平成31(う)54 傷害致死

裁判年月日・裁判所
令和2年3月13日 大阪高等裁判所 棄却
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判決文本文33,309 文字)

傷害致死被告事件令和2年3月13日大阪高等裁判所第2刑事部判決 主文 本件控訴を棄却する。 理由 第1 事案の概要及び本件控訴の趣意本件公訴事実の要旨は,「被告人は,平成28年10月3日午後1時30分頃から同日午後1時59分頃までの間,被告人方において,次男であるA(当時生後約1か月半。以下「A」という。)が泣きやまないことにいら立ち,同人に対し,その頭部を複数回揺さぶるなどの暴行を加え,同人に急性硬膜下血腫,くも膜下出血及び左右多発性眼底出血等の傷害を負わせ,よって,同月15日午後2時47分頃,病院において,前記傷害に基づく蘇生後脳症により死亡させた。」というものである。原判決は,被告人が,Aに対し,その頭部を複数回揺さぶるなどの暴行を加えたとは認定できないとして無罪と判断した。 検察官の控訴趣意は, 1 原審検察官が原審乙第14号証ないし第18号証を刑訴法328条により請求したのに対して,各証拠調べ請求を却下した原審裁判所の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある 2 被告人が,Aに対し,その頭部を揺さぶるなどの暴行を加えて,Aに傷害を負わせて,Aを死亡させたのに,Aの受傷原因が被告人による揺さぶりなどの暴行によることに合理的な疑いが残るとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというものである。 以下,原審記録を調査して検討する。 第2 訴訟手続の法令違反の控訴趣意について 1 検察官は,原審裁判所が原審乙第14号証ないし第18号証の請求を却下したのは,証拠の必要性がないと判断したためであることを前提に,各証拠には必要性があった旨 違反の控訴趣意について 1 検察官は,原審裁判所が原審乙第14号証ないし第18号証の請求を却下したのは,証拠の必要性がないと判断したためであることを前提に,各証拠には必要性があった旨主張していることから,まず,原審裁判所が各証拠請求を却下した理由について見る。 原審乙第14号証ないし第18号証は,原審検察官が第4回公判期日に請求し,原審裁判所が第5回公判期日に却下したものである。原審記録の証拠等関係カード乙(No.5)中,乙第14号証ないし第18号証の「結果」欄の「内容」欄には,いずれも「任意性に疑いがある却下異議申立て※1」との記載がある。また,同カード(続)には,「異議申立て(乙14~18)」の表題の下,「B検察官」として,「採用しないことについて,必要性の判断を誤った違法があるので,異議を申し立てます。また,任意性について立証する機会を与えなかったことについても,違法があるので,異議を申し立てます。」との記載があり,その下に,主任弁護人の意見の記載があり,さらに,「裁判長」として「採用しないことについての異議申立て,任意性について立証する機会を与えなかったことについての異議申立てについて,いずれも棄却決定」との記載がある。 これに対して,原審検察官は,平成30年12月4日,原審裁判所に対して,公判調書の記載に対する異議申立書を提出した。上記異議申立書には,要旨,証拠等関係カード乙(No.5)中,乙第14号証ないし第18号証の「結果」欄の「内容」欄に,それぞれ「任意性に疑いがある却下」と記載されているところ,裁判所は,公判廷において,検察官の刑訴法328条による乙第14号証ないし第18号証の証拠調べ請求を却下した際,却下理由について「必要性なし」と述べていたことから,上記記載はいずれも正確性 ところ,裁判所は,公判廷において,検察官の刑訴法328条による乙第14号証ないし第18号証の証拠調べ請求を却下した際,却下理由について「必要性なし」と述べていたことから,上記記載はいずれも正確性を欠くと主張して,刑訴法51条1項により異議を申し立てる旨記載されていた。 原審検察官の上記申異議立てについて,平成30年12月5日付け異議申立調書には,裁判長の意見として,「上記異議申立ては理由がないものと思料する。ちなみに,当該部分の公判廷におけるやり取りとしては,裁判長が採用の必要性がないので却下すると述べ,B検察官が必要性がないことかと問うたので,裁判長が任意性に疑いがある,任意性が立証されていない状況にあるので却下するということであると述べたものである。そうしたところ,B検察官が,証拠が採用されなかったことについての異議と,証拠について任意性を立証する機会を与えなかったことについての異議を申し立てると述べ,裁判長が乙14号証から乙18号証まで全てに関する異議とうかがってよいのかと問うたところ,B検察官がそうであると述べたので,主任弁護人から意見を聴いた上,構成裁判官で合議の結果,これらの異議を理由がないものと認めていずれも棄却した。以上を受けて,裁判所書記官は,証拠等関係カード乙No. 5の乙14号証から乙18号証までの結果欄に『任意性に疑いがある却下』と記載をし,同カード(続)に異議申立てに係る記載をしたものである。」との記載がある。 これらを踏まえて検討するに,原審検察官の乙第14号証ないし第18号証の証拠調べ請求に対しては,原審弁護人が第4回公判期日において,「任意性が立証されていない」との意見を述べていたこと,原審裁判所が,第5回公判期日において,上記証拠調べ請求を却下した後,原審検察官が,上記 べ請求に対しては,原審弁護人が第4回公判期日において,「任意性が立証されていない」との意見を述べていたこと,原審裁判所が,第5回公判期日において,上記証拠調べ請求を却下した後,原審検察官が,上記各証拠に関して任意性を立証する機会を与えなかったことについて違法がある旨異議を述べたことなどからすると,原審裁判所は,原審乙第14号証ないし第18号証について,少なくとも任意性に疑いがあることを証拠調べ請求却下の理由としたことは明らかである。 2 以上を前提に検討する。原審公判前整理手続において,原審弁護人は,検察官による原審乙第14号証ないし第18号証の各実質証拠としての 証拠調べ請求(原審乙第2ないし第4号証,第8号証,第10号証)について,いずれも「不同意任意性を争う信用性を争う」との意見を述べ,その結果,原審検察官はこれらの証拠調べ請求を撤回していたのである。そして,原審第2回公判期日に,本件時の状況等を含めて,被告人の供述がされたが,原審検察官は,原審弁護人からの質問及びそれに対する被告人の供述の後に,被告人に対して質問をする機会があったにもかかわらず,作成時の取調べ状況等を含めて,原審乙第14号証ないし第18号証について全く質問をしなかった。その上で,原審第4回公判期日において,原審検察官は,刑訴法328条の証拠として,乙第14号証ないし第18号証を証拠調べ請求し,これに対して,原審弁護人は,「任意性が立証されていない」との意見を述べたのである。さらに,原審検察官は,上記各証拠の任意性を立証するために,原審において,何らの証拠調べ請求をしていない。 以上によれば,原審裁判所が,第5回公判期日において,検察官の乙第14号証ないし第18号証の証拠調べ請求に対して,いずれも任意性に疑いがあるとして却下したことは の証拠調べ請求をしていない。 以上によれば,原審裁判所が,第5回公判期日において,検察官の乙第14号証ないし第18号証の証拠調べ請求に対して,いずれも任意性に疑いがあるとして却下したことは正当である。 3 訴訟手続の法令違反の控訴趣意は理由がない。 第3 事実誤認の控訴趣意について以下,平成28年10月3日を「本件当日」といい,時刻のみの記載は,同日の時刻である。 1 原判決の理由の骨子原判決が,本件公訴事実について無罪を言い渡した理由の骨子は,次のとおりである。 関係証拠によれば,Aは,何らかの外力によって急性硬膜下血腫やくも膜下出血等の各傷害を負って死亡したと認められる。(理由第2項) Aの受傷原因について,検察官は,Aの,①体表に明らかな打撲痕がないこと,②頭蓋内のあちこちに硬膜下血腫やくも膜下出血等が存在すること,③両眼に多層性多発性の眼底出血が生じていることから,これらは家庭内での落下等では生じ得ないものであって,Aは揺さぶりによって受傷したと主張する。しかし,②の点から揺さぶりによって生じたとする脳神経外科医のC及び小児科医のDの各供述はあるものの,打撲によって生じた可能性があるとする脳神経外科医であるEの供述を排斥できるまでの理由がなく,③の点から揺さぶりによる受傷の可能性が高いとする眼科医のFの供述を踏まえて検討するなどしても,Aが揺さぶりによって受傷したというには合理的な疑いが残る。 (理由第3項) Aの受傷時期及び犯人性について,検察官は,受傷時期はG(以下「妻」という。)及びH(平成21年7月生まれ。以下「長男」という。)が外出した午後1時30分頃以降であって,受傷原因となる暴行を加えることができたのは被告人に限られると主張する。しかし,関 以下「妻」という。)及びH(平成21年7月生まれ。以下「長男」という。)が外出した午後1時30分頃以降であって,受傷原因となる暴行を加えることができたのは被告人に限られると主張する。しかし,関係証拠を検討すると,疑問をいれる余地があるC及びDの各供述によって受傷時期を断定することはできず,Aが受傷したのは午後1時30分頃以降であると断定できないところ,その結果,Aに対して受傷原因となる外力を加えることができた者として,被告人のほか,妻や長男が想定できることになり,受傷原因が揺さぶりによるものとも断定できないことも併せると,これらの者による落下を含む行為によってAが受傷した可能性も,現実的なものとして残ると見ざるを得ない。 (理由第4項) これらを総合すると,その他の事情を踏まえても,被告人が公訴事実記載の犯行に及んだことについて,常識に照らして間違いないといえるほどの立証がされているとはいえない。(理由第5項) 2 当裁判所の判断の骨子当裁判所の判断の骨子は,次のとおりである。 Aの受傷原因について,②の頭蓋内の出血に関して,原判決はC及びDの各供述の信用性評価について特段の説示をしていないが,検討すると,各供述は信用することができ,他方,原判決の指摘を踏まえても,Eの供述は採用できない。③の眼底出血に関しても,Aの具体的な症状を踏まえれば,Eの供述は採用できず,Fの供述が十分に信用できる。これらからすると,Aが揺さぶりによって受傷したというには合理的な疑いが残るとする原判決の判断は,C,D及びFという専門家の各供述があり,それらに十分に信用性があり,かつ,それらの供述が,異なる意見を述べるEの供述が採用できないことを証する的確な証拠であるにもかかわらず,それらを正しく検討・評価した形跡 いう専門家の各供述があり,それらに十分に信用性があり,かつ,それらの供述が,異なる意見を述べるEの供述が採用できないことを証する的確な証拠であるにもかかわらず,それらを正しく検討・評価した形跡がうかがわれないことから,論理則,経験則等に照らして不合理であって,Aは揺さぶりによって受傷したと認められる。 Aの受傷時期及び犯人性について,関係証拠を検討すると,C及びDの各供述は十分に信用でき,これらに基づいて受傷時期を検討すべきである。もっとも,上記各供述を前提としても,Aが受傷したのが午後1時30分頃以降であると断定することはできず,Aに対して暴行を加えることができた者として,被告人のほか,妻や長男が想定できるとする原判決の説示が,論理則,経験則等に照らして,不合理であるとはいえない。 これらによれば,被告人が公訴事実記載の犯行に及んだことについて,常識に照らして間違いないといえるほどの立証がされているとはいえないとする原判決の判断に誤りがあるとはいえず,事実誤認の控訴趣意は理由がない。 以下,詳述する。 3 受傷原因(原判決の理由第3項)について 原判決の説示原判決は,Aの受傷原因について,要旨,次のとおり説示した。 ア検察官は,Aの,①体表に明らかな打撲痕がないこと,②頭蓋内のあちこちに硬膜下血腫やくも膜下出血等が存在すること,③両眼に多層性多発性の眼底出血が生じていることから,これらは家庭内での落下等では生じ得ないものであって,Aは揺さぶりによって受傷したと主張する。 イまず,①Aの体表に明らかな打撲痕がないことが認められる。 ウ ②頭蓋内のあちこちに硬膜下血腫やくも膜下出血等が存在する点について検討すると,小児科医のD及び脳神経外科医のCは 。 イまず,①Aの体表に明らかな打撲痕がないことが認められる。 ウ ②頭蓋内のあちこちに硬膜下血腫やくも膜下出血等が存在する点について検討すると,小児科医のD及び脳神経外科医のCは,揺さぶりによって受傷した可能性が高いと供述するが,脳神経外科医のEは,左後頭部付近の打撲によっても,Aの脳の複数の出血は説明可能であると供述するところ,この供述を排斥できるまでの理由はない。Aの体表に明らかな打撲痕がないことを十分考慮に入れても,揺さぶり以外の,脳に回転力が加わるような何らかの方法で頭部を打撲したことにより,本件のような脳の損傷が生じた可能性を否定することはできない。 エ ③Aの左右の眼に多層性多発性の眼底出血が生じている点について検討すると,D及び眼科医のFの各供述によれば,Eの指摘(低所転落によっても多層性多発性の眼底出血が生じる事例も報告されているとした上で,頭蓋内圧亢進や血液の凝固異常,心拍の再開の影響があいまって,Aの眼底出血が悪化した可能性があるというもの。)を踏まえても,本件の眼底出血の程度が重篤なものであることからすれば,これが打撲ではなく揺さぶりによって生じた可能性は高いというべきである。もっとも,D及びFの各供述も,打撲に よって多層性多発性の眼底出血が生じる可能性や,これがその後の心肺蘇生等の影響で悪化した可能性それ自体を否定するものではないから,その限りで,Eの指摘には留意する必要がある。 オさらに,法医学医のIは,揺さぶりがあれば首に出血があるとかそういった何らかの現象が起こり得ると普通に考えられるが,本件ではそれがないなどと供述していることも無視できない。 カ以上を総合すると,取り分け眼底出血の程度からすれば,受傷原因が揺さぶりであったとの検察官の主張に理由 得ると普通に考えられるが,本件ではそれがないなどと供述していることも無視できない。 カ以上を総合すると,取り分け眼底出血の程度からすれば,受傷原因が揺さぶりであったとの検察官の主張に理由があるようにも見えるが,Eが供述するところによれば,頭蓋内出血についてはこれが打撲で生じた可能性を否定できず,眼底出血についても,打撲によって多層性多発性の眼底出血が生じた可能性を否定できず,限定的とはいえ,心肺蘇生等の影響で悪化した可能性も完全に否定できない。 そして,Iの指摘の点をも踏まえると,Aが揺さぶりによって受傷したというには合理的な疑いが残る。 以上の原判決の説示について,検察官及び弁護人の主張を踏まえつつ検討する。 ②頭蓋内のあちこちに硬膜下血腫やくも膜下出血等が存在する点についてア検察官は,㋐児童虐待による頭部外傷の専門家の医師2名(C及びD)の供述が符合しており,十分に信用性が高いにもかかわらず,根拠なくこれらの供述を否定していること,㋑Eの供述が誤っているのに,Eの供述が不合理でないと判断したことなどを指摘して,受傷原因は,揺さぶりであるのに,揺さぶり以外の,脳に回転力が加わるような何らかの方法で頭部を打撲したことにより,本件のような脳の損傷が生じた可能性を否定することはできないとした原判決の認定が誤っている旨主張する。 これに対して,弁護人は,㋒原判決は,C及びDの信用性を否定しておらず,単に,Eの供述の信用性を排斥できないと述べているにすぎないこと,㋓Eは,脳神経外科医であり,豊富な臨床経験に基づき供述しており,その供述は信用できることなどを指摘し,検察官の主張は理由がない旨主張する。 まず,検察官の指摘㋐についてみると,確かに,C及びDという専門家2 り,豊富な臨床経験に基づき供述しており,その供述は信用できることなどを指摘し,検察官の主張は理由がない旨主張する。 まず,検察官の指摘㋐についてみると,確かに,C及びDという専門家2名がおおむね整合する供述をしているにもかかわらず,原判決は各供述の信用性評価について特段の説示をしていない。 そこで,C及びDの各供述の信用性について検討する。 脳神経外科医のCは,原審において,要旨,Aには硬膜下血腫等を生じさせるような内因性の病気がうかがえないこと,Aのような重篤な出血や,命にかかわる経過は,高いところから落下するなど相当強い力が加わらないと生じないが,相当強い力が加わった場合には大きな皮下血腫ができたり,頭蓋骨にひびが入るなどが必ず生じるので,その可能性は否定されること,Aの脳のいろいろなところに硬膜下血腫,くも膜下出血があることから,前後に激しく揺さぶることにより生じた可能性が高いこと,揺さぶりにより,架橋静脈が引き伸ばされて切れて,血腫が大脳半球間裂付近だけでなく,円蓋部に広がることもあり,脳の毛細血管などの血管も切れて,いろいろなところが出血したと考えられること,自身が行った,事故によって頭部を負傷した子供の事例の調査では,硬膜下血腫はあったが,軽傷で,左右両方に血腫があったとしても,あちこちにはなく,単純な薄い血腫のみで,ほとんど全て手術なしの経過観察で退院し,やや重症になった一人は,大きな皮下血腫があり,明瞭に頭蓋骨の骨折があったことなどを供述する。 Cは,脳神経外科医であるとともに,小児神経外科認定医などであり,子供の患者も多数診察している上,虐待を疑われる頭部外傷の事案について30人から40人の患者を診察した経験があり,さらに,自身で,虐待例と事故例についてCT画 ともに,小児神経外科認定医などであり,子供の患者も多数診察している上,虐待を疑われる頭部外傷の事案について30人から40人の患者を診察した経験があり,さらに,自身で,虐待例と事故例についてCT画像を比較検討して発表した経験もある。そして,Cは,病気や事故の可能性についても慎重に検討した上で,Aの頭蓋内出血の状況に照らして,前後に激しく揺さぶることによって生じた可能性が高いと結論付けている。 小児科医のDは,原審において,Aについて,血液の凝固異常は確認されているが,これは重症の頭部外傷後の二次的な異常であり,出血しやすい病態ではなく,他の内因性の病態もなく,医原性の出血の原因もなかったこと,過失による落下で頭を打撃した場合には,頭を打った局所と,その反対側が出血する損傷を受け得るにとどまること,頭部障害基準値(HIC)の結果を見ても,脳全体がびまん性に腫れて脳全体のあらゆる箇所に出血が生じるというのは,自動車事故のように,相当のエネルギーが加わらないと起こらないこと,工学実験によると,強い揺さぶり(振動幅が5センチメートルのときに,1秒間に3サイクルを超えるような場合)によって初めて,架橋静脈が引き伸ばされ,破断して出血を起こすところ,Aの多発性の硬膜下血腫,くも膜下血腫は,このような揺さぶりによって,架橋静脈等の血管が切れたと考えられることなどを供述する。 Dは,小児科医であるとともに,群馬県,千葉県,横浜市等において虐待防止医療アドバイザーを兼務し,虐待関連の医学的な診断助言を年間50例程度行っており,虐待関連の意見書作成や鑑定も行い,子供の虐待に関する翻訳書の監訳等にも関わってい る。