平成30(ワ)3567 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年12月15日 京都地方裁判所
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判決文本文37,478 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,55万円及びこれに対する平成29年4月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを100分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負 担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,7000万円及びこれに対する平成29年4月10日か ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被告が設置する立命館大学の甲学部准教授であった原告が,①原告の教授への昇任審査に係る教授会において,出席者であった同学部のA教授及びB准教授がした各発言はハラスメントに当たり,原告の名誉等を毀損する不法行為 である,②当時同学部の学部長であり,上記教授会の議長であったC学部長が,原告にとって不利益な上記各発言が行われたのに,原告に弁明の機会を与えるなどの是正措置をとらずに,そのまま決議を行う議事進行をしたのは裁量権の逸脱・濫用に当たる不法行為である,③上記①及び②の不法行為が行われて上記①の各発言はハラスメント防止委員会によりハラスメントに該当すると認定され たのに,被告が,原告の教授への昇任につき,再審議による再議決の機会を保障するなどの適切な救済措置を何ら採らなかったことは雇用契約上の配慮義務違反であるなどと主張して,被告に対し,上記①及び②につき使用者責任に基づき,上記③につき不法行為又は雇用契約上の債務不履行に基づき,損害賠償金7000万円(逸失利益7500万円,研究費その他手当720万円,慰謝料1000 万円及び弁護士費用922万円の合計額1億0142万円の一部請求)及びこれ 約上の債務不履行に基づき,損害賠償金7000万円(逸失利益7500万円,研究費その他手当720万円,慰謝料1000 万円及び弁護士費用922万円の合計額1億0142万円の一部請求)及びこれ に対する不法行為の後の日であり,救済措置を求めた日(甲19の1~3参照)である平成29年4月10日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲の各証拠〔枝番を含む。以下同じ。〕及 び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)⑴ 当事者等ア原告は,被告が設置する立命館大学の甲学部に,平成20年から所属し,平成21年から同学部准教授として研究及び教育に携わり,平成29年3月31日に同大学を退職した者である。 イ被告は,私立学校を設置することを目的とし,立命館大学等を設置する学校法人である。 ウ A教授は,平成11年4月に立命館大学甲学部の教授に就任し,平成26年4月から平成28年3月まで立命館大学大学院の甲研究科長を務め,平成31年3月に定年となった後は,甲学部の名誉教授となり,特任教授に就任 した。なお,同学部における甲研究科長の地位は,副学部長よりも上であり,学部長に次ぐものであった。A教授は,平成27年当時,同学部の執行部の一員でもあった(以上につき,乙30,証人A教授)。 エ B准教授は,平成27年当時,立命館大学甲学部の准教授であった者である。 オ C学部長は,平成9年4月に立命館大学甲学部の教授に就任し,平成25年4月から平成28年3月まで同学部の学部長を務め,その後,定年となった後は,同学部の特任教授に就任した。なお,平成27年当時,同学部の執行 ,平成9年4月に立命館大学甲学部の教授に就任し,平成25年4月から平成28年3月まで同学部の学部長を務め,その後,定年となった後は,同学部の特任教授に就任した。なお,平成27年当時,同学部の執行部の一員でもあった(以上につき,乙31)。 ⑵ 立命館大学教員任用・昇任規程 立命館大学教員任用・昇任規程には,以下のとおり規定されている(乙15)。 ア第1条新たに教員を任用しようとするときは,教授会は,学部長または研究科長の提議により3名以上の教員からなる選考委員会を組織するとともに,ひろく候補者をもとめるものとする(1項)。 委員会の組織および運営に関する事項は各教授会において別にこれを定 める(2項)。 イ第2条選考委員会は,別に定める選考基準にもとづき,候補者について適否を審査し,教授会にその結果を報告する。 ウ第3条 教授会が選考委員会から審査の結果につき報告を受けたときは,審査のうえ,投票によってその採否を決議し,学部長または研究科長より学長にこれを報告する(1項)。 前項の決議には教授会を構成する教員の4分の3以上が出席し,その3分の2以上の同意をうることを要する(2項)。 エ第4条学長は,前条第1項の報告をうけたときは,大学協議会にこれを付議し,その承認を得た上で理事会に具申する。 オ第5条教員の職名または所属を変更しようとするときは,第1条ないし第4条の 規定を準用する。 ⑶ 立命館大学教員選考基準立命館大学教員選考基準には,以下のとおり規定されている(乙16)。 ア第1条本大学教員の任用・昇任にあた 規定を準用する。 ⑶ 立命館大学教員選考基準立命館大学教員選考基準には,以下のとおり規定されている(乙16)。 ア第1条本大学教員の任用・昇任にあたっては,大学設置基準第4章「教員の資格」 により,本基準に基づき選考する。 イ第2条教授となることのできる者は,次の各号のいずれかに該当し,かつ,大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者とする。 博士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を 有し,研究上の業績を有する者(1号) 研究上の業績が前号の者に準ずると認められる者(2号) 学位規則(昭和28年文部省令第9号)第5条の2に規定する専門職学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し,当該専門職学位の専攻分野に関する実務上の業績を有する者(3号) 大学において,教授,准教授又は専任の講師の経歴(外国におけるこれらに相当する教員としての経歴を含む。)のある者(4号)芸術,体育等については,特殊な技能に秀でていると認められる者(5号) 専攻分野について,特に優れた知識及び経験を有すると認められる者 (6号)⑷ 甲学部・甲研究科における教員任用基準および大学院担当資格についての内規上記内規には,以下のとおり規定されている(乙17)。 ア 「立命館大学教員選考基準」における「教授」任用・昇任について 研究上の業績については,全学ガイドラインである過去5年間を対象に,公刊された論文3本を基本とするが,甲学部内規においては,過去6年間,公刊された論文6本以上とする。なお,論文については学会 研究上の業績については,全学ガイドラインである過去5年間を対象に,公刊された論文3本を基本とするが,甲学部内規においては,過去6年間,公刊された論文6本以上とする。なお,論文については学会誌,紀要,学術雑誌などに掲載されたものとする。 専攻分野によって,論文数を基準とすることが適当でないときは,下記 の[要件審査]を満たすこと。 (以下略) 大学における教育を担当するに相応しい教育上の能力については,担当する専門分野に関する授業を5年以上担当し,教育方法,シラバス,作成した教材などを基に客観的に判断する。 (以下略) イ任用基準・担当資格の「ガイドライン」制定にともなう他の内規について甲学部教員昇任についての内規(教授への昇任に係る部分を抜粋) 立命館大学教員選考基準に基づいて任用された教員の昇任にあたって,甲学部執行部は,以下の条件を付加して教授会に昇任の推薦を行う。 昇任にあたって,執行部は当事者が大学教育および学内の行政役割の遂 行に適当と判断したうえで教授会に推薦する。各役職の具体的な昇任推薦条件は以下の通りとする。 教授への昇任a 准教授を6年以上経験し,准教授として6本以上の研究論文,またはそれに相当するとみなされる学識経験および研究業績をあげているこ と。 b 研究論文は6本を原則とするが,他の研究業績を勘案して,総合的に判断することがある。 c 准教授歴は前任校での期間も含むこととする。 d 研究論文は公表されているものを原則とするが,昇任審査年度の1月 末(大協昇任)までに当該年度内で公刊予定が明確なものについては審査にかけることも可とする。 ⑸ 原告の教授昇 。 d 研究論文は公表されているものを原則とするが,昇任審査年度の1月 末(大協昇任)までに当該年度内で公刊予定が明確なものについては審査にかけることも可とする。 ⑸ 原告の教授昇任審査に係る経緯の概要ア平成27年10月6日,甲学部の教授会で昇任審査委員会が設置され,原告が教授昇任の候補者となった。 イ昇任審査委員会は,原告の教授昇任について審査を行い,同月下旬頃,原 告の教授昇任が適当である旨の審査報告書(乙8)を作成し,甲学部の教授会に提出した。 ウ同年11月10日に開催された甲学部の教授会(以下,同日開催の教授会を「本件教授会」という。)において,原告の教授昇任につき審査の上,投票が行われた。本件教授会には,原告の昇任審査の決議の時点で36名が出 席しており(昇任審査の間,原告はその場を退席していた。),昇任にはその3分の2以上である24名の賛成が必要であったところ,投票結果は,可12票,否15票,白票9票,無効票0票であり,原告の教授昇任は否決された(乙9)。 ⑹ 本件教授会における原告の昇任審査に係る発言の要旨(乙1の1・2) ア B准教授は,本件教授会の昇任審査の場において,要旨,以下のとおり発言した。 私は,我々には守秘義務があると認識しており,したがって,本日この会議にいない人と,本日の議論について話すべきではないであろう。原告は,数多くの学術業績をあげており,また,類いまれな性格で独創的な視点を持 っているが,教授への昇任は,学術的な資質のみで判断すべきものではなく,同僚性,すなわち教員同士が協力し合い,共に取り組む精神も重要な要素の一つとして考慮すべきである。原告は,乙グループとしては2人目の教授になり,大変強いリーダーシップを担 で判断すべきものではなく,同僚性,すなわち教員同士が協力し合い,共に取り組む精神も重要な要素の一つとして考慮すべきである。原告は,乙グループとしては2人目の教授になり,大変強いリーダーシップを担う地位に就くことになるが,仮に押しが強く,強力な信念形態を持った人物が権力がある地位に就いたらどうなるか を考える必要がある。