平成25(行ケ)10206 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年2月26日 知的財産高等裁判所 2部 判決 審決取消
ファイル
hanrei-pdf-83995.txt

キーワード

判決文本文21,499 文字)

- 1 -平成26年2月26日判決言渡平成25年(行ケ)第10206号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成26年2月17日判決 原告株式会社ミクニ 訴訟代理人弁護士小林幸夫 坂田洋一 弁理士國分孝悦 栗川典幸 関 直方 佐久間 邦 郎 被告株式会社デンソー 訴訟代理人弁理士碓氷裕彦井口亮祉主文特許庁が無効2012-800140号事件について平成25年6月17日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた判決 - 2 -主文同旨 第2 事案の概要本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,①訂正に関しての新規事項の追加の有無,②新規性・進歩性の有無,③明細書の記載不備(実施可能要件,明確性要件,サポート要件)の有無である。 1 特許庁における手続の経緯被告は,平成12年1月28日,名称を「回転角検出装置」とする発明につき,特許出願をし(特願2000-24724号),平成15年6月13日,特許登録を受けた(特許第3438692号。甲8,12)。原告は,平成24年8月31日,請求項1~4に係る本件特許権につき特許無効審判請求をした(無効2012-800140号。甲25)ところ,被告は,同年11月30日,訂正請求をした(本件訂正・乙3の1~3)。特許庁は,平成25年6月17日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし 0号。甲25)ところ,被告は,同年11月30日,訂正請求をした(本件訂正・乙3の1~3)。特許庁は,平成25年6月17日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月27日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載(1) 本件訂正前本件特許の願書に添付した明細書又は図面(甲8。以下,まとめて「本件明細書等」という。以下の本件発明1~4を総称して「本件発明」ともいう。)によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。 【請求項1】(本件発明1)「本体ハウジング側に設けられて被検出物の回転に応じて回転する磁石と,前記本体ハウジングの開口部を覆う樹脂製のカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記被検出物の回転角を検出する回転角検出装置において, - 3 -前記磁気検出素子は,その磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置されていることを特徴とする回転角検出装置。」【請求項2】(本件発明2)「前記磁石は,被検出物の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され,このロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコアが前記樹脂製のカバーにモールド成形され,前記ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に前記磁気検出素子が固定され,該磁気検出ギャップ部が前記カバーの長手方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。」【請求項3】(本件発明3)「検出精度が最も要求される回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転 項3】(本件発明3)「検出精度が最も要求される回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。」【請求項4】(本件発明4)「前記被検出物の基準回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。」(2) 本件訂正後平成24年11月30日付け訂正請求書(乙3の1~3。なお,明細書を「訂正明細書」という。)によれば,本件訂正に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(下線部は,訂正箇所。なお,以下の訂正発明1~4を総称して「訂正発明」ともいう。)。 【請求項1】(訂正発明1)「本体ハウジングと,この本体ハウジング側に設けられて被検出物の回転に応じて回転する磁石と,前記本体ハウジングの開口部を覆い前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製で縦長形状のカバーと, - 4 -このカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され,前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記被検出物の回転角を検出する回転角検出装置において,前記磁気検出素子は,その磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置されていることを特徴とする回転角検出装置。」【請求項2】(訂正発明2)「前記磁石は,被検出物の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され,このロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコアが前記樹脂製のカバーにモールド成形され,前記エアギャップは前記磁石と前記ステータコアとの間に形 じて回転する円筒状のロータコアに固定され,このロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコアが前記樹脂製のカバーにモールド成形され,前記エアギャップは前記磁石と前記ステータコアとの間に形成され,前記ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に前記磁気検出素子が固定され,該磁気検出ギャップ部が前記カバーの長手方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。」【請求項3】(訂正発明3)「検出精度が最も要求される回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。」【請求項4】(訂正発明4)「前記被検出物の基準回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。」 