また,Dは,自己の証言の多くについて文献上の根拠を挙げており,具体的な根拠を示して供述している。D 虐待関連の意見書作成や鑑定も行い,子供の虐待に関する翻訳書の監訳等にも関わってい る。また,Dは,自己の証言の多くについて文献上の根拠を挙げており,具体的な根拠を示して供述している。Dも,病気や事故の可能性についても検討した上で,Aの頭蓋内出血については,強い揺さぶりによって生じたと考えられると結論付けている。 さらに,乳幼児の頭部外傷についての専門家であるC及びDの各供述がおおむね合致していることも考えると,両名と意見が異なるEの供述についての検討を留保すると,基本的に両名の供述は信用性が高いといえる。 そこで,さらに進んで,検察官の指摘㋑及び弁護人の指摘㋓を踏まえて,C及びDと異なる意見を述べるEの供述について検討する。 脳神経外科医であるEは,Aに対しては,左後頭部の打撲があったのではないかと考えていること,Aについては,CT画像上,左側の頭皮下組織が腫脹していると判断でき,おそらく1回の打撲があったと考えられること,左後頭部打撲の対側外傷として,左右の前頭部に出血が生じるとともに,脳が前方に動くことにより架橋静脈が切れて頭頂部の出血が生じ,左右にある蝶型骨縁に脳の側頭葉がぶつかって出血し,脳が小脳テントに当たって出血することが起こったと考えられること,このような打撲は,低所からの落下などの低エネルギー外傷で起こらないとはいえないこと,仮に皮下出血が分からなかったとしても,また,皮下出血が生じないくらいであっても,頭部による打撲によって今回のような頭蓋内出血は生じ得ることなどを供述する。 Eは,脳神経外科医として十分な経験を有するものの,小児を専門とする学会に所属していない上,小児の揺さぶりに関する論文を書いたこともないことなどからすると,小児の頭部外傷につ する。 Eは,脳神経外科医として十分な経験を有するものの,小児を専門とする学会に所属していない上,小児の揺さぶりに関する論文を書いたこともないことなどからすると,小児の頭部外傷につ いてはCやDほどの専門性は有していないことがうかがえる。 そして,Eの供述の内容を見るに,Eは,まず,AのCT画像(原審のEの証人尋問調書添付の別紙3)を見て,左後頭部に中等度くらいの頭皮下血腫があると判断した。 しかし,Aの入院時には「体表に明らかに打撲痕なし」と確認されていること,Aを解剖したIも,Aの頭皮に血腫はできていなかった旨供述していること,Cは,CT画像を詳しく見て,皮下出血を疑う所見はなかった旨述べていること,Dは,画像診断医に見せても皮下血腫と捉える人はいないと言われた,CT画像は5ミリずつスライスで撮影されるものであるので,1枚の画像だけで判断されるべきでない,Aの場合には,上下画像には写っていないし,皮膚がたるんでいることを考慮すべきであると供述したことなどからすると,Aについて,CT画像上で確認できるような頭皮下血腫はなかったというべきである。 Eは,弁護人から揺さぶられ症候群かどうかの確認を依頼され,まずCT画像を見て,皮下の腫れがあると判断して,打撲の可能性があると考えたというのである。そうすると,Eはその検討の出発点において誤っていたといえ,Eの供述の信用性には相当の動揺が生じるというべきである。Eは,皮下出血が分からなかったとしても,打撲の可能性はあるとも述べているが,これは,原審において,自己の単独の証人尋問を終えた後,Dとの対質において,CT画像上は皮下出血が認められないではないかなどと詰められた後に,原審弁護人から皮下出血がないとしても結論に変わり が,これは,原審において,自己の単独の証人尋問を終えた後,Dとの対質において,CT画像上は皮下出血が認められないではないかなどと詰められた後に,原審弁護人から皮下出血がないとしても結論に変わりはあるかと質問をされて,理由を示さずに答えたにすぎない。 以上によれば,頭皮下血腫の存在を前提とするEの供述は疑わしいといえる。 次に,Eは,低所からの落下などの低エネルギー外傷でもAの頭蓋内出血は生じる旨供述している。 Eは,その根拠として,まず,自身の経験として,ソファーから落ちて急性硬膜下血腫になった子供が一人いたことを挙げたが,Eの説明によれば,保護者の説明だけがあって,第三者の目撃の有無は覚えておらず,虐待でないというエビデンスはないというのであり,そもそも適切な自験例とはいえない。 Eは,低所転落の死亡例を問われると,病院の中で転倒して床に頭を打ち付けて,急性硬膜下血腫になり,死亡した例を挙げたが,これは大人の例であるところ,Iは,Aのような年齢の子は,脳の中が比較的柔らかく,血腫ができにくいと供述していること,Dも,乳幼児の血管は弾性繊維に富み,破綻しにくいと供述していることなどからしても,適切な例ではないといえる。 さらに,Eは,目撃者がいる低位落下で硬膜下血腫が生じた8例の報告があると供述したが,Dは,そのうち1 例の死亡例があるが,これは,16か月の子が立ち上がっているときに別の子に突き飛ばされて,頭をぶつけた事例で,低所転落ではないと述べ,Eはこれに反論しておらず,Dの供述を疑う理由はない。 そうすると,Eは,適切な文献例も,自験例も挙げられなかったといえる。 のみならず,Dは,日本で和文誌に掲載された乳幼児が低所転 反論しておらず,Dの供述を疑う理由はない。 そうすると,Eは,適切な文献例も,自験例も挙げられなかったといえる。 のみならず,Dは,日本で和文誌に掲載された乳幼児が低所転落で頭蓋内出血をした症例報告約290において,乳児が低所転落で多発性頭蓋内出血を生じて死亡した事例は1 例もないと述べるのに対して,Eは,それらは報告例にすぎず,臨床の場では症例報告しないケースがほとんどであり,通常行われている当たり前の現象のものであれば,医学雑誌は採用しないなどと述べたに とどまり,適切な文献例を挙げることはできていない。Eは,乳児が低所転落で多発性頭蓋内出血を生じて死亡することがあたかも当たり前のように供述するところ,この供述は,乳児の頭部外傷について研究しているC及びDの供述に反するもので,到底信用できるものではない。 Eは,急性硬膜下血腫の人を開頭すると,側頭葉に多い脳表静脈破綻による出血をしばしば経験するので,低エネルギー外傷だから硬膜下血腫が起こらないことはないと思う,と供述する。しかし,Eによっても,そのような患者が元々低エネルギー外傷だったか,高エネルギー外傷だったか,分からないという上,そのような患者が血管の弱い成人ではなく,小児の事案であるとの供述もない。さらに,Aの事案は,架橋静脈が切断するなどして,右大脳半球円蓋部,右大脳半球間裂,左大脳半球円蓋部に硬膜下血腫があったほか,複数のくも膜下血腫があったのであって,Eがいう患者とは頭蓋内出血の部位や程度を相当に異にするものである。 さらに,前記のとおり,C及びDは,そろって,Aの頭蓋内出血は,Aを前後に激しく揺さぶることにより生じた可能性が高いことを供述し,また,Dは,頭部障害基準値(HIC)や,工学実験によ さらに,前記のとおり,C及びDは,そろって,Aの頭蓋内出血は,Aを前後に激しく揺さぶることにより生じた可能性が高いことを供述し,また,Dは,頭部障害基準値(HIC)や,工学実験によると振動幅が5センチメートルで1秒間に2.5サイクルの場合のように強い力があっても出血を起こさないとされていることなどを根拠に挙げるところ,低所からの落下などの低エネルギー外傷でもAの頭蓋内出血は生じる旨のEの供述は,これらに反するものである。また,法医学者のIも,頭部の1点に外力を受けると,その直下及び対側の二か所に血腫を生じ得るが,Aの場合は対側関係にない複数の場所に血腫ができているので,複 数回の外力が必要であると述べており,Eの供述はこれにも反する。 原判決は,Eの供述について,ⓐEが脳神経外科医として高度の専門的知識と豊富な臨床経験を有していること,ⓑEが自身の経験や症例報告等にも依拠して左後頭部付近の打撲の可能性を指摘していること,ⓒEの説明内容に特段不合理といえる点がないことなどからすると,Eの供述を排斥できるまでの理由はないと説示する。 しかし,これまで検討したことから明らかなように,ⓐについては,Eが脳神経外科医として高度の専門的知識と豊富な臨床経験を有していることは間違いがないものの,小児の頭部外傷についてはCやDほどの専門性を有していないとうかがえる。また,ⓑについては,Eは,左後頭部付近の打撲の可能性について,適切な自験例や文献例を挙げることができていない上,左後頭部付近の打撲ではないかと最初に考えたとするCT画像の読み取りに問題があったといえる。ⓒについては,上記のとおり,Eの供述については,自験例や文献例という根拠を欠く上,乳幼児の頭部外傷についての専門家であるC及びD いかと最初に考えたとするCT画像の読み取りに問題があったといえる。ⓒについては,上記のとおり,Eの供述については,自験例や文献例という根拠を欠く上,乳幼児の頭部外傷についての専門家であるC及びDの各供述に反し,Eの説明内容は不合理なものといえる。そうすると,原判決の挙げるEの供述の信用性の根拠については,いずれも問題があるものであり,Eの供述を排斥できるまでの理由はないとの説示は不合理であるといわざるを得ない。 エさらに,原判決は,揺さぶり以外の可能性があることの理由として,法医学者であるIが,解剖時にAの頭皮に著明な損傷がないことから,例として,床の上にウレタンなどを敷いた状態で頭部を複数回打撲した可能性を挙げていることを指摘するので,この点のI の供述について検討する。 