主文 1 厚生労働大臣が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づき承継前原告p1に対し平成18年7月26日付けでした原爆症認定申請却下処分を取り消す。 2 厚生労働大臣が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づき原告p3に対し平成19年5月23日付けでした原爆症認定申請却下処分のうち慢性肝炎に係る部分を取り消す。 3 厚生労働大臣が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づき原告p4に対し平成19年6月14日付けでした原爆症認定申請却下処分を取り消す。 4 厚生労働大臣が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づき原告p5に対し平成19年6月14日付けでした原爆症認定申請却下処分を取り消す。 5 原告p6,原告p7及び原告p8の各請求並びに原告p3,原告p4及び原告p5のその余の各請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は,原告p6に生じた費用と被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,原告p3に生じた費用の3分の2と被告に生じた費用の15分の2を同原告の負担とし,原告p7に生じた費用と被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,原告p4に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,原告p8に生じた費用と被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,原告p5に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,その余の全費用を被告の負担とする。 事実 及び理由第1章請求第1 平成18年(行ウ)第218号厚生労働大臣が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づき原告p6に対し平成15年11月18日付けでした原爆症認定申請却下処分を取り消 請求第1 平成18年(行ウ)第218号厚生労働大臣が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づき原告p6に対し平成15年11月18日付けでした原爆症認定申請却下処分を取り消す。 第2 平成19年(行ウ)第13号主文1項と同旨第3 平成19年(行ウ)第218号 1 厚生労働大臣が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項に基づき原告p3に対し平成19年5月23日付けでした原爆症認定申請却下処分を取り消す。 2 被告は,原告p3に対し,300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成19年12月15日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第4 平成19年(行ウ)第233号被告は,原告p7に対し,300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成20年2月16日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第5 平成19年(行ウ)第234号 1 主文3項と同旨 2 被告は,原告p4に対し,300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成20年2月16日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第6 平成19年(行ウ)第235号被告は,原告p8に対し,300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成20年2月16日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第7 平成21年(行ウ)第61号 1 主文4項と同旨 2 被告は,原告p5に対し,300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成21年4月25日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2章事案の概要第1 事案の骨子本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)1条に定める被爆者7名が,厚生労働大臣に対し,被爆者 よる金員を支払え。 第2章事案の概要第1 事案の骨子本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)1条に定める被爆者7名が,厚生労働大臣に対し,被爆者援護法11条1項に定める厚生労働大臣の認定(以下「原爆症認定」という。)を受けるため,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(以下「被爆者援護法施行令」という。)8条1項に定める申請(以下「原爆症認定申請」という。)をしたところ,いずれも却下されたことから(ただし,うち2名はその後認定),上記申請をした被爆者本人又はその相続人である原告p6,亡p1承継人原告p2,原告p3,原告p4及び原告p5が,それぞれ上記各却下処分の取消しを求めるとともに,原告p3,原告p7,原告p4,原告p8及び原告p5が,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ300万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 第2 法令の定め等 1 被爆者援護法の内容(1) 被爆者援護法の趣旨目的被爆者援護法は,その前文において,以下のとおり同法の趣旨目的を記している。 「昭和20年8月,広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は,幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一命をとりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安の中での生活をもたらした。 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し,医療の給付,医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策 被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し,医療の給付,医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。また,我らは,再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下,世界唯一の原子爆弾の被爆国として,核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。 ここに,被爆後50年のときを迎えるに当たり,我らは,核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし,原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう,恒久の平和を念願するとともに,国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため,この法律を制定する。」(2) 被爆者の定義被爆者援護法において,「被爆者」とは,次の各号のいずれかに該当する者であって,被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(1条。なお,以下,特に断らない限り,「被爆者」とは同条所定の者を指すものとする。)。 ア原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(同条1号)イ原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間(広島市に投下された原子爆弾については昭和20年8月20日まで,長崎市に投下された原子爆弾については同月23日まで(被爆者援護法施行令1条2項))内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内(おおむね爆心地から2キロメートル以内の区域。被爆者援護 日まで,長崎市に投下された原子爆弾については同月23日まで(被爆者援護法施行令1条2項))内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内(おおむね爆心地から2キロメートル以内の区域。被爆者援護法施行令1条3項,別表第二参照)に在った者(被爆者援護法1条2号)ウ前2号に掲げる者のほか,原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者(同条3号)エ前3号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であった者(同条4号)(3) 被爆者健康手帳被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地)の都道府県知事に申請しなければならず(被爆者援護法2条1項),都道府県知事は,同申請に基づいて審査し,申請者が被爆者に該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する(同条3項)。 (4) 被爆者に対する援護ア健康管理都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行い(被爆者援護法7条),同健康診断の結果必要があると認めるときは,当該健康診断を受けた者に対し,必要な指導を行うものとする(同法9条)。 イ医療の給付厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る(同法10条1項)。 上記医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置, の者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る(同法10条1項)。 上記医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,⑥移送,であり(同条2項),これら医療の給付は,厚生労働大臣が同法12条1項の規定により指定する医療機関に委託して行われる(同条3項)。 上記医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならない(同法11条1項)。 ウ一般疾病医療費の支給厚生労働大臣は,被爆者が,負傷又は疾病(被爆者援護法10条1項に規定する医療の給付を受けることができる負傷又は疾病,遺伝性疾病,先天性疾病及び厚生労働大臣の定めるその他の負傷又は疾病を除く。)につき,都道府県知事が同法19条1項の規定により指定する医療機関から同法10条2項各号に掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理由により上記医療機関以外の者からこれらの医療を受けたときは,その者に対し,当該医療に要した費用の額を限度として,一般疾病医療費を支給することができる(同法18条1項)。 エ医療特別手当の支給都道府県知事は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を受けた者であって,当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し,医療特別手当を支給する(同法24条1項)。同法24条1項に規定する者は,医療特別手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当することについて,都道府県知事の認定 態にあるものに対し,医療特別手当を支給する(同法24条1項)。同法24条1項に規定する者は,医療特別手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。医療特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,一月につき13万5400円である(同条3項)。医療特別手当の支給は,同条2項の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,同条1項に規定する要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 オ特別手当の支給都道府県知事は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を受けた者に対し,特別手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当の支給を受けているときは,この限りでない(同法25条1項)。同法25条1項に規定する者は,特別手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,一月につき5万円である(同条3項)。特別手当の支給は,同条2項の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,同条1項に規定する要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 カ健康管理手当の支給都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,健康管理手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当,特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合は,この限りでない(被爆者援護法27条1項)。 キ )にかかっているものに対し,健康管理手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当,特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合は,この限りでない(被爆者援護法27条1項)。 キ保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際爆心地から2キロメートルの区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に対し,保健手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当又は健康管理手当の支給を受けている場合は,この限りでない(被爆者援護法28条1項)。 クその他の手当等の支給都道府県知事は,一定の要件を満たす被爆者に対し,上記各手当以外にも,原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26条),介護手当(同法31条)等を支給する。 ケ手当額の自動改定医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当及び保健手当については,総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数が平成5年(手当の額の改定の措置が講じられたときは,直近の当該措置が講じられた年の前年)の物価指数を超え,又は下るに至った場合においては,その上昇し,又は低下した比率を基準として,その翌年の4月以降の当該手当の額を改定する(被爆者援護法29条1項)。なお,平成23年4月以降の月分の医療特別手当の金額は,13万4590円である(被爆者援護法施行令17条1項)。 2 原爆症認定の手続等(1) 原爆症認定の申請手続被爆者援護法11条1項の規定による厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,その居住地の都道府県知事を経由して,厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない(被爆者援護法施行令8条1項 生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,その居住地の都道府県知事を経由して,厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない(被爆者援護法施行令8条1項)。この規定を受けて,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(平成20年厚生労働省令第41号による改正前のもの。以下「被爆者援護法施行規則」という。)12条は,上記申請書には,①被爆者の氏名,性別,生年月日及び居住地並びに被爆者健康手帳の番号,②負傷又は疾病の名称,③被爆時以降における健康状態の概要及び原子爆弾に起因すると思われる負傷若しくは疾病について医療を受け,又は原子爆弾に起因すると思われる自覚症状があったときは,その医療又は自覚症状の概要,等を記載した認定申請書(様式第5号)によらなければならず(同条1項),また,同申請書には,医師の意見書(様式第6号)及び当該負傷又は疾病に係る検査成績を記載した書類を添えなければならない(同条2項)旨規定している。そして,上記医師の意見書には,①負傷又は疾病の名称,②被爆者健康手帳の番号,③被爆者の氏名及び生年月日,④既往症,⑤現症所見,⑥当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因する旨,原子爆弾の傷害作用に起因するも放射能に起因するものでない場合においては,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けている旨の医師の意見,⑦必要な医療の内容及び期間,を記載すべきものとされている(被爆者援護法施行規則様式第6号)。 (2) 審議会等の意見聴取厚生労働大臣は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を行うに当たっては,審議会等(国家行政組織法8条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴かなければならない。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因するこ 認定(原爆症認定)を行うに当たっては,審議会等(国家行政組織法8条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴かなければならない。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかであるときは,この限りでない(被爆者援護法11条2項)。同法11条2項の審議会等で政令で定めるものは,疾病・障害認定審査会とされている(同法23条の2,被爆者援護法施行令9条)。 厚生労働省組織令(平成12年政令第252号)132条は,厚生労働省に疾病・障害認定審査会を置く旨規定し,同令133条1項は,同審査会は,被爆者援護法等の規定に基づきその権限に属させられた事項を処理する旨規定している。そして,疾病・障害認定審査会に関し必要な事項については,疾病・認定審査会令(平成12年政令第287号)の定めるところによるものとされている(厚生労働省組織令133条2項)。 そして,疾病・認定審査会令によれば,疾病・障害認定審査会は,委員30人以内で組織し(1条1項),同審査会には,特別の事項を審査させるため必要があるときは,臨時委員を置くことができ(同条2項),これら委員及び臨時委員は,学識経験のある者のうちから,厚生労働大臣が任命し(2条1項),同審査会には,被爆者援護法の規定に基づき疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科会として,原子爆弾被爆者医療分科会(以下「医療分科会」という。)を置き(疾病・認定審査会令5条1項),医療分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされている(同条2項)。 (3) 認定書の交付厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき被爆者援護法11条1項の規定による認定(原爆症認定)をしたときは,その者の居住地の されている(同条2項)。 (3) 認定書の交付厚生労働大臣は,原爆症認定の申請書を提出した者につき被爆者援護法11条1項の規定による認定(原爆症認定)をしたときは,その者の居住地の都道府県知事を経由して,認定書を交付する(被爆者援護法施行令8条2項)。 3 原爆症認定に関する審査の方針医療分科会は,平成13年5月25日付けで「原爆症認定に関する審査の方針」(乙A1。以下「旧審査の方針」という。)を作成し,原爆症認定に係る審査に当たっては,これに定める方針を目安として行うものとしていた。その概要は,次のとおりである。 (1) 原爆放射線起因性の判断ア判断に当たっての基本的な考え方申請に係る疾病等における原爆放射線起因性の判断に当たっては,原因確率(疾病等の発生が原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる確率をいう。)及びしきい値(一定の被曝線量以上の放射線を曝露しなければ疾病等が発生しない値をいう。)を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断する。 この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が,(ア) おおむね50パーセント以上である場合には,当該申請に係る疾病の発生に関して原爆放射線による一定の健康影響の可能性があることを推定し,(イ) おおむね10パーセント未満である場合には,当該可能性が低いものと推定する。 ただし,当該判断に当たっては,これらを機械的に適用して判断するものではなく,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で,判断を行うものとする。 また,原因確率が設けられていない疾病等に係る審査に当たっては,当該疾病等には,原爆放射 のではなく,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で,判断を行うものとする。 また,原因確率が設けられていない疾病等に係る審査に当たっては,当該疾病等には,原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を判断するものとする。 イ原因確率の算定原因確率は,次の申請に係る疾病等,申請者の性別の区分に応じ,それぞれ定める別表(添付省略)に定める率とする。 白血病男別表1-1女別表1-2胃がん男別表2-1女別表2-2大腸がん男別表3-1女別表3-2甲状腺がん男別表4-1女別表4-2乳がん女別表5肺がん男別表6-1女別表6-2肝臓がん,皮膚がん(悪性黒色腫を除く。),卵巣がん,尿路系がん(膀胱がんを含む。),食道がん男別表7-1女別表7-2その他の悪性新生物男女別表2-1副甲状腺機能亢進症男女別表8ウしきい値放射線白内障のしきい値は,1.75シーベルトとする。 エ原爆放射線の被曝線量の算定申請者の被曝線量の算定は,初期放射線による被曝線量の値に,残留放 ウしきい値放射線白内障のしきい値は,1.75シーベルトとする。 エ原爆放射線の被曝線量の算定申請者の被曝線量の算定は,初期放射線による被曝線量の値に,残留放射線による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の値を加えて得た値とする。 初期放射線による被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離の区分に応じて定めるものとし,その値は別表9に定めるとおりとする。 残留放射線による被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離及び爆発後の経過時間の区分に応じて定めるものとし,その値は別表10に定めるとおりとする。 放射性降下物による被曝線量は,原爆投下の直後に次の特定の地域に滞在し,又はその後,長期間に渡って当該特定の地域に居住していた場合について定めることとし,その値は次のとおりとする。 l又はp(広島) 0.6~2センチグレイq3,4丁目又はr(長崎) 12~24センチグレイオその他前記イの「その他の悪性新生物」に係る別表については,疫学調査では放射線起因性がある旨の明確な証拠はないが,その関係が完全には否定できないものであることにかんがみ,放射線被曝線量との原因確率が最も低い悪性新生物に係る別表2-1を準用したものである。 前記ウの放射線白内障のしきい値は,95パーセント信頼区間が1.31~2.21シーベルトである。 (2) 要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断するものとする。 (3) 方針の見直しこの方針は,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて必要な見直しを行うものとする。 4 新しい審査の方針(1) 医療分科会は,平成2 ものとする。 (3) 方針の見直しこの方針は,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて必要な見直しを行うものとする。 4 新しい審査の方針(1) 医療分科会は,平成20年3月17日付けで「新しい審査の方針」(乙A263。以下「新審査の方針」という。)を作成し,原爆症認定に係る審査に当たっては,被爆者援護法の精神に則り,より被害者救済の立場に立ち,原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするため,次に定める方針を目安としてこれを行うものとしている。その概要は,次のとおりである。 ア放射線起因性の判断(ア) 積極的に認定する範囲① 被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者② 原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者③ 原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度以上滞在した者から,放射線起因性が推認される以下の疾病について申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定するものとする。 ① 悪性腫瘍(固形がんなど)② 白血病③ 副甲状腺機能亢進症④ 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)⑤ 放射線起因性が認められる心筋梗塞この場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料が無い場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 (イ) (ア)に該当する場合以外の申請について な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料が無い場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 (イ) (ア)に該当する場合以外の申請について(ア)に該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断するものとする。 イ要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断するものとする。 ウ方針の見直しこの方針は,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて随時必要な見直しを行うものとする。 (2) 新審査の方針の改訂(弁論の全趣旨)医療分科会は,平成21年6月22日付けで新審査の方針を改訂し,新審査の方針の放射線起因性が推認される疾病に,次の疾病を追加した。 ⑥ 放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症⑦ 放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変第3 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び掲記の証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含むものとする。) 1 原子爆弾の投下アメリカ軍は,昭和20年8月6日午前8時15分,広島市に原子爆弾を投下し,同月9日午前11時2分,長崎市に原子爆弾を投下した(以下,広島市に投下された原子爆弾を「広島原爆」といい,長崎市に投下された原子爆弾を「長崎原爆」という。)。 2 原爆症認定申請と厚生労働大臣による却下処分の経緯等(1) 原告p6,原告p3,原告p7,原告p4,原告p8及び原告p5(以下,順に「原告p6」「原告p3」「原告p7」「原告p4」「原告p8」「原告p5」という。)は,いずれも被爆者 の経緯等(1) 原告p6,原告p3,原告p7,原告p4,原告p8及び原告p5(以下,順に「原告p6」「原告p3」「原告p7」「原告p4」「原告p8」「原告p5」という。)は,いずれも被爆者援護法上の被爆者である。承継前原告p1(以下「訴外p1」といい,上記各原告6名と併せて「被爆原告ら」という。)は,生前,被爆者援護法上の被爆者であった者である。 なお,国家賠償を求めている原告p3,原告p7,原告p4,原告p8及び原告p5を,併せて「国賠原告ら」といい,国賠原告らに対する各却下処分をまとめて「本件各却下処分国賠分」という。 (2) 原告p6に関する経緯等ア原告p6は,広島原爆の被爆者であり,大正14年1月12日生まれ(被爆当時20歳)の男性である。 イ原告p6は,平成14年10月21日,「胃癌(術後診断胃腺腫)」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。 これに対し,厚生労働大臣は,平成15年11月18日付けで上記申請を却下した(以下「本件p6却下処分」という。)。 ウ原告p6は,厚生労働大臣に対し,平成16年1月27日付けで本件p6却下処分に対する異議申立てをしたが,厚生労働大臣は,平成18年6月15日付けで,上記異議申立てを棄却する決定をした。 エ原告p6は,同年12月22日,本件訴えを提起した。 (3) 訴外p1に関する経緯等ア訴外p1は,長崎原爆の被爆者であり,昭和15年10月29日生まれ(被爆当時4歳)の男性である。 イ訴外p1は,平成18年1月25日,「多発性骨髄腫」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。 これに対し,厚生労働大臣は,同年7月26日付けで上記申請を却下した(以下「本件p1却下処分」という。)。 成18年1月25日,「多発性骨髄腫」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。 これに対し,厚生労働大臣は,同年7月26日付けで上記申請を却下した(以下「本件p1却下処分」という。)。 ウ訴外p1は,平成19年2月6日,本件訴えを提起した。 エ訴外p1は,平成20年7月31日死亡し,同人の妻である原告p2が,訴外p1を相続するとともに本件訴えを承継した。 (4) 原告p3に関する経緯等ア原告p3は,広島原爆の被爆者であり,昭和12年3月11日生まれ(被爆当時8歳)の女性である。 イ原告p3は,平成18年7月27日,「慢性肝炎,変形性腰椎症」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。 これに対し,厚生労働大臣は,平成19年5月23日付けで上記申請を却下した(以下「本件p3却下処分」という。)。 ウ原告p3は,同年12月3日,本件訴えを提起した。 (5) 原告p7に関する経緯等ア原告p7は,広島原爆の被爆者であり,昭和15年7月23日生まれ(被爆当時5歳)の女性である。 イ原告p7は,平成18年8月16日,「脳腫瘍,髄膜腫」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。 これに対し,厚生労働大臣は,平成19年7月18日付けで上記申請を却下した(以下「本件p7却下処分」という。)。 ウ原告p7は,同年12月18日,本件訴えを提起した。 エ厚生労働大臣は,平成21年7月21日付けで,原告p7に対し,本件p7却下処分を取り消した上,髄膜腫を認定疾病とする原爆症認定をした(乙J9,10)。 オ原告p7は,平成23年3月11日付け訴えの一部取下げ書により,本件p7却下処分の取消しを求める訴えを取り下げた。 ,髄膜腫を認定疾病とする原爆症認定をした(乙J9,10)。 オ原告p7は,平成23年3月11日付け訴えの一部取下げ書により,本件p7却下処分の取消しを求める訴えを取り下げた。 (6) 原告p4に関する経緯等ア原告p4は,広島原爆の被爆者であり,昭和17年1月21日生まれ(被爆当時3歳)の女性である。 イ原告p4は,平成18年9月6日,「右眼動脈閉塞症」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。 これに対し,厚生労働大臣は,平成19年6月14日付けで上記申請を却下した(以下「本件p4却下処分」という。)。 ウ原告p4は,同年12月18日,本件訴えを提起した。 (7) 原告p8に関する経緯等ア原告p8は,長崎原爆の被爆者であり,昭和5年8月13日生まれ(被爆当時14歳)の男性である。 イ原告p8は,平成18年9月6日,「大腸ガン」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。 これに対し,厚生労働大臣は,平成19年6月14日付けで上記申請を却下した(以下「本件p8却下処分」という。)