3 原告が主張する無効理由(1) 無効理由1(新規性欠如) - 5 -本件発明1は,以下の甲1~3に記載された発明(甲1~3発明)と実質的に同一であり,特許法29条1項3号に該当するから,本件特許1は,特許法29条1項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。 また,本件訂正が認められたとしても,訂正発明1は,本件発明1と同様に,新規性が欠如している。 甲1:特開平9-68403号公報甲2:特開平10-197209号公報甲3:特開平5-157506号公報(2) 無効理由2(進歩性欠如)本件発明1~4は,甲1~3発明,以下の甲4~6に記載された発明(甲4~6発明)及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができ 平5-157506号公報(2) 無効理由2(進歩性欠如)本件発明1~4は,甲1~3発明,以下の甲4~6に記載された発明(甲4~6発明)及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものである。また,本件訂正が認められたとしても,訂正発明1~4は,同様に進歩性が欠如している。 甲4:特表平8-509296号公報甲5:特開平8-35809号公報甲6:特開平9-189508号公報ア本件発明1について(ア) 甲1,2又は3発明により,容易に発明できたものである。 (イ) 甲1と2,甲1~3,甲1~4の組合せ,周知・慣用技術に基づいて,容易に発明できたものである。 イ本件発明2について甲1~3発明に甲4発明,又は甲4及び5発明を組み合わせることにより,容易に発明できたものである。 ウ本件発明3及び4について甲1~3発明及び甲6発明に基づいて,容易に発明できたものである。 (3) 無効理由3(明細書の記載不備) - 6 -本件明細書等は,実施可能要件,明確性要件,サポート要件を欠いており,無効とすべきものである。また,本件訂正が認められた場合にも,これらの明細書の記載不備があるから無効とすべきものである。 4 審決の理由の要点審決は,本件訂正を認めた上で,上記の無効事由1~3について,以下のとおり,いずれも理由なしとした(なお,本件の取消事由と関連しない部分については記載を省略した。)(1) 本件訂正の適否について本件訂正は,「熱膨張率」に関し,請求項1において,「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」との事項を追加するものであるところ,本件訂正後の訂正明細書等の記載全体を総合して検討すると,熱膨張率に関して,カ 」に関し,請求項1において,「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」との事項を追加するものであるところ,本件訂正後の訂正明細書等の記載全体を総合して検討すると,熱膨張率に関して,カバーの熱膨張率が,本体ハウジングの熱膨張率より大きい場合のみが記載されており,小さい場合は記載されているとはいえないから,訂正後の「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」との事項は,実質的には,「前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製のカバー」との事項にほかならない。 そして,本件訂正前の本件明細書等には,カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より大きい場合が記載されていたのであるから,本件訂正により,「熱膨張率」に関して,請求項1に実質的に追加されることになる上記「前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製のカバー」との事項は,本件訂正前の本件明細書等に記載されていたものである。 したがって,本件訂正は,「熱膨張率」に関し,本件訂正前の本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。 (2) 無効理由1,2(新規性・進歩性)についてア甲1発明に係る新規性について - 7 -(ア) 甲1発明「スロットルボディーと,このスロットルボディーに支持されたスロットルシャフト1に装着されたロータ3に取り付けられて,スロットルバルブを開閉すべくスロットルシャフト1が回動されるとき,その回動に伴って回転される永久磁石5と,前記スロットルボディーの開口部を覆い樹脂からなるセンサハウジング6と,このセンサハウジング6に一体に固定されたホール素子10とを備え,前記永久磁石5と前記ホール素子10との 石5と,前記スロットルボディーの開口部を覆い樹脂からなるセンサハウジング6と,このセンサハウジング6に一体に固定されたホール素子10とを備え,前記永久磁石5と前記ホール素子10との間には空隙が形成され,前記スロットルシャフト1の回動に伴い前記永久磁石5が前記ホール素子10の周りを回転すると,該ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号が前記ホール素子10から出力され,当該電気信号に基づいて,前記スロットルシャフト1の回転角度,すなわち前記スロットルバルブの開度を非接触にて検出するスロットルバルブ開度センサ。」(イ) 訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点について【一致点】「本体ハウジングと,この本体ハウジング側に設けられて被検出物の回転に応じて回転する磁石と,前記本体ハウジングの開口部を覆い前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバーと,このカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され,前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記被検出物の回転角を検出する回転角検出装置。」である点。 【相違点1】カバーの形状に関し,訂正発明1では,「縦長形状」であるのに対し,甲1発明には,そのような特定がない点。 - 8 -【相違点2】磁気検出素子の配置に関し,訂正発明1では,「その磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置されている」のに対し,甲1発明には,そのような特定がない点。 (ウ) 相違点1,2の判断a 相違点1について甲1の図1,図8において,センサハウジング6の形状が縦長形状であるか否か不明であ 甲1発明には,そのような特定がない点。 (ウ) 相違点1,2の判断a 相違点1について甲1の図1,図8において,センサハウジング6の形状が縦長形状であるか否か不明である。そして,甲1の記載全体を検討してみても,センサハウジング6の形状を縦長形状にすることを示唆する記載はない。 