私は,原告から言語的暴力を受けたと考える個人的体験について,4頁にわたって書き記した。特に乙グループと甲学部の教員間の関係について懸念している。原告は,甲学部の方針に沿わない考えを持っている点が多々あるようであり,平成29年度又は平成30年度の新カリキュラムを最終決定するときに問題になると思う。原告は,ある教授会でD元 教授が同僚8名からハラスメントを受けたと言っており,原告とD元教授は, 学部が公式謝罪するまで教員交流イベントを欠席することにし,その後D元教授は立命館大学を退職したが,原告はまだ大学にいて,この問題について引き続き追及すべきだと考えていることから,私は甲学部に及ぶ影響を懸念している。もし誰かがパワーハラスメントを行っているとしたら,私は,原告からパワーハラスメントを受けたと言えるであろう。現在,日本の教育機 関は数多くの課題に直面しており,これらの課題に取り組むために,同僚性と協調の精神を必要としている。我々はこの件について十分に検討せずに承認すべきではなく,この問題が与える様々な影響を真剣に検討する必要がある。 イ A教授の発言等 B准教授の上記発言の後,A教授は,本件教授会において,要旨,以下のとおり発言した。 非常にデリケートなので発言すべきか迷っているが,B准教授が勇気をもって発言したので,私も良心に沿って発言すべきだと思った。昨年(平 ,A教授は,本件教授会において,要旨,以下のとおり発言した。 非常にデリケートなので発言すべきか迷っているが,B准教授が勇気をもって発言したので,私も良心に沿って発言すべきだと思った。昨年(平成26年),昇進について原告が提出した書類では,2011年(平成2 3年)に学位を取ったということになっていたが,それが正確でないということが次第に分かってきたので,昨年度の教授昇任審査の申請を取り下げた経緯がある。最終的に今年(平成27年)1月に学位を取ったということが判明した。我々の存在の中において信頼というものは極めて重要なポイントだと思うので,その観点からは,非常に躊躇する出来事であった と思っている。 上記発言を受けて,C学部長は,原告の学位については平成26年9月にアウォードされて,平成27年1月にコンファー(ム)されたことを確認したと述べた。それに引き続き,E教授は,全学に原告の昇任人事を伝え,学部長会議にも伝えて,それで全学通っているわけで,上記の話は終 わった,言おうと思えば,色々言えるが,2011年(平成23年)につ いては,英語で記載する方はそうなっておらず,多分記載ミスである,同じミスが昨年の教授会昇任人事でもあった,博士についての記載ミスがあり,A教授がそれを指摘したが,そのときは記載ミスだということでそのまま通った,学位の取得についてのミスは,そのときに何も確認されずに,そのまま承認された,今年新たに提案され,それで我々も審査したのであ るから,今年はもう言えないのではないかなどと述べた。 これに対して,A教授は,皆さんの判断であるが,自分が学位を取った時を記載ミスすることはあり得ない行為だと思うなどと述べた。E教授は,英語版にはちゃんと書いてあった,この件 と述べた。 これに対して,A教授は,皆さんの判断であるが,自分が学位を取った時を記載ミスすることはあり得ない行為だと思うなどと述べた。E教授は,英語版にはちゃんと書いてあった,この件は全学的にもうきりがついた話であるなどと述べたが,A教授は,いや違う,全学的には懲戒をするかど うかという審議をした,パニッシュメントするかという話である,我々は,今,プロモートするかという話であるなどと述べた。E教授は,もうここでは昇任だからやめよう,去年でもうきりがついているのだから,などと述べたところ,A教授は,それはおかしいと思うが,2人でやっていてもしょうがないのでやめる,もう皆さんの判断次第であるなどと述べた。 ウ C学部長の発言等C学部長は,その後,出席者に対し,質問や意見の有無を確認したところ,出席者から,検索をしても原告の論文が見当たらず,どのように確認したのかについて質問が出た。 それに対し,E教授は,イギリスの大学においては,エンバルゴシステム というものがあって,一切公表できない扱いとなっている旨を回答し,さらに,C学部長は,執行部としてもエンバルゴがかかっているということを確認しており,原告が指導教授と協議した上で,そのような措置をとったとの話である旨の説明をした。 続いて,C学部長は,昇任審査委員会の報告の内容に関連して他に質問が ないか尋ねたところ,出席者から質問がなかったので投票に移り,前記の投 票結果となった。 3 争点⑴ 本件教授会におけるB准教授の発言による不法行為の成否(争点⑴)⑵ 本件教授会におけるA教授の発言による不法行為の成否(争点⑵)⑶ 本件教授会におけるC学部長の議事進行に係る不法行為の成否(争点⑶) におけるB准教授の発言による不法行為の成否(争点⑴)⑵ 本件教授会におけるA教授の発言による不法行為の成否(争点⑵)⑶ 本件教授会におけるC学部長の議事進行に係る不法行為の成否(争点⑶) ⑷ 救済措置を採らなかった被告の不作為についての不法行為又は雇用契約上の債務不履行の成否(争点⑷)⑸ 原告の期待権侵害の有無(争点⑸)⑹ 原告に生じた損害及び損害との因果関係(争点⑹) 4 争点に関する当事者の主張 ⑴ 本件教授会におけるB准教授の発言による不法行為の成否(争点⑴)ア原告の主張 本件教授会におけるB准教授の発言の内容は,①原告が甲学部の方針に沿わない考え方を持っていること,②原告がD元教授が受けたハラスメント問題について引き続き追及されるべきと考えていること,③B准教授が 原告から多数回ハラスメントを受けていたことを内容とするものであるところ,①及び②については,甲学部において問題となっていたベテラン教員の威圧的な態度に抗議して早期退職をしたD元教授と原告を結びつけるもので,D元教授からハラスメントの指摘を受け,D元教授と対立していた甲学部の教授らの不快な感情を呼び起こす意図のもとにされたも のである。また,③については,原告がB准教授に対してハラスメントをした事実はなく,B准教授自身も,所定の機関に対して正式なハラスメント申立てをしたことはないなど,何ら根拠のない一方的なものである。 原告が申し立てたハラスメントに係る立命館大学ハラスメント防止委員会(以下「ハラスメント防止委員会」という。)において,B准教授の 発言は,教授会参加者にとって初めて聞く内容であり,真偽を確認する手 立てがなかったこと,退席していた原告にとって弁明や反論が ハラスメント防止委員会」という。)において,B准教授の 発言は,教授会参加者にとって初めて聞く内容であり,真偽を確認する手 立てがなかったこと,退席していた原告にとって弁明や反論ができない場であったこと,学部執行部やハラスメント相談員への相談などの手段を採らず,昇任審査の教授会でのいきなりの発言であったこと,研究業績や教育歴等の昇任審査に直接関わる内容ではなかったことなどを理由に,ハラスメントに該当すると判断されている。 また,ハラスメント防止委員会の報告書によれば,むしろB准教授が,原告に対して不適切な行動を行っていた旨の認定がなされており,原告の同僚もB准教授が不適切な行動をとっていたことなどを述べている。 以上の事情を総合すれば,B准教授の発言は,原告不在の場という状況的な優位性を利用して,教授らの原告に対する人格的信用を意図的に貶め るハラスメントであって,意見や論評としての許容度を超えて原告の名誉を毀損するものであるから,違法性を有し,原告に対する不法行為を構成する。 イ被告の主張 教授会における教授への昇任審査の場面においては,候補者の研究能力 に加え,教育及び学内行政に関する能力も審議対象とされるところ,審査対象者に関するあらゆる評価を共有し,議論が尽くされることが重要である。そして,一般論として,候補者がパワーハラスメントを行っていたとの情報は,教育及び学内行政能力に直接的に関係する重要な情報であるから,その情報に係る発言が候補者の信用を低下させるとして,その真実性 等を立証しない限り違法性を問われ得るとすれば,発言を控えるとの萎縮的効果が発生し,昇任審査にとって重要な情報が教員間で共有されず,適切な意思決定ができなくなるおそれがある。 したがっ 性 等を立証しない限り違法性を問われ得るとすれば,発言を控えるとの萎縮的効果が発生し,昇任審査にとって重要な情報が教員間で共有されず,適切な意思決定ができなくなるおそれがある。 したがって,名誉毀損になり得るような発言であったとしても,教授会の場における昇任審査に関連性がある事項についての発言は,その内容や 態様が著しく不相当なものでない限り,違法性を有しないというべきであ る。 本件については,原告が主張するB准教授の①及び②の発言内容は,原告の人格を毀損したり,原告の社会的評価を低下させるようなものではなく,何ら違法性がないことは明らかである。 B准教授の③の発言内容は,自らの主観を述べているにすぎず,また, 確定的な出来事としてハラスメントの具体的な事実を述べているわけでもなく,原告の教育及び学内行政能力に関連する事項として,教授会構成員に対し,考慮すべき点について注意喚起をする以上の意味はない。 また,B准教授は,冒頭で守秘義務があることを述べるなど,第三者に伝播させる意図は有しておらず,教授会構成員に対しても守秘義務を認識 させていること,同准教授の発言について書面の配布はされておらず,口頭でされたものであること,教授会における人事に係る議論については守秘性が要求されるべきものであること,教授会の議事録にも議論の詳細は記載されていないことからすれば,教授会構成員以外の者への伝播可能性はなかったというべきである。 以上によれば,B准教授の発言は,少なくとも教授への昇任審査に係る教授会における発言としては許されるものであり,違法とはいえず,原告に対する不法行為を構成しない。 ⑵ 本件教授会におけるA教授の発言による不法行為の成否(争点⑵) への昇任審査に係る教授会における発言としては許されるものであり,違法とはいえず,原告に対する不法行為を構成しない。 ⑵ 本件教授会におけるA教授の発言による不法行為の成否(争点⑵)ア原告の主張 A教授は,研究科長であり,原告の博士号取得に係る問題について,原告が懲戒審査にかけられ,懲戒審査委員会による審査の結果,懲戒処分をしないとの結論が出されたことを認識していた。そして,A教授は,執行部の一員として,原告が,懲戒審査にかけられた事実について明らかにしてほしくない旨の申入れをしたことも認識しており,少なくとも,執行部 として,原告の懲戒審査に係る事実を教授会に報告しないということは明 確に認識していた。原告が懲戒審査にかけられた事実は秘密情報として保護されるべきものであり,懲戒処分を行わなかった事案について,理事長以外の関係者が,懲戒にかけられた者の同意なくして教授会を含む学内の公の場で開示することは,守秘義務違反に当たる(学校法人立命館教職員懲戒手続規程〔乙23。