。 ウ原告p8は,同年12月18日,本件訴えを提起した。 エ厚生労働大臣は,平成20年6月18日付けで,原告p8に対し,本件p8却下処分を取り消した上,大腸ガンを認定疾病とする原爆症認定をした(乙L3,4)。 オ原告p8は,平成23年3月11日付け訴えの一部取下げ書により,本件p8却下処分の取消しを求める訴えを取り下げた。 (8) 原告p5に関する経緯等ア原告p5は,広島原爆の被爆者であり,昭和5年2月7日生まれ(被爆当時15歳)の女性である。 イ原告p5は,平成18年9月6日,「肺がん」を申請疾患とする原爆 p5に関する経緯等ア原告p5は,広島原爆の被爆者であり,昭和5年2月7日生まれ(被爆当時15歳)の女性である。 イ原告p5は,平成18年9月6日,「肺がん」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。 これに対し,厚生労働大臣は,平成19年6月14日付けで上記申請を却下した(以下「本件p5却下処分」といい,他の被爆原告らに対する各却下処分と併せて「本件各却下処分」という。)。 ウ原告p5は,厚生労働大臣に対し,同年8月13日付けで本件p5却下処分に対する異議申立てをした。 エ原告p5は,平成20年12月9日付けで不作為についての異議申立書を提出した。 これに対し,厚生労働大臣は,原告p5に対し,同月22日付けで不作為の理由を示す書面を送付した。厚生労働大臣は,その後,原告p5に対し,上記異議申立てを棄却する決定をした(原告p5本人)。 オ原告p5は,平成21年4月15日,本件訴えを提起した。 3 放射線量の単位について(乙A5,16,弁論の全趣旨)(1) グレイ(Gy)とは,物理学的線量(吸収線量)の単位であり,物質1キログラム当たり1ジュールのエネルギー吸収が1グレイである(1グレイ=100センチグレイ=1000ミリグレイ)。以前はラド(rad)が用いられていた(1グレイ=100ラド)。 (2) シーベルト(Sv)とは,等価線量の単位であり,吸収線量値に放射線の種類ごとに定められた係数(放射線加重係数)を乗じて算出する(1シーベルト=1000ミリシーベルト)。等価線量とは,人体が吸収した放射線の影響度を示すものであり,原爆放射線にはガンマ線と中性子線が含まれていたところ,中性子線は同じ線量であってもガンマ線よりも生体組織への作用が強いので,中性子線によ 価線量とは,人体が吸収した放射線の影響度を示すものであり,原爆放射線にはガンマ線と中性子線が含まれていたところ,中性子線は同じ線量であってもガンマ線よりも生体組織への作用が強いので,中性子線による線量に加重係数を掛けたものとガンマ線の総量の和を等価線量として用いる。 財団法人放射線影響研究所(以下「放影研」という。また,放影研の前身である原爆傷害調査委員会(AtomicBombCasualtyCommission)を「ABCC」という。)は,中性子線に係る加重係数として通常10を用いている。 (3) レントゲン(R)とは,照射線量,すなわち,ある場所における空気を電離する能力を表す量の単位である。1レントゲンは,放射線の照射によって標準状態の空気1立方センチメートル当たりに1静電単位(esu)のイオン電荷が発生したときの放射線の総量であると定義され,ほぼ0.87ラド(センチグレイ)に相当する。 4 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 本件の争点は,①放射線起因性の判断基準,②被爆原告らの原爆症認定要件該当性,及び③国家賠償の成否である。 争点②及び③に係る主張の要旨を以下に記載するほか,原告らの主張(争点①~③)は別紙1記載のとおりであり,被告の主張は別紙2(争点①)及び別紙3(争点②及び③)記載のとおりである。 (2) 被爆原告らの原爆症認定要件該当性(争点②)に係る主張の要旨ア原告p6について(原告p6の主張)(ア) 被爆状況等原告p6(当時20歳)は,広島原爆投下時,暁6140部隊に所属し,a島(爆心地から5キロメートル以遠)の兵舎と兵舎の間の屋外にいたところ,広島原爆の爆風を浴びて水槽に放り込まれた。 原告p6は 当時20歳)は,広島原爆投下時,暁6140部隊に所属し,a島(爆心地から5キロメートル以遠)の兵舎と兵舎の間の屋外にいたところ,広島原爆の爆風を浴びて水槽に放り込まれた。 原告p6は,原爆投下当日,招集をかけられ,船に乗ってbに移動し,広島市の中心地へ向けて隊列を組んで歩いた。原告p6は,cを通り,d(爆心地から西に約500メートル)辺りで救助活動を開始した。原告p6は,原爆投下から2~3日はd周辺で救助や瓦礫の整理作業に従事し,上官の命令により倉庫の警備作業にあたることになり,平成20年8月15日までにa島に戻った。 原告p6は,a島に戻った後も,負傷者の看護などに従事していた。また,原告p6は,a島に戻ってから同年9月12日に復員するまでの間に,下痢の症状があった。 (イ) 放射線起因性(胃腺腫)胃腺腫及び良性腫瘍一般について,原爆放射線との関連を肯定する疫学的知見があるところ,原告p6が原爆投下後早期に爆心地付近まで入市し継続して救助活動を行ってきたことにより相当量の残留放射線による外部被曝及び内部被曝をしていることからすれば,原告p6の申請疾病である胃腺腫については放射線起因性が認められる。 (ウ) 要医療性原告p6が原爆症認定申請をした平成14年9月時点においては,異時性多発性腫瘍の可能性があり,少なくとも定期的な胃カメラによる診察が必要であった。 (被告の主張)(ア) 被爆状況等原告p6が主張する被爆状況は,その核心部分について変遷しており信用性に乏しい。原告p6の被爆状況については,昭和38年の当初の被爆者健康手帳交付申請に記載された被爆状況(昭和20年8月15日入市)が,被爆から最も近い時期に記載され 心部分について変遷しており信用性に乏しい。原告p6の被爆状況については,昭和38年の当初の被爆者健康手帳交付申請に記載された被爆状況(昭和20年8月15日入市)が,被爆から最も近い時期に記載されたものである上,原告p6が同申請において虚偽を記載する理由がないことに照らし,最も信用することができる。したがって,原告p6は,昭和20年8月15日にa島から広島市に入市したとみるのが自然かつ合理的である。 (イ) 放射線起因性(胃腺腫)原告p6は,一般に胃腺腫が多いとされる男性で,一般に胃腺腫を頻発するとされる年代において,一般に胃腺腫が頻発するとされる部位に,胃腺腫を発症したものであって,被爆者ではない他の多くの高齢者が有する胃腺腫と比較して,その発症及び経緯に特異的な点は全く見当たらないのであるから,性別,加齢によって発症したものとみるのが自然かつ合理的である。さらに,胃腺腫については,放射線との関連性を肯定すべき確立した疫学的知見もない。加えて,原告p6は,その被爆状況からしても,健康被害に影響を及ぼすような被曝をしたとは言い難い。したがって,原告p6の胃腺腫に放射線起因性は認められない。 (ウ) 要医療性原告p6は,良性腫瘍である胃腺腫が摘出されてからは,経過観察を受けるのみであって,胃腺腫について積極的な治療を受けていなかったものである。そして,このような一般的な検査と変わらない定期検査のような経過観察を行っているにすぎない場合についてまで,現に医療を要する状態にあるとは認められない。 イ訴外p1について(原告p2の主張)(ア) 被爆状況等訴外p1(当時4歳)は,長崎原爆投下当時,p9らと自宅のすぐ近くの い。 イ訴外p1について(原告p2の主張)(ア) 被爆状況等訴外p1(当時4歳)は,長崎原爆投下当時,p9らと自宅のすぐ近くの広場で遊んでいたところ,空襲警報が鳴ったので防空壕に入った。その後,空襲警報が解除になったので,p9らとともに広場の方に行ったところ,長崎原爆に被爆した。 訴外p1は,長崎原爆投下3日後である昭和20年8月12日に,爆心地から1キロメートル以内の長崎市e町付近を母p10を捜して歩き回った。 その後も,母p10を捜すため同町付近に行ったが,母p10は発見できなかった。 訴外p1は,被爆後間もない頃から,めまいや倦怠感,足の疲れを感じ,特に夏場は症状がひどくなった。その後学校に行くようになってからも,目まいや倦怠感,足の疲れは恒常的にあり,風邪を引きやすい体質になっていた。 (イ) 放射線起因性(多発性骨髄腫)多発性骨髄腫については,原爆放射線との関連を肯定する疫学的知見があるところ,訴外p1の被爆状況及び急性症状からして,訴外p1は相当程度の放射線被曝を受けているといえるから,訴外p1の申請疾病である多発性骨髄腫については,放射線起因性が認められる。 (被告の主張)(ア) 被爆状況等訴外p1は,原爆症認定申請書に自ら記載しているとおり,長崎市f町(爆心地から4キロメートル)の防空壕の中で被爆したものであり,屋外で被爆したとは認められない。 原告p2は,訴外p1が原爆投下の数日後に入市したと主張し,証人p9もこれに沿う証言をするが,訴外p1の被爆者健康手帳交付申請書には入市のことは記載されておらず,原告p2の上記主張及び証人p9の 原告p2は,訴外p1が原爆投下の数日後に入市したと主張し,証人p9もこれに沿う証言をするが,訴外p1の被爆者健康手帳交付申請書には入市のことは記載されておらず,原告p2の上記主張及び証人p9の証言は信用することができない。また,被爆後の身体症状に関する主張についても,同申請書には「何も異常がない」の箇所に丸印が付されており,被爆後の身体症状に関する原告p2の主張は信用することができない。 (イ) 放射線起因性(多発性骨髄腫)多発性骨髄腫は,白血病などとは異なり,放影研が実施した大規模な疫学調査においても,放射線被曝との関連性が認められていない。また,訴外p1は,爆心地から約4キロメートル離れた地点において被爆したものであり,被曝線量はわずかである。しかも,訴外p1が多発性骨髄腫を発症したのは好発年齢である60歳であり,性別も男性であって,発症年齢・性別に何ら特異な点はない。したがって,訴外p1の多発性骨髄腫に放射線起因性があるとは認められない。 ウ原告p3について(原告p3の主張)(ア) 被爆状況等原告p3(当時8歳)は,広島市g町の自宅家屋の軒下付近にいた時に,広島原爆に被爆した。原告p3は,少し明るくなってから,自宅家屋の下敷きになっていた両親と祖母を助けようと近所に助けを求めた。しかし,助けに来る人はなく,それ以上どうすることもできないでいたところ,そのうちに一斉に火の手があがり始め,近所の人に連れられてh川まで逃げた。 夕方くらいになり,火が少しおさまってから,原告p3は,近所の人に連れられて山手の方に逃げた。原告p3は,その後,山の手にある小屋のような建物に避難し,近所の人とともに暮らしていた。 原告p3は,原爆投下 が少しおさまってから,原告p3は,近所の人に連れられて山手の方に逃げた。原告p3は,その後,山の手にある小屋のような建物に避難し,近所の人とともに暮らしていた。 原告p3は,原爆投下から約10日後,近所の人と一緒に自宅付近を見に行ったところ,両親と祖母のものと思われる遺体を見つけたが,どうすることもできず,そのまま小屋に戻った。その帰る途中には,気分が悪くなり,目もおかしくなった。原告p3は,原爆投下から15日から1か月ほど経過したころ,叔母の家に引き取られたが,その直後,40度の高熱が数日間続いた。 原告p3は,山の手に避難している頃から,鼻血がよく出るようになり,身体もだるくなった。また,原告p3は,叔母の家に行った頃から,脱毛に気付いた。その後,鼻血の頻度は少なくなったが,昭和52年頃まで続いた。身体のだるさは今でも継続している。下痢,発熱,頭痛についても,被爆後間もなく発生している。 (イ) 放射線起因性(慢性肝炎)原告p3は,平成10年頃から肝機能障害を患っているところ,その原因はB型肝炎ウイルスによる慢性肝炎である。被告は,原告p3はB型肝炎ウイルスにつきセロコンバージョンを起こしており,B型慢性肝炎であるとは認められず,慢性肝障害の原因は生活習慣に基づく脂肪肝であると主張するが,原告p3はセロコンバージョンを起こしていない。また,近年の研究において,B型肝炎ウイルスが脂肪代謝に影響を及ぼし,脂肪肝を発症するメカニズムも報告されており,脂肪肝の存在はB型慢性肝炎を否定するものではない。 B型慢性肝炎については,原爆放射線との関連を肯定する疫学的知見があるところ,原告p3が爆心地から約1.2キロメートルという近距離で被爆し,鼻血,倦怠感等の急性症 するものではない。 B型慢性肝炎については,原爆放射線との関連を肯定する疫学的知見があるところ,原告p3が爆心地から約1.2キロメートルという近距離で被爆し,鼻血,倦怠感等の急性症状を示しており,相当程度の放射線被曝を受けていると認められること,原告p3は,アルコールをほとんど飲まず,糖尿病にも罹患しておらず,医師からの食事指導に対しても適切に対応しており,肥満傾向にもなく,放射線被曝以外に慢性肝炎となる原因がないことからすれば,原告p3の申請疾病である慢性肝炎(B型慢性肝炎)は,原爆放射線に起因するものと認められる。 (ウ) 放射線起因性(変形性腰椎症)骨組織と放射線との関連については,成長している軟骨及び骨組織については,細胞分裂頻度が中程度であり,放射線感受性が中程度であるとか,思春期までの骨が活発に成長している時期に放射線に被曝すると骨の成長が障害されるといった知見があるところ,原告p3は,被爆当時8歳であり,思春期までの骨が活発に成長している時期に被爆している。また,前述のとおり,原告p3は相当程度の放射線被曝を受けていることや,原告p3が28歳という若年齢において変形性腰椎症との診断を受けていることを考慮すると,原告p3の申請疾病である変形性腰椎症は,原爆放射線に起因するものと認められる。 (被告の主張)(ア) 被爆状況等原告p3は,爆心地から1.2キロメートルの地点にあった自宅で被爆したというのであり,家屋による遮蔽を考慮すると,1986年線量評価体系(DosimetrySystem 1986,以下「DS86」という。)により推定される初期放射線による被曝線量は約1.211グレイである。また,原告p3は,被爆後,山手の小 986年線量評価体系(DosimetrySystem 1986,以下「DS86」という。)により推定される初期放射線による被曝線量は約1.211グレイである。また,原告p3は,被爆後,山手の小屋に避難したと主張し供述しているが,爆心地から2キロメートルの地点に原爆投下直後から無限時間滞在した場合の誘導放射線量(積算放射線量)は0.00001グレイであり,健康被害の観点から,誘導放射線により有意な被爆をしたとは認められない。 原告p3が主張し供述する被爆後の身体症状(鼻血,脱毛,発熱,倦怠感等)についても,急性症状の特徴を備えておらず,放射線による急性症状と直ちに判断することはできない。また,下痢及び吐き気については,誘導尋問に対してもあいまいな供述をしており,陳述書にも記載されておらず,認められない。 (イ) 放射線起因性(慢性肝炎)原告p3の慢性肝炎(慢性肝障害)は,エコー所見やCT所見,血液検査(血糖,中性脂肪値等)の数値,セロコンバージョンを起こしていること,食習慣の改善を指示されていたことなどに照らせば,生活習慣を原因とする脂肪肝による慢性肝障害であると認められる。そして,脂肪肝は,その発生機序に照らしても,生活習慣を原因とするものであって,放射線起因性は認められない。 (ウ) 放射線起因性(変形性腰椎症)原告p3の原爆症認定申請時の年齢は69歳であるところ,変形性腰椎症の好発年齢であるといえ,原告p3の変形性腰椎症は加齢により生じたものとみるのが自然かつ合理的である。この点,原告p3は,昭和40年(28歳)頃に変形性腰椎症と診断されたと主張し供述するが,変形性腰椎症の診断は,レントゲン,若しくはMRIやCTの画像診断で行うところ,接骨 が自然かつ合理的である。この点,原告p3は,昭和40年(28歳)頃に変形性腰椎症と診断されたと主張し供述するが,変形性腰椎症の診断は,レントゲン,若しくはMRIやCTの画像診断で行うところ,接骨院(医師免許は不要)にレントゲンはもとよりMRI,CT機があったとは到底考えられず,原告p3が昭和40年頃に変形性腰椎症と診断されたという供述は信用することができない。 また,変形性腰椎症は加齢に伴い多くの者に発現するものであり,変形性腰椎症と放射線に有意な関連が認められるとする科学的知見は認められていない。したがって,原告p3の変形性腰椎症に放射線起因性は認められない。 エ原告p4について(原告p4の主張)(ア) 被爆状況等原告p4(当時3歳)は,広島市i町の自宅付近の農道上において,周囲に何も遮蔽のない状況で被爆した。叔母がとっさに原告p4を抱えて用水路に飛び込んだため,原告p4は怪我や火傷を負わなかった。 原告p4が叔母らとともに自宅のあった場所に戻ると,自宅は爆風で吹き飛ばされ瓦礫の山となっていた。家屋の下敷きになった家族の救出が行われる間,原告p4は,視界を遮るほどの砂埃の中にあり,さらに,黒い雨を浴びた。家族が救出されると,原告p4は,爆心地から約2キロメートルの場所にあった新築中の家まで移動し,以後,その家で過ごした。 原告p4は,その家のそばを流れる小川で水を飲み,近くの山に自生する野草を採って食べるなどした。 原告p4は,被爆前は健康体であったが,被爆直後から,嘔吐,歯茎からの出血,発熱,倦怠感,脱毛等の症状に苦しんだ。原告p4は,その後も,ずっと体調が優れず,ひ弱で疲れやすく,しばしば下痢をしたり発熱した 4は,被爆前は健康体であったが,被爆直後から,嘔吐,歯茎からの出血,発熱,倦怠感,脱毛等の症状に苦しんだ。原告p4は,その後も,ずっと体調が優れず,ひ弱で疲れやすく,しばしば下痢をしたり発熱したりした。また,中学校に入学する頃まで,歯茎から血膿のような出血をすることが続いた。 (イ) 放射線起因性(右眼動脈閉塞症)原告p4の申請疾病は右眼動脈閉塞症であるが,臨床的には動脈硬化に基づく右眼網膜中心動脈閉塞症である。 網膜中心動脈閉塞症は,脳内の一血管の閉塞であって,一種の脳梗塞であるといえるところ,放射線被曝によって動脈硬化が生じることは公知の事実であり,脳梗塞についても放射線との関連性を肯定する科学的知見がある。しかも,原告p4の被爆状況及び急性症状からして,原告p4は相当量の放射線被曝を受けているといえ,また,原告p4にはごく軽度の喫煙習慣を除いて動脈硬化の危険因子というべきものはないから,原告p4の申請疾病である右眼動脈閉塞症(右眼網膜中心動脈閉塞症)は,原爆放射線に起因して発症したものと認められる。 (被告の主張)(ア) 被爆状況等原告p4は,爆心地から約1.7キロメートルの農道上で被爆したというのであり,DS86により推定される初期放射線による被曝線量は,0. 22グレイと推定され,一般に健康被害への影響という観点から見て,有意な被曝をしたとは言い難い。また,原告p4は,黒い雨を浴びたとも主張するが,広島原爆から放出された放射性降下物の量は多くなかったのであり,上記のような事情があったとしても,それにより有意な被曝をしているとは言い難い。 原告p4が主張し供述する被爆後の身体症状(嘔吐,歯茎からの出血,発熱,倦怠感, 多くなかったのであり,上記のような事情があったとしても,それにより有意な被曝をしているとは言い難い。 原告p4が主張し供述する被爆後の身体症状(嘔吐,歯茎からの出血,発熱,倦怠感,脱毛等)についても,急性症状の特徴を備えておらず,放射線による急性症状ということはできない。 (イ) 放射線起因性(右眼動脈閉塞症)原告p4の申請疾病は右眼動脈閉塞症であるが,診療録等によれば,同疾病は右眼網膜中心動脈閉塞症であると認められる。そして,網膜中心動脈閉塞症は,放射線との関連性を肯定した疫学的調査の存在しない疾病であり,その原因の一つである動脈硬化についてみても,動脈硬化に関する一般的な知見において,明らかな危険因子のない被爆者が発症した動脈硬化は全て放射線に起因すると推定すべき状況にはない。しかも,原告p4には,20年以上にわたる1日10本程度の喫煙習慣がみられることからすると,この右眼網膜中心動脈閉塞症は,喫煙を継続した生活習慣によるものと考えるのが合理的である。したがって,原告p4の申請疾病につき放射線起因性は認められない。 オ原告p5について(原告p5の主張)(ア) 被爆状況等原告p5(当時15歳)は,広島原爆投下当時,jにある兵器廠において,点呼のため外で整列していた。その後,解散命令が出され,原告p5は五日市市の自宅に帰宅した。 原告p5は,原爆投下当日の夕方頃から,両親と共に,家屋疎開のため広島市内のk町で作業をしていた弟p11を捜しに広島市内に向かった。原告p5は,lの辺りで黒い雨に打たれた。そして,原告p5とその両親(以下「原告p5ら」ということがある。)は,爆心地付近を通ってk町(爆心地から約1キロメート 弟p11を捜しに広島市内に向かった。原告p5は,lの辺りで黒い雨に打たれた。そして,原告p5とその両親(以下「原告p5ら」ということがある。)は,爆心地付近を通ってk町(爆心地から約1キロメートル)の方へ向かい,その付近を弟p11を捜して歩き回った。その間,原告p5はのどが渇き,破裂した水道管から水を飲んだ。 また,原告p5らは,A病院にも向かったが,その周辺はものすごい火の手が上がっており,それ以上近づくことはなかった。そして,原告p5らは,一晩中弟p11を捜して歩き回ったが,見つけることはできなかった。 原告p5らは,翌日(昭和20年8月7日)の明け方,もう一度A病院近くに行ってみると,A病院がまだ建っていたので中に入っていった。 すると,ロビーの一番奥に,既に亡くなってソファーに寝かされていた弟p11を見つけたので,原告p5らは,荷台に弟p11を乗せて自宅に連れて帰り,当日夕方頃,自宅近くの火葬場で弟を荼毘に付した。 その後,原告p5は女学校から招集され,同月8日から11日頃まで,爆心地から200~300メートルにあるm町で,同級生らと一緒に被爆した人の看護と炊き出しを行った。また,同月11日からは,B小学校の講堂で同じような作業を行った。 原告p5は,原爆投下の翌日に弟p11を自宅に連れて帰る途中から下痢になり,その後も,食欲がなく,身体が何ともいえずだるかった。同月15日の終戦直後には,歯が2本抜け落ち,歯茎からの出血もあった。さらに,その頃からひどい頭痛と下痢になり,口内炎もでき,吐き気やのどの痛みもあった。髪の毛も1か月間ほど抜け続けた。原告p5の両親も同じような症状であり,原告p5は両親と同様に自宅でごろごろと横になっていた。 (イ) 放射線起因性(肺がん) の痛みもあった。髪の毛も1か月間ほど抜け続けた。原告p5の両親も同じような症状であり,原告p5は両親と同様に自宅でごろごろと横になっていた。 (イ) 放射線起因性(肺がん)上記のとおり,原告p5は原爆投下当日の夕方から爆心地付近に入って相当程度の放射線に被曝しているところ,肺がんについては放射線との有意な関連性が認められているから,原告p5の申請疾病である肺がんは,原爆放射線に起因して発症したものと認められる。 (被告の主張)(ア) 被爆状況等原告p5は,昭和20年8月6日夕方頃に両親と共に入市して弟p11を捜し回ったと主張し,これに沿う供述をする。しかし,原告p5の入市日は同月13日であると認められ,同月6日であったとは認められない。 すなわち,兵庫県には,原告p5本人が昭和43年7月14日に兵庫県の被爆者相談室担当者に相談した内容が記載された「原子爆弾被爆者相談室受付カード」(乙M16)が保管されており,その内容は,入市場所を「n町,k町,o等」,入市日を「8/13~8/20」とし,入市の用件は「弟の遺品収集のため父に連れられて入市」とするものであった。 その後,原告p5は,特別被爆者認定申請をしたものの却下され,異議を申し立てたが,原告p5は,その際,「父p12に連れられて8月9日入市した」などと,特別被爆者として認定される入市日に合わせた内容に供述を変遷させた。原告p5は,原爆症認定申請及び本件訴訟において,原爆投下の当日に入市した旨主張し供述するが,上記のような主張の変遷に照らすと,これを信用することはできない。 (イ) 放射線起因性(肺がん)上記のとおり,原告p5の入市日は昭和20年8月1 張し供述するが,上記のような主張の変遷に照らすと,これを信用することはできない。 (イ) 放射線起因性(肺がん)上記のとおり,原告p5の入市日は昭和20年8月13日であると認められ,健康被害の影響という観点から見た場合,有意な線量の被曝をしたとは認められない。したがって,原告p5の肺がんに放射線起因性を認めることはできない。 (3) 国家賠償の成否(争点③)に係る主張の要旨(国賠原告らの主張)ア国家賠償法上の違法性(実体的違法)(ア) 厚生労働大臣は,被爆者援護法における放射線起因性の正しい解釈適用をなすべき職務上の注意義務を負っている。そして,同法における放射線起因性の正しい解釈の内容については,最判平成12年7月18日・裁判集民事198号529頁(以下「p13訴訟最高裁判決」という。)により司法判断が確定しているのであるから,行政庁である厚生労働大臣は,その司法判断を尊重すべきであった。にもかかわらず,厚生労働大臣(ないしその諮問機関である医療分科会)は,司法判断に反する非科学的で不合理な基準である旧審査の方針を決定し,これに従って本件各却下処分国賠分を行った。 したがって,厚生労働大臣がその職務上の注意義務に違反していることは明らかであり,国家賠償法上違法である。 (イ) 旧審査の方針には,「当該判断に当たっては,これらを機械的に適用して判断するものではなく,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で,判断を行うものとする。」とされている。しかし,平成13年4月から平成18年9月までの医療分科会の厚生労働大臣に対する答申を分析したところ,原因確率10パーセントを境にして認定と却下がきれいに分かれている。この とする。」とされている。しかし,平成13年4月から平成18年9月までの医療分科会の厚生労働大臣に対する答申を分析したところ,原因確率10パーセントを境にして認定と却下がきれいに分かれている。このことは,正に原因確率の機械的適用による認定審査が行われてきたことを裏付けている。 本件各却下処分国賠分についても,個別具体的な事情を踏まえた総合判断ではなく,原因確率やしきい値等の機械的適用がされていたのである。したがって,厚生労働大臣がした本件各却下処分国賠分は,強度の違法性を有するものであり,国家賠償法上違法である。 イ国家賠償法上の違法性(手続的違法)(ア) 行政手続法5条1項違反行政手続法5条1項は,「行政庁は,(申請により求められた許認可をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる)審査基準を定めるものとする。」としている。しかし,厚生労働大臣は,原爆症認定に必要な同条における審査基準を定めていない。 したがって,厚生労働大臣が審査基準を定めることなく本件各却下処分国賠分を行ったことは,行政手続法5条1項に違反するものであり,国家賠償法上の違法行為に該当する。 (イ) 行政手続法8条1項違反行政手続法8条1項本文は,「行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。」としている。しかし,本件各却下処分国賠分の決定通知には,原爆症とは認定しないという結論しか記載されておらず,疾病・障害認定審査会においていかなる事実を前提に審議がされ,却下されるに至ったかについてなど実質的な理由は全く示されていない。これでは,国賠原告らが本件各却下処分国賠分の当否を 記載されておらず,疾病・障害認定審査会においていかなる事実を前提に審議がされ,却下されるに至ったかについてなど実質的な理由は全く示されていない。これでは,国賠原告らが本件各却下処分国賠分の当否を争う権利が著しく害され,手続保障の見地からも極めて不当である。 したがって,厚生労働大臣が拒否処分の理由を示さずに本件各却下処分国賠分を行ったことは,行政手続法8条1項に違反するものであり,国家賠償法上の違法行為に該当する。 ウ損害の発生及びその額(ア) 慰謝料各200万円厚生労働大臣による違法な本件各却下処分国賠分により,国賠原告らが被った精神的苦痛を慰謝するには,各200万円をもってするのが相当である。 (イ) 弁護士費用各100万円国賠原告らは,厚生労働大臣の違法行為により本来不要な裁判を余儀なくされた。国賠原告らが代理人に支払うことを約した着手金・報酬のうち少なくとも100万円については,上記違法行為と相当因果関係のある損害というべきである。 (被告の主張)ア国家賠償法上の違法性(実体的違法)(ア) 厚生労働大臣について職務上の法的義務違反が認められ,その職務行為が違法と評価されるのは,厚生労働大臣が,本件各却下処分国賠分をするに当たり,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたと認められるような場合に限られ,本件各却下処分国賠分が取り消されたからといって直ちに国家賠償法上の違法が導かれるものではない(最判平成5年3月11日・民集47巻4号2863頁参照)。 厚生労働大臣は,本件各却下処分国賠分に当たり,被爆者援護法11条2項本文の定めに従い,放射線科学者,医療従事者や内科や外科等 (最判平成5年3月11日・民集47巻4号2863頁参照)。 厚生労働大臣は,本件各却下処分国賠分に当たり,被爆者援護法11条2項本文の定めに従い,放射線科学者,医療従事者や内科や外科等の様々な分野の専門医師等,疾病の放射線起因性や要医療性について高い識見と豊かな専門的知見を備えた専門家によって構成された医療分科会の答申を聴いた上で本件各却下処分国賠分を行っているのであり,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件各却下処分国賠分をしたとはいえない。 (イ) 医療分科会は,平成13年5月25日に旧審査の方針を策定した。この旧審査の方針は,原爆症認定の目安となる指針であって,長年にわたる様々な分野の科学的知見を集積したものであり,科学的合理性を有するものである(p13訴訟最高裁判決は,線量推定方式としてのDS86の科学的合理性を否定しているものではない。)。また,医療分科会は,旧審査の方針に依拠しながら,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別に判断し,いずれの場合であっても,判断に必要な資料に不足がある場合には,都道府県を通じて資料の追加や医師の意見を求めるなどし,必要な議論を尽くした上で,厚生労働大臣に対して答申している。 したがって,医療分科会が本来の意見答申の目的・役割を逸脱して,恣意的な判断に基づき意見を答申している等,答申意見を尊重すべきでない特段の事情があるとはいえないから,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件各却下処分国賠分を行ったとはいえない。 イ国家賠償法上の違法性(手続的違法)(ア) 行政手続法5条1項違反行政手続法5条1項の審 なく漫然と本件各却下処分国賠分を行ったとはいえない。 イ国家賠償法上の違法性(手続的違法)(ア) 行政手続法5条1項違反行政手続法5条1項の審査基準設定義務は,いかなる場合であっても例外が認められないものと解すべきではなく,許認可等の性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ないものであって,法令の定め以上に具体的な基準を定めることが困難であると認められる場合など,審査基準を設定しないことに合理的な理由ないし正当な根拠がある場合には,行政庁は,審査基準を設定することを要しない。 しかるところ,原爆症認定の要件である放射線起因性及び要医療性の判断の個別具体性に鑑みれば,行政庁である厚生労働大臣が,被爆者援護法11条1項の定め以上に具体的な基準を定めることは,極めて困難である。また,被爆者援護法11条2項は,厚生労働大臣は,原爆症認定に当たり,原則として審議会の意見を聴かなければならないとしており,処分の客観的な公正妥当と公正を担保し,処分を適正ならしめている(なお,医療分科会の判断の目安である旧審査の方針は,当時,厚生労働省のホームページに公開されていた。)。したがって,厚生労働大臣は,原爆症認定に関して審査基準を設定することを要しないというべきであるから,厚生労働大臣が審査基準を定めることなく本件各却下処分国賠分をしたことは,行政手続法5条1項に違反するものではない。 (イ) 行政手続法8条1項違反理由付記の程度は,処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして決定すべきものである。 原爆症認定において,放射線起因性がないという理由で却下処分がされる場合には,申請者の放射線起因性 処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして決定すべきものである。 原爆症認定において,放射線起因性がないという理由で却下処分がされる場合には,申請者の放射線起因性があるとして申請をした疾患について,申請者が提出した添付書類に基づき,医学的・科学的知見を踏まえて,その疾患が原爆放射線の影響によるものか否かが判断され,その結果,放射線起因性が認められるに至らなかったことが明らかで,その却下処分の基となった事実関係は申請者において明らかである。したがって,根拠条文のほか,単に「申請疾患については,通常の医学的知見に照らして放射線起因性が認められない」旨の理由付記をすれば,十分に処分庁の恣意が抑制され,申請者に対しても不服申立ての便宜が図られているというべきである。 よって,本件各却下処分国賠分の通知書の理由付記は,付記されるべき理由として何ら欠けるところはないから,本件各却下処分国賠分は,行政手続法8条に違反するものではない。 ウ損害の発生及びその額争う。 第3章当裁判所の判断第1 放射線起因性の判断基準(争点①) 1 放射線起因性の立証の程度等(1) 被爆者援護法10条1項は,「厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。」旨規定し(なお,上記の「放射能」とは放射線の意味である。),同法11条1項は,上記医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用 を要する状態にある場合に限る。」旨規定し(なお,上記の「放射能」とは放射線の意味である。),同法11条1項は,上記医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならない旨規定する。これらの規定によれば,原爆症認定を受けるための要件としては,①被爆者が現に医療を要する状態にあること(要医療性)のほか,②現に医療を要する負傷又は疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか,又は上記負傷又は疾病が放射線以外の原子爆弾の傷害作用に起因するものであって,その者の治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けているため上記状態にあること(放射線起因性)を要すると解される。 (2) ところで,行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に,その拒否処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は,特別の定めがない限り,通常の民事訴訟における場合と異なるものではない。 そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とすると解すべきである(p13訴訟最高裁判決参照)。 そして,被爆者援護法は,健康管理手当の支給の要件については,都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,支給する旨規定し(27条1項),また,介護手当の支給の要件については,都道府 で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,支給する旨規定し(27条1項),また,介護手当の支給の要件については,都道府県知事は,被爆者であって,厚生労働省令で定める範囲の精神上又は身体上の障害(原子爆弾の傷害作用の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)により介護を要する状態にあり,かつ,介護を受けているものに対し,支給する旨規定する(31条)。このように,被爆者援護法上,健康管理手当や介護手当の支給要件についてそれぞれ弱い因果の関係で足りることが規定上明らかにされていることと対比すると,医療の給付の要件を定める同法10条1項については,放射線と負傷又は疾病ないしは治癒能力の低下との間に通常の因果関係があることを要件として定めたものと解するのが相当である。 したがって,被爆者援護法10条1項の放射線起因性の要件については,原告らにおいて,原爆放射線に被曝したことにより,その負傷又は疾病ないしは治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明する必要があり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要すると解すべきである。 (3) この点,原告らは,被爆者援護法の国家補償的性格及び公平の理念などからすると,放射線起因性の要件については,被爆者が放射線に影響があることを否定し得ない負傷又は疾病にかかり医療を要する状態となった場合には,放射線起因性が推定され,放射線の影響を否定し得る特段の事情が認められない限り,その負傷又は疾病は原爆放射線の影響を受けたものとして原爆症認定がされるべきであると主張する。 確かに,被爆者援護法の目的は,原子爆弾の投下の結果として生じた原爆放射線 認められない限り,その負傷又は疾病は原爆放射線の影響を受けたものとして原爆症認定がされるべきであると主張する。 確かに,被爆者援護法の目的は,原子爆弾の投下の結果として生じた原爆放射線に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることに鑑み,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じることなどにあり(同法前文),その根底には国家補償的配慮があるということができる(最判昭和53年3月30日・民集32巻2号435頁参照)。また,被告と原告らとの間に,各種調査結果等に係る証拠の収集能力に差があることも一概に否定することができない。しかし,被爆者援護法が,健康管理手当及び介護手当の支給につき,「原子爆弾の傷害作用の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。」という弱い因果の関係でよいことを明文で規定していることとの対比において,同法10条1項の医療の給付については,原爆放射線と疾病等又は治癒能力の低下との間に通常の因果関係があることを要すると解すべきことは前述のとおりであり,被爆者援護法の解釈として,一般的に上記のような推定ないし立証責任の転換をすべきであるということはできない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 2 旧審査の方針における被曝線量算定基準の合理性(1) 検討の方針ア前記法令の定め等によれば,厚生労働大臣が原爆症認定を行う場合には,被爆者援護法11条2項により原則として医療分科会の意見を聴かなければならないとされているところ,医療分科会においては,本件各却下処分がされた当時,旧審査の方針に基づいて放射線起因性の有無を判断していたものと認められる。 そこで,以下,旧審査の方針のうち,特に被曝線量の算定基準の ,医療分科会においては,本件各却下処分がされた当時,旧審査の方針に基づいて放射線起因性の有無を判断していたものと認められる。 そこで,以下,旧審査の方針のうち,特に被曝線量の算定基準の合理性について検討する。 なお,旧審査の方針における原因確率の合理性についても当事者間に争いがあるが,本件各却下処分のうち,実質的に原因確率の合理性が問題となるのは本件p8却下処分のみであるところ,前記前提となる事実のとおり,同処分は既に取り消され原告p8に対して原爆症認定がされていることから,原因確率の合理性については,国家賠償の成否の判断の際に必要な限度で検討することとする(付言するに,本件p1却下処分,本件p3却下処分及び本件p4却下処分については,いずれも申請疾病につき原因確率が定められておらず,本件p6却下処分及び本件p7却下処分については,申請疾病に悪性腫瘍(胃がん,脳腫瘍)を含むものの,術後診断はいずれも良性腫瘍(胃腺腫,髄膜腫)であり,同じく原因確率が定められていない。また,本件p5却下処分については,原告p5が有意な被爆をしていないという判断に基づいており,原因確率の多寡は実質的に問題とされていない。)。 イ前記のとおり,旧審査の方針は,申請者の被曝線量の算定は,初期放射線による被曝線量の値に,残留放射線(誘導放射線)による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の値を加えて得た値とするものとし,そのうち初期放射線による被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離の区分に応じて定めるものとし,その値は別表9に定めるとおりとし,残留放射線(誘導放射線)による被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離及び爆発後の経過時 は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離の区分に応じて定めるものとし,その値は別表9に定めるとおりとし,残留放射線(誘導放射線)による被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離及び爆発後の経過時間の区分に応じて定めるものとし,その値は別表10に定めるとおりとし,放射性降下物による被曝線量は,原爆投下の直後にl又はp(広島)あるいはq3,4丁目又はr(長崎)に滞在し,又はその後,長期間に渡って当該特定の地域に居住していた場合について定めることとし,その値はl又はp(広島)につき0.6~2センチグレイ,q3,4丁目又はr(長崎)につき12~24センチグレイとしている。 (2) 初期放射線による被曝線量の算定基準の合理性ア初期放射線とは,原爆のウランあるいはプルトニウムが臨界状態に達し,爆弾が爆発する直前に,瞬時に放出される放射線であり,その主要成分はガンマ線と中性子線である。旧審査の方針は,上記のとおり,被爆者の初期放射線量を別表9により算定するものとしている。 旧審査の方針別表9は,DS86の原爆放射線の線量評価システムにより求められた数値に基づいて作成されている。このDS86の線量評価システムとは,核物理学の理論に基づく空気中カーマ(爆弾から空気中を伝播してきた放射線量で被爆者周囲の遮蔽を介する前の被曝線量),遮蔽カーマ(被爆者の周囲の構造物による遮蔽を考慮した被曝線量),臓器カーマ(人体組織による遮蔽も考慮した被曝線量)の計算モデルを統合した線量計算方法に,被爆者の遮蔽データを入力して被爆者の被曝線量を計算するコンピュータシステムであり,特定の被爆者の入力データに基づき,超大型コンピュータにより行われた膨大な計算の結果得られた次の3つのデータベース,すなわち,自由空間データベース,家屋遮蔽データベー るコンピュータシステムであり,特定の被爆者の入力データに基づき,超大型コンピュータにより行われた膨大な計算の結果得られた次の3つのデータベース,すなわち,自由空間データベース,家屋遮蔽データベース,臓器遮蔽データベースを組み合わせて,所要の線量を出力として取り出すことができるようになっているものであって,計算値の妥当性が広島及び長崎で被曝した物理学的な試料(瓦,タイル,岩石,鉄,コンクリート,硫黄等)の中の残留放射能の測定値との比較により検証されたものである(乙A10,弁論の全趣旨)。 イ被告は,2002年線量評価体系(DosimetrySystem 2002,以下「DS02」という。)において,DS86の正当性が検証され,DS86及び旧審査の方針別表9の正確性は,現在では疑う余地のない科学的知見であると主張するが,他方,原告らは,DS86の線量評価システムは,爆心地から遠距離において過小評価となっているなどと主張する。 そこで,DS86の線量評価システムの合理性について検討するに,証拠(乙A9,10,19,20,34,38,39,41,75,76,168)及び弁論の全趣旨によれば,DS86の初期放射線の線量評価システムは,当時の最新の核物理学の理論に基づき,最良のシミュレーション計算法と演算能力の高い高性能のコンピュータを用い,爆弾の構造,爆発の状況,爆発が起きた環境(大気の状態,密度等),被爆者の状態等に関する諸条件を可能な限り厳密かつ正確に再現し,データ化して,被曝放射線量を推定したものであること,その後策定されたDS02は,DS86の基本的な評価方法を踏襲した上で,更に進歩した最新の大型コンピュータを駆使し,DS86よりも高い精度で被曝線量の評価を可能にしたものであるが,DS86を大きく変更するもの れたDS02は,DS86の基本的な評価方法を踏襲した上で,更に進歩した最新の大型コンピュータを駆使し,DS86よりも高い精度で被曝線量の評価を可能にしたものであるが,DS86を大きく変更するものではなかったこと,DS86は,国際放射線防護委員会(ICRP)による基準の根拠としても用いられ,世界の放射線防護の基本的資料とされるなど,世界中において優良性を備えた体系的線量評価システムとして取り扱われてきたこと,以上の事実が認められ,さらに,上記線量評価システムの計算過程に疑問を抱かせるべき事情は証拠上見当たらず,また,より高次の合理性を備えた線量評価システムが他に存在することを認めるに足りる証拠もないことからすれば,DS86の線量評価システムは,現在において,被爆者の初期放射線量を高い精度で算定することが可能な,相当の科学的合理性を有する線量評価システムであるということができる。 しかし,DS86及びDS02は,コンピュータによるシミュレーション計算の結果を基礎として策定されたものである以上,それらに基づく初期放射線量の推定値(計算値)は,飽くまでも近似的なものにとどまらざるを得ない(なお,DS86に係る日米原爆線量再評価検討委員会報告書(以下「DS86報告書」という。)によれば,DS86に基づく初期放射線の推定線量は,空気中カーマについて広島で16パーセント,長崎で13パーセント,臓器線量については25~35パーセントの不確定性(誤差)を有しているものと推定されている(乙A19,20)。)。また,広島,長崎に投下された原爆は,兵器として使用され,甚大な被害を生じさせたのであって,そのような広島,長崎の被害の実態がどこまでシミュレーションに反映されているかについての疑問が払拭しきれているとは言い難いのであり,特に広島原爆 器として使用され,甚大な被害を生じさせたのであって,そのような広島,長崎の被害の実態がどこまでシミュレーションに反映されているかについての疑問が払拭しきれているとは言い難いのであり,特に広島原爆については,原爆機材の構造など基本的事項が公表されておらず,その後同じ型のものが作られなかったため,その出力推定は困難であるとされている(甲A10,11)。また,後述するとおり,DS86による初期放射線量の推定値(計算値)と測定値の不一致の問題については,DS02による検証を踏まえても,いまだ完全に解決したとはいえない状況にある。これらの点を踏まえると,DS86及びDS02が現存するものとしては相当の合理性を有するとしても,その適用については上記の観点から一定の限界が存することにも十分留意する必要があるというべきである。 ウ計算値と測定値の不一致については,次のとおり,指摘することができる。 (ア) ガンマ線に関する不一致初期放射線のガンマ線量については,DS86報告書において,計算値と熱ルミネッセンス法による測定値との間の不一致,すなわち,広島の測定値が,爆心地から1000メートル以遠では計算値よりも大きく,1000メートル以内では計算値よりも小さく,長崎の測定値は,これとは逆の関係にあることが指摘されており(乙A38・185頁),さらに,p14教授らによって,1992年(平成4年),広島の爆心地から2050メートルの距離では,実測値がDS86による推定線量の2. 2倍(129±23ミリグレイ)となったことが報告され(「広島の爆心地から2.05㎞における測定ガンマ線量とDS86の評価値との比較」甲A24),1995年(平成7年),広島の測定値が,爆心地から約1300メートル以遠で計算値を超過し始め,不一致 れ(「広島の爆心地から2.05㎞における測定ガンマ線量とDS86の評価値との比較」甲A24),1995年(平成7年),広島の測定値が,爆心地から約1300メートル以遠で計算値を超過し始め,不一致が距離とともに増加することが指摘された(「爆心地から1.59㎞から1.63㎞の間の広島原爆のガンマ線量の熱ルミネッセンス法の線量評価」甲A25)。 その後,DS02で再検討が行われた結果,結論的には,DS02による計算値は,DS86による計算値と同様,測定値と全体的に良く一致しているとされたが,他方で,DS02日米合同評価作業グループ報告書(以下「DS02報告書」という。乙A168)によれば,広島については,遠距離では測定値が計算値よりも高いことを示唆する若干の例があるとされ(同463頁),また,広島及び長崎の爆心地から約1500メートル以遠の距離におけるガンマ線量の測定値については,バックグラウンドの誤差に大きく影響されるので,正確に決定することができないとされている(同402頁)。以上に加え,p14教授らが求めた広島の爆心地から2.05キロメートルのガンマ線線量の値は過大評価ではない旨のp15教授の指摘(甲A60)なども踏まえると,爆心地から約1300~1500メートル以遠の距離におけるDS86によるガンマ線量の計算値が過小評価されている可能性は,特に広島原爆において,DS02による検証を経てもなお否定することができないというべきである。 (イ) 熱中性子線(運動エネルギーの低い中性子線)に関する不一致初期放射線の熱中性子線量については,DS86報告書において,計算値とコバルト60の測定値の不一致,すなわち,爆心地から近距離では測定値よりも大きく,遠距離になるに従って測定値を下回り,爆心地から1 期放射線の熱中性子線量については,DS86報告書において,計算値とコバルト60の測定値の不一致,すなわち,爆心地から近距離では測定値よりも大きく,遠距離になるに従って測定値を下回り,爆心地から1180メートルの地点においては,測定値の4分の1になるという系統的な不一致があることが指摘されていた(乙A10,20)。 このような指摘を踏まえて,DS02においては,コバルト60以外に,ユーロピウム152や塩素36についても解析が行われ,①ユーロピウム152については,p16教授らが,バックグラウンドの影響を極めて低く押さえた環境で,高い検出効率での測定を行った結果,ユーロピウム152の放射化測定値とDS02による計算評価値とを比較すると,広島の爆心地から1424メートルの測定値も含めて,よく一致していることが判明したとされた(乙A168・602頁)。また,②塩素36については,アメリカ,ドイツ及び日本の各国において,広島・長崎で採取された鉱物試料中の熱中性子を測定するため,加速器質量分析法(AMS)によって熱中性子により誘導放射化した塩素36の放射化測定実験が行われ,その測定値は,バックグラウンドの影響のため塩素36の測定が困難となる距離(地上距離1100~1500メートル)までDS02の計算値と一致したとされ(同534,552,572頁),ユーロピウム152の測定値との相互比較においても一致したとされた(同599頁)。 以上のとおり,DS86報告書において指摘された熱中性子線に関する計算値と測定値の不一致の問題は,DS02報告書の中で,一応の解決を見たものとされている。もっとも,前述のバックグラウンドの影響を極めて低く押さえた環境における測定においても,1400メートル付近ではコバルト60及びユーロピウム1 S02報告書の中で,一応の解決を見たものとされている。もっとも,前述のバックグラウンドの影響を極めて低く押さえた環境における測定においても,1400メートル付近ではコバルト60及びユーロピウム152の測定値がいずれも計算値を上回っており(同487,603頁),塩素36についても,爆心地からの地上距離1100~1500メートル以遠では測定が困難であるというのであるから,広島及び長崎の爆心地から約1500メートル以遠の距離におけるDS86による熱中性子線量の計算値が過小評価されている可能性は,なお完全には否定することができないというべきである。 (ウ) 速中性子線(運動エネルギーの高い中性子線)に関する不一致初期放射線の速中性子線量については,DS86報告書において,広島のリン32の測定値と計算値とが比較され,「爆心地から数百メートル以内の距離では,計算と測定との間に大きな隔たりはみられない。それ以上の距離では,一致しているかどうかを言うには測定値の誤差が大きすぎる。」とされていた(乙A38・192頁)。 その後,銅試料中のニッケル63を測定することにより,速中性子線を測定する方法が開発され,広島の爆心地から900~1500メートルの距離における速中性子の測定値が初めて得られた結果,ニッケル63の測定値とDS86及びDS02の計算値が良く一致するとされた(乙A168・693頁)。もっとも,広島の速中性子線の測定値は,爆心地から1470メートルの地点ではDS02に基づく推定線量の1. 88±1.72倍となっており,遠距離における測定値と計算値のずれは解消されておらず(同688頁),また,1800メートル以遠のバックグラウンドについては依然として完全には理解されておらず,さらに検討すべきものとされてい おり,遠距離における測定値と計算値のずれは解消されておらず(同688頁),また,1800メートル以遠のバックグラウンドについては依然として完全には理解されておらず,さらに検討すべきものとされている(同694頁)。 (エ) まとめ以上のとおり,DS86の線量評価システムについては,DS02の検証を経てもなお,爆心地から1300~1500メートル以遠において,初期放射線の被曝線量を過小評価している可能性を否定することができない。 もっとも,DS02において,バックグラウンドによる測定自体の誤差等が検討され,バックグラウンドによる影響を極めて低くした精度の高い測定を行うなどした結果,完全とはいえないまでも,測定値とDS86による計算値との不一致が,バックグラウンドによる測定自体の誤差等の問題として相当程度解決されたと評価し得ることもまた事実である。また,①p14教授らの前記報告によれば,広島の爆心地から2050メートルの距離では実測値がDS86による推定線量の2.2倍であるとされているが,その実測値は平均で129±23ミリグレイ(0.129±0.023グレイ)にとどまり(甲A24),放射線の空中輸送において距離減衰が見られることは確立した知見である(大気中の原子核との衝突による減衰がないと仮定すれば,ガンマ線は距離の二乗に反比例して線量が低下する。)から,爆心地から2050メートル以遠においてはこれよりもさらに小さい数値となること,②原爆による中性子線量の全線量に対する割合は,広島の場合は1000メートルで5.8パーセント,1500メートルで1.7パーセント,2000メートルで0.5パーセントと非常に低く,長崎の場合はさらに低いとされており(乙A9,75),爆心地から遠距離(2000メートル以上) 5.8パーセント,1500メートルで1.7パーセント,2000メートルで0.5パーセントと非常に低く,長崎の場合はさらに低いとされており(乙A9,75),爆心地から遠距離(2000メートル以上)における中性子線の過小評価の可能性は,その生物学的効果比を考慮してもなお,被曝線量全体から見ればごくわずかであると考えられることからすると(乙A76),DS86において,爆心地から遠距離において初期放射線の被曝線量が過小評価されている可能性があるとしても,その絶対値はそれほど大きなものであるとは考え難い。したがって,DS86に基づく初期放射線量の評価には,爆心地から1300~1500メートル以遠において過小評価の可能性があるものの,これをあまり過大視することも相当ではないというべきである。 (3) 誘導放射線による被曝線量の算定基準の合理性ア誘導放射線とは,地上に到達した初期放射線の中性子が,建物や地面を構成する物質の特定の元素の原子核と反応を起こし(誘導放射化),これによって生じた放射性物質(誘導放射化物質)が放出する放射線である。 旧審査の方針別表10は,誘導放射線による外部被曝線量について,広島においては原爆爆発から72時間以内に爆心地から700メートル以内に,長崎においては原爆爆発から56時間以内に爆心地から600メートル以内に,それぞれ入った場合に,同別表に従って算定するものとしている(乙A1。なお,旧審査の方針の「残留放射線」とは,誘導放射線の意味である。)。 誘導放射線については,p17及びp18により,DS86による初期放射線(中性子線)の線量評価を前提に,広島・長崎の実際の土壌中の元素の種類等を基に生成された誘導放射能量を計算した研究結果が報告され(「原爆が誘発した土壌の放射化による線量の計 DS86による初期放射線(中性子線)の線量評価を前提に,広島・長崎の実際の土壌中の元素の種類等を基に生成された誘導放射能量を計算した研究結果が報告され(「原爆が誘発した土壌の放射化による線量の計算」乙A187),p19ABCC顧問らにより,広島の土壌及び建築材料に中性子線を照射してどのような放射性核種が生じるかの検証を行った研究結果が報告され(「広島・長崎における中性子誘導放射能からのガンマ線量の推定」乙A188),さらに,p20らが,DS86報告書第6章において,これらの調査結果を総括し,爆発直後から無限時間を想定した爆心地における地上1メートルの地点での積算線量は,「広島について約80R,長崎について30ないし40Rであると推定される」,これを組織吸収線量に換算すると,「長崎については18ないし24ラド(0.18~0.24グレイ)」「広島では約50ラド(0.5グレイ)」になると結論付けている(DS86報告書第6章「残留放射能の放射線量」乙A16)。旧審査の方針別表10は,これらの科学的知見を基礎として策定されたものであり,各研究,調査結果の合理性を疑わせる事情も特に見当たらないことも考慮すれば,旧審査の方針別表10は,誘導放射線による外部放射線量の算定方法として,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 イしかし,広島及び長崎の土壌に由来する誘導放射線については,DS86報告書第6章自体が,「(複数の測定者による測定土壌濃度に係る放射能活性化前元素の)各組の間の変動性はかなり大きく,それは計算された放射化が広範には適用できないかも知れないことを示す。」としており(乙A16・220頁),しかも,p19らが昭和44年に広島の16か所及び8か所の土壌の科学的成分を測定した結果によれば,有力な誘導放射化物質となり得 用できないかも知れないことを示す。」としており(乙A16・220頁),しかも,p19らが昭和44年に広島の16か所及び8か所の土壌の科学的成分を測定した結果によれば,有力な誘導放射化物質となり得るマンガン55及びナトリウム23の含有量について,同一市内でも測定場所により3倍から15倍程度の開きがあったことが認められること(乙A188・6頁),p21による「広島および長崎における残留放射能」においては,広島における最も重要なガンマ線放出同位元素として,DS86報告書第6章が特に考慮していない珪素31(半減期2.65時間)等が挙げられていること(乙A11・8頁)なども考慮すると,旧審査の方針における誘導放射線による放射線量の算定に当たっては,上記のような制約等から一定の限界が存することに十分留意する必要があるというべきである。 また,旧審査の方針別表10は,地表面(土壌)から生じる誘導放射線(ガンマ線)を地表1メートルの高さで積算したものであるが,原爆の爆発によって放出された中性子により誘導放射化されるのは,土壌に限られるものではなく,建物等の建築資材や空気中の塵埃等も含まれ,人体や遺体もその例外ではない(甲A117の14)。しかも,地表1メートルの高さによるガンマ線の積算という点も,放射性物質に直接接触し又はこれを体内に取り入れた場合など,様々な形態での被曝線量を必ずしも的確に算定できるものとは考え難い(C大学放射線医学研究所での計算事例によれば,被爆8時間後,500メートル入市の場合,0.1ミリメートル厚の埃を2日間浴びていた場合,皮膚を通じる被曝線量は0.43グレイと示された旨報道されている(甲A212)。)。さらに,上記別表10は,爆心地から600~700メートル以遠においては,原爆の中性子線がほとんど届かないた 場合,皮膚を通じる被曝線量は0.43グレイと示された旨報道されている(甲A212)。)。さらに,上記別表10は,爆心地から600~700メートル以遠においては,原爆の中性子線がほとんど届かないため誘導放射線もほとんど発生しないことを前提としているが,原爆爆発後に生じた強烈な衝撃波や爆風によって,誘導放射化された土壌等が粉塵となって舞い上がり,600~700メートル以遠に飛散する可能性も十分考えられるところである(この点,p22らが被爆直後の昭和20年8月から12月までに収集した資料に基づく調査報告によれば,「即ち爆心から2粁以内の圏内にあっては光って直ぐ建物土壁などが倒壊し,塵埃が黒煙のように一時に四方に立って急に周囲が夕闇乃至日食時程度の暗さになり,晴れて明るくなるまで5~30分も要した。」とされ,その注釈には,「広島でしきりに『ガス』を呑んだものは原子症がひどいというが,この『ガス』はおそらく高放射能を持つ有害物質を含む黒塵の立ったものを指すと思われる。」とされている(甲A69)。また,p23は,黒い雨専門家会議報告書資料編中の論文において,「地上600mで爆発した空気の圧力振動や突風(衝撃波)が地上に達し,反射して再び上空にはねかえるとともに,四方に拡がっていくことで,多くの家屋や樹木を瞬時に倒し,ふんじんを発生したり,地表から土砂を巻き上げたりする。これらの粒子は原爆からの強い放射線により,二次的放射能となっている。」とし,広島原爆における粉塵の水平スケールを原爆雲の写真判定により4500メートル(半径2250メートル)と見積もった上,「ふんじんや煙は二次放射能のため,半減期が短く,長期間残留する可能性は少ないが,降下量が多いことから,人体への影響は慎重に評価しなくてはならない。」としている(乙A77・39頁)。)。そし た上,「ふんじんや煙は二次放射能のため,半減期が短く,長期間残留する可能性は少ないが,降下量が多いことから,人体への影響は慎重に評価しなくてはならない。」としている(乙A77・39頁)。)。そして,このような誘導放射化された粉塵が身体に直接付着したり,飲食や吸入により体内に摂取されたり,あるいは,被爆者が誘導放射化された瓦礫や人体に直接接触したり,傷口等から誘導放射化物質が体内に取り込まれたりといったことが考えられ,こういった様々な形態での誘導放射化物質による外部被曝及び内部被曝を引き起こす可能性があることを否定することができない。しかも,旧審査の方針別表10によれば,原爆投下直後に爆心地付近に入ったような場合でない限り,被曝線量はせいぜい10センチグレイにも満たないとされているが,後述するとおり,初期放射線にほとんど被曝していない入市被爆者や遠距離被爆者にも放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じている旨の調査結果が複数報告されており,旧審査の方針別表10による外部被曝線量評価だけではこれらの調査結果を合理的に説明することができないのであり,これには誘導放射線による外部被曝及び内部被曝の影響を考えざるを得ない。 これらの点を考慮すると,旧審査の方針別表10は,誘導放射線による被曝線量の評価として過小評価となっている疑いが強いというべきであり,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,爆心地から600~700メートル以遠の地域(特に爆心地から2250メートル内)にも誘導放射化物質が相当量存在していた可能性を考慮に入れ,かつ,その被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,誘導放射化された放射性物質による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性を十分に考慮する必要があるというべきであ に入れ,かつ,その被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,誘導放射化された放射性物質による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性を十分に考慮する必要があるというべきである。 (4) 放射性降下物による被曝線量の算定基準の合理性ア放射性降下物による放射線とは,原爆の核分裂によって生成された放射性物質(未分裂の核物質,核分裂生成物など)による放射線のことである。 旧審査の方針は,放射性降下物の被曝線量について,原爆投下の直後に特定の地域に滞在し,又はその後,長期間にわたって当該特定の地域に居住していた場合について定めており,具体的には,l又はp(広島)につき0. 6~2センチグレイ,q3,4丁目又はr(長崎)につき12~24センチグレイとしている(乙A1)。 放射性降下物については,原爆投下の数日後から複数の測定者が放射線量の測定を行い,これらの調査の結果,広島ではl・p地区,長崎ではq地区で放射線の影響が比較的顕著に見られることが分かり,これは,原爆の爆発後,両地区において激しい降雨があり,これによって放射性降下物が降下したものであることが確認された(乙A9,16,170~173,弁論の全趣旨)。そして,初期調査に基づく線量率の報告として,①長崎のq地区については,爆発1時間後から無限時間を想定した地上1メートル地点での積算線量を,29レントゲン又は24~43レントゲン(p24らによる報告),最大で42レントゲン(p25らによる報告)とする報告があり,②広島のl・p地区については,爆発1時間後から無限時間を想定した地上1メートル地点での積算線量を,1レントゲン(p26らによる報告),1.2レントゲン(p24らによる報告),0.6~1.6レントゲン(p25らによる報告),3レ 発1時間後から無限時間を想定した地上1メートル地点での積算線量を,1レントゲン(p26らによる報告),1.2レントゲン(p24らによる報告),0.6~1.6レントゲン(p25らによる報告),3レントゲン(p27らによる報告)とする報告があり,③p20らは,これらの調査結果を総括して,「(放射性降下物による)1mにおける累積的被曝の推定の大部分は,よく一致している。q地区における放射性降下物の累積的被曝への寄与は,恐らく20ないし40R(レントゲン)の範囲であり,l-p地区では,それは恐らく1ないし3Rの範囲である。」とし,これを組織吸収線量に換算すると,「長崎については12ないし24ラド(0.12~0. 24グレイ)」「広島については0.6ないし2ラド(0.006~0.02グレイ)」になると結論付けている(乙A16)。旧審査の方針第1の四の3の表は,これらの科学的知見を基礎として策定されたものであり,DS86報告書第6章策定後の調査結果による推定値もこれと特に矛盾するものではないこと(甲A27,乙A170)も考慮すると,旧審査の方針は,放射性降下物による外部被曝線量の算定方法として,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 イしかし,放射性降下物の測定結果については,DS86報告書第6章自体が,「測定の正確性に影響する多くの要素は,爆弾投下後40年経っても良く知られておらず,したがって被曝線量推定は,おおまかな近似にならざるを得ない。一般的に,被曝率の測定は風雨の影響がある以前に速やかには測定されなかったし,その後の風雨の影響を明らかにしたり,放射能の時間分布を与えるのに十分な程繰り返されなかった。測定場所の数はあまりにも少なく,放射能の詳細な地理的分布について十分推定できるものではなかった。またかかる調査では,代 響を明らかにしたり,放射能の時間分布を与えるのに十分な程繰り返されなかった。測定場所の数はあまりにも少なく,放射能の詳細な地理的分布について十分推定できるものではなかった。またかかる調査では,代表的でない標本が抽出されることが多く,かかる標本のかたよりが存在しているかどうかも不明である。 最後に,較正や測定の詳細については,必ずしも入手できていない。」とし,「我々は,多数の測定の精度やすべての外挿の精度が非常に低いことを強調する。」などとしているのであり(乙A16・210頁),しかも,放射性降下物は必ずしも一様に存在していたわけではなく,降下形態やその後の集積により局地的に強い放射線を出す場合があり得ること(原爆投下後数か月以内の複数の測定結果からは,放射性降下物が相当不均一に存在していたことが推認される(甲A73,乙A171~173)。また,p28D大学教授らによる昭和20年10月1日における測定の結果においても,長崎のq地区の屋外には,自然界の150~300倍の放射能を示す場所があり,特に,灰様の落下物が比較的純粋に付着していると思われるものを測定すると,1000~1200倍の放射能を示したとされている(乙A114)。)も考慮すると,旧審査の方針における放射性降下物による放射線量の算定に当たっては,上記のような測定精度や測定資料等の制約から一定の限界が存することに十分留意する必要があるというべきである。 