【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 被告人Aを罰金五万円に、 被告人Bを罰金五万円に、 被告人Cを罰金四万円に、 被告人Dを罰金三万円に、 被
主文 原判決を破棄する。 被告人Aを罰金五万円に、被告人Bを罰金五万円に、被告人Cを罰金四万円に、被告人Dを罰金三万円に、被告人Eを罰金二万円にそれぞれ処する。 右罰金を完納することができないときは、金千円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。 原審における訴訟費用中、証人Fに支給した分は被告人Dの単独負担、証人G、同H、同I、同J、証人兼鑑定人Kに各支給した分は被告人Eの単独負担、その余は被告人ら全員の連帯負担とする。 理由 (控訴趣意)本件控訴趣意は、弁護人小池通雄、塙悟、松本善明、寺村恒郎、坂本福子、荒川晶彦、石野隆春、市来八郎、柴田五郎連名の控訴趣意書ならびに検察官提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。 同控訴趣意第二の一について、所論は、原判決が被告人らの原判示行為を労働組合法一条二項但書にいわゆる暴力の行使に該当すると判示した点について、同条項にいら「暴力」の意義を解釈するについての基準を論じ、判例を引用するなどしたうえ、原判決は「会社側による車両の社外搬出はいうべくして行われがたい情勢でありまた現に当時その危険が目しようの間に迫つていたものとは到底認められない」として本件争議行為を違法としているが、自動車運転労働者の組織率がどのような程度か、従来被告人らの勤務していた会社がどのような組合政策をとつてきたか、あるいは本件直前の労使関係いかん等の事情を全く無視して、被告人らの行為を暴力の行使に該当すると判示したのは、前記法条についての解釈適用を誤つたものであると主張するものである。 <要旨第一>しかし、いやしくもタクシー業を営む会社の労働争議に際し、組合員が、会 らの行為を暴力の行使に該当すると判示したのは、前記法条についての解釈適用を誤つたものであると主張するものである。 <要旨第一>しかし、いやしくもタクシー業を営む会社の労働争議に際し、組合員が、会社の業務遂行上その中枢をなす</要旨第一>物件である会社所有の自動車計八台に対し、原判示のように、社長から制止されたにかかわらずこれを無視し、多数共同してクリップ廻しあるいはオイルジャッキ等を使用して各車両の左右ないし前後の車輪を撤去しもつてその使用を一時不能にしていわゆる器物毀棄罪に該当する行為をあえてするがごときは、労働組合法一条二項但書にいう暴力の行使と目すべきものであつて、所論のいう労働事件の特殊性を考慮にいれても、又被告人らの行為の動機、目的など諸般の事情がどのようてもあれ、その手段からみてとうてい正当な争議行為とは解することができない。この見解は所論引用の判例の趣旨と抵触するものとも考えられず、論旨は理由がない。 所論は要するに、本件起訴状記載の公訴事実一について無罪を言渡した原判決は、事実を誤認し、かつ法令の解釈適用を誤つたもので、その判断は失当であり破棄を免れない、というのである。 以下項を分けてその詳述するところにしたがい、当裁判所の判断を述べることとする。 一、 「車検とキィの抑留保管について」、所論によれば、原判決は、結局、証拠にもとづき、被告人らがLほか多数の組合員と共謀のうえ、昭和三九年一月二七日いわゆるスト権確立の当時から予定していた同月三一日ころのストライキにそなえ、かねての戦術決定にもとづき、同日午前一〇時ころまでの間にわたり、帰庫する組合員その他M労運転者から各自の車検とキィを回収し、他方同日午前九時過ころから会社側で回収を始めたプロパン車についての計二通の車検と計八個のキイを除き、原判決別紙一覧表記載の 