主文 一原告らの請求を棄却する。 二訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 第一当事者の求めた裁判一請求の趣旨 1 被告は、富士吉田市に対し、一億一〇六五万七四〇〇円及び内金九六四七万二九五〇円に対する平成一〇年三月八日から、内金一四一八万四四五〇円に対する同年六月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言二請求の趣旨に対する答弁主文同旨第二争いのない事実一 (当事者) 1 原告らは、いずれも富士吉田市の住民である。 2 被告は、平成七年四月二六日に富士吉田市長の職に就任し、平成一一年四月二五日まで同市長の職にあった。 二 (建設計画) 1 富士吉田市は、平成五年三月ころ、既に設置・開院している市立病院(以下「現病院」という。)とは別に新たに市立病院(以下「新病院」という。)を富士吉田市α一七七〇―一二(以下「β地区」という。)に建設する計画を決定していた(以下「本件建設計画1」という。)。 2 富士吉田市は、遅くとも平成九年三月ころまでに、前記1の計画を変更し、①富士吉田市γ六二〇〇番地(以下「γ地区」という。)の富士吉田市営鐘山スポーツセンター総合グラウンド(以下「本件体育施設」という。)を廃止して、同所に新病院を建設するとともに、②β地区に新しいグラウンド(以下「本件新グラウンド」という。)を建設することを決定した(以下「本件建設計画2」という。)。 3 富士吉田市は、平成一〇年四月、前記2の建設計画を中止し、γ地区内のδ区画整理地区に新病院を建設することを最終的に決定した三 (契約の締結・履行及び公金の支出) 1 被告は、富士吉田市長として、次のとおり、本件建設計画2を実施するため、各契約を締結した(以下「本件(一)ないし(六)契約 を建設することを最終的に決定した三 (契約の締結・履行及び公金の支出) 1 被告は、富士吉田市長として、次のとおり、本件建設計画2を実施するため、各契約を締結した(以下「本件(一)ないし(六)契約」又は「本件各契約」という。)。 (一) 株式会社日建設計(以下「日建設計」という。)との間で、平成九年六月一二日、請負金額を四八八二万五〇〇〇円とする新病院の基本設計業務委託契約を締結した。 (二) 第一測量株式会社との間で、平成九年六月二四日、請負金額を一一三九万二五〇〇円とする新病院建設地の測量調査業務委託契約を締結した。 (三) 株式会社システム総合開発研究所との間で、平成九年六月二七日、請負金額を九八八万〇五〇〇円とする新病院の基本設計支援建設与条件策定業務委託契約を締結した。 (四) 山梨通信機株式会社との間で、平成九年七月三日、請負金額を一九四万二五〇〇円とする新病院建設地の騒音振動測定調査委託契約を締結した。 (五) 応用地質株式会社との間で、平成九年七月七日以降、指名競争入札に基づき、請負金額を二四四三万二四五〇円とする新病院建設地の地質調査業務委託契約を締結した。 (六) 日建設計との間で、平成九年七月一〇日、指名競争入札に基づき、請負金額を四三二六万円(後に一四一八万四四五〇円に減額)とする本件新グラウンドの設計業務委託契約を締結した。 2 被告は、富士吉田市長として、本件各契約に基づき、次のとおり、遅くとも平成一〇年三月七日までに①から⑤の九六四七万二九五〇円、同年六月一一日に⑥の一四一八万四四五〇円の合計一億一〇六五万七四〇〇円の公金を支出した(以下「本件①ないし⑥支出」又は「本件各支出」という。)。 ①基本設計費(本件(一)契約) 四八八二万五〇〇〇円②測量費(本件(二)契約) 一一三九万二五 公金を支出した(以下「本件①ないし⑥支出」又は「本件各支出」という。)。 ①基本設計費(本件(一)契約) 四八八二万五〇〇〇円②測量費(本件(二)契約) 一一三九万二五〇〇円③基本運営計画策定業務委託費(本件(三)契約)九八八万〇五〇〇円④振動測定費(本件(四)契約) 一九四万二五〇〇円⑤地質調査費(本件(五)契約) 二四四三万二四五〇円⑥設計業務委託費(本件(六)契約) 一四一八万四四五〇円四 (監査請求)原告らは、富士吉田市監査委員に対し、平成九年七月一日、本件各契約の締結・履行及び本件各支出は違法であるとして、地方自治法二四二条一項に基づき監査請求(以下「本件監査請求」という。)をしたところ、同監査委員は、原告らに対し、同年八月二九日、本件監査請求につき理由がない旨の監査結果を通知した。 第三争点本件の争点は、①本件各契約の締結・履行及び本件各支出の違法性、②被告の故意過失の有無である。 第四当事者の主張一原告らの主張1(本件各契約の締結・履行及び本件各支出の違法性について)本件各契約の締結・履行及び本件各支出は、次のとおり違法である。 (一) (地方自治法二四四条の二第二項違反)地方自治法二四四条の二第二項、富士吉田市議会の議決に付すべき公の施設に関する条例(昭和五一年一〇月九日条例第四二号)二条、富士吉田市体育施設条例(昭和五二年九月二八日条例第二二号)二条によれば、本件体育施設を廃止しようとする場合には、富士吉田市議会において出席議員の三分の二以上の同意を得ることが必要であり、右同意を得ないまま本件体育施設を廃止することはできない。また、地方自治法の右規定は、特に重要な公の施設の廃止について住民の意思を反映させようとする趣旨であり、右同意が 同意を得ることが必要であり、右同意を得ないまま本件体育施設を廃止することはできない。また、地方自治法の右規定は、特に重要な公の施設の廃止について住民の意思を反映させようとする趣旨であり、右同意が得られない場合、廃止のための債務負担や公金支出が無駄となるのであるから、右同意は、公金支出の事前にこれを得ることが必要である。 そして、新病院及び本件新グラウンド建設のための本件各契約の締結・履行及びこれに基づく本件各支出は、本件体育施設の廃止を前提とし、これと一体の計画によって行われ、相互に不可分の関係にあるから、右同意を得ないまま本件体育施設の廃止を前提として本件各契約を締結・履行し、本件各支出を行うことは全体として違法である。 ところが、被告は、右同意を事前に得ることなく、また、得られる見込みもないのに、本件体育施設を廃止するとともに新病院及び本件新グラウンドを建設しようとして、これを目的とする本件各契約を締結・履行し、本件各支出を行った。 したがって、被告の右行為は違法である。 (二) (裁量権逸脱)被告には、富士吉田市長として、最少の経費で最大の効果をあげるように努め(地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項)、財政の健全な運営に努め、合理的な基準により経費を算定し、健全な運営を損なうことがないよう予算を編成・執行すべき法的義務がある(地方財政法二条、三条、四条の二)。 しかし、被告は、本件建設計画1のために既に多額の支出をしていたにもかかわらず、合理的理由なく同計画を中止した。これは、被告が市長としての裁量権を逸脱したもので違法である。 すなわち、被告は、前記第二・二・2のとおり本件建設計画1を変更して本件建設計画2を立て、これに基づき本件各契約の締結・履行及び本件各支出を行ったが、これによって、多額の新病院建設費等が必要 る。 すなわち、被告は、前記第二・二・2のとおり本件建設計画1を変更して本件建設計画2を立て、これに基づき本件各契約の締結・履行及び本件各支出を行ったが、これによって、多額の新病院建設費等が必要となるばかりでなく、本件建設計画1のために右計画変更時までに既に設計費、造成費及び用途変更による差額納付金等合計一三億円九〇〇〇万円以上の支出がされ、同計画のために二〇億七〇〇〇万円の補助金交付が予定されていたのに、これが得られなくなるとともに、本件体育施設の廃止のため既に受領していた補助金約二億三〇〇〇万円の一部を返還しなければならなくなるなど、富士吉田市に巨額の損失を生じさせ、財政運営を著しく困難にさせた。 したがって、前記第二・二・2のとおり、本件建設計画1を同計画2に変更したことに基づいてされた本件各契約の締結・履行及び本件各支出は、被告の市長としての予算編成及び執行に関する裁量権の範囲を著しく逸脱したものであり、前記地方自治法及び地方財政法に反し、違法である。 なお、原告らは、本件各契約の締結・履行及び本件各支出という財務会計行為自体について、右違法があると主張しており、非財務会計行為である先行行為の違法を問題にしているのではない。また、仮に非財務会計行為である先行行為の違法を問題としているとしても、被告が建設計画の見直しを公約に掲げて当選し、市議会の同意を得たからといって、これにより右の計画変更及びこれに基づく本件各契約の締結・履行及び本件各支出の右違法が治癒されることはない。 (三) (随意契約)本件(一)契約は、随意契約によって締結されたが、これは随意契約の要件(地方自治法二三四条二項、同法施行令一六七条の二第一項)を充たしていないにもかかわらず、随意契約として締結・履行されたものであり、本件①支出は、違法な随意契約に基 結されたが、これは随意契約の要件(地方自治法二三四条二項、同法施行令一六七条の二第一項)を充たしていないにもかかわらず、随意契約として締結・履行されたものであり、本件①支出は、違法な随意契約に基づくものとして違法である。 すなわち、新病院の設計は、特殊な技術を用いるものではなく、しかも、日建設計と同等の信用、技術及び経験などを有する業者は他にも多く存在するから、日建設計を相手方として随意契約を締結する合理性は全くない。