また,旧審査の方針においては,特定の地域についてのみ放射性降下物による外部放射線量を算定することとなっているが,これらの地域において放射性降下物が比較的多かったとしても,それ以外の地域において放射性降下物が全くなかったとは考え難いのであり,広島におけるl・p地区,長崎におけるq地区以外の地域にも放射性降下物が降下し又 において放射性降下物が比較的多かったとしても,それ以外の地域において放射性降下物が全くなかったとは考え難いのであり,広島におけるl・p地区,長崎におけるq地区以外の地域にも放射性降下物が降下し又は浮遊していた可能性は否定し難い(なお,広島における原爆投下直後の降雨に関する調査結果としては,代表的なものとして,前出のp22ら「気象関係の広島原子爆弾被害調査報告」(甲A69)とp29「広島原爆後の”黒い雨”はどこまで降ったか」(甲A70)があり,後者による降雨域(いわゆるp29雨域)は前者による降雨域(いわゆるp22雨域)の約4倍の広さであるところ,p30らが行った調査結果によれば,降雨域はp22雨域よりも広いことが示唆され,少なくとも広島市内についてはp29雨域に近いことが示唆されたとされており(甲A27,乙A170),l・p地区以外の地域でも相当量の放射性降下物を含む降雨があったことが推認される。また,長崎についても,q地区以外の地域における降下物の目撃供述があるとされている(甲A65)。)。しかも,旧審査の方針の放射性降下物に係る被曝線量は,放射性降下物によるガンマ線を地表1メートルの高さで積算したものであるが,放射性降下物についても,誘導放射線について論じたのと同様,放射性物質である放射性降下物に直接接触したり,これを体内に摂取したりすることによる,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性があることを否定することができない。また,放射性降下物は土壌に均一に存在しているとは限らず,放射性降下物が集積し局地的に強い放射線を出している場合も考えられ,これに接し又は近接することにより相当量の被曝を受ける可能性もある。しかも,広島の放射性降下物による外部被曝線量は最大でもわずか2センチグレイ(0.02グレイ)とされているが,p22ら も考えられ,これに接し又は近接することにより相当量の被曝を受ける可能性もある。しかも,広島の放射性降下物による外部被曝線量は最大でもわずか2センチグレイ(0.02グレイ)とされているが,p22らの上記調査報告によれば,「この雨水は黒色の泥雨を呈したばかりでなく,その泥塵が強烈な放射能を呈し人体に脱毛,下痢等の毒性生理作用を示し,魚類の斃死浮上其他の現象をも現した。」「lp方面の人は爆発後約3ヶ月にわたって下痢するものがすこぶる多数に上った。」などとされており(甲A69),旧審査の方針による放射性降下物の外部被曝線量評価だけでは,原爆投下直後の調査結果において放射性降下物の影響であるとみられる現象や症状が報告されていることを合理的に説明することができない。 これらの点を考慮すると,旧審査の方針第1の四の3の表は,放射性降下物による被曝線量評価として過小評価となっている疑いが強いというべきであり,実際に被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,旧審査の方針第1の四の3の表が定める特定の地域以外の地域にも放射性降下物が相当量降下し又は浮遊していた可能性を考慮に入れ,かつ,当該被爆者の被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,放射性降下物による様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきである。 (5) 内部被曝の影響を考慮しないことの合理性についてア内部被曝とは,呼吸,飲食,外傷,皮膚等を通じて体内に取り込まれた放射性物質が放出する放射線による被曝をいうが,旧審査の方針は,内部被曝による被曝線量を特に算出していない。 内部被曝については,E大学のp20博士らが,昭和44年及び昭和56年,長崎のq地区住民を対象とし,ホールボディカウンター(人間の の方針は,内部被曝による被曝線量を特に算出していない。 内部被曝については,E大学のp20博士らが,昭和44年及び昭和56年,長崎のq地区住民を対象とし,ホールボディカウンター(人間の体内に摂取された放射性物質の量を体外から測定する装置)を用いて,セシウム137による放射線量を実測し,内部被曝線量の評価を行ったこと,そのデータを用いて,昭和20年から昭和60年までの40年間に及ぶ内部被曝線量を積算したところ,男性で10ミリレム(0.0001グレイ),女性で8ミリレム(0.00008グレイ)と推定されたことがDS86報告書第6章において報告されている(乙A16・219頁)。旧審査の方針が内部被曝による被曝線量を算出していないのは,上記のような科学的知見に基づくものであるところ,上記報告の他にも,原爆当日に広島で8時間の片付け作業に従事した場合の内部被曝線量の推定は0.06マイクロシーベルトであるとして,外部被曝に比べ無視できるレベルであるとする報告(F大学原子炉実験所p31「DS02に基づく誘導放射線量の評価」乙A75)や,放射性核種により高濃度に汚染されたw川の水を大量に飲んだとしても,内部被曝線量は無視し得る程度のものである旨の意見(放射線医学研究所p32「内部被曝に関する意見書」乙A84)も示されており,旧審査の方針が内部被曝による被曝線量を算出せず,その影響を考慮していないことは,相当の科学的根拠に基づくものということができる。 イしかし,他方,DS86報告書の上記調査結果については,同報告書自体が「短命核分裂生成物への潜在的被曝を評価する方法はない。」としているとおり(乙A16・227頁),短時間で大きな内部被曝を生じさせる可能性のある短命核分裂生成物による内部被曝線量については,全く不明であると言わ 成物への潜在的被曝を評価する方法はない。」としているとおり(乙A16・227頁),短時間で大きな内部被曝を生じさせる可能性のある短命核分裂生成物による内部被曝線量については,全く不明であると言わざるを得ない上,p20らの上記調査においては,セシウム137以外の放射性物質については測定されていないことや,前述のとおり,局地的に放射性降下物や誘導放射化物質が集積するなどしている場合があり得ることも考慮すると,DS86報告書の調査結果やその後の報告等をもって,内部被曝線量は無視し得る程度のものであると評価することには,なお疑問が残るといわざるを得ない。 しかも,被告は,放射線被曝による健康影響は,内部被曝か外部被曝かといった被曝態様で危険性が変わるというものではないと主張しているところ,これを支持する見解もあるが(乙A44,115,124,183等),他方で,内部被曝については,①ガンマ線の線量は線源からの距離に反比例するから,同一の放射線核種による被曝であっても,外部被曝よりその被曝量は格段に大きくなる,②外部被曝ではほとんど問題とならないアルファ線やベータ線を考慮する必要があり,しかもこれらは飛程距離が短いため,そのエネルギーのほとんど全てが体内に吸収され,核種周辺の体内組織に大きな影響を与える,③人工放射線核種は,放射性ヨウ素なら甲状腺というように,特定の体内部位に濃縮され,集中的な体内被曝が生じる,④放射性核種が体内に沈着すると,体内被曝が長期間継続することになる,などの外部被曝と異なる点があり,一時的な外部被曝よりも身体に大きな影響を与える可能性があると指摘する見解もある(甲A11,45,60,129,143,194,196,234,235等。なお,②のアルファ線及びベータ線の影響については,「原爆放射線 も身体に大きな影響を与える可能性があると指摘する見解もある(甲A11,45,60,129,143,194,196,234,235等。なお,②のアルファ線及びベータ線の影響については,「原爆放射線の人体研究1992」においても,「この(体内へ摂取された放射能が内臓諸器官を直接照射する)場合は,ガンマー線以外にベーター線やアルファー線も影響している。とくに爆発直後のもうもうたるチリの中にいた者をはじめとして,後日死体や建築物の残骸処理などで入市して多量のチリを吸収した者は,国際放射線防護委員会が職業被爆者について勧告している最大許容負荷量以上の放射能を体内に蓄積した可能性がある。」とされている(乙A9・7頁)。)。そして,確かに,内部被曝における機序の違いについてはいまだ必ずしも科学的に解明,実証されておらず,現状においては,上記の見解が科学的知見として確立しているとは言い難いとはいえ,放射性物質が体内にあるか体外にあるかによってその身体に与える影響に大きな差異があるという見解には,被告が主張する被曝態様により危険性が変わるものではないとする見解に比して相当の説得力があるように思われるのであり,しかも,低線量放射による継続的被曝が高線量放射線の短時間被曝よりも深刻な障害を引き起こす可能性について指摘する科学文献やこれを支持する見解があり(甲A21,36,37,76,129,143~149等),このような科学的知見や解析結果を一概に無視することはできないこと(この点,原子力安全委員会・放射線障害防止基本専門部会・低線量放射線影響分科会が平成16年3月にまとめた「低線量放射線リスクの科学的調査-現状と課題-」においても,細胞レベルではあるが,逆線量率効果(同じ被曝線量であれば,長期にわたって被曝した場合の方がリスクが上昇する現象),バイ 年3月にまとめた「低線量放射線リスクの科学的調査-現状と課題-」においても,細胞レベルではあるが,逆線量率効果(同じ被曝線量であれば,長期にわたって被曝した場合の方がリスクが上昇する現象),バイスタンダー効果(被曝した細胞から隣接する細胞に被曝の情報が伝わる現象),ゲノム不安定性(放射線被曝を受けた細胞集団に長期間にわたる様々な遺伝的変化が非照射時の数倍から数十倍の高い頻度で生じ続ける状態が続く現象)の可能性が指摘されている(甲A198)。また,いわゆるホットパーティクル理論は,ICRP等により相当の科学的根拠をもって否定されているが(乙A44,49,116,150等),内部被曝の機序についてはいまだ知見が乏しい状況にあり,上記バイスタンダー効果等の可能性も含め,なお議論の余地があり得るように思われる。),後述するとおり,入市被爆者等に生じた放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じている旨の調査結果があり,推定される外部被曝線量及びしきい線量だけでは必ずしもこれを十分に説明し得ないこと,前述のp22らの調査報告に「広島でしきりに『ガス』を呑んだものは原子症がひどいというが,この『ガス』はおそらく高放射能を持つ有害物質を含む黒塵の立ったものを指すと思われる。」といった記載があること等に鑑みれば,原爆による内部被曝線量は無視し得る程度のものであるとしてこれを考慮しない旧審査の方針には,疑問があるといわざるを得ない。 したがって,前述したとおり,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,誘導放射化物質及び放射性降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきであり,加えて,内部被曝による身体 動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,誘導放射化物質及び放射性降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきであり,加えて,内部被曝による身体への影響には,一時的な外部被曝とは異なる性質があり得ることを念頭に置く必要があるというべきである。 ウこれに対し,被告は,①体内に取り込まれた放射性核種は,人体に備わった代謝機能により体外に排出される,②チェルノブイリ原発事故では,事故後10年後辺りから甲状腺がんの有意な増加がみられるが,遠距離・入市被爆者に見られるがんにそのような傾向は見られず,内部被曝の影響があったとは考え難い,③医療の現場等においても放射性物質の投与が行われており,それによる人体影響がないというのが医療の常識である,などと主張して,原爆被爆者において内部被曝の影響を重視することは誤りであると主張する。 しかし,①の点については,体内に取り込まれた放射性核種が体外に排出されるまでには相応の日数を要する上,短命核分裂生成物による内部被曝の場合には,体外に排出される頃には既に相当の内部被曝が生じているのであるから,この点をもって原爆被爆者の内部被曝を無視し得るということにはならない。また,②の点については,原爆の被爆者に他のがんとの比較において甲状腺がんの有意な増加がみられないとする根拠が明らかではない上,チェルノブイリ原発事故により小児甲状腺がんが増加したということは,かえって,内部被曝により特定の臓器に影響を与えることを明確に裏付けるものであって,この点をもって原爆被爆者の内部被曝を無視し得るということにはならない上,被爆者とチェルノブイリ原発事故における内部被曝の状況を同一視することは疑問といわざるを得ない。また,③の点については,そも この点をもって原爆被爆者の内部被曝を無視し得るということにはならない上,被爆者とチェルノブイリ原発事故における内部被曝の状況を同一視することは疑問といわざるを得ない。また,③の点については,そもそも医療上の必要により放射性物質が投与された場合に内部被曝の影響が生じていないとする根拠が明らかではない上,放射性物質やそれが体内に取り込まれる態様も異なり,医療上の必要により放射性物質が投与される場合には,現在の医療水準に基づき,放射性物質による影響をできる限り少なくするための努力がされるはずであって,全く無防備であり特段の事後対応もされない原爆被爆者の場合と同視することにはそもそも疑問があり,この点をもって原爆による内部被曝を無視し得るということにはならない。したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 (6) 遠距離被爆者及び入市被爆者に生じた症状の評価についてア遠距離被爆者に生じた症状について(ア) 被告は,被曝による急性症状が全体の1パーセント程度の人に出るしきい線量として,皮下出血(歯茎からの出血,紫斑を含む。)については2グレイ程度(旧審査の方針別表9に基づく初期放射線量によれば,爆心地からの距離が広島で1200メートル付近,長崎で1300メートル付近で被爆した場合に相当する。),脱毛及び下痢については3グレイ程度(同じく広島で1100メートル付近,長崎で1200メートル付近で被爆した場合に相当する。)であると主張しているところ,旧審査の方針による誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝線量は最大で数十センチグレイ程度であるから,被告の上記主張を前提とすれば,広島においても長崎においても,爆心地から1500メートル以遠において皮下出血,脱毛,下痢といった被曝による急性症状が生じること 最大で数十センチグレイ程度であるから,被告の上記主張を前提とすれば,広島においても長崎においても,爆心地から1500メートル以遠において皮下出血,脱毛,下痢といった被曝による急性症状が生じることはほとんどないはずである。 (イ) しかし,原爆投下後比較的早期に行われた調査として,①広島・長崎における被曝20日後の生存者約1万3000人を調査した結果に基づく日米合同調査団報告書(甲A6,124),②爆心地から5キロメートル以内の被爆者5120人を昭和20年10月に調査した結果に基づくG大学医学部診療班の原子爆弾災害調査報告(甲A86,124,乙A110),③長崎の被爆者約6000人(死亡者333人を含む)を昭和20年10月から12月にかけて調査した結果に基づく調来助らの「長崎ニ於ケル原子爆弾災害ノ統計的観察」(甲A67文献4,90),④広島の被爆者約4000人を昭和32年1月から7月にかけて調査した結果に基づくp34の「原爆残留放射能障碍の統計的観察」(甲A5)等があるが,これらの調査結果からは,調査主体,調査時期及び調査規模が様々であるにもかかわらず,いずれも一致して,広島についても長崎についても,脱毛や皮下出血(紫斑)が生じたとする者が,爆心地から1500~2000メートルの地点で被爆した者については10パーセント前後以上,2000メートル以遠で被爆した者についても数パーセント以上存在し,かつ,これらの症状(特に脱毛)を生じたとする者の割合が,爆心地から遠ざかるにつれて,あるいは遮蔽の存在により,減少する傾向が明らかに認められる(なお,以上の調査結果の他にも,放影研が約8万7000人の被爆者を対象として実施した脱毛に関する調査(「原爆被爆者における脱毛と爆心地からの距離との関係」甲A87),p33らが長崎の被爆者3 れる(なお,以上の調査結果の他にも,放影研が約8万7000人の被爆者を対象として実施した脱毛に関する調査(「原爆被爆者における脱毛と爆心地からの距離との関係」甲A87),p33らが長崎の被爆者3000人を対象として実施した急性症状の発症率に関する調査(「長崎原爆における被爆距離別の急性症状に関する研究」甲A89),同じくp33らが約1万3000人の被爆者を対象として実施した,遮蔽状況を考慮した急性症状等に関する調査(「被爆状況別の急性症状に関する研究」甲A88),同じくp33らが急性症状の情報が得られた被爆者のうち約3300人を対象として実施した,急性症状の発生頻度に与える地形による遮蔽の影響に関する調査(「長崎原爆の急性症状発現における地形遮蔽の影響」甲A67文献15),米軍マンハッタン調査団が昭和20年9月から10月にかけて実施した,入院中の被爆者ら900人を対象とした調査(甲A124の12),厚生省公衆衛生局が昭和40年11月に健康調査を受けた9042人から被爆後の身体異常の有無に関する調査(甲A199),厚生省保健医療局が昭和60年に死没者について行った調査(弁論の全趣旨,p13訴訟最高裁判決参照)等があり,数値の多少はあるものの,全体的にはいずれも概ね前述した傾向に合致する調査結果となっている。)。 (ウ) これらの調査結果とその傾向に照らすと,爆心地からの距離が1500メートル以遠において被爆した者に生じたとされる脱毛や皮下出血等の症状は,全てとはいえないまでも,その相当部分について放射線による急性症状であるとみるのが自然である。ただし,前述のとおり,初期放射線による外部被曝線量は,爆心地から2000メートル以遠においては過小評価の可能性を考慮してもせいぜい十数センチグレイ程度であり,1グレイにも達しないと が自然である。ただし,前述のとおり,初期放射線による外部被曝線量は,爆心地から2000メートル以遠においては過小評価の可能性を考慮してもせいぜい十数センチグレイ程度であり,1グレイにも達しないとみられることや,他方,外部被曝による脱毛や下痢のしきい線量は3グレイ程度とされていること(乙A98,158等)なども考慮すると,爆心地から1500メートル以遠にみられる脱毛等の症状につき,初期放射線による外部被曝が主たる原因であると理解することもまた困難であって(なお,遮蔽の有無により急性症状の発症率に有意な差があることは,原爆爆発直後に発生した短寿命の誘導放射化物質や放射性降下物への曝露の程度に差があったためと考えることも可能である。),むしろ,主として,誘導放射化された大量の粉塵等や放出された放射性降下物から発せられる残留放射線に,外部被曝及び内部被曝したことによる急性症状であるとみるのが,最も自然かつ合理的というべきである。 イ入市被爆者に生じた症状について(ア) 原爆投下時には広島市内又は長崎市内におらず,原爆投下後に市内に入った者(いわゆる入市被爆者)について,脱毛等の放射線による急性症状とみられる症状が生じたとする複数の調査結果が存在している。 すなわち,①前出のp34「原爆残留放射能障碍の統計的観察」によれば,原爆投下時には広島市内にいなかった非被爆者で,原爆投下直後広島市内に入ったが中心地(爆心地から1キロメートル以内)には出入りしなかった104人には,発熱,下痢,脱毛等の症状はみられなかったが,同様の非被爆者で原爆投下直後中心地に入った525人には,うち230人(43.8パーセント)にこれらの症状がみられ,その発熱,下痢,脱毛等の症状は全く急性原爆症そのままであり,そのうち原爆直後から 同様の非被爆者で原爆投下直後中心地に入った525人には,うち230人(43.8パーセント)にこれらの症状がみられ,その発熱,下痢,脱毛等の症状は全く急性原爆症そのままであり,そのうち原爆直後から20日以内に中心地に出入りした人に有症率が高く,他方,原爆投下1か月後に中心地に入った人の有症率は極めて低い,また,中心地滞在時間が4時間以下の場合は有症率が低く,10時間以上の人に有症率が高いなどと報告されている(甲A5)。また,②広島市が昭和46年に刊行した「広島原爆戦災誌第一編総説」に記載されている「残留放射能による障碍調査概要」によれば,広島市陸軍船舶司令部隷下の将兵(暁部隊)のうち,爆心地から約12キロメートル又は約50キロメートルの地点にいた将兵で原爆投下後に入市して負傷者の救援活動等に従事した233人について,下痢患者が多数続出したほか,ほとんど全員が白血球3000以下と診断され,発熱,点状出血,脱毛の症状も少数ではあるがあったとされている(甲A112の17)。さらに,③H広島局・原爆プロジェクトチームによる「ヒロシマ・残留放射能の四十二年[原爆救援隊の軌跡]」によれば,賀北部隊工月中隊に所属し原爆投下後入市して作業に従事した隊員99人に対するアンケート等調査の結果,その約3分の1が放射線障害による急性障害に似た諸症状を訴えており,その中には脱毛が18人,皮下出血が1人,白血球減少が11人等であったとされ,そのうち脱毛6人,歯齦出血5人,口内炎1人,白血球減少症2人については放影研によりほぼ確実な放射線による急性症状があったと思われるとされている(乙A21)。また,これらの調査結果と同様に,入市被爆者に放射線による急性症状とみられる症状が生じていた旨の調査結果や証言等が多数存在している(甲A116,124,152,154, るとされている(乙A21)。また,これらの調査結果と同様に,入市被爆者に放射線による急性症状とみられる症状が生じていた旨の調査結果や証言等が多数存在している(甲A116,124,152,154,207等)。 (イ) これらの調査結果等によれば,原爆投下時には広島市内又は長崎市内にいなかった者であっても,原爆投下直後に爆心地付近に入った者については,放射線被曝による急性症状とみられる脱毛,下痢,発熱等の症状が少なからず生じていることが明らかに認められ,爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほど有症率が高いとされていること(上記①)も考慮すると,これらの症状は,誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝及び内部被曝の影響によるものとみるのが自然であり,放射線被曝以外の原因によるものと理解することは困難である。 ウ被告の反論について(ア) 被告は,遠距離被爆者に関する各調査結果について,被爆者の脱毛等の症状が必ずしも距離に反比例して減少しているわけではないとか,被爆者の不確かな記憶を頼りにしたアンケート調査のみに依拠して遠距離被爆者にも急性症状が生じたと認定することは適切でないとか,調査対象者に偏り(バイアス)があるとか,症状について医師による診察が行われておらず,医学的判断を経たものではないなどとして,遠距離被爆者に生じたとされる症状が放射線被曝によるものであるとはいえないと主張する。 しかし,遠距離被爆者の急性症状に関する各調査結果については,個別にみればそれぞれ被告が主張するような問題点があるということができるとしても,これらを全体としてみれば,爆心地から1500メートル以遠の被爆者に放射線被曝による急性症状とみられる身体症状が発生しており,爆心地から遠距離になるに従って 問題点があるということができるとしても,これらを全体としてみれば,爆心地から1500メートル以遠の被爆者に放射線被曝による急性症状とみられる身体症状が発生しており,爆心地から遠距離になるに従ってその発症率が低下していくといった一定の傾向が存在することは,客観的な事実として優に認定し得る。そして,このような傾向等に鑑みれば,前述のとおり,遠距離被爆者に生じた症状が,放射線の影響による症状ではないと断ずることは不合理といわざるを得ないのであり,被告の上記主張は採用することができない。 (イ) また,被告は,入市被爆者に関する各調査結果についても,原爆投下から数十年経過した後にされたアンケート調査にすぎず,個々の症状が発生した期間やその程度等も明らかでなく,それらの症状が急性症状であったとはいえないなどと主張する。 しかし,遠距離被爆者に関する各調査結果について述べたのと同様,全体としてみれば,原爆投下後に爆心地付近に入った入市被爆者に放射線被曝による急性症状とみられる症状が多数発生しており,爆心地付近に入った時期が早く,また滞在時間が長いほど有症率が高いといった傾向があることは十分認定することができ,入市被爆者に生じた症状が放射線の影響による症状ではないと断ずることは不合理であって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ) 被告は,入市被爆者に関する調査結果について,①被曝による急性症状には,被曝態様にかかわらず,発症する症状の内容,発症時期,程度,回復時期等に明確な特徴があり,原爆被爆者に生じた症状がこのような特徴を備えているかどうかを判断する必要があるとした上,前述のp34「原爆残留放射能障碍の統計的観察」に示されている120名の消防団員に見られたとされる身体症状は,およそ被曝によ た症状がこのような特徴を備えているかどうかを判断する必要があるとした上,前述のp34「原爆残留放射能障碍の統計的観察」に示されている120名の消防団員に見られたとされる身体症状は,およそ被曝による急性症状と評価する余地はないなどと主張し,また,②紫斑,脱毛,下痢は,仮にこれらが被曝による急性症状であるとすれば,そのしきい線量は紫斑が最も低く,次いで脱毛,下痢の順にしきい線量は高くなるはずであるとした上,前述の日米合同調査報告においては,身体症状の発現率はほぼ全体で下痢が最も高く,次いで脱毛,紫斑の順になっており,逆転現象が生じているから,これらを被曝による急性症状であるとすることは誤りであるなどと主張する。 しかし,被告の上記主張は,放射線被曝による急性症状の典型的な特徴やしきい線量が原爆被爆者にも全く同様に当てはまることを前提とするものであるが,原爆による放射線被曝は,その後,同様の被害が再現されたことのない特異なケースであり,原爆放射線の身体影響にはなお不明な点も多い上,放射性物質が皮膚に付着し又はこれを体内に摂取することなど放射線被曝に全く無防備であった原爆被爆者について,他の一般的な放射線被曝事故の場合と同列に扱えるかどうかには疑問がある。 むしろ,前述の遠距離被爆者や入市被爆者に生じた身体症状を直視するならば,原爆被爆者の場合には,急性症状の典型的な特徴やしきい線量が必ずしもそのとおり当てはまらないと考える方が,より自然かつ合理的というべきである。したがって,原爆被爆者の症状が典型的な急性症状と同じ特徴を示さないからといって(上記①),あるいはそのしきい線量のとおりに発生しないからといって(上記②),不自然ではないというべきである。 (エ) また,被告は,自然災害や東京大空襲等の被災者にも嘔 といって(上記①),あるいはそのしきい線量のとおりに発生しないからといって(上記②),不自然ではないというべきである。 (エ) また,被告は,自然災害や東京大空襲等の被災者にも嘔吐,下痢,脱毛等の身体症状の発症が確認されているとして,遠距離・入市被爆者に生じた症状は被曝による急性症状ではなく,精神的影響(ストレス)によるものであるなどと主張する。 しかし,おおむね爆心地からの距離に従って脱毛等の症状が減少していることは前記認定のとおりであり,前述のとおり,こういった症状が放射線被曝の影響ではないと断ずることは不合理といわざるを得ない。 自然災害や東京大空襲等において嘔吐,下痢,脱毛等の症状が一定割合で生じたことを裏付けるに足りる的確な証拠もない上,それが原爆被爆者に生じた症状と同様の傾向を有するといえるのかも証拠上明らかではない。また,被告が指摘するJCO臨界事故における周辺住民の体調不良についても,その具体的な症状は頭痛,目眩,発疹等が挙げられているのみであり(乙A287),脱毛,下痢,皮下出血等の症状を呈するものではないから,これをもって,原爆被爆者に生じた症状を説明することは困難である。したがって,被告の上記主張は採用することができない。 (オ) さらに,被告は,遠距離・入市被爆者に被曝による急性症状が生じていないことを裏付ける研究報告があるとして,①「原子爆弾による広島戦災医学的調査報告第8章爆発後被曝地域に入れる者に対する障害」(乙A112)は,原爆投下後1週間以内に爆心地付近に入り作業を行った兵員について白血球等の検査を実施した結果,ほとんど異常がなかった旨報告している,②「原子爆弾症の臨床的研究(1)」(乙A113)は,「原子爆弾を直接被爆するにあらざれば,爆心部滞在によって少 った兵員について白血球等の検査を実施した結果,ほとんど異常がなかった旨報告している,②「原子爆弾症の臨床的研究(1)」(乙A113)は,「原子爆弾を直接被爆するにあらざれば,爆心部滞在によって少くも爆発1ヶ月後において,人体に認むべき影響を証明することはできなかった。」と結論づけている,③「長崎における原子爆弾による人体被害の調査」(乙A114)は,爆心地から1000ないし1500メートルにあったT工場の従業員110名について,昭和20年9月10日及び11日に白血球数の集団検診を行ったところ,33名が4000以下であったが,原爆爆発直後又は数日中に同工場に駆けつけ約1か月間救護等に当たった17名には,白血球4000以下の者はいなかったと報告し,「爆心地ならびにその附近の土地は人体に障害を及ぼす程の残留放射線を有せず」と結論付けている,などと主張する。 しかし,①及び②の研究報告については,対象者数が比較的少ない上,それでも一部には倦怠感,下痢,白血球数の減少等があったことが報告されているのであり,全体としては必ずしも前述の各調査報告と矛盾するものではなく,これらの研究報告をもって,遠距離被爆者や入市被爆者に放射線被曝の影響がなかったということはできない。また,③の研究報告についても,直爆を受けていない者は17名にすぎず,その活動内容の詳細や入市後の白血球数の推移等も不明であることから,これをもって入市者に放射線被曝の影響がなかったということはできない。したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 (7) 小括以上によれば,旧審査の方針が定める被曝線量の算定基準は,一応の合理性を肯定することができるものの,シュミレーションに基づく推定値であることや測定精度の問題等から一定の限界が存 7) 小括以上によれば,旧審査の方針が定める被曝線量の算定基準は,一応の合理性を肯定することができるものの,シュミレーションに基づく推定値であることや測定精度の問題等から一定の限界が存することに十分留意する必要があることに加え,初期放射線については,爆心地から1300~1500メートル以遠において過小評価の可能性があり,誘導放射線及び放射性降下物による放射線については,内部被曝の影響を考慮していない点を含め,地理的範囲及び線量評価の両方において過小評価となっている疑いが強いという問題がある。したがって,旧審査の方針により算定される被曝線量は,あくまでも一応の目安とするにとどめるのが相当であり,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきである。 3 放射線起因性の具体的な判断手法前記1記載のとおり,被爆者援護法10条1項の放射線起因性の要件については,原告らにおいて,原爆放射線に被曝したことにより,その負傷又は疾病ないしは治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明する必要があり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要すると解すべきである。 もっとも,人間の身体に疾病等が生じた場合に,その発症に至る過程においては,多くの要因が複合的に関連していることが通常であって,特定の要因から当該疾病等の発症に至った機序を逐一解明することは自ずから困難が伴うものであり,殊に,放射線による後障害は,放射線に起因することによって特異な症状を呈するものではなく,その症状は放射線に起因しない場合と同様であ 症に至った機序を逐一解明することは自ずから困難が伴うものであり,殊に,放射線による後障害は,放射線に起因することによって特異な症状を呈するものではなく,その症状は放射線に起因しない場合と同様であり,また,放射線が人体に影響を与える機序は,科学的にその詳細が解明されているものではなく,長年月にわたる調査にもかかわらず,放射線と疾病等との関係についての知見は,統計学的,疫学的解析による有意性の確認など,限られたものにとどまっており,これらの科学的知見にも一定の限界が存するのであるから,科学的根拠の存在を余りに厳密に求めることは,被爆者の救済を目的とする被爆者援護法の趣旨に沿わないというべきである。 したがって,放射線起因性の判断にあたっては,当該疾病等が発症するに至った医学的,病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく,当該被爆者の原爆による放射線被曝の程度と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝の関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他の疾病に係る病歴(既往歴),当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して,原爆放射線被曝の事実が当該申請に係る疾病等の発症又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。そして,当該被爆者の原爆による放射線被曝の程度を考慮するに当たっては,前記2で述べたとおり,旧審査の方針により算定される被曝線量は,あくまでも一応の目安とするにとどめるのが相当であり,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきである どめるのが相当であり,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきである。 以上に述べたところを踏まえ,以下,被爆原告ら(ただし,認定された原告p7及び原告p8を除く。)について,個別に検討する。 