考え方に基づいたものであったと評価することができる。そして,地震学及び津波学の分野においては,本件地震発生までは,地震は過去に起きたものが繰り返し発生するという考え方が,地震学者に一般的に受け入れられていた考え方であった。かかる考え方によれば,既往最大の地震を検討対象とした津波評価技術における基準断層モデルの設定手法は,地震学者の一般的な考え方に照らしても十分な 地震学者に一般的に受け入れられていた考え方であった。かかる考え方によれば,既往最大の地震を検討対象とした津波評価技術における基準断層モデルの設定手法は,地震学者の一般的な考え方に照らしても十分な合理性を有するものであった。 日本海溝・千島海溝報告書も,津波評価技術における津波対策と同様に,工学的な考え方を踏まえ理学的根拠の有無・程度に基づいて防災- 163 -対策の対象とすべき地震・津波の選定を行ったものであり,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見と評価できるものであったが,このような日本海溝・千島海溝報告書で検討対象外とされた地震・津波であっても,津波評価技術では想定津波を検討する上で取り入れる判断をしていることからも,津波評価技術は原子力発電所に高い安全性が求められることを前提に繰り返し発生が確認されていないものも津波対策の対象とするという安全寄りの考え方に基づいたものであったといえる。 ⒝ 津波評価技術が津波の不確かさを前提とした安全率の存在を踏まえつつ,パラメータスタディの手法を取り入れることによって不確かさの解消を図るなど,安全寄りの津波想定を行っていること津波評価技術による設計津波水位の評価は,想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から,評価地点に最も影響を与える波源を選定している。このパラメータスタディは工学的な安全率の存在も踏まえて策定されたものであり,この手順によって計算される設計想定津波は,平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されているのであって,津波評価技術は既往津波を前提にしつつ の存在も踏まえて策定されたものであり,この手順によって計算される設計想定津波は,平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されているのであって,津波評価技術は既往津波を前提にしつつも,常に既往津波プラスアルファで安全対策が考えられているものであったといえる。 ⒞ 津波評価技術が地震学・津波学,津波工学の中でも確立している最新の知見に基づいて策定されたものであり,国際的にも高い評価を得ていること津波評価技術は,地震学・津波学,津波工学の中でも確立している最新の知見に基づいて策定されたものであり,NRCが2009年- 164 -(平成21年)に作成した報告書においても,「世界で最も進歩しているアプローチに数えられる」と評価され,国際原子力機関(IAEA)が本件事故後の平成23年11月に公表した報告書においても,IAEA基準に適合する基準の例として参照されているなど,国際的にも高い評価を受けるものであった。 ⒟ 以上のとおり,津波評価技術は,本訴訟において争いのない計算手法の精緻性のみならず,理学的な知見の高低に基づいて優先度を判断することで総合的な安全性の確保を最大限に行う工学的な考え方の下,理学的根拠を伴った津波対策の中で最も安全寄りに波源の設定を行っているものである上,補正係数の点においても,パラメータスタディで補える不確実さが,合理的根拠をもって事業者に津波対策を求めることのできる津波水位の上限値だったものであるなど,いわば地震学,津波学,津波工学の第一線の専門家が当時の知識の粋を集めて策定したものである。したがって,津波評価技術は,本件事故前の時点において,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって福島第一原発における津波対策を考えるものとして,最も合 を集めて策定したものである。したがって,津波評価技術は,本件事故前の時点において,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって福島第一原発における津波対策を考えるものとして,最も合理性が認められる知見であったといえる。 d 「長期評価の見解」について⒜ 「長期評価の見解」の内容どのような規模の地震及び津波であれば本件事故を惹起するに足りる地震・津波であるかについては,地震及び津波による被災の範囲や程度,津波の遡上経路,各種設備・機器への影響の有無や程度(地震による損傷の有無・程度,津波による浸水の有無・程度・時間等),復旧に要する作業内容や時間等といった様々な要因によって定まるものであり,これらの要因は襲来する地震及び津波の規模(地震の大きさ,津波の水量,水流,水圧等)に大きく左右されるものと解され- 165 -るところ,「長期評価の見解」を前提に,福島県沖で明治三陸地震と同規模の津波地震が発生するものと仮定したとしても,その場合に起こり得る地震及び津波と本件地震及び本件津波は,規模が全く違うものであり,かつ,「長期評価の見解」を前提として考えられる地震及び津波によって本件事故が惹起されることについては具体的な主張・立証がされていないことから,そもそも,「長期評価の見解」が,被告国の予見可能性を基礎付けるものであるとする原告らの主張は,前提を欠くものである。 推進本部が公表する長期評価などの複数の知見には,多くの理学的根拠を伴っているものから,理学的根拠が極めて薄弱なものまで幅広い見解が含まれており,玉石混淆の状態であったのであるから,一言で「推進本部が出した見解」として十把一絡げにその科学的知見としての確立性に係る信頼性を評価できるものではなく,その中で示された個々の知 見解が含まれており,玉石混淆の状態であったのであるから,一言で「推進本部が出した見解」として十把一絡げにその科学的知見としての確立性に係る信頼性を評価できるものではなく,その中で示された個々の知見,すなわち,各領域における将来的な地震の規模・発生確率等に関する見解が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見と評価できるかについては個別具体的な検討が必要となる。そして,個々の知見が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見と評価できるかについては,地震学・津波学の理学分野における知見の成熟性の評価や津波工学に基づいた専門技術的判断が必要である。 それにもかかわらず,長期評価の中でも,原告らが主張する,M8クラスのプレート間の大地震は,過去400年間に3回発生していることからこの領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定され,ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は20%,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定されるとする「長期評価の見解」は,これと異なる理学的知見が多く示さ- 166 -れていたほか,その策定に関与した専門家を含む地震学,津波学及び津波工学の専門家らも,一様に「長期評価の見解」が理学的根拠に乏しいものであった旨の意見を述べており,これを裏付ける事実関係も多々存在することから「長期評価の見解」はおよそ「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見とは呼べないものであった。 ⒝ 「長期評価の見解」と異なる理学的知見が多数存在すること「長期評価の見解」は,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域を一つの領域としてまとめた上,明治三陸地震,慶長三陸地震及び ⒝ 「長期評価の見解」と異なる理学的知見が多数存在すること「長期評価の見解」は,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域を一つの領域としてまとめた上,明治三陸地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の存在を前提に当該領域のどこでも津波地震が起き得る旨の見解を示したものであるが,「長期評価の見解」の前提(明治三陸地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震がいずれも津波地震で,かつこれらが三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域で発生したこと)については,「長期評価の見解」公表後も,これと異なる見解が示されるなどしていた。したがって,「長期評価の見解」の前提自体が確立した知見に基づいたものではなかった。 また,我が国で発生した津波地震としては,明治三陸地震がこれに当たると考えられており,多くの地震学者によって研究の対象とされ,本件事故前の地震学・津波学の学術分野における研究の進展状況においては,明治三陸地震のような津波地震は,限られた領域や特殊な条件が揃った場合にのみ発生し得るとするものが大勢を占めていた。したがって,津波地震は,日本海溝沿いでも三陸沖などの特定領域や特殊な条件下でのみ発生すると考える見解が多くを占めており,福島県沖で津波地震が発生する可能性は低いと考える見解が支持されていた。 ⒞ 「長期評価の見解」を公表した当時の推進本部地震調査委員会委員- 167 -長を含め,地震学,津波学及び津波工学の専門家らが,一様に「長期評価の見解」が理学的根拠に乏しいものであった旨述べていること多数の地震学,津波学及び津波工学の専門家が「長期評価の見解」が理学的根拠に乏しいものであった旨を高度の専門的知識に裏付けされた理学的根拠をもとに述べている。 ⒟ 「長期評価の見解」が理学的根 地震学,津波学及び津波工学の専門家が「長期評価の見解」が理学的根拠に乏しいものであった旨を高度の専門的知識に裏付けされた理学的根拠をもとに述べている。 ⒟ 「長期評価の見解」が理学的根拠に乏しいものであったことは,同知見公表前後の事実経過が物語っていること「長期評価の見解」は前提自体が確立した知見に基づいたものではなかったため,「長期評価の見解」の公表に至るまでの間,推進本部地震調査委員会長期評価部会海溝型分科会,地震調査委員会及び同委員会長期評価部会のいずれの議論においても,数多くの問題点が指摘されていた。 また,長期評価においては,「データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用に当たってはこの点に十分留意する必要がある。」とのなお書きが付されており,推進本部自身が,長期評価の中で示された個々の知見には信頼度に差があり,個別具体的な評価検討が必要である旨の注意喚起を行っている。その上で,推進本部は,平成15年3月24日,「プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」を公表しており,推進本部が公表したプレートの沈み込みに伴う大地震(海溝型地震)に関する長期評価について,「評価に用いられたデータは量および質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差がある」として,評価の信頼度を「A:(信頼度が)高い B:中程度 C:やや低い D:低い」の4段階にラン- 168 -ク分けしている。そして,推進本部は,「長期評価の見解」について,「(1) 発生領域の評価の信頼度 C」,「(2) 頼度が)高い B:中程度 C:やや低い D:低い」の4段階にラン- 168 -ク分けしている。そして,推進本部は,「長期評価の見解」について,「(1) 発生領域の評価の信頼度 C」,「(2) 規模の評価の信頼度A」,「(3) 発生確率の評価の信頼度 C」と評価しており,推進本部自身が「長期評価の見解」の信頼度が高いものではない旨の見解を示している。ここで,評価の信頼度については,過去の参考事例がほとんどないといった理学的根拠が極めて乏しい知見でなければ「D」という最低の評価は付けられていなかったのであり,「C」という評価は相当低いものである。推進本部は,南海地震から十勝沖ないし択捉島沖で発生するやや深いプレート内地震に至る18個の大地震について,それぞれ発生領域,規模,発生確率を評価しているが,三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震と福島沖のプレート間地震の発生確率が「D」という評価になっているのみである。結局,三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)は,発生領域については,最低評価の「C」が付いた五つの想定地震の一つであり,発生確率は上記「D」評価を除いた五つの「C」が付いた想定地震の一つであったのであり,極めて信頼性が低い評価しかされなかったのである。 推進本部は,地震防災対策特別設置法に基づいて設置された機関であり,地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策を立案すること等の事務を行っているが,最終的に推進本部が示す見解などを踏まえ,我が国の防災分野において科学的知見に基づいた専門技術的判断を行う機関は中央防災会議であるから,長期評価の中から,どのような見解が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見と見るべ いて科学的知見に基づいた専門技術的判断を行う機関は中央防災会議であるから,長期評価の中から,どのような見解が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見と見るべきかを判断するに当たっては,推進本部が特定の見解を示しただけでは足りず,中央防災会議における採否が重要となる。しかし,中央防- 169 -災会議では,本件事故前に原子力発電所も含めた地震・津波防災対策の検討を行う中で「長期評価の見解」についても審議をしているところ,中央防災会議において「長期評価の見解」は採用されなかった。 また,「長期評価の見解」が公表された後,津波評価技術を策定した土木学会津波評価部会においても,原子力発電所の津波対策を行う上で「長期評価の見解」をどのように取り扱うべきかが判断されているところ,前述のとおり「長期評価の見解」は理学的根拠が極めて乏しいものと評価されていたことから,決定論において取り込むべき「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見とは判断されなかった。 さらに,地震・津波ワーキンググループ及び地質・地盤ワーキンググループの合同ワーキンググループや保安院においても,「長期評価の見解」に基づく検討が必要であるとの意見は述べられていなかった。 ⒠ 以上より,長期評価の中でも原告らが主張する「長期評価の見解」は,これと異なる理学的知見が多く示されていたほか,その策定に深く関与した専門家を含む,地震学・津波学及び津波工学の専門家らも,一様に「長期評価の見解」が理学的根拠に乏しいものであった旨の意見を述べており,これを裏付ける事実関係も多々存在することから「長期評価の見解」はおよそ「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によ 長期評価の見解」が理学的根拠に乏しいものであった旨の意見を述べており,これを裏付ける事実関係も多々存在することから「長期評価の見解」はおよそ「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見とは呼べず,本件事故に関する被告国の予見可能性を基礎付ける知見ではなかったというべきである。 ⒡ 被告国が「長期評価の見解」の科学的根拠について調査したが,「長期評価の見解」が客観的かつ合理的根拠に裏付けられたものとは認められず,平成14年8月以降も「長期評価の見解」を裏付ける客観的- 170 -かつ合理的根拠は発表されなかったため,保安院は調査義務を果たした結果,規制権限を行使するとの判断に至らなかったこと「長期評価の見解」は,平成14年8月当時において,その知見の趣旨・目的等に照らして,原子力規制機関が規制に取り入れることを前提とした対応を取らなければならない状況にはなく,被告国が,北海道南西沖地震の発生や4省庁報告書(案)の公表後の対応とは異なり,被告東電に対するヒアリングを直ちに行い,自主的検討や専門家からの意見聴取を求めた上,被告東電がその検討結果を踏まえて,「長期評価の見解」を無視することなく,当時,安全性向上を目指して研究・開発が進んでいた確率論的安全評価の基礎資料に取り入れるとの方針であることを確認するという対応をしたことは,「長期評価の見解」の科学的根拠の有無・程度等の明確さに応じて適時適切な調査を履行したものと評価されるべきである。 また,三陸沖の海溝寄りの領域から房総沖の海溝寄りの領域までを一体とみなす「長期評価の見解」については,保安院が審議会等の検証に耐え得る程度に客観的かつ合理的根拠が伴った地震地帯構造の知見ではないと判断した平成14年8月以降も ら房総沖の海溝寄りの領域までを一体とみなす「長期評価の見解」については,保安院が審議会等の検証に耐え得る程度に客観的かつ合理的根拠が伴った地震地帯構造の知見ではないと判断した平成14年8月以降も,それを裏付ける科学的根拠が発表されていなかったことに加え,矛盾する科学的根拠ばかりが発表されていた状況にあったため,推進本部,中央防災会議及び土木学会における様々な専門家の議論においても,科学的根拠を伴った科学的知見であるとは評価されていなかった。そのため,保安院は,平成14年8月以降も,JNESや耐震バックチェック等を通じて継続的に地震や津波に対する科学的知見を調査したものの,「長期評価の見解」が規制に取り入れられるべき科学的知見として取り上げられなかったのであり,その状況に照らして,「長期評価の見解」は規制に取り入れるだけの客観的かつ合理的根拠に裏付けられていないと- 171 -いう状況に変化は生じていないと評価し続けていた。したがって,保安院は,「長期評価の見解」について調査義務を十分に履行した結果,「長期評価の見解」は規制に取り入れるだけの客観的かつ合理的根拠が伴っていると評価される状況に至っていないと判断していたのであり,その判断は当時の科学的知見の進展状況に照らして合理的であったということができるから,保安院が福島第一原発について,津波に対する安全性の審査又は判断の基準の適合性に変化は生じていないと評価して規制権限を行使しなかったことが著しく不合理であるとはいえない。 e 「日本海溝・千島海溝報告書」について日本海溝・千島海溝調査会は,北海道及び東北地方を中心とする地域に影響を及ぼす地震のうち,特に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に着目して,防災対策の対象とすべき地震を選定し,その結果を日本海溝 日本海溝・千島海溝調査会は,北海道及び東北地方を中心とする地域に影響を及ぼす地震のうち,特に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に着目して,防災対策の対象とすべき地震を選定し,その結果を日本海溝・千島海溝報告書に取りまとめた。その選定手法と検討結果は,調査対象領域の分類については,「千島海溝沿いの地震活動の長期評価」及び長期評価による分類が基本とされたものの,防災対策の検討対象とする地震(推進地域の指定に当たって検討対象とする地震)については,「防災対策の検討対象とする地震の考え方」に記載されたとおり,理学的知見の程度に基づいた選定が行われた結果,三陸沖北部の地震,宮城県沖の地震,明治三陸タイプの地震(明治三陸地震の震源域の領域で発生する津波地震)等が検討対象とされたが,福島県沖海溝沿いの領域については検討対象として採用されなかった。したがって,「長期評価の見解」は理学的根拠を十分に伴っていなかったため,防災計画を策定すべき対象として採用される段階にないものと専門技術的判断が下されたといえる。 以上のとおり,日本海溝・千島海溝報告書は,我が国の防災分野にお- 172 -ける地震・津波防災対策の検討として,「長期評価の見解」を含む科学的知見につき専門技術的判断を行った結果を示したものであることから,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆した知見であると評価できるものである。もっとも,日本海溝・千島海溝報告書では,繰り返し発生が確認されていないものは津波防災対策の対象として取り入れていないことから,福島県東方沖地震(塩屋崎沖地震)がその対象から外されており,同報告書によって導き出される津波高さは,福島第一原発周辺の自治体でも5m前後であり,最も安全寄りの考え方に基づいて波源の設定をする ら,福島県東方沖地震(塩屋崎沖地震)がその対象から外されており,同報告書によって導き出される津波高さは,福島第一原発周辺の自治体でも5m前後であり,最も安全寄りの考え方に基づいて波源の設定をするために福島県東方沖地震(塩屋崎沖地震)も波源として取り込んだ津波評価技術によって導き出された津波高さを超えないものであった。したがって,日本海溝・千島海溝報告書は「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆した知見であるが,そこでは敷地高さを超える津波を想定するものではない以上,同報告書によっても本件事故の予見可能性は基礎付けられるものではない。むしろ,津波評価技術で導き出された津波高さの方が同知見の想定する津波の高さより高くなっていることは,津波評価技術が最も安全寄りの津波対策をするための知見であったことを裏付けるものである。そして,結果として津波対策に関して「長期評価の見解」が取り入れられなかったということは,当時の専門家の間では,同知見が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見でなかったと評価されていたことを示すものといえる。 f 「溢水勉強会」について溢水勉強会は,津波が到来する可能性の有無・程度や,津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る目的で設置されたものではなく,実際にも,上記の各知見が獲得・集積されたことはなかったの- 173 -であり,飽くまでも仮定された水位の津波が到来し,かつ,それによる浸水が長時間継続したと仮定した場合における原子力発電所施設への影響を検討したにすぎないものであった。すなわち,津波に対するプラントの安全性は,設計条件にて十分確保されているという考えの下,念のためという位置付けで,想定外津波に対する ける原子力発電所施設への影響を検討したにすぎないものであった。すなわち,津波に対するプラントの安全性は,設計条件にて十分確保されているという考えの下,念のためという位置付けで,想定外津波に対するプラントの耐力について検討を行うもので,最終的には,リスクとコストのバランスを踏まえた合理的な対策を立案することを目的とするものであり,想定外津波に対するプラントの耐力・対策コストについて概略的なイメージを持つため,代表プラントにて決定論的な検討を行うこととするというものであった。実際に,第3回溢水勉強会で報告された福島第一原発についての影響評価の前提としての想定外津波水位の設定についてみても,福島第一原発5号機では,建屋設置レベルがたまたまO.P.+13mであったことから,想定外津波水位が「O.P.+14m[敷地高さ(O.P.+13m)+1.0m]」と仮定されたにすぎない。同様に,浜岡発電所4号機では,「想定外津波による浸水を敷地高さ+1m(T.P.+7.0m)と仮定する。」,大飯発電所3号機では,「勉強会用に水位を大飯3号機の建屋周辺の敷地高さ(EL+9.7m)に+1mとした。」,泊発電所1・2号機では,「T.P.+11m[敷地高さ(T.P.10.0m)+1.0m]」,女川発電所2号機では,「想定外津波水位は,敷地高さ(O.P.+14.8m)+1mとする。」とされ,全てのプラントについて,機械的に等しく建屋の敷地高さ+1mを仮定水位として設定しているため,それぞれの想定外津波水位は,敷地の高さに応じて異なる高さとなっており,各プラントの地理的状況に応じて,それぞれの発電所においてどのくらいの高さの津波が到来する可能性があるかといった観点からの津波水位の設定は全くされていないのである。さらに,津波水位の継続時間に関して,仮定水位の- 状況に応じて,それぞれの発電所においてどのくらいの高さの津波が到来する可能性があるかといった観点からの津波水位の設定は全くされていないのである。さらに,津波水位の継続時間に関して,仮定水位の- 174 -継続時間は考慮せず,長時間継続するものと仮定して,影響評価が行われているなど,現実の津波ではあり得ない想定の下での影響を評価したものでもある。このように,津波に関して溢水勉強会で検討されたことは,机上で一定の津波水位と継続時間を仮定した上で,当該仮定した事象が実際に発生するかどうかはさておいて,仮定した事象による建屋,構築物,機器への影響をみることにあったのであり,それ以上に,仮定した水位の津波が到来する可能性があるか否かを検討したり,到来する可能性がある津波の高さについての知見を集約,蓄積したりするものではなかった。福島第一原発についても,他のプラントと同様に,敷地高を超える津波が到来する可能性や,到来するおそれのある津波高さについての調査,検討が行われたものではなかった。また,第4回溢水勉強会では,被告東電がロジックツリーアンケートによる重み付け結果に基づき確率論的津波ハザード評価手法を試行したマイアミ論文を前提に,福島第一原発5号機の評価例のハザード曲線において,同号機においてO.P.+10mを超える津波高さが到来する年超過確率が10⁻⁴を下回ることを報告したが,かかる評価手法が開発途上のものであり,これに基づいて福島第一原発の主要建屋の敷地高さを上回る津波の発生の予見可能性が基礎付けられるような性質のものではなかった。 以上のとおり,溢水勉強会は,そもそも津波が到来する可能性の有無・程度や津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る目的で設置されたものではなく,実際にも,上記の各知見が獲得・集積 以上のとおり,溢水勉強会は,そもそも津波が到来する可能性の有無・程度や津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る目的で設置されたものではなく,実際にも,上記の各知見が獲得・集積されたことはなかったのであり,飽くまでも仮定された水位の津波が到来し,かつ,それによる浸水が長時間継続したと仮定した場合における原子力発電所施設への影響を検討したにすぎない。そして,無限時間津波が襲来するという非現実的な想定がある以上,同想定を前提とし- 175 -た場合に全交流電源喪失のおそれがあるという結果が示されたからといって,敷地高を越える高さの津波が到来しさえすれば,当然に全交流電源喪失の具体的危険があるということにはならず,他の知見と併せて津波対策を導き出すような知見ともいうことはできない。さらに,最終的には,外部溢水に係る津波に関する事項は耐震バックチェックにおける検討に委ねられることとなっている。したがって,溢水勉強会が被告国の本件事故の予見可能性を基礎付ける知見にならないことはもとより,津波対策を導き出すための知見にもならないといえる。加えて,溢水勉強会の存在は,津波評価技術による津波対策の合理性が認められてきた中でも,規制機関や事業者が津波の不確かさが残ることを前提に,更なる安全性の向上を図るべく,たゆまぬ検討・研究を続けてきたことを表すものというべきであり,この点は,規制権限不行使の違法性の判断に当たって,被告国が権限行使以外に取り組んできたその他の施策として考慮されるべき事情といえる。 g 「貞観津波」に関する知見の進展について貞観津波については,本件事故前までに進展した知見を踏まえても,本件事故を惹起するに足りるような規模の津波の予見が可能となるか否かについて判然とせず,そもそも貞観津波に関する る知見の進展について貞観津波については,本件事故前までに進展した知見を踏まえても,本件事故を惹起するに足りるような規模の津波の予見が可能となるか否かについて判然とせず,そもそも貞観津波に関する知見が被告国の予見可能性を基礎付ける知見といえるか否かについては,前提からして主張立証が尽くされているといえない。 また,貞観津波の知見については,津波の堆積物の分布を調査する堆積物調査等により地震の断層モデルを推定する研究が進められてきたが,本件事故に至るまでの間,その詳細は確定せず「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見として成熟するには至らなかったものである。 h 結論- 176 -以上のとおり,本件事故前の時点において,津波評価技術は,4省庁報告書や7省庁手引の策定を踏まえつつ,当時の地震学・津波学及び津波工学の知識の粋を集めて策定された知見であり,正に,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって福島第一原発における津波対策を考えるものとして最も合理性が認められるべきものであった。したがって,これに基づき福島第一原発の最大想定津波をO.P. +6.1mとして津波対策を行っていた被告東電の津波対策は十分に合理的なものであったといえる。また,4省庁報告書や7省庁手引,日本海溝・千島海溝報告書,溢水勉強会などの知見は,何ら本件事故の予見可能性に結び付く知見ではなく,むしろ,津波評価技術による津波対策及び被告国や被告東電の対応の正当性の裏付けとなるべき知見というべきである。他方,原告らが予見可能性の主要論拠としている「長期評価の見解」や貞観津波に関する知見の進展については,多くの理学者及び工学者が異口同音に「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリス ,原告らが予見可能性の主要論拠としている「長期評価の見解」や貞観津波に関する知見の進展については,多くの理学者及び工学者が異口同音に「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見ではなかった旨述べている上に,中央防災会議においても,防災上のハード面での対策の基礎となるべき知見と評価されず,この点が議論されて取り入れられることもなかったから,これらによって被告国についての本件事故の予見可能性が基礎付けられる余地はない。したがって,本件事故に至るまでの間,被告国の本件事故に関する予見可能性を基礎付ける知見が存在しなかったといえる。 予見可能性に関する知見の評価について,被告国の主張と異なる評価を前提にした場合でも,切迫性を踏まえた他のリスクとの優先関係や現実に行われた措置との関係において,被告国に作為義務が生じるまでには至らないこと地震学・津波学の理学分野における知見の成熟性の評価や津波工学に基- 177 -づいた専門技術的判断によって,特定の地震や津波に関する知見が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見といえたとしても,原子力発電所において想定されるリスクは無限にあることから,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって示されるリスクが複数存在するような場合は,切迫性の程度に応じて,規制権限を行使すべき経済産業大臣の負う義務の内容も当然に異なることになると考えるべきであり,ある知見の存在のみをもって直ちに作為義務が生じるほどの予見可能性があるということはできない。そして,「相対的安全性」を確保する上では,工学的判断に依拠しない対策は,リスクの優先度を考慮しない誤った判断を是認することになるため,リスクが複数存在するような場合は,グ るということはできない。そして,「相対的安全性」を確保する上では,工学的判断に依拠しない対策は,リスクの優先度を考慮しない誤った判断を是認することになるため,リスクが複数存在するような場合は,グレーデッドアプローチを踏まえた原子力工学に基づいた専門技術的判断が必要となってくる。 本件事故前の時点において,原告らが予見可能性の主要な論拠として主張している「長期評価の見解」を含め,本件事故の予見可能性を基礎付けるに足りる知見が存在しなかったが,万が一,「長期評価の見解」や貞観津波の知見が予見可能性の検討のそ上に載るようなことがあっても,「長期評価の見解」や貞観津波の知見によって示されるリスクは切迫性が低いものであり,グレーデッドアプローチの観点から検討した場合,他に優先されるべきリスクが存在していた。すなわち,グレーデッドアプローチの観点から検討した場合,本件事故前は,津波のリスクに切迫性はなく,一連の地震対策が優先されるべき状況であったのであるから,被告国において,被告東電に対し,地震対策に優先して津波対策をさせる作為義務が生じていたとは認められない。しかも,被告東電は,津波のリスクが低い中でも,更なる安全性の向上のため,自ら知見の収集や安全対策のための手法の研究・開発を行っていたほか,未成熟な知見であっても,積極的に土木学会へ審議を依頼するなど,事業者として工学的正当性が認められる行- 178 -動を採っていたため,被告国において,二次的・補完的責任を果たすべく規制権限を行使しなければならないような事情も存在しなかったのであるから,この点を踏まえれば,被告国に作為義務が生じる余地はないといえる。 結果回避可能性(原告らの主張の要旨)ア結果回避義務について 敷地高さを超える津波に対する防護 この点を踏まえれば,被告国に作為義務が生じる余地はないといえる。 結果回避可能性(原告らの主張の要旨)ア結果回避義務について 敷地高さを超える津波に対する防護対策義務の内容福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来したときにおいても,原子炉を冷やし続けるために不可欠な電源を防護・確保するために,経済産業大臣は,平成14年において,遅くとも平成18年までには,被告東電に対し,①ないし③の措置を採ることを義務付けるべきであり,多重の防護のためには,この3つの義務は並行して課されるべきであった。 技術的可能性と必要な工期a ①の措置を採ること⒜ タービン建屋等の人の出入り口,大物(機器)搬入口などの水密化対策として,強度強化扉と水密扉の二重扉を設置する。この工期見込みは3年である。 ⒝ タービン建屋等の換気空調系ルーバーなどの外壁開口部の水密化対策工事を行う。この工期見込みは2年である。 ⒞ タービン建屋等の貫通部からの浸水防止対策工事を行う。この工期見込みは2年である。 b ②の措置を採ること①の措置による浸水防止対策が破られて,タービン建屋等内に海水が浸水する事象に備えて,非常用ディーゼル発電機及び配電盤等の重要機器が設置されている機械室への浸水防止対策工事として,出入口- 179 -への水密扉の設置及び配管貫通部の浸水防止対策工事を行う。この工期見込みは2年である。 c ③の措置を採ること福島第一原発では,海水系ポンプが,O.P.+4mの海側の位置に設置されており,敷地高を超える津波によりこのポンプが機能喪失する可能性が高い。その場合に備えて,緊急時海水系のポンプを防水構造の建屋に設置する対策工事を行う。この工期見込みは2.5年 海側の位置に設置されており,敷地高を超える津波によりこのポンプが機能喪失する可能性が高い。その場合に備えて,緊急時海水系のポンプを防水構造の建屋に設置する対策工事を行う。この工期見込みは2.5年である。 d 被告東電は,平成14年以降,遅くとも平成18年までに①ないし③の措置の工事に着手すれば,遅くとも平成21年には全ての工事を完了することができた。 イ結果回避可能性について敷地高さ2mを超える津波を想定して津波対策を採っていれば本件津波による全交流電源喪失を回避することができたこと敷地高さを2m超える津波を想定して①ないし③の措置を採っておけば,電源の確保が可能であり,結果回避可能であった。①ないし③の措置の津波防護対策を採っていれば,仮にO.P.+4mに位置している非常用ディーゼル発電機(水冷式)を冷却するための海水系ポンプが機能喪失する事態が生じたとしても,①の措置及び②の措置の防護対策によって共用プール建屋に設置されていた空冷式非常用ディーゼル発電機(2号機B系・4号機B系)及び配電盤並びに1ないし4号機の各配電盤が防護されることを前提に,2号機から1号機への,又4号機から3号機への,電源の融通がそれぞれ可能であることから,1号機から4号機までの全ての号機において電源の確保が可能であり,結果回避可能であった。 本件津波に対する防護の可能性があったこと渡辺敦雄氏の意見書(甲A143,以下「渡辺意見書」という。)によれば,タービン建屋等自体の防護措置を採る際に,原子炉の設計に関し,- 180 -万全の設計裕度を持つのは当然であり,工学的に安全率を3以上に設定することは原子力発電所の重要機器の設計枠内であり,敷地高を2m超える津波に対する対策と敷地高を5m超える津波に対する対策では,設計強度 全の設計裕度を持つのは当然であり,工学的に安全率を3以上に設定することは原子力発電所の重要機器の設計枠内であり,敷地高を2m超える津波に対する対策と敷地高を5m超える津波に対する対策では,設計強度が2.5倍の違いとなるが,これは安全裕度の範囲内であり,タービン建屋等自体の防護について2mの津波に対する対策を採っていれば,5mの津波にも耐えられる。そして,万が一,タービン建屋等自体の防護が破られて建物内の浸水があったとしても,タービン建屋等自体の防護によって相当な防護ができているのであるから,浸水量は限定的である。したがって,タービン建屋等内の重要な安全機能を有する設備の部屋の防護措置を採っていれば,確実に本件津波から非常用電源設備及びその付属設備を防護することができたといえる。 反論a 原告らの主張する津波防護措置を後知恵とする主張に対する反論原告らが主張するタービン建屋及び重要機器の設置されていた部屋等の水密化や,非常用電源設備等の防護措置などは,原子炉施設を浸水から防護するための対策として,本件事故前から既に存在していた設計思想であった。渡辺意見書が紹介している浜岡原子力発電所における津波防護措置の実施例についていえば,それ自体は本件事故後に実施されたものではあるが,こうした浸水に対する防護措置の考え方は,それ自体は単純な設計思想であり何ら新規なものではない。いずれも平成18年までに技術的にも存在し,現に水密扉や重要機器の高所配置などは一部では実施されていた。したがって,原告らは,本件事故後に開発された新たな津波防護対策を本件事故以前にも採用すべきであったなどと主張しているわけではない。そして「設計想定の津波」が建屋敷地へ遡上することが想定される以上,建屋内部等への浸水を防護するために,事故前か たな津波防護対策を本件事故以前にも採用すべきであったなどと主張しているわけではない。そして「設計想定の津波」が建屋敷地へ遡上することが想定される以上,建屋内部等への浸水を防護するために,事故前から技術的にも可能であった水密化等の対策を採るべきとの発- 181 -想に至ることは当然のことであった。こうした水密化等の津波防護措置の必要性は,事故後に逆算して初めて認識できたというものではない。 b 長期評価に基づく津波に対しては防潮堤の設置のみが義務付けられそれ以外の津波防護措置は義務付けられないとし,かつ防潮堤によって本件事故は回避できなかったとする主張に対する反論自然現象を対象とした防護対策を検討する際には,必然的に伴う不確実性の考慮が必要とされるのであり,津波に対する防潮堤によるドライサイトの確保という防護策についても,不確実性を無視することはできない。そして,不確実要因を排除することは困難であり,防潮堤が十分に機能を発揮できない事態も想定して多重の防護措置が講じられる必要がある。「防護の多重化」という考え方は,原子炉の開発の当初から,その安全確保のための基礎的な考え方(設計思想)として求められてきたものであり,本件事故の教訓がなければ採用が期待できないような高度なものではない。したがって,このような「津波防護対策の多重化」によって,本件事故以前においても,原子炉施設の津波による浸水に対する耐性を確保することは十分に可能だったといえる。 防潮堤の設置については,許認可及び工事のために,少なくとも年単位の期間を要するが,年単位の長期間の施工期間が想定される防潮堤の建設工事期間中においても,原子炉施設の稼働を続けるのだとすれば,少なくとも短期間で施工し得る建屋の水密化等の内郭防護等の津波防護措置を講じておくことが要請され 長期間の施工期間が想定される防潮堤の建設工事期間中においても,原子炉施設の稼働を続けるのだとすれば,少なくとも短期間で施工し得る建屋の水密化等の内郭防護等の津波防護措置を講じておくことが要請される。そして,これら防潮堤以外の対策については,実行が容易であった。現に被告東電自身による過去の対応として,原子炉施設の敷地への浸水を前提として,平成14年の津波評価技術公表後の2002年推計をもとに,津波に対する防護策として,防潮堤の設置という対応を採ることなく重要機器の高所配置,建屋水密化を短期間で実施し,国に報告しその確認を経た実例が現にあるの- 182 -であり,こうした事実だけからしても,「防潮堤のみが考えられる防護策である」とする主張は破綻している。 以上より,防潮堤の設置のみが義務付けられるという主張は,原子炉施設において「深刻な災害が万が一にも起こらないようにする」という電気事業法等の趣旨に反するものであり,敷地高さを超える津波に対しては防潮堤の設置とともに建屋の水密化や非常用電源設備等の高所配置等の防護措置も並行して講じられるべきである。 c 2008年推計の津波に対しては敷地南側への防潮堤設置が求められたが本件津波は東側前面から遡上したので結果回避はできなかったとの主張について本件津波による浸水高は,取水ポンプの位置でO.P.+11m程度であったのに対し,2008年推計による取水ポンプ位置における浸水高は,5号機でO.P.+10.182m,6号機で+10.133m,2号機で+9.244m等である。海水取水ポンプの設置されている位置は,いずれも,O.P.+4m盤の最奥部であり,そのすぐ西側で主要建屋敷地の地盤(O.P.+10m等)が立ち上がる「付け根」部分にあたる。この取水ポンプ位置における浸水高が,(防波 置されている位置は,いずれも,O.P.+4m盤の最奥部であり,そのすぐ西側で主要建屋敷地の地盤(O.P.+10m等)が立ち上がる「付け根」部分にあたる。この取水ポンプ位置における浸水高が,(防波堤による防護を受けても)5,6号機前面ではO.P.+10mを超えており,2号機前面でもO.P.+9.244mに達しており,10m盤への遡上とは「紙一重」の状態である。以上から,取水ポンプ位置における本件津波の浸水高であるO.P.+11mと,2008年推計によるO.P. +9.244mを対比すれば,その間の差は僅かなものにとどまるのである。また,本件地震によって福島第一原発の地盤は津波の襲来の時点においては既に約0.6m沈降しているのであり,2008年推計によるO.P.+9.244mの浸水高は,実質的にはO.P.+9.844mの浸水高に相当するものであり,O.P.+10m盤との差はない- 183 -に等しい状態といえる。 2008年推計による取水ポンプ位置における浸水高は,5号機でO.P.+10.182m,2号機で+9.244mであり,O.P. +10mを超えるか,又は僅差にとどまる。また,本件地震によって福島第一原発の立地点の地盤は約0.6mの沈降を示しているが,こうした沈降自体は,現在の地震学においては事前に予測できるものではないが,他方で,日本海溝沿いのプレート間地震に伴って太平洋に面した沿岸部において相当程度の地盤の沈降が起こる可能性も排除することはできない。そうすると,こうした地盤の沈降の可能性(本件地震では約0.6m)を考慮すれば,上記の5号機,2号機のポンプ位置での浸水高は,O.P.+10m盤への東側からの浸水があり得ることを示すものといえるのであり,少なくともその可能性を排除し対策を不要とするほどの浸水高の「余裕」 ば,上記の5号機,2号機のポンプ位置での浸水高は,O.P.+10m盤への東側からの浸水があり得ることを示すものといえるのであり,少なくともその可能性を排除し対策を不要とするほどの浸水高の「余裕」はないものといえる。また,「2008年試計算結果に基づく確認の結果について」(甲A148)の推計によれば,敷地の南北に防潮堤を設置するとその影響で東側前面部分からも2.5mもの遡上が生じ得るということは,2008年推計自体によったとしても,僅かな条件の変動によって,東側前面からのO.P.+10m盤への遡上が起こり得ることを示しているものである。よって,敷地南側のみに防潮堤を設置するだけでは10m盤への浸水は防げない。 以上より,被告国の主張は失当である。 d 2008年推計を前提とすれば大物搬入口等の水密化が求められること2008年推計においては構造物(建屋等)が考慮に入れられておらず,タービン建屋等の建物が存在しない前提で(平坦な地形として)遡上計算がされているが,タービン建屋等の存在を考慮に入れた津波の地上部での遡上の推計計算に比較して,2008年推計の地点ごとの浸水- 184 -高の推計には誤差が生じ得る。しかし,2008年推計は,O.P.+10m盤への遡上があることを前提としているものであり,地上部での津波挙動の態様にタービン建屋等の構造物の存在が影響するが,仮に建屋等の存在を考慮に入れた場合には,それを考慮に入れなかった場合に比較して,浸水高が低くなる可能性もあるが,逆に高くなる可能性もある。特に,敷地に津波が遡上したことを前提とした場合,平坦地における挙動に比して,建屋等の構造物が存在した場合に,これに進行を阻まれることによって,遡上高(=浸水高)が増幅することがあり得ることは容易に推定できる。すなわち,建屋等 を前提とした場合,平坦地における挙動に比して,建屋等の構造物が存在した場合に,これに進行を阻まれることによって,遡上高(=浸水高)が増幅することがあり得ることは容易に推定できる。すなわち,建屋等の構造物の存在を考慮に入れた場合には,浸水高はより大きくなることも十分に想定できるといえる。 したがって,推計される浸水高に過小評価の危険があることを踏まえて,安全裕度を見込んだ対策が講じられるべきことは当然であり,敷地への浸水が前提とされているにもかかわらず,構造物の存在が考慮されていないことから推計される浸水高の精度に問題があるとして,対策を放棄することを正当化する被告国の主張は失当である。 2008年推計においては,4号機において2.6mの浸水深が計算されていること,1ないし3号機においても1m以上ないし2m前後の浸水深が計算されていること,そしてこの浸水深の推計については,被告国も指摘するように建屋等の構造物の存在が考慮に入れられていないことに伴う推計上の誤差が伴うことからすれば,1ないし4号機の全ての号機において,大物搬入口等の開口部の水密化が図られるべきである。 e 本件津波に対しても大物搬入口が相当程度の浸水防護機能を果たし得たこと本件津波による福島第一原発の1ないし3号機のタービン建屋1階及び共用プール建屋1階に浸水した海水の深さ(浸水深)は,30cm- 185 -から最大110cmにとどまるものである。これらの建屋の周囲において観測されている津波自体の浸水深は,2m以上(1号機)又は4ないし5m(2号機及び3号機)であり,外部の浸水深と建屋内の浸水深は大きく異なる。こうした事実は,タービン建屋への海水の浸入経路は,「大物搬入口」,「入退域ゲート」,「機器ハッチ」及び「D/G給気ルーバ」であったが,こ 号機)であり,外部の浸水深と建屋内の浸水深は大きく異なる。こうした事実は,タービン建屋への海水の浸入経路は,「大物搬入口」,「入退域ゲート」,「機器ハッチ」及び「D/G給気ルーバ」であったが,これらの浸入口となった部分も完全に破壊されたものではなく,建屋への海水の浸入を防ぐ機能を相当程度果たしていたことを示すものである。また,開口部が完全に開放されれば,当然に建物内においても建屋周囲に近い浸水深となるはずであり,また,建屋内に漂流物が流れ込むこととなる。しかし,1ないし3号機においてはこうした事態は観測されていない。これに対し,4号機においては,定期検査中でありタービン建屋の大物搬入口が開放されていたことから,この開口部から建屋内に流入した海水は建屋の2階にまで到達し2階の手すりを変形させている。また,1階部分には大量の漂流物が流れ込み,機器に衝突し,漂流物の堆積が確認されている。 これらの浸入口となった開口部については,特別の防水対策も取られておらず,主要な浸水経路である大物搬入口については,そもそもシャッター式の構造にすぎず津波の水圧や漂流物の衝突に対しても脆弱な構造であったが,最高4ないし5mの浸水深(2,3号機)に対して相当程度の浸水防護機能を果たしていたこととなる。こうした事実は,建屋敷地への津波の遡上があり得ることを踏まえて,敷地に遡上した海水がタービン建屋等に浸水することを防護するための水密化等の措置を採ってさえいれば,タービン建屋及び共用プール建屋等への浸水を防護することは十分可能であったことを示している。仮に建屋自体の水密化によっても完全な浸水防護に失敗したとしても,それによって建屋内にもたらされることが想定される海水の浸入は,4号機においてみられた- 186 -ような「漂流物をも伴った海水の流入」 自体の水密化によっても完全な浸水防護に失敗したとしても,それによって建屋内にもたらされることが想定される海水の浸入は,4号機においてみられた- 186 -ような「漂流物をも伴った海水の流入」という態様ではなく,水密化機能の一部の破綻による漏水にとどまるであろうことは明らかである。このような漏水が生じたとしても,その際の,浸水の影響は「波圧等を伴う流入」となるとは考えられないのであり,建屋内に一定の浸水深の浸水が生じたとしても,それは,波圧を伴わない静水圧にとどまるといえる。そして,非常用電源設備及びその附属設備の重要機器が設置されている部屋等の区画について,想定される浸水深に対応する水密化による防護措置を講じておけば,非常用電源設備及びその附属設備が被水によって機能喪失するという最悪の事態を回避することは十分に可能だったといえる。以上より,タービン建屋等の大物搬入口等の水密化による建屋自体の水密化とともに,建屋内部の重要機器が設置されていた部屋等の区画を水密化して津波の影響から防護することによって,非常用電源設備及びその附属設備の機能を津波から防護することは,確実に可能であったといえる。 f 敷地南側から流入する2008年推計への対応では東側前面からの遡上による本件津波の被害を回避できなかったとの主張について2008年推計における津波の敷地遡上後の挙動は,敷地南側から建屋が所在する北側方向に向かって海水が流入するというものであったのに対し,本件津波の流況(流入方向と流入速度)も,2008年推計と同様に,敷地南側から北側方向への流入が特に大きく,東側前面からの遡上の効果は限定的なものにとどまっている。よって,2008年推計の津波が示す津波波圧と,本件津波によって建屋に及んだと推定される津波波圧は,少なくとも同等程度のも 流入が特に大きく,東側前面からの遡上の効果は限定的なものにとどまっている。よって,2008年推計の津波が示す津波波圧と,本件津波によって建屋に及んだと推定される津波波圧は,少なくとも同等程度のものであったと推定される。 今村文彦(以下「今村」という。)教授の意見書(丙A105,以下「今村意見書」という。)では,2008年推計の示す浸水深について,「1ないし2号機タービン建屋海側前面の浸水深」を推計の基礎として- 187 -いる。しかし,2008年推計は,被告国も指摘するとおり,そもそも敷地上の構造物(建屋)の存在を考慮に入れず,O.P.+10m盤が平坦であることを前提に浸水高を推計している。敷地に遡上した津波の流れは,実際にはタービン建屋等の構造物にその流れを妨げられることによって,平坦地を流れる以上の浸水高をもたらすことがあり得ることは当然に想定される。したがって,建屋の存在が考慮に入れられていない2008年推計に基づいて想定すべき浸水深について,「1ないし2号機タービン建屋海側前面」で把握すること自体合理性を欠く。2008年推計によって想定される津波波圧を把握しようとするのであれば,1ないし4号機の各号機について,タービン建屋及び原子炉建屋が立地している敷地範囲を全体として観察し,その中で最も浸水深が大きくなる部分の浸水深を前提として,想定される最大の津波波圧を推計すべきである。また,今村意見書が2008年推計による波圧の推計の前提とした浸水深については,その前提の数値自体が不正確であり,今村意見書の「おおむね1mくらい」という評価は,被告国の主張に誤導されたものと推定されるが,専門家として意見を述べる以上,資料の原典を自ら直接に確認するべきだったのであり,この点は同意見書の信用性を全体として低めるものといわざるを得な 評価は,被告国の主張に誤導されたものと推定されるが,専門家として意見を述べる以上,資料の原典を自ら直接に確認するべきだったのであり,この点は同意見書の信用性を全体として低めるものといわざるを得ない。さらに,今村意見書が,本件事故以前における津波波圧推定について最も信頼に足りるものとし,2008年推計による津波の波圧推計に利用すべきものとする朝倉らの式(今村意見書50頁注19参照)は,浸水深を前提として,浸水深の静水圧の3倍の波圧を評価しておけば動水圧にも十分耐性を持つというものであり,動水圧を含む津波波圧の評価は,浸水深に正比例するものとされている。これを前提とすれば,今村意見書が「おおむね1mくらい」と(誤って)前提とした浸水深に対し,2008年推計の津波が示す浸水深を正しく読み取ることによって,2008年推計によって想- 188 -定される最大の津波波圧を推計することは可能であるところ,2008年推計の津波の示す1ないし4号機の最大の浸水深から推定される津波波圧の推計結果は以下のとおりである。 ① 1号機浸水深は1m以上約30kN/m2×1以上=約30kN/㎡以上② 2号機浸水深は1.5ないし2m程度約30kN/m2×1.5ないし2程度=約45ないし60kN/㎡程度③ 3号機浸水深は2m程度約30kN/m2×2程度=約60kN/㎡程度④ 4号機浸水深は2.604m約30kN/m2×2.604=約78.12kN/㎡以上の結果は,本件津波によってもたらされる津波波圧と同等以上のものである。2008年推計は地上の構造物の存在を考慮に入れていない平坦地を前提としたものであり建屋等の存在によって上記の推計値以上の浸水深となる可能性があることに加えてO.P.+10 と同等以上のものである。2008年推計は地上の構造物の存在を考慮に入れていない平坦地を前提としたものであり建屋等の存在によって上記の推計値以上の浸水深となる可能性があることに加えてO.P.+10mへの津波遡上が前提とされ,1ないし4号機のいずれについても,津波波圧を考慮に入れた建屋の水密化の防護措置が講じられるべきことからすれば,1ないし4号機の各号機ごとの推計浸水高に応じて,各号機ごとに津波波圧に対する強度を個別に算定して水密扉を設計することは考え難く,「深刻な災害が万が一にも起こらないようにする」という観点からは,1ないし4号機のうちで最大の浸水深を示す4号機の浸水深を前提とした津波波圧(約78.12kN/㎡)を前提とした設計が全号機で採用されることが想定される。これは,今村意見書が推定するところの本件津波による津波波圧(58kN/㎡)を大幅に上回るものである。 以上より,2008年推計の津波が示す津波波圧と,本件津波によって- 189 -建屋に及んだと推定される津波波圧は,少なくとも同等程度のものであったと推定される。 (被告国の主張の要旨)ア予見可能性の存在を仮定しても,本件事故前の知見を前提に津波対策を行った場合には,本件事故の結果回避可能性がないこと 規制権限の不行使が違法となるのは,ある時点において,予見可能な被害に応じた適切な結果回避措置を事業者が講じるように,所管行政庁が規制権限を行使すべきであったにもかかわらず,それを怠ったという行為規範からの逸脱という点に求められるところ,結果回避可能性を考える上でも,行政庁に事後的な知見や事後的に可能となった措置を講じるように求めることは不可能であるから,その当時の科学的知見に基づいて適切と考えられていた結果回避措置によって結果を回避できる可能性があった も,行政庁に事後的な知見や事後的に可能となった措置を講じるように求めることは不可能であるから,その当時の科学的知見に基づいて適切と考えられていた結果回避措置によって結果を回避できる可能性があったのかどうかを問題としなければならない。また,規制権限の不行使が違法になるということは,行政庁に一定の規制権限の行使を義務付けるということであり,それによって,事業者は行使された規制権限の内容に沿って結果回避措置を実施しなければならないことになるのであるから,事業者にそのような負担を負わせる以上,規制権限を行使することで実施されることになる結果回避措置によって被害の発生を回避できることについて,客観的かつ合理的な根拠がなければならない。そうすると,ある結果回避措置によって結果回避可能性があるというためには,原則として,規制権限の不行使が問題となっている時点で,当該結果回避措置を採ることが物理的に可能であっただけでは足りず,当時の確立した科学的・工学的知見によって,当該結果回避措置が,問題となっている被害を回避できる措置として導かれる状況にあったことが必要となる。 本件事故前の工学的知見に照らし,津波対策として導かれる結果回避措置について- 190 -a ドライサイトコンセプトについて本件事故前の知見に照らして適切と考えられる措置を正しく認定するためには,その前提として,原子力発電所における津波対策がどのような考え方の下で行われるものであるのかを理解する必要がある。本件事故前の時点では,原子力発電所における津波対策は,ドライサイトコンセプトに基づいて行われてきた。ドライサイトコンセプトとは,安全上重要な全ての機器が設計基準津波の水位より高い場所に設置されることなどによって,それらの機器が津波で浸水するのを防ぎ ドライサイトコンセプトに基づいて行われてきた。ドライサイトコンセプトとは,安全上重要な全ての機器が設計基準津波の水位より高い場所に設置されることなどによって,それらの機器が津波で浸水するのを防ぎ,津波による被害の発生を防ぐという考え方である。福島第一原発についても,ドライサイトコンセプトに基づいて,安全上重要な機器のほとんどが設置される主要建屋の敷地高さを,想定される津波の高さ以上のものとして津波の侵入を防ぐことを基本としつつ,津波に対する他の事故防止対策も考慮して,津波による浸水等によって施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないものとすることを求めてきた。福島第一原発の原子炉設置許可処分における安全審査においては,立地条件として「海象」について調査審議されているところ,潮位の記録として,小名浜港(敷地南方約50km)における観測記録によれば,昭和35年のチリ地震津波の波高が最高でO.P.+3.122mがあった一方,福島第一原発の主要建屋の敷地高さがO.P.+10mであったことから,津波の不確定性を考慮しても,敷地高さと想定津波との間に十分な高低差があり,ドライサイトとして津波対策が図られているものと判断されたほか,本件事故前における最終的な想定津波の最大値も津波評価技術に基づいたO.P.+6.1mであることから,ドライサイトとして津波対策が図られているものと判断されてきた。 b 本件事故前の科学的・工学的知見に照らした場合,敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤等の設置によ- 191 -ってドライサイトであることを維持するというものであったこと本件事故前の科学的知見・工学的知見に照らした判断としては,主要建屋の敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤 ライサイトであることを維持するというものであったこと本件事故前の科学的知見・工学的知見に照らした判断としては,主要建屋の敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持することであり,かつ,このような対策が最も望ましいとされていた。これに対し,本件事故後には,防潮堤以外の津波対策(水密化など)の措置も講じられるべきであった旨の考え方も示されている。しかし,本件事故前までの工学的知見として確立していた事項や種々の見解等の成熟度については,いまだ津波評価技術によって導き出された最大想定津波として,どのような想定外の津波を想定すべきかという知見や当該津波に対する具体的な対応方法に関する知見がなく,これを研究・開発している途中の段階にあったのであり,津波工学の分野において,「防潮堤・防波堤等の設置」以外の結果回避措置の対策を採るためには研究に約5年,施工に約5年の合計10年程度を要する段階にあったのであり,本件事故前までにこれを行うことが不可能であった。そして,本件事故前も現在も,津波工学は,首藤名誉教授や今村教授を中心に研究・発展してきた学術分野なのであり,本件事故以前の段階で,両名とも実質的に想定津波を超えた場合の対策として具体的な仕様を算出するだけの知見が存在していなかった旨述べていることからすると,他に津波工学的に見て具体的な津波対策を可能とするような専門的知見は存在していなかったというほかなく,本件事故前の工学的知見に照らして,本件事故後に示されたような津波対策が本件事故前に導かれることはあり得なかったといえる。以上のとおり,本件事故前の科学的・工学的知見に照らした場合,敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤等の設置によってド 件事故前に導かれることはあり得なかったといえる。以上のとおり,本件事故前の科学的・工学的知見に照らした場合,敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持するというものであり,それ以外の対策,あるいはそれに付加した対策が導か- 192 -れることはあり得ない。 本件事故前の科学的・工学的知見に照らし,適切と考えられた対策を講じた場合,本件事故が防げなかったこと本件事故前の科学的・工学的知見に照らした場合,敷地高さを超える津波が予見された場合に導かれる対策は,防潮堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持するというものになるところ,仮に被告国において,福島第一原発の敷地地盤面を超える何らかの津波の予見が可能となったために,ドライサイトコンセプトの下で何らかの規制権限を行使し,事業者が防潮堤・防波堤等の設置によってドライサイトであることを維持する対策を講じたとしても,「長期評価の見解」を前提にした津波対策では,試算津波と本件津波の規模(継続時間の違いを前提にした水量,水圧のほか浸水域や浸水域ごとの浸水深,津波の遡上方向等)が全く異なるものであったことから,本件津波を防ぐことは不可能であったのであり,本件事故の結果回避可能性は認められない。 原告らが主張する結果回避措置が本件事故後の知見を前提とするものであること本件事故前に津波対策として主要施設の水密化や非常用電源・配電盤・高圧注水系等へ接続するための各種ケーブル等の高所移設を行うべきなどという提言をした者は,事業者,被告国,専門家の中に1人もおらず,そのような発想自体がなかった。したがって,原告らの主張する①ないし③の措置は,本件事故を踏まえて考えられた措置であり,本件 べきなどという提言をした者は,事業者,被告国,専門家の中に1人もおらず,そのような発想自体がなかった。したがって,原告らの主張する①ないし③の措置は,本件事故を踏まえて考えられた措置であり,本件事故の知見がない段階で原告らの主張する措置を講ずるべき義務が導き出されるものではないため,原告らの主張は失当である。また,原告らの主張は防潮堤の設置及びその効果を考慮しないものであるが,防潮堤の設置及びその効果を無視した水密扉の設計は本件事故後に策定された新規制基準における津波防護対策の考え方とも相反するものであり,本件事故の知見を踏- 193 -まえた新規制基準においても求められていない事項を結果回避措置として講じるものであって,現在の法規制体系とも整合しない独自の理論であるから,本件事故前はもちろん,現在においても現実的な結果回避措置であるとは認められない。 原告らが主張する結果回避措置をもって本件事故を回避できたとは認められないこと原告らが被告国の予見可能性を基礎付ける中核として平成20年に被告東電が行った2008年推計を据える以上,結果回避措置も同推計を前提にして導き出されなければならない。そして,2008年推計で想定された津波は,本件地震に伴う津波と相当異なるものであった上に,そもそも構造物を考慮に入れていないものであるから,水密扉の設置が想定される各地点における浸水高を適切に推計したものとはなっていない。また,2008年推計を前提にした場合,本件地震に伴う津波において最も建物内への浸水量が多かったと考えられるタービン建屋東側の大物搬入口等付近の浸水深は,1ないし3号機で浸水深1m前後,4号機で2m前後だったのであり,このような推計を前提に福島第一原発1号機ないし4号機の全建屋について一律浸水深2mの水圧に耐 建屋東側の大物搬入口等付近の浸水深は,1ないし3号機で浸水深1m前後,4号機で2m前後だったのであり,このような推計を前提に福島第一原発1号機ないし4号機の全建屋について一律浸水深2mの水圧に耐えられる使用の水密扉を設ける結果回避義務を講ずべき義務が生ずる根拠が不明である。福島第一原発1号機ないし4号機の建屋について敷地高さを2m超える津波を想定して水密化等の結果回避措置を講じていれば,本件地震に伴う津波のように敷地高さを5m超える津波が到来しても水密機能を維持することができたとする原告らの主張は,本件事故前の原子力発電所の構造物の安全裕度が3であったことを前提とするところ,そのような慣習があったことを示す証拠はない。さらに,仮に水密扉を設けるとしても,設計条件を決める上で水圧又はその前提となる浸水高が適切に想定されれば足りるというものではなく,津波が当該水密扉に到達した時の波力や漂流物が衝突し- 194 -た場合の衝撃力,いわゆる動的な力についても考慮した上で,適切な安全率を設定するなどして水密扉の設計がされなければならない。2008年推計における4号機側からの回り込みによる津波は,海側に面しているタービン建屋大物搬入口の扉に直接の波力や漂流物の衝撃力が作用する方向にはないことから,仮に2008年推計に基づきタービン建屋大物搬入口に水密扉を設置したとしても,本件津波による波力等に耐え得るようなものであったかどうかも不明であり,本件事故前の知見に基づいて波力評価をした上で水密扉・強化扉を設計した場合,その水密扉・強化扉は本件津波の波圧に耐えられなかった可能性がある。そして,設置される水密扉自体が想定される地震動に対して十分な耐震性を有するか否かも別途計算しなければならないところ,原告らは,いかなる根拠をもって,地震動の影響 圧に耐えられなかった可能性がある。そして,設置される水密扉自体が想定される地震動に対して十分な耐震性を有するか否かも別途計算しなければならないところ,原告らは,いかなる根拠をもって,地震動の影響を踏まえていない推計のみによって水密扉の仕様を定め,これによって本件事故を回避できたと主張するのか明らかでない。 本件事故前の状況及び許認可手続に要する時間等を考慮した場合,本件津波までに対策工事を終えることができないこと被告国が,被告東電から2008年推計の結果を受けたのは,本件地震の4日前である平成23年3月7日であり,2008年推計の試算を根拠として規制権限を行使したとしても4日間で対策工事を行うことはおよそ不可能である。 また,仮に被告東電が2008年推計を行った時期を起点として,規制権限を行使して対策工事を行わせようとしたとしても,許認可や設備施設の設計・施工に要する期間などを全て含めると,全体として,被告国が対策工事を行わせるために規制権限を行使したとしても,権限行使に向けた動機付けを受けた時点から被告東電による結果回避措置が完了するまでに,優に約5年を超える期間を要したと考えられる。 したがって,本件事故前の状況下で,被告国が,「長期評価の見解」を- 195 -前提に防潮堤設置による対策工事をさせるべく規制権限を行使したとしても,対策工事終了までは優に5年以上を要したと認められるのであるから,2008年推計時を起算点とした場合,時間的な側面からも本件事故についての結果回避可能性は認められない。 4 省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性(原告らの主張の要旨)⑴ 省令62号33条4項に基づく技術基準適合命令を出すべきであったこと 4 省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性(原告らの主張の要旨)⑴ 省令62号33条4項に基づく技術基準適合命令を出すべきであったこと福島第一原発各号機の非常用電源設備及びその附属設備は,非常用ディーゼル発電機本体については,1号機,3号機及び5号機の各A系・B系は,いずれも各号機タービン建屋地下1階に設置されており,同フロアへの津波による浸水に対して,同時に機能喪失に至る配置であり,電源供給の要である非常用高圧配電盤(M/C)も,2号機ないし5号機のC系・D系は,いずれも各号機のタービン建屋地下1階に設置されており,1号機のC系・D系も1階に設置されていた。このように,非常用高圧配電盤(M/C)も,各号機のタービン建屋地下1階への津波による浸水に対して,同時に機能喪失に至る配置であった。非常用高圧配電盤の2号機及び4号機のE系も,いずれも共有プール地下1階に設置されており,同共有プール地下1階への浸水に対して,同時に機能喪失する配置にあった。このように,福島第一原発各号機の非常用ディーゼル発電機及び非常用高圧配電盤は,同じフロアに集中的に設置されており,設置フロアへの津波による浸水によって同時に機能喪失する配置であった。そして,非常用ディーゼル発電機及び非常用高圧配電盤は,省令62号33条4項の規定する「非常用電源設備及びその附属設備」に当たり,これらは上記のとおり,同じフロアに集中的に設置されており,このような配置は,「多重性又は多様性,及び独立性」の要件,特に「独立性」の要件を満たしているものとはいえない。したがって,経済産業大臣は,被告東電に対し,電気事業法40- 196 -条,省令62号33条4項に基づき,非常用電源設備及びその附属設備をその一部で 性」の要件を満たしているものとはいえない。したがって,経済産業大臣は,被告東電に対し,電気事業法40- 196 -条,省令62号33条4項に基づき,非常用電源設備及びその附属設備をその一部でも高い位置に配置するなど分散配置する,系統の一部でも水密化するなどし,共通要因たる津波の浸水に対して非常用電源設備及びその附属設備の「独立性」を確保するように,技術基準適合命令を出すべきであった。 ⑵ 電気事業法39条に基づき省令改正を行うべきであったこと仮に被告国に上記の技術基準適合命令を出す権限がなかったとしても,電気事業法及び原子力関連法令の趣旨・目的・規制権限の性質からすれば,経済産業大臣は,遅くとも平成18年までには,上記のような技術基準適合命令を行使できるよう,電気事業法39条に基づき,省令改正を行うべきであった。具体的には,省令62号33条4項の「独立性」の共通要因に,津波による浸水を対象として加える改正をするなどして,津波に対しても非常用電源設備及びその附属設備の「独立性」を確保させる技術基準適合命令を行使できるように省令を改正すべきであった。 そして,経済産業大臣は,非常用電源設備及びその附属設備をその一部でも高い位置に設置するなど分散配置する,系統の一部でも水密化するなどし,共通原因なる津波の浸水に対して非常用電源設備及びその附属施設の「独立性」を確保することによって,本件津波による全交流電源喪失を回避することができた。 (被告国の主張の要旨)⑴ 平成13年安全設計審査指針及び省令第62号における溢水対策平成13年安全設計審査指針及び省令62号においては,内的事象と外的事象を分けて規定しており,溢水対策についても,機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミス等の内的事象と地震,津波等の自然 策平成13年安全設計審査指針及び省令62号においては,内的事象と外的事象を分けて規定しており,溢水対策についても,機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミス等の内的事象と地震,津波等の自然現象である外的事象とに分けて考慮されていた。 すなわち,内的事象における溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針4「内部発生飛来物に対する設計上の考慮」において,「安全機能- 197 -を有する構築物,系統及び機器は,原子炉施設内部で発生が想定される飛来物に対し,原子炉施設の安全性を損なうことのない設計であること」を要求しており,同指針の解説で,内部発生飛来物とは,「内部発生エネルギーの高い流体を内蔵する弁及び配管の破断,高速回転機器の破損,ガス爆発,重量機器の落下等によって発生する飛来物」とし,考慮すべきものとして,二次的影響たる「溢水」等も挙げ,内的事象における溢水への対策を明示している。 電気事業法の委任に基づき技術基準について定めた省令62号は,炉規法に基づく設置許可段階における原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項について原子力安全委員会が定めた指針類を前提として,原子炉施設の詳細設計に係る技術基準を定めたものであるから,技術基準の内容は,原子力安全委員会が定めた指針類と整合的,体系的に解されるべきものである。 そして,内部発生飛来物(内的事象による溢水を含む。)については,平成13年安全設計審査指針の指針4を前提とする省令62号8条4項は,「原子炉施設に属する設備であつて,蒸気タービン,ポンプ等の損壊に伴う飛散物により損傷を受け,原子炉施設の安全性を損なうことが想定されるものには,防護施設の設置その他の損傷防止措置を講じなければならない」と規定している。 同項は「溢水」について明示的には規定していない 散物により損傷を受け,原子炉施設の安全性を損なうことが想定されるものには,防護施設の設置その他の損傷防止措置を講じなければならない」と規定している。 同項は「溢水」について明示的には規定していないが,上記のとおり同項の前提となる平成13年安全設計審査指針の指針4の解説では内部発生飛来物の二次的影響として「溢水」を挙げており,省令62号8条4項においても溢水は考慮されているといえる。 これに対し,津波等の外的事象における溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針2「自然現象に対する設計上の考慮」において,「安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること」を要求しており,同指針2の解説では,予想される自然現象として,「洪水,津波」等を挙げており,外的事象による溢水への対策が考慮されている。加えて,溢水対策については,- 198 -平成13年安全設計審査指針の指針2を前提とする省令62号4条1項において,原子炉施設等が洪水,津波等の「想定される自然現象」により「原子炉の安全性を損なうおそれがある場合には,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない」と規定している。 このように,溢水対策は,基本設計ないし基本的設計方針に関する平成13年安全設計審査指針及び詳細設計に関する省令62号において,内的事象と外的事象をそれぞれ明確に区別して規定し,考慮されていた。 ⑵ 省令62号33条4項の「独立性」においては「共通要因」として溢水及び浸水は考慮を要しないこと本件事故当時の省令62号33条4項は,平成13年安全設計審査指針の指針48「電気系統」の3を前提として定められたものであるところ,省令62号33条4項は,非常用電源設備及び は考慮を要しないこと本件事故当時の省令62号33条4項は,平成13年安全設計審査指針の指針48「電気系統」の3を前提として定められたものであるところ,省令62号33条4項は,非常用電源設備及びその附属設備について多重性又は多様性及び独立性を有していなければならない旨規定している。その「独立性」とは,平成13年安全設計審査指針における「独立性」と同義であり,二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないことをいう。ここでいう,共通要因とは,二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因であって,例えば環境の温度,湿度,圧力,放射線等による影響因子及び系統又は機器に供給される電力,空気,油,冷却水等による影響因子をいい,従属要図とは,単一の原因によって必然的に発生する要因をいう。想定される地震及び津波等の外的事象に対しては,平成13年安全設計審査指針の指針2及び平成18年耐震設計審査指針が定められ,これらの規定において外的事象に対する安全性が考慮されており,外的事象である津波による溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針2の2及び省令62号4条1項において考慮される。そして,平成13年安全設計審査指針の指針48の3は,内的事象について定めたものであって,外的事象について定めたものではない。したがって,平成13- 199 -年安全設計審査指針の指針48の3と整合的に解すべき省令62号33条4項にいう「独立性」の内容として挙げる共通要因においても,外的事象である津波による溢水及び浸水は考慮を要しない。 他方,内的事象による溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針4及びこれを前提とした省令62号8条4項に規定されている。省令62号8条 である津波による溢水及び浸水は考慮を要しない。 他方,内的事象による溢水対策については,平成13年安全設計審査指針の指針4及びこれを前提とした省令62号8条4項に規定されている。省令62号8条4項の「原子炉施設に属する設備」には,省令62号33条4項「非常用電源設備及びその附属設備」も含まれ,「非常用電源設備及びその附属設備」については,省令62号8条4項において,内的事象による溢水対策が考慮されているため,内的事象による溢水は省令62号33条4項にいう「共通要因」とならない。したがって,既に省令62号8条4項において,非常用電源設備及びその附属設備についても内的事象における溢水対策が考慮されている以上,改めて省令62号33条4項にいう「独立性」の内容である「共通要因」として溢水及び浸水を考慮する必要はない。 平成13年安全設計審査指針の指針48の3及びこれを前提とする省令62号33条4項が規定する「独立性」に関する「共通要因」としては,溢水及び浸水は考慮を要しないとされていたのであるから,溢水及び浸水という事象を前提として「独立性」の要件として,同じ建屋及びフロアに非常用電源設備を設置しないことまで求められていたものではない。 平成24年に炉規法が改正される前の安全設計審査指針(平成13年安全設計審査指針)における「独立性」の定義とは,「二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないことをいう。」とされていたところ,設置許可基準規則2条2項19号においても,「独立性」とは「二以上の系統又は機器が,想定される環境条件及び運転状態において,物理的方法その他の方法によりそれぞれ互いに分離することにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機能が損なわ ,「独立性」とは「二以上の系統又は機器が,想定される環境条件及び運転状態において,物理的方法その他の方法によりそれぞれ互いに分離することにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機能が損なわれないことをいう」と定義されており,「独立性」の意- 200 -味内容として位置的分散までは明示していない。そして,設置許可基準規則は,平成24年の炉規法改正によりシビアアクシデントが法規制の対象とされたことを受け,「第二章設計基準対象施設」と「第三章重大事故等対処施設」を分けて規定しており,従前から法規制の対象であった「設計基準対象施設」に関する規定である設置許可基準規則33条7項は「非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保し,その系統を構成する機器又は器具の単一故障が発生した場合であっても,運転時の異常な過渡変化時又は設計基準事故時において工学的安全施設及び設計基準事故に対処するための設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならない」と規定し,非常用電源設備及びその附属設備の独立性を求めるものの,設置許可基準規則の解釈には,位置的分散を求める記載はない。他方,新たに法規制の対象とされた「重大事故等対処施設」に関する規定である設置許可基準規則42条の解釈においては,「上記3(a)の機能を有する設備は,設計基準事故対処設備及び重大事故等対処設備(特定重大事故等対処施設を構成するものを除く。)に対して,可能な限り,多重性又は多様性及び独立性を有し,位置的分散を図ること」と記載され,同様に「重大事故等対処施設」に関する規定である設置許可基準規則47条の解釈においても,「上記a)及びb)の重大事故防止設備は,設計基準事故対処設備に対して,多様性及び独立性を有し,位置的分散を図ること 「重大事故等対処施設」に関する規定である設置許可基準規則47条の解釈においても,「上記a)及びb)の重大事故防止設備は,設計基準事故対処設備に対して,多様性及び独立性を有し,位置的分散を図ること」と記載されている。このように,設置許可基準規則の解釈においては,位置的分散は「独立性」の内容とは異なるものと理解されており,平成24年の炉規法改正により新たに法規制の対象とされた「重大事故等対処施設」に関する規定においてのみ求められている。 したがって,平成24年炉規法改正前から法規制の対象であった「設計基準対象施設」においては,非常用電源設備及びその附属設備の位置的分散までは求めていないと解されるのであり,この点は,上記炉規法改正前においても別異に解すべき理由はないから,平成13年安全設計審査指針の指針48の3及- 201 -びこれを前提とする省令62号33条4項の「独立性」の内容として,非常用電源設備等を同じ建屋及びフロアに設置しないことまでが求められていたものではない。 ⑶ 以上のとおり,平成13年安全設計審査指針48の3及びこれを前提とする省令62号33条4項が規定する「独立性」に関する「共通要因」としては,溢水及び浸水は考慮を要しないとされていたのであるから,溢水及び浸水という事象を前提として,「独立性」の要件として,同じ建屋及びフロアに非常用電源設備を設置しないことまで求められていたものではない。そして,そもそも,省令62号33条4項は,溢水に対する考慮を求める規定ではなく,非常用電源設備等の位置的分散を求めるものではないから,複数の非常用ディーゼル発電機,非常用高圧配電盤が,同じ建屋及びフロアに設置されたことから「独立性」を欠くとの原告らの主張は,平成13年安全設計審査指針及び省令62号の体系や「独立性」の意味内容 ,複数の非常用ディーゼル発電機,非常用高圧配電盤が,同じ建屋及びフロアに設置されたことから「独立性」を欠くとの原告らの主張は,平成13年安全設計審査指針及び省令62号の体系や「独立性」の意味内容を正解しないものであって失当である。 そして,仮に原告らの主張する措置を採ったとしても,前記のとおり,本件事故についての結果回避可能性が認められない。 5 シビアアクシデント対策についての規制権限不行使の違法性(原告らの主張の要旨)⑴ 1990年代初めに我が国においてもシビアアクシデント対策の必要性が認識されながらも法規制化が見送られていたところ,経済産業大臣は,万が一にも原子力発電所が地震及びこれに随伴する津波の影響で全交流電源喪失及び原子炉の最終ヒートシンクの喪失という事態が発生しないように,電気事業法39条によって委任された技術基準省令を適切に改正する権限,同法40条によって委任された適切な技術基準に適合させる権限に基づき,被告東電に対し,福島第一原発の原子炉が,地震及びこれに随伴する津波による全交流電源機能喪失及び原子炉の最終ヒートシンク喪失を回避するために必要な措置をとらせるべきであったにもかかわらず,この規制権限行使を怠ったことは,原- 202 -子力発電所の原子炉を規制する原子力基本法,炉規法,電気事業法の趣旨・目的及びこの分野における規制権限の在り方を踏まえれば,その不行使は許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められ,原告らとの関係において,国賠法1条1項の適用上違法となる。 ⑵ シビアアクシデント対策の必要性に関する国際的な認識の高まりと被告国の認識アシビアアクシデント対策の必要性に関する国際的な認識の高まりスリーマイルアイランド原子力発電所事故及びチェルノブイリ ト対策の必要性に関する国際的な認識の高まりと被告国の認識アシビアアクシデント対策の必要性に関する国際的な認識の高まりスリーマイルアイランド原子力発電所事故及びチェルノブイリ原子力発電所事故を経験して,国際社会は,1980年代から1990年代に,運転開始後の原子力発電所について,設計者が責任をもって保障した条件(設計基準事象)を超えるような事態を原因として,安全装置が有効に働かず炉心損傷が起こり得るという現実を直視し,シビアアクシデント対策を研究,法規制化することを急速に進展させた。国際原子力機関(IAEA)が2000(平成12)年に策定した原子力安全基準「NS-R-1」は,5層の深層防護による対策の必要性を指摘した。 第1層異常運転及び故障の防止第2層異常運転の制御及び故障の検出第3層設計基準内への事故の制御第4層事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和第5層放射性物質の放出による放射線影響の緩和第1層から第3層は設計基準内の対策であり,第4層は設計想定を超える事象であるシビアアクシデントに対する対策であり,第5層はシビアアクシデントが発生してしまった後の防災対策である。 原子力の安全確保の目的は,伊方原発最高裁判決が指摘するとおり,「当該原子炉施設の従業員やその周辺の住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射線によって汚染するなど,深刻な災害を引きおこすお- 203 -それがあることにかんがみ,右災害が万が一にも起こらないようにするため」である。 その基本の考え方が深層防護の安全思想であり,深層防護とは,多層の安全対策を準備しておくこと及び各層の安全対策を考えるときには全体と かんがみ,右災害が万が一にも起こらないようにするため」である。 その基本の考え方が深層防護の安全思想であり,深層防護とは,多層の安全対策を準備しておくこと及び各層の安全対策を考えるときには全体として特定の層に過度に依存せずに有効性を持たせることである。多層の安全対策を用意する理由は,前段の対策がどのように厳重なものであっても,それが機能しない可能性があるという不確かさを否定できずその不確かさに備えるためであり,特定の層に過度に依存しなくても有効であることを求める理由は,いずれか1つの層に過度に依存するとその層が機能を失うことにより安全確保に支障をきたすことを防ぐためである。つまり,深層防護とは,設計基準を厳重化することと同時に,それでも設計基準を超える事象が発生する可能性があることに備えて,設計基準事象と同列に,第4層,第5層の防護対策を採ることを安全確保の基本とすべきであるとの規範である。 代表的なシビアアクシデント対策としては,①原子炉の緊急停止(スクラム)が不能となる過渡的事象(ATWS)に対する対策に関するもの,②炉心損傷の結果,燃料被覆管と蒸気/水との化学反応により圧力容器内に発生する水素の制御(水素対策)に関するもの,③全交流電源喪失状態に関するもの及び④格納容器耐圧強化ベント(格納容器の過圧破損の防止を目的として核分裂生成物〔FP〕を含む格納容器雰囲気を部分的に環境へ放出せざるを得なくなった場合にも,これを管理された状態で行うために,格納容器に専用のベントライン〔フィルター付の場合を含む〕を設置して利用すること)に関するものなどがある。これらについては,フランスにおいては,①ないし④のいずれについても,既設炉及び新設炉を問うことなく法規制の対象に取り込んでいる。また,米国においては,1981(昭和56)年に水素制 のなどがある。これらについては,フランスにおいては,①ないし④のいずれについても,既設炉及び新設炉を問うことなく法規制の対象に取り込んでいる。また,米国においては,1981(昭和56)年に水素制御規則(新設炉・既設炉対象)が,1984(昭和59)年にはATWS規則(新設炉対象)が,そして,1988(昭和63)年はSBO規則(新設- 204 -炉対象)が制定されて,それぞれ法規制の対象とされている。 米国においては,1991(平成3)年から外部事象を含めた確率論的安全評価:外部要因評価の実施を事業者に要求し,「地震」,「内部火災」,「強風・トルネード」,「外部洪水」,「輸送及び付近施設での事故」という外部事象について評価手法を開発し評価を行い,1996(平成8)年にはこの評価を終了した。そして,2002(平成14)年4月に,米国原子力規制委員会(NRC)は,この対策実施をまとめた知見報告書(NUREG―1742)を発表した。原子力規制委員会(NRC)は,1988(昭和63)年6月に,外部電源喪失の発生頻度及び継続時間の評価,非常用交流電源系の信頼性評価等,全交流電源喪失事象(SBO)についての技術的評価を行ったNUREG―1032を発行し,全交流電源喪失事象(SBO)によって炉心損傷が発生する頻度を10-5/炉年以下にすることが望ましく,そのために全交流電源喪失事象(SBO)が発電所によって2ないし8時間程度継続した場合でも耐久能力を有するべきであると結論付けた。これを受けて原子力規制委員会(NRC)は,1988(昭和63)年7月連邦規則(CodeofFederalRegulations)10CFR50.63「全交流電源喪失」(SBO規則)を追加し,SBOに対する耐久能力を有することを示すか,または代替交流電源を設置するか 則(CodeofFederalRegulations)10CFR50.63「全交流電源喪失」(SBO規則)を追加し,SBOに対する耐久能力を有することを示すか,または代替交流電源を設置するかの評価を行うことを法的に要求した。 1975(昭和50)年に公表されたWASH-1400は,原子力発電所によるリスクは,大部分が設計の範囲を超える事故によってもたらされることを明らかにし,1979(昭和54)年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故,1986(昭和61)年のチェルノブイリ原子力発電所事故がそのことを裏付けた。以後,欧米では,設計基準が万全だったことはないとの認識,すなわち,原子発電所は安全ではないとの思想に立って,設計基準事象の強化とともに,シビアアクシデント対策を規制要件化し,2000- 205 -年代までに,外的事象の確率論的安全評価(PSA)の技術的基盤を研究開発しながら外部事象を起因とするシビアアクシデント対策を個別プラントに実施させたのである。 イシビアアクシデント対策の必要性に関する被告国の認識被告国は,1980年代後半から,欧米のシビアアクシデント対策の情報を収集し,シビアアクシデント対策が必要であること,規制要件化を含め早期に実効性ある整備が進められていることに関する十分な情報を得ていたこと,平成4年時点でシビアアクシデント対策の必要性については十分に認識していたこと,確率論的安全評価手法(PSA)の検討も行っていること,平成12年原子力安全白書の第1編において,「原子力は『絶対に』安全とは誰にもいえない。・・原子力の安全確保のための不断の努力には,『これで終わり,もう絶対安全』という安住地は用意されていない。このことを忘れ,謙虚さを失うようなことがあれば,そこには重大な事故 全とは誰にもいえない。・・原子力の安全確保のための不断の努力には,『これで終わり,もう絶対安全』という安住地は用意されていない。このことを忘れ,謙虚さを失うようなことがあれば,そこには重大な事故・災害が待っている。」と総論を述べた上で,安全確保の取組として,初めて「多重防護の採用」として第4層,第5層に言及していること,平成14年原子力安全白書では,「炉規法によれば,原子炉施設の安全確保とは,『核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること』とされております。ここで,原子炉施設のもつ潜在的危険性とは,放射性物質による放射線障害の危険性です。原子炉施設の安全性確保の目的はこの潜在的危険性を顕在化させないことになります。」と記述した上で,「多重防護」として,第4層,第5層にも言及していることに鑑みれば,被告国もシビアアクシデント対策の必要性について十分に認識していたといえる。 ⑶ 平成4年時点で,経済産業大臣にシビアアクシデント対策に関する法規制の権限があったことア経済産業大臣は,平成23年10月7日改正省令62号に,シビアアクシ- 206 -デント対策を規定したこと本件事故発生後である平成23年10月7日,経済産業大臣は,省令62号に,5条の2(津波による損傷の防止)を追加し,「津波によって交流電源を供給する全ての設備,海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能が喪失した場合においても直ちにその機能を復旧できるよう,その機能を代替する設備の確保その他の適切な措置を講じなければならない。」(2項)とした。 保安院は,改正理由について,本件地震に付随した津波により福島第一原発が全交流電源喪失に至ったことで炉心損傷な 機能を代替する設備の確保その他の適切な措置を講じなければならない。」(2項)とした。 保安院は,改正理由について,本件地震に付随した津波により福島第一原発が全交流電源喪失に至ったことで炉心損傷などの深刻な事態を引き起こしたことを踏まえ,全ての原子力発電所に緊急安全対策を指示し,省令上の位置付けを明確にしたと説明する。被告国及び被告東電は,本件津波は「想定外」で,「予見可能性のない」ものであったと主張しているのであるから,論理的には,この省令改正は,いわゆる設計基準事象レベルのものではなく,それを超える事態に対する対策といえ,シビアアクシデント対策による措置といえる。 改正された省令の規定も,5条の2第1項は,「想定される津波により原子炉の安全性が損なわれるおそれがあるとき」としており,これは設計基準事象レベルの事態に対する防護措置を求める規定である。これに対し,2項は,限定なしに「津波によって」と規定しているとおり,設計基準事象レベルを超える津波をも対象としており,1項に基づく防護措置によって防護できず,交流電源を供給する全ての設備,海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能が喪失した場合についての規定である。これは,津波という外的事象に限ってはいるが,万が一にも,全交流電源喪失・最終ヒートシンク喪失を回避するためのシビアアクシデント対策の措置を規定したものである。 よって,改正前の電気事業法においても,シビアアクシデント対策を省令- 207 -に規定することが可能であったことはこの省令改正によっても明らかである。 イ行政指導の権限と法規制の権限の根拠法令は同一と解すべきこと行政指導とは,行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現する 令改正によっても明らかである。 イ行政指導の権限と法規制の権限の根拠法令は同一と解すべきこと行政指導とは,行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう(行政手続法2条6号)。行政指導も行政の手続行為であり,法律による権限根拠が必要であるところ,経済産業大臣がシビアアクシデント対策を行政指導する権限は経済産業省設置法4条1項57号「発電用原子力施設に関する規制その他これらの事業及び施設に関する安全の確保に関すること」に含意されている。 炉規法は,原子炉の設置,運転等に関する規制として,23条で設置の許可を規定し,24条でその許可基準を定めている。同条1項4号では「原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること」という安全確保の規制基準が定められている。 また,実用発電用原子炉の安全確保を規制する電気事業法が,運転中の原子力発電所の安全規制に関し経済産業大臣に委任している権限規定についてみれば,電気事業法39条1項は,「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない」と規定し,経済産業大臣に,原子炉等に関する技術基準を経済産業省令で定める権限を委任している。当該規定の委任を受けて,経済産業大臣は,発電用原子力設備に関する省令62号を制定し,「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」(同法39条2項1号)と定め,原子炉の設置者は,原子炉をこの「技術基準に適合するよう維持しなければならない」(同条1項)と定めている。 被 危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」(同法39条2項1号)と定め,原子炉の設置者は,原子炉をこの「技術基準に適合するよう維持しなければならない」(同条1項)と定めている。 被告国は,組織法である経済産業省設置法4条1項57号「発電用原子力- 208 -施設に関する規制その他これらの事業及び施設に関する安全の確保に関すること」にシビアアクシデント対策が含意されているというのであるから,規制法である炉規法24条1項4号「原子炉による災害の防止上支障がないものであること」においても,あるいは電気事業法39条2項1号の「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」においても,組織法である経済産業省設置法4条1項57号において示された「発電用原子炉施設の安全確保にシビアアクシデント対策が含まれる」と解釈するのが統一的な解釈である。 このように経済産業大臣がシビアアクシデント対策の措置を採る権限を持つのであるから,これを行政指導で行うか,省令制定で行うかは,経済産業大臣の選択によることになるが,シビアアクシデント対策は,万が一にも炉心損傷事故を起こしてはならない原子炉の安全規制の手段であり,経済産業大臣がこれを省令で定める権限を否定する法令上の規定は存しない。 実際に,通商産業省(当時)は,昭和62年8月に安全裕度評価検討会を設置し,アクシデントマネジメントの在り方等について検討して,平成4年2月の共通問題懇談会の報告書及び同年5月の原子力安全委員会決定を受けて,通産省としての方針を取りまとめ,さらに,同年7月に「アクシデントマネジメントの今後の進め方について」(丙A60)を発表した。ここでは,共通問題懇談会の報告書の結論部分と安全委員会の決定がそのまま同省の方針として「現時点においては,アクシデン 月に「アクシデントマネジメントの今後の進め方について」(丙A60)を発表した。ここでは,共通問題懇談会の報告書の結論部分と安全委員会の決定がそのまま同省の方針として「現時点においては,アクシデントマネジメントに関連した整備がなされているか否か,あるいはその具体的対策内容の如何によって,原子炉の設置又は運転などを制約するような規制的措置を要求するものではない」と結論付けられている。そして,同報告書は,経済産業大臣に,シビアアクシデント対策を法規制する権限があることを当然の前提とした上で,「現時点においては,・・・規制的措置を要求するものではない。」という政策選択を示したものにすぎない。 - 209 -ウ平成24年改正法が規制権限を創出したものでないこと平成24年改正後の炉規法43条の3の6第1項3号等(許可の基準)は「その者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう。第四十三条の三の二十二第一項及び第四十三条の三の二十九第二項第二号において同じ。)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。」と規定しているのに対し,改正前の炉規法は「その者に発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。」と規定していた。 上記下線部分が追加された条項であり,被告国はこの下線部分がシビアアクシデント対策を法規制する権限を創設したものであると主張する。 しかし,この下線部分文言は「その他の」と続き,例示となっており,下線部分は「発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。」の例示に過ぎない。したがって,改正前の「発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技 他の」と続き,例示となっており,下線部分は「発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。」の例示に過ぎない。したがって,改正前の「発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること」には,この下線部分が含まれており,経済産業大臣の規制権限の対象であったと解することができる。 ⑷ 被告国が採ったシビアアクシデント対策は万が一の事故への対応策として著しく不合理であること欧米では,シビアアクシデント対策として,設備の劣化や運転操作の誤りなどの内部事象を起因とするものと同時に,地震,津波,竜巻などの巨大なエネルギーをもつ自然現象などの外部事象を起因とするものに対する対策を規制要件化した。そして,欧米では,全交流電源喪失対策をシビアアクシデント対策の重要な一つとして位置付けたのに対し,被告国は,昭和62年から平成3年時点までの原子力安全委員会内におけるシビアアクシデント対策の検討において,殊更に検討対象から外部事象を原因とするシビアアクシデント対策を除外した。また,被告国は,外部事象をシビアアクシデント対策から除外した- 210 -ことと連動して,全交流電源喪失対策をシビアアクシデント対策の中に位置付けなかった。その結果,全交流電源喪失については,昭和52年に,短時間の全交流電源喪失のみを考慮すればよいとした決定を本件事故まで変更しなかった。 被告国は,事業者の自主的取組とすることが,より有効かつ適切な対策であると主張するが,被告国が取り得る規制手段として,法規制が最も実効性のある規制である。行政指導は,飽くまで事業者の任意の協力を求める点で,規制手段として法規制よりも格段に緩やかなものである。行政手続法32条が「行政指導にあっては,行政指導に携わる者は,いやしくも当該行政機関の任務又は所掌 は,飽くまで事業者の任意の協力を求める点で,規制手段として法規制よりも格段に緩やかなものである。行政手続法32条が「行政指導にあっては,行政指導に携わる者は,いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。」(1項),「行政指導に携わる者は,その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならない。」(2項)としていることからも明らかである。 また,違法な事故隠しまで行って,安全確保よりも利潤追求を優先する体質の原子力事業者である被告東電に対して実効的な安全規制をするためには,罰則による実効性を持った省令による規制が必要である。 さらに,シビアアクシデント対策は,設計基準事象を超えた,発生する確率が相対的に低い事象に対する多重の防護措置であり,この対策を採るためには,一定期間原子炉を停止して工事を実施しなければならないところ,電力事業者は,利潤追求を第一としているのであるから,相当な期間原子炉を停止しなければならないシビアアクシデント対策は,本質的に,電力事業者の活動に反する性格を有するものである。したがって,電力事業者の自主的な取組に任せても,電力事業者が,自発的に原子力運転停止に伴う経済的負担に優先して,国民の生命・健康・生存権の基礎としての財産や環境に対する安全確保に取り組む姿勢で行動することは期待できない。よって,利潤追求を第一の目的とす- 211 -る体質の営利企業である被告東電ら電力事業者をして,実効的なシビアアクシデント対策に取り組ませるには,法規制によるべきであった。 ⑸ 被告国の行政指導に,外部事象に起因するシビアアクシデント対策,長時間の全交流 ある被告東電ら電力事業者をして,実効的なシビアアクシデント対策に取り組ませるには,法規制によるべきであった。 ⑸ 被告国の行政指導に,外部事象に起因するシビアアクシデント対策,長時間の全交流電源喪失対策がないこと我が国においては,平成4年5月28日の原子力安全委員会決定「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」(丙A58)により,シビアアクシデント対策が開始されてから現在に至るまで,外部事象はシビアアクシデント対策に反映されてこなかった。一方で,米国においては,1991(平成3)年から確率論的安全評価を事業者に要求し,1996(平成8)年にこの評価を終了し,2002(平成14)年には米国原子力規制委員会(NRC)が,この対策実施をまとめた知見報告書を発表した。 我が国においても,シビアアクシデント対策の検討初期において既に,規制当局である通商産業省や事業者の間で確率論的安全評価(PSA)の必要性が認識されていた。しかし,我が国において唯一実施されたのは地震PSAのみであり,被告東電が行ったシビアアクシデント対策には,平成4年5月から平成16年10月までのものであり,外部事象に起因するシビアアクシデント対策は含まれていない。 平成21年に入り,ようやく電力事業者において「地震」,「溢水」,「火災」,「津波」等の外部事象の確率論的安全評価のスケジュールが検討されているが,平成30年を目途に試評価を実施し,平成35年頃に安全規制を本格化させるといった予定で検討がされている。また,安全設計審査指針が長時間の全交流電源喪失を考慮しなくてよいとし,同指針に長時間の全交流電源喪失対策を規定しなかった結果,被告東電は自主的取組としても長時間の全交流電源喪失対策を されている。また,安全設計審査指針が長時間の全交流電源喪失を考慮しなくてよいとし,同指針に長時間の全交流電源喪失対策を規定しなかった結果,被告東電は自主的取組としても長時間の全交流電源喪失対策を行わなかった。 被告東電は,保安院に対し,平成14年5月に「原子力発電所のアクシデン- 212 -トマネジメント整備報告書」及び「アクシデントマネジメント整備有効性評価報告書」を提出した。平成14年10月,保安院は「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書」(丙A66)を取りまとめ,「今回整備されたAMは,原子炉施設の安全性を更に向上させるという観点から有効であることを定量的に確認した」。また,被告東電は代表炉以外のアクシデントマネジメント導入後の評価を実施し,「アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書」(丙A67)を保安院に提出した。保安院はこれを受けて「軽水型原子力発電所における『アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価』に関する評価報告書」(丙A68)を公表した。保安院はこの中で事業者とは独立してその有効性を確認し,「本件をもって,既設原子炉52基のAMに関する確率論的安全評価が全て終了したこととなるが,シビアアクシデントについては物理現象的に未解明な事象もあり,世界的に研究が継続されているところである。したがって,国内外における安全研究等により有用な知見が得られた場合には,AMに適切に反映させていくことが重要である。」と指摘した。 このように,被告東電が外部事象に起因するシビアアクシデント対策,長時間の全交流電源喪失対策を行っておらず,被告国はこのことを認識していたにもかかわらず,保安院はこれを「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について アアクシデント対策,長時間の全交流電源喪失対策を行っておらず,被告国はこのことを認識していたにもかかわらず,保安院はこれを「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書」において「有効であることを定量的に確認」し,「軽水型原子力発電所における『アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価』に関する評価報告書」において有効性を確認した上で,「本件をもって,既設原子炉52基のAMに関する確率論的安全評価が全て終了した」と言い切り,「国内外における安全研究等により有用な知見が得られた場合には,AMに適切に反映させていくことが重要である。」などとして,被告東電に対して具体的にどのような対策を採るべきか示すことなく,いわば事業者である被告東電にシビアアクシデント対策を丸投げして,その後外- 213 -部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失に対して具体的な対策を行うようにとの行政指導さえ行わないままにした。 被告国は,このように具体的に外部事象に起因するシビアアクシデント対策,長時間の全交流電源喪失対策の指示をせず,評価手法について基準も設定せず,期限を定めた対策を促さず,審査をすることもせずに,全ての対策を事業者である被告東電の自主的対策とした結果,実効性のある対策は全くとられなかった。 平成14年原子力安全白書には深層防護の第4層,第5層についての記述があったが,平成15年原子力安全白書 ,平成16年原子力安全白書には,深層防護の第3層までの記述のみとなった。そして,平成17年の原子力安全白書からは,深層防護自体の記載が全く消えてしまった。このように,被告国が,シビアアクシデント対策そのものを安全規制から除外したにも等しい状況となった。 そして,前記のとおり,被告 年の原子力安全白書からは,深層防護自体の記載が全く消えてしまった。このように,被告国が,シビアアクシデント対策そのものを安全規制から除外したにも等しい状況となった。 そして,前記のとおり,被告東電は,国民の生命・健康・生存権の基礎としての財産や環境に対する安全確保という目的よりも,経済的負担を避け,利潤追求を第一の目的とする体質を有しており,真摯に事故対策を行うことは期待できない。 被告国は,被告東電が行ったシビアアクシデント対策が外部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失対策を含んでいない点において特に不十分であることを認識しながら,具体的にどのような対策を採るべきか示さぬまま,シビアアクシデント対策を自主的に行うように促したが,被告東電がこれを速やかに行うはずがないことは明らかであった。 また,原子力発電所についての規制は,特に規制の実効性を確保する必要性が高く,原子力規制の法体系が原則として法規制を要請していることからも,被告国は国民の生命・健康・生存権の基礎としての財産や環境に対する安全を確保するためこれを法規制によって行うべきであった。 - 214 -以上より,外部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失対策について,実効性のある対策を実施させるために,被告国は被告東電をはじめとする原子力事業者に対して法規制を行うべきであったのに,被告国は法規制を行わなかった。 (被告国の主張の要旨)⑴ 我が国の法制度上,シビアアクシデント対策が法規制の対象とはされていなかったことアシビアアクシデント対策は炉規法の規制の対象とはされていなかったことシビアアクシデントについては,昭和54年に発生したスリーマイルアイランド原子力発電所事故及 ことアシビアアクシデント対策は炉規法の規制の対象とはされていなかったことシビアアクシデントについては,昭和54年に発生したスリーマイルアイランド原子力発電所事故及び昭和61年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故を受けて検討が進められるようになったものであり,炉規法が制定された昭和32年当時は「シビアアクシデント」として整理された概念自体が存在しなかった。そのため,制定当時の炉規法上,原子炉の規制において,シビアアクシデント対策を要求する規定は置かれていない。原子力安全委員会は,上記各事故を受けてシビアアクシデント対策の検討を進め,平成4年5月28日,「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」(丙A58)を決定し,シビアアクシデント対策を事業者の自主的取組と位置付けた。被告国は,同決定における位置付けの下,行政指導により種々のシビアアクシデント対策に係る施策を講じており,本件事故時に至るまで,炉規法上にシビアアクシデント対策を要求する規定が新設されることはなかった。 本件事故後の原子力規制委員会設置法(平成24年法律第47号)附則17条により改正された炉規法1条は,同改正前の炉規法1条において核原料物質,核燃料物質及び原子炉による「災害を防止し」と規定していたところを,「原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水- 215 -準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止し」と改めることで,設計基準の範ちゅうの事象を防止するだけでなく,それを超える重大事故が生じた場合に放射性物質が原子力施設外に大量に放出されることを防止することを法の目 及び原子炉による災害を防止し」と改めることで,設計基準の範ちゅうの事象を防止するだけでなく,それを超える重大事故が生じた場合に放射性物質が原子力施設外に大量に放出されることを防止することを法の目的に含めた。また,重大事故対策を強化するに当たっては,発電用原子炉の設置許可の審査に当たり,建屋の水密化や電源の多重化,多様化等のハード面の安全性,健全性の確認に加え,重大事故が発生した場合において,その影響を緩和するために設備等や緊急時資機材等を有効に活用する能力(アクシデントマネジメント能力)があらかじめ備わっているか等のソフト面からの審査も同様に重要であると考えた。そこで,改正後炉規法は,発電用原子炉の設置許可基準の一つである「原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること」(平成24年改正前の炉規法24条1項3号)を「重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう。(中略))の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力」(平成24年改正後の炉規法43条の3の6第1項3号)と改正し,重大事故対策についても審査の対象とした。この「重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力」が発電用原子炉を設置しようとする者に備わっているかどうかの審査及び「発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が(中略)災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものである」(平成24年改正後の炉規法43条の3の6第1項4号)かどうかの審査は,新設された43条の3の5第2項10号の規定により申請に際して記載される 原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものである」(平成24年改正後の炉規法43条の3の6第1項4号)かどうかの審査は,新設された43条の3の5第2項10号の規定により申請に際して記載される「発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備- 216 -に関する事項」に基づいて行われることとなる。この43条の3の5第2項10号は,同項9号とともに,改正後に新設された事項である。そもそもシビアアクシデント対策の必要性が認識されたのは昭和54年以降であり,これは,昭和32年に炉規法が制定された後のことである。そのため,炉規法が制定された当時,炉規法24条1項3号の「原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力」としてシビアアクシデント対策の実施に必要な技術的能力が求められておらず,炉規法24条1項4号の「原子炉施設の位置,構造及び設備」にシビアアクシデント対策に必要な設備が求められていなかったといえる。また,原子力安全委員会は,平成4年5月28日,「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」(丙A58)を決定した。これによって,当時の技術的知見に照らし,既存の安全規制において原子炉施設の安全性は十分確保されていることを前提として,シビアアクシデント対策は,「これまでの対策によって十分低くなっているリスクを更に低減するための」措置とし,「アクシデントマネージメントを整備し,万一の場合にこれを的確に実施することは,強く奨励もしくは期待されるべき」と位置付けられた。すなわち,既存の安全規制によって原子炉施設の安全性が十分確保されている場合,さらに可能な限りリスクの低減に努めるべきであるということはできるが,これを 励もしくは期待されるべき」と位置付けられた。すなわち,既存の安全規制によって原子炉施設の安全性が十分確保されている場合,さらに可能な限りリスクの低減に努めるべきであるということはできるが,これを規制によって実現するか否かは立法政策の問題であり,原子力安全委員会は,これを規制により実現するまでのことはないとし,国もこれを是認したのである。そして,本件事故に至るまで,炉規法上,シビアアクシデント対策を要求する規定が新設されることはなかった。また,平成24年改正前後の炉規法の規定の比較や平成24年炉規法改正に当たっての国会審議からしてもシビアアクシデント対策に関する規定は平成24年改正によって創設的に規定されたものといえる。 イシビアアクシデント対策を省令62号に規定することはできなかったこ- 217 -と以上のとおり,炉規法制定時において,いまだシビアアクシデントとして整理された概念はなく,その後も,本件事故に至るまで,シビアアクシデント対策は,事業者の自主的取組と位置付けられ,炉規法上,シビアアクシデント対策を要求する規定が設けられることはなく,平成24年法律第47号による改正により,炉規法上,シビアアクシデント対策を要求する規定が新設されたものであり,本件事故以前においては,シビアアクシデント対策は炉規法による規制の対象とされていなかった。電気事業法の委任に基づき技術基準について定める省令62号は,炉規法に基づく設置許可段階における原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項について原子力安全委員会が定めた安全設計審査指針を前提として,原子炉施設の詳細設計に係る審査基準を定めたものであるから,段階的安全規制の下,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を判断するための指針類と詳細設計の妥当性を判断するため 設計審査指針を前提として,原子炉施設の詳細設計に係る審査基準を定めたものであるから,段階的安全規制の下,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を判断するための指針類と詳細設計の妥当性を判断するための省令62号は,整合的,体系的に理解されるべきものである。したがって,平成24年改正前の炉規法上,シビアアクシデント対策は法規制の対象とされていなかったのであるから,炉規法及び原子力安全委員会が定めた指針類を前提とした省令62号においてもシビアアクシデント対策を規定することはできなかったのであり,省令62号を改正してシビアアクシデント対策を規制すべきであったとする原告らの主張は失当である。 ウ省令62号5条の2はシビアアクシデント対策を規定したものではないこと省令62号5条の2は,本件事故後の平成23年3月30日に保安院が緊急安全対策として指示した設備に関する対策が電気事業法39条1項の技術基準維持義務の対象となるという省令上の位置付けを明確にするために,同年10月に規定されたものである。したがって,省令62号5条の2は,従前の基本設計ないし基本的設計方針の枠組みの中で講じられたものであ- 218 -って,シビアアクシデント対策を規定したものではない。 平成24年改正前の炉規法は,第4章において「原子炉の設置,運転等に関する規制」についての規定を定めていたところ,同法24条1項4号は原子炉設置許可の要件として「原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(中略),核燃料物質によつて汚染された物(中略)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。」と定めていた。このような観点から,従前の基本設計ないし基本的設計方針において,放射性物質の有する危険性を顕在化させない対策をどのように講じるかということが原子炉施設 止上支障がないものであること。」と定めていた。このような観点から,従前の基本設計ないし基本的設計方針において,放射性物質の有する危険性を顕在化させない対策をどのように講じるかということが原子炉施設の安全の確保の課題であり,確認すべき事項は,①原子炉施設の平常運転によって放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,平常運転時における被ばく低減対策を適切に講じていること,②原子炉施設において事故が発生することにより放射性物質の有する潜在的危険性が顕在化しないように,自然的立地条件との関係も含めた事故防止対策を適切に講じていることである。 ここでいう「事故」とは,「『運転時の異常な過渡変化』を超える異常な状態であって,発生する頻度はまれであるが,原子炉施設の安全設計の観点から想定されるもの」であって,上記②の自然的立地条件との関係も含めた事故防止対策には,想定している設計基準事象を大幅に超える事象に対するシビアアクシデント対策は含まれていない。 これに対し,平成24年改正後の炉規法は,前記のとおり,シビアアクシデント対策を創設的に規制の対象としたが,これは,本件事故を受けて,平成23年6月の「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」において,シビアアクシデント対策を原子炉設置者による自主的な取組とすることを改め,これを法規制上の要求とすべきことなど,シビアアクシデント対策に関する教訓が取りまとめられたことなどを踏まえたものである。平成24年改正後の炉規法43条の3の6第1項4号にいう「原- 219 -子力規制委員会規則」である実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(平成25年原子力規制委員会規則第5号。 以下「設置許可基準規則」という。)においては,「第二章設計基準対象 委員会規則」である実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(平成25年原子力規制委員会規則第5号。 以下「設置許可基準規則」という。)においては,「第二章設計基準対象施設」とは別に「第三章重大事故等対処施設」を設け,格納容器破損防止対策,炉心損傷防止対策等の重大事故等対策を要求している。具体的な重大事故等対策の要求事項としては,炉心の著しい損傷が発生した場合の原子炉格納容器の破損を防止するための設備を設けること(50条),炉心の著しい損傷が発生した場合に原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却する設備を設けること(51条),設計基準事象の収束に必要な水源とは別に,重大事故等の収束に必要となる十分な量の水を有する水源を確保すること(56条)等があり,従来の事故防止対策に加え,新たな重大事故等対策が要求されている。省令62号5条の2は,前記のとおり,緊急安全対策として指示した設備に関する対策について,技術基準維持義務の対象となることを明確にするために規定したものにすぎず,従前の法規制における事故防止対策にとどまるものである。省令62号5条の2第2項の「直ちに」とは,津波によって交流電源を供給する設備,海水を使用する冷却設備,使用済燃料貯蔵槽の冷却設備の全てが機能喪失している状態においても,炉心及び使用済燃料貯蔵槽にある燃料に損傷が生じない期間をいうと解釈されており,長時間の全交流電源喪失のような直ちに復旧できないような事態に陥った場合に対する対策までも要求しておらず,設置許可基準規則第二章に規定される設計基準対象施設に係る対策に相当するものであって,設置許可基準規則第三章のような,炉心の著しい損傷が発生した場合を想定した要求事項でない。したがって,省令62号5条の2は,シビアアクシデント対策を規定した 象施設に係る対策に相当するものであって,設置許可基準規則第三章のような,炉心の著しい損傷が発生した場合を想定した要求事項でない。したがって,省令62号5条の2は,シビアアクシデント対策を規定したものではなく,原告らの上記主張は失当である。 ⑵ シビアアクシデント対策について,電気事業者の自主的な取組として,被告国が行政指導等を行ってきたことにつき国賠法上の違法性がないこと- 220 -ア被告国のシビアアクシデント対策に関する指導等が不十分であったとはいえないこと原子力安全委員会は,昭和54年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故,昭和61年のチェルノブイリ原子力発電所事故を契機として,昭和62年7月に原子炉安全基準専門部会に共通問題懇談会を設置し,シビアアクシデント対策について検討を進め,同懇談会は平成4年3月に「シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書-格納容器対策を中心として-」と題する報告書を取りまとめた。同報告書においては,それまでに被告国の指導に基づき,原子炉設置者が自主的に整備を進めてきたフェーズⅠのアクシデントマネジメントの一部を考慮したレベル1確率論的安全評価(PSA)によれば,国内原子炉の炉心損傷に至る事象の発生率は,10-5/炉年より小さく,この値は,IAEA・INSAG(国際原子力安全諮問委員会)の基本安全原則が示す定量的な安全目標(炉心損傷の発生率10-4/炉年(既存炉に対して),10-5/炉年(新設炉に対して))を満足するものである。米国において実施された同型プラントに対するPSAの結果と比較しても,同様の手法により解析を行った我が国のプラントの炉心損傷の発生確率は小さいと評価されている。また,シビアアクシデント対策を「これまでの対策に 実施された同型プラントに対するPSAの結果と比較しても,同様の手法により解析を行った我が国のプラントの炉心損傷の発生確率は小さいと評価されている。また,シビアアクシデント対策を「これまでの対策によって十分低くなっているリスクをさらに低減するための」措置とし,「アクシデントマネージメントを整備し,万一の場合にこれを的確に実施することは,強く奨励もしくは期待されるべきもの」とされ,「状況に応じて原子炉設置者がその知見を駆使して臨機にかつ柔軟に行われることが望まれる」,すなわち,シビアアクシデント対策を原子炉設置者の自主的取組とすることがより有効かつ適切な対策を行い得るとされた。原子力安全委員会は,同報告書を受けて,平成4年5月28日に「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのア- 221 -クシデントマネージメントについて」(丙A58)を決定した。同決定においては,既存の安全規制において原子炉施設の安全性は十分確保されており,「シビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分小さなものとなっており,原子炉施設のリスクは十分低くなっている」と判断された。このような点を踏まえ,原子力安全委員会は,シビアアクシデント対策を「この低いリスクを一層低減するもの」と位置付け,原子炉設置者において効果的なシビアアクシデント対策を自主的に整備し,的確に実施できるようにすることを「強く奨励されるべき」とした。それ以降,同決定に基づき,規制行政庁が被告東電を含む電気事業者に対し,種々のアクシデントマネジメントの整備を促し,これを受けて,被告東電ら電気事業者が種々のアクシデントマネジメントの整備を施した。 また,シビアアクシデントに至る原因となり得る全交流電源喪失事象(SBO)については,平成5年 トの整備を促し,これを受けて,被告東電ら電気事業者が種々のアクシデントマネジメントの整備を施した。 また,シビアアクシデントに至る原因となり得る全交流電源喪失事象(SBO)については,平成5年6月に原子力安全委員会の原子力施設事故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループが取りまとめた「原子力発電所における全交流電源喪失事象について」(丙A90)においては,外部電源喪失頻度について,我が国の実績は約0. 01/炉年で米国に比べて10分の1と格段に低く,外部電源復旧時間も全て30分以内で,米国と比べても我が国の外部電源系の信頼性は高い。非常用ディーゼル発電設備の起動失敗確率も,当時の直近の実績において米国に比べて約36分の1にすぎず,我が国の非常用ディーゼル発電機の信頼性は高いとされていた。 さらに,直流電源についても,信頼性は高く維持されていると評価されていた。被告国は,「シビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分小さなもの」であるにもかかわらず,なお,そのリスクを低減させるため,電気事業者によるアクシデン- 222 -トマネジメントの整備を強く求め,その状況を評価することなどにより,適切な行政指導を行い,これらに加え,新潟県中越沖地震を踏まえて電気事業者に対して安全確保体制の指示を行ってきたのであって,これらの被告国の対応に,各時点の知見に照らして著しく合理性を欠くとはいえない。 イ諸外国においても必ずしも既設炉についてシビアアクシデント対策が法規制の対象とされていたわけではないこと諸外国においても,昭和54年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故,昭和61年のチェルノブイリ原子力発電所事故によりシビアアクシデント対策の重要性が認識され, ていたわけではないこと諸外国においても,昭和54年のスリーマイルアイランド原子力発電所事故,昭和61年のチェルノブイリ原子力発電所事故によりシビアアクシデント対策の重要性が認識され,各国で検討が行われてきた。しかし,例えば,米国において既設炉に対するシビアアクシデント対策が事業者の自主保安とされたように,本件事故時においても,諸外国において,既設炉について必ずしもシビアアクシデント対策が法規制の対象とされていたわけではない。米国では,1985(昭和60)年に米国原子力規制委員会(NRC)が「将来設計及び既存プラントのシビアアクシデントに関する政策声明書」を公表し,既存の原子炉については,「NRCの研究,産業界炉心損傷研究(中略)及びPRA(確率論的リスク評価)の結果等の現在の情報に基づけば,公衆の安全,健康,財産に対する過度のリスクを有していない」と判断し,「シビアアクシデントに関する一般的な規則作成,及びこれ以上のバックフィットは要求しない」と結論付けて,事業者の自主保安とした。他方,新設の原子炉については,「現行のNRC規則の手続上の要件や指針に適合していることを実証すること。崩壊熱除去系の信頼性及び交流/直流電源系の信頼性の確保も含めて,すべての適用し得る未解決安全問題及び優先度が中/高の一般安全問題(中略)を技術的に解決していることを実証すること。PRA(フルスコープ)を実施し,PRAが明らかにするシビアアクシデント- 223 -に対するプラントの脆弱性について検討すること。また,PRAは,公衆の健康,安全,及び財産に対する過度のリスクはないという保証を与えてくれる可能性がある。プラント設計のスタッフ審査を実施し,決定論的な工学解析及び判断を中心に,PRAで補完したアプローチを使って安全上容認できるとい 財産に対する過度のリスクはないという保証を与えてくれる可能性がある。プラント設計のスタッフ審査を実施し,決定論的な工学解析及び判断を中心に,PRAで補完したアプローチを使って安全上容認できるという結論を得ること。」という指針及び手続上の要件を満たせば容認し得るとし,シビアアクシデントを規制化した。その後,新設炉については,1989(平成元)年に発行した連邦規則(10CFR52)に基づき規制が行われ,シビアアクシデント対策が求められているが,既設炉についてはシビアアクシデント対策が法規制の対象とはなっていない。 以上のとおり,米国では,既設炉に対してシビアアクシデント対策は法規制の対象とされておらず,諸外国においても,必ずしも既設炉についてシビアアクシデント対策を法規制の対象としているわけではなかった。 ウ IAEAの総合原子力安全規制評価サービス(IRRS)による我が国の評価結果について総合原子力安全規制評価サービス(IRRS)は,IAEAが加盟国における原子力利用に当たっての安全を確保するため,安全基準を策定し,加盟国の要請に基づき,種々の安全確保に関して行っているレビューサービスの一つであり,原子力安全規制に係る国の法制度や組織等について総合的にレビューすることを目的とし,各国の専門家により構成されるレビューチームによるピアレビューを行うことにより実施されるものである。我が国に対しても,平成19年6月にIRRSが実施され,同年12月に報告書(丙A92)が公表されている。同報告書は,我が国における原子力規制について8つの分野にわたり,判断根拠を示した上で良好事例,勧告事項,助言事項を挙げて,評価を下している。 法令上及び行政上の責任については,極めて賞賛できるものであると- 224 -され て8つの分野にわたり,判断根拠を示した上で良好事例,勧告事項,助言事項を挙げて,評価を下している。 法令上及び行政上の責任については,極めて賞賛できるものであると- 224 -されている。規制機関の責任及び機能については,我が国においてはハードウェアの技術的課題に関する規制が中心であって,人的及び組織的要因に対する規制がハードウェアの技術的課題に対する規制に比して確立の程度が低いことを述べたものであって,シビアアクシデント対策とはあまり関係のない指摘がされている。規制機関の組織については,保安院は,原子力安全規制に割り当てられる職員の採用及び訓練を積極的に管理しているが,行政部門における5%の人員削減を求める現政府の要求及び職員ローテーション政策は,日本における有効な原子力安全規制の継続にとって潜在的な課題を与えているとされている。許認可については,我が国においてシビアアクシデント対策が法規制の対象となっていないことも踏まえた上で,安全性に寄与するあらゆる要因,特に管理及び人的要因の課題の総合的な審査に向けた改善が進められていると結論付けており,シビアアクシデント対策を法規制とすべきとの言及は一切ない。審査及び評価については,定期安全レビュー,高経年化評価,運転経験フィードバック,人的及び組織的問題,リスクを活用した規制に分けて評価がされている。検査及び強制措置については,保安院は,検査プログラムに対するいくつかの変更を実施中であり,これらは平成14年以降に確認された事象及び問題への先見的な対応であるがこれらの多様な変更は,保安院,産業界及び運転者にとって困難な課題の様相を呈しているとしている。規則及び指針については,現行の日本の規則,指針,重要なルール及び基準は体系的であり,これらは原子力発電所の安全に関するあ ,保安院,産業界及び運転者にとって困難な課題の様相を呈しているとしている。規則及び指針については,現行の日本の規則,指針,重要なルール及び基準は体系的であり,これらは原子力発電所の安全に関するあらゆる側面をカバーしているとされている。規制機関におけるマネジメントシステムについては,保安院は,総合的な品質マネジメントシステムを確立しようと極めて先見的に努力しているが,なすべきことは多く残っているとされている。このように,我が国に対するIRRSによる評価においては,一部課題が指摘されているものの,法- 225 -令上及び行政上の枠組みの改善努力を絶えず行っていることを賞賛するなど,全般的に良好な評価であった。 エ以上のとおり,被告国は,シビアアクシデント対策を電気事業者の自主的な取組とした後も継続的に行政指導等を行っており,当該指導等が不十分であったとはいえない。諸外国においては,例えば,米国において,既設炉について,シビアアクシデント対策を事業者の自主的な取組とするなど,シビアアクシデント対策について各国で対応が異なっており,シビアアクシデント対策について世界的にみて共通の確立した見解があったとは認められないこと,IAEAが行うIRRSにおいて,日本の原子力に対する安全規制は良好であると評価され,シビアアクシデント対策の法規制化を求められていないことなどからすれば,被告国が,シビアアクシデント対策を電気事業者の自主的な取組として,行政指導等を行ってきたことにつき,著しく合理性を欠くとはいえず,被告国が必要な規制権限を行使しなかったことによる国賠法上の違法があるということはできない。 ⑶ 外的事象である地震や津波をシビアアクシデント対策の対象としていなかったことが著しく合理性を欠くとはいえないことシビアアク ったことによる国賠法上の違法があるということはできない。 ⑶ 外的事象である地震や津波をシビアアクシデント対策の対象としていなかったことが著しく合理性を欠くとはいえないことシビアアクシデント対策は,PSAを必須とするものであり,外的事象の評価のためには,原因事象ごとに異なった評価手法が必要である。本件事故は,本件地震及びこれに伴う津波の発生,到来により発生したものであるところ,シビアアクシデント対策を行っていなかったことが違法であるか否かの判断に当たっては,被告国にシビアアクシデント対策についての規制権限があることに加え,その不行使が著しく合理性を欠くと認められるか否かが,原因事象ごとに判断されなければならない。 まず,津波について,国際原子力機関(IAEA)が平成23年11月に発表した報告書において,確率論的津波ハザード解析手法について,「津波ハザ- 226 -ードを評価するために各国で適用されている現在の実務ではない。確率論的アプローチを用いた津波ハザード評価の手法は提案されているが,標準的な評価手順はまだ開発されていない。」と評価しているとおり,確率論的津波ハザード解析手法は,平成18年当時のみならず,本件事故時においても,国内外で研究,開発途上にあり,確立した手法ではなかった。また,米国において1991(平成3)年から1996(平成8)年までに実施された外的事象を含めた個別プラントごとのPSAに,津波を原因事象とするPSAは含まれていない。 本件事故後の平成23年12月,日本原子力学会において,「原子力発電所に対する津波を起因とした確率論的リスク評価に関する実施基準:2011」が策定された。これを踏まえて,新規制基準適合性に係る審査において,審査官が審査の参考にするための手引きである「基準津波及び耐津波設 する津波を起因とした確率論的リスク評価に関する実施基準:2011」が策定された。これを踏まえて,新規制基準適合性に係る審査において,審査官が審査の参考にするための手引きである「基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド」(以下「津波審査ガイド」という。丙A94)には,「4.超過確率の参照」として,上記実施基準及び「東北地方太平洋沖地震による津波から得られた知見等を踏まえて,確率論的津波ハザード評価を行い,評価地点における基準津波による水位の超過確率が求められていることを確認する。」としており,津波PSAは,本件地震による津波から得られた知見等を踏まえて行われることとなった。 本件事故当時,我が国において実施されていたPSAは主に内的事象に関するものであり,一部地震についてのPSAも実施されていた。しかしながら,本件事故に至るまで,原子炉施設に対して重大な影響を及ぼし得る外的事象として重視されていたのは津波よりも地震であり,確率論的津波ハザード解析手法は,開発途上にあった。原子力安全委員会安全目標専門部会が平成18年3月28日に策定・公表した「発電用軽水型原子炉施設の性能目標について-安全目標案に対応する性能目標について-」(丙A95)においても,「PSA手法は,我が国において,発電炉の定期安全レビューや,内的事象に対するア- 227 -クシデントマネジメント対策の評価などに,既に活用されている技術であるが,外的事象に対しては,今後,評価実績の積み重ねが必要とされる技術である。」とされている。また,原子力安全委員会が同年9月に改定した平成18年耐震設計審査指針(丙A15の2)においても,外的事象に起因するシビアアクシデント発生のリスクについては「残余のリスク」として考慮することが求められているにとどまる。そして,「残余のリスク」 年耐震設計審査指針(丙A15の2)においても,外的事象に起因するシビアアクシデント発生のリスクについては「残余のリスク」として考慮することが求められているにとどまる。そして,「残余のリスク」の考慮方法としてPSAの手法を用いることについては,平成18年耐震設計審査指針を発出した際の原子力安全・指針専門部会の見解は,「手法の成熟度に関する認識において専門家間でもかなりのばらつきや不一致があること,原子力安全規制上のリスクに対する明確な定量的目標値が未設定であるという現状等を踏まえ,なお今後の検討に委ねるべき事項があるとの理由により,全面的採用には至らなかった。」とされている。上記のとおり,地震については,津波と比較して相対的に研究は進んでいたが,それでも過去の発生実績が乏しい上,手法の確立も不十分であったことから,地震ですら本件事故時点においてなおPSAの手法に基づく安全性評価の研究は未確立の状況にあった。 以上のとおり,本件事故当時においては,津波と比較して相対的に研究が進んでいた地震ですらPSAの手法に基づく安全性評価の研究は未確立の状況にあり,本件地震及びこれに伴う津波の発生,到来については予見できない状況にあったのであるから,被告国が地震や津波を原因事象とするシビアアクシデント対策の実施を被告東電に求めていなかったとしても著しく合理性を欠くとはいえない。 ⑷ 安全設計審査指針及び発電用原子力設備に関する省令62号において短時間の全交流電源喪失を規定していたことが不合理ではないことア省令62号16条5号及び33条5項が平成13年安全設計審査指針の指針27を前提としていること平成18年当時の省令62号16条は「原子力発電所には,次の各号に掲- 228 -げる設備を施設しなければならない。」と 項が平成13年安全設計審査指針の指針27を前提としていること平成18年当時の省令62号16条は「原子力発電所には,次の各号に掲- 228 -げる設備を施設しなければならない。」とし,その同条5号において「原子炉停止時(短時間の全交流動力電源喪失時を含む。)に原子炉圧力容器内において発生した残留熱を除去することができる設備」と規定していた。また,省令62号33条5項は,「原子力発電所には,短時間の全交流動力電源喪失時においても原子炉を安全に停止し,かつ,停止後に冷却するための設備が動作することができるよう必要な容量を有する蓄電池等を施設しなければならない。」と規定していた。これらの規定は,いずれも短時間の全交流電源喪失時(省令62号16条5号についてはそれを含む原子炉停止時)に機能するために施設しておかなければならない設備について規定したものであって,長時間の全交流電源喪失の場合について規定したものではない。 平成13年安全設計審査指針の指針27は,電源喪失に対する設計上の考慮として,「原子炉施設は,短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であること。」と定めていた。省令62号16条5号及び33条5項は,安全設計審査指針27を前提として規定されたものである。 イ短時間の全交流電源喪失を規定したことが不合理ではないこと原子炉施設においては,平成13年安全設計審査指針が,全交流電源喪失を防ぐための様々な設計上の要求を課している。具体的には,平成13年安全設計審査指針の指針48「電気系統」の1は,「重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を 指針48「電気系統」の1は,「重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であること」を求めている。また,平成13年安全設計審査指針の指針48「電気系統」の2は,外部電源系について,平成13年安全設計審査指針の指針2及び平成18年耐震設計審査指針により耐震基準をCクラスとし,一般産業施設と同等の耐震安全性を求めた上で,「2回線以上の送電線により電力系統に接続された設計であること。」を求めて- 229 -いる。さらに,平成13年安全設計審査指針の指針48「電気系統」の3は,非常用所内電源系について,平成13年安全設計審査指針の指針2及び平成18年耐震設計審査指針により耐震基準をSクラスとして最も高い耐震安全性を求めた上で,「非常用所内電源系は,多重性又は多様性及び独立性を有し,その系統を構成する機器の単一故障を仮定しても」,「運転時の異常な過渡変化時」において,設計範囲内で「原子炉を停止し,冷却すること」及び「原子炉冷却材喪失等の事故時の炉心冷却を行い,かつ,原子炉格納容器の健全性並びにその他の所要の系統及び機器の安全機能を確保すること」を「確実に行うのに十分な容量及び機能を有する設計であること」を求めている。加えて,平成13年安全設計審査指針の指針9の2及び9の3は,原子炉施設全般について,「信頼性に関する設計上の考慮」として,「重要度の特に高い安全機能を有する系統については,その構造,動作原理,果たすべき安全機能の性質等を考慮して,多重性又は多様性及び独立性を備えた設計であること」及び,「その系統を構成する機器の単一故障の仮定に加え,外部電源が利用できない場合においても,その系統の安全機能が達 べき安全機能の性質等を考慮して,多重性又は多様性及び独立性を備えた設計であること」及び,「その系統を構成する機器の単一故障の仮定に加え,外部電源が利用できない場合においても,その系統の安全機能が達成できる設計であること」をそれぞれ求めている。 このように,原子炉施設においては,平成13年安全設計審査指針の指針9及び指針48において,全交流電源喪失事象(SBO)の発生を防止するため,様々な設計上の要求を課しており,複数回線で接続された外部回線の修復が長時間にわたり期待できず,かつ,非常用所内電源系の系統又は電源機器の全ての機能が阻害され,その修復が長時間にわたり期待できないという事態が同時発生することはおよそ想定し難いと考えられ,そもそも全交流電源喪失事象(SBO)の発生頻度も非常に低いと考えられていた。その上で,平成13年安全設計審査指針は,上記防止策にもかかわらず,万が一にも全交流電源喪失事象(SBO)が発生した場合に備えて,指針27「電源喪失に対する設計上の考慮」において,外部電源ないし非常用交流電源設備- 230 -(非常用ディーゼル発電機)が復旧するまでの間,直流電源を用いることで制御可能な冷却設備を運転させて炉心の冷却を維持できるように設計上の考慮を求めていたのであり,平成13年安全設計審査指針が不合理であったとはいえない。 昭和52年以後の原子炉施設の安全審査においては,全交流電源喪失事象(SBO)の発生を防止するため,様々な予防策を講じているにもかかわらず,全交流電源喪失が発生した場合にも,原子炉を安全に停止し,交流電源を必要としない系統,機器を,必要な直流電源の蓄電池を用いて制御することにより,原子炉を一定時間にわたって冷却することが可能となるように設計されているかを審査しており,平成13年安全設計審査指針の を必要としない系統,機器を,必要な直流電源の蓄電池を用いて制御することにより,原子炉を一定時間にわたって冷却することが可能となるように設計されているかを審査しており,平成13年安全設計審査指針の指針27が規定する「短時間」とは30分間以下のことであると解釈する慣行がとられてきた。我が国では,交流電源喪失事象について,外部電源喪失頻度が極めて低く,外部電源復旧時間も全て30分以内であり外部電源系の信頼性が極めて高く,非常用ディーゼル発電設備及び直流電源についても信頼性は高いと評価されていた。したがって,短時間の全交流電源喪失について規定したことが不合理であるというべき状況にはなかった。 ウ以上のとおり,全交流電源喪失事象(SBO)については,その発生を防止するため,平成13年安全設計審査指針の指針9及び指針48において様々な設計上の要求を課すことにより,発生頻度が非常に低いと考えられたにもかかわらず,そのような事態に備えて平成13年安全設計審査指針の指針27を設けたものであり,実際にとられた措置を見ても,我が国においては外部電源系及び非常用ディーゼル発電機の信頼性が高かったことからすれば,同指針27において短時間の全交流電源喪失を規定したことが不合理なものであったとはいえない。したがって,省令62号16条5号及び33条5項が短時間の全交流電源喪失を規定したことは不合理なものであったとはいえず,原告らの上記主張は理由がない。 - 231 -⑸ 被告国の行政指導による規制措置が手段として実効性を欠いていたことを指摘する原告らの主張が失当であること原子力安全委員会は,平成18年9月19日,昭和56年の旧指針策定以降現在までにおける地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに発電用軽水型原子炉施設の耐震設計技術の著 が失当であること原子力安全委員会は,平成18年9月19日,昭和56年の旧指針策定以降現在までにおける地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに発電用軽水型原子炉施設の耐震設計技術の著しい改良及び進歩を反映し,旧指針を全面的に見直すとの趣旨から,平成13年耐震設計審査指針を改訂した。上記改訂後の平成18年耐震設計審査指針は,その後の原子炉設置等許可処分の申請に対する安全審査において適用されるものであったが,保安院は,同月20日,平成18年耐震設計審査指針を受け,被告東電を含む原子力事業者に対し,既設の発電用原子炉施設等について,改訂された耐震指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,報告するよう指示した(耐震バックチェック)。他方,経済産業大臣は,前記耐震バックチェックの作業が進められていた平成19年7月16日に発生した新潟県中越沖地震を踏まえ,同月20日,被告東電を含む電力会社に対し,同地震から得られる知見を耐震安全性の評価に適切に反映するなどして,国民の安全を第一とした耐震安全性の確認などを指示した。また,被告東電は,平成20年3月31日,保安院に対し,福島第一原発について,耐震バックチェック中間報告書を提出したところ,保安院は,合同WGの議論に基づき,平成21年7月21日付けで,評価書(「耐震設計審査指針の改訂に伴う東京電力株式会社福島第一原発5号機耐震安全性に係る中間報告の評価について」(丙A72)及び「耐震設計審査指針の改訂に伴う東京電力株式会社福島第二原子力発電所4号機耐震安全性に係る中間報告の評価について」(丙A73)。以下,両者を併せて「本件各評価書」という。)を作成し,同日,被告東電にこれを通知した。本件各評価書は,原子力安全委員会により更に審議され,原子力安全委員会は,平成21年11月19日,同月17日 )。以下,両者を併せて「本件各評価書」という。)を作成し,同日,被告東電にこれを通知した。本件各評価書は,原子力安全委員会により更に審議され,原子力安全委員会は,平成21年11月19日,同月17日に同委員会耐震安全性評価特別委員会で取りまとめられた本件各評価書に対する見解について審議した結果,いずれも妥当なものと認め,その旨の原子力安全- 232 -委員会決定をした。保安院は,平成22年6月頃,電事連に連絡し,各事業者のバックチェックの進捗状況をまとめた一覧表を作成させた上,作業が遅れている被告東電等の事業者に対し,保安院として津波対策を含む最終報告書の早期提出を促すべく,指示を出すことを検討していることを伝え,平成23年3月7日にも,被告東電に対し,早期に津波対策についての検討を行い,バックチェックの最終報告を提出するよう促した。このように,被告国は,耐震バックチェックに関し,被告東電を含む原子力事業者に対し,耐震バックチェックを指示していた。そして,耐震バックチェックの作業は,当初の計画から遅れてしまっていたものの,それは,新潟県中越沖地震の発生を受けて,被告国が原子力事業者に対し,同地震から得られる最新知見を耐震安全性の評価に適切に反映し,国民の安全を第一とした耐震安全性を確認するよう求め,また,調査審議における専門家からの指摘事項について原子力事業者の回答を求め,原子力事業者において,改めて活断層評価,地震動評価等のための追加の調査等が必要となったためである。耐震バックチェックの遅れは,上記の原子力事業者における追加の調査等や保安院及び原子力安全委員会における調査審議が,バックチェックの対象となる全国23の原子炉施設について同時進行的に行われていたからであり,これは,正に被告国がその時々に得られた知見に基づいた安全対策 安院及び原子力安全委員会における調査審議が,バックチェックの対象となる全国23の原子炉施設について同時進行的に行われていたからであり,これは,正に被告国がその時々に得られた知見に基づいた安全対策を講ずるように行政指導を繰り返してきたことを示すものである。 被告国は,平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震が設計時に算定していた地震動を大きく上回ったことや火災が発生したこと等から,安全確保に万全を期すべく,同月20日,化学消防車の配置等の自衛消防体制の強化等を各事業者に指示した。この指示を受けて被告東電は,同月26日,改善計画を提出し,平成20年2月までに化学消防車2台及び水槽付消防車1台を被告東電柏崎刈羽原子力発電所に配備するとともに,防火水槽を複数箇所に設置し,平成22年6月には,同原発の各号機のタービン建屋等に消火系につながる送水- 233 -口を増設した。さらに,平成22年7月頃,発電所対策本部を設置する緊急時対策室を事務本館から免震重要棟に移転した。これらの一連の対応は,一次的には地震と火災などの複合災害発生時等における初期消火活動のより確実な実施を目的とするもので,シビアアクシデント対策として整備されたものではないが,被告国の指導により,新潟県中越沖地震のような当初想定していた地震動を上回る大規模な震災が発生しても原子炉施設の安全確保をすべく追加で整備されたものである。免震重要棟については,本件地震の際に特段の被害はなく,発電所対策本部が免震重要棟内の緊急時対策室に設置され,その機能を果たすことができた。また,消防車については,本件地震の際の臨機の応用動作として,消防車による原子炉への代替注水及び海水注入が実施された。さらに,福島第一原発6号機の非常用空冷ディーゼル発電機(D/G)については,本件地震及び本件津 いては,本件地震の際の臨機の応用動作として,消防車による原子炉への代替注水及び海水注入が実施された。さらに,福島第一原発6号機の非常用空冷ディーゼル発電機(D/G)については,本件地震及び本件津波到達後もその機能を維持し,かつ,同6号機のみならず,5号機にも電源を融通することができたため,同5号機及び6号機については,各種監視計器の確認や,原子炉内への注水など,プラント制御に必要な操作を行うことができ,その結果,5号機及び6号機は冷温停止に至った。 このように,新潟県中越沖地震後の経済産業大臣の指示とこれによる設備の追加整備などは,本件事故の被害軽減に大きな効果があった。 以上より,耐震バックチェックなど被告国の行政指導による規制措置が手段として実効性を欠いていたことを指摘する原告らの主張は失当である。 6 本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性(原告らの主張の要旨)原発の設置許可処分の取消しによって保護しようとする権利・利益は,人間の生命,身体,健康,ひいては人間生活そのものであり,重大なものである。また,前記(予見可能性)(原告らの主張の要旨)のとおり,津波,地震,原子力発電所事故等に関する知見の蓄積により,被告国は,遅くとも平成18年には,福島第一原発の敷地高さを超える津波によって全交流電源喪失に至り,過酷事故- 234 -が発生する危険性を認識し又は認識し得る状況にあり,海外においては過酷事故対策が規制化され,国内でもその必要性が認識されていた。それにもかかわらず,我が国においては,内部事象のみを過酷事故対策の対象とし,地震や津波などの外部事象は対象とされなかった。したがって,平成18年当時,被告東電は,津波や過酷事故に対する十分な対策は採っておらず,原子力発電施設の設置許可処分の取消しによって保護 の対象とし,地震や津波などの外部事象は対象とされなかった。したがって,平成18年当時,被告東電は,津波や過酷事故に対する十分な対策は採っておらず,原子力発電施設の設置許可処分の取消しによって保護される利益が上記のとおり重大なものであることに鑑みれば,福島第一原発の各号機が,当時の炉規法24条1項4号(「原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質…核燃料物質によって汚染された物…又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること」)の要件に適合しない状態にあるものとして,本件設置等許可処分を直ちに取り消すべきであった。それにもかかわらず,経済産業大臣(当時)は,被告東電と一体となって,事業者の利益追求の姿勢を容認し,津波や地震を含めた安全規制を怠り,本件設置等許可処分の取消しを行わなかったのであり,本件設置等許可処分を取り消さなかったことは違法である。 (被告国の主張の要旨)前記(予見可能性)(被告国の主張の要旨)のとおり,被告国については,本件地震及びそれに伴う本件津波と同規模の地震及び津波が福島第一原発に発生・到来することはもとより,敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波が到来することについての予見可能性を認めることはできないのであるから,被告国に本件設置等許可処分を取り消すべき義務は発生せず,本件設置等許可処分を取り消さなかったことが違法とはいえない。 7 本件事故後の避難指示の違法性(原告らの主張の要旨)⑴ 被告国による避難指示被告国は,福島第一原発における全交流電源喪失及び非常用炉心冷却装置不能といった事態を受け,平成25年3月11日午後7時3分原子力緊急事態宣- 235 -言を発出した。同時に,原災本部を官邸に,原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という。)をオフサイトセンタ いった事態を受け,平成25年3月11日午後7時3分原子力緊急事態宣- 235 -言を発出した。同時に,原災本部を官邸に,原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という。)をオフサイトセンターに,それぞれ設置した。その後,原災本部は,福島県知事及び関係自治体に対し,数次にわたって,原子力発電所から一定の距離の居住者等に対する避難・屋内退避指示をした。平成23年3月11日から同月15日までの間の指示内容は,以下のとおりである。 ① 3月11日午後9時23分・半径3km 圏内避難指示・半径3km ないし10km 圏内屋内退避指示② 3月12日午前5時44分・半径10km 圏内避難指示③ 3月12日午後6時25分・半径20km 圏内避難指示④ 3月15日午前11時・半径20km ないし30km 圏内屋内退避指示⑵ 上記のような避難指示の伝達は,原子力災害対策マニュアル上は,現地対策本部長が現地オフサイトセンターにおいて決定すべき事項とされているにもかかわらず,初期段階で現地対策本部がほとんど機能麻痺の状態にあったことから,官邸において避難指示の内容が決定された。また,これらの決定にあたり,SPEEDIの所轄官庁である文部科学省の関係者が官邸に常駐した形跡はなく,結果,SPEEDIについての知見が生かされることはなかった。 ⑶ 被告国は,避難指示を迅速に伝達するために,関係省庁や関係地方自治体と連携して関係組織全体で対応できる体制を整備した上で,シビアアクシデント発生時にも十分に機能するホットラインを事前に確保しておかなくてはならなかったところ,被告国はかかる義務を怠った。その結果,被告国による避難指示は,避難対象区域となった地方自治体全てに迅速 シデント発生時にも十分に機能するホットラインを事前に確保しておかなくてはならなかったところ,被告国はかかる義務を怠った。その結果,被告国による避難指示は,避難対象区域となった地方自治体全てに迅速に届かなかった。また,被告国によってされた指示内容は,「ともかく逃げろ。」というだけに等しく,- 236 -きめ細かさに欠けていた。各自治体は,原発事故の状況について,テレビ,ラジオ等で報道される以上の情報を得られないまま,住民避難の決断と避難先探し,避難方法の決定をしなければならなかった。 被告国の避難指示は,前記⑴①ないし④のとおり,時間の経過につれて,単に同心円状に避難範囲を広げていったものにすぎない非常に大雑把なものであった。実際に,①の避難指示がされたときには,既に対象住民は津波への対応のため,おおむね3km 圏外へ避難しており,翌12日零時30分,3km の避難圏内における住民避難が完了済であることが緊急避難チームにおいて確認されているのであって,被告国による①の避難指示は,本件事故ではなく,津波に対する住民の避難行動を後追いしたにすぎないという,極めて不十分なものであった。また,被告国による避難指示は,単に同心円状に避難範囲を広げていったものに過ぎなかったため,住民の避難経路と放射性物質の飛散した方向が一致するという事態すら発生してしまった。 ④の避難指示が出された時点では,事故後既に3日を経過しており,風向きなどは分析可能だったのであるから,避難範囲を同心円状に20km か30kmかの二者択一で判断するのは大まかにすぎる。また,20km 圏内の者が実際に避難している一方で,20km から30km の範囲内の者は屋内退避としている科学的根拠は薄弱である。このように,本件事故直後から平成23年3月15日までの間に,被告国に 20km 圏内の者が実際に避難している一方で,20km から30km の範囲内の者は屋内退避としている科学的根拠は薄弱である。このように,本件事故直後から平成23年3月15日までの間に,被告国による具体的な避難指示は,科学的根拠が極めて薄弱であるだけでなく,「ともかく逃げろ。」というだけに等しい,きめ細やかさにも欠けた不適切かつ不十分なものであった。 ⑷ 原災法15条1項は,「主務大臣は,(中略)原子力緊急事態が発生したと認めるときは,直ちに,内閣総理大臣に対し,その状況に関する必要な情報の報告を行うとともに,(中略)第三項の規定による指示の案を提出しなければならない。」と規定しているにもかかわらず,内閣総理大臣の原子力緊急事態宣言は「直ちに」行われたとはいえなかった。 - 237 -被告東電は,15条報告(平成23年3月11日午後4時36分)に先立つ同日午後3時42分,保安院等に対し,いわゆる10条通報を行っており,この時点で,保安院は,官邸等に対しその旨の連絡を行うなどしているから,15条報告を受けた時点で,保安院ないし「主務大臣」たる経済産業大臣は,既に,原子力緊急事態の発生を十分に認識していた。それにもかかわらず,経済産業大臣が内閣総理大臣に対し原子力緊急事態宣言の上申をするまでには,約1時間もの時間を要しているのであって,「直ちに」という原災法15条1項の要求は,およそ満たされていない。また,本件における原子力緊急事態宣言は,経済産業大臣の上申から約1時間20分後にようやく発出されているのであって,かかる内閣総理大臣ないし官邸の対応は,「直ちに」などと評価されるものでない。内閣総理大臣は保安院の職員に対し質問をしているが,この「質問」とは,原子力緊急事態宣言の発出や原災本部の速やかな設置の必要性に直結する質問ではな 邸の対応は,「直ちに」などと評価されるものでない。内閣総理大臣は保安院の職員に対し質問をしているが,この「質問」とは,原子力緊急事態宣言の発出や原災本部の速やかな設置の必要性に直結する質問ではなく,技術的な観点についての質問,法令上の根拠に関する質問,嘆きないし不満レベルの質問等の繰り返しにすぎなかった。さらに,内閣総理大臣は,原子力緊急事態宣言の上申をした経済産業大臣らが,再三にわたり原子力緊急事態宣言の発出を要請したにもかかわらず,これを了解せず,内閣総理大臣は,非常事態の最中にもかかわらず,与野党党首会談に出席するためその場を中座し,原子力緊急事態宣言の発出をさらに遅らせている。以上のように,内閣総理大臣が,即座に答えることが困難な事故の原因に関する質問を繰り返したり,与野党党首会談への出席を優先させたりしたことから,原子力緊急事態宣言の発出を後回しにしたものであり,内閣総理大臣ないし官邸の原子力緊急事態宣言の発出は,「直ちに」されたとは評価できない。 ⑸ 本件事故後の避難指示については,本件事故後の事実であるから,本件事故を発生させた原因ではないが,不十分な避難指示や後述の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避という被告国の行為は,原告らに対し,健康被害の不安を増幅させ,不安に基づく避難を余儀なくさせ,ひいては平穏で安全- 238 -な生活を奪った。したがって,不十分な避難指示は,原告らの損害を発生・増幅される原因の一つであったといえる。したがって,不十分な避難指示は,本件事故の発生原因である規制権限の不行使などの他の責任原因とあいまって原告らの損害と相当因果関係を有するものである。 (被告国の主張の要旨)⑴ 原子力緊急事態宣言の発出に遅れがあったという原告らの主張は理由がないこと原災 の責任原因とあいまって原告らの損害と相当因果関係を有するものである。 (被告国の主張の要旨)⑴ 原子力緊急事態宣言の発出に遅れがあったという原告らの主張は理由がないこと原災法15条1項が,「主務大臣は,(中略)原子力緊急事態が発生したと認めるとき」として,主務大臣が内閣総理大臣への報告等を行う前提となる原子力緊急事態の発生の有無を主務大臣の主観的判断に係らしめているのは,客観的に原子力緊急事態が生じていないにもかかわらず,原子力緊急事態宣言が発出されるような場合を除外するためである。したがって,飽くまでも主務大臣が原子炉施設の状況等を確認した上で,原災法15条1項のスキームが発動することになっている。保安院は,平成23年3月11日午後4時45分頃,被告東電から,原災法施行規則21条1号ロ所定の事象が発生した旨報告を受けると,技術的な確認を行い,原子力緊急事態が発生したと判断し,同日午後5時35分頃には,主務大臣たる経済産業大臣も,保安院からの報告を受けて,原子力緊急事態が発生したと判断し,原子力緊急事態宣言を発出することについて了承している。このように,主務大臣たる経済産業大臣は,被告東電からの報告を受け,本件地震,これに伴う本件津波及び本件事故によって混乱が生じているにもかかわらず,原子力緊急事態の発生を約50分足らずで的確に判断している。 原災法15条1項の「直ちに」という文言は,法令上,強い時間的即時性を要求する場合に用いられる文言であるところ,主務大臣たる経済産業大臣は,平成23年3月11日午後5時35分頃に原子力緊急事態の発生を認めてから,僅か約7分後である同日午後5時42分頃には,内閣総理大臣に対し,原- 239 -災法15条1項所定の報告等を行い,原子力緊急事態宣言の上申を行っているから, 原子力緊急事態の発生を認めてから,僅か約7分後である同日午後5時42分頃には,内閣総理大臣に対し,原- 239 -災法15条1項所定の報告等を行い,原子力緊急事態宣言の上申を行っているから,原子力緊急事態の発生を認めた後,「直ちに」内閣総理大臣に対して報告等をしたといえる。 また,原災法15条2項本文は,「内閣総理大臣は,前項の規定による報告及び提出があったときは,直ちに,原子力緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(以下「原子力緊急事態宣言」という。)をするものとする。」と規定している。これを本件についてみると,内閣総理大臣は,平成23年3月11日午後5時42分頃,経済産業大臣らから,原災法15条1項に規定する原子力緊急事態の発生について報告を受けるなどした際,爆発や燃料溶融の可能性を含めた福島第一原発の事故の状況及び今後の見通し並びに同原発の各号機の出力といった技術的な事項等や原災法及び関連法規の規定等について質問したが,保安院職員らは,明確な回答ができず,やり取りの途中で,内閣総理大臣は,同日午後6時12分頃から開催された与野党党首会談に出席したため,上申手続は一旦中断した。しかし,その中断時間の間に経済産業大臣は内閣総理大臣からの質問に対する回答のために必要な調査や資料収集をするなど無駄な時間を発生させることはなく,結局,内閣総理大臣は,与野党党首会談終了(同日午後6時17分頃)後,遅くとも同日午後6時30分頃までに,原子力緊急事態宣言の発出を了承することができた。一度,原子力緊急事態宣言を発出すれば,様々な社会的影響が予想されるところであり,主務大臣が原子力緊急事態宣言を発出する権限を認めておらず,飽くまでも主務大臣から報告等を受けるなどした内閣総理大臣のみに原子力緊急事態宣言を発出する権限を認めていることか 予想されるところであり,主務大臣が原子力緊急事態宣言を発出する権限を認めておらず,飽くまでも主務大臣から報告等を受けるなどした内閣総理大臣のみに原子力緊急事態宣言を発出する権限を認めていることからすれば,これを発出する内閣総理大臣自らが,原災法15条1項に基づく主務大臣からの報告の際に,主務大臣に対し,原子力緊急事態宣言を発出する前提となる事実関係の確認等を行うことをも法が当然予定している。したがって,内閣総理大臣が,主務大臣らに対し,必要な限度で上記のような事実関係の確認等を行うことも許容され,かかる事実関係の- 240 -確認等を行い,上申手続が終了した時点をもって,原災法15条2項の「前項の規定による報告及び提出があった」ものというべきである。本件では,平成23年3月11日午後5時42分頃から,経済産業大臣らによる内閣総理大臣に対する原災法15条1項の報告等が開始し,内閣総理大臣が事実関係の確認等を行った結果,同日午後6時30分頃までに原子力緊急事態宣言の発出を了承したというのであるから,その時点で上申手続が終了したといえ,同日午後6時30分頃に経済産業大臣らによる原災法15条1項の報告等が終了したことになる。そして,内閣総理大臣は,経済産業大臣らによる原災法15条1項の報告等が終了した後,原子力緊急事態宣言の発出の準備等を行い,同日午後7時3分に原子力緊急事態宣言を発出しているから,「直ちに」原子力緊急事態宣言を発出したといえる。以上より,内閣総理大臣は,経済産業大臣から,原災法15条1項に基づき,原子力緊急事態の状況に関する必要な情報の報告を受けるとともに,原災法15条2項に掲げる事項の公示及び同条3項の規定による指示の案の提出を受けてから,直ちに原子力緊急事態宣言をしたものと認められる。 ⑵ 内閣総理大臣によ 要な情報の報告を受けるとともに,原災法15条2項に掲げる事項の公示及び同条3項の規定による指示の案の提出を受けてから,直ちに原子力緊急事態宣言をしたものと認められる。 ⑵ 内閣総理大臣による避難及び屋内待避指示(以下「避難指示等」という。)は適時かつ適切に行われたことア原告らは,「きめ細やかさに欠けた,不適切な避難指示」と主張するのみで,その主張は全く具体性を欠く上,本件の個別の原告らとの関係でどのように損害を拡大させたのかも何ら明らかにされていない。そのため,原告らの前記主張は主張自体失当というべきである。 イ原災法は,内閣総理大臣に対し,避難指示等を発出する権限を付与しているものの,避難指示等をするに当たって考慮すべき情報や避難指示等を発出する要件は一義的に定めていない。また,原子力災害時には,人命保護の観点から,一刻も早く臨機応変に対策を採ることが必要な場合があるものの,具体的状況下で放射線被ばくの危険性を判断するには専門的知見が必要で- 241 -ある。さらに,避難を含む防護対策は,単に線量のみではなく,対策の実現の可能性,実行することによって生じる危険,影響する人口規模及び低減されることとなる線量等の諸事情を総合考慮して臨機応変に決定されるべきものとされている。そうすると,原災法に基づく避難指示等の権限の行使は,その性質上,内閣総理大臣の専門技術的裁量に委ねられており,内閣総理大臣には避難指示等の権限行使の時期及び指示の内容について広い裁量が認められているというべきである。 ウ内閣総理大臣による避難指示等は,EPZの目安を踏まえつつ状況の進展に応じて適切に行われた。 福島第一原発から半径3km 圏内の居住者等に対する避難指示及び半径10km 圏内の居住者等に対する屋内退避の指示内閣 難指示等は,EPZの目安を踏まえつつ状況の進展に応じて適切に行われた。 福島第一原発から半径3km 圏内の居住者等に対する避難指示及び半径10km 圏内の居住者等に対する屋内退避の指示内閣総理大臣は,福島第一原発における全交流電源喪失及び非常用炉心冷却装置注水不能という事態を受け,平成23年3月11日午後7時3分,原子力緊急事態宣言を発し,原災法16条1項に基づき,原災本部を設置した。そして,内閣総理大臣及び経済産業大臣らが,原子力安全委員会委員長,保安院次長及び東京電力幹部らに対し,原子炉の状況や避難範囲等について意見を求めたところ,最悪の場合には炉心損傷もあり得ること,それを避けるためにはベントを行う必要があること,避難範囲については原子力安全委員会が定めた防災指針でEPZの目安が半径10km となっているところ,IAEAの文書で示された予防的措置範囲(PAZ)が半径3km となっているためベントの実施を前提としても半径3km を避難範囲とすれば十分であること,最初から避難範囲を広くすると渋滞が発生して取り急ぎ避難すべき半径3km 圏内の住民が避難できなくなることなどの意見が述べられたほか,保安院次長からは,ベントを行うような事態は通常の避難訓練においても想定されているが,避難範囲は半径3km とされているとの説明がされた。内閣総理大臣は,これらの意見や説明- 242 -を踏まえ,福島第一原発から半径3km 圏外への避難及び3ないし10km圏内における屋内退避の指示をすることを決定し,同日午後9時23分,各地方公共団体の長に対し,福島第一原発から半径3km 圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び同原発から半径10km 圏内の居住者等に対して屋内退避を行うことを指示した。 福島第一原発から半径1 に対し,福島第一原発から半径3km 圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び同原発から半径10km 圏内の居住者等に対して屋内退避を行うことを指示した。 福島第一原発から半径10km 圏内の居住者等に対する避難指示内閣総理大臣は,平成23年3月12日午前5時30分頃,1号機における原子炉格納容器圧力が異常に上昇する等の事態を受け,原子力安全委員会委員長,原子力・保安院次長ら同席の下,関係閣僚らとともに,避難範囲について再度検討を行った。内閣総理大臣は,その際,管理された状況下でベントを実施するのであれば避難範囲を拡大する必要はないが,いまだベントが実施できていないこと,ベントを実施した場合でもEPZの半径10km に避難範囲を拡大すれば相当な事態にも対応できるとの意見が出されたことを踏まえ,避難範囲を半径10km に拡大することを決め,同日午前5時44分,各地方公共団体の長に対し,福島第一原発から半径10km 圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示した。 福島第一原発から半径20km 圏内の居住者等に対する避難指示引き続き1号機のベントが試みられていたところ,平成23年3月12日午後3時36分,1号機の原子炉建屋で爆発が発生した。経済産業大臣は,当時,1号機の原子炉を冷却するための淡水が枯渇していたにもかかわらず,1号機に海水注入が行われていなかったことから,同日午後5時55分,東京電力に対し,炉規法64条3項に基づく措置命令として,1号機への海水注入を命じた。その後,経済産業大臣,原子力規制委員会委員長,保安院次長及び東京電力フェローらがその旨を内閣総理大臣に報告した。これについて,内閣総理大臣が原子炉内に海水を注入した場合の再- 243 -臨界の可能性を尋ねたところ,同席して 委員会委員長,保安院次長及び東京電力フェローらがその旨を内閣総理大臣に報告した。これについて,内閣総理大臣が原子炉内に海水を注入した場合の再- 243 -臨界の可能性を尋ねたところ,同席していた原子力安全委員会委員長は,再臨界の可能性を否定しなかった。内閣総理大臣は,海水注入による再臨界の可能性があるとの発言があったと受け止め,関係閣僚らとともに,海水注入の是非を再度検討するとともに,避難範囲の拡大も検討し,同日午後3時36分に1号機原子炉建屋が爆発していること,当該爆発の原因が明らかでなかったことなどから,避難指示の範囲を半径20km に拡大することを決め,同日午後6時25分,各地方公共団体の長に対し,福島第一原発から半径20km 圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示した。 