したがって、本件(一)契約の締結は、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号には該当しないのにされたことになる。 (四) (関係自治体等との合意違反)富士吉田市は、平成五年三月二三日、山梨県、ε村及びζ村等の関係地方自治体等(以下「関係自治体等」という。)との間で、β地区に新病院を建設することについて「北富士県有地に係る諸懸案解決のための合意議事録」で合意しており、右合意には富士吉田市に対する法的拘束力があるから、富士吉田市はこれを履行すべき義務を負う。したがって、右合意に反してβ地区における新病院の建設をやめ、本件新グラウンドを建設することは違法であり、これと一体の計画に基づくγ地区における本件体育施設の廃止及び新病院の建設も違法である。 また、β地区に、新病院ではなく本件新グラウンドを建設するのであれば、新たに関係自治体等の間でその旨の合意を得る法的義務があるのに、こうした合意を得ることなくβ地区に本件新グラウンドを建設することも違法である。 2 (被告の故意過失)被告は、前記1のとおり、本件各契約の締結・履行及び本件各支出が違法であることを知りながら又は知り得たにもかかわらず、富士吉田市長として、本件各契約を締結・履行し、本件各支出を行った。 二被告の主張 1 (本件各契約の締結・履行及び本件各支出の違法性 各支出が違法であることを知りながら又は知り得たにもかかわらず、富士吉田市長として、本件各契約を締結・履行し、本件各支出を行った。 二被告の主張 1 (本件各契約の締結・履行及び本件各支出の違法性について)(一) (地方自治法二四四条の二第二項違反)地方自治法二四四条の二第二項の同意は、当該公の施設を廃止する場合に必要であるが、本件では、本件グラウンドをγ地区からβ地区に移転するにすぎず、同項にいう廃止に該当しないので、そもそも同項の同意が必要な場合に該当しない。 また、本件体育施設の廃止手続は、現実に廃止されるまでに行えば足りるのであり、本件各契約の締結・履行及び本件各支出の以前に手続が完了している必要はないから、原告らの主張は失当である。 更に、現在は本件体育施設を廃止する計画はそもそも存在しないから、その点においても、原告らの主張は失当である。 (二) (裁量権逸脱)原告らは、前記のとおり、本件各契約の締結・履行及び本件各支出に先行する、本件建設計画1を同計画2に変更したことが違法であると主張しているが、これは財務会計上の行為に該当しないから、主張自体失当である。 また、いわゆる先行行為の違法性の承継として、本件建設計画1を同計画2に変更したことの違法により本件各契約の締結・履行及び本件各支出が違法となる場合があるが、本件では、右決定が無効である場合にのみ本件各契約の締結・履行及び本件各支出が違法となる。しかし、被告は、A前市長(以下「前市長」という。)が計画していたβ地区での新病院建設計画の見直しを公約に掲げて市長に当選し、慎重に協議を重ねた上で右計画を再検討して、右の決定をしたのであるから、右決定過程及び決定内容になんら違法な点はなく、無効ではない。 なお、そもそも行政主体が将来の継続的施策を決定したとしても、右施策 重に協議を重ねた上で右計画を再検討して、右の決定をしたのであるから、右決定過程及び決定内容になんら違法な点はなく、無効ではない。 なお、そもそも行政主体が将来の継続的施策を決定したとしても、右施策が住民の意思や社会情勢の変動等に伴って変更され得ることは当然であり、このような場合には、先にした決定に拘束されないことは明らかである。 (三) (随意契約)建物の建築設計は、定型的な業務とは異なり、設計者の独創力・技術力等が重要な意味を持つものである上、病院の設計には、より複雑な配慮が必要である。したがって、競争原理に基づいて契約の相手方を決めるのは適当でなく、総合設計事務所として昭和六三年から平成四年までの間に一八件の病院設計を行った実績を有する専門業者である日建設計を相手方に選定して随意契約により本件(一)契約を締結することは、契約の性質・目的等に照らして妥当であり、これが地方自治法施行令一六七条の二第一項二号に反するとはいえない。 更に、日建設計は、新病院をβ地区に建設することを予定していた前市長時代に富士吉田市との間の委託契約に基づいて新病院の基本設計等を行い、新病院に要求される水準・内容等を十分理解していたので、同社を相手方とする場合は、新規の業者に委託する場合に比較して、設計作業の工程の短縮や経費の節減等を図ることができることから、時価に比べて著しく有利な価格で契約を締結することができると見込まれた(地方自治法施行令一六七条の二第一項五号)ので、同社と随意契約の方法によって本件(一)契約を締結したのである。 