令和4(行ウ)369 受刑者選挙権確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年7月20日 東京地方裁判所
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判決文本文27,094 文字)

- 1 -令和5年7月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(行ウ)第369号受刑者選挙権確認等請求事件口頭弁論終結日令和5年4月20日判決 主文 1 本件各確認請求に係る訴えのうち、違法確認請求に係る訴えを却下する。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 確認請求⑴ 地位確認請求(主位的請求)懲役刑の執行を受けている原告が、次回の衆議院議員の総選挙及び最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査並びに参議院議員の通常選挙において、投票をすることができる地位にあることを確認する。 ⑵ 違法確認請求(予備的請求)被告が、原告が懲役刑の執行を受けていることをもって、次回の衆議院議員の総選挙及び最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査並びに参議院議員の通常選挙において、投票をさせないことは違法であることを確認する。 2 損害賠償請求 被告は、原告に対し、3万円及びうち2万円に対する令和3年10月31日から、うち1万円に対する令和4年7月10日から、各支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、令和▲年以来懲役刑の執行を受けている原告が、「禁錮以上の刑に- 2 -処せられその執行を終わるまでの者」(以下「受刑者」ということがある。)の選挙権等を一律に制限している公職選挙法(昭和25年法律第100号。以下「公選法」という。)11条1項(2号に係る部分に限る。)の規定(以下「本件規定」という。)は国民の選挙権等を保障した憲法の諸規定に違反し無効であるとして、被告に対し、①主位的に、憲法15 号。以下「公選法」という。)11条1項(2号に係る部分に限る。)の規定(以下「本件規定」という。)は国民の選挙権等を保障した憲法の諸規定に違反し無効であるとして、被告に対し、①主位的に、憲法15条1項及び3項、79条 2項及び3項、公選法9条並びに最高裁判所裁判官国民審査法(昭和22年法律第136号。以下「国民審査法」という。)4条に基づき、原告が次回の衆議院議員の総選挙及び最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査(以下「国民審査」という。)並びに参議院議員の通常選挙(衆議院議員の総選挙と併せて以下「国政選挙」ということがある。)において投票をすることができ る地位にあることの確認を求め、予備的に、憲法15条1項及び3項、43条1項、44条ただし書並びに79条2項及び3項に基づき、次回の国政選挙等において原告に投票をさせないことが違法であることの確認を求めるとともに、②本件規定の改廃等を怠った違法な立法不作為により原告が既に行われた国政選挙等において投票をすることができず、精神的苦痛を被ったとして、国家賠 償法1条1項に基づき、3万円及びうち2万円に対する令和3年10月31日(衆議院議員の総選挙及び国民審査が実施された日)から、うち1万円に対する令和4年7月10日(参議院議員の通常選挙が実施された日)から、各支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 関係法令の定め ⑴ 公選法は、9条1項において、日本国民で年齢満18年以上の者は衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する旨を規定し、本件規定において、禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(受刑者)は選挙権を有しない旨を規定している。 ⑵ また、国民審査法4条は、衆議院議員の選挙権を有する者は国民審査にお 規定し、本件規定において、禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(受刑者)は選挙権を有しない旨を規定している。 ⑵ また、国民審査法4条は、衆議院議員の選挙権を有する者は国民審査にお ける審査権(以下「国民審査権」という。)を有する旨を規定している。 - 3 -⑶ 以上のとおり、受刑者は、本件規定により、年齢満18年以上の日本国民であっても、衆議院議員及び参議院議員の選挙権並びに国民審査権を有しないものとされている。 3 前提事実(争いのない事実並びに掲記の書証及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) ⑴ 原告は、昭和▲年に出生した日本国民であり、東京都新宿区選挙管理委員会が調製し保管する選挙人名簿に登録されている者である(甲1)。 ⑵ 原告は、令和▲年▲月▲日、▲▲地方裁判所において、▲▲罪により懲役▲年の実刑判決を受け、同判決の確定後、原告に対する懲役刑が執行された(甲2)。 ⑶ 令和3年10月31日に衆議院議員の総選挙及び国民審査が、令和4年7月10日に参議院議員の通常選挙がそれぞれ実施されたが、懲役刑の執行を受けていた原告は、そのいずれにおいても投票をすることができなかった。 ⑷ 原告は、現在も懲役刑の執行を受けており、その執行満了日は令和▲年▲月▲日である。 4 主たる争点及び当事者の主張の要旨本件の主たる争点は、本件規定の憲法適合性(争点1)及び立法不作為の違法性(争点2)であり、これらの争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件規定の憲法適合性)について⑴ 本件規定による選挙権の制限の憲法適合性ア判断枠組み 検討国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利 の判断 1 争点1(本件規定の憲法適合性)について⑴ 本件規定による選挙権の制限の憲法適合性ア判断枠組み 検討国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民 の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の- 4 -根幹を成すものである。そして、憲法は、前文及び1条において、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動する旨をうたうとともに、43条1項において、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め、15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国 民固有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。以上によれば、憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障してい るものと解するのが相当である。 他方で、選挙は、両議院を構成する国会議員という国家機関を選定する公務に集団的に参加する行為であることからすれば、選挙権には、選挙人団の一員として公の職務を執行するという側面もあるものということができる。 このように、選挙権は、憲法上保障された個人的権利であるとともに公務としての性格を併せ持つものといえることからすれば、選挙人には公務の執行者として一定の資格が要求されるというべきであり、憲法44条本文が、「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。」と規定し、国会議員の選挙人の資格を法律の定めに委ねている のは、このような公務の執行者としての選 うべきであり、憲法44条本文が、「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。」