福島第一原発から半径20km 以上30km 圏内の居住者等に対する屋内退避の指示関係閣僚らは,平成23年3月14日午前11時1分頃3号機原子炉建屋が爆発したこと,同月15日午前6時頃4号機方向から衝撃音が発生したこと,同日午前8時11分頃4号機原子炉建屋5階屋根付近に損傷が確認されたこと,同日午前9時38分同原子炉建屋3階北西付近で火災が発生したことを受け,同日午前,避難範囲を拡大することについて検討を行った。その中で,避難指示の範囲を福島第一原発から半径30km に拡大することも議論されたが,そのような拡大を実施すると新たに約15万人が避難対象者となり避難に数日を要すること,避難中に大量の放射性物質が放出された場合は避難中の者が被ばくするリスクのあることなどが考慮され,いつ放射性物質が大量放出するか分からない緊迫した状況下においては,屋内退避の方が有効であるとの結論に達した。そこで,内閣総理大臣は,同月15日午前11 が被ばくするリスクのあることなどが考慮され,いつ放射性物質が大量放出するか分からない緊迫した状況下においては,屋内退避の方が有効であるとの結論に達した。そこで,内閣総理大臣は,同月15日午前11時,各地方公共団体の長に対し,福島第一原発から半径20km 以上30km 圏内の居住者等に対して屋内待避区域への退避を行うことを指示した。 以上のとおり,内閣総理大臣は,放射性物質の漏出が確認されておらず,- 244 -また,放射性物質が大量に放出される原因となるベントや爆発等の発生する前の時点において,EPZの目安やPAZを前提としつつ,原子力安全委員会委員長や保安院次長の専門的な意見や説明を踏まえて,予防的に,避難及び屋内退避という防護対策の選択及びそれらの指示をする範囲について判断した上,それから平成23年3月15日までの間も,福島第一原発で起きた種々の事象について逐次報告を受けて,状況の進展を認識する都度,関係閣僚と検討を行い,避難及び屋内退避を指示する範囲を拡大させていったものである。このような内閣総理大臣による避難及び屋内退避の指示は,災対法及び原災法の趣旨・目的に照らし,適時にかつ適切に行われたといえる。 8 本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性(原告らの主張の要旨)⑴ 本件では,被告国(文部科学省)は,本件事故が発生した平成23年3月11日以降,緊急時の対応として,SPEEDIを緊急時モードにし,まずは単位量放出を仮定した場合の予測計算を行い,さらにその後も様々な仮定の数値を放出源情報とした予測計算を行い,その計算結果という情報を得ていた。かかる計算結果は,本来モニタリング指針で予定されていたものには及ばないものではあったが,少なくとも,原告らを含む住民らが避難の方向を判断する指 た予測計算を行い,その計算結果という情報を得ていた。かかる計算結果は,本来モニタリング指針で予定されていたものには及ばないものではあったが,少なくとも,原告らを含む住民らが避難の方向を判断する指針としては,十分有用なものであった。仮に被告国が,これらの情報を適時適切に公表していれば,原告らを含む住民は,道路事情に精通した地元ならではの判断で,より適切な避難経路や避難方向を選ぶことが可能であったはずである。それにもかかわらず,被告国は,①本件事故直後の住民の避難(避難の有無や避難経路を決めること)に関して極めて有益な情報であった単位量放出定時計算結果を直ちに公表することを怠り,また,②逆推定計算結果及びそれにより得られた推定放出源情報に基づく被ばく線量の推定結果の性質(リアルタイムで算出されたものではないことなど)について十分な説明も怠っている。 - 245 -⑵ SPEEDIの利用がされるような緊急事態に至る原因として地震等の大規模災害は当然に想定されるところ,このような大規模災害により外部電源を喪失するなどして放出源情報等が得られなくなる事態は容易に想定されるから,災対法及び原災法,防災基本計画は,放出源情報等が得られる前の段階でも適宜得られる情報を避難指示等に利用することは当然に予定していたといえる。また,SPEEDIの予測結果は,いくつかの有力に想定し得る仮定を出すことが可能であるし,実際にそのように絞り込みをした上で他省庁に提供されているのであるから,いくつかの有力に想定し得る仮定から,最悪の予測結果を利用するという使い方も可能である。そして,このような予測結果を直ちに公表しないとしても,SPEEDIの仕組みや特性を深く理解している専門家等の協力を得て避難指示等に活かすべきであった。また,情報の確度が低く,避難指示等に である。そして,このような予測結果を直ちに公表しないとしても,SPEEDIの仕組みや特性を深く理解している専門家等の協力を得て避難指示等に活かすべきであった。また,情報の確度が低く,避難指示等に利用することが難しい場合でも,専門家の協力を得て,飽くまで仮定であることや様々な可能性があることを明示し,避難で混乱が生じそうな地域については適切な避難方法を地元自治体と協力して目処を立てた上で予測計算結果の公表方法を決めることも考えられた。さらに,被告国は,平成23年3月23日に逆推定結果について公表したものの,屋内退避地域の居住者等に対する自主避難要請をしたにとどまったが,子供などの感受性の強い者の存在や人の生活態様は様々であることに鑑みれば,逆推定結果が24時間屋外に居続けた場合の評価であったとしても,避難指示等にあたり重視すべきであった。以上より,被告国はSPEEDIの結果を利用したり,公表したりすることの不利益やそれにより混乱が生じた場合の責任を取ることを恐れるあまり,SPEEDIの結果を避難指示等に利用せず,十分な開示もしないまま先延ばしにした。 ⑶ 被告国は,平成23年3月23日に逆推定結果を公表したが,その際に逆推定結果がリアルタイムで算出されたものではなく再現計算されたものであることや通常のSPEEDIによる予測結果との違いについて十分な説明をせ- 246 -ず,単にSPEEDIの試算として公表した。そのため,情報を受け取った住民は,被告国がSPEEDIによる正確な予測計算の結果を得ていながらこれを隠ぺいした,被ばくに関する重要な情報を隠しているのではないかという不信感を持つことになった。また,文部科学省,保安院,安全委員会等が様々な仮定をして行った計算が開示されたのは,本件事故から10日以上経過した時期であり,公表 要な情報を隠しているのではないかという不信感を持つことになった。また,文部科学省,保安院,安全委員会等が様々な仮定をして行った計算が開示されたのは,本件事故から10日以上経過した時期であり,公表方法も五月雨式であり,かえって住民の不安感や不信感を招いた。 ⑷ 以上のように,法は放出源情報が明らかになる前の段階でも,SPEEDIによる予測結果を避難指示等に用いることを予定しており,被告国には予測結果を用いた適時適切な避難指示を行うか,あるいは十分な補足説明を付して情報を公開することが可能であった。それにもかかわらず,被告国は予測結果を避難指示に用いず,情報の不開示ないし隠避を続け,十分な説明もないまま逆推定結果の公表を行うなどした結果,国民に対してより一層の不信感と混乱を招いた。このように,被告国のSPEEDI運用にかかる一連の行為には過失が認められる。 そして,放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避は本件事故後の事実であるから,本件事故を発生させた原因ではないが,前述の不十分な避難指示や放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避という被告国の行為は,原告らに対し,健康被害の不安を増幅させ,不安に基づく避難を余儀なくさせ,ひいては平穏で安全な生活を奪うものであるから,本件事故の発生原因である規制権限の不行使などの他の責任原因とあいまって原告らの損害と相当因果関係を有するものである。 (被告国の主張の要旨)⑴ 原子力災害に関する情報としていかなる情報を提供するかは,緊急事態応急対策実施者の専門技術的裁量に委ねられていること原子力災害に関する情報提供に関しては,内閣総理大臣が,原災法15条2- 247 -項に基づき,原子力緊急事態宣言(原子力緊急事態が発生した旨及び同項各号に掲げる事項の公示)を行ったり, こと原子力災害に関する情報提供に関しては,内閣総理大臣が,原災法15条2- 247 -項に基づき,原子力緊急事態宣言(原子力緊急事態が発生した旨及び同項各号に掲げる事項の公示)を行ったり,原災本部長が同法20条5項に基づき,原子力緊急事態宣言において公示された同法15条2項1号及び3号に掲げる事項について変更する公示を行ったりするとされている他にも,指定行政機関の長などの防災基本計画等に基づく緊急事態応急対策実施者(以下,単に「緊急事態応急対策実施者」という。)が,原災法26条1項1号及び2項(災対法51条)に基づき,緊急事態応急対策として,原子力災害に関する情報提供を行うものとされている。しかしながら,原災法26条1項1号及び2項(災対法51条)においては,いかなる時点でいかなる情報をいかなる範囲・方法で伝達すべきかという点については具体的に定められていない。また,防災基本計画(原子力災害対策編)においては,原災本部,現地対策本部,指定行政機関等が,役割に応じて周辺住民のニーズを十分に把握し,原子力災害の状況,安否情報,医療機関などの情報,農林畜水産物の安全性の確認の状況等周辺住民に役立つ正確かつきめ細やかな情報を適切に提供するものとされているが,これによっても,提供すべき情報が具体的に定められているとはいい難い上,提供すべき時期や役割分担も明らかにされていない。さらに,災害時には,得られる情報,対応を迫られる時間,対応できる人員等様々な制約のある中で,必要性に応じた対応を迅速に行う必要がある上,原子力災害に関する情報にはその有用性,信頼性において様々なものがあり,信頼性の乏しい情報を提供してしまうと,不要な混乱を招いたり,問合せへの対応事務に追われたりする結果,本来の目的である迅速かつ効果的な災害対応に支障を生ずるおそれ 性,信頼性において様々なものがあり,信頼性の乏しい情報を提供してしまうと,不要な混乱を招いたり,問合せへの対応事務に追われたりする結果,本来の目的である迅速かつ効果的な災害対応に支障を生ずるおそれがある。これらの事情を考慮すると,緊急事態応急対策実施者が,原災法26条1項1号及び2項(災対法51条)に基づいて,いかなる時期にいかなる情報を提供するかは,発生した原子力緊急事態の内容を踏まえた迅速かつ専門的な判断が必要となる。したがって,原災法26条1項1号及び2項(災対法51条)は,この判断を緊急事態応急対策実施者の専門的な裁量に委ねたものと解され- 248 -る。 ⑵ 被告国のSPEEDIによる予測計算結果の取扱いは指針類に沿ったものであったことSPEEDIの取扱いは,災対法及び原災法において定められたものではなく,その具体的な運用方法は,原災マニュアル及びモニタリング指針に規定されていたところ,ERSSからの放出源情報が届いている場合には,当該情報等を用いた計算を行った予測図形を,避難や屋内退避等の具体的防護対策に用いることが予定されていた(ただし,この場合においても予測図形の公表が義務付けられていたわけではない。)ものの,放出源情報が得られていない場合の仮定の単位放出量等を前提にした計算を行った予測図形は,監視を強化する方位や場所,モニタリングの項目等の緊急時モニタリング計画の策定を行うために用いることが予定されていたにすぎず,その公表を義務付ける定めも置かれていなかった。本件事故発生後,ERSSからの放出源情報が入手できなくなったために,放出源情報を用いた計算を行うことが不可能になったのであり,そうである以上,SPEEDIを用いた予測図形を,避難や屋内退避等の具体的防護対策に用いないとしても,それはSPEEDI本 くなったために,放出源情報を用いた計算を行うことが不可能になったのであり,そうである以上,SPEEDIを用いた予測図形を,避難や屋内退避等の具体的防護対策に用いないとしても,それはSPEEDI本来の運用方法に適ったものといえる。他方,被告国は,放出源情報が得られていない状態であっても,仮定の単位放出量等を前提にして計算を行った予測図形を,モニタリングの優先順位を判断するための参考資料として用いており,当時の被告国の対応は,原災マニュアル及びモニタリング指針に可能な限り沿ったものであった。そして,被告国は,福島第一原発の事故の進展に合わせ避難や屋内退避指示を出したのに引き続き,モニタリング結果などに基づき,自主的避難要請や屋内滞在勧告を出したり,線量評価に基づいた避難指示等対象区域の指定等を適切に行ったりしたのであって,このようなSPEEDIの予測計算結果の取扱いに何ら不当な点はない。 ⑶ 仮にSPEEDIによる予測計算結果を直ちに公表していた場合,公表によ- 249 -る弊害が生じた可能性も高かったこと原告らは,単位量放出定時計算結果及び被告国(文部科学省)が仮定の放出源情報を入力して行ったSPEEDIの予測計算結果を早期に公表すべきであったと主張するが,仮に仮定の単位放出量等を前提にした予測図形を直ちに公表していた場合には,信頼できない不確実な情報によってかえって様々な弊害が生じた可能性が高い。また,SPEEDIの図は,飽くまでも特定の時点におけるものにすぎず,風向きや風速等によって拡散予測の結果は随時変わっていくものである。それにもかかわらず,これが公表された場合,多くの住民が一時的な風向きを踏まえたものであることを正解せずに図面の内容だけを過度に重視した結果として,同心円状に出された避難指示に従わない住民が増えたり れにもかかわらず,これが公表された場合,多くの住民が一時的な風向きを踏まえたものであることを正解せずに図面の内容だけを過度に重視した結果として,同心円状に出された避難指示に従わない住民が増えたり,逆に,本来的に避難の必要がない距離に居住する住民が,風向きのみのデータで多量の放射性物質が飛来してくるかもしれないと考えてパニックに陥り,多数の住民が一気に避難を開始するなどして交通機能の麻痺が更に深刻化したりするなど,被告国による避難指示等の実効性が薄れるものになった可能性もある。そして,このように十分な信頼性が担保されていない情報を当該情報が入手される都度公表していった場合,その都度仮定した条件や結果について詳細な説明をしなければ,深刻化する被災地の医療崩壊,ガソリン・医薬品の枯渇,被災地に悪影響を及ぼす関東圏でのガソリン・生活物資の買占め,交通機能の麻痺等が更に増大し,被災地で進行中の救命・救急活動へ悪影響を与えかねない危険性すらあった。さらに,拡散予測方向を知った住民が,拡散予測方向とは異なる方向に避難をしようとしたとしても,数時間後には拡散予測方向が変化してしまうため,避難をする方向を適切に判断し得たとは考え難い。しかも,本件地震や津波の影響により,被災地では道路の寸断などが多々あり,避難をする自動車で道路が大渋滞となっていたため,避難開始から数時間後に,拡散予測方向が変わったとの情報を知ったとしても,直ちに避難方向や目的地を変更し,拡散予測方向と異なる方向への避難を行うことは極めて困- 250 -難であったと解される。したがって,SPEEDIによる予測計算結果を早期に公表していたとしても,これが有効適切な避難に結び付いたとはいえない。 また,SPEEDIによる予測計算結果は風向きも含めて飽くまで「予測」であり,これを直ちに公 PEEDIによる予測計算結果を早期に公表していたとしても,これが有効適切な避難に結び付いたとはいえない。 また,SPEEDIによる予測計算結果は風向きも含めて飽くまで「予測」であり,これを直ちに公表した場合には,これが一人歩きし,住民らが誤った避難をする可能性もあった。このように,単位放出量等を仮定しただけの拡散計算の結果には信頼性がないことや,気象予測についても不確実性が伴うため,プルームの放出方向を確実に予測することは不可能である。そして,本件事故の経験を踏まえた現在の原子力災害発生時における防護措置の考え方においては,「原子力災害発生時に,予測に基づいて特定のプルームの方向を示すことは,かえって避難行動を混乱させ,被ばくの危険性を増大させることとなる。 さらに,避難行動中に,避難先や避難経路を状況の変化に応じて変えるということは不可能であり,避難自体を非常に困難なものにする。」と予測結果の公表について慎重な取扱いが求められることが指摘されている。以上によれば,被告国がSPEEDIの計算結果を早期に公表しなかったことが,著しく不合理であるとは到底いえないから,このことが国賠法上違法と評価されることはない。 ⑷ 単位量放出定時計算結果を活用していた場合,それによる弊害が生じた可能性が高かったこと単位量放出定時計算結果は,特定の時点における予測計算であるため,風向きや風速に応じて毎時の結果が異なり得るものであり,実際,本件においても,平成23年3月15日午前9時から同月16日午前7時までの間に単位量放出定時計算を行って,同月15日午前9時から同日午前10時までの拡散予測から同月16日午前7時から同日午前8時までの拡散予測を計算しているが,その拡散予測方向は数時間ごとに南南西,西,北西,北北西,北西,南,南東と目まぐるしく変化して から同日午前10時までの拡散予測から同月16日午前7時から同日午前8時までの拡散予測を計算しているが,その拡散予測方向は数時間ごとに南南西,西,北西,北北西,北西,南,南東と目まぐるしく変化している。そのため,単位量放出定時計算結果だけでは,避難すべき方向や経路を特定することができないのであるから,被告国が,単- 251 -位量放出定時計算結果を活用して,毎時に結果が出る都度にそれに従った避難指示等をするということになれば,次々に異なる方向への避難情報をもたらされた住民が混乱することは必至であるし,避難途中でその都度避難の方向を変えるというおよそ不合理で非現実的な避難情報を提供することになる。このように,単位量放出定時計算結果は,風向きや風速に応じて毎時異なり得るという性質を有しているのであるから,被告国が避難指示等を行うに当たって単位量放出定時計算結果を参考にしなかったことが,著しく不合理であったとはいえない。 ⑸ 以上のとおり,SPEEDIの具体的な運用方法は,原災マニュアル及びモニタリング指針において規定されていたところ,被告国のSPEEDIによる予測計算結果の取扱いは上記指針類に従ったものであり,これに反するものではなかった。かえって,SPEEDIによる予測計算結果を早期に活用・公表していた場合には,被告国による避難指示等の実効性が薄れたり被災地を更に混乱させる可能性も少なからずあったのであるから,かかる情報を早期に活用・公表しなかったことには十分な合理性が認められ,適切な措置であったといえる。したがって,被告国が,かかる情報を早期に活用・公表しなかったことが,国賠法上違法と評価される余地はないというべきである。 9 相互保証(原告らの主張の要旨)外国人が国家賠償請求をするには,その国籍国との間で相互の保証 を早期に活用・公表しなかったことが,国賠法上違法と評価される余地はないというべきである。 9 相互保証(原告らの主張の要旨)外国人が国家賠償請求をするには,その国籍国との間で相互の保証があることが必要であるところ,「相互の保証がある」とは,当該外国人の本国において日本人が被害者として当該事案と同種の損害賠償請求をした場合に,国賠法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められることをいうと解すべきである。中国には中華人民共和国国家賠償法(以下「中国国賠法」という。)があり,同法には相互の保証に関する規定も置かれている一方(同法40条2項),同法上,行政賠償の対象となる侵害態様は限定されている(同法3条及び- 252 -4条)。しかし,中国法制においては,中国国賠法の対象とならない行政行為については一般私法の枠内で処理されることが予定されており,そのような行政行為については,中華人民共和国民法通則のほか,中華人民共和国権利侵害責任法(以下「権利侵害責任法」という。)の適用が検討されることとなる。そして,権利侵害責任法によれば,環境を汚染したことにより損害を生じさせた場合には,汚染者は権利侵害責任を負わなければならないとされ,また,損害賠償の範囲については,財産権益の賠償を請求することができるほか,人身権益を侵害し,重大な精神的損害を生じさせた場合には,その賠償を請求することができるとされている。以上によれば,中国で日本人が被害者として本件と同種の損害賠償請求をした場合,仮に中国国賠法に基づく請求としては認められないとしても,権利侵害責任法に基づく請求としては,同法の規定上,我が国の国賠法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められる。したがって,我が国と中国との間には相互保証があるというべ としても,権利侵害責任法に基づく請求としては,同法の規定上,我が国の国賠法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められる。したがって,我が国と中国との間には相互保証があるというべきである。 (被告国の主張の要旨)⑴ 国賠法6条は,相互保証主義を採用し,その立法趣旨は,我が国の国民に保護を与えない国の国民に我が国が積極的に保護を与える必要はないという衡平の観念に基づくものである。我が国の国民が外国から受けた被害についてその外国に賠償請求できないのに,我が国が進んでその外国に属する者に賠償責任を負う必要はなく,そうしたとしても,国際情勢上直ちに国際主義の精神に反するほど不合理とはいえないから,その限りにおいて,被害を受けた外国人の国家賠償請求権を制限する結果が生じたとしても,合理的な制約であって,それをもって違憲とはいえない。そして,相互保証の有無については,当該外国人が,その本国法に相互保証の規定があることの主張立証責任を負う。 ⑵ 中国においては,中国国賠法は,国家機関(国賠法における「国家機関」は,広く行政機関及び司法機関を指し,いわゆる地方政府の機関を含む。)及びその職員が,その職権の行使に当たって,国賠法規定の類型に該当する公民,法- 253 -人及びその他の組織(以下「公民等」という。)の合法な権利を侵害する行為によって損害を生じさせた場合,上記公民等が賠償を請求する権利を取得し,国家機関が賠償の義務を負うことを規定するものである。また,中国国賠法は,保護される合法な権利として人身権及び財産権だけを,これらの権利を侵害する行為として有形力の行使を伴うような行為だけを規定した上,賠償が認められるものを「行政賠償」及び「刑事賠償」の二つに限定しており,行政行為一般を対象とするものとしていない。 ,これらの権利を侵害する行為として有形力の行使を伴うような行為だけを規定した上,賠償が認められるものを「行政賠償」及び「刑事賠償」の二つに限定しており,行政行為一般を対象とするものとしていない。そして,中国国賠法の対象とならない行政行為について,中国法制においては,一般私法の枠内で処理されることが予定されており,個別法令で特に国家賠償責任及び賠償手続が定められている場合はそれによるとされている。現に中国国賠法の3条及び4条並びに17条及び18条をみても,本件のような場合が中国国賠法による賠償の対象に含まれるとは,条文の文言上認め難い。また,中国国賠法の対象とならない行政行為については,個別の法令がない限り,一般私法の枠内で処理されるが,本件のような場合が賠償の対象となるかについては,個別の法令上はもとより,一般私法上も全く明らかでない。そのため,仮に日本人が中国において,本件における原告らの主張と同様の請求原因事実をもって中国政府に対する損害賠償請求を行った場合,精神的苦痛に対する慰謝料という非財産的損害について,日本人の被害者に対してどのような要件の下に,どのような賠償責任を負うかについては何ら明らかにされていない。したがって,中国については,本件のような事案において相互保証が存在するとはいえない。 第2 被告東電の責任 1 民法709条及び民法717条1項に基づく請求の可否(原告らの主張の要旨)⑴ 原賠法の趣旨・目的が民法709条及び同法717条1項の適用を排除するものでないこと原賠法1条は,「この法律は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場- 254 -合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もつて被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。」と定め,原賠法が①被害者の保 より原子力損害が生じた場- 254 -合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もつて被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。」と定め,原賠法が①被害者の保護と②原子力事業の健全な発展を目的とする法律であることを定めている。したがって,上記2つの目的が,原賠法を中心とする原子力損害賠償制度全体についての解釈基準となり,原賠法3条1項が民法709条及び同法717条1項の適用を排除するか否かという問題も,この2つの目的に照らして解釈されなければならない。 請求が認められる手段が多ければ多いほど,請求を行う被害者の保護に資することは明らかであるから,原賠法3条1項に基づく請求をするか,民法709条及び同法717条1項に基づく請求をするかは,被害者の選択に委ねられるべき事項である。したがって,被害者の保護という目的との関係では,原賠法が民法上の損害賠償責任の規定を排除するという解釈は,上記目的に資するものではない。原子力事業者において,原賠法3条1項の責任のほか,故意・過失によって発生させた損害について民法709条及び同法717条1項に基づく損害賠償責任が課されたとしても,原子力事業の健全な発展を阻害することにはならない。原賠法3条1項が規定する「無過失責任」が,原子力事業者の故意・過失の存否と関わりなく賠償を命じる規定にとどまると解するならば,原子力事業者が,損害発生の原因を究明することなく,単に法令に規定されているから賠償を行うという対応を採ることを可能にするが,このような対応が許容されれば,原子力事業者が,自ら当該原子力損害の発生原因を究明し,将来における原子力損害の発生を防ぐための取組を放棄することにつながりかねず,原子力事業の健全な発達を阻害することになりかねない。したがって,原子力事業の が,自ら当該原子力損害の発生原因を究明し,将来における原子力損害の発生を防ぐための取組を放棄することにつながりかねず,原子力事業の健全な発達を阻害することになりかねない。したがって,原子力事業の健全な発達という目的との関係についても,原賠法が民法上の損害賠償責任の規定を排除するという解釈は,上記目的に資するものではない。 したがって,原賠法の趣旨・目的からして,民法709条及び同法717条1項の適用は排除されない。 - 255 -⑵ 被告東電の主張に対する反論本訴訟では,被告国が本件事故の原因等に関する詳細な主張をしているところ,このような審理状況からすれば,被告東電の故意・過失について審理することは審理の遅延を招くことにはならない。また,原賠法が原子力事業者の無過失責任を定めたのは,被害者の損害回復を容易ならしめるものであるが,何をもって「被害者の保護」が図られたとするかは事案によって異なり,結局は被害者の選択に委ねられるべき問題である。本件においては,原告らは,本件事故によって重大な損害を被った被害者として,請求の趣旨に掲げた損害の賠償請求の実現と並んで,その前提としての本件事故の原因の究明,とりわけ被告ら両名の責任の有無及び程度が明らかにされることを求めている。原告らの精神的損害は,賠償金が支払われれば回復するというものではなく,本件事故の発生に至る事実関係について十分な議論がされ,事案の解明が図られることが,原告らの受けた精神的被害を回復する重要な要素となる。したがって,原告らは,原賠法3条1項に基づく請求と並行して,民法709条及び同法717条1項に基づく請求をすることができる。 (被告東電の主張の要旨)⑴ 民法709条及び同法717条1項に基づく「原子力損害」の賠償請求は認められないこと原賠法に 09条及び同法717条1項に基づく請求をすることができる。 (被告東電の主張の要旨)⑴ 民法709条及び同法717条1項に基づく「原子力損害」の賠償請求は認められないこと原賠法に基づく原子力損害賠償制度の体系を踏まえれば,原賠法に基づく原子力事業者の原子力損害の賠償責任は,民法709条及び同法717条に比して,単に責任要件を厳格化する(無過失責任とする)にとどまるものではなく,被害者保護と原子力事業の健全な発達という2つの目的を達成するために,原子力利用に伴う原子力損害に関して,原賠法3条に基づき責任を負う原子力事業者への責任集中,原子力事業者以外の者の責任免除,第三者への求償権の制限,損害賠償措置の強制,国の援助等も含めて,その全体として民法上の不法行為責任に対する特則として立法されているといえる。したがって,原子炉の- 256 -運転等に起因する原子力損害に係る賠償責任については,原賠法に基づいて規律されることが想定されており,民法上の不法行為に基づく請求は排除されていると解される。 また,原告らにおいて民法709条及び同法717条1項に基づく請求が許されないとしても,原賠法に基づいて原子力事業者の無過失責任を追及することができるから,原子力損害の賠償を請求する上で何らの不利益はなく,民法709条及び同法717条1項に基づく請求を許容すべき実益自体も全く存しない。 ⑵ 原告らの主張に対する反論仮に原子力損害について民法709条及び同法717条1項に基づく請求が認められるとした場合に原賠法において用意されている賠償金の補てんとしての保険金や補償金の支払や政府による援助が受けられるかどうかについては現行法に定めがなく,これらが受けられないという解釈も十分に成り立ち得るところであるが,この場合,原子力事 る賠償金の補てんとしての保険金や補償金の支払や政府による援助が受けられるかどうかについては現行法に定めがなく,これらが受けられないという解釈も十分に成り立ち得るところであるが,この場合,原子力事業者に十分な資力を確保させて被害者に対する適切な賠償を行わせようとする原賠法の理念が没却される。 原賠法に基づく原子力損害賠償制度においては,「原子力事業の健全な発達」(同法1条)の観点から,同法5条において,原賠法3条の場合において,原子力事業者による求償権の行使ができる場合を第三者に故意がある場合に限るという一般私法の原則に対する大きな修正を図っているものであり,もし仮に原告らが主張するように原子力損害に関して民法709条及び同法717条1項に基づく損害賠償請求が重ねて(被害者の選択により)許されるとすれば,かかる原賠法5条の定めの趣旨は没却されるのであり,同法5条の規定に照らしても,法はそのような事態を全く想定していないというべきである。このことからも,原賠法3条の責任と民法709条及び同法717条1項の責任は,請求権競合ではなく,法条競合の関係に立つと解されるのであり,原賠法は,原子力損害に係る原子力事業者の賠償責任について,私法上の一般不法行- 257 -為の責任規定の適用を排除して,これに代わるそれ自体完結した,被害者保護にも十分顧慮した賠償制度を定めることによって,被害者保護と原子力事業の健全な発達の双方を図ろうとしたものと解される。 ⑶ 以上より,原告らによる被告東電に対する民法709条及び同法717条1項に基づく損害賠償請求は,本件事故による損害の賠償を求めるものであり,原賠法2条2項に規定される「原子力損害」の賠償を求めるものであるところ,原子力損害の賠償については,原賠法が原子力事業者に対して原子力損害に関する は,本件事故による損害の賠償を求めるものであり,原賠法2条2項に規定される「原子力損害」の賠償を求めるものであるところ,原子力損害の賠償については,原賠法が原子力事業者に対して原子力損害に関する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償請求に関する規定の特則として定められており,民法上の債務不履行又は不法行為の責任発生要件に関する規定は適用を排除されるから,原告らは被告東電に対して民法上の不法行為に基づいて損害賠償を求めることがそもそもできない。また,「被告東電の故意・過失」の存否に係る審理を行うことによって審理が長期化することは迅速な賠償の実現を阻害し,本訴訟外の手続においては責任原因について争いがないことを前提として迅速に紛争解決が図られていることとも著しく均衡を欠く結果となる。 2 被告東電の過失(原告らの主張の要旨)⑴ 被告東電が地震への安全対策を怠ったこと被告東電は,平成21年6月に総合資源エネルギー調査会の専門家会合において,岡村行信委員が連動地震について指摘をしたのであるから,速やかに安全確保に関わる全ての施設について連動地震を前提としたSs に合わせた耐震安全性を確保するようなバックチェック及びそれを前提とした耐震補強工事を行うべきであった。それにもかかわらず,被告東電は上記安全作業の実施を先送りして本件地震まで放置してきた。このように,被告東電は地震対策に関し,阪神淡路大震災や新潟中越沖地震という,我が国において現実に発生した災害の経験をもとに政府から指示された安全対策すら懈怠するという状況に- 258 -ありながら,漫然と原子力発電所を稼働させ続けたのである。 ⑵ 被告東電が福島第一原発において,O.P.+10mの津波発生の危険を認識し,津波への安全対策を怠ったこと被告東電は,平成18年5月の ありながら,漫然と原子力発電所を稼働させ続けたのである。 ⑵ 被告東電が福島第一原発において,O.P.+10mの津波発生の危険を認識し,津波への安全対策を怠ったこと被告東電は,平成18年5月の溢水勉強会においてO.P.+10mの津波が到来した場合,非常用海水ポンプが機能を喪失し,炉心損傷に至る危険性があること,またO.P.+14mの津波が到来した場合,建屋への浸水で電源設備が機能を失い,非常用ディーゼル発電機,外部交流電源,直流電源全てが使えなくなって全電源喪失に至る危険性があることを認識していた。また,被告東電は,平成20年5月下旬から同年6月上旬頃までに,推進本部の長期評価に基づき津波評価技術で試算した結果,福島第一原発2号機付近でO.P. +9.3m,福島第一原発5号機付近でO.P.+10.2m,敷地南部でO. P.+15.7mといった想定波高の数値を得ていた(2008年推計)。したがって,被告東電は,平成18年5月の時点で福島第一原発にO.P.+10mを超える津波が襲来し,炉心損傷等の重大な事故が起こる可能性を予見し,遅くとも平成20年6月上旬には,最大でO.P.+15.7mの津波が襲来する危険を明確に予見し得た。しかし,十分な津波対策がとられることはなかった。 ⑶ 被告東電によるシビアアクシデント対策の懈怠被告東電をはじめとする原子力事業者は,新たな知見に基づく規制が導入されると,既設炉の稼働率に深刻な影響が生じるほか,安全性に関する過去の主張を維持できず,訴訟などで不利になるといった恐れを抱いており,それを回避したいという動機から,安全対策の規制化に強く反対し,電事連を介して規制当局に働きかけていた。その結果,我が国では事故リスク低減に必要な規制の導入が進まず,5層の深層防護の思想を満たさない点で我が国のシビアアク 動機から,安全対策の規制化に強く反対し,電事連を介して規制当局に働きかけていた。その結果,我が国では事故リスク低減に必要な規制の導入が進まず,5層の深層防護の思想を満たさない点で我が国のシビアアクシデント対策は世界水準から大きく遅れることになった。また,被告東電は,極めて危険な原子力施設を運営する事業者として,たとえ科学的に詳細な予測- 259 -はできなくても,発生の可能性を否定できない危険な外部事象,特に地震や津波といった自然現象は,リスクマネジメントの対象として取り扱うべき責務を負っていた。しかし,被告東電は,例えば新知見で従来の想定を超える津波の可能性が示された後も,堆積物調査等で科学的根拠を明確にするために時間をかけたり,厳しい基準が採用されないよう規制当局に働きかけたりして,問題の先送りを図っていた。このように,被告東電が,シビアアクシデント対策の必要性を認識していたにもかかわらず対策を実施しなかったのは,シビアアクシデントによって周辺住民の健康等に被害を与えることをリスクと捉えるのではなく,シビアアクシデント対策を行うに当たって,既設炉を停止させたり,訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていたからである。 ⑷ 原子炉の事故がシビアアクシデントに至る場合には,それによって生じる被害はより深刻なものとなり,国民は生活の本拠となる住居や地域,ひいては平穏に生活し人格的に生存する権利を奪われるだけでなく,状況次第ではその生命・身体さえ危険にさらされることとなる。したがって,原子力発電事業を営む被告東電は,原子炉の設置及び稼働に当たって極めて高度の安全性を確保することが義務付けられており,不断に進歩・発展する現在の科学技術水準に照らし,常に最高の知識や技術を用いて原子力に関わる事故の防止等について調査研 の設置及び稼働に当たって極めて高度の安全性を確保することが義務付けられており,不断に進歩・発展する現在の科学技術水準に照らし,常に最高の知識や技術を用いて原子力に関わる事故の防止等について調査研究を尽くすとともに,その安全性の確保に疑念が生じた場合には,直ちに必要最大限の防止措置を講じなければならない立場にあった。 しかし,被告東電は,海外で全交流電源喪失規則が設けられるなどの対策が順次進んでおり,また国際原子力機関(IAEA)がシビアアクシデント対策強化のため5層の深層防護の必要を繰り返し指摘し,さらには海外で原子力施設内への浸水や外部事象による全交流電源喪失という過酷事故が生じていたにもかかわらず,シビアアクシデント対策の対象を内部事象(運転上のミス等)に限定し,地震や津波等の外部事象,テロ等の人為的事象による長時間の全交- 260 -流電源喪失の可能性を全く考慮しなかった。また,被告東電は,平成18年(遅くとも平成20年)には,福島第一原発の設置時に想定していた規模を超える津波が発生し,その結果全交流電源喪失に至る可能性があることを認識していながら,配電盤のかさ上げや水密化,直流バッテリーの整備などといった容易にとれる対策を一切実施しなかった。さらに,被告東電は,遅くとも平成21年には福島第一原発周辺において同原発設置当時の知見を上回る規模の地震が発生する可能性を認識するとともに,同年の社内会議において耐震補強工事が必要な設備の存在を認識していたが,実際には耐震補強工事の実施を先送りにし,必要な措置をとらなかった。 このように,被告東電は,原子力発電事業を運営する事業者として,常に最悪の事態を想定しそれに対応できる対策を事前に整備しなければならない立場にあったにもかかわらず,津波対策を実施せず,社内で検討していた福島第 被告東電は,原子力発電事業を運営する事業者として,常に最悪の事態を想定しそれに対応できる対策を事前に整備しなければならない立場にあったにもかかわらず,津波対策を実施せず,社内で検討していた福島第一原発の耐震補強工事を先送りし,津波の浸水や全交流電源喪失に対する事前対策の整備を怠り,被害の拡大を招いた。 (被告東電の主張の要旨)⑴ 以下のとおり,本件事故の原因となった本件津波については,被告東電の想定をはるかに超えるものであり,本件事故発生以前における科学的知見に照らしてこれを予見することはできなかったから,地震・津波の専門家の想定をはるかに超える天災に起因して生じた損害について,被告東電に予見義務があり,これに基づく結果回避可能性が生じており,その違反があったと評価することはできないのであり,慰謝料の増額を基礎付けるような故意と同視し得る重過失が被告東電にあったということはできない。 ⑵ 津波の評価方法日本における原子力発電の開始当時には,一定の地点において将来いかなる大きさ・規模の津波が到来し得るかを予測する手段があったわけではなく,既往の津波潮位記録や痕跡をもとに設計を行っていた。福島第一原発について- 261 -も,その設置許可を得た昭和41年から昭和46年時点においては,過去に観測された最大の津波であるチリ地震津波の潮位をもとに,設計想定潮位をO. P.+3.122mとして原子炉が設計された。1970年代以降になると,コンピューター技術の発展等とともに過去に発生した津波を再現する数値シミュレーションが行われるようになり,その後,そうした数値シミュレーションは,将来発生する可能性のある津波の想定にも用いられるようになった。平成11年には,原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化のための検討を なり,その後,そうした数値シミュレーションは,将来発生する可能性のある津波の想定にも用いられるようになった。平成11年には,原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化のための検討を行うことを目的として,土木学会原子力土木委員会内に津波評価部会が設置され,それから約3年後の平成14年に,土木学会により,津波評価部会での検討結果を踏まえ,それまでに培ってきた知見や技術進歩の成果を集大成して,津波評価技術が刊行された。 津波評価技術は,原子力発電所の安全設計における設計津波水位を設定する手法を定めるものであり,科学的知見の進展等を踏まえ,既往津波の評価に加えて,「プレート境界付近,日本海東縁部及び海域活断層に想定される地震に伴う津波」(想定津波)の検討結果に基づいて設計津波水位を評価することを基本とし,①既往津波の再現性の確認と,②想定津波による設計津波水位の検討という2つの段階を経て評価を行うこととしている。 津波評価技術により導かれる設計想定津波は,既往津波の痕跡高を上回る十分な高さを有するものと考えられ,平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されている。このように,特定の評価地点に影響を及ぼし得る波源モデルを特定して,そこから発生することが想定される津波の数値シミュレーションを行い,当該地点に到来する津波の水位を評価する手法を「確定論(決定論)的津波評価手法」といい,マイアミ論文で試行的に解析が行われたような「確率論的津波評価手法」とは区別される。 地震により発生する津波の場合,沿岸に到来した際の津波の大きさや範囲は,主として,①地震の規模,②震源域の水深,③震源と評価地点との位置関- 262 -係,④海底地形,⑤津波が到来する沿岸部の海岸地形といった要素の影響を大きく受ける。そして,特定の発 さや範囲は,主として,①地震の規模,②震源域の水深,③震源と評価地点との位置関- 262 -係,④海底地形,⑤津波が到来する沿岸部の海岸地形といった要素の影響を大きく受ける。そして,特定の発電所における津波評価のように,評価地点が定まっている場合の津波評価においては,④及び⑤の要素は所与であり,その余の①ないし③の要素を直接左右するのは波源であるため,結局,当該津波の規模を決定する最大の要素は当該津波の波源ということになる。したがって,津波評価を行うに当たっては,断層モデル(波源モデル)の設定が極めて重要となるのであり,断層モデル(波源モデル)が確定しなければ,安全設計を行う前提としての合理性を有する津波評価を行うことはできない。そして,断層モデル(波源モデル)は,設計津波水位を設定する上での基礎となるものであり,それに基づいて原子力発電所の具体的な安全設計・対策がされるものであることから,科学的・専門的観点から一定の合理性を備えている必要がある。 もっとも,同じ領域で過去に大きな津波を伴う地震が発生した記録が残っていない場合などは,断層モデル(波源モデル)の設定は困難であり,津波評価技術においては,福島県沖海溝沿い領域には大きな地震・津波をもたらす波源の設定領域を設けておらず,当該領域における断層モデル(波源モデル)も設定していない。そして,本件津波が発生した平成23年3月11日当時においても,福島県沖海溝沿い領域に設定すべき断層モデル(波源モデル)は確定していなかった。 ⑶ 被告東電による津波への備えの対応についてア福島県沖の波源モデル日本海溝沿いの震源については,沖合の日本海溝寄りの領域と陸寄りの領域に分け,さらに陸寄りの領域をいくつかの震源域に分けて考えられてきた。一般に,日本の太平洋沿岸の大地震は数十年 県沖の波源モデル日本海溝沿いの震源については,沖合の日本海溝寄りの領域と陸寄りの領域に分け,さらに陸寄りの領域をいくつかの震源域に分けて考えられてきた。一般に,日本の太平洋沿岸の大地震は数十年ないし150年に1回程度の頻度で同様の規模の地震が繰り返し発生すると考えられていたところ,このうち特に福島県沖海溝沿い領域については,下に沈み込むプレートが1億年以上前のものと極めて古く,冷たくて重いため,上のプレートとの固着(カ- 263 -ップリング)が弱いこと,固着があったとしても,沈み込みによる陸地(上のプレート)の短縮が生じていないことから,大きな歪み(地震エネルギーの蓄積)が生じる前に断層運動が生じて歪みが解消されると考えられていた。また,現に同領域においては過去にマグニチュード8クラスの地震が発生した記録もなかった。そのため,津波評価技術では,福島県沖海溝沿い領域は,大きな地震・津波をもたらす波源の設定領域として設定されず,福島県沖で発生する可能性のある地震の波源としては,陸寄りの領域である塩屋崎沖で発生した福島県東方沖地震のものが最大であると考えられていた。 イ平成6年3月の安全性評価結果報告被告東電は,前述のとおり福島第一原発各号機の設置許可申請時点では設計想定津波をO.P.+3.122mと設定していたが,平成5年7月に北海道南西沖地震が発生したことを受けて,被告国は,電気事業者に対し津波安全性評価の実施を指示した。これを受けて,被告東電は,文献調査による既往津波の抽出や簡易予測方式により津波水位の予測等を実施し,同方式による津波水位が相対的に大きい津波について数値解析を行った。その結果,福島第一原発における最大の津波は昭和35年に発生したチリ地震津波であり,同津波は慶長三陸地震津波よりも大きかったこと,チリ 式による津波水位が相対的に大きい津波について数値解析を行った。その結果,福島第一原発における最大の津波は昭和35年に発生したチリ地震津波であり,同津波は慶長三陸地震津波よりも大きかったこと,チリ地震津波等を対象としたシミュレーションによれば,福島第一原発の護岸前面での最大水位上昇量は約2.1m程度であり,朔望平均満潮位時(O.P.+1.359m)に津波が来ても最高水位はO.P.+3.5m程度にしかならないことを確認した。また,文献調査の結果,阿部壽氏らが平成2年に発表した「仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定」(丙A53)等によれば,貞観津波は,仙台平野において慶長三陸津波を上回らなかったと考えられることが確認された。これらの調査結果に基づき,被告東電は,翌平成6年3月に被告国に対し,津波に係る安全性は確保されているとする安全性評価結果報告書(丙A29)を提出した。同報告書の内容につい- 264 -ては,同年6月に開催された通商産業省原子力発電技術顧問会において被告国の了承を得ている。 ウ 1回目の津波想定見直しその後,平成14年2月に,土木学会より津波評価技術が刊行され,これを受けて,被告東電は,同技術に基づき塩屋崎沖地震の波源モデルを用いて福島第一原発地点における設計想定津波の評価を行ったところ,設計想定津波として,O.P.+5.4ないし5.7mとの評価結果を得た。被告東電は,この評価結果に基づき,O.P.+4mの高さに位置する海水系ポンプ用モータのかさ上げや建屋貫通部等の浸水防止対策等の対策を行った。 エ推進本部による長期評価の公表推進本部は,平成14年7月,長期評価を公表し,その中で,①三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)が三陸沖で1611年(慶長16 た。 エ推進本部による長期評価の公表推進本部は,平成14年7月,長期評価を公表し,その中で,①三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)が三陸沖で1611年(慶長16年),1896年(明治29年),房総沖で1677年(延宝5年)に発生していること,②これらの地震が同じ場所で繰り返し発生しているとは言い難いため,固有地震としては扱わずに,同様の地震が三陸沖北部海溝寄りから房総沖海溝寄りにかけてどこでも発生する可能性があることとすること,③このような大地震の発生頻度は上記①のとおり過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では133年に1回の割合で発生すると推定すること,④ポアソン過程を適用すると,この領域全体では今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定されることを指摘した。しかし,かかる長期評価は,単に三陸沖北部から房総沖までの海溝寄りをまとめて,同範囲においてマグニチュード8クラスの地震が発生する可能性を否定することができないとしたものにとどまり,かつ,その点についての具体的根拠が示されているものではなかった。また,地震発生の確率についても,北側の三陸沖も南側の房総沖も含めて全体で過去400年に3回発生しているから400÷3=13- 265 -3年に1度発生する,特定の領域で言えば,発生する地震の断層の長さが200km とすると全体の領域の長さ(800km)の4分の1であるから,133年に1度×1/4=530年に1度発生するとしているにとどまるものであった。 この長期評価を公表した推進本部も,翌年3月に行った当該長期評価の信頼性に関する自己評価において,「評価に用いられたデータは量および質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果について た。 この長期評価を公表した推進本部も,翌年3月に行った当該長期評価の信頼性に関する自己評価において,「評価に用いられたデータは量および質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差がある」と前置きし,「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」の項目については,発生領域及び発生確率」の各評価の信頼度をいずれも「C」(下から2番目)としていた。政府の中枢機関である中央防災会議も,長期評価の公表から約3年半が経過した平成18年1月に公表した日本海溝・千島海溝報告書において,具体的な防災対象の検討に当たって,長期評価の見解を採用しておらず,防災的な視点から対象地震を選定するという方針の下,福島県沖海溝沿い領域における地震は,防災対策の検討対象とする地震とは扱われなかった。さらに,長期評価の見解による影響を直接受ける可能性がある福島県も,津波想定において長期評価の見解を採用していない。 いずれにしても,長期評価は,特定の場所での具体的な波長,方向,津波の高さの検討を伴った津波について,一切言及していない。 また,この長期評価が発生可能性を否定できないとしたのも,飽くまで個別の領域における地震,それもマグニチュード8クラスの地震であり,本件地震のようにそれぞれの領域をまたがり,かつ,それぞれが連動して発生するようなマグニチュード9.0,津波マグニチュード9.1クラスの巨大地震・巨大津波を想定していたものではない。 オ耐震バックチェックへの対応と長期評価についての検討 保安院による耐震バックチェックの指示- 266 -保安院は,平成18年9月に耐震設計審査指針が改訂されると,原子力事業者に対し原子力発電所の耐震バックチェックを指示し,バックチェックの基 保安院による耐震バックチェックの指示- 266 -保安院は,平成18年9月に耐震設計審査指針が改訂されると,原子力事業者に対し原子力発電所の耐震バックチェックを指示し,バックチェックの基本的な考え方や具体的評価方法,確認基準を示した「新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価及び確認に当たっての基本的な考え方並びに評価手法及び確認基準について」(以下「バックチェックルール」という。)を公表した。この耐震バックチェックは,既設発電用原子炉施設については従来の安全審査等によって耐震安全性は十分に確保されていることを前提に,安全性に対する信頼の一層の向上を図ることを目的として指示されたものと位置付けられている。バックチェックルールにおいては,津波に対する安全性の評価方法として,津波の評価に当たって,「既往の津波の発生状況,活断層の分布状況,最新の知見等を考慮して,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性のある津波を想定し,数値シミュレーションにより評価することを基本とする」とし,その具体的な評価方法としては,津波評価技術と同様の手法により行うこととなっていた。被告東電は,これまで一貫してかかる津波評価技術に基づき津波対策を講じていたが,耐震バックチェックの指示時点においても,なお福島県沖海溝沿い領域に関する津波評価技術の考え方を覆すような新たな知見が判明したわけではなかった。他方で,バックチェックルールにおいては,津波評価技術と同様の方法で津波評価を行うに当たり,「最新の知見等」を考慮することが求められていた。被告東電は,平成19年6月には福島県の「福島県沿岸津波浸水想定検討委員会」が用いた波源モデルを,翌平成20年3月には茨城県の「茨城沿岸津波浸水想定検討委員会」が用いた波源モデルをそれぞれ入手 た。被告東電は,平成19年6月には福島県の「福島県沿岸津波浸水想定検討委員会」が用いた波源モデルを,翌平成20年3月には茨城県の「茨城沿岸津波浸水想定検討委員会」が用いた波源モデルをそれぞれ入手し,福島第一原発立地点における設計想定津波の評価を実施した。しかし,その結果はいずれもO.P.+4.1mないし5m程度となり,福島第一原発の設計想定津波高を上回らないことを確認した。同様に,被告東電は,このバックチ- 267 -ェックの中で,日本海溝・千島海溝調査会が平成17年6月に公表した波源モデルに基づく津波評価も行ったが,その結果は最大でもO.P.+4. 8m(福島第一原発6号機の取水ポンプ位置)となり,やはり設計想定津波高を上回るものではなかった。以上に加えて,津波評価技術におけるパラメータスタディも考慮すれば,福島第一原発の津波に対する安全性については,本件事故当時,十分な裕度を持って確保されていると考えられていたものである。 明治三陸沖地震の波源モデルを用いた津波の試計算被告東電が,平成20年頃に,専門家に対し,推進本部による前記長期評価の見解をバックチェックの中でどのように取り扱うべきか意見を求めたところ,「現時点で設計事象として扱うかどうかは難しい問題」と述べる専門家もいる一方で,「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できない」とする意見もあり,専門家の間でも意見が定まった状況ではなかった。福島県沖の海溝沿いでは,これまで大きな地震がなく,これは相対するプレートの固着(カップリング)が弱く,大きな地震を発生させるような歪みが生ずる前に「ずれ」が生じることから,大きなエネルギーが蓄積しないためとも考えられていた。このため,福島県沖の海溝沿いの津波評価をするために必要となる波源モデルは定まっていない状況 せるような歪みが生ずる前に「ずれ」が生じることから,大きなエネルギーが蓄積しないためとも考えられていた。このため,福島県沖の海溝沿いの津波評価をするために必要となる波源モデルは定まっていない状況にあったが,平成20年1月ないし4月頃に,バックチェック報告書の中でこのような長期評価の見解をどのように扱うか検討するための内部検討の一環として,長期評価の見解のうち,福島県沿岸に最も厳しくなる明治三陸地震の波源モデルを福島県沖海溝沿い領域にそのまま用いて津波高の試みの計算を行った。その結果,(ア)福島第一原発正面から遡上した津波は,1ないし4号機の取水ポンプ付近でO.P.+8.4ないし9. 3m,5号機及び6号機の取水ポンプ付近でO.P.+10.2mに至るものの,敷地高までは遡上しないこと,(イ)敷地北側ないし南側から遡- 268 -上した津波は,5号機及び6号機の各建屋の北側敷地でO.P.+13. 7m,1ないし4号機の各建屋の南側敷地でO.P.+15.7mに至るとの結果を得た。 長期評価及び試計算の結果を踏まえた対応被告東電としては,上記のような結果が得られたこと,当該時点においても福島県沖の海溝沿い領域に関する土木学会の津波評価技術の考え方を覆すような新たな知見が判明したわけではなかったこと,同領域における津波の波源として想定すべき波源モデルも定まっていないこと等を踏まえつつ,より一層の安全性の強化への取組は不断に進めるべきであるとの認識の下に,長期評価において,日本海溝沿いの地震について津波評価技術とは異なる見解が述べられているのであれば,それを安全性評価においてどのように取り扱うべきかを検討すべきであると考え,大きな地震は起きないとされてきた福島県沖の日本海溝沿いも含む太平洋側津波地震の扱いについては土木学会の ているのであれば,それを安全性評価においてどのように取り扱うべきかを検討すべきであると考え,大きな地震は起きないとされてきた福島県沖の日本海溝沿いも含む太平洋側津波地震の扱いについては土木学会の専門家に検討を依頼し,明確にルール化をした上で対応することが合理的であると考えるに至った。そして,推進本部の見解に基づき津波評価をするための具体的な波源モデルの策定について,土木学会に審議を依頼することとし,本件事故の約1年9か月前である平成21年6月に,他の電気事業者10社とともに,土木学会原子力土木委員会津波評価部会に対し,電力共通研究としてこの点に関する審議を依頼した。被告東電は,この依頼に先立つ平成20年10月頃に,長期評価の見解に対する対処としてこのような方針で問題ないかについて複数の専門家に対する確認を行ったが,いずれの専門家からも特に否定的な意見はなかった。このように,バックチェックルールが津波評価技術と同様の津波評価手法を採用していることも踏まえ,長期評価の見解を設計津波水位として具体的に考慮するためには,まずは福島県沖海溝沿い領域における波源モデルの設定に係る専門的・科学的な検証が必要であった。この- 269 -土木学会原子力土木委員会津波評価部会による審議結果が出る時期については,平成24年秋頃と予定されていたが,被告東電は,福島第一原発の安全性をより一層強化するため,また,土木学会原子力土木委員会津波評価部会による検討の結果,仮に対策が必要となった場合に速やかにその対策に着手できるように,平成20年7月以降,実際に屋外非常用海水ポンプに用いられる電動機の水密化(水密構造の電動機開発)について電動機メーカーを交えて検討を開始していた。また,同年12月には,水密構造電動機の開発の研究を効率よく進めるため,他の原子力事 用海水ポンプに用いられる電動機の水密化(水密構造の電動機開発)について電動機メーカーを交えて検討を開始していた。また,同年12月には,水密構造電動機の開発の研究を効率よく進めるため,他の原子力事業者に対して共同研究の実施を呼びかけていた。さらに,平成22年8月には,この点に関する被告東電内部の関連部署間での情報交換をより緊密かつ有機的にとれるよう,社内に「福島地点津波対策ワーキング」を立ち上げて,土木学会原子力土木委員会津波評価部会の審議が終わる平成24年秋頃に結論を出すことを目標として各部署での検討を進めていた。しかし,その結論が得られる前に,本件事故が発生するに至ったものである。 貞観津波に関する佐竹論文を踏まえた対応本件事故の約2年前である平成21年4月には,佐竹健治(以下「佐竹」という。)教授らが貞観津波に関して「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」(以下「佐竹論文」という。丙A55)を発表した。貞観津波については,それまで詳細な発生位置や発生規模については明らかになっておらず,波源モデルも特定されていなかったが,佐竹論文では,当時の最新の調査の結果,石巻平野及び仙台平野(すなわち福島県沿岸以北)における津波堆積物の位置が明らかになったことから,かかる知見に基づき,貞観津波の発生位置及び規模を一定程度推定するとともに,津波堆積物の分布と10の波源モデルとを比較して,前者を再現するような波源モデルの設定を探索しているものであった。 被告東電は,この佐竹論文が正式に公表される前の平成20年10月に- 270 -は,既に佐竹教授より投稿準備中の論文の提供を受けて検討を開始していたところ,同論文では,上記のような検討の結果として,津波堆積物の分布と整合する2つの波源モデル案(モデル8と に- 270 -は,既に佐竹教授より投稿準備中の論文の提供を受けて検討を開始していたところ,同論文では,上記のような検討の結果として,津波堆積物の分布と整合する2つの波源モデル案(モデル8とモデル10)が示されていたものの,その確定には至っておらず,確定のためには,さらに仙台平野以南の福島県沿岸や茨城県沿岸の津波堆積物調査を行うことが必要であるとされていた。また,このような結論は翌年4月に正式に発表された論文の中でも維持されていた。そこで,被告東電は,翌平成21年に,貞観津波の波源モデルの検討について,上記長期評価の見解の評価とともに,土木学会に審議を依頼するとともに,福島第一,福島第二原発への貞観地震による津波の影響の有無を調査するため,福島県相馬市以南の福島県沿岸5箇所における津波堆積物調査を実施した。調査の結果,福島第一原発の位置する南部(富岡ないしいわき)では津波堆積物を確認できなかった。 被告東電は,このような調査結果を本件事故直前の平成23年1月に論文投稿しており,その内容については同年5月に開催される予定の日本地球惑星科学連合大会における発表を予定していたが,その矢先に,本件事故の発生に至ったものである。 カ 2回目の津波想定見直し以上と並行して,平成21年2月には,被告東電において,最新の海底地形データ等をもとに津波評価技術に基づく津波評価を行ったところ,O.P. +5.4ないし6.1mとの評価結果を得た。そこで,被告東電は,かかる評価結果に基づき,ポンプ用モータのシール処理対策等を講じている。 キまとめ以上のとおり,被告東電は,我が国において定着し,国際的にも認められている津波評価技術に基づいて,福島第一原発の津波対策を講じるとともに,最新の科学的・専門的知見についても評価・検討の上で必要な対策を 上のとおり,被告東電は,我が国において定着し,国際的にも認められている津波評価技術に基づいて,福島第一原発の津波対策を講じるとともに,最新の科学的・専門的知見についても評価・検討の上で必要な対策を講じてきたものであり,本件事故以前の科学的知見を踏まえれば,客観的・合- 271 -理的な根拠に基づき,福島第一原発の所在地において,O.P.+10mを超えるような津波が発生し,福島第一原発が全電源喪失に至るというような事態を予見することはできなかった。 ⑷ 結果回避義務について原子力発電所の安全設計上の津波対策については,土木学会の津波評価部会が策定した津波評価技術に基づいて,一定の想定水位を定めて,当該想定水位までの安全性を確保するという考え方(確定論的安全評価)に基づくものであり,本件事故発生以前の状況の下で,確定論に基づく原子力発電所の津波対策が講じられることについては,国による原子力安全法規制上の取扱いを含めて広く受け入れられていた安全確保の考え方であり,被告東電においても,確定論に基づく想定津波に対して福島第一原発の安全を絶対的に確保するという考え方で津波対策を講じていた。福島第一原発における設計想定津波は,原子炉設置許可を得た昭和41年の時点において,過去に観測された最大の津波であるチリ地震津波の潮位をもとに設計想定潮位をO.P.+3.122mと定められており,その後,平成14年には,土木学会により津波評価技術が公表され,同手法により導かれる設計想定津波は既往最大津波の痕跡高の約2倍になることが確認されている。そして,被告東電が,かかる津波評価技術により福島第一原発における津波水位を計算したところ,O.P.+5.4ないし5. 7mとなり,チリ地震津波の潮位に基づく福島第一原発の既往津波を上回るものであったこ て,被告東電が,かかる津波評価技術により福島第一原発における津波水位を計算したところ,O.P.+5.4ないし5. 7mとなり,チリ地震津波の潮位に基づく福島第一原発の既往津波を上回るものであったことから,被告東電は,この評価結果に基づき,O.P.+4mの高さに位置する海水系ポンプ用モータのかさ上げや建屋貫通部等の浸水防止対策等の対策を行った。さらに,平成21年2月に,被告東電において最新の海底地形データ等を踏まえて津波評価技術に基づく津波評価を行ったところ,O.P.+5.4ないし6.1mとの評価結果を得たことから,被告東電はこの結果に基づきポンプ用モータのシール処理対策等を講じた。他方で,平成14年に公表された長期評価の見解は,この分野における確立され広く受け入れら- 272 -れた科学的知見になっていたものではなく,むしろ多数の地震学者は長期評価の見解に消極的な見解を有していた。 また,本件事故前には,敷地へ浸水することを前提とした対策を講じるという発想自体が存在せず,2008年推計に基づいて結果回避の対策を講じていたとしても,本件事故を回避し得なかった。 以上より,被告東電は,長期評価の見解の公表後においても,福島第一原発の敷地に浸水することがあり得ることを想定して,本件事故という結果を回避すべき事前の措置を講ずるべき法的義務を負っていたということはできない。 また,本件事故発生以前の津波に対する安全確保の考え方は,確定論に基づくものであり,この確定論による安全確保の思想は確立され,広く受け入れられている状況にあった。このため,本件事故発生当時においては,専門家が議論の上で策定され,国際的にも評価されていた津波評価技術という科学的知見に基づいて,確定論に基づいて定められた想定津波に対する安全対策を講ずることを超えて, ,本件事故発生当時においては,専門家が議論の上で策定され,国際的にも評価されていた津波評価技術という科学的知見に基づいて,確定論に基づいて定められた想定津波に対する安全対策を講ずることを超えて,確定論の過程で想定されなかった津波についての安全確保措置を講ずるべきであるとは考えられておらず,少なくとも,そのような行動規範が法的な行為規範にまで高められる基礎事情は存在せず,確定論に基づく想定津波を超える事態を想定しての結果回避義務が法律上成立していたとはいえない。 ⑸ 結果回避措置について原告らが主張する水密化に係る対策及び配電盤のかさ上げは,本件事故後に得られた知見に基づくものであり,本件事故前の特に津波よりも地震対策が急務とされていた状況や津波対策に係る基本思想を前提とすれば,およそ現実味のないものであった。 そもそもタービン建屋等の水密化を検討するに当たっては,いかなる浸水高の津波を想定するかを決める必要があるところ,仮に2008年推計に基づいて検討しても,福島第一原発の1号機ないし6号機においてはいずれも,その- 273 -前面からは敷地に遡上しないという結果であり,また,敷地南側からの浸水の影響を受けるとしても,その浸水の程度は,実際に発生した本件津波の浸水の程度は,実際に発生した本件津波による浸水の程度を大きく下回るものであり,2008年推計に基づいてタービン建屋等の水密化を図っていたとしても,本件事故を回避することができたとはいえない。また,実際に発生した津波は,福島第一原発1号機ないし4号機の前面(海側)から大きく遡上している点で2008年推計の想定津波と大きく異なっており,圧倒的な水流であったことに照らせば,仮にタービン建屋等の水密化が図られていたとしても,海側に位置するタービン建屋については津 ら大きく遡上している点で2008年推計の想定津波と大きく異なっており,圧倒的な水流であったことに照らせば,仮にタービン建屋等の水密化が図られていたとしても,海側に位置するタービン建屋については津波の越流に伴い敷地上の車両やタンク等の大きな構造物が漂流物として流され,建屋に衝突し,水密化が維持されないことも想定され得る。このように,仮に2008年推計に基づく水密化を図っていたとしても本件事故という結果を回避することは困難であった。さらに,原告らは,結果回避措置として,配電盤のかさ上げを挙げるが,その場合,これらの設備を置く施設の電気設備とO.P.+10mにある建屋との間のケーブル等は複雑化することが想定されるところ,本件地震及び本件津波により,これらの施設やケーブル等が破損したり,流出したりし,ケーブル等については不具合箇所の特定が困難となり復旧できない可能性も十分にあった。 水密化に係る対策及び配電盤のかさ上げの準備期間についても,土木学会において,有史以来大きな津波地震が発生していない福島県沖海溝沿い領域に関する「長期評価の見解」については平成15年以降,確率論的津波評価において取り扱うこととしており,当時の科学的知見に照らし,このような対応が不合理であると断ずることはできない。そして,このような平成15年頃の地震・津波の専門家の認識状況等を踏まえると,被告東力が,仮に「長期評価の見解」に基づく確定論的な津波想定をすることを社内的に意思決定するとしても,かかる意思決定をするまでには相応の時間を要し,我が国の原子力発電所の津波評価手法の唯一の基準であった津波評価技術においては,福島県沖海溝沿いの- 274 -領域においては波源を設定していなかったことから,仮にこの領域に波源を設定すべきということであれば,土木学会に審議を委託し 一の基準であった津波評価技術においては,福島県沖海溝沿いの- 274 -領域においては波源を設定していなかったことから,仮にこの領域に波源を設定すべきということであれば,土木学会に審議を委託して,想定すべき波源モデルの設定等を含めて,専門家に知見の整理を依頼することが合理的であり,実際の予定審議期間を踏まえれば,かかる検討によって波源モデルを確定するためには,少なくとも3年半程度は要するものと考えられる。その上で,土木学会における専門家の見解として,福島県沖海溝沿いの領域について「長期評価の見解」に基づく波源を想定することが相当であるとの考え方が整理され,その場合における波源モデルが定められ,これに基づきO.P.+10mを超える津波を想定するということになれば,福島第一原発の安全確保のための基本的設計方針の変更に当たると考えられるため,炉規法に基づく福島第一原発の原子炉設置許可の変更申請及び変更許可が必要となると考えられ,新しい津波対策の具体的な内容の決定をするとともに,かかる行政庁の審査及び原子力安全委員会の審議の手続に相応の時間を要することが見込まれる。特に,新潟県中越沖地震以降,同地震の発生を受けた保安院の指示により更なる調査・解析が全国のプラントで同時に実施されることになり,技術者が全国的に不足したことなどから,耐震バックチェックのスケジュールは大幅に遅延することが予想される中で,かかる津波想定の見直しについて,原子力安全委員会等の確認に際してどのような説明・資料等が要求され,いかなる審議がどの程度の時間をかけて行われるかについては不明であり,通常のスケジュールで進行したとはいえない。さらに,かかる津波想定の見直しは,中央防災会議や福島県が想定している防災上の津波とも異なっていることから,本件事故が発生する以前の時点に ては不明であり,通常のスケジュールで進行したとはいえない。さらに,かかる津波想定の見直しは,中央防災会議や福島県が想定している防災上の津波とも異なっていることから,本件事故が発生する以前の時点においては,その合理性・必要性が議論の対象となることが予想され,福島県その他の自治体との事前の説明・協議においても相応の時間を要することが見込まれ,さらに福島第一原発周辺の自治体への影響の有無についても検討の上で,対策内容についての了解を得ることが必要になる。そして,これらの国及び自治体と調整の上で最終的に意思決定をしてから原告らが主張する- 275 -各対策を施工完了するまでは,かなりの期間が必要である。以上のような手続的な面に加えて,耐震安全性についても,十分な検討期間が必要であり,配電盤等の重要機器の高所配置,高台設置といった対策を講じるためには,各号機の定期点検のタイミングを利用しながら,場合によっては配線接続等のために原子炉を一旦停止させての工事も必要となるところ,福島第一原発において必要となる工事は津波対策に限られるものではなく,平成20年5月時点では,新潟県中越沖地震の影響によって地震対策が最優先事項となっており,長期評価の見解に基づく津波の現実的発生可能性やその予兆があるなどの指摘がなされている状況にない中で,こうした地震対策を差し置いて津波対策を優先させるというのは現実的に困難であった。したがって,このような本件事故以前における科学的知見の状況及び安全確保の考え方によれば,平成18年から本件事故が発生した平成23年3月11日までの約5年の間に原告らが主張する各対策に係る対応を完了できたとはいえない。 ⑹ 以上より,被告東電に過失はない。また,本件事故に至る経過において被告東電に故意と同視すべき重過失があるとはいえない 約5年の間に原告らが主張する各対策に係る対応を完了できたとはいえない。 ⑹ 以上より,被告東電に過失はない。また,本件事故に至る経過において被告東電に故意と同視すべき重過失があるとはいえないから,原告らが本訴訟において求めている精神的損害の賠償に関して被告東電の重過失が影響するということはない。 第3 損害論(総論) 1 精神的損害(原告らの主張の要旨)⑴ 被侵害利益の内容及び根拠ア被ばくの不安にさらされない平穏で安全な生活を営む権利生命・身体の安全という最も重要な利益を守るため,被ばくの心配がない安全な環境下で平穏な生活を営む権利は「恐怖と欠乏から免がれ,平和のうちに生存する権利」(憲法前文)を標榜した憲法上の基本理念を前提とし,「生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利」(憲法13条後段)として,- 276 -憲法上保障された権利である。本件事故により,極めて広範な地域が深刻な被害を受けたが,原告らを含む多くの住民らは,自身や家族らがどの程度の被ばくをしたのか分からないこと,低線量被ばくであっても健康被害が発生する危険性があること,健康被害がいつ発生するかも分からないことなどから,被ばくによる健康被害に対する恐怖や不安を抱えたまま生きていかなければならなくなった。避難したとしても被ばくによる今後の健康への恐怖や不安を打ち消すことはできず,それらの恐怖や不安は一生続くことになる。 他方,避難せずに被災地にとどまっている者は,現在もなお,日々放射性物質が放つ放射線にさらされており,その健康被害への恐怖や不安は甚大である。 イ住み慣れた環境の中で居住することを自らの意思で選択する権利自己の欲する地に住所又は居所を定め,それを変更する自由及び自己の意思に反して居住地を変更されることのない自由は,居住・移 ある。 イ住み慣れた環境の中で居住することを自らの意思で選択する権利自己の欲する地に住所又は居所を定め,それを変更する自由及び自己の意思に反して居住地を変更されることのない自由は,居住・移転の自由として憲法上保障されている権利である(憲法22条1項)。この居住・移転の自由は,単に経済的自由としての性格のみならず,自己の移動したいところに移動できるという人身の自由としての側面を有する。また,自己の選択するところに従い様々な自然と人とに接しコミュニケーションを取ることは,個人の人格形成・精神的活動にとって決定的な重要性を持つことから,精神的自由としての性格も有している。原告らが主張する住み慣れた環境の中で居住することを自ら選択する権利は,この憲法上の居住・移転の自由に基づくものである。原告らは,本件事故以前はそれぞれの住み慣れた地域に住所又は居所を定めて生活を営んでいたにもかかわらず,避難指示等対象区域に居住していた者は,本件事故により強制的に避難を強いられた。また,避難指示等対象区域外の地域に居住していた者は,被ばくに関する様々な情報が飛び交う中で,被ばくによる健康被害の危険や被ばくに対する不安を抱えた生活から逃れるために別の地域に避難するか,被ばくの危険があっても慣れ親- 277 -しんだ地域での生活を続けるかという選択を強いられた。避難者が避難しなければならなくなったことはもちろん,避難しなかった者にとっても,「住みたい場所」を自由な意思で選択できず,避難するか否かの選択を迫られたこと自体が,住み慣れた環境に住むことを自ら選択する権利の侵害といえる。 ウ住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤で社会生活や家庭生活を享受する権利地域共同体は,経済的,財産的側面から社会的,文化的,精神的側面まで,また,個人的・私的 する権利の侵害といえる。 ウ住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤で社会生活や家庭生活を享受する権利地域共同体は,経済的,財産的側面から社会的,文化的,精神的側面まで,また,個人的・私的利益の側面から集団的利益や公的利益の側面まで,広範で多面的かつ複合的な役割・機能を果たしており,地域住民が地域共同体から得られる地域生活利益は,①生活費代替機能(コメ,野菜,飲料水などの自給・交換),②相互扶助・共助・福祉機能(複数世代家族内,集落協働体内で互いに面倒を見合い,防災・防犯を担い合い,福祉的役割を果たすこと),③行政代替・補完機能(旧村落から維持されてきた「区」を中心とした活動など,清掃やまちづくりへの参加),④人格発展機能(隣近所や地域の交流,集会や祭りなどの行事への参加による人格形成と発展などの機会),⑤環境保全・自然維持機能(水田や畑の利用と維持,里山の維持と管理など)などがあり,地域共同体が果たすこれらの役割・機能の全体が法的利益であり,「地域生活享受権」とも称すべき権利である。そして,原告らは,本件事故前,住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤で社会生活や家庭生活を営み,地域共同体から様々な生活利益を享受してきた。しかし,原告らは,本件事故により,地域住民だけでなく,家族という最小単位の生活基盤さえ引き裂かれ,地域共同体から様々な利益を享受できなくなった。 エ住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤の中で成長発達し,自己実現を図る権利人は生を受けてから死に至るまで,自己実現のために,あらゆる発達可能- 278 -性を持ちながら生きていくものであり,このような人格発達権については,基本的人権としては,居住・移転・職業選択の自由(憲法22条1項),財産権(憲法29条1項),生存権(憲法25条1項),家族生活におけ 持ちながら生きていくものであり,このような人格発達権については,基本的人権としては,居住・移転・職業選択の自由(憲法22条1項),財産権(憲法29条1項),生存権(憲法25条1項),家族生活における個人の尊重(憲法24条),教育を受ける権利(憲法26条1項),勤労の権利(憲法27条),更には児童の権利に関する条約6条2項,9条1項本文,24条,28条によって保障される各権利として位置付けることが可能である。原告らは,本件事故により,この人格発達権としての住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤の中で成長発達し,自己実現を図る権利を侵害された。 オ被侵害利益を包括的に把握する必要があること上記の権利の全てあるいはその多くの部分が同時に侵害されてしまうと,個々の権利が制約されるだけでなく,そもそも日常生活が成り立たなくなり,日常生活そのものに深刻な支障を生じてしまう。人が人として生きる基本的な権利が総じて侵害されているものであり,様々な法益が複合的かつ相互に関連し,影響し合っていることが考慮されなければならず,被侵害利益を切り離して分類することは不可能であり,適切でもない。したがって,本件事故前の日常生活,社会生活を丸ごと失ったことを権利侵害として捉えるためには,侵害された様々な権利を従来のように個別に分析し,評価することだけでは実態にそぐわない。そこで,住み慣れた環境で平穏で安全な生活ができなくなったことにより侵害された様々な権利を総体的に捉える必要があり,原告らが主張する「包括的生活利益としての平穏生活権」とは,このような観点から,上記の権利を総体的に捉えたものである。 カ包括的生活利益としての平穏生活権侵害の性質・特徴上記のとおり,包括的生活利益としての平穏生活権は,生命,身体,健康,憲法上の様々な基本的人権等に基づく 記の権利を総体的に捉えたものである。 カ包括的生活利益としての平穏生活権侵害の性質・特徴上記のとおり,包括的生活利益としての平穏生活権は,生命,身体,健康,憲法上の様々な基本的人権等に基づく権利,人間らしい生存を支える権利が多面的複合的に重なり合い結び付いた権利であり,その人の生存のために極- 279 -めて重要な権利である。原告らは,一生,被ばくによる健康被害に対する恐怖や不安を抱えたまま生きていかなければならず,被ばくの不安にさらされないで平穏で安全な生活を営む権利の原状回復はほぼ不可能である。住み慣れた環境の中で居住することを自らの意思で選択する権利,住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤で社会生活や家庭生活を享受する権利,住み慣れた環境で築き上げてきた生活基盤の中で成長発達し,自己実現を図る権利は,住み慣れた地域に居住できるようになり,地域共同体から様々な利益を享受し,その中で成長発達し自己実現を図ることができなければ原状回復はできない。これらの原状回復のためには,人間関係や地域とのつながりを含めた地域共同体の再生・復興が必要不可欠であるが,一度失われた人間関係や地域とのつながりを回復させることは極めて困難であり,本件事故の被害の大きさ,特徴等に照らすと,原状回復はほぼ不可能である。以上より,包括的生活利益としての平穏生活権の原状回復は不可能である。 ⑵ 本件事故との因果関係本件事故と損害との因果関係の判断は法的な判断であるから,科学論争によって決せられるものではなく,通常人を基準として判断されるべきものである。避難区域内避難者は,国家によって避難を強制されたものであるから,避難をすることに本件事故と因果関係があるといえる。また,「避難区域」とは,国家が住民の安全を確保するために避難を命じ,強制するものであるか 域内避難者は,国家によって避難を強制されたものであるから,避難をすることに本件事故と因果関係があるといえる。また,「避難区域」とは,国家が住民の安全を確保するために避難を命じ,強制するものであるから,本件事故と損害との因果関係が認められる最小限度の範囲を画するものである。 したがって,国家による避難指示がなかったにもかかわらず避難したことが合理性ないし社会的相当性を有するかどうかは,避難指示の有無とは区別して判断されるべきである。そして,放射線被ばくがもたらす被害は甚大かつ不可逆的であり,これを回避しようとすることは社会通念上も十分に了解可能であること,我が国において放射線被ばく事故が重い意味を有していること,国際的にも公衆被ばく線量限度を実効線量年間1mSv としていること,これらを踏- 280 -まえ,国内法においても同様の規制がされてきたことからすれば,少なくとも,実効線量年間1mSv を超える線量が測定された地域から避難することには合理性ないし社会的相当性が認められ,これらの地域から避難することによって生じた物的・精神的損害は,本件事故と因果関係がある。 放射線は五感で感じることができないものであり,公表された空間線量が高い地域では,公表された空間線量の高さから被ばくの不安を強く感じることになる。他方,公表された空間線量がそれほど高くない地域でも,正確な空間線量を把握することができず,不安を抱くことになる。そして,放射線被ばくの危険性が科学的に十分解明されておらず,どの程度の被ばくによりどのような影響が出るかについては,様々な意見があることからすれば,放射線被ばくによる健康被害の恐怖や不安も深刻である。また,一般人である原告らが心理学・精神医学の分析・調査から放射線被ばくについて健康被害に対する強い恐怖や不安を感じること があることからすれば,放射線被ばくによる健康被害の恐怖や不安も深刻である。また,一般人である原告らが心理学・精神医学の分析・調査から放射線被ばくについて健康被害に対する強い恐怖や不安を感じること,それらが現在まで長期に及んでいることが合理的であることは,心理学,精神医学の知見によっても裏付けられている。したがって,原告らが放射線被ばくによる健康被害を回避するために避難し避難を継続することには,合理性ないし社会的相当性が認められる。また,現在行われている除染は不十分な内容であり,除染を行っても十分な効果が得られていない地域は少なくないこと,除染によって生じた除染廃棄物は住民らの生活環境に保管されていることなどからすれば,除染によって追加被ばくのおそれがなくなったとはいえず,本件事故による追加被ばくのおそれから逃れるためには,引き続き避難をする必要がある。したがって,除染によって追加被ばくのおそれがなくなったとはいえないことからも,避難の合理性がある。さらに,福島第一原発の廃炉作業における燃料デブリの取り出しや搬出方法,燃料の取り出し計画が決まっておらず,廃炉作業中に大量の放射性物質が拡散したこともある。 これらの事情からすれば,今後の廃炉作業に多くの困難が予想され,廃炉作業に伴い高線量の放射性物質が大量に拡散し被ばくするおそれがあると危惧す- 281 -るのは当然のことといえる。このように,被ばくのリスクから逃れるために,避難し,避難を継続することはやむを得ないことであり,避難及び避難継続の合理性がある。 また,前記第1の7及び8の原告らの主張の要旨のとおり,本件事故後の避難指示は不適切・不十分なものであり,さらに,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避により,原告らの不安感や不信感は増大していた。したがって の主張の要旨のとおり,本件事故後の避難指示は不適切・不十分なものであり,さらに,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避により,原告らの不安感や不信感は増大していた。したがって,本件事故後の避難指示が不適切・不十分であったこと,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避があったことに鑑みれば,本件事故と原告らの避難には因果関係があるといえる。 ⑶ 慰謝料増額事由前記第1の7及び8の原告らの主張の要旨のとおり,被告国による本件事故後の避難指示が不適切・不十分であり,また,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報を不開示にし,隠避したことにより,原告の不安感及び不信感が増大したのであるから,本件事故後の避難指示が不適切・不十分であったこと,本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報を不開示にし,隠避したことは,慰謝料増額事由となる。 また,仮に被告東電に対する民法709条及び同法717条に1項基づく請求が認められないとしても,前記第2の2原告らの主張の要旨のとおり,被告東電には過失があったのであるから,これも慰謝料増額事由となる。 ⑷ 中間指針等の定めの位置付け,合理性の有無ア中間指針等の策定趣旨等中間指針等は,飽くまで当面の最低限の賠償額を示すものとして策定されたものであり,賠償範囲を制限したり,賠償額の上限を画したりするものではない。 中間指針等は,本件事故により被害を被った者の切迫する生活状況を迅速,公平かつ適正に救済する必要があるという状況下において,原賠法18- 282 -条2項2号にいう「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」として,原賠審により早急に策定されたものである。中間指針は,「はじめに」の項 2 -条2項2号にいう「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」として,原賠審により早急に策定されたものである。中間指針は,「はじめに」の項目において,この指針が本件事故による原子力損害の当面の全体像を示すものであり,ここで示された損害の範囲に関する考え方を用いて円滑な話合いと合意形成が達成されることを望むとともに,中間指針に明記されていない個別損害が賠償されないことのないよう留意すべきこと,明記されていない損害も含めて多数の被害者への賠償が可能となる体制を早急に整え,迅速,公平かつ適正な賠償が行われることを被告東電に期待するとしている。また,中間指針は,「第 1 中間指針の位置づけ」の項目において,「この中間指針は,本件事故が収束せず被害の拡大が見られる状況下,賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものであるから,中間指針で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。」としている。さらに,中間指針は,損害を算定するに当たり,「個別に損害の有無及び損害額の証明をもとに相当な範囲で実費賠償をすることが原則であるが,本件事故による被害者が避難等の指示等の対象となった住民だけでも十数万人規模にも上り,その迅速な救済が求められる現状にかんがみれば,損害項目によっては,合理的に算定した一定額の賠償を認めるなどの方法も考えられる。」としている。 以上からすれば,中間指針等は, 原賠法18条2項2号の定めにより,原子力事業者と原子力損害を被った被害者との間に生じた紛争を自主的に解決するために策定された指針であり,多数の被害者への賠償を迅速,公平かつ適正に実現する 等は, 原賠法18条2項2号の定めにより,原子力事業者と原子力損害を被った被害者との間に生じた紛争を自主的に解決するために策定された指針であり,多数の被害者への賠償を迅速,公平かつ適正に実現するために策定されたものである。そして,中間指針等は,上記のような趣旨に基づいて,被害者の間において一定の類型化が可能な損害項目につき,合理的に一定の損害額を算定し,被告東電においては,少な- 283 -くともこれを任意に賠償すべきとの指針を提示する役割を持つものである。 他方,損害項目の選択及び損害額の算定方法については,原子力事業者である被告東電による迅速な賠償を実現するという見地から,裁判手続においても認容されることが容易に予想される範囲内において損害項目及び損害額を定めようとしたものであり,被害者は,その被った個々の損害が中間指針の示すものを超える場合には,裁判手続等において個別にこれを主張立証することで,その賠償を求めていくことが想定されているといえる。したがって,上記のように,中間指針等の趣旨及び性質が政策的な観点を強く反映していることに鑑みれば,賠償すべき損害額を算定するに当たっては,中間指針等が定めた損害項目及び賠償額に拘束されることはなく,自ら認定した原告らの個々の事情に応じて賠償の対象となる損害の内容及び損害額を決することができるというべきである。 また,中間指針等は,被告東電と被害者との間の合意形成による自主的解決を志向して作られたものである。したがって,中間指針等は,強制力をもつ裁判と異なり,一方当事者たる被告東電の意向を無視できず,被告東電が納得するものを志向して作られた側面がある。 慰謝料額の算定においては,被害者が受けた精神的苦痛の程度と加害行為及び加害者の悪質性・非難性の程度を相関的に考慮することが必要だが, できず,被告東電が納得するものを志向して作られた側面がある。 慰謝料額の算定においては,被害者が受けた精神的苦痛の程度と加害行為及び加害者の悪質性・非難性の程度を相関的に考慮することが必要だが,中間指針等の策定においては,被害者の被害実態も被告東電の帰責性も考慮されていない。 すなわち,原子力発電施設には一度炉心損傷が生じてしまった場合,取り返しのつかない被害が多数の住民に生じてしまうという性質があり,原子力災害が発生した場合の被侵害法益は,生命を含む極めて重要なものであり,その被害者が極めて広汎に及び得るものであるから,被告東電は,原子力事業者として特に許可を受けてこれを取り扱うという責任のある立場にあり,原子炉施設が想定される津波によって原子炉の安全性を損なうおそれがあ- 284 -る場合は,電気事業法39条1項及び省令62号4条により防護措置等の適切な措置を講ずべき義務を負っていた。それにもかかわらず,被告東電は,①福島第一原発における津波対策において,常に安全側に立った対策を採るという方針を堅持しなければならないのに,経済的合理性を安全性に優先させたと評されてもやむを得ないような対応を採ってきた,②本件事故の原因である福島第一原発の敷地地盤面を超えて福島第一原発の非常用電源設備を浸水させる規模の津波の到来について予見したのであるから,津波堆積物調査を行うよりも先に対策を採るべきであり,それは容易なものであったのに,本件結果回避措置のうち,電源車の高台配備等の暫定的な対策さえ実施しなかった,③規制当局から炉心損傷に至る危険の指摘を受けていながら,長期評価に基づく対策を怠ったという事情がある。したがって,被告東電には,特に非難すべき事情が存在するといえ,被告東電の帰責性の程度は,慰謝料増額の考慮要素となる。このように, 摘を受けていながら,長期評価に基づく対策を怠ったという事情がある。したがって,被告東電には,特に非難すべき事情が存在するといえ,被告東電の帰責性の程度は,慰謝料増額の考慮要素となる。このように,被告東電の帰責性を考慮していないことからしても,中間指針等が合理的かつ十分な賠償基準を定めたものとはいえない。 イ中間指針等の内容 避難指示等対象区域に居住する者に対する慰謝料中間指針において定められた慰謝料は,「正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛」に対する慰謝料だけである。これは,突然避難することとなった避難等対象者に対し,避難生活に伴って生ずる不便や不安に対して定められたものであり,原告らが「生活上の負担を強いられたことに対する精神的苦痛」として主張しているものの一部に該当すると考えられる。一方で,中間指針では,放射線被ばくによる健康不安や生活基盤の破壊等による精神的苦痛については考慮されていない。さらに,中間指針第二次追補において定められた慰謝料も,「不安な状態が続くことによる精神的苦痛」の増大等に対するも- 285 -のであり,放射線被ばくによる健康不安や生活基盤の破壊等による精神的苦痛に対する考慮のないことは中間指針と変わりはない。 しかし,本件事故に起因する被害の特殊性として,放射線被ばくの健康への影響に対する不安を被害者が抱えているという事情があり,原賠審も当初は,福島第一原発より30km 圏などの住民に関し,「相当量の放射線に被ばくしたため健康状態に対する具体的な不安感を抱くことによる精神的苦痛」を賠償の対象とする可能性について,第2次指針では言及していた。しかし,その後の原賠審で,余計な不安を持たれないよう健康管理の仕組みを作ることが先決との意見が出され, 感を抱くことによる精神的苦痛」を賠償の対象とする可能性について,第2次指針では言及していた。しかし,その後の原賠審で,余計な不安を持たれないよう健康管理の仕組みを作ることが先決との意見が出され,福島県が実施する県民健康管理調査の結果が出てから改めて判断することとされたため,中間指針では,上記の不安感を抱くことによる精神的苦痛については,賠償の対象外とされた。その結果,中間指針は,住民の被ばくについて,実際に「生命・身体的損害」が出た場合に賠償することとし,被ばくしたことの不安に関しては「検査費用」の賠償にとどめている。 中間指針第四次追補においては,帰宅困難区域のみを対象に,一括払で慰謝料の上乗せをした上,「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」を一括して賠償するものとの説明が付されている。そのため,この新たな慰謝料につき,従前中間指針で定められた「避難等に係る精神的損害」についての慰謝料及び第二次追補で定められた「いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛」についての慰謝料とは異なる「故郷喪失慰謝料」と考えられなくもない。 しかし,第四次追補における1000万円の加算に当たって,第二次追補で示された600万円のうちの将来分(平成26年3月以降に相当する部分)を控除するとされていること,第四次追補では,帰宅困難区域以外につき,慰謝料額を引き続き月10万円とした上で,それが積み重なった結- 286 -果,故郷喪失慰謝料とほぼ同額になった場合,同慰謝料は頭打ちになるとされていることなどからすれば,第四次追補で認められた1000万円の慰謝料は,従前の慰謝料と基本的に同質のものであり,故郷喪失慰謝料として新たに加算された 同額になった場合,同慰謝料は頭打ちになるとされていることなどからすれば,第四次追補で認められた1000万円の慰謝料は,従前の慰謝料と基本的に同質のものであり,故郷喪失慰謝料として新たに加算された慰謝料と評価することはできない。そして,損害の算定において従前の慰謝料と新たな慰謝料との性質が同質であることを前提にしながら,その対象となる精神的損害の範囲を,「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」などと拡大させている。 このような経緯からすれば,第四次追補において,新たな慰謝料について「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」の意味を含むと説明されているとしても,実際には地域共同体の崩壊によって生じた精神的損害を算定しているものと評価することはできず,単に,従前の慰謝料の将来分をまとめ払いする期間を延伸しただけというべきである。 自主的避難等対象者に対する慰謝料自主的避難等対象者については,中間指針等では,「正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛」に対する慰謝料のみが定められており,避難等対象者に対する慰謝料と同様に放射線被ばくによる健康不安や生活基盤の破壊等による精神的苦痛については考慮されていない。 また,中間指針等においては,避難指示等対象区域居住者に対する賠償とは別に,自主的避難等対象区域居住者に対する賠償の指針が示されている。その賠償指針においては,避難指示等対象区域と自主的避難対象区域とを明確に区別し,その賠償額にも差を設けている。 しかし,避難指示等対象区域は,被ばくによる健康被害が否定できない- ている。その賠償指針においては,避難指示等対象区域と自主的避難対象区域とを明確に区別し,その賠償額にも差を設けている。 しかし,避難指示等対象区域は,被ばくによる健康被害が否定できない- 287 -区域全てに発せられるのではなく,原発事故という緊急時に,切迫した国民への害悪の危険から,最低限この範囲の住民はその意思に反しても避難させるべきとの政策的判断により指定された区域である。一方で,本件において原告らに発生した損害を評価するに当たっては,個々の原告について存在する各事情を個別具体的に検討すべきであって,上記のような避難指示等対象区域の線引きとは全く関連性がない。したがって,避難指示等対象区域内か否かは,住民に発生した損害を算定する際の基準とならない。そして,いずれの区域に居住していた原告らも,一旦避難した以上,避難指示等対象区域内外を問わず同様の損害を被っているのであって,両者の間で損害賠償額に差を設けるべき合理性はない。以上より,本件における損害の内容及び損害額を認定するに当たっては,中間指針等の基準に捉われず,原告ごとの個別の事情に応じて認定すべきである。 ウ以上のように,中間指針等の策定経緯やその内容からすれば,中間指針等がもともと全ての損害内容を網羅することを予定しているものではなく,中間指針等は,被害者と被告東電との間の自主的解決の限度において合理性を有するものにすぎない。 ⑸ 黒田由彦(以下「黒田」という。)教授の調査結果及び分析によって明らかとなった損害社会学者である黒田は原告らの包括的生活利益の侵害について社会学の観点から分析を行ったが,その結果からも,以下のとおり,原告らには包括的生活利益の侵害があり,避難及び避難継続には合理性が認められる。 ア 「強いられた避難」としての区 の侵害について社会学の観点から分析を行ったが,その結果からも,以下のとおり,原告らには包括的生活利益の侵害があり,避難及び避難継続には合理性が認められる。 ア 「強いられた避難」としての区域外避難黒田は,区域外避難は「自主避難」ではなく,「強いられた避難」であり,そこから生じた損害の賠償責任は本件事故を引き起こして事故以前の水準を超えた被ばくをもたらした事業者にあるとする。また,黒田は,避難指示区域外に住む住民が,知覚できない放射線による被ばくに脅威を感じながら- 288 -も信頼できる情報がなかなか得られず,事故対応に責任のある行政が一貫性のある対応をしておらず,その結果福島第一原発周辺地域は区域外であっても将来重大な健康被害に見舞われるリスクのある状態に置かれているという状況では避難の合理性が認められるとし,区域外に居住する人々の中から被ばくリスクを避ける予防的措置として避難という選択を行うことは合理的な選択であるとする。このように,区域外避難者は,自ら望んで避難したのではなく,飽くまでも強いられて避難したといえる。 イ本件事故による被害 存在論的安全の剥奪黒田は,存在論的安全には,①自分の今の健康状態,身体状態がこれまでどおりこれからもずっと続いていくという確信たる身体的側面,②自分が今見ている,自分が今その中で暮らしている周りの環境,物的,自然環境等が全てこれまでどおりこれからもずっと変わらずそこにあるという確信たる環境の側面,③家族,親族,親しい友人,知人,地域の人々等,社会の人々の関係がこれまでどおりずっと続くという確信たる社会関係の側面がある。そして,このような存在論的安全は,人々に安心の感覚を与え,その上で日常生活における様々な制度を前提とした意図的な社会 社会の人々の関係がこれまでどおりずっと続くという確信たる社会関係の側面がある。そして,このような存在論的安全は,人々に安心の感覚を与え,その上で日常生活における様々な制度を前提とした意図的な社会的行為がされ,現在の延長線上に将来設計や生活目標を思い描くという精神的営為であり,普段の日常生活においては自明性の中に意識されることなく存在しているものであるところ,本件事故はこのような存在論的安全を剥奪したとする。 希望の剥奪黒田は,原告らは,本件事故前は,その健康状態がこれからも続き,住み慣れた福島の生活環境や社会環境がこれからもずっと続き,家族や親族,友人らとの関係がずっと続いていくという確信や信頼の中で,それぞれの原告が将来設計や生活目標を持ちながら人生を営んでいたが,これら- 289 -は本件事故により全て奪われたとする。 社会関係の剥奪黒田は,家族・親族が空間的に離れて暮らすこと(分離),被ばくのリスクの捉え方の違いにより人間関係が壊れること(決裂),同僚,友人・知人との間で人間関係が消滅すること(喪失)により,社会関係が剥奪され,原告らは精神的苦痛を被っているとともに,経済的な負担を増大させているとしている。また,黒田は,区域外避難による二次被害として,福島から避難することに対する自責感情や差別を受けるかもしれないという周囲への警戒心を指摘し,区域外避難者が,明日も今日と同じように安定した人間関係が続くだろうという感情を持てない状態にあり,存在論的不安に置かれているとしている。 以上のとおり,本件事故は,個々人が生きていく上で必要な中核的な条件を剥奪し,身体・環境・社会の側面での損害が生じているのであり,さらに,将来設計や生活目標という希望をも剥奪して る。 以上のとおり,本件事故は,個々人が生きていく上で必要な中核的な条件を剥奪し,身体・環境・社会の側面での損害が生じているのであり,さらに,将来設計や生活目標という希望をも剥奪しており,原告らが被った包括的生活利益の侵害は上記の特質を踏まえた重大な損害として捉えるべきである。 ウ本件事故による避難及び避難継続の合理性 黒田は,①刻々と変化する本件事故の状況について,十分かつ混乱のない首尾一貫した情報が福島第一原発周辺の住民に対して責任ある主体から適時に与えられたわけではなかったこと,②時間の経過とともに避難指示区域が変化し,放射性物質の飛散に関してどのような状況にあるかの政府が把握しきれておらず,対応が後手後手に回っている印象を与えたということ,③本件事故直後における当時の政府のリスク・コミュニケーションの稚拙さ,④被ばくの許容基準の設定に関する政府部内の非一貫性という事情から,福島第一原発の周辺地域の避難指示区域外に住む住民にとっての本件事故発生後の「状況の定義」は,知覚できない放射線による被ば- 290 -くに脅威を感じながらも,信頼できる情報がなかなか得られず,事故対応に責任のある行政が一貫性のある対応をしておらず,その結果福島第一原発周辺地域は区域外であっても将来重大な健康被害に見舞われるリスクのある状態に置かれているというものであったとする。そして,黒田は,このような「状況の定義」の下では,福島第一原発周辺地域の避難指示区域外に居住する住民が,予防的に避難しようという行動には十分に合理性があったと評価することができ,区域外避難の合理性が認められるとする。したがって,このような黒田の調査分析結果からも区域外避難者の合理性が認められるべきである。 黒田は,①本件事故以前 があったと評価することができ,区域外避難の合理性が認められるとする。したがって,このような黒田の調査分析結果からも区域外避難者の合理性が認められるべきである。 黒田は,①本件事故以前,通常時の一般市民の年間被ばく量は年間1mSv で規制されていたという事実,②総被ばく線量が100mSv 以下の被ばくに関して科学的知見が確立していないという事実,③被ばくの影響を受けやすい新陳代謝の活発な乳幼児から未成年までの若者世代であるという事実を前提とすると,本件事故から数か月が経ち,本件事故の状況がある程度社会に明らかになった段階において,福島第一原発周辺地域の避難指示区域外に居住する住民の集合的な「状況の定義」は,年間1mSv 以上被ばくしても将来健康上の被害がないということは科学的に立証されておらず,もし将来がんに罹患したとしてもそれが本件事故に伴う被ばくが原因であることを証明することは極めて困難だと予想され,起こり得る健康被害に対する被告東電からの賠償や政府の公的サポートはほとんど期待できないと考えられ,病気で苦しむのは自分であり,治療にかかる費用等一切も自分たち家族の負担となり,その後の教育や職業キャリアに少なからぬ制約がかかるというものであるとする。そして,黒田は,本件事故以前の一般公衆の線量限度を超える被ばくが見込まれる福島第一原発周辺の避難指示区域外に居住する住民が避難生活を継続することは十分に合理的だとして,区域外避難者の避難継続の合理性を肯定する。また,黒- 291 -田は,避難継続の終期を考えるに当たり,年間1mSv が一つの基準となるとし,避難者が本件事故前に暮らしていた地域で普通に生活する中で享受していたようなライフスタイルをした場合に,その場合でも年間1mSv 以下になる必要があり,また,本件事故直 v が一つの基準となるとし,避難者が本件事故前に暮らしていた地域で普通に生活する中で享受していたようなライフスタイルをした場合に,その場合でも年間1mSv 以下になる必要があり,また,本件事故直後に避難した人々が避難を継続したこと及び本件事故後一定時間が経過した後での避難は,特に未成年の子供を持つ家族にとっては,避難及びその継続は低線量被ばくによる子供の将来の健康被害を防ぐ予防的措置として行われたものであるとしている。 以上より,年間1mSv を超える放射線量が測定された地域から避難することには合理性・社会的相当性が認められ,年間1mSv を超える放射線量が測定される限り,避難継続の合理性・社会的相当性が認められる。 (被告国の主張の要旨)⑴ 本件事故との因果関係ア国賠法1条1項における違法性を判断するに当たっては,被侵害利益の種類・性質,損害の重大性は重要であって,一般不法行為において,受忍限度論が妥当するような軽微な損害については,国賠法においても責任が認められるべきでない。したがって,「公権力の行使」の前後で何らかの事実状態の差が生じ,一般人を基準として「不利益」と評価されるものであるとしても,これが直ちに賠償の対象となる「損害」と評価されるものではない。 イ健康影響のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられる事象に対する不安感について検討すると,一般に,生命・身体へ向けられた加害行為による精神的苦痛は,傷病等の身体的被害の結果が大きくなるにつれて増大すると考えられるところ,上記のような不安感によって生じる精神的苦痛は,肉体的な痛みを伴わないことはもとより,健康影響へのリスクが,日常生活上の他のリスクと同程度ないしそれより小さいと考えられることから,その苦痛の程度も軽微なものとい 安感によって生じる精神的苦痛は,肉体的な痛みを伴わないことはもとより,健康影響へのリスクが,日常生活上の他のリスクと同程度ないしそれより小さいと考えられることから,その苦痛の程度も軽微なものということができる。また,原告らが感じる不安感が科学的,合理的根拠に欠けるものであれば,実際に感- 292 -じる不安感がいかに大きいものであったとしても,それは,単なる主観的な不安にとどまるのであって,直ちに損害賠償の対象となるものではない。以上より,不安感が生じたとしても,低線量被ばくの健康影響リスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられる事象に対するものであれば,それは科学的根拠を欠く極めて主観的なものというべきであり,直ちに賠償の対象とされるべきものではない。 ⑵ 各区域の居住者に対する賠償についてア自主的避難等対象区域の居住者の精神的損害について 自主的避難等対象区域は,平成23年12月6日,中間指針第一追補において,賠償の指針を示すために設定されたものであり,平成23年3月から4月にかけて,住民の安全を確保すべく避難のために設定された,避難指示等対象区域とは異なる。 自主的避難等区域内の住民が,本件事故により放射線に被ばくしたことに対して何らかの不安感を抱いたとしても,上記のとおり,健康への影響リスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられるような低線量被ばくに対するものである上,地震・津波による自主的避難者も含め,平成23年3月15日時点における人口に占める自主的避難者数(地震・津波による自主的避難者数を含む。)割合は,いわき市4.5%,郡山市1.5%,二本松市1.1%,福島市1.1%であり,田村市0. 1%,小野町0.1%など1%に満たない市町村も含まれていた。そして, 津波による自主的避難者数を含む。)割合は,いわき市4.5%,郡山市1.5%,二本松市1.1%,福島市1.1%であり,田村市0. 1%,小野町0.1%など1%に満たない市町村も含まれていた。そして,福島県民の自主的避難者総数が,平成23年3月15日時点に比し,大幅に増加することがなかったことからすれば,上記統計において若干捕捉されていない避難者がいることを考慮しても,自主的避難等対象区域の住民のほとんどは,避難することなく,当該区域に滞在し続けたということができる。また,自主的避難等対象区域は,30km から約100km 程度,福島第一原発から離れており,同所から遠く離れた所に位置するというこ- 293 -とができる。さらに,上記のとおり,当該区域の住民に対しては,避難指示等が出されておらず,避難の勧奨もされていなかった。加えて,自主的避難等対象区域は,避難指示等の出されている区域と隣接さえしておらず,屋内退避の指示が出された区域に隣接していたにすぎなかった。そして,一般住民に対し,万が一にでも健康への影響を生じさせないという,予防的観点から避難指示等が出されていたことも考慮すると,自主的避難等対象区域の住民が,避難指示等が出されていない状況下で避難することは,一般的とはいえない。 以上のように,自主的避難等対象区域における放射線被ばく量が,健康への影響を伴わず,その健康への影響リスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられること,住民のほとんどが避難しなかったこと,自主的避難等対象区域が福島第一原発から遠く離れており,避難指示等の対象でなかったこと,本件事故当初については,自主的に避難することが一般的ではなかったことに照らすと,当該区域内の住民が自主的に避難したことにより生じた精神的損害と被告国の行為との間に直ち 指示等の対象でなかったこと,本件事故当初については,自主的に避難することが一般的ではなかったことに照らすと,当該区域内の住民が自主的に避難したことにより生じた精神的損害と被告国の行為との間に直ちに相当因果関係を認めることはできない。 自主的避難等対象区域に関する中間指針等の評価について被告東電は,中間指針等や総括基準を十分尊重し,適切な賠償をしており,対象者の要望に応じて,対象者が被告東電より賠償を受けるに当たって必要な請求書類を送るなどして,迅速かつ公平な賠償に努めている。中間指針等を踏まえ,多数の和解が成立している現在,中間指針等の果たしている役割は大きい。そして,中間指針等は,原賠法に基づく本件事故に関する損害賠償の範囲について,一般の不法行為に基づく損害賠償請求権における損害の範囲と特別に異なって解する理由はないとして,相当因果関係があるものとされる損害の範囲について指針を示している。もっとも,中間指針等については,裁判規範ではなく,従来の相当因果関係説に- 294 -よっては導かれない,新たな損害の賠償を認めたのではないか,原子力損害の特性を踏まえ,従前の学説・実務が不法行為損害賠償における実体ルールとしてきたものを超えたルールを採用し,相当因果関係における予防原則を取り込むなどしたなどの指摘があるとおり,相当因果関係があるものとされる損害の範囲を示すに当たっては,被災者の早期救済のためなどの政策的観点も加味された上でその範囲を示している。このため,本件においては,中間指針等の上記性質を十分に踏まえた上で,別途,相当因果関係の存否や損害額が認定されるべきであるし,既払金のある場合には,これを損害額から控除するとともに,慰謝料の算定に当たって,早期に十分な被害回復がされたことが考慮されるべきである。 ,相当因果関係の存否や損害額が認定されるべきであるし,既払金のある場合には,これを損害額から控除するとともに,慰謝料の算定に当たって,早期に十分な被害回復がされたことが考慮されるべきである。 中間指針の第一次追補は,自主的避難や滞在を行った住民の損害賠償を検討するに当たり,福島第一原発の状況が安定しない中で,放射線被ばくへの恐怖や不安,発電所からの距離,避難指示等対象区域との近接性,自己の居住する市町村の自主的避難の状況等を総合的に考慮し,被災者救済という政策的観点も加味した上で賠償が認められるべき一定の範囲を示している。中間指針等では,自主的避難等対象区域の住民が,放射線被ばくへ恐怖や不安感を抱いたことに起因する損害の賠償を認めているところ,不安感等の対象である放射線量の科学的な評価が賠償の可否,内容を決するに当たって最も重要な要素となると考えられる。そして,中間指針第一次追補においては,平成23年4月以降,放射線量が客観的に明らかにされるようになった後の期間に係る賠償についても,線量の非常に低い地域を含んだ対象区域が設定されている。中間指針等に対しては,その性質上,和解仲介に資する賠償基準を示すことが期待されていたことから,基準が明確であることが望ましい一方で,中間指針第二次追補策定時においては,自主的避難等対象区域の住民に対する避難に係る賠償の範囲を決するに当たり,線量を基準とすることに対しては,様々な意見が示される- 295 -などしていた。これらのことからも,中間指針等が,健康被害を生じさせず,有意に健康リスクを増加させるわけではない低線量被ばくの健康影響に対する不安感という主観的利益侵害について,被災者救済の政策的観点も踏まえた様々な事情を考慮していたことが分かる。 本件事故当初の特殊性を踏まえ,自主的避難等 わけではない低線量被ばくの健康影響に対する不安感という主観的利益侵害について,被災者救済の政策的観点も踏まえた様々な事情を考慮していたことが分かる。 本件事故当初の特殊性を踏まえ,自主的避難等対象区域の住民の避難に係る慰謝料を認めるとしても少額にとどまること自主的避難等対象区域の住民による損害賠償請求については,福島第一原発の状況が不安定であり,将来的な飛散放射線量の予測ができない状況下において,万一の事態を想定して緊急避難的に避難することは,正当化できるとしても,自主的避難等対象区域が広域にわたっていること,その範囲が福島第一原発からの距離や放射線の線量に必ずしも対応していないことなどに照らし,慰謝料を認める対象者については,行政区画ごとに一律に考えるべきではなく,細やかな検討を要すると考えられる。 このような慰謝料の算定に当たっては,本件事故前以上の放射線に被ばくしたとしても,自主的避難等対象区域の住民について,客観的にみて,健康影響は生じていないし,健康影響のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられ,肉体的苦痛も受けてないことが考慮されなければならない。また,福島第一原発の状況が刻々と変化し,情報が不足していた期間は僅かであったことや,政府においても,予防的観点に立ちつつ,当初から情報提供をしていたことなどについても十分に併せ考慮して慰謝料が算定される必要がある。中間指針等の策定に当たって参照された裁判例のうち,身体的損害を伴わない,騒音・悪臭等に関する裁判例をみると,基地や空港の騒音,道路の騒音や排気ガス等が問題になった裁判例において認容された慰謝料額は,最も高いもので月額1万8000円であり,下水,産業廃棄物,豚舎の悪臭が問題になった裁判例において認容された慰謝料額は,最も高いもので月額900 等が問題になった裁判例において認容された慰謝料額は,最も高いもので月額1万8000円であり,下水,産業廃棄物,豚舎の悪臭が問題になった裁判例において認容された慰謝料額は,最も高いもので月額9000円である。このよう- 296 -に,中間指針第一次追補において,自主的避難等対象区域の滞在者に対し,子供及び妊婦に対しては一人40万円(本件事故発生から平成23年12月末までの損害として),その余の者に対して8万円(本件事故発生当初の時期の損害として)を目安として賠償するという考え方は,種々の議論の結果,上記の裁判例も参照しつつ,低線量被ばくに対する不安を中心に,自主的避難と滞在を分けずに初期の情報が十分でなかったこと等も総合的に考慮したものであって,合理性を有する。 自主的避難者の精神的損害は4万円を上回らないと考えられること慰謝料額の算定に当たっては,①自主的避難をした者は,本件事故当初の滞在期間が短い分,滞在者に比し,被ばくによる健康への影響に対する不安感は小さいこと,②避難指示等を受けず,避難を余儀なくされているとはいえない上に,避難指示等対象区域の住民に比し,帰還が容易なため,避難指示等対象区域内の住民よりも,一定期間内に受ける精神的苦痛の小さいことが十分に考慮されるべきである。そうすると,自主的避難等対象区域内の住民については,避難指示等対象区域の住民の受ける慰謝料額として十分な金額である月額10万円よりは,相当程度小さくなるはずである。 以上のとおり,自主的避難等対象区域の住民についての賠償は,本件事故当初の特殊性を考慮すべきであり,少なくとも避難に伴う高額な損害の賠償を認めるのは相当でない。 イ避難指示等対象区域の居住者の精神的損害について 避難指示等対象区域について避難指示等対象区 殊性を考慮すべきであり,少なくとも避難に伴う高額な損害の賠償を認めるのは相当でない。 イ避難指示等対象区域の居住者の精神的損害について 避難指示等対象区域について避難指示等対象区域は,福島第一原発から30km 圏内にあったり,本件事故発生から1年間の積算線量が20mSv を超えると推定される空間線量率が続いていたりする地点等であって,政府により避難指示が出されたり自主的に避難することが求められた区域である。前記のとおり,100- 297 -mSv 以下の放射線に被ばくすることにより,健康への影響の生じることが科学的に証明されていないことからすれば,本件事故前以上の放射線に被ばくしたことのみをもって,避難指示等対象区域の住民が,通常避難するとはいえないが,これらの地域については,政府の指示等があることを踏まえると,当該区域内の住民は,通常避難することになると考えられる。 そのため,仮に被告国の行為に違法性が認められた場合には,避難に伴って生じた精神的損害は,避難に必要かつ相当と認められる限り,被告国の行為との間に相当因果関係のある損害と認められるとしても不合理とはいえない。 精神的損害について避難指示等を受けて避難した者は,自主的に避難した者と異なり,避難を余儀なくされたということができる上,避難生活が長期間にわたったため,相応な精神的苦痛を受けていると考えられるから,これについて慰謝料を認める余地がある。しかし,慰謝料額は,精神的苦痛の内容や類似事案における慰謝料額等を踏まえ,適切に算定される必要がある。中間指針等においては,避難指示等に係る損害として,精神的損害の賠償に係る指針も示されているが,その内容は,交通事故における損害賠償実務や類似事案の裁判例と比較すると十分な内容となっており,政策的判 間指針等においては,避難指示等に係る損害として,精神的損害の賠償に係る指針も示されているが,その内容は,交通事故における損害賠償実務や類似事案の裁判例と比較すると十分な内容となっており,政策的判断も加味されている。このため,本件においては,精神的損害について,中間指針等の内容を踏まえつつも,適切な慰謝料額が算定されるべきである。また,被告国の支援の下,被告東電が,中間指針等を尊重し,適切な賠償を早期に行っていることや対象者の要望に応じて,対象者が被告東電から賠償を受けるに当たって必要な請求書類を送付するなどして早期の賠償に努めていることは,慰謝料の算定に当たっても,十分に考慮されるべきである。 避難者は,突然の事故によって,平穏な日常生活とその基盤を失い,避難による不便な生活を余儀なくされるとともに,帰宅の見通しが不透明な- 298 -ことについて不安を抱くため,精神的苦痛を受けると考えられる。他方,避難者は,本件事故による身体的傷害や健康影響を負っておらず,これらに伴う肉体的苦痛や精神的苦痛を受けていない。また,避難者は,実際に,入通院等を余儀なくされていないので,入通院を余儀なくされる場合に比し,時間や行動の制約は小さい。さらに,避難生活の長期化に伴い,当面の間避難を継続することを前提とした生活基盤が整備され,避難者が避難先の生活に徐々に適応することにより,上記のような精神的苦痛は相当に軽減されていくと考えられる。これらの事実に照らすと,避難者の受ける精神的苦痛は,交通事故のため入通院を余儀なくされた被害者に比しても,相当に小さいはずであり,自動車損害賠償責任保険における慰謝料(日額4200円,月額換算12万6000円)より低額であっても不合理ではない。中間指針等では,避難指示等対象区域の住民の受けた避難に伴う精 に小さいはずであり,自動車損害賠償責任保険における慰謝料(日額4200円,月額換算12万6000円)より低額であっても不合理ではない。中間指針等では,避難指示等対象区域の住民の受けた避難に伴う精神的苦痛の損害額として,本件事故から6か月間(第1期)は一人月額10万円(避難所等における避難生活をした期間は,一人月額12万円),その後の避難指示等対象区域の見直し時点まで(第2期)は一人月額5万円,その後の終期まで(第3期)は避難指示解除準備区域,居住制限区域に設定された地域は一人月額10万円を目安として賠償することとされている。加えて,上記の損害算定期間の終期について,中間指針等では,①避難指示区域については,解除等から1年間を当面の目安とする,②平成23年9月に区域指定が解除された緊急時避難準備区域については,支払終期は平成24年8月末までを目安とする,③特定避難勧奨地点については,避難指示等の解除後3か月間を当面の目安とするとされており,帰還やその後に安定した生活を営むために一定の期間を要することを踏まえても,中間指針等では十分な慰謝料額が認められているということができる。 帰還困難区域の住民は,非常に長期間にわたって帰還不能となった上,- 299 -帰還の見通しが立たないため,同区域内における生活の断念を余儀なくされたことなどによる精神的苦痛を受けている。中間指針等では,帰還困難区域の住民が受けた精神的損害の損害額として,第1期及び第2期分に加え,中間指針第二次追補で一人600万円,中間指針第四次追補で一人1000万円を目安とするとされている(ただし,支給調整があり,第3期の始期が平成24年6月の場合の加算額は700万円とされる。)。このような中間指針等の内容は,慰謝料額として十分なものと考えられる。 ウ区域外居 とするとされている(ただし,支給調整があり,第3期の始期が平成24年6月の場合の加算額は700万円とされる。)。このような中間指針等の内容は,慰謝料額として十分なものと考えられる。 ウ区域外居住者の精神的損害について中間指針第一次追補は,その策定の段階で自主的避難等対象区域内に住居があった者等に対する損害賠償を検討するに当たり,福島第一原発の状況が安定していない状況下で,放射線被ばくへの恐怖や不安,同原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難の状況等を総合的に考慮し,被災者救済という政策的観点も加味した上で賠償が認められるべき一定の類型とその場合の賠償額等を示したものである。中間指針第一次追補は,可能な限り早期に一定の指針を示すという観点から示したものであり,同追補以降において,自主的避難等対象区域の追加設定や,区域外居住者に対する賠償については,新たな指針として示されていない。 避難指示等対象区域及び自主的避難等対象区域以外の区域では,自主的避難等対象区域と同様,1年間の積算線量が20mSv に達するおそれがなく,本件事故前以上の放射線に被ばくすることにより,健康影響のリスクは他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられるから,区域外居住者に対する損害の賠償を直ちに認めないとの考え方は,科学的根拠を伴わない主観的利益や現実化する客観的な蓋然性を欠くような生命・身体に対する危険を保護していない裁判例の枠組みと整合するものである。従前の裁判例の枠組みに照らせば,このような区域外居住者が放射線被ばくによる健康影響- 300 -に対する精神的苦痛を感じたとしても,それは危険の現実化する客観的な蓋然性を伴わない漠然とした恐怖感や不安 例の枠組みに照らせば,このような区域外居住者が放射線被ばくによる健康影響- 300 -に対する精神的苦痛を感じたとしても,それは危険の現実化する客観的な蓋然性を伴わない漠然とした恐怖感や不安感程度のものすぎず,慰謝料の発生を認める程度の精神的苦痛とはいえない。 したがって,区域外居住者に対する損害の賠償を直ちに認めることはできない。 ⑶ 平穏で安全な生活を喪失したことによる精神的損害について中間指針は,「本件事故においては,少なくとも避難等対象者の相当数は,その状況に応じて,①避難及びこれに引き続く対象区域外滞在を長期間余儀なくされ,あるいは,②本件事故発生時には対象区域外に居り,同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされたことに伴い,自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,あるいは,③屋内退避を余儀なくされたことに伴い,行動の自由の制限等を長期間余儀なくされるなど,避難等による長期間の精神的苦痛を被っており,少なくともこれについて賠償すべき損害と観念することが可能である。したがって,この精神的損害については,合理的な範囲において,賠償すべき損害と認められる。」とし,避難等による長期間の精神的損害について包括的に考慮した上で,精神的損害の内容と賠償額等を示している。そして,中間指針では,第1期における避難等対象者の精神的損害について,「地域コミュニティ等が広範囲にわたって突然喪失」したことなども挙げられている上,中間指針第二次追補では,第3期における避難等対象者の精神的損害の内容として,「帰還困難区域にあっては,長年住み慣れた住居及び地域における生活の断念を余儀なくされたために生じた精神的苦痛が認められ」るとされ,さらに,中間指針第四次追補では,帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域 っては,長年住み慣れた住居及び地域における生活の断念を余儀なくされたために生じた精神的苦痛が認められ」るとされ,さらに,中間指針第四次追補では,帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域からの避難等対象者に対して,故郷を喪失する者への精神的苦痛部分を慰謝料として一括して賠償することとされた。中間指針に定める避難等に係る精神的損害は,避難等対象者が,避難を余儀なくされ,いつ自宅に戻れるか分からないと- 301 -いう不安な状況に置かれることをも踏まえて策定されたものであり,中間指針第四次追補において賠償の対象となっている精神的苦痛,すなわち「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」は,原告らが「平穏で安全な生活」を喪失したとして損害賠償の支払を求める精神的損害の範囲に含まれると考えられる。 このように,原告らが主張する「平穏で安全な生活」の喪失による精神的損害は,中間指針等で示された賠償の対象となっている精神的損害に含まれていると考えられるため,特段の事情がない限り,原告らが中間指針等の範囲を超えて慰謝料の支払を求めることはできない。 (被告東電の主張の概要)⑴ 総論原告らは,政府による避難指示等により避難を余儀なくされた避難等対象者,政府による避難指示等の対象とされなかった区域(本件事故後に中間指針第一次追補により「自主的避難等対象区域」に指定された区域とそれ以外の区域の双方を含む。)の居住者であり,本件事故後に置かれた状況はそれぞれ異なっており,本件事故の影響による原告ら各人についての法益侵害の有無,程度,内容の評価に当たっては,そのような本件事故後に置かれた状況の相違を無視して論ずる り,本件事故後に置かれた状況はそれぞれ異なっており,本件事故の影響による原告ら各人についての法益侵害の有無,程度,内容の評価に当たっては,そのような本件事故後に置かれた状況の相違を無視して論ずることはできない。原告らが本件事故発生当時に生活の本拠としての住所を有していた区域が,①政府による避難指示を受け,強制的な避難を余儀なくされた場合,②強制的な避難の指示ではないが,政府により屋内退避又は緊急時における避難の準備が求められるなどの指示を受けた場合,③これらの指示を受けずに滞在し又は自主的に避難した場合については,それぞれ,平穏生活権の侵害を認めるとしても,その内容や程度,侵害の期間等においてそれぞれの事情に基づく相違があり,上記①の場合においても,既に避難指示が解除されている区域と現時点で解除の見通しが立っていない区域とでは,精- 302 -神的苦痛や法益侵害の内容・程度も異なる。したがって,本訴訟で原告らが求めている一律の精神的苦痛の賠償請求については,本件事故後に原告らが置かれた状況に即して,妥当な賠償額を検討する必要があり,政府による避難指示等の指定区分ごとに検討すべきである。 ⑵ 避難指示等対象区域の原告らの精神的損害についてア政府の避難指示によって強制的な避難を余儀なくされた区域の住民については,従前享受してきた平穏な日常生活やその生活基盤の喪失による精神的苦痛や避難生活における生活の不便等による精神的苦痛が生じることが考えられ,これらの精神的苦痛から生じる精神的損害については,賠償の対象となるものと考えられる。 しかし,避難生活が長期化すれば,避難先で再就職するなど避難先での生活が安定し,人間関係も形成され,一般的には避難生活における苦痛は次第に軽減するものと考えられる。また,避難指示等対象区域につい しかし,避難生活が長期化すれば,避難先で再就職するなど避難先での生活が安定し,人間関係も形成され,一般的には避難生活における苦痛は次第に軽減するものと考えられる。また,避難指示等対象区域については,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区域に再編され,居住制限区域及び避難指示解除準備区域(大熊町及び双葉町を除く)については,平成29年4月1日までに全て解除済みであるため,既に当該区域内での居住が制限されるという状況はなくなっており,避難指示の解除後は帰還して居住することが可能な状態にあり,実際に,相当数の住民が帰還して生活を営んでいる。このように避難指示が既に解除された避難指示等対象区域においては,避難指示が解除された時点で直ちに精神的損害の賠償が終期を迎えると解することはできないとしても,本件事故による空間線量率が低下している状況にあることはもちろんのこと,一定のインフラの復旧がされることを前提として自治体とも協議の上で避難指示が解除されていることからすると,避難指示解除後は帰還して生活を営むことは可能な状態に至っているものであるから,帰還をするための準備などに必要な「避難指示解除後の相当期間」が経過した後においては,本件事故の放射線の影響による平穏生活権侵- 303 -害の状態が継続しているとは評価できない状態に至ると考えられるのであり,政府による避難指示の対象となった原告らの精神的損害についても,その賠償の終期を迎えると解することが合理的である。 イ帰還困難区域について帰還困難区域については,他の避難指示等対象区域と同様に避難指示によって避難し平穏な生活が侵害されたことについて精神的損害が発生したと考えられるが,避難の概念は何れかの時点で帰還することが可能になることを前提にしているとも考 避難指示等対象区域と同様に避難指示によって避難し平穏な生活が侵害されたことについて精神的損害が発生したと考えられるが,避難の概念は何れかの時点で帰還することが可能になることを前提にしているとも考えられるため,避難が長期化し,移住を余儀なくされる状況にあると法的に評価されるに至った時点においては,以後は,月々の継続的な慰謝料額の賠償を行うのではなく,交通事故事例における後遺障害慰謝料の場合と同様に,その精神的損害を一括して算定,評価することも許される。そして,被告東電は,このような考え方に基づき,本件事故時の住所地が帰還困難区域に指定されている原告に対しては,①平成23年3月11日(平成23年3月分は1か月分として10万円)から平成24年5月末までの15か月について中間指針及び被告東電の賠償基準に基づき1人当たり月額10万円の賠償を逓減させずに継続して合計150万円(避難所等での避難がある月については月額12万円),②中間指針第二次追補に基づく600万円(平成24年6月ないし平成29年5月までの5年間)が支払われ,③さらに中間指針第四次追補に基づき,当該地区については移住を余儀なくされる状態にあるとの評価に基づき,1000万円の慰謝料が認定されるが,そのうち②の賠償額との重複分を将来に向けてのみ控除することとして,700万円の追加賠償がされることとなり,この結果として,避難等に係る慰謝料の賠償総額は,1人当たり1450万円となり,かかる慰謝料額を賠償している。 ウ居住制限区域・避難指示解除準備区域について本件事故時の住所地が避難指示解除準備区域又は居住制限区域に指定さ- 304 -れていた原告については,中間指針,中間指針第二次追補,同第四次追補(避難指示解除後の相当期間に関する指針部分)を踏まえて,また政 所地が避難指示解除準備区域又は居住制限区域に指定さ- 304 -れていた原告については,中間指針,中間指針第二次追補,同第四次追補(避難指示解除後の相当期間に関する指針部分)を踏まえて,また政府復興指針に基づき,実際に避難指示が解除された時期を問わず(楢葉町は平成27年9月5日,南相馬市は平成28年7月12日,浪江町及び飯舘村は平成29年3月31日,富岡町は平成29年4月1日に各避難指示解除),本件事故後6年経過時点で避難指示が解除されたものと同等の賠償を行うものとして,被告東電は,平成23年3月11日ないし平成30年3月末までの7年1か月分について,時間の経過による賠償額の逓減をすることなく,月額10万円の精神的損害の賠償を継続することとしており,総額1人当たり850万円となる。 また,解除後の旧居住制限区域・旧避難指示解除準備区域においては,自治体の置かれた状況等による程度の相違はあるものの,避難指示の解除をにらんでの営農その他の事業活動が一部で再開され,又は,その準備が進みつつあり,避難指示等対象区域の周辺区域(避難指示等対象区域の指定が既に解除された区域も含む。)の復興の取組ともあいまって,生活環境の復旧・復興のための取組が始まっている。したがって,かかる区域の原告らについては,避難指示が解除されることによって,その後においては本件事故時住所地に帰還することは可能な状態になったものであるが,本件事故時に居住していた住宅の補修に相応の時間を要し,あるいは避難が長期化したことにより実際の帰還までに一定の時間を要すること等を考慮しても,避難指示の解除から相当期間が経過した後以降においては,本件事故の影響によって引き続き帰還することができず,本件事故と相当因果関係のある旧居住地における法益侵害の状態が引き続き継続しているとは も,避難指示の解除から相当期間が経過した後以降においては,本件事故の影響によって引き続き帰還することができず,本件事故と相当因果関係のある旧居住地における法益侵害の状態が引き続き継続しているとは評価することができない。 エ中間指針等が定める避難慰謝料が合理的であること 中間指針等の意義原子力発電所においてひとたび原子力事故が発生すると,極めて広範囲- 305 -にわたって多種多様な損害が発生することになり,事故が落ち着き,あるいは収束した後は損害賠償を巡る紛争が多数生ずることが予想される。このため,原賠法18条は,適正かつ迅速な賠償実施が可能となるよう,原賠審の設置について規定するとともに,原賠審の所掌事務として,「原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと」(同条2項1号)と並んで,「原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること」(同項2号)を定めている。そして,同法は,かかる指針策定のために「必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと」(同項3号)をも原賠審の所掌事務とし,原賠審に原子力損害の調査及び評価を行わせるための専門委員を置くことを定めている(原子力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令4条)。こうした法令上の根拠に基づき,原賠審は,原子力事故が発生した際には,必要かつ十分な事実関係の調査・分析を行って審議・検討を行い,原子力損害の賠償に関する紛争についての「原子力損害の範囲の判定の指針」等を示すことによって,広範囲に及び得る原子力損害の賠償に関する紛争の適正・迅速な解決を促進することが法令上予定されている。そして,このような原賠法の定めを踏まえても,損害賠償の一般法理とい 指針」等を示すことによって,広範囲に及び得る原子力損害の賠償に関する紛争の適正・迅速な解決を促進することが法令上予定されている。そして,このような原賠法の定めを踏まえても,損害賠償の一般法理という法律的見地から合理的に導かれるものでなければ紛争の解決規範として機能し得ないから,原賠審が策定する「原子力損害の範囲の判定の指針」は,損害賠償法理の観点から被害者との紛争を解決するに足る合理的なものでなければならないことが法令上当然に要求されているものと解される。 中間指針等が果たした役割中間指針等は,それ自体は「法令」に該当するとはいえないため,直ちに裁判所に対する法的拘束力を有するわけではないが,中間指針等は,我が国の原子力損害賠償の法体系において明確に位置付けられた法令に根- 306 -拠を有する指針である。また,自主的避難等対象者だけでも約130万人以上にも上る本件事故の特質にも鑑みれば,多数の被害者に対して合理的な賠償を実現することが重要であり,同様の被害状況に置かれている場合には同様の救済が与えられるべきであるという考え方が妥当する。実際に,原賠審が策定した中間指針等は,策定後6年以上にわたってADR手続や訴訟を含む多数の紛争解決において用いられ,圧倒的多数の被害者が中間指針等に基づく和解を受け入れて紛争が解決されてきており,原賠審が企図したとおり,既に本件事故による紛争解決に当たり事実上の法規範に近いものとして機能している。仮にこうした原賠法の立法趣旨や原賠審の意図,実際の運用状況に反して,原賠審の策定した合理的な指針に何らの規範性も認められないというのが我が国法上の解釈であるとすれば,現状の中間指針等を中心にした法的安定性が大きく損なわれるだけでなく,かえって被害の迅速かつ適正な賠償の実現 定した合理的な指針に何らの規範性も認められないというのが我が国法上の解釈であるとすれば,現状の中間指針等を中心にした法的安定性が大きく損なわれるだけでなく,かえって被害の迅速かつ適正な賠償の実現という原賠法の目的が没却され,被害救済を大きく後退させることにもなりかねない。したがって,このような我が国の原子力損害賠償の法体系を踏まえれば,原賠法に基づき策定された中間指針等は,判例法理をリステイトしたものであり,実質的に法的規範として機能することが社会的にも期待されているのであり,同指針等に定める賠償指針は,その内容自体が著しく不合理でない限り,裁判手続においても法規範に準ずる規範として最大限尊重されるべきものである。 中間指針等が定める慰謝料額について精神的損害については個別性が大きいものの,本件事故のような原子力事故に特有の被害の被害者の大量性と迅速な救済の必要性から,裁判外でも適正な紛争解決が可能となるような基準が予め提示されることが必要になると考えられるのであり,原賠審における精神的損害に関する指針の意義はこの点にあり,原賠法が企図しているものということができる。そ- 307 -して,このように自主的な紛争解決の一般的な指針を定めるに当たっては,多数の被害者に対する迅速・適正な解決を志向することから,被害者ごとの多様な個別事情を斟酌した上での個々の精神的苦痛の大小に係る詳細の認定を行って賠償することが事実上困難であり,かつ,自主的な紛争解決を促進し,早期の救済を実現する必要も高いことから,精神的損害に関する賠償指針については,自ずから多数の被害者が満足し得る賠償水準として設定せざるを得ず,少なくとも平均的・中間的な精神的苦痛を下回らない水準を念頭に定められる傾向がある。したがって,中間指針等は 関する賠償指針については,自ずから多数の被害者が満足し得る賠償水準として設定せざるを得ず,少なくとも平均的・中間的な精神的苦痛を下回らない水準を念頭に定められる傾向がある。したがって,中間指針等は,その性格から,自主的な紛争解決を促進するために多数の被害者の精神的損害を慰謝するに足りる水準の慰謝料額を定めているといえる。 また,中間指針等は,個別の慰謝料額の算定を省略した一律賠償であること,原賠審における審議では避難等対象者の主観的・個別的な事情が避難慰謝料において包括的に考慮されていること,中間指針等は大量の損害賠償請求を迅速に処理するため訴訟において想定される認容額よりも高額の賠償額となっていること,原賠審は過去の裁判例について検討した上で基準を定めたことなどからすれば,中間指針等に定める避難慰謝料は,避難者の主観的・個別的事情を捨象して最低限の基準として定められたものではなく,本件事故によって避難等対象者に生ずる被害状況に基づく精神的苦痛を類型的・包括的に考慮して,「合理的な慰謝料額」の指針を定めたものである。 さらに,中間指針等は,「避難等による長期間の精神的苦痛」を賠償すべき精神的損害として位置付けており,避難に伴う多様な精神的苦痛を個々に区別して論ずるのではなく,これらを包括的に考慮の上,中間指針等に基づく精神的損害の賠償額の方針を定めている。また,中間指針等は,避難生活中の日常生活の不便さだけでなく,本件事故以前の生活やその基盤を喪失したことに対する精神的苦痛や避難を余儀なくされたことに伴- 308 -う帰宅の見通しのつかない不安等についても中間指針等に基づく「避難等に係る慰謝料」の対象としている。 生活基盤の破壊によって被告東電が提示している慰謝料額を超える慰謝料額が基礎付けられる -う帰宅の見通しのつかない不安等についても中間指針等に基づく「避難等に係る慰謝料」の対象としている。 生活基盤の破壊によって被告東電が提示している慰謝料額を超える慰謝料額が基礎付けられるかのような原告らの主張の誤りについて原告らは,避難指示が解除され,放射線の影響の観点からは帰還して生活することが可能な状態になったとしても,生活基盤が破壊されたままであり,これが原告らの慰謝料請求を基礎付けるかのように主張する。 しかし,避難指示が解除された場合に,当該区域の各旧居住者が実際に帰還するか否かは,結局は旧居住者各人がそれぞれの事情に基づいて判断すべきものであり,何人も帰還を強制できるものではなく,ある地域において他の住民が自らの判断に基づいてどのように行動するかによって,各住民の居住権や平穏な生活権に関する権利侵害の有無や精神的損害の賠償額が左右されると解することは相当ではない。原賠法に基づく原子力損害(核燃料物質の放射線の作用等による損害)の賠償請求の観点からは,放射線の影響等を考慮して,またインフラの復旧などの観点も考慮された上で,自治体との協議の上で,政府による避難指示が解除された場合には,住民に対する居住・移転の制限は解除され,帰還し得る状況に至るものであり,これにより,本件事故による権利侵害状態は基本的に解消される。 そして,そのような中で,帰還をするか否かを判断し,帰還をするとした場合においてもその準備のために必要と考えられる相当な期間の経過をもって,原子力損害としての慰謝料の賠償は終期を迎えるとする中間指針等の考え方には合理性がある。他方で,避難指示が解除された区域への帰還をせずに,他所に移住することとした者に対しては,被告東電は,当該旧避難指示等対象区域内の自宅土地の財物損害の賠償を行うことに加え の考え方には合理性がある。他方で,避難指示が解除された区域への帰還をせずに,他所に移住することとした者に対しては,被告東電は,当該旧避難指示等対象区域内の自宅土地の財物損害の賠償を行うことに加えて,移住を余儀なくされた住民に対する住居確保損害の賠償として,新居購入費用と財物賠償額の差額の一定割合を追加的費用の損害として賠償- 309 -するなどして,そのような移住に伴う損害についても賠償することとしている。そして移住をした原告らにおいても,移住先の新たな住居を中心として生活コミュニティを形成することが可能であり,そのような生活環境を整えることは本件事故の影響によって何ら阻害されていない。 このように,本件事故による原子力損害の賠償の観点からは,政府による避難指示が解除され,放射線の作用による居住制限が解消された後においては,政府復興方針に基づく平成29年3月までの賠償及びその後1年間の相当期間の賠償を継続するとする被告東電の賠償方針は,原告らに生じた精神的苦痛を被害者の立場に立って最大限慰謝料額を反映させたものである。そして,権利侵害の有無という観点からも,旧居住地の環境の変化が本件事故以前との比較で生じていたとしても,そのことによって,平成30年4月以降においてもなお,本件事故の放射線の作用により,原告ら各人において法的に保護された権利利益の侵害状態が継続していると評価することはできない。 慰謝料額の合理性本件のような負傷を伴う精神的損害ではない避難等に係る慰謝料について,負傷を伴う場合における自動車損害賠償保険等の基準を参考としていること,過去の裁判例も参考にして基準を定めていること,時間の経過に伴う賠償額の逓減がされていないこと,避難等に係る慰謝料は,生活費の増加費用と合算されている点を除け 賠償保険等の基準を参考としていること,過去の裁判例も参考にして基準を定めていること,時間の経過に伴う賠償額の逓減がされていないこと,避難等に係る慰謝料は,生活費の増加費用と合算されている点を除けば,財産的損害を含めた包括慰謝料ではなく,避難費用,就労不能損害,営業損害,財産損害等について別途賠償されるものであることなどに鑑みれば,避難等に係る慰謝料の基礎額となる一人月額10万円の賠償額については,長期の避難に係る精神的苦痛を包括的に慰謝する慰謝料額として合理性・相当性を有するものである。 以上より,避難等対象者に対する中間指針等の定める避難等に係る慰謝- 310 -料は,本件事故により避難等対象者に広く通常生じ得る被害状況に基づく精神的苦痛を類型的・包括的に考慮し,平穏な日常生活の喪失,自宅に帰れない苦痛,避難生活の不便さ,先の見通しがつかない不安などを広く対象として定められたものであり,「最低限の賠償額」を示したものなどではなく,個々人の事情によって,これらを下回ることもあれば,上回ることもあり得る中で,広く一般に生じると考えられる要素を評価して,慰謝料額の指針を示したものである。 ⑶ 旧緊急時避難準備区域の原告らの精神的損害についてア旧緊急時避難準備区域の居住者について,緊急時避難準備区域の指示内容や本件事故後における同区域内の放射線の作用による客観的な状況や社会的な活動の再開状況等を踏まえて,中間指針等に基づき,避難等に係る相当な慰謝料額は,通常の生活費の増加分を合算しても,1人月額10万円を基礎として,平成23年3月から平成24年8月までを賠償対象期間として算定される180万円を超えるものではない。 イ被侵害利益について 旧緊急時避難準備区域の住民は,政府指示により,基本 ,平成23年3月から平成24年8月までを賠償対象期間として算定される180万円を超えるものではない。 イ被侵害利益について 旧緊急時避難準備区域の住民は,政府指示により,基本的に「常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこと」が求められたものであり,併せて,当該区域においては,引き続き任意の避難をし,特に子供,妊婦,要介護者,入院患者等は,当該区域内に入らないようにすること,当該区域においては,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,その場合においても常に避難のための立ち退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくことが指示されている。このような本件事故後の状況を踏まえ,強制的な避難指示ではないものの,上記指示内容を踏まえて,本件事故後に一定の合理的な期間においては同区域からの避難を選択すること- 311 -も合理的であり,これにより,精神的苦痛が生じ得るものと解される。そして,緊急時避難準備区域からの避難者に想定される精神的苦痛としては,①平穏な日常生活の喪失,②自宅に帰れない苦痛,③避難生活の不便さ,④先の見通しがつかない不安などが考えられ,このような平穏な日常生活を送る法的に保護された権利利益が侵害されたものと評価することができる。 緊急時避難準備区域においては,平成23年4月22日以降,常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことが求められてはいたものの,同区域への立入りに制限はなく,居住も許される状況にあった。これに対し,平成23年4月22日以降,原災法28条2項により読み替えて適用される災対法63条1項の規定に基づく警 求められてはいたものの,同区域への立入りに制限はなく,居住も許される状況にあった。これに対し,平成23年4月22日以降,原災法28条2項により読み替えて適用される災対法63条1項の規定に基づく警戒区域に指定された区域においては,緊急事態応急対策に従事する者以外の者は,原則として立入りが禁じられ又は当該区域から退去しなければならないとされ,これに反した場合の罰則も定められていた。このように,緊急時避難準備区域に指定された区域の住民と強制的な避難を余儀なくされた住民との間には,本件事故後に政府が行った指示の内容に大きな相違があるため,政府の指示に起因する生活の阻害の内容,程度においても大きな差があるといえる。 平穏な日常生活の喪失の点については,緊急時避難準備区域では,強制的な避難を余儀なくされた区域とは異なり,同区域内での生活基盤から隔絶されることを強制されたものではなく,居住や立入りについても制約が課されていなかったことから,本件事故以前に享受していた生活基盤への侵襲の程度や隔絶の程度は,強制的な避難指示の対象区域の住民と比較すれば相対的に低いものであったといえる。また,その指示対象期間は平成23年9月30日までと本件事故発生後約6か月半の期間にとどまっており,強制的な避難指示等対象区域のように長期化したものではない。さ- 312 -らに,その指示期間中においても居住や立入りをすることに制約はなく,その指示対象期間の面からみても,本件事故以前の生活基盤に対する本件事故による侵襲の程度は,長期にわたって強制的な避難を余儀なくされた場合に比して大きいものではない。 自宅に帰れない苦痛についても,強制的な避難指示等対象区域においてはそのような事情が認められるものの,緊急時避難準備区域においては,仮に避難を選択したと くされた場合に比して大きいものではない。 自宅に帰れない苦痛についても,強制的な避難指示等対象区域においてはそのような事情が認められるものの,緊急時避難準備区域においては,仮に避難を選択したとしても,自宅に帰れないという事情は全くなく,自由な意思に基づいて,帰還することが可能な状態にあったことから,そのような精神的苦痛の程度も,強制的な避難指示等対象区域の住民と比較すれば相対的に低いといえる。 避難生活の不便さによる苦痛自体については,両者に特に差異はないものと考えられ,先の見通しがつかない不安については,緊急時避難準備区域では,居住者もおり,本件事故後も生活インフラの復旧等が進められていたこと,その上で,本件事故発生から約6か月半が経過した平成23年9月30日をもって指定が解除されており,その指示期間は比較的短期にとどまっていることなどからすれば,強制的な避難指示等対象区域では長期にわたっての避難指示が継続しているという事情と比較しても,そのような不安自体,強制的な避難指示等対象区域の住民が置かれていた状況に比しても,相対的に大きなものではない。 ウ中間指針等に基づく1人当たり月額10万円の慰謝料額について前記のとおり,中間指針等に定める避難等に係る慰謝料額は,「最低限の基準」として定められたものではなく,本件事故によって避難等対象者に生ずる被害状況に基づく精神的苦痛を類型的・包括的に考慮して,多数の被害者の精神的苦痛を慰謝するに足りる水準において慰謝料額の指針を定めたものである。また,原賠審は,1人当たり月額10万円という避難等に係る精神的損害の賠償額を導くに当たっては,本件事故においては負傷を伴う精- 313 -神的損害が生じているものではないが,負傷を伴う場合の自動車損害賠償責任保険における慰 0万円という避難等に係る精神的損害の賠償額を導くに当たっては,本件事故においては負傷を伴う精- 313 -神的損害が生じているものではないが,負傷を伴う場合の自動車損害賠償責任保険における慰謝料額を参考にし,過去の裁判例等も参照して定められたものである。したがって,中間指針等に定める1人当たり月額10万円という慰謝料額は,多数の被害者の精神的苦痛を十分に慰謝するに足りる水準であるといえる。 エ 1人当たり月額10万円の慰謝料の基礎額については,時間の経過によって減額されず,区域指定の解除後も11か月間にわたって,本件事故直後と同額のまま,減額されずに継続して賠償されること中間指針においては,本件事故発生から6か月間(第1期)については,避難等に係る慰謝料額を1人当たり月額10万円としつつ,第1期終了後6か月間(第2期)については,「突然の日常生活とその基盤の喪失による混乱等という要素は基本的にこの段階では存せず,この時期には,大半の者が仮設住宅等への入居が可能となるなど,長期間の避難生活の基盤が整備され,避難先での新しい環境にも徐々に適応し,避難生活の不便さなどの要素も第1期に比して縮減すると考えられる」として,第2期の慰謝料額は1人当たり月額5万円としている。 そのような中で,被告東電においては,平成23年9月末までの緊急時避難準備指示期間中のみならず,同年10月以降においても,指定解除後の相当期間として帰還に要する準備期間等も考慮の上で,平成24年8月末までの11か月にわたって,本件事故発生後6か月間(第1期)の慰謝料額と同額の1人当たり月額10万円を減額することなく賠償する旨公表している。 この結果として,被告東電が公表する旧緊急時避難準備区域の住民に対する慰謝料額は180万円となるが,これは,旧緊 の慰謝料額と同額の1人当たり月額10万円を減額することなく賠償する旨公表している。 この結果として,被告東電が公表する旧緊急時避難準備区域の住民に対する慰謝料額は180万円となるが,これは,旧緊急時避難準備区域が強制的な避難が求められた区域ではなく,平成23年9月末には指定解除されていること等に鑑みても,本件事故と相当因果関係のある精神的苦痛を十分慰謝するに足りる慰謝料額となっているといえる。 - 314 -オ中間指針等に基づく旧緊急時避難準備区域の旧居住者に対する精神的損害の賠償終期の考え方にも十分合理性があること中間指針第二次追補は,旧緊急時避難準備区域の居住者に係る精神的損害の賠償終期については平成24年8月末を目安とするとしているが,その理由として,①この区域におけるインフラ復旧は平成24年3月末までに概ね完了する見通しであること,②その後も生活環境の整備には一定の期間を要する見込みではあるものの,平成24年度第2学期が始まる同年9月までには関係市町村において,当該市町村内の学校に通学できる環境が整う予定であること,③避難者が従前の住居に戻るための準備に一定の期間が必要であること等を考慮したとされている。このような考え方については,旧緊急時避難準備区域が,緊急時に備えて避難の準備ができるように求めるものであったこと,指定解除に先立って,対象自治体が復旧計画を策定し,政府(原災本部)に提出しており,これに基づく政府と関係市町村との意見交換や連携を経た上で,原子力安全委員会も指定解除について「差し支えない」と回答していることも踏まえ,平成23年9月30日をもって指定が解除されていること,その前後を通じて本件事故後には同区域での居住や立入りは禁じられていないこと,旧緊急時避難準備区域においては,平成24 答していることも踏まえ,平成23年9月30日をもって指定が解除されていること,その前後を通じて本件事故後には同区域での居住や立入りは禁じられていないこと,旧緊急時避難準備区域においては,平成24年8月頃までにはインフラの回復などが進捗しており,空間放射線量も低減していることなどを踏まえて上記の終期が定められたものであり,かかる賠償終期には合理性・相当性がある。 カ精神的損害の賠償の他にも,避難費用,就労不能損害,営業損害などの財産的損害は別途賠償の対象となること旧緊急時避難準備区域の旧居住者に対しては,避難等に係る精神的損害(1人月額10万円)のほか,本件事故と相当因果関係のある避難費用,一時立入り費用,就労不能損害(給与所得者の場合),営業損害(事業主の場合)などの財産的損害については,別途,中間指針等に基づいて賠償される- 315 -のであり,精神的損害の賠償のみならず,財産的損害についても別途賠償することによって本件事故により生じた損害の総体を賠償することとしているものであり,被告東電が公表している慰謝料額は,いわゆる包括的慰謝料として,一切の財産的損害を考慮して定めた慰謝料の賠償によってその全体の損害を填補するとの考え方が採られているものではない(1人当たり月額10万円の基礎額には通常生じ得る生活費の増加分のみが合算考慮されているにとどまる。)。 したがって,そのような賠償の全体像からみても,被告東電が公表している慰謝料額は合理的な金額である。 キ以上より,旧緊急時避難準備区域の原告らの精神的損害についての慰謝料は180万円を超えることはない。 ⑷ 自主的避難等対象区域の原告らの精神的損害についてア被侵害利益本件事故後の状況の下で,避難指示等の対象とされていな 害についての慰謝料は180万円を超えることはない。 ⑷ 自主的避難等対象区域の原告らの精神的損害についてア被侵害利益本件事故後の状況の下で,避難指示等の対象とされていないものの,避難等対象区域の周辺において,「本件事故による恐怖や不安を抱かざるを得ないという状況に一定期間置かれたことにより正常な日常生活が相当程度阻害されたこと」(平穏生活権の侵害)については法的に保護される権利利益の侵害に当たるということができる。そして,本件事故後の避難指示等対象区域外における本件事故由来の放射線による健康リスクは,客観的に健康に対する危険が生じていたとまでは評価できないものの,他方で,本件事故発生当初の時期においては,状況は必ずしも明確でなく,自己の置かれている状況についての情報を正確に把握することが困難な時期があったことも確かであり,また,本件事故の今後の進展について恐怖や不安を覚えることもやむを得ない状況にあったことが認められる。 したがって,本件事故の今後の進展や健康影響が分からないことにより,平均的・一般的な人を基準として,感じることがやむを得ないと考えられる- 316 -恐怖や不安に基づいて,自主的な避難を選択し,又は,そのような不安の中で滞在を継続することによって,本件事故が発生しなければ生じなかった日常生活の阻害が生じると考えられる範囲においては,これによる精神的損害は賠償の対象となる。 イ避難指示の対象となっていない区域については,放射線による客観的な健康への危険が生じているとは評価できず,その旨の情報提供は新聞報道等でもされており,福島県知事も冷静な対応を呼びかけている状況にあった。新聞報道においても,避難指示等対象区域外の居住者も避難すべきであるという論調は見当たらない中で,避難指示 の情報提供は新聞報道等でもされており,福島県知事も冷静な対応を呼びかけている状況にあった。新聞報道においても,避難指示等対象区域外の居住者も避難すべきであるという論調は見当たらない中で,避難指示等対象区域外の居住者に生じ得る恐怖や不安については,避難指示等により避難を余儀なくされた避難指示等対象区域の居住者と比較して,権利侵害の程度は小さいと考えられる。避難指示等対象区域外からの避難者の損害については,政府の避難指示等によって避難を余儀なくされたことによって生じたものではなく,通常よりも高い放射線量や本件事故の進展の状況に対する不安や恐怖を覚えざるを得ない状況に置かれたことによる日常生活の阻害をもって賠償の対象とみることが相当であり,避難指示により強制的に居住権の制約を受けた避難等対象者の損害とは異なる。したがって,このような避難指示等対象区域外からの避難者の被侵害利益の特徴も踏まえて相当因果関係を考えるに当たっては,自主的避難等対象区域内に居住している平均的・一般的な人を基準として,相当程度の恐怖や不安を抱いたことにつき,慰謝料や避難の相当性を基礎付ける程度の権利侵害状態が継続しているか否か,そのように評価し得るのはいつまでか,その適正な損害額はいくらかなどについて検討すべきである。 ウ自主的避難者と滞在者について被侵害利益については,「本件事故による恐怖や不安を抱かざるを得ないという状況に一定期間置かれた」という点において,自主的避難を選択した者であっても滞在者であっても,その置かれていた状況は共通しているとい- 317 -える。その上で,自主的避難を実行した者は,放射線被ばくへの不安からは離脱することができるが,避難生活による日常生活の阻害が生じ得る一方で,滞在者については,滞在することにより放射線 317 -える。その上で,自主的避難を実行した者は,放射線被ばくへの不安からは離脱することができるが,避難生活による日常生活の阻害が生じ得る一方で,滞在者については,滞在することにより放射線被ばくへの不安が継続する可能性があることとなり,これによる日常生活の阻害が生じ得ると考えられる。 このように,自主的避難者と滞在者の行動の相違に基づき,具体的な精神的苦痛の在り方は異なるものではあるが,いずれも放射線被ばくに対する恐怖や不安を基礎として生じている精神的苦痛であり,本件事故の放射線の作用と相当因果関係のある日常生活の阻害に基づく精神的損害の評価上,自主的避難者と滞在者とで,画然とした差異があるということはできないことを考慮すれば,自主的避難者と滞在者の賠償額に差を設けることは公平かつ合理的とはいえない。 すなわち,自主的避難者については,自主的避難によって生じた生活費の増加費用,自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,避難及び帰宅に要した移動費用が,賠償すべき損害と認められ,滞在者については,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用が賠償すべき損害と認められ,自主的避難者と滞在者の上記の合算損害額は同額として算定するのが公平かつ合理的であるとしているところ,この考え方は合理性がある。 エ自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について 大人(妊婦・子供以外)の賠償期間について本件事故発生以降,福島第一原発の状況や放射線量に関する情報が行政機関 エ自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について 大人(妊婦・子供以外)の賠償期間について本件事故発生以降,福島第一原発の状況や放射線量に関する情報が行政機関等によって徐々に公表され,平成23年4月22日には政府による避- 318 -難指示等の対象区域が概ね確定したことに照らすと,自主的避難等対象区域内に居住する平均的・一般的な人を基準として,平成23年4月22日頃までには,自己の置かれている状況について合理的に判断することができる状況に至っており,同日以降は,自己の置かれている状況について十分な情報がなかったとはいい難いことから,自主的避難等対象区域の居住者について慰謝料を基礎付ける程度の恐怖や不安を抱くことが法的にやむを得ないと認められる期間としては,本件事故発生当初の時期として,概ね平成23年4月22日頃までと解するのが相当である。 妊婦・子供の自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について妊婦・子供は放射線への感受性が高い可能性があることが一般的に認識されており,妊婦・子供のいる世帯では,特に放射線被ばくに対する不安が大きいことに鑑みて,妊婦・子供に対しては,大人とは異なり各段に長期間にわたっての精神的損害の賠償を行うこととしている。妊婦や子供の健康影響に対する不安については,妊婦や子供自身の健康上の不安に係る精神的苦痛であることから,親ではなく,妊婦や子供に対して精神的損害を賠償することとしているが,かかる賠償は,広い意味で妊婦や子供がいる世帯全体に対する精神的損害の賠償としての意味を有しているものである。そして,中間指針第二次追補において,平成23年9月30日に指定が解除された旧緊急時避難準備区域に生活の本拠を有する避難等対象者への精神的損害の賠 神的損害の賠償としての意味を有しているものである。そして,中間指針第二次追補において,平成23年9月30日に指定が解除された旧緊急時避難準備区域に生活の本拠を有する避難等対象者への精神的損害の賠償の終期が平成24年8月31日までを目安とする旨定められていることも踏まえ,避難等対象者ではない妊婦・子供の自主的避難等対象者に対する賠償の対象期間を平成24年8月31日までとすることは,被害者保護の観点にも十分配慮して定められた賠償対象期間であり,合理的かつ相当である。 同伴者である大人の自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について- 319 -特定の家族が,妊婦・子供の避難に同伴したとしても,当該同伴者である大人が自己の被ばくに対する不安から避難するものでないことからすれば,当該同伴費用については妊婦・子供自身の損害として填補される状況の下で,同伴行為そのものに起因して当該同伴者に固有の慰謝料が発生することはない。したがって,同伴者の同伴費用も妊婦・子供の損害に含めて賠償額を設定することは合理的であり,大人の自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について,妊婦や子供に同伴したか否かによって別異に解されるものではない。 オ自主的避難等対象者の損害の賠償額について 大人(妊婦・子供以外)について前記のとおり,自主的避難等対象者である大人について,本件事故と相当因果関係のある精神的損害の賠償対象期間は,本件事故発生当初の時期である概ね平成23年4月22日頃までと解するのが相当であり,大人個人に対する当該期間についての精神的損害の賠償額は,他の区域の被害者の賠償額との均衡や裁判例等に鑑みれば,1人当たり8万円の慰謝料及び4万円の追加的費用の実費賠償を行うことで被 が相当であり,大人個人に対する当該期間についての精神的損害の賠償額は,他の区域の被害者の賠償額との均衡や裁判例等に鑑みれば,1人当たり8万円の慰謝料及び4万円の追加的費用の実費賠償を行うことで被害者らの被った損害の賠償としては十分である。 妊婦・子供について被告東電は,妊婦や子供各人1人当たり,①精神的損害と生活費の増加費用等を一括した一定額として,平成23年分40万円及び平成24年1月から同年8月までの分8万円(1人当たり合計48万円)を賠償するとともに,②妊婦・子供のうち実際に自主的避難を実行した者に対しては,追加的費用として平成23年分20万円及び平成24年1月から同年8月まで4万円(1人当たり合計24万円)を賠償している。この結果,滞在者である妊婦・子供については1人当たり48万円,自主的避難者である妊婦・子供については1人当たり72万円の損害額が賠償されることに- 320 -なる。これは,他の区域の被害者や大人(妊婦・子供以外)の賠償額と均衡を失するものではなく,合理的な金額といえる。 ⑸ 区域外居住者の精神的損害についてア避難指示等対象区域ではなく自主的避難等対象区域にも該当しない区域(区域外)については,自主的避難等対象区域と同様又はそれ以上に放射線被ばくによる健康被害のリスクについては問題がない水準であり,それゆえに避難指示等対象区域外では政府によっても避難等の指示の対象となっていない。また,一般的に,区域外は福島第一原発や避難指示等対象区域からかなり遠く,あるいはそれが福島県外であれば混乱の状況には同県内と少なからず相違があったと考えられる上,その空間線量も低く,福島第一原発の状況や放射線被ばくに対する不安感に基づく避難が平均的・一般的な人を基準として相当であるとは解 であれば混乱の状況には同県内と少なからず相違があったと考えられる上,その空間線量も低く,福島第一原発の状況や放射線被ばくに対する不安感に基づく避難が平均的・一般的な人を基準として相当であるとは解しがたい。そのため,福島第一原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡など)等に照らしても,平均的・一般的な人を基準として,その居住者において自主的に避難することもやむを得ない程度に恐怖や不安を抱いたということはできないというべきであり,原賠審においても,原子力損害としての賠償の要否及び賠償する場合の基準を示すために議論を重ねて,自主的避難等対象区域以外については,空間線量が高くないことや当該区域において避難した者が少ないこと等を勘案して賠償対象としなかったのであるから,特段の事情がない限り,その居住者の慰謝料や避難に伴う損害について本件事故との相当因果関係は認められない。 イもっとも,福島県県南地域(白河市,西郷村,泉崎町,中島村,矢吹町,棚倉町,矢祭町,塙町及び鮫川村)においては,その住民一般について法律上保護される利益の侵害は認められないものの,特に子供・妊婦に関しては,一般的に放射線感受性が高い可能性があると認識されていたことから,本件- 321 -事故後に子供・妊婦の健康に対する不安な心理が生ずることはやむを得ない事情は存在したといえる。したがって,福島県県南地域が避難指示等対象区域に近接しておらず,自主的避難等対象区域に比して総じて福島第一原発から離隔していることを踏まえても,本件事故直後の一時期に限った空間放射線量の状況に鑑みて,子供・妊婦については,本件事故による放射線被ばくを受けることによって相 対象区域に比して総じて福島第一原発から離隔していることを踏まえても,本件事故直後の一時期に限った空間放射線量の状況に鑑みて,子供・妊婦については,本件事故による放射線被ばくを受けることによって相当程度の恐怖や不安を抱くことにより,法律上保護される利益の侵害は認められ得るといえる。一方で,福島県県南地域が自主的避難等対象区域とされていないことからも明らかなとおり,たとえ例外的に子供・妊婦に法律上保護される利益の侵害を肯定するとしても,福島県県南地域の地理的状況や空間放射線量の状況等に鑑みれば,損害の程度として自主的避難等対象区域と同等と評価することはできない。そして,被告東電は,平成23年3月11日から平成24年8月31日までの期間を対象として,福島県県南地域の子供・妊婦に対して,1人当たり合計24万円の精神的損害等の賠償を行っているところ,賠償対象期間及び賠償額は合理性を有するものである。 2 弁済の抗弁(被告東電の主張の要旨)被告東電が賠償している精神的損害の賠償金は,避難等対象者に対するもの,自主的避難等対象者に対するもの,いずれも生活費の増加分等の一定の財産的損害についても総合的に考慮した包括的なものである。また,1個の不法行為から生じた精神的損害及び財産的損害に関する賠償の請求権は1個であり,その両者の賠償を訴訟上併せて請求する場合にも訴訟物は1個と解すべきとされており,本件訴訟においても各原告の請求権は1個である。そして,被告東電が賠償した包括慰謝料については,財産的損害の一部の賠償が含まれているものであるが,包括慰謝料の性質として両者を金額上分別することは不可能である。したがって,本件訴訟においては,①原告らに本件事故に基づく精神的損害が認められる- 322 -か否か及び認められる場合の損害額を認 包括慰謝料の性質として両者を金額上分別することは不可能である。したがって,本件訴訟においては,①原告らに本件事故に基づく精神的損害が認められる- 322 -か否か及び認められる場合の損害額を認定し,②原告らに本件事故に基づく財産的損害が認められるか否か及び認められる場合の損害額を認定し,③上記①及び②について判断された上で裁判所が精神的損害及び財産的損害の損害額を認定した場合において,その認定額の総額に対して,被告東電の既払金の総額を充当控除し,残余がある場合に限ってその限度で請求が認容されるべきである。 (原告らの主張の要旨)被告東電は,中間指針等に従って原告らに対して賠償を行っているところ,被告東電が「慰謝料」又は「精神的損害」として支払ったと主張しているものの中には,精神的苦痛に対する賠償のみならず,生活費増加費用や自主的避難等対象区域の避難者の場合は移動費用(交通費,宿泊費)も含まれている。そして,原告らには高額の生活費増加費用や移動費用が生じている。したがって,被告東電が「慰謝料」又は「精神的損害」として支払ったと主張するものには,精神的苦痛以外に対する賠償も相当程度含まれているから,全額を慰謝料に充当すべきではない。 3 被告東電及び被告国の共同不法行為の成否及び賠償額の差(原告らの主張の要旨)⑴ 共同不法行為成立による損害全部についての責任民法719条1項前段は,「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。」と定めており,数人の共同の行為の結果として損害が発生した場合において,各加害行為者は,共同の加害行為と損害の間に相当因果関係が認められれば,結果発生に対する自らの加害行為の寄与の程度に関わらず損害の全部について連帯して賠償すべきこと して損害が発生した場合において,各加害行為者は,共同の加害行為と損害の間に相当因果関係が認められれば,結果発生に対する自らの加害行為の寄与の程度に関わらず損害の全部について連帯して賠償すべきことを定めて,被害者の保護を図っている。 ⑵ 本件における被告国と被告東電の加害行為の相互関係は,異なる類型の加害行為が,時間的に前後し,相互に関連しつつ結果発生に寄与する類型である。 すなわち,被告国の規制権限不行使という加害行為は,時間的見地及び法規制- 323 -の果たす機能の見地からは,被告東電による「津波に対する所要の防護措置を怠ったままでの原子炉の運転」という加害行為に先行する関係に立ち,かつ,両者はそれぞれ,本件事故による原告らの損害発生という同一の結果の全部に対し,並行して寄与するという関係に立つ。そして,最高裁判例の基準に照らせば,同種の加害行為の競合が認められる類型に限られず,異なる類型の加害行為が時間的に前後しつつ,同一の結果の発生に競合して寄与する類型においても,共同不法行為の成立が認められるべきである。したがって,被告国と被告東電の各加害行為の間には関連共同性が認められることから,民法719条1項前段の共同不法行為が成立し,被告国も,被告東電と連帯して,原告らの損害全部について賠償義務を負う。 (被告国の主張の要旨)福島第一原発を管理・運営し,その利益を享受しているのは被告東電であり,被告国ではない。そして,被告国は,その設置等に際し,許認可をしたり,定期検査等をしているものの,これらは,被告東電の原子力施設に対する安全管理義務を軽減したり,免責するものではない。したがって,福島第一原発の安全管理は,一次的には,被告東電において行われるべきものであり,被告国は,これを後見的・補充的に監督するにとどまる。 そ 全管理義務を軽減したり,免責するものではない。したがって,福島第一原発の安全管理は,一次的には,被告東電において行われるべきものであり,被告国は,これを後見的・補充的に監督するにとどまる。 そして,民法719条1項前段の共同不法行為が成立するためには,客観的にみて一個の共同行為があるとみられることが必要と解されるところ,被告国の規制権限の行使は,対象者の自由な活動に一定の制約を課し,不利益を与えるものであって,対象者に対し,責任や注意義務を軽減し,免責するという性格のものではなく,両者は次元を異にする責任である。また,被告国と被告東電では,安全対策の要否を検討するために必要な情報の収集やこれを分析する能力に大きな差があり,同じ情報を把握していたとしても,被告国と被告東電では検討に要する時間を異にする上,何らかの対策が必要との結論に達したとしても,それから,規制権限の行使に至るためには,様々な過程を経る必要のあることも考慮す- 324 -ると,被告国の規制権限行使と規制対象者である原子力事業者の不法行為との間に,客観的にみて一個の共同行為があるとみることはできない。そうすると,仮に被告国の規制権限不行使について,国賠法1条1項の違法が認められるとしても,これと被告東電の不法行為は,共同不法行為とはならず,単に不法行為が競合しているにすぎないこととなる。このような場合において,損害の公平な分担という損害賠償の基本理念に照らし,上記諸事情を勘案すると,被告国の責任の範囲は,第一次的責任者である被告東電に比して,相当程度限定されたものになるべきである。 第4 損害論(各論)(原告らの主張の要旨)各原告は損害一覧表の「請求金額」欄記載の金額を請求する。各原告の中には,本件事故による精神的損害に対する賠償のみを求める者と精神 きである。 