この判断が正しかったことは、前市長時代に行われた委託契約による委託料が六七五八万八六〇〇円であるのに対し、本件(一)契約における委託料は四八八二万五〇〇〇円であり、額にして一八七六万三六〇〇円、二七・八パーセントの節約と は、前市長時代に行われた委託契約による委託料が六七五八万八六〇〇円であるのに対し、本件(一)契約における委託料は四八八二万五〇〇〇円であり、額にして一八七六万三六〇〇円、二七・八パーセントの節約となっていることから明らかである。 (四) (関係自治体等との合意)関係自治体等との合意は、そもそも法的拘束力を有せず、しかも、右合意は権利義務について定めるものではないから、右合意に反しても違法ではない。仮に関係自治体との間で新たな合意が必要であるとしても、本件新グラウンド建設着手までに得られればいいのであるから、これをしなかったことが違法となるものではない。 2 (被告の故意過失)被告は、本件各契約の締結・履行及び本件各支出が違法であることを知らなかったし、知らなかったことについて過失もない。 理由 一地方自治法二四四条の二第二項違反について 1 地方自治法二四四条の二第二項は、「普通地方公共団体は、条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止するときは、議会において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならない」と規定しており、甲八、九号証によれば、本件体育施設が右の「条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なもの」に当たると認められる。 2 地方自治法二四四条の二第二項は、重要な公の施設は住民の生活と密接な関係をもつことから、その廃止に際し、不利益を被る住民の意向を十分に尊重するために、議会の特別多数議決を必要としたと解すべきであり、この趣旨からすると、右「廃止」とは、公の施設をその設置目的に従って、住民に利用させないことを意味するというべきである。 ところで、本件においては、前記第二・二・2のとおり、本件体育施設を廃止するが、それと同時に本件新グラウ 」とは、公の施設をその設置目的に従って、住民に利用させないことを意味するというべきである。 ところで、本件においては、前記第二・二・2のとおり、本件体育施設を廃止するが、それと同時に本件新グラウンドを建設するのであるから、公の施設の場所を移転することになる。このような場合において、これが右「廃止」に当たるというには、住民に、廃止と同視し得る不利益があることを必要とすると解すべきである。 3 これを本件についてみるに、甲一、二、一八号証、乙三、四号証、証人Bの証言及び弁論の全趣旨によれば、①本件新グラウンドと本件体育施設は、国道一三八号線を挟んで近接した位置にあり、交通の便等の点からしても、住民に格別不利益が生じるとはいえないこと、②本件体育施設には、専用駐車場がなかったが、本件新グラウンドには、最低四〇〇台分の駐車場が整備される予定であったこと、③本件新グラウンドには、本件体育施設の約一・五倍の広さの多目的グラウンドと、それに加えてテニスコートが設置される予定であったことが認められ、右認定の事実に照らすと、右移転に際し、住民に特別の不利益が生じるとは認められないというべきである。 4 したがって、本件体育施設を廃止して、本件新グラウンドを建設することは、地方自治法二四四条の二第二項の「廃止」に該当するとはいえないから、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告らの主張は理由がない。 二裁量権の逸脱について 1 違法性の判断基準地方自治法二四二条の二の規定に基づく住民訴訟は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為もしくは怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものである。 そして、同法二四二条の二第一項四 定の財務会計上の違法な行為もしくは怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものである。 そして、同法二四二条の二第一項四号前段の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求訴訟は、このような住民訴訟の一類型として、財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し、職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならない。したがって、当該職員の財務会計上の行為をとらえて右の規定に基づく損害賠償責任を問うことができるのは、たとえこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、右原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解すべきである。 ところで、住民訴訟は、自己の利害に関わりなく提起できる民衆訴訟であり、法律で特別に認められた例外的な訴訟類型であるから、その要件を安易に拡張解釈することはできないと解すべきである。仮にこれを拡張して、財務会計上の行為の原因となる非財務会計行為の違法がある場合には当該財務会計上の行為も違法となるものと解し、当該非財務会計行為の違法性も住民訴訟の審理対象になるとすれば、地方公共団体の事務で公金の支出を伴わないものはないから、住民訴訟によって、広く行政一般の過ちをただすことを許す結果となり、住民訴訟の対象を財務会計上の行為に限った前記地方自治法の趣旨・目的を明らかに逸脱することになる。 しかし、契約締結及び公金支出の原因行為である非財務会計行為に重大明白な違法事由があるため、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合についてまで、右のように解することは妥当ではないから、このようなときは、 金支出の原因行為である非財務会計行為に重大明白な違法事由があるため、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合についてまで、右のように解することは妥当ではないから、このようなときは、右原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が、財務会計法規上の義務に違反する違法なものとみなすべきである。 2 本件の事実経過甲一七号証、乙三号証、六号証、前掲証人Bの証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (一) 現病院は、昭和四二年に設置・開院して以来、同市の唯一の公立病院として、同市の医療行政の中核的な役割を果たしてきた。しかしながら、設置・開院後、約三十数年が経過し、医療技術の向上に伴う設備改善及び駐車場スペースの確保の要請などが高まる中で、新病院の建設を求める住民の要望が高まった。そこで、前市長は、昭和六三年五月、市立病院問題審議会を設置・諮問し、平成二年に答申を受けた。 (二) 右答申を受けて、富士吉田市において現病院に代わる新病院の施設等について検討がされ、その結果、現病院及び新病院の施設内容は以下のとおりとなつた。 (1) 現病院① 敷地面積一三八九九平方メートル② 延床面積一一一一六平方メートル③ 建築面積三七四五平方メートル④ 駐車場台数四〇〇台⑤ 構造鉄筋コンクリート造・六階建⑥ 病床数二三〇床⑦ 診療科目一六診療科(2) 新病院① 敷地面積二〇二三七平方メートル② 延床面積二一九九九平方メートル③ 建築面積五五三六平方メートル④ 駐車場台数五〇〇台⑤ 構造鉄筋コンクリート造・地上五階地下一階(免震構造)⑥ 病床数三〇〇床⑦ 診療科目一七診療科(麻酔科を加える。)(三) 前市長は、平成三年以降から、新病院をβ地区に建 〇台⑤ 構造鉄筋コンクリート造・地上五階地下一階(免震構造)⑥ 病床数三〇〇床⑦ 診療科目一七診療科(麻酔科を加える。)(三) 前市長は、平成三年以降から、新病院をβ地区に建設する計画を立て、平成五年三月二三日、関係自治体で構成する北富士県有地懸案対策協議会において、右計画の承認を受けた。 (四) 前市長は、設計業者を選ぶ際に、病院職員や担当職員などで構成される審査会を設置し、発注を希望する業者に事前に技術提案書を提出させて、当該業者の専門的知識及び技術力を検討するプロポーザル方式を採用し、これにより提出された八社からの提案を検討した。 ところで、富士吉田市は、大規模地震対策特別設置法による地震防災対策強化地域の指定を受けていることから、東海地震及び南関東直下型地震に備える必要があったところ、日建設計は、先鋭的な免震構造を提案していた。そこで、前市長は、日建設計の実績に加えて、右のような理由もあり、平成五年一一月、日建設計と新病院の設計委託契約を随意契約で締結した。 (五) 被告は、平成七年の市長選挙において、前市長の対立候補として、前市長と争ったが、その際、被告は、新病院の建設候補地の見直しを公約に掲げ、①市街地に近い、②国道一三八号線を横断しない、③演習場から離れているなどの条件を充たす場所に、新病院を設立すべきであると主張した。