と規定し、国会議員の選挙人の資格を法律の定めに委ねている のは、このような公務の執行者としての選挙人の資格を国会が立法によって自ら定めるべきものとする趣旨でもあると解される。 そして、憲法が、15条3項において、成年者による普通選挙を保障する旨を定め、44条ただし書において、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはなら ない旨を定めるほかには、選挙人の資格に関する定めを置いていないこ- 5 -とからすれば、国会には、憲法15条3項及び44条ただし書等の憲法の諸規定に反しない限りにおいて、選挙人の資格に係る立法に関して一定の合理的な裁量が与えられているものと解するのが相当である。 しかるところ、上記のとおり、選挙権が国民固有の権利として保障されているのは、全ての国民が主権の担い手であるとする国民主権の原理 によるものであることからすれば、可能な限り広い範囲の国民に対して選挙人の資格が与えられるべきである一方で、選挙権には選挙人団の一員として公の職務を執行するという側面もあり、その行使の結果が両議院の構成に反映されることからすれば、公務を的確に遂行し得ないと考えられる者は選挙人団に含まれないようにすることが望ましいともいえ る。よって、国会は、選挙人の資格に係る立法をするに当たって、これらの要請の均衡をいかに図るべきであるかをその合理的な裁量に基づいて判断し、選挙人の資格を適切に定めるべき責務を負っているものということができる。 選挙人の資格を定める立法の憲法適合性については、以上の観点を踏 まえた上で、立法目的が合理的であり、立法の内容が当該目的を達成するため 定めるべき責務を負っているものということができる。 選挙人の資格を定める立法の憲法適合性については、以上の観点を踏 まえた上で、立法目的が合理的であり、立法の内容が当該目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものであるか否かによって判断すべきである。 原告の主張についてa 原告は、本件にも平成17年最判の射程が及ぶのであり、その説示 における「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」に一般刑法犯の受刑者は含まれないから、選挙人の資格を定める立法の憲法適合性については、選挙権の「制限をすることがやむを得ないと認められる事由」があるか否かという平成17年最判が示した厳格な基準によって判断すべきである旨主張する。 しかしながら、平成17年最判は、いわゆる在外国民が、選挙人- 6 -の資格を有するにもかかわらず、日本国内に住所を有していないために国政選挙における投票をすることができないこと(選挙権の行使の制限)についての憲法適合性が問題となった事案であるのに対し、本件は、選挙人の資格を定める立法の憲法適合性が問題とされている事案であるから、両者は前提となる事実関係や事案の性質が 異なるものというべきである。また、後記イaで説示するとおり、受刑者は、上記説示における「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」に含まれるものと解するのが相当である。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 b 原告は、憲法44条本文にいう「選挙人の資格」とは専ら選挙人 となる成人年齢を意味すると解すべきであり、また、同条ただし書も併せ読めば、同条はむしろ立法府の裁量を厳しく制限するものであると解すべきである旨主張する。 しかしながら、上記で検討したとおり、国会には、憲法15条3項及び44 り、また、同条ただし書も併せ読めば、同条はむしろ立法府の裁量を厳しく制限するものであると解すべきである旨主張する。 しかしながら、上記で検討したとおり、国会には、憲法15条3項及び44条ただし書等の憲法の諸規定に反しない限りにおいて、 選挙人の資格に係る立法に関して一定の合理的な裁量が与えられているものと解するのが相当である。そして、憲法44条が、本文において、選挙人の資格を法律事項とする旨を定め、ただし書において、選挙人の資格について不合理な差別的取扱いをすることを禁止する旨を定めていることからすれば、同条においては、選挙人の資 格に係る種々の事項が立法により定められることが予定されているものと解されるから、同条本文にいう「選挙人の資格」が成人年齢のみを意味するものと解することはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ立法目的及び手段の合理性等 検討- 7 -a 前記第2の2のとおり、本件規定は、受刑者が衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有しない旨を規定するものであり、選挙人の資格を定める立法であるから、その憲法適合性については、上記アで検討したとおり、立法目的が合理的であり、立法の内容が当該目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものであるか否かによって判 断すべきである。 b そこで検討するに、国政選挙は、両議院を構成する国会議員という国家機関を選定する公務という側面を有するものであり、選挙人が自由に表明する意思によって公明かつ適正に行われることを確保すべきものである(公選法1条参照)ところ、これを実現するためには、前 記のとおり適格な選挙人団が構成される必要がある。また、選挙権は、国民の国政への参加の機会を保障する基本 われることを確保すべきものである(公選法1条参照)ところ、これを実現するためには、前 記のとおり適格な選挙人団が構成される必要がある。また、選挙権は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹を成すものであり、その自由な行使の結果として構成される立法府は、法秩序を形成し、維持するために重要な役割を果たすものであるといえるところ、自ら法秩序を著しく害した者が法秩序の形成 及び維持に関与するのは背理ということもでき、ひいては、そのように構成された立法府の正統性に疑義が生ずる可能性もあるから、適格な選挙人団を構成するという観点からは、このような者が選挙人団に含まれないようにすることが望ましいとする判断にも相応の理由があるものというべきである。 そして、受刑者は、重大な犯罪を行ったり、繰り返し犯罪を行ったりしたことによって実刑判決を受けた者であるから、自ら法秩序を著しく害した者であるといわざるを得ない。そうすると、本件規定は、受刑者が自ら法秩序を著しく害した者であることに鑑み、適格な選挙人団を構成するという観点からその選挙権を制限し、選挙が選挙人の 自由に表明する意思によって公明かつ適正に行われることを確保する- 8 -という趣旨で定められたものと解するのが相当である。 このように、本件規定は、選挙の公務性及び選挙権が果たす役割を考慮して、選挙が選挙人の自由に表明する意思によって公明かつ適正に行われることを確保する目的で定められたものであって、その立法目的は合理的であるということができる。 c また、禁錮以上の刑は、受刑者を社会から隔離すること自体を刑罰の内容として含むものであるから、刑の執行を受けている間、受刑者の社会参加が一定程度制限されることは当然に予定されている る。 c また、禁錮以上の刑は、受刑者を社会から隔離すること自体を刑罰の内容として含むものであるから、刑の執行を受けている間、受刑者の社会参加が一定程度制限されることは当然に予定されているものであり、憲法もそのような刑罰の存在を否定するものではないと解される。このことからすれば、選挙権が憲法上保障された個人的権利であ ることを考慮しても、受刑者の選挙権を制限することが一切許されないということはできない。