以下「懲戒手続規程」という。〕15条の反対解 釈)。 したがって,原告の同意がないにもかかわらず,A教授が,本件教授会において,原告が懲戒審査にかけられた事実に係る発言をしたことは,執行部(少なくとも学部長)の方針及び懲戒審査についての守秘義務に反し,原告のプライバシーを侵害するものである。 また,A教授は,原告の博士号の取得日について,原告が意図的に虚偽申請したことを強く示唆する発言をしており,その発言は原告の人格的信用を毀損するものである。 以上によれば,A教授の発言は,言論の自由,意見表明の自由を逸脱する違法なものであり,原告に対する不法行為を構成する。 イ被告の主張 上 用を毀損するものである。 以上によれば,A教授の発言は,言論の自由,意見表明の自由を逸脱する違法なものであり,原告に対する不法行為を構成する。 イ被告の主張 上記⑴イで述べたとおり,教授会の場における昇任審査に関連性がある事項についての発言は,その内容や態様が著しく不相当なものでない限り,違法性を有しないというべきである。 平成26年に行われた原告の1度目の昇任審査は,原告の経歴に不明確 な点があったことにより見送られており,このことは甲学部の教授会において説明されていた。そして,このような理由で昇任審査が見送られるのは前代未聞であったことからすれば,教授会構成員は,就業規則上の懲戒事由の一つである重大な経歴詐称として懲戒審査の対象になり得ることは容易に推測できた。その後,平成27年9月の教授会において原告の昇 任審査委員会が再び設置されたところ,仮に懲戒審査委員会で懲戒処分が 下されていれば再度昇任審査がされることはないから,結局,原告に対して懲戒処分が下されなかったことも,教授会構成員は,容易に推測できた。 そうすると,原告が,懲戒審査の対象となったが懲戒処分が下されなかったことについて知られなくないとの希望を有していたとしても,教授会構成員にとって容易に推測可能な事項であったから,本件教授会においてこ れが開示されても,違法ではない。 また,懲戒手続規程によれば,大学教員の懲戒処分が審査されるに当たっては,大学の自治の下,懲戒審査に関与する学部等の教授会構成員には,特定の大学教員が懲戒審査の対象であることが知られることになるのであり,この点は,最終的に懲戒処分を下さない結論になる場合であっても 変わらない。懲戒手続規程15条には,「理事長は,懲 には,特定の大学教員が懲戒審査の対象であることが知られることになるのであり,この点は,最終的に懲戒処分を下さない結論になる場合であっても 変わらない。懲戒手続規程15条には,「理事長は,懲戒処分を行った事案について公表することができる。」と定められているが,上記のとおり,懲戒対象者が所属する学部等の教授会構成員はこれを知り得る立場にいる以上,「公表」とはこれら関係者以外の者に表明することができるという意味に解すべきである。 したがって,A教授の発言は,懲戒審査に係る守秘義務に反するものではなく,また,原告が懲戒審査の対象になったことを教授会構成員に知られないということが法的保護に値する利益であるとはいえない。 なお,原告が,懲戒審査の対象となったことを本件教授会で最初に開示したのは,A教授ではなく,E教授である。すなわち,E教授は,「全学 的にきりがついた話である」旨を発言したが,全学的な判断としてきりをつけることができるのは懲戒審査委員会のほかに存在しない以上,上記発言により,原告が懲戒審査の対象となったことが教授会構成員に伝わったものである。 A教授の発言は,研究者である原告が,自己の「履歴・業績書」に記載 ミスをしたことが重大な過失に当たるとの自身の見解を述べたものにす ぎない。また,A教授は,E教授とのやり取りを経た上で,最終的な評価は出席者の判断に委ねる旨を述べており,原告の名誉を毀損し,貶める意図などなかった。 以上によれば,A教授の発言に守秘義務違反等はないとともに,その発言内容も昇任審査の場面において必要かつ相当なものであるから,A教授 の発言は,違法なものではなく,原告に対する不法行為を構成しない。 ⑶ 本件教授会に 守秘義務違反等はないとともに,その発言内容も昇任審査の場面において必要かつ相当なものであるから,A教授 の発言は,違法なものではなく,原告に対する不法行為を構成しない。 ⑶ 本件教授会におけるC学部長の議事進行に係る不法行為の成否(争点⑶)ア原告の主張 原告の教授への昇任審査においてなされたB准教授及びA教授の各発言は,原告にとって極めて不利な情報であった。とりわけ,原告の博士号 取得日について,原告が意図的に虚偽申請を行ったことを強く示唆するA教授の発言は,学者生命にも関わり得る重要な信用問題であった。その上,A教授は研究科長の立場であるなど,その発言の影響力は極めて大きかった。また,B准教授は,原告と同じ外国人教員であり,原告から推薦を受けて採用された者であったから,その発言は,原告からの反論がない中で 大きな影響力を有していた。 被告は,昇任手続上の公正配慮義務に基づき,大学内部の公正な手続を遵守しなければならず,かつ,労働者としての原告に対する労働人格権への配慮義務と,プライバシーに配慮して労働者の秘密情報を守る義務を負っている。 C学部長は,B准教授及びA教授により違法で影響力の大きい各発言がなされたのであるから,本件教授会の議長として,議決を急ぐのではなく,原告に対し,弁明の機会を付与すべきであり,かつそれが容易であったにもかかわらず,そのような措置をとることなく議論を打ち切り,上記各発言の不当な影響が残った状態のまま議決を行った。 C学部長の上記議事進行は,裁量権の逸脱・濫用に当たり違法であり, 原告に対する不法行為を構成する。 イ被告の主張 原告は,B准教授及びA教授の各発言が違法であることを前提 長の上記議事進行は,裁量権の逸脱・濫用に当たり違法であり, 原告に対する不法行為を構成する。 イ被告の主張 原告は,B准教授及びA教授の各発言が違法であることを前提に,C学部長の議事進行に裁量権の逸脱・濫用がある旨の主張をするが,前述のとおり,B准教授及びA教授の各発言はいずれも違法なものではない。 教授会における議事進行は学部長の裁量に委ねられているところ,C学部長は,B准教授の発言に対しては質問,意見を述べる者が出ず,A教授の発言に対しては,原告に理解を示す立場にあるE教授と,A教授との間で議論がなされ,最終的に出席者の判断次第である旨のA教授の発言により収束したのを見届けた上,さらに質問,意見を求め,それが尽きたとこ ろで投票に移行したものである。一般論としては,候補者にとって不利な発言があり,それを候補者本人や第三者に確認したり,調査をしたりする必要がある場合には,次回以降の教授会に議論を持ち越すなどの対応もあり得るが,本件教授会では,参加者から再調査を求める意見や,原告の同席を求める意見等も出ておらず,議論が出尽くした段階で投票に移ってい ることからすれば,C学部長の議事進行に裁量権の逸脱・濫用はない。 原告は,弁明の機会を付与すべきであった旨主張するが,候補者に対し,制度的に弁明の機会が保障されているものではなく,B准教授及びA教授の各発言が違法ではない本件の状況下において原告に弁明の機会を付与しなくとも,C学部長に裁量権の逸脱・濫用はない。 したがって,C学部長の議事進行は,原告に対する不法行為を構成しない。 ⑷ 救済措置を採らなかった被告の不作為についての不法行為又は雇用契約上の債務不履行の成否(争点⑷)ア したがって,C学部長の議事進行は,原告に対する不法行為を構成しない。 ⑷ 救済措置を採らなかった被告の不作為についての不法行為又は雇用契約上の債務不履行の成否(争点⑷)ア原告の主張 B准教授及びA教授の各発言並びにC学部長の議事進行はいずれも違法 であり,また,ハラスメント防止委員会において,B准教授及びA教授の各発言がハラスメントに当たるとの認定がされ,それに基づく勧告がされたことからすれば,被告としては,原告に対して適切な救済措置を講じるべきであり,少なくとも,再審議による再議決の機会を保障すべきであった。それにもかかわらず,甲学部は,上記勧告に対して反発し,原告に対する適切な 救済措置を何ら採らなかった。 被告の不作為は,原告に対する適切な救済措置を採る雇用契約上の配慮義務に違反しており,不法行為又は債務不履行に該当する。 イ被告の主張原告は,昇任審査の手続が違法であることを前提とするが,前述のとおり, B准教授及びA教授の各発言及びC学部長の議事進行にいずれも違法な点はなく,原告の主張はその前提を欠くものである。 上記の点を措くとしても,甲学部は,原告の申立てに係るハラスメント防止委員会の調査には全面的に協力しており,また,同委員会からの上記勧告を受けて,平成29年3月,甲学部の当時の学部長であったF教授は,A教 授及びB准教授に対し,それぞれ2回ずつ個別指導を行うなど適切に対応している。さらに,上記勧告においても,再審議による再議決を行うことまでは求められておらず,被告は,再審議による再議決を行う義務は負っていない。 以上によれば,被告の対応に何ら違法な点はなく,原告に対する不法行為 又は債 議による再議決を行うことまでは求められておらず,被告は,再審議による再議決を行う義務は負っていない。 以上によれば,被告の対応に何ら違法な点はなく,原告に対する不法行為 又は債務不履行には該当しない。 ⑸ 原告の期待権侵害の有無(争点⑸)ア原告の主張原告は昇任審査の研究業績要件と教育実績要件を満たしており,昇任審査委員会からの推薦も受けていた。過去に昇任審査委員会からの推薦を受けた 者で,昇任できなかった例はない。そうすると,本件教授会において,教育 及び学内行政に関する原告の人格的信用が毀損されなければ,これまでの例と同じく昇任できたはずである。 したがって,原告の教授昇任への期待は具体的なものであり,法的保護に値する。 イ被告の主張 否認ないし争う。 昇任審査委員会から推薦を受けたとしても,その後,教授会における審査で採否を決議するとされているのであり,当然に教授になれるものではない。 そうすると,原告の教授昇任への期待は事実上のものにすぎず,法的保護に値するものではない。 したがって,原告の期待権侵害もない。 ⑹ 原告に生じた損害及び損害との因果関係(争点⑹)ア原告の主張 前述のとおり,原告は,昇任審査の研究業績要件と教育実績要件を満たしていたから,B准教授及びA教授の各発言がなければ,過去の事例に照 らして昇任決議が可決された蓋然性は高く,また,上記各発言があっても,その後弁明の機会の付与等適切な措置がとられていれば,やはり昇任決議が可決された蓋然性は高いことからすれば,上記各不法行為又は債務不履行と原告が教授に昇任できずに被った損害との間には因果関係がある。 後弁明の機会の付与等適切な措置がとられていれば,やはり昇任決議が可決された蓋然性は高いことからすれば,上記各不法行為又は債務不履行と原告が教授に昇任できずに被った損害との間には因果関係がある。 