間にわたり、帰庫する組合員その他M労運転者から各自の車検とキィを回収し、他方同日午前九時過ころから会社側で回収を始めたプロパン車についての計二通の車検と計八個のキイを除き、原判決別紙一覧表記載のように全ガソリン車二五台分の車検とキィ及びプロパン車の一部の車検一〇通とキィ四個をすべて組合側で保管するにいたつた事実を認定し、組合側による右車検とキイの抑留保管によつて会社の自動車運行の業務は完全に阻止されたことになると判示しながら、被告人ら組合員が本件車検とキイを抑留保管するにあたり、別段威力を行使したことを認めるに足る証拠もないから、これにより会社の業務が妨害されたとしても、もとより威力業務妨害罪の成立を認める余地はないとしたが、原判決の右法律判断は明らかに刑法二三四条にいわゆる「威力」の解釈を誤つたものであるとする(なお、所論は、事実関係についても、原判決が、車検とキィの回収開始日時について、「一月三〇日午前二時ころから被告人ら組合側が車検とキィの回収を開始した」との検察官の主張を排斥し、右開始日時を一月三日未明と認定しているのは誤りであると主張し、この点はNの原審証言により明らかであり、同証言は他の証拠により認められる諸事実と対比し決して不自然なものとはいいがたいのに、原判決が「Nの証言をもつてしても他の関係証拠と対比して未だこれを確認することができない」としたのは、なぜであるか判文上明らかでない、としている。)。 しかしながら、右のように、本件起訴状の公訴事実一のうちに記載されている起訴状別紙一覧表その一及びその二(原判決別紙一覧表と内容は同じ)所掲の計三五通の車検と計二九個のキィに対する当初の抑留行為について、威力業務妨害罪が成立するかどうかの争に関する判断はしばらく別とし、右起訴状の記載を検討してみると、右車検とキィに対する は同じ)所掲の計三五通の車検と計二九個のキィに対する当初の抑留行為について、威力業務妨害罪が成立するかどうかの争に関する判断はしばらく別とし、右起訴状の記載を検討してみると、右車検とキィに対する当初の抑留行為自体をも含めて「威力を用いて同会社の業務を妨害した」ものとして訴追した趣旨であるかどうか、記載の表現上疑がないとは必ずしもいえず、この点に関し、原審第一回公判期日において裁判長の質問に対し検察官がした釈明によれば(記録第一冊八〇頁以下参照)、本件訴因第一の威力業務妨害罪を構成する事実は、起訴状の公訴事実一に記載されている「起訴状別紙一覧表その一の計三二通の車検と計二六個のキィの返還拒絶」ないし「同別紙一覧表その二の計三通の車検と計三個のキィの奪取」によつて行われた計三五通の車検と計二九個のキイの抑留継続行為であつて、起訴状に見られるこれらの車検及びキイに対する当初の抑留関係の記載は、単に右返還拒絶ないし奪取にいたる経過的事情を叙述した趣旨に過ぎないと解せられるから、その性格が争になつている前述の車検とキイの当初の抑留行為は、本件の訴因の内容をなすものではないといわなければならない(記録によれば、原審における検察官の論告もこの趣旨にそうものであることが明らかである。すなわち、原審検察官は、当初の車検とキイの抑留については、それが威力業務妨害罪における「威力を用いて」という要件を欠いているという見地に立つて、これを訴因に含めなかつた趣意がうかがわれるのである。〔検察官が控訴趣意において、「原判決は、車検とキイに対する抑留、保管の開始をもつて本件威力業務妨害罪の実行の着手といえないことは検察官自身もこれを認めている旨を判示したが、かかる事実はまつたく存在しない。原判決は何を目してかく判示したか理解に苦しまざるを得ない。」と述べているの 本件威力業務妨害罪の実行の着手といえないことは検察官自身もこれを認めている旨を判示したが、かかる事実はまつたく存在しない。原判決は何を目してかく判示したか理解に苦しまざるを得ない。」と述べているのは、全く不可解である。〕そして原判決もまた前述の車検とキイの返還拒絶及び奪取の点のみが訴因第一の内容をなすものであるとの前提に立つていることは、この点に関する裁判長の質問に対する原審検察官の釈明のほか、原判決が、その無罪理由の説示において、1本件争議にいたるまでの経緯2車検とキィの保管について3一月三一日における会社事務所内の状況の各項目に次いで、「4威力業務妨害罪の成否について」と題しその中で「イ車検とキィの返還拒絶について」及び「ロ車検とキィの奪取について」の二点のみを掲げて犯罪の成否を論じている等の判文の体裁からしても、これを推測するにかたくない。もつとも原判決は、右「イ車検とキィの返還拒絶について」の項目の中で、所論のように「当初右被告人ら組合員が本件車検とキィを抑留保管するにあたり、別段威力を行使したことを認めるに足る証拠もないから、これにより会社の業務が妨害されたとしても、もとより威力業務妨害罪の成立を認める余地はない。」として、当初の車検とキイの抑留関係についても犯罪の成否を論じているように見えるけれども、それは判文の体裁からもうかがわれるように、「車検とキィの返還拒絶について」威力業務妨害罪の成否を論ずる過程において、単に事情として、当初の車検とキィの抑留による法律関係を解明したにとどまると解するのが相当である。)