その結果、被告は当選し、平成七年四月二六日に富士吉田市長の職に就任した。 (六) 被告は、市長就任直後から、右選挙公約に基づき、およそ半年間、市内各三二自治会から市民の意見を聞き、更に、新設した検討委員会から意見聴取し、候補地の見直しを検討し、平成八年、前記①ないし③の条件に基づいて富士見バイパス沿いの民有地を借り上げる計画を立てたものの、地権者一四名のうち、一名との折衝に失敗した。 た検討委員会から意見聴取し、候補地の見直しを検討し、平成八年、前記①ないし③の条件に基づいて富士見バイパス沿いの民有地を借り上げる計画を立てたものの、地権者一四名のうち、一名との折衝に失敗した。次いで、被告は、平成九年三月、本件体育施設があるγ地区を候補地とする決定(本件建設計画2)をし、同月の定例市議会においても、β地区での病院建設を推進してきた議員の反対があったものの、新病院の建設事業費を盛り込んだ平成九年度一般会計予算案が可決された。 (七) そして、本件体育施設についても、専用駐車場がなく、施設も古くなっていることから、住民から再整備の要請があったため、被告は、β地区に本件新グラウンドを建設する決定をした。 (八) 被告は、β地区における新病院建設に際し、前市長が日建設計と基本設計及び実施設計契約を締結していた経緯から、①病院の候補地が、β地区からγ地区に移ったものの、同一内容の病院建設を予定していたこと、②前記契約よりも二四・三パーセント少ない金額で、新たに日建設計と基本設計及び実施設計契約を締結し得る見込みがあったことなどの理由から、日建設計を選ぶことにした。 3 原因行為本件建設計画1を同計画2に変更してγ地区において新病院を建設することは、富士吉田市の医療行政上の観点からすると、新病院の建設計画における一連の流れの中における、前記1の意味での原因行為と後行行為としてとらえることができる。 一方、本件建設計画2における本件新グラウンド建設の関係については、新病院をγ地区に建設することによって、本件体育施設はなくなるものの、これに代わるものとして新たにグラウンドを建設するかどうか、また、どこに建設するかという判断は、新病院をγ地区に建設するという判断とは別個にされるものである。 したがって、本件建設計画2によりγ地区に に代わるものとして新たにグラウンドを建設するかどうか、また、どこに建設するかという判断は、新病院をγ地区に建設するという判断とは別個にされるものである。 したがって、本件建設計画2によりγ地区に新病院を建設することと本件新グラウンドを建設することとは、前者は後者の動機目的となるが、前記1の意味での原因行為とこれを前提とする財務会計上の行為という関係にはない。 4 契約及び公金の支出(一) 本件(六)契約及び本件⑥支出原告らも、被告が日建設計との間で本件(六)契約を締結し、本件⑥の支出を命じたこと自体に手続上の違法性があるとは主張しておらず、しかも前記3のとおり、本件建設計画2によりγ地区に新病院を建設することは、右契約及び支出の原因行為とはいえないから、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告らの主張は理由がない。 (二) 本件(一)ないし(五)契約及び本件①ないし⑤支出本件建設計画2は、新病院を建設するのにふさわしい土地を選択・決定し、新病院建設事業の円滑な遂行・実現を図るという医療行政担当者としての施策そのものである。そして、右計画は、富士吉田市の今後の医療行政の中核を担うものであるから、行政担当者としては、長期的な視点に基づき、密接な利害関係を持つ住民の意向を反映させながら施策を決定しなければならない。 そこで検討するに、被告は、前記二・2・(一)ないし(八)のとおり、選挙公約において、新病院の建設候補地の見直しを掲げて当選し、その後においても、新設した検討委員会や、市内の各自治会からも直接意見を聴取して、右公約の実現に向けて努力したのであり、まさに、被告の行為は、地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則に沿うものとも評し得るものである。 その結果、β地区における新病 に向けて努力したのであり、まさに、被告の行為は、地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則に沿うものとも評し得るものである。 その結果、β地区における新病院建設を中止することに伴い、既に費やされた公金が無駄になるものの、右損失と新病院をγ地区に建設することによる利益との比較考量は、まさにそれ自体が医療行政上の政策判断であるといえる。 