Iは,打撲の可能性を指摘するが,Iは,外力の程度について,一般的に赤ちゃんが何かで頭を打つ日常的事故では頭蓋内血腫はできず,比較的強い力が必要であり,子育て中に落としたなどでは致死的な急性硬膜下血腫は起こらない,打撲による場合,その衝突回数については,複数の外力が必要である,そして,頭皮下に血腫等が認められないことからすると,硬い物体が頭に当たっているということはなく,床の上のウレタンなどのシートを敷いたところに当たったと判断されると述べる。しかし,子供がAの傷害を負わせることができるかについて述べる部分では,落下させた場合,何回も持ち上げないといけないし,横にもしないといけないが,横には肩があり,肩に損傷がなく難しいとも述べている。すなわち,頭部を柔らかい物に衝突させる場合でも,多発性頭蓋内出血を生じさせる場合には,複数回,日常の事故ではないような相当に強い力で,衝突部位・方向を変えて,身体の他の部位に負傷が生じないように すなわち,頭部を柔らかい物に衝突させる場合でも,多発性頭蓋内出血を生じさせる場合には,複数回,日常の事故ではないような相当に強い力で,衝突部位・方向を変えて,身体の他の部位に負傷が生じないようにしなければならず,相当に困難であるというのである。 そうすると,Iの供述を踏まえて検討しても,揺さぶり以外による受傷の可能性は相当に小さいといわざるを得ない。 オ原判決は,左後頭部付近の打撲の可能性をいうEの供述が排斥できないこと,床の上にウレタンなどを敷いた状態で頭部を複数回打撲した可能性をいうIの供述に加えて,Dが,頭部に加えられたエネルギーの大きさだけではなく,どの程度の回転力が加わったかという点も考慮して脳の出血について判断する必要があると供述していることを併せてみて,揺さぶり以外の,脳に回転力が加わるような何らかの方法で頭部を打撲したことにより脳の損傷が生じた可能性を否定することはできないと説示する。 しかし,前記のとおり,Eの供述は信用できないものであるし,Iの供述によっても打撲によりAの本件のような頭蓋内出血を生じさせる状況を想定することは相当に困難である。その上,脳に回転力が加わるような何らかの方法で頭部を打撲したというのは,I,C,D,Eの誰も供述していないものであり,そのような態様が現実にあり得るのかも不明である。 結局,原判決のこの点の説示は不合理なものといわざるを得ず,証拠上は,強い揺さぶりによって,Aの頭蓋内出血が生じた可能性が相当に高いというべきである。 ③両眼に多層性多発性の眼底出血が生じている点についてア検察官は,眼科医であるFの供述を,専門性のないEの供述で否定していることなどを指摘して,両眼の多発性多層性眼底出血は,揺さぶりを強 ③両眼に多層性多発性の眼底出血が生じている点についてア検察官は,眼科医であるFの供述を,専門性のないEの供述で否定していることなどを指摘して,両眼の多発性多層性眼底出血は,揺さぶりを強く示唆するのに,そのように判断しなかった原判決には誤りがある旨主張する。 これに対して,弁護人は,原判決は,Fの供述を排斥していない上,Eの供述には根拠があり,原判決には誤りがない旨主張する。 この点,原判決は,F及びDの各供述に基づき,Aの眼底出血について揺さぶりによって生じた可能性が高いとは説示するものの,Eの指摘については留意する必要があると留保を付け,さらに,最終的に,眼底出血の程度等を踏まえても,Aが揺さぶりによって受傷したというには合理的な疑いが残ると結論付けているのであり,結論として,Eの指摘を排斥せず,F及びDの各供述が示す結論を採用しなかった。そこで,Aの眼底出血について,F及びDの各供述を踏まえて,Eの指摘するような事実の可能性を排除できるかを検討する。 イ Fは,Aの眼底出血について,両眼に多層性,多発性で,強い出 血があり,出血の範囲が眼底の隅々,特に最周辺部にまで及んでいること,乳児で眼底出血を来す疾患を順に検討していくと,強い揺さぶりがかなり典型的に近い所見であり,他の疾患は眼底出血の状況等に照らして否定されること,揺さぶられることにより,眼球が揺れるとゲル状の組織である硝子体が揺れ,硝子体に接着した網膜が引っ張られて,血管が破れて出血することなどを供述する。 Fは,眼科医であり,小児眼科学会にも所属し,大学病院の児童虐待防止委員会において眼科を担当している。Fは,Aの眼底写真を踏まえて,乳児で眼底出血を来す疾患について揺さぶり以外の可能性による場合も含めて慎 科医であり,小児眼科学会にも所属し,大学病院の児童虐待防止委員会において眼科を担当している。Fは,Aの眼底写真を踏まえて,乳児で眼底出血を来す疾患について揺さぶり以外の可能性による場合も含めて慎重に検討しており,信用性が高いといえる。また,小児科医であり,乳児の揺さぶりについて研究するDも,揺さぶりによって何度も網膜が引っ張られて,網膜のいろいろな層に出血を生じるところ,Aの場合には数も面積も性状も虐待以外では説明できないようなレベルであるなどと供述しており,Fの供述は,Dの供述とも整合する。 ウこれに対して,Eは,㋐低所転落によっても眼底出血は生じるとの報告があること,㋑受傷後,眼底写真の撮影までに時間を要しており,その間に頭蓋内圧亢進や,血液凝固異常,心肺停止後の蘇生があり,これらによりAのような眼底出血になる可能性があることを指摘する。 しかし,㋐について,Dは,Eが指摘する事例(Eの証人尋問調書添付の別紙19の眼底写真)は,出血が両手で数えられる程度のものであり,Aの事案(Fの証人尋問調書添付の別紙17ないし19)は,数えられないほどの出血が,撮像された範囲で50%以上の非常に広い面積を占めており,比べるべくもないと供述しているところ,それぞれの眼底写真等によれば,この点のDの供述は合理 性がある。㋑については,Fは,頭蓋内の圧力の亢進の影響により視神経乳頭の周囲や太い血管に出血が起こるが,Aの場合には多発性の出血である上,鬱血乳頭がなかったことからすると,眼底への変化に至るほどではない,血液の凝固異常の影響については,Aの場合は全身の出血や結膜下出血が起きていないので,可能性としてかなり低い,心肺蘇生の影響についても,再開することによって,一過性に圧が上がって血が漏れるという感じの出血 固異常の影響については,Aの場合は全身の出血や結膜下出血が起きていないので,可能性としてかなり低い,心肺蘇生の影響についても,再開することによって,一過性に圧が上がって血が漏れるという感じの出血であり,Aの事案ほど広範に多発しにくいとそれぞれ根拠を挙げてAのような眼底出血となるとはいえないことを供述しており,この点のFの供述は合理的で信用できるものである。 そうすると,Eの指摘は,いずれもAの具体的な眼底写真の所見と整合するものとはいえず,採用できないものである。 エこれらによると,Aの眼底出血の程度からすれば,打撲によって生じたとは考えにくく,揺さぶりがあったと見るのが極めて合理的である。 オ原判決は,D及びFの供述内容も,打撲によって多層性多発性の眼底出血が生じる可能性や,これがその後の心肺蘇生等の影響で悪化した可能性を否定するものではないから,その限りでEの指摘には留意する必要がある旨説示する。 しかし,Fは,落下によっては軽い出血が起こるという報告もあるが,ここまで眼底の至るところでの出血にはならないなどと供述しており,Fは,Aの具体的な眼底出血の状況に照らして打撲の可能性を否定している。Dも,打撲によって網膜出血はあり得るが,程度問題であり,Aのレベルの出血で,虐待以外で起こったことを示す文献は何一つないと供述している。また,Fは,前記のとおり,心肺蘇生の影響についても,一般論として出血が生じたり,多少出 血が増えるというのみであり,再開することによって,一過性に圧が上がって血が漏れるという感じの出血であり,Aの事案ほど広範に多発しにくいと,根拠を挙げて否定している。 結局,原判決が留意する必要があるというEの指摘は,Aの具体的な眼底出血の程度を考慮してい 血が漏れるという感じの出血であり,Aの事案ほど広範に多発しにくいと,根拠を挙げて否定している。 結局,原判決が留意する必要があるというEの指摘は,Aの具体的な眼底出血の程度を考慮しているといえないことなどから,Fの供述等により否定されるものであって,原判決の上記説示は適切なものではない。 揺さぶりがあれば首に出血があるなどの現象があるとのIの指摘についてア原判決は,Iが,揺さぶりがあれば首に出血があるとかそういった何らかの現象が起こり得ると普通に考えられるが,本件ではそれがないなどと複数回にわたって供述していることも無視はできないと説示する。 イこの点,Iは,Aの頭蓋内の真ん中のところ(大脳半球間裂付近)に血腫があることからすると,左右の強い動きがあるはずであり,そうすると首はおそらく折れてしまうか,離れてしまうと供述している。しかし,そもそも,Cが供述するとおり,揺さぶりは前後になされることが多いと考えられるところ,C及びDの各供述によれば,前後に揺さぶられることによって,架橋静脈が破断するなどして大脳半球間裂付近に硬膜下血腫が生じると認められるのである。 そうすると,そもそもIの前記指摘は,揺さぶりの方法についての前提が適切でないというべきである。 さらに,Dは,この点について,揺さぶりをすれば首にもダメージがあるとするバンダック(Bandak)の工学研究は計算方法に大きなミスがあり信用性が否定されていること,揺さぶりにより7割以上で靭帯損傷等が確認されると言われているが,肉眼で解剖 可能時に分かったのは2割ぐらいとされており,日本の場合には,首の部分を評価する解剖が行われていないこと,頸部損傷の有無は非常に精緻にMRIを撮らないと分からないところ,本件でもMR 可能時に分かったのは2割ぐらいとされており,日本の場合には,首の部分を評価する解剖が行われていないこと,頸部損傷の有無は非常に精緻にMRIを撮らないと分からないところ,本件でもMRI検査は行われなかったことを供述する。