b 相違点2について甲1の図1,図8からは,ホール素子10の感磁面の向きを特定することも,センサハウジング6の長手方向を特定することもできないのであるから,ホール素子10の磁気検出方向,すなわち,感磁面に直交する方向とセンサハウジング6の長手方向が直交するように配置されているといえないことは明らかである。また,甲1の他の図面を含めた全体の記載を検討してみても,このような配置を示唆する記載はない。 c 以上からすれば,相違点1及び2は,実質的相違点であるから,訂正発明1は,甲1発明であるということはできない。 イ甲2発明に係る新規性について(ア) 訂正発明1と甲2発明との一致点及び相違点について甲2発明は,甲1発明と同一であるから,訂正発明1と甲2発明との一致点,相違点は,訂正発明1と甲1発明との一致点,相違点と同一である。以下,上記相違点1を相違点3,上記相違点2を相違点4とする。 (イ) 相違点3,4の判断a 相違点3について甲2の図1,図11のセンサハウジング6が縦長形状であるとはいえない。そし - 9 -て,甲2の記載全体を検討してみても,センサハウジング6の形状を縦長形状にすることを示唆する記載もない。 b 相違点4について甲2の図2において,ホール素子10の感磁面の向きを特定することも,センサハウジング6の長手方向を特定す ング6の形状を縦長形状にすることを示唆する記載もない。 b 相違点4について甲2の図2において,ホール素子10の感磁面の向きを特定することも,センサハウジング6の長手方向を特定することもできないのであるから,ホール素子10の磁気検出方向,すなわち,感磁面に直交する方向とセンサハウジング6の長手方向が直交するように配置されているとはいえない。また,甲2の他の図面を含めた全体の記載を検討してみても,このような配置を示唆する記載もない。 (ウ) 以上からすれば,相違点3及び4は実質的相違点であるから,訂正発明1は,甲2発明であるということはできない。 ウ進歩性について甲1及び2の記載全体を見ても,周知,慣用技術を考慮しても,原告主張の引用例と訂正発明との相違点に係る構成をとることを示唆する記載はなく,訂正発明は,原告主張の無効事由1のいずれの引用発明及び周知慣用技術によっても,また,その組合せによっても,容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) 無効理由3(明細書の記載要件)についてア実施可能要件について部材同士がボルトにより固定されていても,ボルト軸線と直角方向の荷重を受けた場合に被締付け物間にすべりが発生する場合があるということは,本件特許出願時点における機械工学の技術常識であり,カバーが本体ハウジングにボルト固定されていても,ボルト締付け力と荷重との関係によっては,位置ずれ(すべり)は当然生じ得る。そして,横方向のすべりについて,カバーの長手方向の方が短尺方向より大きいこと,また,図8に示されるように,ホールICを固定したステータコアが,カバーの中心から所定距離だけ長手方向にずれた位置にモールド成形されていることを考慮すると,カバーの長手方向の位置ずれが短尺方 いこと,また,図8に示されるように,ホールICを固定したステータコアが,カバーの中心から所定距離だけ長手方向にずれた位置にモールド成形されていることを考慮すると,カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きいということは十分にあり得る。 - 10 -当業者は,訂正発明の課題が存在し,上記課題を解決するための手段,すなわち,訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1~4に記載されたとおりの物を生産,使用することができ,作用効果を奏するということを,訂正明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許出願当時の技術常識に基づき理解することができるから,訂正明細書は,訂正発明について,実施可能要件を満たすものである。 イサポート要件について訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により,又は出願時の技術常識に照らし,当業者が,その課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから,訂正明細書の特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たすものである。また,訂正の適否と同様の理由から,サポート要件を満たしている。 ウ明確性要件についてカバーの全体形状や各部の形状,各部の肉厚,凹凸の有無やその形状,ステータコアが設けられる位置等の諸条件をすべて特定しなくても,訂正発明は,カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向より大きいものを前提としており,訂正発明の課題は解決される。 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は明確であり,訂正発明の技術的範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというに足りる根拠を見出すことはできない。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(訂正の適否についての認定判断の 明の技術的範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというに足りる根拠を見出すことはできない。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(訂正の適否についての認定判断の誤り)本件訂正は,本件明細書等の記載の範囲を超えた,新規事項を追加する訂正であり,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項に違反する違法な訂正に当たる。 すなわち,本件訂正による「本体ハウジングとは熱膨張率が異なる」との発明特 - 11 -定事項には,「本体ハウジングの熱膨張率の方が大きい場合」と「本体ハウジングの熱膨張率の方が小さい場合」の2通りの場合を含むことになるところ,審決は,訂正発明1について「上記『前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー』との事項は,実質的には『前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製のカバー』との事項にほかならない」として,発明の詳細な記載を参酌して要旨認定し,「『熱膨張率』に関し,本件訂正前の本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである」と判断した。