そして、上記bで検討したとおり、適格な選挙人団を構成するという観点からは、自ら法秩序を著しく害した者である受刑者については選挙人団に含まれないようにすることが望ましいという判断にも合理性があるから、本件規定が受刑者の選挙権を 制限することは、その立法目的を達成するために必要な手段であるということができる。 さらに、選挙人の資格の有無を判断するに当たっては、恣意的な判断を排除する必要がある上、多数の選挙人について個別の事情を的確に考慮するのは困難であることを考慮すると、立法において選挙人の 資格を制限すべき対象者を定めるに当たっては、それが合理性を有するものである限り、ある程度画一的な基準をもって規定せざるを得ないものというべきである。しかるところ、実刑判決を受けるのは、重大な犯罪を行ったり、繰り返し犯罪を行ったりしたことにより裁判所から個別にその刑事責任が重いと判断された場合に限られるから、受 刑者は、罰金刑を受けた者や執行猶予付きの有罪判決を受けた者等よ- 9 -りも法秩序を害した程度が大きいものと類型的かつ合理的に判断することができる。本件規定は、これらの事情を考慮して、罪を犯した者のうち受刑者に限って選挙権を制限しているものと解するのが相当であり、選挙権が制限される対象者を、適格な選 と類型的かつ合理的に判断することができる。本件規定は、これらの事情を考慮して、罪を犯した者のうち受刑者に限って選挙権を制限しているものと解するのが相当であり、選挙権が制限される対象者を、適格な選挙人団を構成するという観点から合理的に必要とされる範囲に限定しているものということ ができる。 加えて、受刑者に対して執行される刑の期間は受刑者ごとに異なるところ、当該期間もまた受刑者が犯した罪の内容や刑事責任の重さ等を考慮して定められるものであるから、その長短は法秩序を害した程度の徴表であるということができる。本件規定は、このような観点か ら、刑の執行が終わるまでの間に限って受刑者の選挙権を制限しているものと解するのが相当であり、選挙権が制限される期間を、適格な選挙人団を構成するという観点から合理的に必要とされる範囲に限定しているものという評価が可能である。 以上検討したところによれば、本件規定による受刑者の選挙権の制 限は、これを全体としてみれば、前記の立法目的を達成する手段として必要かつ合理的なものであるということができる。 原告の主張についてa 原告は、受刑者が類型的にみて公正な選挙権の行使を期待することができないとする根拠はない上、一般刑法犯が実刑判決を受けること と選挙の公正や選挙権を行使する適格性とは無関係であるから、受刑者に選挙権を認めることによって選挙の公正が害されることはなく、むしろ受刑者を含む主権者たる国民が広く参加する選挙こそが公正な選挙であるというべきである旨主張する。 しかしながら、平成17年最判にいう「自ら選挙の公正を害する行 為をした者」として典型的に想定される公選法11条1項4号又は5- 10 -号に掲げる者の選挙権が制限されるのも、いわゆる選挙犯罪を行って直接 17年最判にいう「自ら選挙の公正を害する行 為をした者」として典型的に想定される公選法11条1項4号又は5- 10 -号に掲げる者の選挙権が制限されるのも、いわゆる選挙犯罪を行って直接的に選挙の公正を害する行為をしたこれらの者を再び選挙に関与させるのが不適当であるためだけではなく、これらの者が自ら法秩序を著しく害する行為をしたことに鑑み、適格な選挙人団を構成するという観点からこのような者が選挙人団に含まれないようにすることに もその趣旨があるものと解される(そもそも、これらの者の選挙権を認めないこととしたからといって、選挙の公正が直接的に害されるおそれが必然的に減少するというものではなく、その点では受刑者の場合と同様である。)。そして、上記bで検討したとおり、本件規定は、受刑者が自ら法秩序を著しく害した者であることに鑑み、適格な 選挙人団を構成するという観点からその選挙権を制限し、選挙が選挙人の自由に表明する意思によって公明かつ適正に行われることを確保するという趣旨で定められたものと解するのが相当であるところ、受刑者は、直接的に選挙の公正を害する行為をした者には限られないものの、自ら法秩序を著しく害した者であるという意味においては上記 各号に掲げる者と共通するものといえるから、平成17年最判にいう「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」に含まれるものというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 b 原告は、選挙において投票をする地位については、公務員への就任 に際して必要とされる廉潔性は要求されていないことからすれば、公務員の欠格事由と同等の事由により受刑者の選挙権を一律に制限するのは、過度に広範な規制である旨主張する。 しかしながら、上記cで検討したとおり、本 される廉潔性は要求されていないことからすれば、公務員の欠格事由と同等の事由により受刑者の選挙権を一律に制限するのは、過度に広範な規制である旨主張する。 しかしながら、上記cで検討したとおり、本件規定は、選挙権を制限する対象者及び期間を、その立法目的等から合理的に必要とされ る範囲に限定しているものというべきであることからすれば、受刑者- 11 -について一律に選挙権を制限していることを考慮しても、過度に広範な規制であるということはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 c 原告は、選挙の公正の確保という目的と受刑者の選挙権を制限することとは無関係であり、両者に合理的関連性はない旨主張し、その根 拠として、①受刑者が法秩序を害したことを根拠として選挙権を行使する適格性を欠くとするのは、多数派の定めた法秩序に違反したことを理由に少数派をその後の法秩序の形成から排除することにほかならず、民主主義を否定することになる、②実刑判決となるか執行猶予判決となるかは資力による面が大きく、必ずしも犯罪の重大性が理由と なるものではない上、量刑判断において公民権剥奪について考慮されることはないから、実刑判決と選挙の公正とは無関係である、③立法府が選挙権の行使にふさわしい適格性を判定して主権者を選ぶことは、かつての制限選挙を肯定するものであって憲法が許容するものではなく、むしろ公正な選挙の実施を阻害するものであると指摘する。 しかしながら、上記①について検討するに、上記bで検討したとおり、選挙権の自由な行使の結果として構成される立法府は、法秩序を形成し、維持するために重要な役割を果たすものであるといえるところ、自ら法秩序を著しく害した者が法秩序の形成及び維持に関与するのは背理であるとの判断 由な行使の結果として構成される立法府は、法秩序を形成し、維持するために重要な役割を果たすものであるといえるところ、自ら法秩序を著しく害した者が法秩序の形成及び維持に関与するのは背理であるとの判断にも合理性があり、このことは、法秩序が いわゆる多数派によって定められたものであるからといって異なるものではないし、受刑者は受刑者である限りにおいて選挙権を制限されるにすぎず、法秩序への関与が永続的に否定されるわけではない。 また、上記②について検討するに、犯罪を行った者が実刑判決又は執行猶予付きの有罪判決のいずれを受けるかは、犯罪の内容や刑事責 任の軽重、前科の有無・内容や社会一般への影響といった様々な事情- 12 -を考慮して決せられるものであり、被害回復の有無もその一要素ではあるものの、受刑者となるか否かにおいて犯罪者の資力による影響が大きいと認めるに足りる証拠はない。そして、上記cで検討したとおり、本件規定は、選挙人の資格を制限すべき対象者についてはある程度画一的な基準をもって規定せざるを得ないことや、受刑者は類型 的にみて執行猶予付きの有罪判決を受けた者よりも法秩序を害した程度が著しいといえることを考慮して、罪を犯した者のうち受刑者に限って選挙権を制限しているものと解するのが相当であること、刑の長短は法秩序を害した程度の徴表であるといい得ることからすれば、いわゆる選挙犯罪以外の罪に係る量刑判断において公民権剥奪に関する 考慮がされないからといって、本件規定の合理性が否定されるものではないというべきである。 