そして,Cも,Aの場合も首や頸髄の損傷はあると思うが,Aの場合にはそのような検査がされていない上,CTでは分からないと供述する。 乳児の頭部外傷について研究しているD及びCが,根拠を挙げて,揺さぶりによる頸部の損傷は確認できないことを供述していることなどからすると,Iのこの部分の供述は揺さぶりの有無の判断に影響するものではないというべきである。 ウこれらによれば,原判決がIの指摘が無視できないとしている点については,適切でないといえる。 小括以上によれば,弁護人の指摘を踏まえて検討しても,㋐頭蓋内のあちこちに硬膜下血腫やくも膜下血腫等が存在する事実について,揺さぶり以外の,脳に回転力が加わるような何らかの方法で頭部を打撲したことにより生じた可能性は否定できないとする原判決の説示は首肯できず,C及びDが供述するとおり,上記事実から,強い揺さぶりによって,これらが生じた可能性が相当に高いといえる。そして,㋑Aの眼底出血について,Eの指摘に留意する必要がある旨の原判決の説示は適切でなく,Aの眼底出血の程度によれば,打撲によって生じたとは考えにくく,揺さぶりがあったと考えられる。さらに,㋒揺さぶりがあれば首に出血があるなどの現象が起こり得るとのIの指摘も適切なものでなく,これを無視できないとする原判決の説示は首肯できないものである。 そうすると,Aが揺さぶりによって受傷した事実は,合理的な疑い をいれる余地なく認められるというべきであって,これについ 無視できないとする原判決の説示は首肯できないものである。 そうすると,Aが揺さぶりによって受傷した事実は,合理的な疑い をいれる余地なく認められるというべきであって,これについて,合理的な疑いが残るとの原判決の判断には誤りがある。 以上,要するに,原判決は,C,D及びFという専門家の各供述があり,それらに十分に信用性があり,かつ,それらの供述が,異なる意見を述べるEの供述が採用できないことを証する的確な証拠であるにもかかわらず,それらを正しく検討・評価した形跡がうかがわれないことから,論理則,経験則等に照らして不合理といわざるを得ない。 Aが揺さぶりにより受傷した事実が認められるとする検察官の主張には理由がある。 4 Aの受傷時期及び犯人性(原判決の理由第4項及び第5項)について 原判決の説示原判決は,Aの受傷時期及び犯人性について,要旨,次のとおり説示した。 ア検察官は,Aは暴行を加えられて即又は間もなく意識を失い,容体が急変したとして,その受傷時期は妻及び長男が外出した午後1時30分頃以降であって,受傷原因となる暴行を加えることができたのは被告人に限られると主張する。 イ関係証拠によれば,被告人は,本件当日の朝から,妻,長男,J(当時1歳10か月。以下「長女」という。)及びAと共に現場となった府営住宅におり,妻が,午後1時30分頃,長男と共に買物に出掛けたため,午後1時30分頃から午後1時59分頃までの間,同所には,被告人,長女及びAのみがいたこと(その間,被告人がAを残して長女と外出した時間帯がある。)が認められる。 ウ午後3時5分頃に撮影された頭部CT画像によれば,Aに,びまん性脳浮腫が進行しており,脳への血流が途絶えて脳に致死的な損傷が進行し Aを残して長女と外出した時間帯がある。)が認められる。 ウ午後3時5分頃に撮影された頭部CT画像によれば,Aに,びまん性脳浮腫が進行しており,脳への血流が途絶えて脳に致死的な損傷が進行している状態であったところ,Cは,本件のような重症な 経過をたどる小児の場合は,脳実質損傷があったと考えるのが妥当であるし,それがなくても,乳児の場合には脳が腫れやすかったり,脳の血流調整がうまくできなかったりして,受傷から比較的短期間で容体が急変するから,容体急変が確認された時点から数分,長くても5分から10分前に受傷したと考えられると供述する。もっとも,本件において,被告人が妻に電話をかけるなどした午後1時59分頃より前という以上に容体急変時を特定するに足りる証拠はない。 Dも,病理学上の所見はなく,臨床的な推認ではあるが,呼吸失調を起こしていることからして,本件では比較的重度のびまん性軸索損傷があったと考えられ,小児が致死的な脳損傷を負った場合について,脳実質損傷がごく軽度な事例を除けば,受傷後の意識清明期はない旨供述する。 しかし,Dも述べるとおり,びまん性軸索損傷等の一次性の脳実質損傷や脳幹部損傷が存在していたことをAのCT画像等から判断することは困難であるものと認められる上,Eの供述によれば,びまん性軸索損傷等の脳実質損傷がなくてもびまん性脳浮腫が生じることはあり得る(脳幹部損傷についていえば,Aの心停止後,救急搬送後の午後2時32分頃に心拍が再開しているところ,E及びIの供述によれば,脳幹部に重度の損傷があれば心拍が再開することは通常考え難いから,Aの脳幹部損傷はなかったか,あったとしても極めて軽度のものであった。)。 さらに,関係証拠によれば,午後1時59分頃,Aの鼻から,ピン 傷があれば心拍が再開することは通常考え難いから,Aの脳幹部損傷はなかったか,あったとしても極めて軽度のものであった。)。 さらに,関係証拠によれば,午後1時59分頃,Aの鼻から,ピンク色の風船様のものが出ていたと認められ,これは,神経原性肺水腫の症状であると認められるところ,Eの供述によれば,神経原性肺水腫の機序は,脳に出血が生じた結果,頭蓋内圧亢進が起こり, 又は脳幹が損傷されることによって視床下部の障害が生じてカテコラミン(アドレナリン等)が急激に放出され,肺の血管から肺の中へと血液等の水分が漏れ,呼吸が妨げられるというものであり,頭蓋内の出血等からカテコラミンが放出されるまでの時間は非常に短時間のものから数日まで様々であるという。そして,神経原性肺水腫は,少量のくも膜下出血で起こることも珍しくなく,神経原性肺水腫を発症すれば,低酸素状態になるとともに,カテコラミンが心臓にも悪影響を与えることもあり得るから,CT画像上脳が重篤な損傷を受けていることは間違いないが,それによってびまん性軸索損傷等の一次性の脳実質損傷が存在したと直ちに推測することはできず,神経原性肺水腫に起因する低酸素状態等によって脳が致死的なダメージを負った可能性は否定できないと供述し,この見方を排斥できるまでの理由はない。 そうすると,本件では,Aに一次性の脳実質損傷があった可能性はあるが,神経原性肺水腫が発症したことにより脳が致死的なダメージを負った可能性がある以上,この機序によってAが死亡した可能性に係る検討が十分であったか疑問をいれる余地があるC及びDの供述によって,受傷時期を断定することはできない。 エ以上から,Aが受傷したのは午後1時30分頃以降であると断定できないところ,その結果,Aに対して受傷原因とな をいれる余地があるC及びDの供述によって,受傷時期を断定することはできない。 エ以上から,Aが受傷したのは午後1時30分頃以降であると断定できないところ,その結果,Aに対して受傷原因となる外力を加えることができた者として,被告人のほか,妻や長男が想定できることになる(なお,検察官は,長男の体格・体力では受傷原因となり得る暴行を加えることはできないと主張するが,Iの供述等によってもそのようにいえるまでの立証があるとは見られない。)。そして,受傷原因が揺さぶりによるものとも断定できないことも併せると,これらの者による落下を含む行為によってAが受傷した可能性 も残る。 オこれらを総合し,被告人が午後1時30分頃の妻の外出後の状況につき,公判廷で本件当日にした供述と異なる供述をしていることなどその他の事情を踏まえても(なお,午後1時30分頃の妻の外出時までに受傷をうかがわせる事情がなかったといえるかについては,必ずしも明らかでないと判断した。),被告人が公訴事実記載の犯行に及んだことについて間違いないといえるほどの立証がされたとはいえない。 検討の方法以上の原判決の説示について,検察官は,C及びDの各供述等によれば,受傷時刻は,妻及び長男の外出後である午後1時30分頃以降であり,妻及び長男の暴行等の可能性はないことなどを指摘して,被告人がAに暴行を加えた犯人であると認められるから,原判決の判断は誤っていると主張する。これに対して,弁護人は,Aの容体が急変した時刻は午後1時59分頃より前であるという以上に特定する証拠はないし,C及びDの意見によっても,受傷した時刻が午後1時30分頃以前である可能性は否定されず,妻及び長男による暴行等の可能性があるから,原判決の判断に誤りはない旨主張する。 そこ 特定する証拠はないし,C及びDの意見によっても,受傷した時刻が午後1時30分頃以前である可能性は否定されず,妻及び長男による暴行等の可能性があるから,原判決の判断に誤りはない旨主張する。 そこで,検討する。前記3の受傷原因に係る検討のとおり,Aは揺さぶりによって受傷したと認められるところ,午後1時30分頃以降にこの揺さぶりが行われたとすれば,Aと共に被告人方にいたのは被告人と長女のみであり,当時1歳10か月の長女が受傷原因となり得る暴行を加えるのは不可能といえるから,暴行を加えたのは被告人以外には考えられない。他方で,揺さぶりが午後1時30分頃よりも前に行われた可能性があるのであれば,被告人のほかに妻と長男も暴行を加える機会があった者として想定できるから,それにもかかわらず 暴行を加えたのは被告人であることが常識に照らして間違いないことが証明されているのでなければ,被告人が犯行に及んだことを認めなかった原判決の結論に誤りはないということになる。したがって,まずAの受傷時期が午後1時30分頃以降であると断定することができないとした原判断に誤りがあるかを検討し,その判断に誤りがないということであれば,次に午後1時30分頃以前に暴行が加えられた可能性があることを前提に,妻や長男でなく被告人が暴行を加えたことが常識に照らして間違いないといえるほどの立証がないとした原判決の判断に誤りがあるかを検討することとする。 