原告らは、本件建設計画1を同計画2に変更することが裁量権を逸脱する違法なものである旨主張するが、地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとする、いわゆる住民自治の原則は地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則であり、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来の施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動や選挙結果等に伴って変更されることがあることはもとより当然であって、地方公共団体は、それが自らしたものであるということで、既にした決定にその後も拘束されるものではない。 したがって、契約締結及び公金支出の原因行為である本件建設計画1を同計画2に変更することに重大明白な違法事由があるとはいえず、被告が本件(一)ないし(五)契約を締結し、本件①ないし⑤支出を命ずることが、財務会計法規上の義務に違反する違法なものとはいえないから、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告らの主張は理由がない。 三随意契約 1 随意契約の適法性の判断基準地方自治法二三四条一項は「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし、同条二項は「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」としているが、これは、同法が、普通地方公共団 り締結するものとする。」とし、同条二項は「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」としているが、これは、同法が、普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけているものと解することができる。そして、そのような例外的な方法の一つである随意契約によるときは、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的・内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術及び経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も指摘されるところである。 そこで、同法施行令一六七条の二第一項は、同法の趣旨を受けて一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものと解される。ところで、同項二号は「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」には随意契約によることができるとしているが、これは、不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように当該契約の目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定されてしまう場合や契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成する上で必要とされる場合など、当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合を指していると解すべきである。しかし、必ずしもこのような場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手 と解すべきである。しかし、必ずしもこのような場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的・内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術及び経験等を有する相手方を選定し、その者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も含むものと解すべきである。 そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている地方自治法及び同法施行令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質及び目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。 