原告は,上記各不法行為又は債務不履行により教授に昇任することがで きず,以下のとおり,合計1億0142万円損害を被った。原告は,被告に対し,その一部として7000万円を請求する。 a 逸失利益 7500万円原告は,上記各不法行為又は債務不履行がなければ,平成28年度から5年間教授職に就くことができたところ,教授職の給与は少なくとも 年額1500万円であるから,合計7500万円(年額1500万円× 5年)の給与相当額の損害を被った。 b 研究費その他手当 720万円原告は,教授職に就任した場合に支給される次の手当等を得られなかった。 ① 研究費 180万円(年額36万円×5年) ② 住居費 90万円(月額1万5000円×12か月×5年)③ 退職金差額 450万円c 慰謝料 1000万円原告は,上記各不法行為又は債務不履行により,学内において学者として致命的な評価を受けることとなったが,被告による救済措置も一切 採られずに,多大な精神的苦痛を受け続けており,その慰謝料額は1000万円を下らない。 d 弁護士費用 922万円弁護士費用は,上記aないしcの合計9220万円の10パーセント相当額が認められるべきである。 e 合計 1億0142万円イ被告の主張 原告の昇任審査の投票に至る過程において,C学部長は,出席者に対して質疑応答の機会を設け,A教授の発言 きである。 e 合計 1億0142万円イ被告の主張 原告の昇任審査の投票に至る過程において,C学部長は,出席者に対して質疑応答の機会を設け,A教授の発言についても一定のやり取りがされて議論が尽きた段階で投票を行ったから,A教授の発言が出席者の投票行 動に不適切な影響を与えたとはいえない。また,B准教授の発言についても,出席者から質問等は出ず,出席者はその内容を冷静に判断して投票に臨んでおり,B准教授の発言が出席者の投票行動に有意な影響を与えたとは考え難い。本件教授会における投票結果は,出席者がこれまでの原告の行動等をもとに原告の研究実績,学内行政能力等について判断した結果で あり,上記各発言等と原告の教授昇任が認められなかったこととの間に因 果関係はない。 原告が主張する損害については,否認ないし争う。 本件教授会における昇任審査の投票結果の当否については,教授会ないし大学内部の人事問題として,大学内部の自主的,自律的な解決に委ねるべき事柄であり,法律上の争訟に該当しない。法律上の争訟性を欠く事項 の当否を前提として,それと損害との相当因果関係を主張している点については,認められないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,証拠(甲2ないし4,6ないし12,16ないし18, 21ないし23,28ないし34,36ないし51,53,57,58,60,66,67,70,71,乙1,4,8,9,18ないし20,27,28,30ないし32〔いずれも枝番を含む。〕,証人D元教授,証人G,証人C学部長,証人A教授,原告本人〔ただし,いずれも以下の認定に反する部分は除く。〕)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実 7,28,30ないし32〔いずれも枝番を含む。〕,証人D元教授,証人G,証人C学部長,証人A教授,原告本人〔ただし,いずれも以下の認定に反する部分は除く。〕)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ 本件教授会に至る経緯についてア C学部長は,平成26年7月20日,原告に対し,教授への昇任を希望するか否かを確認した上で,希望する場合は過去6年間の業績を教えてほしい旨のメールを送信したところ,原告は,同月21日,C学部長に対し,同年の昇任を希望する旨のメールを返信した(甲28,29)。 イレスター大学の担当者は,同年8月13日,原告に対し,博士号のawardを祝福した上で,原告の博士論文に対するエンバルゴの措置については,ライブラリーに製本したものを提出した日に発効すること,平成27年1月までに博士論文を提出する必要があることなどを記載したメールを送信した(甲57)。 ウ原告は,平成26年8月28日,C学部長に対し,原告の履歴書を添付し たメールを送信した。同履歴書の2011年(平成23年)6月の欄には,イギリスのレスター大学の博士課程を修了したこと及び原告の博士論文の題名が記載されていた(甲30)。 エ平成26年9月1日,レスター大学は,原告に対し,社会科学の博士号をawardした(甲58)。 オ原告は,同月2日,C学部長と会い,教授への昇任に係る事項や原告が博士号を取得していることなどについて話をした。 カ C学部長は,同月7日,原告に対し,原告の業績リストをチェックした結果,原告を教授に推薦することを決定したこと,原告の業績は形式的・量的には教授に推薦するに十分であるが,審査委員会や教授会が昇任を認めるに 十分かは分からないこ 告の業績リストをチェックした結果,原告を教授に推薦することを決定したこと,原告の業績は形式的・量的には教授に推薦するに十分であるが,審査委員会や教授会が昇任を認めるに 十分かは分からないこと,そこで昇任をより確実にするために,もう少し書面やプレゼンを追加して,次の年度での昇任に申し込んだほうが良いと思うこと,これらの点を考慮して,今年申し込むか否かを決定してほしいことなどを記載したメールを送信した(甲31)。 キ原告は,同月29日,C学部長に対し,原告の学位,勤続年数,研究上の 業績等を記載した業績一覧表及び履歴書の各修正版を添付したメールを送信した。同履歴書の2011年(平成23年)6月の欄には,イギリスのレスター大学の博士課程を修了したこと及び原告の博士論文の題名が記載されていた(甲32,33)。 ク立命館大学の事務担当者であるHは,平成26年10月30日,原告に対 し,添付した履歴・業績書の書式を利用して情報の記載を依頼する旨のメールを送信した。同書式の学位の欄には,「博士/修士(○○学,○○大学)****年**月取得」と記載されていた(甲3,4)。 ケ原告は,同年11月3日,Hに対し,Hが送付した書式のことで質問があること,現時点で完成しているものを送付し,抜けている情報の追加や日本 語の誤記の訂正のため,Hに会うことの可否を尋ねるメールを送信した(甲 6)。 コ原告は,同月5日,Hに対し,業績一覧表及び履歴・業績書を送付した。 同履歴・業績書の学位の欄には,「博士社会科学(SocialScience,UniversityofLeicesterUK)2011年06月取得」と記載されていた(甲34,乙4)。 サレスター大学の学生登録及び学務運営 学(SocialScience,UniversityofLeicesterUK)2011年06月取得」と記載されていた(甲34,乙4)。 サレスター大学の学生登録及び学務運営課は,平成26年11月20日,原告に対し,社会科学博士の学位を授与したことなどを記載した証明書を発行した(甲7)。 シ原告は,同月24日,E教授に対し,原告の社会科学博士号の実際の学位・証明書が必要であると聞いたが,今年中に提出することは難しいこと,来年 であれば対応できることなどを記載したメールを送信した(甲67)。 ス原告は,同月25日,E教授に対し,原告が同席して個人情報の開示の許可を与えた上で,レスター大学に,原告の博士号について電話で問い合わせる方法を提案するメールを送信した。これに対し,E教授は,同日,原告に対し,C学部長からの伝言として,同月26日に予定されていた原告の昇任 の提案及び投票は延期になったこと,執行部は,原告が博士号を受け取ったことを確認するために,レスター大学に正式な質問状を送付する予定であることなどを記載したメールを送信した(甲36,37)。 セ D元教授は,同月26日,原告に対し,E教授の考えとして,証明書には,博士号がconferされた時期,博士号がconferされた分野,博士 論文のタイトルなどが記載されることが必要と考えていることなどを記載したメールを送信した(甲38)。 ソレスター大学の博士号プログラム副部長は,同月27日,C学部長宛てに,原告がレスター大学から社会科学博士号を授与されたこと及び原告の博士論文のタイトルが記載された証明書を発行し,また,レスター大学の学生登 録及び学務運営課は,同月28日,上記と同内容の証明書を発行した(甲8, 科学博士号を授与されたこと及び原告の博士論文のタイトルが記載された証明書を発行し,また,レスター大学の学生登 録及び学務運営課は,同月28日,上記と同内容の証明書を発行した(甲8, 9)。 タ原告は,同月30日,C学部長,E教授及びD元教授に対し,上記2通の証明書を添付したメールを送信した(甲39,40)。 チ C学部長は,同年12月4日,原告に対し,原告から送付された上記2通の証明書では,学位記の正式な証明とみなすことはできないこと,学位記そ のものの写し等が必要であることなどを記載したメールを送信した。原告は,同月7日,C学部長及び関係者に対し,原告の博士号のawardを証明する公式な証明書については,レスター大学から発行され,既に提出済みであること,他の解決策を検討してほしいことなどを記載したメールを送信した。 C学部長は,同日,原告に対し,学位記そのもの,あるいはその写しを持参 する方法が最善である旨のメールを返信した(以上につき,甲41ないし43)。 ツ A教授は,同月9日,原告に対し,原告の博士号について,不必要な疑いを生じさせないために,学位記を提出すべき旨のメールを送信したところ,原告は,同月15日,A教授並びにE教授及びC学部長等の関係者に対し, 学位記を得るにはイギリスに行かなくてはならないこと,また,エンバルゴについての説明文書を添付した上で,原告が博士号を取得したことについて,原告が送付した証明書で証明できていることなどを記載したメールを返信した(甲44ないし46)。 テ C学部長は,同月23日,原告に対し,学位記のコピー,あるいは,学位 記の公式な証明書が提出されない限り,原告の昇任を決定することはできないこと,立命館大学の正式な学位記の証明書を添 テ C学部長は,同月23日,原告に対し,学位記のコピー,あるいは,学位 記の公式な証明書が提出されない限り,原告の昇任を決定することはできないこと,立命館大学の正式な学位記の証明書を添付したので参考にしてほしいこと,平成27年2月5日までに,学位記のコピーの提出等がなされる必要があることなどを記載したメールを送信した(甲47)。 トレスター大学は,平成27年1月13日,原告が平成26年9月1日にレ スター大学から社会科学の博士号を授与されたこと,博士課程修了のために 必要な要件を全て充足したことのほか,原告の博士論文のタイトルを記載した証明書を発行した(甲10)。 ナレスター大学は,平成27年1月22日,原告が同日に社会科学博士の学位を認められたことを証明する旨を記載した学位記を発行した(甲11)。 