しかし,「熱膨張率が異なる」の記載からは,「カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率と同じではなく,大きい場合と小さい場合の両方が含まれる」という技術的意義を一義的に明確に理解できるものであり,他の解釈を差し挟む余地はないにもかかわらず,このような認定をすることは,最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第2小法廷判決・民集45巻3号123頁(リパーゼ事件最高裁判決)にも反するものであって,誤りである。 そして,審決も認めているとおり,本件明細書等の発明の詳細な説明には,カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも大きい場合のみが記載さ ゼ事件最高裁判決)にも反するものであって,誤りである。 そして,審決も認めているとおり,本件明細書等の発明の詳細な説明には,カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも大きい場合のみが記載されており,小さい場合は記載されておらず,さらに,カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも小さい場合を示唆する記載もない。 以上によれば,本件訂正により,本件明細書等の記載になかった,「カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも小さい場合」という技術的事項を含むことになり,これは明らかに新規事項の追加に当たる。そして,訂正発明2~4は,訂正発明1を含むものであることからすれば,訂正発明1~4についてすべて,訂正要件を欠いている。 2 取消事由2(新規性・進歩性判断の誤り)(1) 甲1発明の認定の誤りについて審決は,甲1から①磁気検出素子の磁気検出方向及び,②樹脂製のカバーの長手 - 12 -方向が記載されていない(図面からは読み取れない)と認定したが,以下のとおり,誤りである。 ア甲1の図8中において,4本の端子が磁気検出素子からほぼ一列に真っ直ぐに並んで引き出されているところ,これは,当業者の通常の理解に従えば,図9の磁気検出素子における広い方の面,すなわち,感磁面を表現したものであると明らかに断定できるものである。にもかかわらず,審決が,短辺と長辺の関係やアスペクト比などから,図8に現れる四辺形が感磁面であるか不明確であると認定したのは,誤りである。 イまた,甲1の図8において記号6で表現されたセンサハウジングは,明らかに縦長の形状をしており,図の上下方向が,センサハウジングの長手方向(すなわち,紙面に垂直な方向が,センサハウジングの短尺方向)と特定できるものである。そして,回転 されたセンサハウジングは,明らかに縦長の形状をしており,図の上下方向が,センサハウジングの長手方向(すなわち,紙面に垂直な方向が,センサハウジングの短尺方向)と特定できるものである。そして,回転角検出装置においては,スロットルボディーの下側部にモータや減速機構が配置されて一列に並び,これを一括して覆う樹脂製のカバーはこの方向に縦長に形成される,というのが,当業者における通常の理解・技術常識である。 そうすると,一般的な回転角検出装置の構造から外れた構造をとると理解すべき記載はないのであって,甲1の図8に接した当業者であれば,スロットルボディーとモータが並んでいる図の上下方向が長手方向になるように,センサハウジングが縦長の形状に形成されていると明らかに理解できるものである。 しかるに,審決は,「甲1,図1,図8の記載において,センサハウジング6の形状が縦長形状であるか否かは不明であり,センサハウジング6の長手方向を特定することもできない」と認定したのは,誤りである。 (2) 甲1発明に基づく訂正発明の新規性・進歩性判断の誤りについて審決が訂正発明1と甲1発明との実質的な相違点とする2点は,すべて甲1の図8に記載されており,実質的な相違点とはならないのであるから,これらを実質的な相違点として認定した審決の判断は誤りである。 訂正発明1は,甲1発明と実質的に同一であるか,甲1発明から当業者が容易に - 13 -推考できるものであるから,新規性欠如ないし進歩性欠缺により,無効とされるべきものである。 (3) 甲1発明及び甲2発明に基づく訂正発明の進歩性判断の誤りについて甲2には,回転角検出装置のカバーの長手方向が明確に開示されているから(図11),甲1の回転角検出装置のカバーとして,甲2の図1に開示された縦長形状の 明に基づく訂正発明の進歩性判断の誤りについて甲2には,回転角検出装置のカバーの長手方向が明確に開示されているから(図11),甲1の回転角検出装置のカバーとして,甲2の図1に開示された縦長形状のカバーを適用すれば,請求項1のすべての構成が得られる。よって,訂正発明1は,甲1発明に甲2発明を組み合わせて容易に想到できるものである。 (4) 甲2発明の認定の誤り,甲2発明に基づく訂正発明の新規性ないし進歩性判断の誤りについて甲1発明と甲2発明の出願人は共通しており,その発明者も一部は共通しているところ,甲1の図8と甲2の図11,磁気検出素子の構造についての甲1の図9と甲2の図12とで同じ図面が流用されていることから,前記(1)で述べた甲1発明の認定誤りと同様の理由が当てはまる。また,甲2には,図11のセンサハウジング6を右側面から見たB矢視図である図1が記載されており,これを参照すればセンサハウジングが縦長の形状に形成されていること,及び図1及び図11の図面の上下方向がセンサハウジングの長手方向であることは一見して明白である。 したがって,磁気検出素子の感磁面及び磁気検出方向を明確に特定できないとした審決の認定及びセンサハウジングが縦長に形成されていることとその長手方向を明確に特定できないとした認定は,誤りである。 そして,訂正発明1と甲2発明との間には実質的な相違点はなく,訂正発明1は,甲2発明と実質的に同一であるか,甲2発明から当業者が容易に推考できるものであるから,新規性ないし進歩性の欠如により,無効とされるべきものである。 3 取消事由3(記載要件適否の判断の誤り)(1) 実施可能要件違反訂正発明の課題は,「カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑え - 14 -る」(甲8 3 取消事由3(記載要件適否の判断の誤り)(1) 実施可能要件違反訂正発明の課題は,「カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑え - 14 -る」(甲8の段落【0006】参照)ことにあるところ,訂正発明は,磁気検出素子の磁気検出方向と当該カバーの長手方向を直交させれば,磁気検出素子の磁気検出方向が,カバーの短尺方向となり,カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ,これにより,磁気検出方向の磁束密度の変化を小さくすることができるという課題解決原理を開示している。 