。したがつて、前述の車検とキィに対する当初の抑留行為が本件の訴因に含まれていることを当然とする立場から原判決を論難する所論は、その前提において失当であり、論旨は理由がない。 二、 「車検とキィの返還拒絶について」、 車検とキィに対する当初の抑留行為が本件の訴因に含まれていることを当然とする立場から原判決を論難する所論は、その前提において失当であり、論旨は理由がない。 二、 「車検とキィの返還拒絶について」、原判決が「ひつきよう被告人Aら組合三役のほか前記組合員に向つてくりかえし車検とキイをいつたん会社に返還しなければ出庫を認めないといつて強くその返還を要求していたO社長に対し、被告人ら全員がLら多数の組合員とその場で互いに意思相通じ、口ぐちに「仕事に出せ」「日報を出せ」などと喧騒し同社長に威圧を加え右車検とキィの返還要求に応じなかつたものと認めることができる。」と判示していることは所論のとおりであつて、これによつて、被告人ら全員がLら多数の組合員と共謀のうえ、かねて組合側で抑留保管していた起訴状別紙一覧表その一記載の車検とキイについてO社長からの返還要求を拒絶しそのままこれが抑留を継続した事実を原判決が認定したことは明らかである(当審としても、原判決の挙示する証拠によつて右認定ができると考えるし、被告人らのアリバイの主張に対する原判決の判断についての説明も相当としてこれを援用する。)。ところで原判決は、右事実について威力業務妨害罪の成立を否定し、縷々その理由を述べているけれども、その説明はやや晦渋で明確を欠く嫌いがないではないが、その趣意は、「威力業務妨害罪は威力を手段として新たに業務妨害の危険を生ぜしめるか、もしくは既存の妨害の除去を阻止することを要する。本件においては、かねての組合側による車検とキイの抑留保管によつてすでに会社の自動車運行の業務は完全に阻止されていたことになるから、その後の車検とキイの返還拒絶の行為によつて新たに別個の業務妨害の結果が生じたものではないが、被告人ら組合側がO社長の要請を拒否して車検等を返還しなかつたことによ 全に阻止されていたことになるから、その後の車検とキイの返還拒絶の行為によつて新たに別個の業務妨害の結果が生じたものではないが、被告人ら組合側がO社長の要請を拒否して車検等を返還しなかつたことによつて既存の妨害の除去を阻止したことは認められる。しかし、それは威力によつてなされたものではない(被告人ら多数組合員の前記言動がいわゆる「威力」に該当するものであり、O社長の返還要求の意思の発動がこれによつて抑圧されたことは証拠上これを認めなければならないが、そのいわゆる「威力」は車検等の返還拒否のためというよりも、むしろ会社側から運転日報を出させるために用いられ<要旨第二>たというべき状況であつた。)というにあるようである。しかし、およそタクシー業を営む会社の労働争議に際</要旨第二>し、組合という組織の団結力を利用して会社の業務の根幹たる自動車の運行に必要不可欠な会社の所有に属する車検とキイをこれに対する会社の支配を排してほしいままに組合側で抑留保管したときは、これによつて当然会社側の業務遂行の意思を制圧して自動車の運行を不能に陥らしめることは明らかであるから、原判決認定の前示事実によれば、この場合車検とキィの返還拒絶による抑留継続の行為自体が刑法二三四条にいわゆる威力を用いて会社の業務を妨害したものと解すべく、原判決は、いわゆる「威力」に該当する行為として、右車検とキィの抑留継続行為自体のほか、さらにたとえば多衆による不穏な言動のような別個の威圧的行為を必要とするものと解しているやにうかがわれるが、その法律解釈は誤つているといわなければならない。所論は、原判決には会社の操業再開の可能性等について事実の誤認があつたとするものであるが、結果として威力業務妨害罪の成立を主張する点において、結局理由がある。 三、 「車検とキィの奪取について」、原 論は、原判決には会社の操業再開の可能性等について事実の誤認があつたとするものであるが、結果として威力業務妨害罪の成立を主張する点において、結局理由がある。 三、 「車検とキィの奪取について」、原判決は、証拠にもとづき、被告人らが他の組合多数と共謀のうえ、前述のように会社のO社長に対し車検とキィの返還要求を拒絶した際これに引き続き、起訴状記載のとおり、起訴状別表一覧表その二記載の車検とキィを会社事務所内カウンター上の車検等保管箱から奪取し、これを阻止しようとしたO社長に対し実力をもつてこれを遮り、結局右車検とキィを組合側の手中に確保しこれを抑留するにいたつた事実を認定し(この事実認定は原判決挙示の証拠に照らして正当であることを当審も認める。)