第4 損害論(各論)(原告らの主張の要旨)各原告は損害一覧表の「請求金額」欄記載の金額を請求する。各原告の中には,本件事故による精神的損害に対する賠償のみを求める者と精神的損害以外の財産的損害及び精神的損害に対する賠償を求める者がいる。 また,各原告の主張は,損害一覧表の「原告の主張等」欄及び「原告の認否反論」欄記載のとおりである。 (被告東電の主張の要旨)被告東電は,損害一覧表の「弁済の抗弁」欄記載のとおり,弁済の抗弁を主張し,被告東電の主張は,同一覧表の「被告東電の主張等」欄記載のとおりである。 (被告国の主張の要旨)被告国の主張は,損害一覧表の「被告国の主張等」欄記載のとおりである。 - 325 - 第4部責任論に関する当裁判所の判断第1章認定事実第1 我が国における原子炉設置許可に係る法体制 1 処分時炉規法の定め処分時炉規法23条1項は,原子炉を設置しようとする者は,政令で定めるところにより,内閣総理大臣の許可を受けなければならないとし,同法24条1項は,内閣総理大臣は,原子炉設置の許可申請が同項各号に適合していると認めるときでなければ許可してはならないと定め,同条2項は,内閣総理大臣は,原子炉設置の許可をする場合においては,同条1項の設置許可の基準の適用について,あらかじめ原子力委員会の意見を聴き,これを尊重してしなければならないと定め,同項3号は,原子炉の設置許可の申請者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること,同項4号は,原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることと定めていた。 するに足りる技術的能力があること,同項4号は,原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであることと定めていた。 2 本件設置等許可処分当時の体制本件設置等許可処分当時,原子力委員会には,原子炉安全専門審査会が置かれ,同審査会は,原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議することとされており,審査委員は,学識経験のある者及び関係行政機関の職員で組織されることとされていた(昭和53年法律第86号による改正前の原子力委員会設置法14条の2,3)。原子力委員会は,同審査会の調査審議の結果を踏まえ,当該申請に係る原子炉施設について,申請者が所定の技術的能力を有するか,原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるかどうか等について審査の上,これらに問題がないと認められた場合に,内閣総理大臣に対し,処分時炉規法24条1項各号の許可の基準に適合している旨の答申をし,内閣総理大臣は,これを十分- 326 - に尊重し,原子炉設置許可について判断をするものとされていた(処分時炉規法24条2項)。 第2 設置許可・変更許可処分 1 1号機⑴ 設置許可申請(丙A180)ア被告東電は,昭和41年7月1日,「福島原子力発電所の原子炉設置許可申請書」を内閣総理大臣に提出した。 イ同申請書において,標高約35mの台地を標高約10mまで掘り下げて敷地を作って原子炉建屋,タービン建屋等を設置することなどが記載されていた。また,非常用ディーゼル発電機の個数は1台とされ,設置場所としてはタービン建屋に設置することとされていたが,津波に対する対策は許可申請書本文には記載がなかった 等を設置することなどが記載されていた。また,非常用ディーゼル発電機の個数は1台とされ,設置場所としてはタービン建屋に設置することとされていたが,津波に対する対策は許可申請書本文には記載がなかった。 ⑵ 設置許可審査及び認可そして,原子力委員会は,原子炉安全専門審査会に対し,その調査審議を指示したところ,原子炉安全専門審査会は,昭和41年11月2日,概要,以下のとおり審査し,上記原子炉の設置に係る安全性は十分確保し得るとの審査結果を報告し(丙A21),これを踏まえ,内閣総理大臣は,同年12月,設置許可処分を行った。 ア 「1 設置計画の概要」の調査審議において,立地条件としては,⑴敷地及び周辺環境,⑵地質,⑶海象,⑷気象,⑸地震,⑹水利についての調査審議を行い,上記のうち,⑵地質については,原子炉建設用地として整地される標高10m附近は,固結度の低い砂岩層であるが,原子炉建屋等の主要建物は標高-4m附近の泥岩層に直接設置され,この泥岩層の岩質は堅硬で,支持地盤として十分な耐力を有すること,⑶海象については,波高の記録として,水深約10mにおいて最高約8mという記録(昭和40年台風28号)があり,潮位の記録として,小名浜港(敷地南方約50km)における観測記- 327 - 録によれば,チリ地震津波時(昭和35年)の最高3.1mがあること,⑸地震については,過去の記録によると,福島県近辺は,会津附近を除いて全国的に見ても地震活動性の低い地域の一つであり,特に原子炉敷地附近は地震による被害を受けたことがないことなどが指摘された。 イ 「2 安全対策」,「3 平常運転時の被ばく評価」,「4 各種事故の検討」,「5 災害評価」及び「6 技術的能力」についても調査審議し,このうち,「2 安全対策」の「2.10 安全防護設 た。 イ 「2 安全対策」,「3 平常運転時の被ばく評価」,「4 各種事故の検討」,「5 災害評価」及び「6 技術的能力」についても調査審議し,このうち,「2 安全対策」の「2.10 安全防護設備の機能確保」においては,原子炉施設に必要な電力は,主発電機又は275KV母線から供給されるが,予備電源としての送電線からも受電できるほか,これらの電源が全て喪失しても,原子炉施設の安全確保に必要な電力は,ディーゼル発電機及び所内バッテリ系から供給できるようになっているとしている。また,「2.11 耐震上の考慮」においては,全ての施設は,安全上の重要度に従って,原子炉,原子炉建屋等のように,その機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのある施設等については「Aクラス」,格納容器,制御棒駆動機構等のように安全対策上特に緊要な施設は「Asクラス」,タービン系,廃棄物処理系等のように高放射性物質に関する施設は「Bクラス」及びその他の施設は「Cクラス」といった4種類のクラスに分類され,それぞれに応じて耐震設計が行われ,設計された建物,構築物,機器,配管類は敷地における地震活動性,地盤状況等からみて耐震上安全であると考えられるとした。 「3 平常運転時の被ばく評価」に当たっては,平常運転時における被ばく線量は,敷地周辺の公衆に対して放射線障害を与えることはないものであることを確認している。 そして,「4 各種事故の検討」では,発生する可能性のある「4.1反応度事故」として,⑴起動事故,⑵運転中の制御棒引抜事故,⑶制御棒落下事故,⑷制御棒退出事故,⑸冷水事故,「4.2 機械的事故」として,- 328 - ⑴冷却材流量喪失事故,⑵冷却材喪失事故,⑶主蒸気管破断事故,⑷燃料取扱事故,⑸電源喪失事故,⑹その他機器類の故障についてそれぞ 事故,⑸冷水事故,「4.2 機械的事故」として,- 328 - ⑴冷却材流量喪失事故,⑵冷却材喪失事故,⑶主蒸気管破断事故,⑷燃料取扱事故,⑸電源喪失事故,⑹その他機器類の故障についてそれぞれ検討した上で,それぞれの事故についての対策が講ぜられており,本原子炉が十分安全性を確保し得るものであることを確認した。電源喪失事故については,常用所内電源が全て喪失した場合には,安全系も停電するため,原子炉はスクラムされること,その後の原子炉の冷却は,非常用復水器により行われること,他方,安全上重要な機器の操作に必要な電力は,ディーゼル発電機及び所内バッテリ系から供給されることを確認した。 「5 災害評価」では,「5.1 重大事故」として,⑴冷却材喪失事故,⑵主蒸気管破断事故及び⑶ガス減衰タンク破損事故を,「5.2 仮想事故」として,⑴冷却材喪失事故及び⑵主蒸気管扱断事故をそれぞれ想定した上で行った災害評価の結果は,昭和39年原子炉立地審査指針に十分適合していると認めた。 2 2号機ないし4号機⑴ 変更許可申請被告東電は,当初の許可の変更許可手続として,2号機については昭和42年9月に,3号機については昭和44年7月に,4号機については昭和46年8月にそれぞれ申請書を提出した(丙A22ないし24)。 ⑵ 変更許可申請審査及び認可(丙A22ないし24)そして,原子力委員会は,原子炉安全専門審査会に対し,2号機から4号機の増設に係る調査審議を指示したところ,原子炉安全専門審査会は,概要,「1変更計画の概要」,「2 安全設計および安全対策」,「3 平常運転時の被ばく評価」,「4 各種事故の検討」,「5 災害評価」及び「6 技術的能力」といった1号機における審査をおおむね踏襲する内容の調査審議をし,これ 「2 安全設計および安全対策」,「3 平常運転時の被ばく評価」,「4 各種事故の検討」,「5 災害評価」及び「6 技術的能力」といった1号機における審査をおおむね踏襲する内容の調査審議をし,これを踏まえ,内閣総理大臣は,2号機については昭和43年3月に,3号機については昭和45年1月に,4号機については昭和47年1月に設置変更許- 329 - 可処分を行った。 第3 原子力発電所における安全対策及び電源喪失の危険性についての知見 1 原子力発電所における安全対策の考え方⑴ 国際原子力機関(IAEA)は,平成8年,報告書を公表し,シビアアクシデント対策強化のため,5層までの深層防護を行う必要性を示し,その後の平成12年の原子力安全基準(NS-R-1)でも同様の考え方を示している。 国際原子力機関が策定した原子力安全基準(NS-R-1)は,多重防護の各層を以下のとおりとしている。(甲A1の2・本文編297頁ないし302頁,甲A2・117頁,丙A224)第1層異常運転及び故障の防止第2層異常運転の制御及び故障の検出(「事故」への拡大防止)第3層設計基準内への事故の制御(設備に対して重大な影響が発生しても炉心損傷を起こさないよう備えること)第4層事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和(炉心損傷が発生しても放射性物質の環境への重大な放出がないよう備えること)第5層放射性物質の放出による放射線影響の緩和(住民を守る安全対策の必要性を示すこと)⑵ 我が国においては,本件事故時まで,第1層から第3層まで及び第5層を規制しており,第4層のシビアアクシデント対策については,飽くまで事業者の自主対応による「知識ベース」とされた(甲A2・116頁)。 2 原発施設における冷却の必要性及び非常用電源設備の重要性 を規制しており,第4層のシビアアクシデント対策については,飽くまで事業者の自主対応による「知識ベース」とされた(甲A2・116頁)。 2 原発施設における冷却の必要性及び非常用電源設備の重要性原子力発電所は,核分裂性物質を燃料とし,核燃料が連鎖的に核分裂反応を起こすことで発生する熱エネルギーを利用してタービンを回して発電する発電所であり,①核分裂反応の指数関数的な拡大を防止するために,核分裂反応を適切に制御する必要があり,異常時には原子炉を即座に止める必要があり,②核分裂反応停止後にもなお崩壊熱が残るため冷やす必要があり,さらに,③核分裂生成- 330 - 物は,人体・環境に多大な悪影響を及ぼすことから,原子炉内に閉じ込める必要がある(甲A1の1・本文編11ないし14頁)。 そして,冷却設備の駆動源として電源を確保することが必須であり,全交流電源喪失を回避するためには,外部電源又は非常用ディーゼル発電機等から電源が確保される必要があるが,このうち,外部電源については,一定規模の地震動によって機能喪失に至る危険があり得ることから,全交流電源喪失を回避するためには,非常用電源設備等の機能を維持することが必要である。また,非常用電源設備等及び高圧配電盤は,いずれも電気機器であるところ,水(特に海水)は電気を流すので,浸水により機器の機能喪失に至るという性質を有している。(甲A1の2・本文編27頁,甲A3) 3 原子力発電所における電源喪失に係る事故及び同事故を踏まえた対策⑴ 被告東電における平成3年の海水漏えい事故ア福島第一原発1号機において,平成3年10月30日に,「補機冷却水系海水配管からの海水漏えいに伴う原子炉手動停止」の事故が発生した(甲A91)。 イ平成16年になって原子力施設情報公開ラ ア福島第一原発1号機において,平成3年10月30日に,「補機冷却水系海水配管からの海水漏えいに伴う原子炉手動停止」の事故が発生した(甲A91)。 イ平成16年になって原子力施設情報公開ライブラリー(原子力安全推進協会)によって,上記事故の原因等について,以下のように整理された(甲A92)。 「現場調査の結果,電動機駆動原子炉給水ポンプ付近の床下に埋設されている補機冷却水系海水配管の母管より分岐し原子炉給水ポンプ用空調機へ供給する配管の分岐部近傍に約22mm×40mm の貫通穴があいていることを確認」し,「海水漏えい箇所周辺の機器類について調査を行った結果,1-2号共通ディーゼル発電機及び機関の一部に浸水が確認された。このため,当該ディーゼル発電機及び機関について工場で点検修理を行った」とされ,海水配管から海水漏えいに至った原因は,貝等の異物によりライニング表面に傷ができ,この傷が徐々に拡大しライニングが局部に損傷し,その後,- 331 - 海水が局部的に損傷されたライニング部に浸透し海水による腐食減肉が内面より徐々に進行した結果,当該海水配管の一部が局所的に貫通し,海水の漏えいに至ったと推定された。 ⑵ フランスのルブレイエ原子力発電所事故(甲A20・13頁,94,166の1・2)フランスのルブレイエ原子力発電所において,平成11年12月27日,暴風雨の影響で外部電源が失われ,非常用電源が起動したが,高潮と満潮が重なりジロンド河口に波が押し寄せた結果,河川が増水し,川の水が洪水防水壁を越えて浸入し,電源が喪失する事故が発生した。 ルブレイエ原子力発電所の運営を行うフランス電力公社は,調査結果を基に堤防や防潮堤のかさ上げ,延長及び強化,防水扉の設置による水侵入に対する抵抗の改良,隙間と貫通部の密閉等の対策 事故が発生した。 ルブレイエ原子力発電所の運営を行うフランス電力公社は,調査結果を基に堤防や防潮堤のかさ上げ,延長及び強化,防水扉の設置による水侵入に対する抵抗の改良,隙間と貫通部の密閉等の対策をとった。 ⑶ 台湾の馬鞍山原子力発電所事故(甲A20・14頁)台湾の馬鞍山原子力発電所において,平成13年3月,送電線事故により外部電源喪失事故が発生し,更に非常用ディーゼル発電機の起動失敗が重なったことにより,全電源喪失事故となった。 ⑷ インドのマドラス原子力発電所の津波による電源喪失事故(甲A20・14頁)インド南部にあるマドラス原子力発電所において,平成16年12月に発生したスマトラ島沖地震に伴う津波により,津波でポンプ室が浸水し,非常用海水ポンプが運転不能になる事故が発生した。 4 国内の溢水による電源喪失についての知見⑴ 平成5年の全交流電源喪失事象の研究原子力施設事故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループは,平成5年6月11日付けで「原子力発電所における全交流電源喪失事象について」を報告した。同報告書では,「短時間で交流電源が復旧でき- 332 - ずSBO(全交流電源喪失事象)が長時間に及ぶ場合には,非常用蓄電池の枯渇による運転監視・制御機能等が失われ炉心の冷却等が維持できなくなることから,炉心の損傷等の重大な結果に至る可能性が生じると考えられる。」,「近年,SBOのような発生頻度が非常に低いと考えられる事象を含む想定し得るすべての事故シナリオを対象として,炉心損傷等の可能性を定量的に分析・評価する確率論的安全評価(PSA)が多くの国で行われている。」ことなどが指摘され,国外でのSBO事例や外部電源喪失事例についても検討された。 その上で,我が国にお 心損傷等の可能性を定量的に分析・評価する確率論的安全評価(PSA)が多くの国で行われている。」ことなどが指摘され,国外でのSBO事例や外部電源喪失事例についても検討された。 その上で,我が国においてはSBOの事例が生じていないこと,外部電源喪失頻度や外部電源復旧時間の値が米国に比べて優れていること,最近10年間の非常用ディーゼル発電機の起動失敗確率の実績が米国の実績に比べて低いこと,我が国の原子力プラントのSBOに対する原子炉の耐久能力は5時間以上と評価されること,我が国の代表的な原子力プラントについて行った内的事象のみを起因事象としたPSA結果によれば,SBOによる炉心損傷の発生頻度は低いことなどから,我が国の原子力プラントにおけるSBOの発生確率は小さく,SBOが発生したとしても短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な事態に至る可能性が低いとされた。(丙A90)⑵ 溢水勉強会ア設置経緯 保安院及び原子力安全基盤機構は,平成16年12月26日に発生したスマトラ島沖地震に伴う津波により,インドのマドラス原子力発電所2号機で取水トンネルを通って海水がポンプハウスに入り,必須プロセス海水ポンプのモータが運転不能になったことを踏まえ,平成17年6月8日に開催された第33回安全情報検討会において,外部溢水問題に係る検討を開始した(丙A41)。 また,保安院及び原子力安全基盤機構は,米国NRCが平成17年11月7日にタービン建屋で循環水配管等の破断を仮定すると,内部溢水によ- 333 - り安全停止機能が損なわれる可能性があることを事業者に通知したことから,この通知を第40回安全情報検討会で紹介し検討項目とした(丙A41)。 上記のとおり,安全情報検討会において, り安全停止機能が損なわれる可能性があることを事業者に通知したことから,この通知を第40回安全情報検討会で紹介し検討項目とした(丙A41)。 上記のとおり,安全情報検討会において,米国キウォーニー原子力発電所で低耐震クラス配管である循環水系配管の破断を仮定すると,タービン建屋の浸水後,工学的安全施設及び安全停止系機器が故障することが判明したとの情報があり,スマトラ島沖地震による津波によりマドラス2号炉では,海水が取水トンネルを通ってポンプハウスに入り込み,非常用海水ポンプが水没して運転不能となったとの情報があったため,上記事象に係る我が国の現状を把握するため,平成18年1月,保安院,原子力安全基盤機構,電気事業者等で構成する溢水勉強会を立ち上げ,調査検討を開始した。この溢水勉強会は,平成19年4月,「溢水勉強会の調査結果について」と題する報告書をまとめた。(丙A42)イ概要溢水勉強会は,原子力発電所内の配管の破断等を理由とする内部溢水,津波による外部溢水を問わず,溢水に関する調査,検討を進めていたが,検討の過程で,原子力安全委員会が示している耐震設計審査指針が改訂されたことから,外部溢水に係る津波の対応は耐震バックチェックに委ねられることになった(丙A42)。 平成18年5月11日に開催された第3回溢󠄀水勉強会においては,「想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)」(丙A44の2)に従った影響評価の結果として,福島第一原発5号機について,以下のとおり,報告された(丙A45)。 a 津波水位の仮定津波水位として,O.P.+14m(敷地高さ(O.P.+13m)+1m)及びO.P.+10m(上記仮定水位と設計水位(O.P.+- 334 - 5.6m)の中間),時間として,長時間継続するも 津波水位として,O.P.+14m(敷地高さ(O.P.+13m)+1m)及びO.P.+10m(上記仮定水位と設計水位(O.P.+- 334 - 5.6m)の中間),時間として,長時間継続するものと仮定した。 b 津波水位による機器影響評価まず,屋外機器,建屋,構築物への影響として,敷地高さを超える津波に対して建屋に浸水する可能性があることが確認され,具体的な流入口としては,海側に面したタービン建屋(T/B)大物搬入口,サービス建屋(S/B)入口等があり,機器については,津波水位O.P.+10m及びO.P.+14mの両ケースともに,非常用海水ポンプが津波により使用不能な状態となる。 また,建屋への浸水による機器への影響として,津波水位O.P.+10mの場合には,建屋への浸水はないと考えられることから,建屋内への機器への影響はないが,津波水位O.P.+14mの場合は,タービン建屋(T/B)大物搬入口,サービス建屋(S/B)入口から流入すると仮定した場合,タービン建屋(T/B)の各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性がある。そして,その波及として,津波水位O.P.+14mのケースでは,浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する。 平成19年4月には,「溢󠄀水勉強会の調査結果について」と題する報告書(丙A42)が取りまとめられ,同報告書において,福島第一原発の外部溢󠄀水に関して,「5号機を対象として津波による浸水の可能性がある屋外設備の代表例として,非常用海水ポンプ,タービン建屋大物搬入口,サービス建屋入口,非常用DG吸気ルーバの状況について調査を行った。タービン建屋大物搬入口及びサービス建屋入口については水密性の扉ではなく,非常用DG吸気ルーバについても,敷地レベルか 大物搬入口,サービス建屋入口,非常用DG吸気ルーバの状況について調査を行った。タービン建屋大物搬入口及びサービス建屋入口については水密性の扉ではなく,非常用DG吸気ルーバについても,敷地レベルからわずかの高さしかない。非常用海水ポンプは敷地レベル(+13m)よりも低い取水エリアレベル(+4.5m)に屋外設置されている。土木学会手法による津波による上昇水位は+5.6mとなっており,非常用海水ポンプ電動機据付- 335 - けレベルは+5.6mと余裕はなく,仮に海水面が上昇し電動機レベルまで到達すれば,1分程度で電動機が機能を喪失すると説明を受けた。」と記載された(丙A42)。 第4 地震・津波に関する知見 1 本件設置等許可処分時の地震・津波に関する知見及びその後の進展等昭和41年から同47年にかけて,被告東電の福島第一原発1号機から6号機まで順次設置許可申請がされた際,津波対策が必要な波高につき,昭和35年チリ津波のときに小名浜港で観測された最高潮位であるO.P.+3.122m及び最低潮位O.P.-1.918mとして設置許可され,敷地の最も海側の部分についてはO.P.+4mの高さに整地されて,非常用海水ポンプはこの場所に設置された。これらの発電所の設置許可申請のされた昭和40年代には,まだ津波波高を計算するシミュレーション技術は一般化していなかったが,電子計算機による津波数値計算(シミュレーション)は,1970年代以降,徐々に利用可能となっていった。(甲A1の1・本文編373ないし375頁) 2 4省庁報告書(甲A16,17,丙A30の1・2)⑴ 策定経緯等平成9年3月に策定された4省庁報告書は,「総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,推進を図るため,太平洋沿岸部を ,丙A30の1・2)⑴ 策定経緯等平成9年3月に策定された4省庁報告書は,「総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,推進を図るため,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定しうる最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行った」ものである(甲A16及び丙A30の1・「はじめに」,丙A30の2)。 同報告書は,首藤(東北大学工学部教授(当時)),阿部(東京大学地震研究所教授(当時)をはじめとする有識者が委員会構成メンバーとなっていた(甲A16及び丙A30の1・69頁,丙A30の2)。 - 336 - ⑵ 概要既往津波の沿岸津波高については,「1600年以降を対象として沿岸別の最大津波高を整理した結果,三陸沿岸では,過去395年間に高さ10m以上の大津波が3回来襲している他に,高さ5m程度の津波は6回来襲しており,被害津波の来襲頻度が高い。」とされ,既往津波による被害状況としては,太平洋沿岸北部における被害の特性として,人的被害は概ね全域で発生しており,相対的に三陸北部及び南部における被害が大きく,同一の地震津波により広域(複数の沿岸)で被害が発生することが多いとされた(甲A16及び丙30の1・8頁)。 想定地震の設定規模は,歴史地震も含め既往最大級の地震規模を用いることとし,想定地震の地域区分は,地震地体構造論(地震の起こり方の共通している地域では地体構造にも共通の特徴があるとの前提から,日本周辺の地震の起こり方(規模,頻度,深さ,震源モデルなど)に共通性のある地域ごとに区分し,それと地体構造の関連性につい の起こり方の共通している地域では地体構造にも共通の特徴があるとの前提から,日本周辺の地震の起こり方(規模,頻度,深さ,震源モデルなど)に共通性のある地域ごとに区分し,それと地体構造の関連性について研究するもの)の知見に基づく地域区分を行うこととした(甲A16及び丙A30の1・9,10,126頁)。福島県沖を含む「G3」領域においては,既往最大の地震を1677年延宝房総沖地震であると特定し(甲A16及び丙A30の1・10頁),「想定地震の発生位置は既往地震を含め太平洋沿岸を網羅する」(甲A16及び丙A30の1・9頁)という方針に従って,G3領域内で発生した延宝房総沖地震の断層モデル(震源断層の形状やその生成過程に関するモデル)を,同領域内の全域を対象として南北にずらして波源の設定を行った(甲A16及び丙A30の1・125,136,157,162頁)。 津波推計に際しては,沿岸部では600m格子の水深データを用いた計算方法が採用され,福島第一原発1号機ないし4号機が所在する福島県双葉郡大熊町の想定津波の計算値がO.P.+6.4m,福島第一原発5,6号機が所在する同郡双葉町の想定津波の計算値がO.P.+6.8mとそれぞれ算出され- 337 - た(甲A17及び丙A30の2・24,148頁)。 3 7省庁手引及び津波災害予測マニュアル(甲A15,113)⑴ 策定経緯等被告国(国土庁など7省庁)は,平成5年の北海道南西沖地震を踏まえ,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(7省庁手引)(甲A15)の作成に着手し,平成9年にこれを公表するに至った。 ⑵ 概要7省庁手引(甲A15)においては,「現在の技術水準では,津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり,また,津波が発生した場合におい 成9年にこれを公表するに至った。 ⑵ 概要7省庁手引(甲A15)においては,「現在の技術水準では,津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり,また,津波が発生した場合においても,地域の特性によって津波高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,津波防災対策の検討が極めて難しいものとなって」おり,「これまでの津波災害は,必ずしも人口稠密な大都市域で発生したものではないため,今後,臨海大都市で発生する危険性がある都市津波災害に対する対策も新たに講ずる必要がある」ことから,「津波という災害の特殊性を十分踏まえ,総合的な観点から津波防災対策を検討し,津波防災対策のより一層の充実を図ることが必要不可欠となっている」と指摘されている。そして,上記の認識の下,「防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についてとりまとめ」られた。(3頁)対象津波については「過去に当該沿岸地域で発生し,痕跡高などの津波情報を比較的精度良く,しかも数多く得られている津波の中から,既往最大の津波を選定し,それを対象とすることを基本と」しつつ,「近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から…地震の発生位置や規模,震源の深さ,指向性,断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波の設定を行う- 338 - 必要がある」とされた(9頁)。 また,「最大地震が必ずしも最大津波に対応するとは限ら」ず,「地震が小さくとも津波の大きい『津波地震』があり得ることに配慮しながら,地 定を行う- 338 - 必要がある」とされた(9頁)。 また,「最大地震が必ずしも最大津波に対応するとは限ら」ず,「地震が小さくとも津波の大きい『津波地震』があり得ることに配慮しながら,地震の規模,震源の深さとその位置,発生する津波の指向性等を総合的に評価した上で,対象津波の設定を行わな」ければならないとし,「過去の遠地津波の襲来状況などを整理,検討し,最大遠地津波による沿岸水位が上記対象津波の沿岸水位よりも大きい場合には,対象とする地震を別途設定するなどの措置が必要となる」とされた(30頁)。 7省庁手引の別冊とされた「津波災害予測マニュアル」(甲A113)は,首藤,阿部,佐竹(工業技術院地質調査所主任研究官(当時))らが委員として関わり,「地方公共団体が個々の海岸におけるきめ細かな津波災害対策を行うには,海岸ごとに津波の浸水予測値を算出した津波浸水予測図等を作成することが有効である」として,「予測図の作成方法等について明示」することを目的としたものである(まえがき)。同マニュアルでは,津波の推算(津波浸水予測計算)については,「①地殻変動に伴う津波の発生 ②外洋から沿岸への伝播 ③陸上への浸水,遡上の3過程に分けて考えることができる」とされ,推計結果の良否は,初期に与えた海面変動すなわち波源モデルの表現と,遡上域でのエネルギー損失の表現の適否に大きく依存するとされる(50頁)。また,津波の数値計算には至るところで誤差が入り込み得るから,計算結果を利用するに当たっては,その利用目的ごとに判断することが重要となってくると指摘されている(85頁)。 4 津波浸水予測図(甲A88,89の1ないし4,弁論の全趣旨)⑴ 策定経緯等国土庁(当時)は,平成11年3月,「4省庁報告書」の検討を踏まえて作成された「7 いる(85頁)。 4 津波浸水予測図(甲A88,89の1ないし4,弁論の全趣旨)⑴ 策定経緯等国土庁(当時)は,平成11年3月,「4省庁報告書」の検討を踏まえて作成された「7省庁手引」(甲A15)及びその別冊「津波災害予測マニュアル」(甲A113)に基づいて,福島第一原発の立地点をも含む沿岸部を対象とし- 339 - て,想定される設計津波高さの津波の来襲によって,対象沿岸地域においてどの程度の津波による浸水(浸水高及び浸水域)がもたらされるかについて,海岸地形や地上の地形データを踏まえて,具体的に推計したものとして,津波浸水予測図を作成し,公表した。 ⑵ 概要津波浸水予測図は,「個々の海岸における事前の津波対策を検討するための基礎資料となる」ものであり,かつ,「具体的には,この地図を見ることにより,津波による浸水域の広がり,浸水高さ及びその中に含まれる市街地・行政機関等の公共施設,工場等を抽出することができ,その地域における津波防災上の課題を明らかにすることが出来る。」とされた(甲A88)。 具体的には,各領域にとって最も大きな津波を発生させると考えられるモデルを設定して数値計算で対象とする領域を設定し,数値モデルは格子間隔100mの格子点モデルとして計算し,各領域において,津波高さが2,4,6,8,10mの5通りとなるよう,津波波形の設定を行い,想定される地震断層モデルによる津波が,実際に,沿岸部に到達した上で陸上にどのように遡上するかという予測結果を算出した。もっとも,防波堤や水門等の防災施設や沿岸構造物による効果は考慮しなかった。(甲A88,89の1ないし4)以上の結果,「設定津波高6m」の「津波浸水予測図」(甲A89の3)に基づいた場合,福島第一原発敷地へ遡上・浸水する 防災施設や沿岸構造物による効果は考慮しなかった。(甲A88,89の1ないし4)以上の結果,「設定津波高6m」の「津波浸水予測図」(甲A89の3)に基づいた場合,福島第一原発敷地へ遡上・浸水する津波の状況は,O.P.+10m盤に立地する1号機ないし4号機のタービン建屋(T/B)及び原子炉建屋(R/B)では,タービン建屋の海側に面した領域において3ないし4mを示す「薄緑色」となるなど,ほぼ建屋全体が浸水することが示されており,全体として,1号機ないし4号機の立地点では敷地上から2ないし3m程度の浸水となることが示された。さらに,「設定津波高8m」の「津波浸水予測図」(甲A89の4)を前提とすれば,1号機ないし4号機の立地点のほぼ全域が地盤上2ないし3m以上の浸水となることが示された。 - 340 - 5 津波評価技術(甲A1の1・本文編375,376頁,丙A31の1ないし3)⑴ 策定経緯等平成11年に原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化についての検討を行うことを目的として,土木学会原子力土木委員会に津波評価部会が設置された。平成14年2月当時の主査は首藤であり,委員には阿部,今村,佐竹ら専門家のほか,被告東電を含む電力会社の担当者もいた。 津波評価部会は,平成14年2月,北海道南西沖地震津波を契機とした津波防災に対する関心の高まりや4省庁報告書の公表等を背景として,津波評価部会が培ってきた津波の波源や数値計算に関する知見を集大成して,原子力発電所の設計津波水位の標準的な設定方法を提案したものとして津波評価技術を策定,公表した。 ⑵ 概要津波評価技術は,津波の波源設定から敷地に到達する津波高さの算定までにわたる津波評価を体系化したものであり,その評価手法は以下のとおりであっ 津波評価技術を策定,公表した。 ⑵ 概要津波評価技術は,津波の波源設定から敷地に到達する津波高さの算定までにわたる津波評価を体系化したものであり,その評価手法は以下のとおりであった。 ア既往津波の再現に必要な数値(丙A31の2)想定津波(プレート境界付近,日本海東縁部及び海域活断層に想定される地震に伴う津波)の設定については,文献調査等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を評価対象として選定し,沿岸における痕跡高を説明できるよう断層パラメータ(媒介変数)を設定し,既往津波の断層モデルを設定する。 イ想定津波による設計津波水位の検討の方法(丙A31の2)既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルを基に,津波をもたらす地震の発生位置や発生様式を踏まえたスケーリング則に基づき,想定するモーメントマグニチュード(Mw)に応じた基準断層モデルを設定する。その上で,想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層- 341 - モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。このようにして得られた設計想定津波(想定津波群のうち,評価地点に最も大きな影響を与える津波)の数値計算結果に適切な潮位条件を足し合わせて設計津波水位を求める。 ウ福島第一原発付近の設計想定津波(丙A31の3)日本海溝沿いの海域において,北部では海溝付近に大津波の波源域が集中しており,津波地震・正断層地震が見られる一方,南部では1677年の延宝房総沖地震を除き,海溝付近に大津波の波源域は見られず,陸域に比較的近い領域で発生していると整理した。 この結果,津波評価技術 しており,津波地震・正断層地震が見られる一方,南部では1677年の延宝房総沖地震を除き,海溝付近に大津波の波源域は見られず,陸域に比較的近い領域で発生していると整理した。 この結果,津波評価技術では,福島県沖(日本海溝寄り)においては,福島県東方沖地震のみが既往の地震であり,福島県沖の日本海溝沿いでは津波地震が発生していないとし,1938年の福島県東方沖地震に基づくMw7. 9の断層モデルを基準断層モデルとして設定した。 被告東電の対応(丙A32)被告東電は,平成14年3月,津波評価技術に従って「津波の検討-土木学会「原子力発電所の津波評価技術」に関わる検討-」を策定し,保安院に対し,福島第一原発の設計津波最高水位は,近地津波O.P.+5.4ないし5.7m,遠地津波でO.P.+5.4ないし5.5mであると報告した(2002 6 長期評価⑴ 策定経緯等(前提事実,甲A100,102,103)平成7年に発生した阪神・淡路大震災を踏まえて,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するために,政府の特別の機関として総理府(平成14年当時は文部科学省)に設置された推進本部は,平成14年7月31日,長期評価を公表した。 - 342 - 島﨑邦彦(東京大学地震研究所教授(当時),以下「島﨑」という。)は,地震学を専門とし,特に地震及び津波の長期予測について研究し,上記地震本部地震調査委員会委員,同長期評価部会長を務めた。 ⑵ 概要(甲A86,87,105,106,丙A33,132)ア長期評価は,主として,固有地震モデルという理論,すなわち,個々の断層又はそのセグメントからは,基本的にほぼ同じ規模の地震が繰り返し発生するという考え方に基づいて,三陸沖から房総沖までの太平洋沖を8個の領域に区 として,固有地震モデルという理論,すなわち,個々の断層又はそのセグメントからは,基本的にほぼ同じ規模の地震が繰り返し発生するという考え方に基づいて,三陸沖から房総沖までの太平洋沖を8個の領域に区分した上で,個々の領域内において繰り返し発生する最大規模の地震を固有地震と定義し,その固有地震と同規模の地震が発生する確率を論じた。固有地震については,地震が発生していない期間が長ければ長いほど,地震発生の確率は高くなっていくと考えられ,最新活動履歴が判明している三陸沖北部のプレート間地震については,発生年や発生間隔を取り入れて計算するBPT分布を用いて地震発生の確率を算定した。 イ 「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」と名付けられた海域(以下「日本海溝付近」という。)のプレート間大地震(津波地震)について,日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震は17世紀以降では,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震が知られているが,これらの地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとはいい難いため,固有地震であるとは特定できないとし,1896年の明治三陸地震についてのモデルを参考にし,断層の長さが日本海溝に沿って200km 程度,幅が約50km の地震が,同じ構造をもつ日本海溝付近の領域内のどこでも発生する可能性があるとした上で,M8クラスのプレート間大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定されるとし,ポアソン過程(一定時間の中で偶然に起きる事象の数の分布を示す数式であるポアソン分布に従って確率を計算するための理論であり,その事象が当該期間- 343 - 内に発生する平均回数に着目して発生確率を計算するもの)により,今 然に起きる事象の数の分布を示す数式であるポアソン分布に従って確率を計算するための理論であり,その事象が当該期間- 343 - 内に発生する平均回数に着目して発生確率を計算するもの)により,今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定されるとした。 同領域内の特定の海域では,断層長(200km 程度)と領域全体の長さ(800km)の比を考慮して,530年に1回の割合でM8クラスの地震が発生すると推定されるとされ,ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は6%程度,今後50年以内の発生確率は9%程度と推定されるとした。(なお,以上の見解を以下「長期評価の見解」という。)上記の推定の根拠としては,「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)の発生領域,震源域の形態,発生間隔等(表3-2)」において,「⑴地震の発生領域の目安 ⑵震源域の形態 ⑶震源域」の根拠として「震源域は,1896年の『明治三陸地震』についてのモデルを参考にし,同様の地震は三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があると考えた。」,「⑸発生間隔等」の根拠として,「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りにかけて顕著な津波被害を伴ったM8クラスの地震の発生は,江戸時代以降には,1611年・1677年・1896年の3回と判断。(房総沖の震源はやや陸寄りという考え方もあるが,石橋(1986)および阿部(1999)から津波地震であることが明らかなので,評価対象に含める。)特定の領域(約200km)の発生頻度は1896年明治三陸地震の断層長(約200km)と三陸沖北部~房総沖の海溝寄りの長さ(約800km)の比を考慮して求めた。」と記載されていた。 また,「今後に向けて」において,「三陸沖北部およ は1896年明治三陸地震の断層長(約200km)と三陸沖北部~房総沖の海溝寄りの長さ(約800km)の比を考慮して求めた。」と記載されていた。 また,「今後に向けて」において,「三陸沖北部および三陸沖南部海溝寄り以外の領域は,過去の地震資料が少ないなどの理由でポアソン過程として扱ったが,今後新しい知見が得られればBPT分布を適用した更新過程の取り扱いの検討が望まれる。」,「三陸沖~房総沖にかけての海域ではプレート内逆断層型の大地震についてはこれまで知られていない。しかし,同様に- 344 - 過去このタイプの地震が知られていなかった北海道東方沖で1994年にM8.1の地震があったこともあり,このような地震についても留意する必要がある。」と記載されていた。さらに,長期評価の頭書きには,「なお,今回の評価は,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが,データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。」と記載されていた。 ⑶ 長期評価の性質地震防災対策特別措置法7条2項1号によれば,推進本部の所掌事務の一つは「地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策を立案すること」とされており,政府の公的機関としての目的及び役割からして,推進本部が公表した長期評価は,被告国が公表した公的な見解であり,個々の専門家が発表した論文等とは異なるものであった。 ⑷ 長期評価の信頼度について推進本部は,平成15年3月24日,「プレートの沈み込みに伴う大地震に関す 表した公的な見解であり,個々の専門家が発表した論文等とは異なるものであった。 ⑷ 長期評価の信頼度について推進本部は,平成15年3月24日,「プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」(丙A36)を公表した。ここでは,長期評価に用いられたデータは,量及び質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差があるとして,評価の信頼度を「A:(信頼度が)高い B:中程度 C:やや低い D:低い」の4段階にランク分けしている。そして,推進本部は,「三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」については,「⑴ 発生領域の評価の信頼度 C」「⑵ 規模の評価の信頼度 A」「⑶ 発生確率の評価の信頼度 C (地震数 3,モデルポアソン)」と評価している。発生領域の評価の信頼度Cとは,想定地震と同様な地震が領域内のどこかで発生すると考- 345 - えられるが,想定震源域を特定できず,過去の地震データが不十分であるため発生領域の信頼性はやや低いというものであり,規模の評価の信頼度Aとは,想定地震と同様な過去の地震の規模から想定規模を推定し,過去の地震データが比較的多くあり,規模の信頼性は高いというものであり,発生確率の評価の信頼度Cとは,想定地震と同様な過去の地震データが少なく,必要に応じ地震学的知見を用いて発生確率を求めたため,発生確率の値の信頼性はやや低く,今後の新しい知見により値が大きく変わり得るというものである。 (丙A36,弁論の全趣旨)⑸ 中央防災会議において採用されなかったこと中央防災会議は,災対法11条1項に基づき内閣府に設置された機関であり,防災基本計画を作成し,及びその実施を推進すること(同条2項1号),内閣総理 中央防災会議において採用されなかったこと中央防災会議は,災対法11条1項に基づき内閣府に設置された機関であり,防災基本計画を作成し,及びその実施を推進すること(同条2項1号),内閣総理大臣の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること(同項2号)などの事務をつかさどっており,内閣総理大臣を会長とし(同法12条2項),全国務大臣,指定公共機関の代表者及び学識経験者により構成されている(同条5項)。中央防災会議が設置した日本海溝・千島海溝調査会においては,長期評価の見解について検討されたものの,最終的には,日本海溝・千島海溝報告書では長期評価の見解は採用されなかった。そして,大きな地震が繰り返し発生しているものについては,近い将来発生する可能性が高いと考え,防災対策の検討対象とすることとし,具体的には,択捉島沖の地震,色丹島沖の地震,根室沖・釧路沖の地震,十勝沖・釧路沖の地震,500年間隔地震,三陸沖北部の地震,明治三陸タイプ地震,宮城県沖の地震が検討対象とされた。 一方で,大きな地震が発生しているが繰り返しが確認されていないものについては,発生間隔が長いものと考え,近い将来に発生する可能性が低いものとして,防災対策の検討対象から除外することとし,具体的には,海洋プレート内地震及び福島県沖・茨城県沖のプレート間地震は検討対象から除外された。 (丙A37の1・2,丙A112,133,134)- 346 - ⑹ 長期評価の見解に対する専門家の評価長期評価の見解に対する地震や津波の専門家の意見書及び関連事件で実施された尋問における証言の概要は以下のとおりである。 ア佐竹佐竹は,土木学会原子力土木委員会津波評価部会の委員を務めるとともに,平成24年からは推進本部地震調査委員会長期評価部会部 た尋問における証言の概要は以下のとおりである。 ア佐竹佐竹は,土木学会原子力土木委員会津波評価部会の委員を務めるとともに,平成24年からは推進本部地震調査委員会長期評価部会部会長を務める者である(丙A99)。佐竹の意見書(丙A99,132,135,136)及び関連事件で実施された尋問における証言(甲A105,106,丙A141の1・2)の概要は以下のとおりである。 長期評価の見解は,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震及び1896年の明治三陸地震が津波地震であることを前提に津波地震の発生確率を算出したものである。1611年の慶長三陸地震及び1677年の延宝房総沖地震については,波源域が明らかでないことから,過去の津波地震は海溝沿いのどこかで発生したとして評価することになり,この評価からは,津波地震は日本海溝沿いのどこでも起こり得るという解釈になるが,福島沖で津波地震が発生する可能性を議論したり,そのようなデータが明示的に提示されたりしたわけではなかった。また,1611年の慶長三陸地震及び1677年の延宝房総沖地震については,津波地震でない可能性も指摘されていた。本件地震の発生以前に福島県沖日本海溝沿い領域において,延宝房総沖地震又は明治三陸地震程度の津波地震が発生し得ることを科学的具体的に指摘した学術研究論文は存在しない。さらに,佐竹自身は,津波地震は決まった領域で発生すると考えていたため,どこでも発生するとは考えていなかった。 イ津村建四朗(以下「津村」という。)津村は,公益財団法人地震予知総合研究振興会の地震防災調査研究部の副主席主任研究員であり,平成12年から平成18年までの間,推進本部の地- 347 - 震調査委員会の委員長を務めていた者である(丙 は,公益財団法人地震予知総合研究振興会の地震防災調査研究部の副主席主任研究員であり,平成12年から平成18年までの間,推進本部の地- 347 - 震調査委員会の委員長を務めていた者である(丙A101)。津村の意見書(丙A101)の概要は以下のとおりである。 地震は同じ場所で同じような規模で繰り返すという性質を有すると考えられるため,過去の地震の研究を行うことが重要であるところ,三陸沖から房総沖の日本海溝寄りの領域では,過去の地震の活動履歴として確認できるデータは極めて乏しいものであり,歴史資料も乏しかった。このように,長期評価の見解は,過去の地震のデータや歴史資料が乏しいという重大な問題点があったにもかかわらず,過去に津波地震の発生が確認されていない福島県沖や茨城県沖の日本海溝沿いも含めた日本海溝沿いの領域が陸側のプレートに太平洋プレートが沈み込んでいる点で構造が同じであるという極めておおざっぱな根拠で,三陸沖から房総沖までの日本海溝沿いを一括りにして,津波地震が発生する可能性があると評価したものである。このような考え方は,地震学の基本的な考え方からすれば異質でかなりの問題があり,地震又は津波の専門家の統一的な見解や最大公約数的見解とは言い難いものであった。 ウ松澤暢(以下「松澤」という。)松澤は,東北大学大学院理学研究科教授を務めるとともに,同研究科附属地震・噴火予知研究観測センターのセンター長を務めており,平成16年4月から平成28年3月までの間,推進本部地震調査委員会長期評価部会委員を務めていた者である(丙A102の1)。松澤の意見書(丙A102の1・2)の概要は以下のとおりである。 推進本部は,もともと地震の研究や調査の推進を目的として立ち上げられたものであり,いわゆる予知 者である(丙A102の1)。松澤の意見書(丙A102の1・2)の概要は以下のとおりである。 推進本部は,もともと地震の研究や調査の推進を目的として立ち上げられたものであり,いわゆる予知や予測を主目的としたものではなかったが,国民からの批判を受けて,評価の行われない空白域を作らないために全国の任意の地点の地震動予測が必要となり,そのためには日本のどこかに被害をもたらす地震については,たとえ信頼度が低くても全て何らかの評価をしなけ- 348 - ればならなくなった。長期評価の見解を策定した当時,津波地震の発生メカニズムははっきりとは分かっておらず,専門家の間で共通認識となっていたのは,津波地震が海溝軸付近の浅いところで起きるということと極めてまれにしか発生しないということだけであった。長期評価の見解は,日本海溝沿いを一つの領域にまとめた上で,この領域で400年に3回津波地震が発生していることを根拠に津波地震の発生確率を算出しているが,平成14年から現在に至るまで,地震学界で日本海溝沿いの津波地震としてコンセンサスが得られているのは,1896年の明治三陸沖地震だけであり,1611年の慶長三陸地震及び1677年の延宝房総沖地震については,津波地震なのか明確ではなく,震源もよく分かっていない。また,長期評価の見解は,海溝軸近くのプレートが沈み込み始めた領域という,構造の同一性に着目して一つの領域を設定しているものであるから,全く科学的根拠がないものとはいえないが,それほど強い根拠があるものでもない。 エ今村今村は,東北大学災害科学国際研究所所長及び同研究所の災害リスク研究部門津波工学研究分野で教授を務めるとともに,推進本部地震調査委員会津波評価部会部会長を務めている者である(丙A105)。今村の意見書( は,東北大学災害科学国際研究所所長及び同研究所の災害リスク研究部門津波工学研究分野で教授を務めるとともに,推進本部地震調査委員会津波評価部会部会長を務めている者である(丙A105)。今村の意見書(丙A105)の概要は以下のとおりである。 津波工学を含む工学一般では,ベネフィットとコストの両面が総合的に考慮されて,構造物の安全対策が講じられることになるところ,津波工学の観点からは,「発生がうかがわれるとの科学的なコンセンサスは得られておらず,単に理学的根拠をもって発生の可能性を否定することができないだけの津波」を対象としてハード面での対策を講じるべきであるとの要求は導かれない。すなわち,津波工学の観点から既設炉でハード面の対策を要求するには,理学的根拠をもってその対策の必要性を正当化できることが必要であり,具体的には,検討対象とする津波は,既往津波であるか,理学的根拠か- 349 - ら発生がうかがわれるという科学的なコンセンサスが得られている津波のうち,具体的根拠をもって波源の位置が特定されるなどして一定の期間における発生間隔が算出できるものであることが必要である。長期評価の見解が策定された当時,日本海溝沿いについて,三陸沖はプレート間の固着が強いため,大きな地震自体が起きやすく,津波地震の発生に影響を及ぼすとする海溝沿いの堆積物が多い一方,福島沖及び茨城沖はプレート間の固着が弱いため,大きな地震自体が起きにくく,津波地震の発生に影響を及ぼすとする海溝沿いの堆積物の量も少ないという違いがあった。このような状況の下で,長期評価の見解は,日本海溝付近のどこでも津波地震が起きる可能性があるということについて,従来なかった新たな理学的知見を提示するものではなく,メカニズム的に否定できないという以上の理学的根拠を示しておら 価の見解は,日本海溝付近のどこでも津波地震が起きる可能性があるということについて,従来なかった新たな理学的知見を提示するものではなく,メカニズム的に否定できないという以上の理学的根拠を示しておらず,津波地震が起きるとしても,その規模としてなぜ明治三陸地震と同程度のものが起こり得るのかということについては何らの具体的な根拠も示していなかった。これらのことから,歴史的・理学的知見が十分に定まっておらず,逆に三陸沖と福島沖及び茨城沖の違いを示唆する理学的知見が存在した津波地震について,既往津波地震について考慮する以外に,それを超えて日本海溝沿いのどの地域でも発生すると取り扱うべきとは考えられなかった。したがって,福島沖及び茨城沖においても三陸沖や房総沖と同様の津波地震の発生が否定できないというのは,発生をうかがわせる科学的なコンセンサスを得られておらず,単に理学的根拠をもって発生を否定することができないだけの津波であって,理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的なコンセンサスが得られている津波であるとは考えられていなかった。 オ首藤首藤は,津波工学の研究者として,我が国の津波防災基準等の策定に長年関与しており,その中で,土木学会原子力土木委員会津波評価部会主査として,平成14年に原子力発電所における津波評価の基準として策定された- 350 - 「津波評価技術」の策定にも関与した者である(丙A112)。首藤の意見書(丙A112)の概要は以下のとおりである。 推進本部は,研究調査の方向を示すもので,災害対策の方針を決めるものではなく,防災対策の実施方針を決めるのは中央防災会議である。そして,中央防災会議では,長期評価の見解は採用されなかったのであるから,一電力会社である被告東電においてそれを防災の対 方針を決めるものではなく,防災対策の実施方針を決めるのは中央防災会議である。そして,中央防災会議では,長期評価の見解は採用されなかったのであるから,一電力会社である被告東電においてそれを防災の対象にしようとしても株主総会を通らなかったと考えられ,長期評価の見解では福島県沖でも津波地震が発生する可能性に言及しているが,これは飽くまで研究を推進すべきとしているだけであって防災対策を採ることを求めているわけではない。このように,長期評価の見解が策定された当時の福島県沖に関する長期評価の見解は専門家の間でもコンセンサスが得られていなかったものであるから,この見解は確定論に取り入れ,直ちに対策を採らせるような説得力のある見解とは考えられていなかった。 カ谷岡勇市郎(以下「谷岡」という。)谷岡は,北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センターでセンター長を務めており,平成16年には中央防災会議に設置された日本海溝・千島海溝調査会の北海道WG委員を務めるとともに,平成21年からは推進本部地震調査委員会の委員を務めていた者である(丙A133)。谷岡の意見書(丙A133)の概要は以下のとおりである。 明治三陸地震のような津波地震については,そのメカニズムが解明されるに至っていなかったため,多くの地震学者が津波地震を研究し,様々な仮説を提唱してきたものの,これらの多くは,明治三陸地震のような津波地震は限られた領域や特殊な条件が揃った場合にのみ発生する可能性が高いというものであった。地震学の分野では,津波地震のメカニズムを含め,多くの事項が未解明であるため,明治三陸地震のような津波地震についても「この地域では地震は起きない。」と断言することはできず,可能性が否定できな- 351 - い以上,地震調査委員会 を含め,多くの事項が未解明であるため,明治三陸地震のような津波地震についても「この地域では地震は起きない。」と断言することはできず,可能性が否定できな- 351 - い以上,地震調査委員会の立場ではひとまず防災行政的な警告をするためにも,明治三陸地震と同様の地震が日本海溝付近の領域内でも発生する可能性があるという見解を出す意義はあると考える。もっとも,そのような見解があるとしても,実際の防災対策をしていく上で,明治三陸地震と同じような津波地震が福島沖で発生すると考えることは難しいと考えられるため,中央防災会議などで実際にこの見解に依拠した防災対策を採らせるべきということはできない。 キ笠原稔(以下「笠原」という。)笠原は,公益財団法人地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所で客員研究員をしているものであり,平成15年には中央防災会議専門調査会北海道WG座長を務めていた者である(丙A134)。笠原の意見書(丙A134)の概要は以下のとおりである。 長期評価の見解は,推進本部が理学的知見を基に議論した結果として理学的に否定できないものとして出された見解であると認識している。長期評価の見解については,その知見の精度がどのようなものであるかや津波地震に関する科学的知見の詳細については,北海道WGの中で検討されることとなり,北海道WGでは,長期評価の見解は,理学的に否定できないというものであることに間違いはないものの,それ以上の具体的な根拠があるものという意見は出されなかった。 ク島﨑島﨑は,東京大学名誉教授であり,推進本部地震調査委員会委員,同長期評価部会部会長を務めていた者である(甲A100)。島﨑の意見書(甲A96,100,102)及び関連事件において実施された尋問における 﨑は,東京大学名誉教授であり,推進本部地震調査委員会委員,同長期評価部会部会長を務めていた者である(甲A100)。島﨑の意見書(甲A96,100,102)及び関連事件において実施された尋問における証言(甲A103,104)の概要は以下のとおりである。 長期評価の見解の根拠は,過去400年間に発生した3つの津波地震である,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震及び1896- 352 - 年の明治三陸地震である。1611年の慶長三陸地震及び1896年の明治三陸地震による津波については,津波の数値計算から「日本海溝付近」で発生したと推定されている。1677年の延宝房総沖地震による津波については,津波地震であることが明らかであり,遠方の岩沼(宮城県)で死者が出ていることから,「日本海溝付近」で発生したと推定した。上記の3つの津波地震の正確な位置については不明であるが,津波被害の記録等からすれば,1611年の慶長三陸地震及び1896年の明治三陸地震による津波は日本海溝付近の北部,1677年の延宝房総沖地震による津波は日本海溝付近の南部で発生したものと推定される。海溝の北部,中部,南部には,地形等に大きな違いはなく,津波地震は日本海溝付近のどこでも発生すると判断された。プレートの沈み込みにより,北部と南部だけで津波地震が発生し,中部だけ発生しないとは考えにくく,たまたま過去400年間に中部では発生しなかっただけと推定することが妥当である。 中央防災会議においては,長期評価の見解は取り入れられず,過去に起きた地震のみを考えることとなったが,このような地震の選択は,歴史地震の資料が限られている点が十分に考慮されておらず,空白域の考え方が取り入れられていないものであり,地震学の観点からは疑問の残る判断である。 のみを考えることとなったが,このような地震の選択は,歴史地震の資料が限られている点が十分に考慮されておらず,空白域の考え方が取り入れられていないものであり,地震学の観点からは疑問の残る判断である。 ケ都司嘉宣(以下「都司」という。)都司は,東京大学地震研究所准教授であった者であり,推進本部地震調査委員会長期評価部会委員及び同津波評価部会委員を務めている者である(甲A101)。都司の意見書(甲A101)及び関連事件において実施された尋問における証言(甲A86,87)の概要は以下のとおりである。 推進本部は,地震対策の強化,特に地震による被害の軽減に資する地震調査研究の推進を基本的な目標とする組織である。推進本部は,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震及び1896年の明治三陸地震は,いずれも震害が記録されていないのに津波による甚大な被害が発生して- 353 - おり,日本海溝沿いのプレート間で生じた津波地震であると結論付けた。また,太平洋プレートが北米プレートの下に潜み込むという基本的構造は,日本海溝の北部,南部,中部で変わらないため,長期評価の見解において,津波地震について,同じ構造をもつプレート境界の海溝付近に同様に発生する可能性があり,場所は特定できないとしたことは当然である。そして,上記の結論に特段の異論は出なかった。 7 平成18年耐震設計審査指針(丙A15の2,丙A96)⑴ 策定経緯等原子力安全委員会は,平成18年9月19日,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を改訂した(平成18年耐震設計審査指針)。同指針において,「8.地震随伴事象に対する考慮」の中で,津波に関して,「施設は,地震随伴事象について,次に示す事項を十分に考慮したうえで設計され 審査指針」を改訂した(平成18年耐震設計審査指針)。同指針において,「8.地震随伴事象に対する考慮」の中で,津波に関して,「施設は,地震随伴事象について,次に示す事項を十分に考慮したうえで設計されなけれ施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。」とされた。(丙A15の2,丙A96)⑵ バックチェックルール保安院は,平成18年9月20日,平成18年耐震設計審査指針を受け,被告東電を含む原子力事業者等に対し,バックチェックルールを策定するとともに,各電力会社等に対し,稼働中及び建設中の発電用原子炉施設等について,改訂された耐震指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,報告するよう指示した(平成18年耐震バックチェック)。津波の評価方法として,既往の津波の発生状況,活断層の分布状況,最新の知見等を考慮して,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性のある津波を想定し,数値シミュレーションにより評価することを基本とし,水位上昇・低下の双方に対して安全性に影響を受けることがないことを確認するとともに,必要に応じて土砂移動等の二次的な影響について確認することを求めた。(甲A1の1・本文編388,- 354 - 389頁) 8 貞観津波に関する知見⑴ 貞観津波とは貞観津波とは,869年に発生した貞観地震により発生した津波であり,東北地方沿岸を襲った巨大津波である(甲A1の1・本文編390頁,丙A53ないし56)。 ⑵ 「仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定」(平成2年)(甲A1の1・本文編390,391頁,丙A53)同論文は,貞観津波に関する仙台平野での初めての堆積物調査 6)。 ⑵ 「仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定」(平成2年)(甲A1の1・本文編390,391頁,丙A53)同論文は,貞観津波に関する仙台平野での初めての堆積物調査の結果に基づき,津波痕跡高を推定したものであり,東北電力による独自の調査として行われたものである。貞観津波の痕跡高は,仙台平野の河川から離れた一般の平野部で2.5mないし3mで,浸水域は海岸線から3km ぐらいの範囲であったと推定している。 ⑶ 「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」(平成13年)(甲A1の1・本文編391頁,丙A54)同論文は,津波堆積物の調査を行い,福島県相馬市の松川浦付近で仙台平野と同様の堆積層を検出した上で,貞観津波の波源モデルを推測したものである。同論文には,「海岸線に沿った津波波高は,大洗から相馬にかけて小さく,およそ2~4m,相馬から気仙沼にかけては大きく,およそ6~12mとなった。」との記載がある。 ⑷ 平成18年以降も,佐竹論文(平成20年)(丙A55),「平安の人々が見た巨大津波を再現する-西暦869年貞観津波-」(平成22年)(丙A56)が順次,刊行され,貞観津波に関する知見が集積しつつあり(甲A1の1・本文編391頁),平成21年の総合資源エネルギー調査原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波,地質・地盤合同ワーキンググループにおいても,貞観津波について議論された(丙A57の1・2)。 - 355 - 9 被告東電の対応⑴ 平成6年における被告東電による津波想定ア原子力発電所の安全審査を担当していた通商産業省資源エネルギー庁(当時)は,平成5年10月15日,被告東電を始めとする電力事業者で組織する電気事業連合会に対し,既設原子力発電所の津波に対 ア原子力発電所の安全審査を担当していた通商産業省資源エネルギー庁(当時)は,平成5年10月15日,被告東電を始めとする電力事業者で組織する電気事業連合会に対し,既設原子力発電所の津波に対する安全性のチェック結果の報告を求め,これを受け,被告東電は,平成6年3月に報告書をまとめた(丙A28,29)。 イ同報告書において,文献調査(11件)に基づき,福島第一原発・第二原発の敷地に影響を及ぼす可能性のある地震として,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震及び1960年のチリ地震を選定の上,これを基に予測式により敷地に来襲する津波高さの推定を行い,結果として,福島第一原発においては,最大水位上昇量等についてはチリ地震津波による値が最も大きいとし,満潮時における最高数位はO.P.+3.5mになるが,主要施設が被害を受けることはないとした(丙A29)。 ⑵ 「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査」への対応について(甲A18)ア被告東電を含む電気事業連合会は,4省庁報告書への対応について検討を行い,平成9年7月25日に「『太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査』への対応について」という報告書を作成した。 イ同報告書には,4省庁報告書から読み取った津波高さは,福島第一原発等において,冷却水取水ポンプモーターのレベルを超える数値となっており,また,太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査委員会が設定した想定地震の断層パラメーターを用い,独自に数値解析した結果,福島第一原発等は,余裕のない状況となっていること,想定地震の断層パラメーターのバラツキ及び計算誤差を考慮して,仮に上記値の2倍の津波高さの変動があるものとすると,太平洋側のほとんどの原子力地点において,低下水位は冷却水取水ポンプ吸込口レベル以下となるととも 層パラメーターのバラツキ及び計算誤差を考慮して,仮に上記値の2倍の津波高さの変動があるものとすると,太平洋側のほとんどの原子力地点において,低下水位は冷却水取水ポンプ吸込口レベル以下となるとともに,水位上昇によって冷却水取水ポンプ- 356 - モーターが浸水することになることが記載されていた。また,地震動評価に際しては,地震地体構造上最大規模の地震を考慮しており,津波評価に際しても想定することが妥当であると考えられる場合には,同地震による津波を検討する必要があるものと考えられるから,今後整備される津波評価指針には,必要に応じて,地体構造上最大規模もの地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討・調整を行っていくこと,指針が制定されるまでの過渡期においては,電力の自主保全の観点から,想定し得る最大規模の津波に対して,既設のプラントについてはバックチェックを行って設備の機能が確保されることを確認するとともに,新設プラントについては,必要に応じて設備の検討条件として取り入れること,原子力における津波評価においては計算誤差が少ないと考えられることから,原子炉冷却系の機能検討に用いる津波水位については十分な精度で予測することが可能と考えられること,想定し得る最大規模の津波を考慮した上で更にバラツキを考慮することは工学的には現実的でないと考えられることから,設備の検討条件としては考慮しないこと,対応策等の考え方の一つとして水密モータの採用が挙げられているが,海水系のポンプに適用できる大型の水密ポンプは,現状製作されておらず,原子力で採用するためには,開発及び耐震性等の確証試験を行う等の問題があることなどが記載されていた。 ⑶ 7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針(甲A84)ア作成経緯被告東電を中心とする電気 めには,開発及び耐震性等の確証試験を行う等の問題があることなどが記載されていた。 ⑶ 7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針(甲A84)ア作成経緯被告東電を中心とする電気事業連合会は,通商産業省(当時)を通じて「7省庁手引」等の草稿(ドラフト版)を入手し検討し,平成9年10月15日,「7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針」と題する文書を作成した。 イ概要上記文書においては,「7省庁手引」等が,原子炉施設の地震津波の安全- 357 - の確保に関して「地震地体構造的見地から想定される最大規模の地震津波」を考慮するものとしていること,「今後,原子力の津波評価の考え方を指針等にまとめる際は,必要に応じて地震地体構造上の地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討・整備していく必要がある」ことが記載されている。 また,原子力規制委員会が平成27年に開示した上記文書には,「MITI(通商産業省)は情報の収集に努める」,「電力は独自に地震地体構造を自主保安でチェックする」,「バックチェックの指示はきっかけがない(電事連ペーパーで自主的に行う)」との書込みがされていた。 ⑷ 津波評価技術に関わる検討(2002年推計)ア検討経緯被告東電は,平成14年3月,津波評価技術に従って,2002年推計を策定し,保安院に対し福島第一原発の設計津波最高水位を報告した(丙A32)。 イ概要被告東電は,津波評価技術に基づく津波推計計算を以下のとおり実施した。すなわち,同計算では,既往津波として,津波評価技術の「既往最大」の考え方に基づいて1960年のチリ地震を抽出し,近地津波の波源位置について,別紙13のとおり,1896年の明治三陸地震や1677年の延宝房総沖地震の波源モデルの福島県沖の日本海溝寄 の「既往最大」の考え方に基づいて1960年のチリ地震を抽出し,近地津波の波源位置について,別紙13のとおり,1896年の明治三陸地震や1677年の延宝房総沖地震の波源モデルの福島県沖の日本海溝寄りを想定せず,より陸寄りの福島県東方沖地震の波源モデル(別紙13領域7)を想定して推計し,その結果,福島県東方沖地震の波源モデルを該当領域に想定した場合に最大の津波高さとなったため,福島県東方沖地震の波源モデルを前提に波源の位置についてパラメータスタディを実施し,その推計の結果として,近地津波ではO.P.+5.4mないし+5.7mの津波の襲来があり得るものとした。 また,遠地津波については,チリ地震による津波の波源モデルを基にした推計の結果として,O.P.+5.4mないし+5.5mの津波の襲来があり- 358 - 得るものとした。 また,これらの水位による福島第一原発の非常用機器への影響として,6号機の非常用ディーゼル発電機冷却系海水ポンプ(屋外設置)にて電動機据付レベル(最低O.P.+5.58m)を上回るものの,福島第一原発6号機はエアフィンクーラー付きディーゼル発電機を有しているため,津波水位に関わらず非常用電源の確保が可能であり,万一の同ディーゼル発電機の不作動を想定しても隣接プラントからの電源融通により電源を確保することが可能であり,現時点でも安全確保は可能であるが,信頼性確保の観点から同ポンプ電動機の軸を長尺化し,下側軸受設置レベルをかさ上げした構造への変更を計画していることから,実施可能な時期において速やかに対応することとした(丙A32)。 ⑸ 長期評価の見解についての平成14年当時の検討平成14年7月31日に長期評価の見解が公表されたことを受けて,保安院の職員は,同年8月5日,長期評価の見解を踏まえて原子 A32)。 ⑸ 長期評価の見解についての平成14年当時の検討平成14年7月31日に長期評価の見解が公表されたことを受けて,保安院の職員は,同年8月5日,長期評価の見解を踏まえて原子力発電所の安全性が確保されているか確認するため,被告東電の担当者からヒアリングを行い,福島沖から茨城沖の領域で津波地震が発生した場合のシミュレーションを行うべきであると述べたところ,被告東電の担当者が谷岡及び佐竹論文を示して難色を示したことから,被告東電に対し,長期評価の見解(長期評価では三陸沖から房総沖の広範囲で津波地震が起こることを想定していること)の根拠について推進本部の委員に確認するよう指示した。これに対し,被告東電の担当者は,佐竹に意見を聴くなどし,同月22日,保安院の職員に対し,佐竹の見解を説明するなどした上で,長期評価の見解については,決定論として取り入れることはせず,確率論(津波ハザード評価(地震の位置,規模,発生頻度,発生様式等を確率分布として表現することにより,将来発生する津波による水位の超過頻度を求めるための解析))に基づく安全対策の中で取り入れていく方針であることを伝え,保安院は,これを了承した。(丙A138,139)- 359 - ⑹ 2008年推計ア検討経過等被告東電は,平成20年2月頃,有識者に対し,長期評価の見解をいかに取り扱うべきか意見を求めたところ,福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないので波源として考慮すべきと回答を得た。これを踏まえて,被告東電は,長期評価の見解に基づいて,1896年の明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝沿いにおいて試算を行い,推計を作成した(2008年推計)。なお,この推計は,平成23年3月7日に被告国に対して報告された。(甲A1の1 て,1896年の明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝沿いにおいて試算を行い,推計を作成した(2008年推計)。なお,この推計は,平成23年3月7日に被告国に対して報告された。(甲A1の1・本文編404頁,甲A37,丙A105)イ概要1896年の明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝沿いにおいた上で,福島第一原発の各号機,敷地内においてどの程度の津波高さになるかという具体的な計算段階では,津波評価技術による計算手法(パラメータスタディ等)を用いて,各号機における津波高さを算出した。 その結果,敷地南側で最大でO.P.+15.7mの津波高さという結果を得た。浸水深については,1号機ないし3号機の原子炉建屋等の主要建屋の立地点で1m前後,4号機の原子炉建屋等の主要建屋の立地点で2m前後に達した。(甲A1の1・本文編404頁,甲A37,141,丙A105)なお,その後の試算では,1677年の延宝房総沖地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝寄りにおいた場合には,敷地南側でO.P.+13.6mの津波高さという結果も得ていた(甲A37,140,141)。 ウ対応被告東電は,2008年推計の結果を受けて対応策を検討したが,長期評価の見解については平成18年耐震バックチェックに取り入れないこととした(甲A1の1・本文編395頁ないし398頁,甲A140)。 ⑺ 長期評価についての検討委託- 360 - 被告東電は,最大の試算結果を把握した後,土木学会に対し,長期評価の見解の取扱いに関する検討を委託し,平成24年10月を目途に結論が出される予定の土木学会の検討結果如何では,津波対策を講じる予定であるとしていた(甲A1の1・本文編405頁)。 第5 本件事故後のSPEEEDI情報の活用及び公表に関する状 年10月を目途に結論が出される予定の土木学会の検討結果如何では,津波対策を講じる予定であるとしていた(甲A1の1・本文編405頁)。 第5 本件事故後のSPEEEDI情報の活用及び公表に関する状況(甲A1の1・本文編258ないし263頁,甲A1の2・本文編217ないし228頁) 1 本件事故発生直後の状況(甲A1の2・本文編217,218頁)本件地震により発生した外部電源喪失により,福島第一原発敷地内に設置された緊急時対策支援システム(ERSS)に原子炉内の情報等を送付する被告東電の緊急時対応情報表示システム(SPDS)からのデータの伝送ができなくなったこと,平成23年3月11日午後4時43分,福島第一原発からオフサイトセンターを経由してERSSの計算機本体にデータを送付する政府の専用回線が使用できなくなったことにより,ERSSへのプラントデータ等の送付ができなくなったため,ERSSからの放出源情報を基にしたSPEEDIによる放射性物質の拡散予測はできなかった。 2 3月15日以前のSPEEDIの活用・公表の状況 単位量放出を仮定した定時計算結果の活用・公表(甲A1の1・本文編258,259頁)ERSSによる放出源データは入手できなかったものの,平成23年3月11日午後4時40分,文部科学省は,SPEEDIを管理する原子力安全技術センターに対し,SPEEDIシステムの緊急時モードへの切替えを指示した。 これを受け,同センターは,平成23年3月11日午後4時49分,SPEEDIを緊急時モードへ切り替えるとともに,安全委員会作成の「環境放射線モニタリング」に基づき,福島第一原発から1Bq/h の放射性物質の放出があったと仮定し(単位量放出),同日16時以降の気象データ等を用いて1時間ご- 361 ともに,安全委員会作成の「環境放射線モニタリング」に基づき,福島第一原発から1Bq/h の放射性物質の放出があったと仮定し(単位量放出),同日16時以降の気象データ等を用いて1時間ご- 361 - との放射性物質の拡散予測を行う計算(定時計算)を開始した。なお,これらの計算結果は,実際の放出量に基づく予測ではなく,気象条件,地形データ等を基に,放射性物質の拡散方向や相対的分布量を予測するものであった。 原子力安全技術センターは,文部科学省の指示により,単位量放出を仮定した定時計算の予測結果を,同省,ERC,安全委員会,オフサイトセンター,福島県庁及びJAEAに送付した。また,原子力安全技術センターは,オフサイトセンターに隣接する原子力センターからの送付依頼があったため,平成23年3月11日午後11時頃,当時断続的に使用できた電子メールを用いて,同センターに対して一度だけ定時計算結果を送付した。 送付された定時計算結果について,前記の送付先のうち,原子力センターは,平成23年3月12日から同センターが行ったモニタリング計画策定の参考として使用したが,その他の組織は,単位量放出を仮定して定時計算は実際の放射線量を示すものではないなどの理由から,具体的な措置の検討には活用しなかった。 各機関が行った様々な仮定をおいた計算結果の活用及び公表(甲A1の1・本文編259,260頁)文部科学省,保安院及び安全委員会は,前記⑴の単位量放出を仮定した定時計算とは別に,平成23年3月11日から同月15日にかけて,福島第一原発からの放射性物質の流出による影響を予測するため,単位量放出(1Bq/h の放出を仮定)以外の様々な仮定の数値を放出源情報としてSPEEDIに入力し,予測計算を行った。 文部科学省 一原発からの放射性物質の流出による影響を予測するため,単位量放出(1Bq/h の放出を仮定)以外の様々な仮定の数値を放出源情報としてSPEEDIに入力し,予測計算を行った。 文部科学省は,平成23年3月12日から同月16日にかけて,様々な放出源情報を仮定した38件のSPEEDI計算を行い,計算結果をEOC内部で共有するとともに,一部の計算結果をERC及び安全委員会に送付した。 安全委員会は,平成23年3月12日夜,原子力安全技術センターに計算を依頼した。同委員会は,受け取った計算結果を,同委員会内部にいた同委員会- 362 - 委員,緊急技術助言組織のメンバー及び同委員会事務局職員で共有した。ただし,当該計算結果について,安全委員会は,飽くまで内部の検討のためであると考えていたため,当該計算結果を同委員会の外部には共有しなかった。 保安院は,平成23年3月11日から同月15日にかけて,本件事故による放射性物質の拡散傾向の把握等を目的として,様々な仮定の放出源情報を入力して45件のSPEEDI予測計算を行った。得られた予測結果は,ERC内の各機能班で共有するとともに,最初の数例については,官邸及びオフサイトセンターに送付した。保安院は,福島第一原発1号機からの放射性物質の流出による影響を予測するため,原子力安全技術センターに対してSPEEDI予測を依頼し,平成23年3月12日午前1時半過ぎ,当該計算結果を官邸地下に詰めていた保安院職員に送付した。これを受け取った保安院職員は,この計算結果を内閣官房職員に渡し,内閣官房職員は,官邸地下にいた各省職員に計算結果の共有を図った。ただし,保安院は,それ以前に同院が行ったSPEEDI計算結果について,飽くまで仮定の放出源情報に基づく計算結果であることから信頼性が 閣官房職員は,官邸地下にいた各省職員に計算結果の共有を図った。ただし,保安院は,それ以前に同院が行ったSPEEDI計算結果について,飽くまで仮定の放出源情報に基づく計算結果であることから信頼性が低い旨を記載した補足資料を作成し,官邸に送付していた。平成23年3月12日未明に前記計算結果を保安院職員から受け取った内閣官房職員は,この計算結果を単なる参考情報にすぎないものとして扱い,内閣総理大臣等への報告は行わなかった。また,保安院も,独自にこれを内閣総理大臣らに報告することをしなかった。 SPEEDI計算結果と本件事故に関する避難措置との関係(甲A1の2・本文編219ないし224頁)ア半径3km 圏外への避難指示(平成23年3月11日午後9時23分)とSPEEDIとの関係政府は,平成23年3月11日午後9時23分,福島第一原発から半径3km 圏内の居住者等に対する避難指示及び3ないし10km 圏内の居住者等に対する屋内退避指示を行った。同日午後9時以降の単位量放出を仮定したS- 363 - PEEDI定時計算結果によると,同日午後9時以降,避難範囲が福島第一原発から10km 圏内に拡大された同月12日午前5時まで,福島第一原発から放出された放射性物質は,一貫して海側(東方向から南東方向)に向かって拡散すると予測されている。 イ半径10km 圏外への避難指示(平成23年3月12日午前5時44分)とSPEEDIの関係政府は,平成23年3月12日午前5時44分,福島第一原発から半径10km 圏内の居住者等に対する避難指示を行った。同日午前5時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福島第一原発から放出された放射性物質は,同日午前5時から午後0時まで,一貫して海側(南 の居住者等に対する避難指示を行った。同日午前5時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福島第一原発から放出された放射性物質は,同日午前5時から午後0時まで,一貫して海側(南東方向)に拡散すると予測されている。その後,同日午後1時から午後3時までは南方向に,午後3時から午後4時までは西方向に,午後4時から午後6時までは北西方向から北方向にそれぞれ拡散すると予測されている。 ウ半径20km 圏外への避難指示(平成23年3月12日午後6時25分)とSPEEDIとの関係政府は,平成23年3月12日午後6時25分,福島第一原発から半径20km 圏内の居住者等に対する避難指示を行った。同日午後6時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福島第一原発から放出された放射性物資は,同日午後6時から午後7時まで,北方向に拡散すると予測されているが,同日午後8時から同月13日午前10時までは,同日午前4時から午前5時まで(北方向)を除いて,一貫して海側(北東方向)に拡散すると予測されている。 エ半径20ないし30km 圏内の屋内退避指示(平成23年3月15日午前11時)とSPEEDIの関係政府は,平成23年3月15日午前11時,福島第一原発から半径20ないし30km 圏内の居住者等に対する屋内退避指示を行った。同日午前11- 364 - 時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福島第一原発から放出された放射性物質は,同日午前11時から午後0時までは南西方向に拡散するものの,同日午後1時から同月16日午前2時までは西方向から北西方向に拡散すると予測されている。さらに,同日午前3時以降は,南方向から南東方向に拡散すると予測されている。 前記屋内 拡散するものの,同日午後1時から同月16日午前2時までは西方向から北西方向に拡散すると予測されている。さらに,同日午前3時以降は,南方向から南東方向に拡散すると予測されている。 前記屋内退避指示に先立つ平成23年3月15日午前9時,福島第一原発正門付近において,1万1930μSv/h という高い線量が測定された。この線量が測定された時刻頃の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福島第一原発から放出された放射性物質は,同日午前9時から午前10時まで,南西方向に拡散すると予測されている。また,同日午後11時台には,福島第一原発正門付近において再び約7000ないし8000μSv/h という高い線量が測定された。これらの線量が測定された同日午後11時以降の単位量放出を仮定したSPEEDI定時計算結果によると,福島第一原発から放出された放射性物質は,同日午後11時から同月16日午前2時まで,北西方向に拡散すると予測されている。 なお,上記平成23年3月15日の指示は屋内退避であったが,南相馬市は,同日以降,希望者に対して市外への避難誘導を実施し,多くの住民は飯舘・川俣方面に避難した。また,浪江町は,同日朝方,既に町長の判断で二本松市へ避難することを決めており,住民に伝達した上で避難を実施した。 これらの自治体の住民のうち,同日午後3時頃以降に避難を開始した者は,放射性物質が飛散した方向と避難経路が重なった可能性がある。 平成23年3月16日以降のSPEEDIの活用・公表の状況(甲A1の1・本文編261,262頁,甲A1の2・本文編225,226頁)ア平成23年3月16日以降のSPEEDIの運用に関する政府内部での役割分担文部科学省は,平成23年3月15日に行われた同省の記者会見 頁,甲A1の2・本文編225,226頁)ア平成23年3月16日以降のSPEEDIの運用に関する政府内部での役割分担文部科学省は,平成23年3月15日に行われた同省の記者会見において- 365 - 報道関係者からSPEEDI計算結果の公表を求められたことを受け,同省政務三役に対してSPEEDI計算に関する説明を行うため,全量一回放出(炉内に存在する全ての放射性物質が一度に放出されること)等を仮定したSPEEDI及びより広範囲をカバーする世界版SPEEDI(WSPEEDI)の計算結果を,政務三役が出席した省内協議に提出した。当該計算結果においては,東北地方に高い放射性雲が流れるという結果となっており,その公表に当たっては,計算過程等を丁寧に説明することが不可欠なものであった。ただし,SPEEDIの計算結果等の公表の要否について具体的な決定はされなかった。 平成23年3月16日に開催された文部科学省の幹部会議において,鈴木寛文文部科学副大臣から,同日午前の官邸における各省庁のモニタリングの役割分担に関する協議結果によれば,同省はモニタリングの評価は行わないことになったのであるから,今後,SPEEDIはモニタリングデータの評価を行うこととなった安全委員会において運用・公表すべきであるとの提案がされ,これに会議の出席者が合意した。 SPEEDIの運用主体に関する文部科学省の決定に関する連絡を受け,安全委員会は,SPEEDIが安全委員会に移管されたわけではないが,今後は,文部科学省に計算依頼を行わなくとも,同委員会がSPEEDIを用いた計算を行うことができるようになったと理解し,同システムの運用を開始した。 イ SPEEDIによる放出源情報の逆推定及び計算結果の公表(甲A1の1・本文 とも,同委員会がSPEEDIを用いた計算を行うことができるようになったと理解し,同システムの運用を開始した。 イ SPEEDIによる放出源情報の逆推定及び計算結果の公表(甲A1の1・本文編262,263,269頁,甲A1の2・本文編227頁)前記アの文部科学省と安全委員会とのSPEEDIの運用主体に関するやり取りを受け,安全委員会は,平成23年3月16日以降,ERSSによる放出源情報が得られない状況におけるSPEEDIの活用方法に関する議論を開始した。 - 366 - その一環として,安全委員会においては,平成23年3月17日頃から,久木田豊原子力安全委員会委員長代理らの意向により,SPEEDIの開発者の一人である緊急事態応急対策調査委員を中心として,JAEAや財団法人日本分析センターの協力を得つつ,SPEEDIを用いた放出源情報の推定及びそれにより得られた推定放出源情報に基づく被ばく線量の推定等に関する検討を開始した。 放出源情報が得られない状況下でのSPEEDIを用いた放出源情報の推定とは,SPEEDIの単位量放出計算によって得られる特定地点の放射線量の予測値と,実際のモニタリングによって同地点から得られた実測値を比較し,その比率を単位放出量にかけ合わせて,実際の放出量を算出推定するというものである。 その計算において,安全委員会は,計算を行うためのモニタリングデータとして,大気中モニタリングにより得られた空間線量率とダストサンプリングにより得られた空間線量率と,ダストサンプリングにより得られた放射性物質の大気中濃度を用いた。具体的には,平成23年3月15日以前に収集されたモニタリングデータや文部科学省等に依頼して新たに得られたデータを分析し,計算に使用できるデータを ングにより得られた放射性物質の大気中濃度を用いた。具体的には,平成23年3月15日以前に収集されたモニタリングデータや文部科学省等に依頼して新たに得られたデータを分析し,計算に使用できるデータを選別した。 その結果,安全委員会は,平成23年3月23日午前9時頃,平成23年3月11日から同月24日までの福島第一原発周辺における積算線量等に関する予測計算結果を得たが,計算結果の一つである小児甲状腺の等価線量の値が,安全委員会作成の防災指針に定められた安定ヨウ素剤の配布基準である100mSv を超えていたことから,班目春樹原子力安全委員会委員長,久住静代原子力安全委員会委員等が官邸に報告した。なお,その際,官邸の指示で,当該計算結果を安全委員会において公表することとなったため,同委員会は,平成23年3月23日午後9時頃,記者会見を開催し,当該計算結果を公表した。また,安全委員会は,その後も,同年4月10日,同月2- 367 - 5日及び同月27日の3回にわたり,同年3月23日以降に得られたモニタリングデータを用いて精度を上げた逆推定によるSPEEDI計算結果等を公表した。また,上記報告を受け,小佐古敏荘内閣官房参与,酒井一夫独立行政法人放射線医学総合研究所放射線防護研究センター長らの専門家も加わり,菅直人内閣総理大臣の下で議論した結果,上記線量は,24時間屋外に居続けた場合の評価であり,過大評価であることなどから,直ちに避難範囲を拡大せず,まず,小児甲状腺被ばく調査を行い実測値で確認することとされた。 そこで,安全委員会は,平成23年3月25日,原災本部に対し,屋内退避区域及びSPEEDIで甲状腺の等価線量が高いと評価された地域の1歳から15歳児を対象に甲状腺被ばく調査を行うよう依頼し,現地対策本部は,同月 員会は,平成23年3月25日,原災本部に対し,屋内退避区域及びSPEEDIで甲状腺の等価線量が高いと評価された地域の1歳から15歳児を対象に甲状腺被ばく調査を行うよう依頼し,現地対策本部は,同月26日及び27日にいわき市,同月28日から30日まで川俣町,同月30日に飯舘村で,それぞれ甲状腺被ばく調査を実施した。調査の結果,安全委員会から示されたスクリーニングレベル(0.2μSv/h)を超えた者はいなかった。 ウ SPEEDI計算結果の公表(甲A1の1・本文編263頁,甲A1の2・本文編227,228頁)SPEEDIの計算結果については,平成23年3月23日の公表以前から,その公表につき関心が高まっていた。 政府が保有するSPEEDI試算結果の公表については,平成23年3月下旬頃から検討が開始され,文部科学省,保安院及び安全委員会は,福山官房副長官,伊藤危機管理監らと,SPEEDI試算結果の公表及び行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づきSPEEDI試算結果について情報公開請求があった場合の対処方針につき協議した。 その協議の過程において,平成23年4月中旬頃までに,①放射性物質の単位量放出(1Bq/h)を仮定した定時計算の結果については公開,②モニタ- 368 - リング結果を用いて放出源情報を逆推定し,その推定値を基にSPEEDIにより積算線量等の値を計算した結果については,安全委員会が公表し得る程度に精度の高い計算結果が得られたと判断した時点で公表,③文部科学省,保安院,安全委員会等が様々な仮定を置いて行った計算結果については,実際の数値に基づくものではなく,混乱を招くおそれがあるので非公開,との方針が固まりつつあったが,②を除いて,同年4月下旬まで,SPEEDI試算結果 等が様々な仮定を置いて行った計算結果については,実際の数値に基づくものではなく,混乱を招くおそれがあるので非公開,との方針が固まりつつあったが,②を除いて,同年4月下旬まで,SPEEDI試算結果は公表されないままであった。 他方,平成23年4月5日,枝野官房長官の指示により,気象庁が実施した総量1Bq の放射性物質の放出を仮定した拡散予測結果が公表されたことや,同年4月下旬に,一部報道において,政府がSPEEDIによる計算結果を公表していないことが報じられたことなどを受け,文部科学省,保安院及び安全委員会は,再度検討を行い,平成23年4月25日,枝野官房長官に対し,SPEEDI試算結果の一部を公表する前記①ないし③の方針について了解を求めたが,枝野官房長官は,その方針を更に進めて,全てのSPEEDI試算結果を公表するよう指示した。 これを受け,細野補佐官は,平成23年4月25日に行われた政府・東京電力合同記者会見において,SPEEDI試算結果の公表を発表し,以後,文部科学省,保安院及び安全委員会は,同年5月3日までに,それぞれのホームページにおいて,各機関が行ったSPEEDI計算結果を公表した。 第2章本件設置等許可処分の違法性第1 国賠法1条1項の「違法」国賠法1条1項にいう違法とは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいい(最高1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁等参照),公権力の行使に当たる公務員の行為- 369 - が同項の適用上違法と評価されるためには,当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があることが必要で第1093号同5 - 369 - が同項の適用上違法と評価されるためには,当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があることが必要で第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁,最高7頁等参照)第2 原子炉設置許可処分及び変更許可処分に係る違法性の判断基準 1 原子炉を設置しようとする者は,内閣総理大臣の許可を受けなければならないものとされており(処分時炉規法23条1項),内閣総理大臣は,原子炉設置の許可申請が,同法24条1項各号に適合していると認めるときでなければ許可してはならず(同条1項),上記許可をする場合においては,上記各号に規定する基準の適用については,あらかじめ核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること等を所掌事務とする原子力委員会の意見を聴き,これを尊重してしなければならないものとされており(同条2項),原子力委員会には,学識経験者及び関係行政機関の職員で組織される原子炉安全専門審査会が置かれ,原子炉の安全性に関する事項の調査審議に当たるものとされていた(原子力委員会設置法(昭和53年法律第86号による改正前のもの)14条の2,3)。 また,処分時炉規法24条1項3号は,原子炉を設置しようとする者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき,同項4号は,当該申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。),核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき,審査を行うべきものと定めている。原子炉設置許可の基準として,上記のように定められた趣旨は,原子炉が原子核分裂の過程において高エ む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき,審査を行うべきものと定めている。原子炉設置許可の基準として,上記のように定められた趣旨は,原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原- 370 - 子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の技術的能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,上記災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の上記技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される。 上記の技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は,当該原子炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等を,原子炉設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の上記技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであり,しかも,上記審査の対象には,将来の予測に係る事項も含まれているのであって,上記審査においては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして,処分時炉規法24条2項が,内閣総理大臣は,原子炉設置の許可をす とより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして,処分時炉規法24条2項が,内閣総理大臣は,原子炉設置の許可をする場合においては,同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適用について,あらかじめ原子力委員会の意見を聴き,これを尊重してしなければならないと定めているのは,上記のような原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し,上記各号所定の基準の適合性については,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当である。 (最高裁昭和60第133号平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁参照)- 371 - 2 上記のとおり,原子炉設置許可処分,変更許可処分における安全審査に当たっては,原子力委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねられていると解されることから,原子炉設置許可処分,変更許可処分が国賠法上違法とされるには,少なくとも当時の科学技術的水準や科学的,専門的知見に照らし,原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会における調査審議に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,又は当該原子力施設が上記の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,内閣総理大臣の判断がこれに依拠してされたと認められることが必要である一小法廷判決・民集59巻4号671頁参照)。 第3 本件設置等許可処分の違法性 1 具体的審査基準福島第一原発1号機ないし3号機の設置変更許可に してされたと認められることが必要である一小法廷判決・民集59巻4号671頁参照)。 第3 本件設置等許可処分の違法性 1 具体的審査基準福島第一原発1号機ないし3号機の設置変更許可における安全審査の前提となった指針は,昭和39年原子炉立地審査指針であり,同4号機の設置変更許可における安全審査の前提となった指針は,昭和39年原子炉立地審査指針及び昭和45年安全設計審査指針であった。 そして,昭和39年原子炉立地審査指針は,原子炉の立地条件の適否を判断するために策定されたものではあるが,それは単に,地理的要件のみから原子炉施設の立地の適否を検討するための指針ではなく,事故時に公衆の安全を確保するという観点から,事故時に公衆の安全を確保するため,①大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなく,将来においてもあるとは考えられず,災害を拡大するような事象も少ないこと,②原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること,③原子炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じ得る環境にあることという「原則的立地条件」を踏まえて基本的目標を設定し,a敷地周辺の事情,原子炉の特性,安全防- 372 - 護施設等を考慮し,技術的見地からみて,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大事故の発生を仮定しても周辺の公衆に放射線障害を与えないこと,b重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない仮想事故の発生を仮想しても周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと,c仮想事故の場合にも,国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいことを定め,原子炉施設と公衆との隔離の確保を求めた要件等を充足することを確認することで立地の適否を判断することとしており,内容的にも当時の知見に照ら 場合にも,国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいことを定め,原子炉施設と公衆との隔離の確保を求めた要件等を充足することを確認することで立地の適否を判断することとしており,内容的にも当時の知見に照らして不合理なものとはいえず,本件設置等許可処分当時においても不合理なものではない。また,昭和45年安全設計審査指針は,敷地の自然条件に対する設計上の考慮及び耐震設計についての指針を定めたもので,①当該施設の故障が,安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下回らない過酷な地震,津波等の自然条件に耐え得るような設計であること,②安全上重大な事故が発生したとした場合等に,事故による結果を軽減若しくは抑制するために安全上重要かつ必須の系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下回らない過酷な地震,津波等の自然条件を選定し,これと事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計であることを求めるものであるが,内容的にも当時の知見を踏まえたもので,不合理なものとはいえず,本件設置等許可処分当時においても不合理なものとはいえない。 よって,原子力委員会及び原子炉安全専門審査会における調査審議に用いられた具体的審査基準に,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,不合理な点があるとはいえない。 2 調査審議及び判断の過程について⑴ 1号機の設置許可申請に対する審査について前記認定事実のとおり,1号機の調査審議は,「設置計画の概要」,「安全- 373 - 対策」,「平常運転時の被ばく評価」,「各種事故の検討」,「災害評価」及び「技術的能力」について検討の上,安全 記認定事実のとおり,1号機の調査審議は,「設置計画の概要」,「安全- 373 - 対策」,「平常運転時の被ばく評価」,「各種事故の検討」,「災害評価」及び「技術的能力」について検討の上,安全性を審査しており,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。 ⑵ 2号機ないし4号機の設置許可申請に対する審査について2号機ないし4号機の調査審議についても,前記認定事実のとおり,1号機における審査をおおむね踏襲する内容の検討の上,安全性を審査しており,当時の科学技術的知見に照らし,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。 3 原告らの主張について原告らは,審査に当たって,①共通原因故障を考慮せず,単一故障のみ考慮したこと,②起因事象として,自然現象等の外的要因を考慮せず,内部事象に限ったこと,③全電源喪失事故の検討が欠落していることは不合理である旨主張する。 しかしながら,1号機ないし3号機の設置変更許可における安全審査の前提となった昭和39年原子炉立地審査指針は,仮想事故(例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し,それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないことを求めており,また,4号機の設置変更許可における安全審査の前提となった昭和45年安全設計審査指針は,「敷地の自然条件に対する設計上の考慮」(指針2.2)及び「耐震設計」(指針2.3)について定めており,外部事象に対する防護設計による安全性の確認を求め,非常用電源設備については,単一動的機器の故障を仮定しても,工学的安全施設や安全保護系 針2.2)及び「耐震設計」(指針2.3)について定めており,外部事象に対する防護設計による安全性の確認を求め,非常用電源設備については,単一動的機器の故障を仮定しても,工学的安全施設や安全保護系等の安全上重要かつ必須の設備が,所定の機能を果たすに十分な能力を有するもので,独立性及び重複性を備えたものであることを求めており(指針7),具体的には,要求される安全確保のための機能が- 374 - 害されることのないよう,非常用発電機を2台とするなどにより,十分な能力を有する系を2つ以上とし,かつ,一方が不作動となるような不利な状況下においても,他方に影響を及ぼさないように回路の分離,配置上の隔離などによる独立性の確保が設計基礎とされることを求めていたから,外部電源喪失に対する安全性確保も考慮されていたといえ,これらの審査基準について,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,不合理な点があるとはいえない。 また,原告らは,④設置許可段階において,明確に自然現象の影響を審査し,その後の設計・建設に当たって設備等を具体的に指示していれば,安全性を確保することができたにもかかわらず,これをせず,全電源をハブとして中継している配電盤や複数の非常用ディーゼル発電機を地下に設置するという多重性・多様性・独立性の考え方に反する設計,建設が行われたこと,⑤福島第一原発の敷地は標高35mの土地を標高10mまで削って作っており,その地盤は比較的脆弱な岩盤であり,明らかに耐震設計が不十分であったこと,⑥耐震設計審査が不十分であったこと,⑦立地条件として,重大事故及び仮想事故の際に放出される一定の放射線量の目安が設定されていたが,放射量を少なくする仮定をおいた結果,目安に収まるよう計算されていた可能性があることを主張する。 しかしな て,重大事故及び仮想事故の際に放出される一定の放射線量の目安が設定されていたが,放射量を少なくする仮定をおいた結果,目安に収まるよう計算されていた可能性があることを主張する。 しかしながら,④については,設置許可審査に当たっては,潮位の記録として,小名浜港における観測記録によれば,チリ地震津波時の最高3.1mがあり,地震については,過去の記録によると,福島県近辺は,会津付近を除いて全国的に見ても地震活動性の低い地域の1つであり,特に原子炉敷地附近は,地震による被害を受けたことがないことが考慮されたが,これが,当時の地震及び津波の知見に照らし,不合理なものであったといえないから,配電盤や非常用ディーゼル発電機等を地下に設置することが,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,不合理なものであったといえない。⑤について- 375 - は,本件事故の事故原因との関わりが認められず,⑥についても,本件事故は,本件津波の到来により非常用ディーゼル発電機が被水し,機能喪失に至ったものであり,機能喪失が地震動によるものであったとは認められないから,本件事故の事故原因とは関わりがない。⑦についても,可能性を指摘するものにすぎず,本件事故との関係で,当時の科学技術水準や科学的,専門技術的知見に照らし,調査審議及び判断の過程における看過し難い過誤,欠落に当たるものとはいえない。 第4 結論以上より,本件設置等許可処分については,当時の科学技術的水準や科学的,専門的知見に照らし,原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会における調査審議に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,又は当該原子力施設が上記の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠 調査審議に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,又は当該原子力施設が上記の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,内閣総理大臣の判断がこれに依拠してされたということはできないから,本件設置等許可処分が国賠法上違法ということはできない。 第3章経済産業大臣が規制権限を行使しなかったことの違法性第1 規制権限不行使の違法性の判断枠組み規制権限不行使が国賠法上違法というためには,当該公務員が規制権限を有し,規制権限の行使によって受ける国民の利益が国賠法上法的に保護されるべき利益であることに加えて,同権限行使によって損害を受けたと主張する国民との関係において,当該公務員が規制権限を行使すべき義務が認められ,同作為義務に違反することが必要である。 そして,規制権限行使の要件が法定され,同要件を満たす場合に権限を行使しなければならないとされているときは,同要件を満たす場合に作為義務が認められることになるが,規制権限行使の要件は定められているものの,権限を行使するか否かにつき裁量が認められている場合や,規制権限行使の要件が具体的に定- 376 - められていない場合には,規制権限を定めた法令の趣旨,目的,被害法益の性質,重大性,予見可能性,結果回避可能性のほか,規制権限行使における専門性,裁量性などの諸事情を総合的に検討して,具体的な事情の下において,その不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使は,被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。 (宅建業者最高裁判決,クロロキン最高裁判決,筑豊じん肺最高裁判決,関西水俣病最高裁判決,大阪泉 は,被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。 (宅建業者最高裁判決,クロロキン最高裁判決,筑豊じん肺最高裁判決,関西水俣病最高裁判決,大阪泉南アスベスト最高裁判決参照)第2 省令62号4条1項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性 1 原告らの主張する措置を講ずることを命ずる技術基準適合命令を発する権限の有無⑴ 電気事業者は,実用発電原子炉について,電気事業法39条に基づき,実用発電用原子炉施設に係る事業用電気工作物につき技術基準維持義務を負い,経済産業大臣は,同法40条に基づき,事業用電気工作物が経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,電気事業者に対し,技術基準に適合するように事業用電気工作物の修理,改造,移転,使用の一時停止を命じ,使用の制限することができる。そして,原告らは,経済産業大臣は,平成14年時点において,遅くとも平成18年までには,被告東電に対し,①ないし③の措置を採ることを命じる技術基準適合命令を発するべきであった旨主張する。これに対し,被告国は,技術基準適合命令は,基本設計ないし基本的設計方針の是正を命ずることはできず,原子炉施設の具体的な工事方法の妥当性等の審査(後段規制)として,技術基準の不適合を是正するものであるところ,原告らの主張する上記各措置はいずれも基本設計ないし基本的設計方針に関するものであるから,経済産業大臣には上記各措置を命ずる技術基準適合命令を発する権限がなかった旨主張する。すなわち,本件設置等許可処分に係る安- 377 - 全審査において,敷地高さと想定津波との間に十分な高低差があってドライサイトが維持されることをもって,津波対策に係る基本設計ないし基本設計方針とされていた 置等許可処分に係る安- 377 - 全審査において,敷地高さと想定津波との間に十分な高低差があってドライサイトが維持されることをもって,津波対策に係る基本設計ないし基本設計方針とされていたところ,原告らが主張するタービン建屋の水密化等の措置は,いずれもウェットサイトであることを前提とした措置であるから,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であり,経済産業大臣において,原告ら主張の措置に関する規制権限を有しない旨主張する。そこで,経済産業大臣が上記各措置を命ずる技術基準適合命令を発する権限を有していたか,以下検討する。 ⑵ 原子力は,通常の科学技術のレベルを超えた制御不能な異質な危険を内包し,このような異質な危険を利用する原子力発電所は,一たび事故を引き起こすと,広域・多数の国民の生命・健康・財産や環境に対し,甚大かつ不可逆的な被害をもたらすことからすると,原子力発電所の稼働に当たっては,具体的に想定される危険性のみならず,抽象的な危険性をも考慮した上で,広域・多数の国民の生命・健康・財産や環境が侵害されないための万全な安全対策の確保が求められるというべきである。 そして,旧炉規法及び電気事業法が,具体的措置を省令に包括的に委任した趣旨は,原子力発電所が国民の生命・健康及び財産を保護するに足りる技術基準に適合しているかの判断は,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づいてされる必要がある以上,科学技術は不断に進歩し,発展しているのであるから,原子力発電所の技術基準適合性に関する基準を具体的かつ詳細に法律で定めることは困難であるだけでなく,最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当でないという点にあると解される。 以上からすると,経済産業大臣の電気事業法39条の規定に基づく省令制定権 で定めることは困難であるだけでなく,最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当でないという点にあると解される。 以上からすると,経済産業大臣の電気事業法39条の規定に基づく省令制定権限(技術基準を定める権限)は,原子力の利用に伴い発生するおそれのある受容不能なリスクから国民の生命・健康・財産や環境に対する安全を確保することを主要な目的として,万が一にも事故が起こらないようにするため,技術の進歩や最新の地震,津波等の知見等に適合したものにすべく,適時にかつ適- 378 - 切に行使することが求められ,原子炉(電気工作物)をこの新たな技術基準に適合させるため,技術基準に適合させる権限(同法40条)を適時にかつ適切に行使し,国民の生命・健康・財産や環境に対する安全を確保することが求められるというべきである。 また,基本設計ないし基本的設計方針という概念には,法令の定義規定がなく,旧炉規法24条2項の趣旨が,同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適合性について,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会(本件設置等許可処分当時は原子力委員会。以下同じ。)の科学的,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な判断に委ねるものであることに鑑みると,どのような事項が原子炉設置の許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性に関わる事項に該当するかは,旧炉規法23条1項4号所定の基準の適合性に関する判断を構成するものとして,原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的判断に委ねられていると解される(前掲平成4年10月29日第一小法廷判決,前掲最高裁平成17年5月30日第一小法廷判決参照)。 そ 技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的判断に委ねられていると解される(前掲平成4年10月29日第一小法廷判決,前掲最高裁平成17年5月30日第一小法廷判決参照)。 そして,原子力安全委員会の決定した平成13年安全設計審査指針は指針2の2において「安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も過酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。」を求め,平成18年耐震設計審査指針8⑵は「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。」を求めているものの,これらの指針等において,津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針が敷地高さと想定津波との間の十分な- 379 - 高低差の確保に尽きると定めた規定はない。原子炉設置許可に係る安全審査の段階においては,津波対策については,基本的な安全性の審査が予定されているにとどまり,このような安全審査において,敷地高さと想定津波との間の十分な高低差の確保が基本設計ないし基本的設計方針に当たるものとして審査されたとしても,それは,当時の原子力委員会の意見に基づく判断にすぎないといえる。 また,本件設置等許可処分に係る安全審査において,敷地高さと想定津波との間の十分な高低差を確保することが本件設置等許可処分の前提となっていたとしても,本件設置等許可処分後に,上記高低差の確保の判断を否定する科学的,専門技術的知見が明らかになった場合に,原告らの主張する①ないし③の 差を確保することが本件設置等許可処分の前提となっていたとしても,本件設置等許可処分後に,上記高低差の確保の判断を否定する科学的,専門技術的知見が明らかになった場合に,原告らの主張する①ないし③の措置を講じることが否定されているとはいえず,いずれも津波対策に関する具体的な措置といえ,これらの措置は本件設置等許可処分以降の段階で行われる対策であるから,基本設計ないし基本的設計方針に関する問題ではない。 以上によれば,本件設置等許可処分における基本設計ないし基本的設計方針は,敷地高さと想定津波との間の十分な高低差の確保に限られるものではなく,津波対策に関する基本的な安全性に関わる事項と解することができるから,①ないし③の措置は,上記の基本設計ないし基本的設計方針と矛盾するものではなく,これを補完し,具体化するものといえる。 したがって,原告の主張する①ないし③の措置は,基本設計ないし基本的設計方針に関するものではなく,本件設置等許可処分以降のいわゆる詳細設計に関するものであるから,経済産業大臣が被告東電に対して①ないし③の措置を採るよう技術基準適合命令を発する権限を有していたといえる。 ⑷ 以上より,経済産業大臣は,平成14年又は平成18年の時点において,福島第一原発が技術基準に適合していないと認める場合には,技術基準に適合するよう,①ないし③の措置を採るよう命ずる技術基準適合命令を発する権限を有していたといえる。 - 380 - ⑸ 被告国の主張について被告国は,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,発電用原子炉施設が技術基準に適合しない場合に加え,最新の科学技術的知見を反映した設置許可要件として原子力規制委員会規則で定める基準に適合しないと認められる場合にも,使用停止等処分ができることを明文化したとこ 施設が技術基準に適合しない場合に加え,最新の科学技術的知見を反映した設置許可要件として原子力規制委員会規則で定める基準に適合しないと認められる場合にも,使用停止等処分ができることを明文化したところ,この法改正により基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能になった旨主張する。 確かに,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止等処分を行い得る場合として,同改正前の電気事業法40条に相当する「発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき」に加え,「発電用原子炉施設の位置,構造若しく設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき」を規定しており,原子炉施設が技術基準に適合しない場合に加え,原子炉施設が設置許可基準に適合しない場合にも使用停止等の処分をなし得ることを明文で規定した。もっとも,前記のとおり,原告らの主張する①ないし③の措置は,いずれも津波対策に関する基本的な安全性に関わる事項という基本設計ないし基本的設計方針と矛盾するものではなく,これを補完し,具体化するものであるから,本件において原告らが主張する技術基準適合命令は基本設計ないし基本的設計方針に直接関係するものではない。したがって,仮に上記法改正前は,技術基準適合命令を発して基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることができなかったとしても,平成14年前又は平成18年時点における上記の技術基準適合命令を発する権限の有無に影響を及ぼすものではない。 よって,被告国の上記主張は採用できない。 2 規制権限を定めた法令の趣旨,目的技術基準適合命令を定めた電気事業法40条は,事業用電気工作物が技術基準に適合していないと認めるときは技術基準適合命令を発することができる旨定- 381 - め 権限を定めた法令の趣旨,目的技術基準適合命令を定めた電気事業法40条は,事業用電気工作物が技術基準に適合していないと認めるときは技術基準適合命令を発することができる旨定- 381 - め,同法39条2項1号は,事業用電気工作物は人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすることを技術基準に定めることを求め,同条1項は,事業用電気工作物を設置する者に技術基準維持義務を課している。また,旧炉規法は,設計及び工事の方法の認可や検査に関する同法27条から29条までの規定は,電気事業法に基づく検査等を受ける原子炉施設であって実用発電用原子炉に係るものについては,適用除外としているが(旧炉規法73条),これに相当する電気事業法に基づく規制が適用され,実用発電用原子炉については炉規法及び電気事業法の規定が矛盾のないように適用されており,原子炉の安全に関する法律として,原子炉の設置後の措置である技術基準適合命令についても炉規法の趣旨は及ぶというべきである。そして,旧炉規法1条は,「原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制等を行うこと」としており,原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,上記災害が万が一に 設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,上記災害が万が一にも起こらないようにすることを目的としているといえる。これらの規定からすれば,規制権限を定めた法は,国民の生命,身体,財産等を保護することを目的としているものと認められ,これらの利益は国民が平穏な生活を営む上で必要不可欠な重要な利益といえる。 3 被害法益の性質,重大性原子力発電所において事故が発生した場合,原子力発電所の作業員のみならず,原子力発電所の周辺住民等の生命や身体にも被害を及ぼし得るものである。 - 382 - とりわけ,原子力発電所の事故により放射性物質が漏えいした場合には,広範囲かつ長期間にわたって住民の生命や身体に影響を及ぼすおそれがあり,本件事故で明らかになったように,放射能汚染の大きい地域には長期間にわたって帰還できず,放射能による健康被害に対する不安を抱えながら生活することを余儀なくされるなどの重大な結果をもたらし得るものである。このように,一たび原子力発電所において事故が発生すれば,その被害は非常に重大であり,取り返しのつかないものといえる。 4 予見可能性 予見可能性の対象ア本件事故は,福島第一原発の主要建屋の敷地高さを超える津波の発生により,原子炉建屋内に津波が浸水し,非常用電源設備やその配電盤等,炉心冷却を維持するために必要な電源機器が被水したことにより,全交流電源喪失に陥ったというものであるところ,予見可能性は,結果回避措置を採ることを法的に要求する前提となるものであるから,予見可能性の対象は全交流電源喪失を招くような津波というべきである。 前記認定事実によれば,平成3 るところ,予見可能性は,結果回避措置を採ることを法的に要求する前提となるものであるから,予見可能性の対象は全交流電源喪失を招くような津波というべきである。 前記認定事実によれば,平成3年の福島第一原発1号機における海水漏えい事故,平成11年のルブレイエ原子力発電所における外部溢水事故,平成16年のスマトラ島沖地震によるマドラス原子力発電所の外部溢水事故等を通じ,設計基準で想定した規模を超える自然現象が発生すること及びそうした事象が発生した場合には原子炉の重要な安全設備に重大な危険をもたらすことが実証されてきたこと,平成9年に被告東電を含む電気事業連合会が4省庁報告書への対応について検討を行った際には,少なくとも被告東電は主要建屋の敷地高さを超える津波が到来すれば原子炉の重要な安全設備に重大な影響を及ぼし得ることを認識していたことがうかがわれること,被告らは,平成18年5月11日に開催された溢水勉強会において,敷地高さ(O.P.+13m)を1m超過する(O.P.+14m)が継続すること- 383 - によって,福島第一原発5号機においてタービン建屋の「各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性がある」とし,津波水位O.P.+14mのケースでは「浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する。」と報告されていたことから,敷地高さを超える津波を全交流電源喪失の分岐点と考え,敷地高さを超えて津波が発生した場合には,原子炉施設建屋への浸水,さらには非常用電源設備の被水によって全交流電源喪失がもたらされる現実的な危険性があることを認識していたことが認められる。これらの事情からすれば,福島第一原発の1号機ないし4号機の主要建屋敷地高さを超える高さの津波が発生すれば,全交流電源喪 源喪失がもたらされる現実的な危険性があることを認識していたことが認められる。これらの事情からすれば,福島第一原発の1号機ないし4号機の主要建屋敷地高さを超える高さの津波が発生すれば,全交流電源喪失に至る現実的危険性があったといえ,被告らは,そのことを認識していたといえる。そして,福島第一原発1号機ないし4号機の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波が到来すれば全交流電源喪失の現実的危険性があったのであるから,O.P.+10mを超える津波が予見できた場合には,被告らには上記津波の襲来により全交流電源喪失に至らないよう結果回避措置を採るべき法的義務が生じ得るというべきである。 したがって,規制権限不行使の違法性を判断する際の被告国の予見可能性の対象は,主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来というべきである。 イ被告国は,規制権限不行使の国賠法上の違法は,結果発生の原因となる事象に対する防止策に係る法的義務違反を問うものであるから,その前提となる予見可能性は,結果発生の原因となる事象について判断されるべきであり,福島第一原発1号機ないし4号機の主要建屋の敷地高さであるO.P. +10mを超える津波が発生,到来したというだけでは本件事故が発生したと認めるに足りる証拠はないから,予見可能性の対象はO.P.+10mを超える津波の到来ではなく,本件地震及びこれに伴う津波と同程度の地震及- 384 - び津波の発生,到来である旨主張する。 しかし,前記のとおり,予見可能性は,結果回避措置を採るための前提であるところ,結果回避措置を採ることを義務付けるために必要な限度でその対象が特定されていれば足りるのであり,現実に生じた事実経過を前提にその原因となった事象を予見することが認め 置を採るための前提であるところ,結果回避措置を採ることを義務付けるために必要な限度でその対象が特定されていれば足りるのであり,現実に生じた事実経過を前提にその原因となった事象を予見することが認められているとはいえない。そして,前記のとおり,本件においては,福島第一原発1号機ないし4号機の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波が到来した場合には,全交流電源喪失という本件事故と同様の事故が発生する現実的危険性があったと認められるのであるから,予見可能性の対象はO.P.+10mを超える津波の到来で足りるというべきである。したがって,被告国の上記主張は採用できない。 予見可能性の有無前記認定事実によれば,推進本部は,平成14年7月,日本海溝付近のプレート間大地震(津波地震)について,日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震は,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震が知られているが,これらの地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとは言い難いため,固有地震であるとは特定できないとし,1896年の明治三陸地震についてのモデルを参考にし,断層の長さが日本海溝に沿って200km 程度,幅が約50km の地震が,同じ構造をもつ日本海溝付近の領域内のどこでも発生する可能性があるとした上で,M8クラスのプレート間大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定されるとし,ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は20%,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定されるとの見解(長期評価の見解)を公表したことが認められる。そして,推進本部は,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,被告国が 生確率は20%,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定されるとの見解(長期評価の見解)を公表したことが認められる。そして,推進本部は,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,被告国が法律に基づいて設置した公的な機関であり,- 385 - 長期評価の見解は少なくとも理学的根拠に基づくものといえるから,長期評価の見解には一定程度の信用性があったといえる。そして,原子力発電所においては,一旦過酷事故が起きれば国民の生命身体に不可逆的で深刻な被害をもたらすおそれがあり,炉規法等の一連の安全規制の法制度も,原子炉事故による深刻な災害が万が一にも起こらないようにするという目的を達する点にあることからすると,どこにどの程度の規模の地震が発生し,どこにどの程度の規模の津波が発生するかについて,専門研究者間で正当な見解として通説的見解といえる知見が確立するまで,結果回避措置をとる前提としての予見可能性が全く認められないとすると,国民の生命身体に対する深刻な危険を放置することになりかねず,上記法制度の目的にも反しかねない。以上によれば,被告国は,福島第一原発における津波対策を採るに当たっては,長期評価の見解を考慮に入れる必要があったといえる。また,前記認定事実によれば,平成18年5月11日に開催された第3回溢水勉強会において,福島第一原発5号機について,敷地高さであるO.P.+13mより1m高いO.P.+14mの津波が到来した場合には,津波が,タービン建屋大物搬入口,サービス建屋入口から流入すると仮定すると,タービン建屋の各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性があり,その波及として,浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能喪失することが報告されたことが認められる。このように,平成18 源設備の機能を喪失する可能性があり,その波及として,浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能喪失することが報告されたことが認められる。このように,平成18年の時点では,被告らは,敷地高さを超える津波が到来した場合には,全交流電源喪失に陥るおそれがあることを認識できたといえるから,遅くともこの段階において,被告国は,被告東電に対して,長期評価の見解を前提に最新の津波シミュレーション技法に基づいて詳細な想定津波の計算を行わせる義務が生じたというべきである。そして,平成18年の時点では,被告東電が2008年推計で用いた津波評価技術による計算手法が既に確立していたから,この時点で被告国が被告東電に対して長期評価の見解に基づいて試算を行わせていれば,2008年推計と同様に- 386 - 敷地南側でO.P.+15.7mの津波,すなわち,主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することができたといえる。したがって,被告国は,平成18年の時点で,主要建屋の敷地高さであるO.P+10mを超える津波の到来を予見することができたということができる。 なお,原告らは,主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することができる根拠として,4省庁報告書及び津波浸水予測図を挙げる。しかしながら,前記認定事実のとおり,4省庁報告書は,福島第一原発の1号機ないし4号機が所在する福島県双葉郡大熊町の想定津波の計算値をO.P.+6.4mとするものであるし,津波浸水予測図は,「個々の海岸における事前の津波対策を検討するための基礎資料」として作成されたものであり,福島第一原発の沿岸部に設定波高の津波が到来することを具体的に予測したものではない。したがって,4省庁報告書及び津波浸 岸における事前の津波対策を検討するための基礎資料」として作成されたものであり,福島第一原発の沿岸部に設定波高の津波が到来することを具体的に予測したものではない。したがって,4省庁報告書及び津波浸水図を根拠として主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することはできず,原告らの上記主張は採用できない。また,平成13年「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」についても,原告らが自認するとおり,これをもって直ちに主要建屋敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することはできない。 予見可能性の程度規制権限不行使の違法性の考慮要素たる結果回避義務との関係では,予見可能性が認められたからといって直ちに結果回避義務が生ずるものではなく,予見可能性の程度によって,求められる結果回避義務が異なるというべきである。すなわち,精度及び確度の高い知見に基づいた試算が出された場合には,直ちに結果回避措置を採ることを法的に義務付けることができる一方で,規制行政庁や原子力事業者が投資できる資金や人材等は有限である以上,精度及び確度のそれほど高くない知見に基づく試算しか得られない場合には,直ちに結果回避措置を採ることを法的に義務付けることはできず,今後の結果回避措置- 387 - の内容,時期等については,規制行政庁の専門的判断に委ねられるというべきである。 本件についてみると,前記認定事実によれば,長期評価を公表した推進本部は被告国が法律に基づいて設置した公的機関であり,長期評価は公的見解を示したものといえるから,単なる一専門家の論文等とはその性格が異なるものであり,異論はあるとしても,当時の地震・津波の専門家の共通的な見解を示したものとして,その信頼性は一定程度認められるとい 解を示したものといえるから,単なる一専門家の論文等とはその性格が異なるものであり,異論はあるとしても,当時の地震・津波の専門家の共通的な見解を示したものとして,その信頼性は一定程度認められるといえ,長期評価の見解についても,理学的に否定できないものであるといえる。一方で,前記認定事実によれば,長期評価の見解において,M8程度の地震が発生し得るとされた日本海溝付近の領域については,当該領域で過去に発生したとされる3つの津波地震が発生した正確な位置は不明であり,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震については,震源域が明らかでないとする見解もあり,津波地震ではない可能性も指摘されていたこと,三陸沖から房総沖までの日本海溝沿いという領域設定について,陸側のプレートに太平洋プレートが沈み込んでいる点で構造が同じであるという理由で一つの領域を設定している点につき,それほど強い根拠があるわけではないとか,地震学の考え方としては異質であるとの指摘もあったこと,北部と南部とでは,地震の発生に影響を及ぼすプレート間の固着の強さや堆積物の量に違いがあることが指摘されていたこと,当該領域内で過去に発生した地震は3つと少なく,過去の地震のデータが少ないことなどから,領域内のどこかで発生すると考えられるが,想定震源域を特定できず,これを公表した推進本部自身が,発生領域の評価及び発生確率について,信頼度を「C:やや低い」としており,その頭書において,「なお,今回の評価は,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが,データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたっ- 388 過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたっ- 388 - てはこの点に十分留意する必要がある。」と付記していることが認められる。 また,前記認定事実のとおり,長期評価の見解は,中央防災会議で採用が採用されなかったものであり,これに対する専門家の評価も,専門家9人中7人が「地震又は津波の専門家の統一的な見解や最大公約数的見解とは言い難い」,「理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的コンセンサスが得られている津波であるとは考えられていなかった」,「直ちに対策を取らせるような説得力のある見解とは考えられていなかった」,「実際の防災対策をしていく上で,明治三陸地震と同じような津波地震が福島沖で発生すると考えることは難しいと考えられる」などという否定的なものである。このように,長期評価の見解は,一定程度の信頼性は認められるものの,その根拠となったデータの少なさや理学的根拠の不十分さなどから,専門研究者間で正当な見解として通説的見解といえるほど確立した知見であったとはいえず,予見可能性の程度は高度なものではなかったということができる。 5 結果回避可能性⑴ 結果回避可能性は,規制権限を行使すべきとされる時期に予見可能で,かつ,予見すべきであった津波を前提に,結果回避措置及び結果回避可能性を検討すべきである。本件においては,前記のとおり,被告国は,遅くとも平成18年には,福島第一原発の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波,すなわち,被告東電の2008年推計による敷地南側でO.P.+15. 7mの津波(以下「本件想定津波」という。)を予見することができたのであるから,この津波を 高さであるO.P.+10mを超える津波,すなわち,被告東電の2008年推計による敷地南側でO.P.+15. 7mの津波(以下「本件想定津波」という。)を予見することができたのであるから,この津波を前提に,被告国が被告東電に採らせるべきであった結果回避措置及びその措置を講ずることによって平成23年3月11日において主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来による全交流電源喪失という事態を回避することができたか否かを検討する。具体的には,原告らは,被告国は,被告東電に対し,結果回避措置として,①ないし③の措置を行わせるべきであり,また,これらの措置を並行して行わせるべきであった- 389 - 旨主張することから,①ないし③の措置を本件事故が発生する平成23年3月11日までに完了し,主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来による全交流電源喪失という事態を回避することができたか検討する。 平成18年の時点で,O.P.+10mを超える津波の到来が予見可能であったとしても,そのための具体的な対策を実施するには,まずは被告東電において,本件想定津波に対する対策を検討,選択しなければならないところ,津波対策としては,①ないし③の措置に限らず,防潮堤の設置等も十分に考えられるところであった。また,①ないし③の措置を採るには,当該工事のみならず,その前提として,許認可手続等も必要なところ(丙A111,137),許認可手続に必要な期間も考慮すれば,申請から①ないし③の措置の工事に着工するまでには,少なくとも約2年3か月又は二,三年程度を要し,実際には,これら以外に地元の了解を得るための期間や被告東電による対策工事の設計に要する期間等が加わることから,更に長時間を要するとの意見もあるところである(丙A111,13 は二,三年程度を要し,実際には,これら以外に地元の了解を得るための期間や被告東電による対策工事の設計に要する期間等が加わることから,更に長時間を要するとの意見もあるところである(丙A111,137参照)。また,①ないし③の措置の前提となる津波の算定根拠となった長期評価の見解は,前記のとおり,確度及び精度がそれほど高いものではなく,O.P.+10mを超える津波の到来は切迫したものではなかった。さらに,平成18年当時は,地震対策が喫緊の課題とされ,平成18年9月19日に耐震設計審査指針が改正されたのを受けて平成18年耐震バックチェックが進められ,被告らはこれに注力していた(丙A100の1・2)ことから,津波対策は地震対策に比して優先度の低いものであったといえる。また,保安院,原子力安全基盤機構,被告東電を含む電気事業者等で構成する溢水勉強会は,平成19年4月,「溢水勉強会の調査結果について」と題する報告書(丙A42)を取りまとめ,福島第一原発の外部溢󠄀水について検討を行っているところである。そして,被告東電及び被告国の財政的資源及び人的資源は有限であり,あらゆるリスクに備えてあらゆる対策を講じること- 390 - は不可能であるところ,上記のような確度及び精度の不十分な長期評価の見解に基づいて,津波対策より地震対策を優先的に講ずるという判断をすることは不合理とはいえない。これらの事情を総合的に勘案すれば,①ないし③の措置は本件事故までに完成していなかった可能性が高く(丙A111,137参照),O.P.+10mを超える津波の到来による全交流電源喪失という事態を回避することができたとは認められない。 原告らは,本件事故後に浜岡原子力発電所において行われた津波対策を参考にして作成された意見書(甲A143)に基づいて,①ないし③の措 電源喪失という事態を回避することができたとは認められない。 原告らは,本件事故後に浜岡原子力発電所において行われた津波対策を参考にして作成された意見書(甲A143)に基づいて,①ないし③の措置は設計から2ないし3年以内に完成するから,平成18年の時点で対策に着手していれば,本件事故までに完成していた旨主張する。しかし,上記意見書は,許認可に要する時間を度外視したものであり,また,本件事故後に浜岡原子力発電所において短期間の間に津波対策を講じることが可能であったとしても,それは本件事故の発生を受けて緊急に作業が進められたものであり,本件事故前とは緊急性も知見も異なるものである(丙A105)。したがって,原告らの主張は,その前提を本件事故前の状況と異にするものであり,採用することができない。 6 規制権限行使における専門性,裁量性どのような自然現象が発生した場合に原子炉の安全性を損なうおそれがあるか,原子炉の安全性を損なうおそれがあると判断した場合にどのような措置を採らせるべきかについては,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要であるから,経済産業大臣には,どのような場合にどのような措置を講ずるかの判断について広範な裁量が認められるというべきである。また,技術基準適合命令に違反した場合には,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科の罰則が定められているものであるから(電気事業法116条2号),その行使には一定の制約を伴うものである。 本件についてみれば,福島第一原発の主要建屋の敷地高さであるO.P.+1- 391 - 0mを超える津波による浸水を防止し,全交流電源喪失という事態を回避する措置としては,原告らの主張する①ないし③の措置に限定されるものではなく,防 の敷地高さであるO.P.+1- 391 - 0mを超える津波による浸水を防止し,全交流電源喪失という事態を回避する措置としては,原告らの主張する①ないし③の措置に限定されるものではなく,防潮堤の設置等の他の方法によることも十分に考えられる状況であったといえる。 また,前記認定事実によれば,被告東電は,長期評価の見解を受けて,その根拠が不十分であることから,確定論として取り入れることはせず,確率論に基づく安全対策の中で取り入れていくこととし,その旨保安院に報告したことが認められる。このように,被告東電は,長期評価の見解を受けて何ら対策をとっていなかったわけではなく,確率論に基づく安全対策の中で取り入れようとしていたといえるが,前記のとおり,長期評価の見解はその根拠となったデータの少なさや理学的根拠の不十分さなどから信頼性が必ずしも高くなかったことに鑑みれば,長期評価の見解を確定論ではなく確率論に基づく安全対策の中で取り入れるという方針は一定の合理性を有するものであったといえる。そして,被告国は,被告東電から長期評価の見解に対する対応策について報告を受けた後,長期評価の見解の根拠について推進本部の委員に確認するよう被告東電に指示し,同被告から確認の結果の報告を受けるなど,情報収集及び長期評価の見解に対する対策を検討していたのであり,上記のとおり,被告東電の報告した方針が一定の合理性を有するものであったことからすれば,更なる対策等の指示を行わなかったとしても,被告国の上記対応が不合理とはいえない。 7 まとめ 以上より,規制権限を定めた法が保護する国民の生命,身体,財産等は極めて重要なものであり,原子力発電所で事故が発生した場合の被害は広範囲かつ長期間にわたって住民の生命や身体に影響を及ぼす恐れがあり非常に重大なものであ 定めた法が保護する国民の生命,身体,財産等は極めて重要なものであり,原子力発電所で事故が発生した場合の被害は広範囲かつ長期間にわたって住民の生命や身体に影響を及ぼす恐れがあり非常に重大なものであることが認められる一方で,予見可能性は認められるものの,その程度は必ずしも高いものとはいえず,原子力発電所の津波に起因する事故による被害の発生が切迫していたということもできない。また,被告国が規制権限を行使したとしても,O.P.+10mの津波による全交流電源喪失という結果- 392 - を回避することができたものとは認められない上,想定した津波に対する考え得る有効な対策は①ないし③の措置に限られる状況ではなく,どのような措置を採らせるべきかについては,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合判断が必要であるから,いかなる規制権限を行使するかについては被告国に広範な裁量が認められていたところ,被告らは,当時,喫緊の課題とされ,津波対策より優先度が高かった地震対策である平成18年耐震バックチェックに注力していたところである。そして,規制権限を行使して技術基準適合命令を発したときには,これに違反した場合に罰則が定められているから,その行使には一定の制約を伴うものである。さらに,被告国は,長期評価の見解について全く考慮していなかったわけではなく,被告東電から長期評価の見解に対する対応について報告を受けるなどして,被告東電の対応について把握し,長期評価の見解に対する対策を検討していた。これらの事情を総合すると,①ないし③の措置を採るよう技術基準適合命令を発しなかったことがその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない。 したがって,①ないし③の措置を採るよう技術基準適合命令を発しなかったという規制権限の不 採るよう技術基準適合命令を発しなかったことがその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない。 したがって,①ないし③の措置を採るよう技術基準適合命令を発しなかったという規制権限の不行使が国賠法上違法ということはできない。 なお,原告らは,本件想定津波を想定して①ないし③の措置を採っていれば,本件津波による本件事故も回避することができると主張するのに対し,被告国は,本件想定津波と本件津波とは規模等が大きく異なるため,仮に本件想定津波を想定して回避措置を採っていたとしても,本件津波による本件事故を回避することはできなかったと主張するため,①ないし③の措置を採っていれば,本件津波による本件事故を回避できたかについても,念のため検討する。 ア前記のとおり,原告らは,結果回避措置として,①ないし③の措置を採ることを主張し,また,これらの措置は並行して行われるべきであったと主張する。 本件については,本件想定津波の前提となる地震はM8.3であるのに対- 393 - し,本件地震はM9であることから,地震エネルギーは本件想定津波の前提となった地震より本件地震の方が約11倍大きなものであった(前提事実,甲A141,丙A154,弁論の全趣旨)。また,本件想定津波が前提としている地震によって動くとされた断層領域は,南北の長さが210km,東西の幅が50km であるのに対し,本件地震によって動いた断層領域は南北の長さ400km 以上,東西の幅が200km 以上であったと推定され,本件想定津波が前提としている地震の断層すべり量は9.7mであったのに対し,本件地震の断層すべり量は50m以上であったと推定されている(甲A141,丙A19,154)。このように,本件想定津波が前提としている地震と本件地震は,地震エネルギ り量は9.7mであったのに対し,本件地震の断層すべり量は50m以上であったと推定されている(甲A141,丙A19,154)。このように,本件想定津波が前提としている地震と本件地震は,地震エネルギーの大きさ,動いた断層領域の広さ,断層すべり量などにおいて,大きく異なるものであった。 本件想定津波の高さは,O.P.+10mである敷地南側ではO.P.+15.7m,O.P.+13mである敷地北側ではO.P.+13.7mであり,浸水深は約0.5ないし6mであった(甲A141)。これに対し,本件津波の高さ(浸水高)は,敷地南側ではO.P.+約11.5ないし15.5mであり,浸水深は約1.5ないし5.5mであった。このエリアの南西部では,局所的に,高さO.P.+約16ないし17mの浸水高が確認されており,浸水深は約6ないし7mであった。また,津波の高さは,敷地北側ではO.P.+約13ないし14.5mであり,浸水深は約1.5m以下であった。(甲A1の1・本文編19頁)そして,本件想定津波では,敷地高さを超える津波が到来するのは敷地南側からのみであるのに対し(甲A141),本件津波では,敷地の北側,東側,南側の全ての方向から津波が到来しており,敷地南側のみならず敷地東側からもO.P.+10mを超える津波が到来している(甲A1の1・資料編資料Ⅱ-11)。このように,本件想定津波と本件津波はその規模や到来する方向が大きく異なるものであった。 - 394 - 以上より,本件想定津波と本件津波及びこれらの前提となった地震には規模や方向に大きな違いがあり,本件想定津波を前提とした①ないし③の措置を講じていたとしても,本件津波の到来により本件事故の発生を防止することができたと直ちに認めることはできない。 イまた,以下のとおり,①ないし③の措置につ 本件想定津波を前提とした①ないし③の措置を講じていたとしても,本件津波の到来により本件事故の発生を防止することができたと直ちに認めることはできない。 イまた,以下のとおり,①ないし③の措置について具体的に検討しても,これらの措置を講じることにより本件事故を回避することができたと認めることはできない。 ①の措置について原告らは,2008年推計を前提とすれば,福島第一原発1号機ないし4号機の建屋について敷地高さを2m超える津波を想定して津波対策を採っていれば本件事故を回避することができた旨主張し,その根拠として「2メートルを超える津波対策と5メートルを超える津波対策では構造物の設計強度を2.5倍にしなければならないが,これは安全裕度3の範囲内にある。したがって,2メートル対策をとっていれば,5メートルの津波に耐えられたと考える。」と述べる渡辺意見書(甲A143参照)を提出する。しかし,この見解は,原子力発電所の構造物の安全裕度が3であることを前提とするものであるが,本件事故前において原子力発電所の構造物の安全裕度が3であったと認めるに足りる証拠はなく,敷地高さを2m超える津波を想定して津波対策を採っていれば,敷地高さを5m超える津波に耐えることができたと認めることはできない。また,水密扉を設置するとしても,設計条件を決める際には,水圧を適切に想定するだけでなく,津波が当該水密扉に到達した時の波力や漂流物が衝突した場合の衝撃力なども考慮した上で,水密扉の設計がされなければならないところ,当時,どのような高さの津波を想定して水密化の仕様を決定すればよいか確実な答えを出すことができない状態であり(丙A112),また,陸上構造物に作用する津波波圧の評価式についてはコンセンサスが得られて- 395 - おらず,本件想 密化の仕様を決定すればよいか確実な答えを出すことができない状態であり(丙A112),また,陸上構造物に作用する津波波圧の評価式についてはコンセンサスが得られて- 395 - おらず,本件想定津波で想定される波圧を前提に水密扉を設計した場合,本件津波に耐えられなかった可能性も指摘されていること(丙A105)などからすれば,本件想定津波を前提に水密扉を設計し設置したとしても,本件津波に耐えられたと認めることはできない。このように,本件事故までに①の措置を採ったとしても,本件事故を回避できたものとは認められない。 ②の措置について②の措置についても,具体的には,建屋内の隔壁及び床等の配管貫通部の浸水防止及び出入口への水密扉の設置が考えらのとおり,本件想定津波を前提に水密扉を設計し設置したとしても,本件津波に耐えられたかは不明であり,本件想定津波と本件津波は大きさや方向が大きく異なることをも考慮すれば,本件事故までに②の措置を採ったとしても,本件事故を回避できたものとは認められない。 ③の措置について③と同様に,本件想定津波を前提に水密化を設計し設置したとしても,本件津波に耐えられたかは不明であり,本件想定津波と本件津波は大きさや方向が大きく異なることをも考慮すれば,本件事故までに③の措置を採ったとしても,本件事故を回避できたものとは認められない。 以上より,①ないし③の措置を本件事故までに講じたとしても,本件事故を回避できたものとは認められず,①ないし③の措置を並行して講じたとしても,本件想定津波を前提にした設計では本件津波に耐えられたかは不明であるから,本件事故を回避できたと認めることはできない。したがって,①ないし③の措置について具体的に検討しても,本 して講じたとしても,本件想定津波を前提にした設計では本件津波に耐えられたかは不明であるから,本件事故を回避できたと認めることはできない。したがって,①ないし③の措置について具体的に検討しても,本件事故を回避することはできたということはできない。 ウ原告は,その他電源車の配置等の結果回避措置についても主張するが,い- 396 - ずれも抽象的なものであり,その措置を実施したことにより本件事故を回避できたものとは直ちに認められないから採用できない。 第3 省令62号33条4項に反することを理由とした技術基準適合命令を発しなかったことの違法性 1 原告らは,福島第一原発各号機の非常用ディーゼル発電機及び非常用高圧配電盤は,同じフロアに集中的に設置されており,設置フロアへの津波による浸水によって同時に機能喪失する配置であったところ,かかる状況は「独立性」(平成18年1月1日施行後の省令62号33条4項)の要件を欠くから,経済産業大臣は,被告東電に対し,非常用電源設備及びその附属設備をその一部でも高い位置に配置するなど分散配置する,系統の一部でも水密化するなどし,共通要因たる津波の浸水に対して非常用電源設備及びその附属設備の「独立性」を確保するよう,技術基準適合命令を発するべきであった旨主張する。そこで,経済産業大臣に,福島第一原発各号機が「独立性」を欠くこと,すなわち,非常用電源設備及びその附属設備の位置的分散及び系統の一部の水密化がされていないことを理由に技術基準適合命令を発する権限及び義務があったのか,以下,検討する。 2 発電用原子炉設備に関する技術基準を定めた省令62号には「独立性」に関する定義規定は存在しないものの,平成13年安全設計審査指針においては,「独立性」とは,「二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環 発電用原子炉設備に関する技術基準を定めた省令62号には「独立性」に関する定義規定は存在しないものの,平成13年安全設計審査指針においては,「独立性」とは,「二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないこと」をいい,「共通要因」とは,「二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因であって,例えば環境の温度,湿度,圧力,放射線等による影響因子,及び系統又は機器に供給される電力,電気,油,冷却水等による影響因子をいう。」とされている(丙A14)。そして,平成13年安全設計審査指針は,原子力安全委員会が,発電用軽水型原子炉に関する経験と最新の技術的知見に基づき,発電用軽水型原子炉に係る安全審査に当たって確認すべき安全設計の基本方針を定めたものであり,合理性を有するものと認められる上,原子炉の安全確保を目的とし- 397 - て定められたという点において省令62号と同様の目的を有するから,省令62号に独自の定義規定が存在しない以上,「独立性」の定義に関しては,平成13年安全設計審査指針に従い,「二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないこと」をいうと解するのが相当である。 前提事実のとおり,平成13年安全設計審査指針は,「原子炉施設全般」の項目において,指針1ないし10を規定し,「原子炉及び原子炉停止系」以下において,個別の系列についての指針を規定しているところ,このような平成13年安全設計審査指針の規定ぶりからすれば,指針48(電気系統)の3における「独立性」とは,前記「原子炉施設全般」の指針において安全性が確保されることを前提としたものであると解される。したがって, 3年安全設計審査指針の規定ぶりからすれば,指針48(電気系統)の3における「独立性」とは,前記「原子炉施設全般」の指針において安全性が確保されることを前提としたものであると解される。したがって,指針48(電気系統)の3の「独立性」における「共通要因」とは,指針2(自然現象),指針3(外部人為事象),指針4(内部発生飛来物),指針5(火災)等に対する安全性については既に確保されていることを前提として,さらに想定される「共通要因」であると解され,これら指針2ないし5において安全性を確保することが予定されている外部事象や内部発生飛来物は,「共通要因」として想定されないと解される。よって,「原子炉施設全般」において安全性を確保することが想定されている自然現象等は指針48(電気系統)の3の「独立性」における「共通要因」には含まれないと解するのが相当である。 そして,上記のとおり,平成13年安全設計審査指針における「独立性」の「共通要因」に自然現象等が含まれていないと解されることからすれば,省令62号33条4項における「独立性」においても,省令62号4条で想定されている津波を含む自然現象は「共通要因」には含まれないと解するのが相当である。 したがって,津波によって非常用電源設備等の機能が同時に阻害されることのないようにすることは,省令62号33条4項の「独立性」の意味するところではなく,同項は津波による被害を防止するために非常用電源設備等の位置的分散- 398 - や系統の一部の水密化を要求していなかったといえる。そして,このように解したとしても,津波等の自然現象に対する対策に関する技術基準は省令62号4条に規定されているから何ら不当ではない。 3 以上より,本件事故当時,福島第一原発各号機の非常用ディーゼル発電機及び非 したとしても,津波等の自然現象に対する対策に関する技術基準は省令62号4条に規定されているから何ら不当ではない。 3 以上より,本件事故当時,福島第一原発各号機の非常用ディーゼル発電機及び非常用高圧配電盤は,同じフロアに集中的に設置されており,設置フロアへの津波による浸水によって同時に機能喪失する配置であったとしても,これは「独立性」の要件を欠く状態とはいえないから,経済産業大臣には,福島第一原発各号機が省令62号33条4項の要件を欠くことを理由に技術基準適合命令を発する権限及び義務はなかったといえる。よって,経済産業大臣が福島第一原発各号機が省令62号33条4項の要件を欠くことを理由に技術基準適合命令を発しなかったことは国賠法上違法とはいえない。 また,平成18年当時,津波や内部溢水に対する安全性は別の規定で確保されることが前提となっていたことなどからすれば,平成18年時点において,省令62号33条4項の非常用電源設備の「独立性」として津波や内部溢水に対する「独立性」を要求すべき省令改正義務があったとは認められない。 第4 シビアアクシデント対策についての規制権限不行使の違法性 1 原告らは,設計基準事象を超える事態に対する対策,すなわち,シビアアクシデント対策を法令により義務付けるべきであったにもかかわらず,法令により義務付けなかったことが違法である旨主張するところ,具体的には,外部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失対策を法令により義務付けなかったことが違法であると主張しているものと解される。 しかし,原告らの上記主張は,いずれも抽象的なものであり,被告国が具体的にどのような対策を採るべきであったのか判然とせず,原告らが主張する①ないし③の措置を命ずる以外に,被告国が外部事象に起因 しかし,原告らの上記主張は,いずれも抽象的なものであり,被告国が具体的にどのような対策を採るべきであったのか判然とせず,原告らが主張する①ないし③の措置を命ずる以外に,被告国が外部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失対策を何らかの形で法令により義務付けたとしても,被告東電がどのような対策をとったか不明であり,かかる措置により本件- 399 - 事故を回避できたかも不明である。したがって,被告国が採るべき措置及びかかる措置をとった場合に本件事故が回避できことについて具体的な主張立証がされているとはいえない。よって,外部事象に起因するシビアアクシデント対策及び長時間の全交流電源喪失対策を法令により義務付けなかったことが違法であるとする原告らの上記主張は採用できない。 2 また,原告らは,被告国は本件事故後に省令62号4条を改正して5条の2を追加したところ,ここでは津波により全交流電源喪失が生じた場合の代替設備確保等のシビアアクシデント対策としての各種措置が義務付けられていることから,被告国は本件事故が発生する前においても上記のような措置を採る必要性を認識し得たといえ,被告国は,本件事故前に,本件事故後の改正により追加された省令62号5条の2と同様の規定を省令に規定すべきであった旨主張しているものと解される。 しかし,平成23年改正後の省令62号5条の2第2項のような代替設備確保義務を省令62号の改正により省令に規定すること自体は本件事故前においても可能であったが,平成23年改正による省令62号5条の2第2項は,緊急安全対策として電気事業者等に対して指示した設備に関する対策の省令上の位置付けを明確にするために本件事故を契機として追加されたものである(甲A75参照)。そして,前記のとおり,原子 2第2項は,緊急安全対策として電気事業者等に対して指示した設備に関する対策の省令上の位置付けを明確にするために本件事故を契機として追加されたものである(甲A75参照)。そして,前記のとおり,原子炉の安全性確保のためにいかなる措置を講ずるべきかは,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的な判断が必要であり,経済産業大臣の裁量が認められるところ,O. P.+10mを超える津波の到来の予見可能性はそれほど高いものではなかった上,被告東電は,長期評価の見解を確率論に基づく安全対策の中で取り入れることとし,被告国は,被告東電から報告を受け,その根拠について専門家の見解を求めるなどしていたことに照らすと,本件事故のような重大な事故が発生する前の時点においては,被告国に平成23年改正後の省令62号5条の2第2項のような代替設備確保義務を法令に規定すべき義務があったということはできず,少- 400 - なくとも上記のような代替設備確保義務を法令に規定しなかったことが,著しく合理性を欠くということはできない。 3 以上より,原告らのシビアアクシデント対策についての主張はいずれも採用できず,被告国がシビアアクシデント対策を法令により義務付けなかったことが国賠法上違法ということはできない。 第5 本件設置等許可処分を取り消さなかったことの違法性 1 原告らは,平成18年の時点で,被告東電は,津波や過酷事故に対する十分な対策を採っていなかったこと等から,福島第一原発各号機が当時の炉規法24条1項4号の要件に適合しない状態にあったとして,経済産業大臣は,平成18年には,本件設置等許可処分を取り消すべきであった旨主張する。原告らの求める本件設置等許可処分の取消しは,本件設置等許可処分の成立時には本件設置等許可処分に瑕疵はな として,経済産業大臣は,平成18年には,本件設置等許可処分を取り消すべきであった旨主張する。原告らの求める本件設置等許可処分の取消しは,本件設置等許可処分の成立時には本件設置等許可処分に瑕疵はなく,事後的に(本件においては平成18年時点)許可要件に適合しなくなったことを理由に処分の職権での取消しを求めるものと解されるから,いわゆる行政行為の撤回に当たる。 2 本件設置等許可処分を職権で撤回しない不作為が違法の評価を受け得る場合があるとしても,その撤回の判断は,撤回の必要性の程度,本件設置等許可処分の性質,内容,撤回によって相手方の被る不利益の程度等を総合的に勘案して判断する必要がある上,原子炉の設置許可基準適合性の判断など高度に専門的な知見を要することから,経済産業大臣の広範な裁量に委ねられているというべきであり,本件設置等許可処分を撤回しないという経済産業大臣の判断が著しく合理性を欠くものである場合に限って,国賠法上違法となると解するのが相当である。 3 本件についてみると,前記第2のとおり,平成18年時点では,福島第一原発の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することは可能であったものの,その予見可能性の程度は,直ちに津波に対する対策を採らなければならないほど切迫したものではなかった。また,平成18年の時点- 401 - では,我が国においては津波により全交流電源が喪失する事故が発生している状況ではなかった。これらの事情からすれば,平成18年当時,本件設置等許可処分を撤回する必要性が高まっていたとはいえない。また,O.P.+10mを超える津波の到来に対する安全対策は,様々なものが考えられ,どのような措置を採らせるべきかについては,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく えない。また,O.P.+10mを超える津波の到来に対する安全対策は,様々なものが考えられ,どのような措置を採らせるべきかについては,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合判断が必要であり,本件設置等許可処分を撤回しなければ対応できないものではない。一方で,本件設置等許可処分を撤回した場合には,福島第一原発の運転を停止せざるを得なくなり,本件設置等許可処分の相手方である被告東電は大きな経済的不利益を被ることになるだけでなく,電力の安定供給にも悪影響を及ぼす可能性もあった。以上の事情に鑑みれば,旧炉規法24条1項4号の要件が充足されていないとして本件設置等許可処分を撤回しないという経済産業大臣の判断が著しく合理性を欠くということはできない。よって,本件設置等許可処分を撤回しなかったことが国賠法上違法ということはできない。 第6 結論以上より,被告国の規制権限不行使が国賠法上違法ということはできない。 第4章被告国の本件事故後の対応の違法性第1 本件事故後の避難指示の違法性原告らは,被告国による本件事故後の避難指示が不適切かつ不十分であって違法である旨主張する。 前記認定事実によれば,本件事故発生後,保安院,経済産業大臣,内閣総理大臣等は,本件事故を受けて,原災法に基づく報告や原子力緊急事態宣言の発出を行ったこと,原災本部が原災法15条3項に基づいて福島県知事及び関係地方公共団体に対して避難の指示や屋内退避の指示をしたことが認められるが,これらの対応は,本件事故後に行われたものであるから,本件事故の発生と因果関係を有するものではなく,本件事故発生についての被告国の責任として違法性が認め- 402 - られるものではないし,当時の状況において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くす 事故の発生と因果関係を有するものではなく,本件事故発生についての被告国の責任として違法性が認め- 402 - られるものではないし,当時の状況において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく行ったものということもできない。したがって,被告国による本件事故後の避難指示が国賠法上違法とは認められない。 第2 本件事故後の放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避の違法性原告らは,被告国は,本件事故後に放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避を行ったことにより,原告らの不安を増大させたことが違法である旨主張する。 前記認定事実によれば,被告国は,SPEEDI計算の結果を入手していたものの平成23年3月23日に至るまで公表していなかったことが認められるが,これらの行為は,本件事故後に行われたものであるから,本件事故の発生と因果関係を有するものではなく,本件事故発生についての被告国の責任として違法性が認められるものではない。また,仮にSPEEDI計算の結果が公表されないことにより原告らの不安が増大したことがあったとしても,SPEEDI計算の結果を公表することにより無用な混乱を招くおそれもあったのであり,SPEEDI計算の結果を公表するか否かの判断については,被告国に一定の裁量が認められているというべきである。そして,上記のとおり,SPEEDI計算の結果を公表することにより弊害が生じる可能性もあったことからすれば,被告国が本件事故後に放射性物質拡散予測に関する情報を直ちに開示しなかったことが被告国に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることもできない。よって,被告国による本件事故後に放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避を行ったことが国賠法上違法とは認められない。 第5章被 の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることもできない。よって,被告国による本件事故後に放射性物質拡散予測に関する情報の不開示及び隠避を行ったことが国賠法上違法とは認められない。 第5章被告国の責任に関するまとめ以上のとおり,本件事故の発生について,被告国に国賠法上の責任は認められない。 第6章被告東電の責任(民法709条及び同法717条1項に基づく請求の可否)原賠法は,「原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に- 403 - 資することを目的とし」て(原賠法1条),原子力事業者の無過失責任(同法3条1項),責任集中(同法3条2項,4条),求償権の制限(同法5条),原子力事業者の損害賠償措置(同法6条以下),国の措置(同法16条以下)などが定められている。そして,原賠法に規定する原子力損害の賠償責任は,原子力事業者に対して原子力損害に関する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償責任に関する規定の特則であり,民法上の債務不履行又は不法行為の責任発生要件に関する規定は適用を排除しているものと解するのが相当である。したがって,本件事故による損害賠償に関しては,民法の不法行為に関する規定の適用はなく,原賠法3条1項によってのみ損害賠償の請求をすることができるから,原告らの被告東電に対する民法709条及び同法717条1項に基づく請求は認められない。 第5部損害論に関する当裁判所の判断第1章認定事実第1 本件事故前の原告らの居住地等本件事故前,福島県双葉郡富岡町(以下,単に「富岡町」という。)の旧居住制限区域には原告番号11(世帯全員が同一区域に居住していた場合には単に「原告番号○○」と記載し,同一世帯の の居住地等本件事故前,福島県双葉郡富岡町(以下,単に「富岡町」という。)の旧居住制限区域には原告番号11(世帯全員が同一区域に居住していた場合には単に「原告番号○○」と記載し,同一世帯の中で異なる区域に居住していた者がいる場合には「原告番号○○-○」と記載する。以下同じ。)及び29が,福島県双葉郡浪江町(以下,単に「浪江町」という。)の帰還困難区域には原告番号2が,同町の旧避難指示解除準備区域には原告番号28-2が,福島県南相馬市(以下,単に「南相馬市」という。)