2 本件契約以上の観点から本件(一)契約の締結について検討すると、前記二・2・(一)ないし(八)によれば、市立病院の建設は、複雑かつ大規模な施設を建設するものであって、広範かつ高度な専門知識及び技術判断を要するから、その基本設計、契約の相手方の資力、信用、技術及び経験等その能力に大きな関心が寄せられなければならないところ、前市長は、公平を保つために、敢えてプロポーザル方式を選択し、八社の中から、特に免震構造についての技術に優れる日建設計を選んだのであるから、その判断は十分合理的なものというべきである。そして、前記二・2・(一)ないし(八)によ えてプロポーザル方式を選択し、八社の中から、特に免震構造についての技術に優れる日建設計を選んだのであるから、その判断は十分合理的なものというべきである。そして、前記二・2・(一)ないし(八)によれば、被告は、①前市長は、右の合理的な理由に基づき日建設計を選んでいたこと、②新病院の建設場所が、β地区からγ地区に移ったものの、同一内容の病院建設を予定していたことから、日建設計とは時価に比べて有利な価格で契約を締結し得る見込みがあったこと(現実にβ地区における契約よりも、二四・三パーセント値引きされている。)などの事情から、契約の公平及び価格の有利性という観点をも考慮しつつ、日建設計を随意契約に基づき選んだものと認められる。 したがって、被告が、日建設計との間で本件(一)契約を締結することについて、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断したことに合理性を欠く点があるということはできず、右契約を随意契約の方法によって締結したことに違法はないというべきであるから、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告らの主張には理由がない。 四関係自治体等との合意違反富士吉田市が関係自治体等との間でかわしたという、北富士県有地に係る諸懸案解決のための合意議事録(甲一〇号証)を検討すると、「北富士県有地は、昭和四八年三月三〇日における閣議了解に基づき、林業整備事業を実施するため、国から払下げを受けたものである。そして当該地に係るさまざまの諸懸案を解決し、山梨県から富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合(以下「恩賜林組合」という。)に再払下げされることが確認されてきたことは、周知の事実である。 本日、北富士県有地懸案対策協議会において、諸懸案の解決について次のとおり措置すること 県有財産保護組合(以下「恩賜林組合」という。)に再払下げされることが確認されてきたことは、周知の事実である。 本日、北富士県有地懸案対策協議会において、諸懸案の解決について次のとおり措置することが合意されたのでこれを議事録として確認する。(中略) 3 β地域への富士吉田市立総合病院建設について(1) 第四次北富士演習場使用協定締結の際の地元共通要望である総合病院の建設については、関係村、恩賜林組合及び各入会組合は、富士吉田市が北富士県有地β地内に建設することを了承する。また、その円滑な建設のために最大限の支援と協力を行うものとする。 (2) 当該病院の建設は焦眉の急である状況にかんがみ、当該地の利用については、県において大蔵省の承認を得た上で富士吉田市が県から借地することとする。 また、恩賜林組合においては、当該病院建設に必要となる面積について県との間で設定されている地上権を解除するものとする。なお、北富士県有地が県から恩賜林組合へ再払下げされた以後は、富士吉田市が恩賜林組合から借地することとする。」とある。 そうすると、右合意の内容は、右議事録の記載内容自体からしても、北富士県有地の払い下げを協力して実現することを目的としたものと認められる。したがって、これによって富士吉田市と関係自治体等との間で、富士吉田市において新病院を建設するという法的義務を生じさせた合意であるということはできないから、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告らの主張は理由がない。 五結論以上のとおり、原告らの本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事第一部裁判長裁判官秋武憲一裁判官萩本修裁判官中島基至 ることとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事第一部裁判長裁判官秋武憲一裁判官萩本修裁判官中島基至
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