Aの受傷時期についての医学的見地等からの検討ア一次性の脳実質損傷等の存否 検察官は,C及びDの各供述によれば,Aには一次性の脳実質損傷及び脳幹部損傷があり,他方,神経原性肺水腫は脳実質損傷等の結果にすぎないのであって,その結果,Aの受傷後に意識清明期はなかったと考えられるのに,原判決は,一 供述によれば,Aには一次性の脳実質損傷及び脳幹部損傷があり,他方,神経原性肺水腫は脳実質損傷等の結果にすぎないのであって,その結果,Aの受傷後に意識清明期はなかったと考えられるのに,原判決は,一次性の脳実質損傷及び脳幹部損傷を認めず,脳実質損傷は神経原性肺水腫により生じた可能性があり,疑問のあるC及びDの各供述によってAの受傷時期を断定することはできないとした点に誤りがあると主張する。 これに対して,弁護人は,Eの供述によれば,脳幹部損傷及び脳実質損傷がない可能性があるし,脳実質損傷は神経原性肺水腫により生じた可能性があり,Aの受傷時期を断定することはできないとした原判決に誤りはないと主張する。 そこで,まず,Aに一次性の脳実質損傷及び脳幹部損傷があるなどというC及びDの各供述に疑問をいれる余地があるとする原判決の説示に誤りがないかを検討する。 脳幹部損傷について,原判決は,E及びIの各供述によれば,脳幹部に重度の損傷があれば心拍が再開することは通常考え難いと説示する。 しかし,Iは,病院に搬送後に度々心臓が止まってしまうということがあれば,心臓は何も損傷がないので,脳幹に何らかの損傷があったということを示しているかもしれないなどと供述するにとどまるのであり,原判決のI供述の理解は正確とはいえない。 そして,このIの供述によれば,Aの心臓は何も損傷がないので,心臓が止まることは脳幹の損傷を示唆するものといえるのである。 他方,Eは,脳幹損傷があると蘇生する可能性はかなり低いので,一次的な損傷はおそらくなかったと供述する。しかし,Dは,AHT(虐待による頭部外傷)のときに起こっているレベルの脳幹損傷であれば,自己心拍再開は可能であるし,大脳全体が真っ黒 はかなり低いので,一次的な損傷はおそらくなかったと供述する。しかし,Dは,AHT(虐待による頭部外傷)のときに起こっているレベルの脳幹損傷であれば,自己心拍再開は可能であるし,大脳全体が真っ黒の状態で運ばれてくる事例は,小児科で何回も経験するが,救急医療者の努力によって自己心拍再開はあり得る話であると供述するところ,Dの供述は,Iの前記供述とも整合的である上,小児科の医師としての経験に裏付けられた供述であり,信用性が高いというべきである。 そうすると,脳幹部損傷がなかったか,あったとしても極めて軽度のものであったとする原判決の説示は,Iの供述内容を正しく理解せず,また,小児医療の専門家であるDの供述に照らして信用できないEの供述に基づいて認定したものであって,不合理なものといわざるを得ない。 脳実質損傷について,原判決は,Dの供述によれば,一次性の脳実質損傷が存在していたことをAのCT画像から読み取るのは困難であり,Eの供述によれば,脳実質損傷がなくてもびまん性 脳浮腫が生じることはあり得るとし,脳実質損傷については,あった可能性があると説示するにとどまる。 この点,Dは,揺さぶりにより脳浮腫が生じるまでの経過について,歪みの力で脳神経にダメージを受けて損傷し,びまん性軸索損傷,脳挫傷,脳実質裂傷といった一次性の脳実質損傷を受ける,その後,低酸素等により二次性の軸索損傷等が起こることもあり得るが,一次性の脳実質損傷がなく,低酸素の虚血性の脳損傷が起こることは理論的に考えられない(なお,水に溺れた子の統計からも,低酸素性脳損傷のみで短時間の脳浮腫が進行することは考えられない。),一次性の脳実質損傷が生じると,低酸素等により,更に脳の損傷が進むので,一次性の脳実質損傷と二次性の 水に溺れた子の統計からも,低酸素性脳損傷のみで短時間の脳浮腫が進行することは考えられない。),一次性の脳実質損傷が生じると,低酸素等により,更に脳の損傷が進むので,一次性の脳実質損傷と二次性の脳実質損傷の区別をすることは不可能になる,揺さぶりなどのAHT(虐待による頭部外傷)の場合,高エネルギー外傷により一次性の脳実質損傷が生じ,二次性の脳損傷も進むので,脳浮腫の出現は非常に早いなどと供述する。その上で,Dは,Aの症状について,初回CT所見で既に脳浮腫が生じ,2回目のCTで更に進行して急速に悪化していることから,揺さぶりにより一次性の脳実質損傷を生じて脳浮腫が生じる経過と合致する一方,頭蓋内出血の出血量が非常に少ないので,出血による脳の圧排が脳浮腫の原因とは考えられない,頭蓋内の出血はそういったエネルギーが頭の中に働いたサインであって,Aの予後を決めたのは脳実質の損傷であり,そのきっかけとなったのは一次性の脳実質損傷であるなどと供述する。 Cも,本件のように重症な経過をたどる小児の場合には,脳実質損傷があったと考えるのが妥当であるなどと供述する。また,Iも,外力が生ずれば,出血が生じるが,脳の実質にも損傷が生 じているはずである旨供述する。 これに対して,Eは,びまん性軸索損傷などの脳実質損傷が生じていた可能性はあるが,CTの画像から読み取ることはできない上,びまん性脳浮腫については,脳実質損傷がなくても急速に生じることがあるし,それについて例を示した文献もある旨供述する。しかし,Dの供述によると,びまん性軸索損傷などの脳実質損傷をCT画像から読み取ることは難しいが,それは一般的な事柄にすぎない。さらに,DがAの症状に即して,脳実質損傷が生じたと考えられる根拠を挙げているのに対して,Eは ,びまん性軸索損傷などの脳実質損傷をCT画像から読み取ることは難しいが,それは一般的な事柄にすぎない。さらに,DがAの症状に即して,脳実質損傷が生じたと考えられる根拠を挙げているのに対して,Eは,びまん性脳浮腫については,脳実質損傷がなくても急速に生じることがあるという一般論を述べるにとどまり,Aがそうなった可能性についてAの症状に即して十分に説明しておらず,Dに対して十分に反論ができていない。 これらによれば,Aについては,一次性の脳実質損傷があったと認められるというべきである。原判決は,専門家であるD,C及びIが脳実質損傷の存在についてそろって供述をしているにもかかわらず,これらの供述を十分に検討した形跡がなく,Eの供述があることから,上記Dらの供述を十分な理由なく排斥したもので,この点において不合理といわざるを得ない。 さらに,神経原性肺水腫と脳実質損傷との関係について,原判決は,Eの供述によれば,一次性の脳実質損傷が存在したのではなく,神経原性肺水腫に起因する低酸素状態等によって脳が致死的なダメージを負った可能性が否定できず,この機序によってAが死亡した可能性に関する検討が十分であったか疑問をいれる余地があるC及びDの供述によって,受傷時期を断定することはできない旨説示する。 Eは,Aには神経原性肺水腫が生じていたところ,これは,頭蓋内圧亢進により(ⓑ),視床下部の障害が生じて,カテコラミンというアドレナリン等の物質が急激に放出された結果である(なお,神経原性肺水腫は,脳幹が損傷されたことによる直接の影響により(ⓐ)生じることもある。),神経原性肺水腫は,少量の出血でも生じる,神経原性肺水腫は,肺の血管から肺の中へと血液等の水分が漏れるもので,呼吸を妨げ,低酸素状態 損傷されたことによる直接の影響により(ⓐ)生じることもある。),神経原性肺水腫は,少量の出血でも生じる,神経原性肺水腫は,肺の血管から肺の中へと血液等の水分が漏れるもので,呼吸を妨げ,低酸素状態になるのであって,これによって脳が致死的なダメージを負った可能性も否定できないなどと供述する。 これに対して,Dは,㋐Aの出血量は非常に少なく,脳が圧排を受けたと考えるのはおかしい,また,㋑肺の面積は,成人ならテニスコート2枚分もあるほど広く,神経原性肺水腫で肺が水浸しになったとしても,窒息するレベルで低酸素性虚血性脳損傷につながるような神経原性肺水腫が発症したというのはおかしいなどと供述する。 Dの供述のうち,㋐については,Aの出血量が少ないことは,Eも認めている。また,AのCT画像によれば,初回のCTに比べると,その5時間弱経過後の2回目のCTは,脳浮腫がより進行しているといえ,初回CTの時点では,脳圧が十分に高まっていなかったことを示しているともいえる。そして,㋑について,Dは,文献に掲載された溺水した子の事例を引用しながら,低酸素性脳損傷のみで短時間で脳浮腫が進行するというのは医学的に説明しづらいと供述するところ,Dの前記供述は,文献上の裏付けがあるといえる。 そして,Eの供述は,㋐について,神経原性肺水腫の発症に関し,脳幹が損傷されたことによる直接の影響(ⓐ)が否定される 理由を示していない(Eは,脳幹損傷があると蘇生する可能性はかなり低いので,一次的な損傷はおそらくなかったと供述するが,前記のとおり,この供述は採用できない。)。また,㋑について,Dが,Eとの対質において,窒息するレベルで低酸素性虚血性脳損傷につながるような神経原性肺水腫が脳実質損傷がない状態で発症した文 が,前記のとおり,この供述は採用できない。)。また,㋑について,Dが,Eとの対質において,窒息するレベルで低酸素性虚血性脳損傷につながるような神経原性肺水腫が脳実質損傷がない状態で発症した文献を示してほしいと述べたのに対して,Eはそれに応答していない。 これらによれば,Eの供述は,採用できないといわざるを得ない。神経原性肺水腫と脳実質損傷との関係についての原判決の説示も,専門家であるDが十分に根拠を挙げて反論しているにもかかわらず,これについて十分に検討を加えた形跡がないまま,Eの供述があることから,上記Dの供述を排斥したもので,不合理であるといわざるを得ない。 