さらに、上記③について検討するに、一般に、制限選挙とは、財力のほか教育や性別等を選挙権の要件とする制度をいうものと解されるところ、上記bで検討したとおり、本件規定は、選挙の公務性及び 選 さらに、上記③について検討するに、一般に、制限選挙とは、財力のほか教育や性別等を選挙権の要件とする制度をいうものと解されるところ、上記bで検討したとおり、本件規定は、選挙の公務性及び 選挙権が果たす役割を考慮して、受刑者が自ら法秩序を著しく害した者であることに鑑み、適格な選挙人団を構成するという観点からその選挙権を制限し、選挙が選挙人の自由な意思によって公明かつ適正に行われることを確保するという趣旨で定められたものと解するのが相当であり、かつての制限選挙とはその趣旨を大きく異にするものとい うべきである。 以上によれば、本件規定の立法目的と手段との間に合理的関連性がないことの根拠として原告が指摘する上記①ないし③の点は、いずれも当を得ないものというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ウその他の原告の主張に対する判断- 13 - 原告は、受刑者にも国民投票権が認められていることからすれば、受刑者の資質及び能力は選挙権を制限する根拠とはなり得ず、また、憲法96条1項の規定上、選挙人の資格と国民投票をする者の資格とが異なるものになることは想定されていない旨主張する。 しかしながら、これまで検討したとおり、本件規定は、選挙の公務性 及び選挙権が果たす役割を考慮して、受刑者が自ら法秩序を著しく害した者であることに鑑み、適格な選挙人団を構成するという観点からその選挙権を制限し、選挙が選挙人の自由な意思によって公明かつ適正に行われることを確保するという趣旨で定められたものと解するのが相当であり、受刑者の資質及び能力を理由として選挙権を制限するものでない ことは明らかである。 また、国民投票法は、国民投票が国家の在り方を直接左右する憲法改正に係るもの たものと解するのが相当であり、受刑者の資質及び能力を理由として選挙権を制限するものでない ことは明らかである。 また、国民投票法は、国民投票が国家の在り方を直接左右する憲法改正に係るものであり、間接民主制に基づく国政選挙とは異なり頻繁に又は定期的に実施されることが想定されないことなどを考慮して、参加する者の範囲をできる限り全国民に近付けようとするとともに、国民投票 が実施される時期に禁錮以上の刑の執行を受けているといういわば偶然の事情によって参加することができない事態が生ずることを避けるために、公選法とは異なり、特段の欠格事由を定めていないものと解される(乙8参照)。このように、受刑者について、選挙権が制限される一方で国民投票権が認められているのは、国会が、通常の国政選挙と直接民 主制の表れである国民投票とでは上記のような相違があることを考慮して、その合理的な裁量の範囲内において立法を行った結果であるといえるから、本件規定の合理性を否定する事情には当たらない。 さらに、憲法96条1項の規定上、選挙人の資格と国民投票をする者の資格とが異なることが想定されていないものとは解されない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 - 14 -原告は、受刑者にも選挙権を認めている国が多数存在するなどの諸外国の状況に鑑みると、日本の制度は世界でも突出して受刑者の選挙権を制限しているものといえる旨主張する。 しかしながら、近年の諸外国の状況(甲29、乙9ないし12(いずれも枝番を含む。))をみても、受刑者の選挙権については、何ら制限 しない国がある一方で、一律に制限する国や犯した罪の内容又は刑の軽重に応じて制限する国等があり、各国において様々な取扱いがされているものといえるから、日 も、受刑者の選挙権については、何ら制限 しない国がある一方で、一律に制限する国や犯した罪の内容又は刑の軽重に応じて制限する国等があり、各国において様々な取扱いがされているものといえるから、日本の制度が世界でも突出して受刑者の選挙権を制限するものであるということはできない。なお、原告は、人権委員会(市民的及び政治的権利に関する国際規約28条1項。いわゆる自由権 規約委員会)が、日本政府に対し、受刑者の選挙権制限について制度の見直しを勧告したこと(甲30の1及び2)を指摘するが、かかる事情があるからといって、本件規定が憲法の諸規定に違反するものということはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 このほか、原告は、受刑者の選挙権を制限する本件規定が憲法の諸規定に違反するとして種々の主張をするが、いずれも前記の結論を左右するものではないというべきである。 エ小括以上によれば、受刑者の選挙権を制限する本件規定は、憲法15条1項 及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものではない。 ⑵ 本件規定による国民審査権の制限の憲法適合性ア検討前記第2の2のとおり、本件規定は、受刑者の国民審査権を直接に制限する規定ではないものの、受刑者は、本件規定によって衆議院議員 の選挙権を有しないとされる結果、国民審査権も有しないこととなるか- 15 -ら、本件規定は、受刑者の国民審査権を制限するものとして、その憲法適合性が問題となる。 そこで検討するに、国民審査権は、国民が最高裁判所裁判官の任命に関する審査をする権利であり、司法権に対する民主的コントロールを及ぼすことを目的とするものであるから、選挙権と同様の性格及び役割 を有する権 するに、国民審査権は、国民が最高裁判所裁判官の任命に関する審査をする権利であり、司法権に対する民主的コントロールを及ぼすことを目的とするものであるから、選挙権と同様の性格及び役割 を有する権利であるということができる。そうすると、国民審査に参加する者の資格を定める立法の憲法適合性については、選挙人の資格を定める立法の憲法適合性と同様の基準によって判断すべきである。 そして、前記⑴で検討したところに照らすと、本件規定は、受刑者が自ら法秩序を著しく害した者であることに鑑み、適格な国民審査の参 加者の集団を構成するという観点からその国民審査権を制限し、国民審査が参加者の自由な意思によって公明かつ適正に行われることを確保するという趣旨で定められたものと解するのが相当であり、その立法目的は合理的であるというべきであるし、本件規定による受刑者の国民審査権の制限は、これを全体としてみれば、その立法目的を達成する手段と して必要かつ合理的なものであるというべきである。 イ原告の主張について原告は、国民審査権を制限する立法については、令和4年最判が示した厳格な基準が適用される旨主張する。 しかしながら、令和4年最判は、いわゆる在外国民が、国民審査権を 有するにもかかわらず、国内に住所を有しないために国民審査における投票をすることができないこと(国民審査権の行使の制限)についての憲法適合性が問題となった事案であるのに対し、本件は、国民審査に参加する者の資格を定める立法の憲法適合性が問題とされている事案であるから、両者は前提となる事実関係や事案の性質が異なるものというべ きである。 - 16 -なお、令和4年最判において、平成17年最判における「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権 から、両者は前提となる事実関係や事案の性質が異なるものというべ きである。 - 16 -なお、令和4年最判において、平成17年最判における「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として」との説示に相当する説示がされていないのは、選挙権については選挙人の資格を定める立法の憲法適合性が問題となった昭和30年最判が存するのに対し、国民審査権についてはそのような判例が存しな いからにすぎないと解される。そうすると、令和4年最判において上記の説示がされなかったことをもって、その射程が「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」にまで及ぶものと解することはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 原告は、選挙の公正と国民審査の公正とは異なるものである上、公選 法違反や贈収賄等の刑法犯が問題となり得るか否かの点においても異なる部分があることから、選挙権を制限することができるからといって、国民審査権をも制限することができるものではない旨主張する。 