ニ C学部長及びA教授は,同月27日,原告に対し,原告の昇任に関して, 原告の学位記(コピーではないもの)及び博士論文のハードコピーの各提出を,最終期限として同年2月9日までに求めることなどを記載した文書を送付した(甲48)。 ヌ A教授は,同年1月29日,原告に対し,原告の博士論文のオリジナル性を審査するのに最低でも1週間は必要であること,原告が当初平成23年に 学位を取得したとしていたのに,現在は博士号を平成26年9月に取得したとしているために問題が生じており,この食い違いは意図的でないなら重大な間違いで,確認が必要であることなどを記載したメールを送信した(甲49)。 ネ A教授からの問合せに対し,レスター大学の担当者は,平成27年2月4 日,原告への社会科学博士号のawardは,2014年(平成26年)9月1日になされたこと,学位記の発行はawardとconf 教授からの問合せに対し,レスター大学の担当者は,平成27年2月4 日,原告への社会科学博士号のawardは,2014年(平成26年)9月1日になされたこと,学位記の発行はawardとconferralの2段階で行われること,その他の質問にはイギリス法により情報を開示できないことなどを回答した(甲50)。 ノ原告は,平成27年2月6日,A教授に対し,原告の学位に関し,様々な ことを要求されたこと,要求に応えてもさらに別の要求がなされたこと,A教授等の立命館大学の関係者から,レスター大学に不躾な要求がなされたことなどについて不満や抗議等を記載したメールを送信した(甲70)。 ハ C学部長は,同月12日,原告に対し,原告の博士号について,2014年(平成26年)9月1日にawardされ,2015年(平成27年)1 月22日にconferされたと確認できたこと,過去の例に基づいて,原 告の博士号取得日は2015年(平成27年)1月22日であると考えること,原告が記載した2011年(平成23年)6月の博士号取得を前提に昇任審査手続を開始したが,事実と異なるので昇任審査手続は中止すること,上記記載は懲戒処分の指針となる立命館大学の規則上,虚偽記載に該当し得るので,総務担当の常務理事に報告し,虚偽記載に当たるか否かにつき大学 レベルの調査を開始することを依頼したことなどを記載したメールを送信した(甲51)。 ヒ C学部長は,平成27年2月13日に開催された甲学部の教授会において,原告の昇任人事について,経歴の点で不明確な点があり,今年度の昇任については見送ることとしたい旨の説明・提案をし,そのような取扱いにつき承 認を得た(乙32)。 フ C学部長は,同月23日,総務担当常務理事に対し, の点で不明確な点があり,今年度の昇任については見送ることとしたい旨の説明・提案をし,そのような取扱いにつき承 認を得た(乙32)。 フ C学部長は,同月23日,総務担当常務理事に対し,原告の博士号取得に関して,上記ハの問題があり,原告の申告が虚偽報告に当たる可能性もあることから,懲戒に値するものか否かについて審査することなどを要望した(乙28)。 ヘ上記要望を受けて,常任理事会のもとに懲戒審査委員会が設置され,審査が行われた。審査の結果,懲戒審査委員会は,同年7月,原告より申告のあった学位取得の日に誤りがあるとはいえ,これが意図的な虚偽によるものと断定することはできないため,懲戒には当たらないとの判断を下した(乙27)。 ホ原告が加入した大阪教育合同労働組合は,同年9月18日,被告の理事長宛てに,原告の履歴書の記載ミスについて,故意による虚偽記載でないことが明らかになったことを関係者に報告しているか否か,報告していないのであれば,事実に基づいた報告を行い,昇任人事が公平に判断される環境を整えることを要求したところ,被告は,同年10月9日,上記事項等について 教授会に報告していないこと,原告が教授会での報告を望むのであれば,直 近の教授会において,懲戒審査委員会の設置から判断に至った経過を学部長から報告する旨の回答をした(甲53,乙18)。 なお,この間の同月6日,甲学部の教授会で昇任審査委員会が設置され,原告が教授昇任の候補者となった。 マ原告は,原告の博士号に係る上記経緯について,正確なことを知ってほし いと思う一方で,知らない人は知らないままでいてほしいなどの気持ちもあり,教授会での報告を希望するか否かについて悩んだが,悩んだ末に教授会での報告を希望しないこ ついて,正確なことを知ってほし いと思う一方で,知らない人は知らないままでいてほしいなどの気持ちもあり,教授会での報告を希望するか否かについて悩んだが,悩んだ末に教授会での報告を希望しないこととし,上記労働組合は,同年11月9日,被告に対し,教授会での報告は希望しない旨を伝えた。 ミ C学部長は,同月10日に開催予定の本件教授会において,原告の懲戒審 査に係る経緯や結果について報告する準備を進めていたが,原告の上記マの希望を受けて,報告しないことにした。C学部長は,執行部会議において,原告が懲戒審査にかかったという話をしない旨を執行部のメンバーに伝えた。A教授は,原告が懲戒審査の対象となったこと及び審査の結果懲戒しないという結論になったことを認識していたところ,A教授は,C学部長から 上記のような説明を受け,上記の話をしない方針であることを認識し,また,教授会においてもそのような話をしないものと認識していた。 ⑵ 本件教授会について(乙1,9)ア平成27年11月10日の本件教授会において,教授昇任審査に当たり,C学部長から,慣例的に昇任候補者には教授会を一時退席してもらっている 旨の紹介があり,原告を含む3名の候補者は一時退席した。 原告の教授昇任審査について,まず,C学部長は,昨年度の昇任審査では博士号の取得時期が確認できなかったため保留としたが,それが確認できたため,改めて昇任審査の対象とした旨の経緯の説明をした。 イその後,原告の昇任審査委員会の委員長であるE教授は,各教授に配布さ れた審査報告書(乙8)に基づいて,研究業績,学部教育における貢献等に ついて説明した上で,原告の教授昇任を是非推薦したい旨を述べた。続いて,上記審査委員会の委員であるI教授は,原告が機構 れた審査報告書(乙8)に基づいて,研究業績,学部教育における貢献等に ついて説明した上で,原告の教授昇任を是非推薦したい旨を述べた。続いて,上記審査委員会の委員であるI教授は,原告が機構の改善等にも直接貢献してきたことなどの説明をし,是非教授に昇任されるべき人物である旨を述べ,同委員のJ教授も,原告が研究業績上も貢献していて,全く問題ない旨を述べた。 ウその後,C学部長から,以上の報告を踏まえて意見や質問がある者の発言を促したところ,前記前提事実⑹のとおり,B准教授及びA教授からの各発言等があった。 エ最後に投票に移ったが,本件教授会には原告の昇任審査の決議の時点で36名が出席しており,昇任にはその3分の2以上である24名の賛成が必要 であったところ,投票結果は,可12票,否15票,白票9票,無効票0票であり,原告の教授昇任は否決された。 ⑶ 本件教授会後の経過についてア原告は,平成28年6月8日,本件教授会におけるA教授及びB准教授の各発言のほか,両名の複数の行為がハラスメントに該当するとして調査を申 し立てたところ,ハラスメント防止委員会が設置され,調査が開始された。 イハラスメント防止委員会は,原告,A教授及びB准教授のほか,6名の人物からヒアリングを行った上で,報告書(甲12)を作成した。報告書において,本件教授会におけるB准教授の発言は,①教授会参加者にとって初めて聞く内容であり,発言の真偽を確認する手立てがない点,②原告 は一時退席していたため,上記発言に対して弁明や反論ができない場であった点,③学部執行部やハラスメント相談員への相談などの手段を採らず,昇任審査の教授会でのいきなりの発言であった点などを考慮すると,ハラスメントに該当すると判断された。また, や反論ができない場であった点,③学部執行部やハラスメント相談員への相談などの手段を採らず,昇任審査の教授会でのいきなりの発言であった点などを考慮すると,ハラスメントに該当すると判断された。また,A教授の発言は,①懲戒審査委員会の調査結果において既に結論が出された内容であったにもかかわら ず,調査結果に疑問を呈する個人的な発言であった点,②教授会参加者は 懲戒審査委員会の調査結果の具体的報告を受けておらず,発言の真偽を確認する手立てがない点,③A教授は研究科長で執行部の一員であることから,教授会参加者はその内容に重みを感じざるを得ない点,④A教授は,原告が懲戒審査委員会の調査結果について教授会での報告を希望しなかったことを知り得たはずなのに,その希望に反して発言した点,⑤原告は 一時退席していたため,上記発言に対して弁明や反論ができない場であった点などを考慮すると,ハラスメントに該当すると判断された。 B准教授の行為に係る第三者に対するヒアリング調査において,以下のとおりの意見があった(甲12)。 a 乙グループの会議では,B准教授は非協力的な態度をとっていた。 時々,攻撃的な態度や敵対的な態度をとっていたこともあった。例えば,上を見上げたり,首を振ったりして,原告を尊重しないような態度をとっていた。 bB准教授が原告に対し,放送禁止用語のような言葉を使うことは一切なかった。ただ話し方がもともときついところがあった。B准教授の敵 対的な態度は去年1年一貫していた。 c 原告はB准教授に「リストを記入してください」ということを依頼していたが,何度か依頼しないとB准教授はリストを記入しようとはしなかったと思う。何度も何度も言ってもやらないので,その場の雰囲気が悪くなったのを覚えている。原告は先輩 てください」ということを依頼していたが,何度か依頼しないとB准教授はリストを記入しようとはしなかったと思う。何度も何度も言ってもやらないので,その場の雰囲気が悪くなったのを覚えている。原告は先輩としてやるべきことを説明して という形であったが,B准教授は非協力的で敵対的な態度をとっていたと記憶している。B准教授はもしかすると,それをわざと嫌がらせではないが,理由もなく往復させられていると思っていたのではないかと感じた。 ウハラスメント防止委員会の委員長は,平成29年3月3日,立命館大学の 学長であるK学長に対し,学長から,甲学部の学部長に対して,A教授及び B准教授に対する指導を行うよう要請すること,学長から,甲学部の学部長に対して,ハラスメントが生じた背景と原因の検討を行い,二度とハラスメント行為を生じさせないための防止策の策定や学部の運営体制の改善を図り,その結果を学長に報告するよう要請する旨の勧告をした(乙19)。 上記勧告を受けて,当時の甲学部の学部長であったF教授は,同月,A教 授及びB准教授に対し,それぞれ2回ずつ個別指導を行うなどの対応を行った(甲22)。 エ原告は,同月6日,K学長に対し,原告がハラスメントに該当するとされた上記A教授及びB准教授の各発言により,多大な被害を被っており,その被害回復措置として,教授への昇任等を要求することなどを記載した書面を 送付した(甲16)。 