以上によれば,C及びDの各供述について疑問をいれる余地があるとする原判決の説示は不合理であって是認できない。Aには一次性の脳実質損傷等が生じていたと認めるのが相当であり,この点についての検察官の主張には理由がある。 イ一次性の脳実質損傷が生じていたことを前提とした受傷時期 まず,Cの供述を見るに,Cは,Aの場合について,初回CTで全体に黒っぽくなっており,心臓が止まって脳への血流が途絶えて脳自体の致死的損傷が進行している,こういう重症な経過をたどる子供は,外力が加わった直後から容体がおかしい,反応がおかしい,ぐったりして間もなくけいれんを起こすという形で,直後から何らかの兆候が出ることが大部分である,外力が加わった後,普段と同じようにミルクを飲むとは到底考えられない,外力が加わって出血した後,泣くこと自体は考えられる,顔色が悪 いなど見るからに普段と違う,こういう重篤なケースでは,受傷から容体急変まで数分か長くても5分,10分と考えるのが妥当と思う,なお,脳実質損傷がなくても,あってもこのような経過である いなど見るからに普段と違う,こういう重篤なケースでは,受傷から容体急変まで数分か長くても5分,10分と考えるのが妥当と思う,なお,脳実質損傷がなくても,あってもこのような経過であると思う,すやすやと普通に眠っている時点では出血していなかったと考えるべきであるなどと供述する。 Dは,脳は神経が張り巡らされているところ,強い揺さぶりにより,神経があちこちで切れる(びまん性軸索損傷)と,脳自体が合目的な神経活動ができなくなり,呼吸失調等が起きて,低酸素状態になり,低酸素性虚血性脳損傷という二次的脳損傷が生じ,一次性脳損傷及び二次的脳損傷があいまって致死的脳浮腫が生じる,びまん性軸索損傷が高度であれば,全脳機能が瞬時に喪失し,低酸素性虚血性脳症の程度も強いので,意識清明期はない状態で,呼吸失調も生じる,Aは,比較的重度のびまん性軸索損傷等の一次性脳実質損傷が存在していたと医学的に推認され,直後から意識の混濁が生じ,受傷直後にミルクを飲むことは医学的に考えられないなどと供述する。 さらに,Dは,重症頭部外傷を負わせた加害者の自白事例に関する研究を紹介し,スタンリーの研究,アダムスバースの研究,ウィルマンスの研究によれば,受傷後に意識清明期は確認されていない,プランケットの研究によれば,4歳未満で意識清明期は長くても15分はかからないとされているなどと供述する。 前記のとおり,C及びDの各供述を基に受傷時期を検討することになるが,弁護人が主張するとおり,上記各供述によっても,必ずしも受傷後直ちに容体悪化が生じるとまで断定することはできず,受傷後の意識清明期が最大15分間程度ある可能性は残るといえる。そして,原判決も説示するとおり,本件において,被 告人が妻に電話をかけるなどし 容体悪化が生じるとまで断定することはできず,受傷後の意識清明期が最大15分間程度ある可能性は残るといえる。そして,原判決も説示するとおり,本件において,被 告人が妻に電話をかけるなどした午後1時59分頃より前という以上に容体急変時を特定するに足りる証拠はないから,容体急変時は午後1時30分頃であった可能性も残ることになる。そうすると,C及びDの各供述を基にした医学的見地からは,Aの受傷時期は,午後1時30分頃以降に限定されず,午後1時15分頃以降である可能性があるといえる。 ウ関係者の供述からの受傷時期の検討さらに,関係者の供述による妻及び長男の外出後の状況から,受傷時期が午後1時30分頃以前であった可能性が否定されないかについて検討する。 原判決は,午後1時30分頃の妻及び長男の外出時までに受傷をうかがわせる事情がなかったといえるかについては,必ずしも明らかでない旨説示する。 妻及び長男の外出後のAの状況について供述する者は,被告人しかいない。被告人の供述,被告人は,①妻及び長男の外出後間もない時点と②その後長女を連れてエレベータで5階に上がって戻ってきた時点の2回Aの様子を見ている。被告人の供述によれば,①の時点では,Aは,目を開かないで,か細く泣いていて,被告人が,Aを抱き上げないで,両脇から手を入れて,指と頭と首を支えて,指を動かしてあやすと,Aは落ち着いたように見えた,②の時点では,四,五メートル離れた距離の和室から一瞬見ると,Aが寝ているように見えた,というのである。 ①の部分の目撃(エレベータの防犯カメラ映像等によれば,午後1時30分頃から午後1時37分頃までの間の出来事であると考えられる。)について見ると,前記のとおり,受傷後の意識清明期は,最大15分間程度は考 分の目撃(エレベータの防犯カメラ映像等によれば,午後1時30分頃から午後1時37分頃までの間の出来事であると考えられる。)について見ると,前記のとおり,受傷後の意識清明期は,最大15分間程度は考えられるところ,その間の出来事であった可 能性があること,Cの供述によれば,外力が加わって出血した後も,泣くこと自体は考えられることなどからすると,Aが既に受傷していたものの,容体が深刻な状態に至っているとまでは見えなかったことなどから,被告人がAの容体の悪化に気付かなかった可能性は否定できないといえる。この点,Cは,受傷後は,顔色が悪いなど見るからに普段と違うなどともいうが,医師でもなく,普段Aとそれほど接していなかった被告人が,そのときにAの容体を十分に捉えられなかったなどの可能性も否定できず,上記判断を左右しない。 そして,②の部分の目撃(エレベータの防犯カメラ映像によれば,午後1時40分頃から午後1時57分頃までの間の出来事であると考えられる。)について見ると,被告人の供述によっても,被告人がAの状態を十分に観察していなかったものと見られ,その時点において,実際には,Aが既に容体を急変させていたり,意識清明期でなかったりしていたものの,それに被告人が気付かなかった可能性は否定できないといえる。 そうすると,妻及び長男の外出後に係る被告人の供述は,必ずしも不合理として排斥できるものではなく,前記医学的見地からの検討も併せれば,妻及び長男の外出時以前(特に,妻及び長男の外出前の約15分間程度の間)に,Aが受傷していた可能性も否定できないというべきである。 なお,妻及び長男の外出後の状況に関する被告人の原審公判供述に関して,原審裁判所は,被告人の本件当日付け警察官調書を刑訴法328条の証拠として採用し 性も否定できないというべきである。 なお,妻及び長男の外出後の状況に関する被告人の原審公判供述に関して,原審裁判所は,被告人の本件当日付け警察官調書を刑訴法328条の証拠として採用し,取り調べているが(原審職権第2号証),被告人の原審公判供述の信用性が否定されると,妻及び長男の外出後の被告人の行動や,Aの容体等について直接認定する証拠がないことに帰するだけであり,妻及び長男の外出以前に受傷し ていた可能性は否定できないとの前記結論を左右しない。なお,原審職権第2号証の内容は,妻及び長男の外出後,Aはぐっすり眠っていたなどという簡単な内容であって,被告人においてAが眠っていたと認識していたことからこのような警察官調書が作成された可能性があることなどからすると,この警察官調書によって,被告人の原審公判供述の信用性が低下するともいえない。 以上によれば,Aの受傷時期は午後1時30分頃以前である可能性は否定されず,午後1時15分頃から午後1時30分頃までの間に暴行を加える機会があった者についても検討する必要があるということになる。 暴行を加える機会のあった者についてアまず,妻及び長男が出掛ける前後の状況について,動かし難い事実を確認し,被告人,妻及び長男の行動についての被告人と妻の供述を見ることにする。 関係証拠によれば,被告人は,本件当日朝から,妻,長男,長女及びAと被告人方にいたこと(なお,午前中,妻が近所の公園に出掛けるなどした時間があった。),妻は,午後1時30分頃,長男と共に買物に出掛け,午後1時30分頃から午後1時59分頃までの間,被告人方には,被告人,長女,Aのみがいたこと(その間,被告人がAを残して長女と外出した時間帯がある。被告人と長女が被告人方のある建物のエレベー 掛け,午後1時30分頃から午後1時59分頃までの間,被告人方には,被告人,長女,Aのみがいたこと(その間,被告人がAを残して長女と外出した時間帯がある。被告人と長女が被告人方のある建物のエレベータを利用した場面については防犯カメラ映像に捉えられており,被告人と長女は,午後1時37分から38分にエレベータで被告人方がある1階から5階まで上がり,午後1時40分にエレベータで5階から1階へ下り,その後,二人は,午後1時57分に地下1階から1階へ上がったことが認められる。),被告人は,午後1時59分頃,妻に電話をかけ,Aの鼻から風船の ようなものが出ていることなどを伝え,電話を受けた妻は自宅に帰ったことが認められる。 この点,妻は,午後1時30分頃に出掛ける約10分前頃までに,リビングで,Aをだっこして授乳をしたが,Aが寝入ってしまい,U字のクッションの上にAの上半身を乗せる形で,Aをあお向けで置き,Aの胸辺りまでブランケットを掛けた,その後,洗面所に行き,少し身支度をして,上着を羽織るなどし,リビングで長男に声を掛けると行くということなので長男と一緒に出掛けた,自分が洗面所などにいるとき,被告人はリビングにいたと思う,出掛けるまでの間,Aが起きたことに気付く出来事はなく,Aが泣くこともなかった,買物をしていると,被告人から電話があり,すぐに自宅に戻ると,Aは妻が寝かせた状態のままで,目が少し開き,肌が白く,鼻から泡が出ており,被告人に119番通報をしてもらい,自分は指示に従って心臓マッサージをしたなどと供述する。 