しかしながら、上記アで検討したとおり、国民審査権は、最高裁判所裁判官の任命について国民が審査をする権利であり、司法権に対する民 主的コントロールを及ぼすことを目的とするものであるから、選挙権と同様の性格及び役割を有する権利であるといえる。このことからすれば、国民審査に参加する者の資格を定める立法の憲法適合性については、選挙人の資格を定める立法の憲法適合性と同様の基準によって判断すべきである。そして、本件規定の立法目的が合理的であり、本件規定による 受刑者の国民審査権の制限がその立法目的を達成する手段として必要かつ合理的なものであるというべきであることも、上記アで検討したとおり そして、本件規定の立法目的が合理的であり、本件規定による 受刑者の国民審査権の制限がその立法目的を達成する手段として必要かつ合理的なものであるというべきであることも、上記アで検討したとおりである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 このほか、原告は、受刑者の国民審査権を制限する本件規定が憲法の 諸規定に違反するとして種々の主張をするが、いずれも前記の結論を左- 17 -右するものではないというべきである。 ウ小括以上によれば、受刑者の国民審査権を制限する本件規定は、憲法79条2項及び3項に違反するものではない。 ⑶ 争点1についての判断のまとめ ア以上のとおり、本件規定は、憲法15条1項及び3項、43条1項、44条ただし書並びに79条2項及び3項に違反するものではないから、受刑者は、本件規定により、選挙権及び国民審査権を有しない。 イしかるところ、原告は、現在も懲役刑の執行を受けており、国政選挙における選挙権及び国民審査権を有しないから、原告が次回の国政選挙等に おいて投票をする地位にあることの確認を求める主位的確認請求は理由がない。 ウまた、次回の上記各選挙等において原告に投票をさせないことが違法であることの確認を求める予備的確認請求に係る訴えについては、他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には、確認の利 益を欠き不適法であるというべきところ、本件においては、上記の主位的確認請求に係る訴えの方がより適切な訴えであるといえるから、上記の予備的確認請求に係る訴えは不適法であるといわざるを得ない。 なお、仮に上記の予備的確認請求が適法であるとしても、これまで検討したところに照らすと、懲役刑の執行を受け であるといえるから、上記の予備的確認請求に係る訴えは不適法であるといわざるを得ない。 なお、仮に上記の予備的確認請求が適法であるとしても、これまで検討したところに照らすと、懲役刑の執行を受けている原告が、本件規定によ って国政選挙における選挙権及び国民審査権を有しないとされることが違法であるとはいえないから、同請求は理由がない。 2 争点2(立法不作為の違憲性)について前記1で検討したとおり、本件規定は憲法15条1項及び3項、43条1項、44条ただし書並びに79条2項及び3項に違反するものではないから、国会 が本件規定の改廃等をしなかったことが違法な立法不作為に当たるものという- 18 -ことはできない。 したがって、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。 3 結論よって、本件各確認請求に係る訴えのうち違法確認請求に係る訴えは、不適 法であるからこれを却下し、原告のその余の請求は、理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官岡田幸人 裁判官都野道紀 裁判官曽我学 - 19 -(別紙)争点に関する当事者の主張の要旨 第1 本件規定の憲法適合性(争点1)【原告の主張】 以下のとおり、本件規定は、憲法15条1項及び3項、43条1項、44条ただし書 -(別紙)争点に関する当事者の主張の要旨 第1 本件規定の憲法適合性(争点1)【原告の主張】 以下のとおり、本件規定は、憲法15条1項及び3項、43条1項、44条ただし書並びに79条2項及び3項に違反する。 1 違憲審査基準⑴ 判断枠組み憲法の趣旨によれば、選挙権の制限は原則として許されず、これが認めら れるのはやむを得ない事由のある場合に限られる(最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁(以下「平成17年最判」という。)参照)。このことは、国民審査権についても同様である(最高裁令和4年5月25日大法廷判決・民集76巻4号711頁(以下「令和4年最判」という。)参照)。そして、選挙権又は国民審査権の制限が認められる「や むを得ない事由」とは、「そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合」(平成17年最判)又は「そのような制限をすることなしには国民審査の公正を確保しつつ審査権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難であると認められる場合」(令和4年最判)をいう。 受刑者の選挙権及び国民審査権を制限する本件規定の憲法適合性については、以上のとおりの厳格な基準によって判断すべきである。 ⑵ 平成17年最判についてア平成17年最判は、「選挙権又はその行使」を制限することは原則として許されないとしており、その射程は本件にも及ぶものである。 そして、平成17年最判が「選挙権又はその行使」を制限することは原- 20 -則として許されないとした趣旨は、憲法が国民固有の権利として保障する選挙権について、選挙権の行使の制限を選挙権自体の制限と同等のものとみて、両者につ 又はその行使」を制限することは原- 20 -則として許されないとした趣旨は、憲法が国民固有の権利として保障する選挙権について、選挙権の行使の制限を選挙権自体の制限と同等のものとみて、両者について極めて厳格な基準で憲法適合性を審査すべきであるとした点にあるところ、選挙権の行使の制限よりも選挙権自体の制限の方がより強力で深刻な人権の制約であるといえるから、むしろ後者 にこそより厳格な審査基準が用いられなければならない。このことは、国民審査権についても同様である。 イ平成17年最判の説示における「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として」との留保は、選挙犯罪をした者の選挙権等を制限する規定の憲法適合性を認めた判例 (最高裁昭和30年2月9日大法廷判決・刑集9巻2号217頁(以下「昭和30年最判」という。)を変更する趣旨ではないことを明示するために付されたものにすぎない(これに対し、国民審査権については昭和30年最判の事案に相当する判例がなかったため、令和4年最判においては同様の留保が付されなかったものである。)。また、上記留保は、 選挙犯罪及びそれに類する犯罪をした者(選挙及び国民審査の公正な実施を害する犯罪をした者や、選挙人の信を受けてその地位に就いたにもかかわらず公務の廉潔性を害する犯罪をした者)のみに向けられたものであり、これらの者に係る公民権の停止は、選挙権及び被選挙権自体に内在する制約として規定されているものと解されるところ、一般刑法犯 はこのような類型に含まれるものではなく、平成17年最判の説示の文理上もそのようには解し得ない。なお、昭和30年最判においても、選挙犯罪とそれ以外の犯罪とを明確に区別した上で、前者の公民権を停止する規定の憲法適合性が まれるものではなく、平成17年最判の説示の文理上もそのようには解し得ない。なお、昭和30年最判においても、選挙犯罪とそれ以外の犯罪とを明確に区別した上で、前者の公民権を停止する規定の憲法適合性が論じられている。 したがって、上記留保における「自ら選挙の公正を害する行為をした者 等」には、一般刑法犯の受刑者は含まれないものと解すべきである。 - 21 -⑶ 被告の主張に対する反論ア被告は、憲法44条本文を根拠に、選挙権の享有主体に係る立法については立法府の裁量に委ねられる旨主張する。 しかしながら、憲法15条1項が公務員の選定罷免権を「国民固有の権利」とし、同条3項が「成年者による普通選挙」を保障していることか らすれば、同法44条本文にいう「選挙人の資格」とは、選挙権そのものではなく、選挙人となるべき成人年齢を意味するものと解すべきである。そして、同条ただし書も併せ読めば、同条は、選挙権の享有主体に係る立法について立法府に広範な裁量を与えたものではなく、むしろその裁量を厳しく制限するものであると解すべきである。被告が主張する ように、立法府がその広範な裁量によって主権者をその地位から排除することができるというのでは、真の意味で主権が国民にあることにはならない。 なお、憲法79条4項には同法44条ただし書に相当する規定が存しないが、同法15条3項、43条1項及び44条ただし書は、国民審査権 の享有主体についても準用されるものであり、同法79条4項は、国民審査権の主体について立法府に広範な裁量を与えたものではない。 イ被告は、選挙権の公務としての性格を強調して、その権利行使の主体に係る制限を極めて緩やかに認めるべきである旨主張する。 しかしながら、憲法は、15条1項において選挙権及び国民審査権を ない。 イ被告は、選挙権の公務としての性格を強調して、その権利行使の主体に係る制限を極めて緩やかに認めるべきである旨主張する。 しかしながら、憲法は、15条1項において選挙権及び国民審査権を 「国民固有の権利」として保障するものの、これらが公務としての性格を有する旨の規定は一切置いていない。また、平成17年最判及び令和4年最判は、いずれもかかる憲法の条文に忠実に選挙権及び国民審査権の制限に対する憲法適合性の審査基準を導いているのであって、選挙権その行使が公務に当たることを理由に一定の制約があり得るなどとは捉 えていない。 - 22 - 2 受刑者の選挙権及び国民審査権を制限するやむを得ない事由は存しないこと⑴ やむを得ない事由は存しないこと受刑者は、社会の重要な構成員であり、彼らが自らの処遇の改善を求め、又は矯正処遇の中で社会に関心を寄せながら選挙権及び国民審査権を行使することは、主権者として当然の権利であり、その権利を行使したからといっ て、選挙及び国民審査の公正が害されることはない。また、未決拘禁者は収容中の刑事施設内で投票することができるのであるから、受刑者による投票が事実上不可能ないし著しく困難であるとはいえない。さらに、国が受刑者の選挙権及び国民審査権を制限しているのは、受刑者を主権者であると認めて選挙権及び国民審査権を行使させることが適当でないという独自の価値観 又は信条に基づくものにすぎず、その実施の困難さとは無関係である。加えて、選挙及び国民審査において投票をする地位については、公務員への就任に際して必要とされる廉潔性は要求されていないことからすれば、公務員の欠格事由と同等の事由により、受刑者の選挙権及び国民審査権を一律に制限するのは、過度に広範な規制である。 以上によれ 任に際して必要とされる廉潔性は要求されていないことからすれば、公務員の欠格事由と同等の事由により、受刑者の選挙権及び国民審査権を一律に制限するのは、過度に広範な規制である。 以上によれば、受刑者の選挙権及び国民審査権を制限することにつき、やむを得ない事由は存しない。 ⑵ 被告の主張に対する反論ア被告は、本件規定による選挙権の制限の目的につき、選挙が公明かつ適正に行われることにあるとした上で、受刑者は類型的にみて公正な選挙権 の行使を期待することができず、選挙権の行使に相応しい適格性を有しない旨主張する。 しかしながら、受刑者は類型的にみて公正な選挙権の行使を期待し得ないとする上記主張の根拠は不明である。また、一般刑法犯が実刑判決を受けるのは、必ずしも重大な犯罪を行ったことを理由とするものではな く、選挙の公正や選挙権を行使する適格性とは無関係であるといえるこ- 23 -とからすれば、受刑者に選挙権を認めることによって選挙の公正が害されることはなく、むしろ受刑者を含む主権者たる国民が広く参加する選挙こそが公正な選挙であるというべきである。 したがって、被告が主張する上記の点は、受刑者の選挙権を制限するやむを得ない事由があることを根拠付けるものではない。 イ被告は、受刑者が選挙権を行使する適格性を欠く根拠として、法秩序を著しく侵害したことを指摘する。 しかしながら、法秩序とは、普遍的なものでも不変のものでもなく、主権者たる国民が定めるものであるところ、かかる当座の法秩序に反したことを理由に選挙権を奪うことは、多数派の定めた法秩序に違反したこ とを理由に少数派をその後の法秩序の形成から排除することにほかならず、それは民主主義の否定である。また、実刑判決と執行猶予判決(又は起訴猶予 権を奪うことは、多数派の定めた法秩序に違反したこ とを理由に少数派をその後の法秩序の形成から排除することにほかならず、それは民主主義の否定である。また、実刑判決と執行猶予判決(又は起訴猶予)との差が生ずるのは規範意識の程度等ではなく被告人の資力による面が大きいといえること、一般刑法犯が実刑判決を受けるのは必ずしも重大な犯罪であることを理由とするものではないこと、そもそ も一般刑法犯の量刑判断において公民権剥奪について考慮されることはないことからすれば、一般刑法犯が実刑判決を受けることと選挙の公正とが無関係であることは明らかである。さらに、立法府が選挙権の行使にふさわしい適格性を判定して主権者を選ぶことは、かつての制限選挙を肯定するものであって憲法が許容するものではなく、むしろ公正な選 挙の実施を阻害するものである。 以上のとおり、選挙の公正の確保という目的と受刑者の選挙権を制限することとは無関係であり、両者に合理的関連性はない。 ウ被告は、受刑者の選挙権を制限することは憲法に違反しないから、国民審査権を制限することもまた憲法に違反しない旨主張するが、選挙の公正 と国民審査の公正とは異なるものである上、公選法違反や贈収賄等の刑法- 24 -犯が問題となり得るか否かの点においても異なる部分があるから、選挙権を制限することができるからといって、国民審査権をも制限することができるものではない。 3 その他⑴ 日本国憲法の制定過程について 被告は、日本国憲法の制定過程における国務大臣の発言を根拠に、憲法44条は受刑者の選挙権を制限することを想定している旨主張するが、かかる発言は約80年前のものにすぎず、少なくとも現在における人権や選挙権を考察するに当たってはその価値を失っているものである上、 法44条は受刑者の選挙権を制限することを想定している旨主張するが、かかる発言は約80年前のものにすぎず、少なくとも現在における人権や選挙権を考察するに当たってはその価値を失っているものである上、その後の判例の発展等を踏まえれば、同発言が選挙権の制限に係る立法について立法府の広 い裁量を認めるべき根拠となるものではない。 ⑵ 憲法改正に係る国民投票について日本国憲法の改正手続に関する法律(平成19年5月18日号外法律第51号。以下「国民投票法」という。)においては、受刑者にも憲法改正についての国民の承認に係る投票(以下「国民投票」という。)をする権利(以 下「国民投票権」という。)が認められているところ、憲法改正という重要な事項について意思決定及びその表明をすることができる者は、当然に、国会議員の選出及び最高裁判所判事の選任の適否を判断することができるだけの資質及び能力を備えているといえるから、受刑者の資質及び能力は、選挙権及び国民審査権を制限する根拠とはなり得ない。また、国民投票について 定めた憲法96条1項の規定上、選挙人の資格と国民投票をする者の資格とが異なるものになることは想定されていない。 ⑶ 受刑者の選挙権に関する諸外国の状況についてヨーロッパ諸国においては、ほぼ半数の国(スイス、オーストリア、ドイツ、オランダ等17か国)が全ての受刑者に選挙権を認めており、その他の 国(フランス、イタリア、ノルウェー、ベルギー等11か国)も少数の受刑- 25 -者のみを選挙人から除外する例が多く、全ての受刑者の選挙権を否定するのは、ブルガリア、ハンガリー、スロバキア及びロシア等の東欧諸国10か国、イギリス並びにスペインのみである。