の旧避難指示解除準備区域には原告番号17が,同市の旧緊急時避難準備区域には原告番号3,18,19,20-1,20-2,21,24,30-2,30-3及び30-4が,福島県田村市(以下,単に「田村市」という。)の旧緊急時避難準備区域には原告番号41が,福島県いわき市(以下,単に「いわき市」という。)の自主的避難等対象区域には原告番号7,9,10,22,23,27,31,32,33,36,37,39及び40が,福島市の自主的避難等対象区域には原告番号5,6,14,16,35,38,- 404 - 42及び43が,福島県郡山市(以下,単に「郡山市」という。)の自主的避難等対象区域には原告番号13及び28-1が,福島県須賀川市(以下,単に「須賀川市」という。)の自主的避難等対象区域には原告番号1が,福島県伊達郡川俣町(以下,単に「川俣町」という。)の自主的避難等対象区域には原告番号4及び15が,福島県伊達郡国見町(以下,単に「国見町」という。)の自主的避難等対象区域には原告番号12及び34が,福島県伊達市(以下,単に「伊達市」という。)の自主的避難等対象区域には原告番号8が,区域外には原告番号20-3,26及び30-1が,それぞれ居住していた。 第2 本件事故後の状 号12及び34が,福島県伊達市(以下,単に「伊達市」という。)の自主的避難等対象区域には原告番号8が,区域外には原告番号20-3,26及び30-1が,それぞれ居住していた。 第2 本件事故後の状況 1 環境放射能状況⑴ 富岡町の環境放射能は以下のとおりであった。 平成24年4月25日から同月30日まで1.62ないし5.95µSv/h(乙B149の1,乙B158の1)平成24年10月25日から同月31日まで1.48ないし5.06µSv/h(乙B149の2,乙B158の2)平成25年4月25日から同月30日まで1.14ないし4.25µSv/h(乙B149の3,乙B156の3,乙B158の3)平成25年10月25日から同月31日まで0.97ないし2.69µSv/h(乙B149の4)平成26年4月25日から同月30日まで0.32ないし3.36µSv/h(乙B149の5,乙B156の5)平成26年10月25日から同月31日まで0.25ないし2.43µSv/h(乙B149の6)平成27年4月25日から同月30日まで0.25ないし2.61µSv/h(乙B149の7)- 405 - 平成27年10月25日から同月31日まで0.21ないし1.39µSv/h(乙B149の8)平成28年4月25日から同月30日まで0.18ないし1.22µSv/h(乙B149の9)平成28年10月25日から同月31日まで0.16ないし1.11µSv/h(乙B149の10)平成29年4月25日から同月30日まで0.12ないし1.11µSv/h(乙B149の11)平成29年10月25日から同月31日まで0.12ないし0.89µSv/h(乙 乙B149の10)平成29年4月25日から同月30日まで0.12ないし1.11µSv/h(乙B149の11)平成29年10月25日から同月31日まで0.12ないし0.89µSv/h(乙B149の12)平成30年4月17日から同月30日まで0.09ないし0.53µSv/h(乙B149の13)平成30年10月17日から同月31日まで0.09ないし0.49µSv/h(乙B149の14)⑵ 浪江町の環境放射能は以下のとおりであった。 平成24年4月25日から同月30日まで0.13ないし29.93µSv/h(乙B150の1,乙B151の1)平成24年10月25日から同月31日まで0.11ないし24.64µSv/h(乙B150の2,乙B151の2)平成25年4月25日から同月30日まで0.10ないし22.86µSv/h(乙B150の3,乙B151の3)平成25年10月25日から同月31日まで0.09ないし19.64µSv/h(乙B150の4,乙B151の4)平成26年4月25日から同月30日まで0.12ないし17.59µSv/h(乙B150の5,乙B151の5,乙B152の5)- 406 - 平成26年10月25日から同月31日まで0.10ないし15.40µSv/h(乙B150の6,乙B151の6,乙B152の6)平成27年4月25日から同月30日まで0.09ないし13.98µSv/h(乙B150の7,乙B151の7,乙B152の7)平成27年10月25日から同月31日まで0.09ないし12.71µSv/h(乙B150の8,乙B151の8,乙B152の8)平成28年4月25日から同月30日まで0.08ないし11.50µSv/h(乙B150の9,乙B151の9,乙B 09ないし12.71µSv/h(乙B150の8,乙B151の8,乙B152の8)平成28年4月25日から同月30日まで0.08ないし11.50µSv/h(乙B150の9,乙B151の9,乙B152の9)平成28年10月25日から同月31日まで0.07ないし10.78µSv/h(乙B150の10,乙B151の10,乙B152の10)平成29年4月25日から同月30日まで0.07ないし9.93µSv/h(乙B150の11,乙B151の11,乙B152の11)平成29年10月25日から同月31日まで0.06ないし9.04µSv/h(乙B150の12,乙B151の12,乙B152の12)平成30年4月17日から同月30日まで0.06ないし8.62µSv/h(乙B150の13,乙B151の13)平成30年10月17日から同月31日まで0.06ないし8.58µSv/h(乙B150の14,乙B151の14)⑶ 南相馬市の環境放射能は以下のとおりであった。 - 407 - 平成24年4月25日から同月30日まで0.22ないし4.95µSv/h(乙B155の1)平成24年10月25日から同月31日まで0.15ないし4.44µSv/h(乙B155の2)平成25年4月25日から同月30日まで0.13ないし3.81µSv/h(乙B155の3)平成25年10月25日から同月31日まで0.11ないし3.16µSv/h(乙B155の4)平成26年4月25日から同月30日まで0.06ないし2.98µSv/h(乙B155の5)平成26年10月25日から同月31日まで0.06ないし2.54µSv/h(乙B155の6)平成27年4月25日から同月30日まで0.06ないし2.39µSv/h v/h(乙B155の5)平成26年10月25日から同月31日まで0.06ないし2.54µSv/h(乙B155の6)平成27年4月25日から同月30日まで0.06ないし2.39µSv/h(乙B155の7)平成27年10月25日から同月31日まで0.06ないし2.16µSv/h(乙B155の8)平成28年4月25日から同月30日まで0.06ないし1.78µSv/h(乙B155の9)平成28年10月25日から同月31日まで0.06ないし1.65µSv/h(乙B155の10)平成29年4月25日から同月30日まで0.06ないし1.47µSv/h(乙B155の11)平成29年10月25日から同月31日まで0.05ないし1.16µSv/h(乙B155の12)平成30年4月17日から同月30日まで0.04ないし1.24µSv/h(乙B155の13)- 408 - 平成30年10月17日から同月31日まで0.04ないし1.13µSv/h(乙B155の14)⑷ 田村市の環境放射能は以下のとおりであった。 平成24年4月25日から同月30日まで0.12ないし0.27µSv/h(乙B157の1)平成24年10月25日から同月31日まで0.11ないし0.24µSv/h(乙B157の2)平成25年4月25日から同月30日まで0.10ないし0.11µSv/h(乙B157の3)平成25年10月25日から同月31日まで0.09ないし0.10µSv/h(乙B157の4)平成26年4月25日から同月30日まで0.07ないし0.26µSv/h(乙B157の5)平成26年10月25日から同月31日まで0.06ないし0.22µSv/h(乙B157の6)平成27年4月25日から同月3 同月30日まで0.07ないし0.26µSv/h(乙B157の5)平成26年10月25日から同月31日まで0.06ないし0.22µSv/h(乙B157の6)平成27年4月25日から同月30日まで0.06ないし0.19µSv/h(乙B157の7)平成27年10月25日から同月31日まで0.06ないし0.18µSv/h(乙B157の8)平成28年4月25日から同月30日まで0.05ないし0.16µSv/h(乙B157の9)平成28年10月25日から同月31日まで0.05ないし0.16µSv/h(乙B157の10)平成29年4月25日から同月30日まで0.05ないし0.14µSv/h(乙B157の11)平成29年10月25日から同月31日まで- 409 - 0.06ないし0.12µSv/h(乙B157の12)平成30年4月17日から同月30日まで0.06ないし0.13µSv/h(乙B157の13)平成30年10月17日から同月31日まで0.06ないし0.13µSv/h(乙B157の14)⑸ いわき市の環境放射能は以下のとおりであった。 平成23年3月31日0.39ないし1.46µSv/h(乙B198)平成23年4月30日0.11ないし0.62µSv/h(乙B198)平成23年5月31日0.12ないし0.59µSv/h(乙B198)平成23年6月30日0.09ないし0.35µSv/h(乙B198)平成23年7月31日0.10ないし0.39µSv/h(乙B198)平成23年8月31日0.09ないし0.38µSv/h(乙B198)平成23年9月30 平成23年7月31日0.10ないし0.39µSv/h(乙B198)平成23年8月31日0.09ないし0.38µSv/h(乙B198)平成23年9月30日0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)平成23年10月31日0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)平成23年11月30日0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)平成23年12月31日0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)- 410 - 平成24年1月31日0.09ないし0.34µSv/h(乙B198)平成24年2月16日0.09ないし0.36µSv/h(乙B198)平成24年4月1日から同月12日まで0.05ないし0.84µSv/h(乙B171の1)平成25年4月1日から同月12日まで0.05ないし0.61µSv/h(乙B171の2)平成26年4月1日から同月12日まで0.04ないし0.31µSv/h(乙B171の3)平成27年4月1日から同月12日まで0.04ないし0.30µSv/h(乙B171の4)平成28年4月1日から同月12日まで0.03ないし0.24µSv/h(乙B171の5)平成29年4月1日から同月30日まで0.03ないし0.12µSv/h(乙B269)平成30年4月1日から同月30日まで0.03ないし0.12µSv/h(乙B414)⑹ 福島市の環境放射能は以下のとおりであった。 平成23年3月31日 平成30年4月1日から同月30日まで0.03ないし0.12µSv/h(乙B414)⑹ 福島市の環境放射能は以下のとおりであった。 平成23年3月31日0.64ないし2.61µSv/h(乙B198)平成23年4月30日0.51ないし1.49µSv/h(乙B198)平成23年5月31日0.41ないし1.36µSv/h(乙B198)平成23年6月30日- 411 - 0.40ないし1.05µSv/h(乙B198)平成23年7月31日0.29ないし1.08µSv/h(乙B198)平成23年8月31日0.36ないし0.99µSv/h(乙B198)平成23年9月30日0.34ないし0.93µSv/h(乙B198)平成23年10月31日0.35ないし1.18µSv/h(乙B198)平成23年11月30日0.34ないし1.16µSv/h(乙B198)平成23年12月31日0.34ないし1.12µSv/h(乙B198)平成24年1月31日0.23ないし1.06µSv/h(乙B198)平成24年2月16日0.27ないし1.08µSv/h(乙B198)平成24年4月1日から同月12日まで0.03ないし1.40µSv/h(乙B171の1)平成25年4月1日から同月12日まで0.08ないし0.64µSv/h(乙B171の2)平成26年4月1日から同月12日まで0.03ないし0.36µSv/h(乙B171の3) 日から同月12日まで0.08ないし0.64µSv/h(乙B171の2)平成26年4月1日から同月12日まで0.03ないし0.36µSv/h(乙B171の3)平成27年4月1日から同月12日まで0.03ないし0.30µSv/h(乙B171の4)平成28年4月1日から同月12日まで- 412 - 0.05ないし0.25µSv/h(乙B171の5)平成29年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.23µSv/h(乙B269)平成30年4月1日から同月30日まで0.02ないし0.20µSv/h(乙B414)⑺ 福島県白河市(以下「白河市」という。)の環境放射能は以下のとおりであった。 平成24年4月1日から同月12日まで0.10ないし0.45µSv/h(乙B171の1)平成25年4月1日から同月12日まで0.08ないし0.37µSv/h(乙B171の2)平成26年4月1日から同月12日まで0.07ないし0.23µSv/h(乙B171の3)平成27年4月1日から同月12日まで0.06ないし0.20µSv/h(乙B171の4)平成28年4月1日から同月12日まで0.06ないし0.17µSv/h(乙B171の5)平成29年4月1日から同月30日まで0.06ないし0.16µSv/h(乙B269)平成30年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.15µSv/h(乙B414)⑻ 郡山市の環境放射能は以下のとおりであった。 平成23年3月31日1.0 平成30年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.15µSv/h(乙B414)⑻ 郡山市の環境放射能は以下のとおりであった。 平成23年3月31日1.00ないし2.12µSv/h(乙B198)平成23年4月30日0.30ないし1.51µSv/h(乙B198)- 413 - 平成23年5月31日0.20ないし1.36µSv/h(乙B198)平成23年6月30日0.25ないし1.24µSv/h(乙B198)平成23年7月31日0.21ないし1.10µSv/h(乙B198)平成23年8月31日0.21ないし1.03µSv/h(乙B198)平成23年9月30日0.21ないし1.00µSv/h(乙B198)平成23年10月31日0.21ないし0.98µSv/h(乙B198)平成23年11月30日0.21ないし0.96µSv/h(乙B198)平成23年12月31日0.20ないし0.91µSv/h(乙B198)平成24年1月31日0.16ないし0.78µSv/h(乙B198)平成24年2月16日0.17ないし0.83µSv/h(乙B198)平成24年4月1日から同月12日まで0.06ないし1.32µSv/h(乙B171の1)平成25年4月1日から同月12日まで0.06ないし0.94µSv/h(乙B171の2)平成26年4月1日から同月12日まで0.05ないし0.33µSv/h(乙B171の3)- ら同月12日まで0.06ないし0.94µSv/h(乙B171の2)平成26年4月1日から同月12日まで0.05ないし0.33µSv/h(乙B171の3)- 414 - 平成27年4月1日から同月12日まで0.04ないし0.26µSv/h(乙B171の4)平成28年4月1日から同月12日まで0.05ないし0.19µSv/h(乙B171の5)平成29年4月1日から同月30日まで0.04ないし0.17µSv/h(乙B269)平成30年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.16µSv/h(乙B414)⑼ 須賀川市の環境放射能は以下のとおりであった。 平成23年3月31日0.43µSv/h(乙B198)平成23年4月30日0.30µSv/h(乙B198)平成23年5月31日0.28µSv/h(乙B198)平成23年6月30日0.28ないし1.19µSv/h(乙B198)平成23年7月31日0.23ないし1.07µSv/h(乙B198)平成23年8月31日0.22ないし0.98µSv/h(乙B198)平成23年9月30日0.89ないし0.94µSv/h(乙B198)平成23年10月31日0.85µSv/h(乙B198)平成23年11月30日- 415 - 0.83ないし0.89µSv/h(乙B198)平成23年12月31日0.84µSv/h(乙B198)平成24年1月31日 - 415 - 0.83ないし0.89µSv/h(乙B198)平成23年12月31日0.84µSv/h(乙B198)平成24年1月31日0.61ないし0.66µSv/h(乙B198)平成24年2月16日0.77ないし0.79µSv/h(乙B198)平成24年4月1日から同月12日まで0.12ないし0.45µSv/h(乙B171の1)平成25年4月1日から同月12日まで0.09ないし0.34µSv/h(乙B171の2)平成26年4月1日から同月12日まで0.08ないし0.25µSv/h(乙B171の3)平成27年4月1日から同月12日まで0.07ないし0.19µSv/h(乙B171の4)平成28年4月1日から同月12日まで0.06ないし0.15µSv/h(乙B171の5)平成29年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.13µSv/h(乙B269)平成30年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.12µSv/h(乙B414)⑽ 国見町及び川俣町の環境放射能は以下のとおりであった。 平成24年4月25日から同月30日まで0.21ないし1.07µSv/h(乙B154の1)平成24年10月25日から同月31日まで0.14ないし1.21µSv/h(乙B154の2)- 416 - 平成25年4月25日から同月30日まで0.12ないし1.03µSv/h(乙B154の3)平成25年10月25日から同月31日まで0.11ないし0.86µSv/h(乙B154の4)平成26年4月25日から 日から同月30日まで0.12ないし1.03µSv/h(乙B154の3)平成25年10月25日から同月31日まで0.11ないし0.86µSv/h(乙B154の4)平成26年4月25日から同月30日まで0.11ないし0.94µSv/h(乙B154の5)平成26年10月25日から同月31日まで0.10ないし0.72µSv/h(乙B154の6)平成27年4月25日から同月30日まで0.06ないし0.68µSv/h(乙B154の7)平成27年10月25日から同月31日まで0.06ないし0.60µSv/h(乙B154の8)平成28年4月25日から同月30日まで0.05ないし0.53µSv/h(乙B154の9)平成28年10月1日から同月12日まで0.04ないし0.49µSv/h(乙B154の10)平成29年4月25日から同月30日まで0.04ないし0.46µSv/h(乙B154の11)平成29年10月25日から同月31日まで0.04ないし0.41µSv/h(乙B154の12)平成30年4月1日から同月30日まで0.04ないし0.41µSv/h(乙B414)⑾ 伊達市の環境放射能は以下のとおりであった。 平成23年3月31日2.25µSv/h(乙B198)平成23年4月30日- 417 - 1.21µSv/h(乙B198)平成23年5月31日1.06µSv/h(乙B198)平成23年6月30日1.79ないし2.18µSv/h(乙B198)平成23年7月31日1.31ないし1.69µSv/h(乙B198)平成23年8月31日1.55ないし2.15µS 9ないし2.18µSv/h(乙B198)平成23年7月31日1.31ないし1.69µSv/h(乙B198)平成23年8月31日1.55ないし2.15µSv/h(乙B198)平成23年9月30日1.46ないし2.11µSv/h(乙B198)平成23年10月31日1.44ないし2.13µSv/h(乙B198)平成23年11月30日1.46ないし2.02µSv/h(乙B198)平成23年12月31日1.25ないし2.04µSv/h(乙B198)平成24年1月31日0.84ないし1.52µSv/h(乙B198)平成24年2月16日0.90ないし1.59µSv/h(乙B198)平成24年4月1日から同月12日まで0.17ないし0.98µSv/h(乙B171の1)平成25年4月1日から同月12日まで0.12ないし0.58µSv/h(乙B171の2)平成26年4月1日から同月12日まで- 418 - 0.09ないし0.38µSv/h(乙B171の3)平成27年4月1日から同月12日まで0.07ないし0.31µSv/h(乙B171の4)平成28年4月1日から同月12日まで0.06ないし0.26µSv/h(乙B171の5)平成29年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.24µSv/h(乙B269)平成30年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.22µSv/h(乙B414) 2 本件事故による避難者数の推移⑴ .05ないし0.24µSv/h(乙B269)平成30年4月1日から同月30日まで0.05ないし0.22µSv/h(乙B414) 2 本件事故による避難者数の推移⑴ 避難指示区域等からの避難者数は以下のとおり推移した(甲B42ないし51)ア平成24年8月14日時点(甲B42)旧避難指示解除準備区域約2.2万人旧居住制限区域約0.6万人帰還困難区域約0.03万人警戒区域約5.4万人計画的避難区域約0.4万人旧緊急時避難準備区域約2.5万人イ平成24年9月19日時点(甲B43)旧避難指示解除準備区域約2.2万人旧居住制限区域約0.6万人帰還困難区域約0.03万人警戒区域約5.4万人計画的避難区域約0.4万人旧緊急時避難準備区域約2.5万人- 419 - ウ平成24年10月16日時点(甲B44)旧避難指示解除準備区域約2.2万人旧居住制限区域約0.6万人帰還困難区域 B44)旧避難指示解除準備区域約2.2万人旧居住制限区域約0.6万人帰還困難区域約0.03万人警戒区域約5.4万人計画的避難区域約0.4万人旧緊急時避難準備区域約2.4万人エ平成25年2月20日時点(甲B45)旧避難指示解除準備区域約2.2万人旧居住制限区域約0.6万人帰還困難区域約1.1万人警戒区域約4.3万人計画的避難区域約0.4万人旧緊急時避難準備区域約2.3万人オ平成25年4月16日時点(甲B46)旧避難指示解除準備区域約3.3万人旧居住制限区域約2.4万人帰還困難区域約1.9万人警戒区域約0.7万人計画的避難区域約0.1万人旧緊急時避難準備区域約2.2万人カ平成25年5月10日時点(甲B47) 計画的避難区域約0.1万人旧緊急時避難準備区域約2.2万人カ平成25年5月10日時点(甲B47)旧避難指示解除準備区域約3.3万人旧居住制限区域約2.4万人帰還困難区域約1.9万人警戒区域約0.7万人- 420 - 計画的避難区域約0.1万人旧緊急時避難準備区域約2.2万人キ平成25年6月11日時点(甲B48)旧避難指示解除準備区域約3.3万人旧居住制限区域約2.5万人帰還困難区域約2.5万人計画的避難区域約0.1万人旧緊急時避難準備区域約2.2万人ク平成25年9月17日時点(甲B49)旧避難指示解除準備区域約3.3万人旧居住制限区域約2.3万人帰還困難区域約2.5万人旧緊急時避難準備区域約2.1万人ケ平成26年3月10日時点(甲B50)旧避難指示解除準 約2.5万人旧緊急時避難準備区域約2.1万人ケ平成26年3月10日時点(甲B50)旧避難指示解除準備区域約3.3万人旧居住制限区域約2.3万人帰還困難区域約2.5万人旧緊急時避難準備区域約2.1万人コ平成26年10月1日時点(甲B51)旧避難指示解除準備区域約3.2万人旧居住制限区域約2.3万人帰還困難区域約2.4万人旧緊急時避難準備区域等(旧避難指示区域からの避難者も含む。)約2.0万人⑵ 自主的避難者についてア本件事故後の自主的避難者数は以下のとおり推移した(甲B41,乙B5- 421 - 6,199)。 平成23年3月15日 4万0256人平成23年3月25日 2万3659人平成23年4月22日 2万2315人平成23年5月22日 3万6184人平成23年6月30日 3万4093人平成23年7月28日 4万1377人平成23年8月25日 4万7 日 3万4093人平成23年7月28日 4万1377人平成23年8月25日 4万7786人平成23年9月22日 5万0327人イ平成23年3月15日時点での自主的避難者数及び人口に占める割合は以下のとおりである(乙B199)。 いわき市 1万5377人(人口比4.5%)郡山市 5068人(人口比1.5%)福島市 3234人(人口比1.1%)須賀川市 1138人(人口比1.4%)白河市 522人(人口比0.8%)田村市 39人(人口比0.1%)伊達市 14人(人口比0.0%)国見町 986人(人口比9.8%)川俣町 1人(人口比0.0%)⑶ 18歳未満の避難者数は以下のように推移した(乙B201の1ないし5・7)ア富岡町平成24年4月1日時点 2597人平成25年4月1日時点 2382人平成26年4月1日時点 2279人- 422 - 平成27年4月1日時点 219 2382人平成26年4月1日時点 2279人- 422 - 平成27年4月1日時点 2194人平成28年4月1日時点 2096人平成29年4月1日時点 1977人イ浪江町平成24年4月1日時点 3298人平成25年4月1日時点 3276人平成26年4月1日時点 3133人平成27年4月1日時点 3039人平成28年4月1日時点 2960人平成29年4月1日時点 2846人ウ南相馬市平成24年4月1日時点 5606人平成25年4月1日時点 5820人平成26年4月1日時点 5155人平成27年4月1日時点 4729人平成28年4月1日時点 4299人平成29年4月1日時点 3837人エ田村市平成24年4月1日時点 387人平成25年 3837人エ田村市平成24年4月1日時点 387人平成25年4月1日時点 367人平成26年4月1日時点 289人平成27年4月1日時点 206人平成28年4月1日時点 139人平成29年4月1日時点 42人オいわき市平成24年4月1日時点 3641人- 423 - 平成25年4月1日時点 2803人平成26年4月1日時点 2107人平成27年4月1日時点 1690人平成28年4月1日時点 1358人平成29年4月1日時点 884人カ福島市平成24年4月1日時点 3174人平成25年4月1日時点 3034人平成26年4月1日時点 2398人平成27年4月1日時点 2059人平成28年4月1日時点 時点 2398人平成27年4月1日時点 2059人平成28年4月1日時点 1561人平成29年4月1日時点 1379人キ白河市平成24年4月1日時点 119人平成25年4月1日時点 254人平成26年4月1日時点 275人平成27年4月1日時点 238人平成28年4月1日時点 225人平成29年4月1日時点 43人ク郡山市平成24年4月1日時点 2801人平成25年4月1日時点 2590人平成26年4月1日時点 2311人平成27年4月1日時点 2032人平成28年4月1日時点 1880人平成29年4月1日時点 1707人- 424 - ケ須賀川市平成24年4月1日時点 182人平成25年4月1日時点 169人 平成24年4月1日時点 182人平成25年4月1日時点 169人平成26年4月1日時点 264人平成27年4月1日時点 247人平成28年4月1日時点 196人平成29年4月1日時点 137人コ川俣町平成24年4月1日時点 242人平成25年4月1日時点 225人平成26年4月1日時点 200人平成27年4月1日時点 176人平成28年4月1日時点 165人平成29年4月1日時点 189人サ国見町平成24年4月1日時点 56人平成25年4月1日時点 57人平成26年4月1日時点 26人平成27年4月1日時点 25人平成28年4月1日時点 21人平成29年4月1日時点 18人 25人平成28年4月1日時点 21人平成29年4月1日時点 18人シ伊達市平成24年4月1日時点 428人平成25年4月1日時点 401人平成26年4月1日時点 312人平成27年4月1日時点 246人- 425 - 平成28年4月1日時点 230人平成29年4月1日時点 156人 3 本件事故後の新聞報道等の状況本件事故後の新聞報道等の状況は,以下のとおりである。 平成23年3月「190人被曝の恐れ」,「避難の全希望者検査」,「福島第一原子力発電所の敷地境界で,高いレベルの放射線が検出された。多数の一般住民が被曝したことも分かった。ただし専門家や政府は,ただちに健康に影響を与える値ではないと説明している。」(以上,乙B80の1),「かつてない規模の避難民に,行政や警察の対応は追いつかず,自力で県外へ逃れる人も増えている。」,「福島第一原発の爆発などの影響で,近隣では通常より高いレベルの放射線量が計測されている。ただ,ただちに健康に影響を与えるレベルではない。専門家は『原発の半径30キロ圏外に住む人は,正しい情報を集めながら,普段通りの生活を送って欲しい』と冷静な対応を呼びかけている。」(以上,乙B80の2),「確かに事故以降,近隣都県を中心に,過去の平均値より高い値が検出されて 外に住む人は,正しい情報を集めながら,普段通りの生活を送って欲しい』と冷静な対応を呼びかけている。」(以上,乙B80の2),「確かに事故以降,近隣都県を中心に,過去の平均値より高い値が検出されている。しかし,毎時数マイクロシーベルト以下ならば,健康に影響を与えるような値ではないと考えられている。」(乙B80の3),「3号機も緊急事態冷却機能失う建屋爆発の恐れ」,「原発3号機も爆発福島第1『格納容器は無事』」,「菅直人首相は,半径20~30キロメートル圏内の住民に屋内退避を求めた。米スリーマイル島に匹敵する原発史上まれな大事故になった。」,「放射線,周辺で高数値福島市など健康影響ないレベル」,「放射線量,低下傾向に平常値超えは5県」,「福島市の水道水またヨウ素検出」,「首相,出荷停止を指示 『人体に影響ない数値』」,「1~4号機,まだ不安定続く燃料冷却作業」(以上,乙B253),「第一原発3号機も『炉心溶融』」,「水素発生,爆発の恐れ」,「避難指示が出た東京電力福島第一原子力発電所から半径二十キロ内の避難対象者は約八万人で,周辺地- 426 - 域で自主的に避難した人を含め十二万人が避難したと発表した。」,「メルトダウンの恐れ」,「放射性物質大量放出も住民への影響懸念」,「放射線量,極めて危険 3,4号機敷地内」,「福島,通常の478倍県『健康に影響はない』」,「重大損傷『可能性低い』」,「放射線量また危険数値」,「福島で放射能高い数値 4号機爆発や雨要因」,「東日本大震災の県内被災者の県外への避難が加速し,避難者は二十日,二万人を超えた。」,「水道,基準上回る放射能飯舘飲用控えるよう周知」,「国と県は『手洗いや入浴など生活用水として使用することは健康上,問題なく,一時的に飲用しても,すぐに健康に 難者は二十日,二万人を超えた。」,「水道,基準上回る放射能飯舘飲用控えるよう周知」,「国と県は『手洗いや入浴など生活用水として使用することは健康上,問題なく,一時的に飲用しても,すぐに健康に影響が出ることはない』としている。」,「野菜は洗えば効果的/母乳も問題なし」,「県産葉物など摂取制限放射性物質 11品種基準値超え」,「30キロ圏外ハウス野菜7品『安全』 放射能暫定基準値下回る県,販売強化を要請」(以上,乙B285)平成23年4月「海に流れた汚染水,4700兆ベクレル」(甲B19),「東京電力福島第1原発の20~30キロ圏内の浪江町と飯舘村の計7施設で放射線量が1時間当たり10マイクロシーベルトを超えたが,県内各地で県が行っている環境放射能測定結果と同程度の結果となり,県は他の545地点を含め,すべての地点で『子どもたちに今すぐに影響が出ることはない』とした。」(乙B79の1),「高濃度汚水流出止まる」,「福島第一原発内なお6万トン」,「原子力安全委員会は9日,福島県内の学校施設の放射線量について『一部に開校をおすすめできない高いところもある』との見方を示した。」,「避難区域など3区域以外では作付けして問題ないとの見解を示した。」,「微量の放射性ストロンチウム福島の土壌で検出」,「事故の収束見込みが示されたのは朗報だ。ただ東電も政府も,いつ帰宅ができるのかの見通しは明らかにしていない。」(以上,乙B253),「県内各地点減少か横ばい環境放射能」(乙B285,313の1),「放射性物質検出されず県内水道水」,「川- 427 - 俣の1地点で毎時10マイクロシーベルト超え」,「原乳出荷制限25市町村解除」,「枝野幸男官房長官は十七日来県し,東京電力福島第一原子力発電所の状況が悪化しないことを 」,「川- 427 - 俣の1地点で毎時10マイクロシーベルト超え」,「原乳出荷制限25市町村解除」,「枝野幸男官房長官は十七日来県し,東京電力福島第一原子力発電所の状況が悪化しないことを条件に,計画的避難区域が今後,拡大することはないとの見通しを明らかにした。」,「海江田万里経済産業相は十七日,記者会見し,東京電力が福島第一原発を安定状態にするとした六~九カ月後を目標に,避難している周辺住民らの帰宅が可能かどうか判断する意向を表明した。」,「文部科学省は十九日,校庭・園庭での放射線量が毎時三・八マイクロシーベルトを上回った福島,郡山,伊達三市の小中学校と保育所・幼稚園合わせて十三校・園の屋外活動を控えるよう県教委に通知した。」,「放射線量の暫定基準値で屋外活動を制限された福島,郡山,伊達各市の小・中学校や保育園,幼稚園では二十日,子どもがマスク姿で通い,保護者が送り迎えする姿が目立った。」(以上,乙B285)平成23年5月ないし10月5月「(学校等の施設について)教員らが児童・生徒と行動を共にするなどして線量を測った結果,平均値は毎時〇・.二二マイクロシーベルトとなり,同省(文部科学省)が定める屋外活動の基準値毎時三・八マイクロシーベルトを大幅に下回った。」,「文科省は十二日,これまでの調査で毎時三・八マイクロシーベルトを超え,屋外活動が一時制限されたり,制限を継続したりしている十三小中学校の年間の指定線量は平均年六・六ミリシーベルトで,最大でも一〇・一ミリシーベルトにとどまると発表した。」(乙B79の8),7月「県民健康管理調査の先行調査として浪江町など三町村の住民を対象に行った内部被ばく検査で,参加した百二十二人全員の年間の内部被ばく量の推計は,一ミリシーベルト以下で健康に影響を与える線量ではなかった。」(乙 康管理調査の先行調査として浪江町など三町村の住民を対象に行った内部被ばく検査で,参加した百二十二人全員の年間の内部被ばく量の推計は,一ミリシーベルト以下で健康に影響を与える線量ではなかった。」(乙B79の10),8月「南相馬市は十三日,小中学生を含む市民八百九十九人の内部被ばく検査で,体内に取り込まれた放射性セシウムによる被ばく線量が今後五十年間の換算で一ミリシーベルトを超えた人が一人いたものの,ほとんど- 428 - が〇・一ミリシーベルト以下だったと発表した。」(乙B79の11),10月「伊達市は,市内の子どもらを対象に小型線量計(ガラスバッジ)で計測した被ばく放射線量の結果」について「年間で試算すると5ミリシーベルトを超える値から計測されない対象者もいるなど幅広いが,市は『健康に影響を与える積算線量ではなかった』としている。」(乙B79の12)平成24年「東京電力福島第一原発事故で飛散した放射性物質を除去する作業(除染)を終えた福島県の山あいの地域で,除染後しばらくすると放射線量がまた上がるケースが出ている。風雨で運ばれた放射性物質が,道路脇や軒先に再びたまり,線量を上げているとみられる。」(甲B126),「住宅などの除染後,国が長期的な目標とする年間追加被ばく線量1ミリシーベルト(毎時0・23マイクロシーベルト)以下を達成できないケースは多く,再除染を求める住民の声は根強い。」(甲B128),「甲状腺がん1人確認福島医大放射線の影響否定」(乙B79の14),「外部被ばく線量推計基本調査最大値は13ミリシーベルト」,「県は『これまでの調査では100ミリシーベルト以下で明らかな健康影響は確認されておらず,放射線による健康影響は考えにくい』としている。」(乙B79の16),「県民の大半1ミリシーベルト未満」 」,「県は『これまでの調査では100ミリシーベルト以下で明らかな健康影響は確認されておらず,放射線による健康影響は考えにくい』としている。」(乙B79の16),「県民の大半1ミリシーベルト未満」(乙B79の17) 4 除染状況⑴ 平成27年7月末時点の除染状況は以下のとおりであった(甲B30)。 田村市,川内村,楢葉町及び大熊町では,宅地,農地,森林及び道路での除染は終了した。葛尾村では,宅地は100パーセント,農地は86パーセント,森林は99.9パーセント,道路は53パーセントの実施率であった。川俣町では,宅地は100パーセント,農地は32パーセント,森林は77パーセント,道路は6パーセントの実施率であった。飯舘村では,宅地は100パーセント,農地は42パーセント,森林は57パーセント,道路は28パーセント- 429 - の実施率あった。南相馬市では,宅地は26パーセント,農地は15パーセント,森林は46パーセント,道路は6パーセントの実施率であった。浪江町では,宅地は19パーセント,農地は18パーセント,森林は34パーセント,道路は40パーセントの実施率であった。富岡町では,宅地は48パーセント,農地は12パーセント,森林は82パーセント,道路は78パーセントの実施率であった。双葉町では,宅地は5パーセント,農地,森林及び道路は0パーセントの実施率であった。 ⑵ 平成28年6月末時点での除染状況は以下のとおりであった(乙B209,217の1,乙B220)。 いわき市では,公共施設等,農地及び森林は完了し,住宅は65.7パーセント,道路は13.6パーセントの実施率であった。郡山市では,森林は完了し,住宅は94.3パーセント,公共施設等は97.3パーセント,道路は34.1パーセント,農地は75.6パー 宅は65.7パーセント,道路は13.6パーセントの実施率であった。郡山市では,森林は完了し,住宅は94.3パーセント,公共施設等は97.3パーセント,道路は34.1パーセント,農地は75.6パーセントの実施率であった。福島市では,住宅は完了し,公共施設等は98.8パーセント,道路は81.5パーセント,農地は67.4パーセント,森林は40パーセントの実施率であった。 平成29年3月末時点の須賀川市の除染状況は,住宅,公共施設,道路,農地,その他の全てで完了した(乙B426)。 平成29年5月末時点の伊達市の除染状況は,住宅,公共施設,道路,農地,その他の全てで完了した(乙B431)。 各市町村の除染実施計画における除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染状況は以下のとおりであった(乙B229)。 平成25年6月に田村市,平成26年3月に楢葉町,川内村及び大熊町,平成27年12月に葛尾村及び川俣町,平成28年3月に双葉町,同年12月に飯舘村,平成29年1月に富岡町,同年3月に南相馬市及び浪江町において完了した。 5 事業所や学校等の再開状況等- 430 - ⑴ 富岡町富岡町における活動再開等の状況は以下のとおりである。 ア平成27年8月,JAEA廃炉国際共同研究センター国際共同研究棟の立地が決定した(乙B114の4・5)。 イ平成27年10月,町役場(楢葉分室)及び警察(道の駅ならは)の一部機能を町内に移転した(乙B114の4)。 ウ平成27年10月,交流サロンを開設した(乙B114の4)。 エ平成28年10月,町内に町立診療所が開所した(乙B117の1)。 オ平成28年11月,複合商業施設が開設され,一部店舗がオープンした( ,交流サロンを開設した(乙B114の4)。 エ平成28年10月,町内に町立診療所が開所した(乙B117の1)。 オ平成28年11月,複合商業施設が開設され,一部店舗がオープンした(乙B117の2)。 ⑵ 浪江町浪江町における活動再開等の状況は以下のとおりである。 ア平成27年7月15日時点で,所定の手続を経て事業を再開している事業所は,平成26年8月27日に営業を再開したコンビニエンスストアを含め,18事業所であり,平成28年8月4日時点では,21事業所である(乙B118の1・2,乙B119)。 イ野菜については,平成25年より試験栽培を開始しており,全14品目で安全が確認された(乙B120の1)。 ウ花卉については,平成26年より実証栽培を開始した(乙B120の1)。 エ水稲については,平成26年より,水稲の実証栽培を開始し,全量全袋検査で全て基準値以下となっており,平成27年11月,浪江町産の米が震災後初めて販売された(乙B114の4・5,乙B120の1,121)。 オ平成27年10月,「ふたば復興生コン」の落成式が行われた(乙B114の4)。 カ平成28年10月,仮設商業施設が開設され,小売,飲食,サービスの各業種から10店舗が開店した(乙B122)。 - 431 - ⑶ 南相馬市(小高区)南相馬市(小高区)における活動再開等の状況は以下のとおりである。 ア平成27年8月15日時点で,小高区内の事業所(総数488)のうち,210事業所が再開し,そのうち,44事業所が小高区内で事業を再開しており,同年12月には,再開した224事業所のうち52事業所が小高区内で事業所を再開した(乙B126の1・2)。 イ平成 210事業所が再開し,そのうち,44事業所が小高区内で事業を再開しており,同年12月には,再開した224事業所のうち52事業所が小高区内で事業所を再開した(乙B126の1・2)。 イ平成27年4月,小高病院が診療を再開した(乙B114の3ないし5)。 ウ平成27年9月,「東町エンガワ商店」が開店した(乙B114の4・5)。 エ JR常磐線の原ノ町駅から小高駅間が避難指示解除後に再開した(乙B114の5,弁論の全趣旨)。 ⑷ 南相馬市(旧緊急時避難準備区域)南相馬市(旧緊急時避難準備区域)における活動再開等の状況は以下のとおりである。 ア本件地震及び本件津波の影響で市内全ての公共交通機関が運休状態となったが,平成23年3月末頃から随時臨時バスが運行を再開し,平成23年4月5日にはタクシー3社,運転代行1社が営業を再開し,同月22日にはバスの市内路線(5系統)が運行を再開した。また,同月27日にはバスの相馬・原町線の運行も再開され,同月には,原町・仙台線など,生活のためのバス路線が新設された。JR常磐線の原ノ町・相馬間は平成23年12月21日に再開し,小高・原ノ町間は平成28年7月12日に運転を再開した。 JR東日本は,平成27年1月から原ノ町・竜田間の代行バスの運行を開始した。(乙B178,189,190の1)イ原町区内の5つの小中学校が平成23年10月17日から,震災被害の修繕が完了した3つの小学校が平成24年1月10日から,その他の4つの小中学校が同年2月27日から,それぞれ自校での授業を再開した。原町区に所在する原町高等学校及び相馬農業高校は,それぞれ平成23年10月26- 432 - 日及び同年11月に自校での授業を再開した。また,南相馬市教育委員会は市内の小中学 授業を再開した。原町区に所在する原町高等学校及び相馬農業高校は,それぞれ平成23年10月26- 432 - 日及び同年11月に自校での授業を再開した。また,南相馬市教育委員会は市内の小中学校について,屋外活動時間を制限してきたが,除染の進捗に合わせ,平成24年4月以降当該制限は解除された。(乙B180,181)ウ市内のコンビニエンスストアは,平成23年6月頃までにおおむね再開した。スーパーマーケットは,原町区に所在するイオンスーパーセンター南相馬店を平成23年5月6日より営業再開しているほか,同年4月以降,各種の商業店舗が営業を再開した(乙B182,183)。 エ平成24年5月1日時点で,原町区内で,医療機関29機関,歯科医療機関19機関が診療を行っている(乙B184)。 ⑸ 田村市田村市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 ア平成23年7月より,都路診療所が再開された(乙B114の1・2)。 イコンビニエンスストアの移動販売が平成25年9月に開始した(乙B114の1・2)。 ウ平成26年4月,仮設商業店舗(Domo)が開業し,都路こども園,古道小学校,岩井沢小学校及び都路中学校が本校舎での授業を再開し,デマンド型の乗合タクシーも営業を開始している。県立船引高等学校は通常どおり開校した。また,夜間でも診療可能な田村地方夜間診療所が船引町に開設された。(乙B114の1・2・4,乙B130の1)エ平成27年1月,都路地区にコンビニエンスストアが出店し,同年10月には船引町でJAたむら農産物直売所が営業を再開した(乙B114の2,乙B130の1)。 オ平成27年1月,田村市の新庁舎での業務が開始された(乙B130の1)。 カ特別養護 月には船引町でJAたむら農産物直売所が営業を再開した(乙B114の2,乙B130の1)。 オ平成27年1月,田村市の新庁舎での業務が開始された(乙B130の1)。 カ特別養護老人ホーム「都路まどか荘」が再開した(乙B130の1・2)。 キ平成27年10月以降,本件事故の影響で閉鎖していた中央化学東北工場- 433 - が操業を再開した(乙B114の4)。 ク平成27年11月,都路地区の仮説商業施設「Domo(ど~も)古道店」で農産物の試験販売を開始した(乙B114の4)。 ケ JR磐越東線,福島交通バスが通常運行している(乙B130の1・2)。 ⑹ いわき市いわき市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 ア本件地震及び本件津波により,道路や橋梁に被害を受けたが,平成23年10月に市復旧計画を策定し,これにより,社会基盤等の復旧が進められ,地震補強事業,震災復興土地区画整理事業,防災集団移転促進事業,復興道路整備事業,災害公営住宅整備事業等の事業が行われた。また,本件地震によりライフラインに被害が生じたが,水道水については平成23年4月21日(津波や地滑りの被害で復旧が困難な地域を除く。),電力については本件地震後1週間以内(津波で流出した箇所を除く。),都市ガス及び電話については平成23年4月中(一部の地域を除く。)にいずれも回復した。いわき市は,平成23年3月16日から被告国が開始した水道水の放射性物質の測定において,同月23日に被告国が定める乳児の摂取指標値を超える放射性ヨウ素が検出されたため,同日から乳児による水道水の飲用を控えるよう求めペットボトル水の配布を行ったが,同月25日以降は放射性ヨウ素の検出値が摂取指標値以下となり,同月28日に採水し を超える放射性ヨウ素が検出されたため,同日から乳児による水道水の飲用を控えるよう求めペットボトル水の配布を行ったが,同月25日以降は放射性ヨウ素の検出値が摂取指標値以下となり,同月28日に採水した市内8か所の浄水場における測定の結果はいずれも指標値を大きく下回ったことから,同月31日に摂取制限を解除した。その後同年4月4日以降については,放射性ヨウ素・セシウムとも不検出となった。(乙B211の1ないし4,乙B212)イ 4次にわたって「いわき市復興事業計画」が策定されたほか,復興に向けた基本方針や主要施策を示す復興ビジョン,道路・河川・橋梁・公共施設など各分野の復旧までの作業工程を示した復旧計画が定められた。被災者の生活再建,生活環境の整備・充実,社会基盤の再生・強化,経済・産業の再生・- 434 - 創造及び復興の推進を取組の柱として,復興を進めており,全体としておおむね計画通りに進捗している(乙B211の1ないし4,乙B212,弁論の全趣旨)。 ウ本件地震により,いわき市内の875か所で道路の損壊が発生したが,高速道路においては,常磐自動車道が平成23年3月21日,磐越自動車道が同月24日に再開した。鉄道は,本件地震により磐越東線が平成23年4月14日までは通常運転ができなかったが同月15日以降通常運転を再開し,常磐線はいわき市内の北西部に位置する久ノ浜駅において平成23年4月11日から同年5月14日にかけて段階的に運転再開された。また,市内のバスは,平成23年4月6日に通常ダイヤで運行を開始した。(乙B213)⑺ 福島市福島市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 ア本件地震によるインフラ被害が発生したが,電気については平成23年3月14日,水については同月22日,ガ ⑺ 福島市福島市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 ア本件地震によるインフラ被害が発生したが,電気については平成23年3月14日,水については同月22日,ガスについては同月30日に全面復旧した(乙B221)。 イ米作について,平成24年度米では全量全袋検査の結果,放射性セシウム濃度が基準値(100Bp/kg)を超えたものが41袋,平成25年産米では基準値を超えたものが1袋,平成26年産米では基準値を超えたものが2袋,存在したが,平成27年産米では平成27年12月7日時点で基準値を超えたものはなかった(乙B219の2,乙B222)。 ⑻ 郡山市郡山市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 本件地震によりライフラインに被害が生じたが,上下水道については平成23年4月1日,電力については同年3月12日,都市ガスについては同月26日にいずれも復旧した。郡山市は,水道水の放射性物質モニタリング検査の結果,平成23年3月21日に幼児の摂取指標値である100Bq を超える放射性ヨ- 435 - ウ素が検出されたことから,一時的に幼児の水道水の摂取を制限したが,その後数値が低下したことから,同月25日に摂取制限を解除した。郡山市は,その後も水道水モニタリング検査を実施したが,平成23年4月17日以降放射性ヨウ素及び放射性セシウムは検出されていない(以上,乙B216)。 ⑼ 須賀川市須賀川市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 本件地震により建物の倒壊や破損,道路や上下水道の損壊など,大きな被害が発生したが,水道については平成23年3月末時点で9割以上が復旧し,同年5月からは同市内の循環バスの運行を開始した。また,須賀川市は,市内6箇所で水道水 破損,道路や上下水道の損壊など,大きな被害が発生したが,水道については平成23年3月末時点で9割以上が復旧し,同年5月からは同市内の循環バスの運行を開始した。また,須賀川市は,市内6箇所で水道水の放射性物質を2日に1回調査したが,平成23年4月16日ないし同月24日の調査結果は,いずれも検出限界値未満であった。同市は,本件地震による被害からの復興を図るため,「ふるさとづくり支援事業」を行うこととした。本件地震により被害を受けた須賀川市立第一小学校の仮設校舎は平成23年8月に完成し,同年末までに同市の復興計画が策定された。(乙B306の1ないし4,乙B307の1ないし8)⑽ 川俣町川俣町における活動再開等の状況は以下のとおりである。 平成23年4月20日,飯館村内の幼稚園及び小中学校が川俣町内に開設された。また,本件事故後,農産物や原乳の出荷が制限されていたが,平成23年5月に一定の品目については,出荷制限が解除された。さらに,同年中には,夏祭りが開催されたり,運動会や駅伝大会が開催されたりした。(乙B313の1ないし13)⑾ 国見町国見町における活動再開等の状況は以下のとおりである。 本件地震により町役場が使用不能になるなどしたが,仮設住宅が建てられ,平成23年6月頃には,8割は町民が,2割は飯館村からの避難者が居住して- 436 - いた。米については,植え付けが10日ほど遅れたものの,植え付け及び収穫が行われた。また,同年中に,お祭りが開催されたり,運動会が開催されたりした。(乙B311の4・6・9・10,弁論の全趣旨)⑿ 白河市白河市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 本件地震によりインフラ被害が発生したが,水道については平成23年3月24日 ・6・9・10,弁論の全趣旨)⑿ 白河市白河市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 本件地震によりインフラ被害が発生したが,水道については平成23年3月24日におおむね復旧し,同年4月6日から小中学校の新学期が始まった。また,同年中には,夏祭りが開催されたり,マラソン大会が開催されたりした。 (乙B271,350の1・3・4)⒀ 伊達市伊達市における活動再開等の状況は以下のとおりである。 本件地震によるインフラ被害が発生したが,電気については平成23年3月14日,水道については同月21日に市内全域で復旧し,同月21日から行われた市内の水道水の放射性物質量の調査では,同年6月9日以降放射性物質は検出されず,井戸水については同月7日以降に行われた放射性物質の調査の結果,放射性物質は検出されなかった。また,平成23年夏にはマラソン大会やコンサートが開催された。さらに,平成24年3月に伊達市復興計画が策定され,社会基盤等の復旧が進められている。(乙B432,433,434の2,乙B435の3)。 第3 賠償に関する各種基準の概要 1 中間指針平成23年4月11日,原賠法18条1項に基づき,文部科学省に原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」という。)が設置された。 原賠審は,平成23年8月5日,避難指示等に係る損害について,中間指針を策定し,以下のような指針を示した(乙B1の1)。 ⑴ 検査費用- 437 - 本件事故の発生以降,①本件事故が発生した後に,福島第一原発から半径20㎞圏内,屋内退避区域,計画的避難区域,緊急時避難準備区域,特定避難勧奨地点及び南相馬市が独自の判断に基づき住民に対して一時避難を要請した区域(以下,併せて「避難等対象区域」とい 一原発から半径20㎞圏内,屋内退避区域,計画的避難区域,緊急時避難準備区域,特定避難勧奨地点及び南相馬市が独自の判断に基づき住民に対して一時避難を要請した区域(以下,併せて「避難等対象区域」という。)内から同区域外へ避難のための立退き及びこれに引き続く同区域外への滞在を余儀なくされた者(ただし,平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)から同区域外に避難を開始した者のうち,子供,妊婦,要介護者,入院患者等以外の者を除く。),②本件事故発生時に避難指示等対象区域外に居り,同区域内に生活の本拠としての住居があるものの,引き続き避難等対象区域外への滞在を余儀なくされた者又は③屋内退避区域内で屋内への退避を余儀なくされた者(以下,①ないし③の者を併せて「避難等対象者」という。)のうち避難若しくは屋内退避をした者,又は対象区域内滞在者が,放射線へのばく露の有無又はそれが健康に及ぼす影響を確認する目的で必要かつ合理的な範囲で検査を受けた場合には,これらの者が負担した検査費用(検査のための交通費等の付随費用を含む。)は,賠償すべき損害と認められる。 ⑵ 避難費用ア避難等対象者が必要かつ合理的な範囲で負担した以下の費用が,賠償すべき損害と認められる。 対象区域から避難するために負担した交通費,家財道具の移動費用 対象区域外に滞在することを余儀なくされたことにより負担した宿泊費及びこの宿泊に付随して負担した費用(以下「宿泊費等」という。) 避難等対象者が,避難等によって生活費が増加した部分があれば,その増加費用イ避難費用の損害額算定方法は,以下のとおりとする。 避難費用のうち交通費,家財道具の移動費用,宿泊費等については,避難等対象者が現実に が増加した部分があれば,その増加費用イ避難費用の損害額算定方法は,以下のとおりとする。 避難費用のうち交通費,家財道具の移動費用,宿泊費等については,避難等対象者が現実に負担した費用が賠償の対象となり,その実費を損害額- 438 - とするのが合理的な算定方法と認められる。ただし,領収証等による損害額の立証が困難な場合には,平均的な費用を推計することにより損害額を立証することも認められるべきである。 他方,避難費用のうち生活費の増加費用については,原則として,後記するのが公平かつ合理的な算定方法と認められる。 避難指示等の解除等(指示,要請の解除のみならず帰宅許容の見解表明等を含む。)から相当期間経過後に生じた避難費用は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。 ⑶ 一時立入費用避難等対象者のうち,警戒区域内に住居を有する者が,市町村が政府及び県の支援を得て実施する「一時立入り」に参加するために負担した交通費,家財道具の移動費用,除染費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。)は,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。 ⑷ 帰宅費用避難等対象者が,対象区域の避難指示等の解除等に伴い,対象区域内の住居に最終的に戻るために負担した交通費,家財道具の移動費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。)は,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。 ⑸ 生命・身体的損害避難等対象者が被った以下のものが,賠償すべき損害と認められる。 ア本件事故により避難等を余儀なくされたため,傷害を負い,治療を要する程度に健康状態が悪化(精神的障害を含む。)し,疾病にかかり,あるいは死亡したことにより生じた逸失利益,治 認められる。 ア本件事故により避難等を余儀なくされたため,傷害を負い,治療を要する程度に健康状態が悪化(精神的障害を含む。)し,疾病にかかり,あるいは死亡したことにより生じた逸失利益,治療費,薬代,精神的損害等イ本件事故により避難等を余儀なくされ,これによる治療を要する程度の健康状態の悪化等を防止するため,負担が増加した診断費,治療費,薬代等- 439 - ⑹ 精神的損害ア本件事故において,避難等対象者が受けた精神的苦痛(生命・身体的損害を伴わないものに限る。)のうち,少なくとも以下の精神的苦痛は,賠償すべき損害と認められる。 避難指示等対象区域から実際に避難した上,引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)及び本件事故発生時には避難指示等対象区域外に居り,同区域内に住居があるものの引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)が,自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域における屋内退避を長期間余儀なくされた者が,行動の自由の制限等を余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛イ生活費の増加費用と合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定する者であれば,その年齢や世帯の人数等にかかわらず,避難等対象者個々人が賠償の対象となる。 ウ定期間を,以下の3段階に分け,それぞれの期間について,以下のとおりとする。 本件事故発生時から6か月間(第1期)第1期については,一人月額10万円を目安とする。 ただし,この間,避難所・体育館・公民館等(以下「避難 け,それぞれの期間について,以下のとおりとする。 本件事故発生時から6か月間(第1期)第1期については,一人月額10万円を目安とする。 ただし,この間,避難所・体育館・公民館等(以下「避難所等」という。)における避難生活等を余儀なくされた者については,避難所等において避- 440 - 難生活をした期間は,一人月額12万円を目安とする。 第1期終了から6か月間(第2期)第2期については,一人月額5万円を目安とする。 第2期終了から終期までの期間(第3期)第3期については,今後の本件事故の収束状況等諸般の事情を踏まえ,改めて損害額の算定方法を検討するのが妥当であると考えられる。 エ 始期については,原則として,個々の避難等対象者が避難等をした日にかかわらず,本件事故発生日である平成23年3月11日とする。ただし,緊急時避難準備区域内に住居がある子供,妊婦,要介護者,入院患者等であって,同年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難した者については,当該者が実際に避難した日を始期とする。 終期については,避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた精神的損害は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。 オ間,同区域において屋内退避をしていた者(緊急時避難準備区域から平成23年6月19日までに避難を開始した者及び計画的避難区域から避難した者を除く。)につき,一人10万円を目安とする。 ⑺ 営業損害ア従来,対象区域内で事業の全部又は一部を営んでいた者又は現に営んでいる者において,避難指示等に伴い,営業が不能になる又は取引が減少する等,その事業に支障が生じたため,現実に減収があった場合には,その減収分が賠償すべき損害と認められる。 上記減収分は,原則とし おいて,避難指示等に伴い,営業が不能になる又は取引が減少する等,その事業に支障が生じたため,現実に減収があった場合には,その減収分が賠償すべき損害と認められる。 上記減収分は,原則として,本件事故がなければ得られたであろう収益と実際に得られた収益との差額から,本件事故がなければ負担していたであろう費用と実際に負担した費用との差額(本件事故により負担を免れた費用)- 441 - を控除した額とする。 イまた,前記アの事業者において,上記のように事業に支障が生じたために負担した追加的費用(従業員に係る追加的な経費,商品や営業資産の廃棄費用,除染費用等)や,事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(事業拠点の移転費用,営業資産の移動・保管費用等)も,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。 ウさらに,同指示等の解除後も,前記アの事業者において,当該指示等に伴い事業に支障が生じたため減収があった場合には,その減収分も合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。また,同指示等の解除後に,事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用(機械等設備の復旧費用,除染費用等)も,必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。 ⑻ 就労不能等に伴う損害対象区域内に住居又は勤務先がある勤労者が避難指示等により,あるいは,前記⑺の営業損害を被った事業者に雇用されていた勤労者が当該事業者の営業損害により,その就労が不能等となった場合には,かかる勤労者について,給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。 ⑼ 財物価値の喪失又は減少等財物につき,現実に発生した以下のものについては,賠償すべき損害と認められる。なお,ここで 要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。 ⑼ 財物価値の喪失又は減少等財物につき,現実に発生した以下のものについては,賠償すべき損害と認められる。なお,ここで言う財物は動産のみならず不動産をも含む。 ア避難指示等による避難等を余儀なくされたことに伴い,対象区域内の財物の管理が不能等となったため,当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には,現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに伴う必要かつ合理的な範囲の追加的費用(当該財物の廃棄費用,修理費用等)は,賠償すべき損害と認められる。 イ前記アのほか,当該財物が対象区域内にあり,- 442 - 財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質にばく露した場合,又は 平均的・一般的な人の認識を基準として,本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には,現実に価値を喪失し又は減少した部分及び除染等の必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。 ウ対象区域内の財物の管理が不能等となり,又は放射性物質にばく露することにより,その価値が喪失又は減少することを予防するため,所有者等が支出した費用は,必要かつ合理的な範囲において賠償すべき損害と認められる。 2 中間指針第一次追補原賠審は,平成23年12月6日,自主的避難等に係る損害について,中間指針第一次追補を策定し,放射線被ばくへの恐怖や不安は,福島第一原発の状況が安定していない等の状況下で,福島第一原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡等)の要素 定していない等の状況下で,福島第一原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡等)の要素が複合的に関連して生じたと考えられ,少なくとも以下の区域においては,住民が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱いたことに相当の理由があり,また,その危険を回避するために自主的避難を行ったことに合理性があるとして,以下のとおりの指針を示した(乙B1の2)。 ⑴ 以下の福島県内の市町村のうち,避難指示等対象区域を除く区域を自主的避難等対象区域とする。 (県北地域)福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,大玉村- 443 - (県中地域)郡山市,須賀川市,田村市,鏡石町,天栄村,石川町,玉川村,平田村,浅川町,古殿町,三春村,小野町(相双地域)相馬市,新地町(いわき地域)いわき市⑵ 本件事故発生時に自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者(本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行った場合,本件事故発生時に自主的避難等対象区域外に居り引き続き同区域外に滞在した場合,当該住居に滞在を続けた場合等を問わない。)を自主的避難等対象者とし,自主的避難等対象者が受けた損害のうち,以下のものが一定の範囲で賠償すべき損害と認められる。 ア放射線被ばくへの恐怖や不安により自主的避難等対象区域内の住居から自主的避難を行った場合(本件事故発生時に区域外に居り引き続き区域外に滞在した場合を含む。以下同じ。)における以下のもの。 自主的避難によって生じた生活費の増加費用自主的避難により,正常な日常生活の維持・ 本件事故発生時に区域外に居り引き続き区域外に滞在した場合を含む。以下同じ。)における以下のもの。 自主的避難によって生じた生活費の増加費用自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛 避難及び帰宅に要した移動費用イ放射線被ばくへの恐怖や不安を抱きながら自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合における以下のもの。 放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生- 444 - 活費が増加した分があれば,その増加費用⑶ 具体的な損害額の算定の目安は以下のとおりである。 ア自主的避難等対象者のうち子供及び妊婦については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人40万円イ前記ア以外の自主的避難等対象者については,本件事故発生当初の時期の損害として一人8万円⑷ 本件事故発生時に避難指示等対象区域内に住居があった者については,賠償すべき損害は自主的避難等対象者の場合に準じるものとし,具体的な損害額の算定に当たっては次のとおりとする。 ア中間指針の精神的損害の賠償対象とされていない期間については,前記を勘案した金額とする。 イ子供及び妊婦が自主的避難等対象区域内に避難して滞在した期間については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人20万円を目安としつつ,これらの者が中間指針第一次追補の対象となる期間に応じた金額とする。 3 中間指針第二次追補原賠審は,平成24年3月16日,中間指針第二次追補を策定し,以下のとおりの指針を示した(乙B1の3)。 が中間指針第一次追補の対象となる期間に応じた金額とする。 3 中間指針第二次追補原賠審は,平成24年3月16日,中間指針第二次追補を策定し,以下のとおりの指針を示した(乙B1の3)。 ⑴ 政府による避難指示等に係る損害についてア避難費用及び精神的損害避難指示区域避難指示区域内に本件事故発生時における生活の本拠としての住居があった者の避難費用及び精神的損害は,以下のとおりとする。 a 中間指針の「第2期」を,避難指示区域見直しの時点(避難指示等対象区域において,警戒区域又は計画的避難区域の指定が解除されて,避- 445 - 難指示解除準備区域,居住制限区域又は帰還困難区域が設定される時点)まで延長し,当該時点から終期までの期間を「第3期」とする。 b 前記aの第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法は,原則として引き続き中間指針のとおりとするが,宿泊費等が賠償の対象となる額及び期間には限りがあることに留意する必要がある。 c 前記aの第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,避難者の住居があった地域に応じて,以下のとおりとする。 ⒜ 避難指示区域見直しに伴い避難指示解除準備区域に設定された地域については,一人月額10万円を目安とする。 ⒝ 避難指示区域見直しに伴い居住制限区域に設定された地域については,一人月額10万円を目安とした上,おおむね2年分としてまとめて一人240万円の請求をすることができるものとする。ただし,避難指示解除までの期間が長期化した場合は,賠償の対象となる期間に応じて追加する。 ⒞ 避難指示区域見直しに伴い帰還困難区域に設定された地域については,一人600万円を できるものとする。ただし,避難指示解除までの期間が長期化した場合は,賠償の対象となる期間に応じて追加する。 ⒞ 避難指示区域見直しに伴い帰還困難区域に設定された地域については,一人600万円を目安とする。 d 中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,避難指示区域については今後の状況を踏まえて判断されるべきものとする。 旧緊急時避難準備区域緊急時避難準備区域については,平成23年9月30日に解除されていることなどを踏まえ,当該区域内に住居があった者の避難費用及び精神的損害は,次のとおりとする。 - 446 - a 中間指針の第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法は,引き続き中間指針のとおりとする。 b 中間指針の第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,一人月額10万円を目安とする。 c 中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,旧緊急時避難準備区域については平成24年8月末までを目安とする。 特定避難勧奨地点特定避難勧奨地点については,解除に向けた検討が開始されていることなどを踏まえ,当該地点に住居があった者の避難費用及び精神的損害は,次のとおりとする。 a 中間指針の第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法は,引き続き中間指針のとおりとする。 b 中間指針の第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通 間指針の第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法は,引き続き中間指針のとおりとする。 b 中間指針の第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,一人月額10万円を目安とする。 c 中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,特定避難勧奨地点については3か月間を当面の目安とする。 イ営業損害営業損害については,中間指針で示したもののほか,次のとおりとする。 営業損害の終期は,当面は示さず,個別具体的な事情に応じて合理的に判断するものとする。 - 447 - 営業損害を被った事業者による転業・転職や臨時の営業・就労等が特別の努力と認められる場合には,かかる努力により得た利益や給与等を損害額から控除しない等の合理的かつ柔軟な対応が必要である。 ウ就労不能等に伴う損害就労不能等に伴う損害については,中間指針で示したもののほか,次のとおりとする。 就労不能等に伴う損害の終期は,当面は示さず,個別具体的な事情に応じて合理的に判断するものとする。 就労不能等に伴う損害を被った勤労者による転職や臨時の就労等が特別の努力と認められる場合には,かかる努力により得た給与等を損害額から控除しない等の合理的かつ柔軟な対応が必要である。 エ財物価値の喪失又は減少等財物価値の喪失又は減少等については,中間指針で示したもののほか,次のとおりとする。 帰還困難区域内の不動産に係る財物価値については,本件事故発生直前 価値の喪失又は減少等財物価値の喪失又は減少等については,中間指針で示したもののほか,次のとおりとする。 帰還困難区域内の不動産に係る財物価値については,本件事故発生直前の価値を基準として本件事故により100パーセント減少(全損)したものと推認することができるものとする。 居住制限区域内及び避難指示解除準備区域内の不動産に係る財物価値については,避難指示解除までの期間等を考慮して,本件事故発生直前の価値を基準として本件事故により一定程度減少したものと推認することができるものとする。 ⑵ 自主的避難等に係る損害について中間指針第一次追補において示した自主的避難等に係る損害について,平成24年1月以降に関しては,次のとおりとする。 ア少なくとも子供及び妊婦については,個別の事例又は類型ごとに,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被ば- 448 - くへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には,賠償の対象となる。 イ前記アによって賠償の対象となる場合において,賠償すべき損害及びその損害額の算定方法は,原則として中間指針第一次追補で示したとおりとする。具体的な損害額については,同追補の趣旨を踏まえ,かつ,当該損害の内容に応じて,合理的に算定するものとする。 ⑶ 除染等に係る損害について除染等に係る損害は,中間指針で示したもののほか,次のとおりとする。 ア本件事故に由来する放射性物質に関し,必要かつ合理的な範囲の除染等(汚染された土壌等の除去に加え,汚染の拡散の防止等の措置,除去土壌の収集,運搬,保管及び処分 のほか,次のとおりとする。 ア本件事故に由来する放射性物質に関し,必要かつ合理的な範囲の除染等(汚染された土壌等の除去に加え,汚染の拡散の防止等の措置,除去土壌の収集,運搬,保管及び処分並びに汚染された廃棄物の処理を含む。)を行うことに伴って必然的に生じた追加的費用,減収分及び財物価値の喪失・減少分は,賠償すべき損害と認められる。 イ住民の放射線被ばくの不安や恐怖を緩和するために地方公共団体や教育機関が行う必要かつ合理的な検査等に係る費用は,賠償すべき損害と認められる。 4 中間指針第四次追補原賠審は,平成25年12月26日,帰還困難区域は,現時点においても避難指示解除及び時期の具体的な見通しが立っておらず,避難指示が本件事故後6年を大きく超えて長期化することが見込まれている状況に鑑み,中間指針第四次追補を策定し,以下のとおりの指針を示した(乙B1の4)。 避難費用及び精神的損害について避難指示区域の第3期において賠償すべき精神的損害の具体的な損害額については,避難者の住居があった地域に応じて,以下のとおりとする。 ア帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指- 449 - 示解除準備区域については,中間指針第二次追補で帰還困難区域について示した一人600万円に1000万円を加算し,この600万円を月額に換算した場合の将来分(平成26年3月以降)の合計額(ただし,通常の範囲の生活費の増加費用を除く。)を控除した金額を目安とする。具体的には,第3期の始期が平成24年6月の場合は,加算額から将来分を控除した後の額は700万円とする。 イ前記ア以外の地域については,引き続き一人月額10万円を目安とする。 ウ住居確保に係る損害の賠償を受ける者の避難費用(生活費増加費用及び宿 算額から将来分を控除した後の額は700万円とする。 イ前記ア以外の地域については,引き続き一人月額10万円を目安とする。 ウ住居確保に係る損害の賠償を受ける者の避難費用(生活費増加費用及び宿泊費等)が賠償の対象となる期間は,特段の事情がない限り,住居確保に係る損害の賠償を受けることが可能になった後,他所で住居を取得又は賃借し,転居する時期までとする。ただし,合理的な時期までに他所で住居を取得又は賃借し,転居しない者については,合理的な時期までとする。 エ中間指針において,避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,避難指示区域については,1年間を当面の目安とし,個別の事情も踏まえ柔軟に判断するものとする。 住居確保に係る損害についてア前記アの賠償の対象者で,従前の住居が持ち家であった者が,移住又は長期避難(以下「移住等」という。)のために負担した以下の費用は賠償すべき損害と認められる。 住宅(建物で居住部分に限る。)取得のために実際に発生した費用(ただし,後記に掲げる費用を除く。)と本件事故時に所有し居住していた住宅の事故前価値(中間指針第二次追補の財物価値)との差額であって,事故前価値と当該住宅の新築時点相当の価値との差額の75%を超えない額宅地(居住部分に限る。)取得のために実際に発生した費用(ただし,- 450 - 後記に掲げる費用を除く。)と本件事故発生時に所有していた宅地の事故前価値(中間指針第二次追補の財物価値)との差額。ただし,所有していた宅地面積が400㎡以上の場合には,当該宅地の400㎡相当分の価値を所有していた宅地の事故前価値とし,取得した宅地面積が福島県都市部の平均宅 指針第二次追補の財物価値)との差額。ただし,所有していた宅地面積が400㎡以上の場合には,当該宅地の400㎡相当分の価値を所有していた宅地の事故前価値とし,取得した宅地面積が福島県都市部の平均宅地面積以上である場合には福島県都市部の平均宅地面積(ただし,所有していた宅地面積がこれより小さい場合は所有していた宅地面積)を取得した宅地面積とし,取得した宅地価格が高額な場合には福島県都市部の平均宅地面積(ただし,所有していた宅地面積がこれより小さい場合は,所有していた宅地面積)に福島県都市部の平均宅地単価を乗じた額を取得した宅地価格として算定する。 前記及びに伴う登記費用,消費税等の諸費用イ前記アの賠償の対象者以外で避難指示区域内の従前の住居が持ち家であった者のうち,移住等をすることが合理的であると認められる者が,移住等のために負担した前記ア及びの費用並びにの金額の75%に相当する費用は,賠償すべき損害と認められる。 ウ前記ア又はイ以外で従前の住居が持ち家だった者が,避難指示が解除された後に帰還するために負担した以下の費用は賠償すべき損害と認められる。 事故前に居住していた住宅の必要かつ合理的な修繕又は建替え(以下げる費用を除く。)と当該住宅の事故前価値との差額であって,事故前価値と当該住宅の新築時点相当の価値との差額の75%を超えない額必要かつ合理的な建替えのために要した当該住居の解体費用 及びに伴う登記費用,消費税等の諸費用エ従前の住居が避難指示区域内の借家であった者が,移住等又は帰還のために負担した以下の費用は賠償すべき損害と認められる。 新たに借家に入居するために負担した礼金等の一時金- 451 - 新たな借家と従前の借家との家賃の差額の8年分オ のために負担した以下の費用は賠償すべき損害と認められる。 新たに借家に入居するために負担した礼金等の一時金- 451 - 新たな借家と従前の借家との家賃の差額の8年分オ前記アないしエの賠償の対象となる費用の発生の蓋然性が高いと客観的に認められる場合には,これらの費用を事前に概算で請求することができるものとする。 5 避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方経済産業省は,平成24年7月20日,「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」を公表し,以下のような考え方を示した(乙B9の1・2)。 ⑴ 不動産(住宅・宅地)に対する賠償ア基本的な考え方帰還困難区域においては,本件事故発生前の価値の全額を賠償し,居住制限区域・避難指示解除準備区域は,本件事故発生時点から6年で全損として,避難指示の解除までの期間に応じた割合分を賠償する。 居住制限区域・避難指示解除準備区域において,避難指示の解除時期に応じた割合分は以下のとおり。 事故時点から6年経過以降:全損,5年:6分の5,4年:6分の4,3年:半額(6分の3),2年:6分の2解除の見込み時期までの期間分を当初に一括払をすることとし,実際の解除時期が見込み時期を超えた場合は,超過分について追加的に賠償を行うこととする。 解除の見込み時期は,事前に特別の決定がない場合には,居住制限区域であれば本件事故発生時点から3年,避難指示解除準備区域であれば本件事故発生時点から2年を標準とする。 イ事故発生前の価値の算定宅地については,固定資産税評価額に1.43倍の補正係数を乗じて本件事故発生前の時価相当額を算定する。 住宅については,固定資産税評価額を基に算定する方法と建築着工統計- 452 - に基づく平均新築単価を基に算定す 価額に1.43倍の補正係数を乗じて本件事故発生前の時価相当額を算定する。 住宅については,固定資産税評価額を基に算定する方法と建築着工統計- 452 - に基づく平均新築単価を基に算定する方法を基本とし,個別評価も可能とする。 a 固定資産税評価額に補正係数を乗じて事故前価値を算定する方法⒜ 当該不動産が新築であると仮定した場合の時価相当額を算定する。 Ⅰ まず,事故前の固定資産税評価額を基に経年減点補正率(減価償却分)を割り戻して,当該建物の新築時点での固定資産税評価額を算定する。 Ⅱ 次に,Ⅰで算定した固定資産税評価額と新築時点での時価相当額との調整を行うため1.7倍の補正係数を乗じる。 Ⅲ さらに,新築時点と現在との物価変動幅を調整するため,それぞれの建築年数に応じた補正係数を乗じる。 ⒝ その上で,公共用地の収用時の耐用年数(木造住宅の場合は48年)を基準とし,定額法による減価償却を行い,築年数に応じた事故発生前の価値を算定する。また,残存価値には20%の下限を設ける。 ⒞ 外構・庭木については⒜で算定した時価相当額の15%として価値を推定しつつ,そのうち庭木分として5%は経年による償却を行わないこととする。 b 建築着工統計による平均新築単価から事故前価値を算定する方法⒜ 建物の居住部分については,建築着工統計における福島県の木造住宅の直近の平均新築単価を基に,上記aと同じ減価償却,残存価値の下限,外構・庭木の評価を適用して,事故発生前の価格を算定する。 ⒝ その際,築年数が48年以上経過した建物の居住部分については,最低賠償単価(約13.6万円/坪)を適用する。 c 個別評価土地・建物について,様々な事情により,上記a及びbの算定方法が適用できない場合には,別途個別評価を行う。その際,契約書等 ついては,最低賠償単価(約13.6万円/坪)を適用する。 c 個別評価土地・建物について,様々な事情により,上記a及びbの算定方法が適用できない場合には,別途個別評価を行う。その際,契約書等から実- 453 - 際の取得価格を確認し賠償額の算定に用いる方法なども検討する。 ウ住宅の修復費用等住宅について,早期に修繕等を行いたいという要望も強いことから,基準公表後,建物の賠償の一部前払として,建物の床面積に応じた修復費用等を速やかに先行払することとする。 ⑵ 家財に対する賠償家族構成に応じて算定した定額の賠償とし,帰還困難区域は,避難指示期間中の立入りなどの条件が異なり,家財の使用が大きく制限されることなどから,居住制限区域・避難指示解除準備区域と比較して一定程度高くなる設定とする。 損害の総額が定額を上回る場合には個別評価による賠償も選択可能とする。 (次の表の4,5段目の欄の数の単位:万円)以下の家族構成以外の場合も構成人数に応じて定額を算定世帯人数1名 2名3名4名5名大人1名 2名 2名 3名 2名 4名 3名 5名子供--1名 -2名 -2名 -帰還困難区域 325 715 735 775居住制限区域避難指示解除準備区域 535 550 580⑶ 営業損害・就労不能損害に対する賠償ア営業損害・就労不能損害の一括払従来の一定期間ごとにおける実損害を賠償する方法に加え,一定年数分の営業損害,就労不能損害を一括で支払う方法を用意する。 農林業についての一括払の算定期間は,平成24年1月分から平成2 従来の一定期間ごとにおける実損害を賠償する方法に加え,一定年数分の営業損害,就労不能損害を一括で支払う方法を用意する。 農林業についての一括払の算定期間は,平成24年1月分から平成28年12月分まで(5年分)とする。ただし,平成24年1月分から同年- 454 - 6月分までについて既に支払われたか,又は支払われる予定の額があるときには,その額を除いた額とする。 その他の業種についての一括払の算定期間は,平成24年3月分から平成27年2月分まで(3年分)とする。ただし,平成24年3月分から同年6月分までについて既に支払われたか,又は支払われる予定の額があるときには,その額を除いた額とする。 給与所得についての一括払の算定期間は,平成24年3月分から平成26年2月分まで(2年分)とする。ただし,平成24年3月分から同年5月分までについて支払われたか,又は支払われる予定のある額があるときには,その額を控除した額とする。 イ営業損害及び就労不能損害の賠償対象者が,営業・就労再開,転業・転職により収入を得た場合,一括払の算定期間中の当該収入分の控除は行わない。 ウ帰還して営農や営業を再開する場合,その際に必要な追加的費用に加え,一括払の対象期間終了後の風評被害等についても別途賠償の対象とする。 ⑷ 精神的損害に対する賠償ア平成24年6月以降の精神的損害について,帰還困難区域で600万円,居住制限区域で240万円(2年分),避難指示解除準備区域で120万円(1年分)を標準とし,一括払を行う。 イ居住制限区域,避難指示解除準備区域について,解除の見込み時期が前記アの標準期間を超える場合には,解除見込み時期に応じた期間分の一括払を行う。その上で,実際の解除時期が標準の 払を行う。 イ居住制限区域,避難指示解除準備区域について,解除の見込み時期が前記アの標準期間を超える場合には,解除見込み時期に応じた期間分の一括払を行う。その上で,実際の解除時期が標準の期間や解除の見込み時期を超えた場合は,超過分の期間について追加的に賠償を行うこととする。 6 被告東電の賠償基準⑴ 被告東電は,平成23年8月5日に原賠審において策定された中間指針を踏まえ,同月30日付けプレスリリースにより,避難等対象者に対する避難- 455 - 生活等による精神的損害について,次のとおりの賠償基準を公表した(乙B40)。 ア平成23年3月11日から同年8月31日まで1人当たり月額10万円又は12万円イ平成23年9月1日から平成24年2月29日まで1人当たり月額5万円⑵ 被告東電は,平成23年11月24日付けプレスリリースにより,避難等対象者に対する避難生活等による精神的損害(対象期間:平成23年9月1日から平成24年2月29日まで)について,以下のとおり,賠償基準を見直すことを公表した(乙B41)。 ア見直し前1人当たり月額5万円イ見直し後1人当たり月額10万円又は12万円⑶ 被告東電は,中間指針第一次追補を踏まえ,平成24年2月28日付けプレスリリースにより,本件事故発生時に自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者に係る自主的避難等に係る損害について,次のとおりの賠償基準を公表した(乙B13)。 ア 18歳以下であった者(誕生日が平成4年3月12日から平成23年12月31日までの者)及び妊婦(平成23年3月11日から同年12月31日までの間に妊娠していた期間のある者)対象期間平成23年3月11日から同年12月31日まで 23年12月31日までの者)及び妊婦(平成23年3月11日から同年12月31日までの間に妊娠していた期間のある者)対象期間平成23年3月11日から同年12月31日まで賠償金額一人当たり40万円イ上記ア以外の者対象期間平成23年3月11日から同年4月22日まで賠償金額一人当たり8万円- 456 - ⑷ 被告東電は,平成24年6月11日付けプレスリリースにより,福島県県南地域(白河市,西郷村,泉崎村,中島村,矢吹町,棚倉町,矢祭町,塙町,鮫川村)における自主的避難等に係る損害について,次のとおりの賠償基準を公表した(乙B60)。 ア対象者本件事故発生時に福島県県南地域に生活の本拠としての住居があった者で,18歳以下であった者(誕生日が平成4年3月12日から平成23年12月31日までの者)及び妊娠していた者(平成23年3月11日から同年12月31日までの間に妊娠していた期間があった者)イ対象期間平成23年3月11日から同年12月31日までウ賠償金額一人当たり20万円⑸ 被告東電は,中間指針第二次追補等を踏まえ,平成24年6月21日付けプレスリリースにより,旧緊急時避難準備区域内に生活の本拠としての住居があった者について,当該区域からの避難の有無や帰還した時期にかかわらず,精神的損害に係る賠償金として,1人当たり月額10万円を支払うことを公表した(乙B7)。 ⑹ 被告東電は,中間指針第二次追補及び「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」を踏まえ,平成24年7月24日付けプレスリリースにより,以下のとおり,避難指示区域における賠償基準を公表した(乙B43)。 ア財物に係る賠 「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」を踏まえ,平成24年7月24日付けプレスリリースにより,以下のとおり,避難指示区域における賠償基準を公表した(乙B43)。 ア財物に係る賠償について宅地・建物(外構を含む)に係る賠償本件事故発生当時に避難指示区域内に宅地・建物を所有していた者に対し,当該財物価値の喪失又は減少分を賠償する。 a 帰還困難区域- 457 - 本件事故発生当時の財物価値を全額賠償する。算定方法は,以下の方法から選択できる。 ⒜ 次の算定式は,原則として平成22年度の固定資産税評価額を用いて宅地・建物の価値を算定する場合に適用する。 <宅地の賠償額算定式>固定資産税評価額×宅地係数(1.43)<建物の賠償額算定式>固定資産税評価額×建物係数⒝ 次の算定式は,国土交通省が公表している建築着工統計調査報告に基づく平均新築単価を基礎として居住していた建物の価値を算定する場合に適用する。 <建物の賠償額算定式>建築着工統計に基づく平均新築単価を基礎とした単価×床面積(㎡)※宅地については前記⒜の賠償額算定方式を適用する。 ⒞ 前記⒜,⒝の賠償額算定方式によることができない場合には,別途,個別評価を行い賠償する。なお,個別評価をした場合には,原則として,個別評価に基づき算定した賠償金を支払う。 b 居住制限区域,避難指示解除準備区域上記aの考え方により本件事故発生当時の財物価値を算定した上で,避難指示の解除見込み時期に応じた避難指示期間割合を乗じて算定した金額を賠償する。 なお,避難指示解除の時期が,当初設定した避難指示の解除見込み時期を超えた場合には,実際の解除時期に応じた金額を追加して支払う。 家財に係る賠償- 458 - 本件事故発生当時に避 。 なお,避難指示解除の時期が,当初設定した避難指示の解除見込み時期を超えた場合には,実際の解除時期に応じた金額を追加して支払う。 家財に係る賠償- 458 - 本件事故発生当時に避難指示区域内の建物に家財を所有していた者を対象に,避難に伴い発生したと想定される家財の損害を世帯人数・家族構成ごとに定額で賠償する。なお,帰還困難区域については,避難指示期間中の立入りなどの条件が異なり,家財の使用が大きく制限されることなどから,他の区域と比較して一定程度賠償額を高く設定する。 また,実際の損害総額が定額を上回ると想定される場合については,別途,個別評価による賠償方法を選択できる。 イ精神的損害(避難に伴う生活費の増分を含む。)について(将来分を含めた一定期間に発生する全ての損害項目に対する賠償金を包括して請求する場合)帰還困難区域1人当たり600万円(対象期間:平成24年6月1日から平成29年5月31日まで)居住制限区域1人当たり240万円(対象期間:平成24年6月1日から平成26年5月31日まで)避難指示解除準備区域1人当たり120万円(対象期間:平成24年6月1日から平成25年5月31日まで)避難指示の解除見込み時期が決定された場合には,その期間に応じた金額を支払う。また,避難指示解除までに要する期間が長引いた場合には,実際の解除時期に応じた金額を追加して支払う。 ⑺ 被告東電は,中間指針第二次追補及び「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」を踏まえ,平成24年7月24日付けプレスリリースにより,旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域,南相馬市の一部地域及び特定- 459 - 避難勧奨地点に住居があった者の精神的損害(避難に伴う生活費の増分を含む。)について,次の レスリリースにより,旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域,南相馬市の一部地域及び特定- 459 - 避難勧奨地点に住居があった者の精神的損害(避難に伴う生活費の増分を含む。)について,次のとおりの賠償基準を公表した(乙B27)。 ア旧緊急時避難準備区域(将来分を含めた一定期間に発生する全ての損害項目に対する賠償金を包括して請求する場合)対象期間を平成24年6月1日から同年8月31日までとし,当該期間分の精神的損害に対する賠償金として,1人当たり30万円を支払う。 中学生以下の者については,学校などの再開状況を踏まえ,平成24年9月1日から平成25年3月31日までの精神的損害に係る賠償として,1人当たり35万円(月額5万円)を支払う。 通院交通費等の生活費の増加分については,インフラの復旧状況等を踏まえ,平成24年9月1日から平成25年3月31日までの通院交通費等の増加分として一人当たり20万円を支払う。 イ旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域又は南相馬市の一部地域に早期に帰還した者や本件事故発生当初から避難せずに当該区域に滞在し続けた者に対し,対象となる期間(旧緊急時避難準備区域については平成23年3月11日から平成24年2月29日まで,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域については平成23年3月11日から同年9月30日まで)において精神的損害が支払われていない期間に応じて,1人当たり月額10万円を支払う。 ⑻ 被告東電は,平成24年8月13日付けプレスリリースにより,本件事故発生時に旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域に生活の本拠としての住居があった者のうち,本件事故発生により避難した後,以下の対象期間の中途で帰還し,又は本件事故発生当初から避難せずに当該区域に滞在し続けたことな 退避区域及び南相馬市の一部地域に生活の本拠としての住居があった者のうち,本件事故発生により避難した後,以下の対象期間の中途で帰還し,又は本件事故発生当初から避難せずに当該区域に滞在し続けたことなどにより,以下の対象期間において,避難生活等による精神的損害に係る賠償金を受領していない期間のある者の損害を賠償することを公表した(乙B48)。 - 460 - ア対象期間 旧緊急時避難準備区域平成23年3月11日から平成24年2月29日まで 旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域平成23年3月11日から同年9月30日までイ賠償金額一人当たり月額10万円ウ対象となる損害避難等によって被った精神的苦痛に対する損害避難生活等による生活費の増加費用⑼ 被告東電は,中間指針第一次追補及び中間指針第二次追補を踏まえ,平成24年12月5日付けプレスリリースにより,自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居のあった者並びに福島県県南地域及び宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者の自主的避難等に係る損害について,以下のとおり,追加の賠償を実施することを公表した(乙B14)。 ア自主的避難等対象区域精神的損害等に対する賠償a 賠償の対象となる損害平成24年1月1日から同年8月31日までの間の以下の損害⒜ 自主的避難を行った場合,自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用⒝ 自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続 活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用⒝ 自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び生活費が増加した分があればその増加費用- 461 - b 賠償対象者及び賠償金額本件事故発生時に自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居があった者で平成24年1月1日から同年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者及び上記期間に妊娠していた期間がある者並びに平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記各対象者から出生した者について,一人当たり8万円追加的費用等に対する賠償a 賠償の対象となる損害自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用など)中間指針第一次追補に基づく賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用b 賠償対象者及び賠償金額本件事故発生時に自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居があった者及び平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記の者から出生した者について,一人当たり4万円イ福島県県南地域及び宮城県丸森町 精神的損害等に対する賠償a 賠償の対象となる損害平成24年1月1日から同年8月31日までの間の以下の損害⒜ 自主的避難を行った場合,自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用等⒝ 福島県県南地域又は宮城県丸森町に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに 続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用等⒝ 福島県県南地域又は宮城県丸森町に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,- 462 - 正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び生活費が増加した分があればその増加費用b 賠償対象者及び賠償金額平成24年1月1日から同年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者及び上記期間に妊娠していた期間がある者並びに平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記各対象者から出生した者について,一人当たり4万円 追加的費用に対する賠償a 賠償の対象となる損害⒜ 福島県県南地域又は宮城県丸森町での生活において負担された追加的費用(清掃業者への委託費用など)⒝ 中間指針第一次追補に基づく賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用b 賠償対象者及び賠償金額本件事故発生時に福島県県南地域又は宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者及び平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記の者から出生した者について,一人当たり4万円⑽ 被告東電は,平成25年2月13日付けプレスリリースにより,以下のとおり,避難等対象区域の者並びに福島県県南地域及び宮城県丸森町の者に対する自主的避難等に係る損害に対する追加の賠償を行うことを公表した(乙B62)。 ア避難等対象区域の者 精神的損害等に対する賠償a 賠償の対象となる損害平成24年1月1日から同年8月31日までの間の以下の損害- 463 - ア避難等対象区域の者 精神的損害等に対する賠償a 賠償の対象となる損害平成24年1月1日から同年8月31日までの間の以下の損害- 463 - ⒜ 自主的避難を行った場合,自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛等⒝ 避難等対象区域又は自主的避難対象区域に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛等b 対象者本件事故発生時に避難等対象区域に生活の本拠としての住居があり,平成24年1月1日から同年8月31日までの間に避難等対象区域又は自主的避難等対象区域に避難又は滞在した者のうち,平成24年1月1日から同年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者及び同期間に妊娠していた期間がある者並びに平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記各対象者から出生した者c 賠償金額一人当たり8万円 追加的費用等に対する賠償a 賠償の対象となる損害避難等対象区域での生活において負担した追加的費用等(清掃業者への委託費用など)b 対象者本件事故発生時に旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域に生活の本拠としての住居があった者及び平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記の者から出生した者c 賠償金額一人当たり4万円イ福島県県南地域及び宮城県丸森町の者- 464 - 精神的損害等に対する賠償a 賠償の対象となる損害平成24年1月1日から同年8月 万円イ福島県県南地域及び宮城県丸森町の者- 464 - 精神的損害等に対する賠償a 賠償の対象となる損害平成24年1月1日から同年8月31日までの間の以下の損害⒜ 自主的避難を行った場合,自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用等⒝ 福島県県南地域又は宮城県丸森町に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び生活費が増加した分があればその増加費用b 対象者本件事故発生時に福島県県南地域又は宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者のうち,平成24年1月1日から同年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者及び同期間に妊娠していた期間がある者並びに平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記の者から出生した者c 賠償金額一人当たり4万円 追加的費用等に対する賠償a 賠償の対象となる損害福島県県南地域又は宮城県丸森町での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用など)前回の賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用b 対象者- 465 - 本件事故発生時に福島県県南地域又は宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者及び平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記の者から出生した者c 賠償金額一人当たり4万円⑾ 被 宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者及び平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記の者から出生した者c 賠償金額一人当たり4万円⑾ 被告東電は,平成25年3月29日付けプレスリリースにより,以下のとおり,家財の賠償を行うことを公表した(乙B12)。 ア賠償の対象となる損害本件事故発生時点において避難指示区域内に住宅に所有していた家財について,持ち出すことができず価値が喪失した家財の時価相当額及び避難等による管理不能等により毀損した家財の原状回復費イ対象者本件事故発生時点において避難指示区域内に居住していた者及び避難指示区域外に居住されていたものの避難指示区域内に住宅を所有又は賃借していた者ウ賠償金額 避難指示区域内に居住していた者に対する定型賠償a 一般家財の賠償本件事故発生時点の世帯人数及び家族構成に応じて以下のとおり金額を設定した。 世帯構成 単身世帯の場合(定額)複数人世帯の場合(世帯基礎額+家族構成に応じた加算額) 学生加算額- 466 - 居住していた場所世帯基礎額大人1人当たり子供1人当たり帰還困難区域325万円 40万円475万円 60万円40万円居住制限区域避難指示解除準備区域245万円 30万円355万円 45万円30万円b 高額家財の賠償避難等に伴う管理不能等により1品当たりの購入金額が30万円以上の家財が毀損した場合,修理清掃費用相当額として,前記aとは別に1世帯当たり20万円を支払う。 避難指示区域外に居住していた者に対する定型賠償本件事故発生時点において 額が30万円以上の家財が毀損した場合,修理清掃費用相当額として,前記aとは別に1世帯当たり20万円を支払う。 避難指示区域外に居住していた者に対する定型賠償本件事故発生時点において避難指示区域内に自己使用目的で所有していた家財に管理不能等による毀損が発生した場合は,修理清掃費用相当額として,所有者1人当たり10万円を支払う。 ⑿ 被告東電は,平成25年11月29日付けプレスリリースにより,以下のとおり,田畑に係る財物賠償を開始することを公表した(乙B11,248)。 ア対象財産及び損害本件事故発生時に避難指示区域内に所有していた田畑本件事故による避難等に伴い,避難指示期間中に生じた市場価値の減少分を賠償の対象とする。 イ賠償金額賠償金額=時価相当額×避難指示期間割合(本件事故発生時から避難指示の解除見込み時期までの月数を分子,72か月を分母として算定した数値。 ただし1を上限とする。)×持分割合+諸費用(定額1万円とし,1万円を超える場合には合理的な範囲の実費)時価相当額については,以下の算定式により算定する。 一般田畑の場合- 467 - 時価相当額=(社)福島県不動産鑑定士協会の調査結果に基づく評価額単価(円/㎡)×対象地の面積(㎡) 一般田畑のうち都市計画法により用途地域に指定されている地域内に存在する田畑時価相当額=標準宅地の評価額単価(円/㎡)×区分に応じて設定した宅地価格に対する価値割合(%)×対象地の面積(㎡) 介在田畑(農地転用許可を受けている未転用の田畑)時価相当額={(社)福島県不動産鑑定士協会が個別に標準宅地より比準評価した評価額単価(円/ 合(%)×対象地の面積(㎡) 介在田畑(農地転用許可を受けている未転用の田畑)時価相当額={(社)福島県不動産鑑定士協会が個別に標準宅地より比準評価した評価額単価(円/㎡)-宅地造成費相当額(300円/㎡)}×対象地の面積(㎡)⒀ 被告東電は,平成26年1月17日付けプレスリリースにより,本件事故発生時において避難等対象区域内に生活の本拠を有していた者で,避難等を余儀なくされた要介護者等への避難生活等による精神的損害の賠償について,以下のとおり賠償を増額することを公表した(乙B244)。 ア要介護状態等にある者(介護保険被保険者証により要介護5ないし1の認定を受けていることが確認できる者,身体障害者手帳により身体障害者等級1ないし6級の認定を受けていることが確認できる者,精神障害者保健福祉手帳により精神障害等級1ないし3級の認定を受けていることが確認できる者,療育手帳により障がいの程度A又はBの認定を受けていることが確認できる者)要介護状態に応じて月額1万円から2万円イ恒常的に介護が必要な者(介護保険被保険者証により要介護5又は4の認定を受けていることが確認できる者,身体障害者手帳により身体障害者等級1級又は2級の認定を受けていることが確認できる者,精神障害者保健福祉手帳により精神障害等級1級の認定を受けていることが確認できる者,療育手帳により障がいの程度Aの認定を受けていることが確認できる者)を介護- 468 - している者一人当たり月額1万円⒁ 被告東電は,平成26年2月24日付けプレスリリースにより,平成26年3月以降の就労不能損害及び避難指示解除後の帰還に伴う就労不能損害について,以下のとおり賠償を実施することを公表した(乙B372)。 ア ,平成26年2月24日付けプレスリリースにより,平成26年3月以降の就労不能損害及び避難指示解除後の帰還に伴う就労不能損害について,以下のとおり賠償を実施することを公表した(乙B372)。 ア平成26年3月以降の就労不能損害 対象者本件事故発生時点において避難指示区域内に生活の本拠又は勤務先があった者のうち,以下のいずれかに該当する者a 本件事故に伴う避難によって就労が困難となり,減収となった給与所得者又は失業状態となった給与所得者で就労意思のある者b 本件事故発生時点において就職・復職を予定していた者で,本件事故に伴う避難によって当該予定先への就労が困難となり,減収となった者又は失業状態となった者で就労意思のある者 対象となる損害a 就労できなくなり,収入が無くなったことによる減収額b 収入が減少した場合の本件事故発生前の収入との差額c 本件事故発生時点において就職・復職を予定していた会社から得られたであろう収入が無くなったことによる減収額d 避難等対象区域内にあった勤務先が本件事故により移転・休業等を余儀なくされたために勤務先の変更又は転職等を余儀なくされた場合に負担した通勤交通費増加額若しくは避難を余儀なくされたことによる通勤交通費増加額 対象期間平成26年3月1日から平成27年2月28日までの12か月間を上限とする。 - 469 - イ避難指示解除後の帰還に伴う就労不能損害 対象者本件事故発生時点において避難指示区域内に生活の本拠があった者で,避難指示解除後相当期間内に帰還した者のうち,以下のいずれかに該当する者a 帰還に伴う就労環境の変化によって就労が困難となり,減収となった給与所得者又は失業状態と 生活の本拠があった者で,避難指示解除後相当期間内に帰還した者のうち,以下のいずれかに該当する者a 帰還に伴う就労環境の変化によって就労が困難となり,減収となった給与所得者又は失業状態となった給与所得者で就労意思のある者b 本件事故発生時点において就職・復職を予定していた者で,帰還に伴う就労環境の変化によって当該予定先への就労が困難となり,減収となった者又は失業状態となった者で就労意思のある者 対象となる損害帰還に伴う就労環境の変化により生じた以下の損害a 就労できなくなり,収入が無くなったことによる減収額b 収入が減少した場合の本件事故発生前の収入との差額c 本件事故発生時点において就職・復職を予定していた会社から得られたであろう収入が無くなったことによる減収額d 帰還後に勤務先の変更又は転職等を余儀なくされた場合に負担した通勤交通費増加額 対象期間帰還後損害が初めて発生した月から12か月間を上限とする。 ウ賠償金額本件事故がなければ得られたであろう収入から実際に得られた収入を差し引いた金額通勤交通費の増加分として,本件事故後の通勤交通費から本件事故前の通勤交通費を差し引いた金額⒂ 被告東電は,中間指針第四次追補を踏まえ,平成26年3月26日付けプレ- 470 - スリリースにより,移住を余儀なくされたことによる精神的損害について,以下のとおり,賠償を実施することを公表した(乙B44)。 ア対象者本件事故発生時点において生活の本拠が帰還困難区域,大熊町又は双葉町の居住制限区域又は避難指示解除準備区域にあり,避難等を余儀なくされ,かつ避難指示区域見直し時点又は平成24年6月1日のうち,いずれか早い時点において避 の本拠が帰還困難区域,大熊町又は双葉町の居住制限区域又は避難指示解除準備区域にあり,避難等を余儀なくされ,かつ避難指示区域見直し時点又は平成24年6月1日のうち,いずれか早い時点において避難等対象者である者イ対象となる損害本件事故に伴い長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされたことによる精神的苦痛等による損害(将来分を含む。)ウ賠償金額一人当たり700万円⒃ 被告東電は,中間指針第四次追補を踏まえ,平成26年3月26日付けプレスリリースにより,避難指示解除後の相当期間(1年間)に発生する損害について,以下のとおり,賠償することを公表した(乙B45)。 ア対象者本件事故発生時点において居住制限区域又は避難指示解除準備区域(ただし,いずれも大熊町及び双葉町を除く。)のうち,避難指示が解除された区域に生活の本拠があった者イ対象となる損害及び賠償金額避難生活等による精神的損害一人当たり120万円(相当期間分を一括で支払う場合)一人当たり月額10万円(相当期間終了まで3か月ごとに支払う場合) 避難・帰宅等に係る費用相当額- 471 - 18万5000円(相当期間分を一括で支払う場合)負担した実費のうち必要かつ合理的な範囲の金額(相当期間終了まで3か月ごとに支払う場合) 家賃に係る費用相当額負担した家賃(家賃補助額を控除)のうち必要かつ合理的な範囲の金額⒄ 被告東電は,中間指針第四次追補を踏まえ,平成26年4月30日付けプレスリリースにより,避難指示区域に住宅を所有して居住していた者の住居確保に係る費用について,以下のと かつ合理的な範囲の金額⒄ 被告東電は,中間指針第四次追補を踏まえ,平成26年4月30日付けプレスリリースにより,避難指示区域に住宅を所有して居住していた者の住居確保に係る費用について,以下のとおり,賠償することを公表した(乙B249)。 ア自ら所有する建物に居住していた者に対する住居確保損害の賠償について対象者及び対象となる費用についてa 帰還する場合⒜ 対象者本件事故発生時点において帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域(以下「移住を余儀なくされた区域」という。)以外の避難指示区域に住宅を所有して居住していた者のうち,管理不能に起因する建替え・修繕が必要である者⒝ 対象となる費用建築物,構築物・庭木に係る建替え・修繕費用,建替えに要した解体費用及び建替え・修繕に係る登記費用,消費税等の諸費用のうち,必要かつ合理的な範囲内の費用b 移住する場合⒜ 対象者本件事故発生時点において移住を余儀なくされた区域に住宅を所有して居住していた者- 472 - 本件事故発生時点において移住を余儀なくされた区域以外の避難指示区域内にある住宅を所有して居住していた者のうち,移住をすることが合理的と認められる者⒝ 対象となる費用建築物,構築物・庭木及び宅地に係る再取得費用及び再取得に係る登記費用,消費税等の諸費用のうち必要かつ合理的な範囲内の費用賠償金額について実際に負担した費用が,支払済みの「宅地・建物・借地権」の賠償金額を超過した場合の超過分について,賠償上限金額の範囲内で支払う。 賠償上限金額について「宅地・建物・借地権」の賠償金額と下記の算定方法により対象資産ごとに算定される金額を合算した額を賠償上限金額とする。なお,住宅については,「 上限金額の範囲内で支払う。 賠償上限金額について「宅地・建物・借地権」の賠償金額と下記の算定方法により対象資産ごとに算定される金額を合算した額を賠償上限金額とする。なお,住宅については,「宅地・建物・借地権」の賠償における時価相当額と賠償金額の差額分を加算して,賠償上限金額を算定する。 賠償上限金額の算定対象資産は,本件事故発生時点において居住していた住所に所在する,同一地番内の建築物(特定の高額な設備等を含む。),構築物・庭木及び宅地とする。 建築物については,原則として居住部分を賠償対象とするが,課税情報の用途が「併用」や居住用用途以外の場合でも,床面積が250㎡以内であれば,床面積の全てを居住部分であるとみなして算定する。 a 帰還する場合⒜ 住宅(算定対象資産の想定新築価格-算定対象資産の時価相当額)×75%住宅が地震及び津波による損害を受けている場合,想定新築価格及び時価相当額からその損害を控除して,賠償上限金額を算定する。 - 473 - ⒝ 諸費用登記費用(申請に係る手数料を含む。),消費税等の住居確保に係る必要かつ合理的な範囲内の費用b 移住する場合⒜ 住宅帰還する場合と同じ。 ⒝ 土地従前の宅地面積(250㎡を上限)×3万8000円/㎡-従前の宅地面積(400㎡を上限)×従前の宅地単価移住を余儀なくされた区域以外に居住していた者で,移住をすることが合理的である場合は,上記算定式に75%を乗じる。 ⒞ 諸費用帰還する場合と同じ。 イ借家に居住していた者に対する住居確保損害の賠償について対象者について本件事故発生時点において,避難指示区域内の借家に居住していた者対象となる費用について移住・帰還する先での新たな住居を確保するための費用として,以下の 害の賠償について対象者について本件事故発生時点において,避難指示区域内の借家に居住していた者対象となる費用について移住・帰還する先での新たな住居を確保するための費用として,以下の費用を支払う。 a 新たに借家に入居するための礼金等の一時金相当額b 新たな借家と従前の借家との家賃差額相当額(8年分)賠償金額について帰還又は移住する先の住所に応じて,中間指針第四次追補を踏まえ,福島県都市部の借家の平均的な家賃と避難指示区域内の借家の平均的な家賃を基に算定した賠償金を,本件事故発生時点の世帯の人数に応じて定額で支払う。 - 474 - a 避難指示区域であった地域を新たな生活の本拠とする場合新たに借家に入居するための礼金等の一時金相当額として,1人世帯の場合は10万円(世帯人数が一人増えるごとに1万円を加算)なお,避難指示区域であった地域を新たな生活の本拠とする場合,本件事故発生時点と同等の家賃水準となることが見込まれることを踏まえ,上記の賠償金には,新たな借家と本件事故発生時点の借家との家賃差額相当額は含まれていない。ただし,本件事故発生時点の借家の家賃が低廉であって,新たな家賃との差額が発生する場合には,負担した家賃の差額を必要かつ合理的な範囲内で支払う。 b 避難指示区域外の地域を新たな生活の本拠とする場合新たな借家と本件事故発生時点の借家との家賃差額相当額(8年分)及び新たに入居するための礼金等の一時金相当額として,1人世帯の場合162万円(世帯人数が一人増えるごとに61万円を加算)⒅ 被告東電は,平成26年9月18日付けプレスリリースにより,避難指示区域内の宅地・田畑以外の土地及び立木に係る財物賠償について,以下のとおり賠償を行うことを公表した(乙B381)。 ア宅地 被告東電は,平成26年9月18日付けプレスリリースにより,避難指示区域内の宅地・田畑以外の土地及び立木に係る財物賠償について,以下のとおり賠償を行うことを公表した(乙B381)。 ア宅地・田畑以外の土地に係る財物賠償 対象者本件事故発生時点において,賠償の対象となる資産を所有していた個人及び中小法人並びに本件事故発生以降に相続により賠償の対象となる資産を取得し相続登記した者等 対象となる資産本件事故発生時点において,避難指示区域内に所有していた宅地・田畑以外の土地を,「準宅地」「事業地」「山林の土地」「原野等の土地」に分類して賠償の対象とする。 対象となる損害- 475 - 本件事故による避難等に伴い,避難指示期間中に生じた市場価値の減少分 賠償金額賠償金額=時価相当額×避難指示期間割合×持分割合+諸費用時価相当額については,以下の算定式により算定する。 a 準宅地時価相当額=宅地の価格水準を基に土地ごとに評価した単価(円/㎡)×対象地の面積(㎡)b 事業地時価相当額=土地ごとの特性に応じて評価した単価(円/㎡)×対象地の面積(㎡)c 山林の土地,原野等の土地時価相当額=状況類似地区ごとに設定した単価(円/㎡)×対象地の面積(㎡)イ立木に係る財物賠償 対象者 対象となる資産本件事故発生時点において,避難指示区域内に所有していた市場価値のある立木(販売が見込まれる立木) 対象となる損害本件事故による避 対象となる資産本件事故発生時点において,避難指示区域内に所有していた市場価値のある立木(販売が見込まれる立木) 対象となる損害本件事故による避難等に伴い,商品として出荷が困難となることから,土地に定着している状態で伐採後の市場価値が全て失われたものとして賠償する。 賠償金額賠償金額=時価相当額×持分割合+諸経費- 476 - 時価相当額については,以下の算定式により算定する。 a 人工林時価相当額=人工林単価(100円/㎡)×対象地の面積(㎡)b 時価相当額=天然林単価(300円/㎡)×対象地の面積(㎡)⒆ 被告東電は,平成27年2月25日付けプレスリリースにより,避難指示区域内の家財に係る賠償について,以下のとおり賠償することを公表した(乙B375,383)。 ア対象者家財定型賠償を合意した者のうち,家財に生じた損害を個別に積み上げた合計金額が定型賠償金額を超える者イ対象となる資産本件事故発生時点において避難指示区域内に個人が所有する家財のうち,持ち出すことができずに本件事故発生以降も住宅に残されている家財を対象とし,高額家財は一品当たりの購入金額が30万円(税込)以上の家財,一般家財は一品当たりの購入金額が30万円(税込)未満の家財として分類する。 ウ対象となる損害持ち出すことができずに財物価値が喪失した家財の本件事故時点の時価相当額又は避難等による管理不能に伴い財物価値が減少した家財の原状回復費用(実費)を対象とするが,時価相当額については,原則として,高額家財及び一般家財の購入金額にそれぞれの時間経過に伴い低減 時価相当額又は避難等による管理不能に伴い財物価値が減少した家財の原状回復費用(実費)を対象とするが,時価相当額については,原則として,高額家財及び一般家財の購入金額にそれぞれの時間経過に伴い低減した価値を控除した金額とする。 エ賠償金額 避難指示区域内に居住していた者賠償金額=(高額家財の時価相当額・原状回復費用-高額家財の定型賠償金額)+(一般家財の時価相当額・原状回復費用-一般家財の定型賠償- 477 - 金額)+諸費用 避難指示区域外に居住していた者賠償金額=(高額家財の時価相当額・原状回復費用)+(一般家財の時価相当額・原状回復費用)-定型賠償金額+諸費用⒇ 被告東電は,平成27年6月17日付けプレスリリースにより,法人及び個人事業主に対する営業損害賠償等について,以下のとおり,賠償を行うことを公表した(乙B245)。 ア避難指示区域 対象者避難指示区域において事業を営んでいた法人及び個人事業主のうち,避難指示等に伴い平成27年3月以降も被害の継続が認められる者 対象となる損害a 従前事業の商圏を喪失したことなどに伴い,帰還や移転,転業,就労等に係る平成27年3月以降の将来にわたる損害(避難指示や風評被害等により事業に支障が生じたことによる逸失利益等,将来減収として顕在化する本件事故と相当因果関係が認められる損害を含む。)b 本件事故に伴い支出を余儀なくされた追加的費用c 事業用資産に係る修復費用及び廃棄費用賠償金額a 平成27年3月以降の将来にわたる損害については減収率100%の年間逸失利益の2倍b 追加的費用については実費のうち必要かつ合 事業用資産に係る修復費用及び廃棄費用賠償金額a 平成27年3月以降の将来にわたる損害については減収率100%の年間逸失利益の2倍b 追加的費用については実費のうち必要かつ合理的な範囲の費用c 事業用資産に係る修復費用については,修復費用の実費額が財物賠償での賠償金額を超過した場合,時価相当額と財物賠償での賠償金額の差額の範囲内での超過分d 廃棄費用については,財物賠償の対象資産が修復できない場合,実費- 478 - のうち必要かつ合理的な範囲の費用イ旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部区域 対象者a 旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部区域で事業を営んでいた法人及び個人事業主のうち,本件事故により休業を余儀なくされ平成27年3月以降も被害の継続が認められる事業者b 平成27年8月以降,旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部区域で本件事故により減収を被った事業者 対象となる損害a 休業の継続を余儀なくされた事業者従前事業の商圏を喪失したことなどに伴い,転業や就労等に係る平成27年3月以降の将来にわたる損害(避難指示等により事業に支障が生じたことによる逸失利益等,将来減収として顕在化する本件事故と相当因果関係が認められる損害を含む。)本件事故に伴い支出を余儀なくされた追加的費用b 減収を被った事業者平成27年8月以降の本件事故と相当因果関係が認められる減収相当分(本件事故と相当因果関係が認められる事由により生じた逸失利益等,将来減収として顕在化する損害を含む。)本件事故に伴い支出を余儀なくされた追加的費用賠償金 認められる減収相当分(本件事故と相当因果関係が認められる事由により生じた逸失利益等,将来減収として顕在化する損害を含む。)本件事故に伴い支出を余儀なくされた追加的費用賠償金額a 休業を余儀なくされた事業者平成27年3月以降の将来にわたる損害については減収率100%の年間逸失利益の2倍追加的費用については実費のうち必要かつ合理的な範囲の費用b 減収を被った事業者- 479 - 平成27年8月以降将来にわたり発生する本件事故と相当因果関係が認められる減収相当分として,直近の減収に基づく年間逸失利益の2倍追加的費用については実費のうち必要かつ合理的な範囲の費用ウ避難等対象区域外 対象者平成27年8月以降,避難等対象区域外で事業を営んでいる事業者のうち,風評被害等本件事故と相当因果関係が認められる減収を被っている者 対象となる損害a 平成27年8月以降の風評被害等本件事故と相当因果関係が認められる減収相当分(本件事故と相当因果関係が認められる事由により生じた逸失利益等,将来減収として顕在化する損害を含む。)b 本件事故に伴い支払を余儀なくされた追加的費用 賠償金額a 平成27年8月以降将来にわたり発生する本件事故と相当因果関係が認められる減収相当分として,直近の減収に基づく年間逸失利益の2倍b 追加的費用については実費のうち必要かつ合理的な範囲の費用被告東電は,平成27年8月26日付けプレスリリースにより,本件事故発生当時における生活の本拠が避難指示解除準備区域及び居住制限区域(大熊町及び双葉町を除く。)内にあ 必要かつ合理的な範囲の費用被告東電は,平成27年8月26日付けプレスリリースにより,本件事故発生当時における生活の本拠が避難指示解除準備区域及び居住制限区域(大熊町及び双葉町を除く。)内にあった者について,早期に避難指示が解除された場合においても,本件事故発生から6年後(平成29年3月)に避難指示が解除される場合と同等の精神的損害の賠償を行うために,賠償対象期間を,本件事故発生後6年に相当期間1年を加えた平成30年3月までと見直すことを公表した(乙B47)。 被告東電は,平成28年12月26日付けプレスリリースにより,農林業者- 480 - の平成29年1月以降の営業損害等について,以下のとおり,賠償を行うことを公表した(乙B380)。 ア避難指示区域内 対象者避難指示区域において農林業を営んでいた法人及び個人事業主のうち,避難指示等に伴い平成29年1月以降も被害の継続が認められる者 対象となる損害a 従前の耕作地等で従前と同等の営農継続が困難になったこと等に伴う帰還再開や移転再開,転作,転業,就労,休業等に係る平成29年1月以降の損害(避難指示や出荷制限指示等,風評被害等により事業に支障が生じたことによる逸失利益等,将来減収として顕在化する本件事故と相当因果関係が認められる損害を含む。)b 本件事故に伴い支出を余儀なくされた追加的費用 賠償金額a 平成29年1月以降の損害については,年間逸失利益(期待所得)の3倍相当額b 追加的費用については,実費のうち必要かつ相当な範囲イ旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部区域 出荷制限指示等a 対象者以下のいずれかの項目に該当する法人及び個人事業 費のうち必要かつ相当な範囲イ旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部区域 出荷制限指示等a 対象者以下のいずれかの項目に該当する法人及び個人事業主⒜ 旧緊急時避難準備区域等で農林業を営んでいた農林業者のうち,平成29年1月以降も休業継続を余儀なくされた農林業者⒝ 政府等による出荷制限指示等の対象となる品目を対象地域の耕作地等において生産していた農林業者のうち,平成29年1月以降も出荷制限指示等の継続が見込まれ,休業継続を余儀なくされている農林- 481 - 業者⒞ 旧緊急時避難準備区域等で加工流通業,製造業,サービス業等を営んでいる事業者のうち,出荷制限指示等により実質的に農林業と同等の損害を被っている事業者b 対象となる損害⒜ 従前の耕作地等で従前と同等の営農継続が困難になったこと等に伴う,転作,転業,就労,休業等に係る平成29年1月以降の損害(出荷制限指示等,風評被害等により事業に支障が生じたことによる逸失利益等,将来減収として顕在化する本件事故と相当因果関係が認められる損害を含む。)⒝ 本件事故に伴い支出を余儀なくされた追加的費用c 賠償金額⒜ 平成29年1月以降の損害については,直近の年間逸失利益(期待所得)の3倍相当額⒝ 追加的費用については,実費のうち必要かつ相当な範囲 風評被害平成29年の1年間を目途として現行賠償を継続する。 ウ避難等対象区域外 出荷制限指示等a 対象者以下のいずれかの項目に該当する法人及び個人事業主⒜ 政府等による出荷制限指示等の対象となる品目を対象地域の耕作地等において生産して 出荷制限指示等a 対象者以下のいずれかの項目に該当する法人及び個人事業主⒜ 政府等による出荷制限指示等の対象となる品目を対象地域の耕作地等において生産していた農林業者のうち,平成29年1月以降も出荷制限指示等の継続が見込まれ,休業継続を余儀なくされている農林業者⒝ 避難等対象区域外で加工流通業,製造業,サービス業等を営んでい- 482 - る事業者のうち,出荷制限指示等により実質的に農林業と同等の損害を被っている事業者b 対象となる損害⒜ 従前の耕作地等で従前と同等の営農継続が困難になったこと等に伴う,転作,転業,就労,休業等に係る平成29年1月以降の損害(出荷制限指示等,風評被害等により事業に支障が生じたことによる逸失利益等,将来減収として顕在化する本件事故と相当因果関係が認められる損害を含む。)⒝ 本件事故に伴い支出を余儀なくされた追加的費用c 賠償金額⒜ 平成29年1月以降の損害については,直近の年間逸失利益(期待所得)の3倍相当額⒝ 追加的費用については,実費のうち必要かつ相当な範囲 風評被害平成29年の1年間を目途として現行賠償を継続する。 まとめ以上の被告東電が公表した賠償基準等によれば,精神的損害に係る賠償額は,本件事故発生当時に生活の本拠があった以下の地域などに応じて,おおむね以下のとおりとなる。 ア帰還困難区域,大熊町及び双葉町平成23年3月11日から平成24年5月まで月額10万円(平成23年3月分は1か月分として計算)の15か月分150万円平成24年6月から平成29年5月まで5年分600万円中間指針第四次追補に基づく700万円の合計1450 月まで月額10万円(平成23年3月分は1か月分として計算)の15か月分150万円平成24年6月から平成29年5月まで5年分600万円中間指針第四次追補に基づく700万円の合計1450万円- 483 - イ旧居住制限区域又は旧避難指示解除準備区域(解除された場合も含む。)(大熊町,双葉町を除く。)平成23年3月11日から平成30年3月31日まで月額10万円の85か月分850万円ウ旧緊急時避難準備区域避難の有無を問わず,平成23年3月11日から平成24年8月31日まで月額10万円の18か月分180万円平成24年9月1日時点で中学生以下であった者に対しては平成24年9月1日から平成25年3月31日まで月額5万円の7か月分35万円を追加賠償エ旧屋内退避区域及び南相馬市が一時避難を要請した地域避難の有無を問わず,平成23年3月11日から同年9月30日まで月額10万円の7か月分70万円オ特定避難勧奨地点(南相馬市)避難の有無を問わず,平成23年3月11日から特定避難勧奨地点解除後おおむね3か月の平成27年3月31日まで月額10万円の49か月分490万円カ特定避難勧奨地点(川内村,伊達市)避難の有無を問わず,平成23年3月11日から特定避難勧奨地点解除後おおむね3か月経過後の平成25年3月31日まで月額10万円の25か月分250万円キ自主的避難等対象区域自主的避難の有無を問わず,①平成23年3月11日から同年12月31日まで,18歳以下であった者及び妊婦に対して40万円,②平成23年3月11日以降本件事故発生当初の時期(平成23年4月22日頃まで)について,子供及び妊婦以外の者に対して8万円,③平 年12月31日まで,18歳以下であった者及び妊婦に対して40万円,②平成23年3月11日以降本件事故発生当初の時期(平成23年4月22日頃まで)について,子供及び妊婦以外の者に対して8万円,③平成24年1月1日から同- 484 - 年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者及び妊娠していた期間がある者に対して8万円であり,18歳以下であった者及び妊婦以外の者は合計8万円,18歳以下であった者及び妊婦は合計48万円(妊娠時期等により16万円若しくは40万円)ク福島県県南地域及び宮城県丸森地域自主的避難の有無を問わず,①平成23年3月11日から同年12月31日までの期間中に18歳以下であった期間がある者及び妊娠していた期間がある者に対して20万円,②平成24年1月1日から同年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者及び妊娠していた期間がある者に対して4万円第4 放射線に関する知見等 1 ICRPの勧告の概要(甲B3ないし5,96,97,99,134,乙B68,丙B4,6,弁論の全趣旨)⑴ 国際放射線防護委員会(ICRP)は,1928年に設立された国際X線・ラジウム防護委員会が1950年に改組された組織である。ICRPは1959年に現在のシリーズにおける最初の報告書を発表し,これに続く全般的な勧告としては,1964年,1966年,1977年,1990年及び2007年に発表されているものなどがある。 ICRP勧告の目的は,被ばくに関連する可能性のある人の望ましい活動を過度に制限することなく,放射線被ばくの有害な影響に対する人と環境の適切なレベルでの防護に貢献することである。 ICRP勧告は,放射線被ばくによる健康への有害な影響を,「確定的影響」(高線量により確定的に生ずる細胞死 く,放射線被ばくの有害な影響に対する人と環境の適切なレベルでの防護に貢献することである。 ICRP勧告は,放射線被ばくによる健康への有害な影響を,「確定的影響」(高線量により確定的に生ずる細胞死又は細胞の機能不全等による影響又は障害)と「確率的影響」(比較的低い線量により確率的に生じる遺伝子(DNA)の突然変異等に起因するがん又は遺伝的影響)に分類している。 ICRP勧告は,約100mSv を下回る線量においては,ある一定の線量の- 485 - 増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定を置いている。この線量反応モデルは一般に直線しきい値なしモデル(以下「LNTモデル」という。)として知られている。そして,ICRPは,低線量放射線被ばくのリスクの管理に対して慎重な姿勢を示すものとして,LNTモデルを採用することとしたとしている。しかし,LNTモデルが実用的なその放射線防護体系において引き続き科学的にも説得力がある要素である一方,このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的/疫学的知見がすぐには得られそうにないとも述べられている。 なお,ICRPが勧告する放射線防護体系は,以下の原則に基づくものとしている。①放射線被ばくの状況を変化させるようなあらゆる決定は,害よりも便益が大となるべきである(正当化の原則)。②被ばくの生じる可能性,被ばくする人の数及び彼らの個人線量の大きさは,全ての経済的及び社会的要因を考慮に入れながら,合理的に達成できる限り低く保つべきである(防護の最適化の原則)。③患者の医療被ばくを除く計画被ばく状況においては,規制された線源からのいかなる個人への総線量も,委員会が勧告する適切な限度を超えるべきでない(線量限度の適用の原則)。 ⑵ ICRP勧 化の原則)。③患者の医療被ばくを除く計画被ばく状況においては,規制された線源からのいかなる個人への総線量も,委員会が勧告する適切な限度を超えるべきでない(線量限度の適用の原則)。 ⑵ ICRP勧告は,被ばく状況を以下の3つに分類し,次のとおり防護の基準を定めている。 ア計画被ばく状況(被ばくが生じる前に放射線防護を前もって計画することができる状況及び被ばくの大きさと範囲を合理的に予測できるような状況)計画被ばく状況の線量限度(計画被ばく状況において,個人がそれを超えて受けてはならない公衆被ばく線量)は1mSv/年である。 イ緊急時被ばく状況(急を要する防護対策及び長期的な防護対策の履行が要求される可能性のある不測の状況)緊急時被ばく状況について計画する際,最適化のプロセスに参考レベルを適用すべきであり,緊急時状況において計画される最大残存線量の参考レベ- 486 - ルは,典型的には,予測線量20mSv/年ないし100mSv/年である。 ウ現存被ばく状況(管理についての決定がされる時点で既に存在している状況)現存被ばく状況の参考レベルは,予測線量1mSv/年ないし20mSv/年である。 2 本件事故に関するICRPの勧告ICRPは,平成23年3月21日,本件事故に関し,緊急時に公衆の防護のために,国の機関が最も高い計画的な被ばく線量として20ないし100mSv の範囲で参考レベルを設定するとしたICRP2007年勧告を変更することなしに用いることを勧告した。また,必要な防護措置として,長期間の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして,参考レベル1mSv/年ないし20mSv/年の範囲で設定するとしたICRP2009bを用いることを勧告した。(乙B69) 3 本件事故後の我 の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして,参考レベル1mSv/年ないし20mSv/年の範囲で設定するとしたICRP2009bを用いることを勧告した。(乙B69) 3 本件事故後の我が国の放射線防護体制等原子力安全委員会は,平成23年7月19日,「今後の避難解除,復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」を公表した。そこでは,緊急時被ばく状況においては,計画的避難区域の設定に係る助言において,ICRPの2007年勧告において緊急時被ばく状況に適用することとされている参考レベルの範囲20mSv/年ないし100mSv/年の下限である20mSv/年を適用することが適切であると判断したこと,緊急時被ばく状況から現存被ばく状況に移行後においては,防護措置の最適化のための参考レベルは,ICRPの2007年勧告において適用することとされている参考レベルの範囲1mSv/年ないし20mSv/年のうち,長期的には年間1mSv を目標とすることなどが示された。(乙B70)平成23年11月11日に閣議決定された「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物- 487 - 質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」に基づく基本方針も,土壌等の除染等の措置に係る目標値として,ICRPの2007年勧告,「今後の避難解除,復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」(乙B70)等を踏まえて,自然被ばく線量及び医療被ばく線量を除いた被ばく線量(追加被ばく線量)が年間20mSv 以上である地域については,当該地域を段階的かつ迅速に縮小することを目指すものとし,追加被ばく線量が年間20mSv 未満である地域については,長期的な目標として追加被ばく線量が年間1mSv mSv 以上である地域については,当該地域を段階的かつ迅速に縮小することを目指すものとし,追加被ばく線量が年間20mSv 未満である地域については,長期的な目標として追加被ばく線量が年間1mSv 以下となることを目指すものとするとしている(乙B71)。 4 IAEA国際フォローアップミッション最終報告書平成25年10月には,福島第一原発外の地域の環境回復を支援することを主な目的として,13人の国際専門家等が参画するIAEAの国際フォローアップミッションチームが日本を訪問して調査を行い,その調査結果に係る最終報告書を公表している。この報告書では,「除染を実施している状況において,1~20mSv/yという範囲内のいかなるレベルの個人放射線量も許容しうるものであり,国際基準および関連する国際組織,例えば,ICRP,IAEA,UNSCEAR及びWHOの勧告等に整合したものであるということについて,コミュニケーションの取組を強化することが日本の諸機関に推奨される。」とし,「政府は,人々に1mSv/yの追加個人線量が長期の目標であり,例えば除染活動のみによって,短期間に達成しうるものではないことを説明する更なる努力をなすべきである。」旨記載されている。(乙B74) 5 文部科学省通知文部科学省は,平成23年4月19日,福島県知事等に対し,「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」を通知した。この通知では児童生徒等が屋内(木造)にいる時間を1日当たり16時間,屋外にいる時間を1日当たり8時間と仮定すると,児童生徒等が1年間に20mSv の放射線を受ける空間線量率は屋外では毎時3.8µSv,屋内(木造)では毎時1.52- 488 - µSv となることから,これを一つの目安とすることとし,児童生徒等 徒等が1年間に20mSv の放射線を受ける空間線量率は屋外では毎時3.8µSv,屋内(木造)では毎時1.52- 488 - µSv となることから,これを一つの目安とすることとし,児童生徒等が学校等に通うことができる地域においては,非常事態収束後の参考レベルの1mSv/年ないし20mSv/年を学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし,今後できる限り児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であるとされていた。また,上記通知では,校庭・園庭において毎時3.8µSv 以上を示した場合においても,校舎・園舎内での活動を中心とする生活を確保することなどにより,児童生徒等の受ける線量が20mSv/年を超えることはないと考えられるとして,①校庭・園庭で毎時3.8µSv 以上の空間線量率が測定された学校等については,校庭等での活動を1日当たり1時間程度に制限するなど,学校内外での屋外活動をなるべく制限することが適当である,②毎時3.8µSv 未満の空間線量率が測定された学校については,校舎・校庭等を平常どおり利用して差し支えないなどとされていた。(甲A1の1・本文編322,323頁,乙B72)また,文部科学省は,平成23年8月26日,福島県知事等に対し,「福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について(通知)(平成23年8月26日)」を通知した。この通知では,校庭・園庭の土壌除去等の具体的な手法が示され,それに基づく土壌除去が進んだことなどにより,学校が開校されている地域では,既に校庭・園庭において毎時3.8µSv 以上の空間線量率が測定される学校はなくなっているが,夏期休業終了後,学校において児童生徒等が受ける線量については,原則1mSv/年以下とし,これを達成するためには校庭等の空間線量率の目安を毎時1µSv 未満とし が測定される学校はなくなっているが,夏期休業終了後,学校において児童生徒等が受ける線量については,原則1mSv/年以下とし,これを達成するためには校庭等の空間線量率の目安を毎時1µSv 未満とし,仮にそれを超えることがあっても屋外活動を制限する必要はないものの,除染等の速やかな対策が望ましいこと,局所的に線量が高い場所の把握及び除染が重要であることなどの考え方が示された。(甲A1の1・本文編322,323頁,乙B73)なお,文部科学省は,福島県が平成23年4月5日から同月7日にかけて実施した小学校等の校庭のモニタリングの際に比較的高い空間線量率(毎時3.7µSv 以上)を示した52校の校庭について,同月14日以降も継続的にモニタリン- 489 - グを行った。その結果,同日には13施設において毎時3.8µSv 以上の空間線量率が測定されたが,同年5月12日以降,毎時3.8µSv 以上の空間線量率が測定された学校はなく,同年8月25日の測定では,最も高いところで毎時0. 8µSv であった。(甲A1の1・本文編322,323頁) 6 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書(平成23年12月22日)(乙A3)本件事故による放射性物質汚染対策において,低線量被ばくのリスク管理を適切に行うため,国際機関等により示されている科学的知見や評価の整理,現場の課題の抽出,今後の対応の方向性の検討を行う場として,放射性物質汚染対策顧問会議の下,低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループが設置された。 平成23年11月9日から同年12月15日までに全8回の議論・検討が行われ,同月22日,「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」(乙A3)が公表された。同報告書の概要は,次のとおりである。 ⑴ 日から同年12月15日までに全8回の議論・検討が行われ,同月22日,「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」(乙A3)が公表された。同報告書の概要は,次のとおりである。 ⑴ 科学的知見と国際的合意(乙A3・3頁)放射線の影響に関しては様々な知見が報告されているため,国際的に合意されている科学的知見を確実に理解する必要がある。国際的合意としては,科学的知見を国連に報告している原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR),また世界保健機関(WHO),国際原子力機関(IAEA)等の報告書に準拠することが妥当である。広島・長崎の原爆の人体に対する影響の調査は,その規模からも,調査の精緻さからも世界の放射線疫学研究の基本であり,UNSCEARも常に報告しているところである。一方,内部被ばくで多くの人達が被ばくした事例としてチェルノブイリ原子力発電所事故がある。低線量の被ばくまで入れると子供を含めて500万人以上の周辺住民が被ばくしている。同事故に関する調査結果は,UNSCEAR,WHO,IAEA等の国際機関から詳細に報告されている。 - 490 - ⑵ 低線量被ばくのリスク(乙A3・4頁)低線量被ばくによる健康影響に関する現在の科学的な知見は,主として広島・長崎の原爆被爆者の半世紀以上にわたる精緻なデータに基づくものであり,国際的にも信頼性は高く,UNSCEARの報告書の中核を成している。 広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果からは,被ばく線量が100mSvを超える辺りから,被ばく線量に依存して発がんのリスクが増加することが示されている。国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,100mSv以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発が スクが増加することが示されている。国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,100mSv以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる。疫学調査以外の科学的手法でも,同様に発がんリスクの解明が試みられているが,現時点では人のリスクを明らかにするには至っていない。 一方,被ばくしてから発がんまでには長期間を要する。したがって,100mSv 以下の被ばくであっても,微量で持続的な被ばくがある場合,より長期間が経過した状況で発がんリスクが明らかになる可能性があるとの意見もあった。いずれにせよ,徹底した除染を含め予防的に様々な対策をとることが必要である。 ⑶ 長期にわたる被ばくの健康影響(乙A3・4ないし5頁)低線量率の環境で長期間にわたり継続的に被ばくし,積算量として合計100mSv を被ばくした場合は,短時間で被ばくした場合より健康影響が小さいと推定されている(線量率効果)。この効果は,動物実験においても確認されている。 本件事故により環境中に放出された放射性物質による被ばくの健康影響は,長期的な低線量率の被ばくであるため,瞬間的な被ばくと比較し,同じ線量であっても発がんリスクはより小さいと考えられる。 ⑷ 外部被ばくと内部被ばくの違い(乙A3・5頁)内部被ばくは外部被ばくよりも人体への影響が大きいという主張がある。し- 491 - かし,放射性物質が身体の外部にあっても内部にあっても,それが発する放射線がDNAを損傷し,損傷を受けたDNAの修復過程での突然変異が,がん発生の原因となる。そのため,臓器に付与される等価線量が同じであれば,外部被ばくと内部被ばくのリスクは,同等と評価できる。 ⑸ 子供・胎児への影 し,損傷を受けたDNAの修復過程での突然変異が,がん発生の原因となる。そのため,臓器に付与される等価線量が同じであれば,外部被ばくと内部被ばくのリスクは,同等と評価できる。 ⑸ 子供・胎児への影響(乙A3・7頁)一般に,発がんの相対リスクは若年ほど高くなる傾向がある。小児期・思春期までは高線量被ばくによる発がんのリスクは成人と比較してより高い。しかし,低線量被ばくでは,年齢層の違いによる発がんリスクの差は明らかではない。他方,原爆による胎児被爆者の研究からは,成人期に発症するがんについての胎児被ばくのリスクは小児被ばくと同等かあるいはそれよりも低いことが示唆されている。 また,放射線による遺伝的影響について,原爆被爆者の子供数万人を対象にした長期間の追跡調査によれば,現在までのところ遺伝的影響は全く検出されていない。さらに,がんの放射線治療において,がんの占拠部位によっては原爆被爆者が受けた線量よりも精巣や卵巣が高い線量を受けるが,こうした患者(親)の子供の大規模な疫学調査でも,遺伝的影響は認められていない。 チェルノブイリ原子力発電所事故における甲状腺被ばくよりも,本件事故による小児の甲状腺被ばくは限定的であり,被ばく線量は小さく,発がんリスクは非常に低いと考えられる。小児の甲状腺被ばく調査の結果,環境放射能汚染レベル,食品の汚染レベルの調査等様々な調査結果によれば,本件事故による環境中の影響によって,チェルノブイリ原子力発電所事故の際のように大量の放射性ヨウ素を摂取したとは考えられない。 ⑹ 生体防御反応(乙A3・7ないし8頁)放射線によりDNAが損傷し,突然変異が起こり,さらに多段階の変異が加わり正常細胞ががん化するというメカニズムがある。他方,生体には防御機能が備わっており,この発がんの過程を抑制する仕組みがある。 放射線によりDNAが損傷し,突然変異が起こり,さらに多段階の変異が加わり正常細胞ががん化するというメカニズムがある。他方,生体には防御機能が備わっており,この発がんの過程を抑制する仕組みがある。 - 492 - 低線量被ばくであってもDNAが損傷し,その修復の際に異常が起こることで発がんするメカニズムがあるという指摘があった。一方,線量が低ければ,DNA損傷の量も少なくなり,さらに修復の正確さと同時に生体防御機能が十分に機能すると考えられ,発がんに至るリスクは増加しないという指摘もあった。 ⑺ 放射線による健康リスクの考え方(乙A3・8ないし10頁)アしきい値がなく,直線的にリスクが増加するモデル(LNTモデル)の考え方放射線防護や放射線管理の立場からは,低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという考え方を採用する。これは,科学的に証明された真実として受け入れられているのではなく,科学的な不確かさを補う観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されている。線量に対して直線的にリスクが増えるとする考えは,飽くまで被ばくを低減するためのいわば手段として用いられる。すなわち,予測された被ばくによるリスクと放射線防護措置等による他の健康リスク等,リスク同士を比較する際に意味がある。しかし,この考えに従って,100mSv 以下の極めて低い線量の被ばくのリスクを多人数の集団線量に適用して,単純に死亡者数等の予測に用いることは不確かさが非常に大きくなるため不適切である。 イリスクの程度の理解本件事故による被ばくのリスクを,自発的に選択することができる他のリスク要因(例えば医療被ばく)等と単純に比較することは必ずしも適切ではない。しかしながら,他のリスクとの比較は,リスクの程度を理解 本件事故による被ばくのリスクを,自発的に選択することができる他のリスク要因(例えば医療被ばく)等と単純に比較することは必ずしも適切ではない。しかしながら,他のリスクとの比較は,リスクの程度を理解するのに有効な一助となる。 2009年の死亡データによれば,日本人の約30%ががんで死亡している。広島・長崎の原爆被爆者に関する調査の結果に線量・線量率効果係- 493 - 数(DRREF)2を適用すれば,長期間にわたり100mSv を被ばくすると,生涯のがん死亡のリスクが約0.5%増加すると試算されている。 他方,我が国でのがん死亡率は都道府県の間でも10%以上の差異がある。 放射線の健康へのリスクがどの程度であるかを理解するため,放射線と他の発がん要因等のリスクとを比較すると,例えば,喫煙は1,000ないし2,000mSv,肥満は200ないし500mSv,野菜不足や受動喫煙は100ないし200mSv のリスクと同等とされる。 被ばく線量でみると,例えばCTスキャンは1回で数mSv の放射線被ばくを受ける。重症患者では入院中に数回のCT検査を受けることも決して稀ではない。 東京-ニューヨーク間の航空機旅行では,高度による宇宙線の増加により,1往復当たり0.2mSv 程度被ばくするとされている。 自然放射線による被ばく線量の世界平均は年間約2.4mSv であり,日本平均は年間約1.5mSv である。このうち,ラドンによる被ばく線量は,UNSCEARの報告によれば,世界の平均は年間1.2mSv,変動幅は年間0.2ないし10mSv と推定されているが,日本の平均値は年間0. 59mSv である。 クロロホルムは,水道水中に含まれ発がん性が懸念されているトリハロメタン類の代表的な物質であるが,平均して1日に2リットルの水道水 と推定されているが,日本の平均値は年間0. 59mSv である。 クロロホルムは,水道水中に含まれ発がん性が懸念されているトリハロメタン類の代表的な物質であるが,平均して1日に2リットルの水道水を飲用し続けたとしても発がんのリスクは0.01%未満であり,懸念されるレベルではない,と評価されている。100mSv の放射線被ばくによる発がんのリスク(例えば長期間100mSv 被ばくした場合の生涯のがん死亡の確率の増加分,約0.5%)は,このクロロホルム摂取による発がんのリスクよりは大きい。 ウ放射線防護上では,100mSv 以下の低線量であっても被ばく線量に対し- 494 - て直線的に発がんリスクが増加するという考え方は重要であるが,この考え方に従ってリスクを比較した場合,年間20mSv 被ばくすると仮定した場合の健康リスクは,例えば他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても低いこと,放射線防護措置に伴うリスク(避難によるストレス,屋外活動を避けることによる運動不足等)と比べられる程度であると考えられる。 ⑻ 放射線防護の実践(乙A3・11頁)低線量被ばくに対する放射線防護政策を実施するに当たっては,科学的な事実を踏まえた上で,合理的に達成可能な限り被ばく線量を少なくする努力が必要である。放射線防護のためには線源と被ばくの経路に応じて多様な措置が考えられる。具体的には,除染,放射線レベルの高いところへの立入り制限,高濃度に汚染されたおそれのある飲食物の摂取制限等である。放射線防護措置の選択に当たっては,ICRPの考え方にあるように,被ばく線量を減らすことに伴う便益(健康,心理的安心感等)と,放射線を避けることに伴う影響(避難・移住による経済的被害やコミュニティの崩壊,職を失う損失,生活の っては,ICRPの考え方にあるように,被ばく線量を減らすことに伴う便益(健康,心理的安心感等)と,放射線を避けることに伴う影響(避難・移住による経済的被害やコミュニティの崩壊,職を失う損失,生活の変化による精神的・心理的影響等)の双方を考慮に入れるべきである。放射線防護政策を実施するに当たっては,子供や妊婦に特段の配慮を払うべきである。除染,健康管理,食品安全等の放射線防護の対策について,対象範囲,時間軸,目標数値を示しながら成果が分かりやすいようにして講じていくことが有効である。 ⑼ 放射線防護のための方向性(乙A3・16ないし17頁)我が国が採用している放射線防護上の基準は年間20mSv であるが,今後はさらに被ばく線量をできるだけ低減することが必要である。その際,ステップバイステップで,住民の方々の被ばく線量が高いと想定される地域から漸進的に改善していくことが必要である。長期的な目標である年間1mSv は,原状回復を実施する立場から,これを目指して対策を講じていくべきである。同時に,- 495 - 生活圏の除染や健康管理等の対策の実施に当たっては,投入するリソースを有効に活用するため,適切かつ合理的な優先順位をつけること,また中間的な参考レベルを示した上で行うことが有効である。 被ばく線量の低減対策の実施に当たっては,放射線影響の感受性の高い子供,放射線の影響に対する親の懸念が大きい乳幼児について優先することとし,きめ細かな防護措置を行うことが必要である。まず,想定される被ばく線量を把握することが重要であり,外部被ばく,内部被ばくを含め,どの経路による被ばくが大きいか調査することが必要である。また,実際の被ばく線量を正確に調査・把握しておくことが必要である。当面寄与が大きいと考えられる外部被ばく り,外部被ばく,内部被ばくを含め,どの経路による被ばくが大きいか調査することが必要である。また,実際の被ばく線量を正確に調査・把握しておくことが必要である。当面寄与が大きいと考えられる外部被ばくは,土壌等に存在する放射性物質からの放射線によるものであるから,子供の生活環境を優先的に除染する必要がある。政府は,避難区域外において,校庭・園庭の空間線量率が毎時1µSv 以上の学校等について,土壌の汚染に関する財政的支援を実施した。この結果,現在ほとんどの学校等において校庭・園庭の空間線量率が毎時1µSv を下回っている。今後,避難区域を解除するに当たっては,避難区域外の学校と同等の放射線量を目指した防護措置をとるべきである。具体的には,避難区域内の学校等を再開する前に,校庭・園庭の空間線量率が毎時1µSv 以上の学校等は,周辺区域を含め徹底した除染を行い,それ未満とすべきである。また,学校だけでなく,通学路や公園等の子供の生活圏における追加被ばく線量を年間1mSv 以下とすることを目指すべきである。さらに,比較的放射線量の低い地域での移動課外教室等により,外部被ばくの低減を図るとともに,子供の心身の健康の確保に取り組むべきである。内部被ばくの予防及び低減には,適切な管理が必要である。このため,食品中の放射能濃度の適切かつ合理的な基準の設定,遵守とともに,例えば地域の実情に応じた食品中の放射能濃度の測定を実施することが必要である。個々の子供の被ばく線量を測定すると,何人かの測定値の高い子供が出てくる。そのような被ばく線量の高い子供に,医師,放射線技師,保健師,専門家,教育- 496 - 関係者等が個々に対応し,その原因を探り,必要に応じて生活上の助言や精神的サポート,さらに除染を行うなど,きめ細かで優しく寄り添った丁寧な対応をとる 技師,保健師,専門家,教育- 496 - 関係者等が個々に対応し,その原因を探り,必要に応じて生活上の助言や精神的サポート,さらに除染を行うなど,きめ細かで優しく寄り添った丁寧な対応をとるべきである。 ⑽ まとめ(乙A3・19頁)ア国際的な合意に基づく科学的知見によれば,放射線による発がんリスクの増加は,100mSv 以下の低線量被ばくでは,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく,放射線による発がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しい。しかしながら,放射線防護の観点からは,100mSv 以下の低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという安全サイドに立った考え方に基づき,被ばくによるリスクを低減するための措置を採用するべきである。現在の避難指示の基準である年間20mSv の被ばくによる健康リスクは,他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準である。放射線防護の観点からは,生活圏を中心とした除染や食品の安全管理等の放射線防護措置を継続して実施すべきであり,これら放射線防護措置を通じて,十分にリスクを回避できる水準であると評価できる。また,放射線防護措置を実施するに当たっては,それを採用することによるリスク(避難によるストレス,屋外活動を避けることによる運動不足等)と比べた上で,どのような防護措置をとるべきかを政策的に検討すべきである。こうしたことから,年間20mSv という数値は,今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切であると考えられる。 イ子供・妊婦の被ばくによる発がんリスクについても,成人の場合と同様,100mSv 以下の低線量被ばくでは,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく,発がんリスクの明らかな増 。 イ子供・妊婦の被ばくによる発がんリスクについても,成人の場合と同様,100mSv 以下の低線量被ばくでは,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく,発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい。一方,100mSv を超える高線量被ばくでは,思春期までの子供は,成人よりも放射線による発がんのリスクが高い。こうしたことから,100- 497 - mSv 以下の低線量の被ばくであっても,住民の大きな不安を考慮に入れて,子供に対して優先的に放射線防護のための措置をとることは適切である。ただし,子供は,放射線を避けることに伴うストレス等に対する影響についても感受性が高いと考えられるため,きめ細やかな対応策を実施することが重要である。 ウ放射線防護のための数値については,科学的に証明されたものか,政策としてのものか理解してもらうことが重要である。チェルノブイリでの経験を踏まえれば,長期的かつ効果的な放射線防護の取組を実施するためには,住民が主体的に参加することが不可欠である。このため,政府及び専門家は,住民の目線に立って,確かな科学的事実に基づき,分かりやすく,透明性をもって情報を提供するリスクコミュニケーションが必要である。 7 UNSCEAR2013年報告書UNSCEARは,平成25年の国連総会において,電離放射線の線源,影響及びリスクについて報告した(乙B346)。 ⑴ 線量評価ア避難しなかった公衆の1年目の線量避難しなかった福島県内の住民の本件事故後1年間の実効線量の推定値(外部被ばく,吸入による内部被ばく及び経口摂取による内部被ばくの合計)は,成人1.0ないし4.3mSv,10歳児1.2ないし5.9mSv,1歳児2.0ないし7.5mSv とされている。また,同住民の本件事故後1年間 よる内部被ばく及び経口摂取による内部被ばくの合計)は,成人1.0ないし4.3mSv,10歳児1.2ないし5.9mSv,1歳児2.0ないし7.5mSv とされている。また,同住民の本件事故後1年間の甲状腺の吸収線量の推定値は,成人7.8ないし17mGy,10歳児15ないし31mGy,1歳児33ないし52mGy とされている。 なお,この数値は,自然放射線源によるバックグラウンド線量への上乗せ分である。データが不十分である場合には仮定を設けており,そのためこれらの数値は平均線量を実際よりも過大評価している可能性がある。 福島県内では,20km 圏内の避難区域に一部がかかる行政区画(南相馬- 498 - 市)と地表での沈着密度が高い行政区画(福島市,二本松市,桑折町,大玉村,郡山市,本宮市,伊達市)において,避難しなかった人としては最大の推定実効線量が得られ,本件事故直後1年間における成人の行政区画平均実効線量は2.5ないし4.3mSv の範囲であった。これらの行政区画では,実効線量に占める沈着放射性核種に起因する外部線量の寄与率が圧倒的に大きかった。1歳の幼児における事故直後1年目の平均実効線量は,成人の平均実効線量の2倍以内と推定された。 イ避難者の線量避難者の本件事故後1年間の実効線量の推定値は,予防的避難地区(予防的避難とは,高度の被ばくを防止するための緊急時防護措置として平成23年3月12日から同月15日にかけて指示された地区の避難を指す。)では,成人1.1ないし5.7mSv,10歳児1.3ないし7.3mSv,1歳児1. 6ないし9.3mSv,計画的避難区域(計画的避難とは,平成23年3月末から同年6月にかけて指示された地区からの避難を指す。)では,成人4. 8ないし9.3mSv,10歳児5,4ないし10mSv,1歳児 ないし9.3mSv,計画的避難区域(計画的避難とは,平成23年3月末から同年6月にかけて指示された地区からの避難を指す。)では,成人4. 8ないし9.3mSv,10歳児5,4ないし10mSv,1歳児7.1ないし13mSv とされている。また,避難者の本件事故後1年間の甲状腺吸収線量は,予防的避難地区では,成人7.2ないし34mGy,10歳児12ないし58mGy,1歳児15ないし82mGy,計画的避難地区では,成人16ないし35mGy,10歳児27ないし58mGy,1歳児47ないし83mGy とされている。 ⑵ 公衆の健康影響ア避難者及び避難区域以外で本件事故の影響を最も受けた地域の集団の最初の1年間における平均実効線量は,成人で最大で約1ないし10mSv,小児及び乳幼児ではその約2倍になると推定された。この線量でのがん又は遺伝的な影響のリスクは,線量とリスクの直線的な関係を想定することによって推定できるが,基準となる率の通常の統計的ばらつきに比べると推定された相対リスクの値は小さく,放射線被ばくに関連した健康影響の上昇を明ら- 499 - かにすることは困難である。 イ一部の臓器については,幼児期及び小児期の被ばくによる相対リスクは,成人期に比べて大幅に高かった。 ウ甲状腺がんについて予防的避難を行った集団の甲状腺吸収線量は,1歳児の場合最大で約80mGy になると推定された。推定された線量は個人によって大きく異なり,甲状腺における放射性ヨウ素の直接的な体外計測では,推定された数値よりも低い線量を示した。また,線量のほとんどは放射線被ばくによる甲状腺がんの過剰発生率を確認できないレベルであった。本件事故後の甲状腺吸収線量が大幅に低いため,福島県でチェルノブイリ原発事故の時のように多数の放射線誘発性甲状腺がんが発生 どは放射線被ばくによる甲状腺がんの過剰発生率を確認できないレベルであった。本件事故後の甲状腺吸収線量が大幅に低いため,福島県でチェルノブイリ原発事故の時のように多数の放射線誘発性甲状腺がんが発生するというように考える必要はない。 エ白血病について0ないし9歳の時期に被ばくした人の集団での小児白血病の発生率が識別可能なレベルで上昇するとは予測されない。 オ妊娠中の被ばくについて妊娠中の被ばくによる自然流産,流産,周産期死亡率,先天的な影響又は認知障害が増加するとは予測されない。 カ集団検診について福島県での継続的な超音波検査により,比較的多数の甲状腺異常が見つかったが,これは,本件事故の影響を受けていない地域での類似した調査と変わらず,福島県での継続的な超音波検査では,検査が集中的で使用機器の感度が高いために比較的多数の甲状腺異常が見つかったことを示唆している。 8 帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置具体化のために)原子力規制委員会は,平成25年11月20日,「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置の具体化のために)」を公- 500 - 表した(乙B75)。 ここでは,放射線による被ばくに関する国際的な知見及び線量水準に関する考えとして,「放射線による被ばくがおよそ100ミリシーベルトを超える場合には,がん罹患率や死亡率の上昇が線量の増加に伴って観察されている。100ミリシーベルト以下の被ばく線量域では,がん等の影響は,他の要因による発がんの影響等によって隠れてしまうほど小さく,疫学的に健康リスクの明らかな増加を証明することは難しいと国際的に認識されている。」,「公衆の被ばく線量限度(年間1ミリシーベルト)は,国際放射 による発がんの影響等によって隠れてしまうほど小さく,疫学的に健康リスクの明らかな増加を証明することは難しいと国際的に認識されている。」,「公衆の被ばく線量限度(年間1ミリシーベルト)は,国際放射線防護委員会(ICRP)が,低線量率生涯被ばくによる年齢別年間がん死亡率の推定,及び自然から受ける放射線による年間の被ばく線量の差等を基に定めたものであり,放射線による被ばくにおける安全と危険の境界を表したものではないとしている。放射線防護の考え方は,いかなる線量でもリスクが存在するという予防的な仮定にたっているとしている。」,「国際放射線防護委員会(ICRP)は,緊急事態後の長期被ばく状況を含む状況(以下,「現存被ばく状況」という。)において汚染地域内に居住する人々の防護の最適化を計画するための参考レベル(これを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切であると判断され,それより下では防護の最適化を履行すべき線量又はリスクのレベル)は,長期的な目標として,年間1~20ミリシーベルトの線量域の下方部分から選択すべきであるとしている。」などと記載されている。その上で,「我が国では,国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告等を踏まえ,空間線量率から推定される年間積算線量(20ミリシーベルト)以下の地域になることが確実であることを避難指示解除の要件の一つとして定めている。」が,ICRPにおける現存被ばく状況の放射線防護の考え方を踏まえ,「長期目標として,帰還後に個人が受ける追加被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下になるよう目指すこと」等について国が責任をもって取り組むことが必要であるとしている。 9 被ばく状況に関する調査の結果- 501 - 福島県が行った「県民健康管理調査」では,平成25年12月31日時点での回答を基にした放射線業務 て取り組むことが必要であるとしている。 9 被ばく状況に関する調査の結果- 501 - 福島県が行った「県民健康管理調査」では,平成25年12月31日時点での回答を基にした放射線業務従事経験者を除く46万0408人の推計結果は,県北・県中地区では90%以上が2mSv 未満となり,県南地区では約91%,会津・南会津地区では99%以上,相双地区では約78%,いわき地区では99%以上が1mSv 未満であった(乙B76)。また,平成29年6月30日時点での回答を基にした放射線業務従事経験者を除く46万4420人の推計結果は,県北地区では約87%,県中地区では約92%が2mSv 未満となり,県南地区では約88%,会津・南会津地区では99%以上,相双地区では約77%,いわき地区では99%以上が1mSv 未満であった(乙B252)。さらに,上記調査の平成30年3月31日時点での回答を基にした放射線業務従事経験者を除く46万5286人の推計結果は,県北地区では約87%,県中地区では約92%が2mSv未満となり,県南地区では約88%,会津・南会津地区では99%以上,相双地区では約77%,いわき地区では99%以上が1mSv 未満であった(乙B355)。 福島県が平成23年6月27日から平成25年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果では,預託実効線量が1mSv未満の者が17万5252人/17万5278人(約99.9%)となっており,全員,健康に害が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B77)。平成23年6月27日から平成30年4月30日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果でも,預託実効線量が1mSv 未満の者が33万0824人/33万0850人(約99.9%)となっており,全員,健康 ら平成30年4月30日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果でも,預託実効線量が1mSv 未満の者が33万0824人/33万0850人(約99.9%)となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B251)。平成23年6月27日から平成30年10月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果でも,預託実効線量が1mSv 未満の者が33万6379人/33万6405人(約99.9%)となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B354)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果でも,- 502 - 預託実効線量が1mSv 未満の者が33万7882人/33万7908人(約99. 9%)となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 10 本件事故による避難の合理性及び被害の分析(甲B148,証人黒田)黒田は,地域社会学,都市社会学及び災害社会学を専門分野とするところ,本件事故後に愛知県に避難した世帯を対象として,平成23年,平成24年及び平成25年に質問紙調査を実施した。各調査の概要及び黒田の分析は,おおむね以下のとおりであった。 ⑴ 平成23年の調査(以下「平成23年調査」という。)について平成23年調査は,愛知県被災地域支援対策本部被災者受入対策プロジェクト・チームによって実施された質問紙調査である。調査方法は郵送による無記名調査,調査期間は平成23年6月30日から同年7月11日までであり,受入被災者登録制度に登録する全世帯407世帯(同年6月30日時点)に配布し,174世帯から回答を得ており,回収率は42.8%であっ 調査,調査期間は平成23年6月30日から同年7月11日までであり,受入被災者登録制度に登録する全世帯407世帯(同年6月30日時点)に配布し,174世帯から回答を得ており,回収率は42.8%であった。 黒田は,愛知県に避難するまでの経緯や理由からは,避難者にとっては本件事故による放射能から逃れることが喫緊の課題であり,突然始まった問題に一刻の猶予もないまま対応した様子がうかがわれ,そのことは,本件事故当時福島県に在住していた者によく当てはまると分析している。また,黒田は,放射能の被ばくから急いで避難した世帯にとっては,愛知県への移動は万全に準備したわけではなく,事前に計画したものでもなかったため,避難した者は,住居の手配,職探し,生活資金の工面,生活用品の確保及び新しい土地で慣れることが突然必要となり,これら全てが負担であったと推察している。