オ F教授は,同月14日頃,ハラスメント防止委員会の委員長に対し,上記勧告は本件教授会における原告の昇任否決の決定に異を唱えるものではないという理解でよいか確認を求めたところ,ハラスメント防止委員会の決定は原告の昇任に関する教授会の決定を変更するものではないなどの回答が なされた(甲18, 任否決の決定に異を唱えるものではないという理解でよいか確認を求めたところ,ハラスメント防止委員会の決定は原告の昇任に関する教授会の決定を変更するものではないなどの回答が なされた(甲18,乙20)。 カ原告は,同月31日,F教授に対し,「新規」雇用の契約書に署名するつもりはないこと,ハラスメントへの公平かつ適切な是正措置を求めることなどを記載したメールを送信した(甲17)。 キ原告は,同日をもって,定年により立命館大学を退職した。 ク F教授は,同年4月3日,原告に対し,ハラスメント防止委員会の決定は,原告の昇任に関する本件教授会の決定を変更するものではないことなどを記載したメールを送信した(甲18)。 2 争点⑴(本件教授会におけるB准教授の発言による不法行為の成否)について⑴ 原告は,本件教授会におけるB准教授の発言は,原告不在の場という状況的 な優位性を利用して,原告に対する人格的信用を意図的に貶めるハラスメント であって,意見や論評としての許容度を超えて原告の名誉を毀損するものであると主張する。 そこで,B准教授の発言が,名誉毀損として原告に対する不法行為を構成するかについて検討する。 大学における教授の新規採用,教授への昇任等の人事に係る判断は,教育上 や研究上の実績等の評価を含めて総合的にされるものであり,実質的には,一定程度教授会の判断に委ねられている部分があると解される(学校教育法92条6項,93条1ないし3項参照)。立命館大学甲学部においても,立命館大学教員任用・昇任規程により,教授会が教授への昇任について投票によって採否を決議し,学部長又は研究科長より学長にこれを報告することとされている (前記前提事実ないし)。そして,教授会において,教授への昇任審 程により,教授会が教授への昇任について投票によって採否を決議し,学部長又は研究科長より学長にこれを報告することとされている (前記前提事実ないし)。そして,教授会において,教授への昇任審査に係る判断をするに当たっては,候補者の研究上の実績のほか,教育上の能力や学内行政能力等,その教授としての適格性について,教授会構成員である教授間において,十分な情報が共有され,自由に議論されることが,適切な意思決定のためには必要であるといえる。したがって,昇任審査の教授会の場におい て,教授会構成員が,候補者の教授への昇任に反対の意見を述べたり,候補者が教授として不適格であることを示す情報を提供したりしたとしても,それらの発言が直ちに違法と評価されるものではない。 もっとも,昇任審査の教授会の場における教授会構成員の発言であっても,名誉など他の法益を違法に侵害するものであった場合には,不法行為が成立し 得るというべきである。 本件についてみると,本件教授会におけるB准教授の発言内容は,前記前提事実⑹アのとおりである。 ア原告は,B准教授の上記発言は,①原告が甲学部の方針に沿わない考え方を持っていること,②原告がD元教授が受けたハラスメント問題について引 き続き追及されるべきと考えていること,③B准教授が原告から多数回ハラ スメントを受けていたことを内容とするものであると主張するところ,前記前提事実アによれば,B准教授の発言は,①及び②の内容を含むほか,③B准教授が原告からパワーハラスメントを受けたことを内容とするものであることが認められる。 イこのうち①及び②の発言内容については,原告に対する社会的評価を低下 させるものであると直ちに認めることは困難である。 ウ一方で,③の発言内容につ 容とするものであることが認められる。 イこのうち①及び②の発言内容については,原告に対する社会的評価を低下 させるものであると直ちに認めることは困難である。 ウ一方で,③の発言内容については,原告がB准教授にパワーハラスメントを行ったとの事実を摘示し,その印象を教授会構成員に与えるものということができるから,その内容の性質上,原告に対する社会的評価を低下させ得るものであるといえる。 しかしながら,名誉毀損による不法行為が成立するためには,公然性,すなわち当該事実摘示等が第三者へ伝播する可能性が必要であると解される。 しかるに,前記前提事実ウのとおり,本件教授会には原告の昇任審査の決議の時点で36名という必ずしも少人数とはいえない教授が出席していたものの,教授会における人事に係る議論については守秘性が要求されるべき ものであること,B准教授は冒頭で守秘義務があることを述べるなど,第三者に伝播させる意図は有しておらず,教授会構成員に対しても守秘義務を認識させていること(前記前提事実ア),本件教授会の議事録にもB准教授の上記発言内容は記載されていないこと(乙9)などからすれば,本件教授会での審議内容の詳細が外部に流出することは想定されておらず,B准教授 の上記発言について,教授会構成員以外の者への伝播可能性はなかったというべきである。 したがって,B准教授の発言については,公然性がないから,その余の点について検討するまでもなく,名誉毀損の不法行為は成立しない。 エもっとも,原告のいう「人格的信用」の毀損は,必ずしも公然性を前提と しない,本件教授会の昇任審査の場に出席していた教授会構成員という限定 された範囲内における信用をも問題とするものであると解されるので,次に,B准教授の は,必ずしも公然性を前提と しない,本件教授会の昇任審査の場に出席していた教授会構成員という限定 された範囲内における信用をも問題とするものであると解されるので,次に,B准教授の上記発言の違法性についても検討する。 ハラスメント防止委員会の報告書(甲12)でも指摘のあったとおり,B准教授は,原告によるパワーハラスメントの問題について,ハラスメント相談員への相談等も経ることなく本件教授会でいきなり持ち出したものであ り,教授会構成員にとってその真偽を確認することが困難であったこと(前記認定事実イ)などからすれば,その発言に適切であるとは言い難い部分があったことは否定できない。 しかしながら,上記で述べたとおり,昇任審査の教授会の場においては,候補者の教授としての適格性について自由に議論されることが想定されて いるところ,B准教授の発言内容自体は原告の教授としての適格性を判断する上で関連性を有しないものではなく,その発言に至る経緯(前記認定事実)やその発言内容の文脈(前記前提事実ア)に照らしても,B准教授は,原告によるパワーハラスメントの問題が「同僚性」という点で原告の教授としての適格性に関わると考え,注意喚起したものと認められるのであって, B准教授が過去に乙グループの会議等において原告に対して非協力的で敵対的な態度をとっていたことがあること(前記認定事実⑶イ)を考慮しても,B准教授が原告の主張するような不当な目的のために上記発言をしたとまでは認められない。また,B准教授の上記発言は,「原告からパワーハラスメントを受けた」との抽象的な表現にとどまっており,具体的な事実関係 にまでは言及していないし,自身はそのように認識しているとの自らの受止めを述べたものであるといえる。 以上のよう ーハラスメントを受けた」との抽象的な表現にとどまっており,具体的な事実関係 にまでは言及していないし,自身はそのように認識しているとの自らの受止めを述べたものであるといえる。 以上のような,上記発言に至った経緯及び発言の目的,発言内容及び発言の際の状況等の事情を総合考慮すると,B准教授の上記発言について,不法行為を構成するほどの違法性を有するということはできないというべきで ある。 以上によれば,B准教授の発言は,適切とは言い難い部分があったことは否定できないものの,名誉毀損(又は原告のいう人格的信用毀損)として原告に対する不法行為を構成すると認めることはできない。 3 争点⑵(本件教授会におけるA教授の発言による不法行為の成否)について⑴ 原告は,原告の同意がないにもかかわらず,A教授が,本件教授会において, 原告が懲戒審査にかけられた事実に係る発言をしたことは,執行部(少なくとも学部長)の方針及び懲戒審査についての守秘義務に反し,原告のプライバシーを侵害するものであり,また,原告の博士号の取得日について,原告が意図的に虚偽申請をしたことを強く示唆する発言をしたことは,原告の人格的信用を毀損するものであると主張する。 そこで,A教授の発言が,プライバシー侵害又は名誉毀損として原告に対する不法行為を構成するかについて検討する。 ⑵ プライバシー侵害による不法行為の成否についてア本件教授会におけるA教授の発言内容は,前記前提事実イのとおりであり,同事実によれば,A教授は,原告の博士号取得時期について,原告が昇 任審査のために提出した書面では平成23年と記載されていたのに,最終的には平成27年1月に学位を取得したことが判明した旨を述べた上で,この博士号取得時期の齟齬 士号取得時期について,原告が昇 任審査のために提出した書面では平成23年と記載されていたのに,最終的には平成27年1月に学位を取得したことが判明した旨を述べた上で,この博士号取得時期の齟齬に関して,原告が懲戒審査の対象となった事実に言及したことが認められる。 イ懲戒審査の対象となったとの情報は,他人にみだりに知られたくない原告 のプライバシーに属する情報であるというべきである。 もっとも,A教授の発言について,プライバシーを侵害する内容を含むものであるとしても,不法行為が成立するか否かは,その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し,前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するものと解される。 ウそこで検討するに,懲戒手続規程15条には,理事長は懲戒処分を行った 事案について公表することができると規定されており(乙23),懲戒処分を行わなかった事案について公表することは予定されていない。また,前記認定事実⑴ヘないしミによれば,上記博士号の取得時期の齟齬については,懲戒審査委員会による審査の結果,意図的な虚偽によるものと断定することはできないため,懲戒には当たらないとの判断がされたこと,原告は,本件 教授会に先立ち,被告に対し,懲戒審査の経緯について教授会での報告を希望しない旨を伝えたこと,A教授は,原告の懲戒審査の結果懲戒しないとの結論になったことに加えて,少なくともC学部長が本件教授会において原告の懲戒審査に関して言及しない方針であったことを認識していたことが認められる(なお,原告の上記希望についてA教授が認識していたことを認め るに足りる証拠はない。)。