第2 被爆原告らの原爆症認定要件該当性(争点②) 1 原告p6について(1) 認定事実前記前提となる事実等に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲B1,原告p6本人)(ア) 原告p6は,大正14年1月12日生まれ(被爆当時20歳)の男性であり,昭和20年8月6日当時,暁6140部隊に所属し,広島市の南東部に浮かぶa島(爆心地から5キロメートル以遠)において,船の部品の木型を作る作業に従事していた。 (イ) 原告p6は,同日午前6時頃から作業に従事していたところ,同日午前8時15分頃,a島の兵舎と兵舎の間の屋外において広島原爆に被爆した(なお,原告p6が広島市内に入市した日時や被曝による急性症状の有無等については,放射線起因性の判断に関連して当事者間に争いがあるが,後述のとおり,この点の判断は結論を左右するものではないため,認定判断を示さないこととする。)。 イ申請疾病に関する経緯等(甲B1,乙B1,6,7,9~12,18)(ア) 原告p6は,平成7年7月5日に胃X線検査を受けた。その診断医による「胃X線検査所見用紙」(乙B18)には,「stomach〔胃〕,body中部小弯に粘膜面の不整をみとめます。fiber〔内視鏡〕でcheck〔検査〕して下さい。」(引用部分の〔〕は英単 断医による「胃X線検査所見用紙」(乙B18)には,「stomach〔胃〕,body中部小弯に粘膜面の不整をみとめます。fiber〔内視鏡〕でcheck〔検査〕して下さい。」(引用部分の〔〕は英単語の和訳又は専門用語の説明である。 以下同じ。)と記載されていた。しかし,原告p6は,その後,胃の粘膜面の不正に関し,内視鏡によるチェック等を受けていなかった。 (イ) 原告p6は,平成14年5月12日(当時77歳),胆石症及び胃腺腫(胃がん疑い)により,I病院に入院した。I病院の主治医が作成した外科退院時総括・治癒(乙B7)の入院病歴欄には,原告p6の胃腺腫に関し,「antrum〔幽門前庭部〕前壁小弯にⅡa〔表面隆起型〕+Ⅱc〔表面平坦型〕(GroupⅢ)病変を認めた。」と記載されている。 原告p6は,同年6月14日,胆嚢摘出及び胃局所切除等の手術を受け,同年7月3日,I病院を退院した。その手術記録(乙B12)には,「antrum〔幽門前庭部〕小弯にある胃腫瘍を術中内視鏡にて確認しつつ漿膜側より病変の上下に糸を刺入しそれにて病変部をけん引し GIA〔自動縫合器〕50にて切離した…以上で手術操作は終了し閉創した。」と記載されている。 (ウ) 原告p6の胃局所切除術の際に摘出された組織片は,病理組織検査に付されたが,その病理検査報告書(乙B11)には,「Adenocarcinoma〔腺がん〕の診断には至りません。」と記載されており,手術記録(乙B12)中の術後診断には「胃腺腫」と記載されている。 (エ) 原告p6は,同年10月21日,「胃癌(術後診断胃腺腫)」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。その認定申請書に添付されている意見書(乙B6)には,「負傷又は疾病の名称」欄に「胃腺腫術後」,「必 原告p6は,同年10月21日,「胃癌(術後診断胃腺腫)」を申請疾患とする原爆症認定申請を行った。その認定申請書に添付されている意見書(乙B6)には,「負傷又は疾病の名称」欄に「胃腺腫術後」,「必要な医療の内容及び期間」欄に「定期的に胃カメラの実施」と記載されている。また,同じく認定申請書に添付されている健康診断個人票(乙B1)には,「治療の要否」欄に「要通院」,「特に記すべき医師の意見」欄に「定期的胃カメラでフォローアップ必要」と記載されている。 (オ) 原告p6は,平成15年5月8日,原爆精密検診において胃X線検査を受け,同年6月14日,胃カメラ検査を受けた。その際,原告p6は,担当医師から,次回検査につき1年後の検査を指示された。 原告p6は,胃腺腫の切除後,胃カメラ検査を1回又は数回受けたことがあるが,その他には特に胃に関する治療を受けたことはない。 (2) 要医療性についてア被爆者援護法10条1項は,厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う,ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る旨規定する。そして,同条2項は,上記医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,⑥移送,とする旨規定している。 これらの規定の内容からすれば,疾病等が「現に医療を要する状態にある」(要医療性)とは,当該疾 の他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,⑥移送,とする旨規定している。 これらの規定の内容からすれば,疾病等が「現に医療を要する状態にある」(要医療性)とは,当該疾病等に関し,同条2項が定める医療の給付を要する状態にあることをいうものと解するのが相当である。 もっとも,特段の治療行為を伴わない定期検査等の経過観察については,広い意味で「診察」に含まれ得るとしても,「負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある」という文言の自然な意味内容(国語辞典等によれば,「医療」とは,医術や医薬により病気や怪我を治すことであるとされている。)のほか,被爆者援護法が「健康管理」と「医療」とを区別し,健康管理(第3章第2節)の内容として,都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行うものとし(被爆者援護法7条),一般検査の結果必要があれば精密検査を行うものとし,その検査の方法は特に制限されていないこと(被爆者援護法施行規則9条)などに照らすと,当該疾病等につき再発や悪化の可能性が高いなど特段の事情がない限り,「現に医療を要する状態にある」と認めることはできないと解するのが相当である。 イそこで検討するに,上記認定事実によれば,原告p6の申請疾病は,胃がんではなく術後診断による胃腺腫であるところ,原告p6の胃腺腫は,原爆症認定申請の時点において,胃局所切除術により既に治癒しているものと認められ,胃カメラによる定期的な経過観察の他に特段の治療行為は予定されていないことが認められる。また,原告p6の胃腺腫については,病理検査により良性腫瘍であることが確認されているところ,良性腫瘍は一般的に転移や再発の危険性は乏しい上,胃腺腫の切除後においてその再発や悪化の ことが認められる。また,原告p6の胃腺腫については,病理検査により良性腫瘍であることが確認されているところ,良性腫瘍は一般的に転移や再発の危険性は乏しい上,胃腺腫の切除後においてその再発や悪化の危険性が高いといった医学的知見も特に見当たらず,しかも,原告p6の胃腺腫が特に悪性腫瘍化する危険性の高いものであるなどといった事情を認めるべき証拠もない。加えて,原告p6が胃腺腫を切除してから既に相当の期間が経過しているが,その間,原告p6は胃カメラ検査を1回又は数回受けただけで,その他には特に胃に関する治療を受けていないというのである。 以上によれば,原告p6の胃腺腫に関しては,原爆症認定申請の時点において,特段の治療行為を伴わない経過観察が必要とされていたにすぎず,当該疾病(胃腺腫)につき悪化又は再発の可能性が高いなどといった特段の事情も認められない。したがって,原告p6の申請疾病である胃腺腫については,「現に医療を要する状態にある」こと,すなわち要医療性が認められないというべきである。 ウこれに対し,原告p6は,原爆症認定申請をした平成14年9月時点においては,異時性多発性腫瘍の可能性があったと主張し,医師意見書(甲B1)にもこれに沿う記載がある。しかし,原告p6につき,異時性に腫瘍を多発する現実的な可能性があったことを認めるに足りる証拠はない。 また,証人p35医師は,良性腫瘍であっても,胃を切除することにより20年くらい先にがんになる可能性があり,最低1年に1回は胃カメラ検査をした方がよいなどと述べる。しかし,20年くらい先にどの程度がんが発生する確率があるのかも証拠上明らかではなく(なお,原告p6は手術時77歳である。),また,同証人の「胃カメラ検査をした方がよい」という証言からは,定期的に胃カメ ,20年くらい先にどの程度がんが発生する確率があるのかも証拠上明らかではなく(なお,原告p6は手術時77歳である。),また,同証人の「胃カメラ検査をした方がよい」という証言からは,定期的に胃カメラ検査をする方が望ましいが,仮にしなくともそれほど重大な問題ではないという程度のものであることもうかがわれるのであって,そもそも胃カメラ検査の必要性すら疑問である。したがって,上記証人の証言を考慮しても,原告p6の胃腺腫につき要医療性を認めることはできない。 (3) 結論以上によれば,原告p6の胃腺腫については,要医療性が認められないから,その放射線起因性について判断するまでもなく,原告p6の原爆症認定申請を却下した本件p6却下処分は適法というべきである。 2 訴外p1について(1) 認定事実前記前提となる事実等に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲C1,2,5~9,15~18,乙C1,6,証人p9,原告p2本人)(ア) 訴外p1は,昭和15年10月29日生まれ(被爆当時4歳9か月)の男性であり,当時,長崎市f町82番地の自宅(爆心地から約4キロメートル)において,母p10及び兄p36(当時12歳)と3人で暮らしていた。 なお,p66(当時11歳)及びp9(当時8歳)は,訴外p1の従兄(母p10の兄p37の子)であり,訴外p1の自宅の近所で暮らしていた。 (イ) 訴外p1は,昭和20年8月9日午前11時頃,p9らと自宅のそばの空き地で遊んでいたが,空襲警報が鳴ったため防空壕に入った。しかし,訴外p1は,空襲警報が解除になったため,p9らと一緒に防空壕から空き地の方に出たところ,同日午前11時2分 ,p9らと自宅のそばの空き地で遊んでいたが,空襲警報が鳴ったため防空壕に入った。しかし,訴外p1は,空襲警報が解除になったため,p9らと一緒に防空壕から空き地の方に出たところ,同日午前11時2分頃,遮蔽のない屋外において長崎原爆に被爆した。 (ウ) 訴外p1の母p10は,長崎原爆が投下された時,長崎市e町28番地のp38宅(J大学付属病院の北西側付近)に働きに行っており,長崎原爆が投下された後,消息不明となった。訴外p1は,同月12日の朝から夕方までの間,伯父であるp37,兄p36,従兄であるp66及びp9とともに,路面電車の線路沿いに徒歩でe町付近に行き,その付近及びJ大学付属病院(爆心地から約700メートル。爆心地はその北西方向)において母p10を捜した。しかし,母p10は見つからず,訴外p1は,その後も数回にわたり,兄p36らとともにe町付近に行き,母p10を捜し回った。 (エ) 訴外p1は,その後,兄p36とともに,母p10の故郷であるsに疎開した。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲C1,3~5,原告p2本人)(ア) 訴外p1は,被爆後間もない頃から,めまいや倦怠感,足の疲れを感じ,特に夏場はその症状がひどくなった。また,風邪を引きやすい体質になっていた。 (イ) 訴外p1は,中学校卒業後に就職したが,その後もめまいや倦怠感,足の疲れに悩まされ,風邪にかかりやすい体質にも悩まされた。 (ウ) 訴外p1は,平成13年5月23日頃,感染性心内膜炎による大動脈弁不全症により,いったん心停止するなど重篤な状態となった。しかし,K病院の措置により一命をとりとめ,その後,心臓手術を受けてペースメーカーを装着した。なお,訴外p1は,平成14年12月,U病院にお 不全症により,いったん心停止するなど重篤な状態となった。しかし,K病院の措置により一命をとりとめ,その後,心臓手術を受けてペースメーカーを装着した。なお,訴外p1は,平成14年12月,U病院において大動脈弁不全症に対する再手術を受けている。 (エ) 訴外p1は,同年8月頃,多発性骨髄腫であると診断された。 (オ) 訴外p1は,同年11月頃,骨髄移植手術を受けるためL病院に入院したが,感染症合併のため移植は行われなかった。訴外p1は,退院後,同病院に通院して月1回抗ガン剤の投与を受け,平成19年10月に2度目の入院をし,平成20年7月9日に3度目の入院をしたが,同月31日,多発性骨髄腫を原因とする敗血症により死亡した。 (2) 事実認定の補足説明ア被告は,訴外p1の原爆症認定申請書(乙C1)には,「爆心地から4キロの地点(長崎市f町)で,7歳上の兄(10年前死亡)や従兄弟達と一緒に防空壕の中で被爆」と記載されているとして,訴外p1は防空壕の中で被爆したものであり,防空壕の外で被爆したとは認められないと主張する。 しかし,証人p9は,長崎原爆が投下された時,訴外p1及びp39とともに広場で3人で遊んでいたこと,空襲警報が鳴り防空壕に入ったが,解除されたため3人で広場に出てきたこと,B29が2機見えた直後にピカッと光ったこと,その後3人で防空壕の奧にいたことなど,当時の被爆状況を具体的に供述しており,また,証人p9は当時8歳であり,印象に残る出来事につき具体的な記憶を有していることは不自然ではないから,その内容は十分信用することができる。他方,訴外p1は,当時4歳9か月であって,一般的に幼少の頃の記憶は成長により失われ又はあいまいなものとなりがちであるから,原爆症認定申請書の上記記載が証人p9 その内容は十分信用することができる。他方,訴外p1は,当時4歳9か月であって,一般的に幼少の頃の記憶は成長により失われ又はあいまいなものとなりがちであるから,原爆症認定申請書の上記記載が証人p9の証言よりも高い信用性を有するということはできない。 これに対し,被告は,証人p9の昭和46年10月22日付け被爆者健康手帳交付申請書(乙C10)に「原爆のおちた時は長崎市内には居りませんでした。」などと記載されているとして,証人p9の上記証言は信用性に乏しいと主張する。しかし,証人p9の母p40が,p41及びp42に証明書を作成してもらう際に,実際とは異なる内容の記載を依頼し,証人p9もこれに沿う内容の申請書を作成してしまったという経緯は必ずしも不自然であるとはいえず,また,証人p9は,昭和47年4月14日,実際には当時f町にいたとして被爆者手帳切替申請書を作成提出しており,その被爆状況は,厚生省国立予防衛生研究所長崎原子爆弾影響研究所が保管する,昭和24年10月29日被爆調査等に基づく調査記録(乙C10)の記載(被爆地点として「f町82」とされている。)にも合致するのであるから,当初の被爆者健康手帳交付申請書の記載は,証人p9の証言の信用性を失わせるものではないというべきである。 イまた,被告は,訴外p1の被爆者健康手帳交付申請書(乙C6)には,同時期にされた兄p36の申請書(乙C9)の内容とは異なり,入市したことが全く記載されていないとして,訴外p1が入市した事実は認められないと主張する。 しかし,原告p2は,訴外p1から,兄嫁が被爆者健康手帳の交付を申請してくれたと聞いた旨供述するところ(原告p2本人),訴外p1の被爆者健康手帳交付申請書は,昭和32年6月19日付けで作成されているが,当時訴外p1は 訴外p1から,兄嫁が被爆者健康手帳の交付を申請してくれたと聞いた旨供述するところ(原告p2本人),訴外p1の被爆者健康手帳交付申請書は,昭和32年6月19日付けで作成されているが,当時訴外p1はまだ16歳であった上,生年月日や年齢が誤って記載されており,その署名も本人の署名の筆跡(乙C1)とは異なるようにみえることからすれば,原告p2が訴外p1から直接聞いたとおり,訴外p1の兄嫁がその申請書を作成したものであるとしても全く不自然ではない。そして,その申請書においては,上記のとおり生年月日等が誤っているほか,被爆時の屋内外の記載もなく,その他の欄もほとんど全く記載がないなど,丁寧に作成されていない様子がうかがわれるのであり,また,訴外p1の上記申請書は,兄p36の被爆者健康手帳の交付申請に併せてその家族分として提出されたものとみられること(乙C6,9。作成日付が近く,兄p36の申請書にのみ家族状況欄の記載がある。)も考慮すると,兄嫁が事実関係を十分把握することなく,その形式だけ整えるべく作成した可能性も十分にあると考えられる。したがって,訴外p1の上記申請書添付の居所証明書に入市の日や場所が記載されていないからといって,訴外p1の入市の事実がないことが推認されるということはできない。 かえって,証人p9は,昭和20年8月12日頃にp36や訴外p1らとともにe町に行ったことを明確に証言しており,その証言内容に特段不自然な点はなく,その証言は十分信用することができる。また,訴外p1は,当時,母p10と兄p36との3人で暮らしていたのであり,原爆投下後母p10の消息が不明であったのであるから,唯一の家族である兄p36と行動を共にするのはごく自然な成り行きであるところ,兄p36の居所証明書には,昭和20年8月12日にe町に母を探 あり,原爆投下後母p10の消息が不明であったのであるから,唯一の家族である兄p36と行動を共にするのはごく自然な成り行きであるところ,兄p36の居所証明書には,昭和20年8月12日にe町に母を探しに行ったことが明確に記載されている(乙C9。なお,被告は,訴外p1は当時4歳9か月であって,朝から夕方まで大人と一緒に朝から夕方まで歩き回ることができたのか甚だ疑問であるなどとも主張するが,5歳前後ともなれば相当の距離を自力で歩くことも十分可能であり,原告p2の主張が経験則上不自然であるということはできない。)。 さらに,原告p2も,訴外p1が「爆心地に何回も通って行ってたのに何で却下されるねんて言うて愚痴ってました。」と証言しており,その証言内容は具体的で信用することができる。これらからすれば,前記認定事実のとおり,訴外p1が,昭和20年8月12日に,兄p36やp9らとともにe町付近に行って母p10を探し回ったことは,証拠上認定することができるというべきである。 ウまた,被告は,訴外p1の原爆被爆者調査票(乙C6)に,いままでにかかった病気についての記載がなく,現在の健康状態についても「何も異常がない」との箇所に丸印が付されているとして,訴外p1の身体症状に関する原告p2の主張及びこれに沿う供述等は信用することができないと主張する。 しかし,訴外p1の被爆者健康手帳交付申請書はその兄嫁が作成したものと考えられることは前述のとおりであって,その記載又は不記載の内容が事実をそのとおり反映しているかどうかについては,疑問があるというべきである。かえって,訴外p1と行動を共にしていた兄p36については,現在の健康状態として,「つかれやすい」「目まい」「頭が重い」「耳なり」が選択されており,訴外p1にも兄p36と同様の身体症状 べきである。かえって,訴外p1と行動を共にしていた兄p36については,現在の健康状態として,「つかれやすい」「目まい」「頭が重い」「耳なり」が選択されており,訴外p1にも兄p36と同様の身体症状が生じていたとしても何ら不自然ではない。したがって,原告p2の主張及びこれに沿う供述等は信用することができ,被告の上記主張は採用することができない。 (3) 放射線起因性(多発性骨髄腫)についてア放射線被曝の程度について前記認定事実によれば,訴外p1は,長崎原爆の爆心地から約4キロメートル離れたf町において遮蔽のない状態で被爆したと認められるところ,旧審査の方針別表9によれば,爆心地から2500メートルの地点における初期放射線による被曝線量は2センチグレイと推定され,放射線が距離の二乗に反比例して低減するものとして計算すれば,訴外p1の初期放射線による被曝線量は,1センチグレイを優に下回るものとみられる(なお,審査会線量推定表によれば,爆心地から3000メートルの地点における初期放射線による被曝線量は0.4センチグレイとされており,訴外p1の初期放射線による被曝線量は0.4センチグレイ未満ということになる(弁論の全趣旨)。)。また,前記認定事実によれば,訴外p1は,原爆投下の3日後である昭和20年8月12日に,爆心地から1キロメートル以内の地点に立ち入り,母p10を捜して歩き回ったと認められるが,旧審査の方針別表10によれば,長崎原爆投下から72時間後に爆心地付近に立ち入ったとしても,残留放射線による被曝線量は0センチグレイとされている。 さらに,DS86による初期放射線の計算値が,少なくとも爆心地からの距離が1500メートル以遠において過小評価となっているのではないかという疑いがあることは前述のとおりであるもの レイとされている。 さらに,DS86による初期放射線の計算値が,少なくとも爆心地からの距離が1500メートル以遠において過小評価となっているのではないかという疑いがあることは前述のとおりであるものの,仮にDS86の推定値の数倍の初期放射線量であったとしても,その初期放射線量はせいぜい1ないし数センチグレイ程度にすぎない。 しかし,前記認定事実のとおり,訴外p1は,昭和20年8月12日(長崎原爆投下から3日後)の午前中から爆心地付近に立ち入って母p10を夕方まで探していたのであり,その後も数回にわたり同様に爆心地付近に立ち入って母p10を探していたというのであって,このような活動中に,放射性物質が集積した地表面や建物等からの誘導放射線に外部被曝したり,粉塵となって空気中を浮遊する放射性降下物や誘導放射化物質を吸引するなどして,旧審査の方針による推定を超える外部被曝及び内部被曝を受けていた可能性も十分にあるというべきである。しかも,訴外p1は,被爆後間もない頃から,目まいや倦怠感,足の疲れに悩まされ,風邪も引きやすくなったというのであって,当時行動を共にしていたと考えられる兄p36も目まいなど同様の症状を訴えていること(乙C9)も考慮すると,これらの症状には原爆放射線に被曝したことによる影響が疑われる(証人p43)。そうすると,訴外p1の原爆放射線による被曝線量は,旧審査の方針やDS86による推定値ほど小さくはなく,健康に影響を及ぼす相当程度の外部被曝及び内部被曝を受けていた可能性が高いというべきである。 イ多発性骨髄腫と原爆放射線被曝との関連性について(ア) 訴外p1の申請疾病は多発性骨髄腫であるところ(乙C1),多発性骨髄腫とは,血液細胞の一つである形質細胞が腫瘍性に増殖する疾病である(乙A320)。 爆放射線被曝との関連性について(ア) 訴外p1の申請疾病は多発性骨髄腫であるところ(乙C1),多発性骨髄腫とは,血液細胞の一つである形質細胞が腫瘍性に増殖する疾病である(乙A320)。 (イ) 以下の知見を踏まえれば,多発性骨髄腫については,放射線被曝との関連性を肯定することができる。 すなわち,①「原爆放射線の人体影響1992」(乙A9)の「多発性骨髄腫」(69頁以下)によれば,p44らは,昭和53年,放影研が昭和25年から昭和51年まで26年間にわたって寿命調査を行っている約10万人の固定集団等を検索し,35例の多発性骨髄腫を見出した上,そのうち29例(22例が直接被爆者,7例が非被爆者)を多発性骨髄腫と確定的に診断し,この症例について,T65による被曝線量別の多発性骨髄腫の相対リスクと粗発生率を検討した結果,相対リスクが100ラド以上の群において約4~5倍高く(100ラド以上の群で4.7,1ラドないし99ラドの群で1.5,1ラド未満の群で1.0),粗発生率が被曝線量に依存して増加した(人口1000人に対して100ラド以上の群で0.97,1ラドないし99ラドの群で0.3,1ラド未満の群で0.21)旨を報告しており(70頁),また,病理学的立場から,長崎における昭和21年から昭和63年までの間の多発性骨髄腫の剖検数の年次推移を検討した結果,昭和50年から増加傾向が認められ,昭和56年から昭和60年までの間は,対照群に比して,被爆者に発生率が有意に高くなっていると指摘されている(73頁)。また,②放影研の寿命調査第10報第1部(乙A7)によれば,多発性骨髄腫につき,この悪性腫瘍は極めてまれであるが,放射線量との有意な関連を示し(p=.02),100ラドにおける平均相対危険度は1.51であるなどと 寿命調査第10報第1部(乙A7)によれば,多発性骨髄腫につき,この悪性腫瘍は極めてまれであるが,放射線量との有意な関連を示し(p=.02),100ラドにおける平均相対危険度は1.51であるなどとされ(同20頁),また,寿命調査第11報第2部(乙A33)においては,線量に伴って統計学的に有意な増加(p<0.05)を示す部位別がんは,白血病,食道がん,胃がん,結腸がん,肺がん,乳がん,卵巣がん,泌尿器がん及び多発性骨髄腫であるとされ(8頁),さらに,放影研の原爆被爆者の死亡率調査第12報第1部(乙A3)においては,多発性骨髄腫について,被爆時年齢30歳に補正した男性の場合,1シーベルト当たりの過剰相対リスク(ERR/Sv)は1.28,90パーセント信頼区間は-0.13~5.62とされ(34頁),被爆時年齢を補正しない場合の男性の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは1.13,95パーセント信頼区間はNA~6.41とされている(50頁)。また,放影研要覧(乙A5)においても,「恐らく多発性骨髄腫の場合には,有意な過剰リスクが認められている。」とされている(15頁)。さらに,③p45の講演録「12年間の多発性骨髄腫検診から得た臨床疫学的知見」(甲C4)によれば,昭和63年から12年間にわたって行われた骨髄腫を中心としたM蛋白血症(単クローン性γグロブリン血症)の早期発見を目的とした被爆者健康診断の結果に基づき,DS86により推定被曝線量が判明した928例中206例について分析を行ったところ,0.1グレイごとの放射線被曝骨髄線量が骨髄腫(MM)及び良性単クローン性γグロブリン血症(BMG)の発症に有意の関連を認め,放射線が骨髄腫を含むM蛋白血症の発症に影響を及ぼしている可能性が示唆されたとしている(なお,p45の上記講演録及びその後の共同 良性単クローン性γグロブリン血症(BMG)の発症に有意の関連を認め,放射線が骨髄腫を含むM蛋白血症の発症に影響を及ぼしている可能性が示唆されたとしている(なお,p45の上記講演録及びその後の共同論文「多発性骨髄腫検診による被爆者M-蛋白血症について-被爆状況との関係-」(乙A323)においては,M蛋白血症と被爆状況との関連が認められないとされているが,M蛋白血症と放射線被曝との関連性自体を否定する趣旨ではないものと考えられる。)。さらに,④多発性骨髄腫の前段階状態であるM蛋白血症(MGUS)について,p46「長崎における被曝とMGUS」(甲C19)は,若年時にある一定の放射線を全身に被曝した人は,被曝後数十年経過していても放射線起因性のMGUS発生リスクが高いことが示唆された(67頁),放射線曝露はMGUS及び骨髄腫進展に関連する可能性が示唆された(70頁)などとしており,また,p47「原爆被爆者に発症した骨髄異形成症候群・多発性骨髄腫の疫学研究」(甲C20)は,若年被爆者のMGUS発生に放射線被曝の影響が関連している可能性が示唆されたとしている。加えて,⑤厚生労働省は,平成21年12月25日の労働基準法施行規則第35条専門検討会報告書(甲C11)において,「厚生労働省においては、放射線業務に従事したことにより多発性骨髄腫を発症したとして労災請求が行われた事案の判断を行うに当り,医学専門家を招集して,『電離放射線障害の業務上外に関する検討会』を開催して検討した結果,平成16年1月,放射線被ばくと多発性骨髄腫との間に因果関係を認める報告がなされた。本検討会としては、医学的に十分検討された同報告書の内容を踏まえ、多発性骨髄腫を第7号10に規定する疾病に追加することが適当と判断する。」とされたことを受け,平成22年5月7日、労働基準 なされた。本検討会としては、医学的に十分検討された同報告書の内容を踏まえ、多発性骨髄腫を第7号10に規定する疾病に追加することが適当と判断する。」とされたことを受け,平成22年5月7日、労働基準法75条2項の規定に基づき同法施行規則を改正して,別表第一の二第七号10の「電離放射線にさらされる業務による」疾病に,新たに多発性骨髄腫を追加した(甲C10,11)ことや,⑥アメリカ合衆国1998年放射線被曝退役軍人補償法は,1945年8月6日から1946年7月1日までの期間中に,合衆国軍隊として広島又は長崎に駐留した軍人が多発性骨髄腫に罹患した場合には,放射線被曝が原因として補償の対象とすることを定めていること(甲C13,14)も考慮すれば,多発性骨髄腫と放射線被曝との関連性については,これを一般的に肯定することができるというべきである。 (ウ) これに対し,被告は,原爆被爆者における癌発生率第3部:白血病,リンパ腫および多発性骨髄腫1950-1987年(乙A322)によれば,放影研は,1950年(昭和25年)から1987年(昭和62年)にかけて,原爆被爆者における多発性骨髄腫の発生率調査をおこなったが,その結果,被爆者の多発性骨髄腫と放射線との間に有意な線量反応関係は認められず(34頁),「これらの解析に基づけば,現在のLSS発生率データでは骨髄腫リスクの増加の証拠はほとんど認められない。したがって,骨髄腫発生率に関する我々の最終モデルでは,放射線の影響は想定していない。」(35頁)と結論付けられているとして,多発性骨髄腫には放射線被曝の関連性が認められないと主張する。 しかし,多発性骨髄腫は10万人のうち2,3人が発症するという極めて稀な疾病であり(証人p43),症例数が少ないために統計上有意な関係が出にくい場 曝の関連性が認められないと主張する。 しかし,多発性骨髄腫は10万人のうち2,3人が発症するという極めて稀な疾病であり(証人p43),症例数が少ないために統計上有意な関係が出にくい場合があるにすぎず,上記報告をもって放射線被曝との関連性自体を否定すべきものではない。前述の労働基準法施行規則第35条専門検討会報告書(甲C11)に引用されている「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」報告書(甲C12)においても,多発性骨髄腫につき,「各疫学調査の結果は一致しておらず,放射線被曝との関係を認めているものと,有意な関係が認められないものとがある。これは,多発性骨髄腫が,稀ながんであり,比較的大きな集団を長期間にわたって追跡している調査研究でさえも,死亡数,発生数が少ないことが関係している。」(7頁)とした上で,被告が指摘する放影研の上記報告も踏まえつつ,結論として多発性骨髄腫と放射線被曝との関係を肯定しているのである。しかも,多発性骨髄腫は,血液細胞の一つである形質細胞のがんであるところ,従前から,がん全体と放射線被曝との間には有意な関係が認められていることも考慮すれば,被告が指摘する上記報告をもって,多発性骨髄腫と放射線被曝との間の関連性を否定すべきということはできない。 また,被告は,原爆被爆者の死亡率調査第12報第1部(乙A3)においては,多発性骨髄腫について,被爆時年齢30歳に補正した男性の場合,1シーベルト当たりの過剰相対リスクの90パーセント信頼区間は-0.13~5.62とされ,被爆時年齢を補正しない場合の男性の1シーベルト当たりの過剰相対リスクの95パーセント信頼区間はNA~6.41とされており,信頼区間の下限がマイナス又はNA(信頼限界下限が全体のリスクの非負値性に基づく最低許容量 しない場合の男性の1シーベルト当たりの過剰相対リスクの95パーセント信頼区間はNA~6.41とされており,信頼区間の下限がマイナス又はNA(信頼限界下限が全体のリスクの非負値性に基づく最低許容量値より低いということ)となっており,過剰相対リスクに信頼性がないと主張する。 しかし,前述したとおり,多発性骨髄腫については,稀ながんであるため,統計学上有意な関係が出にくいことはやむを得ない面があるのであり,信頼区間の下限がわずかにマイナス又はNAとなっているというだけで(なお,例えば95パーセント信頼区間とは,100回の同一の調査を行い,同一の計算方法を用いた場合,95回はこの信頼区間の中に母平均値が入るということである。),放射線被曝との関連性を否定すべきものではない。むしろ,多発性骨髄腫の過剰相対リスクは他の固形がんと比較しても相当高いレベルにある上,多発性骨髄腫の線量の影響に対するP値は0.009とされており(乙A3・31頁。なお,P値が0.009ということは,その現象が偶然に起こる確率が0.9パーセントであるという意味である。ちなみに,P値が0.05以下の場合を統計学上有意であるとすることが多い。),全体としてみれば十分に有意性が認められているといえるのであって,被告の上記主張は採用することができない。 ウ検討以上のとおり,多発性骨髄腫と放射線被曝との間には有意な関連を認めることができるところ,訴外p1は,爆心地付近に入市した際に放射性降下物や誘導放射化物質を吸引するなどして,健康に影響を及ぼす程度の放射線被曝を受けていた可能性が高いというべきであること,また,訴外p1には,性別(男性)及び年齢(60歳)というごく一般的な危険因子はあるものの,特に多発性骨髄腫の危険因子となる事由が見当たらな 放射線被曝を受けていた可能性が高いというべきであること,また,訴外p1には,性別(男性)及び年齢(60歳)というごく一般的な危険因子はあるものの,特に多発性骨髄腫の危険因子となる事由が見当たらないこと,加えて,多発性骨髄腫は血液細胞の一種である形質細胞のがんであるから,新審査の方針にいう「悪性腫瘍(固形がんなど)」に含まれ得るものであり,そうであるとすれば,「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した」と認められる訴外p1の多発性骨髄腫は,いわゆる積極認定の対象となるものであることを総合考慮すれば,訴外p1の多発性骨髄腫は,原爆放射線に起因するものと認めるのが相当である。 (4) 要医療性について前記認定事実によれば,訴外p1は,平成13年に多発性骨髄腫と診断され,抗ガン剤の投与を受けていたが,平成20年7月31日,多発性骨髄腫に伴う敗血症により死亡したというのであるから,本件p1却下処分当時,多発性骨髄腫について要医療性の要件を満たしていたと認められる。 (5) 結論以上のとおり,訴外p1は,本件p1却下処分当時,原爆症認定申請に係る多発性骨髄腫について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められるから,本件p1却下処分は違法というべきである。 3 原告p3について(1) 認定事実前記前提となる事実等に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲I1,14~16,乙I1,5,原告p3本人)(ア) 原告p3は,昭和12年3月11日生まれ(被爆当時8歳)の女性である。原告p3は,当時,V小学校の3年生であり,広島市g町の自宅(爆心地から北西に約1.2キロメート 本人)(ア) 原告p3は,昭和12年3月11日生まれ(被爆当時8歳)の女性である。原告p3は,当時,V小学校の3年生であり,広島市g町の自宅(爆心地から北西に約1.2キロメートル)において,両親と3人で暮らしていた。なお,当時,祖母が母の看病のために来ていた。 (イ) 原告p3は,昭和20年8月6日午前8時15分頃,別棟の便所から戻る途中,自宅家屋の軒下で広島原爆に被爆した。