また,被告人は,原審公判において,本件当日の妻が出掛ける前,妻が授乳後に洗面所へ行くと,長女は妻が出掛けると察して,自分も行きたいと洗面所に行き,被告人も長女を押さえるために洗面所に赴き, また,被告人は,原審公判において,本件当日の妻が出掛ける前,妻が授乳後に洗面所へ行くと,長女は妻が出掛けると察して,自分も行きたいと洗面所に行き,被告人も長女を押さえるために洗面所に赴き,二,三分いたが,そのとき,長男がリビングに入っていったのを見た,その後,被告人はダイニングキッチンの方におり,妻から,Aをよろしくと言われた,妻は,長男と出掛け,残された長女が泣いていたので,玄関にいた長女をあやした,そのとき,Aの泣く声を聞き,Aのところへ向かうと,Aは,目を開かないで,か細く泣いていた,被告人は,Aを抱き上げないで,両脇から手を入れて,指で頭と首を支えて,指を動かしてあやすと,Aは落ち着いたように見えた,ちょうど,長女が外に行きたいと騒いだため,長女を連れて家を出た,その後,自宅に戻り,四,五メートル離れた 距離の和室からAを一瞬見ると,Aが寝ているように見えたので,再度,長女を連れて外に出た,父からかかってきた電話で仕事の話をするなどした後,また,自宅に戻り,Aの顔を見ると,鼻から薄いピンクかオレンジ色の小さな風船のようなものが出ており,妻に知らせようと思って,妻に電話をし,帰ってきてほしいと伝えた,その後,妻が帰ってきて,妻に言われて119番通報をしたなどと供述する。 イ以上を前提に,妻及び長男の外出前に,Aが被告人以外の暴行により受傷した可能性が否定されるような事情があるかについて検討する。 まず,妻及び長男の外出前の時間帯に,妻がAと二人きりになった時間があったかを見ることとする。 この点,被告人は,妻の外出前に妻がリビングでAに授乳している間,被告人,長男及び長女は,長男の部屋として使用していたロフトベッドの置いてあった5畳洋室におり,被告人は,リビングにいた この点,被告人は,妻の外出前に妻がリビングでAに授乳している間,被告人,長男及び長女は,長男の部屋として使用していたロフトベッドの置いてあった5畳洋室におり,被告人は,リビングにいた妻は見ておらず,おもちゃの音や子供の声でうるさく,特にAの泣き声等は聞いていないと供述する。そうすると,被告人のこの供述によれば,妻は,外出の約10分前までに,リビングでAと二人きりになった時間があったと認められる。 妻は,午後1時30分頃に出掛ける約10分前頃までに,リビングで,Aをだっこして授乳をしたが,そのとき,被告人も,リビングにいたと供述している。しかし,この供述は,被告人の上記供述と矛盾しており,また,妻の上記供述には裏付けがないものであるから,妻の供述が事実であると断定することはできない。 そうすると,妻については,Aと二人きりになった時間があった可能性は否定できない。 さらに,妻及び長男の外出直前に,長男がリビングにおいて,二,三分間,Aと二人きりになった時間があった可能性も具体的に想定できる。すなわち,被告人は,妻が出掛ける直前に,妻と被告人,長女が洗面所付近におり,そのとき,長男がリビングに入っていったのを見たが,自分は,二,三分間洗面所付近にいたなどと供述する。なお,妻は,妻自身が洗面所などにいるとき,被告人はリビングにいたと思うなどとも供述するが,妻は,出掛ける前で慌ただしくしていたとも供述しており,妻において,被告人や長男のその当時の行動を正確に認識していたか必ずしも明らかでないことなどからすると,妻のこの点の供述から,被告人の上記供述の信用性が否定されるとはいえない。 そうすると,長男についても,Aと二人きりになった時間があった可能性は否定できない。 以上によ ことなどからすると,妻のこの点の供述から,被告人の上記供述の信用性が否定されるとはいえない。 そうすると,長男についても,Aと二人きりになった時間があった可能性は否定できない。 以上によれば,妻及び長男のいずれについても午後1時15分頃から午後1時30分頃までの間に,Aと二人きりになった時間があった可能性が否定できないのであり,この間にAに対して受傷原因となり得る外力を加えることができた者として,被告人のほか,妻や長男が想定できるとした原判決の説示に誤りはない。 被告人の犯人性についてア前記のとおり,午後1時15分頃以降,Aに対して受傷の原因となり得る外力を加える暴行の機会があった人物は被告人のほか,妻と長男が存在する。この妻と長男について,そのような暴行を行っていないことが常識に照らして間違いないとの証明があったかがここでの問題である。 イ検察官は,妻が,本件当日まで,Aが体を打って,内出血やあざを作ったことは全くないと供述していることなどを指摘して,妻が Aに暴行を行った可能性は排除されると主張する。しかし,妻が,育児のストレスなどから,衝動的にAに暴行を加える可能性がないとはいえない。なお,妻は,原審公判において,子育てをする中でストレスを感じたことがあり,LINEでイライラした気持ちについて,被告人宛てに「あかん,いらいらおさまらん。物投げまくって,ふすま穴あきかけ。虐待してしまいそうやわ。」などと送信したことがあったと供述しており,妻がAに対して暴行を加える動機がなかったとはいえない。 ウ検察官は,長男については,①長男の身長・体重等に照らし,長男による暴行・落下の可能性は排除されること,②妻が出掛けるまでの間,Aの落下音や泣き声などに誰も気付いていないこと,③ い。 ウ検察官は,長男については,①長男の身長・体重等に照らし,長男による暴行・落下の可能性は排除されること,②妻が出掛けるまでの間,Aの落下音や泣き声などに誰も気付いていないこと,③妻が,Aへの授乳後,U字のクッションの上にAの上半身を乗せる形で,Aをあお向けで置き,Aの胸辺りまでブランケットを掛けたが,帰宅後も同じ状態であったと供述していることを指摘し,幼い長男がそのようなことをすることは困難であることを指摘し,長男が犯人である可能性は否定される旨主張する。 検討するに,①について,原判決は,検察官は,長男の体格・体力では受傷原因となり得る暴行を加えることはできないと主張するが,Iの供述等によってもそのようにいえるまでの立証があるとは見られないと説示する。もっとも,原判決は,暴行は揺さぶりに限られないとの判断をしているから,その判断が是認できない以上は,暴行が揺さぶりであることを前提として改めて検討する必要がある。 そこで,関係証拠を見ると,確かに長男は大人と比べれば体格,体力において顕著な違いがあり,この点は暴行を加えた可能性を低める事情とはいえるところ,Iは,10歳未満の子がAの頭部に重篤な血腫ができるような外力を加えることは難しいなどと供述してい る。しかし,Iは,Aの頭部に重篤な血腫ができた原因を,揺さぶりではなく,複数回の打撲等と想定していることからすると,上記供述は,必ずしも長男のような体格,体力の子が,強い揺さぶりを行うことができるかを前提としたものとは解されない。そうすると,検察官の主張を踏まえて検討しても,長男がAを強く揺さぶることが不可能であったとまでの立証が尽くされていないと見たと解される原判決の判断に誤りがあるということはできない。 ②については,Aが揺さぶりによ えて検討しても,長男がAを強く揺さぶることが不可能であったとまでの立証が尽くされていないと見たと解される原判決の判断に誤りがあるということはできない。 ②については,Aが揺さぶりにより直ちに泣くなどするかは必ずしも明らかでないし,妻が,出掛ける前で慌ただしくしていたとも供述していたことからすると,長男の行為やその音に気付かなかったとしても不自然ではない(被告人についても,同様にいうことができる。)。 さらに,③については,妻は,帰宅後に見ると,Aは自分が寝かせたところにおり,体勢もそのままだった,変わりなかったなどと供述するものの,ブランケットを掛けていたのかなど,どこまで同じ状態であったのか,その供述からは必ずしも明らかでない。また,7歳の子供が揺さぶりなどをした後,元の状態に戻すなどすることが困難であったということもできない。 なお,妻は,妻自身が長男に対して,Aをだっこをすることを許可した覚えはないにもかかわらず,長男が警察に対して,妻や被告人からだっこしていいと言われ,妻が出掛ける前にだっこをしたと話したと聞き,このことを長男に確認すると,「だっこをした。そっとちゃんと置いた。」などと答えたと供述しており,この供述は,長男に暴行の機会があったことを裏付けるといえる。 これらによれば,長男がAを揺さぶり,受傷させた具体的可能性を否定しなかった原判断に誤りがあるとはいえない。 エ以上によれば,本件においては,Aが午後1時15分頃から午後1時30分頃までの間に妻や長男の暴行により受傷した可能性がないことが合理的疑いをいれない程度に証明されているとはいえないのであり,この点における原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 5 結論原判決の判断は,被 男の暴行により受傷した可能性がないことが合理的疑いをいれない程度に証明されているとはいえないのであり,この点における原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 5 結論原判決の判断は,被告人が公訴事実記載の犯行に及んだことについて,常識に照らして間違いないといえるほどの立証がされているとはいえないとした結論においては,誤りがあるとはいえない。 事実誤認の控訴趣意は理由がない。 第4 適用した法令控訴棄却について刑訴法396条(裁判長裁判官三浦透,裁判官杉田友宏,裁判官近道暁郎)

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