しかし,位置ずれの有無と量は,カバーの長手方向とは無関係であり,専らカバーと本体ハウジングとの結合構造(ボルト止めであれば,ボルト止めの位置や数,磁気検出素子及び磁石とボルト止め箇所との位置関係など)その他,カバーの各部の形状,各部の肉厚,凹凸の有無やその形状などといった条件が決定するものである。よって,カバーの長手の方が一般的に位置ずれが大きくなるというような課題は存在しない。したがって,訂正明細書に記載された課題解決原理(磁気検出方向と長手方向を直交させる)も,客観的科学的には実在しない架空のものである。 訂正明細書には,「位置ずれが生じる前提となる構成」の記載はなく,訂正発明所定の効果を奏するための実施の指針すら示されておらず,カバーとハウジングとの結合構造,カバーの各部の形状などといった諸条件を設定した上で,実験や計算を行わない限りは,その作用効果の有無を確かめることができず,当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。また,訂正明細書に記載の課題は客観的・科学的には存在しないのであるから,当業者が,訂正明細書の記載に基づいて,訂正発明が所定の作用効果を奏することを理解することもできない。 よって ものである。また,訂正明細書に記載の課題は客観的・科学的には存在しないのであるから,当業者が,訂正明細書の記載に基づいて,訂正発明が所定の作用効果を奏することを理解することもできない。 よって,訂正発明における明細書の記載は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく,特許法36条4項1号に違反する無効理由がある。 (2) 明確性要件違反いかなる具体的な構成を採ることによって,訂正発明が所定の効果を奏するのか,当業者であっても特許請求の範囲や明細書の記載からは理解不能であるから,特許を受けようとする発明が明確に特定されているとはいえず,特許法36条6項2号 - 15 -に違反する無効理由がある。 (3) サポート要件違反ア訂正発明は,発明の詳細な説明に記載のない諸々の条件を用いなければその作用効果を説明できない。このことは,発明の詳細な説明の記載が不足していることを示すものであって,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないことに帰するから,特許法36条6項1号の要件に違反する無効理由がある。 イ訂正後の請求項1の「(カバーは)本体ハウジングとは熱膨張率が異なる」は,「カバーの熱膨張率が本体ハウジングよりも大きい場合と小さい場合の両方を含む」ものであるが,発明の詳細な説明には,「カバーの熱膨張率が本体ハウジングよりも小さい」場合については記載されておらず,示唆もない。したがって,仮に訂正が認められたとしても,この観点からも,特許法36条6項1号の要件に違反する無効理由がある。 (4) 本件発明の記載要件不備上記の記載不備に関する無効理由は,訂正前の本件発明についても同様に妥当する。 第4 被告の反論 1 取 6項1号の要件に違反する無効理由がある。 (4) 本件発明の記載要件不備上記の記載不備に関する無効理由は,訂正前の本件発明についても同様に妥当する。 第4 被告の反論 1 取消事由1に対し本件訂正は,「前記本体ハウジングの開口部を覆う樹脂製のカバー」について,熱膨張率に関する限定がなされていなかったものを,「前記本体ハウジングの開口部を覆い前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」に減縮訂正したものである。そうすると,訂正前の特許請求の範囲には,「熱膨張率」の限定がなかったのであるから,「カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも小さい」が含まれるとすれば,それは訂正によって新たに含まれることになったのではなく,訂正前から含まれていた事項であるといえる。 - 16 -また,審決は,「『前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー』との記載は,熱膨張率に関して『本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製のカバー』ということを意味する記載であるといえる。」と判断しているが,樹脂製カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より大きい例は,熱変形が生じる典型的な事例であって,本件の実施例もこの典型的な事例を記載しているにすぎない。熱変形に伴う不具合を抑えるという訂正発明の課題に鑑みれば,訂正発明の技術思想は,必ずしもこの一実施例に限定されなければならないものではなく,熱変形による位置ずれの抑制に関しては,樹脂製カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より小さい例も,殊更に除外すべき技術的必然性はない。 したがって,訂正前の特許請求の範囲に「カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より小さい」場合を内在していたといえるから,カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より小さい 必然性はない。 したがって,訂正前の特許請求の範囲に「カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より小さい」場合を内在していたといえるから,カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より小さい場合,大きい場合のいずれも本件明細書等に含まれていたといえ,本件訂正は,新規事項の追加に当たるものではない。 2 取消事由2に対し(1) 原告主張2(1),(2)に対し原告は,甲1の図8のみに基づいて,図8のホール素子10から感磁面及び磁気検出方向が特定できると主張する。しかし,特許図面は,設計図面とは異なり,ホール素子の配置が概念的に記載されており,具体的な寸法までの記載は求められていないのであって,図8のみに基づいてホール素子の形状,端子,感磁面を特定することができないのは,審決認定のとおりである。また,端子自体が不明な図8から,「端子が略一列に真っ直ぐ並んで引き出されている」との見方は当業者の通常の視点から導くことはできず,図8に示されているホール素子10の断面図から,感磁面の向きを特定することができないとした審決の認定に誤りはない。 また,甲1の図8からも,センサハウジングの形状を読み取ることはできず,縦長形状であると断定できないとした審決の判断に誤りはない。 - 17 -したがって,原告の主張は,甲1発明の認定において誤っているから,これを前提とする新規性・進歩性についての主張も成り立たない。 (2) 原告主張2(3),(4)に対し甲2発明の認定についても,上記と同様に,図11を根拠とする原告の主張は誤りであり,これを前提とする新規性・進歩性についての主張も成り立たない。 