原告p3が被爆した場所は,自宅家屋の西側の軒下(爆心地は家屋の南東方向)であった。 原告p3は,被爆直後にとっさにしゃがみ込んだ。原告p3が眼を明けると,周囲は真っ暗であった。左耳の下に木の破片が刺さっていた。自宅家屋はつぶれており,両親と祖母が家屋の下敷きになっていた。父の助けを求める声が聞こえたが,原告p3にはどうすることもできず,近所の人に助けを求めたが,周りの家もみな倒れており,助けてくれる人を見つけることはできなかった。 原告p3は,どうすることもできず自宅付近にいると,自宅や周囲の家から火の手が上がり始め,火の粉が降ってきた。原告p3は,近所の人に連れられ,火の粉を避けながらh川まで逃げた。h川には大勢の人が避難してきており,原告p3もh川の端の方に入り,川の水を体にかけながら火の粉を避けた。 原告p3は,周囲の火事が少しおさまってから,近所の人に連れられて北西の山手の方に逃げた。 (ウ) 原告p3は,近所の人とともに,山手にある小屋のような建物(爆心地から2~3キロメートル)に避難し,数週間の間,その小屋で過ごした。 その小屋には,他にもたくさんの避難者がおり,中には怪我や火傷を負っている者もいた。 原告p3は,原爆投下の約10日後,近所の人と一緒に自宅のあった し,数週間の間,その小屋で過ごした。 その小屋には,他にもたくさんの避難者がおり,中には怪我や火傷を負っている者もいた。 原告p3は,原爆投下の約10日後,近所の人と一緒に自宅のあった場所を見に行った。そうすると,自宅はすっかり焼け落ちており,両親と祖母のものと思われる真っ黒こげの3体の遺体があった。原告p3は,その遺体をどうすることもできず,近所の人に連れられて山手の小屋に帰った。原告p3は,小屋に帰る途中,気分が悪くなり,目もおかしくなって,普通に歩くことができなかった。 (エ) 原爆投下から15日から1か月ほど経過した頃,原告p3の母方の伯父(母の次兄)が迎えに来てくれ,原告p3は,広島県双三郡t町の伯母(母の長兄の妻)の実家に引き取られた。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲I1,2,乙I1,3,4,6,7,9,原告p3本人)(ア) 原告p3は,被爆する以前,特に身体に悪いところはなく健康であった。 (イ) 原告p3は,t町の伯母の実家に引き取られてすぐ,40度付近の高熱が数日間続いた。また,その前後頃から,櫛で髪をすくとたくさんの髪が抜けたり,よく急に鼻血が出たりするようになった。 (ウ) 原告p3は,その後,頭痛にも悩まされることがあった。そして,頭痛と鼻血は二十代後半になるまで断続的に続いた。また,原告p3は,被爆の約2年後(当時10歳),t町から滋賀県彦根市の父方の実家に転居したが,その頃から,体が疲れやすいと感じるようになり,その後も疲れやすさは続いた。 (エ) 原告p3は,昭和32年(当時20歳)頃,いとこの勧めでM病院を受診し検査を受けた。その際,医師から,放射能によりいつ病気が出てくるか分からない旨の話を聞かされ やすさは続いた。 (エ) 原告p3は,昭和32年(当時20歳)頃,いとこの勧めでM病院を受診し検査を受けた。その際,医師から,放射能によりいつ病気が出てくるか分からない旨の話を聞かされた。 その後,原告p3は,親しい人ができ結婚の話も進んだが,被爆者であることから破談になった。 (オ) 原告p3は,昭和40年(当時28歳)頃,膝や腰が痛むことから,近所の接骨院に約半年間にわたり通院し,湿布薬をもらうなどした。しかし,その接骨院が閉院したため,膝や腰が痛むときは,p48クリニックにおいて湿布薬などをもらっていた。 (カ) 原告p3は,平成3年(当時54歳)頃,手のリュウマチを発症した。 また,原告p3は,その頃,虚血性心疾患を発症した。 原告p3は,平成10年(当時61歳)頃,肝機能障害(脂肪肝)と診断された。そして,原告p3は,平成14年9月,B型肝炎ウイルス感染の有無の検査を受けたところ,陽性反応(HBs抗原陽性)が出たことから,B型慢性肝炎であると診断された。 (キ) 原告p3は,現在,慢性肝炎の治療のため定期的に薬を服用しているほか,点滴を打ってもらうことがあり,また,肝硬変や肝がんに進行しないよう,約3か月ごとに超音波検査を受けている。また,変形性腰椎症については,症状緩和のため湿布薬をもらっている。 (2) 事実認定の補足説明ア原告p3は,昭和40年(当時28歳)頃,変形性腰椎症と診断されたと主張し,これに沿う供述をする。 しかし,昭和40年頃に変形性腰椎症と診断されたことを裏付けるに足りるカルテ等の客観的な証拠はなく,かえって,平成13年頃のp48クリニックのカルテ(乙I10,11)には,多数の傷病名が記載されているにもかかわらず, に変形性腰椎症と診断されたことを裏付けるに足りるカルテ等の客観的な証拠はなく,かえって,平成13年頃のp48クリニックのカルテ(乙I10,11)には,多数の傷病名が記載されているにもかかわらず,変形性腰椎症及びこれに類する疾患名は記載されていない。 また,原告p3の被爆者台帳(乙I6)においては,被爆者手当受給欄の「負傷又は疾病の名称」に変形性脊椎症が記載されているものの,その申請年月日は平成8年12月20日と記載されており,それ以前において変形性脊椎症の申請がされた旨の記載は見当たらない。さらに,原告p3の認定申請書の別紙(乙I1)には,病歴として「変形性関節症」と記載されており,膝関節症を念頭に置いたような記載となっている。 また,原告p3は,近所の接骨院で変形性腰椎症の診断を受けた旨供述するところ,接骨院とは,通常,柔道整復師の施術所のことをいうのであり,医師免許を有する医師が診断したものではないと考えられる上,昭和40年頃の接骨院に画像診断のための設備(レントゲンなど)があったかどうかも不明である。したがって,変形性腰椎症である旨の診断が仮にされていたとしても,腰椎にどのような変化があったのかは不明であるし,その診断が正しいかどうかも不明である。また,原告p3は,本人尋問において,近所の接骨院に半年程度通った後,膝や腰が痛いときはp48クリニックで湿布薬をもらうなどしていたと供述するが,特段の治療は受けなかったとも供述しており,前述のとおり,平成13年頃のカルテに変形性腰痛症の記載がないこと,原爆症認定申請の際のp48医師の意見書(乙I3)には,変形性腰椎症に関する放射線起因性や必要な医療の内容について全く記載がないこと(なお,変形性腰椎症は後から追記されたもののようである(乙I9の27-3頁参照)。)からすると の意見書(乙I3)には,変形性腰椎症に関する放射線起因性や必要な医療の内容について全く記載がないこと(なお,変形性腰椎症は後から追記されたもののようである(乙I9の27-3頁参照)。)からすると,原告p3が昭和40年頃にp48医師から変形性腰痛症という診断を受けたかどうかも証拠上明らかではない。 以上によれば,原告p3が昭和40年頃に腰痛を患い近所の接骨院に行ったことは認められるが,その腰痛の原因が変形性腰椎症であったとまでは認められない。 イ原告p3は,被爆後の身体症状として,鼻血,脱毛,高熱,倦怠感があったと主張し,これに沿う供述をしているが,その発生時期や継続期間について供述があいまいである(原告p3本人)。しかし,原告p3の被爆状況に照らせば,これらの身体症状があったとしても全く不自然ではない上,原告p3が,当時8歳という年少者であり,原爆により両親と祖母を一度に失うという過酷な体験をしていることを踏まえれば,その身体症状に関する記憶があいまいなものとなることもある程度やむを得ないということができ,これらの身体症状があったことについては,上記認定事実のとおり認定することができる。 もっとも,下痢と吐き気については,主尋問における「下痢とか吐き気とかはどう。」という質問に対し,原告p3は,「それもあったかもわかりません。ちょっと覚えてないんですけど。」と供述するにとどまっており,陳述書(甲I1)にも特に記載がないことからすれば,反対尋問において供述が若干明確になっていることを考慮しても,下痢と吐き気については証拠上認定するに足りないというべきである。 (3) 放射線被曝の程度についてア前記認定事実によれば,原告 て供述が若干明確になっていることを考慮しても,下痢と吐き気については証拠上認定するに足りないというべきである。 (3) 放射線被曝の程度についてア前記認定事実によれば,原告p3は,広島原爆の爆心地から約1.2キロメートル離れたg町の自宅において,家屋の西側の軒下において被爆したと認められるところ,爆心地は家屋の南東方向であり,原告p3が火傷を負った形跡もないことからすれば,原告p3は被爆時には自宅家屋によって遮蔽されていたと考えるのが自然である。そうすると,旧審査の方針別表9によれば,爆心地から1.2キロメートルの地点における初期放射線による被曝線量は173センチグレイとされており,被爆時に遮蔽があった場合にはこれに0. 5~1を乗じて得た値とするとされていることから,原告p3の初期放射線の被曝線量は,86.5~173センチグレイと推定される(なお,医療分科会においては,運用上,被爆時に遮蔽があった場合の透過係数を一律に0. 7としており(乙A124),これを前提とすれば,原告p3の初期放射線の被曝線量は121.1センチグレイと推定されることになる。)。そして,原告p3が爆心地から700メートル以内に立ち入ったことを認めるに足りる証拠はないから,旧審査の方針によれば,誘導放射線による被曝線量を考慮する必要はないことになり,また,原告p3がl又はp地区に滞在したことを認めるに足りる証拠もないので,放射性降下物による被曝線量を考慮する必要もないことになる。 イしかし,前記認定事実によれば,原告p3は,被爆後も直ちに避難することなく自宅付近にとどまっているところ,被爆直後は周囲が真っ暗になるほどであったというのであるし,原告p3は,自宅や周囲の建物に火が付いた後,自宅よりも爆心地に近いh川に入って火の粉を避け 難することなく自宅付近にとどまっているところ,被爆直後は周囲が真っ暗になるほどであったというのであるし,原告p3は,自宅や周囲の建物に火が付いた後,自宅よりも爆心地に近いh川に入って火の粉を避けていたというのである。そうすると,原告p3は,こういった際に,放射性物質を含む埃や塵を大量に吸入したり,放射性物質が皮膚に付着するなどした可能性が考えられ,これらの残留放射線により相当量の外部被曝及び内部被曝を受けているものと考えられる。また,原告p3は,その後も,爆心地から2~3キロメートル付近にある山手の小屋のような建物に避難し,数週間その小屋で過ごしたというのであり,また,原爆投下の約10日後には,近所の人と一緒に自宅のあった場所を見に行くなどしており,残留放射線に継続的に被曝していたと考えられる上,飲食により内部被曝をしている可能性も高いと考えられる。しかも,原告p3は,被爆前は健康に特に問題はなかったにもかかわらず,被爆後間もない頃から軽度の脱毛,発熱,鼻血,倦怠感などの身体症状に苦しんでおり,倦怠感や鼻血は二十代後半になるまで続いたというのであり,上記のような原告p3の一連の身体症状については,少なくともその相当部分につき原爆放射線に被曝した影響によるものと考えられる(甲I2,証人p49)。そうすると,原告p3の原爆放射線による被曝線量は,旧審査の方針やDS86による推定値よりも大きいと考えられ,原告p3は,その健康に影響を及ぼすような相当程度の外部被曝及び内部被曝を受けていたと認めるのが相当である。 (4) 慢性肝炎(慢性肝障害)についてア慢性肝炎(慢性肝障害)の原因について(ア) 原告p3の申請疾病の一つは「慢性肝炎」であり(乙I1),医師の意見書(乙I3)にも同様に記載されているが,これがB 障害)についてア慢性肝炎(慢性肝障害)の原因について(ア) 原告p3の申請疾病の一つは「慢性肝炎」であり(乙I1),医師の意見書(乙I3)にも同様に記載されているが,これがB型肝炎ウイルス(HBV)を主たる原因とする慢性肝炎であるのか,脂肪肝(非アルコール性脂肪肝)を主たる原因とする慢性肝障害であるのかにつき当事者間に争いがあるので,以下検討する(なお,原告p3が慢性的な肝機能障害を有することについては当事者間に争いがない。)。 (イ) まず,証拠(甲I3,9,18,乙I4,9)によれば,原告p3の血液検査結果において,平成14年9月26日以降一貫してHBs抗原が陽性反応を示していることが認められ,原告p3がB型肝炎ウイルスの持続感染者(HBVキャリアー)であることは明らかである。 もっとも,証拠(甲I3,18,乙I9)によれば,原告p3の血液検査結果において,HBe抗原(陽性の場合,血中のB型肝炎ウイルス量が多く,感染力の高い状態にあることを示す。)が陰性を示し,他方,HBe抗体(陽性の場合,血中のB型肝炎ウイルスが少なくなり,感染力も低くなった状態を示す。)が陽性を示していることが認められるから,原告p3は既にセロコンバージョン(HBe抗原陽性・抗体陰性からHBe抗原陰性・HBe抗体陽性に転換することをいい,これが起きると肝障害は沈静化する場合が多いとされる(乙A342,355)。)を起こしているものと認められる。 なお,証人p49は,セロコンバージョンというためには,GOT及びGPTが正常値であることを要する旨証言し,原告p3もこれに沿う主張をする。しかし,細胞傷害逸脱酵素であるAST(GOT)及びALT(GPT)は,肝機能障害の有無を示す指標であると解されるのであって PTが正常値であることを要する旨証言し,原告p3もこれに沿う主張をする。しかし,細胞傷害逸脱酵素であるAST(GOT)及びALT(GPT)は,肝機能障害の有無を示す指標であると解されるのであって,脂肪肝により上昇する場合もあること(乙A325,証人p49)や,後述するとおり,セロコンバージョンを起こしても慢性肝炎が継続する場合があることを考慮すると,GOT及びGPTが正常値であることはセロコンバージョンの要件ではないというべきである。また,ヒアルロン酸などその他の数値に関しても同様に解される(乙A373~375。なお,証人p49は,セロコンバージョン自体の要件というよりも,セロコンバージョンにより無症候性キャリアとなる場合の指標について述べているものと考えられる。)。したがって,上記証言等は採用することができない。 (ウ) 次に,証拠(乙I4,9,10)によれば,原告p3については,平成14年にB型肝炎ウイルスに感染していることが判明する前の平成10年5月頃,「肝機能障害(脂肪肝)」と診断されていることが認められ,その後のエコー所見及びX線所見等からも,原告p3の肝臓が脂肪肝(肝細胞内に中性脂肪が過剰に蓄積した状態)であることは明らかである。 そして,脂肪肝にはアルコール性と非アルコール性があるところ,アルコール性脂肪肝の場合にはASTがALTよりも優位となるとされているが(乙A325),原告p3の場合はALTがASTよりも優位であり,また,原告p3には飲酒習慣がないとみられること(乙I9)からすると,原告p3の脂肪肝は非アルコール性脂肪肝であると認められる。 (エ) 以上のとおり,原告p3は,B型肝炎ウイルスの持続感染者ではあるが,セロコンバージョンを起こしており,かつ,非アルコール性脂肪肝であ 肪肝は非アルコール性脂肪肝であると認められる。 (エ) 以上のとおり,原告p3は,B型肝炎ウイルスの持続感染者ではあるが,セロコンバージョンを起こしており,かつ,非アルコール性脂肪肝であるということができるところ,被告は,原告p3の慢性肝障害は生活習慣に基づく脂肪肝を主たる原因とするものであって,B型肝炎ウイルスによるものではないと主張する。 そこで検討するに,確かに,セロコンバージョンを起こした場合には,HBe抗体陽性無症候性キャリアとなることが多いとされているが,セロコンバージョンを起こしてもB型肝炎ウイルスが存在しなくなる訳ではなく(したがって,HBs抗原やHBc抗体は陽性のままであり,治癒には至らない。),また,HBe抗体陽性の10~30パーセントほどの症例では,肝細胞傷害が持続し慢性肝炎の像を示す(HBe抗原陰性慢性肝炎)とされている(乙A342,359)。 しかも,原告p3のカルテ(乙I9)をみると,平成14年の血液検査以降,傷病名として,「肝機能障害(脂肪肝)」ではなく「慢性肝炎(B型肝炎)」と記載されており(2~5,49~51頁),また,平成16年4月17日頃のカルテには,B型慢性肝炎の根治的治療としてインターフェロン等の投与が検討されたが,原告p3の希望により保存的治療とされた旨の記載もある(231-1頁)。また,原子爆弾被爆者特別健康診断結果表には,医師の所見として「慢性肝炎による脂肪肝変化を認めます。」と記載されている(97-2頁など)。これらのカルテ等の記載によれば,原告p3の主治医であるp48医師は,原告p3はB型慢性肝炎に罹患しており,その脂肪肝はB型慢性肝炎による脂肪変成であると一貫して認識していたものと認められる。 以上のとおり,セロコンバージョンを起 医であるp48医師は,原告p3はB型慢性肝炎に罹患しており,その脂肪肝はB型慢性肝炎による脂肪変成であると一貫して認識していたものと認められる。 以上のとおり,セロコンバージョンを起こしても慢性肝炎が継続する場合があること,原告p3の主治医は原告p3の慢性肝障害をB型慢性肝炎であると認識しその治療を行っていることに加えて,B型肝炎及びC型肝炎の患者が頻繁に肝臓の脂肪変成を起こすとの指摘もあること(甲I12,乙A354)も考慮すると,原告p3の慢性肝障害については,B型慢性肝炎が直接又は間接に影響しているものと認めるのが相当であって,これを否定するに足りる証拠はない。他方で,原告p3の慢性肝障害につき脂肪肝の影響を否定するに足りる証拠もないから,原告p3の慢性肝障害については,証拠上,B型慢性肝炎と非アルコール性脂肪肝が合併したものであると認めるのが相当である。 イ慢性肝障害と放射線被曝との関連性について慢性肝障害(特にB型肝炎及び脂肪肝)については,放射線被曝との関連性につき,以下のような知見があることが認められる。 まず,①「原爆放射線の人体影響1992」(乙A9)の「肝障害」は,p50らの1962年(昭和37年)の統計的調査によれば,被爆者の肝疾患の頻度は国民健康調査と比べて3倍近く高率であり,近距離被爆者で特に高い傾向を認めたとされ,また,p51らは,1975年(昭和50年)から2年間に,成人健康調査対象中の1グレイ以上の高線量被爆者全員と,その対象者として性,年齢,受診年月日を一致させた0~0.9グレイ線量群の同数を選び,その総計2566人についてHBs抗原と抗体の測定を行ったところ,HBs抗体の陽性率に差は見られなかったが,HBs抗原の陽性率は1グレイ以上の高線量群の方が対照 0~0.9グレイ線量群の同数を選び,その総計2566人についてHBs抗原と抗体の測定を行ったところ,HBs抗体の陽性率に差は見られなかったが,HBs抗原の陽性率は1グレイ以上の高線量群の方が対照群よりも有意に高く(3. 4パーセント対2.0パーセント),その傾向は被爆当時20歳以下の若年の者により明らかであり,高線量被曝群での免疫能の低下を示唆するものではないかと考えられたとされ,さらに,放影研の疫学的調査研究の結果,寿命調査集団での1950年(昭和25年)から1985年(昭和60年)までの非腫瘍性疾患の死亡調査では,肝硬変による死亡が放射線量により明らかな増加を認め,この傾向は特に比較的若年被爆者に最近見られるようであるなどとされ,以上をまとめて,最近の研究結果では慢性肝炎,肝硬変,原発性肝がんのいずれにも放射線との関連が示唆される所見が得られてきているとしている(182頁)。 また,②放影研の成人健康調査第7報「原爆被爆者における癌以外の疾患の発生率,1958-86年(第1-14診察周期)」(甲A67文献30,甲I4)によれば,慢性肝疾患及び肝硬変の1グレイでの推定相対リスクは1.14(P=0.006,95パーセント信頼区間1.04~1.27),寄与リスクは8パーセントであるとされ,大きくはないが有意な放射線影響が成人健康調査集団で初めて確認されたとされている。また,放影研の成人健康調査第8報「原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率,1958-1998年」(甲A67文献31,甲I5)によれば,1958年(昭和33年)から1998年(平成10年)までの成人健康調査受診者からなる約1万人の長期データを用いて調査したところ,慢性肝疾患及び肝硬変に有意な正の線量反応関係を認め,その1シーベルトあたりの相対リスクは1.15 998年(平成10年)までの成人健康調査受診者からなる約1万人の長期データを用いて調査したところ,慢性肝疾患及び肝硬変に有意な正の線量反応関係を認め,その1シーベルトあたりの相対リスクは1.15(95パーセント信頼区間1.06~1.25,P値0.001)であるとされた。また,1986年(昭和61年)以降に発生した脂肪肝単独(445症例)と他の慢性肝疾患(199症例)を検証したところ,脂肪肝のみでは線形線量反応が考えられたが(1シーベルトあたりの相対リスク1.16,P値0.073,95パーセント信頼区間0.99~1.37),他の慢性肝疾患については放射線の影響は有意ではなかった(1シーベルトあたりの相対リスク1.06,P値0. 64,95パーセント信頼区間0.84~1.40)とされている。また,放影研要覧(乙A5)は,慢性肝疾患につき,有意な線量反応関係が認められるとしている(21頁)。 さらに,③p52による平成17年度厚生労働省科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)研究報告書「肝機能障害の放射線起因性に関する研究」(甲A245添付資料1)によれば,B型肝炎ウイルス感染者における慢性肝障害については,被爆者においてHBV持続感染者の比率は多く,原爆放射線被曝はHBV感染後の持続感染成立(キャリア化)の確率を高めた可能性がある,また,肝障害発症について被爆者において肝障害が発現しやすい傾向がみられるものの,非被爆者との差は有意とはいえなかった,とされ,その結語において,持続感染成立(キャリア化)後に肝炎を発症するかどうかは非被爆者と変わりないが,キャリア化の頻度は被爆者で高いということであり,被爆者ではB型慢性肝炎が成立しやすいと思われると結論している。また,脂肪肝を含む慢性肝疾患については,成人健康調査第8報(p 被爆者と変わりないが,キャリア化の頻度は被爆者で高いということであり,被爆者ではB型慢性肝炎が成立しやすいと思われると結論している。また,脂肪肝を含む慢性肝疾患については,成人健康調査第8報(p53論文。甲A67文献31,甲I5)によれば,1986年(昭和61年)以降肝疾患患者の増加がみられたが,これは腹部超音波検査の導入によるものであり,症例の69パーセントが非アルコール性脂肪肝であったとされ,同論文の研究において,1シーベルト当たりの相対過剰リスク及び有意性が,脂肪肝において脂肪肝以外の肝疾患よりも高かったことからは,被爆が脂肪肝発生に関わっている可能性も考えられ,これが真に原爆放射線の影響か否かについては今後検討する必要があるとされている。 以上のとおり,慢性肝障害(特にB型肝炎及び脂肪肝)については,放射線被曝との関連性を肯定する知見が集積していることに加えて,前記前提となる事実のとおり,医療分科会は,平成21年6月22日付けで新審査の方針を改訂し,放射線起因性が推認される疾病に「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」を追加したことも考慮すると,慢性肝障害と放射線被曝の関連性については,これを一般的に肯定することができるというべきである。さらに言えば,放影研による成人健康調査(上記②)やp52らによる研究報告(上記③)の内容等からすれば,慢性肝障害のうちでも特にB型肝炎及び非アルコール性脂肪肝によるものについては,放射線被曝との関連性が比較的明らかに認められるということができる。 ウ検討(ア) 以上のとおり,慢性肝障害(特にB型肝炎及び非アルコール性脂肪肝)と放射線被曝との間には有意な関連を認めることができるところ,原告p3は,家屋が遮蔽になったとはいえ,爆心地から約1.2キロ (ア) 以上のとおり,慢性肝障害(特にB型肝炎及び非アルコール性脂肪肝)と放射線被曝との間には有意な関連を認めることができるところ,原告p3は,家屋が遮蔽になったとはいえ,爆心地から約1.2キロメートルという近距離で被爆している上,その後もしばらく自宅付近やh川付近にとどまり,さらに,その後も数週間にわたり爆心地から2~3キロメートルにある小屋で暮らしていたというのであるから,原告p3のその後の身体症状の内容,程度等に照らしても,原告p3は旧審査の方針における推定被曝線量よりも多い相当程度の外部被曝及び内部被曝を受けていた可能性が高いというべきであること,また,原告p3は,放射線被曝の影響が大きいとされる若年時(当時8歳)に被爆しており,その後,原爆放射線との有意な関連が認められる虚血性心疾患にも罹患していること,新審査の方針によれば「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」が積極認定の対象疾患とされているところ,原告p3は新審査の方針の「被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者」に該当することなども考慮すれば,原告p3の慢性肝炎(B型慢性肝炎及び非アルコール性脂肪肝)は,原爆放射線に起因する,すなわち放射線起因性があると認めるのが相当である。 (イ) これに対し,被告は,原告p3の慢性肝障害は,同年代の者に通常みられる肥満による脂肪肝と何ら変わりのない,生活習慣による脂肪肝によるものであるとして,放射線起因性は認められないと主張する。 しかし,前述したとおり,原告p3の慢性肝障害については,B型慢性肝炎及び脂肪肝が合併したものであると認めるのが相当であるから,B型慢性肝炎の存在を否定する被告の上記主張は採用することができない。 また,上記の点をひとまずおくとしても,前述の 型慢性肝炎及び脂肪肝が合併したものであると認めるのが相当であるから,B型慢性肝炎の存在を否定する被告の上記主張は採用することができない。 また,上記の点をひとまずおくとしても,前述のとおり,成人健康調査第8報によれば,1シーベルト当たりの相対過剰リスク及び有意性は,脂肪肝単独の方が脂肪肝以外の肝疾患よりも高く(上記②),症例の69パーセントが非アルコール性脂肪肝であったというのであり(上記③),しかも,原告p3は,身長151㎝に対して体重52㎏程度であり(乙I9の47-1頁など。なお,平成18年・60~69歳・女性の身長と体重の平均値は,身長151.4㎝,体重53.6㎏である(乙A345)。),肥満傾向ではないことも考慮すると,仮に原告p3の慢性肝障害がB型肝炎とは無関係の非アルコール性脂肪肝を原因とするものであったとしても,原爆放射線との関連性は否定されないというべきである。 したがって,いずれにしても,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ) なお,被告は,原告p3が,医師からバランスの良い食事をとるように,体重を減らすように指導されていたこと,血液検査において血糖値が度々正常値を超える高値を示していたこと,中性脂肪値が度々正常値を大幅に上回っていたことなどを根拠として,原告p3の慢性肝障害が生活習慣による脂肪肝に基づくものであると主張する。 しかし,臨床上脂肪肝が認められる以上,医師から食生活や体重の管理について指導されることは当然のことであるし,原告p3が回答した特別健康診断質問票の回答(乙I9の111,122頁)をみても,その食生活に全く問題がないという訳ではないものの,甘いものを好むとか間食をするといったようなことはごく一般にみられることであり,原告p3の食生活に深刻な問題が 乙I9の111,122頁)をみても,その食生活に全く問題がないという訳ではないものの,甘いものを好むとか間食をするといったようなことはごく一般にみられることであり,原告p3の食生活に深刻な問題があることを認めるには足りない。また,原告p3のカルテには,境界型糖尿病,高脂血症といった記載があり(乙I9の4頁など),血液検査においても血糖値や中性脂肪値が高値を示すことがあったことがうかがわれるが,平成20年に発表されたp54(放影研)の「原爆被爆者の動脈硬化・虚血性心疾患の疫学」(甲K5)は,高脂血症について放射線被曝との関連性を肯定しており,また,糖尿病についてもその原因である腹腔内脂肪沈着と放射線被曝との関連が今後の研究対象とされているというのであるから(なお,同論文によれば,腹腔内脂肪が分泌する遊離脂肪酸が門脈を介して肝臓に流入することにより脂肪肝を引き起こすとされており,放射線被曝が腹腔内脂肪沈着を促進することにより非アルコール性脂肪肝を引き起こしている可能性もあると考えられる。),高脂血症や糖尿病に放射線被曝が影響している可能性があるのであって,原告p3が高脂血症や境界型糖尿病に罹患していたというだけでは,その非アルコール性脂肪肝が単なる生活習慣病であり原爆放射線被曝の影響を受けていないということはできない。 エ要医療性について前記認定事実によれば,原告p3は,現在,慢性肝炎の治療のため定期的に薬を服用しているほか,点滴を打ってもらうことがあり,また,肝硬変や肝がんに進行しないよう,約3か月ごとに超音波検査を受けているというのであるから,本件p3却下処分当時,申請疾病である慢性肝炎につき要医療性の要件を満たしていたと認められる。 (5) 変形性腰椎症についてア変形性腰椎症と原 波検査を受けているというのであるから,本件p3却下処分当時,申請疾病である慢性肝炎につき要医療性の要件を満たしていたと認められる。 (5) 変形性腰椎症についてア変形性腰椎症と原爆放射線被曝との関連性について(ア) 原告p3のもう一つの申請疾病は「変形性腰椎症」である(乙I1,3)。 変形性腰椎症とは,腰椎に発症した変形性脊椎症のことであるところ(弁論の全趣旨),変形性脊椎症とは,脊柱の退行性変化による病変であり,椎間板の変性に続く椎体辺縁部の骨棘形成,椎間関節の関節症性変化による関節突起部の骨棘形成が本症の特徴であるとされ,病因としては,年齢的変化が主体であるが,体質的素因,職業などの環境因子,広義の外傷などの関与も考えられているとされている(乙A326)。 (イ) 変形性脊椎症(変形性腰椎症)については,放射線被曝との関連性につき,以下のような知見があることが認められる(なお,成長・発育や老化に関する知見も併せて記載する。)。 まず,①放影研要覧(乙A5)は,「成長・発育」の項において,ABCC・放影研では,若年被爆者の成長の指標として身体測定(身長,体重,胸囲など)を長年にわたり行ってきたが,その調査の結果,幼児期の原爆放射線被曝により成長遅滞を生じることが明らかになったとしている(27頁)。また,「老化」の項においては,がんや慢性疾患のリスク上昇という影響以上の,被曝線量に関連する加齢促進を示す生理学的・病理学的根拠は,ほとんど又は全く認められていないとしており,よく老化に関連するとされる一般的疾患(動脈硬化症,老人性白内障,老人性痴呆,骨粗鬆症,関節炎)のうち,被曝線量と共に頻度が増加しているのは動脈硬化性の病気のみであるとしている(28頁)。 化に関連するとされる一般的疾患(動脈硬化症,老人性白内障,老人性痴呆,骨粗鬆症,関節炎)のうち,被曝線量と共に頻度が増加しているのは動脈硬化性の病気のみであるとしている(28頁)。 次に,②「原爆放射線の人体影響1992」(乙A9)は,「骨・運動器疾患」(198頁以下)において,骨の縦方向への成長は,長管骨においては成長軟骨の増殖,成長及び骨化によりされ,思春期まで続く,縦方向への成長が終了した骨は,その後も形成,維持,吸収が繰り返され,活発に代謝が行われている,このように骨は思春期まで急激に成長していくため,放射線の骨格系への影響は,被曝した時期によって違ってくる,思春期までの活発に骨が成長している時期に放射線に被曝すると,骨の成長が障害されることはよく知られているとしており,また,骨は放射線に抵抗性があるといわれ,大量放射線照射による影響は報告されているが,いまのところ原爆被爆者の骨・運動器疾患に影響があるという報告はみられないとしている。また,「成長と発育の障害」(276頁以下)においては,10歳未満の推定線量が100ラド以上のグループにおいて,他のグループ(100ラド未満)と比較して,男女ともに平均して低身長,低体重であることがわかるとしており,放射線被曝により生じる成長不全の生物学的な説明には多くの可能性はあるが,はっきりした証拠は少ない,ただし,放射線治療により局所に高線量の放射線を受けると,骨がもろくなることはよく知られており,骨形成に関しては,骨細胞自身の数が減少するために骨成長が悪くなるという可能性はあるとしている。さらに,「加齢」(284頁以下)においては,胸椎椎体骨折について,放射線の効果を「なし」としており,結論として,放射線が加齢を促進するか否かという大きな仮説について,原爆被爆者におい としている。さらに,「加齢」(284頁以下)においては,胸椎椎体骨折について,放射線の効果を「なし」としており,結論として,放射線が加齢を促進するか否かという大きな仮説について,原爆被爆者においても様々な角度から膨大な研究成果が積み重ねられてきたが,総括的には原爆被爆と加齢の関連はいまのところ否定的であるとしている。 また,③p55監修「放射線基礎医学(第10版)」(甲I6)によれば,成長している軟骨,骨組織は,細胞分裂頻度が中等度であり,放射線感受性は中程度であるとされ,成熟した軟骨,骨組織は,細胞分裂頻度が低く,放射線感受性はかなり低いとされている。また,p65他「成熟した骨の放射線被曝後の萎縮」(甲I7)によれば,骨への放射線被曝による損傷の最初の出来事は萎縮であり,真の骨壊死はまれである,放射線被爆後の骨の萎縮性変化は,細胞性と血管性の損傷が合わさった結果であり,細胞性の損傷がより重要である,骨基質産生の減少をもたらす骨芽細胞の損傷は,明らかに最初の病理組織学的出来事である,放射線被曝により損傷を受けた骨は,骨折,感染,壊死,肉腫といった合併症を重ねやすくなる,以前の見解に反して,成熟した骨は極めて放射線感受性が高く,小線量の放射線にさえも素早く反応する,などとされている。 さらに,p56他「骨組織の放射線障害生体顕微鏡法」(甲I8)によれば,その要約として,生体における骨の放射線障害を観察するためのチタンチャンバーを用いた生体顕微鏡法について説明された,放射線被曝の後に発生した骨吸収と病的で未熟な骨への置換が観察され記録された,とされている。 以上の各種知見によれば,確かに,思春期までの活発に骨が成長している時期に放射線に被曝すると,骨の成長が障害されることが認められ,若年時(特に幼児期)の原 記録された,とされている。 以上の各種知見によれば,確かに,思春期までの活発に骨が成長している時期に放射線に被曝すると,骨の成長が障害されることが認められ,若年時(特に幼児期)の原爆放射線被曝により成長遅滞を生じ得るという意味において,骨の成長障害と若年時における原爆放射線被曝との間には関連性があるということができる。