さらに,黒田は,平成23年時点では,本件事故が収束するのか分からず,身の安全も保障されていないため,たとえ元の土地に帰りたいとしても,自分自身だけでは解決できそうにないため今後の避難生活について見通しを立てられなかったのではないかと分析している。 - 503 - ⑵ 平成24年の調査(以下「平成24年調査」という。)について平成24年調査は,愛知県被災者支援センターの協力を得て,名古屋大学大学院環境学研究科黒田由彦研究室が実施した質問紙調査である。調査方法は郵送による無記名調査,調査期間は平成24年5月11日から同月31日までであり,受入被災者登録制度に登録する全世帯546世帯(同年4月30日時点)に配布し,157世帯から回答を得ており,回収率は28.9%であった。 黒田は,平成24年調査においても,前記⑴と同様に,本件事故による避難は突然始まり,避難者に 世帯(同年4月30日時点)に配布し,157世帯から回答を得ており,回収率は28.9%であった。 黒田は,平成24年調査においても,前記⑴と同様に,本件事故による避難は突然始まり,避難者には転居に伴う負担が突然課されたものと分析するとともに,被災前後で雇用形態が変わったこと,世帯の分離に伴う二重会計,愛知県では職が見つからないこと等から,避難者の大多数は経済的余裕がないと推測している。また,黒田は,被災する以前の住居や地域へ戻るつもりがない世帯が多数であった一方で,愛知県あるいは現住所に定住を決めきれない態度もうかがわれるところ,それは元々住んでいた地域の復旧・復興が進み,被ばくからの安全が確認できれば戻るつもり又は戻りたいと考えているが,安全が確認できないため決断を見送っているからであると分析している。さらに,黒田は,避難,帰還及びそれに伴う生活を立て直すという問題は自分自身だけで判断して解決できる範囲を超えた困難だと受け取られていると分析している。 ⑶ 平成25年の調査(以下「平成25年調査」という。)について平成25年調査は,愛知県被災者支援センターの協力を得て,名古屋大学大学院黒田由彦研究室を調査責任者として行った質問紙調査である。調査方法は郵送による無記名調査,調査期間は平成25年9月5日から同月30日までであり,愛知県被災者支援センターが住所を把握している511世帯(同年9月5日時点)に配布し,213世帯から回答を得ており,回収率は41.7%であった。 黒田は,避難指示等対象区域外からの避難者が多数いることを指摘し,それらの避難者は放射線被ばくを懸念して避難したと推察するとともに,避難者- 504 - は,平成24年と比べて,生活費を自力で賄う傾向が強まる一方で,借り上げ制度の打ち切りによる家賃 摘し,それらの避難者は放射線被ばくを懸念して避難したと推察するとともに,避難者- 504 - は,平成24年と比べて,生活費を自力で賄う傾向が強まる一方で,借り上げ制度の打ち切りによる家賃の支払の見通しが判然としない世帯が増加しており,特に女性の場合は正規雇用されない場合が多く,家計の状況に逼迫さを感じる事態に追い込まれていると分析している。また,黒田は,避難者は,上記のような状況を一般的な生活水準よりも低いと理解している場合が多く,その傾向は自主的避難者に多いと分析している。さらに,黒田は,自主的避難者のうち,福島県に戻らず定住すると決めた人々は過半数に及ぶ一方で,将来も避難先となった愛知県に定住することを決めかねている者もおり,平成23年以降,定住と保留の二極化が進んでいるところ,これは,自分だけでは解決できない放射能の問題,経済的に苦しいため別の場所に移りたいという切望感,移住を繰り返すことの煩雑さと同じような苦労が待っているのではないかという諦め,子供には落ち着いて暮らしてほしいという責任感等の様々な悩みを抱えて葛藤しているからであり,避難者にとっては精神的に落ち着かない状況に立たされていると分析している。 ⑷ 黒田は,以上の調査結果及び平成30年に行ったインタビュー調査の結果を踏まえて,避難指示等対象区域外の避難の合理性及び避難がもたらした被害について以下のとおり分析した。 ア避難等対象区域外の避難者は,本件事故後は,知覚できない放射線による被ばくに脅威を感じながらも,信頼できる情報がなかなか得られず,事故対応に責任のある行政が一貫性のある対応をしておらず,その結果福島第一原発周辺地域は避難等対象区域外であっても将来重大な健康被害に見舞われるリスクのある状態に置かれており,このような状況下では,予防的に に責任のある行政が一貫性のある対応をしておらず,その結果福島第一原発周辺地域は避難等対象区域外であっても将来重大な健康被害に見舞われるリスクのある状態に置かれており,このような状況下では,予防的に避難しようと行動を起こしたとしても十分に合理的な行動であったと評価することができる。 イ本件事故による避難者は,避難以前に被ばくしたことによってこの先健康状態に病変が生じるかもしれないという不安に常に苛まれるようになり,自- 505 - 然環境は放射性物質によって汚染され,これまでのように恩恵を与えてくれるものではなくなり,本件事故による避難により自身を取り巻く安定した社会関係(親族関係,同僚,知人・友人との関係)に劇的な変化が生じ,本件事故は過去から現在,現在から未来へと連続する時間の流れを現在で遮断した。このように,本件事故によって住み慣れたコミュニティから引き離されたことは,個々人にとって意味のある人生を成り立たせている中核的な条件が剥奪されるという重大な結果をもたらした。 第2章損害の総論に関する争点について第1 基本的な考え方 1 はじめに「原子力損害」(原賠法2条2項)とは,核原料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害をいうところ,「原子力損害」の範囲について原賠法には規定が存在しないから,民法上の損害賠償責任に関する一般原則に従って,原子炉の運転等と相当因果関係のある損害全てがこれに含まれると解される。そして,原子力損害とは,不法行為における損害と同様に,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用」が発生しなければあったであろう状態と現状の差額を金銭的に評価したものであると解され,本件事故と相当因 と同様に,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用」が発生しなければあったであろう状態と現状の差額を金銭的に評価したものであると解され,本件事故と相当因果関係のある損害の発生及び金額については,原告らが具体的に主張立証しなければならない。 しかし,本件事故の影響が極めて広範囲に及び,個々の避難者も突然の避難を余儀なくされたということも踏まえると,損害の内容によっては,損害の主張立証をすることが極めて困難である場合があり得る。中間指針等及び被告東電の賠償基準の考え方は,このような観点から,多数の避難者に共通する損害の賠償基準を策定し,被告東電は,中間指針等及び賠償基準の考え方を踏まえて策定した賠償基準により,一定の資料の確認ができた場合には賠償を行い,本件でも同基- 506 - 準に基づき一定の範囲では争わず賠償することを認めている。そうすると,上記のような損害の主張立証責任も踏まえ,被告東電が認める限度の金額についてはそれを損害として認定し,それを超える請求部分については,超過分の損害の発生及び金額の立証がされているかどうかを判断することが相当である。もっとも,損害の性質上その超過額を立証することが極めて困難なものについては,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 2 財産的損害不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかった時の状態に回復させることを目的とするものである(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)。原賠法に基づく損害賠償制度もこれと別異に解する理由はないから,これに従い,本件事故により原告らが させることを目的とするものである(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)。原賠法に基づく損害賠償制度もこれと別異に解する理由はないから,これに従い,本件事故により原告らが被った不利益を補てんする賠償額として相当な金額の算定方法を後記第3のとおり定め,当該算定方法に従って,各原告の被った財産的損害に対する賠償額を算定することとする。 3 精神的損害精神的損害についても,前記2と同様に,本件事故により原告らが被った精神的苦痛を慰謝する賠償額として相当な金額の算定方法を後記第4のとおり定め,原則として,当該算定方法に従って,各原告の被った精神的損害に対する賠償額を算定することとする。もっとも,精神的損害については,各原告の個別事情により精神的苦痛の程度が大きく左右されることから,最終的には各原告の個別事情を勘案して,相当と認める額を精神的損害に対する賠償額と認めることとする。 4 弁済の抗弁等についてまず,前記の損害額の算定方法に従って各原告の損害額を認定し,かかる損害額全体から被告東電から各原告に対する本件事故についての賠償金として支払- 507 - われた金額を控除する。そして,被告東電による賠償金を控除してもなお残額が存在する場合には,残額に相当因果関係が認められる範囲の弁護士費用を上乗せした金額を認容額とする。なお,被告東電が精神的損害に対する賠償として支払った賠償金には,前記第1章第3のとおり,生活費増加費用も慰謝料増額事由として加味されているものであるが,後述のとおり,本件訴訟において認定する慰謝料についても生活費増加費用を慰謝料増額事由として加味しているから,被告東電が精神的損害に対する賠償として主張する金額について原告らの被った精神的損害に対する慰謝料額から控除したと いて認定する慰謝料についても生活費増加費用を慰謝料増額事由として加味しているから,被告東電が精神的損害に対する賠償として主張する金額について原告らの被った精神的損害に対する慰謝料額から控除したとしても原告らの利益を不当に害するものとはいえない。また,各世帯が被った損害について,当該世帯の構成員のうち一人の原告が代表して請求している場合には,当事者の合理的意思に鑑み,上記損害は当該世帯を代表した原告の損害と認め,被告東電の当該世帯に対する弁済の抗弁についても,当該原告に対する弁済の抗弁として認めることとする。 なお,被告東電は,一部の原告らに対しては「避難雑費」や「自主的避難等対象者に対する賠償金」として支払った金銭についても他の賠償金とまとめて弁済の抗弁を主張している一方で,慰謝料のみを請求している原告らに対しては「避難雑費」や「自主的避難等対象者に対する賠償金」として支払った金銭について弁済の抗弁を主張していないことから,被告東電は,「避難雑費」や「自主的避難等対象者に対する賠償金」として支払った金銭についてまで慰謝料に対する弁済を主張する趣旨とは解されず,慰謝料のみを請求している原告らと慰謝料以外の請求をしている原告らとの公平の見地からも,「避難雑費」や「自主的避難等対象者に対する賠償金」として支払った賠償金は,具体的に主張立証されていない避難費用,生活費増加費用,財産的損害等に対する賠償の趣旨で支払われたと解するのが相当である。したがって,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表記載の金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料- 508 - に対する 損害一覧表記載の金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料- 508 - に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当することとする。同様に慰謝料として認定した損害額が,被告東電の慰謝料に対する弁済として損害一覧表記載の金額を下回る場合には,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当することとし,慰謝料以外の損害に対する弁済としては充当しないこととする。 5 中間指針等について原告ら及び被告らは,中間指針等の内容の合理性の有無や中間指針等を踏まえた被告東電の賠償基準の内容の合理性の有無等について主張するところ,中間指針等は,原賠法18条2項2号に依拠して,法学者及び放射線の専門家等の委員で構成された原賠審において,多数の被害者への迅速,公平かつ適正な賠償を行うとの見地から,過去の裁判例並びに慰謝料額の基準も踏まえて定めた基準であるから,これを踏まえた被告東電の賠償基準も含め,一応の合理性を有するものである。もっとも,いずれも飽くまで当事者による自主的な解決に資する一般的な指針にすぎないから,その内容は裁判所を拘束するものではない。 第2 避難の相当性について原告らの主張する財産的損害の中には,本件事故による避難に伴い発生したものが存在するところ,かかる損害が本件事故と相当因果関係が認められるか否かを判断する前提として,以下,避難の相当性を検討する。 1 帰還困難区域前記認定事実及び前提事実によれば,本件事故直後においては,本件事故や自らが置かれている状況について十分な情報がなく,本件事故や放射線被ばくの危険性につ 難の相当性を検討する。 1 帰還困難区域前記認定事実及び前提事実によれば,本件事故直後においては,本件事故や自らが置かれている状況について十分な情報がなく,本件事故や放射線被ばくの危険性について種々の報道がされている中で,放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,居住地からの避難を選択する者が原告らを含めて多数存在したところ,被告国は,原災法15条3項に基づき,避難指示区域,屋内退避区域及び計画的避難区域等を設定して避難指示等をしたこと,被告国は,平成23年3月21日のI- 509 - CRPの勧告を踏まえて避難指示の基準を年間20mSv と定め,同年12月26日,「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を公表し,本件事故から「5年間を経過してもなお,年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある,現時点で年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域」として「帰還困難区域」が設定されたこと,本件訴訟の口頭弁論終結時までに帰還困難区域は解除されていないこと,帰還困難区域は,本件事故発生当初は,避難指示区域,屋内退避区域又は計画的避難区域に指定された地域であったことが認められる。したがって,帰還困難区域に居住していた原告らはいずれも避難指示等により避難を余儀なくされたものといえ,避難を行ったことには合理性があり,かつ,かかる避難を継続していることにも合理性があるといえる。よって,帰還困難区域に居住していた原告らの避難及びその継続によって生じた損害は本件事故と相当因果関係を有するものといえる。 2 旧居住制限区域前記認定事実及び前提事実によれば,本件事故直後においては,本件事故や自らが置かれている状況について十分な情報がなく,本件事故や放射線被ばくの危 有するものといえる。 2 旧居住制限区域前記認定事実及び前提事実によれば,本件事故直後においては,本件事故や自らが置かれている状況について十分な情報がなく,本件事故や放射線被ばくの危険性について種々の報道がされている中で,放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,居住地からの避難を選択する者が原告らを含めて多数存在したところ,被告国は,原災法15条3項に基づき,避難指示区域,屋内退避区域及び計画的避難区域等を設定して避難指示等をしたこと,被告国は,平成23年3月21日のICRPの勧告を踏まえて避難指示の基準を年間20mSv と定め,同年12月26日,「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を公表し,「現時点からの年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり,住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することを求める地域」として「居住制限区域」を設定することとしたこと,旧居住制限区域は,本件事故発生当初は,避難指示区域,- 510 - 屋内退避区域又は計画的避難区域に指定された地域であったことが認められる。 したがって,本件事故前に旧居住制限区域に居住していた者はいずれも避難せざるを得なかったものであり,避難を行うことには合理性が認められる。また,前記前提事実によれば,平成29年4月1日までに大熊町の居住制限区域を除いて居住制限区域は全て解除されたことが認められるものの,居住制限区域が解除されたからといって約6年間もの長期間にわたって居住していなかった地域に解除後直ちに帰還を求めるのは相当でなく,帰還が可能となるまでに約1年間は要するというべきである。したがって,大熊町を除く居住制限区域が解除された平成29年4月1日の約1年後である平成30年3 域に解除後直ちに帰還を求めるのは相当でなく,帰還が可能となるまでに約1年間は要するというべきである。したがって,大熊町を除く居住制限区域が解除された平成29年4月1日の約1年後である平成30年3月31日までは避難を継続することに合理性が認められるというべきである。一方で,平成30年4月1日以降は,避難前の居住地に帰還することが可能といえるから,避難の継続の合理性は認めることは困難といわざるを得ない。 3 旧避難指示解除準備区域前記認定事実及び前提事実によれば,本件事故直後においては,本件事故や自らが置かれている状況について十分な情報がなく,本件事故や放射線被ばくの危険性について種々の報道がされている中で,放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,居住地からの避難を選択する者が原告らを含めて多数存在したところ,被告国は,原災法15条3項に基づき,避難指示区域,屋内退避区域及び計画的避難区域等を設定して避難指示等をしたこと,被告国は,平成23年3月21日のICRPの勧告を踏まえて避難指示の基準を年間20mSv と定め,同年12月26日,「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を公表し,「年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であることが確認された地域」として「避難指示解除準備区域」を設定することとしたこと,旧避難指示解除準備区域は,本件事故発生当初は,避難指示区域,屋内退避区域又は計画的避難区域に指定された地域であったことが認められる。したがって,本件事故前に旧避難指示解除準備- 511 - 区域に居住していた者はいずれも避難せざるを得なかったものであり,避難を行うことには合理性が認められる。また,前記認定事実によれば,平成29年4月1日までに大熊町及び 解除準備- 511 - 区域に居住していた者はいずれも避難せざるを得なかったものであり,避難を行うことには合理性が認められる。また,前記認定事実によれば,平成29年4月1日までに大熊町及び双葉町の避難指示解除準備区域を除いて避難指示解除準備区域は全て解除されたことが認められる。そして,避難指示解除準備区域が解除されたからといって約6年間もの長期間にわたって居住していなかった地域に解除後直ちに帰還を求めるのは相当でなく,帰還が可能となるまでに約1年間は要するというべきである。したがって,大熊町及び双葉町を除く避難指示解除準備区域が解除された平成29年4月1日の約1年後である平成30年3月31日までは避難を継続することに合理性が認められるというべきである。一方で,平成30年4月1日以降は,避難前の居住地に帰還することが可能といえるから,避難の継続の合理性は認めることは困難といわざるを得ない。 4 旧緊急時避難準備区域前記認定事実及び前提事実によれば,本件事故直後においては,本件事故や自らが置かれている状況について十分な情報がなく,本件事故や放射線被ばくの危険性について種々の報道がされている中で,放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,居住地からの避難を選択する者が原告らを含めて多数存在したところ,被告国は,原災法15条3項に基づき,避難指示区域,屋内退避区域及び計画的避難区域等を設定して避難指示等をしたこと,内閣総理大臣は,平成23年4月22日,福島第一原発から半径20ないし30km の屋内退避を解除し,緊急時避難準備区域を設定したこと,被告国は,平成23年3月21日のICRPの勧告を踏まえて避難指示の基準を年間20mSv と定め,同年9月30日,緊急時避難準備区域の指定を解除したことが認められる。緊急時避難準備区域とは,当 こと,被告国は,平成23年3月21日のICRPの勧告を踏まえて避難指示の基準を年間20mSv と定め,同年9月30日,緊急時避難準備区域の指定を解除したことが認められる。緊急時避難準備区域とは,当該区域の居住者等は,常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことなどとされている区域であるところ,避難指示等がなくとも,緊急時には立ち退き又は屋内退避を行う必要があるという状態では安心した生活を送ることができず,上記のような状況の下,旧緊急時避難準備区域に隣接した区域- 512 - では避難指示等が行われていることに鑑みれば,旧緊急時避難準備区域に居住する者が放射性物質による影響から身を守るために避難を開始することには合理性が認められる。また,緊急時避難準備区域は平成23年9月30日に解除されていること,解除が本件事故から約半年後に行われ避難してからそれほど時間が経過しておらず,帰還することは比較的容易なこと,同年12月16日には「放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を確認したことが発表されたことなどに鑑みれば,避難の継続の合理性が認められるのは,平成24年8月31日までと認めるのが相当である。 5 自主的避難等対象区域妊婦及び子供以外の避難者について避難指示等によらずに避難をした人々は,避難前の居住地からの避難を余儀なくされたわけではないものの,前記認定事実及び前提事実によれば,本件事故直後においては,本件事故や自らが置かれている状況について十分な情報がなく,平成23年3月頃には,本件事故について,「第一原発3号機も『炉心溶融』」,「米スリーマイル島に匹敵する原発史上まれな大事故」,「メルトダウンの恐れ」と,放射性物質の拡散について,「放射性 がなく,平成23年3月頃には,本件事故について,「第一原発3号機も『炉心溶融』」,「米スリーマイル島に匹敵する原発史上まれな大事故」,「メルトダウンの恐れ」と,放射性物質の拡散について,「放射性物質大量放出」,「放射線量,極めて危険」,「水道,基準上回る放射能」などと新聞報道されたこと,放射線被ばくを防ぐため,同月11日から避難指示等が出され,同月15日までの間にその対象地域が3度拡大されたこと,保安院は,同年4月12日,本件事故の放射性物質の放出量に関してレベル7と判断していること,このような状況下で,自主的避難者数は同年5月頃から同年9月頃までにかけて増加し,同月には福島県全体で5万人を超えていること,ICRP勧告では,年間約100mSv を下回る線量においては,生物学的/疫学的知見に基づく根拠が得られていないが,ある一定の線量の増加に正比例して放射性起因の発がん又は遺伝性影響の確率が増加するというLNTモデルが採用されていること,年- 513 - 間100mSv 以下であっても放射線量が増加するに従って発がんの確率も増加するという見解も存在していたこと,被告国がICRPの勧告を踏まえて避難指示の基準を年間20mSv と定めたのは本件事故後の平成23年7月19日のことであることが認められる。これらの事情からすれば,本件事故発生当初の時期は,自らの置かれている状況について十分な情報がない中で,大量の放射性物質の放出による放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,その危険を回避するために避難することには一定の合理性が認められる。そして,中間指針第一次追補が定める自主的避難等対象者は,福島第一原発からの距離,避難指示等の対象となった区域との近接性,放射線量,自主的避難の状況等からして,避難することが合理的であると評価することができる類 針第一次追補が定める自主的避難等対象者は,福島第一原発からの距離,避難指示等の対象となった区域との近接性,放射線量,自主的避難の状況等からして,避難することが合理的であると評価することができる類型の避難者を示したものといえる。以上の事情に鑑みれば,本件事故前に自主的避難等対象区域に居住していた者の避難には合理性が認められる。また,前記前提事実によれば,平成23年4月22日には屋内退避の指示が解除され,区域の見直しが行われたこと,同年8月9日には緊急時避難準備区域についてはステップ1(安定的な冷却)の達成により原子力発電所の状況が著しく改善したことから,それぞれの市町村において復旧計画の策定が完了した段階で緊急時避難準備区域を一括して解除する方針が示され,実際に同年9月30日に緊急時避難準備区域が解除されたこと,同年12月16日には「放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を確認したことが発表され,これを受けて同月26日に警戒区域及び計画的避難区域の見直しの方針が公表されたことが認められる。これらの事情からすれば,平成23年4月22日に屋内退避の指示が解除された時点や同年9月30日に緊急時避難準備区域が解除された時点では本件事故が収束するか不確定な部分もあったといえるが,同年12月の時点では,「放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2が完了するなど,本件事故は収束に向かっていることが確認できたといえる。そして,自主的避難等対- 514 - 象区域からの避難者については,避難指示等によらずに避難をしたものであるところ,平成23年4月22日に屋内退避の指示が解除され,同年9月30日に緊急時避難準備区域が解除されたこと,本件事故から本件事故が収束 らの避難者については,避難指示等によらずに避難をしたものであるところ,平成23年4月22日に屋内退避の指示が解除され,同年9月30日に緊急時避難準備区域が解除されたこと,本件事故から本件事故が収束に向かっていることが確認できた平成23年12月まで約9か月しか経過しておらず,帰還することが比較的容易なことなどの事情に鑑みれば,自主的避難等対象区域に居住する妊婦・子供以外の者の避難の継続の合理性が認められるのは本件事故が収束に向かっていることが確認できた平成23年12月31日までと認めるのが相当である。 妊婦及び子供の避難者について前記認定事実のとおり,妊婦及び子供については,それ以外の者よりも放射線に対する感受性が高いと一般的に認識されていることからすれば,他の者よりも長期間にわたって放射線の影響を避けるために避難を継続することには一定の合理性が認められる。したがって,当時の帰還先の放射線量等諸般の事情を総合的に考慮すると,自主的避難等対象区域に居住する妊婦及び子供の避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までと認めるのが相当である。 6 区域外中間指針等や被告東電の賠償基準において,自主的避難等対象区域に指定されていなかったとしても,本件事故当時の居住地と福島第一原発及び避難指示区域の位置関係,放射線量,避難者の年齢,家族構成及び心身の状況,避難者が入手した放射線量に関する情報,本件事故から避難を選択するまでの期間等の諸事情を総合的に考慮して避難及びその継続に合理性が認められる場合には,かかる避難及びその継続によって生じた損害は,本件事故と相当因果関係が認められる。 7 避難の合理性に関する原告らの主張について原告らは,少なくとも実効線量年間1mSv を超える線量が測定された地域から避難すること によって生じた損害は,本件事故と相当因果関係が認められる。 7 避難の合理性に関する原告らの主張について原告らは,少なくとも実効線量年間1mSv を超える線量が測定された地域から避難することには合理性ないし社会的相当性が認められる旨主張する。 - 515 - しかしながら,前記認定事実のとおり,国際的な合意に基づく科学的な知見によれば,放射線による発がんのリスクは,100mSv 以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加傾向を証明することは難しいとされ,少なくとも100mSv を超えない限り,がん発症のリスクが高まるとの確立した知見は得られておらず,ICRPの勧告等で述べられているLNTモデルも,飽くまで科学的な不確かさを補う観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されているものにすぎないことが明言されている。 そして,ICRPの勧告において,公衆被ばくに対する線量限度年1mSv については,本件事故の発生後のような緊急時被ばく状況においては適用されず,緊急時被ばく状況における参考レベルは予測線量20mSv から100mSv までの範囲にあるものとし,また,事故による汚染が残存する現存被ばく状況においては,1mSv から20mSv までの範囲に設定すべきであるとしている。 これらの科学的知見等に照らすと,原告らの主張立証を考慮しても,年間20mSv を下回る被ばくが健康に被害を与えると認めることは困難であるといわざるを得ない。そして,被告国は,本件事故後,年間積算線量20mSv をもって,避難指示区域等を指定し,解除する基準としているが,これは,平成23年3月21日のICRPによる勧告を踏まえ,2007年の勧告の緊急時被ばく状況の 国は,本件事故後,年間積算線量20mSv をもって,避難指示区域等を指定し,解除する基準としているが,これは,平成23年3月21日のICRPによる勧告を踏まえ,2007年の勧告の緊急時被ばく状況の参考レベルである20ないし100mSv の下限値を適用することが適切と判断して決定した基準であって,上記科学的知見等に照らしても,合理性を有すると考えられる。この点,原告らが指摘する低線量被ばくに関する知見等を踏まえても,上記避難指示区域等の指定や解除が不相当ということはできず,原告らの主張は採用できない。また,原告らは,モニタリングポストにおける環境放射能の測定値は正確ではない旨主張し,それに沿う証拠を提出するが,原告らの用いた測定方法が必ずしも正確なものとは直ちに認められない上,原告らの測定値を前提としても必ずしも年間20mSv を超えるとは直ちに認められないから,原告らの上- 516 - 記主張は避難の合理性に関する判断を左右しない。 第3 財産的損害について 1 避難費用⑴ 交通費本件事故による避難の際に実際に支出した交通費のうち,必要かつ合理的な範囲の交通費が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。損害の発生及び損害額については,原則として領収証等の証拠に基づいて認定するが,被告東電が既に賠償している範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。また,原告らの避難は本件事故直後の混乱の中で行われたものが多く,避難経路等の具体的な立証ができていないとしても,避難を行った事実が認められれば,避難の際の交通費は発生したと認められるから,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする ,避難を行った事実が認められれば,避難の際の交通費は発生したと認められるから,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 ⑵ 宿泊費・謝礼本件事故による避難の際に実際に支出した宿泊費・謝礼のうち,必要かつ合理的な範囲の宿泊費・謝礼が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。損害の発生及び損害額については,原則として領収証等の証拠に基づいて認定するが,被告東電が既に賠償している範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。また,原告らの避難は本件事故直後の混乱の中で行われたものが多く,実際の宿泊費・謝礼の金額等の具体的な立証ができていないとしても,避難を行った事実が認められれば,宿泊費・謝礼は発生したと認められるから,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。なお,謝礼については,原告らが支払を余儀なくされたものではなく,原告らが自らの判断によって任意に支払ったと- 517 - 認められる場合には,本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。 ⑶ 引越費用本件事故による避難の際に実際に支出した引越費用のうち,必要かつ合理的な範囲の引越費用が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。損害の発生及び損害額については,原則として領収証等の証拠に基づいて認定するが,被告東電が既に賠償している範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。また,原告らの避難は本件事故直後の混乱の中で行われたものが多いことから,実際に支払った引越費用の金 範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。また,原告らの避難は本件事故直後の混乱の中で行われたものが多いことから,実際に支払った引越費用の金額等の具体的な立証ができていないとしても,避難を行った事実が認められれば,引越費用は発生したと認められるから,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 ⑷ 敷金・礼金本件事故による避難先のアパート等に入居するために支払った敷金・礼金のうち必要かつ合理的な範囲の敷金・礼金が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。損害の発生及び損害額については,原則として領収証等の証拠に基づいて認定するが,被告東電が既に賠償している範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 ⑸ 一時立入・帰省費用本件事故による避難先から避難前の居住地に一時立入又は帰省するために要した費用のうち必要かつ合理的な範囲の一時立入・帰省費用が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。もっとも,多数回にわたって一時立入・帰省を行った場合にも全額を損害として認めるのは相当ではないから,一時立入又は帰省の相当性が認められるのは,原則として月1回とするが,時期や各- 518 - 原告の置かれた状況によっては,更に一時立入又は帰省が必要であったと認められる場合もあり得るから,最終的には各原告の個別事情を勘案して相当な範囲で一時立入・帰省費用を認める。また,避難指示等が解除され,避難の相当性が認められなくなった時点以降の一時立入又は帰省費用は,本件事故と相当因果関係は認められないというべきである。 一時立入又は帰省に 時立入・帰省費用を認める。また,避難指示等が解除され,避難の相当性が認められなくなった時点以降の一時立入又は帰省費用は,本件事故と相当因果関係は認められないというべきである。 一時立入又は帰省に要した交通費等は,原則として領収証等の証拠に基づいて認定するが,被告東電が既に賠償している範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 ⑹ 面会交通費本件事故による避難により家族が離れ離れになり,二重生活を余儀なくされた場合の面会交通費のうち相当な範囲の面会交通費が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。もっとも,多数回にわたって面会を行った場合にも全額を損害として認めるのは相当ではないから,面会の相当性が認められるのは,原則として月1回とするが,時期や各原告の置かれた状況によっては,更に面会が必要であったと認められる場合もあり得るから,最終的には各原告の個別事情を勘案して相当な範囲で面会交通費を認める。また,避難指示等が解除され,避難の相当性が認められなくなった時点以降の面会交通費は,本件事故と相当因果関係は認められないというべきである。 面会交通費は,原則として領収証等の証拠に基づいて認定するが,被告東電が既に賠償している範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 2 生活費増加費用⑴ 家財道具購入費本件事故による避難に際し,必要な家財道具を全て持って行くことは困難であり,避難先で家財道具を購入しなければならなかったと考えられるから,本件事故による避難先で必要な家財道具を購入した費用のうち相当な範囲の家- 519 - 財道具購入費が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。損害の発 ければならなかったと考えられるから,本件事故による避難先で必要な家財道具を購入した費用のうち相当な範囲の家- 519 - 財道具購入費が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。損害の発生及び損害額については,原則として領収証等の証拠に基づいて認定するが,被告東電が既に賠償している範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。また,家財道具については,その数が多数に及ぶことが多く,具体的な個数,金額等について立証することが困難な場合もあるが,上記のとおり,避難を行えば避難先で家財道具を購入しなければならなかったと考えられるから,損害の発生自体は認めることができ,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 ⑵ 生活費増加分ア光熱費本件事故による避難を行ったことにより,家族の別居が強いられ,二重生活を行っている場合には,光熱費の増加分を具体的に立証できていれば,その金額を損害と認め,具体的に立証できていないとしても,損害の発生自体は認めることができる場合には,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 イ交通費本件事故による避難を行ったことにより,勤務先が遠方になるなどして,通勤交通費が増加した場合には,交通費の増加分を具体的に立証できていれば,その金額を損害と認め,具体的に立証できていないとしても,損害の発生自体は認めることができる場合には,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 ウ ていないとしても,損害の発生自体は認めることができる場合には,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 ウ通信費前記アと同様の算定方法を用いることとする。 - 520 - エ被服費本件事故による避難を行ったことにより,被服費が増加したことを具体的に立証できている場合には,その増加分を本件事故と相当因果関係のある損害と認め,具体的に立証できていないとしても,損害の発生自体が認められる場合には,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 オ食費本件事故による避難を行う前は野菜等の食料を自宅で栽培したり親戚等からもらったりしていたため野菜等を購入する必要はなかったが,本件事故による避難を行ったため,野菜等を店舗等で購入する必要性が生じ食費が増加したことが具体的に認められる場合には,増加分が具体的に立証できていれば,その増加分を本件事故と相当因果関係のある損害と認め,具体的に立証できていないとしても,損害の発生自体が認められる場合には,損害の性質上その額を立証することが極めて困難なものとして,民事訴訟法248条に基づき相当な損害額を認定することとする。 ⑶ 家賃増加分本件事故による避難を行う前は持ち家に居住しており家賃を負担していなかった者については,必要となった家賃負担のうち相当な範囲で損害と認め,避難前は借家に居住しており家賃を負担していた者については,従前の家賃と実際に負担している家賃の差額のうち相当な範囲で本件事故と相当因果関係のある損害と認めることとする。 ⑷ 教育費本件事 借家に居住しており家賃を負担していた者については,従前の家賃と実際に負担している家賃の差額のうち相当な範囲で本件事故と相当因果関係のある損害と認めることとする。 ⑷ 教育費本件事故による避難を行ったことにより子供が転校せざるを得なかった場合に購入が必要となった学用品等の購入代金については,相当な範囲で本件事故と相当因果関係のある損害と認めることとする。 3 就労不能損害- 521 - 本件事故前の収入を基礎として,就労が不能であった期間について,本件事故がなければ得られたであろう収入を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。もっとも,就労不能となった原因が本件地震又は本件津波であり,本件事故がなくとも就労不能となっていた場合には就労不能損害は認められない。また,本件事故当時就労していなかった場合には,近い将来就労することが予定されていたなど,就労する蓋然性が認められる場合に限り,就労不能損害として損害を認めることとする。さらに,本件事故により収入が減少したと認められる場合には,本件事故前の収入と本件事故後の収入との差額のうち相当な範囲で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 4 財物損害不法行為による物の滅失,毀損に対する損害賠償額は,特段の事由のない限り,8号,第521号同15年5月22日民刑連合部中間判決・民集5巻6号386頁参照)。 本件についてみると,上記特段の事由は主張されていないことから,本件事故当時の対象物の交換価格に基づき,本件事故がなければあったであろう価格と本件事故により滅失毀損した当該物の価格との差額をもって損害額を認定するのが相当である。 5 生命・身体的損害原告らの主張する生命・身体的損害と本件事故との相当因果関係が認められる場合に 件事故により滅失毀損した当該物の価格との差額をもって損害額を認定するのが相当である。 5 生命・身体的損害原告らの主張する生命・身体的損害と本件事故との相当因果関係が認められる場合には,上記損害を本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。 6 その他(被ばく検査費用,線量計購入費用,除染費用等)被ばく検査費用等として原告らが実際に支出した費用のうち相当な範囲の費用が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。損害の発生及び損害額については,原則として領収証等の証拠に基づいて認定するが,被告東電が既に賠- 522 - 償している範囲については,領収証等が存在しなくとも,当該賠償額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 第4 精神的損害について 1 被侵害利益原告らの中には,政府による避難指示等により避難を余儀なくされた区域から避難した者,政府の避難指示等の対象とされなかった区域から避難した者,現時点において避難指示等が解除されている区域から避難した者,現時点においても避難指示等の解除の見込みが立っていない区域から避難した者,実際に避難した者,避難せずに福島県内に留まっている者等様々な状況の者がおり,各原告の侵害された利益及びその程度は,その置かれた状況によって原告ごとに異なるというべきである。もっとも,避難の相当性の認められる者については,いずれの原告も,本件事故を原因として,住み慣れた自宅や地域に帰れない苦痛を感じること,不便な避難生活を強いられること,先の見通しがつかない不安を感じること,放射能に対する恐怖や不安を感じることなどにより,平穏な日常生活を喪失し,精神的苦痛を被った点では共通しているといえる。また,本件事故後避難していない者についても,放射線被ばくに対する恐怖と不 と,放射能に対する恐怖や不安を感じることなどにより,平穏な日常生活を喪失し,精神的苦痛を被った点では共通しているといえる。また,本件事故後避難していない者についても,放射線被ばくに対する恐怖と不安の中での生活を余儀なくされたことなどからすれば,避難した者と同程度の精神的苦痛を被ったと考えられる。そして,上記各要素は,相互に関連し合って,時間の経過と共に,原告らの精神的苦痛を増加又は低下させるものといえ,重複する部分も存在するから,原告らの被った精神的損害の大きさを判断するに当たっては,上記各要素を総合的に考慮すべきである。したがって,本件における原告らが侵害された利益は,上記各要素を総合した平穏な日常生活を送る権利と解するのが相当であり,かかる権利は憲法13条,憲法22条1項等に照らして,原賠法上も保護されるものというべきである。なお,原告らが主張する「故郷喪失慰謝料」も上記慰謝料と同様の性質を有するものであると解するのが相当である。 また,中間指針第四次追補は,避難指示区域の見直しにより,5年間を経過し- 523 - てもなお,年間積算線量が20mSv を下回らないおそれのある地域として帰還困難区域が設定されたが,帰還困難区域は現時点においても避難指示解除及び時期の具体的な見通しが立っておらず,避難指示が本件事故後6年を大きく超えて長期化することが見込まれている状況に鑑み,帰還困難区域に居住していた住民は,「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」を賠償の対象とすることとしたものであるから,中間指針第四次追補に基づく精神的苦痛の賠償は,上記慰謝料をてん補するものと解するのが相当である。 そして,前記のとおり,原告ごとに上記各要素 等」を賠償の対象とすることとしたものであるから,中間指針第四次追補に基づく精神的苦痛の賠償は,上記慰謝料をてん補するものと解するのが相当である。 そして,前記のとおり,原告ごとに上記各要素の侵害の有無及び程度は異なるから,最終的には慰謝料額は各原告の個別事情を具体的に考慮して算定すべきであるが,慰謝料額算定の目安を後記2のとおり示すこととする。 2 避難に伴う慰謝料⑴ 帰還困難区域避難の相当性については,前記第2の1で説示したとおりであり,本件事故前に帰還困難区域に居住していた者については,避難指示等により避難を余儀なくされ,自らの意思に反して居住地を離れることとなり,平穏な日常生活を喪失したこと,不便な避難生活を強いられたこと,放射能に対する恐怖や不安を感じたことに加え,見通しのつかない長期間にわたって住み慣れた住居及び地域に帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされていることなどからすれば,他の区域から避難を行った者と比較すると,その被った精神的苦痛は大きいものといえる。また,避難を行ったことによりそれ以前は安価で入手できていた生活必需品の入手にかかる経済的負担が増加するであろうことなどからすれば,具体的な立証が困難な生活費増加費用についても慰謝料増額事由として加味すべきである。そして,後記⑵ないし⑷のとおり,旧居住制限区域,旧避難指示解除準備区域及び旧緊急時避難準備区域に居住していた者の避難生活に伴う慰謝料は月額10万円程度とするのが相当であること,他の区域- 524 - に居住していた者の慰謝料額との均衡等諸般の事情に鑑みれば,帰還困難区域に居住していた者の慰謝料は,1人当たり1500万円とするのが相当である。 ⑵ 旧居住制限区域避難の相当性については,前記第2の2で 料額との均衡等諸般の事情に鑑みれば,帰還困難区域に居住していた者の慰謝料は,1人当たり1500万円とするのが相当である。 ⑵ 旧居住制限区域避難の相当性については,前記第2の2で説示したとおりであり,本件事故前に旧居住制限区域に居住していた者については,避難指示等により避難を余儀なくされ,自らの意思に反して居住地を離れることとなり,平穏な日常生活を喪失し,不便な避難生活を強いられたこと,放射能に対する恐怖や不安を感じたこと,住み慣れた住居及び地域に長期間にわたって帰還不能となり,本件事故前の地域の人々とのつながりを失ったことが認められる。また,避難を行ったことによりそれ以前は安価で入手できていた生活必需品の入手にかかる経済的負担が増加するであろうこと等からすれば,具体的な立証が困難な生活費増加費用についても慰謝料増額事由として加味すべきである。もっとも,本件においては,財産的損害については別途損害の賠償が認められているところである。これらの事情に鑑みれば,避難に伴う慰謝料は月額10万円を基本とするのが相当であり,各原告の個別事情を勘案して最終的な慰謝料額を決すべきである。 ⑶ 旧避難指示解除準備区域避難の相当性については,前記第2の3で説示したとおりであり,本件事故前に旧避難指示解除準備区域に居住していた者については,前記の居住制限区域と同様に,自らの意思に反して居住地を離れることとなり,平穏な日常生活を喪失し,不便な避難生活を強いられたこと,放射能に対する恐怖や不安を感じたこと,住み慣れた住居及び地域に長期間にわたって帰還不能となり,本件事故前の地域の人々とのつながりを失ったことが認められる。また,旧居住制限区域に居住していた者と同様,具体的な立証が困難な生活費増加費用についても慰謝料増額事由と 期間にわたって帰還不能となり,本件事故前の地域の人々とのつながりを失ったことが認められる。また,旧居住制限区域に居住していた者と同様,具体的な立証が困難な生活費増加費用についても慰謝料増額事由として加味すべきであるが,他方で財産的損害については- 525 - 別途損害の賠償が認められることなどに鑑みれば,避難に伴う慰謝料は月額10万円を基本とするのが相当であり,各原告の個別事情を勘案して最終的な慰謝料額を決すべきである。 ⑷ 旧緊急時避難準備区域避難の相当性については,前記第2の4で説示したとおりであり,本件事故前に旧緊急時避難準備区域に居住していた者については,平穏な日常生活を喪失し,避難生活による不便を被ったこと,放射能に対する恐怖や不安を感じたこと,本件事故前の地域の人々とのつながりを失ったこと,旧居住制限区域に居住していた者と同様,具体的な立証が困難な生活費増加費用についても慰謝料増額事由として加味すべきであること,他方で財産的損害については別途損害の賠償が認められることなどに鑑みれば,避難に伴う慰謝料は月額10万円を基本とするのが相当であり,各原告の個別事情を勘案して最終的な慰謝料額を決すべきである。また,実際に避難を行わず,旧緊急時避難準備区域に居住し続けた者についても,放射線被ばくに対する恐怖と不安の中での生活を余儀なくされたこと,常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことが求められ,行動の自由が制約される状態であったこと,本件事故前の地域の人々とのつながりを失ったことなどからすれば,避難した者と同程度の精神的苦痛を被ったと考えられるから,滞在し続けた者についても,避難した者と同程度の慰謝料額の賠償を認めることとする。 ⑸ 自主的避難等対象区域避難の相 すれば,避難した者と同程度の精神的苦痛を被ったと考えられるから,滞在し続けた者についても,避難した者と同程度の慰謝料額の賠償を認めることとする。 ⑸ 自主的避難等対象区域避難の相当性については,前記第2の5で説示したとおりであるが,自主的避難等対象区域に居住していた者のうち,本件事故後直ちに避難していない者についても,放射線被ばくに対する恐怖や不安を抱きながら生活していたが,仕事の都合等により本件事故後直ちに避難することができず,放射線被ばくについての知見を得るにつれて避難の必要性を認識するようになって本件事故から一定程度期間を経過した後に避難を決断したとしても不合理とはいえな- 526 - い。そして,本件事故後直ちに避難していない者についても,放射線被ばくに対する恐怖と不安の中での生活を余儀なくされたこと等からすれば,避難した者と同程度の精神的苦痛を被ったと考えられるから,本件事故から一定程度期間を経過してから避難をした者や避難せずに自主的避難等対象区域に居住し続けた者についても,本件事故後直ちに避難した者と同程度の慰謝料額の賠償を認めることとする。 そして,自主的避難等対象区域に居住していた者は,避難指示等により避難している者とは異なり,避難すべきかについて苦悩せざるを得なかったという事情は認められるものの,避難指示等により避難している者と比較すれば,居住地を自ら決定する権利の侵害の度合いは低いことなどに鑑みれば,自主的避難等対象区域に居住していた者の慰謝料額は,妊婦又は子供であるかを問わず平成23年3月から同年12月までは月額6万円,また,妊婦又は子供については平成24年1月から同年8月まで月額5万円とするのが相当である。なお,妊婦又は子供に同伴するために平成24年1月以降に避難し又は避難を継 月から同年12月までは月額6万円,また,妊婦又は子供については平成24年1月から同年8月まで月額5万円とするのが相当である。なお,妊婦又は子供に同伴するために平成24年1月以降に避難し又は避難を継続した者の同月以降の精神的損害については,妊婦又は子供に対する慰謝料額に含まれているというべきであり,同伴者の慰謝料が別途増額されるものではない。 ⑹ 区域外避難の相当性については,前記第2の6で説示したとおりであり,避難及びその継続に合理性が認められる場合には,自主的避難等対象区域の者に対する賠償基準を参考に慰謝料額を算定する。 3 慰謝料増額事由の有無⑴ 本件事故の発生につき,被告東電には故意又はこれに匹敵する重大な過失があり,慰謝料増額事由として考慮すべきか,以下検討する。 ⑵ 前記認定事実によれば,平成14年7月に長期評価の見解が公表されたこと,平成18年5月の溢水勉強会において,敷地高さを超える津波が到来した- 527 - 場合には,全交流電源喪失に陥るおそれがあることが判明したこと,被告東電は,平成20年2月頃,長期評価の見解に基づいて1896年の明治三陸地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝沿いにおいて試算を行ったところ,福島第一原発の敷地南側で最大O.P.+15.7mの津波高さという結果を得たことが認められる。これらの事情からすれば,平成14年7月に長期評価の見解が公表されてから直ちに試算を行えば,長期評価の見解が公表された数か月後には福島第一原発の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波を予見することが可能であり,また,遅くとも敷地高さを超える津波が到来した場合には全交流電源喪失に陥る可能性があることを認識し得た平成18年には長期評価の見解に基づく試算を行うべきであったといえ 波を予見することが可能であり,また,遅くとも敷地高さを超える津波が到来した場合には全交流電源喪失に陥る可能性があることを認識し得た平成18年には長期評価の見解に基づく試算を行うべきであったといえる。したがって,被告東電は,遅くとも平成18年には長期評価の見解に基づく試算を行い,福島第一原発の主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見することができ,予見すべきであったといえる。そして,原子力発電所が一たび事故を起こせば周辺住民等に重大な被害をもたらし得るものであることに鑑みれば,被告東電には,主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来が予見できた場合には,かかる津波が到来した場合に全交流電源喪失に至らないような対策を講じるべき義務があったといえる。もっとも,前記の被告国の責任において検討したのと同様に,長期評価の見解は,根拠となったデータが少ないことなどから,その信用性はやや低いものといわざるを得ず,直ちに対策を講じなければ重大な事故が発生する危険が切迫した状態であったということはできない。また,前記認定事実によれば,被告東電は,長期評価の見解については,確定論ではなく確率論に取り入れる方針としたこと,2008年推計の結果を把握した後,土木学会に対し,長期評価の見解の取扱いに関する検討を委託し,平成24年10月を目途に結論が出される予定の土木学会の検討結果如何では,津波対策を講じる予定であるとしていたことが認められる。このように,被告東電は,長期評価の見解について全く対応を- 528 - とらなかったわけではなく,長期評価の見解をどのように取り扱うかについて検討を重ねていたものといえる。 以上より,原子力発電所で事故が発生した場合の結果の重大性に鑑みれば,被告東電としては,主要建 ったわけではなく,長期評価の見解をどのように取り扱うかについて検討を重ねていたものといえる。 以上より,原子力発電所で事故が発生した場合の結果の重大性に鑑みれば,被告東電としては,主要建屋の敷地高さであるO.P.+10mを超える津波の到来を予見できた場合には,早急に対策を講じるべきであり,本件における被告東電の対応は遅く,不十分なものといえるものの,被告東電が何らの対策も講じていなかったわけではなく,自己の利益を優先するためにあえて対策を遅らせたといった事情は認められないから,本件事故の発生につき,故意又はこれに匹敵する重大な過失があったということはできない。したがって,被告東電の過失を慰謝料増額事由として考慮すべきであるとはいえない。 - 529 -第3章各原告の損害額第1 原告番号1の世帯 1 認定事実(原告番号1-2本人(同人の陳述書(甲C1の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号1-1(本件事故当時35歳),その妻である原告番号1-2(本件事故当時27歳),原告番号1-1及び原告番号1-2の長女である原告番号1-3(本件事故当時8歳)は,本件事故当時,原告番号1-2の父が所有する須賀川市所在の不動産(須賀川市 ,福島第一原発からの距離60.21㎞(乙C1の1))に居住していた(以下,原告番号1-1ないし原告番号1-3の3名又は上記3名に原告番号1-4を追加した4名を併せて,この項において「原告ら」という。)。 同不動産の1階には,原告番号1-2の父が経営する会社の事務所があり,原告らは同不動産の2階を社宅として水道光熱費込みで月額2万円の家賃で借りている状況であった。また,原告番号1-2は,本件事故当時,原告番号1-4を妊娠しており,出産予定日は平成2 の事務所があり,原告らは同不動産の2階を社宅として水道光熱費込みで月額2万円の家賃で借りている状況であった。また,原告番号1-2は,本件事故当時,原告番号1-4を妊娠しており,出産予定日は平成23年10月だった。 原告らは,近くに居住する原告番号1-2の両親に日常的に生活を助けてもらっており,原告番号1-2の両親が栽培する野菜や穀物を無料でもらうなどしていた。原告番号1-1は,本件事故当時,郡山市で和食店を経営しており,経営は順調であった。原告番号1-2は,同人の父が経営する一般廃棄物の収集運搬,浄化槽管理等を業務とする会社で正社員として勤務しており,上記会社について父の跡を継ぎたいと思っており,原告番号1-2の父もそれを希望していた。原告番号1-3は,本件事故当時,小学校2年生であり,同級生には幼稚園から一緒の仲の良い友達がたくさんおり,学校行事には,原告番号1-1及び原告番号1-2の両親も一緒に見に行くのが常であった。 ⑵ 避難開始の経緯等- 530 -原告番号1-1は,本件地震発生当時,自身が経営する和食店,原告番号1-2は勤務先の会社,原告番号1-3は学校と,原告ら3人は別の場所に居た。 原告らは,本件地震が発生した平成23年3月11日の夕方に相互の安否を確認することができたが,原告らの自宅は半壊状態であり,同日の時点では当分の間は被害の少なかった原告番号1-2の実家(須賀川市所在)で世話になることを予定していた。 原告らは,同月11日夜又は12日に本件事故の情報を得たが,常に情報を得られる状況ではなく,断片的な情報が入ってくる状態だった。原告番号1-2は妊娠中であり,原告番号1-3も小学生だったため,胎児や原告番号1-3への影響が心配された。原告らは,十分な情報を得られない上,政府や被告東電も 断片的な情報が入ってくる状態だった。原告番号1-2は妊娠中であり,原告番号1-3も小学生だったため,胎児や原告番号1-3への影響が心配された。原告らは,十分な情報を得られない上,政府や被告東電も福島第一原発をコントロールできていないと考えられたことから,福島第一原発から離れた場所へ避難することを決断した。 原告らは,同月12日夜,原告番号1-1の両親が住んでいる白河市に自動車で避難した。もっとも,この当時は,原告番号1-1は経営する和食店の片付けをしなければならず,原告番号1-2も勤務する会社の業務再開のために仕事に戻らなければならなかったため,原告番号1-3だけを白河市の原告番号1-1の両親に預け,原告番号1-1及び原告番号1-2は,同月13日夜,須賀川市に戻った。 原告番号1-1及び原告番号1-2は,同月14日,福島第一原発3号機で爆発が発生し,原告番号1-2の勤務する会社の従業員の中にも出勤しない者が出てくるなどしたことから,遠くへ避難することを決断した。原告番号1-1及び原告番号1-2は,原告番号1-1の両親が原告番号1-3を連れて先に宇都宮市まで避難していたため,自動車で宇都宮市を目指すこととした。そして,原告番号1-1及び原告番号1-2は,同月14日,宇都宮市に到着し,いわゆるラブホテルに宿泊し,同月15日,原告番号1-1の両親及び原告番号1-3と合流した。原告番号1-1の両親は,原告番号1-3を原告番号1- 531 --1及び原告番号1-2に引き渡すと白河市に戻った。その後,原告らは,同月15日中に埼玉県まで避難し,一つのベッドに家族3人で寝るなどしてホテルに4泊宿泊した。原告らは,ホテル代を支払うよりマンスリーアパートを借りた方がいいと判断し,同月19日,栃木県小山市に単身者用の賃貸アパートを まで避難し,一つのベッドに家族3人で寝るなどしてホテルに4泊宿泊した。原告らは,ホテル代を支払うよりマンスリーアパートを借りた方がいいと判断し,同月19日,栃木県小山市に単身者用の賃貸アパートを賃借した。原告番号1-2は,同月28日頃,妊婦健診のため,福島県に戻ったが,この際,病院の医師から福島はどうなるか分からないから避難した方がいいなどの意見を聞いたことや本件事故の状況も改善したようには見えなかったことから,原告らは,福島県から離れて暮らすことを決断し,同月30日,栃木県小山市から愛知県一宮市へ避難し,ホテルに3泊した後,同年4月5日,愛知県一宮市内に1LDKのアパートを借りて生活を開始した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,愛知県一宮市の1LDKのアパートでの暮らしを開始し,生活に必要な物を買い揃えるなどした。原告番号1-1は,経営する福島県の和食店については,家賃の支払を継続することができず,平成23年5月ないし6月頃に賃貸借契約を解約した。また,原告らは,福島県に住宅を建てるための土地をローンで購入していたが,同土地上に住居を立てる目途がつかないままローンの支払を継続することができず,結局当該土地を600万円で売却し,ローンを完済した。原告番号1-1は,ハローワークに通い,平成23年5月,飲食店のアルバイトに就職した。原告番号1-2は,平成23年10月11日,愛知県一宮市で,二女の原告番号1-4を出産した。原告番号1-1は,原告番号1-2の産前産後の世話をする必要があり,平成23年7月末にハローワークで見つけた上記アルバイトを一旦辞めた。 その後,原告らは,原告番号1-3及び原告番号1-4の成長に伴い,借りていた1LDKの住居が手狭になったため,平成26年4月,3LDKの ハローワークで見つけた上記アルバイトを一旦辞めた。 その後,原告らは,原告番号1-3及び原告番号1-4の成長に伴い,借りていた1LDKの住居が手狭になったため,平成26年4月,3LDKの分譲マンションを購入し,同マンションに引っ越した。原告番号1-1は,- 532 -平成24年3月から企業給食を提供する全国規模の会社で調理師として働き,原告番号1-2は,平成28年頃から愛知県一宮市内でパートタイム勤務をしており,原告番号1-3及び原告番号1-4は,現在は地元の学校に通っている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた須賀川市における環境放射能は,平成23年3月には0.43μSv/h,平成24年4月には0.12ないし0. 45μSv/h,平成25年4月には0.09ないし0.34μSv/h,平成26年4月には0.08ないし0.25μSv/h,平成27年4月には0.07ないし0.19μSv/h,平成28年4月には0.06ないし0.15μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.13μSv/h と推移しており(乙B171の1ないし5,乙B198,269),年々低下している。また,須賀川市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で182人,平成25年4月1日時点で169人,平成26年4月1日時点で264人,平成27年4月1日時点で247人,平成28年4月1日時点で196人,平成29年4月1日時点で137人と推移しており,平成27年以降年々減少している(第5部第1章そして,須賀川市の平成29年3月末時点の除染状況は,住宅,公共施設,道路,農地及びその他の全てで完了した(第5部第1章平成23年6月27 しており,平成27年以降年々減少している(第5部第1章そして,須賀川市の平成29年3月末時点の除染状況は,住宅,公共施設,道路,農地及びその他の全てで完了した(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,須賀川市で検査を受けた9220人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告番号1-1及び原告番号1-2の両親は,現在も福島県内に居住している。 - 533 - 2 損害についての検討⑴ 原告番号1-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号1-1が請求し,被告東電が既に賠償した3万8400円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号1-1が請求し,被告東電が既に賠償した13万1745円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号1-1が請求し,被告東電が既に賠償した17万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号1-1が請求し,被告東電が既に賠償した50万5296円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費用被告東電が既に賠償した15万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めるに足りる証拠はないため,15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 通信費通信費が増加したことについての具体的な主張立証がないため, る損害が発生したと認めるに足りる証拠はないため,15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 通信費通信費が増加したことについての具体的な主張立証がないため,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。 食費食費が増加したことについての具体的な主張立証がないため,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。 - 534 - 家賃増加分原告番号1-1が請求し,被告東電が既に賠償した197万2000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ被ばく検査費用原告番号1-1が請求し,被告東電が既に賠償した2万2770円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エその他(ADR弁護士費用)原告番号1-1が請求し,被告東電が既に賠償した20万0465円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ慰謝料以外の損害合計319万0676円カ慰謝料原告番号1-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,避難したことにより自身が経営する和食店を手放さなければならなかった等の事情を考慮しても,原告番号1-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号1-2の請求についてア就労不能損害原告番号1-2が請求し,被告東電が既に賠償した197万1966円を本件事故と相当因 ,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号1-2の請求についてア就労不能損害原告番号1-2が請求し,被告東電が既に賠償した197万1966円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ慰謝料原告番号1-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,原告番号1-4を妊娠していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理- 535 -性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,避難したことにより,父の経営する会社を継ぐことができなくなり,慣れない土地での出産を余儀なくされたこと等を考慮しても,原告番号1-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号1-3の請求について原告番号1-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号1-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号1-4の請求について原告番号1-4は,本件事故当時,胎児であり,原告番号1-1ないし原告番号1-3が愛知県に避難した平成23年3月末時点においても胎児であった。そして,胎児である原告番号1-4は,避難の際の困難な生活状況等を実際に体験したわけではなく, あり,原告番号1-1ないし原告番号1-3が愛知県に避難した平成23年3月末時点においても胎児であった。そして,胎児である原告番号1-4は,避難の際の困難な生活状況等を実際に体験したわけではなく,避難前の居住地において人間関係を築いていたわけでもないから,避難せざるを得なかったことによる精神的苦痛は金銭をもって慰謝する必要のあるものとまでは認められない。したがって,原告番号1-4の慰謝料は認められない。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号1-1に対する弁済被告東電は,原告番号1-1に対し,387万0676円の賠償を行ったことが認められる。 - 536 -⑵ 原告番号1-2に対する弁済被告東電は,原告番号1-2に対し,237万1966円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号1-3に対する弁済被告東電は,原告番号1-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号1-1について前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号1-1に生じた慰謝料以外の損害は319万0676円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は379万0676円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当 は319万0676円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は379万0676円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号1-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号1-2について本件事故により原告番号1-2に生じた損害額である297万1966円から,被告東電の弁済額である237万1966円を控除すると60万円となる。 ウ原告番号1-3について- 537 -本件事故により原告番号1-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号1-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号1-260万円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号1-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号1-157万円(52万円+5万円)イ原告番号1-266万円(60万円+6万円)ウ原告番号1-357万円(52万円+5万円)エ原告番号1-4棄却第2 原告番号2の世帯 1 認定事実(甲C2の1)⑴ 本件事故前の状況等承継前原告番号2-1(以下「原告番号2-1」という。)(本件事故当時69歳)及び 棄却第2 原告番号2の世帯 1 認定事実(甲C2の1)⑴ 本件事故前の状況等承継前原告番号2-1(以下「原告番号2-1」という。)(本件事故当時69歳)及びその妻である原告番号2-2(本件事故当時68歳)は,本件事- 538 -故当時,浪江町所在のログハウス(浪江町 ,福島第一原発からの距離31.54㎞(乙C2の4))に平成15年から居住していた(以下,原告番号2-1及び原告番号2-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告らは,原告番号2-1の仕事の関係で転勤することが多かったが,原告番号2-1の定年退職を機に空気の良い自然の中で生活をしようと考え,日本中を探して浪江町の土地を見つけ,ログハウスを製作し,自ら整地をして多数の樹木を植えるなどして理想の住居を作り上げた。原告らは,浪江町に住み始めてからは定職に就いておらず,現金収入は年金のみであったが,自ら山林の開墾・手入れをし,農作業を行い,自給自足の生活を送っていた。また,原告らは,近隣の住民とも仲良くしていた。ログハウスの周辺には山林が広がり,敷地内には川が流れており,原告らの子供や孫たちもログハウスに遊びに来るのを楽しみにしていた。 ⑵ 避難開始の経緯等本件地震発生当時,原告番号2-2はたまたま大阪居住の息子たちのところにいたが,原告番号2-1は福島県にいた。原告番号2-1は,平成23年3月12日に福島第一原発が爆発する様子をテレビで見て,このままでは命の危険があると感じ,避難することを決め,同月13日には福島空港まで自動車で移動し,福島空港から名古屋まで飛行機で移動し,そこから大阪まで新幹線で移動した。 原告らは,同月13日以降は大阪に避難していたが,本件事故の詳 とを決め,同月13日には福島空港まで自動車で移動し,福島空港から名古屋まで飛行機で移動し,そこから大阪まで新幹線で移動した。 原告らは,同月13日以降は大阪に避難していたが,本件事故の詳細が分からず,放射能についての知識もなかったことから,大阪にいても本件事故の影響があるのではないかと不安になった。原告らは,同月26日に一時帰宅したが,いつ浪江町に戻れるか分からない状態であったため,落ち着いて生活できる避難先を探すこととし,同年7月に愛知県愛西市の家を借りて生活を始めたが,同所での生活は一時的なものと考えており,それからも時間を作って定住- 539 -地となる土地を探していた。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,愛知県愛西市に避難後,慣れない土地で新しい人間関係を築くのに苦労した。原告番号2-1は,肝臓がんを患って平成25年11月13日に死亡し,原告番号2-2は難聴を患った。原告番号2-2は,原告番号2-1が死亡した後は,一人で避難することが不安であったため,子供たちの住む場所に近い大阪府富田林市のアパートに転居して独り暮らしをしている。原告番号2-2は,現在は新しい環境で一人で生活しており,人間関係を築くことも難しく,浪江町で生活したいと思っている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,帰還困難区域に該当するところ,本件訴訟の口頭弁論終結時においてもその指定は解除されないままとなっている。 2 損害についての検討⑴ 原告番号2-1の請求について原告番号2-1は,本件事故当時,帰還困難区域に居住しており,前記の基準のとおり,原告番号2-1の慰謝料は1500万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号2-2の請求に について原告番号2-1は,本件事故当時,帰還困難区域に居住しており,前記の基準のとおり,原告番号2-1の慰謝料は1500万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号2-2の請求についてア避難費用 交通費原告番号2-2は,別紙交通費一覧(原告番号2-2)のとおり,避難,避難先の選定及び浪江町の自宅への一時帰宅のために合計84万6310円を要したとして,本件事故と相当因果関係を有する損害として請求する。しかし,原告らは,平成23年7月には愛知県愛西市に家を借りて生活を始めており,ここでの生活を一時的なものと考えていたとしても,一- 540 -旦は上記の家に引っ越し,比較的安定した生活をしているのであるから,上記の家に引っ越して以降の避難先の選定に要した交通費は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。さらに,避難先の選定とは関わりなく,原告番号2-2の体調不良を原因とするものや弁護士への相談に要した交通費についても本件事故と相当因果関係を有するものとは認められない。また,交通費を要した理由について具体的な主張がないものについても本件事故との因果関係を認めることはできない。したがって,被告東電が既に賠償した61万7697円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,61万7697円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。 宿泊費・謝礼原告番号2-2は,別紙宿泊費一覧(原告番号2-2)のとおり,避難,避難先の選定及び浪江町の自宅への一時帰宅のために合計48万9465円を要したとして,本件事故と相当因果関係を有する損害として請求する。 選定に要した費用については,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえな び浪江町の自宅への一時帰宅のために合計48万9465円を要したとして,本件事故と相当因果関係を有する損害として請求する。 選定に要した費用については,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。したがって,一時立入に要した費用を含めたとしても,被告東電が既に賠償した31万9553円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,31万9553円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。 イ生活費増加費用(家財道具購入費)原告番号2-2は,別紙家財道具購入費等一覧(原告番号2-2)のとおり,本件事故による避難及び避難後の新たな生活のために要した家財道具購入費として332万5397円を請求する。しかし,眼鏡については,浪江町の自宅から持ち出すことも可能であったのであり,時計については,浪江町の自宅では使用していなかったにもかかわらず,避難後に必要となった理- 541 -由の具体的な主張立証がなく,また,携帯電話通信費についても,本件事故による避難前は携帯電話を使用していなかったにもかかわらず,避難後に必要となった理由の具体的な主張立証がないから,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。さらに,肥料,園芸品,避難先や下見先での食事代,親類へのお土産等については,本件事故による避難を行わなくとも支出する必要のあったものであるから,本件事故と相当因果関係を有するものとは認められない。したがって,被告東電が既に賠償した106万1407円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,106万1407円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。 ウ財物損害 家財道具原告番号2-2は, 関係を有する損害が発生したとはいえず,106万1407円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。 ウ財物損害 家財道具原告番号2-2は,別紙家財道具等(財物損害)一覧(原告番号2-2)のとおり,本件事故により,浪江町に残してきた家財道具や機械工具類を使用できなくなったとして1413万6400円を請求する。もっとも,購入時の領収証等が存在する家財道具の合計金額は233万8400円であり,これ以上に使用できなくなった家財道具や機械工具類が存在したこと又はその購入金額を認めるに足りる証拠はない。したがって,被告東電が既に賠償した826万6182円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,826万6182円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(樹木)原告番号2-2は,別紙樹木一覧表(原告番号2-2)及び別紙枯れ木一覧表(原告番号2-2)のとおり,浪江町の自宅の敷地内に植樹した樹木が本件事故による避難により枯れたりその価値を喪失したりしたとして354万0120円を請求する。しかし,上記樹木が本件事故による避- 542 -難により枯れたりその価値を喪失したと認めるに足りる証拠はない上,上記請求は樹木の購入金額に基づくものであり,また,既に原告番号2-2の親族に対して建物に付随する庭木の賠償は行っているところ(乙C2の2),上記庭木とは別に本件において賠償の対象として主張する樹木を原告番号2-2が所有していたことを示す証拠はない。したがって,被告東電が既に賠償した20万6064円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできず,20万6064円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ない。したがって,被告東電が既に賠償した20万6064円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできず,20万6064円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ生命・身体的損害(補聴器)原告番号2-2が請求し,被告東電が既に賠償した1万4600円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ慰謝料以外の損害合計1048万5503円カ慰謝料原告番号2-2は,本件事故当時,帰還困難区域に居住しており,前記の基準のとおり,原告番号2-2の慰謝料は1500万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号2-1に対する弁済被告東電は,原告番号2-1に対し,1450万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号2-2に対する弁済被告東電は,原告番号2-2に対し,2667万2510円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額- 543 -ア原告番号2-1本件事故により原告番号2-1に生じた損害額である1500万円から,被告東電の弁済額である1450万円を控除すると50万円となる。 イ原告番号2-2前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号 として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号2-2に生じた慰謝料以外の損害は1048万5503円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は1217万2510円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号2-2に生じた慰謝料1500万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている1450万円を控除すると50万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号2-150万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号2-250万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号2-1- 544 -55万円(50万円+5万円)イ原告番号2-255万円(50万円+5万円)そして,原告番号2-2は,原告番号2-1の権利義務を承継しているから,最終的な原告番号2-2の認容額は原告番号2-1の認容額を合計した110万円となる。 第3 原告番号3の世帯 1 認定事実(甲C3の1)⑴ 本件事故前の状況等原告番号3-1(本件事故当時35歳),その妻である原告番号3-2(本件事故当時36歳),原告番号3-1及び原告番号3-2の長男である原告番号3-3(本件事故当時13歳),長女である原告番号3-4(本件事故当時10歳)は,本件事故当時,南相馬市原町区の持ち -2(本件事故当時36歳),原告番号3-1及び原告番号3-2の長男である原告番号3-3(本件事故当時13歳),長女である原告番号3-4(本件事故当時10歳)は,本件事故当時,南相馬市原町区の持ち家(南相馬市,福島第一原発からの距離25.67㎞(乙C3の1))に居住していた(以下,原告番号3-1ないし原告番号3-4を併せて,この項において「原告ら」という。)。 本件事故当時,原告番号3-1は南相馬市内の電気工事会社に勤務し,原告番号3-2は契約社員として南相馬市内の病院の医療事務員として勤務しており,原告番号3-3は中学校1年生,原告番号3-4は小学校4年生であった。原告らの自宅の近くには,原告番号3-3及び原告番号3-4の祖父母が住んでいたため,祖父母が原告番号3-3及び原告番号3-4の面倒を見るなどしていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号3-2は,本件地震の翌日の平成23年3月12日に勤務先の病院に出勤したところ,当該病院が被ばく者の受入先に指定されており,福島第一原発から受入れが可能かとの問合せがあったと聞いて怖くなって,その日は午- 545 -前中に帰宅した。原告らは家族全員で公民館に避難したが,同じように避難していた福島第一原発で勤務していた人を通じて福島第一原発が爆発して危ないから避難した方がよいと聞いて福島市内の友人宅へ避難することとしたものの,自動車のガソリンがほとんど残っていなかったため,一旦南相馬市に戻ることとし,同日は南相馬市内の原告番号3-2の実家に宿泊した。原告らは,同月13日は原告番号3-2の実家で過ごし,原告番号3-2は,同月14日,勤務先の病院に出勤したが,正面玄関には線量を測定するメーターを持った職員が防護服を着て立っており,放射線量を測定すると,靴 同月13日は原告番号3-2の実家で過ごし,原告番号3-2は,同月14日,勤務先の病院に出勤したが,正面玄関には線量を測定するメーターを持った職員が防護服を着て立っており,放射線量を測定すると,靴が異常に高い数値を示し,このままでは建物に入れないと言われたり,病院の裏側にある警察署と消防署では敷地に入る際に自動車を一台ずつ高圧洗浄していたり,福島第一原発が2回目の爆発をした際,病院の院長から「病院に残っても避難してもよい。 あとは自分の判断で。」と言われたりしたことなどから,異常な状況にあることを確信し,避難することを決断した。 原告らは,同月14日から5日間は福島市内の友人宅へ避難していたが,同月19日からは山形県内の避難所へ自動車で避難した。避難所での生活ではプライバシーはなく,物資も十分ではなかった上,風呂はなく,洗濯もできず,食事も足りないという状況であり,インフルエンザや胃腸炎がまん延し,原告番号3-4が胃腸炎に感染するなどした。このような中で,原告らは,名古屋市が避難者の受入れが早く,住宅を無償で提供してもらえるという話を聞いたため,名古屋市への避難を決断し,同月24日に南相馬市の自宅に戻り,子供たちの学用品や着替えを自動車に積み込んだが,ガソリンがないため,3日間は自宅に留まり,同月26日,自動車で愛知県に向けて出発し,同月27日には愛知県に到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号3-1は,平成23年5月頃から仕事のために福島県へ一人で戻- 546 -ったが,仕事の目途がついた同年7月下旬には名古屋市で家族と同居するようになり,愛知県内で就職した。原告番号3-2は,愛知県に避難後,福島県で勤務していた会社の名古屋支店で病欠があったため同支店に勤務したが,同年9月に いた同年7月下旬には名古屋市で家族と同居するようになり,愛知県内で就職した。原告番号3-2は,愛知県に避難後,福島県で勤務していた会社の名古屋支店で病欠があったため同支店に勤務したが,同年9月には仕事を辞めた。原告番号3-3及び原告番号3-4は,避難先で学校に通うようになったが,同級生から心無い言葉を言われるなどした。 原告らは,避難前は一戸建てで生活をしており,団地での生活は初めてであり,戸惑うことが多く,避難後は食品の産地を確認し,北関東産の物は買わないようにしていた。また,原告らは,南相馬市には年に2回程度は一時帰宅していたが,自宅は住むことができないような状態になっていた。 その後,原告番号3-4が福島県の高校へ進学したいと希望したため,平成27年8月に原告番号3-1が,平成28年3月に原告番号3-2ないし原告番号3-4が南相馬市の自宅に戻った。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,旧緊急時避難準備区域に該当するところ,緊急時避難準備区域は平成23年9月30日に解除され,同年10月以降,小中学校や高校が授業を再開し,平成24年4月以降には小中学校の屋外活動時間の制限も解除された。また,平成24年5月時点で医療機関等も活動を再開している(第5部第1章原告らの本件事故当時の住所地近くである南相馬市役所の環境放射能は,平成24年4月1日には0.38μSv/h,平成25年4月1日には0.29μSv/h,平成26年4月1日には0.22μSv/h,平成27年4月1日には0.17μSv/h,平成28年4月1日には0.14μSv/h,平成29年4月1日には0.11μSv/h と推移しており(乙B171の1ないし5,乙B269),年々減少している。また,南相馬市における18歳 Sv/h,平成28年4月1日には0.14μSv/h,平成29年4月1日には0.11μSv/h と推移しており(乙B171の1ないし5,乙B269),年々減少している。また,南相馬市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26- 547 -年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日時点で4729人,平成28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章ウ)。そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセント,森林46パーセント,道路6パーセントであり,平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章第2の4)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,南相馬市で検査を受けた4240人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告らは,南相馬市に戻ったものの,元の自宅はそのままでは住むことができない状態であったため,新たに家を建てた。建て替えに当たっては,土壌の放射能による汚染が心配であったため,80㎝の土盛りをしたが,建て替えをしていた約1年間は仮設住宅での生活を強いられた。 2 損害についての検討⑴ 原告番号3-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号3-1は交通費として220万9000円を請求するが,実際に上記の支出をしたことについて領収証等を提出しておらず,被告東電が既に賠償した11万30 難費用 交通費原告番号3-1は交通費として220万9000円を請求するが,実際に上記の支出をしたことについて領収証等を提出しておらず,被告東電が既に賠償した11万3000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めるに足りる証拠はないから,11万3000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号3-1は,平成28年に名古屋市から南相馬市に引っ越す際に- 548 -引っ越し費用等25万9200円を支出したと認められるから(甲C3の2の1・2),25万9200円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号3-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,同年9月以降の帰省費用については本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,被告東電が既に賠償した63万6000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,63万6000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号3-1は,被告東電から既に賠償されたと主張する249万6371円に加えて,家財道具購入費として,別紙生活費増加費用一覧(原告番号3-1)「家財道具等購入費」記載のとおり,60万6572円を請求する。寝具,折畳みテーブル,電子ピアノ,自転車,家財道具,ミシン・灯油缶については,南相馬市の自宅から持ってくるよりも購入した方が安いということもあり得るから,その購入代金は本件事故と相当因果関係 る。寝具,折畳みテーブル,電子ピアノ,自転車,家財道具,ミシン・灯油缶については,南相馬市の自宅から持ってくるよりも購入した方が安いということもあり得るから,その購入代金は本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。一方で,原告番号3-1の職業訓練のためのスーツは南相馬市の自宅から持ち出し可能であり,掃除機についても壊れたために購入したのであり,冷風除湿器も南相馬市では使用していなかったのであるから,いずれの購入費用も本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,平成24年11月に購入したスタッドレスタイヤについてもこの頃には南相馬市に帰還することが可能であったから,この購入費用についても本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。また,- 549 -後記のとおり,原告番号3-1は自宅を建て替える必要性はなかったのであり,単身で南相馬市に転居し二重生活をする必要性もなかったのであるから,ローテーブル,キッチン用品,タオル等,毛布等の購入代金は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。したがって,寝具(甲C3の4の3・4),折畳みテーブル(甲C3の4の6),電子ピアノ(甲C3の4の7),自転車(甲C3の4の8),家財道具(甲C3の4の9)及びミシン・灯油缶(甲C3の4の10)の購入費用合計35万8903円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認め,既に被告東電が賠償したと認められる200万1071円と合わせて235万9974円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 光熱費原告番号3-1が南相馬市の家屋を建て替えることを計画した際に,金融機関から融資を受けるに当たって,南相馬市周辺で勤務することが条件となっていたため,平成27年夏頃から原告番号3-1のみが南相馬市の仮設住宅で生活 南相馬市の家屋を建て替えることを計画した際に,金融機関から融資を受けるに当たって,南相馬市周辺で勤務することが条件となっていたため,平成27年夏頃から原告番号3-1のみが南相馬市の仮設住宅で生活していたことにより余分に発生した費用として6万6095円の損害が発生したと主張するが,後記のとおり,自宅を建て替える必要はなかったのであり,上記費用は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号3-1の上記請求は認められない。 その他(駐車場代)前記のとおり,原告番号3-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,平成23年12月から平成24年8月までの駐車場代3万5100円(3900円×9か月=3万5100円,甲C3の6の1参照)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ就労不能損害被告東電が既に賠償した669万0750円を本件事故と相当因果関係- 550 -を有する損害と認める。 エ自宅建て替え費用原告番号3-1は,南相馬市の自宅の建て替え費用を請求するが,原告番号3-1の元の自宅が健康に影響を及ぼすほどに放射能により汚染されていたと認めるに足りる証拠はなく,また,原告番号3-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,自宅の管理が不十分で居住不能となるような長期間にわたって自宅を空ける必要はなかったといえる。したがって,自宅を建て替える必要はなく,自宅の建て替え費用は本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえないから,原告番号3-1の上記請求は認められない。 オ慰謝料以外の損害合計1009万4024円カ慰謝料原告番号3-1は,本件事故当 有する損害とはいえないから,原告番号3-1の上記請求は認められない。 オ慰謝料以外の損害合計1009万4024円カ慰謝料原告番号3-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号3-1の慰謝料は180万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号3-2の請求について原告番号3-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号3-2の慰謝料は180万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号3-3の請求について原告番号3-3は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたと- 551 -ころ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号3-3の慰謝料は180万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号3-4の請求について原告番号3-4は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したが たところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号3-4の慰謝料は180万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号3-1に対する弁済被告東電は,原告番号3-1に対し,1318万8821円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号3-2に対する弁済被告東電は,原告番号3-2に対し,182万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号3-3に対する弁済被告東電は,原告番号3-3に対し,265万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号3-4に対する弁済被告東電は,原告番号3-4に対し,265万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号3-1- 552 -前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号3-1に生じた慰謝料以外の損害は1009万4024円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は1136万8821円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害額から控除すると0円となり,本件事故に ,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は1136万8821円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害額から控除すると0円となり,本件事故により原告番号3-1に生じた慰謝料180万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている182万円を控除すると0円となる。 イ原告番号3-2本件事故により原告番号3-2に生じた損害額である180万円から,被告東電の弁済額である182万円を控除すると0円となる。 ウ原告番号3-3本件事故により原告番号3-3に生じた損害額である180万円から,被告東電の弁済額である265万円を控除すると0円となる。 エ原告番号3-4本件事故により原告番号3-4に生じた損害額である180万円から,被告東電の弁済額である265万円を控除すると0円となる。 ⑵ 認容額ア原告番号3-1棄却イ原告番号3-2- 553 -棄却ウ原告番号3-3棄却エ原告番号3-4棄却第4 原告番号4の世帯 1 認定事実(原告番号4本人(同人の陳述書(甲C4の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号4は,本件事故当時,元夫と共に川俣町所在の自宅(川俣町,福島第一原発からの距離45.44㎞(乙C4の1))に居住していた。原告番号4には娘がいたが,本件事故当時は東京の大学に通っていた。 原告番号4は,中国の吉林省の出身で,平成15年3月に元夫と結婚し,同月10月に来日した。国籍は,本件事故当時は中国であったが,現在は日本国籍を取得している。原告 京の大学に通っていた。 原告番号4は,中国の吉林省の出身で,平成15年3月に元夫と結婚し,同月10月に来日した。国籍は,本件事故当時は中国であったが,現在は日本国籍を取得している。原告番号4は,来日してからは,アパート住まいを経て,川俣町に中古の自宅を購入し,本件事故まで同自宅で元夫と共に生活していた。また,原告番号4は,本件事故当時,川俣町にある制服の製造メーカーに正社員として勤務していた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号4は,本件地震発生当時,川俣町所在の勤務先にいたが,早く帰宅するように指示されたため,平成23年3月11日午後3時30分頃に帰宅したが,電気,ガスが使えず,電話も繋がらない状態であり,同月12日には電気は点くようになったものの,ガスやトイレも使えず,テレビも使えない状態だった。原告番号4は,同日,職場に行ってみたが余震もあって仕事ができず,同月13日及び同月14日は出勤せずに自宅で待機していた。 原告番号4は,同月15日,中国籍の友人から本件事故のことや中国に避難- 554 -するためのバスや飛行機が用意されることを聞き,元夫と避難について話し合った結果,原告番号4が一人で避難することにした。原告番号4は,福島駅に向かい,同日午後3時頃,新潟県に向かうバスに乗り,同日午後10時頃,新潟県に着き,その日は体育館のようなところで宿泊し,同月16日夜,上海行きの飛行機に乗り,中国に避難した。原告番号4は,同月17日に上海に到着した後,長春まで移動して実家に戻り,そこで約3か月間,日本での働き口を探しながら過ごし,その間,日本にいる家族とは週に1回程度連絡を取っていたが,元夫の姉からは福島に戻って来ない方がいいと言われた。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況 口を探しながら過ごし,その間,日本にいる家族とは週に1回程度連絡を取っていたが,元夫の姉からは福島に戻って来ない方がいいと言われた。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号4は,同年5月頃,愛知県にある自動車会社の関連会社で働けることになり,同年6月4日に再来日して就職し,会社の寮に住むことになったが,騒音が酷かったため,同年7月に愛知県高浜市の県営住宅に転居した。 原告番号4は,平成25年12月には上記会社との契約期間が終了したが,愛知県岡崎市の病院で働けることとなったので,平成26年3月,愛知県高浜市から同県岡崎市に引っ越した。原告番号4は,元夫とは本件事故以来ずっと別居状態だったが,元夫が病気になって老人ホームに入ることとなり,原告番号4に負担を掛けたくないという理由で元夫から離婚の話を出され,平成26年4月,元夫と離婚した。その後,原告番号4は,友人の紹介で現在の夫と出会い,同年11月,現在の夫と結婚して現在の夫の家がある岐阜市に引っ越した。原告番号4は,平成28年1月から同年3月まで,介護士の資格を得るための学校に通い,同月末に介護士の資格を取得し,現在は有料老人ホームで働いている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告番号4が本件事故当時に居住していた川俣町における環境放射能- 555 -(国見町の測定結果も含む。)は,平成24年4月には0.21ないし1. 07μSv/h,平成25年4月には0.12ないし1.03μSv/h,平成26年4月には0.11ないし0.94μSv/h,平成27年4月には0.06ないし0.68μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0.53μSv/h と推移しており(第5部第1 μSv/h,平成26年4月には0.11ないし0.94μSv/h,平成27年4月には0.06ないし0.68μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0.53μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,川俣町における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で242人,平成25年4月1日時点で225人,平成26年4月1日時点で200人,平成27年4月1日時点で176人,平成28年4月1日時点で165人,平成29年4月1日時点で189人と推移している(第5部第1章第2の2そして,川俣町の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地100パーセント,農地32パーセント,森林77パーセント,道路6パーセントであり,平成27年12月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章第2の4)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,川俣町で検査を受けた2542人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告番号4の元夫は,平成23年6月頃,同人の姉が居住する神奈川県に避難し,平成26年頃に死亡したため,川俣町の自宅には原告番号4の家族は住んでいない。 2 損害についての検討⑴ 避難費用ア交通費原告番号4は,平成23年3月16日,新潟空港から上海浦東国際空港に飛行機で移動し,同月17日,上海浦東国際空港から長春龍嘉国際空港に飛行機で移動し,長春龍嘉国際空港から吉林市まで鉄道で移動し,その後タク- 556 -シーで実家まで移動したことが認められる(弁論の全趣旨)。そして,原告番号4は領収証等 から長春龍嘉国際空港に飛行機で移動し,長春龍嘉国際空港から吉林市まで鉄道で移動し,その後タク- 556 -シーで実家まで移動したことが認められる(弁論の全趣旨)。そして,原告番号4は領収証等を提出していないものの,上記移動に交通費を要することは明らかであり,損害の発生自体は認められることから,少なくとも原告番号4が支出したと推認することができる金額を本件事故と相当因果関係を有する損害額と認定することとし,上記経路での移動に要する交通費としては,新潟空港から上海浦東国際空港までの航空費については3万円(甲C4の3参照),上海浦東国際空港から長春龍嘉国際空港までの航空費については1万円(甲C4の4参照),長春龍嘉国際空港から吉林駅までの鉄道代は475円(甲C4の5参照),吉林駅から実家までのタクシー代は600円と認めるのが相当である。また,原告番号4の元夫や娘はいずれも日本にいるから原告番号4が日本に再入国する必要性も認められる。したがって,再入国の際に要した交通費も本件事故と相当因果関係を有する損害と認められ,実家から吉林駅までのタクシー代金は600円,吉林駅から長春龍嘉国際空港までの電車代は475円,長春龍嘉国際空港から中部国際空港までの航空費は3万5000円(甲C4の6参照),中部国際空港から愛知県高浜市への電車代は1290円(甲C4の7参照)と認めるのが相当である。したがって,避難に要した交通費としては,7万8440円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ引っ越し費用原告番号4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までである。したがって,本件事故と相当因果関係の認められる引っ越し費用は平成2 主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までである。したがって,本件事故と相当因果関係の認められる引っ越し費用は平成23年7月の引っ越しに関するもののみであり,平成26年3月の愛知県高浜市から同県岡崎市への引っ越しに関するものは本件事故と相当因果関係が認められない。また,本件においては,原告番号4は,引っ越しの際に実際に要した費用を示す領収証等を提出していないとこ- 557 -ろ,平成23年7月の引っ越しは,単身かつ愛知県内の引っ越しであるから,民事訴訟法248条に基づき,その費用は3万円と認めるのが相当である。 したがって,3万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ一時立入・帰省費用原告番号4は,平成23年8月頃,2度にわたって川俣町の自宅に家財道具を取りに戻っているところ(弁論の全趣旨),この一時立入に要した交通費は7万7520円と認められる(甲C4の8・9)。したがって,7万7520円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑵ 生活費増加費用ア家財道具購入費原告番号4は,家財道具購入費として17万2000円を請求する。そして,原告番号4は,実際にこれらの支出をしたことを示す領収証等の証拠は提出していないものの,川俣町の自宅にはしばらくは元夫が居住し,元夫が生活する可能性があったのであるから,避難先において家財道具の購入を余儀なくされたと認められ,民事訴訟法248条に基づき,その購入費用は5万円と認めるのが相当である。したがって,5万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ家賃増加分前記のとおり,原告番号4の避難の継続の合理性が認められるのは 用は5万円と認めるのが相当である。したがって,5万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ家賃増加分前記のとおり,原告番号4の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるから,家賃増加分として本件事故と相当因果関係を有するのは県営住宅に転居した平成23年7月から同年12月までの家賃に限られる。したがって,7万2000円(1万2000円(弁論の全趣旨)/月×6か月=7万2000円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 就労不能損害原告番号4の本件事故前6か月間の平均月収は15万9031円(甲C4の- 558 -10参照)であったところ,原告番号4は本件事故による避難により平成23年3月16日から同年6月4日までの81日間就労することができなかった。 したがって,この間に得られたはずの収入である42万9381円(15万9031円÷30日×81日=42万9381円)は本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。一方で,原告番号4が愛知県の会社で勤務し始めて以降については,本件事故前よりも収入が減少したと認めるに足りる証拠はないから,就労不能損害を認めることはできない。 ⑷ 慰謝料以外の損害合計73万7341円⑸ 慰謝料原告番号4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号4の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁被告東電は,原告番号4に対して12万円の賠償を行ったと主張するの おり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号4の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁被告東電は,原告番号4に対して12万円の賠償を行ったと主張するのに対して,原告番号4は上記12万円のうち8万円の賠償を受けたことは認めるものの,うち4万円の賠償を受けたことは否認する。しかし,証拠(乙C4の6)によれば,被告東電は,原告番号4に対し,精神的損害等に対する賠償として8万円,追加的費用等に対する賠償として4万円の賠償を行ったことが認められる。 したがって,被告東電は,原告番号4に対して合計12万円の賠償を行ったと認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額本件事故により原告番号4に生じた損害額である133万7341円から,- 559 -被告東電の弁済額である12万円を控除すると121万7341円となる。 ⑵ 弁護士費用121万7341円の約1割である12万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額133万7341円(121万7341円+12万円)第5 原告番号5の世帯 1 認定事実(原告番号5-1本人(同人の陳述書(甲C5の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号5-1(本件事故当時39歳),その妻である原告番号5-2(本件事故当時38歳),原告番号5-1及び原告番号5-2の長男である原告番号5-3(本件事故当時5歳),長女である原告番号5-4(本件事故当時2歳)は,本件事故当時,福島市内の自宅(福島市 ,福島第一原発からの距離61.67㎞(乙C5の2))に居住していた(以下,原告番号5-1ないし原告番号5-4を併せて,この項 歳)は,本件事故当時,福島市内の自宅(福島市 ,福島第一原発からの距離61.67㎞(乙C5の2))に居住していた(以下,原告番号5-1ないし原告番号5-4を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号5-2は福島県出身で,原告番号5-2の両親は原告らの近くに住んでいた。また,原告番号5-1及び原告番号5-2は,本件事故当時,福島県の小学校教諭として勤務し,原告番号5-3は幼稚園の年中,原告番号5-4は2歳であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,平成23年3月12日,本件事故により福島市内の自宅にも放射性物質が飛散することは間違いないと考え,家族全員で福島第一原発から離れ,余震にも耐えられる安全な場所に避難しようと,原告番号5-2の両親と共に,福島県会津若松市の施設に一泊した。原告らは,同月13日,福島市の- 560 -自宅に一旦戻ったが,大きな余震が続いたため,福島県会津若松市まで戻り,同市内のホテルに宿泊した。原告らは,同月14日,原告らを援助するために愛知県から駆け付けた原告番号5-1の母を新潟県まで迎えに行き,その後,福島市の自宅に戻った。原告番号5-1及び原告番号5-2は,同月15日,原告番号5-1の母に原告番号5-3及び原告番号5-4の面倒を見てもらうこととし,それぞれの勤務先に午前中から出勤した。原告番号5-1は,出勤後,福島第一原発の4号機建屋が爆発したことをニュースで知り,風向きから考えると福島市に放射性物質が大量に飛散し,原告番号5-3及び原告番号5-4が被ばくするのではないかと考え,原告番号5-1の両親が暮らす愛知県知多郡a 町に避難させることを決めた。原告番号5-1及び原告番号5-2は,原告番号5-3及び原告番号5-4を原告番号5-1の父に預け 被ばくするのではないかと考え,原告番号5-1の両親が暮らす愛知県知多郡a 町に避難させることを決めた。原告番号5-1及び原告番号5-2は,原告番号5-3及び原告番号5-4を原告番号5-1の父に預けることにし,原告番号5-1の父が迎えに来た新潟県まで原告番号5-3及び原告番号5-4を送り届けた。原告番号5-1の父は,同月16日,自動車で新潟県から愛知県まで原告番号5-3及び原告番号5-4を連れて行き,同日より,原告番号5-1及び原告番号5-2は福島市の自宅で,原告番号5-3及び原告番号5-4は愛知県の原告番号5-1の実家で生活することとなった。原告番号5-1及び原告番号5-2は,同月16日から同月20日までは,余震活動が沈静化するまでの間,福島県会津若松市の施設に避難したが,小学校での仕事もあったため,同月20日,福島市の自宅に戻り,放射能汚染の恐怖に怯えながら生活していた。また,原告番号5-1及び原告番号5-2は,二人合わせて月に6回程度は愛知県に住む原告番号5-3及び原告番号5-4のところへ行くという生活を送った。 原告番号5-1及び原告番号5-2は,平成23年の後半には二重生活を続けることに限界を感じ始め,愛知県に避難することを決断した。原告番号5-1及び原告番号5-2は,同年12月頃,原告番号5-1の実家の町内に家族4人が住むのに適した賃借物件を見つけ,同月23日,この物件を借りる契約- 561 -をした。もっとも,原告番号5-1及び原告番号5-2は,平成24年3月末までは福島市での教員の仕事を辞めることができなかったため,平成24年3月末までは,原告番号5-2の両親に上記賃貸物件で原告番号5-3及び原告番号5-4の面倒を見てもらった。そして,原告番号5-1及び原告番号5-2は,平成24年4月には愛知県に引っ越し ,平成24年3月末までは,原告番号5-2の両親に上記賃貸物件で原告番号5-3及び原告番号5-4の面倒を見てもらった。そして,原告番号5-1及び原告番号5-2は,平成24年4月には愛知県に引っ越し,家族4人での生活を再開した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号5-1は,避難後,常勤の小学校教諭の職に就くことができたが,原告番号5-2は,平成24年度は仕事に就けず,平成25年4月からは小学校の非常勤講師として働いている。原告番号5-3は,避難後は,地元の保育園,小学校,中学校に通い,原告番号5-4も地元の保育園,小学校に通っている。また,原告らは,平成24年ないし平成25年頃,原告番号5-1の実家をリフォームし,現在は,原告番号5-1の実家に原告番号5-1の両親と共に暮らしている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年3月には0.64ないし2.61μSv/h,平成24年4月には0. 03ないし1.40μSv/h,平成25年4月には0.08ないし0.64μSv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 25μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.23μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,福島市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561- 避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561- 562 -人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,福島市で検査を受けた2万4713人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告らは,平成28年ないし平成29年頃,福島市の自宅を売却し,現在は,福島県内に原告らの自宅はない。 2 損害についての検討⑴ 原告番号5-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した9万7780円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した10万4425円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した27万5000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した9万5760円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 563 - を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した9万5760円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 563 - 面会交通費原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した208万8930円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(住居費)被告東電が既に賠償した57万9720円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めるに足りる証拠はないため,57万9720円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(家財道具購入費)原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した52万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 教育費原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した7万9000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(追加的費用等)原告番号5-1が主張する追加的費用については,いかなる損害が発生したかについて具体的に主張立証されていないため,原告番号5-1の請求を認めることはできない。 ウ線量計購入費原告番号5-1が請求し,被告東電が既に賠償した6万4210円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エその他(ADR弁護士費用)被告東電が既に賠償した26万5795円の限度で本件事故と相当因果- 564 -関係を有する損害と認める。 因果関係を有する損害と認める。 エその他(ADR弁護士費用)被告東電が既に賠償した26万5795円の限度で本件事故と相当因果- 564 -関係を有する損害と認める。 オ慰謝料以外の損害合計432万0620円カ慰謝料原告番号5-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,上記期間に実際に避難を行わなかった者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号5-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号5-2の請求についてア就労不能損害原告番号5-2が請求し,被告東電が既に賠償した304万5018円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ慰謝料以外の損害合計304万5018円ウ慰謝料原告番号5-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,上記期間に実際に避難を行わなかった者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号5-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号5-3の請求について- 565 -ア避難雑費原告番号5-3は避難雑費として48万円を請求するが,いかなる損 慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号5-3の請求について- 565 -ア避難雑費原告番号5-3は避難雑費として48万円を請求するが,いかなる損害が発生したかについて具体的に主張立証していないから,原告番号5-3の上記請求は認められない。 イ慰謝料原告番号5-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,約1年間にわたって両親と離れて生活しなければならなかったなどの事情を考慮しても,原告番号5-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号5-4の請求についてア避難雑費原告番号5-4は避難雑費として48万円を請求するが,いかなる損害が発生したかについて具体的に主張立証していないから,原告番号5-4の上記請求は認められない。 イ慰謝料原告番号5-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,約1年間にわたって両親と離れて生活しなければならなかったなどの事情を考慮しても,原告番号5-4の慰謝料は,100万円と 平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,約1年間にわたって両親と離れて生活しなければならなかったなどの事情を考慮しても,原告番号5-4の慰謝料は,100万円と- 566 -認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号5-1に対する弁済被告東電は,原告番号5-1に対し,504万0620円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号5-2に対する弁済被告東電は,原告番号5-2に対し,312万5018円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号5-3に対する弁済被告東電は,原告番号5-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号5-4に対する弁済被告東電は,原告番号5-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号5-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号5-1に生じた慰謝料以外の損害は432万0620円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は496万0620円であるから,上- 567 -記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号5-1に生じた慰謝料 済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は496万0620円であるから,上- 567 -記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号5-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号5-2本件事故により原告番号5-2に生じた損害額である364万5018円から,被告東電の弁済額である312万5018円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号5-3本件事故により原告番号5-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号5-4本件事故により原告番号5-4に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号5-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号5-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号5-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号5-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 568 -⑶ 認容額ア原告番号5-157万円(52万円+5万円)イ原告番号5-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号5-357万円(52万円 ア原告番号5-157万円(52万円+5万円)イ原告番号5-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号5-357万円(52万円+5万円)エ原告番号5-457万円(52万円+5万円)第6 原告番号6の世帯 1 認定事実(原告番号6-1本人(同人の陳述書(甲C6の1・10・19)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号6-1(本件事故当時33歳),その妻である原告番号6-2(本件事故当時27歳),原告番号6-1及び原告番号6-2の長女である原告番号6-3(本件事故当時0歳)は,本件事故当時,福島市所在の賃貸マンション(福島市 ,福島第一原発からの距離60.75㎞(乙C6の2))に居住していた(以下,原告番号6-1ないし原告番号6-3を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号6-1は,福島市出身で,同市内の実家には両親が住んでいる。原告番号6-1の実家は,原告らの上記自宅から車で10分ほどのところにあり,原告らは,上記自宅と原告番号6-1の実家を頻繁に行き来し,原告番号6-1の両親が子育てを手伝っていた。原告番号6-2の実家は,浪江町にあり,原告番号6-2の父,妹2人,弟及び祖母が浪江町に住んでおり,原告番号6-2の実家で作った米や野菜を送ってもらっていた。原告番号6-2は,高校卒業までの間及び就職後半年間は浪江町に住んでおり,結婚後も二,三か- 569 -月に1回,原告番号6-3を連れて2週間くらい浪江町の実家に帰っていた。 原告番号6-1は,薬剤師であり,本件事故前は福島市内にある調剤薬局で店長として働いており,1か月に1回ほど,福島薬剤師会からの派 に1回,原告番号6-3を連れて2週間くらい浪江町の実家に帰っていた。 原告番号6-1は,薬剤師であり,本件事故前は福島市内にある調剤薬局で店長として働いており,1か月に1回ほど,福島薬剤師会からの派遣で福島市保健福祉センターの夜間急病診療所でアルバイトをしており,月に1万2500円ほどの収入があった。原告番号6-2は,薬剤師であり,平成22年3月まで原告番号6-1と同じ会社で勤務していたが,出産のため退職し,本件事故当時は専業主婦であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,自宅が地震で水漏れして水道が使えなくなったため,平成23年3月11日夜,原告番号6-1の実家に行ったが,この実家も水道が止まっており,実家の隣の農家の井戸水を使用することになり,数日間は入浴をすることもできなかった。原告番号6-2の父,妹2人,弟及び上の妹の交際相手は,同月12日,浪江町から避難してきた。原告番号6-2の祖母は,地震直後に家族に会えず,避難所で再会したものの,再会後に倒れたため,病院に入院し,同月13日に原告番号6-1の実家に来た。原告番号6-2の祖母,父,上の妹及び上の妹の交際相手が原告番号6-1の実家に,原告番号6-2の下の妹及び弟が原告番号6-1の祖母の家に分かれて滞在することになった。原告番号6-1の会社は通常通り営業を続けていく方針で,原告番号6-1も出勤していた。 原告らは,同月12日の水素爆発とテレビで官房長官が冷汗をかきながら会見しているのを見て危ないのではないかと思い,同月13日夜,原告番号6-1の父に対し,原告番号6-2及び原告番号6-3だけでも避難させようと思うと話したが,原告番号6-1の父は政府が大丈夫と言っているからなどと言ったため,すぐに避難はしなかった。しかし,原告らは,同月15日,原告番号6- 6-2及び原告番号6-3だけでも避難させようと思うと話したが,原告番号6-1の父は政府が大丈夫と言っているからなどと言ったため,すぐに避難はしなかった。しかし,原告らは,同月15日,原告番号6-1の父が勤務先で子供は避難させた方がいいと聞いて連絡してきたとの連絡を原告番号6-1の母から受け,これをきっかけに避難することを決断- 570 -した。 原告らは,同月15日午後2時頃,福島市を出発し,宇都宮市に住んでいる原告番号6-1の叔母の友人宅に自動車で避難することとし,同日午後11時頃,上記友人宅に到着した。原告らは,同月16日,電車で埼玉県川越市の友人宅に避難し,同月17日,電車で川崎市のいとこの家に避難した。原告番号6-1は,同月20日,会社に出勤するため福島市に戻ったが,その際は,新百合ヶ丘駅から小田急線で新宿駅,新宿駅からJRで東京駅,東京駅から新幹線で那須塩原駅まで行き,那須塩原駅に親族に自動車で迎えに来てもらい,福島市の実家に戻った。原告番号6-2及び原告番号6-3は,同年4月2日まで川崎市のいとこの家に滞在した後,新幹線で名古屋市に住む原告番号6-1の妹の家に避難した。原告番号6-1は,同年3月21日から福島市の職場に復帰したが,家族と一緒に避難するため,会社に異動を申し出たところ,同年5月に群馬県伊勢崎市に異動になり,原告番号6-2及び原告番号6-3も同月4日頃に同市に引っ越し,家族3人で暮らし始めた。もっとも,原告番号6-1及び原告番号6-2は,群馬県に引っ越した後も,原告番号6-3への放射線の影響を心配し,原告番号6-3を屋外で遊ばせない,食べ物を通信販売で購入する,スーパーマーケットは使用しないようにするなどしていた。原告番号6-2は,原告番号6-1の母が参加した放射線被ばくの講演会の内容を聞いて 告番号6-3を屋外で遊ばせない,食べ物を通信販売で購入する,スーパーマーケットは使用しないようにするなどしていた。原告番号6-2は,原告番号6-1の母が参加した放射線被ばくの講演会の内容を聞いて,毎日リビングダイニングを雑巾がけするなどしていた。原告らは,群馬県でも被ばくの不安を感じながら生活を続けなければならず,原告番号6-3を外で遊ばせられず,ストレスの大きい生活が続き,原告番号6-3の成長にもよいことではないと感じていた。そのため,原告番号6-1及び原告番号6-2は,何をしても放射線の影響を心配しなくてもよく,原告番号6-3を自由に遊ばせることができるところへ避難することを検討した。原告番号6-1は,妹が住んでいる名古屋市で仕事を探すこととし,同年12月25日及び平成24年1月14日,新幹線で名古屋市に行き,引っ越し先の選定と就職活- 571 -動をした。具体的には,群馬県伊勢崎市からJRバスで新宿駅まで,新宿駅から在来線で東京駅まで,東京駅から新幹線で名古屋駅まで行き,帰りは,名古屋駅から新幹線で東京駅まで,東京駅からJR在来線で群馬県伊勢崎市まで戻った。原告番号6-1は,名古屋市内の薬局に転職することが決まり,会社が借り上げた賃貸マンションを社宅として借りることにし,平成24年3月20日(同月4日から同月20日までは有給休暇扱い)で群馬県伊勢崎市で勤務していた薬局を退職し,同月21日から名古屋市内の薬局で勤務することになった。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,原告番号6-1の妹が名古屋市に住んでいるため名古屋市に避難することにしたが,原告番号6-1の妹家族は転勤のため引っ越してしまい,名古屋市には知り合いがいなくなった。原告らは,名古屋市に来た当初は,会社が社宅として借りてい 市に住んでいるため名古屋市に避難することにしたが,原告番号6-1の妹家族は転勤のため引っ越してしまい,名古屋市には知り合いがいなくなった。原告らは,名古屋市に来た当初は,会社が社宅として借りていた賃貸マンションに住んでいたが,家賃負担額が増加したことや福島県に戻って生活することはないことなどから,平成25年3月に住宅ローンで土地を購入して家を建て,同年9月に引っ越した。また,平成26年1月には原告番号6-1及び原告番号6-2の間に二女が生まれた。 原告番号6-1は,上記の名古屋市内の薬局を平成28年10月に退職し,同月から別の薬局に就職し勤務しており,原告番号6-2は,平成29年10月からパートタイム勤務をしている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年3月には0.64ないし2.61μSv/h,平成24年4月には0. 03ないし1.40μSv/h,平成25年4月には0.08ないし0.64μ- 572 -Sv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 25μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.23μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,福島市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第,年々減少している 人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,福島市で検査を受けた2万4713人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号6-1の請求についてア避難費用 交通費本件事故当時,原告らは,自主的避難等対象区域に居住していたから,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは,原告番号6-1及び原告番号6-2については平成23年12月31日まで,原告番号6-3については平成24年8月31日までであるが,乳児である原告番号6-3が一人で避難を継続することは困難であるから,原告番号6-3の避難の継続の合理性が認められる平成24年8月31日までに避難- 573 -のために要した交通費については,原告番号6-1及び原告番号6-2の分も含めて本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。原告番号6-1は,実際に支払った交通費についての領収証等を提出していないが,前記のとおり,電車や自動車を利用して避難している以上,相応の交通費が発生していると認められる。したがって,民事訴訟法248条に基づき,平成23年3月15日に福島市から宇都宮市の親戚 していないが,前記のとおり,電車や自動車を利用して避難している以上,相応の交通費が発生していると認められる。したがって,民事訴訟法248条に基づき,平成23年3月15日に福島市から宇都宮市の親戚宅に自動車で避難した際の交通費は5000円,同月16日に宇都宮市から埼玉県川越市の親戚宅に電車で避難した際の交通費は3000円(1500円×2人分),同月17日に埼玉県川越市から川崎市の親戚宅に電車で避難した際の交通費は2000円(1000円×2人分),同月20日に原告番号6-1が川崎市から福島市の実家に電車で戻った際の交通費は5500円,同年4月2日に原告番号6-2及び原告番号6-3が川崎市から名古屋市に避難した際の交通費は1万円(1万円×1人分),同年5月4日に原告番号6-2及び原告番号6-3が群馬県伊勢市に引っ越した際の交通費は1万5000円(1万5000円×1人分)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。また,平成24年3月12日に原告らが群馬県伊勢崎市から名古屋市に引っ越した際の交通費については,被告東電が認める1万5200円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める(甲C6の3)。したがって,5万5700円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 なお,原告番号6-1は,原告番号6-3が電車で避難した際の交通費も請求するが,避難した当時,原告番号6-3は0歳であり,交通費は掛からなかったと考えられるから,原告番号6-3の電車での避難については損害が発生したと認めることはできない。また,原告番号6-1は,被告東電の作成した賠償基準(甲C6の2)に基づいて,交通費を算定しているが,上記基準は実際に発生する交通費よりも高めに設定されているも- 574 -のと認められ,上記基準に基づいて交通費を ,被告東電の作成した賠償基準(甲C6の2)に基づいて,交通費を算定しているが,上記基準は実際に発生する交通費よりも高めに設定されているも- 574 -のと認められ,上記基準に基づいて交通費を算定するのは相当でない。 宿泊費・謝礼原告番号6-1は,平成23年3月17日から同年4月2日まで避難のため滞在した川崎市の親戚に3万円,原告番号6-2及び原告番号6-3が同年4月2日から同年5月4日まで避難のため滞在した原告番号6-1の妹に3万円をそれぞれ謝礼として支払ったことが認められる。もっとも,これは支払を余儀なくされたものではなく,原告番号6-1の判断で任意に支払ったものといえるから,本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。 引っ越し費用原告番号6-1が請求し,被告東電が既に賠償した12万8500円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 敷金・礼金原告番号6-1が請求し,被告東電が既に賠償した9万4943円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用本件事故当時,原告らは,自主的避難等対象区域に居住していたから,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは,原告番号6-1及び原告番号6-2については平成23年12月31日までであり,原告番号6-3についても平成24年8月31日までであるから,同年9月以降の帰省に要した費用は本件事故と相当因果関係を有しない。そして,被告東電が既に賠償した22万5300円を超えて上記期間までの帰省費用が発生したと認めるに足りる証拠はないから,22万5300円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(避難のための に賠償した22万5300円を超えて上記期間までの帰省費用が発生したと認めるに足りる証拠はないから,22万5300円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(避難のための住居選定・就職活動のための交通費)原告らは,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたから,- 575 -避難の継続の合理性が認められるのは,原告番号6-1及び原告番号6-2については平成23年12月31日まで,原告番号6-3については平成24年8月31日までであるが,乳児である原告番号6-3が一人で避難を継続することは困難であるから,原告番号6-3の避難の継続の合理性が認められる平成24年8月31日までに避難のために要した費用については,本件事故と相当因果関係を有するといえる。また,原告番号6-1は,実際に支払った交通費についての領収証等を提出していないが,前記のとおり,電車や自動車を利用して避難している以上,相応の費用が発生していると認められる。したがって,民事訴訟法248条に基づき,原告番号6-1が平成23年4月に住居選定のために群馬県伊勢崎市に電車で行った際に要した交通費1万6000円(8000円×2回(往復)),平成23年12月及び平成24年1月に住居選定及び就職活動のために名古屋市に行った際に要した費用5万2000円(1万3000円×2回(往復)×2回=5万2000円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。よって,6万8000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号6-1が請求し,被告東電が既に賠償した30万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 食費原告番 費増加費用 家財道具購入費原告番号6-1が請求し,被告東電が既に賠償した30万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 食費原告番号6-1は,本件事故前は原告番号6-2の実家から米や野菜を送ってもらっていたが,本件事故による避難により月額2万円(米約7000円,野菜約1万3000円)増加した旨主張する。しかし,本件において損害の発生及び損害額について具体的な立証がされているとはいえないから,原告番号6-1の上記請求は認められない。 - 576 - 家賃増加分原告番号6-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号6-3についても平成24年8月31日までであるから,同年9月以降の家賃増加分については本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえない。したがって,原告番号6-1の主張を前提としても平成24年8月までの家賃は39万3000円であるから,被告東電が既に賠償した91万5200円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできず,91万5200円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他原告番号6-1は,原告番号6-3が本件事故当時生後8か月であったこと,原告番号6-2が平成25年4月に妊娠したため,通常以上に避難の生活費を要した旨主張するが,生活費が増加したことについて具体的な立証がないから,原告番号6-1の上記主張を認めることはできない。 ウ就労不能損害原告番号6-1は,本件事故による避難により平成23年3月14日から4日間にわたって会社 体的な立証がないから,原告番号6-1の上記主張を認めることはできない。 ウ就労不能損害原告番号6-1は,本件事故による避難により平成23年3月14日から4日間にわたって会社を欠勤したこと,原告番号6-1の給料は,同年2月分は37万1425円であったのに対して同年3月分は27万5532円であったこと(甲C6の6),原告番号6-1の勤務する会社では,賞与として,8月に給与の2か月分,12月に給与の2.5か月分が支給されており,平成23年12月の賞与は58万9652円であったのに対して同年8月の賞与は36万2572円であったことが認められる(甲C6の7・8,弁論の全趣旨)。そして,原告番号6-1が平成23年3月に欠勤したのは本件事故による避難が原因であるから,同月分の給与の減額分9万5893円(37万1425円-27万5532円=9万5893円)及び同年8月- 577 -の賞与の減額分10万9149円(58万9652円÷2.5か月×2か月-36万2572円=10万9149円)は本件事故がなければ原告番号6-1が得られていたであろう利益といえるから,20万5042円が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。一方で,原告番号6-1は,平成23年5月に群馬県伊勢崎市に避難するまでは,夜間救急のアルバイトをしており,月額1万2500円の収入を得ていたが,同市に避難したことによりアルバイトを継続することができなくなり,その分の収入が得られなくなった旨主張する。しかし,上記業務はアルバイトであり,本件事故後も継続できたと認めるに足りる証拠はなく,また,群馬県伊勢崎市に避難後も一切アルバイト等の仕事ができなかったという事情を認めるに足りる証拠はないから,夜間救急のアルバイトの減収分については,本件事故と相当因果関係 めるに足りる証拠はなく,また,群馬県伊勢崎市に避難後も一切アルバイト等の仕事ができなかったという事情を認めるに足りる証拠はないから,夜間救急のアルバイトの減収分については,本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。 エその他(ADR弁護士費用)原告番号6-1が請求し,被告東電が既に賠償した9万0382円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ慰謝料以外の損害合計208万3067円カ慰謝料原告番号6-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号6-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 - 578 -⑵ 原告番号6-2の請求について原告番号6-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号6-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号6-3の請求について原告番号6-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24 ⑶ 原告番号6-3の請求について原告番号6-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号6-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号6-1に対する弁済被告東電は,原告番号6-1に対し,274万3125円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号6-2に対する弁済被告東電は,原告番号6-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号6-3に対する弁済被告東電は,原告番号6-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号6-1- 579 -前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号6-1に生じた慰謝料以外の損害は208万3067円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は266万3125円であるか 原告番号6-1に生じた慰謝料以外の損害は208万3067円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は266万3125円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号6-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号6-2本件事故により原告番号6-2に生じた損害である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号6-3本件事故により原告番号6-3に生じた損害である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号6-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号6-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号6-3- 580 -52万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号6-157万円(52万円+5万円)イ原告番号6-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号6-357万円(52万円+5万円)第7 原告番号7の世帯 1 認定事実(原告番号7-1本人(同人の陳述書(甲C7の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号7-1(本件事故当時51歳),その妻である原告番 番号7の世帯 1 認定事実(原告番号7-1本人(同人の陳述書(甲C7の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号7-1(本件事故当時51歳),その妻である原告番号7-2(本件事故当時48歳),原告番号7-1及び原告番号7-2の長女である原告番号7-3(本件事故当時20歳),二女である原告番号7-4(本件事故当時17歳)は,本件事故当時,いわき市の自宅(いわき市,福島第一原発からの距離42.08㎞(乙C7の1))に居住していた(以下,原告番号7-1ないし原告番号7-4の4名又は上記4名に原告番号7-1及び原告番号7-2の長男(以下,この項において「長男」という。)を加えた5名を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号7-1は,本件事故当時,福島県双葉郡広野町(以下「広野町」という。)で建物を借りて接骨院及び学習塾を営んでいたほか,昭和59年からいわき市で有機農業を営んでいた。有機農業で収穫した作物は,農協を通さずに,食物の安全に関心の高い幼稚園及び家庭に直接販売していた。 原告番号7-3は,本件事故当時,福島高専から福島大学経済学部3年への- 581 -編入試験に合格して進学の準備をしていた。原告番号7-4は,本件事故当時,福島高専に在学中であり,卒業後は東北大学経済学部への編入を目指していた。なお,長男は,本件事故当時,岩手大学の学生であったため,岩手県で生活していた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件地震の発生後の平成23年3月11日午後7時半頃,いわき市の自宅で合流した。原告らは,身内が被告東電で働いているという広野町の大家に連絡を取ると,「原発が大変なことになっているから,すぐに逃げた方がいい。私たちも逃げる。東京電 1日午後7時半頃,いわき市の自宅で合流した。原告らは,身内が被告東電で働いているという広野町の大家に連絡を取ると,「原発が大変なことになっているから,すぐに逃げた方がいい。私たちも逃げる。東京電力の家族たちも逃げるそうだ。」と言われた。 原告らは,同月12日午後,上記の大家の情報に加え,テレビで原子炉の温度が上昇しているとのテロップが流れ,その後に原子炉が爆発した映像が放送されていたことにより,避難することを決断した。そこで,原告らは,同日午後7時頃,自動車に身の回りの物だけを積み,家族4人で北茨城市の親戚宅を目指して出発したが,避難途中で千葉県柏市に住む原告番号7-1の姉と連絡が取れたため,目的地を同市に変更し,同月13日午前2時頃,到着した。原告らは,同月14日,愛知県b町で接骨院を営む知人からすぐに愛知県に避難した方がいいとの連絡があったため,愛知県に避難することにした。そこで,原告らは,同月15日午後,自動車で千葉県柏市から愛知県に向けて出発し,同日午後8時頃,愛知県に到着し,上記知人が借りてくれた6畳一間のアパートで同月末まで滞在した。同月末,長男も一旦愛知県に合流したため,新しく3DKのアパートを借り,同年7月からは,愛知県が避難者向けに無償提供する県営住宅に入居した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号7-1は,現在は愛知県の嘱託職員として勤務しており,原告番号7-2と共にいわき市に通い,残してきた農地と半壊状態の自宅建物の維- 582 -持管理をしている。原告番号7-3は,本件事故当時,福島大学の3年次編入が認められており,愛知県に避難後は休学を続けていたが,いわき市に戻る見通しがつかないため,平成23年8月に大学を中退し,企業に一般事務職として就職した。原告番号7-4は,愛 ,福島大学の3年次編入が認められており,愛知県に避難後は休学を続けていたが,いわき市に戻る見通しがつかないため,平成23年8月に大学を中退し,企業に一般事務職として就職した。原告番号7-4は,愛知県に避難したことによって福島高専に通えなくなったため,富山高専に転入した。原告番号7-4は,転入後はカリキュラムの違いに苦しみ,ノイローゼ状態になるなどしたため,原告番号7-2が原告番号7-4のサポートのために富山県と愛知県を往復するようになった。原告番号7-4は大学に進学することはなく,富山高専を卒業後は就職した。 原告らは,平成25年には,広野町での事業を完全に諦めるとの前提で,原子力損害賠償紛争解決センターの仲介で被告東電との間で事業損害について和解し,800万円余りの和解金を受け取り,これに貯金を加えて中古マンションを購入して,そこに居住し始め,現在は,原告番号7-3は結婚したため,原告番号7-1,原告番号7-2及び原告番号7-4が一緒に暮らしている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で36 Sv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,- 583 -平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告らが本件事故当時居住していた地域では稲作が再開されているものの(乙C7の10の1ないし11),原告番号7-1は以前のような有機農業はできないとして稲作は再開していない。 2 損害についての検討⑴ 原告番号7-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号7-1は,いわき市から愛知県に避難した際,高速道路代8100円,ガソリン代5935円を支出したことが認められ(甲C7の2),これらの支出は本件事故と相当因果関係を有するものといえるから,1万4035円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。また,本件事故直後の状況,原告番号7-4が福島高専で専攻していた学科と同様の学科が近隣では富山高専にしかなかったこと等の事情に鑑 から,1万4035円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。また,本件事故直後の状況,原告番号7-4が福島高専で専攻していた学科と同様の学科が近隣では富山高専にしかなかったこと等の事情に鑑みれば,原告番号7-4が富山高専に転入することはやむを得なかったものといえ,原告番号7-4の富山高専への転入は本件事故と相当因果関係を有するものといえる。そして,原告番号7-1が請求する高速道路代3840円及びガソリン代3000円は,愛知県から富山県までの交通費として合理的な- 584 -金額であるから,6840円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。一方で,岩手県にいた原告番号7-1の長男が愛知県に合流した際の交通費については,原告番号7-1の長男は,本件事故当時,岩手県にいたのであるから本件事故による避難を行う必要性はなく,本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえない。また,カーナビ及びカーナビソフトの購入費用については,本件事故前はカーナビを利用していなかったにもかかわらず,本件事故後に避難したことでカーナビがなければ生活できない状態になるとは考え難く,カーナビ及びカーナビソフトは原告番号7-1の判断で任意に購入したものといえ,カーナビ及びカーナビソフトの購入費用は本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえない。 したがって,2万0875円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号7-1は,千葉県柏市の親族宅に宿泊した際の謝礼3万円及び愛知県大府市の知人への謝礼5000円の合計3万5000円を請求する。しかし,上記の謝礼は,原告番号7-1の判断で任意に支払ったものと認められ,原告番号7-1が支払を余儀なくされたものとはいえないから,本件事故と相当因果関 5000円の合計3万5000円を請求する。しかし,上記の謝礼は,原告番号7-1の判断で任意に支払ったものと認められ,原告番号7-1が支払を余儀なくされたものとはいえないから,本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえず,原告番号7-1の上記請求は認められない。 引っ越し費用原告番号7-1は,引っ越し費用として3万9900円を請求し,その証拠として引っ越し代の領収証(甲C7の5)を提出するが,この領収証の日付は平成25年4月13日となっており,平成23年4月11日の引っ越しの際に要した費用を示すものとはいえない。しかし,原告番号7-1は,いわき市から愛知県に引っ越している以上,引っ越し費用として相応の費用を支出したと認められ,その金額は原告番号7-1が請求する3- 585 -万9900円と認めるのが相当である。したがって,3万9900円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号7-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるから,本件事故と相当因果関係を有する帰省は同月までのものに限られる。そして,原告番号7-1は,同年4月4日から同月6日まで,同月30日から同年5月3日まで,同月27日から同月30日まで,同年6月18日から同月22日まで,同年7月13日から同月17日まで,同年8月7日から同月17日まで,同月31日から同年9月3日まで,同月15日から同月25日まで,同年10月5日から同月14日まで,同年11月1日から同月9日まで,同年12月5日から同月8日まで,同月29日から平成24年1月5日までの12回にわたって自動車でいわき市へ帰省したことが認められる( 年10月5日から同月14日まで,同年11月1日から同月9日まで,同年12月5日から同月8日まで,同月29日から平成24年1月5日までの12回にわたって自動車でいわき市へ帰省したことが認められる(甲C7の6ないし16,弁論の全趣旨)。一方で,原告番号7-1は,上記帰省の際に要した高速道路代及びガソリン代の領収証等を提出するが,印刷が不鮮明なものもあり,上記帰省から愛知県に戻ってから給油した際の領収証も含まれており,領収証等の提出があるもの全てについて本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。そして,愛知県から福島県まで自動車で移動する際の交通費としては,民事訴訟法248条に基づき,片道1万円と認めるのが相当である。したがって,24万円(1万円×2(往復)×12回=24万円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他原告番号7-1は,本件事故による避難後,いわき市に帰省した際の食費及び雑費として合計208万8440円を請求するが,いわき市に滞在していた際に要した食費及び雑費は帰省せずに愛知県にいても発生し得- 586 -るものであり,愛知県にいるときよりも余分に費用が掛かったと認めるに足りる証拠はないから,原告番号7-1の上記請求は認められない。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号7-1は,本件事故による避難をしたことにより,避難先において布団,電化製品,原告番号7-4の富山高専転校に当たっての制服等一式,平成25年以降の新居用の家具等の購入費用として合計168万8036円を請求する。しかし,平成23年4月頃に引っ越した際に購入した家財道具としては,甲C7の105記載の電気ケトル,パソコン,プリンタ,ヘアードライヤー,カラーテレビ, 費用として合計168万8036円を請求する。しかし,平成23年4月頃に引っ越した際に購入した家財道具としては,甲C7の105記載の電気ケトル,パソコン,プリンタ,ヘアードライヤー,カラーテレビ,炊飯ジャー,クリーナーを購入したことが認められるにとどまり,購入金額も不明である。もっとも,家財道具をいわき市の自宅に置いたまま避難している以上,ある程度の家財道具の購入は必要であったと推認することができるから,民事訴訟法248条に基づき,平成23年4月頃に購入した家財道具の購入費用として10万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。 一方で,原告番号7-4の富山高専に当たっての制服等一式の購入費用については,原告番号7-1が実際に制服等一式の購入を余儀なくされ,実際に支出したことを認めるに足りる証拠はないから,上記費用は本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。また,平成25年に新居に引っ越した際に購入した家財道具の購入費用については,上記引っ越しは本件事故により余儀なくされたものではなく,原告番号7-1の判断により任意に行われたものであるから,本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。 したがって,10万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 光熱費- 587 -原告番号7-1は,いわき市の自宅と農地の管理のためにいわき市の自宅の電気と水道を維持しているとして,平成23年5月から平成28年12月までに支払った水道光熱費を請求するが,避難後は原告番号7-1の自宅に居住している者はいなかったのであるから,自宅及び農地の管理の必要があったとしても長期間滞在する必要性は認められず,電気及び水道の契約を維持しておく必要はないといえる。した は原告番号7-1の自宅に居住している者はいなかったのであるから,自宅及び農地の管理の必要があったとしても長期間滞在する必要性は認められず,電気及び水道の契約を維持しておく必要はないといえる。したがって,水道光熱費を二重に支払った費用については,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえないから,原告番号7-1の上記請求は認められない。 交通費原告番号7-1は,富山高専に通う原告番号7-4のサポート等のために愛知県から富山県まで行った際に要した交通費等を請求するがサポートのために愛知県から富山県まで行かざるを得なくなったとしても,そのような状況に陥ることが本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,進路相談会や卒業式への出席も義務的なものではなく,また,原告番号7-1が実際に上記交通費等を支出したと認めるに足りる証拠はない。 したがって,上記の交通費等は本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえず,原告番号7-1の上記請求は認められない。 通信費原告番号7-1は,平成23年3月分及び同年4月分の携帯電話料金として7万円を請求するが,これは本件事故がなくとも発生した料金であり,本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえない。したがって,原告番号7-1の上記請求は認められない。 被服費原告番号7-1は,避難後に購入した被服の購入費用を請求するが,原告番号7-1の自宅は自主的避難等対象区域にあり,被服を持ち出すことは可能であったから,本件事故により被服の購入を余儀なくされたという- 588 -ことはできない。したがって,避難後に購入した被服の購入費用は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号7-1の上記請求は認められない。 なくされたという- 588 -ことはできない。したがって,避難後に購入した被服の購入費用は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号7-1の上記請求は認められない。 食費原告番号7-1は,平成23年3月20日に購入した保存食品の購入費用及び同年4月末に原告番号7-4を見舞った際の食費を請求するが,これらの費用は本件事故がなくとも支出し得るものであり,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。したがって,原告番号7-1の上記請求は認められない。 その他原告番号7-1は,避難時雑貨購入費,避難直後雑貨購入費,クリーニング代,田畑除草剤,いわき市の建物管理・設備代,農機具修理代,自動車修理代,タイヤバルブ交換費及びタイヤ交換費として,合計33万4744円を請求する。しかし,避難時雑貨購入費及び避難直後雑貨購入費については,いかなる物品をいくらで購入したか不明であり,消耗品等は本件事故がなくとも購入する必要のあるものであるから,本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえない。また,田畑の除草,いわき市の建物の管理等は本件事故がなくとも行う必要のあるものであるから,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。さらに,本件事故の影響で農機具や自動車の修理が必要となったという事情もうかがわれないから,農機具修理代,自動車修理代,タイヤバルブ交換費及びタイヤ交換費についても,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。したがって,原告番号7-1の上記請求は認められない。 家賃増加分原告番号7-1は,家賃増加分として合計44万8600円を請求する。そして,平成23年3月の1DKのアパートの家賃9万円,同年4月- 589 -から7 。 家賃増加分原告番号7-1は,家賃増加分として合計44万8600円を請求する。そして,平成23年3月の1DKのアパートの家賃9万円,同年4月- 589 -から7月までの3LDKのアパートの家賃21万円及び駐車場代1万2600円はアパートの家賃等として相当な金額といえ,上記支出は本件事故と相当因果関係を有する損害といえる。一方で,敷金については,その性質上退去する際に返金が予定されているものであるから,敷金を支払ったことで原告番号7-1に損害が発生したと認めることはできない。したがって,31万2600円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 教育費原告番号7-1は,原告番号7-4の富山高専での韓国留学の費用及び退寮の費用として,合計33万円を請求する。しかし,富山高専においては留学は必修科目ではなく,原告番号7-4は韓国留学に行かなくとも卒業することは可能であったと認められるから(乙C7の14・15),韓国留学の費用は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,退寮の費用についても,実際に支出したことを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,原告番号7-1の上記請求は認められない。 その他原告番号7-1は,原告番号7-4の富山高専の卒業式の宿泊費及び貸衣装費,原告番号7-4の富山高専の寮費として,合計93万5625円を請求する。しかし,卒業式の貸衣装費は本件事故がなくとも発生し得るものであり,卒業式への出席は義務的なものではないから,卒業式への出席の際に要した宿泊費も本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。また,原告番号7-4の富山高専の寮費については,原告番号7-1が あり,卒業式への出席は義務的なものではないから,卒業式への出席の際に要した宿泊費も本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。また,原告番号7-4の富山高専の寮費については,原告番号7-1が実際にこれを支出したと認めるに足りる証拠はない。したがって,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,原告番号7-1の上記請求は認められない。 - 590 -ウ就労不能損害原告番号7-1は,接骨院及び学習塾を広野町で営んでいたところ,同町は旧緊急時避難準備区域であり(乙B104),前記の基準によれば,同区域に居住していた者の避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,同年9月以降は接骨院及び学習塾を再開することも可能であったといえる。したがって,被告東電が既に営業損害(ADR弁護士費用を含む。)として賠償した2519万0365円(乙C7の4)を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。 一方で,農業収入については,原告番号7-1は,本件事故当時,有機農業を営んでいたのであり,自主的避難等対象区域における避難の継続の合理性が認められる期間を経過し,空間放射線量は低下し,一般的な農家は稲作を再開していたとしても,有機農業を掲げて農業を行ってきた原告番号7-1が,本件事故前と同様に有機農業を掲げて事業を行い,収益を上げることは困難であり,原告番号7-1がいわき市において本件事故前と同様の事業を再開することはできないといえる。したがって,原告番号7-1が本件事故により有機農業を行えなくなったことにより得られなくなった収入は本件事故と相当因果関係を有する損害といえる。そして,原告番号7-1の平成20年から平成22年までの3年間の平均年収は15 1が本件事故により有機農業を行えなくなったことにより得られなくなった収入は本件事故と相当因果関係を有する損害といえる。そして,原告番号7-1の平成20年から平成22年までの3年間の平均年収は156万7217円であるから(甲C7の183ないし185),平成23年3月から平成29年12月までの間に1070万9282円(156万7217円÷12か月×82か月(平成23年3月から平成29年12月まで)=1070万9282円)の損害が生じており,1070万9282円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ被ばく検査費用避難の継続の合理性が認められる期間を経過した後も,放射線被ばくの影- 591 -響を心配して被ばく検査を受けることには合理性が認められるから,原告番号7-3及び原告番号7-4が平成27年9月27日に受けた被ばく検査費用9000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オその他原告番号7-1は,農機具等の修理代,草刈り作業代,お寺への支払等のいわき市の自宅で要した費用として合計153万7702円を請求する。