3 取消事由3に対し熱膨張の大きさは,素材の熱膨張率と素材の長さによって定まるものであり,「磁気検出素子と磁石 りであり,これを前提とする新規性・進歩性についての主張も成り立たない。 3 取消事由3に対し熱膨張の大きさは,素材の熱膨張率と素材の長さによって定まるものであり,「磁気検出素子と磁石との間の位置ずれに影響を与えるのは,カバーの長手方向ではない」とする原告の主張は,熱膨張の原理を理解しない理論で,失当である。 また,原告は,ボルトを磁気検出素子に対して放射状に等位置で配した例及びボルトを磁気検出素子近傍に1か所のみ配した例を示すが,原告の例示は,当業者の技術常識とは相容れないものであり,熱応力に関する原告の主張も機械工学に反するものである。 審決の認定するように,カバーが周辺部でスロットルボディーに取り付けられボルト固定されれば,磁気検出素子と磁石との間の位置ずれに影響を与えるのは,カバーの長さとなり,カバーの長手方向のずれの方が,短尺方向のずれより大きくなることは明らかである。 本件明細書等及び訂正明細書には,当業者であれば,カバーの長手方向をどのように配置すべきかを的確に理解することができる程度に,実験結果を含めて実施例が記載されている。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(訂正の適否についての認定判断の誤り)について(1) 本件発明についてア本件明細書等 - 18 -本件明細書等(甲8)には次の記載がある。 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,磁気検出素子と磁石を用いて被検出物の回転角を検出する回転角検出装置に関するものである。 【0002】【従来の技術】自動車の電子スロットルシステムでは,例えば,図8に示すように,金属製(例えばアルミニウム製)のスロットルボディー1に,スロットルバルブ2の回転軸3を回動自在に支持し,スロットルボディー1の 】自動車の電子スロットルシステムでは,例えば,図8に示すように,金属製(例えばアルミニウム製)のスロットルボディー1に,スロットルバルブ2の回転軸3を回動自在に支持し,スロットルボディー1の下側部に組み付けたモータ4によって減速機構5を介してスロットルバルブ2を回転駆動する。そして,スロットルバルブ2の回転軸3を回転角検出装置6のロータコア7に連結して,ロータコア7の内周面に磁石8を固定している。一方,スロットルボディー1の開口部を覆う樹脂製のカバー9にモールド成形されたステータコア10をロータコア7の内周側に同軸状に位置させ,磁石8の内周面をステータコア10の外周面に対向させるとともに,ステータコア10に直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部51にホールIC52を固定している。 【0003】この構成では,磁石8の磁束がステータコア10を通って磁気検出ギャップ部51を通過し,その磁束密度に応じてホールIC52の出力が変化する。磁気検出ギャップ部51を通過する磁束密度は,磁石8(ロータコア7)の回転角に応じて変化するため,ホールIC52の出力信号から磁石8の回転角,ひいてはスロットルバルブ2の回転角(スロットル開度)を検出することができる。 【0004】【発明が解決しようとする課題】上記従来の回転角検出装置では,ホールIC52を固定するステータコア10を - 19 -モールド成形した樹脂製のカバー9は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー1に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー9は,スロットルボディー1の下側部に配置されたモータ4や減速機構5を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。 【0005】ところが,従来構成では,図8(b)に ボディー1の下側部に配置されたモータ4や減速機構5を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。 【0005】ところが,従来構成では,図8(b)に示すように,ホールIC52の磁気検出方向(磁気検出ギャップ部51と直交する方向)とカバー9の長手方向が平行になっていたため,カバー9の熱変形によって,磁気検出ギャップ部51のギャップやステータコア10と磁石8とのギャップが変化して,磁気検出ギャップ部51を通過する磁束密度が変化しやすい構成となっている。このため,カバー9の熱変形によってホールIC52の出力が変動しやすく,回転角の検出精度が低下するという欠点があった。 【0006】本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり,したがって,その目的は,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上することができる回転角検出装置を提供することにある。 【0007】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明の請求項1の回転角検出装置では,樹脂製のカバー側に磁気検出素子を固定する場合に,該磁気検出素子をその磁気検出方向とカバーの長手方向が直交するように配置したものである。このようにすれば,磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの短尺方向となり,カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ,磁気検出方向の磁束密度の変化を小さくすることができる。これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上できる。 【0012】 - 20 -【発明の実施の形態】・・・・【0026】以上説明した本実施形態(1)では,ホールIC25を固定するステータコア とができ,回転角の検出精度を向上できる。 【0012】 - 20 -【発明の実施の形態】・・・・【0026】以上説明した本実施形態(1)では,ホールIC25を固定するステータコア26をモールド成形した樹脂製のカバー24は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー15に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。 【0027】このような事情を考慮して,本実施形態(1)では,ステータコア26の磁気検出ギャップ部34をカバー24の長手方向に延びるように形成して,この磁気検出ギャップ部34に配置したホールIC25の磁気検出方向とカバー24の長手方向が直交するようにしているので,ホールIC25の磁気検出方向がカバー24の短尺方向(図2では左右方向)となり,カバー24の熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ,ステータコア26の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくすることができる。これにより,カバー24の熱変形による磁気検出ギャップ部34のギャップの変化やステータコア26と磁石22とのギャップの変化を小さくすることができて,磁気検出ギャップ部34を通過する磁束密度の変化を小さくすることができる。このため,カバー24の熱変形によるホールIC25の出力変動を小さく抑えることができ,スロットル開度(回転角)の検出精度を向上することができる。 イ本件発明の概要以上の記載によれば,本件発明について,以下のとおり認められる。 本件発明は,磁気検出素子と磁石を用いて被検出物の回転角を検出する回転角検出装置に関するものである(段落【0001】)。従来 要以上の記載によれば,本件発明について,以下のとおり認められる。 本件発明は,磁気検出素子と磁石を用いて被検出物の回転角を検出する回転角検出装置に関するものである(段落【0001】)。従来,自動車の電子スロットルシステムでは,磁石とホールICからなる回転角検出装置により,スロットルバルブの回転角(スロットル開度)を検出していたが(段落【0002】,【0003】), - 21 -これによると,ホールICを固定するステータコアをモールド成形した樹脂製のカバーは,これを取り付ける金属製のスロットルボディーに比べて熱膨張率が大きく,また,このカバーは,スロットルボディーの下側部に配置されたモータや減速機構を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きく(段落【0004】),しかも,ホールICの磁気検出方向(磁気検出ギャップ部と直交する方向)とカバーの長手方向が平行になっていたため,カバーの熱変形によって,磁気検出ギャップ部のギャップやステータコアと磁石とのギャップが変化して,磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度が変化しやすい構成となっていることから,カバーの熱変形によってホールICの出力が変動しやすく,回転角の検出精度が低下するという欠点があった(段落【0005】)。 そのような欠点に鑑みて,本件発明1は,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上することができる回転角検出装置を提供すること目的として(段落【0006】),熱変形しやすい樹脂製のカバー側に磁気検出素子を固定する場合に,該磁気検出素子をその磁気検出方向と縦長形状のカバーの長手方向が直交するように配置したものである(段落【0007】)。 (2) 本件訂正に関しての新規事項の追加の 磁気検出素子を固定する場合に,該磁気検出素子をその磁気検出方向と縦長形状のカバーの長手方向が直交するように配置したものである(段落【0007】)。 (2) 本件訂正に関しての新規事項の追加の有無についてア本件訂正は,訂正前の「前記本体ハウジングの開口部を覆う樹脂製のカバー」なる事項を訂正し,訂正後の「前記本体ハウジングの開口部を覆い前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製で縦長形状のカバー」とするもので,減縮を目的として,カバーの構成をより具体的に特定したものと認められる。そして,上記訂正後の記載を見れば,「熱膨張率が異なる」とは,本体ハウジングに対してカバーの「熱膨張率が大きい」場合と「熱膨張率が小さい」場合が含まれることになることは,文言上明らかである。 イそこで,本体ハウジングに対して,「熱膨張率が大きい」カバーと「熱膨張率が小さい」カバーの双方が,本件明細書等に記載した範囲のものといえるか否 - 22 -かについて検討する。 本件明細書等には,前記(1)アのとおり,「上記従来の回転角検出装置では,ホールIC52を固定するステータコア10をモールド成形した樹脂製のカバー9は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー1に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー9は,スロットルボディー1の下側部に配置されたモータ4や減速機構5を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。」(段落【0004】),「以上説明した本実施形態(1)では,ホールIC25を固定するステータコア26をモールド成形した樹脂製のカバー24は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー15に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモ ータコア26をモールド成形した樹脂製のカバー24は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー15に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。」(段落【0026】)との記載があり,樹脂製のカバーが金属製のスロットルボディーに比べて「熱膨張率が大きい」ことは明確に記載されていると認められる。一方,樹脂製のカバーが(金属製の)スロットルボディーに比べて「熱膨張率が小さい」ことは明示的に記載されておらず,これを示唆する記載もない。 また,本件発明は,前記(1)で認定説示したように,従来の回転角検出装置においては,ホールICを固定するステータコアをモールド成形した樹脂製のカバーは,これを取り付ける金属製のスロットルボディーに比べて熱膨張率が大きく,また,縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きく,しかも,ホールICの磁気検出方向とカバーの長手方向が平行になっていたため,カバーの熱変形によって,磁気検出ギャップ部のギャップやステータコアと磁石とのギャップが変化して,回転角の検出精度が低下するという欠点があったことから,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えて,回転角の検出精度を向上することを目的としている。すなわち,本件発明は,樹脂製のカバーが金属製のスロットルボディー(本体ハウジング)に比べて熱膨張率が大きいことを前提とする課 - 23 -題を解決しようとするものであって,樹脂製のカバーがスロットルボディー(本体ハウジング)に比べて熱膨張率が小さいことは想定していない。そして,本件明細書等に記載されたスロットルバルブの回転角検出装置は,自 決しようとするものであって,樹脂製のカバーがスロットルボディー(本体ハウジング)に比べて熱膨張率が小さいことは想定していない。