本件教授会は,原告の教授への昇任審査の場であるところ,A教授が研究科長という学部長に次ぐ地位にあったこと(前 ,原告の上記希望についてA教授が認識していたことを認め るに足りる証拠はない。)。本件教授会は,原告の教授への昇任審査の場であるところ,A教授が研究科長という学部長に次ぐ地位にあったこと(前記前提事実ウ)も併せ鑑みれば,A教授が,原告が懲戒審査の対象となったことに言及すれば,教授会構成員の判断に影響を与える可能性は否定できなかったといえる。そうすると,原告にとって懲戒審査の対象となった事実を 公表されない法的利益は相応に大きい。 一方で,A教授の発言内容からすれば,A教授は,原告の教授への昇任審査に当たり,博士号の取得時期の齟齬の点が,原告の教授としての適格性に対して躊躇を感じさせる出来事であり,これを教授会構成員の間で情報共有すべきであると考えて発言したことが窺われるところ,適格性に関連する情 報を共有するとの目的そのものは不当なものであるとは言い難い。また,上記情報が伝達される範囲は,昇任審査の場に出席していた教授会構成員に限定される上,前記前提事実イによれば,A教授は,懲戒審査の点に言及した後,E教授からここではやめようと言われて,もう皆さんの判断次第であるとして,それ以上の発言は控えていることが認められる。もっとも,A教 授が,本件教授会において原告の懲戒審査に関して言及しないとのC学部長 の方針を認識していながら,あえて当該事実に言及しなければならなかった必然性までは見出し難い。 以上の諸事情に照らすと,原告のプライバシー情報に係る上記事実を公表されない法的利益が,これを公表する理由に優越するというべきである。 エこれに対し,被告は,原告が懲戒審査の対象になったことは,教授会構成 員にとって容易に推測可能な事項であったから,これが開示されても違法ではない旨主張する。 るというべきである。 エこれに対し,被告は,原告が懲戒審査の対象になったことは,教授会構成 員にとって容易に推測可能な事項であったから,これが開示されても違法ではない旨主張する。 しかしながら,確かに懲戒手続規程7条によれば,懲戒審査委員会が懲戒処分案の答申をする前提として,対象教員の所属する学部の教授会が審議をすることになっており(乙23),その場合には教授会構成員に,対象教員 が懲戒審査の対象となった事実が知られることになるが,原告については,懲戒審査委員会の段階で懲戒処分を下さないとの結論に達したため,処分案の答申もなされず,教授会の審議を経るには至っていないのであって(弁論の全趣旨),本件教授会に出席していた教授会構成員にとって,原告が懲戒審査の対象になったことが既に知られた事実であったとはいえないから,こ れを公表されない法的利益は認められるべきであり,被告の上記主張は採用できない。 オ以上によれば,A教授の発言は,原告のプライバシーを侵害するものとして不法行為が成立する。 名誉毀損による不法行為の成否について ア原告は,A教授が,原告の博士号の取得日について,原告が意図的に虚偽申請をしたことを強く示唆する発言をしたことは,原告の人格的信用を毀損するものであると主張する。 そこで検討するに,本件教授会におけるA教授の発言内容は,前記前提事実イのとおりであり,同事実によれば,A教授の発言は,原告の博士号取 得時期について,原告が昇任審査のために提出した書面では平成23年と記 載されていたのに,最終的には平成27年1月に学位を取得したことが判明したとの事実を基礎として,学位の取得時期を記載ミスするのはあり得ない行為だと思っている旨の意見を表明するも 3年と記 載されていたのに,最終的には平成27年1月に学位を取得したことが判明したとの事実を基礎として,学位の取得時期を記載ミスするのはあり得ない行為だと思っている旨の意見を表明するものであり,原告が単なる記載ミスではなく客観的事実に反する内容の書面を昇任審査のために提出したとの印象を与えるもので,原告に対する社会的評価を低下させ得るものである。 しかしながら,前記2ウで判示したとおり,名誉毀損による不法行為が成立するためには,公然性,すなわち当該事実摘示等が第三者へ伝播する可能性が必要であると解される。しかるに,前記前提事実ウのとおり,本件教授会には原告の昇任審査の決議の時点で36名という必ずしも少人数とはいえない教授が出席していたものの,教授会における人事に係る議論につ いては守秘性が要求されるべきものであること,本件教授会の議事録にもA教授の上記発言内容は記載されていないこと(乙9)などからすれば,本件教授会での審議内容の詳細が外部に流出することは想定されておらず,A教授の上記発言について,教授会構成員以外の者への伝播可能性はなかったというべきである。 したがって,A教授の発言については,公然性がないから,その余の点について検討するまでもなく,名誉毀損の不法行為は成立しない。 イもっとも,前記2エで述べたとおり,原告のいう「人格的信用」の毀損は,必ずしも公然性を前提としない本件教授会の昇任審査の場に出席していた教授会構成員という限定された範囲内における信用をも問題とするもの であると解されるので,次に,A教授の発言の上記信用毀損としての違法性についても検討する。 A教授の上記発言は,原告が提出した書面と最終的に判明した博士号取得の時期が齟齬することに関して,単なる記載ミス と解されるので,次に,A教授の発言の上記信用毀損としての違法性についても検討する。 A教授の上記発言は,原告が提出した書面と最終的に判明した博士号取得の時期が齟齬することに関して,単なる記載ミスにとどまらない旨を指摘するものであるが,前記認定事実⑴ウ,コ及びトによれば,原告が提出した履 歴・業績書の博士号取得時期に係る記載と,実際に原告が社会科学の博士号 をaward及びconferされた時期が異なることが認められ,その限りにおいては発言の前提となった事実は真実であるといえる。そして,その意見を表明する部分の表現は強く,教授会構成員にとってその真偽を確認することが困難であったこと(前記認定事実イ)などに照らし,適切であるとは言い難い面があることは否定できないものの,意図的な虚偽申請であ る旨を明示的に述べたわけではなく,原告に対する人格攻撃に及んでいるものとまでは認められない。また,上記で判示したとおり,A教授は,原告の教授への昇任審査に当たり,博士号の取得時期の齟齬の点が,原告の教授としての適格性に対して躊躇を感じさせる出来事であり,これを教授会構成員の間で情報共有すべきであると考えて発言したことが窺われるところ,適 格性に関連する情報を共有するとの目的そのものは不当なものであるとは言い難い。 そうすると,A教授の発言は,その内容に適切であるとは言い難い部分があるものの,意見ないし論評としての域を逸脱はしておらず,違法であるとまでは認められない。 ⑷ 以上によれば,A教授の発言は,名誉毀損(又は原告のいう人格的信用毀損)として不法行為になるとは認められないが,原告のプライバシーを侵害するものとして,原告に対する不法行為を構成するというべきである。 4 争点⑶(本件教授会におけるC学部 は原告のいう人格的信用毀損)として不法行為になるとは認められないが,原告のプライバシーを侵害するものとして,原告に対する不法行為を構成するというべきである。 4 争点⑶(本件教授会におけるC学部長の議事進行に係る不法行為の成否)について 原告は,本件教授会の議長であるC学部長が,B准教授及びA教授により違法な各発言がなされたのに,原告に弁明の機会を付与するなどの措置をとることなく,上記各発言の不当な影響が残った状態のまま議決したとして,C学部長の議事進行には裁量権の逸脱・濫用があり,違法である旨主張する。 ⑵ そこで検討するに,憲法23条による学問の自由の保障は,個人の学問の自 由のみならず,大学における学問の自由をも保障することを趣旨としており, それを担保するために「大学の自治」の保障をも含むものである。大学の自治の内容の一つとして,学長・教授その他の研究者の人事の自治があると解される。そして,前記2で述べたとおり,教授の新規採用,教授への昇任等の人事に係る判断は,教育上や研究上の実績等の評価を含めて総合的にされるものであり,実質的には,一定程度教授会の判断に委ねられている部分があると解 される(学校教育法92条6項,93条1ないし3項参照)。立命館大学甲学部においても,立命館大学教員任用・昇任規程により,教授会が教授への昇任について投票によって採否を決議し,学部長又は研究科長より学長にこれを報告することとされている(前記前提事実ないし)。 したがって,教授会における教授への昇任決議については,教授会がその裁 量的判断によって行うことが求められているところ,教授会における議事進行は,その議長である学部長の裁量に委ねられており,その裁量権の逸脱・濫用が認められる場合に限り,そ ては,教授会がその裁 量的判断によって行うことが求められているところ,教授会における議事進行は,その議長である学部長の裁量に委ねられており,その裁量権の逸脱・濫用が認められる場合に限り,その議長の議事進行は違法となると解するのが相当である。 上記枠組みを前提に,本件教授会におけるC学部長の議事進行に,裁量権の 逸脱・濫用が認められるかについて判断する。 アまず,原告の主張は,B准教授及びA教授の各発言がいずれも違法であることを前提とするところ,前記2で判示したとおり,B准教授の発言は違法であるとまでは認められないから,原告の主張はその限りにおいて,その前提を欠くものである。 また,B准教授の発言については,教授会構成員から質問や意見は出されておらず,ハラスメント防止委員会の調査において,教授会構成員からは「パーソナルなものだったと(感じた)」,「客観性に欠けていた」などの冷静な感想が述べられており(甲12・5頁),B准教授の発言が議決に不当な影響を及ぼしたとまでは認められない。 イ一方で,A教授の発言については,前記3で判示したとおり,原告のプラ イバシーを侵害し,違法なものである。 しかしながら,同じく前記3で判示したとおり,A教授の発言は,原告の名誉(又は原告のいう人格的信用)を違法に侵害したとまではいえない。また,前記前提事実⑹イによれば,原告の学位の取得時期に関するA教授の発言に対し,C学部長は,原告が学位については平成26年9月にアウォード され,平成27年1月にコンファー(ム)されたことを確認した旨を述べ,続いてE教授が,おそらく記載ミスであることや,もうきりがついた話である旨を述べるなどし,その直後に,A教授が原告の懲戒審査に言及したものの,皆さんの判断次第で (ム)されたことを確認した旨を述べ,続いてE教授が,おそらく記載ミスであることや,もうきりがついた話である旨を述べるなどし,その直後に,A教授が原告の懲戒審査に言及したものの,皆さんの判断次第であると述べて発言を終えたことが認められ,上記やり取りに照らせば,本件教授会の出席者としては,原告の学位の取得は確認 できているが,提出書類と取得時期が齟齬していたこと,懲戒審査の対象となったが,記載ミスによる可能性があるため,懲戒処分はされなかったことを認識できたと考えられる。