しかし,農機具等の修理代については,本件事故の影響で農機具が故障したと認めるに足りる証拠はなく,本件事故が発生しなくとも支出を余儀なくされていたものであるから,本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。また,草刈り作業代については,原告番号7-1の判断で任意に依頼し支払ったものであり,これについても本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。さらに,お寺への支払,水田水利費等については,本件事故がなくともいわき市の自宅に居住していれば支払っていたであろう金銭であり,本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。 カ らに,お寺への支払,水田水利費等については,本件事故がなくともいわき市の自宅に居住していれば支払っていたであろう金銭であり,本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。 カ慰謝料以外の損害合計1143万1657円キ慰謝料原告番号7-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,長年続けてきた有機農業を断念せざるを得なかったこと等の事情を考慮しても,原告番号7-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号7-2の請求について原告番号7-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたと- 592 -ころ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号7-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号7-3の請求についてア大卒と高専卒の年間賃金差額原告番号7-3は,平成23年3月に福島大学を中退しているが,現在は就職しており,実際に大学卒業程度の収入が得られなかったと認めるに足りる証拠はなく,原告番号7-3の請求は認められない。 イ慰謝料以外の損害合計0円ウ慰謝料原告番号7-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成2 外の損害合計0円ウ慰謝料原告番号7-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,大学を中退せざるを得なかったこと等の事情を考慮しても,原告番号7-3の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号7-4の請求についてア大卒と高専卒の年間賃金差額原告番号7-4は,本件事故後,富山高専に転校しているところ,本件事故により大学に進学することができなかったと認めるに足りる証拠はなく,また,原告番号7-4は,現在は就職しているところ,実際に大学卒業程度の収入が得られなかったと認めるに足りる証拠はないから,原告番号7-4の請求は認められない。 イ慰謝料以外の損害合計- 593 -0円ウ慰謝料原告番号7-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,転校を余儀なくされ,転校後にカリキュラムの違い等から苦労したなどの事情を考慮しても,原告番号7-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号7-1に対する弁済証拠(乙C7の5・6・11・12)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は ,原告番号7-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号7-1に対する弁済証拠(乙C7の5・6・11・12)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号7-1に対し,381万0203円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号7-2に対する弁済証拠(乙C7の11・12)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号7-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号7-3に対する弁済証拠(乙C7の11・12)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号7-3に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号7-4に対する弁済証拠(乙C7の11・12)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号7-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額- 594 -ア原告番号7-1本件事故により原告番号7-1に生じた損害額である1203万1657円から,被告東電の弁済額である381万0203円を控除すると822万1454円となる。 イ原告番号7-2本件事故により原告番号7-2に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号7-3本件事故により原告番号7-3に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号7-4本件事故により原告番号7-4に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号7-1822万 本件事故により原告番号7-4に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号7-1822万1454円の約1割である82万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号7-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号7-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号7-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 595 -⑶ 認容額ア原告番号7-1904万1454円(822万1454円+82万円)イ原告番号7-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号7-357万円(52万円+5万円)エ原告番号7-457万円(52万円+5万円)第8 原告番号8の世帯 1 認定事実(原告番号8-2本人(同人の陳述書(甲C8の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号8-1(本件事故当時37歳),その妻である原告番号8-2(本件事故当時32歳),原告番号8-1及び原告番号8-2の長女である原告番号8-3(本件事故当時7歳),二女である原告番号8-4(本件事故当時5歳),長男である原告番号8-5(本件事故当時3歳),三女である原告番号8-6(本件事故当時1歳)は,本件事故当時,原告番号8-1が勤める公益財団法人の職員住宅(伊達市 ,福島第一原発か 男である原告番号8-5(本件事故当時3歳),三女である原告番号8-6(本件事故当時1歳)は,本件事故当時,原告番号8-1が勤める公益財団法人の職員住宅(伊達市 ,福島第一原発からの距離61.05㎞(乙C8の1))に居住していた(以下,原告番号8-1ないし原告番号8-6の6名又は上記6名に原告番号8-7を追加した7名を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告らは,平成20年頃までは千葉県に居住していたが,同年頃に原告番号8-1の転勤によって伊達市に居住するようになった。原告番号8-1は,本件事故当時,公益財団法人に事務職員として勤務しており,研修業務を中心に扱っていた。原告番号8-2は,本件事故当時,原告番号8-7(平成23年- 596 -9月16日生)を妊娠中であった。原告番号8-3は,本件事故当時,伊達市内の公立小学校の1年生であり,原告番号8-4及び原告番号8-5は幼稚園に通っていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件事故後,工業高校プラント科出身で名古屋市内に住む原告番号8-2の兄からの電話で放射能の恐ろしさを知らされ,強く避難を勧められたことに加え,インターネットで放射能に関する情報を調べたところ,放射能に対する恐怖と不安を感じ,子供たちや胎児の安全を優先するために,平成23年3月15日頃,原告番号8-1を除く原告らが原告番号8-2の出身地である名古屋市に避難することを決断した。原告番号8-1を除く原告らは,同月16日,原告番号8-1のみを福島県に残し,原告番号8-2の運転する自動車で名古屋市に避難することとなった。原告番号8-1を除く原告らは,伊達市では手に入りにくくなっていたガソリンを入手するため,まずは山形県の知人宅を目指し,同日中に上記知人宅に到着し,そこに1週間 動車で名古屋市に避難することとなった。原告番号8-1を除く原告らは,伊達市では手に入りにくくなっていたガソリンを入手するため,まずは山形県の知人宅を目指し,同日中に上記知人宅に到着し,そこに1週間ほど滞在した後,名古屋市から迎えに来た妹に自動車を運転してもらって名古屋市に向かい,14時間掛けて同月22日深夜に名古屋市に到着し,原告番号8-2の妹の家で生活することとなった。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号8-1を除く原告らが名古屋市に避難して以降,原告番号8-5は,同年4月末に高熱を出し,川崎病と診断され,他の子供たちも熱を出すなどしていた。原告番号8-2は,避難生活の中で精神的に追い詰められており,追い詰められた原告番号8-2を見兼ねた原告番号8-1は,仕事を辞めて,同年6月7日,名古屋市に転居した。原告番号8-2は,同月下旬,心療内科の診察を受けたところ,うつ病及びパニック障害と診断され,同年7月20日には解離性障害を疑われるまでに病状は悪化した。そのような- 597 -中,原告番号8-2は,同年9月16日,次男である原告番号8-7を名古屋市内で出産した。 原告らは,名古屋市に避難して2か月余りは原告番号8-2の妹の家に寝泊まりしていたが,その後借り上げの賃貸住宅の部屋(3DK)に入居し,平成27年3月下旬まで生活を続けた。その後,原告らは,同月末に広さ約80㎡の3LDKの分譲マンションを購入して転居し,上記マンションで生活している。 原告番号8-1は,平成23年6月にそれまで勤務していた公益財団法人を退職し,名古屋市で原告番号8-2らと同居するようになり,原告番号8-2の世話をしながら就職先を探した。原告番号8-1は,地元の警備会社のアルバイトの職に就いたが, れまで勤務していた公益財団法人を退職し,名古屋市で原告番号8-2らと同居するようになり,原告番号8-2の世話をしながら就職先を探した。原告番号8-1は,地元の警備会社のアルバイトの職に就いたが,遠方の原子力発電所の警備を担当するように打診されることがあり,その都度断っていたために居づらくなり,平成28年3月末で退職し,同年4月1日からは愛知県の公立高校で産休教員の補助講師となり,その後,愛知県知多市の公立中学校で常勤講師をしている。 原告らが避難した後,当時小学生だった原告番号8-3は,避難先近くの公立小学校に転校し,幼稚園に在籍していた原告番号8-4及び原告番号8-5は名古屋市内の幼稚園に入った。原告番号8-3ないし原告番号8-7は,それぞれ,中学校,小学校等に通っている。 イ本件事故時住所地の状況等原告らが本件事故当時に居住していた伊達市における環境放射能は,平成23年3月には2.25μSv/h,平成24年4月には0.17ないし0.98μSv/h,平成25年4月には0.12ないし0.58μSv/h,平成26年4月には0.09ないし0.38μSv/h,平成27年4月には0.07ないし0.31μSv/h,平成28年4月には0.06ないし0.26μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.24μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1- 598 -避難者数は,平成24年4月1日時点で428人,平成25年4月1日時点で401人,平成26年4月1日時点で312人,平成27年4月1日時点で246人,平成28年4月1日時点で230人,平成29年4月1日時点で156人と推移しており(第5部第1章る。そして,伊達市の平成29年5月末時点の除染状況は,住宅,公共施設,道路,農地及びその他の全てで完了 成28年4月1日時点で230人,平成29年4月1日時点で156人と推移しており(第5部第1章る。そして,伊達市の平成29年5月末時点の除染状況は,住宅,公共施設,道路,農地及びその他の全てで完了した(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,伊達市では預託実効線量が1mSv 未満の者が7907人/7910人(約99.9%)となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号8-1の請求について原告番号8-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号8-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号8-2の請求について原告番号8-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,原告番号8-7を妊娠していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号8-2は,避難生活中にうつ病及びパニック障害- 599 -と診断されているものの,通院慰謝料が 月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号8-2は,避難生活中にうつ病及びパニック障害- 599 -と診断されているものの,通院慰謝料が支払われていること等を考慮すれば,原告番号8-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号8-3の請求について原告番号8-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号8-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号8-4の請求について原告番号8-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号8-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑸ 原告番号8-5の請求について原告番号8-5は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24 基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号8-5の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑹ 原告番号8-6の請求について原告番号8-6は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められる- 600 -のは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号8-6の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑺ 原告番号8-7の請求について原告番号8-7は,本件事故当時は胎児であり,原告番号8-2ないし原告番号8-6が名古屋市に避難した平成23年3月末時点においても胎児であった。そして,胎児である原告番号8-7は,避難の際の困難な生活状況等を実際に体験したわけではなく,避難前の居住地において人間関係を築いていたわけでもないから,避難せざるを得なかったことによる精神的苦痛は金銭をもって慰謝する必要のあるものとまでは認められない。したがって,原告番号8-7の慰謝料は認められない。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号8-1に対する弁済被告東電は,原告番号8-1に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号8-2に対する弁済被告東電は,原告番号8-2に対し,40万円の賠償を行ったことが認められ 被告東電は,原告番号8-1に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号8-2に対する弁済被告東電は,原告番号8-2に対し,40万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号8-3に対する弁済被告東電は,原告番号8-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号8-4に対する弁済被告東電は,原告番号8-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑸ 原告番号8-5に対する弁済- 601 -被告東電は,原告番号8-5に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑹ 原告番号8-6に対する弁済被告東電は,原告番号8-6に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号8-1本件事故により原告番号8-1に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号8-2本件事故により原告番号8-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である40万円を控除すると60万円となる。 ウ原告番号8-3本件事故により原告番号8-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号8-4本件事故により原告番号8-4に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 オ原告番号8-5本件事故により原告番号8-5に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 オ原告番号8-5本件事故により原告番号8-5に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 カ原告番号8-6本件事故により原告番号8-6に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用- 602 -ア原告番号8-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号8-260万円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号8-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号8-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ原告番号8-552万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カ原告番号8-652万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号8-157万円(52万円+5万円)イ原告番号8-266万円(60万円+6万円)ウ原告番号8-357万円(52万円+5万円)エ原告番号8-4- 603 -57万円(52万円+5万円)オ原告番号8-557万円(52万円+5万円)カ 57万円(52万円+5万円)エ原告番号8-4- 603 -57万円(52万円+5万円)オ原告番号8-557万円(52万円+5万円)カ原告番号8-657万円(52万円+5万円)キ原告番号8-7棄却第9 原告番号9の世帯 1 認定事実(原告番号9-2本人(同人の陳述書(甲C9の1・11)を含む。 以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号9-1(本件事故当時42歳),その妻である原告番号9-2(本件事故当時40歳)は,本件事故当時,いわき市内の借家(いわき市,福島第一原発からの距離54.87㎞(乙C9の2))に居住していた。原告番号9-2は,本件事故当時,長女である原告番号9-3を妊娠中であり,平成23年3月24日,原告番号9-3を出産した(以下,原告番号9-1及び原告番号9-2の2名又は上記2名に原告番号9-3を加えた3名を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告らは,平成15年頃からいわき市で居住し始め,平成22年頃から借家の一室を使って整体院を開業し,主に出張で整体を行っていたところ,固定客も付いており,収入は安定していた。また,原告らは,近所の人から野菜やその他の食料品を物々交換でもらうなどして生活していた。 原告番号9-2は,平成22年7月に妊娠が判明し,震災直前の平成23年3月2日まで整体院で業務を継続し,それ以降は出産のため家事に専念していたが,出産予定日を同月21日に控えていた。 ⑵ 避難開始の経緯等- 604 -原告らは,平成23年3月12日夜頃,テレビのテロップを見て本件事故による避難を呼びかけていることを知り,その1週間後には 21日に控えていた。 ⑵ 避難開始の経緯等- 604 -原告らは,平成23年3月12日夜頃,テレビのテロップを見て本件事故による避難を呼びかけていることを知り,その1週間後にはテレビ等を通じてヨウ素剤の頒布の話等が出始めたが,どう対処すればよいか分からなかった。原告番号9-2は,当時は妊娠中で家にずっといるしかなく,生活することで精一杯なことに加え,政府が大丈夫であると発表していたため,放射線の影響についてはあまり気にしていなかった。原告番号9-2は,定期検診から帰ってくると産婦人科から電話があり,「cの産婦人科は全て閉鎖となりました。c以外の産婦人科を自分で探してください。」と言われたため,産婦人科を探し,整体院の客の紹介で水戸の産婦人科を受診することとなり,同月18日,自動車で水戸まで向かい,水戸の産婦人科で検査を受けたところ,高血圧及び妊娠中毒症であることが判明し,入院することとなった。その後,原告番号9-2は,同月24日,帝王切開で出産することとなり,原告番号9-3を出産した。 もっとも,原告番号9-2は,手術中も出産後も容態はあまりよくなく,退院が認められたのは同年4月9日であった。原告番号9-2は,原告番号9-3を出産後,産婦人科の医師から子供には放射線の影響がよく出ると言われ,これを専門家の意見として重く受け止め,避難することを決断した。原告らは,避難の話を愛知県一宮市の友人にしたところ,協力してもらえることになり,原告番号9-1が事前に引っ越しの段取りを福島県でした上で,原告番号9-2及び原告番号9-3が一旦福島県に戻り,上記友人を頼って,同年4月10日午後3時頃に避難を開始した。原告らは,同日夕方,福島県を出発し,原告番号9-1が自動車を運転し,原告番号9-2,原告番号9-3及び原告番号9-2の 旦福島県に戻り,上記友人を頼って,同年4月10日午後3時頃に避難を開始した。原告らは,同日夕方,福島県を出発し,原告番号9-1が自動車を運転し,原告番号9-2,原告番号9-3及び原告番号9-2の叔母を乗せ,犬2匹と荷物を積んで愛知県に向かった。原告番号9-3にミルクを与えるためにサービスエリアがあるたびに立ち寄りながら,12時間掛けて深夜に愛知県一宮市に到着した。原告番号9-3は,避難後約3か月は食欲がなく,排便も悪く,体調が悪い状態が続いた。 ⑶ 避難後の状況等- 605 -ア避難生活の状況原告番号9-1は,平成23年6月頃,友人の紹介で就職が決まり,森永乳業でジュース製造のラインの仕事を始めたが,震災の影響で仕事が減ったため退職し,同年10月頃に別の友人の紹介で建設業に就職したが,半年過ぎたころから仕事が減り始め,平成24年5月に退職した。原告番号9-1は,同年6月からは喫茶店で働くようになったが,ここも売上げ減少に伴い,同年8月に退職し,同年9月には苗木屋に就職したが,ここでは被ばく検査や弁護士との打合せで仕事を休まなければならないことが続くと,「いつまでも被害者面するな。」などと他の従業員から誹謗中傷され,同年11月には退職した。原告番号9-1は,同年12月からは車関係の派遣の仕事を始めたが,他の派遣会社が入ってきたため,平成25年5月に派遣は終了となり,同年6月には工場に就職したが,毎日5時間の残業を強いられるにもかかわらず,残業代は1時間分しか支給されなかったため,同年8月頃に退職した。原告番号9-1は,同年10月からデイケアで1年半勤務したが,正社員になれないため,平成27年3月に退職し,同年4月には,原告番号9-2が平成25年10月から勤めている就労支援の職場で勤務し始めた。しかし 9-1は,同年10月からデイケアで1年半勤務したが,正社員になれないため,平成27年3月に退職し,同年4月には,原告番号9-2が平成25年10月から勤めている就労支援の職場で勤務し始めた。しかし,原告番号9-1は,給与面の話が最初の話と食い違っていたり,上司との人間関係もうまくいかなくなったりしたこともあり,半年後には退職し,原告番号9-2も上記勤務先を平成27年9月に退職した。その後,原告番号9-1は,平成27年11月から名古屋市内の社会福祉法人で生活支援員として勤務しており,原告番号9-2は,同月から岐阜市にある特定非営利活動法人が運営する事務所で正社員の指導員として勤務している。 原告番号9-2は,平成26年9月には長男を出産し,原告らは現在4人で生活している。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するとこ- 606 -ろ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で88 1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章第)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告らが本件事故当時居住していた借家は解約し,現在は別の人が居住している。 2 損害についての検討⑴ 原告番号9-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号9-1は,いわき市から愛知県一宮市の知人宅に自動車で移動した際のガソリン代8138円及び高速道路代320円を支払ったこと- 607 -が認められ(甲C9の2・3),これらの費用は本件事故と相当因果関係を有するものといえる。したがって,8458円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号9-1は,引っ越し費用として15万7500円(甲C9の5),車両の陸送費として8万4000円(甲C9の6)を支払ったことが認められる。また,原告番号9-1は,いわき市の自宅の賃貸人に退去補修工事費用として4万円を支払ったと主張し,その証拠として甲C9の4を提出するが,これは平成23年4月分の家賃の領収証であり,上記退去補 れる。また,原告番号9-1は,いわき市の自宅の賃貸人に退去補修工事費用として4万円を支払ったと主張し,その証拠として甲C9の4を提出するが,これは平成23年4月分の家賃の領収証であり,上記退去補修工事費用の領収証ではないから,原告番号9-1が4万円の退去補修工事費用を支払ったと認めることはできないものの,甲C9の9の末尾には「H23.4.21 総務AからTEL ハウスクリーニング済残りの4万円ですべて終了しましたとのこと」との書き込みがあり,退去補修工事費用として4万円を支払ったことが認められる。したがって,上記の支出の合計である28万1500円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号9-1は,平成23年11月24日から同月26日に掛けて,いわき市でホールボディカウンターによる検査を受けるために帰省した際の交通費等として4万2144円を請求し,その証拠として甲C9の7及び8を提出するが,これらの証拠は平成24年11月のものであり,上記の帰省の際に要した費用を示すものとはいえない。また,仮に原告番号9-1が平成24年11月に帰省していたとしても,原告番号9-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号9-3についても平成24年8月31日までであるから,平成24年9月以降の- 608 -帰省に要した費用は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。 したがって,原告番号9-1の上記請求は認められない。 イ生活費増加費用 交通費原告番号9-1は,避難前は自宅で仕事をしていたため通勤交通費が掛からなかったが,避難後は通勤しなければならなくなったた 認められない。 イ生活費増加費用 交通費原告番号9-1は,避難前は自宅で仕事をしていたため通勤交通費が掛からなかったが,避難後は通勤しなければならなくなったため通勤交通費が必要となったとして24万8850円を請求する。しかし,原告番号9-1は,避難前は出張で整体を行うなどしていたのであり,交通費が全く発生していなかったわけではなく,避難前よりも避難後の方が交通費が増加したと認めるに足りる証拠はない。したがって,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできず,原告番号9-1の上記請求は認められない。 食費原告番号9-1は,避難前は,食料品のうち,野菜,魚,酒等については物々交換だけで生活しており,それらについての食費が掛かっていなかったが,避難後は,1月当たり合計8000円程度の食費が掛かるようになったとして,平成23年3月から平成29年12月までの食費増加分の合計65万6000円を請求する。しかし,原告番号9-1が,本件事故前は,野菜,魚,酒等については物々交換だけで生活していたと認めるに足りる証拠はなく,避難前よりも避難後の方が食費が増加したと認めることはできない。したがって,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできず,原告番号9-1の上記請求は認められない。 家賃増加分原告番号9-1は,平成29年3月に住宅の借り上げ制度が終了したことによる家賃の増加分を請求するが,原告番号9-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続- 609 -の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号9-3についても平成24年8月31日までであるから, 避難等対象区域に居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続- 609 -の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号9-3についても平成24年8月31日までであるから,平成29年4月以降の家賃の増加分については本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。したがって,原告番号9-1の上記請求は認められない。 その他(再度の引っ越し費用)原告番号9-1は,平成29年3月末に引っ越した際の引っ越し費用を請求するが,上記番号9-3を含めても平成24年8月31日までであるから,上記の引っ越しは本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号9-1の上記請求は認められない。 ウ就労不能損害原告番号9-1が請求し,被告東電が既に賠償した53万7066円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ慰謝料以外の損害合計82万7024円オ慰謝料原告番号9-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号9-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号9-2の請求についてア生活費増加費用(交通費)原告番号9-2は,避難前は自宅で仕事をしていたため通勤交通費が掛からなかったが,避難後は通勤しなければならなくなったため,通勤交通費が必要になったとして,平成25年10月1日以降の通勤交通費を請求する。 - 610 -しかし,原告番号9-2は,避難前は出張で整体を行うなどして 難後は通勤しなければならなくなったため,通勤交通費が必要になったとして,平成25年10月1日以降の通勤交通費を請求する。 - 610 -しかし,原告番号9-2は,避難前は出張で整体を行うなどしていたのであり,交通費が全く発生していなかったわけではなく,避難前よりも避難後の方が交通費が増加したと認めるに足りる証拠はない。したがって,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできず,原告番号9-2の上記請求は認められない。 イ生命・身体的損害原告番号9-2は,避難後,情緒不安定,不眠等のうつ症状が出ており,平成29年10月25日に神経症と診断され,その際の治療費として4360円を請求する。しかし,原告番号9-2が神経症の診断を受けたのは本件事故から6年以上が経過した平成29年10月であり,原告番号9-2の上記症状が本件事故と相当因果関係を有すると直ちに認めることはできないから,原告番号9-2の上記請求は認められない。 ウ慰謝料以外の損害合計0円エ慰謝料原告番号9-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,原告番号9-3を妊娠していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号9-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号9-3の請求について原告番号9-3は,本件事故当時,胎児であり,本件事故による避難を開始した際には,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ 相当である。 ⑶ 原告番号9-3の請求について原告番号9-3は,本件事故当時,胎児であり,本件事故による避難を開始した際には,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31- 611 -日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。さらに,生後間もない原告番号9-3が自動車で長時間移動することには相当程度の肉体的負担があったといえるから,このことを考慮して慰謝料額を増額するのが相当であり,原告番号9-3の慰謝料は,120万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号9-1に対する弁済被告東電は,原告番号9-1に対し,113万7066円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号9-2に対する弁済被告東電は,原告番号9-2に対し,40万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号9-3に対する弁済被告東電は,原告番号9-3に対し,60万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号9-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そ 慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号9-1に生じた慰謝料以外の損害は82万7024円であるのに- 612 -対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は105万7066円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号9-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号9-2本件事故により原告番号9-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である40万円を控除すると60万円となる。 ウ原告番号9-3本件事故により原告番号9-3に生じた損害額である120万円から,被告東電の弁済額である60万円を控除すると60万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号9-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号9-260万円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号9-360万円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号9-157万円(52万円+5万円)イ原告番号9-266万円(60万円+6万円)- 613 -ウ原告番号9-3 容額ア原告番号9-157万円(52万円+5万円)イ原告番号9-266万円(60万円+6万円)- 613 -ウ原告番号9-366万円(60万円+6万円)第10 原告番号10の世帯 1 認定事実(甲C10の1)⑴ 本件事故前の状況等原告番号10-1(本件事故当時35歳),その妻である原告番号10-2(本件事故当時33歳),原告番号10-1及び原告番号10-2の長女である原告番号10-3(本件事故当時2歳),長男である原告番号10-4(本件事故当時0歳)は,本件事故当時,いわき市所在の原告番号10-1の実家近くの賃貸アパート(いわき市 ,福島第一原発からの距離52.00㎞(乙C10の1))に居住していた(以下,原告番号10-1ないし原告番号10-4を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号10-1は,本件事故前はとびとして働いており,特殊な高速道路,橋等の重量のある物の足場を設置する仕事をしており,出張で遠方に行くこともあったが,基本的には福島県内で仕事をしていた。原告番号10-2は,原告番号10-1と結婚する前はいわき市で居酒屋を営んでいたが,結婚後は専業主婦となり,本件事故当時も専業主婦であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,平成23年3月12日に福島第一原発1号機が爆発した際に被ばくの危険性を感じ,同月14日に福島第一原発3号機が爆発した際は更に被ばくの危険を感じていた。そして,原告番号10-1は,当時勤務していた会社の上司から福島第一原発の爆発後の風向きから被ばくの危険があるから幼い子がいるなら避難した方がよいと勧められたこともあり,被ばくの危険を更に認識するようにな 原告番号10-1は,当時勤務していた会社の上司から福島第一原発の爆発後の風向きから被ばくの危険があるから幼い子がいるなら避難した方がよいと勧められたこともあり,被ばくの危険を更に認識するようになった。原告番号10-1は仕事をすぐに辞めることはできなかったため,原告番号10-2が原告番号10-3及び原告番号10-4を連れて避難することにした。原告番号10-2ないし原告番号10-4は,同月- 614 -14日,いわき市の自宅を自動車で出発し,国道で東京に向かい,約7時間掛けて東京に入った。その後,原告番号10-2ないし原告番号10-4は,高速道路を利用して愛知県に向かい,途中の静岡県のサービスエリアで自動車を停めて車中で一泊した。その後,原告番号10-2ないし原告番号10-4は,原告番号10-2の実家に向かい,そこでしばらく生活することになった。もっとも,原告番号10-2の実家とはいえ,原告番号10-2ないし原告番号10-4は肩身の狭い思いをし,また,原告番号10-1が福島県で生活しながら原告番号10-2ないし原告番号10-4が愛知県で生活することは家計的に大きな負担であったため,原告番号10-2ないし原告番号10-4は,同年4月22日,一旦福島県に戻った。しかし,テレビや新聞によると核燃料を取り出せず放射能漏れは続いていて,放射能漏れによる被ばくの危険は改善される気配がなかったため,原告番号10-2ないし原告番号10-4は,同年8月15日,再び愛知県に避難し,愛知県愛西市の県営住宅に入居した。原告番号10-1は,仕事の都合でしばらくは原告番号10-2らと一緒に避難することはできなかったが,同年10月に愛知県に避難した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,平成23年10月に原告番号10-1が避 番号10-2らと一緒に避難することはできなかったが,同年10月に愛知県に避難した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,平成23年10月に原告番号10-1が避難した際に引っ越しをして,愛知県津島市の被災者支援のための住宅を借りた。原告番号10-1は,平成26年4月からはとびとして会社に勤めているが,愛知県に引っ越してからは心のよりどころであった友人がいないため,ストレスが溜まり仕事のない日は携帯電話のゲームなどで気を紛らわせるようになった。原告番号10-2は,地元の愛知県で生活していた時に人間関係等で悩み,精神病を患って入通院し,心機一転のために福島に移住したのであり,愛知県に戻ってからはストレスを溜め,以前からの心的外傷後ストレス障害は悪化し,新たにうつ病を発症し,精神安定剤等の薬を服用し始め,愛知県に来て- 615 -からは煙草を吸い始め,飲むアルコールの量も増えた。原告番号10-2は,平成24年4月から1年間は愛知県津島市の臨時職員として中学校の特別養護クラスの補助の仕事をしていたが,結局,精神状態が不安定になり,仕事ができなくなった。原告番号10-3及び原告番号10-4は,現在は小学校に通っている。 原告らは,上記の被災者支援の住宅は平成28年3月まで居住できることになっていたが,その後のことについては分からなかったため,同年4月,愛知県津島市内の別の住宅に引っ越した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人- 616 -全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号10-1の請求について原告番号10-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そ いたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号10-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号10-2の請求について原告番号10-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号10-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号10-3の請求について原告番号10-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から平成24年8月までの全期間にわたって避難を行っ- 617 -ていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号10- 平成23年3月から平成24年8月までの全期間にわたって避難を行っ- 617 -ていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号10-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号10-4の請求について原告番号10-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から平成24年8月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号10-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号10-1に対する弁済証拠(乙C10の3・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号10-1に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号10-2に対する弁済証拠(乙C10の3・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号10-2に対し,18万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号10-3に対する弁済証拠(乙C10の3・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号10-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号10-4に対する弁済証拠(乙C10の3・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号10-4に対し,48万円の賠償を行ったこと 48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号10-4に対する弁済証拠(乙C10の3・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号10-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 - 618 - 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号10-1本件事故により原告番号10-1に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号10-2本件事故により原告番号10-2に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である18万円を控除すると42万円となる。 ウ原告番号10-3本件事故により原告番号10-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号10-4本件事故により原告番号10-4に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号10-152万円の約1割の5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号10-242万円の約1割の4万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号10-352万円の約1割の5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号10-452万円の約1割の5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有- 619 -する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号10-157万円(52 0-452万円の約1割の5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有- 619 -する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号10-157万円(52万円+5万円)イ原告番号10-246万円(42万円+4万円)ウ原告番号10-357万円(52万円+5万円)エ原告番号10-457万円(52万円+5万円)第11 原告番号11及び29の世帯 1 認定事実(甲C11の2,甲C29の1,原告番号11-1本人(同人の陳述書(甲C11の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号11-1(本件事故当時52歳),その妻である承継前原告番号11-2(以下「原告番号11-2」という。)(本件事故当時47歳),原告番号11-1及び原告番号11-2の長女である原告番号11-3(本件事故当時18歳),長男である原告番号29(本件事故当時21歳)は,本件事故当時,富岡町所在の自宅(富岡町 ,福島第一原発からの距離8. 17㎞(乙C11の1,乙C29の1))に居住していた(以下,原告番号11-1ないし原告番号11-3の3名又は原告番号29を加えた4名を併せて「原告ら」という。)。 原告番号11-1は,富岡町で生まれ,昭和55年頃から電気工事の自営業を始め,本件事故当時もこの仕事を続けていた。原告らは,平成3年には,原告番号11-1及び原告番号11-2の実家に近い上記住所地に知人から土地を借りて一軒家を建築し,ここで居住するようになった。原告番号11-2- 620 -は,長女である原告番号11-3が小学生になった頃から,自宅で託児所を始め,また,同人が高校に進学した頃から,実家の居酒屋の手伝 建築し,ここで居住するようになった。原告番号11-2- 620 -は,長女である原告番号11-3が小学生になった頃から,自宅で託児所を始め,また,同人が高校に進学した頃から,実家の居酒屋の手伝いをしていた。 原告番号11-3は,富岡町の小中学校,高校に進学したが,高校を中退し,高校中退後は原告番号11-2の託児の仕事の手伝い及び原告番号11-2の実家の居酒屋の手伝いの仕事をしていた。原告番号29は,富岡町の小中学校を卒業後,いわき市内の高校に進学し,高校卒業後は警備会社に就職し,その後,被告東電の関連会社に勤務し,本件事故当時は福島第一原発4号機の中で仕事をしていた。 原告らは,本件事故前は,近所の人から野菜や果物をもらうなどしており,肉や米を除いては食材をスーパーマーケット等で購入することはほとんどなかった。原告番号11-1は,地域の青年会OBや消防団にも入っており,消防団では月に少なくとも2回は訓練をし,大会の前は2か月前くらいから毎日のように練習をしていた。その他にも,原告らは,地域の祭り等を通じて地域の人と強い繋がりを有していた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号11-1は,本件地震発生当時,広野火力発電所の地下でケーブルを通線していたが,地上に上った後,津波を回避するために高台に避難していたところ,本件津波が襲来した。原告番号11-1は,自宅にたどり着き,家族と合流したが,消防団に所属していたため,すぐに震災の対応のために自宅を出て,同日夜になって富岡町の見回りをすることになり,まだ家に残っている住民にまた津波が来るかもしれないから高い所へ避難するよう指示し,原告番号11-1以外の原告らは,原告番号11-2の実家に一旦避難した。一方,原告番号11-1は,消防団が一旦解散になり,自宅の家の状態も心配だ 津波が来るかもしれないから高い所へ避難するよう指示し,原告番号11-1以外の原告らは,原告番号11-2の実家に一旦避難した。一方,原告番号11-1は,消防団が一旦解散になり,自宅の家の状態も心配だったため自宅に戻って一夜を明かした後,同月12日午前8時頃,災害対策本部に行ったところ,福島第一原発が危険なので,富岡町の住民は避難することになったことを聞いた。そこで,原告番号11-1は,同日,地域の人々に富岡町- 621 -の住民は避難することになったことを伝え,西方向に逃げるように伝えて回った。同日夕方,消防団の団長から,見回りや住民への避難指示も一段落したため消防団員も避難するようにとの指示があり,原告番号11-1も川内村の避難所へ行くことにし,川内村の避難所でも消防団の団員として毛布の配布等の仕事をしていた。原告番号11-1は,本件事故があったことを川内村の避難所で知り,同月16日頃には川内村からも避難しなければならなくなったため,同月17日,家族のいる郡山市の避難所で家族と合流した。 原告番号11-1以外の原告らは,同月11日の本件地震後,一旦は原告番号11-2の実家に避難したものの,津波が来るかもしれないと伝えられたため,深夜になって富岡町の体育館に向かった。その後,原告らは,無線放送で西方向に逃げるよう伝えられたことから,同月12日,西方向の川内村の避難所へ行き,川内村の親戚の家に同月15日頃まで避難していたが,その家には原告番号11-1以外の原告ら以外にもたくさんの親戚が避難していたため,食べ物も余りなく,風呂にも入れない状態だった。原告番号11-1以外の原告らは,同月15日,郡山市の避難所に行ったが,富岡町民は受け入れられないと言われて避難所に入れず,駐車場で車中泊をしていた。 原告らは,車中での生 ない状態だった。原告番号11-1以外の原告らは,同月15日,郡山市の避難所に行ったが,富岡町民は受け入れられないと言われて避難所に入れず,駐車場で車中泊をしていた。 原告らは,車中での生活を続けるわけにもいかず,原告番号11-1が以前働いていた川崎市の会社の社長から避難してもよいと言われたため,川崎市に避難することにし,同月21日頃,川崎市に自動車で避難した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,平成23年3月21日頃,川崎市に避難し,原告番号11-1の知り合いの会社の社宅で暮らすことになったが,6畳ワンルームの部屋は大人4人で生活するには狭く,居室は3階にあったにもかかわらずエレベーターがなく,膝の調子の悪い原告番号11-2は不便な生活を強いられた。 原告らは,4人で暮らせるような借り上げ住宅を探したが,社宅に入ってい- 622 -ることを理由に借り上げ住宅への入居を拒否された。そんな中,原告番号11-3は,同年3月末に当時付き合っていた男性が東京に避難していたことから東京に出て行き,原告番号29は,同年4月半ばに東京都小平市で仕事が決まったことから同市に転居した。また,原告番号11-2は,同年4月末に,愛知県豊橋市の借り上げ住宅に1人で引っ越した。原告番号11-3は,平成24年2月には東京に居た交際相手と別れ,原告番号11-2のいる愛知県豊橋市に引っ越し,平成26年3月12日には長男を出産した。一方で,原告番号11-2は,平成28年12月,心筋梗塞で死亡した。原告番号11-1は,平成30年2月までは川崎市で生活していたものの,同月には原告番号11-1の兄が居住するいわき市の家に転居し,現在は兄と2人で生活しており,いわき市内で仕事をしている。 原告番号29は,東京都小平 2月までは川崎市で生活していたものの,同月には原告番号11-1の兄が居住するいわき市の家に転居し,現在は兄と2人で生活しており,いわき市内で仕事をしている。 原告番号29は,東京都小平市に転居後は,福島県に居たときから交際していた女性と一緒に暮らすようになり,同年夏頃には埼玉県の借り上げ住宅に引っ越した。その後,原告番号29は,平成25年8月に上記女性と結婚し,平成26年12月には千葉県柏市に引っ越した。原告番号29は,引き続き上記ビルの設備管理の会社に勤務している。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,旧居住制限区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた富岡町における環境放射能は,平成24年4月には1.62ないし5.95μSv/h,平成25年4月には1.14ないし4.25μSv/h,平成26年4月には0.32ないし3.36μSv/h,平成27年4月には0.25ないし2.61μSv/h,平成28年4月には0. 18ないし1.22μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,富岡町における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で2597人,平成25年4月1日時点で2382人,平成26年4月1日時点で2279人,平成27年4月1日時点で2194- 623 -人,平成28年4月1日時点で2096人,平成29年4月1日時点で1977人と推移しており(第5部第1章第2の2⑶ア),年々減少している。 そして,富岡町の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地48パーセント,農地12パーセント,森林82パーセント,道路78パーセントであり,平成29年1月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27 パーセント,農地12パーセント,森林82パーセント,道路78パーセントであり,平成29年1月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,富岡町では預託実効線量が1mSv 未満の者が4333人/4334人(約99.9%)となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。原告らは,平成30年5月頃,本件事故前に居住していた自宅を取り壊し,上記自宅が建っていた土地を更地にして地主に返した。 2 損害についての検討⑴ 原告番号11-1の請求について原告番号11-1は,本件事故当時,旧居住制限区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成30年3月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。もっとも,本件事故当時,原告番号11-1が居住していた自宅が福島第一原発から距離8.17㎞に位置し,福島第一原発に非常に近接していたことや避難したことにより家族が離れ離れになったことなどに鑑みて,原告番号11-1の慰謝料は,900万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号11-2の請求について原告番号11-2は,本件事故当時,旧居住制限区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成30年3月31日までとするのが相当であるが,原告番号11-2は平成28年12月に死- 624 -亡しているから,同月までの慰謝料を認めるのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするの のが相当であるが,原告番号11-2は平成28年12月に死- 624 -亡しているから,同月までの慰謝料を認めるのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。もっとも,本件事故当時,原告番号11-2が居住していた自宅が福島第一原発から距離8.17㎞に位置し,福島第一原発に非常に近接していたことなどに鑑みて,原告番号11-2の慰謝料は,900万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号11-3の請求について原告番号11-3は,本件事故当時,旧居住制限区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成30年3月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。もっとも,本件事故当時,原告番号11-3が居住していた自宅が福島第一原発から距離8.17㎞に位置し,福島第一原発に非常に近接していたことなどに鑑みて,原告番号11-3の慰謝料は,900万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号29の請求についてア避難費用 交通費原告番号29が請求し,被告東電が既に賠償した8万2000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号29が請求し,被告東電が既に賠償した12万3772円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ就労不能損害原告番号29が請求し,被告東電が既に賠償した97万7741円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ被ばく検査費用原告番号29が請求し,被告東電が既に賠償した3万4000円を本件事- 625 - 償した97万7741円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ被ばく検査費用原告番号29が請求し,被告東電が既に賠償した3万4000円を本件事- 625 -故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ慰謝料以外の損害合計121万7513円オ慰謝料原告番号29は,本件事故当時,旧居住制限区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成30年3月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。もっとも,本件事故当時,原告番号29が居住していた自宅が福島第一原発から距離8.17㎞に位置し,福島第一原発に近接していたことなどに鑑みて,原告番号29の慰謝料は,900万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号11-1に対する弁済証拠(乙C11の5)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号11-1に対し,852万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号11-2に対する弁済証拠(乙C11の5)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号11-2に対し,852万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号11-3に対する弁済証拠(乙C11の5)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号11-3に対し,852万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号29に対する弁済証拠(乙C29の3)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号29に対し,973万7513円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額- 626 - び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号29に対し,973万7513円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額- 626 -ア原告番号11-1本件事故により原告番号11-1に生じた損害額である900万円から,被告東電の弁済額である852万円を控除すると48万円となる。 イ原告番号11-2本件事故により原告番号11-2に生じた損害額である900万円から,被告東電の弁済額である852万円を控除すると48万円となる。 ウ原告番号11-3本件事故により原告番号11-3に生じた損害額である900万円から,被告東電の弁済額である852万円を控除すると48万円となる。 エ原告番号29本件事故により原告番号29に生じた損害額である1021万7513円から,被告東電の弁済額である973万7513円を控除すると48万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号11-148万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号11-248万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号11-348万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号2948万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 627 - 認容額ア原告番号11-179万5000円((48万円+5万円+原告番号11-2の承継分(48万円+5万円)×1/2)イ原告番号11-3 - 認容額ア原告番号11-179万5000円((48万円+5万円+原告番号11-2の承継分(48万円+5万円)×1/2)イ原告番号11-366万2500円((48万円+5万円)+原告番号11-2の承継分(48万円+5万円)×1/4)ウ原告番号2966万2500円((48万円+5万円)+原告番号11-2の承継分(48万円+5万円)×1/4)第12 原告番号12の世帯 1 認定事実(原告番号12-1本人(同人の陳述書(甲C12の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号12-1(本件事故当時34歳)及びその長女である原告番号12-2(本件事故当時8歳)は,本件事故当時,原告番号12-1の父と共に国見町所在の原告番号12-1の父の持ち家(国見町 ,福島第一原発からの距離66.40㎞(乙C12の2))に住んでいた(以下,原告番号12-1及び原告番号12-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号12-1は,平成23年1月まで医療事務職の契約社員として薬局で勤務しており,同年4月1日からは,伊達市役所で嘱託医療事務職員として勤務することになっていた。原告番号12-2は,国見町の公立小学校の2年生であった。原告番号12-1は,実家で自身の父と同居していたため,経済的にも,子育てについても父の援助を受けることができ,近所には幼なじみや知り合いが多く,米や野菜を分けてもらうなどして生活していた。 - 628 -⑵ 避難開始の経緯等原告番号12-1は,本件事故後,原告番号12-2の健康被害等を心配していたが,避難する当てもなく,平成23年4月1日から伊達市役所での勤務が - 628 -⑵ 避難開始の経緯等原告番号12-1は,本件事故後,原告番号12-2の健康被害等を心配していたが,避難する当てもなく,平成23年4月1日から伊達市役所での勤務が決まっていたことなどから,なるべく外出しないようにしながら,実家での生活を続けていた。しかし,原告らは,愛知県弥富市に住む原告番号12-1の知人から避難を強く勧められ,同年3月19日頃,原告ら2人での避難を決断し,福島空港から中部国際空港へ飛行機で移動し,上記の愛知県弥富市の知人宅へ避難した。しかし,原告番号12-1は,同年4月1日から伊達市役所での勤務が決まっており,生活費を捻出する必要があったため,自分自身の健康も心配だったものの,同年3月28日,原告番号12-2を上記知人に託し,一人で国見町の実家に戻ることとした。原告番号12-1は,この時は,除染作業等に時間が掛かるとは思っていなかったため,状況が落ち着いたら原告番号12-2を実家に呼び寄せて一緒に生活できると思っていた。 原告番号12-1は,同年4月1日から,伊達市役所での勤務を開始したが,間もなく,原告番号12-2を預かってもらっていた上記知人から,原告番号12-2が精神的に不安定なので医師に診せたところ,PTSDのような症状と説明されたとの連絡を受けた。原告番号12-1は,原告番号12-2を1人で見知らぬ土地の知人宅で避難生活させることに限界を感じ,やむなく,伊達市役所を退職して原告番号12-2と一緒に避難することを決断した。一方で,原告番号12-1の父は,知人宅に住まわせてもらうわけにもいかず,また,自宅を残し,住み慣れた福島県を離れる決断をすることができなかったため,実家に残ることになった。原告番号12-1は,同月25日頃,伊達市役所を退職し,同月28日,原告番号1 うわけにもいかず,また,自宅を残し,住み慣れた福島県を離れる決断をすることができなかったため,実家に残ることになった。原告番号12-1は,同月25日頃,伊達市役所を退職し,同月28日,原告番号12-2を預かってもらっている知人宅に一緒に住まわせてもらうことになったが,上記知人宅にいつまでも住まわせてもらうわけにもいかず,同年6月30日,原告らは,賃貸アパートを見つけて転居し,さらに,同年12月24日には,愛知県の借り上げ住宅に転居した。 - 629 -⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号12-1は,平成23年11月から,医療事務の仕事に就いていたが,平成28年1月に再婚し,同年6月に長男を出産した。原告らは,再婚に伴って愛知県春日井市に転居し,原告番号12-1は,平成29年3月,上記医療事務の仕事は退職した。原告番号12-2は,平成23年4月から愛知県弥富市内の公立小学校に転校し,同校を卒業後は私立中学校,愛知県内の高校に進学した。原告らは,避難後は,国見町の実家にいる原告番号12-1の父には年に1回程度しか会うことができない状態になっている。また,原告番号12-2は,友達と離れ,全く知らない土地へ転校することになり,避難当初は,福島へ一時帰宅するたびに衣服を全部捨てるよう迫られるなど傷つくこともあった。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた国見町における環境放射能(川俣町の測定結果も含む。)は,平成24年4月には0.21ないし1.07μSv/h,平成25年4月には0.12ないし1.03μSv/h,平成26年4月には0.11ないし0.94μSv/h,平成27年4月には0.06ないし 。)は,平成24年4月には0.21ないし1.07μSv/h,平成25年4月には0.12ないし1.03μSv/h,平成26年4月には0.11ないし0.94μSv/h,平成27年4月には0.06ないし0. 68μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0.53μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,国見町における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で56人,平成25年4月1日時点で57人,平成26年4月1日時点で26人,平成27年4月1日時点で25人,平成28年4月1日時点で21人,平成29年4月1日時点で18人と推移しており(第5部第1章,平成26年以降年々減少している。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,国見町- 630 -で検査を受けた5701人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,国見町の自宅には原告番号12-1の父が現在も居住している。 2 損害についての検討⑴ 原告番号12-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号12-1が請求し,被告東電が既に賠償した8万4750円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号12-1が請求し,被告東電が既に賠償した11万9150円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号12-1は,家財道具購入費として,別紙家財道具一覧(原告番号12-1)の原告の請求記載のとおり75万4991円を請求す イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号12-1は,家財道具購入費として,別紙家財道具一覧(原告番号12-1)の原告の請求記載のとおり75万4991円を請求する。 しかし,消耗品については本件事故による避難がなくとも必要となるものであるから,その購入費用は本件事故と相当因果関係を有するとは直ちにいえない。一方で,原告らの避難前の住所地には原告番号12-1の父が住み続けていたのであるから,原告番号12-1の父が生活するために必要な主な家財道具を持ち出すことはできず,比較的大型の家財道具については,原告番号12-1の父が使用する必要性や輸送費用との兼ね合いから,避難先で新たに購入することには合理性があり,比較的大型の家財道具の購入費用は本件事故と相当因果関係を有するといえる。したがって,別紙家財道具一覧(原告番号12-1)の認定額記載のとおり,69万0727円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 631 - 光熱費原告番号12-1は,本件事故による避難前は原告番号12-1の父と同居しており,水道光熱費が発生していなかったが,避難後は水道光熱費を負担する必要が生じたとして,98万5608円を請求する。しかし,原告番号12-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,原告番号12-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号12-2についても平成24年8月31日までであるから,原告番号12-1の月額の請求金額(1万2635円)を前提としても,被告東電が既に賠償した54万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできない。したがって,54万円を本件事故と相当因果関係 額の請求金額(1万2635円)を前提としても,被告東電が既に賠償した54万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできない。したがって,54万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 家賃増加分原告番号12-1が請求し,被告東電が既に賠償した62万5864円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ就労不能損害原告番号12-1が請求し,被告東電が既に賠償した12万5200円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ慰謝料以外の損害合計218万5691円オ慰謝料原告番号12-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけでは- 632 -なく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号12-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号12-2の請求について原告番号12-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号12-2の慰謝料は,10 慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号12-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号12-1に対する弁済証拠(乙C12の1・4)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号12-1に対し,197万4964円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号12-2に対する弁済証拠(乙C12の4)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号12-2に対し,40万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号12-1本件事故により原告番号12-1に生じた損害額である278万5691円から,被告東電の弁済額である197万4964円を控除すると81万0727円となる。 イ原告番号12-2本件事故により原告番号12-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である40万円を控除すると60万円となる。 - 633 -⑵ 弁護士費用ア原告番号12-181万0727円の約1割である8万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号12-260万円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号12-189万0727円(81万0727円+8万円)イ原告番号12-266万円(60万円+6万円)第13 原告番号13の世帯 1 認定事実(甲C13の1,原告番号1 89万0727円(81万0727円+8万円)イ原告番号12-266万円(60万円+6万円)第13 原告番号13の世帯 1 認定事実(甲C13の1,原告番号13-2本人)⑴ 本件事故前の状況等原告番号13-1(本件事故当時25歳),その妻である原告番号13-2(本件事故当時25歳),原告番号13-1及び原告番号13-2の長女である原告番号13-3(本件事故当時1歳)は,本件事故当時,郡山市所在の自宅(郡山市 ,福島第一原発からの距離54.84㎞(乙C13の2))に居住していた(以下,原告番号13-1,原告番号13-2及び原告番号13-3の3名又は上記3名に原告番号13-4を加えた4名を併せて,この項において「原告ら」という。)。 本件事故当時,原告番号13-1は運送会社に正社員として勤務しており,原告番号13-2は専業主婦であった。原告番号13-1は福島県石川郡出身,原告番号13-2は須賀川市の出身であり,20年以上にわたって福島県に居住しており,今後も福島県に住み続けるつもりであった。 - 634 -⑵ 避難開始の経緯等本件事故当時,原告番号13-1は仕事中であり,原告番号13-2及び原告番号13-3は郡山市の自宅にいた。原告らは,本件事故発生当初は,メディアで「直ちに問題はない。」との報道が繰り返されていたことから,福島第一原発から50㎞以上離れた自宅に放射能が到達するはずがないと思っていた。しかし,各地で放射能の数値が発表され,目に見えず,臭いもない放射能が原告らのところまで到達していると感じるようになり,本件事故後は必要な用事以外では気軽に外出せず,窓もドアも開けない,水道水も飲まないという状況が続いた。原告番号13-1は, ず,臭いもない放射能が原告らのところまで到達していると感じるようになり,本件事故後は必要な用事以外では気軽に外出せず,窓もドアも開けない,水道水も飲まないという状況が続いた。原告番号13-1は,平成23年4月頃に異動願いを提出したがすぐには認められず,本件事故から約5か月後に原告番号13-1の異動の申請が認められ,平成23年8月26日に名古屋市の市営住宅に引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,避難当初は,名古屋市の市営住宅に居住していたが,平成24年10月に名古屋市内に住居を購入した。また,原告番号13-2は,平成25年2月28日,二女の原告番号13-4を出産し,原告らは,現在は4人で生活している。原告らが郡山市に所有していた住居は平成24年3月24日に1298万円で売却し,売却金額をローンの返済に充てたものの70万円ほどの借金が残った。原告らは,年に2回程度福島県の実家に帰省するという生活をしている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた郡山市における環境放射能は,平成23年3月には1.00ないし2.12μSv/h,平成24年4月には0. 06ないし1.32μSv/h,平成25年4月には0.06ないし0.94μSv/h,平成26年4月には0.05ないし0.33μSv/h,平成27年4月- 635 -には0.04ないし0.26μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 19μSv/h,平成29年4月には0.04ないし0.17μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,郡山市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で28 μSv/h,平成29年4月には0.04ないし0.17μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,郡山市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で2801人,平成25年4月1日時点で2590人,平成26年4月1日時点で2311人,平成27年4月1日時点で2032人,平成28年4月1日時点で1880人,平成29年4月1日時点で1707人と推移しており(第5部第1章第2の),年々減少している。そして,郡山市の平成28年6月末時点の除染状況は,森林は完了し,住宅94.3パーセント,公共施設等97. 3パーセント,道路34.1パーセント,農地75.6パーセントであった(第5部第1章。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,郡山市で検査を受けた3万4035人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号13-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号13-1が請求し,被告東電が既に賠償した1万2000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号13-1は,郡山市の自宅から名古屋市に引っ越す際に引っ越し費用として引っ越し業者に対して15万7500円を支払ったことが認められる(甲C13の2)。そして,かかる費用は必要かつ合理的な範囲の引っ越し費用といえるから,15万7500円を本件事故と相当因果- 636 -関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号13-1が請求し,被告東電が既 囲の引っ越し費用といえるから,15万7500円を本件事故と相当因果- 636 -関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号13-1が請求し,被告東電が既に賠償した10万8000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(避難雑費)原告番号13-1が請求し,被告東電が既に賠償した30万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用原告番号13-1は,平成23年分の生活費増加費用,移動費用等として76万円を請求するが,生活費増加費用の増加,移動費用の増加等について具体的な主張立証がないから,原告番号13-1の請求は認められない。 ウ財物損害 不動産原告番号13-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号13-3についても平成24年8月31日までであるから,同年9月以降は避難の継続の合理性が認められず,郡山市の自宅を売却する必要性があったものとはいえない。住宅ローンの返済代金及び住宅ローン繰上償還金手数料は本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。 その他(仲介手数料等) 性があったものとはいえないから,自宅の売却に要した仲介手数料は本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。 エ被ばく検査費用原告番号13-1が請求し,被告東電が既に賠償した5万4000円を本- 637 -件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オその他(ADR弁護士費用)原告番号13-1が 原告番号13-1が請求し,被告東電が既に賠償した5万4000円を本- 637 -件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オその他(ADR弁護士費用)原告番号13-1が請求し,被告東電が既に賠償した3万8625円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カ慰謝料以外の損害合計67万0125円キ慰謝料原告番号13-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号13-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号13-2の請求について原告番号13-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号13-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号13-3の請求について原告番号13-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難 0万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号13-3の請求について原告番号13-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められ- 638 -るのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から平成24年8月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号13-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号13-4の請求について原告番号13-4が出生したのは平成25年2月28日であり,本件事故の際にはまだ生まれておらず,避難の際の困難な生活状況等を実際に体験したわけではなく,避難前の居住地において人間関係を築いていたわけでもないから,本件事故による避難により精神的苦痛を被ったということはできない。したがって,原告番号13-4の請求は認められない。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号13-1に対する弁済証拠(乙C13の1・5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号13-1に対し,96万6125円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号13-2に対する弁済証拠(乙C13の1・5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号13-2に対し,16万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号13-3に対する弁済証拠(乙C13の1・5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号13-3に ,原告番号13-2に対し,16万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号13-3に対する弁済証拠(乙C13の1・5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号13-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号13-1- 639 -前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号13-1に生じた慰謝料以外の損害は67万0125円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は88万6125円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号13-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号13-2本件事故により原告番号13-2に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である16万円を控除すると44万円となる。 ウ原告番号13-3本件事故により原告番号13-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号13-1 本件事故により原告番号13-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号13-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号13-244万円の約1割である4万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号13-3- 640 -52万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号13-157万円(52万円+5万円)イ原告番号13-248万円(44万円+4万円)ウ原告番号13-357万円(52万円+5万円)エ原告番号13-4棄却第14 原告番号14の世帯 1 認定事実(原告番号14-1本人(同人の陳述書(甲C14の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号14-1(本件事故当時43歳),その妻である原告番号14-2(本件事故当時38歳),原告番号14-1及び原告番号14-2の長女である原告番号14-3(本件事故当時10歳),二女である原告番号14-4(本件事故当時10歳)は,本件事故当時,福島市内の自宅(福島市,福島第一原発からの距離61.71㎞(乙C14の2))に居住していた(以下,原告番号14-1ないし原告番号14-4を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号14-1は,本件事故当時,福島県庁で勤務しており,原告番号14-2は,福島市内の私立高校の教師をしていた。原 ないし原告番号14-4を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号14-1は,本件事故当時,福島県庁で勤務しており,原告番号14-2は,福島市内の私立高校の教師をしていた。原告番号14-3及び原告番号14-4は,福島市内の小学校に通っていた。 ⑵ 避難開始の経緯等- 641 -原告番号14-3及び原告番号14-4は,平成23年3月末,一時的に原告番号14-2の実家のある愛知県豊川市に避難したが,同年4月中旬には福島市に戻った。獣医師の資格を有する原告番号14-1は,本件事故後は警戒区域内における動物の保護活動を行う業務を任され,浪江町,双葉町等の放射線被害の著しい地域に頻繁に出向き,そこでの動物の保護活動業務に従事しており,早朝から深夜まで勤務していた。原告番号14-1は,福島県民のために自分の業務に懸命に取り組んでいたが,内部被ばく等による将来の健康に対する不安があった。原告番号14-2は,勤務先が私立の高校であるため,教員自ら学校施設の除染作業等を行わなければならず,それらの作業に追われる日々であった。 原告番号14-1及び原告番号14-2は,原告番号14-3及び原告番号14-4への放射線の影響を心配し,外で遊ばせないようにしていた。また,原告番号14-3及び原告番号14-4の学校では,運動会や水泳大会も中止になった。 原告らは,このような中,同年6月頃には,福島市での生活を断念し,原告番号14-2の地元である愛知県に避難することを決断し,原告番号14-1は,同年10月に愛知県内の就職先が決まった。そして,原告番号14-3及び原告番号14-4は,同年12月26日,原告番号14-2の実家のある愛知県豊川市に引っ越し,原告番号14-1及び原告番号14-2は,平成24年3月 内の就職先が決まった。そして,原告番号14-3及び原告番号14-4は,同年12月26日,原告番号14-2の実家のある愛知県豊川市に引っ越し,原告番号14-1及び原告番号14-2は,平成24年3月までに福島市での仕事や自宅の売却等の作業を終えてから愛知県に転居し,原告らは,同県岡崎市の賃貸マンションで生活を始めた。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らが愛知県岡崎市に避難した後は,原告番号14-1は,愛知県豊橋市での勤務を開始し,原告番号14-2は,浜松市内の専門学校や愛知県岡崎市内の高校で非常勤講師として勤務を始め,現在でも同様の仕事をしてい- 642 -る。原告らは,平成24年6月に分譲マンションを3600万円で購入し,平成25年3月に入居したが,平成15年に福島市内に購入した自宅のローンが同自宅の売却代金を返済に充てた後も残っており,二重にローンを支払う生活となっている。原告番号14-3及び原告番号14-4は,愛知県内の中学校及び高校に進学した。原告らは,愛知県岡崎市に避難したことに後悔はないが,原告番号14-2が非常勤講師となり,収入が大幅に減ったことから,原告番号14-3及び原告番号14-4の将来に対する不安を抱いている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年3月には0.64ないし2.61μSv/h,平成24年4月には0. 03ないし1.40μSv/h,平成25年4月には0.08ないし0.64μSv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0 /h,平成25年4月には0.08ないし0.64μSv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 25μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.23μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,福島市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,福- 643 -島市で検査を受けた2万4713人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告らが本件事故当時居住していた福島市の自宅は,現在は売却されている。 2 損害についての検討⑴ 原告番号14-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号14-1が請求し,被告東電が既に賠償した8万8890円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号14-1が請求し,被告東電が既に賠償した15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号14-1が請求し,被告東電が既に賠償した15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号14-1が請求し,被告東電が既に賠償した44万1000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 面会交通費原告番号14-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号14-3及び原告番号14-4についても平成24年8月31日までである。したがって,本件事故後5年以上を経過して避難を継続する必要性は認められず,被告東電が既に賠償した17万1630円を超える平成28年以降の面会交通費は本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,17万1630円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 644 - その他(避難雑費)原告番号14-1が請求し,被告東電が既に賠償した12万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 その他(二重生活による生活費増加分,移動費用,生活費増加分)二重生活による生活費増加分については,被告東電が既に賠償した12万円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。その他の移動費用及び生活費増加分については,損害の発生について具体的な主張立証がないから,原告番号14-1の請求を認めることはできない。 福島の自宅の売却費用等原告番号14-1は,福島市の不動産売却の仲介料,抵当権抹消費用,車両登録変更手数料を請求 ないから,原告番号14-1の請求を認めることはできない。 福島の自宅の売却費用等原告番号14-1は,福島市の不動産売却の仲介料,抵当権抹消費用,車両登録変更手数料を請求するが,前記のとおり,原告番号14-1は本件事故当時自主的避難等対象区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号14-3及び原告番号14-4についても避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,原告番号14-1が福島市の自宅を売却する必要性があったとはいえない。したがって,原告番号14-1の上記請求は認められない。 愛知県岡崎市の分譲マンションへの転居費用等原告番号14-1は,愛知県岡崎市内で分譲マンションを購入し,賃貸マンションから分譲マンションに引っ越した際に要した費用を請求するが,前記のとおり,原告番号14-3及び原告番号14-4を含めても避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであり,平成24年6月に分譲マンションを購入し,平成25年3月に賃貸マンションから分譲マンションに引っ越す必要性は認められず,分譲マンションの購入及び賃貸マンションからの引っ越しは原告番号14-1の判断によ- 645 -り任意に行われたものといえる。したがって,原告番号14-1の上記請求は認められない。 ウ就労不能損害原告番号14-1が請求し,被告東電が既に賠償した27万5729円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ被ばく検査費用避難の継続の合理性が認められる期間を過ぎてからも放射線被ばくによる影響の検査を受けることには合理性が認められるから,平成28年3月に受診した際に要し める。 エ被ばく検査費用避難の継続の合理性が認められる期間を過ぎてからも放射線被ばくによる影響の検査を受けることには合理性が認められるから,平成28年3月に受診した際に要した4810円(甲C14の11)も本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。したがって,既払金4万4040円と合わせた4万8850万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ線量計購入費原告番号14-1が請求し,被告東電が既に賠償した1万3800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カその他(ADR弁護士費用)原告番号14-1が請求し,被告東電が既に賠償した14万7602円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 キ慰謝料以外の損害合計157万7501円ク慰謝料原告番号14-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,避難の相当性が認められる期間内には避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,- 646 -原告番号14-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号14-2の請求についてア就労不能損害原告番号14-2は,本件事故による避難により非常勤講師となったことにより,就労不能損害を被った旨主張し,平成28年分までの就労不能損害を請求する。しかし,前記のとおり,原告番号14-3及び原告番号14-4を含め は,本件事故による避難により非常勤講師となったことにより,就労不能損害を被った旨主張し,平成28年分までの就労不能損害を請求する。しかし,前記のとおり,原告番号14-3及び原告番号14-4を含めても避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,原告番号14-2が請求し,被告東電が既に賠償した平成24年分までの就労不能損害213万5000円を超えて就労不能損害が発生したと認めることはできない。したがって,213万5000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ被ばく検査費用避難の継続の合理性が認められる期間を過ぎてからも放射線被ばくによる影響の検査を受けることには合理性が認められるから,平成28年3月に受診した際に要した5280円(甲C14の14)も本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。したがって,5280円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ慰謝料以外の損害合計214万0280円エ慰謝料原告番号14-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,避難の相当性が認められる期間内には避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,- 647 -原告番号14-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号14-3の請求について原告番号14-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前 14-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号14-3の請求について原告番号14-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から平成24年8月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号14-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号14-4の請求について原告番号14-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から平成24年8月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号14-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号14-1に対する弁済被告東電は,原告番号14-1に対し,221万2691円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号14-2に対する弁済- 648 -被告東電は,原告番号14-2に に対する弁済被告東電は,原告番号14-1に対し,221万2691円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号14-2に対する弁済- 648 -被告東電は,原告番号14-2に対し,221万5000円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号14-3に対する弁済被告東電は,原告番号14-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号14-4に対する弁済被告東電は,原告番号14-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号14-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号14-1に生じた慰謝料以外の損害は157万7501円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は213万2691円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号14-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号14-2本件事故により原告番号14-2に生じた損害である274万0280円から,被告東電の弁済額である221万5000円を控 いる8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号14-2本件事故により原告番号14-2に生じた損害である274万0280円から,被告東電の弁済額である221万5000円を控除すると52万5- 649 -280円となる。 ウ原告番号14-3本件事故により原告番号14-3に生じた損害である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号14-4本件事故により原告番号14-4に生じた損害である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号14-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号14-252万5280円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号14-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号14-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号14-157万円(52万円+5万円)イ原告番号14-257万5280円(52万5280円+5万円)ウ原告番号14-3- 650 -57万円(52万円+5万円)エ原告番号14-457万円(52万円+5万円)第15 原告番号15の世帯 1 認定事実(甲C15の1)⑴ 本件事故前の状況等原告番 2万円+5万円)エ原告番号14-457万円(52万円+5万円)第15 原告番号15の世帯 1 認定事実(甲C15の1)⑴ 本件事故前の状況等原告番号15-1(本件事故当時25歳)及びその長女である原告番号15-2(本件事故当時3歳)は,本件事故当時,川俣町所在の原告番号15-1の実家(川俣町 ,福島第一原発からの距離46.00㎞(乙C15の2))に原告番号15-1の両親及び祖母と共に居住していた(以下,原告番号15-1及び原告番号15-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号15-1は,本件事故当時は仕事をしていなかったが,原告番号15-1の父が介護の仕事をしているため,近いうちにその手伝いの仕事をしようと考えていた。なお,原告番号15-1は,本件事故当時,離婚協議中であり,当時の夫とは別居している状態であったが,平成25年5月には離婚し,平成27年3月には別の男性と再婚した。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件事故直後は,子供は外出させない,水道水ではなくペットボトルの水を飲む,自宅の畑で獲れた野菜を一切食べない,という生活を送っていた。原告らは,このような生活をする中,避難するか否かを迷っていたが,町中で双葉町等から強制的に避難させられている人たちがバスで移動するのを見て異常な事態であると感じ,また,原発に勤務している知人がいる友人から電話があり,「今から南相馬を出る。大変なことになった。危ないから逃げた方がいい。」と言われ,真剣に避難を考えるようになった。原告らは,少しでも福島第一原発から離れたいという気持ちから福島市内の友人の親戚の居- 651 -宅へ避難させてもらおうと思っていたが,同居宅が地震で瓦が落ちて屋根に穴が開い えるようになった。原告らは,少しでも福島第一原発から離れたいという気持ちから福島市内の友人の親戚の居- 651 -宅へ避難させてもらおうと思っていたが,同居宅が地震で瓦が落ちて屋根に穴が開いていると聞き,そのままでは放射能を防ぐことができないと考え,最終的には名古屋市の知人に助けを求めることとした。原告らは,平成23年3月16日,福島市内の友人宅で泊まり,同月17日,飛行機で名古屋市へ向かった。なお,原告番号15-1の両親は仕事があり,祖母は福島県から離れたくないと希望したため,避難しなかった。 その後,原告らは,名古屋市の知人宅でしばらく生活していたが,その知人とは生活時間が大きく異なり,小さな子供を連れての避難で気を遣って生活していたため,次第にストレスを感じるようになった。そのため,原告らは,同年5月,愛知県が被災者に向けた県営住宅の無償貸出しをしていることを知り,県営住宅に引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,県営住宅に引っ越してからは,家財道具を買う金銭的余裕がないため,人から贈与を受けるなどしていた。また,原告番号15-2は,という病気で,免疫力が低く病気に罹りやすいため,週に1回は通院が必要であり,愛知県へ来てからすぐに40度の高熱が一週間続き,その後も体調が悪い日が続いて喘息になるとともに,福島県にいた時はなかった歯ぎしり,爪を噛む,髪の毛を抜くといった行動も見られるようになった。 さらに,原告らは,愛知県に避難してからは,病院を探すのにも苦労し,福島県では自動車で通院していたが,愛知県では地理も分からないため,やむを得ずタクシーを利用することも多くなった。 原告番号15-1は,県営住宅に引っ越してからは,生活保護を受けながら仕事を 県では自動車で通院していたが,愛知県では地理も分からないため,やむを得ずタクシーを利用することも多くなった。 原告番号15-1は,県営住宅に引っ越してからは,生活保護を受けながら仕事を探していたが,地理も分からず,原告番号15-2の面倒を見てくれる人もいなかったため,なかなか仕事を見つけることができず,見知らぬ土地で孤独を感じる生活が続き,精神的に不安定になり,平成25年夏頃に- 652 -は適応障害及びパニック障害と診断された。一方で,原告番号15-1は,職業訓練で介護士の資格を取り,平成26年頃にパートタイム勤務で介護士の仕事に就いたが,パニック障害のために最初は1日1時間くらいから勤務を始め,徐々に仕事の時間を増やしていき,その後,月額6万円ないし10万円程度の収入を得られるようになった。その後,原告番号15-1は,平成27年3月に再婚し,平成28年8月に二女を出産したため,その後は仕事を休んでいる。原告らは,原告番号15-1の再婚後も同じ県営住宅に住んでいたが,平成29年3月で家賃補助が打ち切られるため,平成28年12月に転居した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた川俣町における環境放射能(国見町の測定結果も含む。)は,平成24年4月には0.21ないし1.07μSv/h,平成25年4月には0.12ないし1.03μSv/h,平成26年4月には0.11ないし0.94μSv/h,平成27年4月には0.06ないし0. 68μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0.53μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,川俣町における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1 し0. 68μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0.53μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,川俣町における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で242人,平成25年4月1日時点で225人,平成26年4月1日時点で200人,平成27年4月1日時点で176人,平成28年4月1日時点で165人,平成29年4月1日時点で189人と推移している(第5部第1章第2の2。 そして,川俣町の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地100パーセント,農地32パーセント,森林77パーセント,道路6パーセントであり,平成27年12月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部- 653 -被ばく検査の結果は,川俣町で検査を受けた2542人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号15-1の請求についてア避難費用 一時立入・帰省費用原告番号15-1が請求し,被告東電が既に賠償した31万8960円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 避難雑費原告番号15-1が請求し,被告東電が既に賠償した58万7200円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用原告番号15-1は,精神的損害,生活費増加費用及び移動費用として68万円を請求するが,領収証等の証拠を提出せず,実際に生活費が増加したことや移動費用を支出したことと認めるに足りる証拠はない。 原告番号15-1は,精神的損害,生活費増加費用及び移動費用として68万円を請求するが,領収証等の証拠を提出せず,実際に生活費が増加したことや移動費用を支出したことと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告番号15-1の上記請求は認められない。 ウ慰謝料以外の損害合計90万6160円エ慰謝料原告番号15-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号15-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号15-2の請求について- 654 -原告番号15-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号15-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号15-1に対する弁済証拠(乙C15の1・4・5)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号15-1に対し,126万6160円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号15-2に対する弁済証拠(乙C15の1・4・5)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号15-2に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等 。 ⑵ 原告番号15-2に対する弁済証拠(乙C15の1・4・5)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号15-2に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号15-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号15-1に生じた慰謝料以外の損害は90万6160円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は118万6160円であるから,上- 655 -記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号15-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号15-2本件事故により原告番号15-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号15-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号15-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容 費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号15-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号15-157万円(52万円+5万円)イ原告番号15-257万円(52万円+5万円)第16 原告番号16の世帯 1 認定事実(甲C16の1)⑴ 本件事故前の状況等原告番号16-1(本件事故当時22歳)は,本件事故当時,福島市所在の実家(福島市 ,福島第一原発からの距離64.94㎞(乙C16の2))に両親と共に居住していた。原告番号16-2(本件事故当時22歳)は,本件事故当時,福島市所在の実家(福島市,福島第一原発からの距離64.89㎞(乙C16の4))に両- 656 -親と共に居住していた。(以下,原告番号16-1及び原告番号16-2を併せて,この項において「原告ら」という。)原告番号16-1及び原告番号16-2は,本件事故当時,結婚を前提に交際しており,原告番号16-1は結婚式場を営む会社で稼働し,原告番号16-2は自動車学校で稼働していた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号16-1が勤務していた結婚式場は本件地震の影響で損壊したが,次の日から片付け等のために出勤することを求められ,原告番号16-2も同様に片付け等のために出勤することを求められた。しかし,原告らは,本件事故の影響が心配であったため,原告番号16-1の母,姉,姉の子供,原告番号16-1及び原告番号16-2の5人で千葉のおばの家に1週間ほど避難することにした。原告らは,平成23年3月14日夜,福島県を出発し,自動車で千 たため,原告番号16-1の母,姉,姉の子供,原告番号16-1及び原告番号16-2の5人で千葉のおばの家に1週間ほど避難することにした。原告らは,平成23年3月14日夜,福島県を出発し,自動車で千葉県に向かったが,高速道路が通行止めであったため,一般道で南下したところ,非常に渋滞しており,コンビニエンスストアの駐車場などで休憩を取りながら,同月15日午後零時頃,福島県を出発してから約19時間後に上記おばの家に到着した。原告らは,本件事故から1週間ほど経過してもその影響が明らかではなかったが,おばに対する申し訳ない気持ちから,同月21日に福島県に戻った。一方で,原告番号16-1の母,姉及び姉の子供は同年4月までおばの家に滞在することになった。 原告らは,同年3月21日に福島県の自宅に戻ったが,同月31日,震災による施設の倒壊,修繕後も本件事故による風評被害が予想されること,インフラが整う目途が立っていないこと等から,原告番号16-1が勤務していた店舗の従業員は原告番号16-1を含めて全員解雇された。原告番号16-1は,解雇されたことにより,再就職をする際に福島県を離れる決断をした。原告番号16-1は,中古車販売会社に就職することにし,本件事故の影響を避けるため,福島県から遠い勤務地を希望し,勤務地は愛知県豊橋市になった。 - 657 -そのため,原告番号16-1は,平成23年8月頃,愛知県豊橋市内のアパートに引っ越し,原告番号16-2は,同年9月頃に上記自動車学校を退職して上記アパートに引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号16-1は,愛知県豊橋市に避難する際に中古車販売会社に入社したが,平成23年12月1日には自動車部品製造会社に転職した。また,原告らは,平成24年1月11日 ア避難生活の状況原告番号16-1は,愛知県豊橋市に避難する際に中古車販売会社に入社したが,平成23年12月1日には自動車部品製造会社に転職した。また,原告らは,平成24年1月11日,結婚した。 その後,原告らは,福島県に戻ることを決断し,平成26年3月に福島県に戻った。原告番号16-1は,福島県に戻ってからは,かつて勤務していた結婚式場を経営する会社に再就職した。一方,原告番号16-2は,平成26年5月に第1子を,平成28年11月に第2子を出産し,福島県に戻ってからは子育てに専念するために就職はしていない。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年3月には0.64ないし2.61μSv/h,平成24年4月には0. 03ないし1.40μSv/h,平成25年4月には0.08ないし0.64μSv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 25μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.23μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,福島市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第- 658 -,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路 29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第- 658 -,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,福島市で検査を受けた2万4713人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号16-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号16-1は,本件事故後,平成23年9月22日まで千葉県に避難した際の交通費,週末避難の際の交通費,愛知県豊橋市に避難する際の交通費等として,合計7万7776円を請求する。そして,原告番号16-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるから,上記避難の合理性が認められ,交通費等の算定方法も合理性があるから(甲C16の2ないし4参照),原告番号16-1が請求する7万7776円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号16-1は,千葉県の親戚宅に避難した際の謝礼,週末避難のために原告番号16-1の兄宅に避難した際の謝礼,週末避難の際のホテルの宿泊費等として7万3750円を請求する。しかし,親族に対する謝礼は,原告番号16-1が自らの判断で任意に支払ったものであり,本件- 659 -事故により支払を余儀なくされたもの の際のホテルの宿泊費等として7万3750円を請求する。しかし,親族に対する謝礼は,原告番号16-1が自らの判断で任意に支払ったものであり,本件- 659 -事故により支払を余儀なくされたものとはいえない。他方,週末避難については避難の合理性が認められるところ,週末避難の宿泊費として9750円支出したことが認められる(甲C16の4・5)。 したがって,9750円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号16-1が平成23年8月に福島市から愛知県豊橋市に引っ越した際に要した費用としては,合計10万9450円を請求するが,原告番号16-1が実際に上記の支出をしたことを示す証拠はなく,甲C16の5の平成23年10月の原告番号16-1の給与所得の欄には「引越手当て込み」と記載されており,原告番号16-1には引っ越し手当が支給されていたものと認めることができる。したがって,原告番号16-1が平成23年8月の引っ越しの際に引っ越し費用を負担したと認めることはできず,原告番号16-1に本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできない。一方で,原告番号16-2が平成23年9月に福島市から愛知県豊橋市に引っ越した際に荷物を送るために要した費用は5万8000円であったと認めるのが相当であり(甲C16の5),これらの支出は本件事故と相当因果関係を有すると認められる。 また,原告らが平成26年3月に愛知県豊橋市から福島市に戻った際の引っ越し費用については,車両の輸送費と合わせて68万4479円を支払ったことが認められ(甲C16の8),これらの支出は本件事故と相当因果関係を有すると認められる。 したがって,74万2479円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 79円を支払ったことが認められ(甲C16の8),これらの支出は本件事故と相当因果関係を有すると認められる。 したがって,74万2479円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号16-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住して- 660 -おり,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるから,同月26日に愛知県豊橋市から福島市に帰省した際の交通費が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められ,その額は原告番号16-1が請求する8990円と認めるのが相当である。したがって,8990円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(避難用雑品)原告番号16-1は,別紙避難用雑品一覧の原告の請求記載のとおり,避難用雑品の購入費等として合計16万2125円を請求する。しかし,消耗品については,本件事故がなくとも購入していた可能性があるものであり,本件事故がなければ購入しなかったということはできず,車両のナンバーについても避難の合理性が認められるのが平成23年12月31日までであるところ,交換を行ったのは平成24年2月であり,この時点では本件事故を原因とした交換の必要性は認められず,また,両親が引っ越しの手伝いに来た際の駐車場代も必ずしも必要なものとはいえないから,上記の支出はいずれも本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。また,車両の故障の修理費用についても,本件事故がなければ故障が発生しなかったと認めるに足りる証拠はなく,本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。さらに,借り上げ社宅のための諸費用についても,原告番号16-1が愛知県豊橋市内で当初居住し ば故障が発生しなかったと認めるに足りる証拠はなく,本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできない。さらに,借り上げ社宅のための諸費用についても,原告番号16-1が愛知県豊橋市内で当初居住していたアパートからの借り上げ社宅への転居は原告番号16-1が転職したことによるものであり,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。したがって,原告番号16-1の上記請求は認められない。 その他(退職・謝礼)原告番号16-1は,平成23年9月に勤務先の同僚への謝礼として栄養ドリンクを購入した際の費用5248円を請求するが,これは原告番号- 661 -16-1の自らの判断で任意に謝礼を渡したものであり,本件事故により支出を余儀なくされたものとはいえない。したがって,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,原告番号16-1の上記請求は認められない。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号16-1は,家財道具購入費として38万4488円の支出を余儀なくされたとして38万4488円を請求し,その証拠としてクレジットカードの明細書(甲C16の4)や家計簿(甲C16の5ないし7)を提出する。しかし,クレジットカードの明細書ではどのような商品を購入したか不明であり,生活に必要な商品を購入したと直ちに認めることはできない。一方で,家計簿については,原告番号16-2が支出の都度記載したものと推認することができるから,その記載内容は信用することができる。そして,購入した家財道具の必要性及び避難の継続の合理性から,別紙家財道具一覧の認容額記載のとおり,合計16万1406円が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。 光熱費原告らは, 道具の必要性及び避難の継続の合理性から,別紙家財道具一覧の認容額記載のとおり,合計16万1406円が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。 光熱費原告らは,避難前は両親等と同居しており,水道光熱費の負担はしていなかったと認められるところ,本件事故による避難を行ったことにより水道光熱費の負担が発生したといえる。また,原告番号16-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたから,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までである。そして,家計簿(甲C16の5)によれば,原告らは平成23年9月から同年12月までの電気代1万3962円,水道代8477円,ガス代2万0226円,灯油代1548円の合計4万4213円を負担したことが認められる。したがって,4万4213円を本件事故と相当因果関係を- 662 -有する損害と認める。 交通費原告番号16-1は,再就職活動等のために要した交通費として8万1169円を請求するが,原告番号16-1が本件事故前に勤務していた会社を解雇された理由として本件地震により施設が倒壊したことも理由となっており,本件事故により解雇されたものと認めることはできないから,原告番号16-1の上記支出は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号16-1の上記請求は認められない。 通信費原告らは,避難前は両親等と同居しており,通信費の負担はしていなかったと認められるところ,本件事故による避難を行ったことにより通信費の負担が発生したといえる。また,原告番号16-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたから,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは による避難を行ったことにより通信費の負担が発生したといえる。また,原告番号16-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたから,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までである。そして,家計簿(甲C16の5)によれば,原告らは平成23年9月22日から同年12月22日までの間に4800円の通信費を負担したことが認められる。したがって,4800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費原告番号16-1は,再就職活動のために友人宅に宿泊させてもらった際の宿泊代として1万2000円を請求するが,原告番号16-1が実際に同額を支出したと認めるに足りる証拠はなく,仮に支払っていたとしても,果関係を有する損害とはいえない上,上記宿泊代は原告番号16-1の自らの判断で任意に支払ったものといえるから,本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえない。したがって,原告番号16-1の上記請求は認- 663 -められない。 その他(再就職活動費)原告番号16-1は,再就職活動費として6万3689円を請求するが,原告番号16-1が本件事故前に勤務していた会社を解雇された理由は本件地震により施設が倒壊したことも理由となっており,本件事故により解雇されたものと認めることはできないから,原告番号16-1の上記支出は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号16-1の上記請求は認められない。 家賃増加分前記のとおり,原告番号16-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるところ,愛知県豊橋市内のアパートに引っ越した平成23年8月から同年12月までの間に原告番号16-1は のとおり,原告番号16-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるところ,愛知県豊橋市内のアパートに引っ越した平成23年8月から同年12月までの間に原告番号16-1は,月額3万1980円の家賃等の負担をしていたと認められるから(甲C16の16),家賃増加分として,原告番号16-1が請求する15万3199円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。一方で,原告番号16-1が愛知県豊橋市内で当初居住していたアパートからの転居は原告番号16-1が転職したことによるものであり,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。また,愛知県豊橋市から福島市に戻った際に要した敷金についてはその性質上返還されることが予定されているものといえ,原告番号16-1に損害が発生したと認めることはできず,仲介手数料5万3550円(甲C16の18)に限り,本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。したがって,20万6749円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウその他(ADR弁護士費用)被告東電が既に賠償した8094円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 664 -エ慰謝料以外の損害合計126万4257円オ慰謝料原告番号16-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わなかった者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号16-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当であ ,月額6万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わなかった者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号16-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号16-2の請求について原告番号16-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わなかった者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。 したがって,原告番号16-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号16-1に対する弁済証拠(乙C16の1・6・9)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号16-1に対し,27万7894円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号16-2に対する弁済証拠(乙C16の1・6・9)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号16-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額- 665 -ア原告番号16-1本件事故により原告番号16-1に生じた損害額である186万4257円から,被告東電が既に賠償した27万7894円を控除すると158万6363円となる。 イ原告番号16-2本件事故により原告番号16-2に生じた損害額である60万円から,被告東電が既に賠償した8万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号16-1158万6363円 故により原告番号16-2に生じた損害額である60万円から,被告東電が既に賠償した8万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号16-1158万6363円の約1割である16万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号16-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号16-1174万6363円(158万6363円+16万円)イ原告番号16-257万円(52万円+5万円)第17 原告番号17の世帯 1 認定事実(原告番号17-1本人(同人の陳述書(甲C17の1の1・2,甲C17の15)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況原告番号17-1(本件事故当時57歳),その妻である原告番号17-2(本件事故当時55歳)は,本件事故当時,南相馬市所在の自宅(南相馬市,福島第一原発からの距離15.97㎞(乙- 666 -C17の1))に居住していた(以下,原告番号17-1及び原告番号17-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号17-1は,平成4年から平成20年頃まで,警備会社の従業員として福島第一原発において管理区域に出入りする人や物品の放射性物質の付着を確認する仕事等に従事していたが,本件事故当時は上記会社とは別の警備会社の従業員として東北電力原町発電所で勤務していた。原告番号17-2は,本件事故当時,専業主婦であった。 原告番号17-1は,糖尿病の持病があり,約20年前から現在に至るまで,月に1回程度通院している。原告番号17-2は,約 勤務していた。原告番号17-2は,本件事故当時,専業主婦であった。 原告番号17-1は,糖尿病の持病があり,約20年前から現在に至るまで,月に1回程度通院している。原告番号17-2は,約10年前から現在に至るまで,アニサキスによるアレルギー症状があり,魚介類全般及び魚介系の出汁を含む食品を一切口にすることができない状態である。 原告番号17-1は,本件事故当時,上記住所地に30坪ほどの一戸建ての自宅を所有し,南相馬市小高区内に1000坪ほどの田畑を所有していたほか,本件事故の12年ほど前に自宅を建てようと思い,南相馬市小高区内に280坪ほどの土地を約500万円で購入し,約400万円掛けて住宅を建てられるように土地改良をしていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号17-1は,本件地震発生当時は東北電力原町火力発電所で勤務中であったが,自分の自動車が本件津波により流されたため,同僚の自動車に乗せてもらい,自宅に一時帰宅したところ,原告番号17-2が不在だったため,避難したものと判断し,一旦勤務に戻った。原告番号17-1は,同月12日,自宅に帰宅したところ,家の中はあらゆる物が倒れて散乱し,玄関のガラス戸は割れ,廊下側のサッシ戸も倒れていた。原告番号17-1は,避難先となっている小高工業高校に行き,原告番号17-2の無事を確認した。原告らは,その後,南相馬市原町区に住む友人からの誘いに応じ,上記友人宅に赴いたが,同月12日夕方頃,一旦自宅に戻り,同日は自宅で一夜を過ごした。原告らは,- 667 -同月13日,原告らの自宅のガス及び水道が止まっていたため,上記友人宅を訪問した。原告らの居住していた南相馬市小高区からの避難者は,原町第一小学校が避難先となっていたが,原告らは,原告番号17-2がアレルギーのた らの自宅のガス及び水道が止まっていたため,上記友人宅を訪問した。原告らの居住していた南相馬市小高区からの避難者は,原町第一小学校が避難先となっていたが,原告らは,原告番号17-2がアレルギーのため,避難しても何も食べることができないだろうと考え,原町第一小学校には避難しなかった。原告番号17-1は,同月14日,原町火力発電所に出社し,津波で流された東北電力の従業員の捜索の手伝いをしていたが,同日午前11時頃,福島第一原発での爆発が報じられたため,自動車の入退管理が立哨による確認から守衛所建屋内からの確認に切り替えられた。原告らは,同月15日には原町火力発電所が閉鎖になったとの連絡を受け,同月16日には名古屋市に住む原告らの長男から,三重県及び愛知県で県営住宅の提供の話があるとの連絡を受けた。同月17日夕方には,近くの小学校で福島第一原発についての説明会があり,他所に町ごと避難する方針が示された。原告らは,同月18日,名古屋市に住んでいる長男から,名古屋市で住居が確保できたとの連絡を受け,同月19日,名古屋市に避難する準備を開始した。原告らは,同月23日,原告番号17-2の自動車で福島駅に行き,福島駅からバスに乗って新宿に向かい,新宿を経由して原告番号17-2の兄のいる川崎市に行き,そこで4日間ほど過ごした後,同月27日に新幹線で名古屋に到着した。 ⑶ 避難後の状況ア避難生活の状況原告らは,避難後は名古屋市内で生活しているが,原告番号17-1は持病の糖尿病が悪化し,一時入院を勧められたこともあり,原告番号17-2は熱中症及び気管支喘息により10日間入院したことがあった。原告番号17-1は,名古屋に避難して以降は就職せず,避難直後はハローワークで就職先を探したこともあったが,今後も名古屋に居住し続けるかは不 は熱中症及び気管支喘息により10日間入院したことがあった。原告番号17-1は,名古屋に避難して以降は就職せず,避難直後はハローワークで就職先を探したこともあったが,今後も名古屋に居住し続けるかは不確定のため,現在は就職活動を行っていない。 イ本件事故当時住所地の状況- 668 -本件事故時住所地である南相馬市小高区は旧避難指示解除準備区域に当たるところ,同区の避難指示解除準備区域は,平成28年7月12日午前零時に解除された。また,平成27年8月15日時点で,同区内の488事業所のうち210事業所が再開し,そのうち,44事業所が同区内で事業を再開し,同年12月には,再開した224事業所のうち52事業所が同区内で事業所を再開し,同年4月には,小高病院が診療を開始するなどしている(第5部第1章。また,原告らの本件事故当時の住所地近くの小高中学校の環境放射能は,平成24年4月1日午前8時には0.33μSv/h,平成25年4月1日午前8時には0.26μSv/h,平成26年4月1日午前8時には0.09μSv/h,平成27年4月1日午前8時には0.08μSv/h,平成28年4月1日午前8時には0.07μSv/h,平成29年4月1日午前8時には0.06μSv/h と推移した(乙B171の1ないし5,乙B269)。また,南相馬市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日時点で4729人,平成28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章ウ)。そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセン 9人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章ウ)。そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセント,森林46パーセント,道路6パーセントであり,平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,南相馬市で検査を受けた4240人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告番号17-1は,平成27年7月頃には上記自宅を解体するこ- 669 -とを決断し,平成28年11月23日には解体を完了した。 2 損害についての検討⑴ 原告番号17-1の請求についてア就労不能損害原告番号17-1の本件事故当時の賃金は日額6362円であったことが認められる(甲C17の2)。原告番号17-1が本件事故から避難までの間の給料が得られなかったことについては,原告番号17-1が本件事故当時勤務していた原町火力発電所は本件地震及び本件津波によって影響を受け,一時閉鎖していたのであるから,原告番号17-1が原町火力発電所で就労できなかったのは本件地震及び本件津波が原因であり,本件事故が原因ではない。したがって,上記期間の給料が得られなかったことについては,本件事故との相当因果関係が認められない。また,原告番号17-1は,平成23年3月27日に名古屋市に避難しているところ,避難から1年程度は生活環境の整備及び就職活動のため就職することが困難だとしても,避難から1年経過後以降は,避難 ない。また,原告番号17-1は,平成23年3月27日に名古屋市に避難しているところ,避難から1年程度は生活環境の整備及び就職活動のため就職することが困難だとしても,避難から1年経過後以降は,避難前と同様の給与水準の就職先に就職することは不可能であるとは認められないから,避難から1年を経過した時点以降の就労不能損害は本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。 したがって,本件事故と相当因果関係を有する就労不能損害は,平成23年3月27日から平成24年3月26日までの366日分である232万8492円(日額6362円×366日=232万8492円)と認めるのが相当である。 イ財物損害 家財道具原告番号17-1が請求し,被告東電が既に賠償した445万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 不動産- 670 -原告番号17-1が請求し,被告東電が既に賠償した2226万4401円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 仏壇仏具原告番号17-1が請求し,被告東電が既に賠償した51万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ生命・身体的損害原告番号17-1が請求し,被告東電が既に賠償した44万8080円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ慰謝料以外の損害合計3000万0973円オ慰謝料原告番号17-1は,本件事故当時,旧避難指示解除準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成30年3月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり月額10万円とするのが相 区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成30年3月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号17-1の慰謝料は,850万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号17-2の損害について原告番号17-2は,本件事故当時,旧避難指示解除準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成30年3月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号17-2の慰謝料は,850万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号17-1被告東電は,原告番号17-1に対し,2767万2481円の賠償を行ったことが認められる。 - 671 -⑵ 原告番号17-2被告東電は,原告番号17-2に対しては,何ら賠償していない。 4 認容額等⑴ 被告東電の弁済額控除後の損害額ア原告番号17-1について本件事故により原告番号17-1に生じた損害額である3850万0973円から,被告東電の弁済額である2767万2481円を控除すると1082万8492円となる。 イ原告番号17-2について前記3のとおり,被告東電は原告番号17-2に対して何らの賠償も行っていないから,被告東電の弁済額控除後損害額は850万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号17-1について1082万8492円の約1割である100万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号17- ⑵ 弁護士費用ア原告番号17-1について1082万8492円の約1割である100万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号17-2について850万円の約1割である85万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号17-1について1100万円(1182万8492円(1082万8492円+100万円)のうち原告番号17-1の請求する1100万円)イ原告番号17-2について935万円(850万円+85万円)第18 原告番号18及び原告番号19の世帯 1 認定事実(甲C18の1)- 672 -⑴ 本件事故前の状況等原告番号18-1(本件事故当時72歳)及びその妻である原告番号18-2(本件事故当時73歳)は,本件事故当時,南相馬市原町区所在の自宅(南相馬市 ,福島第一原発からの距離23.90㎞(乙C18の1))に居住していた。原告番号19(本件事故当時44歳)は,原告番号18-1及び原告番号18-2の長男であり,本件事故当時,南相馬市原町区所在の原告番号18-1の持ち家(南相馬市,福島第一原発からの距離24.35㎞(乙C19の1))に祖母(原告番号18-1の実母)と共に居住していた。(以下,原告番号18-1,原告番号18-2及び原告番号19の3名又は上記3名に原告番号18-1及び原告番号18-2の二男を加えた4名を併せて,この項において「原告ら」という。)原告番号18-1及び原告番号18-2は,共に年金生活者であり,原告番号18-2は本件事故の約7年前にヘルニアの手術をしてお 18-2の二男を加えた4名を併せて,この項において「原告ら」という。)原告番号18-1及び原告番号18-2は,共に年金生活者であり,原告番号18-2は本件事故の約7年前にヘルニアの手術をしており,歩行が困難で,常に杖を使う状態であった。原告番号18-1は,自宅近くに約200坪の畑を借りて,毎日農作業を行っており,野菜は全て自給しており,味噌も自家製だった。また,原告番号18-1は,タンス職人で建具屋やサッシ屋で働いていたこともあり,大工仕事や家具の作製ができるため,知人や近所の人に頼まれて大工仕事をすることもあった。さらに,原告番号18-1は,原告番号18-2がヘルニアの手術を受けてから100mほど歩くと痛みで歩行が続けられない状態となったため,原告番号18-2の身の回りの世話をしていた。 原告番号19は,本件事故当時,製材業に勤務していたが,本件事故により会社が閉鎖したため,解雇された。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,平成23年3月12日,原告番号18-1及び原告番号18-2- 673 -の長女から福島第一原発が爆発したことを聞いて避難することを決断し,福島市d地区の原告番号18-1の弟の家に自動車で避難した。原告らは,福島県楢葉町に住んでいた原告番号18-1及び原告番号18-2の二男とも連絡を取り,福島市で合流した。その後,原告らは,同月21日,横浜市の原告番号18-1の妹の家に自動車で避難し,同月23日,静岡県伊豆の国市の原告番号18-1の叔父の家に自動車で避難し,同月25日,愛知県小牧市の原告番号18-1の姪の家に自動車で避難した。その後,原告らは,同年4月29日,愛知県小牧市の県営住宅に引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号18-2は,愛知県 8-1の姪の家に自動車で避難した。その後,原告らは,同年4月29日,愛知県小牧市の県営住宅に引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号18-2は,愛知県小牧市に避難後,うつ病,メニエール病と診断され,入退院を繰り返し,平成27年7月には,膝に菌が溜まる病気に罹り,同年11月まで入院した。原告番号18-1は,上記のような原告番号18-2の身の回りの世話をしながら生活をしており,避難先では農作業も行えず,知人も近くにおらず大工仕事を頼まれることもないという状況であった。また,原告番号18-1は,平成23年5月から平成25年2月まで,原告番号19は,平成23年5月から平成24年1月まで,毎月,原告番号18-1の実母の様子や自宅の様子を見るために愛知県小牧市から南相馬市の自宅に帰っていた。 原告番号19は,平成24年1月から愛知県小牧市内で数日間臨時の仕事を行ったが,同月末に原告番号18-1の実母の葬儀のために南相馬市に戻り,同年2月に本件事故前に勤務していた会社から再雇用の話があったため,愛知県小牧市内の仕事を辞め,同年4月から南相馬市で上記会社に勤務するようになった。原告番号19は,平成24年1月末に南相馬市の自宅に戻った際,自宅に居住しようとしたが,自宅が本件地震で8割倒壊しており,雨漏りしている状態であったため,平成25年3月には借地契約を解約して- 674 -自宅を解体し,南相馬市の仮設住宅に1人で居住した。原告番号19は,平成25年6月には転職し,臨時の日雇作業員として除染の仕事に従事し,平成27年には南相馬市原町区に中古の一軒家を購入したが,仮設住宅では周りが高齢者ばかりで頼られることも多かったため,その後も上記仮設住宅に住んでいた。原告番号19は,上記除染の会社が閉 に従事し,平成27年には南相馬市原町区に中古の一軒家を購入したが,仮設住宅では周りが高齢者ばかりで頼られることも多かったため,その後も上記仮設住宅に住んでいた。原告番号19は,上記除染の会社が閉鎖となり,平成28年12月以降は失業している。 原告らは,愛知県小牧市の県営住宅の補助金が平成29年3月に打ち切られるため,同月,原告番号19が購入した上記一軒家に引っ越した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,旧緊急時避難準備区域に該当するところ,緊急時避難準備区域は平成23年9月30日に解除され,同年10月以降,小中学校や高校が授業を再開し,平成24年4月以降には小中学校の屋外活動時間の制限も解除された。また,平成24年5月時点で医療機関等も活動を再開している(第5部第1章。さらに,原告らの本件事故当時の住所地近くである南相馬市役所の環境放射能は,平成24年4月1日には0.38μSv/h,平成25年4月1日には0.29μSv/h,平成26年4月1日には0.22μSv/h,平成27年4月1日には0.17μSv/h,平成28年4月1日には0.14μSv/h,平成29年4月1日には0.11μSv/h と推移し(乙B171の1ないし5,乙B269),年々減少している。また,南相馬市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日時点で4729人,平成28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章。 そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセント,森林46パー 年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章。 そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセント,森林46パーセント,道路6パーセントであり,- 675 -平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,南相馬市で検査を受けた4240人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 前記アのとおり,原告番号19が本件事故当時に居住していた自宅の土地の借地契約は解約され,上記自宅は解体されている。 2 損害についての検討⑴ 原告番号18-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号18-1が請求し,被告東電が既に賠償した4万7000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号18-1が請求し,被告東電が既に賠償した10万9000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号18-1は,南相馬市から愛知県小牧市への引っ越しの際に要したレンタカー代及び謝礼代として24万5000円を支払ったとして同額を請求するが,原告番号18-1が実際にこれらの支出をしたと認めるに足りる証拠はない。しかし,原告番号18-1はレンタカーを使用して引っ越しを行っているところ,民事訴訟法248条に基づき,その費用は1万円と認めるのが相当である。したがって,1万円を本件事故と相当因果関係 拠はない。しかし,原告番号18-1はレンタカーを使用して引っ越しを行っているところ,民事訴訟法248条に基づき,その費用は1万円と認めるのが相当である。したがって,1万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用- 676 -原告番号18-1は,平成23年5月から平成24年1月までの間に毎月1回自動車で南相馬市に帰省していたこと,同年1月27日に脳梗塞で倒れた原告番号18-1の実母の様子を見に自動車で南相馬市に行ったこと,同年8月7日に自動車で南相馬市に行ったことが認められる(甲C18の1,弁論の全趣旨)。そして,これらの帰省はいずれも必要な範囲内のものといえる。一方で,原告番号18-1の帰省に要した交通費の金額については,原告番号18-1が主張する金額を実際に要したことを示す証拠はない。したがって,被告東電が既に賠償した56万8116円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできず,56万8116円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号18-1は,家財道具購入費として65万2000円を請求する。原告番号18-1は,家財道具を購入したことを示す領収証等を一切提出しないものの,避難先で生活するために家財道具を購入する必要があったといえ,民事訴訟法248条に基づき,その購入金額は10万円と認めるのが相当である。したがって,10万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 食費原告番号18-1は,避難したことにより少なくとも月1万円食費が増加した旨主張するが,実際に食費が増加したことを示す証拠はなく,被告東電が既に賠償した8万円を超え 食費原告番号18-1は,避難したことにより少なくとも月1万円食費が増加した旨主張するが,実際に食費が増加したことを示す証拠はなく,被告東電が既に賠償した8万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,8万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 家賃増加分- 677 -原告番号18-1は,南相馬市の市営住宅の平成23年4月から平成30年2月までの家賃相当額を請求するが,原告番号18-1は,本件事故前から南相馬市の市営住宅に居住していたのであるから,本件事故による避難がなくとも市営住宅の家賃は発生していたといえる。したがって,原告番号18-1の市営住宅の家賃の負担は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号18-1の請求は認められない。 その他(駐車場代)原告番号18-1は,避難前は駐車場代が掛からなかったものの,避難後には月額2700円の駐車場代を支払う必要が生じたと認めることができる(甲C18の2,弁論の全趣旨)。そして,原告番号18-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,平成23年5月から平成24年8月までの駐車場代4万3200円(2700円/月×16か月=4万3200円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ財物損害 家財道具原告番号18-1の自宅は,本件事故から1年後の平成24年2月でも,家の中でも0.28μSv/h を超え,年間放射線量が1mSv を超える値であったため,原告番号18-1は被ばくを避けるため 原告番号18-1の自宅は,本件事故から1年後の平成24年2月でも,家の中でも0.28μSv/h を超え,年間放射線量が1mSv を超える値であったため,原告番号18-1は被ばくを避けるため,平成24年2月3日に自宅及び原告番号19の自宅の家財道具や電化製品,衣類や生活用品の大半を処分したとして,処分した家財道具相当額172万4000円を請求する。しかし,実際に家財道具を処分しなければならない程度に放射能に汚染されていたと認めるに足りる証拠はなく,原告番号18-1がどのような家財道具を処分したかや処分した家財道具の金額について具体的な主張立証がないから,本件事故と相当因果関係を有する損害が発生- 678 -したと認めることはできない。したがって,原告番号18-1の上記請求は認められない。 その他(電化製品処分費)原告番号18-1は,電化製品の処分費用として3万1815円を請求するが,原告番号18-1が使用していた電化製品が放射性物質に汚染されていたなどの事情はなく,被ばくを避けるために電化製品を処分する必要があったと認めることはできない。したがって,電化製品の処分費用は本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできず,原告番号18-1の上記請求は認められない。 エその他(ADR弁護士費用)原告番号18-1が請求し,原告番号18-1と被告東電との間に争いのない7万8091円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ慰謝料以外の損害合計103万5407円カ慰謝料原告番号18-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日 万5407円カ慰謝料原告番号18-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号18-1の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号18-2の請求についてア避難費用 交通費原告番号18-2が請求し,被告東電が既に賠償した5000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 679 - その他(通院費用)原告番号18-2が請求し,被告東電が既に賠償した1万1460円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イその他(ADR弁護士費用)被告東電が既に賠償した7万0694円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ慰謝料以外の損害合計8万7154円エ慰謝料原告番号18-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号18-2の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号19の請求についてア避難費用(一時立入・帰省費用)原告番号19は,原告番号18-1及び原告番号18-2の居住する愛知県小牧市に行くための交通費として合計20万7000円を請求する。しかし,原告番号18-1及び原告 一時立入・帰省費用)原告番号19は,原告番号18-1及び原告番号18-2の居住する愛知県小牧市に行くための交通費として合計20万7000円を請求する。しかし,原告番号18-1及び原告番号18-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,原告番号19が愛知県小牧市に行く必要性があるのも同月までといえる。そして,これらの移動に被告東電が既に賠償した9万9000円を超える交通費が発生したことを認めるに足りる証拠は存在しないから,9万9000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用(軽自動車購入)- 680 -原告番号19は,本件事故前に使用していた車両を南相馬市の自宅に保管したまま避難したため車検が切れ,また,放射線による汚染が懸念されたため,処分せざるを得なかったとして,新たな軽自動車の購入費用を請求する。 しかし,原告番号19の自宅は旧緊急時避難準備区域に所在しており,立入りが禁じられていたわけではないから,本件事故と上記車両の車検が切れたこととの間に相当因果関係は認められず,上記車両が放射線に汚染されていたと認めるに足りる証拠もないから,原告番号19は,上記車両を処分する必要性は認められない。したがって,原告番号19の上記請求は認められない。 ウ就労不能損害原告番号19が請求し,被告東電が既に賠償した197万1126円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ財物損害(車両)原告番号19は,本件事故前に使用していた車両を南相馬市の自宅に保管したまま避難したため車検が切れ,また,放射線による汚染が懸念されたため,処分せざるを得なかった旨主 財物損害(車両)原告番号19は,本件事故前に使用していた車両を南相馬市の自宅に保管したまま避難したため車検が切れ,また,放射線による汚染が懸念されたため,処分せざるを得なかった旨主張する。しかし,前記イのとおり,原告番号19は,本件事故前に使用していた車両を処分する必要性は認められない。したがって,原告番号19の上記請求は認められない。 オその他(ADR弁護士費用)被告東電が既に賠償した11万6104円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カ慰謝料以外の損害合計218万6230円キ慰謝料原告番号19は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24- 681 -年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号19の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号18-1に対する弁済被告東電は,原告番号18-1に対し,272万6735円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号18-2に対する弁済被告東電は,原告番号18-2に対し,242万7154円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号19に対する弁済被告東電は,原告番号19に対し,398万6230円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号18-1本件事故により原告番号18-1に生じた損害額である283万5407円から,被告東電の弁済額である272万6735円を控除すると1 電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号18-1本件事故により原告番号18-1に生じた損害額である283万5407円から,被告東電の弁済額である272万6735円を控除すると10万8672円となる。 イ原告番号18-2本件事故により原告番号18-2に生じた損害額である188万7154円から,被告東電の弁済額である242万7154円を控除すると0円となる。 ウ原告番号19本件事故により原告番号19に生じた損害額である398万6230円から,被告東電の弁済額である398万6230円を控除すると0円とな- 682 -る。 ⑵ 弁護士費用原告番号18-1について,10万8672円の約1割である1万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号18-111万8672円(10万8672円+1万円)イ原告番号18-2棄却ウ原告番号19棄却第19 原告番号20の世帯 1 認定事実(原告番号20-1本人(同人の陳述書(甲C20の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号20-1(本件事故当時63歳)及びその妻である原告番号20-2(本件事故当時63歳)は,本件事故当時,南相馬市所在の自宅(南相馬市,福島第一原発からの距離22.47㎞(乙C20の2))に居住していた。原告番号20-3(本件事故当時32歳)は,本件事故当時,勤務先のある滋賀県甲賀市内に居住していた。(以下,原告番号20-1ないし原告番号20-3を併せて,この項において「原告ら」という。)原告番号20-1及び原告番号20-2は )は,本件事故当時,勤務先のある滋賀県甲賀市内に居住していた。(以下,原告番号20-1ないし原告番号20-3を併せて,この項において「原告ら」という。)原告番号20-1及び原告番号20-2は,長年,名古屋市内に居住していたが,残りの人生を自然に囲まれた土地でのんびり過ごしたいと考え,名古屋市内の自宅を処分し,平成22年7月,南相馬市の上記住所地に新たに不動産(土地及び中古建物)を購入し,同年9月から同所で生活を始めていた。原告- 683 -番号20-3は,原告番号20-1及び原告番号20-2の長女であり,名古屋市内で出生し,大学卒業後しばらく愛知県内に居住しており,上記のとおり,本件事故当時は,勤務先のある滋賀県甲賀市内に居住していたが,本件事故以前から,上記勤務先を平成23年3月末で退職して,同年4月から南相馬市の上記住所地で両親と共に居住することを予定していた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号20-1及び原告番号20-2は,平成23年3月11日,本件地震により被災したが,自宅に大きな損傷等もなく,一時断水した程度で,大きな被害は免れた。原告番号20-1及び原告番号20-2は,同月12日,本件事故が発生したものの,自身が住む「原町地区」は避難の必要はないなどの報道を信じ,放射能の心配などせず,日課の散歩も毎日続けていたが,同月14日,福島第一原発で2回目の爆発が起こり,その際,自宅のガラス戸が揺れるのを聞いて報道を信用することに不安を覚え,避難することを決断し,同月15日午前0時頃,自動車でe 方面へと向かい,ガソリン不足のため,同日はfで一泊することにした。原告番号20-1及び原告番号20-2は,fの宿泊施設から,いわき,大熊及び双葉(c)方面からの避難者は,スクリーニングを経ないと宿泊させないと言われ, ン不足のため,同日はfで一泊することにした。原告番号20-1及び原告番号20-2は,fの宿泊施設から,いわき,大熊及び双葉(c)方面からの避難者は,スクリーニングを経ないと宿泊させないと言われ,上記地区に含まれない「相馬」から来たと述べて宿泊し,同月16日,高速道路に乗り,少しずつ給油を繰り返し,同月17日午前0時過ぎ,名古屋市に到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号20-1及び原告番号20-2は,同年4月初旬までは,名古屋市内の親類や知人の家を転々としていたが,同年4月初旬以降は,名古屋市の借り上げ住宅である市営住宅に入居した。その市営住宅にはエレベーター等がなく,居室内にも階段があり,風呂場は旧式で浴槽は非常に高さのあるものであった。原告番号20-2は,平成24年1月,股関節を痛め,人工- 684 -股関節置換術を受け,同月18日から同年2月9日までは入院し,同年7月までは週に1回通院,その後は半年に1回通院している。原告番号20-1及び原告番号20-2は,上記のような事情から,同年2月,上記市営住宅から,同じく借り上げ住宅である名古屋市g区のアパートに引っ越した。 原告番号20-3は,平成23年3月末で滋賀県甲賀市の勤務先を退職する予定であったが,本件事故を受けて退職願を一旦撤回し,名古屋市内で就職先が見つかる平成24年10月まで上記勤務先で勤務し,同月,名古屋市内の勤務先に転職し,名古屋市内で生活するようになった。 その後,原告らは,愛知県愛西市に中古の一軒家を住宅ローンで買い,転居した。また,原告番号20-1及び原告番号20-2は,名古屋市に避難後,月1回程度南相馬市の自宅に定期的に行き,1週間程度滞在して自宅のメンテナンスを行うという生活をしている。 イ本件事 居した。また,原告番号20-1及び原告番号20-2は,名古屋市に避難後,月1回程度南相馬市の自宅に定期的に行き,1週間程度滞在して自宅のメンテナンスを行うという生活をしている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告番号20-1及び原告番号20-2の居住地は,旧緊急時避難準備区域に該当するところ,緊急時避難準備区域は平成23年9月30日に解除され,同年10月以降,小中学校や高校が授業を再開し,平成24年4月以降には小中学校の屋外活動時間の制限も解除された。また,平成24年5月時点で医療機関等も活動を再開している。(第5部第1章第2のさらに,原告らの本件事故当時の住所地近くである南相馬市役所の環境放射能は,平成24年4月1日には0.38μSv/h,平成25年4月1日には0.29μSv/h,平成26年4月1日には0.22μSv/h,平成27年4月1日には0.17μSv/h,平成28年4月1日には0.14μSv/h,平成29年4月1日には0.11μSv/h と推移し(乙B171の1ないし5,乙B269),年々減少している。また,南相馬市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日- 685 -時点で4729人,平成28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセント,森林46パーセント,道路6パーセントであり,平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成 ント,農地15パーセント,森林46パーセント,道路6パーセントであり,平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,南相馬市で検査を受けた4240人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号20-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号20-1が請求し,被告東電が既に賠償した25万1000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号20-1は,平成29年3月に借り上げ住宅制度が終了したことにより中古の一軒家を購入し,引っ越しを余儀なくされたとして,その際に要した費用を請求する。