また、苛烈に受刑者の選挙権を制限していることで知られるアメリカにおいてさ 選挙権を否定するのは、ブルガリア、ハンガリー、スロバキア及びロシア等の東欧諸国10か国、イギリス並びにスペインのみである。また、苛烈に受刑者の選挙権を制限していることで知られるアメリカにおいてさえ、軽罪(多くの州では、特定の薬物の所持又は自己使用や交通事故等の過失犯がこれに分類される。)の受 刑者については選挙権が剥奪されていない。さらに、受刑者の投票を全面的に禁止していたカナダにおいては、選挙権の剥奪が過度に広範なものであって最小限度の規制に当たらないとして違憲と判断された上、2年以上の刑期の受刑者に限って選挙権を剥奪する改正法についても同様に違憲とされたため、全ての収監者は、服役期間の長短にかかわらず、投票をすることができ るようになった。 以上のような諸外国の状況と比較すると、日本の制度は、世界でも突出して受刑者の選挙権を制限するものといえる。なお、国際連合の自由権規約委員会は、令和4年11月3日、日本政府に対し、受刑者に対する選挙権の制限について、制度の見直しを勧告した。 【被告の主張】以下のとおり、本件規定は、憲法15条1項及び3項、43条1項、44条ただし書並びに79条2項及び3項に違反しない。 1 違憲審査基準⑴ 判断枠組み 憲法は、国民主権の権利に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障している。他方で、選挙権は、その行使の結果に鑑みれば、機関(選挙人団)の一員としての公務執行という性格を併せ持つものと解される。憲法44条本文が選挙人の資格を法律事項としているのは、このよう な選挙権の公務としての側面に着目して、公務を遂行する選挙人団の構成員- 26 -たるにふさわしい資格を立法府に 解される。憲法44条本文が選挙人の資格を法律事項としているのは、このよう な選挙権の公務としての側面に着目して、公務を遂行する選挙人団の構成員- 26 -たるにふさわしい資格を立法府において法定すべきことを定めたものであり、憲法15条3項も、合理的な理由により特定の欠格事由を定めることを許さない趣旨ではない。したがって、憲法上、立法府には、合理的な理由に基づいて選挙人の欠格事由を定めることが許容されているものと解される。 そして、機関としての性格を有する選挙人団をどのように構成するかとい う事項は、立法によりその具体的内容が決せられる性質のものであり、選挙人としての資格を含めた選挙権は、選挙制度の形成に依存している、いわば内容形成型の権利として位置付けられるから、選挙人団の構成員たる資格についてその内容を形成することは、制度形成の観点及び立法技術の観点からも立法府の裁量に委ねられるべき事項ということができる。しかるところ、 選挙権が公務執行という法的性格を有することに照らせば、選挙人には、当該公務を遂行するにふさわしい適格性が求められ、選挙人たるべき要件としてその具備を法律上要求することは、憲法上予定されている。もっとも、かかる適格性の内容は憲法上一義的に明らかではいないから、憲法15条又は44条ただし書の趣旨に反しない限り、その具体化は立法府の裁量に委ねら れている。 以上を踏まえれば、選挙人の資格を含めた立法の憲法適合性については、立法府の判断が合理的裁量の範囲内にあるか否か、具体的には、立法目的が合理的であり、その手段が必要かつ合理的なものであるか否かという基準によって判断されるべきである(最高裁平成9年3月13日第一小法廷判決・ 民集51巻3号1453頁等参照)。 ⑵ 平成17年最判につ あり、その手段が必要かつ合理的なものであるか否かという基準によって判断されるべきである(最高裁平成9年3月13日第一小法廷判決・ 民集51巻3号1453頁等参照)。 ⑵ 平成17年最判についてア平成17年最判は、在外国民が選挙人の資格という意味での選挙権を有することについては争いがない事案であったのに対し、本件は、選挙人に本件規定所定の欠格事由があり、その憲法適合性が争われている事案であ るから、両者は事案を異にする。また、選挙人の資格を有する者が行使可- 27 -能な権利の内実を制限する立法は、具体的権利に対する制限として理解し得るが、選挙人の資格を定める立法は、権利に対する制限としてではなく、むしろ権利の内容を形成する制度自体の合理性に関する立法裁量の問題であるから、この点においても両者は局面を異にする。 現に、平成17年最判が、「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の 選挙権について一定の制限をすることは別として」と説示した上で、「国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない」、「そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でな い限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず」と説示していることからすれば、同最判は、選挙人の資格を有する者の選挙権の行使方法と選挙の公正との調和が求められる問題について説示しているものであって、選挙人団を構成する「選挙人の資格」に関する立法の憲法適合性に係る判断枠組みについてまで厳格な違憲審査基準を適用することを想 定しているものとは到底解されない。 イ平成17年最判のいう「自ら選挙の公正を害する行為 人の資格」に関する立法の憲法適合性に係る判断枠組みについてまで厳格な違憲審査基準を適用することを想 定しているものとは到底解されない。 イ平成17年最判のいう「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」が、公選法11条1項5号、252条2項にいう選挙犯罪を犯した者、すなわち選挙人としての欠格事由がある者を指すことは明らかであるから、同様に選挙人の欠格事由を定めた本件規定の「禁錮以上の刑に処せられその執 行を終わるまでの者」についても、これに該当するものと解するのが相当である。 ウ同様に、衆議院議員の選挙権を有する在外国民について、その国民審査権の行使の制限に関して判断した令和4年最判も、本件規定によって選挙権を有しない受刑者の国民審査権が問題となっている本件とは事案を異に するものである。 - 28 -エ原告は、昭和30年最判が「選挙犯罪の処刑者」と「一般犯罪の処刑者」とでは選挙権の停止が「おのずから別個の事由にもとずく」と説示している点を指摘するが、同最判は、公選法252条1項又は2項所定の罪を犯した「選挙犯罪による処刑者」と「一般犯罪の処刑者」とで制限される選挙権及び被選挙権の範囲が異なることが憲法14条、44条に違反するか 否かが問題となった事案において、その区別の合理性を述べる文脈で上記説示をしたものであるから、本件規定の憲法適合性につき、平成17年最判の枠組みで判断すべきとする根拠とはなり得ない。 2 本件規定は合理的裁量の範囲内にあること⑴ 立法目的は合理的であること ア法秩序の維持や社会秩序の安定は、選挙を公明かつ適正に行うための不可欠な基盤であるところ、受刑者は、類型的にみて、法秩序を著しく侵害し、もって上記基盤を少なからず損なったものであり、公正な選挙権の行使を期 維持や社会秩序の安定は、選挙を公明かつ適正に行うための不可欠な基盤であるところ、受刑者は、類型的にみて、法秩序を著しく侵害し、もって上記基盤を少なからず損なったものであり、公正な選挙権の行使を期待することができないから、選挙権という公務の執行主体にふさわしい適格性を有しない。また、受刑者は、確定判決の効力によって拘禁さ れている者であり、当該刑の本来的な執行手続として一般社会とは厳に隔離されるべき者であるから、それに伴い社会参加が一定範囲で制限されることは憲法上も予定されている。 そこで、本件規定は、このような者について選挙権を有しないものとし、もって民主主義の根幹を成す公職選挙の公明及び適正を確保するという 極めて重要な法益を実現するために定められたものであるから、その立法目的は合理的である。 