そして,C学部長は,その後の出席者からの質問にも対応し,最後に質問がないことを確認した後に,投票に移ったものである。 上記経緯によれば,A教授の発言に対して,原告に理解を示す立場のE教授からの意見も述べられ,議論が一応収束した後に,本件教授会の出席者から更なる調査等を求める声もない中で,C学部長は議決を行ったものであるから,原告に弁明の機会を付与するなどのより慎重な措置を採ることも考えられなくはないものの,これを採らなかったからといって,C学部長の議事 進行に裁量権の逸脱・濫用があったとまではいえず,その裁量の範囲内の対応であったというべきである。 以上によれば,本件教授会におけるC学部長の議事進行に,裁量権の逸脱・濫用があったとは認められず,これが不法行為になるとはいえない。 5 争点⑷(救済措置を採らなかった被告の不作為についての不法行為又は雇用契 約上の債務不履行の成否)について ⑴ 原告は,B准教授及びA教授の各発言並びにC学部長の議事進行はいずれも違法であり,ハラスメント防止委員会において,B准教授及びA教授の各発言はハラスメントに当たると認定され,それに基づく勧告がされたことからすれば,被告には,再審議による再議 部長の議事進行はいずれも違法であり,ハラスメント防止委員会において,B准教授及びA教授の各発言はハラスメントに当たると認定され,それに基づく勧告がされたことからすれば,被告には,再審議による再議決の機会を保障するなど,原告に対して適切な救済措置を採る義務があったにもかかわらず,被告は,何らの救済措置を採 っておらず,被告の不作為は違法である旨主張する。 ⑵ そこで検討するに,まず,原告の主張は,B准教授及びA教授の各発言,並びにC学部長の議事進行が違法であることを前提とするところ,上記2ないし4で判示したとおり,B准教授の発言は違法とはいえず,また,A教授の発言は一部違法であるものの,C学部長の議事進行は裁量の範囲内であり違法であ るとはいえないから,原告の主張はその限りにおいて,その前提を欠くものである。また,本件教授会における決議の判断にも裁量権の逸脱・濫用があったとまでは認められない。 さらに,前記認定事実⑶ウによれば,ハラスメント防止委員会は,K学長宛てに,学長から甲学部の学部長に対して,A教授及びB准教授に対する指導を 行うよう要請するとともに,学長から甲学部の学部長に対して,ハラスメントが生じた背景と原因の検討を行い,二度とハラスメント行為を生じさせないための防止策の策定や学部の運営体制の改善を図り,その結果を学長に報告するよう要請する旨の勧告をしたことが認められるが,一方で,前記認定事実オによれば,上記勧告は,原告の昇任に関する本件教授会の決定を変更するもの ではなかったことが認められる。そうすると,上記勧告は,再審議による再議決の機会を保障するなどの救済措置を採ることまでを勧告するものではなく,これをもって,被告に対し,上記救済措置を採る義務を生じさせるとはいえず,他にこれを認めるに足 と,上記勧告は,再審議による再議決の機会を保障するなどの救済措置を採ることまでを勧告するものではなく,これをもって,被告に対し,上記救済措置を採る義務を生じさせるとはいえず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。なお,前記認定事実ウによれば,上記勧告を受けて,平成29年3月,当時の学部長であったF教授は,A教授及 びB准教授に対し,それぞれ2回ずつ個別指導を行うなどの対応は行ったこと が認められ,被告において何らの事後措置を採らなかったわけではない。 以上によれば,被告が,原告に対し,再審議による再議決の機会を保障するなどの適切な救済措置を採る義務を負っていたということはできず,被告の不作為が違法であるとはいえないから,不法行為又は債務不履行は成立しない。 6 争点⑸(原告の期待権侵害の有無)について 原告は,昇任審査の研究業績要件と教育実績要件を満たしており,昇任審査委員会からの推薦も受けていたところ,過去に昇任審査委員会からの推薦を受けた者で昇任できなかった例はないから,原告の教授昇任への期待は具体的なもので法的保護に値すると主張する。 この点,確かに原告は昇任審査の研究業績要件と教育実績要件を満たしてお り,昇任審査委員会からの推薦を受けていたこと(前記認定事実イ,乙8,弁論の全趣旨)に加えて,過去に昇任審査委員会からの推薦を受けた者で昇任できなかった例は少なくとも甲学部では見当たらないこと(甲21ないし23)が認められる。 しかしながら,昇任審査委員会から推薦を受けたとしても,制度上,その後 に教授会における審査で採否を決議するものとされているところ(前記前提事実),前記4で述べたとおり,教授への昇任等の人事に係る判断は,教育上や研究上の実績等の評価を含めて総合的にされる に教授会における審査で採否を決議するものとされているところ(前記前提事実),前記4で述べたとおり,教授への昇任等の人事に係る判断は,教育上や研究上の実績等の評価を含めて総合的にされるものであるから,教授会がその裁量的判断をもって行うものというべきである。言い換えれば,昇任審査の研究業績要件と教育実績要件を満たし,昇任審査委員会から推薦を受けたと しても,これにより必ずしも当然に教授に昇任することを期待できるわけではない。 したがって,候補者の教授昇任への期待は事実上のものにすぎず,その希望に反して教授に昇任できなかったからといって直ちに被侵害利益の存在が認められ,不法行為を構成するものではないというべきである。 ただし,教授会の裁量的判断といっても完全な自由裁量とまではいえず,そ の判断の際の諸事情に照らし,教授への昇任が客観的に当然視されるような場合には,当該候補者の教授昇任への期待は具体性を有し,不法行為における被侵害利益として保護され得るというべきである。 本件について検討すると,本件教授会の前年の平成26年度時点では,原告の業績は形式的・量的には教授に推薦するに十分であるが,教授会が昇任を認 めるに十分かは分からない状況であるとして,原告はC学部長から次年度への先延ばしを提案されていたこと(前記認定事実カ),その後,平成26年度の原告の昇任人事については,経歴に不明確な点があるとして,教授会の承認を得て見送られることとなったが(同ヒ),このような事態は過去に例がなかったこと(弁論の全趣旨),教授昇任審査においては,主として研究業績,そ して学内行政や教育を共に行っていく上で懸念点がないかなどが判断材料になるところ(証人C学部長),原告は甲学部の准教授として約7年間, の全趣旨),教授昇任審査においては,主として研究業績,そ して学内行政や教育を共に行っていく上で懸念点がないかなどが判断材料になるところ(証人C学部長),原告は甲学部の准教授として約7年間,他の教授らと共に学内行政にも携わっていたこと(証人D元教授)が認められる。 これらの事実によれば,甲学部の教授昇任審査は研究業績等の要件の形式的審査にとどまらず,実質的に行われるものであるところ,原告は,本件教授会 の時点において,昇任審査の研究業績要件と教育実績要件を満たしていたものの,その前年度の昇任審査が見送られた経緯等もあり,総合的に判断された場合に,教授への昇任が客観的に当然視される状況にあったとまでは認められず,原告の教授昇任への期待は,被侵害利益として保護されるまでに至っていなかったというべきである。 そうすると,B准教授及びA教授の各発言には適切とは言い難い部分があり,A教授の発言の一部は原告のプライバシーを侵害するものであったものの,これらの発言により,原告の教授昇任への期待権が違法に侵害されたとまでは認められない。 したがって,原告の期待権侵害の主張には理由がない。 7 争点⑹(原告に生じた損害及び損害との因果関係)について 以上の判断によれば,A教授の発言についてプライバシー侵害の不法行為が認められ,被告は,原告に対し,使用者責任に基づく損害賠償責任を負う。 そして,原告に認められる損害額としては,以下のとおり,合計55万円について相当と認める。 逸失利益及び研究費その他手当について 原告は,A教授の発言がなければ原告の昇任決議が可決された蓋然性が高かったとして,原告が教授に昇任できた場合に得られたはずの逸失利益等を,相当因果関係のある損 益及び研究費その他手当について 原告は,A教授の発言がなければ原告の昇任決議が可決された蓋然性が高かったとして,原告が教授に昇任できた場合に得られたはずの逸失利益等を,相当因果関係のある損害として主張する。 しかしながら,前記6でも判示したとおり,教授への昇任等の人事に係る判断は教授会がその裁量的判断をもって行うものであるところ,本件における前 記諸事情に照らせば,A教授の発言がなかった場合に,原告の教授への昇任決議が可決された蓋然性が高いとまでは認め難い。 したがって,原告の主張する損害のうち,原告が教授に昇任できたことを前提とする損害項目(逸失利益及び研究費その他手当)については,A教授の不法行為と相当因果関係のある損害として認めることはできない。 慰謝料についてA教授の発言により,原告は,自身の昇任審査の場という重要な局面において,開示を希望しない旨を事前に被告に伝えていたにもかかわらず,他人にみだりに知られたくない原告のプライバシーに属する情報を開示されることとなったこと,A教授の発言と昇任決議の結果との間の相当因果関係までは認め 難いものの,原告が本件教授会における昇任審査の手続に不満を抱くことは,その心情として理解できること,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては,50万円とするのが相当である。 弁護士費用について 原告は,本件訴訟の提起及び追行を余儀なくされているところ,上記不法行 為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,5万円と認めるのが相当である。 8 結論以上によれば,原告の請求は,被告に対し,損害賠償金55万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年4月10日から支 のある弁護士費用の額は,5万円と認めるのが相当である。 8 結論以上によれば,原告の請求は,被告に対し,損害賠償金55万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年4月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを 認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第6民事部 裁判長裁判官池田知子 裁判官児玉禎治 裁判官荻原惇

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