しかし,原告番号20-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当であるから,上記引っ越し費用は,本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできず,被告東電が既に賠償した6300円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,6300円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 686 - 敷金・礼金原告番号20-1は,敷金・礼金として42万6300円を請求するが,原告番号20-1が敷金・礼金として同額を支払ったと認めるに足りる証拠はなく,被告東電が既に賠償した8万4490円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発 として42万6300円を請求するが,原告番号20-1が敷金・礼金として同額を支払ったと認めるに足りる証拠はなく,被告東電が既に賠償した8万4490円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえないから,8万4490円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号20-1は,一時立入・帰省費用として330万6240円を請求する。しかし,原告番号20-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。そして,前記の基準のとおり,帰省の相当性が認められるのは,原則として月1回と認めるのが相当であり,原告番号20-1について,月1回以上の一時立入が必要であったという事情はうかがわれない。また,原告番号20-1は,帰省の際には自動車,電車及び飛行機のいずれかの手段で帰省していたところ(原告番号20-1本人),1回の帰省に要する費用は片道1万円ないし2万円と認めるのがが相当である。したがって,平成24年8月までに被告東電が既に賠償した183万1838円を超えて一時立入・帰省費用が発生したと認めることはできないから,183万1838円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号20-1と被告東電との間に争いのない20万0471円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 光熱費原告番号20-1は,南相馬市の自宅と名古屋市の自宅を行き来する生- 687 -活を強いられているため水道光熱費の二重負担を強いられていることを理由に,水道光熱費の増加分 光熱費原告番号20-1は,南相馬市の自宅と名古屋市の自宅を行き来する生- 687 -活を強いられているため水道光熱費の二重負担を強いられていることを理由に,水道光熱費の増加分として27万4471円を請求する。しかし,原告番号20-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。そして,水道光熱費の増加分を原告番号20-1が主張する月額1万0044円としても,平成24年8月までの水道光熱費の増加分は被告東電が既に賠償した20万円を超えない。したがって,20万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 タイヤ保管・交換費原告番号20-1は,冬用スタッドレスタイヤの購入料として9万8000円を請求し,その証拠として領収書(甲C20の9)を提出する。しかし,この上記領収書には受付日付は記載されているものの,年が記載されておらず,原告番号20-1自身も上記領収書を受け取ったのは平成25年又は平成26年と供述しており(原告番号20-1本人),また,上記領収書は原告番号20-3名義であり,原告番号20-1が本件事故により購入を余儀なくされた冬用スタッドレスタイヤの領収書と認めることはできない。したがって,原告番号20-1が請求する上記費用が発生したと認めるに足りる証拠はなく,原告番号20-1の上記主張を認めることはできない。 原告番号20-1は,タイヤの保管料として29万円を請求するが,原告番号20-1が実際にタイヤの保管料を支払ったと認めるに足りる証拠はなく,被告東電が既に賠償した1万4800円を超えてタイヤ保管料が発生したと認めることはできない。したがって,1 を請求するが,原告番号20-1が実際にタイヤの保管料を支払ったと認めるに足りる証拠はなく,被告東電が既に賠償した1万4800円を超えてタイヤ保管料が発生したと認めることはできない。したがって,1万4800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 家賃増加分- 688 -原告番号20-1は,本件事故による避難により駐車場代を支払う必要が出てきたため,平成29年12月までの駐車場代として83万2200円を請求する。しかし,原告番号20-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。 また,原告番号20-1は,月額5700円を駐車場代として支払っていたことが認められる(甲C20の14,弁論の全趣旨)。したがって,平成23年4月から平成24年8月までの駐車場代9万6900円(月額5700円×17か月=9万6900円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他原告番号20-1は,借り上げ住宅で居住するに当たり,年2万円の保険に加入することが義務付けられていたとして,平成24年2月から平成29年3月までの5年分の保険料合計10万円を請求する。そして,原告番号20-1は,年2万円の保険料の支払をしていることが認められる(甲C20の15,弁論の全趣旨)。一方で,前記のとおり,原告番号20-1の避難の継続の合理性が認められるのは,平成24年8月31日までであるから,原告番号20-1が支払を余儀なくされた保険料は同年2月から1年分の2万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ財物損害 家財道具原告番号20-1 ,原告番号20-1が支払を余儀なくされた保険料は同年2月から1年分の2万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ財物損害 家財道具原告番号20-1は,南相馬市の自宅は人が日常的に出入りすることが無くなったため傷みが激しく,家具等にカビが発生し,廃棄を余儀なくされたとして319万1000円を請求する。しかし,原告番号20-1は,自宅のメンテナンスのために月1回程度南相馬市の自宅に帰省していたのであるから,家具等にカビが発生したことと本件事故との間に因果関係- 689 -があると認めることはできず,仮に本件事故とカビの発生等に因果関係が認められるとしても,廃棄を余儀なくされた家具の価値及び廃棄の必要性は判然としない。したがって,被告東電が既に賠償した159万5500円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。 不動産原告番号20-1は,南相馬市の自宅にはほとんど居住しておらず,売却できる見込みもないから,上記自宅の購入代金995万3892円を請求する。しかし,上記自宅の所在地周辺にある不動産物件についても,現在は取引が行われていると認められ(乙C20の5の1・2),売却の見込みがないとはいえず,仮に上記自宅の保存状況が悪いことにより売却の度は南相馬市の自宅にメンテナンスのために帰省し,1週間程度滞在していたのであるから,売却の見込みがないことと本件事故とは相当因果関係を有するとはいえない。また,上記のとおり,原告番号20-1の南相馬市の自宅の所在地周辺の不動産物件は,現在は取引が行われており,本件事故により上記自宅の価値が低下したことの具体的な主張立証がなく,本件事故後の一定期間にわたって上記自宅の所在地が緊急時避難準備 馬市の自宅の所在地周辺の不動産物件は,現在は取引が行われており,本件事故により上記自宅の価値が低下したことの具体的な主張立証がなく,本件事故後の一定期間にわたって上記自宅の所在地が緊急時避難準備区域に指定されていたことを考慮しても,本件事故により上記自宅の価値が低下したと認めることはできない。したがって,原告番号20-1の上記請求は認められない。 その他原告番号20-1は,南相馬市の自宅の補修費用として73万8239円を請求する。しかし,屋根の漆喰の腐食が進むなどして葺き替え工事が必要になったとしても,これが本件事故による影響であるとまで認めるに足りないし,除湿剤や除草剤は本件事故がなくとも必要となるものである- 690 -から,被告東電が既に賠償した48万4057円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,48万4057円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ慰謝料以外の損害合計478万5356円オ慰謝料原告番号20-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号20-1の慰謝料は180万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号20-2の請求についてア避難費用(一時立入・帰省費用)原告番号20-2は,一時立入・帰省費用として330万6240円を請求するが,原告番号20-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められる 号20-2は,一時立入・帰省費用として330万6240円を請求するが,原告番号20-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。そして,前記の基準のとおり,帰省の相当性が認められるのは,原則として月1回と認めるのが相当であり,原告番号20-2について,月1回以上の一時立入が必要であったという事情はうかがわれない。また,原告番号20-2は,帰省の際には自動車,電車及び飛行機のいずれかの手段で帰省していたところ(原告番号20-1本人),自動車で帰省する場合には原告番号20-1と別途費用が発生するものではないこと等を考慮すると,平均すると帰省に要する費用は片道1万円程度と推認することができるから,原告番号20-2の帰省に要する費用は片道1万円と認めるのが相当である。したがって,平成23年3月から平成24年8月までの一時立入・帰省費用として36万円(1万円- 691 -×2×18か月=36万円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生命・身体的損害原告番号20-2は,避難先の名古屋市の市営住宅において毎日階段の上り下りを強いられるなどしたことにより,右変形性股関節症を発症し,後遺障害等級10級に相当するとして,合計1390万7671円の請求をしている。原告番号20-2は,平成23年6月に右変形性股関節症と診断されたことが認められるが(甲C20の65・66),避難生活との関連性は不明とされており(甲C20の67),原告番号20-2の上記症状と本件事故による避難との間に相当因果関係を認めることはできない。したがって,被告東電が既に賠償している63万4712円を超えて本件事故と相当因果関係 (甲C20の67),原告番号20-2の上記症状と本件事故による避難との間に相当因果関係を認めることはできない。したがって,被告東電が既に賠償している63万4712円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできず,63万4712円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ慰謝料以外の損害合計99万4712円エ慰謝料原告番号20-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号20-2の慰謝料は180万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号20-3の請求について原告番号20-3は,本件事故当時,滋賀県甲賀市に居住しており,本件事故発生時には,平成23年4月から南相馬市に引っ越す予定であったのみであり,本件事故までに南相馬市に居住したこともなかったことが認められる(原告番号20-1本人)。そして,原告番号20-3は,本件事故により南相馬- 692 -市に引っ越すことができなくなったものの,避難を余儀なくされたということはできない。また,南相馬市の自宅に原告番号20-3の所有物が存在していたとしても,原告番号20-3が平成24年8月までに南相馬市の自宅に取りに行く必要性があったことは認めるに足りない。さらに,原告番号20-3は,本件事故により避難を余儀なくされたわけではないから,本件事故により金銭をもって慰謝しなければならない程度の精神的苦痛を被ったということはできない。したがって,原告番号20-3の請求は認められない。 故により避難を余儀なくされたわけではないから,本件事故により金銭をもって慰謝しなければならない程度の精神的苦痛を被ったということはできない。したがって,原告番号20-3の請求は認められない。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号20-1に対する弁済被告東電は,原告番号20-1に対し,732万1175円を賠償したことが認められる。 ⑵ 原告番号20-2に対する弁済被告東電は,原告番号20-2に対し,347万4712円を賠償したことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号20-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号20-1に生じた慰謝料以外の損害は478万5356円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は550万1175円であるから,- 693 -上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号20-1に生じた慰謝料180万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている182万円を控除すると0円となる。 イ原告番号20-2前記の基準のとおり,慰謝料として認定した損害額が,被告東電の慰謝料に対する弁済として損害一覧表記載の金額を下回る場合には,慰謝料 円を控除すると0円となる。 イ原告番号20-2前記の基準のとおり,慰謝料として認定した損害額が,被告東電の慰謝料に対する弁済として損害一覧表記載の金額を下回る場合には,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当することとし,慰謝料以外の損害に対する弁済としては充当すべきでない。本件事故により原告番号20-2に生じた慰謝料以外の損害は99万4712円であるのに対して,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は63万4712円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると36万円となり,本件事故により原告番号20-2に生じた慰謝料180万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている284万円を控除すると0円となる。 ⑵ 弁護士費用原告番号20-2について,36万円の約1割である4万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 認容額等ア原告番号20-1棄却イ原告番号20-240万円(36万円+4万円)ウ原告番号20-3棄却第20 原告番号21の世帯- 694 - 1 認定事実(甲C21の1)⑴ 本件事故前の状況等原告番号21-1(本件事故当時71歳)及び承継前原告番号21-2(以下「原告番号21-2」という。)(本件事故当時68歳)は,本件事故当時,南相馬市所在の借家(南相馬市 ,福島第一原発からの距離23.59㎞(乙C21の1))に居住していた(以下,原告番号21-1及び原告番号21-2を併せて,この項において「原告ら」という 家(南相馬市 ,福島第一原発からの距離23.59㎞(乙C21の1))に居住していた(以下,原告番号21-1及び原告番号21-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告らは,共に年金受給者であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らの自宅の周囲では,本件事故後,コンビニエンスストアやスーパーマーケットが閉鎖され,平成23年3月12日からは電話が不通になったためテレビニュースだけが唯一の情報源であった。 原告らは,一番親しくしていた友人から連絡が入り,「同月18日以降,高速道路も無料になり,レンタカーの手配もつくので,常磐線やバスの便がなくても福島第一原発から30㎞圏外に出られる。」との情報を得たため,同月18日までは自宅から外に出ないように気を付けながら過ごした。原告らは,同月15日昼頃,電話が通じるようになったため,愛知県岡崎市在住の原告らの娘と連絡を取り,同市に避難することに決めた。原告らは,上記友人から,同月18日の早朝に出発できるようにとの連絡が入り,戸締り,火の始末,冷蔵庫や水道の元栓等を確認しながら自宅にあったおにぎりと水を確保した。原告らは,軽自動車で友人宅まで向かい,友人の娘の自動車に同乗して,宇都宮市まで送ってもらった。その後,原告らは,新幹線を名古屋まで乗り継ぎ,愛知県岡崎市に住む原告らの娘夫婦のマンションに到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況- 695 -原告らは,避難当初は,原告らの娘夫婦のマンションで生活していたが,平成23年5月からは,原告らの娘の夫の妹の部屋に間借りし,同年6月からは,愛知県岡崎市内の借家に引っ越した。原告らは,避難後は,食べ物の味付け等が東北圏と名古屋圏では大きく異なり,慣れるのに苦労 平成23年5月からは,原告らの娘の夫の妹の部屋に間借りし,同年6月からは,愛知県岡崎市内の借家に引っ越した。原告らは,避難後は,食べ物の味付け等が東北圏と名古屋圏では大きく異なり,慣れるのに苦労すると共に,言葉も異なるため,気苦労で夜は眠りが浅くなり,朝も早くから目が覚めるようになった。また,原告番号21-2は,避難後,食道がんが発見され,入退院して抗がん剤による治療を受けていたが,平成28年11月16日に死亡した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,旧緊急時避難準備区域に該当するところ,緊急時避難準備区域は平成23年9月30日に解除され,同年10月以降,小中学校や高校が授業を再開し,平成24年4月以降には小中学校の屋外活動時間の制限も解除された。また,平成24年5月時点で医療機関等も活動を再開している。(第5部第1章さらに,原告らの本件事故当時の住所地近くである南相馬市役所の環境放射能は,平成24年4月1日には0.38μSv/h,平成25年4月1日には0.29μSv/h,平成26年4月1日には0.22μSv/h,平成27年4月1日には0.17μSv/h,平成28年4月1日には0.14μSv/h,平成29年4月1日には0.11μSv/h と推移し(乙B171の1ないし5,乙B269),年々減少している。また,南相馬市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日時点で4729人,平成28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセン 28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセント,森林46パーセント,道路6パーセントであり,- 696 -平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,南相馬市で検査を受けた4240人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号21-1の請求についてア避難費用 宿泊費・謝礼原告番号21-1は,平成23年3月18日から約2か月間愛知県岡崎市の娘夫婦のマンションに滞在させてもらった謝礼として20万円を支払ったとして同額を請求するが,実際に謝礼を支払ったことを示す証拠はなく,また,仮に支払をしていたとしても,これは原告番号21-1が自らの判断で任意に支払ったものであるから,被告東電が既に賠償した18万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,18万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号21-1が請求し,被告東電が既に賠償した29万8400円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 敷金・礼金原告番号21-1は,避難の際に要した敷金・礼金として155万5750円を請求するが,実際に敷金・礼金を支払ったことについ と相当因果関係を有する損害と認める。 敷金・礼金原告番号21-1は,避難の際に要した敷金・礼金として155万5750円を請求するが,実際に敷金・礼金を支払ったことについて具体的な主張立証がないから,被告東電が既に賠償した7万円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 697 - 一時立入・帰省費用原告番号21-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたのであるから,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までである。そして,一時立入をした時期等について具体的な主張立証がないとしても,上記期間内に数回は一時立入をしたと推認することができ,その際に要した費用は原告番号21-1が請求する5万8000円を下回らないと考えられる。したがって,5万8000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号21-1が請求し,被告東電が既に賠償した32万6090円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 家賃増加分原告番号21-1が愛知県岡崎市で契約した借家の平成29年6月1日から平成31年5月31日までに賃料が月額7万円であることが認められ(甲C21の3・4),平成23年に契約した時から賃料が変更されたと認めるに足りる証拠はないから,上記借家の家賃は契約当初から月額7万円であったと認めるのが相当である。もっとも,前記のとおり,原告らの避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであり,同月までは家賃補助があったため(弁論の全趣旨),原告らに家賃が増加したことによる損害は発生していない。したがって,家賃増加 告らの避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであり,同月までは家賃補助があったため(弁論の全趣旨),原告らに家賃が増加したことによる損害は発生していない。したがって,家賃増加分について本件事故と相当因果関係を有する損害は認められない。 ウ慰謝料以外の損害合計93万2490円エ慰謝料原告番号21-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住してい- 698 -たところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号21-1の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号21-2の請求について原告番号21-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号21-2の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号21-1に対する弁済被告東電は,原告番号21-1に対し,295万6490円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号21-2に対する弁済被告東電は,原告番号21-2に対し,180万円を賠償したことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号21-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として ⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号21-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により- 699 -原告番号21-1に生じた慰謝料以外の損害は93万2490円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は115万6490円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号21-1に生じた慰謝料180万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている180万円を控除すると0円となる。 イ原告番号21-2本件事故により原告番号21-2に生じた損害である180万円から,被告東電の弁済額である180万円を控除すると0円となる。 ⑵ 認容額ア原告番号21-1棄却イ原告番号21-2棄却第21 原告番号22の世帯 1 認定事実(原告番号22-1本人(同人の陳述書(甲C22の1・41)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号22-1(本件事故当時46歳),その妻である原告番号22-2(本件事故当時36歳),原告番号22-1及び原告番号22-2の長女である原告番号22-3(本件事故当時13歳),長男である原告番号22-4(本件 本件事故当時46歳),その妻である原告番号22-2(本件事故当時36歳),原告番号22-1及び原告番号22-2の長女である原告番号22-3(本件事故当時13歳),長男である原告番号22-4(本件事故当時7歳),二男である原告番号22-5(本件事故当時3歳)は,本件事故当時,いわき市所在の自宅(いわき市 ,福島第一原発からの距離57.99㎞(乙C22の2))に居住していた(以下,原告番号22-1ないし原告番号22-5を併せて,この項において「原告ら」という。)。 - 700 -原告番号22-1は,平成9年にいわき市内の製紙会社に正社員として就職し,その後も正社員として勤務し続け,平成23年2月頃には,同年4月からは課長に昇進させる話をもらっていた。平成22年頃の原告番号22-1の収入は月額26万円程度であり,年収は430万円程度であった。また,原告番号22-1は,平成12年,上記住所地に一戸建てを建て,この家に家族5人で暮らしていた。 本件事故当時,原告番号22-2は専業主婦,原告番号22-3は中学校1年生,原告番号22-4は小学校1年生であり,原告番号22-5は平成23年4月から幼稚園に通う予定であった。 ⑵ 避難開始の経緯等本件事故後は,大熊町に住んでいる原告番号22-1の妹から福島県から逃げるようにとの連絡があった。原告番号22-1は,双葉町の実家の親や原告番号22-3ないし原告番号22-5を避難させなければと思いながら土日も出勤して全従業員の安否確認や従業員の家族の被害状況の把握などに追われていた。平成23年3月14日の月曜日の作業後,原告番号22-1が勤めていた会社で今後の対応についての会議が行われ,原告番号22-1は,テレビの報道とは異なる地元住民の声を伝え,30 握などに追われていた。平成23年3月14日の月曜日の作業後,原告番号22-1が勤めていた会社で今後の対応についての会議が行われ,原告番号22-1は,テレビの報道とは異なる地元住民の声を伝え,30㎞の概念を捨てて避難すべきだと主張したが,会社の代表から避難の指示等はなかった。 原告らは,同月15日朝のニュースで同日午前6時頃に茨城県のモニタリングポストで観測した放射性物質の値が通常の100倍であったことを知り,いわき市内の自宅から避難した。原告らは,当時,放射性物質は南へ放出されていたため,真南方向の国道6号線ではなく,国道4号線を使い,とにかく西へと向かい,同月15日午後2時頃,宇都宮市付近にいた際に雨が降ってきたため,放射性物質を浴びないよう宇都宮市付近のビジネスホテルに宿泊し,同月16日,栃木県を出発し,長野県松本市のホテルに宿泊し,同月17日には名古屋市に到着した。原告らは,名古屋市付近で避難先を確保することにし,同- 701 -日夜は宿泊費用を節約するために愛知県一宮市内のラブホテルに家族で宿泊し,同月18日から同月21日までは,避難先を確保するために,上記ラブホテルに泊まったり,高速道路のパーキングエリアで宿泊したりしていたが,同月20日には愛知県豊川市で甲状腺の無料検査があると聞いて同市へ行き,同月21日には被災者のために県営住宅を開放するとの情報を得て住宅供給公社に申込みに行き,同月22日に県営住宅の鍵を取りに行った。そして,原告らは,同月23日,名古屋市h区所在の県営住宅に入居した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号22-1は,平成23年4月初旬,いわき市の上記勤務先に戻ったものの,以前の担当業務とは異なり,新入社員と同様の業務を行うように言われたため,同年5月中 ア避難生活の状況原告番号22-1は,平成23年4月初旬,いわき市の上記勤務先に戻ったものの,以前の担当業務とは異なり,新入社員と同様の業務を行うように言われたため,同年5月中旬,上記勤務先を自己都合退職した。原告番号22-1は,退職後は,ほぼ毎日,ハローワークに通って仕事を探し,当時避難していた県営住宅に住むことができるのは半年間だと聞いていたため,社宅のある会社を探していたが,なかなか仕事が決まらなかったが,同年7月,愛知県豊田市にあるガス会社に採用され,同年8月16日から上記会社での勤務を開始した。そして,原告らは,同年8月16日から平成24年4月までは,原告番号22-2ないし原告番号22-5は上記県営住宅に,原告番号22-1は愛知県豊田市の会社の寮に住むという二重生活を送った。一方,原告番号22-2は,平成23年5月ないし6月頃,愛知県でパートタイム勤務を始めた。 原告らは,当初,名古屋市h区の県営住宅に避難したため,原告番号22-3ないし原告番号22-5は,平成23年4月から名古屋市h区の学校及び幼稚園に通うことになったが,平成24年4月からは,原告番号22-2ないし原告番号22-5も愛知県豊田市の原告番号22-1の会社の寮に住むようになり,原告番号22-3ないし原告番号22-5は,同市内の学- 702 -校及び幼稚園に通うことになった。 また,原告番号22-1は,平成27年11月,愛知県豊田市内に築23年の中古住宅を2170万円で購入し,代金は全額ローンを組んだ。また,原告番号22-1は,平成24年6月から平成29年6月までに胃や背中に激痛が走って救急外来に駆け込むことがあり,同年8月には直腸がんが発見され,同年10月,手術を受けたが,今後も定期的に検査を行うこととなってい 1は,平成24年6月から平成29年6月までに胃や背中に激痛が走って救急外来に駆け込むことがあり,同年8月には直腸がんが発見され,同年10月,手術を受けたが,今後も定期的に検査を行うこととなっている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ- 703 -数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告 結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ- 703 -数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告番号22-1は,愛知県豊田市に家を買うに当たって,いわき市の自宅は売りに出したが,築15年であり,買い手がつかないため,繰り返し値段を下げざるを得ず,最終的には,平成28年4月,1500万円で売却した。 2 損害についての検討⑴ 原告番号22-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号22-1は,原告らがいわき市から栃木県や長野県を経由して名古屋市まで避難する際に要した交通費として4万5960円を請求するが,原告らは実際には自動車で避難したのであり,原告らが実際に避難に要した交通費の金額を示す証拠はなく,少なくとも被告東電が既に賠償した3万5200円を超えることを認めるに足りる証拠はない。また,原告番号22-1は,親の避難のために1万6740円を要したとして,同額を請求するが,原告番号22-1の親の避難について,原告番号22-1の手伝いを必要とする客観的な事情を認めるに足りる証拠はなく,原告番号22-1の親の避難について要した交通費については,本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。したがって,3万5200円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告らは,いわき市から名古屋市に避難するまでの間にホテル等で5泊していることが認められるから(原告番号22-1本人),原告らはホテル等に宿泊した際の領収証等を提出していないものの,宿泊費を支出し損害が発生したこと自体は認めることができる。そして,一般的なビジネスホテルの宿泊代金等に から(原告番号22-1本人),原告らはホテル等に宿泊した際の領収証等を提出していないものの,宿泊費を支出し損害が発生したこと自体は認めることができる。そして,一般的なビジネスホテルの宿泊代金等に鑑みれば,一人一泊当たり5000円の宿泊費を要- 704 -したと認めるのが相当である。したがって,12万5000円(5000円×5人×5泊=12万5000円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号22-1が請求し,被告東電が既に賠償した15万3200円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(いわき市の不動産売却に関するもの)原告番号22-1は,平成27年9月12日,同月22日及び同年10月30日にいわき市の自宅の売却のため片付けを行った際のいわき市までの往復の交通費,同年11月13日から同月14日まで及び同月21日から同月22日までの2度に分けて自宅からの荷物の搬出作業に要した交通費,平成28年4月10日から同月11日に掛けて自宅売却に必要な売買契約締結のためにいわき市まで往復した際の交通費及びそれに伴う宿泊費の合計15万0112円を請求する。しかし,原告らは,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,原告番号22-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号22-3ないし原告番号22-5についても避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までである。そして,その他に原告らがいわき市に戻れない本件事故に起因した事情は認められないから,原告番号22-1がいわき市の自宅を売却する必要性は認められない。したがって,原告番号22-1の上記請求は認められな て,その他に原告らがいわき市に戻れない本件事故に起因した事情は認められないから,原告番号22-1がいわき市の自宅を売却する必要性は認められない。したがって,原告番号22-1の上記請求は認められない。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号22-1は別紙生活費増加一覧「生活用品関係」記載の物品を購入する必要があった旨主張する。しかし,原告番号22-1が実際に上- 705 -記支出をしたと認めるに足りる証拠はなく,また,原告番号22-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号22-3ないし原告番号22-5についても平成24年8月31日までであるから,平成24年9月以降に支出したものについては,本件事故と相当因果関係が認められない。したがって,被告東電が既に賠償した15万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 家賃増加分前記の基準のとおり,原告番号22-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号22-3ないし原告番号22-5についても平成24年8月31日までであるから,避難先での家賃負担について本件事故と相当因果関係が認められるのは平成24年8月分までである。また,いわき市の自宅の固定資産税については,前記のとおり,いわき市の自宅を売却する必要性はなかったから,これについては,本件事故と相当因果関係を認めることはできない。したがって,以下の損害が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。 a 県営住宅での駐車場代(平成23 なかったから,これについては,本件事故と相当因果関係を認めることはできない。したがって,以下の損害が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。 a 県営住宅での駐車場代(平成23年4月から平成24年3月まで)4000円/月×12か月=4万8000円(甲C22の3・17)b 県営住宅での自治会費(平成23年4月から平成24年3月まで)2800円/月×12か月=3万3600円(甲C22の17,弁論の全趣旨)c 原告番号22-1の会社の社宅の家賃(平成23年8月16日から平成24年3月まで)3500円/月×7か月=2万4500円(弁論の全趣旨)- 706 -d 愛知県豊田市での家賃負担開始後(平成24年4月から同年8月まで)9000円/月×5か月=4万5000円(甲C22の15,弁論の全趣旨)e 合計 15万1100円ウ就労不能損害原告番号22-1は10年以上にわたって正社員としていわき市の会社に勤めていたから,本件事故による避難がなければ上記会社で働き続けていたと認めることができ,本件事故による避難がなければいわき市の会社で得られたであろう収入と原告番号22-1の実際の収入との差額が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。本件についてみると,原告番号22-1の平成22年11月分の給与支給額は24万3917円,平成23年4月分の給与支給額は21万0367円であったことが認められるところ(甲C22の14の1・2),原告番号22-1は,本件事故がなければ少なくとも月額22万円の収入を得られたと認めるのが相当である。また,平成22年夏季賞与は37万4069円であったことが認め ところ(甲C22の14の1・2),原告番号22-1は,本件事故がなければ少なくとも月額22万円の収入を得られたと認めるのが相当である。また,平成22年夏季賞与は37万4069円であったことが認められるところ(甲C22の14の3),原告番号22-1は,本件事故がなければ平成23年7月には少なくとも37万4069円の賞与が得られていたと認めることができる。よって,以下の金額が原告番号22-1の就労不能損害と認められる。 失業期間について(平成23年5月中旬から同年8月15日まで)22万円/月×3か月+37万4069円=103万4069円 愛知県豊田市の会社に就職後(平成23年8月16日以降)原告番号22-1は,本件事故による避難により月額1万3683円の給料の減額を被った旨主張するが,避難前の収入と同程度の収入を得られる職業に就くことができなかったと認めるに足りる証拠はなく,原告番号- 707 -22-1が愛知県豊田市の会社に再就職後の就労不能損害を認めることはできない。 以上より,原告番号22-1の被った就労不能損害は被告東電が既に賠償した151万0312円を超えるものではないから,151万0312円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ財物損害(不動産)前記のとおり,原告らの自宅は自主的避難等対象区域に所在しており,強制的に避難を余儀なくされた地域ではなく,自宅の価値が低下したと認めるに足りる証拠はない。したがって,不動産の価値の低下について本件事故と相当因果関係を有する損害が発生しているということはできない。 オ線量計購入費原告番号22-1が請求し,被告東電が既に賠償した7900円を本件事故と相当因果 について本件事故と相当因果関係を有する損害が発生しているということはできない。 オ線量計購入費原告番号22-1が請求し,被告東電が既に賠償した7900円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カその他(不動産買換諸費用)前記のとおり,原告らのいわき市の自宅は自主的避難等対象区域に所在しており,原告番号22-3ないし原告番号22-5を含めても平成24年9月以降はいわき市の自宅に戻ること可能であったから,いわき市の自宅を売却する必要性はなかったといえる。したがって,不動産の買換えに要した費用は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。 キ慰謝料以外の損害合計213万2712円ク慰謝料原告番号22-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告- 708 -番号22-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号22-2の請求について原告番号22-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号22-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号22-3の請求について原告番号22-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ, 2-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号22-3の請求について原告番号22-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号22-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号22-4の請求について原告番号22-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号22-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑸ 原告番号22-5の請求について原告番号22-5は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万- 709 -円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号22-5の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号22-1に対する弁済被告東電は ら同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号22-5の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号22-1に対する弁済被告東電は,原告番号22-1に対し,176万8612円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号22-2に対する弁済被告東電は,原告番号22-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号22-3に対する弁済被告東電は,原告番号22-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号22-4に対する弁済被告東電は,原告番号22-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑸ 原告番号22-5に対する弁済被告東電は,原告番号22-5に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号22-1本件事故により原告番号22-1に生じた損害である273万2712円から被告東電の弁済額である176万8612円を控除すると96万4100円となる。 イ原告番号22-2本件事故により原告番号22-2に生じた損害である60万円から被告- 710 -東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号22-3本件事故により原告番号22-3に生じた損害である100万円から被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号22-4本件事故により原告番号22-4に生じた損害である100万円から被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 オ原告番号22-5本件事故により 2-4本件事故により原告番号22-4に生じた損害である100万円から被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 オ原告番号22-5本件事故により原告番号22-5に生じた損害である100万円から被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号22-196万4100円の約1割である10万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号22-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号22-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号22-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ原告番号22-552万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 711 -⑶ 認容額ア原告番号22-1106万4100円(96万4100円+10万円)イ原告番号22-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号22-357万円(52万円+5万円)エ原告番号22-457万円(52万円+5万円)オ原告番号22-557万円(52万円+5万円)第22 原告番号23の世帯 1 認定事実(原告番号23-1本人(同人の陳述書(甲C23の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号23-1( 2万円+5万円)第22 原告番号23の世帯 1 認定事実(原告番号23-1本人(同人の陳述書(甲C23の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号23-1(本件事故当時46歳),その妻である原告番号23-2(本件事故当時42歳),原告番号23-1及び原告番号23-2の長女である原告番号23-3(本件事故当時8歳),二女である原告番号23-4(本件事故当時7歳),長男である原告番号23-5(本件事故当時3歳)は,本件事故当時,いわき市所在の自宅(いわき市,福島第一原発からの距離43.22㎞(乙C23の1))に居住していた(以下,原告番号23-1ないし原告番号23-5を併せて,この項において「原告ら」という。)。 上記自宅は,平成9年に約1500万円で購入し,その後増築に400万円を掛けて完成させたものであった。原告番号23-1は,平成21年9月ないし10月頃からいわき市内の自動車工場で契約社員として勤務し,原告番号2- 712 -3-2は,かまぼこ工場で派遣社員として勤務していた。原告番号23-1は,上記自宅の近くには原告番号23-1の母親が住んでいること,親戚との繋がりがあること,原告番号23-3ないし原告番号23-5の学校もいわき市にあること等から,将来的にもいわき市に居住するつもりで上記自宅を購入した。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件事故が発生するまで,福島第一原発について具体的に知っていたわけではなく,放射能についてもほとんど知識がなかったが,テレビで本件事故のことについて見て心配になり,インターネットで放射能のことを調べると,放射性物質が人体に入ると半減期に至るまで影響を与え続けること,チェルノブイリ原子力発電所事故では子供の甲 が,テレビで本件事故のことについて見て心配になり,インターネットで放射能のことを調べると,放射性物質が人体に入ると半減期に至るまで影響を与え続けること,チェルノブイリ原子力発電所事故では子供の甲状腺がんが多発したこと等が記載されており,いわき市に居ることが不安になった。本件事故直後には,詳しい情報もなく,原告番号23-3ないし原告番号23-5を家の中から出さないように心掛け,外出も必要最小限にし,飲料水はミネラルウォーターを使用していた。福島第一原発の1号機の原子炉建屋が水素爆発した映像や平成23年3月14日に同原発の3号機建屋が水素爆発した映像を見ると,この爆発で大量の放射能がまき散らされ,原告らの住むいわき市にも放射能が届くのではないかと思い不安であった。いわき市の放射線量は,同月15日に大きく上昇し,テレビでの報道や放射線量を測定して公開しているウェブサイトを見ると,20μSv/h を記録していることが分かった。 そこで,原告らは,同月15日,原告番号23-1の祖母方の親戚が住んでいる茨城県龍ヶ崎市へ自動車で一時的に避難した。その後,原告番号23-1の勤務先の工場が稼働を再開し,同月中という期間を区切って発令されていた全従業員を対象とした自宅待機命令が解除され,原告番号23-1はいわき市に戻らなければならなくなり,原告番号23-3ないし原告番号23-5はいわき市には戻らせたくないと考えていたものの,親戚の家で面倒を見てもらう- 713 -こともできなかったため,原告らは,同月31日,家族全員でいわき市の自宅に戻った。 原告らは,いわき市に戻ってからも放射能の影響が心配であったため,福島県産の食品は原告番号23-3ないし原告番号23-5には食べさせないようにしたり,登下校以外では外に出さないようにしたり, 原告らは,いわき市に戻ってからも放射能の影響が心配であったため,福島県産の食品は原告番号23-3ないし原告番号23-5には食べさせないようにしたり,登下校以外では外に出さないようにしたり,体育の授業についても,外での授業は欠席させたりした。原告番号23-3ないし原告番号23-5の給食についても福島県産のものは避けたかったものの,全ての食材を避けることはできなかったが,福島県産の牛乳だけは飲まないように指示していた。 原告らは,同年6月頃,いわき市の自宅を売却し,当時の勤務先を辞めて移住しようと考えた。原告番号23-1は,避難後の転職先を探したが,同年8月頃に愛知県新城市の会社が見つかり,同年10月に正社員として採用されることが決まった。原告らは,同月初旬にはいわき市の自宅の売却が決まったため,明渡しのために原告番号23-1の実家に引っ越し,同月24日,愛知県新城市に引っ越した。いわき市の自宅から原告番号23-1の実家への引っ越し及び実家から愛知県新城市への避難の際には,引っ越し費用を抑えるために原告ら自身で荷物の積み下ろしを行い,2トントラックをレンタルして家財道具の全てを移動させた。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,平成23年10月以降,愛知県新城市で同居して生活しているが,同市に土地勘もなく,知り合いもいなかったため,市役所や病院の場所さえ分からず,非常に苦労した。原告番号23-3及び原告番号23-4は,避難先の学校に馴染むことができず,不登校になった。原告番号23-1も,慣れない避難生活によるストレスから脱毛や不眠に悩まされるようになった。 - 714 -イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当すると ない避難生活によるストレスから脱毛や不眠に悩まされるようになった。 - 714 -イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号23-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号23-1は,平成 数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号23-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号23-1は,平成23年3月15日,いわき市から茨城県龍ヶ崎市に自動車で避難したこと,同年3月31日,同市からいわき市に自動- 715 -車で戻ったこと,同年9月,自動車で愛知県へ就職のための面接に行ったこと,同年10月24日,愛知県新城市へ自動車で引っ越したことが認められる(原告番号23-1本人)。そして,これらの移動のためには,少なくとも原告番号23-1の請求する3万8060円を要したと認めるのが相当であるから,3万8060円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号23-1は,いわき市から愛知県新城市に引っ越す際に,2トントラックのレンタカーを利用したことが認められるところ,レンタカー費用としては少なくとも1万円を要したと推認することができるから(甲C23の3参照),1万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号23-1は,避難先で新たに購入した家財道具の購入費用は50万円を下らないと主張する。原告番号23-1は,家財道具を購入したことを示す領収証等を一切提出しないものの,避難先で生活するために家財道具を購入する必要があったといえ,民事訴訟法248条に基づき,その購入金額は10万円と認めるのが相当である。したがって,10万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 食費原告番号23-1は,本件事故による避難により1か月当たり1万円の食費の増加があった旨主張するが,本件事故前よ 0万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 食費原告番号23-1は,本件事故による避難により1か月当たり1万円の食費の増加があった旨主張するが,本件事故前よりも食費が1万円増加したことについて具体的な立証がないから,原告番号23-1の上記請求は認められない。 家賃増加分- 716 -原告番号23-1は,家賃補助の無くなった平成29年4月から同年12月までの家賃増加分を請求する。しかし,原告番号23-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは,平成23年12月31日までであり,原告番号23-3ないし原告番号23-5についても平成24年8月31日までであるから,それ以降の避難の継続には合理性が認められない。したがって,原告番号23-1の主張する上記損害は,本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号23-1の請求は認められない。 その他(車両)原告番号23-1は,避難先で新たに購入した自動車及びバイクの購入費用を請求する。しかし,上記の自動車は,本件事故による避難がなくとも買換えの必要性が生じていたものであり,また,上記バイクは必ずしも購入する必要のあったものとはいえない。したがって,原告番号23-1が請求する上記損害は本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号23-1の請求は認められない。 その他(自転車)原告番号23-1は,避難先で新たに購入した子供用自転車の購入費用を請求する。しかし,原告番号23-1の避難前の住居は自主的避難等対象区域であり,立入りが制限されていたわけではないから,避難前に有していた子供用自転車を 難先で新たに購入した子供用自転車の購入費用を請求する。しかし,原告番号23-1の避難前の住居は自主的避難等対象区域であり,立入りが制限されていたわけではないから,避難前に有していた子供用自転車を持ち出すことも可能であり,上記自転車は必ずしも購入する必要のあったものとはいえない。また,避難後に子供用自転車を購入することに合理性が認められたとしても,上記自転車の購入代金は家原告番号23-1が請求する上記損害は家財道具購入費とは別に本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえず,原告番号23-1の請求は認- 717 -められない。 ウ就労不能損害原告番号23-1は,本件事故による避難により月額平均5万4527円の減収を被ったと主張する。しかし,原告番号23-1が避難を行わなかったとしても,避難前の水準の給料を継続的に得られたと認めるに足りる証拠はなく,ある程度の時間を掛けて就職活動を行った上で転職しており,避難前と同等の水準の給料の会社に就職できなかったと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告番号23-1の被った減収は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号23-1の請求は認められない。 エ財物損害(家財道具)前記のとおり,原告番号23-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号23-3ないし原告番号23-5についても平成24年8月31日までであるから,いわき市の自宅を処分する必要性があったものとは認められず,避難の際に家財道具を処分する必要性も認められない。したがって,原告番号23-1は任意に家財道具の処分を行ったものといえ,処分した家財道具に関する損害は,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。 オ被ばく検査費用 も認められない。したがって,原告番号23-1は任意に家財道具の処分を行ったものといえ,処分した家財道具に関する損害は,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。 オ被ばく検査費用避難の継続の合理性が認められる時期以降であっても,本件事故による被ばくの影響を心配して検査を受けることには合理性が認められるから,検査を受ける際に要した移動費用7万4670円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カ慰謝料以外の損害合計22万2730円キ慰謝料原告番号23-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住してい- 718 -たところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号23-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号23-2の請求についてア就労不能損害原告番号23-2は,本件事故により愛知県新城市に引っ越して以降,避難により不登校となった原告番号23-3及び原告番号23-4の世話などのために就労することができなくなり,就労不能損害を被った旨主張する。しかし,本件事故による避難と原告番号23-3及び原告番号23-4の不登校とが相当因果関係を有すると認めるに足りる証拠はなく,避難後に原告番号23-2が就労することが不可能であったとはいえないから,原告番号23-2の上記主張は認められない。 イ慰謝料原告番号23-2 すると認めるに足りる証拠はなく,避難後に原告番号23-2が就労することが不可能であったとはいえないから,原告番号23-2の上記主張は認められない。 イ慰謝料原告番号23-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号23-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号23-3の請求について原告番号23-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められ- 719 -るのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号23-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号23-4の請求について原告番号23-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月ま 以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号23-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑸ 原告番号23-5の請求について原告番号23-5は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号23-5の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号23-1に対する弁済- 720 -被告東電は,原告番号23-1に対し,88万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号23-2に対する弁済被告東電は,原告番号23-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号23-3に対する弁済被告東電は,原告番号23-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号23-4に対する弁済被告東電は,原告番号23-4に対し,48万円の賠償を 3-3に対する弁済被告東電は,原告番号23-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号23-4に対する弁済被告東電は,原告番号23-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑸ 原告番号23-5に対する弁済被告東電は,原告番号23-5に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号23-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号23-1に生じた慰謝料以外の損害は22万2730円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は80万円であるから,上記金額を慰- 721 -謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号23-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号23-2本件事故により原告番号23-2に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号23-3本件事故により原告番号23-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控 告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号23-3本件事故により原告番号23-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号23-4本件事故により原告番号23-4に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 オ原告番号23-5本件事故により原告番号23-5に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号23-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号23-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号23-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号23-4- 722 -52万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ原告番号23-552万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号23-157万円(52万円+5万円)イ原告番号23-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号23-357万円(52万円+5万円)エ原告番号23-457万円(52万円+5万円)オ原告番号23-5 7万円(52万円+5万円)ウ原告番号23-357万円(52万円+5万円)エ原告番号23-457万円(52万円+5万円)オ原告番号23-557万円(52万円+5万円)第23 原告番号24の世帯 1 認定事実(甲C24の1,原告番号24-2本人(同人の陳述書(甲C24の4)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号24-1(本件事故当時49歳)及びその妻である原告番号24-2(本件事故当時33歳)は,本件事故当時,南相馬市所在の原告番号24-1の実家近くのアパート(南相馬市 ,福島第一原発からの距離24.55㎞(乙C24の2))に居住していた(以下,原告番号24-1及び原告番号24-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告らは,平成19年10月に結婚し,平成22年まで岐阜県羽島市に居住- 723 -しており,いずれも警備員の仕事をしていた。原告らは,平成22年秋頃から,原告番号24-1の父から原告らに面倒を見てもらいたいと言われたため,原告番号24-2は宮崎県出身であり南相馬市で居住したことはなかったものの,原告番号24-1の両親の面倒を見るために,南相馬市に移住することにした。そして,原告らは,平成23年1月初旬,南相馬市に引っ越し,原告番号24-1の実家近くのアパートで生活を始めた。なお,原告らは,本件事故当時は,引っ越して間もなかったこともあり,ハローワークへ行くなど求職中であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件地震直後,人づてに福島第一原発が爆発し,10㎞圏内は避難し始めていると聞き,その後,20㎞圏外でも避難する人がいることを知り,小学校に避難のバスが ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件地震直後,人づてに福島第一原発が爆発し,10㎞圏内は避難し始めていると聞き,その後,20㎞圏外でも避難する人がいることを知り,小学校に避難のバスが何台も来るのを認識した。原告らは,原告番号24-1の両親に避難するか聞いたものの,他の人に迷惑を掛けるから避難したくないとのことで避難しなかった。原告らの居住する地域は屋内退避の指示がされており,原告らのところには物資が届かず,冷蔵庫の中は空に近い状態だったが,店は閉店しており,食べる物もガソリンもない状態だった。原告らは,食料を分けてもらおうと,避難所へ行ったこともあるが,避難所で避難している人の分であり,屋内退避の人には分けられないと拒否された。もっとも,ボランティアの人が広場等で炊き出しをしたり,食料を分けたりしたため,何とか食料の確保はでき,食料の確保ができた場合には,原告番号24-1の実家へ行き,原告番号24-1の両親と共に食事をした。 原告らは,収入もなく物資もない中,何とか生活していたが,外にいる自衛隊や警察の人が防護服を着ているのを見て,かなり危険な事態だと感じ,また,情報も入りづらくなったため食料や水の調達にも支障が生じるようになっていた。原告らは,上記のような生活を続けていくことに限界を感じ,同年1月初旬まで住んでいた岐阜県羽島市の知人から同人のところへ来ないかとの誘- 724 -いがあったため,同人を頼って岐阜県羽島市に避難することとした。一方で,原告番号24-1の両親は避難せずに南相馬市に残ることになった。 原告らは,平成23年3月26日に避難することとしていたが,その前日である同月25日,ガソリンを10ℓだけ給油し,同月26日午前10時頃,自動車で岐阜県羽島市に向かい,道路の閉鎖等のため迂回しな 原告らは,平成23年3月26日に避難することとしていたが,その前日である同月25日,ガソリンを10ℓだけ給油し,同月26日午前10時頃,自動車で岐阜県羽島市に向かい,道路の閉鎖等のため迂回しなければならなかったが,同月27日午前1時頃,岐阜県羽島市の知人宅に到着した。原告らは,上記知人宅に滞在中は,知人に食事や身の回りのことで世話になったものの,気を遣うため心身共に疲弊した。 原告らは,同年5月,愛知県が被災者に対し,2年間住宅を借り上げるという情報を得て,市営住宅に入居した。原告らは,同年1月初旬に南相馬市へ転居したばかりで,求職中に本件事故が発生し,避難せざるを得なくなったが,原告番号24-1の両親は南相馬市におり,放射線量が落ち着けば福島県に戻るつもりで避難していたため,名古屋市での求職活動も思うようにいかない一方,南相馬市のアパートも解約せずに家賃を請求され続けていた。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,名古屋に転居後もなかなか仕事が決まらず,原告番号24-1の両親を南相馬市に残し,アパートもそのままにしていることが心配であった。平成23年8月には,原告番号24-1の父が入院し,原告らは3日間福島県に戻ったが,原告らが避難したことが原告番号24-1の父のストレスを増やしたのではないかと思い,避難を続けた方がいいのか大変悩んだ。 原告らは,平成23年10月,原告番号24-1の父から名古屋に避難するとの電話があったため,避難準備のために福島県に戻ったが,原告番号24-1の父は,やはり名古屋へ行かないと言い出し,結局名古屋には避難しないこととなり,その後,平成24年7月に死亡したが,原告らは,原告番号24-1の父の死に目に会うことはできなかった。その後,原告らは,平成- 725 屋へ行かないと言い出し,結局名古屋には避難しないこととなり,その後,平成24年7月に死亡したが,原告らは,原告番号24-1の父の死に目に会うことはできなかった。その後,原告らは,平成- 725 -25年1月,同年2月,同年6月(2回)及び同年7月に福島県に一時的に戻ったが,同月に戻った際にアパートを解約した。また,原告番号24-1の母は,平成26年8月に死亡した。 原告らは,現在は,市営住宅に居住し,平成26年頃からは警備員として働いている。また,原告番号24-1は,平成23年11月,左低音障害型感音難聴と診断されている(甲C24の5)。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,旧緊急時避難準備区域に該当するところ,緊急時避難準備区域は平成23年9月30日に解除され,同年10月以降,小中学校や高校が授業を再開し,平成24年4月以降には小中学校の屋外活動時間の制限も解除された。また,平成24年5月時点で医療機関等も活動を再開している(第5部第1章。さらに,原告らの本件事故当時の住所地近くである南相馬市役所の環境放射能は,平成24年4月1日には0.38μSv/h,平成25年4月1日には0.29μSv/h,平成26年4月1日には0.22μSv/h,平成27年4月1日には0.17μSv/h,平成28年4月1日には0.14μSv/h,平成29年4月1日には0.11μSv/h と推移しており(乙B171の1ないし5,乙B269),年々減少している。また,南相馬市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日時点で4729人,平成28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時 4年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日時点で4729人,平成28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章ウ)。そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセント,森林46パーセント,道路6パーセントであり,平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章第2の4)。平成23年6月27日- 726 -から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,南相馬市で検査を受けた4240人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 上記のとおり,原告番号24-1の両親は既に死亡しているものの,両親の墓は福島県に残っている。 2 損害についての検討⑴ 原告番号24-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号24-1が請求し,被告東電が既に賠償した29万7390円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号24-1が請求し,被告東電が既に賠償した14万2800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号24-1が請求し,被告東電が既に賠償した2万4800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他原告番号24-1は,平成26年7月,同年8月及び同年9月に原告番号24-1の母や叔父 が既に賠償した2万4800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他原告番号24-1は,平成26年7月,同年8月及び同年9月に原告番号24-1の母や叔父の見舞いや葬儀のために福島県に帰省した際の費用として合計35万3800円を請求する。しかし,原告番号24-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは,平成24年8月31日までである。したがって,原告番号24-1が請求する上記費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号24-1の上記請求は認められ- 727 -ない。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号24-1は,家財道具購入費として46万3737円を請求するが,被告東電が既に賠償した46万0824円を超えて原告番号24-1が家財道具購入費を支出したと認めるに足りる証拠はない。したがって,46万0824円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 なお,原告番号24-1は,通院交通費増加分についても家財道具購入費に含めて請求しているものと解されるが,これは家財道具購入費ということはできない。 その他(衣類購入費用等)原告番号24-1が請求し,被告東電が既に賠償した10万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 家賃増加分原告番号24-1が請求し,被告東電が既に賠償した68万1775円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ就労不能損害原告番号24-1が請求し,被告東電が既に賠償した608万0375円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ慰謝料以外 を有する損害と認める。 ウ就労不能損害原告番号24-1が請求し,被告東電が既に賠償した608万0375円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ慰謝料以外の損害合計778万7964円オ慰謝料原告番号24-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告- 728 -番号24-1の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号24-2の請求について原告番号24-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号24-2の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号24-1に対する弁済被告東電は,原告番号24-1に対し,978万7964円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号24-2に対する弁済被告東電は,原告番号24-2に対し,180万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号24-1本件事故により原告番号24-1に生じた損害額である958万7964円から,被告東電の弁済額である978万7964円を控除すると0円となる。 イ原告番号24-2本件事 本件事故により原告番号24-1に生じた損害額である958万7964円から,被告東電の弁済額である978万7964円を控除すると0円となる。 イ原告番号24-2本件事故により原告番号24-2に生じた損害額である180万円から,被告東電の弁済額である180万円を控除すると0円となる。 ⑵ 認容額ア原告番号24-1棄却- 729 -イ原告番号24-2棄却第24 原告番号26の世帯 1 認定事実(甲C26の1,原告番号26-2本人)⑴ 本件事故前の状況等原告番号26-1(本件事故当時49歳),その妻である原告番号26-2(本件事故当時44歳),原告番号26-1及び原告番号26-2の長女である原告番号26-3(本件事故当時12歳)は,本件事故当時,白河市内の一戸建ての借家(白河市 ,福島第一原発からの距離82.08㎞(乙C26の1))に居住していた(以下,原告番号26-1ないし原告番号26-3を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号26-1は,白河市出身であり,本件事故当時から現在に至るまで,保険代理店を経営し,白河市に居住している。原告番号26-2は,岐阜県出身であり,本件事故当時,専業主婦であり,原告番号26-3は,白河市内の小学校に通っていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件地震の後,平成23年3月12日の夕方に福島第一原発で爆発があったとの報道があり,原告番号26-2の母が居住する愛知県津島市に避難しようと同日午後7時頃に白河市を出発した。原告らは,同月13日,愛知県津島市に到着し,原告番号26-3の小学校の卒業式が行われた同月28日の前日である同月27日まで同市で 住する愛知県津島市に避難しようと同日午後7時頃に白河市を出発した。原告らは,同月13日,愛知県津島市に到着し,原告番号26-3の小学校の卒業式が行われた同月28日の前日である同月27日まで同市で生活していたが,同日,白河市に戻った。 もっとも,原告らは,インターネットでチェルノブイリ原子力発電所事故などの情報を得て放射線による健康被害があることを知り,被ばくを恐れて自宅の窓は全く開けず,外出は控え,外出する際には必ずマスクを着用し,飲料水はペットボトルのものにしていた。 原告らは,平成23年4月中旬頃,無償で名古屋市所在の住宅を貸してくれ- 730 -る原告番号26-2の友人がいるとの話があり,同年5月の連休に名古屋市へ下見に行き,自主避難を選択する知り合いも増えていたことから,原告番号26-2及び原告番号26-3は名古屋市に避難することを決断した。その後,原告番号26-2及び原告番号26-3は,同年6月,名古屋市i 区jの住宅に引っ越したが,過去に水害があったことや南海トラフ地震があった場合には津波が来る可能性が高いことから,平成24年2月29日にi 区kの民間の住居に引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号26-1は,原告番号26-2及び原告番号26-3の避難後も,白河市に残って保険代理店の経営を続けており,2か月に1回程度の頻度で原告番号26-2及び原告番号26-3に会うために名古屋市に来るという生活をしていた。原告番号26-2は,名古屋で仕事を探したものの,良い条件の仕事を見つけることはできなかった。原告番号26-3は,名古屋市内の中学校に転校したが,学校に馴染めず不登校気味になった。また,原告番号26-3は,中学校2年生の時にバセドー病と診断されたが,医師には放射 つけることはできなかった。原告番号26-3は,名古屋市内の中学校に転校したが,学校に馴染めず不登校気味になった。また,原告番号26-3は,中学校2年生の時にバセドー病と診断されたが,医師には放射線によるものか,ストレスによるものか判断できないと言われた。 その後,原告番号26-3は,名古屋市内の高校を卒業して京都の大学に進学し,原告番号26-3の大学進学後は,原告番号26-1は原告番号26-3に会いに京都に行くという生活をしている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,区域外(福島県県南地域)に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた白河市における環境放射能は,平成24年4月には0.10ないし0.45μSv/h,平成25年4月には0. 08ないし0.37μSv/h,平成26年4月には0.07ないし0.23μSv/h,平成27年4月には0.06ないし0.20μSv/h,平成28年4月- 731 -には0.06ないし0.17μSv/h,平成29年4月には0.06ないし0. 16μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,白河市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で119人,平成25年4月1日時点で254人,平成26年4月1日時点で275人,平成27年4月1日時点で238人,平成28年4月1日時点で225人,平成29年4月1日時点で43人と推移しており(第5部第1章),平成27年以降年々減少している。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,白河市で検査を受けた2万2153人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている( 行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,白河市で検査を受けた2万2153人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号26-1の請求について原告番号26-1は,本件事故当時,区域外の白河市に居住していたところ,本件事故当時の居住地と福島第一原発及び避難指示区域の位置関係,放射線量,避難者の年齢,家族構成及び心身の状況,避難者が入手した放射線量に関する情報,本件事故から避難を選択するまでの期間等の諸事情を総合的に考慮して,避難の継続の合理性が認められるのは,自主的避難等対象区域に居住していた者と同様に平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,自主的避難等対象区域に居住していた者と同様に月額6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,区域外に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号26-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号26-2の請求について原告番号26-2は,本件事故当時,区域外の白河市に居住していたところ,本件事故当時の居住地と福島第一原発及び避難指示区域の位置関係,放射線- 732 -量,避難者の年齢,家族構成及び心身の状況,避難者が入手した放射線量に関する情報,本件事故から避難を選択するまでの期間等の諸事情を総合的に考慮して,避難の継続の合理性が認められるのは,自主的避難等対象区域に居住していた者と同様に平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,自主的避難等対象区域に居住していた者と同様に月額6万円とするのが相当である。そ 主的避難等対象区域に居住していた者と同様に平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,自主的避難等対象区域に居住していた者と同様に月額6万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わなかった者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号26-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号26-3の請求について原告番号26-3は,本件事故当時,区域外の白河市に居住し,18歳以下であったところ,本件事故当時の居住地と福島第一原発及び避難指示区域の位置関係,放射線量,避難者の年齢,家族構成及び心身の状況,避難者が入手した放射線量に関する情報,本件事故から避難を選択するまでの期間等の諸事情を総合的に考慮して,避難の継続の合理性が認められるのは,自主的避難等対象区域に居住していた者と同様に平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,自主的避難等対象区域に居住していた者と同様に平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,本件事故後直ちに避難を行わなかった者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。 したがって,原告番号26-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号26-1に対する弁済被告東電は,原告番号26-1に対し,4万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号26-2に対する弁済- 733 -被告東電は,原告番号26-2に対し,4万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号26-3に対する弁済被告東電は,原告番号26-3に対し,24万円の賠償を行ったこ 733 -被告東電は,原告番号26-2に対し,4万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号26-3に対する弁済被告東電は,原告番号26-3に対し,24万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号26-1本件事故により原告番号26-1に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である4万円を控除すると56万円となる。 イ原告番号26-2本件事故により原告番号26-2に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である4万円を控除すると56万円となる。 ウ原告番号26-3本件事故により原告番号26-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である24万円を控除すると76万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号26-156万円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号26-256万円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号26-376万円の約1割である8万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 734 -⑶ 認容額ア原告番号26-162万円(56万円+6万円)イ原告番号26-262万円(56万円+6万円)ウ原告番号26-384万円(76万円+8万円)第25 原告番号27の世帯 1 認定事実(原告番号27-1本人(同人の陳述書(甲C27の1・8)を含む。 以下同じ。))⑴ 本件事 番号26-384万円(76万円+8万円)第25 原告番号27の世帯 1 認定事実(原告番号27-1本人(同人の陳述書(甲C27の1・8)を含む。 以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号27-1(本件事故当時36歳)及びその長男である原告番号27-2(本件事故当時11歳)は,本件事故当時,いわき市所在の一戸建ての借家(いわき市 ,福島第一原発からの距離42.62㎞(乙C27の1))に居住しており,原告番号27-1の母である原告番号27-3(本件事故当時69歳)及び原告番号27-1の姉である原告番号27-4(本件事故当時40歳)は,本件事故当時,原告番号27-1の実家(いわき市 ,福島第一原発からの距離42.66㎞(乙C27の3))に居住していた(以下,原告番号27-1ないし原告番号27-4を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号27-1は,いわき市出身で,平成9年頃に結婚したが,平成13年に離婚し,それ以降,長男である原告番号27-2と一緒に生活していた。 また,原告番号27-1は,平成20年頃に看護師の資格を取り,本件事故まで看護師として働いていた。原告番号27-2は,本件事故当時,小学校5年生であり,小学校のバスケットボール部に所属し,楽しく学校に通っていた。 原告番号27-3は,長年美容院を経営し,本件事故当時も美容院の経営を続- 735 -けていた。原告番号27-4は,高校卒業以来,医療事務の仕事に従事し,本件事故まで20年近くにわたって同じ職場で働いていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,平成23年3月12日に福島第一原発が爆発したという情報を聞いても詳しい状況についてはよく分からなかったものの 0年近くにわたって同じ職場で働いていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,平成23年3月12日に福島第一原発が爆発したという情報を聞いても詳しい状況についてはよく分からなかったものの,同月14日,知人の放射線技師の夫婦から,「勤務先であるいわき市の福島労災病院の敷地の放射線量を測定したら,とんでもなく高い。余りに危険なので私たち家族は長野に逃げる。あなたたちも行けるところがあったら一刻も早く逃げた方がいい。特に原告番号27-2のような子供はここにいたら絶対にだめだ。」との連絡をもらい,原告らは,名古屋市の親戚のところに避難することを決断した。 原告らは,同月15日,自動車2台に最低限度の生活用品を積んで福島空港へ向けて出発したが,福島空港は避難の人たちが大勢おり,チケットが入手できる状況ではなかったため,そのまま自動車で名古屋市まで行くこととした。 原告らは,栃木県まで行ったところで,太平洋側を走ったのではガソリンが入手できない状況であることが分かり,一旦福島県まで戻り,新潟,長野,岐阜,名古屋というルートに変更し,同月16日夜,名古屋市に到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,名古屋市に到着後約1か月間は親戚の家に滞在し,この間,原告番号27-1は近くで看護師のアルバイト先を見つけ,原告番号27-2は近くの小学校に仮入学することができた。その後,原告らは,平成23年4月頃には県営住宅に入居し,同年12月には愛知県の借り上げ住宅に転居した。 避難後は,原告番号27-3は入退院を繰り返し,原告番号27-4はメニエール病を発症して入通院するなどした。原告番号27-1は,平成23年12月に借り上げ住宅に引っ越した後は,正社員で雇ってくれる病院に転- 736 - 3は入退院を繰り返し,原告番号27-4はメニエール病を発症して入通院するなどした。原告番号27-1は,平成23年12月に借り上げ住宅に引っ越した後は,正社員で雇ってくれる病院に転- 736 -職し,原告番号27-4は,平成26年1月から食品工場でアルバイトを始めた。原告番号27-3は,避難してからずっと家に閉じこもった生活をしていたが,平成26年頃からは地域のコミュニティセンターでの活動に参加するようになった。原告番号27-2は,学校ではたくさんの友人ができ,基本的に中学校・高校生活は特に大きな問題はなく過ごすことができた。 原告らは,平成29年3月で住宅の借り上げ制度が終了し,同年4月からは家賃の半額が補助されることとなったが,家賃の負担ができなかったため,平成29年1月に名古屋市g区のマンションに転居した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人 満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2),年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人- 737 -全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告番号27-1は,避難後もいわき市の借家の家賃を支払っていたが,平成23年8月に解約した。 2 損害についての検討⑴ 原告番号27-1の請求についてア一時立入・帰省費用原告番号27-1は,平成24年8月から平成28年11月までの間に5回にわたって帰省し,その際の交通費として合計21万6000円を請求する。しかし,原告番号27-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号27-2についても平成24年8月31日までであるから,本件事故と相当因果関係を有する損害は同月の帰省に要した費用に限られるというべきである。したがって,3万1512円(甲C27の2)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号 に限られるというべきである。したがって,3万1512円(甲C27の2)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号27-1は,借りて使用していた冷蔵庫の修理費用を請求する。しかし,原告番号27-1が実際に冷蔵庫の修理費用を支払ったと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告番号27-1の上記請求は認められない。 被服費原告番号27-1は,冬物衣類・雑貨購入費として6237円を請求する。しかし,原告番号27-1が実際に冬物衣類・雑貨等の購入費用を支払ったと認めるに足りる証拠はなく,また,衣類等は福島県の自宅から持ち出すことが可能であったから,冬物衣類・雑貨等の購入は本件事故と相- 738 -当因果関係を有するとはいえない。したがって,原告番号27-1の上記請求は認められない。 ウ財物損害原告番号27-1は,福島県の自宅の除草剤購入費用や修理材料代として1万1308円を請求する。しかし,自宅の除草は本件事故がなくとも必要となるものであり,自宅の修理についても本件事故ではなく本件地震により修理が必要となった可能性が高く,自宅の除草や修理に要した費用が本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。したがって,原告番号27-1の上記請求は認められない。 エ慰謝料以外の損害合計3万1512円オ慰謝料原告番号27-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告 前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号27-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号27-2の請求について原告番号27-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号27-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号27-3の請求について原告番号27-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していた- 739 -ところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号27-3の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号27-4の請求について原告番号27-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号27-4の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号27-1に対する弁済 についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号27-4の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号27-1に対する弁済被告東電は,原告番号27-1に対し,44万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号27-2に対する弁済被告東電は,原告番号27-2に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号27-3に対する弁済被告東電は,原告番号27-3に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号27-4に対する弁済被告東電は,原告番号27-4に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号27-1- 740 -前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号27-1に生じた慰謝料以外の損害は3万1512円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は36万円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号23-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ 料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号23-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号27-2本件事故により原告番号27-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号27-3本件事故により原告番号27-3に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号27-4本件事故により原告番号27-4に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号27-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号27-2- 741 -52万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号27-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号27-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号27-157万円(52万円+5万円)イ原告番号27-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号27-357万円(52万円+5万円)エ原告番号27-457万円(52万円+5万円)第26 原告番号28の世帯 (52万円+5万円)ウ原告番号27-357万円(52万円+5万円)エ原告番号27-457万円(52万円+5万円)第26 原告番号28の世帯 1 認定事実(甲C28の1の1・2,甲C28の12)⑴ 本件事故前の状況等原告番号28-1(本件事故当時25歳)は,本件事故当時,郡山市内の当時の勤務先の社宅アパート(郡山市,福島第一原発からの距離59.96㎞(乙C28の3))で居住しており,原告番号28-2(本件事故当時23歳)は,浪江町所在の実家(浪江町 ,福島第一原発からの距離8.31㎞(乙C28の5))に両親と兄と共に居住していた(以下,原告番号28-1及び原告- 742 -番号28-2の2名又は上記2名に原告番号28-3を加えた3名を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告らは,本件事故当時,交際中であり,結婚を考えていたが,具体的な時期等はまだ決まっていない状況であった。原告番号28-2は,本件事故当時は無職であったが,いずれは原告番号28-1と共に郡山市内に居住しようと考えていたため,平成22年10月頃から郡山市内の就職情報に目を通していた。原告番号28-2は,正社員として働けるところを探していたところ,郡山市内のある団体が平成23年2月から正社員の募集を始めることを知り,面接は実際に就職する地域で受けることが望ましく,郡山市で就職したい場合には住民票を郡山市に移し,その住民票を持参するように言われたため,同年1月,実際にはまだ浪江町の実家に住んでいたが,住民票だけを原告番号28-1の社宅に移動させていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,平成23年3月1 持参するように言われたため,同年1月,実際にはまだ浪江町の実家に住んでいたが,住民票だけを原告番号28-1の社宅に移動させていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,平成23年3月12日に原告番号28-2の両親に結婚の許しを得るため挨拶に行く予定であり,その前日である同月11日に原告番号28-2が原告番号28-1の住む社宅まで迎えに行き,そこで一泊する予定であった。しかし,原告番号28-2が,同月11日,自宅を出て郡山市に向かう途中,本件地震が発生し,自宅近くに住む祖母宅に寄り,祖母が無事であることを確認した。原告番号28-2は,その後,予定どおり原告番号28-1の社宅に行き,同日の夜はそこで一泊したが,翌日以降も浪江町の実家に帰ることはできなかった。本件地震直後は,ガソリンスタンドは営業しておらず,いつ営業開始かも分からない状態であり,自動車で避難しようにもガソリンがないために避難することができなかった。原告番号28-2の家族の安否が分かったのは,原告番号28-2の両親については同月13日,浪江町役場に勤めていた原告番号28-2の兄については同月15日になってからであった。このような中,原告番号28-1が勤務先から避難するように指示された。原告番- 743 -号28-2は,家族となかなか連絡が取れない状況で家族を福島県に残して原告らだけが県外に避難することについては迷ったが,一人で原告番号28-1の社宅に残ることは不安であり,原告番号28-1の会社に迷惑を掛けることにもなるため,原告番号28-2も原告番号28-1と一緒に一時的に名古屋市の原告番号28-1の実家に避難することにした。そして,原告らは,同月18日から同月28日まで名古屋市の原告番号28-1の実家に滞在したが,同月28日には原告番号28-1の仕事の関係 時的に名古屋市の原告番号28-1の実家に避難することにした。そして,原告らは,同月18日から同月28日まで名古屋市の原告番号28-1の実家に滞在したが,同月28日には原告番号28-1の仕事の関係で郡山市に戻ることとなった。 原告らが郡山市に戻ってからも,原告番号28-2が実家に戻れるような状況ではなく,両親と合流することもできなかったので,原告番号28-2は原告番号28-1の社宅に居住していた。もっとも,原告番号28-1の社宅は社員とその家族しか住むことができないことになっており,原告番号28-1の勤務先からは,原告番号28-2が引き続きそこに留まるのであれば早く結婚するように言われ,原告らは同年4月2日に結婚した。 原告番号28-2は,平成23年6月,妊娠していることが発覚し,病院から外出は最低限必要なものに限るよう指導され,妊婦健診等どうしても必要な外出のみに限って行っていた。原告番号28-1は,原告番号28-2の妊娠が分かり,勤務先に転勤希望を出したが,勤務先からは,平成23年度だけはこのまま働いてほしいと言われた。原告らは,平成23年9月,原告番号28-1の勤務先の家族向けの社宅がある地域(郡山市)の方が,原告らが従前住んでいた社宅よりも放射線量が低いと知り,引っ越すことを決めた。 原告番号28-2は,平成24年1月24日,長女である原告番号28-3を出産した。原告らは,原告番号28-3が生まれて以降は,乳児健診以外の外出を避け,母乳を与えることから原告番号28-2が食べる食材にも気を配って生活した。それでも,原告らは,子供の健康への不安を拭うことはできず,将来的に子供に放射線の影響が出ることを恐れ,原告番号28-1は勤務先を- 744 -退職し,原告らは,平成24年3 を配って生活した。それでも,原告らは,子供の健康への不安を拭うことはできず,将来的に子供に放射線の影響が出ることを恐れ,原告番号28-1は勤務先を- 744 -退職し,原告らは,平成24年3月,愛知県に避難することを決断した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,平成24年3月,自動車で愛知県に避難し,以後,原告番号28-1の祖父の家で空き家になっていた家に居住することになった。原告番号28-1の祖父の家は,長年使っていなかったということもあり,流し台やトイレ等の水回りは全て買換えが必要であり,畳の張替えも必要であった。その後,原告らは,原告番号28-1の祖父の家が泥棒に入られたことをきっかけに,借り上げ住宅に応募し,平成25年3月に引っ越した。なお,原告らが当初借り上げ住宅に入居しなかったのは,借り上げ住宅に入居すると,周囲の人に福島県から来たと分かってしまうからであった。 原告番号28-1は,愛知県に避難してからすぐに就職先を探し始めたが,なかなか見つからず,就職活動の傍ら,平成24年9月から平成25年2月まで,福島県からの避難者対象のパートタイム職として勤務した。原告番号28-1は,その後もなかなか就職先が見つからなかったものの,平成26年4月からにとして就職した。それと同時に,原告らの住居も官舎に移った。 イ本件事故時住所地の状況等 原告番号28-1の本件事故時住所地の状況本件事故前の原告28-1の居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告28-1が本件事故当時に居住していた郡山市における環境放射能は,平成23年3月には1.00ないし2.12μSv/h,平成24年4月には0.06ないし1.32μSv/h,平成2 該当するところ,原告28-1が本件事故当時に居住していた郡山市における環境放射能は,平成23年3月には1.00ないし2.12μSv/h,平成24年4月には0.06ないし1.32μSv/h,平成25年4月には0.06ないし0.94μSv/h,平成26年4月には0.05ないし0.33μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.26μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0.19μSv/h,平成29年4月には0.04ない- 745 -し0.17μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,郡山市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で2801人,平成25年4月1日時点で2590人,平成26年4月1日時点で2311人,平成27年4月1日時点で2032人,平成28年4月1日時点で1880人,平成29年4月1日時点で1707人と推移しており(第5部第1章,年々減少している。 そして,郡山市の平成28年6月末時点の除染状況は,森林は完了し,住宅94.3パーセント,公共施設等97.3パーセント,道路34.1パーセント,農地75.6パーセントであった(第5部第1章。 平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,郡山市で検査を受けた3万4035人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告番号28-2の本件事故時住所地の状況本件事故前の原告28-2の居住地は,旧避難指示解除準備区域に該当するところ,原告番号28-2が本件事故当時に居住していた浪江町の実家近くの浪江町役場における環境放射能は,平成24年4月1日午前8時には 故前の原告28-2の居住地は,旧避難指示解除準備区域に該当するところ,原告番号28-2が本件事故当時に居住していた浪江町の実家近くの浪江町役場における環境放射能は,平成24年4月1日午前8時には0.20μSv/h,平成25年4月1日午前8時には0.14μSv/h,平成26年4月1日午後5時には0.12μSv/h,平成27年4月1日午前8時には0.10μSv/h,平成28年4月1日午前8時には0.08μSv/h,平成29年4月1日午前8時には0.07μSv/h と推移しており(乙B171の1ないし5,乙B269),年々低下している。また,浪江町における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3298人,平成25年4月1日時点で3276人,平成26年4月1日時点で3133人,平成27年4月1日時点で3039人,平成28年4月1日時点で2960人,平成29年4月1日時点で2846人と推移してお- 746 -り,年々減少している(第5部第1章)。そして,浪江町の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地19パーセント,農地18パーセント,森林34パーセント,道路40パーセントであり,平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,浪江町では預託実効線量が1mSv 未満の者が1万2299人/1万2306人(約99.9%)となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 また,原告番号28-2が本件事故当時に居住していた浪江町の実家は避難指示解除準備区域に所在していたところ,上記区域は平成29年3月31日に解除された。 2 損 る(乙B418)。 また,原告番号28-2が本件事故当時に居住していた浪江町の実家は避難指示解除準備区域に所在していたところ,上記区域は平成29年3月31日に解除された。 2 損害についての検討⑴ 原告番号28-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号28-1は,平成23年3月18日,郡山市から名古屋市の実家に飛行機で一時避難し,同月28日,新幹線,バス,タクシーを乗り継いで郡山市に戻ったことが認められる(弁論の全趣旨)。そして,往路の航空費は原告番号28-1の会社が負担したため原告番号28-1の支出はないから,復路の交通費として少なくとも1万7320円(新幹線1万5320円(甲C28の16)及びバス2000円(甲C28の17))が本件事故と相当因果関係を有する損害として認められる。また,平成24年3月に名古屋市l区の原告番号28-1の祖父所有の家に自動車で避難した際の交通費は1万円と認めるのが相当であるから,1万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。したがって,合計2万732- 747 -0円が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。 引っ越し費用原告番号28-1が請求し,被告東電が既に賠償した22万5000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(名古屋市l区の避難先の修繕費)原告番号28-1は,祖父の家の修繕費用として31万8924円を請求する。しかし,排水管コックの8924円(甲C28の3)を除いては,上記祖父の家の修繕のために原告番号28-1が実際に支出したと認めるに足りる証拠はない。したがって,8924円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ 甲C28の3)を除いては,上記祖父の家の修繕のために原告番号28-1が実際に支出したと認めるに足りる証拠はない。したがって,8924円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号28-1は,原告番号28-2のために買い替えたベッドの購入代金として17万2200円を請求する。しかし,原告番号28-1が従前使用していたベッドの周辺の放射線量が健康に影響を及ぼす程度のものであったと認めるに足りる証拠はなく,本件事故によりベッドの買換えを余儀なくされたということはできないから,ベッドの購入代金は本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできず,原告番号28-1の上記請求は認められない。 原告番号28-1は,祖父の家に避難した際に購入したエアコン2台,エアコン工事代,照明器具,ダイニングセット,ガス給湯器及び網戸の購入費用を請求する。そして,エアコン2台の購入代金及びエアコン工事費用7万9531円(甲C28の5・6)の限度でのみ,実際に購入したことを示す証拠が提出されているものの,その他にも生活のために家財道具を購入する必要性が生じたと推認することができるから,民事訴訟法248条に基づき,生活に必要な家財道具の購入に少なくとも10万円を要し- 748 -たと認めるのが相当である。したがって,10万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 食費原告番号28-1は,本件事故前は原告番号28-2の実家から食材を送ってもらっていたが,本件事故後は店舗等で購入する必要が生じ,少なくとも月額1万円,本件事故後3年間にわたって食費が余分に掛かった旨主張する。しかし,本件事故により食費が増加したことについて具体的に主 もらっていたが,本件事故後は店舗等で購入する必要が生じ,少なくとも月額1万円,本件事故後3年間にわたって食費が余分に掛かった旨主張する。しかし,本件事故により食費が増加したことについて具体的に主張立証されているとはいえず,原告番号28-1の上記請求は認められない。 その他(駐車場代)原告番号28-1は,平成25年3月から平成26年3月まで支払っていた駐車場代として9万7500円を請求する。しかし,原告番号28-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号28-3についても平成24年8月31日までである。また,原告番号28-2は,本件事故当時は,旧避難指示解除準備区域に居住していたものの,原告番号28-1と結婚後は郡山市に居住しようと考えていたことから,平成23年12月以降郡山市等の福島県内に帰還することができなかったということはできない。したがって,平成25年3月以降の駐車場代については,当該時期には避難の継続の合理性が認められないから,本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできず,原告番号28-1の上記請求は認められない。 ウ就労不能損害原告番号28-1は,平成24年4月から平成26年4月までの就労不能損害を請求するが,避難から約1年後の平成25年3月までには再就職できた可能性が高く,本件事故による避難の影響により同月までに再就職できな- 749 -かったと認めるに足りる証拠はない。したがって,平成24年4月から平成25年3月までに本件事故による避難がなければ得られたであろう収入が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。そして,原告番号28-1の に足りる証拠はない。したがって,平成24年4月から平成25年3月までに本件事故による避難がなければ得られたであろう収入が本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。そして,原告番号28-1の避難前の年収は345万7448円であり(甲C28の7),これを基礎として就労不能損害を算定すべきところ,原告番号28-1は,平成24年9月から平成25年2月までの間に約57万円の収入を得ていたから(甲C28の1の1),同収入は上記年収額から控除すべきである。したがって,288万7448円(345万7448円-57万円=288万7448円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ被ばく検査費用原告番号28-1が請求し,被告東電が既に賠償した2580円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ慰謝料以外の損害合計325万1272円カ慰謝料原告番号28-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,上記期間内に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号28-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号28-2の請求についてア避難費用 交通費原告番号28-2は,平成23年3月18日,郡山市から名古屋市の原- 750 -告番号28-1の実家に飛行機で一時避難し,同月28日,新幹線,バス,タクシーを乗り継いで郡山市に戻ったことが認 原告番号28-2は,平成23年3月18日,郡山市から名古屋市の原- 750 -告番号28-1の実家に飛行機で一時避難し,同月28日,新幹線,バス,タクシーを乗り継いで郡山市に戻ったことが認められる(弁論の全趣旨)。 その具体的な経路,手段は,平成23年3月18日,飛行機で福島空港から新千歳空港,新千歳空港から中部国際空港へと移動し,同月28日,新幹線,バス,タクシーを乗り継いで郡山市に戻るというものであったことが認められる(弁論の全趣旨)。そして,航空費としては少なくとも原告番号28-2の請求する7万7310円を要したと認めるのが相当である(甲C28の18の1・2参照)。また,復路の交通費として少なくとも1万7320円(新幹線1万5320円(甲C28の16)+バス2000円(甲C28の17))を要したと認めるのが相当である。したがって,9万4630円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号28-2が請求し,被告東電が既に賠償した8万0790円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号28-2は,本件事故当時,旧避難指示解除準備区域に居住していたと認められるが,原告番号28-1と結婚後は郡山市に居住するつもりであったから,平成24年1月には同市に戻ることができたといえ,原告番号28-3についても平成24年9月には郡山市に戻ることは可能であったから,平成24年9月以降の一時立入・帰省の際に要した名古屋市から福島市までの交通費は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。したがって,被告東電が既に賠償した21万6000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,21万6000円を本件事故と相当因 は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。したがって,被告東電が既に賠償した21万6000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,21万6000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費- 751 -原告番号28-2は,郡山市内で原告番号28-1の単身者用の社宅から家族用の社宅に引っ越す際に購入したベッドの購入費用を請求する。しかし,原告番号28-2は,浪江町の実家からベッドを持ち出せなくとも平成23年4月から同年9月までの間も単身者用の社宅で原告番号28-1と2人で生活していたのであり,上記ベッドは本件事故により購入を余儀なくされたものとはいえず,原告番号28-2の任意の判断で購入したものといえる。したがって,原告番号28-2の上記請求は認められない。 食費 本件事故により食費が増加したことについて具体的に主張立証されているとはいえないから,原告番号28-2の上記請求は認められない。 ウ慰謝料以外の損害合計39万1420円エ慰謝料原告番号28-2は,本件事故当時,旧避難指示解除準備区域にある浪江町の実家に居住しており,旧避難指示解除準備区域が解除されるまで,実家へ立入りが制限されるなど,本件事故により長期間にわたって不都合を被ったといえる。一方で,原告番号28-2は,自主的避難等対象区域である郡山市に居住している原告番号28-1と将来的には結婚して郡山市に居住するつもりであり,住民票も郡山市に移していたことなどからすれば,本件事故がある程度収束した段階で郡山市に帰還することも可能であったといえる。したがって,その他諸般の事情を総合的に考 て郡山市に居住するつもりであり,住民票も郡山市に移していたことなどからすれば,本件事故がある程度収束した段階で郡山市に帰還することも可能であったといえる。したがって,その他諸般の事情を総合的に考慮して,原告番号28-2の慰謝料は,200万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号28-3の請求について原告番号28-3は,本件事故当時は,まだ出生していなかったものの,平- 752 -成24年3月に愛知県に引っ越すまでには郡山市に出生し,放射線被ばくの影響に対する不安を感じ得る地域に居住していたから,出生した平成24年1月から同年8月まで月額5万円の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号28-3の慰謝料は40万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号28-1に対する弁済証拠(乙C28の1・9・10)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号28-1に対し,282万2446円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号28-2に対する弁済証拠(乙C28の1・9・10)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号28-2に対し,87万6790円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号28-3に対する弁済証拠(乙C28の1・9・10)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号28-3に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号28-1本件事故により原告番号28-1に生じた損害額である385万1272円から,被告東電の弁済額である282万2446円を控除すると102万8826円となる。 イ原告番号28-2本件事故により原告番号2 8-1に生じた損害額である385万1272円から,被告東電の弁済額である282万2446円を控除すると102万8826円となる。 イ原告番号28-2本件事故により原告番号28-2に生じた損害額である239万1420円から,被告東電の弁済額である87万6790円を控除すると151万4630円となる。 - 753 -ウ原告番号28-3本件事故により原告番号28-3に生じた損害額である40万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると32万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号28-1102万8826円の約1割である10万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号28-2151万4630円の約1割である15万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号28-332万円の約1割である3万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号28-1112万8826円(102万8826円+10万円)イ原告番号28-2166万4630円(151万4630円+15万円)ウ原告番号28-335万円(32万円+3万円)第27 原告番号30の世帯 1 認定事実(原告番号30-2本人(同人の陳述書(甲C30の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号30-2(本件事故当時39歳),その夫である原告番号30-1(本件事故当時42歳)及び原告番号30-2の長女である原告30-3(本- 754 -件事故当時11歳),長男である原告番号3 原告番号30-2(本件事故当時39歳),その夫である原告番号30-1(本件事故当時42歳)及び原告番号30-2の長女である原告30-3(本- 754 -件事故当時11歳),長男である原告番号30-4(本件事故当時9歳)は,本件事故当時,南相馬市所在の原告番号30-1の実家(南相馬市,福島第一原発からの距離22.91㎞(乙C30の3))に居住していた。一方,原告番号30-1は,岐阜県下呂市に単身赴任していた。(以下,原告番号30-1ないし原告番号30-4を併せて,この項において「原告ら」という。)原告番号30-1及び原告番号30-2は,共に福島県原町市(現在の南相馬市原町区)に生まれ,平成4年に結婚し,その後,平成11年に原告番号30-3,平成13年に原告番号30-4が誕生した。原告らは,上記自宅で,原告番号30-1の両親,原告番号30-1の弟2人,原告らの8人で生活していた。原告番号30-1は,本件事故当時は岐阜県下呂市で単身赴任中であったが,平成24年9月には単身赴任を終えて自宅に戻る予定であり,原告番号30-1以外の原告らは,原告番号30-1の実家で原告番号30-1の両親等と生活していたため,家賃を負担する必要はなく,水道光熱費や電話の費用を負担する必要はなかった。また,原告らは,原告番号30-1の両親が作った野菜を食べて生活していたため,野菜を買うことはほとんどなかった。 ⑵ 避難開始の経緯等政府は,本件事故後間もなく,福島第一原発から20㎞以内の道路を封鎖し,平成23年3月15日には,屋内退避指示を出した。原告らは,自宅周辺が異常な事態になっていることを感じたが,放射能の飛散情報は原告ら住民には具体的には伝えられなかった。また,南相馬市内では,本件事故発生から同月1 15日には,屋内退避指示を出した。原告らは,自宅周辺が異常な事態になっていることを感じたが,放射能の飛散情報は原告ら住民には具体的には伝えられなかった。また,南相馬市内では,本件事故発生から同月15日頃までの間にスーパーマーケットやコンビニエンスストアには食料が無くなり,ガソリンも給油できなくなった。原告らは,自宅周辺の放射能の被ばく状況が判断できず,食料やガソリンの調達の目途が立たなかったため,原告番号30-3及び原告番号30-4を被ばくや食料不足から守るために避難を開始することとした。 - 755 -原告番号30-2は,同月15日,原告番号30-3及び原告番号30-4を乗せて原告番号30-1が単身赴任していた岐阜県下呂市へ向けて,自動車で避難を開始した。原告らと同居していた原告番号30-1の両親及び2人の弟は,原告番号30-1のところへ行っても全員が生活するスペースがないため,避難を諦めた。原告番号30-2は,渋滞する道路を14時間掛けて運転し,原告番号30-1以外の原告らは岐阜県下呂市に到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,本件事故による避難をしたことにより,原告番号30-1の両親及び2人の弟らと別居し,原告番号30-2の実父とも離れて暮らすことになった。また,原告番号30-1の生活していた会社の宿直室では生活できないため,岐阜県下呂市の市営住宅に入居した。 原告らは,本件事故前は,原告番号30-1の両親と同居していたため,家賃や水道光熱費を負担する必要はなかったが,避難後は家賃や水道光熱費を負担する必要が生じた。また,原告番号30-2は,本件事故前はパートタイム勤務をしていたが,本件事故後は勤務先が事業を中止したため退職を余儀なくされ,平成23年8月から平成24年 家賃や水道光熱費を負担する必要が生じた。また,原告番号30-2は,本件事故前はパートタイム勤務をしていたが,本件事故後は勤務先が事業を中止したため退職を余儀なくされ,平成23年8月から平成24年4月までは岐阜県下呂市役所で臨時職員として働いていたが,同年5月から平成27年1月までは不登校となった原告番号30-3の世話のため,働きに出ることができなかった。 原告番号30-2は,本件事故後,生活環境と人間関係の変化,原告番号30-3のいじめ等で強いストレスを受け,平成23年12月1日から平成24年12月7日までの間に歯が6本抜けた。 原告番号30-1は,本件事故が起きるまでは,平成24年9月に南相馬市に戻る予定でいたが,原告番号30-3及び原告番号30-4への被ばくの可能性を考慮し,会社に相談の上,平成24年9月以降も岐阜県下呂市で勤務することとなった。そして,原告番号30-3及び原告番号30-4は,- 756 -平成26年4月,岐阜県内でそれぞれ高校,中学校に進学した。 原告番号30-3は,本件事故前は,健康診断で異常を指摘されたことはなく,バレーボールやドッジボールをするなど活発に運動しており,健康であったにもかかわらず,本件事故による避難後は,転校先の中学校で「放射能がうつる。」,「言葉が変。」などと言われ無視されるなどのいじめを受けた。そして,原告番号30-3は,不登校になり,登校してもスクールカウンセラーの先生と一緒に保健室で過ごすなどしており,自殺未遂をしたこともあった。原告番号30-3は,平成23年6月以降,自宅に引き籠もるようになり,昼夜が逆転した生活になり,体重が急激に増加し,平成26年3月にはⅡ型糖尿病,脂肪肝,高尿酸血症の診断を受けた。原告番号30-3は,全日制の高校に進学することはでき 降,自宅に引き籠もるようになり,昼夜が逆転した生活になり,体重が急激に増加し,平成26年3月にはⅡ型糖尿病,脂肪肝,高尿酸血症の診断を受けた。原告番号30-3は,全日制の高校に進学することはできず,平成26年4月,通信制高校に進学することになり,卒業後も正社員での就職はできていない。 原告番号30-4は,平成26年2月に交通事故に遭い,後遺症が残ったが,平成29年4月からは岐阜県高山市内の全日制の高校に進学し,原告らは,これに伴って同市内のアパートに引っ越した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告30-1の居住地は,区域外に該当する。 本件事故前の原告番号30-2ないし原告番号30-4の居住地は,旧緊急時避難準備区域に該当するところ,緊急時避難準備区域は平成23年9月30日に解除され,同年10月以降,小中学校や高校が授業を再開し,平成24年4月以降には小中学校の屋外活動時間の制限も解除された。また,平成24年5月時点で医療機関等も活動を再開している。(第5部第1章第2さらに,原告らの本件事故当時の住所地近くである南相馬市役所の環境放射能は,平成24年4月1日には0.38μSv/h,平成25年4月1日には0.29μSv/h,平成26年4月1日には0.22μSv/h,平成27年4月1日には0.17μSv/h,平成28年4月1日には0.14μSv/h,- 757 -平成29年4月1日には0.11μSv/h と推移し(乙B171の1ないし5,乙B269),年々減少している。また,南相馬市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日時点で4729人,平成28年4月1日時点で4 18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で5606人,平成25年4月1日時点で5820人,平成26年4月1日時点で5155人,平成27年4月1日時点で4729人,平成28年4月1日時点で4299人,平成29年4月1日時点で3837人と推移しており,平成26年以降年々減少している(第5部第1章そして,南相馬市の平成27年7月末時点の除染状況は,宅地26パーセント,農地15パーセント,森林46パーセント,道路6パーセントであり,平成29年3月には,除染対象のうち同意を得られたものに対する面的除染が完了した(第5部第1章第2の4)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,南相馬市で検査を受けた4240人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号30-1の請求について原告番号30-1は,本件事故当時,岐阜県下呂市に居住しており,本件事故による放射線被ばくの影響は想定し難い状況であった。また,前記の基準のとおり,原告番号30-1が単身赴任を終えて帰る予定であった南相馬市の自宅も平成23年9月30日には緊急時避難準備区域が解除され,前記の基準のとおり,平成24年9月には帰還することが可能であったから,当初予定された平成24年9月までの単身赴任期間を経過すれば南相馬市の実家に帰還することが可能であったといえる。したがって,原告番号30-1には,本件事故により金銭をもって慰謝すべき程度の精神的苦痛が生じたと認めることはできず,原告番号30-1の請求は認められない。 ⑵ 原告番号30-2の請求について- 758 -ア避難費 事故により金銭をもって慰謝すべき程度の精神的苦痛が生じたと認めることはできず,原告番号30-1の請求は認められない。 ⑵ 原告番号30-2の請求について- 758 -ア避難費用 宿泊費・謝礼原告番号30-2が請求し,被告東電が既に賠償した52万9350円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号30-2は,平成23年から平成29年までの南相馬市に居住する原告番号30-1の両親らとの年2回程度の面会の際に要した費用として36万5904円を請求する。しかし,前記のとおり,原告らの避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,被告東電が既に賠償した35万7318円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできず,35万7318円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号30-2が請求し,被告東電が既に賠償した10万6841円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 光熱費原告番号30-2は,平成24年4月から平成29年12月までの水道光熱費の増加分として28万4211円を請求する。しかし,前記のとおり,原告らの避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,原告番号30-2の請求する月額4119円を前提としても,被告東電が既に支払った18万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできず,18万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 通信費原告番号30-2は,インターネット契約をした平成 と相当因果関係を有する損害が発生したということはできず,18万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 通信費原告番号30-2は,インターネット契約をした平成26年7月から平- 759 -成29年12月までのインターネット料金を請求するが,前記のとおり,原告らの避難の継続の合理性が認められるの,平成24年8月31日までであるから,原告番号30-2の請求するインターネット料金は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号30-2の請求は認められない。 食費原告番号30-2が請求し,被告東電が既に賠償した31万5000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 家賃増加分原告番号30-2は,平成26年4月以降の家賃増加分を請求するが,前記のとおり,原告らの避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,平成26年4月以降の家賃増加分は本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号30-2の請求は認められない。 その他(自治会費,ケーブルテレビ料金)原告番号30-2が自治会費等を支出したことについて具体的な主張立証がないから,本件事故と相当因果関係を有する損害の発生が認められない。 ウ就労不能損害原告番号30-2が請求し,被告東電が既に賠償した161万4660円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ生命・身体的損害原告番号30-2は,本件事故による避難を原因とするストレスで歯が抜けたことに伴う通院慰謝料を請求するが,本件事故と原告番号30-2の歯が抜けたことの相当因果関係は認めるに足りる証拠はない。したがって,被告 0-2は,本件事故による避難を原因とするストレスで歯が抜けたことに伴う通院慰謝料を請求するが,本件事故と原告番号30-2の歯が抜けたことの相当因果関係は認めるに足りる証拠はない。したがって,被告東電が既に賠償した5万2000円を超えて本件事故と相当因果関係を- 760 -有する損害が発生したということはできず,5万2000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オその他(ADR弁護士費用)被告東電が既に賠償した51万3975円を超えて本件事故と相当因果関係を有するADR弁護士費用が発生したと認めることはできないから,51万3975円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カ慰謝料以外の損害合計366万9144円キ慰謝料原告番号30-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号30-2の慰謝料は180万円を認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号30-3の請求について原告番号30-3は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,避難後に転校先でいじめにあったなどの事情を考慮しても,原告番号30-3の慰謝料は180万円を認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号30-4の請求について原告番号30-4は,本件事故当時 後に転校先でいじめにあったなどの事情を考慮しても,原告番号30-3の慰謝料は180万円を認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号30-4の請求について原告番号30-4は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号30- 761 --4の慰謝料は180万円を認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号30-2に対する弁済被告東電は,原告番号30-2に対し,1003万9144円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号30-3に対する弁済被告東電は,原告番号30-3に対し,601万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号30-4に対する弁済被告東電は,原告番号30-4に対し,490万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号30-2本件事故により原告番号30-2に生じた損害額である546万9144円から,被告東電の弁済額である1003万9144円を控除すると0円となる。 イ原告番号30-3本件事故により原告番号30-3に生じた損害額である180万円から,被告東電の弁済額である601万円を控除すると0円となる。 ウ原告番号30-4本件事故により原告番号30-4に生じた損害額である180万円から,被告東電の弁済額である490万円を控除すると0円となる。 ⑵ 認容額ア原告番号30-1棄却- 件事故により原告番号30-4に生じた損害額である180万円から,被告東電の弁済額である490万円を控除すると0円となる。 ⑵ 認容額ア原告番号30-1棄却- 762 -イ原告番号30-2棄却ウ原告番号30-3棄却エ原告番号30-4棄却第28 原告番号31の世帯 1 認定事実(原告番号31-1本人(同人の陳述書(甲C31の1・7)を含む。 以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号31-1(本件事故当時27歳),その妻である原告番号31-2(本件事故当時27歳),原告番号31-1及び原告番号31-2の長女である原告番号31-3(本件事故当時1歳)は,本件事故当時,いわき市内の賃貸アパート(いわき市 ,福島第一原発からの距離36.13㎞(乙C31の2))に居住していた(以下,原告番号31-1ないし原告番号31-3を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号31-1は,いわき市出身で,本件事故当時は美容室で正社員として働き,将来的には福島県で自分の店を持ちたいと考えていた。原告番号31-2もいわき市出身で,本件事故当時はパソコン事務のパートタイム勤務をしていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件地震が発生した平成23年3月11日,テレビで福島第一原発が危ない,関東でも放射能の影響が危ないという報道があったことから,原告番号31-1の兄や原告番号31-2の弟がいる愛知県への避難を考えるようになった。原告らの住むアパートの近くで活動していた自衛隊の人が「放射能の影響があるかもしれないから,雨に触れない方がよい。」などと言って- 763 -いたこ 弟がいる愛知県への避難を考えるようになった。原告らの住むアパートの近くで活動していた自衛隊の人が「放射能の影響があるかもしれないから,雨に触れない方がよい。」などと言って- 763 -いたことも原告らの不安を募らせた。また,原告らの居住していた地域は,避難の対象となった区域から5㎞しか離れていなかったことなどから原告らは全く安心できなかった。そして,原告らは,福島第一原発3号機の爆発をライブ映像で見たこと,余震もあったこと,自衛隊が避難を呼びかけていたこと,アパートの住人が一斉に避難したこと等から,避難することを決断した。 原告らは,同月14日,親戚を頼って愛知県に避難することとし,避難を開始したが,千葉県の親戚の家に泊めてもらう予定だったが泊めてもらうことができず,同日は車中泊をした。その後,原告らは,高速道路を使って愛知県に到着し,原告番号31-2の弟のアパートに同月15日から同年4月末まで居住することになった。 原告らは,避難当初は原告番号31-2及び原告番号31-3のみが愛知県に避難し,原告番号31-1は福島県に戻るつもりであったが,原告番号31-1は,いわき市に所在する職場の従業員の間で放射能に対する考え方の温度差が大きかったことから,同年4月上旬に福島県の美容室の仕事を辞めた。原告番号31-1は,同年3月下旬又は4月上旬,福島県に戻り,引っ越しの準備やアパートの解約の手続を行ったが,その際に実家の畑で作った野菜を食べるなどしたため,これにより被ばくがひどくなったのではないかと不安を感じることになった。そして,原告らは,避難者に対する住宅貸与制度を利用して,同年4月下旬に愛知県小牧市内の県営住宅に入居した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号31-1は,平成23年 ,原告らは,避難者に対する住宅貸与制度を利用して,同年4月下旬に愛知県小牧市内の県営住宅に入居した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号31-1は,平成23年4月後半に面接を受け,各種毛髪製品の製造販売の大手会社に正社員としての採用が決まり,同年5月半ばから現在まで上記会社で働いている。原告番号31-2は,避難後は,原告番号31-3の面倒を見る親族が近くにいなくなったため,外に出て仕事をすることができず,精神的な負担が増大したが,平成25年秋から在宅での仕事を始- 764 -めて精神状態の落ち着きを取り戻した。また,原告らは,原告番号31-3に対しては,避難から1年程度はほとんどの食品について安全そうな物をインターネットで取り寄せて食べさせ,ガイガーカウンターを購入して自ら放射線量を測るなどしていた。 原告らは,避難する際にペットを連れてきたが,愛知県小牧市内の県営住宅はペット禁止であり,区長の配慮でペットを飼っていることを黙認してもらっていたが,黙って禁止されているペットを飼うことはストレスであった。そのため,原告らは,上記県営住宅に入居してから半年ほど経過した頃,ペットが飼える岐阜市のアパートに引っ越した。その後,原告らは,平成26年6月,中古住宅を購入した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0 h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章平成23年6- 765 -月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告番号31-1の両親は現在もいわき市に居住している一方で,いわき市に居住していた原告番号31-2の両親は,平成29年秋頃,岐阜市に引っ越し,現在は岐阜市に居住している。 2 損害についての検討⑴ 原告番号31-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号31-1が請求し,被告東電が既に賠償した3万0400円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費 いてア避難費用 交通費原告番号31-1が請求し,被告東電が既に賠償した3万0400円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号31-1が請求し,被告東電が既に賠償した28万8000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告らは,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,原告番号31-1及び原告番号31-2の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号31-3についても平成24年8月31日までである。したがって,平成23年6月14日の原告番号31-2の実家への電車での帰省,平成23年年末から平成24年年始までの原告番号31-1の実家への電車での帰省及び平成24年夏の原告番号31-1の実家への電車での帰省の3回の帰省に要した交通費に限り,本件事故と相当因果関係を有するといえる。したがって,10万1640円(1万6940円(甲C31の5参- 766 -照)×2(往復)×3回=10万1640円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(仲介手数料・敷金等)原告番号31-1が請求し,被告東電が既に賠償した11万4850円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(引っ越し準備費用)原告番号31-1は,平成23年3月下旬又は4月上旬に引っ越し準備のために自動車でいわき市に帰った際に要した交通費として3万円を請求する。そして,愛知県に本格的に避難するためにいわき市に戻ることは必要であるが,それに要するガソリン代等の費用は1万円と認めるのが相当であ 自動車でいわき市に帰った際に要した交通費として3万円を請求する。そして,愛知県に本格的に避難するためにいわき市に戻ることは必要であるが,それに要するガソリン代等の費用は1万円と認めるのが相当である。したがって,1万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号31-1が請求し,被告東電が既に賠償した5万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 食費原告番号31-1は愛知県で生活しているところ,放射線の影響を抑えるために通信販売を利用する必要性は認められない。したがって,原告番号31-1の請求は認められない。 その他(名古屋市の弟宅での生活準備)原告番号31-1は,名古屋市の弟宅での生活準備のために購入した雑貨,日用品等の購入に要した費用として6万4011円を請求する。しかし,原告番号31-1が上記支出をした証拠として提出する個人情報開示等報告書(甲C31の3)及びカード取引明細(甲C31の4)には具体的な商品名の記載がなく,いつどのような物を購入したか不明であり,名- 767 -古屋市の弟宅での生活準備のために必要な物を購入したと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告番号31-1の上記請求は認められない。 その他(小牧での入居準備)原告番号31-1は,平成23年4月に愛知県小牧市内の県営住宅への入居準備のために要した費用として10万4631円を請求する。しかし,原告番号31-1の主張する物を実際に購入したと認めるに足りる証拠はなく,原告番号31-1の上記請求は認められない。また,家財道具購入費とは別に本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認める 原告番号31-1の主張する物を実際に購入したと認めるに足りる証拠はなく,原告番号31-1の上記請求は認められない。また,家財道具購入費とは別に本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。 その他(岐阜での入居準備)原告番号31-1は,平成23年10月に岐阜市に引っ越した際に購入した雑貨等の費用として9万3025円を請求する。しかし,原告番号31-1が愛知県小牧市の県営住宅から岐阜市に引っ越したのはペットを飼うことが可能な場所に住むという目的のためであり,原告番号31-1の任意の判断で行ったものであるから,その際に要した費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号31-1の上記請求は認められない。 ウ就労不能損害原告番号31-1が請求し,被告東電が既に賠償した40万3066円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ線量計購入費避難先である愛知県で放射線量を計測する必要性は認められず,線量計購入費は本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえない。 オ慰謝料以外の損害合計99万7956円- 768 -カ慰謝料原告番号31-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,避難後は美容として自分のお店を持つことが困難となった等の事情を考慮しても,原告番号31-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号31-2の請求について原告番号31-2は 美容として自分のお店を持つことが困難となった等の事情を考慮しても,原告番号31-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号31-2の請求について原告番号31-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号31-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号31-3の請求について原告番号31-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号31-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号31-1に対する弁済被告東電は,原告番号31-1に対し,80万6316円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号31-2に対する弁済被告東電は,原告番号31-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認めら- 769 -れる。 ⑶ 原告番号31-3に対する弁済被告東電は,原告番号31-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号31-1本件事故により原告番号31-1に生じた損害額である159万7956円から とが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号31-1本件事故により原告番号31-1に生じた損害額である159万7956円から,被告東電の弁済額である80万6316円を控除すると79万1640円となる。 イ原告番号31-2本件事故により原告番号31-2に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号31-3本件事故により原告番号31-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号31-179万1640円の約1割である8万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号31-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号31-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 770 -⑶ 認容額ア原告番号31-187万1640円(79万1640円+8万円)イ原告番号31-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号31-357万円(52万円+5万円)第29 原告番号32の世帯 1 認定事実(甲C32の1・5,甲C33の1・34,原告番号32-2本人,原告番号36-1本人(同人の陳述書(甲C36の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号32-1(本件事故当時37歳),その妻である原告番号32- 番号32-2本人,原告番号36-1本人(同人の陳述書(甲C36の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号32-1(本件事故当時37歳),その妻である原告番号32-2(本件事故当時40歳),原告番号32-1及び原告番号32-2の長男である原告番号32-3(本件事故当時6歳),二男である原告番号32-4(本件事故当時5歳),長女である原告番号32-5(本件事故当時1歳)は,本件事故当時,いわき市所在の自宅(いわき市 ,福島第一原発からの距離46.31㎞(乙C32の3))に原告番号32-1の両親である原告番号33-1及び原告番号33-2と共に居住していた(以下,原告番号32-1ないし原告番号32-5を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号32-1は,本件事故当時,原告番号32-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)や姉(原告番号36-1)と共に自動車の整備,新車・中古車の販売等の事業を行っていた。社長であった原告番号32-1の父(原告番号33-1)は,本件事故当時,代替わりを意識し始めており,息子である原告番号32-1に事業を受け継がせようとしていた。原告番号32-2も平成12年頃から経理の仕事を引き継いで会社の手伝いをするように- 771 -なっていた。原告らの事業は,主に自動車の整備及び販売であったが,原告番号32-1の姉(原告番号36-1)の知人が板金屋をやっていたり,原告番号32-1の姉(原告番号36-1)が保険外交員を務めていたりした関係で,自動車の販売から維持・管理まで全て原告らに任せることができるということで地元では評判もよく,仕事は順調で不自由なく生活することができていた。 原告番号32-3及び原告番号32-4は,いわき市の幼 ,自動車の販売から維持・管理まで全て原告らに任せることができるということで地元では評判もよく,仕事は順調で不自由なく生活することができていた。 原告番号32-3及び原告番号32-4は,いわき市の幼稚園に通い,原告らは,同居する原告番号32-1の両親に育児のサポートを受けながら生活していた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件地震が発生した平成23年3月11日は,仕事を切り上げ,原告ら,原告番号32-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)並びに原告番号32-1の姉(原告番号36-1)はそれぞれ自分の家に帰った。しかし,同月12日も仕事ができるような状態ではなく,異常事態が続き,皆不安であったため,原告番号32-1の姉(原告番号36-1)も原告らの家に泊まることとなった。原告番号32-1の母(原告番号33-2)や姉(原告番号36-1)が,同月12日,買い物に出かけたところ,近所の魚屋の主人から「原発危ないよ。東電に勤めている友人が,『夜中のうちに逃げろという電話が入った。』と言っていたよ。」と聞き,家に帰ってきた家族全員に伝えた。これを聞いた原告らはすぐに避難することを決断した。その当時は一時避難のつもりで,原告ら5人,原告番号32-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)並びに原告番号32-1の姉家族3人(原告番号36-1ないし原告番号36-3)の合計10人は,同月12日午後3時頃,郡山市に避難し,同日はホテルで一泊した。ホテルに滞在している際にニュースで福島第一原発が爆発したとか,メルトダウンにより原子炉から放射性物質が漏れたといったニュースが流れていたため,原告らは怖くなり,事故が落ち着くまではいわき市に戻らず,できるだけ福島から遠ざかろうということになり,同- 772 -月13日に計10人 ら放射性物質が漏れたといったニュースが流れていたため,原告らは怖くなり,事故が落ち着くまではいわき市に戻らず,できるだけ福島から遠ざかろうということになり,同- 772 -月13日に計10人で群馬県安中市に避難した。その後,原告らは,同月13日及び14日は群馬県安中市の民宿で宿泊し,同月15日からは原告番号32-1の姉(原告番号36-1)の友人のアパートでルームシェア生活を始め,6畳の部屋で大人5人子供5人の合計10人で生活していた。 原告番号32-1及び原告番号32-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)は,平成23年3月末頃,いわき市の仕事を再開する必要が生じ,いわき市の実家に戻った一方,原告番号32-2ないし原告番号32-5は群馬県安中市に避難させたままにしていた。原告番号32-3は,いわき市の幼稚園から群馬県安中市の小学校に入学し,原告番号32-4は,いわき市の幼稚園年中から群馬県安中市の幼稚園年長に進級した。原告番号32-2ないし原告番号32-5は,平成23年5月,群馬県からの借り上げ住宅に住めることとなったため,これまで原告番号32-1の姉家族と共に居住していた上記アパートを離れ,借り上げ住宅に入居した。原告番号32-1は,いわき市から家族のいる群馬県の避難先まで毎週末会いに行っていた。 原告番号32-2ないし原告番号32-5は,平成23年7月及び平成24年7月に,原告番号32-3ないし原告番号32-5の健康のために岐阜県で開催された保養プログラムに参加した。原告番号32-2は,保養プログラムの際に岐阜県で知り合った人から多くの話を聞き,本件事故が収束しないことや除染がなかなか進まないことから,いわき市では原告番号32-3ないし原告番号32-5を育てられないと判断し,平成24年8月頃には岐 に岐阜県で知り合った人から多くの話を聞き,本件事故が収束しないことや除染がなかなか進まないことから,いわき市では原告番号32-3ないし原告番号32-5を育てられないと判断し,平成24年8月頃には岐阜への転居を決断した。そして,原告番号32-2ないし原告番号32-5及び原告番号32-1の姉家族(原告番号36-1ないし原告番号36-3)は,平成24年8月,岐阜県への転居の準備のため一時的にいわき市に戻った。 原告番号32-1は,平成24年夏頃に両親が線量計を購入して毎日測定していた放射線量が高く,水たまりなどでは線量計の警報音が鳴るなどしたため,福島県で生活していては常に被ばくしてしまうと感じるようになった。ま- 773 -た,原告らは,平成24年8月に甲状腺検査及び血液検査を受けたが,その結果,原告番号32-3ないし原告番号32-5の甲状腺に嚢胞ができており,原告番号32-5には血液検査でも甲状腺ホルモンが上昇しているとの結果が出た。これらのことから,原告番号32-1も平成24年9月には岐阜県に避難することを決断した。原告番号32-1,原告番号32-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)及び姉(原告番号36-1)は,岐阜県に避難するまでの間,4人で三,四回,岐阜県に赴いて引っ越し先を探したが,最終的には,原告番号32-1の父(原告番号33-1)が岐阜市に中古の一軒家を購入し,これをリフォームして居住することとした。そして,原告ら及び原告番号32-1の姉家族(原告番号36の1ないし原告番号36-3)は,平成25年3月に岐阜に引っ越し,原告番号32-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)は,自宅の処分や会社の残務を処理するためいわき市に残っていたが,同年12月に岐阜に引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等 に引っ越し,原告番号32-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)は,自宅の処分や会社の残務を処理するためいわき市に残っていたが,同年12月に岐阜に引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号32-1は,岐阜県に引っ越してすぐに事業を立ち上げることはできず,平成25年4月から従業員として自動車整備の仕事に就いた。原告番号32-1は,両親が岐阜県に来た同年12月以降は,事業所の土地を探すなど開業の準備を進めていたが,平成27年になってようやく条件の合う土地を見つけて土地を購入した。原告番号32-1は,同年9月末,勤めていた会社を退職し,原告番号32-1の父が融資の手続を進めている間,土地上に既にあった建物のリフォームや設備機械の購入を計画,検討し,本格的に開業の準備を始めた。そして,原告らは,同年12月,岐阜市で自動車の整備及び販売業等を営む会社を設立した。各人の役割は,いわき市に住んでいた頃と同様,車検に出したり営業活動を行ったりするのは原告番号32-1の父(原告番号33-1),修理・整備等の実働は原告番号32-1,- 774 -保険関係と車両販売は原告番号32-1の姉(原告番号36-1),経理や事務一般は原告番号32-1の母(原告番号33-2)及び原告番号32-2というように分担している。いわき市に住んでいた頃は既に1000人以上の顧客がいたのに対し,岐阜県ではゼロからの出発であるため,収入としてはいわき市に住んでいた頃よりも減少した。 原告らは,本件事故後,群馬県の赤城山付近に放射線が溜まり,この地域の川は線量が高く,禁漁になっていることを岐阜県に避難してから知り,避難先を誤ったのではないかと後悔し,放射能の影響が出るのではないかと心配している。 イ本件 近に放射線が溜まり,この地域の川は線量が高く,禁漁になっていることを岐阜県に避難してから知り,避難先を誤ったのではないかと後悔し,放射能の影響が出るのではないかと心配している。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンタ- 775 -ーによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告らが本件事故当時居 ,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告らが本件事故当時居住していた自宅は,平成25年秋に売却された。 2 損害についての検討⑴ 原告番号32-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号32-1は,平成23年3月にいわき市から群馬県に避難した際の交通費として7万0800円,平成25年3月にいわき市から岐阜県に避難した際の交通費として2万7000円を請求する。しかし,原告番号32-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号32-3ないし原告番号32-5についても平成24年8月31日までである。したがって,平成25年3月のいわき市から岐阜県に避難した際の交通費については,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,被告東電が既に賠償した平成23年3月にいわき市から群馬県に避難した際に要した7万0800円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,7万0800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号32-1は,群馬県に避難していた際に宿泊した民宿や知人宅への謝礼として支払った12万円を請求するが,上記謝礼は支払を余儀なくされたものではなく,原告番号32-1の判断で任意に支払ったものと- 776 -いえるから,被告東電が既に賠償した10万6000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえない。したがって,10万6000 2-1の判断で任意に支払ったものと- 776 -いえるから,被告東電が既に賠償した10万6000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえない。したがって,10万6000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用前記のとおり,原告番号32-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたから,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号32-3ないし原告番号32-5についても平成24年8月31日までである。したがって,平成25年3月に行われたいわき市から岐阜県への避難には相当性が認められないから,その際に要した引っ越し費用は本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえず,原告番号32-1の上記請求は認められない。 面会交通費前記の基準のとおり,原告番号32-3ないし原告番号32-5については平成24年8月31日まで避難の継続の合理性が認められるから,原告番号32-1が原告番号32-2ないし原告番号32-5に面会するために要した費用は本件事故と相当因果関係が認められるものの,特に頻繁な面会が必要であったという事情もうかがわれないから,前記の基準のとおり,面会の必要性は月1回と認めるのが相当である。また,原告番号32-1は,主に自動車でいわき市から群馬県へ面会に行っており,1回の面会には1万円を要すると認めるのが相当である。したがって,被告東電が既に賠償した35万3600円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,35万3600円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号32-1は,家財道具購入 る損害が発生したとはいえず,35万3600円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号32-1は,家財道具購入費として45万6000円を請求す- 777 -るが,実際に家財道具を購入したことを示す領収証等が提出されておらず,被告東電が既に賠償した30万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,30万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 生活費増加分原告番号32-1が請求し,被告東電が既に賠償した27万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 教育費原告番号32-1は,原告の子らが避難先で幼稚園や小学校に通うために必要となった体操服や鞄等の購入費として22万4700円を請求する。しかし,体操服や鞄等は避難をしなくとも必要となるものであり,本件事故による避難をしたために余分な費用が発生したことについて具体的な主張立証がない。したがって,被告東電が既に賠償した7万9700円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえず,7万9700円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(車両メンテナンス費)原告番号32-1は,毎週原告番号32-2ないし原告番号32-5に面会するために福島県と群馬県の間を移動していたため,通常よりもタイヤの消耗が激しく新しくタイヤを購入せざるを得なくなり,タイヤ消耗によるタイヤの価値減少は10万円を下らない,面会のために自動車の移動距離が増大したため,面会交流中の17か月間は通常よりも10回以上多くオイル交換をしなければならず,7万円以上の追加的な出費 消耗によるタイヤの価値減少は10万円を下らない,面会のために自動車の移動距離が増大したため,面会交流中の17か月間は通常よりも10回以上多くオイル交換をしなければならず,7万円以上の追加的な出費が生じたなどとして17万円を請求する。しかし,面会のために通常よりも長距離を移動しなければならなかったとしても,そのためにタイヤの購入やオイル交換の費用を通常より多く負担したことについて具体的な立証がないから,原告番号32-1の上記請求は認められない。 - 778 -ウ就労不能損害原告番号32-1は,本件事故後,平成25年3月にいわき市から岐阜県に引っ越した際に1か月間無収入となったこと,岐阜県で勤めていた会社を退職して開業する際に2か月間無収入となったこと,開業後も避難前と同水準の収入を得られていないことから,276万6676円を請求する。しかし,前記のとおり,原告番号32-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号32-3ないし原告番号32-5についても平成24年8月31日までであるから,平成25年3月に行われたいわき市から岐阜県への避難やこれによる減収には相当因果関係が認められない。したがって,原告番号32-1の上記請求は認められない。 エ慰謝料以外の損害合計118万0100円オ慰謝料原告番号32-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号32-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号32-2の請求についてア交通費原告番号32-2は,群馬県に滞在中に岐阜県に保養プログラムに行った際に要した交通費6万4000円を請求する。しかし,原告番号32-3ないし原告番号32―5は既に群馬県に避難しており,原告番号32-2が原告番号32-3ないし原告番号32-5を保養プログラムに参加させたの- 779 -は原告番号32-2の任意の判断によるものであり,被告東電が既に賠償した1万6000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したとはいえない。したがって,1万6000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イその他(駐車場代)原告番号32-2は,平成23年5月から平成24年8月まで群馬県内の借り上げ住宅に居住し,駐車場代として月額1000円を支払っていたと認められるところ(弁論の全趣旨),本件事故による避難前は自宅に住んでおり駐車場代は発生していなかったと考えられるから,支払を余儀なくされた1万6000円(1000円/月×16か月=1万6000円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ慰謝料以外の損害合計3万2000円エ慰謝料原告番号32-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当であ 慰謝料原告番号32-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号32-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号32-3の請求について原告番号32-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号32-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 - 780 -⑷ 原告番号32-4の請求について原告番号32-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号32-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑸ 原告番号32-5の請求について原告番号32-5は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰 告番号32-5は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号32-5の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号32-1に対する弁済被告東電は,原告番号32-1に対し,78万0100円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号32-2に対する弁済被告東電は,原告番号32-2に対し,10万4000円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号32-3に対する弁済被告東電は,原告番号32-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号32-4に対する弁済被告東電は,原告番号32-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認め- 781 -られる。 ⑸ 原告番号32-5に対する弁済被告東電は,原告番号32-5に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号32-1本件事故により原告番号32-1に生じた損害額である178万0100円から,被告東電の弁済額である78万0100円を控除すると100万円となる。 イ原告番号32-2本件事故により原告番号32-2に生じた損害額である63万2000円から,被告東電の弁済額である10万4000円を控除すると52万8000円となる。 ウ原告番号32-3本件事 本件事故により原告番号32-2に生じた損害額である63万2000円から,被告東電の弁済額である10万4000円を控除すると52万8000円となる。 ウ原告番号32-3本件事故により原告番号32-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号32-4本件事故により原告番号32-4に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 オ原告番号32-5本件事故により原告番号32-5に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号32-1100万円の約1割である10万円の弁護士費用を本件事故と相当因果- 782 -関係を有する損害と認める。 イ原告番号32-252万8000円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号32-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号32-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ原告番号32-552万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号32-1110万円(100万円+10万円)イ原告番号32-257万8000円(52万8000円+5万円)ウ原告番号32-3 ア原告番号32-1110万円(100万円+10万円)イ原告番号32-257万8000円(52万8000円+5万円)ウ原告番号32-357万円(52万円+5万円)エ原告番号32-457万円(52万円+5万円)オ原告番号32-557万円(52万円+5万円)第30 原告番号33の世帯 1 認定事実(甲C32の1・7,甲C33の1・34,原告番号32-2本人,- 783 -原告番号36-1本人)⑴ 本件事故前の状況等原告番号33-1(本件事故当時62歳)及びその妻である原告番号33-2(本件事故当時62歳)は,本件事故当時,いわき市の自宅(いわき市,福島第一原発からの距離46.31㎞(乙C33の2))に長男である原告番号32-1の家族と共に居住していた(以下,原告番号33-1及び原告番号33-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号33-1は,本件事故当時,自動車の整備,新車・中古車の販売等の事業を営む会社の代表取締役であり,上記会社は地元の固定客を掴んでおり,経営も順調であった。また,原告番号33-1は,上記会社を原告番号32-1に継がせるつもりであった。 ⑵ 避難開始の経緯等前記第29の1⑵記載のとおり,原告らは,長男の家族(原告番号32の世帯)及び長女の家族(原告番号36の世帯)と共に,平成23年3月12日午後3時頃,郡山市に移動し,同月13日には群馬県安中市に避難した。原告らは,本件地震直後に仕事を中断してそのまま避難していたが,地震直後はいわき市の自動車関連会社も活動を中断していたため,その間は原告らの会社も仕事ができず 同月13日には群馬県安中市に避難した。原告らは,本件地震直後に仕事を中断してそのまま避難していたが,地震直後はいわき市の自動車関連会社も活動を中断していたため,その間は原告らの会社も仕事ができず,群馬県に避難していても仕事に影響のない状態であった。しかし,本件地震の2週間後にはいわき市の自動車関連会社が仕事を再開したため,原告らも仕事を再開する必要が生じた。そこで,原告ら及び長男である原告番号32-1は,平成23年3月末頃,いわき市に戻り,仕事を再開した。しかし,上記会社の再開後は,原告番号32-1は週末には群馬県に避難している家族に会いに行くため仕事を空けてしまい,保険業務を担当している原告らの長女(原告番号36-1)が会社に来ている間は,原告番号33-2が長女と入れ替わりで群馬県に行くという生活であった。そして,原告番号33-2は,平- 784 -成23年4月又は5月頃,高血圧で倒れて病院へ搬送され,現在も高血圧に悩まされている。 原告らは,平成24年秋頃,長男(原告番号32-1)及び長女(原告番号36-1)の家族がいずれも岐阜へ避難する予定であることから,子や孫に囲まれて生活するため,また,原告らの長男(原告番号32-1)及び長女(原告番号36-1)がいなければ会社の事業継続が困難であるため,岐阜県に避難することを決断した。そして,前記第29の1⑵記載のとおり,原告らは,平成25年12月,自動車で岐阜県に行き,長男(原告番号32-1)の家族が住み始めていた家で同居を開始した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,岐阜市内に一軒家を購入し,長男(原告番号32-1)家族と合計7人で生活している。原告番号33-1は特に大きな病気等はしていないものの,原告番号33-2は,本件事故前は の状況原告らは,岐阜市内に一軒家を購入し,長男(原告番号32-1)家族と合計7人で生活している。原告番号33-1は特に大きな病気等はしていないものの,原告番号33-2は,本件事故前は健康であったのに,本件事故後は高血圧による吐き気,頭痛,倦怠感等に襲われるようになり,定期的に通院している。また,原告らは,岐阜県に避難したことにより,親族との関係も疎遠になった。原告番号33-1は,いわき市で長年続けてきた会社を畳み,岐阜に避難してからもなかなか仕事が見つからず,平成27年5月頃になって近所の人の誘いで土木関係のアルバイトで働くことができたが,炎天下での仕事は肉体的に厳しかった。原告番号33-1は,この間も開業するための場所を探し続け,各地の土地を見て回り,ようやく適当な場所を見つけ,融資の手続,土地購入,土地上の建物のリフォーム,設備機械の購入等,開業の準備を進めた。原告らの長男(原告番号32-1)も,同年9月末,勤めていた会社を退職し,同年12月,岐阜市で自動車の整備及び販売業等を営む会社を設立し,原告番号33-1が代表取締役を務めている。岐阜市での開業後は,1年目は赤字,2年目は利益ゼロか少し赤字という状況- 785 -であり,原告番号33-1の給料は月額10万円,原告番号33-2の給料は0円という状況である。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には 1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2オ),年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告らが本件事故当時居住していた自宅は,平成25年秋に売却された。 2 損害についての検討⑴ 原告番号33-1の請求について- 786 -ア避難費用 交通費原告番号33-1は,平成23年3月にいわき市から群馬県に避難した際の交通費,同月末に群馬県からいわき市の自宅に戻った際の交通費及び平成25年12月に岐阜県に引っ越した際の交通費として5万3000円を請求する。しかし,原告番号33-1は き市から群馬県に避難した際の交通費,同月末に群馬県からいわき市の自宅に戻った際の交通費及び平成25年12月に岐阜県に引っ越した際の交通費として5万3000円を請求する。しかし,原告番号33-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるから,岐阜県への避難については相当性が認められない。したがって,岐阜県への引っ越しの際に要した交通費2万7000円については,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,被告東電が既に賠償した4万0800円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。 よって,4万0800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号33-1が請求し,被告東電が既に賠償した8万9835円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引越費用原告番号33-1は,平成25年12月に岐阜県に引っ越す際に要した費用として23万3000円を請求する。しかし,前記のとおり,岐阜県への避難には相当性が認められないから,上記費用は本件事故と相当因果関係を有する損害ということはできず,原告番号33-1の上記請求は認められない。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号33-1は,家財道具購入費として27万8000円を請求す- 787 -るが,実際に家財道具を購入したことを示す領収証等が提出されておらず,被告東電が既に賠償した15万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(福島の自宅を売却する た15万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(福島の自宅を売却するのに伴って掛かった費用)前記のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるから,福島の自宅を売却する必要はなく,福島の自宅を売却するのに伴って掛かった費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。 その他(岐阜の自宅を購入する際に掛かった費用)前記のとおり,岐阜県への避難には相当性が認められないから,岐阜の自宅を購入する必要はなく,岐阜の自宅を購入する際に掛かった費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。 その他(引越先を探すための交通費,宿泊費)前記のとおり,岐阜県への避難には相当性が認められないから,引越先を探す必要はなく,引越先を探すための交通費,宿泊費は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。 ウ就労不能損害原告番号33-1は,平成25年11月までに140万円,同年12月から平成27年4月までに306万円,同年5月から再開業までに45万円の就労不能損害を被ったとして,491万円を請求する。しかし,本件全証拠によっても平成25年11月までの減収が本件事故を原因とするものと認めるに足りず,岐阜県に引っ越して以降の就労不能損害については,前記のとおり,岐阜県への避難の必要はなかったのであるから,本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。したがって,原告番号33-1の上記請求は認められない。 - 788 -エ線量計購入費原告番号33-1が請求し,被告東電が既に賠償した13万1250円を本件事故と相当因果 したがって,原告番号33-1の上記請求は認められない。 - 788 -エ線量計購入費原告番号33-1が請求し,被告東電が既に賠償した13万1250円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ慰謝料以外の損害合計41万1885円カ慰謝料原告番号33-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号33-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号33-2の請求についてア面会交通費原告番号33-2は,長女(原告番号36-1)が仕事のためにいわき市に戻っている際に長女(原告番号36-1)の子供の面倒を見るために群馬県に行く必要があったとして176万8000円を請求する。しかし,原告番号33-2が実際に月4回,長女の子供の面倒を見るために群馬県に行っていたと認めるに足りる証拠はなく,その必要性について具体的な主張立証がない。したがって,被告東電が既に賠償した22万8800円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできず,22万8800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生命・身体的損害原告番号33-2は,本件事故により高血圧になり,めまい等の症状が出た旨主張する。しかし,原告番号33-2の上記症状が本件事故と相当因果- 789 -関係を有すると認 命・身体的損害原告番号33-2は,本件事故により高血圧になり,めまい等の症状が出た旨主張する。しかし,原告番号33-2の上記症状が本件事故と相当因果- 789 -関係を有すると認めるに足りる証拠はなく,原告番号33-2の請求は認められない。 ウ慰謝料以外の損害合計22万8800円エ慰謝料原告番号33-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号33-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号33-1に対する弁済被告東電は,原告番号33-1に対し,49万1885円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号33-2に対する弁済被告東電は,原告番号33-2に対し,30万8800円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号33-1本件事故により原告番号33-1に生じた損害である101万1885円から,被告東電の弁済額である49万1885円を控除すると52万円となる。 イ原告番号33-2- 790 -本件事故により原告番号33-2に生じた損害である82万8800円から,被告東電の弁済額である30万8800円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号33-1 本件事故により原告番号33-2に生じた損害である82万8800円から,被告東電の弁済額である30万8800円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号33-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号33-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号33-157万円(52万円+5万円)イ原告番号33-257万円(52万円+5万円)第31 原告番号34の世帯 1 認定事実(原告番号34-1本人(同人の陳述書(甲C34の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号34-1(本件事故当時31歳),その長女である原告番号34-2(本件事故当時7歳),長男である原告番号34-3(本件事故当時5歳),二男である原告番号34-4(本件事故当時4歳)は,本件事故当時,国見町所在の原告番号34-1の実家(国見町 ,福島第一原発からの距離65.94㎞(乙C34の2))に,原告番号34-1の両親及び祖父母と共に居住していた(以下,原告番号34-1ないし原告番号34-4を併せて,この項において「原告ら」という。)。 - 791 -原告番号34-1は,平成21年に元妻と離婚し,原告番号34-2ないし原告番号34-4の親権者となっていた。原告らは,長距離のトラック運転手をしていて食事の時間に自宅にいることが少ない原告番号34-1の父を除いて,原告番号34-1の母及び原告番号34-1の祖母と一緒に食事を摂っており,家族全員のための家事全般は主に原 のトラック運転手をしていて食事の時間に自宅にいることが少ない原告番号34-1の父を除いて,原告番号34-1の母及び原告番号34-1の祖母と一緒に食事を摂っており,家族全員のための家事全般は主に原告番号34-1の母が行っていた。また,原告番号34-1は,平成22年2月頃までは精密機械の工場で契約社員として勤務していたが,同月頃に失業し,同年11月頃までは失業保険を受給しており,本件事故当時も無職で就職活動中であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号34-3は,平成23年4月7日から同月19日まで,左耳下部皮下に膿瘍が発生し,その治療のために入院した。原告番号34-1及びその両親は,原告番号34-3の上記症状が本件事故と無関係のものとは思えなかったこと,自宅周辺の線量が高いと感じたこと,既に避難していた友人等と連絡を取り合う中で放射能の危険性,恐ろしさを教えられ,原告番号34-1自身もインターネットで調べるうちに放射能が恐ろしいものであると知り,原告番号34-2ないし原告番号34-4のためにも放射能の危険性がなく,精神的に落ち着けるような場所に避難しなければならないと考えたため,避難することを決断した。本件事故当時,原告番号34-1の祖父は寝たきりで自宅介護であること,原告番号34-1の祖母も認知症の症状が出始めていたこと,原告番号34-1の父は長距離トラックの運転手としての仕事があること等から,原告番号34-1の両親及び祖父母は福島県の実家に残り,原告らのみが避難することとなった。 原告らは,避難先としては,漠然と中部地方より西にしようと考え,インターネットで探した受入先の中から岐阜県を選択し,同年5月6日,最低限必要な物のみを自動車に乗せて岐阜県への移動を開始したが,混乱している関東方面を通るルートは避け, 地方より西にしようと考え,インターネットで探した受入先の中から岐阜県を選択し,同年5月6日,最低限必要な物のみを自動車に乗せて岐阜県への移動を開始したが,混乱している関東方面を通るルートは避け,新潟を経由するルートを選択し,高速道路は通行止め- 792 -の場所もあると聞いていたため,一般道を利用し,2泊の車中泊をしながら,同月8日早朝,岐阜市に到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らは,岐阜市に避難後,平成23年5月8日から平成24年3月27日までは,岐阜市内にある信長苑公民館で,同月28日から平成26年10月6日頃までは,岐阜市内の借り上げ住宅で,生活した。また,原告番号34-1は,3人の子供らの不安定な状況を考慮するとフルタイムで働くことができるような仕事に就くことは難しいと考え,平成23年5月23日から,ぎふ農業協同組合において,半年契約の臨時職員に採用され,月額約10万円程度の給与収入を得ている。 原告番号34-3は,平成24年4月,岐阜市内の小学校に入学したが,小学校1年生の始め頃から,学校から広汎性発達障害・注意欠陥多動性障害の疑いを指摘され,平成25年5月には,医師から広汎性発達障害・注意欠陥多動性障害と診断され,その頃から週に1回程度特別学級で授業を受けるようになった。 原告らは,アパートの隣人とのトラブルから,平成26年10月頃,上記借り上げ住宅から岐阜県本巣市のアパートに引っ越し,現在までそこで生活している。原告番号34-4は,岐阜市内の小学校に通っているときは落ち着いていたが,岐阜県本巣市の小学校に転校して以降は注意欠陥多動性障害と指摘され,週に一,二回は特別学級で授業を受けている。原告番号34-2についても,岐阜県本巣市に引っ越して以降は いるときは落ち着いていたが,岐阜県本巣市の小学校に転校して以降は注意欠陥多動性障害と指摘され,週に一,二回は特別学級で授業を受けている。原告番号34-2についても,岐阜県本巣市に引っ越して以降は,環境の変化等によるストレスから精神的に不安定になり,平成28年1月頃から,岐阜県中央子ども相談センターの世話になり,同年3月からは,岐阜県関市にある情緒障害児短期治療施設で生活している。 イ本件事故時住所地の状況等- 793 -本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた国見町における環境放射能(川俣町の測定結果も含む。)は,平成24年4月には0.21ないし1.07μSv/h,平成25年4月には0.12ないし1.03μSv/h,平成26年4月には0.11ないし0.94μSv/h,平成27年4月には0.06ないし0. 68μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0.53μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,国見町における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で56人,平成25年4月1日時点で57人,平成26年4月1日時点で26人,平成27年4月1日時点で25人,平成28年4月1日時点で21人,平成29年4月1日時点で18人と推移しており(第5部第1章,平成26年以降年々減少している。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,国見町で検査を受けた5701人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号34-1の請求について 01人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号34-1の請求についてア就労不能損害原告番号34-1は,平成22年2月に失業するまでは月額22万円ないし23万円の収入を得ていたところ,本件事故により,原告番号34-2ないし原告番号34-4の世話について両親の援助を受けられず,原告番号34-3は広汎性発達障害・注意欠陥多動性障害を指摘されていたことなどから,従前のような収入を得られなくなったとして,就労不能損害として925万2158円を請求する。しかし,原告番号34-1は,平成22年2月に失業し,失業から1年以上経過した本件事故時点においても就職していなかったことからすれば,本件事故により就労できなかったものとは直ちに認- 794 -められず,また,原告番号34-3の長男が広汎性発達障害・注意欠陥多動性障害と診断されたことと本件事故との因果関係を認めるに足りる証拠はなく,本件事故がなければ,平成22年2月以前と同程度の収入を得られていたと認めることはできない。したがって,原告番号34-1の上記請求は認められない。 イ慰謝料原告番号34-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,本件事故後,直ちに避難を開始しなかった者についても同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号34-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号34-2の して,本件事故後,直ちに避難を開始しなかった者についても同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号34-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号34-2の請求について原告番号34-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,本件事故後,直ちに避難を開始しなかった者についても同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号34-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号34-3の請求について原告番号34-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額につ- 795 -いても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,本件事故後,直ちに避難を開始しなかった者についても同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号34-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号34-4の請求について原告番号34-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。 原告番号34-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,本件事故後,直ちに避難を開始しなかった者についても同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号34-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号34-1に対する弁済被告東電は,原告番号34-1に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号34-2に対する弁済被告東電は,原告番号34-2に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号34-3に対する弁済被告東電は,原告番号34-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号34-4に対する弁済被告東電は,原告番号34-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認め- 796 -られる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号34-1本件事故により原告番号34-1に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号34-2本件事故により原告番号34-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号34-3本件事故により原告番号34-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号34-3本件事故により原告番号34-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号34-4本件事故により原告番号34-4に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号34-152万円の約1割である5万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号34-252万円の約1割である5万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号34-352万円の約1割である5万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号34-4- 797 -52万円の約1割である5万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号34-157万円(52万円+5万円)イ原告番号34-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号34-357万円(52万円+5万円)エ原告番号34-457万円(52万円+5万円)第32 原告番号35の世帯 1 認定事実(原告番号35-2本人(同人の陳述書(甲C35の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号35-1(本件事故当時37歳),その妻である原告番号35-2(本件事故当時38歳),原告番号35-1及び原告番号35-2の長女である原告番号35-3(本件事故当時7歳)は,本件事故当時,福島 告番号35-1(本件事故当時37歳),その妻である原告番号35-2(本件事故当時38歳),原告番号35-1及び原告番号35-2の長女である原告番号35-3(本件事故当時7歳)は,本件事故当時,福島市所在の原告番号35-1の実家(福島市 ,福島第一原発からの距離60.22㎞(乙C35の2))に,原告番号35-1の母と共に居住していた(以下,原告番号35-1ないし原告番号35-3を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号35-1及び原告番号35-2は,平成13年に結婚後約7年間は新潟県で生活していたが,教師をしていた原告番号35-1がうつ病になり,療養のために,平成21年頃に福島市にある原告番号35-1の実家に移り住み,原告番号35-1の母と同居するようになった。そして,原告番号35-- 798 -1は,上記実家で静養し,原告番号35-2は,福島市内で看護師として稼働していた。原告番号35-1の母は,原告番号35-3の面倒を見たり,家事全般を担ったりしていた。原告番号35-3は,福島市内の小学校に入学し,学校生活を楽しんでいた。また,本件事故当時には原告番号35-1の症状も回復し,自宅で同じような悩みを持つ人たちに対してカウンセリングを行うなどして若干の収入を得るようになっていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件事故後,原告らの住む福島市d地区は線量の高い地域,いわゆる,ホットスポットとして報道されるようになり,不安になった。原告番号35-2は,平成23年4月,市役所から線量計を借りて,自宅の放射線量を測定したところ,庭先では2.0μSv/h,室内でも0.5μSv/h という数値が出て,その後数日間にわたり放射線量を計測したが,上記の数値から下がる気配はなかったことか を借りて,自宅の放射線量を測定したところ,庭先では2.0μSv/h,室内でも0.5μSv/h という数値が出て,その後数日間にわたり放射線量を計測したが,上記の数値から下がる気配はなかったことから,原告番号35-3にはできるだけ外で遊ばないように言い,家から出さないようにした。また,原告らは,除染のために,自宅を洗浄し,外壁を塗り替えたが,放射線量は下がらなかったため,原告番号35-3のためにも避難した方がよいのではないかと考えるようになった。 原告番号35-1及び原告番号35-3は,平成23年7月頃,岐阜県清見市の被災者の避難を支援する保養プログラムに参加したところ,避難してきた人が50ないし60名程いた。原告番号35-2は,同年8月末,原告番号35-1及び原告番号35-3が保養プログラムに参加している岐阜県清見市に行き,二,三日過ごした。その後,原告らは,福島の自宅に帰ったが,原告番号35-3を放射能の危険のない場所でのびのびと育てたいという思いから,福島市から岐阜市に避難することを決断した。 まず,原告番号35-1が岐阜県に行き,避難後の生活の準備を整えた後,原告番号35-2及び原告番号35-3が避難することになり,原告番号35-1は,平成23年11月末,自動車で岐阜県に避難した。原告番号35-1- 799 -は,原告番号35-2及び原告番号35-3が岐阜に避難する平成24年3月末までは岐阜市内の市営住宅を借りて生活し,平成23年12月頃には塾講師として働くようになった。原告らは,同年11月末から平成24年3月末までは,福島県と岐阜県を行き来する生活を送っていた。原告番号35-1は,平成24年3月,原告ら3人が暮らすためのアパートを見つけてそこに入居し,原告番号35-2及び原告番号35-3は,同月末,自動 では,福島県と岐阜県を行き来する生活を送っていた。原告番号35-1は,平成24年3月,原告ら3人が暮らすためのアパートを見つけてそこに入居し,原告番号35-2及び原告番号35-3は,同月末,自動車で岐阜県の上記アパートに引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号35-2及び原告番号35-3は,平成24年3月末,岐阜県に引っ越したが,原告番号35-1は,その少し前に働いていた塾が閉鎖されたために失職し,塾講師のアルバイトとして働くようになった。また,原告番号35-1は,平成26年11月頃には,塾講師のアルバイトも塾の都合で辞めさせられ,その後,フリースクールの講師のアルバイトとして働き,現在は,上記アルバイトも辞めて,カウンセラーとして活動している。 原告番号35-2は,岐阜県に避難してからしばらくは仕事が見つからなかったものの,平成24年9月に看護師のパートタイム勤務の仕事を見つけて働き始めた。その後,原告番号35-2は,平成27年8月,上記看護師のパートタイム勤務の仕事を退職したが,同年12月に別の看護師のパートタイム勤務の仕事を見つけ,現在まで働いている。 原告番号35-3は,岐阜県に避難後,岐阜県の小学校に転校したが,当初は同級生から「(避難者だからと言って)調子乗ってんじゃねえぞ。」などと言われて,落ち込むこともあった。 福島県に残った原告番号35-1の母は,がんが見つかり手術をすることになり,入院することとなったが,平成26年7月,死亡した。 イ本件事故時住所地の状況等- 800 -本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年 本件事故時住所地の状況等- 800 -本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年3月には0.64ないし2.61μSv/h,平成24年4月には0. 03ないし1.40μSv/h,平成25年4月には0.08ないし0.64μSv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 25μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.23μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,福島市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,福島市で検査を受けた2万4713人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告らが本件事故当時居住していた自宅は,原告番号35-1の母の死亡後に処分された。 2 損害についての検討⑴ 原告番号35-1の請求についてア避難費用 なお,原告らが本件事故当時居住していた自宅は,原告番号35-1の母の死亡後に処分された。 2 損害についての検討⑴ 原告番号35-1の請求についてア避難費用 交通費- 801 -原告番号35-1及び原告番号35-3が一時的に保養プログラムに参加するために岐阜県に行ったのは平成23年7月頃であり,原告番号35-3の夏休みを利用したものと推認されるところ,この時点では本件事故から約4か月が経過しており,かかる一時的な滞在は原告番号35-1の任意の判断で行われたものといえ,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。一方で,原告番号35-1が平成23年11月に岐阜県に行ったのは原告ら家族が岐阜県に本格的に避難するためであり,本件事故と相当因果関係を有するものといえる。そして,福島県から岐阜県へ自動車で移動する際の交通費は,民事訴訟法248条に基づき,1万円と認めるのが相当である。したがって,1万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号35-1は,平成24年3月に引っ越す際の協力者への謝礼として6万円を支払ったとして6万円を請求するが,これは本件事故により支出を余儀なくされたものではなく,原告番号35-1が自らの判断で任意に支払ったものであるから,本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえず,原告番号35-1の上記請求は認められない。一方で,引っ越しの際に要した交通費は本件事故と相当因果関係を有すると認められるところ,前記のとおり,福島県から岐阜県へ自動車で移動する際の交通費は1万円と認めるのが相当である。したがって,1万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 面会交通費原告番号 おり,福島県から岐阜県へ自動車で移動する際の交通費は1万円と認めるのが相当である。したがって,1万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 面会交通費原告番号35-1は,①平成23年8月に原告番号35-2が電車で福島県から岐阜県に来た際の交通費,②同年12月12日に原告番号35-2及び原告番号35-3が電車で福島県から岐阜県に来た際の交通費,③平成24年1月1日に原告らが自動車で岐阜県から福島市に戻った際の- 802 -交通費,④同月初めに原告番号35-1が自動車で福島県から岐阜県に行った際の交通費,⑤同月末に原告番号35-1が電車で岐阜県から福島県に戻った際の交通費,⑥平成24年2月に原告番号35-1が電車で岐阜県から福島県に戻った際の交通費,⑦同年3月に原告番号35-1が電車で福島県から岐阜県へ戻った際の交通費を請求する。 平成23年8月に原告番号35-2が電車で福島県から岐阜県に来た際の交通費については,前記のとおり,そもそも,原告番号35-1及び原告番号35-3の岐阜県への一時的な避難が本件事故と相当因果関係を有するものとはいえないから,同人らと面会するための上記交通費も本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。一方,原告らは,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,原告番号35-3については平成24年8月31日まで避難の継続の合理性が認められるから,その他の面会については本件事故との因果関係は認められるものの,損害額としては,自動車の場合は片道1万円,電車の場合は片道大人1万5000円(子供7500円)と認めるのが相当である。したがって,11万7500円(②平成23年12月12日分:1万5000円+7500円=2万2500円(片道),③平成24年1月1 は片道大人1万5000円(子供7500円)と認めるのが相当である。したがって,11万7500円(②平成23年12月12日分:1万5000円+7500円=2万2500円(片道),③平成24年1月1日分:1万円(片道),④平成24年1月初め分:1万円(片道),⑤平成24年1月末分:1万5000円×2=3万円(往復),⑥平成24年2月分:1万5000円×2=3万円(往復),⑦平成24年3月分:1万5000円(片道))を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(避難雑費)いかなる避難雑費が発生したかについて具体的な主張立証がないから,被告東電が既に賠償した54万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害とは認められない。したがって,54万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 803 -イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号35-1は,家財道具購入費として30万円を請求する。原告番号35-1は,家財道具を購入したことを示す領収証等を一切提出しないものの,避難先で生活するために家財道具を購入する必要があったといえ,その購入金額は,民事訴訟法248条に基づき,10万円と認めるのが相当である。したがって,10万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(二重生活による生活費増加分)原告番号35-1は,二重生活により生活費が増加したとして増加分を請求するが,実際に生活費が増加したと認めるに足りる証拠はなく,原告番号35-1の上記請求は認められない。 家賃増加分原告番号35-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月3 35-1の上記請求は認められない。 家賃増加分原告番号35-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号35-3についても平成24年8月31日までである。 そして,原告番号35-1が居住していたアパートは平成29年3月までは家賃補助があり,原告番号35-1の家賃負担はなかったのであるから(原告番号35-2本人),本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできず,原告番号35-1の上記請求は認められない。 教育費原告番号35-1は,子供会費及び学用品等の購入費として4万9830円を請求するが,原告番号35-1が実際に上記支出をしたと認めるに足りる証拠はなく,避難をしなくとも子供の教育のために要した費用であるとも考えられ,被告東電が既に賠償した2万2500円を超えて本件事- 804 -故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,2万2500円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(駐車場代)原告番号35-1は,平成24年4月から平成29年12月分までの月額3150円又は3240円の駐車場代を請求するが,前記のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは原告番号35-3を含めても平成24年8月31日までであるから,被告東電が既に賠償した8万1900円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,8万1900円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウその他(ADR弁護士費用)原告番号35-1が請求し,被告東電が既に賠償した7万7132 はできない。したがって,8万1900円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウその他(ADR弁護士費用)原告番号35-1が請求し,被告東電が既に賠償した7万7132円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ慰謝料以外の損害合計95万9032円オ慰謝料原告番号35-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月31日までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号35-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号35-2の請求について- 805 -ア就労不能損害原告番号35-2が請求し,被告東電が既に賠償した116万6666円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ慰謝料以外の損害合計116万6666円ウ慰謝料原告番号35-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号35-2の慰謝料は,60万円と認め 6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号35-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号35-3の請求について原告番号35-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から平成24年8月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号35-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号35-1に対する弁済被告東電は,原告番号35-1に対し,112万1532円の賠償を行った- 806 -ことが認められる。 ⑵ 原告番号35-2に対する弁済被告東電は,原告番号35-2に対し,124万6666円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号35-3に対する弁済被告東電は,原告番号35-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号35-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を 前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号35-1に生じた慰謝料以外の損害は95万9032円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は104万1532円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号14-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号35-2本件事故により原告番号35-2に生じた損害額である176万6666円から,被告東電の弁済額である124万6666円を控除すると52万円となる。 - 807 -ウ原告番号35-3本件事故により原告番号35-3に生じた損害額である100万円から48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号35-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号35-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号35-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 る5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号35-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号35-157万円(52万円+5万円)イ原告番号35-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号35-357万円(52万円+5万円)第33 原告番号36の世帯 1 認定事実(甲C32の1・7,甲C33の1・34,原告番号32-2本人,原告番号36-1本人)⑴ 本件事故前の状況等原告番号36-1(本件事故当時40歳),原告番号36-1の長男である原告番号36-2(本件事故当時18歳),二男である原告番号36-3(本- 808 -件事故当時7歳)は,本件事故当時,いわき市の一戸建ての自宅(いわき市,福島第一原発からの距離44.81㎞(乙C36の2))に居住していた(以下,原告番号36-1ないし原告番号36-3を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号36-1は,平成14年9月に離婚し,それ以降は一人で原告番号36-2及び原告番号36-3を育てていた。原告番号36-1は,いわき市で生まれ育ち,平成元年,父である原告番号33-1が設立した自動車の整備,新車・中古車の販売等の事業を営む会社に就職し,保険一般,車両販売,事務一般等の仕事を担当していた。原告番号36-1の弟である原告番号32-1も上記会社で働いており,原告番号36-1の父が原告番号32-1に代表の座を譲り,これから姉弟で力を合わせて上記会社を盛り立てて行こうと計画していたところであった。 原告番号36-2は,本 も上記会社で働いており,原告番号36-1の父が原告番号32-1に代表の座を譲り,これから姉弟で力を合わせて上記会社を盛り立てて行こうと計画していたところであった。 原告番号36-2は,本件事故当時,高校を卒業し,いわき市で就職するつもりで就職活動中であり,原告番号36-3は,いわき市の市立小学校の1年生の春休みを迎える前であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号36-1は,本件地震発生当時,職場におり,子供のことを心配したが,原告番号36-2は,自動車で出掛けていたが自力で帰宅し,原告番号36-3は,学童保育で学校にいたため,原告番号36-1が自動車で迎えに行った。その後,原告番号36-1は,一旦仕事に戻ったものの,仕事ができる状態でなかったため,店を閉め,家に帰った。自宅では,食器棚やタンスは全て倒れ,ガラスが割れ,柱にひびが入り,開かないドアもあるという状態であった。原告番号36-1は,平成23年3月12日,出勤したものの,仕事にならなかったため,仕事を早々に切り上げ,両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)及び弟家族(原告番号32-1ないし原告番号32-5)の住む実家に行き,そこで一夜を過ごした。その後,前記第29の1⑵記載のと- 809 -おり,原告ら,原告番号36-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)及び原告番号36-1の弟家族(原告番号32-1ないし原告番号32-5)の合計10人は,同日午後3時頃,郡山市に避難し,同日はホテルに宿泊し,同月13日,自動車で群馬県安中市に避難し,同月13日及び同月14日は民宿に宿泊し,同月15日からは原告番号36-1の友人のアパートでルームシェアを始めた。 原告番号36-1,原告番号36-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2) 及び同月14日は民宿に宿泊し,同月15日からは原告番号36-1の友人のアパートでルームシェアを始めた。 原告番号36-1,原告番号36-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)並びに弟(原告番号32-1)は,平成23年3月末頃,仕事を再開する必要があり,いわき市に戻った。原告番号36-3は,同年4月から新学期が始まるため,臨時で群馬県の小学校に通うための手続をして群馬県の小学校に通い始め,原告番号36-2は,友人の会社で働くようになった。原告番号36-1は,父(原告番号33-1)の経営する会社で,保険,車両販売等の仕事を担当しており,平成23年4月以降,群馬県に生活の拠点を置きながらも,週3回はいわき市にある会社に出勤し,場合によっては数日間滞在するという生活をしていた。 原告番号36-1及び原告番号36-3は,原告番号32-2ないし原告番号32-5と共に,平成23年7月及び平成24年7月に保養プログラムに参加するために岐阜県に行った。また,原告番号36-3は,平成24年8月,甲状腺の検査を受け,その結果,嚢胞があると診断された。 原告らは,平成24年8月頃,岐阜県に避難することを決断し,岐阜県での住居を探し始め,原告番号36-1及び原告番号36-3は岐阜県への避難の準備のためにいわき市の自宅に戻った。原告番号36-2も平成25年2月には岐阜県へ一緒に引っ越すことを決め,引っ越しの準備のためいわき市の自宅に戻った。そして,原告らは,平成25年3月,岐阜市内のマンションに引っ越した。 ⑶ 避難後の状況等- 810 -ア避難生活の状況原告番号36-1は,平成25年6月にデイサービスの仕事に正社員として就職した。また,原告番号36-1の両親(原告番号33-1及び原告番 等- 810 -ア避難生活の状況原告番号36-1は,平成25年6月にデイサービスの仕事に正社員として就職した。また,原告番号36-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)は,平成27年12月に岐阜市で自動車の整備及び販売等の業を営む会社を設立したことから,原告番号36-1は,平成28年4月には,同会社で本格的に働くためにデイサービスの仕事をパートタイム勤務扱いにしてもらい,同会社の正社員となった。それ以降,原告番号36-1は,火曜日及び土曜日はデイサービスのパートタイム勤務に出て,月曜日,水曜日,木曜日及び金曜日は上記会社において,保険,車両販売,事務一般等の仕事をするという生活をしている。原告番号36-2は,岐阜県に引っ越した後は,自動車整備士の資格を取るため,愛知県一宮市の専門学校に通い,平成27年3月に同学校を卒業し,同年4月から自動車販売店で働いている。原告番号36-3は,平成25年3月に岐阜県に引っ越してから原告番号36-1の両親(原告番号33-1及び原告番号33-2)が岐阜県に引っ越してくる同年12月までは学校から帰宅しても一人だけで過ごす状態が続いた。 なお,原告番号36-1は,平成26年3月,岐阜市内に一戸建ての家を35年ローンで購入した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成 0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移して- 811 -おり(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告番号36-1は,平成25年4月頃,いわき市の上記自宅を売却した。 2 損害についての検討⑴ 原告番号36-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号36-1は,いわき市から群馬県に避難した際に要した交通費及び群馬県からいわき市に戻る際に要した交通費のほかに,岐阜県へ保養プログラムに行く際に要した交通費及びいわき市から岐阜県に引っ越した際に要した交通費を請求する。しかし,原告番号36-1及び原告 費及び群馬県からいわき市に戻る際に要した交通費のほかに,岐阜県へ保養プログラムに行く際に要した交通費及びいわき市から岐阜県に引っ越した際に要した交通費を請求する。しかし,原告番号36-1及び原告番号36―3は既に群馬県に避難しており,岐阜県での保養プログラムへの参加は原告番号36-1の任意の判断で行ったものであり,その際に要した交通費は本件事故により支出を余儀なくされたものということはできない。また,原告番号36-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に- 812 -居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日まで,原告番号36-2及び原告番号36-3についても平成24年8月31日までであり,岐阜県への避難には相当性がない。そして,原告番号36-1が,いわき市から群馬県に避難する際及び群馬県からいわき市に戻る際に被告東電が既に賠償した1万0400円を超える交通費を負担したと認めるに足りる証拠はないから,1万0400円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号36-1は,平成23年3月から平成24年8月までの18か月間,友人宅でルームシェアをしており,月額3万円を負担していたと認められ(原告番号36-1本人,弁論の全趣旨),本件事故がなければかかる負担がなかったといえるから,54万円(3万円/月×18か月=54万円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用前記のとおり,原告番号36-1の岐阜県への避難には相当性がないから,いわき市から岐阜県への引っ越し費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。 一時立入・帰省費用原告番号36-1及び原告番号36 阜県への避難には相当性がないから,いわき市から岐阜県への引っ越し費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。 一時立入・帰省費用原告番号36-1及び原告番号36-2は,平成23年10月及び同年11月に甲状腺検査を行うために,群馬県から福島県に行ったことが認められるところ(甲C36の28・29),その際の交通費は,民事訴訟法248条に基づき,片道5000円程度と認めるのが相当であるから,被告東電が既に賠償した4万1600円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできず,4万1600円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用- 813 - 家財道具購入費前記のとおり,岐阜県への避難には相当性が認められず,群馬県に避難した際に購入したエアコン等についても領収証等が存在しないから,被告東電が既に賠償した15万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したということはできず,15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 交通費原告番号36-1は,平成23年4月から平成24年8月まで群馬県からいわき市に仕事のため月に4回は通わなければならなかった旨主張する。しかし,原告番号36-1が週に三,四日,原告番号33-1が経営する会社に出勤するようになったのは平成23年6月又は7月頃からであり(原告番号36-1本人),被告東電が既に賠償した42万2180円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したことを認めるに足りる証拠は存在せず,42万2180円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(福島の自宅の売却に要した費用)前記のとお する損害が発生したことを認めるに足りる証拠は存在せず,42万2180円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他(福島の自宅の売却に要した費用)前記のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであるから,いわき市の自宅を売却する必要はなく,福島の自宅の売却に要した費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。 その他(岐阜の自宅の購入費用)前記のとおり,岐阜県への避難には相当性が認められないから,いわき市の自宅を売却する必要はなく,岐阜の自宅の購入費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。 その他(引っ越し先探しのための交通費)前記のとおり,岐阜県への避難には相当性が認められないから,いわき市の自宅を売却する必要はなく,引っ越し先探しのための交通費は本件事- 814 -故と相当因果関係を有するとはいえない。 その他(車庫証明手数料)原告番号36-1は,車庫証明手数料として2万8000円を請求するが,実際にこの支出をしたと認めるに足りる証拠はなく,原告番号36-1の上記請求は認められない。 ウ就労不能損害原告番号36-1は,平成25年2月に原告番号33-1がいわき市で経営していた会社を退職してから同年6月に岐阜県で再就職するまでの収入の減少について就労不能損害として請求するが,前記のとおり,岐阜県への避難には相当性が認められないから,上記の収入の減少は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号36-1の請求は認められない。 エ財物損害(動産)原告番号36-1は,本件事故後に通勤の関係で走行距離が急激に増えたことから自 と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号36-1の請求は認められない。 エ財物損害(動産)原告番号36-1は,本件事故後に通勤の関係で走行距離が急激に増えたことから自動車が故障し,それに伴い新しい自動車を購入せざるを得なくなった旨主張する。しかし,新しい自動車を購入しなければならなくなった原因が本件事故による避難により通勤距離が増えたことにあると認めるに足りる証拠はなく,原告番号36-1の請求は認められない。 オ被ばく検査費用原告番号36-1が請求し,被告東電が既に賠償した4万4030円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カ線量計購入費原告番号36-1が請求し,被告東電が既に賠償した13万1250円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 キ慰謝料以外の損害合計133万9460円ク慰謝料- 815 -原告番号36-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号36-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号36-2の請求について原告番号36-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とす られるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号36-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号36-3の請求について原告番号36-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号36-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号36-1に対する弁済被告東電は,原告番号36-1に対し,88万9405円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号36-2に対する弁済被告東電は,原告番号36-2に対し,40万円の賠償を行ったことが認められる。 - 816 -⑶ 原告番号36-3に対する弁済被告東電は,原告番号36-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号36-1本件事故により原告番号36-1に生じた損害額である193万9460円から,被告東電の弁済額である88万9405円を控除すると105万0055円となる。 イ原告番号36-2本件事故により原告番号36-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である40万円 る88万9405円を控除すると105万0055円となる。 イ原告番号36-2本件事故により原告番号36-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である40万円を控除すると60万円となる。 ウ原告番号36-3本件事故により原告番号36-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号36-1105万0055円の約1割である11万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号36-260万円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号36-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額- 817 -ア原告番号36-1116万0055円(105万0055円+11万円)イ原告番号36-266万円(60万円+6万円)ウ原告番号36-357万円(52万円+5万円)第34 原告番号37の世帯 1 認定事実(原告番号37-2本人(同人の陳述書(甲C37の1・2)を含む。 以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号37-1(本件事故当時34歳),その妻である原告番号37-2(本件事故当時36歳),原告番号37-1及び原告番号37-2の長男である原告番号37-3(本件事故当時3歳)は,本件事故当時,いわき市所在の賃貸アパート(いわき市 ,福島第一原発からの距離53.64㎞(乙C37の1))に居住して 2の長男である原告番号37-3(本件事故当時3歳)は,本件事故当時,いわき市所在の賃貸アパート(いわき市 ,福島第一原発からの距離53.64㎞(乙C37の1))に居住していた。また,原告番号37-2の母である原告番号37-4(本件事故当時63歳)は,本件事故当時,原告番号37-2の祖母と共に,いわき市内の原告番号37-2の実家(いわき市,福島第一原発からの距離52.59㎞(乙C37の3))に居住していた。(以下,原告番号37-1ないし原告番号37-4の4名又は上記4名に原告番号37-2の祖母を加えた5名を併せて,この項において「原告ら」という。)本件事故当時,原告番号37-1は,総合化学メーカーの正社員として茨城県北茨城市の工場に勤務しており,原告番号37-2及び原告番号37-4は無職であり,原告番号37-3は保育園に通っていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号37-2及び原告番号37-3は,本件地震の発生当時,外出して- 818 -おり,原告番号37-4及び原告番号37-2の祖母は自宅にいた。原告番号37-2らが原告番号37-1と連絡が取れたのは同日午後4時頃であった。 原告番号37-1は,同日は自宅に帰宅することができず勤務先の工場に泊まり,原告番号37-2らと合流できたのは同月12日の昼頃であったが,その後しばらくは自宅待機となった。原告らは,同月12日頃,テレビで福島第一原発で爆発が発生したことを知り,さらに,同月14日及び15日には,別の爆発が発生したことを知り,いわき市から避難することを決断した。 原告らは,同月15日,原告番号37-2の叔母の住む東京都北区に自動車で行き,同月18日まで避難していた。その後,原告番号37-1ないし原 たことを知り,いわき市から避難することを決断した。 原告らは,同月15日,原告番号37-2の叔母の住む東京都北区に自動車で行き,同月18日まで避難していた。その後,原告番号37-1ないし原告番号37-3は,同月18日から同月25日までの間,東京都大田区のホテルに泊まり,原告番号37-4及び原告番号37-2の祖母は引き続き原告番号37-2の叔母の家に滞在した。原告番号37-1ないし原告番号37-3は,同月25日,原告番号37-1の勤務先の会社から岐阜市に原告番号37-1ないし原告番号37-3のためにホテルを予約したとの連絡が入ったため,岐阜市のホテルに移動し,そこで生活することとなった。一方で,原告番号37-4及び原告番号37-2の祖母は,原告番号37-1の勤務先の会社が予約したホテルに行くことはできず,原告番号37-2の叔母の家にいつまでもいるわけにもいかなかったため,いわき市の自宅に戻ることとした。そこで,原告番号37-1は,同日,原告番号37-4及び原告番号37-2の叔母を自動車でいわき市まで送り,原告番号37-2及び原告番号37-3は,いわき市から戻ってきた原告番号37-1と東京駅で合流し,電車で岐阜市のホテルまで行った。この際のホテル代は原告番号37-1の勤務先の会社が負担した。原告番号37-1ないし原告番号37-3は,同年5月21日までは岐阜市内のホテルに滞在していたものの,この頃,原告番号37-1の勤務していた工場が再開したこと,長いホテル生活で精神的肉体的に疲労がたまっていたこと等から,いわき市の自宅に戻ることにした。原告らがいわき市に戻っ- 819 -てからは,原告番号37-3は保育園に通っていたが,放射能の影響を心配しながらの生活であった。そして,原告らは,いつまでもいわき市にいては原告番号37-3の 原告らがいわき市に戻っ- 819 -てからは,原告番号37-3は保育園に通っていたが,放射能の影響を心配しながらの生活であった。そして,原告らは,いつまでもいわき市にいては原告番号37-3の健康に良くないと考え,受入先の自治体を探したところ,愛知県が受け入れてくれるという情報を知り,愛知県に避難することにした。そこで,原告らは,同年12月25日,自動車で愛知県に行き,原告番号37-1ないし原告番号37-3と原告番号37-4及び原告番号37-2の祖母は,それぞれ名古屋市の借り上げ住宅に入居した。この際,原告らは,家財道具は全て買い換えた。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号37-2及び原告番号37-3は,名古屋市に避難してからは,上記借り上げ住宅に避難していたが,平成29年3月31日で家賃補助が終了することから,平成28年12月末に名古屋市内のアパートに引っ越した。原告番号37-4及び原告番号37-2の祖母も,名古屋市に避難してからは上記借り上げ住宅に避難していたが,原告番号37-2の祖母は平成24年10月に死亡し,原告番号37-4は家賃補助が終了した後も引き続き借り上げ住宅に住むことにした。 原告番号37-1は,平成24年1月1日から平成26年7月31日までマレーシアに転勤し,マレーシアから戻ると東京の本社勤務になり,同年8月1日から平成28年12月31日まで東京都武蔵野市に単身赴任した。その後,原告番号37-1は,三重県四日市市の工場勤務になったため,平成29年1月1日から原告番号37-2及び原告番号37-3と共に名古屋市の上記アパートに住むようになった。なお,原告番号37-2及び原告番号37-3は,原告番号37-1がマレーシアに出向する際には同行することも検討したが,マレー -2及び原告番号37-3と共に名古屋市の上記アパートに住むようになった。なお,原告番号37-2及び原告番号37-3は,原告番号37-1がマレーシアに出向する際には同行することも検討したが,マレーシアで居住する場所の放射線量が自然の放射線量としては高めであったため,同行することを断念した。 - 820 -イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となってお 平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告番号37-4のいわき市の自宅は,現在は借家にしている。 2 損害についての検討⑴ 原告番号37-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号37-1は,①平成23年3月15日にいわき市から東京まで- 821 -自動車で避難した際の交通費,②同月25日に原告番号37-2及び原告番号37-3と共に電車で東京都から岐阜市まで避難した際の交通費,③同日に原告番号37-4及び原告番号37-2の祖母をいわき市まで自動車で送った際の交通費,④同年5月21日に原告番号37-1がいわき市に電車で戻った際の交通費,⑤同日に原告番号37-1がいわき市から岐阜市まで自動車で原告番号37-2及び原告番号37-3を迎えに行った際の交通費及び岐阜市からいわき市まで自動車で戻ってくる際の交通費,⑥同年12月25日にいわき市から名古屋市に自動車で避難する際の交通費として,合計11万2856円を請求する。そして,上記の移動は本件事故と相当因果関係を有するものといえる。また,交通費の金額としては,自動車で移動した場合の費用については,民事訴訟法248条に基づき,いわき市から東京までは片道8000円,いわき市から岐阜市又は名古屋市までは片道1万円と認めるのが相当であり,電車で移動した場合にはついては,東京駅から岐阜駅までは片道1万0580円(甲C37の5),岐阜駅からいわき駅までは片道1万3710円(甲C37の6)と認めるのが相当である と認めるのが相当であり,電車で移動した場合にはついては,東京駅から岐阜駅までは片道1万0580円(甲C37の5),岐阜駅からいわき駅までは片道1万3710円(甲C37の6)と認めるのが相当である。したがって,7万8290円(①平成23年3月15日分:8000円,②平成23年3月25日分:1万0580円,③平成23年3月25日分:1万6000円(8000円×2(往復)=1万6000円),④平成23年5月21日分:1万3710円,⑤同年5月21日分:2万円(1万円×2(往復)=2万円),⑥同年12月25日分:1万円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号37-1は,平成23年3月18日から同月24日までの間,東京都大田区のホテルに滞在しており,宿泊費として少なくとも原告番号37-1が請求する2万1000円を要したと認めるのが相当である。また,原告番号37-1は,同年12月25日に神奈川県のホテルで宿泊し- 822 -たことも認められ(原告番号37-2本人,弁論の全趣旨),領収証等は提出していないものの,民事訴訟法248条に基づき,宿泊費として5000円を要したと認めるのが相当である。したがって,2万6000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号37-1は,いわき市から名古屋市への引っ越し費用として20万円を請求するが,領収証等は提出しておらず,原告番号37-2は家財道具を全て買い換えた旨供述しており(原告番号37-2本人),引っ越し費用として20万円を要したと認めるに足りる証拠はない。もっとも,一定程度の引っ越し費用は発生していると認められ,家財道具は全て買い換えたこと等を考慮して,民事訴訟法248条に基づき,5万 引っ越し費用として20万円を要したと認めるに足りる証拠はない。もっとも,一定程度の引っ越し費用は発生していると認められ,家財道具は全て買い換えたこと等を考慮して,民事訴訟法248条に基づき,5万円の引っ越し費用を要したと認めるのが相当である。したがって,5万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号37-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号37-3についても平成24年8月31日までである。 したがって,平成25年10月中旬に帰省した際に要した費用については,本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号37-1の請求は認められない。 その他(引っ越しの準備等)原告番号37-1は,平成23年12月下旬頃に愛知県の避難者用のアパートの下見に電車で行った際の交通費及び宿泊費を請求するが,これについては原告番号37-3が避難するために必要なものであったといえ,本件事故と相当因果関係を有するといえる。もっとも,東京からいわき市までは在来線を利用していることなどに鑑みれば(原告番号37-2本- 823 -人),民事訴訟法248条に基づき,福島県から名古屋市までの電車での交通費は片道1万5000円と認めるのが相当であり,宿泊費は1泊5000円と認めるのが相当である。したがって,3万5000円(交通費1万5000円×2(往復)+宿泊費5000円=3万5000円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。一方で,東京に単身赴任中の平成26年8月から平成28年12月までに,家族が名古屋市に避難していたために,家族に会うためにいわき市に行くより余計に掛か を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。一方で,東京に単身赴任中の平成26年8月から平成28年12月までに,家族が名古屋市に避難していたために,家族に会うためにいわき市に行くより余計に掛かった費用については,その時期に照らすと,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。 イ線量計購入費原告番号37-1は線量計購入費を請求するが,実際に線量計を購入したと認めるに足りる証拠はなく,原告番号37-1の上記請求は認められない。 ウ慰謝料以外の損害合計18万9290円エ慰謝料原告番号37-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号37-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号37-2の請求についてア避難費用- 824 - 宿泊費・謝礼原告番号37-2は,平成23年3月18日から同月24日までの間,東京都大田区のホテルに滞在しており,宿泊費として少なくとも原告番号37-2が請求する2万1000円を要したと認めるのが相当であり,同年12月25日に神奈川県のホテルで宿泊したことも認められ(原告番号37-2本人,弁論の全趣旨),民事訴訟法248条に基づき,宿泊費として5000円を要したと認めるのが相当である。したがって,2万 年12月25日に神奈川県のホテルで宿泊したことも認められ(原告番号37-2本人,弁論の全趣旨),民事訴訟法248条に基づき,宿泊費として5000円を要したと認めるのが相当である。したがって,2万6000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号37-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号37-3についても平成24年8月31日までである。 したがって,平成24年10月中旬,平成25年10月中旬及び平成28年8月中旬に帰省した際に要した費用については,本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号37-2の請求は認められない。 その他(引っ越しの準備等)原告番号37-2は,平成23年12月下旬頃に愛知県の避難者用のアパートの下見に行った際の交通費及び宿泊費を請求するが,これについては原告番号37-3が避難するために必要なものであったといえ,本件事故と相当因果関係を有するといえる。 3万5000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ慰謝料以外の損害合計6万1000円ウ慰謝料原告番号37-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成- 825 -23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。 おり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号37-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号37-3の請求についてア避難費用 宿泊費・謝礼原告番号37-3は,平成23年3月18日から同月24日までの間,東京都大田区のホテルに滞在しており,原告番号37-3は当時3歳であったことから,宿泊費としては大人の半額である1万0500円を要したと認めるのが相当であり,同年12月25日に神奈川県のホテルで宿泊したことも認められ(原告番号37-2本人,弁論の全趣旨),民事訴訟法248条に基づき,宿泊費としては大人の半額である2500円を要したと認めるのが相当である。したがって,1万3000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号37-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までである。したがって,平成24年10月中旬,平成25年10月中旬及び平成28年8月中旬に帰省した際に要した費用については,本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号37-3の請求は認められない。 その他(引っ越しの準備等)原告番号37-3は,平成23年12月下旬頃に愛知県の避難者用のアパートの下見に行った際の交通費及び宿泊費を請求するが,これについて- 826 -は避難するために必要なものであったといえ,本件事故と相当因果関係を有するといえる。そして,原告番号37-3は,当時 ートの下見に行った際の交通費及び宿泊費を請求するが,これについて- 826 -は避難するために必要なものであったといえ,本件事故と相当因果関係を有するといえる。そして,原告番号37-3は,当時4歳であったことから,交通費及び宿泊費は,民事訴訟法248条に基づき,大人の半額である1万7500円を要したと認めるのが相当である。したがって,1万7500円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ慰謝料以外の損害合計3万0500円ウ慰謝料原告番号37-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から平成24年8月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号37-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号37-4の請求についてア避難費用 宿泊費・謝礼原告番号37-4は,平成23年3月25日に東京都北区の原告番号37-2の叔母の家に住まわせてもらった謝礼として3万円を支払ったとして3万円を請求するが,これは原告番号37-4が自らの判断で任意に支払ったものであり,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。一方で,原告番号37-4は,平成23年12月25日に名古屋市に避難する途中に神奈川県のホテルに宿泊したことが認められ( で任意に支払ったものであり,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。一方で,原告番号37-4は,平成23年12月25日に名古屋市に避難する途中に神奈川県のホテルに宿泊したことが認められ(原告番号3- 827 -7-2本人,弁論の全趣旨),民事訴訟法248条に基づき,宿泊費として5000円を要したと認めるのが相当である。 一時立入・帰省費用原告番号37-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住しており,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号37-3についても平成24年8月31日までである。 したがって,平成24年10月中旬,平成25年10月中旬及び平成28年8月中旬に帰省した際に要した費用については,本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号37-4の請求は認められない。 イ慰謝料以外の損害合計5000円ウ慰謝料原告番号37-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号37-4の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号37-1に対する弁済証拠(乙C37の5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号37-1に対し,32万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号37-2に対する弁済証拠(乙C37の5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号37-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告 認められる。 ⑵ 原告番号37-2に対する弁済証拠(乙C37の5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号37-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号37-3に対する弁済証拠(乙C37の5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号- 828 -37-3に対し,40万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号37-4に対する弁済証拠(乙C37の5・6)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号37-4に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号37-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号37-1に生じた慰謝料以外の損害は18万9290円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は24万円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号37-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号37-2本件事故により原告番号37-1に生じた損害額である66万1000円から,被告東電の弁済額 対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号37-2本件事故により原告番号37-1に生じた損害額である66万1000円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると58万1000円となる。 ウ原告番号37-3本件事故により原告番号37-3に生じた損害額である103万0500円から,被告東電の弁済額である40万円を控除すると63万0500円- 829 -となる。 エ原告番号37-4本件事故により原告番号37-4に生じた損害額である60万5000円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万5000円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号37-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号37-258万1000円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号37-363万0500円の約1割である6万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号37-452万5000円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号37-157万円(52万円+5万円)イ原告番号37-264万1000円(58万1000円+6万円)ウ原告番号37-369万0500円(63万0500円+6万円)エ原告番号37-4- 830 -57万5000円(52万5000円+5万円)第35 ウ原告番号37-369万0500円(63万0500円+6万円)エ原告番号37-4- 830 -57万5000円(52万5000円+5万円)第35 原告番号38の世帯 1 認定事実(甲C38の2,原告番号38-2本人(同人の陳述書(甲C38の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号38-1(本件事故当時43歳),その妻である原告番号38-2(本件事故当時38歳),原告番号38-1及び原告番号38-2の長女である原告番号38-3(本件事故当時0歳)は,本件事故当時,福島市所在の賃貸アパート(福島市 ,福島第一原発からの距離66.33㎞(乙C38の2))に居住していた(以下,原告番号38-1ないし原告番号38-3を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号38-1及び原告番号38-2は,共に福島県出身であり,双方の実家も福島県内にあり,互いの兄弟姉妹も含め,頻繁に交流しており,原告らと原告番号38-2の姉(二女)の家族は同じ賃貸アパートに住み,困った時にはすぐに協力し合える状況であった。原告番号38-1は,本件事故当時,福島県内の運送会社に勤務しており,原告番号38-2も福島県内の会社で22年間正社員として勤務していたが,平成22年8月に原告番号38-3が出生し,本件事故当時は育児休業中であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件地震では大きな被害は免れることができ,平成23年3月12日,本件事故が発生したものの,福島市の場合は避難の必要はないとの報道がされていたため,自宅での生活を継続していた。しかし,同月14日,2回目の爆発が発生し,原告らは,特に原告番号38-3の健康が心配 ,本件事故が発生したものの,福島市の場合は避難の必要はないとの報道がされていたため,自宅での生活を継続していた。しかし,同月14日,2回目の爆発が発生し,原告らは,特に原告番号38-3の健康が心配であったことから,親族と相談の上,避難することを決断した。具体的には,同じアパートに住む原告番号38-1の姉(二女)の家族及びその義父母,原告番号38- 831 --2の実家の母及び原告番号38-2の妹(五女)並びに原告番号38-2のもう一人の妹(四女)夫婦の合計12人で避難することになった。原告らは,同月14日の深夜から同月15日の未明に掛けて,自動車に分乗の上,福島県を出発し,同日午前,栃木県那須塩原市に到着した。そして,原告らは,自動車を那須塩原駅前に駐車したまま新幹線に乗り,同日夕方,名古屋市に到着した。原告らは,特に名古屋市に地縁等があったわけではないが,東京よりさらに遠方の都市へ避難しようと思い,名古屋市に避難した。原告らは,名古屋市に到着後,合計12人でビジネスホテル5部屋に合計5泊した。原告らは,同月20日,名古屋市により市営住宅等が無料で提供されることを聞き,同市内の市営住宅へ入居した。しかし,原告番号38-1,原告番号38-2の姉(二女)の夫,原告番号38-2の妹(四女)の夫,原告番号38-2の母,原告番号38-2の下の妹(五女)及び原告番号38-2の姉(二女)の義父母は,それぞれ仕事の都合等で,平成23年3月末頃までに福島県内の自宅に戻った。一方,幼い子供を持つ原告番号38-2,原告番号38-2の姉(二女)及び原告番号38-3を含むその子供ら並びに今後出産の可能性を持つ妹(四女)は名古屋市内に残り,親族と離れて避難生活を継続することになった。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号 -3を含むその子供ら並びに今後出産の可能性を持つ妹(四女)は名古屋市内に残り,親族と離れて避難生活を継続することになった。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号38-2及び原告番号38-3は,平成23年12月,上記市営住宅から名古屋市内の借り上げ住宅に引っ越し,原告番号38-2の姉(二女)とその子供ら及び原告番号38-2の妹(四女)も同じマンションの別室へ引っ越して避難生活を継続することになった。 原告らは,原告番号38-1は福島市内の自宅で単身生活をする一方,原告番号38-2及び原告番号38-3は名古屋市内のマンションで生活し,原告番号38-1が月2回程度名古屋市に来るという生活を送ることとなった。原告番号38-1は,運送会社の福島支店で運転手の仕事を続けるこ- 832 -とになったが,原告番号38-2は,本件事故前に正社員として勤務していた福島県内の会社を退職し,名古屋市に避難してからは体調を崩したため再就職先を見つけることはできなかった。原告番号38-3は,平成25年4月から保育園に入園した。 原告番号38-2は,避難後は,避難前には見られなかった慢性的な不眠症,頭痛,胃痛のほか,不安神経症を患い,避難生活中はずっと通院を強いられた。また,原告番号38-1は,二重生活をするようになってから食生活が悪化し,平成27年9月には体調を崩し,3週間ほど入院した。このような事情から,原告番号38-2及び原告番号38-3は,平成28年2月,福島市内の自宅に戻り,原告番号38-1と共に生活するようになり,原告番号38-2は,本件事故前とは別の会社で働き始めた。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告 するようになり,原告番号38-2は,本件事故前とは別の会社で働き始めた。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年3月には0.64ないし2.61μSv/h,平成24年4月には0. 03ないし1.40μSv/h,平成25年4月には0.08ないし0.64μSv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30Sv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 25μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.23μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,福島市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. - 833 -5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,福島市で検査を受けた2万4713人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号38-1の請求について原告番号38-1は,本件事故当時,自主的 っており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号38-1の請求について原告番号38-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,平成23年3月から同年12月までの全期間にわたって避難を行っていたわけではなく,その途中で避難した者や自主的避難等対象区域に居住し続けた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号38-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号38-2の請求についてア避難費用 交通費原告番号38-2が請求し,被告東電が既に賠償した3万2060円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号38-2が請求し,被告東電が既に賠償した3万9000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費- 834 -原告番号38-2は,家財道具購入費として109万円を請求するが,領収証等を一切提出しておらず,実際に同額の支出をしたと認めるに足りる証拠はなく,被告東電が既に賠償した30万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,30万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 光熱費原告番号38-2は,二重生活を強いられたことにより月額約2万円程度水道光熱費が増加 できない。したがって,30万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 光熱費原告番号38-2は,二重生活を強いられたことにより月額約2万円程度水道光熱費が増加した旨主張するが,実際に水道光熱費が増加したことについての具体的な主張立証がなく,原告番号38-2の上記請求は認められない。 食費原告番号38-2は,二重生活を強いられたことにより月額約3万円程度食費が増加した旨主張するが,実際に食費が増加したことについての具体的な主張立証がなく,原告番号38-2の上記請求は認められない。 教育費原告番号38-2は,原告番号38-3の面倒を実姉に見てもらうつもりであり,本件事故がなければ原告番号38-3を保育園に通園させる必要はなかったが,本件事故により親族に原告番号38-3の面倒を見てもらうことができなくなり,また,原告番号38-2が体調を崩したこともあり,原告番号38-3を保育園に通園させる必要が生じた旨主張する。 しかし,仮に実姉に原告番号38-3の面倒を見てもらうとしても,小学校入学まで一切保育園や幼稚園に通わせないとは直ちに考え難く,原告番号38-3を保育園に通わせる必要が生じた理由は原告番号38-2の体調の問題もあり,原告番号38-2の体調不良と本件事故による避難との相当因果関係を認めるに足りる証拠もないから,原告番号38-3の保育園の費用は本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。したがっ- 835 -て,原告番号38-2の上記請求は認められない。 ウ就労不能損害原告番号38-2の平成22年1月から同年6月までの給与は平均月額10万3920円であるから(甲C38の3・4),原告番号38-2は,本件事故がなければ ない。 ウ就労不能損害原告番号38-2の平成22年1月から同年6月までの給与は平均月額10万3920円であるから(甲C38の3・4),原告番号38-2は,本件事故がなければ月額10万3920円の給与を得られていたと認めるのが相当である。一方,原告番号38-2は,本件事故当時,育児休業中であり,育児休業期間中については,損害の発生又は本件事故との相当因果関係が認められない。そして,原告番号38-2は平成23年8月頃までは育児休業中であったことを考慮しても,平成24年8月までには本件事故前と同様の給与水準の就職先に就職することは可能と認められるから,平成23年9月から平成24年8月までの分の就労不能損害を認めるのが相当である。したがって,124万7040円(10万3920円/月×12か月=124万7040円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ生命・身体的損害原告番号38-2は,避難生活が長期に及ぶ中,慢性的な不眠症,頭痛,胃痛,不安神経症を患い,通院を強いられた旨主張し,その原因は本件事故である旨記載された診断書(甲C38の5)を提出するが,かかる記載をもって原告番号38-2の上記症状が本件事故による避難を原因とするものと直ちに認めることはできない。したがって,原告番号38-2の上記請求は認められない。 オ慰謝料以外の損害合計161万8100円カ慰謝料原告番号38-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,- 836 -前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって とおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,- 836 -前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号38-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号38-3の請求について原告番号38-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号38-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号38-1に対する弁済証拠(乙C38の1・4)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号38-1に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号38-2に対する弁済証拠(乙C38の1・4)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号38-2に対し,327万4836円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号38-3に対する弁済証拠(乙C38の1・4)及び弁論の全趣旨によれば,被告東電は,原告番号38-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号38-1本件事故により原告番号38-1に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号38-2前記の基準のとおり,慰謝料以 本件事故により原告番号38-1に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号38-2前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東- 837 -電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号38-2に生じた慰謝料以外の損害は161万8100円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は316万4836円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号38-2に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている11万円を控除すると49万円となる。 ウ原告番号38-3本件事故により原告番号38-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号38-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号38-249万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号38-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認め である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号38-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号38-1- 838 -57万円(52万円+5万円)イ原告番号38-254万円(49万円+5万円)ウ原告番号38-357万円(52万円+5万円)第36 原告番号39の世帯 1 認定事実(原告番号39-1本人(同人の陳述書(甲C39の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号39-1(本件事故当時34歳),その妻である原告番号39-2(本件事故当時34歳),原告番号39-1及び原告番号39-2の長男である原告番号39-3(本件事故当時3歳),長女である原告番号39-4(本件事故当時1歳)は,本件事故当時,原告番号39-1の実家から車で10分ほどの場所にある借家(いわき市 ,福島第一原発からの距離36.24㎞(乙C39の2))に居住していた(以下,原告番号39-1ないし原告番号39-4を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号39-1は,いわき市で生まれ,地元の小中学校及び高校を卒業後,森林に関わる仕事を目指して東京農業大学に進学し,森林生態学について研究した。原告番号39-1は,大学卒業後も,森林の研究を続け,平成12年頃には,東京の熱帯雨林の植林活動や農業研修をしているNGOに就職した。原告番号39-1は,平成13年,上記NGOの中部研修センター(愛知県豊田市)に異動し,ここで,原告番号39-2と出会い,平成18年1月に同人と結婚した。原告番号39- をしているNGOに就職した。原告番号39-1は,平成13年,上記NGOの中部研修センター(愛知県豊田市)に異動し,ここで,原告番号39-2と出会い,平成18年1月に同人と結婚した。原告番号39-1と原告番号39-2の間には,平成19年6月,長男である原告番号39-3が誕生した。原告番号39-1ないし原告番号39-3は,平成20年頃,原告番号39-1の父の体調が悪くなったこと等か- 839 -ら原告番号39-1の実家のあるいわき市に戻り,その後はいわき市の原告番号39-1の実家で,原告番号39-1ないし原告番号39-3及び原告番号39-1の父母の5人で暮らし始めた。この際,原告番号39-1は,上記NGOの仕事を辞め,道路パトロールの仕事を始めたものの,できるだけ森林に関わる仕事がしたかったため,上記道路パトロールの仕事を辞めて農業高校で働くようになった。いわき市で生活している間は,原告番号39-1の祖父母の家から大根,白菜,ネギ等の様々な野菜をもらい,季節の野菜はほとんど買わなくてもよいほどであった。また,平成22年3月には,原告番号39-4が誕生した。原告番号39-1は,平成22年4月,森林組合で職員として働き始め,この頃,上記借家に引っ越して原告番号39-1の父母とは別居することとなり,本件事故まで上記借家に居住していた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号39-1は,本件地震発生当時,仕事で現場に移動中であったが,目的の現場の作業員の安否と進捗状況を確認後,一旦自宅に戻って原告番号39-2ないし原告番号39-4の様子を確認し,勤務先に戻った。原告らは,同日は余震が多かったため,家の中では危ないと思い,隣人の家の敷地に車を止めて車の中で一夜を過ごした。原告らは,同月12日朝,一旦原告番号39-1の実家に行き,テレビ し,勤務先に戻った。原告らは,同日は余震が多かったため,家の中では危ないと思い,隣人の家の敷地に車を止めて車の中で一夜を過ごした。原告らは,同月12日朝,一旦原告番号39-1の実家に行き,テレビで本件事故の様子を見たところ,原告番号39-1は,福島第一原発から5㎞以上離れていれば大丈夫であるとの報道があったため,いわき市であれば大丈夫だろうと考えていた一方で,原告番号39-2は,原告番号39-3及び原告番号39-4に悪影響があるのではないかと強い不安を感じていた。同月15日は原告番号39-1の勤務先は休みになり,同日,原告番号39-2が給水に出かけた高校ではそのまま外に出ないように言われ,広報車が「危険なので屋内退避するように。」と放送していた。このような状況の中,原告らは,放射能に対する不安が払拭できなかったため,同日昼頃,原告番号39-2の実家がある愛知県尾張旭市に避難することにし,同- 840 -日午後3時頃,福島空港へ自動車で向かい,当日は空港のロビーで一夜を過ごした。原告らは,同月16日,飛行機で中部国際空港に到着し,同日中に病院で外部被ばくの検査を受けた。もっとも,原告番号39-1は,同月26日,いわき市の森林組合で仕事を続けたかったことや両親のことが心配だったことから,一旦単身でいわき市の自宅に戻った。原告番号39-1は,いわき市に戻った当初は,上記自宅に住んでいたが,しばらくしてからはいわき市内の実家に住むようになった。原告番号39-1は,いわき市に戻ってからは,1年程度経過すれば,原告番号39-2ないし原告番号39-4はいわき市に戻ってくるだろうと考えていたが,被ばくの影響が明らかでなく,原告番号39-2は,いわき市には戻ることはできないと考えていたため,原告番号39-1は,最終的には原告番号39-2ないし原 はいわき市に戻ってくるだろうと考えていたが,被ばくの影響が明らかでなく,原告番号39-2は,いわき市には戻ることはできないと考えていたため,原告番号39-1は,最終的には原告番号39-2ないし原告番号39-4と一緒に暮らすために,平成24年5月,愛知県尾張旭市に避難することにし,この際,森林組合での仕事を辞めた。原告らは,平成24年5月に原告番号39-1が愛知県尾張旭市に避難した際,原告番号39-2の実家近くにアパートを借り,そこで,原告ら4人で生活を始めた。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号39-1は,平成24年5月以降,愛知県尾張旭市で原告番号39-2ないし原告番号39-4と一緒に暮らすようになったが,同年6月からは,会社に勤務し,主として工事現場の測量の仕事をするようになり,平日は愛知県岡崎市の寮で生活するようになった。原告番号39-1は,上記仕事を約4年半続けたが,平成28年11月に退職し,平成29年1月からは,愛知県岡崎市の森林組合で稼働している。原告らの住宅は,同年3月までは借り上げ住宅で家賃は掛かっていなかったが,同月からは家賃が掛かることとなり,同月下旬に愛知県岡崎市の一軒家の借家に引っ越した。原告らは,既に被ばくを受けている原告番号39-3及び原告番号39-4の内部- 841 -被ばくを少しでも減らしたいという思いから,食材の産地が分からない給食は食べさせず,原告番号39-3及び原告番号39-4には弁当を持たせている。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2,年々減少している。そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章第平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,原告番号39-1は,平成24年3月までに本件事故前に居住していた借家を引き払った。 2 損害についての検討- 842 -⑴ 原告番号39-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した2 。 2 損害についての検討- 842 -⑴ 原告番号39-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した2万1600円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した17万8500円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 一時立入・帰省費用原告番号39-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,原告番号39-3及び原告番号39-4についても平成24年8月31日までであるところ,原告番号39-1が請求する一時立入・帰省費用は,平成26年12月29日及び平成27年12月29日にいわき市に一時帰宅した際に要した費用であり,かかる費用には本件事故と相当因果関係がない。したがって,原告番号39-1が請求する一時立入・帰省費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。 面会交通費原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した10万8000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 避難雑費実損原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した32万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 自主避難等に係る損害原告番号39-1は,自主的避難に伴う生活費の増加分や避難及び帰宅- 843 -に要した移動費用等として32万円を請求するが,損害が発生したことの具体的な主張立証がないから,被告東電が既に賠償した16万円の限 1は,自主的避難に伴う生活費の増加分や避難及び帰宅- 843 -に要した移動費用等として32万円を請求するが,損害が発生したことの具体的な主張立証がないから,被告東電が既に賠償した16万円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 平成23年分原告番号39-1は,平成23年分の生活費増加費用として88万円を請求するが,本件事故による避難により生活費が増加したことについて具体的な主張立証がなく,原告番号39-1の上記請求は認められない。 平成24年分原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した15万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ就労不能損害原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した16万3788円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ被ばく検査費用原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した1万3920円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オ ADR弁護士費用原告番号39-1が請求し,被告東電が既に賠償した6万9475円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 カ慰謝料以外の請求合計118万5283円キ慰謝料原告番号39-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,- 844 -前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を である。また,慰謝料額についても,- 844 -前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,実際に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号39-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号39-2の請求について原告番号39-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号39-2の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号39-3の請求について原告番号39-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号39-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号39-4の請求について原告番号39-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号 るのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号39-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号39-1に対する弁済- 845 -被告東電は,原告番号39-1に対し,166万5283円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号39-2に対する弁済被告東電は,原告番号39-2に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号39-3に対する弁済被告東電は,原告番号39-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号39-4に対する弁済被告東電は,原告番号39-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号39-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号39-1に生じた慰謝料以外の損害は118万5283円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は158万5283円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番 告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は158万5283円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号39-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 - 846 -イ原告番号39-2本件事故により原告番号39-2に生じた損害額である60万円から被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号39-3本件事故により原告番号39-3に生じた損害額である100万円から被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号39-4本件事故により原告番号39-4に生じた損害額である100万円から被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号39-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号39-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号39-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号39-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号39-157万円(52万円+5万円)イ原告番号39-2- 847 -57万円(52万円+5万円)ウ原告番号 ⑶ 認容額ア原告番号39-157万円(52万円+5万円)イ原告番号39-2- 847 -57万円(52万円+5万円)ウ原告番号39-357万円(52万円+5万円)エ原告番号39-457万円(52万円+5万円)第37 原告番号40の世帯 1 認定事実(原告番号40本人(同人の陳述書(甲C40の1・2)を含む。以下同じ。)⑴ 本件事故前の状況等原告番号40(本件事故当時56歳)は,本件事故当時,いわき市所在の自宅(いわき市 ,福島第一原発からの距離52.99㎞(乙C40の2))に元夫及び息子(本件事故当時21歳)と共に居住していた(以下,原告番号40,元夫及び息子を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号40は,元々は韓国籍であり,韓国のソウル市に住んでいたが,平成元年1月に元夫と結婚し,平成2年に息子を出産し,平成17年8月に帰化し,平成23年3月17日に避難を開始するまでは,原告ら3人で生活していた。息子はダウン症を患っており,知的障害に加えて難聴もあるため,身体障がい者2級の判定を受けている。原告らは,平成10年からは,元夫がローンを組んで購入したいわき市の上記自宅に居住していた。また,原告番号40は,この頃から,上記自宅から徒歩1分のところにある畑を借りて野菜を作り始めた。 原告番号40は,平成22年6月頃からでパートタイム職員として勤務し,同協会の障がい者施設で障がい者の世話をする仕事をしていた。原告番号40の息子は,上記施設の利用者であり,上記施設で作業をすると給料をもらうことができた。 - 848 -⑵ 避難 て勤務し,同協会の障がい者施設で障がい者の世話をする仕事をしていた。原告番号40の息子は,上記施設の利用者であり,上記施設で作業をすると給料をもらうことができた。 - 848 -⑵ 避難開始の経緯等原告番号40は,平成23年3月14日又は同月15日頃,いわき市では本件事故の報道はされていなかったものの,韓国の親戚と連絡が取れるようになり,「マスクをしていなさい。」と言われたことから放射線被ばくの危険性を認識するようになり,元夫とは避難について意見が合わなかったことから,同月17日,息子を連れて元夫を残して避難することとした。原告番号40は,当初は韓国に避難するつもりであったが,韓国は障がい者への福祉サービス水準が日本と比べて低いため,息子を連れての避難は難しいと考え,岐阜県大垣市の知人宅に避難することとし,同月17日から同月20日までは郡山市の知人宅,同月21日から同月23日まではいわき市の自宅,同月24日から同月26日までは郡山市のホテルに宿泊した。原告番号40及び息子は,同月26日,福島空港から中部国際空港まで飛行機で行き,電車やバスを利用して岐阜県大垣市の知人宅に到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号40及び息子は,上記の岐阜県大垣市の知人宅に避難した後,平成23年3月29日からは同市内の借り上げ住宅のアパートに入居し,平成29年4月3日にはより家賃の安い同市内の県営住宅に引っ越した。 原告番号40は,本件事故による避難後,就職先がなかなか見つからなかったが,平成25年9月1日から平成27年3月31日まで,岐阜県瑞穂市の福祉作業所でパートタイム職員として勤務することができた。しかし,その後は,パートタイム職員と無職を短期間で繰り返している。また,息子は 平成25年9月1日から平成27年3月31日まで,岐阜県瑞穂市の福祉作業所でパートタイム職員として勤務することができた。しかし,その後は,パートタイム職員と無職を短期間で繰り返している。また,息子は,平成23年5月から施設に入所した。 原告番号40は,いわき市の自宅では,畑でたくさんの野菜を作り,近所の人に分けるなどしていたが,避難後はそれができなくなった。また,いわき市では,近所の人が,原告番号40や息子に親切にしてくれ,話しかけた- 849 -り惣菜や野菜を分けてくれたり野菜の作り方を教えてくれたりしていたが,避難後はそれがなくなった。息子は,本件事故による避難前には,少し手話ができたが,息子が現在通っている施設の人は手話ができず,息子の相手をしていた元夫もそばにいないため,息子の周囲には手話ができる人がおらず,以前よりふさぎ込んでいるような時間が増えた。なお,原告番号40は,平成27年5月,元夫と離婚した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していたいわき市における環境放射能は,平成23年3月には0.39ないし1.46μSv/h,平成24年4月には0. 05ないし0.84μSv/h,平成25年4月には0.05ないし0.61μSv/h,平成26年4月には0.04ないし0.31μSv/h,平成27年4月には0.04ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.03ないし0. 24μSv/h,平成29年4月には0.03ないし0.12μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月 Sv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,いわき市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3641人,平成25年4月1日時点で2803人,平成26年4月1日時点で2107人,平成27年4月1日時点で1690人,平成28年4月1日時点で1358人,平成29年4月1日時点で884人と推移しており(第5部第1章第2そして,いわき市の平成28年6月末時点の除染状況は,公共施設等及び森林は完了し,住宅65.7パーセント,道路13.6パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,いわき市で検査を受けた5万9429人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 - 850 - 2 損害についての検討⑴ 避難費用ア交通費原告番号40は,いわき市から岐阜県に避難する際に要した交通費として3万9790円を請求するが,かかる支出をしたことを示す領収証等が提出されておらず,被告東電が既に賠償した3万1200円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,3万1200円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ宿泊費・謝礼原告番号40は,避難の途中で要した宿泊費として3万5800円を請求するが,かかる支出をしたことを示す領収証等が提出されておらず,被告東電が既に賠償した3万5000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,3万5000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑵ 告東電が既に賠償した3万5000円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,3万5000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑵ 生活費増加費用ア家財道具購入費当事者間に争いのない10万4373円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ光熱費原告番号40は,本件事故による避難により,元夫との二重生活を余儀なくされ,水道光熱費が月額1万円増加した旨主張するが,実際に水道光熱費が増加したことについて具体的な主張立証がなく,原告番号40の上記請求は認められない。 ウ食費原告番号40は,本件事故前は,自ら野菜等を作ったり,近所の人と食糧を物々交換したりしていたが,避難したことにより,平成23年3月から平- 851 -成29年12月まで月額6500円食費が増加した旨主張する。しかし,前期の基準のとおり,避難継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までである上,食費が増加した額についての具体的な主張立証がないから,被告東電が既に賠償した5万8500円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,5万8500円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ家賃増加分原告番号40は,本件事故前は,いわき市の自宅に居住しており,家賃の負担はなかったから,避難の継続の合理性が認められる期間に発生した家賃については,本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることができる。 もっとも,原告番号40は,岐阜県大垣市に避難後,岐阜県の借り上げ住宅に入居したことは認められるものの,家賃,共益費等は岐阜県知事が負担していた 果関係を有する損害と認めることができる。 もっとも,原告番号40は,岐阜県大垣市に避難後,岐阜県の借り上げ住宅に入居したことは認められるものの,家賃,共益費等は岐阜県知事が負担していたと認められる(甲C40の5)。また,原告番号40は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までであり,平成24年1月以降に負担した家賃等は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。原告番号40は,平成23年3月末から同年12月までの期間は上記借り上げ住宅に入居していたと認められ,家賃等の負担をしていたとは認められないから,原告番号40の請求は認められない。 オその他(駐車場代金)原告番号40は,駐車場代金として25万9380円を請求するが,避難前は自動車を所有していなかった原告番号40が自動車を所有する必要性は認められず,原告番号40の支出した駐車場代金は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。 カその他(中古車購入代金)原告番号40は,中古車購入代金として29万円を請求するが,避難前は- 852 -自動車を所有していなかった原告番号40が自動車を所有する必要性は認められず,原告番号40が支出した中古車購入代金は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。 ⑶ 就労不能損害原告番号40は,本件事故前は月額約8万円の収入を得ていたことが認められ(甲C40の9),本件事故による避難をしなければ本件事故前と同様の水準の収入を得ることができたと推認することができる。また,障がいを持った息子の面倒を見ながら新たな就職先を見つけるのは困難であるから,避難の継続の合理性が認められる をしなければ本件事故前と同様の水準の収入を得ることができたと推認することができる。また,障がいを持った息子の面倒を見ながら新たな就職先を見つけるのは困難であるから,避難の継続の合理性が認められる平成23年12月31日までに新たな就職先を見つけられなかったとしても不合理とはいえない。したがって,本件事故と相当因果関係を有する損害は72万円(8万円/月×9か月(平成23年4月から同年12月まで)=72万円)と認める。 ⑷ その他(ADR弁護士費用)原告番号40は,ADR弁護士費用として70万3481円を請求するが,かかる費用が発生したと認めるに足りる証拠はなく,被告東電が既に賠償した3万8265円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,3万8265円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑸ 慰謝料以外の損害合計98万7338円⑹ 慰謝料原告番号40は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,障がいを持つ息子と2人で避難しなければならなかったなどの事情を考慮しても,原告番号4- 853 -0の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁被告東電は,原告番号40に対し,125万2965円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害 られる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号40に生じた慰謝料以外の損害は98万7338円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は117万2965円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号40に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている8万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用52万円の約1割に当たる5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額57万円(52万円+5万円)第38 原告番号41の世帯 1 認定事実(原告番号41-1本人(同人の陳述書(甲C41の1)を含む。以下同じ。))- 854 -⑴ 本件事故前の状況等原告番号41-1(本件事故当時62歳)及びその妻である原告番号41-2(本件事故当時59歳)は,本件事故当時,田村市所在の自宅(田村市,福島第一原発からの距離20.99㎞(乙C41の2))に居住していた(以下,原告番号41-1及び原告番号41-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 ,福島第一原発からの距離20.99㎞(乙C41の2))に居住していた(以下,原告番号41-1及び原告番号41-2を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号41-1は,40歳の頃,海外旅行を経て時代に左右されない生活をしたいと思い立ち,都市部から離れた田舎で流行に左右されないシンプルな自給自足の生活を営むことを決断した。原告番号41-1は,土地をいくつも周って田村市のmに理想の土地を見つけた。その土地は尾根の一部であり,付近の水源からの湧水を利用でき,尾根の上から周囲を見渡せば付近の自然豊かな景色を一望できる場所だった。原告番号41-1は,尾根一体の雑木林を含む1500坪余りの土地を購入し,スイスの住宅をモデルにして自らデザインを監修した家を建て,仙台市内のマンションを処分して,平成5年に家族と共に移り住み,移り住んだ時点では家が未完成であったため,日給6000円の日雇労働で稼いだお金を改装費に充て,自らの手で地下室,ベランダ,薪小屋等を設け,多くの手間と時間を掛けて家を作り上げた。原告番号41-1は,庭には季節ごとの眺めを考えて庭木を配置し,自給自足ができるよう畑を設け,建物内には薪ストーブや自ら作った家具などを揃え,家がイメージどおりの形になるまで20年近く掛かった。 原告番号41-1は,平成22年11月に仕事を退職し,原告番号41-2は,地元の会社でパートタイム勤務をしており,60歳まで就労する予定だった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告らは,本件地震の翌日である平成23年3月12日の夕食後,避難指示の放送があり,防寒具を持って午後8時半までに集会場にいるよう指示され,- 855 -その後,バスに乗るよう案内されて観光バスで30㎞先の船引中学校まで避難した 3年3月12日の夕食後,避難指示の放送があり,防寒具を持って午後8時半までに集会場にいるよう指示され,- 855 -その後,バスに乗るよう案内されて観光バスで30㎞先の船引中学校まで避難した。原告らは,同月13日朝,午前中のうちにできるだけ遠いところへ避難しようと思い,自動車を取りに自宅に戻った。原告らは,東京に住む息子のところに向かうこととし,渋滞を避けて裏道を行き,途中のコンビニエンスストアで地図を買うなどしながら避難し,息子の住むアパートに2泊した。 原告らは,同月15日明け方,原告番号41-2の実家がある岐阜県に行くことにし,同日午前中に岐阜に向かい,その日のうちに到着した。原告らは,原告番号41-2の実家では一部屋間借りしての生活をしていたが,岐阜県各務原市の市営住宅に応募し,同月下旬から市営住宅に移り住んだ。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告らが居住する岐阜県各務原市の市営住宅には風呂も洗濯機もなく,銭湯通いの負担も大きく,コインランドリーに行く手間も大きなものであった。原告らは,約2か月間市営住宅で生活して地域に馴染み始めたところであったが,風呂の無い生活も耐えられなかったので,平成23年6月に県営住宅に引っ越した。県営住宅は,ガスは1口のコンロで,風呂付きであったが,福島ナンバーであることが理由か,自動車に関するトラブルが絶えなかった。原告番号41-2は,度重なる生活環境の変化等から,平成24年6月頃には心療内科で中度のうつ病及び睡眠障害と診断され,平成25年5月頃からは,睡眠障害の他に三叉神経痛なども併発し通院する必要が生じ,平成30年1月にはPTSDと診断された。 原告らは,岐阜県山県市に中古住宅を購入し,平成26年1月から居住しているが,避難前よりも親 障害の他に三叉神経痛なども併発し通院する必要が生じ,平成30年1月にはPTSDと診断された。 原告らは,岐阜県山県市に中古住宅を購入し,平成26年1月から居住しているが,避難前よりも親戚付き合いが増え,交際費も増加した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は旧緊急時避難準備区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた田村市における環境放射能は,平成2- 856 -4年4月には0.12ないし0.27μSv/h,平成25年4月には0.10ないし0.11μSv/h,平成26年4月には0.07ないし0.26μSv/h,平成27年4月には0.06ないし0.19μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0.16μSv/h と推移しており(第5部第1章第2の1),年々低下している。また,田村市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で387人,平成25年4月1日時点で367人,平成26年4月1日時点で289人,平成27年4月1日時点で206人,平成28年4月1日時点で139人,平成29年4月1日時点で42人と推移しており(第5部第1章),年々減少している。そして,田村市では,平成27年7月末時点で宅地,農地,森林及び道路での除染は完了した(第5部第1章)。平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,田村市で検査を受けた4603人全員が,預託実効線量が1mSv未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 原告らは,本件事故前住所地の自宅は,思い出があり処分することができず,本件事故後のそのままの状態となっており,バイクは運搬にかなりの費用が掛かる なかったとされている(乙B418)。 原告らは,本件事故前住所地の自宅は,思い出があり処分することができず,本件事故後のそのままの状態となっており,バイクは運搬にかなりの費用が掛かるため持ち出すことはできず,薪ストーブもそのままの状態となっている。また,布団や衣類はカビで使い物にならず,ベランダは雪の重みで崩れかけている。 2 損害についての検討⑴ 原告番号41-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号41-1が請求し,被告東電が既に賠償した11万1000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 - 857 - 宿泊費・謝礼原告番号41-1は,岐阜県山県市への引っ越しを手伝ってくれた知人や親戚に対する謝礼として合計8000円を支払ったとして8000円を請求する。しかし,原告番号41-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住しており,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当であるから,平成26年1月の岐阜県山県市への引っ越しは本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。また,引っ越しを手伝ってもらった知人や親戚に対する謝礼は,支払を余儀なくされたものではなく,原告番号41-1の判断で任意に支払ったものであるから,本件事故と相当因果関係を有する損害とはいえない。したがって,原告番号41-1の上記請求は認められない。 引っ越し費用原告番号41-1は,岐阜県山県市への引っ越しの際に要した費用として12万6000円を請求する。しかし,前記のとおり,原告番号41-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当であり,平成2 山県市への引っ越しの際に要した費用として12万6000円を請求する。しかし,前記のとおり,原告番号41-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当であり,平成26年1月の岐阜県山県市への引っ越しは原告番号41-1の判断で任意に行われたものであり,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。したがって,原告番号41-1の請求は認められない。 一時立入・帰省費用a 平成23年3月11日から平成24年8月31日まで原告番号41-1が請求し,被告東電が既に賠償した100万7540円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 b 平成24年9月1日から平成28年5月まで前記のとおり,原告番号41-1の避難の継続の合理性が認められる- 858 -のは平成24年8月31日までとするのが相当であるから,平成24年9月1日以降の一時立入に要した費用は,本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号41-1の上記請求は認められない。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号41-1は,岐阜県山県市に購入した自宅で生活するために必要な家財道具の購入費用を請求する。しかし,前記のとおり,岐阜県山県市への引っ越しは本件事故と相当因果関係を有するものではなく,被告東電が既に賠償した1万9800円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めることはできない。したがって,1万9800円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 光熱費本件事故により避難したことによって,電気代については月額平均約2000円,ガス代については月額約600円,水道代については月額平 当因果関係を有する損害と認める。 光熱費本件事故により避難したことによって,電気代については月額平均約2000円,ガス代については月額約600円,水道代については月額平均約1800円増加したことが認められる(甲C41の5ないし9,弁論の全趣旨)。もっとも,前記のとおり,原告番号41-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,本件事故と相当因果関係を有する損害は平成23年3月から平成24年8月までの増加分に限られるというべきである。したがって,7万9200円({2000円/月(電気代)+600円/月(ガス代)+1800円/月(水道代)}×18か月=7万9200円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 交通費原告番号41-1は,原告番号41-2が平成25年に親戚の法要のために要した交通費を請求するが,前記のとおり,原告らの避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までであるから,上記交通費- 859 -は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号41-1の上記請求は認められない。 食費原告番号41-1は,避難前は野菜を購入する必要はなかったが,避難後は店舗等で購入する必要が生じたことにより食費が増加したとして40万0593円を請求する。しかし,避難したことにより食費が増加したことの具体的な主張立証がないから,被告東電が既に賠償した22万円を超えて本件事故と相当因果関係を有する損害の発生は認められない。したがって,22万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ財物損害 車両原告番号41-1は,福島県から岐阜県へ荷物を移動させるために自動 られない。したがって,22万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ財物損害 車両原告番号41-1は,福島県から岐阜県へ荷物を移動させるために自動車の買換えを余儀なくされたとして買換え費用を請求する。しかし,荷物を移動するために必ずしも自らの自動車を利用する必要はなく,自動車を買い替える必要があったと認めることはできない。したがって,自動車の買換え費用は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号41-1の上記請求は認められない。 家財道具原告番号41-1は,本件事故により福島県の自宅の家財道具を処分せざるを得なくなったとして427万8100円を請求する。しかし,原告番号41-1が本件事故前に甲C41の13記載の家財道具を所有していたと認めるに足りる証拠はなく,当該家財道具の購入金額及び時価も不明である。また,原告番号41-1の自宅は旧緊急時避難準備区域に所在し,家財道具の持ち出しは可能であったから,本件事故により家財道具を処分せざるを得なくなったということはできない。したがって,原告番号41-1の上記請求は認められない。 - 860 - 不動産原告番号41-1は,本件事故により福島県の自宅を使用することができなくなったとして,上記自宅の平成23年1月時点の固定資産評価額である298万1218円を請求する。しかし,上記自宅は旧緊急時避難準備区域に所在し,管理を行うことも可能であったといえるから,上記自宅の価値が全くなくなったということはできない。また,水が使えないとしても,その原因は本件地震によるものと推認することができ,本件事故により上記自宅が使用不能になったということはできない。一方で,上記自宅は雑木林に囲ま たということはできない。また,水が使えないとしても,その原因は本件地震によるものと推認することができ,本件事故により上記自宅が使用不能になったということはできない。一方で,上記自宅は雑木林に囲まれており,雑木林の除染は済んでいない可能性が高いこと等も考慮すると,本件事故前と同様の価値を維持しているということもできない。そこで,民事訴訟法248条を適用し,本件事故により下落した価値は100万円と認めるのが相当である。したがって,100万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 その他原告番号41-1は,平成25年に岐阜県山県市で中古住宅を購入した際の費用として40万1091円を請求する。しかし,前記のとおり,原告番号41-1の避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当であるから,上記中古住宅の購入は本件事故と相当因果関係を有するとはいえず,原告番号41-1の上記請求は認められない。 エ生命・身体的損害原告番号41-1が請求し,被告東電が既に賠償した5万6490円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 オその他(屋根修理代)原告番号41-1は,福島県の自宅の屋根の修理代として2万6250円を請求するが,屋根の修理を要したのは,本件事故ではなく本件地震を原因- 861 -とするものと推認することができ,上記の屋根の修理代は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号41-1の上記請求は認められない。 カ慰謝料以外の損害合計249万4030円キ慰謝料原告番号41-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性 謝料以外の損害合計249万4030円キ慰謝料原告番号41-1は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,長年掛けて完成させた自宅を離れなければならなかったなどの事情を考慮しても,原告番号41-1の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号41-2の請求について原告番号41-2は,本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料についても,前記の基準のとおり,月額10万円とするのが相当である。したがって,原告番号41-2の慰謝料は,180万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号41-1に対する弁済被告東電は,原告番号41-1に対し,326万8408円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号41-2に対する弁済被告東電は,原告番号41-2に対し,182万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等- 862 -⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号41-1本件事故により原告番号41-1に生じた損害額である429万4030円から被告東電の弁済額である326万8408円を控除すると102万5622円となる。 イ原告番号41-2本件事故により原告番号41-2に生じた損害額である180万円から被告東電の弁済額である182万円を控除すると 08円を控除すると102万5622円となる。 イ原告番号41-2本件事故により原告番号41-2に生じた損害額である180万円から被告東電の弁済額である182万円を控除すると0円となる。 ⑵ 弁護士費用原告番号41-1については,102万5622円の約1割である10万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号41-1112万5622円(102万5622円+10万円)イ原告番号41-2棄却第39 原告番号42の世帯 1 認定事実(原告番号42-1本人(同人の陳述書(甲C41の1の1・2)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号42-1(本件事故当時33歳),その長女である原告番号42-2(本件事故当時10歳),長男である原告番号42-3(本件事故当時8歳),二女である原告番号42-4(本件事故当時6歳)は,本件事故当時,福島市内の自宅(福島市 ,福島第一原発からの距離63.39㎞(乙C42の2))に居住していた(以下,原告番号42-1ないし原告番号42-4を併せて,この項において「原告ら」- 863 -という。)。 本件事故当時,原告番号42-1は福島市内にある病院に看護師として勤務しており,原告番号42-2は小学校4年生,原告番号42-3は小学校2年生,原告番号42-4は保育園の年長であった。原告番号42-1は,原告番号42-2ないし原告番号42-4の単独親権者であり,原告番号42-1の収入のみで家族4人の生計を立てていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号42-1は,本件地震発生当時,勤務先の病院で勤 2-2ないし原告番号42-4の単独親権者であり,原告番号42-1の収入のみで家族4人の生計を立てていた。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号42-1は,本件地震発生当時,勤務先の病院で勤務中であり,原告番号42-2ないし原告番号42-4を迎えに行くことができたのは平成23年3月11日午後8時過ぎであった。原告番号42-1は,同月12日も夜勤の仕事に行かなければならず,原告番号42-2ないし原告番号42-4を託児所に預けた。原告番号42-1の両親は,南相馬市原町区に居住していたが,原告番号42-1の母は,同日,原告番号42-1の家に避難し,本件地震発生時に東京に行っていた原告番号42-1の父は,南相馬市の自宅に帰ることなく,同月13日に原告番号42-1の家に避難した。原告らは,同月14日,テレビで福島第一原発が爆発する映像が流れるとともに,この爆発により放射性物質が広範囲に放出されると報道されているのを聞いて,放射線による被ばくを避けるため,福島市外へ避難することを決め,原告番号42-1が運転する自動車に原告番号42-2ないし原告番号42-4及び原告番号42-1の両親を乗せ,新潟市内に避難し,新潟市内のホテルに2泊した。 原告ら及び原告番号42-1の両親は,新潟市内のホテルで本件事故のニュースを見て,福島県に帰ることはできないと考え,静岡県掛川市に住んでいる原告番号42-1の弟の近くに避難することにした。原告ら及び原告番号42-1の両親は,同月16日,自動車で新潟市から静岡県掛川市へ向かい,同市内のホテルに4泊し,ホテルに宿泊している間に掛川市役所に相談し,同月20日からは市営住宅に移った。もっとも,原告らは,家財道具を何も持たない- 864 -状態で避難したため,最低限の家財道具や子供たちの学用品を買い揃えた。 泊している間に掛川市役所に相談し,同月20日からは市営住宅に移った。もっとも,原告らは,家財道具を何も持たない- 864 -状態で避難したため,最低限の家財道具や子供たちの学用品を買い揃えた。 原告番号42-1は,同月25日,福島市の自宅に戻り,仕事に復帰した。 原告番号42-1が職場に行ってみると,一時的にでも避難したことを責められ,反省文を作成させられた。原告番号42-1は,原告番号42-1の両親に原告番号42-2ないし原告番号42-4の面倒を見てもらっていたが,月に1度は1週間近く連休が取れるように工夫し,毎月,静岡県掛川市の原告番号42-2ないし原告番号42-4のところへ行くようにしていた。しかし,原告番号42-1は,福島市と静岡県掛川市との二重生活に限界を感じるようになり,同年12月で勤務先の病院を退職して静岡県掛川市で原告番号42-2ないし原告番号42-4と一緒に暮らすことを決断し,同年11月頃に同市内にマンションを借り,平成24年1月から原告番号42-2ないし原告番号42-4と一緒に生活を始めた。なお,原告番号42-1には,本件事故前から交際している男性がおり,平成23年の夏頃には上記男性の子供を妊娠したが,胎児への放射性物質の影響を考えて中絶し,上記男性との結婚も諦めることとなった。また,原告番号42-1が上記の福島市内の病院を退職する際には奨学金の返済として100万円を支払う必要があった。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号42-1は,静岡県掛川市に引っ越した後しばらくは無収入で貯金を切り崩して生活していたが,平成24年4月から同市内の病院で看護師として勤務するようになった。原告番号42-1は,新しい職場では話し方が違うことから同僚から「何言っとるか分からん。」などと で貯金を切り崩して生活していたが,平成24年4月から同市内の病院で看護師として勤務するようになった。原告番号42-1は,新しい職場では話し方が違うことから同僚から「何言っとるか分からん。」などと言われ,辛い思いをしたこともあった。原告番号42-2ないし原告番号42-4は,特に問題なく学校に通っている。また,原告番号42-1は,平成29年5月,静岡県掛川市内に自宅を購入し,原告らはそこに転居した。 イ本件事故時住所地の状況等- 865 -本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年3月には0.64ないし2.61μSv/h,平成24年4月には0. 03ないし1.40μSv/h,平成25年4月には0.08ないし0.64μSv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 25μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.23μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,福島市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日まで 染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,福島市で検査を受けた2万4713人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 2 損害についての検討⑴ 原告番号42-1の請求についてア避難費用 交通費原告番号42-1は,福島市から新潟市へ避難する際の交通費及び新潟市から静岡県掛川市に避難する際の交通費として3万8000円を請求- 866 -する。しかし,原告番号42-1が実際に上記金額を支出したと認めるに足りる証拠はなく,民事訴訟法248条に基づき,2万円の限度で本件事故と相当因果関係を有する損害が発生したと認めるのが相当である。したがって,2万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 宿泊費・謝礼原告番号42-1は,福島市から新潟市へ避難する際の宿泊費及び新潟市から静岡県掛川市に避難する際の宿泊費として10万8000円を請求する。そして,原告番号42-1が,上記金額を支出したことを示す証拠はないが,原告ら4名は新潟市で2泊,静岡県掛川市で4泊しており,民事訴訟法248条に基づき,1泊1人当たり5000円程度の宿泊費が発生すると認めるのが相当であるから,少なくとも原告番号42-1が請求する10万8000円の宿泊費が発生したと認めることができる。したがって,10万8000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用引っ越 1が請求する10万8000円の宿泊費が発生したと認めることができる。したがって,10万8000円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 引っ越し費用引っ越し費用として15万7950円を要したと認められるから(甲C42の4),15万7950円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 敷金・礼金原告番号42-1は,避難先である静岡県掛川市の住居の賃貸借契約締結に要した一時金等として19万8000円を請求するが,同市の市営住宅の賃貸借契約書(甲C42の5)によれば,上記一時金等の負担者は静岡県知事となっており,原告番号42-1が上記一時金等を負担したと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告番号42-1の上記請求は認められない。 一時立入・帰省費用- 867 -原告番号42-1は,平成23年3月25日に静岡県掛川市から福島市内の自宅に自動車で戻った際の費用として2万2000円を請求する。そして,実際に上記金額を要したと認めるに足りる証拠はないものの,上記の移動に要した費用は,民事訴訟法248条に基づき,1万円と認めるのが相当である。したがって,1万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 面会交通費前記のとおり,福島市から静岡県掛川市までの自動車での移動に要する費用は1万円と認めるのが相当である。そして,原告番号42-1は,平成23年4月から同年12月までの間,月1回は福島市と静岡県掛川市を往復していたから,18万円(1万円×2(往復)×9回(平成23年4月から同年12月まで)=18万円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入 ていたから,18万円(1万円×2(往復)×9回(平成23年4月から同年12月まで)=18万円)を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ生活費増加費用 家財道具購入費原告番号42-1は,家財道具購入費として54万4376円を請求する。原告番号42-1は,家財道具を購入したことを示す領収証等を一切提出しないものの,避難先で生活するために家財道具を購入する必要があったといえ,民事訴訟法248条に基づき,その購入金額は10万円と認めるのが相当である。したがって,10万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 光熱費原告番号42-1は,二重生活により,水道光熱費が増加したとして13万5000円を請求するが,実際に水道光熱費が増加したことについて具体的な主張立証がなく,原告番号42-1の上記請求は認められない。 交通費- 868 -原告番号42-1は,越境通学をしていた子供らの送迎に要した交通費をして7万5600円を請求するが,越境通学をすることとしたのは原告番号42-1の任意の判断に基づくものであり,仮に子供らの送迎のために交通費が増加したとしても,それは本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号42-1の上記請求は認められない。 通信費原告番号42-1は,二重生活により,通信費が増加したとして9万円を請求するが,実際に通信費が増加したことについて具体的な主張立証がなく,原告番号42-1の上記請求は認められない。 被服費原告番号42-1は,避難後1年程度は避難先で被服を買い足さなければならなかったとして5万4000円を請求するが,原告番号42-2ないし原告番号 は認められない。 被服費原告番号42-1は,避難後1年程度は避難先で被服を買い足さなければならなかったとして5万4000円を請求するが,原告番号42-2ないし原告番号42-4の被服が放射線に汚染されており,原告番号42-2ないし原告番号42-4に着せることができなかったと認めるに足りる証拠はなく,原告番号42-1は月に1回は静岡県掛川市にいる原告番号42-2ないし原告番号42-4のところを訪れていたのであるから,その際に福島市の自宅にあった被服を持ち出すことは可能であったといえる。したがって,仮に被服費が増加していたとしてもそれは本件事故と相当因果関係を有するものとはいえず,原告番号42-1の上記請求は認められない。 食費原告番号42-1は,二重生活を強いられたこと及び実家からの野菜や米などの現物をもらうことができなくなったため食費が増加したとして135万円を請求するが,実際に食費が増加したことについて具体的な主張立証がなく,原告番号42-1の上記請求は認められない。 教育費- 869 -原告番号42-1は,避難したことにより原告番号42-2ないし原告番号42-4の教材等を新たに買い揃える必要性が生じたとして13万2000円を請求するが,原告番号42-1が実際に上記の支出をしたと認めるに足りる証拠はなく,原告番号42-1の上記請求は認められない。 ウ就労不能損害原告番号42-1が請求し,被告東電が既に賠償した120万7439円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ被ばく検査費用原告番号42-1は,平成24年から平成29年までに原告番号42-2ないし原告番号42-4に甲状腺検査を受けさせた 本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ被ばく検査費用原告番号42-1は,平成24年から平成29年までに原告番号42-2ないし原告番号42-4に甲状腺検査を受けさせた際の交通費として2646円を請求するが,甲状腺検査を受けさせることは合理的な行動といえ,上記損害は本件事故と相当因果関係を有するものといえる。したがって,2646円を本件事故と相当因果関係を認める。 オ慰謝料以外の損害合計178万6035円カ慰謝料原告番号42-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。そして,実際に上記期間内に避難を行わず,自主的避難等対象区域に滞在していた者についても,同額の慰謝料を認めるのが相当である。したがって,原告番号42-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号42-2の請求について原告番号42-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18- 870 -歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号42-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号42-3の請求について原告番号42-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下 がって,原告番号42-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号42-3の請求について原告番号42-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号42-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑷ 原告番号42-4の請求について原告番号42-4は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号42-4の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号42-1に対する弁済被告東電は,原告番号42-1に対し,483万7439円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号42-2に対する弁済被告東電は,原告番号42-2に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 - 871 -⑶ 原告番号42-3に対する弁済被告東電は,原告番号42-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号42-4に対する弁済被告東電は,原告番号42-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額 42-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑷ 原告番号42-4に対する弁済被告東電は,原告番号42-4に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号42-1前記の基準のとおり,慰謝料以外の損害として認定した損害額が,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額を下回る場合には,上記控除後の金額を慰謝料以外の損害に対する弁済として充当し,慰謝料に対する弁済としては充当しないこととし,慰謝料に対する弁済としては損害一覧表に慰謝料に対する弁済として記載されている金額のみを充当すべきである。そして,本件事故により原告番号42-1に生じた慰謝料以外の損害は178万6035円であるのに対し,被告東電の弁済額の総額から慰謝料に対する弁済として損害一覧表に記載されている金額を控除した金額は443万7439円であるから,上記金額を慰謝料以外の損害に充当すると0円となり,本件事故により原告番号42-1に生じた慰謝料60万円から損害一覧表において慰謝料に対する弁済として記載されている40万円を控除すると20万円となる。 イ原告番号42-2本件事故により原告番号42-2に生じた損害額である100万円から被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号42-3本件事故により原告番号42-3に生じた損害額である100万円から- 872 -被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号42-4本件事故により原告番号42-4に生じた損害額である100万円から被告東電の弁済額であ 72 -被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 エ原告番号42-4本件事故により原告番号42-4に生じた損害額である100万円から被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号42-120万円の約1割である2万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 イ原告番号42-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号42-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 エ原告番号42-452万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号42-122万円(20万円+2万円)イ原告番号42-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号42-357万円(52万円+5万円)エ原告番号42-457万円(52万円+5万円)- 873 -第40 原告番号43の世帯 1 認定事実(原告番号43-1本人(同人の陳述書(甲C43の1)を含む。以下同じ。))⑴ 本件事故前の状況等原告番号43-1(本件事故当時34歳),その長女である原告番号43-2(本件事故当時8歳),その長男である原告番号43-3(本件事故当時5歳),原告番号43-1の夫で原告番号43-2及び原告番号43-3の父(以下「原告番号43夫」という。本件事故当時37歳)は,本件事故当時,福島市所在の社宅(福島市 3(本件事故当時5歳),原告番号43-1の夫で原告番号43-2及び原告番号43-3の父(以下「原告番号43夫」という。本件事故当時37歳)は,本件事故当時,福島市所在の社宅(福島市 ,福島第一原発からの距離50.45㎞(乙43の1))に居住していた(以下,原告番号43-1ないし原告番号43-3を併せて,この項において「原告ら」という。)。 原告番号43夫と原告番号43-1は,平成13年4月に結婚し,本件事故当時は,原告番号43夫は福島市内に本店を置く地方銀行に勤務し,原告番号43-1は,専業主婦であった。 ⑵ 避難開始の経緯等原告番号43-1及び原告番号43-3は,本件地震発生当時,自宅にいたが,原告番号43-1は,原告番号43-2の通う小学校まで同人を迎えに行き,原告番号43夫は,平成23年3月11日の夕方に帰宅した。本件地震直後から,自宅の電気,ガス,水道は止まり,携帯電話も通じない状況であった。 同月12日,原告番号43-1の名古屋市の実家にいる原告番号43-1の母や妹から名古屋市に来たらどうかという誘いがあった。同月13日朝,原告らの自宅の電気が通じ,テレビでは本件事故の報道ばかりされており,同日昼頃,富岡町に住んでいた原告番号43夫の父が自動車で原告らの自宅に避難してきた。原告らは,同月15日頃,原告番号43夫と相談の上,放射能の影響を考慮して,原告らのみが名古屋市へ避難することを決めた。原告ら及び原告番号43夫の父は,同月16日,タクシーで那須塩原駅に向かった。原告らは,- 874 -那須塩原駅から新幹線に乗って東京へ行き,東京で乗り換えて新幹線で名古屋市に向かい,同日夜,原告番号43-1の実家に到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号 須塩原駅から新幹線に乗って東京へ行き,東京で乗り換えて新幹線で名古屋市に向かい,同日夜,原告番号43-1の実家に到着した。 ⑶ 避難後の状況等ア避難生活の状況原告番号43夫は,原告らが避難した後も福島県内に居住しており,月に2回程度,原告らの住む名古屋市との間を往復する生活を送っている。原告番号43-1は,専業主婦として,原告番号43-2及び原告番号43-3の世話をしながら生活している。原告番号43-2及び原告番号43-3は,平成23年5月から名古屋市内の小学校等に転入した。 イ本件事故時住所地の状況等本件事故前の原告らの居住地は,自主的避難等対象区域に該当するところ,原告らが本件事故当時に居住していた福島市における環境放射能は,平成23年3月には0.64ないし2.61μSv/h,平成24年4月には0. 03ないし1.40μSv/h,平成25年4月には0.08ないし0.64μSv/h,平成26年4月には0.03ないし0.36μSv/h,平成27年4月には0.03ないし0.30μSv/h,平成28年4月には0.05ないし0. 25μSv/h,平成29年4月には0.05ないし0.23μSv/h と推移しており(第5部第1章),年々低下している。また,福島市における18歳未満の避難者数は,平成24年4月1日時点で3174人,平成25年4月1日時点で3034人,平成26年4月1日時点で2398人,平成27年4月1日時点で2059人,平成28年4月1日時点で1561人,平成29年4月1日時点で1379人と推移しており(第5部第1章第,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森 と推移しており(第5部第1章第,年々減少している。そして,福島市の平成28年6月末時点の除染状況は,住宅は完了し,公共施設等98.8パーセント,道路81. 5パーセント,農地67.4パーセント,森林40パーセントであった(第5部第1章平成23年6月27日から平成30年12月31- 875 -日までに行ったホールボディカウンターによる内部被ばく検査の結果は,福島市で検査を受けた2万4713人全員が,預託実効線量が1mSv 未満となっており,全員,健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされている(乙B418)。 なお,現在は,原告番号43夫は,現在勤務している支店近くの社宅に居住しており,原告らが本件事故当時居住していた社宅があった土地は更地となっている。 2 損害についての検討⑴ 原告番号43-1の請求について原告番号43-1は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していたところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成23年12月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,月額6万円とするのが相当である。したがって,原告番号43-1の慰謝料は,60万円と認めるのが相当である。 ⑵ 原告番号43-2の請求について原告番号43-2は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号43-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 おり,平成23年3月から同年12月までは月額6万円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号43-2の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 ⑶ 原告番号43-3の請求について原告番号43-3は,本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住し,18歳以下であったところ,前記の基準のとおり,避難の継続の合理性が認められるのは平成24年8月31日までとするのが相当である。また,慰謝料額についても,前記の基準のとおり,平成23年3月から同年12月までは月額6万- 876 -円,平成24年1月から同年8月までは月額5万円とするのが相当である。したがって,原告番号43-3の慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。 3 弁済の抗弁⑴ 原告番号43-1に対する弁済被告東電は,原告番号43-1に対し,8万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑵ 原告番号43-2に対する弁済被告東電は,原告番号43-2に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 ⑶ 原告番号43-3に対する弁済被告東電は,原告番号43-3に対し,48万円の賠償を行ったことが認められる。 4 認容金額等⑴ 被告東電の弁済金額控除後の損害額ア原告番号43-1本件事故により原告番号43-1に生じた損害額である60万円から,被告東電の弁済額である8万円を控除すると52万円となる。 イ原告番号43-2本件事故により原告番号43-2に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号43-3本件事故により原告番号43-3に生じた損害額である100万円から,被告 額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ウ原告番号43-3本件事故により原告番号43-3に生じた損害額である100万円から,被告東電の弁済額である48万円を控除すると52万円となる。 ⑵ 弁護士費用ア原告番号43-152万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係- 877 -を有する損害と認める。 イ原告番号43-252万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ウ原告番号43-352万円の約1割である5万円の弁護士費用を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。 ⑶ 認容額ア原告番号43-157万円(52万円+5万円)イ原告番号43-257万円(52万円+5万円)ウ原告番号43-357万円(52万円+5万円)第6部結論以上によれば,原告番号1-4,原告番号3-1,原告番号3-2,原告番号3-3,原告番号3-4,原告番号8-7,原告番号13-4,原告番号18-2,原告番号19,原告番号20-1,原告番号20-3,原告番号21-1,原告番号24-1,原告番号24-2,原告番号30-1,原告番号30-2,原告番号30-3,原告番号30-4及び原告番号41-2の被告東電に対する請求はいずれも理由がなく,上記19名を除く原告らの被告東電に対する請求は,当該原告に係る別紙認容額等一覧表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求はいずれも理由がな る別紙認容額等一覧表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。また、原告らの被告国に対する請求はいずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。 主文 名古屋地方裁判所民事第8部 裁判長裁判官桃崎剛 裁判官澤田真里 裁判官前田志織は、転補につき、署名押印することができない。 裁判長裁判官桃崎剛
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