、この場合被告人らが威力を用いたことは明らかであるとし、かつ会社側としてはこれらの車検とキィを奪われることによつて当該自動車を運行の用に供することができなくなつたことを肯認するのであるが、他方、「本件会社の業務は被告人ら組合側の争議行為により昭和三九年一月三一日早朝から全面的に停止状態に陥り、そのうえその後ストライキ解除の際における車検とキィの返還問題をめぐつて会社側と組合側との間に紛争状態が続いていたため、会社側としてはその保有車両数三七台のうち当時すでにその大半に及ぶ三三台の車両についてその運行を停止させるにいたつた。ことここに及んではタクシー会社としての本件会社の業務は全体としての機能を喪失したものといわなければならない。なるほど当時なお会社側にプロパン車一台と本件三台のガソリン車の車検とキィが保有されていたことは間違いない。もし他の車両が平常どおり就役しているならば、これだけの台数の車両といえども会社の業務運営上現実的に有意義であることはいうまでもない。しかしながら、右のとおり会社保有車両 されていたことは間違いない。もし他の車両が平常どおり就役しているならば、これだけの台数の車両といえども会社の業務運営上現実的に有意義であることはいうまでもない。しかしながら、右のとおり会社保有車両の大半がその運行を停止している本件の場合に、あえてこれだけの車両を出庫させてみても、会社全体の業務運営上の建前からみれば、ほとんど無意味に近いものと思われるし、現に証拠上も当時会社側がこれだけの保有車両を出庫させてでも営業を続行しようとする意図があつたとは認められず、また当時このようなことが客観的に可能である状況であつたともみられないのである。もとより四台の車両といえども会社にとつては貴重な営業財産であつて、これを軽視することは許ざれない。ただ本件の場合には、前示のとおり他の保有車両全部の運行が阻害されているため、ひいて会社側がその車検とキイを保有している右四台の車両についてもその運行が事実上不可能な状態になつていたものと考えざるをえないのである。 すなわち、自動車を営業のため運行の用に供するという意味における会社の業務は、右四台の分をも含めてすでに全面的に阻害されていたものといわなければならない。そうだとすれば、被告人らが右四台のうちのさらに三台のガソリン車の車検とキイを奪取したことによつて、新に会社の業務を妨害したとはいえないであろうし、また、証拠によつて認められる当時の状況からすれば、これによつて既存の業務遂行上の障害を格別増強したとも解することはできない。もつとも検察官は、ここにいう業務というのは、本来の「運輸大臣の免許に基く一般旅客自動車運送事業」のみではなく、広くその準備行為である、たとえば洗車、修理、整備等もその業務であると主張する。この意見は当裁判所の見解と全く同一である(当裁判所が被告人らの車両の移動ならびに車輪取り外し行 送事業」のみではなく、広くその準備行為である、たとえば洗車、修理、整備等もその業務であると主張する。この意見は当裁判所の見解と全く同一である(当裁判所が被告人らの車両の移動ならびに車輪取り外し行為を威力業務妨害罪としても有罪と認定したのは、この見解をとりいれたものである。)。 しかしながら、この種のいわゆる準備行為に属する業務について会社側においてスペアキーを保有していることが証拠上明らかであつてこれを使用することによつて何らの支障なくこれらの業務を遂行することができるわけであるから、この点からしても被告人らの行為によつて会社の業務が妨害されたものということはできない。」という理由により、前記車検とキイを奪取した被告人らの行為も、また威力業務妨害罪の構成要件に該当するものとは考えられないとした。これに対し、所論は、「本件会社がタクシー事業を業務内容とするものであること原判決認定のとおりであつて、タクシー事業は一人一車の事業上外個別生産労働ともいらべき特質をもつており、自動車一台でも操業ができるのである。しかして、本件の場合、会社はM労所属の運転車をして会社内もしくはM労の事務所に待機させ、被告人ら組合側の妨害がなく車両の使用が可能な状態となりさえすればいつでも直ちに操業し得る状態にあつたものであつて、この事実及び社長が被告人ら組合側に対し、車検とキイの返還を執拗に要求している事実からみれば、明らかに会社が業務を継統して遂行する意図を有し、かつその可能性があつたものと認めなければならないものである。