イ受刑者は、選挙によって選ばれた国会議員により構成される国会が制定した法律に違反するという形で、選挙を通じたあるべき民主主義的な統治プロセスから逸脱したものといえるのであるから、このような者を一 定の範囲又は期間を定めて選挙権行使を通じた自己統治のプロセスから- 29 -隔離することにより、国政の正当性又は公正性を確保することは、正に選挙権の公務としての性格に即応したものであって、目的として合理性を欠くものとはいえない。 ⑵ 手段が必要かつ合理的なものであることア受刑者は、類型的にみて、重大な犯罪行為を行い、選挙を公明かつ適正 に行うための不可欠な基盤である法秩序を著しく侵害したものであり、選挙が公明かつ適正に行われることを確保するためには、かかる者については刑期の短い者も含めて全て選挙権を有しないものとする必要がある。また、本件規定により選挙権を有しないものとされる期間は、「その執行を終わるま 適正に行われることを確保するためには、かかる者については刑期の短い者も含めて全て選挙権を有しないものとする必要がある。また、本件規定により選挙権を有しないものとされる期間は、「その執行を終わるまで」であり、一般社会と厳に隔離されるべき期間として刑罰の軽 重に応じて量刑された相当なものであるから、当該受刑者の行った行為の内容及びその結果の程度等に対応したものであり、合理的な範囲内のものである。さらに、選挙権は選挙の際に多数の有権者によって同時に行使されるため、市町村の選挙管理委員会はあらかじめ選挙権の有無を調査して選挙人名簿の登録を行うものとされ(公選法19条2項)、当該登録手続 はできるだけ選挙の公示又は告示の日までに完了することを期待されているから、選挙人の資格は一定の明確な基準をもって定める必要があり、本件規定はその点でも合理的なものといえる。 したがって、本件規定は、その立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものである。 イ法違反を理由に、自由の剥奪又は社会からの隔離という形で、刑罰という非難を伴う制裁を甘受せざるを得ない立場に至った者である受刑者が、現にその刑罰を受けている間、それにいわば随伴する形で選挙権の行使も停止されることは、選挙権行使を通じた自己統治のプロセスから隔離することによって国政の正当性又は公正性を確保するという目的又は理 由との合理的な関連性を欠くものとはいえない。また、受刑者は、適正- 30 -な選挙権行使の基礎又は前提ともいうべき社会や政治情勢等に関する情報の入手が制限され、社会の構成員としての各種の社会参加活動が禁止されることになり、選挙権を適正に行使できる環境が実質的に保障できないおそれがあるといわざるを得ず、その選挙権を認める場合、公正妥当な の入手が制限され、社会の構成員としての各種の社会参加活動が禁止されることになり、選挙権を適正に行使できる環境が実質的に保障できないおそれがあるといわざるを得ず、その選挙権を認める場合、公正妥当な選挙制度を確立する観点から一定の問題が生じ得るといえる。 そうすると、本件規定は、選挙権の公務としての性格又は公共的性格に即応して、立法府の合理的裁量の範囲内で定められたものといえる。 3 その他⑴ 憲法の制定過程及び公選法の沿革についてア憲法の制定過程において、貴族院委員会における憲法44条の審議の際 に、国務大臣が「刑罰を現に受けて居る者は問題になりませぬが、刑罰の過去の歴史を持って居るような人は差別をしても宜しいのではないか」などと説明していることからすれば、同条は、受刑者について選挙権の欠格事由とすることを想定しているというべきである。 イ公選法の沿革をみても、受刑者に限っていえば、現行憲法制定の前後を またぎ、一貫して選挙権の欠格事由として位置付けられてきたものであるところ、伝統的な学説においてもその憲法適合性は肯定されていた上、そのような考え方が誤ったものであるとして根本的な変更を余儀なくされるような事情変更は、今日に至るまで生じていないというべきである。 ⑵ 国民投票法について 国民投票法が国民投票について受刑者であることを欠格事由としていない趣旨は、国の形を決める憲法改正に係る国民投票においては国政選挙以上に幅広い国民の参加が望まれること、国民投票は頻繁に又は定期的に行われるとは考えられないところ、たまたまその時期に公民権が停止していて手続に参加することができないというのも妥当でないことから、受刑者にも国民投 票を認めることとしたものである。また、憲法96条は、国民投票の主体 いところ、たまたまその時期に公民権が停止していて手続に参加することができないというのも妥当でないことから、受刑者にも国民投 票を認めることとしたものである。また、憲法96条は、国民投票の主体に- 31 -ついて広く「国民」としており、選挙人の資格を法律事項とした同法44条とは規定振りを異にしている。 このように、国民投票法が受刑者であることを欠格事由としていないのは、国民投票が有する固有の性質等によるものといえる。 ⑶ 受刑者の選挙権に関する諸外国の状況について アメリカにおいては、複数の州において受刑者の刑期中における選挙権の制限がされており、うち5州では軽罪の受刑者の選挙権も制限されている。 また、イギリスにおいては受刑者の選挙権が一律に剥奪されているほか、ヨーロッパ40か国中12か国において全ての受刑者が選挙権を失うこととされているなど、受刑者その他の罪を犯した者等について、法律で選挙権の欠 格条項を定めている国が複数存在する。 このような諸外国の例との比較という観点からしても、「禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者」という特定の者について、刑期という一定の期間を定めて、選挙権及び被選挙権を有しないこととする本件規定が、必ずしも突出して受刑者の選挙権に対して強力な制限を加えるものとはいえ ない。また、日本においては、特に過失犯や交通関係の犯罪においてその多くが執行猶予を付されており、それらの者は選挙権が制限されていないのであるから、アメリカの各州と比べても、より受刑者の選挙権が制限されているとはいえない。 第2 立法不作為の違法性(争点2) 【原告の主張】 1 平成17年最判において選挙権の制限に係る憲法適合性は極めて厳格な基準を用いて審査されることが明らかにされたこと、平 いえない。 第2 立法不作為の違法性(争点2) 【原告の主張】 1 平成17年最判において選挙権の制限に係る憲法適合性は極めて厳格な基準を用いて審査されることが明らかにされたこと、平成19年に成立した国民投票法において受刑者にも投票権が認められたこと、平成24年の時点で憲法学会においても本件規定の違憲性が指摘されていたこと、平成25年10月に成 年被後見人の選挙権制限を違憲とする判決(東京地裁平成25年3月14日判- 32 -決)が言い渡され、同判決確定後の平成26年に成年被後見人の選挙権等を制限する公選法11条1項1号が削除されたこと、平成25年9月に本件規定を違憲とする高等裁判所の判決(大阪高裁平成25年9月27日判決)が言い渡されたことからすれば、遅くとも平成25年10月の時点において、本件規定が憲法に違反することは、国会にとって明白なものとなっていた。 それにもかかわらず、国会は、令和3年10月まで約8年間にわたって本件規定の改廃等を怠ったものであり、この立法不作為のために、原告は、同月31日に実施された衆議院議員の総選挙及び国民審査並びに令和4年7月10日に実施された参議院議員の通常選挙において、投票をすることができなかった。 2 原告は、被告の違法な立法不作為によって上記の各選挙等において投票をす ることができず、精神的苦痛を被ったものであり、その損害額は、各選挙等につき1万円を下らない。 【被告の主張】争点1において主張したとおり、本件規定は憲法の諸規定に違反するものではないから、本件規定に係る立法行為又は立法不作為が国賠上違法の評価を受ける 余地はない。 以上 件規定に係る立法行為又は立法不作為が国賠上違法の評価を受ける余地はない。 以上

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