そして,本件明細書等に記載されたスロットルバルブの回転角検出装置は,自動車のスロットルバルブの回転角検出装置において,エンジンルームからスロットルバルブに到達する熱により,本体ハウジングに相当の熱量が加わることを前提としていることはその構造上自明であるから,そのような熱量の加わる本体ハウジングにカバーよりも熱膨張率の大きい材質を用いることは技術的に想定し難い。なお,段落【0039】に「スロットルバルブの回転角検出装置以外の回転角検出装置に適用しても良い。」との記載があるところ,その実施例や具体的な構成が示されているものでなく,これは,回転角の被検出物がスロットルバルブに限定されないものである旨を記載したものにすぎない。スロットルバルブ以外の被検出物を想定したとしても,前記に述べた本件発明の課題及びその解決原理に照らせば,樹脂製のカバーの側が縦長形状で長手方向に膨張することを前提としているのであって,本体ハウジングの側の熱膨張率が,樹脂製のカバーよりも大きいという例は,スロットルバルブの回転角検出装置以外の装置においても,想定されていないというべきである。 そうすると,樹脂製のカバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも小さいことは,出願の当初から想定されていたものということはできず,本件訂正により導かれる技術的事項が本件明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項であると認めることはできない。 ウ被告の主張について被告は,本件発明1において,「熱膨張率」の限定がなかったのを,訂正によって熱膨張率の限定を加えた減縮訂正であるから,「カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも小さ 被告の主張について被告は,本件発明1において,「熱膨張率」の限定がなかったのを,訂正によって熱膨張率の限定を加えた減縮訂正であるから,「カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも小さい」は,本件訂正によって新たに含まれることになったのではなく,本件訂正前から含まれていた事項であると主張する。 しかし,前記のとおり,本件訂正が減縮を目的とするものであることはそのとおりであるとしても,新規事項の追加に当たるか否かは,本件明細書等のすべての記 - 24 -載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえるか否かによって決せられる,次元の異なる問題であって,上記主張は採用できない。 また,被告は,樹脂製カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より大きい例は,熱変形が生じる典型的な事例であって,熱膨張率が小さい例も含まれる旨主張する。 本件明細書の段落【0001】,【発明の属する技術分野】においては,自動車の電子スロットルシステムにおけるスロットルバルブの回転軸の回転角検出装置である旨の記載はないが,これ以外の具体的な装置に関する記載や示唆もない。そして,本件発明は,上記イにおいて述べたとおり,スロットルバルブの回転角検出装置以外に用いられるとしても,本体ハウジングが樹脂製カバーよりも熱膨張率が大きい場合は想定されていないと解され,本体ハウジングに比べて樹脂製カバーの熱膨張率が大きい例が,単なる典型例であって,熱膨張率が本体ハウジングより小さい例も含むものであると解することはできない(なお,被告の主張を前提とすると,本件訂正は,スロットルバルブ以外の具体的な被検出物を明らかにすることもないままに,本体ハウジングと樹脂製のカバーの熱膨張率が同一という特定の場合のみを除 できない(なお,被告の主張を前提とすると,本件訂正は,スロットルバルブ以外の具体的な被検出物を明らかにすることもないままに,本体ハウジングと樹脂製のカバーの熱膨張率が同一という特定の場合のみを除外するために,特許請求の範囲の「減縮」が行われたことになり,不自然な訂正というほかない。)。 よって,被告の上記主張は採用できない。 (3) 審決の判断について審決は,本件明細書等には,熱膨張率に関して,カバーの熱膨張率が,本体ハウジングの熱膨張率より大きい場合のみが記載されており,小さい場合は記載されているとはいえないことを前提とした上で,本件訂正による「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」との事項は,実質的には,「前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製のカバー」との事項にほかならないとして,本件訂正は新規事項の追加に当たらないと判断した。 - 25 -しかし,「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」との文言からすれば,通常,カバーが本体ハウジングより,熱膨張率が大きい場合と小さい場合の両方を含むと明確に理解することができ(現に,本訴において,特許権者である被告は,その両方を含む旨を主張している。),明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければ特定できないような事情はないのに,「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」の意義を「前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製のカバー」に限定的に解釈することは相当ではない。 したがって,上記のように訂正発明1の技術的内容を限定的に理解した上で,新規事項の追加に当たらないとした審決の認定は誤りであるといわざるを得ない。 2 まとめ以上のとおり,本件訂正によって,訂正発明1の「前記本体ハウジングとは熱膨張 限定的に理解した上で,新規事項の追加に当たらないとした審決の認定は誤りであるといわざるを得ない。 2 まとめ以上のとおり,本件訂正によって,訂正発明1の「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」とすることは,新たな技術的事項を導入するものであり,本件明細書等に記載された技術範囲を逸脱するものである。また,訂正発明2~4は,いずれも訂正発明1を含むものであるから,これらについての訂正についても,同様に,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものと認めることはできない。したがって,本件訂正は,特許法134条の2第9項で準用する特許法126条5項に規定する要件を満たさず,不適法である。 第6 結論よって,原告の主張する取消事由1には理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 - 26 - 裁判長裁判官清水 節 裁判官新谷貴昭 裁判官中武由紀

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る