なお、会社側が前述のように約十名のM労所属運転者を待機させており、しかも会社においてはプロパン車二台分及び本件によつて奪取されたガソリン車三台分計五台分の車検とキイを確保していた(判決が右のように四台分と認定しているのは明白な計数上の誤り 転者を待機させており、しかも会社においてはプロパン車二台分及び本件によつて奪取されたガソリン車三台分計五台分の車検とキイを確保していた(判決が右のように四台分と認定しているのは明白な計数上の誤りと認める。)にもかかわらず、現実に一台も運行していない事実があるが、これは会社側においてストライキ中の被告人ら組合側よりうける出庫阻止等無用の混乱をできるだけ防止しようとの意図及び前述のような車検等の返還要求拒絶の混乱等から操業の機会をうかがつていたに過ぎず、これをもつて会社側に操業再開の意図ないしは可能性がなかつたものと認定すべきものではない。 特に、威力業務妨害罪にいわゆる業務とは、具体的個々の現実に執行している業務のみにとどまらず、広く被害者の当該業務における地位にかんがみその任として遂行すべき業務をも指称するのである(昭和二八年一月三〇日最高裁判決参照)から、すでに被告人ら組合側によつて抑留保管ないしは返還拒絶ざれた車検等に該当する車両の操業が妨害されたとはいえ、これとは別にいつでも直ちに操業し得る状態にあつた本件ガソリン車三台の車検とキイが奪取されたことは、それにより当該ガソリン車三台についての業務妨害の危険が新たに現実に発生したものであるとともに、自動車運行業務にともなう車検等の保管管理業務が現実に侵害されていることは明らかであつて、この事実は明らかに刑法二三四条所定の構成要件を充足するものといわなければならない。」と主張するのである。 よつて考察するに、原判決のいうように当時会社側としてその保有する自動車の大半が運行を阻害され停止の状態にあつたとしても、そのために被告人らにより車検とキイを奪取された三台のガソリン車について会社側がそれだけの車両を出庫させてでも営業を続行しようとする意図があつたとは認められないとか、又このようなこ あつたとしても、そのために被告人らにより車検とキイを奪取された三台のガソリン車について会社側がそれだけの車両を出庫させてでも営業を続行しようとする意図があつたとは認められないとか、又このようなことが客観的に可能な状況であつたともみられないということは、証拠上これを確認するに十分でない(この点に関する検察官の所論参照)から、被告人らが右三台のガソリン車の車検とキイを奪取しこれに対する会社の使用を阻んだときは、これによつて一応右自動車の運行業務妨害の危険を生ぜしめたということができるばかりでなく、一般に会社側としては、自動車運行の業務遂行にあたり、現に自動車の運行が他から阻害されている状態にあつたとしても、将来その阻害状態が解消し自動車の運行が可能になり次第、直ちに操業を開始し得るようただに洗車、修理、整備にとどまらず、運行に必要な車検、キィをも常に自己の支配下に確保し置く等一切の準備をととのえて待機すべきがその任であると考えられるから、被告人らの本件車検等の奪取行為は、この意味においても会社の業務を妨害したものといわなければならない。原判決はいわゆる「業務」に関する法律解釈を誤つているもので、所論は理由がある。 <要旨第二第三>以上要するに、被告人らの車検とキイの返還拒絶い奪取行為は、会社の業務の根幹たる自動車の運行に</要旨第二第三>必要不可欠なものを抑留することによつて自動車そのものをほしいままに管理支配すると同一の評価を受くべきもので、このように労働者が使用者の生産手段の中枢をなすものを使用者の支配を排して自己の管理下に置き操業不能に陥らしめるような争議手段は、争議行為の本質に反し、その正当性の限度を逸脱した不法なものと認むべきはもちろんであるから、ここに威力業務妨害罪が成立すると解するのが相当である。しかるに公訴かかる右車検 らしめるような争議手段は、争議行為の本質に反し、その正当性の限度を逸脱した不法なものと認むべきはもちろんであるから、ここに威力業務妨害罪が成立すると解するのが相当である。しかるに公訴かかる右車検とキイの抑留保管の事実を認めながら、これが罪とならないとした原判決は、刑法二三四条に関する法令の解釈適用を誤つたもので、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない。 