しかし,一般的には,骨は放射線に抵抗性があるといわれており,放影研等の疫学的調査の中に,変形性脊椎症(変形性腰椎症)と放射線被曝との有意な関連性を示すものは見当たらず,また,老化に関連するとされる骨粗鬆症,関節炎,胸椎椎体骨折についてみても,放射線被曝との関連性は否定されており,総括的には,原爆被爆と加齢の関連はいまのところ否定的であるとされていることからすれば,脊椎の老化現象ともいうべき変形性脊椎症(変形性腰椎症)については,少なくとも現在の知見の下では,原爆放射線被曝との有意な関連性を認めることは困難である。 (ウ) これに対し,原告p3は,上記②及び③の各知見によれば,変形性脊椎症と放射線被曝との関連性が認められる旨主張し,証人p49もこれに沿う証言をする。 しかし,上記②及び③の各知見によれば,成長中の骨が放射線被曝により成長障害(成長遅滞)を生じることが認められるものの,骨の老化を促進することまでは認め難い。そして,前述したとおり,変形性脊椎症とは,脊柱の退行性変化による病変であり,椎間板の変性に続く椎体辺縁部の骨棘形成,椎間関節の関節症性変化による関節突起部の骨棘形成が本症の特徴であるとされているのであるから,骨の成長障害につき放射線起因性が認められるからといって,脊椎の退行性変化(その代表的な原因が老化である。)であり椎骨の一部の変化を特徴とする変形性脊椎症につい 特徴であるとされているのであるから,骨の成長障害につき放射線起因性が認められるからといって,脊椎の退行性変化(その代表的な原因が老化である。)であり椎骨の一部の変化を特徴とする変形性脊椎症について,直ちに放射線起因性を認めることはできないというべきである。したがって,原告p3の上記主張は採用することができない。 また,原告p3は,p57「2004年くまもと被爆者健康調査プロジェクト04」(甲A125)において,変形性脊椎症の発症に関し,男性,女性,男女計で非被爆者に比して被爆者の方が多く,統計学的に有意であったと報告されているとして,変形性脊椎症(変形性腰椎症)には放射線起因性が認められると主張し,証人p49もこれに沿う証言をする。 しかし,上記健康調査は,現行の原爆症認定基準に重大な問題点があることを前提として,「遠距離・入市被爆者の健康障害の実態を解明すること」を主要な目的とするものであり,N協議会会員を中心に,熊本県在住被爆者に調査への協力を呼び掛け,これに呼応して調査会場へ来場した被爆者を調査対象としたものであることが認められ,その調査目的及び調査対象にバイアスが含まれている可能性があることは否定し難い(なお,平成16年当時,熊本地方裁判所において,変形性脊椎症を申請疾病とする原爆症認定申請却下処分の取消訴訟が提起されていたようである(甲A211)。)。したがって,上記健康調査の結果をもって,直ちに変形性脊椎症と放射線被曝との一般的な関連性を肯定することには躊躇せざるを得ず,これ以外に変形性脊椎症(変形性腰椎症)と放射線被曝との有意な関連を認めた調査研究結果が見当たらないことなども考慮すると,原告p3の上記主張は採用することができない。 イ検討(ア) 以上のとおり,変形性脊椎症 椎症)と放射線被曝との有意な関連を認めた調査研究結果が見当たらないことなども考慮すると,原告p3の上記主張は採用することができない。 イ検討(ア) 以上のとおり,変形性脊椎症(変形性腰椎症)と放射線被曝との間に有意な関連性があるとは認められず,しかも,原告p3の身長は平均身長と同程度であり,成長障害があるとは認められないこと(乙A345,証人p49)や,変形性脊椎症(変形性腰痛症)は加齢に伴いごく一般的に発症する疾病であることも考慮すると,前述のとおり,原告p3が若年時に相当程度の原爆放射線被曝を受けたとみられることなどを考慮してもなお,その変形性腰椎症が原爆放射線に起因するものであるとは認められない。 (イ) これに対し,原告p3は,変形性腰椎症を昭和40年(当時28歳)頃に発症したものであり,加齢によるものとは考えられないから,放射線起因性が認められると主張し,証人p49もこれに沿う証言をする。 しかし,前述したとおり,原告p3が昭和40年頃に変形性腰椎症と診断されたと認めるに足りる証拠はなく,また,仮に接骨院においてそのように診断されていたとしても,それが正しい診断であったかどうかは全く不明であるから,原告p3が28歳の時点で変形性腰椎症を発症していたとは認められない。したがって,原告p3の上記主張は採用することができない。 (6) 結論以上によれば,原告p3は,本件p3却下処分当時,原爆症認定申請に係る慢性肝炎(B型慢性肝炎及び非アルコール性脂肪肝)について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められるから,本件p3却下処分はその限度で違法というべきであるが,本件p3却下処分のうち変形性腰椎症に係る部分は,放射線起因性の要件を満たしていたとは認められ び要医療性の要件を満たしていたものと認められるから,本件p3却下処分はその限度で違法というべきであるが,本件p3却下処分のうち変形性腰椎症に係る部分は,放射線起因性の要件を満たしていたとは認められないから,適法であったというべきである。 4 原告p4について(1) 認定事実前記前提となる事実等に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(甲K1,2,11,12,乙K1,2,10,16,原告p4本人,原告p7本人)(ア) 原告p4は,昭和17年1月21日生まれ(被爆当時3歳6か月)の女性であり,当時,広島市i町の母の実家(爆心地から約1.7キロメートル)において,祖父母,両親,原告p7及び妹のほか,東京から疎開していた伯母と従姉妹2人とともに暮らしていた。 (イ) 原告p4は,昭和20年8月6日午前8時15分頃,祖父,伯母,姉,従姉妹と5人で,リヤカーに小麦を積んで,広島市i町の製粉所に向かって農道(爆心地から約1.7キロメートル)を進んでいた時,遮蔽のない屋外において広島原爆に被爆した。原告p4の伯母は,被爆の瞬間に原告p4と従姉妹を抱えて用水路に飛び込んだ。その結果,原告p4は,広島原爆の熱線や爆風による大きな怪我や火傷を負わなかった。 (ウ) 原告p4らは,その後しばらくして,母の実家があった場所に戻ったが,母の実家は爆風で吹き飛ばされ,辺り一面が瓦礫の山となっていた。祖母,母及び妹が家屋の下敷きとなっていたため,慌てて駆けつけた父や偶然通りかかった兵隊らにより祖母らの救出活動が行われた。原告p4は,その際,視界を遮るほどのひどい砂埃の中にあり,さらに,強い黒い雨を全身に浴びた。 (エ) 原告p4は,祖母,母 た父や偶然通りかかった兵隊らにより祖母らの救出活動が行われた。原告p4は,その際,視界を遮るほどのひどい砂埃の中にあり,さらに,強い黒い雨を全身に浴びた。 (エ) 原告p4は,祖母,母及び妹が救出されると,他の家族と一緒に,新築中の家(爆心地から約2キロメートル)まで徒歩で移動し,その後,その家で過ごした。原告p4及びその家族は,昭和26年に大阪に転居するまでこの家で過ごしたが,その間,家のそばを流れる小川で水をくんで飲み,近くの山に自生する野草を採って食べたりしていた。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲K1~3,乙K2,4~10,原告p4本人,原告p7本人)(ア) 原告p4は,被爆後間もない頃から,嘔吐,歯茎や口腔からの出血,脱毛等の症状に苦しんだ。原告p4の姉である原告p7も,当時,嘔吐,歯茎からの出血,発熱,目まい,発疹などの症状に苦しんでおり,その他の家族も皆同じような症状であった。 (イ) 原告p4は,物心ついた頃からずっとひ弱であり,発熱や下痢をよくしていた。また,原告p4が昭和26年に大阪市に転居してからは,歯茎からどろっとした血膿のようなものが出ることがあり,口腔内が腫れて1週間ほど飲み食いできないこともあった。また,原告p4は,体が弱かったため,小学校,中学校及び高校の修学旅行にはいずれも参加しなかった。 (ウ) 原告p4は,大人になってからも,疲れやすく,立ちくらみをすることも多く,体がだるくて朝起きることができなかったり,動けなくなったりすることもあった。また,原告p4は,頭痛や下痢にもよく悩まされたほか,日に当たると手の皮膚に斑点様のものができるため,一年中長袖の服を着ていた。 (エ) 原告p4は,昭和55年(当時38 することもあった。また,原告p4は,頭痛や下痢にもよく悩まされたほか,日に当たると手の皮膚に斑点様のものができるため,一年中長袖の服を着ていた。 (エ) 原告p4は,昭和55年(当時38歳)頃,左のほほがひどく腫れた。 O病院の診察を受けた結果,歯と歯茎の間に良性腫瘍ができていることが分かり,原告p4は,その除去手術を受けた。 原告p4は,平成元年頃から胃潰瘍を患い,平成14年頃まで続いた。 また,平成16年頃に不整脈も患った。 (オ) 原告p4は,平成16年1月17日頃(当時61歳),右眼網膜中心動脈閉塞症を発症し,突然右眼が見えなくなった。原告p4は,急いで眼科を受診し,紹介されたP脳神経外科で12日間入院したが,右眼の視力は回復せず,光を感じるだけとなった。 原告p4は,その頃,左眼も検査してもらったところ,緑内障と飛蚊症にかかっていることが分かった。さらに,平成21年6月の検診の際,左眼に白内障が出てきていることが分かり,原告p4は,平成22年8月,左眼の白内障の手術を受けた。 (カ) 原告p4は,Q眼科とP脳神経外科には5週間に1回程度,R病院には4週間に1回程度通院し,症状軽減のための点眼薬のほか,動脈硬化に基づく動脈閉塞症の再発予防等のため七,八種類の飲み薬を服用している。 (キ) 原告p4は,高血圧症,高脂血症及び糖尿病には罹患しておらず,肥満体でもない。 原告p4は,40歳頃から20年以上にわたり1日10本程度の喫煙習慣があったが,平成16年1月に右眼網膜中心動脈閉塞症に罹患したことを契機として禁煙した。なお,原告p4は,その後禁煙を破り喫煙していた時期もあるが,現在は喫煙していない。 (2) 事実認定の補足説明被 年1月に右眼網膜中心動脈閉塞症に罹患したことを契機として禁煙した。なお,原告p4は,その後禁煙を破り喫煙していた時期もあるが,現在は喫煙していない。 (2) 事実認定の補足説明被告は,原告p4に係るABCCによる調査記録(乙K16)において,「SYMPTOMS(症状)」の項目にはいずれも「None(無シ)」にチェックがされており,「GeneralStatementConcerningPresentHealth(現在ノ容体)」欄には「健康にして主訴なし」と記載されているとして,急性症状に係る原告p4の主張及びこれに沿う原告p7の供述等の信用性を争っている。 しかし,ABCCについては,調査をするが治療をしないことや,米国の調査機関であることなどから,被爆者の間にはABCCに対する不信感や反感があったといわれており,また,就職や結婚における社会的差別を避けるため,あえて被爆の事実を秘匿し又は過少に報告することがあったともいわれている(甲A112の6,10,11,250の3~5,証人p58,弁論の全趣旨)。上記の調査記録上も,原告p4は遮蔽のない農道上で被爆したにもかかわらず,土壁に遮蔽された自宅の中で被爆した旨記載されている上,健康状態につき全く異常がないとされているのもかえって不自然である。しかも,上記調査記録の回答者は父方の祖父p59であるところ,孫である原告p4のことを思って被爆状況や症状について過少申告した可能性も一概に否定することができず,また,そもそも同人がいつからいつまで原告p4とともに暮らしていたのか詳細は不明であり(なお,原爆が投下された当時,p59と原告p4は同居していない(乙K10)。),原告p4は上記調査の約8年前に大阪へ転居していることも考慮すれば,祖父p59が原告p4の身体症状 のか詳細は不明であり(なお,原爆が投下された当時,p59と原告p4は同居していない(乙K10)。),原告p4は上記調査の約8年前に大阪へ転居していることも考慮すれば,祖父p59が原告p4の身体症状をどの程度把握していたかも明らかではない。以上の点からすれば,ABCCの上記調査記録の記載内容の信用性は乏しいといわざるを得ず,原告p4の身体症状に係る上記認定を左右するものではないというべきである。 (3) 放射線起因性(右眼動脈閉塞症)についてア放射線被曝の程度について(ア) 前記認定事実によれば,原告p4は,広島原爆の爆心地から約1.7キロメートル離れた農道上において遮蔽のない状態で被爆したものと認められ,旧審査の方針別表9によれば,爆心地から1.7キロメートルの地点における初期放射線による被曝線量は22センチグレイ(0.22グレイ)と推定される。そして,原告p4が爆心地から700メートル以内に立ち入ったことを認めるに足りる証拠はないから,旧審査の方針によれば,誘導放射線による被曝線量を考慮する必要はないことになり,また,原告p4がl又はp地区に滞在したことを認めるに足りる証拠もないので,放射性降下物による被曝線量を考慮する必要もないことになる。 (イ) しかし,原告p4は爆心地から約1.7キロメートルの地点で被爆しているところ,前述したとおり,旧審査の方針別表9の被曝線量の算定基準は,爆心地から1300~1500メートル以遠において過小評価の可能性があるのであり,初期放射線の被曝線量が22センチグレイを上回っている可能性がある。しかも,原告p4は,原爆投下後しばらくして,母の実家があった場所に戻り,祖母らの救出活動を見守ったが,その際,視界を遮るほどのひどい砂埃の中にあったというの ンチグレイを上回っている可能性がある。しかも,原告p4は,原爆投下後しばらくして,母の実家があった場所に戻り,祖母らの救出活動を見守ったが,その際,視界を遮るほどのひどい砂埃の中にあったというのであるから,その際に多量の放射性物質を含む空気中の粉塵を吸入した可能性が考えられるし,さらに,原告p4は強い黒い雨を全身に浴びたというのであるから(なお,原告p4の母の実家があった広島市i町は爆心地の北北東にあり,黒い雨が降ったとされるl地域に近い場所である。),多量の放射性降下物が皮膚に付着したり,体内に取り込まれるなどした可能性が考えられ,これらの残留放射線により相当量の外部被曝及び内部被曝を受けているものと考えられる。また,原告p4は,その後も爆心地から約2キロメートルの地点にある新築中の家で暮らし,近くを流れる小川の水を飲んだり,野草を採って食べたりしたというのであるから,残留放射線に継続的に被曝していたと考えられる上,放射性物質を含む水や野草を体内に取り込み内部被曝をしている可能性も高いと考えられる。しかも,原告p4は,被爆後間もない頃から,嘔吐,歯茎や口腔からの出血,脱毛等の症状に苦しみ,物心ついた頃からずっとひ弱であり,発熱や下痢のほか,歯茎からどろっとした血膿のようなものが出ることがあったというのであるが,原告p4の姉である原告p7も,当時,嘔吐,歯茎からの出血,発熱,目まい,発疹などの症状に苦しんでおり,その他の家族も皆同じような症状であったことも考慮すると,上記のような原告p4の一連の身体症状については,原爆放射線に被曝した影響によるものと考えるのが自然である(甲K2,証人p58)。そうすると,原告p4の原爆放射線による被曝線量は,旧審査の方針やDS86による推定値ほど小さいものではなかったと考えられ,原告p4は,健康 響によるものと考えるのが自然である(甲K2,証人p58)。そうすると,原告p4の原爆放射線による被曝線量は,旧審査の方針やDS86による推定値ほど小さいものではなかったと考えられ,原告p4は,健康に影響を及ぼすような相当程度の外部被曝及び内部被曝を受けていたと認めるのが相当である。 (ウ) これに対し,被告は,仮に原告p7が供述するような身体症状が原告p4に生じていたとしても,これらの身体症状は,放射線被曝による急性症状としての特徴を備えておらず,原告p4が急性症状のしきい値(最低でも1グレイ)を超える被曝をしたとも考え難いとして,原爆放射線による急性症状とは認められないなどと主張する。 しかし,前述のとおり,原爆による放射線被曝は,その後,同様の被害が再現されたことのない特異なケースであり,これを他の一般的な放射線被曝事故の場合と同列に扱えるかどうか自体疑問であって,原爆被爆者の場合には,急性症状の典型的な特徴やしきい線量が必ずしもそのとおり当てはまらないと考える方が,より自然かつ合理的というべきである。しかも,原告p4に生じたと認められる倦怠感,発熱,歯茎からの出血,脱毛,下痢などの身体症状は,いずれも原爆被爆者に多くみられる身体症状であり,これらの一連の身体症状を精神的ショックや感染症等の他の原因によって合理的に説明することも困難である。したがって,少なくともこれらの身体症状の相当部分は,原爆放射線に被曝したことによるものであると考えるのが自然であって,これに反する被告の上記主張は採用することができない。 イ右眼網膜中心動脈閉塞症と原爆放射線被曝との関連性について(ア) 原告p4の申請疾病は「右眼動脈閉塞症」であるが(乙K2),診療録(乙K15)の記載によれば,原告p4の申請 イ右眼網膜中心動脈閉塞症と原爆放射線被曝との関連性について(ア) 原告p4の申請疾病は「右眼動脈閉塞症」であるが(乙K2),診療録(乙K15)の記載によれば,原告p4の申請疾病である右眼動脈閉塞症は,右眼網膜中心動脈閉塞症であるものと認められる。 網膜中心動脈閉塞症とは,動脈硬化による血栓形成,心臓又は大動脈の塞栓子の飛来等により網膜動脈が閉塞され,閉塞状態が継続することにより網膜の虚血性変化が起こり,急激な高度の視力障害等を引き起こす疾病である。網膜中心動脈閉塞症の発生機序としては,①心臓又は大動脈からの塞栓子の飛来,②乳頭内での粥状硬化,動脈炎による攣縮のための動脈の閉塞,③緑内障や外力による高眼圧などが挙げられるが,一般的に,網膜中心動脈閉塞症は,動脈硬化性変化として挙げられ,動脈硬化を伴うことが多いといわれている(以上につき,乙A328~330,弁論の全趣旨)。 原告p4については,平成16年9月6日検査の超音波所見に「動脈硬化mild」と記載されているなど,動脈硬化の所見が認められ(乙K15),その他の原因に係る兆候も見当たらないことから,原告p4の右眼網膜中心動脈閉塞症は,アテローム性動脈硬化を主たる原因とするものと認められる(甲K3,弁論の全趣旨)。アテローム性動脈硬化症(粥状動脈硬化症)とは,動脈の内側にアテロームというもろい粥状の物質が沈着してプラークを形成する疾患であり,その結果,血管の内腔が狭くなり血液が流れにくくなったり,プラークが破れて血液中に血栓を形成し,これが重要臓器の血管に詰まること(塞栓)により,心筋梗塞や脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)を引き起こすものである(乙A330,351,弁論の全趣旨)。 (イ) 上記のとおり,原告p4の 重要臓器の血管に詰まること(塞栓)により,心筋梗塞や脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)を引き起こすものである(乙A330,351,弁論の全趣旨)。 (イ) 上記のとおり,原告p4の右眼網膜中心動脈閉塞症は,アテローム性動脈硬化を主たる原因とするものであり,その発生機序はアテローム血栓性脳梗塞の場合と基本的に同じであると解されるところ,脳梗塞及び動脈硬化については,放射線被曝との関連性につき,以下のような知見があることが認められる。 まず,循環器疾患全般につき,①「原爆放射線の人体影響1992」(乙A9)の「循環器疾患」は,p60らの1958年(昭和33年)から1978年(昭和53年)までの20年間の調査に基づく報告によれば,脳血管疾患発生率が広島の女性で被曝線量とともに有意に増加しているとされたこと(163頁)などを述べた上,原爆放射線被曝と循環器疾患についての各種報告からは,虚血性心疾患及び脳血管疾患死亡率並びに発生率に放射線被曝の影響が示唆され,大動脈弓石灰化の有病率にも被爆の影響が示唆されたとしている(166頁)。また,②放影研要覧(乙A5)は,「心筋梗塞に加え,アテローム性動脈硬化症(脳梗塞,収縮期高血圧及び大動脈弓石灰化)に関するAHS調査も,被曝線量と正の関係を示している。」としている(22頁)。 次に,放影研の調査結果を脳梗塞(又は脳卒中)を中心に見ると,③放影研の原爆被爆者の死亡率調査第12報第2部:がん以外の死亡率1950-1955年(甲A273)によれば,1950年(昭和25年)から1990年(平成2年)までのがん以外の疾患による死亡者について解析した結果,放射線との統計的に有意な関係ががん以外の複数の疾病(心臓病,脳卒中,消化器疾患,呼吸器疾患及び造血器系疾 和25年)から1990年(平成2年)までのがん以外の疾患による死亡者について解析した結果,放射線との統計的に有意な関係ががん以外の複数の疾病(心臓病,脳卒中,消化器疾患,呼吸器疾患及び造血器系疾患)に見られるとされ,脳卒中(死亡数7859人)の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.09(90パーセント信頼区間0.02~0.17,P値(片側検定)0.02),そのうち脳梗塞(死亡数1611人)の同過剰相対リスクは0.07(90パーセント信頼区間-0.09~0.25)とされている。また,その考察においては,低線量,例えば約0.5シーベルトにおいてどの程度の関連性があるかはまだ不明であるが,影響はもはや高い線量域に限らない,心筋梗塞及び脳梗塞,並びにアテローム性動脈硬化症と高血圧症の様々な指標について有意な線量反応が観察されているといった内容が指摘されており,その機序について,「このような影響に関する機序が解明されていないからといって,機序が存在しないという意味ではないと我々は考えている。…一つの興味深い機序として免疫能不全が考えられる。健康に直接影響が出るわけではないが,T細胞とB細胞の機能的・量的異常において原爆放射線の後影響がみられる。最近の研究では,クラミジア・ニューモニエ,…に感染するとアテローム性動脈硬化症が発症しやすいことが示唆されている。」とされている。また,④放影研の原爆被爆者の死亡率調査第13報:固形がんおよびがん以外の疾患による死亡率1950-1997年(甲A112の19)によれば,1968年(昭和43年)から1997年(平成9年)までの期間の寿命調査における心疾患,脳卒中,呼吸器疾患及び消化器疾患に有意な過剰リスクが認められたとされ,脳卒中の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.12(90パーセント信頼区間 (平成9年)までの期間の寿命調査における心疾患,脳卒中,呼吸器疾患及び消化器疾患に有意な過剰リスクが認められたとされ,脳卒中の1シーベルト当たりの過剰相対リスクは0.12(90パーセント信頼区間0.02~0.22,P値0.01)とされている。 さらに,⑤p61ら「BMJ 放射線被曝と循環器疾患のリスク:広島,長崎の被爆者データより1950-2003」(甲K10。以下「BMJ論文」という。)によれば,1950年(昭和25年)から2003年(平成8年)までの間に,対象者のうち9600人が脳卒中で死亡したが,脳卒中については1シーベルト当たり9パーセント(0.09)の過剰相対リスク(95パーセント信頼区間0.01~0.17,P値0.002)が線量反応関係モデル上で認められたが,低線量被曝領域では正の上向きカーブの兆候が見られたものの,比較的小さいリスクが示唆されるだけであったとされ,結論として,0.5グレイを上回る被曝線量は脳卒中のリスク上昇に関連していたが,それより少ない線量では明確ではなかったとされている。 また,動脈硬化については,比較的最近の研究結果として,⑥p54(放影研)の「原爆被爆者の動脈硬化・虚血性心疾患の疫学」(甲K5・平成20年)は,放影研で行った放射線被曝と心・血管疾患及びその危険因子との関連についての調査結果によれば,心疾患による死亡及び心筋梗塞が増加しており,大動脈弓の石灰化及び網膜細動脈硬化を認めることから,被爆者でも被曝の影響として動脈硬化による心・血管疾患が増加していると考えられるとされ,動脈硬化あるいは心・血管疾患の危険因子である高血圧,高脂血症及び炎症にも放射線被曝が関与していることも明らかになり,これらを介して動脈硬化が促進され,心・血管疾患の増加につながったと考えられるとしている。ま いは心・血管疾患の危険因子である高血圧,高脂血症及び炎症にも放射線被曝が関与していることも明らかになり,これらを介して動脈硬化が促進され,心・血管疾患の増加につながったと考えられるとしている。また,⑦p62(広島原爆傷害対策協議会健康管理・増進センター)の「原爆被爆者と心血管疾患」(甲K6・平成20年)は,1987年(昭和62年)から2003年(平成5年)までに原爆検診を受診した40歳から79歳の被爆者1万6335例につき,大動脈脈波速度(PMW)を測定したところ,被曝と大動脈硬化の関連を認める結果が出たとし,特に被爆時年齢が20歳未満の男性の若年直接被爆者では大血管の動脈硬化が強く,特に10歳未満の近距離被爆者に強いとの結果を得たとしている。また,頸動脈超音波法においても,近距離被爆者,特に10歳未満で被爆した男性の若年被爆者に頸動脈内膜中膜複合厚(IMT)の肥厚が強い傾向があるとの結論を得た(ただし,指尖加速度脈波(APG)とCAVIにおいては被爆状況では差が見られなかった。)とし,最近の循環器疾患と被曝についての疫学的研究においても若年被爆者における同様の結果が報告されているとしている。 以上のような各種知見に加え,心筋梗塞は,アテローム血栓性脳梗塞と同様にアテローム性動脈硬化がその発症に関係する疾病であるところ,新審査の方針において,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」が積極認定の対象疾病とされていることも考慮すれば,動脈硬化に基づく脳梗塞と放射線被曝との関連性については,これを一般的に肯定することができるというべきである。 (ウ) これに対し,被告は,p62らの「原爆被爆者における動脈硬化に関する検討(第7報)」(乙A107)及び「原爆被爆者における動脈硬化に関する検討(第8報)」(乙A164) きである。 (ウ) これに対し,被告は,p62らの「原爆被爆者における動脈硬化に関する検討(第7報)」(乙A107)及び「原爆被爆者における動脈硬化に関する検討(第8報)」(乙A164)において,原爆放射線の被曝状況は,頸動脈の壁厚及びプラークの総数(第7報)とも,CAVI値(第8報)とも有意な関連がみられなかったとされていることを根拠として,動脈硬化と放射線との関連性は認め難いというのが現在の科学的知見であると主張する。 しかし,p62らの上記各報告は,被爆状況別に明らかに有意な関連がみられなかったとしているにすぎず,非被爆者との比較において動脈硬化と放射線との関連性を否定したものではない。現に,p62は,上記⑦のとおり,広島原爆傷害対策協議会健康管理・増進センターにおける被爆者検診の結果及びその報告等を踏まえて,動脈硬化と放射線との関連性を肯定しているのであるから,被告の上記主張は採用することができない。 また,被告は,p54の論文(上記⑥)は,研究途上の報告であって確立した医学的知見ではないとか,同論文の引用文献3(乙A350)につき,検査結果が数値として表れる血液検査等と異なり,胸部レントゲン写真等の読影者の主観的な判断によるバイアスがあるため客観性に乏しいなどと主張する。しかし,原爆放射線による後障害の研究は多かれ少なかれ研究途上という側面があり,医学的知見として確立していることを厳密に要求することは適当ではない上,上記論文は放影研における長年の調査結果等を踏まえたものであり,現時点において到達した科学的知見として十分信頼するに足りる。また,引用文献3についても,被告が指摘するような問題点があるとしても,これをもって上記論文の結論が全く否定されるようなものではない。したがっ において到達した科学的知見として十分信頼するに足りる。また,引用文献3についても,被告が指摘するような問題点があるとしても,これをもって上記論文の結論が全く否定されるようなものではない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。 さらに,被告は,p62の論文(上記⑦)は,動脈硬化と放射線被曝との関連を示唆しているにすぎないし,関連を示唆された対象者は若年男性被爆者であって,女性である原告p4はこれに該当しないなどと主張する。 しかし,上記論文が動脈硬化と放射線被曝との関連性を肯定する趣旨のものであることは明らかであるし,若年男性被爆者の動脈硬化につき関連性が顕著であることを指摘しているにすぎず,若年女性被爆者の動脈硬化につき放射線被曝との関連性を否定する趣旨ではないこともまた明らかであって,被告の上記主張は採用することができない。 被告は,その他にも,放影研の原爆被爆者の死亡率調査第13報(上記③)は,脳卒中という大きな概念での調査結果の報告にすぎず,脳梗塞と放射線被曝との関連性を肯定するものではなく,統計学的な有意な関係は明らかにされていないなどと主張する。しかし,脳卒中のうち脳梗塞以外のもの(脳出血など)にのみ放射線被曝との関連性があることを裏付けるに足りる十分な証拠はないし,動脈硬化や心筋梗塞に関する知見等も踏まえると,少なくともアテローム血栓性脳梗塞が放射線被曝と有意な関連を有することは十分明らかであるといえるから,被告の上記主張は採用することができない。 (エ) 以上のとおり,動脈硬化に基づく脳梗塞と放射線被曝との間には関連性を肯定することができるところ,網膜中心動脈閉塞症の発生機序は動脈硬化に基づく脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)と基本的に同じものであると のとおり,動脈硬化に基づく脳梗塞と放射線被曝との間には関連性を肯定することができるところ,網膜中心動脈閉塞症の発生機序は動脈硬化に基づく脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)と基本的に同じものであると解されるから,網膜中心動脈閉塞症と放射線被曝との間には,脳梗塞と同程度の放射線被曝との関連性が認められる。 ウ検討(ア) 原爆放射線起因性について以上のとおり,網膜中心動脈閉塞症と放射線被曝との間には有意な関連を認めることができるところ,原告p4は,爆心地から約1.7キロメートルの遮蔽のない場所で被爆し,その後も爆心地から約2キロメートル内にとどまって粉塵を吸入したり黒い雨を浴びたりしていたのであり,原告p4のその後の身体症状の内容,程度等に照らしても,原告p4は旧審査の方針における推定被曝線量よりも多い相当程度の外部被曝及び内部被曝を受けていた可能性が高いというべきであり,また,原告p4には,動脈硬化の危険因子である喫煙歴があるものの,その他の主要な危険因子(高血圧症,高脂血症,糖尿病,肥満等)は特に見当たらないこと,当時行動を共にしていた原告p7は既に原爆症認定を受けていることなども総合考慮すれば,原告p4の右眼網膜中心動脈閉塞症は,原爆放射線に起因するものと認めるのが相当である。 (イ) 推定被曝線量からの反論について被告は,BMJ論文は,DS02の線量評価方法による被曝線量が0. 5グレイ以上の被爆者につき脳卒中と放射線との関連性があるかもしれないとしているにすぎず,被曝線量が0.5グレイにも満たないとされた被爆者については脳卒中と放射線との関連性を肯定したものではないとした上,原告p4のDS02による推定被曝線量は0.24グレイであるから,原告p4の申請疾病と原爆放射線との レイにも満たないとされた被爆者については脳卒中と放射線との関連性を肯定したものではないとした上,原告p4のDS02による推定被曝線量は0.24グレイであるから,原告p4の申請疾病と原爆放射線との関連性は認められないと主張する。 しかし,0.5グレイ以下の放射線被曝と脳梗塞との間に有意な関連が認められないかどうかはともかく,BMJ論文は0.5グレイ以下の場合に関連性を否定するものではなく,前述のとおり,原告p4の被爆状況やその後の行動内容,原告p4に生じた身体症状等からすれば,初期放射線量は0.5グレイに届かないとしても,これに加えて,誘導放射線及び放射性降下物による外部被曝及び内部被曝により,相当の被曝をしていると認められ,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ) 動脈硬化の危険因子(喫煙)について被告は,原告p4の右眼網膜中心動脈閉塞症は,その発症に至るまでの間,喫煙を継続した原告p4の生活習慣によるものと考えるのが合理的であり,原爆放射線がその疾病発症に影響を及ぼしたとはいえないと主張する。 なるほど,被告が主張するとおり,喫煙は動脈硬化及びこれを原因とする脳梗塞の危険因子の一つであると認められるところ(乙A332,347,349,356),前記認定事実によれば,原告p4は40歳頃から20年以上にわたり1日10本程度喫煙していたというのであるから,原告p4の右眼網膜中心動脈閉塞症に喫煙が影響していることは一概に否定することができない。 しかし,放影研の成人健康調査第8報:原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率1958-1998年(甲A67文献31,甲I5)は,脳梗塞と同様の循環器疾患である心筋梗塞(40歳未満被爆者)につき有意な二次 放影研の成人健康調査第8報:原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率1958-1998年(甲A67文献31,甲I5)は,脳梗塞と同様の循環器疾患である心筋梗塞(40歳未満被爆者)につき有意な二次線量反応を認めた上で(P値0.049),喫煙や飲酒で調整しても結果は変わらなかったとしており,また,BMJ論文は,脳卒中の放射線リスクを認めた上で,喫煙等の他の交絡因子を調整しても,脳卒中の放射線リスクの評価にほとんど影響を及ぼさなかったとしている。これらの知見を踏まえれば,喫煙という危険因子を有しているからといって,動脈硬化やこれを原因とする循環器疾患(心筋梗塞,脳梗塞等)と放射線被曝との間の有意な関係が否定される訳ではないことは明らかである。しかも,原告p4の喫煙習慣は約20年間に及ぶものの,その喫煙本数は1日10本程度(半箱程度)であり,それほど喫煙本数が多い訳ではない上,動脈硬化や脳梗塞の危険因子としては,喫煙の他にも,代表的なものとして,高血圧症,高脂血症,糖尿病,肥満等が挙げられるが,原告p4にこれらの危険因子が存在しているとは認められない。 以上によれば,原告p4の喫煙習慣がその申請疾病の発症に影響していることは一概に否定できないとしても,それをもって原爆放射線の影響まで否定されるものではなく,むしろ,原告p4の原爆放射線被曝と喫煙習慣とが相まって申請疾病の発症及び促進に寄与したものと考えるのが自然かつ合理的であるから,被告の上記主張は採用することができない。 (4) 要医療性について前記認定事実によれば,原告p4は,症状軽減のため点眼薬を使用しているほか,複数の医療機関に定期的に通院し,動脈硬化に基づく動脈閉塞症の再発予防等のため七,八種類の飲み薬を服用しているというのであるから,本件p よれば,原告p4は,症状軽減のため点眼薬を使用しているほか,複数の医療機関に定期的に通院し,動脈硬化に基づく動脈閉塞症の再発予防等のため七,八種類の飲み薬を服用しているというのであるから,本件p4却下処分当時,申請疾病について要医療性の要件を満たしていたと認められる。 (5) 結論以上のとおり,原告p4は,本件p4却下処分当時,原爆症認定申請に係る右眼動脈閉塞症(右眼網膜中心動脈閉塞症)について放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められるから,本件p4却下処分は違法というべきである。 5 原告p5について(1) 認定事実前記前提となる事実等に加え,証拠(甲M1,4,7,乙M1,13,原告p5本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア) 原告p5は,昭和5年2月7日生まれ(被爆当時15歳)の女性であり,当時,広島県五日市市の自宅において,父p12,母p63,弟p11及び妹2人とともに6人で暮らしていた。また,原告p5は,当時,S高等女学校の2年生であり,学徒動員により広島県jの兵器廠で火薬を量って詰める作業に従事していた。 (イ) 原告p5は,昭和20年8月6日午前8時15分頃,jの兵器廠において点呼のため整列していたところ,広島市に広島原爆が投下され,その閃光及びキノコ雲を目撃した(なお,uは爆心地から西に10キロメートル以上先であり,原告p5は広島原爆の初期放射線には被曝していない。)。 (ウ) 原告p5は,原爆投下の際の閃光に驚いて山中に逃げたが,その後,兵器廠から解散命令が出され,uから船でu口へ行き,u口から五日市まで電車に乗り,自宅に帰宅した。その後,原告p5は,家の中に (ウ) 原告p5は,原爆投下の際の閃光に驚いて山中に逃げたが,その後,兵器廠から解散命令が出され,uから船でu口へ行き,u口から五日市まで電車に乗り,自宅に帰宅した。その後,原告p5は,家の中に散らばった硝子の破片を掃除していた。 (エ) 弟p11は,広島原爆が投下された当時,広島市内のk町(爆心地から約1キロメートルの地点)において家屋疎開(空襲による火災の延焼等を防ぐための家屋解体)の作業に従事していた。原告p5は,同日夕方に父p12が帰宅した後,両親とともに,弟p11を捜しに広島市内へ向かった。 (オ) 原告p5らは,電車でv駅又はp駅まで行き,その後はl駅まで線路上を歩き,l駅から東に向けて歩き,爆心地から500メートル付近の地点を通り,k町付近まで行った。原告p5は,その際,lの辺りで黒い雨に打たれた。 (カ) 原告p5らは,弟p11を捜してk町付近を歩き回ったが,弟p11は見つからなかった。そこで,原告p5らは,A病院に向かったが,その周辺で火の手が上がっていたためその日は同病院に近づかず,一晩中,弟p11を捜してk町付近を歩き回ったが,弟p11を見つけることはできなかった。 (キ) 原告p5らは,同月7日の明け方頃,A病院が焼け落ちていなかったことから,同病院に入って弟p11を捜したところ,ロビーの奥のソファーに横たわって死んでいる弟p11を見つけた。原告p5らは,弟p11を同病院から運び出し,リアカーに乗せて自宅まで連れ帰り,同日夕方頃,火葬場において弟p11を荼毘に付した。 (ク) 原告p5は,女学校から招集され,同月8日から11日頃まで,m町の西練兵場付近(爆心地の北約200メートル)において,同級生らと共に,怪我をした被爆者のためにおにぎりを作 (ク) 原告p5は,女学校から招集され,同月8日から11日頃まで,m町の西練兵場付近(爆心地の北約200メートル)において,同級生らと共に,怪我をした被爆者のためにおにぎりを作る作業などに従事した。さらに,原告p5は,同日頃から,B小学校の講堂において,同様の作業に従事した。 イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(甲M1,2,乙M1~7,10,13,原告p5本人)(ア) 原告p5は,被爆する前から,頭痛持ちであり,余り食欲のない子供で腺病体質であるという診断を受けていたが,それ以外に特に健康上の問題はなく,体を動かすことが好きであった。 (イ) 原告p5は,昭和20年8月7日に弟p11を連れて帰る途中から下痢が始まり,途中で何度も付近の住宅で便所を使わせてもらった。 原告p5は,同月8日以降,食欲がなくなり,体がだるく,自宅に帰るとすぐに横になっていた。また,同月15日の終戦直後には,原告p5の歯が2本抜け落ち,歯茎からの出血もあった。 (ウ) 原告p5は,同日を過ぎた頃から,体のだるさに加えて,ひどい頭痛と下痢を患い,ずっと横になる日が1か月程度続いた。原告p5の両親も同じような状態であった。 また,原告p5は,その頃,口内炎を患ったほか,吐き気やのどの痛みもあった。髪の毛がたくさん抜けたこともあった。また,原告p5は,終戦約1か月後に復学したが,その後も体がだるく疲れやすい状態が続き,家に帰るといつも横になっていた。 (エ) 原告p5は,その後も長い間頭痛や貧血の症状を有していたが,昭和55年頃(当時50歳)には,前胸部の皮膚にできた3~4センチ大の腫瘍を切除し,さらに,子宮筋腫にもなりその手術を受けた。 原告p5は,その後も長い間頭痛や貧血の症状を有していたが,昭和55年頃(当時50歳)には,前胸部の皮膚にできた3~4センチ大の腫瘍を切除し,さらに,子宮筋腫にもなりその手術を受けた。 (オ) 原告p5は,平成8年(当時66歳)に右腕を骨折し,平成16年(当時74歳)に左腕を骨折しており,骨粗鬆症及び変形性脊椎症の診断を受けている。 (カ) 原告p5は,平成13年7月頃,CT検査で右肺の異常影(肺がん疑い)を指摘され,平成16年には,左肺にも肺がんを疑う小結節を認めるようになった。 原告p5は,同年9月7日,R病院において,左肺につき胸腔鏡下肺切除術を受けた。さらに,原告p5は,平成17年9月6日,同病院において,右肺につき右下葉切除術を受けた。なお,いずれも,手術後に高分化型の腺がんであると診断されている。 (キ) 原告p5は,肺がんの手術後,月に一回程度,R病院に通院し,がんの再発の有無及び肺機能の確認のための検査や,低肺機能の治療等を受けている。 (2) 事実認定の補足説明ア被告は,昭和43年7月14日付け原子爆弾被爆者相談室受付カード(乙M16)の被爆の状況・立入欄に「場所 n町,k町,o等」「用件弟の遺品収集のため父に連れられて入市」「期間 8/13~8/20」と記載されていることや,相談記録(乙M17)からうかがわれる主張の変遷等に照らし,昭和20年8月6日に入市した旨の原告p5の主張及び供述は信用することができないと主張する。 しかし,本件訴訟における原告p5の供述等(甲M1,原告p5本人)の内容は,実際に体験した者でなければ容易に供述することのできない具体的な内容を含んでいる上,記憶違いや作り話であることをうかがわせるような不自然な点も特 る原告p5の供述等(甲M1,原告p5本人)の内容は,実際に体験した者でなければ容易に供述することのできない具体的な内容を含んでいる上,記憶違いや作り話であることをうかがわせるような不自然な点も特に見当たらず,原告p5の原爆症認定申請書(乙M1)及び異議申立書(乙M13)の各記載や,主治医であるp58医師に対する説明内容(甲M2,証人p58)ともよく整合している。しかも,戸籍謄本(甲M4)には,弟p11は昭和20年8月7日午前5時に死亡した旨記載されており,この記載内容は原告p5が供述する事実経過に合致するものであるし,また,原告p5が当時15歳でS高等女学校の2年生であったことからすれば,原爆投下の翌々日から被爆者の救助活動に従事したというのも,自然な事実経過ということができる。以上によれば,原告p5の供述等は十分信用することができ,原告p5の被爆状況等につき上記認定事実のとおり認定するのが相当である。 イところで,確かに,被告が指摘するとおり,原告p5の名前が記載されている原子爆弾被爆者相談室受付カード(乙M16)には,昭和20年8月13日以降に入市した旨の記載がある。 しかし,同受付カードの「p5」の筆跡は,原告p5の署名とは異なるものと思われる上(特に「慶」の字が原告p5の他の署名とは異なる。),生年月日にも昭和「6」年と書いた上から昭和「5」年と上書きしているように見えることや,被爆時の状況等の記載がないことなどからすると,原告p5ではなく父p12が相談を受けに行き,同受付カードを記載したとしても不自然ではない。しかも,相談記録(乙M17)には,一部判読しにくいものの,「本人が申請手続きしない理由」「父p12氏が代筆」「父p12氏よりtel入る。やり直すので全書類返却の申入れあり。」「父p12氏の申立内 。しかも,相談記録(乙M17)には,一部判読しにくいものの,「本人が申請手続きしない理由」「父p12氏が代筆」「父p12氏よりtel入る。やり直すので全書類返却の申入れあり。」「父p12氏の申立内容」などといった記載があり,原告p5が供述するとおり,父p12が特別被爆者の申請及び異議申立ての各手続を行っていたことがうかがわれるのであって,これらの手続を自らした覚えがない旨の原告p5の供述は,特に不自然な点もなく信用することができる。そして,多数の被爆者を診察してきたp58医師の経験によれば,親は,被爆者であることによる差別を恐れて,被爆した子の被爆状況を軽めに申告することも多いというのであり(証人p58),また,原告p5は,当時,一度結婚したものの離婚して独身であったというのであるから(原告p5本人),父p12が原告p5の再婚など将来を思って被爆状況を軽めに申告することもあり得ることと考えられる。 したがって,上記受付カードやその後の主張の変遷をもって,原告p5の供述等の信用性を否定すべきであるということはできない。 ウまた,上記相談記録には,被告が指摘するとおり,「証明人p64…の申立内容と父p12氏の申し立てないように喰いちがいあり。特に入市の際父が8月9日にp67を連れて死亡者を探がしに入市したと申立ているが証明人(p64)は8月9日~15日本人は8月7日~15日二人の証明人は13日14日とそれぞれ日時が異っている。」との記載がある。 しかし,証明人p64やその他の証明人が原告p5の昭和20年8月6日の入市の事実を知らなくとも何ら不自然ではないのであるから,原告p5が同日入市した事実と証明人らの申告とは矛盾するものではない(なお,父p12の申告内容が信用性に乏しいことは前述のとおりである。)。 入市の事実を知らなくとも何ら不自然ではないのであるから,原告p5が同日入市した事実と証明人らの申告とは矛盾するものではない(なお,父p12の申告内容が信用性に乏しいことは前述のとおりである。)。また,原告p5は,p64とは学校が違ったが,何かの拍子で会ったことがあった旨供述するところ(原告p5本人),原告p5が救助活動を行ったのは昭和20年8月8日以降というのであるから,原告p5が被爆者の救助活動を行っている際にp64に会っていたとすれば,p64の申告内容と本件訴訟における原告p5の供述等とは概ね合致するものといえる。また,上記相談記録には,原告p5自身が入市日を「8月7日~15日」と説明したかのような記載もあるが,果たして原告p5本人の申告によるものか不明である上,仮に原告p5本人の申告であったとしても,最初の入市日が原爆投下の当日か翌日かという違いはあるものの,本件訴訟における原告p5の供述等と大きく矛盾するものとはいえない。 したがって,相談記録の上記記載内容をもって,原告p5の供述等の信用性を否定すべきであるということはできない。 (3) 放射線起因性についてア放射線被曝の程度について前記認定事実によれば,原告p5は,広島原爆投下当時,10キロメートル以上離れたjの兵器廠にいたため,広島原爆による初期放射線にはほとんど被曝していない。しかし,原告p5は,原爆投下当日である昭和20年8月6日の夕方頃から,両親とともに弟p11を捜しに行っており,その際,l付近で黒い雨に打たれ,爆心地から500メートル付近を通り,k町付近(爆心地から約1キロメートル)を夜どおし歩き回り,同月7日に弟p11を連れて自宅へ帰り,さらに,同月8日から11日頃までの間,西練兵場付近(爆心地から約200メー 00メートル付近を通り,k町付近(爆心地から約1キロメートル)を夜どおし歩き回り,同月7日に弟p11を連れて自宅へ帰り,さらに,同月8日から11日頃までの間,西練兵場付近(爆心地から約200メートル)において,おにぎりを作るなど救助活動に従事していたと認められるのであって,このような原爆投下後数日間の活動中に,放射性物質が集積した地表面や建物等からの誘導放射線に外部被曝したり,放射性降下物を含む雨により皮膚上に放射性物質が付着したり,粉塵化し空気中を浮遊する放射性降下物や誘導放射化物質を吸引したりするなどして,相当程度の外部被曝及び内部被曝を受けていた可能性も十分にあるというべきである。しかも,原告p5は,被爆後間もない頃から,下痢,倦怠感,歯の脱落や歯茎からの出血,脱毛,頭痛の悪化などがみられ,その後も倦怠感が長く続いたというのであり,これらの症状は原爆放射線に被曝したことによる影響が疑われる(証人p58,甲M2,乙M2。なお,被告は,これらの身体症状は原爆放射線による急性症状とはいえないと主張するが,原告p5は原爆の熱線や爆風にはさらされておらず,また,以前から頭痛や腺病体質はあったもののそれ以外に特に健康上の問題はなく,さらに,原告p5の一連の身体症状について,精神的ショックや感染症等によって合理的に説明することも困難であるから,上記身体症状につき放射線被曝による典型的な急性症状の特徴等に一致しない面があることを考慮しても,少なくともこれらの身体症状の相当部分は放射線被曝に起因するものであると考えるのが自然である。)。加えて,原告p5は,原爆放射線との有意な関連があるとされる子宮筋腫に罹患していること(甲A67文献30・31,乙A9・108頁)も考慮すると,原告p5は,健康に影響を及ぼす程度の外部被曝及び内部被曝を受けてい 5は,原爆放射線との有意な関連があるとされる子宮筋腫に罹患していること(甲A67文献30・31,乙A9・108頁)も考慮すると,原告p5は,健康に影響を及ぼす程度の外部被曝及び内部被曝を受けていた可能性が高いというべきである。 イ肺がんと原爆放射線被曝との関連性について原告p5の申請疾病は肺がんであるところ(乙M1),肺がんについては,放射線被曝により発症率が有意に高くなることが知られており(甲A112,219,甲M3,4,証人p58など),被告も肺がんと原爆放射線との一般的な関連性を認めている。そして,前述のとおり,原告p5の被爆状況やその後の身体症状等に照らせば,原告p5が健康に影響を及ぼす程度の放射線被曝を受けていた可能性が高いというべきであり,加えて,原告p5には,喫煙習慣など肺がんの危険因子が特に見当たらないことや,肺がんは新審査の方針にいう「悪性腫瘍(固形がんなど)」であり,「原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した」と認められる原告p5については,新審査の方針によるいわゆる積極認定の対象となることも考慮すると,原告p5の申請疾病である肺がんは原爆放射線に起因する,すなわち放射線起因性があると認めるのが相当である。 (4) 要医療性について前記認定事実によれば,原告p5は,肺がんの手術後,月に一回程度,R病院に通院し,がんの再発の有無及び肺機能の確認のため検査や,低肺機能の治療等を受けているというのであるから,本件p5却下処分当時,申請疾病である肺がんにつき要医療性の要件を満たしていたと認められる。 (5) 結論以上のとおり,原告p5は,本件p5却下処分当時,原爆症認定申請に係る肺がんについて放射線起因性及び要医療性の要 につき要医療性の要件を満たしていたと認められる。 (5) 結論以上のとおり,原告p5は,本件p5却下処分当時,原爆症認定申請に係る肺がんについて放射線起因性及び要医療性の要件を満たしていたものと認められるから,本件p5却下処分は違法というべきである。 第3 国家賠償請求の成否(争点③) 1 国家賠償法上の違法性(実体的違法)について(1) 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであり,原爆症認定申請に対する却下処分が放射線起因性又は要医療性の要件の具備の有無に関する判断を誤ったため違法であり,これによって申請者の権利ないし利益を害するところがあったとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,被爆者援護法11条1項に基づく認定に関する権限を有する厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り,違法の評価を受けるものと解するのが相当である(最判平成5年3月11日・民集47巻4号2863頁参照)。 ところで,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,疾病・障害認定審査会の意見を聴かなければならないとされている(同法11条2項,被爆者援護法施行令9条)。これは,原爆症認定の判断が専門的分野に属するものであることから,厚生労働大臣が処分をするに当たっては,原則として,必要な専門的知識経験を有する諮問機関の意見を聴くこととし 爆者援護法施行令9条)。これは,原爆症認定の判断が専門的分野に属するものであることから,厚生労働大臣が処分をするに当たっては,原則として,必要な専門的知識経験を有する諮問機関の意見を聴くこととし,その処分の内容を適正ならしめる趣旨に出たものであると解され,厚生労働大臣は,特段の合理的理由がない限り,その意見を尊重すべきことが要請されているものと解される。そして,同審査会には,被爆者援護法の規定に基づき疾病・障害認定審査会の権限に属させられた事項を処理する分科会として,医療分科会を置くこととされ(疾病・認定審査会令5条1項),同分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされているところ(同条2項),医療分科会の委員及び臨時委員は,放射線科学者,被爆者医療に従事している医学関係者,内科や外科等の専門的医師といった,疾病等の放射線起因性について高い識見と豊かな学問的知見を備えた者により構成されていることが認められる(弁論の全趣旨)。以上に鑑みれば,厚生労働大臣が原爆症認定申請につき疾病・障害認定審査会の意見を聞き,その意見に従って却下処分を行った場合においては,その意見が関係資料に照らし明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在し,厚生労働大臣がこれを知りながら漫然とその意見に従い却下処分をしたと認め得るような場合に限り,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該却下処分をしたものとして,国家賠償法上違法の評価を受けると解するのが相当である。 以上を前提として検討するに,本件各却下処分国賠分については,いずれも厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で,その意見に従ってされたものであると認められるところ(乙I2,乙J2,乙K3,乙L2,乙M11 するに,本件各却下処分国賠分については,いずれも厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で,その意見に従ってされたものであると認められるところ(乙I2,乙J2,乙K3,乙L2,乙M11,弁論の全趣旨),その意見が関係資料に照らし明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在したとまでは認められず,厚生労働大臣が本件各却下処分国賠分を行ったことにつき,国家賠償法上違法であるとは認められない。 (2) この点,国賠原告らは,医療分科会の審査における判断基準として旧審査の方針が用いられていたところ,旧審査の方針は非科学的で不合理な基準であるから,旧審査の方針に基づいてされた答申意見に基づく本件各却下処分国賠分は,国家賠償法上違法であると主張する。 確かに,旧審査の方針については,初期放射線量の推定につき爆心地から遠距離において過小評価の可能性があり,しかも,誘導放射線及び放射性降下物による被曝線量の推定については過小評価である疑いが強く,内部被曝の影響を考慮していない点に疑問があるといった問題があることについては,これまでに述べたとおりである。しかし,他方で,初期放射線による被曝線量の推定について旧審査の方針が依拠したDS86の線量評価システムは,現在において,被爆者の初期放射線量を高い精度で算定することが可能な,相当の科学的合理性を有する放射線評価システムであるということができるのであり,また,誘導放射線及び放射性降下物による被曝線量の推定や,内部被曝の評価につき旧審査の方針が依拠した各種研究報告についても,相応の科学的根拠を有するものであるということができ,旧審査の方針が当該申請者に係る被曝線量だけではなく,その既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して放射線起因性を判断 各種研究報告についても,相応の科学的根拠を有するものであるということができ,旧審査の方針が当該申請者に係る被曝線量だけではなく,その既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して放射線起因性を判断することとしていること(旧審査の方針第1の1(3)(4))も考慮すれば,旧審査の方針が定めていた放射線被曝線量の推定方式に上記のような問題があるからといって,これを目安として判断された答申意見が明らかに誤りであると推認することはできず,その意見に基づく本件各却下処分国賠分が直ちに国家賠償法上違法となるものではない。 また,原因確率の合理性については,旧審査の方針の原因確率が基礎としている「放射線の人体への健康影響評価に関する研究」(乙A2)は,放影研が行った大規模な疫学調査を基礎として寄与リスクを算出したものであり,相応の科学的根拠を有するものということができる。また,寄与リスクを原因確率として転用し,被爆者個人の放射線起因性の程度を推認する事情として考慮することも,審査の在り方として一概に不合理であるとはいえないのであって,国賠原告らが主張するとおり原因確率に一定の限界や問題があることは否定し難いとしても,原因確率が判断要素の一つとされたことをもって,これに基づく答申意見が明らかに誤りであると推認することはできず,その意見に基づく本件p8却下処分及び本件p5却下処分が直ちに国家賠償法上違法となるものではない。 なお,国賠原告らは,旧審査の方針はp13訴訟最高裁判決の判断を無視した不合理なものであるとか,厚生労働大臣は同種事案の敗訴判決を尊重して旧審査の方針を改めさせるべき義務があったなどと主張するが,上記最高裁判決や下級審裁判例の多数は,DS86や旧審査の方針の合理性を全面的に否定したものということはできないから 案の敗訴判決を尊重して旧審査の方針を改めさせるべき義務があったなどと主張するが,上記最高裁判決や下級審裁判例の多数は,DS86や旧審査の方針の合理性を全面的に否定したものということはできないから,上記主張は採用することができない。 (3) また,国賠原告らは,平成13年から平成18年までの医療分科会の答申意見を分析すると,原因確率10パーセントを境にして認定と却下がきれいに分かれており(甲A249,263),原因確率の機械的適用による審査が行われていることは明らかであると主張する。 しかし,旧審査の方針は,原因確率等を機械的に適用して判断するのではなく,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案して判断することとしており(乙A1),このような方針に反して,医療分科会が,原因確率10パーセント未満のものにつき,原因確率以外の事情を全く考慮していなかったと認めるに足りる的確な証拠はない。また,原告p8については,医療分科会の審査において,推定被曝線量が2.0センチグレイ未満,原因確率が1.7パーセント未満とされており(乙L10),原告p5については,推定被曝線量が0.0センチグレイ,原因確率が0.0パーセントとされており(乙M12),関係資料からうかがわれる原告p8及び原告p5の既往歴,環境因子,生活歴等を総合考慮してもなお,放射線起因性を肯定するに足りる高度の蓋然性が認められないという判断に至ることは十分あり得ることであって,本件p8却下処分及び本件p5却下処分が,原因確率の機械的適用によるもの,すなわち,原因確率以外の事情を考慮しないでされたものであるとは認められない。 (4) なお,原告p5は,本件p5却下処分に対する異議申立てにつき厚生労働大臣がこれを長期間放置したことが違法であると主張し,また 以外の事情を考慮しないでされたものであるとは認められない。 (4) なお,原告p5は,本件p5却下処分に対する異議申立てにつき厚生労働大臣がこれを長期間放置したことが違法であると主張し,また,これを棄却した決定が違法であるとも主張するようであるが,上記異議申立てに係る厚生労働大臣の判断の遅延及び棄却決定が国家賠償法上違法であると認めるに足りる的確な主張立証はない。 2 国家賠償法上の違法性(手続的違法)について(1) 行政手続法5条1項違反について国賠原告らは,厚生労働大臣は,行政手続法5条1項の審査基準を定めることなく本件各却下処分国賠分を行っているから,本件各却下処分国賠分については同項違反の違法があり,国家賠償法上も違法であると主張する。 ところで,行政手続法5条1項は,行政庁は,審査基準を定めるものとすると規定し,同条2項は,行政庁は,審査基準を定めるに当たっては,許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならないと規定し,同条3項は,行政庁は,行政上特別の支障があるときを除き,法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならないと規定し,行政庁に対して審査基準の設定,具体化及び公表を義務付けている。その趣旨は,行政庁による法令の解釈適用に際しての裁量行使を公正なものとし,行政過程の透明性の向上を図ろうというものであり,申請をしようとする者は,それによって許認可等を受けることができるかどうかについて,一定の予見可能性を得ることができることになる。このような同法5条の趣旨に鑑みると,同条は,審査基準の設定が不要であり又は不可能であるような場合にまで,審査基準の設定を行政庁に義務付けるものではないという 見可能性を得ることができることになる。このような同法5条の趣旨に鑑みると,同条は,審査基準の設定が不要であり又は不可能であるような場合にまで,審査基準の設定を行政庁に義務付けるものではないというべきであり,しかも,同条1項が「ものとする」という努力義務を課す場合の表現を用いていることも考慮すると,許認可等の性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ないものであって,法令の定め以上に具体的な基準を定めることが困難である場合には,行政庁は,審査基準を定めることを要しないと解するのが相当である。 そうであるところ,被爆者援護法11条1項の規定する原爆症認定の申請がされた場合には,同項に基づく処分においては,同法10条1項所定の放射線起因性及び要医療性の有無について判断がされるところ,その判断は,医学的知見や疫学的知見などを踏まえた高度に科学的・専門的なものであり,その性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ないものであって,同項の規定以上に具体的な基準を定めることは困難であると認められる。したがって,同法11条1項の原爆症認定については,審査基準を定めることを要しないものと解するのが相当である。 したがって,本件各却下処分国賠分は,行政手続法5条1項に違反したものとはいえず,そうである以上,国家賠償法1条1項にいう違法性があったといえないことも明らかであるから,国賠原告らの上記主張は採用することができない。 (2) 行政手続法8条違反について国賠原告らは,本件各却下処分国賠分は,具体的な理由が示されることなくされたものであるから,行政手続法8条に違反した違法なものであり,国家賠償法上も違法である旨主張する。 ところで,行政手続法8条1項本文が,許認可等の申 分は,具体的な理由が示されることなくされたものであるから,行政手続法8条に違反した違法なものであり,国家賠償法上も違法である旨主張する。 ところで,行政手続法8条1項本文が,許認可等の申請に対して行政庁が拒否処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならないとしているのは,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせて不服申立てのための便宜を図ることにあると解される。そして,同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(行政手続法14条1項に係る最判平成23年6月7日・民集65巻4号2081頁参照)。 この見地に立って被爆者援護法11条1項に基づく原爆症認定申請に対する却下処分について見ると,申請者は,被爆者健康手帳交付申請の際に,被爆者援護法1条各号のいずれかに該当する事実(被爆状況)を認めることができる書類等を添付しなければならず(被爆者援護法施行規則1条),また,原爆症認定申請の際には,自ら申請疾患を特定し,その病状・病歴等を認定申請書に記載した上,医師の意見書及び当該疾病等に係る検査成績を記載した書類を添付してこれを厚生労働大臣に提出することが求められているから(被爆者援護法施行規則12条),原爆症認定申請が却下された場合,当該申請者において,その却下処分の基礎となった事実関係は明らかということができる。また,これを審査する医療分科会においては,本件各却下処分国賠分当時,旧審査の方針を判断の目安として用いていたところ 該申請者において,その却下処分の基礎となった事実関係は明らかということができる。また,これを審査する医療分科会においては,本件各却下処分国賠分当時,旧審査の方針を判断の目安として用いていたところ,この旧審査の方針は厚生労働省のホームページを通じ一般に公開されていたものであり(弁論の全趣旨),原爆症認定申請を却下された申請者において,その判断の目安を容易に知り得たということができる。しかも,原爆症認定における判断対象は,被爆者援護法10条1項の定める放射線起因性及び要医療性であるところ,これらの処分要件該当性の判断は,医学的知見や疫学的知見などを踏まえた高度に専門的なものである上,放射線起因性については,申請疾病等に関する科学的疫学的知見に加え,被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等の総合的な判断を要求されるものであり,その性質上,その判断の過程を詳細に説明することには困難が伴うものである。 以上の点に加え,原爆症認定はその要件効果において裁量の余地はなく,また,厚生労働大臣が原爆症認定を行うに当たっては,申請疾病等が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,疾病・障害認定審査会(医療分科会)の意見を聴かなければならないとされることにより,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するための制度的手当があることも考慮すれば,原爆症認定申請却下処分においては,当該却下処分に至る判断の過程やその根拠となる科学的疫学的知見まで詳細に摘示しなければならないものではなく,医療分科会に諮問された場合にはその審議の概要と結果のほか,放射線起因性と要医療性のいずれの要件を欠くものとされたかを明らかにすれば足りると解するのが相当であり,そのように解しても,行政手続法8条1項本文の上記の趣旨には反しない その審議の概要と結果のほか,放射線起因性と要医療性のいずれの要件を欠くものとされたかを明らかにすれば足りると解するのが相当であり,そのように解しても,行政手続法8条1項本文の上記の趣旨には反しないというべきである。 本件では,厚生労働大臣作成の本件p3却下処分,本件p7却下処分及び本件p4却下処分の各通知書(乙I2,乙J2,乙K3)には,原爆症認定を受けるために必要とされる被爆者援護法10条1項の要件が具体的に摘示された上,疾病・障害認定審査会において,申請書類に基づき,国賠原告らの被爆状況が検討され,旧審査の方針に基づいて,これまでに得られた通常の医学的知見に照らし,総合的に審査されたが,当該疾病については,放射線起因性を欠くものと判断され,このような疾病・障害認定審査会の意見を受けて,却下処分を行った旨が記載されている。また,本件p8却下処分及び本件p5却下処分の各通知書(乙L2,乙M11)については,以上に加え,旧審査の方針に基づき,原因確率(疾病等の発生が,原子爆弾の放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる確率)が求められ,これを目安として,これまでに得られた通常の医学的知見に照らし,総合的に審査された旨が記載されている。これらの各通知書の理由の記載からは,原爆症認定の要件が示された上で,医療分科会における審議の概要と結果のほか,放射線起因性を欠くものとされたことが明らかにされており,本件各却下処分国賠分の各通知書の理由の記載は,行政手続法8条1項本文に反するものではないというべきである。 したがって,本件各却下処分国賠分は,行政手続法8条1項に違反したものとは認められず,そうである以上,国家賠償法1条1項にいう違法があったといえないことも明らかであるから,国賠原告らの上記主張は採用することがで 件各却下処分国賠分は,行政手続法8条1項に違反したものとは認められず,そうである以上,国家賠償法1条1項にいう違法があったといえないことも明らかであるから,国賠原告らの上記主張は採用することができない。 3 小括以上によれば,国賠原告らの被告に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 第4 結論以上のとおりであるから,原告らの本訴請求のうち,本件p1却下処分,本件p3却下処分のうち慢性肝炎に係る部分,本件p4却下処分及び本件p5却下処分の取消しを求める各請求はいずれも理由があるから認容し,本件p6却下処分及び本件p3却下処分のうち変形性腰椎症に係る部分の取消しを求める各請求並びに国賠原告らの被告に対する各損害賠償請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官山田明 裁判官徳地淳 裁判官藤根桃世
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