よつて刑事訴訟法三九七条により原判決を破棄し(原判決中有罪の部分について事実誤認を主張する弁護人の控訴趣意の理由のないことはすでに述べたとおりであるが、右事実と当審であらたに有罪と認定した事実とは包括一罪として処断すべき関係にあると認められるのて、原判決の全部を破棄する。)、同法四〇〇条但書を適用して次のとおり自判する(原判決の一部無罪に対して有罪を認定したが、右は事実の変更をともなわず、原判決が法令の解釈適用を誤つたことを理由にするものであるから、とくに、控訴審において事実調べを用いなかつた。)。 〔当裁判所の判決〕(罪となるべき事実)原判決が有罪と認定した部分については原判決の判示を引用し、それに、次の事実を追加する。 「被告人A、同B、同C、同D、同EはLほか多数の組合員と共謀のうえ、昭和三九年一月二七日いわゆるスト権確立の当時から予定していた同月三一日ころのストライキにそなえ、かねて同日午前一〇時ころまでの間に帰庫する組合員その他M労運転者から各自の車検とキイを回収し、他方同日午前九時過ころから会社側で回収を始めたプロパン車についての計二通の車検と計八個のキイを除き、別紙一覧表記載のように全ガソリン車二五台分の車検とキィ及びプロパン車の一部の車検一〇通とキィ四個をすべて組合側で保管するにいたつたが、さらに三一日午後二時ころから同四時ころまでの間にわ イを除き、別紙一覧表記載のように全ガソリン車二五台分の車検とキィ及びプロパン車の一部の車検一〇通とキィ四個をすべて組合側で保管するにいたつたが、さらに三一日午後二時ころから同四時ころまでの間にわたり、会社事務所において、社長Oから右車検とキイのうちその後会社側で組合側から受け取つた一部を除き、別紙一覧表1ないし33の分について即時返還を要求されたにかかわらず、これを拒絶し、そのうえ同日午後四時ころ、被告人Aが、右事務所内カウンター上の車検等保管箱に収納してあつた別紙一覧表中34ないし36記載の車検三通、キイ三個を発見し、これを奪取しようとしたので、社長がこれを阻止しようとしたところ、被告人Bが同社長の前に立ち塞つて同人を押し戻し、その隙に被告人Aがこれを奪取し、なおもこれを取り返そうとする右社長に対し、被告人B、同C及び同Eが右社長の前に立ち塞つて同人を押し戻すなどしてこれを妨害し、よつて別紙一覧表記載の車検計三五通、エンジンキイ計二九個の抑留をつづけて該自動車を運行の用に供し得なくし、もつて威力を用いて同会社の営業用自動車運行に関する業務を妨害したものである。」(右追加事実に対する証拠の標目)(省略)(法律の適用)被告人らの判示所為中、威力業務妨害の点は包括して刑法二三四条、罰金等臨時措置法三条一項、刑法六〇条に、数人共同して刑法二六一条の罪を犯した点は、包括して暴力行為等処罰に関する法律一条一項、罰金等臨時措置法三条一項、刑法六〇条にそれぞれ該当するが、右は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段一〇条により、重い威力業務妨害罪の刑に従つて処断し、所定刑中、罰金刑を選択し(記録上うかがわれる本件争議発生の事情、争議手段については、直接人に対する暴行、脅迫は行われておらず、物に対する損傷も生じ 条により、重い威力業務妨害罪の刑に従つて処断し、所定刑中、罰金刑を選択し(記録上うかがわれる本件争議発生の事情、争議手段については、直接人に対する暴行、脅迫は行われておらず、物に対する損傷も生じていないこと、数日を経ずして、一部の車検等は未返還のまま残り全面的解決ではないが、ともかく相当数の車検等は会社側に返され、撤去した車輪も原状に回復し、双方了解のうえ争議は一応の解決を見て操業が再開されるにいたつたこと、その他諸般の情状にかんがみ、本件は罰金刑を選択処断するを相当と考える。)、所定罰金額の範囲内において、被告人A、同Bを各罰金五万円に、被告人Cを罰金四万円に、被告人Dを罰金三万円に、被告人Eを罰金二万円にそれぞれ処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条を適用して、いずれも金千円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項、同二項により主文掲記のとおり被告人らに負担させることとする。 (裁判長判事足立進判事浅野豊秀判事井上謙次郎)別紙<記載内容は末尾1添付>
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